(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-10
(54)【発明の名称】クラスII心不全を有する対象における進行性心不全を治療する方法
(51)【国際特許分類】
A61K 35/12 20150101AFI20231227BHJP
A61K 35/545 20150101ALI20231227BHJP
A61P 9/04 20060101ALI20231227BHJP
A61K 35/28 20150101ALI20231227BHJP
【FI】
A61K35/12
A61K35/545
A61P9/04
A61K35/28
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023536167
(86)(22)【出願日】2021-12-15
(85)【翻訳文提出日】2023-07-19
(86)【国際出願番号】 US2021063645
(87)【国際公開番号】W WO2022132986
(87)【国際公開日】2022-06-23
(32)【優先日】2020-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(32)【優先日】2021-01-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(32)【優先日】2021-09-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(32)【優先日】2021-10-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(32)【優先日】2021-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516300656
【氏名又は名称】メゾブラスト・インターナショナル・エスアーエールエル
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】シルヴィウ・イテスク
(72)【発明者】
【氏名】ケネス・ボロウ
(72)【発明者】
【氏名】ジャック・ヘイズ
【テーマコード(参考)】
4C087
【Fターム(参考)】
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB64
4C087CA04
4C087MA16
4C087MA65
4C087NA14
4C087ZA36
(57)【要約】
本開示は、心不全の初期段階を有する対象における進行性心不全を治療及び/又は予防するための方法に関する。そのような方法は、ニューヨーク心臓協会(NYHA)分類尺度に従ったクラスII心不全を有する対象における進行性心不全を治療又は予防するために使用され得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における進行性心不全を治療又は予防するための方法であって、前記方法が、前記対象に細胞を含む組成物を投与することを含み、前記対象が、ニューヨーク心臓協会(NYHA)分類尺度に従ったクラスII心不全を有する、方法。
【請求項2】
対象における心不全の進行を低減させる方法であって、前記方法が、前記対象に細胞を含む組成物を投与することを含み、前記対象が、前記ニューヨーク心臓協会(NYHA)分類尺度に従ったクラスII心不全を有する、方法。
【請求項3】
ニューヨーク心臓協会(NYHA)分類尺度に従ったクラスII心不全を有する対象における心臓死を低減させる方法であって、前記方法が、前記対象に細胞を含む組成物を投与することを含む、方法。
【請求項4】
細胞療法による治療のための心不全患者を選択する方法であって、前記方法が、i)ニューヨーク心臓協会(NYHA)分類尺度に従った心不全を評価することと、ii)NYHAに従ったクラスII心不全を有する対象を選択することと、を含み、好ましくは、前記方法が、細胞を含む組成物を投与することを含む、方法。
【請求項5】
前記対象のCRPレベルが、細胞を投与する前に上昇する、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記対象のCRPレベルが、2mg/L以上である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記細胞が、
標的組織において新しい血管形成を誘導し、好ましくは、前記細胞が、動脈新生を油促進し、かつ/又は
リスク心筋において保護する因子を分泌する、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
i)前記ニューヨーク心臓協会(NYHA)分類尺度に従ったクラスII心不全を有する対象を選択すること、及びii)前記対象に、標的組織において新しい血管形成を誘導する細胞を含む組成物を投与することのステップを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項9】
前記組成物を投与することが、前記対象のNYHAクラスIII進行性心不全への進行を阻害する、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記対象のN末端プロB型ナトリウム利尿ペプチド(NT-proBNP)のレベルが、
前記細胞を投与する前に、2200pg/ml未満、好ましくは、2000pg/ml未満、又は
前記細胞を投与する前に、1000pg/ml~2000pg/mlである、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記対象のC反応性タンパク質(CRP)レベルが、5mg/L未満、好ましくは、4mg/L未満である、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記対象のCRPレベルが、1.5~5mg/Lである、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記対象が、過去9ヶ月にわたって心不全入院イベントを有していた、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記対象が、約45%未満、好ましくは、40%未満のLVEFを有する、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記対象が、持続的な左心室機能不全を有する、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記対象の心不全が、虚血イベント又は非虚血イベントから生じる、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記対象が、治療後に、心臓死のリスクの低減を有する、請求項1、2又は5~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記リスクの低減が、NYHAクラスIII進行性心不全を有する対象における心臓死のリスクと相対的である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記対象が、治療後に、虚血性MACE(MI又は脳卒中)のリスクの低減を有する、請求項1~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記組成物が、経心内膜的にかつ/又は静脈内に投与される、請求項1~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記細胞が、間葉系統前駆細胞又は幹細胞(MLPSC)である、請求項1~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記MLPSCが、STRO-1+である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記MLPSCが、間葉系幹細胞(MSC)である、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記MLPSCが、同種である、請求項21又は22に記載の方法。
【請求項25】
前記細胞が、培養増殖される、請求項21~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記細胞が、それらが培養増殖される前に、TNAP+である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記細胞が、凍結保存されている、請求項21~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
1×10
7~2×10
8個の細胞を投与することを含む、請求項1~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記組成物が、血漿-LyteA、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヒト血清アルブミン(HSA)を更に含む、請求項1~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記組成物が、血漿-LyteA(70%)、DMSO(10%)、HSA(25%)溶液を更に含み、前記HSA溶液が、5%HSA及び15%緩衝剤を含む、請求項1~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記組成物が、6.68×10
6生存細胞/mL超を含む、請求項1~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記組成物が、抗STRO-3抗体によって骨単核細胞から単離され、エクスビボで増殖され、かつ凍結保存された、ヒト骨髄由来の同種異系間葉系前駆細胞(MPC)を含む、請求項1~25又は27~31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
対象における虚血イベントのリスクを低減させる方法であって、前記方法が、前記対象に、細胞を含む組成物を投与することを含む、方法。
【請求項34】
前記対象のCRPレベルが、2mg/L以上である、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記虚血イベントが、動脈閉塞の形成である、請求項33又は34に記載の方法。
【請求項36】
前記虚血イベントが、脳血管又は心臓閉塞の形成である、請求項33又は34に記載の方法。
【請求項37】
前記虚血イベントが、脳卒中又は心筋梗塞である、請求項33又は34に記載の方法。
【請求項38】
前記対象が、非虚血性心筋症を有する、請求項33~37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
前記細胞が、経心内膜的に投与される、請求項33~38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
前記対象が、前記ニューヨーク心臓協会(NYHA)分類尺度に従ったクラスII又はクラスIII心不全を有する、請求項33~39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
前記細胞が、
標的組織において新しい血管形成を誘導し、好ましくは、前記細胞が、動脈新生を促進し、かつ/又は
リスク心筋において保護する因子を分泌する、請求項33~40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
前記細胞が、間葉系統前駆細胞又は幹細胞(MLPSC)である、請求項33~41のいずれか一項に記載の方法。
【請求項43】
前記対象のN末端プロB型ナトリウム利尿ペプチド(NT-proBNP)のレベルが、前記細胞を投与する前に、1000pg/ml~2000pg/mlである、請求項33~42のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
前記対象のC反応性タンパク質(CRP)レベルが、1.5~5mg/Lである、請求項33又は35~44のいずれか一項に記載の方法。
【請求項45】
前記MLPSCが、STRO-1+、同種異系、増殖した培養物、凍結保存の対象のうちの1つ以上である、請求項42に記載の方法。
【請求項46】
前記細胞が、それらが培養増殖される前に、培養増殖され、TNAP+を発現する、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
1×10
7~2×10
8個の細胞を投与することを含む、請求項33~46のいずれか一項に記載の方法。
【請求項48】
前記組成物が、血漿-LyteA(70%)、DMSO(10%)、HSA(25%)溶液を更に含み、前記HSA溶液が、5%HSA及び15%緩衝剤を含む、請求項33~47のいずれか一項に記載の方法。
【請求項49】
前記組成物が、抗STRO-3抗体により骨単核細胞から単離され、エクスビボで増殖され、かつ凍結保存された、ヒト骨髄由来の同種異系間葉系前駆細胞(MPC)を含む、請求項33~48のいずれか一項に記載の方法。
