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特表2024-500553極厚規格の熱間圧延H形鋼及びその生産方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-09
(54)【発明の名称】極厚規格の熱間圧延H形鋼及びその生産方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20231226BHJP
   C22C 38/28 20060101ALI20231226BHJP
   C21D 8/06 20060101ALI20231226BHJP
   B21B 1/08 20060101ALI20231226BHJP
   B21B 1/088 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
C22C38/00 301Z
C22C38/28
C21D8/06 A
B21B1/08 B
B21B1/088 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023540157
(86)(22)【出願日】2021-10-27
(85)【翻訳文提出日】2023-06-29
(86)【国際出願番号】 CN2021126546
(87)【国際公開番号】W WO2022095761
(87)【国際公開日】2022-05-12
(31)【優先権主張番号】202011217422.6
(32)【優先日】2020-11-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515050091
【氏名又は名称】▲馬▼鞍山▲鋼▼▲鉄▼股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100166729
【弁理士】
【氏名又は名称】武田 幸子
(72)【発明者】
【氏名】シア メン
(72)【発明者】
【氏名】ウー バオチャオ
(72)【発明者】
【氏名】ウー メイチュアン
(72)【発明者】
【氏名】シン ジュン
(72)【発明者】
【氏名】ワン ジエ
(72)【発明者】
【氏名】チェン フイ
(72)【発明者】
【氏名】ヤン ジンチェン
(72)【発明者】
【氏名】ファン チー
(72)【発明者】
【氏名】ペン リン
(72)【発明者】
【氏名】ヘ ジュンウェイ
(72)【発明者】
【氏名】ディン チャオフイ
(72)【発明者】
【氏名】シャン チャンチェン
【テーマコード(参考)】
4E002
4K032
【Fターム(参考)】
4E002AC01
4E002AC03
4E002BA04
4E002BC07
4E002BD07
4E002BD09
4E002CA17
4K032AA01
4K032AA04
4K032AA05
4K032AA11
4K032AA14
4K032AA16
4K032AA21
4K032AA22
4K032AA26
4K032AA27
4K032AA29
4K032AA31
4K032AA35
4K032AA36
4K032BA02
4K032CA03
4K032CD03
4K032CD05
4K032CD06
(57)【要約】
本発明は、極厚規格の熱間圧延H形鋼及びその生産方法を開示し、その化学成分は、質量百分率で、C:0.04~0.11、Si:0.10~0.40、Mn:0.40~1.00、Cr:0.40~1.00、Cu:0.10~0.40、Nb:0.020~0.060、V:0.040~0.100、Ti:0.010~0.025、Al:0.010~0.030、N:0.0060~0.0120、P:≦0.015、S:≦0.005、O:≦0.0060を含み、0.090%≦Nb+V+Ti≦0.170%で、6.5≦(V+Ti)/N≦10.5であり、残部がFe及び微量の残留元素であり、0.30%≦CEV≦0.48%である。本発明は、フランジの厚さが90mm~150mmであり、総合的な力学的性質が優れ、高層建築物、大型広場、橋梁構造等の重型支持構造部材の要件をよく満たすことができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学成分は、質量百分率で、C:0.04~0.11、Si:0.10~0.40、Mn:0.40~1.00、Cr:0.40~1.00、Cu:0.10~0.40、Nb:0.020~0.060、V:0.040~0.100、Ti:0.010~0.025、Al:0.010~0.030、N:0.0060~0.0120、P:≦0.015、S:≦0.005、O:≦0.0060を含み、0.090%≦Nb+V+Ti≦0.170%及び6.5≦(V+Ti)/N≦10.5を満たし、残部がFe及び微量の残留元素であり、CEV=C+Mn/6+(Cr+Mo+V)/5+(Ni+Cu)/15に従って計算を行い、化学成分が0.30%≦CEV≦0.48%を満たすことを特徴とする、極厚規格の熱間圧延H形鋼。
【請求項2】
化学成分は、質量百分率で、C:0.04~0.07、Si:0.10~0.30、Mn:0.80~1.00、Cr:0.40~0.90、Cu:0.10~0.25、Nb:0.040~0.060、V:0.040~0.080、Ti:0.010~0.015、Al:0.010~0.020、N:0.0060~0.0100、P:≦0.015、S:≦0.005、O:≦0.0060を含み、0.090%≦Nb+V+Ti≦0.130%、6.5≦(V+Ti)/N≦8.5を満たし、残部がFe及び微量の残留元素であり、CEV=C+Mn/6+(Cr+Mo+V)/5+(Ni+Cu)/15に従って計算を行い、化学成分が0.30%≦CEV≦0.43%を満たすことを特徴とする、請求項1に記載の極厚規格の熱間圧延H形鋼。
