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特表2024-500446内分泌撹乱評価のための細胞内分泌モデルにおけるバイオマーカー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-09
(54)【発明の名称】内分泌撹乱評価のための細胞内分泌モデルにおけるバイオマーカー
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/02 20060101AFI20231226BHJP
   C12Q 1/26 20060101ALI20231226BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20231226BHJP
   G01N 33/74 20060101ALI20231226BHJP
   C12N 5/073 20100101ALN20231226BHJP
【FI】
C12Q1/02
C12Q1/26
G01N33/50 Z
G01N33/74
C12N5/073
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023537634
(86)(22)【出願日】2021-12-17
(85)【翻訳文提出日】2023-08-03
(86)【国際出願番号】 EP2021086657
(87)【国際公開番号】W WO2022129615
(87)【国際公開日】2022-06-23
(31)【優先権主張番号】20306607.1
(32)【優先日】2020-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
2.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】595040744
【氏名又は名称】サントル・ナショナル・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・シャンティフィク
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE
(71)【出願人】
【識別番号】520053762
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・パリ・シテ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PARIS CITE
(71)【出願人】
【識別番号】523229089
【氏名又は名称】ワイエスラブ
【氏名又は名称原語表記】YSLAB
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】ラット、パトリス
(72)【発明者】
【氏名】オリヴィエ、エロディ
(72)【発明者】
【氏名】デュト、メロディ
(72)【発明者】
【氏名】ワクー、アナイス
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
2G045AA40
2G045BB20
2G045CB01
2G045DA54
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ08
4B063QQ22
4B063QR58
4B063QR66
4B063QX02
4B065AA90X
4B065AC14
4B065CA46
(57)【要約】
本発明は、胎盤細胞と、最小必須栄養素及び少量の血清からなる培養培地と、を含む、細胞培養物に関する。本発明はまた、内分泌撹乱物質を特定するために細胞培養物を使用する方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化合物が内分泌撹乱物質であるかどうかをインビトロで決定するための方法であって、前記方法が、
a)内分泌撹乱物質である可能性がある化合物を、細胞培養物と接触させることであって、前記細胞培養物が、培養培地中で培養されたヒト胎盤内分泌細胞を含み、前記培養培地が、最小必須栄養素及び血清を含み、前記血清が、前記細胞培養物の前記培養培地の総重量と比較して1.5~3.5重量%に相当する、こと、続いて、
b)内分泌撹乱物質である可能性がある化合物と接触させた前記培養培地中における、各々が前記ヒト胎盤内分泌細胞によって分泌された第1のホルモン、第2のホルモン、第3のホルモン及び第4のホルモンを含む4つのホルモンのセットの発現レベルを測定して、前記第1のホルモン、前記第2のホルモン、前記第3のホルモン及び前記第4のホルモンの測定された発現レベルを得て
(前記セットは、プロゲステロンホルモン及びポリペプチドホルモン又はその誘導体を含む)、
前記第1のホルモン、前記第2のホルモン、前記第3のホルモン及び前記第4のホルモンの各々の前記測定された発現レベルを、前記内分泌撹乱物質である可能性がある化合物と接触していない、又は内分泌撹乱物質ではないことが知られている化合物と接触している、ヒト胎盤内分泌細胞を含有する細胞培養物からの培養培地において測定された前記第1のホルモン、前記第2のホルモン、前記第3のホルモン及び前記第4のホルモンのそれぞれの対照の発現レベルと比較すること、
c)前記内分泌撹乱物質である可能性がある化合物と接触させた前記細胞培養の前記ヒト胎盤内分泌細胞において、P2X7膜受容体タンパクの発現レベル及び/又は活性を測定して、前記P2X7膜受容体タンパクの測定された発現レベル及び/又は活性を得て、前記P2X7膜受容体タンパクの前記測定された発現レベル及び/又は前記活性を、前記内分泌撹乱物質である可能性がある化合物と接触させていない、又は内分泌撹乱物質ではないことが知られている化合物と接触させた、細胞培養物のヒト胎盤内分泌細胞において測定された前記P2X7の対照の発現レベル及び/又は活性と比較すること、
d)結論付けることであって、
i)前記第1のホルモン、前記第2のホルモン、前記第3のホルモン及び前記第4のホルモンのうちの少なくとも1つの前記測定された発現レベルが、前記第1のホルモン、前記第2のホルモン、前記第3のホルモン及び前記第4のホルモンの前記それぞれの対照の発現レベルと有意に異なり、前記P2X7膜受容体タンパクの前記測定された発現レベル及び/又は前記活性が、そのそれぞれの対照の発現レベル及び/又は活性と有意に異なる場合、前記化合物は内分泌撹乱物質であり、
ii)前記第1のホルモン、前記第2のホルモン、前記第3のホルモン及び前記第4のホルモンのうちの少なくとも1つの前記測定された発現レベルが、前記第1のホルモン、前記第2のホルモン、前記第3のホルモン及び前記第4のホルモンの前記それぞれの対照の発現レベルと有意に異なるが、前記P2X7膜受容体タンパクの前記測定された発現レベル及び/又は前記活性が、そのそれぞれの対照の発現レベル及び/又は活性と有意には異ならない場合、前記の化合物が内分泌撹乱物質であるということは排除されず、
iii)前記P2X7膜受容体タンパクの前記測定された発現レベル及び/又は前記活性のみが、前記それぞれの対照の発現レベル及び/又は活性と有意に異なる場合、前記化合物は、内分泌撹乱物質ではない、
と結論付けること、
を含む、方法。
【請求項2】
前記方法が、
- 測定することであって、
- 前記内分泌撹乱物質である可能性がある化合物と接触させた前記細胞培養物からの前記ヒト胎盤内分泌細胞における、インフラマソーム経路の前記活性化を測定し、測定されたインフラマソーム活性を得ること、若しくは
- 前記内分泌撹乱物質である可能性がある化合物と接触させた前記細胞培養物からの前記ヒト胎盤内分泌細胞における、ミトコンドリア活性を測定し、測定されたミトコンドリア活性を得ること、
- 又はそれら両方を測定すること、
- 比較をすることであって、
- 前記測定されたインフラマソーム活性を、前記内分泌撹乱物質である可能性がある化合物と接触させていない、又は内分泌撹乱物質ではないことが知られている化合物と接触させた、細胞培養物のヒト胎盤内分泌細胞において測定された前記インフラマソーム経路の対照の活性と比較すること、
及び/又は
- 前記測定されたミトコンドリア活性を、前記内分泌撹乱物質である可能性がある化合物と接触させていない、又は内分泌撹乱物質ではないことが知られている化合物と接触させた、細胞培養物のヒト胎盤内分泌細胞において測定された前記ミトコンドリアの対照の活性と比較すること、並びに
d)結論付けることであって、
前記測定されたインフラマソーム活性又は前記測定されたミトコンドリア活性が、前記それぞれの対照のインフラマソーム活性及び前記それぞれの対照のミトコンドリア活性と有意に異なる場合、前記化合物が内分泌撹乱物質であり、
そうでなければ、前記化合物が内分泌撹乱物質であることは排除されない
と結論付けること、
を更に含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項3】
前記方法が、
- 前記内分泌細胞におけるDNA損傷の存在を測定して、測定されたDNA断片化を得ること、
- 前記測定されたDNA損傷を、前記内分泌撹乱物質である可能性がある化合物と接触させていない、又は内分泌撹乱物質ではないことが知られている化合物と接触させた、細胞培養物のヒト胎盤内分泌細胞において測定された前記対照のDNA損傷と比較すること、及び
- 結論付けることであって、
**前記化合物が内分泌撹乱物質であることを排除しないときに、
前記測定されたDNA損傷が、前記対照のDNA断片化と有意に異なる場合、前記化合物は、遺伝毒性効果を有する内分泌撹乱物質であり、
前記測定されたDNA損傷が、前記対照のDNA損傷と有意には異ならない場合、前記化合物が内分泌撹乱物質であることは排除されず、
**前記化合物が内分泌撹乱物質であるときに、
前記測定されたDNA損傷が、前記対照の断片化と有意に異なる場合、前記化合物は、遺伝毒性効果を有する内分泌撹乱物質であり、前記化合物は内分泌撹乱物質であり、
前記測定されたDNA損傷が、前記対照の断片化と有意には異ならない場合、前記化合物は、遺伝毒性効果を有さない内分泌撹乱物質である、
と結論付けること、
を更に含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記方法が
- 発癌性刺激時に誘導されるホルモンの、前記内分泌細胞の前記培養培地における前記発現を測定し、測定された発癌性刺激を得ること、
- 前記測定された発癌性刺激を、前記内分泌撹乱物質である可能性がある化合物と接触させていない又は内分泌撹乱物質ではないことが知られている化合物と接触させた細胞培養物のヒト胎盤内分泌細胞において測定される対照の発癌性刺激と比較すること、及び
- 結論付けることであって、
**前記化合物が内分泌撹乱物質であることを排除しないときに、
前記測定された発癌性刺激が、前記対照の発癌性刺激と有意に異なる場合、前記化合物は発癌性効果を有する内分泌撹乱物質であり、
前記測定された発癌性刺激が、前記対照の発癌性刺激と有意には異ならない場合、前記化合物は内分泌撹乱物質であることは排除されず、
**前記化合物が内分泌撹乱物質であるときに、
前記測定された発癌性刺激が、前記対照の発癌性刺激と有意に異なる場合、前記化合物は発癌性効果を有する内分泌撹乱物質であり、
前記測定された発癌性刺激が、前記対照の発癌性刺激と有意には異ならない場合、前記化合物は発癌性効果を有さない内分泌撹乱物質である、
と結論付けること、
を更に含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記方法が、
- 前記内分泌細胞のアロマターゼ酵素の活性を測定して、測定されたアロマターゼ活性を得ること、
- 前記測定されたアロマターゼ活性を、前記内分泌撹乱物質である可能性がある化合物と接触させていない、又は内分泌撹乱物質ではないことが知られている前記化合物と接触させた、細胞培養物のヒト胎盤内分泌細胞において測定された前記対照のアロマターゼ活性と比較すること、及び
d)結論付けることであって、
**前記化合物が内分泌撹乱物質であることを排除しないときに、
前記測定されたアロマターゼ活性が、前記対照のアロマターゼ活性と有意に異なる場合、前記化合物は、妊孕性に影響を及ぼす内分泌撹乱物質であり、
前記測定されたアロマターゼ活性が、前記対照のアロマターゼ活性と有意には異ならない場合、前記化合物が内分泌撹乱物質であることは排除されず、
**前記化合物が内分泌撹乱物質であるときに、
前記測定されたアロマターゼ活性が、前記対照のアロマターゼ活性と有意に異なる場合、前記化合物は、妊孕性に影響を及ぼす内分泌撹乱物質であり、
前記測定されたアロマターゼ活性が、前記対照のアロマターゼ活性と有意には異ならない場合、前記化合物は、妊孕性に影響を及ぼさない内分泌撹乱物質である、
と結論付けること、
を更に含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
前記測定値と前記対照値とが、±15%異なるときに、有意差が存在する、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記ペプチドホルモンが、ベータ絨毛性ゴナドトロピンホルモンすなわちβhCG、又はその誘導体のうちの1つ、例えばグリコシル化βhCG、及びヒト胎盤ラクトゲンすなわちhPLである、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記インフラマソーム経路の活性化が、カスパーゼ-1タンパクの活性、並びに/又はIL1βの発現及び/若しくは分泌を評価することによって測定される、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
キットであって、
- ヒト胎盤内分泌細胞を含む細胞培養物と、
- 胎盤細胞によって分泌される4つのホルモンの発現を測定するための手段であって、前記4つのホルモンが、胎盤細胞によって分泌される、プロゲステロンホルモン及びペプチドホルモン又はその誘導体を含む手段と、
- P2X7受容体の前記発現及び/又は前記活性化を測定するための可能な手段と、
を含む、キット。
【請求項10】
細胞培養物であって、
- ヒト胎盤内分泌細胞;及び
- 最小必須栄養素及び血清からなる培養培地、
を含む細胞培養物であって、
前記血清が、前記培養培地の総重量と比較して、1.5~3.5重量%、好ましくは約2.5重量%に相当する、細胞培養物。
【請求項11】
前記胎盤内分泌細胞が、胎盤細胞株である、請求項10に記載の細胞培養物。
【請求項12】
前記内分泌細胞が、細胞性栄養膜胎盤細胞である、請求項10又は11に記載の細胞培養物。
【請求項13】
前記内分泌細胞が、自身が培養される支持体にしっかりと付着している、請求項10に記載の細胞培養物。
【請求項14】
前記内分泌細胞が、胎盤細胞株JEG-3、特に、ATCCに番号ATCC HTB-36で寄託された胎盤細胞株である、請求項10~13のいずれか一項に記載の細胞培養物。
【請求項15】
化合物が内分泌撹乱物質であるかどうかをインビトロで決定するための、請求項10~14のいずれか一項に記載の細胞培養物の使用であって、
前記化合物が、プロゲステロンホルモン及びポリペプチドホルモン又はその誘導体を含む、4つのホルモンのセットのうちの少なくとも1つのホルモンの発現レベルを調節し、
かつ、
前記化合物が、P2X7膜受容体タンパクの前記発現及び/又は前記活性化を調節する、というとき、前記化合物が内分泌撹乱物質であるとされる、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内分泌細胞に関し、特に毒物学及び内分泌撹乱物質評価の分野におけるそれらの使用に関する。
【0002】
世界保健機関は、内分泌撹乱化学物質(Endocrine Disrupting Chemical、EDC)を、内分泌系の機能を変化させ、その結果、無傷の生物、又はその子孫、又は(亜)集団において健康への悪影響を引き起こす外因性物質又は混合物と定義している(WHO、2002年)。EDC及び潜在的なEDCは、ほとんどが人工のものであり、食品及びパーソナルケア製品中の、プラスチック、金属、添加剤又は汚染物質などの様々な材料中に見出されるので、ヒトはEDCに継続的に曝露されている。
【0003】
欧州連合の定義によれば、内分泌撹乱化学物質(「内分泌撹乱物質」)は、ホルモン系の機能を変化させ、その結果として有害作用を引き起こす物質である。
