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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-10
(54)【発明の名称】細胞培養システム
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20231227BHJP
【FI】
C12M1/00 C
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023525488
(86)(22)【出願日】2021-12-15
(85)【翻訳文提出日】2023-04-26
(86)【国際出願番号】 JP2021046188
(87)【国際公開番号】W WO2022138358
(87)【国際公開日】2022-06-30
(31)【優先権主張番号】P 2020214579
(32)【優先日】2020-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003683
【氏名又は名称】弁理士法人桐朋
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 政嗣
【テーマコード(参考)】
4B029
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029BB01
4B029BB11
4B029CC02
4B029DA03
4B029DF10
4B029FA11
4B029GA02
4B029GB04
(57)【要約】
細胞培養システム(10)は、リアクタ(12)と、リアクタ(12)に対して培地を流入及び流出する流通経路(16)と、培地に含まれる細胞を光学測定する光学測定部(54)と、光学測定部(54)の測定結果を処理する制御部(32)と、を備える。光学測定部(54)は、第1測定光(L1)の出射に基づき光学測定を行う第1測定ユニット(56)と、第2測定光(L2)の出射に基づき光学測定を行う第2測定ユニット(58)と、を培地の流通方向の異なる位置に有する。そして、第1測定光(L1)の第1光路長(OP1)は、第2測定光(L2)の第2光路長(OP2)よりも長く設定される。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
培地の流通に基づき細胞を培養するリアクタと、
前記リアクタに対して前記培地を流入及び流出する流通経路と、
前記流通経路において前記リアクタよりも前記培地の流通方向下流側に設けられ、前記培地に測定光を照射して前記培地の状態を光学測定する光学測定部と、
前記光学測定部の測定結果を処理する処理部と、を備え、
前記光学測定部は、前記培地の流通方向において互いに異なる位置に配置された第1測定ユニット及び第2測定ユニットを有し、
前記第1測定ユニットは、前記培地が流通すると共に第1測定光が透過する第1光路部を有し、
前記第2測定ユニットは、前記培地が流通すると共に第2測定光が透過する第2光路部を有し、
前記第1光路部の第1光路長は、前記第2光路部の第2光路長よりも長い
細胞培養システム。
【請求項2】
請求項1記載の細胞培養システムにおいて、
前記第1光路部に配置され前記培地が流通する第1セルと、前記第2光路部に配置され前記培地が流通する第2セルと、を備え、
前記流通経路は、前記第1セル及び前記第2セルに接続されるチューブを有し、
前記第1セル及び前記第2セルは、前記チューブよりも硬質に構成される
細胞培養システム。
【請求項3】
請求項2記載の細胞培養システムにおいて、
前記第1セルと前記第2セルとは、前記培地の流通方向に沿って相互に連続した1つの容器を構成している
細胞培養システム。
【請求項4】
請求項3記載の細胞培養システムにおいて、
前記容器は、前記第1セルと前記第2セルの間に、前記第1セルから前記第2セルに向かって前記培地の流路断面積を徐々に狭める流路移行部を有する
細胞培養システム。
【請求項5】
請求項2~4のいずれか1項に記載の細胞培養システムにおいて、
前記チューブが接続される前記第1セルの端部及び前記第2セルの端部は、前記チューブに向かって流路断面積が徐々に小さくなる端部側テーパ部を有する
細胞培養システム。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の細胞培養システムにおいて、
前記処理部は、
前記細胞の培養を開始した際に、前記第1測定ユニットの第1測定結果を使用して前記リアクタの細胞数を算出し、
算出した細胞数が所定の切替閾値以上になった場合に、前記第2測定ユニットの第2測定結果を使用して前記リアクタの細胞数を算出する
細胞培養システム。
【請求項7】
請求項6記載の細胞培養システムにおいて、
前記処理部は、
前記第2測定結果に基づき細胞数が所定の回収値に達した場合に、前記リアクタへの前記培地の流通を一時的に停止して前記リアクタの前記細胞を剥離するための剥離液を前記リアクタに供給する
細胞培養システム。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の細胞培養システムにおいて、
前記第1測定ユニットは、前記第1測定光の透過光を受光すると共に、前記培地にて前記第1測定光が散乱した散乱光を受光する第1受光部を備え、
前記第2測定ユニットは、前記第2測定光の透過光を受光すると共に、前記培地にて前記第2測定光が散乱した散乱光を受光する第2受光部を備える
細胞培養システム。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の細胞培養システムにおいて、
前記第1測定ユニット及び前記第2測定ユニットは、前記第1測定光及び前記第2測定光を出射する発光部を共有している
細胞培養システム。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の細胞培養システムにおいて、
前記第1測定ユニットは、前記第2測定ユニットが出射する前記第2測定光の光強度よりも弱い光強度で前記第1測定光を出射する
細胞培養システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リアクタから流出する液体の細胞数を測定する細胞培養システムに関する。
