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特表2024-500757材料を分離するためのデバイス及び方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-10
(54)【発明の名称】材料を分離するためのデバイス及び方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/53 20140101AFI20231227BHJP
【FI】
B23K26/53
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023536975
(86)(22)【出願日】2021-11-03
(85)【翻訳文提出日】2023-06-16
(86)【国際出願番号】 EP2021080502
(87)【国際公開番号】W WO2022128241
(87)【国際公開日】2022-06-23
(31)【優先権主張番号】102020134198.9
(32)【優先日】2020-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506065105
【氏名又は名称】トルンプフ レーザー- ウント ジュステームテヒニク ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】TRUMPF Laser- und Systemtechnik GmbH
【住所又は居所原語表記】Johann-Maus-Strasse 2, D-71254 Ditzingen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル フラム
(72)【発明者】
【氏名】ヨナス クライナー
(72)【発明者】
【氏名】ミリアム カイザー
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168AD06
4E168AE01
4E168CB02
4E168CB07
4E168DA02
4E168DA03
4E168DA04
4E168DA33
4E168DA40
4E168DA45
4E168DA46
4E168DA47
4E168DA60
4E168EA05
4E168EA13
4E168EA17
4E168JA14
(57)【要約】
本発明は、透明材料を有するワークピース(1)を分離する方法であって、超短パルスレーザ(2)からの超短レーザパルスを使用して、分離線(4)に沿ってワークピース(1)の透明材料に材料改質部(5)を導入し、ワークピース(1)の材料は、その後、分離工程にて、結果的に生じた材料改質エリア(50)に沿って分離され、レーザパルスは、ワークピース(1)上に作業角度(α)で照射され、材料改質部(5)は、ワークピース(1)の材料内におけるクラックの形成に関与するタイプIIIの改質部である、方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明材料を有するワークピース(1)を分離する方法であって、超短パルスレーザ(2)からの超短レーザパルスを使用して、分離線(4)に沿って前記ワークピース(1)の前記透明材料に材料改質部(5)を導入し、前記ワークピース(1)の材料は、その後、分離工程にて、結果的に生じた材料改質エリア(50)に沿って分離される、方法において、
レーザパルスは、前記ワークピース(1)上に作業角度(α)で照射され、前記材料改質部(5)は、前記ワークピース(1)の前記材料内におけるクラックの形成に関与するタイプIIIの改質部であり、前記材料改質部(5)は、交差する平面内にある前記ワークピース(1)の2つの面を貫通し、前記分離工程により、面取り部及び/又は斜端部が作成され、前記面取り部(14)及び/又は前記斜端部(14)の斜辺(H)の長さは、50μm~5000μmである
ことを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記分離工程は、機械的分離及び/又はエッチング処理及び/又は熱の印加及び/又は自己分離工程を含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
- レーザビーム(20)は非回折レーザビームであること、及び/又は
- 前記レーザビーム(20)は、半径方向に非対称な横断方向の強度分布(220)を有し、前記横断方向の強度分布(220)は、第2の軸(B)に比べて第1の軸(A)の方向に細長く見え、前記第2の軸(B)は、前記第1の軸(A)に垂直であること
を特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
- 前記ワークピース(1)上への前記半径方向に非対称な横断方向の強度分布(220)の投射において、前記第1の軸(A)と前記第2の軸(B)は、前記作業角度(α)によって、同じサイズを有するように見えること、及び/又は
- 前記ワークピース(1)上への前記半径方向に非対称な横断方向の強度分布(220)の前記投射は、送り方向(V)に細長いこと、及び/又は
- 前記半径方向に非対称な横断方向の強度分布(220)の前記第2の軸(B)に対する前記第1の軸(A)の比は、前記作業角度(α)の余弦の逆数よりも大きいこと、及び/又は
- 前記第2の軸(B)に対する前記第1の軸(A)の前記比は、
【数1】
よりも大きいこと
を特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記面取り部(14)及び/又は前記斜端部(14)の前記斜辺(H)の前記長さは、100μm~200μmであることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記レーザパルスのパルスエネルギーは10μJ~5mJであること、及び/又は
平均レーザパワーは1W~1kWであること、及び/又は
前記レーザパルスは個々のレーザパルス若しくはレーザバーストの一部であり、前記レーザバーストは2~20個のレーザパルスを含み、前記レーザバーストの前記レーザパルスは、10ns~40ns、好ましくは20nsの時間的間隔を有すること、及び/又は
前記レーザの波長は、300nm~1500nm、特に、1030nmである
ことを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
入射レーザビーム(20)は、入射面に平行に偏光することを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
透明材料を含むワークピース(1)を分離するためのデバイスであって、超短レーザパルスを提供するように構成された超短パルスレーザ(2)と、前記ワークピース(1)の材料にレーザパルスを導入するように構成された加工光学ユニット(3)と、前記レーザパルスで構成されたレーザビーム(20)と前記ワークピース(1)とを分離線(4)に沿って送り(V)で互いに相対的に移動させるように構成され、且つ前記加工光学ユニット(3)の光軸(30)を前記ワークピース(1)の表面(10)に対して作業角度(α)で方向付けるように構成された送りデバイス(6)とを含む
デバイスにおいて、
前記レーザパルスは、前記ワークピース(1)に前記作業角度(α)で導入され、材料改質部(5)は、前記ワークピース(1)の前記材料内におけるクラックの形成に関与するタイプIIIの改質部であり、前記材料改質部(5)は、交差する平面内にある前記ワークピース(1)の2つの面を貫通し、分離工程により、面取り部及び/又は斜端部が作成され、前記面取り部(14)及び/又は前記斜端部(14)の斜辺(H)の長さは、50μm~5000μmである
ことを特徴とする、デバイス。
【請求項9】
ビーム整形光学ユニット(34)は、前記レーザビーム(20)から非回折レーザビーム(20)を整形し、前記非回折レーザビーム(20)の横断方向の強度分布(220)は半径方向に非対称であり、
前記半径方向に非対称な横断方向の強度分布(220)は、第2の軸(B)に比べて第1の軸(A)の方向に細長く、前記第2の軸(B)は、前記第1の軸(A)に垂直である
ことを特徴とする、請求項8に記載のデバイス。
【請求項10】
- 前記加工光学ユニット(3)は、サイズを減少及び/若しくは増大させた前記レーザビーム(20)を前記ワークピース(1)に導入するように構成されたテレスコープシステム(36)を含むこと、及び/又は
- 前記送りデバイス(6)は、軸デバイス(60)とワークピースホルダ(62)とを含み、前記加工光学ユニット(3)及び前記ワークピース(1)を3つの空間軸に沿って並進的に且つ少なくとも2つの空間軸の周りで回転的に互いに相対的に移動させるように構成されている
ことを特徴とする、請求項8又は9に記載のデバイス。
【請求項11】
- 前記加工光学ユニット(3)の前記作業角度(α)は0~60°であること、及び/又は
- 前記レーザビーム(20)の成分レーザ光(200)は、前記ワークピース(1)の面法線(N)に対して80°以下の入射角で前記ワークピース(1)に入射する
ことを特徴とする、請求項8~10のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項12】
好ましくは偏光子と波長板とを含む偏光光学ユニット(32)は、前記レーザビーム(20)の入射面に対する前記レーザビーム(20)の偏光を調整し、好ましくは、前記偏光を前記入射面に平行に設定するように構成されていることを特徴とする、請求項8~11のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項13】
