(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-10
(54)【発明の名称】RNAウイルスおよび/または細菌誘発性の疾患の治療に対するCRISPR/CAS13の応用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/113 20100101AFI20231227BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20231227BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20231227BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20231227BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20231227BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20231227BHJP
C12N 9/22 20060101ALI20231227BHJP
C12P 19/34 20060101ALI20231227BHJP
C12N 15/11 20060101ALI20231227BHJP
C12N 15/55 20060101ALI20231227BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20231227BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20231227BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20231227BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20231227BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20231227BHJP
【FI】
C12N15/113 Z
C12N15/113 100Z
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N9/22
C12P19/34 A
C12N15/11 Z
C12N15/55
A61P31/14
A61K31/7088
A61P31/12
A61P31/04
A61K48/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023538702
(86)(22)【出願日】2021-12-21
(85)【翻訳文提出日】2023-08-07
(86)【国際出願番号】 EP2021086992
(87)【国際公開番号】W WO2022136370
(87)【国際公開日】2022-06-30
(32)【優先日】2020-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】LU
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】509160867
【氏名又は名称】ヘルムホルツ・ツェントルム・ミュンヘン・ドイチェス・フォーシュンクスツェントルム・フュア・ゲズントハイト・ウント・ウンベルト・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】グルーバー クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】チュオン ドン-ジウン ジェフリー
(72)【発明者】
【氏名】ギーサート フロリアン
(72)【発明者】
【氏名】ヴルスト ヴォルフガング
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4B064AF27
4B064CA10
4B064CA19
4B064CC03
4B064CC06
4B064CC12
4B064CC24
4B064CD21
4B064DA02
4B065AA01Y
4B065AA93X
4B065AA95Y
4B065AB01
4B065BA02
4B065BB25
4B065BC03
4B065BC05
4B065BC07
4B065CA23
4B065CA31
4B065CA44
4C084AA13
4C084NA01
4C084NA14
4C084ZB33
4C084ZB35
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA01
4C086NA14
4C086ZB33
4C086ZB35
(57)【要約】
本発明は、クラスタ化され規則的に間隔があいた短い回文構造の繰り返し(CRISPR)システムを含む組成物であって、該システムが、i) 少なくとも1つの核輸送配列(NES)に融合された少なくとも1つの核局在化シグナル(NLS)と融合された少なくとも1つのCRISPR関連タンパク質13 (Cas13)または該Cas13タンパク質をコードするヌクレオチド配列と、ii) 1つまたは複数の標的RNA分子とハイブリダイズすることができる少なくとも1つのガイドRNA (gRNA)または該gRNAをコードするヌクレオチド配列とを含む、該組成物に関する。さらに、本発明は、クラスタ化され規則的に間隔があいた短い回文構造の繰り返し(CRISPR)システムを含む組成物であって、該システムが、i) 少なくとも1つの核局在化シグナル(NLS)とまたは少なくとも1つの核輸送配列(NES)と融合された少なくとも1つのCRISPR関連タンパク質13 (Cas13)または該Cas13タンパク質をコードするヌクレオチド配列と、ii) 少なくとも1つのウイルス輸送要素に融合されている、1つまたは複数の標的RNA分子とハイブリダイズすることができる少なくとも1つのガイドRNA (gRNA)または該gRNAをコードするヌクレオチド配列とを含む、該組成物に関する。本発明は、治療で用いるための前記組成物にも関する。特に、本発明は、対象におけるウイルス性または細菌性疾患を予防または処置する方法で用いるための前記組成物に関する。本発明はさらに、前記組成物の前記Cas13タンパク質および/または前記gRNAをコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子、該核酸分子を含むベクター、ならびに該ベクターまたは該核酸分子を含む宿主細胞に関する。さらに、本発明は、前記組成物を含むキットに関する。本発明は、本発明の前記組成物を産生する方法も含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラスタ化され規則的に間隔があいた短い回文構造の繰り返し(CRISPR)システムを含む組成物であって、該システムが、
i) 少なくとも1つの核輸送配列(NES)に融合された少なくとも1つの核局在化シグナル(NLS)と融合された少なくとも1つのCRISPR関連タンパク質13 (Cas13)または該Cas13タンパク質をコードするヌクレオチド配列と、
ii) 1つまたは複数の標的RNA分子とハイブリダイズすることができる少なくとも1つのガイドRNA (gRNA)または該gRNAをコードするヌクレオチド配列と
を含む、該組成物。
【請求項2】
Cas13タンパク質が、少なくとも1つのNESに融合された少なくとも1つのNLSとリンカーを介して融合されている、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
Cas13タンパク質が、1つのNESに融合された2つのNLSと融合されている、請求項1または2記載の組成物。
【請求項4】
2つのNLSが、SEQ ID NO: 5に示すアミノ酸配列を有するSV40 NLSと、SEQ ID NO: 3に示すアミノ酸配列を有するNLSコンセンサス配列とを含み、かつ1つのNESが、SEQ ID NO: 4に示すアミノ酸配列を有するHIV NESを含む、請求項3記載の組成物。
【請求項5】
Cas13タンパク質がCas13dタンパク質である、前記請求項のいずれか一項記載の組成物。
【請求項6】
Cas13dタンパク質が、ルミノコッカス属(Ruminococcus)、好ましくはルミノコッカス・フラベファシエンス(Ruminococcus flavevaciens)に由来する、請求項5記載の組成物。
【請求項7】
gRNAが少なくとも約23ヌクレオチドの長さを有する、前記請求項のいずれか一項記載の組成物。
【請求項8】
gRNAが約26~約30ヌクレオチドの長さを有する、前記請求項のいずれか一項記載の組成物。
【請求項9】
gRNAが、1つまたは複数の標的RNA分子に対して少なくとも約80%の相補配列同一性を有する、前記請求項のいずれか一項記載の組成物。
【請求項10】
gRNAが、1つまたは複数の標的RNA分子の5'および/または3'非翻訳領域にハイブリダイズすることができる、前記請求項のいずれか一項記載の組成物。
【請求項11】
gRNAをコードするヌクレオチド配列がtRNAまたはリボザイムと融合されている、請求項1~10のいずれか一項記載の組成物。
【請求項12】
Cas13タンパク質および/またはgRNAをコードするヌクレオチド配列が、以下の修飾:
修飾された5'および/もしくは3' UTR、5' CAP構造の転写後もしくは同時転写の付加、N1-メチルシュード-UTPによるUTPの置換、または2'-O-メチル-3' P-チオエートによる2つの5'および/もしくは3'末端ヌクレオチドの置換
のいずれか1つを含む、請求項1~11のいずれか一項記載の組成物。
【請求項13】
gRNAをコードするヌクレオチド配列が、少なくとも1つのウイルス輸送要素と融合されている、請求項1~12のいずれか一項記載の組成物。
【請求項14】
少なくとも1つのウイルス輸送要素が、構成的輸送要素(CTE)またはアデノウイルスVA1 RNA (VARdm)である、請求項13記載の組成物。
【請求項15】
1つまたは複数の標的RNA分子がウイルスまたは細菌の標的RNA分子である、前記請求項のいずれか一項記載の組成物。
【請求項16】
細菌またはウイルスのssRNAを不活性化するためのものである、前記請求項のいずれか一項記載の組成物。
【請求項17】
薬学的組成物である、前記請求項のいずれか一項記載の組成物。
【請求項18】
少なくとも1つの薬学的に許容される担体をさらに含む、請求項17記載の組成物。
【請求項19】
治療で用いるための、請求項1~18のいずれか一項記載の組成物。
【請求項20】
請求項1~18のいずれか一項記載の組成物の治療的有効量を対象に投与する段階を含む、対象におけるウイルス性または細菌性疾患を予防または処置する方法で用いるための、請求項1~18のいずれか一項記載の組成物。
【請求項21】
ウイルス性疾患がRNAウイルスによって引き起こされる、請求項20記載の使用のための組成物。
【請求項22】
ウイルス性疾患が、コロナウイルス疾患、インフルエンザA、エボラ、麻疹、C型肝炎、ダニ媒介脳炎(TBE)、ベネズエラウマ脳炎(VEE)ウイルス感染、デング熱、黄熱またはジカ熱のいずれか一つである、請求項21記載の使用のための組成物。
【請求項23】
ウイルス性疾患がCOVID-19疾患である、請求項22記載の使用のための組成物。
【請求項24】
請求項1~18のいずれか一項に定義されるCas13タンパク質およびgRNAをコードするヌクレオチド配列を含む、核酸分子。
【請求項25】
請求項24記載の核酸分子を含む、ベクター。
【請求項26】
請求項25記載のベクターまたは請求項24記載の核酸分子を含む、宿主細胞。
【請求項27】
請求項1~18のいずれか一項記載の組成物を含む、キット。
【請求項28】
送達システムおよび/または標識をさらに含む、請求項27記載のキット。
【請求項29】
以下の段階を含む、請求項1~18のいずれか一項記載の組成物を産生する方法:
a) 遺伝子操作方法による、請求項1~18のいずれか一項に定義されるCas13タンパク質およびgRNAをコードする核酸、それにより該組成物を産生する段階; 任意で
b) 段階a)の産生された組成物を得る段階。
【請求項30】
クラスタ化され規則的に間隔があいた短い回文構造の繰り返し(CRISPR)システムを含む組成物であって、該システムが、
i) 少なくとも1つの核局在化シグナル(NLS)とまたは少なくとも1つの核輸送配列(NES)と融合された少なくとも1つのCRISPR関連タンパク質13 (Cas13)または該Cas13タンパク質をコードするヌクレオチド配列と、
ii) 少なくとも1つのウイルス輸送要素に融合されている、1つまたは複数の標的RNA分子とハイブリダイズすることができる少なくとも1つのガイドRNA (gRNA)または該gRNAをコードするヌクレオチド配列と
を含む、該組成物。
【請求項31】
少なくとも1つのウイルス輸送要素が、構成的輸送要素(CTE)またはアデノウイルスVA1 RNA (VARdm)である、請求項30記載の組成物。
【請求項32】
Cas13タンパク質がCas13dタンパク質である、請求項30または31記載の組成物。
【請求項33】
Cas13dタンパク質がルミノコッカス属、好ましくはルミノコッカス・フラベファシエンスに由来する、請求項32記載の組成物。
【請求項34】
gRNAが少なくとも約23ヌクレオチドの長さを有する、請求項30~33のいずれか一項記載の組成物。
【請求項35】
gRNAが約26~約30ヌクレオチドの長さを有する、請求項30~34のいずれか一項記載の組成物。
【請求項36】
gRNAが、1つまたは複数の標的RNA分子に対して少なくとも約80%の相補配列同一性を有する、請求項30~35のいずれか一項記載の組成物。
【請求項37】
gRNAが、1つまたは複数の標的RNA分子の5'および/または3'非翻訳領域にハイブリダイズすることができる、請求項30~36のいずれか一項記載の組成物。
【請求項38】
gRNAをコードするヌクレオチド配列がtRNAまたはリボザイムと融合されている、請求項30~37のいずれか一項記載の組成物。
【請求項39】
1つまたは複数の標的RNA分子がウイルスまたは細菌の標的RNA分子である、請求項30~38のいずれか一項記載の組成物。
【請求項40】
細菌またはウイルスのssRNAを不活性化するためのものである、請求項30~39のいずれか一項記載の組成物。
【請求項41】
薬学的組成物である、請求項30~40のいずれか一項記載の組成物。
【請求項42】
少なくとも1つの薬学的に許容される担体をさらに含む、請求項41記載の組成物。
【請求項43】
治療で用いるための、請求項30~42のいずれか一項記載の組成物。
【請求項44】
請求項30~42のいずれか一項記載の組成物の治療的有効量を対象に投与する段階を含む、対象におけるウイルス性または細菌性疾患を予防または処置する方法で用いるための、請求項30~42のいずれか一項記載の組成物。
【請求項45】
ウイルス性疾患がRNAウイルスによって引き起こされる、請求項44記載の使用のための組成物。
【請求項46】
ウイルス性疾患が、コロナウイルス疾患、インフルエンザA、エボラ、麻疹、C型肝炎、ダニ媒介脳炎(TBE)、ベネズエラウマ脳炎(VEE)ウイルス感染、デング熱、黄熱またはジカ熱のいずれか一つである、請求項45記載の使用のための組成物。
【請求項47】
ウイルス性疾患がCOVID-19疾患である、請求項46記載の使用のための組成物。
【請求項48】
請求項30~42のいずれか一項に定義されるCas13タンパク質およびgRNAをコードするヌクレオチド配列を含む、核酸分子。
【請求項49】
請求項48記載の核酸分子を含む、ベクター。
【請求項50】
請求項49記載のベクターまたは請求項48記載の核酸分子を含む、宿主細胞。
【請求項51】
請求項30~42のいずれか一項記載の組成物を含む、キット。
【請求項52】
送達システムおよび/または標識をさらに含む、請求項51記載のキット。
【請求項53】
以下の段階を含む、請求項30~42のいずれか一項記載の組成物を産生する方法:
a) 遺伝子操作方法による、請求項30~42のいずれか一項に定義されるCas13タンパク質およびgRNAをコードする核酸、それにより該組成物を産生する段階; 任意で
b) 段階a)の産生された組成物を得る段階。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年12月22日付で出願されたLU 102326の優先権を主張する。本出願は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【0002】
発明の分野
本発明は、クラスタ化され規則的に間隔があいた短い回文構造の繰り返し(CRISPR)システムを含む組成物であって、該システムが、i) 少なくとも1つの核輸送配列(NES)に融合された少なくとも1つの核局在化シグナル(NLS)と融合された少なくとも1つのCRISPR関連タンパク質13 (Cas13)または該Cas13タンパク質をコードするヌクレオチド配列と、ii) 1つまたは複数の標的RNA分子とハイブリダイズすることができる少なくとも1つのガイドRNA (gRNA)または該gRNAをコードするヌクレオチド配列とを含む、該組成物に関する。さらに、本発明は、クラスタ化され規則的に間隔があいた短い回文構造の繰り返し(CRISPR)システムを含む組成物であって、該システムが、