【請求項3】
化学成分は、質量百分率で、C:0.07~0.11、Si:0.30~0.40、Mn:0.40~0.80、Cr:0.90~1.00、Cu:0.25~0.40、Nb:0.020~0.040、V:0.080~0.100、Ti:0.015~0.025、Al:0.020~0.030、N:0.0100~0.0120、P:≦0.015、S:≦0.005、O:≦0.0040を含み、0.130%<Nb+V+Ti≦0.170%、8.5≦(V+Ti)/N≦10.5を満たし、残部がFe及び微量の残留元素であり、CEV=C+Mn/6+(Cr+Mo+V)/5+(Ni+Cu)/15に従って計算を行い、化学成分が0.40%≦CEV≦0.48%を満たすことを特徴とする、請求項1に記載の極厚規格の熱間圧延H形鋼。
【請求項4】
前記H形鋼のフランジにおける端部から幅1/6、厚さ1/4の位置で、顕微組織は、面積百分率で、85%~98%の針状フェライトを含み、残りの組織はベイナイト又は残留のオーステナイトであり、ベイナイトの含有量が2%以下であり、フェライト結晶粒の幅寸法が40μm以下であり、フランジの厚さ方向に沿った異なる領域において針状フェライトの含有量の差が16%以下であることを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載の極厚規格の熱間圧延H形鋼。
【請求項5】
前記H形鋼のフランジにおける端部から幅1/6、厚さ1/4の位置で、顕微組織は、面積百分率で、85%~91%の針状フェライトを含み、残りの組織はベイナイト又は残留のオーステナイトであり、ベイナイトの含有量が2%以下であり、フェライト結晶粒の幅寸法が20μm以下であり、フランジの厚さ方向に沿った異なる領域において針状フェライトの含有量の差が9%以下であることを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載の極厚規格の熱間圧延H形鋼。
【請求項6】
前記H形鋼のフランジにおける端部から幅1/6、厚さ1/4の位置で、顕微組織は、面積百分率で、91%~98%の針状フェライトを含み、残りの組織はベイナイト又は残留のオーステナイトであり、ベイナイトの含有量が1%以下であり、フェライト結晶粒の幅寸法が20μm~40μmであり、フランジの厚さ方向に沿った異なる領域において針状フェライトの含有量の差が9%~16%であることを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載の極厚規格の熱間圧延H形鋼。
【請求項7】
前記H形鋼のフランジにおける端部から幅1/6、厚さ1/4の位置で、室温での引張降伏強度が460MPa以上であり、引張強度が540MPa以上であり、破断伸びが24.0%以上であり、-20℃での衝撃エネルギーの値が80J以上であり、厚さ方向の性能がZ35レベルに達することを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載の極厚規格の熱間圧延H形鋼。
【請求項8】
前記H形鋼のフランジの厚さが90mm~150mmであることを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載の極厚規格の熱間圧延H形鋼。
【請求項9】
加熱温度1200℃~1350℃、加熱時間120min~180minの条件下で、ブランクを加熱するステップと、
分塊圧延を行い、圧延が完了した後、フランジの表面温度が1000℃以上となるステップと、
フランジ表面を700℃~800℃に高速に冷却するように、20℃/s以上の冷却速度で噴水冷却し、続いてユニバーサルミルに入れて圧延し、ユニバーサルミルによる圧延を完了した後、まず、噴水冷却により、5℃/s~13℃/sの冷却速度で、圧延材のフランジ表面を480℃~530℃に高速に冷却し、次に空冷を行うステップと、を含むことを特徴とする、請求項1から8のいずれか1項に記載の極厚規格の熱間圧延H形鋼の生産方法。
【請求項10】
前記ビームブランクに対して分塊圧延を行い、圧延が完了した後、フランジの表面温度が1020℃以上となることを特徴とする、請求項9に記載の極厚規格の熱間圧延H形鋼の生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材料生産の技術分野に関し、具体的には、極厚規格の熱間圧延H形鋼及びその生産方法である。
【背景技術】
【0002】
経済社会の急速発展に伴い、高層建築物、大型会場、橋梁メインタワー等の構築には、安全性、快適さ性及び美観性上のニーズが重視されていき、設計として、重鋼構造を採用するが、フランジ厚さ90mm~150mmの極厚規格の熱間圧延H形鋼は、そのコアとなる支持部材である。
【0003】
長時間の実践によると、熱間圧延H形鋼はフランジの総合的な力学的性質がウェブ板よりも弱いことが明らかになり、標準GB/T2975には、力学的性質の評価のためにフランジからサンプリングすることも規定されており、業界において、熱間圧延H形鋼のフランジを説明対象とすることが一般的である。厚さの大きいブランクを薄肉規格に圧延し、高圧下で優れた力学的性質が得られることは、業界内で認められている。しかし、該方法でフランジ厚さ90mm~150mmの極厚規格の熱間圧延H形鋼を圧延するには、既存の寸法を遥かに超える極厚、超大のブランクを必要とし、新しい連続鋳造設備及び鋼圧延設備の建設に投資しなければならず、コストが非常に大きく、しかもブランクの内部と表面の品質制御が非常に困難であり、実現しにくい。実現可能性と経済性の面から、ビームブランクを使用して圧延すれば、ブランクから完成品へフランジの厚さ方向の圧延率が13%~30%となり、これは許容可能である。
