(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-09
(54)【発明の名称】スリップリングシールアセンブリを監視するための方法及びスリップリングシールアセンブリ
(51)【国際特許分類】
F16J 15/34 20060101AFI20231226BHJP
【FI】
F16J15/34 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023537713
(86)(22)【出願日】2021-12-07
(85)【翻訳文提出日】2023-08-01
(86)【国際出願番号】 EP2021084502
(87)【国際公開番号】W WO2022135898
(87)【国際公開日】2022-06-30
(31)【優先権主張番号】102020134365.5
(32)【優先日】2020-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510151348
【氏名又は名称】イーグルブルクマン ジャーマニー ゲセルシャフト ミト ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディトゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100128358
【氏名又は名称】木戸 良彦
(74)【代理人】
【識別番号】100086210
【氏名又は名称】木戸 一彦
(72)【発明者】
【氏名】ヴェルデッカー,フェルディナンド
(72)【発明者】
【氏名】ミュラー,ミカエル
(72)【発明者】
【氏名】クルッシュ,ディーター
【テーマコード(参考)】
3J041
【Fターム(参考)】
3J041DA20
(57)【要約】
本発明は、ノミナルデータ(17)として定義される、個別のメカニカルシール構造(1)の動作データを、試験台(11)上で取得するステップと、個別のメカニカルシール構造(1)を封止システム(12)内へと組み込むステップと、実データ(18)として定義される動作データを、封止システム(12)内に組み込まれた状態にある個別のメカニカルシール構造(1)から取得するステップと、ノミナルデータ(17)と実データ(18)とを比較するステップとを備える、メカニカルシール構造(1)を監視する方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノミナルデータ(17)として定義される、個別のメカニカルシール構造(1)の動作データを、試験台(11)上で取得するステップと、
前記個別のメカニカルシール構造(1)を封止システム(12)内へと取り付けるステップと、
実データ(18)として定義される、前記封止システム(12)内に設置された状態にある前記個別のメカニカルシール構造(1)の動作データを取得するステップと、
前記ノミナルデータ(17)と前記実データ(18)とを比較するステップとを備える、前記メカニカルシール構造(1)を監視する方法。
【請求項2】
所定の閾値を超える、前記ノミナルデータ(17)と前記実データ(18)との間の任意の偏差を検出して、警告を発行し且つ/又は対策の開始を実行する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記実データ(18)を、前記封止システム(12)内に組み込まれた前記メカニカルシール構造(1)のデジタル画像であるデジタルツイン(16)において使用し、前記メカニカルシール構造(1)のシミュレーションを前記デジタルツイン(16)上で実行する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記デジタルツイン(16)において生成されたシミュレーションデータを前記ノミナルデータ(17)と比較する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記デジタルツイン(16)でのシミュレーションにおいて、監視される前記個別のメカニカルシール構造(1)と同じ製品系統に属する他のメカニカルシール構造の更に追加のノミナルデータ及び/又は実データを使用する、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
