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特表2024-500444多入力多制御出力(MIMSO)レーダー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-09
(54)【発明の名称】多入力多制御出力(MIMSO)レーダー
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/02 20060101AFI20231226BHJP
   G01S 13/931 20200101ALI20231226BHJP
   H01Q 21/06 20060101ALI20231226BHJP
   H01Q 3/26 20060101ALI20231226BHJP
   H01Q 15/02 20060101ALI20231226BHJP
   H01Q 1/32 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
G01S7/02 216
G01S13/931
H01Q21/06
H01Q3/26 Z
H01Q15/02
H01Q1/32 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023537581
(86)(22)【出願日】2021-08-12
(85)【翻訳文提出日】2023-07-07
(86)【国際出願番号】 EP2021072554
(87)【国際公開番号】W WO2022128183
(87)【国際公開日】2022-06-23
(31)【優先権主張番号】20214700.5
(32)【優先日】2020-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523227580
【氏名又は名称】プロビジオ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001726
【氏名又は名称】弁理士法人綿貫国際特許・商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】ピーター ラドロー
(72)【発明者】
【氏名】スティーブン クリスティ
(72)【発明者】
【氏名】デンバー ハンフリー
【テーマコード(参考)】
5J020
5J021
5J046
5J070
【Fターム(参考)】
5J020BB04
5J020BC04
5J020DA10
5J021AA05
5J021AA06
5J021AA07
5J021AA11
5J021CA03
5J021DB02
5J021DB03
5J021DB06
5J021FA29
5J021FA32
5J021GA02
5J021HA04
5J021HA10
5J046AB01
5J046AB02
5J046MA00
5J070AB17
5J070AB24
5J070AB30
5J070AC02
5J070AC06
5J070AC11
5J070AD05
5J070AD07
5J070AD09
5J070AD10
5J070AD13
5J070AF03
5J070AH12
5J070AH31
5J070AH35
5J070AK22
5J070BA01
(57)【要約】
本発明は、路上走行車用のレーダーを提供する。レーダーは、第1の数の入力ポートと第2の数のビーム形成ポートとを有するビームフォーミングネットワークであって、第1および第2の数は1より大きい、ビームフォーミングネットワークと、信号を受信するための第1の数のアンテナであって、第1の数のアンテナの各アンテナは、ビームフォーミングネットワークのそれぞれの入力ポートに接続されている、第1の数のアンテナと、少なくとも2つの受信機が同時に動作可能である第2の数の受信機であって、各受信機は、第2の数のビーム形成ポートのそれぞれのビーム形成ポートに接続されている、第2の数の受信機と、信号を送信するための第3の数のアンテナであって、第3の数は1より大きい、第3の数のアンテナと、受信機によって受信された信号の振幅に基づいてレーダーに対する物体の位置を判定するように構成された処理手段と、を備える。
【選択図】図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
路上走行車用レーダーであって、
第1の数の入力ポートと第2の数のビーム形成ポートとを有するロットマンレンズを含むビームフォーミングネットワークであって、前記第1および前記第2の数は1より大きい、ビームフォーミングネットワークと、
信号を受信するための第1の数のアンテナであって、前記第1の数のアンテナの各アンテナは、前記ビームフォーミングネットワークのそれぞれの入力ポートに接続されている、第1の数のアンテナと、
少なくとも2つの受信機が同時に動作可能である第2の数の受信機であって、前記第2の数の受信機の各受信機は、前記第2の数のビーム形成ポートのそれぞれのビーム形成ポートに接続されている、第2の数の受信機と、
信号を送信するための第3の数のアンテナであって、前記第3の数は1より大きい、第3の数のアンテナと、
前記受信機によって受信された信号の振幅および位相に基づいて前記レーダーに対する物体の位置を判定するように構成された処理手段と、
を備え、
前記ビームフォーミングネットワークは、前記第3の数のアンテナの少なくとも2つから前記第1の数のアンテナの少なくとも2つによって受信された信号を、合成するように構成され、前記ビームフォーミングネットワークはさらに、所望の角度でビームを形成するように、合成される各信号に追加の位相項を適用するように構成される、レーダー。
【請求項2】
前記第1の数のアンテナは、第1の線上に配置され、
前記第3の数のアンテナは、第2の線上に配置され、
前記第1の線は、前記第2の線に対して実質的に平行である、
請求項1に記載のレーダー。
【請求項3】
前記第1の数のアンテナは、各アンテナ間に所定の距離dをおいて一列に配置され、
前記第3の数のアンテナは、各アンテナ間にN×dの距離をおいて一列に配置され、ここで、Nは前記第1の数である、
請求項1または2に記載のレーダー。
【請求項4】
前記ロットマンレンズは、前記第3の数のアンテナの使用を通じてロットマンレンズの仮想アレイを形成し、前記ロットマンレンズは、前記仮想アレイのロットマンレンズによって形成される個々のビームが重なるように構成される、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のレーダー。
【請求項5】
前記ロットマンレンズの仮想アレイによって形成される個々のビームは、利得が各ビームのピーク値の半分の値になる角度で重なり合う、請求項4に記載のレーダー。
【請求項6】
前記ロットマンレンズは、前記ビームポートが前記レーダーのボアサイト周辺に集中するように構成される、請求項1乃至5のいずれか1項に記載のレーダー。
【請求項7】
前記アンテナは、ミリ波レーダー信号で動作するように構成される、請求項1乃至6のいずれかに記載のレーダー。
【請求項8】
路上走行車用レーダーに対する物体の位置を判定する方法であって、
複数の送信アンテナから信号を送信することと、
複数の受信アンテナで前記信号を受信することと、
ロットマンレンズを含むビームフォーミングネットワークの入力ポートに、少なくとも2つの受信アンテナからの前記受信信号を提供することであって、前記ビームフォーミングネットワークは複数のビーム形成ポートを有し、前記ビームフォーミングネットワークは、その入力ポートで受信された信号を合成し、そのビーム形成ポートに前記合成信号を提供するように構成され、前記ビームフォーミングネットワークは、所望の角度でビームを形成するように、合成される各信号に追加の位相項を適用するようさらに構成される、前記受信信号を提供することと、
前記ビームフォーミングネットワークのそれぞれのビーム形成ポートにそれぞれ接続された複数の受信機で、前記ビームフォーミングネットワークからの出力を取得することと、
