(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-10
(54)【発明の名称】耐食性および溶接性に優れた高強度アルミニウム系めっき鋼板および製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 2/12 20060101AFI20231227BHJP
C23C 2/40 20060101ALI20231227BHJP
C23C 2/02 20060101ALI20231227BHJP
C21D 1/26 20060101ALI20231227BHJP
C21D 9/46 20060101ALI20231227BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20231227BHJP
C22C 38/04 20060101ALI20231227BHJP
C22C 38/14 20060101ALI20231227BHJP
C22C 21/00 20060101ALI20231227BHJP
C22C 21/02 20060101ALI20231227BHJP
C22C 21/10 20060101ALI20231227BHJP
【FI】
C23C2/12
C23C2/40
C23C2/02
C21D1/26 N
C21D9/46 P
C21D1/26 D
C22C38/00 302A
C22C38/04
C22C38/14
C22C38/00 302X
C22C21/00 L
C22C21/00 M
C22C21/02
C22C21/10
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023536397
(86)(22)【出願日】2021-12-15
(85)【翻訳文提出日】2023-08-01
(86)【国際出願番号】 KR2021019043
(87)【国際公開番号】W WO2022131779
(87)【国際公開日】2022-06-23
(31)【優先権主張番号】10-2020-0178157
(32)【優先日】2020-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】イ、 スク-キュ
(72)【発明者】
【氏名】オー、 ジョン-ギ
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ミュン-ス
【テーマコード(参考)】
4K027
4K037
【Fターム(参考)】
4K027AA23
4K027AB05
4K027AB13
4K027AB48
4K027AC12
4K027AC52
4K027AE22
4K037EA01
4K037EA02
4K037EA06
4K037EA07
4K037EA16
4K037EA17
4K037EA19
4K037EA27
4K037EA31
4K037EB05
4K037EB09
4K037FB00
4K037FG00
4K037FJ02
4K037FJ05
4K037FJ06
4K037GA05
4K037JA06
(57)【要約】
本発明は、耐食性および溶接性に優れた高強度アルミニウム系めっき鋼板および製造方法に関するものである。
本発明の一側面に係るアルミニウム系めっき鋼板は、オーステナイト組織を70面積%以上含むオーステナイト系素地鋼板、および上記素地鋼板上に形成されたアルミニウム系めっき層を含み、上記素地鋼板はめっき層との界面から素地鋼板の内部に向かう100μm深さまでの領域を意味する表層部でフェライトを80面積%以上含み、上記アルミニウム系めっき層は重量比率でSi:2~12%、Zn:5~30%、Mn:0.1~5%、残部Alおよび不可避不純物を含む組成を有することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オーステナイト組織を70面積%以上含むオーステナイト系素地鋼板、および前記素地鋼板上に形成されたアルミニウム系めっき層を含み、
前記素地鋼板は、めっき層との界面から素地鋼板の内部に向かう100μm深さまでの領域を意味する表層部でフェライトを80面積%以上含み、
