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特表2024-500724患者の頭蓋内圧を非侵襲的に検出する測定装置および対応する方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-10
(54)【発明の名称】患者の頭蓋内圧を非侵襲的に検出する測定装置および対応する方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/03 20060101AFI20231227BHJP
   A61B 5/02 20060101ALI20231227BHJP
【FI】
A61B5/03
A61B5/02 310N
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023536476
(86)(22)【出願日】2021-12-16
(85)【翻訳文提出日】2023-08-14
(86)【国際出願番号】 EP2021086314
(87)【国際公開番号】W WO2022129415
(87)【国際公開日】2022-06-23
(31)【優先権主張番号】102020133776.0
(32)【優先日】2020-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515150461
【氏名又は名称】イーエヌデータクト ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】iNDTact GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【弁理士】
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100220489
【弁理士】
【氏名又は名称】笹沼 崇
(74)【代理人】
【識別番号】100225026
【弁理士】
【氏名又は名称】古後 亜紀
(72)【発明者】
【氏名】ペトリセヴィック・ライノ
(72)【発明者】
【氏名】ラウナー・クレメンス
【テーマコード(参考)】
4C017
【Fターム(参考)】
4C017AA02
4C017AA08
4C017AA10
4C017AA16
4C017AA20
4C017AB06
4C017AC04
4C017BB12
4C017BC11
(57)【要約】
【課題】静的頭蓋内圧などのバイタルデータを簡便かつ確実に測定することができ、頭蓋内圧脈動を非侵襲的に検出する測定装置を提供する。
【解決手段】患者の頭蓋内圧脈動を非侵襲的に検出する測定装置は、前記患者の頭蓋骨の外側に締付係合及び/又は形状係合によって着脱自在に取り付けられることが可能な保持具と、前記保持具内部に又は前記保持具上に配置された少なくとも1つのバイモルフ型曲げセンサと、前記バイモルフ型曲げセンサにより供給された測定データを増幅するアナログ信号増幅部と、アナログ式の前記測定データをデジタル式のデータに変換するA/D変換部と、前記デジタル式のデータを前処理し、当該データに基づき、頭蓋内圧などのバイタルパラメータを算出する演算部と、を備える。また、頭蓋内圧脈動を非侵襲的に検出する関連方法についても記載している。
【選択図】図18
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の頭蓋内圧脈動を非侵襲的に検出する測定装置であって、
-前記患者の頭蓋骨の外側に締付係合及び/又は形状係合によって着脱自在に取り付けられることが可能な保持具と、
-前記保持具内部に又は前記保持具上に配置された少なくとも1つのバイモルフ型曲げセンサと、
-前記バイモルフ型曲げセンサにより供給された測定データを増幅するアナログ信号増幅部と、
-アナログ式の前記測定データをデジタル式のデータに変換するA/D変換部と、
-前記デジタル式のデータを前処理し、当該データに基づき、前記頭蓋内圧脈動の曲線から、バイタル状態変数と相関するパラメータを算出する、演算部と、
を備える、測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の測定装置において、前記保持具が、ヘッドバンドまたはヘッドカフとして形成されており、かつ/あるいは、前記保持具が、測定曲線、算出されたパラメータ、および対応する時間変化を表示する表示部を含む、測定装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の測定装置において、前記バイモルフ型曲げセンサが、圧電バイモルフ型曲げセンサである、測定装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の測定装置において、前記曲げセンサが、前記患者の頭蓋骨の外側に取り付けられることが可能な支持体に揺動体の様式で配置されている、測定装置。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか一項に記載の測定装置において、前記曲げセンサが、C字状保持部のうちの、2つの端部間に位置する中間部位に又は該中間部位内部に配置されている、測定装置。
【請求項6】
請求項2から5のいずれか一項に記載の測定装置において、ヘッドバンドとして構成された前記保持具が、前記患者の頭蓋骨に働く予備緊張力を発生させて且つこれを調節する機器を含み、好ましくは、当該機器が、力センサまたは歪みセンサを有する、測定装置。
【請求項7】
請求項6に記載の測定装置において、前記予備緊張力を発生させる前記機器が、当該予備緊張力又は当該予備緊張力に対応した電圧の表示部を有する、測定装置。
【請求項8】
請求項6または7に記載の測定装置において、前記予備緊張力を発生させる前記機器が、所定の予備緊張力を自動的に設定するように構成されており、好ましくは、当該機器が、電気機械式または空気圧式の機構からなる、測定装置。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の測定装置において、前記ヘッドバンドは、少なくとも一部の長さにわたってパッドを具備している、測定装置。
【請求項10】