【0004】
特許文献CN103987866Bでは、Ni-Cu-B-V-Ti成分系のビームブランクを使用し、加熱-粗圧延-仕上げ圧延工程を経て、仕上げ圧延パス間冷却又は圧延後高速冷却を利用し、ベイナイト+フェライト/マルテンサイトの室温組織を形成し、フランジ厚さ100mm~150mmの熱間圧延H形鋼が生産され、降伏強度レベルが450MPa以上であるが、特許文献CN109715842Aでは、Nb-V-Ti成分系(Cr、Mo、Ni、Cu元素を添加可能)のビームブランクを使用し、加熱-粗圧延-仕上げ圧延工程を経て、仕上げ圧延パス間冷却又は圧延後高速冷却を利用し、フェライト+マルテンサイト/オーステナイトの室温組織を形成し、フランジ厚さ40mm~140mmの熱間圧延H形鋼が生産され、降伏強度レベルが450MPa以上である。上記2つの方法では、フランジ厚さ1/4位置のベイナイトの含有量が60%以上であり、フェライトの含有量が60%以上(結晶粒寸法が35μm以下)であることがそれぞれ規定されているが、フランジの全厚さ方向の組織形態及び含有量を制御していない。該方法をフランジ厚さ90mm以上の製品の生産に応用する場合、厚さ方向の性能を保証することはできない。
【0005】
特許文献CN105586534B、CN103938079B、CN110484822A、CN108893675Aでは、それぞれV、V-Ti、Ni-V-Ti、Ni-Nb-V-Mo成分系のビームブランクを使用し、加熱-分塊圧延-粗圧延-空冷/水冷工程を経て、フェライト+パーライト/ベイナイトの室温組織を形成し、フランジ厚さ45mm以下の熱間圧延H形鋼が生産され、降伏強度レベルが355MPa~500MPaであり、-20℃~-40℃の低温靱性要求を満たす。上記4つの方法では、芯部の冷却と組織を制御していない。フランジ厚さ90mm以上の製品の生産に応用する場合、芯部の開始冷却温度が高く、空冷による全断面の冷却速度が低いため、大寸法の塊状フェライトが析出しやすく、鎖状又は網状分布を呈し、析出相も凝集して粗化しやすく、よって、製品の強度、塑性、靱性及び厚さ方向の性能を保証できず、しかもNi、Mo等の元素の添加により合金コストが増加する。
【0006】
特許文献CN105586534Bでは、Ni-V-Ti成分系のビームブランクを使用し、加熱-分塊圧延-粗圧延-空冷工程を経て、フェライト+パーライトの室温組織を形成し、フランジ厚さ36mm以下の熱間圧延H形鋼が生産され、降伏強度レベルが355MPaであり、耐低温性能に優れる。該方法では、粗圧延段階の各パスでの圧延率が20%以上であるべきことが規定されているが、ビームブランクからフランジ厚さ90mm以上の製品を圧延することに対して達成できず、変形浸透と冷却浸透を強化する措置も取らず、よって、製品の強度、塑性、靱性及び厚さ方向の性能を保証することができない。
【0007】
特許文献CN107964626B及びCN107747043Bでは、前者には、Nb-B成分系のビームブランクが使用され、加熱-粗圧延-仕上げ圧延-急冷-焼き戻し工程を経て、焼き戻しソルバイト+フェライト+拡散分布する炭化物の室温組織を形成するが、後者には、V-Ti-Ni-Mo-Cu-Cr-Al成分系のビームブランクが使用され、加熱-粗圧延-仕上げ圧延-急冷-オフライン焼き戻し工程を経て、焼き戻しマルテンサイト組織を形成し、降伏強度レベルが500MPa~650MPaの熱間圧延H形鋼が生産され得る。上記2つの方法はフランジ厚さの薄い製品を対象とし、全厚さで高速冷却条件に達成する必要があり、該方法をフランジ厚さ90mm以上の製品の生産に応用する場合、全厚さで急冷臨界冷却速度に達成することができず、オンライン又はオフライン熱処理に必要な初期組織を取得することができず、芯部の開始冷却温度が高く冷却速度が低く、ソルバイト/マルテンサイト+拡散分布する炭化物を形成することができないため、製品の強度、塑性、靱性及び厚さ方向の性能を保証できず、しかもNi、Mo元素の添加により合金コストが増加する。
【0008】
以上により、これらの問題を解決するために極厚規格の熱間圧延H形鋼及びその生産方法を急ぎ必要とする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、フランジ厚さ90mm~150mmの熱間圧延H形鋼の力学的性質、特に厚さ方向の性能を向上させるという問題を解決するための、極厚規格の熱間圧延H形鋼及びその生産方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記問題を解決するために、本発明は、下記技術的解決手段を採用する。
【0011】
極厚規格の熱間圧延H形鋼であって、その化学成分は、質量百分率で、C:0.04~0.11、Si:0.10~0.40、Mn:0.40~1.00、Cr:0.40~1.00、Cu:0.10~0.40、Nb:0.020~0.060、V:0.040~0.100、Ti:0.010~0.025、Al:0.010~0.030、N:0.0060~0.0120、P:≦0.015、S:≦0.005、O:≦0.0060を含み、0.090%≦Nb+V+Ti≦0.170%及び6.5≦(V+Ti)/N≦10.5を満たし、残部がFe及び微量の残留元素であり、CEV=C+Mn/6+(Cr+Mo+V)/5+(Ni+Cu)/15に従って計算を行い、化学成分が0.30%≦CEV≦0.48%を満たす。
【0012】
