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特表2024-500738椎間板ヘルニアの治療に使用する組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-10
(54)【発明の名称】椎間板ヘルニアの治療に使用する組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/19 20060101AFI20231227BHJP
   A61P 19/00 20060101ALI20231227BHJP
   A61K 49/04 20060101ALI20231227BHJP
【FI】
A61K31/19
A61P19/00
A61K49/04 210
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023536818
(86)(22)【出願日】2021-12-17
(85)【翻訳文提出日】2023-08-09
(86)【国際出願番号】 EP2021086409
(87)【国際公開番号】W WO2022129476
(87)【国際公開日】2022-06-23
(31)【優先権主張番号】2051481-6
(32)【優先日】2020-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523220570
【氏名又は名称】ステイブル・セラピューティクス・エービー
【氏名又は名称原語表記】STAYBLE THERAPEUTICS AB
【住所又は居所原語表記】Arvid Hedvalls Backe 4,411 33 GOETEBORG,Sweden
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】レーマン、アンデルス
【テーマコード(参考)】
4C085
4C206
【Fターム(参考)】
4C085HH05
4C085KB39
4C085LL20
4C206AA01
4C206AA02
4C206DA02
4C206MA01
4C206MA02
4C206MA04
4C206NA14
4C206ZA96
(57)【要約】
本発明は、椎間板ヘルニアの治療に使用する組成物であって、前記組成物は乳酸を含み、前記組成物はヘルニア状態の椎間板のNPを含む椎間板腔に投与される組成物に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
椎間板(IVD)ヘルニアの治療に使用する組成物であって、前記組成物は乳酸を含み、前記組成物はヘルニア状態の椎間板の髄核(NP)を含む椎間板腔に投与される、組成物。
【請求項2】
前記組成物が、前記椎間板腔における乳酸の濃度を少なくとも20mmol/Lを超えるまで増加させるのに有効な量で投与される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記組成物が、前記ヘルニア状態のIVDを脱水するのに有効な量で投与される、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記組成物が、前記ヘルニア状態のIVDの高さを低減するのに有効な量で投与される、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
前記組成物が、前記ヘルニア状態のIVDの線維化を開始するのに有効な量で投与される、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物中の乳酸の濃度が、少なくとも12mmol/L、好ましくは50~12000mmol/L、より好ましくは100~10000mmol/L、更に一層好ましくは500~5000mmol/L、最も好ましくは800~2000mmol/Lである、請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
前記乳酸が、局所注入によって、前記ヘルニア状態のIVDのNPを含む椎間板腔に投与される、請求項1~6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
前記乳酸が、2mg~1000mg、好ましくは5mg~500mg、好ましくは10~300mg、より好ましくは20~200mg、より好ましくは90~180mgの単回用量で投与される、請求項1~7のいずれかに記載の組成物。
【請求項9】
前記乳酸が、単一の機会に前記単回用量で投与される、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記組成物が乳酸を含む水溶液である、請求項1~9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
前記組成物のpHが4.0未満、好ましくは3.5未満、より好ましくは3.0未満である、請求項1~10のいずれかに記載の組成物。
【請求項12】
前記組成物が造影剤を更に含む、請求項1~11のいずれかに記載の組成物。
【請求項13】
前記造影剤がヨウ素含有造影剤、例えばイオヘキソールである、請求項12に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、椎間板ヘルニアの治療に使用する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
腰痛は、80%を超える人々にその生涯のある時点で影響を及ぼしていると考えられ、世界中で最も蔓延している医学的状態の1つである。腰痛は、病態生理が知られた特定の疾患ではなく、むしろ多くの原因による症状である。腰痛は、40歳未満のヒトにおける障害の主な原因である。腰痛の生涯有病率は約70~85%であり、約10~20%が慢性腰痛を経験しており、基本的に全ての国の、医療、社会及び経済への大きな負担となっている。
【0003】
慢性腰痛を患っている多くの患者は、症候性膨隆又はヘルニア状態の椎間板(IVD)という、椎間板ヘルニアとして公知の状態にある。椎間板は、隣接する2つの椎骨間に配置されている。椎間板は、通常柔軟で、隣接する椎骨間の運動を可能にする。これは、コラーゲンを主として含む結合組織の円板状の外側部分と、例えばコラーゲン及びプロテオグリカンを含む半液体の中心部分によって形成される。外側部分は線維輪(AF)と呼ばれ、中心部分は髄核(NP)と呼ばれる。NPの組成は、水が70~90%、プロテオグリカンが25~60%(乾燥重量)及びコラーゲンが10~20%(乾燥重量)で、高度にゼラチン状である。NPの機能は、日中に長時間の圧迫に耐えることと、夜間に弾性的に再膨張し、椎間板の高さを回復させることである。NPは、軟骨性のAF層によって保持され取り囲まれている。NP及びAFは一緒に弾性クッションとして作用する。直立姿勢では、体重が、一連の椎骨の間で交互に配置されるこれらのクッションの積み重ねを常に圧迫する。絶え間ない圧迫の間、各椎間板のNPは貯水槽としても機能し、ゆっくりと、そして、常に圧搾され、椎骨につながる終板を介して水分を排出している。その結果、椎間板の高さは、日中にわずかに減少する。臥床安静中は、身体は椎間板を圧迫しない。したがって、NPの吸水性により、水の流れは椎骨の血管から逆向きにプロテオグリカン及びコラーゲンマトリックスへ戻る。その結果、椎間板の高さが回復し、翌日の支持及び柔軟性を提供する準備が整う。
【0004】
椎間板ヘルニアは、核の変形として定義できる。ヘルニアは、変形の種類及び特徴に応じて、椎間板膨隆、椎間板突出、椎間板脱出又は椎間板遊離によって定義できる。突出の場合、核は外側の輪状線維の内側にあるが、脱出の場合は、そうではない。後者はヘルニアの頸部が円蓋部より狭いことを特徴とするが、突出では、その形状はより三角に近い。椎間板脱出は、多くの場合、その後に、遊離した椎間板の材料が脊柱管内で見られる遊離が続く。脱出は椎間板内注入で治療できるが、遊離は外科的に除去する必要がある。
【0005】
ほとんどの椎間板ヘルニアは30~50歳の人々において見られるが、10代の若者や高齢者でも発症する可能性がある。西洋の人々の約30%が、生涯のある時点で、主に椎間板ヘルニアによる坐骨神経痛に冒される。スウェーデンでは、人口の最大2%が、生涯のうちに椎間板ヘルニアの手術を受ける。椎間板ヘルニアは、主に腰背部、すなわち腰部椎骨L1~L5の間の椎間板で発生する。この種のIVDヘルニアは、腰部椎間板ヘルニア(LDH)と呼ばれる。最も下の2つの腰部椎間板は、LDHの全症例の95%を占める。しかし、ヘルニアは、脊椎の他の領域でも発生する可能性がある。
【0006】
年間発生率は全成人の0.5~2%で、この疾患は、女性と比較して男性に2倍多く見られる。有病率は1~3%で変動する。
