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特表2024-500731ウイルス起源の各感染症の治療のためのペプチド
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-10
(54)【発明の名称】ウイルス起源の各感染症の治療のためのペプチド
(51)【国際特許分類】
   C07K 7/08 20060101AFI20231227BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20231227BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20231227BHJP
   A61P 31/16 20060101ALI20231227BHJP
   A61P 31/20 20060101ALI20231227BHJP
   A61K 38/10 20060101ALI20231227BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231227BHJP
   A61P 31/22 20060101ALI20231227BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20231227BHJP
   C12N 7/06 20060101ALN20231227BHJP
【FI】
C07K7/08
A61P31/12 ZNA
A61P31/14
A61P31/16
A61P31/20
A61K38/10
A61P43/00 121
A61P31/22
A61K45/00
C12N7/06
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023536568
(86)(22)【出願日】2021-12-21
(85)【翻訳文提出日】2023-08-15
(86)【国際出願番号】 CU2021050015
(87)【国際公開番号】W WO2022135622
(87)【国際公開日】2022-06-30
(31)【優先権主張番号】2020-0110
(32)【優先日】2020-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CU
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】304012895
【氏名又は名称】セントロ デ インジエニエリア ジエネテイカ イ バイオテクノロジア
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フェルナンデス オルテガ、セリア ベルタ
(72)【発明者】
【氏名】ラミレス スアレス、アンナ、カリディス
(72)【発明者】
【氏名】カシージャス カサノバ、ディオンネ
(72)【発明者】
【氏名】デュアルテ カノ、カルロス、アントニオ
(72)【発明者】
【氏名】ウビエタ ゴメス、レイモンド
(72)【発明者】
【氏名】ギレン ニエト、ヘラルド、エンリケ
(72)【発明者】
【氏名】カブラレス リコ、アニア
(72)【発明者】
【氏名】アルバレス ペレス、カレン
(72)【発明者】
【氏名】ペレラ ゴンザレス、カルメン ラウラ
(72)【発明者】
【氏名】ファルコン カマ、ビビアン
(72)【発明者】
【氏名】ペレア ロドリゲス、シルビオ、エルネスト
(72)【発明者】
【氏名】ロドリゲス モルト、マリア、ピラール
(72)【発明者】
【氏名】ガライ ペレス、ヒルダ、エリサ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA95X
4B065BB19
4B065BB37
4B065CA44
4C084AA01
4C084AA02
4C084AA19
4C084AA22
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA18
4C084BA23
4C084CA59
4C084MA02
4C084MA55
4C084MA56
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZB331
4C084ZB332
4C084ZC751
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA01
4H045BA17
4H045BA72
4H045EA29
4H045FA33
(57)【要約】
配列番号2~配列番号20からなる群から選択されるアミノ酸配列を持つペプチド、並びに当該ペプチドを含む医薬組成物。配列番号1として特定されるアミノ酸配列を有するペプチドを含む、哺乳動物呼吸器系の上皮細胞に感染するウイルスによって引き起こされる感染症の治療又は予防のための医薬組成物。本発明は、哺乳動物呼吸器系の上皮細胞に感染するウイルスによって引き起こされる感染症の治療又は予防のための医薬品を製造するための、配列番号1~配列番号20として特定されるアミノ酸配列を有するペプチドの使用を含む。配列番号1~配列番号20として特定されるアミノ酸配列の少なくとも1つのペプチドと、抗ウイルス医薬との組合せも開示される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号2~配列番号20からなる群から選択されるアミノ酸配列を有することを特徴とする、ペプチド。
【請求項2】
配列番号2~配列番号20からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する少なくとも1つのペプチドと、薬学的に許容され得る賦形剤とを含むことを特徴とする、医薬組成物。
【請求項3】
配列番号1として特定されるアミノ酸配列を有するペプチドをさらに含む、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
非経口経路又は粘膜経路による投与のために製剤化される、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項5】
配列番号1として特定されるアミノ酸配列を有するペプチドと、薬学的に許容され得る賦形剤とを含む、哺乳動物呼吸器系の上皮細胞に感染するウイルスによって引き起こされる感染症を治療又は予防するための、医薬組成物。
【請求項6】
非経口経路又は粘膜経路による投与のために製剤化される、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記感染症が、コロナウイルス科、オルトミクソウイルス科及びパラミクソウイルス科、ピコルナウイルス科、並びにアデノウイルス科のウイルスによって引き起こされる、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記感染症が、コロナウイルス、インフルエンザウイルス、パラインフルエンザ、呼吸器多核体ウイルス、アデノウイルス、デングウイルス、単純ヘルペスウイルス、サイトメガロウイルス、及び豚熱ウイルスからなる群からのウイルスによって引き起こされる、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項9】
哺乳動物呼吸器系の上皮細胞に感染するウイルスによって引き起こされる感染症を治療又は予防するための医薬品を製造するための、配列番号1~配列番号20からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するペプチドの使用。
【請求項10】
前記感染症が、コロナウイルス科、オルトミクソウイルス科及びパラミクソウイルス科、ピコルナウイルス科、並びにアデノウイルス科のウイルスによって引き起こされる、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
前記感染症が、コロナウイルス、インフルエンザウイルス、パラインフルエンザウイルス、呼吸器多核体ウイルス、アデノウイルス、デングウイルス、単純ヘルペスウイルス、サイトメガロウイルス、及び豚熱ウイルスからなる群から選択されるウイルスによって引き起こされる、請求項9に記載の使用。
【請求項12】
前記医薬品が、配列番号1~配列番号20からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する2つ以上のペプチドを含む、請求項9に記載の使用。
【請求項13】
哺乳動物呼吸器系の上皮細胞に感染するウイルスによって引き起こされる感染症を治療又は予防するための方法であって、治療有効量の、配列番号1~配列番号20からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する少なくとも1つのペプチドを、それを必要とする個体に投与することを特徴とする、方法。
【請求項14】
