(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-09
(54)【発明の名称】液体中の異なるサイズの粒子を分離するための装置及び方法、並びに、装置の使用
(51)【国際特許分類】
B01D 29/01 20060101AFI20231226BHJP
C12M 3/06 20060101ALI20231226BHJP
A61K 35/14 20150101ALI20231226BHJP
A61K 35/12 20150101ALI20231226BHJP
A61K 39/00 20060101ALI20231226BHJP
G01N 1/10 20060101ALI20231226BHJP
G01N 1/40 20060101ALI20231226BHJP
B01D 71/76 20060101ALI20231226BHJP
B01D 71/54 20060101ALI20231226BHJP
B01D 71/68 20060101ALI20231226BHJP
B01D 71/26 20060101ALI20231226BHJP
B01D 71/40 20060101ALI20231226BHJP
B01D 39/16 20060101ALI20231226BHJP
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B01D 71/34 20060101ALI20231226BHJP
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B01D 61/58 20060101ALI20231226BHJP
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B01D 71/04 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
B01D29/04 510A
C12M3/06
A61K35/14
A61K35/12
A61K39/00 H
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B01D71/26
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B01D69/00
B01D69/12
B01D71/56
B01D71/64
B01D71/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023539332
(86)(22)【出願日】2021-12-23
(85)【翻訳文提出日】2023-08-24
(86)【国際出願番号】 EP2021087577
(87)【国際公開番号】W WO2022144314
(87)【国際公開日】2022-07-07
(31)【優先権主張番号】102020216578.5
(32)【優先日】2020-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515230084
【氏名又は名称】フラウンホーファー-ゲゼルシャフト ツゥア フェアデルング デア アンゲヴァンドテン フォァシュング エー.ファウ.
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】シュミーダー フロリアン
【テーマコード(参考)】
2G052
4C085
4C087
4D006
4D019
4D116
【Fターム(参考)】
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2G052AD29
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(57)【要約】
本発明は、液体中の異なるサイズの粒子を分離する装置及び方法に関する。また、本発明は、本発明にかかる装置の使用に関する。本発明にかかる装置及び本発明にかかる方法は、装置の少なくとも1つのフィルタ要素の孔の孔径を意図的に変更する(例えば、増大させる又は低減させる)ことができるという事実に基づくものである。装置及び方法は、液体の異なるサイズの粒子(例えば、生体細胞及び/又はエンドソーム)を高い選択性で互いに分離することができ、粒子の分離が容易、迅速、及びコスト効率的に行われ、高い収率を達成することができ、治療的に使用可能に液体(例えば、血漿)において、分離した粒子を提供することができるという利点を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体中の異なるサイズの粒子を分離するための装置であって、
a)液体を受けるための容器と、
b)上面、底面、及び前記上面と前記底面を接続する少なくとも1つの側面を有する少なくとも1つのフィルタ要素と、
を備え、
前記フィルタ要素は、定義された孔径を有する貫通孔を含み、
前記フィルタ要素の前記上面の方向の上部区画と、前記フィルタ要素の前記底面の方向の下部区画とに前記容器を分割し、前記上部区画内の液体の粒子が前記フィルタ要素を通過するならば、当該粒子のみが前記下部区画に到達可能なように、前記フィルタ要素が前記容器内に配置され、
前記容器の前記上部区画は、粒子を含む液体を受けるための開口を有し、
前記装置は、前記フィルタ要素の前記孔の前記孔径を変更する手段を備える、
装置。
【請求項2】
前記フィルタ要素の前記孔の前記孔径を変更する手段は、前記フィルタ要素の表面の中心から前記フィルタ要素の該表面の端に向けて、又はその逆方向に向かう力を前記フィルタ要素に加えるのに適している、
請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記フィルタ要素の前記孔の孔幅を変更する手段は、
i)遠心分離機を備え、
ii)力はめ方式で前記フィルタ要素の前記少なくとも1つの側面の外側に接続される少なくとも1つの本体を含み、任意選択で、各々が力はめ方式で前記フィルタ要素の2つの対向する側面の外側に接続される少なくとも2つの本体を含み、
前記少なくとも1つの本体は、前記フィルタ要素の孔を圧縮したり、拡張したりするように、前記遠心分離機の回転速度の変更により、前記フィルタ要素の前記少なくとも1つの側面に圧縮力又は引張力を加えるのに適している、
請求項1又は2に記載の装置。
【請求項4】
前記フィルタ要素の前記孔の孔幅を変更する手段は、
i)遠心分離機を備え、
ii)少なくとも1つの本体、好ましくは、複数の本体を含み、
前記本体は、前記フィルタ要素の前記上面に、及び/又は、前記フィルタ要素内に配置され、特に好ましくは、前記本体は、分離すべき前記粒子よりも高い比密度及び/又は高い電荷を有し、特に最も好ましくは、前記少なくとも1つの本体、好ましくは、前記複数の本体は、ナノ粒子として具体化され、特に、前記ナノ粒子は、前記フィルタ要素の前記孔の周りに配置され、