前記軸システム(60)は、半径方向に非対称な横断方向の強度分布(220)の長軸(A)を前記送り方向(V)に沿って整合させるために調整されることを特徴とする、請求項9~12のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項14】
- ビーム案内デバイス(38)は、前記レーザビーム(20)を前記ワークピース(1)に案内するように構成されており、ビーム案内は、ミラーシステム及び/又は光ファイバ、好ましくは中空コアファイバを介して実施されること、及び/又は
- 制御電子機器(64)は、前記レーザビーム(20)と前記ワークピース(1)の相対位置に基づいて、前記超短パルスレーザ(2)のレーザパルス放出をトリガーするように構成されていること、及び/又は
- ワークピースホルダ(62)は、前記レーザビーム(20)を反射及び/又は散乱しない表面を有すること
を特徴とする、請求項8~13のいずれか一項に記載のデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超短レーザパルスを用いて材料を分離するためのデバイス及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、非常に短いパルス長、特に1ナノ秒未満のパルス長を有し且つ特にキロワット範囲の高い平均パワーを有するレーザの開発が、新たなタイプの材料加工につながっている。短いパルス長及び高いパルスピークパワー、又は数マイクロジュールから100μJの高いパルスエネルギーにより、材料内におけるパルスエネルギーの非線形吸収をもたらすことができ、利用されるレーザ光の波長に対して実際に透明な又は実質的に透明な材料でも加工することが可能となっている。
【0003】
このようなレーザ放射の特定の適用分野は、ワークピースの分離及び加工である。このプロセスでは、レーザビームは、垂直入射で材料に導入されることが好ましいが、これにより、材料の表面における反射損失が最小限に抑えられるからである。材料をある作業角度で加工すること、例えば、30°を超える作業角度で材料縁部を面削りすること又は面取り部構造及び/若しくは斜端部構造を作成することに関しては、特に、材料縁部における大きな作業角度によってレーザビームの著しい収差がもたらされ、結果的に、材料内に目的のエネルギー沈着が存在し得ないことにもなるため、未解決の課題となっている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】K.Itoh et al.”Ultrafast Processes for Bulk Modification of Transparent Materials”MRS Bulletin,vol.31,p.620(2006)
【非特許文献2】”Structured Light Fields:Applications in Optical Trapping,Manipulation and Organisation”,M.Wordemann,Springer Science & Business Media(2012),ISBN 978-3-642-29322-1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、既知の先行技術から前進して、ワークピースを分離するための改良されたデバイス、及びまた、対応する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的は、請求項1の特徴を有する、ワークピースを分離する方法によって達成される。本方法の有利な発展形態は、従属請求項、本明細書、及び図から明らかになる。
【0007】
したがって、透明材料を含むワークピースを分離する方法であって、超短パルスレーザからの超短レーザパルスを使用して、分離線に沿ってワークピースの透明材料に材料改質部を導入し、ワークピースは、その後、分離工程にて、結果的に生じた材料改質エリアに沿って分離される、方法が提案される。本発明によれば、レーザパルスは、ワークピースの透明材料にある作業角度で照射され、材料改質部は、透明材料内におけるクラックの形成に関与するタイプIIIの改質部である。
【0008】
この場合、超短パルスレーザは、超短レーザパルスを利用可能にする。この文脈において、超短とは、パルス長が、例えば、500ピコ秒~10フェムト秒、特に、10ピコ秒~100フェムト秒であることを意味し得る。プロセスにおいて、超短レーザパルスは、それによって形成されるレーザビームに沿って、ビーム伝搬方向に移動する。
【0009】
超短レーザパルスがワークピースの材料に集光されると、焦点体積内の強度により、例えば多光子吸収及び/又は電子雪崩イオン化プロセスによる非線形吸収をもたらすことができる。この非線形吸収は、電子イオンプラズマの発生をもたらし、前記プラズマの冷却時にワークピースの材料に永久的な構造改質部を誘発することができる。非線形吸収によってエネルギーを材料の体積に伝達することができるため、サンプルの内部におけるこれらの構造改質部は、ワークピースの表面に影響を及ぼすことなく生成することができる。
【0010】
この文脈において、透明材料とは、超短パルスレーザからのレーザビームの波長において実質的に透明な材料であると理解される。「材料」及び「透明材料」という用語は、本明細書では互換的に使用される。すなわち、本明細書に明示される材料は、常に、超短パルスレーザのレーザビームに対して透明な材料であると理解されるべきである。
【0011】
超短レーザパルスによって透明材料に導入される材料改質部は、3つの異なるクラスに細分される((非特許文献1)を参照)。タイプIは、等方性の屈折率変化、タイプIIは、複屈折の屈折率変化、及びタイプIIIは、いわゆるボイド又は空洞である。この点において、作成される材料改質部は、レーザのパルス持続時間、波長、パルスエネルギー、及び繰り返し周波数などのレーザパラメータ;とりわけ電子構造及び熱膨張係数などの材料特性;及びまた集光の開口数(NA)に依存する。
【0012】
タイプIの等方性の屈折率変化は、レーザパルスによる局所的に制限された溶融及び透明材料の急速な再固化に起因する。例えば、石英ガラスが高温から急速に冷却された場合、石英ガラスは、材料の密度及び屈折率が高くなる。したがって、焦点体積内の材料が融解し、その後急速に冷却された場合には、石英ガラスは、材料改質領域における屈折率が非改質領域にける屈折率よりも高くなる。
【0013】
タイプIIの複屈折の屈折率変化は、例えば、超短レーザパルスとレーザパルスによって生成されたプラズマの電界との間の干渉によって生じ得る。この干渉により、電子プラズマ密度の周期的変調が生じ、固化時に、透明材料の複屈折特性、すなわち方向依存性の屈折率がもたらされる。タイプIIの改質部には、例えば、いわゆるナノグレーティングの形成も伴う。
【0014】
例として、タイプIIIの改質部のボイド(空洞)は、高いレーザパルスエネルギーによって作成することができる。この文脈において、ボイドの形成は、高度に励起され気化した材料が、焦点体積から周囲材料へと爆発的に膨張することに起因する。このプロセスは、微小爆発とも呼ばれる。この膨張は材料の質量内で発生するため、微小爆発によって、より低密度の若しくは中空のコア(ボイド)又はサブマイクロメートル範囲若しくは原子範囲の微視的欠陥がもたらされ、このボイド又は欠陥は、高密度の材料の外郭によって囲まれている。微小爆発の衝撃波面での圧縮により、クラックの自発的な形成をもたらす可能性のある又はクラックの形成を促進する可能性のある応力が透明材料内で発生する。
【0015】
特に、タイプIの改質部及びタイプIIの改質部でもボイドの形成を伴うことがある。例として、タイプIの改質部及びタイプIIの改質部は、導入されたレーザパルスの周りのより応力の低いエリアで生じ得る。したがって、タイプIIIの改質部が導入される場合、より低密度の若しくは中空のコア又は欠陥がいずれの場合においても存在する。例として、タイプIIIの改質部の微小爆発によってサファイア内に作成されるのは空洞ではなく低密度の領域である。タイプIIIの改質部の場合に生じる材料応力によって、このような改質部は更に、多くの場合、クラックの形成を伴う又は促進する。タイプIIIの改質部の導入時にタイプI改質部及びタイプIIの改質部の形成を完全に抑制又は回避することはできない。したがって、「純粋な」タイプIIIの改質部が見当たることはまずない。
【0016】
高いレーザ繰り返しレートの場合、パルス間で材料を完全に冷却することはできず、結果的に、パルス毎に導入される熱の蓄積効果が材料改質部に影響を及ぼすことがある。例として、レーザ繰り返し周波数は、材料の熱拡散時間の逆数よりも高い場合があり、結果的に、焦点ゾーン内で、材料の融解温度に達するまでレーザエネルギーの連続的な吸収による熱の蓄積が起こり得る。更に、焦点ゾーンの周囲のエリアへの熱エネルギーの熱輸送によって、焦点ゾーンよりも大きい領域を溶融することができる。加熱された材料は、超短レーザパルスの導入後に急速に冷却されるため、高温状態の密度及び他の構造特性が、言わば、材料中に凍結されるようなものである。
【0017】