前記アルミニウム系めっき層は、重量比率でSi:0.5~5%、Zn:1.5~15%、Mn:0.1~1.5%、残部Alおよび不可避不純物を含む組成を有する、アルミニウム系めっき鋼板。
【請求項2】
前記アルミニウム系めっき層は、重量比率でFe:10~60%およびMg:2.5%以下の中から選択される1種または2種ともにさらに含む、請求項1に記載のアルミニウム系めっき鋼板。
【請求項3】
前記アルミニウム系めっき層は、Cr、Mo、Ni等を合計0.5重量%以下の含有量でさらに含む、請求項2に記載のアルミニウム系めっき鋼板。
【請求項4】
前記オーステナイト系素地鋼板は、重量比率でMnを5~25%含む、請求項1に記載のアルミニウム系めっき鋼板。
【請求項5】
前記オーステナイト系素地鋼板は、重量比率でMn:5~25%、C:0.4~0.8%、Al:0.5~3%、B:50ppm以下、残部Feおよび不可避不純物を含む組成を有する、請求項1に記載のアルミニウム系めっき鋼板。
【請求項6】
前記オーステナイト系素地鋼板は、Ti、Nb、Mo等の元素を合計0.5重量%以下でさらに含む、請求項5に記載のアルミニウム系めっき鋼板。
【請求項7】
オーステナイト組織を70面積%以上含むオーステナイト系素地鋼板を用意する段階;
前記オーステナイト系素地鋼板を均熱帯の温度と露点温度がそれぞれ750~870℃および-5~20℃の条件で焼鈍熱処理する段階;および
前記熱処理されたオーステナイト系素地鋼板を重量比率でSi:2~12%、Zn:5~30%、Mn:0.1~3%、残部Alおよび不可避不純物を含む組成を有し、550~650℃の温度で維持されるめっき浴に浸漬して溶融めっきする段階を含む、アルミニウム系めっき鋼板の製造方法。
【請求項8】
前記めっき浴は、重量比率でFe:1.5%以下およびMg:5%以下の中から選択される1種または2種ともにさらに含む、請求項7に記載のアルミニウム系めっき鋼板の製造方法。
【請求項9】
前記めっき浴は、Cr、Mo、Niなどを合計0.5重量%以下の含有量でさらに含む、請求項7に記載のアルミニウム系めっき鋼板の製造方法。
【請求項10】
前記オーステナイト系素地鋼板をめっき浴に浸漬する際の鋼板の温度は550~650℃である、請求項7に記載のアルミニウム系めっき鋼板の製造方法。
【請求項11】
前記オーステナイト系素地鋼板は、重量比率でMnを5~25%含む、請求項7に記載のアルミニウム系めっき鋼板の製造方法。
【請求項12】
前記オーステナイト系素地鋼板は、重量比率でMnを5~25%、C:0.4~0.8%、Al:0.5~3%、B:50ppm以下、残部Feおよび不可避不純物を含む組成を有する、請求項7に記載のアルミニウム系めっき鋼板の製造方法。
【請求項13】
前記オーステナイト系素地鋼板は、Ti、Nb、Moなどの元素を合計0.5重量%以下でさらに含む、請求項12に記載のアルミニウム系めっき鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐食性および溶接性に優れた高強度アルミニウム系めっき鋼板および製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼板の耐食性を確保するために鋼板の表面をめっきしためっき鋼板が広く用いられている。
【0003】
めっき鋼板を製造するためには冷間圧延された状態のフルハード(full hard)材鋼板を焼鈍した後、めっき浴の温度と類似した温度で上記鋼板をめっき浴に浸漬して鋼板表面にめっき液が浸るようにする過程を経る。ところで、代表的な高強度鋼板であるDP(Dual Phase)鋼やTRIP(TRansformation Induced Plasticity)鋼の場合には、内部にマルテンサイトなどの硬質組織を多量含んでいるが、焼鈍熱処理により鋼板の強度と伸び率が顕著に減少して高い強度-伸び率のバランス(TS×El)を有するめっき鋼板を得ることが技術的に困難であり得る。
【0004】
