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特表2024-500686クチナーゼによる、酵素を使用した再生ポリエチレンテレフタレートリサイクル
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  • 特表-クチナーゼによる、酵素を使用した再生ポリエチレンテレフタレートリサイクル 図1
  • 特表-クチナーゼによる、酵素を使用した再生ポリエチレンテレフタレートリサイクル 図2A
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-10
(54)【発明の名称】クチナーゼによる、酵素を使用した再生ポリエチレンテレフタレートリサイクル
(51)【国際特許分類】
   C08J 11/10 20060101AFI20231227BHJP
   C12N 9/16 20060101ALN20231227BHJP
【FI】
C08J11/10 ZAB
C12N9/16 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023535866
(86)(22)【出願日】2021-12-13
(85)【翻訳文提出日】2023-06-13
(86)【国際出願番号】 EP2021085364
(87)【国際公開番号】W WO2022135985
(87)【国際公開日】2022-06-30
(31)【優先権主張番号】20217177.3
(32)【優先日】2020-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】590002013
【氏名又は名称】ソシエテ・デ・プロデュイ・ネスレ・エス・アー
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100140453
【弁理士】
【氏名又は名称】戸津 洋介
(72)【発明者】
【氏名】ベルナー, ティム
(72)【発明者】
【氏名】ルートハンス, ニーナ, クリスティーナ, マリア
【テーマコード(参考)】
4F401
【Fターム(参考)】
4F401AA09
4F401AA22
4F401AA26
4F401AC10
4F401AD01
4F401BA13
4F401CA14
4F401CA49
4F401CA76
4F401CB14
4F401FA01Z
4F401FA06Z
4F401FA07Z
4F401FA08Z
4F401FA20Z
(57)【要約】
本発明は、全般的に、再生ポリエチレンテレフタレート(rPET)の、例えば、多層包装におけるrPET層の分解の分野に関する。例えば、本発明は、rPETを少なくとも1種のクチナーゼに供する工程を含む、rPETを分解する方法に関する。rPETは、包装に含まれる多層包装構造における、rPETを主原料とする層であってもよい。注目すべきことに、本発明の主題により、多層包装材料中のrPET含有層の選択的分解が可能になる。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
再生ポリエチレンテレフタレート(rPET)を分解する方法であって、前記rPETを少なくとも1種のクチナーゼに供する工程を含む、方法。
【請求項2】
前記少なくとも1種のクチナーゼが、Thf_Cut、Thc_Cut1、Thc_Cut2、BC-CUT-013、又はこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも1種のクチナーゼが、粗抽出物として使用される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも1種のクチナーゼが、ポリマー1mg当たり少なくとも0.65μgのタンパク質、又はポリマー1mg当たり6μgのタンパク質、又はポリマー1mg当たり50μgのタンパク質の酵素添加量で使用される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記rPETが、20~50℃、例えば30~40℃の範囲の温度で、前記少なくとも1種のクチナーゼに供される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記rPETが、約6~9の範囲、例えば約6.5~8の範囲のpHで、前記少なくとも1種のクチナーゼに供される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記rPETが、少なくとも2日間、少なくとも7日間、又は少なくとも15日間、前記少なくとも1種のクチナーゼに供される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記rPETが包装中に存在する、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記包装が、少なくとも2層のポリマー層を備える多層包装構造を備え、前記ポリマー層が、rPETを主原料とする層と、ポリウレタン(PU)を主原料とする層、ポリエチレンテレフタレート(PET)を主原料とする層、ポリエチレン(PE)を主原料とする層、又はこれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1層とを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
多層包装における少なくとも1層のrPETを主原料とする層を選択的に剥離するために使用される、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記rPETが、多層包装構造を備える包装中に存在し、前記多層包装構造が、リサイクル可能なベース層、例えばPEを主原料とする層と、少なくとも1層のrPET層とを備え、前記方法が、前記少なくとも1層のrPETを主原料とする層を分解すること及び前記ベース層をリサイクルの流れに供することによって、前記多層包装材料をリサイクルするために使用される、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記方法が、前記rPET及び/又は前記rPET含有材料を少なくとも1種のクチナーゼに供する前又は供する間に、前記rPET及び/又は前記rPET含有材料例えば前記rPET含有包装の粒子径を小さくする工程を更に含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
