(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-09
(54)【発明の名称】老化脳機能低下を逆転する方法
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20231226BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20231226BHJP
A61K 38/26 20060101ALI20231226BHJP
A61B 5/00 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P25/28
A61K38/26
A61B5/00 B
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023536878
(86)(22)【出願日】2021-12-16
(85)【翻訳文提出日】2023-08-15
(86)【国際出願番号】 CN2021138827
(87)【国際公開番号】W WO2022127868
(87)【国際公開日】2022-06-23
(32)【優先日】2020-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】504375477
【氏名又は名称】ザ チャイニーズ ユニバーシティー オブ ホンコン
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】コ,ホー
(72)【発明者】
【氏名】リー,チョンチ
(72)【発明者】
【氏名】チェン,シンイー
(72)【発明者】
【氏名】ヴォン,シー ロン
(72)【発明者】
【氏名】チャオ,レイ
(72)【発明者】
【氏名】モク,チュン トン ヴィンセント
(72)【発明者】
【氏名】ファン,ジュンチェ
(72)【発明者】
【氏名】ヤン,イク チュン レオ
(72)【発明者】
【氏名】ライ,ヘイ,ミン
【テーマコード(参考)】
4C084
4C117
【Fターム(参考)】
4C084AA01
4C084AA02
4C084AA17
4C084BA08
4C084BA19
4C084BA23
4C084BA44
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4C084ZA151
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4C117XR07
4C117XR08
4C117XR09
4C117XR10
(57)【要約】
脳の老化に伴う変化を処置するグルカゴン様ペプチド-1レセプター(GLP-1)アゴニスト(GLP-1RA)の投与を含む、老化中の脳の機能低下を処置する方法が提供される。GLP-1Rアゴニストは、エキセナチド、リラグルチド、リキシセナチド、アルビグルチド、デュラグルチド、セマグルチド、タスポグルチド、PF-06882961、OWL-833、TTP-273又はGLP-1Rを活性化する任意のその他の分子である。
【選択図】
図2A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
老化に伴う脳機能障害について、対象を処置する方法であって、前記対象に、有効量のGLP-1Rアゴニストを投与することによって、前記老化に伴う脳機能障害を処置することを含む、方法。
【請求項2】
前記GLP-1Rアゴニストは、エキセナチド、リラグルチド、リキシセナチド、アルビグルチド、デュラグルチド、セマグルチド、タスポグルチド、PF-06882961、OWL-833、若しくはTTP-273、又はGLP-1Rを活性化するその他分子である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
薬学的に許容される担体を、前記GLP-1Rアゴニストと共に投与することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記対象は、哺乳類である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記哺乳類は、霊長類である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記霊長類は、ヒトである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記対象は、50歳以上である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記老化に伴う脳機能障害は、認知障害を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記認知障害は、注意力と集中力、学習タスクと概念、記憶、情報処理、視空間機能、発話、言語理解、発話流暢性、問題解決、意思決定及び実行機能のいずれかである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記老化に伴う脳機能障害は、前記脳の測定可能な構造的、機能的及び分子変化のいずれかを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記老化に伴う測定可能な構造的変化は、海馬萎縮、皮質萎縮、皮質下の構造的萎縮、小脳萎縮、全脳萎縮、灰白質中の微小脳出血、白質中の微小脳出血、ラクナ、脳梗塞、血管周囲腔、白質強度変化、及びタンパク質種の凝集のいずれかである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記タンパク質種は、アミロイドベータ、タウ、アルファ-シヌクレイン、TAR DNA結合タンパク質43、及びプリオンのいずれかである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記老化に伴う測定可能な構造的変化は、画像検査法により測定される、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記画像検査法は、核磁気共鳴画像法(MRI)、コンピュータ断層撮影(CT)、及び/又は超音波検査(US)である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記老化に伴う測定可能な機能的変化は、改変した脳の領域の活性パターン、ニューロンの活動、機能的結合、血液脳関門漏出、安静時血流、グルコース消費、代謝物濃度、神経血管カップリング又は機能的充血である、請求項10に記載の方法。
【請求項16】
前記老化に伴う測定可能な機能的変化は、機能的画像検査法又は記録法により測定される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記機能的画像検査法又は記録法は、機能的核磁気共鳴画像法(fMRI)、核磁気共鳴画像法(MRSI)、超偏極炭素-13(
13C)核磁気共鳴画像検査法(MRSI)、超音波検査(US)、陽電子放出断層撮影(PET)、単一光子放射断層撮影(SPECT)、脳波検査(EEG)、脳磁図(MEG)、機能的近赤外線分光法(fNIRS)、頭蓋内電記録、又は脳深部電記録である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記老化に伴う測定可能な分子変化は、遺伝子発現における変化;DNA転写;RNA翻訳;脳細胞又は組織におけるDNA、RNA又はタンパク質の位置;又はタンパク質、DNA、RNA、ミトコンドリア、細胞成分又はミトコンドリア成分の血液への分泌又は放出である、請求項10に記載の方法。
【請求項19】
前記老化に伴う測定可能な分子変化は、脳脊髄液(CSF)又は血液/血漿組成における変化である、請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願を相互参照
本出願は、2020年12月16日出願の米国仮出願第63/126,122号の優先権を主張するものであり、表、図、又は描画を含むその全てを参照することにより援用される。
【背景技術】
【0002】
老化は、不可逆的な過程と考えられてきた。ほぼ全ての細胞過程は、代謝、ストレス応答、免疫応答、細胞老化から遺伝子発現及びゲノム安定性に及ぶ老化に関与しており、影響を受けている(非特許文献1)。これらの複雑な分子改変(alterations)はおそらく、多くの身体器官における細胞状態及び組成の改変をもたらし、加齢に伴う(age-related)機能低下として現れる。脳において、老化の顕著な特徴は、(1)ミトコンドリア機能不全、(2)エネルギー代謝の調節不全、(3)酸化的に損傷したタンパク質、核酸及び脂質の細胞内蓄積、(4)細胞の「老廃物処理」機構(すなわち、オートファジー、リソソーム及びプロテアソーム機能性)の障害、(5)適応ストレス応答シグナリングの障害、(6)DNA修復の障害、(7)ニューラルネットワーク活動の異常、(8)ニューロンのカルシウムシグナリング及び対処の調節不全、(9)幹細胞枯渇、及び(10)炎症を含む(非特許文献15)。関与する生物学的変化の複雑さ、及び容易に標的化可能な一連の駆動経路がないことを考慮すると、抗老化薬物療法は、非常に困難であると考えられる。老化脳内の分子及び細胞改変は、その機能の低下をもたらし、脳卒中や神経変性(例えば、アルツハイマー及びパーキンソン病)にかかりやすくさせる。ヒトの寿命が長くなるにつれて、老化に伴う(aging-associated)脳の症状を患う集団は劇的に増大している。老化脳内のこれらの改変を遅くする、さらには逆転させること(reversing)は、これらの症状を一次的予防する、さらには処置するための方策を提供し得る。