【請求項50】
対象において、心臓死、心筋梗塞又は脳卒中のうちの1つ以上のリスクの上昇を判定する方法であって、前記方法が、対象から得られた試料中のCRPのレベルを測定することを含み、上昇したCRPが、心臓死、心筋梗塞又は脳卒中のリスクの上昇を示す、方法。
【請求項51】
前記対象が、進行性心不全を有する、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
前記対象が、クラスIIの進行性心不全を有する、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
2mg/L以上のCRPのレベルが、心臓死、心筋梗塞又は脳卒中のリスクの上昇を示す、請求項50~52のいずれか一項に記載の方法。
【請求項54】
前記方法が、心臓死のリスクの上昇を判定する、請求項50~53のいずれか一項に記載の方法。
【請求項55】
対象における進行性心不全を治療又は予防するための方法であって、前記方法が、前記対象に、間葉系前駆体系統又は幹細胞を含む組成物を投与することを含み、前記対象が、ニューヨーク心臓協会(NYHA)分類尺度従ったクラスII又はクラスIII心不全、及び活動性炎症を有する、方法。
【請求項56】
対象における心不全の進行を低減させる方法であって、前記方法が、前記対象に、間葉系前駆体系統又は幹細胞を含む組成物を投与することを含み、前記対象が、ニューヨーク心臓協会(NYHA)分類尺度従ったクラスII又はクラスIII心不全、及び活動性炎症を有する、方法。
【請求項57】
ニューヨーク心臓協会(NYHA)分類尺度の活動性炎症に従ったクラスII又はクラスIII心不全を有する対象における心臓死を低減させる方法であって、前記方法が、前記対象に、間葉系前駆体系統又は幹細胞を含む組成物を投与することを含む、方法。
【請求項58】
細胞療法による治療のための心不全患者を選択する方法であって、前記方法が、i)ニューヨーク心臓協会(NYHA)分類尺度に従ったCRPレベル及び心不全を評価することと、ii)NYHAに従ったクラスII又はクラスIII心不全、及び活動性炎症を有する対象を選択することとを含み、好ましくは、前記方法が、間葉系前駆体系統細胞又は幹細胞を含む組成物を投与することを含む、方法。
【請求項59】
活動性炎症が、前記対象のCRPレベルに基づいて判定される、請求項55~58のいずれか一項に記載の方法。
【請求項60】
活動性炎症が、2mg/L以上のCRPレベルを特徴とする、請求項59に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年12月15日に出願されたオーストラリア出願第2020/904675号、2021年1月12日に出願されたオーストラリア出願第2021/900059号、2021年9月10日に出願されたオーストラリア出願第2021/902941号、2021年10月20日に出願されたオーストラリア出願第2021/903365号、及び2021年12月15日に出願された米国出願第63/289,868号の優先権益を主張し、これらの各々は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、心不全の初期段階を有する対象における進行性心不全を治療及び/又は予防するための方法に関する。そのような方法は、ニューヨーク心臓協会(NYHA)分類尺度に従ってクラスII心不全を有する対象における進行性心不全を治療又は予防するために使用され得る。
【背景技術】
【0003】
心筋梗塞(MI)は、依然として先進国の死亡率及び罹患率の主な原因の1つである。イベント後に生存して退院した65歳超の患者における350,509人の急性MI入院を含むデータを評価した米国メディケアレコードの更新が公開された(Schuster et al.(2004)Physiol Heart Circa Physiol.,287(2):525-32)。指標イベント後最初の1年以内に、MI患者のうちの25.9%が死亡し、50.5%が再入院した。MIの翌月には、一般的なメディケア年齢集団より、死亡の可能性は21倍高くなり、入院の可能性は12倍高くなった。
【0004】
過去10年間にわたって、新規の薬物療法を評価する多数の臨床試験が、進行性心不全(HF)を有する患者において実施されてきた。HFを有する患者における罹患率及び死亡率の低減において進歩がなされたにもかかわらず、進行性疾患を有する患者は、頻繁な入院及び早死にを特徴とする好ましくない臨床経過を経験し続けている。
。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】オーストラリア出願第2020/904675号
【特許文献2】オーストラリア出願第2021/900059号
【特許文献3】オーストラリア出願第2021/902941号
【特許文献4】オーストラリア出願第2021/903365号
【特許文献5】米国出願第63/289,868号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Schuster et al.(2004)Physiol Heart Circa Physiol.,287(2):525-32
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
明らかに、進行性心不全を治療又は予防する必要性が、当該技術分野には存在している
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、驚くべきことに、細胞療法が、進行性心不全の初期段階を有する対象において特に効果的であることを見出した。したがって、実施例では、本開示は、対象において進行性心不全を治療又は予防するための方法に関し、その方法は、対象に細胞を含む組成物を投与することを含む。実施例では、対象は、ニューヨーク心臓協会(NYHA)分類尺度に従ったクラスII又はクラスIII心不全を有する。実施例では、対象は、ニューヨーク心臓協会(NYHA)分類尺度に従ったクラスIII未満の心不全を有し得る。実施例では、対象は、ニューヨーク心臓協会(NYHA)分類尺度に従ったクラスII心不全を有する。したがって、実施例では、本開示は、対象における進行性心不全を治療又は予防するための方法に関し、その方法は、対象に細胞を含む組成物を投与することを含み、対象は、ニューヨーク心臓協会(NYHA)分類尺度に従ったクラスII心不全を有する。
【0009】
別の実施例では、本開示は、対象における心不全の進行を低減させる方法に関し、その方法は、対象に、細胞を含む組成物を投与することを含み、対象は、ニューヨーク心臓協会(NYHA)分類尺度に従ったクラスII心不全を有する。
【0010】
別の実施例では、本開示は、ニューヨーク心臓協会(NYHA)分類尺度に従ったクラスII心不全を有する対象における心臓死を低減させる方法に関し、その方法は、対象に、細胞を含む組成物を投与することを含む。
【0011】
別の実施例では、本開示は、細胞療法による治療のために心不全患者を選択する方法に関し、その方法は、i)ニューヨーク心臓協会(NYHA)分類尺度に従って心不全を評価することと、ii)NYHAに従ったクラスII心不全を有する対象を選択することとを含む。実施例では、方法は、細胞を含む組成物を投与することを更に含む。
【0012】
実施例では、細胞は、標的組織内で新しい血管形成を誘導する。実施例では、細胞は、動脈新生を促進させる。実施例では、細胞は、リスク心筋で保護する因子を分泌する。したがって、実施例では、本開示は、対象における進行性心不全を治療又は予防するための方法であって、その方法が、対象に細胞を含む組成物を投与することを含み、対象が、ニューヨーク心臓協会(NYHA)分類尺度に従ったクラスII心不全を有し、細胞が、標的組織内で新しい血管形成を誘導し、かつ/又はリスク心筋で分泌因子を分泌する、方法に関する。
【0013】
実施例では、細胞は、間葉系統前駆体又は幹細胞(MLPSC)である。実施例では、MLPSCは、STRO-1+である。実施例では、MLPSCは、間葉幹細胞(MSC)である。実施例では、MLPSCは、同種異系である。実施例では、細胞は、培養増殖される。この実施例では、細胞は、それらが培養増殖される前に、TNAP+であり得る。実施例では、細胞は、凍結保存されている。
【0014】
別の実施例では、本開示の方法は、i)ニューヨーク心臓協会(NYHA)分類尺度に従ったクラスII心不全を有する対象を選択すること、及びii)対象に、標的組織内で新しい血管形成を誘導する細胞を含む組成物を投与することのステップを含む。
【0015】
別の実施例では、組成物を投与することは、対象のNYHAクラスIII進行性心不全への進行を阻害する。
【0016】
実施例では、対象のN末端プロB型ナトリウム利尿ペプチド(NT-proBNP)のレベルは、2200pg/ml未満である。別の実施例では、対象のNT-proBNPは、細胞を投与する前に、2000pg/ml未満である。別の実施例では、対象のNT-proBNPレベルは、細胞を投与する前に、1000pg/ml~2000pg/mlである。
【0017】
本発明者らはまた、驚くべきことに、細胞療法が、C反応性タンパク質(CRP)レベルを上昇させた進行性心不全の初期段階を有する対象において特に効果的であることを見出した。したがって、実施例では、対象のCRPレベルが上昇する。実施例では、対象のCRPレベルは、1mg/L超である。実施例では、対象のCRPレベルは、1.5mg/L超である。実施例では、対象のCRPレベルは、2mg/L以上である。実施例では、対象のCRPレベルは、2mg/L超である。別の実施例では、対象のCRPレベルは、1.5~5mg/Lである。別の実施例では、対象のC反応性タンパク質(CRP)レベルは、5mg/L未満、好ましくは、4mg/L未満である。別の実施例では、対象のCRPレベルは、1~5mg/Lである。別の実施例では、対象のCRPレベルは、1.5~5mg/Lである。
【0018】
別の実施例では、対象は、過去9ヶ月にわたって心不全の入院イベントを有していた。
【0019】
別の実施例では、対象は、約45%未満、好ましくは、40%未満のLVEFを有する。別の実施例では、対象は、持続的な左心室機能障害を有する。
【0020】
別の実施例では、対象の心不全は、虚血イベントから生じる。
【0021】
別の実施例では、対象の心不全は、非虚血イベントから生じる。
【0022】
実施例では、対象は、治療後に、心臓死のリスクの低減を有する。実施例では、リスクの低減は、NYHAクラスIII進行性心不全を有する対象における心臓死のリスクと相対的である。別の実施例では、対象は、治療後に、虚血性MACE(MI又は脳卒中)のリスクの低減を有する。
【0023】
実施例では、クラスIII心不全の対象は、虚血性MACE(非致死性MI又は非致死性脳卒中)のリスクの低減を有する。別の実施例では、クラスIII心不全の対象は、治療後に、心臓死のリスクの低減を有する。別の実施例では、クラスIII心不全の対象は、処置後に、虚血性MACE及び心臓死のリスクの低減を有する。実施例では、クラスIII心不全の対象のCRPレベルは、2mg/L以上である。
【0024】
実施例では、組成物は、経心内膜的に及び/又は静脈内に投与される。実施例では、組成物は、経心内膜的に投与される。
【0025】
本発明者らはまた、驚くべきことに、細胞療法が、心筋症を有する対象における虚血イベントのリスクを低減させることを特定した。したがって、実施例では、本開示はまた、対象における虚血イベントのリスクを低減させる方法を包含し、その方法は、対象に、細胞を含む組成物を投与することを含む。実施例では、対象は、心筋症を有する。実施例では、虚血イベントは、脳血管又は心臓閉塞の形成である。実施例では、虚血イベントは、脳卒中又は心筋梗塞である。実施例では、対象は、非虚血性心筋症を有する。実施例では、細胞は、経心内膜的に投与される。実施例では、対象は、ニューヨーク心臓協会(NYHA)分類尺度に従ったクラスII又はクラスIII心不全を有する。実施例では、対象は、活動性炎症を有する。驚くべきことに、この実施例に関連して、本発明者らは、本開示の組成物を投与することが、クラスII又はクラスIII心不全を有する患者などのより広範囲の患者を治療することができることを特定した。
【0026】
