IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ コーネル ユニヴァーシティーの特許一覧

特表2024-500879双性イオン性脂質ナノ粒子組成物およびその使用方法
<>
  • 特表-双性イオン性脂質ナノ粒子組成物およびその使用方法 図1
  • 特表-双性イオン性脂質ナノ粒子組成物およびその使用方法 図2
  • 特表-双性イオン性脂質ナノ粒子組成物およびその使用方法 図3
  • 特表-双性イオン性脂質ナノ粒子組成物およびその使用方法 図4
  • 特表-双性イオン性脂質ナノ粒子組成物およびその使用方法 図5
  • 特表-双性イオン性脂質ナノ粒子組成物およびその使用方法 図6
  • 特表-双性イオン性脂質ナノ粒子組成物およびその使用方法 図7
  • 特表-双性イオン性脂質ナノ粒子組成物およびその使用方法 図8
  • 特表-双性イオン性脂質ナノ粒子組成物およびその使用方法 図9
  • 特表-双性イオン性脂質ナノ粒子組成物およびその使用方法 図10
  • 特表-双性イオン性脂質ナノ粒子組成物およびその使用方法 図11
  • 特表-双性イオン性脂質ナノ粒子組成物およびその使用方法 図12
  • 特表-双性イオン性脂質ナノ粒子組成物およびその使用方法 図13
  • 特表-双性イオン性脂質ナノ粒子組成物およびその使用方法 図14
  • 特表-双性イオン性脂質ナノ粒子組成物およびその使用方法 図15
  • 特表-双性イオン性脂質ナノ粒子組成物およびその使用方法 図16
  • 特表-双性イオン性脂質ナノ粒子組成物およびその使用方法 図17
  • 特表-双性イオン性脂質ナノ粒子組成物およびその使用方法 図18
  • 特表-双性イオン性脂質ナノ粒子組成物およびその使用方法 図19
  • 特表-双性イオン性脂質ナノ粒子組成物およびその使用方法 図20
  • 特表-双性イオン性脂質ナノ粒子組成物およびその使用方法 図21
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-10
(54)【発明の名称】双性イオン性脂質ナノ粒子組成物およびその使用方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7088 20060101AFI20231227BHJP
   A61K 9/51 20060101ALI20231227BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20231227BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20231227BHJP
   A61K 31/713 20060101ALI20231227BHJP
   A61K 31/7105 20060101ALI20231227BHJP
   A61K 47/28 20060101ALI20231227BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20231227BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20231227BHJP
   A61K 35/76 20150101ALN20231227BHJP
【FI】
A61K31/7088
A61K9/51
A61K47/34
A61K47/24
A61K31/713
A61K31/7105
A61K47/28
A61K48/00
A61P37/04
A61K35/76
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023537964
(86)(22)【出願日】2021-12-21
(85)【翻訳文提出日】2023-08-10
(86)【国際出願番号】 US2021064639
(87)【国際公開番号】W WO2022140404
(87)【国際公開日】2022-06-30
(31)【優先権主張番号】63/129,343
(32)【優先日】2020-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508298488
【氏名又は名称】コーネル ユニヴァーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(74)【代理人】
【識別番号】100216105
【弁理士】
【氏名又は名称】守安 智
(72)【発明者】
【氏名】スージン・ルオジョン
(72)【発明者】
【氏名】ゼファン・ユエン
(72)【発明者】
【氏名】シャオイー・ジァン
(72)【発明者】
【氏名】シャオラン・フー
(72)【発明者】
【氏名】ショーン・ベイリー
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4C076AA65
4C076AA95
4C076DD63
4C076DD70
4C076EE17
4C076EE41
4C084AA13
4C084NA13
4C084ZB09
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA03
4C086MA05
4C086NA13
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087NA13
4C087ZB09
(57)【要約】
(i)脂質部分が双性イオン性ポリマーに共有結合している少なくとも1つの双性イオン性ポリマー含有脂質;(ii)荷電脂質および非荷電脂質から選択されるが、ポリマーに結合していない少なくとも1つの非カチオン性脂質;(iii)少なくとも1つのカチオン性またはイオン化可能脂質;および(iv)少なくとも1つの治療物質、ならびに場合により(v)コレステロールまたはその誘導体を含む、脂質ナノ粒子組成物。本明細書にはまた、治療物質を対象に送達する方法が記載されており、この方法は、上記の脂質ナノ粒子組成物を対象に投与することを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂質ナノ粒子組成物であって:
(i)脂質部分が双性イオン性ポリマーに共有結合している、少なくとも1つの双性イオン性ポリマー含有脂質;
(ii)荷電脂質および非荷電脂質から選択される少なくとも1つの非カチオン性脂質であって、ポリマーに結合していない、非カチオン性脂質;
(iii)第二級、第三級、または第四級アミノ基を含む少なくとも1つのカチオン性またはイオン化可能脂質、および
(iv)少なくとも1つの治療物質
を含む、脂質ナノ粒子組成物。
【請求項2】
構成要素(i)の前記脂質部分がジアシルグリセリドである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
構成要素(i)がポリアルキレンオキシドセグメントを含まない、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
構成要素(i)の前記双性イオン性ポリマーが、ポリ(カルボキシベタイン)(PCB)、ポリ(スルホベタイン)、ポリ(ホスホベタイン)、ポリ(ホスファチジルコリン)、グルタミン酸-リジン(EK)含有ポリペプチド、ポリ(トリメチルアミンN-オキシド)ポリマーおよびポリ(双性イオン性ホスファチジルセリン)からなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
構成要素(i)の前記双性イオン性ポリマーがベタインポリマーである、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記ベタインポリマーがポリ(カルボキシベタイン)、ポリ(スルホベタイン)またはポリ(ホスホベタイン)ポリマーである、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
構成要素(ii)の前記非カチオン性脂質が双性イオン性部分を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記双性イオン性部分が、ホスホベタイン、ホスファチジルコリン、カルボキシベタイン、スルホベタイン、トリメチルアミンN-オキシド、グルタミン酸-リジン(EK)含有ペプチド、または双性イオン性ホスファチジルセリン部分からなる群から選択される、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記非カチオン性脂質が、ジオレオイルホスファチジルグリセロール(DOPG)、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール(DPPG)、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、パルミトイルオレオイル-ホスファチジルエタノールアミン(POPE)、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン(DPPE)、ジミリストイルホスホエタノールアミン(DMPE)、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(DSPE)、16-O-モノメチル-ホスホエタノールアミン、16-O-ジメチル-ホスホエタノールアミン、18-1-trans-ホスホエタノールアミン、1-ステアロイル-2-オレオイルホスファチジルエタノールアミン(SOPE)、および1,2-ジオレオイル-snグリセロ-3-ホスホエタノールアミン(transDOPE)からなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
構成要素(ii)がポリアルキレンオキシドセグメントを含まない、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
構成要素(ii)の前記非カチオン性脂質がリン脂質である、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
前記リン脂質がホスファチジルセリン脂質である、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
構成要素(iii)の前記カチオン性またはイオン化可能脂質が、第二級、第三級または第四級アミノ基を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項14】
構成要素(iii)の前記カチオン性またはイオン化可能脂質が、生理的条件下で負に荷電する官能基と共に、第二級、第三級、または第四級基を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項15】
前記カチオン性またはイオン化可能な脂質が:
【化1】
[式中、
/R=Hまたはアルキル基であり、前記アルキル基は飽和、不飽和、分枝鎖、および/または非分枝鎖であることができ、限定されるものではないが、N、O、F、Si、P、S、Cl、Br、およびFを含む、1つまたはそれ以上のヘテロ原子をさらに含むことができ;
Lは、NとAとの間に共有結合性リンカー基を含み、前記共有結合性リンカー基は、-CH-、-CHCH(OH)-、-CHCHClCH-、-CHOCH-、-CHSCH-、-CHSSCH-、-CHCOOCH-、C、Hのうちの1つまたはそれ以上を含んでいてもよく、限定されるものではないが、N、O、F、Si、P、S、Cl、Br、およびFを含む、1つまたはそれ以上のヘテロ原子をさらに含むことができ;
A-(X)nは、特定のpH条件下で負に荷電する官能基であり、以下を含むことができる:
(i)A(X)nは、カルボン酸基(A=-COOHおよびn=0)または
(ii)A(X)nはリン酸基であり、ここでA=
【化2】
およびn=1であり、X=H、または飽和もしくは不飽和、分枝鎖もしくは非分枝鎖、全炭素、または限定されるものではないが、N、O、F、Si、P、S、Cl、Br、およびF等のヘテロ原子を含むアルキル基であるか、または
(iii)A(X)nは、スルホン酸基であり、ここで、A=
【化3】
およびn=0であり、
(iv)A(X)nは、スルホンアミド基であり、ここで、A=
【化4】
およびn=1であり、X=H、または飽和もしくは不飽和、分枝鎖もしくは非分枝鎖、全炭素および水素、または限定されるものではないが、N、O、F、Si、P、S、Cl、Br、およびF等のヘテロ原子を含むアルキル基である]
を含む、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
前記官能基が、以下:
【化5】
からなる群から選択され、
n=1~10である、請求項14に記載の組成物。
【請求項17】
構成要素(iii)の前記カチオン性またはイオン化可能脂質が、ポリアルキレンオキシドセグメントを含まない、請求項1に記載の組成物。
【請求項18】
前記脂質ナノ粒子組成物が:(v)コレステロールまたはその誘導体をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項19】
構成要素(iv)の前記治療物質が核酸分子である、請求項1に記載の組成物。
【請求項20】
前記核酸分子がRNAである、請求項19に記載の組成物。
【請求項21】
前記RNAがmRNAである、請求項20に記載の組成物。
【請求項22】
前記RNAがウイルスmRNAである、請求項20に記載の組成物。
【請求項23】
前記RNAが、メッセンジャーRNA(mRNA)、低分子干渉RNA(siRNA)、マイクロRNA(miRNA)、環状RNA(circRNA)、長鎖ノンコーディングRNA(lncRNA)、アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)、CRISPR関連RNA、CasヌクレアーゼmRNA、ガイドRNA、シングルガイドRNA、およびその組合せからなる群から選択される、請求項20に記載の組成物。
【請求項24】
前記治療物質がウイルスのスパイクタンパク質である、請求項20に記載の組成物。
【請求項25】
対象に治療物質を送達する方法であって:
(i)脂質部分が双性イオン性ポリマーに共有結合している少なくとも1つの双性イオン性ポリマー含有脂質;
(ii)荷電脂質および非荷電脂質から選択される少なくとも1つの非カチオン性脂質であって、ポリマーに結合していない、非カチオン性脂質;
(iii)第二級、第三級、または第四級アミノ基を含む少なくとも1つのカチオン性またはイオン化可能脂質、および
(iv)少なくとも1つの治療物質
を含む脂質ナノ粒子組成物を前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項26】
