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特表2024-500867高品質の幹細胞選別用マーカー、およびこれを用いた高品質の幹細胞の選別方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-10
(54)【発明の名称】高品質の幹細胞選別用マーカー、およびこれを用いた高品質の幹細胞の選別方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/11 20060101AFI20231227BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20231227BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20231227BHJP
   C12N 5/0775 20100101ALI20231227BHJP
   A61K 35/28 20150101ALI20231227BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20231227BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20231227BHJP
   A61P 11/06 20060101ALI20231227BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20231227BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20231227BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20231227BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20231227BHJP
【FI】
C12N15/11 Z ZNA
C12N15/09 200
C12Q1/02
C12N5/0775
A61K35/28
A61P37/02
A61P37/06
A61P11/06
A61P17/00
A61P37/08
A61P11/00
A61P29/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023537899
(86)(22)【出願日】2021-12-22
(85)【翻訳文提出日】2023-06-28
(86)【国際出願番号】 KR2021019582
(87)【国際公開番号】W WO2022139442
(87)【国際公開日】2022-06-30
(31)【優先権主張番号】10-2020-0180455
(32)【優先日】2020-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】522225583
【氏名又は名称】セル2イン,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100185269
【弁理士】
【氏名又は名称】小菅 一弘
(72)【発明者】
【氏名】カン フンス
(72)【発明者】
【氏名】シン ジ ウン
(72)【発明者】
【氏名】カン ヒェウォン
(72)【発明者】
【氏名】キム ヒェ ミ
(72)【発明者】
【氏名】イ キベク
(72)【発明者】
【氏名】ジョン ハットニム
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B063QA20
4B063QQ08
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR62
4B063QS33
4B063QX02
4B065AA90X
4B065AC20
4B065BA25
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB63
4C087NA20
4C087ZA59
4C087ZA89
4C087ZB07
4C087ZB08
4C087ZB11
4C087ZB13
(57)【要約】
本発明は、幹細胞の品質評価用組成物、キットおよび幹細胞の製造方法に関し、細胞治療剤および免疫関連疾患の予防または治療用組成物を提供することができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分化クラスター71(Cluster of Differentiation71;CD71)タンパク質またはこれをコードする遺伝子の発現レベルを測定する製剤を含む、幹細胞の品質評価用組成物。
【請求項2】
前記CD71タンパク質またはこれをコードする遺伝子の発現レベルが対照群に比べて減少した場合、前記幹細胞の品質が高いと判別される、請求項1に記載の幹細胞の品質評価用組成物。
【請求項3】
前記幹細胞は、中間葉幹細胞(mesenchymal stem cell;MSC)である、請求項1に記載の幹細胞の品質評価用組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の幹細胞の品質評価用組成物を含む、幹細胞の品質評価用キット。
【請求項5】
幹細胞を得るステップと、
前記幹細胞における分化クラスター71(Cluster of Differentiation71;CD71)タンパク質またはこれをコードする遺伝子の発現レベルを測定するステップとを含む、活性化された幹細胞の選別方法。
【請求項6】
前記幹細胞の前記CD71タンパク質またはこれをコードする遺伝子の発現レベルが対照群に比べて減少した場合、前記幹細胞の品質が高いと判別される、請求項5に記載の活性化された幹細胞の選別方法。
【請求項7】
品質が高いと判別された活性化された幹細胞の表現型は、CD71low幹細胞である、請求項6に記載の活性化された幹細胞の選別方法。
【請求項8】
前記幹細胞の酸化ストレスを測定するステップをさらに含む、請求項5に記載の活性化された幹細胞の選別方法。
【請求項9】
前記酸化ストレスを測定するステップは、細胞内のグルタチオン(glutathione;GSH)レベルを測定して行われるものである、請求項8に記載の活性化された幹細胞の選別方法。
【請求項10】
前記幹細胞は、中間葉幹細胞(mesenchymal stem cell;MSC)である、請求項5に記載の活性化された幹細胞の選別方法。
【請求項11】
選別された幹細胞は、血管内皮成長因子(Vascular Endothelial Growth Factor;VEGF)の発現レベルが対照群に比べて増加したものである、請求項5に記載の活性化された幹細胞の選別方法。
【請求項12】
選別された幹細胞は、インターロイキン6(interleukin6;IL-6)、インターロイキン8(interleukin8;IL-8)、およびヘム酸化酵素1(heme oxygenase1;HMOX1)の少なくとも1つの発現レベルが対照群に比べて減少したものである、請求項5に記載の活性化された幹細胞の選別方法。
【請求項13】
CD71low表現型を示す幹細胞を有効成分として含む細胞治療剤。
【請求項14】
CD71low表現型を示す幹細胞を有効成分として含む免疫関連疾患の予防または治療用薬学的組成物。
【請求項15】
前記免疫関連疾患は、自己免疫疾患、移植片対宿主疾患、臓器移植拒絶反応、喘息、アトピー、特発性肺線維化症、急性炎症、および慢性炎症から構成された群より選択される1種以上である、請求項14に記載の薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高品質の幹細胞選別用細胞表面マーカータンパク質、および前記マーカータンパク質を用いた高品質の幹細胞の選別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
幹細胞は未分化細胞であって、自己再生および人体の多様な細胞への分化能を有していて、治療剤として適用する場合、抗炎症効果の提供、損傷した組織に対する原点復帰、組織成長に必要な内皮前駆細胞のような細胞収集、傷痕形成による組織再形成補助、細胞死滅抑制、組織への分化、の5つの主要メカニズムにより回復を仲介すると考えられる。
【0003】
また、幹細胞は、表面で発現する比較的少ない数のMHC分子によって低い免疫原性を有することが知られている。さらに、免疫反応を回避させ、新しい組織の耐性を促進するケモカインを分泌することが明らかになった。これは大きな免疫拒絶反応の危険なしに同種異系の治療を行えるようにする。一部の幹細胞の効能が伝達方法により影響を受けることがある。
【0004】