【0007】
多くの椎間板ヘルニアは、自発的に消失するため、全く治療されない。第一選択治療は外科的処置以外の方法であり、薬物療法と非薬物療法の両者を含む。最も一般に使用される薬物はNSAIDであるが、オピオイドも高頻度で使用される。鎮けい薬、例えばバクロフェンの使用は薬物療法の一部であり、ガバペンチン及び三環系抗うつ薬も時々使用されるが、それらの効果は不確実である。硬膜外ステロイド注入は椎間板ヘルニアに有効であることが判明している。長い間、理学療法が有効と考えられていたが、最近のデータにこれを裏付けるものはない。他の非薬物治療は鍼治療及び物理的処置を含むが、それらの効果のエビデンスは弱い。
【0008】
他の治療の選択肢は、低侵襲のもので、化学的髄核融解術又は経皮的髄核摘出術を含む。
【0009】
化学的髄核融解術では、NPを溶解するために、酵素、エタノール又はオゾン/酸素を椎間板に注入し、それにより、椎間板のNPが、例えば脊髄神経にかける圧力を低減する。この目的のために、2000年の変わり目まで、キモパパインの椎間板内注入が広く使用された。この治療は有効であることが判明しており、その作用機序は、椎間板の体積を小さくする細胞外マトリックスの酵素的分解である。重篤な副作用、例えば対麻痺(下肢の感覚及び運動機能の障害)及びそのうちの一部が致死的となるアナフィラキシー反応は、その後の市場からの製品の撤退につながった。治療した椎間板の高さが小さくなり過ぎて椎間板が変性し、その後の背部痛につながる可能性があるという点が、化学的髄核融解術の別の欠点である。他の酵素、例えばコンドリアーゼが試験されてきた/開発中であるが、それらも種々の重篤な副作用を生じる可能性がある。幹細胞及び多血小板血漿も評価されており、ある程度の有望性が示されているが、その効果を実証する対照試験が少ない。
【0010】
化学的髄核融解術に代わる方法は経皮的髄核摘出術であり、IVDの体積が減るように、NPは機械的に又は真空によって部分的に除去される。しかし、除去されるNPの量は正確に制御できず、予測不可能な結果や低い成功率につながる。
【0011】
手術(椎間板切除術)は、椎間板ヘルニアの第二選択療法のゴールドスタンダードである。椎間板切除術は、症状、特に下肢放散痛に対して非常に有効である。椎間板ヘルニアの手術を受けた患者のうちの約85%は、その結果に満足している。それにもかかわらず、椎間板切除術は、再手術のリスクが15~25%ある。
【0012】
多数の術後合併症が背部の手術後に発生する可能性がある。主要なものは、腰部の瘢痕化と脊柱の不安定性である。瘢痕組織が椎弓切除術部位及び椎間孔上に広がって侵入すると、疼痛の再発につながり、追加の手術につながる。実際に、再手術は非常に一般的で、10~20%に達する。残念なことに、再手術の成功率は、多くの場合最初の手術の成功率よりも低く、一部の症例でははるかに低い。再手術は、さらなる瘢痕化と、その結果の疼痛につながる。現在、疼痛及び不便さが全く耐え難いのでない限り、外科的処置は回避することが推奨されている。手術が成功し、長期的な疼痛が軽減された場合であっても、等運動性試験の結果は、外科的処置を受けていないヒトと比較して弱点を明確に示す。
【0013】
このような欠点を考慮して、椎間板ヘルニアのための種々の低侵襲の外科治療が開発されてきた。そのような方法の1つは、椎骨間の椎間板腔を強化し、IVDの中又はその付近に固定するように設計されている、例えば米国特許第5,800,550号、国際公開第00/40159号、国際公開第01/95818号及び米国特許出願公開第2004/097927号に開示された種々のデバイスの導入である。しかし、このようなデバイスは、椎骨の弾性クッション性、回転又は可動性を低減させ、また、種々の術後合併症が生じるという欠点がある。
【0014】
椎間板ヘルニアの治療に利用できる多くの方法を提供する当該技術分野における広範な研究にもかかわらず、単純で、副作用が最小限又は全くなく、長期的な効果が得られる、低侵襲の手段を提供することが依然として必要である。
【発明の概要】
【0015】
本発明は、従来技術の問題の少なくともいくつかを解決することを目的とする。この目的のために、本発明は、椎間板ヘルニアの治療に使用する組成物であって、前記組成物は乳酸を含み、前記組成物はヘルニア状態の椎間板のNPを含む椎間板腔に投与される組成物を提供する。
【0016】
用語「治療」は、この出願では、椎間板ヘルニアの原因及び症状の除去、並びに再発の予防を意味する。
【0017】
用語「椎間板」(IVD)は、本発明では、脊椎における隣接する2つの椎骨の間にある要素を意味する。各椎間板は、椎骨のわずかな動きを可能にする軟骨関節を形成し、椎骨を保持するための靱帯として作用する。椎間板は、内側のNPを取り囲む外側のAFからなる。ヒトの脊柱は、首(頸部領域)に6個、中背部(胸部領域)に12個及び腰背部(腰部領域)に5個の23個の椎間板を含む。加えて、椎間板は、尾骨の間にも配置されている。椎間板(intervertebral disc)は椎間板(disc)とも呼ぶこともできる。
【0018】
用語「NP」は、椎間板の中央にあるゼリー状の物質を意味する。NPは、軟骨細胞様細胞、コラーゲンフィブリル、及びヒアルロン酸鎖を介して凝集するプロテオグリカンであるアグリカンを含む。各アグリカン分子に結合しているのは、コンドロイチン硫酸及びケラタン硫酸のグリコサミノグリカン(GAG)鎖である。NPは、衝撃吸収体として作用し、隣接する2つの椎骨を分離した状態に保つ。
【0019】
用語「AF」は、NPの外周に形成される線維組織及び線維軟骨の層(lamina)を意味する。AFは、椎間板全体に圧力を均等に分布させる働きを有する。
【0020】
用語「椎間板腔」は、NPによって満たされ、AFによって画定される外周を有する、椎間板の空間を意味する。
【0021】
用語「頭蓋終板」は、頭蓋に面している椎間板の表面を意味する。頭蓋終板は、尾側終板に対して椎間板の反対側に配置されている。
【0022】
用語「尾側終板」は、頭蓋の逆側を向いている椎間板の表面を意味する。尾側終板は、頭蓋終板に対して椎間板の反対側に配置されている。
【0023】
用語「椎間関節(facet joint)」(関節突起間関節(zygapophyseal joint)としても公知である)は、通常、関節軟骨で覆われた接合面を有する対になった関節構造を意味する。椎間関節は、通常、莢膜に囲まれている。椎間関節は、椎骨の下関節突起と椎骨の上関節突起との間に関節を形成する。椎間関節は、通常、動きを可能にし、脊柱に機械的支持を提供するように構築される。
【0024】
用語「横突起」は、両側の椎弓から横方向に伸びる骨形成を意味する。これは、肋骨突起とも呼ばれる。
【0025】
この明細書では、用語「椎間板ヘルニア」は、IVDの正常な形状が変化するようなIVDの変形を意味する。椎間板ヘルニアは、核ヘルニア(椎間板膨隆)、椎間板突出、椎間板脱出又は遊離であってもよい。
【0026】
この明細書では、用語「屈曲剛性」は、脊柱のセグメントに配置されている椎間板の剛性を表す特性を意味する。屈曲剛性は、脊柱のセグメントに、それが完全な側方湾曲モードに達するまで力を加え、その後、椎間板で対向する2つの椎骨の横突起間の距離を測定することによって、決定できる。完全な側方湾曲モードは、脊柱のセグメントを破壊することなく、脊柱のセグメントの椎間板を更に押し進めることができない状態として定義される。この特性の単位はミリメートルである。屈曲剛性は、脊柱のセグメントの曲げ剛性、より具体的には、椎間板の曲げ剛性の特徴である。
【0027】
曲げ剛性は、概して、非剛体構造を単位曲率まで曲げるために必要とされる偶力として定義される。これは、構造部材の剛性の尺度であり;弾性率と慣性モーメントの積を部材の長さで割ったものである。換言すれば、弾性材料が曲げられている場合の当該材料における応力と歪みとの比である。
【0028】
本発明の概念は、IVDヘルニアの2工程で治療する組成物を提供することである。最初の工程では、ヘルニア状態の椎間板を、細胞外マトリックスの融解を特徴とする組織学的変化により脱水し、椎間板の体積及び椎間板の高さが低減する。体積の低減は圧力の減少を伴い、これは椎間板変形の低減につながる。したがって、椎間板の突出部分は最小となるか、消滅し、椎間板を囲む神経への圧力が低減し、疼痛を緩和され。第2の工程では、本発明の組成物によって治療されたヘルニア状態の椎間板は、組織リモデリングが加速され、それにより、例えば椎間板の堅く緻密な結合組織への転換により、椎間板を剛性にさせる。椎間板の堅く緻密な結合組織への転換は、椎間板を安定にし、その結果、ヘルニア再発のリスクは最小化となる。さらに、堅く緻密な結合組織に転換された椎間板は、神経を刺激する流体成分が、椎間板腔から例えばAFの外面や、脊髄神経根へ漏れ出することを許さない。椎間板ヘルニアに伴う疼痛は、神経圧迫及び神経を刺激する化合物の漏出の組合せから生じると考えられているため、これらの症状を発生させる要因が、本発明の組成物によるIVDの治療によって低減又は排除される。