機械的処理によって前記粒子径を小さくし、平均直径が約5mm未満、約1mm未満、又は約0.5mm未満の直径の粒子にする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記方法が密閉容器中で実施される、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全般的に、再生ポリエチレンテレフタレート(rPET)、例えば多層包装におけるrPET層の分解の分野に関する。例えば、本発明は、rPETを少なくとも1種のクチナーゼに供する工程を含む、rPETを分解する方法に関する。rPETは、包装に含まれる多層包装構造における、rPETを主原料とする層であってもよい。注目すべきことに、本発明の主題により、多層包装材料中のrPET含有層の選択的分解が可能になる。
【背景技術】
【0002】
プラスチックの生産量は、過去60年間にわたって増加し続けており、2017年には3億4800万トンに達している(Plastics Europe,2018)。包装は、プラスチックを使用する主要部門であり、市場需要のほぼ40%を占めている(Plastics Europe,2018)。その大部分は使い捨てプラスチックからなり、寿命が短く、消費者が入手して程なくして廃棄物となる。プラスチックの蓄積は、不適切な廃棄、又は廃棄物の埋め立て地での堆積と併せて、プラスチックの高い分解耐性に起因する、現代の主要な環境問題であることは常識である。過去数年にわたり、埋め立て地でのプラスチック堆積を避けるための努力がなされている(Plastics Europe、2018年)。それでもなお、大量の包装用プラスチックが廃棄物となるため、排出される廃棄物の量と、プラスチックを生産するための資源消費とを同時に最小化する効率的なリサイクル技術が必要とされている。
【0003】
包装に使用されるポリマーは、炭素-炭素骨格を有するもの[例:ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリスチレン(PS)]、及びヘテロ原子骨格を有するもの[例:ポリエステル、ポリウレタン(PU)]の2種類に大別することができる。C-C結合を切断するのに高いエネルギーが必要とされるため、炭化水素は、分解に対して非常に耐性が高い(Microb Biotechnol,10(6),1308-1322)。一方、ポリエステル及びポリウレタンは加水分解可能なポリエステル結合を有するため、非生物的分解及び生物的分解に対して耐性が低い。
最も一般的なポリエステルは、ポリエチレンテレフタレート(PET)である(Plastics Europe,2018)。その使用量の多さから、PETをリサイクルする能力は産業の重要な焦点である。Plastics Recycler Europeによる最近の評価では、欧州のPETリサイクル能力は2017年に210万トンであった。バージンPETの使用量の低減を目的として、リサイクルPET(rPET)の使用が、包装材料中の唯一のPET源とすること、並びにバージンPETと組み合わせてバージンPETとrPETの複合材料とすること、の両方により産業界において増加している。最近、例えばrPETのみから製造されたボトルが市販されている。結果として、例えば米国におけるIHS Markit分析によれば、rPETは、毎年生産及び消費されるPET包装樹脂の約12~14パーセントを構成する。
【0004】
プラスチック包装は、通常、単一のポリマーで構成されていない。むしろ多くの場合、プラスチックの特定の用途に関連する一定の特性(弾性、親水性、耐久性又は水バリア性及びガスバリア性)を得るためには、異なるポリマーのブレンド又は異なるポリマーからなる多層が必要である(Process Biochemistry,59,58-64)。また、包装材料は、一般に、接着剤、コーティング、並びに可塑剤、安定剤及び着色剤などの添加剤を含有する(Philos Trans R Soc Lond B Biol Sci,364(1526),2115-2126)。これにより、一部の包装材料のリサイクルは非常に困難である。
【0005】
現在のプラスチック廃棄物リサイクル技術は、主に熱機械的プロセスからなり、ケミカルリサイクルは産業化の初期段階にある。メカニカルリサイクルには清浄な廃棄物ストリームの投入が必要であるが、この投入は、汚染された複雑な包装構造物の場合、それぞれ事前の洗浄工程及び分離工程を経ることで達成され得る。したがって、現在の多層包装リサイクル率は非常に低い。むしろ、多層包装は、ほとんど焼却されるか、埋め立て処分されている。更にメカニカルリサイクルプロセスでは、多くの場合、特性が低下し、及び食品用としての品質が限定された劣化したプラスチックが得られるため、本来の価値や用途が失われる。そのため、これらの材料は、通常、より価値の低い二次製品に使用される。一方、ケミカルリサイクルプロセスでは、ポリマーのビルディングブロックを回収し、プラスチックの再製造に使用することができるよう、開発が進められている。しかしながら、このプロセスは経済的コスト及びエネルギーコストが高く、通常、極端な条件及び刺激の強い化学物質を必要とする。したがって、これらの技術は、複雑な多層プラスチック材料には理想的ではない(Process Biochemistry(2017),59,58-64)。
【0006】
多層プラスチック包装の各構成要素を選択的に取り外し、リサイクルすることができる技術があれば、元の包装を再製造し、リサイクルを混合プラスチック包装廃棄物や材料へ拡大できる可能性がある。
【0007】
酵素は基質に対する選択性が高いため、リサイクルプロセスへ応用できる可能性が高い。酵素により、各層を選択的に分解して、その後の新しいプラスチック製造に使用することができる出発ビルディングブロック、又は付加価値のある化学物質にすることが可能になる。難分解性プラスチックの酵素分解及び微生物分解は、過去数年にわたり、特にPETを中心に研究が進んでいる(Microb Biotechnol,10(6),1302-1307)。プラスチックの酵素分解は困難であるが、プラスチック包装の製造に使用されるポリエステルを分解することができる酵素が存在する。しかしながら、酵素の分解効率は、様々なクラス及び種類の酵素によって異なり、実験を実施した条件が、分解の程度に大きく影響を与える。加えて、ポリマーの特性、例えば結晶化度及び組成も、分解速度に強い影響を与える。
