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特表2024-500802チタン製ブレーキディスク用ブレーキバンドの製造方法、ブレーキバンド及びチタン製ブレーキディスク
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-10
(54)【発明の名称】チタン製ブレーキディスク用ブレーキバンドの製造方法、ブレーキバンド及びチタン製ブレーキディスク
(51)【国際特許分類】
   F16D 65/12 20060101AFI20231227BHJP
【FI】
F16D65/12 E
F16D65/12 R
F16D65/12 Q
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023537329
(86)(22)【出願日】2021-12-22
(85)【翻訳文提出日】2023-08-17
(86)【国際出願番号】 IB2021062155
(87)【国際公開番号】W WO2022137145
(87)【国際公開日】2022-06-30
(31)【優先権主張番号】102020000031880
(32)【優先日】2020-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521259127
【氏名又は名称】ブレンボ・ソチエタ・ペル・アツィオーニ
【氏名又は名称原語表記】BREMBO S.p.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100131808
【弁理士】
【氏名又は名称】柳橋 泰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(72)【発明者】
【氏名】ミラネージ,アンドレア
(72)【発明者】
【氏名】ボンファンティ,アンドレア
(72)【発明者】
【氏名】ベルタージ,フェデリコ
(72)【発明者】
【氏名】マンチーニ,アレッサンドロ
【テーマコード(参考)】
3J058
【Fターム(参考)】
3J058AA43
3J058AA48
3J058AA62
3J058BA41
3J058CB12
3J058CB24
3J058DD11
3J058DD20
3J058DD21
3J058EA02
3J058EA08
3J058EA32
3J058EA35
3J058FA01
(57)【要約】
ディスクブレーキのブレーキディスク(1)用のブレーキバンド(2)の製造方法は、(a) 上面(20a)と、上面(20a)と反対側に、すなわち上面(20a)と対向するように配置された下面(20b)とを有するベースバンド(20)を備えたブレーキバンド(2)を提供するステップであって、下面および上面はそれぞれ、少なくとも部分的に、ブレーキディスク(1)の2つの側面のうちの1つを画定し、ベースバンド(20)は、チタンまたはチタン合金製である、ステップと、(b) ディスクブレーキのキャリパのブレーキ作用に耐えるのに適した上部コーティング層(3)および/または下部コーティング層(3')を形成するように、少なくとも上部フェース(20a)および/または下部フェース(20b)の上に、セラミックと金属および/または金属間粒子からなる粒子状の材料を直接堆積させるステップとを有し、ブレーキディスク(1)用のブレーキバンド(2)は、全体がチタン合金製で上面(20a)と下面(20b)を有するベースバンド(20)と、上部コーティング層(3)と、下面(20b)に沿ってベースバンド(20)に接合された下部コーティング層(3')とから構成されている。上部コーティング層(3)および下部コーティング層(3')は、セラミックと金属および/または金属間粒子の混合物からなる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスクブレーキのブレーキディスク(1)用のブレーキバンド(2)の製造方法であって、
上面(20a)と、前記上面(20a)の反対側に、すなわち前記上面(20a)に対向して配置された下面(20b)とを有するベースバンド(20)を備えたブレーキバンド(2)を提供するステップであって、前記下面および前記上面はそれぞれ、ブレーキディスク(1)の2つの側面の一方を少なくとも部分的に画定し、前記ベースバンド(20)は、チタンまたはチタン合金製である、ステップ(a)と;
少なくとも前記上面(20a)および/または前記下面(20b)の上に、セラミック粒子と金属粒子および/または金属間粒子からなる粒子状の材料を直接堆積し、前記ディスクブレーキのキャリパのブレーキ作用に耐えるのに適した上部コーティング層(3)および/または下部コーティング層(3')を形成するステップ(b)を含む、方法。
【請求項2】
前記ステップ(b)は、少なくとも前記上面(20a)および/または前記下面(20b)の上方に、炭化タングステン(WC)、鉄(Fe)、クロム(Cr)およびアルミニウム(Al)からなる粒子状の材料を、サーマルスプレー法、好ましくはHVOF(高速酸素燃料)、HVAF(高速空気燃料)技術、KM(動力学的金属化)技術、APS(大気圧プラズマ蒸着)技術、またはレーザクラッディング技術などのレーザ蒸着技術によって直接堆積させ、前記ディスクブレーキの前記キャリパのブレーキ作用に耐えるのに適した前記上部コーティング層(3)および/または前記下部コーティング層(3')を形成する、すなわち、前記ブレーキバンドの2つのブレーキ面の少なくとも一方を形成する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ステップ(b)は、少なくとも前記上面(20a)および/または前記下面(20b)の上方にセラミック粒子および金属粒子および/または金属間粒子からなる粒子状の材料を直接堆積させる前に、
