(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-10
(54)【発明の名称】ペプチド核酸複合体を有効成分として含有する膠芽細胞腫の予防又は治療用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 48/00 20060101AFI20231227BHJP
C07K 7/08 20060101ALI20231227BHJP
C07K 7/06 20060101ALI20231227BHJP
C12N 15/11 20060101ALI20231227BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20231227BHJP
A61K 47/64 20170101ALI20231227BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20231227BHJP
【FI】
A61K48/00
C07K7/08 ZNA
C07K7/06
C12N15/11 Z
A61P35/00
A61K47/64
A61K31/7088
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023537579
(86)(22)【出願日】2021-12-14
(85)【翻訳文提出日】2023-08-09
(86)【国際出願番号】 KR2021018965
(87)【国際公開番号】W WO2022131745
(87)【国際公開日】2022-06-23
(31)【優先権主張番号】10-2020-0175271
(32)【優先日】2020-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】519045000
【氏名又は名称】シーサン・セラピューティクス
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【氏名又は名称】山口 健次郎
(72)【発明者】
【氏名】パク ミンジョン
(72)【発明者】
【氏名】キム ヘジュ
(72)【発明者】
【氏名】ユ ジヨン
(72)【発明者】
【氏名】パク ヒギョン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA95
4C076CC27
4C076CC41
4C076EE41
4C076EE59
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4C084AA13
4C084MA52
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4C084ZB261
4C084ZB262
4C086AA01
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4C086MA02
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4C086NA05
4C086NA10
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4C086NA13
4C086NA14
4C086ZB26
4H045AA10
4H045BA09
4H045BA15
4H045BA16
4H045EA20
(57)【要約】
本発明は、核酸複合体を有効成分として含有する膠芽細胞腫治療用薬学組成物に関し、より詳細には、TGF-β2遺伝子と結合する配列を有する生物活性ペプチド核酸(Bioactive Peptide Nucleic Acid);及びキャリアペプチド核酸(Carrier Peptide Nucleic Acid)が相補的に結合した核酸複合体を含有する膠芽細胞腫の予防又は治療用薬学組成物に関する。本発明に係る核酸複合体は、優れた細胞透過能及び細胞内活性を有し、TGF-β2遺伝子及びその下位遺伝子の発現を効果的に抑制でき、膠芽細胞腫の予防又は治療に有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
TGF-β2遺伝子を標的とする生物活性ペプチド核酸(Bioactive Peptide Nucleic Acid);及びキャリアペプチド核酸(Carrier Peptide Nucleic Acid)が相補的に結合した細胞透過性核酸複合体を有効成分として含有する膠芽細胞腫の予防、改善又は治療用医薬組成物。
【請求項2】
前記生物活性ペプチド核酸は、配列番号1の配列で表される配列を含むことを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記キャリアペプチド核酸は、配列番号4~7及び9で表される配列からなる群から選ばれる配列を含むことを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記核酸複合体は、
(i)配列番号1で表される配列を含む生物活性核酸及び配列番号4で表される配列を含むキャリアペプチド核酸から構成された核酸複合体;
(ii)配列番号1で表される配列を含む生物活性核酸及び配列番号5で表される配列を含むキャリアペプチド核酸から構成された核酸複合体;
(iii)配列番号1で表される配列を含む生物活性核酸及び配列番号6で表される配列を含むキャリアペプチド核酸から構成された核酸複合体;
(iv)配列番号1で表される配列を含む生物活性核酸及び配列番号7で表される配列を含むキャリアペプチド核酸から構成された核酸複合体;及び
(v)配列番号1で表される配列を含む生物活性核酸及び配列番号9で表される配列を含むキャリアペプチド核酸から構成された核酸複合体;
からなる群から選ばれることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記生物活性ペプチド核酸又はキャリアペプチド核酸は、それぞれの核酸の5’末端又は3’末端にエンドソーム脱出を助ける物質がさらに結合していることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記エンドソーム脱出を助ける物質は、ペプチド、脂質ナノ物質(lipid nanoparticles)、接合体ナノ物質(polyplex nanoparticles)、高分子ナノ球(polymer nanospheres)、無機物ナノ物質(inorganic nanoparticles)、陽イオン脂質ナノ物質(cationic lipid-based nanoparticles)、陽イオン高分子(cationic polymer)及びpH感応高分子(pH sensitive polymers)からなる群から選ばれるいずれか1つ以上であることを特徴とする、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記エンドソーム脱出を助けるペプチドは、GLFDIIKKIAESF(配列番号10)又はHistidine(10)であることを特徴とする、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記生物活性ペプチド核酸は、全体的に陰電荷又は中性を有することを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記キャリアペプチド核酸は、全体的に陽電荷を有することを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記核酸複合体は、全体的に陽電荷を有することを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
前記核酸複合体は、血液脳関門透過能を有することを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸複合体を有効成分として含有する膠芽細胞腫治療用薬学組成物に関し、より詳細には、TGF-β2遺伝子と結合する配列を有する生物活性ペプチド核酸(Bioactive Peptide Nucleic Acid);及びキャリアペプチド核酸(Carrier Peptide Nucleic Acid)が相補的に結合した核酸複合体を含有する、膠芽細胞腫の予防又は治療用薬学組成物に関する。
