(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-10
(54)【発明の名称】めっき性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20231227BHJP
C22C 38/06 20060101ALI20231227BHJP
C21D 9/46 20060101ALI20231227BHJP
【FI】
C22C38/00 301T
C22C38/06
C21D9/46 J
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023536483
(86)(22)【出願日】2021-12-09
(85)【翻訳文提出日】2023-08-09
(86)【国際出願番号】 KR2021018616
(87)【国際公開番号】W WO2022131671
(87)【国際公開日】2022-06-23
(31)【優先権主張番号】10-2020-0178318
(32)【優先日】2020-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ヤン-ハ
(72)【発明者】
【氏名】イ、 スク-キュ
(72)【発明者】
【氏名】ハン、 テ-キョ
(72)【発明者】
【氏名】カン、 デ-ヤン
【テーマコード(参考)】
4K037
【Fターム(参考)】
4K037EA01
4K037EA06
4K037EA15
4K037EA16
4K037EA27
4K037EA28
4K037EB05
4K037EB09
4K037FA02
4K037FA03
4K037FC03
4K037FC04
4K037FE02
4K037FE03
4K037FG00
4K037FH00
4K037GA05
(57)【要約】
本発明の一実施形態は、素地鋼板及び上記素地鋼板の一面又は両面に形成される溶融亜鉛めっき層を有する溶融亜鉛めっき鋼板であって、上記素地鋼板は、重量%で、炭素(C):0.1~0.3%、シリコン(Si):0.1~2.0%、アルミニウム(Al):0.1~1.5%、マンガン(Mn):1.5~3.0%、残部Fe及び不可避不純物を含み、上記Si及びAlの合計は1.2~3.5%を満たし、上記Al及びSiの比(Al/Si)は0.5~2.0を満たし、上記素地鋼板の表面粗さ(Ra)は0.5μm以上であり、上記素地鋼板の表面直下に厚さが4μm未満の内部酸化層を含む、めっき性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板及びその製造方法を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
素地鋼板及び前記素地鋼板の一面又は両面に形成される溶融亜鉛めっき層を有する溶融亜鉛めっき鋼板であって、
前記素地鋼板は、重量%で、炭素(C):0.1~0.3%、シリコン(Si):0.1~2.0%、アルミニウム(Al):0.1~1.5%、マンガン(Mn):1.5~3.0%、残部Fe及び不可避不純物を含み、前記Si及びAlの合計は1.2~3.5%を満たし、前記Al及びSiの比(Al/Si)は0.5~2.0を満たし、
前記素地鋼板の表面粗さ(Ra)は0.5μm以上であり、
前記素地鋼板の表面直下に厚さが4μm未満の内部酸化層を含む、めっき性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項2】
前記内部酸化層は、最大長さが4μm未満の酸化物を含む、請求項1に記載のめっき性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項3】
前記酸化物は、Al、Si複合酸化物からなる、請求項2に記載のめっき性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項4】
前記Al、Si複合酸化物は、結晶粒界において断続的に存在する、請求項3に記載のめっき性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項5】
