(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-10
(54)【発明の名称】グルカゴン受容体拮抗剤およびその用途
(51)【国際特許分類】
C07D 495/04 20060101AFI20231227BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20231227BHJP
A61P 3/08 20060101ALI20231227BHJP
A61K 31/4365 20060101ALI20231227BHJP
【FI】
C07D495/04 105A
C07D495/04 CSP
A61P3/10
A61P3/08
A61K31/4365
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023535773
(86)(22)【出願日】2022-02-17
(85)【翻訳文提出日】2023-06-12
(86)【国際出願番号】 CN2022076637
(87)【国際公開番号】W WO2022174788
(87)【国際公開日】2022-08-25
(31)【優先権主張番号】202110194113.X
(32)【優先日】2021-02-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520500794
【氏名又は名称】▲蘭▼州大学
(71)【出願人】
【識別番号】517392436
【氏名又は名称】▲騰▼▲訊▼科技(深▲セン▼)有限公司
【氏名又は名称原語表記】TENCENT TECHNOLOGY (SHENZHEN) COMPANY LIMITED
【住所又は居所原語表記】35/F,Tencent Building,Kejizhongyi Road,Midwest District of Hi-tech Park,Nanshan District, Shenzhen,Guangdong 518057,CHINA
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100150197
【氏名又は名称】松尾 直樹
(72)【発明者】
【氏名】白 ▲チ▼峰
(72)【発明者】
【氏名】徐 ▲挺▼洋
(72)【発明者】
【氏名】▲馮▼ 莉雅
(72)【発明者】
【氏名】▲劉▼ ▲シュオ▼
(72)【発明者】
【氏名】黄 俊洲
(72)【発明者】
【氏名】▲劉▼ ▲フアン▼香
(72)【発明者】
【氏名】姚 小▲軍▼
【テーマコード(参考)】
4C071
4C086
【Fターム(参考)】
4C071AA01
4C071AA07
4C071BB01
4C071CC01
4C071CC21
4C071DD12
4C071DD15
4C071EE13
4C071FF06
4C071GG01
4C071HH04
4C071HH05
4C071HH28
4C071JJ01
4C071LL01
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086CB29
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA17
4C086MA35
4C086MA37
4C086MA52
4C086MA66
4C086NA14
4C086ZC35
4C086ZC42
(57)【要約】
本発明は、医薬技術分野に関し、化合物およびグルカゴン受容体拮抗剤としての化合物の用途を提供する。当該化合物は、化合物Aまたは化合物Aの異性体、代謝物、プロドラッグ、薬学的に許容されるエステルまたは塩を含む。本発明におけるグルカゴン受容体拮抗剤は、新たな骨格構造を有し、且つグルカゴン受容体への50%阻害濃度(IC50)が低い。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化合物であって、前記化合物は、下記構造式Aで表される化合物、その異性体、代謝物、プロドラッグ、薬学的に許容されるエステルまたは薬学的に許容される塩であり、
【化1】
式中、R1は、H、F、Cl、BrまたはIであり;
R2は、Hまたは-O-(CH
2)
m-CH
3であり、mは、0~2の整数であり;
R3は、Hまたは-S-(CH
2)
n-CH
3であり、nは、0~2の整数であり;且つ
R4およびR5は、共に
【化2】
を形成する、化合物。
【請求項2】
前記構造式AにおけるR1は、-Clである、
請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
前記構造式AにおけるR2は、-O-CH
3である、
請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
前記構造式AにおけるR3は、-S-CH
3である、
請求項1に記載の化合物。
【請求項5】
前記化合物は、下記構造式A1で表される化合物A1である、
【化3】
請求項1に記載の化合物。
【請求項6】
前記化合物は、下記構造式A2で表される化合物A2である、
【化4】
請求項1に記載の化合物。
【請求項7】
薬学的に許容される担体および請求項1~6のいずれか一項に記載の化合物を含む、医薬組成物。
【請求項8】
前記医薬組成物は、溶液剤、錠剤またはカプセルである、
請求項7に記載の医薬用組成物。
【請求項9】
前記医薬組成物は、注射または経口で投与される、
請求項8に記載の医薬用組成物。
【請求項10】
請求項1~6のいずれか一項に記載の化合物または請求項7~9のいずれか一項に記載の医薬組成物の用途であって、薬物の調製におけるグルカゴン受容体拮抗剤としての用途。
【請求項11】
前記薬物は、糖尿病、グルカゴンレベル失調症および/または高血糖症の治療に使用される、
請求項10に記載の化合物または医薬組成物の用途。
【請求項12】
前記薬物は、哺乳動物に使用される、
請求項10に記載の化合物または医薬組成物の用途。
【請求項13】
前記薬物は、ヒトに使用される
請求項12に記載の化合物または医薬組成物の用途。
【請求項14】
請求項1~6のいずれか一項によって定義された、グルカゴン受容体拮抗剤として使用される化合物。
【請求項15】
治療有効用量の請求項1~6のいずれか一項に記載の化合物または請求項7~9のいずれか一項に記載の医薬組成物を、それを必要とする個体に投与することを含む、グルカゴン代謝失調の関連疾患の治療方法または血糖値の調節方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願への相互参照)
本発明の実施例は、2021年02月20日に中国特許局に提出された、出願番号が202110194113.Xである中国特許出願の優先権を主張し、その内容の全てが参照により本願実施例に援用される。
【0002】
本発明は、医薬技術分野に関し、具体的には、グルカゴン受容体拮抗剤およびその用途に関する。
【背景技術】
【0003】
グルカゴン(glucagon)は、膵臓のランゲルハンス島α細胞から分泌される、29個のアミノ酸からなるポリペプチドホルモンであり、主に肝臓に作用し、肝臓細胞表面のグルカゴン受容体(GCGR:Glucagon receptor)と特異的に結合することにより、肝臓のグリコーゲン分解や糖新生を促進し、血糖を上昇させることによりインスリンの血糖降下作用を相殺する。グルカゴン受容体は、主に肝臓細胞表面に存在するG-タンパク共役受容体(G-protein coupled receptor)であり、主にグルカゴンとの結合により、アデニル酸シクラーゼ(AC:Adenylate cyclase)およびホスホリパーゼC(PLC、Phospholipase C)を活性化し、細胞内環状アデノシンーリン酸(cAMP、Cyclic adenosine monophosphate)濃度を上昇させ、cAMP依存性プロテインキナーゼ(PKA)を活性化する。
【0004】
グルカゴン受容体拮抗剤は、グルカゴン受容体と結合して、グルカゴンとグルカゴン受容体との結合を阻害し、グルカゴンの機能を抑制し、それにより、cAMPの応答活性を低下させて、血糖値を低下させ、血糖バランスを調整するのに有利である。
【0005】
現在、多くのグルカゴン受容体拮抗剤が報告されているが、それらのほとんどは、類似した構造を有し、候補薬物としての新規な構造を有する化合物が不足である。なお、前述した背景技術部分で開示された情報は、本発明の背景に対する理解を深めるためにのみ用いられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、新規な構造を有するグルカゴン受容体拮抗剤および当該グルカゴン受容体拮抗剤の用途を提供することである。
【0007】
本発明の他の特性および利点は、以下の詳細な説明によって明らかになり、または本発明の実践によって部分的に学習される。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様によれば、化合物を提供し、前記化合物は、下記構造式Aで表される化合物、その異性体、代謝物、プロドラッグ、薬学的に許容されるエステルまたは薬学的に許容される塩であり、
【化1】
式中、R1は、H、F、Cl、BrまたはIであり;
R2は、Hまたは-O-(CH
2)
m-CH
3であり、mは、0~2の整数であり;
R3は、Hまたは-S-(CH
2)
n-CH
3であり、nは、0~2の整数であり;且つ
