(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-10
(54)【発明の名称】スタフィロコッカス・カルノーサスの少なくとも1つの株を治療又は予防に用いる組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
A61K 35/74 20150101AFI20231227BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20231227BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20231227BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20231227BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20231227BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20231227BHJP
A61P 5/14 20060101ALI20231227BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20231227BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20231227BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20231227BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20231227BHJP
A61P 3/04 20060101ALI20231227BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20231227BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20231227BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20231227BHJP
A61P 1/02 20060101ALI20231227BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20231227BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20231227BHJP
A23L 33/135 20160101ALI20231227BHJP
【FI】
A61K35/74
A61P29/00
A61P1/04
A61P17/00
A61P1/16
A61P37/08
A61P29/00 101
A61P5/14
A61P3/10
A61P25/00
A61P21/00
A61P27/02
A61P3/04
A61P9/10
A61P9/00
A61P25/28
A61P1/02
A61K45/00
A61P43/00 121
A23L33/135
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023536441
(86)(22)【出願日】2021-12-22
(85)【翻訳文提出日】2023-06-15
(86)【国際出願番号】 EP2021087283
(87)【国際公開番号】W WO2022136544
(87)【国際公開日】2022-06-30
(32)【優先日】2020-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】590002013
【氏名又は名称】ソシエテ・デ・プロデュイ・ネスレ・エス・アー
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100140453
【氏名又は名称】戸津 洋介
(72)【発明者】
【氏名】ジャンナスカ, ポール, ジョセフ
(72)【発明者】
【氏名】デュボー, ステファン
【テーマコード(参考)】
4B018
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4B018LB01
4B018LB07
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4C087ZC75
(57)【要約】
組成物は、少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株、例えば、S.カルノーサスCNCM I-5398又はS.カルノーサスCNCM I-5400の少なくとも1つを含有する。組成物の単位剤形は、少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株の予防有効量又は治療有効量を含有する。そのような組成物を作製する方法は、少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株を、少なくとも1つの他の食品成分へ添加することを含む。このような組成物を治療又は予防に用いる方法は、粘膜治癒;腸内微生物叢ディスバイオシスの制御;並びにIBD、過敏性腸症候群、肝臓炎(NASH、NAFLD、アルコール誘発性肝損傷)などの腸炎症性疾患、アレルギー、アトピー、骨の炎症、関節リウマチ、全身性狼瘡、グージェロー・シェーグレン症候群、ライター症候群、灰白髄炎、皮膚筋炎、甲状腺炎、バセドウ、橋本病、I型糖尿病、アジソン病、自己免疫性肝炎、セリアック病、ビールマー病、多発性硬化症、筋無力症、眼炎、肥満関連炎症、加齢性軽度炎症、ブラウ症候群、アルツハイマー症、心臓血管疾患、アテローム性動脈硬化症、メタボリックシンドローム、II型糖尿病、歯肉炎、歯周炎、及び食物感受性の治療又は予防を促進する工程を含む。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炎症を有する個体におい前記炎症を治療する方法であって、トリプタミン、インドール、インドールプロピオン酸、3-メチルインドール、インドール-3-酢酸、又はインドール-3-アセトアルデヒドのうち1つ以上を産生する少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株の治療有効量を、前記個体に投与する工程を含む、方法。
【請求項2】
前記少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株が、S.カルノーサスCNCM I-5398又はS.カルノーサスCNCM I-5400の少なくとも1つを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株が、1つ以上の追加のプロバイオティクスを更に含む組成物で投与され、前記少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサスが、前記組成物中のプロバイオティクスの総量の大部分である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株が、前記少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサスが唯一のプロバイオティクスである組成物で投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株が、経口、局所、経腸、及び非経口からなる群から選択される少なくとも1つの経路によって、前記炎症を有する前記個体に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株が、完全栄養製品、飲料、ダイエタリー・サプリメント、置き換え食、食品添加物、食品製品への補給剤、溶解用粉末、経腸栄養製品、乳児用フォーミュラ、及びこれらの組合せからなる群から選択される組成物で投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記炎症が、急性炎症、皮膚炎症、クローン病及び/又は潰瘍性大腸炎を含む炎症性腸疾患(IBD)、過敏性腸症候群、肝臓炎、アレルギー、アトピー、骨の炎症、関節リウマチ、全身性狼瘡、グージェロー・シェーグレン症候群、ライター症候群、灰白髄炎、皮膚筋炎、甲状腺炎、バセドウ、橋本病、I型糖尿病、II型糖尿病、アジソン病、自己免疫性肝炎、セリアック病、ビールマー病、多発性硬化症、筋無力症、眼炎、肥満関連炎症、加齢性軽度炎症、ブラウ症候群、アルツハイマー症、心臓血管疾患、アテローム性動脈硬化症、メタボリックシンドローム、歯肉炎、歯周炎(paronditis)、及びそれらの組合せからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記炎症が、IBDである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記IBDが、クローン病又は潰瘍性大腸炎である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記個体が、乳児、小児、青年、成人、及び高齢者からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株が、プレバイオティクス、アミノ酸、タンパク質、ヌクレオチド、魚油、非海洋性のオメガ-3脂肪酸源、植物栄養素、抗酸化剤、及びそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1つの成分を更に含む組成物で投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
炎症のリスクがある個体において前記炎症を予防する、前記炎症の発生率を低下させる、及び/又は前記炎症の重症度を低下させる方法であって、トリプタミン、インドール、インドールプロピオン酸、3-メチルインドール、インドール-3-酢酸、又はインドール-3-アセトアルデヒドのうち1つ以上を産生する少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株の予防有効量を、前記個体に投与する工程を含む、方法。
【請求項13】
前記少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株が、S.カルノーサスCNCM I-5398又はS.カルノーサスCNCM I-5400の少なくとも1つを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株が、1種以上の追加のプロバイオティクスを更に含む組成物で投与され、前記少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサスが、前記組成物中のプロバイオティクスの総量の大部分である、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株が、前記少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサスが唯一のプロバイオティクスである組成物で投与される、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株が、経口、局所、経腸、及び非経口からなる群から選択される少なくとも1つの経路によって、前記炎症のリスクがある前記個体に投与される、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
