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特表2024-500803認知機能低下抑制又は認知機能障害改善のための剤の製造における環状ジペプチドの使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-10
(54)【発明の名称】認知機能低下抑制又は認知機能障害改善のための剤の製造における環状ジペプチドの使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4985 20060101AFI20231227BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20231227BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231227BHJP
   A61K 31/495 20060101ALI20231227BHJP
   A23L 33/18 20160101ALI20231227BHJP
   C07K 5/06 20060101ALN20231227BHJP
【FI】
A61K31/4985
A61P25/28
A61P43/00 121
A61K31/495
A23L33/18
C07K5/06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023537334
(86)(22)【出願日】2021-12-03
(85)【翻訳文提出日】2023-06-19
(86)【国際出願番号】 JP2021044490
(87)【国際公開番号】W WO2022131026
(87)【国際公開日】2022-06-23
(31)【優先権主張番号】10202012809X
(32)【優先日】2020-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SG
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】中尾 嘉宏
(72)【発明者】
【氏名】シャンメイ ヨン
(72)【発明者】
【氏名】シャージャン リン
(72)【発明者】
【氏名】イイヨン シェ
(72)【発明者】
【氏名】グレース カーヤンチャン
【テーマコード(参考)】
4B018
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4B018LB01
4B018LB03
4B018LB07
4B018LB08
4B018LB09
4B018LE01
4B018LE02
4B018LE03
4B018LE05
4B018MD20
4B018ME10
4B018ME14
4B018MF04
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC50
4C086CB05
4C086MA03
4C086MA04
4C086MA52
4C086NA14
4C086ZA15
4C086ZB11
4C086ZC52
4C086ZC75
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA11
4H045BA35
4H045EA20
(57)【要約】
本発明は、記憶機能等の認知機能の低下抑制又は認知機能障害の改善に有効な剤を提供することを目的とする。
本発明は、認知機能低下抑制又は認知機能障害改善のための剤の製造における、Cyclo(Phe-Phe)、Cyclo(Gly-Pro)、Cyclo(His-Pro)及びCyclo(Val-Pro)の使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
認知機能低下抑制又は認知機能障害改善のための剤の製造における、Cyclo(Phe-Phe)、Cyclo(Gly-Pro)、Cyclo(His-Pro)及びCyclo(Val-Pro)の使用。
【請求項2】
前記認知機能障害が、加齢に伴う認知機能障害である請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記認知機能が記憶機能、遂行機能、注意力及び集中力からなる群より選択される少なくとも1つである請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
前記記憶機能が言語的記憶機能、非言語的記憶機能、視空間記憶機能、要点記憶機能及び作業記憶機能からなる群より選択される少なくとも1つである請求項3に記載の使用。
【請求項5】
前記Cyclo(Phe-Phe)、Cyclo(Gly-Pro)、Cyclo(His-Pro)及びCyclo(Val-Pro)が、脳内炎症を抑制することにより認知機能の低下を抑制又は認知機能障害を改善する請求項1~4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
前記Cyclo(Phe-Phe)、Cyclo(Gly-Pro)、Cyclo(His-Pro)及びCyclo(Val-Pro)が、一酸化窒素の産出を抑制することにより脳内炎症を抑制する、請求項5に記載の使用。
【請求項7】
前記Cyclo(Phe-Phe)、Cyclo(Gly-Pro)、Cyclo(His-Pro)及びCyclo(Val-Pro)が、腫瘍壊死因子α(TNF-α)の産出を抑制することにより認知機能の低下を抑制又は認知機能障害を改善する、請求項1~5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
前記剤が経口用である請求項1~7のいずれか一項に記載の使用。
【請求項9】
前記剤が、飲食品又は医薬品である請求項1~8のいずれか一項に記載の使用。
【請求項10】
前記剤が「認知機能を高める」、「認知機能の低下を抑える」、「認知機能を良好に保つ」、「記憶力を高める」、「記憶力の低下を抑える」、「記憶力を良好に保つ」、「記憶の精度を高める」、「記憶障害を予防する」、「記憶障害を改善する」、「認知機能の一部である記憶力を維持する」、「記憶力の低下が気になる方に適した機能」、「認知機能の一部である記憶力の精度や判断の正確さを向上させる」、「記憶の保持又は統合を改善する」、「認知機能の強化を維持する」、「遂行機能を改善する」、「注意力と集中力を促進する」、「学習能力を改善する」、「加齢に伴う認知機能低下を遅延する」、「短期及び長期記憶を強化する」及び「言語的及び視空間記憶を促進する」からなる群より選択される1又は2以上の機能の表示を付されたものである請求項1~9のいずれか一項に記載の使用。
【請求項11】
認知機能の低下を抑制又は認知機能障害を改善するための、Cyclo(Phe-Phe)、Cyclo(Gly-Pro)、Cyclo(His-Pro)及びCyclo(Val-Pro)の使用。
【請求項12】
