IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ポスコ カンパニー リミテッドの特許一覧

特表2024-500469強度と低温衝撃靭性に優れた極厚鋼板及びその製造方法
<>
  • 特表-強度と低温衝撃靭性に優れた極厚鋼板及びその製造方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-09
(54)【発明の名称】強度と低温衝撃靭性に優れた極厚鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20231226BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20231226BHJP
   C21D 8/02 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
C22C38/00 301A
C22C38/58
C21D8/02 B
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023538156
(86)(22)【出願日】2021-10-13
(85)【翻訳文提出日】2023-07-27
(86)【国際出願番号】 KR2021014121
(87)【国際公開番号】W WO2022139135
(87)【国際公開日】2022-06-30
(31)【優先権主張番号】10-2020-0179359
(32)【優先日】2020-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム, ウギョム
(72)【発明者】
【氏名】キム, サンホ
(72)【発明者】
【氏名】ベク, デウ
【テーマコード(参考)】
4K032
【Fターム(参考)】
4K032AA01
4K032AA04
4K032AA11
4K032AA16
4K032AA21
4K032AA22
4K032AA23
4K032AA27
4K032AA29
4K032AA31
4K032AA35
4K032BA01
4K032CA02
4K032CB01
4K032CB02
4K032CC03
4K032CC04
4K032CF03
(57)【要約】
【課題】圧延後に熱処理し、空冷するノーマライジング熱処理方法を適用する極厚鋼板において、優れた強度と低温靭性の両方を確保できる極厚鋼板を提供する。
【解決手段】
重量%で、C:0.06~0.1%、Si:0.3~0.5%、Mn:1.35~1.65%、Al:0.015~0.04%、Nb:0.015~0.04%、Cr:0.15~0.4%、Ti:0.005~0.02%、Ni:0.3~0.5%、N:0.002~0.008%、P:0.01%以下、S:0.003%以下を含み、残部がFe及びその他の不可避な不純物からなり、微細組織は面積分率で、平均結晶粒径が40μm以下のポリゴナルフェライト80%超過及び残部平均結晶粒径は、20μm以下のパーライトから構成されることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.06~0.1%、Si:0.3~0.5%、Mn:1.35~1.65%、Al:0.015~0.04%、Nb:0.015~0.04%、Cr:0.15~0.4%、Ti:0.005~0.02%、Ni:0.3~0.5%、N:0.002~0.008%、P:0.01%以下、S:0.003%以下を含み、残部がFe及びその他の不可避な不純物からなり、
微細組織は面積分率で、平均結晶粒径が40μm以下のポリゴナルフェライト80%超過及び残部平均結晶粒径は、20μm以下のパーライトから構成されることを特徴とする極厚鋼板。
【請求項2】
下記式(1)の値が3.6以上であることを特徴とする請求項1に記載の極厚鋼板。
(1)[Mn]+5([Ni]+[Cr])
(前記式(1)において、[Mn]、[Ni]、[Cr]は、各元素の重量%を意味する。)
【請求項3】
鋼板全体の厚さtは100~200mmであり、最表面から1/4tでの降伏強度が320MPa以上、-60~-40℃で衝撃靭性エネルギー値が200J以上を有することを特徴とする請求項1に記載の極厚鋼板。
【請求項4】
重量%で、C:0.06~0.1%、Si:0.3~0.5%、Mn:1.35~1.65%、Al:0.015~0.04%、Nb:0.015~0.04%、Cr:0.15~0.4%、Ti:0.005~0.02%、Ni:0.3~0.5%、N:0.002~0.008%、P:0.01以下、S:003%以下を含み、残部がFe及びその他の不可避な不純物からなるスラブを再加熱する段階と、