i) 少なくとも1つの核局在化シグナル(NLS)とまたは少なくとも1つの核輸送配列(NES)と融合された少なくとも1つのCRISPR関連タンパク質13 (Cas13)または該Cas13タンパク質をコードするヌクレオチド配列と、
ii) 少なくとも1つのウイルス輸送要素に融合されている、1つまたは複数の標的RNA分子とハイブリダイズすることができる少なくとも1つのガイドRNA (gRNA)または該gRNAをコードするヌクレオチド配列と
を含む、該組成物に関する。本発明は、治療で用いるための前記組成物にも関する。特に、本発明は、対象におけるウイルス性または細菌性疾患を予防または処置する方法で用いるための前記組成物に関する。本発明はさらに、前記組成物の前記Cas13タンパク質および/または前記gRNAをコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子、該核酸分子を含むベクターならびに該ベクターまたは該核酸分子を含む宿主細胞に関する。さらに、本発明は、前記組成物を含むキットに関する。本発明は、本発明の前記組成物を産生する方法も含む。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
臨床的見地から、一般にウイルスまたは細菌株の急速な蔓延に関する問題は、薬物の開発に時間がかかりすぎて、妥当な時間内に治療剤を開発できないことである。特に、コロナウイルス科の(+)-RNAウイルスであり、2020年10月初旬の時点で、世界中で1.000.000超の死者を出している新型コロナウイルスSARS-CoV-2に関しては、薬物開発が重要な問題となっている。RNAウイルスは、最近の他の2つのエピパンデミックおよびパンデミック(SARS-CoV-1およびMERS-CoV)の原因でもある。これら2つの流行病は、高い病毒性と飛沫感染を介した効率的な拡散経路を併せ持つことがCOVID-19と共通している(P. Anfinrud et al. (2020), N Engl J Med 382, 2061-2063(非特許文献1); J. Chen (2020) Microbes Infect 22, 69-71(非特許文献2))。
【0004】
このため、既に承認された薬物の「再利用」しか利用できる手段がない。例えば、もともとエボラの治療薬として開発されたレムデシビルは、現在、COVID-19の治療法として議論されている(J. Grein et al. (2020), N Engl J Med 382, 2327-2336(非特許文献3))。しかしながら、抗体やレムデシビルなどの低分子に基づく治療法は、タンパク質の三次構造を標的構造として用いるため、承認された阻害剤を新しいウイルスまたは細菌株に適用できないことが多く、さらに、ウイルスまたは細菌の変異によって治療剤の結合特性が変化することもありうる。
【0005】
原核生物の免疫系CRISPR/Casは、高等真核生物の免疫系とは異なる働きをする。タンパク質抗原に結合する代わりに、CRISPR/Casシステムはファージの遺伝情報をリボ核酸レベルで直接認識する。ファージゲノムに相補的なガイドRNA (gRNA)を発現させるだけで、エフェクタヌクレアーゼがファージのゲノムに向けられ、ゲノムの切断が誘導される(F. Hille et al. (2018), Cell 172, 1239-1259(非特許文献4))。CRISPR/Casシステムは2つのクラスに分けられ、6つのタイプがある(K.S. Makarova et al. (2020), Nat Rev Microbiol 18, 67-83(非特許文献5))。Cas9に加えて、プログラム可能なDNAseとして、Cas13が最近発見された。Cas9とは異なり、Cas13はDNAを切断するのではなく、原核生物宿主を攻撃するファージのRNAを切断する(O.O. Abudayyeh et al. (2016), Science 353(非特許文献6))。Cas13エフェクタのヌクレアーゼはHEPN (高等真核生物および原核生物のヌクレオチド結合)ドメインであり、これはタンパク質内で分割されているため不活性である。標的RNAが結合するとすぐに、タンパク質の三次構造に変化が起こり、それによって分離したヌクレアーゼドメインが近接し、活性化される(O.O. Abudayyeh et al. (2016))。
【0006】
先行技術においてCas13を用いた異なるアプローチは、インフルエンザAなどのいくつかのモデルウイルスや、既にCas13を発現しているヒト細胞に合成SARS-CoV-2配列をトランスフェクトする人工実験系において既に実証されている(C.A. Freije et al. (2019), Mol Cell 76, 826-837(非特許文献7), Abbott et al. (2020), Cell 181, 865-876(非特許文献8))。ヒト病原性ウイルスおよびまた細菌感染に対するワクチンを開発する現在の試みにもかかわらず、ヒト病原性ウイルスまたは細菌によって引き起こされる疾患の処置および/または予防のための代替のまたは改良された薬剤、組成物および方法を提供する必要性が依然として存在する。したがって、本出願の根底にある技術的課題は、この必要性に応えることである。
【0007】
この技術的課題は、特許請求の範囲に反映され、本明細書に記述され、以下の実施例および図面に例示される態様を提供することによって解決される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】P. Anfinrud et al. (2020), N Engl J Med 382, 2061-2063
【非特許文献2】J. Chen (2020) Microbes Infect 22, 69-71
【非特許文献3】J. Grein et al. (2020), N Engl J Med 382, 2327-2336
【非特許文献4】F. Hille et al. (2018), Cell 172, 1239-1259
【非特許文献5】K.S. Makarova et al. (2020), Nat Rev Microbiol 18, 67-83
【非特許文献6】O.O. Abudayyeh et al. (2016), Science 353
【非特許文献7】C.A. Freije et al. (2019), Mol Cell 76, 826-837
【非特許文献8】Abbott et al. (2020), Cell 181, 865-876
【発明の概要】
【0009】
本発明者らは、好ましくはCOVID-19などのRNAウイルスによって引き起こされるウイルス性疾患の処置のための、および、侵入性のまたは細胞複製されるウイルス/細菌mRNAが相補的gRNA (CRISPR関連RNA)の存在下でいわゆるCas13タンパク質により結合され、Cas13のRNAse活性により分解され、したがって無害化される、細菌性疾患の処置のための、新規のCRISPR-Casに基づくアプローチを開発した。前記新規のCRISPR/Cas概念は、タンパク質の三次構造の代わりにリボ核酸配列を直接標的とし、特にSARS-CoV-2のウイルスRNA配列および/または細菌RNA配列を直接攻撃する抗ウイルス/抗菌療法として用いることができる。それゆえ、そのようなアプローチはモジュール式であって、適応性がある。そのようなRNAに基づく治療アプローチの利点は、ウイルスゲノムおよび同様に細菌ゲノムを標的として使用できることであり、これはタンパク質の三次構造に対処するよりもはるかに容易かつ迅速に潜在的な治療薬にアクセスできることを意味する。
【0010】
特に、本発明者らは、gRNAおよびCas13タンパク質に対する多数の修飾を試験することができ、Cas13タンパク質のノックダウン効率を増加させる3つの成分を同定した(
図6、
図11および
図14を参照のこと)。最も重要な最適化段階には、少なくとも1つの核輸送シグナル(NES)にさらに融合される少なくとも1つの核局在化シグナル(NLS)のCas13タンパク質への融合が含まれた(
図1参照)。さらに、それには、gRNAの伸長(
図1および2参照)およびgRNAの折り畳みを支持するためのtRNAの融合、ならびに該gRNAへのリボザイムの融合(
図3参照)が含まれた。3つ全ての修飾を含む本発明の組成物は、本明細書の他の箇所で定義されるCas13-IDGをいうこともある。さらに、以下の修飾、例えば修飾された5'および/もしくは3' UTR、5' CAP構造の転写後もしくは同時転写の付加、N1-メチルシュード-UTPによるUTPの置換、または2'-O-メチル-3' P-チオエートによる2つの5'および/もしくは3'末端ヌクレオチドの置換のいずれか1つを含むRNAレベルでのCas13タンパク質および/またはgRNAの他の修飾が、Cas13タンパク質のノックダウン効率をさらに改善することが見出された(
図10および15を参照のこと)。さらに、本発明者らは、少なくとも1つのウイルス輸送要素の融合、好ましくは少なくとも1つの構成的輸送要素(CTE)またはVARdmの融合、最も好ましくは少なくとも1つのCTEとgRNAとの融合を含む、DNAレベルでのgRNAの別の修飾が、DNA送達のためのCas13タンパク質(上記で定義されたように少なくとも1つのNESに融合された少なくとも1つのNLSに融合される)のノックダウン効率をさらに増加させることも見出した(
図16参照)。
【0011】
gRNAは細胞核内で転写されるが、本発明者らによれば、Cas13d RNAse活性を活性化するためには、まずgRNAを結合させることが必要である(
図4参照)。理想的には、この段階は細胞核でのみ行われうる。対照的に、ウイルスまたは細菌感染後のウイルスまたは細菌mRNA標的分子は、本質的にサイトゾルに存在する。前記局在化シグナルの融合は、Cas13タンパク質の細胞質への局在化、およびこの区画におけるタンパク質の安定化をもたらした。既に公開されているCas13バリアントとは対照的に、この段階により初めて核RNAの代わりにサイトゾルRNAを分解することが可能になる。例えばコロナウイルスなどの多くのRNAウイルスの複製はサイトゾルでのみ行われるため、この段階は不可欠である。しかしながら、本発明の組成物が上記のDNAに基づくシステムとしてではなく、RNAまたはタンパク質に基づくシステムとして送達される場合、上記の修飾を含む該新規の組成物は、例えば、核およびサイトゾルに位置するウイルス、例えば、オルトミクソウイルス(Orthomyxoviridae)科、好ましくはインフルエンザウイルスにとっても重要性が高く、この場合、Cas13タンパク質のバランスのとれた局在化が両方の細胞区画において必要とされ、このことは、少なくとも1つのNESに融合された少なくとも1つのNLSへのCas13タンパク質の融合によって達成される。
【0012】
要約すると、この非常に型破りで自明でないアプローチは、翻訳されたCas13タンパク質を核内に誘導してgRNAをロードし、次いでそれをサイトゾルに輸送するために、または上記の逆にするために、結果として、望まれる標的構造の分解効率の増大をもたらすために試験されたいくつかの戦略のなかで最も適当であることが証明されており、したがって診断法および治療法において多大な可能性を秘めている(
図6および7参照)。
【0013】
したがって、第1の局面において、本発明は、クラスタ化され規則的に間隔があいた短い回文構造の繰り返し(CRISPR)システムを含む組成物であって、該システムが、i) 少なくとも1つの核輸送配列(NES)に融合された少なくとも1つの核局在化シグナル(NLS)と融合された少なくとも1つのCRISPR関連タンパク質13 (Cas13)または該Cas13タンパク質をコードするヌクレオチド配列と、ii) 1つまたは複数の標的RNA分子とハイブリダイズすることができる少なくとも1つのガイドRNA (gRNA)または該gRNAをコードするヌクレオチド配列とを含む、該組成物に関する。
【0014】
本発明は、Cas13タンパク質が、少なくとも1つのNESに融合された少なくとも1つのNLSとリンカーを介して融合されている、本明細書の他の箇所で定義される組成物も開示しうる。
【0015】
本発明者らは同様に、同じ効果、すなわち、所望の標的構造の分解効率の増大が、クラスタ化され規則的に間隔があいた短い回文構造の繰り返し(CRISPR)システムを含む組成物であって、該システムが、
i) 少なくとも1つの核局在化シグナル(NLS)とまたは少なくとも1つの核輸送配列(NES)と融合された少なくとも1つのCRISPR関連タンパク質13 (Cas13)または該Cas13タンパク質をコードするヌクレオチド配列と、
ii) 少なくとも1つのウイルス輸送要素に融合されている、1つまたは複数の標的RNA分子とハイブリダイズすることができる少なくとも1つのガイドRNA (gRNA)または該gRNAをコードするヌクレオチド配列と
を含む、該組成物によって達成されることを見出した。ここで、好ましくは構成的輸送要素(CTE)またはアデノウイルスVA1 RNA (VARdm)のミニヘリックスである、少なくとも1つのウイルス輸送要素、最も好ましくはCTEを前記gRNAに融合させることにより、Cas13-NESまたはNLSによるサイトゾルノックダウンが増加する(
図17参照)。
【0016】
Cas13タンパク質がCas13dタンパク質である、本明細書の他の箇所で定義される組成物も本明細書において包含される。
【0017】
Cas13dタンパク質がルミノコッカス属(Ruminococcus)、好ましくはルミノコッカス・フラベファシエンス(Ruminococcus flavevaciens)に由来する、本明細書の他の箇所で定義される組成物も本明細書において記述される。
【0018】
本発明は、gRNAが少なくとも約23ヌクレオチドの長さを有する、本明細書の他の箇所で定義される組成物も開示しうる。
【0019】
本発明は、gRNAが約26~約30ヌクレオチドの長さを有する、本明細書の他の箇所で定義される組成物も開示しうる。
【0020】
gRNAが、1つまたは複数の標的RNA分子に対して少なくとも約80%の相補配列同一性を有する、本明細書の他の箇所で定義される組成物も本明細書において記述される。
【0021】
gRNAが、1つまたは複数の標的RNA分子の5'および/または3'非翻訳領域にハイブリダイズすることができる、本明細書の他の箇所で定義される組成物も本明細書において包含される。
【0022】
本発明は、gRNAをコードするヌクレオチド配列がtRNAまたはリボザイムと融合されている、本明細書の他の箇所で定義される組成物も開示しうる。
【0023】
本発明は、1つまたは複数の標的RNA分子がウイルスまたは細菌の標的RNA分子である、本明細書の他の箇所で定義される組成物も開示しうる。
【0024】
本発明は、細菌またはウイルスのssRNAを不活性化するためのものである、本明細書の他の箇所で定義される組成物も開示しうる。
【0025】
好ましくは少なくとも1つの薬学的に許容される担体をさらに含む、薬学的組成物である、本明細書の他の箇所で定義される組成物も本明細書において包含される。
【0026】
第2の局面において、本発明は、治療で用いるための組成物にも関する。
【0027】
第3の局面において、本発明はさらに、組成物の治療的有効量を対象に投与する段階を含む、対象におけるウイルス性または細菌性疾患を予防または処置する方法で用いるための、該組成物に関する。
【0028】
さらに、本発明は、ウイルス性疾患がRNAウイルスによって引き起こされる、好ましくはウイルス性疾患が、コロナウイルス疾患、インフルエンザA、エボラ、麻疹、C型肝炎、ダニ媒介脳炎(TBE)、ベネズエラウマ脳炎(VEE)ウイルス感染、デング熱、黄熱またはジカ熱のいずれか一つである、さらにより好ましくはウイルス性疾患がCOVID-19疾患である、本明細書の他の箇所で定義される使用のための組成物も開示しうる。
【0029】
第4の局面において、本発明は、本明細書の他の箇所で定義される前記Cas13タンパク質および前記gRNAをコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子、本明細書において定義される核酸分子を含むベクター、または本明細書の他の箇所で定義される該核酸分子もしくは該ベクターを含む宿主細胞に関する。
【0030】
第5の局面において、本発明は、本明細書の他の箇所で定義される組成物を含むキットにも関する。本発明は、送達システムおよび/または標識をさらに含む、本明細書の他の箇所で定義されるキットも開示しうる。
【0031】
第6の局面において、本発明は、本発明の組成物を産生する方法にも関し、該組成物は、遺伝子操作方法により、本明細書において定義されるCas13タンパク質およびgRNAをコードする核酸から出発して、それにより該組成物を産生する段階; 任意で該産生された組成物を得る段階により産生される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】異なるCas13タンパク質およびgRNAバリアントのノックダウン効率。各バリアントは、同時トランスフェクトしたホタルルシフェラーゼを標的とし、非標的gRNAに対して正規化された。Cas13dへのNLS-NESタンデムシグナルの融合は、NLSのみのバリアントと比較して効率を改善した。gRNAの伸長は効率をさらに改善した。全ての条件を最新世代のmiRNA/RNA干渉と比較した(Fellmann et al., 2013 in Cell reports)。
【
図2】同時トランスフェクトされたナノルシフェラーゼを標的とするための、Cas13d-NLS-NESの異なるgRNA長の特徴付け。最適なgRNA長は26 bp 30 bpの範囲である。