前記取得した出力を処理して、前記ビームフォーミングネットワークの前記ビーム形成ポートから前記受信機に提供される前記合成信号の振幅および相対位相に基づいて、各受信機で物体の位置を判定することと、
を含む、方法。
【請求項9】
前記受信アンテナを少なくとも4つのアンテナからなるリニアアレイに構成することであって、前記アレイの少なくとも中央のアンテナ間の距離はdであり、最も外側のアンテナとそれぞれ隣接するアンテナの間の距離はdより大きく、メインビームの特性に影響を与えずに、用いる受信アンテナの数を減らすように、各受信アンテナ間の距離を所定の不等間隔にして、前記受信アンテナを構成することと、
前記送信アンテナを構成することであって、メインビームの特性に影響を与えず、用いる送信アンテナの数を減らすように、各送信アンテナ間の距離を所定の不等間隔にして、前記送信アンテナが配置されるように、前記送信アンテナを構成することと、
を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
各受信アンテナ間に所定の距離dを有する第1の線上に配置されるように、前記受信アンテナを構成することと、
受信アンテナの数をNとしたとき、各送信アンテナ間にN×dの距離を有する第2の線に配置されるように、前記送信アンテナを構成することと、
を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記受信アンテナを第1の線上に、前記前記送信アンテナを第2の線上に構成することを含み、前記第1の線は前記第2の線に対して平行ではない、請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
前記ロットマンレンズは、前記複数の送信アンテナの使用を通じてロットマンレンズの仮想アレイを形成し、前記ロットマンレンズは、前記仮想アレイのロットマンレンズによって形成される個々のビームが重なり合うように構成される、請求項8乃至11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記ロットマンレンズは、前記ビームポートが前記レーダーのボアサイト周辺に集中するように構成される、請求項8乃至12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記第1の信号は、ミリ波レーダー信号である、請求項8乃至13のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両の周辺環境を電子的に感知するレーダーシステムおよび方法に関する。特に、本開示は、ロットマンレンズなどのビームフォーミングネットワークの使用による多入力多出力(Multiple Input Multiple Output:MIMO)型レーダーの改良に向けられるものである。
【背景技術】
【0002】
交通事故により、世界で毎年平均して135万人が死亡し、5千万人超が負傷している。経済的においてだけでも、交通事故により、2030年までに24兆米国ドルの代償がかかる見込みである。交通事故の多くは、慎重さや見通しの欠如、運転手の不注意など、ヒューマンエラーによって引き起こされる。ヒューマンエラーを軽減することにより、自動車事故の90%超を回避することができる。この観点から、交通死亡事故からヒューマンエラーの要素を取り除くために、自動車用レーダー技術が普及してきた。レーダーシステムでは、レーダーから信号を放射し、反射した信号がレーダーに戻ってくるまでの時間を用いて、物体がどこにあるのかを判断する。
【0003】
レーダーシステムに関する開示(例えば、EP3497473A1、EP2527871B1、US9070972B2、US9869762B1、US7924215B2、EP1666914B1、US9041596B2、JP3256374B2、JP2002228749A、JP2004226158A、US6795012B2、JP2017215328A、EP1742081B1、DE10354872B4、US6275180B1、US8686894B2、CA2901610C、WO2016146666)、より具体的にはMIMOレーダーシステムに関する開示(例えば、T.Shanらによる「コヒーレント信号の到着方向推定のための空間平滑化(On spatial smoothing for direction-of-arrival estimation of coherent signals)」、L.Carin、D.Liuらによる「コヒーレンス、圧縮センシング、およびランダムセンサーアレイ(Coherence, compressive sensing, and random sensor array)」、C.Schmidらによる「77GHz MIMO FMCWレーダーのための線形不均一アンテナアレイの設計(Design of a linear non-uniform antenna array for a 77-GHz MIMO FMCW radar)」、US9664775B2、US2018/0267555、US2015/0253419A1、US9541639B2)は数多くある。米国特許公開第2020/096626号は、障害物検出のためのレーダーアンテナアレイについて、さらに記載している。しかし、高価なセンサーや処理ハードウェアを使用することなく、適切な時間枠内で物体の位置を正確に推定することにより、自動車用にヒューマンエラーの影響を軽減するシステムが必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、所与の数の送信機および/または受信機に対する角度分解能を向上させることに向けられている。これを用いることにより、所定の角度分解能を得るために必要な送信機および/または受信機の数を減らすことができる。さらに、本開示は、所定の角度分解能のために設計されたMIMOシステムの計算複雑性を低減することに向けられている。これにより、MIMOレーダーにおける物体検出の遅延時間が有利に短縮される。さらに、システムの複雑さを低減することで、他のレンズによるレーダーと比較して、製造の複雑さが低減される。
【0005】
本開示によって提供される他の利点は、本明細書に記載のシステムが、自動車システムへの組み込みを容易にする平板構造を有することであり、これにより、システムが使用できる用途が増え、組み込みコストが低減される。さらに、提案されたシステムは、最も必要とされる領域をより重視するよう任意選択で調整することができ、例えば、ボアサイト(真正面)において高い角度分解能を提供できる一方で、±45°を超える角度では低い角度分解能を提供することができる。さらに、先行技術のMIMOレーダーシステムは、その性質上、一般的に広い視野を有するのに対し、提案されたシステムは、レーダーシステムの要求に応じて、狭い視野を有するよう任意選択で調整することができる。レーダーの視野(Field of View:FOV)とは、特定の瞬間においてセンサーにより認識可能な角を成す円錐のことである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願は、路上走行車用レーダーに向けられたものであり、当該レーダーは、第1の数の入力ポートと第2の数のビーム形成ポートとを有するロットマンレンズを含むビームフォーミングネットワークであって、第1および第2の数は1より大きい、ビームフォーミングネットワークと、信号を受信するための第1の数のアンテナであって、第1の数のアンテナの各アンテナは、ビームフォーミングネットワークのそれぞれの入力ポートに接続されている、第1の数のアンテナと、少なくとも2つの受信機が同時に動作可能である第2の数の受信機であって、第2の数の受信機の各受信機は、第2の数のビーム形成ポートのそれぞれのビーム形成ポートに接続されている、第2の数の受信機と、信号を送信するための第3の数のアンテナであって、第3の数は1より大きい、第3の数のアンテナと、受信機によって受信された信号の振幅および位相に基づいてレーダーに対する物体の位置を判定するように構成された処理手段と、を備える。ビームフォーミングネットワークは、第3の数のアンテナの少なくとも2つから第1の数のアンテナの少なくとも2つによって受信された信号を、合成するように構成され、ビームフォーミングネットワークはさらに、所望の角度でビームを形成するように、合成される各信号に追加の位相項を適用するように構成される。