材料改質部は、分離線に沿って材料に導入される。分離線は、ワークピースの表面上のレーザビームの入射線を描写するものである。例えば、レーザビームとワークピースは、送りによって、ある送り速度で互いに相対的に変位し、結果的に、レーザパルスは、時間が経過するにつれて、ワークピースの表面上の異なる位置に入射することになる。この文脈においては、送り速度及び/又はレーザの繰り返しレートは、ワークピースの材料内の材料改質部が重なり合わず、むしろ材料内に互いに離れて存在するように選択される。この場合、互いに相対的に変位可能とは、レーザビームが静止したワークピースに対して並進的に変位され得ることと、ワークピースがレーザビームに対して変位され得ることとの両方を意味する。ワークピース及びレーザビームの両方の移動もあり得る。超短パルスレーザは、ワークピースとレーザビームが互いに相対的に移動している間に、その繰り返し周波数でワークピースの材料にレーザパルスを放射する。
【0018】
ビーム伝搬方向に顕著な材料改質部によって、ワークピースの材料内に、全ての材料改質部が存在し且つ分離線に沿ってワークピースの表面に交差するエリアが作成されることになる。材料改質部が存在するエリアは、材料改質エリアと呼ばれる。特に、材料改質エリアは湾曲させることもでき、例えば円筒又は円錐の側表面を形成する材料改質部も材料改質エリア内に位置することになる。
【0019】
レーザパルスは、ワークピースの材料にいわゆる作業角度で導入される。この場合、作業角度は、レーザビームと分離されるワークピースの面法線との間の角度差によって与えられる。作業角度がゼロに等しくない場合、材料改質エリアも同様にワークピースの面法線に対して傾斜する。この文脈で考慮する必要があるのは、非ゼロの作業角度の場合、レーザビームは、スネルの法則に従って、周囲媒体、好ましくは空気及びワークピースの材料の各々の屈折率に応じて屈折するということである。その結果、ワークピースの材料内のビーム伝搬方向は、ワークピースの材料に進入する前のビーム伝搬方向とは異なり得る。特に、その結果、材料改質エリアは、面法線に対して入射角と異なる角度で傾斜することもある。
【0020】
本場合においては、タイプIIIの改質部を使用して、材料内に所定の破断点を作成する、又は言わば、材料改質エリアに沿って材料を穿孔する。以下でより詳しく説明するように、ボイドによって促進されるクラック形成により、この場合、隣接する材料改質部の間にクラックを広げることが可能である。好ましくは、このようなクラック形成は、材料改質エリア内で発生し、結果的に、材料改質エリアが分離面になる。
【0021】
ここでは、材料改質エリアに沿った分離が分離工程の範囲内で実施され、結果的に、ワークピースが、バルク部とワークピースのいわゆる切断部とに分割されることになる。
【0022】
この場合、分離工程は、機械的分離及び/又はエッチング処理及び/又は熱の印加及び/又は自己分離工程を含み得る。
【0023】
例として、熱は、材料又は分離線の加熱によって印加され得る。例として、分離線は、連続波CO2レーザによって局所的に加熱することができ、結果的に、材料改質領域内の材料が、未処理又は未改質の材料と比べて異なるように膨張することになる。しかしながら、熱の印加は、高温空気流によって、又はホットプレート上で焼くことによって、又はオーブン内で材料を加熱することによっても実現することができる。特に、分離工程の範囲内においては温度勾配も適用されることがある。それにより、材料改質部によって促進されるクラックはクラック成長を経て、結果的に、連続的且つ平滑な分離面を形成することができ、これによって、ワークピースの部品が互いに分離される。
【0024】
引張応力又は曲げ応力の印加によって、例えば、分離線によって分離されるワークピースの部品への機械的負荷の印加によって、機械的分離を発生させることができる。例として、材料平面内の相反する力が、分離線によって分離されるワークピースの部品に各々の力の作用点で作用する場合、引張応力が印加され得る。前記相反する力はそれぞれ、分離線から離れる方に向いている。力が互いに平行に又は半平行に整列していない場合、このことは、曲げ応力の発生に寄与する可能性がある。ワークピースは、引張応力又は曲げ応力が分離面に沿った材料の結合力を超えるとすぐに、分離面に沿って分離される。特に、機械的な変化は、分離される部品に対するパルス状の作用によっても得ることができる。例として、衝撃によって材料中に格子振動を発生させることができる。したがって、クラック形成を引き起こすことができる引張応力及び圧縮応力を、同様に、格子の原子の偏向によって発生させることができる。
【0025】
材料は、湿式化学溶液を使用したエッチングによっても分離することができ、エッチングプロセスでは、好ましくは、溶液を材料改質部に、すなわち目的の材料弱化部に適用する。ワークピースは、材料改質によって弱化したワークピースの部分が好ましくはエッチングされることにより、分離面に沿って分離される。
【0026】
特に、いわゆる自己分離も、材料内の材料改質部の配向による、目的とするクラック進行によって実施することができる。この場合、材料改質部から材料改質部へのクラック形成により、更なる分離工程を実行する必要なしに、ワークピースの2つの部品の全エリアの分離が可能になる。
【0027】
これは、ワークピースの各材料に対して理想的な分離方法を選択することができ、結果的に、ワークピースの分離によって高品質の分離縁部がもたらされるという点で有利である。
【0028】
特に、材料改質部が、交差する平面内にあるワークピースの2つの側面を貫通すること、並びに分離工程によって、成形縁部、好ましくは面取り部及び/又は斜端部が作成されることが考慮に入れられ得る。
【0029】
2つの側面は、これらの平面の面法線が互いに平行に整列していない場合、交差する平面内にある。例として、直方体の場合、側面を直方体の縁部によって接続することができる場合、2つの側面は、交差する平面内にある。円盤状の材料の場合、円盤の周方向表面は、ある意味においては、円盤の上面及び下面と交差する平面内に位置する。少なくとも、局所的に考える場合、円盤の場合であっても、レーザビームの入射面には矩形の断面が生じる。
【0030】
材料改質部は、両方の隣接する側面を貫通する。この場合、貫通とは、材料改質部が一方の側面でビーム伝搬方向に始まり、もう一方の側面で終わることを意味する。しかしながら、これは、材料の表面の欠けを避けるために、材料改質部がワークピースの材料内のみに延びることも意味し得る。しかしながら、この場合、2つの側面の間におけるレーザの経路の大部分が材料改質部によって改質されなければならない。例として、材料内に材料改質部を戦略的に有利な状態で配置することにより、材料改質部を経路の3分の1のみに沿って導入すれば十分な場合がある。しかしながら、材料改質部が2つの側面の間の経路全体にわたって連続することも可能であり得る。
【0031】
その結果、ワークピースの切断部は、入射及び屈折するビームが位置するレーザビームの入射面に生じる。例として、直方体の場合、この切断部は三角形であり得る。ワークピースの三角形の切断部は、分離される縁部と反対側に、いわゆる斜辺を有する。この場合、斜辺の長さは、ワークピース内の材料改質部の長さによって与えられる。更に、切断部の斜辺に隣接する辺の距離は、ワークピースの縁部から分離線の距離によって与えられる。
【0032】
材料の2つの側面を貫通する材料改質部によって、所定の破断点が斜辺の全長にわたって導入される。その結果、後続の分離工程において、ワークピースは、材料改質エリアに沿って分離される。
【0033】
分離後、材料改質エリアは、材料のいわゆる成形縁部になる。ワークピースの成形縁部は、いわゆる面取り部及び斜端部に更に分割される。この場合、ワークピースの面取り部は、トリムであると理解される。この場合、直方体の元の縁部は2つの縁部に置き換わる。その結果、元の縁部は取り除かれる、又は第1の直方体側面と第2の直方体側面との間に移行領域が作成される。これに対して、切断部の斜辺がワークピースの縁部に一致する場合、又は一般に、三角形の切断部の一辺が、それに平行に延びるワークピースの少なくとも1つの辺の長さに一致する場合、斜端部が作成される。
【0034】
例として、面取り部及び/又は斜端部の斜辺の長さは、50μm~5000μm、好ましくは、100μm~200μmである。
【0035】
これは、結果的に、視覚的に特に訴求性があり、高品質の効果を有するようにワークピースを面削りすることができるという点で有利である。したがって、更に、比較的厚いワークピースを面削りすることも可能である。更に、成形縁部、面取り部、又は斜端部を設けることで、最終顧客における設置又は使用時に、90°の角度を有する縁部のように容易に欠けることのないより安定した縁部を得ることが可能になる。
【0036】
レーザビームは、非回折レーザビームであり得る。
【0037】
特に、非回折ビーム及び/又はベッセル型ビームは、横断方向の強度分布が伝搬不変であるビームを指すものと理解すべきである。特に、非回折ビーム及び/又はベッセル型ビームの場合、ビームの長手方向及び/又は伝搬方向における横断方向の強度分布は、実質的に一定である。
【0038】
横断方向の強度分布とは、ビームの長手方向及び/又は伝搬方向に対して直角に配向された平面内に位置する強度分布を意味するものと理解すべきである。更に、強度分布とは、常に、材料の改質閾値を上回るレーザビームの強度分布の部分を意味するものと理解される。例として、これは、非回折ビームの強度最大部の一部のみ又は非回折ビームの強度最大部のほんのわずかだけがワークピースの材料に材料改質部を導入することができることを意味し得る。したがって、強度分布のこの部分が目的の手法で提供され、強度分布の形態の強度の増大が集束により得られることを明確にするために、強度分布に対して「焦点ゾーン」という語も使用することができる。
【0039】