また、めっき鋼板として広く使用されているものには、Znを主体としためっき層が形成された亜鉛めっき鋼板と、アルミニウムを主体としためっき層が形成されたアルミニウム系めっき鋼板がある。Znを主体とした亜鉛めっき鋼板は、鉄系素地鋼板に比べてZnの腐食電位が低くて、鉄の代わりにZnが先に腐食される、いわゆる犠牲防食特性を示すため、優れた耐食性を有する鋼板と評価される。しかし、Znを主体としためっき層の場合には、融点が低く、溶融めっき液の粘度が低くて溶接時に発生する微小クラック等に溶融しためっき液が浸透してクラックを誘発する溶接液化脆性(Liquid Metal Embrittlement;LME)という問題を内包している。アルミニウムめっきの場合にはZnに比べて融点が高いため、溶接液化脆性が発生するおそれは比較的低いが、アルミニウムめっきは大気と素地鋼板の接触を遮断することで耐食性を確保するだけであって、亜鉛めっきのように犠牲防食などの電気化学的な防食特性は有さない。その結果、めっき層にクラックが発生するなどの原因として、素地鋼板が大気と接触する場合には、腐食を抑制しにくくなることがある。したがって、アルミニウムめっきは亜鉛めっきに比べて耐食性が劣化するものと評価され、このようなアルミニウムめっきの耐食性を向上させるためにZnを所定量添加したAl-Zn系めっき層が提案される。しかしながら、このようなAl-Zn系めっき層も溶接液化脆性の問題を完全に解決することはできず、したがって耐食性と溶接液化脆性の問題を同時に解決するための技術的解決手段に対する要求が依然として存在する。
【0005】
それだけでなく、めっき皮膜と素地鋼板との間に合金化が十分に起こらない場合には、素地鋼板とめっき皮膜との間の密着力が十分でないため、めっき皮膜が剥離してしまうおそれがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の一側面によると、溶接液化脆性の問題を起こさず、優れた耐食性を有するアルミニウム系めっき鋼板として、めっき前熱処理による強度の減少を最小化することができる高強度アルミニウム系めっき鋼板が提供される。
【0007】
本発明の他の一側面によると、素地鋼板とめっき皮膜との間の密着力に優れた高強度アルミニウム系めっき鋼板が提供される。
【0008】
本発明の技術的課題は、上述した内容に限定されない。本発明が属する技術分野で通常の知識を有する者であれば、本発明の明細書の全体内容から本発明のさらなる課題を理解するのに何ら困難がない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一側面に係るアルミニウム系めっき鋼板は、オーステナイト組織を70面積%以上含むオーステナイト系素地鋼板および上記素地鋼板上に形成されたアルミニウム系めっき層を含み、上記素地鋼板はめっき層との界面から素地鋼板の内部に向かう100μm深さまでの領域を意味する表層部でフェライトを80面積%以上含み、上記アルミニウム系めっき層は重量比率でSi:2~12%、Zn:5~30%、Mn:0.1~5%、残部Alおよび不可避不純物を含む組成を有することができる。
【0010】
本発明の他の一側面によるアルミニウム系めっき鋼板の製造方法は、オーステナイト組織を70面積%以上含むオーステナイト系素地鋼板を用意する段階;上記オーステナイト系素地鋼板を均熱帯の温度と露点温度がそれぞれ750~870℃および-5~20℃の条件で焼鈍熱処理する段階;および上記熱処理されたオーステナイト系素地鋼板をSi:2~12%、Zn:5~30%、Mn:0.1~3%、残部Alおよび不可避不純物を含む組成を有し、550~650℃の温度に維持されるめっき浴に浸漬して溶融めっきする段階を含むことができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、オーステナイト系高Mn鋼を素地鋼板として用いることで、めっき前熱処理時にも組織変態による強度低下の問題を解決することができ、まためっき層の組成を制御し、オーステナイト系組織からなる素地鋼板の表層部をフェライト組織とすることで、耐食性とともに溶接液化脆性に対する抵抗性を顕著に向上させることができる。また、めっき層にMnを含ませることでめっき層と素地鋼板との間の密着力が減少することも防止できるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】比較例と発明例のめっき前後の引張曲線を示したグラフである。
【
図2】比較例1と発明例2の溶接部位を観察した写真である。
【
図3】比較例1と発明例2の耐食性を評価した後の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0014】