前記感染症が、コロナウイルス科、オルトミクソウイルス科及びパラミクソウイルス科、ピコルナウイルス科、並びにアデノウイルス科のウイルスによって引き起こされる、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記感染症が、コロナウイルス、インフルエンザウイルス、パラインフルエンザウイルス、呼吸器多核体ウイルス、アデノウイルス、デングウイルス、単純ヘルペスウイルス、サイトメガロウイルス、及び豚熱ウイルスからなる群から選択されるウイルスによって引き起こされる、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
抗ウイルス薬が前記個体にさらに投与される、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記ペプチド及び前記抗ウイルス薬を、同時に又は順次投与する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記抗ウイルス薬が、リバビリン、イベルメクチン、ペンシクロビル、ニタゾキサニド、ナファモスタット、レムデシビル、ファビピラビル、配列番号23として特定されるペプチド、アルファインターフェロン(IFN)、ガンマIFN、又はそれらの組合せからなる群から選択される、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
配列番号1~配列番号20からなる群から選択されるアミノ酸配列を持つ2つ以上のペプチドを含むことを特徴とする、組合せ医薬。
【請求項20】
前記ペプチドが、同じ治療の過程で同時に又は順次投与される、請求項19に記載の組合せ医薬。
【請求項21】
哺乳動物呼吸器系の上皮細胞に感染するウイルスによって引き起こされる感染症を治療又は予防するための組合せ医薬であって、a)配列番号1~配列番号20からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する少なくとも1つのペプチドと、b)抗ウイルス薬とを含むことを特徴とする、組合せ医薬。
【請求項22】
前記抗ウイルス薬が、リバビリン、イベルメクチン、ペンシクロビル、ニタゾキサニド、ナファモスタット、レムデシビル、ファビピラビル、配列番号23として特定されるペプチド、アルファインターフェロン(IFN)、ガンマIFN、又はそれらの組合せからなる群から選択される、請求項21に記載の組合せ医薬。
【請求項23】
前記ペプチド及び前記抗ウイルス薬が、同じ治療の過程で同時に又は順次投与される、請求項21に記載の組合せ医薬。
【請求項24】
前記感染症が、コロナウイルス科、オルトミクソウイルス科及びパラミクソウイルス科、ピコルナウイルス科、並びにアデノウイルス科のウイルスによって引き起こされる、請求項21に記載の組合せ医薬。
【請求項25】
前記感染症が、コロナウイルス、インフルエンザウイルス、パラインフルエンザ、呼吸器多核体ウイルス、アデノウイルス、デングウイルス、単純ヘルペスウイルス、サイトメガロウイルス、及び豚熱ウイルスからなる群から選択されるウイルスによって引き起こされる、請求項21に記載の組合せ医薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルス学及び製薬産業の分野に関する。特に、本発明は、呼吸器系の上皮細胞に感染する広範囲のウイルスの感染に対して抗ウイルス活性を有する相互に関連する配列を有する合成ペプチドの群、並びに当該ペプチドと他の抗ウイルス剤との相乗的組合せを開示する。
【背景技術】
【0002】
急性呼吸器疾患は、全ての年齢層において最も頻度の高い疾患である。これらの疾患の重要な部分は、ヒト及び動物の両方において、呼吸器系への初期又はその後のゲートウェイのいずれかとして、呼吸器系の上皮細胞に特異的に感染するウイルスによって引き起こされる。気道上皮は、それを上皮の残りの部分と区別する形態学的及び生理学的な特徴を有する。そもそも、ほとんどの気道の上皮は、単層の細胞で構成されているにもかかわらず、核が整列していないため、擬似層状化されていることによって区別される。一方、その他の上皮細胞とは異なり、大部分は線毛細胞からなる。粘液分泌杯細胞は、この上皮に存在し、他の上皮には存在しない別の細胞型である。気道の管腔に向かう繊毛の存在、並びに杯細胞の作用は、管の湿度を維持し、粒子が肺に入るのを防ぐ。呼吸器上皮細胞の別の特徴的な性質は、いわゆるPAMP(病原体関連分子パターン:Pathogen Associated Molecular Patterns)を認識することができる多数のパターン認識受容体(PRR:pattern recognition receptors)の存在であり、その機能は病原体の存在下で自然免疫応答を直ちに活性化することである。気道上皮には10種類のToll様受容体(TLR1~TLR10)が発現されている。特に、TLR3、TLR7、TLR8及びTLR9は、気道に感染するウイルスの検出に特化したTLRファミリーを構成する。防御機能に関連するこれらの細胞の別の特性は、とりわけ、インターフェロン、デフェンシン及び一酸化窒素(NO)等の抗ウイルス活性を有する分子を産生する能力である。さらに、それらは、サイトカイン及びケモカインを活性化する適応免疫応答を分泌することができる(Vareille M et al. 2011, Clin Microbiol Rev, Volume 24. No. 1, p. 210-229)。
【0003】
気道を通って侵入するウイルスの中には、インフルエンザウイルスを含むオルトミクソウイルス科のウイルス;パラインフルエンザ、呼吸器多核体ウイルス、及びヒトメタニューモウイルスを含むパラミクソウイルス科;ライノウイルス及びコクサッキーウイルスを含むピコルナウイルス科;アデノウイルスを含むアデノウイルス科;コロナウイルス(Nichols GW et al. 2008 Clin Microbiol Rev, Volume 21, No. 2. p. 274-290; De Clerk and Li. 2016, Clin Microbiol Rev, Volume 29, p. 695-747)によって代表される、コロナウイルス科のウイルスがある。
【0004】
言及された全てのウイルスは、ヒト及び動物において疾患を引き起こす。それらのいくつか、例えば季節性インフルエンザは、それらの高い罹患率のために毎年大きな経済的損失を引き起こすが、死亡率は低い。しかしながら、動物に感染するウイルスからの変化によって生成されたいくつかのインフルエンザ変異体は、1918年のスペインインフルエンザH1N1(死亡数4000万~1億人)、1957年のアジアインフルエンザH2N2(死亡数110万人)、又は1958年の香港H3N2インフルエンザ(死亡数500,000人)等、非常に致死的なアウトブレイクの原因となっている。近年では、1996年に中国で初めて検出されたH5N1鳥インフルエンザが、50%の死亡率でアジア及び北アフリカでのアウトブレイクを引き起こしている。呼吸器多核体ウイルスは、5歳未満の小児の間では毎年320万人が入院し、59,600人が死亡し、また118,200人が死亡すると推定されている(Shi T et al. 2017. Lancet, Volume 390, p. 946-58)。
【0005】
一方、他の経路を介して宿主に感染し、他の組織で最初に複製するウイルスがあるが、感染の過程で気道に感染して深刻な損傷を引き起こす可能性もある。この第2の群の中にはデングウイルスがあり、これは蚊の刺咬傷を介して血流に入るが、上皮肺細胞に感染することができ、疾患の悪化を引き起こす(Cheng NM et al. 2017. PLOS Neglected Tropical Diseases. doi.org/10.1371/journal.pntd.0005520; Lee YR et al. 2007, Virus Res, Volume 126, No. 1, p. 216-25)。
【0006】
デングウイルスは、世界中で毎年約3億9000万人に感染している。これらのうち、500,000人が重症疾患又は出血性デング熱を発症し、毎年25,000人が死亡している。実際、デングの重症の症例の多くは、これらの呼吸障害に関連している。これらの肺合併症のいくつかには、肺浸潤、胸水、非心原性肺水腫、及び呼吸不全が含まれる(Cheepsattayakorn A and Cheepsattayakorn R. 2014, Journal of Respiratory Medicine Research and Treatment doi: 10.5171/2014.162245; Marchiori E et al. 2009, Orphanet Journal of Rare Diseases, Volume 4, No. 8)。これらの特徴を示す他のウイルスは、ヘルペスウイルス科のウイルスである単純ヘルペスウイルス(HSV)及びサイトメガロウイルス(CMV)である。HSVは院内ウイルス性肺炎、気管支肺炎、及び急性呼吸器症候群を引き起こす(Luyt CE et al. 2011, Presse Med, Volume 40, p. E561-e568)。