前記Al、Si複合酸化物に含まれるAlのうち結晶粒界に存在するAlは、20nm以上の間隔を有する、請求項4に記載のめっき性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項6】
前記溶融亜鉛めっき鋼板は、600MPa以上の降伏強度、950MPa以上の引張強度及び20%以上の伸び率を有する、請求項1に記載のめっき性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項7】
前記溶融亜鉛めっき鋼板は、素地鋼板の全面積に対する溶融亜鉛めっき層の面積が95%以上である、請求項1に記載のめっき性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項8】
重量%で、炭素(C):0.1~0.3%、シリコン(Si):0.1~2.0%、アルミニウム(Al):0.1~1.5%、マンガン(Mn):1.5~3.0%、残部Fe及び不可避不純物を含み、前記Si及びAlの合計は1.2%以上を満たし、前記Al及びSiの比(Al/Si)は0.5~2.0を満たすスラブを1000~1300℃で再加熱する段階と、
前記再加熱されたスラブを800~950℃で熱間仕上げ圧延して熱延鋼板を得る段階と、
前記熱延鋼板を630~700℃で巻き取る段階と、
前記巻き取られた熱延鋼板を30秒超過60秒未満の間、酸洗する段階と、
前記酸洗された熱延鋼板を冷間圧延、焼鈍及び冷却して冷延鋼板を得る段階と、
前記冷延鋼板を溶融亜鉛めっきする段階と、を含む、めっき性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項9】
前記溶融亜鉛めっきする段階は、前記冷延鋼板を440~460℃の溶融亜鉛めっき浴に浸漬することを含む、請求項8に記載のめっき性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項10】
前記溶融亜鉛めっきする段階の後、前記溶融亜鉛めっきされた冷延鋼板を480~600℃で合金化熱処理する段階をさらに含む、請求項8に記載のめっき性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、めっき性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、浮上している環境規制により、自動車に対する厳しい燃費規制及び衝突安定性に対する規制強化に対応するための方案として、超高強度鋼板に対する需要が急増している。また、国別炭素排出量の削減目標を達成するために燃費の改善が求められている一方で、高性能化及び各種の便宜装置の増加により自動車の重量は持続的に増加しており、このような問題を解決するために超高強度鋼板の需要も持続的に増加している。そこで、鉄鋼メーカーでは、Dual Phase(DP)鋼、Transformation Induced Plasticity(TRIP)鋼、Complex Phase(CP)鋼などの高強度鋼板の開発に注力している。
【0003】
自動車用鋼板の高強度化のためには、強度を増加させるために鋼中に多量のSi、Mn、Al等の元素を添加することが一般的であるが、これら元素を含む鋼板は、焼鈍熱処理過程で上記元素が鋼板の表面に酸化物を生成することにより、溶融亜鉛めっき浴中に鋼板を浸漬する際にめっき性を劣らせ、めっき剥離を招くことがある。また、以後、スポット溶接過程において、液相溶融金属に母材金属粒界を介して浸透し、クラックを誘発する液体金属脆化(Liquid Metal Embrittlement)を起こし、スポット溶接性を劣らせる可能性がある。
【0004】
上述したSi、Mn、Alが多量に添加された鋼板のめっき性を向上させるためには、鋼板の表面に生成される酸化物を抑制しなければならず、このためには、鋼中に添加するSi及びAlの添加量を減らさなければならないが、このような場合、目標とする材質の確保が難しいという問題がある。
【0005】
これを解決するための代表的な技術としては、特許文献1がある。特許文献1は、鋼中にSb等の微量成分を添加することにより粒界に優先的に濃化させることで、Si酸化物等が表面に形成されることを抑制する技術に関するものである。