【0029】
本発明者らは、驚くべきことに、乳酸が椎間板ヘルニアの治療に成功するように思われることを見いだした。この発見は、疼痛を引き起こす椎間板内の乳酸の量を減少させることにむしろ焦点を当てていた従来技術を考慮すると、特に驚くべきである。例えば、米国特許出願第2012/0022425号は、椎骨板に乳酸デヒドロゲナーゼ阻害剤を注入して乳酸の生成を阻害することによって椎間板内の乳酸を低減させ、それにより、乳酸刺激による背部痛を緩和する方法を開示している。さらに、国際公開第2013/092753号は、例えば慢性背部痛の治療において乳酸の生成を阻害するためのインドール誘導体を明らかにしている。
【0030】
例えば、椎間板を堅く緻密な結合組織に転換することによって、椎間板の老化を促進し、椎間板を剛性にさせることで椎間板に関連する疼痛を低減させるために、乳酸又はその薬学的に許容されるその塩を使用することについて記述する国際公開第2015/140320号を考慮すると、直感的な結論は、ヘルニア内での結合組織の形成がヘルニアを縮小させることを不可能とし、ヘルニアを恒久的にする可能性がるという理由で、椎間板ヘルニアの治療における乳酸の使用は禁忌である。しかし、本発明者らは、驚くべきことに、脱水を伴う細胞外マトリックスの融解を特徴とする組織学的変化が最初に生じ、変形が矯正され、続いて核組織を変化させて線維性構造として、椎間板を剛性にして安定化し、再発を予防する、乳酸の段階的及び二重作用により、乳酸が、椎間板ヘルニアの治療と再ヘルニア化の予防に使用するのめに非常に適していることを見いだした。
【0031】
乳酸は、以下の化学構造:
【化1】
を有するカルボン酸である。
【0032】
式(I)に見られるように、乳酸はC-2にキラル中心を有する。したがって、乳酸の2つの鏡像異性体は(S)-乳酸(L-(+)-乳酸としても公知)であり、他方、その鏡像は(R)-乳酸(D-(-)-乳酸としても公知)である。2つの鏡像異性体の等量混合物は、DL-乳酸又はラセミ乳酸と呼ばれる。用語「乳酸」は、本発明では、上記鏡像異性体のいずれか又はそれらの混合物を意味する。換言すれば、「乳酸」は、本発明では、鏡像異性的に純粋な形態又はラセミ体であってもよい。
【0033】
乳酸は、水溶液中で脱プロトン化を受けてもよい、すなわち、カルボキシル基からプロトンを失って、乳酸イオンCHCH(OH)COOを生成してもよい。乳酸と乳酸イオンのモル分率は、1:1である。
【0034】
CHCH(OH)COOH(水溶液)→CHCH(OH)COO+H(I)
乳酸及び乳酸塩は、ヒトの体内に天然に存在する。
【0035】
ヘルニア状態のIVDの組織液における乳酸イオンの濃度は、1mmol/L~ほぼ12mmol/L、通常、2mmol/L~6mmol/Lであると測定されている。
【0036】
表1に示すように、乳酸イオンの分子量は89.07g/molである。したがって、椎間板における組織液1L当たり1mmolの乳酸イオンのモル濃度は、89.07mg/Lの質量濃度に対応する。同様に、椎間板における組織液1L当たり12mmolの乳酸イオンのモル濃度は、1067mg/Lの質量濃度に対応する。
【0037】
ヒトでは、腰部椎間板の椎間板腔の体積は、約1.5ml~3.0mlと推定される。
【0038】
上記を考慮して、当業者であれば、椎間板における、モル又はグラムで表現される乳酸の量を簡単に計算できる。一例を表1に記す。
【0039】
【表1】
【0040】
天然に存在する乳酸又は乳酸イオンは、椎間板の細胞、特に椎間板の老化を防止するために必要なプロテオグリカンを生成する細胞の機能に悪影響を与える可能性がある。椎間板の老化は、主に隣接する終板の血管からの拡散による栄養素及び酸素の供給の低減によって始まる。これは、椎間板、例えばNPにおける代謝老廃物の蓄積を徐々に誘導する。存在する可能性がある代謝老廃物の一種は、乳酸又は乳酸塩である。乳酸は、椎間板において細胞死をもたらすいくつかのメカニズムに寄与する可能性がある。
【0041】
乳酸は、大きな水結合分子、例えばGAGの分解につながる事象を引き起こす。並行して、乳酸は、TGFβの放出を刺激し、これが線維芽細胞を刺激してコラーゲンを生成する。NPの保水量の損失(脱水)の後に、体積の低減が続く。
【0042】
乳酸は、PGEを更に放出し、椎間板の剛性が増大するような結合組織の生成を引き起こしてもよく、これは、IVDの老化の促進として表現できる。
【0043】
したがって、椎間板腔への乳酸を含む組成物の投与による、椎間板における乳酸の濃度の増加は、IVDに対して二重で段階的な効果を有し、細胞外マトリックスの融解を特徴とする組織学的変化はIVDの脱水につながり、椎間板の高さ、体積及び圧力を低減させ、その後、NPの結合組織への転換が生じる。
【0044】
これまでに述べたように、本発明の組成物によって引き起こされたヘルニア状態のIVDの脱水は、ヘルニア状態のIVDの体積を減少させ、これが、ヘルニア状態のIVDの変形及び突出又は脱出を減少させる。NPの結合組織への転換を含む椎間板のその後の制御されたリモデリングの促進は、椎間板を剛性にし、それにより、椎間板ヘルニアの再発を予防する。
【0045】
通常、乳酸の濃度は、IVDを脱水し、続いて線維化を促進するために、ヘルニア状態の椎間板、具体的には椎間板腔において増加する可能性がある。
【0046】
本発明者らは、乳酸を含む組成物が、細胞外マトリックスの融解を特徴とする組織学的変化を誘導して、ヘルニア状態のIVDを脱水し、その体積の減少と椎間板の結合組織への著しい転換を引き起こし、それを剛性にすることを見いだした。体積減少はIVDの高さを低減させ、そのため、ヘルニアが消滅し、又は最小となる。この著しい転換は、NPの結合組織への転換による椎間板の老化の促進として解釈されている。その結果、椎間板ヘルニアの患者の改善は、乳酸を含む組成物をヘルニア状態の椎間板のNPに投与し、椎間板腔内の乳酸の濃度が増加した場合に実現する。
【0047】
本発明による椎間板ヘルニアの治療に使用する組成物の利点は、椎間板ヘルニアの安全でより効率的な治療であり、さらに、技術水準で公知であるほとんどの治療よりも安価で侵襲が少ないことである。さらに、乳酸は生体適合性である。この化合物は脊椎動物の体内に天然に存在するので、脊椎動物、例えばヒトの体は、乳酸を処理、例えば分解できる。
【0048】
本発明者らは、本発明による椎間板ヘルニアの治療に使用する組成物をNPに投与する場合、これまでに述べたように、二重で段階的な効果が得られることを示唆する。最初に、細胞外マトリックスの融解を特徴とする組織学的変化が始まり、NPを少なくとも部分的に溶解する。細胞外マトリックスは高い浸透圧を提供する分子で構成されるため、IVDは脱水され、これにより、IVDの体積の減少し、高さも減少する。これが圧力降下を引き起こし、ヘルニアに伝わる。その結果、ヘルニアは収縮し、疼痛や可動範囲の制限といった症状を緩和する。最後に、椎間板のNPは、AFの結合組織と同様に、堅く緻密な結合組織に転換される。剛性の増大は、椎間板ヘルニアの再発の予防及び運動セグメントの安定化をもたらすことが期待される。
【0049】
本発明で使用する組成物は、ヘルニア状態のIVDの椎間板腔における乳酸の濃度を、自然な老化の際の濃度よりも高い濃度まで増加させるのに有効な量で投与してもよい。本発明の組成物は、椎間板腔における乳酸の濃度を少なくとも20mmol/Lを超えるまで増加させるのに有効な量で投与される。本発明の組成物の投与後の椎間板腔における乳酸の濃度は、20~25mmol/Lであってもよい。さらに進んで、本発明の組成物の投与後の椎間板腔における乳酸の濃度は、1.3mol/L未満であるべきである。
【0050】
本発明の組成物は、ヘルニア状態の椎間板を脱水するのに有効な量で投与してもよい。この明細書では、用語「脱水する」は、NPにおける水分を低減させることを意味する。水分は、90%から70%まで減少してもよい。これまでに述べたように、NPの脱水は、IVDの体積低減を伴う可能性がある。後述する実験におけるIVDの高さの低減は、キモパパイン又はコンドリアーゼを使用する化学的髄核融解術中に得られた結果と同様であったことに留意すべきである。通常、椎間板の高さは、本発明の組成物の投与の結果、5~20%、好ましくは10~15%低下する。疼痛及び可動範囲の制限といった症状に関連する自然な老化による椎間板の高さの低減は、通常は、はるかに高く、例えば30~50%であることに留意すべきである。したがって、椎間板のNPの堅く緻密な結合組織への転換を伴う、本発明の組成物によって引き起こされる椎間板の高さの、制御され、限られた低減は、椎間板ヘルニアの治療に有益である。本発明の組成物は椎間板の高さを適度に低減し、後に背部痛を発症することなく、椎間板ヘルニアの不快感及び疼痛を緩和する。