前記脂質ナノ粒子組成物が前記対象の細胞に送達される、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記治療物質が核酸分子であり、その投与により前記対象の遺伝子治療がもたらされる、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
前記治療物質が核酸分子であり、その投与が前記対象のワクチン接種をもたらす、請求項25に記載の方法。
【請求項29】
構成要素(i)の前記脂質部分がジアシルグリセリドである、請求項25に記載の方法。
【請求項30】
構成要素(i)がポリアルキレンオキシドセグメントを含まない、請求項25に記載の方法。
【請求項31】
構成要素(i)の前記双性イオン性ポリマーが、ポリ(カルボキシベタイン)(PCB)、ポリ(スルホベタイン)、ポリ(双性イオン性ホスホベタイン)、グルタミン酸-リジン(EK)含有ポリペプチド、ポリ(ホスファチジルコリン)、およびポリ(トリメチルアミンN-オキシド)ポリマーからなる群から選択される、請求項25に記載の方法。
【請求項32】
構成要素(i)の前記双性イオン性ポリマーがベタインポリマーである、請求項25に記載の方法。
【請求項33】
前記ベタインポリマーがカルボキシベタインポリマーである、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
構成要素(ii)の前記非カチオン性脂質が双性イオン性部分を含む、請求項25に記載の方法。
【請求項35】
前記双性イオン性部分が、ホスホベタイン、ホスファチジルコリン、カルボキシベタイン、スルホベタイン、トリメチルアミンN-オキシド、グルタミン酸-リジン(EK)含有ペプチド、または双性イオン性ホスファチジルセリン部分からなる群から選択される、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記非カチオン性脂質が、ジオレオイルホスファチジルグリセロール(DOPG)、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール(DPPG)、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、パルミトイルオレオイル-ホスファチジルエタノールアミン(POPE)、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン(DPPE)、ジミリストイルホスホエタノールアミン(DMPE)、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(DSPE)、16-O-モノメチル-ホスホエタノールアミン、16-O-ジメチル-ホスホエタノールアミン、18-1-trans-ホスホエタノールアミン、1-ステアロイル-2-オレオイルホスファチジルエタノールアミン(SOPE)、および1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(transDOPE)からなる群から選択される、請求項25に記載の方法。
【請求項37】
構成要素(ii)がポリアルキレンオキシドセグメントを含まない、請求項25に記載の方法。
【請求項38】
構成要素(ii)の前記非カチオン性脂質がリン脂質である、請求項25に記載の方法。
【請求項39】
前記リン脂質がホスファチジルセリン脂質である、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記カチオン性またはイオン化可能脂質が第二級、第三級または第四級アミノ基を有する、請求項25に記載の方法。
【請求項41】
前記カチオン性またはイオン化可能脂質がポリアルキレンオキシドセグメントを含まない、請求項25に記載の方法。
【請求項42】
前記脂質ナノ粒子組成物が:(v)コレステロールまたはその誘導体をさらに含む、請求項25に記載の方法。
【請求項43】
前記治療物質が核酸分子である、請求項25に記載の方法。
【請求項44】
前記核酸分子がRNAである、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記RNAがmRNAである、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記RNAが、メッセンジャーRNA(mRNA)、低分子干渉RNA(siRNA)、マイクロRNA(miRNA)、環状RNA(circRNA)、長鎖ノンコーディングRNA(lncRNA)、アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)、ウイルスmRNA、CRISPR RNA、CasヌクレアーゼmRNA、ガイドRNA、シングルガイドRNA、およびその組合せからなる群から選択される、請求項44に記載の方法。
【請求項47】
前記治療物質がウイルスのスパイクタンパク質である、請求項25に記載の方法。
【請求項48】
脂質組成物であって、生理的条件下で負に荷電する官能基と共に、第二級、第三級、または第四級アミン基に結合した脂質部分を含む、脂質組成物。
【請求項49】
請求項15に記載の脂質部分を含む、脂質組成物。
【請求項50】
請求項16に記載の脂質部分を含む、脂質組成物。
【請求項51】
対象の二次リンパ系臓器(SLO)への治療薬の標的化送達のための方法であって:
ホスホセリン含有脂質(PS)をさらに含む請求項1~24のいずれか1項に記載の脂質ナノ粒子組成物を得ること;および
有効量の前記脂質ナノ粒子組成物を前記対象に投与すること;を含み、
前記治療薬が、前記対象の前記二次リンパ器官(SLO)に標的化されている、方法。
【請求項52】
前記治療剤が核酸分子を含む、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
前記ホスホセリン含有脂質が、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-L-セリン(DOPS)、天然に存在するPS-脂質、L-α-ホスファチジルセリン、および/または双性イオン性PS-脂質からなる群から選択される、請求項51に記載の方法。
【請求項54】
前記SLOが脾臓およびリンパ節から選択される、請求項51に記載の方法。
【請求項55】
前記治療剤の標的化送達が、癌免疫療法、自己免疫疾患免疫療法、ワクチン接種および/または遺伝子編集を実行する、請求項51に記載の方法。
【請求項56】
対象のマクロファージへの治療剤の標的化送達のための方法であって:
ホスホセリン含有脂質(PS)をさらに含む請求項1~24のいずれか1項に記載の脂質ナノ粒子組成物を得ること;および
有効量の前記脂質ナノ粒子組成物を前記対象に投与することを含み;
前記治療剤が、前記対象のマクロファージに標的化されている、方法。
【請求項57】
前記治療剤が核酸分子を含む、請求項56に記載の方法。
【請求項58】
前記ホスホセリン含有脂質が、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-L-セリン(DOPS)、天然に存在するPS-脂質、L-α-ホスファチジルセリン、および/または双性イオン性PS-脂質からなる群から選択される、請求項56に記載の方法。
【請求項59】
前記治療剤が前記対象のマクロファージに標的化され、それにより前記治療薬が脾臓および/またはリンパ節にさらに標的化されている、請求項56に記載の方法。
【請求項60】
前記治療剤の前記標的化送達が、癌免疫療法、自己免疫疾患免疫療法、ワクチン接種、および/または遺伝子編集を実行する、請求項56に記載の方法。
【請求項61】
対象の二次リンパ系器官(SLO)への治療薬の標的化送達のための方法であって:
ホスホセリン含有脂質(PS)をさらに含む脂質ナノ粒子組成物を得ること;および
前記対象に有効量の前記脂質ナノ粒子組成物を投与すること;を含み、
前記治療剤が、前記対象の二次リンパ器官(SLO)に標的化されている、方法。
【請求項62】
対象の二次リンパ系器官(SLO)への治療剤の標的化送達のための方法であって:
ホスホセリン含有脂質(PS)をさらに含む請求項48~50のいずれか1項に記載の脂質ナノ粒子組成物を得ること;および
有効量の前記脂質ナノ粒子組成物を前記対象に投与することを含み;
前記治療剤が、前記対象の二次リンパ器官(SLO)に標的化されている、方法。
【請求項63】
対象のマクロファージに治療剤を標的化送達するための方法であって:
ホスホセリン含有脂質(PS)をさらに含む脂質ナノ粒子組成物を得ること;および
前記対象に有効量の前記脂質ナノ粒子組成物を投与することを含み;
前記治療剤が、対象のマクロファージに標的化されている、方法。
【請求項64】
対象のマクロファージに治療薬を標的化送達するための方法であって:
ホスホセリン含有脂質(PS)をさらに含む請求項48~50のいずれか1項に記載の脂質ナノ粒子組成物を得ること;および
有効量の前記脂質ナノ粒子組成物を前記対象に投与することを含み;
前記治療剤が、前記対象のマクロファージに標的化されている、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本出願は、2020年12月22日に出願された米国仮出願第63/129,343号からの優先権の利益を主張するものであり、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
政府支援
本発明は、全米科学財団から授与された助成金番号2002940および2103295の政府支援を受けてなされた。政府は本発明において一定の権利を有する。
【0003】
本発明は一般的に、核酸等の治療剤の封入および送達のための双性イオン性脂質ナノ粒子(LNP)製剤に関する。本発明は、より具体的には、遺伝子治療等により様々な疾患または障害を治療するための治療剤の送達のため、または対象にワクチン接種するための、そのようなLNP製剤、特にその非PEG化バージョンの使用に関する。
【背景技術】
【0004】
DNA、siRNAおよびmRNA等の核酸のin vivo送達は、ワクチン接種、酵素補充療法、および遺伝性疾患の治療に革命をもたらす可能性を有する。ウイルスベクターと比較して、脂質ナノ粒子送達プラットフォームは安全性の問題が少ないと考えられている。2018年に最初のLNP-siRNA薬剤がFDAに承認されて以来、ますます多くの脂質ナノ粒子が開発され、臨床試験に移行している。LNPは通常、イオン化可能カチオン性脂質、リン脂質、コレステロール、ポリエチレングリコール(PEG)-脂質の4つの構成要素からなる。中でもPEG-脂質は、LNP構造を安定化し保護するために一般的に使用されている。
【0005】
当初、PEGは免疫学的に不活性であると推定されていたが、現在では、脂質またはタンパク質への結合が、ハプテン効果による免疫反応の新たな原因となり、抗PEG抗体(Abs)を引き起こすことが知られている。症例によっては、抗タンパク質Abではなく抗PEG Abが臨床的問題の主な原因であることを強調する臨床報告が増えている。PEG化ウリカーゼ製剤であるPegloticase(Krystexxa)の典型的な例では、この薬剤を投与された難治性慢性痛風患者の40%超が高レベルの抗PEG Ab反応に苦しみ、その結果、この治療に対して非応答性になった。
【0006】
抗PEG抗体によって、市販されているいくつかのPEGコンジュゲートタンパク質の有効性が損なわれている。誘導された抗PEG抗体に加えて、既存の抗PEG抗体も全てのPEG化薬剤にとって重要である。急性冠症候群患者を対象とした臨床試験では、PEG化RNAアプタマーであるペグニバコギンの初回投与後に重篤なアレルギー反応が起こった。ドキソルビシンのPEG化リポソーム製剤であるDoxil(登録商標)も、初回の注射時に一部の患者で直ちに過敏反応が見られたことが報告されている。したがって、従来のLNPにおける問題のある構成要素を置換し、改善された機能を有するバイオ医薬品を提供することができる新しい脂質組成物を提供する必要性がまだ満たされていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、核酸等の治療剤を対象に送達するための新規の脂質ナノ粒子(LNP)組成物に最も関する。本明細書に記載されるLNP組成物は、好都合に、低い免疫原性、長い循環能力、および標的化能力を有する。LNP組成物はまた、特定の細胞または細胞成分に結合するための標的化剤で機能化される。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の態様において、本開示は、少なくとも以下の構成要素を含むLNP組成物に関する:(i)脂質部分が双性イオン性ポリマーに共有結合している少なくとも1つの双性イオン性ポリマー含有脂質;(ii)ポリマーに結合していない荷電脂質および非荷電脂質から選択される少なくとも1つの非カチオン性脂質;(iii)第二級、第三級、または第四級アミノ基を有する少なくとも1つのカチオン性またはイオン化可能脂質;および(iv)少なくとも1つの治療物質。第1の実施形態のセットにおいて、構成要素(i)の脂質部分は、ジアシルグリセロール(ジアシルグリセリド)である。第2の実施形態のセットにおいて、構成要素(i)は、ポリアルキレンオキシド(例えば、PEG)セグメントを含まない。第3の実施形態のセットにおいて、構成要素(i)の双性イオン性ポリマーは、ベタインポリマー、またはより具体的には、カルボキシベタインポリマーである。第4の実施形態のセットにおいて、構成要素(ii)の非カチオン性脂質は、双性イオン部分を含む。第5の実施形態のセットにおいて、構成要素(ii)は、ポリアルキレンオキシドセグメントを含まない。第6の実施形態のセットにおいて、構成要素(ii)の非カチオン性脂質は、ホスファチジルセリン(PS)脂質等のリン脂質である。第7の実施形態のセットにおいて、カチオン性またはイオン化可能脂質は、第二級、第三級または第四級の基を有する。第8の実施形態のセットにおいて、カチオン性またはイオン化可能脂質は、ポリアルキレンオキシド(例えば、PEG)セグメントを含まない。第9の実施形態のセットにおいて、脂質ナノ粒子組成物は:(v)コレステロールまたはその誘導体をさらに含む。第10の実施形態のセットにおいて、治療物質は、RNA、より具体的にはmRNA、より具体的にはウイルスmRNA、より具体的には直鎖状または環状mRNA等の核酸分子である。注目すべきことに、第1~第10の実施形態のいずれかを組み合わせて、本発明のLNP組成物をもたらすことができる。
【0009】
他の態様において、本開示は、上述の第1~第10の実施形態のいずれかを含む、上述の脂質ナノ粒子組成物のいずれかを対象に投与することによって、治療物質を対象に送達する方法に関する。第1の実施形態のセットでは、脂質ナノ粒子組成物は対象の細胞に送達される。第2の実施形態のセットでは、治療物質は核酸分子であり、その投与により対象の遺伝子治療がもたらされる。第3の実施形態のセットにおいて、治療物質は核酸分子であり、その投与は対象のワクチン接種をもたらす。
【0010】