非屈折ビームの定義及び性質に関しては、以下の書籍、(非特許文献2)を参照されたい。その内容全体が明示的に参照される。
【0040】
したがって、非回折レーザビームは、強度分布の横断方向寸法よりも極めて大きい範囲の、ビーム伝搬方向に細長い強度分布を有し得るという点で有利である。特に、これにより、ビーム伝搬方向に細長い材料改質部の作成が可能になり、結果的に、これら材料改質部は、ワークピースの2つの側面を特に容易に貫通することができる。
【0041】
レーザビームは、半径方向に非対称な横断方向の強度分布を有し得、横断方向の強度分布は、第2の軸に比べて第1の軸の方向に細長く見え、第2の軸は、第1の軸に垂直である。
【0042】
この場合、半径方向に非対称とは、横断方向の強度分布が、光軸までの距離のみならず、少なくとも、ビーム伝搬方向の周りの極角にも依存することを意味する。例として、半径方向に非対称な横断方向の強度分布とは、横断方向の強度分布が、例えば、十字形又は三角形又は多角形、例えば五角形であることを意味し得る。半径方向に非対称な横断方向の強度分布はまた、更に、回転対称及び鏡面対称のビーム断面を含み得る。特に、半径方向に非対称な横断方向の強度分布はまた、楕円が長軸Aとこれに垂直な短軸Bとを有する楕円形を有し得る。したがって、A/B比が1よりも大きい場合、特に、A/B=1.5である場合、楕円形の横断方向の強度分布が存在する。レーザビームの楕円形の横断方向の強度分布は、理想的な数学的楕円に対応し得る。しかしながら、非回折レーザビームの半径方向に非対称な横断方向の強度分布はまた、上述の長主軸と短主軸の比を単に有し得るとともに、異なる輪郭、例えば、近似的な数学的楕円、ダンベル型の形状、又は数学的に理想的な楕円によって囲まれた任意の他の対称若しくは非対称な輪郭を有し得る。
【0043】
特に、楕円形の非回折ビームは、非回折ビームによって生成することができる。この場合、楕円形の非回折ビームは、ビーム強度の解析から明らかになる特殊な性質を呈する。例として、楕円形の準非回折ビームは、ビームの中心に一致する主要最大部を有する。この場合、ビームの中心は、主軸が交差する位置によって与えられる。特に、楕円形の準非回折ビームは、複数の強度最大部の重置から生じる場合があり、この場合、関与する強度最大部の包絡線のみが楕円形である。特に、個々の強度最大部は、楕円形の強度プロファイルを有している必要はない。
【0044】
半径方向に非対称な横断方向の強度分布によって、材料のビーム伝搬方向に対して垂直な断面の材料改質部も同様に半径方向に非対称である。むしろ、材料改質部の形状は、ワークピースの材料中の非回折ビームの強度分布に対応する。
【0045】
非回折ビームの場合、特に、材料と相互作用し、材料改質部を導入する高強度の領域と、改質閾値未満の領域とが存在する。この場合、半径方向に非対称な横断方向の強度分布は、改質閾値を上回る強度最大部に関係する。
【0046】
したがって、半径方向に非対称なタイプIIIの材料改質部は、材料改質部の細長い軸に平行に延びる好ましい方向を有する。したがって、クラックは、次いで、典型的には、この好ましい方向に沿って形成又は誘発される。例として、材料改質部の輪郭は、長軸の方向に曲率が小さくなるため、クラックは、主に、楕円形のタイプIIIの材料改質部の長軸の方向に広がり、ここで、応力ピークが材料内のクラックの形態で緩和することが好ましい。
【0047】
したがって、特に、材料内の半径方向に非対称な材料改質部の適切な配向によってクラックの進行を意図したように促すことが可能であるため、例えば、クラック形成は、好ましい方向の配向によって、分離線の接線方向に方向付けられる。
【0048】
例として、非回折レーザビームとワークピースとの間の送り方向が横断方向の強度分布の短軸に平行な場合、クラック形成は送り方向に対して垂直に延びることが好ましいため、隣接する材料改質部のクラックは接することはないと思われる。これとは対照的に、送り方向が、クラック形成が生じることが好ましい長軸に対して平行である場合、隣接する材料改質部のクラックは接し、結合する可能性が高い。湾曲した分離線の場合であっても、ビーム断面及び/又はワークピースの向きによって、分離線の全長にわたって目的のクラック進行を確保することが可能である。これにより、任意の所望の形状の分離線に沿って材料を分離することを可能にする。
【0049】
ワークピースの表面上への半径方向に非対称な横断方向の強度分布の投射において、第1の軸と第2の軸は、作業角度によって、同じサイズを有するように見えることがある。
【0050】
作業角度でのワークピースの表面上への半径方向に非対称な横断方向の強度分布の数学的投射は、強度分布の歪みにつながることがある。したがって、本来楕円形の強度分布によって、例えば円形の強度分布がワークピース上に作成されることがある。しかしながら、特にまた、それにより達成され得るのは、本来円形の強度分布によってワークピースの表面上に楕円形の投射が実現されるというものである。その結果、作業角度でのワークピースの表面上への投射から生じる強度分布を有する材料改質部が材料に導入される。
【0051】
しかしながら、投射により、半径方向に非対称な横断方向の強度分布の以前に選択した好ましい方向の歪みも生じる可能性があり、結果的に、好ましい方向が実際に有効な強度分布から逸脱することになる。
【0052】
したがって、一実施形態では、作業角度によって、半径方向に非対称な横断方向の強度分布が円形に見えることが好ましい。特に、本来楕円形の横断方向の強度分布の場合、これは、投射の結果、楕円形の長軸Aと短軸Bが同じサイズを有するように見えることを意味する。その結果、材料改質部の作成に関して作用するのは、事実上、円形の強度分布となる。
【0053】
ワークピースの表面上への半径方向に非対称な強度分布の投射は、送り方向に細長くなり得る。
【0054】
その結果、ワークピースの表面上への強度分布の投射による歪みは、有効ビームプロファイルの好ましい方向が送り方向に向くように制御することができる。好ましい方向が送り方向の方向に向き、結果的に分離線に平行に延びることによって、ワークピースを、結果的に生じる材料改質エリアに沿って特に容易に且つ特に高品質で分離することが可能である。
【0055】
半径方向に非対称な横断方向の強度分布の第2の軸に対する第1の軸の比は、作業角度の余弦の逆数よりも大きくすることができる。
【0056】
横断方向の強度分布の第1の軸がワークピースの表面に平行に延び、且つレーザビームの入射面に垂直であり、第2の軸は入射面内にある状態で、レーザビームが表面上に作業角度で入射すると仮定する。更に、第1の軸を半径方向に非対称な横断方向の強度分布の長軸とし、第2の軸を短軸とする。次いで、ワークピースの表面上への第2の軸の投射によって、有効長を作業角度の逆数倍だけ増加させる。
【0057】
例として、第2の軸の長さが10μm、作業角度が60°であれば、ワークピースの表面上への第2の軸の投射は、10μm/cos(60°)=20μmの長さを有する。
【0058】
更に、横断方向の強度分布の第1の軸は、入射面に垂直であるため、投射によって増加することはない。したがって、ビームプロファイルは、サイズが変わらない第1の軸を有する。
【0059】
例えば、上記の例の第1の軸の長さが20μmであれば、第1の軸は、投射における長さも20μmである。しかしながら、全体的に、これにより、ワークピースの表面上に円形ビーム形状がもたらされる。
【0060】
例えば、上記の例の第1の軸の長さが15μmであれば、第1の軸は、投射における長さも15μmであるが、第2の軸は20μmに増加する。したがって、好ましい方向がレーザビームの入射面内にある材料改質部が作成される。特に、投射の結果、好ましい方向は、第1の軸から第2の軸に回転している。
【0061】
したがって、第2の軸に対する第1の軸の比が作業角度の余弦の逆数よりも大きくなるように選択することで、ビームがワークピースの表面上に投射されたときであっても、強度分布の本来意図したアライメントが維持されることを確実にする。
【0062】
第2の軸に対する第1の軸の比は、
【数1】
よりも大きくすることができる。
【0063】
これにより、特に作業角度が45°の場合に、横断方向の強度分布の本来意図したアライメントが維持されることを確実にする。特に、
【数2】
が適用され、結果的に、軸比はそれに応じて選択される。その結果、ビームがワークピースの表面上に投射されたときであっても、材料改質部によって好ましい方向が維持される。
【0064】
材料改質エリアは、ワークピースの表面に対して、大きさの観点において最大35°の角度で傾斜し得る。
【0065】
スネルの法則によれば、周囲媒体の屈折率と作業角度の正弦との積は、材料の屈折率と屈折角の正弦との積に一致する。したがって、屈折率に応じて、材料改質エリアがワークピースの表面に対して最大35°傾斜するように作業角度を選択することができる。特に、角度指定は、材料改質部が位置する材料改質エリアに関連するため、この角度は、屈折角に直接対応することになる。
【0066】
レーザパルスのパルスエネルギーは10μJ~5mJであり得る、及び/又は平均レーザパワーは1W~1kWであり得る、及び/又はレーザパルスは個々のレーザパルス若しくはレーザバーストの一部であり得る、及び/又はレーザの波長は300nm~1500nm、特に1030nmであり得る。
【0067】
これは、様々な材料に対して最適なレーザパラメータを提供することができるという点で有利である。
【0068】
例として、超短パルスレーザは、パルスエネルギーが100μJ、平均レーザパワーが5W、レーザの波長が1030nmである個々のレーザパルスを提供し得る。