実施例では、本開示は、対象における進行性心不全を治療又は予防するための方法であって、その方法が、対象に、間葉系前駆体系統又は幹細胞を含む組成物を投与することを含み、対象が、ニューヨーク心臓協会(NYHA)分類尺度に従ったクラスII又はクラスIII心不全、及び活動性炎症を有する、方法に関する。別の実施例では、本開示は、対象における心不全の進行を低減させる方法であって、その方法が、対象に、間葉系前駆体系統又は幹細胞を含む組成物を投与することを含み、対象が、ニューヨーク心臓協会(NYHA)分類尺度に従ったクラスII又はクラスIII心不全及び活動性炎症を有する、方法に関する。別の実施例では、本開示は、ニューヨーク心臓協会(NYHA)分類尺度の活動性炎症に従ったクラスII又はクラスIII心不全を有する対象における心臓死を低減させる方法であって、その方法が、対象に間葉系前駆体系統又は幹細胞を含む組成物を投与することを含む、方法に関する。別の実施例では、本開示は、細胞療法による治療のための心不全患者を選択する方法であって、その方法が、i)ニューヨーク心臓協会(NYHA)分類尺度に従ったCRPレベル及び心不全を評価することと、ii)NYHAに従ったクラスII又はクラスIII心不全及び活動性炎症を有する対象を選択することとを含み、好ましくは、その方法が、間葉系前駆体系統又は幹細胞を含む組成物を投与することを含む、方法に関する。実施例では、活動性炎症は、対象のCRPレベルに基づいて判定される。実施例では、対象は、クラスII心不全及び「活動性炎症」を有する。実施例では、活動性炎症は、1.5mg/L超のCRPのレベルを特徴とする。別の実施例では、活動性炎症は、2mg/L超のCRPのレベルを特徴とする。例示的な細胞は、上記で、かつ本開示を通して論じられる。実施例では、細胞は、標的組織内で新しい血管形成を誘導する。実施例では、細胞は、動脈新生を促進させる。実施例では、細胞は、リスク心筋で保護する因子を分泌する。実施例では、細胞は、MLPSCである。実施例では、MLPSCは、STRO-1+である。実施例では、MLPSCは、間葉幹細胞(MSC)である。実施例では、MLPSCは、同種異系である。実施例では、細胞は、培養増殖される。この実施例では、細胞は、それらが培養増殖される前に、TNAP+であり得る。実施例では、細胞は、凍結保存されている。
【0027】
実施例では、対象のN末端プロB型ナトリウム利尿ペプチド(NT-proBNP)のレベルは、細胞を投与する前に1000pg/ml~2000pg/mlである。別の実施例では、対象のC反応性タンパク質(CRP)レベルが上昇する。別の実施例では、対象のCRPレベルは、1mg/L以上である。別の実施例では、対象のCRPレベルは、2mg/L以上である。別の実施例では、対象のCRPレベルは、2~5mg/Lである。別の実施例では、対象のCRPレベルは、3~5mg/Lである。
【0028】
上記の実施例の実施形態では、本開示の方法は、1×107~2×108個の細胞を投与することを含む。
【0029】
別の実施例では、投与される組成物は、更に、血漿-LyteA、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヒト血清アルブミン(HSA)を含む。実施例では、投与される組成物は、更に、血漿-LyteA(70%)、DMSO(10%)、HSA(25%)溶液を含み、HSA溶液は、5%HSA及び15%緩衝剤を含む。実施例では、組成物は、6.68×106生存細胞/mL超を含む。
【0030】
別の実施例では、組成物は、抗STRO-3抗体を用いて骨単核細胞から単離され、エクスビボで増殖され、かつ凍結保存された、ヒト骨髄由来の同種異系間葉系前駆細胞(MPC)を含む。
【0031】
実施例では、虚血イベントは、心筋梗塞、脳卒中、又は心臓死のうちの1つ以上である。実施例では、方法は、3点MACEのリスクを低減する。
【0032】
本発明者らはまた、驚くべきことに、CRPレベルの上昇が、心臓死リスク、心筋梗塞又は脳卒中の増加と関連していることを特定した。したがって、実施例では、本開示は、対象における心臓死、心筋梗塞又は脳卒中のうちの1つ以上のリスクの上昇を判定するための方法であって、その方法が、対象から得られた試料中のCRPのレベルを測定することを含み、CRPの上昇は、心臓死、心筋梗塞又は脳卒中のリスクの上昇を示す、方法に関する。実施例では、対象は、進行性心不全を有する。実施例では、対象の心不全は、NYHAクラスII心不全である。別の実施例では、1mg/L超のCRPのレベルは、心臓死、心筋梗塞又は脳卒中のリスクの上昇を示す。別の実施例では、1.5mg/L超のCRPのレベルは、心臓死、心筋梗塞又は脳卒中のリスクの上昇を示す。別の実施例では、2mg/L以上のCRPのレベルは、心臓死、心筋梗塞又は脳卒中のリスクの上昇を示す。実施例では、方法は、心臓死のリスクの上昇を判定する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】虚血性MACE(MI、脳卒中)の発生率の低減。
【
図2-1】
図2。虚血性MACE(MI、脳卒中)の発生率の低減;NYHAクラスII及びクラスIII。
【
図3-1】
図3。虚血性MACE(MI、脳卒中)の発生率の低減;虚血性及び非虚血性。
【
図4-1】
図4。治療された全てにおける心臓死(n=537);クラスII(n=206);クラスIII患者(n=331)。
【
図5-1】
図5。NYHAクラスII患者における心臓死;虚血性及び非虚血性。
【
図7-1】
図7。A)TTFE複合IMM MACE;B)正規化IMM MACE率;C)ベースラインCRP≧2mg/L対CRP≦2mg/mlを伴った全ての治療される患者についての曲線。非致死性MI又は非致死性脳卒中について示される曲線;CV死又は非致死性MI又は非致死性脳卒中についての3点TTFE複合IMM MACE。
【
図8-1】
図8。A)TTFE不可逆的罹患率;B)正規化不可逆的罹患率;C)治療される全て(n=537)についての不可逆的罹患率TTFE MACE(非致死性MI又は非致死性脳卒中)の曲線;クラスII(n=206);クラスIII患者(n=331)。
【
図9-1】
図9。複合心臓死又は虚血性MACE(MI、脳卒中)の発生率の低減;治療される全て(n=537);クラスII(n=206);クラスIII患者(n=331)。
【
図10】NYHAクラスII患者における心臓死-複数年の追跡調査
【
図11】ベースラインhsCRP2mg/L以上を有するNYHAクラスIIの患者は、心臓死への進行のリスクが著しく高い。
【
図12】ベースラインhsCRP2mg/L以上を有するNYHAクラスIIの患者は、3点MACE(心臓死/MI/脳卒中)のリスクが著しく高い。
【発明を実施するための形態】
【0034】
一般の技術及び定義
別段の明確な定義がない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有するもの(例えば、細胞培養、分子生物学、幹細胞培養、免疫学、臨床試験、医学、及び生化学)とする。
【0035】
別段の指示がない限り、本開示で利用される細胞培養技術及びアッセイは、当業者に周知の標準的な手順である。そのような技術は、J.Perbal,A Practical Guide to Molecular Cloning,John Wiley and Sons(1984)、J.Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbour Laboratory Press(1989)、T.A.Brown(editor),Essential Molecular Biology:A Practical Approach,Volumes 1 and 2, IRL Press(1991)、D.M.Glover and B.D.Hames(editors)、及びF.M.Ausubel et al.(editors),Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates and Wiley-Interscience(1988,including all updates until present)、Ed Harlow and David Lane(editors)Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbour Laboratory,(1988)、及びJ.E.Coligan et al.(editors)Current Protocols in Immunology,John Wiley & Sons(including all updates until present)などのソースにおける文献全体を通して記載及び説明される。
【0036】
「及び/又は」という用語、例えば、「X及び/又はY」は、「X及びY」又は「X又はY」のいずれかを意味するものと理解されるものとし、両方の意味又はいずれかの意味に対して明示的なサポートを提供するものと解釈されるものとする。
【0037】
本明細書で使用される場合、「約」という用語は、そうでないと述べられない限り、指定された値の+/-10%、より好ましくは、+/-5%を指す。
【0038】
用語「レベル」及び「量」は、対象からの試料又は細胞培養培地(若しくはそれからの試料)中の特定の物質の量を定義するために使用される。例えば、特定の濃度、重量、パーセンテージ(例えば、v/v%)又は比を使用して、試料中の特定の物質のレベルを定義することができる。実施例では、レベルは、培養条件下で本開示の細胞によって特定のマーカーのどれくらいが発現されるかに関して表される。実施例では、発現は、細胞表面発現を表す。別の実施例では、レベルは、培養条件下で本明細書に記載される細胞から特定のマーカーのどれくらいが放出量に関して表される。実施例では、試料は、患者又は対象(例えば、血液試料)から得られ、物質のレベルは、試料中の物質のレベルを決定するために、試料中で測定される。
【0039】
実施例では、レベルは、pg/mlで表される。例えば、NT-proBNPのレベルは、pg/mlで表され得る。実施例では、レベルは、mg/Lで表される。例えば、CRPのレベルは、mg/Lで表され得る。別の実施例では、レベルは、106個の細胞当たりpgで表される。
【0040】
実施例では、細胞培養培地中の特定のマーカーのレベルは、培養条件下で決定される。「培養条件」という用語は、培養中に増殖する細胞を指すように使用される。実施例では、培養条件は、活動的に分裂する細胞集団を指す。そのような細胞は、実施例では、指数関数的増殖期にあってもよい。例えば、特定のマーカーのレベルは、細胞培養培地の試料を採取し、かつその試料中のマーカーのレベルを測定することによって決定され得る。別の実施例では、特定のマーカーのレベルは、細胞の試料を採取し、かつ細胞溶解物中のマーカーのレベルを測定することによって決定することができる。分泌したマーカーを、培地をサンプリングすることによって測定し、一方、細胞の表面上で発現されるマーカーを、細胞溶解物の試料を評価することによって測定してもよい、当業者。実施例では、細胞が指数関数的増殖期にあるときに、試料を採取する。実施例では、試料は、培養中で少なくとも2日後に採取される。
【0041】
凍結保存された中間体由来の細胞を増殖させる培養は、細胞の増殖に好適な条件下で低温凍結及びインビボ培養を受ける細胞を解凍することを意味する。
【0042】
実施例では、特定のマーカーの「レベル」又は「量」は、細胞が凍結保存され、次いで、培養物に戻るように播種された後に、決定される。例えば、レベルは、細胞の最初の凍結保存の後に、決定される。別の例において、レベルは、細胞の第2の凍結保存の後に、決定される。例えば、特定のマーカーのレベルを培養条件下で決定することができるように、凍結保存された中間体由来の細胞は培養増殖され、培養中に再播種される前に2度目の凍結保存がされ得る。
【0043】
本明細書で使用される場合、「治療すること」、「治療する」、「治療」、「進行を低減させること」という用語は、間葉系統幹細胞又は前駆細胞及び/若しくはその子孫の集団及び/若しくはそれに由来する可溶性因子及び/若しくはそれに由来する細胞外小胞を投与して、それによって進行性心不全の少なくとも1つの症状を軽減又は排除すること、又は進行を低減させる状況では、同じものの進行を遅らせることを含む。
【0044】
本明細書で使用される「対象」という用語は、ヒト対象を指す。例えば、対象は、成人であってもよい。別の実施例では、対象は、子供であってもよい。別の実施例では、対象は、青年であってもよい。「対象」、「患者」、又は「個体」などの用語は、コンテキストにおいて、本開示において互換的に使用され得る用語である。治療を必要とする対象には、既に進行性心不全を有するもの、及び進行性心不全が防止、遅延又は停止されるべきものが含まれる。
【0045】
実施例では、本開示の組成物は、遺伝子改変されていない間葉系前駆体系統又は幹細胞を含む。本明細書で使用される場合、「遺伝子改変されていない」という用語は、核酸によるトランスフェクションによって改変されていない細胞を指す。疑義を避けるために、本開示のコンテキストにおいて、タンパク質をコードする核酸でトランスフェクトされた間葉系統前駆体又は幹細胞は、遺伝子組換とみなされるであろう。
【0046】
本明細書で使用される場合、「試料」という用語は、CRPレベルを測定することができる対象からの抽出物を指す。「試料」は、その試料の抽出物及び/又は誘導体及び/又は画分を含む。本開示では、任意の生体材料は、対象から収集され、対象におけるCRPのレベルを決定するためにアッセイされ得る限り、上記の試料として使用され得る。実施例では、試料は、血液試料である。実施例では、血液試料は、NYHAクラスII心不全を有する対象から得られる。
【0047】
本明細書全体を通して、「含む(comprise)」、又は「含む(comprises)」若しくは「含むこと(comprising)」などの変化形は、記載された要素、整数若しくはステップ、又は要素、整数若しくはステップの群の包含を意味するが、任意の他の要素、整数若しくはステップ、又は要素、整数若しくはステップの群の除外を意味するものではないことが理解されるであろう。