【0008】
ポリマーの酵素分解の効率を上げる努力がなされてきたが、ほとんどの研究は純粋な材料に対して行われたものである。これらの研究により、プラスチックの酵素分解に関する良好な初期知見が提供されるが、これらのプラスチックは、ポリマーが単離されておらず、添加剤が存在し得る実際の包装材料を代表するものではない。更に、実験条件、酵素の特性、ポリマーの特性が分解プロセスに及ぼす影響についての深い理解が欠けている。
したがって、多層包装の選択的リサイクルプロセスを考案することは、非常に重要である。
【0009】
したがって、費用効率がよく、高品質の材料をもたらし、過酷な処理条件を必要としない、多層包装におけるrPETベースの層を選択的に分解(剥離)するために使用することができる利用可能なプロセスを有することが望ましい。
【0010】
PETはクチナーゼによって分解され得ることが知られているが(Nature Scientific Reports(2019)9:16038)、従来技術は、発明者の知る限り、リサイクルPET(rPET)の酵素的加水分解に関する情報を欠いている。典型的には、機械的リサイクル中の熱加水分解による分子量の減少によって引き起こされる、バージンPETと比較したrPETの質の低下を補うために、鎖延長剤が一般的に使用される(D.S.Achilias(Ed.),Mater.Recycl.Trends Perspect.,InTech,Rijeka,Croatia(2012),pp.85-114)。このような化学的修飾は、分子量を増加させ、部分的な架橋をもたらし、PETと比較してrPETの全体的な化学的性質を変化させる(Torres et al.2001,79(10),1816-1824を参照されたい)。したがって、rPET及びPETの組成及び特性が異なることが知られている。例えば、Packag Technol Sci.2020;33:359-371は、これらの差異のいくつかを掲載している。1つの結果として、例えば、rPETは、典型的にはPETよりも高い結晶化度を有する(Thermochimica Acta Volume 683,January 2020,178472)。より高い結晶化度は、酵素による加水分解効率に悪影響を及ぼす可能性がある。さらに、延長剤による化学修飾は、例えば、酵素的加水分解に影響を与える。すなわち、クチナーゼはPETを分解することができることが知られているからといって、クチナーゼをrPETの分解にも使用できると結論付けることはできない。
【0011】
しかしながら、rPET、例えばrPETボトルなどのrPET食品包装を酵素により加水分解し、多層包装中に存在する1層以上のrPET層を剥離するためのプロセスであって、バージン再生PET(rPET)を再生成するためのモノマーを生成することを可能にし、ひいては、例えば食品包装用途又は他の高価値用途のために再生rPETを再使用することを可能にする、プロセスを利用可能にすることが望ましい。
【0012】
重要なことに、純粋なPETの結晶化度は、溶融及び冷却(急冷)によって、例えば押出によって変化させることができることが知られているが、この手法では分離することができず、したがって、例えば押出プロセスを適用不可能にする異なるポリマー特性のために、多層構造体には不可能である。したがって、rPET/PET含有多層包装のための効率的な酵素的解重合及び層間剥離プロセスが切に必要とされている。
【0013】
本明細書における先行技術文献のいかなる参照も、かかる先行技術が周知であること、又は当分野で共通の全般的な認識の一部を形成していることを認めるものとみなされるべきではない。
【0014】
[発明の概要]
したがって、本発明の目的は、現在の技術水準を向上又は改善することであり、特に、当技術分野において、rPET、例えば、多層包装中に適用されたrPETを分解する方法であって、層の事前分離を必要とせず、刺激の強い化学物質及び/若しくは過酷な条件を必要とせず、経済的及び環境的利点をもたらす、方法を提供すること、又は少なくとも当技術分野で利用できる解決策の有用な代替手段を提供することであった。
【0015】
本発明者らは、驚くべきことに、本発明の目的が独立請求項の主題によって達成され得ることを見出した。従属請求項は、本発明の着想を更に展開させるものである。
【0016】
したがって、本発明は、rPETを少なくとも1種のクチナーゼに供する工程を含む、rPETを層間剥離(及び分解)する方法を提供する。
【0017】
本明細書で使用される場合、「含む/備える(comprises)」、「含んでいる/備えている(comprising)」という単語、及び類似の単語は、排他的又は網羅的な意味で解釈されるべきではない。換言すれば、これらは「含むが、これらに限定されない」ことを意味することを意図している。
【0018】
本発明者らは、クチナーゼを使用することで、rPETを効率的に分解することができることを示した。本発明者らは、クチナーゼThf_Cut、Thc_Cut1、Thc_Cut2、及びクチナーゼ様酵素BC-CUT-013について、特に有望な結果を得た。注目すべきことに、rPET/PET複合材料においても、全てのクチナーゼ酵素を効率的に使用してrPETを分解することができた。それらはまた、多層包装におけるrPET含有層を選択的に分解するために使用することができる。例えば、rPETを主原料とする層を備えるPE系多層包装構造の場合、クチナーゼを使用することにより、rPETを主原料とする層を選択的に分解することができ、これにより、rPETモノマーを回収し、多層包装構造のPEベースの骨格を遊離させ、PEリサイクルに供することができた。得られたPEが清浄な状態であるため、リサイクルされたPEを価値の高い用途にリサイクルすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
本発明の追加の特徴及び利点は、図面を参照して以下に記載の現在好ましい実施形態の説明において記載されており、この説明から明らかになる。