他の態様において、本開示は、生理的条件下で負に荷電する官能基と共に、第二級、第三級、または第四級アミン基に結合した脂質部分を含む脂質組成物に関する。この脂質部分は
【化1】
であってよく、
式中、
R1/R2=Hまたはアルキル基である。アルキルは、飽和または不飽和、分枝鎖または非分枝鎖、全炭素および水素、または限定されるものではないが、N、O、F、Si、P、S、Cl、Br、およびF等のヘテロ原子を含むことができる。
Lは、NとAとの間の共有結合リンカー基である。リンカーは、全炭素および水素であるか、または限定されるものではないがN、O、F、Si、P、S、Cl、BrおよびF等のヘテロ原子を含むことができる。Lの構造は、限定されるものではないが:-CH-、-CHCH(OH)-、-CHCHClCH-、-CHOCH-、-CHSCH-、-CHSSCH-、-CHCOOCH-によって例示される。
A-(X)nは、生理的条件下で負に荷電する官能基である。構造は、限定されるものではないが:
(i)A(X)nは、カルボン酸基(A=-COOHおよびn=0)または
【0011】
(ii)A(X)nは、リン酸基であり、ここで、A=
【化2】
およびn=1である。X=H、または飽和もしくは不飽和、分枝鎖もしくは非分枝鎖、全炭素、または限定されるものではないがN、O、F、Si、P、S、Cl、Br、F等のヘテロ原子を含むアルキル基であるか、または
【0012】
(iii)A(X)nは、スルホン酸基であり、ここで、A=
【化3】
およびn=0であり、
【0013】
(iv)A(X)nは、スルホンアミド基であり、ここで、A=
【化4】
およびn=1であり、X=H、または飽和もしくは不飽和、分枝鎖もしくは非分枝鎖、全炭素および水素、または限定されるものではないが、N、O、F、Si、P、S、Cl、Br、およびF等のヘテロ原子を含むアルキル基である。
【0014】
これらのイオン化可能脂質の例示的な構造は
【化5】
であり、ここでn=1~10である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の双性イオン性ポリマー含有脂質であるDMG-PCB(またはPCB脂質)の化学構造およびH NMRスペクトル。
図2】PCB脂質を含むLNP(またはPCB-LNP)のin vitro特性評価。(a)代表的なPCB-LNP製剤のTEM画像。(b)HepG2細胞株における異なるPCB-LNPのルシフェラーゼ発現。
図3】PCB脂質を含むLNP(またはPCB-LNP)のin vivo mRNA発現。画像はAura Image Softwareで解析した。全てのPCB-LNPは、肝臓において、それらのPEG対応物と同等のトランスフェクション効率を示した。
図4】ZW-A-CBn(n=1、2、3)の合成。
図5】化合物ZW-A-CB1のH NMR(CDCl3)スペクトル。
図6】化合物ZW-A-CB2のH NMR(CDCl3)スペクトル。
図7】化合物ZW-A-CB3のH NMR(CDCl3)スペクトル。
図8】ZW-B-CBn(n=1、2、3)の合成。
図9】3-((8-(ノニルオキシ)-8-オキソオクチル)(8-(オクタデカン-9-イルオキシ)-8-オキソオクチル)アミノ)プロパン酸(6)のH NMRスペクトル。
図10】N-(8-(ノニルオキシ)-8-オキソオクチル)-N-(8-(オクタデカン-9-イルオキシ)-8-オキソオクチル)グリシン(8)のH NMRスペクトル。
図11】4-((8-(ノニルオキシ)-8-オキソオクチル)(8-(オクタデカン-9-イルオキシ)-8-オキソオクチル)アミノ)ブタン酸(10)のH NMRスペクトル。
図12】ZW-A-スルファミド-3の合成
図13】化合物ZW-A-スルファミド-3のH NMR(CDCl3)スペクトル。
図14】A.ZW-B-CB2を異なるモル比で含むPCB-LNPの製剤。B. in vitroトランスフェクションを、群Aおよび群BについてHepG2細胞で実施した。各系は3つ組で行った。
図15】a)実施例8で実施した注射スキーム。b)実施例8において試験した製剤の組成。c)製剤の3回目の注射後、指示した時点で採取した血清からのEPO(エリスロポエチン)血清濃度解析:CB1(左)、CB2(中央)、およびMC3(右)。正規化されたデータは、2つのコホート間の変化の倍率を表すようにここに示されている。
図16】C57B6/Lマウス(0.2mg/kg)におけるPCB-mLNP(すなわち、ZW-B-CB2脂質を含むPCB-LNP)(左)およびPS5-PCB-mLNP(すなわち、ZW-B-CB2およびPS脂質を含むPCB-LNP)(右)のin vivoでのルシフェラーゼ発現。画像は静脈内注射の6時間後に撮影した。
図17】LNPによって送達されたFluc-mRNAのin vitro発現。水性緩衝溶液のpH値:pH=5(a)またはpH=3(b)。製剤:50:38.5:10:1.5(イオン化可能脂質+双性イオン性イオン化可能脂質):コレステロール:ヘルパー脂質(DOPEまたはDSPC):PEG-脂質。横縞:MC3 50%+双性イオン性脂質0%;縦縞:MC3 25%+ZW-B-CB1 25%;チェッカーボード:MC3 25%+ZW-B-CB2 25%;グリッド:MC3 25%+ZW-B-CB3 25%。
図18】LNPによって送達されたFluc-mRNAのin vitro発現。水性緩衝溶液のpH値:pH=5(左)またはpH=3(右)。一般的製剤:50:38.5:1.5(イオン化可能脂質+双性イオン性イオン化可能脂質):コレステロール:PEG-脂質。横縞:MC3 50%+双性イオン性脂質0%;縦縞:MC3 25%+ZW-B-CB1 25%;チェッカーボード:MC3 25%+ZW-B-CB2 25%;グリッド:MC3 25%+ZW-B-CB3 25%。
図19】異なる細胞におけるPS5-LNPおよびPS0-LNP(PEG製剤)のルシフェラーゼ発現:(a)HepG2、(b)Raw264.7、(c)初代マウス脾臓細胞。実験は3つ組で行った。(d)FlucをコードするmRNAをそれぞれ有するPS0-LNPおよびPS5-LNPで処理したマウスから単離した臓器のIVIS画像および生物発光シグナル解析。図に示す臓器は(上から下へ)、肺、表在性頚部リンパ節(SCLN、唾液腺に付着)、肝臓、腎臓、および脾臓である。
図20】LNP製剤における、PC部分を有するかまたは有さない、いくつかの例示的な双性イオン性ポリマー含有脂質および非カチオン性脂質の構造。
図21】異なる種類の脂質部分(例えば、双性イオン性ポリマー修飾脂質、カチオン性脂質、非カチオン性脂質、およびコレステロールまたはその誘導体)が化学的に結合された、いくつかの例示的な脂質組成物の構造。
【発明を実施するための形態】
【0016】
一態様において、本開示は脂質ナノ粒子(LNP)組成物に関する。当技術分野のいくつかのLNPは、例えば、X.Houら,Nature Reviews Materials,6,1078-1094,2021に記載されており、その内容は参照により本明細書に組み入れられる。「脂質ナノ粒子」という用語は、少なくとも一部が脂質分子で構成されたナノ粒子を指す。以下にさらに記載されるように、脂質分子は、本明細書に記載される1つまたはそれ以上の双性イオン性ポリマー含有脂質、ならびに1つまたは複数の非カチオン性脂質、カチオン性またはイオン化可能脂質、および/またはコレステロールを含む。
【0017】
異なる実施形態において、LNPは、例えば、正確に、およそ、少なくとも、もしくは最大10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、125、150、175、200、225、もしくは250ミクロンの、または前述の値のうちの任意の2つによって囲まれる範囲内のサイズを有する。
【0018】
LNPの第1の構成要素は、少なくとも1つの双性イオン性ポリマー含有脂質である。双性イオン性ポリマー含有脂質では、脂質部分は双性イオン性ポリマーに共有結合している(すなわち、連結している)。双性イオン性ポリマーは、一般的に双性イオン性モノマー、ならびに双性イオン性モノマーに変換し得るモノマー、すなわち双性イオン性モノマーの前駆体から誘導される。双性イオン性モノマーは、同数の正電荷および負電荷(例えば、それぞれ1つずつ)を含む電子的に中性のモノマーである。いくつかの実施形態において、双性イオン性ポリマーは、複数の繰り返し単位を含み、各繰り返し単位は、1つの正電荷部分および1つの負電荷部分を含む。双性イオン性ポリマーは、典型的には、少なくとも2個、5個、または10個以上、最大100個、200個、300個、400個、500個、または1000個以下の単位を含む。
【0019】
「本明細書で使用される場合、用語「双性イオン性ポリマー」は、重合可能な双性イオン性モノマーを重合することによって製造されるポリマーを指し、これは、100mol%の双性イオン性部分を有する双性イオン性ポリマーを提供する(すなわち、双性イオン性ポリマーの各繰り返し単位は双性イオン性部分であるか;または重合性双性イオン性モノマーと重合性コモノマーとを共重合することによって製造されるポリマーを指し、これは、100mol%未満の双性イオン性部分を有する双性イオン性ポリマーを提供する(例えば、重合性双性イオン性モノマーと重合性コモノマーとが重合混合物中に等しい割合で存在する場合、生成物は50mol%の双性イオン性部分を有する双性イオン性ポリマーである)。
【0020】
用語「双性イオン性ポリマー」はまた、重合混合物中に実質的に等しい割合でそれぞれ存在する、重合性負荷電モノマーおよび重合性正荷電モノマーを共重合することによって製造される、実質的に等しい数の負(アニオン)電荷および正(カチオン)電荷を有するポリマーを指す。このような共重合の生成物は、100mol%の双性イオン性部分を有する双性イオン性ポリマーであり、各双性イオン性部分は、負電荷を有する繰り返し単位と正電荷を有する繰り返し単位との一対の繰り返し単位として定義される。このような双性イオン性ポリマーは混合荷電コポリマーと呼ばれる。用語「双性イオン性ポリマー」はまた、重合混合物中に実質的に等しい割合でそれぞれ存在する、重合性負荷電モノマー、重合性正荷電モノマー、および重合性コモノマーを共重合することによって製造されるポリマーを指し、これは、100mol%未満の双性イオン性部分を有する双性イオン性ポリマーを提供する(例えば、重合性負荷電モノマーおよび重合性正荷電モノマーの組合せならびに重合性コモノマーが重合混合物中に等しい割合で存在する場合(すなわち、50%の重合性負荷電モノマーおよび重合性正荷電モノマーの組合せならびに50%の重合性コモノマー)、生成物は、50mol%の双性イオン性部分を有する双性イオン性ポリマーである)」。
【0021】
脂質部分は、1つまたは2つの脂肪酸分子でエステル化されてモノアシルまたはジアシル脂質をもたらすポリオール部分(例えば、ジオール、グリセロール、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルエタノールアミン、またはホスファチジルセリン)で構成され、ここで、用語「アシル」は、RC(=O)基を指し、Rは、少なくとも8個、典型的には最大30個の炭素原子を含む直鎖または分枝鎖の炭化水素(脂肪)鎖であり、ここで、炭化水素鎖は、飽和であっても、1つまたはそれ以上の炭素-炭素二重結合を含んでいてもよい。脂質部分は、例えば、ジアシルジオール(例えば、ジアシルエチレングリコール)、ジアシルグリセロール(ジアシルグリセリド)、ジアシルホスファチジルグリセロール、ジアシルホスファチジルエタノールアミン、またはジアシルホスファチジルセリン部分であってもよい。脂質は、本願に提供される実施例1~14のいずれか1つに記載される脂質のいずれかであってもよい。脂質はまた、参照により本明細書に組み入れられる国際公開第2011/057227号に記載される脂質のいずれかであってもよい。脂肪アシル部分は、公知の脂肪酸のいずれから得られてもよい。脂肪アシル部分のいくつかの例としては、オレオイル、パルミトイル、ラウリル、ミリストイル、ステアロイル、リノレオイル、およびアラキドニルが挙げられる。双性イオン性ポリマーは、脂質部分、例えば上記の脂質部分のいずれかに、典型的にはポリオール上の炭素を介して結合する。双性イオン性ポリマーは、ポリマーの側鎖または骨格(またはその組合せ)中に双性イオン性基を含んでもよい。
【0022】
一実施形態において、ポリマーは、双性イオン性モノマーから製造されたホモポリマーであり、式:
【化6】
を有し、式中、Bは、ポリエステル、ポリエーテル、ポリウレタン、ポリアミド、またはポリ炭化水素(例えば、ポリエチレンまたはポリプロピレン)骨格等のポリマー骨格であり、Pは、双性イオン部分である。特定の実施形態において、骨格(B)は、以下の構造のいずれか:
【化7】
を有していてもよく、式中、Rは、水素および置換または非置換アルキルからなる群から選択され;Eは、置換または非置換のアルキレン、-(CHC(O)O-、および-(CHC(O)NR-からなる群から選択され;pは、代表的には、0~12の整数であり;Rは、水素および置換または非置換アルキルから選択され;Lは、場合により、1つまたはそれ以上の酸素原子を含む直鎖または分枝鎖アルキレン基である。添え字xは、典型的には、少なくとも2、5、または10以上であり、100、200、300、400、500、または1000単位以下である。
【0023】
特定の実施形態において、Pは、以下の構造:
【化8】
のいずれかから選択され、式中、
、R、およびRは、独立して、水素および置換または非置換アルキル基からなる群から選択され、RまたはRは、置換または非置換アルキレン基、フェニレン基およびポリエーテル基からなる群から選択され、mは、1~7の整数であり;xは、2~500の整数である。
【0024】
いくつかの実施形態において、双性イオン性ポリマーは、ベタインポリマーである。他の実施形態において、双性イオン性ポリマーは、ポリ(ホスファチジルコリン)ポリマー、ポリ(トリメチルアミンN-オキシド)ポリマー、ポリ(双性イオン性ホスファチジルセリン)ポリマー、またはグルタミン酸-リジン(EK)含有ポリペプチドである。いくつかの実施形態において、双性イオン性ホスファチジルセリンは、ホスホセリンの負電荷と均衡をとるために、隣接する1つの正荷電部分を含む。いくつかの実施形態において、双性イオン性ホスファチジルセリンは、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる「De novo design of functional zwitterionic biomimetic material for immunomodulation」Science Advances,2020年5月29日,第6巻,第22号,(DOI:10.1126/sciadv.aba0754)に記載されるような化合物を含む。
【0025】
