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特表2024-500584高品質なヘテロエピタキシャル単斜晶ガリウム酸化物結晶の成長方法
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  • 特表-高品質なヘテロエピタキシャル単斜晶ガリウム酸化物結晶の成長方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-10
(54)【発明の名称】高品質なヘテロエピタキシャル単斜晶ガリウム酸化物結晶の成長方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/16 20060101AFI20231227BHJP
【FI】
C30B29/16
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022539127
(86)(22)【出願日】2021-06-01
(85)【翻訳文提出日】2022-06-24
(86)【国際出願番号】 TR2021050525
(87)【国際公開番号】W WO2022115064
(87)【国際公開日】2022-06-02
(31)【優先権主張番号】2020/19031
(32)【優先日】2020-11-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520224133
【氏名又は名称】イルディズ テクニク ユニヴァーシテシ
(71)【出願人】
【識別番号】522039496
【氏名又は名称】イルディズ テクノロジ トランフェレ オフィシ アノニム シルケティ
【氏名又は名称原語表記】YILDIZ TEKNOLOJI TRANSFER OFISI ANONIM SIRKETI
【住所又は居所原語表記】YTU Davutpasa Kampusu Yildiz Teknopark Cifte Havuzlar Mah.Eski Londra Asfalti Cad.Idari Bina Dis Kapi No151,Esenler/Istanbul(TR)
(74)【代理人】
【識別番号】100109634
【弁理士】
【氏名又は名称】舛谷 威志
(74)【代理人】
【識別番号】100129263
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 洋之
(72)【発明者】
【氏名】アキョル,ファティ
【テーマコード(参考)】
4G077
【Fターム(参考)】
4G077AA03
4G077AB10
4G077BB10
4G077DB02
4G077EA02
4G077EB01
4G077ED06
4G077HA06
(57)【要約】
本発明は、化学気相成長の分野において、低圧化学気相成長(LPCVD)法を特に用いて、高品質のヘテロエピタキシャルβ-Ga結晶を成長させる方法に関し、上記方法は、傾斜角が2°以上10°以下の範囲となるように、異なる方向に傾斜して切断された六角形の表面を有する基板を準備すること;第2ゾーン(2)で加熱されたガリウムから得られた蒸気を、アルゴンガスによりポンプ(4)/試料に物理的に運ぶこと;別個のセラミック管又は耐火金属管で酸素を系内に送り込み、基板上の試料の表面に垂直に直接酸素を移すこと;成長表面上のGa:O表面原子比が10:1~1:10の範囲にあるように表面上にβ-Gaのコア層を作成することで、GaとOの表面原子が、確実に加熱された基板上にβ-Ga結晶を作成するようにすること;β-Gaのコア領域を、5nm~2000nmの厚みで、10nm/h~500nm/hの成長速度で成長させること、及びβ-Gaの成長速度が100nm/h~10μm/hの範囲になるように、以前の工程で作成したコア層上で成長プロセスを維持すること、を含む。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低圧化学気相成長(LPCVD)法によりヘテロエピタキシャルβ-Ga(β-ガリウム酸化物)結晶を成長させる方法であって、以下の工程:
a)傾斜角が2°以上10°以下の範囲となるように、異なる方向に傾斜して切断された六角形の表面を有する基板を準備すること、