【0048】
本明細書全体を通して、特に別段の定めがない限り、又はコンテキストが別段必要としない限り、単一のステップ、物質の組成物、ステップの群、又は物質の組成物の群への言及は、1つ及び複数(すなわち、1つ以上)の、それらのステップ、物質の組成物、ステップの群、又は物質の組成物の群を包含するように取られるものとする。
【0049】
当業者は、本明細書に記載される開示が、具体的に記載されるもの以外の変形及び修正の影響を受けやすいことを理解するであろう。本開示は、そのような全ての変形及び修正を含むことが、理解されるべきである。本開示はまた、本明細書で個別に又は集合的に言及又は示される全てのステップ、特徴、組成物及び化合物、並びに該ステップ若しくは特徴のいずれかの及び全ての組み合わせ又は任意の2つ以上を含む。
【0050】
本開示は、例示のみのを目的として意図される、本明細書に記載の特定の実施形態によって範囲内に限定されるべきではない。機能的に等価な生成物、組成物及び方法は、本明細書に記載される場合、明らかに本開示の範囲内にある。
【0051】
本明細書に開示される任意の実施例は、特に明記しない限り、任意の他の実施例に準用するとみなされるものとする。
【0052】
進行性心不全
心筋症は、心臓が体の残り部分に血液をポンピングすることをより困難にする心筋の疾患である。心臓が、血流を維持して、体の必要性を満たすように十分にポンピングできない場合、心不全が発生する可能性がある。心筋症は、虚血又は非虚血イベント後に発生する可能性がある。虚血性心不全の一原因は、心筋梗塞(MI)(例えば、心臓発作)後の収縮機能障害である。MIは、血液が心臓の一部に適切に流れるのが停止するときに生じる。血液供給の欠如は、梗塞(infarct)又は梗塞(infarction)と称される局所的領域の心筋壊死をもたらす。梗塞した心臓は、血流を維持して、体の必要性を満たすように十分にポンピングできず、複数の病態生理学的応答及び最終的には心不全に繋がる。非虚血性心筋症は、既知の冠動脈疾患とは関連していない。一例としては、心臓の主ポンプ室である左心室が拡大し、拡張し、かつ弱くなるために、心臓の血液をポンピングする能力が低下する拡張型心筋症(DCM)が挙げられる。
【0053】
心臓が、血流を維持して、体の必要性を満たすように十分にポンピングできなくなると、一連の代償機構が開始され、心拍出量の減少を緩衝し、重要な器官を灌流するのに十分な血圧を維持するのを助ける。その結果、心不全を有する患者は、長期間進行しない可能性がある。しかしながら、代償機構は、最終的には、損傷した心臓を補償することができず、「進行性心不全」と呼ばれる心拍出量の進行性の低下を結果としてもたらす。本開示のコンテキストでは、慢性心不全、うっ血性心不全、うっ血性心不全、収縮機能障害及び進行性(advanced)心不全という用語は、「進行性(progressive)心不全」と互換的に使用され得る。
【0054】
本開示の方法は、進行性心不全を有する患者のサブセットにおいて有効である。実施例では、これらの対象は、ニューヨーク心臓協会(NYHA)分類尺度に基づいて定義される。実施例では、対象の進行性心不全は、クラスIII未満である。実施例では、対象は、クラスII心不全を有する。実施例では、NYHA分類は、対象の症状に基づいて割り当てられる。例えば、NYHA分類は、次の表に基づいて割り当てられ得る。
【表1】
【0055】
実施例では、対象の心不全は、虚血イベントから生じる。実施例では、対象の心不全は、心筋梗塞(MI)から生じる。実施例では、主題は、MI対象であってもよい。用語「心筋梗塞(MI)対象」は、心筋梗塞を有した対象を定義するために使用される。実施例では、対象の心不全は、非虚血性心筋症から生じる。
【0056】
本開示の方法を使用して、MI対象の特定の集団における進行性心不全を治療することができる。治療を必要とする対象には、既に進行性心不全を有するもの、及び進行性心不全が防止、遅延又は停止されるべきであるものが含まれる。これらの実施例では、対象は、NYHAに基づくクラスII又はクラスIII進行性心不全を有する。例えば、対象は、クラスII進行性心不全を有し得る。
【0057】
実施例では、本開示に従って治療する対象は、C反応性タンパク質レベルの上昇によって定義される「活動性炎症」を有する。実施例では、活動性炎症は、2mg/L以上のCRPレベルによって特徴付けられる。
【0058】
「C反応性タンパク質」又は「CRP」は、そのレベルが急性炎症再発の条件下で上昇し、炎症が沈静化すると急速に正常化する炎症性メディエーターである。実施例では、本開示に従って心臓死のリスクが上昇している。心臓死とは、心機能の喪失による死である。実施例では、本開示に従って治療された対象は、CRPが上昇している。「上昇したCRP」という用語は、本開示のコンテキストにおいて使用されて、ベースラインCRPレベルと比較して増加したCRPレベルを指す。実施例では、CRPレベルは、1mg/L以上に上昇する。別の実施例では、CRPレベルは、1.5mg/L以上に上昇する。別の実施例では、CRPレベルは、2mg/L以上に上昇する。
【0059】
実施例では、本開示に従って治療された対象は、2mg/L以上の初期CRPレベルを有する。例えば、対象は、2mg/L以上のクラスII又はクラスIII心不全及び初期CRPレベルを有し得る。別の例では、対象は、2mg/L以上のクラスII心不全及び初期CRPレベルを有し得る。実施例では、本開示に従って治療された対象は、5mg/L超の初期CRPレベルを有する。別の実施例では、対象は、4mg/L未満の初期CRPレベルを有する。別の実施例では、対象は、2~6mg/Lの初期CRPレベルを有する。別の実施例では、対象は、3~6mg/Lの初期CRPレベルを有する。別の実施例では、対象は、4~5mg/Lの初期CRPレベルを有する。
【0060】
抗体ベースのイムノアッセイなどのCRPレベルを測定するために利用可能な様々なアッセイが存在する。例えば、CRPレベルは、酵素結合免疫吸着剤(ELISA)アッセイを使用して、血液試料中で測定され得る。実施例では、血液試料は、患者から得られ、次いで、抗CRP抗体と接触する前に精製される。抗体結合の程度を使用して、血液試料中のCRPのレベル(例えば、mg/L)を定量化する。実施例では、CRPは、血漿高感度CRP(hsCRP)ELISAアッセイによって測定される。
【0061】
B型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)は、心臓によって産生されるホルモンである。N末端(NT)プロホルモンBNP(NT-proBNP)は、BNPを産生する同じ分子から放出される非活性プロホルモンである。BNP及びNT-proBNPの両方が、心臓内部に存在する圧力の変化に応答して放出される。これらの変化は、心不全及び他の心臓の問題に関連している可能性がある。心不全が発症又は悪化する場合にはレベルが上がり、心不全が安定する場合にはレベルが下がる。したがって、BNPは、心不全の進行の効果的なマーカーである。実施例では、対象のNT-proBNPのレベルは、本開示の組成物を投与する前には2200pg/ml未満である。別の実施例では、対象のNT-proBNPのレベルは、本開示の組成物を投与する前には2100pg/ml未満である。別の実施例では、対象のNT-proBNPのレベルは、本開示の組成物を投与する前には2000pg/ml未満である。別の実施例では、対象のNT-proBNPのレベルは、本開示の組成物を投与する前には1900pg/ml未満である。別の実施例では、対象のNT-proBNPレベルは、本開示の組成物を投与する前には2200pg/ml~1000pg/mlである。別の実施例では、対象のNT-proBNPレベルは、本開示の組成物を投与する前には2200pg/ml~1100pg/mlである。別の実施例では、対象のNT-proBNPレベルは、本開示の組成物を投与する前には2100pg/ml~1200pg/mlである。別の実施例では、対象のNT-proBNPレベルは、本開示の組成物を投与する前には2000pg/ml~1500pg/mlである。抗体ベースのイムノアッセイ、例えば、ELISAアッセイなどのNT-proBNPレベルを測定するために利用可能な様々なアッセイが存在する。実施例では、血液試料は、患者から得られ、次いで、抗NT-proBNP抗体と接触する前に精製される。抗体結合の程度を使用して、血液試料中のNT-proBNPのレベル(例えば、pg/L)を定量化する。
【0062】
別の実施例では、対象は、本明細書に開示される組成物の投与前の過去12ヶ月にわたって心不全入院イベントを有している。別の実施例では、対象は、本明細書に開示される組成物の投与前の過去9ヶ月にわたって心不全入院イベントを有している。別の実施例では、対象は、本明細書に開示される組成物の投与前の過去6~12ヶ月にわたって心不全入院イベントを有している。実施例では、心不全入院イベントは、心不全の徴候及び症状を悪化させている。別の実施例では、心不全入院イベントは、虚血イベントである。別の実施例では、心不全の入院は、非虚血イベントである。
【0063】
別の実施例では、対象は、本開示の組成物を投与する前に、6分間で少なくとも320メートル歩くことができる。別の実施例では、対象は、本開示の組成物を投与する前に、6分間で少なくとも330メートル歩くことができる。別の実施例では、対象は、本開示の組成物を投与する前に、6分間で少なくとも340メートル歩くことができる。別の実施例では、対象は、本開示の組成物を投与する前に、6分間で少なくとも350メートル歩くことができる。
【0064】
実施例では、対象は、持続的な左心室機能不全を有し得る。左心室機能不全は、心筋収縮性の低下を特徴とする。心筋収縮性が左心室内で低下すると、左心室駆出分画率(LVEF)の低減が結果として生じる。したがって、LVEFは、左心室機能不全を判定する1つの様式を提供する。
【0065】
LVEF及びLVESVは、心エコー図、単一光子放射コンピュータ断層撮影(SPECT)、又は心臓磁気共鳴イメージング(cMRI)などの、当該技術分野で既知の多くの方法によって測定することができる。
【0066】
実施例では、45%未満のLVEFを有する対象は、左心室機能不全を有する。他の実施例では、約44%、43%、42%、41%未満のLVEFを有する対象は、左心室機能不全を有する。別の実施例では、約40%未満のLVEFを有する対象は、左心室機能不全を有する。他の実施例では、約39%、38%、37%、36%、35%、34%、33%、32%、31%、30%未満のLVEFを有する対象は、左心室機能不全を有する。
【0067】
本開示のコンテキストでは、「持続性左心室機能不全」という用語は、一定期間又は一連の測定にわたって持続する左心室機能不全を定義するように使用される。例えば、「持続性左心室機能不全」は、約1~約14日間又はそれ以上持続する左心室機能不全を含み得る。
【0068】
実施例では、対象は、45%未満のLVEFを有する。別の実施例では、対象は、40%未満のLVEFを有する。他の実施例では、対象は、39%、38%、37%、36%、35%、34%、33%、32%、31%、30%未満のLVEFを有する。
【0069】
本開示の方法は、進行性心不全に特徴的な心拍出量の進行性低下の治療に関する。したがって、本開示のコンテキストにおいて、「治療する」及び「治療」は、療法的治療及び予防的(prophylactic)又は予防的(preventative)措置の両方を指す。
【0070】
実施例では、治療は、本開示の組成物を投与することを含む。実施例では、本開示の方法は、進行性心不全の進行を低減又は阻害する。ある例において、治療は、対象のNYHAクラスIII進行性心不全への進行を阻害する。別の実施例では、治療は、心臓死のリスクを低減する。実施例では、心臓死のリスクの低減は、NYHAクラスIII進行性心不全を有する対象における心臓死のリスクと相対的である。別の実施例では、虚血性MACE(MI又は脳卒中)のリスクは、治療後に低減される。実施例では、虚血性MACE(MI又は脳卒中)のリスクは、ベースラインと比較して、少なくとも50%低減される。別の実施例では、虚血性MACE(MI又は脳卒中)のリスクは、ベースラインと比較して、少なくとも55%低減される。別の実施例では、虚血性MACE(MI又は脳卒中)のリスクは、ベースラインと比較して、少なくとも60%低減される。別の実施例では、虚血性MACE(MI又は脳卒中)のリスクは、ベースラインと比較して、少なくとも65%低減される。別の実施例では、虚血性MACE(MI又は脳卒中)のリスクは、ベースラインと比較して、少なくとも70%低減される。別の実施例では、虚血性MACE(MI又は脳卒中)のリスクは、ベースラインと比較して、少なくとも50%~70%低減される。
【0071】