本発明の発明者らは、オーステナイト系鋼をめっき鋼板の素地鋼板とする場合には、めっき前熱処理により強度と伸び率などの材質の劣化を防止することができるため、TS×Elを高いレベルで維持することができる高強度めっき鋼板を製造することができることを見出し、これに着案して本発明に至った。
【0015】
本発明のめっき鋼板の素地鋼板であるオーステナイト系鋼板は、オーステナイト組織を面積基準で70%以上含むことができる(後述する表層部まで含む領域における比率を意味する)。常温でもオーステナイトが安定した組織であるため、加熱しても他の組織への変態が最小化することができ、その結果、加熱前後の物性変化を最小化することができる。本発明の鋼板におけるオーステナイト比率は高いほど有利であるため、上限を特に制限せず、オーステナイト組織の比率が100%であることもできる。本発明の一実施例によると、鋼板の微細組織中のオーステナイト組織の比率は80%以上であることができる。オーステナイト以外の残りの組織は特に限定せず、例えばフェライト、ベイナイト、マルテンサイト、パーライトなどの鋼材内部に現れ得る各種の組織のうち1種以上が含まれることができる。本発明の組織条件を満たす商用化した鋼板としては、TWIP(TWin Induced Platicity)鋼が挙げられる。
【0016】
また、本発明の一実施例によると、本発明の素地鋼板の表層部は、フェライトが主な組織として含まれることができる。すなわち、表層部の組織をフェライト組織とすることで微小クラックの発生を抑制することができ、それにより溶接時の溶融されためっき層がクラックに浸透して溶接液化脆性が発生することを抑制することができる。本発明において表層部とは、素地鋼板の表面から100μm深さまでの領域を意味する。本発明の一実施例では、上記表層部におけるフェライトの比率は面積基準で80%以上であることができ、表層部はフェライト単相からなることもできる。
【0017】
本発明の一実施例において、上記各組織の比率は、鋼板を厚さ方向に切断した断面で観察したときに得られるものとすることができる。
【0018】
本発明はまたオーステナイト系組織の鋼板を得るための一方法として、鋼板中のMnの含有量が高い高Mn鋼の鋼板を素地鋼板として用いることができる。本発明でいう高Mn鋼とは、Mnの含有量が5重量%以上の鋼を意味する。以下、本発明で鋼板とめっき層の組成を言及する際に特に別途表示しない限り、含有量の単位は重量を基準とすることに留意する必要がある。Mnは代表的なオーステナイト安定化元素としてその含有量を5%以上とすることで鋼板中のオーステナイトの比率を本発明で目標とするレベルで維持することができる。但し、Mnの含有量が過度である場合には、未めっきが発生したり、めっき密着性が劣化する問題が発生することがあるため、その含有量の上限を25%と決めることができる。本発明の一実施例では、上記Mn含有量の範囲を15~20%と決めることができる。
【0019】
なお、必ずしもこれに制限するものではないが、素地鋼板は、Mnの他にもC:0.4~0.8%、Al:0.5~3%及びB:50ppm以下をさらに含むことができる。
【0020】
上記Cはオーステナイトを安定化する元素であり、Cの含有量が低い場合、オーステナイトが十分に形成されないという問題があり、逆にCが過度であると溶接性が低下する問題があり得る。したがって、このような点を考慮して、本発明の一実施例において、上記Cの含有量は0.4~0.8%と決めることができる。本発明の他の一実施例において、Cの含有量は0.5~0.6%と決めることができる。
【0021】
また、上記Alは、水素脆性の発生防止に効果的な元素として0.4%以上添加される。Alの含有量が過度の場合には、連続鋳造時にノズルの目詰まりの問題を引き起こすことがあるため、その含有量の上限を3%と決める。本発明の一実施例では、上記Alの含有量の範囲を0.5~1.5%と決めることができる。
【0022】
必須ではないが、素地鋼板の強度を高めるためにBを添加する場合がある。但し、Bの含有量が過度である場合、未めっきが発生したり、めっき密着性が低下するという問題があるため、その含有量の上限は50ppmと決めることができる。本発明において、Bは任意元素として添加しなくても構わないが(すなわち、0%も含むことができる)、一実施例においてその下限を5ppmとすることもできる。