【0004】
EDCは、妊娠中の母体組織を含むいくつかのヒト組織において見出される:ビスフェノールA、トリクロサン、フタレート、及びパラベンは、妊婦の尿において特定されており、フタレートは、臍帯血試料において特定されている。
【0005】
問題は、妊娠中のEDCへの曝露が、母親及び乳児の両方にとって有害である多くの有害な妊娠転帰をもたらし得ることである。
【0006】
フタレート、主にジブチルフタレートは、妊娠期間の短縮及び早産によって胎児発育に悪影響を及ぼす可能性があり、アルキルフェノールは、自然流産に関連し、パラベンは、出産転帰及び早産に影響を及ぼす可能性があり、トリクロザンは、妊娠期間を混乱させる可能性があり、フタレート及びビスフェノールは、胎盤の成長及び機能を潜在的に妨害し、妊娠高血圧腎症をもたらす可能性がある。妊娠高血圧腎症は、多系統妊娠特異性障害であり、世界的に見て、罹患及び死亡の主要な原因となっている。妊娠高血圧腎症だけでなく流産も、胎盤機能不全に関連している。
【0007】
妊娠のリスクを研究するために胎盤に対して行われた研究のほとんどは、胎盤を、胎児の発達に必要な器官としてではなく、母親と胎児との間の障壁とみなしている。分子量1000ダルトン未満の化学物質は、母体から胎児へ胎盤を容易に通過し、農薬、金属、EDCのほとんどは、分子量1000未満であるため、胎盤は、真の障壁とは言えない。母親から胎児へのこの潜在的な移動は、ヒト胎盤において濃縮し得る、パラベン、アルキルフェノール、ビスフェノール、及び3-ベンジリデンカンファーを特定した研究によって確認された。
【0008】
妊娠障害をもたらすEDCの細胞機序は、未だ不明である。
【0009】
WHO及び欧州連合の定義によれば、ホルモン産生の改変が形式的には有害作用に関連付けられない場合、化学物質は、内分泌撹乱物質そのものであるとはみなされない。したがって、これらの化合物を、一意的に特定する試験を提供することが不可欠である。
【0010】
内分泌撹乱物質を特定するためのいくつかの方法が、当技術分野において説明されている。例えば、国際公開第2007113204号は、そのような種類の化合物を特定することを可能にするチップアレイを開示している。国際公開第2011032284号は、内分泌撹乱物質を特定することを可能にするステロイド生合成ノックダウン核酸を含む細胞モデルを開示している。
【0011】
しかしながら、これらの方法は、実際に特異的ではなく、ホルモン分泌の調節とヒトの健康における結果との間の関連を、正確に評価してはいない。
【0012】
化合物がP2X7の発現を誘導することができることは、当技術分野で公知である。これは、ベンゾ(A)ピレンの代謝を評価する、本発明者らの先行文献であるAnais Waks et al.-Toxycology in vitro-2016-pp 76-85の場合である。しかしながら、この化合物は真の内分泌撹乱物質として分類されたことはない。この文献において、著者らは、10%血清を含有する培地中で内分泌細胞を培養し、血清の処理及び除去後にはアポトーシスが観察されないということを見出した。この文献は、ベンゾ(A)ピレンが内分泌撹乱物質であるということも、P2X7が内分泌撹乱物質と関連しているということも意図せず、確立もしていない。
【0013】
したがって、内分泌撹乱物質を明確に特定することができる新しい効率的な方法を提供する必要がある。
【0014】
本発明の1つの目的は、上記の当該技術分野に欠けている点を克服することである。
【0015】
本発明の別の目的は、内分泌撹乱物質を特定するための新規で効率的なモデルを提供することである。
【0016】
本発明の更に別の目的は、ホルモン分泌に対して効果を有する化合物が、内分泌撹乱物質であるかどうかを、明確に特定する方法を提供することである。
【0017】
したがって、本発明は、
- 内分泌細胞、好ましくは胎盤細胞;及び
- 最小必須栄養素及び血清からなる培養培地、
を含む細胞培養物(ただし、血清が、培養培地の総重量と比較して1.5~3.5重量%に相当する)に関する。
【0018】
本発明は、最小必須栄養素及び所定量の血清を含む特定の培養培地中で培養される内分泌細胞が、生存可能であり、増殖することができるが、化学物質に対してより感受性が高くなり、したがって、内分泌撹乱物質を検出及び分類するための理想的なモデルを構成するという、本発明者らによってなされた予想外の観察に基づいている。
【0019】
上記培養培地に属する内分泌細胞は、ホルモンを産生及び放出することができる細胞である。これらの細胞は、有利には、精巣内分泌細胞、卵巣内分泌細胞、及び胎盤内分泌細胞、又は少なくとも1つのホルモンを分泌することができる任意の細胞であり得る。
【0020】
細胞培養培地は、一般に、適切なエネルギー源及び細胞周期を調節する化合物を含む。典型的な培養培地は、補足的なアミノ酸、ビタミン、無機塩、グルコースから構成される。栄養素に加えて、培地はまた、pH及び浸透圧を維持するのに役立つ。
【0021】
血清は、増殖因子、ホルモン、及び付着因子の供給源として提供される。これは、仔ウシ若しくはウシの血清、又は特に恒常性、細胞の生存、増殖を可能にする因子を含む人工的に再構成された血清であり得る。血清は、好ましくは「補足物を除去」されるが、補足物の成分が、当技術分野において周知の技術に従って、タンパク質沈殿/凝固を誘導するために熱によって不活性化される。
【0022】
本発明において、血清は、培養培地の総重量と比較して「1.5~3.5%」に相当し、これは、血清が、培養培地の総重量と比較して1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3、3.1、3.2、3.3、3.4、又は3.5重量%に相当することを意味する。
【0023】
細胞培養物の総体積と比較した、すなわち、最小必須栄養素を含む培地の総体積と比較した血清の量をv/v%で表すことも可能である。
【0024】
最小必須栄養素は、必須アミノ酸、ビタミン、微量元素などで構成されている。本発明による最小必須栄養素は、例えば、グリシン、L-アラニン、L-アルギニン塩酸塩、L-アスパラギン-H2O、L-アスパラギン酸、L-システイン塩酸塩-H2O、L-シスチン2HCl、L-グルタミン酸、L-グルタミン、L-ヒスチジン、L-ヒスチジン塩酸塩-H2O、L-イソロイシン、L-ロイシン、L-リジン塩酸塩、L-メチオニン、L-フェニルアラニン、L-プロリン、L-セリン、L-トレオニン、L-トリプトファン、L-チロシン二ナトリウム塩二水和物、L-バリン、アスコルビン酸、ビオチン、塩化コリン、D-パントテン酸カルシウム、葉酸、ナイアシンアミド、ピリドキサール塩酸塩、リボフラビン、チアミン塩酸塩、ビタミンB12、i-イノシトール、塩化カルシウム(CaCl2)(無水物)、硫酸マグネシウム(MgSO4)(無水物)、塩化カリウム(KCl)、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)、塩化ナトリウム(NaCl)、塩基性リン酸ナトリウム(NaH2PO4-H2O)、D-グルコース(デキストロース)、リポ酸、及びピルビン酸ナトリウムであり得る。
【0025】
当業者は、本発明による細胞培養を実施するために、市販の最小必須培養培地から、より適切なものを選択することができる。
【0026】
有利には、本発明は、内分泌細胞が胎盤細胞株である、上で定義した細胞培養物に関する。
【0027】
本発明によれば、細胞株は、適切な新鮮な培地及び空間が与えられれば無限に増殖する、永久的に確立された細胞培養物である。細胞培養物及び細胞株は、特定の細胞の生理学的プロセス、病態生理学的プロセス、及び分化プロセスを研究する際に重要な役割を担っている。それは、制御された環境下での細胞の構造、生物学、及び遺伝的構成における段階的変化の検査を可能にする。
【0028】
有利には、本発明は、ホルモンを産生する、上で定義した細胞培養物、細胞性栄養膜胎盤細胞に関する。
【0029】
細胞性栄養膜(又はラングハンス層)は、栄養膜の内層である。それは、発生中の胚において、合胞体栄養細胞の内部であり、胚盤胞の壁の外部である。
【0030】
細胞性栄養膜は胎盤の一部である。胚盤胞を取り囲む層は残っているが、娘細胞は分化及び増殖して複数の役割で機能するので、それは細胞性栄養膜幹細胞であると考えられる。細胞性栄養膜細胞が分化する際に介し得る、融合及び浸潤という2つの系統が存在する。融合系統は合胞体栄養細胞を生じ、浸潤系統は間質細胞性栄養膜細胞を生じる。細胞性栄養膜細胞がインビトロでhCG、プロゲステロン、エストロゲン、cGnRH及びβ-エンドルフィンを産生する能力を有するということは、すでに以前に実証されている。従って、細胞性栄養膜細胞は、ホルモン産生に対する内分泌撹乱物質の化合物の効果を評価するため、及び未知の化合物が内分泌撹乱物質として分類され得るか否かを決定するための良好な候補である。
【0031】
有利には、本発明は、内分泌細胞、特に胎盤細胞が培養される支持体に、内分泌細胞、特に胎盤細胞がしっかりと付着している、上で定義した細胞培養物に関する。
【0032】
本発明による細胞培養物を効率的に使用するために、上述の細胞培養物に含まれる内分泌細胞が接着特性を有するということ、すなわち、培養が行われる支持体と相互作用することができるということが有利である。これは、特に、化合物への曝露後に、例えば、内分泌撹乱物質として分類することができるかどうかを評価するために使用された化合物の存在を除去するため、及び別の化合物を評価するために同じ培養(及び同じ細胞)を使用するために、簡単な洗浄によって、細胞培養物を再使用することを可能にする。
【0033】
有利には、本発明は、内分泌細胞が、胎盤細胞株JEG-3、特にATCC(登録商標)HTB-36(商標)の番号でATCCに寄託された胎盤細胞株である、上で定義した細胞培養物に関する。
【0034】
JEG3細胞株は、最初はヒト絨毛癌に由来し、ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン(hCG)、乳腺刺激ホルモン、プロゲステロン、並びにエストラジオール及びポリペプチドホルモン(ヒト胎盤乳腺刺激ホルモン(hPL)など)などの他のホルモンを分泌するように特徴付けられている。
【0035】
クローンHTB-36は、アメリカ合衆国の細胞培養物収集センターであるATCCに寄託されており、一般に入手可能である。このクローンは、高三倍体ヒト細胞株である。最頻染色体数は71であり、34%で生じ、倍数性は2.6%である。t(4;11)(p15;q13)、i(13q)、t(10p15q)、del(18)(q21)、及び6つの他のマーカーは、ほとんどの細胞に共通であり、2つの他のマーカーがいくつかの細胞に見出される。1つのN14と2つのN22に、巨大付随体が見られる。N2、N5、及びN9は4つの複製を有し、N7、N13、N18、N21、及びXは、単一の複製を有する。単一のY染色体がQバンド検査によって検出される。
【0036】
推奨される培養条件は以下の通りである:イーグル最小必須培地に、ウシ胎児血清を最終濃度10%まで補充する。細胞増殖のために、抗生物質及びグルタミンを添加してもよい。
【0037】
本発明による細胞培養物を調製する場合、JEG-3細胞、特にクローンHTB-36を上述の培地中で消費させ、次いで無血清培地で多数回洗浄し、次いで培養培地の総重量と比較して1.5~3.5重量%の血清を補充した最小必須培地中に入れる。
【0038】
本発明は、
- ヒト胎盤内分泌細胞、及び
- 最小必須栄養素及び血清からなる培養培地
(ただし、血清は、培養培地の総重量と比較して、1.5~3.5重量%、好ましくは約2.5重量%に相当する)を含む細胞培養物に関する。
【0039】
上で定義した細胞培養物は、抗生物質を含有せず、OPTIMUM培地などのリッチ培養培地を含有する細胞培養物ではない。
【0040】
この特定の培地の目的は、タンパク質及び抗体の干渉を制限して、細胞を、内分泌撹乱物質である可能性がある化合物と直接接触させることである。
【0041】
有利には、本発明は、上記胎盤内分泌細胞が胎盤細胞株である、上で定義した細胞培養物に関する。
【0042】
有利には、本発明は、内分泌細胞が細胞性栄養膜胎盤細胞である、上で定義した細胞培養物に関する。
【0043】
有利には、本発明は、内分泌細胞が、自身が培養される支持体にしっかりと付着している、上で定義した細胞培養物に関する。
【0044】
有利には、本発明は、内分泌細胞が、胎盤細胞株JEG-3、特にATCCにATCC HTB-36の番号で寄託された胎盤細胞株である、上で定義した細胞培養物に関する。
【0045】
本発明はまた、化合物が内分泌撹乱物質であるか否かをインビトロで決定するための、上記定義による細胞培養物の使用に関し、
化合物が、プロゲステロンホルモン及びポリペプチドホルモン又はその誘導体を含む4つのホルモンのセットのうちの少なくとも1つのホルモンの発現レベルを調節し、
かつ、
化合物が、P2X7膜受容体タンパクの発現及び/又は活性化を調節する、というとき、化合物が内分泌撹乱物質であるとされる。
【0046】
本発明はまた、化合物が内分泌撹乱物質であるかどうかをインビトロで特定するための、上で定義した細胞培養物の使用に関する。
【0047】
本発明はまた、
- 内分泌細胞、好ましくは胎盤細胞;及び
- 最小必須栄養素及び血清からなる培養培地、
(ただし血清が、培養培地の総重量と比較して1.5~3.5重量%に相当する)を含む、上で定義した細胞培養物の使用であって、
特にインビトロで、化合物が、内分泌撹乱物質の化合物又は撹乱化合物であるかどうかを特定するための使用に関する。
【0048】
本発明者らは、上述の細胞培養物が、化合物が内分泌撹乱物質として分類されるかどうか、したがって、例えば食料品への組み込みのための商業化から撤退されるべきであるかどうかを決定するのに、非常に有用であるということを特定した。
【0049】
更に、本発明者らは、内分泌撹乱物質が、上述の細胞培養物において、すなわち特定の低血清含有培養培地中で培養された内分泌細胞において、ピロトーシス経路を介して炎症性細胞死を誘導し、この経路がP2X7受容体によって活性化されることを特定した。
【0050】
ピロトーシスは、脳卒中、心臓発作、癌、及び微生物感染などの様々な病理学的刺激によって引き起こされる、炎症性プログラム細胞死の形態であることが知られている。ピロトーシスは、そのカスパーゼ-1への依存性によって他の細胞死経路とは基本的に異なる。
【0051】
ピロトーシスは、以下のような多くの特徴により特徴付けられる:
- 細胞膨潤による細胞溶解、
- 核の完全性及びオリゴヌクレオソームDNA断片化が観察されない、DNA切断又はDNA損傷、
- インフラマソーム経路の活性化(なお、インフラマソームとは、侵入病原体に対する免疫応答の活性化を調整する細胞質ゾル多量体シグナル伝達複合体である。インフラマソームの活性化は、その後、カスパーゼ-1のプロセシング及び活性化をもたらす。)、並びに
- 活性化IL-1β及びIL-18サイトカインの放出。
【0052】
更に有利には、本発明は、上で定義した細胞培養物の使用であって、その細胞培養物が、
- 細胞性栄養膜胎盤細胞、好ましくはJEG-3細胞株;及び
- 最小必須栄養素及び血清からなる培養培地
(ただし、血清が、上記培養培地の総重量と比較して1.5~3.5重量%に相当する)を含み、
特にインビトロで、化合物が内分泌撹乱物質の化合物又は撹乱化合物であるかどうかを特定するための使用に関する。
【0053】
より有利には、本発明は、細胞培養物の使用であって、その細胞培養物が、
- JEG-3、ATCC(登録商標)HTB-36(商標)細胞株、及び
- 最小必須栄養素及び血清からなる培養培地
(ただし血清が、上記培養培地の総重量と比較して1.5~3.5重量%に相当する)を含み、
特にインビトロで、化合物が内分泌撹乱物質の化合物又は撹乱化合物であるかどうかを特定するための使用に関する。
【0054】
本発明はまた、化合物が内分泌撹乱物質であるかどうかを、好ましくはインビトロで決定するための方法であって、その方法は、
a)上で定義した細胞培養物を提供すること、
b)細胞培養物の内分泌細胞を、内分泌細胞によるホルモン産生を調節する、内分泌撹乱物質である可能性がある化合物と接触させること、
c)測定することであって、