【0007】
ビーム形成レンズのビームポートを受信機に接続するために、複数の時間遅延平衡線を好ましく使用することができる。本明細書で使用しているように、受信機という用語は、アンテナから受信された信号を処理するのに適したあらゆるハードウェアを包含するために使用され、例えば、トランシーバーセットの一部として含まれ得る。
【0008】
同様に、複数の時間遅延平衡線は、好ましくは、送信機を第3の数のアンテナの各々に接続するために使用され得る。本明細書で使用しているように、送信機という用語は、アンテナに送信するための信号を生成するのに適したあらゆるハードウェアを包含するために使用され、例えば、トランシーバーセットの一部として含まれ得る。
【0009】
好ましくは、第1の数のアンテナは、各アンテナ間に所定の距離dをおいて一列に配置され、第3の数のアンテナは、各アンテナ間にN×dの距離をおいて一列に配置される。ここで、Nは第1の数である。
【0010】
本明細書で使用するビームフォーミングネットワークという用語は、ビーム形成に使用されるあらゆるアナログネットワーク(レンズなど)およびあらゆる従来の同等品、例えば誘電体レンズ、RKRレンズ、ルネベルグレンズなどを指す。しかしながら、ロットマンレンズは、本開示の目的のために特に有利なビームフォーミングネットワークであることが分かった。
【0011】
使用時、ロットマンレンズは、第3の数のアンテナとの使用を通じてロットマンレンズの仮想アレイを形成し、ロットマンレンズは、仮想アレイのロットマンレンズによって形成される個々のビームが重なるように構成される。
【0012】
好ましくは、仮想アレイのロットマンレンズによって形成される個々のビームは、各ビームのピーク値の半分で重なり合う。好ましくは、ロットマンレンズの仮想アレイによって形成される個々のビームのビーム幅は、ロットマンレンズのビーム幅よりも狭い。より好ましくは、ビーム幅に、アンテナの第3の数に反比例する係数を掛ける。
【0013】
任意選択として、ロットマンレンズは、ビームポートがレーダーのボアサイト周辺に集中するように、構成されてもよい。これは、角度精度が重要となるレーダーのボアサイト(すなわち、レーダーの直進方向)周辺のレーダーの角度分解能を向上させるので有利である。好ましくは、ロットマンレンズによって形成されたビームは、広い視野(例えば、120°、すなわちアレイボアサイト方向から±60°)をカバーするが、用途に応じて、他のより狭い視野が望ましい場合がある。
【0014】
好ましくは、全てのアンテナは、ミリ波信号で動作するように構成される。
【0015】
本願はまた、路上走行車用レーダーに向けられたものであり、当該レーダーは、第1の数の入力ポートと第2の数のビーム形成ポートとを有するビームフォーミングネットワークであって、第1および第2の数は1より大きい、ビームフォーミングネットワークと、信号を受信するための第1の数のアンテナであって、第1の数のアンテナの各アンテナは、ビーム形成レンズのそれぞれの入力ポートに接続されている、第1の数のアンテナと、少なくとも2つの受信機が同時に動作可能である第2の数の受信機であって、第2の数の受信機の各受信機は、第2の数のビーム形成ポートのそれぞれのビーム形成ポートに接続されている、第2の数の受信機と、信号を送信するための第3の数のアンテナであって、第3の数は1より大きい、第3の数のアンテナと、受信機によって受信された信号の振幅および位相に基づいてレーダーに対する物体の位置を判定するように構成された処理手段と、を備える。ビームフォーミングネットワークは、第3の数のアンテナの少なくとも2つから第1の数のアンテナの少なくとも2つによって受信された信号を、合成するように構成される。
【0016】
また、本願は、路上走行車用レーダーに対する物体の位置を判定する方法にも向けられている。この方法は、複数の送信アンテナから信号を送信することと、複数の受信アンテナで信号を受信することと、ロットマンレンズを含むビームフォーミングネットワークの入力ポートに、少なくとも2つの受信アンテナからの受信信号を提供することであって、ビームフォーミングネットワークは複数のビーム形成ポートを有し、ビームフォーミングネットワークは、その入力ポートで受信された信号を合成し、そのビーム形成ポートに合成信号を提供するように構成され、ビームフォーミングネットワークは、所望の角度でビームを形成するように、合成される各信号に追加の位相項を適用するようさらに構成される、当該受信信号を提供することと、ビームフォーミングネットワークのそれぞれのビーム形成ポートにそれぞれ接続された複数の受信機で、ビームフォーミングネットワークからの出力を取得することと、取得した出力を処理して、ビームフォーミングネットワークのビーム形成ポートから受信機に提供される合成信号の振幅および相対位相に基づいて、各受信機で物体の位置を判定することと、を含む。
【0017】
好ましくは、本方法は、受信アンテナおよび/または送信アンテナを、少なくとも4つのアンテナからなるリニアアレイに構成することを含み、アレイの少なくとも中央のアンテナ間の距離はdであり、最も外側のアンテナとそれぞれ隣接するアンテナの間の距離はdより大きい。
【0018】
上記で使用される「および/または」という語は、包括的な「または」を表す。すなわち、Aおよび/またはBは、AとBの一方またはAとBの両方を意味する。
【0019】
各アンテナ間が不等間隔に所定のリニアアレイを設けることにより、メインビームの特性に影響を与えないようにリニアアレイを構成することができ、用いるアンテナの数を減らすことができる。
【0020】
あるいは、本方法は、各受信アンテナ間に所定の距離dを有する第1の線上に配置されるように、受信アンテナを構成することと、各送信アンテナ間にN×dの距離を有する第2の線上に配置されるように、送信アンテナを構成することと、を含み、ここでNは受信アンテナの数である。
【0021】
好ましくは、本方法は、受信アンテナを第1の線上に、送信アンテナを第2の線上に構成し、第1の線は、第2の線に対して実質的に平行である。
【0022】
代替実施形態において、本方法は、受信アンテナを第1の線上に、送信アンテナを第2の線上に構成し、第1の線は第2の線に対して平行ではない。本実施形態において、第1の線は、第2の線の平行線に対して45°より大きい角度で配置されることが好ましい。より好ましくは、第1の線は、第2の線と直交する。
【0023】
好ましくは、ビームフォーミングネットワークは、ロットマンレンズである。ロットマンレンズは、複数の送信アンテナの使用により、ロットマンレンズの仮想アレイを形成する。ロットマンレンズは、好ましくは、仮想アレイのロットマンレンズにより形成される個々のビームが重なり合うように構成される。
【0024】
任意選択として、ロットマンレンズは、ビームポートがレーダーのボアサイト周辺に集中するように構成される。
【0025】
好ましくは、アンテナで送受信され、ロットマンレンズで処理されるレーダー信号は、ミリ波レーダー信号である。
【0026】