【背景技術】
【0002】
再生医療では、生体の細胞を採取して培養し、培養した細胞を患者に投与する処置がなされる。細胞を培養する培養処理では、例えば、特開2017-143775号公報に開示されているように、ケース内に中空糸を有する細胞培養容器(リアクタ)を用いた細胞培養システムが使用される。この細胞培養システムは、リアクタの中空糸に細胞を播種し、その後にリアクタに接続される流通経路を介して、リアクタ内に培地を送り込むことで細胞を培養する。
【0003】
この種の細胞培養システムは、培養中に、細胞培養の状態を把握すると共に細胞の回収タイミングを決めるために、増殖した細胞数を正確に監視することが重要となる。無菌フィルタを介して細胞培養システム内部の培地を無菌的に採取するのが一般的だが、細胞は無菌フィルタを通過できない。このため、従来は、培地を無菌的に採取して、乳酸やグルコース、酸素といった細胞の代謝物質の培地内濃度を測定して間接的に増殖した細胞数を算出している。また、無菌的に細胞を直接採取する方法として、細胞培養システムの回路チューブを一定の長さでシールして細胞含有培地を含むチューブ片を採取している。その後、切断した細胞培養システムの回路を無菌接合装置で再接続している。
【発明の概要】
【0004】
しかしながら、上記のような間接的に細胞数を算出する場合には、培養環境の変化により、細胞代謝が変化して、正確な細胞数計測ができない。また、上記のような細胞含有培地を含むチューブを採取する場合、作業が煩雑になると共に、培養動作の一時中断、さらにはサンプリング時に細胞をロスするという問題もある。
【0005】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、無菌性を確保した状態でリアクタの細胞数を連続的に測定可能とし、また充分な測定精度が得られる細胞培養システムを提供することを目的とする。
【0006】
前記の目的を達成するために、本発明に係る細胞培養システムは、培地の流通に基づき細胞を培養するリアクタと、前記リアクタに対して前記培地を流入及び流出する流通経路と、前記流通経路において前記リアクタよりも前記培地の流通方向下流側に設けられ、前記培地に測定光を照射して前記培地の状態を光学測定する光学測定部と、前記光学測定部の測定結果を処理する処理部と、を備え、前記光学測定部は、前記培地の流通方向において互いに異なる位置に配置された第1測定ユニット及び第2測定ユニットを有し、前記第1測定ユニットは、前記培地が流通すると共に第1測定光が透過する第1光路部を有し、前記第2測定ユニットは、前記培地が流通すると共に第2測定光が透過する第2光路部を有し、前記第1光路部の第1光路長は、前記第2光路部の第2光路長よりも長い。
【0007】
上記の細胞培養システムは、無菌性を確保した状態でリアクタの細胞数を連続的に測定することを可能とし、また充分な測定精度が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態に係る細胞培養システムの全体構成を概略的に示す斜視図である。
図2】培地貯留部とリアクタ間の流通経路及び流路制御機構部を示す回路図である。
図3図3Aは、光学測定部の測定用容器を示す斜視図である。図3Bは、図3AのIIIB-IIIB線断面図である。図3Cは、図3AのIIIC-IIIC線断面図である。
図4】培地流通時の光学測定部を概略的に示す部分断面説明図である。
図5】制御部の動作を示すフローチャートである。
図6】変形例に係る光学測定部を概略的に示す部分断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について好適な実施形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0010】
本発明の一実施形態に係る細胞培養システム10は、図1に示すように、無菌室等に設置される定置型の装置に構成され、再生医療において生体の細胞を培養する培養処理を行う。このため、細胞培養システム10は、細胞の培養容器であるリアクタ12を備える。細胞培養システム10は、培地や酸素をリアクタ12に供給しつつ、細胞培養中に生じた乳酸や二酸化炭素等(未使用の培地、酸素を含む)をリアクタ12から排出することで、長期間にわたって細胞培養を継続する。
【0011】
生体の細胞は、特に限定されるものではないが、例えば、血液に含まれる細胞(T細胞等)、幹細胞(ES細胞、iPS細胞、間葉系幹細胞等)があげられる。培地も、生体の細胞に応じて適切なものが選択されればよく、例えば、緩衝塩類溶液(Balanced Salt Solution:BSS)を基本溶液として、種々のアミノ酸、ビタミン類及び血清等を加えて調製されたものがあげられる。
【0012】
また、細胞培養システム10は、培地を貯留した培地貯留部14、リアクタ12と培地貯留部14の間に設けられる流通経路16、流通経路16に接続される複数の医療用バッグ18、及び流通経路16から排出される液体を貯留する廃液部20を有する。なお図1中では、リアクタ12を1つ備えた細胞培養システム10を図示しているが、細胞培養システム10は、リアクタ12を複数備えた構成でもよい。
【0013】
培地貯留部14は、リアクタ12に培地を供給するために、培地を多量に貯留することができる硬質なタンクが適用される。例えば、タンクは、5L~30L程度の容積を有することが好ましく、これにより培養処理中に培地貯留部14を頻繁に交換する作業負担が軽減される。なお、培地貯留部14は、可撓性を有する医療用バッグ等を適用してもよい。
【0014】
流通経路16は、複数のチューブ22によって構成される(図1中では、培地貯留部14に接続されるチューブ22のみを図示している)。複数のチューブ22は、培地貯留部14や複数の医療用バッグ18に接続されると共に、複数のリアクタ12に接続される。細胞培養システム10は、複数のチューブ22を介して、培地貯留部14の培地及び医療用バッグ18の液体をリアクタ12に供給及び排出する。
【0015】