i)P2X7膜受容体タンパクの発現レベル及び/又は活性のいずれかを測定して、測定されたP2X7受容体タンパクの発現レベル及び/又は測定されたP2X7受容体タンパク活性をそれぞれ得ること、
ii)インフラマソーム経路の活性化を測定し、測定されたインフラマソーム活性を得ること、
iii)又はその両方を測定し、それぞれを得ること、
d)比較することであって、
- 上記測定されたP2X7受容体タンパクの発現レベルを、内分泌撹乱物質ではないことが知られている化合物と接触させた内分泌細胞のP2X7受容体タンパクの発現レベルを測定することによって決定された、上記P2X7受容体タンパクの対照の発現レベルと比較し、
及び/又は
- 上記測定されたP2X7受容体タンパク活性を、内分泌撹乱物質ではないことが知られている化合物と接触させた内分泌細胞のP2X7受容体タンパクの活性を測定することによって決定された、P2X7受容体タンパクの対照の活性と比較し、
及び/又は
- 上記測定されたインフラマソーム活性を、内分泌撹乱物質ではないことが知られている化合物と接触させた内分泌細胞において決定されたインフラマソーム経路の対照の活性と比較すること、
並びに
e)結論付けることであって、
測定されたP2X7受容体タンパクの発現、測定されたP2X7受容体タンパクの活性、及び測定されたインフラマソームの活性のうちの少なくとも1つが、それぞれの対照のP2X7受容体タンパクの発現、対照のP2X7受容体タンパク活性、及び対照のインフラマソーム活性より高い場合、化合物は内分泌撹乱物質であり、
そうでなければ、化合物は内分泌撹乱物質ではない、
と結論付けること、を含む方法に関する。
【0055】
本発明者らは、上で定義した細胞培養物の細胞における、発現レベル、活性、又はインフラマソーム経路の活性化を測定することにより、ホルモン発現を調節する化合物が、正確な内分泌撹乱物質であるか否かを評価することが可能になることを発見した。
【0056】
本発明はまた、化合物が内分泌撹乱物質であるかどうかをインビトロで決定するための方法であって、その方法は、
a)内分泌撹乱物質である可能性がある化合物を、細胞培養物と接触させることであって、細胞培養物は、培養培地中で培養されたヒト胎盤内分泌細胞を含み、上記の培養培地は、最小必須栄養素及び血清を含み、血清が、細胞培養物の培養培地の総重量と比較して1.5~3.5重量%に相当する、こと、続いて、
b)内分泌撹乱物質である可能性がある化合物と接触させた上記の培養培地中における、各々がヒト胎盤内分泌細胞によって分泌された第1のホルモン、第2のホルモン、第3のホルモン及び第4のホルモンを含む4つのホルモンのセットの発現レベルを測定して、第1のホルモン、第2のホルモン、第3のホルモン及び第4のホルモンの測定された発現レベルを得て
(なお、上記のセットは、プロゲステロンホルモン、及びポリペプチドホルモン又はその誘導体を含む)、
第1のホルモン、第2のホルモン、第3のホルモン及び第4のホルモンの各々の測定された発現レベルを、内分泌撹乱物質である可能性がある化合物と接触していないか又は内分泌撹乱物質ではないことが知られている化合物と接触しているヒト胎盤内分泌細胞を含有する細胞培養物からの培養培地において測定される、第1のホルモン、第2のホルモン、第3のホルモン及び第4のホルモンのそれぞれの対照の発現レベルと比較すること、
c)内分泌撹乱物質である可能性がある化合物と接触させた細胞培養からのヒト胎盤内分泌細胞において、P2X7膜受容体タンパクの発現レベル及び/又は活性を測定して、そのP2X7膜受容体タンパクの測定された発現レベル及び/又は活性を得て、
1.P2X7膜受容体タンパクの測定された発現レベル及び/又は活性を、内分泌撹乱物質である可能性がある化合物と接触させていない又は内分泌撹乱物質ではないことが知られている化合物と接触させた細胞培養物のヒト胎盤内分泌細胞において測定されるP2X7の対照の発現レベル及び/又は活性と比較すること、及び
d)結論付けることであって、
i)第1のホルモン、第2のホルモン、第3のホルモン及び第4のホルモンのうちの少なくとも1つの測定された発現レベルが、第1のホルモン、第2のホルモン、第3のホルモン及び第4のホルモンのそれぞれの対照の発現レベルと有意に異なり、P2X7膜受容体タンパクの測定された発現レベル及び/又は活性が、そのそれぞれの対照の発現レベル及び/又は活性と有意に異なる場合、上記の化合物は内分泌撹乱物質であり、
ii)第1のホルモン、第2のホルモン、第3のホルモン及び第4のホルモンのうちの少なくとも1つの測定された発現レベルが、第1のホルモン、第2のホルモン、第3のホルモン及び第4のホルモンのそれぞれの対照の発現レベルと有意に異なるが、P2X7膜受容体タンパクの測定された発現レベル及び/又は活性が、そのそれぞれの対照の発現レベル及び/又は活性と有意には異ならない場合、上記の化合物が内分泌撹乱物質であるということは排除されず、
iii)P2X7膜受容体タンパクの測定された発現レベル及び/又は活性のみが、そのそれぞれの対照の発現レベル及び/又は活性と有意に異なる場合、上記の化合物は、内分泌撹乱物質ではない、
と結論付けること、
を含む方法に関する。
【0057】
換言すれば、本発明は、化合物が内分泌撹乱物質であるかどうかを決定することを可能にする非常に効率的な方法:
- 特定のホルモンの分泌の変動を測定することと、
- P2X7膜受容体の発現及び/又は活性を測定することと、
- 内分泌撹乱物質に対して非常に感受性が高い特定のホルモンを分泌するヒト胎盤細胞(血清が細胞を生存させておくのに十分な量であるものの、化合物に干渉しない(血清に含まれる大量のタンパク質による化合物の隔離)という条件下で培養されるためである)を使用することと、
を組み合わせることによって提供する。
【0058】
ホルモン及びP2X7受容体の両方が、基準値又は対照と比較して、同時に有意に調整されている場合、その化合物は内分泌撹乱物質であり、市場から退出させなければならないということになる。
【0059】
現在利用可能な試験に対応するホルモンのみが調整されている場合、上の定義を満たすためには、損傷が細胞において観察されなければならないので、化合物が内分泌撹乱物質であるということを明確に述べるのは不可能である。
【0060】
P2X7のみが対照と比較して調整されている場合、その化合物は内分泌撹乱物質ではないが、それはこれらの種類の化合物はホルモン発現を調整している必要があるからである。
【0061】
有利なことに、本発明は、上で定義した方法であって、その方法は、
- 測定することであって、
- 内分泌撹乱物質である可能性がある上記の化合物と接触させた細胞培養物からのヒト胎盤内分泌細胞における、インフラマソーム経路の活性化を測定し、測定されたインフラマソーム活性を得ること、若しくは
- 内分泌撹乱物質である可能性がある化合物と接触させた細胞培養物からのヒト内分泌胎盤におけるミトコンドリア活性を測定し、測定されたミトコンドリア活性を得ること、
- 又はそれら両方を測定すること、
- 比較をすることであって、
- 測定されたインフラマソーム活性を、内分泌撹乱物質である可能性がある化合物と接触させていない、又は内分泌撹乱物質ではないことが知られている化合物と接触させた、細胞培養物のヒト胎盤内分泌細胞において測定されたインフラマソーム経路の対照の活性と比較すること、
及び/又は
- 測定されたミトコンドリア活性を、内分泌撹乱物質である可能性がある化合物と接触させていない、又は内分泌撹乱物質ではないことが知られている化合物と接触させた、細胞培養物のヒト胎盤内分泌細胞において測定されたミトコンドリアの対照の活性と比較すること、並びに
d)結論付けることであって、
測定されたインフラマソーム活性又はミトコンドリア活性が、それぞれの対照のインフラマソーム活性及びそれぞれの対照のミトコンドリア活性と有意に異なる場合、化合物は内分泌撹乱物質であり、
そうでなければ、化合物が内分泌撹乱物質であることは排除されない
と結論付けること、
を更に含む方法に関する。
【0062】
P2X7が調整されていないか、又は有意に調整されていない場合、ミトコンドリア活性又はインフラマソーム活性のうちの少なくとも1つが対照のそれと比較して調整されている場合、試験された化合物は内分泌撹乱物質であると言うことができる。
【0063】
ミトコンドリア活性は、当該技術分野で周知の多くの技術によって(例えば、膜貫通電位及びその変動を測定することによって、又はいくつかのミトコンドリア酵素の活性を測定することによって)測定され得る。
【0064】
より有利には、本発明は、上で定義した方法であって、その方法は
- 内分泌細胞におけるDNA損傷の存在を測定して、測定されたDNA断片化を得ること、
- 測定されたDNA損傷を、内分泌撹乱物質である可能性がある化合物と接触させていない又は内分泌撹乱物質ではないことが知られている化合物と接触させた細胞培養物のヒト胎盤内分泌細胞において測定される対照のDNA損傷と比較すること、及び
- 結論付けることであって、
**化合物が内分泌撹乱物質であることを排除しない場合に、
測定されたDNA損傷が、対照のDNA断片化と有意に異なる場合、その化合物は、遺伝毒性効果を有する内分泌撹乱物質であり、
測定されたDNA損傷が、対照のDNA損傷と有意には異ならない場合、その化合物が内分泌撹乱物質であることは排除されず、
**化合物が内分泌撹乱物質である場合に、
測定されたDNA損傷が、対照の断片化と有意に異なる場合、化合物は、遺伝毒性効果を有する内分泌撹乱物質であり、化合物は内分泌撹乱物質であり、
測定されたDNA損傷が、対照の断片化と有意には異ならない場合、化合物は、遺伝毒性効果を有さない内分泌撹乱物質である
と結論付けること、
を更に含む方法に関する。
【0065】
DNA損傷を測定することによって、化合物が内分泌撹乱物質であるかどうかを決定し、この化合物が遺伝毒性物質であることを立証することができる。
【0066】
より有利には、本発明は、上で定義した方法であって
- 発癌性刺激時に誘導されるホルモンの、内分泌細胞の培養培地における発現を測定し、測定された発癌性刺激を得ること、
- 測定された発癌性刺激を、内分泌撹乱物質である可能性がある化合物と接触させていない又は内分泌撹乱物質ではないことが知られている化合物と接触させた細胞培養物のヒト胎盤内分泌細胞において測定される対照の発癌性刺激と比較すること、及び
- 結論付けることであって、
**化合物が内分泌撹乱物質であることを排除しない場合に、
測定された発癌性刺激が、対照の発癌性刺激と有意に異なる場合、その化合物は発癌性効果を有する内分泌撹乱物質であり、
測定された発癌性刺激が、対照の発癌性刺激と有意には異ならない場合、その化合物が内分泌撹乱物質であることは排除されず、
**化合物が内分泌撹乱物質である場合に、
測定された発癌性刺激が、対照の発癌性刺激と有意に異なる場合、その化合物は発癌性効果を有する内分泌撹乱物質であり、
測定された発癌性刺激が、対照の発癌性刺激と有意には異ならない場合、その化合物は発癌性効果を有さない内分泌撹乱物質である、
と結論付けること、
を更に含む方法に関する。
【0067】
発癌刺激を測定することによって、化合物が内分泌撹乱物質であるかどうかを決定し、この化合物が発癌物質、すなわち癌を誘導する物質であることを立証することができる。
【0068】
より有利には、本発明は、上で定義した方法であって、その方法は、
- 内分泌細胞のアロマターゼ酵素の活性を測定して、測定されたアロマターゼ活性を得ること、
- 測定されたアロマターゼ活性を、内分泌撹乱物質である可能性がある化合物と接触させていない又は内分泌撹乱物質ではないことが知られている化合物と接触させた細胞培養物のヒト胎盤内分泌細胞において測定される対照のアロマターゼ活性と比較すること、及び
d)結論付けることであって、
**化合物が内分泌撹乱物質であることを排除しない場合に、
測定されたアロマターゼ活性が、対照のアロマターゼ活性と有意に異なる場合、その化合物は、妊孕性に影響を及ぼす内分泌撹乱物質であり、
測定されたアロマターゼ活性が、対照のアロマターゼ活性と有意には異ならない場合、その化合物が内分泌撹乱物質であることは排除されず、
**化合物が内分泌撹乱物質である場合に、
測定されたアロマターゼ活性が、対照のアロマターゼ活性と有意に異なる場合、その化合物は、妊孕性に影響を及ぼす内分泌撹乱物質であり、
測定されたアロマターゼ活性が、対照アロマターゼ活性と有意には異ならない場合、その化合物は、妊孕性に影響を及ぼさない内分泌撹乱物質である、
と結論付けること、
を更に含む方法に関する。
【0069】
アロマターゼ活性化を測定することによって、化合物が内分泌撹乱物質であるかどうかを決定することができ、この化合物が、それを受けた個体の妊孕性に対していくらかの効果を有することを立証することができる。
【0070】
より有利には、本発明は、測定値と対照値とが±15%異なる場合に、有意差が存在する、上で定義した方法に関する。
【0071】
測定データと対照データとの間の差を測定するために、当業者は、その常識に従って統計分析を行うであろう。差異が15%より高い場合、差異は有意であると考えられる。
【0072】
例えば、ホルモンが対照試料においてレベル1で発現され、内分泌撹乱物質であると疑われる培養培地において1.16又は0.84のレベルで発現される場合、差異は15%より大きく(15%の減少又は15%の増加)、この差異は有意であると考えられる。この例は制限的なものではなく、本発明の目的を明確にするためだけに与えられている。
【0073】
より有利には、本発明は、ペプチドホルモンが、β絨毛性ゴナドトロピンホルモンすなわちβhCG、又はその誘導体の1つ、例えば、グリコシル化βhCG、及びヒト胎盤ラクトゲンすなわちhPLである、上で定義した方法に関する。
【0074】
有利な一実施形態では、本発明は、インフラマソーム経路の活性化が、カスパーゼ-1タンパクの活性、並びに/又はIL1βの発現及び/若しくは分泌を評価することによって測定される、上で定義した方法に関する。
【0075】
この方法は、上で定義した細胞培養培地の使用に基づくものである。
【0076】
本方法の第1のステップでは、好ましくはJEG-3細胞である細胞は、培養培地の総重量と比較して1.5~3.5重量%の血清を補充した培地中で培養される。
【0077】
次に、化合物が細胞培養物の細胞によるホルモンの分泌に影響を及ぼす可能性があるように、内分泌撹乱物質であると疑われている化合物を細胞培養物と接触させる。
【0078】
化合物がホルモンの分泌に影響を及ぼさない場合、化合物は内分泌撹乱物質ではないので、この方法を更には進めない。
【0079】
化合物がホルモンの分泌に影響を及ぼす場合(これは当技術分野で開示されている周知の方法によって評価することができる)、次のステップは、細胞培養物の細胞の細胞膜におけるP2X7受容体の発現若しくは活性のいずれかを評価すること、及び/又はインフラマソーム経路の活性化を評価することからなる。
【0080】
P2X7受容体は、細胞質へのNa+及びCa2+の流入並びに細胞質からのK+流出を支持する細胞外アデノシン5’-三リン酸によって開閉される三量体イオンチャネルである。この受容体は、細胞外アデノシン三リン酸による活性化の際に膜孔の形成を媒介し、炎症性カスケードの誘導を介して、遊走から細胞死への多数の生理的及び病態生理的プロセスに関連するいくつかの細胞内シグナル伝達経路の活性化をもたらす。
【0081】
受容体P2X7の発現を評価するために、蛍光標識抗体を使用して免疫検出を行い、細胞膜における受容体の存在及び/又は量を検出することが可能である。例えば、RT-qPCRなどの定量化技術を使用することによって、受容体をコードするmRNA量を定量化することによって発現を評価することも可能である。
【0082】
P2X7の活性は、受容体によって構成される細孔の開口を評価することによって測定することができる。例えば、受容体が活性化されていない場合には細胞内に入ることができないが、受容体が活性化されている場合には細胞内に入ることができる蛍光タンパク質を使用することが可能である。そのような化合物の例は、以下の実施例2に開示されており、実施例2は、Rat et al.J Biol Methods.2017 Jan 20;4(1):e64(本明細書に組み込まれる)に詳細に開示される、YO-PRO-1の使用を開示している。
【0083】
