(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-10
(54)【発明の名称】ノンパラメトリックなグルコース予測子
(51)【国際特許分類】
G16H 10/40 20180101AFI20231227BHJP
【FI】
G16H10/40
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023523150
(86)(22)【出願日】2021-12-22
(85)【翻訳文提出日】2023-04-14
(86)【国際出願番号】 US2021073093
(87)【国際公開番号】W WO2022140792
(87)【国際公開日】2022-06-30
(32)【優先日】2020-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】504016422
【氏名又は名称】デックスコム・インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】シモーネ・デル・ファヴェロ
(72)【発明者】
【氏名】アンドレア・ファッキネッティ
(72)【発明者】
【氏名】シモーネ・ファッチョーリ
(72)【発明者】
【氏名】ジャンルイジ・ピッロネット
(72)【発明者】
【氏名】ジョヴァンニ・スパラチーノ
【テーマコード(参考)】
5L099
【Fターム(参考)】
5L099AA03
(57)【要約】
個別の患者の将来の血中グルコース濃度を予測する方法は、各々が複数の個別化された患者データセットの入力-出力関係を説明する複数のインパルス応答関数を推定することによって、グルコース-インスリンの個別化された線形ブラックボックスモデルを識別することであって、インパルス応答関数は、再生核ヒルベルト空間(RKHS)における関数である、識別することと、識別されたインパルス応答関数を使用して、選択されたモデルに線形予測技法を適用して、将来の時点における個別の患者の予測された血中グルコース濃度を取得することと、を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
個別の患者の将来の血中グルコース濃度を予測する方法であって、
複数の個別化された患者データセットの入力-出力関係を各々説明する、複数のインパルス応答関数を推定することによって、グルコース-インスリンの個別化された線形ブラックボックスモデルを識別することであって、前記インパルス応答関数は、再生核ヒルベルト空間(RKHS)における関数である、識別することと、
識別された前記インパルス応答関数を使用して、選択された前記モデルに線形予測技法を適用して、将来の時点における前記個別の患者の予測された血中グルコース濃度を取得することと、を含む、方法。
【請求項2】
前記線形予測技法が、カルマンフィルタである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
個別化された前記線形ブラックボックスモデルが、時不変モデルである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記複数の個別化された患者データセットが、前記個別の患者についての経時的な以前のグルコースレベルのデータセット、前記個別の患者についての食事摂取データ、及び前記個別の患者に経時的に送達された外因性インスリンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記食事摂取データ及び送達される前記外因性インスリンが互いに線形従属しないように、前記食事摂取データ及び送達される前記外因性インスリンを前処理して、前記食事摂取データを送達される前記外因性インスリンから分離することを更に含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記個別の患者についての経時的な以前のグルコースレベルの前記データセットが、連続グルコースモニタによって提供される、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記RKHSのカーネルのために安定スプラインカーネルを選択することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
最大限界尤度又は交差検証を使用してカーネルハイパーパラメータを推定することを更に含む、請求項7に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願への相互参照)
本出願は、2020年12月23日に出願された米国仮出願第63/129,952号の利益を主張するものであり、その全内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
1型糖尿病(type-1 diabete、T1D)と呼ばれる自己免疫代謝性疾患は、インスリン産生に関与する膵臓ベータ細胞の破壊を特徴とする。グルコース恒常性において重要なホルモンであるインスリンを産生することが結果的にできないことは、体内の異常な血中グルコース(blood glucose、BG)レベルと関連付けられる。BGを安全な範囲に維持するために、T1D患者は、外部注射を通じて自身にインスリンを投与する必要がある。体内の高いグルコースレベルは、長期にわたっていくつかの合併症をもたらす可能性があり、これは、不十分なインスリン投与によって引き起こされ得る。逆に、低血糖(70mg/dL未満のBG)は、対象の生命にとって即時の脅威を表し、インスリンの過剰治療によって引き起こされ得る。
【0003】
T1D管理は、将来のグルコースレベルの正確な予測によって、並びに今後の危機的状況を検出及び防止することができる特定の警報システムの設計によって、大幅に改善することができる。T1D管理における別の有望な進歩は、いわゆる人工膵臓(artificial pancreas、AP)であり、これは、インスリン注射を自動的に調節するために閉ループ制御(closed-loop control、CLC)アルゴリズムを使用するシステムであり、モデル予測制御(model predictive control、MPC)を含む予測モデルを活用するAPのためのいくつかの制御アルゴリズムが参照される。
【0004】
予測警告システム及びAPの両方の重要な構成要素は、グルコース動態を記述するために使用される数学的モデルであり、これは、インスリン及び食事に対するグルコース反応が、人それぞれであり、同じ患者であっても経時的に変化する対象間及び対象内の変動性に対処することができなければならない。この問題は、グルコース-インスリン動態の患者固有モデルを学習及び更新し、それらを使用して、個別化された予測警告アルゴリズムを設計するか、又はAPシステムのモデルベースのCLCアルゴリズムを個人化することによって対処することができる。
【発明の概要】
【0005】
一態様では、ブラックボックスモデル学習アルゴリズムを使用して、例えば、グルコース予測及び制御アルゴリズムに統合することができる患者固有のグルコース-インスリンシステムの記述を作成するシステム及び方法が本明細書に記載される。いくつかの実施形態では、線形時不変モデルが使用される。このようなモデルの選択には、いくつかの利点がある。第一に、このクラスのモデルに対して、パラメータ推定アルゴリズムが本文献において深く研究されており、強力な収束結果及び統計的特性分析を利用可能にしている。第二に、これらのモデルを使用して、カルマンフィルタなどの十分に確立された計算的に便利な技法を単に用いることによって予測を生成することができる。第三に、それらは、モデル予測制御MPC)などのモデルベースの制御方式によく適しており、計算的に簡潔な実装を提供する。最後に、代謝生理学は非線形であるが、種々の実験(インシリコ及びインビボの両方)では、線形近似が、成功した制御設計に不可欠な動的特徴を捕捉するのに十分であり得ることを示している。
