(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-09
(54)【発明の名称】負荷変動に対する感度を低減する高周波電力増幅器、チップ及び通信端末
(51)【国際特許分類】
H03F 3/24 20060101AFI20231226BHJP
【FI】
H03F3/24
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023538937
(86)(22)【出願日】2021-12-22
(85)【翻訳文提出日】2023-08-23
(86)【国際出願番号】 CN2021140432
(87)【国際公開番号】W WO2022135463
(87)【国際公開日】2022-06-30
(31)【優先権主張番号】202011552738.0
(32)【優先日】2020-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522185416
【氏名又は名称】唯捷創芯(天津)電子技術股▲フン▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】VANCHIP (TIANJIN) TECHNOLOGY CO.,LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【氏名又は名称】駒井 慎二
(72)【発明者】
【氏名】李 海輝
(72)【発明者】
【氏名】白 雲芳
【テーマコード(参考)】
5J500
【Fターム(参考)】
5J500AA01
5J500AA41
5J500AC77
5J500AC78
5J500AF17
5J500AH02
5J500AH25
5J500AH29
5J500AH33
5J500AK12
5J500AK29
5J500AM08
5J500AM13
5J500AS14
5J500AT01
5J500WU08
(57)【要約】
【課題】負荷変動に対する感度を低減させるRF電力増幅器を提供する。
【解決手段】RF電力増幅器は、帰還回路と多段の増幅回路とを備え、この帰還回路は、多段の増幅回路の全部または一部と第1のノード及び第2のノードで並列に接続され、第1のノードと第2のノードとの間に位置する増幅回路の主通路は、この帰還回路と180°+360°×n位相シフトした帰還ループを形成し、nは、自然数である。このRF電力増幅器は、受動素子で構成された帰還回路を用い、適切な帰還点を選択し、帰還ループ間の増幅部材によって形成される360°の位相シフトに基づき、帰還ループを用いて180°+360°×n位相シフトを形成することによって、RF電力増幅器の出力電力を安定させ、負荷変動に対するこのRF電力増幅器の感度を低減させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
RF電力増幅器であって、
帰還回路と多段の増幅回路とを備え、前記帰還回路は、前記多段の増幅回路の全部または一部と第1のノード及び第2のノードで並列に接続され、前記第1のノードと前記第2のノードとの間に位置する増幅回路の主通路は、前記帰還回路と180°+360°×n位相シフトした帰還ループを形成し、nは、自然数であることを特徴とする、RF電力増幅器。
【請求項2】
前記第1のノードに入力されるRF電流は、所定の負荷インピーダンスにおいて、前記帰還回路から前記第1のノードに出力される電流と位相が反転することを特徴とする、請求項1に記載のRF電力増幅器。
【請求項3】
前記負荷インピーダンスが変化すると、前記RF電力増幅器は、前記第2のノードから前記帰還回路に流れる電流を変動させ、前記第1のノードにおける前記帰還電流の位相を変化させ、合成純入力電流の大きさの動的調整に相当することを特徴とする、請求項1または2に記載のRF電力増幅器。
【請求項4】
前記帰還回路の一端と最後から2段目の増幅回路の出力端は、前記第2のノードに接続され、前記帰還ループが180°+360°×n位相シフトを形成することを条件として、前記帰還回路の他端と前記最後から2段目の増幅回路の前に位置する特定段の増幅回路の入力端とを、前記第1のノードに接続させることを特徴とする、請求項1に記載のRF電力増幅器。
【請求項5】
前記帰還回路の一端と最後から2段目の増幅回路の出力端は、前記第2のノードに接続され、前記帰還ループが180°+360°×n位相シフトを形成することを条件として、前記帰還回路の他端と前記最後から2段目の増幅回路の前に位置する特定段の増幅回路の出力端とを、前記第1のノードに接続させることを特徴とする、請求項1に記載のRF電力増幅器。