【0003】
グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)は、グルコース依存性インシュリン放出を増強するために、腸L細胞により末梢で、及び孤束核のプレプログルカゴンニューロンによる脳内の中央で生成されるペプチドホルモンである(非特許文献11)。過去10年間で、多数の薬物動態的に最適化されたGLP-1レセプター(GLP-1R)アゴニスト(GLP-1RA)が、真性糖尿病の臨床処置に承認されている。真性糖尿病の処置とは別に、神経変性の細胞及び動物モデルにおけるエビデンスは、GLP-1R刺激の神経栄養及び神経保護の役割を支持し、同様に、神経新生の増加において(非特許文献17、非特許文献9、非特許文献7、特許文献1、非特許文献12、非特許文献7)、GLP-1Rが学習及び神経保護に関与することを示している。8週齢ラットへのGLP-1及び[Ser(2)]エキセンディン(1-9)の脳室内(i.c.v)投与は、GLP-1Rを介して、連合及び空間学習を増強する。[Ser(2)]エキセンディン(1-9)の末梢投与も活性である。Isacsonら(非特許文献12)は、エキセンディン-4の腹腔内(i.p.)注射が、強制水泳テストにおいて、海馬関連基準記憶能力を改善し、不動性を減少することを示した。注目すべきことに、最近の臨床研究によれば、GLP-1RAが血糖コントロールによって与えられるものを超える神経保護作用を示し、糖尿病の患者において、認知低下及びパーキンソン病(PD)の発生率を低下させるという説得力のあるエビデンスが提供された(非特許文献6、非特許文献4)。さらに、GLP-1RAは、非糖尿病患者において、確立されたアルツハイマー病(AD)及びPDの進行を遅らせることができる(非特許文献8、非特許文献2)。機械的には、神経変性の動物モデルにおける神経炎症の軽減とは別に(非特許文献5、非特許文献19)、Zhaoらは、エキセナチド(GLP-1RA)による処置は、脳内皮細胞(EC)における加齢に伴うトランスクリプトーム変化を部分的に逆転し、非特異的血液脳関門(BBB)漏出を減少させることを実証した(非特許文献20)。
【0004】
老化は、年をとる過程である。この用語は、特に、哺乳類を指す。より広い意味では、老化は、生物体内の単一細胞又は器官を指すことができる。ヒトにおいて、老化は、経時的なヒトの変化の蓄積を表す。老化は、先進国の蔓延している疾患である癌、心血管疾病及び神経変性疾患の主な危険因子である(非特許文献16)。老化の原因は不明である。現在の理論の1つは、蓄積された損傷が、生理学的完全性の漸進的な喪失をもたらし、機能損傷や死に至る脆弱性の増加につながる、という損傷説である(非特許文献14)。
【0005】
老化は、ほぼ全ての細胞型及び細胞過程を含む。さらに、老化脳の特徴は、特定の徴候を有する神経変性疾患、例えば、AD、PD及びハンチントン病の特徴とは異なっている。関与する生物学的変化の複雑さ、及び容易に標的化可能な一連の駆動経路がないことを考慮すると、抗老化薬物療法は、可能であっても、非常に困難であると考えられる。このように、老化脳内のトランスクリプトームの改変及び機能的改変(transcriptomic and functional alterations)を遅くする、さらには逆転させることが必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許公開公報第6969702B2号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Almanzar et al., A single-cell transcriptomic atlas characterizes ageing tissues in the mouse. Nature 583, 590-595 (2020)
【非特許文献2】Athauda et al., Exenatide once weekly versus placebo in Parkinson's disease: a randomised, double-blind, placebo-controlled trial. Lancet (London, England) 390, 1664-1675 (2017)
【非特許文献3】Boisvert, M. M., G. A. Erikson, M. N. Shokhirev, N. J. Allen, The Aging Astrocyte Transcriptome from Multiple Regions of the Mouse Brain. Cell Reports 22, 269-285 (2018)
【非特許文献4】Brauer et al., Diabetes medications and risk of Parkinson's disease: a cohort study of patients with diabetes. Brain (2020) https:/doi.org/10.1093/brain/awaa262
【非特許文献5】Cai et al., Lixisenatide reduces amyloid plaques, neurofibrillary tangles and neuroinflammation in an APP/PS1/tau mouse model of Alzheimer's disease. Biochem Bioph Res Co 495, 1034-1040 (2018)
【非特許文献6】Cukierman-Yaffe et al., Effect of dulaglutide on cognitive impairment in type 2 diabetes: an exploratory analysis of the REWIND trial. Lancet Neurology 19, 582-590 (2020)
【非特許文献7】During et al., Glucagon-like peptide-1 receptor is involved in learning and neuroprotection. Nature Medicine 9, 1173-1179 (2003)
【非特許文献8】Gejl, et al., In Alzheimer's Disease, 6-Month Treatment with -1 Analog Prevents Decline of Brain Glucose Metabolism: Randomized, Placebo-Controlled, Double-Blind Clinical Trial. Frontiers in aging neuroscience 8, 108 (2016)
【非特許文献9】Grieco et al., Glucagon-Like Peptide-1: A Focus on Neurodegenerative Diseases. Frontiers in Neuroscience vol. 13 (2019)
【非特許文献10】Hammond et al., Single-Cell RNA Sequencing of Microglia throughout the Mouse Lifespan and in the Injured Brain Reveals Complex Cell-State Changes. Immunity 50, 253-271.e6 (2019)
【非特許文献11】Holt et al., Preproglucagon Neurons in the Nucleus of the Solitary Tract Are the Main Source of Brain GLP-1, Mediate Stress-Induced Hypophagia, and Limit Unusually Large Intakes of Food. Diabetes 68, 21-33 (2018)
【非特許文献12】Isacson et al., The glucagon-like peptide 1 receptor agonist exendin-4 improves reference memory performance and decreases immobility in the forced swim test. European Journal of Pharmacology 650, 249-255 (2011))(1,2,3-5)