b)第2ゾーン(2)で加熱されたガリウムから得られた蒸気を、キャリア希ガスによりポンプ(4)/試料に物理的に運ぶこと、
c)別個のセラミック管又は耐火金属管で酸素を系内に送り込み、0.1~4cmの距離と0°~90°の角度で前記基板上の試料に直接前記酸素を移すこと、
d)成長表面上のGa:O表面原子比が10:1~1:10の範囲にあるように表面上にβ-Gaのコア層を作成することで、GaとOの表面原子が、確実に加熱された前記基板上に前記β-Ga結晶を作成するようにすること、
e)β-Gaのコア領域を、5nm~2000nmの厚みで、10nm/h~500nm/hの成長速度で成長させること、及び
f)β-Gaの成長速度が100nm/hから10μm/hの範囲になるように、以前の工程で作成した前記コア層上で成長プロセスを維持すること、
を含むことを特徴とするヘテロエピタキシャルβ-Ga結晶の成長方法。
【請求項2】
前記工程f)における成長面のGa:O表面原子の比率が8:1~1:4の範囲にあることを特徴とする請求項1に記載のヘテロエピタキシャルβ-Ga結晶の成長方法。
【請求項3】
前記工程f)における前記成長面のGa:O表面原子の前記比率が2:3であることを特徴とする請求項2に記載のヘテロエピタキシャルβ-Ga結晶の成長方法。
【請求項4】
前記工程d)における成長面のGa:O表面原子の比率がそれぞれ2:3であることを特徴とする請求項1に記載のヘテロエピタキシャルβ-Ga結晶の成長方法。
【請求項5】
異なるドーピング元素及び/又は分子を用いることにより、n型又はp型層を得ることを特徴とする請求項1に記載のヘテロエピタキシャルβ-Ga結晶の成長方法。
【請求項6】
使用されるドーピング元素がGe、Sn、Siから選択され、及び/又は使用される分子がN、H、SiClから選択されることを特徴とする請求項5に記載のヘテロエピタキシャルβ-Ga結晶の成長方法。
【請求項7】
前記基板は、(0001)サファイア又は(0001)SiCであることを特徴とする請求項1に記載のヘテロエピタキシャルβ-Ga結晶の成長方法。
【請求項8】
前記基板が<11-20>方向に6°傾斜した(0001)配向サファイアであることを特徴とする請求項1又は7に記載のヘテロエピタキシャルβ-Ga結晶の成長方法。
【請求項9】
前記キャリア希ガスがアルゴン(Ar)であることを特徴とする請求項1に記載のヘテロエピタキシャルβ-Ga結晶の成長方法。
【請求項10】
前記セラミック管又は耐火金属管が石英管であることを特徴とする請求項1に記載のヘテロエピタキシャルβ-Ga結晶の成長方法。
【請求項11】
前記工程d)において、試料温度を925℃に維持し、Gaるつぼ温度を795℃に調整する工程を含むことを特徴とする、請求項1に記載のヘテロエピタキシャルβ-Ga結晶の成長方法。
【請求項12】
前記工程f)でGaるつぼ温度を920℃まで上昇させる工程を含むことを特徴とする請求項1に記載のヘテロエピタキシャルβ-Ga結晶の成長方法。
【請求項13】
前記f)工程に続いて、g)固体源Geを系内で気化させるか、又はキャリアガス(希ガス)と混合してSiClガスを系内に送り込み、成長したβ-Gaにn型ドープを行う工程を含むことを特徴とする請求項1、5、又は6に記載のヘテロエピタキシャルβ-Ga結晶の成長方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高電圧・パワーエレクトロニクス分野及び/又は防衛産業におけるソーラーブラインド型光検出器、防衛産業におけるミサイル追跡システム、並びにエネルギー変換において用いられる半導体材料に関し、特にβ-Ga結晶の成長方法に関するものである。
【0002】
より具体的には、本発明は、具体的には化学気相成長法の分野における低圧化学気相成長法(LPCVD法)を用いて、高品質のヘテロエピタキシャルβ-Ga結晶を成長する方法に関するものである。
【背景技術】
【0003】
単斜晶系酸化ガリウム(β-Ga)結晶は熱伝導率が低いことが知られている(10~30W/m.K.)。そのため、0.5~1mm程度の厚さの層では、熱伝導の面で大きな問題がある。一方、電子デバイスに必要なデバイス層の厚さは10~20ミクロン程度である。したがって、熱伝導率が高く、結晶の品質を損なうことなく、基板上に10~20ミクロンのβ-Ga層をヘテロエピタキシャル成長させることが可能であることは、現在の技術水準ではこの問題を克服するために大きな意義がある。