【0006】
しかし、鋼板の製造時に、鋼中における合金元素の拡散をより確実に防止できる技術の開発が依然として要求されているのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の一態様は、めっき性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板及びその製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一実施形態は、素地鋼板及び上記素地鋼板の一面又は両面に形成される溶融亜鉛めっき層を有する溶融亜鉛めっき鋼板であって、上記素地鋼板は、重量%で、炭素(C):0.1~0.3%、シリコン(Si):0.1~2.0%、アルミニウム(Al):0.1~1.5%、マンガン(Mn):1.5~3.0%、残部Fe及び不可避不純物を含み、上記Si及びAlの合計は1.2~3.5%を満たし、上記Al及びSiの比(Al/Si)は0.5~2.0を満たし、上記素地鋼板の表面粗さ(Ra)は0.5μm以上であり、上記素地鋼板の表面直下に厚さが4μm未満の内部酸化層を含むめっき性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板を提供する。
【0010】
本発明の他の実施形態は、重量%で、炭素(C):0.1~0.3%、シリコン(Si):0.1~2.0%、アルミニウム(Al):0.1~1.5%、マンガン(Mn):1.5~3.0%、残部Fe及び不可避不純物を含み、上記Si及びAlの合計は1.2%以上を満たし、上記Al及びSiの比(Al/Si)は0.5~2.0を満たすスラブを1000~1300℃で再加熱する段階と、上記再加熱されたスラブを800~950℃で熱間仕上げ圧延して熱延鋼板を得る段階と、上記熱延鋼板を630~700℃で巻き取る段階と、上記巻き取られた熱延鋼板を30秒超過60秒未満の間酸洗する段階と、上記酸洗された熱延鋼板を冷間圧延、焼鈍、及び冷却して冷延鋼板を得る段階と、上記冷延鋼板を溶融亜鉛めっきする段階と、を含む、めっき性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、めっき性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態による発明例1の表面写真である。
【
図2】本発明の一実施形態による比較例4の表面写真である。
【
図3】本発明の一実施形態による発明例1の冷延鋼板の断面を走査電子顕微鏡(SEM)で観察した写真である。
【
図4】本発明の一実施形態による比較例4の冷延鋼板の断面を走査電子顕微鏡(SEM)で観察した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態によるめっき性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板について説明する。本発明の溶融亜鉛めっき鋼板は、素地鋼板及び上記素地鋼板の一面又は両面に形成される溶融亜鉛めっき層を有する。まず、本発明の素地鋼板の合金組成について説明する。下記に説明される合金組成の含量は、特に断りのない限り、重量%を意味する。
【0014】
炭素(C):0.1~0.3%
上記Cは、オーステナイト組織の安定化に寄与する元素であって、その含量が増加するほどオーステナイト組織を確保する上で有利な側面がある。上記効果を得るためには、上記C含量は0.1%以上であることが好ましい。但し、0.3%を超える場合には、鋳片欠陥が発生することがあり、溶接性も低下するという問題がある。したがって、上記Cの含量は0.1~0.3%の範囲を有することが好ましい。上記C含量の下限は0.15%であることがより好ましい。上記C含量の上限は0.25%であることがより好ましい。
【0015】
シリコン(Si):0.1~2.0%