【非特許文献13】Lloyd, A.F. & V. E. Miron, The pro-remyelination properties of microglia in the central nervous system. Nature Reviews Neurology, 1-12 (2019))
【非特許文献14】Lopez-Otin et al. The hallmarks of aging. Cell vol. 153: 1194 (2013)
【非特許文献15】Mattson and Arumugan, Hallmarks of Brain Aging: Adaptive and Pathological Modification by Metabolic States. Cell Metabolism 27: 1176-1199 (2018)
【非特許文献16】Niccoli, T. & Partridge, L. Ageing as a risk factor for disease. Current Biology vol. 22 R741-R752 (2012)
【非特許文献17】Salcedo et al., Neuroprotective and neurotrophic actions of glucagon-like peptide-1: An emerging opportunity to treat neurodegenerative and cerebrovascular disorders. British Journal of Pharmacology. Vol. 166 1586-1599 (2012)
【非特許文献18】Vanlandewijck et al., Primary isolation of vascular cells from murine brain for single cell sequencing. Protocol Exchange https://doi.org/10.1038/protex.2017.159 (2018)
【非特許文献19】Yun et al., Block of A1 astrocyte conversion by microglia is neuroprotective in models of Parkinson's disease. Nature Medicine 24, 931-938 (2018)
【非特許文献20】Zhao et al., Pharmacologically reversible zonation-dependent endothelial cell transcriptomic changes with neurodegenerative disease associations in the aged brain. Nat Commun 11, 4413 (2020)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書に記載されているのは、老化に伴う脳の症状について対象を処置する方法である。本方法の態様は、GLP-1Rアゴニストを、それを必要とする対象、例えば、老化に伴う脳の症状を発現又は患うリスクのある個人に投与することを含む。老化に伴う脳の症状としては、例えば、脳の老化に伴う認知障害及び構造的、機能的又は分子変化が挙げられる。
【0009】
特定の実施形態において、本方法は、自然老化によって引き起こされる脳の症状を発現又は患うリスクの可能性のある対象の処置を含む。
【0010】
特定の実施形態において、対象は、例えば、成熟ニューロン(mNeur)及び未成熟ニューロン(imNeur))等のニューロン;例えば、星状細胞(AC)、希突起膠細胞前駆細胞(OPC)、小膠細胞(MG)、及び希突起膠細胞(OLG)等のグリア細胞;例えば、周皮細胞(PC)及び平滑筋細胞(SMC)細胞等の壁細胞;脈絡叢細胞(CPC);ヘモグロビン発現血管細胞(Hb_EC);及び単球(MNC)を含む、脳内の多数の細胞型にわたってトランスクリプトーム及び機能的変化を有する老化に伴う脳の症状を発現又は患うリスクの可能性がある。
【0011】
特定の実施形態において、対象は、例えば、エキセナチド、リラグルチド、リキシセナチド、アルビグルチド、デュラグルチド、セマグルチド、タスポグルチド、PF-06882961、OWL-833及び/又はTTP-273等のGLP-1Rアゴニスト(GLP-1RA)で処置可能な老化に伴う脳の症状を発現又は患うリスクの可能性がある。
【0012】
特定の実施形態において、GLP-1RA処置は、例えば、成熟ニューロン(mNeur)及び未成熟ニューロン(imNeur))等のニューロン;例えば、星状細胞(AC)、希突起膠細胞前駆細胞(OPC)、小膠細胞(MG)及び希突起膠細胞(OLG))等のグリア細胞;例えば、周皮細胞(PC)及び平滑筋細胞(SMC)細胞等の壁細胞;脈絡叢細胞(CPC);ヘモグロビン発現血管細胞(Hb_EC);及び単球(MNC)を含む、脳内の多数の細胞型において提示されるトランスクリプトーム及び機能的変化を逆転及び/又は阻害することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1A】マウスの脳において識別及び分析された主要な細胞型クラスターのUMAP可視化を示す。AC:星状膠細胞;OPC:希突起膠細胞前駆細胞;MG:小膠細胞;MAC:血管周囲マクロファージ;OLG:希突起膠細胞;SMC:平滑筋細胞;PC:周皮細胞;EC:内皮細胞。括弧内の数字:それぞれの細胞型の細胞番号。
【
図1B】若齢成体マウスの脳からの単一細胞トランスクリプトームのUMAP可視化を示す。括弧内の数字:群の細胞番号(群についてn=3匹)。
【
図1C】老齢成体マウスの脳からの単一細胞トランスクリプトームのUMAP可視化を示す。括弧内の数字:群の細胞番号(群についてn=3匹)。
【
図1D】GLP-1RA(エキセナチド)-処置老齢マウスの脳からの単一細胞トランスクリプトームのUMAP可視化を示す。括弧内の数字:群の細胞番号(群についてn=3匹)。
【
図2A】グリア(AC:星状細胞;OPC:希突起膠細胞前駆細胞;MG:小膠細胞;及びOLG:希突起膠細胞)、血管(EC:内皮細胞;PC:周皮細胞;SMC:平滑筋細胞)細胞型、及びMAC(血管周囲マクロファージ)におけるGLP-1RA処置後発現変化(y軸)に対してプロットされた加齢に伴う発現変化(x軸)を示す。各点は、1つの発現変動遺伝子(DEG)を表す。灰色の線:線形回帰による最良適合の線。
【
図2B】異なる細胞型において
図2Aに示される、逆転されたDEGの割合及び線形回帰による最良適合の直線の傾きを示す。
【
図3】ニューロン(mNeur:成熟ニューロン;imNeur:未成熟ニューロン;MG:小膠細胞;及びOLG:希突起膠細胞)、単球(MNC)、脈絡叢細胞(CPC)及びヘモグロビン発現血管細胞におけるGLP-1RA処置後発現変化(y軸)に対してプロットされた加齢に伴う発現変化(x軸)を示す。各点は、1つの発現変動遺伝子(DEG)を表す。灰色の線:線形回帰による最良適合の線。
【
図4】異なる脳細胞型において、GLP-1RA処置によって逆転された最も顕著な加齢に伴う発現変化の中で有意なエンリッチメントを伴う機能的パスウェイを示す。
【
図5】老化及びGLP-1RA処置後における、AC、MG及びSMCにおける選択された機能的に重要な遺伝子の発現変化を示す。
【
図6】Y迷路テストにおけるGLP-1RAで処置された老齢マウスの空間記憶の改善を示す。生後15~17カ月のC57BL/6マウスを、生理食塩水ビヒクル又は5nmol/体重kgのエキセナチドで2~4カ月間毎日処置した。
【発明を実施するための形態】
【0014】
定義
本明細書で提供される範囲は、その範囲内の全ての値について短縮されたものであると理解される。例えば、1~20の範囲は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19及び20からなる群からの数又は下位範囲の任意の数、組み合わせ、同様に、例えば、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8及び1.9等の前述の整数間の全ての介在する10進数値を含むと理解される。下位範囲に関して、範囲のいずれかの終点から延びる「入れ子下位範囲」が特に想定される。例えば、1~50の例示的な範囲の入れ子下位範囲は、一方向に1~10、1~20、1~30及び1~40、他方向に50~40、50~30、50~20及び50~10を含むことができる。
【0015】
本明細書で使用される「減少」は負の改変を意味し、「増加」は、正の改変を意味し、負又は正の改変は、少なくとも0.001%、0.01%、0.1%、0.5%、1%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%又は100%で正の変化を意味する。
【0016】
