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特表2024-500539バナジウム化合物を用いた疼痛の治療方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-09
(54)【発明の名称】バナジウム化合物を用いた疼痛の治療方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 33/24 20190101AFI20231226BHJP
   A61P 25/04 20060101ALI20231226BHJP
   A61P 29/02 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
A61K33/24
A61P25/04
A61P29/02
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023539342
(86)(22)【出願日】2021-12-20
(85)【翻訳文提出日】2023-06-21
(86)【国際出願番号】 CN2021139621
(87)【国際公開番号】W WO2022135333
(87)【国際公開日】2022-06-30
(31)【優先権主張番号】202011514811.5
(32)【優先日】2020-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523238128
【氏名又は名称】深▲せん▼市方升泰医薬科技有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】謝方
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086HA07
4C086HA28
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA13
4C086MA17
4C086MA28
4C086MA35
4C086MA52
4C086MA55
4C086MA63
4C086MA66
4C086NA14
4C086ZA08
(57)【要約】
本発明は、無機バナジウム化合物又は有機バナジウム化合物から選ばれる+4価又は+5価バナジウム化合物であって、有機バナジウム化合物がバナジウム錯体又はキレートから選ばれる鎮痛成分を提供するものである。または、本発明は、鎮痛薬の製造における+4価又は+5価バナジウム化合物の使用を提供するものである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バナジン-酸素と結合させる+4価バナジウム化合物又は+5価バナジウムを含有する化合物を治療有効量で疼痛患者に投与し、
+4価バナジウムを含有する化合物又は+5価バナジウムを含有する化合物の使用量が、バナジウム質量換算で0.0001mg/kg体重~5mg/kg体重であることを特徴とする疼痛の治療方法。
【請求項2】
+4価バナジウム化合物は、無機塩、無機酸塩、有機酸の塩、又はそれらが有機リガンドと形成する錯体から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
+4価バナジウム化合物は、VCl、VOCl、VOSO、(VO)(PO、VOHPO、VO(HPOから選択される請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記5価バナジウム化合物は、オルトバナジン酸又はメタバナジン酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩又は遷移金属塩である請求項1に記載の方法。
【請求項5】
5価バナジウム化合物はオルトバナジン酸ナトリウム又はオルトバナジン酸カリウムである請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記5価バナジウム化合物はメタバナジン酸ナトリウム又はメタバナジン酸カリウムである請求項4に記載の方法。
【請求項7】
4価バナジウム化合物は、4価バナジウムがポリカルボン酸又は有機リガンドと形成する化合物であり、又は、5価バナジウム化合物は、5価バナジウムが多価カルボン酸又は有機リガンドと形成する化合物である請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記化合物は5価バナジウムがクエン酸と形成するものである請求項7に記載の方法。
【請求項9】
有機リガンドと形成する前記化合物はシスビス(マルトラト)メトキシオキソバナジウム(V)である請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記化合物は経口投与、静脈注射、皮下注射、経皮吸収、舌下投与、及び吸入投与により投与される請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記薬物の剤形は、錠剤、注射液、カプセル、貼付剤、軟膏、又は吸入剤である請求項10に記載の方法。
【請求項12】
バナジン-酸素と結合させる+4価バナジウム化合物又は+5価バナジウムを含有する化合物の疼痛の治療薬の製造における使用。
【請求項13】
疼痛の治療に用いられることを特徴とする+4価バナジウム化合物又は+5価バナジウムを含有する化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疼痛、特に急性疼痛(acute pain)、慢性疼痛(chronic pain)、炎症性疼痛、癌性疼痛、及び癌治療による疼痛、内臓痛、神経因性疼痛、糖尿病性神経障害に伴う疼痛(diabetic neuropathy)、帯状疱疹後神経痛(post-herpetic pain)、偏頭痛、線維筋痛(fibromyalgia)、及び三叉神経痛(trigeminal neuralgia)を治療するための方法及び薬物成分に関する。
【背景技術】
【0002】
疼痛とは、組織損傷又は潜在的な組織損傷に関連する不快な主観的感覚及び感情的体験のことである。疼痛は個人、家庭及びコミュニティの正常な生活に影響を与える。統計によると、先進国では37.3%、発展途上国では41.1%の成人が慢性痛を患っている(Tsang、A.、Von Korff、M.、Lee、S.、Alonso、J.、Karam、E.、Angermeyer、M.C.、etal.(2008).Common chronic pain conditiohs in developed and developing countries:Gender and age differences and comorbidity with depression-anxiety disorders?Journal of Pain、9(10)、883-891.)。慢性疼痛は、1)行動と日常活動が制限されること(A.Gureje O、Von Korff M、Simon GE、Gater R.Persistent pain and wellbeing.A World Health Organization study in primary care.JAMA 1998;280:147-51.B.Smith BH、Elliott AM、Chambers WA、Smith WC、Hannaford PC、Penny K.The impact of chronic pain in the community.Fam Pract 2001;18:292-9.)、2)オピオイド中毒(Institute of Medicine.Relieving pain in America:a blueprint for transforming prevention、care、education、and research.Washington、DC:National Academies Press;2011.)、3)不安やうつ(A.)、及び4)健康状態の悪さや生活の質の低下を自覚すること(A及びB)に繋がる。米国では、約5、000万人の成人が疼痛の影響を受けている。そのうち、2、000万人が深刻な影響を受け、ほとんどの時間(ひいては毎日)、正常に働いたり生活したりすることができなくなっている(Schappert SM、Burt CW.Ambulatory care visits to physician offices、hospital outpatient departments、and emergency departments:United States、2001-02.Vital Health Stat 132006;13:1-66.)。
【0003】
疼痛の発生メカニズムは極めて複雑で、電気生理的な方法で証明されるが、実際には主観的な感覚である。疼痛の強さや特性は内外の要因とも関係があり、同じ刺激であっても、環境、身体的・心理的状態が異なると、異なる体験になりうる。
【0004】
神経系は、さまざまな熱刺激や機械的刺激、環境や内因性の化学的刺激によってもたらされる刺激を認識し、解明している。臨床的には、急性と慢性の疼痛は大きく異なる。急性疼痛は、骨格筋の痙攣や交感神経系の活性化に関連し、特定の疾患や障害によって引き起こされ、生物学的に有用な目的を有し、自己抑制されている。持続的な傷害を引き起こす際には、末梢神経系と中枢神経系(疼痛の伝達経路の構成要因である)に大きな可塑性が示され、その際に疼痛のシグナルが強まり、アナフィラキシーも生じる。これは、可塑性が反射に対する防御に有利である場合には有益であるが、変化が持続すると慢性的な疼痛を引き起こす可能性がある。一方、慢性疼痛は疾患の状態であると考えられる。疾患や体の損傷に関係している場合は、正常な治癒時間を超えて疼痛が生じることがある。慢性疼痛は心理状態から生じる可能性があり、この場合、生物学的な要因もなく、明確な終点もない。創傷や疾患(糖尿病、関節炎や腫瘍の成長)に関連する持続的な疼痛は、周りの神経の変化によって引き起こされ、このような変化は神経繊維の損傷によって発生し、自己発電の増加や伝達/神経伝達性性質の変化を引き起こす可能性がある。実際には、局所麻酔薬を系統的に適用することがさまざまな神経痛(例えば帯状疱疹後神経痛)の治療に有用であることは、損傷した神経繊維に蓄積するナトリウムチャネルに対するこれらの麻酔薬の作用を反映している可能性がある。
【0005】