【請求項6】
前記帰還回路の一端と最終段の増幅回路の出力端は、前記第2のノードに接続され、前記帰還ループが180°+360°×n位相シフトを形成することを条件として、前記帰還回路の他端と前記最終段の増幅回路の前に位置する特定段の増幅回路の出力端とを、前記第1のノードに接続させることを特徴とする、請求項1に記載のRF電力増幅器。
【請求項7】
前記帰還回路の一端と最終段の増幅回路の出力端は、前記第2のノードに接続され、前記帰還ループが180°+360°×n位相シフトを形成することを条件として、前記帰還回路の他端と前記最終段の増幅回路の前に位置する特定段の増幅回路の入力端とを、前記第1のノードに接続させることを特徴とする、請求項1に記載のRF電力増幅器。
【請求項8】
各段の増幅回路は増幅部材から構成され、隣接する増幅回路の間には、段間コンデンサが直列に接続されることを特徴とする、請求項1に記載のRF電力増幅器。
【請求項9】
前記第1のノードと前記第2のノードとの間には、2段の増幅部材が設置され、360°位相シフトを形成することを特徴とする、請求項8に記載のRF電力増幅器。
【請求項10】
前記第1のノードと前記第2のノードとの間における前記段間コンデンサと、前記帰還回路における帰還コンデンサとは、180°位相シフトを形成することを特徴とする、請求項9に記載のRF電力増幅器。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載のRF電力増幅器を備えることを特徴とする、集積回路チップ。
【請求項12】
請求項1~10のいずれか1項に記載のRF電力増幅器を備えることを特徴とする、通信端末。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RF回路技術の分野に属し、負荷変動に対する感度を低減させるRF電力増幅器に関し、同時に、このRF電力増幅器を備える集積回路チップ及び対応する通信端末に関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信装置では、RF電力増幅器で送信信号の電力を増幅し、スイッチを通ってアンテナ端に送られた送信信号を電磁波に変換してアンテナより放射する。携帯電話の超薄型・超軽量フルスクリーン化への発展に伴い、携帯電話用アンテナは一般的に携帯電話のフレームの位置に設計されており、手持ち状態や周辺環境がより大きく携帯電話用アンテナの給電側負荷に影響する。アンテナ負荷の変化は、アンテナの放射効率を変化させるとともに、RF電力増幅器の等価負荷を変化させ、RF電力増幅器によって出力される使用可能な電力を大きく変動させ、これがアンテナの総放射電力(Total Radiation Power,TRP)に影響を与える。
【0003】
現在、アンテナの総放射電力問題については、様々な解決策がある。第1の解決策は、RF電力増幅器の出力端に電力検出器を設置し、RF電力増幅器の出力電力の情報を帰還回路を介して電圧または電流の形で電力制御器に伝達し、さらに電力増幅回路のコレクタ電圧またはベース電流を制御し、電力制御を最適化する目的を達成することである。この方式は、一般的に異なる電力レベルを切り替えるために使用される。
【0004】
第2の解決策は、第1の解決策に基づいてRF電力増幅器の入力電力の検出を追加することである。例えば、負荷インピーダンスが50ΩであるRF電力増幅器の利得に基づいて、その出力電力を比較する。RF電力増幅器の出力電力が較正値の一定の閾値以上である場合、そのベースバイアス電流またはコレクタ電圧を低減することによって、RF電力増幅器の利得を低減させ、それによって出力電力を低下させる。出力電力が較正値の一定の閾値を下回る場合、ベースバイアス電流を高めることによりRF電力増幅器の利得を増加させる。この解決策では、RF電力増幅器の入力電力と出力電力の両方を検出する必要があり、出力電力の較正値を記憶するレジスタが必要なため、実装回路の複雑さとチップ面積が増加する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする主たる技術的課題は、負荷変動に対する感度を低減させるRF電力増幅器を提供することである。
【0006】