前記少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株が、完全栄養製品、飲料、ダイエタリー・サプリメント、置き換え食、食品添加物、食品製品への補給剤、溶解用粉末、経腸栄養製品、乳児用フォーミュラ、及びこれらの組合せからなる群から選択される組成物で投与される、請求項12に記載の方法。
【請求項18】
前記炎症が、急性炎症、皮膚炎症、クローン病及び/又は潰瘍性大腸炎を含む炎症性腸疾患(IBD)、過敏性腸症候群、肝臓炎、アレルギー、アトピー、骨の炎症、関節リウマチ、全身性狼瘡、グージェロー・シェーグレン症候群、ライター症候群、灰白髄炎、皮膚筋炎、甲状腺炎、バセドウ、橋本病、I型糖尿病、II型糖尿病、アジソン病、自己免疫性肝炎、セリアック病、ビールマー病、多発性硬化症、筋無力症、眼炎、肥満関連炎症、加齢性軽度炎症、ブラウ症候群、アルツハイマー症、心臓血管疾患、アテローム性動脈硬化症、メタボリックシンドローム、歯肉炎、歯周炎(paronditis)、及びそれらの組合せからなる群から選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項19】
前記炎症が、IBDである、請求項12に記載の方法。
【請求項20】
前記IBDが、クローン病又は潰瘍性大腸炎である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記個体が、乳児、小児、青年、成人、及び高齢者からなる群から選択される、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株が、プレバイオティクス、アミノ酸、タンパク質、ヌクレオチド、魚油、非海洋性のオメガ-3脂肪酸源、植物栄養素、抗酸化剤、及びそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1つの成分を更に含む組成物で投与される、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
微生物叢ディスバイオシスのリスクがある個体又は微生物叢ディスバイオシスに罹患している個体において、前記微生物叢ディスバイオシスを予防、治療、又は制御する方法であって、トリプタミン、インドール、インドールプロピオン酸、3-メチルインドール、インドール-3-酢酸、又はインドール-3-アセトアルデヒドのうち1つ以上を産生する少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株の予防有効量を、前記個体に投与する工程を含む、方法。
【請求項24】
前記少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株が、S.カルノーサスCNCM I-5398又はS.カルノーサスCNCM I-5400の少なくとも1つを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株が、1つ以上の追加のプロバイオティクスを更に含む組成物で投与され、前記少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサスが、前記組成物中のプロバイオティクスの総量の大部分である、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
前記少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株が、前記少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサスが唯一のプロバイオティクスである組成物で投与される、請求項23に記載の方法。
【請求項27】
前記少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株が、経口、局所、経腸、及び非経口からなる群から選択される少なくとも1つの経路によって前記個体に投与される、請求項23に記載の方法。
【請求項28】
前記少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株が、完全栄養製品、飲料、ダイエタリー・サプリメント、置き換え食、食品添加物、食品製品への補給剤、溶解用粉末、経腸栄養製品、乳児用フォーミュラ、及びこれらの組合せからなる群から選択される組成物で投与される、請求項23に記載の方法。
【請求項29】
微生物叢ディスバイオシスに関連した障害のリスクがある個体又は前記障害を有する個体における、前記障害の予防又は治療方法であって、トリプタミン、インドール、インドールプロピオン酸、3-メチルインドール、インドール-3-酢酸、又はインドール-3-アセトアルデヒドのうち1つ以上を産生する少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株を、前記個体に投与する工程を含む、方法。
【請求項30】
前記障害が、感染傾向、アレルギー、I型糖尿病、インスリン抵抗性、2型糖尿病、セリアック病、末梢性肥満及び中心性肥満、肥満症、壊死性腸炎、炎症性腸疾患、機能性消化管障害、及びそれらの組合せからなる群から選択される、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株が、S.カルノーサスCNCM I-5398又はS.カルノーサスCNCM I-5400の少なくとも1つを含む、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
前記少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株が、1つ以上の追加のプロバイオティクスを更に備える組成物で投与され、前記少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサスが、前記組成物中のプロバイオティクスの総量の大部分である、請求項29に記載の方法。
【請求項33】
前記少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株が、前記少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサスが唯一のプロバイオティクスである組成物で投与される、請求項29に記載の方法。
【請求項34】
前記少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株が、経口、局所、経腸、及び非経口からなる群から選択される少なくとも1つの経路によって前記個体に投与される、請求項29に記載の方法。
【請求項35】
前記少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株が、完全栄養製品、飲料、ダイエタリー・サプリメント、置き換え食、食品添加物、食品製品への補給剤、溶解用粉末、経腸栄養製品、乳児用フォーミュラ、及びこれらの組合せからなる群から選択される組成物で投与される、請求項29に記載の方法。
【請求項36】
腸管粘膜の治癒を必要とする個体における腸管粘膜の治癒を促進する方法であって、トリプタミン、インドール、インドールプロピオン酸、3-メチルインドール、インドール-3-酢酸、又はインドール-3-アセトアルデヒドのうち1つ以上を産生する少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株の予防有効量を、前記個体に投与する工程を含む、方法。
【請求項37】
前記少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株が、S.カルノーサスCNCM I-5398又はS.カルノーサスCNCM I-5400の少なくとも1つを備える、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株が、1つ以上の追加のプロバイオティクスを更に含む組成物で投与され、前記少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサスが、前記組成物中のプロバイオティクスの総量の大部分である、請求項36に記載の方法。
【請求項39】
前記少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株が、前記少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサスが唯一のプロバイオティクスである組成物で投与される、請求項36に記載の方法。
【請求項40】
前記少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株が、経口、局所、経腸、及び非経口からなる群から選択される少なくとも1つの経路によって前記個体に投与される、請求項36に記載の方法。
【請求項41】
前記少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株が、完全栄養製品、飲料、ダイエタリー・サプリメント、置き換え食、食品添加物、食品製品への補給剤、溶解用粉末、経腸栄養製品、乳児用フォーミュラ、及びこれらの組合せからなる群から選択される組成物で投与される、請求項36に記載の方法。
【請求項42】
前記個体が、損傷のある腸管粘膜を有する、請求項36に記載の方法。
【請求項43】
少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株を含む組成物の単位剤形であって、トリプタミン、インドール、インドールプロピオン酸、3-メチルインドール、3-メチルインドール、インドール-3-酢酸、又はインドール-3-アセトアルデヒドのうち1つ以上を産生し、且つ炎症、粘膜損傷、又は微生物叢ディスバイオシスのうち少なくとも1つに対して治療上又は予防上有効である、少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株の量を含む、単位剤形。
【請求項44】
炎症、粘膜損傷、又は微生物叢ディスバイオシスの少なくとも1つに対して治療上又は予防上有効な組成物を作製する方法であって、トリプタミン、インドール、インドールプロピオン酸、3-メチルインドール、3-メチルインドール、インドール-3-酢酸、又はインドール-3-アセトアルデヒドのうち1つ以上を産生する少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株を、プレバイオティクス、アミノ酸、タンパク質、ヌクレオチド、魚油、非海洋性のオメガ-3脂肪酸源、植物栄養素、抗酸化剤、及びそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1つの成分へ添加する工程を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スタフィロコッカス・カルノーサスの少なくとも1つの株を治療又は予防に用いる組成物及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
[0001]本開示は、全般的に、少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス(Staphylococcus carnosus)株、例えば、S.カルノーサスCNCM I-5398(NCC 971)又はS.カルノーサスCNCM I-5400(NCC 1052)のうち少なくとも1つを含む組成物に関し、そのような組成物を作製する方法、及びそのような組成物を治療又は予防に用いる方法に更に関する。
【0003】
[0002]慢性炎症は、炎症性腸疾患(IBD)、肝疾患、及び関連代謝疾患、及び多発性硬化症などを含む、多くのヒト疾患の中核である。コルチコステロイド、及び特異的な免疫学的経路を標的とする抗体などといった、今日使用されている抗炎症療法のほとんどは、それらの長期有用性を制限する有害な副作用を有する。
【0004】