【0051】
したがって、本発明の組成物は、ヘルニア状態の椎間板の高さを減少させ、ヘルニア状態であった椎間板の線維化を開始させるのに有効な量で投与してもよい。
【0052】
本発明の組成物は、組成物中の乳酸の濃度が、少なくとも12mmol/L、好ましくは50~12000mmol/L、より好ましくは100~10000mmol/L、更に一層好ましくは500~5000mmol/L、最も好ましくは800~2000mmol/Lであってもよい。
【0053】
本発明の組成物は、局所注入によって、ヘルニア状態のIVDのNPを含む椎間板腔に投与してもよい。局所注入は、通常、局所若しくは全身麻酔下又は鎮静と組み合わせた局所麻酔下、シリンジを使用して行ってもよい。
【0054】
ある態様によれば、単回用量で投与される組成物における乳酸の量は、2mg~1000mg、例えば5mg~500mg、好ましくは10~300mg、より好ましくは20~200mg、より好ましくは90~180mgである。単回用量は、椎間板腔当たり投与される乳酸の量に対応する。
【0055】
本発明の組成物は、単一の機会に投与してもよく、又は反復される機会に単回用量で投与してもよい。
【0056】
この明細書では、用語「単一の機会」は、例えば病院に医師を訪問するような、医療機関への1回の訪問を意味する。この訪問は、24時間以内、例えば0.5~5時間であってもよい。この用語は、通常、単回用量が単一の機会に1回だけ注入されることを意味するが、必ずしもそうとは限らない。この用語は、単回用量が、単一の機会に数回、例えば単一の機会に2~10回、例えば単一の機会に2~5回注入される場合も網羅する。
【0057】
この明細書では、用語「反復される機会」は、例えば病院に医師を2回以上訪問するような、医療機関への2回以上の訪問、すなわち複数回の訪問を意味する。この各訪問は、24時間以内、例えば0.5~5時間であってもよい。この用語は、通常、単回用量が反復される機会ごとに1回だけ注入されることを意味するが、必ずしもそうとは限らない。この用語は、単回用量が、反復される機会に複数回の注入、例えば前記反復される機会のそれぞれで2~10回、例えば前記反復される機会のそれぞれで2~5回の注入される場合も網羅する。
【0058】
本発明の組成物は、乳酸を上記濃度で含む水溶液であってもよい。
【0059】
本発明の組成物のpHは、4.0未満、好ましくは3.5未満、より好ましくは3.0未満であってもよい。IVDは緩衝効果を有し、これが本発明の組成物のメカニズムを相殺する可能性があるため、pHが低いことは有益である。
【0060】
椎間板ヘルニアの治療に使用する組成物は、通常、治療有効量の局所注入に適した製剤で提供される。
【0061】
本発明の組成物は、造影剤を更に含んでもよい。造影剤は、ヨウ素含有造影剤、例えばビジパーク(登録商標)、オムニパーク(登録商標)(イオヘキソール)等であってもよい。造影剤は、注入中に針の正しい留置を確認するための透視ガイダンスに、及び治療後の放射線検査、例えばコンピューター断層撮影法(CT)に必要とされる可能性がある。IVDに投与された組成物の漏出が生じないことを確実にするために、治療後に放射線検査を実施してもよい。
【0062】
椎間板ヘルニアは、本発明では、核ヘルニア(椎間板膨隆)、椎間板突出又は椎間板脱出から選択される。
【0063】
一部の例では、組成物は、可溶化剤、安定剤、緩衝剤、等張化剤、増量剤、増粘剤、粘度低下剤、界面活性剤、キレート剤、保存剤及びアジュバントから選択される少なくとも1種の薬剤を更に含んでいてもよい。
【0064】
別の例では、乳酸の誘導体、例えば乳酸エチル又は乳酸のポリマーを、プロドラッグとして付加的に又は代わり投与してもよい。
【0065】
ヒトでは、投与する組成物の量は、0.05mL~5mL、例えば0.1~3mL、例えば0.2mL~2mLであってもよい。これらの量は、ヒトのNPの体積に多かれ少なかれ対応する。腰部椎間板では、投与する組成物の量は、約1.5mL~3.0mLであってもよい。頸部椎間板では、投与する組成物の量は、約0.5mLであってもよい。尾骨椎間板では、投与する組成物の量は、約0.2mLであってもよい。
【0066】
第2の側面によれば、必要とする患者の椎間板のNPへの治療有効量の乳酸の投与による、椎間板ヘルニアの治療方法が提供される。本発明のこの第2の側面の効果及び特徴は、本発明の第1の側面について説明したものに類似する。
【0067】
第3の側面によれば、椎間板ヘルニアを治療する医薬の製造における乳酸の使用が提供される。本発明のこの第3の側面の効果及び特徴は、本発明のこれまでの側面について説明したものに類似する。
【0068】
第4の側面によれば、椎間板ヘルニアの治療に使用する乳酸が提供される。本発明のこの第4の側面の効果及び特徴は、本発明のこれまでの側面について説明したものに類似する。
【0069】
本発明の更なる特徴及び利点は、特許請求の範囲及び以下の記述を検討すると明らかとなる。当業者であれば、本発明の範囲から逸脱することなく、本発明の異なる特徴を組み合わせて、以下に説明する以外の態様を作成してもよいことを認識する。
【0070】
この明細書では、本発明のこれら及び他の側面を、本発明の態様を示す図面を参照して更に詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0071】
図1図1は、ヒトの脊柱の横断面を示す。
図2図2は、ヒトの脊柱の隣接する2つの椎骨の側面図を示す。
図3図3は、ヒトの脊柱の下方部分の側面図を示す。
図4図4は、ヘルニア状態のIVDを示す。
図5図5は、さまざまな種類のヘルニアを示す。
図6図6は、本発明の組成物による治療後のブタNPの硬化の外観及び測定を示す。
図7図7は、NPの高さを示す。
図8図8は、NPの幅を示す。
図9図9は、AF及びNPに対する本発明の組成物の効果;本発明の組成物による治療後のブタNPの硬化の外観及び測定を示す。
図10図10は、本発明の組成物による治療後のT2強調MRI画像の変化を示す。
図11図11は、本発明の組成物による治療後のT2強調MRI画像の変化を示す。
図12図12は、T2強調MRI画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0072】
本発明の詳細な説明
以下に、本発明の例示的な態様を示す図面を参照して、本発明を記述する。しかし、本発明は、多くの異なる形態で具現化してもよく、本明細書で明記される本発明の態様に限定されると解釈されるべきではなく;むしろ、本発明のこれらの態様は、本開示が本発明の範囲を当業者に伝えるように、例として提供される。図面において、同一の参照符号は、具体的に別段の記載がある場合を除き、同じ又は同様の機能を有する同じ又は同様の構成要素を表示する。
【0073】
脊椎動物の脊柱は椎骨を含み、これは脊髄を取り囲み、保護している。ヒトでは、脊柱は胴体の背面に位置している。隣接する2つの椎骨の間に、中間の椎間板が配置されている、すなわち、椎骨と椎間板が交互になって脊柱を形成している。脊柱の具体的な構造及びさらなる部分は、当業者に公知である。
【0074】
図1は、ヒトの脊柱100の横断面を概略的に示す。椎骨の椎体15に隣接して、AF10及びNP11を有する椎間板が配置されている。NP11は、椎間板のいわゆる椎間板腔を満たす。AF10は、NP11を取り囲み、NP及び椎間板腔の境界を画定している。
【0075】
脊髄17は、脊柱の中心に位置し、椎間板に隣接している。脊髄神経16、16’は、脊髄17から椎間板の反対側へ、椎間板に接近して伸展している。
【0076】
椎間関節14、14’は、下関節突起13、13’と上関節突起12、12’との間に位置している。脊髄17の反対側に、2つの椎間関節14、14’がそれぞれ配置されている。椎間関節14、14’は、ほぼ同じ横断面及び平面に配置されている。
【0077】
図2は、隣接する2つの椎骨20、22を含む脊柱200のセグメントを概略的に示す。第1の椎骨22及び第2の椎骨20は、椎間板21の反対側に配置されている。第1の椎骨22は胸郭に相対的に接近して配置され、第2の椎骨20は仙骨に相対的に接近して配置されている。第1の椎骨22の尾側終板23及び第2の椎骨20の頭蓋終板25を図2に示す。頭蓋終板25及び尾側終板23は、椎間板21の反対側を向いている。
【0078】
