(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-10
(54)【発明の名称】ナラトリプタンを含む口腔内崩壊フィルム製剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/454 20060101AFI20231227BHJP
A61K 9/70 20060101ALI20231227BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20231227BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20231227BHJP
A61P 25/06 20060101ALI20231227BHJP
【FI】
A61K31/454
A61K9/70
A61K47/12
A61K47/38
A61P25/06
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023537930
(86)(22)【出願日】2021-11-30
(85)【翻訳文提出日】2023-06-20
(86)【国際出願番号】 KR2021017886
(87)【国際公開番号】W WO2022139223
(87)【国際公開日】2022-06-30
(31)【優先権主張番号】10-2020-0180144
(32)【優先日】2020-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517209422
【氏名又は名称】シーエムジー ファーマシューティカル カンパニー,リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【氏名又は名称】松田 七重
(74)【代理人】
【識別番号】100202603
【氏名又は名称】宮崎 智史
(72)【発明者】
【氏名】リ デヨン
(72)【発明者】
【氏名】ジョン ヒュンジュン
(72)【発明者】
【氏名】ナム キョンテ
(72)【発明者】
【氏名】ハン テヒ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA89
4C076BB22
4C076CC01
4C076DD43Z
4C076EE32A
4C076FF02
4C076FF33
4C076FF61
4C076FF68
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA10
4C086BC21
4C086GA07
4C086GA13
4C086MA02
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA34
4C086MA57
4C086NA03
4C086NA10
4C086NA11
4C086ZA08
4C086ZC41
(57)【要約】
本発明は、ナラトリプタンまたはその薬学的に許容される塩を含む口腔内崩壊フィルム製剤に関し、さらに詳しくは、ナラトリプタンまたはその薬学的に許容される塩及び緩衝剤を含むことを特徴とする口腔内崩壊フィルム製剤に関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)有効成分として、ナラトリプタン、スマトリプタン、エレトリプタン、フロバトリプタン、アルモトリプタン、ゾルミトリプタン、リザトリプタン、またはそれらの塩と、
b)緩衝剤とを含む、口腔内崩壊フィルム製剤。
【請求項2】
前記有効成分がナラトリプタンであることを特徴とする、請求項1に記載の口腔内崩壊フィルム製剤。
【請求項3】
溶出試験の際に、前記有効成分が5分以内に85%以上溶出されることを特徴とする、請求項1に記載の口腔内崩壊フィルム製剤。
【請求項4】
溶出試験の際に、前記有効成分が5分以内に90%以上溶出されることを特徴とする、請求項3に記載の口腔内崩壊フィルム製剤。
【請求項5】
前記緩衝剤が、クエン酸、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、酢酸、酢酸ナトリウム、リンゴ酸、グルタミン酸ナトリウム、グリシン、炭酸ナトリウム、マレイン酸、乳酸ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸一水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸一水素カリウム、またはそれらの混合物であることを特徴とする、請求項1に記載の口腔内崩壊フィルム製剤。