複数の医療用バッグ18としては、例えば、細胞を含む液体(細胞液)を貯留した細胞液バッグ18A、洗浄液を貯留した洗浄液バッグ18B、剥離液を貯留した剥離液バッグ18C、培養した細胞を回収する図示しない回収バッグがあげられる。洗浄液は、リアクタ12及び流通経路16のプライミング時に使用する液体である。この洗浄液としては、例えば、PBS(Phosphate Buffered Salts)、TBS(Tris-Buffered Saline)等の緩衝液、又は生理食塩水があげられる。また剥離液は、培養処理により培養された細胞を剥離する液体である。剥離液としては、例えば、トリプシン、EDTA液を適用することができる。
【0016】
細胞培養システム10の構築時に、流通経路16は、流路制御機構部24を通るようにセットされる。流路制御機構部24は、流通経路16の一部を収容する筐体26を備える。また流路制御機構部24は、所定のチューブ22を開閉するクランプ28と、チューブ22内の液体を流通させるポンプ30と、クランプ28及びポンプ30の動作を制御する制御部32(処理部)と、を筐体26内に備える(図2参照)。すなわち筐体26内で、流路制御機構部24は、クランプ28の開閉により液体が流通するチューブ22を選択的に切り替えつつ、ポンプ30の動作下に流通経路16の液体を流通させる。
【0017】
流通経路16は、複数のチューブ22の他に、液体の流路を複数有すると共に幾つかのチューブ22が接続されるカセット(不図示)を備えていてもよい。この場合、カセットは、筐体26内にセットされることに伴い流路制御機構部24のクランプ28に配置され、クランプ28によりカセット内の流路の開閉や切替等がなされる。
【0018】
流通経路16に接続されるリアクタ12は、培養面積を広くとるために、例えば、中空糸34を有する構造を適用することが好ましい。具体的には、リアクタ12は、複数(例えば、1万本以上)の中空糸34と、複数の中空糸34を軸方向に沿って収容するケース36と、を備える。
【0019】
各中空糸34は、延在方向に沿って貫通する図示しない内腔を有し、内腔を構成する内周面に細胞が播種される。また各中空糸34は、外側と内腔との間を連通する図示しない細孔を複数有し、各細孔は、細胞やタンパク質を透過せず、溶液や低分子の物質を透過する。このため、中空糸34の内周面の細胞には、細孔を介して培地、所定のガス成分等が供給される。以下、主に中空糸34の内腔に液体を流通する構成をIC(intra capillary)ともいい、主に中空糸34の外側に液体を流通する構成をEC(extra capillary)ともいう。
【0020】
中空糸34を構成する材料は、特に限定されず、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン樹脂、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアクリロニトリル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、セルロースアセテート、セルローストリアセテート、再生セルロース等の高分子材料があげられる。
【0021】
ケース36は、円筒状に形成され、また硬質性を有している。ケース36は、複数のチューブ22に接続される第1IC端子36a、第2IC端子36b、第1EC端子36c、第2EC端子36dを備える。第1IC端子36aは、ケース36の軸方向一端に設けられ、中空糸34の内腔に連通している。第2IC端子36bは、ケース36の軸方向他端に設けられ、中空糸34の内腔に連通している。第1EC端子36cは、ケース36の側面の他端寄りに設けられ、ケース36内において中空糸34の外側の空間に連通している。第2EC端子36dは、ケース36の側面の一端寄りに設けられ、ケース36内において中空糸34の外側の空間に連通している。
【0022】
以下、図2を参照して、リアクタ12と培地貯留部14との間の流通経路16、及び流路制御機構部24の構成について具体的に説明していく。
【0023】
流通経路16は、培地貯留部14に接続される培地送出ルート40と、培地送出ルート40から分岐したIC用ルート42(内部用ルート)及びEC用ルート44(外部用ルート)とを有する。IC用ルート42は、中空糸34の内腔に液体を供給する経路である。EC用ルート44は、中空糸34の外側のケース36内に液体を供給する経路である。
【0024】
培地送出ルート40には、培地貯留部14からの培地の供給を開放又は遮断する第1クランプ40aが設けられている。
【0025】
IC用ルート42は、リアクタ12との間で液体を循環可能なIC循環回路42aと、培地送出ルート40からIC循環回路42aまで液体を流通可能なIC供給回路42bと、を有する。IC循環回路42aには、液体を循環させるためのIC循環用ポンプ30aが設けられている。IC供給回路42bには、培地送出ルート40からIC循環回路42aに液体を流通させるIC供給用ポンプ30bが設けられている。また図示は省略するが、IC供給回路42bには、培地貯留部14の他に、複数のチューブ22を介して複数の医療用バッグ18(細胞液バッグ18A、洗浄液バッグ18B、剥離液バッグ18C)が接続されている。また、医療用バッグ18は、用途に応じてバッグを無菌的に接合する無菌接合装置を用いて回収バッグ等と交換してもよい。
【0026】
IC循環回路42aは、リアクタ12の第1IC端子36a及び第2IC端子36bに接続される。従って、IC循環回路42aを循環する液体が、IC循環用ポンプ30aの動作下に中空糸34の内腔を流通する。IC循環回路42aにおいてリアクタ12よりも下流側には、IC廃液回路46が接続されている。IC廃液回路46には、IC循環回路42aからの液体の排出を開放又は遮断する第2クランプ46aが設けられている。IC廃液回路46は合流ルート50に接続され、IC廃液回路46を流通した培地が、合流ルート50のチューブ22を介して廃液部20に排出される。
【0027】
そして、IC循環回路42aは、リアクタ12よりも液体の流通方向下流側(リアクタ12とIC廃液回路46の間)に光学測定部54を有している。光学測定部54は、中空糸34の内腔から流出する培地に対して光学測定を行い、測定結果を制御部32に送信する。制御部32は、測定結果に基づき培地に含まれる細胞数を算出することで、培養中の細胞数を管理する。光学測定部54の具体的な構成については後に詳述する。