図2は、椎間関節24が、第1の椎骨22の下関節突起と第2の椎骨20の上関節突起との間にどのように配置されているかも概略的に示す。横(transverese)突起26は、椎弓から横方向に伸びる。
【0079】
図3は、脊柱300の下方を概略的に示す。脊柱の尾骨椎骨36は、脊柱300の下方の末端部に配置されている。脊柱の仙骨39は、尾骨椎骨36に隣接し、尾骨椎骨36よりも胸郭に接近して配置されている。この明細書でL5と呼ぶ第5腰部椎骨30は、仙骨39に隣接し、仙骨39よりも胸郭に接近して配置されている。仙骨39から胸郭に向かう方向で、いくつかの椎骨が、L5、30から出発して1列に配置されている。第5腰部椎骨30、すなわちL5に隣接して、以下の椎骨:第4腰部椎骨32、すなわちL4、第3腰部椎骨、すなわちL3、第2腰部椎骨、すなわちL2、及び第1腰部椎骨38、すなわちL1が順に配置されており;第1腰部椎骨は胸郭に比較的最接近して配置されている。各隣接する2つの椎骨の間に、中間の椎間板31が配置されている。椎間板(図示せず)も尾骨椎骨36を押し付けている。
【0080】
図4は、ヘルニア状態のIVDの例を示す。このように、ヘルニア中に、AF10が穿破又は弱体化するようにIVDが変形し、NP11がその通常の境界から外側に突出することを可能にする。突出は、脊髄神経を圧迫し、疼痛及び可動範囲の制限を引き起こす可能性がある。図5は、さまざまな種類の椎間板ヘルニアを示す。
【実施例
【0081】
実施例1
3シリーズのin vivo実験を行った。各シリーズの焦点はわずかに異なるが、別段の記載がある場合を除き、方法は同じであった。目的が異なるため、測定は完全に重複していなかったが、最も重要なエンドポイントであるNPの硬化は全ての試験において同一の方法で測定した。このため、異なるシリーズのデータをマージすることは正当であると考えられた。
【0082】
必要に応じて、スチューデントの対応のない両側t検定を使用して、LAの効果とプラセボ治療とを比較した。帰無仮説(LAとプラセボとの間に差異はない)はp<0.05で却下された。写真とMR画像で測定したNPサイズの間の相関を、オフィス365のエクセル(登録商標)を使用して分析した。
【0083】
LAはMerck Emprove(Darmstadt, Germany)から、イオヘキソールはSigma Aldrich(St.Louis, MO, USA)から購入した。
【0084】
ブタに、デクスメデトミジン(Domitor(登録商標)vet, Orion Pharma, Sollentuna, Sweden)と、ゾラゼパム及びチレタミンの市販の混合物(Zoletil(登録商標)vet 100, Virbac, Carros, France)を、従来の用量で筋肉内に事前投薬した。麻酔は、筋肉内にブプレノルフィン(Vetergesic(登録商標)vet, Orion Pharma)を0.03mg/kg、静脈内にカルプロフェン(Rimadyl(登録商標)vet, Orion Pharma)を4mg/kg、そしてサーボ900人工呼吸器(Siemens, Munich, Germany)を使用するイソフルラン(Attane vet, VM Pharma AB, Stockholm, Sweden)で維持した。麻酔から回復する前に、アチパメゾール(Antisedan(登録商標)vet, Orion Pharma)を筋肉内に投与した。手術後最初の3日間、ブタに2mg/kgのカルプロフェンを1日に2回経口投与した。
【0085】
ブタを右側を下にして置いた。肋骨弓から腸骨稜まで、側方突起の真横に長さ6cmで切開した。後腹膜技術によって腰部IVDにアプローチした。L3/4 IVDを切開し、0.2mLのLA製剤(n=6)又はプラセボ(n=2)を透視ガイダンス下で注入した。LA製剤はLA(120mg/mL)及びイオヘキソール(180mg/mL)を有し、プラセボはイオヘキソールのみを有した。ヒトNP細胞からのコラーゲン分泌に対するLAの効果に関するパイロット実験(国際公開第2017/046030号に記載)に基づき、濃度を決定した。この一連のin vivo実験では、塩酸を使用して、プラセボ製剤のpHを活性製剤と同じ(約1.5)に調整した。隣接するIVDには注入を行わず、陰性対照として使用した。ブタNPの体積は約1mLであり、0.2mLが適切な注入量と推定された。それぞれ前後方向(短い垂直二重矢印)及び左右方向(短い水平二重矢印)の、得られたNPの高さ及び幅(図6a)を測定し、IVDの高さ(長い垂直二重矢印)及び幅(長い水平二重矢印)との関係で表した。得られたNP(図6a)と比較した、LA治療の28日後(図6b)及び84日後(図6c)のNPサイズの低減に留意されたい。総IVD高さの割合としてのNPの高さについての各群のデータを図7に示し、NPの幅についての対応するデータを図8に示す。
【0086】
シリーズ1
第1のパイロットシリーズの目的は、LAがIVDを硬化させる(線維化を誘導)可能性があるか否かを決定することであった。
【0087】
手術時の平均体重が約30kgの合計8匹の雌ブタ(ヨークシャー、ハンプシャー及びランドレースの混合バックグラウンド)を、上述した方法に従って使用した。
【0088】
動物を治療の28日後に屠殺し、L1からS2までの脊椎を除去した。L1からS1までの椎弓を除去して、椎間板の柔軟性による干渉を防止した。注入されたIVDの頭蓋側及び尾側で、椎骨の側方突起間の距離を、キャリパーを用い、完全な同側屈曲又は対側屈曲で測定した。これらの距離の差異を、曲げ剛性の尺度として使用した。各腰椎の注入したIVDに隣接する未治療のIVDについても、これらの値を記録した。「完全な屈曲」は、中等度の強さによる手動屈曲で剛性が著しく増加する場合の屈曲度として定義した。手動屈曲の強さは測定しなかったが、屈曲は2人別々で行い、同一の結果が得られので、観察された解剖学的及び組織学的変化が生体力学的変化を実際にもたらすことを予め実証するには、十分に信頼できると考えた。
【0089】
さらに、IVDを半分に切断し、写真撮影した。得られたNPの左右の幅及び前後の高さを測定し、IVDの全幅及び全高に対する割合として、それぞれ、図7及び図8に示した。
【0090】
使用した方法が同一であったことから、シリーズ1及び2におけるNPのサイズについての結果(以下を参照)をマージした。
【0091】
LA注入IVDとプラセボ注入IVDの間、及びLA注入IVDと16のナイーブIVDの間には、曲げ剛性に著しい差異があった(表2)。未治療のIVDと比較して、プラセボ注入のIVDの曲げ剛性に対して効果があるようには思われなかったが、プラセボを注入したブタが2匹だけという事実が統計的検証を妨げた。
【0092】
【表2】
【0093】
シリーズ2
第2のシリーズ(16匹のブタを含む)の目的は、治療の安全性及び効能を評価することであり、ヒトにおける試験を開始するためにスウェーデン医療製品庁によって要求された規制の一部であった。全ての方法は、以下に説明する例外を除いて上述したとおりであった。プラセボ製剤のpHは調整せず、プラセボ及び2種の用量(120又は240mg/mLが0.2mL)のLAについて、3種の生存期間(2、28及び84日間)を評価する必要があったため、各ブタにおける3つの合致するIVDに注入して、動物の数を合理的な限界内に保った。1つの動物群では、LA又はプラセボを、脊椎孔の外側のIVDに適用(外用)して、IVDからの漏出や誤注入から生じる組織の損傷を評価した。この実験では、脊椎の曲げ剛性は測定しなかった。2つのシリーズ間の他の差異は、第2のシリーズでは暴露された組織を組織学的に評価したが第1のシリーズではしなかったことであった。
【0094】
動物を、表3に示すように群に分けた。
【0095】
【表3】
【0096】
腰椎を一括除去し、病理学的変化を目視で評価し、LAを適用した椎間板外組織を写真撮影した。脊髄神経及び筋肉組織の検体を収集し、10%ホルマリンで固定し、ヘマトキシリン/エオシン染色による顕微鏡検査のために処理した。注入したIVDを半分に切断し、目視で調査し、写真撮影した。IVDの試料を収集し、ヘマトキシリン/エオシンによる顕微鏡検査のために処理した。これらにはAFは含まれるが、NPはほとんど含まれていないことが判明したため、IVDの概観を改善するために、椎骨が癒着しているIVDを脱灰して、マッソントリクロームで染色したIVD全体の軸方向切片の調製を可能にした。
【0097】
シリーズ3
その後の臨床試験では、NPに対するLAの効果はMRIを使用して評価することが計画されていたため、第3のシリーズは、T2強調MRIで測定した硬化に対するLA(0.2mL、60mg/mL)の効果に焦点を当てた。加えて、I型及びII型コラーゲンの発現に対するLAの効果を、免疫組織化学(IHC)によって試験した。60mg/mLのLA投与後の目視での変化は、上述したものと同様であった。