前記再加熱されたスラブを残圧下量が25~35%となるように70~120mmの圧下量で粗圧延した後、仕上げ圧延することを含む熱間圧延する段階と、
ノーマライジング熱処理する段階と、
空冷する段階とを含み、
鋼板全体の厚さtは、100~200mmであることを特徴とする極厚鋼板の製造方法。
【請求項5】
前記仕上げ圧延は、70~110mmの圧下量で行われることを特徴とする請求項4に記載の極厚鋼板の製造方法。
【請求項6】
前記粗圧延は、1000℃以上で行われることを特徴とする請求項4に記載の極厚鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記仕上げ圧延は、850~A3℃の温度で行われることを特徴とする請求項4に記載の極厚鋼板の製造方法。
【請求項8】
前記熱間圧延の仕上げ温度は、820~910℃であることを特徴とする請求項4に記載の極厚鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強度と低温衝撃靭性に優れた極厚鋼板及びその製造方法に係り、詳しくは、船舶、海洋構造物の各種フレーム、橋梁、建設などのインフラ産業用素材、風力下部構造用素材など多方面の産業に適用可能な強度と低温衝撃靭性に優れた極厚鋼板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ほとんどのインフラ産業、エネルギー産業などの特徴は、設置コストの最小化、設置環境の劣悪化などにより構造物が大型化し、次第に寒冷地、極地などに移動するものといえる。
【0003】
このような構造物の大型化、寒冷地化の変化に合わせて、あらゆる産業分野に適用される構造用鋼材のうち、100mm厚さ以上の極厚物鋼材の需要先が増加するものと予想され、低温衝撃靭性の安定的な確保が求められる。
【0004】
しかし、極厚物鋼材の金属学的な短所は、圧延量の低下、冷却の限界などによる高強度の具現が難しいことである。強度を具現するために合金成分を過剰に添加すると、原価上昇の問題だけでなく、靭性が急激に劣化する。劣化した靭性を補完するための低温圧延は、製品規格による限界があり、靭性に悪影響を及ぼす合金成分を除去することは強度低下の原因となる。
【0005】
極厚鋼板を製造する方法としては、一般圧延方法、熱加工制御(Thermo Mechanical Controlled Process,TMCP)圧延方法、圧延後に熱処理し、クエンチングする方法、及び圧延後に熱処理し、空冷するノーマライジング(normalizing)方法がある。
【0006】
一般圧延方法は、圧延温度の制御なしに圧延する方法で、主に衝撃靭性が要求されない一般鋼に適用するので、低温衝撃靭性が要求される鋼材に適用するには限界がある。
【0007】
熱加工制御圧延方法は、温度制御を通じて再結晶域圧延、未再結晶域圧延を行い、必要に応じて冷却を通じて強度及び衝撃靭性を確保する。しかし、極厚鋼板を製造するために圧延温度を合わせるための待ち時間が長くかかるため、深刻な生産性の低下を招くおそれがある。
【0008】
圧延後に熱処理し、クエンチングする方法は、重量%でC:0.12%以上の高炭素成分系を使用するので、靭性の低下がひどく、熱処理によるコスト的な問題がある。
【0009】
圧延後に熱処理し、空冷するノーマライジング(normalizing)方法は、比較的高いC含量でノーマライジング後の再熱処理を通じて結晶粒の微細化を確保するが、パーライトが多量に形成され衝撃靭性が低下するおそれがある。
【0010】
厚さ100mm以上の極厚鋼板において、これらの問題点を解決し、優れた強度と低温靭性の両方を確保できる極厚物材に対する開発が必要なのが実状である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、圧延後に熱処理し、空冷するノーマライジング熱処理方法を適用する極厚鋼板において、優れた強度と低温靭性の両方を確保できる極厚鋼板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した目的を達成するための手段として、本発明による極厚鋼板は、重量%で、C:0.06~0.1%、Si:0.3~0.5%、Mn:1.35~1.65%、Al:0.015~0.04%、Nb:0.015~0.04%、Cr:0.15~0.4%、Ti:0.005~0.02%、Ni:0.3~0.5%、N:0.002~0.008%、P:0.01%以下、S:0.003%以下を含み、残部がFe及びその他の不可避な不純物からなり、微細組織は面積分率で、平均結晶粒径が40μm以下のポリゴナルフェライト80%超過及び残部の平均結晶粒径は、20μm以下のパーライトから構成されてもよい。