【0028】
一方、EC用ルート44は、リアクタ12との間で液体を循環可能なEC循環回路44aと、培地送出ルート40からEC循環回路44aまで液体を流通可能なEC供給回路44bとを有する。EC循環回路44aには、液体を循環させるEC循環用ポンプ30cが設けられている。EC供給回路44bには、培地送出ルート40からEC循環回路44aに液体を流通させるEC供給用ポンプ30dが設けられている。また図示は省略するが、EC供給回路44bには、培地貯留部14の他に、複数のチューブ22を介して複数の医療用バッグ18(洗浄液バッグ18B、剥離液バッグ18C)が接続されている。
【0029】
EC循環回路44aは、リアクタ12の第1EC端子36c及び第2EC端子36dに接続される。従って、EC循環回路44aを循環する液体が、EC循環用ポンプ30cの動作下にケース36内を流通する。EC循環回路44aにおいてリアクタ12よりも上流側には、ガス交換器52が設けられている。ガス交換器52は、培地に混入している二酸化炭素を排出する一方で、所定のガス成分(窒素N2:75%、酸素O2:20%、二酸化炭素CO2:5%)を培地に混合する。ガス交換器52の構造は、特に限定されず、例えば、リアクタ12と同様に、複数の中空糸をケース内に備えたものを適用することができる。
【0030】
EC循環回路44aにおいてリアクタ12よりも下流側には、EC廃液回路48が接続されている。EC廃液回路48には、EC循環回路44aからの液体の排出を開放又は遮断する第3クランプ48aが設けられている。EC廃液回路48は合流ルート50に接続され、EC廃液回路48を流通した培地が、合流ルート50のチューブ22を介して廃液部20に排出される。
【0031】
また上記したように、リアクタ12が複数(5つ)設けられる場合に、細胞培養システム10は、各リアクタ12に対応してIC循環回路42a、EC循環回路44aを複数備えた構成とすればよい。つまり、IC供給用ポンプ30bとIC循環回路42aとの間の分岐点X、及びEC供給用ポンプ30dとEC循環回路44aとの間の分岐点Yに、別のリアクタ12に液体を循環させる図示しない別のIC循環回路、EC循環回路が並列接続される。
【0032】
次に、IC循環回路42aに設けられる光学測定部54について説明する。光学測定部54は、リアクタ12の下流側で培地に含まれる細胞数を、濁度法により測定する。また光学測定部54は、第1測定光L1の出射に基づき光学測定を行う第1測定ユニット56と、第2測定光L2の出射に基づき光学測定を行う第2測定ユニット58と、を培地の流通方向の異なる位置に有する。
【0033】
そして、流通経路16は、光学測定部54の構成として、第1測定ユニット56及び第2測定ユニット58に配置される測定用容器60を有する。一方、流路制御機構部24は、光学測定部54の構成として、第1測定ユニット56に設けられる第1測定構造70と、第2測定ユニット58に設けられる第2測定構造71とを備える。
【0034】
図3A図3Cに示すように、測定用容器60は、IC循環回路42aを構成するチューブ22(上流側チューブ22a、下流側チューブ22b)に接続される。測定用容器60は、直線状に延在し、且つチューブ22よりも太い角筒状に形成されている。測定用容器60の内部には、培地が流通する通路62が設けられている。通路62は、測定用容器60の軸方向(図3Aの矢印A方向)に沿って延在し、上流側チューブ22a内の流路及び下流側チューブ22b内の流路に連通している。
【0035】
測定用容器60は、第1測定光L1及び第2測定光L2が透過するために無色透明又は半透明に形成されている。測定用容器60は、可撓性を有するチューブ22よりも硬質(高い弾性率)に形成され、光学測定部54へ配置した際に弾性変形しないように構成されている。なお、測定用容器60は、第1測定構造70や第2測定構造71に対して密着するように弾性変形可能な軟質性を有してもよい。この場合、測定用容器60の形状は、角筒状に限定されず、例えば円筒状や円盤状等でもよい。
【0036】
測定用容器60は、軸方向に沿って複数の測定用セル(第1セル64、第2セル66)を有する。第1セル64は、測定用容器60の軸方向略中間位置から一端側(矢印A1側)までの範囲に形成されており、第2セル66は、測定用容器60の軸方向略中間位置から他端側(矢印A2側)までの範囲に形成されている。第1セル64の軸方向長さと第2セル66の軸方向長さとは、互いに同程度に設定されている。
【0037】
第1セル64は、比較的大きな流路断面積及び容積を持つように形成される。第1セル64は、測定用容器60の軸方向に直交する断面視で略正方形状を呈し、図3Bの矢印B方向(厚さ方向)に沿った厚みT1と、図3Bの矢印C方向(高さ方向)に沿った高さH1とが略等しい。
【0038】
第1セル64の容器形状に応じて、第1セル64内には、厚さ方向及び高さ方向に広い第1空間64aが形成されている。第1空間64aは、測定用容器60の通路62の一部を構成する。
【0039】
第1セル64の一端側は、上流側チューブ22aが接続される円筒状の第1セル側接続部65aと、立方形状の本体部分から第1セル側接続部65a(上流側チューブ22a)に向かって徐々に細くなる第1セル側テーパ部65b(端部側テーパ部)と、を有する。第1セル64の第1空間64aも、第1セル側テーパ部65bの内側においてテーパ状を呈している。
【0040】
第2セル66は、第1セル64よりも小さな流路断面積及び容積を持つように形成される。例えば、第2セル66の流路断面積は、第1セル64の流路断面積の1/3~2/3程度の範囲に設定される。第2セル66は、測定用容器60の軸方向に直交する断面視で、略長方形状を呈し、図3Cの矢印B方向に沿った厚みT2は、第1セル64の厚みT1よりも短い一方で、図3Cの矢印C方向に沿った高さH2は、第1セル64の高さH1に一致している。換言すれば、第2セル66の断面形状は、第1セル64の断面形状に対して厚さ方向だけが小さくなっている。
【0041】
第2セル66の容器形状に応じて、第2セル66内には、厚さ方向に短い一方で高さ方向に広い第2空間66aが設けられている。第2空間66aは、測定用容器60の通路62の一部を構成する。
【0042】