別の実施例では、3点MACE(心臓死/MI/脳卒中)のリスクは、治療後に低減される。本開示のコンテキストでは、「3点MACE」は、心血管死、非致死性心筋梗塞及び非致死性脳卒中(心臓死/MI/脳卒中)の複合を指すように使用され、その複合として定義される。実施例では、3点MACEのリスクは、ベースラインと比較して、少なくとも30%低減される。別の実施例では、3点MACEのリスクは、ベースラインと比較して、少なくとも40%低減される。別の実施例では、3点MACEのリスクは、ベースラインと比較して、少なくとも45%低減される。別の実施例では、3点MACEのリスクは、ベースラインと比較して、少なくとも50%低減される。別の例では、3点MACEのリスクは、ベースラインと比較して、少なくとも30%~50%低減される。
【0072】
実施例では、治療は、患者の生存を増加させる。実施例では、治療は、治療の開始後少なくとも1000日間生存する対象の確率を増加させる。別の実施例では、治療は、治療の開始後少なくとも2000日間生存する対象の確率を増加させる。実施例では、確率の増加は、本開示の組成物で治療されていない対象に対して決定される。実施例では、確率の増加は、クラスIII心不全を有する対象に対して決定される。
【0073】
実施例では、治療は、心臓関連死若しくは蘇生心臓死、又は非致死的非代償性心不全イベントの複合として定義される、心不全関連主要有害心イベント(HF-MACE)の可能性若しくはリスクを低減させる。実施例では、HF-MACEの可能性又はリスクは、本明細書に開示される組成物の投与後少なくとも6ヶ月、少なくとも12ヶ月、少なくとも24ヶ月、少なくとも36ヶ月にわたって低減される。実施例では、治療は、全死因死亡の可能性又はリスクを低減させる。
【0074】
虚血イベント
実施例では、本開示は、対象、特に、心筋症を有する対象における虚血イベントのリスク又は発生率を低減させる方法に関する。実施例では、本開示は、心筋症及びCRP上昇を有する対象における虚血イベントのリスク又は発生率を低減させる方法に関する。実施例では、リスク又は発生率は、本開示の組成物を受け取らない対象と比較して、低減される。例えば、リスク又は発生率は、未治療の対象と比較して、低減され得る。実施例では、虚血イベントは、閉塞の形成によって引き起こされる。実施例では、閉塞は、動脈閉塞である。実施例では、虚血イベントは、脳血管閉塞の形成である。別の実施例では、虚血イベントは、心臓閉塞の形成である。例えば、閉塞は、冠動脈内に形成し得る。
【0075】
閉塞の形成によって引き起こされる虚血イベントの例としては、心筋梗塞及び脳卒中が挙げられる。したがって、実施例では、本開示は、心筋症を有する対象における心筋梗塞又は脳卒中のリスク又は発生率を低減させる方法に関する。
【0076】
心筋症を有する対象における虚血イベントのリスク又は発生率は、本開示の組成物などの細胞療法を投与することによって低減される。
【0077】
実施例では、対象は、非虚血性心筋症を有する。例えば、対象の心筋症は、左心室の拡大(拡張型心筋症)によって引き起こされ得る。別の実施例では、心筋症は、ウイルス感染症によって引き起こされる。
【0078】
別の実施例では、対象は、ニューヨーク心臓協会(NYHA)分類尺度に従ったクラスII又はクラスIII心不全を有する。
【0079】
別の実施例では、対象のN末端プロB型ナトリウム利尿ペプチド(NT-proBNP)のレベルは、細胞を投与する前には、1000pg/ml~2000pg/mlである。別の実施例では、対象のC反応性タンパク質(CRP)レベルが上昇する。別の実施例では、対象のCRPレベルは、1.5mg/L以上である。別の実施例では、対象のCRPレベルは、2mg/L以上である。別の実施例では、対象のCRPレベルは、1~5mg/Lである。別の実施例では、対象のCRPレベルは、3~5mg/Lである。
【0080】
実施例では、細胞は、経心内膜的に投与される。
【0081】
実施例では、リスクの低減は、3年のリスクの低減である。別の実施例では、リスクの低減は、5年のリスクの低減である。これらの実施例では、虚血イベントのリスクは、定義された期間にわたって低減される。
【0082】
間葉系統前駆細胞
本明細書で使用される場合、「間葉系統前駆体又は幹細胞(MLPSC)」という用語は、多能性を維持しながら自己更新する能力、並びに、間葉由来の、例えば、骨芽細胞、軟骨細胞、脂肪細胞、間質細胞、線維芽細胞及び腱の、又は非中胚葉由来の、例えば、肝細胞、神経細胞及び上皮細胞のいずれかのいくつかの細胞型に分化する能力、を有する未分化多能性細胞を指す。疑いを避けるために、「間葉系統前駆細胞」は、骨、軟骨、筋肉及び脂肪細胞、並びに線維性結合組織などの間葉系細胞に分化することができる細胞を指す。
【0083】
用語「間葉系統前駆体又は幹細胞」は、親細胞及びそれらの未分化子孫の両方を含む。この用語はまた、間葉前駆細胞、多能性間質細胞、間葉幹細胞(MSC)、血管周囲間葉前駆細胞、及びそれらの未分化子孫を含む。
【0084】
間葉系統前駆体又は幹細胞は、自己、同種異系、異種、合成又は同質であり得る。自己細胞は、それらが再移植される同じ個体から単離される。同種異系細胞は、同じ種のドナーから単離される。異種細胞は、別の種のドナーから単離される。合成又は同質細胞は、双子、クローン、又は高度近交系研究動物モデルなどの遺伝的に同一の生物から単離される。
【0085】
実施例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、同種異系である。実施例では、同種異系間葉系統前駆体又は幹細胞は、培養拡大及び凍結保存される。
【0086】
間葉系統前駆体又は幹細胞は、主に、骨髄中に存在するが、例えば、臍帯血及び臍帯、成人末梢血、脂肪組織、海綿骨及び歯髄を含む多様な宿主組織にも存在することが示されている。それらはまた、皮膚、脾臓、膵臓、脳、腎臓、肝臓、心臓、網膜、脳、毛包、腸、肺、リンパ節、胸腺、靭帯、腱、骨格筋、真皮、及び骨膜に見出され、中胚葉及び/又は内胚葉及び/又は外胚葉などの生殖細胞系列に分化することができる。したがって、間葉系統前駆体又は幹細胞は、脂肪、骨、軟骨、弾性、筋肉、及び線維性結合組織を含むがそれらに限定されない多数の細胞型に分化され得る。これらの細胞が入る特定の系譜コミットメント及び分化系列決定は、機械的影響及び/又は成長因子、サイトカイン、及び/又は宿主組織によって確立される局所微小環境条件などの内因性生物活性因子からの様々な影響に依存する。
【0087】
「濃縮された」、「濃縮」、又はその変形という用語は、本明細書では、1つの特定の細胞型の割合又はいくつかの特定の細胞型の割合が、細胞の未処理の集団(例えば、それらの自然環境における細胞)と比較して増加する細胞の集団を記載するように使用される。一実施例では、間葉系統前駆細胞又は幹細胞について濃縮された集団は、少なくとも約0.1%又は0.5%又は1%又は2%又は5%又は10%又は15%又は20%又は25%又は30%又は50%又は75%の間葉系統前駆細胞又は幹細胞を含む。この点に関して、「間葉系統前駆体又は幹細胞について濃縮された細胞の集団」という用語は、「X%間葉系統前駆体又は幹細胞を含む細胞の集団」という用語を明示的に支持するために解釈され、X%は本明細書に列挙されるパーセンテージである。間葉系統前駆体又は幹細胞は、いくつかの実施例では、クローン原性コロニーを形成し得、例えば、CFU-F(線維芽細胞)又はそのサブセット(例えば、50%又は60%又は70%又は70%又は90%又は95%)は、この活性を有し得る。
【0088】
本開示の実施例では、間葉系統前駆細胞又は幹細胞は、間葉系幹細胞(MSC)である。MSCは、均質な組成物であり得るか、又はMSCが濃縮された混合細胞集団であり得る。均質なMSC組成物は、接着骨髄又は骨膜細胞を培養することによって得られ得、MSCは、独自のモノクローナル抗体で特定される特定の細胞表面マーカーによって特定され得る。MSCが濃縮された細胞集団を得るための方法は、例えば、米国特許第5,486,359号に記載されている。MSCの代替的な供給源には、血液、皮膚、臍帯血、筋肉、脂肪、骨、及び軟骨膜(それらに限定されないが)が含まれる。実施例では、MSCは、同種異系である。実施例では、MSCは、凍結保存される。実施例では、MSCは、培養増殖及び凍結保存される。
【0089】
別の実施例では、間葉系統前駆細胞又は幹細胞は、CD29+、CD54+、CD73+、CD90+、CD102+、CD105+、CD106+、CD166+、MHC1+MSCである。
【0090】
単離された又は濃縮された間葉系統前駆体又は幹細胞は、培養によってインビトロで増殖され得る。単離された又は濃縮された間葉系統前駆体又は幹細胞は、凍結保存され、解凍され、その後、培養によってインビトロで増殖され得る。
【0091】
一実施例では、単離された又は濃縮された間葉系統前駆体又は幹細胞は、培養培地(無血清又は血清添加)、例えば、5%胎仔ウシ血清(FBS)及びグルタミンを添加したアルファ最少必須培地(αMEM)中で50,000生存細胞/cm2で播種され、37℃、20%O2で一晩培養容器に付着させる。その後、培養培地を、必要に応じて、置き換えられ及び/又は変化させ、細胞を、更に68~72時間、37℃、5%O2で培養する。
【0092】
当業者は理解するであろうように、培養された間葉系前駆体又は幹細胞は、インビボでの細胞と表現型的に異なる。例えば、一実施形態では、それらは、以下のマーカー、CD44、NG2、DC146、及びCD140bのうちの1つ以上を発現する。培養された間葉系統前駆体又は幹細胞はまた、インビボでの細胞と生物学的に異なり、インビボでの大部分の非サイクリング(静止)細胞と比較して高い増殖速度を有する。
【0093】
一実施例では、細胞集団は、選択可能な形態のSTRO-1+細胞を含む細胞調製物から濃縮される。この点で、「選択可能な形態」という用語は、細胞がSTRO-1+細胞の選択を可能にするマーカー(例えば、細胞表面マーカー)を発現することを意味すると理解されるであろう。マーカーはSTRO-1であり得るが、そうである必要はない。例えば、本明細書に記載及び/又は例示される場合、STRO-2及び/又はSTRO-3(TNAP)及び/又はSTRO-4及び/又はVCAM-1及び/又はCD146及び/又は3G5を発現する細胞(例えば、間葉系前駆細胞)もSTRO-1を発現する(STRO-1ブライトであり得る)。したがって、細胞がSTRO-1+であることを示すことは、細胞がSTRO-1発現によってのみ選択されることを意味するものではない。一実施例では、細胞は、少なくともSTRO-3の発現、例えば、それらがSTRO-3+(TNAP+)であることに基づいて選択される。
【0094】
細胞又はその集団の選択への言及は、特定の組織供給源からの選択を必ずしも必要としない。本明細書に記載される場合、STRO-1+細胞は、多種多様な供給源から選択されるか、単離されるか、又は濃縮され得る。とはいえ、いくつかの例では、これらの用語は、STRO-1+細胞(例えば、間葉系前駆細胞)を含む任意の組織、又は血管化組織若しくは周辺細胞(例えば、STRO-1周辺細胞)を含む組織、又は本明細書に列挙される組織のいずれか1つ以上からの選択のためのサポートを提供する。
【0095】
一実施例では、本開示で使用される細胞は、TNAP+、VCAM-1+、THY-1+、STRO-2+、STRO-4+(HSP-90β)、CD45+、CD146+、3G5+又はそれらの任意の組み合わせからなる群から個別に又は集合的に選択される1つ以上のマーカーを発現する。
【0096】
「個別に」は、本開示が列挙されたマーカー又はマーカーの群を別々に包含することを意味し、個々のマーカー又はマーカーの群が本明細書に別々に列挙されていないにもかかわらず、添付の特許請求の範囲は、そのようなマーカー又はマーカーの群を互いに別々にかつ分割可能に定義し得る。
【0097】
「集合的に」は、本開示が列挙されたマーカー又はマーカーの群の任意の数又は組み合わせを包含することを意味し、そのようなマーカー又はマーカーの群の数又は組み合わせが本明細書に具体的に列挙されていない場合があるにもかかわらず、添付の特許請求の範囲は、そのような組み合わせ又はサブ組み合わせを、マーカー又はマーカーの群の任意の他の組み合わせから別々にかつ分割可能に定義し得る。
【0098】
本明細書で使用される場合、「TNAP」という用語は、組織非特異的アルカリホスファターゼの全てのアイソフォームを包含することが意図される。例えば、この用語は、肝臓アイソフォーム(LAP)、骨アイソフォーム(BAP)、及び腎臓アイソフォーム(KAP)を包含する。一実施例では、TNAPはBAPである。一実施例では、本明細書で使用されるTNAPは、2005年12月19日にブダペスト条約の規定に基づいてATCCに寄託されたハイブリドーマ細胞株によって産生されたSTRO-3抗体に、寄託受託番号PTA-7282で結合し得る分子を指す。
【0099】
更に、一実施例では、STRO-1+細胞は、クロノジェニックCFU-Fを生じさせることが可能である。
【0100】
一実施例では、STRO-1+細胞のかなりの割合が、少なくとも2つの異なる生殖細胞系列への分化が可能である。STRO-1+細胞がコミットされ得る系統の非限定的な例としては、骨前駆細胞、胆管上皮細胞及び肝細胞に対して多能性である肝細胞前駆細胞、オリゴデンドロサイト及びアストロサイトに進行するグリア細胞前駆体を生成し得る神経制限細胞、ニューロンに進行するニューロン前駆体、心筋及び心筋細胞の前駆体、膵臓ベータ細胞株を分泌するグルコース応答性インスリンが挙げられる。他の系統には、以下の象牙芽細胞、象牙質産生細胞及び軟骨細胞、前駆細胞が含まれるが、これらに限定されない:網膜色素上皮細胞、線維芽細胞、角化細胞などの皮膚細胞、樹状細胞、毛包細胞、腎管上皮細胞、平滑筋細胞及び骨格筋細胞、精巣前駆細胞、血管内皮細胞、腱、靭帯、軟骨、脂肪細胞、線維芽細胞、骨髄間質、心筋、平滑筋、骨格筋、周皮細胞、血管、上皮、膠細胞、神経細胞、星状細胞及びオリゴデンドロサイト細胞。