疼痛の知識と研究が拡大すると、多くの鎮痛薬が相次いで登場した。これらの薬物は、次のカテゴリに分類できる。1)非ステロイド系抗炎症薬(non-steroidal anti-inflammatory drugs)、例えば、アスピリン(aspirin)、イブプロフェン(ibuprofen)、ナプロキセン(naproxen)、ケトプロフェン(ketoprofen)、ジクロフェナク(diclofenac)など、及びCOX-2阻害剤(例えば、ロフェコキシブ(rofecoxib)やバルデコキシブ(valdecoxib)など);2)アヘン系鎮痛薬(opiate analgesics)、例えばモルフィン(morphine)、オキシコドン(oxycodone)、ブプレノルフィン(buprenorphine)、及びフェンタニ(fentanyl)など;3)解熱鎮痛薬(analgesics and antipyretics)、例えば、アセトアミノフェン(acetaminophen)など;抗うつ薬、例えば、ノルトリプチリン(nortriptyline)、デシプラミン(desipramine);4)抗けいれん薬、例えば、カルバマゼピン(carbamazepine)、ガバペンチン(gabapentin)など;5)抗精神病薬、例えば、オランザピン((olanzapine)及びクエチアピン(quetiapine)など; 6)セロトニン受容体作動薬、例えば、スマトリプタン(sumatriptan)、エルゴタミン(ergotamine)及びラミタン(lasmiditan)など;7)カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP:Calcitonin Gene-Related Peptide)、例えば、エレヌマブ(erenumab)及びフレマネズマブ(fremanezumab)など;8)その他の鎮痛剤、例えば、ジコノチドなど。
【0006】
非ステロイド系抗炎症薬及びオピオイド系鎮痛薬のほとんどは広域鎮痛薬であり、すなわち、様々な疼痛の適応症に使用できる薬物であり、その他の種類の鎮痛薬はすべて明らかな制限がある。一方、個々の鎮痛薬については、いずれの薬物も薬効、薬剤耐性、副作用などの一方或いは多方面で明らかな欠陥が存在する。例えば、非ステロイド系抗炎症薬は軽度と中等度の疼痛にしか効かないもので、最もよく使われるアスピリンとイブプロフェンはいずれも胃腸道に深刻な副作用がある。オピオイド系薬物は薬剤耐性の問題があり、また、便秘や呼吸抑制、依存症などの副作用を引き起こす可能性がある。そのため、より良い鎮痛薬を探すことが必要とされる。
【0007】
バナジウムは周期表のVB族に属し、人体に必須な微量元素である。バナジウムは自然界に複数の原子価で存在することができ、生体内ではその原子価状態は+3、+4、及び+5である。+3価バナジウムは、数少ない下等海洋生物の細胞中にV3+イオンとして存在するが(Crans DC,Mahroof-Tahir M,Keramidas AD.Mol Cell Biochem,1995,153:17-24)、動物体内の生理的条件下では、主に+4価と+5価の形態で存在する。
【0008】
バナジウム化合物の薬用価値は長年にわたって発見されてきた。例えば、研究によれば、バナジウム化合物はプロテインチロシンホスファターゼ1B(protein tyrosine phosphatase 1B、PTB1B)を阻害する活性を有すること、Hsp60-PPARγ蛋白質相互作用を誘導し、組織のインスリン抵抗性を除去することやアディポネクチンのレベルを向上させ、PPARαを活性化することが明らかになった。したがって、バナジウム化合物は、細胞のエネルギー代謝レベルを高め、糖/脂質代謝を改善する能力を有しており、糖尿病や抗アルツハイマー病(Alzheimer’s disease、AD)の治療薬として期待されている。バナジウム化合物はまた、抗増殖活性を有し、抗腫瘍及び抗癌における潜在的な用途を有する。また、研究によれば、バナジウム化合物には抗寄生虫、抗細菌、抗ウイルス作用があることがわかった(1.Rehder,D.Perspectives for vanadium in health issues.Future Med.Chem.xxx;2.US6,232,340 Bの引用文献;3.董亜瓊、牛霞、肖茹月、張悦、夏青、楊暁達 バナジウム錯体の薬理作用と理性薬物 設計中国科学:化学、2017,47(2),162-171)。
【0009】
雷らは特許(CN102309507A及びCN102309509A)において、少量の+5価バナジウムと+3価及び/又は+4価バナジウムとの無機塩混合物の鎮痛用途を提案したが、非常に酸性の強い溶液を足湯に使用するため、副作用が大きく、患者のコンプライアンスが非常に悪い。
【0010】
また、李らは脊髄タンパク質チロジンホスファターゼ(protein tyrosine phosphatases、PTPs)の炎症性疼痛における作用機序を調べる中で、炎症を誘発して疼痛したマウスの鞘内にホスファターゼ阻害剤の一種であるオルトバナジン酸ナトリウムを注射投与し、鎮痛作用を認めたことから、脊髄タンパク質チロジンホスファターゼの活性と炎症性疼痛との関係を提案した。この研究はバナジウム化合物の鎮痛薬に関する研究を引き出すどころか、髄腔内注射以外の方法で投与される鎮痛薬にはなりにくいと思わせるものである。ホスファターゼは血液、細胞組織、骨など人体に広く存在しており、バナジウム化合物を経口投与、血液注射、皮下注射、経皮投与などで投与する場合、脊髄に到達するまでにバナジウムイオンが「経路」の(例えば血液中の)ホスファターゼと結合する必要がある。この場合、2つの問題が生じる。a)バナジウムイオンは脊髄に運ばれ、それらのうちのホスファターゼと結合することができるか。b)「経路」のこんなにたくさんのホスファターゼと結合した後、その最終的な生理反応は鎮痛であるか。このため、李らの科学研究群がバナジウム化合物の鎮痛用途を研究したという報告がないだけでなく、他の科学研究群がバナジウム化合物に対して鎮痛研究を行ったという報告もない。
【0011】
金属バナジウムを含有する化合物を使って糖尿病などの疾患を治療する臨床研究では、このような化合物の治療用量は深刻な副作用をもたらすため、最終的には薬にならない。本発明者らは、金属バナジウムを含有する化合物が、より少ない用量で疼痛を効果的に治療することができ、その用量を一定のレベルまで増加させると、疼痛の治療レベルがプラトー期に達し、したがって、バナジウム化合物の一定の用量で疼痛を治療することができ、バナジウム化合物の副作用を回避することができることを意外に発見した。これにより、本発明を完成させるに至った。
【発明の概要】
【0012】
本発明は、+4価バナジウムを含有する化合物又は+5価バナジウムを含有する化合物を用いた疼痛の治療方法を提供する。具体的には、本発明は、+4価バナジウムを含有する化合物又は+5価バナジウムを含有する化合物を治療有効量で疼痛患者に投与する方法であって、+4価バナジウムを含有する化合物又は+5価バナジウムを含有する化合物の使用量が、バナジウム質量換算で1日当たり0.00001mg/kg体重~300mg/kg体重、好ましくは0.0001mg/kg体重~50mg/kg体重、より好ましくは0.001mg/kg体重~5mg/kg体重である方法を提供する。
【0013】
本発明のバナジウム化合物は、無機バナジウム化合物及び有機バナジウム化合物であってもよい。本発明者らによれば、バナジウムを含有する化合物は、有機化合物であろうと無機化合物であろうと、それらのうちに含まれるバナジウムの原子価も4価であろうと5価であろうと、哺乳動物(又は人体)に吸収されさえすれば鎮痛作用を生じさせることができ、その原子価又はリガンドの違いは、発効時間、鎮痛強度及び持続時間に影響を与え、人体の生理条件下において、バナジウムは主に4価又は5価の形態で存在し、かつ主に酸素含有バナジウムの形態で存在するため、体内において鎮痛作用を果たす活性物質はVIVO及びVOを含有する物質であるべきである。具体的には、本発明のバナジウム化合物は、a)+5価バナジウム(「5価バナジウム」、「+5価バナジウム」、「V」、「V5+」、「バナジウム(V)」、又は「V(V)」と表記してもよい)が、他の原子(又はイオン)との化学結合、すなわちイオン結合及び/又は共有結合と2次結合を形成してなる+5価バナジウム化合物と、b)+4価バナジウム(「4価バナジウム」、「+4価バナジウム」、「VIV」、「V4+」、「バナジウム(IV)」、又は「V(IV)」と表記してもよい)が、他の原子(又はイオン)との化学結合、すなわちイオン結合及び/又は共有結合と2次結合を形成してなる+4価バナジウム化合物をと、を含む。ここで、2次結合には、双極子-双極子相互作用(dipole-dipole interaction)、ロンドン分散力相互作用(London dispersion interaction)、及び水素結合などが含まれる。
【0014】
バナジウム(V)又はバナジウム(IV)化合物は、バナジウム-酸素結合、バナジウム-ハロゲン結合、バナジウム-窒素結合、バナジウム-リン結合、バナジウム-硫黄結合、又はバナジウム-炭素結合を含有するか、又はこれらの結合を2種類以上含有するバナジウム化合物であることが好ましい。バナジウム化合物はよく錯体の形態で存在し、その特徴は次の通りである。a)リガンドは無機リガンドであってもよいし、有機リガンドであってもよい。b)リガンドは中性分子であってもよいし、負の電荷を帯びたイオンであってもよいし、正の電荷を帯びたイオンであってもよい。c)リガンドは、一座(1つのドナーを含有する)又は多座(2つ以上のドナーを含有するものであって、一般にO-、N-、S-又はC-ドナーを含む)であってもよい。d)錯体は、1種の一座リガンドのみ、2種以上の一座リガンド、1種の多座リガンド、2種以上の多座リガンド、又は1座リガンドと多座リガンドの両方を含んでもよい。e)バナジウム(V)又はバナジウム(IV)化合物は、共有結合(配位結合を含む)のみを含む共有化合物であってもよく、イオン結合のみを含有するか又はイオン結合と共有結合の両方を含有する塩系化合物であってもよい。バナジウム(V)又はバナジウム(IV)を含む部分は、塩のアニオン中又はカチオン中に存在していてもよい。f)バナジウム(V)又はバナジウム(IV)化合物は、単核の形態で存在することも、多核の重合形態で存在することもできる。ここで、「核」とは、バナジウム(V)又はバナジウム(IV)を含む中心をいう。g)バナジウム(V)又はバナジウム(IV)化合物は、水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ピリジン、DMSOなどの結晶性溶媒を固体状態で伴っていることが多い。
【0015】
一般に、バナジウム配位化合物の配位数(CN)は4~8個であり、配位によって形成される幾何形状は、四面体(tetrahedron)、平面四角形(square plane)、三方両錐(trigonal bipyramid)、四角錐(square pyramid)、八面体(octahedron)、三角柱(trigonal prism)、双五角錐(pentagonal bipyramid)、一冠八面体(capped octahedron)、一面三角プリズム形(capped trigonal prism)、正四角反柱(square antiprism)、十二面体(dodecahedron)である。実際に形成されたバナジウム化合物は配位数や幾何学的形状が上記の帰納からずれている可能性がある。