- 炭化クロム(Cr3C2)およびニッケルクロム(NiCr)、または
- ニッケルクロム(NiCr)、鉄(Fe)、モリブデン(Mo)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、およびアルミニウム(Al)
からなる粒子状の材料を、
スプレー堆積技術、好ましくはHVOF(高速酸素燃料)、HVAF(高速空気燃料)、KM(動力学的金属化)、またはAPS(大気圧プラズマ蒸着)、または
レーザクラッディング技術のようなレーザ蒸着技術、によって堆積して、
前記ベースバンド(20)の少なくとも前記上面(20a)および/または前記下面(20b)を覆い、前記ディスクブレーキの前記キャリパのブレーキ作用に耐えるのに適した前記上部コーティング層(3)および/または前記下部コーティング層(3')の下に配置される保護ベースコーティング(30)を形成する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ベースバンド(20)のチタン合金が、チタン(Ti)とアルミニウム(Al)との合金である、請求項1-3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記ベースバンド(20)のチタン合金が、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)およびバナジウム(V)合金、好ましくはTi6Al4V合金である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記保護ベースコーティング(30)を得るための前記堆積ステップ(b)において堆積された粒子状の材料が、65重量%~95重量%の炭化クロム(Cr3C2)と、残部のニッケルクロム(NiCr)とからなる、請求項1-5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記上部コーティング層(3)または前記下部コーティング層(3')を得るための堆積ステップ(b)において堆積された粒子状の材料が、
75重量%~87重量%の炭化タングステン(WC)と、
残りの鉄(Fe)、クロム(Cr)およびアルミニウム(Al)、好ましくは、10重量%~17重量%の鉄(Fe)、2. 5重量%から5.8重量%のクロム(Cr)、0.6重量%から2.2重量%のアルミニウム(Al)と、
残りの炭化タングステン(WC)、さらに好ましくは85重量%の炭化タングステン(WC)および15重量%の鉄(Fe)、クロム(Cr)およびアルミニウム(Al)からなる、請求項1-6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
ブレーキディスク(1)の製造方法であって、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法に従って製造されたブレーキバンド(2)と、前記ブレーキバンド(2)に接続されたベル(5)とを提供するステップを含む方法。
【請求項9】
ディスクブレーキ用のブレーキディスク(1)のためのブレーキバンド(2)であって、前記ブレーキバンド(2)は、
- 上面(20a)と、前記上面(20a)とは反対側に、すなわち前記上面(20a)とは反対側に配置された下面(20b)とを有するブレーキバンド(20)であって、前記下面(20b)および前記上面(20a)はそれぞれ、前記ブレーキディスク(1)の両側面の少なくとも一部を画定する、ブレーキバンド(20)と、
- 前記上面(20a)に沿って前記ベースバンド(20)に接合された上部コーティング層(3)と、
- 前記下面(20b)に沿って前記ベースバンド(20)に接合された下部コーティング層(3')とを有し、
前記ブレーキバンド(2)は、前記ベースバンド(20)が全体的にチタンまたはチタン合金で作られており、
前記上部コーティング層(3)および前記下部コーティング層(3')がセラミックと金属および/または金属間粒子の混合物からなる、ブレーキバンド(2)。
【請求項10】
上部コーティング層(3)および下部コーティング層(3')が、少なくとも1種の遷移金属炭化物と少なくとも1種の金属または金属間化合物とを含む粒子の混合物からなることを特徴とする請求項9に記載のブレーキバンド(2)。
【請求項11】
前記上部コーティング層(3)および前記下部コーティング層(3')が、
炭化タングステン(WC)、鉄(Fe)、クロム(Cr)およびアルミニウム(Al)からなり、
炭化タングステン(WC)、鉄(Fe)、クロム(Cr)およびアルミニウム(Al)を、
好ましくは、HVOF(高速酸素燃料)技術、HVAF(高速空気燃料)技術またはKM(動力学的金属化)技術によるスプレー法の堆積技術により、
前記ベースバンド(20)上に粒子の形態で直接堆積させることによって得られる、請求項10に記載のブレーキバンド(2)。
【請求項12】
ディスクブレーキ用のブレーキディスクであって、請求項9から11のいずれか一項に記載のブレーキバンド(2)と、前記ブレーキバンド(2)に連結されたベル(5)とを備えるブレーキディスク。
【請求項13】
前記ベル(5)は、前記ブレーキバンド(2)に一体に連結され、前記ベースバンド(20)と共鋳造されたチタン合金からなることを特徴とする請求項12に記載のディスクブレーキ用ブレーキディスク。
【請求項14】
前記ベル(5)が前記ブレーキバンド(2)に一体に連結され、前記ベースバンド(20)と共鋳されたアルミニウム合金からなる、請求項12に記載のディスクブレーキ用ブレーキディスク。
【請求項15】