【0101】
実施例では、間葉系統前駆細胞又は幹細胞は、単一のドナー又は複数のドナーから得られ、ドナー試料又は間葉系統前駆細胞又は幹細胞はその後プールされ、次いで、培養増殖される。
【0102】
本開示に包含される間葉系統前駆体又は幹細胞はまた、対象への投与の前に凍結保存されてもよい。実施例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、対象への投与の前に培養物を増殖及び凍結保存される。
【0103】
実施例では、本開示は、間葉系統前駆細胞又は幹細胞並びにその子孫、それから誘導される可溶性因子、及び/又はそれから単離される細胞外小胞を包含する。別の実施例では、本開示は、間葉系統前駆体又は幹細胞、並びにそれから単離される細胞外小胞を包含する。例えば、本開示の間葉系前駆体系統又は幹細胞を、細胞外小胞の細胞培養培地への分泌に好適な条件下で一定期間培養することが可能である。分泌された細胞外小胞は、その後、療法に使用するために培養培地から得られ得る。
【0104】
本明細書で使用される「細胞外小胞」という用語は、典型的には200nm未満のサイズであるが、細胞から自然に放出され、約30nm~10ミクロンの大きさの範囲の脂質粒子を指す。それらは、放出細胞(例えば、間葉系幹細胞;STRO-1+細胞)由来のタンパク質、核酸、脂質、代謝物、又は細胞器官を含有し得る。
【0105】
本明細書で使用される「エクソソーム」という用語は、一般に、約30nm~約150nmのサイズの範囲であり、哺乳類細胞のエンドソームコンパートメントに由来する細胞外小胞の種類を指し、それらは細胞膜に輸送され、細胞膜から放出される。それらは、核酸(例えば、RNA;microRNA)、タンパク質、脂質、及び代謝物を含有してもよく、1つの細胞から分泌され、それらのカーゴを送達するために他の細胞によって取り込まれることによって、細胞間通信において機能する。
【0106】
実施例では、本開示の組成物は、標的組織における新しい血管形成を誘導する細胞を含む。実施例では、標的組織は、心臓である。別の実施例では、細胞は、リスクがある又は損傷した心筋を保護する因子を分泌する。実施例では、リスクがある又は損傷した心筋は、虚血イベントに起因する血流の不足を被っている。実施例では、細胞は、心筋細胞におけるアポトーシスを低減させる因子を分泌する。
【0107】
細胞の培養増殖
実施例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、培養増殖される。「培養増殖された」間葉系統前駆体又は幹細胞培地は、細胞培養培地中で培養され、継代された(すなわち、サブ培養された)という点で、新鮮に単離された細胞と区別される。実施例では、培養増殖された間葉系統前駆体又は幹細胞は、約4~10継代のために培養増殖される。実施例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、少なくとも5、少なくとも6、少なくとも7、少なくとも8、少なくとも9、少なくとも10継代の間培養増殖される。例えば、間葉系統前駆体又は幹細胞は、少なくとも5継代の間培養増殖され得る。実施例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、少なくとも5~10継代の間培養増殖され得る。実施例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、少なくとも5~8継代の間培養増殖され得る。実施例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、少なくとも5~7継代の間培養増殖され得る。実施例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、10超の継代の間培養増殖され得る。別の実施例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、7継代の間培養増殖され得る。これらの実施例では、幹細胞は、凍結保存される前に培養増殖され得て、中間凍結保存されたMLPSC集団を提供してもよい。実施例では、本開示の組成物は、中間凍結保存されたMLPSC集団、又は言い換えれば、凍結保存された中間体、からの細胞を培養することによって産生される。
【0108】
実施例では、本開示の組成物は、凍結保存された中間体から培養増殖された間葉系統前駆体又は幹細胞を含む。実施例では、凍結保存された中間体から培養増殖された細胞培養物は、少なくとも5、少なくとも6、少なくとも7、少なくとも8、少なくとも9、少なくとも10継代の間拡張された培養物である。例えば、間葉系統前駆体又は幹細胞は、少なくとも5継代の間培養増殖され得る。実施例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、少なくとも5~10継代の間培養増殖され得る。実施例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、少なくとも5~8継代の間培養増殖され得る。実施例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、少なくとも5~7継代の間培養増殖され得る。実施例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、10超の継代の間培養増殖され得る。別の実施例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、7継代の間培養増殖され得る。
【0109】
実施例では、凍結保存された中間体から培養増殖された間葉系統前駆体又は幹細胞培養物は、動物性タンパク質を含まない培地中で培養増殖され得る。実施例では、凍結保存された中間体から培養増殖された間葉系統前駆体又は幹細胞培養物は、ゼノフリー培地中で培養増殖され得る。実施例では、凍結保存中間体から培養増殖された間葉系統前駆体又は幹細胞培養物は、胎仔ウシ血清を含まない培地中で培養増殖され得る。
【0110】
実施形態では、間葉系統前駆細胞又は幹細胞は、単一のドナー、又はドナー試料若しくは間葉系統前駆細胞又は幹細胞がその後プールされ、次いで培養増殖される複数のドナーから得られ得る。実施例では、培養増殖プロセスは、
i.少なくとも約10億個の生存細胞の調製物を提供するように、経路拡張によって生存細胞の数を増殖することであって、経路拡張は、単離された間葉系統前駆細胞又は幹細胞の一次培養物を確立し、次いで、前の培養物から単離された間葉系統前駆細胞又は幹細胞の第1の非一次(P1)培養物を連続的に確立することを含む、増殖することと、
ii.単離された間葉系統前駆細胞又は幹細胞のP1培養を、間葉系統前駆細胞又は幹細胞の第2の非一次(P2)培養に増殖することと、
iii.間葉系統前駆細胞又は幹細胞のP2培養から得られたプロセス中の中間間葉系統前駆細胞又は幹細胞調製物を調製及び凍結保存することと、
iv.凍結保存されたプロセス中間間葉系統前駆体又は幹細胞調製物を解凍し、経路拡張によりプロセス中間間葉系統前駆体又は幹細胞調製物を増殖することと、を含む。
【0111】
実施例では、抗原プロファイル及び活性プロファイルを有する増殖された間葉系統前駆体又は幹細胞調製物は、
i.約0.75%未満のCD45+細胞と、
ii.少なくとも約95%のCD105+細胞と、
iii.少なくとも約95%のCD166+細胞と、を含む。
【0112】
実施例では、増殖された間葉系統前駆体又は幹細胞調製物は、対照と比較して、CD3/CD28活性化PBMCによるIL2-Rα発現を少なくとも約30%阻害することができる。
【0113】
実施例では、培養増殖された間葉系統前駆体又は幹細胞は、約4~10継代の間増殖され、間葉系統前駆体又は幹細胞は、更に培養増殖される前の少なくとも2又は3継代後に凍結保存されている。実施例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、本開示の方法に従って培養される前に、少なくとも1、少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5つの通路に対して培養増殖され、凍結保存され、次いで、少なくとも1、少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5つの通路対して更に培養増殖される。
【0114】
間葉系統前駆体又は幹細胞単離及びエクスビボ増殖のプロセスは、当該技術分野で既知の任意の装置及び細胞ハンドリング方法を使用して実行され得る。本開示の様々な培養増殖の実施形態は、細胞の操作を必要とするステップ、例えば、接種、給餌、接着培養物の解離、又は洗浄のステップを採用する。細胞を操作するステップは、細胞を侵襲する可能性がある。間葉系統前駆体又は幹細胞は、一般に、調製中にある特定の量の侵襲に耐性があい得るが、細胞への侵襲を最小限に抑えながら、所与のステップを適切に実行する手順及び/又は装置を取り扱うことによって、細胞を操作することが好ましい。
【0115】
実施例では、間葉系統前駆体又は幹細胞は、例えば、参照により本明細書に組み込まれるUS6,251,295に記載されるように、細胞供給源バッグ、洗浄液バッグ、再循環洗浄バッグ、入口及び出口ポートを有する回転膜フィルタ、濾液バッグ、混合ゾーン、洗浄細胞のための最終生成物バッグ、並びに適切なチューブを含む装置において洗浄される。
【0116】
実施例では、本開示に従って培養された間葉系統前駆体又は幹細胞組成物は、CD105陽性及びCD166陽性であり、CD45陰性であることに関して95%均質である。実施例では、この均質性は、エクスビボ増殖、すなわち、複数の集団倍増によって持続する。
【0117】
実施例では、本開示の間葉系統前駆体又は幹細胞は、3D培養物中で培養増殖される。例えば、本開示の間葉系統前駆体又は幹細胞は、バイオリアクター内で培養増殖され得る。実施例では、本開示の間葉系統前駆体又は幹細胞は、3D培養物中で更に増殖される前に、2D培養物中で初期に培養増殖される。実施例では、本開示の間葉系統前駆体又は幹細胞は、マスター細胞バンクから培養増殖される。実施例では、本開示の間葉系統前駆体又は幹細胞は、3D培養物に播種する前に、2D培養物中のマスター細胞バンクから培養増殖される。実施例では、本開示の間葉系統前駆体又は幹細胞は、バイオリアクター内の3D培養物に播種する前に、2D培養物中のマスター細胞バンクから少なくとも3日間培養増殖される。実施例では、本開示の間葉系統前駆体又は幹細胞は、バイオリアクター内の3D培養物に播種する前に、2D培養物中のマスター細胞バンクから少なくとも4日間培養増殖される。実施例では、本開示の間葉系統前駆体又は幹細胞は、バイオリアクター内の3D培養物に播種する前に、2D培養物中のマスター細胞バンクから3~5日間培養増殖される。これらの実施例では、2D培養は、細胞工場で実行され得る。種々の細胞工場製品が市販されている(例えば、Thermofisher、Sigma)。
【0118】
細胞培養培地
本明細書に開示される間葉系統前駆体又は幹細胞は、種々の好適な増殖培地中で培養増殖され得る。
【0119】
本開示のコンテキストで使用される「培地(medium)」又は「培地(media)」という用語は、細胞を取り囲む環境の構成要素を含む。培地は、細胞の成長を可能にするのに好適な条件を提供する。媒地は、固体、液体、気体、又は相及び材料の混合物であり得る。培地は、細胞増殖を維持しない液体増殖培地、並びに液体培地を含み得る。培地としてはまた、寒天、アガロース、ゼラチン、及びコラーゲンマトリックスなどのゼラチン性培地も挙げられる。例示的な気体培地としては、ペトリ皿又は他の固体若しくは半固体支持体上で増殖する細胞が曝露される気相も挙げられる。
【0120】
培養増殖に使用される細胞培養培地は全て、必須アミノ酸を含有し、非必須アミノ酸も含有し得る。一般に、アミノ酸は、必須アミノ酸(Thr、Met、Val、Leu、Ile、Phe、Trp、Lys、His)及び非必須アミノ酸(Gly、Ala、Ser、Cys、Gln、Asn、Asp、Tyr、Arg、Pro)に分類される。
【0121】
当業者であれば、最適な結果のためには、基礎培地が目的の細胞株に適している必要があることを理解するであろう。例えば、このエネルギー供給源が枯渇し、したがって成長を制限することが判明する場合、基礎培地中のグルコース(若しくは他のエネルギー供給源)のレベルを増加させる、又は培養の過程でグルコース(若しくは他のエネルギー供給源)を添加することが必要であり得る。実施例では、溶存酸素(DO)レベルも制御され得る。
【0122】
実施例では、細胞培養培地は、ヒト由来の添加物を含有する。例えば、ヒト血清及びヒト血小板細胞溶解物を、細胞培養培地に添加することができる。