Cyclo(Phe-Phe)、Cyclo(Gly-Pro)、Cyclo(His-Pro)及びCyclo(Val-Pro)を有効成分として含む認知機能の低下抑制又は認知機能障害の改善用組成物。
【請求項13】
Cyclo(Phe-Phe)、Cyclo(Gly-Pro)、Cyclo(His-Pro)及びCyclo(Val-Pro)を投与する、又は、摂取させる認知機能の低下抑制又は認知機能障害の改善方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、認知機能低下抑制又は認知機能障害改善のための剤の製造における環状ジペプチドの使用に関する。本発明は、また、認知機能の低下抑制又は認知機能障害の改善用組成物、及び認知機能の低下抑制又は認知機能障害の改善方法に関する。
【背景技術】
【0002】
記憶機能等の認知機能の改善は、世代に関係なく求められるものである。また近年、人口構成における高齢者比率が高い国では、加齢に伴う認知機能の低下が問題となっており、飲食品等として日常的に摂取することで認知機能の低下を抑制又は認知機能障害を改善することができる成分の探索が行われている。
【0003】
例えば、特許文献1では、Cyclo(Gly-Pro)を含有する認知機能の低下抑制及び/又は改善剤が開示されている。この認知機能の低下抑制及び/又は改善剤をヒトが経口摂取することによって、注意力・集中力、言語能力、視空間・構成能力が低下抑制及び/又は改善されることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6598412号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、記憶機能等の認知機能の低下抑制又は認知機能障害の改善に有効な剤を提供することを目的とする。また本発明は、認知機能の低下抑制又は認知機能障害の改善用組成物を提供することを目的とする。また本発明は、認知機能の低下抑制又は認知機能障害の改善方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意研究した結果、特定の環状ジペプチドを組み合わせて使用することにより、認知機能の低下抑制又は認知機能障害の改善効果が著しく高くなることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、これに限定されるものではないが、以下の使用、認知機能の低下抑制又は認知機能障害の改善用組成物、認知機能の低下抑制又は認知機能障害の改善方法等に関する。
〔1〕認知機能低下抑制又は認知機能障害改善のための剤の製造における、Cyclo(Phe-Phe)、Cyclo(Gly-Pro)、Cyclo(His-Pro)及びCyclo(Val-Pro)の使用。
〔2〕上記認知機能障害が、加齢に伴う認知機能障害である上記〔1〕に記載の使用。
〔3〕上記認知機能が記憶機能、遂行機能、注意力及び集中力からなる群より選択される少なくとも1つである上記〔1〕又は〔2〕に記載の使用。
〔4〕上記記憶機能が言語的記憶機能、非言語的記憶機能、視空間記憶機能、要点記憶機能及び作業記憶機能からなる群より選択される少なくとも1つである上記〔3〕に記載の使用。
〔5〕前記Cyclo(Phe-Phe)、Cyclo(Gly-Pro)、Cyclo(His-Pro)及びCyclo(Val-Pro)が、脳内炎症を抑制することにより認知機能の低下を抑制又は認知機能障害を改善する上記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の使用。
〔6〕
前記Cyclo(Phe-Phe)、Cyclo(Gly-Pro)、Cyclo(His-Pro)及びCyclo(Val-Pro)が、一酸化窒素の産出を抑制することにより脳内炎症を抑制する、上記〔5〕に記載の使用。
〔7〕上記Cyclo(Phe-Phe)、Cyclo(Gly-Pro)、Cyclo(His-Pro)及びCyclo(Val-Pro)が、腫瘍壊死因子α(TNF-α)の産出を抑制することにより認知機能の低下を抑制又は認知機能障害を改善する、上記〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の使用。
〔8〕上記剤が経口用である上記〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の使用。
〔9〕上記剤が、飲食品又は医薬品である上記〔1〕~〔8〕のいずれかに記載の使用。
〔10〕上記剤が「認知機能を高める」、「認知機能の低下を抑える」、「認知機能を良好に保つ」、「記憶力を高める」、「記憶力の低下を抑える」、「記憶力を良好に保つ」、「記憶の精度を高める」、「記憶障害を予防する」、「記憶障害を改善する」、「認知機能の一部である記憶力を維持する」、「記憶力の低下が気になる方に適した機能」、「認知機能の一部である記憶力の精度や判断の正確さを向上させる」、「記憶の保持又は統合を改善する」、「認知機能の強化を維持する」、「遂行機能を改善する」、「注意力と集中力を促進する」、「学習能力を改善する」、「加齢に伴う認知機能低下を遅延する」、「短期及び長期記憶を強化する」及び「言語的及び視空間記憶を促進する」からなる群より選択される1又は2以上の機能の表示を付されたものである上記〔1〕~〔9〕のいずれかに記載の使用。
〔11〕認知機能の低下を抑制又は認知機能障害を改善するための、Cyclo(Phe-Phe)、Cyclo(Gly-Pro)、Cyclo(His-Pro)及びCyclo(Val-Pro)の使用。
〔12〕Cyclo(Phe-Phe)、Cyclo(Gly-Pro)、Cyclo(His-Pro)及びCyclo(Val-Pro)を有効成分として含む認知機能の低下抑制又は認知機能障害の改善用組成物。
〔13〕Cyclo(Phe-Phe)、Cyclo(Gly-Pro)、Cyclo(His-Pro)及びCyclo(Val-Pro)を投与する、又は、摂取させる認知機能の低下抑制又は認知機能障害の改善方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、記憶機能等の認知機能の低下抑制又は認知機能障害の改善に有効な剤を提供することができる。また、本発明によれば、認知機能の低下抑制又は認知機能障害の改善用組成物等を提供することができる。本発明における剤及び組成物は、認知機能の低下抑制又は認知機能障害の改善のための飲食品又は医薬品等として使用することができる。環状ジペプチドは、飲食品又は医薬品等としてヒトが摂取可能であり、安全性が高いという利点も有する。また、本発明によれば、認知機能の低下抑制又は認知機能障害の改善方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、認知機能低下抑制又は認知機能障害改善のための剤の製造における、Cyclo(Phe-Phe)、Cyclo(Gly-Pro)、Cyclo(His-Pro)及びCyclo(Val-Pro)の使用に関する。Cyclo(Phe-Phe)、Cyclo(Gly-Pro)、Cyclo(His-Pro)及びCyclo(Val-Pro)を組み合わせて使用することにより、優れた認知機能低下抑制効果又は認知機能障害改善効果を示す。