幹細胞には、ヒトの胚を用いて作ることができる胚幹細胞(Embryonic stem cell)と、血球細胞を絶え間なく作る骨髄細胞のような成体幹細胞(Adult stem cell)とがある。胚幹細胞は人体をなすすべての細胞と組織に分化できるが、倫理的な理由から使用が制限されているのに対し、成体幹細胞は臍帯血や完全に育った成人の骨髄と血液などから抽出したもので、中間葉幹細胞と造血幹細胞として存在する。
【0005】
なかでも、中間葉幹細胞(Mesenchymal Stem Cell;MSC)は、脂肪細胞、骨細胞および軟骨細胞のような様々な細胞系統に分化できる、骨髄を含む全身に存在する幹細胞である。中間葉幹細胞は、アレクサンドル・マクシモフ(Alexander A.Maximow、1874-1928)によって、中間葉に血液細胞へ分化できる前駆細胞があることが究明された後、1976年、アレクサンドル・フリーデンスタイン(Alexander J.Friedenstein、1924-1998)によって、骨髄の基質から最初に分離され、線維芽細胞の前駆細胞(precursors for fibroblast)と名付けられた。1990年代に多くの研究者によって軟骨細胞(chondrocyte)、筋細胞、脂肪細胞、骨芽細胞(osteoblast)などに分化する能力があることが究明され、中間葉幹細胞という用語が使われ始めた。以降、中間葉幹細胞は、ヒト、マウス、ネズミ、イヌ、ヤギ、ウサギおよびネコを含む多数の種から分離された。
【0006】
中間葉幹細胞を用いた細胞治療技術は、高純度、高品質の細胞のみを用いて適用することが重要であり、このような治療技術は多様な炎症性疾患のような難治性疾患の治療を試みている。したがって、中間葉幹細胞治療剤に適用するための中間葉幹細胞の性能を評価するためのマーカーの必要性が台頭しているのが現状である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の一目的は、幹細胞の品質評価用組成物およびキットを提供することである。
【0008】
本発明の他の目的は、細胞治療剤として使用できる、活性化された幹細胞の選別方法を提供することである。
【0009】
本発明のさらに他の目的は、本発明の方法で選別された幹細胞を用いた細胞治療剤および免疫関連疾患の予防または治療用組成物を提供することである。
【0010】
しかし、本発明が解決しようとする技術的課題は以上に言及した課題に制限されず、言及されていないさらに他の課題は以下の記載から当業界における通常の知識を有する者に明確に理解されるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以下、本願に記載された多様な実施形態が図面を参照して記載される。下記の説明において、本発明の完全な理解のために、多様な特異的詳細事項、例えば、特異的形態、組成物および工程などが記載されている。しかし、特定の実施形態は、これらの特異的詳細事項の1つ以上なしに、または他の公知の方法および形態とともに実行されてもよい。他の例において、公知の工程および製造技術は、本発明を不必要にあいまいにさせないために、特定の詳細事項として記載されない。「一つの実施形態」または「実施形態」に対する本明細書全体にわたる参照は、実施形態と結びつけて記載された特別な特徴、形態、組成または特性が本発明の一つ以上の実施形態に含まれることを意味する。したがって、本明細書全体にわたる多様な位置で表現された「一つの実施形態において」または「実施形態」の状況は、必ずしも本発明の同一の実施形態を示さない。追加的に、特別な特徴、形態、組成、または特性は一つ以上の実施形態において何らかの適した方法で組み合わされる。本発明内に特別な定義がなければ、本明細書に使われたすべての科学的および技術的な用語は、本発明の属する技術分野における当業者によって通常理解されるものと同じ意味を有する。
【0012】
本発明の一実施形態によれば、分化クラスター71(Cluster of Differentiation71;CD71)タンパク質またはこれをコードする遺伝子の発現レベルを測定する製剤を含む、幹細胞の品質評価用組成物を提供する。
【0013】
本発明において、前記「CD71タンパク質」は、トランスフェリン受容体(Transferrin Receptor;TFRC)ともいい、前記CD71タンパク質は、細胞血流に乗って流れる鉄分と結合するトランスフェリン(Transferrin)タンパク質と相互作用をして、受容体媒介トランスフェリンエンドサイトーシス(receptor mediated transferrin endocytosis)という過程を経て、細胞内に鉄分を供給する役割をする。前記CD71タンパク質は、配列番号1で表されるものであってもよい。前記CD71タンパク質をコードする遺伝子は、ヒトの場合に3番染色体、マウスの場合に16番染色体に位置する。
【0014】
本発明において、前記CD71タンパク質の発現レベルを測定する製剤は、前記タンパク質に特異的に結合する抗体、オリゴペプチド、リガンド、PNA(peptide nucleic acid)およびアプタマー(aptamer)からなる群より選択された1種以上を含むことができるが、これに限定されるものではない。
【0015】
本発明の前記「抗体」は、抗原と特異的に結合して抗原-抗体反応を起こす物質を指す。本発明の目的上、抗体は、前記CD71タンパク質に対して特異的に結合する抗体を意味する。
【0016】
本発明の前記抗体は、多クローン抗体、単クローン抗体および組換え抗体をすべて含む。前記抗体は、当業界にて広く公知の技術を利用して容易に製造できる。例えば、多クローン抗体は、前記タンパク質の抗原を動物に注射し、動物から採血して抗体を含む血清を得る過程を含む、当業界にて広く公知の方法により生産できる。このような多クローン抗体は、ヤギ、ウサギ、ヒツジ、サル、ウマ、ブタ、ウシ、イヌなどの任意の動物から製造できる。また、単クローン抗体は、当業界にて広く公知のハイブリドーマ方法(hybridoma method;KohlerおよびMilstein(1976)European Journal of Immunology6:511-519参照)、またはファージ抗体ライブラリー技術(Clackson et al,Nature,352:624-628,1991;Marks et al,J.Mol.Biol.,222:58,1-597,1991参照)を用いて製造できる。前記方法で製造された抗体は、ゲル電気泳動、透析、塩沈殿、イオン交換クロマトグラフィー、親和性クロマトグラフィーなどの方法を用いて分離、精製できる。また、本発明の抗体は、2個の全長の軽鎖および2個の全長の重鎖を有する完全な形態だけでなく、抗体分子の機能的な断片を含む。抗体分子の機能的な断片とは、少なくとも抗原結合機能を保有している断片を意味し、Fab、F(ab’)、F(ab’)2およびFvなどがある。
【0017】
本発明の前記「PNA(Peptide Nucleic Acid)」は、人工的に合成された、DNAまたはRNAに類似の重合体を指し、1991年、デンマークコペンハーゲン大学のNielsen、Egholm、BergとBuchardt教授によって初めて紹介された。DNAは、リン酸-リボース糖骨格を有するのに対し、PNAは、ペプチド結合によって連結された繰り返しのN-(2-アミノエチル)-グリシン骨格を有し、これによってDNAまたはRNAに対する結合力と安定性が大きく増加して、分子生物学、診断分析およびアンチセンス治療法に使用されている。PNAは、文献[Nielsen PE,Egholm M,Berg RH,Buchardt O(December1991)。「Sequence-selective recognition of DNA by strand displacement with a thymine-substituted polyamide」。Science254(5037):1497-1500]に詳しく開示されている。
【0018】
本発明において、前記「アプタマー」は、オリゴ核酸またはペプチド分子であり、アプタマーの一般的な内容は、文献[Bock LC et al.,Nature355(6360):5646(1992);Hoppe-Seyler F,Butz K「Peptide aptamers:powerful new tools for molecular medicine」。J Mol Med.78(8):42630(2000);Cohen BA,Colas P,Brent R.「An artificial cell-cycle inhibitor isolated from a combinatorial library」。Proc Natl Acad Sci USA.95(24):142727(1998)]に詳しく開示されている。