【0123】
実施例では、細胞培養培地は、ヒト由来の添加物のみを含有する。したがって、実施例では、細胞培養培地は、ゼノフリーである。疑いを避けるために、これらの実施例では、培養培地は、動物性タンパク質を含まない。実施例では、本開示の方法で使用される細胞培養培地は、動物成分を含まない。
【0124】
実施例では、培養培地は、血清を含む。他の例では、培養培地は、間葉系統前駆体又は幹細胞増殖を促進する増殖因子を含む胎仔ウシ無血清培地である。実施形態では、培養培地は、無血清幹細胞培養培地である。実施例では、細胞培養培地は、
基礎培地と、
血小板由来増殖因子(PDGF)と、
線維芽細胞増殖因子2(FGF2)と、を含む。
【0125】
実施例では、培養培地は、血小板由来増殖因子(PDGF)及び線維芽細胞増殖因子2(FGF2)を含み、FGF2のレベルは、約6ng/ml未満である。例えば、FGF2レベルは、約5ng/ml未満、約4ng/ml未満、約3ng/ml未満、約2ng/ml未満、約1ng/ml未満であってもよい。他の例では、FGF2レベルは、約0.9ng/ml未満、約0.8ng/ml未満、約0.7ng/ml未満、約0.6ng/ml未満、約0.5ng/ml未満、約0.4ng/ml未満、約0.3ng/ml未満、約0.2ng/ml未満である。
【0126】
別の実施例では、FGF2のレベルは、約1pg/ml~100pg/mlである。別の実施例では、FGF2のレベルは、約5pg/ml~80pg/mlである。
【0127】
実施例では、PDGFは、PDGF-BBである。実施例では、PDGF-BBのレベルは、約1ng/ml~150ng/mlである。別の実施例では、PDGF-BBのレベルは、約7.5ng/ml~120ng/mlである。別の実施例では、PDGF-BBのレベルは、約15ng/ml~60ng/mlである。別の実施例では、PDGF-BBのレベルは、少なくとも約10ng/mlである。別の実施例では、PDGF-BBのレベルは、少なくとも約15ng/mlである。別の実施例では、PDGF-BBのレベルは、少なくとも約20ng/mlである。別の実施例では、PDGF-BBのレベルは、少なくとも約21ng/mlである。別の実施例では、PDGF-BBのレベルは、少なくとも約22ng/mlである。別の実施例では、PDGF-BBのレベルは、少なくとも約23ng/mlである。別の実施例では、PDGF-BBのレベルは、少なくとも約24ng/mlである。別の実施例では、PDGF-BBのレベルは、少なくとも約25ng/mlである。
【0128】
別の実施例では、PDGFは、PDGF-ABである。実施例では、PDGF-ABのレベルは、約1ng/ml~150ng/mlである。別の実施例では、PDGF-ABのレベルは、約7.5ng/ml~120ng/mlである。別の実施例では、PDGF-ABのレベルは、約15ng/ml~60ng/mlである。別の実施例では、PDGF-ABのレベルは、少なくとも約10ng/mlである。別の実施例では、PDGF-ABのレベルは、少なくとも約15ng/mlである。別の実施例では、PDGF-ABのレベルは、少なくとも約20ng/mlである。別の実施例では、PDGF-ABのレベルは、少なくとも約21ng/mlである。別の実施例では、PDGF-ABのレベルは、少なくとも約22ng/mlである。別の実施例では、PDGF-ABのレベルは、少なくとも約23ng/mlである。別の実施例では、PDGF-ABのレベルは、少なくとも約24ng/mlである。別の実施例では、PDGF-ABのレベルは、少なくとも約25ng/mlである。
【0129】
他の実施例では、追加の因子が、細胞培養培地に添加され得る。実施例では、培地は、EGFを更に含む。EGFは、その受容体EGFRに結合することによって細胞増殖を促進する成長因子である。実施例では、本開示の方法は、EGFを更に含む胎仔ウシ無血清細胞培養培地中で幹細胞の集団を培養することを含む。実施例では、EGFの値は、約0.1~7ng/mlである。例えば、EGFのレベルは、少なくとも約5ng/mlであり得る。
【0130】
別の実施例では、EGFのレベルは約0.2ng/ml~3.2ng/mlである。別の実施例では、EGFのレベルは約0.4ng/ml~1.6ng/mlである。EGFのレベルは約0.2g/mlである。別の実施例では、EGFのレベルは、少なくとも約0.3ng/mlである。別の実施例では、EGFのレベルは、少なくとも約0.4ng/mlである。別の実施例では、EGFのレベルは、少なくとも約0.5ng/mlである。別の実施例では、EGFのレベルは、少なくとも約0.6ng/mlである。別の実施例では、EGFのレベルは、少なくとも約0.7ng/mlである。別の実施例では、EGFのレベルは、少なくとも約0.8ng/mlである。別の実施例では、EGFのレベルは、少なくとも約0.9ng/mlである。別の実施例では、EGFのレベルは、少なくとも約1.0ng/mlである。
【0131】
上記の実施例では、アルファMEM又はStemSpan(商標)などの基礎培地は、参照される量の増殖因子を添加され得る。実施例では、培養培地は、32ng/mlのPDGF-BB、0.8ng/mlのEGF及び0.02ng/mlのFGFを添加したアルファMEM又はStemSpan(商標)を含む。
【0132】
他の実施例では、追加の因子が、細胞培養培地に添加され得る。例えば、細胞培養培地は、表皮増幅因子(EGF)、lα、25-ジヒドロキシビタミンD3(1,25D)、腫瘍壊死因子α(TNF-α)、インターロイキン-lβ(IL-lβ)及び間質誘導因子lα(SDF-lα)からなる群から選択される1つ以上の刺激因子を添加され得る。別の実施形態では、細胞はまた、細胞の増幅をサポートするのに十分な量で、少なくとも1つのサイトカインの存在下で培養されてもよい。別の実施形態では、細胞は、ヘパリン又はその誘導体の存在下で培養され得る。例えば、細胞培養培地は、約50ng/mlのヘパリンを含有してもよい。他の例では、細胞培養培地は、約60ng/mlのヘパリン、約70ng/mlのヘパリン、約80ng/mlのヘパリン、約90ng/mlのヘパリン、約100ng/mlのヘパリン、約110ng/mlのヘパリン、約110ng/mlのヘパリン、約120ng/mlのヘパリン、約130ng/mlのヘパリン、約140ng/mlのヘパリン、約150ng/mlのヘパリン又はその誘導体を含有する。実施例では、ヘパリン誘導体はスルファートである)。様々な形態のヘパリンスルファートが当該技術分野で既知であり、ヘパリンスルファート2(HS2)を含む。HS2は、例えば、雄及び/又は雌の哺乳類の肝臓を含む様々な供給源に由来し得る。したがって、例示的なヘパリンスルファートは、雄肝臓ヘパリンスルファート(MML HS)及び雌肝臓ヘパリンスルファート(FML HS)を含む。
【0133】
別の実施例では、本開示の細胞培養培地は、幹細胞を未分化状態に維持しながら、幹細胞増殖を促進する。幹細胞は、特定の分化系統にコミットしていない場合には、未分化とみなされる。上記のように、幹細胞は、それらを分化した細胞から区別する形態学的特徴を示す。更に、未分化幹細胞は、分化状態を検出するマーカーとして使用され得る遺伝子を発現する。ポリペプチド生成物はまた、分化状態を検出するマーカーとしても使用され得る。したがって、当業者は、日常的な形態学的、遺伝的及び/又はプロテオーム分析を使用して、本開示の方法が幹細胞を未分化状態に維持するかどうかを容易に判定することができる。
【0134】
細胞の改変
本明細書に開示される間葉系統前駆体又は幹細胞は、投与時に細胞の溶解が阻害されるような様式で改変され得る。抗原の改変は、免疫学的非応答性又は寛容性を誘導し得、それによって、正常な免疫応答における異質細胞の拒絶に究極的に関与する免疫応答のエフェクター相(例えば、細胞傷害性T細胞生成、抗体産生など)の誘導を防止する。この目的を達成するために改変することができる抗原としては、例えば、MHCクラスI抗原、MHCクラスII抗原、LFA-3及びICAM-1が挙げられる。
【0135】
間葉系統前駆体又は幹細胞はまた、線状骨格筋細胞の分化及び/又は維持のために重要であるタンパク質を発現するように遺伝子組換えされ得る。例示的なタンパク質としては、成長因子(TGF-β、インスリン様増幅因子1(IGF-1)、FGF)、筋原性因子(例えば、myoD、myogenin、myogenic因子5(Myf5)、myogenic調節因子(MRF))、転写因子(例えば、GATA-4)、サイトカイン(例えば、心臓トロピン-1)、ニューレグリンファミリー(例えば、ニューレグリン1、2及び3)並びにホメオボックス遺伝子(例えば、Csx、tinman及びNKxファミリー)が挙げられる。
【0136】
組成物
本明細書に開示される間葉系統又は幹細胞は、凍結保存された中間体から培養増殖させて、少なくとも1つの治療用量を含有する調製物を産生し得る。
【0137】
実施例では、本開示の組成物は、10×106個の細胞~35×106個の細胞を含む。別の実施例では、組成物は、20×106個の細胞~30×106個の細胞を含む。他の実施例では、組成物は、少なくとも100×106個の細胞を含む。別の実施例では、組成物は、50×106個の細胞~500×106個の細胞を含む。他の実施例では、本開示の組成物は、1億5000万個の細胞を含む。
【0138】
一実施例では、本開示の組成物は、薬学的に許容される担体及び/又は賦形剤を含む。用語「担体」及び「賦形剤」は、活性化合物の貯蔵、投与、及び/又は生物活性を促進するために当該技術分野で従来使用されている物質の組成物を指す(例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences,16th Ed.,Mac Publishing Company(1980)を参照されたい)。担体はまた、活性化合物のいずれかの望ましくない副作用を低減し得る。好適な担体は、例えば、安定であり、例えば、担体中の他の成分と反応することができない。一実施例では、担体は、治療に用いる投薬量及び濃度でレシピエントにおいて著しい局所的又は全身的な悪影響をもたらさない。
【0139】
本開示に好適な担体としては、従来使用されているもの、例えば、特に(等張の場合)溶液用の例示的な液体担体である、水、生理食塩水、デキストロース水溶液、ラクトース、リンゲル液、緩衝溶液、ヒアルロナン、及びグリコールが挙げられる。好適な医薬担体及び賦形剤としては、デンプン、セルロース、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、米、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、塩化ナトリウム、グリセロール、プロピレングリコール、水、エタノールなどが挙げられる。
【0140】
別の実施例では、担体は、例えば、細胞が増殖又は懸濁される培地組成物である。そのような培地組成物は、それが投与される対象においていかなる有害作用も誘発しない。例示的な担体及び賦形剤は、細胞の生存能及び/又は疾患を治療若しくは予防する細胞の能力に悪影響を及ぼさない。
【0141】
一実施例では、担体又は賦形剤は、細胞及び/又は可溶性因子を適切なpHで維持して、それによって生物学的活性を発揮する緩衝活性を提供し、例えば、担体又は賦形剤は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)である。PBSは、細胞及び因子と最小限に相互作用し、細胞及び因子の迅速な放出を可能にするため、魅力的な担体又は賦形剤を表し、そのような場合、本開示の組成物は、例えば、注射によって、血流に若しくは血流に直接適用するための又は組織若しくは組織を取り囲む若しくは隣接する領域に直接適用するための液体として、産生され得る。
【0142】
本開示の組成物は、凍結保存され得る。間葉系統前駆体又は幹細胞の凍結保存は、当該技術分野で既知の低速冷却方法又は「高速」凍結プロトコルを使用して実施され得る。好ましくは、凍結保存の方法は、凍結されていない細胞と比較して、凍結保存された細胞の類似の表現型、細胞表面マーカー及び成長速度を維持する。
【0143】
凍結保存組成物は、凍結保存溶液を含み得る。凍結保存溶液のpHは、通常は、6.5~8、好ましくは、7.4である。
【0144】
冷凍保存(cryopreservation)溶液は、滅菌非発熱性等張性溶液(例えば、PlasmaLyte ATM等)を含んでもよい。100mLのPlasmaLyte ATMは、526mgの塩化ナトリウムUSP(NaCl)、502mgのグルコン酸ナトリウム(C6H11NaO7)、368mgの酢酸ナトリウム三水和物USP(C2H3NaO2・3H2O)、37mgの塩化カリウムUSP(KCl)、及び30mgの塩化マグネシウムUSP(MgCl2・6H2O)を含有する。抗菌剤は含まれていない。pHは、水酸化ナトリウムを用いて調整される。pHは、7.4(6.5~8.0)である。
【0145】
凍結保存溶液は、Profreeze(商標)を含んでもよい。凍結保存溶液は、追加的又は代替的に、培地、例えば、αMEMを含んでもよい。
【0146】
