(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-10
(54)【発明の名称】リチウム二次電池用正極活物質、その製造方法およびこれを含むリチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20231227BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20231227BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20231227BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 C
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023538099
(86)(22)【出願日】2021-12-13
(85)【翻訳文提出日】2023-06-21
(86)【国際出願番号】 KR2021018831
(87)【国際公開番号】W WO2022139290
(87)【国際公開日】2022-06-30
(31)【優先権主張番号】10-2020-0179584
(32)【優先日】2020-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコホールディングス インコーポレーティッド
(71)【出願人】
【識別番号】592000705
【氏名又は名称】リサーチ インスティチュート オブ インダストリアル サイエンス アンド テクノロジー
(71)【出願人】
【識別番号】511038879
【氏名又は名称】ポスコ ケミカル カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】ナム、 サン チョル
(72)【発明者】
【氏名】チェ、 クォン ヤン
(72)【発明者】
【氏名】ソン、 ジュン フン
(72)【発明者】
【氏名】イ、 サンヒョク
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA07
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB02
5H050CB07
5H050CB11
5H050CB12
5H050EA10
5H050EA24
5H050FA18
5H050FA20
5H050GA02
5H050GA05
5H050GA10
5H050GA12
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA05
5H050HA07
5H050HA14
5H050HA20
(57)【要約】
本実施例は、正極活物質、その製造方法およびこれを含むリチウム二次電池を提供する。一実施例による正極活物質は、中心部および前記中心部の表面に位置する表面部を含む金属酸化物粒子であり、前記金属酸化物粒子は、単粒子で構成され、前記表面部は、XRD測定時にピークが観察されない被膜を含むことができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心部および前記中心部の表面に位置する表面部を含む金属酸化物粒子であり、
前記金属酸化物粒子は、単粒子で構成され、
前記表面部は、XRD測定時にピークが観察されない被膜を含む正極活物質。
【請求項2】
前記被膜は、非晶質構造の化合物を含む、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項3】
前記非晶質構造の化合物は、炭素およびリチウムを含む、請求項2に記載の正極活物質。
【請求項4】
前記表面部は、非晶質構造および岩塩(rock salt)構造を含む、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項5】
前記中心部は、層状(layered)構造を含む、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項6】
前記金属酸化物粒子の粒子強度は、291MPa以上である、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項7】
前記金属酸化物粒子の結晶粒サイズは、2,500Å乃至5,000Å範囲である、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項8】
前記金属酸化物粒子の比表面積(BET)は、0.35m
2/g以下である、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項9】
前記正極活物質全体を基準に、
平均粒径が2μm以下である粒子の比率は、2.5%以下である、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項10】
前記正極活物質全体を基準に、
平均粒径が10μm以上である粒子の比率は、3%以下である、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項11】
前記金属酸化物粒子のD50粒径は、5.5μm以下である、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項12】
前記金属酸化物粒子は、
ニッケル、コバルト、マンガンおよびドーピング元素を含む、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項13】
前記ドーピング元素は、Zr、Al、B、P、La、Ta、Ti、W、Mo、Si、Ga、Zn、Nb、Ag、Sn、Bi、Au、Y、Ge、V、Cr、およびFeからなるグループから選択された1種以上を含む、請求項12に記載の正極活物質。
【請求項14】
前記ドーピング元素の含有量は、
前記ニッケル、コバルト、マンガンおよびドーピング元素の総和1モルを基準に、0.0005モル乃至0.04モルの範囲である、請求項12に記載の正極活物質。
【請求項15】
前記ドーピング元素は、ZrおよびAlを含む、請求項12に記載の正極活物質。
【請求項16】
前記Zrの含有量は、
前記ニッケル、コバルト、マンガンおよびドーピング元素の総和1モルを基準に、0.001モル乃至0.01モルの範囲である、請求項15に記載の正極活物質。
【請求項17】
前記Alの含有量は、
前記ニッケル、コバルト、マンガンおよびドーピング元素の総和1モルを基準に、0.001モル乃至0.04モルの範囲である、請求項15に記載の正極活物質。
【請求項18】
前記金属酸化物粒子でニッケルの含有量は、
前記ニッケル、コバルトおよびマンガンの総和1モルを基準に、0.8モル以上である、請求項12に記載の正極活物質。
【請求項19】
ニッケル原料物質、コバルト原料物質、マンガン原料物質および水を含む金属塩水溶液を製造する段階;
共沈反応器に前記金属塩水溶液を供給して金属水酸化物を得る段階;
前記金属水酸化物粒子、リチウム原料物質、ドーピング原料物質およびボロン化合物を混合した後に焼成してリチウム金属酸化物を得る段階;および