移行句「有する(including)」又は「含有する(containing)」と同義である「含む(comprising)」は、包括的又は非限定(オープンエンド)であり、追加の引用されていない要素又は方法ステップを排除しない。対照的に、移行句「からなる(consisting of)」は、請求項に特定された要素、ステップ又は成分を除外する。移行句「から実質的になる(consisting essentially of)」は、請求項の範囲を、請求された発明の特定の材料又はステップ「及び基本及び新規な特徴に実質的に影響を及ぼさないもの」に限定する。「含む(comprising)」という用語の使用は、列挙された構成要素を「からなる(consist)」又は「実質的になる(consist essentially of)」他の実施形態を想定している。
【0017】
特に指定されない限り、又は文脈から明らかでない限り、本明細書で使用される「又は」という用語は、包括的であると理解される。特に指定されない限り、又は文脈から明らかでない限り、本明細書で使用される、用語「1つの(a)(an)」及び「その(the)」は、単数又は複数であると理解される。
【0018】
特に指定されない限り、又は文脈から明らかでない限り、本明細書で使用される「約」という用語は、当該技術分野における通常の許容範囲内、例えば、平均の2標準偏差内であると理解される。約は、記載された値の10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%、0.1%、0.05%又は0.01%以内と理解することができる。文脈から他に明らかでない限り、本明細書に提供される全ての数値は、約という用語によって修飾される。
【0019】
本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される」という語は、医薬組成の他の成分と適合し、そのレシピエントに有害でないことを意味する。
【0020】
本明細書で使用される場合、「治療有効量」、「治療有効用量」、「有効量」及び「効果用量」という用語は、対象に投与すると、対象の症状、疾患又は疾病を処置又は改善することができ、又は臓器、組織又は身体系への健康又は機能の増強を提供することができる化合物又は組成物の量又は用量を指すのに用いられる。言い換えると、対象に投与するとき、その量は「治療に有効」である。実際の量は、これらに限定されるものではないが、処置又は改善されている特定の症状、疾患又は疾病;症状の重篤度;健康又は機能における増強が望まれる特定の臓器、組織又は身体系;患者の体重、身長、年齢及び健康、ならびに投与経路を含む多くの要因に応じて変化する。
【0021】
本明細書で使用される場合、「処置(treatment)」、「処置する(treating」、「緩和する(palliating)」及び「改良する(ameliorating」(及びこれらの用語の文法的変形)は、本明細書で使用される場合、区別なく使用される。これらの用語は、限定されるものではないが、治療的利益を含む、有益な又は所望の結果を得るための手法を指す。対象が依然として基礎疾患に罹患している可能性があるにもかかわらず、対象において改善が観察されるように、基礎疾患に関連する生理学的徴候の1つ以上を根絶又は改良することによって治療的利益が達成される。処置には、疾患又は症状の出現を遅延させること、疾患又は症状の徴候の発症を遅延させること、疾患又は症状の進行を遅らせる、症状又は任意の組合せの進行を遅らせること、止める又は逆転させること、又はこれらの任意の組み合わせが含まれる。この用語は、ある程度まで、基礎疾患の兆候又は症状を根絶、減少、改良又は逆転させることを指し、必要とはされないが、症状、疾患又は疾病の完治を含む。処置は、疾病の治癒、改善又は部分改良であり得る。「処置」はまた、例えば、身体内の特定の系の機能を、健康又はホメオスタシスの高められた状態にすることも含むことができる。
【0022】
本明細書で使用される場合、「高齢者」という用語は、中年期を過ぎた年齢層の対象を指す。高齢者とは、例えば、50歳以上、60歳以上、65歳以上、70歳以上又は75歳以上といった、具体的な年齢群の対象を指す。高齢者対象は、好ましくは、哺乳類、より好ましくは、ヒト及びさらに好ましくは、成人のヒト、少なくとも50、55、6065又は70歳である。より好ましくは、患者は、老齢又は老人の高齢(成人)ヒト患者である。高齢患者は、男性であっても女性であってもよい。
【0023】
本明細書で使用される場合、「実行機能」という語句は、他の能力や挙動を制御又は規制する一連の認知能力を指す。実行機能は、注意力、記憶力及び運動能力のような、より基本的な能力に影響を及ぼす高レベルの能力である。この実行機能は、目標指向の挙動に必要であり、必要に応じて、挙動を監視及び変更して、新規なタスクや状況に直面したときに、将来の挙動を計画するために、行動を開始又は停止する能力が含まれる。実行機能は、対象が、結果を予測し、変化する状況に適応できるようにする。抽象的に考える概念及び能力を形成する能力が、実行機能の構成要素と考えられることが多い。
【0024】
老化に伴う脳の症状
他の臓器と共に、脳の機能は、老化により徐々に低下する。老齢者集団の脳は、学習及び記憶、注意力、意思決定スピード、感覚認知及び運動協調の減少として現れる老化に伴う症状を発現又は患うリスクがある。
【0025】
特定の実施形態において、ここに開示されるような処置から利益を受けるであろう対象は、少なくとも50歳、60歳、70歳、80歳、90歳、通常、100歳を超えない年齢、約50~100歳、約50歳、約55歳、約60歳、約65歳、約70歳、約75歳、約80歳、約85歳、約90歳又は約100歳であり、例えば、認知障害及び/又は脳の測定可能な構造的、機能的又は分子変化のような老化に伴う症状を発現又は患うリスクがある。
【0026】
特定の実施形態において、認知障害は、例えば、注意力と集中力;学習タスクと概念;記憶;情報処理;視空間機能;発話;言語理解;発話流暢性;問題解決;意思決定;及び実行機能等の様々な脳の症状を含むことができる。認知障害は、例えば、記憶、想起、視空間認識、発話流暢性、表現力、実行機能、歩き方及びデュアルタスク等、多くのテストによって評価することができる。そのような差異を検出するために使用されるテストとしては、例えば、ミニメンタルステート検査(MMSE)、モントリオール認知評価(MoCA)及びその変形、アルツハイマー病評価尺度-認知サブスケール(ADAS-Cog)及び臨床的認知症(CDR)尺度が挙げられる。基準のいずれかを満たすスコア:MMSEで26以下、MoCAで25以下、ADAS-Cogで12以上又はCDRで0.5以上は、認知障害とみなされる。
【0027】
特定の実施形態において、脳の構造的変化は、脳容積、すなわち、5%、10%、15%、20%以上の減少、灰白質の構造、白質の構造、心室系の構造、神経血管系の構造及び完全性の変化であり得る。脳における構造的変化は、例えば、核磁気共鳴画像法(MRI)、コンピュータ断層撮影(CT)又は超音波検査(US)等の画像検査法によって測定することができる。これらの測定における加齢に伴う低下は、構造の容積の変化を反映する、それぞれの画像検査法又は記録法によって得られた数値及び/又はパターンの改変として定義され、全人口又は同じ年齢の人口についての分布の極値(例えば、頂点又は底辺5%、10%、20%、25%、30%)に入る、又は経時による、同じ対象からの反復測定において変化を呈す(例えば、5%、10%、15%、20%、25%以上)。
【0028】
特定の実施形態において、脳の機能的変化とは、ニューロンの活動、代謝又は神経血管機能の変化した状態を反映する、脳の測定可能な変化を指すことができる。脳の機能的変化は、例えば、機能的核磁気共鳴画像法(fMRI)、核磁気共鳴画像法(MRSI)、超偏極炭素-13(13C)核磁気共鳴画像検査法(MRSI)、超音波検査(US)、陽電子放出断層撮影(PET)又は単一光子放射断層撮影(SPECT)等の画像検査法によって測定することができる。脳の機能的変化は、電気生理学的方法、例えば、脳波検査(EEG)、頭蓋内電極記録及び脳深部電極記録又は磁場ベースの記録方法、例えば、脳磁図(MEG)によって記録することもできる。これらの測定における加齢に伴う低下は、ニューロンの活動、代謝又は神経血管機能を反映する、それぞれの画像検査法又は記録法によって得られた数値及び/又はパターンの改変として定義され、全人口又は同じ年齢の人口についての分布の極値(例えば、頂点又は底辺5%、10%、20%、25%、30%)に入る、又は経時による、同じ対象からの反復測定において変化を呈す(例えば、5%、10%、15%、20%、25%以上)。
【0029】
特定の実施形態において、脳の分子変化とは、脳組織又は血液における分子レベル測定可能な改変、例えば、遺伝子発現;DNA転写;RNA翻訳;脳細胞又は組織におけるDNA、RNA又はタンパク質の位置、及び/又はタンパク質、DNA、RNA、ミトコンドリア、細胞成分又はミトコンドリア成分の血液への分泌又は放出における変化を指すことができる。体液は、脳脊髄液(CSF)、血液又は血漿であり得る。これらの測定における加齢に伴う変化は、脳の分子変化を反映する、それぞれの方法によって得られた数値及び/又はパターンの改変として定義され、全人口又は同じ年齢の人口についての分布の極値(例えば、頂点又は底辺5%、10%、20%、25%、30%)に入る、又は経時による、同じ対象からの反復測定において変化を呈す(例えば、5%、10%、15%、20%、25%以上)。