【
図3】30 bp gRNAへのtRNA (MHV68 M1-7)またはリボザイム(HDV)のいずれかの融合は、同時トランスフェクションされたCas13d-NLS-NESのナノルシフェラーゼに対するノックダウン効率を増大する。
【
図4】核からサイトゾルへgRNAを輸送する異なる戦略を比較している。同時トランスフェクトされたナノルシフェラーゼに対するノックダウン効率を、異なるCas13dタンパク質局在化および異なるgRNA発現戦略について測定した。ポリメラーゼIII駆動型gRNAは核内に留まる。それゆえ、核局在Cas13d (NLS)はサイトゾルCas13d (NES)よりも優れている。タンデム融合(NLS-NES)は、核内のgRNAをピックアップし、ナノルシフェラーゼをコードするサイトゾルmRNAに対して活性があるため、ノックダウン効率を最大化する。ウエスタンブロットにより、Cas13dと同じ区画に存在するgRNAがタンパク質を安定化することが確認された。ポリメラーゼII駆動型プロモーターからの発現によってgRNAを輸送する補完的な戦略では、効率が改善されない。
【
図5】異なるCas13dタンパク質およびgRNAバリアントのノックダウン効率。各バリアントは、同時トランスフェクトしたホタルルシフェラーゼに対し標的化され、非標的gRNAに対して正規化された。同時トランスフェクトされたナノルシフェラーゼは、同じウェル内で測定されるが、gRNAによって直接標的とはされず、標的RNA誘導性の付随的活性の読み取り値となる。NLS-NESタンデムシグナルの融合は、NLSのみのバリアントと比較して効率を改善した。gRNAの伸長は効率をさらに改善した。全ての条件を最新世代のmiRNA/RNA干渉と比較した。
【
図6A】最適化されたCas13システムの開発のためのアッセイの概略図。
【
図6B】増強されたCas13-IDG (NLS-NES、30 bp gRNA、3’tRNA)との異なるCas13システムの比較。ノックダウン効率を、同時トランスフェクトされたナノルシフェラーゼによって測定した。
【
図6C】Cas13d-NLSと比較したCas13d-NLS-NESの部分的なサイトゾル局在。
【
図6D】コードmRNAの直接分解と28S rRNAの特定位置の二次切断を通じた細胞翻訳に及ぼすCas13dの影響の予想される機構。
【
図6E】同時トランスフェクトされたmRuby3を標的としたCas13d-NLS-NESとその後のバイオアナライザーチップでのリボソームRNAの分析。
【
図7A】Cas13に基づく抗ウイルス戦略の予想される作用機序。ウイルスゲノムを直接、関連するゲノムコピー、サブゲノムmRNAを標的とすることにより、またはウイルスタンパク質翻訳を阻害することにより、4レベルのウイルス阻害が達成される。
【
図7B】ウエスタンブロットによって確認された、人工的に発現させたウイルスタンパク質RNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp) (HAタグ付き)の効率的なノックダウン。さらに、無関係なmRuby3タンパク質を同時トランスフェクトすることによって付随的効果が確認された。
【
図7C】ACE2、Cas13d-NLS-NESおよびgRNAをトランスフェクトしたHEK293T細胞にSARS-CoV-2を感染させ、72時間後にRT-qPCRによってウイルス量を定量化した。
【
図8】活性型または不活性型Cas13d-NLS-NES、gRNAおよび標的RNAをトランスフェクトした細胞について、全体的な細胞タンパク質翻訳を測定した。
【
図9】Cas13d-NLS-NES、標的RNAおよび相補的gRNA有りまたは無しのいずれかでトランスフェクトされた細胞から抽出されたRNAのアガロースゲル。28S rRNA切断産物を示す。同じ28S rRNA切断産物が、精製Cas13d、gRNAおよび標的RNA有りまたは無しのいずれかでインキュベートされた精製80Sリボソームについてインビトロで見られる。
【
図10】(A) トランスフェクトされたCas13 mRNAまたはgRNAの異なる局面を最適化することによるCas13のRNA送達のノックダウン効率の改善。効率は、同時トランスフェクトされたナノルシフェラーゼを標的とすることにより測定され、非標的gRNAに対して正規化された。(B) mRNAからのCas13の発現レベルは、UTR、5' CAP構造の修飾、またはUTPのN1-メチルシュード-UTPによる置換によって改善された。
【
図11】(A) 異なる局在化シグナルに融合されたCas13dバリアントの例示。(B) 同時トランスフェクトされたナノルシフェラーゼ標的RNA (crRNA 1およびcrRNA 2)に対する局在の異なるCas13dバリアントのノックダウン効率。Cas13d-IDGの核局在化シグナルおよびサイトゾル局在化シグナルのバランスのとれたセットは、2つのcrRNAに対するノックダウン効率を最大化する。
【
図12】(A) 異なる局在化シグナルに融合されたCas13dタンパク質バリアントの局在を示す代表的な画像。(B) 100細胞についての異なるCas13dバリアントのサイトゾル/核分布の定量化。
【
図13】ポリメラーゼII駆動型gRNA (サイトゾル)およびポリメラーゼIII駆動型gRNA (核)について、ウエスタンブロットにより分析された、異なる局在化シグナルに融合されたCas13dバリアントの安定性。複合体化されたタンパク質/gRNAは、両方の成分が同じ区画に局在化される条件において最も安定である。
【
図14】mGreenLantern発現の低減により測定された、異なる構造要素を標的とするgRNAについての半サイトゾル型Cas13-NLS-NESおよび核局在型Cas13-NLSのベネズエラウマ脳炎(VEE)レプリコンに対するノックダウン効率の比較。自己複製VEE RNAは、ウイルス非翻訳領域(UTR)、非構造タンパク質(nsp)、インターフェロン阻害タンパク質(B18R, E3L)、mGreenLantern (mGL)レポーターおよびピューロマイシン耐性遺伝子からなる。Cas13d-NLS-NESでは、サイトゾル複製VEEのノックダウンが強く増強される。
【
図15】(A) ウイルス構造要素(NT: 非標的、CDS: コード配列、UTR: 非翻訳領域)を標的とする、Cas13d-IDGおよび異なるgRNAによる処置条件についてのSARS-CoV-2-GFP複製の連続分析。化学的に修飾された3' UTR gRNAは、ウイルス複製を阻害するのに最も効率的である。(B) Cas13d-IDGによる異なるSARS-CoV-2バリアントの標的化。ノックダウン効率は、生物学的6重複製および技術的2重複製で2つのウイルス標的遺伝子についてRT-qPCRにより分析された。
【
図16】Cas13に融合されたNESまたはタンデムNLS-NESについての同時トランスフェクトされたナノルシフェラーゼを標的とする2つのgRNAのノックダウン効率の比較。さらに、未修飾またはCTE融合gRNAのいずれかを試験した。NLS-NESおよびCTE-gRNAの組み合わせはノックダウン効率を最大化する。
【
図17】(A) 異なるcrRNA輸送戦略の例示。ポリメラーゼIII (pol III)駆動型crRNAは核内に留まり、ポリメラーゼII (pol II)駆動型crRNAはサイトゾルに輸送され、構成的輸送要素(CTE)に融合されたcrRNAは、アデノウイルスVA1 RNA (VARdm)のミニヘリックスに融合されたcrRNAと同様に輸送される。(B) サイトゾル(NES)または核(NLS) Cas13dタンパク質のいずれかと合わせた、異なるcrRNA輸送モチーフのナノルシフェラーゼ標的RNA (crRNA 1およびcrRNA 2)に対するノックダウン効率の比較。CTE輸送モチーフに融合されたcrRNAは、サイトゾルにおけるCas13dに基づくノックダウンの駆動において最も効率的である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
発明の詳細な説明
本発明を以下に詳細に記述するが、本発明は、本明細書において記述される特定の方法論、プロトコルおよび試薬に限定されるものではなく、これらは変化してもよいことが理解されるべきである。本明細書において用いられる専門用語は、特定の態様を記述することのみを目的としており、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される本発明の範囲を限定することを意図していないことも理解されるべきである。他に定義されない限り、本明細書において用いられる全ての技術的および科学的用語は、当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。
【0034】
以下では、本発明の要素について記述する。これらの要素は、特定の態様とともに記載されているが、さらなる態様をもたらすために任意の方法および任意の数で組み合わされうることが理解されるべきである。本明細書を通じて記述されるさまざまに記述された例および好ましい態様は、明示的に記述された態様のみに本発明を限定するものと解釈されるべきではない。この記述は、明示的に記述された態様を、任意の数の開示されたおよび/または好ましい要素と組み合わせた態様を支持および包含するものと理解されるべきである。さらに、本明細書において記述される全ての要素の任意の順列および組み合わせは、文脈がそうでないことを示さない限り、本出願の記述によって開示されたとみなされるべきである。
【0035】
本明細書およびそれに続く特許請求の範囲の全体にわたり、文脈上他の意味に解すべき場合を除き、「含む(comprise)」という単語ならびに「含む(comprises)」および「含む(comprising)」などの変化形は、述べられた成員、整数もしくは段階または成員、整数もしくは段階の群の包含を意味するものと、しかし任意の他の成員、整数もしくは段階または成員、整数もしくは段階の群の除外を意味するものではないと理解されるであろうが、とはいえ、いくつかの態様において、そのような他の成員、整数もしくは段階または成員、整数もしくは段階の群は除外されうる、すなわち、主題は、述べられた成員、整数もしくは段階または成員、整数もしくは段階の群の包含により構成される。本明細書において用いられる場合、「含む(comprising)」という用語は、「含む(containing)」もしくは「含む(including)」と置き換えることができ、または本明細書において用いられる場合、「有する(having)」という用語と置き換えることができることもある。本明細書において用いられる場合、「からなる(consisting of)」は、指定されていない任意の要素、段階または成分を除外する。
【0036】
本発明を記述する文脈において(特に特許請求の範囲の文脈において)用いられる「1つの(a)」および「1つの(an)」および「その(the)」ならびに同様の参照は、本明細書において別段の指示がない限りまたは文脈によって明らかに矛盾しない限り、単数と複数の両方を網羅するものと解釈されるべきである。本明細書における値の範囲の列挙は、その範囲内に入る各個別の値に個別に言及している省略表現の方法として役立つことが単に意図される。本明細書において別段の指示がない限り、各個別の値は、本明細書において個別に列挙されているかのように本明細書に組み入れられる。
【0037】
本明細書において記述される全ての方法は、本明細書において別段の指示がない限りまたは文脈によって明らかに矛盾しない限り、任意の適当な順序で実施することができる。本明細書において提供される任意のおよび全ての例、または例示的な言語(例えば、「などの」)の使用は、単に本発明をより良く例示することが意図されており、それ以外に主張される本発明の範囲に制限を課すものではない。本明細書におけるいかなる文言も、本発明の実践に不可欠な任意の非主張要素を示すものと解釈されるべきではない。
【0038】
別段の指示がない限り、一連の要素に先行する「少なくとも」という用語は、その一連におけるすべての要素をいうものと理解されるべきである。「少なくとも1個」という用語は、1、2、3個またはそれ以上、例えば4、5、6、7、8、9、10個およびそれ以上をいう。当業者は、本明細書において記述される本発明の特定の態様との多くの等価物を認識するか、または日常的な実験以上のことを用いずに確認することができるであろう。そのような等価物は、本発明によって包含されることが意図される。
【0039】
「に満たない」または順に「を超える」または「を下回る」という用語は、具体的な数を含むものではない。
【0040】
「および/または」という用語は、本明細書においてどこで用いられようとも、「および」、「または」および「この用語により接続される要素の全てのまたは他の任意の組み合わせ」という意味を含む。
【0041】
本明細書において用いられる場合、「からなる」は、主張の要素において指定されていない任意の要素、段階または成分を除外する。本明細書において用いられる場合、「から本質的になる」は、主張の基本的かつ新規的な特徴に実質的に影響を与えない材料または段階を除外しない。
【0042】
「含む(including)」という用語は、「含むが限定されることはない(including but not limited to)」を意味する。「含む(including)」および「含むが限定されることはない(including but not limited to)」は、互換的に用いられる。
【0043】
「約」という用語は、プラスまたはマイナス20%、好ましくはプラスまたはマイナス10%、より好ましくはプラスまたはマイナス5%、最も好ましくはプラスまたはマイナス1%を意味する。
【0044】
本明細書の記述および特許請求の範囲を通じて、文脈上他の意味に解すべき場合を除き、単数形は複数形を包含する。特に、不定冠詞が用いられる場合、本明細書は、文脈上他の意味に解すべき場合を除き、単数だけでなく複数を企図するものと理解されるべきである。
【0045】
本発明は、本明細書において記述される特定の方法論、プロトコル、材料、試薬および物質などに限定されず、したがって変化しうることが理解されるべきである。本明細書において用いられる専門用語は、特定の態様を記述することのみを目的としており、特許請求の範囲によってのみ定義される本発明の範囲を限定することを意図していない。
【0046】
本明細書の本文全体を通じていくつかの文書が引用されている。本明細書において引用される各文書(全ての特許、特許出願、科学出版物、製造業者の仕様書、説明書などを含む)は、上記または下記にかかわらず、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。本明細書のいかなる部分も、先行発明により本発明がそのような開示に先行する権利を有しないことを認めるものと解釈されるべきではない。参照により組み入れられる資料が本明細書と矛盾する、または合致しない限りにおいて、本明細書はそのような任意の資料に優先する。
【0047】
本明細書において引用される全ての文書および特許文書の内容は、参照によりその全体が組み入れられる。
【0048】
本発明およびその利点のより良い理解は、例示の目的のためにのみ供与される実施例から得られるであろう。実施例は、いかなる形でも本発明の範囲を限定することを意図していない。
【0049】
CRISPR組成物
Cas13タンパク質
本発明は、本明細書の他の箇所に記述されているようなCRISPRシステムを含む組成物に関する。そのようなCRISPR-Casシステムは、「クラスタ化され規則的に間隔があいた短い回文構造の繰り返し(CRISPR)/CRISPR関連タンパク質」を表す。これは、ウイルス、細菌およびプラスミドの侵入から細菌および古細菌を防御するために細菌および古細菌が進化させた適応防御機構に基づいており、外来リボ核酸の配列特異的な検出およびサイレンシングのために低分子RNAに依っている。CRISPR/Casシステムは、オペロンで組織されたcas遺伝子と、同一の繰り返しが散在するゲノム標的化配列(スペーサーと呼ばれる)からなるCRISPRアレイで構成されている(Bhaya et al. (2011) Annu Rev Genet 45:273-297; Barrangou R and Horvath P (2012) Annu Rev Food Sci Technol 3:143-162)。ガイドRNA (gRNA)による標的認識は、gRNAと複合体として機能するCasタンパク質による、外来配列のサイレンシングを指令する。
【0050】
より詳細にはかつ一般的には、CRISPR-CasまたはCRISPRシステムは、Cas遺伝子をコードする配列、tracr (トランス活性化CRISPR)配列(例えばtracrRNAもしくは活性な部分的tracrRNA)、tracr-mate配列(内因性CRISPRシステムの文脈では「直列反復配列」およびtracrRNAプロセッシングされた部分直列反復配列を包含する)、ガイド配列(内因性CRISPRシステムの文脈では「スペーサー」ともいわれる)、または本明細書において用いられる用語としての「RNA」(例えばCasをガイドするRNA、例えばCRISPR RNAおよびトランス活性化(tracr) RNAもしくは単一ガイドRNA (sgRNA) (キメラRNA))あるいはCRISPR遺伝子座からの他の配列および転写産物を含めて、CRISPR関連(「Cas」)遺伝子の発現またはCRISPR関連(「Cas」)遺伝子の活性の指令に関与する転写産物および他の要素を総称していう。一般に、CRISPRシステムは、標的配列の部位におけるCRISPR複合体の形成を促進する要素(内因性CRISPRシステムの文脈ではプロトスペーサーともいわれる)によって特徴付けられる。