【請求項6】
前記緩衝剤が、クエン酸及びクエン酸ナトリウムの混合物を含み、フィルム固形分の総重量に対して、0.1~2.0重量%の前記緩衝剤を含むことを特徴とする、請求項5に記載の口腔内崩壊フィルム製剤。
【請求項7】
フィルム固形分の総重量に対して、緩衝剤として0.1~2.0重量%のクエン酸ナトリウム及び0.01~0.1重量%のクエン酸を含むことを特徴とする、請求項6に記載の口腔内崩壊フィルム製剤。
【請求項8】
加速安定性試験の際に、6ヶ月後の全ソフトマターの含有量が3%未満であることを特徴とする、請求項1に記載の口腔内崩壊フィルム製剤。
【請求項9】
加速安定性試験の際に、6ヶ月後に全ソフトマターの含有量が2%未満であることを特徴とする、請求項8に記載の口腔内崩壊フィルム製剤。
【請求項10】
前記製剤が、フィルム形成剤をさらに含む、請求項1に記載の口腔内崩壊フィルム製剤。
【請求項11】
前記フィルム形成剤が、フルラン、アルギン酸ナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースまたはそれらの混合物であることを特徴とする、請求項10に記載の口腔内崩壊フィルム製剤。
【請求項12】
前記フィルム形成剤が、ヒドロキシプロピルメチルセルロースであることを特徴とする、請求項11に記載の口腔内崩壊フィルム製剤。
【請求項13】
以下のステップを含む、ナラトリプタン、スマトリプタン、エレトリプタン、フロバトリプタン、アルモトリプタン、ゾルミトリプタン、リザトリプタンまたはその塩を有効成分として含む、口腔内崩壊フィルム製剤の製造方法:
(A)溶媒に緩衝剤を入れて混合液のpHをpH5.4~7.4に調整するステップと、
(B)前記pH調整済みの混合液に、有効成分、フィルム形成剤及び添加剤を加えて攪拌することで最終混合液を調製するステップと、
(C)最終混合液に熱を加えて乾燥することで薄膜状のフィルムを製造するステップ。
【請求項14】
前記溶媒が、水、C1-C6アルコール及びそれらの混合溶媒であることを特徴とする、請求項13に記載の口腔内崩壊フィルム製剤の製造方法。
【請求項15】
前記口腔内崩壊フィルム製剤が、偏頭痛の治療または予防を特徴とする、請求項1に記載の口腔内崩壊フィルム製剤。
【請求項16】
トピラメートを有効成分として含む他の製剤と同時にまたは時間をおいて投与することができることを特徴とする、請求項1に記載の口腔内崩壊フィルム製剤。
【請求項17】
前記2.5mgのナラトリプタンを有効成分として含む口腔内崩壊フィルムをビーグル犬に投与した場合、AUCが150~250ng・hr/mLであり、Cmaxが30~60ng/mLであることを特徴とする、請求項2に記載の口腔内崩壊フィルム製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナラトリプタンまたはその薬学的に許容される塩を含む口腔内崩壊フィルム製剤に関し、さらに詳しくは、ナラトリプタンまたはその薬学的に許容される塩及び緩衝剤を含むことを特徴とする口腔内崩壊フィルム製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
偏頭痛は、脳、脳神経及び脳血管の機能不全によって生じる頭痛の一種であり、いずれの年齢でも発生するが、10~20代に初めて発生し、40~50代が最も一般的であり、韓国では、女性の9%、男性の3%が罹患している非常に一般的な疾患である。
【0003】
偏頭痛の発生メカニズムはまだ明確には判明されていないが、セロトニン、ドーパミン、グルタミン酸などの神経伝達物質が重要な役割を果たすと考えられている。よって、セロトニン受容体に特異的に作用するトリプタン系の化合物が注目されている。
【0004】
トリプタン系化合物は、頭蓋血管のセロトニン5-HT1B及び5-HT1D受容体に選択的に結合して脳血管を収縮させる作用をする。その後、炎症促進性(pro-inflammatory)神経ペプチドの放出を阻害する作用もする。
【0005】
通常のトリプタン系化合物は、水と一緒に服用する経口用錠剤であるが、患者や子供などにとっては薬物を飲みにくいといった問題がある。そのような問題点を克服するために、近年では、水なしでも口腔で迅速に崩壊して飲み込むことができる口腔内崩壊錠(Orally Disintegrating Tablet;ODT)が開発された(特許文献1、2)。しかしながら、口腔内崩壊錠の場合、錠剤よりも服用は簡単であるものの、硬度が低いので割れやすく、賦形剤による嵩増加のため持ち運びが容易ではない。さらに、賦形剤を大量に用いると、口腔内に異物感を与える可能性がある。