【0019】
本発明において、前記CD71をコードする遺伝子の発現レベルを測定する製剤は、前記遺伝子に特異的に結合するプライマー、プローブおよびアンチセンスヌクレオチドからなる群より選択された1種以上を含むことができる。
【0020】
本発明において、前記「プライマー」は、標的遺伝子配列を認知する断片であって、正方向および逆方向のプライマー対を含むが、好ましくは、特異性および敏感性を有する分析結果を提供するプライマー対である。プライマーの核酸配列が試料内に存在する非-標的配列と不一致の配列であるので、相補的なプライマー結合部位を含む標的遺伝子配列のみ増幅し、非特異的増幅を誘発しないプライマーの時、高い特異性が付与できる。
【0021】
本発明において、前記「プローブ」とは、試料内の検出しようとする標的物質と特異的に結合できる物質を意味し、前記結合により特異的に試料内の標的物質の存在を確認できる物質を意味する。プローブの種類は、当業界にて通常使用される物質として制限はないが、好ましくは、PNA(peptide nucleic acid)、LNA(locked nucleic acid)、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、RNAまたはDNAであってもよいし、最も好ましくは、PNAである。より具体的には、前記プローブは、バイオ物質として、生物に由来するか、これに類似のものまたは生体外で製造されたものを含むもので、例えば、酵素、タンパク質、抗体、微生物、動植物細胞および器官、神経細胞、DNA、およびRNAであってもよいし、DNAは、cDNA、ゲノムDNA、オリゴヌクレオチドを含み、RNAは、ゲノムRNA、mRNA、オリゴヌクレオチドを含み、タンパク質の例としては、抗体、抗原、酵素、ペプチドなどを含むことができる。
【0022】
本発明において、前記「LNA(Locked nucleic acids)」とは、2’-O、4’-Cメチレンブリッジを含む核酸アナログを意味する[J Weiler,J Hunziker and J Hall Gene Therapy(2006)13,496.502]。LNAヌクレオチドは、DNAとRNAの一般的な核酸塩基を含み、Watson-Crick塩基対規則に従って塩基対を形成することができる。しかし、メチレンブリッジによる分子の「locking」によって、LNAは、Watson-Crick結合において理想的な形状を形成できなくなる。LNAがDNAまたはRNAオリゴヌクレオチドに含まれると、LNAは、より速く相補的ヌクレオチド鎖と対をなして二重螺旋の安定性を高めることができる。本発明において、前記「アンチセンス」は、アンチセンスオリゴマーがワトソン・クリック塩基対の形成によってRNA内の標的配列と混成化されて、標的配列内で典型的にmRNAとRNA:オリゴマーのヘテロ二重体の形成を許容する、ヌクレオチド塩基の配列およびサブユニット間のバックボーンを有するオリゴマーを意味する。オリゴマーは、標的配列に対する正確な配列の相補性または近似相補性を有することができる。
【0023】
本発明による前記CD71タンパク質の配列情報はすでに知られているので、当業者であれば、これに基づいて前記CD71タンパク質をコードする遺伝子に特異的に結合するプライマー、プローブまたはアンチセンスヌクレオチドを容易にデザインすることができるであろう。
【0024】
本発明において、前記幹細胞のCD71タンパク質またはこれをコードする遺伝子の発現レベルが対照群に比べて減少した場合、前記幹細胞の品質が高いと判別される。ここで、前記対照群は、任意の幹細胞におけるCD71タンパク質またはこれをコードする遺伝子の発現レベルであってもよく、あるいは幹細胞で発現するCD71タンパク質またはこれをコードする遺伝子の発現レベルの平均値であってもよいが、これに限定されるものではない。本発明において、前記「幹細胞」は、自己複製能力を有しかつ2つ以上の新しい細胞に分化する能力を有する細胞を意味し、分化能によって、万能性幹細胞(totipotent stem cell)、全分化能幹細胞(pluripotent stem cell)、多分化能幹細胞(multipotent stem cell)および単分化能幹細胞(unipotent stem cell)に分類することができ、幹細胞の由来組織によって、成体幹細胞、胚幹細胞および逆分化幹細胞に分類することができる。前記万能性乃至全分化能幹細胞は、生体を構成するすべての組織や細胞に分化できる能力を有する細胞を意味する。また、多能性幹細胞は、すべての種類ではないが、複数種の組織や細胞に分化できる能力を有する細胞を意味する。単分化能幹細胞は、特定の組織や細胞に分化できる能力を有する細胞を意味する。万能性幹細胞としては、胚幹細胞(ES Cell)、未分化生殖腺細胞(EG Cell)、逆分化幹細胞(iPS cell)などが挙げられる。多能性幹細胞としては、肝葉系幹細胞(脂肪由来、骨髄由来、臍帯血またはへその緒由来など)、造血系幹細胞(骨髄または末梢血液などに由来)、神経系幹細胞、生殖幹細胞などの成体幹細胞などが挙げられる。また、単分化能幹細胞としては、平常時は分裂能が低い状態で存在し、活性化後に盛んな分裂により分化能なしにひたすら自己複製のみをする幹細胞(Committed stem cell)などが挙げられる。成体幹細胞は、身体の各組織に少量存在する細胞で、特定の組織を構成する細胞であり、体が常に健康な状態に維持されるのに必要な細胞を提供し、また、損傷が発生した時、損傷した部位に移動した、他の臓器にあった幹細胞と共に損傷した組織に分化して復旧する。本発明の属する分野における通常の技術者に一般的に幹細胞のサイズが小さく、細胞内顆粒(granule)が少ないほど「高品質幹細胞」と認められる(Lengefeld J et al.,Cell size is a determinant of stem cell potential during aging.Sci Adv.2021 Nov12;7(46):Epub 2021 Nov12.)。また、コロニー形成能力(colony forming unit)に優れるほど「高品質幹細胞」と認められる(Christine Fehrer et al.,Mesenchymal stem cell aging.Experimental Gerontology.Volume40,Issue12,December2005、Pages926-930)。
【0025】
前記の「高品質」とは、幹細胞は効率が高く、細胞治療剤としての効果が大きい細胞という意味である。したがって、前記高品質幹細胞を選別する基準は、1)細胞サイズおよび顆粒;で区分するか、2)コロニー形成能力;で区分するか、または3)細胞のタンパク質発現マーカー;で区分することが可能である。前記の発現マーカーは、高品質幹細胞集団において一般幹細胞の診断に比べて30%以上発現が増加するタンパク質(陽性マーカー)、または高品質幹細胞集団において一般幹細胞の診断に比べて30%以上発現が減少するタンパク質(陰性マーカー)に区分することができる。例えば、血管内皮細胞成長因子(Vascular endothelial growth factor;VEGF)は、若くて健康な細胞で発現が増加することが知られている。この場合に、前記VEGFを高品質幹細胞の陽性マーカーと定義することができる。あるいは、IL-6またはIL-8は、細胞が老化するほど発現が増加することが知られている(Jing Liu et al.,Senescence in Mesenchymal Stem Cells:Functional Alterations,Molecular Mechanisms,and Rejuvenation Strategies.Front.Cell Dev.Biol.,05May 2020)。この場合に、前記IL-6またはIL-8は、発現が減少するほど若くて健康な細胞ということができ、高品質幹細胞の陰性マーカーと定義することができる。
【0026】
本発明において、前記幹細胞は、中間葉幹細胞(mesenchymal stem cell;MSC)であってもよいが、これに限定されない。
【0027】
本発明において、用語「中間葉幹細胞」は、幹細胞能(stemness)と自己再生能(self-renewal)を維持し、多様な肝葉組織に分化できる能力(plasticity)があり、本発明の組成物で品質を測定して選別された幹細胞は、効率が高く、細胞治療剤としての効果が大きい細胞である。
【0028】