R4およびR5は、共に
【化2】
を形成する。
【0009】
本発明の具体的な実施例によれば、前記化合物は、下記構造式A1またはA2で表される化合物である。
【化3】
【化4】
【0010】
本発明の一態様によれば、上記の化合物、および薬学的に許容される担体を含む、医薬組成物を提供する。
【0011】
本発明の一態様によれば、グルカゴン受容体拮抗剤として使用される薬物の調製における上記の化合物または医薬組成物の用途を提供する。
【0012】
前記薬物は、グルカゴン代謝失調の関連疾患の治療に使用される。具体的には、前記化合物は、糖尿病の治療に使用され、より具体的には、I型糖尿病および/またはII型糖尿病;グルカゴンレベル失調症;および/または高血糖症の治療に使用される。
【0013】
前記薬物は、哺乳動物、特に、ヒトに適用される。
【0014】
本発明の一態様によれば、グルカゴン受容体拮抗剤として使用される化合物を提供し、前記化合物は、前述したように定義される。
【0015】
本発明の実施形態によれば、前記化合物は、前述したように定義されたグルカゴン代謝失調の関連疾患を治療するために使用される。
【0016】
本発明の一態様によれば、グルカゴン代謝失調の関連疾患の治療方法または血糖値の調節方法を提供し、前記方法は、治療有効用量の上記の化合物または医薬組成物を、それを必要とする個体に投与することを含む。
【0017】
前記グルカゴン代謝失調の関連疾患は、糖尿病(I型糖尿病および/またはII型糖尿病);グルカゴンレベル失調症;および/または高血糖症を含む。
【0018】
前記個体は、哺乳動物、特に、ヒトである。
本発明の一態様によれば、グルカゴン受容体拮抗剤を提供し、前記グルカゴン受容体拮抗剤は、化合物Aまたは化合物Aの異性体、酸、エステル、代謝物、プロドラッグ、薬学的に許容される塩を含み;前記化合物Aの構造式は、
【化5】
であり;
式中、R1は独立して、||-H、||-F、||-Cl、||-Brまたは||-Iであり;
R2は独立して、||-Hまたは||-O-(CH
2)
m-CH
3であり、mの値は、0~2であり;
R3は独立して、||-Hまたは||-S-(CH
2)
n-CH
3であり、nの値は、0~2であり;
R4およびR5は、共に
【化6】
であり;
||は、親分子への結合点を表す。
本発明の実施形態によれば、R1は、||-Clである。
本発明の実施形態によれば、R2は、||-O-CH
3である。
本発明の実施形態によれば、R3は、||-S-CH
3である。
本発明の実施例によれば、R1は、||-Clであり、R2は、||-O-CH
3であり、R3は、||-Hであり、R4およびR5は、共に
【化7】
を形成し、即ち、
前記化合物Aが、
【化8】
である。
【0019】
本発明の実施例によれば、R1は、||-Hであり、R2は、||-Hであり、R3は、||-S-CH
3であり、R4およびR5は、共に
【化9】
を形成し、即ち、
前記化合物Aが、
【化10】
である。
【0020】
本発明の一態様によれば、糖尿病または他のグルカゴン関連代謝失調を治療する薬物の調製向けの、化合物Aの用途を提供し、前記化合物Aの構造式は、
【化11】
であり;
式中、R1は独立して、||-H、||-F、||-Cl、||-Brまたは||-Iであり;
R2は独立して、||-Hまたは||-O-(CH
2)
m-CH
3であり、mの値は、0~2であり;
R3は独立して、||-Hまたは||-S-(CH
2)
n-CH
3であり、nの値は、0~2であり;
R4およびR5は、共に
【化12】
であり;
||は、結合点を表す。
【0021】
本発明の一態様によれば、薬学的に許容される担体および上記のようなグルカゴン受容体拮抗剤を含む、医薬組成物を提供する。
【0022】
本発明のいくつかの実施形態によれば、前記医薬組成物は、溶液剤、錠剤、カプセルまたは注射液である。
【0023】
本発明のいくつかの実施形態によれば、前記医薬組成物は、注射または経口で投与される。
【0024】
本発明の一態様によれば、グルカゴン受容体を抑制する用量の上記のようなグルカゴン受容体拮抗剤を、それを必要とする個体に投与することを含む、個体のグルカゴン受容体を調節する方法を提供する。
【0025】
本発明の一態様によれば、グルカゴン受容体を抑制する用量の上記のような医薬組成物を、それを必要とする個体に投与することを含む、個体のグルカゴン受容体を調節する方法を提供する。
【0026】
本発明のいくつかの実施例において、前記個体は、哺乳動物である。
【0027】
本発明の一態様によれば、グルカゴン受容体を抑制する用量の上記のようなグルカゴン受容体拮抗剤を、それを必要とする個体に投与することを含む、個体の血糖値を調節する方法を提供する。
【0028】
本発明の一態様によれば、グルカゴン受容体を抑制する用量の上記のような医薬組成物を、それを必要とする個体に投与することを含む、個体の血糖値を調節する方法を提供する。
【0029】
本発明のいくつかの実施例において、前記個体は、哺乳動物である。
【0030】
本発明の一態様によれば、糖尿病または他のグルカゴン関連代謝失調を治療する薬物の調製向けの、上記のようなグルカゴン受容体拮抗剤の用途を提供する。
【発明の効果】
【0031】
上記の技術的解決策から分かるように、本発明の例示的な実施例におけるグルカゴン受容体拮抗剤として使用可能な化合物は、少なくとも以下の利点および肯定的な効果を有する:
【0032】
前記化合物は、新規な骨格構造を有し、且つグルカゴン受容体への50%阻害濃度が低いため、有望な候補薬物として利用できる。
【0033】
本発明において、以上の一般的な説明および後述する詳細な説明は例示的および解釈のためのものに過ぎず、本発明を限定するものではないことが理解される。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】化合物A1の
1H NMRスペクトルを示す。
【
図2】化合物A1とグルカゴン受容体との相互作用の2次元図を例示的に示す。
【
図3】化合物A2の
1H NMRスペクトルを示す。
【
図4】
図3の化合物A2とグルカゴン受容体との相互作用の2次元図を例示的に示す。
【
図5】環状アデノシンーリン酸(cAMP)に対する化合物A1および化合物A2の応答実験結果の曲線グラフである。
【
図6】本発明の一例示的な実施例における人工知能に基づく拮抗剤の予測方法のフローチャートを示す。
【
図7】本発明の別の例示的な実施例における人工知能に基づく拮抗剤の予測方法のフローチャートを示す。
【
図8】本発明の一例示的な実施例における敵対的ニューラルネットワークの生成器ネットワークの例示的な構造図を示す。
【
図9】本発明の一例示的な実施例における敵対的ニューラルネットワークの識別器ネットワークの例示的な構造図を示す。
【
図10】本発明の一例示的な実施例における敵対的ニューラルネットワークの生成器ネットワークの訓練方法のフローチャートを示す。
【
図11】本発明の別の例示的な実施例における敵対的ニューラルネットワークの生成器ネットワークの訓練方法のフローチャートを示す。
【
図12】本発明の一例示的な実施例における仮想選別方法のフローチャートを示す。
【
図13】本発明の一例示的な実施例における標的化合物に対する活性検出方法のフローチャートである。
【
図14】環状アデノシンーリン酸(cAMP)に対する表2の30個の化合物(その中、Aは、C1~C10に対応し、Bは、C11~C20に対応し、Cは、C21~C30に対応し、いずれもL-168,049を陽性対照とする)の応答実験結果の曲線グラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0035】
上記の図面は、明細書に組み込まれ、本明細書の一部を構成し、本発明に準拠した実施例を示し、明細書とともに本発明の原理を説明するために使用される。自明なこととして、上記の図面は、本発明のいくつかの実施例に過ぎず、当業者にとっては、創造的な努力なしに、これらの図面から他の図面を得ることができる。
【0036】
以下、例示的な実施形態を図面を参照してより包括的に説明する。しかしながら、例示的な実施形態は、種々の形態で実施され得、且つここで説明される例に限定されるものではないと理解され得;逆に、これらの実施形態を提供することにより、本発明をより包括的かつ完全にし、例示的な実施形態の構想を当業者に総合的に伝えるようにする。
【0037】
さらに、説明された特徴、構造または特性は、任意の適切な方式で1つまたは複数の実施例に組み合わされることができる。以下の説明では、本発明の実施例を十分に理解させるために、多くの具体的な詳細を提供する。しかしながら、当業者は、本発明の技術的解決策を、特定の詳細の1つ以上を持たずに実施することができ、または他の方法、構成要素、装置、ステップなどを採用できることが認識される。その他の場合、公知の方法、装置、実装または動作は、本発明の各態様を曖昧にしないように、詳細に図示または説明しない。
【0038】
図面に示すフローチャートは、例示的な説明に過ぎず、必ずしもすべてのコンテンツおよび動作/ステップを含む必要はなく、必ずしも記載された順で実行される必要もない。例えば、一部の動作/ステップは、分解されてもよく、一部の動作/ステップは、合併または部分的に合併してもよいため、実際の実行順序は、実際の状況に応じて変更される可能性がある。
【0039】