第2セル66の他端側は、下流側チューブ22bが接続される円筒状の第2セル側接続部67aと、直方形状の本体部分から第2セル側接続部67a(下流側チューブ22b)に向かって徐々に細くなる第2セル側テーパ部67b(端部側テーパ部)と、を有する。第2セル66の第2空間66aも、第2セル側テーパ部67bの内側においてテーパ状を呈している。
【0043】
第1セル64と第2セル66とは、測定用容器60の軸方向中間位置の流路移行部68を介して相互に連続している。流路移行部68を構成する測定用容器60の厚さ方向の一対の傾斜壁部69は、第1セル64から第2セル66に向かって相互に近づくように傾斜している。つまり流路移行部68の厚み(不図示)は、一対の第1セル64の厚みT1と第2セル66の厚みT2との間で徐々に変化している。なお、流路移行部68の高さ(不図示)は、第1セル64の高さH1及び第2セル66の高さH2に一致している。
【0044】
流路移行部68の形状に応じて、流路移行部68の内部には、第1セル64側から第2セル66側に向かって幅狭となる移行空間68aが設けられている。移行空間68aは、測定用容器60の通路62の一部を構成する。
【0045】
上記の測定用容器60に対応して第1測定構造70及び第2測定構造71は、図4に示すように、測定用容器60を厚さ方向に挟み込む一連のホルダ72を備える。ホルダ72は、矢印A方向に沿って延在する配置空間72aを有する。配置空間72aは、測定用容器60(又は測定用容器60に接続されたチューブ22)を露出するために、ホルダ72の矢印A方向の両端において開放されている。
【0046】
ホルダ72は、第1測定構造70を構成し第1セル64を保持する一対の第1保持壁74と、第2測定構造71を構成し第2セル66を保持する一対の第2保持壁76とを有する。
【0047】
一対の第1保持壁74は、第1測定構造70において配置空間72aの厚さ方向に直立する壁部である。一対の第1保持壁74間の間隔は、第1セル64の厚みT1に一致している。このため、一対の第1保持壁74は、第1セル64の配置状態で、適度な摩擦力で第1セル64を挟持する。第1測定ユニット56は、一対の第1保持壁74と、当該一対の第1保持壁74間に配置された第1セル64とにより、培地が流通すると共に第1測定光L1が透過する第1光路部75を形成している。
【0048】
一対の第2保持壁76は、第2測定構造71において配置空間72aの厚さ方向に直立する壁部である。一対の第2保持壁76間の間隔は、第2セル66の厚みT2に一致している。このため、一対の第2保持壁76は、第2セル66の配置状態で、適度な摩擦力で第2セル66を挟持する。第2測定ユニット58は、一対の第2保持壁76と、当該一対の第2保持壁76に配置された第2セル66とにより、培地が流通すると共に第2測定光L2が透過する第2光路部77を形成している。
【0049】
そして、第1測定構造70は、第1セル64に向けて第1測定光L1を出射する第1発光部78と、第1セル64からの光を受光する第1受光部80とを有する。
【0050】
第1発光部78は、一対の第1保持壁74のうち一方に設けられ、図示しないレンズを介して配置空間72aを臨んでいる。第1発光部78は、例えば、660nm以上、好ましくは860nm以上の波長からなる第1測定光L1を出射する。第1発光部78は、LED、有機EL、無機EL、LD等の1以上の発光素子により構成される。
【0051】
第1受光部80は、透過光を受光する1以上の透過光用素子80aと、散乱光を受光する1以上の散乱光用素子80bとを含んで構成される。透過光用素子80aは、配置空間72aを挟んでちょうど第1発光部78に対向する第1保持壁74に設けられる。散乱光用素子80bは、例えば、第1発光部78と同側の第1保持壁74に設けられる。透過光用素子80a及び散乱光用素子80bは、PD、CMOS等により構成される。
【0052】
同様に、第2測定構造71は、第2セル66に向けて第2測定光L2を出射する第2発光部82と、第2セル66からの光を受光する第2受光部84とを有する。
【0053】
第2発光部82も、第1発光部78と同様の発光素子により構成されて、一対の第2保持壁76のうち一方に設けられ、図示しないレンズを介して配置空間72aを臨んでいる。第2発光部82も、例えば、660nm以上、好ましくは860nm以上の波長からなる第2測定光L2を出射する。第2測定光L2の波長は、第1測定光L1の波長と同じでもよく、異なってもよい。
【0054】
第2受光部84も、第1受光部80と同様に、透過光を受光する1以上の透過光用素子84aと、散乱光を受光する1以上の散乱光用素子84bとを含んで構成される。透過光用素子84aは、配置空間72aを挟んでちょうど第2発光部82に対向する第2保持壁76に設けられる。散乱光用素子84bは、例えば、第2発光部82と同側の第2保持壁76に設けられる。
【0055】
すなわち、光学測定部54は、第1セル64及び第2セル66の各透過光(培地に含まれる細胞により吸光された光)と、第1セル64及び第2セル66の各散乱光(培地に含まれる細胞が反射した光)とを受光して測定を行う透過光散乱光方式を採用している。なお、光学測定部54は、透過光散乱光方式に限らず、第1セル64及び第2セル66の各透過光のみを受光して測定を行う透過光方式を採用してもよい。又は、第1セル64及び第2セル66の各散乱光のみを受光して測定を行う散乱光方式を採用してもよい。
【0056】
以上の構成からなる第1測定構造70は、配置状態の第1セル64に対して第1測定光L1を出射し、第1セル64の透過光及び散乱光を受光する。従って、第1光路部75は、一対の第1保持壁74の間隔により第1測定光L1の進行方向に沿った第1光路長OP1が規定される。この第1光路長OP1は、一対の第1保持壁74に挟持された第1セル64の厚みT1に一致している。
【0057】
また第2測定構造71は、配置状態の第2セル66に対して第2測定光L2を出射し、第2セル66の透過光及び散乱光を受光する。従って、第2光路部77は、一対の第2保持壁76の間隔により第2測定光L2の進行方向に沿った第2光路長OP2が規定される。この第2光路長OP2は、一対の第2保持壁76に挟持された第2セル66の厚みT2に一致している。
【0058】