【0007】
相対的な治療有効性を示すこれらのウイルスのいくつかについて抗ウイルス薬が開発されている。例えば、ヒトにおける使用が承認されている抗ウイルス薬の中には、ヘルペスウイルスに対するドクスウリジン、トリフルリジン及びブリブジン、インフルエンザに対するオセルタミビル、ザナミビル及びバロキサビルマルボキシル、並びに呼吸器多核体ウイルスに対するパリビズマブ及びトコザノールがある。それにもかかわらず、新たな作用機序、低コスト及び既存のものより少ない有害作用を有する新しくより効果的な抗ウイルス薬の継続的な開発が必要とされており、したがって、既存のものとは異なる機構を介して作用する新たな抗ウイルス剤の開発は、世界では健康上の優先事項である。
【0008】
デングウイルス及びコロナウイルス等の他のウイルスの場合、適切な有効な治療法はない(De Clerk and Li, 2016, Clin Microbiol Rev, Volume 29, p. 695-747)。特に、コロナウイルス科のメンバーは、動物及びヒトにおける広範囲の疾患の原因である。SARS-CoV、MERS-CoV及びSARS-CoV-2は、流行及び重篤な呼吸器感染症を引き起こす。2003年における人畜共通感染症ウイルスSARS-CoV(重症急性呼吸器症候群コロナウイルス)(Drosten C et al. 2003, New England Journal of Medicine, Volume 348, pp. 1967-1976)のアウトブレイク、及び10年後のMERS-CoV(中東呼吸器症候群コロナウイルス)(Cui J et al. 2019, Nature Reviews, Volume 17. doi.org/10.1038/s41579-018-0118-9)の出現は、ヒトにおいてこのタイプのウイルスによって引き起こされる大きな損傷の最初の証拠となった。どちらのコロナウイルスも重度の呼吸器疾患を引き起こし、制御される前に10,000人近くに感染している。
【0009】
今年、新たなコロナウイルスが報告され、SARS-CoV-2がコロナウイルス疾患2019(COVID-19)のアウトブレイクを引き起こし(Zhou P et al. 2020, Nature, 579, 270-273, doi.org/10.1038/s41586-020-2012-7)、これは、後に世界保健機関によってCOVID-19のパンデミックと宣言された。COVID-19として知られるこのウイルスによって引き起こされる疾患は、患者の約3%において致死的であり得る急性呼吸器症候群を特徴とする。このパンデミックは世界中に急速に拡散しており、2020年11月現在、7000万人を超える症例が確認され、150万人を超える人が死亡している。
【0010】
SARS-CoV-2を含む、ヒトにおける任意のコロナウイルスに対する任意の薬物の安全性及び有効性を実証する臨床的証拠はほとんどない(Kalil AC et al. 2020, JAMA, Volume 323, No. 19, p. 1897-1898)。14日間を超えて持続する持続性SARS-CoV-2感染症を有する患者において抗ウイルス効果を示す薬物の臨床的実証もない。臨床試験においてある程度の治療効果を示している抗ウイルス化合物はレムデシビル(Wang Y et al. 2020, Lancet, Volume 395, No. 10236, doi.org/10.1016/S0140-6736(20)31022-9)であるが、その範囲は狭いスペクトルの患者に限定され、その治療効果は必要とされるほど強力ではない。十分な科学的証拠によって支持される治療の欠如は、異なる治療レジメンの使用及びプロトコルの迅速な変更をもたらした。証明された治療法の欠如及び証拠に基づく治療ガイドラインを確立するための臨床試験の必要性が強調されている(Diaz E et al. 2020, Med Intensiva, doi.org/10.1016/j.medin.2020.06.017)。SARS-CoV-2感染症の治療には依然として満たされていない医学的必要性がある。コロナウイルス感染症、特にSARS-CoV-2のための新たな抗ウイルス治療選択肢の探索は、世界中でヒトの健康に対する緊急の必要性を構成している。コロナウイルス、インフルエンザ又は他の呼吸器ウイルスによって引き起こされる新たなパンデミックの脅威は、ウイルス感染症を制御することができる新規な抗ウイルス薬の必要性を強いる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明の説明
本発明は、配列番号2~配列番号20によって構成される群から選択されるアミノ酸配列を有するペプチド、並びにそれらのペプチドの少なくとも1つと、薬学的に許容され得る賦形剤とを含む医薬組成物を提供することによって上記で提起された課題を解決する。本発明の一実施形態では、当該医薬組成物は、非経口経路又は粘膜経路による投与のために製剤化される。本発明はまた、配列番号1として特定されるアミノ酸配列を有するペプチドと、薬学的に許容され得る賦形剤とを含む、哺乳動物呼吸器系の上皮細胞に感染するウイルスによって引き起こされる感染症を治療又は予防するための、医薬組成物を提供する。配列表において配列番号1~配列番号20として特定される合成ペプチドの群は、それらの一次構造によって互いに関連している。
【0012】
特に、本発明は、コロナウイルス科、オルトミクソウイルス科及びパラミクソウイルス科、ピコルナウイルス科、並びにアデノウイルス科のウイルス等の呼吸器系の上皮細胞に直接感染するウイルスによって引き起こされるウイルス感染症の阻害に関する。より具体的には、本発明は、インフルエンザ、パラインフルエンザ、呼吸器多核体ウイルス、コロナウイルス、エンテロウイルス、及びアデノウイルス、とりわけ、SARS-CoV-1、SARS-CoV-2、MERS-CoV、ウシコロナウイルス(BCoV)、インフルエンザA、パラインフルエンザ3型、H1N1、H5N1、アデノウイルスAd7、ボカウイルスHBoV-1等に関する。本発明はまた、デングウイルス及びジカウイルス、単純ヘルペスウイルス及びサイトメガロウイルスによって引き起こされるウイルス感染症の治療に関し、これらのウイルスが気道、主に肺のレベルで引き起こし得る深刻な損傷を回避又は治療する。豚熱ウイルス等、主に動物に影響を及ぼすウイルスも含まれる。
【0013】
配列番号1として特定されるペプチドは、細胞骨格の中間径フィラメントがビメンチンによって形成される細胞において、ビメンチン細胞骨格において誘導されるウイルス複製を防止する修飾を介する、HIV複製の阻害剤として以前に報告されている(Fernandez-Ortega C et al. 2016, Viruses, Volume 8, No, 6, doi.org/10.3390/v8060098)。一方、技術水準は、ビメンチンが、このタンパク質によって形成された細胞骨格中間径フィラメントを有する細胞におけるウイルス阻害の重要な標的であることを示した。2015年、Zhang et al.は、ビメンチン遺伝子サイレンシングがTGEV豚コロナウイルスのウイルス複製に影響を及ぼすことを報告した(Zhang X et al. 2015, Virus Research, http://dx.doi.org/10.1016/j.virusres.2014.12.013)。
【0014】
より最近になって、ビメンチンリン酸化は、SARS-CoV-2に感染した細胞において調節されることが報告された(Bouhaddou M et al. 2020, Cell, volume 182, p. 685-712. https://doi.org/10.1016/j.cell.2020.06.034)。しかしながら、本発明では、配列番号1として配列表において特定されるペプチドは、ビメンチン細胞骨格を提示しないウイルス感染の主要標的細胞において、コロナウイルスに対して強い抗ウイルス活性を示すことが見出された。さらに、本発明で言及されるウイルス感染症の治療に有用なこのペプチドの抗ウイルス作用は、ビメンチン細胞骨格とは無関係であることが実証された。より具体的には、本発明者らは、驚くべきことに、このペプチドが、当業者が何らの効果も期待していない細胞に感染するウイルスによって引き起こされる疾患の治療において使用され得ることを示す。本発明には、呼吸器系の上皮細胞に感染するウイルスに対して強い抗ウイルス活性を有する、説明されていないペプチドも含まれる。
【0015】