前記焼成されたリチウム金属酸化物を解砕した後に水洗する段階
を含む正極活物質の製造方法。
【請求項20】
前記リチウム金属酸化物を得る段階で、
前記ボロン化合物は、最終得られた正極活物質でニッケル、コバルト、マンガンおよびドーピング元素の総和1モルを基準に、0.003モル乃至0.03モルの範囲で投入して混合されるものである、請求項19に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項21】
前記リチウム金属酸化物を得る段階で、
リチウムを除いた全体金属(Me)に対するリチウム(Li)のモル比(Li/Me)は、1.01乃至1.1範囲である、請求項19に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項22】
前記リチウム金属酸化物を得る段階で、
前記焼成は、830℃乃至890℃範囲で10時間乃至24時間行われるものである、請求項19に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項23】
前記焼成されたリチウム金属酸化物を解砕した後に水洗する段階以降、
前記水洗されたリチウム金属酸化物およびリチウム原料物質を混合して2次焼成する段階をさらに含む、請求項19に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項24】
前記2次焼成する段階は、
730℃乃至800℃範囲で3時間乃至10時間行われる、請求項23に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項25】
前記2次焼成する段階で、
前記リチウム原料物質の混合量は、
前記水洗されたリチウム金属酸化物100gを基準に0.3g乃至5g範囲である、請求項23に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項26】
請求項1乃至18項のいずれか一項に記載の正極活物質を含む正極;
負極;および
非水電解質
を含むリチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施例は、リチウム二次電池用正極活物質、その製造方法およびこれを含むリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、電気自動車の爆発的な需要および走行距離の増大要求により、これに応えるための高容量、高エネルギー密度を有する二次電池の開発が全世界的に活発に行われている。
【0003】
このような要求を満たすため、Ni含有量が高いNCM正極材が利用されており、電極極板の密度を向上させるために、大粒および小粒が一定の分率に混合されたバイモーダル形態の正極活物質を適用した二次電池に関する研究が活発である。
【0004】
しかし、1次粒子が凝集された2次粒子の形態で構成された正極材形態は、粉末の比表面積が大きいため、電解液と接触する面積が広いことからガス発生の可能性が高く、これによる寿命劣化の問題点がある。
【0005】
また、2次粒子の強度が弱いため、圧延工程中に小粒子が1次粒子の形態に壊れるという問題点があり、これによっても寿命特性が劣化する問題がある。
【0006】
このような問題点を解決するために1次粒子の大きさを増加させる方法が提示されている。
【0007】
しかし、このように大きさを増加させた1次粒子は、ケーク(cake)強度が増加するために解砕が容易でなく、たとえ解砕されても微粉および巨粉が多量存在するため、粒子均一性が低下するという問題がある。
【0008】
したがって、1次粒子の大きさを増加させながらも、粒子均一性を向上させることができる技術の開発が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、微粉および巨粉の含有量が微量であり、粒子均一度および粒子強度に優れた正極活物質、正極活物質の製造方法およびリチウム二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
一実施形態による正極活物質は、中心部および前記中心部の表面に位置する表面部を含む金属酸化物粒子であり、前記金属酸化物粒子は、単粒子で構成され、前記表面部は、XRD測定時にピークが観察されない被膜を含むことができる。
【0011】
前記被膜は、非晶質構造の化合物を含むことができる。
【0012】
前記非晶質構造の化合物は、炭素およびリチウムを含むことができる。
【0013】
前記表面部は、非晶質構造および岩塩(rock salt)構造を含むことができる。
【0014】
前記中心部は、層状(layered)構造を含むことができる。
【0015】
前記金属酸化物粒子の粒子強度は、291MPa以上であり得る。
【0016】
前記金属酸化物粒子の結晶粒サイズは、2,500Å乃至5,000Å範囲であり得る。
【0017】
前記金属酸化物粒子の比表面積(BET)は、0.35m2/g以下であり得る。
【0018】
前記正極活物質全体を基準に、平均粒径が2μm以下である粒子の比率は、2.5%以下であり得る。
【0019】
前記正極活物質全体を基準に、平均粒径が10μm以上である粒子の比率は、3%以下であり得る。
【0020】
前記金属酸化物粒子のD50粒径は、5.5μm以下であり得る。
【0021】
前記金属酸化物粒子は、ニッケル、コバルト、マンガンおよびドーピング元素を含むことができる。
【0022】
前記ドーピング元素は、Zr、Al、B、P、La、Ta、Ti、W、Mo、Si、Ga、Zn、Nb、Ag、Sn、Bi、Au、Y、Ge、V、Cr、およびFeからなるグループから選択された1種以上を含むことができる。
【0023】
前記ドーピング元素の含有量は、前記ニッケル、コバルト、マンガンおよびドーピング元素の総和1モルを基準に、0.0005モル乃至0.04モルの範囲であり得る。
【0024】
前記ドーピング元素は、ZrおよびAlを含むことができる。
【0025】
前記Zrの含有量は、前記ニッケル、コバルト、マンガンおよびドーピング元素の総和1モルを基準に、0.001モル乃至0.01モルの範囲であり得る。
【0026】
前記Alの含有量は、前記ニッケル、コバルト、マンガンおよびドーピング元素の総和1モルを基準に、0.001モル乃至0.04モルの範囲であり得る。
【0027】
前記金属酸化物粒子でニッケルの含有量は、前記ニッケル、コバルトおよびマンガンの総和1モルを基準に、0.8モル以上であり得る。
【0028】
他の実施形態による正極活物質の製造方法は、ニッケル原料物質、コバルト原料物質、マンガン原料物質および水を含む金属塩水溶液を製造する段階;共沈反応器に前記金属塩水溶液を供給して金属水酸化物を得る段階;前記金属水酸化物粒子、リチウム原料物質、ドーピング原料物質およびボロン化合物を混合した後に焼成してリチウム金属酸化物を得る段階;そして前記焼成されたリチウム金属酸化物を解砕した後に水洗する段階を含むことができる。
【0029】