また、本願は、路上走行車用レーダーに対する物体の位置を判定する方法にも向けられている。この方法は、複数の送信アンテナから信号を送信することと、複数の受信アンテナで信号を受信することと、ビームフォーミングネットワークの入力ポートに、少なくとも2つの受信アンテナからの受信信号を提供することであって、ビームフォーミングネットワークは複数のビーム形成ポートを有し、ビームフォーミングネットワークは、その入力ポートで受信された信号を合成し、そのビーム形成ポートに合成信号を提供するように構成される、当該受信信号を提供することと、ビームフォーミングネットワークのそれぞれのビーム形成ポートにそれぞれ接続された複数の受信機で、ビームフォーミングネットワークからの出力を取得することと、取得した出力を処理して、ビームフォーミングネットワークのビーム形成ポートから受信機に提供される合成信号の振幅および相対位相に基づいて、各受信機で物体の位置を判定することと、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0027】
本発明は、添付の図面を参照しながら、例としてのみ与えられるその実施形態の以下の説明から、より明確に理解されるであろう。
図1図1は、従来の8受信素子アンテナ構成の先行技術を示す図である。
図2図2は、4素子アンテナビームパターンと8素子アンテナビームパターンの比較を示す図である。
図3図3は、図1に示した従来の8受信素子アンテナ構成に相当する先行技術のMIMO構成を示す図である。
図4図4は、送信機の数がM>2のFMCW MIMOシステムの送信側で使用されるTDMの例を示す図である。
図5図5は、3Dマッピングを行うレーダーシステム用のMIMOアレイの先行技術を示す図である。
図6図6は、1個の送信素子と4個の受信素子とを有するレーダーについて、0度まで走査した正規化受信アレイ放射パターンを示す図である。
図7図7は、2個の送信素子と4個の受信素子とを有するMIMOレーダーについて、0度まで走査した正規化仮想受信アレイ放射パターンを示す図である。
図8図8は、FMCWレーダーのチャープと、結果として生じる距離および速度を2次元FFTを用いて推定した結果と、を示す図である。
図9図9は、従来のMIMOレーダーで角度を計算するために、全ての受信機で距離および速度領域についてさらにFFTを行った図である。
図10図10は、本開示によるMIMSOの構成を示す図である。
図11図11は、典型的なロットマンレンズ構成の先行技術を示す図である。
図12図12は、10個の受信アンテナ素子を有するロットマンレンズ設計の1個の出力ポートについて、車の角度位置に対する目標物検出出力レベルの比較を示す図であり、1個の送信アンテナを使用する場合と、2個の送信アンテナを使用するMIMSOレーダーシステムとして構成される場合とで比較したものである。
図13図13は、本開示によるMIMSO角度処理構成を示す図である。
図14図14は、再構成可能なビームを有し、レーダーの中心に向かって角度精度が高く、視野の端に向かって精度が低くなっているロットマンレンズの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
自動車、バス、トラックなどの車両で使用される次世代車載レーダーでは、1度単位の分解能で物体の角度検出を行うことが求められる。好ましくは、車両に搭載された、または車両と一体化したシステムは、車両の周囲360度を完全にカバーすることも必要である。これは、1台の車両に複数のレーダーシステムを使用し、各レーダーシステムが異なる角度領域をカバーし、複数のレーダーシステムを合わせて車両の360度全方位をカバーすることによって達成されると考えられる。
【0029】
物体の角度位置を分解するために、「ビームフォーミング」として知られている技術を使用することができる。ビームフォーミングは、(送信機(一般的にTXと略す)または受信機(一般的にRXと略す)において、あるいは送信機と受信機の両方において)アレイ状に配置された複数のアンテナを用いる。アンテナのアレイを用いてアンテナから送信される信号の波のコヒーレンスを操作することで、各アンテナが送信または受信するエネルギーを狭いビームに集中させることにより、ビームのピーク方向の出力が増加し、他の全ての方向の出力が減少する。アレイの各アンテナで信号の振幅および位相を調整することにより、ビームステアリング角やビーム幅などのビームの特性を操作することができる。アレイ内のアンテナ数を増やすことにより、結果として得られるビームの幅を狭めることができる。送信アレイの場合、アレイ内のアンテナ数を増やすと、送信信号の集束が増し、アレイの利得が高くなる。
【0030】
ビームフォーミングレーダーは、論理上、アナログとデジタルの2種類に大別される。
【0031】
第1のタイプのアナログレーダーでは、レーダーの角度性能は、1つ以上の物理的なアンテナビームフォーミング構造によって決定される。アナログレーダーには、これらのアンテナビームフォーミング構造の中でビーム操作が完結するレーダーも含まれる。このように実装されたアンテナシステムは、基地局、軍事および宇宙レーダーシステムなど、数多くの用途で使用されてきた。アンテナビームパターンのメインローブの方向を電子的に動かす従来の電子ビームステアリングアンテナシステムでは、アンテナ素子間の相対位相を動的に調整するために高周波(Radio Frequency:RF)移相器が一般的に使用される。このため、RF移相器は、ビームステアリングアンテナシステムにおいて、フェーズドアレイアンテナの狭いビームパターンをステアリングするための重要な構成部品である。
【0032】
別のアナログ的なアプローチとして、レンズ供給構造をビーム形成部品として使用することができる。特に、レンズ供給構造(例えば、ロットマンレンズ)は、受信信号をビーム形成部品に供給するように構成された複数の供給ポートを有する。使用時には、1)各供給ポートは、スイッチドポートに動作可能に連結されており、1つのトランシーバー、送信機または受信機を所望のビーム方向のために適切な供給ポートに連結するために、レンズ供給構造の供給ポート間の切り代えが使用される。2)各供給ポートは、複数のトランシーバー、送信機または受信機に動作可能に連結されており、所望のビーム方向のための供給ポートに接続されたハードウェアが起動し、他の供給ポートに接続されたハードウェアは停止させられる。3)各供給ポートは、複数のトランシーバー、送信機または受信機に動作可能に連結されており、送信放射パターンの再構成、または複数の受信ビーム方向の同時観測を可能にするために、供給ポートの2つ以上に接続されたハードウェアが起動する。または、4)各供給ポートは、スイッチドポートと複数のトランシーバー、送信機もしくは受信機との組み合わせに動作可能に連結されている。
送信ビームおよび受信ビームを走査することにより、目標物の角度位置を判定することができる。
【0033】
アナログレーダーは一般的に大型である(すなわち、RF部品を多く含むため、部品故障のリスクが高い)が、最小限の計算処理で物体の角度位置を判定することができる。
【0034】
デジタルレーダーは、複雑な計算アルゴリズムを用いて、レーダーの送信信号および/または受信信号をデジタル方式で「ビームフォーミング」する。これらのレーダーは一般に小型でRF部品が少ないが、より複雑な演算処理が必要であり、システムのCPU処理能力によっては遅延時間が増すことがある。
【0035】
したがって、レーダーシステムにおけるTXアンテナ(「送信素子」または「送信アンテナ素子」とも呼ばれる)とRXアンテナ(「受信素子」または「受信アンテナ素子」とも呼ばれる)の配置は、多くの異なる形態を取ることができる。アナログレーダー方式とデジタルレーダー方式のどちらにも利点と欠点があり、互いに両立できないことはない。それでも、レーダーアーキテクチャーは一般的にどちらかのアプローチに従っている。
【0036】
アナログとデジタルのビームフォーミング受信機はどちらも、複数のアンテナに信号が入射すると、各素子に信号が到達するまでに入射角に応じた時間遅れが生じることを利用している。
【0037】
例えば、図1は、8個のRXアンテナのアレイに角度θで入射した波面を示しており、アンテナはdの間隔で離れている。各RXアンテナ間の距離がdであるn個のアンテナのアレイの場合、波面は、波面が到達した最初の素子に比べて、アレイ内のn番目のRXアンテナに到達するまで(n-1)d×sin(θ)の距離を余分に移動する。この余分な移動距離により、n番目のRXアンテナにおいて、その分だけ(n-1)φの位相遅れが生じる。