前記試験台(11)上で前記個別のメカニカルシール構造(1)の前記動作データを取得するステップにおいて、前記ノミナルデータ(17)を、前記試験台(11)上での様々な動作状態について選択的にのみ取得し、選択的に取得された前記個別の動作データ間の範囲における中間データを、補間を用いて求めて、完全なノミナルデータセットを生成する、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記メカニカルシール構造(1)の漏出値を、前記デジタルツイン(16)におけるシミュレーション中に求めて、前記封止システム(12)における前記個別のメカニカルシール構造(1)を制御するためのコントローラ変数として使用する、請求項3~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記メカニカルシール構造(1)の監視をリアルタイムに実行し且つ/又は経時的に取得された全てのデータを使用して傾向分析を実行する、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記ノミナルデータ(17)と前記実データ(18)との比較の比較結果を機械コントローラ(23)に供給し、前記機械コントローラ(23)が、前記比較結果に基づいて、制御指令(252)を求めて機械(121)に送信するように構成される、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記機械コントローラ(23)が、更に、前記比較結果に基づいて、制御指令(251)を求めて、前記メカニカルシール(2)にバリア流体(21)を供給する供給システム(20)に送信するように構成される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記供給システム(20)の測定データ(24)を前記機械コントローラ(23)に伝達し、前記機械コントローラ(23)が、前記測定データ(24)に基づいて制御指令を前記機械(121)及び/又は前記供給システム(20)に発行するように構成される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
それらの摺動面同士の間に封止間隙(5)を画成する回転摺動リング(3)及び固定摺動リング(4)と、封止システム(12)におけるメカニカルシール構造(1)の様々な動作データ及び/又は環境データを実データ(18)として検出するように構成される複数のセンサ(10)とを有するメカニカルシール(2)と、
試験台上で記録される前記メカニカルシール構造(1)の個別の動作データをノミナルデータ(17)として記憶するメモリ(14)を含むコンピュータ部(13)とを備え、
前記コンピュータ部(13)が、前記ノミナルデータ(17)と前記実データ(18)との比較を実行するように構成される、メカニカルシール構造(1)。
【請求項13】
前記コンピュータ部(13)が、前記メカニカルシール構造(1)のデジタルツイン(16)を更に備え、前記デジタルツイン(16)が、前記メカニカルシール構造(1)の前記実データ(18)に基づいて前記メカニカルシール構造(1)の動作をシミュレーションするように構成される、請求項12に記載のメカニカルシール構造(1)。
【請求項14】
前記試験台(11)上で記録される前記メカニカルシール構造(1)の前記ノミナルデータ(17)が複数の個別の制御点であり、前記コンピュータ部(13)が、隣接する制御点間において補間を実行して、前記試験台上で記録される動作データのそれぞれのノミナルデータセットを生成するように構成され且つ/又は
前記コンピュータ部(13)が、前記デジタルツイン(16)のシミュレーションデータと前記ノミナルデータ(17)及び/又は前記実データ(18)との比較を実行するように構成され且つ/又は動作指令(19)を前記封止システム(12)における前記メカニカルシール構造(1)に発行するように構成される、請求項12又は13に記載のメカニカルシール構造(1)。
【請求項15】
請求項12~14のいずれか1項に記載のメカニカルシール構造と、
機械(121)及び/又はバリア流体(21)をメカニカルシール(2)に供給するための供給システム(20)に制御指令を発行するように構成される機械コントローラ(23)とを備える、特にコンプレッサである機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、個別のメカニカルシール構造の試験台データ及び動作データに基づいてメカニカルシール構造を監視する方法並びに方法を実行するためのコンピュータ部を含むメカニカルシール構造及びそうしたメカニカルシール構造を有する機械、特にコンプレッサに関する。
【背景技術】
【0002】