【0006】
予測誤差法(prediction error method、PEM)を使用して識別される古典的なパラメトリックモデル(ARX、ARMAX、ARIMAX、ボックスジェンキンス法)に加えて、いくつかの実施形態では、線形ブラックボックスモデル識別のための新たに出現したパラダイム、ノンパラメトリックアプローチが使用され得る。このアプローチは、予備評価においてグルコース-インスリンデータに対する従来の識別方法に対して優れた予測性能を示すことが予備評価において示されている。
【0007】
本明細書に記載されるシステム及び技法の更に他の実施形態では、パラメトリックアプローチにおいて利用可能な様々な自由度が、それらの影響を評価するために使用され得る。具体的には、様々なシステムパラメータ化、様々なモデル次数選択基準、及び異なるパラメータ推定方法の間で比較が行われる。様々なモデル学習技術の評価は、APシステム24/7を5ヶ月間使用して、11人のT1D個人の集団に対して収集された大きな実験データセットを使用して行われる。結果は、いくつかのケースにおいて、ノンパラメトリック線形モデル学習が、パラメトリックアプローチに対して統計的に有意な改善を提供することを示す。
【0008】
特定の一態様では、個別の患者の将来の血中グルコース濃度を予測する方法が提供される。本方法は、各々が複数の個別化された患者データセットの入力-出力関係を説明する複数のインパルス応答関数を推定することによって、グルコース-インスリンの個別化された線形ブラックボックスモデルを識別することであって、インパルス応答関数は、再生核ヒルベルト空間(kernel Hilbert space、RKHS)における関数である、識別することと、識別されたインパルス応答関数を使用して、選択されたモデルに線形予測技法を適用して、将来の時点における個別の患者の予測された血中グルコース濃度を取得することと、を含む。
【0009】
この特定の態様の一実施形態では、線形予測技法は、カルマンフィルタである。
【0010】
この特定の態様の別の実施形態では、個別化された線形ブラックボックスモデルは、時不変モデルである。
【0011】
この特定の態様の別の実施形態では、複数の個別化された入力患者データセットは、個別の患者についての経時的な以前のグルコースレベルのデータセット、個別の患者についての食事摂取データ、及び個別の患者に経時的に送達された外因性インスリンを含む。
【0012】
この特定の態様の別の実施形態では、食事摂取データ及び送達される外因性インスリンの5つの前処理は、食事摂取データ及び送達される外因性インスリンが互いに線形従属しないように、食事摂取データを送達される外因性インスリンから分離するために行われる。
【0013】
この特定の態様の別の実施形態では、個別の患者についての経時的な以前のグルコースレベルのデータセットは、連続グルコースモニタによって提供される。
【0014】
この特定の態様の別の実施形態では、安定スプラインカーネルは、RKHSのカーネルのために選択される。
【0015】
この特定の態様の別の実施形態では、カーネルハイパーパラメータは、最大限界尤度又は交差検証を使用して推定される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本明細書に記載される個別化されたモデルベースの予測方式に含まれるステップを高レベルで示すフローチャートである。
【
図2a】共線性を低減するように変換される前及び後のインスリン入力データ信号をそれぞれ示す。
【
図2b】共線性を低減するように変換される前及び後のインスリン入力データ信号をそれぞれ示す。
【
図3】4つの異なるケースについて、モデル識別のために反転される必要があるトレーニングセット行列のCondNumインデックス(共線性の診断)を示す。
【
図4】前処理を受けた後の入力トレーニングデータの一例を示す。
【
図5a】4つの異なる予測範囲について、パラメトリックモデルとノンパラメトリックモデルとを比較するための決定メトリック係数(coefficient of determination metric、COD)を示す。
【
図5b】4つの異なる予測範囲について、パラメトリックモデルとノンパラメトリックモデルとを比較するための決定メトリック係数(coefficient of determination metric、COD)を示す。
【
図5c】4つの異なる予測範囲について、パラメトリックモデルとノンパラメトリックモデルとを比較するための決定メトリック係数(coefficient of determination metric、COD)を示す。
【
図5d】4つの異なる予測範囲について、パラメトリックモデルとノンパラメトリックモデルとを比較するための決定メトリック係数(coefficient of determination metric、COD)を示す。
【
図6a】CGMのみのモデル、インスリン及び食事データを使用して識別したパラメトリックモデル、並びに入力を有するノンパラメトリックモデルによって達成された性能を比較した、CODメトリック及び二乗平均平方根誤差(root mean squared error、RMSE)メトリックをそれぞれ示す
【
図6b】CGMのみのモデル、インスリン及び食事データを使用して識別したパラメトリックモデル、並びに入力を有するノンパラメトリックモデルによって達成された性能を比較した、CODメトリック及び二乗平均平方根誤差(root mean squared error、RMSE)メトリックをそれぞれ示す
【発明を実施するための形態】
【0017】
I.導入
いくつかの異なるグルコース-インスリンモデルが本文献で提案されている。高レベル分類によれば、これらのモデルは、ホワイトボックスとブラックボックスとに分割することができる。ホワイトボックスモデルは、代謝系において受ける生理的プロセスの機構論的/半機械論的記述に基づく。それらの複雑性、すなわち、方程式及びモデルパラメータの数は、モデル目的に応じて大きく変動し、「最小モデル」は、特別な実験条件(例えば、経口グルコース負荷テスト)におけるパラメータ識別可能性を確実にするように設計された簡潔な近似記述であり、一方、「最大モデル」は、インシリコ試験をシミュレーションするために主に設計されたいくつかの方程式及びパラメータを有する大規模モデルである。最小生理学的モデル及び最大生理学的モデルの両方は、モデルベースのグルコース予測又はモデルベースの制御のために使用されるとき、いくつかの問題を提示し、最小モデルは、多くの場合、適切なデータ予測を提供するには硬すぎるが、最大モデルは、通常、識別することが困難であり、したがって、患者内及び患者間の変動性に対処する際に限定された有効性を提示する。更に、生理学的モデルは非線形であり、予測のモデルベースの計算及び制御アルゴリズムにおけるそれらの使用を困難なものにし、多くの場合、計算的に高価なアルゴリズムをもたらす。これらの理由のために、大きな努力が、いかなる生理学的プロセスも記述せず、単にデータ駆動型であるブラックボックスモデルを調査することに集中してきた。グルコース数学的モデルの文献では、これまでに、システム識別法で導出された古典的な線形モデルを使用するか、又は機械学習(machine learning、ML)戦略若しくは深層学習(deep learning、DL)技法を使用して得られた非線形モデルを使用する、いくつかのデータ駆動型アプローチが提案されている。いくつかの選択肢が検討されてきたにもかかわらず、予測精度に関して他のアルゴリズムよりも明らかに著しく性能が優れているアルゴリズムはない。