前記リチウム金属酸化物を得る段階で、前記ボロン化合物は、最終得られた正極活物質でニッケル、コバルト、マンガンおよびドーピング元素の総和1モルを基準に、0.003モル乃至0.03モルの範囲で投入して混合されるものであり得る。
【0030】
前記リチウム金属酸化物を得る段階で、リチウムを除いた全体金属(Me)に対するリチウム(Li)のモル比(Li/Me)は、1.01乃至1.1範囲であり得る。
【0031】
前記リチウム金属酸化物を得る段階で、前記焼成は、830℃乃至890℃範囲で10時間乃至24時間行われ得る。
【0032】
前記焼成されたリチウム金属酸化物を解砕した後に水洗する段階以降、前記水洗されたリチウム金属酸化物およびリチウム原料物質を混合して2次焼成する段階をさらに含むことができる。
【0033】
前記2次焼成する段階は、730℃乃至800℃範囲で3時間乃至10時間行われ得る。
【0034】
前記2次焼成する段階で、前記リチウム原料物質の混合量は、前記水洗されたリチウム金属酸化物100gを基準に0.3g乃至5g範囲であり得る。
【0035】
また他の実施形態によるリチウム二次電池は、一実施形態による正極活物質を含む正極;負極;および非水電解質を含むことができる。
【発明の効果】
【0036】
本実施形態による正極活物質の製造方法により製造された正極活物質は、単粒子で構成されることにより、解砕が非常に容易であるため、微粉および巨粉がほとんど存在せず、そのために、粒子均一度が非常に優れている。
【0037】
また、前記正極活物質は、粒子強度が非常に高いため、電極形成時に圧延率を増加させることができ、結果的にエネルギー密度が高いリチウム二次電池を実現することができる。
【0038】
また、前記正極活物質を適用する場合、リチウム二次電池の寿命が増加し、抵抗増加率が低く、熱安定性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】一実施形態により単粒子で構成された正極活物質の製造方法を説明するための概略図である。
【
図2】従来の単粒子で構成された正極活物質の製造方法を概略的に示したものである。
【
図3a】実施例1の正極活物質に対して10,000倍で測定したSEM分析結果である。
【
図3b】実施例1の正極活物質に対して1,000倍で測定したSEM分析結果である。
【
図4】比較例2の正極活物質に対して1,000倍で測定したSEM分析結果である。
【
図5】実施例1により製造した正極活物質に対してHRTEM(High resolution transmission electron microscope)装備を利用したイメージ測定結果である。
【
図6】
図5のA領域をFFT(Fast Fourier transform)変換して回折パターンに対するイメージを示したものである。
【
図7】
図5のB領域をFFT(Fast Fourier transform)変換して回折パターンに対するイメージを示したものである。
【
図8】
図5のC領域をFFT(Fast Fourier transform)変換して回折パターンに対するイメージを示したものである。
【
図9】比較例1により製造した正極活物質に対してHRTEM(High resolution transmission electron microscope)装備を利用したイメージ測定結果である。
【
図10】
図9のA領域をFFT(Fast Fourier transform)変換して回折パターンに対するイメージを示したものである。
【
図11】
図9のB領域をFFT(Fast Fourier transform)変換して回折パターンに対するイメージを示したものである。
【
図12】実施例1で製造した正極活物質をFIBでミリング処理した後の断面イメージを示したものである。
【
図13】実施例1により製造した正極活物質に対する元素マッピング(elements mapping)分析結果を元素別に示したものである。
【
図14】実施例1により製造した正極活物質に対する元素マッピング(elements mapping)分析結果を元素別に示したものである。
【
図15】実施例1により製造した正極活物質に対する元素マッピング(elements mapping)分析結果を元素別に示したものである。
【
図16】実施例1により製造した正極活物質に対する元素マッピング(elements mapping)分析結果を元素別に示したものである。
【
図17】実施例1により製造した正極活物質に対する元素マッピング(elements mapping)分析結果を元素別に示したものである。
【
図18】実施例1により製造した正極活物質に対してSTEM分析装備に分析した断面分析結果である。
【
図19】
図15でA領域に対するEELS分析結果を示したものである。
【
図20】
図15でB領域に対するEELS分析結果を示したものである。
【
図21】
図15でC領域に対するEELS分析結果を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0040】
第1、第2および第3などの用語は、様々な部分、成分、領域、層および/またはセクションを説明するために使用されるが、これらに限定されない。これらの用語は、ある部分、成分、領域、層またはセクションを、他の部分、成分、領域、層またはセクションと区別するためだけに使用される。したがって、以下に記載する第1部分、成分、領域、層またはセクションは、本発明の範囲を逸脱しない範囲内で第2部分、成分、領域、層またはセクションと呼ばれることがある。
【0041】
ここで使用される専門用語は、単に特定の実施形態について言及するためのものであり、本発明を限定することを意図しない。ここで使用される単数の形態は、文言がこれと明確に反対の意味を示さない限り、複数の形態も含む。明細書で使用される「含む」の意味は、特定の特性、領域、整数、段階、動作、要素および/または成分を具体化するためのものであり、他の特性、領域、整数、段階、動作、要素および/または成分の存在や付加を除外させるものではない。
【0042】
ある部分が他の部分の「上に」あると言及する場合、これは直ちに他の部分の上にあるか、またはその間に他の部分が介され得る。対照的に、ある部分が他の部分の「真上に」あると言及する場合、その間に他の部分が介されない。
【0043】
特段の定義をしなかったが、ここで使用される技術用語および科学用語を含む全ての用語は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が一般的に理解する意味と同一の意味を有する。通常使用される辞書に定義された用語は、関連技術文献と現在開示された内容とで同一の意味を有すると追加解釈され、定義されない限り、理想的または非常に公式的な意味に解釈されない。
【0044】
一実施形態によるリチウム二次電池用正極活物質は、中心部および前記中心部の表面に位置する表面部を含む金属酸化物粒子であり、前記金属酸化物粒子は、単粒子で構成され、前記表面部は、XRD測定時にピークが観察されない被膜を含むことができる。
【0045】
前記金属酸化物粒子で、表面部は、金属酸化物粒子の最外郭表面から、1nm乃至30nmの深さに該当する領域を意味する。
【0046】
前記表面部には、アイルランド形態で形成された被膜が位置することができる。