選択的に、H形鋼の化学成分は、質量百分率で、C:0.04~0.07、Si:0.10~0.30、Mn:0.80~1.00、Cr:0.40~0.90、Cu:0.10~0.25、Nb:0.040~0.060、V:0.040~0.080、Ti:0.010~0.015、Al:0.010~0.020、N:0.0060~0.0100、P:≦0.015、S:≦0.005、O:≦0.0060を含み、0.090%≦Nb+V+Ti≦0.130%、6.5≦(V+Ti)/N≦8.5を満たし、残部がFe及び微量の残留元素であり、CEV=C+Mn/6+(Cr+Mo+V)/5+(Ni+Cu)/15に従って計算を行い、化学成分が0.30%≦CEV≦0.43%を満たす。
【0013】
選択的に、H形鋼の化学成分は、質量百分率で、C:0.07~0.11、Si:0.30~0.40、Mn:0.40~0.80、Cr:0.90~1.00、Cu:0.25~0.40、Nb:0.020~0.040、V:0.080~0.100、Ti:0.015~0.025、Al:0.020~0.030、N:0.0100~0.0120、P:≦0.015、S:≦0.005、O:≦0.0040を含み、0.130%<Nb+V+Ti≦0.170%、8.5≦(V+Ti)/N≦10.5を満たし、残部がFe及び微量の残留元素であり、CEV=C+Mn/6+(Cr+Mo+V)/5+(Ni+Cu)/15に従って計算を行い、化学成分が0.40%≦CEV≦0.48%を満たす。
【0014】
好ましくは、H形鋼のフランジにおける端部から幅1/6、厚さ1/4の位置で、顕微組織は、面積百分率で、85%~98%の針状フェライトを含み、残りの組織はベイナイト又は残留のオーステナイトであり、ベイナイトの含有量が2%以下であり、フェライト結晶粒の幅寸法が40μm以下であり、フランジの厚さ方向に沿った異なる領域において針状フェライトの含有量の差が16%以下である。
【0015】
選択的に、H形鋼のフランジにおける端部から幅1/6、厚さ1/4の位置で、顕微組織は、面積百分率で、85%~91%の針状フェライトを含み、残りの組織はベイナイト又は残留のオーステナイトであり、ベイナイトの含有量が2%以下であり、フェライト結晶粒の幅寸法が20μm以下であり、フランジの厚さ方向に沿った異なる領域において針状フェライトの含有量の差が9%以下である。
【0016】
選択的に、H形鋼のフランジにおける端部から幅1/6、厚さ1/4の位置で、顕微組織は、面積百分率で、91%~98%の針状フェライトを含み、残りの組織はベイナイト又は残留のオーステナイトであり、ベイナイトの含有量が1%以下であり、フェライト結晶粒の幅寸法が20μm~40μmであり、フランジの厚さ方向に沿った異なる領域において針状フェライトの含有量の差が9%~16%である。
【0017】
好ましくは、H形鋼のフランジにおける端部から幅1/6、厚さ1/4の位置で、室温での引張降伏強度が460MPa以上であり、引張強度が540MPa以上であり、破断伸びが24.0%以上であり、-20℃での衝撃エネルギーの値が80J以上であり、厚さ方向の性能がZ35レベルに達する。
【0018】
好ましくは、H形鋼のフランジの厚さが90mm~150mmである。
【0019】
本発明は、加熱温度1200℃~1350℃、加熱時間120min~180minの条件下で、ブランクを加熱するステップと、分塊圧延を行い、圧延が完了した後、フランジの表面温度が1000℃以上となるステップと、フランジ表面を700℃~800℃に高速に冷却するように、20℃/s以上の冷却速度で噴水冷却し、続いてユニバーサルミルに入れて圧延し、ユニバーサルミルによる圧延を完了した後、まず、噴水冷却により、5℃/s~13℃/sの冷却速度で、圧延材のフランジ表面を480℃~530℃に高速に冷却し、次に空冷を行うステップと、を含む請求項1から8のいずれか1項に記載の極厚規格の熱間圧延H形鋼の生産方法という別の技術的解決手段を提供する。
【0020】
好ましくは、ビームブランクに対して分塊圧延を行い、圧延が完了した後、フランジの表面温度が1020℃以上となる。
【発明の効果】
【0021】
従来技術に比べて、本発明の有益な効果は以下のとおりである。
【0022】
1、該極厚規格の熱間圧延H形鋼は、フランジ厚さが90mm~150mmであり、総合的な力学的性質が優れており、降伏強度が460MPa以上、引張強度が540MPa以上、破断伸びが24.0%以上、-20℃での衝撃エネルギーが80J以上であるという要件を満たすことができ、特に、厚さ方向の性能は、最低でZ35レベルに達することができ、高層建築物、大型広場、橋梁構造等の重型支持構造部材の要件をよく満たすことができる。
【0023】
2、該極厚規格の熱間圧延H形鋼の生産方法では、ユニバーサルミルによる圧延の前に高速に冷却した場合、フランジの厚さ方向において表面から芯部へ一定の温度勾配を形成することができ、圧延過程において、表面温度が低く、変形抗力が大きく、圧延に伴って圧縮変形が進行し続け、変形は、温度がより高く、変形抗力が小さい芯部へ徐々に浸透し、温度勾配の増加に伴い、変形浸透効果が高まり、芯部の歪み蓄積が増加し、表面から芯部へ歪み蓄積の差がそれに伴って小さくなり、歪み蓄積を増加させることにより、核生成の位置が増加し、駆動力が高まり、針状フェライトの析出を促進して微細化する。フランジの厚さ方向の歪み蓄積の差を低減することは、厚さ方向の異なる領域における組織の含有量の差を低減し、組織の均一性を向上させることに役立つ。
【0024】
3、該極厚規格の熱間圧延H形鋼の生産方法では、化学成分の制御、ユニバーサルミルによる圧延の前の高速冷却、圧延後の段階的冷却を利用し、針状フェライトを主とし、残部がベイナイト又は残留のオーステナイトである室温組織を形成し、また、針状フェライトの含有量、結晶粒の寸法及びベイナイトの含有量を制限して、フランジの厚さ方向に沿った組織のバラツキを小さくし、組織、析出、固溶及び微細結晶強化の複合作用を利用し、総合的な力学的性質の優れた極厚規格の熱間圧延H形鋼が得られ、生産コストが相対的低く、生産の実現可能性が高く、大量生産への応用に適する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明に係るH形鋼の室温での典型的なミクロ構造図である。