【0002】
【背景技術】
【0003】
膠芽細胞腫(glioblastoma)は、脳の膠細胞で発生した腫瘍のうち、組織学的に核の非定型性、有糸分裂像、血管内皮細胞の増殖、壊死が観察される悪性度の最も高い腫瘍である。膠芽細胞腫(glioblastoma)は、神経膠腫(glioma)の大部分を占め、組織学的に2位の頻繁で発生し、5年生存率が5%に留まる脳及び中枢神経系で最も頻繁な悪性腫瘍であり(米国)、韓国内では膠芽細胞腫が全体脳及びCNS元癌の15.1%を占め、全体神経膠腫の34.4%を占める最も一般的な脳上皮腫である。
【0004】
膠芽細胞腫は急速に成長する腫瘍であるため、脳圧が急上昇して頭痛、むかつき、嘔吐などを誘発し、成人では痙攣が頻繁に起きる。その他にも、腫瘍自体又は腫瘍に同伴する脳浮腫によって近隣神経の機能が低下し、四肢運動低下、感覚低下、顔麻痺、言語障害、認知機能低下、左-右区分障害などの様々な症状が発生することがある。このような身体一部の神経学的欠損は、腫瘍の発生位置によって非常に多様であり、いずれか一つの症状だけで診断を下すことはできない。
【0005】
膠芽細胞腫が発生すると、手術的除去によって腫瘍を極力切除するのが一般的であるが、除去する場合には深刻な合併症が残ることもあり、切除の範囲を慎重に決定する必要がある。手術後には、切り取った組織から組織学的に膠芽細胞腫が確診されると、放射線治療と抗癌治療を行う。
【0006】
膠芽細胞腫の標準的な1次治療方法は、手術的療法と、化学的療法であるテモゾロミド(temozolomide;TMZ)及び放射線治療(Radiation therapy;RT)の併合療法がである。
【0007】
中枢神経系癌に関するNCCN指針によれば、幼い年齢で良好な予後を示すGBM患者には、現在、アルキル化(メチル化)剤であるTMZが手術後のRTとともに標準治療法として知られているが、このような標準治療法を適用できる患者群は非常に限定的であり、全体膠芽細胞腫患者の5年生存率は5%未満と治療後予後が不良な癌である。
【0008】
また、手術、放射線療法及び化学療法を含む治療にもかかわらず、膠芽細胞腫は、膠芽細胞腫幹細胞(glioblastoma stem cell)と呼ばれる幹細胞様癌細胞を保有しているため治療抵抗性が非常に高く、治療後予後が良くない実情である。
【0009】
そこで、新しい膠芽細胞腫治療剤を開発しようとする研究が活発に行わている。例えば、国際特許公開第2012-061120号には、精製された膠芽細胞腫GBM6-AD幹細胞を用いて膠芽細胞腫を治療する方法が開示されており、国際特許公開第2012-104822号には、マシテンタンを投与して膠芽細胞腫を治療する方法が開示されている。
【0010】
TGF-β2は、Smad下位経路を用いて腫瘍の微細環境を調節し、腫瘍の増殖、移動(migration)及び侵入(invasion)に重要な腫瘍遺伝子(oncogene)として知られている(Joanna L.Birch et al.,Cellular Signaling,2020,Volume 72,109638)。特に、膠芽細胞腫患者にTGF-β2が高く発現しており、患者の生存率と遺伝子の発現率が相関関係を有することが明らかになった(Roy LO,Poirier MB,Fortin D.,Int.J.Mol.Sci.,2018,19(4)、1113)。
【0011】
一方、伝統的な薬剤とは違い、核酸薬剤は標的特異的伝令RNA(messenger RNA,mRNA)の発現を抑制し、よって、タンパク質を標的とする既存薬剤では治療不可能たった研究領域を扱うことが可能になった(Kole R.et al.,Nature Rev.Drug Discov.11;125,2012.,Wilson C.et al.,Curr.Opin.Chem.Bio.2006;10:607,2006)。薬剤としての性能及び長所から、核酸を用いた様々な臨床試験が行われており、増加する核酸ベース治療剤の用途にもかかわらず、細胞内導
【0012】
入又は血液脳関門透過のための運搬体の使用は極めて制限されている。
このため、最近では、薬物のより安全で効果的な利用を図るために、薬物に適する剤形の他にも、薬物の標的となる生体部位に効率的に薬物を伝達(drug delivery)する方法が注目されている。特に、薬物を必要な時に、必要な量だけ、必要な箇所に効率的に運搬する輸送システムである薬物伝達システム(DDS;Drug Delivery System)の実用化が要求されている。
【0013】
これと関連して、本発明者らは、生物活性核酸と全体的に陽電荷を有するように変形されたキャリアペプチド核酸(Carrier Peptide Nucleic Acid)とが相補的に結合した核酸複合体が、細胞透過性(cell permeability)が驚くほど向上し、これを用いて標的遺伝子の発現を非常に効率的に調節できることを確認し、このような細胞毒性が低く、生物活性核酸の細胞透過性及び遺伝子発現調節能力が向上した新しい構造体に対する特許を出願したことがある(PCT/KR2017/008636)。また、本発明者らは、前記構造体の機能に対する研究を行い続け、優れた効率で血液脳関門を透過できる能力を有する新しい構造体を開発した(大韓民国特許公開10-2019-0128465)。
【0014】
そこで、本発明者らは、細胞透過能に優れた核酸複合体を膠芽細胞腫の治療に適用しようと鋭意努力した結果、TGF-β2遺伝子を標的とする生物活性ペプチド核酸(Bioactive Peptide Nucleic Acid);及びキャリアペプチド核酸(Carrier Peptide Nucleic Acid)が相補的に結合した核酸複合体が膠芽細胞腫の予防又は治療に優れた効果を示すことを確認し、本発明を完成するに至った。
【0015】
【0016】
【発明の概要】
【0017】
本発明の目的は、核酸複合体を有効成分として含有する膠芽細胞腫の予防又は治療用薬学組成物を提供することである。
【0018】
上記の目的を達成するために、本発明は、TGF-β2遺伝子を標的とする生物活性核酸(Bioactive Nucleic Acid);及びキャリアペプチド核酸(Carrier Peptide Nucleic Acid)が相補的に結合した細胞透過性核酸複合体を有効成分として含有する膠芽細胞腫の予防、改善又は治療用薬学組成物を提供する。
【0019】
本発明は、また、TGF-β2遺伝子を標的とする生物活性核酸(Bioactive Nucleic Acid);及びキャリアペプチド核酸(Carrier Peptide Nucleic Acid)が相補的に結合した細胞透過性核酸複合体を投与する段階を含む、膠芽細胞腫の治療又は予防方法を提供する。
【0020】
本発明は、また、膠芽細胞腫の治療又は予防のためのTGF-β2遺伝子を標的とする生物活性核酸(Bioactive Nucleic Acid);及びキャリアペプチド核酸(Carrier Peptide Nucleic Acid)が相補的に結合した細胞透過性核酸複合体の用途を提供する。
【0021】
本発明は、また、膠芽細胞腫の治療且つ予防用薬剤の製造のためのTGF-β2遺伝子を標的とする生物活性核酸(Bioactive Nucleic Acid);及びキャリアペプチド核酸(Carrier Peptide Nucleic Acid)が相補的に結合した細胞透過性核酸複合体の使用を提供する。
【0022】
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】ヒト膠芽細胞腫細胞(U87MG)に本発明のペプチド核酸複合体を処理した後、各組合せ別TGF-β標的遺伝子及び下位経路遺伝子の発現を確認した結果であり、(A)は組合せ1~5の結果、(B)は組合せ1及び6の結果である。
【0024】
【
図2】(A)は、ヒト膠芽細胞腫細胞(U87MG)に本発明のペプチド核酸複合体を処理した後、各組合せ別細胞移動を確認した結果であり、(B)は、それを定量化した結果である。
【0025】
【
図3】ヒト膠芽細胞腫細胞(U87MG)を同所移植した動物モデルに本発明のペプチド核酸複合体を処理した後、得られた腫瘍組織の表現型を確認した結果である。
【0026】
【
図4】ヒト膠芽細胞腫細胞(U87MG)を同所移植した動物モデルに本発明のペプチド核酸複合体を濃度別に処理した後、得られた腫瘍組織の表現型を確認した結果である。