ベタインポリマーのいくつかの例としては、ポリ(カルボキシベタイン)、ポリ(スルホベタイン)、およびポリ(ホスホベタイン)ポリマーが挙げられる。適切なポリ(カルボキシベタイン)は、例えば、カルボキシベタインアクリレート、カルボキシベタインアクリルアミド、カルボキシベタインビニル化合物、カルボキシベタインエポキシド、およびその混合物から選択される1つまたはそれ以上のモノマーから製造することができる。一実施形態では、モノマーはカルボキシベタインメタクリレートである。本発明において有用なカルボキシベタインポリマーを作製するための代表的なモノマーとしては、カルボキシベタインメタクリレート、例えば2-カルボキシ-N,N-ジメチル-N-(2’-メタクリロイルオキシエチル)エタンアミニウム内塩;カルボキシベタインアクリレート;カルボキシベタインアクリルアミド;カルボキシベタインビニル化合物;カルボキシベタインエポキシド;およびヒドロキシル基、イソシアネート基、アミノ基、またはカルボン酸基を有する他のカルボキシベタイン化合物が挙げられる。特定の実施形態において、ポリマーは、ポリ(カルボキシベタインメタクリレート)(ポリ(CBMA))である。
【0026】
双性イオン性ポリマーは、原子移動ラジカル重合(ATRP)、可逆的付加開裂連鎖移動(RAFT)重合、およびフリーラジカル重合等の任意の適切な重合法によって製造することができる。当技術分野で周知のものを含む、このようなモノマーを重合するための任意の適切なラジカル開始剤を使用することができる。いくつかの実施形態では、双性イオン性ポリマー含有脂質または他のポリマー含有脂質を製造するために、双性イオン性もしくは他のモノマーまたはその前駆体を脂質に結合させ、脂質に結合させた状態でモノマーを重合させる。あるいは、既に産生されたポリマーを、当技術分野で周知の手段によって脂質に結合させてもよい。
【0027】
他の実施形態において、双性イオン性ポリマーは、ポリマー骨格に正電荷を有し、ペンダントカルボン酸基を有するホモポリマーであり、式:
【化9】
を有し、式中、Rは、水素および置換または非置換アルキルからなる群から選択され;LおよびLは、独立して、場合により1つまたはそれ以上の酸素原子を含む直鎖または分枝鎖アルキレン基であり;xは、2~500の整数である。
【0028】
他の実施形態において、双性イオン性ポリマーは混合荷電コポリマーであり、一般式:
【化10】
を有し、式中、BおよびBは、前述のように、X、XおよびXから独立して選択され;Rは、水素および置換または非置換アルキルから選択され;Eは、置換または非置換アルキレン、-(CHC(O)O-、および-(CHC(O)NR-から選択され、pは、0~12の整数であり;Rは、水素および置換または非置換アルキルから選択され;Lは、場合により1つまたはそれ以上の酸素原子を含む直鎖または分枝鎖アルキレン基であり;Pは、正に荷電した基であり;Pは、カルボン酸基等の負に荷電した基であり;mは、1~500の整数であり;nは、1~500の整数である。いくつかの実施形態において、Pは、芳香族環中の窒素またはNRであり、ここで、RおよびRは、独立して、置換または非置換アルキル基である。
【0029】
双性イオン性ポリマーの正荷電単位(P1含有単位)は、正荷電ペンダント基を有するモノマーから得ることができる。本発明のポリマーにおいて正荷電単位を得るために使用することができる代表的なモノマーとしては、2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、2-(ジエチルアミノ)エチルメタクリレート、[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムクロリド、およびN-アセチルグルコサミンが挙げられる。
【0030】
一実施形態において、双性イオン性ポリマーの負荷電単位は、2-カルボキシエチルアクリレート(CA)から得られ、正荷電単位は、2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート(DM)から得られる。他の実施形態において、負荷電単位は、2-カルボキシエチルアクリレート(CA)から得られ、正荷電単位は、2-(ジエチルアミノ)エチルメタクリレート(DE)から得られる。他の実施形態において、負荷電単位は、2-カルボキシエチルアクリレート(CA)から得られ、正荷電単位は、[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムクロリド(TM)から得られる。他の実施形態において、負荷電単位は、2-カルボキシエチルアクリレート(CA)から得られ、正荷電単位は、2-アミノエチルメタクリレートヒドロクロリド(NH)から得られる。
【0031】
いくつかの実施形態において、双性イオン性ポリマーは、ポリアルキレンオキシド(ポリアルキレングリコール)セグメントを含まないか、または双性イオン性ポリマーは、より具体的には、ポリエチレンオキシドまたはポリプロピレンオキシドセグメントを含まない。いくつかの実施形態において、構成要素(i)は全て、ポリアルキレンオキシドセグメントを含まないか、または構成要素(i)は、より具体的には、ポリエチレンオキシドまたはポリプロピレンオキシドセグメントを含まない。いくつかの実施形態において、脂質ナノ粒子は全体としてポリアルキレンオキシドセグメントまたは分子を含まない。
【0032】
用語「脂質」は、脂肪酸のエステルを含むがこれらに限定されない有機化合物を指し、水に不溶性であるが多くの有機溶媒に可溶性であることを特徴とする。脂質は通常、少なくとも3つのクラス:(1)脂肪および油ならびにワックスを含む「単純脂質」;(2)リン脂質および糖脂質を含む「複合脂質」;および(3)ステロイド等の「誘導脂質」に分けられる。一実施形態において、脂質はジアシルグリセリドを含む。
【0033】
一実施形態において、双性イオン性ポリマーは「複合脂質」と連結される。そのような脂質のいくつかの例としては、ジオレオイルホスファチジルグリセロール(DOPG)、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール(DPPG)、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、パルミトイルオレオイルホスファチジルエタノールアミン(POPE)、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン(DPPE)、ジミリストイルホスホエタノールアミン(DMPE)、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(DSPE)、16-O-モノメチル-ホスホエタノールアミン、16-O-ジメチル-ホスホエタノールアミン、18-1-trans-ホスホエタノールアミン、1-ステアロイル-2-オレオイル-ホスファチジルエタノールアミン(SOPE)、および1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(transDOPE)が挙げられる。他の実施形態において、双性イオン性ポリマーは、「単純脂質」と連結する。他の実施形態において、双性イオン性ポリマーは、「誘導脂質」と連結する。いくつかの実施形態において、双性イオン性ポリマーは、参照により本明細書に組み入れられる国際公開第2011057225号A2に開示されるような双性イオン性化合物を含む。
【0034】
LNPの第2の構成要素は、ポリマーに結合していない荷電脂質および非荷電脂質から選択される少なくとも1つの非カチオン性脂質である。本明細書で使用する用語「非カチオン性脂質」、正に荷電しておらず、正に荷電した状態にイオン化することができない脂質を指す。しかしながら、非カチオン性脂質は、先に記載した双性イオン性基および部分のいずれかのような双性イオン(ポリマー内の正電荷および負電荷)を含有することによって、中性に荷電していてもよい。
【0035】
いくつかの実施形態において、非カチオン性脂質は双性イオン性部分を含む。双性イオン性部分は、先に詳述した任意のそのような部分であり得る。双性イオン性部分は、例えば、ホスホベタイン、ホスファチジルコリン、カルボキシベタイン、スルホベタイン、トリメチルアミンN-オキシド、グルタミン酸-リジン(EK)含有、または双性イオン性ホスファチジルセリン(ホスホセリン)部分、またはその組合せであり得る。いくつかの実施形態において、双性イオン性脂質は、ホスファチジルコリンまたはホスファチジルセリン脂質等のリン脂質である。
【0036】
他の実施形態において、非カチオン性脂質は、双性イオン性ではないが、負に荷電した基(例えば、ホスホセリン)を含むことによって負に荷電している。金属(例えば、アルカリ)またはアンモニウムの対アニオンは、負に荷電した基とイオン的かつ流動的に会合していてもよい。
【0037】
他の実施形態のセットでは、非カチオン性脂質は、荷電基を含まないことによって非荷電性である。非荷電非カチオン性脂質は、例えば、ホスファチジルグリセロール脂質、ホスファチジルエタノールアミン脂質、またはスフィンゴ脂質であり得る。非カチオン性脂質は、いくつかの実施形態において、脂肪、油、および/またはワックス等の単純脂質であってもよい。非カチオン性脂質は、いくつかの実施形態において、リン脂質または糖脂質等の複合脂質であってもよい。非カチオン性脂質は、いくつかの実施形態において、ステロイド、リン脂質、スフィンゴ脂質、および/またはステロール等の誘導脂質であってもよい。いくつかの実施形態において、非カチオン性脂質は、ジアシルホスファチジルエタノールアミン、セラミド、スフィンゴミエリン、ジヒドロスフィンゴミエリン、セファリン、またはセレブロシドから選択される。特定の実施形態において、非カチオン性脂質は、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルグリセロール(PG)、ホスファチジン酸(PA)、またはホスファチジルイノシトール(PI)のうちの1つまたはそれ以上から選択される。他の特定の実施形態において、非カチオン性脂質は、ジオレオイルホスファチジルグリセロール(DOPG)、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール(DPPG)、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、パルミトイルオレオイル-ホスファチジルエタノールアミン(POPE)、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン(DPPE)、ジミリストイルホスホエタノールアミン(DMPE)、ジステアロイル-ホスファチジルエタノールアミン(DSPE)、16-O-モノメチル-ホスホエタノールアミン、16-O-ジメチル-ホスホエタノールアミン、18-1-trans-ホスホエタノールアミン、1-ステアロイル-2-オレオイル-ホスファチジルエタノールアミン(SOPE)、および1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(transDOPE)から選択される。非カチオン性脂質はポリマーに結合していないため、非カチオン性脂質はポリアルキレンオキシド(ポリアルキレングリコール)セグメントを含まない。
【0038】
特定の実施形態において、イオン性部分を含む非カチオン性脂質はリン脂質である。一実施形態において、イオン性部分を含む非カチオン性脂質は、1つまたはそれ以上のカルボキシベタイン基とコンジュゲートした脂質である。一実施形態において、イオン性部分を含む非カチオン性脂質は、1つまたはそれ以上のスルホベタイン基とコンジュゲートした脂質である。一実施形態において、イオン性部分を含む非カチオン性脂質は、1つまたはそれ以上のトリメチルアミンN-オキシド基とコンジュゲートした脂質である。
【0039】
LNPの第3の構成要素は、少なくとも1つのカチオン性またはイオン化可能脂質である。カチオン性またはイオン化可能脂質は、カチオン性基を有するポリマーに結合した脂質を含んでも、または含まなくてもよい。いくつかの実施形態において、カチオン性またはイオン化可能脂質は、ポリマーに結合していない。本明細書で使用される用語「カチオン性脂質」は、(典型的には、アンモニウム基を有することによって)正に荷電した脂質を指す。カチオン性脂質において、正に荷電した基は、カチオン性脂質内で負電荷と会合していない。したがって、カチオン性脂質は双性イオン性脂質ではない。本明細書で使用される用語「イオン化可能脂質」は、ポリマー中に正電荷をもたらすためにイオン化可能な1つまたはそれ以上の基を含む脂質を指す。イオン化可能脂質は、一般的に、第二級、第三級、または第四級アミノ基、特にアルキル化アミン、より詳細にはモノアルキルアミンまたはジアルキルアミン基を有し、これらのいずれかは、プロトン化またはアルキル化されてアルキル化アンモニウム基をもたらし得る。カチオン性脂質は、トリアルキルアミン基を含有していてもよく、これは、脂質に結合すると必然的に正に荷電する。特定の実施形態において、カチオン性またはイオン化可能脂質は、ジメチルアミノまたはトリメチルアミノ(またはジメチルアンモニウムまたはトリメチルアンモニウム)基を有する。特定の実施形態において、カチオン性またはイオン化可能脂質は、1,2-ジオレオイル-3-ジメチルアンモニウム-プロパン(DODAP)、1,2-ジリノレイルオキシ-N,N-ジメチル-3-アミノプロパン(DLinDMA)、2,2-ジリノレイル-4-(2-ジメチルアミノエチル)-[1,3]-ジオキソラン(DLinKC2DMA)、および[(6Z,9Z,28Z,31Z)-ヘプタトリアコンタ-6,9,28,31-テトラエン-19-イル]4-(ジメチルアミノ)ブタノエート(DLinMC3DMA)から選択される。
【0040】
いくつかの実施形態において、イオン化可能脂質は、官能基と共に、第二級、第三級または第四級アミン基に結合した脂質部分を含み、これは生理学的条件下で負に荷電する。この脂質部分は、
【化11】
であってもよく、式中、
R1/R2=Hまたはアルキル基である。アルキルは、飽和または不飽和、分枝鎖または非分枝鎖、全炭素および水素、または限定されるものではないが、N、O、F、Si、P、S、Cl、Br、およびF等のヘテロ原子を含んでいてもよい。
Lは、NとAとの間の共有結合リンカー基である。リンカーは、全炭素および水素であるか、または限定されるものではないが、N、O、F、Si、P、S、Cl、Br、およびF等のヘテロ原子を含んでいてもよい。Lの構造は、限定されるものではないが:-CH-、-CHCH(OH)-、-CHCHClCH-、-CHOCH-、-CHSCH-、-CHSSCH-、-CHCOOCH-によって例示される。
A-(X)nは、特定のpH条件下で負に荷電する官能基である。構造は、以下に例示されるが、これらに限定されない:
(v)A(X)nは、カルボン酸基(A=-COOHおよびn=0)であるか、または
【0041】
(vi)A(X)nはリン酸基であり、ここでA=
【化12】