シリコン(Si)は、フェライト内において炭化物の析出を抑制し、フェライト内の炭素がオーステナイトに拡散することを助長し、残留オーステナイトの安定化に寄与する元素である。上述した効果を得るためには、上記Siが0.1%以上添加されることが好ましいが、その含量が2.0%を超える場合、圧延性が劣るだけでなく、熱処理過程で鋼板の表面に酸化物を形成し、めっき性及び密着性の劣化をもたらす可能性がある。したがって、上記Siの含量は0.1~2.0%の範囲を有することが好ましい。上記Si含量の下限は0.2%であることがより好ましい。上記Si含量の上限は1.8%であることがより好ましい。
【0016】
アルミニウム(Al):0.1~1.5%
アルミニウム(Al)は、鋼中の酸素と結合して脱酸作用をする元素であり、且つ、Alは上記Siのようにフェライト内で炭化物の生成を抑制して残留オーステナイトの安定化に寄与する元素である。上述した効果を得るためには、上記Alが0.1%以上添加されることが好ましいが、その含量が1.5%を超えると、スラブの健全性が劣るだけでなく、酸素親和力が強い元素であるため、鋼板の表面に酸化物を形成し、めっき性及び密着性の阻害をもたらす可能性がある。したがって、上記Alの含量は0.1~1.5%の範囲を有することが好ましい。上記Al含量の下限は0.2%であることがより好ましい。上記Al含量の上限は1.4%であることがより好ましい。
【0017】
マンガン(Mn):1.5~3.0%
上記Mnは、炭素と共にオーステナイト組織を安定化させる元素である。上記Mn含量が1.5%未満であると、フェライト変態の発生により目標とする強度の確保が難しくなり、3.0%を超えると、2次焼鈍熱処理過程で相変態の遅延によるマルテンサイトの形成のため、目標とする延性の確保に困難が発生する。したがって、上記Mnの含量は1.5~3.0%の範囲を有することが好ましい。上記Mn含量の下限は1.7%であることがより好ましい。上記Mn含量の上限は2.9%であることがより好ましい。
【0018】
上述した鋼組成以外に、残りはFe及び不可避不純物を含むことができる。不可避不純物は、通常の鉄鋼製造工程で意図せずに混入し得るものであって、これを全面的に排除することはできず、通常の鉄鋼製造分野の技術者であれば、その意味を容易に理解することができる。なお、本発明は、上述した鋼組成以外の他の組成の添加を全面的に排除するものではない。
【0019】
一方、上述したように、Si及びAlは共に残留オーステナイトの安定化に寄与する元素であって、これを効果的に達成するためには、SiとAlの含量の合計が1.2~3.5%の範囲を満たすことが好ましい。上記SiとAlの含量の合計が1.2%未満の場合には、伸び率増加の効果を十分に得ることが困難になることがある。これに対し、上記SiとAlの含量の合計が3.5%を超えると、鋳造性及び圧延性が劣るという問題を招くことがある。上記SiとAlの含量の合計の下限は1.3%であることがより好ましい。上記SiとAlの含量の合計の上限は3.4%であることがより好ましい。
【0020】
また、Al及びSiの比(Al/Si)は、0.5~2.0を満たすことが好ましい。上記Al及びSiの比が0.5未満の場合、Siベースのマトリックス化によりスポット溶接LME(Liquid Metal Embrittlement)敏感度が増加し、溶接性の劣化を招く可能性がある。これに対し、Al及びSiの比が2.0を超える場合、Alベースのマトリックス化により酸素親和力が相対的に高くなり、鋼板の表面に酸化物の形成が容易になることによりめっき性及び密着性が劣る可能性がある。上記Al及びSiの比の下限は0.6であることがより好ましい。上記Al及びSiの比の上限は1.9であることがより好ましい。
【0021】
本発明の溶融亜鉛めっき鋼板は、素地鋼板の表面粗さ(Ra)が0.5μm以上であることが好ましい。このように、素地鋼板に表面粗さを付与することにより、溶融亜鉛めっき層と素地鋼板との間にアンカリング効果(anchoring effect)による密着性を確保することができる。上記効果を得るためには、上記素地鋼板の表面粗さ(Ra)が0.5μm以上であることが好ましい。上記素地鋼板の表面粗さ(Ra)は0.7μm以上であることがより好ましい。一方、本発明では、上記素地鋼板の表面粗さが大きいほど、上述した効果を確保するのに有利であるため、その上限について特に限定しない。但し、製造工程上の限界により、上記素地鋼板の表面粗さは2μmを超えにくい場合がある。