Cyclo(Phe-Phe)、Cyclo(Gly-Pro)、Cyclo(His-Pro)及びCyclo(Val-Pro)は、認知機能低下抑制又は認知機能障害改善のための剤の有効成分として使用することができる。
認知機能低下抑制又は認知機能障害改善のための剤は、通常、Cyclo(Phe-Phe)、Cyclo(Gly-Pro)、Cyclo(His-Pro)及びCyclo(Val-Pro)を有効成分として含む。
【0010】
上記Cyclo(Phe-Phe)(シクロフェニルアラニルフェニルアラニン)、Cyclo(Gly-Pro)(シクログリシルプロリン)、Cyclo(His-Pro)(シクロヒスチジルプロリン)及びCyclo(Val-Pro)(シクロバリルプロリン)は、全て環状ジペプチドである。本明細書において「環状ジペプチド」とは、アミノ酸を構成単位とすることを特徴とし、N末端側アミノ酸のアミノ基とC末端側アミノ酸のカルボキシル基とが脱水縮合することにより生成したジケトピペラジン構造を有する化合物をいう。なお、本明細書において、環状ジペプチドのアミノ酸構成が同じであれば、それらの記載順序はいずれが先でも構わなく、例えば、Cyclo(Gly-Pro)とCyclo(Pro-Gly)(シクロプロリルグリシン)とは同じ環状ジペプチドを表す。
【0011】
本発明において、Cyclo(Phe-Phe)、Cyclo(Gly-Pro)、Cyclo(His-Pro)及びCyclo(Val-Pro)は、無機酸若しくは有機酸を含む塩、又は、無機塩基若しくは有機塩基を含む塩の形態で用いることができる。そのような酸又は塩基は、塩の用途に基づいて選択することができる。飲食品及び医薬品への適用を考慮すると、以下の食事又は薬学的に許容される塩が好ましい。無機酸性塩の例には、塩酸塩、硝酸塩、硫酸塩、メタンスルホン酸塩、及びp-トルエンスルホン酸塩が含まれる。有機酸性塩の例としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸等のジカルボン酸との塩、酢酸、プロピオン酸、酪酸等のモノカルボン酸との塩が挙げられる。無機塩基の例には、ナトリウム、リチウム、カルシウム、マグネシウム及びアルミニウムの水酸化物、炭酸塩、及び重炭酸塩と、アンモニアが含まれる。有機塩基を有する塩の例には、メチルアミン、ジメチルアミン、及びトリエチルアミンの塩等のモノ、ジ、又はトリアルキルアミン塩、モノ、ジ、又はトリヒドロキシアルキルアミン塩、グアニジン塩、及びN-メチルグルコサミンの塩が含まれる。
【0012】
本発明において、Cyclo(Phe-Phe)、Cyclo(Gly-Pro)、Cyclo(His-Pro)及びCyclo(Val-Pro)は、天然物の抽出物に由来するもの(例えば、天然物を熱処理して得られた抽出物又は加水分解されたタンパク質)であってもよいし、人工的に合成したものであってもよい。これらの環状ジペプチドが天然物の抽出物に由来する場合、例えば、タンパク質やタンパク質加水分解物(例えば、水中で得られた植物性タンパク質加水分解物、トリタンパク質加水分解物、コラーゲン加水分解物)を加熱して得ることができる。
Cyclo(Phe-Phe)、Cyclo(Gly-Pro)、Cyclo(His-Pro)及びCyclo(Val-Pro)は、これらを含むタンパク質加水分解物の形態で使用してもよいし、これらの濃縮物、乾燥粉末又は精製度を高めたものを使用してもよい。環状ジペプチドは、飲食品などとして摂取可能であり、安全性が高い。
本発明において、上記タンパク質加水分解物又はその加熱処理物を使用して、上記剤又は組成物にCyclo(Phe-Phe)、Cyclo(Gly-Pro)、Cyclo(His-Pro)及びCyclo(Val-Pro)を含有させることができる。
【0013】
本発明において、上記認知機能は、記憶機能、学習能力、記憶の固定化、遂行機能、注意力(注意機能)、集中力等の脳の機能を意味する。上記認知機能障害は、上記認知機能の一部又は全部が機能を果たさないことを意味する。
本発明において、認知機能の低下抑制は、認知機能の維持、認知機能の低下の進行を遅延させること、認知機能の低下を停止させること等を含む。認知機能障害の改善は、認知機能障害の程度の軽減(緩和)、認知機能の回復、認知機能の向上等を含む。認知機能の低下抑制又は認知機能障害の改善は、一部の認知機能の低下抑制又は一部の認知機能障害の改善を含む。回復は、少なくとも部分的に回復させることを含む。
認知機能の低下や認知機能障害の原因としては、加齢のほか、アルツハイマー病やピック病・びまん性レビー小体病等の神経変性疾患、脳梗塞や脳出血・慢性硬膜下血腫・脳腫瘍・脳炎・正常圧水頭症等の脳疾患、血管性認知症・前頭側頭型認知症等の認知症、クロイツフェルト・ヤコブ病等が挙げられる。
一態様において、Cyclo(Phe-Phe)、Cyclo(Gly-Pro)、Cyclo(His-Pro)及びCyclo(Val-Pro)又はこれらを含む剤は、加齢に伴う認知機能障害の改善のために好適に使用される。加齢に伴う認知機能障害は、中高年者における加齢に伴う認知機能障害であってよい。中高年者は、高齢者を含む。
【0014】
一態様において、Cyclo(Phe-Phe)、Cyclo(Gly-Pro)、Cyclo(His-Pro)及びCyclo(Val-Pro)又はこれらを含む剤は、記憶機能、遂行機能、注意力及び集中力からなる群より選択される少なくとも1つの認知機能の低下抑制又は認知機能障害の改善のために好適に使用される。
【0015】
記憶機能とは、過去経験を保持し、後にそれを再現して利用する機能のことである。上記記憶機能は、例えば言語的記憶機能、非言語的記憶機能、視空間記憶機能、要点記憶機能及び作業記憶機能等に分類される。
【0016】
遂行機能とは、意思決定を行い、目標を達成するために計画的に段取りをつけて行動する機能で、人間が社会的、自立的、創造的な活動を行うために非常な重要な機能である。遂行機能は、視覚、聴覚、嗅覚等の様々な情報と過去の経験をすり合わせて、前頭葉で調整される。
【0017】
注意力とは、多くの情報の中から情報を選択する機能であり、脳の限られた処理資源を有効に活用するために、不要な情報には処理資源を割り当てず、必要な情報だけを優先的に処理するという情報の選択的処理機能である。
集中力とは、与えられた状況下で、他のことに気を取られることなく目の前のことに精神的な努力を費やす又は効果的に集中する機能である。
一態様において、Cyclo(Phe-Phe)、Cyclo(Gly-Pro)、Cyclo(His-Pro)及びCyclo(Val-Pro)又はこれらを含む剤は、記憶機能の低下抑制又は改善のために好適に使用され、言語的記憶機能、非言語的記憶機能、視空間記憶機能、要点記憶機能及び作業記憶機能の低下抑制又は改善のためにより好適に使用される。