本発明の第1及び第2の例は、細胞骨格の一部としてビメンチンの中間径フィラメントを提示する細胞株における、BCoV及びSARS-CoV-2に対する、配列番号1として特定されるペプチド及びそれに関連する他のペプチドの抗ウイルス活性を実証する。驚くべきことに、これらのペプチドは、これらの細胞におけるビメンチン細胞骨格の再構成に影響を及ぼさない。これらの細胞株は上皮起源であるが、それらはin vitroでビメンチン細胞骨格を発生させた。技術水準によれば、ペプチドの作用によるその改変が予想されるはずであるが、これは起こらない。これらの細胞がビメンチンフィラメントを有するという事実にもかかわらず、本発明のペプチドは、これらの細胞骨格フィラメントを改変することなく、ウイルス細胞変性効果に対する阻害活性を示す。さらにより驚くべきことは、配列番号1~配列番号20として特定されるペプチドが、細胞骨格の一部としてビメンチン中間径フィラメントを提示しない呼吸器系の上皮細胞の初代培養物におけるコロナウイルス及び他のウイルスによる感染を阻害することができることの実証である。
【0016】
一方、以前の研究では、ウイルス侵入中のビメンチンとSARS-CoVのスパイク(S)タンパク質との間の直接的な相互作用が報告された。さらに、ビメンチンは、その細胞受容体へのSARS-CoVの結合及び細胞へのウイルス侵入において役割を果たすことが知られている(Yu et al. 2016, Journal of Biomedical Science, volume 23, number 14. doi 10.1186/s12929-016-0234-7)。驚くべきことに、本発明のペプチドは、SARS-CoV-2のSタンパク質とも、そのACE2受容体とも相互作用しないが、上記ウイルスのNタンパク質と相互作用する。
【0017】
本発明の別の予想外の結果は、配列番号1~20として配列表において特定されるペプチドによって引き起こされるウイルス阻害が、全ての上皮細胞において達成されなかったことである。HSV-1ウイルスの場合、その複製は、記載されるペプチドによって鼻粘膜の初代細胞において効率的に阻害される。しかしながら、本発明の例では、呼吸器系以外の上皮細胞ではウイルス複製の阻害が達成されなかったことが示されている。まとめると、これらの結果は全て、非常に驚くべきことに、これらのペプチドが、呼吸器系の上皮細胞に感染するウイルスに対して抗ウイルス活性を有することを実証している。この所見は、SARS-CoV-2、BCoV、インフルエンザA H1N1、パラインフルエンザ3型、呼吸器多核体ウイルス、アデノウイルスAd7、ボカウイルスHBoV-1、デングウイルス2、単純ヘルペスHSV-1及び豚熱ウイルスの複製の阻害を指すが、これらに限定されない。
【0018】
したがって、本発明のペプチドの抗ウイルス作用は、中間径ビメンチンフィラメントの変化も標的細胞膜上のその受容体へのウイルス結合の遮断も伴わない機構によって発揮される。この知見は、本発明のペプチドが、技術水準では報告されていない新規な機構を介してそれらの抗ウイルス活性を発現することを確認する。驚くべきことに、それらは、呼吸器系の上皮細胞におけるウイルス感染を阻害することができる。
【0019】
本発明の一実施形態では、配列番号1~配列番号20として配列表において特定されるペプチドを含む医薬組成物は、非経口経路又は粘膜経路によって投与されるように製剤化される。本発明の一実施形態では、配列番号1~配列番号20のペプチドで治療される感染症は、コロナウイルス科、オルトミクソウイルス科及びパラミクソウイルス科、ピコルナウイルス科、並びにアデノウイルス科のウイルスによって引き起こされる。特定の実施形態では、配列番号1~配列番号20のペプチドを含む医薬組成物は、コロナウイルス、インフルエンザウイルス、パラインフルエンザ、呼吸器多核体ウイルス、アデノウイルス、デングウイルス、単純ヘルペスウイルス、サイトメガロウイルス及び豚熱ウイルスによって引き起こされる感染症の治療又は予防に有用である。
【0020】
本発明の別の目的は、哺乳動物呼吸器系の上皮細胞に感染するウイルスによって引き起こされる感染症を治療又は予防するための薬物を製造するための、配列番号1~配列番号20からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するペプチドの使用である。特定の実施形態では、当該薬物は、配列番号1~配列番号20からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する2つ以上のペプチドを含む。
【0021】
したがって、本発明は、COVID-19、並びに呼吸器系の上皮細胞に感染するウイルスによって引き起こされる他の感染症の治療における配列番号1のペプチドの使用を含む。本発明はまた、これらの感染症の治療のための配列番号1のペプチドに構造的に関連する新たなペプチドを提供し、その侵入の初期標的が呼吸器系の細胞ではないが、この系の細胞により深刻な臨床結果をもたらし得るウイルスによって引き起こされるものを含む。これらのウイルスには、ヘルペスウイルス、デングウイルス、及びサイトメガロウイルスが含まれる。
【0022】
別の態様では、本発明は、哺乳動物呼吸器系の上皮細胞に感染するウイルスによって引き起こされる感染症を治療又は予防するための方法であって、治療有効量の、配列番号1~配列番号20からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する少なくとも1つのペプチドを、それを必要とする個体に投与することを特徴とする方法を提供する。本発明の方法の特定の実施形態において、感染症は、コロナウイルス科、オルトミクソウイルス科及びパラミクソウイルス科、ピコルナウイルス科、並びにアデノウイルス科のウイルスによって引き起こされる。本発明の方法の好ましい実施形態において、感染症は、コロナウイルス、インフルエンザウイルス、パラインフルエンザ、呼吸器多核体ウイルス、アデノウイルス、デングウイルス、単純ヘルペスウイルス、サイトメガロウイルス、及び豚熱ウイルスからなる群から選択されるウイルスによって引き起こされる。
【0023】
本発明の一実施形態において、治療又は予防の方法の一部として、抗ウイルス薬が個体にさらに投与される。配列番号1~配列番号20からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するペプチド及び抗ウイルス薬は、同じ治療スケジュールで同時に又は順次投与され得る。本発明の一実施形態において、抗ウイルス医薬は、リバビリン、イベルメクチン、ペンシクロビル、ニタゾキサニド、ナファモスタット、レムデシビル、ファビピラビル、配列番号23として特定されるペプチド、インターフェロン(IFN)アルファ、IFNガンマ、又はそれらの組合せからなる群から選択される。
【0024】
本発明の別の目的は、配列番号1~配列番号20からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する2つ以上のペプチドを含むことを特徴とする組合せ医薬である。本発明の一実施形態では、組合せ医薬において、ペプチドは、同じ治療の過程で同時に又は順次投与される。
【0025】
さらに、本発明は、a)配列番号1~配列番号20からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する少なくとも1つのペプチドと、b)抗ウイルス薬とを含むことを特徴とする、哺乳動物呼吸器系の上皮細胞に感染するウイルスによって引き起こされる感染を治療又は予防するための組合せ医薬を想定する。特定の実施形態では、組合せ医薬中の抗ウイルス薬は、リバビリン、イベルメクチン、ペンシクロビル、ニタゾキサニド、ナファモスタット、レムデシビル、ファビピラビル、配列番号23として特定されるペプチド、IFNアルファ、IFNガンマ、又はそれらの組合せによって形成される群から選択される。そのような組合せ医薬では、ペプチド及び抗ウイルス薬は、同じ治療の過程で同時に又は順次投与される。
【0026】
本発明では、配列番号1~配列番号20のペプチドと他の抗ウイルス化合物との組合せがそれらの阻害活性を増強し、相乗的な抗ウイルス活性をもたらすことが実証される。抗ウイルス薬は、リバビリン、イベルメクチン、ペンシクロビル、ニタゾキサニド、ナファモスタット、レムデシビル、ファビピラビル、配列番号23として特定されるペプチド、インターフェロンアルファ、インターフェロンガンマ、又はそれらの組合せによって形成される群から選択されるが、本発明の範囲はこれらに限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】配列番号1として配列表において特定されるペプチドによるウシコロナウイルスのMebus株の複製の阻害。(A):細胞変性効果の阻害、(B):RT-qPCRによるウイルスリボ核酸(RNA)のコピー数の減少。
図2】細胞株におけるビメンチン中間径フィラメントの免疫検出。MDBK細胞(パネルA)及びVeroE6細胞(パネルB)を、配列表において配列番号1として特定されるペプチドにより100μMで24時間処理した。処理細胞と未処理細胞との間でビメンチンフィラメントの構造に差は観察されなかった。CC:未処理細胞;標的:ビメンチン細胞骨格;40倍。