【0006】
そのような口腔内崩壊錠の欠点を補い、最近では嵩と賦形剤の容量を減らしたフィルム型製剤が開発されている。口腔内崩壊フィルム(Orally Disintegrating Film;ODF)は、厚さが薄く柔軟性があるので、持ち運びが容易であり、割れ難い。また、フィルム状で表面積が広く崩壊時間が短いため、口腔内における異物感や薬物の苦味を遮蔽する。
【0007】
しかしながら、口腔内崩壊フィルムの場合、薬物、フィルム形成基剤及び他の添加物の混合物が一定の粘度を維持する必要があり、粘度を維持するためには、水または有機溶媒の量が制限されるため、一部の難溶性薬物または不水溶性薬物は、口腔内崩壊フィルムには適していない。特に、トリプタンのような有効成分は温度及び湿度に対して不安定であり、口腔内崩壊フィルム製剤として製造することが困難である。
【0008】
そこで、本発明者らは、トリプタンのような有効成分が安定して維持され、口腔内崩壊の際に有効成分が迅速に溶出して薬効を発揮することができ、フィルム製剤の保管中でも析出などの副作用が発生しない優れたフィルム製剤を開発し、本発明の完成に至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】韓国登録特許第10-1626873号公報
【特許文献2】韓国公開特許第10-2001-0107754号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、一般的な経口投与用製剤と比較して、水なしでも服用することができ、服薬の利便性を高めた口腔内崩壊フィルム製剤に関し、さらにその目的は、従来公知の口腔内崩壊製剤と比較して、安定性及び溶出率などの製剤学的特性の改善された、口腔内崩壊フィルム製剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、本発明は、有効成分としてナラトリプタン、スマトリプタン、エレトリプタン、フロバトリプタン、アルモトリプタン、ゾルミトリプタン、リザトリプタン、またはそれらの塩、及び緩衝剤を含む口腔内崩壊フィルム製剤を提供する。
【0012】
一実施形態において、前記有効成分は、ナラトリプタンであることを特徴とする口腔内崩壊フィルム製剤であってもよい。
【0013】
一実施形態において、前記製剤は、溶出試験の際に、前記有効成分が5分以内に85%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上溶出されることを特徴とする口腔内崩壊フィルム製剤であってもよい。
【0014】
前記緩衝剤は、クエン酸、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、酢酸、酢酸ナトリウム、リンゴ酸、グルタミン酸ナトリウム、グリシン、炭酸ナトリウム、マレイン酸、乳酸ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸一水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸一水素カリウム、またはそれらの混合物であってもよいが、それらに限定されるものではない。
【0015】
一実施形態において、前記緩衝剤は、クエン酸及びクエン酸ナトリウムの混合物を含み、フィルム固形分の総重量に対して、0.1~2.0重量%の前記緩衝剤を含んでもよい。
【0016】
一実施形態において、フィルム固形分の総重量に対して、前記緩衝剤として0.1~2.0重量%のクエン酸ナトリウム及び0.01~0.1重量%のクエン酸を含んでもよい。
【0017】
前記「フィルム固形分の総重量」とは、前記フィルム製剤において、溶剤を除いた界面活性剤、結合剤、可塑剤、崩壊剤、甘味剤、着香剤、着色剤などの固形成分重量の総和をいう。
【0018】
本発明は、加速安定性試験の際に、6ヶ月後の全ソフトマターの含有量が3%未満、より好ましくは2%未満、最も好ましくは1%未満である口腔内崩壊フィルム製剤を提供する。
【0019】