【0047】
前記被膜は、非晶質構造の化合物を含むことができる。より具体的に、前記非晶質構造の化合物は、炭素およびリチウムを含むことができる。
【0048】
本実施例形態の金属酸化物粒子において、中心部は、層状(layered)構造を含むことができ、前記表面部は、非晶質構造および岩塩(rock salt)構造を含むことができる。つまり、表面部は、非晶質構造および岩塩構造が混在された構造を含むことができる。
【0049】
前記金属酸化物粒子は、単粒子で構成されるものである。本明細書で単粒子は、1次粒子を意味することもでき、平均粒径が小さい数個の1次粒子が結合して大きさが増加した形態を意味することもできる。
【0050】
本実施形態の正極活物質は、正極活物質全体を基準に、平均粒径が2μm以下である粒子の比率が2.5%以下、より具体的に、0.1%乃至2.5%、0.1%乃至2.3%、0.2%乃至2%、または0.2%乃至1.5%範囲であり得る。
【0051】
また、平均粒径が10μm以上である粒子の比率は、3%以下、より具体的に0.2%乃至3%、0.2%乃至2.8%、または0.3%乃至2.7%範囲であり得る。
【0052】
前記金属酸化物粒子のD50粒径は、5.5μm以下、より具体的に3.5μm乃至5.5μm、3.5μm乃至5.3μm、3.7μm乃至5μm、または3.7μm乃至4.8μm範囲であり得る。
【0053】
本実施形態では、ニッケル含有量が高いNCM正極活物質の性能が低下することを防止するために1次粒子の大きさを増加させることにおいて、別途に高価な解砕装備または数回の解砕工程なしに、つまり、一般的な解砕装置を利用しても微粉および巨粉が非常に少ない、均一な粒度分布を有する正極活物質を提供することができる。
【0054】
したがって、平均粒径が2μm以下である粒子、平均粒径が10μm以上である粒子の比率が前記範囲を満たすと同時に、金属酸化物粒子のD50粒径が前記範囲を満たす場合、優れた電気化学的特性を有する正極活物質を実現することができる。
【0055】
本実施形態において、前記金属酸化物粒子の粒子強度は、291MPa以上、より具体的に291MPa乃至450MPa、300MPa乃至450MPa、305MPa乃至400MPa、または315MPa乃至400MPa範囲であり得る。粒子強度が300MPa以上である場合、前記正極活物質を利用して電極を製造する時に圧延率をより向上させることができる。そのために、エネルギー密度に優れたリチウム二次電池を実現することができる。
【0056】
また、前記金属酸化物粒子の結晶粒サイズは、2,500Å乃至5,000Å範囲、より具体的に2,600Å乃至4、900Å、2,650Å乃至4,800Å、または2,900Å乃至4,800Å範囲であり得る。結晶粒サイズが前記範囲を満たす場合、残留リチウムの含有量を低減させることができ、電池の寿命特性を向上させることができる。
【0057】
前記金属酸化物粒子の比表面積(BET)は、0.35m2/g以下、より具体的に0.05m2/g乃至0.35m2/g、0.05m2/g乃至0.30m2/g、0.05m2/g乃至0.29m2/g、0.07m2/g乃至0.28m2/g、または0.07m2/g乃至0.20m2/g範囲であり得る。BET値が前記範囲を満たす場合、これを利用して電池を実現する場合、充電および放電時にガス発生量を顕著に低下させることができるため、非常に有利な効果を有する。
【0058】
一方、前記金属酸化物粒子は、ニッケル、コバルト、マンガンおよびドーピング元素を含むことができる。前記ドーピング元素は、Zr、Al、B、P、La、Ta、Ti、W、Mo、Si、Ga、Zn、Nb、Ag、Sn、Bi、Au、Y、Ge、V、Cr、およびFeからなるグループから選択された1種以上であり得る。前記ドーピング元素の含有量は、前記ニッケル、コバルト、マンガンおよびドーピング元素の総和を1モル基準にする時、0.0005モル乃至0.04モルまたは0.001モル乃至0.03モルの範囲であり得る。この時、前記ドーピング元素は、最終得られる正極活物質に含まれるドーピング元素のドーピング量を意味する。
【0059】
正極活物質において、寿命および多様な電気化学的性能を確保するためにはドーピング元素の選定が重要である。本実施形態では、前記のように多様なドーピング元素を適用して正極活物質の特性を向上させることができる。
【0060】
本実施形態において、前記ドーピング元素は、ZrおよびAlを含むことができる。
【0061】
Zrは、ZrイオンがLiサイト(site)を占めるため、一種のピラー(pillar)の役割を果たすようになり、充放電過程中のリチウムイオン経路(lithium ion path)の収縮を緩和させて層状構造の安定化をもたらすようになる。このような現象は、つまり、カチオンミキシング(cation mixing)を減少させ、リチウム拡散係数(lithium diffusion coefficient)を増加させてサイクル寿命を増加させることができる。
【0062】
また、Alイオンは、正方晶系格子サイト(tetragonal lattice site)に移動して層状構造が相対的にリチウムイオンの移動が円滑でないスピネル構造に劣化することを抑制する。
【0063】
前記Zrの含有量は、前記ニッケル、コバルト、マンガンおよびドーピング元素の総和1モルを基準に、0.001モル乃至0.01モル、より具体的に、0.0016モル乃至0.0064モルの範囲、0.0017モル乃至0.0055モルまたは0.002モル乃至0.005モルの範囲であり得る。Zrドーピング量が前記範囲を満たす場合、高温抵抗増加率を減少させると同時に優れた寿命特性を確保することができる。
【0064】
前記Alの含有量は、前記ニッケル、コバルト、マンガンおよびドーピング元素の総和1モルを基準に、0.001モル乃至0.04モル、より具体的に、0.004モル乃至0.028モルの範囲、0.0045モル乃至0.027モルまたは0.0055モル乃至0.025モルの範囲であり得る。Alドーピング量が前記範囲を満たす場合、高温寿命および熱安定性をより向上させることができる。
【0065】
本実施形態の前記金属酸化物粒子においてニッケルの含有量は、前記ニッケル、コバルトおよびマンガン1モルを基準に、0.8モル以上であり得る。より具体的にニッケルの含有量は、0.8乃至0.99、0.85乃至0.99、0.88乃至0.99範囲であり得る。
【0066】
本実施形態のようにリチウム金属酸化物内の金属中のニッケルの含有量が80%以上である場合、高出力特性を有する正極活物質を実現することができる。このような組成を有する本実施形態の正極活物質は、体積当たりのエネルギー密度が高くなるため、これを適用する電池の容量を向上させることができ、電気自動車用として使用するにも非常に適する。
【0067】
他の実施形態による正極活物質の製造方法は、ニッケル原料物質、コバルト原料物質、マンガン原料物質および水を含む金属塩水溶液を製造する段階、共沈反応器に前記金属塩水溶液を供給して金属水酸化物を得る段階、前記金属水酸化物粒子、リチウム原料物質、ドーピング原料物質およびボロン化合物を混合した後に焼成してリチウム金属酸化物を得る段階、そして前記焼成されたリチウム金属酸化物を解砕した後に水洗する段階を含む。