【0004】
現状を考えると、β-Gaは、まだ様々な機関で研究開発段階であり、材料としての可能性を実験的に明らかにする努力が今もなお続けられているところである。実際、デバイスを商業的に生産する方法はない。最近は、酸化ガリウム(β-Ga)が高品質のインゴットとして入手できるようになったため、関心が高まっている。実際、約4.8eVという広い帯域幅を持つという利点から、競合品よりも降伏電圧が高いことが予想されている。表1に業界における競合品とその基本材料パラメータを示す。
【0005】
高品質なβ-Ga系電子デバイスは全て、ホモエピタキシャル、すなわち、スーパーポーザブル基板上での成長プロセスによって製造されている。先行技術におけるβ-Ga薄膜の主要な成長技術は、特に水素化物気相成長(HVPE)法、分子線エピタキシー(MBE)法、及び有機金属気相成長(MOVPE)法を用いた、市販のGa基板上でのホモエピタキシーに特化されている。
【0006】
別の基板を用いた研究がいくつか行われているが、目標とする結晶品質からは程遠い。すなわち、β-Ga層は、インゴットから切り出したβ-Ga基板上に薄膜技術によって成長させたものである。このため、熱伝導率が10~30W/mKであるβ-Ga層は、高出力用途に直接使用することができない。β-Gaの熱伝導率の値は、GaNやSiCの競合品に比べ10~20倍低く、競合品に対抗するためには、少なくとも同程度の熱伝導率を持つ必要がある。そのため、これらの研究では、基板薄片化と呼ばれる、コストがかかり且つリスクの高いプロセスによってデバイスゾーンまで基板を分解するか、レーザーで切断し、その後、熱伝導率の高いキャリアに貼り付けることが明記されている。しかしこれはコストアップにつながるため、好ましくないプロセスである。
【0007】
このように、現在の技術水準において利用可能な解決策では、既存の問題を解決するには不十分であることが確認されている。
【0008】
本発明者が開発した新規な結晶成長法により、サファイア(Al)基板上に過去最高の結晶品質を持つβ-Ga層を成長させることが可能となった。また、同様の方法(0001)により、サファイア及び同様の原子面(0001)に比べ高い熱伝導率(~400W/m.K)を有する4H-又は6H-SiC上に高品質のβ-Ga層を得ることができるようになった。上記のような現在の技術水準におけるこれら全てのプロセスを利用する代わりに、デバイスを作製するβ-Ga薄膜層を、高い熱伝導率を有するSiC上にヘテロエピタキシャル成長により直接成長させることが可能である。本発明者らが行った検討では、SiC結晶に極めて近い表面構造(0001)を有するサファイア結晶上に、本発明方法(0001)により高品質のβ-Ga薄膜が得られた。同様の方法で、熱伝導率の高いSiC上でも同様の成果が得られることが予想され、これは技術的に極めて有益な製品であると考えられる。
【0009】
現在の技術水準においては熱伝導率に関わる問題に加え、製品の価格や大きさの面でもさまざまな問題が見受けられた。
【0010】
β-Ga結晶はインゴット状に成長させることができるにもかかわらず、インゴット径が4インチ以下の市販品が市場に投入された。インゴット径の制限だけでなく、製造に使用するイリジウム金属るつぼの物理的寿命が短くなるなど、さまざまな物理的要因がある。これらの理由により、例えば厚さ0.5mmの2インチβ-Ga基板の現在の市場価格は約2000ドルである。これは、競合するSiCと同程度の価格であり、β-Gaの潜在的な競争力を弱めている。
【0011】
一方、サファイアは通常、もっと安い価格帯であって、直径8インチの基板として、いくつかの半導体が長い間市場に出回っている。例えば、2インチのサファイア基板の市場価値は約10ドルである。そこで、安価で大型のサファイア基板上に、高い結晶品質のβ-Gaを成長させることが、急速に注目されるようになった。
【0012】