【0069】
レーザバーストは2~20個のレーザパルスを含み得、レーザバーストのレーザパルスは、10ns~40ns、好ましくは20nsの時間的間隔を有する。
【0070】
例として、レーザバーストは、10個のレーザパルスを含み得、レーザパルスの時間的間隔は20nsであり得る。この場合、レーザパルスの繰り返し周波数は50MHzである。この場合、レーザバーストは、個々のレーザパルスの繰り返し周波数がおよそ100kHzで放出され得る。
【0071】
レーザバーストを使用することにより、材料固有の熱特性に応じることが可能であり、結果的に、特に高い表面品質を備えた成形縁部を作成することが可能になる。
【0072】
入射レーザビームは、入射面に平行に偏光し得る。
【0073】
周囲媒体から材料に移行中のレーザビームの屈折は、作業角度と屈折率のみに依存するわけではない。この場合、レーザビームの偏光も重要な役割を果たす。いわゆるフレネルの式を使用すると、10°を超える入射角に関しては、入射面に平行に偏光したレーザビームの材料の透過率が、入射面に対して垂直に偏光したレーザビームの透過率よりも常に大きいことを示すことが可能である。
【0074】
特に、したがって、材料内で分離プロセスの最適なエネルギー収量を実現するために、P偏光によってレーザビームの反射損失を最小限にすることが可能である。更に、レーザビームをブルースター角で入射させる場合、材料への特に有利なエネルギー入力結合を得ることができる。
【0075】
上記の目的は、また、請求項9の特徴を有する、ワークピースを分離するためのデバイスによって達成される。有利な発展形態は、従属請求項、明細書、及び図から明らかである。
【0076】
したがって、透明材料を含むワークピースを分離するためのデバイスであって、超短レーザパルスを提供するように構成された超短パルスレーザと、ワークピースの透明材料にレーザパルスを導入するように構成された加工光学ユニットと、レーザパルスで構成されたレーザビームとワークピースとを分離線に沿ってある送りで互いに相対的に移動させるように構成され、且つ加工光学ユニットの光軸をワークピースの表面に対してある作業角度で方向付けるように構成された送りデバイスとを含む、デバイスが提案される。本発明によれば、レーザパルスは、ワークピースの透明材料にある作業角度で導入され、材料改質部は、ワークピースの材料内におけるクラックの形成に関与するタイプIIIの改質部である。
【0077】
例として、加工光学ユニットは、光学イメージングシステムであり得る。例として、加工光学ユニットは、1つ以上の構成部品からなり得る。例として、構成部品は、レンズ又は光学イメージング自由曲面又はフレネルゾーンプレートであり得る。加工光学ユニットによって、特に、強度分布がワークピースの材料に導入される深さを決定することが可能である。ある意味で、これにより、ビーム伝搬方向における焦点ゾーンの配置を設定することができる。例えば、加工光学ユニットを調整することにより、焦点ゾーンは、ワークピースの表面上に配置することができる、又は好ましくは、ワークピースの材料内に配置することができる。例として、これにより、レーザビームが2つの隣接する側面を貫通し、結果的に、分離工程によってワークピースの全エリアの分離を可能にする材料改質部の作成に至るように焦点ゾーンを設定することが可能になる。
【0078】
例として、ワークピース上のレーザパルスの入射点を変化させるために、この場合、送りデバイスは、XYテーブル又はXYZテーブルであり得る。この場合、送りデバイスは、材料改質部を分離線に沿って互いに隣り合った状態でワークピースの材料に導入することができるように、ワークピース及び/又はレーザビームを移動させることができる。
【0079】
送りデバイスは、ワークピースとレーザビームが全てのオイラー角に関して互いに相対的に回転することができるように角度調整も有することができる。これにより、特に、作業角度を分離線全体に沿って維持できるようにすることができる。
【0080】
特に、作業角度は、加工光学ユニットの光軸とワークピース材料の面法線との間の角度とも理解される。この場合、加工光学ユニットの光軸と面法線との間の作業角度は、例えば0~60°であり得る。
【0081】
ビーム整形光学ユニットは、レーザビームから非回折レーザビームを整形することができ、非回折レーザビームの横断方向の強度分布は半径方向に非対称であり得、半径方向に非対称な横断方向の強度分布は第2の軸に比べて第1の軸において細長くなり得、第2の軸は第1の軸に垂直である。
【0082】
例として、ビーム整形光学ユニットは、回折光学素子(DOE)、反射若しくは屈折実施形態の自由曲面、又はアキシコン若しくはマイクロアキシコンの形態であり得る、又は複数のこれら構成部品若しくは機能の組み合わせを含み得る。ビーム整形光学ユニットが加工光学ユニットの上流のレーザビームから非回折レーザビームを整形する場合、加工光学ユニットの集束によって、強度分布が材料内に導入される深さを決定することが可能である。しかしながら、ビーム整形光学ユニットはまた、非回折レーザビームが加工光学ユニットによる結像によってのみ生成されるように構成されてもよい。
【0083】
回折光学素子は、2次元において、入射レーザビームの1つ以上の性質に影響を及ぼすように構成されている。回折光学素子は、入射レーザビームから非回折レーザビームの厳密に1つの強度分布を生成するために使用され得る固定構成要素である。典型的には、回折光学素子は、特別に形成された回折格子であり、入射レーザビームは回折によって所望のビーム形状になる。
【0084】
アキシコンとは、円錐形に研削加工された光学素子であり、入射したガウシアンレーザビームが通過するときに、入射したガウシアンレーザビームから非回折レーザビームを整形する。特に、アキシコンは、ビーム入射表面から円錐の側表面までにおいて計算される円錐角αを有する。その結果、ガウシアンレーザビームの周辺光線は、近軸光線と異なる焦点に屈折される。特に、これにより、ビーム伝搬方向に細長い強度分布がもたらされる。
【0085】
加工光学ユニットは、サイズを減少及び/若しくは増大させたレーザビームをワークピースの材料に導入するように構成されたテレスコープシステムを含み得る。
【0086】
レーザビーム又はその横断方向の強度分布のサイズの増加又は減少により、レーザビーム強度を大きい又は小さい焦点ゾーンに分布させることが可能になる。レーザエネルギーを大きい又は小さいエリアに分布させることにより、強度を適応させ、特に、増加及び/又は減少によって、改質部タイプI、II及びIIIの間で選択することも可能である。
【0087】
特に、半径方向に非対称な横断方向の強度分布を増加又は減少させることにより、ワークピースの材料により大きい又は小さい材料改質部を導入することも可能である。例えば、減少させた楕円形の横断方向の強度分布を材料に導入すると、それによって導入される材料改質部の曲率半径の減少を伴う。換言すると、減少の結果、与えられる曲率はより急になる。これにより、ワークピースの材料内のクラック形成を促進することができる。更に、光学系は、増加又は減少によって、所与の加工条件に合うように適合させることができ、結果的に、デバイスをより柔軟に使用することができる。
【0088】
送りデバイスは、軸デバイスとワークピースホルダとを含み得、加工光学ユニット及びワークピースを3つの空間軸に沿って並進的に且つ少なくとも2つの空間軸の周りで回転的に互いに相対的に移動させるように構成されている。
【0089】
例として、軸デバイスは5軸デバイスであり得る。例として、軸デバイスは、レーザビームをワークピース上に案内する又はレーザビームに対してワークピースを移動させるロボットアームでもあり得る。
【0090】
分離線に沿って材料改質部を導入できるようにするためにレーザビームとワークピースとを互いに相対的に移動させることにより、レーザビーム又はワークピースを局所的に同時回転させて、分離線に対する作業角度を維持する必要がある。その結果、湾曲した分離線の場合に、材料改質エリアはワークピースの表面に対して常に同じ角度を有し得る。
【0091】
特に、このような軸デバイスは同時に、半径方向に非対称な横断方向の強度分布を分離線に対して配向することも可能にし、そのため、好ましい方向が分離線に平行に延び、分離線に沿ってクラック形成を促進する材料改質部が作成される。
【0092】
更に、ワークピースホルダが対応する数の軸の周りで移動可能である限り、軸デバイスは、5つ未満の可動軸も含み得る。例として、軸デバイスがXYZ方向にのみ変位可能である場合、ワークピースホルダは、ワークピースをレーザビームに対して回転させるために、例えば2つの回転シャフトを有し得る。
【0093】
レーザビームのビーム成分は、ワークピースの面法線に対して80°以下の入射角でワークピースに入射することができる。
【0094】
加工光学ユニットによって、レーザパルスは、ワークピースの面法線に対して作業角度で方向付けられる光軸に収束する。この場合、光束の成分レーザ光は、加工光学ユニットの光軸に対する角度を含む。特に、これらの角度は、開口数によって、非常に大きい角度又は非常に小さい角度を含み得る。
【0095】
レーザ光束のこれら包囲成分レーザ光がワークピースの表面上に80°以下の角度で入射することによって、大きな反射損失を回避することが可能である。フレネルの式によれば、ワークピースの表面におけるレーザビームの反射率及び透過率は、入射角及び屈折率に依存する。レーザビームの微小角入射の場合、わずかなレーザ光しか材料に入力結合できないため、効果的に材料加工されない。更に、結果的に、非回折ビームの形状に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0096】