本発明が解決しようとする他の技術的課題は、上記のRF電力増幅器を備える集積回路チップ及び通信端末を提供することである。
【0007】
上記目的を実現するために、本発明は以下の技術案を採用する。
【0008】
本発明の実施形態の第1の態様により、帰還回路と多段の増幅回路とを備えるRF電力増幅器を提供する。前記帰還回路は、前記多段の増幅回路の全部または一部と第1のノード及び第2のノードで並列に接続され、前記第1のノードと前記第2のノードとの間に位置する増幅回路の主通路は、前記帰還回路と180°+360°×n位相シフトした帰還ループを形成し、nは、自然数である。
【0009】
好ましくは、前記第1のノードに入力されるRF電流は、所定の負荷インピーダンスにおいて、前記帰還回路から前記第1のノードに出力される電流と位相が反転する。
【0010】
好ましくは、前記負荷インピーダンスが変化すると、前記RF電力増幅器は、前記第2のノードから前記帰還回路に流れる電流を変動させ、前記第1のノードの前記帰還電流の位相を変化させ、合成純入力電流の大きさの動的調整に相当する。
【0011】
好ましくは、前記帰還回路の一端と最後から2段目の増幅回路の出力端は、前記第2のノードに接続され、前記帰還ループが180°+360°×n位相シフトを形成することを条件として、前記帰還回路の他端と前記最後から2段目の増幅回路の前に位置する特定段の増幅回路の入力端とを、前記第1のノードに接続させる。
【0012】
または、前記帰還回路の一端と最後から2段目の増幅回路の出力端は、前記第2のノードに接続され、前記帰還ループが180°+360°×n位相シフトを形成することを条件として、前記帰還回路の他端と前記最後から2段目の増幅回路の前に位置する特定段の増幅回路の出力端とを、前記第1のノードに接続させる。
【0013】
好ましくは、前記帰還回路の一端と最終段の増幅回路の出力端は、前記第2のノードに接続され、前記帰還ループが180°+360°×n位相シフトを形成することを条件として、前記帰還回路の他端と前記最終段の増幅回路の前に位置する特定段の増幅回路の出力端とを、前記第1のノードに接続させる。
【0014】
または、前記帰還回路の一端と最終段の増幅回路の出力端は、前記第2のノードに接続され、前記帰還ループが180°+360°×n位相シフトを形成することを条件として、前記帰還回路の他端と前記最終段の増幅回路の前に位置する特定段の増幅回路の入力端とを、前記第1のノードに接続させる。
【0015】
好ましくは、各段の増幅回路は増幅部材から構成され、隣接する増幅回路の間には、段間コンデンサが直列に接続される。
【0016】
好ましくは、前記第1のノードと前記第2のノードとの間には、2段の増幅部材が設置され、360°位相シフトを形成する。
【0017】
好ましくは、前記第1のノードと前記第2のノードとの間における前記段間コンデンサと前記帰還回路における帰還コンデンサとは、180°位相シフトを形成する。
【0018】
本発明の実施形態の第2の態様により、上記の負荷変動に対する感度を低減させるRF電力増幅器を備える集積回路チップを提供する。
【0019】
本発明の実施形態の第3の態様により、上記の負荷変動に対する感度を低減させるRF電力増幅器を備える通信端末を提供する。
【発明の効果】
【0020】
本発明で提供される負荷変動に対する感度を低減させるRF電力増幅器は、既存のRF電力増幅器に基づいて帰還回路を追加することにより、この帰還回路が受動素子を用いて適切な帰還点を選択し、この帰還ループ間の増幅部材によって形成される360°の位相シフトに基づき、帰還ループを用いて180°+360°×n位相シフトを形成することにより、RF電力増幅器の出力電力の安定化を実現し、負荷変動に対するこのRF電力増幅器の感度を低減させ、これにより、負荷変動に対するRF電力増幅器の総放射電力を良好に安定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、本発明の実施例1で提供される負荷変動に対する感度を低減させるRF電力増幅器の回路を示す概略図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施例1で提供される負荷変動に対する感度を低減させるRF電力増幅器において、帰還回路の回路を示す概略図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施例1で提供される負荷変動に対する感度を低減させるRF電力増幅器の理論解析図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施例で提供される負荷変動に対する感度を低減させるRF電力増幅器において、負荷の変動をモデル化するための解析的な概略図である。