一実施形態において、前記製剤はフィルム形成剤をさらに含んでもよい。前記フィルム形成剤は、フルラン、アルギン酸ナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースまたはそれらの混合物であってもよく、好ましくは、ヒドロキシプロピルメチルセルロースであってもよいが、それらに限定されるものではない。
【0020】
さらに、本発明は、(A)溶媒に緩衝剤を入れて混合液のpHをpH5.4~7.4に調整するステップと、(B)前記pH調整済みの混合液に、有効成分、フィルム形成剤及び添加剤を加えて攪拌することで最終混合液を調製するステップと、(C)最終混合液に熱を加えて乾燥することで薄膜状のフィルムを製造するステップとを含む、ナラトリプタン、スマトリプタン、エレトリプタン、フロバトリプタン、アルモトリプタン、ゾルミトリプタン、リザトリプタン、またはそれらの塩を有効成分として含む口腔内崩壊フィルム製剤の製造方法を提供する。
【0021】
一実施形態において、前記溶媒は、水、C1-C6アルコール及びそれらの混合溶媒であってもよく、好ましくは30~90%のエタノール水溶液であり、より好ましくは50~80%のエタノール水溶液であってもよいが、それらに限定されるものではない。
【0022】
本発明の口腔内崩壊フィルム製剤は、偏頭痛の治療または予防に用いることができる。
【0023】
本発明の口腔内崩壊フィルム製剤は、トピラメートを有効成分として含む他の製剤と同時にまたは時間をおいて投与することができる。
【0024】
また、2.5mgのナラトリプタンを有効成分として含む本発明の口腔内崩壊フィルムをビーグル犬に投与した場合、AUCが150~250ng・hr/mLであり、Cmaxが30~60ng/mLであってもよい。
【発明の効果】
【0025】
本発明のナラトリプタンを含む口腔内崩壊フィルム製剤は、口腔内崩壊の際に迅速に崩壊するので、速やかな薬効発現が可能であり、長期間(6ヶ月以上)の加速試験においても安定性を維持する。よって、偏頭痛を患っている患者が水なしでも服用することができるので、服用の利便性が向上し、症状が出たときに直ちに服用できるように携帯しやすいため、患者が有用に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】実施例1のナラトリプタンフィルム製剤のpHによる溶出率グラフである。
【
図2】対照薬(ナラミグ錠)と実施例1のフィルム製剤の加速試験結果を示す図である。
【
図3】実施例1及び比較例1のフィルム製剤の加速試験結果を示す図である。
【
図4】実施例1、並びに比較例4及び5のフィルム製剤の2週間の加速試験結果を示す図である。
【
図5】実施例1、並びに比較例4及び5のフィルム製剤の2ヶ月間の加速試験結果を示す図である。
【
図6】乾燥した後のフィルムの性状を示す図である。
【
図7】乾燥した後のフィルムの性状を示す図である。
【
図8】乾燥した後のフィルムの性状を示す図である。
【
図9】乾燥した後のフィルムの性状を示す図である。
【
図10】緩衝剤濃度による加速試験結果を示す図である。
【
図11】ナラトリプタンフィルムに対する動物実験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、添付図面を参照して、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施できるように、本願の実施形態及び実施例について詳しく説明する。しかしながら、本願は、様々な形態で実施され得るので、以下に説明する実施形態及び実施例に限定されるものではない。
【0028】
本願明細書全体において、ある部分がある構成要素を「含む」という場合、これは特に断らない限り、他の構成要素を除外するのではなく、他の構成要素をさらに含んでもよいことを意味する。
【0029】
本発明は、有効成分としてナラトリプタン、スマトリプタン、エレトリプタン、フロバトリプタン、アルモトリプタン、ゾルミトリプタン、リザトリプタン、またはそれらの塩と、緩衝剤とを含む口腔内崩壊フィルム製剤に関する。
【0030】
前記有効成分として、ナラトリプタン、スマトリプタン、エレトリプタン、フロバトリプタン、アルモトリプタン、ゾルミトリプタン、リザトリプタンはトリプタン系化合物であり、トリプタン系化合物そのものだけでなく、トリプタンの溶媒和物または水和物のいずれも本発明の範囲に属する。トリプタン系化合物は、セレトニンに選択的なアゴニストであり、5-HT1B1Dにアゴニストとして用いることができるが、偏頭痛、急発性偏頭痛または群発性偏頭痛に用いられ、薬物の投与量が少なく、フィルム製剤に適した薬物である。