図3】配列番号1として配列表において特定されるペプチドとの異なる分子の相互作用アッセイに対応するセンサーグラム。(A)SARS-CoV-2タンパク質N、(B)デング2ウイルスカプシドタンパク質、(C)HIV p24タンパク質、(D)ポリクローナル抗配列番号1。全ての分析物を10nM~200nMの濃度範囲で測定し、相互作用の特徴的なパラメータを推定するために、試料あたり少なくとも5つの曲線を考慮に入れた。
図4】配列表において配列番号1として特定されるペプチドによる豚熱ウイルスの阻害。A.PK-15細胞におけるウイルス複製の阻害効果。B.3-(4.5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾール(MTT)ブロミドアッセイによって評価したPK15細胞におけるペプチドの細胞毒性。
図5】配列番号1として配列表において特定されるペプチド及びインターフェロンアルファ2bの併用処理の抗ウイルス効果の決定。MDBK細胞を24時間前に処理した。上記ペプチド、インターフェロン、又は両方の組合せをウシコロナウイルスのMebus株に感染させた。抗ウイルス効果の評価は、感染72時間後の培養上清中に存在するウイルスの感染能力を決定することによって行った。
【発明を実施するための形態】
【0028】

例1.配列番号1として特定されるペプチドによるウシコロナウイルス複製の阻害。
固相合成法を用いた化学合成により、配列表において配列番号1として特定されるペプチドを得た。このペプチドの抗ウイルス効果を評価するために、MDBKとして既知のウシ腎臓細胞を、10%ウシ胎児血清(FBS)を含むDMEM培養培地中、24ウェルプレートにウェルあたり280,000細胞で播種した。プレートを37℃及び5%COの湿潤環境でインキュベートした。18~24時間後、配列番号1として特定されるペプチドを異なる濃度で添加し、同一条件で1時間又は24時間インキュベートした。この処理時間が経過すると、培養培地を除去し、37℃及び5%COの湿潤環境において、200μLの無血清DMEM培地中、0.01の感染多重度(MOI)で、細胞をウシコロナウイルスのMebus株に1時間感染させた。その後、各ウェルの体積を、ペプチドの存在下で無血清DMEM培地を用いて1mLにした。120時間のインキュベーションを行い、MTTの代謝低下の方法により細胞培養物のバイアビリティを評価した。これを行うため、培養培地を除去した。200マイクロリットルのMTTを各ウェルに添加し、プレートを37℃、5%CO及び湿度95%で2~4時間インキュベートした。その後、300μLのイソブチルアルコールを添加し、プレートを1時間振盪した。MTT法の代替法として、細胞をクリスタルバイオレット(0.1%)で染色した。最後に、プレートリーダー(Amersham)において各ウェルの吸光度を570nmで測定した。抗ウイルス効果を、細胞変性効果(CPE)の阻害(図1A)、及びRT-qPCRによるウイルスRNAの阻害(図1B)のパーセントとして表した。結果は、配列番号1として特定されるペプチドがウシコロナウイルス感染に対して抗ウイルス効果を発揮することを実証している。
【0029】
例2.配列番号1~配列番号22として特定されるペプチドのSARS-CoV-2ウイルスに対する抗ウイルス効果の評価。
配列表の配列番号2~配列番号22として特定されるペプチドを、固相合成法を用いた化学合成により得た。配列番号1~配列番号22として特定されるペプチドのSARS-CoV-2コロナウイルスに対する抗ウイルス効果を評価するため、VeroE6細胞(アフリカミドリザル腎臓細胞)を、96ウェルプレートに、ウェルあたり20,000細胞で、10%FBSを含むMEM培養培地に播種し、37℃及び5%COの湿潤環境でインキュベートした。およそ24時間が経過した後、評価したペプチドを0.01μM~100μMの濃度範囲で添加し、同じ条件下で1時間又は24時間インキュベートした。続いて、培養培地を除去し、100μLの2%FBSを含むMEM培地中で、37℃及び5%COの湿潤環境において0.01のMOIで、細胞をSARS-CoV-2コロナウイルスに1時間感染させた。その後、各ウェルの体積を、ペプチドの存在下で2%FBSを含むMEM培地を用いて200μLにした。96時間インキュベートし、ニュートラルレッド染色法により培養物中の細胞生存率を評価した。このために、培地を除去し、100μLの色素を添加し、37℃、5%CO及び95%湿度で1時間インキュベートし、吸光度をプレートリーダーにおいて580nmで測定した。抗ウイルス効果をCPEの阻害率として表した。結果は、配列番号1として特定されるペプチド及びいくつかの関連ペプチドが、表1に観察されるように、ウシコロナウイルス感染に対して抗ウイルス効果を発揮することを実証している。
【表1】
【0030】
例3.MDBK細胞及びVeroE6細胞におけるビメンチン中間径フィラメントに対する配列番号1として同定されたペプチドの効果の評価。
配列番号1として同定されるペプチドのビメンチン中間径フィラメントに対する効果を評価するため、MDBK細胞及びVero E6細胞を100μMのペプチドで37℃及び5%COで24時間処理した。次いで、それらを固定し、アセトン:メタノール(1:1 V/V)の溶液中で-20℃にて10分間透過処理して、リン酸緩衝生理食塩水中の1%ウシ血清アルブミンで37℃にて30分間ブロックした。マウス抗ビメンチンIgG1モノクローナル抗体(4.5μg/mL)、続いてフルオレセインイソチオシアネートにコンジュゲートした抗マウス抗体(1/200)を使用して、ビメンチン中間径フィラメントを検出した。ビメンチン中間径フィラメントFI)は、細胞の核周囲領域から一方又は両方の極に向かって細胞質全体に分布していることが観察された。評価条件下で処理細胞と未処理細胞との間で超分子構造に差は観察されなかった。処理後、細胞の完全性に対する損傷は観察されなかった。ビメンチン細胞骨格は、MDBK細胞(図2A)又はVeroE6細胞(図2B)において配列番号1として特定されるペプチドによって改変されていない。配列番号2~22のペプチドを用いて行った同様の実験では、中間径フィラメントの構造にも改変は観察されなかった。
【0031】
例4.呼吸器系の上皮細胞の初代培養において種々のペプチドによって示される抗SARS-CoV-2活性
気道から得られた初代上皮細胞を使用して、研究中のペプチドがビメンチン細胞骨格を有しない細胞においてSARS-CoV-2ウイルスの複製を阻害するかどうかを調べた。これらの細胞は、ビメンチン中間径フィラメントを有しないことが知られている(Robinson-Bennett and Han A 2006.Handbook of Immunohistochemistry and in situ Hybridization of Human Carcinomas,vol,4.Edited by M.A.Hayat;Elsevier.537-47)。配列番号1~22として配列表において特定されるペプチドのSARS-CoV-2コロナウイルスに対する抗ウイルス活性を、Fulcher et al.(Fulcher et al. 2003, Methods in Molecular Medicine, vol. 107, Second Edition, Ed: J. Picot (c) Humana Press Inc., Totowa, NJ)に従って、鼻生検若しくは気管支生検、又は臓器ドナーから得られたヒト気道上皮(HAE)において評価した。初代細胞を、個人の同意を得て取得した。
【0032】
ヒト気道上皮の初代培養物をTranswellプレート中の気液界面で維持し、37℃及び5%COで1時間、MOI 1でSARS-CoV-2に感染させた。培養物をウイルスチャレンジの前に0.01μM~100μMの濃度で1時間又は24時間処理した。ウイルスチャレンジ後、ペプチドを24時間毎に培養物中で置換した。72時間後、アピカル(apical)洗浄及びSARS-CoV-2 RT-qPCRを行った。驚くべきことに、ペプチドは、中間径ビメンチンフィラメントを提示しない細胞においてこのウイルスの複製を阻害し、これは、このタンパク質の独立した抗ウイルス機構を示す(表2)。
【表2】
【0033】
配列表において配列番号1~配列番号22として特定される残りのペプチドもまた、記載されているような系において評価したところ、それらは、20%を超える阻害率に達しなかった配列番号21及び22のペプチドを除いて、60~70%の間の阻害範囲で、表2と同様に、ヒト気道上皮の初代培養物においてSARS-CoV-2を阻害した。
【0034】
例5.ペプチドとSARS-CoV-2タンパク質N及び他のウイルスタンパク質との相互作用