【0051】
本発明において、前記特定のシステムを含む前記組成物は、CRISPR-Cas13システムに関連する。本発明において、前記CRISPRシステムを含む組成物は、Cas13タンパク質である、少なくとも1つ(1つまたは複数)のクラスタ化され規則的に間隔があいた短い回文構造の繰り返し(CRISPR)関連(Cas)タンパク質を含む。したがって、組成物は、本明細書の他の箇所で定義されるような1つ、2つ、3つ、4つ、5つまたはそれ以上のCas13タンパク質などの少なくとも1つ(1つまたは複数)を含む。CRISPR-Cas13は、細菌をウイルスおよび細菌から防御する細菌の免疫系に基づくRNA標的化・編集システムである。Cas13はVI型CRISPR-Casシステムにおいて、ウイルスおよび細菌からの侵入性リボ核酸を標的化かつ切断するエフェクタタンパク質である。CRISPR-Cas13システムは、CRISPR-Cas9システムに類似している。しかしながら、DNAを標的とするCas9とは異なり、RnaseであるCas13は、一本鎖RNA (ssRNA)を標的化/検出し、切断/分解する。したがって、Cas13タンパク質は、(VI型) RNA標的化エフェクタタンパク質をいうこともある。Cas13酵素は、生化学的におよび細菌内に観察されるプロトスペーサー隣接部位 (PFS)を有する標的を優先して正確な RNA 切断を媒介する2つの高等真核生物および原核生物ヌクレオチド結合(HEPN)エンドRNaseドメインを有する。RNA標的化エフェクタタンパク質の例としては、C2c2 (現在はCas13aとして知られている)、Cas13b、Cas13cおよびCas13dが挙げられる。Cas13は、研究者らがこれまで確認されていなかったCRISPRシステムを探していたときに、レプトトリキア属(Leptotrichia)細菌の一種であるL.シャーイイ(L. shahii)において最初に発見された。Cas13タンパク質は2016年にFeng Zhang (Broad Institute, MIT)の研究グループによって同定されて以来、これまでに4つの異なるサブタイプ(Cas13a~d)が記述され、集中的に研究されてきた。それらは配列が大きく異なるが、共通の特徴として、RNAse活性に関与する、いわゆる2つのHEPNドメイン(高等真核生物および原核生物のヌクレオチド結合ドメイン)を有する。前記Cas13タンパク質のそのようなドメインは、プロトスペーサー隣接部位(PFS)を有する標的を優先して正確なRNA切断を媒介する。対照的に、Cas13タンパク質は、前述のCas9タンパク質のような、DNAに対する活性を示さない。
【0052】
1つの態様において、Cas13タンパク質は、当技術分野において公知のHEPNドメイン、およびコンセンサス配列モチーフとの比較によってHEPNドメインであると認識されるドメインを含むがこれらに限定されない、少なくとも1つのHEPNドメインを含む。ある特定の態様において、Cas13タンパク質は単一のHEPNドメインを含む。ある特定の他の態様において、Cas13タンパク質は2つのHEPNドメインを含む。別の態様において、Cas13タンパク質は、RxxxxHモチーフ配列を含む1つまたは複数のHEPNドメインを含む。RxxxxHモチーフ配列は、非限定的に、当技術分野において公知のHEPNドメイン由来であることができる。RxxxxHモチーフ配列は、2つまたはそれ以上のHEPNドメインの部分を組み合わせることによって作製されたモチーフ配列をさらに含む。前述のように、コンセンサス配列は、「Novel CRISPR Enzymes and Systems」と題する米国仮特許出願第62/432,240号、2017年3月15日付で出願された「Novel Type VI CRISPR Orthologs and Systems」と題する米国仮特許出願第62/471,710号、および代理人事件整理番号47627-05-2133として表示され、2017年4月12日付で出願された「Novel Type VI CRISPR Orthologs and Systems」と題する米国仮特許出願に開示されているオルソログの配列に由来することができる。
【0053】
本発明の前記組成物はRNA分子を標的とし、ここで、少なくとも1つのCas13タンパク質が少なくとも1つのgRNAと複合体を形成し、かつ少なくとも1つのgRNAが複合体を1つまたは複数の標的RNA分子に向け、それにより、1つまたは複数の標的RNA分子を標的とするため、前記CRISPRシステムを含む前記組成物は、リボ核酸検出システムを含む組成物をいうこともある。前記組成物は前記Cas13 Rnaseを介してRNA分子を標的とするだけでなく、その後、該標的RNA分子を切断し、それにより該RNA分子を分解するので、前記CRISPRシステムを含む前記組成物は、リボ核酸分解システムを含む組成物をいうこともある。
【0054】
1つの態様において、少なくとも1つのCas13タンパク質または該タンパク質をコードするヌクレオチド配列は、Cas13aタンパク質もしくはその機能的バリアント、またはそのホモログもしくはオルソログである。別の態様において、少なくとも1つのCas13タンパク質または該タンパク質をコードするヌクレオチド配列は、Cas13bタンパク質もしくはその機能的バリアント、またはそのホモログもしくはオルソログである。さらに別の態様において、少なくとも1つのCas13タンパク質または該タンパク質をコードするヌクレオチド配列は、Cas13cタンパク質もしくはその機能的バリアント、またはそのホモログもしくはオルソログである。Cas13aタンパク質は、レプトトリキア属、リステリア属(Listeria)、コリネバクター属(Corynebacter)、ステレラ属(Sutterella)、レジオネラ属(Legionella)、トレポネーマ属(Treponema)、フィリファクター属(Filifactor)、ユーバクテリウム属(Eubacterium)、ストレプトコッカス属(Streptococcus)、ラクトバチルス属(Lactobacillus)、マイコプラズマ属(Mycoplasma)、バクテロイデス属(Bacteroides)、フラビイボラ属(Flaviivola)、フラボバクテリウム属(Flavobacterium)、スフェロケタ属(Sphaerochaeta )、アゾスピリラム属(Azospirillum)、グルコンアセトバクター属(Gluconacetobacter)、ネイセリア属(Neisseria)、ロゼブリア属(Roseburia)、パービバキュラム属(Parvibaculum)、スタフィロコッカス属(Staphylococcus)、ニトラティフラクター属(Nitratifractor)、マイコプラズマ属(Mycoplasma)およびカンピロバクター属(Campylobacter)およびラクノスピラ属(Lachnospira)からなる群より選択される生物由来であってよく、またはCas13aタンパク質は、レプトトリキア・シャーイイ(Leptotrichia shahii)、レプトトリキア・ワデイ(Leptotrichia wadei)、リステリア・シーリゲリ(Listeria seeligeri)、ラクノスピラセアエ・バクテリウム(Lachnospiraceae bacterium)、クロストリジウム・アミノフィラム(Clostridium aminophilum)、カルノバクテリウム・ガリナラム(Carnobacterium gallinarum)、パルディバクター・プロピオニシゲネス(Paludibacter propionicigenes)、リステリア・ウェイヘンステファネンシス(Listeria weihenstephanensis)、ロドバクター・カプスラタス(Rhodobacter capsulatus)からなる群より、好ましくはレプトトリキア・ワデイより選択される。別の態様において、前記Cas13aタンパク質は、参照により本明細書に組み入れられるUS20200165594の表4および5に記載されている配列のいずれかと少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列から選択されうる。ある特定の態様において、Cas13bは、バージイエラ(Bergeyella)、プレボテラ(Prevotella)、ポルフィロモナス(Porphyromonas)、バクテロイデス(Bacteroides)、アリスティペス(Alistipes)、リエメレラ(Riemerella)、カプノサイトファーガ(Capnocytophaga)、フラボバクテリウム(Flavobacterium)、ミロイデス(Myroides)、クリセオバクテリウム(Chryseobacterium)、パルディバクター(Paludibacter)、サイクロフレクサス(Psychroflexus)、フェオダクティリバクター・シノミクロビウム(Phaeodactylibacter Sinomicrobium)、ライヘンバチエラ(Reichenbachiella)、好ましくはプレボテラ、さらにより好ましくはプレボテラ種P5-125から選択される生物由来である。別の態様において、Cas13bタンパク質は、参照により本明細書に組み入れられるUS20200165594の表6に記載されている配列のいずれかと少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列であるか、またはそれを含む。ある特定の態様において、Cas13cタンパク質は、2017年6月26日付で出願された米国仮特許出願第62/525,165号、および2017年8月16日付で出願されたPCT出願第US 2017/047193号に開示されているものである。
【0055】
本発明の好ましい態様において、Cas13タンパク質または該タンパク質をコードするヌクレオチド配列は、Cas13dもしくはその機能的バリアント、またはそのホモログもしくはオルソログである。Cas13dタンパク質は、レプトトリキア属、リステリア属、コリネバクター属、ステレラ属、レジオネラ属、トレポネーマ属、フィリファクター属、ユーバクテリウム属、ルミノコッカス属(Ruminococcus)、ストレプトコッカス属、ラクトバチルス属、マイコプラズマ属、バクテロイデス属、フラビイボラ属、フラボバクテリウム属、スフェロケタ属、アゾスピリラム属、グルコンアセトバクター属、ネイセリア属、ロゼブリア属、パービバキュラム属、スタフィロコッカス属、ニトラティフラクター属、マイコプラズマ属、カンピロバクター属およびラクノスピラ属からなる群より、好ましくはユーバクテリウム属またはルミノコッカス属より、最も好ましくはルミノコッカス属より選択される属の生物由来であってよい。ルミノコッカス・フラベファシエンス(Ruminococcus flavefaciens)由来の、好ましくはルミノコッカス・フラベファシエンスXPD3002由来のCas13dは、標的RNAを分解するのに最も効率的であることが示されている。したがって、さらにより好ましい態様において、Cas13dタンパク質または該タンパク質をコードするヌクレオチド配列は、ルミノコッカス属に由来し、最も好ましくはルミノコッカス・フラベファシエンスに由来する。由来するとは、由来するタンパク質が、野生型タンパク質と、本明細書ではルミノコッカス属由来の、好ましくはルミノコッカス・フラベファシエンス由来のCas13dと、高度の配列相同性を有するという意味で、主に基づいており、したがって該野生型タンパク質と同じ機能を提供することを意味するが、当技術分野において公知のようにまたは本明細書において記述のように何らかの方法で変異(修飾)されていることを意味する。ルミノコッカス属に由来する、好ましくはルミノコッカス・フラベファシエンスに由来するCas13dタンパク質は、本明細書の他の箇所に定義されている機能的バリアントをいうこともある。Cas13タンパク質がルミノコッカス属由来である、好ましくはルミノコッカス・フラベファシエンス由来である、本明細書に定義されている組成物も、本明細書に含まれ、最も好ましい。
【0056】
特定の態様において、本明細書の他の箇所に定義されている前記Cas13dタンパク質の機能的バリアントは、ルミノコッカス・フラベファシエンスのCas13dタンパク質の野生型アミノ酸配列(SEQ ID NO. 1)と少なくとも約50%、または少なくとも約60%、または少なくとも約70%、または少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約85%、さらにより好ましくは少なくとも約90%の配列相同性または同一性、例えば少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%またはさらに少なくとも約99%のアミノ酸配列同一性を有する。したがって、本発明は、Cas13タンパク質または該タンパク質をコードするヌクレオチド配列が、SEQ ID NO: 1のアミノ酸配列と少なくとも約50%、51%、52%、53%、54%、55%、56%、57%、58%、59%、60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.1%、99.2%、99.3%、99.4%、99.5%、99.6%、99.7%、99.8%、99.9%またはさらに100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むCas13dタンパク質である、本明細書の他の箇所に定義されている組成物も含む。
【0057】
本明細書において用いられるタンパク質の「機能的バリアント」は、そのタンパク質の活性を少なくとも部分的に保持するそのようなタンパク質のバリアントをいう。機能的バリアントは、多型などを含めて、変異(これは当業者に公知であるように挿入、欠失または置換であってもよい)を含みうる。機能的バリアントのなかには、別の、通常は無関係な、核酸、タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドとのそのようなタンパク質の融合産物も含まれる。機能的バリアントは、天然に存在するものであってもよく、または人工的に作られたものであってもよい。有利な態様は、本明細書において定義されるように、操作されたまたは非天然に生じたCas13タンパク質を含むことができる。したがって、本明細書において記述されるCas13タンパク質の機能的バリアントは、それが由来するCas13タンパク質の生物学的活性を保持する。概して、Cas13タンパク質バリアントは、それが由来するCas13タンパク質と少なくとも約50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%またはさらに少なくとも約99%のアミノ酸配列同一性を有する。
【0058】
用語「オルソログ(orthologue)」(本明細書において「オルソログ(ortholog)」ともいわれる)および「ホモログ(homologue)」(本明細書において「ホモログ(homolog)」ともいわれる)は、当技術分野において周知である。さらなる指針として、本明細書において用いられるタンパク質の「ホモログ」は、それがホモログであるタンパク質と同じまたは同様の機能を果たす、同じ種のタンパク質である。相同タンパク質は、構造的に関連していてもよいが、構造的に関連している必要はなく、または構造的に部分的にのみ関連している。本明細書において用いられるタンパク質の「オルソログ」は、それがオルソログであるタンパク質と同じまたは同様の機能を果たす、異なる種のタンパク質である。オルソロガスなタンパク質は、構造的に関連していてもよいが、構造的に関連している必要はなく、または構造的に部分的にのみ関連している。特定の態様において、本明細書において言及されるCas13a、b、cまたはdなどのCas13タンパク質のホモログまたはオルソログは、Cas13a、b、cまたはdなどのCas13タンパク質と少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%、さらにより好ましくは少なくとも90%、例えば少なくとも95%の配列相同性または同一性を有する。さらなる態様において、本明細書において言及されるCas13a、b、cまたはdなどのCas13タンパク質のホモログまたはオルソログは、Cas13a、b、cまたはdなどの野生型Cas13タンパク質と少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%、さらにより好ましくは少なくとも90%、例えば少なくとも95%の配列同一性を有する。本明細書において定義されるCas13タンパク質をいう各態様は、その機能的バリアントまたはそのホモログもしくはオルソログに適用可能でもありうる。
【0059】
「同一性」または「配列同一性」とは、それらの類似性または関係性を測定する配列の特性を意味する。本発明において用いられる「配列同一性」または「同一性」という用語は、本発明のポリペプチドの配列と当該の配列との(相同性)アライメント後の、これら2つの配列のうち長い方の残基の数に対しての、対になる同一残基の割合を意味する。同一性は、同一残基の数を残基の総数で除し、その積(product)に100を乗じることにより測定される。配列同一性の割合は、例えば、プログラムBLASTP、バージョンblastp 2.2.5 (November 16, 2002; cf. Altschul, S. F. et al. (1997) Nucl. Acids Res.25, 3389-3402)を用い本明細書において判定することができる。この態様において、相同性の割合は、それぞれの配列を含むポリペプチド配列全体のアライメント(マトリックス: BLOSUM 62; ギャップコスト: 11.1; カットオフ値は10-3に設定)に基づく。これは、BLASTPプログラムの出力において結果として示された「陽性」(相同アミノ酸)の数の割合を、アライメントのためにプログラムによって選択されたアミノ酸の総数で除したものとして計算される。