前記ベル(5)が前記ブレーキバンド(2)と一体に鋳造されておらず、組立て、干渉嵌合、釘打ちなどのベル-バンド連結手段によって前記ブレーキバンド(2)に連結されている、請求項12に記載のディスクブレーキ用ブレーキディスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスクブレーキ用ブレーキディスクのブレーキバンド、ブレーキディスク、及びブレーキバンドとブレーキディスクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のディスクブレーキシステムのブレーキディスクは、環状構造体すなわちブレーキバンドと、ベルとして知られる中央固定要素とからなり、この固定要素によってディスクが車両サスペンションの回転部分、例えばハブに固定される。ブレーキバンドは、前記ブレーキバンドにまたがって配置され、車両サスペンションの非回転部品と一体化された少なくとも1つのキャリパ本体に収容された摩擦要素(ブレーキパッド)と協働するのに適した2つの対向するブレーキ面(またはブレーキ面)を備えている。対向するブレーキパッドとブレーキバンドの対向するブレーキ面との間の制御された相互作用は、摩擦によって、車両を減速または停止させるブレーキ作用を生み出す。
【0003】
一般に、ブレーキディスクはねずみ鋳鉄または鋼鉄製である。実際、この材料は、比較的低コストで良好なブレーキ性能(特に、摩耗の抑制)を得ることができる。カーボンまたはカーボンセラミック材料で作られたディスクは、はるかに高い性能を提供するが、はるかに高いコストがかかる。
【0004】
鋳鉄または鋼鉄製の従来のディスクの限界は、過大な重量、過大な摩耗および過大な腐食に関連している。ねずみ鋳鉄ディスクに関する限り、もう一つの非常に問題となる側面は、過度の表面酸化と、それに伴う錆の形成に関連している。この問題はブレーキディスクの性能と外観の両方に影響し、ブレーキディスクの錆はユーザにとって美観上受け入れがたいものだからである。このような問題に対処するため、保護コーティングを施したねずみ鋳鉄または鋼鉄製のディスクの製造が試みられた。保護コーティングはディスクの摩耗を減らし、ねずみ鋳鉄のベースを表面酸化から保護するため、錆の層の形成を避けることができる。現在入手可能でディスクに塗布される保護コーティングは、耐摩耗性を提供するものの、ディスク自体からコーティングが剥離するフレーキングを引き起こす。
【0005】
この種の保護コーティングは、例えばUS4715486に記載されており、これは低摩耗ディスクブレーキに関するものである。このディスクは、特に鋳鉄製であり、高運動エネルギー衝撃技術によってディスク上に堆積された粒子状材料からなるコーティングを有している。従来の保護コーティングは、ねずみ鋳鉄または鋼鉄製のこの種のディスクから剥離する傾向があり、コーティングの内部に微小気泡が形成され、この微小気泡がコーティングとディスクとの間の十分な接着を妨げ、その結果、前記コーティングの剥離を促進する可能性がある。
【0006】
保護コーティングを有する鋳鉄製ブレーキディスクのさらなる例は、EP3658798 A1にも記載されている。この種のディスクは、接着をより効果的にするために、鋳鉄とコーティングの間に接着層または表面処理を必要とする。
【0007】
上記から明らかなように、ねずみ鋳鉄または鋼鉄製で保護コーティングが施されたディスクは、高性能ブレーキシステムの分野には適さない。
【0008】
したがって、この分野では、先行技術を参照して引用した欠点を解決する必要性が大きい。特に、耐摩耗性と耐腐食性を高めることができ、同時にできるだけ軽量なディスクを提供する必要がある。
【発明の概要】
【0009】
剥がれ(フレ-キング)を生じない、または一般に剥離しないコーティングを備え、経時的な耐摩耗性および耐腐食性を保証し、かつできるだけ軽量であるディスクを提供する必要性は、添付の独立請求項によるディスクブレーキ用のブレーキバンドおよびブレーキディスクの製造方法、ブレーキバンドおよびブレーキディスクによって満たされる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
この発明のさらなる特徴および利点は、その好ましい非限定的な実施形態の以下の詳細な説明からより明らかになるであろう。
図1図1は、この発明の一実施形態によるブレーキディスクの平面図である。
図2図2は、そこに示された断面線A-Aに沿った図1のブレーキディスクの断面図である。
図3図3は、この発明の実施形態による、そこに示されたボックスBで示されたブレーキバンドの一部に関する、図2の拡大詳細図である。
図4図4は、この発明の別の実施形態による、そこに示されたボックスBに示されたブレーキバンドの一部に関する、図2の拡大詳細図である。
【0011】
以下に説明する実施形態に共通する要素または要素の一部には、同じ参照符号を付す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
上記の図を参照すると、参照符号1は、この発明に係るブレーキディスクを全体的に示す。
【0013】
添付の図に示すこの発明の一般的な実施形態によれば、ブレーキディスク1は、2つの対向するブレーキ面2aおよび2bを備えるブレーキバンド2からなり、各ブレーキ面2aおよび2bは、少なくとも部分的に、ブレーキディスクの2つの主面(または面)のうちの1つを画定する。
【0014】
ブレーキバンド2は、上面20aと、上面20aの反対側すなわち対向する側に配置された下面20bとを有するベースバンド20から構成されている。下面20bと上面20aはそれぞれ、ブレーキディスク1の2つの側面のうちの少なくとも一部を画定している。
【0015】