【0018】
後述の実施例で示されるように、Cyclo(Phe-Phe)、Cyclo(Gly-Pro)、Cyclo(His-Pro)及びCyclo(Val-Pro)は、これらを組み合わせて使用することにより、一酸化窒素(NO)の産出を抑制する優れた作用を発揮する。Cyclo(Phe-Phe)、Cyclo(Gly-Pro)、Cyclo(His-Pro)及びCyclo(Val-Pro)の組み合わせで得られるNO産出抑制効果は、これらの環状ジペプチドを単独で使用した場合に得られるNO産出抑制効果から予測できない顕著な効果である。
【0019】
例えば、加齢に伴う炎症状態では、NOはスーパーオキシドと結合してペルオキシナイトライト(ONOO)を形成する。ペルオキシナイトライトは、例えば脳においては、脳の酸化ストレス、神経炎症等の脳内炎症を引き起こすことが知られている。脳内炎症は、アルツハイマー病等における認知機能低下の原因の一つと考えられている。従って、NO産出抑制によるペルオキシナイトライトの発生抑制は、認知機能の低下を抑制すると考えられる。
Cyclo(Phe-Phe)、Cyclo(Gly-Pro)、Cyclo(His-Pro)及びCyclo(Val-Pro)を摂取又は投与することによって、NO産出を抑制することができ、脳内炎症を抑制することができる。脳内炎症を抑制することにより、認知機能の低下を抑制又は認知機能障害を改善することができる。
Cyclo(Phe-Phe)、Cyclo(Gly-Pro)、Cyclo(His-Pro)及びCyclo(Val-Pro)によるNO産出抑制作用は、例えばミクログリア細胞等において観察される。ミクログリア細胞は中枢神経系グリア細胞の一つで、中枢の免疫担当細胞といわれている。ミクログリア細胞におけるNO産出増加は、認知機能の低下に関連すると考えられている。ミクログリア細胞におけるNOの産出を抑制することによって脳内炎症を抑制し、認知機能の低下を抑制又は認知機能障害を改善することができる。
一態様において、Cyclo(Phe-Phe)、Cyclo(Gly-Pro)、Cyclo(His-Pro)及びCyclo(Val-Pro)又はこれらを含む剤は、脳内炎症を抑制して認知機能の低下を抑制又は認知機能障害を改善するために使用することができる。一態様において、Cyclo(Phe-Phe)、Cyclo(Gly-Pro)、Cyclo(His-Pro)及びCyclo(Val-Pro)又はこれらを含む剤は、脳内炎症に伴う認知機能低下の抑制又は認知機能障害の改善のため等に使用することができる。Cyclo(Phe-Phe)、Cyclo(Gly-Pro)、Cyclo(His-Pro)及びCyclo(Val-Pro)又はこれらを含む剤は、NO産出抑制により脳内炎症を抑制し、これにより認知機能の低下を抑制又は認知機能障害を改善するために使用することができる。
【0020】
後述の実施例で示されるように、Cyclo(Phe-Phe)、Cyclo(Gly-Pro)、Cyclo(His-Pro)及びCyclo(Val-Pro)は、これらを組み合わせて使用することにより、炎症性マーカーの産出を抑制する優れた作用を有する。Cyclo(Phe-Phe)、Cyclo(Gly-Pro)、Cyclo(His-Pro)及びCyclo(Val-Pro)は、炎症性マーカーのうち、特に腫瘍壊死因子α(TNF-α)の産出抑制のために好適に使用することができる。
Cyclo(Phe-Phe)、Cyclo(Gly-Pro)、Cyclo(His-Pro)及びCyclo(Val-Pro)の組み合わせで得られるTNF-αの産出抑制効果は、これらの環状ジペプチドを単独で使用した場合に得られる炎症マーカーの産出抑制効果から予測できない顕著な効果である。
Cyclo(Phe-Phe)、Cyclo(Gly-Pro)、Cyclo(His-Pro)及びCyclo(Val-Pro)による炎症性マーカーの産出抑制作用は、例えばミクログリア細胞等において観察される。TNF-αの産出増加は、認知機能の低下に関連していることが知られている。好適には、ミクログリア細胞におけTNF-αの産出を抑制することによって、脳内炎症を抑制し、認知機能の低下を抑制又は認知機能障害を改善することができる。Cyclo(Phe-Phe)、Cyclo(Gly-Pro)、Cyclo(His-Pro)及びCyclo(Val-Pro)又はこれらを含む剤は、TNF-αの産出を抑制して、認知機能の低下を抑制又は認知機能障害を改善することができ、このような目的のために好適に使用される。
【0021】
Cyclo(Phe-Phe)、Cyclo(Gly-Pro)、Cyclo(His-Pro)及びCyclo(Val-Pro)又はこれらを含む剤は、認知機能の低下抑制又は認知機能障害の改善により、予防又は改善効果が得られる状態又は疾患の予防又は改善のために使用することができる。このような状態又は疾患として、認知機能の低下を呈する状態又は疾患、認知機能の低下に伴う状態が挙げられ、例えば、記憶力低下、記憶障害(物忘れ)、失語(ものの名前が出にくくなる)、失行、失認(よく知っているはずの場所で道に迷う等)、言語及び非言語学習能力の低下、聴覚及び視覚処理の低下、問題解決の低下、遂行機能低下、遂行機能障害(計画を立てて物事を行うことができなくなる)、集中力低下、注意力低下、判断力低下、空間認識力低下、認知柔軟性低下、情報処理速度低下等が挙げられる。中でも、Cyclo(Phe-Phe)、Cyclo(Gly-Pro)、Cyclo(His-Pro)及びCyclo(Val-Pro)又はこれらを含む剤は、記憶力低下、記憶障害、失語、失行、遂行機能低下障害、遂行機能低下、集中力低下、注意力低下等の予防又は改善のために好適に使用される。一態様において、Cyclo(Phe-Phe)、Cyclo(Gly-Pro)、Cyclo(His-Pro)及びCyclo(Val-Pro)又はこれらを含む剤は、加齢による記憶力低下、記憶障害、失語、失行、言語学習、遂行機能低下、集中力低下、注意力低下等の予防又は改善のためにより好適に使用される。一態様において、Cyclo(Phe-Phe)、Cyclo(Gly-Pro)、Cyclo(His-Pro)及びCyclo(Val-Pro)又はこれらを含む剤は、NOの産出を抑制することにより、上記の状態又は疾患を予防又は改善するために使用することができる。一態様において、Cyclo(Phe-Phe)、Cyclo(Gly-Pro)、Cyclo(His-Pro)及びCyclo(Val-Pro)又はこれらを含む剤は、TNF-αの産出を抑制することにより、上記の状態又は疾患を予防又は改善するために使用することができる。
本明細書において、状態又は疾患の予防は、発症を防止すること、発症を遅延させること、発症率を低下させること、発症のリスクを軽減すること等を包含する。状態又は疾患の改善は、対象を状態又は疾患から回復させること、状態又は疾患の症状を軽減すること、状態又は疾患の症状を好転させること、状態又は疾患の進行を遅延させること、防止すること等を包含する。