前記少なくとも1つの本体は、前記フィルタ要素の前記孔を圧縮したり、拡張したりするように、前記遠心分離機の回転速度の変更により、前記フィルタ要素の前記孔に圧縮力又は引張力を加えるのに適している、
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の装置。
【請求項5】
前記フィルタ要素の前記孔の孔幅を変更する手段は、
i)電圧源を備え、
ii)少なくとも1つの電気伝導層、任意選択で、少なくとも2つの電気伝導層を備え、
前記電圧源は、電気伝導法で、前記少なくとも1つの電気伝導層、任意選択で、前記少なくとも2つの電気伝導層に接続され、前記少なくとも1つの電気伝導層は、前記フィルタ要素の前記側面に配置され、好ましくは、前記2つの電気伝導層は、前記フィルタ要素の前記少なくとも1つの側面の2つの対向する表面に配置され、互いに電気的に絶縁され、
前記電圧源は、前記フィルタ要素の前記孔を圧縮したり、拡張したりするように、電圧の変更により、前記少なくとも1つの電気伝導層、任意選択で、前記少なくとも2つの電気伝導層に圧縮力又は引張力を加えるのに適している、
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
前記装置は、制御部を備え、
前記制御部は、好ましくは、
i)好ましくは、前記フィルタ要素の前記孔の前記孔径を変更する手段の遠心分離機の遠心速度が前記液体中の粒子の分離の過程で段階的に増加するように、特に、その増加が時間とともに自動的に又はユーザの入力により手動で起こるように、前記遠心速度を変更し、及び/又は、
ii)好ましくは、前記液体中の粒子の分離の過程で、前記フィルタ要素の前記孔の前記孔径を変更する手段の電圧源の電圧を段階的に低下させるように、特に、その低下が時間とともに自動的に又はユーザの入力により手動で起こる方法で、前記電圧を変更し、及び/又は、
iii)前記フィルタ要素の前記孔の前記孔径を100nm~100μmの範囲で変更し、及び/又は、
iv)時間とともに自動的に又は前記装置のユーザの入力により手動で、より大きい直径に、好ましくは、200nmの孔径から20μm以上の孔径に、特に好ましくは、200nmの孔径から3μmの孔径に、7μmの孔径に、8-12μmの孔径に、20μmの孔径から100μmの孔径に、前記フィルタ要素の前記孔の前記孔径を段階的に変更する、
ような方法で、前記フィルタ要素の前記孔の前記孔径を変更する手段を制御するように構成される、
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の装置。
【請求項7】
前記装置は、n個の更なるフィルタ要素を含み、前記n個の更なるフィルタ要素は、前記容器の前記上部区画の方向に、前記少なくとも1つのフィルタ要素上に配置され、いずれの場合も、定義された孔径の貫通孔を有し、
前記n個のフィルタ要素の前記定義された孔径は、前記少なくとも1つのフィルタ要素の前記定義された孔径より大きく、前記n個のフィルタ要素の各々において、前記容器の前記上部区画の方向に近いほど大きく、
好ましくは、nは、2以上の整数、特に好ましくは、3以上の整数、特に、4~10の範囲の整数である、
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の装置。
【請求項8】
前記装置の前記少なくとも1つのフィルタ要素、好ましくは、各フィルタ要素は、
i)貫通孔を有する繊維を含むか、それからなり、及び/又は、
ii)貫通孔を有する弾性材料、好ましくは、弾性ポリマを含むか、それからなり、
iii)貫通孔を有する電気活性材料、好ましくは、電気活性ポリマを含むか、それからなり、
iv)貫通孔を有する圧電材料、好ましくは、圧電ポリマを含むか、それからなり、
v)シリコーンエラストマ、熱可塑性エラストマ、磁気粘性エラストマ、圧電エラストマ、熱可塑性ウレタン、及びそれらの組み合わせからなる群から選択された材料を含むか、それからなり、及び/又は、
vi)好ましくは、エラストマ及びそれに埋め込まれたナノ粒子を含むか、それらからなる複合材料を含むか、それからなり、前記ナノ粒子は、好ましくは、磁性、圧電、及び/又は重力に敏感なナノ粒子であり、及び/又は、
vii)好ましくは、PES、PET、PC、PMMA、COC、ナイロン、ガラス繊維、PVDF、PP、及びそれらの組み合わせからなる群から選択された材料を含むか、それらからなる織布又はメリヤスを含むか、それからなり、及び/又は、
viii)好ましくは、シリコーンエラストマ、熱可塑性エラストマ、磁気粘性エラストマ、圧電エラストマ、熱可塑性ウレタン、ナノ粒子が埋め込まれたエラストマで作られた複合材料、PES、PET、PC、PMMA、COC、ナイロン、ガラス繊維、PVDF、PP、及びそれらの組み合わせからなる群から選択された材料を含むか、それらからなる固形フォームを含むか、それからなり、及び/又は、
ix)250μmより大きく、好ましくは、500μm以上、特に好ましくは、1mm以上、特に最も好ましくは、2mm以上、特に、3mm~10mmの範囲の前記上面から前記底面までの広がりを有する、
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の装置。
【請求項9】
前記装置の前記少なくとも1つのフィルタ要素、好ましくは、各フィルタ要素は、液体の特定の粒子を可逆的に結合するのに適したコーティングを含み、
好ましくは、前記コーティングは、
i)前記特定の粒子との前記結合を解かせる方法で、前記フィルタ要素の前記孔の前記孔径を変更する手段により影響を与えるのに適した材料を含むか、それからなり、特に最も好ましくは、前記材料は、電気活性材料、特に、電気活性ポリマを含むか、それからなり、及び/又は
ii)前記少なくとも1つのフィルタ要素の前記上面、前記底面、及び/又は、孔内面に、特に好ましくは、前記装置のすべてのフィルタ要素の上面、底面、及び/又は、孔内面に配置される、
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の装置。
【請求項10】
前記装置の前記容器の前記下部区画は、前記下部区画から液体を引き出す手段、好ましくは、バルブ、特に好ましくは、加速度感応バルブ及び/又は電圧切替式バルブを備え、特に、前記装置の制御部は、時間とともに自動的に又はユーザの入力により手動で、前記液体を引き出す手段を開閉するように構成される、
請求項1乃至9のいずれか一項に記載の装置。
【請求項11】
前記容器は、遠心分離管、採血注射器、献血バッグ、医薬品のバイオテクノロジ生産のための培養バッグ、バイオテクノロジ生産のためのバイオリアクタ、サンプル容器、培養容器、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、