【0016】
バナジウム(V)又はバナジウム(IV)化合物は、固体状態又は溶液状態において異なる形態を呈することができ、本明細書に記載された構造的特徴は、固体状態又は溶液状態において含有されているか、又は部分的に含有されている。
【0017】
より好ましいバナジウム化合物は、バナジウム-酸素結合を含有するバナジウム(V)又はバナジウム(IV)化合物であり、以下の各種化合物を含むが、これらに限定されない。
【0018】
I.V及びその水和物(例えば、V・HO、V・2HO、V・8HOなど)を含むがこれらに限定されないバナジウム(V)の酸化物;VO、V及びこれらの水和物を含むがこれらに限定されないバナジウム(IV)の酸化物
【0019】
II.オルトバナジン酸(HVO)、メタバナジン酸(HVO)、ポリバナジン酸(例えば、H、H12、H15、H1028、H、H12など)、バナジウムのヘテロポリ酸(例えば、バナジウム-リンヘテロポリ酸、PPV、PVP、バナジウム-ヒ素ヘテロポリ酸など)などを含むがこれらに限定されないバナジン(V)酸;HVO、HVO、HVO、ポリ酸(例えば、H)、ヘテロポリ酸(例えば、バナジウム-リンヘテロポリ酸(例えば、H[VO(P)])、バナジウム-ヒ素ヘテロポリ酸、バナジウム-モリブデンヘテロポリ酸など)を含むが、これらに限定されないバナジン(IV)酸など
【0020】
III.各種バナジン酸根アニオンが無機又は有機カチオンと形成する塩
ここで、バナジン(V)酸根アニオンは、オルトバナジン酸根(すなわち、VO 3-及びそのプロトン化形態であるVO-、VO2-)、メタバナジン酸根(すなわち、VO )、ポリバナジン酸根(例えば、V 4-、V12 4-、V15 5-、V1028 6-、V 3-、V12 4-など、及びそれらのプロトン化形態)、ヘテロポリ酸根(例えば、リン-バナジウムヘテロポリ酸根
)を含むが、これらに限定されない。バナジン(IV)酸根アニオンは、例えば、VO 4-(及びそのプロトン化形態HVO 4-n、n=1~3)、VO 6-(及びそのプロトン化形態HVO 6-n、n=1~5)、VO 2-(及びそのプロトン化形態HVO-)、V 2-(及びそのプロトン化形態HV )、V 2-(及びそのプロトン化形態HV-)、ヘテロポリ酸根(例えば、VO(P2-、MO19 8-など)である。
ここで、無機又は有機カチオンは、第4級アンモニウムイオン、すなわちR(R、R、R及びRは、Hであってもよく、低級アルカンであってもよく、これらのうちの少なくとも1対が(原子間の介在によって)連結されて形成された置換又は非置換含窒素複素環であってもよく、例えば、Rは、NH 又はアンモニウム根、PyH又はピリジン水素、N-アルキルピリジン陽イオンなどを表す);Na、K、Li、Rbなどのアルカリ金属元素陽イオン;アルカリ土類金属元素陽イオン、例えばMg2+、Ca2+、Be2+、Sr2+、Ba2+などのイオン;IIIA、IVA、VA及びVIA中の金属陽イオン;例えば、Fe2+、Fe3+、Cu2+、Zn2+、Ti2+、Ti3+、Ti4+、Ni2+、Ni3+、Cr2+、Cr3+、Cr6+などの遷移金属元素陽イオンを含むが、これらに限定されない。
バナジウム(V)塩の具体例として、例えば、NHVO、Ca(VO・4HO、KCa(VO・7HO、RbCa(V・17HO、NaVO、KCaVO・6HO、Na、K14、Ca1028、BiVO、FeVOなどである。バナジウム(IV)塩の具体例として、例えば、M VO、MII VO、MII VO、M VO、M 、K・2.66HOであり、ここで、Mは+1価の金属イオンであり、MIIは+2価の金属イオンである。
【0021】
IV.以下のものを含むがこれらに限定されない、バナジウムが一座又は多座のリガンドと錯化して形成する酸素含有バナジウム化合物
a)バナジウムが一座リガンドと錯化して形成する酸素含有バナジウム化合物
モノマーリガンドは、F、Cl、Br、I、NO、HO、CN、NO 、SCN、NCS、NH、N 、OH、CO、HCO 、HPO 、HSO 、HSO 、ClO 、NO 、SO、HCOO、メルカプト水素系化合物(例えば、SH-)、リン酸系化合物(例えば、ジポリリン酸)、及びO-、S-、又はN-ドナーを含有する一座有機リガンド(有機単座O-、S-、又はN-ドナーリガンド)を含み、アルコール類、フェノール類、アミン類、カルボン酸類、有機リン酸類化合物を含むが、これらに限定されない。
具体的には、バナジウム(V)化合物は、例えば、VOF、VOCl、VOBr、VO(ClO、VO(NO、VOCl(N)、VOHal(OR)、VOHal(OR)、VO(OR)、M[VO]、M[VO]、M[VOCl]、M[VOF]、M[VOF]、M[VOCl]、[PyH][VOCl]、MVO、MVOS、MVO、MVOS、M[OVSVO]、VO(OOCR)、VO(NR
などであって、ただし、MはLi、Na、K、Rb、Csであり、Hal=F、Cl、Br、Iであり、R、R、R=H、アルカン、芳香族炭化水素、又はその他の有機基である。
具体的には、バナジウム(IV)化合物は、例えば、VOSO、3VO(2SO)、M [VO(SO]、MII[VO(SO]、VOHal、VO(HalO(例えばVO(ClO・5HO)、M [VOHal]又はM [VOHal]{例えばK[VOHal(HO)]、Cs[VOCl]}、M [VO(CN)]、M [VO(NCS)]、Na(VO)(OH)であり、ただし、Hal=F、Cl、Br、Iであり、Mは+1価の金属イオンであり、MIIは+2価の金属イオンである。
b)バナジウムが多座リガンドと錯化して形成する酸素含有バナジウム化合物
多座リガンドは、CO 2-、O2-、C 2-、SO 2-、SO 2-、PO 3-、HPO 2-、三リン酸根などの無機リガンド、及びO-、N-、又はS-ドナーを含有する多座有機リガンドを含むが、これらに限定されない。
例えば、グリコール(例えば、エチレングリコール、糖類化合物、ヌクレオシド系化合物)、グリセリン、ヒドロキシカルボン酸(例えば、乳酸、クエン酸、酒石酸などのα-ヒドロキシカルボン酸)、サリチル酸系化合物、二酸(例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸など)、オキシム酸(又はヒドロキサム酸(hydroxamic acids)、HONHCOR、Rは有機基)、硫黄含有リガンド化合物(例えば、β-メルカプトエタノール、ジチオゾトール、ビス(2-メルカプトエチル)エーテル、トリス(2-メルカプトエチル)アミン、システイン、グルタチオン、酸化グルタチオン、ジスルフィド、及びこれらの関連化合物又は誘導体など)、アミノアルコール及び関連リガンド化合物(例えば、エタノールアミン、エチレンジアミン、アミノ酸及びその誘導体、2-アミノエタンチオール、ジエタノールアミン及びその誘導体、エチレン-N,N’-二酢酸(EDDA)及びその類似体、ピリジンカルボン酸、ヒドロキシピリジン、アミドなど)、ジペプチド及びポリペプチド化合物である。
具体的には、バナジウム(V)化合物は、例えば、V(SO・2HO、VOPO・2HO、M[VO(SO)]、K[VO(C]、M[VO(C];
部分を含有するグリコール系リガンド錯体;
部分を含有するアミノアルコール系リガンド錯体、
部分を含有するヒドロキシカルボン酸系リガンド錯体、
部分を含有するアミノ酸系リガンド錯体、
部分を含有する3-ヒドロキシ-4H-ピラン-4-オン系リガンド錯体、
部分を含有するオキシム酸リガンド錯体、
部分を含有する二酸系リガンド錯体、
部分を含有する硫黄含有リガンド錯体、
部分を含有するα-ピリジンカルボン酸系リガンド錯体であり、ただし、構造式中、V=V(V)、M=Li、Na、K、Rb、Csであり、R、R、R、R又はRはH又は他の基であり、Rは-(CH-基(n=0~4)、-CR-基又は、ホモ芳香族炭化水素、複素環などの他の基であってもよい。
具体的には、バナジウム(IV)化合物は、例えば、V(SO、VOSO、MII [VO(SO]、M [(VO)(SO]、VO(PO、MII[VO(PO)]{例えば、Ba[VO(PO)]・4HO};
部分を含有するグリコール系リガンド錯体;
部分を含有するアミノアルコール系リガンド錯体、
部分を含有するヒドロキシカルボン酸系リガンド錯体、
部分を含有するアミノ酸系リガンド錯体、
部分を含有する3-ヒドロキシ-4H-ピラン-4-オン系リガンド錯体、
部分を含有するオキシム酸系リガンド錯体、
部分を含有する二酸リガンド錯体、
部分を含有する硫黄含有リガンド錯体、
部分を含有するα-ピリジンカルボン酸系リガンド錯体であり、ただし、Mは+1価の金属イオンであり、MIIは+2価の金属イオンであり、構造式中、V=V(IV)であり、R、R、R、R又はRは、H又は他の基であり、Rは、-(CH-基(n=0~4)、-CR-基、又はホモ芳香族炭化水素、複素環などの他の基であってもよい。
多座錯体はV-O、V-N、及び/又はV-S結合を含有することを特徴とし、バナジウムは、リガンドと五員環、六員環などの環状構造を形成することが多い。
【0022】
V.ペルオキソバナジン酸化合物(peroxo vanadates)
V(O)を含有する化合物であって、a)HVO(O、HVO(O2-、VO(O 3-、HVO(O 2-、HVO(O 、HV(O 2-などのペルオキソバナジン酸根アニオン(例えば、HVO(O)-の構造が
であり、HVO(O 2-の構造が
であり、HV(O 2-の構造が
である)がIIIに記載のカチオンと結合して形成する塩、及びb)V(O)を含有し、かつIVに記載の一座又は多座リガンドと錯化された化合物を含むが、これらに限定されない。
具体的な化合物としては、KH[VO(O]・HO、(NHH[VO(O]・HOなどである。
【0023】
VI.ヒドロキサミドバナジン酸化合物(hydroxamido vanadates)、すなわちV(ONR)を含有し、ここで、R、RはH又は有機基であり、VO(ONR のようなヒドロキサミドバナジン酸根アニオンを含むがこれに限定されず、構造が
であり、IIIに記載のカチオンと結合して塩を形成する。b)V(ONRを含有し、IVに記載の一座又は多座リガンドと錯化された化合物。ここで、R、RはH又は他の基である。