グルカゴンとインスリンは、膵島細胞から分泌される全く逆の効果を持つ2つのホルモンである。グルカゴンは、膵島α細胞から分泌され、インスリンは、膵島β細胞から分泌される。この2つのホルモンは、
相互作用し、互いに制限して、血糖の恒常性を維持する役割を果たす。グルカゴンの役割は、血糖を上昇させることである。例えば、インスリンの過剰分泌は、グルカゴンの分泌を減少させ、この時、血糖の低下を引き起こし;逆に、グルカゴンの過剰分泌は、インスリンの分泌を減少させ、血糖の上昇を引き起こすことができる。
【0040】
グルカゴンは、インスリンとともに血糖の正常なレベルを維持し、グルカゴンとインスリンレベルのバランスを乱すと、糖尿病やケトアシドーシスなどの様々な疾患を引き起こす可能性がある。
【0041】
グルカゴンがグルカゴン受容体と結合した後、シグナルを細胞内に変換し、cAMP-PKシステムを通じて、肝細胞のリン酸化酵素を活性化して、グリコーゲン分解を促進する。したがって、グルカゴン受容体の発現を減少させると、血糖値を調節することができる。
【0042】
本発明の実施例によるグルカゴン受容体拮抗剤は、グルカゴン受容体との特異的に結合により、グルカゴン受容体とグルカゴンとの結合を阻害し、血糖バランスを調節する。
【0043】
このため、本発明は、グルカゴン受容体拮抗剤として使用できる化合物を提供する。
【0044】
グルカゴン受容体拮抗剤として使用される化合物は、下記構造式を有する化合物A、化合物Aの異性体、代謝物、またはプロドラッグ、薬学的に許容されるエステルおよび塩から選ばれることができ、具体的には、化合物Aの構造の一般式は、
【化13】
であり、
式中、
R1は、H、F、Cl、BrまたはIであり得る。R1がHである場合、一般式のベンゼン環上のR1に置換がない。R1がF、Cl、BrまたはIである場合、一般式のベンゼン環上のR1に置換がある。本発明のいくつかの実施例において、R1がClまたはHである。
R2は、Hまたは-O-(CH
2)
m-CH
3であり、mは、0~2の整数である。R2がHである場合、一般式のベンゼン環上のR2に置換が行われていない。
mが0である場合、R2は、-O-CH
3である。mが1である場合、R2は、-O-CH
2-CH
3である。mが2である場合、R2は、-O-(CH
2)
2-CH
3である。本発明のいくつかの実施例において、R2は、Hまたは-O-CH
3である。
R3は、-Hまたは-S-(CH
2)
n-CH
3であり、nは、0~2の整数である。R3がHである場合、一般式のベンゼン環上のR3に置換がある。
mが0である場合、R3は、-S-CH
3である。mが1である場合、R3は、-S-CH
2-CH
3である。mが2である場合、R3は、-S-(CH
2)
2-CH
3である。本発明のいくつかの実施例において、R3は、Hまたは-S-CH
3である。
R4とR5は、共に、
【化14】
を形成する。
化合物Aの異性体は、光学異性体および幾何異性体を含む。
前記光学異性体とは、具体的に、R4とR5が、共にキラル置換基
【化15】
を形成する場合、
【化16】
に限定されず、
【化17】
であってもよいものを指す。
【0045】
本発明で、前記幾何異性体は、シス・トランス異性体を指す。具体的には、本発明の幾何異性体は、親分子の二重結合または環形炭素原子での基の異なる配列方式と、R4およびR5の置換基における二重結合または環形炭素原子での基の異なる配列方式によって形成される。
【0046】
化合物Aのエステルは、化合物Aと有機酸類物質との反応によって得られる。ここで、エステル類物質は、エステルの官能基である-COO-を有し、脱水縮合反応によって得られる。例示的に、有機酸類は、化合物A内の-OHと反応してエステルを得る。有機酸類物質としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸などであり得る。化合物Aの代謝物とは、化合物Aの官能基の一部が代謝された生成物を指す。ここで、代謝物とは、代謝過程によって生成されたまたは消費された物質を指し、化合物Aの医薬的性質に実質的な影響を及ぼさない。
【0047】
化合物Aのプロドラッグは、前駆体薬物、薬物前駆体、前駆体医薬品などとも呼ばれ、化合物Aに対して化学構造の修飾を経由した後に得られた、生体外で不活性または活性が低く、生体内で酵素または非酵素な変換により活性薬物を放出して薬効を発揮する化合物を指す。即ち、化合物Aのプロドラッグは通常、化合物Aの機能性誘導体であり、生体内で化合物Aに容易に変換される。
【0048】
化合物Aの溶媒化物とは、化合物Aが特定の溶媒中に希釈された存在形態を指す。一般的な溶媒としては、水、エタノール、ジメチルスルホキシドなど、化合物Aを溶解できる液体物質を含む。
【0049】
化合物Aの薬学的に許容される塩は、次の2つの方式で形成された塩を含む。
【0050】
(1)本発明の化合物A内に存在する酸性官能基(例えば、-OH)と適切な無機または有機カチオン(アルカリ)によって形成された塩、例えば、本発明の化合物Aとアルカリ金属またはアルカリ土類金属によって形成された塩、本発明の化合物Aのアンモニウム塩、および本発明の化合物Aと窒素含有有機塩基によって形成された塩などである。(2)本発明の化合物A内に存在するアルカリ性官能基(例えば、-NH-等)と適切な無機または有機アニオン(酸)によって形成された塩、例えば、本発明の化合物と無機酸または有機カルボン酸によって形成された塩などである。
【0051】
したがって、本発明の化合物Aの薬学的に許容される塩は、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩などのアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩;アルミニウム塩、鉄塩、亜鉛塩、銅塩、ニッケル塩、コバルト塩などの他の金属塩;アンモニウム塩などの無機アルカリ塩;tert-オクチルアミン塩、ジベンジルアミン塩、モルホリン塩、グルコサミン塩、フェニルグリシンアルキルエステル塩、エチレンジアミン塩、N-メチルグルコサミン塩、グアニジン塩、ジエチルアミン塩、トリエチルアミン塩、ジシクロヘキシルアミン塩、N,N’-ジベンジルエチレンジアミン塩、クロロプロカイン塩、プロカイン塩、ジエタノールアミン塩、N-ベンジルフェネチルアミン塩、ピペラジン塩、テトラメチルアミン塩、トリス(メチロール)アミノメタン塩などの有機アルカリ塩;無機酸塩、例えば、フッ化水素酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩などのハロゲン化水素酸塩、さらに硝酸塩、過塩素酸塩、硫酸塩、リン酸塩など;メシル酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩などの低級アルカンスルホン酸塩;ベンゼンスルホン酸塩、パラベンゼンスルホン酸塩などのアリールスルホン酸塩;酢酸塩、リンゴ酸塩、フマル酸塩、コハク酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、シュウ酸塩、マレイン酸塩などの有機カルボン酸塩;グリシン酸塩、トリメチルグリシン酸塩、アルギニン酸塩、オルニチン塩、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩などのアミノ酸塩を含むが、これらに限定されない。
【0052】
例示的な実施例において、R1は、-Clであり、R2は、-O-CH
3であり、R3は、-Hであり、R4とR5は、共に、
【化18】
を形成し、このとき、化合物Aは、
【化19】
であり、化合物A1と表記する。
【0053】
上記の化合物A1の分子式は、C20H19ClN2O4Sであり、名称は、(7S)-N-(3-クロロ-4-メトキシフェニル)-4-ヒドロキシ-7-メチル-2-オキソ-5,6,7,8-テトラヒドロ-1H-[1]-ベンゾチオ-[2,3-b]ピリジン-3-カルボキサミド((7S)-N-(3-chloro-4-methoxyphenyl)-4-hydroxy-7-methyl-2-oxo-5,6,7,8-tetrahydro-1H-[1]benzothiolo[2,3-b]pyridine-3-carboxamide)である。
【0054】
InChIは、InChI=1S/C20H19ClN2O4S/c1-9-3-5-11-14(7-9)28-20-15(11)17(24)16(19(26)23-20)18(25)22-10-4-6-13(27-2)12(21)8-10/h4,6,8-9H,3,5,7H2,1-2H3,(H,22,25)(H2,23,24,26)/t9-/m0/s1である。
【0055】
SMILES配列は、COc1ccc(NC(=O)c2c(O)c3c4c(sc3[nH]c2=O)C[C@@H](C)CC4)cc1Clである。
【0056】
化合物A1は、任意の既知の方法にしたがって調製することができ、以下の実施例では、市販の化合物A1を使用する。
【0057】
図1は、化合物A1の
1H NMRスペクトルを示し、ここで、溶媒は、ジメチルスルホキシド(DMSO:Dimethyl sulfoxide)である。当該図は、化合物A1の分子構造が上記式A1で表される構造であることを示している。
【0058】