これらのペプチドの阻害効果が細胞骨格を介して起こらないことを示す、得られた予想外の結果から、可能な作用経路を検討した。特に、ペプチドとSARS-CoV-2タンパク質、並びにウイルスのヒト宿主細胞への侵入に関与するいくつかのタンパク質(中でも、SARS-CoV-2ウイルスのヌクレオカプシドタンパク質(Nタンパク質)、ACE2受容体の細胞外ドメイン及びウイルスSタンパク質の受容体結合ドメイン(RBD)との相互作用を検討した。同様に、以下に記載されるように、ペプチドと他のウイルス由来のタンパク質との相互作用を検討した。この研究では、表面プラズモン共鳴と呼ばれる光学原理に基づいて2つの分子間の相互作用を特徴付けることを可能にするBIACORE型センサを使用した。必要な測定を行うために、配列番号1として特定されるビオチン化ペプチド(中密度条件下)をストレプトアビジン(SA)官能化チップ(General Electric Healthcare. USA)の両チャネルに固定化した。再生プロセス後、表面上の固定化分子の完全性を確認するため、fc1チャネルを試料チャネルとして使用し、fc2チャネルを参照として使用した。
【0035】
固定化ペプチドの反応性を評価するため、配列番号1として特定されるペプチドに対して、1/3000の力価でウサギにおいて得られた特異的ポリクローナル抗体を使用した。ポリクローナル抗体の適用は、シグナル(RU)の増加を引き起こし、これはチップ表面への固定化後のその完全性と相関し得る分子認識の証拠である(図3D、表3)。
【0036】
配列番号1として特定されるペプチドと異なるタンパク質との相互作用の分析により、RBDもACE2ペプチドも配列番号1として特定されるペプチドと相互作用しないことが明らかになった。タンパク質Nは、検討された濃度範囲(10~200nM)で固定化された、配列番号1として特定されるペプチドと相互作用することにより、シグナル(RU)の有意な増加を示した(図3A)。この相互作用について推定されたKは3.58×10-9Mの値を有し、これは両方の相互作用物質間の(ナノモル範囲の)相互作用の高い親和性を前提としている。
【0037】
図3Bは、配列番号1として特定されるペプチドとデング2ウイルスカプシドタンパク質との相互作用の研究から得られたセンサーグラムを示し、タンパク質の濃度依存的相互作用を観察することができる。一方、配列番号1として特定されるペプチドとHIV-1 p24タンパク質との相互作用のセンサーグラム(図3C)は、相互作用がないことを示す。ジカウイルスのエンベロープタンパク質(ZIKV E)、デングウイルス2の非構造タンパク質1(NS1-D2)、及びインフルエンザH1N1ウイルスのカプシドタンパク質等の、SARS-CoV-2タンパク質Nと同様の特徴を有する他のウイルスタンパク質は、配列番号1、2、14及び15として特定されるペプチドとの相互作用を示した。このペプチドと種々のウイルスタンパク質との相互作用を特徴付ける最も重要なパラメータを表3及び表4に示す。
【0038】
HIV-1 p24タンパク質の場合、評価したペプチドとの相互作用はなかった(図3C)。この結果は、配列番号1として特定される既知のペプチドによるHIV-1感染の阻害が、呼吸器系の上皮細胞では満たされない特定の条件下でのこのペプチドの異なる作用機序によって引き起こされることを確認する。
【表3】
【0039】
驚くべきことに、これらの結果は全て、本発明のペプチドの抗ウイルス活性が、宿主細胞の細胞骨格とは無関係に、ウイルスとの相互作用の直接的な機構によって引き起こされるという事実を指し示している。
【表4】
【0040】
配列番号1~配列番号20として配列表において特定される残りのペプチドを評価したところ、同様の結果であった。配列番号21及び配列番号22として特定されるペプチドは、評価したタンパク質と相互作用しなかった。
【0041】
例6.配列表において配列番号1として特定されるペプチドによる豚熱(CSF)ウイルスの阻害。
配列表において配列番号1として特定されるペプチドの抗ウイルス効果を評価するため、96ウェルプレート中の50μLのDMEM培地に8500個/ウェルのPK15細胞を播種し、50μLのDMEMを加えるか、又はDMEMで希釈したペプチドを加えた。80μMから開始して、ペプチドの二倍連続希釈液を作製した。各点を3連で評価し、3つのウイルス不含細胞対照を含めた。プレートを37℃及び5%COで24時間インキュベートした。CSFウイルスMargarita株のうち、ウェルあたり100 TCID50を添加した(MOI 0.01)。プレートを72時間インキュベートし、培地を廃棄し、細胞を80℃で1時間固定した。次いで、それらをPBS中の100μLの2%ミルクで37℃にて1時間ブロッキングした。それらをPBS+0.05% Tween 20で3回洗浄し、ペルオキシダーゼにコンジュゲートしたE2ウイルスタンパク質に対するモノクローナル抗体の1:3000希釈液100μLを添加し、37℃で1時間インキュベートした。プレートをPBS+0.05% Tween 20で5回洗浄し、基質を添加した(5mgのオルトフェニレンジアミン+5μLのHを含む10mLのクエン酸緩衝液pH5.0)。室温で10分間インキュベートした後、ELISAプレートリーダーにおいて492nmで光学密度(OD)を決定した。
【0042】
阻害濃度50(IC50)値を得るため、対応する用量反応曲線を作成し(図4)、これらの値を、GraphPad Prismaソフトウェアを使用して推定した。並行して、PK15細胞に対するペプチドの細胞傷害効果を、MTTアッセイによって1μM~400μMの濃度範囲で試験した。このため、ペプチドとのインキュベーションを96時間延長し、次いで、MTTによる処理によって発色を行った。
【0043】
得られた結果は、配列番号1として特定されるペプチドが、細胞生存率に影響がない用量範囲で(図4B)、CSFウイルスの複製に濃度依存的阻害効果を及ぼすことができることを実証している(図4A)。抗ウイルスIC50(300nM)は、細胞傷害性濃度50(CC50>400μM)よりもはるかに高く、1333よりも高い非常に好ましい安全指数(SI)を与えることも示された。配列番号2~配列番号20として配列表において特定される残りのペプチドも、記載の系で評価したところ、同様の結果であった。
【0044】
例7.気道に感染する種々のウイルスに対するペプチドの抗ウイルス効果の実証。
Fulcher et al.(Fulcher et al.2003,Methods in Molecular Medicine,vol.107,Second Edition.Ed:J.Picot(c)Humana Press Inc.,Totowa,NJ)に従って、臓器ドナーの鼻腔、気管、気管支及び/又は肺からHAEの初代培養物を得た。異なる呼吸器ウイルスを用いて行われた阻害試験には、初期の実証を容易にするために、本発明のペプチドの異なる群を使用した。
【0045】
配列番号1、2、3、7、9、14及び19として特定されるペプチドのインフルエンザH1N1ウイルスに対する抗ウイルス活性を評価するため、気管-気管支組織由来のHAEを12又は24ウェルのTranswellプレート(Costar)で培養し、ウイルスチャレンジ前に、0.01~100μMの濃度で、2時間又は24時間ペプチドで前処理した。培養物を100PFU(プラーク形成単位)でインフルエンザA H1N1に4℃で1時間感染させ、PBSで洗浄し、37℃及び5%COで24時間インキュベートした。次いで、MDCK細胞におけるウイルス性能を評価するために収集したPBSを用いてアピカル洗浄を行った。これを行うため、MDCK細胞を96ウェルプレートに播種し、それらがコンフルエンスに達したとき、連続10倍希釈のアピカル洗浄液に細胞を感染させ、細胞を37℃で1時間インキュベートした。次に、それらをPBSで洗浄し、2×DMEM(1:1)中の寒天層を添加し、固化させた。続いて、プレートを37℃、5%COで48時間インキュベートし、PFU数を決定するためクリスタルバイオレットで染色した。ペプチドは、67~93のパーセンテージ範囲でウイルス複製を阻害した(表5)。
【0046】
配列番号1、2、8、13、15及び20として特定されるペプチドのパラインフルエンザウイルス3型(HPIV3)に対する抗ウイルス活性を評価するため、インフルエンザH1N1について記載されるようにアッセイを行ったが、感染は4000PFUを用いて37℃で90分間行った。PBSで洗浄した後、培養物をペプチドの存在下で3日間インキュベートした。後に、前述のように、PBSによるアピカル洗浄を実施し、収集して、MDCK細胞におけるウイルス性能を評価した。結果は、評価した濃度のペプチドの存在下での73~90の間のウイルス阻害の割合を示す(表5)。
【0047】
配列番号1、2、3、13、15及び20として特定されるペプチドの呼吸器多核体ウイルス(RSV)に対する抗ウイルス活性を、インフルエンザH1N1について記載されるとおりであるが、2×10PFUでの感染を37℃で2時間行って、気管支から得られたHAEにおいて評価した。PBSで洗浄した後、培養物を10日間インキュベートし、培地及びペプチドを2日毎に回復させた。ウイルスを、RT-qPCRによってRSV核タンパク質RNAを検出することによって評価した。ウイルス阻害値は75%超(75~91%)に達した(表5)。
【0048】