【0060】
ある特定の態様において、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)またはPAM様モチーフは、関心対象の標的遺伝子座への本明細書において開示されるCas13タンパク質複合体の結合を指令する。いくつかの態様において、PAMは、5' PAM (すなわち、プロトスペーサーの5'末端の上流に位置する)でありうる。他の態様において、PAMは、3' PAM (すなわち、プロトスペーサーの5'末端の下流に位置する)でありうる。「PAM」という用語は、本明細書の他の箇所でも言及されている「PFS」または「プロトスペーサー隣接部位」または「プロトスペーサー隣接配列」という用語と互換的に用いられうる。
【0061】
本明細書の他の箇所で言及されている標的RNA分子を分解する効率の向上は、本発明のシステムの特定のデザインによるものである。本発明者らは、Cas13タンパク質の細胞局在が、組成物全体の分解効率に決定的な影響を及ぼし、前述のように細胞核と細胞質との両方にCas13が存在することが必要であることを示すことができた。前記特定のCRISPRシステムを含む新規組成物では、NLS (核局在化シグナル)およびNES (核輸送配列)の発明的なタンデム組み合わせを用いる。タンパク質レベルでは、実施例によって示されるように、ウイルスSARS-CoV-2 RNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)の90%低減をこうして検出することができた(
図1および4も参照のこと)。
【0062】
それゆえ、本発明の組成物に含まれるCRISPRシステムのCas13タンパク質は、少なくとも1つ(例えば1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つまたはそれ以上)の核輸送配列(NES)に融合されている少なくとも1つ(例えば1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つまたはそれ以上)の核局在化シグナル(NLS)と常に融合されている。前記システムに対するこの修飾は、最も重要な修飾をいう。NESは、タンパク質中の4つの疎水性残基を含む短い標的ペプチドであり、これは、例えば前記システムを含む組成物がDNAに基づくシステムとして送達される場合、核輸送を用い核膜孔複合体を通じて細胞核から細胞質へ輸送するために該タンパク質、すなわちCas13を標的とする。NLSは、例えば前記システムを含む組成物が、本明細書の他の箇所で定義されるRNAまたはタンパク質に基づくシステムとして送達される場合、核への輸送のために、細胞質内に位置するタンパク質、すなわちCas13を標的とする。
【0063】
前記少なくとも1つのNESに融合された前記少なくとも1つのNLSは、(タンデム)局在化シグナルに関連し、これによりCas13タンパク質は、例えば対象のウイルスまたは細菌感染後に、前記少なくとも1つのgRNAに結合することによって活性化されうる核と、標的RNA分子が位置しうる細胞質との間を往復することが可能になる。オルトミクソウイルス科のウイルス、好ましくはインフルエンザ(influenza)のような、細胞の核にも入るウイルスは、細胞質内だけでなく核内にも標的RNA分子を提供し、ここで組成物は再び、RNAまたはタンパク質レベルで送達されてシステムが細胞質と核を往復して核内の標的RNA分子を同様に分解することを可能としうる場合、本明細書において定義される局在化シグナルを必要とする。
【0064】
本明細書において定義されるCas13タンパク質は、好ましくは、長さが少なくとも1アミノ酸の当業者に公知の任意のペプチドリンカーを介して前記局在化シグナル(言い換えれば、前記少なくとも1つのNESに融合された前記少なくとも1つのNLS)に融合される。したがって、この文脈では、本明細書において定義されるCas13タンパク質が、前記少なくとも1つのNESに融合された前記少なくとも1つのNLSに連結されているという言い回しも、本明細書において同様に用いられうる。これは、ペプチドリンカーが適用されるため、間接的な融合または連結をいうこともありうる。したがって、「間接的に融合された」または「間接的に連結された」という言い回しも、この文脈で本明細書において用いることができる。前記リンカーは、好ましくは、長さが1~20アミノ酸である。より好ましくは、リンカーは長さが1~15アミノ酸であり、さらにより好ましくは、リンカーは長さが1~10アミノ酸であり、例えば長さが1~5アミノ酸である。さらにより好ましくは、リンカーは長さが10、9、8、7、6、5、5、3、2、1アミノ酸である。リンカー分子は直鎖状またはらせん状リンカーであることが好ましく、さらにより好ましくは、リンカーはらせん状リンカーである。リンカーは、例えばアミノ酸のグリシンおよび/またはセリンを用いた可動性リンカーであることがさらに好ましい。本発明の特に好ましい態様において、リンカー分子のアミノ酸残基の50%~100%、特に60%~100%、特に70%~100%、特に80%~100%、特に90%~100%、特に100%がグリシンおよびセリン残基であり、好ましくはα-ヘリックス構造を形成する。
【0065】
Cas13タンパク質と局在化シグナルとの融合/連結は、好ましくは、GGGSなどのGlySerリンカーを含む。それらは、必要に応じて、適当な長さを提供するために、3個((GGGS)3)か、6個、9個もしくはさらには12個またはそれ以上の繰り返しで用いることができる。リンカーは、適切な量の「機械的可動性」を操作するために用いられる。好ましい態様において、前記リンカーは、本明細書において定義されるGlySerThr (GST)リンカーである。Cas13タンパク質の前記局在化シグナルへの連結は、共有結合的でありうる。したがって、本発明は、Cas13タンパク質が、本明細書において定義される少なくとも1つのNESに融合された前記少なくとも1つのNLSと共有結合的に融合/連結されることをさらに含む。この文脈でのおよび同様に本発明の全体を通じて用いられる場合の「共有結合的に連結/融合される」という用語は、原子間の電子対の共有によって典型的に形成される共有結合をいう。本発明にしたがいおよび「共有結合的に融合/連結される」という用語が用いられる場合に、共有結合は、上記のペプチドリンカーの使用により前記Cas13タンパク質と本明細書において定義される局在化シグナルとの間に形成されるか、またはそのような共有結合は、本明細書の他の箇所で定義されるように、前記少なくとも1つのNLS間で(2つ以上のNLSが用いられる場合、相互間でも)、次に前記少なくとも1つのNES間で(2つ以上のNESが用いられる場合、相互間でも)形成される。
【0066】
本明細書の他の箇所で定義される少なくとも1つのNESに融合された少なくとも1つのNLSを含む局在化シグナルは、前記Cas13タンパク質のN末端またはC末端に融合されうる。したがって、1つの態様において、本明細書の他の箇所で定義される少なくとも1つのNESに融合された少なくとも1つのNLSを含む局在化シグナルは、前記Cas13タンパク質のC末端に融合される。別の態様において、本明細書の他の箇所で定義される少なくとも1つのNESに融合された少なくとも1つのNLSを含む局在化シグナルは、前記Cas13タンパク質のN末端に融合される。好ましい態様において、本明細書の他の箇所で定義される少なくとも1つのNESに融合された少なくとも1つのNLSを含む局在化シグナルは、前記Cas13タンパク質のC末端に融合される。本発明によれば、前記シグナルの前記少なくとも1つのNLSは、前記少なくとも1つのNESに直接融合されてもよく、アミノ酸配列(ペプチド配列とも呼ばれる)が、本明細書の他の箇所で定義されるリンカーなしで順々に配置されることを意味している。したがって、本発明の全体を通じて用いられる「直接融合」または「直接的に融合している」は、本明細書の他の箇所で定義されるように、前記少なくとも1つのNLSを、いずれのリンカーもなしに前記少なくとも1つのNESに融合し、それによって少なくとも1つのNLSおよび少なくとも1つのNESを含む局在化シグナルを形成することをいう。上記のような直接融合の定義は、直接融合に関するあらゆる文脈で適用することができる。直接融合または「直接的に融合している」は、2つ以上のNLSまたはNESが前記局在化シグナルに用いられ場合、前記NLSまたはNESの相互間の融合もいう。この文脈では、前記Cas13タンパク質が前記少なくとも1つのNLSに最初に融合されるか、または前記局在化シグナルの前記少なくとも1つのNESに最初に融合されるかに関係なく、任意の配置が本発明に含まれる。したがって、本明細書において定義されるCas13タンパク質は、少なくとも1つのNLSに続いて少なくとも1つのNESに最初に記述されるように融合/連結されうるか、またはその逆もまた然りである。同様に、前記局在化シグナルに1つまたは複数のNLSおよび1つまたは複数のNESが用いられる場合、該局在化シグナルの間では任意の配置(例えばNLS-NES-NLSまたはNES-NES-NLSまたはNLS-NLS-NES-NESなど)が可能であることができ、したがって本発明に含まれる。NLSの非限定的な例としては、アミノ酸配列PKKKRKV (SEQ ID NO: 2)を有するSV40ウイルス大型T-抗原のNLSに由来するNLS配列、アミノ酸配列PPKKKRKVED (SEQ ID NO: 5)を有するSV40ウイルス大型T-抗原の前記NLSの拡張形に由来するNLS配列、アミノ酸配列PAAKKKLD (SEQ ID NO: 3)を有するNLSコンセンサス配列(合成NLSとも呼ばれる)、アミノ酸配列PAAKRVKLD (SEQ ID NO: 6)を有するc-myc NLS、またはアミノ酸配列
を有するヌクレオプラスミン二連NLSが挙げられるが、これらに限定されることはない。NESの非限定的な例としては、アミノ酸配列LQLPPLERLTL (SEQ ID NO: 4)を有するHIVウイルスのNESに由来するNES配列が挙げられるが、これに限定されることはない。好ましい態様において、本明細書において定義される、少なくとも1つのNESに融合された少なくとも1つのNLSは、SEQ ID NO: 5に示すアミノ酸配列を有するSV40 NLS、SEQ ID NO: 4に示すアミノ酸配列を有するHIV NES、およびSEQ ID NO: 3に示すアミノ酸配列を有するNLSコンセンサス配列を含む(
図11参照)。この関連で、言及された前記少なくとも1つのNLS (同様にSEQ ID NO: 5による2つ以上のNLSおよび/またはSEQ ID NO: 3による2つ以上のNLS)の、ならびに定義された前記少なくとも1つのNES (同様にSEQ ID NO: 4による2つ以上のNES)の任意の配置が、本明細書に含まれる。さらにより好ましい態様において、SEQ ID NO: 5に示すアミノ酸配列を有する前記SV40 NLSは、Cas13タンパク質に、好ましくは該Cas13タンパク質のC末端に融合/連結され、それにSEQ ID NO: 4に示すアミノ酸配列を有する前記HIV NESが続く/融合され、次いで、それにSEQ ID NO: 3に示すアミノ酸配列を有する前記NLSコンセンサス配列(合成NLSとも呼ばれる)が続く/連結される。したがって、本明細書において定義される本発明の組成物は、好ましくは、本明細書において定義されるCas13タンパク質に融合された2つのNLSおよび1つのNESを含み、さらにより好ましくは、本明細書において定義される組成物のCas13タンパク質が1つのNESに融合された2つのNLSと融合される。
【0067】
いくつかの態様において、本明細書において記述されるCas13タンパク質は、His-タグ、GST-タグ、またはmyc-タグを含めて、1つまたは複数のペプチドタグに融合させることができる。いくつかの態様において、本明細書において記述されるCas13タンパク質は、蛍光タンパク質(例えば、緑色蛍光タンパク質または黄色蛍光タンパク質)などの検出可能な部分に融合させることができる。
【0068】
本発明によれば、Cas13タンパク質は、上記で定義されるタンパク質として導入されうるが、しかしあるいは、Cas13タンパク質は同様に、該タンパク質をコードするヌクレオチド配列の形態で導入されうる。言い換えれば、前記タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子の形態で導入されることもありうる。ヌクレオチド配列は、発現が機能的なCas13タンパク質をもたらすような、発現可能な形態で該Cas13タンパク質をコードすることが理解されるであろう。機能的なポリペプチドの発現を確実にするための手段および方法は、当技術分野において周知である。前記少なくとも1つのCas13タンパク質については、該少なくとも1つのCas13タンパク質をコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列も用いられうる。例えば2つのCas13タンパク質が前記システムに含まれる場合、一方のCas13タンパク質は1つのヌクレオチド配列によりコードされ、他方のCas13タンパク質はもう1つのヌクレオチド配列により別々にコードされることを意味する。例えば、コード配列は、例えばプラスミド、コスミド、ウイルス、バクテリオファージまたは従来的に、例えば遺伝子操作において用いられる別のベクターなどのベクターに含まれうる。ベクターに挿入されるコード配列は、例えば、標準的な方法によって合成することができ、または天然源から単離することができる。コード配列は、転写調節要素におよび/または他のアミノ酸コード配列にさらにライゲーションされうる。そのような調節配列は、当業者に周知であり、限定するものではないが、転写の開始を確実にする調節配列、内部リボソーム侵入部位(IRES) (Owens, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98 (2001), 1471-1476)ならびに任意で転写の終結および転写産物の安定化を確実にする調節要素を含む。転写の開始を確実にする調節要素の非限定的な例としては、翻訳開始コドン、例えばSV40エンハンサーなどの転写エンハンサー、例えばサイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、SV40プロモーター、RSVプロモーター(ラウス肉腫(Rous sarcome)ウイルス)、lacZプロモーター、ニワトリβ-アクチンプロモーター、CAGプロモーター(ニワトリβアクチンプロモーターおよびサイトメガロウイルス前初期エンハンサーの組み合わせ)、gai10プロモーター、ヒト伸長因子lot-プロモーター、AOX1プロモーター、GAL1プロモーターCaM-キナーゼプロモーター、lac、trpもしくはtacプロモーター、lacUV5プロモーター、カリフォルニアガマキンウワバ多核ポリヘドロシスウイルス(autographa californica multiple nuclear polyhedrosis virus; AcMNPV)多面体プロモーターなどの、インシュレーターおよび/またはプロモーターあるいは哺乳動物細胞および他の動物細胞のグロビンイントロンが挙げられる。転写終結を確実にする調節要素の非限定的な例としては、V40-ポリA部位、tk-ポリA部位またはSV40、lacZもしくはAcMNPV多面体ポリアデニル化シグナルが挙げられ、これらは本発明の核酸配列の下流に含まれることになる。さらなる調節要素は、翻訳エンハンサー、Kozak配列、ならびにRNAスプライシングのためのドナーおよびアクセプター部位が両側にある介在配列を含みうる。さらに、複製起点、薬剤耐性遺伝子または調節因子(誘導性プロモーターの一部として)などの要素も含まれうる。前記Cas13タンパク質をコードするヌクレオチド配列は、cDNAまたはゲノムDNAなどのDNA、およびRNAを含む。好ましくは、「RNA」を記載している態様は、mRNAを対象とする。
【0069】
したがって、本発明は、本明細書において定義される少なくとも1つのCas13タンパク質をコードする少なくとも1つのDNA配列および本明細書において定義される少なくとも1つのgRNAをコードする少なくとも1つのDNA配列を含むCRISPRシステムを含む組成物を含み、これはDNAに基づくシステムに関連しうる。しかしながら、本発明は、本明細書において定義される少なくとも1つのCas13タンパク質をコードする少なくとも1つのRNA配列(mRNA配列)および本明細書において定義される少なくとも1つのgRNAを含むCRISPRシステムを含む組成物も含み、これはRNAに基づくシステムに関連しうる。
【0070】