インフラマソーム経路の活性を評価することも可能である。インフラマソーム、又はインフラマソーム経路は、炎症反応を制御し、抗菌宿主防御を調整する、多タンパク質シグナル伝達プラットフォームである。それらは、宿主細胞の細胞質ゾルにおける病原性微生物及び危険シグナルの検出後に、パターン認識受容体によって集められ、それらは、炎症性カスパーゼを活性化させてサイトカインを産生し、ピロトーシス細胞死を誘導する。インフラマソームは、サイトカインインターロイキン-1β(IL-1β)及びIL-18の成熟を促進する、炎症性カスパーゼ、システイン依存性アスパラギン酸指向プロテアーゼを活性化する。アポトーシスカスケードを活性化するアポトソームに類似して、インフラマソーム経路は、ピロトーシス炎症カスケードを活性化する。ひとたび活性になると、インフラマソームは、プロカスパーゼ-1(カスパーゼ-1の前駆体分子)に、それ自体のカスパーゼ活性化及び動員ドメイン(CARD)を介してホモタイプで、又はインフラマソーム形成中にそれが結合するアダプタータンパク質ASCのCARDを介して、結合する。その完全な形態において、インフラマソームは、多くのp45プロカスパーゼ-1分子を一緒に並置し、p20及びp10サブユニットへのそれらの自己触媒的切断を誘導する。次いで、カスパーゼ-1は、それぞれp20サブユニット及びp10サブユニットを有する2つのヘテロ二量体からなる、その活性型に集合する。ひとたび活性になると、初期炎症シグナルに応答して様々なプロセスを実行することができる。
【0084】
インフラマソームの活性を測定するために、カスパーゼ-1タンパク質の活性、及び/又はIL-1βの分泌を測定することが可能である。
【0085】
次いで、収集された全てのデータを、基準値、すなわち、P2X7の発現の基準値、P2X7の活性化の基準値、及びインフラマソームの活性化の基準値と比較する。これらの基準値データは、細胞培養物を内分泌撹乱物質ではないことが知られている化合物と接触させることによって得られる。例えば、内分泌撹乱物質である可能性がある化合物を可溶化するために使用される、水及び溶媒を使用することができる。
【0086】
本発明によるプロセスの最後のステップでは、測定されたP2X7の活性化/発現又は測定されたインフラマソームの活性化が基準と有意に異なるかどうかが評価される。全ての測定値が対照の値に近い場合、化合物は、内分泌撹乱物質ではないとみなすことができる。そうでない場合、例えば測定値の1つが対照の値と有意に異なる場合、化合物は内分泌撹乱物質として分類することができる。
【0087】
有利には、本発明は、化合物が内分泌撹乱物質であるかどうかを、好ましくはインビトロで決定するための方法であって、その方法は、
a)上で定義した細胞培養物を提供すること、
b)細胞培養物の内分泌細胞を、内分泌細胞によるホルモン産生を調節する、内分泌撹乱物質である可能性がある化合物と接触させること、
c)P2X7膜受容体タンパクの発現レベルを測定して、測定されたP2X7受容体タンパクの発現レベルを得ること、
d)測定されたP2X7受容体タンパクの発現レベルを、内分泌撹乱物質ではないことが知られている化合物と接触させた上記の内分泌細胞のP2X7受容体タンパクの発現レベルを測定することによって決定されたP2X7受容体タンパクの対照発現レベルと比較すること、
e)結論付けることであって、
測定されたP2X7受容体タンパクの発現が、対照のP2X7受容体タンパクの発現よりも高い場合、化合物は内分泌撹乱物質であり、
そうでなければ、化合物は内分泌撹乱物質ではない、
と結論付けること、を含む方法に関する。
【0088】
有利には、本発明は、化合物が内分泌撹乱物質であるかどうかを、好ましくはインビトロで決定するための方法であって、その方法は、
a)上で定義した細胞培養物を提供すること、
b)細胞培養物の内分泌細胞を、内分泌細胞によるホルモン産生を調節する、内分泌撹乱物質である可能性がある化合物と接触させること、
c)P2X7膜受容体タンパクの活性を測定して、測定されたP2X7受容体タンパクの活性を得ること、
d)上記測定されたP2X7受容体タンパク活性を、内分泌撹乱物質ではないことが知られている化合物と接触させた内分泌細胞のP2X7受容体タンパクの活性を測定することによって決定された、P2X7受容体タンパクの対照の活性と比較すること、
e)結論付けることであって、
測定されたP2X7受容体タンパクの活性が、対照のP2X7受容体タンパクの活性よりも高い場合、化合物は内分泌撹乱物質であり、
そうでなければ、化合物は内分泌撹乱物質ではない、
と結論付けること、を含む方法に関する。
【0089】
有利には、本発明はまた、化合物が内分泌撹乱物質であるかどうかを、好ましくはインビトロで決定するための方法であって、その方法は、
a)上で定義した細胞培養物を提供すること、
b)細胞培養物の内分泌細胞を、内分泌細胞によるホルモン産生を調節する、内分泌撹乱物質である可能性がある化合物と接触させること、
c)インフラマソーム経路の活性化を測定して、測定されたインフラマソーム活性を得ること、
d)測定されたインフラマソーム経路の活性を、内分泌撹乱物質ではないことが知られている化合物と接触させた内分泌細胞において決定された対照のインフラマソーム経路の活性と比較すること、
及び
e)結論付けることであって、
測定されたインフラマソーム活性が、対照のインフラマソーム活性より高い場合、化合物は内分泌撹乱物質であり、
そうでなければ、化合物は内分泌撹乱物質ではない、
と結論付けること、を含む方法に関する。
【0090】
より有利には、本発明は、化合物が内分泌撹乱物質であるかどうかを、好ましくはインビトロで決定するための方法であって、その方法は、
a)上で定義した細胞培養物を提供すること、
b)細胞培養物の内分泌細胞を、内分泌細胞によるホルモン産生を調節する、内分泌撹乱物質である可能性がある化合物と接触させること、
c)測定することであって
i)P2X7膜受容体タンパクの発現レベル及び活性を測定して、測定されたP2X7受容体タンパクの発現レベル及び/又は測定されたP2X7受容体タンパク活性をそれぞれ得ること、
ii)及びインフラマソーム経路の活性化を測定し、測定されたインフラマソーム活性を得ること、
d)比較することであって、
- 上記測定されたP2X7受容体タンパクの発現レベルを、内分泌撹乱物質ではないことが知られている化合物と接触させた内分泌細胞のP2X7受容体タンパクの発現レベルを測定することによって決定された、上記P2X7受容体タンパクの対照の発現レベルと比較し、
及び
- 上記測定されたP2X7受容体タンパク活性を、内分泌撹乱物質ではないことが知られている化合物と接触させた内分泌細胞のP2X7受容体タンパクの活性を測定することによって決定された、P2X7受容体タンパクの対照の活性と比較し、
及び
- 上記測定されたインフラマソーム活性を、内分泌撹乱物質ではないことが知られている化合物と接触させた内分泌細胞において決定されたインフラマソーム経路の対照の活性と比較すること、
及び
e)結論付けることであって、
測定されたP2X7受容体タンパクの発現、測定されたP2X7受容体タンパクの活性、及び測定されたインフラマソームの活性のうちの少なくとも1つが、それぞれの対照のP2X7受容体タンパクの発現、対照のP2X7受容体タンパク活性、及び対照のインフラマソーム活性より高い場合、化合物は内分泌撹乱物質であり、
そうでなければ、化合物は内分泌撹乱物質ではない、
と結論付けること、を含む方法に関する。
【0091】
より有利には、本発明は、化合物が内分泌撹乱物質であるかどうかを、好ましくはインビトロで決定するための方法であって、その方法は、
a)上で定義した細胞培養物を提供すること、
b)細胞培養物の内分泌細胞を、内分泌細胞によるホルモン産生を調節する、内分泌撹乱物質である可能性がある化合物と接触させること、
c)測定することであって
i)P2X7膜受容体タンパクの発現レベル又は活性を測定して、測定されたP2X7受容体タンパクの発現レベル及び/又は測定されたP2X7受容体タンパク活性をそれぞれ得て、
及びインフラマソーム経路の活性化を測定し、測定されたインフラマソーム活性を得ること、
d)比較することであって、
- 上記測定されたP2X7受容体タンパクの発現レベルを、内分泌撹乱物質ではないことが知られている化合物と接触させた内分泌細胞のP2X7受容体タンパクの発現レベルを測定することによって決定された、上記P2X7受容体タンパクの対照の発現レベルと比較するか、
又は
- 上記測定されたP2X7受容体タンパク活性を、内分泌撹乱物質ではないことが知られている化合物と接触させた内分泌細胞のP2X7受容体タンパクの活性を測定することによって決定された、P2X7受容体タンパクの対照の活性と比較し、
及び
- 上記測定されたインフラマソーム活性を、内分泌撹乱物質ではないことが知られている化合物と接触させた内分泌細胞において決定されたインフラマソーム経路の対照の活性と比較すること、
並びに
e)結論付けることであって、
測定されたP2X7受容体タンパクの発現、測定されたP2X7受容体タンパクの活性、及び測定されたインフラマソームの活性のうちの少なくとも1つが、それぞれの対照のP2X7受容体タンパクの発現、対照のP2X7受容体タンパク活性、及び対照のインフラマソーム活性より高い場合、化合物は内分泌撹乱物質であり、
そうでなければ、化合物は内分泌撹乱物質ではない、
と結論付けること、を含む方法に関する。
【0092】
有利には、本発明は、上で定義した方法であって、その方法は、ステップe)の前に、
c1)内分泌細胞におけるDNA損傷の存在を測定して、測定されたDNA断片化を得ることと、
d1)測定されたDNA修復を、内分泌撹乱物質であることが知られている化合物と接触させた内分泌細胞において得られた対照のDNA修復と比較することと、を更に含み、及び
e)結論付けることであって、
測定されたP2X7受容体タンパク、測定されたP2X7受容体タンパクの活性、及び測定されたインフラマソーム活性のうちの少なくとも1つが、それぞれの対照のP2X7受容体タンパク、対照のP2X7受容体タンパクの活性、及び対照のインフラマソーム活性よりも高く、かつ測定されたDNA損傷が対照のDNA断片よりも高い場合、化合物は遺伝毒性効果を有する内分泌撹乱物質であり、
測定されたP2X7受容体タンパク、測定されたP2X7受容体タンパクの活性、及び測定されたインフラマソーム活性のうちの少なくとも1つが、それぞれの対照のP2X7受容体タンパク、対照のP2X7受容体タンパクの活性、及び対照のインフラマソーム活性よりも高く、かつ測定されたDNA損傷が対照のDNA断片以下である場合、化合物は遺伝毒性効果を有さない内分泌撹乱物質であり、
そうでなければ、化合物は内分泌撹乱物質ではない、
と結論付けること、を含む方法に関する。
【0093】
換言すれば、有利には、本発明は、化合物が内分泌撹乱物質であるかどうかを、好ましくはインビトロで決定するための方法であって、その方法は、
a)上で定義した細胞培養物を提供すること、
b)細胞培養物の内分泌細胞を、内分泌細胞によるホルモン産生を調節する、内分泌撹乱物質である可能性がある化合物と接触させること、
c)測定することであって
i)P2X7膜受容体タンパクの発現レベル及び/又は活性のいずれかを測定して、測定されたP2X7受容体タンパクの発現レベル及び/又は測定されたP2X7受容体タンパク活性をそれぞれ得るか、
ii)インフラマソーム経路の活性化を測定し、測定されたインフラマソーム活性を得るか、
iii)又はその両方を測定し、それぞれを得て、
iv)及び内分泌細胞における細胞損傷の存在を測定して、測定された細胞損傷を得ること、
d)比較することであって、
- 上記測定されたP2X7受容体タンパクの発現レベルを、内分泌撹乱物質ではないことが知られている化合物と接触させた内分泌細胞のP2X7受容体タンパクの発現レベルを測定することによって決定された、上記P2X7受容体タンパクの対照の発現レベルと比較し、
及び/又は
- 上記測定されたP2X7受容体タンパク活性を、内分泌撹乱物質ではないことが知られている化合物と接触させた内分泌細胞のP2X7受容体タンパクの活性を測定することによって決定された、P2X7受容体タンパクの対照の活性と比較し、
及び/又は
- 上記測定されたインフラマソーム活性を、内分泌撹乱物質ではないことが知られている化合物と接触させた内分泌細胞において決定されたインフラマソーム経路の対照の活性と比較し、
及び
- 測定されたDNA修復を、内分泌撹乱物質であることが知られている化合物と接触させた内分泌細胞において得られた対照のDNA修復と比較すること、
及び
e)結論付けることであって、
測定されたP2X7受容体タンパク、測定されたP2X7受容体タンパクの活性、及び測定されたインフラマソーム活性のうちの少なくとも1つが、それぞれの対照のP2X7受容体タンパク、対照のP2X7受容体タンパクの活性、及び対照のインフラマソーム活性よりも高く、かつ測定されたDNA損傷が対照のDNA断片よりも高い場合、化合物は遺伝毒性効果を有する内分泌撹乱物質であり、
測定されたP2X7受容体タンパク、測定されたP2X7受容体タンパクの活性、及び測定されたインフラマソーム活性のうちの少なくとも1つが、それぞれの対照のP2X7受容体タンパク、対照のP2X7受容体タンパクの活性、及び対照のインフラマソーム活性よりも高く、かつ測定されたDNA損傷が対照のDNA断片以下である場合、化合物は遺伝毒性効果を有さない内分泌撹乱物質であり、
そうでなければ、化合物は内分泌撹乱物質ではない、
と結論付けること、を含む方法に関する。
【0094】
本発明者らは、上に定義した方法によって特定された内分泌撹乱物質が遺伝毒性効果を有し得るかどうかを決定することも可能であることを示した。
【0095】
この目的のために、化合物の状態を評価する際に、細胞培養物の細胞において起こり得るDNA損傷を検出することが可能である。
【0096】
DNA損傷の評価は当技術分野で周知であり、当業者によって容易に実施することができる。
【0097】
本発明において、DNA損傷は、細胞に含まれるDNA分子の二本鎖破壊、又はDNAの遺伝毒性的変化に対応する。
【0098】
有利には、本発明は、上で定義した方法であって、その方法は、ステップe)の前に、
c2)発癌性刺激時に誘導されるホルモンの、内分泌細胞の培養培地における発現を測定し、測定された発癌性刺激を得ることと、
d2)測定された発癌性刺激を、内分泌撹乱物質であることが知られている化合物と接触させた内分泌細胞において得られた対照の発癌性刺激と比較することと、を更に含み、及び
e)結論付けることであって、
測定されたP2X7受容体タンパク、測定されたP2X7受容体タンパクの活性、及び測定されたインフラマソーム活性のうちの少なくとも1つが、それぞれの対照のP2X7受容体タンパク、対照のP2X7受容体タンパクの活性、及び対照のインフラマソーム活性よりも高く、かつ測定された発癌性刺激が対照の発癌性刺激よりも高い場合、化合物は発癌性効果を有する内分泌撹乱物質であり、
測定されたP2X7受容体タンパク、測定されたP2X7受容体タンパクの活性、及び測定されたインフラマソーム活性のうちの少なくとも1つが、それぞれの対照のP2X7受容体タンパク、対照のP2X7受容体タンパクの活性、及び対照のインフラマソーム活性よりも高く、かつ測定された発癌性刺激が対照の発癌性刺激以下である場合、化合物は発癌性効果を有さない内分泌撹乱物質であり、
そうでなければ、化合物は内分泌撹乱物質ではない、
と結論付けること、を含む方法に関する。
【0099】
換言すれば、有利には、本発明は、化合物が内分泌撹乱物質であるかどうかを、好ましくはインビトロで決定するための方法であって、その方法は、
a)上で定義した細胞培養物を提供すること、
b)細胞培養物の内分泌細胞を、内分泌細胞によるホルモン産生を調節する、内分泌撹乱物質である可能性がある化合物と接触させること、
c)測定することであって
i)P2X7膜受容体タンパクの発現レベル及び/又は活性のいずれかを測定して、測定されたP2X7受容体タンパクの発現レベル及び/又は測定されたP2X7受容体タンパク活性をそれぞれ得るか、
ii)インフラマソーム経路の活性化を測定し、測定されたインフラマソーム活性を得るか、
iii)又はその両方を測定し、それぞれを得て、
iv)及び発癌性刺激時に誘導されるホルモンの、内分泌細胞の培養培地における発現を測定し、測定された発癌性刺激を得ること、
d)比較することであって、