図1】異なる4種類のクチナーゼ及びクチナーゼ様酵素をそれぞれ使用した、30%のリサイクルPET含量を有するポストコンシューマPETから放出された総加水分解産物(mM)の増加を示す:Thf_Cut(菱形、白ダイヤモンド)、Thc_Cut2(三角、白三角)、Thc_Cut1(丸、白丸)及びBC-CUT-013(四角、白四角)。実験には、pH7の0.1M PBSからなる陰性対照(黒丸、黒丸)も含めた。0.2~0.5mmに粉砕した20~25mgのrPET基質を用いて、37℃及びpH7で7日間反応を行った。各記号は、デュプリケートで行った反応の平均を表す。生成物濃度(TPA、BHET、MHET)をHPLCにより決定した。酵素添加量は、典型的にはポリマー1mg当たり6μgのタンパク質に調整した。
図2A】30%のリサイクルPET含有量を有するポストコンシューマPETを使用して、異なる4種類の酵素による2日の反応時間後に放出された各加水分解生成物の個々の量を示す。0.2~0.5mmに粉砕した20~25mgのrPET基質を用いて、37℃及びpH7で、それぞれ2日間反応を行った。生成物バー中の異なる色のフラクションは、HPLCによって決定された反応混合物の加水分解生成物TPA(白色)、MHET(灰色)及びBHET(黒色)の濃度を示す。各バーは、それぞれの最大値及び最小値を有するデュプリケートで行った反応の全生成物の平均濃度を表す。典型的に使用する酵素添加量は、反応ごとにポリマー1mg当たり6μgのタンパク質に設定した。
図2B】30%のリサイクルPET含有量を有するポストコンシューマPETを使用して、異なる4種類の酵素による7日の反応時間後に放出された各加水分解生成物の個々の量を示す。0.2~0.5mmに粉砕した20~25mgのrPET基質を用いて、37℃及びpH7で、それぞれ7日間反応を行った。生成物バー中の異なる色のフラクションは、HPLCによって決定された反応混合物の加水分解生成物TPA(白色)、MHET(灰色)及びBHET(黒色)の濃度を示す。各バーは、それぞれの最大値及び最小値を有するデュプリケートで行った反応の全生成物の平均濃度を表す。典型的に使用する酵素添加量は、反応ごとにポリマー1mg当たり6μgのタンパク質に設定した。
図3】75%のリサイクル含量を有するポストコンシューマPETの、pH7.5(黒色)、pH8(灰色)、及びpH8.2(白色)で7日間の酵素加水分解後の総生成物濃度(BHET+MHET+TPA)を示す。陰性対照は、0.1M PBS緩衝液中のrPETのみを用いて行った。反応は、0.2~0.5mmに粉砕した20~25mgのrPET基質を用いて37℃で4mLのガラスバイアル中で行った。各バーは、それぞれの最大値及び最小値を有するデュプリケートで行った反応の全生成物の平均濃度を表す。典型的な酵素添加量を、ポリマー1mg当たり5.6~7μgのタンパク質に設定した。
図4A】酵素Thf_cutについて、70%の再生PET含有量を有するポストコンシューマPETの酵素加水分解の反応プロファイルを示す。0.2~0.5mmに粉砕した20~25mgの基質を用いて、37℃及びpH7.5(四角)、pH8(三角)及びpH8.2(菱形)で2日間反応を行った。加水分解生成物をHPLCにより測定した。各バーは、それぞれの最大値及び最小値を有するデュプリケートで行った反応の全生成物の平均濃度を表す。典型的な酵素添加量を、反応の大部分においてポリマー1mg当たり5.6~7μgのタンパク質に調整した。
図4B】酵素Thc_cut2について、70%の再生PET含有量を有するポストコンシューマPETの酵素加水分解の反応プロファイルを示す。0.2~0.5mmに粉砕した20~25mgの基質を用いて、37℃及びpH7.5(四角)、pH8(三角)及びpH8.2(菱形)で2日間反応を行った。加水分解生成物をHPLCにより測定した。各バーは、それぞれの最大値及び最小値を有するデュプリケートで行った反応の全生成物の平均濃度を表す。典型的な酵素添加量を、反応の大部分においてポリマー1mg当たり5.6~7μgのタンパク質に調整した。
図4C】酵素Thc_Cut1(C)及について、70%の再生PET含有量を有するポストコンシューマPETの酵素加水分解の反応プロファイルを示す。0.2~0.5mmに粉砕した20~25mgの基質を用いて、37℃及びpH7.5(四角)、pH8(三角)及びpH8.2(菱形)で2日間反応を行った。加水分解生成物をHPLCにより測定した。各バーは、それぞれの最大値及び最小値を有するデュプリケートで行った反応の全生成物の平均濃度を表す。典型的な酵素添加量を、反応の大部分においてポリマー1mg当たり5.6~7μgのタンパク質に調整した。
図4D】酵素BC-CUT-013について、70%の再生PET含有量を有するポストコンシューマPETの酵素加水分解の反応プロファイルを示す。0.2~0.5mmに粉砕した20~25mgの基質を用いて、37℃及びpH7.5(四角)、pH8(三角)及びpH8.2(菱形)で2日間反応を行った。加水分解生成物をHPLCにより測定した。各バーは、それぞれの最大値及び最小値を有するデュプリケートで行った反応の全生成物の平均濃度を表す。典型的な酵素添加量を、反応の大部分においてポリマー1mg当たり5.6~7μgのタンパク質に調整した。
【発明を実施するための形態】
【0020】
したがって、本発明は、部分的には、ポリエチレンテレフタレート(rPET)を少なくとも1種のクチナーゼに供する工程を含む、再生rPETを分解する方法に関する。
【0021】
rPETは、単一材料として、又は例えばrPETを含む複合材料若しくは多層材料として提供されてもよい。
【0022】
本発明者らは、例えば、rPETを含む材料が30%又は75%のリサイクルPETを含む複合PET材料である場合に、非常に良好な結果を得た。
【0023】
本発明によれば、rPETは、少なくとも1種のクチナーゼによって分解される。用語「分解」は解重合を含み、解重合はポリマーをその最終モノマーに変換するプロセスを指す。用語「分解」は、より一般的には、ポリマー鎖が酵素のうちの少なくとも1つによって切断され、モノマーには限らないが、より短いポリマー鎖が得られることを表す。このようなポリマー断片化は、例えば、エンド型酵素の活性によって、又はエキソ型酵素の不完全な活性によって達成することができる。本発明の一実施形態において、本発明の方法は、rPET、例えば、包装中の少なくとも1層のrPETを主原料とする層を解重合する方法であってもよい。
【0024】
クチナーゼは、クチンと水との反応を触媒して、クチンモノマーを生成する。クチナーゼは、セリンエステラーゼであり、通常セリンヒドロラーゼのSer-His-Asp三つ組み残基を含有する。
【0025】