前記Cas13タンパク質、特にCas13dをコードするヌクレオチド配列は、有利にはコドン最適化されたCRISPRタンパク質である。コドン最適化された配列の例は、この場合、真核生物、例えば、ヒトでの発現のために最適化された(すなわち、ヒトでの発現のために最適化されている)配列、または本明細書において論じられる別の真核生物、動物もしくは哺乳動物のために最適化された配列である。これは好ましいが、他の例が可能であり、ヒト以外の宿主種に対するコドン最適化、または特定の臓器に対するコドン最適化が知られていることが理解されよう。いくつかの態様において、前記Cas13タンパク質をコードするヌクレオチド配列は、真核細胞などの特定の細胞での発現のために最適化されたコドンである。真核細胞は、本明細書において論じられるヒト、またはヒト以外の真核生物もしくは動物もしくは哺乳動物、例えば、マウス、ラット、ウサギ、 イヌ、家畜、またはヒト以外の哺乳動物もしくは霊長類を含むがこれらに限定されない、植物または哺乳動物などの、特定の生物のものであってもよく、または特定の生物に由来していてもよい。一般に、コドン最適化は、ネイティブ配列の少なくとも1つのコドン(例えば、約1、2、3、4、5、10、15、20、25、50、もしくはそれ以上のコドンまたは約1、2、3、4、5、10、15、20、25、50、もしくはそれ以上を超えるコドン)を、ネイティブアミノ酸配列を維持しながらその宿主細胞の遺伝子においてより頻繁にまたは最も頻繁に用いられるコドンに置き換えることによって、関心対象の宿主細胞における発現の増強のためにヌクレオチド配列を修飾するプロセスをいう。さまざまな種が、特定のアミノ酸のある特定のコドンに特定のバイアスを示す。コドンバイアス(生物間のコドン使用頻度の違い)は、メッセンジャーRNA (mRNA)の翻訳効率と相関することが多く、その効率は、とりわけ、翻訳されるコドンの特性および特定の転移RNA (tRNA)分子の利用可能性に依存すると考えられている。細胞内での選択されたtRNAの優位性は、通常、ペプチド合成において最も頻繁に用いられるコドンの反映である。したがって、コドン最適化に基づき所与の生物において最適な遺伝子発現を得るために遺伝子を調整することができる。コドン使用頻度の表は、例えば、kazusa.orjp/codon/で利用可能な「Codon Usage Database」で容易に入手可能であり、これらの表はいくつかの方法において適合させることができる。Nakamura, Y., et al. 「Codon usage tabulated from the international DNA sequence databases: status for the year 2000」 Nucl. Acids Res. 28:292 (2000)を参照されたい。特定の宿主細胞における発現のために特定の配列をコドン最適化するためのコンピュータアルゴリズムも利用可能であり、例えば、Gene Forge (Aptagen; Jacobus, Pa.)も利用可能である。いくつかの態様において、前記Cas13タンパク質をコードする配列における1つまたは複数のコドン(例えば1、2、3、4、5、10、15、20、25、50もしくはそれ以上の、または全てのコドン)は、特定のアミノ酸に対して最も頻繁に用いられるコドンに対応する。
【0071】
遺伝暗号の縮重のために本発明によって2つ以上のヌクレオチド配列がCas13タンパク質、好ましくはCas13dタンパク質をコードしうることが当業者によって容易に理解されるであろう。トリプレットコドンは20種のアミノ酸および終止コドンを指定するため、縮重が生じる。遺伝情報をコードするために利用される4つの塩基が存在するため、少なくとも21の異なるコードを生成するためにトリプレットコドンが必要とされる。トリプレットの塩基は43通りが可能なことから、可能なコドンは64通りとなり、いくつかの縮重が存在するはずであることを意味している。結果として、一部のアミノ酸は2つ以上のトリプレットによって、すなわち最大6つによってコードされる。縮重は主に、トリプレットの3番目の位置の変化から生じる。これは、異なる配列を有するが依然として同じCas13タンパク質をコードするヌクレオチド配列を本発明によって利用できることを意味する。本発明によって用いられるヌクレオチド配列は、天然のものであっても、(半)合成由来であってもよい。したがって、ヌクレオチド配列は、例えば、有機化学の従来のプロトコルにしたがい合成されたヌクレオチド配列であってよい。当業者は、前記プローブの調製および使用に精通している(例えば、Sambrook and Russel 「Molecular Cloning, A Laboratory Manual」, Cold Spring Harbor Laboratory, N.Y. (2001)を参照のこと)。また本発明によれば、本発明によって用いられるヌクレオチド配列は、ヌクレオチド配列の合成または半合成誘導体および混合重合体などの、当技術分野において公知の核酸模倣分子であってもよい。それらは、当業者によって容易に理解されるように、さらなる非天然のまたは誘導体化されたヌクレオチド塩基を含みうる。本発明による核酸模倣分子または誘導体は、限定するものではないが、ホスホロチオエート核酸、ホスホロアミデート核酸、モルホリノ核酸、ヘキシトール核酸(HNA)、ペプチド核酸(PNA)およびロックド核酸(LNA)を含む。
【0072】
gRNA
本発明における場合のように、CRISPRタンパク質がCas13タンパク質である場合、本明細書の他の箇所に記述されているように、tracrRNAは組成物中に必要ではない。しかしながら、前記組成物は、本明細書において定義される1つまたは複数の標的RNA分子とハイブリダイズすることができる少なくとも1つのガイドRNA (gRNA)もさらに含む。
【0073】
本明細書において用いられる場合、「ガイドRNA」、「gRNA」または「相補的crRNA」という用語は、1つまたは複数の標的RNA分子とハイブリダイズし、1つまたは複数の標的RNA分子へのgRNAおよびCRISPR Cas13タンパク質を含むRNA標的化複合体の配列特異的結合を指令するのに十分な、1つまたは複数の標的RNA分子との相補性を有する任意のポリヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドをいう。一般に、gRNAは、(i) Cas13などのCRISPRタンパク質と複合体を形成することができ、かつ(ii) 標的配列とハイブリダイズし、標的配列へのCRISPR複合体の配列特異的結合を指令するのに十分な、標的ポリヌクレオチド配列との相補性を有する配列を含む、任意のポリヌクレオチド配列でありうる。本明細書において用いられる場合、「ハイブリダイズすることができるgRNA」という用語は、1つまたは複数の標的RNA分子にハイブリダイズし、標的RNAへのCRISPR複合体の結合を媒介するのに十分な、1つまたは複数の標的RNA分子に対する相補性を有するgRNAのサブセクションをいう。一般に、gRNAの一部であるガイド配列は、標的配列とハイブリダイズし、標的配列へのCRISPR複合体の配列特異的結合を指令するのに十分な、本明細書の他の箇所に定義される標的ポリヌクレオチド配列との相補性を有する任意のポリヌクレオチド配列である。
【0074】
本明細書において用いられる場合、「Cas13タンパク質と複合体を形成することができる」という用語は、配列特異的な方法で標的RNA分子に結合することができ、かつ該標的RNAに対して機能を発揮することができる複合体が形成されるように、Cas13タンパク質によるgRNAへの特異的結合を可能にする構造を有するgRNAをいう。gRNAの構造成分は、直列反復配列およびガイド配列(またはスペーサー)を含みうる。標的RNAへの配列特異的な結合は、gRNAの一部である「ガイド配列」が標的RNAに相補的であることによって媒介される。
【0075】
さらなる段階で、そのような少なくとも1つのgRNAは本発明者らによって最適化された。通常、22塩基の相補的配列が標準として用いられる。本明細書において用いられ、本発明の組成物に含まれる少なくとも1つのgRNAまたは該gRNAをコードするヌクレオチド配列は、好ましくは、少なくとも約23、例えば少なくとも約24、少なくとも約25、少なくとも約26、少なくとも約27、少なくとも約28、少なくとも約29、または少なくとも約30ヌクレオチドの長さを含む。したがって、本発明のgRNAは、本明細書において開示される新規組成物に対するさらなる改変として、その長さを伸ばすことによって最適化されている。
【0076】
本発明の組成物に含まれる前記少なくとも1つのgRNAまたは該gRNAをコードするヌクレオチド配列は、より好ましい態様において、23、24、25、26、27、28、29、または30ヌクレオチドなどの約23から約30ヌクレオチド、好ましくは約24から約30ヌクレオチド、より好ましくは約25から約30ヌクレオチド、最も好ましくは約26から約30ヌクレオチドの長さを含む。本発明者らは、特に、約26から約30、約27から約30、約28から約30、約29から約30のヌクレオチドの長さを含むいっそう長いgRNAが、前記Cas13タンパク質の酵素活性を著しく増大することを示すことができた(
図1および
図2参照)。好ましくは、少なくとも1つのgRNAは、約26、27、28、29、または約30ヌクレオチドの長さを有する。
【0077】
好ましい態様において、
i) 少なくとも1つのNESに融合された少なくとも1つのNLSに融合されている少なくとも1つのCas13タンパク質またはそれをコードするヌクレオチド配列と、
ii) 約26から約30ヌクレオチドの長さを有する本明細書において定義される少なくとも1つのgRNA、またはそれをコードするヌクレオチド配列と
を含むCRISPRシステムを含む組成物がしたがって、本明細書において同様に想定される。別の好ましい態様において、
i) 少なくとも1つのNESに融合された少なくとも1つのNLSに融合されている少なくとも1つのCas13タンパク質またはそれをコードするヌクレオチド配列と、
ii) 約27から約30ヌクレオチドの長さを有する本明細書において定義される少なくとも1つのgRNA、またはそれをコードするヌクレオチド配列と
を含むCRISPRシステムを含む組成物がしたがって、本明細書において同様に想定される。別の好ましい態様において、
i) 少なくとも1つのNESに融合された少なくとも1つのNLSに融合されている少なくとも1つのCas13タンパク質またはそれをコードするヌクレオチド配列と、
ii) 約28から約30ヌクレオチドの長さを有する本明細書において定義される少なくとも1つのgRNA、またはそれをコードするヌクレオチド配列と
を含むCRISPRシステムを含む組成物がしたがって、本明細書において同様に想定される。別の好ましい態様において、
i) 少なくとも1つのNESに融合された少なくとも1つのNLSに融合されている少なくとも1つのCas13タンパク質またはそれをコードするヌクレオチド配列と、
ii) 約29から約30ヌクレオチドの長さを有する本明細書において定義される少なくとも1つのgRNA、またはそれをコードするヌクレオチド配列と
を含むCRISPRシステムを含む組成物がしたがって、本明細書において同様に想定される。さらにより好ましい態様において、
i) 少なくとも1つのNESに融合された少なくとも1つのNLSに融合されている少なくとも1つのCas13タンパク質またはそれをコードするヌクレオチド配列と、
ii) 約26ヌクレオチドの長さを有する本明細書において定義される少なくとも1つのgRNA、またはそれをコードするヌクレオチド配列と
を含むCRISPRシステムを含む組成物がしたがって、本明細書において同様に想定される。別のさらにより好ましい態様において、
i) 少なくとも1つのNESに融合された少なくとも1つのNLSに融合されている少なくとも1つのCas13タンパク質またはそれをコードするヌクレオチド配列と、
ii)約27ヌクレオチドの長さを有する本明細書において定義される少なくとも1つのgRNA、またはそれをコードするヌクレオチド配列と
を含むCRISPRシステムを含む組成物がしたがって、本明細書において同様に想定される。別のさらにより好ましい態様において、
i) 少なくとも1つのNESに融合された少なくとも1つのNLSに融合されている少なくとも1つのCas13タンパク質またはそれをコードするヌクレオチド配列と、
ii) 約28ヌクレオチドの長さを有する本明細書において定義される少なくとも1つのgRNA、またはそれをコードするヌクレオチド配列と
を含むCRISPRシステムを含む組成物がしたがって、本明細書において同様に想定される。別のさらにより好ましい態様において、
i) 少なくとも1つのNESに融合された少なくとも1つのNLSに融合されている少なくとも1つのCas13タンパク質またはそれをコードするヌクレオチド配列と、
ii) 約29ヌクレオチドの長さを有する本明細書において定義される少なくとも1つのgRNA、またはそれをコードするヌクレオチド配列と
を含むCRISPRシステムを含む組成物がしたがって、本明細書において同様に想定される。別のさらにより好ましい態様において、
i) 少なくとも1つのNESに融合された少なくとも1つのNLSに融合されている少なくとも1つのCas13タンパク質またはそれをコードするヌクレオチド配列と、
ii) 約30ヌクレオチドの長さを有する本明細書において定義される少なくとも1つのgRNA、またはそれをコードするヌクレオチド配列と
を含むCRISPRシステムを含む組成物がしたがって、本明細書において同様に想定される。
【0078】
好ましい態様において、前記少なくとも1つのgRNAまたは該gRNAをコードするヌクレオチド配列は、1つまたは複数の標的RNA分子に対して少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、少なくとも約99%またはさらに100%の相補配列同一性を有する。本発明者らは、1つまたは複数の標的RNA分子との1つのミスマッチを有することは許容されうることを見出し、これは、gRNAの長さに依るが、1つまたは複数の標的RNA分子に対する少なくとも約95%の相補配列同一性を意味する。2つの隣接するミスマッチにより、活性の大幅な低減が引き起こされる。2つのミスマッチが互いに隣り合っていない場合、活性に及ぼす影響は著しく小さい。しかしながら、1つまたは複数の標的RNA分子と3つのミスマッチがある場合、少なくとも1つのgRNAは、1つまたは複数の標的RNA分子ともはやハイブリダイズすることができない。好ましくは、前記少なくとも1つのgRNAまたは該gRNAをコードするヌクレオチド配列は、1つまたは複数の標的RNA分子に対して少なくとも約85%の相補配列同一性を有する。いくつかの態様において、本明細書の他の箇所で定義されるgRNAの一部としてのガイド配列と、標的RNA分子に含まれるその対応する標的配列との間の相補性の程度は、適当なアライメントアルゴリズムを用いて最適にアライメントされた場合、約80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、もしくはそれ以上であるか、または約80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、もしくはそれ以上を超え、好ましくは約85%であるか、または約85%を超える。最適なアライメントは、配列をアライメントするための任意の適当なアルゴリズムを用いて決定されてもよく、その非限定的な例としては、Smith-Watermanアルゴリズム、Needleman-Wunschアルゴリズム、Burrows-Wheeler Transformに基づくアルゴリズム(例えばBurrows Wheeler Aligner)、ClustalW、Clustal X、BLAT、Novoalign (Novocraft Technologies; novocraft.comで利用可能)、ELAND (Illumina, San Diego, Calif.)、SOAP (soap.genomics.org.cnで利用可能)、およびMaq (maq. sourceforge.netで利用可能)が挙げられる。
【0079】
1つ、2つ、3つ、4つ、5つおよびそれ以上などの、少なくとも1つ(1つまたは複数)のgRNAが本発明による組成物において用いられうる。それにより、異なるgRNAの各々が、ゲノム中のウイルス配列または細菌配列に結合することができる。ウイルス/細菌ゲノムのいくつかの領域に対処する2つ以上の異なるgRNAの同時適用も、本発明によって適用されうる。これは「多重化」と呼ばれるプロセスをいう。したがって、ウイルス/細菌が変異した場合でも、効率的かつ持続的な分解を確保することができる。
【0080】
ある特定の態様において、少なくとも1つの(1つまたは複数の) gRNAは、RNAのコード鎖に結合することができる/結合する。ある特定の態様において、gRNAは、RNAの非コード鎖に結合することができる/結合する。ある特定の態様において、gRNAは、ウイルス/細菌ゲノムRNA (ポジティブセンスもしくはネガティブセンスまたはコード鎖もしくは非コード鎖)に結合する。ある特定の態様において、gRNAは、ウイルス/細菌ゲノムDNAから転写されたRNA (ポジティブセンスもしくはネガティブセンスまたはコード鎖もしくは非コード鎖)に結合する。
【0081】
好ましい態様において、前記少なくとも1つの(1つまたは複数の) gRNAは、前記1つまたは複数の標的RNA分子の5'および/または3'非翻訳領域にハイブリダイズ/結合することができ、またはハイブリダイズ/結合する(
図7a参照)。「非コード領域」/「非コード配列」という用語は、「非翻訳領域」という用語と互換的に用いられうる。これら2つの領域は、あらゆるウイルス/細菌のゲノムおよび全てのサブゲノムmRNAの両方に存在するため、Cas13の抗ウイルス/抗菌効果はこれらの位置で最も強くなる。