【0098】
MR画像は、7T小動物MRIシステム(Bruker Biospec)を使用して取得した。単一の50mm体積コイルアレイを使用した(Tx/Rx)。解剖した脊椎から、付着した筋肉、棘突起、横突起、及び椎間関節の後部を削り取って、MRIシステムに収まるようにした。T2強調(TR:2500~2834ms、TE:33~35.84ms)、2D TurboRARE横方向及び矢状方向シーケンスを使用した。TR及びTEは、異なる検体で、調整が必要であったため、視野内の全てのシーケンスについて同じに維持できず、TR及びTEに影響を及ぼす画素マトリックスの増大につながった。横方向シーケンスでは、スライス厚500μm、スライス間距離750μm、面内解像度166×166μmを使用した。矢状方向シーケンスでは、スライス厚750μm、スライス間距離2000μm、インプレイス(in-place)解像度166×166μmを使用した。1匹のブタの横方向シーケンスでは、TRに有意に影響を及ぼさない高いマトリックスサイズを補償できない視野の増大により、インプレイス解像度は174×166μmであった。
【0099】
画像はサンテDICOMビューアー(バージョン8.1.5, Santesoft, Athens, Greece)を使用して分析した。全ての動物の治療したIVDを評価し、治療したIVDの1つ上のレベルのIVDを対照としてスキャンした。
【0100】
IVDのMR画像と写真を使用して、NPのサイズを測定した(図6参照)。その際、目視による分析及びMR分析の結果は相関していた。
【0101】
I型及びII型コラーゲンの免疫組織化学的分析
組織をエタノール系列により脱水し、パラフィンに包埋した。切片をミクロトームで切断し、脱ロウし、I型(Abcam34710)又はII型(Abcam34712)コラーゲンに対するポリクローナル一次抗体とともにインキュベートした。抗体を、1%ウシ血清アルブミンを含むリン酸緩衝生理食塩水で250倍(I型)又は200倍(II型)に希釈した。インキュベーションは室温で60分間行った。次いで、切片を西洋ワサビペルオキシダーゼ結合二次抗体(Mach 2 Uni HRP, Biocare Medical)とともに室温で30分間インキュベートし、ジアミノベンジジン(Biocare Medical)を使用して免疫反応を視覚化した。
【0102】
図9は、AF(A、B)及びNP(C~J)に対するLAの効果を示す。LA又はプラセボ(0.2mL)を、麻酔したブタのIVDに注入した。注入後4週間又は12週間で動物を屠殺し、IVDを半分に切り分けた。10%ホルマリンでの固定、脱灰及びパラフィン包埋後、切片を5μmに切断し、ヘマトキシリン及びエオシン(A、B)又はマッソントリクローム(C~J)で染色した。線維軟骨(Fibrocartilagenous)細胞が、未治療のIVDのAFで見られ(Aにおける矢印)、LAの注入後に多細胞コンドロンが高頻度で現れた(240mg/mL、12週生存;Bにおける矢印)。未治療の(椎間板外注入)IVD(C)のNPは、淡く染色された細胞外マトリックスに包埋された脊索細胞の島(アスタリスク)からなる。LAで治療したNPでは、コラーゲン線維が見られる(Dにおけるアスタリスク;120mg/mLのLA、4週生存、及びEにおけるアスタリスク;120mg/mLのLA、12週生存)。時折、軟骨細胞様細胞を有する緻密な結合組織が通常のNP構造を置きかえる(F;240mg/mLのLA、12週生存)。新たに形成された血管(細静脈;Fにおける矢印)及び類骨島(Fにおけるアスタリスク)が、結合組織で観察できる。Fにおける枠で囲んだ領域を、Gにおいて高倍率で示し、新たに形成された血管(細動脈、矢印)をHに示す。「真空現象」をおそらく反映しているさまざまなサイズの嚢胞様構造が、LA注入の4週間後(I;240mg/mL)及び12週間後(J、120mg/mL)に観察できる。時折、小出血が現れる(Iにおける矢印)。全ての顕微鏡写真のスケールバーは、100μmである。
【0103】
IVDの中心領域が含まれていたこと、及び線維組織がヘマトキシリン及びエオシン染色よりもマッソン染色で明確に視覚化されることから、ほとんどの組織学的分析は、マッソントリクロームで染色したIVD切片全体に対して行った。
【0104】
2日間の追跡調査期間では、椎間板内に注入した動物において、出血と炎症の変化が時々、はっきりと認められた(図示せず)。ビヒクルを注入した動物と比較して、LAで治療した動物ではその差は明らかに顕著ではなく、これらの変化は特異的なLA効果よりもむしろ実験方法に関係していることが示唆される。脊髄外でLAに暴露された脊髄神経及び骨格筋でも同様の結果が認められた(図示せず)。
【0105】
図9K(対照)及び9L(LAを注入)に示すように、LA注入の2日後に、NPの細胞外マトリックス(青色領域)の融解及び脊索細胞(暗色の核を有する白色領域)の溶解を特徴とする著しい組織学的変化が観察された。このように、細胞及びマトリックスの両者が、融解及び分解の状態にある。
【0106】
追跡調査の28日目には、LAで治療した部位とプラセボを注入した部位との間に明確な差異が観察された。LAを注入した動物では、線維性組織の高密度束が見られた(図9D)。目視による分析と同様、LAの濃度による差異は認められなかった。椎間板外に投与した部位の線維性変化は見られなかった。加えて、残存出血及び嚢胞様構造(図9I)が、LA注入の28日後に観察された。後者の特性は不明であるが、それらはシリーズ3の結果による「真空現象」を表す可能性がある。
【0107】
追跡調査の84日目には、プラセボとLAで治療したIVDとの間に明確な差異が観察された。組織学的な変化は、28日目と比較して84日目以降で顕著であった。LAが注入されたIVDでは、NPに以下の変化が見られた:硬化(図9D~J)、嚢胞変性(図9J)、軟骨化生(図9F、9G)、類骨島(図9F、9G)及び細胞外マトリックスの低減。84日目に、線維性組織に血管が現れた(図9H)。高用量又は低用量のLAで治療したIVDの間には、変化の程度に明確な差はなかった。多細胞コンドロンがAFにおいて観察された(図9B)ことから、LA治療後の変化はNPに限定されなかった。
【0108】
60mg/mLのLA投与後の目視による変化は、上記と同様であった。これらはT2強調MRIで再現され、予想したように、硬化したNPの強度は、はるかに低かった(図9B)。新たに形成された結合組織のラメラ構造もMRIで視覚化された。写真から推定した硬化度とMR画像の分析で推定した硬化度の間には、密接な相関関係(相関係数=0.97)があった。暗色でほぼ円形の領域が、LAを注入した5つのIVDのうちの4つで観察された。これらは2つのIVDで顕著であり、他の2つでは離れていた(図9B)。これらの領域は、ほぼ確実に真空現象を反映したものであり、顕微鏡で観察される大きな嚢胞様構造に関連している可能性がある。
【0109】
治療したIVDと対照IVDの椎間板の高さ及び椎間板の幅の分析では、表4に見られるように、治療したIVDの高さは非常に顕著な低減があったが幅にはなかったことが示された。相対的な椎間板の高さは、治療したIVDの高さ/未治療(対照)のIVDの高さの比として表した。同様に、相対的な椎間板の幅は、治療したIVDの幅/未治療(対照)のIVDの幅の比として表した。
【0110】
【表4】
【0111】
矢印Aは未治療の対照IVDを示し、矢印Bは30日前に60mg/mlのLAを注入したIVDを示す図12のMR画像でも、この効果は確認されている。図12から明らかなように、治療したIVDの高さの著しい低減が観察される。
【0112】
未治療のIVDでは、I型コラーゲンの免疫反応は、NPではまばらにみられ、AFでは高レベルで見られた。対照的に、II型コラーゲンの免疫反応は、NPとAFの両者でみられた。治療したIVDと未治療のIVDの間でII型コラーゲンの免疫反応に明確な差異はなかったが、LA治療後のNPではI型コラーゲンが強く誘導された。
【0113】
実施例2
この試験は、無作為化、二重盲検、プラセボ対照、単回投与用量漸増試験であり、椎間板に起因する慢性腰痛患者15人に、プラセボ(オムニパーク(登録商標))又はLAを配合したオムニパーク(登録商標)を椎間板内に注入した後の安全性及び忍容性を評価することを主要な目的とした。副次的目的は、T2強調MRIを使用して、NP及び椎間板の高さに対する効果を評価することであった。
【0114】
背部痛及び下肢痛のビジュアルアナログスケール(VAS)スコア、並びにオスウェストリー障害指数(ODI)を探索的目的として使用した。試料サイズは検出力計算に基づくものではなかったが、3つの異なる用量のLA製剤についての初期安全性データを提供するための単回投与用量漸増試験に適切であると考えられた。試験は、ClinicalTrials.govウェブサイト及びEU臨床試験登録に登録されている。これは、ストックホルム地域倫理委員会(承認番号2016-2323-31/4)及びスウェーデン医療製品庁によって(承認番号5.1-2016-86227)承認された。