- 上記測定されたP2X7受容体タンパクの発現レベルを、内分泌撹乱物質ではないことが知られている化合物と接触させた内分泌細胞のP2X7受容体タンパクの発現レベルを測定することによって決定された、上記P2X7受容体タンパクの対照の発現レベルと比較し、
及び/又は
- 上記測定されたP2X7受容体タンパク活性を、内分泌撹乱物質ではないことが知られている化合物と接触させた内分泌細胞のP2X7受容体タンパクの活性を測定することによって決定された、P2X7受容体タンパクの対照の活性と比較し、
及び/又は
- 上記測定されたインフラマソーム活性を、内分泌撹乱物質ではないことが知られている化合物と接触させた内分泌細胞において決定されたインフラマソーム経路の対照の活性と比較し、
及び
- 測定された発癌性刺激を、内分泌撹乱物質であることが知られている化合物と接触させた内分泌細胞において得られた対照の発癌性刺激と比較すること、
及び
e)結論付けることであって、
測定されたP2X7受容体タンパク、測定されたP2X7受容体タンパクの活性、及び測定されたインフラマソーム活性のうちの少なくとも1つが、それぞれの対照のP2X7受容体タンパク、対照のP2X7受容体タンパクの活性、及び対照のインフラマソーム活性よりも高く、かつ測定された発癌性刺激が対照の発癌性刺激よりも高い場合、化合物は発癌性効果を有する内分泌撹乱物質であり、
測定されたP2X7受容体タンパク、測定されたP2X7受容体タンパクの活性、及び測定されたインフラマソーム活性のうちの少なくとも1つが、それぞれの対照のP2X7受容体タンパク、対照のP2X7受容体タンパクの活性、及び対照のインフラマソーム活性よりも高く、かつ測定された発癌性刺激が対照の発癌性刺激以下である場合、化合物は発癌性効果を有さない内分泌撹乱物質であり、
そうでなければ、化合物は内分泌撹乱物質ではない、
と結論付けること、を含む方法に関する。
【0100】
本発明者らは、上に定義した方法によって特定された内分泌撹乱物質が発癌性効果を有し得るかどうかを決定することも可能であることを示した。
【0101】
この目的のために、化合物の状態を評価する場合、発癌性化合物による刺激の際に刺激され、分泌されるであろう特定のホルモンの可能な分泌を検出することが可能である。
【0102】
例えば、hCGなどのいくつかのホルモンのグリコシル化プロファイルを評価することが可能である。実際に、発癌物質にさらされた場合のヒトにおける、特異的グリコシル化が特定されている。
【0103】
有利には、本発明は、上で定義した方法であって、その方法は、ステップe)の前に、
c3)内分泌細胞のアロマターゼ酵素の活性を測定して、測定されたアロマターゼ活性を得ることと、
d3)測定されたアロマターゼ活性を、内分泌撹乱物質であることが知られている化合物と接触させた内分泌細胞において得られた対照のアロマターゼ活性と比較することと、を更に含み、及び
e)結論付けることであって、
測定されたP2X7受容体タンパク、測定されたP2X7受容体タンパクの活性、及び測定されたインフラマソーム活性のうちの少なくとも1つが、それぞれの対照のP2X7受容体タンパク、対照のP2X7受容体タンパクの活性、及び対照のインフラマソーム活性よりも高く、かつ測定されたアロマターゼ活性が対照のアロマターゼ活性よりも高い場合、化合物は妊孕性への効果を有する内分泌撹乱物質であり、
測定されたP2X7受容体タンパク、測定されたP2X7受容体タンパクの活性、及び測定されたインフラマソーム活性のうちの少なくとも1つが、それぞれの対照のP2X7受容体タンパク、対照のP2X7受容体タンパクの活性、及び対照のインフラマソーム活性よりも高く、かつ測定されたアロマターゼ活性が対照のアロマターゼ活性以下である場合、化合物は妊孕性への効果を有さない内分泌撹乱物質であり、
そうでなければ、化合物は内分泌撹乱物質ではない、
と結論付けること、を含む方法に関する。
【0104】
換言すれば、有利には、本発明は、化合物が内分泌撹乱物質であるかどうかを、好ましくはインビトロで決定するための方法であって、その方法は、
a)上で定義した細胞培養物を提供すること、
b)細胞培養物の内分泌細胞を、内分泌細胞によるホルモン産生を調節する、内分泌撹乱物質である可能性がある化合物と接触させること、
c)測定することであって
i)P2X7膜受容体タンパクの発現レベル及び/又は活性のいずれかを測定して、測定されたP2X7受容体タンパクの発現レベル及び/又は測定されたP2X7受容体タンパク活性をそれぞれ得るか、
ii)インフラマソーム経路の活性化を測定し、測定されたインフラマソーム活性を得るか、
iii)又はその両方を測定し、それぞれを得て、
iv)及び、内分泌細胞のアロマターゼ酵素の活性を測定して、測定されたアロマターゼ活性を得ること、
d)比較することであって、
- 上記測定されたP2X7受容体タンパクの発現レベルを、内分泌撹乱物質ではないことが知られている化合物と接触させた内分泌細胞のP2X7受容体タンパクの発現レベルを測定することによって決定された、上記P2X7受容体タンパクの対照の発現レベルと比較し、
及び/又は
- 上記測定されたP2X7受容体タンパク活性を、内分泌撹乱物質ではないことが知られている化合物と接触させた内分泌細胞のP2X7受容体タンパクの活性を測定することによって決定された、P2X7受容体タンパクの対照の活性と比較し、
及び/又は
- 上記測定されたインフラマソーム活性を、内分泌撹乱物質ではないことが知られている化合物と接触させた内分泌細胞において決定されたインフラマソーム経路の対照の活性と比較し、
及び
- 測定されたアロマターゼ活性を、内分泌撹乱物質であることが知られている化合物と接触させた内分泌細胞において得られた対照のアロマターゼ活性と比較すること、
及び
e)結論付けることであって、
測定されたP2X7受容体タンパク、測定されたP2X7受容体タンパクの活性、及び測定されたインフラマソーム活性のうちの少なくとも1つが、それぞれの対照のP2X7受容体タンパク、対照のP2X7受容体タンパクの活性、及び対照のインフラマソーム活性よりも高く、かつ測定されたアロマターゼ活性が対照のアロマターゼ活性よりも高い場合、化合物は妊孕性への効果を有する内分泌撹乱物質であり、
測定されたP2X7受容体タンパク、測定されたP2X7受容体タンパクの活性、及び測定されたインフラマソーム活性のうちの少なくとも1つが、それぞれの対照のP2X7受容体タンパク、対照のP2X7受容体タンパクの活性、及び対照のインフラマソーム活性よりも高く、かつ測定されたアロマターゼ活性が対照のアロマターゼ活性以下である場合、化合物は妊孕性への効果を有さない内分泌撹乱物質であり、
そうでなければ、化合物は内分泌撹乱物質ではない、
と結論付けること、を含む方法に関する。
【0105】
本発明者らは、上に定義した方法によって特定された内分泌撹乱物質が妊孕性に対する何らかの効果を有し得るかどうかを決定することも可能であることを示した。
【0106】
この目的のために、化合物の状態を評価する際に、アロマターゼの活性を検出することが可能である。
【0107】
アロマターゼ(CYP19A、EC1.14.14.14)は、ミクロソーム異物代謝酵素のシトクロムP450モノオキシダーゼ(CYP)ファミリーのメンバーである。アロマターゼは、ステロイド産生において重要な役割を果たし、アンドロゲンホルモンのエストロゲンへの変換を触媒する。その酵素は、生殖組織、胎盤、脳、及び脂肪組織において高いレベルで発現され、哺乳動物の性的二型性及び二次性徴の発生に関与する。
【0108】
アロマターゼの活性を検出するための多くのキットが利用可能であり、当業者はより適切なものを容易に選択することができる。
【0109】
より有利には、本発明は、内分泌撹乱物質である可能性がある化合物が、内分泌撹乱物質の非存在下でのホルモン発現と比較して±20%のホルモン発現の変動を誘導する、上で定義した方法に関する。
【0110】
より有利には、本発明は、4つのホルモンのセットが、エストロゲン、プロゲステロン、又はヒト胎盤ラクトゲン(hPL)及びヒト絨毛性ゴナドトロピン、ベータポリペプチド(βhCG)などのポリペプチドホルモンを含む、上で定義した方法に関する。
【0111】
ヒト絨毛膜ソマトマンモトロピン(HCS)とも呼ばれるヒト胎盤ラクトゲン(hPL)は、ポリペプチド胎盤ホルモンである。その構造及び機能はヒト成長ホルモンのものと類似している。hPLは、妊娠中の母親の代謝状態を変更して、胎児のエネルギー供給を促進する。hPLは妊娠中に合胞体栄養細胞によって分泌される。
【0112】
βhCGもまた、最初は合胞体栄養細胞によって分泌されるポリペプチド胎盤ホルモンである。グリコシル化βhCGホルモンの発現を測定することも有利であるが、それは、このホルモンは、ヒト胎盤の最初の数日にのみ天然に発現されるが、内分泌細胞が発癌物質である内分泌撹乱物質に曝露されると調節解除されるからである。
【0113】
より有利には、本発明は、インフラマソーム経路の活性化が、カスパーゼ-1タンパクの活性、並びに/又はIL1βの発現及び/若しくは分泌を評価することによって測定される、上で定義した方法に関する。
【0114】
カスパーゼ-1タンパク質活性は、当該分野で既知の異なるキットを使用することによって評価することが容易である。例えば、カスパーゼ-1活性は、基質YVAD-AFC(AFC:7-アミノ-4-トリフルオロメチルクマリン)の切断を検出することによって測定することができる。YVAD-AFCは青色光(Em=400nm)を放出し、カスパーゼ-1又は関連するカスパーゼによって基質が切断されると、遊離AFCは、黄緑色蛍光(Ex/Em=400/505nm)を放出し、これは蛍光光度計又は蛍光マイクロタイタープレートリーダーを使用して定量化することができる。処理した試料からの蛍光を、未処理の対照からのそれと比較することにより、カスパーゼ-1活性の増加倍数を決定することができる。
【0115】
IL1βの発現及び/又は分泌は、分泌されたIL1βのための培養培地において直接的に、又は細胞において直接的に、免疫学的手段を使用することによって評価することができる。
【0116】
IL1βの発現はまた、例えば、特定のオリゴヌクレオチド及びプローブを使用するRT-PCRプロトコールを使用して、遺伝子発現を評価することによって、測定することもできる。
【0117】
本発明はまた、
- 上で定義した細胞培養物、
- 内分泌撹乱物質ではないことが知られている、少なくとも1つの化合物、及び
- P2X7受容体タンパクの発現及び/又は活性化を測定するための、少なくとも1つの手段、
を含むキットに関する。
【0118】
本発明はまた、
- 上で定義した細胞培養物、
- ビスフェノールAなどの内分泌撹乱物質であることが知られている少なくとも1つの化合物、及び
- P2X7受容体タンパクの発現及び/又は活性化を測定するための、少なくとも1つの手段、
を含むキットに関する。
【0119】
本発明はまた、
- 上で定義した細胞培養物、
- ビスフェノールAなどの内分泌撹乱物質であることが知られている少なくとも1つの化合物、及び内分泌撹乱物質ではないことが知られている少なくとも1つの化合物、特に培養培地、
- P2X7受容体タンパクの発現及び/又は活性化を測定するための、少なくとも1つの手段、
を含むキットに関する。
【0120】
有利には、上述のキットは、
- JEG-3細胞株と、最小必須栄養素及び上で定義された量の血清を含む培養培地と、
- 内分泌撹乱物質ではないことが知られている、少なくとも1つの化合物と、
- P2X7受容体タンパク発現及び/又は活性化を測定するための、少なくとも1つの手段、例えばYO-PRO-1化合物などと、
を含む。
【0121】
有利には、上述のキットは、
- JEG-3細胞株と、最小必須栄養素及び上で定義された量の血清を含む培養培地と、
- ビスフェノールAなどの内分泌撹乱物質であることが知られている少なくとも1つの化合物と、
- P2X7受容体タンパク発現及び/又は活性化を測定するための、少なくとも1つの手段、例えばYO-PRO-1化合物などと、
を含む。
【0122】
有利には、上述のキットは、
- JEG-3細胞株と、最小必須栄養素及び上で定義された量の血清を含む培養培地と、
- ビスフェノールAなどの内分泌撹乱物質であることが知られている少なくとも1つの化合物、及び内分泌撹乱物質ではないことが知られている少なくとも1つの化合物と、
- P2X7受容体タンパク発現及び/又は活性化を測定するための、少なくとも1つの手段、例えばYO-PRO-1化合物などと、
を含む。
【0123】
キットはまた、DNA損傷を検出するための手段、及び/又は発癌物質刺激の際に分泌されるホルモンの発現を検出するための手段、及び/又はアロマターゼ活性を評価するための手段を含み得る。
【0124】
本発明はまた、
- ヒト胎盤内分泌細胞を含む細胞培養物と、
- 胎盤細胞によって分泌される4つのホルモンの発現を測定するための手段であって、それらの4つのホルモンが、胎盤細胞によって分泌される、プロゲステロンホルモン及びペプチドホルモン又はその誘導体を含む手段と、
- P2X7受容体の発現及び/又は活性化を測定するための可能な手段と、
を含む、上で定義したキットに関する。
【0125】
本発明は、以下の図面及び実施例に照らしてより良く理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0126】
図1】種々の濃度のFBSを補充した培地における、JEG-3細胞の増殖を示すグラフを表す。JEG-3細胞を、3つの異なる濃度のFBSとともに、24時間又は72時間にわたってインキュベートし、細胞計数を行って、JEG-3細胞の増殖に対するFBSの効果を定量化した。黒色:10%のFBS、濃い灰色:2.5%のFBS、薄い灰色:0%のFBS。Y軸:生細胞の数(細胞数/mL);X軸:時間(時間)
図2】2.5%及び10%のFBSでの、JEG-3細胞におけるCK7の発現を示す写真を表す。 A)2.5%のFBSで培養した細胞を、抗CK7抗体で染色した後、Alexa Fluor 488で染色した細胞。 B)2.5%のFBSで培養した細胞を、DNAを染色するために使用したDAPI(青色)で染色した細胞。 C)10%のFBSで培養した細胞を、抗CK7抗体で染色した後、Alexa Fluor 488で染色した細胞。 D)10%のFBSで培養した細胞を、DNAを染色するために使用したDAPI(青色)で染色した細胞。 データは、少なくとも3回の独立した実験を表す。 E)10%のFBSで培養した細胞を、アイソタイプ対照で染色した後、Alexa Fluor 488で染色した細胞。 F)10%のFBSで培養した細胞を、DNAを染色するために使用したDAPI(青色)で染色した細胞。 データは、少なくとも3回の独立した実験を表す。
図3】ImageJソフトウェアを用いたCK7蛍光の定量化を示すグラフである。選択された顕微鏡視野における細胞数の差を考慮に入れるために、緑色蛍光強度を青色蛍光強度で割ることによって、正規化されたCK7蛍光強度を得た。Y軸:正規化したCK7強度。A:対照アイソタイプ;B:2.5%のFBSで培養した細胞であり、C:10%のFBSで培養した細胞である。
図4】10%のFBS又は2.5%のFBS中で、SLS(A)又はPFOA(B)とともにインキュベートした後の、JEG-3細胞の生存率の比較を示すヒストグラムを表す。JEG-3細胞を、10~50μg/mLのSLS又は40~120μMのPFOAとともに、24時間にわたってインキュベートした。ニュートラルレッドアッセイを使用して細胞生存率を決定した。10%のFBS中の陰性対照と比較して、≦≦≦p<0.001及び≦≦≦≦p<0.0001であり、2.5%のFBS中の陰性対照と比較して、****p<0.0001(n=3)である。A:Y軸:細胞生存率(%)及びX軸:SSL濃度(μg/mL);B:Y軸:細胞生存率(%)及びX軸:PFOA濃度(μg/mL)。
図5】アポトーシス誘導剤とともに24時間にわたってインキュベートした後の、JEG-Tox細胞の細胞生存率(単位は%で、Y軸)及びクロマチン凝縮の評価を示すグラフを表す(B、C、D、E、G及びHについては、濃度はμg/mL単位であり、A及びFについては、濃度はv/vパーセント単位である)。細胞生存率及びクロマチン凝縮を、それぞれ、Alamar blueアッセイ及びHoechst 33342アッセイを使用して定量化した。破線:細胞生存率、実線:クロマチン凝縮。陰性対照(n=3)と比較して、p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、及び****p<0.0001。A:エタノール;B:キナルホス;C:ビスフェノールF;D:4-4’-DTT;E:BAC;F:フェノキシエタノール;G:プロピルパラベン、及びH:PFOA。