半導体デバイスは市販品として製造されるが、基板全体へのリソグラフィー処理により、同一の半導体プレート上にできるだけ多くのデバイスを同時に得ることができる。そのため、生産性、ひいてはコストの面から、直径の大きなプレートが好まれる。サファイア基板は直径が8インチと大きく安価な状態で市場に出回っており、そのことによりサファイア基板はヘテロエピタキシャルβ-Gaの成長にとって理想的な基板となっている。いくつかの異なる研究グループが、様々な薄膜成長技術を用いて、高い結晶品質のβ-Gaの成長を試みたが、所望のレベルの転位密度、成長速度、及び滑らかな表面形態を備えた成長を得ることができたものはなかった。転位密度に直接的に関連するX線回折結晶学(XRC)FWHM(半値全幅)測定は、1~2mm程度の広い走査領域で結晶品質を測定する非破壊測定法として最もよく用いられている。結晶品質が高くなるにつれてFWHM値は減少する。β-Ga(-201)が(0001)サファイアの上に配向したものは原子パターンが似ているため、単結晶として成長させることができる。
【0013】
現在の技術水準において検索した結果、米国特許登録の対象である、「Method for growing beta-Ga2O3-based single crystal film, and crystalline layered structure(β-Ga系単結晶フィルムの成長方法、及び結晶層構造)」という表題の米国特許出願第2016/0265137号明細書の発明が発見され、当該発明が、HVPE法を用いてβ-Ga系単結晶膜を成長させる方法を開示していることが確認される。この方法において、成長工程は、900℃以上の成長温度で行うことができる。本願に開示された発明は低圧化学気相成長法を利用しているので、当該文献に開示された方法とは技術水準が根本的に異なるものである。さらに、工程も反応パラメータも類似していない。
【0014】
「Sapphire substrate, electronic component, and method of its manufacture(サファイア基板、電子部品、及びその製造方法)」という表題の欧州特許第1182697号明細書の欧州特許登録に開示された発明も当該技術分野で利用できる文献であり、ヘテロエピタキシャル成長面を有するサファイア基板において、ヘテロエピタキシャル成長面は、サファイア基板の(0110)面をサファイア基板のc軸を中心にサファイア基板の結晶格子内で8°~20°回転させて得られる面に平行であるサファイア基板を簡潔に開示している。当該出願は、さらに、半導体装置、電子部品、及び結晶成長方法を開示している。当該発明は、高品質の酸化ガリウム結晶の成長方法については具体的には言及していない。さらに、本願に開示された発明では、工程から観察することができるように、特定の値で作業することにより、驚くべき技術的効果が得られた。例えば、本発明では、基板が<11-20>方向に6°傾いた(0001)配向のサファイアであることが重要である。
【0015】
当該技術分野において、「Nanostructure(ナノ構造)」という表題の米国特許出願公開第2020/0161504号明細書に伴う特許登録の対象である発明は、プラズマ支援固体MBE技術を利用するものである。MBEでは、噴出しセルの温度を使用して成長速度を制御することができる。従来の平面(層ごとの)成長中に測定される手頃な成長速度は、1時間当たり0.05~2μm、例えば、1時間当たり0.1μmである。この明細書で使用される技術はMBEであり、本願発明の主題である低圧化学気相成長(LPCVD)の技術とは異なるものである。
【0016】
また、現在の技術水準において利用可能な別の文献として、「Method for forming a thin comprising an ultrawide bandgap oxide semiconductor(超ワイドバンドギャップの酸化物半導体を含む薄膜を形成する方法)」という表題の米国特許第10593544号明細書に伴う米国特許登録の対象である発明は、LPCVD(低圧化学気相成長)法を利用するものである。当該発明の実施形態は、材料の気化時に生じる蒸気を前駆体として利用するものであって、薄膜の成長温度における上記材料の蒸気圧が低い低圧化学気相成長法を利用するものである。蒸気はアルゴンなどの不活性ガスによって反応室に運ばれ、第二の前駆体と混合される。