凍結を容易にするために、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)などの凍結保護剤が、通常、凍結保存溶液に添加される。理想的には、凍結保護剤は、細胞及び患者に対して無毒であるべきであり、非抗原性であり、化学的に不活性であり、解凍後に高い生存率を提供し、洗浄することなく移植を可能にするべきである。しかしながら、最も一般的に使用される凍結保護剤であるDMSOは、ある程度の細胞毒性を示す。ヒドロキシルエチルデンプン(HES)は、凍結保存溶液の細胞毒性を低減するために、代替物として又はDMSOと組み合わせて使用され得る。
【0147】
凍結保存溶液は、DMSO、ヒドロキシエチルデンプン、ヒト血清成分及び他のタンパク質増量剤のうちの1つ以上を含んでもよい。一実施例では、凍結保存溶液は、血漿溶液A(70%)、DMSO(10%)、HSA(25%)溶液を含み、HSA溶液は、5%HSA及び15%緩衝液を含む。
【0148】
例えば、凍結保存溶液は、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン(PVP)及びトレハロースのうちの1つ以上を更に含んでもよい。
【0149】
凍結保存された組成物は、解凍され、対象に直接投与されてもよく、又は、例えば、ヒアルロン酸を含む別の溶液に添加されてもよい。代替的に、凍結保存された組成物を解凍し、間葉系統前駆体又は幹細胞を、投与前に代替担体に再懸濁してもよい。
【0150】
本明細書に記載の組成物は、単独で、又は他の細胞との混合物として投与されてもよい。異なるタイプの細胞は、投与の直前に若しくはすぐ前に本開示の組成物と混合されてもよいか、又は投与の前に一定期間共培養されてもよい。
【0151】
一実施例では、組成物は、有効量又は治療的若しくは予防的有効量の間葉系統前駆体若しくは幹細胞、及び/若しくはその子孫、及び/若しくはそれに由来する可溶性因子を含む。例えば、組成物は、約1×105個の幹細胞~約1×109個の幹細胞、又は約1.25×103幹細胞~約1.25×107幹細胞/kg(80kg対象)を含む。投与される細胞の正確な量は、対象の年齢、体重、及び性別、並びに治療される障害の程度及び重症度を含む、様々な因子に依存する。
【0152】
組成物中に提供される細胞の数にもかかわらず、実施例では、50×106~200×107個の細胞が投与される。他の実施例では、60×106~200×106個の細胞又は75×106~150×106個の細胞が投与される。実施例では、75×106個の細胞が投与される。別の実施例では、150×106個の細胞が投与される。
【0153】
実施例では、組成物は、5.00×106生存細胞/mL超を含む。別の実施例では、組成物は、5.50×106個生存細胞/mL超を含む。別の実施例では、組成物は、6.00×106個生存細胞/mL以上を含む。別の実施例では、組成物は、6.50×106個生存細胞/mL以上を含む。別の実施例では、組成物は、6.68×106個生存細胞/mL以上を含む。
【0154】
実施例では、間葉系前駆体又は幹細胞は、組成物の細胞集団の少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約99%を含む。
【0155】
実施例では、組成物は、所望の目的のために書かれた指示を伴う適切な容器に任意にパッケージングされてもよい。
【0156】
本開示の組成物は、例えば、静脈内投与によってなど、全身投与されてもよい。実施例では、組成物は、経心内膜的に投与される。
【0157】
心臓死、心筋梗塞又は脳卒中のリスク
実施例では、本開示の方法は、対象におけるCRPのレベルに基づいて、心臓死、心筋梗塞、又は脳卒中のうちの1つ以上のリスクを評価する方法に関する。例えば、本開示の方法は、対象におけるCRPのレベルに基づいて、心臓死のリスクを評価する方法に関連し得る。実施例では、本開示は、対象における心臓死、心筋梗塞又は脳卒中の1つ以上のリスクの上昇を決定するための方法を包含し、その方法は、対象から得られた試料中のCRPのレベルを測定することを含み、上昇したCRPは、心臓死、心筋梗塞又は脳卒中のリスクの上昇を示す。実施例では、対象は、進行性心不全を有する。例えば、対象は、NYHAクラスII進行性心不全を有し得る。したがって、実施例では、試料は、NYHAクラスII進行性心不全を有する対象から得られる。実施例では、試料は、血液試料である。
【0158】
実施例では、1mg/L超のCRPのレベルは、心臓死、心筋梗塞又は脳卒中のリスクの上昇を示す。実施例では、1.5mg/L超のCRPのレベルは、心臓死、心筋梗塞又は脳卒中のリスクの上昇を示す。実施例では、2mg/L以上のCRPのレベルは、心臓死、心筋梗塞又は脳卒中のリスクの上昇を示す。実施例では、2~5mg/L以上のCRPのレベルは、心臓死、心筋梗塞又は脳卒中のリスクの上昇を示す。実施例では、CRPのレベルは、虚血イベントの後に測定される。実施例では、虚血イベントは、心筋梗塞である。
【0159】
実施例では、標的組織内で新血管形成を誘導する細胞を含む組成物は、心臓死、心筋梗塞又は脳卒中のリスクが上昇したと評価された対象に投与される。したがって、実施例では、本開示は、進行性心不全を治療する方法に関し、その方法は、i)ニューヨーク心臓協会(NYHA)分類尺度及び上昇したCRPレベルに従ってクラスII心不全を有する対象を選択することと、ii)本開示による組成物を対象に投与することとを含む。実施例では、対象のCRPレベルは、2mg/ml超である。
【0160】
広範に記載されている本発明の趣旨又は範囲から逸脱することなく、特定の実施形態に示されているように、本発明に多数の変形及び/又は修正が行われ得ることは、当業者には理解されよう。したがって、本実施形態は、全ての点で例示的であり、限定的ではないとみなされるべきである。
【0161】
本出願は、2020年12月15日に出願されたAU2020904675、2021年1月12日に出願された2021900059、2021年9月10日に出願されたAU2021902941、及び2021年10月20日に出願されたAU2021903365からの優先権を主張し、それらの開示は、それらの全体が本明細書に組み込まれる。
【0162】
本明細書で論じられ、かつ/又は参照されている全ての刊行物は、それらの全体が本明細書に組み込まれる。
【0163】
本明細書に含まれる文書、行為、材料、装置、物品などのいかなる議論も、本発明のためのコンテキストを提供することのみを目的とする。これらの事項のいずれか又は全てが、本出願の各特許請求の範囲の優先日前に存在していたように、先行技術の基礎の一部を形成するか、又は本発明に関連する分野における一般的な一般的知識であったことが承認されるものとはみなされない。
【実施例】
【0164】
組成物
組成物は、抗STRO-3抗体を用いて骨単核細胞から単離され、エクスビボで増殖され、かつ凍結保存されたヒト骨髄由来同種異系MPCからなる。
【0165】
【0166】
一次及び二次転帰測定は以下の通りであった:
1)非致命的主要有害心血管イベント(MACE):
心不全MACE(再発性非代償性心不全イベント又は高度不整脈);
虚血性MACE(心臓発作又は脳卒中)
2)心臓の原因による死亡
【0167】
細胞療法は、対照と比較して、虚血性MACE(MI、Stroke)の有意しない率を予期せずに60%低減させた(N=537人の患者;p=0.002;
図1)。
図2は、NYHAクラスII&IIIにおける対照と比較して、虚血性MACE(MI、Stroke)の発生率の有意な低減が観察されたことを示す。これらのデータは、細胞療法により心筋症を有する患者における虚血イベントのリスクが低減され得ることを示唆する。
図3は、虚血性MACE(MI、Stroke)の有意な低減が虚血性及び非虚血性患者の両方で観察されたことを示す。心筋症患者は、これらの患者で進行中の炎症過程のために閉塞性プラーク発生のリスクがある。これらの問題のあるプロセスは、虚血性及び非虚血性心筋症患者の両方で観察される虚血性MACEの一般的な低減を考慮して、細胞療法によって阻害されるようである。したがって、本データは、心筋症を患っている患者における虚血イベントのリスクを低減させるために細胞療法を投与することができるという一般的な概念を支持するように思われる。
【0168】
驚くべきことに、細胞療法は、NYHAクラスII患者の心臓死を低減させたが、NYHAクラスIII患者の心臓死を低減させなかった(
図4及び6)。この結果は、細胞療法による心臓死を低減させるために生存可能な心筋の閾値レベルが必要であることを示唆していたため、驚くべき結果であった。言い換えれば、クラスIII心不全を有する患者は、生存率を向上させるために細胞療法のために疾病の連続体に沿ってあまりにも遠くまで進行している可能性がある。これらの知見は、細胞療法がNYHAクラスII患者において特に効果的であることを示唆している。標的組織において新たな血管形成を誘導する投与細胞の能力を考慮して、本発明者らの知見は、細胞療法を投与することによって、NYHAクラスIII未満のグレードの患者における心臓死を低減させるための一般的な概念を示唆する。この概念の更なるサポートとして、発明者らは、NYHAクラスII患者についての心臓死の観察された低減は、心筋症の原因にもかかわらず維持され、虚血性及び非虚血性NYHAクラスII患者で心臓死の低減が観察されることに留意した(
図5)。
【0169】
3)改善された転帰
3点MACE
その後の解析では、細胞療法を単回注射すると、治療された患者537人全ての対照と比較して、3点不可逆的罹患又は死亡MACEの複合転帰のリスクが有意に低下したことが明らかになった。2mg/ml以上のCRPを有する対象では、リスクの低下が更に明らかであった。3ポイントMACEのリスクは、最初のイベント分析までの時間を使用して33%低減し[HR0.667;95%CI(0.472、0.941);P=0.021;
図7A]、フォローアップの時間(すなわち、100患者年当たりのイベント)で正規化された再発イベント率分析で35%減少した[HR0.646;95%CI(0.466、0.895);P=0.009;
図7B]。血漿hsCRPレベルが2mg/L以上又は2mg/L未満の患者におけるこの複合転帰のためのカプラン・マイヤー曲線が、
図7Cに図示されている。
図7Cに示すように、2mg/L以上のCRPを有する全ての処置された患者において、細胞療法は、以下のリスクを有意に低減させた:
・非致死性MI及び非致死性脳卒中(
図7C1)、並びに
・心臓死又は虚血性MACE(MI又は脳卒中)の複合体(
図7C2)。
【0170】
虚血性MACE
治療された537人の患者全体で、細胞療法の単回注射は、初回イベントまでの時間(TTFE)を用いた対照と比較して、不可逆的な罹患(非致死性MI又は非致死性脳卒中)の発生リスクを65%減少させた[HR0.346;95%CI(0.180、0.664);P=0.001;
図8A]、及び再発イベント率の正常化を用いた69%[HR0.306;95%CI(0.162、0.579);P<0.001;
図8B]。
【0171】
治療時の炎症の有無に基づいて、治療された全ての患者に対して事前に指定されたサブグループ分析を実行した。炎症を有する301人の患者(2mg/L超のCRP)における細胞療法の単回注射は、TTFE[HR0.206;95%CI(0.070、0.611);P=0.004;
図8A]を使用して非致死性MI又は非致死性脳卒中のリスクを79%減少させ、再発事象率正規化[HR0.170;95%CI(0.059、0.492);P=0.001;
図8B]を使用して83%減少させた。上記の3点MACE分析と組み合わせると、これらのデータは、好ましくは、2mg/L超のCRPによって定義されるような、活動性炎症の患者心不全を選択し、治療するための理論的根拠を支持する。
【0172】
細胞療法は、全ての患者の心臓死又は虚血性MACE(MI又は脳卒中)の合成物を33%有意に低減させた(
図9)。その後、患者群の更なる分析により、NYHAクラスII患者の心臓死又は虚血性MACE(MI又は脳卒中)の複合体が対照と比較して60%有意に減少することが明らかになり、NYHAクラスII心不全患者の選択及び治療の理論的根拠を更に支持することが明らかになった(
図9)。また、細胞療法は、複数年のフォローアップにわたってNYHAクラスII患者の心臓死の進行を妨げたことにも留意された(
図10)。
【0173】
細胞療法はまた、CRPレベル、特に2mg/L超のCRPレベルが上昇したNYHAクラスII患者における心臓死(
図11)及び3点MACE(心臓死/MI/脳卒中;
図12)のリスクを予期せずに低減させた。これらの有益な効果は、2mg/未満のベースラインCRPの患者では明らかではなく、細胞療法が活動性炎症の存在下で特に有益である可能性があることを示唆している。
【0174】
更なるデータ分析により、CRPが心臓死の重要なマーカーであることが明らかになった。
図11に示すように、CRPレベルが上昇した患者(2mg/L超)は、心臓死のリスクが有意に増加した。これらのデータは、特にこれらの患者がCRPレベル、例えば2mg/L超のCRPの上昇を有する場合、細胞療法によるNYHAクラスII患者の治療を更に支持する。これらのデータはまた、心臓死のリスクがある指標又は患者としてのCRPレベルの有用性も示している。
【国際調査報告】