【0068】
ニッケル原料物質、コバルト原料物質、マンガン原料物質および水を含む金属塩水溶液を製造した後、共沈反応器に前記金属塩水溶液を供給して金属水酸化物を得る段階は、当業界に一般的に知られた正極活物質前駆体製造方法により行うことができる。
【0069】
本実施形態では、焼成してリチウム金属酸化物を得る段階で、前記金属水酸化物粒子、リチウム原料物質およびドーピング原料を混合するが、リチウム原料物質を過量投入して混合し、同時にボロン化合物を共に混合することを特徴とする。
【0070】
図1には一実施形態により単粒子で構成された正極活物質の製造方法を説明するための概略図を示した。
【0071】
図1に示した通り、本実施形態では、正極活物質を製造する過程でリチウム原料およびボロン化合物を過量投入することにより、過焼成が容易に起こるよう促す。
【0072】
リチウム原料物質は、前駆体と酸化物を形成する。この時、過量含有されたリチウムがボロンと反応してボロン塩の一種であるリチウムボレートが形成される。
【0073】
過焼成工程では、1次粒子間の焼結される過程にリチウムボレートが存在することによって1次粒子間の結着力を弱化させる役割を果たす。これにより、焼成後の解砕過程中に大きさが増加された1次粒子、つまり、単粒子(Single Particle)間の分離が簡単に行われる。結果、高価な解砕装備を使用する或いは解砕工程を複数回経るなどすることなく、一般の解砕装備を使用しても微粉および巨粉比率が低い、つまり、均一度に優れた単粒子活物質を製造することができる。
【0074】
このようなリチウムボレートは、水によく溶解されるため、後述する水洗工程で残留リチウムと共に自然に除去することができる。
【0075】
図2には従来の単粒子で構成された正極活物質の製造方法を概略的に示した。
【0076】
図2に示した通り、従来は、大きさを増加させた1次粒子は、ケーク(cake)強度が増加して解砕が容易ではなく、たとえ解砕されても微粉および巨粉が多量存在するようになる。
【0077】
しかし、前述のように、本実施形態の製造方法により正極活物質を製造する場合、解砕工程が容易であるため、微粉および巨粉が微量存在する単粒子で構成された正極活物質を製造することができる。
【0078】
具体的に、前記リチウム金属酸化物を得る段階で、前記ボロン化合物は、最終得られた正極活物質でニッケル、コバルト、マンガンおよびドーピング元素の総和1モルを基準に、0.003モル乃至0.03モル、または0.007モル乃至0.028モルの範囲で投入して混合され得る。
【0079】
同時に、前記リチウム金属酸化物を得る段階で、リチウムを除いた全体金属(Me)に対するリチウム(Li)のモル比(Li/Me)は、1.01乃至1.1範囲、または1.03乃至1.08範囲であり得る。
【0080】
ボロン化合物の投入量およびLi/Meが前記範囲を満たす場合、リチウムとボロンが十分に反応してリチウムボレートの形成が可能である。
【0081】
一方、前記リチウム金属酸化物を得る段階で、前記焼成は、820℃乃至890℃、または830℃乃至880℃範囲で10時間乃至24時間行うことができる。焼成温度および時間条件が前記範囲を満たす場合、単粒子形態の粒子成長が行われる。
【0082】
次に、前記焼成されたリチウム金属酸化物を解砕した後に水洗する段階を行う。
【0083】
前述のように、解砕は従来の一般的な解砕装備を使用して行うことができる。また、前記水洗する段階は、表面に存在する残留リチウムを除去するためのものであり、例えば、蒸溜水を利用して行うことができる。
【0084】
次に、前記焼成されたリチウム金属酸化物を解砕した後に水洗する段階以降、前記水洗されたリチウム金属酸化物およびリチウム原料物質を混合して2次焼成する段階をさらに含むことができる。
【0085】
2次焼成する段階を経る場合、焼成過程で発生する表面の岩塩(rock salt)構造により欠乏したリチウムと水洗工程で水素イオン交換(proton exchange)から欠乏したリチウムを補償する効果がある。
【0086】
前記2次焼成する段階は、730℃乃至800℃、または740℃乃至780℃範囲で3時間乃至10時間行うことができる。2次焼成工程が前記条件を満たす場合、初期抵抗を低めることができる。
【0087】
前記2次焼成する段階で、前記リチウム原料物質の混合量は、前記水洗されたリチウム金属酸化物100gを基準に0.3g乃至5gまたは1g乃至4g範囲であり得る。リチウム原料物質の混合量が前記範囲を満たす場合、表面に欠乏したリチウムを補償して最終的に正極活物質の性能を向上させることができる。
【0088】
本発明の他の実施形態では、前述した本発明の一実施形態に係る正極活物質を含む正極、負極活物質を含む負極、および前記正極および負極の間に位置する電解質を含むリチウム二次電池を提供する。
【0089】
前記正極活物質と関連した説明は、前述した本発明の一実施形態と同一であるため省略する。
【0090】
前記正極活物質層は、バインダーおよび導電材を含むことができる。
【0091】
前記バインダーは、正極活物質粒子を互いに良好に付着させ、また正極活物質を電流集電体に良好に付着させる役割を果たす。
【0092】
前記導電材は、電極に導電性を付与するために使用されるものであって、構成される電池において、化学変化を招かない電子伝導性材料であれば如何なるものでも使用可能である。
【0093】
前記負極は、集電体および前記集電体の上に形成された負極活物質層を含み、前記負極活物質層は、負極活物質を含む。
【0094】
前記負極活物質としては、リチウムイオンを可逆的に挿入/脱離することができる物質、リチウム金属、リチウム金属の合金、リチウムをドープおよび脱ドープすることができる物質、または遷移金属酸化物を含む。
【0095】
前記リチウムイオンを可逆的に挿入/脱離することができる物質としては、炭素物質であって、リチウムイオン二次電池において一般的に使用される炭素系負極活物質は如何なるものでも使用することができ、その代表的な例としては、結晶質炭素、非晶質炭素またはこれらを共に使用することができる。
【0096】
前記リチウム金属の合金としては、リチウムとNa、K、Rb、Cs、Fr、Be、Mg、Ca、Sr、Si、Sb、Pb、In、Zn、Ba、Ra、Ge、AlおよびSnからなる群より選択される金属との合金を使用することができる。
【0097】
前記リチウムをドープおよび脱ドープすることができる物質としては、Si、SiOx(0<x<2)、Si-Y合金(前記Yは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、第13族元素、第14族元素、遷移金属、希土類元素およびこれらの組み合わせからなる群より選択される元素であり、Siではない)、Sn、SnO2、Sn-Y(前記Yは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、第13族元素、第14族元素、遷移金属、希土類元素およびこれらの組み合わせからなる群より選択される元素であり、Snではない)などが挙げられる。