図6】JEG-Tox細胞上で72時間にわたり、ビスフェノールA(A)、ジエチルスチルベストロール(B)、4-tert-アミルフェノール(C)、トリクロザン(E)、プロピルパラベン(F)、ブチルベンジルフタレート(G)、ジブチルフタレート(H)、DEHP(I)、及び3-ベンジリデンカンファー(J)とともにインキュベーションした後に、ニュートラルレッドアッセイを使用して評価された細胞生存率を表す。黒色及び白色カラムは、それぞれ溶媒及び対照を表す。
図7】JEG-Tox細胞上で72時間にわたり、ビスフェノールA(A)、ジエチルスチルベストロール(B)、4-tert-アミルフェノール(C)、トリクロザン(E)、プロピルパラベン(F)、ブチルベンジルフタレート(G)、ジブチルフタレート(H)、DEHP(I)、及び3-ベンジリデンカンファー(J)とともにインキュベーションした後に、評価されたP2X7受容体活性化を表す。対照と比較して、****p<0.0001、***p<0.001、**p<0.01、及びp<0.05である。黒色及び白色カラムは、それぞれ溶媒及び対照を表す。
図8】72時間にわたり、ビスフェノールA(A)、ジエチルスチルベストロール(B)、4-tert-アミルフェノール(C)、トリクロザン(E)、プロピルパラベン(F)、ブチルベンジルフタレート(G)、ジブチルフタレート(H)、DEHP(I)、及び3-ベンジリデンカンファー(J)とともにインキュベートした後に、JEG-Toxにおいて評価したカスパーゼ-1活性細胞を表す。対照と比較して、***p<0.001、**p<0.01、及びp<0.05である。黒色及び白色カラムは、それぞれ溶媒及び対照を表す。
図9】トリクロサン(A)、ベンジルブチルフタレート(B)、ジブチルベンジルフタレート(C)、DEHP(D)、及び3-ベンジリデンカンファー(E)とともにインキュベーション後に、JEG-Toxにおいて評価したカスパーゼ-9活性細胞を表す。対照と比較して、****p<0.0001、及び***p<0.001である。黒色及び白色カラムは、それぞれ溶媒及び対照を表す。Y軸:カスパーゼ-9活性の倍率変化。
図10】JEG-Tox細胞上でビスフェノールA(BPA)とともに72時間にわたりインキュベートした後に、ニュートラルレッドアッセイを用いて評価した細胞生存率を示すグラフを表す。
図11】JEG-Tox細胞上でビスフェノールF(BPF)とともに72時間にわたりインキュベーションした後に、ニュートラルレッドアッセイを用いて評価した細胞生存率を示すグラフを表す。
図12】JEG-Tox細胞上でBPAとともに72時間にわたりインキュベートした後の、P2X7受容体活性化を示すグラフを表す。対照と比較して、****p<0.0001、***p<0.001、及び**p<0.01である。
図13】JEG-Tox細胞上でBPFとともに72時間にわたりインキュベーションした後の、P2X7受容体活性化を示すグラフを表す。対照と比較して、****p<0.0001、***p<0.001、及び**p<0.01である。
図14】JEG-Tox細胞上でBPAとともに72時間にわたりインキュベーションした後に、JEG-Tox細胞において評価されたカスパーゼ-1活性を示すグラフを表す。対照と比較して、****p<0.0001、***p<0.001、及びp<0.05である。
図15】JEG-Tox細胞上でBPFとともに72時間にわたりインキュベーションした後に、JEG-Tox細胞において評価されたカスパーゼ-1活性を示すグラフを表す。対照と比較して、****p<0.0001、***p<0.001、及びp<0.05である。
図16】JEG-Tox細胞上でBPAとともに72時間にわたりインキュベーションした後に、JEG-Tox細胞において評価されたカスパーゼ-9活性を示すグラフを表す。対照と比較して、****p<0.0001、***p<0.001、及びp<0.05である。
図17】JEG-Tox細胞上でBPFとともに72時間にわたりインキュベーションした後に、JEG-Tox細胞において評価されたカスパーゼ-9活性を示すグラフを表す。対照と比較して、****p<0.0001、***p<0.001、及びp<0.05である。
図18】JEG-Tox細胞上でBPFとともに48時間にわたりインキュベーションした後の、H2DCF-DAアッセイを使用することによるROS産生を示すグラフを表す。対照と比較して、****p<0.0001である。
図19】JEG-Tox細胞上でBPAとともに48時間にわたりインキュベーションした後の、H2DCF-DAアッセイを使用することによるROS産生を示すグラフを表す。対照と比較して、****p<0.0001である。
図20】内分泌撹乱物質による胎盤細胞の刺激によるP2X7受容体活性化、及びその結果活性化された細胞内経路の概略図である。内分泌撹乱物質の効果もこの概略図に示されている。
【実施例
【0127】
実施例1:JEG-Toxモデル
本実施例の目的は、化学物質によって誘導される妊娠障害を明らかにするためのJEG-3胎盤細胞のインキュベーション条件を確立することである。この目的を達成するために、本発明者らは、最初に、2.5%の血清中でのJEG-3細胞の挙動を10%の血清中での挙動と比較して研究し、第2に、JEG-3細胞は、P2X7受容体の活性化及びピロトーシスを可能にし、妊婦にとって有毒な化学物質に応答してのDNA損傷及び変性経路が可能であるということを確認した。
【0128】
材料及び方法
1.材料
VWR Chemicals製のエタノール(Radnor,PA,USA)及びThermoFisher Scientific,製のペルフルオロオクタン酸(Waltham,MA,USA)を除いて、試験した化学物質はすべて、Merck(Darmstadt,Germany)から購入した。
【0129】
全ての細胞培養試薬はGibco(Paisley,UK)から入手した。96ウェルマイクロプレートをCorning(Amsterdam,The Nederlands)から購入し、Nunc(登録商標)Lab-Tek(登録商標)II Chamber Slide(商標)システムをMerck社から購入した。
【0130】
抗体は、Merck社から(マウス抗CK7抗体)、ThermoFisher Scientific社から(Alexa Fluor 488ヤギ抗マウス抗体及びアイソタイプ対照)購入した。蛍光プローブはThermoFisher Scientific社から入手した。
【0131】
蛍光共鳴エネルギー移動(Fluorescence Resonance Energy Transfer、FRET)アッセイを、Cisbio Biosassays(Codolet,France)製のHTRF(登録商標)エストラジオールキット、並びにMyBioSource(Vancouver,Canada)製のヒト胎盤ラクトゲンホルモンキット及びヒト高グリコシル化絨毛性ゴナドトロピンホルモンアッセイキットを用いたサンドイッチELISAを用いて行った。
【0132】
2.細胞培養物
Manassas製,の絨毛癌由来JEG-3細胞株(ATCC(登録商標)HTB-36TM(VA,USA)を、ATCCによって推奨されるように増殖させた:10%ウシ胎児血清、2mMグルタミン、50IU/mLのペニシリン、及び50IU/mLストレプトマイシンを、最小必須培地イーグル培地に補充した。細胞を、トリプシンを使用して剥離し、計数し、次いで免疫染色のために、96ウェルマイクロプレート(ウェルごとに200μL)及びNunc(登録商標)Lab-Tek(登録商標)II Chamber Slide(商標)システム中に、1mLにつき80,000個の細胞数で播種した。
【0133】
2.1.異なる濃度の血清を補充した培養培地におけるJEG-3細胞の挙動
2.1.1.細胞増殖に対するウシ胎児血清(FBS)濃度の影響
細胞を3つの異なる濃度、すなわち0%、2.5%、及び10%のFBS(同じバッチを使用)中で培養した。24時間後及び72時間後の時点で、トリプシンを使用して細胞を剥離し、次いでThermoFisher Scientific製,のCountess(商標)II自動細胞計数器(Waltham,MA,USA製)によって計数した。
【0134】
2.1.2.STR分析(遺伝子プロファイル)による細胞株の認証
細胞株DNAを、ショートタンデムリピート(Short Tandem Repeat、STR)によってプロファイリングした。この技術はまた、細胞に交差汚染がないことをチェックする(23)。STR分析は、ATCCのヒトSTRプロファイリング細胞認証サービスによって行った。
【0135】
2.1.3.CK7免疫染色
サイトケラチン-7(CK7)中間フィラメントは、細胞性栄養膜細胞(14、24)の確立されたマーカーである。2.5%又は10%のFBSを補充した培養培地に播種してから24時間後に、JEG-3細胞を、4%のパラホルムアルデヒド中で20分間にわたり固定し、0.1%のTriton X-100中で10分間にわたり透過処理し、1%のBSA及び0.1%のTweenのPBS溶液で、2時間にわたり飽和させ、次いで1%のBSAと0.1%のTween20とを含有するPBS中で希釈したマウス抗CK7抗体(196μg/mL)とともに、4℃で一晩インキュベートした。洗浄後、細胞を、1%のBSAを含有するPBSで希釈したAlexa Fluor 488ヤギ抗マウス抗体(4μg/mL)とともに、室温で2時間にわたりインキュベートした。核を300nMのDAPIで5分間にわたり染色し、Vector Laboratories製,のVectashield(Burlingame,CA,USA封入剤を、顕微鏡画像(EVOS FL、ThermoFisher Scientific製)に使用した。マウスIgG1カッパクローンP3.6.2.8.1を、アイソタイプ対照として使用して、非特異的バックグラウンドシグナルを、特異的抗体シグナルから区別する助けとした。
【0136】
2.1.4.ホルモン放出の定量化
2.5%又は10%のFBSを補充した細胞培養培地中で72時間にわたりインキュベーションした後、マイクロプレートを遠心分離し、細胞上清を回収した。エストラジオールを、製造業者の指示に従って蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)技術(HTRF(登録商標)、Cisbio Biosassays製)によって、細胞上清中で定量化した。このアッセイの検出限界は、20pg/mLである。
【0137】
ヒト胎盤ラクトゲン(hPL)ホルモン及びヒト高グリコシル化絨毛性ゴナドトロピン(hCG)ホルモンを、製造業者の指示に従って、サンドイッチELISA(MyBioSource製)によって測定した。感度は、hPLの用量及びhCGの用量についてそれぞれ、46.875pg/mL未満及び39pg/mL未満である。
【0138】
2.1.5.ラウリル硫酸ナトリウム(SLS)及びペルフルオロオクタン酸(PFOA)細胞毒性に対する、ウシ胎児血清濃度の影響
細胞を、2.5%又は10%のFBSのいずれかを補充した培養培地中で希釈したラウリル硫酸ナトリウム又はペルフルオロオクタン酸とともに、インキュベートした。24時間後、ニュートラルレッドアッセイを使用して細胞生存率を評価した。水中0.4%のニュートラルレッド溶液を、1:79の比で培養培地中に希釈して、50μg/mLの最終濃度を得た。ニュートラルレッドを、37℃で3時間のインキュベーション時間にわたってプレート中に分配した。次に細胞をPBSですすぎ、取り込まれなかった残りの色素を除去した。次いで、溶解溶液(1%酢酸、50%エタノール及び49%H2O)を使用して、細胞から染料を放出させ、Tecan製のSparkマイクロプレート蛍光光度計(Mannedorf,Switzerland)を使用して、蛍光を測定した(λex=540nm、λem=600nm)。
【0139】
2.2.毒性薬剤とのインキュベーション後のアポトーシス評価
2.2.1.毒性薬剤
アポトーシス評価のために試験した毒性薬剤を、表1に詳述した。溶媒を単独で評価して、それらの潜在的な効果を特定した(データは示さず)。
【0140】
【表1】
【0141】
2.2.2.細胞毒性未満となる濃度の決定
既知のアポトーシス剤を、2.5%のFBSを補充した培養培地中で希釈し、24時間にわたってインキュベートした。アポトーシスアッセイを行う前に、アラマーブルーアッセイを使用して細胞生存率を決定して、壊死濃度を排除し、薬剤の細胞毒性未満となる濃度のみを維持した。アラマーブルーを培養培地中で、9μg/mLの作業濃度に希釈した。細胞を上記の溶液とともに、37℃で6時間にわたってインキュベートした。蛍光シグナルを、Sparkサイトフルオロメーターを用いて読み取った(λex=535nm、λem=600nm)。
【0142】
2.2.3.アポトーシスの特徴としてのクロマチン凝縮の評価
UV蛍光プローブHoechst 33342は、生細胞及びアポトーシス細胞に入り、DNAに挿入される。蛍光シグナルは、アポトーシスにおけるクロマチン凝縮に比例する。細胞を、10μg/mLのHoechst 33342とともに、室温で30分間にわたってインキュベートした。蛍光シグナルを、サイトフルオロメーター(Spark)を用いて読み取った(λex=360nm、λem=460nm)。
【0143】
3.統計分析
少なくとも3回の独立した実験の平均を計算し、対照に対して正規化した。San Diego製のGraphPad(CA,USA)Prism6ソフトウェアを使用して、一元配置分散分析(one-way ANOVA)、続いてダネット検定を行った(αリスク=5%)。有意性の閾値は、対照と比較して、p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、及び****p<0.0001であった。
【0144】
結果
異なる濃度のウシ胎児血清を補充した培養培地におけるJEG-3細胞の挙動
細胞増殖に対するウシ胎児血清濃度の影響
3つの割合(培養培地中0%、2.5%、及び10%)のウシ胎児血清を使用した(図1)。
【0145】
生細胞の割合は、FBSを含まない培養培地(0%のFBS)中で、24時間後には劇的に減少し、想定された通り、栄養及び高分子因子の欠如のため、JEG-3細胞はFBSなしでは増殖することができなかった。2.5%を補充した培養培地におけるJEG-3細胞増殖は、24時間及び72時間時点で、10%のFBSにおける増殖と同様であった。
【0146】
STR分析による細胞株認証
STR分析を実施して、2.5%のFBSを補充した培養培地中のJEG-3細胞における9つのSTRコアマーカーを、10%のFBS中のJEG-3細胞におけるそれと比較した(表2)。
【0147】
【表2】
【0148】
10%又は2.5%のFBS中のJEG-3細胞は、同じSTRコアマーカーを発現した。JEG-3細胞の培養培地中のFBSの割合を減少させても、DNA特異的遺伝子座に影響はなかった。
【0149】
胎盤細胞のマーカーとしてのCK7の発現
CK7は、栄養膜細胞の周知の上皮マーカーであり、10%のFBS中で培養されたJEG-3細胞において発現されることが知られている。本発明者らの顕微鏡観察によれば、JEG-3細胞は、2.5%のFBS及び10%のFBS中で、同様のレベルのCK7を発現した(図2及び図3)。
【0150】
JEG-3細胞によるエストラジオール、高グリコシル化hCG及びhPL分泌の定量化
本発明者らは、10%のFBSを補充した培養培地中のJEG-3細胞による胎盤ホルモンの分泌を、2.5%のFBSの場合のJEG-3細胞と比較した。いずれの培地においても24時間後、各ホルモンのレベルは同等であった(表3)。
【0151】
【表3】
【0152】
SLS及びPFOAの細胞毒性に対する、ウシ胎児血清濃度の影響