【0013】
本発明の極厚鋼板は、下記式(1)の値が3.6以上であってもよい。
【0014】
(1)[Mn]+5([Ni]+[Cr])
【0015】
前記式(1)において、[Mn]、[Ni]、[Cr]は、各元素の重量%を意味する。
【0016】
本発明の極厚鋼板において、鋼板全体の厚さtは100~200mmであり、最表面から1/4tでの降伏強度が320MPa以上、-60~-40℃で衝撃靭性エネルギー値が200J以上を有してもよい。
【0017】
また、上述した目的を達成するための他の手段として、本発明の極厚鋼板の製造方法は、重量%で、C:0.06~0.1%、Si:0.3~0.5%、Mn:1.35~1.65%、Al:0.015~0.04%、Nb:0.015~0.04%、Cr:0.15~0.4%、Ti:0.005~0.02%、Ni:0.3~0.5%、N:0.002~0.008%、P:0.01以下、S:0.003%以下を含み、残部がFe及びその他の不可避な不純物からなるスラブを再加熱する段階、前記再加熱されたスラブを残圧下量が25~35%となるように70~120mmの圧下量で粗圧延した後、仕上げ圧延することを含む熱間圧延する段階、ノーマライジング熱処理する段階及び空冷する段階を含み、鋼板全体の厚さtは、100~200mmであってもよい。
【0018】
本発明の極厚鋼板の製造方法において、前記仕上げ圧延は、70~110mmの圧下量で行われてもよい。
【0019】
本発明の極厚鋼板の製造方法において、前記粗圧延は、1000℃以上で行われてもよい。
【0020】
本発明の極厚鋼板の製造方法において、前記仕上げ圧延は、850~A3℃の温度で行われてもよい。
【0021】
本発明の極厚鋼板の製造方法において、前記熱間圧延の仕上げ温度は、820~910℃であってもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、低C成分系を基礎とする合金組成の制御と、圧下率などの製造条件の制御を通じて優れた強度と衝撃靭性を有する厚さ100~200mmの極厚鋼板及びその製造方法を提供しうる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の一例による極厚鋼板の微細組織写真である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
上述した目的を達成するため、本発明の極厚鋼板は、重量%で、C:0.06~0.1%、Si:0.3~0.5%、Mn:1.35~1.65%、Al:0.015~0.04%、Nb:0.015~0.04%、Cr:0.15~0.4%、Ti:0.005~0.02%、Ni:0.3~0.5%、N:0.002~0.008%、P:0.01%以下、S:0.003%以下を含み、残部がFe及びその他の不可避な不純物からなり、微細組織は、面積分率で、平均結晶粒径が40μm以下のポリゴナルフェライト80%超過及び残部の平均結晶粒径は20μm以下のパーライトから構成されてもよい。
【0025】
以下、本発明の好ましい実施形態を説明する。しかし、本発明の実施形態は、様々な異なる形態に変形されてもよく、本発明の技術思想が以下に説明する実施形態に限定されるものではない。また、本発明の実施形態は、当該技術分野で平均的な知識を有する者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
【0026】
本出願で使用される用語は、単に特定の例示を説明するために使用されるものである。したがって、例えば、単数の表現は、文脈上明らかに単数でなければならないものでない限り、複数の表現を含む。さらに、本出願で使用される「含む」または「備える」などの用語は、明細書上に記載された特徴、段階、機能、構成要素、またはそれらを組み合わせたものが存在することを明確に指すために使用されるものであり、他の特徴や段階、機能、構成要素またはそれらを組み合わせたものの存在を予備的に排除するために使用されるものではないことに留意しなければならない。
【0027】
一方、特に定義しない限り、本明細書で使用されるすべての用語は、本発明が属する技術分野で通常の知識を有する者によって一般に理解されるのと同じ意味を持つものとみなすべきである。したがって、本明細書で明確に定義しない限り、特定の用語が過度に理想的または形式的な意味で解釈されるべきではない。例えば、本明細書において単数の表現は、文脈上、明らかに例外のない限り、複数の表現を含む。
【0028】