請求項1から9のいずれかに記載の測定装置において、前記機器が、固体伝播音センサ、加速度センサ、位置センサ、外側脈拍センサ、外側血圧センサおよび温度センサのうちの少なくとも1つを有し、前記演算部は、少なくとも1つの前記センサにより検出された外乱の影響又は状態を検出するとともに必要に応じて外乱影響を補正するように構成されている、測定装置。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載の測定装置において、前記曲げセンサが、ヘッドバンドとして形成された前記保持部から取外し可能かつ交換可能である、測定装置。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項に記載の測定装置において、さらに、前記A/D変換部または前記演算部に接続されたデータログ部を備える、測定装置。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか一項に記載の測定装置において、ヘッドバンドとして設けられた前記保持具が、エネルギー貯蔵機器、好ましくは、電池または蓄電池を含む、測定装置。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか一項に記載の測定装置において、前記圧電型曲げセンサおよび/または前記アナログ信号増幅部および/または前記A/D変換部が、無線データ伝送用の送信機器または送受信機器に接続されている、測定装置。
【請求項15】
請求項1から14のいずれか一項に記載の測定装置において、前記バイモルフ型曲げセンサ、前記アナログ信号増幅部、および前記A/D変換部、かつ/あるいは、無線データ伝送用の前記送信機器があれば該送信機器、かつ/あるいは、無線データ伝送用の前記送受信機器があれば該送受信機器、かつ/あるいは、前記電池または蓄電池があれば該電池または該蓄電池が、同一の部品に組み込まれている、測定装置。
【請求項16】
請求項1から15のいずれか一項に記載の測定装置において、前記ヘッドバンドに複数の圧電型曲げセンサが配置されている、測定装置。
【請求項17】
請求項1から16のいずれか1項に記載の測定装置を用いて患者の頭蓋内圧脈動を非侵襲的に検出する方法であって、
-前記少なくとも1つのバイモルフ型曲げセンサを含む前記保持具を前記患者の頭蓋骨の外側に締付係合及び/又は形状係合によって取り付ける過程と、
-前記少なくとも1つの曲げセンサにより、前記人間の心拍によって引き起こされる前記頭蓋骨の変形および/または振動を動的に検出する過程と、
-前記曲げセンサによって記録された前記頭蓋骨の前記変形および/または振動に基づき、さらに、測定された血圧および/または脈拍の曲線に基づき、特性測定曲線パラメータを算出する過程と、
-頭蓋内圧(ICP)、脳血流量(CBF)、脳灌流圧(CPP)、脳血管抵抗(CVR)、動脈圧(AP)、平均動脈圧(MAP)、拍動係数(PI)、抵抗係数(RI)、収縮期・拡張期血圧S/DP、収縮期・拡張期血圧時間係数(SPTI,DPTI)などの特性波形パラメータから、バイタル状態変数または診断変数を導出する過程と、
を備える、方法。
【請求項18】
請求項17に記載の方法において、特性曲線パラメータおよび/または該特性曲線パラメータから導出されたバイタル状態変数の時間変化が表示される、方法。
【請求項19】
請求項17または18に記載の方法において、ヘッドバンドまたはヘッドカフとして構成された保持具が使用される、方法。
【請求項20】
請求項17から19のいずれか一項に記載の方法において、動的に記録された前記変形および/または振動に基づいて、評価された前記パラメータが、神経学的、心臓病学的、集中治療的、呼吸器学的および腎臓病学的な各種バイタル状態と関連付けられる、方法。
【請求項21】
請求項17から20のいずれか一項に記載の方法において、動的に記録された前記変形および/または振動、さらには、当該変形および/または当該振動から導出された前記曲線パラメータに基づき、脳の血液供給の減少、酸素供給の減少などの収縮機能障害由来、さらには、脳灌流の減少、酸素供給の減少などの拡張機能障害由来の、病理学的変化および/または進行性病変が監視される、方法。
【請求項22】
請求項17から21のいずれか一項に記載の方法において、前記頭蓋骨の底部の前頭側に配置された2つ以上の曲げセンサによって前記検出が行われる、方法。
【請求項23】
請求項17から22のいずれか一項に記載の方法において、前記頭蓋骨の底部の後頭側に配置された2つ以上の曲げセンサによって前記検出が行われる、方法。
【請求項24】
請求項17から23のいずれか一項に記載の方法において、当該方法が恒久的に実行されるものであり、前記頭蓋内圧が一定の時間間隔で記録される、方法。
【請求項25】
請求項17から24のいずれか一項に記載の方法において、前記少なくとも1つの曲げセンサが、載置、接着または挟持によって前記頭蓋骨に取り付けられる、方法。
【請求項26】
請求項17から25のいずれか一項に記載の方法において、前記少なくとも1つの曲げセンサが、エクゾスケルトン又はヘルメットの組込物として前記頭蓋骨に接続される、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者の頭蓋内圧を非侵襲的に検出する測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
神経集中治療の病態の多くは、生命を脅かす頭蓋内圧(ICP)の上昇を伴い得る。頭蓋骨内の容積は一定であるため、1つ以上の区画で容積の増加が起こると、ICPの上昇へと繋がる場合がある。該区画としては、脳組織(例:出血、腫脹、炎症等が原因)や髄液腔(例:水頭症、出血等が原因)や血管区画(例:過換気や低換気による変化等が原因)が挙げられる。頭蓋内容積と頭蓋内圧の関係は、頭蓋内コンプライアンスと呼ばれる。ICPの上昇は、容積の増加に対して指数関数的なものとなる。というのも、初めのうちは、いわゆる予備の空間(髄液腔や血管区画)によってICPの上昇を打ち消すことができるからである(Monroe-Kellieの法則)。内圧の上昇に繋がる可能性のある病態としては、外傷性脳損傷、硬膜外血腫や硬膜下血腫、占拠性の虚血性脳卒中、脳内出血、くも膜下出血、脳静脈血栓症や脳静脈洞血栓症、髄膜炎、脳炎、全領域性の脳低酸素症や、その他にも、脳腫瘍、中毒、代謝性疾患などが挙げられる。
【0003】