請求項1乃至10のいずれか一項に記載の装置。
【請求項12】
前記粒子は、小胞、ウイルス粒子、及び生体細胞からなる群から選択され、好ましくは、小胞、ウイルス粒子、及び血液からの生体細胞からなる群から選択され、特に好ましくは、エンドソーム小胞、エキソソーム小胞、ウイルス粒子、リポソーム、血小板、赤血球、白血球、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、
請求項1乃至11のいずれか一項に記載の装置。
【請求項13】
液体中の異なるサイズの粒子を分離するための方法であって、
a)請求項1乃至12のいずれか一項にかかる装置を提供するステップと、
b)粒子がフィルタ要素を通過しないか、所望の粒径までの粒子がフィルタ要素を通過するように、前記装置の前記フィルタ要素の孔を調整するステップと、
c)前記装置の容器の上部区画を異なるサイズを有する粒子を含む液体で満たすステップと、
d)好ましくは、遠心分離機、ポンプ、及びそれらの組み合わせからなる群から選択された手段により、前記フィルタ要素を通して前記液体を移動させるステップと、
e)通過した粒子を任意選択で含む前記液体を前記装置の前記容器の下部区画から隔離するステップと、
f)所望の孔径までの粒子が前記フィルタ要素を通過可能であるように、前記装置の前記フィルタ要素の前記孔の前記孔径を増加させるステップと、
g)好ましくは、粒子を含まない液体で前記装置の前記容器の前記上部区画を任意選択で満たすステップと、
h)好ましくは、遠心分離機、ポンプ、及びそれらの組み合わせからなる群から選択された手段により、前記フィルタ要素を通して前記液体を移動させるステップと、
i)前記装置の前記容器の前記下部区画から今通過した粒子を含む前記液体を隔離するステップと、
j)好ましくは、前記フィルタ要素の前記孔の前記孔径を変更する手段に影響を与えることにより、任意選択で、前記装置の少なくとも1つのフィルタ要素のコーティングに粒子の可逆的結合を解かせるステップと、
k)任意選択で、前記液体のすべての粒子がサイズに応じて分離した複数の液体に存在するまで、ステップg)~j)を繰り返すステップと、
を含む、方法。
【請求項14】
i)前記フィルタ要素の前記孔の前記孔径を変更する手段の遠心分離機の遠心速度を増加させるステップと、
ii)前記フィルタ要素の前記孔の前記孔径を変更する手段の電圧源の電圧を低下させるステップと、
の少なくとも1つのステップにより、前記フィルタ要素の前記孔の前記孔径を増加させる、
請求項13に記載の方法。
【請求項15】
液体中に存在する異なるサイズの粒子を分離するための請求項1乃至12のいずれか一項にかかる前記装置の使用であって、好ましくは、
i)好ましくは、診断用の血球分画を提供するために、及び/又は、血液製剤を製造するため、特に、細胞治療薬を作成するために、血液から1つ以上の血球分画を隔離し、及び/又は、
ii)血液からの細菌細胞を隔離し、及び/又は、
iii)好ましくは、診断にエキソソームを提供するために、及び/又は、ワクチンを製造するために、血液、血清、又はバイオ懸濁液からエキソソームを隔離し、及び/又は、
iv)混合組織細胞分画から組織細胞を隔離し、及び/又は、
v)好ましくは、植物細胞、動物細胞、ヒト細胞、細菌細胞、酵母細胞、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される細胞をバイオリアクタ由来の混合細胞懸濁液から隔離する、
ための使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
液体中の異なるサイズの粒子を分離するための装置及び方法を提供する。また、本発明にかかる装置の使用を提供する。本発明にかかる装置及び本発明にかかる方法は、装置の少なくとも1つのフィルタ要素の孔の孔径を意図的に変更(例えば、増加又は減少)することができるという事実に基づく。装置及び方法は、高い選択性で、液体の異なるサイズの粒子(例えば、生体細胞及び/又はエンドソーム)を分離することができ、容易、迅速かつコスト効率的に粒子の分離を行い、高い収率を達成し、治療的に使用可能な液体(例えば、血漿)中に分離した粒子を提供することができるという利点を有する。
【背景技術】
【0002】
液体中の異なるサイズの粒子(例えば、生体細胞及び/又は病原体を含むバイオ懸濁液)の分離は、医療技術の多くの問題(例えば、血液細胞製品の入手、個々の成分の臨床検査分析、及び/又は、細胞治療措置のための細胞製品の処理)にとって大きな関心事である。
【0003】
分離のための2つの基本原則が特に確立されている。第1の基本原則は、その異なる比密度に基づいて、又は、その異なる機械的特性(例えば、液体の流れの中での変形性及び/又はその配向性)に基づいて、液体中に存在する粒子を分離することである。一般に、この目的のために、ろ過及び/又は遠心分離が用いられる。第2の基本原則は、粒子の異なる表面特性に基づいて粒子を分離することである。粒子としての細胞、ウイルス、及び/又は、エンドソームの場合、これらの異なる表面特性は、これらの粒子の表面で異なる分子(例えば、タンパク質、脂質、及び/又は、糖)が暴露されることによって引き起こされる。
【0004】
液体中の異なるサイズの粒子を互いに分離するための装置及び方法は、先行技術において既に知られている。
【0005】
第1に、遠心分離が知られている。これは、例えば、全血を精製するために使用され、本質的には治療用の血液製品を製造するために使用される。異なるタイプの分離が区別され、これらは、常に複数の遠心分離ステップの連続で構成される。通常、全血は、採血バッグ内で直接遠心分離され、別の機械でホースを介してこのバッグに接続された複数のバッグに分配される。最終産物は、赤血球(いわゆる「濃厚RBC」)、多血小板血漿又は少血小板血漿、血小板、及び末梢血単核細胞(いわゆる「PBMC」)である。この確立された方法の最大の欠点は、達成される最終産物、特に、いわゆる「バフィーコート」中に存在するPBMCの純度が低いことである。
【0006】
第2に、密度勾配遠心分離が知られている。例えば、全血の密度勾配遠心分離は、診断分野で基本的に使用される。これは、この方法で使用される分離媒体が、方法の最後に完全に分離することができず、提供された分離した細胞懸濁液が治療用途に適さなくなるためである。一般に、その方法は、遠心分離と同様に行われる。しかしながら、この方法の前には、分離媒体は、血液の下層にあり、その密度は、PBMCの密度と、赤血球及び顆粒球の密度との間にある。その結果、赤血球/顆粒球相とPBMC相の間の分離中に分離相が発生し、PBMCの分離を強化することができる。通常、分離の望ましい最終産物は、PBMCである。その方法の欠点は、最終産物の純度が低く、細胞をピペッティングする際の取り扱いが複雑であるのと同様に、収率が低いことである。
【0007】