反応室は、前駆体の核形成が好ましくは蒸気相ではなく基板表面で起こる気圧に保持される。材料の蒸気圧が低いと、基板表面での成長速度が、先行技術の成長方法を用いて達成されるものよりも著しく速くなる。当該発明の記載を検討すると、工程において化学気相成長技術の実施に使用されるシステム、及び反応パラメータが、本願に開示される発明とは異なることが認められる。さらに、これらの異なる技術要素によって本願発明に付与される技術的効果に関する案内情報は見いだせなかった。特に、本願発明者が開発した成長方法により得られたヘテロエピタキシャルβ-Ga結晶のXRC FWHMが0.049であるという驚くべき記録値は、本願発明の主題である発明に対して提供されなかった。
【発明の概要】
【0017】
本発明の目的は、上記に開示した、現在の技術水準に存在する問題点を克服することによって、高品質のヘテロエピタキシャルβ-Ga結晶の新規な成長方法を開発することである。
【0018】
本発明の他の目的は、熱伝導率が高く、結晶の品質を損なうことなく、基板上に10~20ミクロンのβ-Ga層をヘテロエピタキシャル成長させることである。
【0019】
本発明の間接的な目的は、追加のプロセスを実行する必要がある、現在の技術水準で利用される方法とは異なる方法でデバイスが製造されるヘテロエピタキシャル成長によって、高い熱伝導率を有するSiC上に高品質のβGa薄膜層を直接成長させることを確実にすることである。
【0020】
本発明の他の目的は、コスト効率の良いβ-Ga結晶を最適な品質で成長させることを可能にすることである。
【0021】
本発明の他の目的は、成長速度が改善され、表面形態が滑らかなβ-Ga結晶を成長させることである。
【0022】
本発明の利点は、結晶品質を示す値であるXRC FWHM値が、本発明者らの検討の結果、0.049という過去最高の値で得られていることである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】低圧化学気相成長(LPCVD)のシステム構造を示す。
図2】Gaるつぼの温度795℃でサファイア上に成長させたβ-Ga層のFE-SEM表面図である。
図3】Gaるつぼ温度の795℃でサファイア上に成長した-Ga層のXRC測定結果を示している。
図4】Gaるつぼの温度920℃でサファイア上に成長させたβ-Ga層のFE-SEM表面図である。
図5】Gaるつぼの温度920℃でサファイア上に成長させたβ-Ga層のXRC測定を示す。
【符号の説明】
【0024】
符号 部品名/セクション名
1 第1ゾーン
2 第2ゾーン
3 第3ゾーン
4 ポンプ
5 第1るつぼ
6 第2るつぼ
【発明の詳細な説明】
【0025】
本発明は、化学気相成長法に基づく方法の工程、より具体的には、低圧化学気相成長法を用いて高品質のヘテロエピタキシャルβ-Ga結晶を成長させる方法の工程を開示している。
【0026】
図1は、本発明で利用する方法のシステム構造を示したものである。このシステムは、3ゾーン炉を含む。このシステムでは、アルゴンガスが、第2ゾーン(2)で加熱されたガリウム(Ga)から得られる蒸気を、ポンプ(4)の方へ、すなわち試料の方へ物理的に運ぶ。酸素は別の石英管で系内に送り込まれ、基板上の垂直方向にある試料表面に直接移される。このようにして、GaとOの表面原子により、適切な温度に加熱された基板上にβ-Ga結晶が形成される。好ましくは、本明細書において用いられる基板は、<11-20>方向に6°傾いた(0001)配向のサファイアである。特定の角度(2°~10°)に板が傾斜していることは、成長しているβ-Ga層を単結晶とする上で決定的な効果を有する。
【0027】