【0018】
図1は、本明細書に記載される個別化されたモデルベースの予測方式に含まれるステップを高レベルで示すフローチャートである。図示のように、この方式の第1のステップ10は、上記で説明された様々な利用可能な選択肢の中から好適なモデル構造を選択する。この場合、選択されたモデルは、グルコース-インスリン調節の個別化された線形ブラックボックスモデルである。以下で説明するように、選択されたモデルは、個別の特定の生理機能を模倣するために、炭水化物摂取量及びインスリン注射データなどの容易にアクセス可能な患者ログから個別化することができるモデルパラメータを有する。
【0019】
図1に示される予測方式の第2のステップ20では、個別の患者のために個人化されるモデルパラメータのうちの選択されたものが、ノンパラメトリック推定技法を使用して推定される。一実施形態では、使用されるパラメータ推定技法は、サポートベクトル回帰アプローチ、ガウス回帰アプローチ、及びチホノフ正則化アプローチを使用する。次に、第3のステップ30では、取得された個人化モデルは、例えば、カルマンフィルタなどの線形予測方式に基づく予測方式内で使用される。
II.実験データ
A.実験構成
【0020】
自動インスリン送達システム、すなわち、バージニア大学で開発されたDiabetes Assistant(ディアス)内の長期閉ループ制御(closed-loop control、CLC)アルゴリズムの実現可能性を評価することを目的とした多施設臨床治験(www.clinicaltrials.gov:NCT02137512)中にデータを収集した。研究及び全ての実験手順は、各施設審査委員会又は独立審査委員会によって承認され、独立データモニタリング委員会及び安全性モニタリング委員会によって監督された。T1Dに罹患した14人の個人が、ディアスシステムの24/7の使用をテストする5ヶ月の試験に参加した。グルコースデータは、DexCom G4センサ(DexCom,Inc.,San Diego,CA,USA)を使用して5分のサンプル時間で記録し、インスリンは、Roche Accu-Check Spirit Comboインスリンポンプ(Roche Diabetes Care,Inc.,Indianapolis,IN,USA)で注射した。これらの2つの既製の糖尿病デバイスは、Android搭載スマートフォンに基づくプラットフォームである主要システム構成要素と通信するために、低エネルギーBluetoothを使用した。
【0021】
データに関する更なる詳細は、B.Kovatchevet al.,「Feasibility of Long-Term Closed-Loop Control:A Multicenter 6-Month Trial of 24/7 Automated Insulin Delivery,」Diabetes Technology and Therapeutics,vol.19,no.1,pp.18-24,2017に見出され得る。本目的のために、T1D患者治療に関するいくつかの詳細が以下に強調され、好適な表記法が導入されている。
【0022】
個人は、全ての炭水化物(CHO)摂取量をシステムに挿入することによって、全ての食事について適切な量のインスリンを手動で送達するように指示された。この手動で記録された信号を「食事信号」m(k)と称する。インスリンに関する限り、時間ステップkごとに、システムは、2つの構成要素の和と見なすことができるインスリン投与量i(k)を注射した。
i(k)=i
ST(k)+Δi
CL(k)
式中、i
ST(k)は、APシステムを使用しない患者に対する標準的なT1D治療によって処方されたインスリンであり、Δi
CL(k)は、CLCアルゴリズムによって計算されたリアルタイムのインスリン補正である。インスリンi
ST(k)は、i
ST(k)=I
b+i
B(k)として更に分解することができ、式中、I
bは、絶食期間中にBGを安定に維持するために注射されるべきインスリンの量であり(基礎インスリン、区分的一定信号として知られる)、i
B(k)は、食後のピークを緩和するために食事時間に投与されるインスリンである(食事ボーラスとして知られる)。具体的には、食事時間において、
【数1】
【0023】
式中、m(k)は、消費されるCHOの推定量であり、g(k)は、記録されたグルコースレベルであり、Gtargetは、BG目標である。ICR及びCFは、インスリンと炭水化物との比率及び補正因子としてそれぞれ知られている。臨床医が示唆するこれら2つの患者固有の数値は、それぞれ、特定量の炭水化物をカバーするためにどれだけのインスリンが必要とされるか、及びBGを1mg/dLだけ低下させるためにどれだけのインスリンが必要とされるかを指す。最後に、インスリンオンボードiob(k)は、最近送達されたボーラスからどれだけのインスリンが体内に依然として存在するかを指す。
【0024】
iM(k)は、食事中心のボーラス成分として知られており、摂取されたCHOのインスリンカバレッジを提供することを目的とし、残りの部分iCorr(k)は、食事時間における高グルコースレベルを補償するための、又は体内で依然として作用しているインスリンを考慮に入れるための手動インスリン補正を含む、いわゆる補正成分であることに留意されたい。
B.データ前処理
【0025】
このセクションでは、本発明者らは、試験データに対して行われ、インスリン関連情報i(k)、炭水化物摂取量m(k)、及びCGM測定グルコースg(k)を記述する、欠測値なしにTs=5分で等しくサンプリングされた3つの信号を得ることを目的とした前処理ステップを示す。
【0026】
グルコース及びインスリンデータは、異なるデバイスから収集され、食事は、対象によって手動で記録され、したがって、関連する時系列は、わずかに非同期であり、欠測値を含んだ。
【0027】
同期を実行するために、全ての信号を同じ時間グリッドに整列させた。次に、本発明者らは、欠測データを考慮した。第一に、20%を超える欠測データを有する患者を廃棄し、結果として2人の対象を除外した。残りのデータでは、30分より長く続く不完全なデータ部分を廃棄し、より短いギャップを補間した。補間戦略は、以下で考察するように、ギャップがトレーニング又はテストデータで生じたかどうかに依存する。最後に、連続した14日のデータ部分を検索し、1人を除く残りの患者において見出し、合計3人の除外された対象をもたらした。
【0028】
11人の保持された対象の各々について、以前に識別された14日間のデータ部分を2つの部分に分割し、最初の7日間はモデルトレーニング(トレーニングセット)のために使用し、その後の7日間は独立したデータに対する予測性能(テストセット)を評価するために使用した。
【0029】
インスリンi(k)及び食事m(k)信号は、両方ともこの構成において利用可能であり、BGレベルg(k)に強く影響を及ぼす。このため、本発明者らは、それらを、出力としてグルコースg(k)を有するモデルへの入力と見なす。更に、グルコースに対するそれらの生理学的影響は、非常に異なり、インスリン注射は、BGを減少させるが、CHO仮定はBGを増加させる。これは、これら2つの信号が非常に異なる情報を伝達し、したがって、将来のBGレベルの正確な予測のための入力としてそれらの両方を有することが重要であることを示唆する。しかしながら、これら2つの入力は、