そして、光学測定部54は、第2光路部77の第2光路長OP2よりも第1光路部75の第1光路長OP1のほうが長く設定されている(OP1>OP2)。第1光路長OP1の長さは、例えば、6mm~20mmの範囲に設定されるとよい。第2光路長OP2の長さは、例えば、0.5mm~3mmの範囲に設定されるとよい。換言すれば、第1光路長OP1の長さは、2倍~40倍の範囲であることが好ましい。
【0059】
そして、第1測定ユニット56と第2測定ユニット58は、第1測定光L1の透過光又は散乱光を受光する第1受光部80の測定範囲と、第2測定光L2の透過光又は散乱光を受光する第2受光部84の測定範囲とが相互に異なるように設定される。すなわち、長い第1光路長OP1に設けられる第1受光部80は、培地に含まれる細胞が少ない状態(細胞数が少ない:低濃度の状態:低濁度の状態)に対応している。例えば第1受光部80の細胞数の測定範囲は105~107cells/mL程度に設定される。一方、短い第2光路長OP2に設けられる第2受光部84は、培地に含まれる細胞が多い状態(細胞数が多い:高濃度の状態:高濁度の状態)に対応している。例えば第2受光部84の細胞数の測定範囲は、106~108cells/mL程度に設定される。そして、細胞培養システム10は、第1受光部80の第1測定結果を、細胞数が少ない低濃度時に使用し、第2受光部84の第2測定結果を、細胞数が多い高濃度時に使用する。これにより、光学測定部54全体としては細胞数の測定範囲が充分に広くなる。なお、光学測定部54の測定ユニットは、3以上設けられてもよく、この場合、測定範囲が段階的に異なるように設定されればよい。
【0060】
また光学測定部54において、第1発光部78の第1測定光L1と、第2発光部82の第2測定光L2とは、相互に異なる出射状態(強度、波長等)で出射されてもよい。具体的には、第1発光部78は、低濃度を測定するために、第1測定光L1を弱い強度で出射する。これにより第1測定ユニット56は、適切な強度の第1測定光L1を培地及び細胞に照射することができる。一方、第2発光部82は、高濃度を測定するために、第1測定光L1よりも強い強度で第2測定光L2を出射する。これにより第2測定ユニット58は、適切な強度の第2測定光L2を培地及び細胞に照射することができる。
【0061】
流路制御機構部24の制御部32は、1以上のプロセッサ、メモリ、入出力インタフェースを有するコンピュータにより構成される。制御部32は、流路制御機構部24に設けられた操作部90及び表示部92に接続されており、ユーザによる操作部90の操作に基づき流路制御機構部24の動作内容を設定し、また動作内容やエラー等を表示部92に表示する。
【0062】
そして、制御部32は、光学測定部54を定期的に制御して光学測定部54の測定結果を受信することで、リアクタ12内で培養している細胞数を算出する。例えば、透過光散乱光方式による光学測定において、制御部32は、透過光用素子80a、84aの検出値と、散乱光用素子80b、84bの検出値との比率に基づき培地の濁度を算出する。さらに制御部32は、培地の濁度とリアクタ12の細胞数の関係を示す図示しないマップ情報又は関数を予め保有しており、算出された培地の濁度からリアクタ12の細胞数を算出する。制御部32は、算出した細胞数を表示部92に表示する。
【0063】
細胞数の算出時に、制御部32は、第1測定ユニット56の第1測定結果、第2測定ユニット58の第2測定結果を選択的に使用する。例えば細胞培養の開始時には、培地に含まれる細胞数が少なく、培地が低濃度(低濁度)となっている。このため、制御部32は、低濃度の測定範囲を有する第1測定ユニット56の第1測定結果に基づき細胞数を算出する。この際、制御部32は、第2測定ユニット58による測定を実施してもよく、実施しなくてもよい。第2測定ユニット58により測定した場合に、制御部32は、その第2測定結果を用いて第1測定結果を補正してもよい。
【0064】
細胞培養中に細胞数が増えてくると、第1測定ユニット56の測定範囲では細胞数の測定誤差が大きくなる。そのため制御部32は、予め設定された図示しない切替閾値以上に細胞数(濁度)が達したことを判定すると、第1測定ユニット56の第1測定結果の使用から、第2測定ユニット58の第2測定結果の使用に切り替える。なお、第1測定結果と第2測定結果の切り替えは、算出した細胞数を用いることに限定されず、例えば、培養期間が所定期間経過したことに基づき実施してもよい。この所定期間は、培地の供給量や供給速度等に応じて変動する構成でもよい。
【0065】
切替後、制御部32は、高濃度(高濁度)の測定範囲を有する第2測定ユニット58の第2測定結果に基づき細胞数を算出する。この際、制御部32は、第1測定ユニット56による測定を実施してもよく、実施しなくてもよい。第1測定ユニット56により測定した場合に、制御部32は、その第1測定結果を用いて第2測定結果を補正してもよい。
【0066】
本実施形態に係る細胞培養システム10は、基本的には以上のように構成されるものであり、以下その動作について説明する。
【0067】
細胞培養システム10の作業者は、図1に示すように、培養処理の実施前に、培地貯留部14、複数の医療用バッグ18、廃液部20を流路制御機構部24の筐体26の外側近傍位置に配置する。また作業者は、リアクタ12及び流通経路16を構成する複数のチューブ22の一部を筐体26内に適宜セットする。これにより、培地貯留部14とリアクタ12の間には図2に示す流通経路16が構築される。また細胞培養システム10は、図3A及び図4に示すように、セット時に、流路制御機構部24のホルダ72に測定用容器60が保持される。
【0068】
上記のセット後、細胞培養システム10は、培養処理においてプライミング工程、培地置き換え工程、播種工程、培養工程、剥離工程及び回収工程を順次実施する。プライミング工程では、洗浄液バッグ18Bに貯留された洗浄液を、流通経路16を通してリアクタ12に供給し、リアクタ12及び流通経路16から空気を抜く。培地置き換え工程では、プライミングされた流通経路16を通して培地貯留部14からリアクタ12に培地を供給し、中空糸34の内外を培地で満たす。播種工程では、細胞液バッグ18Aに貯留された細胞液を、IC用ルート42を通してリアクタ12の中空糸34内に供給し、中空糸34の内周面に細胞を播種する。