先行技術から、様々な設計のメカニカルシール構造が知られる。メカニカルシール構造は、多種多様な機械及び装置において重要である封止機能を実行すること、特に、環境に不可欠な媒体を封止することを目的とする。このため、メカニカルシール構造の耐用年数には確実な封止が必須となる。メカニカルシール構造を監視すること、そして特に、メカニカルシール構造のいかなる不具合も早期に検出して、例えば保守間隔の短縮等、必要に応じて適切な対策を講じることが可能であるべきである。例えば、温度センサをメカニカルシール構造の摺動リングの可能な限り近くに設置して、メカニカルシール部品の温度を監視することが知られる。臨界温度に到達した場合、メカニカルシール構造に技術上の問題がありうることが示唆される。しかしながら、この点におけるいくつかの問題は、メカニカルシール構造の多くが量産部品ではなく、形状的(例えば、摺動リングの直径)にも、あらゆる使用条件(例えば、圧力、温度、多種多様な媒体)についても、その両方に関して、それぞれの用途のために個別に設計されるという事実に関係する。このため、メカニカルシール構造の一般的な温度監視を単独で実行することは、メカニカルシール構造の状態を有意義に評価するには十分でない場合がある。
【発明の概要】
【0003】
このため、本発明は、メカニカルシール構造を監視する方法並びにメカニカルシール構造及びメカニカルシール構造の改善された監視を可能としながら簡素な設計で安価に製造される機械を提供することを目的とする。
【0004】
この目的は、請求項1の特徴を有する方法、請求項12の特徴を有するメカニカルシール構造及び請求項15の特徴を有する機械を提供することによって達成されよう。それぞれの従属請求項が、本発明の更なる好適な実施形態を示す。
【0005】
本発明に係る、請求項1の特徴を有する、メカニカルシール構造を監視するための方法は、個別のメカニカルシール構造を厳密且つ個別に監視することが可能であるという利点を有する。これにより、それぞれのメカニカルシール構造について個別に記録されるデータの有益な値が大きく向上する。本発明によれば、このように、各個別のメカニカルシール構造の監視に個別のデータを使用する。本発明によれば、これは、封止システムにおける実際の動作の前にメカニカルシール構造を試験台上で個別に動作させ、これによって、ノミナルデータ(nominal data)として定義される試験台データを記録することで、達成されよう。このように、個別のメカニカルシール構造の個別のノミナルデータを試験台上で生成できる。続いて、こうしてテストされたメカニカルシール構造を封止システム内に設置し、この設置された個別のメカニカルシール構造の、実データとして定義される動作データを、設置状態の封止システムにおいて記録する。そして、ノミナルデータと実データとのノミナル‐実際間の比較を実行して、メカニカルシール構造を監視する。このように、全てのメカニカルシール構造について特定の個別のデータを得ることが可能であるため、個別のメカニカルシール構造の任意の潜在的不具合又は問題を示す個別の閾値及び/又は他のデータを定義することが可能である。
【0006】
個別のメカニカルシール構造についての試験台データ及び/又は動作データには、例えば、温度、圧力、漏出、速度、隙間高さ、振動及び/又は構造伝搬騒音が含まれてもよい。また、封止される媒体の温度や周辺温度、封止される媒体の圧力、封止される媒体の種類等といった環境データも、監視に含まれてもよい。
【0007】
このように、本発明に係る方法を用いて、メカニカルシール構造の監視工程の特定の評価を、最も高い精度で極めて短い時間内に実行することができる。特に、監視工程は極めて複雑でない計算であり、長い計算時間なくリアルタイム監視が可能となるようになっている。特に、本メカニカルシール構造のどの動作点においても、ノミナルと実際とのデータの比較を実行することができる。
【0008】
好適には、本発明に係る方法は、所定の閾値を超える任意の偏差がノミナルデータと実データとの間で検出された場合に、対策を講じること及び/又は警告を発行することを目的とする。例えば対策としては、例えばバリア流体の流量を増加させることで、メカニカルシール構造の回転速度を減少させたり、更なる冷却を実行したりできる。また、媒体の圧力及び/又は供給媒体の圧力も変更できる。
【0009】
より好適には、設置された個別のメカニカルシール構造のデジタルツインにおける実データを用いて、個別のメカニカルシール構造のシミュレーションをデジタルツインにおいて実行する。デジタルツインは、監視される現実のメカニカルシール構造のデジタル画像を形成する。デジタルツインは、数学的計算方法並びにメカニカルシール構造の個別の形状的及び物理的な変数に基づくものであり、取得した個別の動作データ及び/若しくは取得した個別の環境データ並びに/又は過去からの動作データ及び/若しくは環境データに基づいて、シミュレーションを実行する。