[0003]更に、これに関して、IBDは結腸及び小腸の炎症状態の一群である。この疾患は重篤な腹痛及び栄養上の問題(食物不耐性及び欠乏)の原因となり得る。IBDの主要なタイプは、クローン病(CD)及び潰瘍性大腸炎(UC)である。CD及びUCは、主としてこれらの炎症性変化の位置及び性質によって異なる。CDは、口腔から肛門までの胃腸管の任意の部分に影響を及ぼす可能性があり、より一般的な臨床症状は、回腸及び大腸において生じる。UCは、結腸及び直腸に限定される。
【0005】
[0004]IBDの病因はまだ完全には解明されていない。IBDは、粘膜炎症だけでなく、腸管バリア機能の重篤な損傷もまた特徴とする。最近の臨床研究は、「粘膜治癒」を、IBD患者における長期寛解及びCD患者における低リスクの外科的処置のための、最も有意な予後因子として特徴付けている。
【0006】
[0005]臨床的粘膜治癒とは、内視鏡レベル及び顕微鏡レベルの両方での、上皮層組織及び下層組織の完全な修復として定義されている。粘膜治癒は炎症性腸疾患を有する患者における再発リスクを減少させるが、このプロセスにおけるダイエタリー・サプリメント補給の役割は十分に研究されていない。
【発明の概要】
【0007】
[0006]本開示の予備的な文脈では、トリプトファンはヒトにとって必須のアミノ酸であり、かつ食物タンパク質によって供給されることに留意すべきである。このアミノ酸のほとんどは小腸で吸収され、かつキヌレニン及び5-ヒドロキシインドール経路を介して代謝され、吸収されなかったトリプトファンは小腸及び結腸で共生細菌によって異化される。異化産物の例は、インドール、トリプタミン、インドール-エタノール、インドール-プロピオン酸、インドール-乳酸(indole-lactic acid:ILA)、インドール-酢酸(indole-acetic acid:IAA)、スカトール、インドール-アルデヒド(indole-aldehyde:IAld)、及びインドール-アクリル酸である。
【0008】
[0007]これらの代謝産物は、粘膜ホメオスタシス、食欲制御、胃腸移動性、及び/又は腸上皮細胞を介した免疫応答に影響を及ぼし得る。特に、IAA、IAld、IA、ILA、トリプタミン、及びスカトールなどのいくつかのトリプトファン代謝産物は、腸免疫細胞に見出されるアリール炭化水素受容体(aryl hydrocarbon receptor:AHR)に作用し、その結果、AHR依存的様式で免疫応答を調節する。加えて、これは、赤血球系転写因子2関連転写因子2(nuclear factor erythroid 2-related factor 2:Nrf2)を含むGタンパク質受容体及びシグナル伝達経路を介して作用して、酸化ストレス及び炎症応答を制御する。
【0009】
[0008] 本発明者らは理論に拘束されることなく、トリプトファン代謝産物又はインドール誘導体の粘膜ホメオスタシス効果及び免疫調節効果により、S.カルノーサスが潜在的に異化酵素を介してこれらの代謝産物を産生することができ、したがって、IBD患者又は一般集団の腸の健康を改善することができるものと考えている。トリプトファンの摂取は、必須アミノ酸として、体内(すなわち、血液、脳、及び腸)におけるトリプトファンの生理学的レベルに影響を及ぼし、その結果、前述の経路を介してセロトニン/メラトニン合成を刺激する。食物中のトリプトファンの初期レベルは、トリプトファンのバイオアベイラビリティだけでなく、腸におけるトリプトファン代謝産物の利用能にもまた影響を及ぼし得る。したがって、本開示の態様は、腸マイクロバイオームによって産生されるトリプトファン代謝産物を調節すること(例えば、増加させること)に基づく。
【0010】
[0009]この点に関して更に、食品用及び/又は食品由来の微生物株は、良好な安全プロファイルでのヒト曝露の長い歴史を有し、これらの株のいくつかは、胃腸機能障害、例えば便秘、下痢、疼痛、及び/又は腹部膨満などの特定の病気を寛解するためのプロバイオティクスとして開発されている。プロバイオティクスが緩和をもたらすメカニズム(複数可)は十分に解明されておらず、したがって、具体的な株の選択は主に経験的な課題であった。それにもかかわらず、プロバイオティクスは一般に安全であるとみなされ、安全な消費の歴史を有し、食品製造において使用される。
【0011】
[0010]より最近では、腸内マイクロバイオームと宿主との相互作用がよりよく理解されるようになるにつれて、細菌が宿主に提供する利益は、細菌が産生する特定の分子によって媒介されることが多いことが明らかになりつつある。このことを考慮して、本発明者らは、細菌代謝産物が関与し得る宿主生理学的経路を試験し、標的としてアリール炭化水素受容体(AHR)経路を選択した。
【0012】
[0011]AHRは、トリプトファンの分解によって生成される代謝産物を含むインドール誘導体と呼ばれる分子のファミリーを認識することによって、環境センサーとして作用する。宿主及び特定の細菌の両方は、トリプトファンを、AHRに関与し、かつ多くの下流エフェクタ機能を刺激する関連分子に異化することができ、下流エフェクタ機能は、腸において、他の活性の中でもとりわけ、制御性T細胞(regulatory T cell:Treg)及び上皮細胞の増殖を含む。Treg及び上皮細胞の増殖の正味の効果は、炎症の抑制及び粘膜治癒の促進/粘膜腸機能の回復である。IBD患者は、腸内細菌分類群の異常な補完(ディスバイオシス)を有しており、その結果、彼らの腸内微生物叢は、トリプトファンを異化してAHRを活性化する能力が低下している。いくつかの他の炎症性疾患は、トリプトファンを異化する腸内微生物叢の能力の低下に関連している可能性が高い。更に、抗生物質処置は腸内細菌の健康なバランスに悪影響を及ぼすことが知られており、この悪影響により、生理学的及び物理的な(例えば、バリア)機能の障害、並びに病原性生物に対する防御の低下をもたらし得る。
【0013】
[0012]本開示は、トリプトファンを、AHRに関与する生物活性代謝産物へと加工して、複数の健康促進機能を活性化する、高い能力を有する、安全な食品用及び/又は食品由来の細菌を宿主に補給することで、変化した腸内微生物叢における有益な代謝産物を産生しかつ防御機能を維持する能力の低下に対処する。
【0014】
[0013]慢性炎症に対処するためのほとんどの介入は、宿主に対して有害作用を有するが、食品用の細菌は、ヒトによる安全な消費の長い歴史を有し、かつ長期使用に適している。したがって、ディスバイオシスの宿主における健康な腸内微生物叢に関連した重要な生理学的能力を補うための有益バクテリアの使用は、有望なアプローチであり得る。
【0015】
[0014]更なる特徴及び利点が本明細書において記述されており、以下の図面、及び発明を実施するための形態から明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2】本明細書に開示される第1の実験例における、選択されたNCCのS.カルノーサス株の表である。
【
図3】本明細書に開示される第2の実験例における、マウスDSS大腸炎モデルでのS.カルノーサスの評価を示す。
【
図4】実験終了時(14日目)に採取された結腸組織におけるサイトカインレベルの変化のヒートマップを示す。試験群の値を、DSSビヒクル対照(「0」として示す)と比較して示す。
【
図5】本明細書に開示される第2の実験例における、疾患のピーク(10日目)での疾患活動性指標(disease activity index:DAI)を示すチャートである。ビヒクル対照との統計的比較を示す。
【
図6A】本明細書に開示される第3の実験例において、細菌由来のトリプトファン代謝産物が用量依存的様式でAHRを活性化することを示すチャートである。
【
図6B】本明細書に開示される第3の実験例において、細菌由来のトリプトファン代謝産物が用量依存的様式でAHRを活性化することを示すチャートである。
【
図7A】本明細書に開示される第3の実験例において、細菌由来トリプトファン代謝産物が、TCDDと比較して、AHRの低レベルの活性化、及び限定された増強を実証することを示すチャートを提示する。
【
図7B】本明細書に開示される第3の実験例において、細菌由来トリプトファン代謝産物が、TCDDと比較して、AHRの低レベルの活性化、及び限定された増強を実証することを示すチャートを提示する。
【
図8】本明細書に開示される第3の実験例における培養上清中の代謝産物の初期試験からの結果のチャートである。全ての分析物を、単一の試料から定量した。
【
図9】NST-04マウス結腸を示す;平均合計大腸炎スコア。群平均+/-平均値の標準誤差(SEM)。DSSを投与したマウスでは、NCC971又は抗p40処置マウスにおいて、遠位部での合計大腸炎スコアはビヒクル対照処置と比較して減少した。これらと同じ減少は近位結腸では観察されなかった。NCC1052処置又はNCC971+NCC1052の組合せで処置したマウスでは、結腸の近位部及び遠位部での比較上の減少は最小であった、又は存在しなかった。
【
図10】NST-04マウスの結腸近位部を示す;平均組織病理学スコア。群平均+/-SEM。群間の傾向は、近位部での合計大腸炎スコアにおいて観察された傾向と同様であった。
【
図11】マウスの結腸遠位部を示す;平均組織病理学スコア。群平均+/-SEM。群間の傾向は、遠位部での合計大腸炎スコアにおいて観察された傾向と同様であった。
【
図12】NST-04マウスの結腸近位部を示す;平均杯細胞存在量スコア。群平均+/-SEM。杯細胞の存在量は主に増加した。抗p40処置に関連して、存在量スコアの減少及び増加はビヒクル対照と比較してわずかに減少していたが、これは合計スコアの差にはつながらなかった。
【
図13】NST-04マウスの結腸遠位部を示す;平均杯細胞存在量スコア。群平均+/-SEM。杯細胞存在量は主に減少した。NCC971又は抗p40処置に関連して、存在量スコアの減少及び増加はビヒクル対照と比較してわずかに減少していたが、これは合計スコアにおいて比較的最小の差に換算された。
【
図14】NST-04マウス結腸を示す;平均陰窩下(Sub-Cryptal)粘膜厚測定。群平均+/-SEM。DSSを投与したマウスでは、NCC971又は抗p40で処置されたマウスにおいて、遠位結腸における厚さ測定値がビヒクル対照処置と比較して減少した。これらと同じ減少は近位結腸では観察されなかった。NCC1052処置又はNCC971+NCC1052の組合せで処置したマウスでは、結腸の近位部及び遠位部において、比較上の減少は観察されなかった。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[0029]定義
[0030]以下、いくつかの定義を示す。しかしながら定義が以下の「実施形態」の項にある場合もあり、上記の見出し「定義」は、「実施形態」の項におけるそのような開示が定義ではないことを意味するものではない。
【0018】
[0031]本明細書に記載する全ての百分率は、別途記載のない限り、組成物の総重量によるものである。本明細書で使用するとき、「約」、「およそ」、及び「実質的に」は、数値のある範囲内、例えば、参照数字の-10%から+10%の範囲内、好ましくは参照数字の-5%から+5%の範囲内、より好ましくは、参照数字の-1%から+1%の範囲内、最も好ましくは参照数字の-0.1%から+0.1%の範囲内の数を指すものと理解される。本明細書における全ての数値範囲は、その範囲内の全ての整数又は分数を含むと理解されるべきである。更に、これらの数値範囲は、この範囲内の任意の数又は数の部分集合を対象とする請求項をサポートすると解釈されたい。例えば、1~10という開示は、1~8、3~7、1~9、3.6~4.6、3.5~9.9などの範囲をサポートするものと解釈されたい。
【0019】
[0032]本開示及び添付の特許請求の範囲において使用されるとき、単数形「a」、「an」及び「the」には、別段の指示がない限り、複数の参照物も含まれる。したがって、例えば、「微生物株(a bacterial strain)」又は「微生物株(the bacterial strain)」についての言及は、2種以上の微生物株を含む。