【0027】
【
図5】ヒト膠芽細胞腫細胞(U87MG)を同所移植した動物モデルに本発明のペプチド核酸複合体を処理した後、得られた腫瘍組織で各組合せ別TGF-β標的遺伝子及び下位経路遺伝子の発現を確認した結果であり、(A)は組合せ3の結果、(B)は組合せ6の結果である。
【0028】
【0029】
【発明を実施するための形態】
【0030】
特に断らない限り、本明細書で使われる全ての技術的及び科学的用語は、本発明の属する技術の分野における熟練した専門家によって通常理解されるのと同じ意味を有する。一般に、本明細書における命名法は、本技術分野によく知られており、通常使われているものである。
【0031】
本発明では、TGF-β2遺伝子を標的とする生物活性ペプチド核酸(Bioactive Peptide Nucleic Acid);及びキャリアペプチド核酸(Carrier Peptide Nucleic Acid)が相補的に結合した核酸複合体を投与する場合に、膠芽細胞腫の予防及び治療に効果があるかを確認しようとした。
【0032】
すなわち、本発明の一実施例では、TGF-β2遺伝子と結合する配列を有する生物活性ペプチド核酸(Bioactive Peptide Nucleic Acid);及びキャリアペプチド核酸(Carrier Peptide Nucleic Acid)が相補的に結合した核酸複合体を、膠芽細胞腫細胞株及び膠芽細胞腫細胞株同所移植モデルに投与すると、TGF-β2遺伝子及びその下位遺伝子の発現を効率的に抑制し、膠芽細胞腫の治療効果に優れることを確認した。
【0033】
したがって、本発明は、一観点において、TGF-β2遺伝子を標的とする生物活性ペプチド核酸(Bioactive Peptide Nucleic Acid);及びキャリアペプチド核酸(Carrier Peptide Nucleic Acid)が相補的に結合した核酸複合体を有効成分として含有する膠芽細胞腫の予防、改善又は治療用薬学組成物に関する。
【0034】
【0035】
本発明において、前記生物活性核酸は、生物活性ペプチド核酸(Bioactive Peptide Nucleic Acid)であってよい。
【0036】
本発明において、生物活性ペプチド核酸とキャリアペプチドとが相補的に結合した核酸複合体は、下記構造式(1)の構造を有することを特徴とし得る。
【0037】
【0038】
[構造式(1)]
【0039】
[A≡C(+)]
【0040】
上記構造式(1)において、
【0041】
Aは、目的とする遺伝子と結合し得る配列、又は目的とする遺伝子配列を有する生物活性核酸(Bioactive Nucleic Acid)であり、
【0042】
Cは、生物活性核酸と結合し得るキャリアペプチド核酸(Carrier Peptide Nucleic Acid)であり;
【0043】
≡は、生物活性核酸とキャリアペプチド核酸との相補的な結合を意味し、
【0044】
Aと表示される生物活性核酸は、ペプチド核酸(Peptide Nucleic Acid)であり、全体的に陰電荷を有し、
【0045】
C(+)と表示されるキャリアペプチド核酸は、全体的に陽電荷を有し、
【0046】
A≡C(+)と表示される構造式(1)の核酸複合体は、全体的に陽電荷を有し、
【0047】
前記キャリアペプチド核酸は、キャリアペプチド核酸全体的に陽電荷を帯びるように1個以上のガンマ又はアルファバックボーン(gamma- or alpha-backbone)変形ペプチド核酸単量体を1つ以上含み、前記ガンマ又はフルファバックボーン変形ペプチド核酸単量体は、陽電荷を有するアミノ酸を有する単量体が陰電荷を有するアミノ酸を有する単量体よりも多く含まれ、全体的なキャリアペプチド核酸の電荷が陽性になることを特徴とする。
【0048】
本発明において、「生物活性核酸」は、発現を減少させようとする目的とする標的遺伝子に結合し得る相補的な配列、特に、かかる目的とする標的遺伝子のmRNAに結合し得る相補的な配列を有するか、発現させようとする標的遺伝子の発現を促進する配列を有する核酸を含む核酸であり、当該遺伝子の発現を抑制したり促進したりするなどの遺伝子発現調節に関与する核酸を意味し、発現を減少又は増加させようとする標的遺伝子に相補的な配列を有する核酸であるか、pre-mRNA、miRNA、mRNAなどの一本鎖RNA配列に相補的な配列の核酸であってよい。
【0049】
特に、本発明における「生物活性ペプチド核酸(Bioactive Peptide Nucleic Acid)」は、生体外(in vitro)又は生体内(in vivo)で標的遺伝子及びこれを含む塩基配列と結合して当該遺伝子の固有機能(例えば、転写体(transcript)発現又はタンパク質発現)を活性化させたり又は阻害するか、pre-mRNAのスプライシング(splicing)を調節(例えば、エクソンスキッピング(exon skipping))するなどの機能を果たし、前記塩基配列は、遺伝子調節部位(gene regulatory sequence)又は遺伝子部位(gene coding sequence)又はスプライシング調節部位(splicing regulatory sequence)であることを特徴とし得る。前記遺伝子調節部位は、プロモーター、転写エンハンサー、5’非翻訳領域、3’非翻訳領域、ウイルスパッケージング配列、及び選択マーカーから選択されることを特徴とし得る。前記遺伝子部位はエクソン又はイントロンであってよく、前記遺伝子部位は、遺伝子の転写開始部位の10、5、3又は1kb、又は500、300又は200bp内に、例えば、開始部位の上流(upstream)又は下流(downstream)に存在してよい。また、前記スプライシング調節部位はエクソンスキッピング(exon skipping)、潜在的スプライシング(cryptic splicing)、疑似スプライス部位活性化(pseudo-splice site activation)、イントロン保持(intron retention)、選択的スプライシングデレギュレーション(alternative splicing deregulation)関連配列を含むことができる。
【0050】
したがって、本発明における「生物活性ペプチド核酸(Bioactive Nucleic Acid)」は、膠芽細胞腫であるTGF-β2のアンチセンスペプチド核酸であることが好ましく、より好ましくは、配列番号1の配列で表示される配列を含むものであるが、これに限定されるものではない。
【0051】
本発明において、「キャリアペプチド核酸」は、生物活性核酸と一部或いは全部の塩基が相補的に結合して機能性を付与する核酸を意味し、本発明で用いられるキャリアペプチド核酸は、ペプチド核酸(PNA:Peptide Nucleic Acid)の他、これと類似の変形された核酸も可能であり、ペプチド核酸が好ましいが、これに限定される意味ではない。
【0052】
特に、本発明において、前記キャリアペプチド核酸は、配列番号4~7及び9からなる群から選ばれる配列で表示される配列を含むことが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0053】
本発明において「核酸複合体」は、生物活性物質を体内、窮極として細胞内に浸透させることができ、具体的には、血液脳関門を通過して体内に伝達できる能力を有する。
【0054】
これにより、本発明において前記核酸複合体は、血液脳関門透過能を有することを特徴とし得る。
【0055】
本発明において、前記生物活性核酸とキャリアペプチド核酸はそれぞれ、2~50個、好ましくは5~30個、より好ましくは10~25個、最も好ましくは15~17個の核酸単量体を含むことを特徴とし得る。
【0056】
本発明において、前記核酸複合体は、配列番号1の配列で表示される配列を含む生物活性核酸;及び配列番号4~7及び9からなる群から選ばれるいずれか一つの配列で表示される配列を含むキャリアペプチド核酸を含むことが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0057】
本発明の組成物は、(i)配列番号1で表される配列を含む生物活性核酸及び配列番号4で表される配列を含むキャリアペプチド核酸から構成された核酸複合体;
【0058】
(ii)配列番号1で表される配列を含む生物活性核酸及び配列番号5で表される配列を含むキャリアペプチド核酸から構成された核酸複合体;