【0010】
好適には、デジタルツインにおいて生成されたシミュレーションデータを、試験台のノミナルデータと比較する。
【0011】
より好適には、監視されるメカニカルシール構造と同じ系統のメカニカルシール構造の、更なる個別のノミナルデータ及び/又は実データを、デジタルツインにおけるシミュレーションに用いる。これにより、監視用のデータプールを大きく拡大することが可能となるため、監視に関してよりよい結果が達成される。
【0012】
好適には、個別のメカニカルシール構造の動作データを試験台上で記録する場合、ノミナルデータを、メカニカルシール構造の様々な動作状態について選択的にのみ記録する。そして、選択的に取得された動作状態間の範囲における中間データを、補間を用いて求める。このように、完全なノミナルデータセットのノミナルデータを、試験台上で短い測定時間内に得ることができる。そして、個別のメカニカルシール構造の設置された状態において、メカニカルシール構造の任意の所望の動作点での監視が可能となるであろう。
【0013】
最も好適には、デジタルツインにおける個別のメカニカルシール構造のシミュレーション中に、メカニカルシール構造の漏出値を求め、封止システムにおいてメカニカルシール構造を制御するためのコントローラ変数として用いる。メカニカルシール構造の個別の漏出が所定の漏出閾値を上回ると、これは、例えば潜在的な問題の示唆となる。個別の漏出閾値は、各メカニカルシール構造に対して個別に求められる。
【0014】
より好適には、試験台上で記録されるノミナルデータを、過去からの実データを用いて経時的に調整する。これにより、ノミナルと実データとの比較によって、ある程度のメカニカルシール構造の経時的な摩耗を考察することも可能となる。
【0015】
好適には、個別のメカニカルシールの記録された動作データを、温度、圧力、速度、メカニカルシールに亘る漏出、メカニカルシールの間隙高さ、メカニカルシールの摺動リングにおける振動、構造伝搬騒音、表面雑音、摺動リングの応力及び/若しくは変形、摺動リングの摺動面における接触の発生並びに/又はメカニカルシールの摺動リングにおける摩耗に関するデータから選択する。
【0016】
好適には、デジタルツインは学習システムとして構成され、個別のメカニカルシール構造の動作における経験に基づき且つ/又は同じ設計の他のメカニカルシール構造の動作における経験に更に基づいて、デジタルツインを継続的に適応させ且つ更新するようになっている。
【0017】
より好適には、コンピュータ部は、ノミナルデータと実データとの比較の比較結果を機械制御システムに供給する。機械コントローラが、機械、特にコンプレッサを制御するように構成される。機械コントローラは、対象/実際の比較の比較結果に基づいて、制御指令を機械に送信する。これにより、例えば、回転摺動リングを含むメカニカルシール構造が機械の軸上に配置されていることから、機械の回転速度を調整でき、それによってメカニカルシール構造の回転速度が自動的に調整される。この結果、例えばメカニカルシール構造が封止する製品領域における圧力を変更でき、それに応じてメカニカルシール構造の封止パラメータも変更されうるようになっている。例えば、機械速度を減少させる場合、メカニカルシール構造における速度を同時に減少させることによって、メカニカルシール構造へと入力される熱を減少させることができる。
【0018】
本発明の他の好適な実施形態によれば、メカニカルシール構造は、バリア流体をメカニカルシールに供給する供給システムを備える。ここでは、機械制御システムは、試験台からのノミナルデータとメカニカルシール構造の実データとの比較結果に基づいて、制御指令を供給システムに発行するように構成される。例えば、供給システムへの制御指令は、バリア流体の温度、バリア流体の圧力及び/又はバリア流体の体積流量を変更しうるように提供することができる。供給システムは、好適には、加熱装置及び/又は冷却装置並びにそれ自体の循環装置、例えばそれ自体のコンプレッサを備え、バリア流体の圧力及び/又は質量流量を変更できるようになっている。
【0019】