図2aに示されるように互いに非常に類似しており、それは、全てのCHO消費がインスリンボーラスに関連付けられ、食事中心の成分によって支配され(方程式2を参照)、したがって、m(k)にほぼ線形に比例するためである。直観的に、これがブラックボックスモデル学習アプローチに対してどのように主要な課題を提起するかは明らかであり、トレーニングデータにおいて、両方の信号が同時に増加する事例のみが存在し、モデル学習方法が、任意の生理学的事前情報なしに、データから各入力の役割を推測することを困難にする。この事実は、線形モデルに関連して以前に注目され報告された。統計的学習及びシステム識別では、この現象は、入力共線性と呼ばれる既知の問題である。より具体的には、いくつかの識別手順における重要なステップは、トレーニングデータから構築された行列Dの反転であり、これは、本発明者らの場合には、インスリン値及び食事値を含み、共線信号を含む行列の反転の計算は、大きな数値誤差を生じやすい。共線性は、関数が入力の変化又は誤差に対してどの程度敏感であるかを測定する指数である、この行列の条件数CondNum(D)によって定量化することができ、本発明者らの場合には、共線性の診断として使用することができる。
【0030】
条件数Dは、
【数2】
として定義され、式中、σ
max(D)及びσ
min(D)は、それぞれ、Dの最大特異値及び最小特異値である。条件数が最大で1よりもわずかに大きい場合、行列は良好に条件付けされており、これは、その逆行列が良好な精度で計算され得ることを意味する。条件数が非常に大きい場合、行列は不良条件であると言われ、実際には、そのような行列はほとんど特異であり、その逆行列の計算は、大きな数値誤差を生じやすい。可逆でない行列は、無限大に等しい条件数を有する。
【0031】
本発明者らの場合には、入力の共線性により、不良条件の行列を有する可能性があり、これは、非常に大きいCondNum、したがって精度の低い行列反転につながる可能性がある。この問題に対処するために、いくつかの実施形態では、入力変換は、共線性を緩和するために使用され得、これにより、2つの入力信号を、それらの解釈可能性を維持しながら分離する。新しい信号は、次のように定義される。
【数3】
式中、
【数4】
は、トレーニングセット上で計算された信号m(k)のサンプル平均である。このようにして、変換されたインスリン信号i
*(k)は、炭水化物仮定に厳密には関連しない情報のみを含む(
図2bを参照)、インスリンボーラスの補正成分i
Corr(k)、及びCLCアルゴリズムΔi
CL(k)によって計算されたリアルタイムのインスリン補正である。
【0032】
提案された変換は、パラメトリック識別アルゴリズム及びノンパラメトリック識別アルゴリズムにおいて反転される行列の条件数の大幅な低減をもたらし、したがって、共線性の低減におけるその有効性を証明する。
図3は、4つの異なるケース、新しい入力変換(入力変換)を使用するか、又は使用しないか(最先端の平均スケール)、パラメトリック識別技術(parametric、P)を有するか、又はノンパラメトリック(non-parametric、NP)識別技術を有するかにおいて、モデル識別のために反転される必要があるトレーニングセット行列のCondNumを示す。見て分かるように、入力変換は、CondNumを著しく低下させ、より良好に条件付けされた反転問題をもたらし、本発明者らは、パラメトリックアプローチ及びノンパラメトリックアプローチを用いて、それぞれ約80%及び87%の改善を得た。
【0033】
この場合も、数値安定性の理由から、信号値が同様の範囲にわたるように測定単位を選択することが重要である。本発明者らの場合には、これは、食事及びインスリン情報についてそれぞれ[g/分]及び[U/時]を使用して行われ、CGM読み取り値は、[mg/dL]で表される。最後に、標準システム識別パイプラインに従って、グルコースg(k)信号は、平均スケーリングによって、すなわち、その平均:
【数5】
の推定値を除去することによって処理され、
【数6】
は、トレーニングセット上で計算されたサンプル平均である。
【0034】
煩雑な表記を回避するために、以下では、識別プロセスで使用される前処理済みデータを、
*を省略して、単にg(k)、i(k)、及びm(k)と表す。最後に、
図4は、データの例、具体的には、上述の前処理ステップの後に対象#1の識別に使用されるトレーニングセットを示す。
【0035】
このトレーニングセット全体は、以前に収集された患者データに対して遡及的に行われることを想定するモデルトレーニング中に利用可能である。一方、グルコース予測は、リアルタイムで行われるべきである。結果として、時間kにおけるグルコースを予測するときに、全てのテストセットが既知であると考えるべきではない。具体的には、テストセット全体で計算された入力及び出力のサンプル平均は、リアルタイムの前処理として使用することができない。代わりに、上記の前処理では、本発明者らは、トレーニングデータ及びテストデータの両方から、トレーニングセット上で計算された信号の平均値を差し引く。
【0036】
同様に、三次スプライン補間を使用して、トレーニングセットにおける30分未満のデータギャップを充填したが、この技法は非因果的であるため、テストセットにおいて使用することができない。代わりに、ゼロ次ホールドは、リアルタイムで適用可能であるため、テストデータに対して使用された。
III.識別技術
【0037】
上記で予想されるように、本明細書に記載されるシステム及び技術の一態様は、入力として(変換された)インスリンi(k)及び食事情報m(k)を有し、出力としてグルコースレベルg(k)を有する、線形時不変ブラックボックス多入力単出力(Multi-Input-Single-Output、MISO)モデルを識別する。これは、システム伝達関数、又は同等にシステムインパルス応答を識別することに相当する。そうするために、2つの異なるアプローチである、パラメトリック戦略及びノンパラメトリック戦略が考慮される。
A.パラメトリックアプローチ
【0038】
パラメトリックアプローチは、システムダイナミクスの検索を、パラメータベクトルによってパラメータ化された伝達関数の有限次元セットに制限する。
【数7】
式中、G
1(z
-1,θ)及びG
2(z
-1,θ)は、θによってパラメータ化された離散時間伝達関数であり、パラメータn
k1、n
k2は、入力動作における生理学的遅延を捕捉するために導入されている。出力はまた、伝達関数H(z
-1,θ)を通して白色ゼロ平均雑音e(k)をフィルタリングすることによって得られる有色雑音によって損なわれる。一般的に使用されるパラメータ付けは、外因性入力を伴う自己回帰(auto regressive、ARX)、外因性入力を伴う移動平均の自己回帰(auto regressive moving average、ARMAX)、外因性入力を伴う積分移動平均の自己回帰(auto regressive integrated moving average、ARIMAX)、及びボックスジェンキンス法(Box-Jenkins、BJ)であり、一般性の高い順に列挙される。
【0039】
したがって、パラメトリック識別パイプラインにおける第1の自由度は、好適なモデルクラスの選択であり、本研究において、本発明者らは、上に列挙した全ての選択肢を考慮した。識別パイプラインにおいて対処されなければならない別の選択は、モデル複雑性、すなわち、推定されなければならないパラメータの数(モデル次数)である。このステップの詳細を以下に説明する。
【0040】
最後に、モデルパラメータが推定されなければならず、最先端のアプローチは、予測誤差法(PEM)であり、パラメータベクトルは、関連する予測子
【数8】
によってコミットされる1ステップ先の予測誤差を最小化するために見出される。しかしながら、本研究では、本発明者らは、他の予測範囲(prediction horizon、PH)における予測誤差を最小化する選択肢も考慮した。