【0020】
[0033]用語「含む/備える(comprise)」、「含む/備える(comprises)」、及び「含んでいる/備えている(comprising)」は、排他的なものではなく、他を包含し得るものとして解釈されるべきである。同様にして、用語「含む(include)」、「含む(including)」及び「又は(or)」は全て、このような解釈が文脈から明確に妨げられない限りは他を包含し得るものであると解釈されるべきである。しかしながら、本明細書に開示されている組成物は、本明細書において具体的に開示されていない要素を含まない場合がある。したがって、「含む/備える(comprising)」という用語を用いた実施形態の開示は、特定されている構成要素「を本質的に含む(consisting essentially of)」実施形態、及び特定されている構成要素「を含む(consisting of)」実施形態の開示を含む。
【0021】
[0034]「X又はYのうち少なくとも1つ」及び「X及び/又はY」のそれぞれの文脈において使用される「~のうち少なくとも1つ」及び「及び/又は」という用語は、「X」、又は「Y」、又は「X及びY」として解釈されるべきである。例えば、「S.カルノーサスCNCM I-5398又はS.カルノーサスCNCM I-5400のうち少なくとも1つ」とは、「S.カルノーサスCNCM I-5400を伴わないS.カルノーサスCNCM I-5398」、又は「S.カルノーサスCNCM I-5398を伴わないS.カルノーサスCNCM I-5400」、又は「S.カルノーサスCNCM I-5398及びS.カルノーサスCNCM I-5400の両方」と解釈されるべきである。これらの株は特に、単独で、又は互いに組合せて、及び/又はS.カルノーサスの他の株と組み合わせて使用してもよい。
【0022】
[0035]用語「少なくとも1つ」とは、1つ以上、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、10以上を含むものと解釈されるべきである。用語「少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株」とは、単一のスタフィロコッカス・カルノーサス株単独、並びに2、3、4、5、6、7、8、9、10又はそれ以上の株の組合せを含むものと解釈されるべきである。トリプタミン、インドール、インドールプロピオン酸、3-メチルインドール、インドール-3-酢酸、又はインドール-3-アセトアルデヒドの1つ以上を産生する「少なくとも1つ」のスタフィロコッカス・カルノーサス株の文脈において、この用語は、スタフィロコッカス・カルノーサスの1つ以上の株、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10以上の株を含むものと解釈されるべきであり、ここで、各株は、トリプタミン、インドール、インドールプロピオン酸、3-メチルインドール、インドール-3-酢酸、又はインドール-3-アセトアルデヒドの1つ以上を産生する。スタフィロコッカス・カルノーサスの各株は、トリプタミン、インドール、インドールプロピオン酸、3-メチルインドール、インドール-3-酢酸、又はインドール-3-アセトアルデヒドの1つ以上を産生し得る。2つ以上の株が組み合わされて存在する場合、各株は、同じ又は異なる1つの代謝産物及び/又は複数の代謝産物を産生し得る。例えば、「トリプタミン、インドール、インドールプロピオン酸、3-メチルインドール、インドール-3-酢酸、又はインドール-3-アセトアルデヒドの1つ以上を産生する少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株」とは、列挙された代謝産物の任意の組合せを産生する株の任意の組合せを含み、ここで、各株は、1つの代謝産物のみ、又は任意の組合せでの複数の代謝産物を産生し得る。
【0023】
[0036]本明細書において使用する場合、用語「例」及び「例えば~など(such as)」は、その後に用語の列挙が続くときは特に、単に例示的かつ説明的なものにすぎず、排他的又は包括的なものとみなされるべきではない。本明細書で使用するとき、別の状態「に関連する/伴う(associated with)」又は「と関連付けられる(linked with)」状態は、これらの状態が同時に起こることを意味し、好ましくは、これらの状態が同じ基礎症状によって引き起こされることを意味し、最も好ましくは、特定されている状態のうちの一方が他方の特定されている状態によって引き起こされることを意味する。
【0024】
[0037]「予防」は、状態又は疾患のリスク及び/又は重症度を低減させることを含む。用語「処置/治療」及び「処置/治療する」には、予防的又は抑止的治療(対象とする病的状態又は障害を予防する及び/又は発症を遅らせる治療)と、治癒的、治療的、又は疾患改質的治療との両方が含まれ、例えば、診断された病的状態又は障害の治癒、遅延、症状の軽減、及び/又は進行の停止のための治療的手段、並びに、疾患に罹患する危険性がある患者、又は疾患に罹患した疑いのある患者、及び体調不良の患者、又は疾患若しくは医学的状態に罹患していると診断された患者の治療が含まれる。用語「処置/治療」及び「処置/治療する」は、対象が全快するまで治療することを必ずしも意味するものではない。「処置/治療」及び「処置/治療する」という用語はまた、疾患に罹患してはいないが不健康な状態を招きやすい可能性のある個体の健康を維持及び/又は促進することも指す。用語「処置/治療」及び「処置/治療する」はまた、1つ以上の主たる予防又は治療手段の相乗作用、又はそうでない場合強化を含むことも目的としている。非限定的な例として、処置/治療は、患者、介護者、医師、看護師、又は別の医療専門家によって行うことができる。
【0025】
[0038]本明細書で使用するとき、予防又は治療上の「有効量」は、個体において、欠乏を防ぐ量、疾患若しくは医学的状態を治療する量、又は、より全般的には、個体に対して、症状を低減する量、疾患又は状態に関連したバイオマーカの発現を変化させる量、疾患の進行を管理する量、若しくは栄養学的利益、生理学的利益、若しくは医療的利益を提供する量である。相対的な用語「促進する」、「改善する」、「増加させる」、及び「増強する」などは、少なくとも1つのS.カルノーサス株を含む本明細書に開示される組成物の投与後の対象(例えば、腸管粘膜機能、杯細胞機能、又は腸の健康の任意の他の指標)の特性のレベルを、投与直前の特性のレベルに対して示す。
【0026】
[0039]本明細書で使用するとき、用語「食品」、「食品製品」、及び「食品組成物」とは、ヒト又は他の哺乳動物による経口摂取を意図し、且つヒト又は他の哺乳動物のための少なくとも1つの栄養素を含む、製品又は組成物を意味する。
【0027】
[0040]本明細書で使用するとき、「栄養組成物」及び「栄養製品」は、製品における機能上の必要性に基づき、且つ適用われ得る全ての規制を完全に遵守して、任意の数の食品原材料及び場合により任意選択的な追加の原材料を含む。任意選択的な原材料は、例えば、1種以上の酸味料、追加の増粘剤、pH調節用緩衝液若しくはpH調節剤、キレート剤、着色剤、乳化剤、賦形剤、香料、ミネラル、浸透剤、薬学的に許容可能な担体、防腐剤、安定剤、糖、甘味料、調質剤及び/又はビタミン類などの従来の食品添加物を含み得るが、これらに限定されない。任意選択の原材料は、任意の適切な量で添加することができる。
【0028】
[0041]「プロバイオティクス」は、宿主の健康又は幸福(well-being)に有益に働く微生物細胞の調製物又は微生物細胞の成分を意味する。(Salminen S、Ouwehand A.Benno Y.ら、「Probiotics:how should they be defined」、Trends Food Sci.Technol.、1999:10 107-10)。
【0029】
[0042]本明細書で使用するとき、「単位剤形」という用語は、ヒト対象及び動物対象のための投与量単位として好適な物理的に小分けされた単位を指し、各単位は、薬学的に許容可能な希釈剤、担体、又はビヒクルとともに、所望の効果をもたらすのに十分な量の、所定量の本明細書に開示される組成物を含有する。単位剤形の仕様は、使用される具体的な化合物、達成しようとする効果、及びホスト体内の各化合物に関連する薬力学によって決まる。
【0030】
[0043]「対象」又は「個体」は、哺乳動物、好ましくはヒトである。
【0031】
[0044]本出願に開示される株は、下表(表1)に示す寄託機関に寄託されており、以下の寄託日及アクセッション番号を付されている:
【表1】
【0032】
[0045]CNCMは、Collection nationale de cultures de micro-organismes(パスツール研究所、28,rue du Dr Roux,F-75724 Paris Cedex 15,France)を指す。
【0033】
[0046]株1~株5は、Nestec S.A.(avenue Nestle 55、1800 Vevey、Switzerland)によって寄託されている。その後、Nestec S.A.はSociete des Produits Nestle S.Aに合併されているため、ブダペスト条約第2条(ix)により、Societe des Produits Nestle S.A.がNestec S.A.の権利承継者である。
【0034】
[0047]実施形態
[0048]本明細書の以下の実験例で詳述するように、トリプトファンを異化する酵素をコードする遺伝子についての食品グレード細菌ライブラリのインシリコスクリーニングにより、確立されたトリプトファン異化経路の一部である酵素について複数の遺伝子を保有するスタフィロコッカス・カルノーサス株が同定された。これらの株は、複数の遺伝子の存在に基づき複数のトリプトファン異化産物を産生すると予想される。これらの分解分子は、哺乳動物のアリール炭化水素受容体(AHR)に結合して、下流のエフェクタ機能のカスケードを誘発することができる生物活性分子である。
【0035】
[0049]更に、細菌培養上清の標的メタボロミクススクリーニングにより、インシリコスクリーニングによって予測された代謝産物が実際に培養中に産生されることが確認された。また更に、インビトロでのマウス及びヒトAHRの結合及び活性化アッセイにおける精製代謝産物の評価により、代謝産物がマウス及びヒトの受容体に結合し、レポーター遺伝子を活性化することを実証した。活性化レベルは、ヒトAHR受容体ではマウスと比較してより高いことが見出された。重要なことに、活性化のレベル及び増強は、宿主に対して毒性である参照分子ダイオキシンで観察されたものよりも約2,000倍低かった。
【0036】
[0050]更に、マウス大腸炎モデルにおける様々なS.カルノーサス株の評価により、疾患症状を有意に軽減することができる特定の株が同定された。また更に、マウス大腸炎研究における結腸組織サイトカインの評価により、有効株を投与したマウスでは炎症促進性サイトカインの全般的な抑制が観察されることが実証された。
【0037】
[0051]同定されたスタフィロコッカス・カルノーサス株は、ラクトバチルス(Lactobacillus)株、例えばL.ヒルガルディ(L.hilgardii)、L.ファラギニス(L.farraginis)、L.ブーフナー(L.buchneri)、L.ファーメンタム(L.fermentum)、L.ロイテリ(L.reuteri)、及びL.パラカゼイ(L.paracasei)などを含む、他のプロバイオティクス株と比較して、トリプトファン異化酵素の数が多く、かつこれらの生物活性代謝産物を産生する能力が高い可能性が高い。
【0038】