最も好適には、機械制御システムを、供給システム及び/又は機械に基づいて制御指令を発行するように構成することで、供給システムから得られた測定データを機械制御システムに送信する。例えば、メカニカルシールに供給されたバリア流体の状態及び/又はメカニカルシールから戻ったバリア流体の状態に関する測定データを記録して、機械制御システムに送信することができる。測定データは、例えば、バリア流体の温度、バリア流体の圧力、バリア流体の質量流量及び再循環バリア流体の汚染を含んでもよい。また、本発明は、それらの摺動面同士の間に封止間隙を画成する回転摺動リングと固定摺動リングとを有するメカニカルシールを備えるメカニカルシール構造に関する。この点に関して、メカニカルシール構造は、メカニカルシールの様々な動作データ及び/又は環境データを感知するための複数のセンサを備える。また、メカニカルシール構造は、コンピュータ部に送信される個別のノミナルデータと個別の実データとの比較を実行するように構成されるコンピュータ部を備える。
【0020】
好適には、コンピュータ部は、個別のメカニカルシール構造のデジタルツインを備え、コンピュータ部は、取得された動作データ及び/又は環境データ並びにメカニカルシール構造の既存の個別のデータ及び/又は同じ設計のメカニカルシール構造のデータに基づいて、現実のメカニカルシール構造の動作をデジタルツイン上でシミュレーションするように構成される。これにより、メカニカルシール構造をリアルタイムで正確に監視することが可能となりうる。
【0021】
より好適には、コンピュータ部は、複数の個別の制御点において試験台上でノミナルデータを取得し、隣接する制御点間においてデータの補間を実行してノミナルデータの継続的なデータセットを求めるように構成される。これにより、試験台上でのノミナルデータの取得を可能な限り短い時間で実行し、また、コンピュータ部に必要な演算能力を減らすことも可能となる。
【0022】
より好適には、コンピュータ部は、監視されるメカニカルシール構造と同じ製品系統に由来するメカニカルシール構造の、更なる個別のノミナルデータ及び/又は実データを、シミュレーションに用いるように構成される。これにより、監視の精度を向上させることが可能となり、特に個別のメカニカルシールの漏出値の監視に基づいて、特に、今後考えられるメカニカルシール構造のどの不具合に関してもステートメントを作ることが可能となる。
【0023】
好適には、本発明に係るメカニカルシール構造は、気体潤滑されたメカニカルシール構造であり、より好適にはコンプレッサにおいて用いられる。
【0024】
また、本発明は、本発明に係るメカニカルシール構造と、機械及び/又はメカニカルシールの供給システムを制御するように構成される機械コントローラとを備える機械、特にコンプレッサに関する。最も好適には、ここでは、機械制御システムは、供給システムの測定データ、特に圧力、温度、供給システムのバリア流体の質量流量及び/又は再循環バリア流体の汚染に基づいて供給システムを処理し、適切な制御指令を発行するように構成される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
以下、本発明の好適な実施形態例が、添付の図面を参照して詳細に説明されよう。
【
図1】本発明の第1の好適な実施形態例に係る、処理を実行する方法及びメカニカルシール構造を示す、概略描写。
【
図2】本発明の第2の好適な実施形態例に係る、方法及びメカニカルシール構造並びに機械を示す、概略描写。
【発明を実施するための形態】
【0026】
(実施例1)
ここで、
図1を参照し、メカニカルシール構造1を監視する方法及び本発明に係る方法を用いて監視することができるメカニカルシール構造1を、第1の実施形態例に照らして以下に詳細に説明する。
図1は、メカニカルシール構造1を監視する方法をどのように実行するかと共に、メカニカルシール構造1の詳細を概略的に示す。
【0027】
メカニカルシール構造1は、固定摺動リング4上に配置された回転摺動リング3を含むメカニカルシール2を備える。封止間隙5が、回転及び固定摺動リング3,4の2つの封止面の間に画成される。
【0028】
メカニカルシール2は、軸6上において製品領域8を大気領域9から封止する。参照番号7が、固定摺動リング4が配置されるメカニカルシール構造1の筐体を指す。
【0029】
また、メカニカルシール構造1には、
図1に概略的に示すいくつかのセンサ10も組み込まれる。センサ10は、筐体の中又は上に配置することができ、固定及び/又は回転摺動リング3,4上に配置することもできる。また、センサは、軸6上に位置付けることもできる。
【0030】
センサ10は、例えば温度、圧力、速度、メカニカルシールの漏出、封止間隙5における間隙高さ、摺動リング3,4における振動、構造伝搬騒音、表面雑音、摺動リング3,4の応力及び/若しくは変形、摺動リングの摺動面における接触並びに/又は摺動リング3,4における摩耗といった様々な動作パラメータを検出し、これらを動作データとして定義するように構成される。