また、本明細書において「約」、「実質的に」などは、言及した意味に固有の製造及び物質の許容誤差が提示されるとき、その数値またはその数値に近い意味で使用され、本発明の理解を助けるために正確かつ絶対的な数値が言及された開示内容を非良心的な侵害者が不当に利用することを防止するために使用される。
【0029】
本明細書における「平均結晶粒径」とは、結晶粒の円相当径(Equivalent Circular Diameter,ECD)を意味する。
【0030】
ノーマライジング熱処理を適用した鋼材は、強度確保のために制御圧延と冷却により製造される熱加工制御圧延方法を適用した鋼材に対して炭素含量が高いので、熱処理後も衝撃靭性に劣る傾向がある。また、熱処理温度が高すぎるか、または長くなると、結晶粒の成長により熱処理前の圧延状態の鋼板に比べて強度が低下することがある。
【0031】
本発明は、低C成分系を基礎とする合金組成の制御と、圧延条件の制御を通じて優れた強度と衝撃靭性を確保しようとした。
【0032】
本発明の極厚鋼板は、重量%で、C:0.06~0.1%、Si:0.3~0.5%、Mn:1.35~1.65%、Al:0.015~0.04%、Nb:0.015~0.04%、Cr:0.15~0.4%、Ti:0.005~0.02%、Ni:0.3~0.5%、N:0.002~0.008%、P:0.01%以下、S:0.003%以下を含み、残部がFe及びその他の不可避な不純物からなる。
【0033】
以下、前記極厚鋼板の成分組成について限定した理由を具体的に説明する。
【0034】
Cの含量は0.06~0.1重量%である。
【0035】
Cは固溶強化元素であり、鋼中のNbなどと結合して炭化物を形成して引張強度を向上させる元素であるので、本発明においてCは0.06重量%以上で添加されてもよい。しかし、C含量が過剰になるとパーライト分率が過剰に形成され、低温での衝撃及び疲労特性に劣るという問題があり、固溶Cの含量が増加するにつれて衝撃特性が低下するという問題がある。これを考慮し、本発明においてC含量の上限は0.1重量%に制限されてもよい。より好ましくは、C含量は0.07~0.09重量%で含まれてもよい。
【0036】
Siの含量は0.3~0.5重量%である。
【0037】
Siは、Alとともに溶鋼を脱酸する役割を果たし、降伏強度及び引張強度を向上させる元素であるので、本発明においてSiは0.3重量%以上で添加されてもよい。しかし、Si含量が過剰であると、Cの拡散を妨げて、島状マルテンサイト(Martensite Austenite Constrient,MA)の形成を助長することができ、その結果、低温での衝撃特性及び疲労特性に劣るおそれがある。これを考慮して、本発明においてSi含量の上限は、0.5重量%に制限されてもよい。
【0038】
Mnの含量は1.35~1.65重量%である。
【0039】
Mnは固溶強化元素であり、本発明においてMnは、1.35重量%以上で添加されてもよい。しかし、Mn含量が過剰であると、MnS介在物の形成、中心部偏析により靭性の低下を引き起こすおそれがあるので、本発明においてMn含量の上限は、1.65重量%に制限されてもよい。
【0040】
Alの含量は0.015~0.04重量%である。
【0041】
Alは、鋼の主な脱酸剤として作用し、Nを固定するために0.015重量%以上で添加されてもよい。しかし、Al含量が過剰であると、Al介在物の分率、大きさの増加により低温靭性が低下することがあり、母材及び溶接熱影響部で島状マルテンサイト形成を誘発し、低温での衝撃特性及び疲労特性が劣化するおそれがある。これを考慮して、本発明においてAl含量の上限は、0.04重量%に制限されてもよい。
【0042】
Nbの含量は0.015~0.04重量%である。
【0043】
Nbは固溶強化または炭化物を析出させることにより圧延または冷却中の再結晶を抑制して組織を微細化し、その結果強度を増加させる。強度を確保するために、本発明においてNbは0.015重量%以上添加されてもよい。しかし、Nb含量が過剰であると、C親和力によって島状マルテンサイト形成を促進し、その結果、低温での衝撃特性及び疲労特性が劣るおそれがある。これを考慮して、本発明においてNb含量の上限は0.04重量%に制限されてもよい。
【0044】
Crの含量は0.15~0.4重量%である。
【0045】
Crは、鋼の焼入れ性を増加させて強度向上に有利な元素であるので、本発明においてCrは0.15重量%以上で添加されてもよい。しかし、Cr含量が過剰であると溶接性が低下するだけでなく、高価な元素として製造コストの上昇を招くおそれがある。これを考慮して、本発明においてCr含量の上限は、0.4重量%に制限されてもよい。