[0052]したがって、本開示の態様は、炎症を有する個体におい炎症を治療する方法であって、トリプタミン、インドール、インドールプロピオン酸、3-メチルインドール、インドール-3-酢酸、又はインドール-3-アセトアルデヒドのうち1つ以上を産生する少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株の治療有効量を、個体に投与する工程を含む、方法である。例えば、少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株は、表1に掲載する株を単独で又は組み合わせて含み、例えば、S.カルノーサスCNCM I-5398又はS.カルノーサスCNCM I-5400の少なくとも1つを含む。特定の態様では、S.カルノーサスの株は、S.カルノーサスCNCM I-5398又はS.カルノーサスCNCM I-5400単独、又はこれらの組合せである。少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株の有効量は、トリプトファンを、個体のアリール炭化水素受容体(AHR)に結合して上皮細胞の増殖を刺激する代謝産物へと異化することができる。
【0039】
[0053]本開示の更なる態様は、トリプタミン、インドール、インドールプロピオン酸、3-メチルインドール、インドール-3-酢酸、又はインドール-3-アセトアルデヒドのうち1つ以上を産生する少なくとも1種のスタフィロコッカス・カルノーサス株、例えば、表1に掲載したスタフィロコッカス・カルノーサスの株の少なくとも1種、例えばS.カルノーサスCNCM I-5398又はS.カルノーサスCNCM I-5400の少なくとも1つの、治療有効量又は予防有効量を投与することによって、腸炎症性疾患、例えばIBDなどの炎症を治療する、予防する、発生率を減少させる、及び/又は重症度を減少させる方法である。特定の態様では、S.カルノーサス株は、S.カルノーサスCNCM I-5398又はS.カルノーサスCNCM I-5400単独、又はこれらの組合せである。少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株の有効量は、トリプトファンを、個体のアリール炭化水素受容体(AHR)に結合して制御性T細胞(Treg)上皮細胞の増殖を刺激する代謝産物へと異化することができる。
【0040】
[0054]本開示の別の態様は、トリプタミン、インドール、インドールプロピオン酸、3-メチルインドール、インドール-3-酢酸、又はインドール-3-アセトアルデヒドのうち1つ以上を産生する少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株、例えば、表1に掲載したスタフィロコッカス・カルノーサスの株の少なくとも1つ、例えばS.カルノーサスCNCM I-5398又はS.カルノーサスCNCM I-5400の少なくとも1つの治療有効量又は予防有効量を投与することによって、腸管粘膜治癒を促進する方法である。特定の態様では、S.カルノーサスの株は、S.カルノーサスCNCM I-5398又はS.カルノーサスCNCM I-5400単独、又はこれらの組合せである。少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株の有効量は、トリプトファンを、個体のアリール炭化水素受容体(AHR)に結合して上皮細胞の増殖を刺激する代謝産物へと異化することができる。
【0041】
[0055]本開示の更に別の態様は、トリプタミン、インドール、インドールプロピオン酸、3-メチルインドール、3-メチルインドール、インドール-3-酢酸、又はインドール-3-アセトアルデヒドのうち1つ以上を産生する少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株、例えば、表1に掲載したスタフィロコッカス・カルノーサス株の少なくとも1つ、例えばS.カルノーサスCNCM I-5398又はS.カルノーサスCNCM I-5400の少なくとも1つの治療有効量又は予防有効量を投与することによって、腸内微生物叢ディスバイオシスを制御する、又は微生物叢ディスバイオシスに関連した障害を治療若しくは予防する方法である。特定の態様では、S.カルノーサスの株は、S.カルノーサスCNCM I-5398又はS.カルノーサスCNCM I-5400である。
【0042】
[0056]本発明のあらゆる実施形態では、表1に掲載するスタフィロコッカス・カルノーサスの株は、単独で、又は表1に掲載するスタフィロコッカス・カルノーサスの他の株、及び/若しくはトリプタミン、インドール、インドールプロピオン酸、3-メチルインドール、インドール-3-酢酸、若しくはインドール-3-アセトアルデヒドのうち1つ以上を産生するが表1には掲載されていない他のスタフィロコッカス・カルノーサス株と任意に組み合わせて使用され得る。例えば、本発明のあらゆる態様では、S.カルノーサスのうち少なくとも1つの株は、S.カルノーサスCNCM I-5398又はS.カルノーサスCNCM I-5400単独、又は組合せであり得る。本発明はまた、トリプタミン、インドール、インドールプロピオン酸、3-メチルインドール、3-メチルインドール、インドール-3-酢酸、又はインドール-3-アセトアルデヒドのうち1つ以上を産生する少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株、例えば、表1に掲載したスタフィロコッカス・カルノーサスの株の少なくとも1つ、例えばS.カルノーサスCNCM I-5398又はS.カルノーサスCNCM I-5400の少なくとも1つの治療有効量又は予防有効量を含む、可食性組成物又は食品組成物を提供する。特定の態様では、S.カルノーサス株は、S.カルノーサスCNCM I-5398又はS.カルノーサスCNCM I-5400単独又は組合せである。可食性組成物又は食品組成物は、完全栄養製品、飲料、ダイエタリー・サプリメント、置き換え食、食品添加物(food additive)、食品製品への補給剤、溶解用粉末、経腸栄養製品、乳児用フォーミュラ、及びこれらの組合せからなる群から選択することができる。
【0043】
[0057]一態様では、本発明はまた、個体における炎症の治療に使用するための、トリプタミン、インドール、インドールプロピオン酸、3-メチルインドール、3-メチルインドール、インドール-3-酢酸、又はインドール-3-アセトアルデヒドの1つ以上を産生する少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株の治療有効量又は予防有効量を含む、可食性組成物又は食品組成物を提供する。少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株は、表1に掲載した株、例えば、S.カルノーサスCNCM I-5398又はS.カルノーサスCNCM I-5400の少なくとも1つであり得る。特定の態様では、S.カルノーサス株は、S.カルノーサスCNCM I-5398又はS.カルノーサスCNCM I-5400単独又は組合せである。
【0044】
[0058]少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株は、1×103~1×1012、好ましくは1×107~1×1011cfu(cfu=コロニー形成単位)の1日用量として個体に投与され得る。少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株は、1×103~1×1012cfu/gの乾燥組成物を含む組成物で投与され得る。
【0045】
[0059]少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株は、生存している、断片化されている、又は発酵産物(例えば、上清)若しくは代謝産物の形態である、又はこれらの状態のあらゆる混合物であり得る。
【0046】
[0060]いくつかの実施形態では、少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株は、1つ以上の追加のプロバイオティクスを更に含む組成物で投与され、少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサスは、組成物中のプロバイオティクスの総量の大部分である。例えば、組成物中の任意のラクトバチルスの量は、好ましくは、少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサスの量より少ない。いくつかの実施形態では、少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサスは、組成物中の唯一のプロバイオティクスである。
【0047】
[0061]少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株は、経口、局所、経腸、及び非経口からなる群から選択される少なくとも1つの経路によって個体に投与され得る。例えば、少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株は、完全栄養製品、飲料、ダイエタリー・サプリメント、置き換え食、食品添加物、食品製品への補給剤、溶解用粉末、経腸栄養製品、乳児用フォーミュラ、及びこれらの組合せからなる群から選択される組成物で投与され得る。
【0048】
[0062]いくつかの実施形態では、少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株は、炎症の治療、予防、当該炎症の発生率の低減、及び/又は当該炎症の重症度の低減に有効な量で投与することができる。このような炎症の非限定的な例は、急性炎症、皮膚炎症、クローン病及び/又は潰瘍性大腸炎を含む炎症性腸疾患(IBD)、過敏性腸症候群、肝臓炎(NASH、NAFLD、アルコール誘発性肝損傷)、アレルギー、アトピー、骨の炎症、関節リウマチ、全身性狼瘡、グージェロー・シェーグレン症候群、ライター症候群、灰白髄炎、皮膚筋炎、甲状腺炎、バセドウ、橋本病、I型糖尿病、アジソン病、自己免疫性肝炎、セリアック病、ビールマー病(Biermer’s disease)、多発性硬化症、筋無力症、眼炎、肥満関連炎症(obesity-associated inflammation)、加齢性軽度炎症(age-related low-grade inflammation)、ブラウ症候群、アルツハイマー症、心臓血管疾患、アテローム性動脈硬化症、メタボリックシンドローム、II型糖尿病、歯肉炎、歯周炎(paronditis)、食物感受性、セリアック病、及びそれらの組合せからなる群から選択され得る。
【0049】
[0063]少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株によって治療又は予防される炎症は、IBD、例えばクローン病又は潰瘍性大腸炎であり得る。
【0050】
[0064]いくつかの実施形態では、個体は、乳児、小児、青年、成人、及び高齢者からなる群から選択される。
【0051】
[0065]好ましくは、少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株は、プレバイオティクス、アミノ酸、タンパク質、ヌクレオチド、ビタミン、魚油、非海洋性のオメガ-3脂肪酸源、植物栄養素、抗酸化剤、及びそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1つの成分を更に含む組成物で投与される。
【0052】