【0059】
(iii)配列番号1で表される配列を含む生物活性核酸及び配列番号6で表される配列を含むキャリアペプチド核酸から構成された核酸複合体;
【0060】
(iv)配列番号1で表される配列を含む生物活性核酸及び配列番号7で表される配列を含むキャリアペプチド核酸から構成された核酸複合体;及び
【0061】
(v)配列番号1で表される配列を含む生物活性核酸及び配列番号9で表される配列を含むキャリアペプチド核酸から構成された核酸複合体;
【0062】
からなる群から選ばれる核酸複合体を有効成分として含むことが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0063】
本発明において、生物活性核酸又はキャリアペプチド核酸は、それぞれの核酸の5’末端又は3’末端にエンドソーム脱出を助ける物質がさらに結合していることを特徴とし得る。すなわち、生物活性核酸及びキャリアペプチド核酸のエンドソーム脱出(endosome escape)を助ける物質をさらに含み、下記構造式(2)の構造を有することを特徴とし得る。
【0064】
【0065】
[構造式(2)]
【0066】
[mA≡mC(+)]
【0067】
上記構造式(2)において、
【0068】
「m」は、生物活性核酸及びキャリアペプチド核酸のエンドソーム脱出(endosome escape)を助ける物質を意味する。
【0069】
本発明において、「エンドソーム脱出を助ける物質」は、エンドソーム内部の浸透圧を増加させたり、エンドソームの膜を不安定化させたりする方法によって生物活性核酸のエンドソームからの脱出を助けることを特徴とし得る。生物活性核酸がより効率的で迅速に核や細胞質に移動して標的遺伝子に出会って作用するように助けることを意味する(D.W.Pack,A.S.Hoffman,S.Pun,P.S.Stayton,“Design and development of polymers for gene delivery”,Nat.Rev.Drug.Discov.,4,581-593(2005))。
【0070】
本発明において、前記エンドソーム脱出を助ける物質は、ペプチド、脂質ナノ物質(lipid nanoparticles)、接合体ナノ物質(polyplex nanoparticles)、高分子ナノ球(polymer nanospheres)、無機物ナノ物質(inorganic nanoparticles)、陽イオン脂質ナノ物質(cationic lipid-based nanoparticles)、陽イオン高分子(cationic polymer)及びpH感応高分子(pH sensitive polymers)からなる群から選ばれるいずれか1つ以上であることを特徴とし得る。
【0071】
本発明において、前記エンドソーム脱出を助ける物質として、生物活性核酸にはGLFDIIKKIAESF(配列番号10)の配列を有するペプチドがリンカー媒介で連結されてよく、キャリアペプチド核酸にはHistidine(10)をリンカー媒介で連結する方法で結合させることを特徴とし得るが、これに限定されるものではない。
【0072】
本発明において、前記脂質ナノ物質(lipid nanoparticles)は、脂質(Lipid)、リン脂質(phospholipids)、アセチルパルミテート(acetyl palmitate)、ポロキサマー18(poloxamer 18)、Tween 85、トリステアリングリセリド(tristearin glyceride)及びTween 80からなる群から選ばれることを特徴とし得る。
【0073】
本発明において、前記接合体ナノ物質(polyplex nanoparticles)は、ポリ(アミドアミン)(poly(amidoamine))又はPEI(polyethylenimine)であることを特徴とし得る。
【0074】
本発明において、前記高分子ナノ球(polymer nanospheres)は、ポリカプロラクトン(polycaprolactone)、ポリ(乳酸-コーグリコール酸)(poly(lactide-co-glycolide))、ポリ乳酸(polylactide)、ポリグリコリド(polyglycolide)、ポリ(D,L-乳酸)(poly(d,l-lactide))、キトサン(chitosan)及びPLGA-ポリエチレングリコール((PLGA-polyethylene glycol))からなる群から選ばれることを特徴とし得る。
【0075】
本発明において、前記無機物ナノ物質(inorganic nanoparticles)は、Fe2O3Fe3O4、WO3及びWO2.9からなる群から選ばれることを特徴とし得る。
【0076】
本発明において、前記陽イオン脂質ナノ物質(cationic lipid-based nanoparticles)は、1-(aminoethyl)iminobis[N-(oleicylcysteinyl-1-amino-ethyl)propionamide]、N-alkylated derivative of PTA及び3,5-didodecyloxybenzamidineからなる群から選ばれることを特徴とし得る。
【0077】
本発明において、前記陽イオン高分子(cationic polymer)は、vinylpyrrolidone-N,N-dimethylaminoethyl methacrylate acid copolymer diethyl sulphate、polyisobutylene及びpoly(N-vinylcarbazole)からなる群から選ばれることを特徴とし得る。
【0078】
本発明において、前記pH感応高分子(pH sensitive polymers)は、ポリ酸(polyacids)、ポリ(アクリル酸)(poly(acrylic acid))、ポリ(メタクリル酸)(poly(methacrylic acid))及び加水分解されたポリアクリルアミド(hydrolyzed polyacrylamide)からなる群から選ばれることを特徴とし得る。
【0079】
本発明において、前記生物活性核酸は、天然(natural)核酸塩基及び/又は変形された核酸単量体からなっていることを特徴とし、前記キャリアペプチド核酸は、前記生物活性核酸と塩基配列の一部或いは全部が相補的な配列で構成されることを特徴とし得る。
【0080】
特に、キャリアペプチド核酸は、ユニバーザル塩基(universal base)を1つ以上含んでよく、キャリアペプチド核酸の全てがユニバーザル塩基からなってもよい。
【0081】
本発明において、前記生物活性核酸は、DNA、RNA、又は変形された核酸であるPNA(peptide nucleic acid)、PMO(phosphorodiamidate morpholino oligonucleotide)、LNA(locked nucleic acid)、GNA(glycol nucleic acid)及びTNA(threose nucleic acid)、アンチセンスオリゴヌクレオチド(antisense oligonucleotide)、アプタマー(aptamer)、siRNA(small interfering RNA)、shRNA(short hairpin RNA)、リボザイム(ribozyme)及びDNAzymeからなる群から選ばれるものであってよく、好ましくは、前記生物活性核酸は、DNA、RNA、又は変形された核酸であるPNA(peptide nucleic acid)、PMO(phosphorodiamidate morpholino oligonucleotide)、LNA(locked nucleic acid)、GNA(glycol nucleic acid)及びTNA(threose nucleic acid)からなる群から選ばれるものであってよい。
【0082】
本発明において、生物活性核酸に使用された単量体がPNAである場合に、生物活性ペプチド核酸と呼び、他の単量体が使用された場合にも同一の方式で呼ぶ。
【0083】
本発明において、前記生物活性核酸とキャリアペプチド核酸は、ホスホジエステル(phosphodiester)、2’0-メチル(2’0-methyl)、2’メトキシ-エチル(2’ methoxy-ethyl)、ホスホルアミデート(phosphoramidate)、メチルホスホネート(methylphosphonate)及びホスホロチオエート(phosphorothioate)からなる群から選ばれるいずれか1つ以上の官能基をさらに含むことを特徴とし得る。