好ましくは偏光子と波長板とを含む偏光光学ユニットは、レーザビームの入射面に対するレーザビームの偏光を調整し、好ましくは、前記偏光を入射面に平行に設定するように構成され得る。
【0097】
波長板、特にいわゆる半波長板は、直線偏光の偏光方向を選択可能な角度で回転させることができる。結果的に、レーザビームに所望の偏光を付与することが可能である。
【0098】
例として、偏光子は、薄膜偏光子であり得る。薄膜偏光子は、特定の偏光を持つレーザ放射のみを透過させる。
【0099】
したがって、レーザ放射の偏光状態は、波長板と偏光子との組み合わせによって常に制御され得る。
【0100】
フレネルの式によれば、10°を超える入射角に関しては、透過率が、レーザビームが入射面に対して垂直に偏光する場合よりも常に大きいという点で、入射面に平行なレーザビームの偏光が有利である。特に、平行偏光レーザビームの場合の透過率は、垂直偏光光の場合に比べて、より広い入射角範囲にわたってより一定且つ均一である。結果的に、大きい開口数の加工光学ユニットを使用することも可能である。このプロセスにおいては、垂直偏光レーザビームの場合、ワークピースの表面で非対称なビームの反射が生じ、結果的に、光学収差により、材料改質部の品質、ひいては分離面の品質が低下する。
【0101】
ビーム案内デバイスは、ワークピースにレーザビームを案内するように構成され得、ビーム案内は、ミラーシステム及び/又は光ファイバ、好ましくは中空コアファイバを介して実施される。
【0102】
いわゆる自由ビーム案内では、ミラーシステムを使用して、様々な空間的次元内で静止超短パルスレーザからビーム整形光学ユニットにレーザビームを案内する。自由ビーム案内では、光路全体にアクセス可能であるため、例えば、偏光子及び波長板などの更なる要素を問題なく設置することができるという点で有利である。
【0103】
中空コアファイバは、超短パルスレーザからビーム整形光学ユニットにレーザビームを柔軟に伝送することができるフォトニックファイバーである。中空コアファイバによって、ミラー光学ユニットの調整を不要にできる。
【0104】
制御電子機器は、レーザビームとワークピースの相対位置に基づいて、超短パルスレーザのレーザパルス放出をトリガーするように構成され得る。
【0105】
湾曲した又は多角形の送り軌道の場合、送り速度の局所的な低減が有利な場合がある。しかしながら、レーザの繰り返し周波数が一定の場合、このことは、隣接する材料改質部の重なり又は材料の不要な加熱及び/若しくは溶融につながる可能性がある。このために、制御電子機器は、パルス放出をレーザビームとワークピースの相対位置に基づいて制御することができる。
【0106】
例として、送りデバイスは、送りデバイス及びレーザビームの位置を測定する空間解像エンコーダを含み得る。制御電子機器の適切なトリガーシステムが、空間的情報に基づいて、超短パルスレーザにおけるレーザパルスのパルス放出をトリガーし得る。
【0107】
特に、コンピュータシステムを使用して、パルスをトリガーすることもできる。例として、材料の加工前に、各々の分離線に関するレーザパルス放出の位置を定義することができ、結果的に、分離線に沿った材料改質部の最適な分布が保証される。
【0108】
これにより達成されるのは、送り速度が変化する場合であっても、材料改質部の間隔が常に同じということである。特に、これにより同じく達成されるのは、均一な分離面を作成することが可能であるとともに、面取り部又は斜端部が高い表面品質を有するということである。
【0109】
ワークピースホルダは、レーザビームを反射及び/又は散乱しない表面を有し得る。
【0110】
特に、これにより、レーザビームが材料内に再び案内され、材料を貫通後にそこで別の材料改質部が生じることを防止することができる。特に、非反射性及び/又は非散乱性の表面により、作業時の安全性も高めることができる。
【0111】
本発明の好ましい更なる実施形態は、以下の図の説明によってより詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0112】
図1図1A図1Eは、本方法の概略図を示す。
図2図2A図2Cは、面取り部構造及び斜端部構造の概略図を示す。
図3図3A図3Fは、面取り部構造及び斜端部構造の更なる概略図を示す。
図4図4A及び図4Bは、非回折レーザビームの概略図を示す。
図5図5A図5Eは、非回折レーザビームの更なる概略図を示す。
図6図6A及び図6Bは、材料改質部の周りのクラック形成の概略図を示す。
図7図7A及び図7Bは、材料表面上へのビーム投射の概略図を示す。
図8図8A図8Dは、材料表面上へのビーム投射の更なる概略図を示す。
図9図9は、透過率を偏光及び作業角度の関数として示すグラフである。
図10図10は、本方法を実施するためのデバイスの概略図を示す。
図11図11A図11Cは、本方法を実施するためのデバイスの更なる概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0113】
好ましい例示的な実施形態を、図を参照して以下に説明する。この場合、異なる図において、同一の、類似の、又は同じ効果を有する要素に同一の参照符号が提供され、冗長性を回避するために、これら要素を繰り返し説明することは、場合によっては省略される。
【0114】
図1は、透明材料を含むワークピース1を分離する方法を概略的に示す。図1Aは、超短パルスレーザ2のレーザビーム20が入射するワークピース1の断面図を示す。この場合、レーザビーム20は、以下に示される加工光学ユニット3の光軸に対応する作業角度αでワークピース1上に導入される。
【0115】
ワークピース1内に移行中、レーザビーム20は、スネルの法則に従ってワークピース1の表面10で屈折し、したがって、レーザビーム20は、面法線Nに対し角度βでワークピース1の材料中を伝搬し続ける。ワークピース1の材料は、レーザビーム20によってワークピース1にレーザパルスが導入された結果、レーザビーム20の焦点ゾーン220内で加熱される。このプロセスにおいて、ワークピース1の材料は焦点ゾーン内で気化するため、ワークピース1の周囲材料へのこのプラズマ状態の爆発的な膨張が存在する。材料応力が、このいわゆる微小爆発の衝撃波面での圧縮によって生じ、レーザビームの元の焦点ゾーン220内に、より低密度の又は更には空の空間(ボイド)が残る。焦点ゾーン220内におけるワークピース1の材料の改質部は材料改質部5と称され、この材料改質部5は、特に、タイプIIIの材料改質部である。最終的には、材料応力によって、ワークピース1の材料中にクラック形成が促進される。
【0116】
この場合、レーザパルスのパルスエネルギーは10μJ~5mJであり得る、及び/又は平均レーザパワーは1W~1kWであり得る、及び/又はレーザパルスは個々のレーザパルス若しくはレーザバーストの一部であり得る、及び/又はレーザの波長は300nm~1500nmであり得る。更に、レーザバーストは2~20個のレーザパルスを含み、レーザバーストのレーザパルスは、10ns~40ns、好ましくは20nsの時間的間隔を有する場合がある。
【0117】
図1Bに示されるように、超短パルスレーザ2がレーザパルスを放射する間、レーザビーム20とワークピース1は、送りVで互いに相対的に移動する。この送りVは、上面10上のどこでワークピース1が分離されることになるかを決定する分離線4に沿って案内される。レーザビーム20は、ワークピース1の材料内を角度βで伝搬するため、材料改質部5も同様に、ワークピース1の材料内に角度βで導入される。特に、材料改質部5は、焦点ゾーン220の範囲及び形態又は強度分布に応じて、特にビーム伝搬方向に細長い、異なる形状になり得る。
【0118】
ビーム伝搬方向に細長い材料改質部5の場合、いわゆる材料改質エリア50(この範囲内に材料改質部5が位置する)が、レーザビーム20の同時送りVによってワークピース1の材料内に生成される。この状況においては、材料改質部5は重なり合わず、互いに別々に存在することが認められるはずである。ワークピース1は、材料改質エリア50を介して、いわゆるバルクワークピース1’と、いわゆる切断部12とに分離される。例として、材料改質エリア50は、ワークピース1の表面10に対して、大きさの観点において最大35°の角度βで傾斜し得る。
【0119】
ある意味で、ワークピース1の材料は、材料改質エリア50内の材料改質部5によって貫通され、ワークピース1と切断部12とが、この材料改質エリア50に沿って特に容易に互いに分離され得ることになる。
【0120】
実際の分離は、特定の分離工程によって実現され得る。例として、自発的なクラック成長を切断部12に対する機械的作用によって開始することができ、その結果として、切断部12をバルクワークピース1’からエリアにわたって分離することができる。
【0121】
切断部12は、図1Cに示されるように、化学浴内でバルクワークピース1’から分離される場合もある。例として、導入された材料改質部5は、エッチング液の影響を特に受けやすいため、材料改質エリア50のエッチング処理によってバルクワークピース1’から切断部12を分離する場合がある。
【0122】
例として、図1Dに示されるように、切断部12はまた、熱の作用によってバルクワークピース1’から分離され得る。この目的のために、ワークピース1は、ホットプレート42又は加熱レーザ(ここでは図示せず)を使用して加熱され、結果的に、ワークピース1の熱膨張が生じる。ワークピース1の熱膨張の結果、材料改質エリア50中にすでに存在する材料応力によってクラックの形成が生じ得、結果的に、バルクワークピース1’と切断部12とがエリアにわたって互いに分離される。