【0022】
本発明において、Cyclo(Phe-Phe)、Cyclo(Gly-Pro)、Cyclo(His-Pro)及びCyclo(Val-Pro)を含む剤は、治療的用途(医療用途)又は非治療的用途(非医療用途)のいずれにも適用することができる。非治療的とは、医療行為、すなわち人間の手術、治療又は診断を含まない概念である。
上記剤は、当該剤をそのまま組成物として、又は、当該剤を含む組成物として提供することもできる。
【0023】
本発明において、上記剤は、経口用又は非経口用のいずれであってもよい。上記剤は、好ましくは経口用である。上記剤は、例えば、飲食品、医薬品、医薬部外品、飼料等の形態とすることができ、飲食品又は医薬品が好ましい。上記剤は、飲食品、医薬品、医薬部外品、飼料等に添加して使用することもできる。
例えば上記剤を飲食品とする場合、Cyclo(Phe-Phe)、Cyclo(Gly-Pro)、Cyclo(His-Pro)及びCyclo(Val-Pro)に、飲食品に使用可能な成分(例えば、飲食品素材、必要に応じて使用される飲食品添加物等)を配合して、種々の飲食品とすることができる。飲食品は特に限定されず、例えば、一般的な飲食品、健康食品、健康飲料、機能性表示食品、特定保健用食品、健康補助食品、病者用飲食品飲食品等が挙げられる。上記健康食品、健康飲料、機能性表示食品、特定保健用食品、健康補助食品等は、例えば、細粒剤、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤、チュアブル剤、ドライシロップ剤、シロップ材、液剤、飲料、ソフトジェル、ゼリー、流動食等の各種製剤形態として使用することができる。
【0024】
上記剤の好ましい形態の一例として、飲料が挙げられる。
飲料は特に限定されず、例えば、茶、コーヒー、アルコール飲料、ノンアルコール飲料(例えば、ノンアルコールビールテイスト飲料等)、炭酸飲料、機能性飲料、果実及び/又は野菜系飲料、乳飲料、豆乳、フレーバーウォーター、エナジードリンク、発酵飲料(コンブチャ)、鶏肉エキス、鶏肉エッセンス、及びプロテインドリンク等が挙げられる。
【0025】
上記剤を医薬品又は医薬部外品とする場合、例えば、Cyclo(Phe-Phe)、Cyclo(Gly-Pro)、Cyclo(His-Pro)及びCyclo(Val-Pro)に、薬理学的に許容される担体、必要に応じて添加される添加剤等を配合して、各種剤形の医薬品又は医薬部外品とすることができる。そのような担体、添加剤等は、医薬品又は医薬部外品に使用可能な、薬理学的に許容されるものであればよく、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、抗酸化剤、着色剤等の1又は2以上が挙げられる。医薬品又は医薬部外品の投与(摂取)形態としては、経口又は非経口(経皮、経粘膜、経腸、注射等)投与の形態が挙げられる。上記剤を医薬品又は医薬部外品とする場合、経口用医薬品又は経口用医薬部外品とすることが好ましい。経口投与のための剤形としては、例えば、液剤、錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、糖衣錠、カプセル剤、懸濁液、乳剤、チュアブル剤等が挙げられる。非経口投与のための剤形としては、例えば、注射剤、点滴剤、軟膏剤、ローション剤、貼付剤、坐剤、経鼻剤、経肺剤(吸入剤)等が挙げられる。医薬品は、非ヒト動物用医薬であってもよい。
【0026】
上記剤は、Cyclo(Phe-Phe)、Cyclo(Gly-Pro)、Cyclo(His-Pro)及びCyclo(Val-Pro)を含み、更に食品又は医薬品等への添加物として許容されている各種の希釈剤、酸味料、酸化防止剤、安定剤、保存料、香料、乳化剤、色素類、調味料、pH調整剤、栄養強化剤等が添加されていてもよい。
【0027】
上記剤を飼料とする場合には、Cyclo(Phe-Phe)、Cyclo(Gly-Pro)、Cyclo(His-Pro)及びCyclo(Val-Pro)を飼料に配合すればよい。飼料には飼料添加剤も含まれる。飼料としては、例えば、牛、豚、鶏、羊、馬等に用いる家畜用飼料;ウサギ、ラット、マウス等に用いる小動物用飼料;犬、猫、小鳥等に用いるペットフードなどが挙げられる。
【0028】
飲食品、医薬品、医薬部外品、飼料の形態は限定されず、通常用いられる容器を用いることができる。飲料は、例えば、容器詰飲料であってよい。容器としては、紙パック等の紙容器;ペットボトル等のプラスチック容器;PTP(press through pack)包装シート;アルミ缶、スチール缶等の金属製容器;ガラス瓶等のガラス製容器;樽等の木製容器等が挙げられる。
飲食品、医薬品、医薬部外品、飼料は、まとめて1つの容器に入れてもよく、若しくは、1回の投与分を1又は複数の袋に入れてもよい。
【0029】
上記剤を、例えば、飲食品、医薬品、医薬部外品、飼料等とする場合、その製造方法は特に限定されず、Cyclo(Phe-Phe)、Cyclo(Gly-Pro)、Cyclo(His-Pro)及びCyclo(Val-Pro)の4種の環状ジペプチドを用いて、一般的な方法により製造することができる。
【0030】
本発明において、上記剤に含まれるCyclo(Phe-Phe)、Cyclo(Gly-Pro)、Cyclo(His-Pro)及びCyclo(Val-Pro)の含有量は特に限定されず、その形態等に応じて設定することができる。
一態様において、上記剤におけるCyclo(Phe-Phe)、Cyclo(Gly-Pro)、Cyclo(His-Pro)及びCyclo(Val-Pro)の合計含有量は、例えば、0.0000001重量%以上が好ましく、0.000001重量%以上がより好ましく、また、99重量%以下が好ましく、90重量%以下がより好ましい。一態様において、Cyclo(Phe-Phe)、Cyclo(Gly-Pro)、Cyclo(His-Pro)及びCyclo(Val-Pro)の合計含有量は、例えば、上記剤中に0.0000001~99重量%が好ましく、0.000001~90重量%がより好ましい。
Cyclo(Phe-Phe)、Cyclo(Gly-Pro)、Cyclo(His-Pro)及びCyclo(Val-Pro)は、例えば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)及び液体クロマトグラフィー質量分析法(LCMS)等の公知の方法で定量することができる。
【0031】
本発明において、上記剤に含まれる各環状ジペプチドの割合は特に限定されず、各環状ジペプチドが同じ割合で含まれていてもよいし、異なる割合で含まれていてもよい。