【数9】
式中、PHは、一般的な予測範囲であり、
【数10】
は、θによってパラメータ化されたPHステップ先の予測子であり、Nは、利用可能なデータの数である。
【0041】
モデル次数選択は、2つのよく知られている節減基準、赤池情報量基準(Akaike Information Criterion、AIC)及びベイズ情報量基準(Bayesian Information Criterion、BIC)を考慮して行われる。更に、このタスクのために、本発明者らは、7分割交差検証(Cross-Validation、CV)も行い、CVの各ラウンドについて、データを相補的サブセットに7回分割し、6日間のデータを使用してモデルをトレーニングし、残りの日を使用してモデル性能を評価した。
【0042】
全ての可能な次数の組み合わせを調査することは、計算的に実行不可能な分析をもたらしたであろうこと、実際に、インシリコ集団又は実際のデータに対する予備研究は、体系的調査が予測精度に関して非常にわずかな改善しかもたらさないことを示したことに留意されたい。このため、本発明者らは、全ての多項式次数が等しくなるようにした。ARX、ARMAX、及びARIMAXパラメータ化について1~20の範囲の次数をテストし、一方、BJモデルを使用して1~15の範囲の次数をテストした。
【0043】
2つの遅延は、45分及び15分に対応する生理値、すなわちnk1=9ステップ及びnk2=3ステップに固定された。
B.ノンパラメトリックアプローチ
【0044】
ここで、1ステップ先の予測子を次のように書くことができると考えるものとする。
【数11】
式中、
*は、2つの信号間の畳み込みを表し、一方、h
1、h
2、及びh
3は、それぞれインスリン、食事、及びグルコース信号に関連するインパルス応答である。
これらの関数は、不明であり、雑音の多い測定値から推定しなければならない。これらの不明な応答の推定は、再生核ヒルベルト空間(RKHS)によって与えられる無限次元関数空間における最適化問題を解くことによって行うことができる。RKHSのカーネルは、推定される関数の特性を反映すべきであり、その選択は、ノンパラメトリックアプローチにおけるキーポイントである。実際に、これは、有用な事前知識、例えば、平滑度を組み込むことができ、更に、データ適合と推定の規則性との間のトレードオフは、カーネルの不明なパラメータの推定によって適切に対処することができる。カーネル内に予測子のインパルス応答の安定性を組み込むために、この研究では、本発明者らは、G.Pillonetto、A.Chiuso、及びG.De Nicolao著「Predictor estimation via Gaussian regression」Proceedings of the IEEE Conference on Decision and Control、744-749ページ、2008年、並びにG.Pillonetto及びG.De Nicolao著「A new kernel-based approach for linear system identification」Automatica,vol.46,no.1,pp.81-93,2010に提案された安定スプラインカーネル(Stable-Spline kernel、SSK)を使用し、これらは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。このアプローチを使用して、一般的な安定スプラインインパルス応答f
SSKは、ゼロ平均ガウスランダムプロセスの実現として見られ、その共分散は、SSKカーネルを指定し、以下のように書くことができる。
【数12】
式中、k,l=1,2,...,∞、β>0、及びλ>0である。ここで、
【数13】
をh
1、h
2、及びh
3のSSKとしてそれぞれ定義し、
【数14】
は、
【数15】
と関連付けられるN上の確定関数のRKHSを示すものとする
【数16】
安定スプライン推定量
【数17】
は、以下のチホノフ型問題の解から得られる。
【数18】
式中、∥・∥は、ユークリッドノルムであり、
【数19】
は、nCGMデータを含むベクトルであり、nは、識別手順において考慮される将来のサンプルの数である。上記の戦略を実際に実装可能にするために、無限に長いインパルス応答は、N
predサンプル後の切り捨てによって近似されることに留意されたい。
【0045】
また、(方程式12)から、インパルス応答h
1、h
2、及びh
3の共分散は、それぞれ、パラメータ
【数20】
を含むことに留意されたい。したがって、チホノフ問題の解(方程式13)の前に適切に調整されなければならない問題のハイパーパラメータ
【数21】
を定義することができる。ハイパーパラメータが既知であると仮定することにより、(方程式13)の解は次式で与えられる。
【数22】
【0046】
式中、I
nは、n×nの単位行列である。ハイパーパラメータ(ζによって示される)に関して、本発明者らは、最大限界尤度を介してそれらを推定した。
【数23】
式中、Jは、g
+の逆対数限界尤度である。
次に、最先端のパラメトリックアプローチを用いて並列処理を行うものとする。カーネルの選択は、モデルのクラス選択の論理的対応物と見なされ得る。一方、カーネルハイパーパラメータの推定は、モデル次数選択の対応物と見なすことができ、最大限界尤度又は交差検証などの十分に確立された基準によって行うことができる。カーネルベースの識別の主な利点は、その柔軟性である一方で、パラメトリックモデル選択は、有限かつ整数のパラメータの選択を余儀なくさせ、一方、他方では、ノンパラメトリック戦略は、十分に確立された基準による正則化パラメータの微調整を使用する。加えて、SSKは、2つの不明なパラメータ、すなわち、時間ゼロにおけるインパルス応答の分散及びそのゼロへの減衰率のみを含む。したがって、低次元空間(3つのインパルス応答の各々について2つのハイパーパラメータ)において非線形最適化問題を解くことのみが必要とされる。
【0047】
ノンパラメトリックアプローチは、2つの異なる方法で実装された。一方では、本発明者らは、Matlab組み込み関数を検討した。この選択肢は、過剰適合が回避されるように、非常に高次のモデルを考慮し、不明な係数に対する好適な事前分布を表す正則化項を標準PEMコスト関数に追加する正則化パラメトリックアプローチとして問題を扱う。好適な事前分布として、本発明者らは、安定スプラインカーネルを採用した。一方、本発明者らが提示した全ての節をアドホックに実装した。
IV.評価メトリック
【0048】
識別されたモデルの予測精度を評価するために、本発明者らは、将来のCGM値の予測をその実際の測定値と比較した。異なる予測範囲(PH)を考慮した。
【0049】
モデルのPHステップ先の予測、すなわち、時間k-PHまでの過去のグルコース値、g(k-PH)、g(k-PH-1)、...、及び時間kまでの入力、i(k)、i(k-1)、...、m(k)、m(k-1)、...を使用することによって得られる予測を、
【数24】
で示すものとする。2つの信号、g(k)及び
【数25】
は、3つの異なるメトリック、すなわち、システム識別において一般的に使用される、二乗平均平方根誤差(RMSE)、決定係数(COD)、及び時間利得(time gain、TG)を使用して比較された。
【数26】
式中、
【数27】
は、信号x(k)のl
2ノルム、すなわち、
【数28】
を表し、Nは、トレース内のサンプルの数である。
メトリックCODは、以下のように定義される。
【数29】
式中、
【数30】
は、グルコース信号のサンプル平均である。CODは、平均二乗予測誤差(mean squared prediction error、MSE)