重症外傷性脳損傷などの重症例でICPを恒久的に監視するために、測定用カテーテルを頭蓋冠から侵襲的に挿入することがある。しかし、侵襲性の測定用手術は多くの患者にとって大きな負担になるため、監視は省いてしまうことが多い。
【0004】
頭蓋骨の伸び測定に基づいた非侵襲性の測定方法が既に提案されている。心拍による血液量の変動により、特に、結合組織で閉じられている頭蓋縫合部にて、頭蓋骨が伸びを生じる。脳内では、約3~4mmHgの内圧脈動変動が起こる。これにより、脈動に同期するかたちで頭蓋骨の僅かな拡張が発生する。
【0005】
WO 2013/041973 A2(特許文献1)には、頭蓋内圧を非侵襲的に測定する測定装置として、頭蓋骨の変形を検出するように構成されたセンサを備えた測定装置が提案されている。該センサは、増幅部、A/D変換部、処理部、表示部および記憶部に接続されている。同測定装置は、センサ信号の評価に基づいて頭蓋骨の変形を求めることができ、それによって頭蓋内圧を測定することが可能である。
【0006】
WO 2019/087148 A1(特許文献2)からも同様の測定装置が知られており、センサで取得したデータが、処理後に受信部へと無線送信される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2013/041973号
【特許文献2】国際公開第2019/087148号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、これらの測定器では、外頸動脈の脈動の支配的影響を分離手段の不足により排除できないという欠点がある。内圧脈動による頭蓋脈動は、動脈脈動よりも大幅に小さく、動脈脈動との区別がなければ有意義とならない。引用した文献で提案されている歪みゲージ配置構成体は、測定限界で動作させられている。このことは、同測定装置と頭蓋骨との間にパッドを付け加えることができないという意味にもなる。そのため、長期的な使用は、時間が長引くにつれて患者にとって極めて不快なものとなる。
【0009】
本発明は、前述の欠点を解消し、静的頭蓋内圧などのバイタルデータを簡便かつ確実に測定することができ、頭蓋内圧脈動を非侵襲的に検出する測定装置を提供するという課題に基づいたものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、請求項1の構成を備えた測定装置が提供される。
【0011】
本発明にかかる測定装置は、患者の頭蓋骨の外側に締付係合(force-locking)及び/又は形状係合(form-locking)によって着脱自在に取り付けられることが可能な保持具と、前記保持具内部に又は前記保持具上に配置された少なくとも1つのバイモルフ型曲げセンサと、前記バイモルフ型曲げセンサにより供給された測定データの増幅を行うアナログ信号増幅部および/または該測定データのフィルタリングを行うアナログ信号フィルタリング部と、アナログ式の前記測定データをデジタル式のデータに変換するA/D変換部と、前記デジタル式のデータを前処理し、当該デジタル式のデータに基づき、頭蓋内圧などのバイタルパラメータの算出及び/又は導出を行う演算部と、を備える。
【0012】
本発明にかかる測定装置は、拍動する動脈血管の影響の大部分を排除するという点、すなわち、頭蓋内圧脈動が実際に測定されるという点で特徴付けられる。前記演算部は、前記デジタル式のデータの調整だけでなく、補正を施し、頭蓋内圧(ICP)などの、特性曲線パラメータや該特性曲線パラメータから導出可能な数値も算出するように用いられる。前記デジタル式のデータからは、さらに、収縮期や拡張期の特性値やバイタルパラメータの導出が可能である。本発明にかかる測定装置は、振幅曲線、測定曲線、求めたパラメータや導出された数値、または警告が出力可能となるように表示部を任意で備えていてもよい。
【0013】
本発明は、バイモルフ型曲げセンサを使用することで頭蓋内圧脈動の確実かつ高精度な測定を極めて簡単に行うことが可能になるという認識に基づいたものである。本発明の原理は、頭蓋内圧(ICP)の脈動と同期して該頭蓋内圧により引き起こされる頭蓋容積の拡張により、ヘッドカフ又は頭部の接触面に取り付けられたバイモルフ型曲げセンサが撓むという点を基礎としている。
【0014】
圧電型曲げセンサは、心拍による頭蓋骨のほんの僅かな変形や振動さえも測定することが可能である。心臓から脳に送り込まれる血液の心拍時の圧力は、脳組織内の伝達経路によって徐々に減少する。伝達関数は、頭蓋内圧や関連する自動調節機構に左右される場合がある。そこで、圧力低下の動的変化を活用すれば、とりわけ頭蓋内圧や自動調節状態を推測することが可能である。
【0015】
好ましくは、前記保持具は、ヘッドバンドまたはヘッドカフとして構成されている。ただし、変形例として、前記曲げセンサを載置、接着、または帽子もしくは包帯で挟持するようにして前記保持具の取付けを行ってもよい。また、皮膚に優しい両面粘着フィルムなどの適切な弾性結合用媒体を単独で使用または併用するということも考えられ得る。
【0016】
前記測定装置は、少なくとも一部が屈曲自在に撓み可能であり且つ少なくとも一部が弾性的に伸縮可能であり得るヘッドバンドまたはカフからなる。該ヘッドバンドまたはカフの緊張力は調節可能とされる。前記少なくとも1つの曲げセンサは、前記ヘッドバンドまたはカフのうちの曲げ-撓み可能な部分の一部であり、頭蓋骨の静的もしくは動的な容積拡張に直接起因して又は当該曲げセンサに取り付けられた支持体(具体例:前記ヘッドバンド)の引張応力の対応する変化によって静的もしくは動的に曲がり得る。前記カフは、患者の頭部に適用されるとともに、緊張付与機器によって一定の緊張力で固定され得る。
【0017】
好ましくは、前記曲げセンサは、圧電バイモルフ型曲げセンサである。前記曲げセンサは、反平行分極のバイモルフ型曲げセンサであり得る。この場合、ヘッドバンドとして構成された本発明にかかる測定装置が設けられた頭蓋骨の容積の、内圧脈動による動的な撓みにより、該測定装置に動的な引張応力が生じ、前記曲げセンサの場所において動的な曲げが発生するという効果を利用したものとなる。これにより、頭蓋骨の容積の、極めて弱い内圧由来の変化さえも検出することが可能となる。
【0018】