およびn=1である。X=H、または飽和もしくは不飽和、分枝鎖もしくは非分枝鎖、全炭素、または限定されるものではないが、N、O、F、Si、P、S、Cl、Br、F等のヘテロ原子を含むアルキル基、または
【0042】
(vii)A(X)nは、スルホン酸基であり、ここで、A=
【化13】
およびn=0であり、
【0043】
(viii)A(X)nは、スルホンアミド基であり、ここで、A=
【化14】
およびn=1であり、X=H、または飽和もしくは不飽和、分枝鎖もしくは非分枝鎖、全炭素および水素、または限定されるものではないが、N、O、F、Si、P、S、Cl、Br、およびF等のヘテロ原子を含むがこれらに限定されないアルキル基である。
【0044】
これらのイオン化可能脂質の例示的な構造は
【化15】
であり、ここで、n=1~10である。
【0045】
いくつかの実施形態において、カチオン性またはイオン化可能脂質は、ポリアルキレンオキシド(ポリアルキレングリコール)セグメントを除き、またはカチオン性もしくはイオン化可能脂質は、より具体的には、ポリエチレンオキシドまたはポリプロピレンオキシドセグメントを含まない。いくつかの実施形態において、カチオン性またはイオン化可能脂質は、ポリアルキレンオキシドセグメントを含まないか、またはカチオン性もしくはイオン化可能脂質は、より具体的には、ポリエチレンオキシドまたはポリプロピレンオキシドセグメントを含まない。いくつかの実施形態では、脂質ナノ粒子はポリアルキレンオキシドセグメントを含まない。
【0046】
いくつかの実施形態において、LNPは、コレステロールまたはその誘導体をさらに含み、これは、本明細書において、LNPの任意のさらなる構成要素であると考えられる。特定の実施形態において、コレステロール誘導体は、植物ステロール、例えば、β-シトステロール、カンペステロール、スチグマステロール、フコステロール、またはスチグマスタノールである。特定の実施形態において、コレステロール誘導体は、ジヒドロコレステロール、エントコレステロール、エピコレステロール、デスモステロール、コレスタノール、コレスタノン、コレステノン、コレステリル-2’-ヒドロキシエチルエーテル、コレステリル-4’-ヒドロキシブチルエーテル、3β[N-(N’N’-ジメチルアミノエチル)カルバモイルコレステロール(DC-Chol)、24(S)-ヒドロキシコレステロール、25-ヒドロキシコレステロール、25(R)-27-ヒドロキシコレステロール、22-オキサコレステロール、23-オキサコレステロール、24-オキサコレステロール、シクロアルテノール、22-ケトステロール、20-ヒドロキシステロール、7-ヒドロキシコレステロール、19-ヒドロキシコレステロール、22-ヒドロキシコレステロール、25-ヒドロキシコレステロール、7-デヒドロコレステロール、5α-コレスト-7-エン-3β-オール、3,6,9-トリオキサオクタン-1-オール-コレステリル-3e-オール、デヒドロエルゴステロール、デヒドロエピアンドロステロン、ラノステロール、ジヒドロラノステロール、ラノステノール、ルミステロール、シトカルシフェロール、カルシポトリオール、コプロスタノール、コレカルシフェロール、ルペオール、エルゴカルシフェロール、22-ジヒドロエゴカルシフェロール、エルゴステロール、ブラシカステロール、トマチジン、トマチン、ウルソール酸、コール酸、チェノデオキシコール酸、ジモステロール、ジオスゲニン、フコステロール、フェコステロール、またはフェコステロール、またはその塩もしくはエステル、例えばコール酸ナトリウムである。
【0047】
LPNは、上記の第1、第2、第3、および/または第4の脂質構成要素の1つまたはそれ以上で構築された自己組織化シェルに組み込まれるか、またはそれによって封入された治療物質をさらに含む。治療物質は、生体、特にヒトまたは動物対象等の哺乳動物に対して治療的価値を有する任意の物質であり得る。治療物質は、例えば、負に荷電した核分子であり得る。核分子は、例えば、ヌクレオチド、ヌクレオシド、核酸塩基、または核酸(例えば、DNAまたはRNA)であり得る。特定の実施形態において、治療物質は、1つまたはそれ以上のそのような核分子を含む。いくつかの実施形態において、治療物質は、RNA、より詳細にはmRNA、より詳細にはウイルスmRNAを含む。他の特定の実施形態において、治療物質は、コロナウイルス、SARS-COV2(COVID-19)、またはHIVウイルス等のウイルスのスパイクタンパク質である。
【0048】
本発明の脂質ナノ粒子および組成物は、核酸分子、リボ核タンパク質(RNP)、および多数の他の治療物質の送達を含む、様々な目的に使用することができる。核酸の例としては、メッセンジャーRNA(mRNA)、リボソームRNA(rRNA)、トランスファーRNA(tRNA)、アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)、短鎖干渉RNA(siRNA)、マイクロRNA(miRNA)、miRNA阻害剤(antagomir/antimir)、メッセンジャーRNA干渉性相補的RNA(micRNA)、多価RNA、環状RNA(circRNA)、crispr RNA(crRNA)、長鎖ノンコーディングRNA(lncRNA)、プラスミドDNA、オリゴDNA、および相補的DNA(cDNA)が挙げられる。特定の実施形態において、治療分子は、DNA、RNA、ssDNA、dsDNA、ssRNA、dsRNA、およびそのハイブリッドのうちの1つまたはそれ以上を含む。他の実施形態において、治療分子は、プラスミドDNAまたは線状化DNAの1つまたはそれ以上を含む。他の実施形態において、治療分子は、メッセンジャーRNA(mRNA)、低分子干渉RNA(siRNA)、マイクロRNA(miRNA)、環状RNA(circRNA)、および/または長鎖ノンコーディングRNA(lncRNA)のうちの1つまたはそれ以上を含む。他の実施形態において、治療分子は、アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)を含む。他の実施形態において、治療分子は、CasヌクレアーゼmRNAおよび/またはガイドRNA核酸を含む。ガイドRNA核酸は、例えば、シングルガイドRNA(sgRNA)であってもよい。前述の実施形態のいずれかにおいて、治療分子は、SARS-Cov-2に対するワクチンを含み、特に、ワクチンはmRNAワクチンであるか、またはmRNAワクチンはスパイクタンパク質もしくはその一部に対応する。
【0049】
前述の実施形態のいずれかにおいて、ヌクレオチドは、保護ドメインおよび機能的ドメインを含む融合生物学的部分をコードし得る。いくつかの実施形態において、機能的ドメインは、保護ドメインに直接またはアミノ酸からなるリンカーを介して融合される。さらなる特定の実施形態において、保護ドメインは、以下:複数の負荷電アミノ酸(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸、およびその誘導体);複数の正荷電アミノ酸(例えば、リジン、ヒスチジン、アルギニン、およびその誘導体);ならびにプロリン、セリン、スレオニン、アスパラギン、グルタミン、グリシン、およびその誘導体からなる群から独立して選択される複数の付加的なアミノ酸を含んでいてもよく、ここで、正荷電アミノ酸の数と負荷電アミノ酸の数の比は、約1:0.5~約1:2である。いくつかの実施形態において、保護ドメインは、他のアミノ酸ポリマー(例えば、拡張組換えポリペプチド(XTEN)、プロリン-アラニン-セリンおよびエラスチン様ポリペプチド)から選択し得る。前述の実施形態のいずれかにおいて、保護ドメインは、天然の半減期延長ドメイン(例えば、Fcフラグメント)から選択し得る。
【0050】
LNPはまた、複合機能性を有する脂質構成要素を含み得る。実施形態において、双性イオン性ポリマー含有脂質、非カチオン性脂質、カチオン性脂質、およびコレステロールおよび/またはコレステロール誘導体を含むがこれらに限定されない脂質構成要素はいずれも、異なる脂質構成要素の1つまたはそれ以上の官能性を含むことができる。実施形態において、双性イオン性ポリマー含有脂質は、双性イオン性ポリマー含有脂質およびカチオン性脂質またはイオン化可能脂質の官能性を含む。実施形態において、双性イオン性ポリマー含有脂質、非カチオン性またはイオン化可能脂質、カチオン性脂質、およびコレステロールおよび/またはコレステロール誘導体はいずれかもまた、双性イオン性ポリマー含有脂質、非カチオン性脂質、カチオン性脂質、およびコレステロールおよび/またはコレステロール誘導体のうちの1つまたは複数の官能性を含み得る。実施形態において、脂質構成要素は、他の脂質構成要素の官能性を含むことができ、それにより、その官能性を有する追加の脂質構成要素を必要としない。実施形態において、双性イオン性ポリマー含有脂質は、非カチオン性脂質の官能性を含むことができ、それにより、非カチオン性脂質の必要性が排除または低減される。実施形態において、双性イオン性ポリマー含有脂質は、カチオン性脂質の官能性を含むことができ、それにより、カチオン性脂質の必要性が排除または低減される。実施形態において、双性イオン性ポリマー含有脂質は、コレステロールおよび/またはコレステロール誘導体の官能性を含むことができ、それにより、コレステロールおよび/またはコレステロール誘導体の必要性が排除または低減される。
【0051】
実施形態において、任意の脂質構成要素(双性イオン性ポリマー修飾脂質、カチオン性脂質、非カチオン性脂質、およびコレステロールまたはその誘導体)は、任意の他の脂質構成要素と化学的に結合させることができる。実施形態において、双性イオン性ポリマー修飾脂質およびカチオン性脂質は、1つの脂質に化学的に結合される。実施形態において、双性イオン性ポリマー修飾脂質および非カチオン性脂質は、1つの脂質に化学的に結合される。実施形態において、カチオン性脂質および非カチオン性脂質は、1つの脂質に化学的に結合される。実施形態において、双性イオン性ポリマー修飾脂質、カチオン性脂質および非カチオン性脂質は、1つの脂質に化学的に結合される。実施形態において、双性イオン性ポリマー修飾脂質およびコレステロールまたは誘導体は1つの脂質に化学的に結合される。実施形態において、双性イオン性ポリマー修飾脂質、カチオン性脂質、およびコレステロールまたは誘導体は、1つの脂質に化学的に結合される。実施形態において、双性イオン性ポリマー修飾脂質、非カチオン性脂質、およびコレステロールまたは誘導体は、1つの脂質に化学的に結合される。実施形態において、双性イオン性ポリマー修飾脂質、非カチオン性脂質、非カチオン性脂質およびコレステロールまたは誘導体は、1つの脂質に化学的に結合される。他の実施形態では、各脂質構成要素は、分離した別個のものであり、他の脂質成分と組み合わされていない。
【0052】
上述の脂質ナノ粒子の成分のいずれかは、標的化リガンド(例えば、FabまたはFc)を含むように化学修飾される。特定の実施形態において、双性イオン性ポリマー含有脂質は、治療剤もしくは診断剤またはそれらの両方を充填したLNPを体内の特別な器官内の標的領域に送達するための標的化リガンド、例えば、ペプチド(例えば、RGD)、脂質(例えば、ホスホセリン含有脂質)、タンパク質(例えば、アポリポタンパク質E)、アプタマー(例えば、抗VEGFアプタマー)、糖(例えば、シアル酸)および抗体(例えば、抗PD1)または抗体フラグメント(例えば、FabまたはFc)を有する。
【0053】
他の態様において、本開示は、上記のLNP組成物のいずれか1つまたはそれ以上を対象に投与することによって、対象に治療物質を送達する方法に関する。対象は、典型的には哺乳動物であり、より典型的にはヒト対象であるが、イヌ、ネコ、ウシ、またはヒツジ等のペットまたは家畜等の他の種類の哺乳動物であってもよい。いくつかの実施形態において、治療物質を送達する方法は、対象を治療する方法をもたらす。治療方法として、LNP組成物は、例えば、タンパク質補充療法、癌免疫療法、癌ワクチン療法、感染症ワクチン、遺伝子編集、自己免疫疾患治療、および/または癌診断の目的で投与し得る。特定の実施形態において、LNP組成物は、CRISPR-Cas遺伝子編集を含む遺伝子治療のため、または細胞外小胞のin vitroおよびin vivo産生のため、またはコロナウイルス(例えば、SARS-CoV-2)に対するワクチン接種のために投与される。より特定の実施形態において、LNPは、例えば、Casタンパク質等の1つまたはそれ以上のCRISPR関連タンパク質をコードする1つまたはそれ以上の核酸を送達することを含むが、これらに限定されない、in vitroおよびin vivoでのクラスター化規則的間隔短縮回文反復-Casエンドヌクレアーゼ(CRISPR-Cas)遺伝子編集のために使用される。いくつかの実施形態において、LNPは、癌を治療するためにチェックポイント阻害剤(例えば、抗プログラム死リガンド1(抗PD-L1)抗体または抗細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質4(抗CTLA4))と共に投与される。
【0054】
いくつかの実施形態では、治療方法は、対象の二次リンパ器官(SLO)への治療剤の標的化送達を含み、ここで、対象は、ホスホセリン含有脂質と治療剤とを含む脂質ナノ粒子を投与される。SLOは、例えば、脾臓および/またはリンパ節であり得る。ホスホセリン含有脂質は、例えば、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-L-セリン(DOPS)、またはL-α-ホスファチジルセリン(脳)等の天然に存在するPS-脂質であってもよい。いくつかの実施形態において、標的化送達は、癌免疫療法、自己免疫疾患免疫療法、または遺伝子編集をもたらす。
【0055】
LNP組成物は、典型的には、LNPを含む医薬組成物の形態で投与される。医薬組成物において、LNPは、当技術分野で周知のように、液体、半固体(例えば、ゲルまたはワックス)または固体であってよい薬学的に許容される担体に溶解または懸濁させるか、またはそれと混和させることができる。「薬学的に許容される」という語句は、本明細書において、健全な医学的判断の範囲内で、対象への投与に適している化合物、材料、組成物、および/または剤形を指す。各担体は、製剤の他の成分と適合性があり、対象に対して生理学的に安全であるという意味で「許容される」ものであるべきである。本明細書では、投与様式に応じて、当技術分野で公知の任意の担体が好適であり得る。
【0056】
薬学的に許容される液体担体のいくつかの例としては、哺乳動物への導入に許容されるアルコール(例えばエタノール)、グリコール(例えばプロピレングリコールおよびポリエチレングリコール)、ポリオール(例えばグリセロール)、油(例えば、鉱油または植物油)、パラフィン、および非プロトン性極性溶媒(例えば、ジメチルスルホキシドまたはN-メチル-2-ピロリドン)が挙げられ、これらはいずれも、水性構成要素(例えば、少なくとも、10、20、30、40、または50vol%またはこれらの値を超える、最大でこれらの値、またはこれらの値未満の水)を含んでいても含まなくてもよい。薬学的に許容されるゲルのいくつかの例としては、長鎖ポリアルキレングリコールおよびそのコポリマー(例えば、ポロキサマー)、セルロース系およびアルキルセルロース系物質(例えば、米国特許第6,432,415号に記載されている)、およびカルボマーが挙げられる。薬学的に許容されるワックスは、例えば、カルナウバワックス、ホワイトワックス、ミツロウ、モノステアリン酸グリセリン、オレイン酸グリセリン、および/またはパラフィンであっても、またはそれらを含んでいてもよい。