【0022】
本発明の溶融亜鉛めっき鋼板は、素地鋼板の表面直下に厚さが4μm未満の内部酸化層を含むことが好ましい。本発明は、素地鋼板の表面直下に内部酸化層を形成させることにより、素地鋼板に存在するAlやSiが鋼板の表層部に拡散することを防止し、上記表層部にAl又はSi酸化物が形成されないようにすることで、めっき性を向上させることを一つの特徴としている。但し、上記内部酸化層の厚さが4μm以上の場合には、焼鈍熱処理過程で鋼板表面の酸化物がロールにピックアップされてデント(dent)のような表面欠陥を発生させることがあるという欠点がある。したがって、上記内部酸化層の厚さは4μm未満であることが好ましい。上記内部酸化層の厚さは3.5μm以下であることがより好ましい。
【0023】
上記内部酸化層は、最大長さが4μm未満の酸化物を含むことができる。上記酸化物の最大長さが4μm以上の場合には、焼鈍熱処理過程で鋼板表面の酸化物がロールにピックアップされてデントのような表面欠陥を発生させることがあるという欠点がある。したがって、上記酸化物の最大長さは4μm未満であることが好ましい。上記酸化物の最大長さは3.5μm以下であることがより好ましい。
【0024】
上記酸化物は、Al、Si複合酸化物からなることができる。このように、酸化物がAl、Si複合酸化物からなることで、酸化物の形態がレイヤー(layer)のような連続的な形態よりは、断続的な形態の酸化物を形成させ、めっき密着性を向上させることができる効果が得られる。
【0025】
上記Al、Si複合酸化物は、結晶粒内又は結晶粒界にいずれも存在することができるが、結晶粒界に相対的に多く存在することになる。このとき、上記Al、Si複合酸化物は結晶粒界において断続的に存在することが好ましい。このように、上記Al、Si複合酸化物を結晶粒界において断続的に存在させることにより、連続的に存在させることに比べて、めっき密着性の確保に有利になり得る。より具体的には、上記Al、Si複合酸化物に含まれるAlのうち結晶粒界に存在するAlは、20nm以上の間隔を有することができる。上記結晶粒界に存在するAlの間隔が20nm未満の場合には、めっき密着性の確保に困難が生じる可能性がある。上記結晶粒界に存在するAlの間隔は30nm以上であることがより好ましい。
【0026】
上述のように提供される本発明の溶融亜鉛めっき鋼板は、600MPa以上の降伏強度、950MPa以上の引張強度及び20%以上の伸び率を有し、優れた機械的物性を確保することができる。また、素地鋼板の全面積に対する溶融亜鉛めっき層の面積が95%以上でありながらも、めっき密着性が良好であり、優れためっき性を有することができる。また、LME亀裂が発生せず、優れたLME亀裂抵抗性を有することができる。
【0027】
以下、本発明の一実施形態によるめっき性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法について説明する。
【0028】
まず、上述した合金組成を満たすスラブを1000~1300℃で再加熱する。上記スラブ再加熱温度が1000℃未満の場合には、圧延荷重が著しく増加するという問題が発生することがあり、1300℃を超える場合には、表面スケールが過剰になるという問題が発生することがある。したがって、上記スラブ再加熱温度は、1000~1300℃の範囲を有することが好ましい。上記スラブ再加熱温度の下限は1050℃であることがより好ましい。上記スラブ再加熱温度の上限は1250℃であることがより好ましい。
【0029】
その後、上記再加熱されたスラブを800~950℃で熱間仕上げ圧延して熱延鋼板を得る。上記熱間仕上げ圧延温度が800℃未満の場合、圧延荷重が増加して圧延が困難になるという問題点があり、950℃を超える場合には、圧延ロールの熱的疲労の増加によりロール寿命が短くなるという欠点がある。したがって、上記熱間仕上げ圧延温度は、800~950℃の範囲を有することが好ましい。上記熱間仕上げ圧延温度の下限は830℃であることがより好ましい。上記熱間仕上げ圧延温度の上限は930℃であることがより好ましい。
【0030】