【0031】
前記「塩」は、患者に非毒性で無害であり、その塩に起因する副作用が本発明の化合物の有益な効力を低下させない任意の酸付加塩または塩基付加塩であってもよい。適切な塩を形成する無機酸には、塩酸、リン酸、硫酸、硝酸、酒石酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、亜硝酸、または亜リン酸などがあり、適切な塩を形成する有機酸は、グリコール酸、ラクト酸、ピルビン酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、リンゴ酸、タータル酸、シトリック酸、アスコルビン酸、マレイン酸、安息香酸、フェニル酢酸、ケイ皮酸、サリチル酸、ニコチン酸、トシル酸、カンポスルホン酸、ナフト酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、シュウ酸、マンデル酸、プロピオン酸、クエン酸、乳酸、グルコン酸、ガラクツロン酸、グルタミン酸、グルタル酸、グルクロン酸、アスパラギン酸、カーボン酸、バニリック酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、またはメタンスルホン酸などが挙げられるが、それらに限定されるものではない。
【0032】
前記「口腔内崩壊フィルム(orally dissolving film;ODF)」は、口腔溶解フィルム(oral disintegrating film)またはストリップ(strip)とも呼ばれ、口腔(oral cavity)内で崩壊、分散など溶解させて服用できるフィルム製剤を言う。そのようなフィルム製剤は、舌の上に置いて溶かすことになるが、口蓋、舌下、頬側(buccal)などに付着することで投与してもよい。本発明に係るフィルム製剤は、水なしで服用可能という利点を有する。
【0033】
前記「薬物動態パラメータ(pharmacokinetics parameter)」は、薬物の吸収、分布、代謝、排泄を経時的な体内の薬物濃度の変化によって判断する基準を指す。これは、投与された薬物の血中濃度と時間との関係を示すグラフであり、描かれた曲線と横軸に囲まれた部分の面積を意味する曲線下面積(area under the curve;AUC)、及び薬物を投与した後と2回目の投与前とにおいて、体内の特定の区画または試験区域で薬物が達成する最大濃度または最大値を意味する最高血漿中濃度(maximum plasma concentration;Cmax)を含む。
【0034】
前記「緩衝剤」は、pH調整剤であり、酸、塩基、塩類などを含み、例えば、クエン酸、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、酢酸、酢酸ナトリウム、リンゴ酸、グルタミン酸ナトリウム、グリシン、炭酸ナトリウム、マレイン酸、乳酸ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸一水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸一水素カリウム、またはそれらの混合物などが挙げられるが、それらに限定されるものではない。本発明の好ましい緩衝剤は、クエン酸、クエン酸ナトリウムまたはそれらの混合物であってもよい。
【0035】
一実施形態において、本発明の緩衝剤は、フィルム固形分の総重量に対して、0.1~2.0重量%のクエン酸ナトリウム、及び0.01~0.1重量%のクエン酸を含んでもよい。
【0036】
本発明のフィルム製剤は、加速安定性試験の際に、6ヶ月後の全ソフトマターの含有量が3%未満、好ましくは2%未満、さらに好ましくは1%未満であってもよい。
【0037】
本発明のフィルム製剤は、フィルム形成剤をさらに含んでもよい。
【0038】
「フィルム形成剤」とは、口腔内崩壊フィルム製剤を形成させる高分子を意味し、フルラン、アルギン酸ナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、及びヒドロキシプロピルメチルセルロースからなる群から選択される少なくとも1種であってもよい。本発明の好ましいフィルム形成剤は、ヒドロキシプロピルメチルセルロースであるが、それに限定されるものではない。