【数1】

なお、信号が入射角0度で到達する場合は、各エレメントに同時に到達し、φ=θ=0となる。
【0038】
信号が発信される角度は、アレイからの振幅および位相の出力に対して離散フーリエ変換(Discrete Fourier Transform:DFT)として知られる数学演算を行うことで計算することができ、これは当技術分野で知られている任意の高速フーリエ変換(Fast Fourier Transform:FFT)アルゴリズムを用いて計算することができる。先行技術システムの解像度は、通常、受信アレイのRXアンテナの数を増やすことにより向上する。
【0039】
アレイの各素子で受信した信号を合成すると、得られる信号の振幅は、信号の到達角度と、各素子で受信した信号の(振幅および位相を有する)複素重み付けと、に依存する。数学的には、このアレイによる集束効果は、アレイ内の1つの素子の放射パターンにアレイファクターを乗算することで表現できる。
【0040】
アレイファクターとは、等方性放射体(すなわち、指向性がなく、全ての方向に等しいエネルギーを放射する理論上のアンテナ)のアレイの遠視野放射パターンを複素数値化したものである。リニアアレイ用の1次元アレイファクターは、各離散角θで以下のように計算される。
【数2】
ここで、wはアレイのn番目の素子での複素重み付け、dは素子間隔である。アレイファクターは、走査角度θに1つのピークを持つビームの形状では、n番目の素子における(n-1)φのアレイ全体で重み付けwに漸進的な位相遅れを使用することにより形成される。
【数3】
【0041】
図2は、4素子アレイ210のアレイファクター215および8素子アレイ220のアレイファクター225を示す図である。図2の各アレイファクターは、各素子にさらなる位相を加えずに計算されているため、θ=0°で最大となる。φを変化させることにより、レーダーのFOVにわたってアレイファクターのピークを走査することができる。アレイの重み付けに使われるφの値が、受信信号の入射角によるアレイ素子間の位相遅れであるφの値と等しい場合、信号はコヒーレントに結合してピークを形成する。アレイファクターの式は、以下のDFTに似ている。
【数4】
【0042】
フーリエ変換は、周波数変調連続波(Frequency Modulated Continuous Wave:FMCW)レーダーシステムでも目標物の距離や速度の推定に使われており、FFTを使って計算することができる。アレイファクターを、以下の式を用いてデシベルに換算することができる。
【数5】
【0043】
物理アレイのアンテナ位置を用いてアレイファクターを計算し、そのアレイ内の1つの物理アンテナ(すなわち、それ自体の複合放射パターンを有する実アンテナ)の放射パターンに乗算すると、結果として得られる放射パターンは、(パターンを変更し得る物理アレイ内の素子間の相互結合などの影響を含まない)物理アレイの放射パターンを良好に近似したものとなる。したがって、デシベル形式では、アレイの利得は次式で与えられる。
【数6】
ここで、Gは1つの素子の利得である。
【0044】
RXアンテナと受信機の残りの信号処理素子との間のアナログ回路によって演算(例えば、ハイブリッド結合器などの回路素子によるRF信号の「加算」または「減算」、例えばロットマンレンズやルネベルグレンズなどのレンズによる時間遅延の付加、または移相器回路素子による位相変換)が行われるように、ビームフォーミングが特定の方法で配置された回路からなる場合、このような配置はアナログタイプのレーダーの前述の定義に該当する。アナログビームステアリングの場合、アナログ回路は、DFTに似た演算を行う。従来のフェーズドアレイの場合、走査角度θを変化させるために、移相器を用いてアレイ内の各素子で複素重み付けwの位相φを変化させる。
【0045】
デジタルビームステアリングでは、1個以上の送信アンテナを複数の受信アンテナと組み合わせて使用し、このような組み合わせ回路がない場合、各アンテナの信号は、受信機のデジタル信号処理素子に入力される前に、アナログ領域からデジタル信号に変換される。このタイプのシステムでは、アナログのシステムについて先に説明したのと同様に、加算や減算などのさらなる数学的処理を行うために、または、素子間に位相遅延を導入することにより、デジタル回路を使用する受信機でビームフォーミングを行うことができる。後でより詳しく説明するMIMOレーダーの場合、実行できる複数のステップの1つとして、目標物の角度位置を分解するために、アレイにわたって各受信機からの複素受信信号に対して行う「角度FFT」がある。角度FFTはDFTを計算する手段であり、アレイファクターの式はこれに似ている。角度FFTは、MIMOレーダーの関心領域にわたって行われ、目標物が存在する角度でピークを出力する。角度FFTのピークは、ビーム、すなわちメインローブの形状をしている。より多くの受信素子を使用することにより、ビームの幅を狭くすることができ、間隔の近い物体間の分解能を高める。
【0046】
従来のデジタルビームフォーミングアーキテクチャーでは、物理アンテナごとに専用の受信機が組み込まれている(すなわち、M×(M個の)RXアンテナに対してM個の受信機)。低い角度精度が求められる場合は、広いビームで十分であり、これは少ないアンテナ素子を用いて得られる。そのため、使用する受信機を最小限にできる。しかし、高い角度精度が求められる場合は、より狭いビームが必要となる。したがって、図2に示すアンテナビームパターン215と225の違いに示されるように、追加のアンテナが必要となる。その結果、レーダー全体のコストとサイズが増加することになる。そのため、車載レーダーなど高い角度精度が求められる適用例は、これまで高価なものとなっていた。低コストが求められる場合、従来のデジタルビームフォーミングMIMOを用いるレーダーは、最小限の素子しか使用できないため、広いビームの用途に限定されていた。
【0047】
デジタルビームフォーミングを使用しないシステムの場合、同様な一般的関係が当てはまり、すなわち、より高い角度精度にはより多くのアンテナ素子が必要となる。しかし、アナログのビームフォーミングネットワークでは、RXアンテナアレイから受信した信号を処理するために必要な受信機を少なくするために、ビーム切り替えを使用することが多い。そのため、アナログのビームフォーミングネットワークは、デジタルのものに比べ非常に大きくなり、それに比例してコストも上昇する。純粋なアナログビームフォーミングネットワークと純粋なデジタルビームフォーミングネットワークの間の一般的な妥協点は、デジタル制御されたスイッチネットワークをアナログビームフォーマーと共に使用することであり、異なるアンテナ素子への接続が1つの受信機に順に接続または切り替えられる。このようなシステムでは、受信機のコストを削減できる一方で、アンテナ素子間の位相バランスを確保する必要があるため、ビームフォーミングネットワークとそれに伴うレーダーコストが非常に大きくなり得る。
【0048】
ビームフォーミングとビームステアリングは、通常、どちらもスケーリング(スケーリングは、当技術分野ではテーパリングまたは重み付けとも呼ばれる)を使用してビームパターンを形成し、異なるアンテナ素子(w)との間の信号強度を増幅または減衰させて結合ビームの全体形状を操作する。送信機側でビームステアリングを行う場合、一般にビームパターンは、物理的に一度に1つの放射パターンしか存在できないように操作される。しかし、受信機側では、デジタルビームフォーミングは、異なる素子スケーリングアルゴリズムを使用して、複数のビームパターンを同時に並行して形成し、複数の出力を得ることができる。
【0049】