バイモルフ型曲げセンサは、中立軸を中心として対称的に配置された2つのセンサ層で構成される。この配置構造体が一方向に曲がったとき、能動的に検出を行う曲げセンサ層の一方が伸張すると同時に、もう一方の曲げセンサ層はそれと同程度の圧縮を示す。逆方向に曲がったときには、真逆の挙動となる。これら2つのセンサ層は反平行分極であるため、このような両方向のいずれの荷重においても、信号同士が同じ符号となって規模が加算的に大きくなり、全体としての信号を増大させる。一方で、干渉となる温度効果や焦電効果などの同時的な影響は、大部分が相殺されるため補償される。
【0019】
圧電バイモルフ型曲げセンサ以外に、互い違いに反平行分極となる複数のセンサ対で構成されたマルチモルフ型曲げセンサの使用も可能である。
【0020】
前記曲げセンサは、患者の頭蓋骨の外側に取り付けられることが可能な支持体に揺動体の様式で配置され得る。同実施形態において、前記曲げセンサは、患者の頭蓋縫合部の領域に設置される支持体に配置されている。前記圧電バイモルフ型曲げセンサは、頭蓋骨の容積撓みの影響を受けて枢動点を中心に揺動体の様式で動くことが可能である。ヘッドバンドとして構成された前記保持具は、それを曲げるのに必要となる所定の予備緊張力によって前記曲げセンサの(支承)力を逆方向に生じさせる。
【0021】
代替的な一実施形態において、前記曲げセンサは、C字状保持部のうちの、2つの端部間に位置する中間部位に配置されている。該C字状保持部は、前記2つの端部が頭蓋骨縫合部の両側に配されるようにして患者の頭蓋骨に設置される。頭蓋骨の脈動的容積撓みが生じると、前記C字状保持部の前記2つの端部(肢部)が相対する方向に移動する結果、前記曲げセンサの中央部分が曲げられる。前記少なくとも1つの曲げセンサは、外側の動脈や静脈からの脈動が当該曲げセンサに伝わらないか又は無視可能な程度になるようにして常に取り付けられる。これは、脈動する動脈や静脈と前記曲げセンサ又は当該曲げセンサの取付具(すなわち、前記ヘッドバンド)との間に機械接触部を全くなくすか、あるいは、強力な減衰を行う機械接触部を介してのみそれらが接触するかのいずれかを確実とすることによって実現可能である。この目的のため、本発明にかかる測定装置の前記C字状保持部は、大動脈のような強く拍動する外側の血管を効果的かつ容易に跨ぐことができるようになっている。これ以外の場所でも、前記支持体の凹部を利用することにより、同様の構成を実施することが可能である。また、発泡体のパッドを用いれば、より小規模の、つまり、より弱く拍動する外側の血管の影響についても、影響限界未満へと効果的に減衰させることが可能である。拍動する動脈と直に接触している場合や、接触が十分に減衰されていない場合には、時間信号上の典型的な「動脈曲線形状」や著しく高い振幅から、それを直ちに確認することが可能である。
【0022】
代替的な他の実施形態において、前記C字状保持部は、脈動による容積撓みがヘッドバンドのような帯体又はカフの引張応力として伝わることで当該C字状保持部の前記肢部の対応した曲げが発生してこれが前記曲げセンサによって検出されることになるようなかたちで、当該カフ又は帯体で頭部に留められる。このようなカフを用いることにより、頭蓋骨の容積撓みが最小限のものであったとしても、これを前記センサの保持部のC字状の肢部に引張応力として伝達することが可能となる。さらに、これによってC字状腕部が曲がり、それが前記曲げセンサによって検出される。
【0023】
このようなヘッドバンドは、所定の予備緊張力を発生させる。頭蓋内圧脈動によって頭蓋骨の容積が変化することにより前記圧電型曲げセンサが曲がり、本発明にかかる測定装置によってそれが検出可能となっている。このようにして得られた測定値を用いることで、頭蓋内圧脈動、つまり、その内圧脈動形状の監視が可能となるとともに、該内圧脈動形状の特性やその特性値から、頭蓋内圧などのバイタル状態変数を算出することができる。また、前記C字状保持部は、患者の頭蓋骨に対して反転させて、すなわち、前記2つの端部を頭蓋骨から遠ざかるように延ばして設置することも可能である。この場合も、前記ヘッドバンドによって予備緊張力が発生する。前記バイモルフ型曲げセンサは、前記中間部位の片側に配置され得るか、あるいは、前記中間部位の両側に対称配置され得る。本例でも、あるいは、その他のどの例においても、変形例として、バイモルフ型曲げセンサが前記中間部位の中立軸に配置されてもよい。また、複数の圧電型曲げセンサを、前記中間部位内部において、該中立軸を基準として対称的に配置するということも可能である。また、頭蓋骨の外側に軟質の弾性支持パッドを設置し、その上に前記C字状保持部を取り付けるということも可能である。変形例として、該パッドは、素早く交換できるようなかたちで前記ヘッドバンドに取り付けられていてもよい。
【0024】
好ましくは、ヘッドバンドとして構成された前記保持具は、患者の頭蓋骨に働く予備緊張力を発生させて且つこれを調節する機器を含み得る。好ましくは、前記予備緊張力を発生させる当該機器は、力覚センサまたは歪みセンサを有し得る。前記予備緊張力は、ハンドホイールなどでユーザが調節するものであってもよいし、モータで調節されるものであってもよい。この目的のために、前記機器は、引張ばねなどの線形弾性歪み体を有し得る。さらなる実施形態において、この線形弾性伸縮体は、一定の引張応力が設定された以降のさらなる撓みについては固定、すなわち、阻止されるものであり得る。
【0025】
このとき、好ましくは、前記予備緊張力を発生させる前記機器が、当該予備緊張力又は当該予備緊張力に付随する緊張の表示部を有する。これにより、ユーザは、前記ヘッドバンドを介して前記圧電型曲げセンサへと伝わる予備緊張力の具体的な設定や操作を行うことが可能となる。
【0026】
本発明にかかる測定装置の使用をさらに簡単なものにするため、前記予備緊張力を発生させる前記機器は、所定の予備緊張力を自動的に設定するように構成されたものとされてもよい。この目的のために、電気機械式または空気圧式の機構が設けられ得る。前記予備緊張力の手動操作または自動制御は、一体型エアークッションと空気圧センサとの組合せによる空気圧式の緊張力調節によって実現することが可能である。
【0027】