少なくとも1種類のクチナーゼは、真菌材料又は微生物材料由来のクチナーゼであってもよい。真菌材料又は微生物材料由来の酵素を使用することは、それらが天然に産生され得るという利点を有する。特に、酵素が真菌又は微生物によって分泌される酵素である場合、真菌又は微生物自体を、包装材料中の少なくとも1層のポリマー層を分解するために使用することができる。
【0026】
少なくとも1種のクチナーゼは、サーモビフィダ・フスカ(Thermobifida fusca)、サーモビフィダ・セルロシリティカ(Thermobifida cellulosilytica)又はサーモビフィダ・アルバ(Thermobifida alba)由来のクチナーゼであってもよい。
【0027】
サーモビフィダ属の生物は、土壌中に生息する好熱性生物であり、コンポストヒープ、腐葉土、堆肥の山又はキノコ生育培地などの加熱後有機物における植物細胞壁の主要な分解者である。サーモビフィダ属の生物の細胞外酵素は、耐熱性、広いpH範囲、及び高活性を有するため、研究されてきた。
【0028】
本発明者らは、少なくとも1種のクチナーゼがThf_Cut、Thc_Cut1、Thc_Cut2、BC-CUT-013、又はそれらの組み合わせからなる群から選択された場合に、特に有望な結果を得た。
【0029】
Thf_Cut(T.フスカ)、Thc_Cut1(T.セルロシリティカ)及びThc_Cut2(T.セルロシリティカ)並びに3つのメタゲノムクチナーゼBC-CUT-013は、Biocatalyst Ltd.UKから購入した。
【0030】
酵素は純粋な形態で使用してもよい。しかしながら、本発明者らは、驚くべきことに、酵素が粗抽出物として、例えば真菌材料及び/又は微生物材料からの粗抽出物としても使用することができることを見出した。粗抽出物を使用すると、コストのかかる酵素精製が不要になるという利点がある。したがって、本発明によれば、少なくとも1種類のクチナーゼは、粗抽出物として使用してもよい。有利には、少なくとも1種類のクチナーゼは、水溶性粗抽出物として使用してもよい。
【0031】
使用される酵素の量は、本発明の方法における分解工程の成功において重要ではない。しかしながら、使用される酵素の量は、分解速度において重要である。本発明者らは、ポリマー1mgあたり少なくともタンパク質約0.65μg、ポリマー1mgあたり少なくともタンパク質約6μg、又はポリマー1mgあたり少なくともタンパク質約50μgの酵素添加量で分解が実施された場合に、良好な結果を得た。
【0032】
特に、本発明の枠組みにおいて使用されるクチナーゼが好熱性生物から得られる場合、クチナーゼは一定の熱安定性も示す。したがって、分解は、高温で、例えば30~40℃、35~45℃又は40~50℃の範囲の温度で行うことができる。高温での分解は、著しく速く進行する。予想される反応速度の増加は、アレニウスの式に従って推定することができる。
【0033】
しかしながら、反応温度を上昇させることにより、例えば、エネルギー使用量増加のためのコストが必要となる。したがって、分解を周囲温度で行うことが好ましい場合がある。これは特に、必要な反応時間が重要でない場合に当てはまる。周囲温度は、例えば、地理的な位置や季節によって異なる場合がある。周囲温度は、例えば、約0~30℃、例えば約5~25℃の範囲の温度を意味し得る。
【0034】
したがって、例えば、本発明の枠組みにおいて、rPETは、20~50℃、例えば30~40℃の範囲の温度で、少なくとも1種のクチナーゼに供され得る。本発明者らは、約37℃の温度で非常に良好な結果を得た。
【0035】
本発明者らは、異なるpH値での反応を更に試験した。本発明の方法は、分解を中性から弱アルカリ性の条件で実施した場合に、最も効果的であることが判明した。6~9の範囲のpHで良好な結果が得られた。例えば、rPETは、約6~9の範囲、例えば約6.5~8の範囲のpHで、少なくとも1種のクチナーゼに供され得る。
【0036】
したがって、約7~9の範囲のpH、好ましくは約7.5~8.5の範囲のpH、例えば約8.2のpHで分解が実施されることが好ましい場合がある。
【0037】
本発明者らは、rPETを少なくとも2日間、少なくとも7日間、又は少なくとも15日間、少なくとも1種のクチナーゼに供した場合に、良好な結果を得た。
【0038】
本発明の方法を用いると、rPETの部分的な分解又は完全な分解さえも可能であると思われる。本発明者らは、対応するモノマー及びモノマー混合物の放出(TPA、BHET、MHET)からこれを結論付ける。例えば、本発明の方法を用いると、rPETを少なくとも10重量%、少なくとも15重量%、少なくとも20重量%、少なくとも25重量%、少なくとも30重量%、少なくとも35重量%、少なくとも45重量%、少なくとも50重量%、又は少なくとも55重量%分解することが可能であると思われる。この分解は、一部分において、モノマー又はモノマー混合物の生成をもたらした。したがって、本発明の方法を用いると、少なくとも1層のポリマー層の分解は、分解されたポリマーの少なくとも10重量%、少なくとも15重量%、少なくとも20重量%、少なくとも25重量%、少なくとも30重量%、少なくとも35重量%、少なくとも45重量%、少なくとも50重量%、又は少なくとも55重量%のモノマー、又はモノマー混合物の生成をもたらす。
【0039】
本発明の方法は、特に包装リサイクルへの適用に適している。したがって、本発明の枠組みにおいて、rPETは、包装、例えば、ボトル、トレイ、可撓性若しくは多層可撓性パッキングなどの剛性若しくは可撓性食品包装、又はパウチなどのペットフード包装に存在し得る。本発明の目的に関し、「食品」という用語は、国際食品規格(Codex Alimentarius)に従って、加工、半加工、又は未加工に関わらず、ヒトによる消費を意図した任意の物質であり、飲料、チューインガム、及び「食品」の製造、調製又は処理で使用されている任意の物質を含むが、化粧品若しくはタバコ、又は薬物としてのみ使用される物質を含まないものとして理解される。
【0040】
多層包装構造は、現在の産業、例えば食品産業において頻繁に使用されている。ここで、多層包装は多くの場合、食品アイテムに一定のバリア特性、強度及び保存安定性を有する軽量包装を与えるために使用される。このような多層包装材料は、例えば、積層又は共押出によって製造することができる。更に、ナノテクノロジー、UV処理、及びプラズマ処理に基づく技術が、多層包装の性能を向上させるために使用される。Compr Rev Food Sci Food Saf.2020;19:1156-1186は、食品用途のための多層包装における最近の進歩を概説している。