【0030】
GLP-1Rアゴニスト
特定の実施形態において、GLP-1Rアゴニストを、本対象の方法において使用することができる。GLP-1Rアゴニストは、GLP-1レセプターのアゴニストである。GLP-1、GLP-1Rの天然アゴニストは、作用持続時間が短い。いくつかの薬理学的に最適化されたGLP-1Rアゴニストは、真性糖尿病又は神経変性疾患、例えば、アルツハイマー病及びパーキンソン病の臨床的処置のために認可又は開発されてきた。
【0031】
GLP-1Rアゴニストの活性は、例えば、cAMP生成の増加、ERK1/2のリン酸化の誘導、カルシウムの細胞内動員の増強、及びベータ-アレスチン-1及びベータ-アレスチン-2の補充等の、GLP-1R活性化に関連する十分に研究されたダウンストリームシグナリング及び制御経路のアッセイによって決定することができる。
【0032】
GLP-1Rアゴニストのいくつかの非限定的な例としては、エキセナチド、リラグルチド、リキシセナチド、アルビグルチド、デュラグルチド、セマグルチド、タスポグルチド、PF-06882961、OWL-833及びTTP-273が挙げられる。
【0033】
用量及び投与
特定の実施形態において、本明細書に記載の方法は、老化に伴う脳の症状を処置する方法を提供する。一実施形態において、対象は、哺乳類とすることができる。他の実施形態において、対象はヒトとすることができるが、本発明は、全ての哺乳類に対して有効である。本方法は、老化脳内のトランスクリプトーム及び機能的変化を逆転させるGLP-1Rアゴニストを含む有効量の医薬組成物を対象に投与することができる。本組成物は、1つ以上の薬学的に許容される担体及び/又は賦形剤をさらに含むことができ、例えば、固体、半固体、液体又は気体形態、例えば、錠剤、カプセル、粉末、顆粒、軟膏、溶液、坐剤、注射剤、吸入剤及びエアロゾルに製剤化することをさらに含むことができる。薬学的に許容される担体は、業界において周知されており、例えば、水溶液、水又は緩衝生理食塩水又はその他溶媒やビヒクル、例えば、ポリエチレングリコール、Tween-20又はオリーブ油又は注射可能有機エステルである。アゴニストの用量範囲は、効力に依存し得る。特定の実施形態において、大量のアゴニストは、例えば、老化脳内の任意の主要な細胞型におけるトランスクリプトーム及び機能的変化の逆転や老化脳の構造的及び/又は機能的変化における逆転等、所望の効果を生じさせることができる。用量は、有害な副作用を引き起こすほど大きくすべきではない。一般に、用量は、使用される薬剤によって変わる。さらに、対象の年齢、症状及び性別は、当業者により決定され、用量を決定するために用いることができる。用量はまた、合併症の場合、個々の医師によって調整することもできる。
【0034】
一実施形態において、組成物は、食品、カプセル、ピル又は飲用に適した液体等の経口摂取可能な製品として製剤化される。経口送達可能な健康促進化合物は、消化管又は口腔粘膜への初期吸収を介して送達される任意の生理活性物質である。組成物はまた、例えば、静脈内、腹腔内、筋肉内、髄腔内又は皮下を含む注射によって投与できる溶液として製剤化することもできる。他の実施形態において、本組成物は、局所又は全身への影響のために、パッチを通して、又は直接皮膚を介して投与されるように製剤化される。組成物は、舌下、頬側、直腸又は経腟的に投与することもできる。さらに、組成物は、鼻粘膜を介して吸収するために、鼻に噴霧し、霧状にし、口又は鼻を介して吸入したり、眼や耳に投与することができる。
【0035】
本発明による経口摂取可能な製品は、摂取、栄養、口腔衛生又は嗜好にとって好適な調製物や組成物であり、ヒト又は動物の口腔内に入れて、しばらくの間そこに留まったのち、嚥下される(例えば、摂取向け食品やピル)か、又は口腔内から再び取り出される(例えば、チューインガム、又は口腔衛生や薬用マウスウオッシュ等の製品)製品である。経口送達可能な医薬品は、経口摂取可能な製品へ製剤化でき、経口摂取可能な製品は、経口送達可能な医薬品を含むことができるが、2つの用語は本明細書において区別なく使用されることを意味するものではない。
【0036】
経口摂取可能な製品は、加工、半加工又は未加工の状態で、ヒト又は動物によって摂取されることが意図される全ての物質又は生成物を含む。これには、製造、処置又は処理中に経口摂取可能な製品(特に、食品及び医薬品)に添加され、ヒトや動物の口腔内に導入されるものも含まれる。
【0037】
また、経口摂取可能な製品は、ヒトや動物に嚥下されて、未変性、調製済み又は加工済み状態で消化されることを意図する物質も含むことができる。口腔摂取可能な製品はまた、製品と共に嚥下が意図される、又は嚥下が予想される、ケーシング、コーティング又はその他カプセル化も含む。
【0038】
一実施形態において、経口摂取可能な製品は、所望の経口送達可能な物質を含むカプセル、ピル、シロップ、乳剤又は懸濁液である。一実施形態において、経口摂取可能な製品は、粉末形態の経口送達可能な物質を含むことができ、これを、水又はその他液体と混合して、飲用経口摂取可能な製品を製造することができる。
【0039】
本発明による担体及び/又は賦形剤は、あらゆる溶媒、希釈剤、緩衝液(中性緩衝生理食塩水、リン酸緩衝液、又は任意で、トリス-HCl、酢酸又はリン酸緩衝液等)、水中油型又は油中水型乳剤、例えば、IV使用に適した有機共溶媒を含めた、又は含めない水性組成物、可溶化剤(例えば、ポリソルベート65、ポリソルベート80)、コロイド、分散媒体、ビヒクル、フィラー、キレート剤(例えば、EDTA又はグルタチオン)、アミノ酸(例えば、グリシン)、タンパク質、崩壊剤、結合剤、潤滑剤、湿潤剤、乳化剤、甘味剤、着色剤、着香剤、芳香剤、増粘剤(例えば、カルボマー、ゼラチン又はアルギン酸ナトリウム)、コーティング、防腐剤(例えば、チメロサール、ベンジルアルコール、ポリクアテリウム)、抗酸化剤(例えば、アスコルビン酸、メタ重亜硫酸ナトリウム)、等張化制御剤(tonicity controlling agents)、吸収遅延剤、アジュバント、増量剤(ラクトース、マンニトール等)等を含むことができる。薬及びサプリメントの分野における担体及び/又は賦形剤の使用は周知である。標的の健康促進物質又は補助剤組成物と適合しない従来の培地や薬剤を除いて、本組成物における担体又は賦形剤の使用が想定されてもよい。
【0040】
一実施形態において、組成物は、例えば、霧状にしたり、吸入できるように、エアロゾル製剤として作製することができる。エアロゾル又はスプレーの形態での投与に好適な医薬製剤は、例えば、溶液、懸濁液又は乳剤である。経口又鼻エアロゾル又は吸入投与のための製剤はまた、例えば、生理食塩水、ポリエチレングリコール又はグリセロール、DPPC、メチルセルロース又は粉末分散剤やフルオロカーボンとの混合物を含む、例示的な担体を用いて製剤化してもよい。エアロゾル製剤は、ジクロロジフルオロメタン、プロパン、窒素、フルオロカーボン、及び/又は当技術分野で公知のその他可溶化剤又は分散剤等の加圧噴射剤中に入れることができる。例示的には、送達は、単回使用送達デバイス、ミストネブライザー、呼気活性化粉末吸入器、エアロゾル定量吸入器(MDI)又は当技術分野で利用可能な多数のネブライザー送達デバイスの使用によるものであってもよい。加えて、ミストテントや気管内管を通した直接投与を使用してもよい。
【0041】
一実施形態において、組成物は、注射による投与のために、例えば、溶液又は懸濁液として製剤化することができる。溶液又は懸濁液は、好適な非毒性の非経口的に許容される希釈剤又は溶媒、例えば、マンニトール、1,3-ブタンジオール、水、リンゲル溶液、又は生理食塩液又は好適な分散又は湿潤及び懸濁剤、例えば、無菌の非刺激性の、合成モノ-又はジグリセリドを含む不揮発性油、及びオレイン酸を含む脂肪酸を含むことができる。静脈内使用のための担体の1つの例示的な例としては、10%USPエタノール、40%USPプロピレングリコール又はポリエチレングリコール600及び残部USP注射用水(WFI)の混合物が挙げられる。静脈内使用のための他の例示的な担体としては、10%USPエタノール及びUSPWFI;USP WFI中0.01~0.1%トリエタノールアミン;又はUSP WFI中0.01~0.2%ジパルミトイルジホスファチジルコリン;及び1-10%スクワラン又は非経口的水中植物油型乳剤が挙げられる。水又は生理食塩水及び水性デキストロース及びグリセロール溶液は、好ましくは、特に、注射用溶液のための担体として使用してよい。皮下又は筋肉内使用のための担体の実例としては、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)溶液、WFI中5%デキストロース及び5%デキストロース中0.01~0.1%トリエタノールアミン又はUSP WFI中0.9%塩化ナトリウムが挙げられ、又は10%USPエタノール、40%プロピレングリコール及び残部の1~2又は1~4混合物が、許容される等張溶液であり、例えば、5%デキストロース又は0.9%塩化ナトリウム、又はUSP WFI中0.01~0.2%ジパルミトイルジホスファチジルコリン及び1~10%スクワラン又は非経口水中植物油型乳剤である。