第3に、マイクロアレイによるマイクロ流体分離が知られている。これらの方法では、血液細胞の分離は、マイクロ流体カートリッジに統合されたマイクロメッシュを介した血液細胞懸濁液の流れによって達成される。このようなカートリッジを用いて、PBMCの分離に関して高い純度を達成することができる。しかしながら、この方法の欠点は、複雑な活性化と非常に長いプロセス時間(マイクロ流体工学による分離の時間は、400mLの全血で約3時間)である。
【0008】
第4に、連続的なプロセスでの遠心分離を表す血漿アフェレーシスが知られている。採血中、血液は、抗凝固薬と継続的に混合され、ポンプによって回転する遠心分離容器に送り込まれる。血漿から分離された細胞は採取され、生理食塩液と等張的にバランスされた後、更なるポンプを介して患者に戻される。この方法の最大の欠点は、血液の2つの分画のみを連続的に分離することができるため、3以上の細胞分画への微細な分割を行うことができないことである。
【0009】
第5に、ろ過が知られている。これらの方法は、通常、血漿分離にフィルタ膜を使用するか、PBMCなどの細胞分画を分離するフィルタ膜を使用する。用いられるフィルタ膜は、膜を通過する粒子を含む液体を収集するために、理想的には容器に直接設置される。さらに、フィルタのカスケードを使用して異なる画分を相互に分離する分離容器が知られている。また、多孔質のマイクロキューブを懸濁液に導入して細胞をマイクロキューブに封入する方法も知られている。現在知られているろ過法には、液体の粒子を非常に粗く分離することしかできない、つまり、最終的にはフィルタ膜の孔の孔径より小さい径の粒子とフィルタ膜の孔の孔径より大きい径の粒子の2種類の粒子にしか分離することができないという欠点がある。より高い選択性を達成するためには、時間とコストが掛かり、分離した細胞の収率を低下させる更なる対策(例えば、マイクロキューブ中の特定の粒子の吸収)を講じる必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ここから進めて、本発明の目的は、先行技術の欠点を有さない液体中の異なるサイズの粒子を分離するための装置及び方法を提供することである。特に、その装置及び方法により、高い選択性で、液体の異なるサイズの粒子(例えば、生体細胞及び/又はエンドソーム)を互いに分離し、容易、迅速かつコスト効率的に、高い収率で治療的に使用可能な液体内に分離した粒子を提供することができることである。さらに、その装置の使用を提供する。
【0011】
その目的は、請求項1の特徴を有する装置と、請求項13の特徴を有する方法と、請求項15の特徴を有する使用とによって達成される。従属請求項は、有利な実施の形態を示す。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、液体中の異なるサイズの粒子を分離するための装置を提供する。その装置は、
a)液体を受けるための容器と、
b)上面、底面、及び上面と底面を接続する少なくとも1つの側面を有する少なくとも1つのフィルタ要素と、
を備え、
フィルタ要素は、定義された孔径を有する貫通孔を含み、
フィルタ要素の上面の方向の上部区画と、フィルタ要素の底面の方向の下部区画とに容器を分割し、上部区画内の液体の粒子がフィルタ要素を通過するならば、上部区画の液体の粒子のみが下部区画に到達可能なように、フィルタ要素が容器内に配置され、
容器の上部区画は、粒子を含む液体を受けるための開口を有し、
装置は、フィルタ要素の孔の孔径を変更する手段を備えることを特徴とする。
【0013】
本発明にかかる装置は、高い選択性で、液体の異なるサイズの粒子(例えば、生体細胞及び/又はエキソソーム/エンドソーム)を互いに分離することができるという利点を有する。高い選択性は、フィルタ要素の孔の孔径を変更するのに適した装置の手段により提供される。この手段を用いることにより、異なる粒子サイズを持つ粒子(すなわち、特に、より小さい粒子が最初に、その後より大きい粒子)がフィルタ要素を通過することが連続的にできるように、分離プロセスの過程で意図的に孔径を変更(すなわち、特に増加)させることができる。したがって、装置により、装置の容器の下部区画への異なる粒子の放出を時系列的に連続させることができる。フィルタ要素の孔径が変化するたびに、分離プロセスの最後には、異なる粒径を持つ粒子を含むいくつかの分離液体が存在するように、通過した粒子を含むそれぞれの液体を下部区画から除去することができる。装置が非常に高い選択性を達成することができるように、段階的だけでなく、線形的にも孔径を変更させることができる。
【0014】
また、容易、迅速かつコスト効率的に、出発液体の粒子を高い収率で互いに分離することができる。容易、迅速かつ低コストは、液体の粒子を分離するために1つの装置のみ用いること、すなわち、粒子の分離を達成するために複数の異なる装置を次々に使用する必要がないことに起因する。また、これは、粒子の分離プロセス中に、粒子が吸着する可能性がある接触表面が少なくなるため、粒子の収率が高くなる。また、これは、更なる装置の洗浄工程が不要となるため、本発明の装置を用いて非常に迅速に分離方法を行うことができる。さらに、高価でない部品で構成されているため、費用対効果の高い方法で装置を提供することができる。装置の拡張性はもう一つの利点であり、すなわち、容器(特に、その上部区画)をそれに応じて拡大するとき、非常に大きな体積の液体を受け、サイズに応じて粒子を分離する装置の適合性である。
【0015】
装置の更なる利点は、粒子が分離された後、その出発液体の可溶性画分に存在できることである。つまり、装置を用いて、分離プロセスの開始時に異なるサイズの粒子が存在する出発液体の可溶性画分が分離プロセスの終了時にも変化しないままにすることができる。血液が粒子を含む出発液体の役割を果たすならば、すなわち、粒子として血液細胞とエキソソームを含む出発液体としての血漿の場合、分離された粒子が血漿中に存在することができるため、これは非常に重要な利点である。血漿は、例えば、輸血に適した液体であるため、治療的に使用可能な液体である。
【0016】
装置は、フィルタ要素の孔の孔径を変更する手段が、フィルタ要素の表面の中心からフィルタ要素の該表面の端に向けて、又はその逆方向に向かう力をフィルタ要素に加えるのに適することを特徴とすることができる。フィルタ要素の孔の孔径は、そのような力の作用により増減させることができる。
【0017】