バナジウム化合物は、単核(mononuclear)、二核(dinuclear)及び多核(multinuclear)の形態で存在することができ、単一のリガンドが錯化してなるバナジウム化合物は、一般式Vで表すことができ、ここで、Vはバナジウム核(又はバナジウム中心)を表し、Lはリガンドを表し、a及びbは数を表し、バナジウムとリガンドとの化学量論比は1/1、1/2、1/3、2/3、2/5、3/2、3/5などであってもよく、一般式a/bで表すことができ、ここで、a又はb=0~100の整数又は小数である。2種以上のリガンドが錯化してなるバナジウム化合物は、一般式V・・・Ln-1 b(n-1)で表すことができ、ここで、b(n-1)はLの数であり、a又はb(n-1)=0~100の整数又は小数である。例えば、n=1(すなわち、1種のリガンド)の場合、一般式はVであり、n=2(すなわち、2種類のリガンド)の場合、一般式はV b1(すなわち、L及びLの2つのリガンドを含み、これらの数はそれぞれbとb1である)である。n=3(すなわち、3種類のリガンド)の場合、一般式はV b1 b2(すなわち、L、L、Lの3つのリガンドを含み、これらの数はそれぞれb、b1、及びb2である)。このように類推する。また、バナジウム化合物は、固体状態において、HO、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ピリジン、DMSOなどの溶媒分子を異なる数で含有してもよい。
【0024】
さらに好ましい化合物は、オルトバナジン酸リチウム、オルトバナジン酸ナトリウム、オルトバナジン酸カリウム、ポリバナジン酸リチウム、ポリバナジン酸ナトリウム、ポリバナジン酸カリウム、メタバナジン酸リチウム、メタバナジン酸ナトリウム、メタバナジン酸カリウム、メタバナジン酸第4級アンモニウム塩(すなわち、RVOであって、R、R、R、RはHであってもよいし、他の基であってもよいし、低級アルカンであってもよいし、これらのうちの少なくとも1対が(原子間の介在によって)連結されて形成された置換又は非置換含窒素複素環であってもよく、例えば、Rは、NH 又はアンモニウム根、PyH又はピリジン水素、N-アルキルピリジン陽イオンを表してもよい。例えば、メタバナジン酸アンモニウム)、バナジルサルフェート(VOSO、又はVOSO・nHO、n=1~20)、二塩化酸化バナジウム、及び結晶性溶媒(例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、DMSO、ピリジン、DMFなど)を含むそれらの化合物である。
【0025】
また、さらに好ましいバナジウム(V)又はバナジウム(IV)化合物は、バナジウム(V)又はバナジウム(IV)が下記リガンド物質と形成する錯体を含む。a)ヒドロキシカルボン酸化合物(ヒドロキシカルボン酸及びヒドロキシカルボキシレートを含む)、例えば、グリコール酸又はグリコラート、乳酸又は絡テート、酒石酸又はタルタレート、クエン酸又はシトラート、α-ヒドロキシイソ酪酸又はα-ヒドロキシイソブチレート、2-エチル-2-ヒドロキシ酪酸又は2-エチル-2-ヒドロキシブチレート、リンゴ酸又はマレート、マンデル酸又はマンデレート、アスコルビン酸又はアスコルベート;b)モノカルボン酸、ジカルボン酸又はポリカルボン酸(モノ、ジ又はポリカルボン酸、又はカルボキシレート)化合物、例えば、ギ酸又はフォーマット、酢酸又はアセテート、ステアリン酸又はステアレート、シュウ酸又はオキサラート、マロン酸又はマロネート、アルキル又はアリールマロン酸又はマロネート、セバシン酸又はセバケート、コハク酸又はスクシナート、フタル酸又はフタレートなど;c)モノ、ジ、又はポリヒドロキシル化合物、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ゲラニオール、メンソール、レチノールなどのモノアルコール、o-ジオール又はm-ジオールを含む化合物(例えば、エチレングリコール、1,2-ジヒドロキシプロパン、1,2-ジヒドロキシプロパン、1,2-ジヒドロキシシクロペンタン、1,2-ジヒドロキシシクロヘキサン)、グリセリン(glycerol)、単糖類、二糖類、多糖類及びそれらの誘導体例えばリボース、ADP、ATP、D-グルコース、D-フルクトース、D-ツラノース、D-グルコン酸又はD-グルコネート、L-トレオン酸又はL-トレオネート、及びアミノ又はアセチルアミノ糖(amino-又はacetamino sugars);c)フェノール、ジフェノール又はポリフェノール、例えば、フェノール、カテコール又はピロカテコール、ポリヒドロキシ芳香族化合物;d)アミノ酸、ジペプチド、ポリペプチド、タンパク質、及びそれらの誘導体(例えばSchiff塩基)、例えばシステイン、グルタチオン(GSH、ガンマ-L-グルタミル-L-システイニル-グリシン)、GSMe(Me=メチル)、GSSGなど、D-アスパラギン酸、β-アラニル-L-ヒスチジン(カルノシン)、コラーゲン、血清タンパク質;アミノ酸(例えば、グリシン、アラニン、グルタミン酸など)及びこれらがサリチルアルデヒド又はピリドキサールと形成されるSchiff塩基;e)ジアミン及びそれが形成するSchiff塩基、例えばエチレンジアミン、プロピレンジアミン又はフェニレンジアミンなどのジアミン、及びそれがサリチルアルデヒド又はピリドキサールと形成するSchiff塩基;f)β-ジケトン、例えばアセチルアセトン、ジベンゾイルメタン、ベンゾイルアセトン、フロイルトリフルオロアセトンなど、及びこれらがアミン系化合物と形成するSchiff塩基;g)ヒドロキシピロン(hydroxypyrones)及びヒドロキシピリジノン(hydroxypyridinones)、例えばマルトール又はmaltol(3-ヒドロキシ-2-メチル-4-ピロン)、コウジ酸又はコジアシド(5-ヒドロキシ-2-ヒドロキシメチル-4-ピロン)、エチルマルトール又はethylmaltol(2-エチル-3-ヒドロキシ-4-ピロン);h)ホスファチジルコリン(レシチン)、ホスファチジルエタノールアミン(セファリン)、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール又はグリセロリン脂質、ジホスファチジルグリセロール及びスフィンゴミエリンなどを含むリン脂質;i)ヒドロキシルアミン類化合物、例えばN-ヒドロキシルアミン、N,N-ジアルキルヒドロキシルアミン、2-ヒドロキシルアミン、3-ヒドロキシルアミンなど;j)尿素又はビグアニド系化合物(biguanides);k)次式I又は次式IIで表される化合物:
一般式I
(X及びXは、O、S又はNXであり、好ましくはO又はNXであり、
はN又はCXであり、
、X、X、及びXは、不活性なH(non-labile protons)、又は任意の置換アルキル基、芳香族基、アラルキル基(aralkyl)又はアルカリル基(alkaryl)であり、又はXからXの少なくとも1対が(原子の介在によって)連結され、好ましくはXとXによって形成される任意の置換、飽和又は不飽和の同素環(又は炭素環)又は複素環であり、又はXは1つのNX基を表し、Xは1つのXH基を表すことができ、ここでXはO又はSであり、また、X又はXに連結されたプロトンの一方は活発である(好ましくは、Xに連結されたプロトンは活発である。)
一般式II
他の種類の好ましいリガンド化合物は、一般式IIで表されてもよい。ここで、A及びBは、0、1又は2個(O、S、Nから選択される)のヘテロ原子を環上に含む5員、6員又は7員環であり、X、酸素(oxo)、硫黄(thio)又はNXによって任意に置換されている(Xは上記で定義される)。A環及びB環は、以下のように1,2-フェニレン、オキサゾリン-2-イル基又はチアゾリン-2-イル基であることが好ましい。
(ここで、XはH又は任意に置換されたヒドロキシC1-4アルキル基である。)
【0026】
下記一般式I及びIIを満たす好ましいリガンド化合物は、以下を含む。
ヒドロキサメート(hydroxamates)(一般式III及びIV)
一般式III
一般式IV
α-ヒドロキシピリドン(α-hydroxypyridinones)(一般式V)
一般式V
α-ヒドロキシ-ピロン(α-hydroxypyrones)(一般式VI)
一般式VI
α-アミノ酸(一般式VII)
一般式VII
α-ヒドロキシカルボン酸(一般式VIII)
一般式VIII
α-ヒドロキシカルボニル化合物(一般式IX及びX)
一般式IX
一般式X
チオヒドロキサメート(thiohydroxamates)(一般式XI及びXII)
一般式XI
一般式XII
2-オキサゾリン-2-イルフェノール(2-oxazolin-2-yl-phenols)及び2-チアゾリン-2-イルフェノール(2-thiazolin-2-yl-phenols)(一般式XIII及びXIV)
一般式XIII
一般式XIV
ここで、R~R29は、H又は任意の有機基、例えば任意のヒドロキシC1-4アルカンである。
【0027】
さらに好ましいリガンドは以下のとおりである。
マルトール(maltol)
エチルマルトール(ethylmaltol)
コウジ酸(kojic acid)
クエン酸(citric aid)
グリコール酸(glycolic acid)
乳酸(lactic acid、L-、D-又は混合体)
酒石酸(tartaric acid、L-、D-又は混合体)
【0028】
バナジウム(V)及びバナジウム(IV)と上記リガンドとの錯体は、既知の方法で合成することができる(USP5,620,967,4/1997,McNeillらを参照)。本発明は、特に、ビス(マルトラト)オキソバナジウム(IV)(BMOV)、ビス(エチルマルトラト)オキソバナジウム(IV)(BEOV)、コウジ酸バナジル、バナジルサルフェート、オルトバナジン酸ナトリウム、オルトバナジン酸カリウム、メタバナジン酸ナトリウム、メタバナジン酸カリウム、及びこれらとクエン酸、酒石酸、乳酸、グリコール酸、エチレングリコール、グリセリン又はトリエタノールアミン(トリ(2-ヒドロキシエチル)アミン)とを用いて1:0.5~1:10のモル比で調製したバナジウム化合物、及びクエン酸錯体K[VO(C)]・HOが好ましい。
【0029】
本発明のバナジウム化合物は、従来の化学合成技術により合成することができる。
【0030】
本発明のバナジウム化合物は、他の鎮痛薬と錯体を形成したり、他の鎮痛薬と混合したり、他の鎮痛薬と同時に又は間隔をおいて使用するなど、他の鎮痛薬と併用することができる。
【0031】
本発明の化合物は、例えば、錠剤、注射液、カプセル、貼付剤、吸入剤など、種々の従来の剤形の医薬組成物に調製することができる。
【0032】
これらの医薬組成物は、経口投与することができ、例えば、錠剤、コーティング錠剤、糖衣ピル、ハード又はソフトカプセル、溶液、乳剤又は懸濁剤として調製することができ、直腸投与も可能であり、例えば座薬の形態で調製され、又は、胃腸外投与も可能であり、例えば、皮下、筋肉又は静脈内で投与する注射液として調製され、また、例えば、経皮投与する貼付剤、スプレー剤などとして調製され、また、鼻腔又は口腔粘膜を介して投与する吸入剤として調製される。
【0033】