【0042】
一実施形態において、補助剤組成物は、例えば、すすぎ、噴霧、滴下、ローション、ゲル、軟膏、クリーム、泡、粉末、固形物、スポンジ、テープ、水蒸気、ペースト、チンキ又は経皮パッチを含む局所溶液として、皮膚への局所適用を介して投与するために製剤化することができる。局所適用の好適な製剤は、薬学的に活性な担体のいずれかに加えて、皮膚軟化剤、例えば、カルナウバワックス、セチルアルコール、セチルエステルワックス、乳化ワックス、含水ラノリン、ラノリン、ラノリンアルコール、微結晶性ワックス、パラフィン、ワセリン、ポリエチレングリコール、ステアリン酸、ステアリルアルコール、ホワイトビーズワックス又はイエロービーズワックスを含むことができる。さらに、組成物は、保湿剤、例えば、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ソルビトール溶液及び1,2,6ヘキサントリオール又は浸透促進剤、例えば、エタノール、イソプロピルアルコール又はオレイン酸を含むことができる。
【0043】
当業者によって判断されるように、さらなる成分、例えば、緩衝剤、担体、粘度調整剤、防腐剤、香味料、染料及び意図される使用に特有のその他成分を添加することができる。当業者であれば、上記の説明が網羅的ではなく例示的であることが認識されるであろう。実際、特定の投与様式に適した多くのさらなる製剤技術及び薬学的に許容される賦形剤及び担体溶液は、当業者に周知されている。
【0044】
特定の実施形態において、用量は、約0.001mg/体重kg~約1g/体重kgの範囲である。いくつかの実施形態において、用量は、約0.001mg/体重kg~約0.2mg/体重kg、約0.001mg/体重kg~約0.1mg/体重kg、約0.001mg/体重kg~約20mg/体重kg、約0.001mg/体重kg~約10mg/体重kg、約0.001mg/体重kg~約5mg/体重kg、約0.001mg/体重kg~約2mg/体重kg、約0.001mg/体重kg~約1mg/体重kg、約0.001mg/体重kg~約0.2mg/体重kg、約0.001mg/体重kg~約0.02mg/体重kg、約0.001mg/体重kg~約0.01mg/体重kgである。あるいは、いくつかの実施形態において、用量範囲は、約0.01g/体重kg~約1g/体重kg、約0.05g/体重kg~約1g/体重kg、約0.1g/体重kg~約1g/体重kg、約0.2g/体重kg~約1g/体重kg、約0.25g/体重kg~約1g/体重kg、約0.5g/体重kg~約1g/体重kgである。一実施形態において、用量範囲は、約5μg/体重kg~約50μg/体重kgである。
【0045】
老化に伴う脳の症状を逆転させるGLP-1RAは、治療に有効な用量を達成するために、1日に複数回、例えば、1日に2回、3回、4回、5回、6回、7回、8回、9回、10回、11回又は12回、1日に1回、1日に1回未満、1週間に1回、2週間に1回、1ヶ月に1回、2ヶ月に1回、1年に4回、1年に2回、1年に1回又は連続的に与えることができる。本明細書で使用される用量の投与は、限定された期間繰り返すことができ、例えば、本明細書で使用される用量は、数週間、数か月又は数年にわたって毎日投与することができる。処置期間は、治療に対する対象の臨床経過及び応答性により異なる。治療有効量は、脳の測定可能な変化を起こすのに充分なGLP-1RAの量である(下記の「有効性の測定」参照)。このような有効量は、動物実験だけでなく、治験においても投与可能である。
【0046】
本発明に有用なGLP-1RAは、経口、静脈内、鼻腔内、吸入、腹腔内、筋肉内、皮下又は腔内投与することができる。一実施形態において、本明細書で使用されるGLP-1RAは、患者に経口又は皮下投与される。
【0047】
有効性の測定
一実施形態において、所与の処置の有効性は、例えば、記憶、想起、視空間認識、発話流暢性、表現言語、実行機能、歩き方及びデュアルタスク、マルチタスク等、数多くのテストによって測定される、認知能力の向上によって判断することができる。これらは、ミニメンタルステート検査(MMSE)、モントリオール認知評価(MoCA)及びその変形、アルツハイマー病評価尺度-認知下位尺度(ADAS-Cog)及び認知症評価(CDR)尺度を含む認知テストによって得られる値の改善として反映され得る。臨床的改善は、以下の形態のいずれかにおける数値の変化として定義される:MMSEスコアの増加、MoCAスコアの増加、ADAS-Cogスコアの減少又はCDRスコアの減少。認知能力の改善はまた、これらのスコアのいずれにおいても、年齢適合集団と比較して、低下のないことや低下が遅いこと、例えば、継続的に低下すると予想される老化に伴う、MMSE、MoCA、ADAS-Cog又はCDRの値に変化がないこととしても反映させることができる。
【0048】
他の実施形態において、所与の処置の有効性は、老化に伴う脳の構造的変化の逆転によって判断することができ、変化は、例えば、核磁気共鳴画像法(MRI)、コンピュータ断層撮影(CT)及び超音波検査(US)等の画像検査法によって測定することができる。特定の実施形態において、構造的変化は、海馬萎縮、皮質萎縮、皮質下の構造的萎縮、小脳萎縮、全脳萎縮;前頭葉、側頭葉、頭頂葉又は後頭葉の灰白質中の微小脳出血;前頭葉、側頭葉、頭頂葉又は後頭葉の白質中の微小脳出血;前頭葉、側頭葉、頭頂葉又は後頭葉のラクナ、脳梗塞、血管周囲腔、白質強度変化及び/又はタンパク質種の凝集であり得る。構造的変化の改善は、新たな加齢に伴う構造的変化の発達の欠如、経時による静的値、又は構造的変化の重大度を定量化する尺度の変化した大きさという形態であり得る。タンパク質種はアミロイドベータ、タウ、アルファ-シヌクレイン、TAR DNA結合タンパク質43及び/又はプリオンとすることができ、皮質領域、皮質下領域又は脳幹に発生する。
【0049】
他の実施形態において、所与の処置の有効性は、老化に伴う脳の機能的変化の逆転によって判断することができ、その変化は、画像検査法、例えば、機能的核磁気共鳴画像法(fMRI);核磁気共鳴画像法(MRSI);超偏極炭素-13(13C)核磁気共鳴画像検査法(MRSI);超音波検査(US);陽電子放出断層撮影(PET);及び単一光子放射断層撮影(SPECT)によって測定することができる。脳の機能的変化は、例えば、脳波検査(EEG);頭蓋内電極記録;脳深部電極記録;又は、例えば、脳磁図(MEG)等の磁場ベースの記録法等の電気生理学的方法によって記録することもできる。機能的変化は、改変した脳の領域の活性パターン、ニューロンの活動、機能的結合、血液脳関門漏出、安静時血流、グルコース消費、代謝物濃度、神経血管カップリング及び/又は機能的充血とすることができる。これらの尺度のそれぞれについて、有効性は、より若い対象において見出されるものに近いそれぞれの値の逆転、又はそうでなければ自然に生じるであろうこれらの値の加齢に伴う変化の進行の欠如として定義される。
【0050】
他の実施形態において、所与の処置の有効性は、老化に伴う脳の分子変化の逆転によって判断することができ、変化は、脳組織又は血液からの分子を測定する、例えば、遺伝子発現;DNA転写;RNA翻訳;脳細胞又は組織におけるDNA、RNA又はタンパク質の位置;タンパク質、DNA、RNA、ミトコンドリア、細胞成分又はミトコンドリア成分の血液への分泌又は放出によって評価することができる。体液は、脳脊髄液(CSF)、血液及び/又は血漿であり得る。
【0051】
特定の実施形態において、生P値、偽発見率(FDR)調整P値及び/又は自然対数倍率変化(lnFC)で表される変化の大きさに関連する発現変動遺伝子(DEG)の算出は、それぞれの細胞型について算出することができる。特定の実施形態において、P値が<0.05である、好ましくは、FDR調整P値<0.05であるDEGである。
【0052】
特定の実施形態において、本発明で評価できる遺伝子及び後続転写mRNA及び翻訳タンパク質は、以下の免疫応答関連遺伝子である。例えば、C1qa、C1qb、C1qc、C4b、B2m、Tap2、H2-D1、H2-K1;シナプス修飾関連遺伝子、例えば、Sparcl1、Gpc6、Tgfb2、Megf10、Mertk、Chrdl1;ホメオスタシス機能関連遺伝子、例えば、Kcnj10、Kcnn2、Slc1a2、Slc1a3、Slc6a1、Slc6a9、Slc6a11、Slc7a10、Slc7a11、Slc16a1、Srebf1、Gja1、Gjb6、Itpr2、Grm3、Gria2、Gabbr1、Gabbr2;MG細胞中のホメオスタシス関連遺伝子、例えば、Csf2r及びP2ry13;MG細胞中の免疫活性化関連遺伝子、例えば、Appe、Ccl3、Ccl4、Cd52、Cst7、Fabp5、Tyrobp、Cd14、Cd33、Ifngr1、Ly86、Map4k4;MG細胞中の免疫応答阻害遺伝子、例えば、Cd300a、Il10ra、及びIl10rb;SMC中のカルシウムシグナリング関連遺伝子、例えば、Camk2g、Stim1、Gsn、Atp2a2、Inpp4b、Mcur1、S100a6及びTspo;SMC収縮関連遺伝子、例えば、Mylk、Itga1、Mgh11、及びSorbs1;ならびに、SMC中の細胞接着及びECMリモデリング、例えば、Col1a2、Lamb1、Itga7、Jam3、Lamb2、Itgb1、及びBsgである。