配列番号1、3、7、9、13及び15として特定されるペプチドのアデノウイルス7型に対する効果を評価するため、本発明者らは、インフルエンザH1N1ウイルスについて記載されるとおりであるが、AdV7 Gomen株を、MOI 1で37℃にて1時間、気管支から得られたHAE培養物に感染させて行った。培養物をPBSで洗浄し、37℃及び5%COで24時間インキュベートした。次いで、PBSを用いてアピカル洗浄を行い、これを収集してqPCRによってウイルスを検出した。ペプチドの存在下でのウイルスの阻害値は、68%超(68~82%)に達した(表5)。
【0049】
配列番号3、8、9、19及び20として特定されるペプチドのヒトボカウイルス(HBoV)に対する効果を達成し、H1N1について記載されるとおりであるが、気管由来のHAEを用いて、培養物を37℃で2時間、1のMOIで感染させて測定した。その後、培地を除去し、培養物を72時間維持してアピカル洗浄を行い、qPCRによってNS1領域におけるウイルスの存在を定量した。ペプチドの存在下で得られたウイルス阻害値は、67~87%の間であった(表5)。
【0050】
デングウイルス複製に対する配列番号1、2、7、8、14及び19として特定されるペプチドの阻害を評価するため、肺癌患者から得られ、30%FBSを含むDMEM培養培地で維持された肺細胞の初代培養を行った。ウイルスチャレンジの前に、0.01μM~100μMの濃度のペプチドで培養物を2時間又は24時間処理した。培地を廃棄し、細胞を37℃及び5%COで2時間、10のMOIでデング2ウイルスに感染させた。ウイルスを除去し、次いで洗浄を行い、培養物をDMEM培地中のペプチドで再度処理し、37℃及び5%COで48時間インキュベートした。その後、培養物を収集して、VeroE6細胞に対するウイルス性能を評価した。このために、細胞を24ウェルプレートに播種し、細胞がコンフルエンスに達すると、上清の連続10倍希釈液に感染させ、37℃及び5%COで1時間インキュベートした。次に、PBSで洗浄し、2×DMEM(1:1)中の寒天層を添加した。層を固化させ、37℃、5%COで48時間インキュベートした。プレートをクリスタルバイオレットで染色して、PFUの数を決定した。ペプチドは、68~88%のウイルス複製を阻害した(表5)。
【0051】
Glorieux et al.(Glorieux et al. 2011, PLoS ONE, 6(7): e22160, doi: 10.1371/journal.pone.0022160)に従って、ヒト鼻粘膜の一次外植片において単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)の複製を行った。外植片を24ウェルプレートで培養し、配列番号1、3、13、15及び20として特定されるペプチドで2時間、0.01~100μMの濃度で処理し、その後、無血清培地中10 TCID50 HSV-1/mLに37℃及び5%COで1時間感染させた。その後、培養物を洗浄し、培養培地中のペプチドの存在下、37℃及び5%COで36時間維持した。培養物を回収し、HSV-1をqPCRによって定量した。ウイルス阻害の割合は、ペプチドの存在下で70~92%の範囲であった(表5)。
【0052】
配列番号1~20として配列表において特定される全てのペプチドを、言及されたウイルスのそれぞれに対してその後の実験で評価し、表5に示す阻害範囲と同様の阻害範囲であった。
【表5】
【0053】
例8.呼吸器系由来の上皮細胞以外の上皮細胞に対するペプチドの効果。
本発明のペプチドが呼吸器系由来のもの以外の初代上皮細胞におけるウイルス感染を阻害するかどうかを見出すため、HSV-1感染をヒト角膜上皮細胞の初代培養物において試験した。細胞を80~90%コンフルエンスに達するまで48ウェルプレートに播種し、それらを配列番号1、13及び20として特定されるペプチドで異なる濃度で2時間処理し、無血清培地中10 TCID50のHSV-1/mLに37℃及び5%COで1時間感染させた。細胞を洗浄し、ペプチドで再度処理し、37℃及び5%COで72時間維持した。培養物中のHSV-1の存在をqPCRによって決定した。例7で実証されるように、これらのペプチドが初代呼吸細胞においてこのウイルスを阻害することができたという事実にもかかわらず、ペプチドの存在下で得られたウイルス阻害の割合は25%未満であった。
【0054】
例9.ウシコロナウイルス複製の阻害における配列番号1として特定されるペプチドとアルファインターフェロンとの相乗効果。
組換えアルファ2bインターフェロン(Heberon(商標)Alfa R、キューバ)と組み合わせた配列番号1として特定されるペプチドの抗ウイルス効果を、96ウェルプレートを使用して、MDBK細胞におけるウシコロナウイルスのMebus株の感染系によって評価した。ペプチド処理を10μMで24時間行い、インターフェロンとのインキュベーションを20μg/mLで24時間行った。結果を図5に示す。図から分かるように、両方の分子の組合せは、ペプチド単独と比較してウイルス感染をおよそ50倍減少させ、インターフェロンと比較して100倍減少させた。試験結果は、インターフェロンとの同時処理による上記ペプチドの抗ウイルス効果の増強を実証している。配列番号2~配列番号20として配列表において特定されるペプチドでも同様の結果が得られた。
【0055】
例10.抗ウイルス活性を有する異なる化合物と組み合わせたペプチドの効果。
SARS-CoV-2又は他のウイルスに対して抗ウイルス活性を有する化合物と組み合わせた配列番号1として特定されるペプチドの効果を評価するために、例2に記載されているように、VeroE6細胞に対してSARS-CoV-2ウイルスチャレンジアッセイを実施した。単層のVeroE6細胞を、配列番号1として特定されるペプチドと共に、10μMで1時間又は24時間、単独で、又は各抗ウイルス化合物と共に37℃、5%COで、0.1μM~100μMの濃度でインキュベートした。抗ウイルス効果をCPE阻害率として表し、ペプチドの有無による各化合物の阻害濃度50(IC50)を算出した。表6において、配列番号1、2及び3として特定されるペプチドの存在下で評価された化合物は、抗ウイルス活性に対する増強効果を示す。
【表6】
【0056】
配列番号2~配列番号20として配列表において特定される残りのペプチドも、表6に記載の化合物の活性を増強した。
【0057】
例11.配列番号1~20として配列表において特定されるペプチドのうち1つ以上を含む医薬組成物。
呼吸器系の上皮細胞に影響を及ぼすウイルスによって引き起こされる感染症の予防又は治療のための医薬組成物を得るため、1.0~20.0mg/mLの濃度の配列番号1~20として配列表において特定されるペプチドの少なくとも1つと、10.0~20.0mg/mlの間の濃度のスクロースと、0.1~6μg/mlの濃度の酢酸を含む製剤を開発した。組成物はさらに、水酸化ナトリウム及び注射用水を適量(十分な濃度で)含んでいた。製剤を加速安定性試験に供し、結果は、それらが95%を超える純度及び0.01cfu/mg(コロニー形成単位/mg)以下の微生物限界を有する均一な白色凍結乾燥物として残っており、発熱物質を含まず、10%以下の湿度パーセンテージ、60%以上のペプチド含量及び2~6の間のpHを有することを示した。
【0058】
例12.SARS-CoV-2に感染している患者における配列番号1として特定されるペプチドの抗ウイルス効果。
ヘルシンキ宣言に従ってヒト研究を行った。SARS-CoV-2に感染した患者群を、ヒトにおける臨床使用に適合され品質で得られた配列番号1として特定されるペプチドで治療した。ペプチドを皮下投与した。SARS-CoV-2ウイルスRNAの存在を、15日間にわたり48時間又は96時間毎に患者の鼻咽頭スワブにおいてRT-qPCR(Roche)によって決定した。いずれも疾患の初期段階にあり、同様の特徴を有する20人の患者をそれぞれ含む4つの群を形成した。群1の患者は、カレトラ(ロピナビル/リトナビル)、クロロキン、及びHeberon(商標)Alpha R(IFNα2b)に基づくCOVID-19療法において最も頻繁に使用される治療を受けた。群2は、この治療に加えて、配列表において配列番号1として特定されるペプチドを受けた。後者を2mg/kg体重で5日間皮下投与した。群3の患者は、カレトラ、クロロキン、並びに筋肉内IFNα2b(300万国際ユニット、MIU)及びIFNγ(0.5MIU)の複合製剤に基づく治療を受けた。群4の患者は、群3と同じ治療に加えて、配列表において配列番号1として特定されるペプチド(2mg/kg体重)を5日間にわたって皮下に受けた。
【0059】
結果は、ペプチドで治療した患者が、ペプチドの非存在下で同様の治療を行った患者と比較して、より短時間でSARS-CoV-2陰性になることを示した。SARS-CoV-2について陰性と検査された患者の数は、ペプチド抗ウイルス治療を受けた群でより高かった(表7)。治療開始後4日目に、ペプチドで治療した患者の80%及び85%(それぞれ2群及び4群)がSARS-CoV-2陰性であり、ペプチドなしで治療を受けた群が到達した割合(群1及び群3)よりも高い割合であった。治療開始後6日目に、群2及び4の患者の100%がSARS-CoV-2陰性であったが、ペプチドで処置しなかった患者は14日目に100%に達した(表7)。