デジタルレーダーの既知の一実施形態では、複数の送信機と複数の受信機とが協調動作して「デジタル」タイプのMIMOレーダーを形成する。MIMOレーダーには、主に2つのタイプがある。第1のタイプは統計的MIMOと呼ばれ、アンテナ(TXアンテナとRXアンテナの両方を含む)を互いに離れた場所に配置し、物体すなわち「シーン」の異なる視野を提供するものである。第2のMIMOは、ビームフォーミング(または、近接配置)MIMOと呼ばれ、アンテナが互いに近接して配置され協調して動作することで、「仮想の」ビームフォーミングアレイを形成するものである。本開示は、この第2のタイプのMIMOレーダーの改良に向けられたものである。
【0050】
Eバンド車載レーダーシステムの場合、動作周波数は、好ましくは、76~81GHzの第1の帯域幅の周波数帯内にある。(ただし、レーダーの特性(例えば、長距離、中距離、短距離など)に応じた特定の用途では、周波数帯の全幅を使用する必要はない)。この第1の帯域幅の広さは、当技術に精通している人なら分かるように、大きな課題である。例えば、第1の帯域幅内の異なる周波数における個々の構成部品の性能ばらつきの結果として周波数不変のビームフォーミングが劣化することのないよう徹底するには難しい点がある。
【0051】
多くの従来のシステムは、2次元のフィルターバンクを用いる時間領域、または周波数領域(FFT後)のいずれかで動作して各帯域を個別にフィルタリングするフィルターバンクを用いることにより、広帯域ビームフォーミングを実現している。実質的に、個別に狭帯域フィルタリングされる所定の多くのサブバンドに、広帯域信号が分割される。
【0052】
本開示のシステムは、ロットマンレンズを用いてMIMOシステム内で前述のデジタル角度FFT計算を置き換えることにより、この課題を克服し、同時に全ての使用可能周波数にわたり最小限の劣化で動作する。この点で、純粋な「デジタル」と純粋な「アナログ」タイプのシステムの間に妥協点が見いだされる。
【0053】
従来のMIMOシステムでは、システム内のM個の送信機(多出力)のそれぞれからN個のアンテナ(多入力)で受信した信号の振幅および位相を使用して、物理受信アレイよりも大きい「仮想」受信アレイを形成することができる(すなわち、仮想受信アレイは、物理アンテナアレイ内のN個のアンテナよりも多くの「仮想」RXアンテナを有する)。これにより、物体の角度分解能を向上させることができる。
【0054】
MIMOの多重化方式には、個々のTX送信機から送信された複数の信号をRX側で分離することができるように、これらの信号同士を直交させることを目的とした様々な方式が存在する。そうした方式として、限定はされないが、時分割多重化(Time Division Multiplex:TDM)、周波数分割多重化(Frequency Division Multiplex:FDM)、二値位相多重化(Binary Phase Multiplex:BPM)などがある。
【0055】
TDM方式のMIMOについての図3を参照すると、送信機は信号を1つずつ順次送信する(例えば、TX1が信号を送信し、所定の遅延時間後にTX2が信号を送信する)。その結果、受信素子は、送信機のそれぞれから発信された信号を時間的に順次受信することになる。このことは、M>2である総数がM個の送信機を有するFMCWレーダーについて、図4に示されている。したがって、各送信機から発信された信号を、その信号がどの送信機から発信されたかに応じて分離することができる(例えば、TX1から受信した信号をTX2から分離することができる)。
【0056】
MIMOにより受信された信号を、どの送信機から発信されたものかに応じて分離するために、他の方法を用いることができる。例えば、BPM方式のMIMOでは、送信信号の位相に+1(すなわち、0°位相シフト)と-1(すなわち、180°位相シフト)の重み付けの列からなる固有の直交コードを与え、各受信機でこれらのコードを適用して信号を多重分離することにより、それぞれのコードがどの送信機に対応するかに応じて当該信号が別々の信号に分解される。FDM方式のMIMOでは、送信機は、時間スロットではなく、異なる周波数スロットで動作し、送信信号は、受信側で周波数シフトおよびフィルター操作を用いて分離される。
【0057】
TXアンテナからの信号を受信機で分離できるため、TXアンテナとRXアンテナの距離を適切に設定することにより、各RXアンテナで受信した信号を発信元の送信機に対応させて並べ替えることができる。その結果、それぞれ受信された放射波の位相差には、実際に存在するよりも相当数の受信素子が現れるようになり、「仮想」アンテナが作成される。例えば、図3に示すように、4個のRXアンテナをそれぞれdの距離だけ離し、TXアンテナを4dの距離だけ離すことにより、2×4個のRXアンテナからなる仮想アレイが形成される。より一般的には、M×(M個の)TXアンテナおよびN×(N個の)RXアンテナのMIMOシステムにおいて、M+N個の物理アンテナのみを使用して、M×N個のRXアンテナの仮想アレイを得ることが可能である。このため、仮想アレイの角度分解能は、MIMOの実装で使用されない場合の物理アレイの角度分解能よりもはるかに精細である。したがって、MIMO技術は、所定数の送信機および受信機でレーダーの角度分解能を向上させたり、所定の角度分解能に必要な送信機および受信機の数を減らしたりするのに有効である。
【0058】
なお、図3および図4をさらに参照すると、MIMOシステムをTDM方式で使用する場合、TDMを得るために必要な送信間の時間遅延のため、MIMOシステム内の各仮想素子を同時に測定することはできない。図3に示す例では、8個のアンテナの仮想アレイのための信号を取得するために、各「実」RXアンテナでRXアンテナの測定を2回(すなわち、各TXアンテナで1回)繰り返す必要がある。一方、(8個の物理アンテナを有する)図1のシステムは、各RXアンテナから同時に測定値を得ることができる。方向および距離の精度の点では、どちらのシステムでも同じ結果になるが、この計算は図1のシステムの方が速くなる。
【0059】
図3に示すシステムのMIMO構成では、レーダーは、一方の軸(多数の素子のリニアアレイを使用)においてのみ良い角度分解能で判定できるが、他方の軸(1つの素子)では全く判定できない。
【0060】
比較として、図5は、2D角度をカバーするための代替配置を示す図である。ここで、送信素子は、1つの向きで第1のリニアアレイ501に配置され、受信素子は、第2の向きで第2のリニアアレイ502に配置され、第2の向きは、第1のリニアアレイに対してある角度をもっている。結果として得られる仮想アレイ503は、第1および第2の向きの両方に対して物体の角度位置を特定することができ、その結果、物体の絶対位置を算出することができる。好ましくは、第1および第2のリニアアレイは、互いに直交する向きにある。
【0061】
EP3497473A1には、3Dプリントされたルネベルグレンズを用いることにより、角度分解能をさらに向上させることができると開示されている。レンズを使用する利点は、レンズの形状やアンテナ素子に対するその幾何学的配置を変えることにより、様々なFOVや様々な利得特性を持つマルチビームレーダーを設計することができることである。しかし、ルネブルグレンズは3次元構造であり、様々な屈折率の材料が必要なため、一般的に設計および製造が難しい。ルネベルグレンズは、その焦点面が球面であるため、平面のプリント回路基板への組み込みが難しいことから、レーダーのマザーボードに接続するための複雑な設計が必要となる。
【0062】
MIMOレーダーでは、MIMOレーダーがほんの少数の送信アンテナおよび受信アンテナを用いて大口径の仮想アレイを合成できるため、レーダー筐体の大きさはあまり限定されない。
【0063】
図6は、1個のTXアンテナ605aおよび4個のRXアンテナ610を用いて得られ、そのFOVにわたって測定された、0°を中心とする正規化された放射パターン620を示す図である。結果として得られるアンテナのビームパターンは、図2に示す4素子アレイと同じである。
【0064】