図2】一般的なH形鋼の構造模式図であり、図中にフランジにおける端部から幅1/6、厚さ1/4の位置が示されている。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明に係る極厚規格の熱間圧延H形鋼について、その化学成分は、質量百分率で、C:0.04~0.11、Si:0.10~0.40、Mn:0.40~1.00、Cr:0.40~1.00、Cu:0.10~0.40、Nb:0.020~0.060、V:0.040~0.100、Ti:0.010~0.025、Al:0.010~0.030、N:0.0060~0.0120、P:≦0.015、S:≦0.005、O:≦0.0060であり、0.090%≦Nb+V+Ti≦0.170%及び6.5≦(V+Ti)/N≦10.5を満たし、残部がFe及び微量の残留元素であり、CEV=C+Mn/6+(Cr+Mo+V)/5+(Ni+Cu)/15に従って計算を行い、化学成分が0.30%≦CEV≦0.48%を満たす。
【0027】
さらに選択的に、化学成分は、質量百分率で、C:0.04~0.07、Si:0.10~0.30、Mn:0.80~1.00、Cr:0.40~0.90、Cu:0.10~0.25、Nb:0.040~0.060、V:0.040~0.080、Ti:0.010~0.015、Al:0.010~0.020、N:0.0060~0.0100、P:≦0.015、S:≦0.005、O:≦0.0060であり、0.090%≦Nb+V+Ti≦0.130%、6.5≦(V+Ti)/N≦8.5を満たし、残部がFe及び微量の残留元素であり、CEV=C+Mn/6+(Cr+Mo+V)/5+(Ni+Cu)/15に従って計算を行い、化学成分が0.30%≦CEV≦0.43%を満たす。
【0028】
さらに選択的に、化学成分は、質量百分率で、C:0.07~0.11、Si:0.30~0.40、Mn:0.40~0.80、Cr:0.90~1.00、Cu:0.25~0.40、Nb:0.020~0.040、V:0.080~0.100、Ti:0.015~0.025、Al:0.020~0.030、N:0.0100~0.0120、P:≦0.015、S:≦0.005、O:≦0.0040であり、0.130%<Nb+V+Ti≦0.170%、8.5≦(V+Ti)/N≦10.5を満たし、残部がFe及び微量の残留元素であり、CEV=C+Mn/6+(Cr+Mo+V)/5+(Ni+Cu)/15に従って計算を行い、化学成分が0.40%≦CEV≦0.48%を満たす。
【0029】
具体的には、各元素の作用及び成分の配合比(質量百分率で)は、以下に基づくものである。
【0030】
炭素(C):強度を高めるものであり、該効果を得るために、下限を0.04%にする。含有量が0.11%を超える場合、針状フェライトを形成するとき、炭化物はチェーン又は短冊状で析出し、マトリックスの連続性が破壊され、塑性、靱性及び厚さ方向の性能が損なわれ、また、成分が包晶領域に隣接し、ビームブランクの端部と内円角が割れやすいため、溶接性に悪影響を及ぼし、よって、上限を0.11%にする。
【0031】
シリコン(Si):製鋼脱酸素元素で、強度を高め、連続鋳造時の鋼液の流動性を改善するためのものであり、該効果を得るために、下限を0.10%にする。含有量が0.40%を超える場合、強度を高める作用が十分になり、マルテンサイトとオーステナイトとの混合組織の形成も促進され、塑性と靱性が損なわれ、よって、上限を0.40%にする。
【0032】
マンガン(Mn):焼入れ性を向上させ、Cr元素との相乗作用により過度低温のオーステナイトの安定性を向上させ、針状フェライトの析出を促進し、厚さ方向の性能をある程度改善し、強度を高めることもできるものであり、該効果を得るために、下限を0.40%にする。含有量が1.00%を超える場合、マクロ成分が偏析しやすく、パーライトやベイナイト又は残留のオーステナイトが縞状に分布し、マトリックスの連続性が破壊され、厚さ方向の性能が損なわれ、よって、上限を1.00%にする。
【0033】
クロム(Cr):焼入れ性を向上させ、Mn元素との相乗作用により過度低温のオーステナイトの安定性を向上させ、針状フェライトの析出を促進し、厚さ方向の性能をある程度改善し、強度を高めることもできるものであり、下限を0.40%にする。含有量が1.00%を超える場合、焼入れ性の向上作用が十分になり、じょうベイナイト析出も促進され、塑性と靱性が損なわれ、溶接性に悪影響を及ぼし、よって、上限を1.00%にする。
【0034】
銅(Cu):強度を高めるものであり、該効果を得るために、下限を0.10%にする。含有量が0.40%を超える場合、ブランク表面に液体分離の欠陥が生じ、よって、上限を0.40%にする。
【0035】
ニオブ(Nb):圧延中に析出し、オーステナイト結晶粒の成長抑制、オーステナイトの未再結晶領域の臨界温度を上げ、歪み蓄積を増加させ、針状フェライトの微細化に役立ち、表面及び表在性領域の加工硬化程度を高め、変形浸透を強化し、塑性、靱性及び厚さ方向の性能を改善することもできるものであり、該効果を得るために、下限を0.020%にする。含有量が0.060%を超える場合、オーステナイトの未再結晶臨界温度を上げる作用が十分になり、析出物が凝集して粗化され、ピン止め作用が低下し、よって、上限を0.060%にする。
【0036】
バナジウム(V):圧延した後、拡散して析出し、強度を高めるものであり、該効果を得るために、下限を0.040%にする。含有量が0.100%を超える場合、析出物の粗化が深刻になり、大粒子とマトリックスとの境界で割れやすいため、塑性と靱性が損なわれ、溶接性に悪影響を及ぼし、よって、上限を0.100%にする。