図2は、化合物A1とグルカゴン受容体との相互作用の2次元図を例示的に示す。図中、ARG412、LYS405、ARG346、ASN404、SER350、THR353、LEU399、LEU403、LYS349およびGLN408はいずれも、グルカゴン受容体のアミノ酸配列中のアミノ酸残基である。ここで、タンパク質の配列で、アミノ酸間のアミノ基とカルボキシル基が脱水結合し、アミノ酸は、その一部の基がペプチド結合の形成に関与しているため、残りの構造部分をアミノ酸残基と称する。
【0059】
LYS405、ARG346、SER350およびLYS349はいずれも、化合物A1と相互作用する。相互作用の際、LYS405およびARG346は、水素供与体であり、化合物A1中のO原子と水素結合相互作用を形成する。SER350は、水素受容体であり、化合物A1上のH原子と水素結合相互作用を形成する。LYS349と化合物A1中のO-は、塩橋により、即ち、イオン結合により互いに引き合う。したがって、上記のアミノ酸残基はいずれも、化合物A1と相互作用することができる。
【0060】
さらに、関連文献で報告された突然変異実験(Jazayeri A,Andrew S.Dore, Lamb D,et al. Extra-helical binding site of a glucagon receptor antagonist [J] Nature,2016,May 12;533(7602):274-277)によれば、LYS405、ARG346、SER350およびLYS349が結合ポケットのキー残基であることが確認された。本実施例における化合物A1は、上記の残基と相互作用することができるため、化合物A1は、結合ポケットに良好に結合される。
【0061】
別の例示的な実施例において、R1は、-Hであり、R2は、-Hであり、R3は、-S-CH
3であり、R4と前記R5は、共に
【化20】
を形成し、このとき、化合物Aは、
【化21】
であり、化合物A2として表記する。
【0062】
上記の化合物A2の分子式は、C15H12N2O3S2であり、名称は、3-(アゼパン-1-イルカルボニル)-N-(2,5-ジフルオロ-フェニル)-7-メチル-1,8-ナフチリジン-4-アミン(3-(azepan-1-ylcarbonyl)-N-(2,5-difluoro-phenyl)-7-methyl-1,8-naphthyridin-4-amine)である。
【0063】
InChIは、InChI=1S/C15H12N2O3S2/c1-21-9-4-2-3-8(7-9)16-14(19)11-12(18)13-10(5-6-22-13)17-15(11)20/h2-7H,1H3,(H,16,19)(H2,17,18,20)である。
【0064】
SMILES配列は、CSc1cccc(NC(=O)c2c(O)c3sccc3[nH]c2=O)c1である。
【0065】
化合物A2は、任意の既知の方法にしたがって調製することができ、以下の実施例は、市販の化合物A2を使用する。
【0066】
図3は、化合物A2の
1H NMRスペクトルを示し、ここで、溶媒は、ジメチルスルホキシド(DMSO:Dimethyl sulfoxide)である。当該図は、化合物A2の分子構造が上記式A2で表される構造であることを示している。
【0067】
図4は、化合物A2とグルカゴン受容体との相互作用の2次元図を例示的に示す。図中、THR341、HIE340、ARG346、LYS405、ASN404、SER350、LEU399、GLN408、LYS349およびLEU403はいずれも、グルカゴン受容体アミノ酸配列中のアミノ酸残基である。ここで、ARG346、LYS405、SER350およびLYS349はいずれも、化合物A2と相互作用する。
【0068】
LYS405およびARG346は、水素供与体であり、化合物A2中のO原子と水素結合相互作用を形成する。SER350は、水素受容体であり、化合物A2上のH原子と水素結合相互作用を形成する。LYS349と化合物A2中のO-は、塩橋により、即ち、イオン結合により互いに引き合う。したがって、上記のアミノ酸残基はいずれも、化合物A2と相互作用することができる。
【0069】
本実施例における化合物A2は、上記の残基と相互作用することができるため、化合物A2は、結合ポケットに良好に結合される。
【0070】
グルカゴン受容体に対する上記の実施例における化合物Aの拮抗活性を測定するために、細胞活性テストを実施し、具体的な実施形態は以下の通りである。
【0071】
既知のヒトグルカゴン受容体(hGCGR)拮抗剤薬物を陽性対照として選択し、上記の実施例における化合物A、グルカゴンペプチドセグメント(即ち、ヒト全長グルカゴン)を、標的受容体分子を含むヒト胚性腎細胞と混合し、グルカゴンペプチドセグメントをhGCGRに結合して、hGCGRシグナル経路を活性化し、セカンドメッセンジャ(Second Messenger)である環状アデノシンーリン酸(cAMP)を放出し、ここで、化合物Aは、hGCGRの活性を抑制するという拮抗作用を発揮する。
【0072】
例示的な実施例において、既知のhGCGR拮抗剤薬物(L-168,049)を陽性対照として選択する。L-168,049の名称は、4-[3-(5-ブロモ-2-プロポキシフェニル)-5-(4-クロロフェニル)-1H-ピロール-2-イル]ピリジン(4-[3-(5-bromo-2-propoxyphenyl)-5-(4- chlorophenyl)-1H-pyrrol-2-yl]pyridine)であり、非競合的グルカゴン受容体拮抗剤である。且つ、ヒト胚性腎細胞HEK293の細胞膜上にヒトグルカゴン受容体が存在することを鑑みて、HEK293を使用して、ヒトグルカゴン拮抗剤の薬物活性を測定する。本実施例では、異なる濃度の本発明の化合物Aおよび陽性対照を、それぞれグルカゴンペプチドセグメントおよびHEK293細胞と混合し、均一時間分解蛍光(HTRF、Homogeneous Time Resolved Fluorescence)によりセカンドメッセンジャであるcAMPを検出し、HTRFの強度値に基づいて、各化合物の50%阻害濃度値を算出する。
【0073】
例示的な実施例において、化合物Aの活性は、HTRF技術を用いてテストされる。具体的には、グルカゴンペプチドセグメントがグルカゴン受容体を活性化すると、グルカゴン受容体細胞内のセカンドメッセンジャである環状アデノシンーリン酸(cAMP)が放出され、HTRFにより、セカンドメッセンジャであるcAMPを検出し、蛍光強度にしたがって被験化合物の50%阻害濃度(IC50)を算出することができる。
【0074】
例示的な実施例において、化合物A1およびA2に対してそれぞれ11個の同一の濃度勾配が設定され、三重のHTRFに基づく(セカンドメッセンジャである)環状アデノシンーリン酸(cAMP)応答実験により、化合物A1およびA2の活性を得、得られた実験データは、表1を参照する。
【0075】
【0076】
濃度勾配を横軸、抑制率を縦軸として、ソフトウェアにより表1のデータを処理して、
図5を得る。
図5は、環状アデノシンーリン酸(cAMP)に対する被験化合物の応答実験結果の曲線グラフを示す。具体的には、図中、L-168,049、化合物A1および化合物A2のそれぞれの応答抑制率を示している。ここで、L-168,049は、陽性対照薬であり、化合物A1は、C13で表し、化合物A2は、C14で表す。当該図から分かるように、化合物A1および化合物A2はいずれも、グルカゴン受容体の活性をよく抑制することができる。
【0077】
具体的には、測定結果によれば、L-168,049のIC50は、2.082E-08Mであり、化合物A1のIC50は、4.465E-07Mであり、化合物A2のIC50は、4.225E-07Mである。
【0078】
ここで、化合物A1および化合物A2の50%阻害濃度(IC50)値は、それぞれ446.5nM、422.5nMと小さいため、新規な構造を有するグルカゴン受容体拮抗剤の候補薬物として使用することができる。
【0079】
本発明の実施例はさらに、糖尿病または他のグルカゴン関連代謝失調を治療する薬物の調製向けの、上記の化合物Aの用途を提供する。
【0080】
ここで、グルカゴン関連代謝失調としては、糖尿病(I型糖尿病、II型糖尿病)、高血糖症、高インスリン血症、β-細胞休息、β-細胞機能異常(即ち、前記化合物が初期応答を回復することにより、β-細胞機能を改善することができる)、食事性高血糖、細胞アポトーシス(即ち、前記化合物が細胞アポトーシスを予防することができる)、空腹血糖異常(IFG:Impaired Fasting Glucose)、代謝症候群、低血糖、高/低カリウム血症、グルカゴンレベル失調症(即ち、前記化合物がグルカゴンレベルを正常化することができる)、LDL/HDL比の異常(即ち、前記化合物がLDL/HDL比を改善することができる)、間食の減少、摂食障害、体重減少、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)、糖尿病による肥満、潜在性自己免疫糖尿病(自己免疫性糖尿病の潜在的承認)、膵島炎、膵島移植、小児糖尿病、妊娠糖尿病、糖尿病末期合併症、ミクロ/マクロタンパク尿症、腎臓病、網膜症、神経障害、糖尿病性足潰瘍、グルカゴン投与による腸運動性低下、短腸症候群、下痢止め、胃液分泌の増加、血流量の減少、勃起不全、緑内障、術後ストレス、虚血後の血液再灌流による臓器組織損傷(即ち、前記化合物が虚血後の血液再灌流による臓器組織損傷を改善することができる)、虚血性心臓損傷、心臓機能不全、うっ血性心不全、脳卒中、心筋梗塞、不整脈、未熟児死亡、抗アポトーシス、創傷治癒、耐糖能障害(IGT)、インスリン抵抗性症候群、X症候群、高脂血症、異常脂質血症、高トリグリセリド血症、高リポタンパク血症、高コレステロール血症、動脈硬化症などを含むが、これらに限定されない。