本発明のシステムの実施においては、システム全体が、高温で異なる加熱ゾーンを持つ単一の炉内に保持される。異なる金属るつぼを異なるゾーンに保持することで、所望の蒸気圧を得ることができ、それによってドーピングや合金化プロセスの機会を提供することができる。図1に示すように、金属蒸気はArなどの希ガスによって分配線に運ばれ、一定の間隔で画素を作成しながら試料上に均等に分配される。同様に、O(酸素ガス)も、直接又はキャリアガスで希釈されて、指定された画素位置から別の経路で基板に移送される場合がある。これらのラインに加えて、n型又はp型ドーピングを確実にするガス(例えばSiC、Hなど)を、平行なラインを介して、又はOを運んでいるラインに直接混合して送り込むことも可能である。サンプルプラットフォームは回転可能なディスクであり、複数の基板を保持することが可能である。現在の技術水準において、このような分配構造は、密着型シャワーヘッド化学気相成長システムとして利用可能である。この系では、キャリアガス又はキャリアガスで希釈された酸素が、回転可能なディスクプラットフォームの中心に近接する位置から系内に送り込まれ、それによってディスクの中心からその外周に向かってガスのための放射状の流れが提供される。
【0028】
低圧化学気相成長法(LPCVD法)による本発明のヘテロエピタキシャルβ-Ga結晶成長法は、以下の工程から構成されている。
a)傾斜角が2°以上10°以下の範囲となるように、異なる方向に傾斜して切断された六角形の表面を有する基板を準備すること、
b)第2ゾーン(2)で加熱されたガリウムから得られた蒸気を、キャリアガス(希ガス)によりポンプ(4)/試料に物理的に運ぶこと、
c)別個のセラミック管又は耐火金属管で酸素を系内に送り込み、0.1~4cmの距離と0°~90°の角度で基板上に直接酸素を移すこと、
d)成長表面上のGa:O表面原子比が10:1~1:10の範囲にあるように表面上にβ-Gaのコア層を作成することで、GaとOの表面原子が、確実に加熱された基板上にβ-Ga結晶を作成するようにすること、
e)β-Gaのコア領域を、5nm~2000nmの厚みで、10nm/h~500nm/hの成長速度で成長させること、及び
f)β-Gaの成長速度が100nm/hから10μm/hの範囲になるように、以前の工程で作成したコア層上で成長プロセスを維持すること。
【0029】
本明細書において使用される基板は、(0001)サファイア又は(0001)SiCである。(0001)サファイアと(0001)SiCは表面の原子充填が類似している。実際、(-201)β-Gaがこれらの面に従っているため、サファイア上でも高品質のβ-Ga構造が得られた。コスト面ではないが、熱伝導率の面でもSiCは大きな動機付けとなる。上述したように、高出力電子デバイスの熱伝導率は本質的な制限要因である。
【0030】
好ましくは、本発明に用いられる基板は、<11-20>方向に6°傾斜した(0001)配向のサファイアである。したがって、成長させるβ-Ga層が単結晶であることが確保される。
【0031】
本発明において、キャリアガス(希ガス)としては、好ましくはアルゴン(Ar)が用いられる。さらに、酸素を系に送り込むことができるセラミック管や耐火金属管は、石英製であることが好ましい。
【0032】
ヘテロエピタキシャル的に得られる最適なβ-Ga層は、基本的に2つの条件に依存している。まず、核生成は低い成長速度を維持することによって行われる。この値は10nm~500nmの間の範囲である。核生成段階は、上述のd)とe)の工程に開示されている。
【0033】
次に、工程f)における成長面上のアドアトム(表面原子)密度比は、GaとOとでそれぞれ8:1~1:4の範囲にあることである。好ましくは、この比は2:3である。さらに、本発明において、好ましくは、工程d)における成長面上のGa:Oの表面原子の比率は、それぞれ2:3である。
【0034】
本発明のヘテロエピタキシャルβ-Ga結晶の成長方法の特徴は、工程d)において、試料温度を925℃に維持し、Gaるつぼ温度を795℃に調整する工程を含むことである。さらに、工程f)でGaるつぼ温度を920℃に上昇させる工程を含んでいることである。
【0035】
試料温度を925℃、Ar流量を300sccm、Gaるつぼと試料の距離を23cmとし、図1に示す系でGaるつぼ温度を795℃に調整した場合、図2に示す走査電子顕微鏡表面画像が得られ、図3に示す振動曲線スキャンが測定された。原子ステップの偏差がかなり明確に観察できる。また、結晶の品質を示す値であるXRCのFWHM値は、過去最高の0.049という値が得られている。この値は、本発明の技術的効果を技術データによって証明するものである。
【0036】