【0084】
本発明において、前記キャリアペプチド核酸は、前記生物活性核酸と塩基配列の一部或いは全部が相補的な配列で構成されることを特徴とし得る。特に、キャリアペプチド核酸はユニバーザル塩基(universal base)を1つ以上含んでよく、キャリアペプチド核酸の全てがユニバーザル塩基からなってもよい。
【0085】
本発明において、前記核酸複合体内の前記生物活性核酸及びキャリアペプチド核酸のそれぞれは、電気的特性が全体的に、陽電荷(陽性)、陰電荷(陰性)又は中性電荷を有することを特徴とする複合体であってよい。
【0086】
前記電気的特性の表現において、「全体的に」とは、個別塩基の電気的特性ではなく、全体的な生物活性核酸又はキャリアペプチド核酸のそれぞれの電荷を外部から見た時の全体的な電気的特性を意味し、例えば、生物活性核酸内の一部の単量体が陽性を有しても、陰性を有する単量体の個数がより多く存在する場合には、生物活性核酸は、「全体的に」電気的特性からして陰電荷を有するものであり、キャリアペプチド核酸内の一部の塩基及び/又はバックボーン(backbone)が陰性を有しても、陽性を有する塩基及び/又はバックボーンの個数がより多く存在する場合には、キャリアペプチド核酸は「全体的に」電気的特性からして電荷を有するものである。
【0087】
したがって、本発明の核酸複合体は全体的に陽電荷を有することを特徴とし得る。前記核酸複合体において、好ましくは、前記生物活性核酸は全体的に電気的特性からすれば陰電荷又は中性の特性を有し、前記キャリアペプチド核酸は全体的に電気的特性からすれば陽電荷特性を有することを特徴とし得るが、これに限定されるものではない。
【0088】
本発明において、前記生物活性核酸とキャリアペプチド核酸の電気的特性の付与は、変形されたペプチド核酸単量体を用いることができ、変形されたペプチド核酸単量体は、陽電荷を有するキャリアペプチド核酸として、リジン(Lysine,Lys,K)、アルギニン(Arginine,Arg,R)、ヒスチジン(Histidine,His,H)、ジアミノ酪酸(Diamino butyric acid,DAB)、オルニチン(Ornithine,Orn)及びアミノ酸類似体からなる群から選ばれるいずれか1つ以上の陽電荷のアミノ酸を含み、陰電荷を有するキャリアペプチド核酸として、陰電荷のアミノ酸であるグルタミン酸(Glutamic acid,Glu,E)又はアミノ酸類似体の陰電荷のアミノ酸を含むことを特徴とし得る。
【0089】
本発明において、前記キャリアペプチド核酸は全体的に陽電荷を有するように1個以上のガンマ又はフルファバックボーン変形ペプチド核酸単量体を含むことを特徴とし得る。
【0090】
前記ガンマ又はフルファバックボーン変形ペプチド核酸単量体は、電気的陽性を有するようにリジン(Lysine,Lys,K)、アルギニン(Arginine,Arg,R)、ヒスチジン(Histidine,His,H)、ジアミノ酪酸(Diamino butyric acid,DAB)、オルニチン(Ornithine,Orn)及びアミノ酸類似体からなる群から選ばれるいずれか1つ以上の陽電荷を有するアミノ酸をバックボーンに含むことを特徴とし得る。
【0091】
本発明において、電荷付与のためのペプチド核酸単量体の変形は、前記バックボーン変形の他にも、核酸塩基(nucleobase)が変形されたペプチド核酸単量体を使用することができる。好ましくは、電気的陽性を有するようにアミン(amine)、トリアゾール(triazole)、イミダゾール(imidazole)部分(moiety)を核酸塩基に含むか、電気的陰性を有するようにカルボン酸(carboxylic acid)を塩基に含むことを特徴とし得る。
【0092】
本発明において、前記キャリアペプチド核酸の変形ペプチド核酸単量体は、陰電荷をバックボーン或いは核酸塩基にさらに含んでよいが、変形ペプチド核酸単量体は、陽電荷を有する単量体が陰電荷を有する単量体よりも多く含まれて全体的にキャリアペプチド核酸の電荷が陽性になることが好ましい。
【0093】
本発明に係る前記核酸複合体において、疎水性残基(hydrophobic moiety)、親水性残基(hydrophilic moiety)、標的抗原特異的抗体、アプタマー又は蛍光/発光標識子などからなる群から選ばれる1つ以上の物質が生物活性核酸及び/又はキャリアペプチド核酸に結合したことを特徴とし、好ましくは、前記疎水性残基(hydrophobic moiety)、親水性残基(hydrophilic moiety)、標的抗原特異的抗体、アプタマー及びイメージングのための蛍光/発光標識子などからなる群から選ばれる1つ以上の物質は、前記キャリアペプチド核酸に結合したものであってよい。
【0094】
本発明において、前記疎水性残基(hydrophobic moiety)、親水性残基(hydrophilic moiety)、標的抗原特異的抗体、アプタマー、消光子、蛍光標識子及び発光標識子からなる群から選ばれる1つ以上の物質と生物活性核酸及び/又はキャリアペプチド核酸との結合は、単純共有結合又はリンカーで媒介された共有結合であることを特徴とし得るが、これに限定されるものではない。好ましくは、前記核酸運搬体に結合した細胞透過、溶解度、安定性、運搬及びイメージング関連物質(例えば、疎水性残基など)は、標的遺伝子の発現を調節する生物活性核酸と独立して存在する。
【0095】
本発明において、前述したように、前記生物活性核酸及びキャリアペプチド核酸の相補的な結合形態は、大きく、逆平行結合(antiparallel binding)と平行結合(parallel binding)の形態を有することを特徴とし得る。前記相補的な結合形態は、生物活性核酸の目的配列(生物活性核酸と相補的な配列)の存在下で分離される構造を有する。
【0096】
前記逆平行結合及び平行結合は、DNA-DNA又はDNA-PNAの結合方式において、5’-方向性及び3’-方向性によって決定される。逆平行結合は一般的なDNA-DNA又はDNA-PNAの結合方式であり、本発明に係る核酸複合体を取り上げて説明すると、生物活性核酸は5’から3’方向に、キャリアペプチド核酸は3’から5’方向に互いに結合する形態を意味する。平行結合は、逆平行結合に比べては結合力に多少劣る形態であり、生物活性核酸及びキャリアペプチド核酸の両方が5’から3’方向又は3’から5’方向に互いに結合する形態を意味する。
【0097】
本発明に係る核酸複合体において、好ましくは、前記生物活性核酸及びキャリアペプチド核酸の結合力は、生物活性核酸と生物活性核酸の目的とする遺伝子、特に、目的遺伝子のmRNAとの結合力よりも低いことを特徴とし得る。前記結合力は融解温度(melting temperature,Tm)によって決定される。
【0098】
前記生物活性核酸及びキャリアペプチド核酸の結合力(融解温度(melting temperature,Tm))を生物活性核酸と生物活性核酸の目的とする遺伝子、特に目的遺伝子のmRNAとの結合力よりも低くするための具体的な方法の例は、前記生物活性核酸とキャリアペプチド核酸とが平行結合(Parallel binding)又は部分特異結合(Partial specific binding)することを特徴とし得るが、これに限定されるものではない。
【0099】
さらに他の例として、前記キャリアペプチド核酸がリンカー、ユニバーザル塩基(universal base)、及び生物活性核酸の対応する塩基と相補的でない塩基を有するペプチド核酸塩基からなる群から選ばれる1つ以上のペプチド核酸塩基を有することを特徴とし得るが、これに限定されるものではない。
【0100】
本発明において、前記ユニバーザル塩基(universal base)は、アデニン(adenine)、グアニン(guanine)、シトシン(cytosine)、チミン(thymine)、ウラシル(Uracil)などの天然塩基と選択性無しで結合し、相補的な結合力よりも低い結合力を有する塩基としてイノシンPNA(inosine PNA)、インドールPNA(indole PNA)、ニトロインドールPNA(nitroindole PNA)及び無塩基(abasic)からなる群から選ばれる1つ以上を用いることができ、好ましくは、イノシンPNAを用いることを特徴とし得る。