その後、上記熱延鋼板を630~700℃で巻き取る。上記巻取温度が630℃未満の場合には、内部酸化層が形成されないため、焼鈍熱処理過程で鋼板の表層部に酸化物の形成が促進され、めっき性に劣る可能性があり、700℃を超える場合には、内部酸化層の深さがかなり深くなり、以後の焼鈍熱処理過程でロールに酸化物がピックアップされ、デントのような表面欠陥を誘発することがある。したがって、上記巻取温度は630~700℃の範囲を有することが好ましい。上記巻取温度の下限は650℃であることがより好ましい。上記巻取温度の上限は680℃であることがより好ましい。
【0031】
その後、上記巻き取られた熱延鋼板を30秒超過60秒未満の間、酸洗する。上記酸洗時間が30秒以下の場合、熱延スケールが完全に除去されず、残留スケールによる未めっき及びめっき剥離を招くことがある。一方、60秒以上の場合には、内部酸化層の粒界に沿って酸洗液が浸透して内部酸化層を脱落させることにより、最終的に得られる鋼板の内部酸化層が完全に除去され、焼鈍熱処理過程で合金元素が鋼板の表層部に拡散することを抑制できず、めっき性及び密着性に劣る可能性がある。また、上記酸洗時間を満たさない場合には、素地鋼板の表面粗さ(Ra)が0.5μm未満となり、スムーズな表面が得られるため、以後のめっき過程において溶融亜鉛めっき層とのアンカリング(anchoring)効果を期待しにくく密着性の確保が困難になる。したがって、上記酸洗時間は30秒超過60秒未満の範囲を有することが好ましい。上記酸洗時間の下限は35秒であることがより好ましく、40秒であることがさらに好ましい。上記酸洗時間の上限は55秒であることがより好ましく、50秒であることがさらに好ましい。
【0032】
その後、上記酸洗された熱延鋼板を冷間圧延、焼鈍及び冷却して冷延鋼板を得る。本発明では、上記冷間圧延、焼鈍及び冷却条件について特に限定せず、当該技術分野において通常行われる条件を用いることができる。
【0033】
その後、上記冷却された冷延鋼板を溶融亜鉛めっきする。本発明では、上記溶融亜鉛めっき方法について特に限定せず、当該技術分野において通常用いられる条件を用いることができる。但し、例えば、上記冷延鋼板を440~460℃の溶融亜鉛めっき浴に浸漬する方式で行われることができる。上記溶融亜鉛めっき浴の温度が440℃未満の場合は、めっき浴の粘度が増加して鋼板を巻くロール(roll)の移動度が減少し、鋼板とロール間の滑り(slip)を誘発させて鋼板に欠陥を誘発することがあり、460℃を超える場合には、鋼板がめっき浴中に溶解する現象が促進され、Fe-Zn化合物形態のドロスの発生が加速化して表面欠陥を誘発させることがある。
【0034】
一方、上記溶融亜鉛めっき後、溶融亜鉛めっき鋼板を480~600℃で合金化熱処理する段階をさらに含むことができる。上記合金化熱処理温度が480℃未満の場合には、母材内のFeがめっき層内に十分に拡散せず、めっき層内のFe含量を十分に確保できない可能性があり、600℃を超える場合には、めっき層内のFe含量が過剰になり、鋼板を加工する過程でめっき層が脱落するパウダリング現象が発生することがある。
【実施例】
【0035】
以下、実施例を挙げて本発明についてより詳細に説明する。但し、下記の実施例は、本発明をより詳細に説明するための例示であり、本発明の権利範囲を限定するものではない。
【0036】
(実施例)
下記表1に記載の合金組成を有する溶融金属を真空溶解炉において、幅175mm、厚さ90mmのインゴットに製造した後、1200℃で1時間の間、再加熱して均質化処理を行い、Ar3以上の温度である900℃で熱間仕上げ圧延した後、下記表2に記載の条件で巻き取って熱延鋼板を製造した。この熱延鋼板を15%HClの酸洗液に下記表2の条件で浸漬して酸洗した。その後、50~60%の冷間圧下率で冷間圧延して冷延鋼板を製造した。この冷延鋼板を860℃の還元炉において5体積%の水素を含む窒素ガスを吹き込みながら焼鈍熱処理を行った後、冷却し、溶融亜鉛めっき浴に5秒間浸漬した後、エアワイピング(Air wipping)によりめっき付着量を片面基準60g/m2のレベルに調節して溶融亜鉛めっき鋼板を製造した。
【0037】