[0066]「プレバイオティクス」は、腸内の有益バクテリアの生育を促進させる食物である。プレバイオティクスは、プレバイオティクスを摂取する個体の胃内で分解されず、又はGI管に吸収されないが、プレバイオティクスは、胃腸微生物叢及び/又はプロバイオティクスによる発酵を受ける。プレバイオティクスと少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株送達との組合せは相乗的な健康効果をもたらすので、プレバイオティクスの添加は有益である。プレバイオティクスとプロバイオティクスとの組合せを含む組成物は、共生組成物として一般に知られている。
【0053】
[0067]少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株と共に使用され得るプレバイオティクスは、特に限定されず、腸内でのプロバイオティクスの増殖を促進する全ての食物物質を含む。好ましくは、プレバイオティクスは、任意選択的にフルクトース、ガラクトース、マンノースを含有するオリゴ糖;食物繊維、特に可溶性繊維、大豆繊維;イヌリン;又はこれらの混合物、からなる群から選択することができる。好ましいプレバイオティクスは、フラクトオリゴ糖(fructo-oligosaccharide:FOS)、ガラクトオリゴ糖(galacto-oligosaccharide:GOS)、イソマルトオリゴ糖、キシロオリゴ糖、ダイズオリゴ糖、グリコシルスクロース(glycosylsucrose:GS)、ラクトオリゴ糖(lactosucrose:LS)、ラクツロース(lactulose:LA)、パラチノースオリゴ糖(palatinose-oligosaccharide:PAO)、マルトオリゴ糖、ペクチン、及び/又はそれらの加水分解物である。
【0054】
[0068]少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株を含む組成物は、食品製品、動物食品製品、又は医薬組成物であり得る。例えば、製品は、栄養組成物、ニュートラシューティカル、飲料、食品添加物、又は医薬品であり得る。
【0055】
[0069]食品添加物又は医薬品は、例えば、錠剤、カプセル、トローチ、液体、又はサシェ中粉末の形態であってもよい。食品添加物又は医薬品は、好ましくは持続放出処方として提供されることで、少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株の長期間にわたる実質的に一定の供給を可能にする。
【0056】
[0070]少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株を含む組成物は、好ましくは、粉乳ベースの製品;インスタント飲料;レディ・トゥ・ドリンク処方;栄養粉末;栄養液体;乳ベースの製品、特にヨーグルト又はアイスクリーム;シリアル製品;飲料;水;コーヒー;カプチーノ;麦芽飲料;チョコレート風味飲料;調理製品;スープ;錠剤;及び/又はシロップからなる群から選択されてもよい。
【0057】
[0071]組成物は、任意選択的には、例えばウシの乳、ヒトの乳、ヒツジの乳、ヤギの乳、ウマの乳、ラクダの乳、米乳、又は豆乳の1つ以上などの、動物性又は植物性供給源から得られる任意の乳を含んでもよい。追加的又は代替的に、乳由来タンパク質画分又は初乳を使用してもよい。
【0058】
[0072]少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株を含む組成物は、保護親水コロイド(ガム、タンパク質、加工デンプンなど)、バインダー、皮膜形成剤、封入剤/封入材、壁/シェル材料、マトリックス化合物、コーティング、乳化剤、表面活性剤、可溶化剤(油、脂肪、ワックス、レシチンなど)、吸着剤、担体、充填剤、共化合物、分散剤、湿潤剤、加工助剤(溶媒)、流動化剤、矯味剤、増量剤、ゼリー化剤、ゲル形成剤、抗酸化剤、及び抗菌剤を更に含有してもよい。少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株を含む組成物はまた、従来の医薬品添加剤及び補助剤、賦形剤及び希釈剤を含有してもよく、これには、水、任意の原材料に由来するゼラチン、植物ガム、リグニンスルホネート、タルク、糖、デンプン、アラビアガム、植物油、ポリアルキレングリコール、着香料、防腐剤、安定剤、乳化剤、緩衝剤、潤滑剤、着色剤、湿潤剤、充填剤などが挙げられるが、これらに限定されない。更に、少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株を含む組成物には、経口又は経腸投与に好適な有機又は無機担体材料に加え、USRDAなどの政府機関の推奨に従い、ビタミン類、ミネラル類、微量元素及びその他の微量栄養素を含有させることもできる。
【0059】
[0073]少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株を含む組成物は、特に食品製品である組成物の実施形態では、タンパク質源、炭水化物源、及び/又は脂質源を任意選択的に含有し得る。
【0060】
[0074]任意の好適な食品由来のタンパク質、例えば、動物性タンパク質(乳タンパク質、肉タンパク質、及び卵タンパク質など);植物性タンパク質(大豆タンパク質、小麦タンパク質、米タンパク質、及びエンドウ豆タンパク質など);遊離アミノ酸の混合物;又はこれらの組み合わせが挙げられる。カゼイン及びホエイタンパク質等の乳タンパク質、並びに大豆タンパク質が特に好ましい。
【0061】
[0075]組成物が脂肪源を含む場合、脂肪源は、より好ましくは、フォーミュラのエネルギーのうち5%~40%;例えば、エネルギーのうち20%~30%をもたらす。DHAを添加してもよい。好適な脂肪プロファイルを、キャノーラ油、コーン油、及び高オレイン酸ヒマワリ油のブレンドを使用して得ることができる。
【0062】
[0076]炭水化物源は、好ましくは、組成物のエネルギーの40%~80%をもたらすことができる。任意の好適な炭水化物、例えば、スクロース、ラクトース、グルコース、フルクトース、固形コーンシロップ、マルトデキストリン、及びこれらの混合物を使用することができる。
【0063】
[0077]少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株を含む組成物は、ヒト又は動物、特にコンパニオンアニマル、ペット、又は家畜に投与され得る。この組成物はいずれの年齢層にも有益な効果を有する。好ましくは、組成物は、乳児、若年者、成人、又は高齢者に投与するために製剤化される。いくつかの実施形態では、組成物は、乳児を治療するために妊娠中及び授乳中に母親へ投与される。
【0064】
[0078]一実施形態では、少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株を含む組成物を、少なくとも10週間、20週間、24週間、30週間、40週間、42週間、50週間、又は60週間投与することができる。組成物は、好ましくは、10~60週間、20~50週間、15~30週間、又は35~45週間投与することができる。
【0065】
[0079]少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株を含む組成物は、内視鏡で証明された健康な粘膜の維持によって示されるように、IBD患者の粘膜の健康状態を維持又は改善することができる。
【0066】
[0080]内視鏡で証明された健康な粘膜の維持は、クローン病の単純内視鏡スコア(simple endoscopic score-Crohn’s Disease:SES-CD)によって評価することができる。したがって、内視鏡で証明された健康な粘膜の改善は、少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株を含む組成物の投与開始から、少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株を含む組成物の投与開始後、20~45週間、好ましくは20~30週間、例えば24週間の時点までの、平均SES-CDスコアの減少によって示すことができる(内視鏡改善)。
【0067】
[0081]内視鏡で証明された健康な粘膜の維持は、内視鏡応答の維持によって示すことができ、ここで、内視鏡応答は、少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株を含む組成物の投与開始から、少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株を含む組成物の投与開始後、20~45週間の間、好ましくは20~30週間の間、例えば24週間の時点までの、少なくとも3点のSES-CD減少をもたらすこととして示される。
【0068】
[0082]内視鏡で証明された健康な粘膜の維持はまた、臨床的寛解の維持によって示すことができ、ここで、臨床的寛解は、少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株を含む組成物の投与開始後、20~45週間、好ましくは20~30週間、例えば24週間の時点での、150点未満のCDAIをもたらすこととして示される。
【0069】
[0083]少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株を含む組成物は、内視鏡的再発又は臨床的再発までの時間を延長することができる。それにより、組成物は、手術、入院、及びCD合併症率によって示されるCDの経済的影響を低減することができる。
【0070】
[0084]少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株を含む組成物は、例えば、少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株を含む組成物の投与開始後、20~45週間、好ましくは20~30週間、例えば24週間の時点で決定されるIBDQ、SF-36v2、及びEQ-5によって示されるように、生活の質を改善することができる。
【0071】
[0085]少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株を含む組成物は、腸内マイクロバイオームの組成及び機能性を改善することができる。
【0072】
[0086]少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株を含む組成物は、CRP又は便中カルプロテクチンなどの非侵襲性バイオマーカを改善することができる。
【0073】
[0087]少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株を含む組成物は、IBDの治療において一般的な標準治療と組み合わせることができる。これらの標準治療には、手術、抗生物質、免疫抑制剤、及び抗炎症薬が含まれる。免疫抑制剤は、プレドニゾン、TNF又はTNFα阻害剤(例えば、インフリキシマブ、アダリムマブ)、アザチオプリン(イムラン)、メトトレキサート、及び6-メルカプトプリンからなる群から選択することができる。好ましい抗炎症薬は、メサラミン(USAN)又は5-アミノサリチル酸(5-アミノ-2-ヒドロキシ安息香酸、5-ASA)である。
【0074】
[0088]好ましくは、少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株を含む組成物は、少なくとも1つのTNF阻害剤又はTNF阻害剤療法と組み合わせて投与される。好ましくは、少なくとも1つのTNF阻害剤は、TNFアルファ阻害剤である。好ましくは、少なくとも1つのTNFアルファ阻害剤はインフリキシマブ又はアダリムマブであり、最も好ましくはTNFアルファ阻害剤はインフリキシマブとアダリムマブとの組合せである。
【0075】
[0089]少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株を含む組成物と組み合わせた上記の免疫抑制剤及び抗炎症薬のいずれかの投与が好ましい。この組合せは、投与された化合物の協同効果をもたらす。