【0053】
材料及び方法
対象動物
全ての実験方法は、香港の中国大学の動物研究倫理委員会(CUHK)によって事前に承認され、実験動物のケアと使用指針に従って実施された。C57BL/6Jマウスは、CUHKの実験動物サービスセンターにより提供され、制御された温度(22~23℃)で、12時間の明/暗サイクルを交互に行い、標準マウスは、食品及び水に自由にアクセスできた。周囲湿度は、<70%相対湿度に維持された。別段の指示がない限り、2つの年齢群(月齢2~3ヶ月と18~20カ月)の雄マウスを実験に使用した。処置群について、エキセナチド(5nmol/体重kg、Byetta,AstraZeneca LP,Cambridge,UK)又は塩水ビヒクル(0.9%w/v塩化ナトリウム))は、別段の指示がない限り、実験前に4~5週間毎日、腹腔内(I.P.)投与した(容積:250μl/30g体重)。
【0054】
脳組織解離及び単一細胞分離
若齢と老齢の両マウス脳からの単一脳細胞分離のために最適化された解離プロトコル(非特許文献18)を使用に適合させた。マウスを、深い麻酔下とし、20mlの氷冷リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で経心的にかん流した。次いで、急速に頭部を切除し、脳全体(小脳を除く)を氷冷ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM、Thermo Fisher Scientific,Waltham,MA)に浸漬した。脳組織を小片に切断し、改変版の神経組織解離キット(P)(130-092-628、Miltenyi Biotec、Bergisch Gladbach、Germany)を用いて単一細胞に解離した。Myelin Removal kit II(130-096-733、Miltenyi Biotec)を製造業者のマニュアルに従って使用して、ミエリンデブリを除去した。細胞凝集塊を、予め湿潤させた70μm(#352350、Falcon、Corning,NY)及び40-μm(#352340、Falcon)ナイロンセルストレーナーを通した連続ろ過によって除去した。遠心分離は、300×gで5分間、4℃で行った。最終細胞ペレットを、500~1000μlのFACS緩衝液(フェノールレッドを含まないDMEM(Thermo Fisher Scientific)、2%ウシ胎仔血清(Thermo Fisher Scientific)を補充)に再懸濁した。
【0055】
単一細胞ライブラリー作製、配列決定及び配置
クロム単一細胞3’試薬キットv3(10X Genomics,Pleasanton,CA)を用いて、単一細胞RNA-seqライブラリーを作製した。FACS緩衝液中500~1000細胞/μLの密度の単一細胞懸濁液を、リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)マスターミックスに添加し、製造業者の説明書に従って、単一細胞3’ゲルビーズ及び分配油と共に、単一細胞3’チップにロードした。単一細胞由来のRNA転写物は、液滴内で独自にバーコード化され、逆転写された。cDNA分子は、予備増幅及びプールされた後、製造業者の説明書に従ってライブラリーを構築した。全てのライブラリーを、LightCycler96システム(Roche Life Science,Penzberg,Germany)でのQubit及びRT-PCRによって定量した。予備増幅されたcDNA及び配列決定ライブラリーのサイズプロファイルを、それぞれ、アラインメント好感度(Agilent High Sensitivity)D5000及び高感度(High Sensitivity)D1000スクリーンテープシステム(ScreenTape Systems)(Agilent,Santa Clara,CA)によって調べた。全ての単一細胞ライブラリーを、10X Genomicsによる推奨に従って、単一インデクシング(v3ライブラリーについては28/8/91-bp)フォーマットで、カスタマイズされたペアエンドにより配列決定した。NextSeq 500高出力v2キット(Illumina)を使用して、NextSeq 500システム(Illumina,San Diego,CA)で全ての単一細胞ライブラリーを配列決定した。細胞当たりの平均読取り値5897.25の平均(範囲:2,340~19,700)が得られ、細胞当たり平均2296.01の遺伝子(範囲:88~6,062)が検出された。ライブラリー配列決定飽和は、平均68.73%であった。データをセルレンジャー(Cell Ranger)(v3.0.0,10X Genomics)で配置させた。
【0056】
データ品質管理
データ処理及び可視化は、Seuratパッケージ(v3.1.5)及びRでのカスタムスクリプト(v3.6.1)を用いて行った。未加工カウントマトリックスは、デフォルトパラメータ(mm10参照ゲノムを有する)によって生成された。プライマリカウントマトリックスには106,832個の細胞があった。5個未満の細胞によって発現された遺伝子を除去し、全部で21,259個の遺伝子を残した。これらの遺伝子の中で、3,000の高分散遺伝子がSeurat FindVariableFeatures関数によって同定された。データセットは、以下の基準:(1)<5%又は>95%のUMIカウント又は遺伝子カウント又は(2)>20%のミトコンドリア遺伝子の割合によって、低品質セルを除外するためにフィルタリングされた。次元削減のために、主成分分析(PCA)を適用して、最初の30個の上位主成分を計算した。クラスタリングは、Seurat関数FindNeighbors及びFindClustersによって行った。FindNeighbors関数は、最初の50個の主成分に基づいて共有最近傍(SNN)グラフを構築した。次に、クラスタリングのSNN結果に対してモジュラリティの最適化を行った(解像度パラメータ:1.2)。一様多様体の近似と投影(Uniform Manifold Approximation and Projection)(UMAP)を用いてクラスタリング結果を可視化した。
【0057】
細胞型同定
主要細胞型を同定するために、本発明者らは、既知の細胞型特異的マーカー遺伝子を用いて、含まれる全ての52個の最初のクラスター中のうちのそれらの発現量を調べた。本発明者らはさらに、2つ以上の細胞型特異的マーカー遺伝子の二重高発現を有するクラスターを除外した。これらは、内皮細胞断片による周皮細胞の汚染に対応する、両方の内皮細胞と周皮細胞マーカーの高発現を有するクラスターを含んでいた。残りのクラスターを16の主要細胞型に分類した(
図1A-1D参照)。
【0058】
発現変動遺伝子計算
品質制御及び細胞型分類後、遺伝子数正規化及び高分散遺伝子同定を、さらなる分析のために保持された78,490の細胞の未加工データに適用した。Seurat FindMarkers関数及びMASTパッケージ(v1.8.2)を用いて、未加工P値、偽発見率(FDR)調整P-値に関連する発現変動遺伝子(DEG:differentially expressed genes)と、各細胞型について、倍率変化の自然対数(lnFC)における発現した変化の大きさとを算出した。本発明者らは、有意なDEGを、FDR調整P値<0.05を満たすものと定義した。
【0059】
パスウェイエンリッチメント及び疾患関連分析
本発明者らは、パスウェイエンリッチメント分析のための100以上のデータソースを含む、オンラインユニバーサル遺伝子関数分析ツールであるGeneAnalyticsを使用した。有意なDEGを、半自動的にヒト遺伝子オルソログに変換した。代謝経路、免疫応答及びサイトカインシグナリングパスウェイ、呼吸電子伝達鎖/ATP合成及びグルコース/エネルギー代謝パスウェイ、遺伝子発現/転写調節パスウェイ、カルシウム及びその他セカンドメッセンジャーシグナリングパスウェイ、細胞型特異的パスウェイ(例えば、SMC収縮)、ホルモンシグナリングパスウェイ、細胞接着及び細胞外マトリックスリモデリング関連パスウェイを含む、顕著な機能的意味を有するパスウェイを、文献レビューから手動で識別化し、グループ化し、まとめた。
【0060】
Y迷路テスト