【0098】
前記遷移金属酸化物としては、バナジウム酸化物、リチウムバナジウム酸化物などが挙げられる。前記負極活物質層はまた、バインダーを含み、選択的に導電材をさらに含むこともできる。
【0099】
前記バインダーは、負極活物質粒子を互いに良好に付着させ、また負極活物質を電流集電体に良好に付着させる役割を果たす。
【0100】
前記導電材は、電極に導電性を付与するために使用されるものであって、構成される電池において、化学変化を招かない電子伝導性材料であれば如何なるものでも使用可能である。
【0101】
前記集電体としては、銅箔、ニッケル箔、ステレンス鋼箔、チタニウム箔、ニッケル発泡体(foam)、銅発泡体、伝導性金属がコーティングされたポリマー基材、およびこれらの組み合わせからなる群より選択されるものを使用することができる。
【0102】
前記負極と正極は、活物質、導電材および結着剤を溶媒中で混合して活物質組成物を製造し、この組成物を電流集電体に塗布して製造する。このような電極製造方法は、当該分野に広く知られた内容であるため、本明細書で詳細な説明は省略する。前記溶媒としては、N-メチルピロリドンなどを使用することができるが、これに限定されるものではない。
【0103】
前記電解質は、非水性有機溶媒とリチウム塩を含む。
【0104】
前記非水性有機溶媒は、電池の電気化学的反応に関与するイオンが移動することができる媒質の役割を果たす。
【0105】
前記リチウム塩は、有機溶媒に溶解されて、電池内でリチウムイオンの供給源として作用して基本的なリチウム二次電池の作動を可能にし、正極と負極との間のリチウムイオンの移動を促進する役割を果たす物質である。
【0106】
リチウム二次電池の種類により正極と負極との間にセパレータを設けることもできる。このようなセパレータとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデンまたはこれらの2層以上の多層膜を使用することができ、ポリエチレン/ポリプロピレンの2層セパレータ、ポリエチレン/ポリプロピレン/ポリエチレンの3層セパレータ、ポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレンの3層セパレータなどのような混合多層膜を使用することができることはもちろんである。
【0107】
リチウム二次電池は、使用するセパレータと電解質の種類によりリチウムイオン電池、リチウムイオンポリマー電池およびリチウムポリマー電池に分類することができ、形態により円筒型、角型、コイン型、パウチ型などに分類することができ、サイズによりバルクタイプと薄膜タイプに分類することができる。これら電池の構造と製造方法は、当該分野に広く知られているため、詳細な説明は省略する。
【実施例】
【0108】
以下、本発明の実施例を詳しく説明する。ただし、これは例示として提示されるものであり、本発明はこれによって制限されず、本発明は後述する請求の範囲の範疇のみにより定義される。
【0109】
実施例1-B 0.01モル+Zr 0.0035モル+Al 0.0085モル
【0110】
(1)前駆体の製造
一般的な共沈法により前駆体を製造した。
具体的には、ニッケル原料物質としてはNiSO4・6H2O、コバルト原料物質としてはCoSO4・7H2O、マンガン原料物質としてはMnSO4・H2Oを利用した。これら原料を蒸溜水に溶解して金属塩水溶液を製造した。
共沈反応器を準備した後、共沈反応時に金属イオンの酸化を防止するためにN2をパージング(purging)し、反応器温度は50℃を維持した。
前記共沈反応器にキレート剤としてNH4(OH)を投入し、pH調節のためにNaOHを使用した。共沈工程により得られた沈殿物をろ過し、蒸溜水で洗浄した後、100℃オーブンで24時間乾燥して正極活物質前駆体を製造した。
製造された前駆体の組成は(Ni0.92Co0.04Mn0.04)(OH)2であり、平均粒径(D50)は約4μmであった。
【0111】
(2)正極活物質の製造
前記(1)で製造した前駆体339gにLiOH・H2O 161g、H3BO3 2.3g、Al(OH)3 2.45g、ZrO2 1.59gを秤量して均一に混合した混合物を酸素が1,000mL/min流入されるボックス形態の焼成炉で焼成した。焼成は830~890℃で24時間焼成した。
この時、リチウムを除いた全体金属(Me)に対するリチウム(Li)のモル比(Li/Me)は1.05に設計し、ボロン(B)も最終得られる正極活物質のニッケル、コバルト、マンガンおよびドーピング元素の総和1モルを基準に0.01モルになるように投入した。
前記焼成物をACM(Air classifying mill)を使用して解砕した後、表面の残留リチウムを除去するために水洗(washing)処理を実施し、12時間乾燥した。
次に、乾燥させた正極活物質100g当たり約2.3gのLiOH・H2O(0.053mol)を混合した後、酸素雰囲気下で熱処理して単粒子で構成された実施例1の正極活物質を製造した。熱処理は730~800℃で5時間行った。
【0112】
実施例2乃至16
正極活物質の製造時、焼成工程でボロン化合物、ドーピング原料の投入量を下記表1のように調節したことを除き、実施例1と同様な方法で正極活物質を製造した。
【0113】
比較例1
前記(1)で製造した前駆体339gにLiOH・H2O 161g、Al(OH)3 2.45g、ZrO2 1.59gを秤量して均一に混合した混合物を酸素が1,000mL/min流入されるボックス形態の焼成炉で焼成した。焼成は830~890℃で24時間焼成した。
この時、リチウムを除いた全体金属(Me)に対するリチウム(Li)のモル比(Li/Me)は1.05に設計した。
前記焼成物をACM(Air classifying mill)を使用して解砕した後、表面の残留リチウムを除去するために水洗(washing)処理を実施し、12時間乾燥した。
次に、乾燥させた正極活物質を酸素雰囲気下で熱処理して、表面部に岩塩構造を含む単粒子で構成された比較例1の正極活物質を製造した。熱処理は730~800℃で5時間行った。
【0114】
比較例2
正極活物質の製造時、焼成工程でボロン化合物を投入しないことを除き、実施例1と同様な方法により、単粒子で構成された正極活物質を製造した。
【0115】
比較例3
実施例1の(1)と同様な方法で前駆体を製造した後、前記前駆体339gにLiOH・H2O 161g、Al(OH)3 2.45g、ZrO2 1.59gを秤量して均一に混合した混合物を酸素が1,000mL/min流入されるボックス形態の焼成炉で焼成した。焼成は730~760℃で24時間焼成した。この時、リチウムを除いた全体金属(Me)に対するリチウム(Li)のモル比(Li/Me)は1.01に設計した。
前記焼成物をACM(Air classifying mill)を使用して解砕した後、表面の残留リチウムを除去するために水洗(washing)処理を実施し、12時間乾燥した。
次に、乾燥させた正極活物質100g当たり約2.3gのLiOH・H2O(0.053mol)を混合した後、酸素雰囲気下で熱処理して1次粒子が凝集された形態の2次粒子で構成された比較例3の正極活物質を製造した。熱処理は730~750℃で5時間行った。