【
図5】
図5は、本発明の実施例で提供される負荷変動に対する感度を低減されるRF電力増幅器において、負荷の変動をモデル化し、帰還回路を追加した後の解析的な概略図である。
【
図6】
図6は、本発明の実施例2で提供される負荷変動に対する感度を低減させるRF電力増幅器の回路を示す概略図である。
【
図7】
図7は、本発明の実施例3で提供される負荷変動に対する感度を低減させるRF電力増幅器の回路を示す概略図である。
【
図8】
図8は、本発明の実施例4で提供される負荷変動に対する感度を低減させるRF電力増幅器の回路を示す概略図である。
【
図9】
図9は、本発明の実施例で提供される負荷変動に対するRF電力増幅器の出力電力を安定化するためのシミュレーション結果の比較を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の技術内容について、添付図面と具体的な実施形態を参照して、さらに詳細に説明する。
【0023】
負荷変動に対するRF電力増幅器の感度を低下させるために、すなわち、負荷変動下でのRF電力増幅器の出力電力を安定させ、それによってRF電力増幅器の総放射電力を安定させる。本発明の実施形態は、負荷変動に対する感度を低下させるRF電力増幅器を提供し、このRF電力増幅器は、帰還回路と多段の増幅回路とを備える。帰還回路は、多段の増幅回路の全部または一部と第1のノード及び第2のノードで並列に接続され、第1のノードと第2のノードとの間に位置する増幅回路の主通路は、帰還回路と180°+360°×n位相シフトした帰還ループを形成し、nは、自然数である。
【0024】
本RF電力増幅器において、第1のノードに入力されるRF電流と、帰還回路から第1のノードに出力される電流は、所定の負荷インピーダンス(例えば、50Ωであるが、25Ω、100Ωなど他の値でもよい)で位相が反転する。負荷インピーダンスが変化すると、並列分流原理から分かるように、RF電力増幅器は第2のノードから帰還回路に流れる電流が変動し、さらに第1のノードでの帰還電流の位相を変更させる。これは、合成純入力電流の大きさを動的に調整したことに相当する。これは、RF電力増幅器の利得を動的に調整することに等しく、これによって、RF電力増幅器の出力電力の安定化を実現し、負荷変動に対するこのRF電力増幅器の感度を低減させることができる。
【0025】
本発明の実施形態において、各段の増幅回路は、いずれも増幅部材で構成される。ここで、増幅部材は、水晶三極管、MOS管等の他のタイプの3端子部材であってもよい。
図1、
図3~
図8に示すように、各段の増幅回路が、水晶三極管Qで構成される例では、水晶三極管QのコレクタはRFCインダクタを介して電源電圧に接続され、水晶三極管Qのエミッタは接地され、水晶三極管Qのベースは、バイアス抵抗Rを介してバイアス回路Biasに接続される。
【0026】
以下、異なる実施例を組合わせて、各段の増幅回路が水晶三極管で構成されることを例として、RF電力増幅器に接続されている帰還回路の第1のノードと第2のノードの位置について詳細に説明する。
【0027】
実施例1
本実施例で提供されるRF電力増幅器は、帰還回路と多段の増幅回路とを備え、第1のノードと第2のノードとの間に位置する増幅回路の主通路は、帰還回路と180°+360°×n位相シフトした帰還ループを形成する。帰還回路の一端と、最後から2段目の増幅回路(すなわち、最後の増幅回路に先立つ増幅回路)の出力端は、第2のノードに接続され、帰還ループが180°+360°×n位相シフトを形成することを条件として、帰還回路の他端と最後から2段目の増幅回路の前に位置する特定段の増幅回路の入力端とを、第1のノードに接続させる。ここで、帰還回路の一端と最後から2段目の増幅回路の出力端とを、第2のノードに接続させることの利点は、帰還回路がその負荷に及ぼす影響をできる限り低減することである。
【0028】
本発明の実施例において、多段の増幅回路における増幅回路の数は、3つ以上で、互いにカスケード接続される。
図1に示すように、本実施例で提供されるRF電力増幅器は、3段の増幅回路と帰還回路10とを備える。帰還回路10の一端と第2段の増幅回路の出力端は、第2のノードNに接続され、帰還ループが180°+360°×n位相シフトを形成することを条件として、帰還回路10の他端と第1段の増幅回路の入力端とを、第1のノードMに接続させる。