ベースバンド20は、主にまたは全体がチタンまたはチタン合金、好ましくはチタン(Ti)とアルミニウム(Al)の合金、さらに好ましくはチタン(Ti)とアルミニウム(Al)とバナジウム(V)の合金、好ましくはTi6Al4V合金で作られている。
【0016】
一実施形態によれば、ベースバンド20は、主に又は全体がTi6242(Ti-6Al-2Sn-4Zr-2Mo)でできている。)
【0017】
本説明の続きにおいて、チタン合金への言及は、上述のチタン合金を包含することも意図されていることが理解される。
【0018】
したがって、チタン合金及びアルミニウム合金は、引抜き加工及びそれに続く機械加工において、又は鋳造加工及びそれに続く機械加工において使用されるのに適した可能な合金の全てを意味することが意図されていることは明らかである。
【0019】
実施形態によれば、ブレーキディスク1全体がチタンまたはチタン合金で作られている。
【0020】
ブレーキバンド2は、上面20aに沿ってベースバンド20に接合される、すなわち好ましくはベースバンド20に直接接合される上部コーティング層3を備える。
【0021】
ブレーキバンド2は、下面20bに沿って、すなわち好ましくは直接ベースバンド20に接合される下部コーティング層3'を備える。
【0022】
上部コーティング層3および下部コーティング層3'は、セラミックと金属および/または金属間粒子との混合物からなる。
【0023】
一実施形態によれば、上部コーティング層3および/または下部コーティング層3'がベースバンド20に直接接合される変形例では、セラミックと金属粒子の混合物は、炭化クロム(CrC)とニッケルクロム(NiCr)、またはニッケルクロム超合金からなる。
【0024】
一実施形態によれば、上部コーティング層3および/または下部コーティング層3'がベースバンド20に直接接合される変形例では、セラミックと金属粒子の混合物は、炭化クロムと鉄(Fe)、クロム(Cr)とアルミニウム(Al)からなる。
【0025】
他の代替実施形態では、先の変形例のすべてにおける炭化クロムは、炭化タングステン(WC)、炭化ケイ素(SiC)、炭化ニオブ(NbC)および炭化チタン(TiC)を含む群から選択される炭化物で置換されていてもよい。
【0026】
他の代替実施形態では、ニッケルクロム(NiCr)とともに、または鉄(Fe)、クロム(Cr)およびアルミニウム(Al)の混合物とともに、炭化クロム(CrC)、炭化タングステン(WC)、炭化ケイ素(SiC)、炭化ニオブ(NbC)および炭化チタン(TiC)のうちの1つまたは複数の炭化物の混合物を使用することができる。
【0027】
チタンまたはチタン合金からなるベースバンドと、セラミック粒子および金属粒子を備える上部または下部コーティング層3、3'との間の相乗的な組み合わせは、驚くべきことに、SCE(飽和カロメル電極)に対して-400mVを超える極めて高い腐食電位を確保することを可能にする(腐食電位が大きいほど、製造された製品の腐食は少なくなる)。その結果、チタンまたはチタン合金製のベースバンドと、上部または下部コーティング層3、3'との間の相乗的な組み合わせにより、今日知られており、ブレーキディスクを製造するために一般的に使用されている溶液よりも大きな耐腐食性を確保することが可能になる。
【0028】
有利な実施形態によれば、上部コーティング層3および下部コーティング層3'は、少なくとも1種の遷移金属炭化物と少なくとも1種の金属または金属間化合物(合金)とを含む粒子の混合物からなる。
【0029】
より詳細には、さらに有利な実施形態によれば、上部コーティング層3および下部コーティング層3'は、炭化タングステン(WC)、鉄(Fe)、クロム(Cr)およびアルミニウム(Al)からなり、適切な堆積技術によってベースバンド20上に直接、粒子状の炭化タングステン(WC)、鉄(Fe)、クロム(Cr)およびアルミニウム(Al)を堆積させることによって得られる。堆積技術は、好ましくはスプレー技術、例えばHVOF(高速酸素燃料)またはHVAF(高速空気燃料)またはKM(動力学的金属化)技術である。さらに、堆積技術は、好ましくは、プラズマ堆積技術、例えばAPS(大気圧プラズマ堆積)、またはレーザ堆積技術、例えばレーザクラッディング技術である。
【0030】
本発明のさらなる態様によれば、図4に模式的に示すように、前記上部コーティング層3または下部コーティング層3'によって得られるブレーキ面2aまたは2bは、ベースバンド20に直接固着されず、その代わりに、保護ベースコーティング30がその間に配置され、この保護ベースコーティングは、ホイールハブに装着されたときに、ブレーキディスク1の回転軸Xに平行な軸方向X'において、ベースバンド20と上部コーティング層3または下部コーティング層3'との間に直接堆積される。
【0031】
保護ベースコーティング30は、以下からなる粒子状の材料からなる。
- 炭化クロム(Cr3C2)およびニッケルクロム(NiCr)、または
- ニッケルクロム(NiCr)、鉄(Fe)、モリブデン(Mo)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)およびアルミニウム(Al)。
【0032】
これらは、溶射技術、好ましくはHVOF(高速酸素燃料)技術、またはHVAF(高速空気燃料)技術、またはKM(動力学的金属化)技術、またはレーザ堆積技術、またはレーザクラッディング技術、または溶射技術による。
【0033】
したがって、保護ベースコーティング30は、ブレーキバンド2のベースバンド20を形成するチタンまたはチタン合金に直接付着される。
【0034】
保護ベースコーティング30は、好ましくは、以下のものからなる。
- 炭化クロム(Cr3C2)が65%~95%、残りはニッケルクロム(NiCr)またはニッケルクロム(NiCr)、または