【0081】
本発明の実施例は、上記のグルカゴン受容体拮抗剤および薬学的に許容される担体を含む、医薬組成物をさらに提供する。
【0082】
本明細書において、薬学的に許容される担体は、受容者の個体と相容性があり、且つ薬剤の活性に影響を与えることなく、活性剤を標的に伝達するのに適した物質を指す。
【0083】
前記医薬組成物は、哺乳動物、さらには、ヒトに適用される。特に断りのない限り、下記の投与個体は、ここで説明するものと同様である。
【0084】
薬学的に許容される担体は、所望の特定の剤型に適合する、任意およびすべての溶媒、希釈剤およびその他の液体溶媒、分散または懸濁助剤、界面活性剤、pH調整剤、等張液、増粘剤または乳化剤、防腐剤、固形結合剤、潤滑剤およびその類似物質を含む。
【0085】
レミントン:薬学科学と実践(Remington:The Science and Practice of Pharmacy)、第20版、編集者A.A.Gennaro,Lippincott Williams&Wilkins,2000では、医薬学的に許容される組成物を調製するための各種担体とその既知の調製技術を開示した。Strickley,Pharmaceutical Research,21(2)201-230(2004)では、経口または非経口投与用の化合物を溶解するための、市販製品で使用される医薬学的に許容される賦形剤を記述した。任意の従来の担体媒体が本発明のグルカゴン受容体拮抗剤と不適合でない限り、例えば、任意の不適切な生物学的効果を生じたり、医薬学的に許容される組成物の任意の他の成分と有害な方法で相互作用したりしない限り、その用途は本発明の範囲内に含まれる。
【0086】
医薬学上で薬学的に許容される担体として機能する物質の特定の例としては、イオン交換剤、アルミナ、ステアリン酸アルミニウム、レシチン、血清タンパク質(ヒト血清アルブミンなど)、緩衝物質(リン酸塩、炭酸塩、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなど)、グリシン、ソルビン酸またはソルビン酸カリウム、飽和植物性脂肪酸の部分グリセリド混合物、水、発熱物質を含まない水、塩または電解質(硫酸プロタミン、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素カリウム、塩化ナトリウム、亜鉛塩など)、コロイダルシリカ、三ケイ酸マグネシウム、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸エステル、ワックス、ポリエチレン-ポリオキシプロピレン-ブロックポリマー、ラノリン、糖(乳糖、ブドウ糖、ショ糖、マンニトールなど)、でんぷん(コーンスターチ、ポテトスターチなど)、セルロースおよびその誘導体(カルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロース、セルロースアセテートなど)、粉末状トラガントガム、麦芽、ゼラチン、タルク、賦形剤(ココアバター、坐剤ワックスなど)、油(ピーナッツ油、綿実油、サフラワー油、ごま油、オリーブ油、コーン油、大豆油など)、ジオール(プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなど)、エステル(オレイン酸エチル、ラウリン酸エチルなど)、寒天、アルギン酸、等張食塩水、リンゲル液(Ringer′s solution)、アルコール(エタノール、イソプロパノール、セチルアルコール、グリセロールなど)、シクロデキストリン(ヒドロキシプロピルβ-シクロデキストリン、スルホブチルエーテルβ-シクロデキストリンなど)、潤滑剤(ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウムなど)、石油炭化水素(鉱物油、パラフィン油など)を含むが、これらに限定されない。調製者の判断により、着色剤、離型剤、塗布剤、甘味料、調味料および芳香剤、防腐剤および酸化防止剤も組成物中に存在することができる。
【0087】
本発明の実施例における医薬組成物は、特に、従来の造粒法、混合法、溶解法、カプセル封止法、凍結乾燥法、乳化法などの当技術分野で周知の方法により調製することができる。医薬組成物は、粒子、沈殿物または微粒子、粉末(凍結乾燥、回転乾燥または噴霧乾燥粉末、非晶質粉末を含む)、錠剤、カプセル、シロップ、坐剤、注射液、乳化剤、エリキシル剤、懸濁液または溶液剤を含む様々な形態で製造することができる。注射または経口で投与することができる。
【0088】
本発明の実施例は、グルカゴン受容体を抑制する用量の上記のグルカゴン受容体拮抗剤を、それを必要とする個体に投与することを含む、個体のグルカゴン受容体を調節する方法をさらに提供する。
【0089】
本発明の実施例は、グルカゴン受容体を抑制する用量の上記の医薬組成物を、それを必要とする個体に投与することを含む、個体のグルカゴン受容体を調節する方法をさらに提供する。
【0090】
ここで、個体は、哺乳動物である。さらに、個体は、ヒトである。
【0091】
本発明の実施例は、グルカゴン受容体を抑制する用量の上記のグルカゴン受容体拮抗剤を、それを必要とする個体に投与することを含む、個体の血糖値を調節する方法をさらに提供する。
【0092】
本発明の実施例は、グルカゴン受容体を抑制する用量の上記の医薬組成物を、それを必要とする個体に投与することを含む、個体の血糖値を調節する方法をさらに提供する。
【0093】
本発明の実施例は、糖尿病または他のグルカゴン関連代謝失調を治療する薬物の調製向けの、上記のグルカゴン受容体拮抗剤の用途をさらに提供する。
【0094】
ここで、グルカゴン関連代謝失調は、糖尿病(I型糖尿病、II型糖尿病)、高血糖症、高インスリン血症、β-細胞休息、β-細胞機能異常(即ち、前記化合物が初期応答を回復することにより、β-細胞機能を改善することができる)、食事性高血糖、細胞アポトーシス(即ち、前記化合物が細胞アポトーシスを予防することができる)、空腹血糖異常(IFG:Impaired Fasting Glucose)、代謝症候群、低血糖、高/低カリウム血症、グルカゴンレベル失調症(即ち、前記化合物がグルカゴンレベルを正常化することができる)、LDL/HDL比の異常(即ち、前記化合物がLDL/HDL比を改善することができる)、間食の減少、摂食障害、体重減少、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)、糖尿病による肥満、潜在性自己免疫糖尿病(自己免疫性糖尿病(LADA)の潜在的承認)、膵島炎、膵島移植、小児糖尿病、妊娠糖尿病、糖尿病末期合併症、ミクロ/マクロタンパク尿症、腎臓病、網膜症、神経障害、糖尿病性足潰瘍、グルカゴン投与による腸運動性低下、短腸症候群、下痢止め、胃液分泌の増加、血流量の減少、勃起不全、緑内障、術後ストレス、虚血後の血液再灌流による臓器組織損傷(即ち、前記化合物が虚血後の血液再灌流による臓器組織損傷を改善することができる)、虚血性心臓損傷、心臓機能不全、うっ血性心不全、脳卒中、心筋梗塞、不整脈、未熟児死亡、抗アポトーシス、創傷治癒、耐糖能障害(IGT)、インスリン抵抗性症候群、X症候群、高脂血症、異常脂質血症、高トリグリセリド血症、高リポタンパク血症、高コレステロール血症、動脈硬化症などを含むが、これらに限定されない。
【0095】
別の例示的な実施例において、人工知能に基づく拮抗剤の予測方法にしたがって、インスリン受容体拮抗剤を化合物A1または化合物A2として選別することができる。
【0096】
以下、人工知能に基づく拮抗剤の予測方法を具体的に説明する。
【0097】
図6を参照すると、
図6は、本発明の一例示的な実施例における人工知能に基づく拮抗剤の予測方法のフローチャートである。当該実施例によって提供される人工知能に基づく拮抗剤の予測方法は、ステップS210~S240を含む。
【0098】
ステップS210において、訓練後の敵対的生成ニューラルネットワーク(Generative Adversarial Neural Network)の生成器ネットワークにより、標的薬物様分子に対して分子構造の予測処理を実行して、疑似薬物分子を得、ここで、敵対的生成ニューラルネットワークは、薬物様分子および標的受容体分子に対応する既存の拮抗剤にしたがって訓練される。
【0099】
例えば、薬物様分子および標的受容体分子に対応する既存の拮抗剤を、敵対的生成ニューラルネットワークの訓練サンプルとして使用する。訓練サンプル中の薬物様分子を敵対的生成ニューラルネットワーク内の生成器ネットワークに入力し、生成器ネットワークに基づいて、薬物様分子に対して分子構造予測を実行して、予測薬物分子を得る。予測薬物分子、薬物様分子および既存の拮抗剤を敵対的生成ニューラルネットワーク内の識別器ネットワークに入力し、敵対的生成ネットワークの識別器ネットワークの出力に応じて、当該敵対的生成ニューラルネットワークのパラメータを最適化して、訓練後の敵対的生成ニューラルネットワークを得る。
【0100】