【0031】
参照番号11が、通常メカニカルシール構造の製造業者に置かれる試験台を指す。これによって、個別のメカニカルシール構造1を、その製造後に試験台上でテストし、センサ10及び、必要な際は試験台に配置された更なるセンサによって、いくつかの異なる動作点で動作データを記録する。そして、この試験台11上で得られた動作データを、この個別のメカニカルシール構造1のノミナルデータとして定義する。
【0032】
ノミナルデータは、メモリ14内のコンピュータ部13に記憶される。また、コンピュータ部13は、いくつかの動作点で取得された動作データを処理するように構成され、測定された2つの動作点間での動作データの補間を実現できるようになっている。これは、取得された全ての動作パラメータに対して実行され、異なる動作パラメータに対する複数のノミナルデータセットをノミナル値として利用できるようになっている。
【0033】
コンピュータ部13は、コンパレータ15とデジタルツイン16とを更に備える。デジタルツイン16は、適用時に個別のメカニカルシール1が後から設置される封止システム12における個別のメカニカルシール構造1のデジタル画像である。
【0034】
そして、試験台11上で動作データを記録した後、個別のメカニカルシール構造1を封止システム12内、特にコンプレッサ内に設置する。
【0035】
そして、封止システム12における動作中、実データ18をメカニカルシール1の様々な動作点で記録し、コンピュータ部13に送信する。このように、動作中に、顧客の現場にある封止システム12内で求められた動作データによって、実データ18を形成する。
【0036】
そして、コンピュータ部13のコンパレータ15において、ノミナルデータ17と実データ18とを互いに比較する。また、ノミナルデータ17及び実データ18を、メカニカルシール構造1の動作をシミュレーションするデジタルツイン16に伝達する。
【0037】
また、コンピュータ部13は、動作指令19を封止システム12に発行し、必要に応じて、例えば冷却材ポンプ等の速度を増加させたり軸6の速度を減少させたりすることによって冷却を高めるなど、臨界動作状態を検出した場合の適切な対策を開始して、メカニカルシール2への大きな損傷を回避するように構成される。
【0038】
ここでは、デジタルツイン16は、好適には学習システムとして設計され、これによって、メカニカルシール構造1の動作時間が増加するのに伴い増加する実データを処理することができ、例えば、封止システム12におけるメカニカルシール構造1の様々な動作データを経時的に傾向分析することも可能となる。これにより、例えば、問題の発生を早期に検出することが可能となり、適切な対策を講じることができる。
【0039】
コンピュータ部13は、例えば、異なる直径を有したり、例えば異なる圧力及び/若しくは温度並びに/又は異なる媒体といった、異なる動作条件及び環境条件の下で使用されたりする、同じ設計の他のメカニカルシールからの外部データを更に使用することも可能であることに留意すべきである。
【0040】
このように、本発明は、ノミナル/実際の比較を用いて実行されるリアルタイムのシール監視を可能とし、これによって、メカニカルシール構造1の適当な動作が確実なものとなる。ここでは、メカニカルシールの試験台データと、シミュレーションデータと、更に実データとの間で比較を実行でき、必要な際に適切な方策を講じることができる。ほとんどの適用において、媒体が製品領域8から大気領域9内の大気へと逃げられるようになることを防止しなければならないことから、封止間隙5上でのメカニカルシール2の漏出を、好適には制御変数として用いる。封止システム12の適用エリアにおける、個別のメカニカルシール構造1の試験台データと、このメカニカルシール構造1の実データとの比較が可能となり、実データと、例えばメカニカルシール構造1の設計中に求められる理論上のデータとの比較が不可能であることから、更に正確で迅速なメカニカルシール構造1の監視を実現できる。また、デジタルツイン16からのシミュレーションデータを用いて更なる監視を実行することもできる。この場合、少ない計算量且つ極めて短い時間で監視を実行でき、必要な際に対策を素早く開始することもできるようになっている。
【0041】
(実施例2)
図2は、本発明の第2の実施形態例に係る、方法、メカニカルシール構造1及び封止システム12を有する機械121を示す。第1の実施形態例と同じ参照番号が、同等又は機能的に同等の部分を指す。明確性のため、試験台データ17(ノミナルデータ)をコンピュータ部13に送信する試験台11は