【数31】
すなわち、予測誤差のサンプル分散と、信号
【数32】
のサンプル分散との間の比率に基づく。この正規化は、より大きな分散を有する信号がより大きな予測誤差を生成することが予想されるという事実を説明する。RMSE=0であるとき、CODは、その最大可能値COD=100%に達し、RMSEが信号サンプル分散に等しいとき、COD=0%に達し、誤差のノルムが更に増加する場合、CODは、負になる。
【0050】
更に、本発明者らは、予測によって与えられる時間利得(TG)を以下のように考慮した。
TG(PH)=PH-delay(PH),
式中、元のプロファイルと予測されたプロファイルとの間の遅延は、gとgのシフトされたバージョンとの間の類似性の尺度である交差相関(crossCorr)を最大化する時間的なシフトτによって定量化される。
【数33】
TGが高いほど、予測はより有用である。
【0051】
異なる複雑性基準の間で精度メトリックを比較するために、分散分析(analysis of variance、ANOVA)を行った。分析された分布のうちの1つがLillieforsテストによって非正規であることが判明したとき、ANOVAの代わりにKruskal-Wallisテストを使用した。パラメトリックモデルとノンパラメトリックモデルとを比較するために、対になったtテストを行った。
【0052】
報告された全てのp値は、両側であり、<0.05であるときに統計的に有意であると考えられる。
V.結果
【0053】
パラメトリックアプローチから始めて、評価される第1の自由度は、モデル次数の選択である。パラメトリックモデルの全てのクラスについて、様々な次数選択基準の予測性能を表1に報告する。具体的には、RMSEの中央値及び四分位数間範囲(interquartile range、IQR)が、異なる予測範囲(PH)について報告される。
【0054】
表1では、AIC、BIC、又はCVを用いてモデル次数を個別化することによって達成される患者固有のモデル複雑性を考慮することに加えて、本発明者らはまた、全ての患者について集団次数(population order、PopOrd)の使用を考慮した:モデル複雑性は、個別化されないが、モデルパラメータは、個別に固有である。この選択肢は、モデル次数選択ステップを除去することによって、対象におけるモデル識別を加速する。
【0055】
考慮された複雑性の方法の間に有意差は見出されない。これは、シミュレーションデータを使用して同じ自由度を比較した結果と一致する。これを考慮して、本発明者らは、分析の残りに対して集団次数(PopOrd)を使用することを決定した。表1は、選択された次数の中央値及びIQRも示し、BICは、最も保守的な節減基準の1つであると予想されるように、BICは、最低次数を選択し、CVは、最高次数を選択した。集団次数(PopOrd)は、これら2つのエンド間のトレードオフを提供する。
【表1】
【0056】
表IIは、60分先の予測範囲に対する全ての考慮されたモデルの予測性能を報告する。この場合に引き出される全ての考慮事項は、表IVに提示される他の予測範囲に対して有効なままである。ベースライン比較のために、パラメトリックアプローチ及びノンパラメトリックアプローチを用いて得られた個別化されたモデルに加えて、本発明者らはまた、集団モデル、すなわち、パラメトリックアプローチ及びノンパラメトリックアプローチを用いて、全ての対象のデータ上で識別されたユニバーサルモデルの性能を報告する。
【表2】
【0057】
表IIによって示される第1のことは、パラメトリック集団予測子が、それらの個別化された対応物によって体系的に性能が優れていることであり、集団モデルによって達成される最良の中央値RMSEは、約34.1mg/dLであるが、個別化されたモデルについては、RMSEは常に32mg/dLより低い。これは、患者間の変動性が集団モデルの有効性に深刻な影響を及ぼすことを確認する。
【0058】
パラメータ推定方法に関してパラメトリックモデルを比較すると、60分の予測誤差を最小化することによって識別された予測子は、PEMを用いて選択されたモデルと比較して同様の性能又はわずかに悪い性能を達成することが分かる。これは、PEMが好適な統計的意味で最適であると述べる理論と一致する。
【0059】
モデルクラス、パラメトリックアプローチの最後の自由度に関して、以前に得られた結果と一致して、ARX、ARMAX、ARIMAX、又はBJの間のRMSE若しくはCODに有意差を見出すことはできない。それにもかかわらず、BJは、他のモデルクラスに関して、20分の中央値で優れたTGを提供する。
【0060】
最後に、表IIは、最良の予測性能が、ノンパラメトリックアプローチによって、具体的には、約29.8mg/dLの中央値RMSE及び約57.4%の中央値CODを達成するアドホック実装によって達成されることを示す。この実装は、Matlab標準関数よりもわずかに性能が優れている。改善は、パラメトリックモデルの中で最も有効なBJモデルによって提供される同じ時間利得(中央値TG=20分)を提供しながら達成される。この結論は、パラメトリックモデル(具体的にはBJ)をノンパラメトリックモデル(アドホック実装)と比較する
図5a~
図5dによって更に支持される。図の上部パネルは、PH=30、60、90、及び120分の集団において2つの方法によって達成されたCODの箱ひげ図を報告する。ノンパラメトリックモデルは、それぞれ、PH=30、60、90、及び120分に対して、約2%、7%、21%、及び41%のCODの改善を提供する。各図の下部パネルは、ΔCOD、すなわち、1人の患者においてノンパラメトリックモデルによって達成されたCODから、同じ患者について導出されたパラメトリックモデルのCODを引いた差を報告する。注目すべきことに、これらのプロットは、対象の大多数において差が正であることを示しており、これは、予測の改善が平均だけでなく対象の大部分において達成されることを意味する。対になったサンプルtテストは、予測精度が、PH=30、60、及び90分について有意に異なり(それぞれ、p値≦0.001、p値=0.003、及びp値=0.03)、一方、PH=120分については、p値=0.07であることを確認する。
【表3】
【0061】
いくつかの態様では、本明細書に記載されるシステム及び技術は、個人化されたグルコース予測及び個人化された自動グルコース制御のための、グルコース-インスリン相互作用の患者固有モデルの導出に関する。これを前提として、本発明者らは、線形アプローチが予測及び制御について先に考察したいくつかの利点を有するので、線形データ駆動型モデル学習技術の体系的分析に焦点を当てた。それにもかかわらず、患者の生理機能は、非線形であり、したがって、非線形データ駆動型アプローチを用いることが、グルコース予測を大幅に改善する可能性を有するかどうか、疑問に思う可能性がある。この問題の予備調査として、非線形モデルを生成する3つの最先端のディープラーニング(deep-learning、DL)アーキテクチャを実装した。この分析の目的は、これらの技術及び関連する自由度の網羅的な調査ではなく、同じ量のデータを使用して、これらの技法が本研究で検討された技法と比較して大幅に異なる性能を提供するかどうかを見出すことだけである。具体的には、本発明者らは、順序データにおける時間的な依存性を捕捉するために、フィードバック接続を実装する2つの異なるリカレントニューラルネットワーク(recurrent neural network、RNN)アーキテクチャである、長期短期記憶(long-short term memory、LSTM)及びゲート付き再帰ユニット(gated recurring unit、GRU)を検討した。更に、本発明者らは、RNNと比較して、時間的な情報とともに局所的な情報を捕捉するのに役立つ畳み込み演算を使用する時間的な畳み込みネットワーク(temporal convolutional network、TCN)を実装した。線形技術に関しては、全ての利用可能なデータを使用して識別される集団モデルを導出するため、及び特定の対象のデータのみを使用して患者固有モデルを学習するための両方のために、DL法を使用した。表IIIは、異なるPHに対するRMSEに関して、達成された性能の比較を提示する。