フィルタ要素の孔の孔幅を変更する手段は、遠心分離機を備えることができ、力はめ(フォースフィット)方式でフィルタ要素の少なくとも1つの側面の外側に接続される少なくとも1つの本体、又は、各々が力はめ方式でフィルタ要素の2つの対向する側面の外側に接続される少なくとも2つの本体を含む。少なくとも1つの本体は、フィルタ要素の孔が圧縮したり、拡張したりするように、遠心分離機の回転速度の変更により、フィルタ要素の少なくとも1つの側面に圧縮力又は引張力を加えるのに適することを特徴とする。したがって、この手段の作用機構は、重力の関数として発生するフィルタ要素の側面に作用する引張作用又は圧縮作用に基づいており、これは、遠心分離機の回転速度により次々に調整可能である。そのような手段により、例えば、少なくとも1つのフィルタ要素に機械的に調整可能な圧力を加えることにより(例えば、クランプ装置のネジにより機械的に調整可能な力の少なくとも1つのフィルタ要素への印加)、いずれかの孔径を達成する手段を用いるときよりも、迅速かつ容易に孔径を調整することができる。
【0018】
また、フィルタ要素の孔の孔幅を変更する手段は、遠心分離機を備えることができ、少なくとも1つの本体、好ましくは、数個の本体を含むことができる。本体は、フィルタ要素の上面に、及び/又は、フィルタ要素内に配置され、特に好ましくは、分離すべき粒子よりも高い比密度及び/又は高い電荷を有する。好ましくは、少なくとも1つの本体は、特に好ましくは、数個の本体は、ナノ粒子として具体化される。ここで、特に、ナノ粒子は、フィルタ要素の孔の周りに配置される。少なくとも1つの本体は、フィルタ要素の孔を圧縮したり、拡張したりするように、遠心分離機の回転速度の変更により、フィルタ要素の孔に圧縮力又は引張力を加えるのに適することを特徴とする。したがって、この手段の作用機構は、フィルタ要素の孔に局所的に作用する重力の関数として表される引張作用又は圧縮作用に基づく。ここで、遠心分離機の回転速度により、重力のレベルを調整することもできる。そのような手段により、例えば、少なくとも1つのフィルタ要素に機械的に調整可能な圧力を加えることにより(例えば、クランプ装置のネジにより機械的に調整可能な力の少なくとも1つのフィルタ要素への印加)、いずれかの孔径を達成する手段を用いるときよりも、迅速かつ容易に孔径を調整することができる。上述の実施の形態と比較した本実施の形態の利点は、少なくとも1つの本体が容器内に部分的に配置され、これにより、装置は、少なくとも1つの本体が力はめ方式でフィルタ要素の少なくとも1つの側面の外側に接続されるときよりも、よりコンパクトな設計を有することができる。
【0019】
これとは別に、フィルタ要素の孔の孔幅を変更する手段は、電圧源を備えることができ、少なくとも1つの電気伝導層、任意選択で、少なくとも2つの電気伝導層を備えることができる。ここで、電圧源は、電気伝導法で、少なくとも1つの電気伝導層、任意選択で、少なくとも2つの電気伝導層に接続され、好ましくは、少なくとも2つの電気伝導層は、フィルタ要素の少なくとも1つの側面の2つの対向する表面に配置され、互いに電気的に絶縁される。電圧源は、フィルタ要素の孔を圧縮したり、拡張したりするように、電圧の変更により、少なくとも1つの電気伝導層、任意選択で、少なくとも2つの電気伝導層に圧縮力又は引張力を加えるのに適したことを特徴とする。そのような手段により、例えば、少なくとも1つのフィルタ要素に機械的に調整可能な圧力を加えることにより(例えば、クランプ装置のネジにより機械的に調整可能な力の少なくとも1つのフィルタ要素への印加)、いずれかの孔径を達成する手段を用いるときよりも、迅速かつ容易に孔径を調整することができる。本実施の形態では、装置は、遠心分離機を備えることができる。1つの利点は、遠心分離機の遠心力が、液体及び粒子の少なくとも1つのフィルタ要素の通過を加速させるので、単なる重力よりも迅速に液体中の粒子を分離することができることである。電圧源は、少なくとも1つの電気伝導層、任意選択で、少なくとも2つの電気伝導層に500~4000Vの範囲の電圧を印加するように構成可能である。
【0020】
本実施の形態では、好ましくは、フィルタ要素は、貫通孔を有する電気活性材料及び/又は圧電材料を備えるか、これらからなる。特に好ましくは、その材料は、電気活性ポリマ及び/又は圧電ポリマ、特に、磁気粘性エラストマ及び/又は圧電エラストマを含むか、それらからなる。これは、(例えば、シリコーンエラストマ、熱可塑性エラストマ、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される)埋め込まれた磁性及び/又は圧電ナノ粒子を含むエラストマであればよい。本発明によれば、用語「ナノ粒子」は、電子顕微鏡により測定された1nm~100μmの直径を有する粒子を意味すると理解されたい。したがって、用語「ナノ粒子」の本発明にかかる理解は、用語「微粒子」に1μm~100μmの直径を想定したときの「微粒子」も含む。磁性粒子及び/又は圧電粒子は、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム、及びそれらの組み合わせからなる群から選択することができる。
【0021】
好適な実施の形態では、装置は、フィルタ要素の孔の孔径を変更する手段を制御するように構成される制御部を備える。
【0022】
好ましくは、その制御は、フィルタ要素の孔の孔径を変更する手段の遠心分離機の遠心速度を変更するような方法で、好ましくは、液体中の粒子の分離の過程で段階的に遠心速度を増加させるように起こる。ここで、特に、その増加は、時間とともに自動的に又はユーザの入力により手動で起こる。
【0023】
また、制御部は、フィルタ要素の孔の孔径を変更する手段の電圧源の電圧を変更するような方法で、好ましくは、液体中の粒子の分離の過程で段階的に電圧を低下させるような方法で、フィルタ要素の孔の孔径を変更する手段を制御するよう構成することができる。ここで、特に、その低下は、時間とともに自動的に又はユーザの入力により手動で起こる。
【0024】
さらに、制御部は、100nm~100μmの範囲でフィルタ要素の孔の孔径を変更するような方法で、フィルタ要素の孔の孔径を変更する手段を制御するよう構成することができる。この範囲の孔径は、血液粒子の分離、すなわち、血液中に存在する血球やエキソソームの分離に有利である。
【0025】
さらに、制御部は、時間とともに自動的に又は装置のユーザの入力により手動で、より大きい直径に、好ましくは、200nmの孔径から20μm以上の孔径に、特に好ましくは、(エキソソームの保持に有利に)200nmの孔径から(血小板の保持に有利に)3μmの孔径に、(赤血球の保持に有利に)4-7μmの孔径に、(PBMCの保持に有利に)8-12μmの孔径に、(マクロファージ、組織細胞、及び循環腫瘍細胞の保持に有利に)20μmの孔径から(好ましくは段階的に、マクロファージ、組織細胞、及び循環腫瘍細胞を通過させることができるように)100μmの孔径に、フィルタ要素の孔の孔径を段階的に変更する方法で、フィルタ要素の孔の孔径を変更する手段を制御するよう構成することができる。
【0026】