図2に示さないが、当然ながら存在する。
【0042】
この実施形態例では、メカニカルシール構造1は、バリア流体21をメカニカルシール2に供給する、メカニカルシール2用の供給システム20を更に備える。バリア流体の戻り流22が、メカニカルシール2から供給システム20に戻るように方向付けられる。典型的には、供給システムは、例えばバリア流体21を洗浄するため、バリア流体を加熱又は冷却するため、そしてバリア流体をメカニカルシール構造1に搬送するための搬送部といった、複数の装置を備える。
【0043】
また、第2の実施形態例では、制御データ252を生成し、例えばコンプレッサである機械121を制御するように構成される機械コントローラ23が設けられる。更に、機械コントローラ23は、制御データ251を供給システム20に供給して供給システムを制御するように構成される。これは、例えば、バリア流体の温度、バリア流体の圧力及び/又はバリア流体の質量流量を調整するのに用いることができる。
【0044】
図2から更に分かるように、コンピュータ部13は、動作指令及び/又は再送信データを機械121、特にメカニカルシール構造1に送信するのに加え、比較データを機械制御23に直接供給するように構成される。これは、矢印192によって
図2に示される。
【0045】
このように、コンピュータ部13内で実行されるノミナルデータ17と実データ18との比較の比較結果を、機械制御23に送信する。この点において、機械制御部23は、比較結果に基づいて制御指令252を機械121に送信するように構成される。本明細書では、特に、機械121の回転速度を制御することができる。メカニカルシール構造1が機械121と同じ軸6上に構成されることから、速度制御がメカニカルシール2にも直接影響する。また、機械制御23は、比較結果に基づいて制御指令251を供給システム20に送信するように構成される。このように、例えば、バリア流体21の温度、圧力及び/又は質量流量を供給システム20において調整することができる。
【0046】
図2から分かるように、供給システム20の供給回路から得られる測定データ24も機械制御23に供給される。こうした測定データは、例えばバリア流体の圧力、バリア流体の温度、バリア流体の質量流量及び/又はバリア流体の汚染度合いであってもよい。従って、機械コントローラ23は、制御データ251を供給システム20に直接送信して、メカニカルシール2の不具合を防止してもよい。また、好適には、特に機械の速度を制御するように、機械制御システム23が測定データ24に基づいて制御データ252を機械121に送信することで、機械121を制御することも可能である。
【0047】
典型的には、機械制御23及び供給システム20は、メカニカルシール構造1のユーザに配置される。しかしながら、
図2に概略的に示すように、比較結果をクラウド27、すなわち、メカニカルシール構造のユーザの動作領域外の領域に送信できることも想定可能である(矢印193)。そして、例えばコンピュータ261を手動で使用して機械コントローラへの制御指令195を生成できる機械操作者26が、クラウド27からデータを使用することができる。或いは、クラウド27からの比較結果を機械制御23に直接送信して(矢印194)、機械制御23内で処理することができる。
【0048】
他の点において、この実施形態例は先述の実施形態例に対応しており、本明細書に記載の説明を参照できるようになっている。
【0049】
本発明の前述された説明に加え、その補足的な開示のために、
図1及び
図2における本発明の図的表現を明示的に参照する。
【符号の説明】
【0050】
1 メカニカルシール構造
2 メカニカルシール
3 回転摺動リング
4 固定摺動リング
5 封止間隙
6 軸
7 筐体
8 製品領域
9 大気領域
10 センサ
11 試験台
12 封止システム
13 コンピュータ部
14 メモリ
15 コンパレータ
16 デジタルツイン
17 ノミナルデータ
18 実データ
19 動作指令/再送信データ
20 供給システム
21 バリア流体(供給)
22 バリア流体の戻り流
23 機械制御
24 測定データ
26 機械操作者
27 クラウド
121 機械/コンプレッサ
192 コンピュータ部13から機械制御23への比較結果の伝達
193 コンピュータ部13からクラウド27への比較結果の伝達
194 クラウド27から機械制御23への比較結果の伝達
195 機械制御23のために機械操作者によって入力された制御指令
251 供給システムへの制御データ
252 機械への制御データ
261 機械操作者のコンピュータ
【国際調査報告】