【0037】
チタン(Ti):加熱段階と圧延中に析出し、オーステナイト結晶粒の過度成長抑制するものであり、該効果を得るために、下限を0.010%にする。含有量が0.025%を超える場合、析出物が凝集して粗化され、ピン止め作用が低下し、また、脆性破壊基点が形成されて靱性をさらに損ない、よって、上限を0.025%にする。
【0038】
アルミニウム(Al):製鋼脱酸素元素で、圧延中に析出し、オーステナイト結晶粒の過度成長を擬制するものであり、該効果を得るために、下限を0.010%にする。含有量が0.030%を超える場合、脆性介在物が形成されやすいため、塑性、靱性及び厚さ方向の性能が損なわれ、また、連続鋳造過程で溶鋼の漏出を引き起こす団塊形成も発生しやすく、よって、上限を0.030%にする。
【0039】
窒素(N):Ti、V、Nbの析出にN元素との相乗作用を必要とし、TiとVの析出数及び分布に顕著に影響を与え、N含有量の増加に伴い、析出割合が大幅に増加するものであり、該効果を得るために、下限を0.0060%にする。含有量が0.0120%を超える場合、析出促進作用が十分になり、島状マルテンサイトの形成も促進され、塑性と靱性が損なわれ、よって、上限を0.0120%にする。
【0040】
Nb、V、Ti元素の析出による有益な作用を十分に発揮するために、Nb+V+Tiの下限を0.090%にする。3つの元素の合計含有量が0.170%よりも高い場合、析出した粒子の粗化が深刻になり、靱性及び塑性が損なわれ、よって、Nb+V+Tiの上限を0.170%にする。TiとVの析出にN元素との相乗作用を必要とするため、V、Ti元素の含有量の和とN元素の含有量との割合が6.5よりも低い場合、析出に必要なN含有量を超え、鋼中のガス含有量が増加し、靱性が損なわれ、よって、(V+Ti)/N下限を6.5にする。割合が10.5よりも高い場合、Ti、V元素の析出量はその合計含有量に占める割合が低く、析出強化作用が不十分になり、よって、(V+Ti)/N上限を10.5にする。
【0041】
標準GB/T 1591の規定に従い、炭素当量CEVは、上記元素含有量に基づいて算出された値であり、溶接性を評価するための標準指標でもある。各化学成分の作用を効果的に発揮するために、CEVを0.30%以上にし、下限を0.30%にする。CEVの増加に伴い、溶接して使用するとき、溶接前の準備作業量、溶接後の低温割れ感受性がいずれも向上するため、製品の後続の溶接使用を容易にするには、上限を0.48%にする。
【0042】
リン(P):不純物元素で、凝固偏析と濃縮が発生しやすく、塑性と靱性を損ない、溶接性に悪影響を及ぼすものであり、上限を0.015%にする。
硫黄(S):不純物元素で、圧延により長尺状の介在物を形成し、接触面での原子配列が乱れ、エネルギーが高く、割れやすく、靱性と厚さ方向の性能を損なうものであり、上限を0.005%にする。
【0043】
酸素(O):不純物元素で、複数種類の元素と酸化物介在物を形成し、脆性破壊基点を形成し、塑性、靱性及び厚さ方向の性能を損なうものであり、上限を0.0060%にする。
【0044】
本発明に係る極厚規格の熱間圧延H形鋼は、標準GB/T 2975の規定に従い、力学的性質の評価について、フランジにおける端部から幅1/6、厚さ1/4の位置でサンプリングするため、顕微組織もこの位置で特徴づけられる。顕微組織は、面積百分率で、85%~98%の針状フェライトを含み、残りの組織はベイナイト又は残留のオーステナイトであり、ベイナイトの含有量が2%以下であり、ここで、フェライト結晶粒の幅寸法が40μm以下であるが、フランジの厚さ方向に沿った異なる領域において針状フェライトの含有量の差が16%以下である。
【0045】
さらに選択的に、顕微組織は、面積百分率で、フランジにおける端部から幅1/6、厚さ1/4の位置で、85%~91%の針状フェライトを含み、残りの組織はベイナイトと残留のオーステナイトであり、ベイナイトの含有量が2%以下であり、ここで、フェライト結晶粒の幅寸法が20μm以下であり、フランジの厚さ方向に沿った異なる領域において針状フェライトの含有量の差が9%以下であるべきである。
【0046】
さらに選択的に、顕微組織は、面積百分率で、フランジにおける端部から幅1/6、厚さ1/4の位置で、フランジ表面に91%~98%の針状フェライトが含まれており、残りの組織はベイナイトと残留のオーステナイトであり、ベイナイトの含有量が1%以下であり、ここで、フェライト結晶粒の幅寸法が20μm~40μmであり、フランジの厚さ方向に沿った異なる領域において針状フェライトの含有量の差が9%~16%である。
【0047】
針状フェライトは、長軸方向が一定ではないため、結晶粒界にインターロック構造が形成され、フランジの厚さ方向における分布も同様であり、塑性、靱性及び厚さ方向の性能の向上の点で、ベイナイト及びパーライトより明らかに優れ、強度を高める作用もパーライトより高く、製品の総合的な力学的性質を向上させるための重要な組織である。
【0048】
フランジにおける端部から幅1/6、厚さ1/4の位置で、針状フェライトの含有量が85%よりも低い場合、全厚さの範囲内に針状フェライトの合計含有量が不十分になり、さらにパーライトが生成する可能性もあり、針状フェライトの有益な作用を十分に発揮することができず、塑性、靱性及び厚さ方向の性能が損なわれ、よって、その含有量の下限を85%にする。針状フェライトが析出する際に、C元素は、必然的に他の領域で濃縮し、圧延後の冷却中にベイナイト又は残留のオーステナイトを形成し、針状フェライトに完全に変換することができず、よって、その含有量の上限を98%にする。