【0029】
RF信号は、阻止コンデンサを通過した後、第1段の増幅回路に入力される。ここで、RF電力増幅器の最終段の増幅回路の出力端は、出力整合回路OMNを介して外部アンテナに接続され、アンテナを介してRF信号を電磁波に変換して放射する。
【0030】
多段の増幅回路において、阻止または整合の目的を達成するために、隣接する増幅回路の間に段間コンデンサを直列に接続する必要がある。隣接する増幅回路の間に段間コンデンサを直列に接続させると、電流の位相は電圧に対して90°進むことになる。したがって、第1のノードMと第2のノードNとの間に2段の水晶三極管Qを設け、2段の水晶三極管Qによって360°位相シフトを形成する必要がある。
【0031】
帰還回路10は、帰還コンデンサのみで構成されてもよい。
図2に示すように、帰還回路10の帰還量を調整するために、帰還回路10には、帰還コンデンサC’に抵抗R’を直列に接続させてもよい。また、帰還回路10の帰還量ができる限り小さいことを確保する前提で、帰還回路10は、帰還コンデンサ、抵抗及びインダクタを直列に接続して構成されてもよい。例えば、帰還回路10は、2つの帰還コンデンサ、1つの抵抗及び1つのインダクタを直列に接続して構成されてもよい。ここで、帰還回路10の帰還量はできる限り小さくすべきである。このように設定する目的は、帰還量が大きすぎて所定の負荷インピーダンス下でのRF電力増幅器の出力電力が低減するのを防止すると共に、回路パラメータの不適切な設定により、発振する確率を低減することである。
【0032】
第1のノードMと第2のノードNとの間の2段の水晶三極管Q、これら2段の水晶三極管Qの間の段間コンデンサ及び帰還回路10で帰還ループを形成し、負帰還を実現するためには、2段の水晶三極管Qの間の段間コンデンサ及び帰還回路10の帰還コンデンサの組合せが、180°+360°×n位相シフトを形成する必要がある。また、帰還ループが負帰還となることを確保する前提で、帰還回路10の帰還コンデンサの数をさらに調整することができる。例えば、第1のノードMと第2のノードNとの間における2段の水晶三極管Qの間にある段間コンデンサの数が2個である場合、帰還回路10における帰還コンデンサの数は2個である。
【0033】
図3に示すように、本実施例で提供されるRF電力増幅器において、I
aは入力電流であり、I
bは帰還回路10から第1のノードMへの帰還電流であり、I
cは第1段の増幅回路の水晶三極管Qのベースに入力される合成純入力電流である。ここで、所定の負荷インピーダンス(例えば、50Ω)で入力電流I
aと帰還電流I
bは反転しており、水晶三極管Qへの合成純入力電流I
cは若干低減される。実際の負荷インピーダンスが変化した場合、第3段の増幅回路からの出力電流は大きく変動し、アンテナ側に近い第2のノードNのインピーダンス(
図3に示すように、第2のノードの右側のインピーダンス)が変化することによって、帰還電流I
bの位相を変更することは、合成純入力電流I
cの大きさを動的に調整することに相当し、RF電力増幅器の利得を動的に調整することに相当する。よって、RF電力増幅器の出力電力が安定し、負荷変動に対するRF電力増幅器の感度が低減する。
【0034】
本実施形態で提供するRF電力増幅器の動作原理について、2G通信ネットワークを利用して通信する携帯電話を例にとって、以下にさらに説明する。
【0035】
図4に示すように、まず、RF電力増幅器の負荷の変動をモデル化する。負荷の変動は、元の負荷R1に仮想の誘導性または容量素子を並列に接続することと同等であり、この仮想の誘導性または容量素子に電流i
3が流れ、この電流の大きさは正でも負でもよく、負荷インピーダンスが変化した後に発生する電流変化を反映する。この仮想素子は、負荷インピーダンスの変化のシミュレーションを容易にするために存在する。
【0036】
具体的には、所定の負荷インピーダンスが50Ωである場合、仮想容量素子を流れる電流i3は0であり、水晶三極管Qのコレクタから流れる電流i1は負荷R1に流れる電流i2と等しく、このとき、水晶三極管Qで観察された負荷は、RL=VB/i1=VB/i1=R1であり、ここで、VBは、水晶三極管Qのコレクタの出力端の電圧である。
【0037】