本発明において、前記中間葉幹細胞は、ヒト胚幹細胞由来中間葉幹細胞(Human embryonic stem cell-derived mesenchymal stroma cell;hES-MSC)、臍帯由来中間葉幹細胞(Umbilical cord mesenchymal stem cell;UC-MSC)、臍帯血由来中間葉幹細胞(Umbilical cord blood mesenchymal stem cell;UCB-MSC)、骨髄由来中間葉幹細胞(Bone marrow mesenchymal stem cell;BM-MSC)、脂肪由来中間葉幹細胞(Adipose derived mesenchymal stem cell;ADMSC)、筋肉由来中間葉幹細胞、神経由来中間葉幹細胞、皮膚由来中間葉幹細胞、羊膜由来中間葉幹細胞および胎盤由来中間葉幹細胞からなる群より選択されるいずれか1つ以上であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0029】
本発明において、前記中間葉幹細胞は、生物学的試料、好ましくは、ヒトの生物学的試料、例えば、骨髄、支柱骨、骨膜、歯髄、腱、脂肪組織、血液、へその緒、胎盤、胎児の卵黄嚢および皮膚(真皮)に由来するものであってもよいが、これに限定されない。
【0030】
本発明において、用語「生物学的試料」、「サンプル」または「生物学的サンプル」は、生物学的供給源、例えば、動物またはヒト対象のような有機体、細胞培養物、組織サンプルなどから得られる任意の物質、組織または細胞を意味することができる。動物またはヒト対象の生物学的試料は、1種以上の組織タイプおよび1種以上の組織タイプの細胞を含むことができる。動物またはヒト対象の生物学的試料の収得方法は、当業界の任意の方法により分離された任意の幹細胞であってもよく、好ましくは、前記幹細胞は、中間葉幹細胞であってもよい。
【0031】
本発明において、前記中間葉幹細胞は、中間葉系統、典型的に2以上の中間葉系統、より典型的には3以上の中間葉系統、例えば、骨軟骨芽細胞(骨および軟骨)、骨芽細胞(骨)、軟骨芽細胞(軟骨)、筋細胞(筋肉)、腱細胞(筋)、線維芽細胞(結合組織)、脂肪細胞(脂肪)および間質(骨髄基質)系統の細胞を生成することができる。
【0032】
本発明において、「幹細胞品質(quality)」とは、幹細胞試料内の多様な幹細胞の状態であれば制限なく含まれるが、好ましくは、幹細胞試料の幹細胞の臨床適用(例、細胞治療剤)が可能な状態なのか否かに関する。
【0033】
本発明において、前記幹細胞品質は、前記幹細胞の分化程度(例、未分化または骨細胞分化)、成長因子、サイトカインおよびその他のタンパク質の発現量乃至発現レベルを意味するものであってもよいが、幹細胞を実質的に細胞治療剤として使用するのに適した要件に関するものであれば、これに限定されない。
【0034】
本発明において、「評価」乃至「判別」とは、定量および/または定性分析を含むもので、存在、不存在の検出、発現量および濃度測定を含むもので、このような方法は当業界にて公知であり、当業者であれば本願の実施のために適切な方法を選択することができるであろう。
【0035】
本発明の他の実施形態によれば、本発明の幹細胞の品質評価用組成物を含む幹細胞の品質評価用キットに関する。前記幹細胞の品質評価用キットを用いて幹細胞の品質を測定することができる。
【0036】
本発明において、前記幹細胞、前記幹細胞の品質および前記測定に関する記載は、先に記載されたものと重複し、明細書の過度の複雑性を避けるために、以下、その詳しい記載を省略する。
【0037】
本発明において、前記キットは、RT-PCRキット、DNAチップキット、ELISAキット、タンパク質チップキット、ラピッド(rapid)キットであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0038】
本発明の前記幹細胞の品質評価用キットは、分析方法に適した1種類またはそれ以上の他の構成成分組成物、溶液または装置をさらに含むことができる。
【0039】
例えば、本発明において、前記幹細胞の品質評価用キットは、逆転写重合酵素反応を行うために必要な必須要素をさらに含むことができる。逆転写重合酵素反応キットは、マーカータンパク質をコードする遺伝子に対して特異的なプライマー対を含む。プライマーは、前記遺伝子の核酸配列に特異的な配列を有するヌクレオチドであって、約7bp~50bpの長さ、より好ましくは約10bp~30bpの長さを有することができる。また、対照群遺伝子の核酸配列に特異的なプライマーを含むことができる。その他の逆転写重合酵素反応キットは、テストチューブまたは他の適切な容器、反応緩衝液(pHおよびマグネシウム濃度は多様)、デオキシヌクレオチド(dNTPs)、Taq-ポリメラーゼおよび逆転写酵素のような酵素、DNase、RNase抑制剤、DEPC-水(DEPC-water)、滅菌水などを含むことができる。
【0040】
また、本発明の幹細胞の品質評価用キットは、DNAチップを行うために必要な必須要素を含むことができる。DNAチップキットは、遺伝子またはその断片に相当するcDNAまたはオリゴヌクレオチド(oligonucleotide)が付着している基板、および蛍光標識プローブを作製するための試薬、製剤、酵素などを含むことができる。さらに、基板は、対照群遺伝子またはその断片に相当するcDNAまたはオリゴヌクレオチドを含むことができる。
【0041】
また、本発明において、幹細胞の品質評価用キットは、ELISAを行うために必要な必須要素を含むことができる。ELISAキットは、前記タンパク質に対して特異的な抗体を含む。抗体は、マーカータンパク質に対する特異性および親和性が高く、他のタンパク質に対する交差反応性がほとんどない抗体で、単クローン抗体、多クローン抗体または組換え抗体である。さらに、ELISAキットは、対照群タンパク質に特異的な抗体を含むことができる。その他のELISAキットは、結合した抗体を検出できる試薬、例えば、標識された二次抗体、発色団(chromophores)、酵素(例:抗体とコンジュゲートされる)およびその基質または抗体と結合できる他の物質などを含むことができる。
【0042】
本発明の幹細胞の品質評価用キットにおいて、抗原-抗体結合反応のための固定体としては、ニトロセルロース膜、PVDF膜、ポリビニル(polyvinyl)樹脂またはポリスチレン(polystyrene)樹脂で合成されたウェルプレート(Well plate)、ガラスからなるスライドガラスなどが使用できるが、これに限定されるものではない。
【0043】
また、本発明の幹細胞の品質評価用キットにおいて、二次抗体の標識体は、発色反応をする通常の発色剤が好ましく、HRP(horseradish peroxidase)、塩基性脱リン酸化酵素(alkaline phosphatase)、コロイドゴールド(coloid gold)、FITC(ポリL-リジン-フルオレセインイソチオシアネート)、RITC(ローダミン-B-イソチオシアネート)などの蛍光物質(fluorescein)および色素(dye)などの標識体が使用できるが、これに限定されるものではない。
【0044】
また、本発明の幹細胞の品質評価用キットにおいて、発色を誘導するための発色基質は、発色反応をする標識体に応じて使用することが好ましく、TMB(3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン)、ABTS[2,2’-アジノ-ビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸)]、OPD(o-フェニレンジアミン)などを使用することができる。この時、発色基質は、緩衝溶液(0.1M NaAc、pH5.5)に溶解した状態で提供されることがさらに好ましい。TMBのような発色基質は、二次抗体接合体の標識体として使用されたHRPによって分解されて発色浸漬体を生成し、この発色浸漬体の浸漬程度を肉眼で確認することにより、前記マーカータンパク質の存在の有無を検出する。
【0045】
本発明の幹細胞の品質評価用キットにおいて、洗浄液は、リン酸塩緩衝溶液、NaClおよびツイーン20(Tween20)を含むことが好ましく、0.02Mリン酸塩緩衝溶液、0.13M NaCl、および0.05%ツイーン20から構成された緩衝溶液(PBST)がさらに好ましい。洗浄液は、抗原-抗体結合反応後、抗原-抗体結合体に二次抗体を反応させた後、適量を固定体に添加して3~6回洗浄する。反応停止溶液は、硫酸溶液(HSO)が好ましく使用できる。
【0046】
本発明のさらに他の実施形態によれば、幹細胞を得るステップと、前記幹細胞における分化クラスター71(Cluster of Differentiation71;CD71)タンパク質またはこれをコードする遺伝子の発現レベルを測定するステップとを含む、活性化された幹細胞の選別方法に関する。
【0047】