【0057】
いくつかの実施形態において、医薬組成物は、LNPと、1つまたはそれ以上の溶媒または担体とのみを含む。他の実施形態において、医薬組成物は、1つまたはそれ以上の追加構成要素を含む。追加構成要素は、例えば、pH緩衝剤、単糖または多糖(例えば、ラクトース、グルコース、スクロース、トレハロース、ラクトース、またはデキストラン)、防腐剤、電解質、界面活性剤、または抗菌剤であり得る。所望により、甘味剤、香味剤、または着色剤を含むことができる。他の適切な賦形剤は、標準的な医薬テキスト、例えば「Remington’s Pharmaceutical Sciences」、The Science and Practice of Pharmacy,第19版Mack Publishing Company,Easton,Pa.,1995に記載されている。
【0058】
LNP組成物は、典型的には、LNPが液体または固体の薬学的に許容される担体と混和またはそこに懸濁された医薬組成物の形態で、任意の適切な経路によって対象に投与することができる。LNPは、静脈内、経口、筋肉内、皮内、皮下、経鼻、または吸入により投与することができる。特定の実施形態では、LNPは、対象へ注射によって投与される。いくつかの実施形態において、LNPは対象の細胞に送達される。いくつかの実施形態において、LNPは、対象から細胞を除去し、除去した細胞に脂質ナノ粒子を投与し、次いで除去した細胞を対象に再導入することによって送達される。いくつかの実施形態では、LNPはin vivoで直接注射され、in vivoで宿主細胞に送達される。他の実施形態では、LNPをex vivoで宿主細胞にトランスフェクトし、得られた細胞をin vivoで注入する。
【0059】
実施例は、説明の目的で、本発明の現時点での最良の態様を記載するために以下に記載した。しかしながら、本発明の範囲は、本明細書に記載した実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例
【0060】
実施例1.双性イオン性ポリマー修飾脂質(DMG-PCBまたはPCB脂質)の製造および特性
本実施例では、本発明の代表的な双性イオン性ポリマー修飾脂質であるDMG-PCBの製造および特性について説明する。DMG-PCBの構造およびH NMRスペクトルを図1に示す。
【0061】
DMG-N-BOC。トリエタノールアミン(1.6mL、9.36mmol、1.2当量)を、窒素雰囲気下で、乾燥DCM(10mL)中のtert-ブチルN-(2,3-ジヒドロキシプロピル)カルバメート(1.5g、7.8mmol、1当量)の溶液に添加し、混合物を氷浴中で0℃まで冷却した。この溶液に、塩化ステアロイル(2.83g、9.36mmol、1.2当量)をDCM 20mLに溶解し、30分かけて滴加した。反応物を室温で一晩撹拌した。反応混合物を飽和NaHCO3(水溶液[a.q.])で抽出した。有機層を分離し、ブラインで洗浄し、MgSO4上で乾燥し、濾過し、真空下で蒸発させた。残留物をフラッシュクロマトグラフィーでさらに精製し、DMG-N-BOC(1.42g、40%)を得た。
【0062】
DMG-N。DMG-N-BOC(100mg)をDCM 5mLおよびTFA 5mLに溶解した。反応物を室温で3時間撹拌した。その後、溶媒を真空で除去し、DMG-Nを白色粉末として得た。
【0063】
CTA-DMG脂質。DCM(5mL)中のDMG-N(100mg、0.16mmol)、2-(ドデシルチオカルボノチオイルチオ)-2-メチルプロピオン酸N-ヒドロキシスクシンイミドエステル(92.34mg、0.2mmol)およびTEA(22.3μL、0.16mmol)の溶液を室温で一晩撹拌させた。反応混合物を真空下で濃縮し、フラッシュクロマトグラフィーで精製してCTA-DMG脂質を得た。
【0064】
DMG-PCB。10kDaのポリマーを得るための典型的な可逆的付加-開裂連鎖移動(RAFT)重合反応において、CTA-DMG脂質(100mg、0.142mmol)、およびCBAAM-1-tBu(1036.32mg、2.84mmol)2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオニトリル)(AIBN、4.66mg、0.028mmol)を、撹拌棒を取り付けた25mL丸底フラスコ中で無水ジメチルホルムアミド(DMF、5mL)に溶解した。フラスコをゴム製セプタムで密閉し、窒素で30分間パージした。反応を65℃の油浴で一晩撹拌した。得られたポリマーをエチルエステル中に3回沈殿させ、遠心分離してペレットを回収し、真空下で一晩乾燥させ、微黄色粉末を得た。トリチオ炭酸基ポリマー(258.6mg)を除去するために、得られたポリマー(258.6mg、0.05mmol)、EPHP(89.2mg、0.5mmol)およびAIBN(3.3mg、0.02mmol)をDMF 3mLに溶解した。溶液を30分間窒素でパージし、100℃で2時間撹拌した。生成物をジエチルエーテル中に沈殿させ、遠心分離し、真空下で乾燥して白色固体粉末を得た。最終生成物DMG-PCBは、tert-ブチル基をトリフルオロ酢酸(TFA、ポリマー100mgあたり5mL)で室温で4時間脱保護し、次いでエチルエーテル中で沈殿させ、遠心分離を3回行うことで得た。ペレットを真空下で一晩乾燥させ、RNaseフリーの水に溶解し、2日間透析した。分子量(約12kDa)は、H NMR(D2O)から決定した。
【0065】
実施例2.双性イオン性ポリマー修飾脂質(DMG-PCBまたはPCB脂質)を含むLNPの製造およびin vitro特性
本実施例では、2つの市販のLNP製剤からのDMG-PEGを実施例1からのDMG-PCBに置き換えて、PCB脂質を含むLNP(またはPCB-LNP)を形成する。PCB-LNPのin vitroトランスフェクション効率を図2bに示す。図2aに示すように、PCB-LNPの形態を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した。mRNA治療薬を含有するPCB-LNPの製造を以下に記載する。
【0066】
DLin-MC3-DMA(MC3)は、Organixinc lncから購入した。1,1‘-((2-(4-(ビス(2-ヒドロキシドデシル)アミノ)エチル)(2-ヒドロキシドデシル)アミノ)エチル)ピペラジン-1-イル)エチル)アザンジイル)ビス(ドデカン-2-オール)(C12-200)は、Cordenpharma Inc.から購入した。その他の構成要素としては、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DSPC、Avanti Polar Lipids、USA)、コレステロール(Sigma、USA)、および1,2-ジミリストイル-rac-グリセロ-3-メトキシポリエチレングリコール-2000(DMG-PEG2K、Avanti Polar Lipids、USA)が挙げられる。異なるポリマー分子量(4kDaまたは7kDa)を含むDMG-PCBは、実施例1から合成した。
【0067】
マイクロ流体混合装置NanoAssemblr Ignite(Precision NanoSystems Inc.)において脂質構成要素とmRNAを混合することによって、mRNAのPCB-LNPへの封入体を製造した。2つの異なるイオン化可能脂質をベースとしたLNP製剤をそれぞれ検討した。MC3ベースのLNPでは、脂質混合物のモル比はMC3:DSPC:コレステロール:X=50:40:38.5:1.5であり、XはMC3-PEGではDMG-PEG2K、MC3-PCB4ではDMG-PCB4K、MC3-PCB7ではDMG-PCB7Kである。C12-200ベースのLNPでは、脂質混合物のモル比は、C12-200:DOPE:コレステロール:Y=35:16:46.5:2.5であり、YはC12-PEGではDMG-PEG2K、C12-PCBではDMG-PCB4Kである。簡単に説明すると、4つの脂質構成要素をエタノールに溶解し、別にホタルルシフェラーゼ(Fluc)をコードするmRNAを50mMクエン酸緩衝液(pH=3)に溶解した。その後、マイクロ流体装置内で水相とエタノール相を流速比3:1で混合した。残留有機溶媒を除去するため、得られたLNPを100kDa遠心フィルター(MilliporeSigma、USA)でPBSで洗浄した。
【0068】
LNPをHepG2(ATCC番号HB-8065)にトランスフェクションし、ルシフェラーゼ発現をトランスフェクションの6時間後に解析した。簡単に説明すると、細胞を60~70%コンフルエントで播種し、10%ウシ胎児血清(FBS)および1xペニシリン-ストレプトマイシン(Pen-Strep)を添加したイーグル最小必須培地(EMEM)中、37℃、5%CO2でインキュベートした。トランスフェクションの間、RNAを図2bに示した用量でウェルごとに添加した。トランスフェクションの6時間後、LNPを含む培養培地を注意深く除去し、細胞をPBSで一度穏やかにすすいだ。ルシフェラーゼ発現は、製造元のプロトコールに従って、ルシフェラーゼアッセイ(Promega Cat#:E1501)を用いて測定した。全てのPCB-LNPは、対応するPEG-LNPと同等のin vitroトランスフェクション効率を示し、これは、mRNAを細胞に送達するためにDMG-PCBをLNPに使用できることを示している。
【0069】
実施例3.双性イオン性ポリマー修飾脂質(DMG-PCBまたはPCB脂質)を含むLNPのin vivo送達
実施例2からのPCB-LNP製剤をマウスに送達して、全身送達後のタンパク質発現の生体分布を試験した。
【0070】
簡単に説明すると、6~8週齢のC57BL/6マウスに、0.4mg/kgの投与量で眼窩後注射によりFluc-mRNAを有するLNPを投与した。トランスフェクションの6時間後に生物発光イメージングを行った。マウスにPBSで希釈したD-ルシフェリンを150mg/kgを注射した。全ての画像はAura Image Softwareを用いて解析した。図3に示すように、全てのPCB-LNPは肝臓で高いmRNA発現を促進した。mRNAの効率的なin vivo発現は、2つの異なるLNP系:1つはイオン化可能脂質としてMC3を用いた系;もう1つはイオン化可能脂質としてC12-200を用いた系において裏付けられた。したがって、この超親水性ポリマーコンジュゲート脂質をLNPに組み込むことにより、効率的なin vivoトランスフェクションが行われ、DMG-PEGの代替物としてDMG-PCBが実現可能であることが示された。
【0071】
実施例4.ZW-A-CBn(n=1、2、3)の合成および特性評価。
本実施例では、ZW-A-CBn(n=1、2、3)を合成し、H-NMRによって特性評価した。ZW-A-CBn-の合成方法を図4に示し、以下に説明する。
【0072】
化合物S1は、Jayaraman and Hopeの条件(Angew.Chem.Int.Ed.2012,51,8529-8533)に従って合成した。Mg屑を0.1M HClで新たに活性化し、水およびアセトンで洗浄し、高真空下で乾燥させた。マグネチックスターラー、添加漏斗、および還流冷却器を備えた3つ口丸底フラスコにMg(680mg)を添加した。フラスコを脱気し、2.3mLの無水エーテルで満たした。臭化リノレイル(7.50g)をエーテル14mLに溶解した後、エーテル溶液2mLを室温でフラスコに一度に添加した。反応混合物を2分間撹拌した後、ヨウ素の小結晶を添加した。ヨウ素による暗褐色は急速に消え、反応混合物は還流し始めた。緩やかな還流下に反応を維持しながら、エーテル中のリノレイル溶液の残りを5~10分かけて滴加した。添加後、反応混合物を35℃の水浴中で3時間保持した後、氷浴中で冷却した。ギ酸エチル(0.8mL、0.734g)を0℃で滴加した後、反応物を室温まで加温した。6時間後、NHCl溶液を添加して反応をクエンチした。溶液をエーテル(x3)で抽出し、NaSOを用いて乾燥させ、濃縮して粗混合物を黄色油状物として得た。主な副生成物はS1のギ酸エステルであることが確認されたので、粗混合物をエタノール中のKOHの10mL飽和溶液に溶解し、一晩撹拌して副生成物を加水分解した。次に、反応混合物をDCMで希釈し、NHClで洗浄し、濃縮し、NaSOで用いて乾燥させ、シリカゲルフラッシュクロマトグラフィー(ヘキサン中1%~15%酢酸エチル)で精製し、所望の生成物を淡黄色油状物として得た。収量:3.56g。
【0073】
化合物S2:窒素下で2つ口丸底フラスコに、S1(2.00g)、4-[(tert-ブトキシカルボニル)(メチル)アミノ]ブタン酸(0.87g)、DMAP(0.045g)、およびDCM25mLを添加した。溶液を0℃に冷却した後、DCM中のDCCの5mL溶液を滴加した。溶液を濾過し、濃縮し、ヘキサン中0~10%酢酸エチルを用いたシリカゲルフラッシュクロマトグラフィーで精製した。無色油状物2.658gが生成物として生じた。
【0074】
化合物S3:50mLの丸底フラスコにS2(1.758g)およびDCM中TFAの50v/v%溶液5mLを添加した。反応物を室温で1.5時間撹拌した後、濃縮した。粗製物をDCMに溶解し、NaCO溶液で洗浄し、NaSOで乾燥させ、濃縮した。黄色油状物をシリカゲルフラッシュクロマトグラフィー(DCM中2~15%MeOH)で精製し、1.02gの微黄色油状物を得た。
【0075】
化合物ZW-A-CB1:2mLオートサンプラーバイアルに、化合物S3(114mg)、ブロモ酢酸tert-ブチル(35.4mg)、KCO(80mg)、KI(4.3mg)、および無水アセトニトリル(0.3mL)とTHF(0.1mL)との混合物を添加した。混合物を室温で15時間撹拌した後、DCMで希釈し、濾過した。濾液を濃縮し、シリカゲルフラッシュカラムクロマトグラフィー(DCM中5%~15%MeCN)で精製し、化合物1’を無色油状物として得た。収量:61mg。化合物1’(61mg)を、DCM中TFAの50v/v%溶液に溶解し、室温で2時間撹拌した。反応混合物を濃縮した後、DCM中の5~20%MeOHを使用するシリカゲルフラッシュクロマトグラフィーを介して精製し、化合物ZW-A-CB1を微黄色油状物として得た。収量:53mg。化合物ZW-A-CB1のH NMR(CDCl3)を図5に示す。
【0076】