前記ヘッドバンドは、少なくとも一部の長さにわたってパッド部を任意で具備していてもよい。該パッド部は、複数の個別のパッド付き支持箇所で構成されたものであり得る。前記パッド部は、ヘッドバンドとして構成された前記支持具の内側に設けられる。前記パッド部は、弾性発泡体または粘弾性記憶発泡体からなり得る。前記ヘッドバンドまたはカフは、全体が接触を行うものであってもよいし、あるいは、末梢血管などの脈動する軟部組織や筋肉活動による干渉を抑制したり負傷部との接触を避けたりするように所定の接触領域や接触点のみで接触を行うものとされてもよい。
【0028】
また、本発明にかかる測定装置は、1つ以上の固体伝播音センサおよび/または1つ以上の加速度センサおよび/または1つ以上の位置センサおよび/または1つ以上の脈拍センサおよび/または1つ以上の血圧センサおよび/または温度センサを備え得て、前記演算部は、少なくとも1つの上記センサによって外的な妨害影響を検出するように構成され得る。該外的な妨害影響は、検出後、前記頭蓋内圧の測定に悪影響を及ぼさないように計算で除去され得る。
【0029】
好ましくは、前記曲げセンサは、ヘッドバンドとして構成された前記保持部から取り外して交換することが可能である。前記ヘッドバンドまたは前記カフでの望ましいセンサ位置には、前記センサを留めるための凹所及び/又は保持クリップなどの保持手段が、形状係合及び/又は締付係合が可能となるようにして設けられている。もっとも、前記曲げセンサは、前記ヘッドバンドまたはカフに接着および/またはねじ連結されるものであってもよい。前記ヘッドバンドは、滅菌後、別の患者に再利用されてもよい。また、前記ヘッドバンドが、前記曲げセンサを取り付けるための様々な場所を有しているという構成も可能である。また、前記ヘッドバンドに、複数の曲げセンサが取り付けられるという構成も可能である。
【0030】
本発明にかかる測定装置の一実施形態では、前記バイモルフ型曲げセンサと前記アナログ信号増幅部とが同一の部品に組み込まれている。該同一の部品には、さらに、A/D変換部、送信機器、無線データ伝送用の送受信機器、電池、蓄電池が任意で組み込まれていてもよい。これにより部品点数が削減され、前記測定装置の設置空間も小さくて済む。
【0031】
また、前記測定装置は、前記A/D変換部または前記演算部に接続されたデータログ部を備え得る。該データログ部は、前記曲げセンサの測定値および/または該測定値から導出された頭蓋内圧などのデータを記憶する。これにより、前記データログ部に記憶されたデータを後で評価するということも可能になる。また、これにより、本発明にかかる測定装置を携帯装置として構成することも可能になる。
【0032】
ヘッドバンドとして設けられた前記保持具は、エネルギー貯蔵機器、好ましくは、電池または蓄電池を含み得る。これにより、携帯装置としての用途が可能となる。
【0033】
前記圧電型曲げセンサおよび/または前記アナログ信号増幅部および/または前記A/D変換部が無線データ伝送用の送信機器または送受信機器に接続されている場合、さらなる用途が想定可能となる。この場合、前記センサで取得したデータを、任意で増幅やデジタル式のデータへの変換を行った後に、受信先へと送信することが可能となる。無線データ伝送の場合、ヘッドバンドとして構成された前記保持具は有線接続が不要となり、取扱いが簡便かつ容易になる。
【0034】
本発明にかかる測定装置の一変形例では、前記ヘッドバンドに複数の圧電型曲げセンサが配置されている。これにより、頭蓋内圧脈動(したがって、頭蓋内圧)の複数箇所での測定が可能となる。
【0035】
本発明は、さらに、請求項17の構成を備えた種類の測定装置を用いて患者の頭蓋内圧脈動を非侵襲的に検出する方法に関する。本発明にかかる方法は:前記少なくとも1つのバイモルフ型曲げセンサを含み且つヘッドバンドの形態である前記保持具を患者の頭蓋骨の外側に締付係合及び/又は形状係合によって取り付ける過程と;前記少なくとも1つの曲げセンサにより、人間の心拍によって引き起こされる頭蓋骨の変形および/または振動を動的に検出する過程と;前記曲げセンサによって検出された頭蓋骨の前記変形および/または振動に基づき、さらに、測定された脈拍の曲線に基づき、特性曲線パラメータを算出する過程と;頭蓋内圧(ICP)などのバイタル状態変数を導出する過程と;を備える。
【0036】
また、前記方法は、デジタル化過程、信号前処理過程、特性パラメータの決定過程を備え得る。好ましくは、本発明にかかる方法では、動的に記録された頭蓋骨の前記変形及び/又は振動により、心臓拍動の刺激による「圧力応答関数」が測定されて且つ当該「圧力応答関数」から頭蓋内圧や、各種バイタル状態変数に関連するその他のパラメータが算出される。例えば、同手順は、次のような疾患や病態に対して実施することが可能である:頭部外傷、血管攣縮、梗塞、閉塞、再灌流、血行再建、緊張性頭痛、片頭痛、頸動脈狭窄症による塞栓の検出、認知症、水頭症、脳腫瘍、鎌状赤血球症、血管奇形、髄膜炎、脳炎、昏睡、心不全、大動脈弁狭窄症、大動脈弁閉鎖不全症、大動脈弁形成術、頚動脈血行再建術、大動脈解離、心肺バイパス、麻酔、過換気、カテコールアミン類、容量管理、血液濾過、血液透析、肺動脈性肺高血圧症、腎機能不全、血液透析、腹膜透析。
【0037】
本発明にかかる方法の一変形例では、頭蓋内圧脈動及び/又は頭蓋内圧脈動の影響による頭蓋撓みの脈動の検出が、頭蓋骨の底部(頭蓋底)の前頭側に配置された2つ以上の曲げセンサによって行われる。
【0038】
これに代えて又はこれに加えて、頭蓋内圧の検出が、頭蓋骨の底部(頭蓋底)の後頭側に配置された2つ以上の曲げセンサによって行われてもよい。
【0039】
好ましくは、本発明にかかる方法は恒久的に実行されるものであり、バイタルパラメータおよび頭蓋内圧が一定の間隔で記録または導出される。これにより、患者の長期的なモニタリングも可能となる。
【0040】
本発明にかかる方法では、前記少なくとも1つの曲げセンサが、載置、接着または挟持によって頭蓋骨に取り付けられ得る。好ましくは、ヘッドバンドとして構成された前記保持具がこの目的のために利用される。
【0041】
また、前記少なくとも1つの曲げセンサが、エクゾスケルトン又はヘルメットの組込物(インレー)として頭蓋骨に接続されることも可能である。これにより、前記少なくとも1つのセンサの一様な接触圧が確保される。
【0042】
本発明には、さらに、下記の機能に適したコンピュータプログラムも包含される:
-個々の脈動変化(脈動曲線)の発生(開始及び終了)の検出;
-(咳、発話、動きなどに起因する)干渉信号の検出;