同じ成長条件でGaるつぼ温度を920℃に上げると、成長速度は100nm/hから1000nm/hに上がり、表面形態(図4)はより滑らかで完全に整列した原子ステップへと発展した。これは、795℃のGa蒸気から得られるGa表面原子数と比較して、4sccmのO流は、はるかに高い数の酸素表面原子を提供することが主な要因である。実際、920℃のGa表面原子数は増加し、酸素とガリウムの表面原子は比較的同様の割合で得られた。このように、高品位成長の第一条件である最適なGa:O表面原子比に近い値の効果が確認された。表面形態が良くなっても、XRCのFWHM値は0.158°に増加した。このように、最適なヘテロエピタキシーを実現するための第二の条件である低成長率の要件は満たされていた。実は、上述のようにGaの温度上昇に伴い成長速度が100nm/hから1000nm/hへと上昇したこと及びその背景にある理由は、適切な成長位置を見つけられずに欠陥を作ることによって表面原子が結合を形成していることである。
【0037】
簡潔に言えばβ-GaヘテロエピタキシャルCVD成長には、2段階の成長が必要である。第一段階では、核生成は欠陥が最少の約100nm/hで確実に行われ、一方、成長プロセスは高品質な核生成β-Ga層上で1000~3000nm/hの速度で継続される。
【0038】
両成長段階において異なるドーピング元素(Ge、Sn、Siなど)及びその分子(N、H、SiClなど)を使用することができるため、成長プロセスはドープしない状態で行うことも可能である。
【0039】
本発明の実施形態では、本発明の成長方法における工程f)に続いて、g)固体源Geを系内で気化させるか、又はキャリアガス(希ガス)と混合してSiClガスを系内に送り込み、成長したβ-Gaのn型ドーピングを行う工程を実施する。
【0040】
様々な研究グループによって達成された結晶品質を示すX線回折信号幅XRC FWHM値を表2に示す。理解できるように、文献の値よりもはるかに低い0.0490というFWHM値が、本発明の改良型低圧蒸着システムによって得られていることがわかる。この値は、本発明で開示する成長方法によって得られた。他の方法によって得られた、及び/又は他の特許文献に開示されている成長したヘテロエピタキシャルGa層から得られた最も低いFWHM値は、約0.4~0.5である。この値は、本発明の方法により、欠陥密度が極めて低い層を得ることができることを示している。実際、この値は、クラスターで成長したいくつかのβ-Ga層に匹敵するほど高品質であり、記録的な品質でクラスターで成長した最適なβ-Ga基板のおおよそのFWHM(0.014)値を少し超える程度である。この特別な違いは、異なる基板上での成長プロセスの後に形成される転位の自然な結果であり、製造されるデバイスにとって十分な結晶品質を示すものである。
【0041】
本発明の方法によって得られた製品は、電気自動車の充電ステーション(電圧600~1200V、電流100A)、高電力で動作する防衛産業製品の操作、例えば、電磁砲(レールガン)の製造における非常に高い電圧(20~30kV)及び電流(1000~3000A)で動作することができるトランジスタ及びダイオードの製造において使用することができる。
【0042】
さらに、太陽光発電所や風力発電機を接続するための電子デバイスの製造にも使用することができる。
【0043】
さらに、ソーラーブラインド型光検出器の製造やミサイルの追尾を可能にする検出器、水中通信のデータ転送にも利用することができる。
【0044】
本明細書で使用される略語
LPCVD:低圧化学気相成長(Low-Pressure Chemical Vapor Deposition)
CVD:化学気相成長(Chemical Vapor Deposition)
PECVD:プラズマエンハンスト化学気相成長法(Plasma-Enhanced Chemical Vapor Deposition)
MOCVD:有機金属化学気相成長法(Metal-Organic Chemical Vapor Deposition)
HVPE:ハロゲン気相エピタキシー(Halogen Vapor-Phase Epitaxy)
MBE:分子線エピタキシー(Molecular Beam Epitaxy)
β-Ga:β-酸化ガリウム
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】