【0023】
本発明のオーステナイトの高Mn鋼板は、上述した元素以外にも必要に応じて、Ti、Nb、Mo等の元素を合計で0.5%以下にさらに含むことができる。
【0024】
本発明の一実施例によると、上記素地鋼板は熱延鋼板または冷延鋼板であることができるが、その種類を特に制限しない。
【0025】
本発明はまた、溶接液化脆性を防止し、めっき層の密着性を高めるためにめっき層の組成を特に制限する。本発明の一実施例に係るめっき層は、Si:0.7~5%、Zn:1.5~15%、Mn:0.1~1.5%と残部Alおよび不可避不純物からなる組成を有することができる。
【0026】
めっき層のうちSiは、溶融めっき時にAl-Fe合金層の成長を抑制する役割を果たすものであり、0.7%以上添加される場合、Al-Fe合金層の過度な成長を抑制することができるため、めっき密着性を確保することができる。但し、Siが5%を超過して過度である場合には、Al-Fe合金層の成長が過度に抑制され、溶接液化脆性が起こるおそれがある。すなわち、Al-Fe合金層は、溶融されためっき層が素地鋼板の内部に流入することを防止することを抑制させることもあるため、本発明の一実施例では、高すぎる含有量のSi添加によりAl-Fe合金層の成長が極度に抑制されることは避けようとする。
【0027】
また、めっき層のうちZnはアルミニウム系めっき層に犠牲防食性を付与するために添加するものであり、1.5%以上添加する。しかしながら、Znの含有量が過度である場合には、溶融されためっき層の融点が低下し、流動性が増加して溶接液化脆性を引き起こす可能性が高いため、その値を15%以下に制限する。
【0028】
本発明ではまたMnを0.1%以上添加してめっき密着性を増加させる。但し、Mn含有量が1.5%を超過する超える場合には、Al-Fe合金相形成が抑制されて溶接液化脆性が発生するおそれがあるため、その含有量の上限を1.5%とする。本発明において、Mnはめっき浴に由来することもできるが、高Mn鋼板を用いるため、素地鋼板でも相当量が拡散してめっき層に含まれることができる。
【0029】
本発明の一実施例では、上記めっき層は、Feを10~60%さらに含むことができる。Feは、めっき浴と素地鋼板が接触することによって、素地鋼板とめっき浴との反応で形成されて、めっき層に含まれるものであり、60%以下の範囲までは含まれることができる。その含有量の下限は特に制限されないが、通常的な操業条件を考慮する際には、めっき層のFe含有量を10%以上と決めることができる。
【0030】
本発明はまためっき層の耐食性を向上させるために必要に応じてMgを2.5%以下の範囲で添加することができる。
【0031】
本発明の一実施例では、めっき層に上述した元素以外にも、Cr、Mo、Niなどを合計0.5%以下の含有量でさらに含むことができる。
【0032】
以下、本発明の高強度アルミニウム系めっき鋼板の製造方法について説明する。
【0033】
まず、オーステナイト系素地鋼板を用意する段階が行われる。オーステナイト系素地鋼板の特徴については上述した通りである。
【0034】
この後、用意された素地鋼板を均熱帯の基準で750~870℃の温度範囲で焼鈍熱処理する段階が必要である。750℃未満ではオーステナイトが十分に形成されないため、十分なオーステナイト相を確保することが難しく、870℃を超過してもオーステナイトが十分に形成されているため、これ以上の温度上昇は不要である。このとき、均熱帯における露点温度は-5~20℃に調節する必要がある。露点温度を本範囲に制御することで鋼板表層部に適切に内部酸化と脱炭が起こり、それによって表層部の組織をフェライト組織で制御することができる。すなわち、オーステナイト組織を安定化させる元素としてMnとCが挙げられるが、内部酸化によってこれら元素の含有量が表層部で大きく減少されることができるため、表層部の組織をフェライトで制御することができるものである。露点温度が-5℃未満の場合には、表層部の内部酸化反応を起こし難いため、表層部の組織をフェライトに維持することが困難である。また、内部酸化の代わりに表面酸化が起こり、表面に酸化物が多量生成されて、それにより合金化が妨害される。その結果、めっき密着性が悪くなることがある。逆に、露点温度が20℃を超える場合には、素地鋼板の内部の内部酸化だけでなく、表面でも酸化が起こり、表面に酸化物が多量分布するようになり、その結果、めっき時のめっき浴との濡れ性が劣化してめっき密着性が悪くなる。