しかし、図7に示すように、第2のTXアンテナ705bおよび同じ4個のRXアンテナ710を導入することにより、既存の物理RXアンテナ710に4個の仮想RXアンテナ715のアレイが追加される。この結果、8個のRXアンテナの仮想アレイができ、図2に示された8素子ビームパターン720となる。このため、アンテナアレイの角度分解能は、4個の仮想アンテナ715の追加により2倍になるが、たった1つ追加のTXアンテナ605bのコストで済む。図2のアンテナビームパターンをさらに検討すると、ビーム幅が半分になることで、角度精度が2倍になるので、角度分解能への効果が明らかになる。
【0065】
図8は、本開示に係るシステムを示す図である。好ましくは、システムは、FMCW変調を用いるように構成される。FMCW波形はチャープとも呼ばれ、周波数が時間と共に直線的に増加する複素正弦波である。FMCWレーダーは、パルス繰り返し間隔(Pulse Repetition Interval:PRI)と呼ばれる周期でチャープを送信し、ほとんどの場合、周波数はノコギリ波状に描かれるが、他のチャープのタイプもある。結果として得られる現場からの目標物のエコーには、送信されたチャープが遅延して減衰したコピーが含まれることになる。車載レーダーの送信信号および受信信号は、一般的にミリ波の信号であり、好ましくは76~81GHzの範囲にある。受信信号を送信チャープと組み合わせると、ビート信号になる。ビート信号は、送信周波数および受信周波数よりはるかに低い周波数を持つ複素正弦波である。一般的に、ビート信号は車載レーダー用のMHzの周波数帯にある。ビート信号の周波数は、検出物体までの距離に比例する。複数のチャープを1つの「フレーム」内に収集することにより、「遅い時間」次元でのドップラー周波数変化を決定することができる。
【0066】
ビート周波数の推定は、通常、ビート信号をデジタルでサンプリングした後、デジタル領域で実行される。ビート周波数はレーダー帯域幅よりはるかに低いので、低速のアナログデジタル変換器(Analogue-to-Digital Converter:ADC)を使用することができる。特に、ビート信号がサンプリングされる。そして、各チャープのサンプルは、好ましくは行列の別々の列に配置される。そして、行列の行の見出しは、1つのチャープにわたってかかる「速い」時間に対応し、列の見出しは、複数のチャープにまたがってかかる「遅い」時間に対応する。
【0067】
図8に示す行列の各列にFFTを用いることにより、ビート周波数を検出することで、物体の距離を判定することができる。その後、この行列の行に沿ってさらにFFTを適用することにより、ドップラー周波数を検出することで、物体の速度を判定することができる。この2つのFFTの使用は、一般的に2次元FFTと呼ばれ、これにより距離と速度の両面で物体の追跡が可能になる。2次元FFTを実行すると、物体のビート周波数とドップラー周波数の整合フィルタリングにより、雑音レベルが下がるという利点がある。同じ距離-速度の値域に入る物体の数は、レーダーの距離と速度の分解能にもよるが、通常、少ない。
【0068】
距離-速度のプロットから多くの有用な情報が得られるが、物体の角度位置に関する詳細が不足している。物体の角度位置は、1)物体と物理RXアンテナの中心を結ぶ線と、2)物理RXアンテナの中心から走る、物理RXアンテナの線に直角な線と、の間の角度である。この角度が0であれば、物体は受信機の真正面にある。しかし、図9に示すように、RXアンテナ(実RXアンテナと仮想RXアンテナの両方を含む)のそれぞれで瞬間の距離-速度のプロットを取り、第3の「角度」のFFTすなわち3次元FFTを実行することにより、物体の角度位置を得ることができる。
【0069】
車載安全レーダーにおいて現在の要件となっている1°より小さい角度精度では、100個を超える(仮想および実)アンテナの一様なアレイが必要である。このような大型のアレイからの受信信号の処理コストは非常に高く、高い浮動小数点演算性能(FLoating-point-Operations-Per-Second:FLOPS)を持つCPUが必要である。より安価で低速なCPUを使うことも選択できるが、その場合、検出時間が長くなり、その分安全性が低い。
【0070】
なお、上記の信号処理ステップは、通常、定誤警報率(Constant False Alarm Rate:CFAR)閾値設定ステップの後に行われる。CFARステップは、この閾値を超える信号対雑音比を持つ値域のみが保持されるように、所定の閾値(閾値は周囲雑音を上回る大きさに選択される)未満の受信信号をフィルターで除去する。
【0071】
本開示により、図9に示す第3の角度のFFTを使用する必要性がなくなる。その代わりに、図10に示すように、物理RXアンテナとそれぞれの受信機の間にビームフォーミングネットワークが追加される。好ましくは、ビームフォーミングネットワークは、レンズを含み、より好ましくはロットマンレンズを含む。ビームフォーミングネットワーク1030は、物理RXアンテナ1010とそれぞれの受信機(図示せず)の間に追加される。図10には、4個のRXアンテナ1010が示されているが、当業者は、より多いまたはより少ない数のアンテナが使用され得ることを認識するであろう。図7を参照して先に説明したように、さらなるTXアンテナ1005を追加すると、仮想素子1015からなる受信機アレイが得られる。
【0072】
好ましくは、ビームフォーミングネットワークは、ロットマンレンズを含む。図11は、従来のロットマンレンズの先行技術の幾何学的配置を示す図である。当該幾何学的配置は、複数の入力ポートすなわちビームポートと、レンズキャビティ(空洞共振器)領域と、複数の出力ポートすなわちアレイポートと、を含む。説明のために、図11に示すレンズは、5個のビームポートおよび4個のアレイポートを有しているが、任意の数のポートを使用することができることを理解されたい。ビームポートは、レンズの平行平板領域の一端において焦点弧に沿って位置し、アレイポートは反対側の端に位置する。アレイポートは、位相補正線を介してアンテナ素子のアレイに接続される。各受信アレイ素子が波面により励起されると、信号は、ビームポートでサンプリングされる前に、位相補正線を通って平行平板領域に伝搬する。ロットマンレンズ内の経路長は、信号が物体から到達する相対角度に対応する1個または2個のビームポートで信号がコヒーレントに結合するように設計されている。N個のビームポートを持ち、±α°において最大焦点角度F1およびF2を有するように設計された従来のロットマンレンズでは、N個のビームがn番目のビームポートに対して固定角度θで形成される。
【数7】
【0073】
このように、ロットマンレンズは、有限数の固定ビーム角度に対して、デジタルFFTをアナログDFTに置き換えるために使用できる回路素子として動作する。
【0074】
MIMO技術をロットマンレンズに適用するために、それぞれ別々の送信機からの信号はコヒーレントに合成される。好ましくは、これは2次元FFTステップおよびCFARステップに続いて実行され、また、チャープが別々の送信機から所定のレンズビームポートで受信される時間間の目標物の動きによる位相誤差を補正するために、追加の位相補償が必要となる場合がある。しかし、説明を簡単にするためにこれらのステップを無視すると、M個の送信機からのチャープの1シーケンスからn番目のビームポートで受信した信号は、数学的に合成され、それぞれに追加の位相項が適用されて正しい角度のビームが形成される。
【数8】
位相項φは、次式で与えられる。
【数9】
ここで、Nは受信アレイの素子の総数、θはn番目のビームポートの走査角である。
【0075】
この技術を適用することにより、例えば-6度の角度位置にある車からのレーダー反射波を正規化受信出力としてプロットしたものが図12である。ここでは、ビームがこの角度において、10個の受信アンテナ素子を持つロットマンレンズ設計の1つの出力から、形成されている。図12からよく分かるように、-6度において受信出力のピークがある。
【0076】
このため、このシステムはMIMO検出を使用しているが、出力が指向性制御されているため、多入力多制御出力(Multiple Input Multiple Steered Output:MIMSO)システムとして分類することができる。また、ロットマンレンズは位相遅延ではなく時間遅延で設計されているため、このような構成により、広帯域動作を確実にする簡単な方法が可能となる。