【0101】
本発明において、前記核酸複合体の機能調節のための核酸の結合形態と電気的性質の組合せを提供し、前記核酸の結合形態と電気的性質の組合せで粒子サイズ及び作用時点を調節し、細胞透過性、溶解度及び特異度を向上させることを特徴とし得る。
【0102】
本発明において、前記生物活性ペプチド核酸とキャリアペプチド核酸との結合力調節を用いて、目的遺伝子の存在下で、生物活性ペプチド核酸が目的配列と結合する時点(生物活性核酸の目的配列への置換される時点、標的特異的分離及び結合時点)などの調節が可能である。
【0103】
本発明に係る核酸複合体において、生物活性核酸の目的遺伝子への置換(strand displacement)時点、標的特異的分離及び結合(target specific release and bind)時点の調節は、複合体の非特異結合のためのキャリアペプチド核酸の非特異塩基、ユニバーザル塩基及びリンカーの有無、個数及び位置によって調節が可能であることを特徴とし得る。前記ペプチド複合体の相補的な結合の形態である平行(parallel)又は逆平行(antiparallel)形態の結合などと前記条件の組合せによって調節が可能であることを特徴とし得る。
【0104】
本発明の用語「血液脳関門」又は「BBB(Blood-Brain Barrier)」は、本願で相互互換的に使われ、これは、血液と脳組織間に交換されることを綿密に調節し、厳しく制限する脳組織を通じて循環する点から、血液内に存在する透過性障壁のことを指すために使われる。血液脳障壁成分には全ての血管の最も深い内膜を形成する内皮細胞、BBBと構造的に相関がある隣接した内皮細胞間の稠密な連接部、内皮細胞の基底膜、及び血管の露出された外部表面のほとんどを覆っている近い星状細胞の拡張された足突起(foot process)が含まれる。BBBは、血液内の大部分の物質、例えば、大部分の大分子、例えば、Ig、抗体、補体、アルブミン及び薬物及び小分子が脳組織内に流入することを防ぐ。
【0105】
本発明の用語「疾患」又は「障害」は本願において相互互換的に使われ、これらは、機能の実行を妨害又は混乱させ及び/又は不快感、機能異常、困難のような症状を誘発させるか、深刻には、病気にかかった人を死亡させたりこれと接触した人を死亡に至らせる、身体状態又はいくつかの器官上の全ての変更のことを指す。
【0106】
本発明において、用語「治療用組成物」は、「医薬(薬剤学的、薬学的)組成物(pharmaceutical composition)」と同じ意味で使われてよく、本発明の生物活性核酸及び前記核酸と結合するキャリアペプチド核酸を含む核酸複合体を有効成分として含み、さらには、目的とする疾患を治療するための治療用薬物が前記核酸複合体に結合した形態であってよい。
【0107】
本発明の治療用組成物は、標準医薬実施によって血液脳関門内に伝達される形態の剤形として剤形化されてよい。これらの剤形は、有効成分の他、薬学的に許容される形態の剤形に適する担体、賦形剤、補助剤又は希釈剤などの添加物も含有してよい。
【0108】
用語「薬学的に許容される(physiologically acceptable)」とは、化合物の生物学的活性及び物性を損傷させない特性を意味する。
【0109】
用語「担体(carrier)」は、細胞又は組織内への核酸複合体の付加を容易にする化合物と定義される。例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)は、生物体の細胞又は組織内への多くの有機化合物の投入を容易にする通常の担体である。
【0110】
用語「希釈剤(diluent)」は、対象化合物の生物学的活性形態を安定化させる他にも、化合物を溶解させる水に希釈される化合物と定義される。バッファ溶液に溶解されている塩は、当該分野において希釈剤として用いられる。通常用いられるバッファ溶液は、ホスフェートバッファ食塩水であり、これは、ヒト溶液の塩状態を摸倣しているためである。バッファ塩は、低い濃度で溶液のpHを制御でき、よって、バッファ希釈剤が化合物の生物学的活性を変形させることは稀である。
【0111】
本発明における核酸複合体を含有する物質は、患者に、それ自体として、又は併用療法(combination therapy)におけるように他の活性成分と共に又は適当な担体や賦形剤と共に混合された医薬組成物として投与されてよい。
【0112】
本発明において、使用に適する医薬組成物には、活性成分がそれの意図した目的を達成するために有効な量で含まれている組成物が含まれる。より具体的には、治療的有効量は、治療される客体の生存を延長したり、疾患の症状を防止、軽減又は緩和させるために有効な化合物の量を意味する。治療的有効量の決定は、特に、ここに提供された詳細な開示内容の側面において、通常の技術者の能力範囲内にある。
【0113】
本発明で使われる用語「予防」は、前記核酸複合体を含む治療用組成物の投与によって疾患の発病を防ぐか、それの進行を抑制させるあらゆる行為を意味する。
【0114】
本発明の用語「改善」とは、前記核酸複合体を含む治療用組成物の投与によって疾患が治療される状態と関連したパラメータ、例えば、症状の程度を少なくとも減少させるあらゆる行為を意味する。
【0115】
また、本発明で使われる用語「治療」は、前記核酸複合体を含む治療用組成物の投与によって疾患の症状が好転又は完治するあらゆる行為を意味する。
【0116】
本発明に係る核酸複合体を含む組成物は、膠芽細胞腫を治療するために又は膠芽細胞腫の症状を抑制(又は、緩和)するために医薬として効果的な量で適用されてよい。膠芽細胞腫の種類、患者の年齢、体重、症状の特性及び程度、現在治療法の種類、治療回数、適用形態及び経路などの様々な要因によって可変してよく、当該分野における専門家によって容易に決定されてよい。本発明の組成物は、上記の薬理学的又は生理学的成分を一緒に又は順次に適用してよく、また、追加の従来の治療剤と併用して適用されてもよく、従来の治療剤とは順次に又は同時に適用されてよい。このような適用は、1回又は多回の適用であってよい。
【0117】
本発明において「個体」とは、本発明に係る核酸複合体を投与して軽減、抑制又は治療可能な状態又は疾患を有したりその危険がある哺乳動物を意味し、好ましくは、ヒトを意味する。
【0118】
また、本発明の化合物の人体への投与量は、患者の年齢、体重、性別、投与形態、健康状態及び疾患程度によって可変してよく、体重70kgの成人患者を基準にして、一般に0.001~1,000mg/日であり、好ましくは0.01~500mg/日であり、医師又は薬剤師の判断によって一定時間間隔で1日1回投与又は数回分割投与してよい。
【0119】
本明細書に記載されている核酸複合体を含む組成物の毒性と治療効率性は、例えば、LD50(群集の50%に対する致死量)、ED50(群集の50%に対して治療効果を有する線量)、IC50(群集の50%に対して治療抑制効果を有する線量)を決定するために、細胞培養又は実験動物における標準製薬過程によって算定されてよい。毒性と治療効果との線量比が治療指数であり、これは、LD50とED50(又は、IC50)間の比率として表現されてよい。高い治療指数を示す化合物が好ましい。これらの細胞培養分析から得られたデータは、ヒトに使用する線量の範囲を算定するために用いられてよい。これらの化合物の投与量(dosage)は、好ましくは、毒性が全くないか或いは殆どない状態でED50(又は、IC50)を含む循環濃度の範囲内にある。
【0120】
本発明の用語「投与」とは、ある適切な方法で個体に本発明の薬学組成物を導入する行為を意味し、投与経路は、目的組織に到達可能ないかなる経口又は非経口の経路であってもよい。
【0121】
上記の本発明の薬学組成物は、薬学的に有効な量で投与されてよいが、本発明の用語「薬剤学的に有効な量」とは、医学的治療又は予防に適用可能な合理的な利益/危険の比率で疾患を治療又は予防するために十分な量を意味し、有効容量レベルは、疾患の重症度、薬物の活性、患者の年齢、体重、健康、性別、患者の薬物に対する敏感度、使用された本発明の組成物の投与時間、投与経路及び排出比率、治療期間、使用された本発明の組成物と配合又は同時使用される薬物を含む要素及びその他医学分野によく知られた要素によって決定されてよい。
【0122】