本発明において、Cyclo(Phe-Phe)のCyclo(Gly-Pro)に対する比率、つまり、Cyclo(Gly-Pro)/Cyclo(Phe-Phe)は、好ましくは0.02~450、より好ましくは0.5~10、更により好ましくは0.5~6である。Cyclo(Phe-Phe)のCyclo(His-Pro)に対する比率、つまり、Cyclo(His-Pro)/Cyclo(Phe-Phe)は、好ましくは0.01~200、より好ましくは0.1~10、更により好ましくは0.5~3である。Cyclo(Phe-Phe)のCyclo(Val-Pro)に対する比率、つまり、Cyclo(Val-Pro)/Cyclo(Phe-Phe)は、好ましくは0.01~250、より好ましくは0.1~10、更により好ましくは0.5~4である。
【0032】
本発明において、上記剤は、経口で摂取(経口投与)されることが好ましい。上記剤の投与量(摂取量ということもできる)は特に限定されない。上記剤の投与量は、認知機能の低下抑制又は認知機能障害の改善効果が得られるような量であればよく、投与形態、投与方法、対象の体重等に応じて適宜設定すればよい。
【0033】
一態様において、上記剤をヒト(成人)を対象に経口で摂取させる又は投与する場合、その投与量は、Cyclo(Phe-Phe)、Cyclo(Gly-Pro)、Cyclo(His-Pro)及びCyclo(Val-Pro)の合計投与量として、1日当たり体重60kgあたり、好ましくは0.001mg以上、より好ましくは0.01mg以上、更に好ましくは0.1mg以上、また、好ましくは50000mg以下、より好ましくは10000mg以下、更に好ましくは1000mg以下である。一態様において、上記剤の経口投与量は、Cyclo(Phe-Phe)、Cyclo(Gly-Pro)、Cyclo(His-Pro)及びCyclo(Val-Pro)の合計投与量として、ヒト(成人)であれば、1日当たり体重60kgあたり、好ましくは0.001~50000mg、より好ましくは0.01~10000mg、更に好ましくは0.1~1000mgである。上記量を、1日1回以上、例えば、1日1回又は数回(例えば2~3回)に分けて、摂取又は投与することが好ましい。一態様においては、上記量のCyclo(Phe-Phe)、Cyclo(Gly-Pro)、Cyclo(His-Pro)及びCyclo(Val-Pro)を、ヒトに経口で摂取させる又は投与することが好ましい。一態様において、上記剤は、ヒトに、体重60kgあたり、1日あたり上記量のCyclo(Phe-Phe)、Cyclo(Gly-Pro)、Cyclo(His-Pro)及びCyclo(Val-Pro)を摂取させる又は投与するために使用することができる。
【0034】
本発明において、上記剤は、継続して摂取又は投与されるものであることが好ましい。Cyclo(Phe-Phe)、Cyclo(Gly-Pro)、Cyclo(His-Pro)及びCyclo(Val-Pro)を継続的に摂取させる又は投与することによって、上記の効果が高まることが期待される。一態様において、認知機能低下抑制又は認知機能障害改善のための剤は、好ましくは1週間以上、より好ましくは4週間以上、更に好ましくは8週間以上継続して摂取又は投与されることが好ましい。
【0035】
本発明において、上記剤を摂取させる又は投与する対象(投与対象ということもできる)は、特に限定されない。好ましくはヒト又は非ヒト哺乳動物であり、より好ましくはヒトである。
一態様において、上記剤の投与対象として、認知機能低下抑制又は認知機能障害改善を必要とする又は希望する対象等が挙げられる。このような対象として、例えば、認知機能低下抑制又は認知機能障害改善を必要とする又は希望する対象、炎症性の状態又は疾患の予防又は改善を必要とする又は希望する対象が挙げられる。一態様において、本発明における投与対象として、中高年者が挙げられる。中高年者は、例えば、40歳以上のヒトであってよい。一態様において中高年者の中でも、対象として高齢者が好ましい。高齢者は、例えば、60歳以上又は65歳以上のヒトであってよい。上記剤は、健常者に対して使用してもよい。例えば、認知機能低下抑制又は認知機能障害の予防等を目的として、健常者に対して使用することもできる。上記剤は、認知機能が低下している対象又は認知機能障害を有する対象、若しくは、認知機能低下又は認知機能障害が関連している状態又は疾患を有する対象に使用することができる。
【0036】
上記剤には、機能の表示が付されていてもよい。このような表示は機能性表示ともいい、その表示内容は特に限定されない。このような表示として、例えば、「認知機能を高める」、「認知機能の低下を抑える」、「認知機能を良好に保つ」、「記憶力を高める」、「記憶力の低下を抑える」、「記憶力を良好に保つ」、「記憶の精度を高める」、「記憶障害を予防する」、「記憶障害を改善する」、「認知機能の一部である記憶力を維持する」、「記憶力の低下が気になる方に適した機能」、「認知機能の一部である記憶力の精度や判断の正確さを向上させる」、「記憶の保持又は統合を改善する」、「認知機能の強化を維持する」、「遂行機能を改善する」、「注意力と集中力を促進する」、「学習能力を改善する」、「加齢に伴う認知機能低下を遅延する」、「短期及び長期記憶を強化する」、「言語的及び視空間記憶を促進する」、及び、これらと同視できる表示又は機能性表示が挙げられる。
本発明の一態様において、上記剤は、上記の表示が付された食品であることが好ましい。また上記の表示は、上記の機能を得るために上記剤を用いる旨の表示であってもよい。当該表示は、剤自体に付されてもよいし、剤の容器又は包装に付されていてもよい。
【0037】
一態様において、認知機能低下抑制又は認知機能障害改善のための剤は、認知機能の低下抑制剤又は認知機能障害改善剤ということもできる。
一態様において、本発明の認知機能低下抑制又は認知機能障害改善のための剤は、認知機能の低下抑制又は認知機能障害の改善用組成物として用いることもできる。
【0038】
本発明はまた、Cyclo(Phe-Phe)、Cyclo(Gly-Pro)、Cyclo(His-Pro)及びCyclo(Val-Pro)を有効成分として含む認知機能の低下抑制又は認知機能障害の改善用組成物に関する。本発明の認知機能の低下抑制又は認知機能障害の改善用組成物を、単に本発明の組成物ともいう。
有効成分として用いるCyclo(Phe-Phe)、Cyclo(Gly-Pro)、Cyclo(His-Pro)及びCyclo(Val-Pro)の態様や組成物中の含有量は、上記剤について言及したとおりである。本発明の組成物は、上記有効成分を含み、更に上記の各種添加剤等が添加されていてもよい。
本発明の組成物の形態及びその好ましい態様等は、上記剤と同じである。本発明の組成物を摂取させる又は投与する対象や投与量、これらの好ましい態様は、上記剤と同じである。本発明の認知機能の低下抑制又は認知機能障害の改善用組成物により、記憶機能等の認知機能の低下を抑制し、認知機能障害を改善することができる。本発明の認知機能の低下抑制又は認知機能障害の改善用組成物により予防又は改善効果が得られる状態又は疾患は、上記剤について言及したとおりである。
【0039】
本発明は、以下の方法も包含する。