好適な実施の形態では、装置は、n個の更なるフィルタ要素を含み、n個の更なるフィルタ要素は、容器の上部区画の方向に、少なくとも1つのフィルタ要素上に配置され、いずれの場合も、定義された孔径の貫通孔を有する。ここで、n個のフィルタ要素の定義された孔径は、少なくとも1つのフィルタ要素の定義された孔径よりも大きく、n個のフィルタ要素の各々において、容器の上部区画の方向に近いほど大きい。また、nは、2以上の整数、特に好ましくは、3以上の整数、特に、4~10の範囲の整数である。孔の直径を除いて、n個の更なるフィルタ要素の各々は、装置の少なくとも1つのフィルタ要素の1つ以上又はすべての特性を有することができる。n個の更なるフィルタ要素は、いわゆる「深層濾過機(ディープベッドフィルタ)」、すなわち、n個のフィルタ要素の中で、そのサイズに応じて、液体の粒子を保持することができるフィルタ、すなわち、下部区画の方向にさらに配置されたフィルタ要素には到達することができないフィルタを作り出す。この「深層濾過機」の利点は、フィルタ要素の孔の目詰まりを避けることができることである。
【0027】
装置は、少なくとも1つの第2フィルタ要素を備えることができる。第2フィルタ要素は、容器の上部区画の方向に、フィルタ要素上に配置され、フィルタ要素の孔径よりも大きい第2の定義された孔径を持つ貫通孔を有する。孔の直径を除いて、少なくとも1つの第2フィルタ要素は、装置の少なくとも1つのフィルタ要素の1つ以上又はすべての特性を有することができる。これら2つのフィルタ要素の孔径を増加させる前に、例えば、第1のより小さい粒子群を少なくとも1つのフィルタ要素(=低い)内に配置することができ、第2の(より大きい)粒子群を第2フィルタ要素(=高い)内に配置することができる。孔径の対応する増加後にのみ、第2の粒子群は、最終的に装置の下部区画に到達するように、少なくとも1つのフィルタ要素を通過することができる。
【0028】
任意選択で、装置は、少なくとも1つの第3フィルタ要素を備えることができる。これは、第2フィルタ要素のフィルタ要素とは反対側に配置され、第2フィルタ要素の孔径より大きい第3の定義された孔径を持つ貫通孔を有する。孔の直径を除いて、少なくとも1つの第3フィルタ要素は、装置の少なくとも1つのフィルタ要素の1以上又はすべての特性を有することができる。追加の第3フィルタ要素は、「深層濾過機」を強化する。これら3つのフィルタ要素の孔径を増加する前に、第1の小さい粒子群を少なくとも1つのフィルタ要素内に配置し、第2のより大きい粒子群を第2フィルタ要素内に配置し、第3のさらに大きい粒子群を第3フィルタ要素内に配置することができる。孔径の対応する増加後にのみ、第2の粒子群は、少なくとも1つのフィルタ要素を通過することができ、任意選択で、第3の粒子群は、最終的に装置の下部区画に到達するように、(任意選択で、少なくとも1つのフィルタ要素も通って)第2フィルタ要素を通過することができる。フィルタ要素の孔の目詰まりを回避する利点は、本実施の形態ではさらに顕著である。
【0029】
好ましくは、装置の少なくとも1つのフィルタ要素、好ましくは、各フィルタ要素は、貫通孔を有する繊維を含むか、それからなる。
【0030】
好ましくは、装置の少なくとも1つのフィルタ要素、好ましくは、各フィルタ要素は、弾性材料、好ましくは、貫通孔を有する弾性ポリマを含むか、それからなる。
【0031】
また、装置の少なくとも1つのフィルタ要素、好ましくは、各フィルタ要素は、貫通孔を有する電気活性材料、好ましくは、電気活性ポリマを含むか、それからなるのが好適である。その利点は、電圧の印加により、フィルタ要素の孔径を制御することができることである。これにより、孔径を迅速かつ微調整することができる。
【0032】
これとは別に、装置の少なくとも1つのフィルタ要素、好ましくは、各フィルタ要素は、貫通孔を有する圧電材料を含むことができるか、それからなることができる。その利点は、電圧の印加により、フィルタ要素の孔径を制御することができることである。これにより、孔径を迅速かつ微調整することができる。
【0033】
装置の少なくとも1つのフィルタ要素、好ましくは、すべてのフィルタ要素は、シリコーンエラストマ、熱可塑性エラストマ(TPE)、磁気粘性エラストマ、圧電エラストマ、熱可塑性ウレタン(TPU)、及びそれらの組み合わせからなる群から選択された材料を含むことができるか、それからなることができる。
【0034】
また、装置の少なくとも1つのフィルタ要素、好ましくは、すべてのフィルタ要素は、好ましくは、エラストマ及びそれに埋め込まれた(例えば、磁性、圧電、及び/又は、重力に敏感な)ナノ粒子を含むか、それらからなる複合材料を含むか、それからなる。その利点は、磁性及び/又は圧電粒子(ナノ粒子)の場合には、電圧の印加により、フィルタ要素の孔径を制御することができ、重力に敏感なナノ粒子の場合には、加速力(例えば、遠心力)の適用により、それを制御することができることである。これらの場合には、孔径を迅速かつ微調整することができる。本発明によれば、用語「重力に敏感な」は、特に、粒子が2g/cm3以上の比密度を持つことを意味すると理解されたい。本発明によれば、用語「ナノ粒子」は、電子顕微鏡により計測した1nm~100μmの直径を有する粒子を意味するものと理解されたい(すなわち、用語「微粒子」のために1μm~100μmの直径を想定すると、この理解は、「微粒子」も含む)。重力に敏感なナノ粒子は、金属粒子、コーティングされた金属粒子(例えば、セラミック材料でコーティングされた金属粒子)、セラミック粒子、及びそれらの組み合わせからなる群から選択することができる。
【0035】
また、装置の少なくとも1つのフィルタ要素、好ましくは、すべてのフィルタ要素は、織布又は繊維から製造されたメリヤスを含むことができるか、それからなることができる。織布及び/又はメリヤスの材料は、(分子レベルで)弾性特性を持つ必要はない。織布及び/又はメリヤスの材料は、PES、PET、PC、PMMA、COC、ナイロン、ガラス繊維、PVDF、PP、及びそれらの組み合わせからなる群から選択することができる。
【0036】
これとは別に、装置の少なくとも1つのフィルタ要素、好ましくは、すべてのフィルタ要素は、(非対称の)固形フォームとして具現化される材料を含むことができるか、それからなることができる。いくつかのフィルタ要素が存在するならば、該いくつかのフィルタ要素が固形フォームを含むか、それからなるのが好ましい。ここで、特に好ましくは、個々のフィルタ要素の異なる孔サイズは、固形フォーム内で着実に相互に遷移し、したがって、個々のフィルタ要素の理論層のみが固形フォーム内に存在する。固形フォームの材料は、シリコーンエラストマ、熱可塑性エラストマ(TPE)、磁気粘性エラストマ、圧電エラストマ、熱可塑性ウレタン(TPU)、及びそれらの組み合わせからなる群から選択することができる。また、固形フォームの材料は、好ましくは、エラストマ及びそれに埋め込まれた(例えば、磁性、圧電、及び/又は、重力に敏感な)ナノ粒子を含むか、それらからなる複合材料を含むことができるか、それからなることができる。これとは別に、固形フォームの材料は、PES、PET、PC、PMMA、COC、ナイロン、ガラス繊維、PVDF、PP、及びそれらの組み合わせからなる群から選択することができる。