本発明の化合物を含む医薬組成物は、従来の混合、カプセル封入、溶解、造粒、乳化、カプセル化、糖衣ピル化や凍結乾燥など、技術分野で公知の方法で調製することができる。これらの医薬製剤は、治療学的に不活性、無機又は有機担体と製剤化することができる。ラクトース、コーンスターチ又はその誘導体、タルク、ステアリン酸又はその塩は、錠剤、コーティング錠、糖衣ピル、ハードゼラチンカプセル用の担体として使用することができる。ソフトカプセルを調製するのに好適な担体は、植物油、ワックス及び脂油を含む。溶液又はシロップ剤を調製するのに好適な担体は、水、多価アルコール、スクロース、転化糖及びグルコースである。注射剤に好適な担体は、水、アルコール、多価アルコール、グリセリン、植物油、リン酸及び界面活性剤である。坐剤に好適な担体は、天然油又は硬化油、ワックス、脂油及び半固体多価アルコールである。
【0034】
医薬製剤は、防腐剤、可溶化剤、安定化剤、湿潤剤、乳化剤、甘味剤、着色剤、矯味剤、浸透圧を変化させる塩、緩衝剤、コーティング剤又は抗酸化剤を含有してもよい。
【0035】
本発明に係る化合物の治療有効量とは、疾患の症状を予防、遅延、又は改善するために、又は治療される患者の生命を延長するために有効な量である。本発明に係る化合物の治療有効量又は用量は、広い範囲にわたって変更することができる。この用量は、投与される特定の化合物、投与経路、治療される状況、及び治療される患者を含む各特定の状況において、個々のニーズに応じて調整される。
【0036】
金属錯体は、投与対象者や体調、投与経路によって、1日あたり0.00001~1500mg(バナジウム質量換算)/kg体重の用量で投与されることが一般的である。まず、投与量が広いのは、哺乳動物によって有効用量が異なるためであり、しかも、哺乳動物の有効用量はマウスの有効用量とは大きく異なり、例えば、人体の有効用量は10倍、20倍、30倍、さらにはそれ以上の倍数でマウスの有効用量(単位体重)を下回ることがある。投与経路の違いも用量に影響する。例えば、経口用量は注射用量の10倍にすることができる。バナジウム質量換算で、用量は、1日当たり0.00001mg/kg~300mg/kgの範囲が好ましく、1日当たり0.0001mg/kg~50mg/kgの範囲がより好ましく、1日当たり0.001mg/kg~5mg/kgの範囲がより好ましい。
【0037】
薬物の単位用量は0.001mg~1000mg(金属原子換算)、好ましくは0.01mg~300mg(バナジウム質量換算)である。
【0038】
一般に、約70Kgの成人に経口投与する場合、投与量(バナジウム質量換算)は約0.0005mg~約500mg、好ましくは約0.005mg~約300mg、より好ましくは約0.05mg~約300mgの1日投与量が適切であり、注射投与の場合、投与量(バナジウム質量換算)は、約0.001mg~約10mg、好ましくは約0.01mg~約5mgの1日投与量が適切である。上限を超えることができる兆候があるにもかかわらず、1日投与量は、単独用量又は別々の用量で投与することができる。
【0039】
バナジウム(V)又はバナジウム(IV)は水溶液中で濃度やpHの変化に伴って重合体を形成し、鎮痛効果に影響する。本発明は、バナジウム(V)又はバナジウム(IV)化合物に加えて、以下の物質の1種又は2種以上を含有する組成物を提供する。
a)ヒドロキシカルボン酸化合物(ヒドロキシカルボン酸及びヒドロキシカルボキシレートを含む)、例えば、グリコール酸又はグリコラート、乳酸又は絡テート、酒石酸又はタルタレート、クエン酸又はシトラート、α-ヒドロキシイソ酪酸又はα-ヒドロキシイソブチレート、2-エチル-2-ヒドロキシ酪酸又は2-エチル-2-ヒドロキシブチレート、リンゴ酸又はマレート、マンデル酸又はマンデレート、アスコルビン酸又はアスコルベート;b)モノカルボン酸、ジカルボン酸又はポリカルボン酸(モノ、ジ又はポリカルボン酸、又はカルボキシレート)化合物、例えば、ギ酸又はフォーマット、酢酸又はアセテート、ステアリン酸又はステアレート、シュウ酸又はオキサラート、マロン酸又はマロネート、アルキル又はアリールマロン酸又はマロネート、セバシン酸又はセバケート、コハク酸又はスクシナート、フタル酸又はフタレートなど;c)モノ、ジ、又はポリヒドロキシル化合物、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ゲラニオール、メンソール、レチノールなどのモノアルコール、o-ジオール又はm-ジオールを含む化合物(例えば、エチレングリコール、1,2-ジヒドロキシプロパン、1,2-ジヒドロキシプロパン、1,2-ジヒドロキシシクロペンタン、1,2-ジヒドロキシシクロヘキサン)、グリセリン(glycerol)、単糖類、二糖類、多糖類及びそれらの誘導体例えばリボース、ADP、ATP、D-グルコース、D-フルクトース、D-ツラノース、D-グルコン酸又はD-グルコネート、L-トレオン酸又はL-トレオネート、及びアミノ又はアセチルアミノ糖(amino-又はacetamino sugars);c)フェノール、ジフェノール又はポリフェノール、例えば、フェノール、カテコール又はピロカテコール、ポリヒドロキシ芳香族化合物;d)アミノ酸、ジペプチド、ポリペプチド、タンパク質、及びそれらの誘導体(例えばSchiff塩基)、例えばシステイン、グルタチオン(GSH、ガンマ-L-グルタミル-L-システイニル-グリシン)、GSMe(Me=メチル)、GSSGなど、D-アスパラギン酸、β-アラニル-L-ヒスチジン(カルノシン)、コラーゲン、血清タンパク質;アミノ酸(例えば、グリシン、アラニン、グルタミン酸など)及びこれらがサリチルアルデヒド又はピリドキサールと形成されるSchiff塩基;e)ジアミン及びそれが形成するSchiff塩基、例えばエチレンジアミン、プロピレンジアミン又はフェニレンジアミンなどのジアミン、及びそれがサリチルアルデヒド又はピリドキサールと形成するSchiff塩基;f)β-ジケトン、例えばアセチルアセトン、ジベンゾイルメタン、ベンゾイルアセトン、フロイルトリフルオロアセトンなど、及びこれらがアミン系化合物と形成するSchiff塩基;g)ヒドロキシピロン(hydroxypyrones)及びヒドロキシピリジノン(hydroxypyridinones)、例えばマルトール又はmaltol(3-ヒドロキシ-2-メチル-4-ピロン)、コウジ酸又はコジアシド(5-ヒドロキシ-2-ヒドロキシメチル-4-ピロン)、エチルマルトール又はethylmaltol(2-エチル-3-ヒドロキシ-4-ピロン);h)ホスファチジルコリン(レシチン)、ホスファチジルエタノールアミン(セファリン)、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール又はグリセロリン脂質、ジホスファチジルグリセロール及びスフィンゴミエリンなどを含むリン脂質;i)ヒドロキシルアミン類化合物、例えばN-ヒドロキシルアミン、N,N-ジアルキルヒドロキシルアミン、2-ヒドロキシルアミン、3-ヒドロキシルアミンなど;j)尿素又はビグアニド系化合物(biguanides);k)次式I又は次式IIで表される化合物を含む。
一般式I
(X及びXは、O、S又はNXであり、好ましくはO又はNXであり、
はN又はCXであり、
、X、X、及びXは、不活性なH(non-labile protons)、又は任意の置換アルキル基、芳香族基、アラルキル基(aralkyl)又はアルカリル基(alkaryl)であり、又はXからXの少なくとも1対が(原子の介在によって)連結され、好ましくはXとXによって形成される任意の置換、飽和又は不飽和の同素環(又は炭素環)又は複素環であり、又はXは1つのNX基を表し、Xは1つのXH基を表すことができ、ここでXはO又はSであり、また、X又はXに連結されたプロトンの一方は活発である(好ましくは、Xに連結されたプロトンは活発である。)
一般式II
他の種類の好ましいリガンド化合物は、一般式IIで表されてもよい。ここで、A及びBは、0、1又は2個(O、S、Nから選択される)のヘテロ原子を環上に含む5員、6員又は7員環であり、X、酸素(oxo)、硫黄(thio)又はNXによって任意に置換されている(Xは上記で定義される)。A環及びB環は、以下のように1,2-フェニレン、オキサゾリン-2-イル基又はチアゾリン-2-イル基であることが好ましい。
(ここで、XはH又は任意に置換されたヒドロキシC1-4アルキル基である。)
【0040】
下記一般式I及びIIを満たす好ましいリガンド化合物は、以下を含む。
ヒドロキサメート(hydroxamates)(一般式III及びIV)
一般式III
一般式IV
α-ヒドロキシピリドン(α-hydroxypyridinones)(一般式V)
一般式V
α-ヒドロキシ-ピロン(α-hydroxypyrones)(一般式VI)
一般式VI
α-アミノ酸(一般式VII)
一般式VII
α-ヒドロキシカルボン酸(一般式VIII)
一般式VIII
α-ヒドロキシカルボニル化合物(一般式IX及びX)
一般式IX
一般式X
チオヒドロキサメート(thiohydroxamates)(一般式XI及びXII)
一般式XI
一般式XII
2-オキサゾリン-2-イルフェノール(2-oxazolin-2-yl-phenols)及び2-チアゾリン-2-イルフェノール(2-thiazolin-2-yl-phenols)(一般式XIII及びXIV)
一般式XIII
一般式XIV
ここで、R~R29は、H又は任意の有機基、例えば任意のヒドロキシC1-4アルカンである。
【0041】
さらに好ましいリガンドは以下のとおりである。
マルトール(maltol)
エチルマルトール(ethylmaltol)
コウジ酸(kojic acid)
クエン酸(citric aid)
グリコール酸(glycolic acid)
乳酸(lactic acid、L-、D-又は混合体)
酒石酸(tartaric acid、L-、D-又は混合体)
【0042】
組成物において、バナジウム(V)化合物と上記物質との重量比、又はバナジウム(IV)化合物と上記物質との重量比は、その鎮痛効果を保証するために、該組成物の水溶液中でバナジウム(V)化合物又はバナジウム(IV)化合物が重合体を形成しないことを保証するように、実情に応じて調整することができる。この場合、上記水溶液のpHも中性に近く、例えば、pHは6~8である。例えば、バナジウム(V)化合物又はバナジウム(IV)化合物とクエン酸、酒石酸、乳酸、グリコール酸、エチレングリコール、グリセリン又はトリエタノールアミン(トリス(2-ヒドロキシエチル)アミン)とを1:0.1~1:1000のモル比で混合して組成物とする。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1】オルトバナジン酸ナトリウム溶液がマウスの疼痛閾値に与える影響(用量はバナジウム原子質量換算)を示す図である。 横座標:時間(単位:min又は分)、縦座標:疼痛閾値 投与方法:腹腔内注射 横座標:時間(単位:min又は分)、縦座標:疼痛閾値(単位:g又はグラム) 「▲」:A1溶液、用量約0.97mg/kg 「●」:アスピリン溶液(又はS溶液)、用量約250mg/kg 「+」:空白対照