-(干渉などに起因する)評価不能な曲線軌道部の判別;
-(学習済みニューラルネットワークなどの)教師ありおよび/または(クラスター分析などの)教師なしの機械学習プログラム(人工知能)による曲線軌道の評価;
-(呼吸、血圧、気分などの)その他のバイタルサインの検出;
-(呼吸などによる)信号ドリフトの重なりの補正又はフィルタリング;
-個々の脈動曲線のピーク、V字部、変曲点などの曲線特性の数、位置及び振幅の決定;
-曲線の変化を記述する特性パラメータの決定;
-曲線特性の統計データ(平均値、分布、分散、傾向)の決定;
-ドリフト補正後の脈動曲線又は該脈動曲線の特定の部分の曲線面積、特に、収縮期及び拡張期の面積の決定;
-パラメータ決定時においての収縮期曲線部と拡張期曲線部の判別;
-曲線又は個々の曲線部分から求められた2つ以上のパラメータ間の任意の関係(例えば、P/P、P/P/Atotal、|P -P |/P/P、|P -P |/Atotal、Asys/Adia等)の形成;
-少なくとも1つのパラメータ間の種々の関係、および/または、少なくとも1つのパラメータと(血圧、脈拍、血液値、体温などの)別の医療的尺度や(年齢、性別、体重、身長、家系、頭蓋骨形状、運動能力などの)患者パラメータとの関係の確立;
-複数の脈動曲線の評価による上記数値の平均値および統計学的評価(分布関数パラメータ);
-個々のパラメータまたはパラメータ同士の関係の傾向曲線;
-頭蓋内圧(ICP)、脳血流量(CBF)、脳灌流圧(CPP)、脳血管抵抗(CVR)、(平均)動脈圧((M)AP)、拍動係数(PI)、抵抗係数(RI)、収縮期・拡張期血圧S/DP、収縮期・拡張期血圧時間係数(SPTI,DPTI)などの診断変数の導出;
-自動調節障害又は異常の導出;
-上記パラメータや関係からの典型的な疾患特徴の導出;
-感染症の導出;
-各種健康状態又は疾患、肉体的・精神的ストレス状態、リラクセーション状態、外的影響や、その他のバイタルパラメータ、運動パフォーマンス、薬物・薬剤の摂取、仕事量、精神疾患との相関の導出。
【0043】
信号品質が極めて高まることから、特に、拡張期の内圧曲線範囲自体の評価を行うことができるほか、応用分野全体にわたる派生も可能となる。
【0044】
拡張期血流速度プロファイルなどを得る経頭蓋ドップラーといった他の方法とは違い、本発明の測定装置を用いることで、拡張期内圧曲線部分から明瞭な曲線特性を得ることができる。該曲線特性は、微小循環障害、組織抵抗の増大、頭蓋内圧の上昇、慢性炎症、動脈硬化症、糖尿病、OもしくはCOの交換不足、低血圧症、または血液循環量減少が原因となり得る病変、疾患などの影響についての重要な情報を含んでいる。これにより、それらの領域における病理学的変化についての侵襲性処置なしでの早期発見が可能となるほか、進行性病変の監視が容易に出来るようになる。また、このような領域での治療効果の評価を遥かに簡単に出来るようになり、治療のより具体的な方針決めが可能となる。
【0045】
以下では、図面を参照しながら、実施の形態例によって本発明の説明を進める。図面は、概略的なものであり、下記の内容からなる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
図1】頭蓋内圧の正常時の時間変化と病的状態時の時間変化を示すグラフである。
図2】本発明にかかる測定装置の基本的な構成要素を示す図である。
図3】スリーブとして構成された保持具の他の実施形態を示す図である。
図4】複数の曲げセンサを含む保持具の一例を示す図である。
図5】複数の曲げセンサを含む保持具の他の実施形態を示す図である。
図6】スリーブとして構成された保持具の平面図である。
図7】スリーブの形態の保持具のさらなる例を示す平面図である。
図8図6と同様のスリーブの一実施形態を示す図である。
図9】伸張可能なバンドを備えるカフの一実施形態を示す図である。
図10】伸縮可能な弾性バンドを備えるカフの一実施形態を示す図である。
図11】カフの他の実施形態を示す図である。
図12】カフやテープを備えない測定装置を示す図である。
図13】カフを備えた測定装置を示す図である。
図14a】C字状保持部の一例を示す図である。
図14b】C字状保持部の他の例を示す図である。
図14c】C字状保持部のさらなる他の例を示す図である。
図14d】C字状保持部のさらなる他の例を示す図である。
図14e】C字状保持部のさらなる他の例を示す図である。
図15】頭蓋骨に設置された曲げセンサの断面図である。
図16】頭蓋骨に設置された曲げセンサの断面図である、
図17】頭蓋骨に設置された保持具の上面図である。
図18図17に示す保持具の右側面図である。
図19図17に示す保持具の左側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
図1の左部分は頭蓋内圧の正常時の変化を定性的に示したものであり、図1の右部分は頭蓋内圧の病的状態時の変化を示したものである。横軸に時間をプロットし、縦軸にセンサが検出した電圧をプロットしている。この電圧-時間信号の波形に基づき、頭蓋内圧を求めることが可能である。そのために用いられる特性値としては、例えば上昇係数(U1-U0)/t0、心周期当たりのピーク数(通常、3~6であり得る)等が挙げられる。また、少なくとも1つの脈拍信号の顕著な点間の距離や、心電図または頭、首、腕若しくは指から取り出した外側動脈の拍動信号によって並行して記録されたQRS成分の顕著な点間の距離に基づいて評価を行うことが可能である。評価にあたっては、患者の脈拍数や呼吸数による相関や補正を実施することも可能である。
【0048】
連続記録での頭蓋内圧(ICP)は、脈拍に同期した周期的変化を呈し、複数のピークを含む。一つめのピークPは、大動脈の脈圧波によって生じる。二つめのピークTは、脳動脈が血液で満たされることで生じるものであり、頭蓋内コンプライアンスの影響を受ける。三つめのピークやそれ以上の数のピークは、大動脈弁の閉鎖などといった拡張期由来の脈動に関係したものである。
【0049】
ICPが高くなるにつれて、Tが全体的な脈圧振幅やPに対して大きくなることから、曲線形状は段々ピラミッド形状になっていく。そのため、動的な変化から、静的な頭蓋内圧の上昇についての結論を下すことが可能である。
【0050】