本発明において、前記幹細胞を得るステップは、個体から分離された生物学的試料から前記幹細胞を単離して行われる。
【0048】
本発明において、前記「個体」とは、幹細胞を有する個体であって、幹細胞治療が必要な個体および単純に幹細胞を供与する個体を含み、哺乳動物および非-哺乳動物をすべて含むことができる。ここで、前記哺乳動物の例としては、ヒト、非-ヒト霊長類、例えば、チンパンジー、他の類人猿またはサル種;畜産動物、例えば、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ブタ;飼育動物、例えば、ウサギ、イヌまたはネコ;実験動物、例えば、齧歯類、例えば、ラット、マウスまたはモルモットなどを含むことができるが、これに限定されるものではない。また、本発明において、前記非-哺乳動物の例としては、鳥類または魚類などを含むことができるが、これに限定されるものではない。
【0049】
本発明において、用語「生物学的試料」、「サンプル」または「生物学的サンプル」は、生物学的供給源、例えば、動物またはヒト対象のような有機体、細胞培養物、組織サンプルなどから得られる任意の物質、組織または細胞を意味することができる。動物またはヒト対象の生物学的試料は、1種以上の組織タイプおよび1種以上の組織タイプの細胞を含むことができる。動物またはヒト対象の生物学的試料の収得方法は、当業界の任意の方法により分離された任意の幹細胞であってもよく、好ましくは、前記幹細胞は、中間葉幹細胞であってもよい。
【0050】
本発明において、前記生物学的試料は、骨髄、支柱骨、骨膜、歯髄、腱、脂肪組織、血液、へその緒、胎盤、胎児の卵黄嚢および皮膚(真皮)に由来するものであってもよいが、これに限定されない。
【0051】
本発明において、前記「単離(isolation)」は、生物学的試料から幹細胞を分離する工程で、例えば、手動方法を用いて脂肪組織から幹細胞を単離する方法がある。この方法は、37℃で30分間、0.075%コラゲナーゼタイプI溶液で脂質吸引物(lipoaspirate)の処置後に、800gで生成された懸濁液の遠心分離に基づく。遠心分離後、細胞懸濁液は、上部上澄液層(upper supernatant layer)の脂肪細胞、および沈殿物で血液細胞汚染を有する溶液の2つの分画に分けられる。
【0052】
本発明において、前記CD71タンパク質の発現レベルを測定する製剤は、前記タンパク質に特異的に結合する抗体、オリゴペプチド、リガンド、PNA(peptide nucleic acid)およびアプタマー(aptamer)からなる群より選択された1種以上を含むことができるが、これに限定されるものではない。
【0053】
本発明において、前記CD71タンパク質の発現レベルの測定は、タンパク質チップ分析、免疫測定法、リガンドバインディングアッセイ、MALDI-TOF(Matrix Assisted Laser Desorption/Ionization Time of Flight Mass Spectrometry)分析、SELDI-TOF(Sulface Enhanced Laser Desorption/Ionization Time of Flight Mass Spectrometry)分析、放射線免疫分析、放射免疫拡散法、オクタロニー免疫拡散法、ロケット免疫電気泳動、組織免疫染色、補体固定分析法、2次元電気泳動分析、液相クロマトグラフィー-質量分析(liquid chromatography-Mass Spectrometry、LC-MS)、ウェスタンブロッティングまたはELISA(enzyme linked immunosorbentassay)からなる群より選択された1種以上によって行われるが、これに限定されるものではない。
【0054】
本発明において、前記CD71タンパク質をコードする遺伝子の発現レベルを測定する製剤は、前記遺伝子に特異的に結合するプライマー、プローブおよびアンチセンスヌクレオチドからなる群より選択された1種以上であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0055】
本発明において、前記CD71タンパク質をコードする遺伝子の存在の有無と発現程度を確認する過程でmRNAの量を測定する分析方法としては、逆転写重合酵素反応(RT-PCR)、競争的逆転写重合酵素反応(Competitive RT-PCR)、リアルタイム逆転写重合酵素反応(Real-time RT-PCR)、RNase保護分析法(RPA;RNase protection assay)、ノーザンブロッティング(Northern blotting)、DNAチップなどがあるが、これに限定されるものではない。
【0056】
本発明において、前記幹細胞のCD71タンパク質またはこれをコードする遺伝子の発現レベルが対照群に比べて減少した場合、前記幹細胞の品質が高いと判別される。ここで、前記対照群は、任意の幹細胞におけるCD71タンパク質またはこれをコードする遺伝子の発現レベルであってもよく、あるいは幹細胞で発現するCD71タンパク質またはこれをコードする遺伝子の発現レベルの平均値であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0057】
本発明において、選別された幹細胞の表現型は、CD71low幹細胞であってもよい。
【0058】
本発明において、前記幹細胞の表現型は、CD71タンパク質の発現レベルとの相関関係に基づいて、細胞表面分子の発現パターンを、陰性;発現レベルが底い(low);および発現レベルが高い(high);の3つの群に分類することができ、一例としては、前記細胞表面分子の発現レベルに基づいて、上位30%を高い(high)、下位30%を底い(low)群集(population)と定義することができるが、これに限定されない。
【0059】
本発明の選別方法は、前記幹細胞の酸化ストレスを測定するステップをさらに含むことにより、細胞治療剤として使用されるのに適した、活性化された幹細胞選別の正確度を高めることができる。
【0060】
本発明において、前記酸化ストレスは、活性酸素(活性酸素種、reactive oxygen species;ROS)の生成と分解の不均衡によって活性酸素種が過度に集積された状態に細胞が露出した状況をいう。活性酸素は、非選択的に細胞構成物質であるタンパク質、脂質、DNAを攻撃して不可逆的な損傷をきたすので、酸化ストレスを追加的に測定する場合、前記幹細胞の品質を測定することができる。
【0061】
本発明において、前記酸化ストレスを測定するステップは、細胞内のグルタチオン(glutathione;GSH)レベルを測定して行われる。
【0062】
本発明において、前記グルタチオンは、生体内の酸化還元反応に重要な役割をする抗酸化物質である。細胞内のグルタチオン含有量が高ければ、前記細胞を若くて(young age)健康で、治療効果が高い細胞と定義することができる。前記細胞内のグルタチオンレベルを測定することは、グルタチオンと結合する時の波長とグルタチオンと結合しない時の波長が変化するプローブを用いて行われ、例えば、前記プローブは、細胞と細胞小器官内に入りやすく、グルタチオンのチオール(-SH)基と結合できる小さい分子プローブ(FreSHtracer)であってもよい。FreSHtraceがグルタチオンに結合すれば、510nm(F510)の波長帯の蛍光を示し、グルタチオンと結合しなければ、580nm(F580)の波長帯の蛍光を示す。このように測定されたF510/F580の蛍光値で細胞内のグルタチオン量を測定することができ、前記F510/F580をFR(FreSHtracer Ratio)で表す。FreSHtracerとGSHとの間の反応は可逆的で、測定するのに細胞内のGSHを消費しない。本発明において、前記幹細胞は、中間葉幹細胞(mesenchymal stem cell;MSC)であってもよい。
【0063】
本発明において、前記中間葉幹細胞は、ヒト胚幹細胞由来中間葉幹細胞(Human embryonic stem cell-derived mesenchymal stroma cell;hES-MSC)、臍帯由来中間葉幹細胞(Umbilical cord mesenchymal stem cell;UC-MSC)、臍帯血由来中間葉幹細胞(Umbilical cord blood mesenchymal stem cell;UCB-MSC)、骨髄由来中間葉幹細胞(Bone marrow mesenchymal stem cell;BM-MSC)、脂肪由来中間葉幹細胞(Adipose derived mesenchymal stem cell;ADMSC)、筋肉由来中間葉幹細胞、神経由来中間葉幹細胞、皮膚由来中間葉幹細胞、羊膜由来中間葉幹細胞および胎盤由来中間葉幹細胞からなる群より選択されるいずれか1つ以上であってもよいが、これに限定されない。