【0082】
さらに、前記組成物に含まれる前記gRNAは、ヌクレオチド配列によってコードされていてもよい。言い換えれば、それは、前記gRNAをコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子の形態で導入されてもよい。前記Cas13タンパク質をコードするヌクレオチド配列に関して上述した定義および好ましい態様は、前記gRNAをコードするヌクレオチド配列にも準用される。
【0083】
本明細書の他の箇所に記述されている新規CRISPRシステムを含む前記組成物に対するさらなる改変として、前記gRNAをコードするヌクレオチド配列と1つのtRNAとの融合は、gRNAの折り畳みを支持するので、有利であることが証明される(
図3参照)。次に、前記tRNAは、前記gRNAをコードするヌクレオチド配列の3'末端に、好ましくは該ヌクレオチド配列がDNAである場合、本明細書の他の箇所で定義されるように直接融合される。したがって、前記gRNAをコードするDNAヌクレオチド配列が該ヌクレオチド配列の3'末端でtRNAと直接融合されている組成物も、本明細書に含まれる。当業者に知られている任意のtRNAが用いられうる。細胞内での選択されたtRNAの優位性は、通常、ペプチド合成において最も頻繁に用いられるコドンの反映である。したがって、本明細書の他の箇所で定義されるコドン最適化に基づき所与の生物において最適な遺伝子発現を得るために遺伝子を調整することができる。好ましくは、SEQ ID NO: 8に示すアミノ酸配列を有するネズミ科γ-ヘルペスウイルス68 (MHV68)に由来するtRNAが、前記融合のために用いられる。この文脈において、および同様にリボザイムとの融合に関して、本明細書の他の箇所で定義される「由来する」の定義が適用されてもよく、また、tRNAとまたはそれが由来するリボザイムと少なくとも約50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%またはさらに少なくとも約99%のRNA配列同一性を有する。前記tRNAが、本明細書において定義されるリンカーを介して、本明細書の他の箇所で定義される前記gRNAに融合されうることも本発明に含まれる。
【0084】
あるいは、前記gRNAをコードする前記ヌクレオチド配列であって、好ましくはDNA配列を意味する該配列は、本明細書において定義されるように、リボ核酸酵素(略してリボザイム)に直接融合することもできる。「リボザイム」は、当業者に公知のように遺伝子発現におけるRNAスプライシングを含めて、特定の生化学反応を触媒する能力を有するRNA分子である。前記融合のために、本明細書において天然リボザイムまたはさらに合成リボザイムが用いられうる。好ましい態様において、前記リボザイムは本明細書の他の箇所で定義されるように、SEQ ID NO: 9に示すアミノ酸配列を有する肝炎デルタウイルス(HDV)に由来する。一定時間後にRNAse PおよびRNAse Zにより切り離され得、これが前記gRNAの明確に定義された末端をもたらす、好ましくは前記gRNAの明確に定義された3'末端をもたらす、本明細書において使用され定義されるtRNAとは逆に、本明細書において用いられるリボザイムはそれ自体を前記gRNAから切除するが、前記gRNAの明確に定義された末端、好ましくは前記gRNAの明確に定義された3'末端ももたらし、どちらの修飾も本明細書において記述される効率改善につながる。
【0085】
また、本発明の主題は、前記gRNAをコードする前記ヌクレオチド配列に融合されている単離されたリボザイムまたはリボザイム部分である(
図3参照)。そのようなリボザイムは、前記配列と特異的に共有結合的に融合するモチーフを含み、その結果、リボザイムは配列と特異的に接合される。本発明のリボザイムは、連続した配列であってもよく、または互いに相互作用して完全なリボザイムを形成する2つの非連続な成分から構成されていてもよい。2つの非連続的な成分は、前記配列に特異的に共有結合的に融合するリボザイムセグメント、および残りのリボザイムを含むリボザイムセグメントである。
【0086】
前記ヌクレオチド配列に特異的に共有結合的に融合するリボザイムRNAは、リボザイムに存在し(その成分またはセグメントである)、これは、連続した配列(リボザイム全体が連続した配列である)であるか、または2つの非連続的な成分: 前記配列に特異的に共有結合的に融合するリボザイムRNAを含むものおよびリボザイム配列の残りの部分を含むもの、から構成されるかのいずれかである。残りのリボザイム配列は、前記配列に共有結合的に融合する成分と組み合わせて完全なリボザイムを構成する、リボザイム配列である。リボザイム配列または前記配列に共有結合的に融合するセグメントは、長さが1ヌクレオチドほど短くてもよく、リボザイム内の任意の位置(例えば、5'末端、内部セグメント、3'末端)由来であってもよい。1つの態様において、リボザイムセグメントは、1から約18ヌクレオチド、例えば、リボザイムの最初から約18番目のヌクレオチド(5'末端から)を含む。さらなる態様において、リボザイムセグメントは、リボザイムの最初の13から18ヌクレオチド(5'末端から)である。(例えば、5'末端から最初の13、14、15、16、17または18ヌクレオチド)。他の成分は、残りのリボザイム配列(機能的なリボザイムを形成するために必要なリボザイムの残りの部分)である。2つのリボザイム成分は相互作用して、機能的な(完全な)リボザイムを形成する。リボザイムRNAの5'末端は、3つのリン酸基またはmRNAキャップ、例えば7-メチルグアノシン三リン酸を任意で含んでいてもよい。したがって、前記gRNAをコードする前記ヌクレオチド配列が、本明細書において定義されるリボザイムRNAと共有結合的に融合していることも本明細書に含まれる。好ましくは、本明細書の他の箇所で定義されるリボザイムは、本明細書の他の箇所で定義されるように、前記gRNAをコードするヌクレオチド配列の3'末端に直接融合され、好ましくは、該ヌクレオチド配列はDNAである。したがって、前記gRNAをコードするDNAヌクレオチド配列が、該ヌクレオチド配列の3'末端で本明細書の他の箇所で定義されるリボザイムと直接融合されている組成物も、本明細書に含まれる。
【0087】
上述のように、前記gRNAをコードするDNAヌクレオチド配列との直接的な融合である前記tRNAおよび/または前記リボザイムの融合は、共有結合的であってもよい。本発明はしたがって、前記gRNAをコードする前記ヌクレオチド配列(DNA配列)がtRNAおよび/またはリボザイムと共有結合的に(直接)融合されることをさらに含む。この文脈では、「共有結合的に融合される」という用語が用いられる場合、本発明のgRNAをコードするヌクレオチド配列と、上で定義されたtRNAまたはリボザイムとの間に共有結合が形成される。これらの態様において、「直接的に」という用語は、前記gRNAをコードするヌクレオチド配列ならびにtRNAおよび/またはリボザイムが、本明細書の他の箇所で定義されるリンカーなしで次々に配置されることを再度意味する。
【0088】
好ましい態様において、
i) 少なくとも1つのNESに融合された少なくとも1つのNLSに融合されている少なくとも1つのCas13タンパク質をコードするヌクレオチド配列と、
ii) 本明細書において定義される少なくとも1つのgRNAをコードするヌクレオチド配列であって、該gRNAが約26から約30ヌクレオチドの長さを有し、該gRNAをコードする該ヌクレオチド配列がまた、定義されるtRNAまたはリボザイムにも融合されている、該ヌクレオチド配列と
を含むCRISPRシステムを含む組成物がしたがって、本明細書において同様に想定される。別の好ましい態様において、
i) 少なくとも1つのNESに融合された少なくとも1つのNLSに融合されている少なくとも1つのCas13タンパク質をコードするヌクレオチド配列と、
ii) 本明細書において定義される少なくとも1つのgRNAをコードするヌクレオチド配列であって、該gRNAが約27から約30ヌクレオチドの長さを有し、該gRNAをコードする該ヌクレオチド配列がまた、定義されるtRNAまたはリボザイムにも融合されている、該ヌクレオチド配列と
を含むCRISPRシステムを含む組成物がしたがって、本明細書において同様に想定される。別の好ましい態様において、
i) 少なくとも1つのNESに融合された少なくとも1つのNLSに融合されている少なくとも1つのCas13タンパク質をコードするヌクレオチド配列と、
ii) 本明細書において定義される少なくとも1つのgRNAをコードするヌクレオチド配列であって、該gRNAが約28から約30ヌクレオチドの長さを有し、該gRNAをコードする該ヌクレオチド配列がまた、定義されるtRNAまたはリボザイムにも融合されている、該ヌクレオチド配列と
を含むCRISPRシステムを含む組成物がしたがって、本明細書において同様に想定される。別の好ましい態様において、
i) 少なくとも1つのNESに融合された少なくとも1つのNLSに融合されている少なくとも1つのCas13タンパク質をコードするヌクレオチド配列と、
ii) 本明細書において定義される少なくとも1つのgRNAをコードするヌクレオチド配列であって、該gRNAが約29から約30ヌクレオチドの長さを有し、該gRNAをコードする該ヌクレオチド配列がまた、定義されるtRNAまたはリボザイムにも融合されている、該ヌクレオチド配列と
を含むCRISPRシステムを含む組成物がしたがって、本明細書において同様に想定される。さらにより好ましい態様において、
i) 少なくとも1つのNESに融合された少なくとも1つのNLSに融合されている少なくとも1つのCas13タンパク質をコードするヌクレオチド配列と、
ii) 本明細書において定義される少なくとも1つのgRNAをコードするヌクレオチド配列であって、該gRNAが約26ヌクレオチドの長さを有し、該gRNAをコードする該ヌクレオチド配列がまた、定義されるtRNAまたはリボザイムにも融合されている、該ヌクレオチド配列と
を含むCRISPRシステムを含む組成物がしたがって、本明細書において同様に想定される。別のさらにより好ましい態様において、
i) 少なくとも1つのNESに融合された少なくとも1つのNLSに融合されている少なくとも1つのCas13タンパク質をコードするヌクレオチド配列と、
ii) 本明細書において定義される少なくとも1つのgRNAをコードするヌクレオチド配列であって、該gRNAが約27ヌクレオチドの長さを有し、該gRNAをコードする該ヌクレオチド配列がまた、定義されるtRNAまたはリボザイムにも融合されている、該ヌクレオチド配列と
を含むCRISPRシステムを含む組成物がしたがって、本明細書において同様に想定される。別のさらにより好ましい態様において、
i) 少なくとも1つのNESに融合された少なくとも1つのNLSに融合されている少なくとも1つのCas13タンパク質をコードするヌクレオチド配列と、
ii) 本明細書において定義される少なくとも1つのgRNAをコードするヌクレオチド配列であって、該gRNAが約28ヌクレオチドの長さを有し、該gRNAをコードする該ヌクレオチド配列がまた、定義されるtRNAまたはリボザイムにも融合されている、該ヌクレオチド配列と
を含むCRISPRシステムを含む組成物がしたがって、本明細書において同様に想定される。別のさらにより好ましい態様において、
i) 少なくとも1つのNESに融合された少なくとも1つのNLSに融合されている少なくとも1つのCas13タンパク質をコードするヌクレオチド配列と、
ii) 本明細書において定義される少なくとも1つのgRNAをコードするヌクレオチド配列であって、該gRNAが約29ヌクレオチドの長さを有し、該gRNAをコードする該ヌクレオチド配列がまた、定義されるtRNAまたはリボザイムにも融合されている、該ヌクレオチド配列と
を含むCRISPRシステムを含む組成物がしたがって、本明細書において同様に想定される。別のさらにより好ましい態様において、
i) 少なくとも1つのNESに融合された少なくとも1つのNLSに融合されている少なくとも1つのCas13タンパク質をコードするヌクレオチド配列と、
ii) 本明細書において定義される少なくとも1つのgRNAをコードするヌクレオチド配列であって、該gRNAが約30ヌクレオチドの長さを有し、該gRNAをコードする該ヌクレオチド配列がまた、定義されるtRNAまたはリボザイムにも融合されている、該ヌクレオチド配列と
を含むCRISPRシステムを含む組成物がしたがって、本明細書において同様に想定される。
【0089】
ガイドRNAヌクレオチド配列および/またはCasヌクレオチド配列は、調節要素に機能的に(functionally)または機能的に(operatively)連結することができ、したがって調節要素は発現を駆動する。プロモーターは構成的プロモーターおよび/または条件付きプロモーターおよび/または誘導性プロモーターおよび/または組織特異的プロモーターであることができる。適当なプロモーターは既に前述されており、RNAポリメラーゼ、pol I、pol II、pol III、T7、U6、H1、レトロウイルスラウス肉腫ウイルス(RSV) LTRプロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、SV40プロモーター、ジヒドロ葉酸レダクターゼプロモーター、(3-アクチンプロモーター、ホスホグリセロールキナーゼ(PGK)プロモーター、EF1αプロモーターおよびU6プロモーター、TetOn/Off、7SK、CAG、CBh、UbCまたは任意のテトラサイクリン依存性もしくはインターフェロン依存性プロモーターからなる群よりさらに選択することができる。
【0090】
本明細書の他の箇所で定義されるCas13タンパク質および/またはgRNAをコードするヌクレオチド配列が、RNAレベルでさらに修飾されうる、本明細書の他の箇所で定義されるCRISPRシステムを含む組成物も本発明に含まれる。言い換えれば、本明細書において定義されるCas13タンパク質および/またはgRNAをコードするRNA配列は、修飾されたUTR (
図15参照)、5' CAP構造の転写後付加もしくは同時転写の付加、好ましくは5' CAP構造の転写後付加、N1-メチルシュード-UTPによるUTPの置換、ならびに/または2'-O-メチル-3' P-チオエートによる前記gRNAの2つの5'および/もしくは3'末端ヌクレオチドの置換(
図10A参照)を含みうる。本明細書の他の箇所で定義されるCas13タンパク質および/またはガイドRNAをコードするヌクレオチド配列が、上記の修飾に代えてまたは加えて、例えば、シュード-Uおよび/または5-メチル-Cを用い、1つまたは複数の修飾ヌクレオシドを含むように修飾されうることも、本明細書において、ならびに発現を増強するためにおよび起こりうる毒性を低減するために含まれる。好ましい態様において、本発明は、本明細書の他の箇所で定義されるgRNAをコードするヌクレオチド配列が、2'-O-メチル-3' P-チオエート(2'-O-メチルホスホロチオエートとも呼ばれる)による該gRNAの2つの5'および/または3'末端ヌクレオチドの置換によってさらに修飾される、本明細書の他の箇所で定義されるCRISPRシステムを含んだ組成物を含む。
【0091】
β-グロビンポリA尾部(一連の120個またはそれ以上のアデニン)からの修飾されたUTR 5'および/または3' UTRを用いることで、前記RNAが安定化されうる。さらに、本発明のRNA転写産物の5'末端上の特別に改変されたヌクレオチドである前記転写後または同時転写5プライムキャップ(5' CAP)は、エキソヌクレアーゼによる分解からmRNAを保護し、核からの排出および翻訳の開始にも重要でありうる。別の重要な進歩は、標準塩基を修飾塩基によって、例えばウリジンをシュードウリジンで置き換えることにより、化学的に修飾されたmRNAの調製において見ることができる。それにより、mRNAの半減期、翻訳効率およびその免疫学的プロファイルが改善される。N1-メチル-シュードウリジンは、未修飾のmRNAと比較して、より効率的な翻訳をもたらすと同時に、自然免疫応答を抑制するため、好ましい。gRNAが安定化されうる最後の修飾(2'-O-メチル-3' P-チオエートによる前記gRNAの2つの5'および/または3'末端ヌクレオチドの置換)は、RNAの糖上の2'OHがメチル(methly)基により置換されてもよいこと、およびRNA骨格中のホスホジエステル結合が硫黄により修飾されてもよく、それによりgRNAがRNAseに対して抵抗性となることを含む。前記RNAに対する上述の修飾のそれぞれの任意の組み合わせも本明細書に含まれうる。
【0092】
前記RNA (Cas13 mRNAおよび/またはgRNA)のこれらの修飾は、Cas13タンパク質のRNA送達のためのノックダウン効率を改善した(
図10Bまたは