約3~4mmHgの頭蓋内圧脈動に同期するかたちで頭蓋容積が拡張することに起因した、ヘッドカフ、ヘッドバンドまたは頭部の支持面に取り付けられた圧電バイモルフ型曲げセンサの撓みを検出することにより、静的な頭蓋内圧(ICP)の平均を脈動形状から間接的に求めることが可能である。測定された血圧の絶対値を加味することにより、同手順の精度を高めることができる。
【0051】
本測定装置の基本的な構成要素や測定手順過程について、図2を参照しながら説明する。人間1の頭部に、ヘッドバンドまたはカフとして構成された保持具2が取り付けられる。人間1の頭部の外側に着脱自在に設置される該ヘッドバンドには、圧電型曲げセンサ3が配置されている。曲げセンサ3には、エネルギー貯蔵部4の形態のエネルギー貯蔵機器が関連付けられている。前記測定装置は、さらに、アナログフィルタを有するアナログ信号増幅部5を備える。この後段には、アナログ式の信号をデジタル式のデータに変換するA/D変換部6が続く。フィルタリング部7では、デジタル式のデータのフィルタリング、平滑化およびデータ削減が行われる。前記測定装置は、さらに、信号又はデータを送信するためのインターフェース部8を備える。例えば、該信号又はデータは、外部の装置、演算部または評価部に送信されることが可能である。同データを用いて特性値が求められ、該特性値は特性値用の記憶部9に記憶される。評価部10は、前記データ又は特性値を評価する。表示部11により、測定されたデータやその他の情報が出力される。これには、記録された測定値、信号、特性値、評価または警告が含まれる。また、保持具2には、干渉信号を検出する固体伝搬音センサ12が取り付けられている。これにより、外部の信号源により発生した干渉信号を除去することが可能となる。前記測定装置の構成要素としては、そのほかに、予備緊張力を発生させる機器13が挙げられる。機器13により、曲げセンサ3に加わる所定の予備緊張力を発生させることができる。
【0052】
図3には、図2に示した構成要素に加えて、スリーブとして構成された保持具2が、さらに、2つの曲げセンサ14,15を備えた実施形態の一例が示されている。頭部に設置された曲げセンサ3が、図2に記載したエネルギー貯蔵機器、アナログ信号増幅部、A/D変換部などの追加の構成要素を具備している。
【0053】
図4及び図5には、保持具のさらなる例が示されている。各図の保持具は、複数の曲げセンサを含んでいる。予備緊張力を加えて曲げセンサに作用させるという構成により、患者の頭蓋骨に当該複数の曲げセンサを仮固定するようになっている。
【0054】
図6は、頭蓋骨に取り付けられるカフ16として構成された保持具の概略平面図である。カフ16は、複数の離設されたパッド17を内側に具備しており、各パッド17が頭蓋骨に対する接触面を形成している。隣接するパッド17間には空間が空けられていてもよいし、あるいは、該空間が発泡体で埋められていてもよい。カフ16の外側には、曲げセンサが配置されている。カフ16は、さらに、予備緊張力を発生させる機器13、およびゴムバンドとして形成された伸張体18を有している。その伸張は、伸張制限部19によって制限される。また、カフ16は、当該カフ16の自由端を固定するための面ファスナー20を具備している。
【0055】
代替的な一実施形態において、前記カフは、粘弾性記憶発泡体が内側に設けられたものとされ得る。これには、急激な負荷、特に、急激な衝撃時に硬くなるという性質がある。
【0056】
図7には、カフ21として構成された保持具のさらなる実施形態が示されている。カフ21は、弾性を有する材料、すなわち、伸縮可能な材料からなる。先程の実施形態のように、カフ21は、面ファスナー20および伸張制限部19を具備している。カフ21の内側には、クッションとしての粘弾性記憶発泡体22が存在する。カフ21の外側には、周にわたって分布した合計4つの曲げセンサ3が配置されている。各曲げセンサ3は、可撓性パッド23に取り付けられている。カフ21の外側には、さらに、固体伝搬音センサ12が配置されている。
【0057】
図8には、図6に示したカフ16と同様の一実施形態が示されている。同カフは、接触面を形成するパッド17と曲げセンサ3のほかに、手動操作式のポンプ25によって膨らませることが可能なエアークッション24を具備する。
【0058】
上記の各実施形態では、患者の頭蓋骨の全周にわたって延在する閉じたカフが描かれている。しかしながら、カフは、頭蓋骨の周の一部のみにわたって延在して挟持されるものであってもよい。この目的にあたっては、同カフが、可撓性材料、屈曲可能な材料、またはばね弾性を有する材料からなるものとされ得る。
【0059】
図9には、頭蓋骨の全周にわたって延在する伸縮可能な弾性バンド27を備えるカフ26の一実施形態が示されている。弾性バンド27の外側には、複数の曲げセンサ3が存在している。これらの曲げセンサ3は、パッドを有する屈曲可撓体28を介して患者の頭蓋骨に取り付けられる。また、弾性バンド27は、伸張制限部19を具備している。
【0060】
実施の一変形形態として、伸縮可能なゴムバンドの代わりに伸縮不能なテンションストラップが使用されてもよい。この場合、同カフをある程度の予備緊張をもって頭蓋骨に取り付けるための短寸の伸縮可能体が必要となる。
【0061】
図10には、伸縮可能な弾性バンド27およびC字状保持部30の外側にそれぞれ配置された複数の曲げセンサ3を備えるカフ29の一実施形態が示されている。C字状保持部30は、中間部位および該中間部位から直交して延出する2つの端部を有する。C字状保持部30の当該端部は、頭蓋骨側に向いている。C字状保持部30は、屈曲自在に撓み可能(屈曲可能)であり、頭蓋縫合部を覆うようにして患者の頭蓋骨に周方向配置される。曲げセンサ3により、頭蓋骨の脈動伸びの検出が可能となる。
【0062】
図11には、図10に示した実施形態と同様のカフ31の一実施形態が示されている。カフ31には、合計4つのC字状保持部30が設けられており、これらC字状保持部30の端部は頭蓋路の反対側を向いている。曲げセンサ3は、各C字状保持部30の外側に配置されている。
【0063】
図12に、前記保持具が屈曲可撓性体32として構成されている測定装置の一例を示す。曲げセンサ3は、屈曲可撓体32の外側に配置されている。頭蓋骨の周にわたって、このような曲げセンサ3が合計4つ存在している。屈曲可撓体32は頭蓋骨に接着されるものであり、本実施形態ではスリーブやテープが不要となっている。