化合物ZW-A-CB2:2mLオートサンプラーバイアルに化合物S3(102mg)、アクリル酸(38.4mg)、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(2.4mg)およびエタノール0.3mLを添加した。混合物を37℃で30時間撹拌した後、DCMで希釈し、水およびブラインで洗浄した。抽出物をNaSO上で乾燥させ、濃縮し、シリカゲルフラッシュカラムクロマトグラフィー(DCM/酢酸エチル1:1中1%~20% MeOH)で精製し、化合物ZW-A-CB2を淡黄色油状物として得た。収量:86mg。化合物ZW-A-CB2のH NMR(CDCl3)を図6に示す。
【0077】
化合物ZW-A-CB3:2mLオートサンプラーバイアルに、化合物S3(99.4mg)、4-ブロモ酪酸t-ブチル(46.8mg)、KCO(89.6mg)、KI(8mg)、および無水アセトニトリル(0.3mL)とTHF(0.1mL)との混合物を添加した。混合物を40℃で18時間撹拌した後、DCMで希釈し、濾過した。濾液を濃縮し、シリカゲルフラッシュカラムクロマトグラフィー(DCM中1%~15%MeCN)で精製し、化合物3’を無色油状物として得た。収量:95mg。化合物3’(90mg)をDCM中TFAの50v/v%溶液に溶解し、室温で3時間撹拌した。反応混合物を濃縮し、DCM中の1-15%MeOHを用いたシリカゲルフラッシュクロマトグラフィーで精製し、化合物ZW-A-CB3をグミ状液体として得た。収量:54mg。化合物ZW-A-CB3のH NMR(CDCl3)を図7に示す。
【0078】
特に断らない限り、市販の試薬をさらに精製することなく使用した。全ての反応は、特に断らない限り、Nまたはアルゴン雰囲気下で行った。カラムクロマトグラフィーは、SiliCycle SiliaSep HPフラッシュカートリッジを用いたBiotage Isolera系で行った。NMRスペクトルはBrukerまたはVarian 400もしくは500MHzスペクトロメーターで記録した。全てのH NMR実験は、δ単位、百万分率(ppm)で報告され、重水素化溶媒中の残留クロロホルム(7.26ppm)のシグナルに対して相対的に測定された。
【0079】
実施例5 ZW-B-CBn(n=1~3)の合成および特性評価
本実施例では、ZW-B-CBn(n=1、2、3)を合成し、H-NMRで特性評価した。ZW-B-CBnの合成方法を図8に示し、以下に説明する。
【0080】
ノナン-2-イル 8-ブロモオクタノエート(1)。100mL丸底フラスコに、8-ブロモ酢酸(2.00g)、ノナン-1-オール(2.59g)、およびジクロロメタン20mLを装入した。フラスコをNでパージし、ジクロロメタン20mL中の1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミドヒドロクロリド(2.25g)および4-ジメチルアミノピリジン(0.22g)を滴加した。混合物をN下で18時間撹拌した。水を添加し、粗生成物をジクロロメタンで抽出し、ブラインで洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させた。生成物をジクロロメタン/ヘキサンを溶離液として使用するシリカゲル上のカラムクロマトグラフィーで精製した。収量は2.36g(75%)であった。
【0081】
ヘプタデカン-9-イル 8-((tert-ブトキシカルボニル)アミノ)オクタノエート(2)。100mL丸底フラスコに8-((tert-ブトキシカルボニル)アミノ)オクタン酸(1.04g)およびヘプタデカン-9-オール(1.13g)をジクロロメタン20mLと共に装入した。フラスコをNでパージし、ジクロロメタン20mL中の1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミドヒドロクロリド(1.01g)および4-ジメチルアミノピリジン(0.05g)を滴加した。混合物をN下で20時間撹拌した。水を添加し、粗生成物をジクロロメタンで抽出し、ブラインで洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させた。生成物を、酢酸エチル/ヘキサンを溶離液として使用するシリカゲル上のカラムクロマトグラフィーで精製した。収量は1.42g(72%)であった。
【0082】
ヘプタデカン-9-イル 8-アミノオクタノエート(3)。20mLバイアルにヘプタデカン-9-イル 8-((tert-ブトキシカルボニル)アミノ)オクタン酸(0.13g)、ジクロロメタン2mLおよびトリフルオロ酢酸2mLを添加した。混合物を3時間撹拌した。揮発分を真空で除去した後、粗生成物を酢酸エチルに溶解し、1N NaOHおよびブラインで洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させた。収量は93.2mg(93%)であった。
【0083】
ノニル 8-((8-(オクタデカン-9-イルオキシ)-8-オキソオクチル)アミノ)オクタノエート(4)。火炎乾燥した50mLシュレンク反応器に、活性化4Åモレキュラーシーブス(500mg)、水酸化セシウム一水和物(188mg)、および無水ジメチルホルムアミド6mLを装入した。反応物をN下で10分間撹拌した。ヘプタデカン-9-イル 8-アミノオクタノエート(500mg)を添加し、混合物をN2下でさらに30分間撹拌した。次いで、ノナン-2-イル 8-ブロモオクタノエート(483mg)を懸濁液に滴加し、反応物をN下で24時間撹拌した。混合物を濾過し、1N NaOHに注ぎ、ジクロロメタンで抽出し、ブラインで洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させた。メタノール/クロロホルムを溶離液として使用するシリカゲル上のカラムクロマトグラフィーで生成物を精製した。収量は705mg(84%)であった。
【0084】
ヘプタデカン-9-イル 8-((3-(tert-ブトキシ)-3-オキソプロピル)(8-(ノナン-2-イルオキシ)-8-オキソオクチル)アミノ)オクタノエート(5)。1.5mLバイアルに、メタノール0.5mL中のノニル8-((8-(オクタデカン-9-イルオキシ)-8-オキソオクチル)アミノ)オクタノエート(50mg)およびt-ブチルアクリレート(10.6mg)を添加した。反応物をN下で20時間撹拌した。揮発分を真空中で除去した。収量は58mg(98%)であった。
【0085】
3-((8-(ノニルオキシ)-8-オキソオクチル)(8-(オクタデカン-9-イルオキシ)-8-オキソオクチル)アミノ)プロパン酸(6)。1.5mLバイアルに、ヘプタデカン-9-イル 8-((3-(tert-ブトキシ)-3-オキソプロピル)(8-(ノナン-2-イルオキシ)-8-オキソオクチル)アミノ)オクタノエート(50mg)、ジクロロメタン0.5mLおよびトリフルオロ酢酸0.5mLを添加した。混合物を3時間撹拌した。揮発分を真空中で除去し、メタノール/ジクロロメタンを溶離液として使用するシリカゲル上のカラムクロマトグラフィーで生成物を精製した。収量は45mg(94%)であった。3-((8-(ノニルオキシ)-8-オキソオクチル)(8-(オクタデカン-9-イルオキシ)-8-オキソオクチル)アミノ)プロパン酸(6)のH NMRスペクトルを図9に示す。この化合物はZW-B-CB2と命名される。
【0086】
ヘプタデカン-9-イル 8-((2-(tert-ブトキシ)-2-オキソエチル)(8-(ノナン-2-イルオキシ)-8-オキソオクチル)アミノ)オクタノエート(7)。火炎乾燥した1.5mLバイアルに、ノニル8-((8-(オクタデカン-9-イルオキシ)-8-オキソオクチル)アミノ)オクタノエート(100mg)、ブロモ酢酸t-ブチル(117mg)、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(97mg)および無水ジメチルホルムアミド1mLを添加した。反応物をN下で24時間撹拌した。混合物を1N NaOHに注ぎ、ジクロロメタンで抽出し、ブラインで洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させた。メタノール/ジクロロメタン/アンモニアを溶離液として使用するシリカゲル上のカラムクロマトグラフィーで生成物を精製した。収量は92mg(79%)であった。
【0087】
N-(8-(ノニルオキシ)-8-オキソオクチル)-N-(8-(オクタデカン-9-イルオキシ)-8-オキソオクチル)グリシン(8)。1.5mLバイアルに、ヘプタデカン-9-イル 8-((2-(tert-ブトキシ)-2-オキソエチル)(8-(ノナン-2-イルオキシ)-8-オキソオクチル)アミノ)オクタンノエート(50mg)、ジクロロメタン0.5mLおよびトリフルオロ酢酸0.5mLを添加した。混合物を3時間撹拌した。揮発分を真空中で除去し、メタノール/ジクロロメタンを溶離液として使用するシリカゲル上のカラムクロマトグラフィーで生成物を精製した。収量は42mg(88%)であった。N-(8-(ノニルオキシ)-8-オキソオクチル)-N-(8-(オクタデカン-9-イルオキシ)-8-オキソオクチル)グリシン(8)の1H NMRスペクトルを図10に示す。この化合物はZW-B-CB1と命名される。
【0088】
ヘプタデカン-9-イル 8-((4-(tert-ブトキシ)-4-オキソブチル)(8-(ノナン-2-イルオキシ)-8-オキソオクチル)アミノ)オクタノエート(9)。火炎乾燥した1.5mLバイアルに、ノニル8-((8-(オクタデカン-9-イルオキシ)-8-オキソオクチル)アミノ)オクタノエート(100mg)、4-ブロモ酪酸t-ブチル(134mg)、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(97mg)および無水ジメチルホルムアミド1mLを添加した。反応物をN下で24時間撹拌した。混合物を1N NaOHに注ぎ、ジクロロメタンで抽出し、ブラインで洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させた。メタノール/ジクロロメタン/アンモニアを溶離液として使用するシリカゲル上のカラムクロマトグラフィーで生成物を精製した。収量は98mg(81%)であった。
【0089】
4-((8-(ノニルオキシ)-8-オキソオクチル)(8-(オクタデカン-9-イルオキシ)-8-オキソオクチル)アミノ)ブタン酸(10)。1.5mLバイアルに、ヘプタデカン-9-イル 8-((4-(tert-ブトキシ)-4-オキソブチル)(8-(ノナン-2-イルオキシ)-8-オキソオクチル)アミノ)オクタノエート(50mg)、ジクロロメタン0.5mLおよびトリフルオロ酢酸0.5mLを添加した。混合物を3時間撹拌した。揮発分を真空中で除去し、メタノール/ジクロロメタンを溶離液として使用するシリカゲル上のカラムクロマトグラフィーで生成物を精製した。収量は44mg(93%)であった。4-((8-(ノニルオキシ)-8-オキソオクチル)(8-(オクタデカン-9-イルオキシ)-8-オキソオクチル)アミノ)ブタン酸(10)のH NMRスペクトルを図11に示す。この化合物をZW-B-CB3と命名する。
【0090】
実施例6.ZW-A-スルホアミド-3の合成および特性評価
本実施例では、ZW-A-スルファミド-3を合成し、H-NMRによって特徴評価した。ZW-A-スルファミド-3の合成法を図12に示し、以下に説明する。
【0091】
S4:50mLの丸底フラスコに、化合物S1(600mg)、ブロモ酢酸(178mg)、DMAP(6mg)およびDCM5mLを添加した。混合物を氷浴で冷却し、DCC(178mg)溶液5mLを滴加した。反応物を室温まで加温し、12時間撹拌した後、濾過し、濃縮し、シリカゲルフラッシュクロマトグラフィー(ヘキサン中5%~30%DCM)で精製した。化合物S4を無色油状物として得た。収量:0.59g。
【0092】
S5:25mLの丸底フラスコに、4-ヒドロキシベンゼンスルホンアミド(60.8mg)、KCO(43.4mg)、およびDMF0.5mLを添加した。混合物を5分間撹拌した後、DMF中のS4(121mg)の溶液1mLを添加した。反応混合物を35℃で20時間以上撹拌した後、DCM5mLで希釈し、濾過した。濾液を濃縮し、シリカゲルフラッシュクロマトグラフィー(ヘキセン中10%~40%酢酸エチル)で精製し、S5を無色油状物として得た。収量:102mg。
【0093】
ZW-A-スルファミド-3:20mLバイアルに、S5(100mg)、3-カルボキシ-N,N,N-トリメチルプロパン-1-アミニウムクロリド(48mg)、N’-エチルカルボジイミドヒドロクロリド(75mg)、DMAP(32mg)、トリエチルアミン(55μL)およびDMF2mLを添加した。反応混合物を室温で一晩撹拌した後、シリカゲルフラッシュクロマトグラフィー(DCM中5%~50%MeOH)で精製し、表題化合物を淡黄色固体として得た。収量:55mg。化合物ZW-A-スルファミド-3の1H NMR(CDCl3)を図13に示す。
【0094】
実施例7.ZW-B-CB2含有PCB-LNP(非PEG製剤)の製造およびin vitro特性評価
本実施例において、実施例5から合成されたZW-B-CB2は、MC3を置換するために異なる比率で実施例2に記載されたPCB-LNPに組み込んだ。他の構成要素としては、DSPC、コレステロールおよびDMG-PCB4Kが含まれた。各構成要素のモル比を図14に示す。
【0095】
脂質をエタノールに溶解し、mRNAを50mMクエン酸緩衝液(pH3)に溶解した。激しく撹拌しながら、2相を1:3(エタノール:水、v/v%)の比率で混合することにより、LNPへのmRNAの封入体を調製した。製剤を透析カセット中でPBS(pH7.4)に対して少なくとも10時間透析し、0.22μmフィルターを通過させて濃縮し、使用するまで4℃で保存した。
【0096】
製剤のトランスフェクション効率を評価するために、FlucをコードするmRNAを封入したLNPのin vitroトランスフェクションを行った。簡単に説明すると、LNPをHepG2(ATCC番号HB-8065)にトランスフェクションし、ルシフェラーゼ発現をトランスフェクション6時間後に解析した。細胞培養条件は実施例2に記載した。トランスフェクションの間、RNAは1ウェルあたり100ngを3つ組で添加した。トランスフェクションの6時間後、LNPを含む培養培地を注意深く除去し、細胞をPBSで1回穏やかにすすいだ。ルシフェラーゼ発現を、製造元のプロトコールに従ってルシフェラーゼアッセイ(Promega Cat#:E1501)を用いて測定した。
【0097】
実施例8.ZW-B-CBn(n=1~3)含有PCB-LNP(非PEG製剤)のin vivoでの複数全身送達
血液クリアランス促進(ABC)効果は、LNPが複数回注射され、その後の注射でLNPの急速なクリアランスが観察された場合に報告されている。ABC効果は、免疫原性であることが報告されているLNPの脂質構成要素に対して生成された抗体によって引き起こされるところが大きい。本実施例では、実施例7からのZW-B-CBn含有PCB-LNPを、LNPのABC効果を試験するために使用した。実施例2からのMC3ベースのPEG-LNPを対照として用いた。各製剤の組成を図15bに示す。