【0115】
患者は、2017年4月~2018年8月にストックホルム脊椎センター(Upplands Vasby, Sweden)で募集した。
【0116】
15人の患者を3つの用量群のいずれかに無作為化した。各群において、2人をプラセボに、3人を45mg、90mg及び180mg(30mg/mL、60mg/mL及び120mg/mLを1.5mL)のLA投与に無作為化した。各用量群の最初の2人をLA又はプラセボに無作為化した。投与後1週間以内(3回目の訪問まで)に、安全性又は忍容性の懸念が認められなければ(2人の医療専門家と議決権のない委員長からなる安全審査委員会が確認)、別の3人の患者に治療又はプラセボ投与(2:1)を行った。用量漸増の前に、安全審査委員会は、3回目の訪問まで(治療後1週間)の全ての安全性データを評価した。安全性又は忍容性の懸念がある場合、投薬を中止するか、計画した用量を減らす可能性があった。
【0117】
患者の試験の合計期間は最大14か月であった。各患者は、予定の治療日から60日以内にスクリーニングのための訪問を行った。LINK Medical Research AB(Uppsala, Sweden)の独立した生物統計学者が無作為化番号のリストを準備した。無作為化は、治験医薬品(IMP)の調製の時間を考慮して、予定治療日の少なくとも5営業日前に、eCRFシステム(Viedoc(商標))によって行った。試験IMPと参照IMPの外観は同じであった。キットには無作為化番号のラベルが貼られていたが、製剤の属性に関する情報は含まれていなかった。これは、医療機関の全てのスタッフ及び患者が治療コードに対して盲検化されていることを確実にした。治療コードの封筒は無作為化されたそれぞれの患者に提供された。コードの封筒は、アクセスが制限された安全な場所に保管された。患者が活性製剤又はプラセボのいずれを投与されたのかを知ることが治験責任医師又は他の医師にとって重要となる緊急事態の場合は、コードの封筒が開封されることとなっていた。しかし、そのような緊急事態は発生せず、治療コードの封筒は開封されなかった。
【0118】
この試験における試験品には、活性原料である(S)-LAが含まれており、これは、使い捨てシリンジに入った滅菌液剤として現場に提供された。投与したLAの用量は、1.5mL中の45mg、90mg及び180mgであり、30mg/mL、60mg/mL及び120mg/mLのLA濃度に対応していた。投与用の製剤は、造影剤イオヘキソール(オムニパーク(登録商標))及び注射用水を有し、使用の現場で調製された。注入溶液中のイオヘキソールの最終濃度は388mg/mLであった。少量のトロメタミン、エデト酸カルシウム二ナトリウム及び塩酸も存在した。溶液は透明で無色~わずかに着色していた。
【0119】
LA(バッチC16077AA)は、Recipharm, Stockholm, Swedenで製造され、バイアルに詰められ、ラベル付けされた。IMPの他の成分(オムニパーク(登録商標)[バッチ番号13407744]及び注射用水)は、Recipharm, Sweden製を購入した。IMPの全ての要素が、1バイアルのLA、1バイアルのオムニパーク(登録商標)、1バイアルの注射用水(活性及びプラセボ)を、Recipharmが作成した取扱説明書及び患者固有のラベルと共に含む、患者1人当たり1つのキットとして、現場の製薬研究室に発送された。注入用の最終溶液は、現場の製薬研究室(Apoteket AB Hospital Pharmacy, Uppsala, Sweden)において無菌で調製され、患者専用のシリンジに詰められ、各患者用の「盲検」ラベルが貼られた。各患者のIMPが予め充填されラベルが貼られたシリンジが医療機関に送付された。2回の注入が計画されている場合は、2つの別々のシリンジが準備された(すなわち、1回のIMP注入ごとに1つのシリンジ)。
【0120】
試験品と外観が同一のプラセボ溶液を、参照治療として使用した。投与用の溶液は、388mg/mLの最終イオヘキソール濃度まで水で希釈された造影剤イオヘキソール(オムニパーク(登録商標)、バッチ番号13407744)、並びに少量のトロメタミン、エデト酸カルシウム二ナトリウム及び塩酸を有し、現場で調製された。試験品と同量(1.5mL)を注入した。
【0121】
この試験は、NP、IVD高さ、VAS及びODIのT2強調強度に対するLAの効果を統計的に評価するには小規模すぎたため、記述統計のみを行った。全ての統計的分析は、SAS(登録商標)バージョン9.4(SAS Institute Inc., Cary, NC, USA)で行った。結果は、治療群ごとに、また、必要に応じて合計で示した。
【0122】
記述統計を使用して連続データをまとめ、以下のパラメーターを報告した:評価可能な観察値を有する患者の数及び欠落した観察値を有する患者の数、算術平均及び標準偏差、中央値、第1及び第3四分位数並びに最小値及び最大値。カテゴリーデータは、絶対頻度及び相対頻度として提示した。絶対頻度がゼロの場合、パーセンテージは提示されなかった。別段の記載がある場合を除き、パーセンテージ計算の分母は、欠落したデータを有する患者を含む適用可能な分析対象集団内の患者の総数であった。欠落値のある変数については、欠落値のある患者の数及びパーセンテージを示した。
【0123】
治療日には、椎間板内注入の約15分前に、鎮静薬又は抗不安薬と抗生物質が、患者の静脈内に投与された。患者を右側臥位にし、透視ガイダンス下、二針技術を使用して注入した。椎間板内針穿刺が正確に行われたことを確認した後、最初に少量(約0.5mL)の製剤をゆっくり(30秒)と注入して、注入液の分布が椎間板内に限られていること及び漏出がないことを確認した。30秒以内に漏出が発生しなかった場合、全量(1.5mL)を注入されるまでこの手順を2回繰り返した。少量又は全量(1.5mL)の注入中に、椎間板からの漏出があった場合、注入を中断した。治療直後、患者は可能な限り長く(最終注入後少なくとも4時間)腹臥位(あるいは側臥位又は仰臥位)の状態でいることを求めた。全ての患者は、注入後、観察及び安全性評価のために医療機関に一晩滞在した。医療機関を出た後、患者は、標準的な臨床試験に従い、鎮痛薬及び/又は他の手段で治療される予定になっていた。患者は、最初の1週間は、身体活動を制限するよう助言された。
【0124】
身体検査、血圧、心拍数、心電図(ECG)、臨床化学及び血液学を、通常の方法で評価した。注入中とその後15分以内の疼痛はVASスケール(0~100mm)で測定し、患者は、その疼痛が、生じた場所と疼痛の種類から、通常経験する疼痛であるか否かを報告した。IVD内のオムニパーク(登録商標)の分布を、ダラスのディスコグラムスケールに従って記録した。注入の局所反応を記録し、AEを、重篤度、強度及び治療との因果関係について等級付けした。SAEは、医薬品規制調和国際会議のガイドラインE2Aに従って定義した。
【0125】
全てのMRI調査は、以下の例外を除き同じスキャナー(Siemens 1.5T Avanto)で行った:1人のプラセボ投与患者及び高用量を投与した2人の患者では、ベースラインのMRIはSiemens Symphony 1.5Tスキャナーで獲得し、他の全てのスキャンはSiemens 1.5T Avantoスキャナーで行った。また、2人のプラセボ投与患者及び高用量を投与した1人の患者では、ベースライン及び3月後のMRIはSymphonyスキャナーで行い、他のスキャンは、Avantoスキャナーで行った。T1及びT2強調矢状方向断面、冠状断面及び横方向断面を、ガドリニウム造影剤の注入の前後に4mmで獲得した。
【0126】
隣接する2つの終板の間の最大距離として測定した椎間板の高さ及びPfirrmannグレードをスクリーニング時に記録し、試験期間中、それらを追跡した。Pfirrmann基準は、椎間板の水和における小さな変化を検出するには感度が十分ではないため、T2強調MRIにおけるNPの強度の変化は、患者の群割り当てを知らない4人の評価者が採点した。評価者は、治療後の経過時間にかかわらず、強度の明らかな低減を「1」とし、変化なしを「0」として採点するように指示された。
【0127】
患者は、表5に示す時点における自らの腰痛及び下肢痛のレベルを、0~100mmのVASによって報告した。身体の障害はODIを使用して評価された。
【0128】
【表5】
【0129】
注入中の疼痛の強度は、45mgのLA群が、他の全ての群と比較して高かったが、注入の15分後には、全ての群の疼痛のレベルは同じであった。