前記訓練によって得られた敵対的生成ニューラルネットワークに基づいて、標的薬物様分子の化学式を取得してグラフ符号化を実行して、対応するグラフ表現を得、当該標的薬物様分子に対応するグラフ表現を訓練後の敵対的生成ニューラルネットワークの生成器ネットワークに入力し、訓練後の敵対的生成ニューラルネットワークの生成器ネットワークに基づいて、分子構造の予測を実行した後、疑似薬物分子のグラフ表現を出力する。
【0101】
ステップS220において、疑似薬物分子に基づいて、選別対象の小分子データベースを決定する。
【0102】
例えば、化学シミュレーションソフトウェアの力場変換の方式で、2次元の疑似薬物分子を3次元構造の分子に変換して、小分子データベースを得て、仮想選別用の薬物データベースとして使用する。
【0103】
ステップS230において、標的受容体分子に基づいて、小分子データベースに対して仮想選別処理を実行して、標的薬物小分子を得る。
【0104】
例えば、標的受容体分子を標的として、標的のタンパク質活性ポケットの形状特徴、大きさ特徴、静電特性に基づいて、最適化された検索アルゴリズムを使用して、前記小分子データベースにおける薬物分子と標的との親和性の大きさを算出し、そして、親和性の大きさに基づいて、小分子データベースから、標的薬物小分子を標的受容体分子に対応する標的として、即ち、標的薬物小分子として選別する。
【0105】
ステップS240において、標的薬物小分子に対して細胞活性テストを実行して、標的受容体分子の予測拮抗剤を得る。
【0106】
図6に示された実施例による人工知能に基づく拮抗剤の予測技術案は、一方では、深層学習モデルに基づいて、標的受容体分子の疑似薬物分子を取得し、それにより、前記疑似薬物分子の化学空間構造の多様性を増加させ、そのため、前記疑似薬物分子に基づいて決定された拮抗剤の骨格構造は、既存の薬物の骨格構造とは大きく異なり、薬物の多様性を改善するのに有利である。もう一方では、前記疑似薬物分子に基づいて選別対象の小分子データベースを決定し、標的受容体分子に基づいて当該小分子データベースに対して仮想選別処理を実行し、それにより、標的薬物小分子に基づいて、標的受容体のタンパク質活性ポケット内の適切なコンフォメーションを直接検索することができ、これは、設計された拮抗剤の合理性を保証することに有利である。
【0107】
以下の例示的な実施例において、ヒトグルカゴンを前記標的受容体分子として使用することを例に取って紹介し、もちろん、前記標的受容体分子は、特徴的なタイプの受容体であってもよく、ここでは限定されない。
【0108】
例示的に、
図7は、本発明の別の例示的な実施例における人工知能に基づく拮抗剤の予測方法のフローチャートを示す。
図7を参照すると、拮抗剤の予測方法は、疑似薬物分子取得部分31と、疑似薬物分子に対する仮想選別部分32および選別された標的薬物小分子に対する生検部分33を含む。ここで、疑似薬物分子取得部分31は、訓練後の敵対的生成ネットワーク(GAN:Generative Adversarial Networks)によって決定されるものであってもよい。例えば、薬物様分子の化学式に基づいてグラフ符号化を実行して、薬物様分子に対応するグラフ表現を得る。例えば、原子は、グラフ上の点として表され、共有結合は、点間を結ぶ線として表される。薬物様分子に対応するグラフ表現を訓練後のGANの生成器ネットワークに入力すると、訓練後のGANの生成器ネットワークは、疑似薬物分子に対応するグラフ表現を出力することができる。
【0109】
例示的な実施例において、まず、本発明の一例示的な実施例で採用されるGANのネットワーク構造を説明する。例えば、
図8および
図9は、本発明の一実施例によるGANの生成器ネットワークおよび識別器ネットワークのネットワーク構造をそれぞれ示している。
【0110】
図8を参照すると、当該実施例による生成器ネットワーク(Generator)は、畳み込み層、プーリング層、特徴補完層、逆畳み込み層および特徴正規化層を含み得る。ここで、ニューラルネットワークアーキテクチャでは、畳み込み処理とプーリング処理により、前記薬物様分子のグラフ表現の深層特徴を抽出することができ、深層特徴を通じて分子図における論理トポロジ関係を学習することができる。例えば、分子図の頂点は原子を表し、分子図の辺の長さは分子の結合長を表す。モデル訓練を通じて、頂点、辺の長さの変更規則、および頂点と辺の長さとの関係を学習する。しかしながら、入力時の薬物様分子のグラフ表現に比べて、複数回の畳み込み処理とプーリング処理により、分子図の特徴画像が減少し、それにより、情報の損失が発生する。したがって、情報の損失を低減するために、ダウンサンプリング(
図8の41~410のように)ごとに、対応するアップサンプリング(即ち、特徴補完層、逆畳み込み層、
図8の411~420のように)を実行する。それにより、生成器ネットワークでは、アップサンプリングパラメータが、ダウンサンプリングパラメータに対応するため、アップサンプリング段階では画像が縮小され、ダウンサンプリング段階では対応する画像が拡大される。即ち、生成器ネットワークは、Unetネットワーク構造(
図8の「U」字状の点線のように)を採用することにより、ネットワーク伝送過程における元の情報の損失を低減し、それにより、ダウンサンプリングパラメータとアップサンプリングパラメータとの不一致により、生成器ネットワークによって出力された画像コンテンツが、生成器ネットワークに入力された画像コンテンツと一致しないという現象を低減し、最終的には、疑似薬物分子の予測精度が向上する。
【0111】
例示的な実施例において、
図8に示された生成器ネットワークにおいて、tanh関数を活性化関数として使用することができる。例えば、tanh関数によって、アップサンプリング420の出力データを-1~1の間にマッピングすることができる。
【0112】
例示的な実施例において、
図9を参照すると、本発明の一例示的な実施例によるGANの識別器ネットワーク(Discriminator)は、複数の畳み込み層(
図9の501~510のように)を含む。なお、この例示的な技術的解決策において、Wasserstein GAN(WGAN)を採用することもできるため、識別器ネットワーク(Discriminator)は、ダウンサンプリング510でsigmoid関数を活性化関数として使用しなく、それにより、生成器ネットワークの損失勾配が消えることを効果的に回避する。
【0113】
例示的な実施例において、
図8および
図9は、例示的に示した生成器ネットワークと識別器ネットワークのネットワーク構造に過ぎない。実際の実施では、実際のニーズに応じて、ネットワーク構造を調整することができるため、本発明における疑似薬物分子を生成するためのニューラルネットワークのネットワーク構造は拡張性を有する。
【0114】
前記WGANのネットワーク構造に基づいて、
図10は、本発明の一例示的な実施例における敵対的ニューラルネットワークの訓練方法のフローチャートであり、ステップS610~S630を含む。
【0115】
ステップS610において、薬物様分子および標的受容体分子に対応する既存の拮抗剤を、敵対的ニューラルネットワークの訓練サンプルとして取得する。
【0116】
例示的に、標的受容体分子がヒトグルカゴン受容体(hGCGRと略称)である場合、報告された拮抗剤のようなhGCGRの既存の拮抗剤を取得し、多数の薬物様分子を取得する。例えば、100万個の薬物様分子を商用またはオープンソースの小分子データベース(ZINCなど)で取得する。hGCGRの既存の拮抗剤と前記100万個の薬物様分子を訓練サンプルセットとして使用する。
【0117】
前記訓練サンプルをWGANに入力する前に、先に、訓練サンプルに対してそれぞれグラフ符号化処理を実行して、対応するグラフ表現を得る。例示的に、WGANにおける処理を容易にするために、臨界テンソル(adjacency tensor A)および注釈行列(annotation matrix X)の方式により、訓練サンプルセット内の薬物様分子、既存の拮抗剤を1つずつグラフ符号化する。例えば、1つのシクロペンタンの炭素原子を五角形の頂点として符号化することができ、五角形の辺は、シクロペンタン分子の共有結合(
図7の疑似薬物分子取得部分31に示されたように)に対応する。
【0118】
ステップS620において、訓練サンプル中の薬物様分子を敵対的生成ニューラルネットワーク内の生成器ネットワークに入力し、生成器ネットワークに基づいて薬物様分子に対して分子構造予測を実行して、予測薬物分子を得る。
【0119】
例示的な実施例において、
図11は、本発明の一実施例によるモデル訓練方法の例示的なフレームワーク図である。
図11を参照すると、敵対的生成深層ニューラルネットワークは、生成器ネットワークG710と識別器ネットワークD720を含む。
【0120】
生成器ネットワークG710は、薬物様分子M(具体的には、薬物様分子Mに対応するグラフ表現)に対して分子構造予測処理(例えば、畳み込み処理、逆畳み込み処理および正規化処理等)を実行し、生成器ネットワークG710の出力は、予測薬物分子M’(具体的には、予測薬物分子M’に対応するグラフ表現)である。ここで、生成器ネットワークG710は、薬物様分子Mに対して分子構造予測処理を実行し、識別器ネットワークD720の識別結果が「真」となる予測薬物分子を得ること、即ち、識別器ネットワークD720の識別結果が、前記予測薬物分子M’が前記標的受容体分子の拮抗剤である確率が0.5より大きいことを訓練目標とする。言い換えれば、生成器ネットワークG710の訓練目標は、予測薬物分子が既存の拮抗剤により近づくように訓練することであり、「偽物を本物として渡す」効果を達成する(識別器ネットワークD720は、予測薬物分子M’が前記標的受容体分子の拮抗剤であることを「真」と判定する)。