【0069】
そして図2に示すように、細胞培養システム10は、培養工程において、IC用ルート42及びEC用ルート44の両方を通して、培地貯留部14から中空糸34内に培地を供給し、中空糸34内で細胞を培養する。この際、ガス交換器52により、培地には酸素が供給されると共に、培地から二酸化炭素が排出される。培養工程は、他の工程に比べて長期間(例えば数日間)実施されることで、中空糸34の内周面上に細胞が徐々に増殖していく。なお、細胞培養システム10は、IC供給回路42bを経由せずに、EC用ルート44を介してリアクタ12に培地を供給する構成でもよい。EC用ルート44を流通してリアクタ12に流入した培地は、中空糸34の外側から内側に染み出ることで細胞に供給される。
【0070】
培養工程において、測定用容器60の通路62には、上流側チューブ22aから培地が流入する。この培地は、徐々に流路断面積が大きくなる第1セル側テーパ部65bを通って、第1セル64の本体部分に移動する。第1測定ユニット56は、この第1セル64の本体部分において光学測定を実施する。
【0071】
さらに培地は、第1セル64から流路移行部68の移行空間68aに向かい、移行空間68aにおいて緩やかに集まっていき、移行空間68aから第2セル66の本体部分に移動する。第2測定ユニット58は、この第2セル66の本体部分において光学測定を実施する。そして、培地は、第2セル66から、徐々に流路断面積が小さくなる第2セル側テーパ部67bを通って下流側チューブ22bに流出する。
【0072】
すなわち、測定用容器60は、流路断面積が段階的に小さくなる第1セル64及び第2セル66を有するが、端部側テーパ部(第1セル側テーパ部65b、第2セル側テーパ部67b)や流路移行部68によって、乱流を抑えて培地を流通させる。光学測定部54は、第1セル64の第1空間64a及び第2セル66の第2空間66aにおいて層流となっている培地に光学測定を行なうことで、測定精度が高められる。
【0073】
流路制御機構部24の制御部32は、培養工程及び剥離工程において、図5に示す処理フローに沿って光学測定部54の測定に基づき培養状態の監視及び制御を行う。詳細には、制御部32は、培養工程の開始時に、低濃度の培地を測定するために、まず第1測定ユニット56の第1発光部78から第1測定光L1を出射する(ステップS1)。これにより第1測定光L1は、第1光路部75の第1光路長OP1を進行し、この際に第1セル64内の細胞に当たり、吸収又は散乱する。
【0074】
そのため、第1測定ユニット56の第1受光部80は、第1セル64の透過光及び散乱光を受光して、その検出値である第1測定結果を送信する。制御部32は、この第1測定ユニット56の第1測定結果を受信する(ステップS2)。そして受信した第1測定結果に基づき、制御部32は、リアクタ12内の細胞数を算出し、算出した細胞数を表示部92に表示する(ステップS3)。作業者は、表示部92に表示された細胞数を確認することで、細胞培養の状態を認識することが可能となる。
【0075】
また、制御部32は、算出した細胞数と、保有している切替閾値を比較して、第1測定ユニット56の測定から第2測定ユニット58の測定に切り替えるか否かを判定する(ステップS4)。細胞数が切替閾値を下回っている場合にはステップS1に戻り、同様の処理フローを継続する。一方、細胞数が切替閾値以上となった場合にはステップS5に進む。
【0076】
ステップS5において、制御部32は、高濃度の培地を測定するために、まず第2測定ユニット58の第2発光部82から第2測定光L2を出射する。これにより第2測定光L2は、第2光路部77の第2光路長OP2を進行し、この際に第2セル66内の細胞に当たり、吸収又は散乱する。
【0077】
そのため、第2測定ユニット58の第2受光部84は、第2セル66の透過光及び散乱光を受光して、その検出値である第2測定結果を送信し、制御部32はこの第2測定結果を受信する(ステップS6)。制御部32は、この第2測定結果に基づきリアクタ12内の細胞数を算出し、算出した細胞数を表示部92に表示する(ステップS7)。
【0078】
さらに、制御部32は、算出した細胞数と、保有している回収値とを比較して、培養工程を終了するか否かを判定する(ステップS8)。細胞数が回収値を下回っている場合にはステップS5に戻り、同様の処理フローを継続する。一方、細胞数が回収値以上となった場合には培養工程を終了し(ステップS9)、剥離工程に自動的に移行する。なお、制御部32は、細胞数が回収値以上となった際に剥離工程の実施をユーザに報知し、ユーザの操作下に剥離工程を実施してもよい。
【0079】
制御部32は、剥離工程において、リアクタ12への培地の流通を一時的に停止して、剥離液バッグ18Cに貯留された剥離液を、IC用ルート42を介してリアクタ12の中空糸34内に導き、増殖した細胞を剥離する(ステップS10)。さらに制御部32は、剥離工程後の回収工程においてIC用ルート42に培地を供給することで、剥離工程において剥離した細胞をリアクタ12から流出させて図示しない回収バッグに移動させる。
【0080】
以上の処理フローによって、細胞培養システム10は、リアクタ12において培養する細胞の数を、リアルタイム且つ精度よく監視することができる。従って、細胞培養システム10は、リアクタ12から細胞を回収すべきタイミングを適切に捉えることができ、目的の細胞数を回収バッグに良好に収容することが可能となる。
【0081】
本発明は、上記の実施形態に限定されず、発明の要旨に沿って種々の改変が可能である。例えば、上記の実施形態では、測定用容器60が第1セル64、第2セル66の順に培地を流通する構成であったが、培地の流通方向は、第2セル66、第1セル64の順であってもよい。また例えば、上記の実施形態では、第1測定ユニット56と第2測定ユニット58が互いに隣接する位置に設けられていたが、第1測定ユニット56と第2測定ユニット58は相互に離れた位置にあってもよい。従って、測定用容器60の第1セル64と第2セル66も、一連に連続した構成でなく、例えばチューブ22を介して相互に離れた位置にあってもよい。
【0082】