Y迷路テストを用いて空間記憶を評価した。Y迷路は、長さ30cm、幅8cm、高さ15cmの白色アクリルガラス製の3本の囲まれたアームを含み、互いに120°の角度に設定されている。視覚的手がかりをテスト室の迷路の周りに置いた。このテストは、2つの試験を含む。第1の試験では、マウスに、アームの1つを閉じた状態で、5分間迷路を探索させた。マウスを、試験の間の2分間、テスト室から離れたそのホームケージに戻した。第2の試験では、マウスに、迷路の3つのアーム全てを5分間自由に探索させた。それぞれのアームに費やされた時間が、映像記録から登録された。アームエントリーは、マウスの身体が、アームの中央ゾーンの敷居を越え、アームに入ったこととして定義された。新規アーム(最初の試験で、以前に閉鎖されたところ)に費やされた時間のパーセンテージを計算した。
【0061】
本明細書において言及又は参照される全ての特許、特許出願、仮出願及び公報は、本明細書の明示的な教示と矛盾しない範囲で、全ての図及び表を含めて、その全体が参照として援用される。
【0062】
以下は、本発明を実施するための手順を例示する実施例である。これらの実施例は、限定とはみなされない。特に明記しない限り、全てのパーセンテージは重量により、全ての溶剤混合物の割合は容積による。
【0063】
実施例
実施例1-マウスのエキセナチド処置
老化は、例えば、ニューロン、グリア細胞、例えば、星状細胞(AC)、希突起膠細胞前駆細胞(OPC)、小膠細胞(MG)及び希突起膠細胞(OLG)、及び壁細胞、例えば、内皮細胞(EC)、周皮細胞(PC)及び平滑筋細胞(SMC)を含む、多数の主要脳細胞型にわたって劇的なトランスクリプトーム変化をもたらす。GLP-1Rアゴニストであるエキセナチドによる処置は、このような老化に伴うトランスクリプトームシグネチャーを逆転させる。GLP-1RAによって逆転される加齢に伴う発現変化は、老化及び神経変性に関与する共有及び細胞型特異的機能的パスウェイを包含する。
【0064】
単細胞トランスクリプトームプロファイリングを、若齢成体、老齢及びエキセナチド-処置老齢マウスにおいて行った。
図1A~1Dに示すように、マウス脳において識別及び分析された主要な細胞型クラスターを、UMAPによって可視化した。GLP-1RA処置による加齢脳及びその調節における主要細胞型におけるゲノム全体の発現変化を分析した。エキセナチド処置の老化における発現変化のパターン及び効果を分析するために、それぞれの細胞型について、有意なDEG(偽発見率(FDR)調整P値<0.05として定義)を計算した。
図2A、
図2B及び
図3に示されるように、老化に伴うトランスクリプトーム変化は、脳内の主要細胞型の大部分にわたって、エキセナチド処置によって普遍的に逆転された。
【0065】
GLP-1RA処置によって逆転される発現変化は、機能的に関連する。
図4に示すように、最も顕著な逆転DEG上のそれぞれの細胞型についてのパスウェイエンリッチメント分析は、広範な細胞機能に関与する加齢に伴う発現変化の改善が強調された。ほとんどの細胞型において、これらは、グルコース/エネルギー、脂質及びタンパク質代謝プロセス、同様に、転写及び翻訳調節を媒介する遺伝子を含んでいた。パスウェイ分析による細胞型特異的変化がある。さらに、いくつかの遺伝子の発現変化は、重要な機能的な役割を果たす。ACにおいて、免疫反応を仲介する遺伝子の加齢に伴う発現変化、ホメオスタティック機能及びシナプス可塑性が報告されている(非特許文献3)。この実施例では、GLP-1RA-処置マウスからのACが、いくつかの補完1成分遺伝子のダウンレギュレーション(
図5)及びシナプス修飾関連タンパク質、代謝物レセプター及びトランスポーター、神経伝達物質レセプター及びイオンチャネルをコードする遺伝子のサブセットのアップレギュレーション(
図5)により、若い表現型に部分的に復帰するようであった。一方、免疫応答及びサイトカインシグナル伝達関連遺伝子は、MG及びMAC、続いてECで逆転したDEG間で顕著であった(
図5)。過去の研究によれば、老化脳内のミクログリアが炎症誘発性表現型を示すことが報告されている(非特許文献10、非特許文献13)。GLP-1RA処置後、MGは、多数のホメオスタシス機能関連及び免疫応答阻害遺伝子のアップレギュレーション、及びいくつかの活性化関連遺伝子の逆転された発現変化を示した(
図5)。SMCにおいて、加齢に伴う血管硬化に関連する重要な機能的プロセス、例えば、カルシウムシグナリング、細胞外マトリクス(ECM)リモデリング及び収縮性パスウェイを含む発現変化の処置後の逆転が見出された(
図4及び
図5)。
【0066】
実施例2-老齢マウスの認知機能を改善するエキセナチド処理
老齢マウスにおける認知を改善するためのエキセナチドの効果を評価するために、15~17ヶ月齢のC57BL/6を、生理食塩水ビヒクル(1匹の雄及び2匹の雌;計3匹)又は5nmol/体重kgのエキセナチド(4匹の雄及び3匹の雌;計7匹のマウス)で2~4ヶ月間毎日処置した。処置後、マウスをY迷路テストに供した。
図6に示されるように、エキセナチドで処理したマウスは、新規アームにおいて有意により多くの時間を費やした。これは、空間記憶の向上を示す。
【0067】
例示の実施形態
実施形態1 老化に伴う脳機能障害について、対象を処置する方法であって、前記対象に、有効量のGLP-1Rアゴニストを投与することによって、前記老化に伴う脳機能障害を処置することを含む、方法。
実施形態2 前記GLP-1Rアゴニストは、エキセナチド、リラグルチド、リキシセナチド、アルビグルチド、デュラグルチド、セマグルチド、タスポグルチド、PF-06882961、OWL-833、TTP-273、又はGLP-1Rを活性化するその他分子である、実施形態1に記載の方法。
実施形態3 薬学的に許容される担体を、前記GLP-1Rアゴニストと共に投与することをさらに含む、実施形態1に記載の方法。
実施形態4 前記対象は、哺乳類である、実施形態1に記載の方法。
実施形態5 前記哺乳類は、霊長類である、実施形態4に記載の方法。
実施形態6 前記霊長類は、ヒトである、実施形態5に記載の方法。
実施形態7 前記対象は、50歳以上である、実施形態1に記載の方法。
実施形態8 前記老化に伴う脳機能障害は、認知障害を含む、実施形態1に記載の方法。
実施形態9 前記認知障害は、注意力と集中力、学習タスクと概念、記憶、情報処理、視空間機能、発話、言語理解、発話流暢性、問題解決、意思決定及び実行機能のいずれかである、実施形態8に記載の方法。
実施形態10 前記老化に伴う脳機能障害は、前記脳の測定可能な構造的、機能的及び分子変化のいずれかを含む、実施形態1に記載の方法。
実施形態11 前記老化に伴う測定可能な構造的変化は、海馬萎縮、皮質萎縮、皮質下の構造的萎縮、小脳萎縮、全脳萎縮、灰白質中の微小脳出血、白質中の微小脳出血、ラクナ、脳梗塞、血管周囲腔、白質強度変化、及びタンパク質種の凝集のいずれかである、実施形態10に記載の方法。
実施形態12 前記タンパク質種は、アミロイドベータ、タウ、アルファ-シヌクレイン、TAR DNA結合タンパク質43、及びプリオンのいずれかである、実施形態11に記載の方法。
実施形態13 前記老化に伴う測定可能な構造的変化は、画像検査法により測定される、実施形態10に記載の方法。
実施形態14 前記画像検査法は、核磁気共鳴画像法(MRI)、コンピュータ断層撮影(CT)、及び/又は超音波検査(US)である、実施形態13に記載の方法。
実施形態15 前記老化に伴う測定可能な機能的変化は、改変した脳の領域の活性パターン、ニューロンの活動、機能的結合、血液脳関門漏出、安静時血流、グルコース消費、代謝物濃度、神経血管カップリング又は機能的充血である、実施形態10に記載の方法。
実施形態16 前記老化に伴う測定可能な機能的変化は、機能的画像検査法又は記録法により測定される、実施形態15に記載の方法。
実施形態17 前記機能的画像検査法又は記録法は、機能的核磁気共鳴画像法(fMRI)、核磁気共鳴画像法(MRSI)、超偏極炭素-13(13C)核磁気共鳴画像検査法(MRSI)、超音波検査(US)、陽電子放出断層撮影(PET)、単一光子放射断層撮影(SPECT)、脳波検査(EEG)、脳磁図(MEG)、機能的近赤外線分光法(fNIRS)、頭蓋内電記録、又は脳深部電記録である、実施形態16に記載の方法。
実施形態18 前記老化に伴う測定可能な分子変化は、遺伝子発現における変化;DNA転写;RNA翻訳;脳細胞又は組織におけるDNA、RNA又はタンパク質の位置;又はタンパク質、DNA、RNA、ミトコンドリア、細胞成分又はミトコンドリア成分の血液への分泌又は放出である、実施形態10に記載の方法。
実施形態19 前記老化に伴う測定可能な分子変化は、脳脊髄液(CSF)又は血液/血漿組成における変化である、実施形態10に記載の方法。
【0068】
本明細書に記載された実施例及び実施形態は例示のためのものであり、それに照らした種々の変更又は変化は、本明細書及び添付の請求項の趣旨及び範囲内に含まれることは、当業者に示唆されるものと理解されたい。さらに、本明細書に開示された発明又は実施形態の要素又は限定は、あらゆる他の要素又は限定(個々に、又は任意の組み合わせで)、又は本明細書に開示された他の発明又は実施形態、ならびにかかる全ての組み合わせは、限定されることなく、本発明の範囲と想定される。
【国際調査報告】