【0064】
図13には、カフ33、C字状保持部30および圧電型曲げセンサ3を備えた測定装置が示されている。カフ33の内側には、発泡体からなるパッド34が存在している。圧電型曲げセンサの反対側には、調整ねじ35で予備緊張力を発生させる機器13が存在している。機器13は、予備緊張力を表示する表示部36を具備している。
【0065】
図14a~図14eには、C字状保持部の様々な実施形態が示されている。
【0066】
図14aにおいて、C字状保持部30は、端部が患者の頭蓋骨の外表面37上にあるようにして設置されるという点が見て取れる。曲げセンサ3は、頭蓋骨縫合部38を横切るように設置されたC字状保持部30の内側に配置されている。C字状保持部30は、テープ39を用いて定位置に固定される。テープ39は、剛体、可撓性、屈曲可能または伸縮可能のいずれであってもよい。
【0067】
図14bは、図14aと同様の図であるが、頭蓋骨の外表面37とC字状保持部30との間に軟質の弾性パッド40が設けられている。
【0068】
図14cは、図14bと同様の図であるが、C字状保持部30の外側に曲げセンサ3が配置されている。
【0069】
図14dに、中間部位を頭蓋骨の外表面37上とするようにしてC字状保持部30が載置させられた一実施形態を示す。よって、C字状保持部30の端部は、頭蓋骨の外表面37から突出している。曲げセンサ3は、テープ39で保持されたC字状保持部30の外側に配置されている。頭蓋骨の外表面37とC字状保持部30との間には、軟質の弾性パッドが任意で設けられてもよい。
【0070】
図14eに、曲げセンサ3が保持部30内部に組み込まれた一実施形態を示す。曲げセンサ3は、患者の頭部の外表面37の任意の箇所に取り付けられることが可能な保持部30の中間部位内部に配置されているとともに動脈を跨ぐ(uberbruckt)ようにして設置される。C字状保持部の曲がった端部と頭蓋骨との間にはパッド34が設けられており、該端部の両側に取り付けられたストラップ又はテープ39により、予備緊張力の導入が可能となっている。
【0071】
図15は、頭蓋骨の外表面37に設置された圧電バイモルフ型曲げセンサ3の概略断面図である。テープ39により、予備緊張力が発生している。曲げセンサ3の一端は頭蓋縫合部に設置されており、該頭蓋縫合部は例えば冠状縫合部、矢状縫合部、ラムダ縫合部等とされ得る。
【0072】
図16は、外向きに凸状に湾曲した突部42を下面中央に有する圧電バイモルフ型曲げセンサ3が剛体の支持体41に載置されている状態を示した断面図である。支持体41は、頭蓋骨の縫合部を覆っている。テープ39により予圧が発生して曲げセンサ3に作用している。突起42は揺動体の様式で曲げセンサ3を支持し、頭蓋骨容積の変化が前記バンドから該センサへと伝わることが可能となっており、該センサが曲がることで検出が可能となる。
【0073】
図17は、頭蓋骨に設置された保持具を示す上面図である。図18は、図17に示す保持具の、前記C字状保持部を含む右側を示す図であり、図19は、図17に示す保持具の、予備緊張力を発生させることが可能なロック機器を含む左側を示す図である。
【0074】
図17図19において、前記保持具の前記C字状保持部は、その端部が患者の頭蓋骨の外側上にあるようにして設置されている様子が見て取れる。前記バイモルフ型曲げセンサは、外頸動脈を跨ぐようにして頭蓋骨に取り付けられた前記C字状保持部内のうちの、当該保持部の前記中間部位の中立軸を基準として、対称的に配置されている。リボン状体により、頭蓋内圧脈動によって生じる頭蓋骨の容積撓みが前記C字状保持部の屈曲部に伝えられる。この保持具のリボン状体は、引張方向において剛体である一方、屈曲方向には可撓性であり、頭蓋骨側にパッドが施されている。反対側となる左側には、予備緊張を調節するのに用いられるロック機器と、予備緊張の表示部が存在している。該ロック機器もC字状であり、外頸動脈による干渉を防ぐために外頸動脈を跨いでいる。
【0075】
また、1つ以上の動脈(例えば、頸動脈等)に対して前記リボン状体又は前記パッド部を選択的に機械結合させることで、血圧拍動の測定、つまり、頭部での血圧測定にも本配置構成体を利用することが可能である。同構成では、外側の血圧拍動からの信号が、頭蓋内脈動によって生じる頭蓋撓み由来の信号よりも大幅に大きくなる。このような「過渡的」結合は、頭部カフ、すなわち、前記リボン状体を頸動脈が当該リボン状体の支承面の下にくるように90°回転させることで実現可能である。もっとも、前記リボン状体を回転させずとも、前記ロック機構及び/又は前記C字状支持部の下に発泡体を挿入することによって同じことを行うことが可能である。有利には、リボン状体として形成された前記ヘッドカフは、前記C字状保持部及び/又は前記ロック機構の位置に結合用要素を含み、該結合用要素を頸動脈に可逆的に結合させることが可能とされる。これは、例えば、糸状体や、スナップアクションスイッチと類似した、配置可能な結合機構によって行うことができる。結合力は、既存の前記ロック機器によって調節することが可能であり、好ましくは、本システムのキャリブレーション済みの数値にまで調節され得る。
【0076】
前記測定装置や対応する方法の上記構成同士は、どのように組み合わせることも可能である。
【符号の説明】
【0077】
1 頭部
2 保持具
3 曲げセンサ
4 エネルギー貯蔵部
5 アナログ信号増幅部
6 A/D変換部
7 フィルタリング部
8 インターフェース部
9 記憶部
10 評価部
11 表示部
12 固体伝播音センサ
13 予備緊張力を発生させる機器
14 曲げセンサ
15 曲げセンサ
16 カフ
17 パッド
18 伸張体
19 伸張制限部
20 面ファスナー
21 カフ
22 記憶発泡体
23 可撓性パッド
24 エアークッション
25 ポンプ
26 カフ
27 弾性バンド
28 屈曲可撓体
29 カフ
30 C字状保持部
31 カフ
32 屈曲可撓体
33 カフ
34 パッド
35 調節ねじ
36 表示部
37 外表面
38 頭蓋縫合部
39 テープ
40 パッド
41 支持体
42 突起
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14a
図14b
図14c
図14d
図14e
図15
図16
図17
図18
図19
【国際調査報告】