【0035】
この後、熱処理された素地鋼板は550~650℃のめっき浴に浸漬して溶融めっきする必要がある。めっき浴の温度が550℃未満の場合、めっき浴の粘度が高くなって流動性が減少する問題があり、650℃を超過する場合、めっき浴内のシンクロールの寿命が短縮され、ドロスが多く発生するという問題点があり得る。めっき浴の組成は、最終的に形成されるめっき層の組成を考慮して、Si:2~12%、Zn:5~30%、Mn:0.1~3%、残部Alおよび不可避不純物を含むことができる。本発明の一実施例では、Feを4%以下の含有量でさらに含むことができる。その他にもめっき層の耐食性を確保するために5%以下のMgをさらに含むことができ、その他にも合計0.5%以下のCr、Mo、Niをさらに含むことができることは、先にめっき層の組成で説明した通りである。
【0036】
素地鋼板をめっき浴に浸漬する際に、鋼板の温度は550~700℃であることができる。鋼板の温度が低すぎる場合には、十分な表面品質が得られないため、上記浸漬される鋼板の温度は550℃以上であることができる。但し、温度が高すぎると鋼板の温度によってめっき浴の温度が上昇してしまうことがあり、また鋼板からの溶出量が多くなり、めっき装置の耐久性が低下するおそれがあるため、上記鋼板の温度の上限は700℃で決めることができる。本発明の一実施例では、上記鋼板の浸漬時の温度は、めっき浴の温度~めっき浴温度+30℃と決めることができる。
【0037】
上述した過程により鋼板を溶融めっきした後、エアナイフ等の公知の付着量の調節手段でめっき付着量を調節して高強度アルミニウム系めっき鋼板を製造することができる。付着量について特に限定しないが、鋼板の片面当たり10~100g/m2に制限することができる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。但し、後述する実施例は、本発明を例示して、具体化するためのものにすぎず、本発明の権利範囲を制限するためのものではない点に留意する必要がある。本発明の権利範囲は、特許請求の範囲に記載された事項と、それから合理的に類推される事項によって決定されるものであるためである。
【0039】
(実施例)
実施例1
下記表1に記載の組成(単位:重量%、但し、Bの含有量の単位はppmである、表示されていない残りの成分は実質的にFeである)と組織構成(単位:面積%)を有する冷延鋼板(板厚さ:1.2mm)を用意し、均熱帯の温度を830℃に加熱して焼鈍熱処理した。焼鈍熱処理時に、表2に記載のように露点を制御した。加熱された鋼板は、620℃の温度に維持されている表2に記載の組成(単位:重量%、表示されていない残りの成分はアルミニウムである)を有するめっき浴に浸漬した。浸漬前の鋼板の温度は、全ての実施例において620℃(±3℃)に制御された。めっき浴に浸漬した後に、エアナイフを用いて片面当たり60g/m2でめっき付着量を制御することで、アルミニウム系めっき鋼板を製造した。
【0040】
【0041】
【0042】
表3に各実施例別に得られためっき鋼板のめっき層の組成(単位:重量%、表示されていない残りの成分はアルミニウムである)、表層部のフェライト比率(単位:面積%)、耐食性、溶接性、引張強度(MPa)、めっき密着性を示した。表3に記載されたように、めっき鋼板の素地鋼板のオーステナイト比率は、めっき前の素地鋼板の組織を示した表1に記載された値から大きく逸脱せず、残りの組織の種類(表3に記載しない)と同一であることを確認することができた。但し、発明例3(発明鋼2を素地鋼板として使用)の場合には、残りの組織としてフェライトが形成されていることが確認できた。
【0043】
めっき鋼板の耐食性は以下の基準で判断した。
【0044】
各溶融アルミニウム合金めっき鋼板を塩水噴霧試験機に装入し、5%塩水(温度35℃、pH6.8)を時間当たり1ml/80cm2噴霧し、装入2400時間経過後、赤錆発生有無を判定する方式で行った。すなわち、赤錆が発生していない場合を「◎(優秀)」、鋼板表面積の50%以下で赤錆が発生した場合を「○(良好)」、鋼板表面積の50%を超過して赤錆が発生した場合を「×(不良)」と判定した。