図2】各用量(バナジウム原子質量換算)でのオルトバナジン酸ナトリウム溶液がマウスの疼痛閾値に与える影響を示す図である。 横座標:時間(単位:min又は分)、縦座標:疼痛閾値(単位:g又はグラム) 投与方法:腹腔内注射 「●」:A1溶液、用量約0.97mg/kg 「■」:A2溶液、用量約0.19mg/kg 「▲」:A3溶液、用量約0.097mg/kg 「+」:空白対照
図3】シスビス(マルトラト)メトキシオキソバナジウム(V)(用量はバナジウム原子質量換算)を示す図である。 投与方法:腹腔内注射 横座標:時間(単位:min又は分)、縦座標:疼痛閾値(単位:g又はグラム) 「▲」:C溶液、用量約0.97mg/kg 「●」:S溶液、用量約250mg/kg 「+」:空白対照
図4】メタバナジン酸ナトリウム溶液がマウスの疼痛閾値に与える影響(用量はバナジウム原子質量換算)を示す図である。 投与方法:腹腔内注射 横座標:時間(単位:min又は分)、縦座標:疼痛閾値(単位:g又はグラム) 「▲」:D溶液、用量約0.97mg/kg 「●」:S溶液、用量約250mg/kg 「+」:空白対照
図5】オルトバナジン酸/クエン酸錯体のナトリウム塩溶液がマウスの疼痛閾値に与える影響(用量はバナジウム原子質量換算)を示す図である。 投与方法:腹腔内注射 横座標:時間(単位:min又は分)、縦座標:疼痛閾値(単位:g又はグラム) 「▲」:B溶液、用量約0.97mg/kg 「●」:S溶液、用量約250mg/kg 「+」:空白対照
図6】メタバナジン酸/クエン酸錯体のナトリウム塩溶液がマウスの疼痛閾値に与える影響(用量はバナジウム原子質量換算)である。 投与方法:腹腔内注射 横座標:時間(単位:min又は分)、縦座標:疼痛閾値(単位:g又はグラム) 「▲」:E溶液、用量約0.97mg/kg 「●」:ASA溶液、用量約250mg/kg 「+」:空白対照
図7】メタバナジン酸/クエン酸錯体のカリウム塩溶液がマウスの疼痛閾値に与える影響(投与量はバナジウム原子質量換算)である。 投与方法:腹腔内注射 横座標:時間(単位:min又は分)、縦座標:疼痛閾値(単位:g又はグラム) 「▲」:F溶液、用量約0.97mg/kg 「●」:ASA溶液、用量約250mg/kg 「+」:空白対照
【発明を実施するための形態】
【0044】
本発明の趣旨をよりよく理解するために、以下、本発明の化合物の動物実験結果を用いて、疼痛の治療におけるこれらの化合物の使用を説明し、これらの結果から、本発明の化合物は鎮痛の効き目が早く、鎮痛時間が長く、迅速かつ長期にわたる止痛効果をもたらすことが示される。効果実施例は、本発明の化合物の活性データを提供する。なお、本発明の薬効実施例は、本発明の制限ではなく、本発明の説明のために使用されている。本発明の趣旨に基づいて本発明に対して行われる簡単な変化も本発明の特許範囲に属する。
実施例 1 マウス疼痛モデルの構築
【0045】
マウス(♂昆明マウス、22~40g)の左後ろ足に完全フロイントアジュバント(CFA)10μlを注射し、炎症を引き起こした。注射24時間後、Von Freyテストを実施して疼痛閾値を測定し、つまり、DixonによるUp-Down方法に従って、Von Freyファイバーを使用してマウスの機械的な足引っ込めを誘発し、データを収集し、足引っ込め閾値又はPWTと呼ばれる50%足引っ込め閾値(すなわち、50%paw withdrawal threshold)を疼痛閾値として算出した。その後、マウスを生理食塩水群、陽性対照群、薬物群に分け、生理食塩水、アスピリン(アセチルサリチル酸、又はASA)溶液、試験化合物溶液をそれぞれ腹腔内注射した。次に、Von Freyテストにより、疼痛閾値の変化を監視した。
【0046】
モデリング後は、マウスの疼痛閾値が低下し、モデリング前は、マウスの閾値が平均2.5程度であり、モデリング後に疼痛閾値が平均0.1程度のマウスを選択した。既知の鎮痛薬であるアスピリンを投与したところ、疼痛閾値がある程度回帰し、これはモデリングの成功を証明した。
【0047】
マウスを空白対照群、アスピリン(ASA)群、薬物群の3群に分けた。空白対照群では、マウスに薬物群と同量の生理食塩水、脱イオン水、又は5%以下のDMSOを含む脱イオン水を投与した。ASA群では、マウスに既知の鎮痛薬ASAを投与し、被験薬物の陽性対照とした。薬物群では、マウスにそれぞれ被験薬物を投与し、被験化合物溶液を注射した後に疼痛閾値が回帰するかどうか、回帰の持続時間、回帰の幅を観察して、これらから、被験化合物に鎮痛効果があるかどうか、薬効の持続時間及び強度を推定した。
実施例2 陽性対照サンプル及び被験薬物サンプルの調製
【0048】
1、陽性対照の調製
S溶液:アスピリン(ASA)について0.1M tris-HCl緩衝液を溶媒とし、水酸化ナトリウム溶液でpHを調整し、濃度0.11Mの溶液を調製し、最終的なpHを7.4~7.6程度とした。
【0049】
2、オルトバナジン酸ナトリウム溶液(A溶液)の調製
オルトバナジン酸ナトリウム(NaVO):シグマアルドリッチから購入
A0溶液:オルトバナジン酸ナトリウム184mgを秤量し、脱イオン水6mlに溶解し、塩酸でpHを10に調整した後、無色となるまで加熱し、室温まで冷却した後、pHを検出し、pHが変われば、pHが10となるまで上記のプロセスを繰り返した。脱イオン水を8mlまで補給し、4℃で貯蔵し、この溶液をオルトバナジン酸ナトリウム原液と呼ばれる。
A1溶液:上記のオルトバナジン酸ナトリウム原液を脱イオン水で希釈して、A0溶液を得て、濃度1.5×10-3Mのオルトバナジン酸ナトリウム水溶液を調製した。
A2溶液:A0溶液を脱イオン水で希釈し、濃度3.0×10-4Mのオルトバナジン酸ナトリウム水溶液を調製した。
A3溶液:A0溶液を脱イオン水で希釈し、濃度1.5×10-4Mのオルトバナジン酸ナトリウム水溶液を調製した。
A4溶液:A0溶液を脱イオン水で希釈し、濃度3.0×10-3Mのオルトバナジン酸ナトリウム水溶液を調製した。
A5溶液:A0溶液を脱イオン水で希釈し、濃度7.5×10-4Mのオルトバナジン酸ナトリウム水溶液を調製した。
A6溶液:A0溶液を脱イオン水で希釈し、濃度7.5×10-6Mのオルトバナジン酸ナトリウム水溶液を調製した。
【0050】
3、オルトバナジン酸/クエン酸錯体のナトリウム塩溶液(B溶液)の調製
B溶液:オルトバナジン酸ナトリウム14.8mgを水3.5mlに溶解し、これに0.25Mのクエン酸溶液を溶液のpHが7程度となるまで滴下した。少量の水を全容積が4mlとなるまで補給し、濃度0.020M(バナジウム換算)のバナジウムのクエン酸錯体溶液を得た。この溶液をさらに濃度1.5×10-3Mに希釈して被験溶液とした。
【0051】
4、シスビス(マルトラト)メトキシオキソバナジウム(V)溶液(C溶液)の調製
シスビス(マルトラト)メトキシオキソバナジウム(V)[cis-Bis(maltolato)methoxyoxovanadium(V)、VO(OCH)(ma)
ビス(マルトラト)オキソバナジウム(IV)(VO(ma)、5g、16mmol)をメタノール50mlに溶解し、空気環境下で24時間撹拌し、この溶液を-35℃で一晩凍結し、析出した結晶を濾過して収集し、収率は65%であった(P.Caravan,L.Gelmini,N.Glover,F.G.Herring,H.Li,J.H.McNeill,S.J.Rettig,I.A.Setyawati,E.Shuter,Y.Sun,A.S.Tracey,V.G.Yuen;and C.Orvig,J.Am.Chem.Soc.1995,117,12759-12779)。
C溶液:少量(総体積の5%未満)のDMSOで溶解を補助しながらVO(OCH)(ma)を3.0×10-3M水溶液に調製した。
【0052】
5、メタバナジン酸ナトリウム溶液(又はD溶液)の調製
メタバナジン酸ナトリウム(NaVO):シグマ-アルドリッチから購入。
D溶液:メタバナジン酸ナトリウムを3.0×10-3Mの水溶液に調製した。
【0053】
6、メタバナジン酸/クエン酸錯体のナトリウム塩溶液(E溶液)の調製
E溶液:濃度0.26Mのメタバナジン酸ナトリウム溶液1mlに、濃度0.135Mのクエン酸溶液2mlを加えた。濃度1.5×10-3Mに希釈し、被験溶液とした。
【0054】
7.メタバナジン酸/クエン酸錯体のカリウム塩溶液(F溶液)の調製
ジオキソ(シトラト)バナジン酸カリウム(V)[potassium dioxo(citrato)vanadate(V)]、すなわちジオキソ(シトラト)バナジン酸カリウム(V)水和物{K[VO(C)]・HO}の調製
KOH(0.31g、5.5mM)の水溶液にV(0.50g、2.75mM)を懸濁させ、氷浴で冷却し、クエン酸溶液(クエン酸・HO:1.21g、6.0mM、水:5ml)を撹拌しながら滴下した。この混合液を4℃(冷蔵庫)で静置して一晩保存した。ろ過乾燥して、蒼白い粉を得た。収率は43%であった(ref:Inorg.Chem.1989,719-723)。
F溶液:K[VO(C)]・HO固体を13mg取り、脱イオン水を用いて1.5×10-3Mの溶液を調製し、被験溶液とした。
【0055】
8、バナジルサルフェート溶液(G溶液)の調製
バナジルサルフェート(VOSO・5HO):Alfa Aesarから購入。
G1溶液:脱イオン水で濃度1.5×10-3Mのバナジルサルフェート水溶液を調製した。
G2溶液:脱イオン水で濃度3.0×10-3Mのバナジルサルフェート水溶液を調製した。
G3溶液:脱イオン水で濃度7.5×10-4Mのバナジルサルフェート水溶液を調製した。
G4溶液:脱イオン水で濃度7.5×10-6Mのバナジルサルフェート水溶液を調製した。
【0056】
9、ビス(マルトラト)オキソバナジウム(IV)溶液(H溶液)の調製
ビス(マルトラト)オキソバナジウム(IV)[すなわち、Bis(maltolato)oxovanadium(IV)、VO(ma)又はBMOV]由来:文献に記載の方法[P.Caravan,L.Gelmini,N.Glover,F.G.Herring,H.Li,J.H.McNeill,S.J.Rettig,I.A.Setyawati, E.Shuter,Y.Sun,A.S.Tracey,V.G.Yuen;and C.Orvig,J.Am.Chem.Soc.117,12759-12770(1995)参照]により合成したか、又は上海笛柏化学品技術有限公司から購入した。
H1溶液:DMSOと脱イオン水で濃度1.5×10-3Mのビス(マルトラト)オキソバナジウム(IV)溶液を調製し、ここで、DMSO含有量は5%以下であった。
H2溶液:DMSOと脱イオン水で濃度3.0×10-3Mのビス(マルトラト)オキソバナジウム(IV)溶液を調製し、ここで、DMSOの含有量は5%以下であった。
H3溶液:DMSOと脱イオン水で濃度6.0×10-3Mのビス(マルトラト)オキソバナジウム(IV)溶液を調製し、ここで、DMSOの含有量は5%以下であった。
【0057】
10、ビス(エチルマルトラト)オキソバナジウム(IV)溶液(I溶液)の調製