Cyclo(Phe-Phe)、Cyclo(Gly-Pro)、Cyclo(His-Pro)及びCyclo(Val-Pro)を投与する、又は、摂取させる認知機能の低下抑制又は認知機能障害の改善方法。
本発明は、以下の使用も包含する。
認知機能の低下を抑制又は認知機能障害を改善するための、Cyclo(Phe-Phe)、Cyclo(Gly-Pro)、Cyclo(His-Pro)及びCyclo(Val-Pro)の使用。
上記方法は、治療的な方法であってもよく、非治療的な方法であってもよい。上記使用は、治療的な使用であってもよく、非治療的な使用であってもよい。Cyclo(Phe-Phe)、Cyclo(Gly-Pro)、Cyclo(His-Pro)及びCyclo(Val-Pro)の投与量、回数及び対象等は、上記剤について言及したとおりである。
【実施例
【0040】
以下、本発明を実施例により更に詳しく説明するが、これにより本発明の範囲を限定するものではない。
【0041】
<抗炎症活性の評価方法>
実施例及び比較例では、下記の方法で炎症マーカーの産生抑制効果を評価した。
【0042】
(試薬)
ダルベッコ改変イーグル培地(Gibco):栄養混合物F-12 Ham1:1(DMEM/F12、Cat.#D6421)、ウシ胎児血清(FBS、Cat.#10500)、ウマ血清(HS、Cat.#26050088)、及びペニシリン/ストレプトマイシン(P/S、Cat.#15070063)は、Thermo Fischer Scientific社から入手した。
リポ多糖O111:B4(LPS、Cat.#LPS25)はSigma-Aldrich社から購入した。
ジケトピペラジン(DKP)としても知られている環状ジペプチドは、シクロフェニルアラニルフェニルアラニン(Cyclo(Phe-Phe)、CFF)、シクログリシルプロリン(Cyclo(Gly-Pro)、CGP)、シクロヒスチジルプロリン(Cyclo(His-Pro)、CHP)及びシクロバリルプロリン(Cyclo(Val-Pro)、CVP)を含む。これらの環状ジペプチドはBachem社から購入した。
ポリ-L-lysine(PLL)被覆96ウェルプレートはCorning社から提供された。
【0043】
(細胞培養及び処理)
SIM-A9マウスミクログリア細胞(ATCC)を、10%FBS、5%HS、1%P/S、0.5%ジメチルスルホキシド(DMSO)を添加したDMEM/F12で保存した。PLL被覆96ウェルプレートに細胞(継代数:14(P14))を細胞密度20000細胞/ウェルで播種し、5%COを含む加湿ガスチャンバー内で、37℃で一晩培養した。22μg/mLのCyclo(Phe-Phe)、71μg/mLのCyclo(Gly-Pro)、28μg/mLのCyclo(His-Pro)、34μg/mLのCyclo(Val-Pro)、又は4つの環状ジペプチドの組合わせを、それぞれ個別に軟骨細胞に添加し、軟骨細胞を24時間前処理した。無血清培地中で、環状ジペプチド及び100ng/mLのLPSで更に24時間処理した。
細胞を1100gで5分間遠心分離し、上清をサイトカイン分析に使用した。
【0044】
(多重サイトカイン分析)
Mouse Cytokine Multiplex Assay(Bio-Rad)を使用して、培地中のサイトカインを分析した。多重分析は以下の23個である:IL-1α、IL-1β、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-9、IL-10、IL-12(p40)、IL-12(p70)、IL-13、IL-17A、ケラチノサイト由来ケモカイン(KC/CXCL1)、エオタキシン(CCL11)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、インターフェロン(IFN)-γ、単球走化性タンパク質1(MCP-1;CCL2)、マクロファージ炎症性タンパク質-1α(MIP-1α;CCL3)、MIP-1β(CCL4)、RANTES(regulated upon activation normal T cell expressed and activated)(CCL5)及びTNF-α。製造元の指示に従って、MAGPIXプラットフォーム用のLuminex xPONENTでマルチプレックスアッセイを実行した。データ処理にはBio-Plex Managerバージョン6.0を使用した。サイトカインとケモカインの濃度は、標準曲線を参照して計算された。マルチプレックスキットの感度は5pg/mL未満であった。
【0045】
(統計分析)
GraphPad Prismバージョン5.0(San Diego)を使用して、統計分析を実施した。すべての結果は、平均±標準偏差として表される。統計分析は、分散分析(ANOVA)とそれに続く事後テューキーの多重比較検定によって実行された。p<0.05の場合、データは有意であると見なされる。
【0046】
(比較例1、2及び実施例1)
SIM-A9ミクログリア細胞によって生成される炎症マーカーであるTNF-αに対する環状ジペプチドの組合せによる優れた効果の影響を評価するために、下記の4つの異なる条件を比較した:処理前の細胞(ビヒクルコントロール)、LPS-処理細胞(比較例1)、LPS+環状ジペプチド単独-処理細胞(比較例2)及びLPS+4つの環状ジペプチドの組合わせ(4DKP)-処理細胞(実施例1)。LPS+1つの環状ジペプチド-処理細胞は、LPSと、Cyclo(Phe-Phe)、Cyclo(Gly-Pro)、Cyclo(His-Pro)及びCyclo(Val-Pro)のいずれか1つで前処理を行った。前処理において、Cyclo(Phe-Phe)の濃度は22μg/mL、Cyclo(Gly-Pro)の濃度は71μg/mL、Cyclo(His-Pro)の濃度は28μg/mL、Cyclo(Val-Pro)の濃度は34μg/mLとした。LPS+4DKP-処理細胞において、4DKPにおける各環状ジペプチドの濃度は、Cyclo(Phe-Phe)は22μg/mL、Cyclo(Gly-Pro)は71μg/mL、Cyclo(His-Pro)は28μg/mL、Cyclo(Val-Pro)は34μg/mLであった。
表1に示すように、4つの環状ジペプチドの組合わせは、環状ジペプチド単独による処理に比べて、炎症を軽減する優れた効果をもたらした。データは平均値±SD(n=3)として表した。教示がない限り、*はp<0.05、**はp<0.01、***はp<0.001のビヒクルコントロール(未処理)に対する有意差を示す。教示がない限り、#はp<0.05、##はp<0.01、###はp<0.001のLPS-処理細胞に対する有意差を示す。教示がない限り、$はp<0.05、$$はp<0.01、$$$はp<0.001のLPS+環状ジペプチド単独-処理細胞に対する有意差を示す。$、$$又は$$$の後ろの括弧内に示す環状ジペプチドは、4つの環状ジペプチドの組合わせによる有意差の対象となる環状ジペプチドの名称である。
【0047】
【表1】
【0048】