【0064】
本発明において、前記のように選別された幹細胞では、成長因子の発現レベルが対照群に比べて増加したものであってもよく、前記成長因子は、血管内皮成長因子(Vascular Endothelial Growth Factor;VEGF)であってもよいが、これに限定されるものではない。ここで、前記対照群は、任意の幹細胞におけるVEGFの発現レベルであるか、CD71low表現型を示す幹細胞におけるVEGFの発現レベルであるか、あるいは幹細胞で発現するVEGFの発現レベルの平均値であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0065】
本発明において、前記VEGFは、新しい血管の成長を促進するシグナルタンパク質で、血液循環が損傷して低酸素化された場合、血管生成および血管新生により細胞と組織に血液供給を回復させるメカニズムの一部である。通常、若くて(young age)健康な幹細胞においてVEGF発現が増加することが知られている。
【0066】
本発明において、前記のように選別された幹細胞は、インターロイキン6(interleukin6;IL-6)、インターロイキン8(interleukin8;IL-8)、およびヘム酸化酵素1(heme oxygenase1;HMOX1)の少なくとも1つの発現レベルが対照群に比べて減少したものであってもよい。ここで、前記対照群は、任意の幹細胞においてIL-6、IL-8、またはHMOX1の発現レベルであるか、CD71high表現型を示す幹細胞におけるIL-6、IL-8、またはHMOX1の発現レベルであるか、あるいは幹細胞で発現するIL-6、IL-8、またはHMOX1の発現レベルの平均値であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0067】
本発明において、前記IL-6は、T細胞、B細胞、大食細胞、線維芽細胞など様々な細胞で生産され、抗炎症性(anti-inflammatory)サイトカインで、IL-6は、細胞周期を停止させ、骨髄細胞株で分化を誘導するだけでなく、神経系を含む主要生理システムにおいて多くの重要な役割を果たすことができる。前記IL-8は、急性炎症反応時、好中球の遊走活性化に関与する本質的な因子である。前記HMOX1は、IL-6およびIL-8のような抗炎症性因子であって、抗酸化機能がある。HMOX1は、炎症性細胞で発現が増加するので、長い時間、免疫学者によって慢性炎症および自己免疫疾患を治療するためのターゲットとして見なされてきた(Nicole K.Campbell et al.,Regulation of inflammation by the antioxidant haem oxygenase1.Nature Reviews Immunology volume21,pages411-425.2021)。
【0068】
本発明において、前記幹細胞および前記生物学的試料に関する記載は、先に記載されたものと重複し、明細書の過度の複雑性を避けるために、以下、その詳しい記載を省略する。
【0069】
本発明のさらに他の実施形態によれば、本発明の選別方法で選別された幹細胞で、CD71low発現パターンを示す幹細胞を有効成分として含む細胞治療剤に関する。
【0070】
本発明において、前記細胞治療剤とは、細胞と組織の機能を復元させるために、生きている自己(autologous)、同種(allogenic)、異種(xenogenic)細胞を体外で増殖または選別したり、その他の方法で細胞の生物学的特性を変化させるなどの一連の行為により治療、診断および予防の目的で使用される医薬品をいう。米国は1993年から、韓国は2002年から細胞治療剤を医薬品として管理している。前記細胞治療剤は、組織再生あるいは臓器機能回復のためのものであってもよい。
【0071】
本発明の細胞治療剤の投与経路は、目的組織に到達できる限り、何らかの一般的な経路を通して投与可能である。非経口投与、例えば、腹腔内投与、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、皮内投与できるが、これに限定されない。
【0072】
本発明の細胞治療剤は、脂肪細胞、骨細胞、軟骨細胞、筋肉細胞、神経細胞、心筋細胞、肝細胞、ベータ細胞、血管細胞または肺細胞の再生または保護に用いられる。また、本発明の細胞治療剤は、肺疾患治療;肺疾患による炎症抑制または治療;肺組織再生;および肺組織線維症抑制からなる群より選択されたいずれか1つに有用であることを特徴とし、肺疾患による炎症反応および線維症(fibrosis)を抑制したり好転させることができる。さらに、本発明の細胞治療剤は、心血管疾患の治療または軟骨再生用に使用可能である。これとともに、本発明の細胞治療剤は、免疫調節機能を増加させたり、免疫誘発性、免疫細胞侵入または免疫原性のうちの1つを低下させることができ、炎症反応を抑制させることができる。
【0073】
本発明の前記細胞治療剤は、標的細胞に移動できるようにする任意の装置によって投与されてもよい。
【0074】
本発明の細胞治療剤は、疾患の治療のための有効量で含まれる。前記治療のための有効量(therapeutically effective amount)は、研究者、獣医師、医師またはその他の臨床によって考えられる組織系、動物またはヒトで生物学的または医学的反応を誘導する有効成分または薬学的組成物の量を意味するもので、これは治療される疾患または障害の症状の緩和を誘導する量を含む。
【0075】
本発明の組成物に含まれる細胞治療剤は、所望の効果によって変化できることは当業者に自明である。そのため、最適な細胞治療剤の含有量は当業者によって容易に決定可能であり、疾患の種類、疾患の重症度、組成物に含有された他の成分の含有量、剤形の種類、および患者の年齢、体重、一般健康状態、性別および食事、投与時間、投与経路および組成物の分泌率、治療期間、同時使用される薬物を含めた多様な因子によって調節可能である。前記要素をすべて考慮して副作用なしに最小限の量で最大効果が得られる量を含むことができる。
【0076】
本発明において、前記幹細胞に関する記載は、先に記載されたものと重複し、明細書の過度の複雑性を避けるために、以下、その詳しい記載を省略する。
【0077】
本発明のさらに他の実施形態によれば、本発明の選別方法で選別された幹細胞で、CD71low発現パターンを示す幹細胞を有効成分として含む、免疫関連疾患の予防または治療用薬学的組成物に関する。
【0078】
本発明の前記幹細胞は、対照群に比べてVEGF、またはGSHの発現レベルが増加し、CD71、IL-6、IL-8、またはHMOX1の発現レベルが減少する特徴によって免疫寛容性(immunological tolerance)を調節することができ、よって、免疫関連疾患を効果的に予防、改善または治療することができる(Jisun Lim et al.,Glutathione dynamics determine the therapeutic efficacy of mesenchymal stem cells for graft-versus-host disease via CREB1-NRF2 pathway.Sci Adv.2020 Apr15;6(16):eaba1334.)(Eui Man Jeong et al.,Real-Time Monitoring of Glutathione in Living Cells Reveals that High Glutathione Levels Are Required to Maintain Stem Cell Function.Stem Cell Reports.2018 Feb13;10(2):600-614.)。
【0079】
前記対照群の定義は、先に記載されたものと重複し、明細書の過度の複雑性を避けるために、以下、その詳しい記載を省略する。
【0080】
本発明において、前記「免疫関連疾患」は、多様な免疫細胞および炎症細胞の過度化された活性化および発現によって誘導される疾患で、例えば、自己免疫疾患;移植片対宿主疾患;臓器移植拒絶反応;喘息;アトピー;特発性肺線維化症;および急性または慢性の炎症疾患から構成された群より選択される1種以上であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0081】
また、本発明において、前記「自己免疫疾患」は、リウマチ性関節炎、全身性強皮症、全身性エリテマトーデス、アトピー皮膚炎、乾癬、円形脱毛症、喘息、クローン病、ベーチェット病、シェーグレン症侯群、ギラン・バレー症侯群、慢性甲状腺炎、多発性硬化症、多発性筋炎、強直性脊椎炎、線維組織炎および結節性多発性動脈炎から構成された群より選択される1種以上であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0082】