【0076】
[0090]少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株を含む組成物は、IBDの治療、IBDの寛解にある対象の治療、又は対象のIBDの再発を予防若しくは遅延させるのに使用することができ、ここで、少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株を含む組成物は、IBDに対して有効な医薬品と組み合わせて投与される。医薬品は、好ましくは免疫抑制剤又は5-アミノサリチル酸(5-ASA)である。この対象は、手術を受けた対象、又は手術を受ける対象であり得る。少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株を含む組成物の投与は、医薬品の投与前、医薬品の投与中、又は医薬品の投与後に行うことができる。
【0077】
[0091]いくつかの実施形態では、少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株を含む組成物は、腸管粘膜治癒を促進することができる。そのような実施形態では、少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株を含む組成物は、腸管粘膜に損傷のある個体に投与することができる。
【0078】
[0092]いくつかの実施形態では、少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株を含む組成物は、腸内微生物叢ディスバイオシスを制御することができる、又は微生物叢ディスバイオシスに関連した障害を治療若しくは予防することができる。微生物叢ディスバイオシスとは、全体的な微生物叢プロファイル、代謝、又は特定の分類群のレベルに関して、バランスのとれた微生物叢からの顕著な逸脱である。微生物叢ディスバイオシスは通常、疾患と関連し、疾患に対する脆弱性を高める。例えば、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属のレベルの低下は、乳児における感染及び他の病状のリスクの増加と関連している。
【0079】
[0093]微生物叢ディスバイオシスは、例えば、帝王切開による出産、早産、子宮内での抗生物質への曝露、出産中又は出生後、非経口栄養、入院、又は心理的ストレスによって誘発され得る。微生物叢ディスバイオシスはまた、胃腸機能障害(消化障害、運動障害、胃食道逆流症、遅い消化管通過、経口摂食不耐性、便秘、下痢)、ヒルシュスプルング病、短腸症候群、胃腸感染症、及び胃腸管に影響を及ぼす炎症(壊死性腸炎など)、並びに閉塞病変をもたらし得る。
【0080】
[0094]胃腸障害の結果であるだけでなく、微生物叢ディスバイオシスがそれらを実際に引き起こし得る。したがって、微生物叢ディスバイオシスは、例えば、消化器障害、運動障害、胃食道逆流症、遅い消化管通過、経口摂食不耐性、ヒルシュスプリング病、並びに胃腸管に影響を及ぼす炎症(壊死性腸炎など)、及び閉塞病変をもたらし得る。
【0081】
[0095]少なくとも1つのスタフィロコッカス・カルノーサス株を含む組成物は、微生物叢ディスバイオシスのリスクがある若しくは微生物叢ディスバイオシスに罹患している哺乳動物における微生物叢ディスバイオシスを予防若しくは治療することができ、又は微生物叢ディスバイオシスに関連した障害を予防若しくは治療することができる。
【0082】
[0096]微生物叢ディスバイオシスを制御することによって治療又は予防され得る障害としては、例えば、感染傾向、アレルギー、I型糖尿病、インスリン抵抗性、2型糖尿病、セリアック病、末梢性肥満及び中心性肥満、肥満症、壊死性腸炎、クローン病及び潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患、並びに機能性下痢、機能性便秘、反復性臍疝痛、及び消化不良などの機能性消化管障害が挙げられる。
[0097]
【実施例】
【0083】
[0098]以下の非限定的な実施例は、一般に、本開示による実施形態の例示である。これに関して、本発明者らは、複数のトリプトファン代謝産物を産生し得るゲノムに基づいて株を選択した。それらの株は、それらの代謝産物を効果的に産生する(インビトロ培養);産生される代謝産物は、有効なAHR受容体アゴニストである(及び、有効なバランスに対する);動物DSSモデルで試験した場合、株は、実際に有効であり、且つ疾患スコアを低下させるだけでなく、炎症促進性サイトカイン産生及び抗炎症性サイトカイン産生にのみ影響し得る。
【0084】
[0099]実施例1
[0100]AHRの活性化及びメタボロミクス評価のための試料の生成を可能にするトリプトファン由来分子を生成するために必要な酵素を保有する微生物株を、インシリコでせんべつすることを目的とした。以下に詳述するとおりである。トリプタミン、インドール、インドール-3-アセトアルデヒド、及びインドール-3-酢酸などのトリプトファン由来代謝産物を生成する酵素をコードする必要な遺伝子を保有する微生物株を、インシリコでスクリーニングした。伝統的なミートスターター培養物であるスタフィロコッカス・カルノーサス種に属する株を、有望な候補として同定し、更なるメタボロミクス評価のために試料を調製した。
【0085】
[0101]方法及び結果
[0102]トリプトファンからのトリプタミン、インドール、インドール-3-アセトアルデヒド、インドール-3-酢酸、及び3-メチル-インドールの形成を触媒する酵素についての公開されているタンパク質参照物を、公開されているUniprotデータベースから検索した(表1)。インドール酢酸オキシダーゼの参照タンパク質は、公開データベースUniprot、Swissprot、及びBRENDAでは入手できなかった。
【表2】
【0086】
[0103]上記の酵素をコードすることができる遺伝子を同定するために、Nestle Culture Collection(NCC)のゲノムの全コード配列に対して配列類似性検索を行った。検索の結果、合計1,339のNCC株が酵素の少なくとも1つに対してヒットした。検索結果のうち49株がこれらの酵素のうち3つに対してヒットした。
【0087】
[0104]検索に使用した参照タンパク質のいくつかは、NCC株との系統発生的な関係性が比較的低い生物に由来するため、同一性%は比較的低くなり得る。しかしながら、これらの遺伝子のアノテーションにより、コードされている酵素について正確な潜在活性が確認された。最良のNCC種の概要を
図1に示す。
【0088】
[0105]
図1に示すように、スタフィロコッカス・カルノーサス株は、可能性のある代謝産物の産生に関して興味深い多様性を示し、主にラクトバチルス種に属するこれまでに発見されたプロバイオティクスとは異なる。スタフィロコッカス・カルノーサス株は、ミートスターターとして食品産業で広く使用されており、且つ工業的に適した増殖培地は既に開発されているので、特に興味深い。
【0089】
[0106]NCCのうちS.カルノーサスの分離株及び完全に配列決定したものを、更なる試験のために選抜した。これらの株は全て最適な条件下において再活性化された。具体的には、トリプチケースソイ酵母(Trypticase soy yeast:TSY)ブロスにおける、37℃で10時間~48時間、220rpmでの増殖が、全ての株に適していた。エンテロコッカス・フェカーリス(Enterococcus feacalis)NCC 1978は、必要な遺伝子を含有せず、かつTSYで良好に増殖したので、陰性対照として選択した。
【0090】
[0107]株及びそれらが伴う上清を、更なるメタボロミクス評価のために均一な様式で培養した。したがって、各株の増殖プロファイルをデュプリケートで得た。具体的には、新たに増殖させた培養物から2%で各株を接種し、500rpmで撹拌しながら37℃でインキュベートした。
【0091】
[0108]ペレット及び上清を調製するために、各S.カルノーサス株を、10mLのTSYブロス培地で、37℃、220rpmで別々に培養した。先に決定したように、固定相へ細胞の進入から3時間後に細胞及び上清を採取した。簡潔には、10mLの培養物を遠心分離した(3500rpm、20分)。上清を回収し、分析の際に-80℃で凍結した。
【0092】
[0109]様々なマトリックス中のトリプトファン代謝産物の具体的な分量を評価するために、各代謝産物を標的としてLC-MS法を開発し、検証した。要約すると、トリプタミン、インドール、インドール-3-アセトアルデヒド、及びインドール-3-酢酸などのトリプトファン由来代謝産物を生成する酵素をコードする必要な遺伝子を保有しているNCC株を、インシリコでスクリーニングした。伝統的なミートスターター培養物であるスタフィロコッカス・カルノーサス種に属する株を、有望な候補として同定し、更なるメタボロミクス評価のために試料を調製した。
【0093】
[0110]実施例2
[0111]スタフィロコッカス・カルノーサスのプロバイオティクス株を、IBD患者及び/又は一般集団の腸の健康を改善するためのトリプトファン代謝産物の供給源として選択する。標的とする有効性は、腸におけるAHR活性化と、炎症可能性減少である。科学的仮説は、S.カルノーサスによって産生されたトリプトファン代謝産物が、腸上皮細胞の完全性を改善/増強するために、腸上皮細胞におけるアリール炭化水素受容体(AHR)の活性化をもたらし得るというものであった。
【0094】
[0112]対象集団は、S.カルノーサスの毎日の摂取を計画された炎症性腸疾患(IBD)患者又は一般集団のいずれかである。
【0095】
[0113]方法及び結果
[0114]NCCゲノムデータベースを、トリプトファン及び関連する基質を異化する酵素についてスクリーニングした。インビトロでの増殖及び回復研究の後、9つの株を、更なるインビボスクリーニング研究のために選択した。選択した9つの株は、NCC836、NCC846、NCC888;NCC971、NCC981、NCC1052、NCC1084、NCC1090、NCC1109、及びNCC1978であった。DSSモデルのマウスでの動物試験の後、かかる動物モデルの体重増加における回復率が他の株と比較して高かったことにより2つの株(NCC971及びNCC1052)を選択した。株NCC971はCNCM I-5398としても知られており、株NCC1053はCNCM I-5400としても知られており、株NCC846はCNCM I-5423としても知られており、株NCC982はCNCM I-5399としても知られており、株NCC1090はCNCM I-5401としても知られている。
【0096】
[0115]病原性因子及び抗生物質耐性能についてのインシリコスクリーニングを以下のように内部で評価した。
【0097】
[0116]SE毒素(ブドウ球菌エンテロトキシン(Staphylococcal enterotoxin:SE)、溶血素、表皮剥離毒素A(exfoliative toxin A:ETA)、及び毒素性ショック症候群トキシン1)の遺伝子は、いずれもNCC1052及びNCC971株では同定されなかった(それぞれ、CNCMI-5400及びCNCMI-5398)。
【0098】
[0117]試験した全てのS.カルノーサスNCC株について全ゲノム配列を利用可能である。これらの追加のS.カルノーサスNCC株を、同じフィルタリング閾値を有する同じ類似性検索ツールを用いて、NCC1052株及びNCC971株(それぞれ、CNCM I-5400及びCNCM I-5398)に見出される5つの上述した酵素の配列の存在についてインシリコでスクリーニングした。ほとんどの株(16/18)がこれらの5つのタンパク質について陽性であることが分かった。
【0099】