【0041】
包装が多層包装材料を含む場合、この多層包装材料は、少なくとも2層のポリマー層を備えてもよい。
【0042】
ポリマー層は、rPETを主原料とする層と、rPETを主原料とする更なる層、ポリウレタン(PU)を主原料とする層、ポリエチレン(PE)を主原料とする層、又はこれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1層とを含んでもよい。
【0043】
層は、少なくとも約50重量%、少なくとも約60重量%、少なくとも約70重量%、少なくとも約80重量%、少なくとも約90重量%、少なくとも約95重量%、又は少なくとも約99重量%のPU、PE、又はrPETをそれぞれ含有する場合、PU、PE、又はrPETを主成分とすると考えられる。
【0044】
ポリマー層は、rPET層と、rPETを主原料とする更なる層、ポリウレタン(PU)を主原料とする層、ポリエチレン(PE)を主原料とする層、又はこれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1層とを含んでもよい。
【0045】
PU層はまた、食品包装において頻繁に使用される。PU層は、通常、高い伸びを有し、本質的に強く、柔軟で、可塑剤を含まず、時間の経過と共に脆くならない柔軟なフィルムである。PU層は脂肪及び加水分解に対して耐性である。PU層は高温に耐えることができ、微生物からの攻撃に対して優れた耐性を示す。
【0046】
PET層も、食品包装において頻繁に使用される。PET層は透明であり、非常に良好な寸法安定性及び引張強度を有し、広い温度範囲にわたって安定である。PET層は、低い水吸着挙動を示し、顕著にUV耐性であり、良好なガスバリアを提供する。更に、PETへの高品質な印刷が容易である。しかしながら、PETフィルムの水分バリア性は中程度にすぎない。持続可能性の理由から、rPETは、バージンPETを部分的又は完全に置き換えるためにますます使用されるようになっている。
【0047】
ポリエチレン(PE)は、プラスチックポリマーであり、現在では比較的容易に機械的にリサイクルすることができる。PE熱可塑性樹脂は、興味深いことに、それらの融点で液体になり、高温下で分解し始めない。そのため、かかる熱可塑性プラスチックは、融点まで加熱し、冷却し、再度加熱しても、大きく劣化しない。PEは、熱によって液化すると、押出成形や射出成形が可能となり、したがって、リサイクルして新たな用途に使用することができる。しかしながら、例えば、多層包装材料において、PE層が他のプラスチック層と組み合わされている場合、PEをリサイクルするには問題がある。
【0048】
本発明に記載される方法の1つの利点は、PE層からrPET層を選択的に剥離するために使用できることである。したがって、本発明の方法は、多層包装における少なくとも1層のrPETを主原料とする層を選択的に剥離するために使用され得る。
【0049】
本発明者らは、本発明の枠組みにおいて使用される酵素でrPETを主原料とする層を分解し得ることを示すことができた。例えば、本発明者らは、市販のrPET含有材料を、本発明の枠組みにおいて使用されるクチナーゼで分解することができることを示した。
【0050】
本発明の方法において、rPETは、多層包装構造を備える包装中に存在してもよく、多層包装構造は、リサイクル可能なベース層、例えばPEを主原料とする層と、少なくとも1層のrPETを主原料とする層とを備え、本方法は、少なくとも1層のrPETを主原料とする層を分解すること及びベース層をリサイクルの流れに供することによって、多層包装構造をリサイクルするために使用される。得られたPETモノマーも、同様に回収してリサイクルすることができる。
【0051】
本発明者らは更に、包装、例えば多層包装構造の表面積対体積比が増加した場合、分解速度及び/又は完全性を著しく増加させることができることを提案する。例えば、包装を酵素に供する前に、包装を機械的に処理し、粒子径を小さくして平均直径が約5mm未満、約1mm未満、又は約0.5mm未満の直径の粒子にしてもよい。通常、機械的処理は、例えば細断であってもよい。したがって、本発明の方法は、rPET及び/又はrPET含有材料を少なくとも1種のクチナーゼに供する前又は供する間に、rPET及び/又はrPET含有材料例えばrPET含有包装の粒子径を小さくする工程を更に含んでもよい。機械的処理によって粒子径を小さくし、平均直径が約5mm未満、約1mm未満、又は約0.5mm未満の直径の粒子にしてもよい。
【0052】
本発明の方法による1つの利点は、制御された条件下、例えばバイオリアクターなどの密閉容器中で実施することができることである。分解プロセスの条件が比較的穏やかであるため、極端な条件に耐えることができるバイオリアクターは必要なく、このことは本発明の方法の安全性及び費用対効果に寄与する。密閉容器を使用することは、例えば温度及び撹拌などの反応及びプロセスのパラメータを正確に制御することができるという利点を有する。
【0053】
当業者は、本明細書に開示される本発明の全ての特徴を自由に組み合わせることができることを理解するであろう。特に、本発明の方法について説明した特徴は、組み合わせてもよい。更に、本発明の異なる実施形態について記載された特徴を組み合わせてもよい。
【0054】
本発明を実施例によって説明してきたが、特許請求の範囲で定義された本発明の範囲から逸脱することなく、変更及び改変を加えることができることが理解されるべきである。
【0055】
更に、既知の均等物が特定の特徴に対して存在する場合、かかる均等物は、本明細書で具体的に言及されているかのように組み込まれる。本発明の更なる利点及び特徴は、図及び非限定的な実施例から明らかである。
【0056】
実施例1:4種類のクチナーゼによる30%リサイクルPETの酵素分解
材料及び化学物質
酵素アッセイに使用したポリエチレンテレフタレート(PET)は、リサイクルPET(rPET)30%又は75%を含む、33cLのHenniezスティルウォーターボトルのポストコンシューマPETであった。グリセロール、KHPO、KHPO、NaOH及び酢酸エチル、塩酸、ギ酸、塩酸及びメタノールは全てSigmaから購入した。テレフタル酸(TPA)はFisher Scientificから購入し、ジメチルスルホキシド(DMSO)はFlukaから購入した。