本発明者らは、2.5%のFBS及び10%のFBSにおいて、それぞれSLS及びPFOAの細胞毒性を比較した(図4)。試験した全ての濃度で、10%のFBSを補充した培養培地で希釈したSLSは、JEG-3細胞生存率に影響を及ぼさなかった。対照的に、2.5%のFBSを補充した培養培地で希釈したSLSは、30μg/mL(生細胞の37%、図4A)及び50μg/mL(生細胞の10%)で、細胞傷害性を誘導した。PFOAの細胞毒性は、2.5%のFBSにおいて80μg/mL及び120μg/mLで観察されたが(それぞれ生細胞の68%及び27%、図4B)、細胞生存率のわずかな損失は、10%のFBSにおいて、120μg/mLでのみ観察された(生細胞の85%)。細胞培養に使用されるFBSの古典的な濃度(全体積の10%)は、FBS濃度の低下(2.5%)とは対照的に、SLS及びPFOA細胞毒性を不顕性化する傾向がある。
【0153】
本発明者らの結果に基づいて、本発明者らは、2.5%のFBSを補充した培養培地のみを使用して本発明者らの研究を進める。彼らは、これらのインキュベーション条件の細胞を、JEG-Toxと改名した。
【0154】
アポトーシス誘導因子に対するJEG-Tox細胞の応答
本発明者らは、アポトーシス化学物質とともにインキュベーションした後の、JEG-Tox細胞におけるクロマチン凝縮を研究した。クロマチン凝縮を評価する前に、本発明者らは、細胞傷害性未満の濃度、すなわち、70%より高い生細胞の割合をもたらす濃度を選択した(データは示さず)。この閾値は、単層細胞に対する細胞毒性を評価するISO標準及びOECDのガイドラインにおいて推奨されている。細胞毒性未満の濃度は、エタノールについては0.1%~5%、キナルホスについては0.03~150μg/mL、ビスフェノールFについては2~20μg/mL、4,4’DDTについては0.4~16μg/mL、BACについては0.1~2.5μg/mL、フェノキシエタノールについては0.0001~0.15%、プロピルパラベンについては0.2~20μg/mL、及びPFOAについては0.04~100μg/mLであった。
【0155】
図5に示すように、全てのアポトーシス化学物質は、JEG-Tox細胞においてクロマチン凝縮を有意に誘導した。エタノールは2.5%、キナルホスは0.3μg/mL、ビスフェノールFは5μg/mL、4,4’DDTはμg/mL、BACは2.5μg/mL、フェノキシエタノールは0.15%、プロピルパラベンは20μg/mL、及びPFOAは20μg/mで、クロマチン凝縮を開始した。これらの濃度は全て、他の細胞型における文献に従う(25~31)。
【0156】
考察
化学物質は、母体組織よりも胎盤においてより濃縮される。アルコール、殺虫剤、防腐剤、又は可塑剤のような有害化学物質及び環境汚染物質への妊婦の曝露は、出産までの長さ及び体重の減少と、乳児死亡率の増加と、神経系及び他の重要臓器の発達の変化と、内分泌撹乱などをもたらし得る。
【0157】
FBS中に存在するタンパク質は化学物質に結合することができ、したがってそれらの潜在的な細胞毒性を覆い隠し、細胞応答に影響を及ぼす。粒子の周りに形成されたタンパク質コロナが粒子毒性に大きく影響するということが以前に提唱された。したがって、増殖培地中で使用される高FBS濃度(主に10%)は、毒性研究に適合しない。眼細胞株及び皮膚細胞株に関する本発明者らの先行研究のいくつかは、血清総枯渇が細胞死を誘導するので、2.5%のFBSが、良好な妥協点であることを実証した(38~40)。この研究において、本発明者らは、2.5%のFBSと10%のFBSとにおいて、胎盤JEG-3細胞の挙動を比較した。本発明者らは、最初に細胞増殖を評価し、2.5%又は10%のFBS中で培養したJEG-3細胞が、同様の増殖速度を有し、想定された通り、0%のFBS中の細胞は生存しなかったということを観察した。本発明者らは、第2に、STRコアマーカーを分析し、JEG-3細胞が、2.5%又は10%のFBS中で培養されたかどうかにかかわらず、同じSTRコアマーカー、したがって同じ遺伝子型を有すると結論付けた。本発明者らは、第3に、2.5%のFBS中のJEG-3細胞が、胎盤細胞の既知のマーカーであるサイトケラチン7(CK7)を発現することを確認するために、免疫化学研究を行った。本発明者らの結果は、JEG-3細胞中のFBSの割合を減少させても、細胞増殖速度、DNAプロファイル及び特異的タンパク質発現などの細胞同一性の特性が変化しないことを示した。2.5%のFBS中のJEG-3細胞は、10%のFBS中のJEG-3細胞と同様のレベルのhCG、hPL、及びエストラジオールを放出し、したがってヒト胎盤の内分泌機能を維持した。
【0158】
細胞毒性研究において、本発明者らは、SLSが10%のFBS中で50μg/mLまで希釈された場合、いかなる細胞死も観察しなかったが、2.5%のFBS中で希釈された場合、SLSは30μg/mLで細胞生存率の劇的な損失を誘導した。PFOAの細胞毒性は、2.5%のFBSで希釈した場合には、200μMで明らかになったが、10%のFBSで希釈した場合には300μMでも、細胞生存率のわずかな低下しか観察されなかった。2.5%のFBS中のJEG-3細胞は、10%のFBS中のJEG-3細胞よりも毒性試験に適しているようである。本発明者らは、2.5%のFBS中のJEG-3細胞を、JEG-Tox細胞と改名した。
【0159】
アポトーシスは、胎盤機能不全症における重要な機序であることが示唆されている。増加する量のデータは、制御されない胎盤アポトーシスが、胎盤及び母体の両方の生理機能に対して副作用を有するということを、実際に示唆している。胎盤毒性の評価のための適切なモデルとしてのJEG-Tox細胞を検証するために、本発明者らは、それらが既知のアポトーシス剤とのインキュベーション後に、アポトーシスを誘発することができるかどうかを調べた。本発明者らは、妊婦が曝露され得る化学物質、例えばアルコール消費を通じてのエタノール、化粧品又は薬物中に存在する防腐剤、殺虫剤、及び調理器具のコーティングなどを選択した。本発明者の実験条件において、試験した全てのアポトーシス化学物質は、JEG-Tox細胞においてクロマチン凝縮を誘導した。
【0160】
結論として、FBSの割合を、細胞成長のために推奨される濃度である10%から2.5%に減少させても、DNAプロファイルにも、胎盤マーカーにも、ホルモン分泌にも影響を与えないが、FBSが10%の場合とは対照的に、化学物質に対する細胞感受性を増加させる胎盤毒性を明らかにする。JEG-Tox細胞は、胎盤毒性学的研究において、特に、多数の重篤な妊娠障害の起源であるアポトーシスを研究するために、非常に価値があり得る。
【0161】
実施例2:内分泌撹乱化学物質は、妊娠障害においてP2X7受容体を活性化する
本発明者らは、実施例1に定義されるようなヒト胎盤JEG-Tox細胞において、P2X7受容体及びカスパーゼ-1を活性化するそれらの能力について、異なる化学ファミリーからの10種のEDC、3種のフタレート、2種のビスフェノール、1種のカンファー誘導体、3種のフェノール、及び1種のパラベンを試験した。本明細書に含まれるEDCSは、妊娠しているヒト及び胎盤において最も見出される化学物質ファミリーのメンバーであり、それらは、胎盤機能を変化させ、かつ/又は妊娠転帰及び合併症を誘導するということが実証されている。
【0162】
材料及び方法
化学薬品及び試薬
細胞培養試薬:最小必須培地(MEM)、ウシ胎児血清(FBS)、2mMのグルタミン、100U/mLのペニシリン、及び100μg/mLのストレプトマイシン、0.05%のトリプシン-EDTA、及びリン酸緩衝生理食塩水(PBS)は、Gibco(Paisley,UK)によって提供され、フラスコ及びマイクロプレートなどの細胞培養材料は、Corning(Schiphol-Rijk,The Netherlands)によって提供された。YO-PRO-1(登録商標)プローブは、ThermoFisher Scientific(Waltham,Massachusetts,USA)から入手し、Caspase-Glo(登録商標)1インフラマソームアッセイは、Promega(Madison,WI,USA)から入手した。全ての化学物質は、Sigma-Aldrich(Saint Quentin Fallavier,France)から購入した。
【0163】
ジ(2-エチルヘキシル)フタレート(DEHP)を培養培地に溶解させた。ベンジルブチルフタレート、ジブチルフタレート、及びプロピルパラベンを無水エタノールに溶解させた。ビスフェノールA、ジエチルスチルベストロール、4-tert-アミルフェノール、トリクロザン、及び3-ベンジリデンカンファーをDMSOに溶解させた。ストック溶液は、-20℃で保存し、作業溶液は、培養培地で1/1000希釈した後に得た。細胞に対する無水エタノール及びDMSOの最終濃度は、0.1%以下であった。
【0164】
JEG-3細胞培養物
ヒト胎盤癌腫に由来するJEG-3ヒト栄養膜細胞株は、アメリカ合衆国培養細胞系統保存機関から入手した(ATCC HTB-36)。細胞を、75cmのポリスチレンフラスコ中、10%のウシ胎児血清(FBS)、1%のL-グルタミン、0.5%のペニシリン及びストレプトマイシンを補充した最小必須培地中で培養した。細胞培養物を、細胞培養インキュベーター内で、37℃、飽和湿度、5%のCO濃度で維持した。JEG-3細胞がサブコンフルエントに達したとき、それらをトリプシン-EDTAを用いて剥離し、計数した。細胞懸濁液を希釈し、96ウェルマイクロプレートに80,000細胞数/mLの細胞密度又は6ウェルマイクロプレートに120,000細胞数/mLの細胞密度のいずれかで播種し、次いで37℃で24時間にわたり維持した。細胞を実施例1に従ってEDCとともにインキュベートした。
【0165】
細胞生存率:ニュートラルレッドアッセイ
ニュートラルレッドアッセイを使用して細胞生存率を評価した。0.4%(水中m/v)のニュートラルレッド溶液を、細胞培養培地で希釈して、50μg/mLの作業濃度を得た。ニュートラルレッド作業溶液を、37℃で3時間のインキュベーション時間にわたってプレート中に分配した。次いで、細胞をPBSですすぎ、酢酸-エタノール(エタノール50.6%、水48.4%、及び酢酸1%)の溶液で溶解させた。均質化後、蛍光シグナルを、Tecan(Mannedorf,Switzerland)製のSparkマイクロプレートリーダーでスキャンした(λexc=540nm、λem=600nm)。細胞生存率を、対照の細胞の生存率(100%生存率としての対照の細胞の蛍光)と比較して計算した。
【0166】
P2X7受容体活性化:YO-PRO-1(登録商標)アッセイ
P2X7細胞死受容体活性化を、YO-PRO-1(登録商標)アッセイを用いて評価した(Rat et al.J Biol Methods.2017 Jan 20;4(1):e64)。YO-PRO-1(登録商標)プローブは、P2X7受容体活性化誘導性ポア開口後にのみ細胞内に入り、DNAに結合して蛍光を発する。1mMのYO-PRO-1ストック溶液を、使用直前にPBSで1/500に希釈し、マイクロプレートのウェルに分配した。室温で10分間インキュベートした後、蛍光シグナルをSparkサイトフルオロメーターで読み取った(λex=491nm、λem=509nm)。
【0167】
カスパーゼ1活性:カスパーゼ-Glo(登録商標)1インフラマソームアッセイ
Caspase-Glo(登録商標)11インフラマソームアッセイキットを使用して、カスパーゼ1の活性を評価した。アッセイは、製造業者の指示に従って行った。発光をSparkマイクロプレートリーダーで定量化した。
【0168】
結果の活用及び統計分析
結果を、対照の細胞と比較した割合又は倍率変化で表し、少なくとも3回の独立した実験の平均±平均の標準誤差として提示する。
【0169】
GraphPad Prism 8ソフトウェア(GraphPad Software,La Jolla,CA)を用いて、統計分析を行った。一元配置分散分析(one-way ANOVA)、続いてダネット検定(Dunnett’s test)を、5%に設定したリスクで実施した。有意性の閾値は、対照の細胞と比較して、****p<0.0001、***p<0.001、**p<0.01、及びp<0.05であった。
【0170】
結果
JEG-3細胞の生存率
本発明者らは、ニュートラルレッドアッセイを使用して、EDCとともにインキュベーションした後の、JEG-Tox細胞生存率を調査した。30%以上の細胞生存率の損失を誘導する任意の濃度を、細胞毒性とみなした(ISO、2009)。
【0171】
細胞生存率の損失は、最大20μMのビスフェノールA(図6)でも、最大50μMの4-tert-アミルフェノール(図6C)でも、72時間後には観察されなかった。プロピルパラベンは、100μMで、細胞生存率をわずかに低下させた(87%、図6F)。
【0172】
15μMのジエチルスチルベストロール及び10μMのトリクロザンは、それぞれ、40%及び60%まで生存率を低下させた(図6B及び図6E)。50μMで、3-ベンジリデンカンファー、ジブチルフタレート、ベンジルブチルフタレート、及びDEHPは、細胞生存率をそれぞれ70%、70%、55%、40%及び25%に、有意に低下させた(図6D図6J図6H図6G、及び図6I)。細胞毒性濃度は、その後のアッセイからは排除した。
【0173】
P2X7受容体の活性化
P2X7受容体の活性化を反映するP2X7細孔開口を、蛍光YO-PRO-1アッセイを用いて評価した。P2X7受容体は、1つを除いて、試験したEDCの全てによって有意に活性化された。
【0174】
ビスフェノールA、DEHP、及びトリクロサンは、ごくわずかな倍率変化を誘導した薬剤であった(それぞれ、対照と比較して、図7Aにおいて20μMで1.21倍、図2Iにおいて10μMで1.16倍、及び図7Eにおいて1μMで1.13倍)。
【0175】
ジエチルスチルベストロール、4-tert-アミルフェノール、ブチルベンジルフタレート、及び3-ベンジリデンカンファーは、中程度の倍率変化を誘導した(図2Bにおいて7.5μMで1.48倍、図7Cにおいて50μMで1.36倍、図7Gにおいて10μMで1.36倍、図7Jにおいて10μMで1.50倍)。
【0176】
プロピルパラベンは、ジブチルフタレート(10μMでx1.6、図7H)とともに、最も強力な活性化因子であった(100μMで1.69倍、図7F)。
【0177】
カスパーゼ-1活性
生物発光Caspase-Glo(登録商標)1アッセイを使用して、カスパーゼ-1活性を定量化した。
【0178】
最も高い濃度のビスフェノール-A、ジエチルスチルベストロール、4-tert-アミルフェノール、及びプロピルパラベンのみが、対照と比較してカスパーゼ-1を有意に活性化した(それぞれ、対照と比較して、1.64倍、1.84倍、1.5倍、5.1倍及び2.7倍、図8A図8C及び図8F)。
【0179】
トリクロサン、ブチルベンジルフタレート、ジブチルフタレート、DEHP、及び3-ベンジリデンカンファーは、カスパーゼ-1活性に影響を及ぼさなかった(図8E図8G図8J)。
【0180】
カスパーゼ-9活性
P2X7細胞死受容体はまた、主要な細胞死経路であるアポトーシスの開始を誘発することが知られている。P2X7受容体は、主にカルシウム依存性カスパーゼ-9媒介ミトコンドリア経路に関与するアポトーシスを刺激する。本発明者らは、カスパーゼ-9活性の評価を通してアポトーシスを研究した。
【0181】
10μMのベンジルブチルフタレート及びDEHPは、カスパーゼ-9活性の有意な倍率変化(対照と比較して、それぞれ10μMで1.28倍及び1.20倍、図9B及び図9D)を誘導した試験化学物質であった。
【0182】
以下表4に、本実施例で得られた結果をまとめる。
【0183】
【表4】
【0184】
考察
先行研究は、胎盤が、毒性化合物のための完全な標的器官として考慮されるべきであり、JEG-Toxのような胎盤細胞株が、毒性学的研究のための有用なツールを代表し得るということを明らかにした。P2X7受容体は、ヒト胎盤及びJEG-Toxによって発現される。
【0185】
この研究は、試験したEDCの大部分が、JEG-ToxにおけるP2X7受容体の活性化を誘導することを示した。試験した10個のEDCのうち9個(ビスフェノールA、ジエチルスチルベストロール、4-tert-アミルフェノール、トリクロザン、プロピルパラベン、ブチルベンジルフタレート、ジブチルフタレート、DEHP、及び3-ベンジリデンカンファー)は、P2X7受容体活性化を誘発した。これらのEDCは、ビスフェノールから、アルキルフェノール、パラベン、及びカンファー誘導体を介してフタレートまでの異なる化学ファミリーに属する。