[0118]参照データベースを使用して、NCC1052及びNCC971(それぞれ、CNCM I-5400及びCNCM I-5398)を含む、全ゲノム配列を決定済みのS.カルノーサスNCC株19種に、抗生物質耐性のインシリコスクリーニングを行った。スクリーニングは「厳密な(strict)」及び「緩い(loose)」予測を用いて行った。「緩い」予測の信頼度は低いので、これらのヒットは全て70%超の同一性%を保ちながら更にフィルタリングされた。NCC1052及びNCC971を含む株のほとんどは、「厳密な」予測ではヒットしなかった。「緩い」予測の使用により、潜在的な抗生物質耐性と関連付けられた10個未満のCARDデータベースタンパク質がヒットした。「厳密な」予測によるインシリコ予測では、NCC1052株及びNCC971株についていかなる抗生物質耐性も同定されなかった。
【0100】
[0119]9つのS.カルノーサス株から腸の健康を改善する最良の候補をスクリーニングするために、DSS(硫酸デキストランナトリウム)によるマウスIBD(炎症性腸疾患)モデルを使用した(
図3)。マウスを、胃管栄養法により10
9CFUの各株を用い毎日7日間(D-7)予備処理し、続いてDSS(3%)と株とにより5日間処理し、次いで各株のみで更に9日間処理した(D14)。読み出しは、1日毎の体重変化、1日毎の複合疾患活性指標(DAI)、内視鏡検査、及び結腸重量:長さ比スコアであった(
図4)。DAIは、体重減少、下痢、血便、及び活性レベルの複合スコアである。
【0101】
[0120]NCC971及びNCC1052の複合DAIスコア(それぞれ、CNCM I-5398及びCNCM I-5400)は、10日目のDSS対照群のDAIスコアより有意に低かった(
図5)。明らかな特異的有害作用又は死亡はこの研究では報告されなかった。
【0102】
[0121]実施例3
[0122]レポーター遺伝子の読み出しを用いたインビトロAHR結合アッセイを使用して、S.カルノーサスによる産生が示されたトリプトファン由来代謝産物の相対的結合活性を特性評価し、既知の毒性リガンドと比較した。ヒト及びマウスの両方のAHRアッセイを利用した。強い結合及び活性化プロファイルを有する参照化合物として、ダイオキシン(TCDD)及びインジルビンを使用した。市販の代謝産物を用量応答試験で分析した。細菌由来のトリプトファン代謝産物は、用量依存的な様式でAHRを活性化する(
図6A及び
図6B)。
【0103】
[0123]
図7A及び
図7Bに示すように、S.カルノーサスによって産生されることが示されたトリプトファン由来代謝産物は、TDDと比較して低レベルのAHR活性化及び限られた増強を実証する(TCDDより2000倍以上活性が低い(ダイオキシン))。
【0104】
[0124]
図8は、培養上清中の代謝産物の初期試験の結果のチャートである。
【0105】
[0125]実施例4
[0126]本実施例は、デキストラン硫酸ナトリウム(dextran sulfate sodium:DSS)誘発大腸炎モデルにおけるマウス近位結腸試料及びマウス遠位結腸試料の組織病理、並びに病変重症度の低下におけるNCC971又はNCC1052(それぞれ、CNCM I-5400及びCNCM I-5398、単独又は組合せ)による処置の有効性評価に関する;試験物質の比較のために、ビヒクル処理を陰性対照として使用し、抗p40処理を陽性対照として使用した。
【0106】
[0127]材料及び方法
[0128]0~5日目にマウスに3%DSSを投与し、19日目に屠殺した。以下の実験設計に従って処理を行った;括弧内の動物数が実験における動物数と異なる場合、組織病理学評価に供した動物数を示す。
【0107】
【0108】
[0130]組織学的方法
[0131]屠殺後、結腸試料を、以下のプロトコルに従って治験依頼者又はその被指名者によって採取した:結腸全体をすすぎ洗いし、最も遠位の部分5cmを採取した;この5cmの部分のうち、最も近位の2cm及び最も遠位の2cmの領域を分けて、10%中性緩衝ホルマリン中で固定した。96匹のマウス由来の結腸断片をInotiv Boulderに供した。採取した結腸の最も近位及び最も遠位の領域を、領域あたり3つの横断面(three cross sections)にトリミングし、近位領域及び遠位領域の両方を同じブロックに埋め込んだ。ブロックをおよそ5μmで薄片に切り出し、ヘマトキシリン・エオシン(hematoxylin and eosin:H&E)及び過ヨウ素酸シッフ(periodic acid-Schiff:PAS)で染色した。
【0109】
[0132]病理学的方法
[0133]H&E-PAS染色したスライドガラスを、委員会認定の獣医病理学者が光学顕微鏡により評価した。大腸炎病変(炎症、腺壊死/喪失、びらん、肥厚、及び浮腫)に、重症度スコア0~5を付与した(0=存在せず/正常、1=軽微、2=軽度、3=中等度、4=高度、5=極めて高度)。個々の組織病理学スコアを足し合わせて、各試料の大腸炎スコアの合計を決定した(範囲0~25)。
【0110】
[0134]H&E-PASスライドには、杯細胞の存在量についてもスコアを付した。この特徴は残存する結腸腺によりスコア化した(すなわち、結腸腺のない領域は除外した;この特徴は、腺喪失について評価した(上記参照))。未処理の試料(スコア0)と比較して杯細胞の存在量をスコア化した;杯細胞の増加を陽性範囲でスコア化し、杯細胞の減少を陰性範囲でスコア化した;合計スコアも用意した(減少杯細胞スコア+増加杯細胞スコア)。
-3=杯細胞のびまん性の喪失
-2=杯細胞の多病巣性の喪失
-1=杯細胞の局所的喪失
0=未処理の対照試料の杯細胞存在量とほぼ同じ杯細胞存在量
1=杯細胞の局所的増加
2=杯細胞の多病巣性の増加
3=杯細胞のびまん性の増加
【0111】
[0135]陰窩下の粘膜測定を、断面あたり3つの代表的な領域において行った(近位部及び遠位部あたり3つの断面=1つの結腸領域あたり9回の測定;動物一匹あたり6つの総断面積=動物一匹あたり18回の測定)。粘膜陰窩の基底膜と、粘膜筋層の内側縁(陰窩下腔)との間の距離を測定することによって、粘膜測定値(μm)を収集した。上皮を完全に欠く領域(腺喪失/びらんの領域)は測定しなかった。腺上皮が重層扁平上皮(扁平上皮化生)で置き換えられていた領域は、可能であれば避けた。上皮の大部分又は全部が扁平上皮で置き換えられていた断面では、扁平基底層の基底膜と粘膜筋層の内側縁との間の測定値を収集した。
【0112】
[0136]統計解析
[0137]データは平均±平均値の標準誤差(SEM)として示す。半定量的重症度スコアは、ペアワイズ・マン・ホイットニー直接検定を用いたノンパラメトリックなクラスカル・ウォリス検定によって解析した。両側検定を採用し、全ての検定について有意性をp≦0.05に設定した。
【0113】
[0138]結果及び考察
[0139]形態学的所見
[0140]マウスへのデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)の投与により、予想される組織学的病変が生じた。この病変には、粘膜/粘膜下組織の亜急性炎症、粘膜壊死/腺喪失、びらん、粘膜下浮腫、及び上皮過形成が含まれた。亜急性炎症は、好中球、リンパ球、及びマクロファージの浸潤及び凝集によって特徴付けられた。粘膜壊死は、結腸腺の損傷、壊死、又は完全な喪失によって特徴付けられた。びらんは粘膜筋層の表面にある表面上皮の壊死又は喪失を特徴とした。粘膜下浮腫は、リンパ管の拡張及び粘膜固有層の同様の浮腫性膨張を様々に伴う、空間(clear space)による又は淡色の好酸球性流体による粘膜下組織の膨張を特徴とした。上皮過形成は、結腸腺の伸長、陰窩及び腺分岐/分枝、上皮細胞好塩基球増加、及び上皮有糸分裂像の数の増加によって特徴付けられた。いくつかの遠位結腸試料はまた、層状扁平上皮による腺上皮の置き換え特徴とする扁平上皮化生を呈した。
【0114】
[0141]この研究では、杯細胞の数の増加及び減少の両方が見られた。一般に、杯細胞の数の減少は、腺喪失及びびらんの領域に直接隣接する腺又は領域内の腺において見られたが、杯細胞の数の増加は、過形成のいくつかの領域に関連していた。
【0115】
[0142]病理組織学的評価のために提供された「近位」断片の多くは、近位結腸(粘膜ひだを有する結腸領域)及び/又は中間結腸(粘膜ひだがない)のいずれかの領域を含んでいた。したがって、結腸の近位部に関する結果は、近位結腸及び中間結腸の何らかの組合せを表す(P:M比については表1を参照されたい)。
【0116】
[0143]結果
[0144]DSS処理されていない動物では、近位結腸領域及び遠位結腸領域の両方において、大腸炎の病変は存在しなかった(群1)。
【0117】
[0145]合計スコア(
図9)は、一般に、近位結腸断片よりも遠位結腸断片で高かった。NCC971(群3;p値=0.050)又は抗p40(群6;p値=0.033)で処置したマウスでは、ビヒクル対照(群2)と比較して、遠位大腸炎合計スコアの統計学的に有意な減少が観察された。これらの減少は近位結腸では観察されなかった(p値>0.2;考察を参照のこと)。結腸の近位部(p値>0.5)又は遠位部(p値>0.3)では、NCC1052(群4)処置又はNCC971+NCC1052(群5)の組み合わせ処置に関連した統計学的に有意な減少はなかった。
【0118】
[0146]同様の群間傾向が、結腸の近位部(
図10)及び遠位部(
図11)の成分組織病理学スコアにおいて観察された。
【0119】
[0147]DSS関連杯細胞存在量は、主に、近位結腸で増加し(
図12)、遠位結腸で減少した(
図13)。結腸のいずれかの領域における合計存在量スコア(p値>0.15)について、ビヒクル対照(群2)と処置群(群3~群6)との間に統計学的な有意差は観察されなかった。
【0120】
[0148]陰窩下粘膜測定(
図14)は、DSS投与マウス(群2~群6)では、近位部(p値=0.009)及び遠位部(p値<0.001)の両方において、未処理マウス(群1)と比較して有意に大きかった。群間の傾向は、一般に、大腸炎合計スコアで見られるものを反映していた(
図9)。NCC971で処置したマウスでは、ビヒクル対照(群2)と比較して、遠位厚さ測定値の統計学的に有意な減少が観察された(群3;p値=0.011)。これらの減少は近位結腸では観察されなかった(p値>0.2)。対照化合物である抗p40(群6)での処理もまた、陰窩下厚の測定値を減少させたが、差は統計学的に有意ではなかった(p値=0.414)。結腸の近位部又は遠位部では、NCC1052(群4)処置又はNCC971+NCC1052(群5)処置の組合せに関連した減少はなかった。
【0121】
[0149]議論
[0150]マウスへのDSS投与は、より遠位の結腸の領域に、より重度の疾患重症度をもたらすこと知られている(すなわち、大腸炎の重症度:近位結腸<中央結腸<遠位結腸)。3この実験では、結腸の近位部は、様々な比率の真の近位結腸及び中間結腸で構成されていた。近位結腸域と中間結腸域との比(P:M比)は、近位部に観察される全体的な重症度スコアに影響を及ぼし得る。典型的には、P:M比(中央結腸よりも近位)が高いほど、全体的な重症度スコアが低い。
【0122】
[0151]結論
[0152]DSS投与は予想される組織学的病変を効果的に誘導した。被験物質の結果は、結腸近位部と結腸遠位部との間で異なっていた。NCC971処置及び抗p40処置は、近位結腸ではなく遠位結腸において大腸炎重症度の統計学的に有意な減少を呈した。NCC1052処置、又はNCC971+NCC1052の組合せ処置は、いずれの結腸領域においても、ビヒクル対照と比較して、大腸炎の重症度を概して変化させなかった。
【0123】
[0153]本明細書で述べる現在の好ましい実施形態に対する様々な変更及び修正が、当業者には明らかとなる点を理解されたい。そのような変更及び修正は、本主題の趣旨及び範囲から逸脱することなく、かつ意図される利点を損なわずに、なされ得る。したがって、このような変更及び修正は、添付の特許請求の範囲によって包含されることが意図されている。
【国際調査報告】