【0057】
Thf_Cut1(T.フスカ)、Thc_Cut2(T.セルロシルティカ)及びThcCut1(T.セルロシリティカ)並びにメタゲノムクチナーゼBC-CUT-013は、Biocatalystから購入した。
【0058】
【表1】
【0059】
実験中の取り扱いを容易にするために、全ての酵素を、40%(w/v)グリセロールによりタンパク質1mg/mLのストック溶液に希釈した。最終酵素添加量は、ポリマー1mgあたり5.6~7μgに相当した。
【0060】
再生PET(rPET)を含むポストコンシューマポリエチレンテレフタレート(PET)の酵素加水分解
30%又は75%の再生PET含有量(rPET)を有するポストコンシューマ水ボトルを、酵素処理に供する前に前処理した。rPETを1~2cmの四角形に切断し、エタノールで洗浄し(約30分間)、37℃で乾燥させた。続いて、SPEX(登録商標)SamplePrep製の6870D Freezer/Mill(登録商標)Cryogenic Grinderを使用して、rPETを細断した。細断したrPET粒子をふるいにかけ、小片を、0.2mm未満、0.2~0.5mm、0.5~1mm、及び1mm超の4つのサイズカテゴリーに分別した。
【0061】
前処理したポストコンシューマrPET粉末約20~25mgを、PTFE/シリコーン/PTFEセプタムを有する、2mLエッペンドルフチューブ又は4mLガラスバイアルに入れた。反応は、pH7の100mM NaHPO/NaHPO緩衝液で新たに調製した酵素溶液1.5mL中、37℃で実施した。
【0062】
2mLチューブについては、反応をEppendorf社製のThermoMixer(登録商標)5437において1100rpmで行い、一方、ガラスバイアルでは、Kuhner Shaker社製のISF1-Xインキュベーターシェーカーにおいて100rpmで水平に置き、rPET粒子を懸濁状態に保った。対照反応は、酵素溶液の代わりに緩衝液を用いて行った。生成物分析用のサンプルを定期的に採取した。
【0063】
HPLCによるrPET加水分解生成物の分析
rPETの酵素加水分解生成物を、高圧液体クロマトグラフィ(HPLC)によって定量した。サンプル50μLを反応混合物から定期的に採取し、25mM HCl 205μLをHPLC移動相(30%MeOH中0.1%ギ酸)中に含有する氷上のチューブに移して反応を停止させ、酵素を沈殿させた。次いでサンプルを、0℃、16000gで15分間遠心分離した。上清約200μLをHPLCガラスバイアルに移した。Waters製のAcquity UPLC HSS C18 1.8μm 2.1×50mmカラム及びダイオードアレイ検出器(DAD)を取り付けたAgilent 1200シリーズシステムを使用して、サンプルを逆相クロマトグラフィによって分析し、241nmで検出した。5μL又は10μLの量のサンプルをシステムに注入した。流量は0.2mL/minであり、カラムは50℃で操作し、ランタイムは8分であった。テレフタル酸(TPA)、モノ(2-ヒドロキシエチルテレフタレート)(MHET)及びビス(2-ヒドロキシエチルテレフタレート)(BHET)の検量線は、サンプルと同じ方法で、0.005~1mMの範囲の濃度で作製したものである。全ての化合物の10mMストック溶液をDMSOで調製した。
【0064】
結果及び考察
pH7及び37℃の周囲温度で7日間のrPET分解に関し、試験した全ての酵素のうち最も高い総生成物形成は、生体触媒由来の新規クチナーゼであるBC-CUT-013について検出された(図1及び図2を参照)。BC-CUT-013は、広く報告されている3種のPET分解酵素Thf_cut、Thc_cut2及びThc_Cut1を、7日後に0.76mMで3倍上回った(図1及び図2B参照)。本発明者の知る限り、これは、再生PET(rPET)の酵素加水分解に関する最初の報告である。これまでのところ、ポストコンシューマPETの使用のみが、クチナーゼ及び酵素一般の基質として報告されている(Wei,R.,et al.2019,Advanced Science 6(14):1900491及びMuller,R.-J.,et al.2005,Macromolecular Rapid Communications,26(17),1400-1405を参照されたい)。Wei,R.,et al.2019による研究は、未使用のPETフィルムと比較して、ポストコンシューマPETに対するクチナーゼの効率が約4倍低いことを実証し、著者らは、その挙動を結晶化度の差に関連するものとした。しかしながら、リサイクルされた内容物について利用可能な情報は存在しない。本発明において、生体触媒由来のBC-CUT-0013酵素は、rPETを分解することができるだけでなく、リサイクル含量(recycling content)による影響を最も受けないことが見出された。表1に示すように、リサイクル含量を30%から75%に増加させた場合、21%までの加水分解効率の低下が観察されたが、他のクチナーゼ(Thc_Cut)は、30%までのさらに高い加水分解の低下を示した。PETのリサイクル含有量の増加に伴う加水分解効率の低下は、変性PETのより高い含有量及び結晶化度に関連している可能性が高い。典型的には、機械的リサイクル中の熱加水分解による分子量の減少によって引き起こされる、バージンPETと比較したrPETの質の低下を補うために、鎖延長剤が一般的に使用される(D.S.Achilias(Ed.),Mater.Recycl.Trends Perspect.,InTech,Rijeka,Croatia(2012),pp.85-114)。このような化学的修飾は、分子量を増加させ、rPETの全体的な物理化学特性を変化させて、バージンPETと同様の機械的特性を回復させる(Torres et al.2001,79(10),1816-1824を参照)。また、リサイクル含量が高いほど、架橋されたPET鎖が高くなり、これは、PET鎖への酵素(クチナーゼ)の作用性(accessibility)に影響を及ぼし得る。注目すべきことに、文献における反応は、はるかに高い温度で行われたが、本発明は、周囲温度で反応を行い、このことは、多層中のrPETをリサイクルするための解決策を提供するだけでなく、従来技術によって記載された反応と比較してエネルギー節約をもたらすであろうより低い温度でリサイクルするための解決策も提供するため、結果の独自性及び重要性をさらに強調する。