さらに、図6に示す変形例のように、光学測定部54Aの第1測定ユニット56及び第2測定ユニット58は、第1測定光L1及び第2測定光L2を出射する発光部100を共有した構成でもよい。なおこの構成でも、第1測定ユニット56の第1受光部80、第2測定ユニット58の第2受光部84は別々に設けられる。そのため、発光部100から出射した測定光は、第1測定ユニット56の第1測定光L1として第1受光部80に受光されると共に、第2測定ユニット58の第2測定光L2として第2受光部84に受光される。
【0083】
光学測定部54Aは、発光部100から配置空間72aに至る第1光路102、第2光路104を適宜調整することで、第1測定ユニット56の第1測定光L1の光強度と、第2測定ユニット58の第2測定光L2の光強度とを変えてもよい。例えば図6中に点線で示すように、第1光路102に光強度を低減するレンズ102aを設けることで、第2測定光L2の光強度よりも第1測定光L1の光強度を小さくしてもよい。
【0084】
上記の実施形態から把握し得る技術的思想及び効果について以下に記載する。
【0085】
本発明の一態様は、培地の流通に基づき細胞を培養するリアクタ12と、リアクタ12に対して培地を流入及び流出する流通経路16と、流通経路16においてリアクタ12よりも培地の流通方向下流側に設けられ、培地に測定光を照射して培地の状態を光学測定する光学測定部54と、光学測定部54、54Aの測定結果を処理する処理部(制御部32)と、を備え、光学測定部54、54Aは、培地の流通方向において互いに異なる位置に配置された第1測定ユニット56及び第2測定ユニット58を有し、第1測定ユニット56は、培地が流通すると共に第1測定光L1が透過する第1光路部75を有し、第2測定ユニット58は、培地が流通すると共に第2測定光L2が透過する第2光路部77を有し、第1光路部75の第1光路長OP1は、第2光路部77の第2光路長OP2よりも長い。
【0086】
上記によれば、細胞培養システム10は、流通経路16においてリアクタ12よりも培地の流通方向下流側に設けられた光学測定部54、54Aにより、無菌性を確保した状態でリアクタ12の細胞数を連続的に測定することが可能となる。また、光学測定部54、54Aは、第1光路部75の第1光路長OP1が、第2光路部77の第2光路長OP2よりも長いことで、第1測定ユニット56の細胞数の測定範囲と第2測定ユニット58の細胞数の測定範囲を異ならせることができる。従って、第1測定ユニット56及び第2測定ユニット58の各々は、狭い測定範囲の中で精度の高い測定を行うことが可能となり、光学測定部54、54Aは、全体として充分な測定精度を得ることができる。
【0087】
また、第1光路部75に配置され培地が流通する第1セル64と、第2光路部77に配置され培地が流通する第2セル66と、を備え、流通経路16は、第1セル64及び第2セル66に接続されるチューブ22を有し、第1セル64及び第2セル66は、チューブ22よりも硬質に構成される。これら硬質な第1セル64及び第2セル66によって、細胞培養システム10は、第1光路長OP1及び第2光路長OP2の培地の流路を安定的に形成することができる。
【0088】
また、第1セル64と第2セル66とは培地の流通方向に沿って相互に連続した1つの容器(測定用容器60)を構成している。これにより、細胞培養システム10の作業者は、第1セル64及び第2セル66を装置に簡単にセットすることができる。
【0089】
また、容器(測定用容器60)は、第1セル64と第2セル66の間に、第1セル64から第2セル66に向かって培地の流路断面積を徐々に狭める流路移行部68を有する。これにより、細胞培養システム10は、第1セル64と第2セル66が連続した構成でも、第1セル64と第2セル66間の培地の流通状態を安定化させることができる。
【0090】
また、チューブ22が接続される第1セル64の端部及び第2セル66の端部は、チューブ22に向かって流路断面積が徐々に小さくなる端部側テーパ部(第1セル側テーパ部65b、第2セル側テーパ部67b)を有する。これにより、第1セル64及び第2セル66は、培地が流入/流出する際に、培地の乱流を抑制することが可能となる。よって、細胞培養システム10は、第1セル64及び第2セル66に対する光学測定の精度を一層高めることができる。
【0091】
また、処理部(制御部32)は、細胞の培養を開始した際に、第1測定ユニット56の第1測定結果を使用してリアクタ12の細胞数を算出し、算出した細胞数が所定の切替閾値以上になった場合に、第2測定ユニット58の第2測定結果を使用してリアクタ12の細胞数を算出する。これにより、細胞培養システム10は、リアクタ12の細胞数の変化を良好に追うことができる。
【0092】
また、処理部(制御部32)は、第2測定結果に基づき細胞数が所定の回収値に達した場合に、リアクタ12への培地の流通を一時的に停止してリアクタ12の細胞を剥離するための剥離液をリアクタ12に供給する。これにより、細胞培養システム10は、リアクタ12で培養している細胞が目的の細胞数に達した際に、リアクタ12の細胞をスムーズに回収することができる。
【0093】
また、第1測定ユニット56は、第1測定光L1の透過光を受光すると共に、培地にて第1測定光L1が散乱した散乱光を受光する第1受光部80を備え、第2測定ユニット58は、第2測定光L2の透過光を受光すると共に、培地にて第2測定光L2が散乱した散乱光を受光する第2受光部84を備える。これにより、細胞培養システム10は、透過光散乱光方式による光学測定を行うことができ、一層精度が高い第1測定結果及び第2測定結果を得るとこができる。
【0094】
また、第1測定ユニット56及び第2測定ユニット58は、第1測定光L1及び第2測定光L2を出射する発光部100を共有している。このように発光部100を共有することで、光学測定部54Aは、構造の簡単化及び低コスト化を図ることができる。
【0095】
また、第1測定ユニット56は、第2測定ユニット58が出射する第2測定光L2の光強度よりも弱い光強度で第1測定光L1を出射する。これにより、細胞培養システム10は、第1測定ユニット56において低濃度の培地を一層精度よく測定し、また第2測定ユニット58において高濃度の培地を一層精度よく測定することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【国際調査報告】