- ニッケル(Ni)の含有量が40重量%~75重量%であり、クロム(Cr)の含有量が14重量%~30重量%であり、残りが鉄(Fe)、モリブデン(Mo)、任意にコバルト(Co)、マンガン(Mn)およびアルミニウム(Al)であるニッケルクロム(NiCr)。
【0035】
上部コーティング層3または下部コーティング層3'は、好ましくは、75重量%~87重量%の炭化タングステン(WC)と、残部の鉄(Fe)、クロム(Cr)およびアルミニウム(Al)とからなる。上部コーティング層3または下部コーティング層3'は、さらに好ましくは、75重量%~87重量%の炭化タングステン(WC)と、残りの部分の鉄(Fe)、クロム(Cr)およびアルミニウム(Al)とからなる。
【0036】
有利には、保護ベースコーティング30は、10μmと250μmの間、好ましくは15μmと150μmの間、さらに好ましくは20μmと90μmの間の厚さを有し、上部コーティング層3または下部コーティング層3'は、10μmと250μmの間、好ましくは15μmと150μmの間、さらに好ましくは20μmと90μmの間の厚さを有する。
【0037】
驚くべきことに、チタンと、セラミックおよび金属、すなわち金属および/または金属間マトリックス中に分散されたセラミック化合物の粒子から形成されたコーティング層とが存在することにより、ブレーキディスクの腐食性を著しく低減することが可能になると同時に、コーティングが剥がれたり、一般に剥離したりする現象の発生を防止することが可能になることを確認することができた。
【0038】
保護ベースコーティング30、上部コーティング層3および下部コーティング層3'の厚さは、ブレーキ操作中に磨耗する(または防錆効果が低下する)可能性のある薄すぎる厚さや、剥離の問題を引き起こす可能性のある厚すぎる厚さを防止するように定められる。厚みが高い場合、剥離は、コーティングの材質に対するチタンの異なる挙動によって引き起こされる可能性がある。厚い剛性層は、ディスクの変形を模倣しない可能性があり、その結果、保護ベース層または上部および下部コーティング層が破壊され、剥離する可能性がある。言い換えれば、保護ベースコーティング30、または上部コーティング層3および下部コーティング層3'の厚さは、コーティングと下地材料との間の界面に多かれ少なかれ大きな機械的応力を生じさせ、コーティング自体の剥離を引き起こす危険性がある。
【0039】
さらに、驚くべきことに、チタン合金からなるベースバンド20と、好ましくは炭化タングステンと鉄、クロムおよびアルミニウムから形成されるコーティング層との間の組み合わせが、-370mV vs SCEを超える腐食電位を保証することが実験的に検証されている。
【0040】
また、この種のブレーキバンドは、鋳鉄/鋼製のディスクよりも高い機械的強度と低い脆性を保証することが実験的に検証されている。
【0041】
さらに、防食作用は、どのような場合でも、ベースコーティング層30の存在によってさらに強化される。この保護ベースコーティング30の組成(Cr3C2およびNiCr、またはNiCr、Fe、Mo、Co、MnおよびAl)および成膜方法によって、このコーティング30はブレーキディスクのブレーキ面に対しても防食作用を発揮する。
【0042】
[0042]防食作用は、必須ではないが、上部および下部コーティング層3、3'の完全性およびブレーキディスクへのその接着にも有益である。
【0043】
保護ベースコーティング30がCr3C2およびNiCr、またはNiCr、Fe、Mo、Co、MnおよびAlで形成されている実施形態では、このベースコーティング30は、チタンの熱膨張を整合させる機械的機能も果たすので、局所的な弱化の危険性が低減される。
【0044】
議論を簡単にするために、ブレーキバンド2とブレーキディスク1を本発明による方法と組み合わせて説明する。
【0045】
ブレーキディスク1は、本明細書で説明するブレーキバンド2と、前記ブレーキバンド2に連結されたベル5とから構成される。
【0046】
一実施形態によれば、ベル5は、ブレーキバンド2に一体に接続され、ベースバンド20と一緒に鋳造されたチタンまたはチタン合金からなる。
【0047】
一実施形態によれば、ベル5は、ブレーキバンド2に一体に連結され、チタンまたはチタン合金からなるベースバンド20と共鋳されたアルミニウム合金からなる。
【0048】
この発明によるブレーキバンド2は、共鋳(または一体成形)されていないベル5にも接続することができるが、公知の技術(組立、干渉嵌合、リベット止めなど)に従ったベル-バンド接続手段によって接続することができることは明らかである。
【0049】
ブレーキバンド2は、好ましくは、これから説明する本発明による方法を用いて製造されるが、必ずしもそうである必要はない。
【0050】
本発明による方法の一般的な実施形態によれば、この方法は以下の操作ステップからなる。
ステップa):上面20aと、上面20aとは反対側に、すなわち上面20aに対向するように配置された下面20bとを有するベースバンド20を備えたブレーキバンド2を提供するステップで、下面および上面はそれぞれ、少なくとも部分的に、ブレーキディスク1の2つの側面のうちの1つを画定し、ベースバンド20はチタンまたはチタン合金製である、ステップ;
ステップb):ディスクブレーキのキャリパのブレーキ作用に耐えるのに適した上部コーティング層3および/または下部コーティング層3'を形成するように、少なくとも上面20aおよび/または下面20bの上に、セラミック粒子および金属粒子からなる粒子状の材料を直接堆積させるステップ。
【0051】
一実施形態によれば、ステップa)のブレーキバンド2を製造するために、ステップb)の前に、以下のステップが任意に設けられる。
a1)チタンから、ブランク加工、鋳造、機械加工、鍛造によってベースバンド20を製造するステップ;