【0062】
線形戦略と比較して、非線形DL技術は、おそらくそれらのパラメータを正確に推定するためにより大きなデータセットを必要とするので、集団モデルを使用してより良好な性能を達成する。更に、それらの構造は非常に柔軟であるので、その結果、患者間の変動性をある程度まで内部で対処する可能性が高い。それにもかかわらず、これらのDLアプローチのいずれも、線形モデルよりも大幅に性能が優れておらず、実際には、提案された線形ノンパラメトリック手法に対して、各PHについてわずかに劣った性能を達成する。この予備分析は、他のDL又は非線形機械学習アルゴリズムが、提案された線形ブラックボックス技術よりも性能が優れている可能性を排除するものではないが、線形仮定がより複雑なモデルに対する実行可能な代替であることを示す。
【0063】
他の(線形及び非線形)方法に関して、本発明者らの発見は、予測精度に関して、同等であるか、又はわずかに良好である。しかしながら、注意事項は、数値結果のみに基づく文献研究の比較が、異なるデータセット、前処理技術、及び評価メトリックの使用に起因して、誤解を招く可能性があることである。
【0064】
ガウスプロセス又はカーネルベースの適応フィルタを使用して、ノンパラメトリックアプローチの異なるバージョンをテストし、本発明者らの発見と整合した結果を得た。それにもかかわらず、本明細書で使用される安定スプラインカーネルは、制御目的のための重要な特徴である、予測子のインパルス応答の安定性を強化するように特に設計されている。
【0065】
グルコース、インスリン、及び食事データを同時にかつ同期して収集する必要性を回避するために、本文献におけるいくつかの寄与により、異なるシステム識別、CGMのみのデータを使用するML又はDLアプローチを使用して、任意の追加の信号の使用を回避しようと試みた。しかしながら、これらの更なる信号の使用は、予測性能を向上させることが示されており、この発見はまた、本研究において検証されている。具体的には、
図6a及び
図6bにおいて、CGMのみのモデル、インスリン及び食事を使用して識別されたパラメトリックモデル、並びに入力を有するノンパラメトリックモデルによって達成された性能を比較する。PHの関数としての予測のCOD及びRMSEの集団にわたる中央値が、
図6a及び
図6bにそれぞれ報告されている。予想されるように、入力を含むことは、特に45分より大きいPHについて、予測の精度を改善する。
【0066】
この研究において、本発明者らは、個人化されたモデルが、対象間の変動性(患者間の変動性)に対処するための有効なツールを提供することを示した。これらの個人化されたモデルはまた、患者の生理機能に対して生じる経時的な変化(患者内の変動性)に追従するように更新され続けるべきである。これを達成するために、本文献におけるいくつかの寄与により、新しいデータが到着するたびに(例えば、5分ごとに)モデルを更新する再帰的アプローチが効果的に使用された。
【0067】
これは、オンラインモデル適応のための十分に確立された手順であるが、特定の用途では、より少ない頻度のモデル更新は、患者の動態におけるゆっくりとした変化を追跡するのに十分である。これを考慮して、本発明者らは、過去に収集された患者データに対してオフラインで識別手順を実行することによって達成される毎日又は毎週のモデル更新を想定する。この周期的に繰り返されるバッチモデル識別は、本研究で調査されたアルゴリズムをそのまま使用して、それらを再帰的にするための修正を必要とせずに行うことができる。
【0068】
最後に、提案されたアルゴリズムを実行するシステムの技術的アーキテクチャについて説明する。個人化されたモデルから利益を得ることができる人工膵臓システム及び高度な意思決定支援システムは、CGM、食事、及びインスリンデータを取得することができ、有効なグラフィカルユーザインターフェースを提供し、それらの有意な計算能力のおかげでホスト(おそらく高度な)アルゴリズムに適したデバイス上に実装される。このようなデバイスの一例は、Diabetes Assistant(ディアス)であり、これは、本研究において前述され、いくつかの閉ループトレイルにおいて採用されたスマートフォンベースのプラットフォームである。これらのシステムはまた、患者の遠隔監視を可能にするために、データを遠隔サーバにストリーミングする。本論文で調査されたバッチモデル更新は、上述のデバイス上で行われ得るか、又は患者データを記憶する遠隔サーバ上で移動され得、したがって、局所的な計算負担を軽減する。個人化され、定期的に更新されるモデルは、糖尿病における大きな対象内及び対象間の変動性に対処する自然な方法である。それらを使用して、将来のグルコースレベルの正確な患者固有の予測子を作成し、より有効なAPシステムのための個人化された制御アルゴリズムを設計することができる。
【0069】
要約すると、本明細書に記載されるシステム及び技術の態様は、インスリン及び食事情報をCGMデータとともに使用する、線形データ駆動型技術に焦点を当てた。パラメトリックアプローチ及びノンパラメトリックアプローチの両方が、関連する自由度とともに、体系的に調査された。入力の共線性の問題を低減するために、特定の入力変換が入力に適用された。
【0070】
結果は、個人化されたモデルがそれらの集団対応物よりも性能が優れていることを示し、したがって、対象間の変動性に対処する重要性を証明した。更に、本発明者らは、ノンパラメトリックアプローチが、予測範囲が増加するにつれて増加する相対的改善を伴って、対象にわたって一貫してより有効なモデルを得ることを可能にすることを示した。予備比較では、ディープラーニングアーキテクチャに基づく非線形データ駆動型技術が線形モデル精度よりも性能が優れていないことを示した。結果は、CHO及び注射されたインスリンなどの更なる情報を追加することが、45分を超えるPHに対する予測精度の実用的に関連する改善を提供することを確認した。
【0071】
上記で説明された方法の様々な動作は、様々なハードウェア及び/又はソフトウェア構成要素、回路、及び/又はモジュールなど、動作を行うことができる任意の好適な手段によって行われ得る。概して、図に示された任意の動作は、動作を行うことができる、対応する機能的手段によって行われ得る。
【0072】
本開示に関して記載された様々な例示的な論理ブロック、モジュール、及び回路は、汎用プロセッサ、デジタル信号プロセッサ(digital signal processor、DSP)、特定用途向け集積回路(application specific integrated circuit、ASIC)、フィールドプログラマブルゲートアレイ信号(field programmable gate array signal、FPGA)若しくは他のプログラマブル論理デバイス(programmable logic device、PLD)、個別ゲート若しくはトランジスタ論理、個別ハードウェア構成要素、又は本明細書に記載される機能を行うように設計されたこれらの任意の組み合わせを用いて実装されるか、又は行われ得る。汎用プロセッサは、マイクロプロセッサであり得るが、代替として、プロセッサは、任意の市販のプロセッサ、コントローラ、マイクロコントローラ、又は状態機械であり得る。プロセッサはまた、コンピューティングデバイスの組み合わせ、例えば、DSPとマイクロプロセッサとの組み合わせ、複数のマイクロプロセッサ、DSPコアと連携する1つ以上のマイクロプロセッサ、又は任意の他のこのような構成として実装され得る。