【0065】
表1は、BC-CUT-013及びThf_Cut加水分解効率における、ポストコンシューマPET包装中75%の含有量を有するリサイクルPETの効果を示す。反応は、0.2~0.5mmに粉砕したrPETを20~25mg使用して、ガラスバイアル中、37℃及びpH7で24時間行った。典型的な酵素添加量は、ポリマー1mg当たり7μgのタンパク質に設定した。加水分解生成物をHPLCによって定量した。
【0066】
【表2】
【0067】
実施例2:75%リサイクルPETの酵素分解反応に対するpHの影響
材料及び方法
材料及び化学物質
酵素アッセイに使用したポリエチレンテレフタレート(PET)は、リサイクルPET(rPET)30%を含む、33cLのHenniezスティルウォーターボトルのポストコンシューマPETであった。グリセロール、KHPO、KHPO、NaOH及び酢酸エチル、ギ酸、塩酸、及びメタノールは全てSigmaから購入した。テレフタル酸(TPA)はFisher Scientificから購入し、ジメチルスルホキシド(DMSO)はFlukaから購入した。
【0068】
Thf_Cut1(T.フスカ)、Thc_Cut2(T.セルロシリティカ)、Est119(T.アルバ)及びThcCut1(T.セルロシリティカ)並びにメタゲノムクチナーゼBC-CUT-013は、Biocatalystから購入した(表2を参照)。
【0069】
【表3】
【0070】
より高い純度により、0.1mgタンパク質/mLに希釈したシュードモナス・セパシアリパーゼ以外は、実験中のより容易な取り扱いのために40%(w/v)グリセロール中1mg/mLのタンパク質ストック溶液に希釈された。
【0071】
ポストコンシューマポリエチレンテレフタレート(PET)の酵素加水分解
75%の再生含有量を有するポストコンシューマPETボトルを、酵素処理に供する前に前処理した。PETを1~2cmの四角形に切断し、エタノールで洗浄し(約30分間)、37℃で乾燥させた。続いて、SPEX(登録商標)SamplePrep製の6870D Freezer/Mill(登録商標)Cryogenic Grinderを使用して、PETを細断した。細断したPETをふるいにかけ、小片を、0.2mm未満、0.2~0.5mm、0.5~1mm、及び1mm超の4つのサイズカテゴリーに分けた。
【0072】
前処理したポストコンシューマrPET粉末約20~25mgを、PTFE/シリコーン/PTFEセプタムを有する、2mLエッペンドルフチューブ又は4mLガラスバイアルに入れた。反応は、pH7.5、pH8、pH8.2の100mM NaHPO/NaHPO緩衝液で新たに調製した酵素溶液1.5mL中、37℃で実施した。最終酵素投入量は、ポリマー1mgあたり5.6~7μgに相当した。
【0073】
2mLチューブについては、反応をEppendorf社製のThermoMixer(登録商標)5437において1100rpmで行い、一方、ガラスバイアルでは、Kuhner Shaker社製のISF1-Xインキュベーターシェーカーにおいて100rpmで水平に置き、PET粒子を懸濁状態に保った。対照反応は、酵素溶液の代わりに緩衝液を用いて行った。24時間毎にサンプルを採取した。
【0074】
反応終了後、PETをMilliQで2回、エタノールで1回洗浄し、室温で乾燥させ、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を用いる更なる分析のために保存した。
【0075】
HPLCによる加水分解生成物の分析
rPETの酵素加水分解生成物を、高圧液体クロマトグラフィ(HPLC)によって定量した。サンプル50μLを採取し、25mM HCl 205μLをHPLC移動相(30%MeOH中0.1%ギ酸)中に含有する氷上のチューブに移して、反応を停止させ、酵素を沈殿させた。次いでサンプルを、0℃、16000gで15分間遠心分離した。上清約200μLをHPLCガラスバイアルに移した。Waters製のAcquity UPLC HSS C18 1.8μm 2.1×50mmカラム及びダイオードアレイ検出器(DAD)を取り付けたAgilent 1200シリーズシステムを使用して、サンプルを逆相クロマトグラフィによって分析し、241nmで検出した。5μL又は10μLの量のサンプルをシステムに注入した。流量は0.2mL/minであり、カラムは50℃で操作し、ランタイムは8分であった。テレフタル酸(TPA)、モノ(2-ヒドロキシエチルテレフタレート)(MHET)及びビス(2-ヒドロキシエチルテレフタレート)(BHET)の検量線は、サンプルと同じ方法で、0.005~1mMの範囲の濃度で作製したものである。全ての化合物の10mMストック溶液をDMSOで調製した。
【0076】
結果及び考察
75%rPETに対する活性について、異なるクチナーゼのpH依存性を評価し、本発明者らは、反応pHを7.5から8.2に変化させた場合、BC-CUT-013の活性がほぼ2倍増加し得ることを見出した(図3参照)。酵素を含まない対照反応は加水分解産物を示さなかったことに留意されたい(図3)。他のクチナーゼは、反応pHを変化させた場合に加水分解速度の変化をほとんど示さなかった(図3参照)。したがって、広いpH範囲を有するにもかかわらず(表3を参照されたい)、これらのクチナーゼ(Thf_Cut、Thc_Cut2、Thc_Cu1)は、BC-CUT-013と比較して、rPETに対する加水分解活性が全体的にはるかに低いことを特徴とする。このことは、pHを8.2に上昇させると、この特定の酵素(BC-CUT-013)によるPETの加水分解反応を有意に改善することができ、したがって、rPET加水分解の最適化のための重要なパラメータとして役立つことを意味する。
【0077】
以下の表3は、4種類のクチナーゼ(Thf_Cut、Thf_Cut2、Thc_Cut1及びBC-CUT013)の、ポストコンシューマ75%リサイクルPETの酵素分解の最適pH範囲を要約する。反応pHは、0.2~0.5mmに粉砕したrPETを20~25mg含む4mLガラスバイアル中、37℃で48時間で、それぞれpH7.5、pH8及びpH8.2に設定した。
【0078】
【表4】


図1
図2A
図2B
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
【国際調査報告】