【0130】
この試験では、11人の患者による合計24件のAEが報告された(表6)。全てのAEは、軽度~中等度の強度であった。最も一般的なAEは、注入部位の疼痛(全ての群が報告)及び背部痛(60mg/mLのLA群を除く全ての群が報告)であった。24件中、治療に関連する可能性がある又はおそらく関連する16件のAEがあり、そのうちの13件は注入の最中又は直後の疼痛に関するものであった。全てのAEが、3か月の追跡調査期間内に解消した。SAEはなく、いずれものAEも患者の離脱にはつながらなかった。延長相の間に、6件のAEが4人の患者によって報告されたが、強度は軽度で、治療との関係は考えられなかった。
【0131】
【表6】
【0132】
治療後の脱水には、用量応答関係の傾向があった(表7)。LAによる治療後のNP強度の変化の2つの代表的な例を、図10及び11に示す。図10は、60mg/mLのLAで治療した患者(L4/5及びL5/S1)から、図11は、LAを120mg/mL注入した患者(L4/5)から取得した。画像は、スクリーニング時、3月後、6月後及び12月後(左から右)に獲得した。ブタIVDの結果と同様、硬化をほぼ確実に反映するNPの強度の損失は、多くの場合、周辺部で生じた。
【0133】
【表7】
【0134】
T2強調MRイメージングにおけるNPの強度の変化を、[1:明確な低減、0:変化なし]として採点した。採点は、患者の群割り当てを知らない4人の評価者が行った。試験期間中、椎間板の高さの低減が観察された(表8)。
【0135】
【表8】
【0136】
このように、椎間板の高さの明確な低減は、本発明の組成物の投与によって実現される。
【0137】
本発明の組成物は、椎間板の高さを用量依存的に低減させることが明白である(表9)。この試験では患者の数が少ないものの、NPの脱水は椎間板の萎縮を伴うと期待される。椎間板の高さの低減は、化学的髄核融解術後に観察されたものと同様である(表9)。IVDの幅には変化がなく(図示せず)、IVDの体積が減ったことを実証された。
【0138】
【表9】
【0139】
椎間板の高さの低減は、最高用量のLAであっても、比較的低用量のコンドリアーゼに匹敵することに留意すべきである。
【0140】
最後に、治療後の探索的エンドポイントの変化を評価した。ベースラインでは、45mg群で下肢痛は報告されなかった。スクリーニング時の平均下肢痛は、90mg群では3mm、180mg群では14mm、プラセボ群では26mmであった。全体として、下肢痛は、試験期間中極めて低く、目立った変化が生じなかった(データは示さず)。
【0141】
ベースラインの平均背部痛は、45mg群では19mm、90mg群では44mm、180mg群では52mm、プラセボ群では50mmであった。
【0142】
スクリーニング時に、全ての治療群は、平均ODI値から、日々の活動において中等度の障害があった。経時変化に特定の傾向は確認できなかった(以下を参照)。
【0143】
【表10】
【0144】
【表11】
【0145】
ブタのIVDにLAを注入した2日後、細胞死とその消失を伴う細胞外マトリックスの融解が観察された。これらの変化は、代表的な化学的髄核融解薬、例えばキモパパインの注入後に見られる変化と同じである。したがって、LAは、キモパパイン、コンドリアーゼ、オゾン及びエタノールのような既知の化学的髄核融解薬と並ぶ、新たな化学的髄核融解物質に分類できる。
【0146】
この試験は、目視及びMRIによる結果で裏付けられるように、LAが1か月以内にブタNPを結合組織に転換することを示す。NPの急速な融解開始と、それに続く、ゆっくり進行する線維化は、特徴付けられた化学的髄核融解薬の典型的な効果である。したがって、LAは、定義により、新たに特定された化学的髄核融解薬である。
【0147】
LAの注入は、横方向の柔軟性の顕著な低減を引き起こし、新たに形成された結合組織が運動セグメントを安定化させたことを確認した。硬化したIVDでは、I型コラーゲンの免疫反応が高レベルで、これはIVDの安定性の増大に寄与した可能性がある。硬化が続き、3か月後には更に一層進行したことから、試験期間中、剛性の増大が持続したと推測することが合理的である。軟骨細胞化生がAFにおいて見られたことから、AFのリモデリングも柔軟性の低減に寄与した可能性がある。
【0148】
組織学的には、3か月後に軟骨組織の出現が明白となり、一部のIVDでは類骨島が見られた。このような組織の転換は、腰椎の柔軟性の低減が比較的長期間進行する可能性があることを示唆している。別の結果は、LA投与の3か月後に血管新生が線維性組織で生じたことであった。血管新生は、疼痛を発生させる可能性がある新たな神経による支配を伴うことが示唆されてきた。しかし、血管調節求心神経と侵害受容求心神経の明確な区別はほとんど行われていない。その上、変性したヒトIVDにおける血管新生と神経の発芽は、AFの亀裂によって誘導されているように思われる。そのような亀裂はLAの注入後には見られなかったことから、神経及び血管の侵入のメカニズムや、(実際に発芽する場合の)神経線維の組成は、自然に発生するものと異なる可能性がある。類似点はあるが、LAによって生じたIVDの急速な硬化は、腰痛を患う患者の病理学的に変性したIVDを再現しないことを認識する必要がある。これについての最も重要な相違は、ブタの試験では、輪状の亀裂やラメラの分裂といった病理学的IVD変性のいくつかの特徴が存在しないことである。
【0149】
ブタの試験は、いくつかの群で反復実験の回数が少ないので、この制約が結論に影響を及ぼす可能性は低い。
【0150】
LAは、ブタにおいてNPを結合組織に転換することが確認され、MRIにより、これは患者でも生じることを示唆した。
【0151】
IVDの硬化はそれを安定にし、ヘルニア再発の可能性を減らす可能性がある可動範囲の低減をもたらす。LAが誘導する硬化の別の効果は、発痛分子の漏出及び侵害求心神経の発芽の予防である。
【0152】
治療は安全で忍容性があった。数人の患者が注入後に比較的短時間の腰痛(cLBP)を訴えたが、これはプラセボ群においても見られた。そして、患者数が少ないという制限があるものの、VAS及びODIの結果が示すように、この治療はcLBPを悪化させることはないようである。
【0153】
MRIの結果は、LAがNPのシグナル強度の低減を誘導することを示した。これは、NPの水和とこれに続く結合組織の増殖に寄与する、グリコサミノグリカンの分解の増加が原因の可能性がある。ブタの場合と同様、患者のシグナル強度の損失は、大部分がNPの周辺部で見られた。患者では、治療後にIVDの高さが低減する傾向があった。この効果は、LAを注入したブタのIVDよりも顕著であったが、ヒト、ブタとも、IVDの幅は変化しなかった。これは、IVDの体積が減少したに違いないことを間接的にではあるが説得力を持って実証する。IVDの体積低減はIVDの圧力の減少を引き起こし、次に、ヘルニアのサイズを低減させて、症状の消失又は寛解につながることから、IVD体積の低減は全ての化学的髄核融解薬治療の目標である。
【0154】
試験の結果は、本発明の組成物が、椎間板の高さを効果的に低減させて椎間板腔を結合組織に転換するという概念を証明する。
【0155】
この出願の実施例は、乳酸の投与が、椎間板の体積及び高さを低減し、椎間板の組織の組成を変更し、治療したIVDの屈曲剛性を変化させることを示す。
【0156】
図面とこれまでの記述において本発明を説明してきたが、この説明は、例証的又は例示と考えるべきであり、制限されるものではない;本発明は開示されている態様に限定されない。開示されている態様の他の形態は、請求項に係る発明を実践している当業者によって、図面、開示及び特許請求の範囲を検討することから、理解及び達成される。特許請求の範囲において、用語「を含む」は他の要素又は工程を除外せず、不定冠詞「a」又は「an」は複数を除外しない。ある特定の手段が互いに異なる従属請求項に記載されているという単なる事実は、これらの手段の組合せを有利に使用できないことを示すものではない。特許請求の範囲における参照符号も、その範囲を限定するものとして解釈すべきではない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6a-6c】
図7
図8
図9A-J】
図9K
図9L
図10
図11
図12
【手続補正書】
【提出日】2023-08-10
【手続補正1】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】全図
【補正方法】変更
【補正の内容】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図9-1】
図9-2】
図10
図11
図12
【国際調査報告】