本発明の薬学組成物は、個別治療剤として投与されてもよく、他の治療剤と併用して投与されてもよく、従来の治療剤とは順次に又は同時に投与されてよい。そして、1回又は多回投与されてよい。前記要素を全て考慮して副作用無しで最小限の量で最大の効果が得られる量を投与することが重要である。
【0123】
本発明の薬学組成物の投与量は、使用目的、疾患の重症度、患者の年齢、体重、性別、既往歴、又は有効成分として用いられる物質の種類などを考慮して当業者が決定できる。例えば、本発明の薬学組成物をヒトを含む哺乳動物に1日に10~100mg/kg、より好ましくは1~30mg/kgで投与でき、本発明の組成物の投与頻度は、特にこれに限定されないが、1日に1回~3回投与してもよく、又は容量を分割して数回投与してもよい。
【0124】
本発明は、他の観点において、TGF-β2遺伝子と結合する配列を有する生物活性ペプチド核酸(Bioactive Peptide Nucleic Acid);及びキャリアペプチド核酸(Carrier Peptide Nucleic Acid)が相補的に結合した核酸複合体及び/又は前記核酸複合体を含む組成物を個体に投与する段階を含む膠芽細胞腫予防又は治療方法に関する。
【0125】
本発明は、さらに他の観点において、膠芽細胞腫予防又は治療用薬剤の製造のためのTGF-β2遺伝子と結合する配列を有する生物活性ペプチド核酸(Bioactive Peptide Nucleic Acid);及びキャリアペプチド核酸(Carrier Peptide Nucleic Acid)が相補的に結合した核酸複合体及び/又は前記核酸複合体を含む組成物の用途に関する。
【0126】
本発明は、さらに他の観点において、TGF-β2遺伝子と結合する配列を有する生物活性ペプチド核酸(Bioactive Peptide Nucleic Acid);及びキャリアペプチド核酸(Carrier Peptide Nucleic Acid)が相補的に結合した核酸複合体及び/又は前記核酸複合体を含む組成物を膠芽細胞腫予防又は治療に使用する用途を提供する。
【0127】
【0128】
[実施例]
【0129】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明する。これらの実施例は単に本発明を例示するためのものであり、本発明の範囲がこれらの実施例によって限定されるものと解釈されないことは、当業界における通常の知識を有する者にとって明らかであろう。
【0130】
【0131】
実施例1:生物活性ペプチド核酸(Bioactive Peptide Nucleic Acid)及びキャリアペプチド核酸、及びこれらを用いた複合体の製造
【0132】
本発明の核酸複合体の膠芽細胞腫に対する効果を検証するために標的遺伝子としてTGF-β2を使用し、膠芽細胞腫の治療効果を確認するためにTGF-β2に対する生物活性ペプチド核酸(Bioactive Peptide Nucleic Acid)としてアンチセンスペプチド核酸(antisense PNA)を使用した。
【0133】
本発明において膠芽細胞腫治療効果を確認するために使用した生物活性ペプチド核酸(antisense PNA)は、配列番号1及び2で表される配列で構成されており、対照群として用いた生物活性核酸(antisense PNA)は、配列番号3で表される配列で構成されている。
【0134】
本実施例で用いられたペプチド核酸ベース生物活性核酸のうち、配列番号2及び3は、エンドソーム脱出能を助けるためのペプチドGLFDIIKKIAESFを5’に結合させたし、配列番号1は、エンドソーム脱出能を助けるペプチドがない形態で合成した。本実施例で用いられたキャリアペプチド核酸は、配列番号9以外はいずれもエンドソーム脱出能を助けるためのペプチドを5’又は3’末端に結合させたし、配列番号4~8と記載される配列で構成されている。塩基配列、単量体変形及び構造は、下記表1の通りである。本発明で用いられたペプチド核酸いずれもパナジン(PANAGENE,韓国)でHPLC精製方法によって合成した。(表1)。
【0135】
【0136】
【0137】
上記表1は、TGF-β2を標的とする膠芽細胞腫治療剤としての効果を確認するために用いられた生物活性ペプチド核酸とキャリアペプチド核酸、及び対照群として用いられた生物活性ペプチド核酸とキャリアペプチド核酸の配列情報を示している。
【0138】
単量体の変形は、電気的な性質を付与するために、ペプチド核酸のバックボーンを、電気的陽性はリシン(Lysine,Lys,K,(+)と表記)を、電気的陰性はグルタミン酸(Glutamic acid,Glu,E,(-)と表記)に変形されたペプチドバックボーンを有するように作製した。
【0139】
それぞれの生物活性核酸とキャリアペプチド核酸との組合せはDMSO下で混成化されており、その結果、生物活性核酸とキャリアペプチド核酸で構成された複合体が作製された。
【0140】
【0141】
実施例2:核酸複合体を用いた膠芽細胞腫の治療効果分析
【0142】
実施例1によって下記表2の構造で製造された、TGF-β2を標的遺伝子とする生物活性ペプチド核酸及びキャリアペプチド核酸を含む核酸複合体を用いて、膠芽細胞腫の治療効果を分析した。
【0143】
【0144】
【0145】
【0146】
実施例2-1:細胞培養
【0147】
ATCC(American Type Culture Collection,米国)から入手したヒト膠芽細胞腫細胞(U87MG,ATCC No.HTB-14)を、RPMI-1640培養培地(WelGENE,韓国)に10%(v/v)ウシ胎児血清、ペニシリン100units/ml、ストレプトマイシン100μg/mlを添加し、37℃、5%(v/v)CO2の条件下で培養した。
【0148】
【0149】
実施例2-2:ペプチド核酸複合体処理細胞の遺伝子発現分析
【0150】
ヒト膠芽細胞腫細胞を、6ウェルプレートに1×105で細胞をシードし、24時間培養後に実施例2-1の条件で実験を進行し、生物活性ペプチド核酸及びキャリアペプチド核酸を含む複合体を500nMずつ処理してそれぞれ24、48、72、96、120時間培養し、RIPAバッファを各ウェルに30μLずつ添加してタンパク質ライセート(protein lysate)を得た。
【0151】
タンパク質ライセートを、BCAアッセイキット(Thermo Fisher,米国)を用いてタンパク質の量を定量し、タンパク質30μgを電気泳動によってサイズ別に分離してPVDF膜に移した後、1次抗体であるTGF-β2(SantaCruz Biotechnology,米国)、p-Smad3(Cell signaling technology,米国)を1:1000で処理し、4℃で1日放置した。
【0152】
1X TBS-Tで洗浄し、2次抗体であるヤギ抗ウサギ(Cell signaling Technology,米国)、抗マウス(Santa cruz Biotechnology,米国)を1:2000で処理し、常温で1時間放置した。SupersignalTM West Femto Maximum Sensitivity Substrate(Thermo Fisher,米国)を処理し、Imager 600(Amersham,ドイツ)装備を用いて標的遺伝子の発現抑制効率を分析した。
【0153】
その結果、
図1に示すように、配列番号2及び5の核酸複合体組合せ及び配列番号2及び7の核酸複合体組合せを処理した群において標的遺伝子の発現及び下位経路遺伝子の発現が72時間まで最も抑制されることを確認した(
図1(A))。
【0154】
また、配列番号2及び5の核酸複合体(組合せ3)においてエンドソーム脱出能を助けるペプチドがない配列の核酸複合体(配列番号1及び9(組合せ6))の標的遺伝子の発現抑制効率を確認した結果、標的遺伝子(TGF-β2)と下位遺伝子(p-Smad3)の発現が96時間まで抑制されることを確認したし、エンドソーム脱出能を助けるペプチドがある核酸複合体組合せ(配列番号2及び5(組合せ3))に比べてより長い間に標的遺伝子を抑制する効率を確認した(
図1(B))。
【0155】
【0156】
実施例2-3:ペプチド核酸複合体処理細胞の細胞移動(cell migration)分析
【0157】