【0039】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、下記の実施例は説明を目的とするものに過ぎず、本願発明の範囲を限定しようとする意図ではない。
【実施例】
【0040】
実施例フィルム製剤の製造
下記表1の組成に従い、実施例1~6のフィルム製剤を以下のように製造した。
【0041】
調製容器に精製水及び緩衝剤を入れ、主成分であるナラトリプタン塩酸塩を加え、その後、撹拌して溶液のpHを5.4~7.4の範囲に調整した。調製容器に残りの添加剤を入れて均質な液になるまで撹拌し、それをフィルム製造液として用いた。
【0042】
前記調製されたフィルム製造液をOHPフィルムに注ぎ、フィルムアプリケーターでキャストし、その後、70℃以上の温度で乾燥し、OHPフィルムと分離することでナラトリプタン塩酸塩を含むフィルムを得た。フィルムを1枚サイズに裁断し、その後、アルミニウム包装紙で包装した。
【0043】
【0044】
[比較例1~5]
比較例フィルム製剤の製造1
実施例1~6と同様のステップにより、下記表2の組成に従い、比較例1~5のフィルム製剤を製造した。
【0045】
【0046】
[比較例6~8]
比較例フィルム製剤の製造2
実施例1~6と同様のステップにより、下記表3の組成に従い、比較例6~8のフィルム製剤を製造した。
【0047】
【0048】
[実験例1]
ナラトリプタンフィルム4液の溶出試験
実施例1のフィルム製剤で以下の条件及び方法に従い、溶出試験を行った。具体的な溶出率の測定方法と条件は、大韓民国食品医薬品安全処で認めた試験方法に従って以下のように設定した。
【0049】
(1)検液の調製
実施例1で製造したフィルム1枚及び試験液で、pH1.2、pH4.0、pH6.8、DW900mLを用いて大韓民国薬典第11改正溶出試験法第4法に従い、37.0±0.5℃下、毎分50回転でディスクを用いてテストした。
【0050】
溶出試験開始5分、10分、15分、30分後に溶出液6mLをそれぞれ取り、0.45μmのメンブレンフィルターでろ過した液を検液とした。
【0051】
(2)操作条件
検出器:高性能液体クロマトグラフィー(測定波長:224nm)
カラム:C18(4.6mm×15cm、5μm)
移動相:イソプロピルアルコール:溶液A*(1:9)
*溶液A:0.6mLのリン酸を水900mLに希釈し、その後、その液にトリエチルアミンを加えてpH2.5に調整する。
流量:1.0mL/min
【0052】
【0053】
【0054】
表4及び
図1に示すように、5分以内に95%以上のナラトリプタンが溶出されることを確認した。口腔内崩壊フィルムは迅速に放出されることが重要であるが、実施例1の製剤は全てのpHにおいて前記条件を満たす優れた効果を有することが分かる。
【0055】
[実験例2]
安定性比較実験1
対照薬としてナラミグ錠及び実施例1及び2のフィルム製剤で以下の方法に従い、安定性実験を行った。
【0056】
加速チャンバー(温度40℃、湿度75%、アルミニウム四重包装)に2ヶ月間保管したサンプルで発生したソフトマターを測定した。その結果を下記表5及び
図2に示す。操作条件は以下の通りである。
【0057】
検出器:高性能液体クロマトグラフィー(測定波長:225nm)
カラム:フェニル基(4.6mm×15cm、5μm)
移動相:
**溶液A:第1リン酸アンモニウム(monobasic ammonium phosphate)5.75gを水に溶かして1Lにし、リン酸を加えてpH3.00±0.05に調整する。
流量:1.3mL/min
【0058】
【0059】
表5及び
図2に示すように、対照薬は、初期ソフトマターの量が0.31%であり、実施例1のフィルムは0.07%であって、対照薬に対してソフトマターの量が4倍少なかった。また、2ヶ月加速実験後も実施例1及び実施例2のフィルムは0.2%であり、対照薬に比べてソフトマターの量が少なかった。結局、実施例1及び実施例2のフィルム製剤が著しく優れた安定性を有することが分かる。
【0060】
[実験例4]
安定性比較実験2
比較例1のフィルム製剤と実施例1のフィルム製剤の安定性試験を以下のように行った。
【0061】
加速チャンバー(温度40℃、湿度75%、アルミニウム四重包装)に1ヶ月間保管したサンプルで発生したソフトマターを測定した。その結果を下記表6及び
図3に示す。操作条件は実験例3と同じである。
【0062】
【0063】
表6及び