a2) セラミック粒子および金属粒子からなる粒子状の材料を受容するのに適した表面を得るために、上面20aおよび下面20bを機械的に加工するステップ。
【0052】
アルミニウム製のベルを共鋳造することによって製造されたブレーキディスク1の変形実施形態では、方法は、以下のステップからなる:
s1) アルミニウム鋳造用の鋳型に、ステップa)で得られたブレーキバンド2を配置するステップ;
s2) 例えば、重力鋳造、低圧鋳造、ダイカスト、半固体鋳造、スクイズ鋳造などを使用する成形技術によって、金型内でアルミニウムを鋳造することによって成形を実施するステップ;
S3) チタン製ブレーキバンドとアルミニウム製ベルとの共鋳造から得られたブランクブレーキディスクを除去するステップ;
S4)セラミック粒子および金属粒子からなる粒子状の材料を受容するのに適した表面を得るために、任意に、上面20aおよび下面20bに沿ってブランクブレーキディスクを加工するステップ。
【0053】
この変形実施形態においても、ブレーキバンド2は、ブランク加工によって、または鋳造によって、または機械加工によって、または鍛造によって得られるチタン製のベースバンド20からなることは明らかである。
【0054】
アルミニウム製のベルを共鋳造することによって製造されるブレーキディスク1の変形実施形態によれば、上記のステップs1)、s2)およびs3)は、上部コーティング層3および/または下部コーティング層3'を形成するステップb)の前に実施されるので、まだコーティングされていないブレーキバンド2が共鋳造金型内に配置される。
【0055】
アルミニウム製のベルを共鋳造することによって製造されるブレーキディスク1の別の変形実施形態によれば、上記のステップs1)、s2)およびs3)は、上部コーティング層3および/または下部コーティング層3'を作成するステップb)の後に実施されるので、既にコーティングされたブレーキバンド2が共鋳造金型内に配置される。したがって、この変形例では、ステップs1)は、ステップa)およびステップb)が実施された後に得られたブレーキバンド2をアルミニウム鋳造用の鋳型に位置決めすることを含む。ステップs2)およびs3)は、ステップs1)の後に実施される。ステップb)で実施される処理は、好ましくは、少なくとも上面20aおよび/または下面20bの上方に、炭化タングステン(WC)、鉄(Fe)、クロム(Cr)およびアルミニウム(Al)からなる粒子状の材料を、蒸着技術によって直接堆積させるステップからなる。蒸着技術は、 好ましくは、スプレー蒸着技術、例えばHVOF(高速酸素燃料)、HVAF(高速空気燃料)技術、またはKM(動メタライゼーション)技術である。このようにして、ディスクブレーキのキャリパのブレーキ作用に耐えるのに適した上部コーティング層3および/または下部コーティング層3'を形成する。 すなわち、ブレーキバンド2の2つのブレーキ面2a,2bの少なくとも一方を形成する。
【0056】
本発明による方法の第2の態様によれば、少なくとも上面20aおよび/または下面20bの上方にセラミック粒子および金属粒子からなる粒子状の材料を直接堆積させる前に、ステップb)は、
- 炭化クロム(Cr3C2)およびニッケルクロム(NiCr)、または
- ニッケルクロム(NiCr)、鉄(Fe)、モリブデン(Mo)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)およびアルミニウム(Al)からなる粒子状の材料を含むことができる。
【0057】
これらの材料は、スプレー蒸着技術、好ましくはHVOF(高速酸素燃料)、またはHVAF(高速空気燃料)技術、またはKM(動力学的金属化)技術によって堆積され、こうして、ベースバンド20の少なくとも上面20aおよび/または下面20bを覆い、ディスクブレーキのキャリパのブレーキ作用に耐えるのに適した上部コーティング層3および/または下部コーティング層3'の下に配置される保護ベースコーティング30が形成される。
【0058】
既に上述したように、ベースバンド20のチタン合金は、好ましくはチタン(Ti)およびアルミニウム(Al)合金であり、より好ましくはチタン(Ti)、アルミニウム(Al)およびバナジウム(V)合金であり、さらに好ましくはTi6Al4V合金である。
【0059】
保護ベースコーティング30を得るための堆積ステップb)において堆積された粒子状の材料は、好ましくは、65重量%~95重量%の炭化クロム(Cr3C2)と、残部のニッケルクロム(NiCr)とからなる。)
【0060】
上部または下部コーティング層(3、3')を得るための堆積ステップb)において堆積された粒子状の材料は、好ましくは、75重量%~87重量%の炭化タングステン(WC)と、残部の鉄(Fe)、クロム(Cr)およびアルミニウム(Al)とからなり、好ましくは、10重量%~17重量%の鉄(Fe)、2. 重量%のクロム(Cr)、0.6重量%~2.2重量%のアルミニウム(Al)および残部の炭化タングステン(WC)、さらに好ましくは85重量%の炭化タングステン(WC)および15重量%の鉄(Fe)、クロム(Cr)およびアルミニウム(Al)からなる。
【0061】
有利なことに、ブレーキディスク1は、ディスクを車両に固定するのに適した部分を備えており、この部分は、ディスク1の中心に、ブレーキバンド2と同心に配置された環状部分4からなる。固定部4は、ホイールハブ(すなわちベル)への連結要素5を支持する。ベルは、環状固定部4と一体に作られてもよいし、別個に作られた後、適切な連結要素によって固定部に固定されてもよい。
【0062】