24ウェルプレートに細胞培養用インサート(cell culture insert,BD,米国)を固定した後、ヒト膠芽細胞腫細胞を、ウシ胎児血清のない培地を用いて1×104でインサート内側にシードし、インサート下側の24ウェルプレートに10%ウシ胎児血清が含まれた培地を追加して24時間培養後に、実施例2-1の条件で実験を進行し、生物活性ペプチド核酸及びキャリアペプチド核酸を含む複合体を500nMずつ処理した。細胞はそれぞれ、24、48、72時間培養した後、4% PFA(paraformaldehyde)で10分間細胞を固定したし、0.1%クリスタルバイオレット(crystalvioet)溶液で30分間染色した後、インサート内側に残っている細胞は綿棒で除去し、染色溶液を水で洗浄した。約1日間インサート膜(membrane)を乾かした後、移動した細胞の数を顕微鏡下で観察した。
【0158】
その結果、
図2に示すように、配列番号2及び5の核酸複合体組合せにおいて細胞の移動効率が最も抑制されていることを確認したし、この抑制効果は72時間まで持続して現れることを確認した(
図2(A))。
【0159】
また、配列番号2及び5の核酸複合体(組合せ3)において、エンドソーム脱出能を助けるペプチドがない配列の核酸複合体(配列番号1及び9(組合せ6))の細胞移動抑制効率を確認した結果、ペプチドのない核酸複合体を処理した群においても細胞の移動が抑制されることを確認したし、ペプチドがある核酸複合体を処理した群(組合せ3)に比べても抑制効率がより良いことを確認した(
図2(A))。
【0160】
ImageJプログラムを用いて移動した細胞を定量的に確認した結果、配列番号2及び5の核酸複合体組合せを処理した群(組合せ3)において72時間まで、対照群と対比して約50%以上減少していることを確認したし、ペプチドのない核酸複合体を処理した群(組合せ6)は、対照群と対比して24時間から70%以上細胞移動が減少し、エンドソーム脱出能を助けるペプチドがある核酸複合体(配列番号2及び5(組合せ3))に比べてより早く細胞抑制効率が現れることを確認した(
図2(B))。
【0161】
【0162】
実施例3:同所移植動物モデル(Orthotopic mouse model)での膠芽細胞腫表現型効果分析
【0163】
同所移植動物モデルで効能を検証するために、7週齢雌ヌードマウス(オリエントバイオ,韓国)を使用した。腫瘍モデル生成のために、マウスはアバチン(Avertin)(5mg/kg)で麻酔し、小動物用脳定位固定機(Stereotaxic instruments,Stoelting Co,米国)に固定後に、3×105の細胞数でU87MG細胞をハミルトン注射器を用いて注入した。注入座標は、AP+0.5mm、ML+2.0mm DV-3mmである。腫瘍が増殖するように10日間稽留した後、1週に2回ずつ核酸複合体を尾静脈に投与したし、陽性対照群は、TGF-βレセプター抑制剤であるガルニセルチブ(galunisertib)(MedChemexpress,米国)を75mg/kgの容量で毎日経口投与した。投与期間に体重を1週に2回測定し、3週間6回投与後に全ての動物を安楽死させた。
【0164】
本実施例では、実施例2で効果が検証された核酸組合せを選別してU87MG膠芽細胞腫細胞を同所移植した動物モデルにおいて組織学的所見、TGF-β2の遺伝子発現変化を分析した。使用した核酸複合体組合せは、下記表3の通りである。
【0165】
【0166】
【0167】
【0168】
実施例3-1:H&E染色を用いた膠芽細胞腫同所移植動物モデルでの表現型分析
【0169】
実施例3の条件で実験を進行し、最終実験終了日にマウス脳組織を生検して4%ホルマリン溶液に1日固定し、30%砂糖溶液に浸して3日間脱水した後、OCT溶液に包埋(embedding)した。包埋した組職は-20℃で保管して凍らせた後、凍結切片機(Cryostat,Leica,米国)で組織を20μmでセクションしてスライドガラスにマウントした。マウントした組職をヘマトキシリン:エオジン(Hematoxylin:Eosin)染色溶液に一定時間染色し、1X PBSで水洗後に顕微鏡で腫瘍のサイズ変化を分析した。
【0170】
その結果、
図3に示すように、腫瘍を移植した誘導群(DMSO)と対比して、配列番号2及び5の核酸複合体組合せ(組合せ3)を処理したグループにおいて腫瘍のサイズが顕著に減少していることを確認したし、高濃度投与群(PNA3,20mg/kg)では陽性対照群(Positive control,PC)に比べて腫瘍のサイズが減少していることを確認した(
図3)。腫瘍のサイズは、imageJプログラムを用いて腫瘍の横及び縦の長さを測定した後、面積を計算して定量的に示した。
【0171】
また、配列番号2及び5の核酸複合体(組合せ3)においてエンドソーム脱出能を助けるペプチドがない配列の核酸複合体(配列番号1及び9(組合せ6))の組織学的腫瘍サイズ変化を確認した結果、腫瘍誘導対照群(DMSO)に比べてペプチドのない核酸複合体を処理した群において、処理濃度が高くなるほど腫瘍のサイズが減少する傾向を確認したし、ImageJプログラムを用いて腫瘍の面積を測定して定量化して確認した結果も同様に、核酸複合体を処理した群において処理濃度にしたがって腫瘍のサイズが減少することを確認した(
図4)。特に、ペプチドがある核酸複合体(組合せ3)に比べて、投与容量を半分に減らした10mg/kg投与群(PNA6、10mg/kg)において腫瘍のサイズが顕著に減少したし、ペプチドがある核酸複合体の高濃度処理群(組合せ3、20mg/kg)に類似する抑制効率を確認した(
図3及び
図4)。
【0172】
【0173】
実施例3-2:ウェスタンブロット分析(Western blot assay)で遺伝子発現の分析
【0174】
実施例3の条件で実験を進行して生検したマウス脳組織に生成された腫瘍組織の一部を、RIPAバッファを各組織に200μLずつ添加してタンパク質ライセートを得た。タンパク質ライセートをBCAアッセイキット(Thermo Fisher,米国)を用いてタンパク質の量を定量し、タンパク質30μgを電気泳動によってサイズ別に分離してPVDF膜に移した後、1次抗体であるTGF-β2(SantaCruz Biotechnology,米国)、p-Smad3(Cell signaling technology,米国)を1:1000で処理し、4℃で1日放置した。
【0175】
1X TBS-Tで洗浄し、2次抗体であるヤギ抗ウサギ(Cell signaling Technology,米国)、抗マウス(Santa cruz Biotechnology,米国)を1:2000で処理し、常温で1時間放置した。SupersignalTM West Femto Maximum Sensitivity Substrate(Thermo Fisher,米国)を処理し、Imager 600(Amersham,ドイツ)装備を用いてマウス脳組織で標的遺伝子の発現抑制効率を分析した。
【0176】
その結果、
図5におけるように配列番号2及び5の核酸複合体(組合せ3)を処理した群において腫瘍誘導群に比べて、標的遺伝子であるTGF-β2と下位遺伝子であるp-Smad3の発現が抑制されていることを確認したし、高濃度処理群(PNA3、20mg/kg)においてn=3に対していずれも、標的遺伝子及び下位遺伝子の発現が抑制されていることを確認した(
図5(A))。
【0177】
また、配列番号2及び5の核酸複合体(組合せ3)においてエンドソーム脱出能を助けるペプチドがない配列の核酸複合体(配列番号1及び9(組合せ6))処理群において、腫瘍誘導群に比べて標的遺伝子が抑制されていることを確認したし、特に、2種類の高濃度処理群(PNA6、5mg/kg及び10mg/kg)においてn=3に対して標的遺伝子と下位遺伝子の発現が他の腫瘍誘導群野に比べて抑制されていることを確認した(
図5(B))。
【0178】
【産業上の利用可能性】
【0179】
本発明に係る核酸複合体は、優れた細胞透過能及び細胞内活性を有し、KRAS遺伝子及びその下位遺伝子の発現を効果的に抑制させることができ、膵癌の予防又は治療に有用である。
【0180】
【0181】
以上、本発明内容の特定の部分を詳細に記述してきたが、当業界における通常の知識を有する者にとって、このような具体的記述は単に好ましい実施態様であり、これによって本発明の範囲が限定されないという点は明らかであろう。したがって、本発明の実質的な範囲は、添付する請求項とそれらの等価物によって定義されるといえよう。
【0182】
配列目録フリーテキスト
【0183】
電子ファイルとして添付。
【配列表】
【国際調査報告】