一方、本発明において、「予防」は、本発明の薬学的組成物を用いて疾患の症状を遮断したり、その症状を抑制または遅延させるすべての行為であれば制限なく含むことができる。
【0083】
また、本発明において、「治療」は、本発明の薬学的組成物を用いて疾患の症状が好転したり有利になるすべての行為であれば制限なく含むことができる。
【0084】
本発明において、前記薬学的組成物は、カプセル、錠剤、顆粒、注射剤、軟膏剤、粉末または飲料形態であることを特徴とし、前記薬学的組成物は、ヒトを対象にすることを特徴とする。
【0085】
本発明の薬学的組成物はこれらに限定されるものではないが、それぞれ通常の方法により、散剤、顆粒剤、カプセル、錠剤、水性懸濁液などの経口型剤形、外用剤、坐剤および滅菌注射溶液の形態に剤形化して使用できる。本発明の薬学的組成物は、薬剤的に許容可能な担体を含むことができる。薬学的に許容される担体は、経口投与時には、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、賦形剤、可溶化剤、分散剤、安定化剤、懸濁化剤、色素、香料などを使用することができ、注射剤の場合には、緩衝剤、保存剤、無痛化剤、可溶化剤、等張剤、安定化剤などを混合して使用することができ、局所投与用の場合には、基剤、賦形剤、潤滑剤、保存剤などを使用することができる。本発明の薬学的組成物の剤形は、上述のような薬学的に許容される担体と混合して多様に製造可能である。例えば、経口投与時には、錠剤、トローチ、カプセル、エリキシル(elixir)、サスペンション、シロップ、ウエハなどの形態に製造することができ、注射剤の場合には、単位投薬アンプルまたは複数回投薬形態に製造することができる。その他、溶液、懸濁液、錠剤、カプセル、徐放型製剤などに剤形化することができる。
【0086】
一方、製剤化に適した担体、賦形剤および希釈剤の例としては、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、デンプン、アカシアガム、アルギネート、ゼラチン、カルシウムホスフェート、カルシウムシリケート、セルロース、メチルセルロース、微晶質セルロース、ポリビニルピロリドン、水、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、タルク、マグネシウムステアレートまたは鉱物油などが使用できる。また、充填剤、抗凝集剤、潤滑剤、湿潤剤、香料、乳化剤、防腐剤などを追加的に含むことができる。
【0087】
本発明による薬学的組成物の投与経路はこれらに限定されるものではないが、口腔、静脈内、筋肉内、動脈内、骨髄内、硬膜内、心臓内、経皮、皮下、腹腔内、鼻腔内、腸管、局所、舌下または直腸が含まれるが、経口または非経口投下が好ましい。
【0088】
本発明において、「非経口」は、皮下、皮内、静脈内、筋肉内、関節内、滑液嚢内、胸骨内、硬膜内、病巣内および頭蓋骨内注射または注入技術を含む。本発明の薬学的組成物はさらに、直腸投与のための坐剤の形態で投与可能である。
【0089】
本発明の薬学的組成物は、使用された特定の化合物の活性、年齢、体重、一般的な健康、性別、食事、投与時間、投与経路、排出率、薬物配合および予防または治療される特定疾患の重症を含んだ様々な要因によって多様に変化可能であり、前記薬学的組成物の投与量は、患者の状態、体重、疾病の程度、薬物形態、投与経路および期間によって異なるが、当業者によって適宜選択可能であり、1日0.0001~50mg/kgまたは0.001~50mg/kg投与することができる。投与は、1日に1回投与してもよく、数回分けて投与してもよい。前記投与量は、いかなる面でも本発明の範囲を限定するものではない。本発明による医薬組成物は、丸剤、糖衣錠、カプセル、液剤、ゲル、シロップ、スラリー、懸濁剤に剤形化可能である。
【0090】
本発明において、前記幹細胞に関する記載は、先に記載されたものと重複し、明細書の過度の複雑性を避けるために、以下、その詳しい記載を省略する。
【発明の効果】
【0091】
本発明では、細胞治療剤として使用されるのに適した高品質の幹細胞で、例えば、VEGF、またはGSH遺伝子の発現レベルが増加し、CD71、IL-6、IL-8、またはHMOX1遺伝子の発現レベルが減少した幹細胞を選別できる方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0092】
図1】実験例1で中間葉幹細胞に酸化ストレスを与える場合、CD71が反応することを示す図である。
図2】実験例2でCD71が低く発現する中間葉幹細胞とCD71が高く発現する中間葉幹細胞の細胞サイズ、および顆粒の様子を比較したことを示す図である。
図3】実験例3でCD71が低く発現する中間葉幹細胞とCD71が高く発現する中間葉幹細胞のVEGF、IL-6、IL-8、およびHMOX1遺伝子の発現量を比較したことを示す図である。
図4】実験例4でCD71が低く発現する中間葉幹細胞とCD71が高く発現する中間葉幹細胞のコロニー形成能力を比較したことを示す図である。
【0093】
図5】実験例5でYoung passage幹細胞(P4)、Middle passage幹細胞(P8)、およびOld passage幹細胞(P14)に対して老化程度によって細胞の活性が異なることを確認した図である。
図6】実験例5でYoung passage幹細胞(P4)およびOld passage幹細胞(P14)に対してCD71遺伝子の発現量を比較したことを示す図である。
図7】実験例6でCD71を低く発現し、GSHを高く発現する幹細胞(CD71LOWMSC)の特発性肺線維化症の治療効果を示す図である。
図8】実験例6でCD71を低く発現し、GSHを高く発現する幹細胞(CD71LOWMSC)の抗線維化および抗炎症効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0094】
細胞に酸化ストレスを与えた後、フローサイトメトリー分析を実施した結果、GSHレベル(FR)とCD71の発現レベル(Comp R1-A)によって2つの細胞群集に分けられるが、CD71の発現レベルが低い場合、GSHレベルが高いことから、MSCのCD71の発現レベルが低い場合、高品質のMSC治療剤として判断できることが分かった。
【実施例
【0095】
以下、本発明を下記の実施例によって詳細に説明する。ただし、下記の実施例は本発明を例示するものに過ぎず、本発明の内容が下記の実施例によって限定されるものではない。
【0096】
実施例
[実験例1]中間葉幹細胞の品質確認のためのフローサイトメトリー分析
中間葉幹細胞(MSC)の品質を確認するために、細胞に酸化ストレスを与えて反応するマーカー候補群を同定した。具体的には、MSCに酸化ストレスを誘発できる試薬を処理し、ミトコンドリアにおけるGSHレベルを測定できるmitoFreSHtracerを用いて染色させた。以後、染色された細胞を引き離した後、マーカー候補群のうちCD71マーカーを染色させた後、フローサイトメトリー分析(FACS analysis)を実施して、GSHレベルおよび各マーカーの発現レベルを確認した(BD LyoplateTM、cat.#560747)。その結果を図1に示した。
【0097】
図1に示すように、細胞に酸化ストレスを与えた後、フローサイトメトリー分析を実施した結果、GSHレベル(FR)とCD71の発現レベル(Comp R1-A)によって2つの細胞群集に分けられるが、CD71の発現レベルが低い場合、GSHレベルが高いことから、MSCのCD71の発現レベルが低い場合、高品質のMSC治療剤として判断できることが分かった。
【0098】
[実験例2]CD71の発現量が低い細胞における細胞サイズ、および顆粒の様子分析
本発明の属する分野における通常の技術者に一般的に幹細胞のサイズが小さく、細胞内顆粒(granule)が少ないほど「高品質幹細胞」と認められる。前記の「高品質」とは、幹細胞は効率が高く、細胞治療剤としての効果が大きい細胞という意味である。したがって、CD71の発現レベルが低いMSCと細胞のサイズ、および細胞顆粒間の関連性があるかを確認した。このために、MSCを対象にCD71の発現様相を分析して、フローサイトメトリー分析の対象になる細胞のうちCD71が高く発現する上位30%(CD71_high)中間葉幹細胞とCD71が低く発現する下位30%(CD71_low)中間葉幹細胞とを区分し、2つの集団における細胞のサイズ、および細胞顆粒の程度を比較して、その結果を図2に示した。
【0099】