【0045】
めっき鋼板の溶接性は、以下の基準で判断した。
【0046】
溶接液化脆性評価のために、先端径6mmのCu-Cr電極を用いて溶接電流0.5kAを流し、加圧力4.0kNの条件下の溶接を実施した。溶接後、走査電子顕微鏡(FE-SEM)によってその断面に形成されたLMEクラックの長さを測定した。測定結果、LMEクラック長さが150μm以下の場合は「◎(優秀)」、LMEクラック長さが150μm超過500μm以下の場合は「○(良好)」、LMEクラック長さが500μmを超過する場合は「×(不良)」と評価した。
【0047】
めっき密着性は以下の基準で判断した。
【0048】
自動車構造用シーラーを用いて75mm×150mm面積の試験片に10mm×40mm面積と5mmの厚さでシーラーを塗布した後、175℃で25分間硬化させた後、90°ベンディングしてシーラーの剥離を目視で観察した。シーラーが素地鉄にそのまま接着されており、シーラー間で剥離が起こらない場合を「◎(優秀)」、めっき層が剥離するが、シーラーに付着して剥離することが面積比率で10%以下の場合を「○(良好)」、そしてめっき層がシーラーに付着して剥離する場合が面積比率で10%を超過する場合を「×(不良)」と評価した。
【0049】
【0050】
比較例1および比較例2は、工程条件は本発明で規定する範囲を満たすが、素地鋼板中のCまたはMnの含有量が不足した場合であり、その結果、表層部のフェライト組織が本発明で規定する範囲に入らなかった場合である。上記表3から確認できるように、鋼板の組織のうち表層部のフェライト組織の比率が80%を下回る比較例1および比較例2の場合は、溶接時にLMEクラックが発生することを防止できず、したがって溶接性が劣化した結果を示した。また、比較例2の場合は、めっき層中にZnの含有量が十分でないため、耐食性も不十分な結果を示した。それだけでなく、比較例1および2ともにオーステナイトの比率が高くないことから、熱処理後にも強度と伸び率をバランス(TS×El)を高く維持することが困難であり、その結果、強度と伸び率バランスの値がそれぞれ15,000MPa%と13,000MPa%に過ぎず、高い強度と伸び率が必要な鋼材には適合しなかった。
【0051】
比較例3、5および7は、焼鈍時の均熱帯の露点温度が本発明で規定する値より低かった場合であり、このように露点温度が低すぎる場合には、鋼板表面の内部酸化および脱炭が起こり難いのに対し、表面酸化が起こるようになる。その結果、表層部のフェライトの比率を高く維持することが困難であるだけでなく、表面の酸化物によってめっき層と鋼板との間の合金化が不十分になる。その結果、表3に示したように、溶接性とめっき密着性が悪い結果が得られた。
【0052】
比較例4および6は、露点温度が過度に高かった場合であり、表層部のフェライト比率は本発明の条件を満たすが、表面に酸化物が過度に形成されてめっき密着性が不良であった。
【0053】
上記比較例と対比される発明例は、表3の結果から分かるように、本願発明の条件を満たす発明例1~3はいずれも耐食性、溶接性、強度-伸び率のバランスおよびめっき密着性に優れた。
【0054】
図1に比較例1(図面中の比較例)と発明例2(図面中の発明例)について引張試験を行った結果を示した。図面のグラフから確認できるように、本発明の条件を満たす発明例2の場合には、めっき前後の引張強度および伸び率の低下がほぼ起こらなかったことが確認できる。しかし、比較例1の場合は素地鋼板内のオーステナイト比率が不足してめっき前後の強度変化が激しく、伸び率も小幅減少することが確認できる。
【0055】
図2は、比較例1と発明例2の溶接部位を観察した写真であり、図面で確認できるように比較例1の場合には溶接部にLMEクラックが多数発生していたが、発明例2ではLMEクラックが全く観察されず、優れた溶接性を示していた。
【0056】
図3は、比較例1と発明例2の耐食性を評価した結果として図面の写真から確認できるように、比較例1に比べて発明例2がはるかに優れた耐食性を示していた。
【0057】
以上の実施例を介して検討したように、本発明の有利な効果を確認することができた。
【国際調査報告】