ビス(エチルマルトラト)オキソバナジウム(IV)[すなわち、Bis(ethylmaltolato)oxovanadium(IV)、VO(ema)又はBEOV]由来:文献に記載の方法[K.H.Thompson,B.D.Liboiron,Y.Sun,K.D.D.Bellman,I.A.Setyawati,B.O.Patrick,V.Karunaratne,G.Rawji,J.Wheeler,K.Sutton,S.Bhanot,C.Cassidy,J.H.McNeill,V.G.Yuen,and C.Orvig,J.Biol.Inorg.Chem.8,66-74(2003)を参照]により合成したか、又は湖北鴻▲きん▼瑞宇精密化工有限公司から購入した。
I溶液:DMSOと脱イオン水で濃度1.5×10-3Mのビス(エチルマルトラト)オキソバナジウム(IV)溶液を調製し、ここで、DMSOの含有量は5%以下であった。
【0058】
11、ビス(コジャト)オキソバナジウム(IV)溶液(J溶液)の調製
ビス(コジャト)オキソバナジウム(IV)[すなわち、Bis(kojato)oxovanadium(IV)又はVO(ka)]由来:文献に記載の方法[V.G.Yuen,P.Caravan,L.Gelmini,N.Glover,J.H.McNeill,I.A.Setyawati,Y.Zbou,and C.Orvig,J.Inorg.Biochem.68,109-116(1997)を参照]により合成した。
J溶液:DMSOと脱イオン水で濃度1.5×10-3Mのビス(コジャト)オキソバナジウム(IV)溶液を調製し、ここで、DMSO含有量は5%以下であった。
【0059】
12、バナジルアセチルアセトネート(IV)溶液(K溶液)の調製
バナジルアセチルアセトネート(IV)[Vanadyl acetylacetonate、bis(acetylacetonato)oxovanadium(IV)又はVO(acac)]:上海圻明生物科技有限公司から購入。
K溶液:DMSOと脱イオン水で濃度1.5×10-3Mのバナジルアセチルアセトネート(IV)溶液を調製し、ここで、DMSOの含有量は5%以下であった。
【0060】
13、バナジルオキサレート溶液(L溶液)の調製
バナジルオキサレート[すなわちvanadyl oxalate]:上海▲こう▼泰医薬科技有限公司から購入。
L溶液:DMSOと脱イオン水で濃度1.5×10-3Mのバナジルオキサレート溶液を調製し、ここで、DMSOの含有量は5%以下であった。
【0061】
14、ビス(ピコリナト)オキソバナジウム(IV)溶液(M溶液)の調製
ビス(ピコリナト)オキソバナジウム(IV)[すなわちbis(picolinato)oxovanadium(IV)、VO(pic)又はBPOV]:上海圻明生物科技有限公司から購入。
M溶液:DMSOと脱イオン水で濃度1.5×10-3Mのビス(ピコリナト)オキソバナジウム(IV)溶液を調製し、ここで、DMSOの含有量は5%以下であった。
【0062】
15、オルトバナジン酸/エチレングリコール錯体のナトリウム塩溶液(N溶液)の調製
N溶液:A4溶液2ml(濃度:3.0×10-3M)にエチレングリコール水溶液(1.8×10-2M)1mlを加え、その後、総容積が4mlになるまで脱イオン水を加えた。
【0063】
16、オルトバナジン酸/プロピレングリコール錯体のナトリウム塩溶液(O溶液)の調製
O溶液:A4溶液2ml(濃度:3.0×10-3M)に1,2-プロピレングリコール水溶液(1.8×10-2M)1mlを加え、その後、総容積が4mlになるまで脱イオン水を加えた。
【0064】
17、オルトバナジン酸/グリセリン錯体のナトリウム塩溶液(P溶液)の調製
P溶液:A4溶液2ml(濃度:3.0×10-3M)に1,2-プロピレングリコール水溶液(1.8×10-2M)1mlを加え、その後、総容積が4mlになるまで脱イオン水を加えた。
【0065】
18、オルトバナジン酸/乳酸錯体のナトリウム塩溶液(Q溶液)の調製
0.025Mのオルトバナジン酸ナトリウム溶液1mlに0.25Mの乳酸溶液を溶液のpHが7程度となるまで滴下した。濃度が1.5×10-3M(バナジウム換算)となるまで脱イオンを補充し、被験溶液とした。
【0066】
19、オルトバナジン酸/グリコール酸錯体のナトリウム塩溶液(R溶液)の調製
0.025Mのオルトバナジン酸ナトリウム溶液1mlに0.25Mのグリコール酸溶液を溶液のpHが7程度となるまで滴下した。濃度が1.5×10-3M(バナジウム換算)になるまで脱イオンを補充し、被験溶液とした。
実施例3 オルトバナジン酸ナトリウム溶液の鎮痛実験
【0067】
0.97mg/kgの用量基準(バナジウム原子質量換算)に従ってA1を腹腔内注射し、収集したデータをASA群及び空白群と対照した(図1)。
実験結果の説明:A1溶液は腹腔注射後30~45minにマウスの疼痛閾値に影響を与え始め、疼痛閾値を上昇させ、しかも、マウスの疼痛閾値は注射後90minでもベースライン値に回帰しなかった。S溶液は注射後15~30minに疼痛閾値を上昇させ始めたが、疼痛閾値は60min前後でベースライン値に回帰した。A1溶液が疼痛閾値を上昇させ始めてからの大部分の時間において、A1群マウスの閾値はS溶液によって疼痛閾値が上昇した後のS群マウスの閾値よりも高かった。
実施例4 オルトバナジン酸ナトリウム溶液の各濃度での鎮痛実験
【0068】
約0.19mg/kgと約0.097mg/kgの用量基準(バナジウム原子質量換算)に従って、2群のマウスにA2とA3をそれぞれ腹腔内注射し、収集したデータをA1及び空白群と対照した(図2)。
実験結果の説明:A1、A2、A3はいずれも注射後30~45minにマウスの疼痛閾値を上昇させ始め、マウスの疼痛閾値は注射後90minにすべてベースライン値に回帰しなかった。しかし、投与濃度の低下に伴い、疼痛閾値の上昇幅は低下し、すなわち、A3<A2<A1であった。
例3と4をまとめると、オルトバナジン酸ナトリウム溶液は鎮痛作用があり、ASAよりはるかに低い濃度で後者と類似或いはより良い鎮痛強度が得られるだけでなく、持続時間も明らかに後者よりも長かった。また、オルトバナジン酸ナトリウム濃度の低下に伴い薬効が低下する傾向、すなわちA3<A2<A1も例において示された。
実施例5 シスビス(マルトラト)メトキシオキソバナジウム(V)溶液の鎮痛実験
【0069】
約1.9mg/kgの用量基準(バナジウム原子質量換算)に従ってC溶液を腹腔内注射し、収集したデータをASA及び空白群と対照した(図3)。
実験結果の説明:C溶液は腹腔注射後15~30minにマウスの疼痛閾値に影響を与え始め、疼痛閾値を上昇させ、しかも、マウスの疼痛閾値は注射後90minでベースライン値に回帰した。S溶液は注射後15~30minに疼痛閾値を上昇させ始めたが、疼痛閾値は60min前後でベースライン値に回帰した。C溶液が疼痛閾値に影響を与え始めてからの大部分の時間において、C群のマウスの閾値は、S溶液によって疼痛閾値が上昇した後の群Sのマウスの閾値と同等であった。
したがって、シスビス(マルトラト)メトキシオキソバナジウム(V)溶液は鎮痛作用を有する。それはASA溶液よりもはるかに低い濃度で後者と同様の鎮痛強度が得られるだけでなく、持続時間(約60min)も後者(<45min)より明らかに長かった。
実施例6 メタバナジン酸ナトリウム溶液の鎮痛実験
【0070】
約1.9mg/kgの用量基準に従ってD溶液を腹腔内注射し、収集したデータをASA及び空白群と対照した(図4)。
実験結果の説明:D溶液は注射後0~15minにマウスの疼痛閾値に影響を与え始め、疼痛閾値を上昇させ、しかも、マウスの疼痛閾値は注射後90minに大体ベースライン値に回帰した。S溶液は注射後15~30minに疼痛閾値を上昇させ始めたが、疼痛閾値は60min前後でベースライン値に回帰した。D溶液が疼痛閾値に影響を与え始めてからの大部分の時間において、群Dマウスの閾値は、S溶液によって疼痛閾値が上昇した後の群Sマウスの閾値よりも優れているか、同等であった。
したがって、メタバナジン酸ナトリウム溶液は鎮痛作用を有する。それはASA溶液よりはるかに低い濃度で後者と類似の鎮痛強度が得られるだけでなく、持続時間(>60min)も後者(<45min)よりも長かった。
実施例7 オルトバナジン酸/クエン酸錯体のナトリウム塩溶液の鎮痛実験
【0071】
約0.97mg/kgの用量基準(バナジウム原子質量換算)に従ってB1溶液を注射し、収集したデータをASA及び空白群と対照した(図5)。
実験結果の説明:B溶液は腹腔注射後15~30minにマウスの疼痛閾値に影響を与え始め、疼痛閾値を上昇させ、しかも、マウスの疼痛閾値は注射後90minでもベースライン値に回帰しなかった。S溶液は注射後15~30minに疼痛閾値を上昇させ始めたが、疼痛閾値は60min前後でベースライン値に回帰した。B溶液が疼痛閾値を上昇させ始めてからの大部分の時間において、B群のマウスの閾値は、S溶液によって疼痛閾値が上昇したS群のマウスの閾値よりも高かった。
従って、オルトバナジン酸/クエン酸錯体のナトリウム塩溶液は鎮痛作用を有する。それはASA溶液よりはるかに低い濃度で後者と類似の鎮痛強度が得られるだけでなく、持続時間(>60min)も後者(<45min)よりも長かった。
実施例8 メタバナジン酸/クエン酸錯体のナトリウム塩溶液の鎮痛実験
【0072】
約0.97mg/kgの用量基準(バナジウム原子質量換算)従ってE溶液を注射し、収集したデータをASA及び空白群と対照した(図6)。
実験結果の説明:E溶液は腹腔注射後15~30minにマウスの疼痛閾値に影響を与え始め、疼痛閾値を上昇させ、しかも、マウスの疼痛閾値は注射後90minでもベースライン値に回帰しなかった。S溶液は注射後15~30minに疼痛閾値を上昇させ始めたが、疼痛閾値は60min前後でベースライン値に回帰した。E溶液が疼痛閾値を上昇させ始めてからの大部分の時間において、E群のマウスの閾値は、S溶液によって疼痛閾値が上昇した後のS群のマウスの閾値よりも高かった。
したがって、メタバナジン酸/クエン酸錯体のナトリウム塩溶液は鎮痛作用を有する。それはASA溶液よりはるかに低い濃度で後者と類似の鎮痛強度が得られるだけでなく、持続時間(>60min)も後者(<45min)よりも長かった。
実施例9 メタバナジン酸/クエン酸錯体のカリウム塩溶液の鎮痛実験
【0073】
約0.97mg/kgの基準(バナジウム原子質量換算)に従ってF溶液を注射し、収集したデータをASA及び空白群と対照した(図7)。
実験結果の説明:F溶液は腹腔注射後15~30minにマウスの疼痛閾値に影響を与え始め、疼痛閾値を上昇させ、しかも、マウスの疼痛閾値は注射後90minでもベースライン値に回帰しなかった。S溶液は注射後15~30minに疼痛閾値を上昇させ始めたが、疼痛閾値は60min前後でベースライン値に回帰した。F溶液が疼痛閾値を上昇させ始めてからの大部分の時間において、F群のマウスの閾値は、S溶液によって疼痛閾値が上昇した後のS群のマウスの閾値よりも高かった。