【0049】
析出したベイナイトの分布が相対的に集中するため、マトリックスの連続性が破壊され、その含有量が2%を超える場合、塑性と靱性が損なわれ、よって、その含有量の上限を2%にする。
【0050】
針状フェライト結晶粒は、短冊状であり、長径比が通常2:1~5:1であり、その幅寸法を限定することは、実行可能な方法であり、結晶粒寸法を小さくすれば、強度、塑性及び靱性を向上させ、厚さ方向の結晶粒寸法の均一性を改善することができ、厚さ方向の性能の向上に役立ち、幅が40μmよりも大きい場合、総合的な力学的性質が低下し、よって、その幅寸法の上限を40μmにする。
【0051】
フランジの厚さ方向の針状フェライトの含有量の差が16%を超える場合、異なる領域の塑性の差が増加し、厚さ方向に沿った引張り作用が受けられるとき、異なる領域間で協調して変形することができず、インタフェース両側の応力の差がクラック核生成エネルギーを超え、クラック生成原因となりやすく、厚さ方向の性能が損なわれ、よって、フランジの厚さ方向に沿った異なる領域において針状フェライトの含有量の差を16%以下にする。
【0052】
本発明に係る極厚規格の熱間圧延H形鋼の生産方法では、主に、溶銑の前処理→転炉製錬→アルゴンガス吹込、LF炉による精錬→ブランク加熱→分塊圧延→ユニバーサルミルによる圧延(圧延開始前の高速冷却)→圧延後の段階的冷却(高速冷却+空冷)という生産工程がある。
【0053】
本発明に係る極厚規格の熱間圧延H形鋼の生産方法では、ビームブランクを使用して圧延し、ブランクの加熱温度を1200℃~1350℃に制御し、加熱時間を120min以上にする。
【0054】
さらに選択的に、加熱温度は、1200℃~1260℃であり、加熱時間は、122min~144minである。
【0055】
さらに選択的に、加熱温度は、1260℃~1350℃であり、加熱時間は、168min~173minである。
【0056】
ブランク加熱の目的は、合金成分を固溶し、組織を均一にし、圧延変形抗力を低減することである。
【0057】
温度が1200℃よりも低い場合、合金元素を十分に固溶させることができず、Ti、Nb元素を含む析出物は、析出中に寸法が不均一な粒子を形成し、拡散して分布させることもできず、ピン止めと強化作用を発揮できず、よって、下限を1200℃にする。温度が1350℃を超える場合、本来の結晶粒の寸法が増加し、析出物の拡散と分布に不利であり、また、過剰焼結により表面と表在層でクラックが形成されやすく、よって、上限を1350℃にする。
【0058】
加熱時間が120min未満である場合、ブランクの芯部まで焼結することができず、合金元素の固溶と均一化が不十分になり、よって、下限を120minにする。酸化焼損を低減し、加熱エネルギーの消費を低減する等の生産経済性の面から、180minを超えないようにしたほうがよい。
【0059】
本発明に係る極厚規格の熱間圧延H形鋼の生産方法では、分塊圧延が完了した後、フランジの表面温度が1000℃以上となる。
【0060】
さらに選択的に、フランジの表面温度は、1020℃以上である。
【0061】
さらに選択的に、フランジの表面温度は、1050℃以上である。
【0062】
分塊圧延の目的は、ブランクを整形し、ユニバーサルミルによる圧延に適切なブランク形状を提供することである。分塊圧延を完了した後、フランジの表面温度を制御する目的は、高速冷却により、表面から芯部へ一定の温度勾配を形成し、ユニバーサルミルによる圧延段階の変形浸透を強化することである。分塊圧延が完了した後、フランジの芯部の温度は、表面温度よりも高くなり、表面温度が1000℃未満であると、芯部温度は1100℃未満であり、ユニバーサルミルによる圧延段階でフランジ表面を高速に冷却する際に、全体的な熱容量が小さく、芯部の温度降下が速く、表面から芯部へ効果的な温度勾配を形成することができず、変形浸透効果に影響を及ぼし、よって、下限を1100℃にする。
【0063】
本発明に係る極厚規格の熱間圧延H形鋼の生産方法では、ユニバーサルミルによる圧延の前に、噴水冷却により、20℃/s以上の冷却速度で、フランジ表面を700℃~800℃に冷却し、続いてユニバーサルミルに入れて圧延する。
【0064】
さらに選択的に、ユニバーサルミルによる圧延の前に、噴水冷却により、22℃/s以上の冷却速度で、フランジ表面を740℃~800℃に冷却し、続いてユニバーサルミルに入れて圧延する。
【0065】
さらに選択的に、ユニバーサルミルによる圧延の前に、噴水冷却により、32℃/s以上の冷却速度で、フランジ表面を700℃~740℃に冷却し、続いてユニバーサルミルに入れて圧延する。
【0066】
ユニバーサルミルによる圧延の目的は、フランジとウェブ板に厚さ方向の圧縮変形を行い、完成品の形状と寸法を取得することである。
【0067】
ユニバーサルミルによる圧延の前の高速冷却の目的は、フランジの厚さ方向において表面から芯部へ一定の温度勾配を形成することであり、圧延中に、表面温度が低く、変形抗力が大きく、圧延に伴い、圧縮変形が進行し続け、変形が徐々に温度がより高く、変形抗力が小さい芯部まで浸透する。実践によると、温度勾配の増加に伴い、変形浸透効果が高まり、芯部の歪み蓄積が増加し、表面から芯部へ歪み蓄積の差がそれに伴って小さくなることが明らかになる。歪み蓄積を増加させることにより、核生成の位置が増加し、駆動力が高まり、針状フェライトの析出を促進して微細化する。フランジの厚さ方向の歪み蓄積の差を低減することは、厚さ方向の異なる領域における組織の含有量の差を低減し、組織の均一性を向上させることに役立つ。
【0068】
生産中にフランジの芯部の温度を迅速に測定しにくいため、測定されやすい表面温度をプロセスパラメータとする。
【0069】