(比較例3、4及び実施例2)
継代数:16(P16)の細胞をDMSO非含有培地で培養した以外は、実施例1及び比較例1、2と同じ方法を用いて、炎症マーカーに対する環状ジペプチドの組合せによる優れた効果を調べた。表2において、「SFMコントロール」は「無血清培地コントロール」を意味する。
表2に示すように、教示がない限り、*はp<0.05、**はp<0.01、***はp<0.001のSFMコントロール(未処理)に対する有意差を示す。
【0049】
【表2】
【0050】
<NO産出抑制の評価方法>
実施例及び比較例において、一酸化窒素(NO)の産出抑制効果を下記の方法で評価した。
試薬及び統計分析は、抗炎症活性の評価方法で使用したものと同じである。
【0051】
(細胞培養及び処理)
亜硝酸分析において、細胞をPLL被覆96ウェルプレートに細胞密度20000細胞/ウェルで播種した。4つの環状ジペプチドの各環状ジペプチド又は4つの環状ジペプチドの組合せを、個別に細胞に添加し、細胞を24時間プレインキュベーションした。プレインキュベーション後、LPSを2.5μg/mL添加し、更に24時間培養した。その後、細胞を1000rpmで5分間遠心分離した。上清を回収し、アッセイを行った(播種48時間後)。
【0052】
(亜硝酸分析)
一酸化窒素(NO)の産出量を測定するため、製造元の指示に従って、回収した培地をグリース試薬(Promega)でインキュベーションした。プレートリーダーを用いて、NOの安定した誘導体である亜硝酸イオン(NO-)を540nm(ref 690nm)で測定し、定量化した。
【0053】
(比較例5、6及び実施例3)
SIM-A9ミクログリア細胞によって生成されるNO産出に対する環状ジペプチドの組合せによる優れた効果の影響を評価するために、下記の4つの異なる条件を比較した:処理前の細胞(ビヒクルコントロール)、LPS-処理細胞(比較例5)、LPS+環状ジペプチド単独-処理細胞(比較例6)及びLPS+4DKP-処理細胞(実施例3)。LPS+環状ジペプチド単独-処理細胞は、LPSと、Cyclo(Phe-Phe)、Cyclo(Gly-Pro)、Cyclo(His-Pro)及びCyclo(Val-Pro)のいずれか1つで前処理を行った。前処理において、Cyclo(Phe-Phe)の濃度は22μg/mL、Cyclo(Gly-Pro)の濃度は71μg/mL、Cyclo(His-Pro)の濃度は28μg/mL、Cyclo(Val-Pro)の濃度は34μg/mLとした。LPS+4DKP-処理細胞において、4DKPにおける各環状ジペプチドの濃度については、Cyclo(Phe-Phe)は22μg/mL、Cyclo(Gly-Pro)は71μg/mL、Cyclo(His-Pro)は28μg/mL、Cyclo(Val-Pro)は34μg/mLとした。
表3に示すように、4つの環状ジペプチドの組合わせは、環状ジペプチド単独による処理に比べて、NO生産を減少する優れた効果をもたらした。データは平均値±SD(n=3)として表される。教示がない限り、*はp<0.05、**はp<0.01、***はp<0.001のビヒクルコントロール(未処理)に対する有意差を示す。教示がない限り、#はp<0.05、##はp<0.01、###はp<0.001のLPS-処理細胞に対する有意差を示す。教示がない限り、$はp<0.05、$$はp<0.01、$$$はp<0.001のLPS+環状ジペプチド単独-処理細胞に対する有意差を示す。$、$$又は$$$の後ろの括弧内に示す環状ジペプチドは、4つの環状ジペプチドの組合わせによる有意差の対象となる環状ジペプチドの名称である。
【0054】
【表3】

【手続補正書】
【提出日】2023-06-20
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
yclo(Phe-Phe)、Cyclo(Gly-Pro)、Cyclo(His-Pro)及びCyclo(Val-Pro)を有効成分として含む認知機能の低下抑制又は認知機能障害の改善用組成物
【請求項2】
前記認知機能障害が、加齢に伴う認知機能障害である請求項1に記載の組成物
【請求項3】
前記認知機能が記憶機能、遂行機能、注意力及び集中力からなる群より選択される少なくとも1つである請求項1又は2に記載の組成物
【請求項4】
前記記憶機能が言語的記憶機能、非言語的記憶機能、視空間記憶機能、要点記憶機能及び作業記憶機能からなる群より選択される少なくとも1つである請求項3に記載の組成物
【請求項5】
前記Cyclo(Phe-Phe)、Cyclo(Gly-Pro)、Cyclo(His-Pro)及びCyclo(Val-Pro)が、脳内炎症を抑制することにより認知機能の低下を抑制又は認知機能障害を改善する請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物
【請求項6】
前記Cyclo(Phe-Phe)、Cyclo(Gly-Pro)、Cyclo(His-Pro)及びCyclo(Val-Pro)が、一酸化窒素の産出を抑制することにより脳内炎症を抑制する、請求項5に記載の組成物
【請求項7】
前記Cyclo(Phe-Phe)、Cyclo(Gly-Pro)、Cyclo(His-Pro)及びCyclo(Val-Pro)が、腫瘍壊死因子α(TNF-α)の産出を抑制することにより認知機能の低下を抑制又は認知機能障害を改善する、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物
【請求項8】
口用である請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物
【請求項9】
食品又は医薬品である請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物
【請求項10】
認知機能を高める」、「認知機能の低下を抑える」、「認知機能を良好に保つ」、「記憶力を高める」、「記憶力の低下を抑える」、「記憶力を良好に保つ」、「記憶の精度を高める」、「記憶障害を予防する」、「記憶障害を改善する」、「認知機能の一部である記憶力を維持する」、「記憶力の低下が気になる方に適した機能」、「認知機能の一部である記憶力の精度や判断の正確さを向上させる」、「記憶の保持又は統合を改善する」、「認知機能の強化を維持する」、「遂行機能を改善する」、「注意力と集中力を促進する」、「学習能力を改善する」、「加齢に伴う認知機能低下を遅延する」、「短期及び長期記憶を強化する」及び「言語的及び視空間記憶を促進する」からなる群より選択される1又は2以上の機能の表示を付されたものである請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物
【請求項11】
認知機能低下抑制又は認知機能障害改善のための剤の製造における、Cyclo(Phe-Phe)、Cyclo(Gly-Pro)、Cyclo(His-Pro)及びCyclo(Val-Pro)の使用
【国際調査報告】