携帯電話から2G基地局へGMSK変調された信号を送信するアプリケーション環境では、RF電力増幅器は飽和電力を出力する。手持ちの携帯電話などで通話するなど、負荷インピーダンスが変化する場合、アンテナの負荷インピーダンスが変化し、すなわち、この負荷の隣に仮想容量素子を並列に接続したことに相当する。この時、仮想容量素子を流れる電流i3≠0であり、水晶三極管Qで観察された負荷はRL=VB/i1=VB/(i2+i3)である。仮想容量素子を流れる電流i3>0である場合、負荷インピーダンスが小さくなり、RF電力増幅器の出力電力が大きくなる。仮想容量素子を流れる電流i3<0である場合、負荷インピーダンスが大きくなり、RF電力増幅器の出力電力が低下する。
【0038】
図5に示すように、RF電力増幅器の負荷の変化をモデル化した後、帰還回路10を追加する。理想的には、帰還回路10に流れる過渡電流はi
b’=-i
3であり、水晶三極管コレクタから流れる電流はi
1=i
1’+i
b’=i
2+i
3-i
3=i
2であり、水晶三極管から見た負荷R
L=V
B/i
1=R1は変化しない。ここで、i
1’は、負荷R1に流れる電流i
2と誘導性素子に流れる電流i
3とを含む総負荷に流れる電流であり、帰還回路10に流れる過渡電流i
b’が負荷インピーダンスの変化に伴って変化する原因は、ノードAにおける仮想容量素子の出現によりノードBの右側のインピーダンスが変化するためであり、並列分流原理から過渡電流i
b’が発生したことが分かる。
【0039】
B点の右側のインピーダンスが大きくなる場合、RF電力増幅器によって出力される飽和電力は低下する。並列分流原理から、過渡電流ib’が低下すること、すなわち、帰還電流ibの位相が入力電流iaと同相になるように変化することが分かる。第1段の増幅回路における水晶三極管のベースに入力される合成純入力電流icが大きくなり、すなわち、RF電力増幅器の純入力信号が大きくなることは、RF電力増幅器の利得が増加することに相当し、RF電力増幅器の出力電力が増加することによって、この出力電力を定格電力に近づけ、出力電力の変化を低減させる。B点の右側のインピーダンスが低下する場合、RF電力増幅器によって出力される飽和電力が大きくなる。並列分流原理から、過渡電流ib’が大きくなり、このとき、帰還電流ibの位相は変化せず、入力電流iaの位相と逆になり、帰還電流ibのみが大きくなることが分かる。第1段の増幅回路における水晶三極管のベースに入力される合成純入力電流icが低下し、すなわち、RF電力増幅器の純入力信号が小さくなることは、RF電力増幅器の利得が低減したことに相当し、RF電力増幅器の出力電力が低減することによって、この出力電力を定格電力に近づけ、出力電力の変化が減少する。以上の解析から、このような回路構造は、負荷変動におけるRF電力増幅器の出力電力を安定させ、負荷変動に対するRF電力増幅器の感度を低減させ、RF電力増幅器の総放射電力を安定させることが分かる。
【0040】
実際の負荷インピーダンスの変化の変動幅が比較的大きいため、帰還は正確に過渡電流をib’=-i3にすることができない。実際の応用において、過渡電流ib’が存在すれば、RF電力増幅器の出力電力の変動幅を小さくし、過渡電流ib’を最適化することでより優れた効果を達成することができる。また、回路の負帰還構造に重畳して利得の機能を調整することによって、負荷変動に対するRF電力増幅器の感度を低減させ、RF電力増幅器の総放射電力を安定させる目的を実現することができる。
【0041】
実施例2
本実施で提供されるRF電力増幅器が、実施例1で提供されるRF電力増幅器と異なる点は、帰還回路の一端と最後から2段目の増幅回路(最終段の増幅回路に先立つ増幅回路)の出力端は、第2のノードに接続され、帰還ループが180°+360°×nの位相シフトを形成することを条件として、帰還回路の他端とこの最後から2段目の増幅回路の前に位置する特定段の増幅回路の出力端とを、第1のノードに接続させるということにある。ここで、多段の増幅回路における増幅回路の数は4個以上である。
【0042】
図6に示すように、本実施例で提供されるRF電力増幅器は、4段の増幅回路と帰還回路10とを備える。帰還回路10の一端と第3段の増幅回路の出力端は、第2のノードNに接続され、帰還ループが180°+360°×n位相シフトを形成することを条件として、帰還回路10の他端と第1段の増幅回路の出力端とを、第1のノードMに接続させる。
【0043】