【0046】
Tiの含量は0.005~0.02重量%である。
【0047】
Tiは、衝撃特性及び表面品質を劣化させることができる固溶Nと結合してTiNを形成する。また、形成されたTiNは組織の粗大化を抑制し、微細化に寄与することにより靭性を向上させる。これを考慮して、本発明においてTiは、0.005重量%以上添加されてもよい。しかし、Ti含量が過剰であると、析出物の粗大化により破壊原因になりうる。また、Nと結合しなかったTiが鋼中に残存して母材及び溶接部の靭性を低下させるTiCを形成するおそれがある。これを考慮して、本発明においてTi含量の上限は、0.02重量%に制限されてもよい。
【0048】
Niの含量は0.3~0.5重量%である。
【0049】
Niは、強度と靭性を同時に向上させることができる元素であるので、本発明においてNiは0.3重量%以上添加されてもよい。しかし、Ni含量が過剰であると、強度及び靭性向上効果が飽和し、製造コストが上昇するという問題があるため、本発明においてNi含量の上限は0.5重量%に制限されてもよい。
【0050】
Nの含量は0.002~0.008重量%である。
【0051】
NはTi、Nb、Alなどとともに析出物を形成し、再加熱時にオーステナイト組織を微細化し、その結果、強度と靭性が向上する。これを考慮して、本発明においてNは0.002重量%以上添加されてもよい。しかし、N含量が過剰であると、高温で表面クラックを誘発し、鋼中に固溶Nとして残留して靭性を低下させるおそれがあるので、本発明においてN含量の上限は、0.008重量%に制限されてもよい。
【0052】
Pの含量は0.01重量%以下である。
【0053】
Pは、鋼の製造過程で不可避に含有される元素であり、粒界偏析を誘発して鋼を脆化させる。これを考慮して、本発明においてP含量の上限は、0.01重量%に制限されることが好ましい。
【0054】
Sの含量は0.003重量%以下である。
【0055】
Sは、鋼の製造過程で不可避に含有される元素であり、Mnと結合してMnSを形成して低温靭性を低下させる。これを考慮して、本発明においてS含量の上限は、0.003重量%に制限されることが好ましい。
【0056】
本発明の残りの成分は鉄(Fe)である。ただし、通常の製造過程では、原料や周囲の環境から意図しない不純物が不可避に混入することがあるので、これを排除することはできない。これらの不純物は、通常の製造過程の技術者であれば誰でも知ることができるため、そのすべての内容を特に本明細書で言及していない。
【0057】
本発明の極厚鋼板は、上述した合金組成及び下記式(1)の値が3.6以上を満たすことができる。
【0058】
(1)[Mn]+5([Ni]+[Cr])
【0059】
前記式(1)において、[Mn]、[Ni]、[Cr]は、各元素の重量%を意味する。
【0060】
C含量が0.1重量%以下のwにおいて鋼板厚さ100~200mmの極厚鋼板が所望の強度、衝撃靭性を満たすためには、式(1)の値が3.6以上であることが好ましい。
【0061】
本発明の一例による極厚鋼板の微細組織は面積分率で、ポリゴナルフェライト(polygonal ferrite)80%超過及び残部パーライトから構成されてもよい。より好ましくは、面積分率で、ポリゴナルフェライト80%超過90%以下、パーライト10%以上20%未満から構成されてもよい。
【0062】
強度を確保するためには、微細組織は微細なものが有利である。一例によれば、ポリゴナルフェライトの平均結晶粒径は、40μm以下であってもよく、パーライトの平均結晶粒径は、20μm以下であってもよい。
【0063】
添付の図1は、本発明の一例による極厚鋼板の微細組織写真である。図1を参照すると、平均結晶粒径が40μm以下のポリゴナルフェライトが面積分率で80~90%、平均結晶粒径が20μmのパーライトが面積分率で10~20%で分布することが分かる。図1を参照すると、パーライトはC拡散によって球形化され、粒界及び粒内に形成されたことが分かる。
【0064】
本発明による極厚鋼板は、降伏強度と低温衝撃靭性に優れる。一例による極厚鋼板は、鋼板全体の厚さtが100~200mmであり、最表面から1/4tでの降伏強度が320MPa以上、-60~-40℃で衝撃靭性エネルギー値が200J以上であってもよい。
【0065】
以下、本発明による極厚鋼板の製造方法について詳細に説明する。
【0066】
本発明の極厚鋼板の製造方法は、上述した合金組成を満たすスラブを再加熱する段階、熱間圧延する段階、ノーマライジング(normalizing)熱処理する段階及び空冷する段階を含んでもよい。