図4に示すように、比較例1のフィルムは、初期ソフトマターの量が0.07%であり、実施例1のフィルムは0.30%であって、比較例1のフィルムと比較してソフトマターの量が4倍少なかった。また、1ヶ月加速実験後、比較例1のフィルムは0.57であり、実施例1のフィルムは0.12%であって、比較例1のフィルムと比較してソフトマターの量が4~5倍少なかった。
【0064】
結局、緩衝剤システムを有する実施例1のフィルム製剤が著しく優れた安定性を有することが分かる。
【0065】
[実験例5]
安定性比較実験3
比較例2のフィルム(酸性)、比較例3のフィルム(塩基性)、及び実施例1のフィルム(クエン酸緩衝剤)に対して、6ヶ月加速試験を行った。
【0066】
その結果を下記表7に示す。
【0067】
【0068】
表7に示すように、実施例1のフィルムは、比較例2及び3のフィルムと比較してソフトマターの量が非常に少なく、著しく優れた安定性を有することが分かった。特に、加速6ヶ月目、実施例1のフィルムはソフトマターの量が0.39%であり、比較例2及び3のフィルムはそれぞれソフトマターの量が3.58%及び4.24%であって、実施例1のフィルムと比較して10倍も多いことが分かる。
【0069】
結局、中性の緩衝剤を用いた実施例1のフィルムが優れた安定性を有することが確認された。
【0070】
[実験例6]
安定性比較実験4
比較例4(リン酸二水素ナトリウム(NaH2PO4)及びリン酸一水素ナトリウム(Na2HPO4))と、比較例5(リン酸二水素カリウム(KH2PO4)及びリン酸一水素カリウム(K2HPO4))フィルムと、実施例2(クエン酸緩衝剤)フィルムとに対して、加速試験を行った。
【0071】
その結果、
図4及び
図5に示すように、実施例1のフィルムが比較例4及び5のフィルムと比較して優れた安定性を示すことが分かった。
【0072】
[実験例7]
緩衝剤濃度による性状の比較
実施例1のフィルム製剤を、緩衝剤の濃度を0.5、1、2、3及び3.6倍にして製造し、その後、それぞれ80℃及び90℃で12分間乾燥したときのフィルムの形状を観察した(1倍=0.05M)。その結果を下記表8、9及び
図6、7に示す。
【0073】
【0074】
【0075】
前記表に示すように、緩衝剤の濃度が2倍以上から結晶が析出することを確認した。
【0076】
さらに、実施例1のフィルム製剤を、緩衝剤の濃度1.25、1.5及び1.75倍として製造し、その後、それぞれ80℃及び90℃で12分間乾燥したときのフィルムの形状を観察した。
【0077】
【0078】
【0079】
【0080】
前記表に示すように、緩衝剤の濃度が1.25倍になるまでは結晶が析出しないことを確認した。
【0081】
[実験例8]
緩衝剤濃度による安定性比較実験
実施例1のフィルム製剤を、緩衝剤の濃度を0.75、1及び1.25倍にして製造し、その後、安定性試験を行った。
【0082】
その結果、
図10に示すように、濃度ごとに安定性の差がないことを確認し、緩衝剤の濃度が1.25倍になるまでは安定性に優れることが分かる。
【0083】
[実験例9]
ナラトリプタンフィルムに対する動物実験
対照薬としてナラミグ錠、併用投与薬としてトパマックス錠、実施例1のフィルム製剤で以下の方法に従い、動物実験を行った。
【0084】
G1は、ビーグル犬に対照薬(ナラミグ錠)を1錠投与し、G2は、ビーグル犬に実施例1のフィルムを1枚投与し、G3は、ナラトリプタンとトピラメート薬物の相互作用を確認するために、ビーグル犬に実施例1のフィルム1枚と、トパマックス錠を1錠投与した。
【0085】
ビーグル犬に投与開始後の0、15分、30分、1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、8時間、12時間、24時間に血液を採取して、薬物の血漿中濃度を測定した。
【0086】
薬物の血漿中濃度を測定し、薬物動態パラメータを算出した。その結果を下記表12に示す。
【0087】
【0088】
表12に示すように、G1群とG2群のAUC、Tmax、及びCmaxは同等であると評価された。よって、対照薬と実施例1の両方共に製剤の薬物効果発現時間、最大濃度、及び生物学的利用能は同等であることが分かる。また、G1群(実施例1)とG3群(実施例1+併用投与薬)の場合でも、AUC、Tmax、及びCmaxは同等であると評価された。口腔内崩壊フィルムの併用投与時に、単独投与時と同様に80~125%の信頼区間で適合するので同等であると評価され、ナラトリプタンとトピラメート薬物の相互作用がないことを確認した。
【国際調査報告】