【表7】
【0060】
例13.COVID-19患者と接触している健康な個体における配列番号1として配列表配列表において特定されるペプチドの効果。
健康な個体(COVID-19患者の接触者)をこの試験に含めた。同様のリスクの感染病原体に曝露された25人の健常個体の2つの群(群I及び群II)を分析した。群IIを、配列表において配列番号1として特定されるペプチドを14μg/mLの濃度で鼻腔内液滴として6日間毎日治療した。RT-qPCR(Roche)によるSARS-CoV-2検出のために鼻咽頭スワブ試料を収集した。サンプリングを、試験の開始時及び開始から7日後に行った。SARS-CoV-2決定の結果は、試験した25名のうち12名(48%)がSARS-CoV-2に感染していた未治療群とは対照的に、配列番号1として配列表において特定されるペプチドで治療した個体がウイルス感染から防御され、試験した25名の個体のうち1個体のみが感染したことを示した(3.9%)(表8)。
【表8】
【配列表フリーテキスト】
【0061】
配列表1 <223>人工配列の説明:合成ペプチド
配列表2 <223>人工配列の説明:合成ペプチド
配列表2<223>アセチル化
配列表3 <223>人工配列の説明:アセチル化されており、N6がDアミノ酸である合成ペプチド
配列表3 <223>アセチル化
配列表4 <223>人工配列の説明:アセチル化されており、N8がDアミノ酸である合成ペプチド
配列表4 <223>アセチル化
配列表5 <223>人工配列の説明:アセチル化されており、N9がDアミノ酸である合成ペプチド
配列表5<223>アセチル化
配列表6~配列表18 <223>人工配列の説明:合成ペプチド
配列表19 <223>人工配列の説明:N6がDアミノ酸である合成ペプチド
配列表20 <223>人工配列の説明:N8がDアミノ酸である合成ペプチド
配列表21~配列表22 <223>人工配列の説明:合成ペプチド
配列表23 <223>人工配列の説明:C15とC25との間にジスルフィド結合を有する抗ウイルス合成ペプチド
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
2024500731000001.app
【手続補正書】
【提出日】2023-08-15
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号2~配列番号20からなる群から選択されるアミノ酸配列を有することを特徴とする、ペプチド。
【請求項2】
配列番号2~配列番号20からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する少なくとも1つのペプチドと、薬学的に許容され得る賦形剤とを含むことを特徴とする、医薬組成物。
【請求項3】
配列番号1として特定されるアミノ酸配列を有するペプチドをさらに含む、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
非経口経路又は粘膜経路による投与のために製剤化される、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項5】
配列番号1として特定されるアミノ酸配列を有するペプチドと、薬学的に許容され得る賦形剤とを含む、哺乳動物呼吸器系の上皮細胞に感染するウイルスによって引き起こされる感染症を治療又は予防するための、医薬組成物。
【請求項6】
非経口経路又は粘膜経路による投与のために製剤化される、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記感染症が、コロナウイルス科、オルトミクソウイルス科及びパラミクソウイルス科、ピコルナウイルス科、又はアデノウイルス科のウイルスによって引き起こされる、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記感染症が、コロナウイルス、インフルエンザウイルス、パラインフルエンザ、呼吸器多核体ウイルス、アデノウイルス、デングウイルス、単純ヘルペスウイルス、サイトメガロウイルス、及び豚熱ウイルスからなる群から選択されるウイルスによって引き起こされる、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項9】
哺乳動物呼吸器系の上皮細胞に感染するウイルスによって引き起こされる感染症を治療又は予防するための医薬品を製造するための、配列番号1~配列番号20からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するペプチドの使用。
【請求項10】
前記感染症が、コロナウイルス科、オルトミクソウイルス科及びパラミクソウイルス科、ピコルナウイルス科、又はアデノウイルス科のウイルスによって引き起こされる、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
前記感染症が、コロナウイルス、インフルエンザウイルス、パラインフルエンザウイルス、呼吸器多核体ウイルス、アデノウイルス、デングウイルス、単純ヘルペスウイルス、サイトメガロウイルス、及び豚熱ウイルスからなる群から選択されるウイルスによって引き起こされる、請求項9に記載の使用。
【請求項12】
前記医薬品が、配列番号1~配列番号20からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する2つ以上のペプチドを含む、請求項9に記載の使用。
【請求項13】
哺乳動物呼吸器系の上皮細胞に感染するウイルスによって引き起こされる感染症を治療又は予防するための医薬組成物であって、治療有効量の、配列番号1~配列番号20からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する少なくとも1つのペプチドを含み、それを必要とする個体に投与されることを特徴とする、上記医薬組成物
【請求項14】
前記感染症が、コロナウイルス科、オルトミクソウイルス科及びパラミクソウイルス科、ピコルナウイルス科、又はアデノウイルス科のウイルスによって引き起こされる、請求項13に記載の医薬組成物
【請求項15】
前記感染症が、コロナウイルス、インフルエンザウイルス、パラインフルエンザウイルス、呼吸器多核体ウイルス、アデノウイルス、デングウイルス、単純ヘルペスウイルス、サイトメガロウイルス、及び豚熱ウイルスからなる群から選択されるウイルスによって引き起こされる、請求項13に記載の医薬組成物
【請求項16】
抗ウイルス薬が前記個体にさらに投与される、請求項13に記載の医薬組成物
【請求項17】
前記医薬組成物及び前記抗ウイルス薬、同時に又は順次投与される、請求項16に記載の医薬組成物
【請求項18】
前記抗ウイルス薬が、リバビリン、イベルメクチン、ペンシクロビル、ニタゾキサニド、ナファモスタット、レムデシビル、ファビピラビル、配列番号23として特定されるペプチド、アルファインターフェロン(IFN)、ガンマIFN、又はそれらの組合せからなる群から選択される、請求項16に記載の医薬組成物
【請求項19】
配列番号1~配列番号20からなる群から選択されるアミノ酸配列を持つ2つ以上のペプチドを含むことを特徴とする、組合せ医薬。
【請求項20】
前記ペプチドが、同じ治療の過程で同時に又は順次投与される、請求項19に記載の組合せ医薬。
【請求項21】
哺乳動物呼吸器系の上皮細胞に感染するウイルスによって引き起こされる感染症を治療又は予防するための組合せ医薬であって、a)配列番号1~配列番号20からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する少なくとも1つのペプチドと、b)抗ウイルス薬とを含むことを特徴とする、組合せ医薬。
【請求項22】
前記抗ウイルス薬が、リバビリン、イベルメクチン、ペンシクロビル、ニタゾキサニド、ナファモスタット、レムデシビル、ファビピラビル、配列番号23として特定されるペプチド、アルファインターフェロン(IFN)、ガンマIFN、又はそれらの組合せからなる群から選択される、請求項21に記載の組合せ医薬。
【請求項23】
前記ペプチド及び前記抗ウイルス薬が、同じ治療の過程で同時に又は順次投与される、請求項21に記載の組合せ医薬。
【請求項24】
前記感染症が、コロナウイルス科、オルトミクソウイルス科及びパラミクソウイルス科、ピコルナウイルス科、又はアデノウイルス科のウイルスによって引き起こされる、請求項21に記載の組合せ医薬。
【請求項25】
前記感染症が、コロナウイルス、インフルエンザウイルス、パラインフルエンザ、呼吸器多核体ウイルス、アデノウイルス、デングウイルス、単純ヘルペスウイルス、サイトメガロウイルス、及び豚熱ウイルスからなる群から選択されるウイルスによって引き起こされる、請求項21に記載の組合せ医薬。
【国際調査報告】