【0073】
1つ以上の態様では、説明された機能は、ハードウェア、ソフトウェア、ファームウェア、又はこれらの任意の組み合わせで実装され得る。ソフトウェアで実装される場合、これらの機能は、非一時的コンピュータ可読媒体上の1つ以上の命令又はコードとして記憶されるか、又は送信され得る。限定ではなく例として、このような非一時的コンピュータ可読媒体は、RAM、ROM、EEPROM、CD-ROM又は他の光ディスク記憶装置、磁気ディスク記憶装置、若しくは他の磁気記憶デバイスを備えることができる。
【0074】
本明細書で開示される方法は、説明された方法を達成するための1つ以上のステップ又は動作を含む。方法ステップ及び/又は動作は、特許請求の範囲から逸脱することなく、互いに交換され得る。言い換えれば、ステップ又は動作の特定の順序が指定されない限り、特定のステップ及び/又は動作の順序及び/又は使用は、特許請求の範囲から逸脱することなく修正され得る。
【0075】
特定の態様は、本明細書で提示される動作を行うためのコンピュータプログラム製品を備え得る。例えば、このようなコンピュータプログラム製品は、本明細書に記載される動作を行うために1つ以上のプロセッサによって実行可能である命令が記憶された(及び/又は符号化された)コンピュータ可読媒体を備え得る。特定の態様では、コンピュータプログラム製品は、梱包材料を含み得る。
【0076】
更に、本明細書に記載される方法及び技法を行うためのモジュール及び/又は他の適切な手段は、適用可能な場合、ユーザ端末及び/又は基地局によってダウンロード及び/又は他の方法で取得することができることを理解すべきである。例えば、そのようなデバイスは、本明細書に記載される方法を行うための手段の転送を容易にするためにサーバに結合することができる。代替的に、本明細書に記載される様々な方法は、ユーザ端末及び/又は基地局が記憶手段をデバイスに結合又は提供すると様々な方法を取得することができるように、記憶手段(例えば、RAM、ROM、コンパクトディスク(compact disc、CD)、又はフロッピーディスクなどの物理記憶媒体など)を介して提供されることができる。更に、本明細書に記載される方法及び技術をデバイスに提供するための任意の他の好適な技術を利用することができる。
【0077】
特許請求の範囲は、上記で示された厳密な構成及び構成要素に限定されないことを理解されたい。特許請求の範囲から逸脱することなく、上記で説明された方法及び装置の構成、動作、及び詳細において、様々な修正、変更、及び変形が行われ得る。
【0078】
他に定義されない限り、全ての用語(技術用語及び科学用語を含む)は、当業者にとって通常の慣習的な意味を与えられるものあり、本明細書において明示的にそのように定義されない限り、特別な又はカスタマイズされた意味に限定されるものではない。本開示の特定の特徴又は態様を説明するときの特定の用語の使用は、その用語が関連付けられる本開示の特徴又は態様の任意の特定の特性を含むように限定されるようにその用語が本明細書で再定義されていることを暗示するものと解釈されるべきではないことに留意されたい。特に添付の特許請求の範囲において、本出願で使用される用語及び語句、並びにそれらの変形は、特に明記されない限り、限定とは対照的に制限のないものとして解釈されるべきである。前述の例として、「含む(including)」という用語は、「限定されることなく含む(including, without limitation)」、「含むが限定されない(including but not limited to)」などを意味するように読まれるべきであり、本明細書で使用されるような「含む(comprising)」という用語は、「含む(including)」、「含有する(containing)」、又は「を特徴とする(characterized by)」と同義であり、包括的又は制限のないものであり、追加の列挙されていない要素又は方法ステップを除外せず、「有する」という用語は、「少なくとも有する」と解釈されるべきであり、「含む」という用語は、「含むがそれに限定されない」と解釈されるべきであり、「例」という用語は、考察内の項目の例示的な事例を提供するために使用され、その網羅的なリスト又は限定的なリストではなく、「既知の」、「通常の」、「標準の」などの形容詞、及び類似の意味の用語は、説明された項目を所与の期間に限定するか、又は所与の時点で利用可能な項目に限定すると解釈すべきではなく、代わりに、現在又は将来の任意の時点で利用可能であるか、又は既知であり得る、既知の、通常の、又は標準の技術を包含すると読み取るべきであり、「好ましくは」、「好ましい」、「所望の」、又は「望ましい」、及び類似の意味の言葉の使用は、特定の特徴が本発明の構造又は機能にとって重大、必須、若しくは更に重要であることを暗示するものとして理解されるべきではなく、代わりに、本発明の特定の実施形態で利用される場合、又はされない場合がある、代替的又は追加的な特徴を強調することを単に意図するものとして理解されるべきである。同様に、接続詞「及び」で連結された項目の群は、それらの項目の各々及び全てがその群内に存在することを必要とするものとして読み取るべきではなく、むしろ、特に明記しない限り、「及び/又は」として読み取るべきである。同様に、接続詞「又は」で連結された項目の群は、その群の中で相互排他性を必要とするものとして読み取るべきではなく、むしろ、特に明記しない限り、「及び/又は」として読み取るべきである。
【0079】
本明細書で使用される成分、反応条件などの量を表す全ての数は、全ての事例において「約」という用語によって修飾されるものとして理解されるものである。したがって、それとは反対に示されない限り、本明細書に記載される数値パラメータは、得ようとする所望の特性に応じて変動し得る近似値である。少なくとも、本出願に対する優先権を主張する任意の出願における任意の請求項の範囲に対する均等論の適用を制限する試みとしてではなく、各数値パラメータは、有効数字の数及び通常の丸めアプローチを考慮して解釈されるべきである。
【0080】
本明細書で引用される全ての参考文献は、それら全体が参照により本明細書に組み込まれる。参照により組み込まれる刊行物及び特許又は特許出願が本明細書に含まれる本開示と相反する範囲で、本明細書は、任意のそのような相反する材料に取って代わり、かつ/又は優先することが意図される。
【0081】
見出しは、参照のため、及び様々なセクションを見つけるのを助けるために本明細書に含まれる。これらの見出しは、それに関して説明される概念の範囲を限定することを意図するものではない。このような概念は、明細書全体にわたって適用可能性を有し得る。
【0082】
更に、前述のものは、明確さ及び理解の目的のために例示及び実施例によっていくらか詳細に記載されているが、特定の変更及び修正が実施され得ることが当業者には明らかである。したがって、説明及び実施例は、本発明の範囲を本明細書に記載される特定の実施形態及び実施例に限定するものとして解釈されるべきではなく、むしろ、本発明の真の範囲及び趣旨に付随する全ての修正形態及び代替形態も包含するものとして解釈されるべきである。
【表4】
【手続補正書】
【提出日】2023-08-09
【手続補正1】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】全図
【補正方法】変更
【補正の内容】
【国際調査報告】