ここで、帰還回路10の構造は実施例1の帰還回路10の構造と同じであり、本実施例で提供されるRF電力増幅器の動作原理は、実施例1に説明されたものと同じであり、ここでは説明を繰り返さない。
【0044】
実施例3
本実施例で提供されるRF電力増幅器は、多段の増幅回路と帰還回路とを備える。帰還回路の一端と最終の段増幅回路の出力端は、第2のノードに接続され、帰還ループが180°+360°×n位相シフトを形成することを条件として、帰還回路の他端とこの最終段の増幅回路の前に位置する特定段の増幅回路の出力端とを、第1のノードに接続させる。ここで、多段の増幅回路における増幅回路の数は、3個以上である。
【0045】
図7に示すように、本実施例で提供されるRF電力増幅器は、3段の増幅回路と帰還回路10とを備える。帰還回路10の一端と第3段の増幅回路の出力端は、第2のノードNに接続され、帰還ループが180°+360°×n位相シフトを形成することを条件として、帰還回路10の他端と第1段の増幅回路の出力端とを、第1のノードMに接続させる。
【0046】
ここで、帰還回路10の構造は、実施例1の帰還回路10の構造と同じであり、本実施例で提供されるRF電力増幅器の動作原理は、実施例1に説明されたものと同じであり、ここでは説明を繰り返さない。
【0047】
実施例4
本実施例で提供されるRF電力増幅器が、実施例3で提供されるRF電力増幅器と異なる点は、帰還回路の一端と最終段の増幅回路の出力端は、第2のノードに接続され、帰還ループが180°+360°×n位相シフトを形成することを条件として、帰還回路の他端と最終段の増幅回路前に位置する特定段の増幅回路の入力端とを、第1のノードに接続させるということにある。ここで、多段の増幅回路における増幅回路の数は、2個以上である。
【0048】
図8に示すように、本実施例で提供されるRF電力増幅器は、2段の増幅回路と帰還回路10とを備える。帰還回路10の一端と第2段の増幅回路の出力端は、第2のノードNに接続され、帰還ループが180°+360°×n位相シフトを形成することを条件として、帰還回路10の他端と第1段の増幅回路の入力端とを、第1のノードMに接続させる。
【0049】
ここで、帰還回路10の構造は、実施例1の帰還回路10の構造と同じであり、本実施例で提供されるRF電力増幅器の動作原理は、実施例1で説明したものと同じであり、ここでは説明を繰り返さない。
【0050】
負荷の電圧定在波比(VSWR)を3:1にすることを例として、本RF電力増幅器に対してシミュレーション実験を行ったところ、
図9に示すシミュレーション結果のように、本RF電力増幅器の使用可能電力は、位相の違いによる変動が著しく低下し、よって、負荷インピーダンスの変化に対するRF電力増幅器の感度を低減することが容易に分かる。
【0051】
また、本発明の本実施形態で提供される負荷変動に対する感度を低減させるRF電力増幅器は、集積回路チップに使用することができる。この集積回路チップにおける負荷変動に対する感度を低減させるRF電力増幅器の具体的な構造については、ここでは説明を繰り返さない。
【0052】
上記の負荷変動に対する感度を低減させるRF電力増幅器は、RF集積回路の重要な構成要素として通信端末に用いることができる。ここで提言する通信端末とは、モバイル環境で使用でき、携帯電話、ノートパソコン、タブレットパソコン、車載パソコンなどを含むGSM、EDGE、TD_SCDMA、TDD_LTE、FDD_LTEなど様々な通信方式をサポートするコンピュータ装置を指す。また、本発明で提供される技術的解決策は、通信基地局などの他のRF集積回路の応用にも適用することができる。
【0053】
本発明で提供される負荷変動に対する感度を低減させるRF電力増幅器は、既存のRF電力増幅器に基づいて帰還回路を追加することにより、この帰還回路が受動素子を用いて適切な帰還点を選択し、この帰還ループ間の増幅部材によって形成される360°の位相シフトに基づいて、帰還ループを用いて180°+360°×n位相シフトを形成することにより、RF電力増幅器の出力電力の安定化を実現し、負荷変動に対するこのRF電力増幅器の感度を低減させ、これにより、負荷変動に対するRF電力増幅器の総放射電力を良好に安定させることができる。
【0054】
以上、本発明の実施形態で提供される負荷変動に対する感度を低減させるRF電力増幅器、チップ及び通信端末について詳細に説明した。当業者にとっては、本発明の実質的内容から逸脱することなく、それに対して行われるいかなる明白な修正も、全て本発明の特許権の保護範囲内に属する。
【国際調査報告】