冷却速度が20℃/s未満である場合、表面の冷却速度が遅すぎ、芯部の熱が十分な時間内で表層に伝導され、効果的な温度勾配を取得することができない。
【0070】
フランジ表層の冷却温度を700℃以下に冷却した場合、芯部の温度が低く、該領域の変形抗力が大きくなり、変形浸透効果に影響を及ぼし、また、エネルギー消費が大きすぎ、よって、下限を700℃にする。温度が800℃よりも高い場合、表面の加工硬化程度が不十分であり、変形が依然として表面に集中し、変形浸透効果に影響を及ぼし、よって、上限を800℃にする。
【0071】
本発明に係る極厚規格の熱間圧延H形鋼の生産方法では、ユニバーサルミルによる圧延を完了した後、噴水冷却により、5℃/s~13℃/sの冷却速度で、圧延材のフランジ表面を480℃~530℃に冷却し、次に空冷を行い、この場合、一般的に低温炉を採用してもよい。
【0072】
さらに選択的に、ユニバーサルミルによる圧延を完了した後、噴水冷却により、5℃/s~9℃/sの冷却速度で、フランジ表面を505℃~530℃に冷却し、次に空冷を行う。
【0073】
さらに選択的に、ユニバーサルミルによる圧延を完了した後、噴水冷却により、9℃/s~13℃/sの冷却速度で、フランジ表面を480℃~505℃に冷却し、次に空冷を行う。
【0074】
ユニバーサルミルによる圧延を完了した後に高速に冷却する目的は、塊状フェライトとパーライトの析出抑制するとともに、ベイナイトの析出を回避し、微細な針状フェライトの形成をできる限り多く促進することである。フェライト先共析とパーライト析出の温度区間を高速に通過し、冷却速度を両者の臨界冷却速度よりも高くし、且つ上限を設定し、フランジ表面を噴水冷却し、熱伝導に十分な冷却時間を芯部に与える。最終冷却の際に、フランジの全厚さを480℃~580℃の温度範囲に制御し、空冷段階で微細な針状フェライトを十分に析出する。
【0075】
フランジ表面の冷却速度が5℃/sよりも低い場合、芯部の冷却速度が低下し、縞状に分布する塊状フェライト又はパーライトが析出し、靱性と塑性が損なわれ、よって、下限を5℃/sにする。冷却速度が13℃/sよりも高い場合、合計冷却時間が不十分となり、芯部の熱伝導が不十分とあり、空冷開始温度が高く、パーライトが多く形成され、靱性と塑性が損なわれ、よって、上限を13℃/sにする。
【0076】
フランジ表面の冷却温度が480℃よりも低い場合、表面及び付近領域が上ベイナイト析出区間に入り、3%超のベイナイトが形成され、芯部領域に針状フェライトが形成され、組織の差が大きくなり、厚さ方向の性能が損なわれ、よって、下限を480℃にする。冷却温度が580℃よりも高い場合、芯部の空冷開始温度が上がり、塊状フェライトが多く形成されて析出し、表面及び付近領域に幅広い針状フェライトが形成され、靱性と厚さ方向の性能が損なわれ、よって、上限を580℃にする。
【0077】
本発明に係る極厚規格の熱間圧延H形鋼は、フランジの厚さ範囲が90mm~150mmであり、この時のウェブ板の厚さ範囲が50mm~120mmである。
【0078】
さらに選択的に、フランジの厚さ範囲は、90mm~115mmである。
【0079】
さらに選択的に、フランジの厚さ範囲は、115mm~150mmである。
【0080】
重型支持構造部材の設計に一定の強度と剛性を必要とするため、使用する熱間圧延H形鋼のフランジの厚さが90mm以上であり、下限を90mmにすることが求められる。厚さが150mm超である場合、より大きな寸法のビームブランクを必要とし、設備投資が大きく、生産難易度が高く、且つフランジが厚すぎ、圧延変形浸透と制御冷却浸透が制限され、よって、上限を150mmにする。
【0081】
構造設計の関連要求と熱間圧延H形鋼の技術特徴によれば、フランジの厚さが90mm~150mm範囲内にある場合、構造安定性、生産の実現可能性の面から、ウェブ板の厚さを50mm~120mmにする。
【0082】
以下の表1~表4は、それぞれ本発明で提供される実施例1~10の化学成分、生産プロセスパラメータ、顕微組織の状況及び力学的性質の状況である。
【0083】
【表1】
【0084】
【表2】
ご注意:分塊圧延やユニバーサルミルによる圧延の段階における温度と冷却速度はいずれもフランジ表面のものである。
【0085】
【表3】
【0086】
本発明に係る極厚規格の熱間圧延H形鋼では、標準GB/T 2975の規定に従い、フランジにおいて、端部から幅1/6の位置及び厚さ1/4の位置でサンプリングし、標準GB/T 228.1規定に従い、測定した室温での引張降伏強度が460MPa以上、引張強度が540MPa以上、破断伸びが24.0%以上であるべきであり、標準GB/T 229の規定に従い、測定した-20℃での衝撃エネルギーの値が80J以上であるべきであり、標準GB/T 5313の規定に従い、測定した厚さ方向の性能がZ35レベルに達するべきである。
【0087】
【表4】
【0088】
表1~表4で提供された実施例から分かるように、本発明に記載の方法を使用してフランジ厚さ90mm~150mmの極厚規格の熱間圧延H形鋼を生産する場合、室温での降伏強度が464MPa~522MPaに達し、引張強度が597MPa~649MPaであり、破断伸びが24.0%~32.0%であり、-20℃での衝撃エネルギーが84J~126Jであり、厚さ方向の性能がZ35レベルの要件を超える。
【0089】
以上は本発明の好適な実施例に過ぎず、本発明の保護範囲はこれらに限定されるものではなく、本発明に開示された技術範囲内に、当業者が容易に想到し得る変化又は置換は、全て本発明の保護範囲内に含まれるものとする。したがって、本発明の保護範囲は請求項に規定された保護範囲に準じるべきである。
【0090】
本発明で詳しく説明されていない点は、全て当業者に知られている技術である。
図1
図2
【国際調査報告】