【0121】
続いて、
図12を参照すると、ステップS630において、予測薬物分子、薬物様分子および既存の拮抗剤を敵対的生成深層ニューラルネットワークにおける識別器ネットワークに入力し、敵対的生成ネットワークの識別器ネットワークの出力に基づいて、当該敵対的生成ニューラルネットワークのパラメータを最適化する。
【0122】
一例示的な実施例において、前記予測薬物分子M’(具体的には、予測薬物分子M’に対応するグラフ表現)および既存の拮抗剤B(具体的には、既存の拮抗剤Bに対応するグラフ表現)を識別器ネットワークD720に入力し、識別器ネットワークD720を介して、予測薬物分子M’が標的受容体分子の拮抗剤であるか否かを判断する。例えば、識別器ネットワークD720が、予測薬物分子M’が標的受容体分子の拮抗剤であると判断した場合、現在生成器によって生成された予測薬物分子M’が高い正確さ(即ち、「偽物を本物として渡す」効果を達成する)を有することを示しているため、生成器ネットワークパラメータに対する最適化を停止することができる。識別器ネットワークD720が、予測薬物分子M’が標的受容体分子の拮抗剤ではないと判断した場合、現在生成器によって生成された予測薬物分子M’の正確さをさらに向上させるべきであること(即ち、まだ「偽物を本物として渡す」効果に達していない)を示しているため、生成器ネットワークパラメータの最適化を継続する必要がある。
【0123】
別の例示的な実施例において、前記識別器ネットワークの出力は、予測薬物分子に関する第1の識別結果と、既存の拮抗剤に関する第2の識別結果とを含む。ここで、前記第1の識別結果は、識別器ネットワークによって出力される、当該予測薬物分子M’が標的受容体分子の拮抗剤である確率を含み;前記第2の識別結果は、識別器ネットワークによって出力される、既存の拮抗剤Bが標的受容体分子の拮抗剤である確率を含む。
【0124】
一例示的な実施例において、続いて、
図11を参照すると、識別器ネットワークD720は、前記予測薬物分子M’(具体的には、予測薬物分子M’に対応するグラフ表現)および既存の拮抗剤B(具体的には、既存の拮抗剤Bに対応するグラフ表現)を受信するように構成される。識別器ネットワークD720は、予測薬物分子M’と既存の拮抗剤Bとの差により、予測薬物分子M’が前記標的受容体分子の拮抗剤である確率(即ち、前記第1の識別結果)を決定する。確率値が0.5より大きい場合、第1の識別結果は、予測薬物分子M’が前記標的受容体分子の拮抗剤であることを示し、即ち、識別器ネットワークによって出力される識別結果が、予測薬物分子M’が「真」であることであり;それに対応して、確率値が0.5以下である場合、第1の識別結果は、予測薬物分子M’が前記標的受容体分子の拮抗剤ではないことを示し、即ち、識別器ネットワークによって出力される識別結果が、予測薬物分子M’が「偽」であることである。
【0125】
また、識別器ネットワークD720は、既存の拮抗剤Bが前記標的受容体分子の拮抗剤である確率(即ち、前記第2の識別結果)も予測する。確率値が0.5より大きい場合、第2の識別結果は、既存の拮抗剤Bが前記標的受容体分子の拮抗剤であることを示し、即ち、識別器ネットワークによって出力される識別結果が、既存の拮抗剤Bが「真」であることであり;それに対応して、確率値が0.5以下である場合、第2の識別結果は、既存の拮抗剤Bが前記標的受容体分子の拮抗剤ではないことを示し、即ち、識別器ネットワークによって出力される識別結果が、既存の拮抗剤Bが「偽」であることである。
【0126】
ここで、識別器ネットワークD720は、既存の拮抗剤が「真」(前記第2の識別結果の確率値が0.5より大きい)であることを識別し、予測薬物分子が「偽」(前記第1の識別結果の確率値が0.5以下である)であることを識別すること、を訓練目標とする。
【0127】
一例示的な実施例において、第1の識別結果および第2の識別結果に基づいて、敵対的生成ニューラルネットワークのパラメータを最適化する。
【0128】
例示的な実施例において、続いて、
図11を参照すると、予測薬物分子M’と既存の拮抗剤Bとの論理トポロジの差に基づいて、前記第1の識別結果および前記第2の識別結果を決定し、第1の識別結果および第2の識別結果に基づいて、生成器ネットワークG710のパラメータおよび識別器ネットワークD720のパラメータを最適化する。例えば、損失関数は、式(1)に示されたようである。
【数1】
【0129】
ここで、xiとziは、それぞれ、既存の拮抗剤Bに対応するデータと予測薬物分子M’に対応するデータを表し、Dは、識別器ネットワークDを表し、Gは、生成器ネットワークGを表し、iは、m以下の正の整数であり、mは、サンプル数である。
【0130】
前記損失関数の最適化対象は、min
Gmax
GLossである。まず、生成器ネットワークGのパラメータを固定し、識別器ネットワークDのパラメータを調整し、式(2)のように識別器Dのパラメータを最適化する。
【数2】
【0131】
ここで、D(xi)は、前記第2の識別結果(即ち、既存の拮抗剤Bが標的受容体分子の拮抗剤である確率)を表し、その値が大きいほど好ましく;D(G(zi))は、前記第1の識別結果(即ち、予測薬物分子A’が標的受容体分子の拮抗剤である確率)を表し、その値は小さいほど好ましい(即ち、log(1-D(G(zi)))が大きいほど好ましい)。
【0132】
例示的に、maxDLossにより、識別器ネットワークDによって出力される第1の識別結果は、予測薬物分子M’が標的受容体分子の拮抗剤である確率が0.5以下であり、第2の識別結果は、既存の拮抗剤Bが前記標的受容体分子の拮抗剤である確率が0.5より大きいようにする。
【0133】
次に、識別器Dのパラメータを固定し、生成器ネットワークGのパラメータを調整する。生成器ネットワークGが既存の拮抗剤B(対応するデータがx
iである)に対する処理に関与しないため、生成器ネットワークGのパラメータの最適化過程には、logD(x
i)が関与しない。具体的には、式(3)のように生成器Gのパラメータを最適化する。
【数3】
【0134】
ここで、D(G(zi))は、前記第1の識別結果(即ち、予測薬物分子A’が標的受容体分子の拮抗剤である確率)を表し、その値は大きいほど好ましい(即ち、log(1-D(G(zi)))が小さいほど好ましい)。
【0135】
例示的に、minGLossによるパラメータ調整後の生成器Gによって出力される予測薬物分子A’を識別器Dに入力した後、識別器Dによって出力される予第1の識別結果は、前記予測薬物分子A’が標的受容体分子の拮抗剤である確率が0.5より大きいことである。
【0136】
継続的な反復計算により、前記損失値が予め設定された要件を満たすようにする。且つ、訓練後のGANの生成器ネットワークG(分子図成長モデルとも称する)は、訓練セットに類似した疑似薬物分子を成長させることができる。
【0137】
例示的な実施例において、WGANを採用して、前記モデル予測を実行する場合、Earth Mover(EM)距離を損失関数として使用してもよい。損失関数でそれ以上log値を計算しなくなるため、訓練をより簡単に収束させることができる。
【0138】
前記訓練によって得られた分子図成長モデル(即ち、訓練後のGANまたはWGANの生成器ネットワーク)に基づいて、疑似薬物分子を決定することの具体的な実施形態は、次の通りである:標的薬物様分子の化学式を取得してグラフ符号化を実行して、対応するグラフ表現を得;当該標的薬物様分子に対応するグラフ表現を分子図成長モデルに入力し、当該分子図成長モデルに基づいて分子構造の予測を実行した後、疑似薬物分子のグラフ表現を出力する。
【0139】
なお、前記分子図成長モデルによって出力されたものは、疑似薬物分子に対応するグラフ表現であり、後続の仮想選別を容易にするために、分子反応を入力および表現する線形記号(SMILES:Simplified Molecular Input Line Entry System)、構造データファイル(SDF、Structure Data File)フォーマットなどの疑似薬物分子の標準フォーマットを得るように、復号処理する必要がある。
【0140】
したがって、前記分子図成長モデルから出力された符号化された疑似薬物分子に対して復号処理を実行して、予め設定されたフォーマットを満たす疑似薬物分子の化学式を得る。
【0141】
続いて、
図7を参照すると、疑似薬物分子取得部分31の後に、疑似薬物分子に対する仮想選別部分32に進み、以下は、疑似薬物分子に対して仮想選別を実行する実施例を紹介する。
【0142】
例示的に、続いて、
図6を参照すると、ステップS220において、前記疑似薬物分子に基づいて、選別対象の小分子データベースを決定し;および、ステップS230において、標的受容体分子に基づいて、小分子データベースに対して仮想選別処理を実行して、標的薬物小分子を得る。
【0143】
ここで、前記小分子データベースが、仮想選別に使用されるデータベースである。例えば、前記分子図成長モデルを使用して1000万個の疑似薬物分子を生成し、復号処理により、これらの疑似薬物分子の標準フォーマットを得る。疑似薬物分子に基づいてタンパク質活性ポケット内の適切なコンフォメーションを直接検索するのに有利なようにするためには、疑似薬物分子を3次元疑似薬物分子(mol2フォーマットなど)に変換する必要がある。例示的な実施例において、化学シミュレーションソフトウェアの力場変換の方式により、2次元の疑似薬物分子を3次元構造の分子に変換して、仮想選別の薬物データベースとして使用することができる、前記小分子データベースを得る。