図2に示すように、フローサイトメトリー分析の対象になる細胞のうちCD71が高く発現する上位30%(CD71_high)中間葉幹細胞に比べて、CD71が低く発現する下位30%(CD71_low)中間葉幹細胞において平均細胞サイズが小さく、細胞内顆粒が少ないことを確認することができた。
【0100】
これにより、CD71が低く発現する中間葉幹細胞の場合、細胞サイズが小さく、細胞内顆粒が少ないことを確認して、幹細胞の品質が高いと判別することができた。
【0101】
[実験例3]CD71の発現量が低い細胞の主要タンパク質マーカー発現量の変化分析
CD71が低く発現する中間葉幹細胞の品質を確認するために、前記実験例1でのフローサイトメトリー分析の結果を定量的に分析した。具体的には、フローサイトメトリー分析の対象になる細胞のうちCD71が高く発現する上位30%(CD71_high)中間葉幹細胞とCD71が低く発現する下位30%(CD71_low)中間葉幹細胞とを区分し、2つの集団においてVEGF、IL-6、IL-8、およびHMOX1の発現量を比較して、その結果を図3に示した。
【0102】
図3に示すように、フローサイトメトリー分析の対象になる細胞のうちCD71が高く発現する上位30%(CD71_high)中間葉幹細胞に比べて、CD71が低く発現する下位30%(CD71_low)中間葉幹細胞でVEGFの発現量は有意に増加し、IL-6、IL-8、およびHMOX1の発現量は有意に減少することを確認することができた。
【0103】
本発明の属する分野における通常の技術者に、一般的に、VEGFは、若くて健康な細胞で発現が増加することが知られており、IL-6、IL-8、およびHMOX1は、細胞が老化するほど発現が増加することが知られている。
【0104】
したがって、これにより、CD71が低く発現する中間葉幹細胞の場合、VEGFの発現が増加し、IL-6、IL-8、およびHMOX1の発現が減少したことを確認して、幹細胞の品質が高いと判別することができた。
【0105】
[実験例4]CD71の発現量が低い細胞のコロニー形成能分析
幹細胞固有の自己複製能力がよく保存された若くて健康な幹細胞の場合、コロニー形成能力(colony forming unit)に優れていることが知られている。したがって、CD71が低く発現する中間葉幹細胞の品質を確認するために、CD71が低く発現する中間葉幹細胞(CD71_low)と高く発現する中間葉幹細胞(CD71_high)のコロニー形成能を比較して、その結果を図4に示した。
【0106】
図4に示すように、フローサイトメトリー分析の対象になる細胞のうちCD71が高く発現する上位30%(CD71_high)中間葉幹細胞に比べて、CD71が低く発現する下位30%(CD71_low)中間葉幹細胞でコロニー形成能が約2倍増加したことが分かり、これによって、これら幹細胞の品質が高いと判別することができた。
【0107】
[実験例5]細胞の老化程度によるCD71の発現量分析
幹細胞が老化するほど細胞の幹細胞能および治療効能が減少するので、MSC継代(passage)回数に応じてYoung passage幹細胞(P4)、Middle passage幹細胞(P8)、およびOld passage幹細胞(P14)に区分した。区分された細胞に対して細胞老化時に蓄積されると知られたLipofuscin(FITC_autofluorecence)の測定により、老化程度によって細胞の活性が異なることを確認した。その結果を図5に示した。
【0108】
前記Young passage幹細胞(P4)およびOld passage幹細胞(P14)に対してCD71マーカータンパク質の発現量を分析して、その結果を図6に示した。
【0109】
図6に示すように、CD71は、Young passage幹細胞(P4)に比べて、Old passage幹細胞(P14)で著しく発現が増加した。これによって、CD71マーカーが若くて健康な高品質の幹細胞を選別するためのマーカーになることを確認した。
【0110】
[実験例6]CD71の発現量分析
前記実験例1でCD71の発現レベルが低い場合、GSHレベルが高いことを確認したことから、CD71を低く発現し、GSHを高く発現する幹細胞(CD71LOWMSC)を用いて特発性肺線維化症(Idiopathic pulmonary fibrosis)での治療効果を確認した結果を図7図8に示した。
【0111】
図7に示すように、Bleomycin誘導後に生じた病変組織に比べて、BleomycinとCD71LOWMSCを一緒に処理した時、組織の炎症細胞浸潤が著しく減少したことが分かった。
【0112】
また、図8に示すように、肺組織のmRNA level分析の結果、Bleomycin誘導後に生じた病変組織に比べて、BleomycinとCD71LOWMSCを一緒に処理した時、線維化(fibrosis)マーカーであるaSMA、およびcol1a1と炎症サイトカイン(proinflammatory cytokine)であるIL-6、およびIL-8の発現が著しく減少し、抗炎症サイトカイン(anti inflammation cytokine)であるIL-10の発現量は増加した。これにより、CD71の発現レベルが低いCD71LOWMSC細胞の抗線維化および抗炎症効果を確認することができた。
【0113】
上記のように、本発明により幹細胞の品質を評価して、CD71が低く発現する中間葉幹細胞は、高く発現する中間葉幹細胞より幹細胞の品質が高いと判別可能で、CD71が低く発現する中間葉幹細胞を選別して治療に用いる場合、さらに向上した幹細胞の治療効果があることを確認することができた。
【産業上の利用可能性】
【0114】
中間葉幹細胞を用いた細胞治療技術は、高純度、高品質の細胞のみを用いて適用することが重要であり、このような治療技術は、多様な炎症性疾患のような難治性疾患の治療を試みている。したがって、中間葉幹細胞治療剤に適用するための中間葉幹細胞の性能を評価するためのマーカーの必要性が台頭しているのが現状である。
【0115】
本発明の高品質の幹細胞選別用細胞表面マーカータンパク質、および前記マーカータンパク質を用いた高品質の幹細胞の選別方法は、高品質の細胞のみを効果的に選別可能なため、自己免疫疾患、移植片対宿主疾患、臓器移植拒絶反応、喘息、アトピー、特発性肺線維化症、急性炎症、および慢性炎症など免疫関連疾患の予防または治療のために活発に利用可能になると期待される。
【0116】
配列リストフリーテキスト
配列リスト1:CD71(Cluster of Differentiation71)タンパク質。
【0117】
MMDQARSAFS NLFGGEPLSY TRFSLARQVD GDNSHVEMKL AVDEEENADN NTKANVTKPK RCSGSICYGT IAVIVFFLIG FMIGYLGYCK GVEPKTECER LAGTESPVRE EPGEDFPAAR RLYWDDLKRK LSEKLDSTDF TGTIKLLNEN SYVPREAGSQ KDENLALYVE NQFREFKLSK VWRDQHFVKI QVKDSAQNSV IIVDKNGRLV YLVENPGGYV AYSKAATVTG KLVHANFGTK KDFEDLYTPV NGSIVIVRAG KITFAEKVAN AESLNAIGVL IYMDQTKFPI VNAELSFFGH AHLGTGDPYT PGFPSFNHTQ FPPSRSSGLP NIPVQTISRA AAEKLFGNME GDCPSDWKTD STCRMVTSES KNVKLTVSNV LKEIKILNIF GVIKGFVEPD HYVVVGAQRD AWGPGAAKSG VGTALLLKLA QMFSDMVLKD GFQPSRSIIF ASWSAGDFGS VGATEWLEGY LSSLHLKAFT YINLDKAVLG TSNFKVSASP LLYTLIEKTM QNVKHPVTGQ FLYQDSNWAS KVEKLTLDNA AFPFLAYSGI PAVSFCFCED TDYPYLGTTM DTYKELIERI PELNKVARAA AEVAGQFVIK LTHDVELNLD YERYNSQLLS FVRDLNQYRA DIKEMGLSLQ WLYSARGDFF RATSRLTTDF GNAEKTDRFV MKKLNDRVMR VEYHFLSPYV SPKESPFRHV FWGSGSHTLP ALLENLKLRK QNNGAFNETL FRNQLALATW TIQGAANALS GDVWDIDNEF
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
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【国際調査報告】