【0116】
【0117】
実験例1-粒子サイズ分布の測定
実施例1乃至10、参考例1乃至6および比較例1乃至3により製造された正極活物質に対して、粒子サイズ測定装備(Particle Size Analyzer)を利用して粒子のサイズ分布を測定した。結果は下記表2に示した。
【0118】
【0119】
表2を参照すれば、焼成時に過量のリチウム原料と共にボロン化合物を導入した実施例1乃至10の場合、製造された正極活物質の粒子サイズ分布が非常に均一であることが分かる。
これに対し、ボロン化合物を使用しない比較例1および2の正極活物質は、微粉および巨粉の比率が実施例に比べて非常に高いことを確認できる。
表2の結果を参照すれば、焼成時に投入されるボロンが正極活物質粒子の均一度に非常に大きい影響を与えることを確認できる。
【0120】
実験例2-SEM分析
実施例1および比較例2により製造した正極活物質に対してSEM分析を実施して
図3a、
図3bおよび
図4に示した。
図3aは実施例1の正極活物質に対して×10,000倍で測定したSEM分析結果であり、
図3bは×1,000倍で測定したSEM分析結果である。
図4は比較例2の正極活物質に対して×1,000倍で測定したSEM分析結果である。
図3aを参照すれば、実施例1により製造された正極活物質は、一つの粒子、つまり、単粒子(single particle)で構成されたことが分かる。また、
図3bを参照すれば、単粒子形態が均一であり、微粉および巨粉なしにその大きさも非常に均一であることを確認できる。これに反し、
図4を参照すれば、
図3bに比べて相対的に微粉および巨粉が多く存在することが分かる。
【0121】
本実施例のように粒度の均一度に優れた、つまり、微粉および巨粉をほとんど含まない正極活物質は、後でバイモーダル形態の正極活物質としても利用可能である。
【0122】
このようなバイモーダル正極活物質を利用して電極を製造する場合、電極の圧延率を向上させてエネルギー密度を増加させることができる。
【0123】
実験例3-粒子特性評価
(1)比表面積の測定
実施例および比較例で製造した正極活物質に対してBET測定装備(Micromeritics TriStar II 3020)を利用して比表面積を測定した。
【0124】
(2)粒子強度の測定
実施例および比較例で製造した正極活物質に対して粒子強度測定装備(Fisherscope HM2000)を利用して粒子強度を測定した。
【0125】
(3)XRDの測定
実施例および比較例で製造された正極活物質に対して、CuKα線を使用してX線回折測定をした。
XRD装備(Panalytical社のX’pert3 powder diffraction)を使用してスキャンスピード(°/s)0.328で(003)面および(104)面の強度(ピーク面積)と(110)面の強度を測定した。この結果からI(003)/I(104)を求めて下記表3に示した。
また、(006)面、(102)面および(101)面の強度測定結果から下記式1によりR-ファクターを求めた。
[式1]
R-ファクター={I(006)+I(102)}/I(101)
正極活物質の結晶粒サイズ(crystalline size)を測定した。
【0126】
【0127】
表3を参照すれば、実施例1乃至10の正極活物質は、平均結晶粒サイズが最小2500Å以上で、比較例1乃至3に比べて全体的に非常に増加したことを確認できる。これは同一の焼成温度で結晶化がより良好に行われたことを意味する。このように結晶化が良好に行われた実施例の正極活物質をリチウム二次電池に適用する場合、電池の寿命特性を向上させることができ、残留リチウムを低減させることができるため非常に有利である。
【0128】
また、実施例1乃至10の比表面積(BET)は、0.35m2/g以下で、2次粒子の形態で製造された比較例3に比べて顕著に減少したことを確認できる。このように、本実施例の正極活物質は、BET値が非常に低いことから、セル充放電時にガス発生量を顕著に低下させることができるため、非常に有利な効果を有する。
【0129】
次に、実施例1乃至10による正極活物質の粒子強度は、291MPa以上で、比較例1乃至3に比べて増加したことが分かる。特に、2次粒子の形態で製造された比較例3に比べて2.5倍以上増加した。このように粒子強度に優れた正極活物質を利用してリチウム二次電池を実現する場合、電極の圧延率を向上させることができ、その結果、電池のエネルギー密度を増加させることができる。
【0130】
実験例4-電気化学評価
(1)コイン型半電池の製造
前記のように製造された正極活物質を利用してCR2032コインセルを製造した後、電気化学評価を進行した。
具体的には、正極活物質、導電材(Denka Black)およびポリフッ化ビニリデンバインダー(商品名:KF1120)を96.5:1.5:2の重量比で混合し、この混合物を固形分が約30重量%になるようにN-メチル-2-ピロリドン(N-Methyl-2-pyrrolidone)溶媒に添加して正極活物質スラリーを製造した。
前記スラリーを、ドクターブレード(Dоctor blade)を利用して正極集電体であるアルミニウム箔(Al foil、厚さ:15μm)上にコーティングし、乾燥させた後に圧延して正極を製造した。前記正極のローディング量は約15mg/cm2であり、圧延密度は約3.4g/cm3であった。
前記正極、リチウム金属負極(厚さ300μm、MTI)、電解液とポリプロピレンセパレータを使用して通常の方法で2032コイン型半電池を製造した。前記電解液は1M LiPF6をエチレンカーボネート、ジメチルカーボネートおよびエチルメチルカーボネート(EMC)の混合溶媒(混合比EC:DMC:EMC=3:4:3体積%)に溶解して混合溶液を製造した後、ここにビニレンカーボネート(VC)3重量%を添加して使用した。
【0131】
(2)充放電特性の評価
前記(1)で製造されたコイン型半電池を常温(25℃)で10時間エイジング(aging)した後、充放電テストを進行した。
容量評価は、205mAh/gを基準容量にし、充放電条件は定電流(CC)/定電圧(CV)2.5V乃至4.25V、1/20Cカット-オフを適用した。初期容量は0.1C充電/0.1C放電後の放電容量を測定し、0.2C充電/0.2C放電を実施した後、初期効率を計算した。
【0132】
(3)寿命特性の測定
高温サイクル寿命特性は、高温(45℃)で、0.3C充電/0.3C放電条件で30回を測定した。
【0133】
(4)抵抗特性の測定
常温初期抵抗(直流内部抵抗:DC-IR(Direct current internal resistance))は、電池を25℃で定電流-定電圧2.5V~4.25V、1/20Cカット-オフ条件で、0.2C充電および0.2放電を1回実施し、4.25V充電100%で放電電流の印加後、60秒後の電圧値を測定し、これを計算した。
抵抗増加率は、高温(45℃)で初期に測定した抵抗(常温初期抵抗)と対比してサイクル寿命30回後の抵抗を初期抵抗測定方法と同様に実施して測定し、その上昇率を百分率(%)で換算した。
【0134】
(5)熱安定性の評価