このようにして製造された溶融亜鉛めっき鋼板について機械的物性、素地鋼板の粗さ、内部酸化層の厚さ、酸化物の最大長さ、結晶粒界に存在するAlの間隔、めっき性及びLME亀裂抵抗性を測定した後、その結果を下記表2及び3に示した。一方、上記測定された酸化物はAl、Si複合酸化物であった。
【0038】
機械的物性は、溶融亜鉛めっき鋼板を圧延方向の垂直方向に40mm×200mmのサイズに切断し、側面をミリング研削した後、JIS 5号規格で引張試験片を作製して引張試験機で降伏強度(YS)、引張強度(TS)及び伸び率(EL)を測定した。
【0039】
素地鋼板の表面粗さ(Ra)、内部酸化層の厚さ、酸化物の最大長さは、走査電子顕微鏡(Scanning Electron Spectroscopy、SEM)を介して得られた断面の微細組織写真から10箇所を任意に選定して5000倍率で測定した後、その平均値を記載した。
【0040】
Al、Si複合酸化物に含まれるAlのうち結晶粒界に存在するAlの間隔は、透過電子顕微鏡(Transmission Electron Microscopy、TEM)を介してEDS(Energy Dispersive Spectroscopy)を用いた成分マッピングにより測定した。
【0041】
めっき性は、溶融亜鉛めっき鋼板の全面積に対する溶融亜鉛めっき層の形成面積をimage analysisで測定して分率を測定することと、構造用接着剤を溶融亜鉛めっき鋼板の上に塗布した後、175℃で20分間硬化させた後、90°にベンディング(bending)したとき、シーラー(sealer)に付くか否か(めっき密着性)を確認することにより評価した。
【0042】
LME亀裂抵抗性は、溶融亜鉛めっき鋼板を溶接した後、上限電流でLME亀裂が発生するか否かにより評価した。このとき、溶接は、先端径が6mmのCu-Cr電極を使用して溶接電流を流し、加圧力2.6kNで16サイクルの通電時間と15サイクルのホールディング時間の条件で行った。鋼板の厚さをtとするとき、ナゲット径が4√tより小さくなる時点の溶接電流を下限電流とし、スパッタリング(spattering)現象が発生する時点の溶接電流を上限電流(expulsion current)とした。
【0043】
【0044】
【0045】
【0046】
上記表1~3から分かるように、本発明が提案する合金組成及び製造条件を満たす発明例1~4の場合には、本発明が得ようとする素地鋼板の表面粗さ、内部酸化層の厚さ、酸化物の最大長さ、結晶粒界に存在するAlの間隔の条件を確保することにより、優れためっき性とLME亀裂抵抗性を有していることが分かる。
【0047】
これに対し、比較例1は、本発明が提案するSi及びAlの合計を満たさないことから、伸び率が低いレベルであることが分かる。
【0048】
比較例2は、本発明が提案するAl及びSiの比より低いレベルであり、LME亀裂が発生したことが分かる。
【0049】
比較例3は、本発明が提案するAl及びSiの比を超えることから、未めっきが多量に発生し、めっき品質が劣ることが分かる。
【0050】
比較例4は、本発明が提案する巻取温度を満たさないことから、内部酸化層が形成されず、未めっきが発生しただけでなく、めっき密着性にも劣ることが分かる。
【0051】
比較例5は、本発明が提案する酸洗速度を満たさないことから、内部酸化層が形成されず、未めっきが発生しただけでなく、めっき密着性にも劣ることが分かる。
【0052】
図1は発明例1の表面写真であり、
図2は比較例4の表面写真である。
図1及び
図2から分かるように、発明例1は、未めっき領域がほとんどなくめっき品質が良好であるのに対し、比較例4は未めっき領域が多くなり、めっき品質が劣ることが分かる。
【0053】
図3は、本発明例1の冷延鋼板の断面を走査電子顕微鏡(SEM)で観察した写真であり、
図4は、比較例3の冷延鋼板の断面を走査電子顕微鏡(SEM)で観察した写真である。
図3及び
図4から分かるように、発明例1は、素地鋼板に適切な表面粗さが形成され、内部酸化層が適正厚さで形成されたのに対し、比較例4は、素地鋼板の表面粗さが非常に低いだけでなく、内部酸化層が形成されていないことが確認できる。
【国際調査報告】