【0077】
次に、図10を参照して、MIMSOシステムの動作について説明する。MIMOシステムで前述したように、複数の送信機および複数の受信機を使用し、各物理受信機はロットマンレンズ出力(ビーム)ポートの1つに位置し、その結果、仮想ロットマンレンズも仮想アレイに接続されることにより、仮想アレイがMIMSOシステムにおいて実装される。
【0078】
好ましくは、通常のビームステアリング用途で使用される設計の代わりに、修正ロットマンレンズ設計が使用される。均一なリニアアレイを持つ従来のロットマンレンズでは、ロットマンレンズのビームポートは通常、半電波強度ビーム幅(Half Power Beam Width:HPBW)に応じて角度を検出するように設計されており、言い換えれば、ビームは(ビームピークに対する)その-3dB点で重なるように設計されている。しかし、本開示に係るロットマンレンズの場合、レンズのビームのHPBWは、MIMSOシステムの所望のHPBWに対して約Mの係数だけ増加するように設計される。ここで、MはMIMSOシステムにおける送信機の数である。その結果、ビームのHPBWは、約1/Mの係数で有利に狭められる。当業者であれば分かることだが、2個のTXアンテナの例は限定的なものではなく、ロットマンレンズビームポートは、M×(M個の)TXアンテナからの角度を適切に検出するように設計され得る。
【0079】
上述のように、あるタイプの電気回路は、受信した信号に対して数学関数を実行するかのように動作することができる。これの最も単純な例がローパスフィルターであり、より高い周波数の信号を除去しながら直流および低周波の信号を通過させるため、数学的な積分器とみなすことができる。MIMSOシステムでは、ロットマンレンズが同様に動作し、この場合、角度FFTの機能を実行する。
【0080】
図13は、2個の送信機を使用するシステムにおいて、MIMSO処理が完了する様子を示す図である。図8に示したMIMOシステムと同様に、2次元FFTを用いて距離および速度が同様に計算される。しかし、本開示に係るMIMSOシステムでは、ロットマンレンズなどのビームフォーミングネットワークのビームポートを用いることで、物体の角度位置を判定する。各ビームポートで受信された検出信号は異なる検出角度に対応するので、検出角度を判定するためにさらに3次元FFTを行う必要はない。上述のように、ロットマンレンズは、任意選択で、ビームのHPBWを約1/Mの係数で狭めることにより修正される。ここで、Mは送信素子の数である。
【0081】
さらに、ロットマンレンズを、任意選択で、非均一な角度でビームを生成するように修正することもできる。図14は、(角度精度が最も重要である)レーダーFOVの中心に向けられたビームの密度が(角度精度がそれほど重要でない)レーダーFOVの端に向けられたビームの密度よりも大きい一実施形態を示している。
【0082】
仮想アレイのサイズは、送信素子の数に受信素子の数を掛けたものである。また、レーダーFOVの中心に向かってビームを集中させることにより、狭い内側のビームには全ての送信機からの信号を使用し、外側のビームには全送信機のうちの1個以上からの信号を破棄することもでき、結果として仮想アレイが小さくなり、広いビームパターンが得られる。
【0083】
ロットマンレンズなどのビームフォーミングネットワークは、MIMOレーダーシステムと比較すると、サイズがわずかに増加するが、3回目のFFT計算が不要になる。その代わり、3回目のFFTは、ビームフォーミングネットワークのビームポートで瞬時に実行される。物体の角度位置を判定するための処理要件とそれにかかる時間を省けるため、本明細書に開示されたMIMSOシステムは、車載用などの既存のレーダーに対してかなりの進歩をもたらす。MIMSOシステムによって得られるより高速な検出の結果、反応時間がより速くなる。そのことがひいては交通事故に対するより安全な結果につながる。
【0084】
ロットマンレンズは、ビームフォーミングネットワークとして使用するのに特に適している。ロットマンレンズは、平面であるため、レーダーの他の部品と一緒に1枚のPCBに実装することができる。このため、より大きなレンズによるレーダー、特にルネベルグレンズの組み込みに対して、費用対効果の高いさらなる利点がもたらされる。
【0085】
また、本開示に係るMIMSOシステムにおいて、位相比較モノパルス技術を適用することも可能である。位相比較モノパルス出力は、実RXアンテナおよびそれと同等の仮想RXビームポートからの結果に基づいて計算される。物体の主方向は、検出された物体が見つかったビームポートにより表され、ロットマンレンズのビームポートの角度に対応しており、強化される方向は、ビームポートの方向と結果として得られる位相比較モノパルス計算との和によって表される。この合成MIMSOモノパルス処理により、角度位置の判定を向上させることができる可能性がある。
【0086】
また、位相比較モノパルス出力を、ロットマンレンズの連続するビームポートの各対の間の結果(すなわち、図11に示されるように、1つのビームポートと次の連続するビームポート)に基づいて計算することもできる。物体の主方向は、検出された物体が見つかったビームポート間の中間点により表され、強化される方向は、この中間ビームポート方向と結果として得られる位相比較モノパルス計算との和によって表される。なお、これら2つの方法を組み合わせて使用することも可能である。
【0087】
従来、ロットマンレンズのビーム角は設計時に固定されており、従来のフェーズドアレイやMIMOシステムのように視野内を連続的に走査することはできない。しかし、ロットマンレンズを用いた本開示に係るMIMSOシステムでは、別々の送信機からの受信信号を合成する際に適用されるφ(追加の位相項)を調整することにより、合成されたMIMSOビームのビーム角を少量だけ変化させることができる。さらに、隣接するポートによって形成されるビームを(適切な位相で)合成することにより、モノパルスシステムの和ビームと同様に、結果として得られる信号は、それら2つの個々のポートの平均角度に位置するビームに対応する。これら2つの技術とレンズの設計を組み合わせることで、レンズをそのFOVにわたって連続的にデジタル方式で走査することが可能になり得る。
【0088】
さらに、MIMSOシステムで3つ以上の送信機を使用することにより、合成されたMIMSO信号に振幅テーパーを適用することができる。これにより、有利なことにビームパターンのサイドローブレベルのデジタル低減が可能となり、クラッターが低減され、目標物の誤検出の可能性が低くなる。また、あるビームからのサイドローブレベルを、換算係数を適用した1つ以上の他のビームで受信した信号の減算によって低減することもできる。さらなる代替案として、これら2つのサイドローブ低減技術を併用することもできる。
【0089】
本明細書に開示されたMIMSOシステムは、個別素子から構成することができるが、好ましくはプリント回路基板上に作製される。より好ましくは、システムは、車載レーダー用に指定されたEバンド周波数(すなわち、76~81GHzの範囲の周波数を有する電磁放射線)においてミリメートル波長を有する電磁放射線を用いて、精度および速度を向上させて物体の位置および軌道を判定するように構成される。
【0090】
また、上記のMIMSOシステムは、ライダーとステレオカメラのうちの1つ以上と組み合わせて使用することもできる。さらに、機械学習を利用することで、システムの性能を高めることができる。
【0091】
上記の例は、説明のために提供されたものであり、本開示の範囲を限定することを意図するものではない。代わりに、本開示の範囲は、添付の特許請求の範囲に規定される。
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【国際調査報告】