【0123】
更に、ワークピース1は、外部からの影響のないクラックの自発的な形成によって分離する場合があり、これは、自己分離として知られる。タイプIIIの材料改質部はワークピース1に材料応力を導入し、タイプIIIの材料改質部自体がすでにクラック形成に関与している。したがって、バルクワークピース1と切断部12は、この自発的なクラック形成によってもすでに分離することができる。
【0124】
上記の分離工程の結果、図1Eに示されるような、いわゆる面取り部及び/又は斜端部がバルクワークピース1’上に作成される。ワークピース1の成形縁部としてワークピース1をトリミングすることも同様に知られている。面取り部又は斜端部は、屈折角βが、レーザビーム20の作業角度α、周囲媒体の屈折率、及びワークピース1の屈折率から生じ、したがって、材料改質部5、及び最終的には、面取り部又は斜端部のアライメントも同様に生じるように、材料改質エリア50によって形成される。
【0125】
成形縁部14を作成するために、材料改質部5が、面削りすべき縁部を形成するワークピース1の側面を貫通すると有利である。例として、図1Aの側面10及び側面11は、面削りすべき縁部110を形成している。特に、ワークピース1の側面10及び側面11は、交差する空間的平面内にあり、平面の交差線は、正にワークピース1の縁部110である。
【0126】
図2A図2Cは、材料の可能な異なる成形縁部を示す。図2Aにおいて、材料改質エリア50は、面取り部の高さが側面11の高さよりも小さく、面取り部の幅が側面10よりも小さい状態で、ワークピース1を横断している。したがって、面削りの結果、縁部110は、2つの縁部110’及び縁部110”に置き換えられる。その結果、特に、元の縁部110は鈍化又は平坦化する。
【0127】
図2Bにおいて、材料改質エリア50は、切断部12の高さが側面11の高さに一致し、材料改質エリア50と、ワークピース1の下面13と側面11とによって形成される縁部130とが重なる状態で、ワークピース1を横断している。この例では、縁部の数は一定のままであるが、側面13と側面11とが接する角度はより鋭角になる。したがって、斜端部12を形作ることによって、ワークピース1を鋭利化及び/又は尖鋭化することができる。
【0128】
図2Cにおいて、材料改質エリア50、材料改質エリアがワークピース1の上面10と下面13の両方に交差する状態で、ワークピース1を横断している。その結果、ワークピース1の長手方向範囲が全体的に減少し、ワークピース1は同様に、図2Bに示されるように鋭利化される。
【0129】
示されるいずれの場合においても、切断部12のいわゆる斜辺Hが、材料内の材料改質部の長さによって与えられる。
【0130】
これまでの説明が直方体の分離に限定されている場合であっても、丸い材料1又は丸みを帯びた材料も本方法によって分離することができる。例として、図3A図3Bは、円盤の形態のワークピース1を示す。いわゆる入射面が、作業角度αで入射するレーザビーム20と、角度βで屈折するレーザビーム20とによって画定される。この入射面内においては、上記の説明の一語一句が採用され得る。
【0131】
図3Cは、更に、図3A図3Bの円盤を面削りすると円錐状にテーパした要素になり、結果的に、導入される材料改質部5が、非常に異なる形態の成形縁部を作成することが可能になることを示す。
【0132】
図3Dに、更なる例が示される。材料改質部5は、ワークピース1の周囲全体に導入され、分離線4は湾曲しており、入射面の作業角度αは常に一定に保たれる。その結果、分離工程後に、高い光学品質を有する、丸みを帯びた面取り部又は斜端部が生じる。
【0133】
図3Eに、更なる例が示される。図3Dとは対照的に、この場合、丸みを帯びた分離線4は使用されなかった。ワークピース1は、4つの側面全てで連続的に面削りされ、結果として、分離工程後に、ワークピース1の隅部に結晶形状の面取り部が生じる。したがって、本方法は、ワークピース1に特に高品質の外観を与えることにも適している。
【0134】
図3Fは、図3D及び図3Fの材料1の断面図を示す。この断面図は、面取り部14の形成を明確に示す。
【0135】
いわゆる非回折レーザビーム20は、少なくとも断面においてワークピース1を貫通する、特に単純な材料改質部5を作成するのに適している。非回折ビーム20は、ビーム伝搬方向に長さLの細長い焦点ゾーン220を有することが好ましい。焦点ゾーン220の長さLが切断部12の望ましい斜辺Hの長さよりも大きいことによって、ワークピース1を、特に容易に且つ効果的に面削りすることができる。
【0136】
図4Aは、ビーム整形光学ユニットによって加工されたレーザビーム20を概略的に示す。レーザビーム20の成分レーザ光200は、光軸30に対して角度α’でワークピース1上に入射し、各成分レーザ光200は、光軸30に対するその角度α’に従って屈折する。しかしながら、全体的に、この例におけるレーザビーム20の光軸30は、ワークピース1の表面10に対して垂直であるため、結果的に、作業角度は0°である。ワークピース1においては、成分レーザ光200は重畳され、長さLの細長い焦点ゾーン220を有する非回折ビームを形成する。
【0137】
レーザビーム20の斜め入射の場合、すなわち、非ゼロの作業角度αの場合には、ビームの上半分がワークピース1に角度α+α’で入射し、ビームの下半分がワークピース1に角度α-α’で入射するため、材料中に収差が生じる。その結果、作業角度α=15°に関して図4Bに示されるように、焦点ゾーン220は、短縮したり歪んだりすることがある。しかしながら、収差補正を伴わないレーザビームが使用される場合であっても、本方法の範囲内において、面取り部及び/又は斜端部の斜辺Hが50μm~5000μm、好ましくは100μm~200μmの材料改質部5を作成することができる。
【0138】
図5Aは、横断方向の強度分布又は非回折レーザビーム20の焦点ゾーン220を示す。非回折レーザビーム20は、いわゆるベッセルガウスビームであり、xy平面における横断方向の強度分布は半径方向に対称であるため、非回折レーザビーム20の強度は、光軸30からの半径方向距離のみに依存する。特に、横断方向の強度分布の直径は、0.25μm~10μmである。図5Bは、長手方向のビーム断面、すなわち長手方向の強度分布を示す。長手方向の強度分布は、約3mmのサイズを持つ高強度の細長い領域を有する。したがって、焦点ゾーン220の長手方向範囲は、横断方向範囲よりも大幅に大きい。
【0139】
図5Aに類似した手法で、図5Cは、半径方向に非対称な横断方向の強度分布を有する非回折レーザビームを示す。特に、横断方向の強度分布は、y方向に伸びており、事実上、楕円形に見える。図5Dは、焦点ゾーン220がこの場合もL=3mmの範囲を有するレーザビーム20の長手方向の強度分布を示す。図5Eは、様々な成分レーザ光200の重置によって生じた様々な強度最大部を有する、図5Cの横断方向の強度分布の拡大部を示す。特に、焦点ゾーン220は、垂直方向Bに対して水平方向Aに著しく細長く、この2つの方向は、互いに垂直である。
【0140】
このような焦点ゾーン220を有するレーザビーム20がワークピース1に導入された場合、結果として生じる材料改質部5は、焦点ゾーン220と同じ形状を有することになる。これは、図6Aに示されている。特に、材料改質部5は、尖った側面と、その結果として、平らな側面とを有し、尖った側面は長軸Aの方向に見られ、鈍い側面は短軸Bの方向に見られる。この場合、応力ピークは長軸Aの方向で最大であるため、材料改質部5によるクラック形成52は長軸Aの方向に得られる。
【0141】
したがって、誘導されるクラック形成が分離線4に従うように、半径方向に非対称な横断方向の強度分布の長軸Aが分離線4に沿って方向付けられる、例えば分離線4に対して接線方向に方向付けられることが好ましい。ここで、図6Bのように隣接する材料改質部5のクラック52が重なり合うように材料改質部5が分離線4によって方向付けられる場合、分離工程による分離は、特に容易に実施することができる。
【0142】
円形の又は半径方向に非対称な横断方向の強度分布を有するレーザビーム20をワークピース1の表面10上に作業角度αで投射した場合、これにより、入射面内で強度分布の歪みが生じる。これは、図7に示されている。図7A図7Bでは、半径方向に非対称な横断方向の強度分布を有するレーザビーム20が、ワークピース1の表面10上に入射する。例として、短軸Bは入射面内に位置することができ、ビームプロファイルの長軸Aは送り方向Vに平行である。これにより、クラック形成52が好ましくは送り方向Vに延びることを実現することができる。しかしながら、短軸Bが表面10上に投射される結果、短軸Bの強度は長さB/cosαにわたって分布するため、投射の結果、短軸Bは長くなり、作業角度が増す。特に、結果として、短軸Bの投射が長軸Aの長さに対応するケースを達成することが可能である。このケースでは、作成される材料改質部5は、クラック形成のための好ましい方向をもはや有しない。
【0143】
例として、作業角度が45°の場合、短軸は、
【数3】
に増大する。したがって、投射前にA/B比が
【数4】
よりも大きい場合、投射中に分離線4に対する長軸Aの向きが維持される。
【0144】