【0037】
さらに、装置の少なくとも1つのフィルタ要素、好ましくは、各フィルタ要素は、250μmより大きく、好ましくは、500μm以上、特に好ましくは、1mm以上、特に最も好ましくは、2mm以上、特に、3mm~10mmの範囲の上面から底面までの広がりを有することができる。
【0038】
装置の少なくとも1つのフィルタ要素、好ましくは、各フィルタ要素は、液体の特定の粒子を可逆的に結合するのに適したコーティングを含むことができる。好ましくは、コーティングは、特定の粒子との結合を解かせる方法で、フィルタ要素の孔の孔径を変更する手段により影響を与えるのに適した材料を含むか、それからなる。特に最も好ましくは、材料は、電気活性材料、特に、電気活性ポリマを含むか、それからなる。また、好ましくは、コーティングは、少なくとも1つのフィルタ要素の上面、底面、及び/又は、孔内面に、特に好ましくは、装置のすべてのフィルタ要素の上面、底面、及び/又は、孔内面に配置される。コーティングの利点は、サイズにかかわらず特定の粒子を保持し、その後、そのような粒子(特に、非常に小さい粒径を持つ粒子)を選択的に放出することができることにある。このように、選択性をさらに高めることができ、特に、非常に小さい粒径を持つ粒子をより確実に分離することができる。
【0039】
装置の容器の下部区画は、下部区画から液体を引き出す手段、好ましくは、バルブ、特に好ましくは、加速度感応バルブ及び/又は電圧切替式バルブを備えることができる。
特に、装置の制御部は、時間とともに自動的に又はユーザの入力により手動で、液体を引き出す手段を開閉するように構成することができる。分離プロセスの過程で、フィルタ要素の孔径が変化した後のいずれの場合も、下部区画に存在する粒子を含む液体を隔離することができる、すなわち、下部区画から取り除くことができるという利点がある。これらのそれぞれの液体の除去は、ある加速度及び/又は電圧をバルブに加えることにより、意図的に行うことができ、及び/又は、手動又は自動で行うことができる。自動除去は、ユーザの労力が少ないことに関連し、そのため、より便利でエラーの影響を受けにくい。
【0040】
装置の容器は、遠心分離管、採血注射器、献血バッグ、医薬品のバイオテクノロジ生産のための培養バッグ、バイオテクノロジ生産のためのバイオリアクタ、サンプル容器、培養容器、及びそれらの組み合わせからなる群から選択することができる。
【0041】
装置による分離に適した粒子は、小胞、ウイルス粒子、及び生体細胞からなる群から選択することができ、好ましくは、小胞、ウイルス粒子、及び血液からの生体細胞からなる群から選択することができ、特に好ましくは、エンドソーム小胞、エキソソーム小胞(エキソソーム)、ウイルス粒子、リポソーム、血小板、赤血球、白血球、及びそれらの組み合わせからなる群から選択することができる。
【0042】
また、本発明によれば、液体中の異なるサイズの粒子を分離するための方法を提供する。その方法は、
a)本発明にかかる装置を提供するステップと、
b)粒子がフィルタ要素を通過しないか、所望の粒径までの粒子がフィルタ要素を通過するように、装置のフィルタ要素の孔を調整するステップと、
c)装置の容器の上部区画を異なるサイズを有する粒子を含む液体で満たすステップと、
d)好ましくは、遠心分離機、ポンプ、及びそれらの組み合わせからなる群から選択された手段により、フィルタ要素を通して液体を移動させるステップと、
e)通過した粒子を任意選択で含む液体を装置の容器の下部区画から隔離するステップと、
f)所望のより大きい孔径までの粒子がフィルタ要素を通過可能であるように、装置のフィルタ要素の孔の孔径を増加させるステップと、
g)好ましくは、粒子を含まない液体で装置の容器の上部区画を任意選択で満たすステップと、
h)好ましくは、遠心分離機、ポンプ、及びそれらの組み合わせからなる群から選択された手段により、フィルタ要素を通して液体を移動させるステップと、
i)装置の容器の下部区画から今通過した粒子を含む液体を隔離するステップと、
j)好ましくは、フィルタ要素の孔の孔径を変更する手段に影響を与えることにより、任意選択で、装置の少なくとも1つのフィルタ要素のコーティングに粒子の可逆的結合を解かせるステップと、
k)任意選択で、液体のすべての粒子がサイズに応じて分離した複数の液体に存在するまで、ステップg)~j)を繰り返すステップと、
を含む。
【0043】
方法は、フィルタ要素の孔の孔径の増加がフィルタ要素の孔の孔径を変更する手段の遠心分離機の遠心速度を増加させることにより起こることを特徴とすることができる。
【0044】
また、方法は、フィルタ要素の孔の孔径の増加がフィルタ要素の孔の孔径を変更する手段の電圧源の電圧を低下させることにより起こることを特徴とすることができる。
【0045】
本発明によれば、液体中に存在する異なるサイズの粒子を分離するための本発明にかかる装置の使用をさらに記述する。装置の使用は、好ましくは、診断用の血球分画を提供するために、及び/又は、血液製剤を製造するため、特に、細胞治療薬を作成するために、血液から1つ以上の血球分画を隔離することを含むことができる。また、装置の使用は、血液からの細菌細胞を隔離することであってもよい。さらに、装置の使用は、好ましくは、診断にエキソソームを提供するために、及び/又は、ワクチン(例えば、リポソームワクチン)を製造するために、血液、血清、又はバイオ懸濁液からエキソソームを隔離することであってもよい。これとは別に、装置の使用は、混合組織細胞分画から組織細胞を隔離することであってもよい。さらに、装置の使用は、バイオリアクタ由来の混合細胞懸濁液から細胞を隔離することであってもよい。ここで、好ましくは、細胞は、植物細胞、動物細胞、ヒト細胞、細菌細胞、酵母細胞、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【
図4】本発明にかかる装置による液体中の異なるサイズの粒子の分離を概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0047】
本発明の主題は、本開示に示す具体的な実施の形態に限定することなく、以下の図及び実施例に基づいて、より詳細に記述される。
【0048】