【0144】
例示的な実施例において、対照のために、既存のデータベース(ChemBridgeデータベースなど)から10万個の非疑似薬物分子をランダムに選択することができる。非疑似薬物分子を前記小分子データベースに統合して、仮想選別の薬物データベースとして併用する。
【0145】
例示的な実施例において、標的(標的受容体分子)のタンパク質活性ポケットの形状特徴、大きさ特徴、静電特性などの特徴に基づいて、標的として使用可能な候補化合物を小分子データベースから選別するという仮想選別の原理を考慮すると、上述した新しい分子データベースで仮想選別を実行する前に、仮想選別の円滑な進行を保障するために、標的受容体分子中のアミノ酸残基への補充処理、標的受容体分子への水素添加処理、標的受容体分子への電荷付与処理など、標的受容体分子に対して前処理する必要がある。
【0146】
例示的に、既存のデータベース(PDBデータベースなど)から、ヒトグルカゴン受容体分子hGCGR(PDB番号:5EE7)を標的受容体分子としてダウンロードする。hGCGRに対して、次のような前処理を実行する:Schrodingerソフトウェアを用いてhGCGRタンパク質分子のアミノ酸残基を補完し、標的受容体分子hGCGRに対して水素添加処理、電荷付与処理などを行い、さらに、前処理後のhGCGRタンパク質分子を、3次元フォーマット(mol2フォーマットなど)で保存する。
【0147】
なお、仮想選別の円滑な進行を保障するために、標的受容体分子のフォーマットを、小分子データベースの薬物分子のフォーマットと統一させ、例えば、いずれもmol2フォーマットに統一される。
【0148】
例示的な実施例において、
図12を参照すると、分子ドッキング技術に基づいて、前記小分子データベースおよび前記3次元フォーマットの標的受容体分子に対して、仮想選別プロセスを実行する。ここで、分子ドッキング技術は、《生物》鍵と鍵穴モデル(lock-and-key model)の原理に基づいたものであり、受容体タンパク質81は、「鍵穴」に相当し、小分子82は、「鍵」に相当する。両者を83に統合できるかどうかによって、仮想選別が実施される。例えば、標的受容体分子hGCGRを標的として、標的のタンパク質活性ポケットの形状特徴、大きさ特徴、静電特性に基づいて、最適化された検索アルゴリズムを使用して、前記小分子データベースにおける薬物分子と標的との親和性の大きさを算出し、そして、親和性の大きさに基づいて、小分子データベースから、標的薬物小分子を標的受容体分子hGCGRに対応する標的として、即ち、候補化合物として選別する。
【0149】
例えば、前記小分子データベース内の小分子が潜在的な標的薬物であるか否かに応じて、スコアリング関数によって、各小分子に対してスコアを付け、スコアの高低に応じて、各小分子を降順に並び替え、降順に並び替えた結果の中で、ランキングが上位にある複数の(例えば30個)小分子を標的薬物小分子として使用する(表2を参照)。
【表2-1】
【表2-2】
【表2-3】
【表2-4】
【表2-5】
【表2-6】
【0150】
ここで、表2中のC13が、前記化合物A1であり、C14が前記化合物A2である。
【0151】
続いて、
図7を参照すると、疑似薬物分子取得部分31および疑似薬物分子に対する仮想選別部分32の後に、選別された標的薬物分子(表2を参照)に対する生検部分33に進み、以下は、選別された標的薬物分子に対して活性測定を実行する実施例を紹介する。
【0152】
例示的に、続いて、
図6を参照すると、ステップS240において、標的薬物小分子に対して細胞活性テストを実行して、標的受容体分子の拮抗剤を取得する。
【0153】
前記標的薬物小分子C1~C30は、次の活性テストを実行するために、外注または合成により得られる。
【0154】
例示的な実施例において、標的受容体分子がヒトグルカゴン受容体である場合、
図13は、前記標的薬物小分子に対して細胞活性テストを実行する具体的な実施形態を示す。
【0155】
ステップS910において、hGCGRの拮抗剤薬物を陽性対照として選択し、各標的薬物小分子、グルカゴンペプチドセグメントを、標的受容体分子を含むヒト胚性腎細胞と混合し、グルカゴンペプチドセグメントをhGCGRと結合して、hGCGRシグナル経路を活性化することにより、セカンドメッセンジャである環状アデノシンーリン酸(cAMP)を放出する。ここで、標的薬物分子は、拮抗作用を発揮して、hGCGRの活性を抑制する。
【0156】
例示的な実施例において、hGCGRの拮抗剤薬物(例えば、L-168,049)を陽性対照として選択し、且つ、ヒト胚性腎細胞(例えば、HEK293)の細胞膜上に、ヒトグルカゴン受容体が存在することに鑑みて、ヒト胚性腎細胞を使用して、ヒトグルカゴン拮抗剤の薬物活性をテストすることができる。標的薬物小分子、グルカゴンペプチドセグメントを、標的受容体分子を含むHEK293細胞と混合し、グルカゴンペプチドセグメントは、hGCGRと結合してhGCGRシグナル経路を活性化するために使用され、それによって、セカンドメッセンジャであるcAMPの放出を促進する。ここで、標的薬物分子は、拮抗作用を発揮して、hGCGRの活性を抑制する。
【0157】
ステップS920において、均一時間分解蛍光(HTRF)により、セカンドメッセンジャであるcAMPを検出し、HTRFの強度値に基づいて各標的薬物小分子のIC50の値を決定する。
【0158】
例示的な実施例において、均一時間分解蛍光(HTRF:Homogeneous Time Resolved Fluorescenc)技術を用いて、各標的薬物小分子(表2に示すような30個の標的薬物小分子)の活性をテストする。具体的には、グルカゴンペプチドセグメントがグルカゴン受容体を活性化した後、グルカゴン受容体細胞内のセカンドメッセンジャである環状アデノシンーリン酸(cAMP)が放出され、HTRFにより、セカンドメッセンジャであるcAMPを検出し、蛍光強度に基づいて、薬物分子の50%阻害濃度(IC50)を算出することができる。
【0159】
ステップS930において、IC50の値に基づいて、標的薬物小分子から標的受容体分子の拮抗剤を決定する。
【0160】
例示的な実施例において、表2に示す30個の標的薬物小分子について、各標的薬物小分子に対してそれぞれ11個の同一の濃度勾配が設定され、三重のHTRFに基づく(セカンドメッセンジャである)環状アデノシンーリン酸(cAMP)応答実験により、各標的薬物小分子の活性を得、得られた実験データを表3に示す。
【0161】
【表3-1】
【表3-2】
【表3-3】
【表3-4】
【表3-5】
【表3-6】
【表3-7】
【表3-8】
【表3-9】
【表3-10】
【表3-11】
【表3-12】
【表3-13】
【表3-14】
【表3-15】
【0162】
表3のデータを、濃度勾配を横軸とし、抑制率を縦軸として、ソフトウェアによる処理により
図14と表4を得た。図中、L-168,049と30個の標的薬物小分子の応答抑制率をそれぞれ示されている。ここで、L-168,049は陽性対照薬である。この図から分かるように、C13とC14は、いずれも活性を有しており、残りの28個の標的薬物小分子の活性値は示されていない。
【0163】
【0164】
ここで、表4には、テストした30個の標的薬物小分子の50%阻害濃度IC50を示した。例示的に、化合物C13と化合物C14の50%阻害濃度IC50値は小さく、それぞれ446.5nm/L(nM)および422.5nMであるため、それを新規な構造を有するヒトグルカゴン受容体拮抗剤として使用することができる。
【0165】
本技術案は、深層学習と仮想選別の利点を総合し、深層学習モデルにより、疑似薬物分子を予測して取得し、前記疑似薬物分子の化学空間構造の多様性を増加させ、そのため、前記疑似薬物分子に基づいて決定された拮抗剤の骨格構造は、既存の薬物の骨格構造とは大きく異なり、薬物の多様性を高めるのに有利である。同時に、前記疑似薬物分子に基づいて選別対象の小分子データベースを決定し、標的受容体分子に基づいて当該小分子データベースに対して仮想選別処理を実行し、それにより、標的薬物小分子に基づいて、標的受容体のタンパク質活性ポケット内の適切なコンフォメーションを直接検索することができ、これは、設計された拮抗剤の合理性を保証するのに有利である。このように、本技術案は、薬物開発のコストと時間を削減することができ、且つ薬物多様性を向上させるのに有利である。
【0166】
当業者は、明細書を考慮し、本明細書に開示された発明を実践した後に、本発明の他の実施形態を容易に想到し得る。本願は、本発明の任意の変形、用途、または適応的変化を網羅することを意図している。これらの変形、用途、または適応的変化は、本開示の一般的原理に従い、且つ本開示で開示されていない当技術分野における周知の常識または慣用技術手段を含む。明細書および実施例は、単なる例示的なものと見なされるべきであり、本発明の範囲および趣旨は、以下の特許請求の範囲で指摘される。
【0167】
なお、本発明は、上述した図面に示した具体構成に限定されるものではなく、その範囲を逸脱しない範囲で種々の修正及び変更が可能であることを理解されたい。
【国際調査報告】