図8は、投射の影響に関する更なる例を示す。図8Aは、ワークピース1の表面10上における垂直入射の場合の、図5Aのベッセルガウスビームを示す。図8Bに示されるような非ゼロの作業角度αの場合、ワークピース1の表面10上の半径方向に対称な強度分布は、1つの方向に細長い強度分布になり、結果として生じる材料改質部5が好ましい方向を有することになる。したがって、材料改質部5の好ましい方向は、ワークピース1の表面10上のレーザビーム20の投射によって設定又は調整することができる。図8Cは、図5Cのベッセルビームを示す。長軸Aのアライメントは、ワークピース1の表面10上の投射によって維持され、結果として生じる材料改質部5のクラックの伝搬の好ましい方向の向きに変化はない。この場合、A/Bは、作業角度αの余弦の逆数よりも小さい。
【0145】
特に、レーザビーム20は、反射損失を最小限にするために、偏光させること、好ましくは入射面に平行に偏光させることができる。この点において、図9は、フレネルの式に従い、入射面に対して平行及び垂直な偏光の場合におけるワークピース1中のレーザ放射の透過率を示す。特に、作業角度αはX軸に沿ってプロットされているが、図4Aによる成分レーザ光200は、光軸30に対して収束角α’を有する。
【0146】
例として、作業角度α=50°及び収束角α’=20°の場合、成分レーザ光200は、α-α’=30°からα+α’=70°までの角度範囲でワークピース1の表面10上に入射する。その結果、平行入射の場合の透過率は96%~94%の範囲であるが、垂直入射の場合、透過率は95%~70%で変化する。したがって、入射面に対して垂直に偏光させるレーザビーム20の変動は、入射面に平行に偏光させる光の変動よりもはるかに顕著である。したがって、反射損失を低減するために、成分レーザ光200が面法線Nに対して80°未満の角度でワークピース1上に入射すると特に有利である。
【0147】
図10は、本方法を実施するためのデバイスの一実施形態を示す。この場合、レーザパルスは、超短パルスレーザ2によって提供され、偏光光学ユニット32を介し、ビーム整形光学ユニット34を介して方向制御される。レーザビーム20は、ビーム整形光学ユニット34から、テレスコープシステム36を介してワークピース1上に方向制御され、加工光学ユニット3の光軸30は、ワークピース1の面法線Nに対して作業角度αで方向付けられる。
【0148】
この場合、偏光光学ユニット32は、超短パルスレーザ2によって放出されたレーザビーム20を、前記レーザビームが明確に定義された偏光のみを有するように偏光させる偏光子を含み得る。次いで、好ましくは入射面に平行な偏光を有するレーザビーム20がワークピース1に導入され得るように、後続の半波長板が、最終的にレーザビーム20の偏光を回転させることができる。
【0149】
示される例では、ビーム整形光学ユニット34は、入射レーザビーム20を非回折レーザビームに整形するためのアキシコンである。しかしながら、アキシコンは、非回折ビームを生成するための他の要素で置き換えてもよい。アキシコンは、好ましくはコリメートされた入力ビームから、円錐状に細くなるレーザビーム20を生成する。この状況において、ビーム整形光学ユニット34は、半径方向に非対称な強度分布を入射レーザビーム20に与えることもできる。最終的に、レーザビーム20は、ここでは2つのレンズ360、362からなるテレスコープ光学ユニット36を介してワークピース1に結像することができ、この像は、拡大像又は縮小像となり得る。テレスコープ光学ユニット36の一部、特にレンズ360は、ビーム整形光学ユニット34にも組み込むことができる。例として、屈折自由曲面、又は球状に研磨された裏面を有するアキシコンは、レンズ360のレンズ機能とビーム整形光学ユニット34のビーム整形機能の両方を有し得る。
【0150】
図11Aは、加工光学ユニット3及びワークピース1を3つの空間軸に沿って並進的に且つ2つの空間軸の周りで回転的に移動させるように構成された送りデバイス6を示す。超短パルスレーザ2のレーザビーム20は、加工光学ユニット3によってワークピース1上へと方向制御される。この場合、ワークピース1は、送りデバイス6の支持面上に配置され、支持面は、好ましくは、材料によって吸収されなかったレーザエネルギーを吸収も反射もせず、また前記レーザエネルギーを再びワークピース1に著しく散乱させない。
【0151】
特に、レーザビーム20は、ビーム案内デバイス38を介して加工光学ユニット3に入力結合され得る。この場合、ビーム案内デバイスは、図11Aに示されるように、レンズ及びミラーシステムを有する自由空間経路であり得る。しかしながら、ビーム案内デバイス38はまた、図11Bに示されるように、入力結合及び出力結合光学ユニットを有する中空コアファイバであってもよい。
【0152】
図11Aの本例では、レーザビーム20は、ミラー構造によってワークピース1の方向に方向制御され、加工光学ユニット3によってワークピース1内に導入される。レーザビーム20は、ワークピース1に材料改質部5を生じさせる。加工光学ユニット3は、例えばレーザビーム20の横断方向の強度分布の好ましい方向又は対称軸を、送り軌道、ひいては分離線4に適合させることができるように、送りデバイス6を用いて、材料に対し移動及び調整され得る。
【0153】
この場合、送りデバイス6は、レーザビーム20が所望の分離線4に沿って材料改質部5を導入するように、ワークピース1をレーザビーム20下で送りVで移動させることができる。特に、示される図11Aにおいて、送りデバイス6は、第1の軸システム60を含む。第1の軸システム60によって、ワークピース1をXYZ軸に沿って移動させることができ、任意選択的に回転させることができる。特に、送りデバイス6は、ワークピース1を保持するように構成されたワークピースホルダ62も含み得る。任意選択的に、ワークピースホルダは、同様に、ビーム伝搬方向に対して垂直な、半径方向に非対称な横断方向の強度分布の長軸を、常に分離線4に対して接線方向に方向付けることができるように、運動の自由度を有し得る。
【0154】
この目的のために、送りデバイス6は、制御電子機器64にも接続され得る。制御電子機器64は、デバイスのユーザのユーザコマンドを送りデバイス6の制御コマンドに変換する。特に、定義済みの切断パターンを制御電子機器64のメモリに格納することができ、プロセスを制御電子機器64によって自動的に制御することができる。
【0155】
制御電子機器64は、特に、超短パルスレーザ2にも接続され得る。この状況において、制御電子機器64は、レーザパルス又はレーザパルス列の放出を要求又はトリガーすることができる。制御電子機器64は、他の指定された構成要素にも接続することができ、したがって、材料の加工を調整することができる。
【0156】
特に、このようにして位置制御パルストリガーを実現することができ、例えば、送りデバイス6の軸エンコーダ600が読み取られ、軸エンコーダ信号は、制御電子機器64によって位置指定として解釈される。したがって、制御電子機器64は、例えば、移動経路の長さを加算する内部加算器ユニットがある値に達し、この値に達した後に0にリセットされた場合に、レーザパルス又はレーザパルス列の放出を自動的にトリガーすることが可能である。したがって、例えば、レーザパルス又はレーザパルス列を規則的な間隔でワークピース1に自動的に放出することができる。
【0157】
制御電子機器64において送り速度V及び送り方向、ひいては分離線4も処理できることにより、レーザパルス又はレーザパルス列の自動放出を行うことができる。
【0158】
制御電子機器64は、測定された速度及びレーザ2によって提供される基本周波数に基づいて、レーザパルス列又はレーザパルスが放出されるべき距離又は位置を計算することもできる。特に、その結果として達成できることは、ワークピース1において材料改質部5が重なり合わないということである。
【0159】
レーザパルス又はパルス列の放出が位置制御下で実施されることにより、分離プロセスの複雑なプログラミングを不要にできる。更に、自由に選択可能なプロセス速度を容易に実装することができる。
【0160】
図11Cは、同様に、ワークピース1に材料改質部5を導入する目的で、加工光学ユニットが5軸アームを介してワークピース1上で案内される送りデバイス6を示す。回転アームの組み合わせにより、加工光学ユニットを3つの空間軸に沿って移動させること及び2つの空間軸の周りで回転させることが可能である。
【0161】
適用可能な限りにおいて、例示的な実施形態に提示される全ての個々の特徴は、本発明の範囲から逸脱することなく、互いに組み合わせることができ、及び/又は相互交換することができる。
【符号の説明】
【0162】
1 ワークピース
1’ バルクワークピース
10 表面
11 上面
110 縁部
12 切断部
13 下面
130 縁部
14 成形縁部、面取り部、斜端部
2 超短パルスレーザ
20 レーザビーム
200 成分レーザ光
220 焦点ゾーン
3 加工光学ユニット
30 光軸
32 偏光光学ユニット
34 ビーム整形光学ユニット
36 テレスコープ
38 ビーム案内デバイス
360 第1のレンズ
362 第2のレンズ
4 分離線
40 化学浴
42 ホットプレート
5 材料改質部
50 材料改質エリア
52 クラック
6 送りデバイス
60 軸デバイス
62 ワークピースホルダ
64 制御電子機器
α 作業角度
β 屈折角
A 第1の軸
B 第2の軸
N 面法線
V 送り
H 斜辺
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図3C
図3D-3E】
図3F
図4A
図4B
図5-1】
図5-2】
図6A
図6B
図7A
図7B
図8
図9
図10
図11A
図11B
図11C
【国際調査報告】