環状固定部4は、ブレーキバンド2と同じ材料、すなわちチタンもしくはチタン合金、または鋼もしくはアルミニウムで作ることができる。ベル5もまた、チタンまたはチタン合金、あるいは他の適切な材料、例えばスチールまたはアルミニウムで作ることができ、後者はディスクの重量を低く抑えることを可能にする。特に、ディスク全体(すなわち、ブレーキバンド、固定部およびベル)をチタンまたはチタン合金で作ってもよい。
【0063】
ブレーキバンド2は、好ましくは鋳造によって作られる。同様に、固定部4及び/又はベル5も鋳造により製造することができる。
【0064】
環状の固定部4は、ブレーキバンド2と一体に作られてもよいし、別体として作られてブレーキバンドに機械的に接続されてもよい。
【0065】
既に述べたように、保護ベースコーティング30を形成する材料(ニッケルクロム(NiCr)、またはニッケルクロム(NiCr)、鉄(Fe)、モリブデン(Mo)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)およびアルミニウム(Al)中に分散された炭化クロム(Cr3C2)の両方、) および上部または下部コーティング層3、3'を形成する材料(例えば、鉄、クロムおよびアルミニウム金属間中に分散された炭化タングステン)は、好ましくはHVOF技術またはHVAF技術またはKM技術またはAPS技術またはレーザクラッディング技術を使用して、粒子状に堆積される。
【0066】
これら3つの堆積技術は当業者に周知であるので、以下では詳細な説明は省略する。
【0067】
HVOF(高速酸素燃料)は、混合燃焼室とスプレーノズルを備えたスプレー装置を使用する粉末スプレー堆積技術である。チャンバには酸素と燃料が供給される。1MPaに近い圧力で形成される高温の燃焼ガスは、極超音速(すなわちMACH5より高速)に達しながら、収束-発散ノズルを通って粉末材料を通過させる。蒸着される粉末材料は、高温のガス流に噴射され、そこで急速に溶融し、1000m/sのオーダーの速度まで加速される。成膜面に衝突すると、溶融材料は急速に冷却され、高い運動エネルギーで衝突するため、非常に緻密でコンパクトな構造を形成する。
【0068】
HVAF(高速空気燃料)蒸着技術は、HVOF技術と類似している。違いは、HVAF技術では、燃焼室に酸素の代わりに空気が供給されることである。そのため、HVOFよりも温度が低くなる。これにより、コーティングの熱変質をより制御することができる。
【0069】
KM (kinetic metallization)蒸着方法は、不活性ガス流の中で金属粒子を加速し静電的に帯電させる二相ソニック蒸着ノズルを通して金属粉末をスプレーする固体蒸着プロセスである。熱エネルギーは輸送流に供給される。このプロセスは、圧縮された不活性ガスの内部エネルギーと供給された熱エネルギーを粉末の運動エネルギーに変換する。高速に加速され帯電すると、粒子は成膜面に向けられる。この表面への金属粒子の高速衝突により、粒子は大きく変形する(衝突に垂直な方向で約80%)。この変形により、粒子の表面積が大幅に増加する。そのため、衝撃を受けると、粒子と成膜面との間に親密な接触が生じ、金属結合が形成され、非常に緻密でコンパクトな構造を有するコーティングが形成される。
【0070】
有利なことに、すべて高運動エネルギー衝撃蒸着技術である上記の3つの蒸着技術の代替として、異なる蒸着方法を利用するが、非常に緻密でコンパクトな構造を有するコーティングを生成することができる他の技術を使用することも可能である。
【0071】
HVOFまたはHVAFまたはKM蒸着技術と、コーティング3およびベースコーティング30を形成するために使用される化学成分との組み合わせにより、それらが蒸着される下部材料に対して高い結合強度を有するコーティングを得ることができる。
【0072】
APS(大気圧プラズマ蒸着)技術の独自性は、比較的低い基材温度で複雑な膜を開発する能力にある。これらのプロセスでは、プラズマの条件、例えば電子密度、エネルギーおよび分布関数を制御することによって、膜の特性を広く変化させることが可能である。特に、APS技術では、連続フロープロセスに準拠した極めて高速の成膜速度を得ることが可能であるが、真空システムを必要としないため、既存の生産ラインに安価で比較的効率的な生産プロセスを導入することができる。さらに、APS技術は、堆積前に表面を清浄化するために使用され得るプラズマ源の点で非常に汎用性があり、モデル化された表面またはナノ構造化された表面を開発するための驚くべき能力を有する。
【0073】
添加式レーザ溶接技術は、レーザクラッディングとしても知られ、粉末を使用して実施することもできる。使用されるレーザビームは、基材の表面を局所的に加熱し、そこに溶接プールを生成し、そこに粉末コーティング材料がレーザによって溶接されるために同時に伝導される。作用時間は短く、いかなる場合でも最小限の変形しか起こさない。その結果、冶金的手順によって母材に接合されたコーティングが得られる。このコーティングは、溶射技術で製造されるコーティングよりも強度が高く、環境への影響も少ない。
【0074】
したがって、レーザクラッディング技術には、溶射で製造されるよりも強度が高く、同時に最適な表面品質と少ない変形で、コーティングの材料を母材の材料に接合できるという利点があり、また、より優れたエネルギー効率も確保される。
【0075】
添付の図に示すように、ディスク1は、好ましくは、上部および下部コーティング層3、3'を備え、これらの層は、面20a、20bの両方を覆い、したがって、ブレーキバンド2のブレーキ面2a、2bの両方を形成する。
【0076】
一変形例では、ブレーキバンドを一方のブレーキ面だけで覆うように、上部コーティング層3だけ又は下部コーティング層3'だけを設けてもよいことは明らかである。
【0077】