【0067】
まず、上述した合金組成を満たすスラブを1020~1150℃で再加熱してもよい。再加熱温度が1020℃未満であると、Ti、Nbなどが十分に固溶しないため、強度が低下するおそれがある。一方、再加熱温度が1150℃を超えると、オーステナイト結晶粒が粗大化して靭性が低下するおそれがある。
【0068】
熱間圧延は、粗圧延-仕上げ圧延の順に進行される。粗圧延は、1000℃以上の再結晶(recrystallization)域温度で行い、仕上げ圧延は、850~A3℃温度の未再結晶(non-recrystallization)域温度で行う。圧延は結晶粒微細化効果のためにA3℃温度に近づけて行うのが有利であるが、生産性を考慮して850℃以上で行っても構わない。A3℃の温度は鋼種ごとに異なるが、約910℃程度である。熱間圧延の仕上げ温度は、820~910℃であることが好ましい。
【0069】
また、本発明は鋼板全体の厚さ100~200mmの極厚鋼板に関し、熱間圧延の総圧延量が約200mm程度で多くないため、粗圧延と仕上げ圧延のパス配分が重要である。本発明によれば、粗圧延は、残圧下量が25~35%となるように70~120mmの圧下量で行われてもよい。ここで、残圧下量とは、総圧下量に対して粗圧延後、製品の最終厚さまで圧下できる仕上げ圧延量の百分率である。仕上げ圧延は、70~110mmの圧下量で行われてもよい。上述した圧延工程において本発明による極厚鋼板は、厚さ100~200mmを有する。
【0070】
熱間圧延鋼板はノーマライジング熱処理されてもよい。一例によるノーマライジング熱処理は、880~920℃まで昇温した後、該当温度区間で200~300分間維持することで行われてもよい。以後、ノーマライジング処理された鋼材は空冷処理して最終製品として製造される。
【0071】
以下、実施例を通じて本発明をより具体的に説明する。ただし、下記実施例は、本発明を例示してより詳細に説明するためのものであり、本発明の権利範囲を限定するためのものではないことに留意する必要がある。本発明の権利範囲は、特許請求の範囲に記載された事項とこれから合理的に類推される事項によって決定されるものであるからである。
【0072】
{実施例}
下記表1の合金組成を有する溶鋼を連続鋳造してスラブを製造した。製造されたスラブを下記表2の製造条件で再加熱-粗圧延-仕上げ圧延-ノーマライジング熱処理-空冷して厚さ100~200mmの極厚鋼板を製造した。表2の式(1)の値は、表1の合金組成を代入して導き出した値である。表2の比較例4は、ノーマライジング熱処理を省略し、圧延後にすぐに空冷して極厚鋼板を製造した。
【0073】
【表1】
【0074】
【表2】
【0075】
表3には、製造された極厚鋼板の微細組織及び物性を測定し、その結果を示した。
【0076】
表3の「衝撃(-40℃)」、「衝撃(-60℃)」とは、それぞれ-40℃、-60℃における衝撃靭性エネルギー値を意味する。そして、降伏強度、引張強度、衝撃靭性エネルギー値とは、製造された鋼板全体の厚さをtとするとき、最表面から1/4tでの物性値を意味する。
【0077】
【表3】
【0078】
表1~表3を参照すると、本発明で限定する合金組成及び製造条件を満たす発明例は、いずれも製造された鋼板全体の厚さをtとするとき、最表面から1/4tでの降伏強度が320MPa以上、-60℃~-40℃衝撃靭性エネルギー値が200J以上で降伏強度と低温衝撃靭性に優れることが確認できる。
【0079】
比較例1は、C含量が過剰でパーライトが過剰に形成されて強度は増加したが、低温衝撃靭性が急激に劣化した。
【0080】
比較例2は、式(1)の値が3.6未満で強度を十分に確保できなかった。
【0081】
比較例3は、本発明に限定する合金組成は満たすが、仕上げ圧延の遂行温度が本発明が限定する温度範囲に比べて高すぎた。その結果、フェライト結晶粒が粗大に成長し、強度及び低温衝撃靭性が劣化した。
【0082】
比較例4は、本発明が限定する合金組成及び式(1)を満たすが、ノーマライジング熱処理を行わず強度は満たすが低温衝撃靭性が劣化した。
【0083】
以上、本発明の例示的な実施例を説明したが、本発明は、これに限定されず、当該技術分野において通常の知識を有する者であれば、以下に記載する請求範囲の概念と範囲から逸脱しない範囲内で様々な変更及び変形が可能であることが理解できるだろう。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の一例による極厚鋼板は、低炭素成分系を基礎とする合金組成の制御と圧下率などの製造工程の制御を通じて優れた強度と衝撃靭性を確保しうる。
図1
【国際調査報告】