示差走査熱量(DSC:Differential Scanning Calorimetry)分析は、半電池を初期0.1C充電条件で4.25Vまで充電後、半電池を分解して正極のみを別途に得て、この正極をジメチルカーボネートで5回洗浄して準備した。DSC用ルツボに洗浄された正極を電解液で含浸させた後、温度を上昇させながらDSC機器(メトラー・トレド社(Mettler toledo)のDSC1 star system)を利用して、熱量変化を測定した後、得られたDSCピーク温度を示した。
【0135】
【0136】
表4は焼成時にボロン化合物およびドーピング原料の混合量を変化させながら製造した正極活物質に対して測定した電気化学的特性を評価した結果である。
表4を参照すれば、Zrが少量ドーピングされる参考例1の場合、高温抵抗増加率が増加し、寿命特性が低下することを確認できる。また、Zrが過量ドーピングされる参考例2の場合、初期容量が低下することが分かる。
Alが過量ドーピングされる参考例3の場合、初期容量が低下することが分かる。Alが少量ドーピングされる参考例4の場合、寿命特性が低下し、熱安定性が減少することを確認できる。
また、製造過程でボロン(B)が過量導入される参考例6の場合、初期容量が低下することを確認できる。
【0137】
一方、比較例1は、初期抵抗と抵抗増加率が顕著に増加することが分かる。
また、比較例2は、初期抵抗、寿命、抵抗増加率が全体的に実施例に比べて劣位にあることが分かる。また、1次粒子が凝集された2次粒子、つまり、多結晶(polycrystalline)形態で製造された比較例3の正極活物質は、抵抗増加率が非常に高いことが分かる。
【0138】
実験例5-正極活物質の構造分析
実施例1により製造した正極活物質に対してHRTEM(High resolution transmission electron microscope)装備を利用してイメージ測定して
図5に示した。
【0139】
図5を参照すれば、正極活物質の中心部はA領域、表面部はBおよびC領域に区分されることが分かる。
【0140】
図5のイメージでA、B、C領域に対してFFT(Fast Fourier transform)変換して回折パターンに対するイメージを得ており、その結果を
図6乃至
図8に示した。
【0141】
図6を参照すれば、正極活物質の中心部には典型的なLiNiO2(85-1966)のR-3m構造の層状系layered構造(Rhombohedral、a=b=0.28831nm、c=1.41991nm)が形成されていることが分かる。
【0142】
図7を参照すれば、約5~10nm厚さのNiO(89-5881)のFm-3m構造のRock salt構造(Cubic、a=b=c=0.83532nm)が形成されていることが分かる。
【0143】
図8を参照すれば、C領域では非晶質の構造が存在することが分かる。
【0144】
つまり、実施例1により製造された正極活物質の中心部は、層状(layered)構造を含み、表面部は、非晶質構造および岩塩(rock salt)構造を含むことを確認できる。
【0145】
次に、比較例1により製造した正極活物質に対してHRTEM(High resolution transmission electron microscope)装備を利用してイメージ測定して
図9に示した。
【0146】
図9を参照すれば、正極活物質の中心部はA領域、表面部はB領域に区分されることが分かる。
【0147】
図9のイメージでA、B領域に対してFFT(Fast Fourier transform)変換して回折パターンに対するイメージを得ており、その結果を
図10および
図11に示した。
【0148】
図10を参照すれば、比較例1の正極活物質の中心部にはR-3m構造の層状(layered)構造(Rhombohedral、a=b=0.28831nm、c=1.41991nm)が形成されていることが分かる。
図11を参照すれば、比較例11の正極活物質の表面部には岩塩構造(rock salt)(Cubic、a=b=c=0.83532nm)が形成されていることを確認できる。
【0149】
実験例6-粒子内部成分に対するEDS分析
図12には実施例1で製造した正極活物質をFIB(Focused Ion Beam、SEIKO 3050SE)でミリング処理後の断面イメージを示した。次に、正極活物質内部に存在する元素を確認するために、EDS(Energy dispersed spectroscopy、Oxford X_max 100TLE)分析装備を利用して分析した後、結果を
図13乃至
図17に示した。
【0150】
図13乃至
図17を参照すれば、単粒子で構成された実施例1の正極活物質内部にはNi、Co、Mnとドーピング元素で導入したZrおよびAlが均一に分布していることが分かる。しかし、ボロン(B)は、元素マッピング(mapping)上、正極活物質内部で観察されなかった。
【0151】
実験例7-粒子断面に対してEELSを利用したリチウム分析
実施例1で製造した正極活物質をFIB(Focused Ion Beam、SEIKO 3050SE)で断面を切断し、STEM(Scanning Transmission Electron Microscopy、JEOL ARM 200F)分析装備で分析した断面を
図18に示した。
【0152】
次に、Liおよびボロン(B)の存在有無を確認するために、
図18に表示されたA、B、C領域に対して、EELS(Electron Energy Loss Spectroscopy、GATAN GIF Quantum ER 965)装備を利用して分析した結果を
図19乃至
図21に示した。
【0153】
図19はA領域に対する分析結果であり、
図20はB領域に対する分析結果であり、
図21はC領域に対する分析結果である。
【0154】
図18においてAで表示された領域は、FIB測定のためのカーボンコーティング層で、正極活物質に該当する部分でない。したがって、
図19を参照すれば、Liおよびボロン(B)が全て観察されず、C(carbon)のみが観察されることが分かる。
【0155】
また、
図20を参照すれば、実施例1の正極活物質の表面部では、Liおよびカーボン(C)は観察されたが、ボロン(B)は観察されなかった。
【0156】
図20の結果と
図13乃至
図17の元素マッピング結果を参照すれば、単粒子で構成された正極活物質の表面部の一部の領域には非晶質形態のリチウムおよび炭素が位置することが分かる。
【0157】
また、
図21を参照すれば、リチウムおよび酸素が分析されることが分かる。つまり、単粒子中心部には層状構造を含むリチウム金属酸化物が存在することが分かる。
【0158】
本発明は、前記実施例に限定されるのではなく、互いに異なる多様な形態に製造することができ、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者は、本発明の技術的な思想や必須の特徴を変更することなく他の具体的な形態に実施可能であることを理解できはずである。したがって、以上で記述した実施例は、全ての面で例示的なものであり、限定的なものではないことを理解しなければならない。
【国際調査報告】