図1は、本発明にかかる装置の実施の形態1を示す。装置は、液体を受けるための容器1と、上面3、底面4、及び上面3と底面4を接続する少なくとも1つの側面5を含む少なくとも1つのフィルタ要素2とを備える。フィルタ要素2は、定義された孔径を有する貫通孔6を含む。フィルタ要素2は、フィルタ要素2の上面3の方向の上部区画7と、フィルタ要素2の底面4の方向の下部区画8とに容器1を分割し、上部区画7内の液体の粒子がフィルタ要素2を通過するならば、当該粒子のみが下部区画8に到達可能なように、容器1内に配置される。容器1の上部区画7は、粒子を含む液体を受けるための開口9を有する。装置は、フィルタ要素2の孔6の孔径を変更する手段を備えることを特徴とする。本実施の形態では、この手段は、遠心分離機(図示せず)と、フィルタ要素2の側壁5に圧縮力又は引張力を加えるための本体11とを備える。ここで、本体11は、力はめ方式でコードを介して、アタッチメント13に設けられた偏向ローラ12により偏向されるフィルタ要素2の少なくとも1つの側面5の外側に接続される。遠心分離機の遠心力が大きくなると、本体11に掛かる力が強くなり、フィルタ要素2の側壁5に掛かる引張力が強くなる。これにより、フィルタ要素2の孔6が広くなる。
【0049】
図2は、本発明にかかる装置の実施の形態2を示す。装置は、液体を受けるための容器1と、上面3、底面4、及び上面3と底面4を接続する少なくとも1つの側面5を含む少なくとも1つのフィルタ要素2とを備える。フィルタ要素2は、定義された孔径を持つ貫通孔6を有する。フィルタ要素2は、フィルタ要素2の上面3の方向の上部区画7と、フィルタ要素2の底面4の方向の下部区画8とに容器1を分割し、フィルタ要素2を通過するならば、上部区画7内の液体の粒子のみが下部区画8に到達可能なように、容器1内に配置される。容器1の上部区画7は、粒子を含む液体を受けるための開口9を有する。装置は、フィルタ要素2の孔6の孔径を変更する手段を備えることを特徴とする。本実施の形態では、この手段は、遠心分離機(図示せず)と、フィルタ要素の孔に圧縮力又は引張力を加えるための少なくとも2つの本体10とを備える。ここで、少なくとも2つの本体10は、フィルタ要素の孔の反対側に配置されるナノ粒子として具体化される。遠心分離機の遠心力が大きくなると、少なくとも2つの本体10に掛かる力が強くなり、フィルタ要素2の孔6の側縁に掛かる引張力が強くなる。これにより、フィルタ要素2の孔6が広くなる。
【0050】
図3は、本発明にかかる装置の実施の形態3を示す。装置は、液体を受けるための容器1と、上面3、底面4、及び上面3と底面4を接続する少なくとも1つの側面5を含む少なくとも1つのフィルタ要素2とを備える。フィルタ要素2は、定義された孔径を持つ貫通孔6を有する。フィルタ要素2は、フィルタ要素2の上面3の方向の上部区画7と、フィルタ要素2の底面4の方向の下部区画8とに容器1を分割し、フィルタ要素2を通過するならば、上部区画7内の液体の粒子のみが下部区画8に到達可能なように、容器1内に配置される。容器1の上部区画7は、粒子を含む液体を受けるための開口9を有する。装置は、フィルタ要素2の孔6の孔径を変更する手段を備えることを特徴とする。本実施の形態では、この手段は、電圧源14と、フィルタ要素2の側壁5にある少なくとも1つの電気伝導層とを備える。電圧源の電圧を低下させると、フィルタ要素2の側壁5に掛かる圧縮力が弱くなる。これにより、フィルタ要素2の孔6が広くなる。
【0051】
図4は、本発明にかかる装置による液体中の異なるサイズの粒子の分離を概略的に示す。ここで、フィルタ要素の孔の孔幅を変更する手段は、電圧源を備える。電圧源は、フィルタ要素の側面にある少なくとも1つの電気伝導層に接続される。第1フィルタ要素2の孔6と第2フィルタ要素15の孔16の平均孔径をできるだけ小さく保つように、電気伝導層に電圧を印加しないか、低い電圧のみを印加する。第1サイズを有する第1の粒子群18と、第1サイズより大きい第2サイズを有する第2の粒子群19とを含む液体(懸濁液)を装置の容器の上部区画7に加える(
図4A)。重力を用いるか、遠心分離機及び/又はポンプの作用により、第1の粒子群18は、第2フィルタ要素15を通過して、第1フィルタ要素2に到達し、そこに保持される。ここで、第2の粒子群19は、第1フィルタ要素2に到達することができず、第2フィルタ要素15により既に保持される(
図4B)。電圧源により印加する電圧を高める場合、第1の粒子群18が第1フィルタ要素2を通過することができ、装置の容器の下部区画8に集められ、第2の粒子群19が第1フィルタ要素2に到達することができ、そこに保持されるように、第1フィルタ要素2の孔6と第2フィルタ要素15の孔16が広くなる(
図4C)。第1の粒子群18を含む液体を除去した後、第1フィルタ要素2の孔6がさらに広くなり、第2の粒子群19も第1フィルタ要素2を通過することができ、装置の容器の下部区画8に集められるように、電圧源により印加した電圧がさらに高くなる(
図4D)。その結果、第2の粒子群19から第1の粒子群18を段階的に分離することができる。
【0052】
実施例1-遠心分離機と、孔径を変更するための少なくとも1つの本体とを備える装置
第1遠心分離加速を特徴とする第1選択ステップでは、第1の遠心加速中にフィルタ要素の孔を通過することができる粒子を含む液体は、容器の上部区画から下部区画に流れるが、この条件下でフィルタ要素の孔を通過することができない粒子を含む液体は、容器の上部区画に残る。その後、下部区画に位置する粒子を含む液体は、下部区画から除去される。
【0053】
第2選択ステップでは、第1の遠心加速よりも大きい第2の遠心加速が適用され、これにより、少なくとも1つの本体の作用は、フィルタ要素の孔の孔径の増加をもたらす。その結果、より大きい粒子を含む液体は、フィルタ要素を通過して、容器の下部区画に集められ、そこから隔離することができる。
【0054】
実施例2-孔径を変更するための電圧源を備える装置
電圧源により印加される第1電圧を特徴とする第1選択ステップでは、電圧が存在する間フィルタ要素の孔を通過することができる粒子を含む液体は、容器の上部区画から下部区画に流れるが、この条件下でフィルタ要素の孔を通過することができない粒子を含む液体は、容器の上部区画に残る。その後、下部区画に位置する粒子を含む液体は、下部区画から除去される。
【0055】
第2選択ステップでは、第1電圧より低い電圧が印加され、それにより、フィルタ要素の孔の孔径の増加をもたらす。その結果、より大きい粒子を含む液体は、フィルタ要素を通過して、容器の下部区画に集められ、そこから隔離される。
【符号の説明】
【0056】
1:容器
2:フィルタ要素
3:フィルタ要素の上面
4:フィルタ要素の底面
5:フィルタ要素の側面
6:定義された孔径を有するフィルタ要素の貫通孔
7:容器の上部区画
8:容器の下部区画
9:容器の上部区画の開口
10:フィルタ要素の孔に圧縮力又は引張力を加えるための本体
11:フィルタ要素の側壁に圧縮力又は引張力を加えるための本体
12:偏向ローラ
13:偏向ローラのアタッチメント
14:電圧源
15:第2フィルタ要素
16:定義された孔径を有する第2フィルタ要素の貫通孔
17:下部区画から液体を引き出す手段(例えば、バルブ)
18:第1の粒子群
19:第1の粒子群より大きい第2の粒子群
Z:フィルタ要素の表面の中心
R:フィルタ要素の表面の端。
【国際調査報告】