したがって、メタバナジン酸/クエン酸錯体のカリウム塩溶液は鎮痛作用を有する。それはASA溶液よりはるかに低い濃度で後者と類似の鎮痛強度が得られるだけでなく、持続時間(>60min)も後者(<45min)よりも長かった。
説明:環境要因、マウスの違い、及びテストの違いはすべて鎮痛強度と鎮痛時間の絶対値に一定の影響を与えるが、アスピリン対照群に対して、A、B、C、D、E、F群はすべて安定な傾向を示した。a)有効濃度(鎮痛効果を生む濃度)はアスピリンよりはるかに低い。b)鎮痛強度はアスピリンと同等かそれ以上である。b)アスピリンより有効時間が長い。
実施例10 バナジルサルフェートの鎮痛実験
【0074】
約0.49mg/kgの基準(バナジウム原子質量換算)に従ってG1溶液を尾静脈注射し、収集したデータをASA及び空白群と対照した。
実施例11 (マルトラト)オキソバナジウムの鎮痛実験
【0075】
約0.97mg/kgの基準値(バナジウム原子質量換算)に従ってH1溶液を腹腔内注射し、収集したデータをASA及び空白群と対照した。
実施例11 (エチルマルトラト)オキソバナジウムの鎮痛実験
【0076】
約0.97mg/kgの基準(バナジウム原子質量換算)に従ってI溶液を腹腔内注射し、収集したデータをASA及び空白群と対照した。
実施例12 コウジ酸バナジルの鎮痛実験
【0077】
約0.97mg/kgの基準(バナジウム原子質量換算)に従ってJ溶液を腹腔内注射し、収集したデータをASA及び空白群と対照した。
実施例13 バナジルアセチルアセトネート(IV)の鎮痛実験
【0078】
約0.97mg/kgの基準(バナジウム原子質量換算)に従ってK溶液を腹腔内注射し、収集したデータをASA及び空白群と対照した。
実施例14 バナジルオキサレートの鎮痛実験
【0079】
約0.97mg/kgの基準(バナジウム原子質量換算)に従ってL溶液を腹腔内注射し、収集したデータをASA及び空白群と対照した。
実施例15 ビス(ピコリナト)オキソバナジウム(IV)の鎮痛実験
【0080】
約0.97mg/kgの基準(バナジウム原子質量換算)に従ってM溶液を腹腔内注射し、収集したデータをASA及び空白群と対照した。
実施例16 オルトバナジン酸/エチレングリコール錯体のナトリウム塩溶液の鎮痛実験
【0081】
約0.97mg/kgの基準(バナジウム原子質量換算)に従ってN溶液を腹腔内注射し、収集したデータをASA及び空白群と対照した。
実施例17オルトバナジン酸/プロピレングリコール錯体のナトリウム塩溶液の鎮痛実験
【0082】
約0.97mg/kgの基準(バナジウム原子質量換算)に従ってO溶液を腹腔内注射し、収集したデータをASA及び空白群と対照した。
実施例18 オルトバナジン酸/グリセリン錯体のナトリウム塩溶液の鎮痛実験
【0083】
約0.97mg/kgの基準(バナジウム原子質量換算)に従ってP溶液を腹腔内注射し、収集したデータをASA及び空白群と対照した。
実施例19 オルトバナジン酸/乳酸錯体のナトリウム塩溶液の鎮痛実験
【0084】
約0.97mg/kgの基準(バナジウム原子質量換算)に従ってQ溶液を腹腔内注射し、収集したデータをASA及び空白群と対照した。
実施例20 オルトバナジン酸/グリコール酸錯体のナトリウム塩溶液の鎮痛実験
【0085】
約0.97mg/kgの基準(バナジウム原子質量換算)に従って、R溶液を腹腔内注射し、収集したデータをASA及び空白群と対照した。
実施例21 バナジウム化合物の発効濃度及びプラトー期の実験
【0086】
様々なバナジウム(IV)又はバナジウム(V)化合物、例えば無機塩と有機リガンドを含有するバナジウムとの錯体はすべて鎮痛効果を持っているので、薬物リガンドが疼痛抑制に関与する可能性は非常に低く、それらの役割はバナジウム元素の担体として働くだけであると判断できる。バナジウム系化合物は体内に入って鎮痛ターゲット(複数の可能性がある)に到達する前に解離し、すなわちバナジウム元素は、原リガンドと解離し、代わりに摂取されたバナジウム元素は体内(例えば血液)に含まれる自然リガンド、特に塩素イオン、リン酸根イオン又はリン酸水素根イオンなどの無機リガンドとO-、N-、S-ドナーを含む有機リガンドと再錯化した後、次の鎮痛反応に作用する。また、4価又は5価バナジウム化合物は、生理学的条件下で酸化還元反応により速やかに新たな平衡を生成する。この考えに基づいて、バナジウムの無機塩(VOSOとNaVO)の尾静脈注射により、バナジウム元素は直接血液中に取り込むだけでなく、体内の自然リガンドと迅速に結合して鎮痛に必要な有効な形態を形成することができる。有機リガンドを含有するバナジウム化合物(特に緊密に結合した有機バナジウム錯体)と比較して、VOSO及びNaVOは、「裸の」バナジウム元素のドナー(ここでは「裸のバナジウム」と呼ばれる。)に相当し、前者は、VO2+のような4価バナジウムを提供し、後者は、VO 3-、HVO 2-、HVO 、又はVO3+のような5価バナジウムを提供し、これにより、自己のリガンドから解離するステップを省略し、自然リガンドと錯化しないことによる体外への排出のリスクを回避する。
【0087】
「裸のバナジウム」と実際の活性鎮痛物質との関係は最も強く、「裸のバナジウム」ドナーであるVOSO又はNaVOを異なる量で投与することにより、本発明者らはマウスに対して4価及び5価バナジウムが効果を発揮する最低血中濃度を見出した。まず、最低発効用量、すなわち約1.0×10-3mg/kgが見つかった(「発効濃度データシート」を参照)。これらマウスの血中バナジウム濃度を計算し、その計算方法は以下の通りである。
【0088】
マウスの平均血液量を2ml/30gとし、1.0×10-3mg/kgの用量で尾静脈内注射を行った後の血中濃度は、(1.0×10-6mg/g×30g)/(51×2)=2.9×10-7M(又は0.29μM)であった。
【0089】
したがって、バナジウム化合物がマウスに鎮痛作用を及ぼす最低血中濃度は約0.29μM程度であった。1:9.3のヒトと実験動物の投薬量を換算すると、バナジウム化合物が人体に鎮痛作用を及ぼす最低血中濃度は0.031μMであった。
【0090】
本発明者らは、また、バナジウムの用量が増加するに伴い、鎮痛強度及び鎮痛時間も増加することを発見した。しかし、バナジウムの血中濃度が一定に達した時、鎮痛作用はプラトー期が出現し、すなわち鎮痛強度はもはや増加しない、さらに低下し、及び/又は鎮痛時間はもはや延長しない(あるいは規則性がない)。
【0091】
VOS又はNaVO溶液を尾静脈注射した場合、プラトー期に達するまでの用量はすべて0.49mg/kg以上(「プラトー期実験データシート」を参照)で、換算すると、血中濃度は140μMであった。1:9.3のヒトと実験動物の投薬計量を換算すると、バナジウム濃度がヒトで15μMに達すると鎮痛プラトー期が出現することがわかった。
【0092】
他のバナジウム系化合物の最小発効用量は、プラトー期に達するまでの用量とバナジウム/リガンド間の錯化の緊密性に関連していることが予想され、BMOVの例では、プラトー期に達するまでの用量は約0.97mg/kg以上であった。
【0093】
【0094】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【手続補正書】
【提出日】2023-07-12
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バナジウム-酸素結を含む+4価バナジウム化合物又は+5価バナジウム化合物を含む、疼痛を治療するための医薬であって、
+4価バナジウム化合物又は+5価バナジウム化合物の使用量が、バナジウム質量換算で0.0001mg/kg体重~5mg/kg体重である、医薬
【請求項2】
+4価バナジウム化合物は、無機塩、無機酸塩、有機酸塩及びそれらが有機リガンドと形成する錯体からなる群から選択される請求項1に記載の医薬
【請求項3】
+4価バナジウム化合物は、VCl、VOCl、VOSO、(VO)(PO、VOHPO及びVO(HPOからなる群から選択される請求項2に記載の医薬
【請求項4】
5価バナジウム化合物は、オルトバナジン酸又はメタバナジン酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩又は遷移金属塩である請求項1に記載の医薬
【請求項5】
5価バナジウム化合物はオルトバナジン酸ナトリウム又はオルトバナジン酸カリウムである請求項4に記載の医薬
【請求項6】
5価バナジウム化合物はメタバナジン酸ナトリウム又はメタバナジン酸カリウムである請求項4に記載の医薬
【請求項7】
4価バナジウム化合物は、4価バナジウムがポリカルボン酸又は有機リガンドと形成する化合物であり、又は、5価バナジウム化合物は、5価バナジウムがポリカルボン酸又は有機リガンドと形成する化合物である請求項1に記載の医薬
【請求項8】
前記化合物は5価バナジウムがクエン酸と形成するものである請求項7に記載の医薬
【請求項9】
有機リガンドと形成する前記化合物はシスビス(マルトラト)メトキシオキソバナジウム、ビス(アセチルアセトナト)オキソバナジウム、バナジルオキサラート、又はバナジルピコリナートである請求項7に記載の医薬
【請求項10】
前記化合物は、オルトバナジン酸リチウム、オルトバナジン酸ナトリウム、オルトバナジン酸カリウム、ポリバナジン酸リチウム、ポリバナジン酸ナトリウム、ポリバナジン酸カリウム、メタバナジン酸リチウム、メタバナジン酸ナトリウム、メタバナジン酸カリウム、メタバナジン酸第4級アンモニウム塩、バナジルサルフェート、二塩化バナジウム、及び結晶性溶媒を含むそれらの化合物からなる群から選択される、請求項1に記載の医薬
【請求項11】
前記化合物は、ビス(マルトラト)オキソバナジウム(BMOV)、ビス(エチルマルトラト)オキソバナジウム(BEOV)、コウジ酸バナジル、バナジルサルフェート、オルトバナジン酸ナトリウム、オルトバナジン酸カリウム、メタバナジン酸ナトリウム、メタバナジン酸カリウム、及びこれらとクエン酸、酒石酸、乳酸、グリコール酸、エチレングリコール、グリセリン又はトリエタノールアミン[トリス(2-ヒドロキシエチル)アミン]とを用いて1:0.5~1:1000のモル比で調製したバナジウム化合物、及びクエン酸錯体K[VO (C )]・H Oからなる群から選択される、請求項1に記載の医薬
【請求項12】
前記化合物は経口投与、静脈注射、皮下注射、経皮吸収、舌下投与、及び吸入投与により投与される請求項1~11のいずれか1項に記載の医薬
【請求項13】
前記医薬の剤形は、錠剤、注射液、カプセル、貼付剤、軟膏、又は吸入剤である請求項12に記載の医薬
【請求項14】
バナジウム-酸素結合を含む+4価バナジウム化合物又は+5価バナジウム化合物の疼痛治療するための医薬の製造における使用。
【国際調査報告】