【0186】
P2X7受容体を活性化するこれらのEDCのうち、4つ(ビスフェノールA、ジエチルスチルベストロール、4-tert-アミルフェノール、及びプロピルパラベン)はまた、カスパーゼ-1も活性化した。カスパーゼ-1は、インフラマソーム複合体の形成を介して成熟及び活性化される。その活性化は、IL-1β及びIL-18などの活性化炎症性サイトカインの産生だけでなく、原形質膜透過性及び前炎症性細胞内化合物の放出によって特徴付けられる細胞死ももたらし得る。これは、ピロトーシスとしても知られる細胞死のインフラマソーム-カスパーゼ-1依存性プログラムである。P2X7受容体活性化は、カスパーゼ-1活性化を必要とする細胞死変性をもたらす。
【0187】
この研究は、P2X7受容体を活性化する試験されたいくつかのEDCが、カスパーゼ-1活性に対して効果を有さないことも明らかにする。これは5つのEDC(トリクロサン、ブチルベンジルフタレート、ジブチルフタレート、DEHP、及び3-ベンジリデンカンファー)の場合である。これは、P2X7受容体が他の経路によって細胞変性を誘発することも知られているという事実によって説明することができる。
【0188】
P2X7細胞死受容体はまた、主要な細胞死経路であるアポトーシスの開始を誘発することが知られている。P2X7受容体は、主にカルシウム依存性カスパーゼ-9媒介ミトコンドリア経路に関与するアポトーシスを刺激する。本発明者らは、カスパーゼ-9活性の評価を通してアポトーシスを研究した。
【0189】
内分泌撹乱物質は、P2X7活性化によって、DNA損傷、遺伝毒性効果及び癌リスクを誘導し得る。
【0190】
図20に示すように、内分泌撹乱物質は、P2X7を活性化し、それ自体が、カスパーゼ-1の活性化を介してDNA損傷を誘導するインフラマソーム経路を活性化する。
【0191】
癌細胞成長及び腫瘍進行における役割も実証されている。
【0192】
ビスフェノールA、ジエチルスチルベストロール、4-tert-アミルフェノール、及びプロピルパラベンの曝露は、P2X7受容体及びカスパーゼ-1を活性化する。更に、これらのEDCは胎盤において見出され、妊娠中のそれらの曝露は胎盤機能不全に関連し、多くの有害な妊娠転帰をもたらし得る。更に、早産及び妊娠高血圧腎症は、P2X7受容体活性化によって引き起こされるということが示唆されている(Tsimis et al.、2017;Fodorら、2019年)。本発明者らの結果は、EDCが、P2X7受容体活性化及びインフラマソーム-カスパーゼ-1活性化を介して胎盤転帰を誘発し得ることを示唆している。
【0193】
P2X7活性化後に分泌される炎症促進性サイトカインには、IL-1b及びIL18だけでなく、IL-6及びIL-1aも含まれるが、インフラマソーム非依存的経路を介するものである。おそらく、最も良く特徴付けられているものの1つは、核因子NF-jB(TNFa、COX-2、及びIL-1b自体を含むいくつかの炎症性遺伝子の発現を制御する転写因子)の活性化である。
【0194】
ミクログリア、破骨細胞及び骨芽細胞におけるNF-BのP2X7R依存性活性化を実証する影響力のある研究は、
P2X7R炎症促進活性をNF-B核転座に関連付ける、増加しつつある報告によって更に確認された。
【0195】
結論
本実施例において、本発明者らは、内分泌撹乱物質が、P2X7変性受容体を活性化することによって胎盤の変化を誘導するということを見出した。したがって、P2X7受容体の活性化は、胎盤に対する内分泌撹乱物質の有害作用を評価するためのバイオマーカーである。実際、その活性化は、分子の化学構造及びクラスに関係なく現れ、どのようなホルモンでも後に妨害される。
【0196】
ヒト胎盤モデルは、内分泌撹乱物質の評価に十分に適している。これは、ホルモンの変化を評価し、急性(P2X7活性化)又は慢性の有害作用(遺伝毒性、アロマターゼcyp19障害及び生殖障害、代謝障害のリスクなど)をチェックするために使用される。したがって、内分泌撹乱物質の欧州の定義に、ひいてはホルモン評価と有害効果とを組み合わせなければならないそれらの識別に、可能な限り最良に応答することが可能になる。
【0197】
革新的な細胞モデル、ホルモン測定、及び内分泌撹乱物質の有害な影響の新しいバイオマーカーを組み合わせるこの新世代の試験(すなわち、hPLACENTOX-EDアッセイ)は、内分泌撹乱物質の有害な影響の評価及びこれらの欧州規制の枠組み内の任意の新しい物質によるこれらの影響の特定を現在必要とする新しい欧州規制(化学薬品-REACH、化粧品、医療機器)に可能な限り最良に対応することを可能にする。
【0198】
実施例3:ビスフェノールA及びビスフェノールFの分析
過去10年間にわたって、環境内分泌撹乱化学物質、特にビスフェノールA(BPA)へのヒトの曝露は、公衆衛生にとって支配的な脅威であると思われる。BPAは、19世紀後半に発見されたフェノール化合物である。それは、食品容器及び飲料、コンパクトディスク、個人保護機器、スポーツ機器及び医療機器のような広範囲の製品において使用され、全てのヒトに対して多くの曝露源をもたらすものである。
【0199】
胎盤に対するBPA効果は、それによって胎児プログラミングを変化させ得る。胎盤は、実際に妊娠中の重要な器官であり、内分泌器官として作用し、母親と胎児との間の界面である。Leclerc et al.は、非常に低濃度のBPAであっても、インビトロでヒト細胞性栄養膜細胞のアポトーシス、壊死、及び炎症を誘導することができるということを示した。
【0200】
BPAは、まずその生殖毒性特性のため、次にその内分泌撹乱特性のために、REACh法の下で非常に懸念の高い物質(SVHC)として挙げられている。カナダ(2008)、フランス(2010)、及びEU(2011)では、その使用は制限されており、哺乳瓶での使用は禁止されている。フランスでは、2015年1月以来、BPAはあらゆる食品又は飲料包装において禁止されている。BPA使用に対するこのような制限により、製造業者はビスフェノールFなどの代替ビスフェノールを使用するようになった。しかしながら、BPA構造類似体の使用が増加しているにもかかわらず、これらの分子の潜在的な胎盤及び胎児に対する毒性に関する情報は限られている。
【0201】
本発明者らの目的は、ヒト胎盤細胞株に対するビスフェノールAの毒性を、その代替物であるビスフェノールFのそれと比較して、胎盤及び妊娠への潜在的リスクを強調することであった。
【0202】
1.材料及び方法
化学薬品及び試薬
ビスフェノールAは、次式の化合物である:
【0203】
【化1】
【0204】
ビスフェノールFは、次式の化合物である:
【0205】
【化2】
【0206】
細胞培養試薬:最小必須培地(MEM)、ウシ胎児血清(FBS)、2mMのグルタミン、100U/mLのペニシリン、及び100μg/mLのストレプトマイシン、0.05%のトリプシン-EDTA、及びリン酸緩衝生理食塩水(PBS)は、Gibco(Paisley,UK)によって提供され、フラスコ及びマイクロプレートなどの細胞培養材料は、Corning(Schiphol-Rijk,The Netherlands)によって提供された。YO-PRO-1(登録商標)プローブは、ThermoFisher Scientific(Waltham,Massachusetts,USA)から入手し、Caspase-Glo(登録商標)1インフラマソームアッセイ及びCaspase-Glo(登録商標)9アッセイは、Promega(Madison,WI,USA)から入手した。全ての化学物質は、Sigma-Aldrich(Saint Quentin Fallavier,France)から購入した。
【0207】
ビスフェノールA及びビスフェノールFをジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解させた。ストック溶液は、-20℃で保存し、作業溶液は、培養培地で1/1000希釈した後に得た。細胞上でのDMSOの最終濃度は0.1%以下であった。
【0208】
JEG-3細胞培養物
ヒト胎盤癌腫に由来するJEG-3ヒト栄養膜細胞株は、アメリカ合衆国培養細胞系統保存機関から入手した(ATCC HTB-36)。細胞を、75cmのポリスチレンフラスコ中、10%のウシ胎児血清(FBS)、1%のL-グルタミン、0.5%のペニシリン及びストレプトマイシンを補充した最小必須培地中で培養した。細胞培養物は、細胞培養インキュベーター(37℃、飽和湿度、5%のCO2濃度)内に維持した。JEG-3細胞がサブコンフルエントに達したとき、それらをトリプシン-EDTAを用いて剥離し、計数した。細胞懸濁液を希釈し、96ウェルマイクロプレート中に80,000細胞数/mLの細胞密度で、24ウェルマイクロプレート中に160,000細胞数/mLで、又は6ウェルマイクロプレート中に120,000細胞数/mLで播種し、次いで37℃で24時間維持した。JEG-Toxモデルを以前に説明したOlivier et al.に従って、細胞をEDCとともにインキュベートした。
【0209】
細胞生存率:ニュートラルレッドアッセイ
ニュートラルレッドアッセイを使用して細胞生存率を評価した。0.4%(水中m/v)のニュートラルレッド溶液を、細胞培養培地で希釈して、50μg/mLの作業濃度を得た。ニュートラルレッド作業溶液を、37℃で3時間のインキュベーション時間にわたってプレート中に分配した。次いで、細胞をPBSですすぎ、酢酸-エタノール(エタノール50.6%、水48.4%、及び酢酸1%)の溶液で溶解させた。均質化後、蛍光シグナルを、Tecan(Mannedorf,Switzerland)製のSparkマイクロプレートリーダーでスキャンした(λexc=540nm、λem=600nm)。細胞生存率を、対照の細胞のそれ(100%生存率としての対照の細胞の蛍光)と比較して計算した。
【0210】
P2X7受容体活性化:YO-PRO-1(登録商標)アッセイ
P2X7細胞死受容体活性化を、YO-PRO-1(登録商標)アッセイ(Rat et al.、2017)を使用して評価した。YO-PRO-1(登録商標)プローブは、P2X7受容体活性化誘導性ポア開口後にのみ細胞内に入り、DNAに結合して蛍光を発する。1mMのYO-PRO-1ストック溶液を、使用直前にPBSで1/500に希釈し、マイクロプレートのウェルに分配した。室温で10分間インキュベートした後、蛍光シグナルをSparkサイトフルオロメーターで読み取った(λex=485nm、λem=531nm)。
【0211】
カスパーゼ1活性:カスパーゼ-Glo(登録商標)1インフラマソームアッセイ
Caspase-Glo(登録商標)1インフラマソームアッセイキットを使用して、カスパーゼ1の活性を評価した。アッセイは、製造業者の指示に従って行った。発光をSparkマイクロプレートリーダーで定量化した。
【0212】
カスパーゼ9活性:Caspase-Glo(登録商標)アッセイ
カスパーゼ9活性を、Caspase-Glo(登録商標)9アッセイキットを使用して評価した。アッセイは、製造業者の指示に従って行った。発光をSparkマイクロプレートリーダーで定量化した。
【0213】
活性酸素種(ROS)産生:H2DCF-DAアッセイ
細胞内ROSを、2’,7’-ジクロロジヒドロフルオレセインジアセテート(H2DCF-DA、Life Technologies製)を使用して測定した。これは、細胞エステラーゼによって2’,7’-ジクロロジヒドロフルオレセインに加水分解され、ROSによって高蛍光性2’,7’-ジクロロフルオレセインに酸化される。H2DCF-DAの10μM溶液をウェルに分配した。37℃で20分間のインキュベーション期間後、Sparkマイクロプレートリーダーを使用して、蛍光シグナルを読み取った(λex=485nm、λem=535nm)。
【0214】
細胞遊走アッセイ:
JEG-Tox細胞を、24ウェルマイクロプレートに160000細胞数/mLで、24時間かけて播種した。物理的細胞排除は、細胞播種前に培養表面上にインサート(Ibidi)を置くことによって作製される。インサートを除去し(0日目)、細胞をビスフェノールとともに24時間インキュベートした(1日目)。創傷表面を、任意単位での定量化を可能にするImage Jソフトウェアによって分析する。1日目に観察された創傷面積に対する0日目に観察された創傷面積の比は、細胞遊走因子に対応する。
【0215】
結果の活用及び統計分析
結果を、対照の細胞と比較した割合又は倍率変化で表し、少なくとも3回の独立した実験の平均±平均の標準誤差として提示する。
【0216】
GraphPad Prism 8ソフトウェア(GraphPad Software,La Jolla,CA)を用いて、統計分析を行った。一元配置分散分析(one-way ANOVA)、続いてダネット検定(Dunnett’s test)を、5%に設定したリスクで実施した。有意性の閾値は、対照の細胞と比較して、****p<0.0001、***p<0.001、**p<0.01、及びp<0.05であった。
【0217】
2.結果
本発明者らは、ニュートラルレッドアッセイを使用して、EDCとともにインキュベーションした後の、JEG-Tox細胞生存率を調査した。30%以上の細胞生存率の損失を誘導する任意の濃度を、細胞毒性とみなした(ISO、2009)。
【0218】
100μMのBPA及びBPFは、細胞生存率をそれぞれ18%及び64%に低下させた(図10及び図11)。
【0219】
P2X7受容体の活性化を反映するP2X7細孔開口を、蛍光YO-PRO-1アッセイを用いて評価した。P2X7受容体は、試験した2種のビスフェノールによって有意に活性化された。BPFは最も強力な活性化因子であった(対照と比較して、25μMで1.24倍、50μMでは、1.46倍。図13)。BPAは、中程度の倍率変化を誘導した(25μMで1.26倍、50μMで1.34倍、図12)。
【0220】
生物発光Caspase-Glo(登録商標)1アッセイ及びカスパーゼ-9アッセイを使用して、それぞれ、カスパーゼ-1の活性及びカスパーゼ-9の活性を定量化した。
【0221】
試験した全ての濃度のBPFは、対照と比較して、カスパーゼ-1を有意に活性化した(それぞれ25μM及び50μMで、1.60倍及び2.61倍、図15)。同様の結果が、カスパーゼ-9の、25μM及び50μMのBPFについて得られ、これらは、カスパーゼ-9を有意に活性化した(それぞれ、1.47倍及び1.67倍、図17)。最高濃度のBPAのみが、カスパーゼ-1を有意に活性化し(50μMで1.57倍、図14)及びカスパーゼ-9を有意に活性化した(1.28倍、図16)。
【0222】
酸化ストレスを反映するROS産生を、蛍光H2DCF-DAアッセイを使用して評価した。BPFのみが酸化ストレスを誘導したが、有意なROS産生が誘導された(25μM及び50μMで2.5倍、図18)。対照的に、BPAはROS産生に影響を及ぼさなかった(図17)。
【0223】
考察及び結論
本実施例において、本発明者らは、P2X7受容体の活性を測定することによって、本発明による細胞培養物、すなわち、少量の血清(2.5%)を含有する培地中で培養されたJEG-3細胞が、ビスフェノールAは、欧州連合の定義による内分泌撹乱物質であることを確認できるということを実証した。更に、本発明者らは、ビスフェノールAに非常に類似した構造を有する化合物、すなわちビスフェノールFも、欧州連合の定義による内分泌撹乱物質に相当するということも特定した。
【0224】
従って、ビスフェノールAは、化合物が内分泌撹乱物質であるかどうかを特定するための、血清含有培地中で培養されたJEG-3細胞を含有するキットにおいて、陽性対照として使用することができる。
【0225】
内分泌撹乱物質であることが確認された化合物の長期効果を評価するために、カスパーゼ-1及びカスパーゼ-9の活性、ROS産生、DNA損傷検出、並びに多くの他の更なる試験を行うことができる。
【0226】
本発明は上の説明に限定されず、当業者は本発明の追加の実施形態を推論することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
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図19
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【国際調査報告】