【0098】
in vivo薬物動態学(PK)研究のために、3~4週齢の雄C57BL/6Jマウスを3群に分け、mRNA-LNPをmRNA 5μgの用量で静脈内投与した。2つの異なる注射コホートを実施した。(図15a)コホート1では、1用量のhEPO-mRNA(ヒトエリスロポエチンmRNA)のみを投与した。コホート2では、最初の2回の注射にFluc-mRNA(ハエルシフェラーゼmRNA)を投与し、最後の注射にhEPO-mRNAを投与した。(図15a)コホート2は、最初の2回の注射で誘導された抗hEPO免疫応答を排除するように設計され、それによって3回目の注射におけるhEPOのPKプロファイルは、主にLNP構成要素によるABC効果を示している。hEPOのPKプロファイルを決定するために、マウス血清を注射後6時間、24時間に採取し、ELISA(DuoSet、hEPO ELISAキット、R&D)を用いて解析した。
【0099】
図15cに示すように、PCBおよびZW-B-CB1/ZW-B-CB2を含有するLNPは、MC3製剤と比較して、注射コホート2においてより少ないABC効果を示した。この結果は、ZW-B-CBnを有するPCB-LNPが、減少したABC効果を誘導し、したがって免疫原性が低いことを示す。
【0100】
実施例9.ZW-B-CB2を含有し、ホスホセリン(PS)脂質を標的化するPCB-LNP(非PEG製剤)のin vivo全身送達
本実施例では、負に荷電したリン脂質、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-L-セリン(DOPS)を、実施例7に記載したPCB-LNP製剤に組み込んだ。簡単に説明すると、MC3:ZW-B-CB2:DSPC:コレステロール:DMG-PCB4k:DOPSのモル比は、20:30:10:38.5:1.5:5に等しい。DOPSを含む製剤をPS-PCB-mLNP(すなわち、ZW-B-CB2とPS脂質とを含むPCB-LNP)と名付け、DOPSを含まないものを対照としてPCB-mLNP(すなわち、ZW-B-CB2脂質を含むPCB-LNP)と名付ける。脂質混合物およびmRNA水溶液を、実施例2に記載したようにマイクロ流体チャンネル内で急速に混合した後、PBSで洗浄して最終生成物を生成した。DOPSを、二次リンパ器官(SLO)へ標的化するための非カチオン性脂質として使用した。
【0101】
In vivoでのタンパク質発現を試験するために、FlucをコードするmRNAを有するPS-PCB-mLNPを静脈内注射によりマウスに送達した。上述のようにIVISを用いて投与6時間後に生物発光画像を撮影した。図16に示すように、IVIS画像は、mRNA発現が肝臓から脾臓および表在リンパ節に向かってシフトしていることを示している。対照群では、標的化脂質DOPSを含まないPCB-mLNPでは、Fluc発現はほとんど肝臓で起こった。したがって、DOPSを組み込むことにより、脾臓およびリンパ節でより多くのタンパク質発現が可能となり、これらのSLOへの標的化効果が示された。この結果は、PS-PCB-mLNPが、免疫療法およびワクチンを含む用途のための、SLOへのin vivo mRNA送達のための有望なプラットフォームであることを示している。
【0102】
実施例10.ZW-B-CBn(n=1~3)含有PEG LNP(PEG製剤)の製造およびin vitro特性評価
LNP(または、PEG脂質がPCB脂質で置換されたPCB LNPと区別するためにPEG LNPと表記される)の主要構成要素であるイオン化可能脂質は、免疫原性であることが報告されている。免疫原性を低減するために、イオン化可能脂質を実施例6で得られたZW-B-CBnで部分的に置換し、製剤を作製した。簡単に説明すると、異なるヘルパー脂質を変化させた3つの条件:1)DSPC、2)DOPE、および3)ヘルパー脂質なしを試験した。条件1および2では、LNPは以下の脂質:モル比50:10:38.5:1.5のMC3+ZW-B-CBn、DSPCまたはDOPE、コレステロールおよびDMG-PEG2kによって構成されていた。条件3では、LNPは以下の脂質:モル比50:38.5:1.5のMC3+ZW-B-CBn、コレステロール、およびDMG-PEG2kによって構成されていた。in vitroトランスフェクションの結果を図17および図18に示す。LNPの製造およびin vitroトランスフェクションを以下に記載する。
【0103】
脂質は指されたモル比でエタノールに溶解し、mRNAは20mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH5)または20mMクエン酸緩衝液(pH3)に溶解した。LNPを生成するために、エタノールおよび水溶液を激しく撹拌しながら1:3(エタノール:水溶液)の比率で急速に混合した。製剤は、透析カセットでPBS(pH7.4)に対して少なくとも10時間透析し、0.22μmのフィルターを通して濃縮し、使用するまで4℃で保存した。全ての製剤を、粒子サイズ、およびRNA封入について試験した。
【0104】
製剤のトランスフェクション効率を評価するために、FlucをコードするmRNAを封入したLNPのin vitroトランスフェクションを行った。簡単に説明すると、LNPをHepG2(ATCC番号HB-8065)にトランスフェクションし、ルシフェラーゼ発現をトランスフェクション6時間後に解析した。細胞培養条件は実施例2に記載した。トランスフェクション時に、RNAはウェルあたり100ngを3つ組で添加した。トランスフェクションの6時間後、LNPを含む培養培地を注意深く除き、細胞をPBSで1回穏やかにすすいだ。ルシフェラーゼ発現を、ルシフェラーゼアッセイ(Promega Cat#:E1501)を用いて、製造元のプロトコールに従って測定した。
【0105】
実施例11.標的化脂質としてPS脂質を含むPEG LNP(PEG製剤)の製造およびin vitro特性評価
本実施例において、負に荷電したリン脂質、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-L-セリン(DOPS)を、PS5-LNPを生成するためにMC3ベースの製剤に組み込んだ。簡単に説明すると、PS5-LNPは、実施例2に記載されたマイクロ流路を用いて作製され、これは、MC3、DSPC、コレステロール、DMG-PEG2k、およびDOPSを50:10:38.5:1.5:5のモル比で含む。DOPSを含まないLNPを対照(PS0-LNP)として使用した。
【0106】
PS5-LNPおよびPS0-LNPは共に、ホタルのルシフェラーゼ(Fluc)をコードするmRNAを封入し、HepG2(ATCC番号HB-8065)およびRaw264.7(ATCC番号TIB-71)にトランスフェクションし、in vitroでのトランスフェクション効率を評価した。細胞培養条件として、HepG2は10%ウシ胎児血清(FBS)および1xペニシリン-ストレプトマイシン(Pen-Strep)を添加したイーグル最小必須培地(EMEM)中、37℃、5%COで維持した。同様に、Raw264.7は、10%FBSおよび1x Pen-Strepを添加したダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)で同じ培養条件で維持した。LNPを細胞にトランスフェクションするために、60~70%のコンフルエントで播種した96ウェルプレートに播種した細胞に、異なる量のRNA(プロットで示す)を添加した。トランスフェクションの6時間後、PS-LNPを含有する培養培地を注意深く除き、細胞をPBSで1回静かにすすいだ。Passive Lysis Buffer(Promega Cat#:E1941)30μLを添加して細胞を溶解し、D-ルシフェリン基質(Promega Cat#:E1501)100μLを各ウェルに添加した。基質を添加した直後に、Cytation5マイクロプレートリーダー(Biotek、USA)を用いて、発光強度を白色不透明プレートで測定した。図19に示すように、PS5-LNPは肝細胞株であるHepG2(図19a)と単球/マクロファージ細胞株であるRAW264.7(図19b)の両方でトランスフェクション効率を有する。さらに、PS0-LNPと比較して、PS5-LNPは単球/マクロファージでより高いmRNA発現レベルを示すが、肝細胞でははるかに低い。加えて、PS5-LNPはマウスの初代脾臓細胞においても高いトランスフェクション効率を示した(図19c)。これらの細胞におけるタンパク質発現の違いは、PS5-LNPが、肝細胞ではなく、免疫細胞に選択的にmRNAを送達する可能性があることを示している。
【0107】
in vitro試験からの発見は、in vivoでも裏付けられた。PS5-LNPとPS0-LNPの両方にホタルルシフェラーゼ(Fluc)をコードするmRNAを封入し、眼窩後注射でC57BL/6マウスに送達した(0.2mg/kg)。投与6時間後にマウスを安楽死させ、mRNA発現レベルを解析するために様々な臓器を単離した。PS5-LNPでは、頚部リンパ節と脾臓に総生物発光シグナルの40%が認められた。対照群PS0-LNPでは、対照的に90%超の生物発光シグナルが肝臓に見られたが、リンパ節と脾臓にはほとんど見られなかった(図19d)。この結果は、DOPSを組み込んだ後のSLOへの生体分布シフトを明確に結論付けている。負に荷電した脂質が粒子のトランスフェクション効率を低下させるという他の多くの報告がある一方で、PSの添加は全体的なトランスフェクション効率を犠牲にすることなく、リンパ節および脾臓を標的とすることは注目に値する。
【0108】
実施例12-予言的実施例。構成要素を減少させたPCB-LNPの製造および特性評価
コレステロールの量を減少させたPCB-LNPのライブラリーを作製する。表1に示すように、コレステロールの比は0~38.5mol%の範囲とし、これに対応してDMG-PCBは1.5~40mol%の範囲とする。イオン化可能脂質(50mol%)およびヘルパー脂質(10mol%)の量は、実施例2に記載したように変化しない。
【0109】
【表1】
【0110】
各製剤は、実施例2に記載したのと同じ手順に従って製造する。各製剤について、サイズ、ゼータ電位、および封入効率の特性評価を行う。有効性試験のために、各製剤をin vitroでトランスフェクションし、トランスフェクション効率を評価する。具体的には、ホタルルシフェラーゼ(Fluc)をコードするmRNAを各製剤でそれぞれ封入する。HEK293T(ATCC、CRL-11268)を培養培地(10%FBS添加DMEM)100μL中、96ウェルプレートに4×104細胞/ウェルで播種し、37℃、5%COで一晩静置する。その後、Fluc mRNA担持LNP5μLを培地に添加し、6時間インキュベートした。各製剤は5つ組であり、陰性対照としてPBSを加える。トランスフェクション後、培養培地を注意深く除き、ルシフェラーゼアッセイシステムを用いてFlucの発現を評価する。
【0111】
さらに、最も優れた製剤をマウスに送達し、in vivoでの発現および生体内分布を評価する。具体的には、Fluc mRNA担持LNP(mRNA 1mg/kg)を、6~7週齢の雄C57BL/6Jマウスに注射する。トランスフェクションの6時間後、マウスにD-ルシフェリン(PBS中30mg/mL)を腹腔内注射によって投与する。10分後、マウスを屠殺し、8つの臓器(肝臓、脾臓、腎臓、肺、および脾臓)を採取する。臓器の発光は、光学イメージングシステムを使用して解析し、適切なソフトウェアを使用して定量化し、各臓器の放射輝度を光子/秒で測定する。
【0112】
実施例13-予言的実施例。PC部分を有する、または有さないLNPの製造および特性評価
本実施例では、PC部分からの免疫原性に対処するために、PC部分を含まない分子を使用する製剤を生成する。(図20)PC部分を含まない1つの製剤において、LNPの4つの構成要素は、イオン化可能脂質、DMG-CB1、コレステロールおよびDMG-PCBを含む。DMG-CB1は実施例1から生成され、CBはDMG-Nに結合し、以前の製剤のヘルパー脂質DSPCに取って代わる。PC部分を有する製剤では、LNPの4つの構成要素として、イオン化可能脂質、DSPC、コレステロールおよびDSPE-PCBが含まれる。DSPE-PCBは、参考文献(Z.Cao,L.ZhangおよびS.Jiang,Superhydrophilic Zwitterionic Polymers Stabilize Liposome,Langmuir,28,11625,2012)に従って生成される。
【0113】
各製剤は、実施例2に記載したのと同じ手順に従って製造する。各製剤について、サイズ、ゼータ電位および封入効率の特性評価を実施する。有効性試験のために、各製剤をin vitroでトランスフェクションし、トランスフェクション効率を評価する。具体的には、ホタルルシフェラーゼ(Fluc)をコードするmRNAを各製剤でそれぞれ封入する。HEK293T(ATCC、CRL-11268)を培養培地(10%FBS添加DMEM)100μL中、96ウェルプレートに2×104細胞/ウェルで播種し、37℃、5%COで一晩静置する。その後、Fluc mRNA担持LNP5μLを培地に添加し、6時間インキュベートした。各製剤は5つ組であり、陰性対照としてPBSを加える。トランスフェクション後、培養培地を注意深く除き、ルシフェラーゼアッセイシステムを用いてFlucの発現を評価する。
【0114】
さらに、最も優れた製剤をマウスに送達し、in vivoでの発現および生体内分布を評価する。具体的には、Fluc mRNA担持LNP(mRNA 1mg/kg)を、6~7週齢の雄C57BL/6Jマウスに注射する。トランスフェクションの6時間後、マウスにD-ルシフェリン(PBS中30mg/mL)を腹腔内注射によって投与する。10分後、マウスを屠殺し、8つの臓器(肝臓、脾臓、腎臓、肺、および心臓)を採取する。臓器の発光は、光学イメージングシステムを用いて解析し、適切なソフトウェアを用いて定量化し、各臓器の放射輝度を光子/秒で測定する。
【0115】
実施例14-予言的実施例。脂質構成要素の組合せ
図21にも示されるように、任意の脂質構成要素(双性イオン性ポリマー修飾脂質、カチオン性脂質、非カチオン性脂質、およびコレステロールまたはその誘導体)は、上述の組成物および方法を達成するために、任意の他の構成要素と化学的に組み合わせることができる。
【0116】
本発明の好ましい実施形態と考えられるものを示し、説明してきたが、当技術分野の当業者は、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲内に留まる様々な変更および修正を行うことができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
【国際調査報告】