添付の図に示されていない実施形態によれば、上部コーティング層3または下部コーティング層3'は、環状固定部4やベル5のようなディスク1の他の部分にも、ディスク1の全表面を覆うまで延びることができる。特に、上部コーティング層3または下部コーティング層3'は、保護ベースコーティング30と同様に、ブレーキバンドに加えて、固定部のみまたはベルのみを覆ってもよい。
【0078】
本方法の特に好ましい実施形態によれば、保護ベースコーティング30を形成するための堆積ステップb)は、保護コーティングを形成するために同じ表面上に材料を粒子状に堆積させる2つ以上の別個の段階からなる。
【0079】
より詳細には、前記堆積ステップb)は、
- 保護ベースコーティング30の第1の層をディスク上に直接形成するために、材料を粒子状に堆積させる第1の段階;および
- 第1層上に第2層を形成するために粒子状の材料を堆積させる第2段階、を含む。
【0080】
以下で説明するように、第2の仕上げ層によって、保護ベースコーティング3の表面仕上げを設定することが可能になる。
【0081】
堆積ステップb)を2つ以上の段階に分けることにより、特に、異なる段階で使用される粒子状の材料の少なくとも粒度を区別することが可能になる。これにより、堆積ステップb)がより柔軟になる。
【0082】
本方法の特に好ましい実施形態によれば、上部コーティング層3又は下部コーティング層3'を形成する粒子状材料(WC+Fe+Cr+Al)を堆積させるステップb)は、保護ベースコーティング30について説明したのと同様の方法で、保護コーティングを形成するために同じ表面上に粒子状材料を堆積させる2つ以上の別個の段階からなる。
【0083】
これまで説明したことから理解されるように、本発明によるブレーキバンド、ブレーキディスク、およびブレーキバンドとブレーキディスクの製造方法は、従来技術の欠点を克服することを可能にする。
【0084】
実際、本発明に従って製造されたブレーキバンドおよびコーティングブレーキディスクは、先行技術の鋳鉄/鋼製ディスクよりも耐摩耗性および耐腐食性に優れている。
【0085】
さらに、特に革新的な態様において、本発明に従って製造されたブレーキバンドおよびディスクは、鋳鉄/鋼製のブレーキディスクとは対照的に、チタン製のベースバンド上のコーティング層の効果的な接着を保証するための特別な処理を必要としない。
【0086】
言い換えれば、セラミック粒子と金属粒子の混合物を堆積させるステップの前に、可能な洗浄およびグリース除去手順を除いて、中間層または中間膜、機械的活性化または他の前処理を行う必要はない。これにより、製造が容易で信頼性の高いブレーキバンドおよびコーティングブレーキディスクを得ることができる。
【0087】
さらに、相乗的に、同時に、高い機械的強度を有し、高温でも機械的応力に耐えるのに適した、特に軽量なディスクが得られ、また、熱膨張係数が低い結果、先行技術の鋳鉄ディスクと比較して、機械的および熱的変形を蓄積する傾向が低い。
【0088】
チタン合金と、好ましくは炭化タングステン、鉄、クロムおよびアルミニウムからなるコーティングとの相乗的な組合せの結果として、限定された熱膨張を有するブレーキディスクおよびブレーキバンドが得られ、これにより、製造された製品が温度においてより安定し、コーティングが剥離しないことが保証され、その結果、チタン合金とコーティング層との組合せ効果の結果として、ステンレス鋼に匹敵する強度を達成する耐腐食性の向上が保証される。
【0089】
さらに、コーティングされたチタンで作られたブレーキディスクは、チタンとその合金に影響する酸化と熱の現象に起因する、構造用途のためのチタン使用の熱限界(通常550/580℃)を超えることを保証する。 コーティング層は、基材(チタン)が酸化現象から保護されることを保証するものであり、そうでなければ、高性能ディスク、例えばスポーツカー用ブレーキディスクに要求される軽さ仕様を保証できるディスクを製造することは不可能となる。言い換えれば、コーティング層がなければ、重く、比較的大きな寸法と高い熱慣性を有するディスクを設計する必要がある。
【0090】
また、本発明によるコーティングされたブレーキディスクは、環境条件(熱衝撃および塩水攻撃)に対する耐性の点でより優れた性能を有することを確認することができた。
【0091】
ブレーキディスク1はまた、コーティング層を製造するための工程を簡略化した結果、一般に比較的安価に製造される。
【0092】
さらに、チタン粒子とセラミック粒子を同時に混合して一段階で焼結し、すべてを800℃から1200℃の間の圧力にかける先行技術の焼結技術とは対照的に、本発明による製造方法は、上部コーティング層(3)および/または下部コーティング層(3')をはるかに低い温度(実質的に「低温」)で堆積させることを可能にする。その結果、ベースバンド(20)の微細構造および機械的特性がより良好に保持され、特にセラミック粒子(したがってコーティング層)の機械的特性から切り離される。したがって、本発明の結果、ベースバンド(20)の剛性および破断荷重は、コーティング層の硬度、耐摩耗性および耐食性特性とは独立して最適化される。
【0093】
さらに、中間層を介さずにチタン製のベースバンド上に直接コーティング層を蒸着することにより、蒸着プロセスが有利に効率化される。チタンは、鋳鉄の典型的な熱膨張係数と比較して、熱膨張係数が低減されていることに留意すべきである。このことは、熱膨張のより効果的なマッチングを可能にし、従って、結合のためにベースバンドとコーティング層との間に中間層を使用する必要がないことを可能にする。
【0094】
当業者であれば、偶発的かつ特定のニーズを満足させるために、上述した本発明に多数の修正および変形を加えることができ、これらの修正および変形は、すべて以下の特許請求の範囲に定義される本発明の範囲内に含まれる。
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】