図15参照)。したがって、本発明の組成物に含まれている前記CRISPRシステムにより含まれる、本明細書において定義されるCas13タンパク質および/またはgRNAをコードする前記RNAにさらなる修飾を適用することは、少なくとも1つのNESに融合された少なくとも1つのNLSの融合以外に前記システムに適用されるさらなる修飾として用いられる他の修飾について本発明により記述されているCas13タンパク質のノックダウン効率のさらなる増大につながりうる。したがって、本明細書において定義されるCas13タンパク質および/またはgRNAをコードする、本発明の組成物により含まれるCRISPRシステムの前記RNA配列は、さらに(本発明によって言及された前記システムの前記他の修飾に加えて)本明細書において定義される修飾されたUTR、例えばシュード-Uおよび/もしくは5-メチル-Cを用いて、修飾されたヌクレオシド、転写後もしくは同時転写(好ましくは転写後) 5' CAP構造、N1-メチルシュード-UTPによるUTPの置換ならびに2'-O-メチル-3' P-チオエートによる前記gRNAの2つの5'および/もしくは3'末端ヌクレオチドの置換からなる群より選択される任意の修飾を含みうる。特定の態様において、本明細書において定義されるCas13タンパク質および/またはgRNAをコードする、本発明の組成物によって含まれるCRISPRシステムの前記RNA配列は、さらに(本発明によって言及された前記システムの前記他の修飾に加えて)、特にSARS-CoV-2 N遺伝子ノックダウンおよび/またはRdRP遺伝子ノックダウンを有する3' UTRを特に含む、修飾された3' UTRを含みうる(
図15参照)。
【0093】
本明細書の他の箇所で定義されるCRISPRシステムを含む組成物も、本発明によって含まれ、ここで、本明細書の他の箇所で定義されるCas13タンパク質および/またはgRNAをコードするヌクレオチド配列は、DNAレベルでさらに修飾されてもよく、これは、gRNAをコードするヌクレオチド配列であって、好ましくはDNAである該ヌクレオチド配列を少なくとも1つのウイルス輸送要素と融合することを含む。前記gRNAをコードするヌクレオチド配列と、本明細書で定義される少なくとも1つのウイルス輸送要素との融合は、ノックダウン効率をさらに高めるので、有利であることが判明した(
図16参照)。本明細書において定義される少なくとも1つのウイルス輸送要素は次に、本明細書の他の箇所で定義されるように、前記gRNAをコードするヌクレオチド配列であって、好ましくはDNAである前記ヌクレオチド配列の5'末端に融合される。この文脈では、融合することは、前記gRNAをコードするヌクレオチド配列および少なくとも1つのウイルス輸送要素が、任意のヌクレオチドリンカーなどの、リンカーを介して融合されることを意味する。したがって、前記gRNAをコードするDNAヌクレオチド配列が、任意のヌクレオチドリンカーなどのリンカーを介して、該ヌクレオチド配列の5'末端で、本明細書において定義される少なくとも1つのウイルス輸送要素と融合されている組成物も、本明細書に含まれる。「少なくとも1つのウイルス輸送要素」という用語は、本明細書において定義される2つ、3つ、4つ、5つまたはそれ以上のウイルス輸送要素も用いられうることを意味する。好ましい態様において、前記少なくとも1つのウイルス輸送要素はCTEまたはVARdm、好ましくはCTEであり、これは、前記gRNAをコードするヌクレオチド配列(好ましくはDNA配列である)と本明細書において定義されるように融合される。要するに、NLS-NESおよびCTE-gRNAの組み合わせは、ノックダウン効率を最大化する。gRNAへのそのような融合は、前記組成物のタンパク質レベルでも実施することができる。
【0094】
さらに、本発明者らは、本明細書の他の箇所で定義される新規CRISPRシステムを含む組成物が、哺乳動物細胞において付随的なRNAse活性を有することも見出した(
図5参照)。このことは、前記少なくとも1つのCas13タンパク質を含む組成物の前記修飾されたシステムが、前記少なくとも1つのRNAによってハイブリダイズされる/前記Cas13タンパク質によって切断される相補的標的配列に対する効果を超えて、特にリボソームRNA (rRNA)に対して向けられる非特異的RNAse活性をさらに有しうるという結論につながった。言い換えれば、結合した標的RNAが切断/分解されるだけでなく、隣接するRNA (主にrRNA)も分解されるというバイスタンダー効果(いわゆる付随的活性)も生じる。前記組成物によって含まれる前記システムの前記付加的活性は、全ての種類の哺乳動物細胞において存在しうる。そのような哺乳動物細胞の例は、マウス神経芽細胞腫(N2a)、マウス筋芽細胞(C2C12)、ヒト膠芽腫(U87M)、ヒト肝がん細胞(HepG2)、マウスミコグリア細胞(BV-2)、または初代細胞であることができる。
【0095】
本発明による前記システムによる、本明細書において定義される1つまたは複数の標的RNA分子以外の付随的な標的としてのウイルスまたは細菌のrRNAの切断は、本明細書において修飾される新規システムを適用することによってさらに増強される。したがって、ウイルスまたは細菌の必須構造タンパク質の形成は、組成物によって含まれる前記システムのそのような付随的活性によってさらに低減される。これは、細胞内でのウイルスの複製をさらに遅らせることによって、例えばウイルス負荷を低下させるための、追加の機構と見なされる(
図5参照)。
【0096】
主にrRNAに対するCas13タンパク質のそのような付随的RNAse活性は、28S rRNAへの特異的結合によって示される。言い換えれば、本明細書において定義される特定のシステムを含む組成物は、28S rRNAを結合かつ切断することができる。本発明者らによって実験的に証明されたリボソームRNAの低減は、リボソーム量の低減により細胞内で一時的な翻訳遮断につながる可能性があり、これは、前記ウイルスまたは細菌がさらなるレベルで同様に攻撃されうることを意味する。(
図8参照)。したがって、組成物に含まれる前記システムは、28SリボソームRNAの規定の位置を優先する可能性があり、そのため、前記Cas13タンパク質は、最初にその標的RNAを切断しうる。標的RNAが見つかった場合にのみ、Cas13タンパク質が活性化され、リボソームRNAの規定の位置も切断する可能性があり、これは最終的にはタンパク質翻訳の一過性の阻害につながる(
図6DおよびE;
図9も参照のこと)。
【0097】
Cas13タンパク質などのCRISPRタンパク質および/または任意の本RNA、例えばガイドRNAは、任意の適当なベクター、例えばプラスミドまたはウイルスベクター、例えばアデノ随伴ウイルス(AAV)、レンチウイルス、アデノウイルスもしくは他のウイルスベクタータイプ、またはその組み合わせを用いて送達することができる。そのようなタンパク質および1つまたは複数のガイドRNAは、1つまたは複数のベクター、例えばプラスミドまたはウイルスベクターにパッケージングすることができる。いくつかの態様において、ベクター、例えばプラスミドまたはウイルスベクターは、例えば、筋肉内注射によって関心対象の組織に送達されるが、他の場合には、送達は静脈内、経皮、鼻腔内、経口、粘膜、または他の送達方法を介するものである。そのような送達は、単回投薬または複数回投薬のいずれかを介するものであってよい。当業者は、本明細書において送達される実際の投与量が、ベクターの選択、標的細胞、生物または組織、本明細書の他の箇所で言及されるような処置されるべき対象の全身状態、求められる形質転換/修飾の程度、投与経路、投与方法、求められる形質転換/修飾のタイプなどのような、種々の要因に応じて大きく変わりうることを理解する。そのような投与量には、本明細書の他の箇所で定義される担体がさらに含有されてもよい。
【0098】
本明細書の1つの態様において、DNAレベルに基づく前記システムを含む前記組成物の送達は、アデノウイルスを介するものであり、これは単回ブースター投薬でありうる。本明細書の別の態様において、アデノウイルスは、複数回投薬を介して送達される。本明細書のさらなる態様において、DNAレベルに基づく前記システムを含む前記組成物の送達は、プラスミドを介するものである。そのようなプラスミド組成物において、投与量は、応答を引き出すのに十分な量のプラスミドであるべきである。例えば、プラスミド組成物におけるプラスミドDNAの適当な量は、70 kgの個体あたり約0.1~約2 mg、または約1 μg~約10 μgであることができる。本発明のプラスミドは、概して、(i)プロモーター; (ii) 前記プロモーターに機能的に連結された、本明細書において定義されるCas13タンパク質をコードする配列; (iii) 選択可能なマーカー; (iv) 複製起源; および(v) (ii)の下流にあって(ii)に機能的に連結された転写ターミネーターを含むであろう。プラスミドは、好ましくは、本明細書において定義されるgRNAをコードするヌクレオチド配列を含むようなCRISPR複合体のRNA成分もコードするが、これらの1つまたは複数は、代わりに、異なるベクター上にコードされていてもよい。本明細書の別のさらなる態様において、DNAレベルに基づく前記システムを含む前記組成物の送達は、本明細書の他の箇所で定義される粒子および/またはナノ粒子を介するものである。
【0099】
いくつかの態様において、本発明のRNAレベル(例えば前記Cas13タンパク質をコードするmRNAおよび予め化学合成されたgRNAを含む)に、および同様にタンパク質レベル(Cas13タンパク質および予め化学合成されたgRNAを含む)に基づく前記システムを含む前記組成物は、リポソームまたはリポフェクチン製剤などの状態で送達され、当業者に周知の方法によって調製することができる。そのような方法は、例えば、米国特許第5,593,972号、同第5,589,466号および同第5,580,859号に記述されており、これらは参照により本明細書に組み入れられる。したがって、Cas13タンパク質をコードするヌクレオチド配列の送達および/または本発明のgRNAの送達はRNA形態で、リポソーム、粒子微小胞を介したものでありうる。例えば、Cas13 mRNAおよびgRNAは、インビボでの送達のためにリポソーム粒子にパッケージングすることができる。
【0100】
リポソームは、内部の水性区画を取り囲んでいる単膜または多重膜の脂質二重層および比較的不浸透性の外側親油性リン脂質二重層から構成された球形小胞構造である。リポソームは、生体適合性・非毒性であり、親水性薬物分子および親油性薬物分子の両方を送達することができ、そのカーゴを血漿酵素による分解から保護し、その充填物を、生体膜を通過させて血液脳関門(BBB)に輸送するため、薬物送達担体としてかなりの注目を集めた。リポソームはいくつかの異なるタイプの脂質から作製することができるが、しかしながら、薬物担体としてリポソームを作製するために、リン脂質が最もよく用いられる。Life Technologiesのリポフェクタミンなどのリポソームトランスフェクション試薬および市販のその他の試薬は、RNA分子を肝臓に効果的に送達することができる。
【0101】
一般に、粒子は、その輸送および特性に関して単位全体として挙動する小さな物体と定義される。粒子は直径によってさらに分類される。粗い粒子は2,500~10,000ナノメートルの範囲を網羅する。微粒子は100~2,500ナノメートルのサイズである。超微粒子またはナノ粒子は、サイズが一般的に1~100ナノメートルである。100 nmの制限の根拠は、粒子をバルク材料と区別する新規特性は、通常、100 nm未満の臨界長スケールで発現するという事実である。本発明の範囲内の粒子送達システムは、固体、半固体、乳濁液、またはコロイド粒子を含むがこれらに限定されない、任意の形態で提供されうる。したがって、例えば、脂質に基づくシステム、リポソーム、ミセル、微小胞、エキソソーム、または遺伝子銃を含むがこれらに限定されない、本明細書において記述される送達システムのいずれも、本発明の範囲内の粒子送達システムとして提供されうる。一般に、「ナノ粒子」は、1000 nm未満の直径を有する任意の粒子をいう。
【0102】
同様に好ましいRNA/タンパク質の送達の手段は、ナノ粒子(Cho, S., Goldberg, et al. Advanced Functional Materials, 19: 3112-3118, 2010)またはエキソソーム(Schroeder, A., et al., Journal of Internal Medicine, 267: 9-21, 2010)を介したRNA/タンパク質の送達を含む。ある特定の好ましい態様において、本発明のナノ粒子は、500 nmまたはそれ以下の最大寸法(例えば、直径)を有する。他の好ましい態様において、本発明のナノ粒子は、25 nm~200 nmの範囲の最大寸法を有する。他の好ましい態様において、本発明の粒子は、100 nmまたはそれ以下の最大寸法を有する。他の好ましい態様において、本発明のナノ粒子は、35 nm~60 nmの範囲の最大寸法を有する。エキソソームは、RNAおよびタンパク質を輸送する内因性ナノ小胞であり、RNAを脳および他の標的臓器に送達することができる。実際、エキソソームは、RNA標的化システムと類似したシステムであるsiRNAの送達において特に有用であることが示されている。DNA送達(AAV、レンチウイルスなど)またはRNA/タンパク質送達(リポソーム、粒子、エキソソームなど)に関する送達システムのさらなる詳細は、参照により本明細書に組み入れられるUS20200165594に記述されている。
【0103】
CRISPR Cas13 mRNAおよびgRNAは、別々に送達されてもよい。CRISPR Cas13 mRNAは、CRISPR Cas13タンパク質が発現するための時間を与えるために、gRNAの前に送達することができる。CRISPR Cas13 mRNAは、gRNAの投与の1~12時間(好ましくは約2~6時間)前に投与されうる。あるいは、CRISPR Cas13 mRNAおよびgRNAは、一緒に投与することができる。有利には、gRNAの2回目のブースター用量は、CRISPR Cas13 mRNA + gRNAの初回投与1~12時間(好ましくは約2~6時間)後に投与することができる。
【0104】
CRISPR Cas13タンパク質およびgRNAは、別々に送達されてもよい。好ましくは、CRISPR Cas13タンパク質およびgRNAは、一緒に送達される。前記送達の前に、前記タンパク質および前記gRNAは、前記複合体の投与まで複合体として混合および凍結されうる。有利には、gRNAの2回目のブースター用量は、CRISPR Cas13タンパク質 + gRNAの初回投与1~12時間(好ましくは約2~6時間)後に投与することができる。
【0105】
標的RNA分子
本明細書において既に述べたように、前記少なくとも1つのgRNAは、1つまたは複数の標的RNA分子とハイブリダイズすることができる。CRISPR複合体の形成の文脈では、「標的配列」は、本明細書の他の箇所で定義されるように、ガイド配列(gRNAの一部)が相補性を有するようにデザインされている配列をいい、標的配列とガイド配列との間のハイブリダイゼーションは、CRISPR複合体の形成を促進する。標的配列はRNAポリヌクレオチドを含みうる。「標的RNA分子」という用語は、標的配列であるかまたは標的配列を含むRNAポリヌクレオチド(標的RNA)をいう。言い換えれば、標的RNAは、本明細書において記述されるように相補性を有するようにgRNAの一部、すなわちガイド配列がデザインされ、かつCRISPRエフェクタンパク質およびgRNAを含む複合体によって媒介されるエフェクタ機能が向けられるRNAポリヌクレオチドまたはRNAポリヌクレオチドの一部でありうる。いくつかの態様において、標的RNA分子、したがって標的RNA配列は、細胞の核および/または細胞質内に位置する。標的RNA、すなわち関心対象のRNAは、標的RNA上の関心対象の標的部位への動員、および標的RNA上の関心対象の標的部位でのCas13タンパク質の結合につながる本発明によって標的とされるRNAである。1つまたは複数の標的RNA分子は、任意の適当な形態のRNAでありうる。これは、いくつかの態様において、mRNAを含みうる。他の態様において、1つまたは複数の標的RNA分子は、tRNAまたはrRNAを含みうる。他の態様において、1つまたは複数の標的RNA分子は、miRNAを含みうる。他の態様において、1つまたは複数の標的RNA分子は、siRNAを含みうる。
【0106】
いくつかの態様において、標的配列を含む1つもしくは複数の標的RNA分子、または標的配列それ自体は、メッセンジャーRNA (mRNA)、プレmRNA、リボソームRNA (rRNA)、転移RNA (tRNA)、マイクロRNA (miRNA)、低分子干渉RNA (siRNA)、核内低分子RNA (snRNA)、核小体低分子RNA (snoRNA)、二本鎖RNA (dsRNA)、非コードRNA (ncRNA)、長鎖型非コードRNA (lncRNA)および低分子細胞質RNA (scRNA)からなる群より選択されるRNA分子内の配列でありうる。いくつかの好ましい態様において、標的配列を含む1つもしくは複数の標的RNA分子、または標的配列それ自体は、mRNA、プレmRNAおよびrRNAからなる群より選択されるRNA分子内の配列でありうる。いくつかの他の好ましい態様において、標的配列を含む1つもしくは複数の標的RNA分子、または標的配列それ自体は、ncRNAおよびlncRNAからなる群より選択されるRNA分子内の配列でありうる。いくつかの他の好ましい態様において、標的配列を含む1つもしくは複数の標的RNA分子、または標的配列それ自体は、mRNA分子またはプレmRNA分子内の配列でありうる。
【0107】
したがって、1つまたは複数の標的RNA分子と本明細書の他の箇所で定義されるようにハイブリダイズすることができる少なくとも1つのgRNAは、1つまたは複数のRNA標的配列とのハイブリダイゼーションも含みうる。好ましくは、1つまたは複数の標的RNA分子/RNA標的配列を標的とすることにより、該分子/標的配列に対して本明細書の他の箇所で定義されるようにある程度まで相補的である少なくとも1つのgRNAは、本明細書の他の箇所で既に定義されているように、前記RNA分子(mRNA分子)の5'および/または3'非翻訳領域/部分に焦点を当てる。
【0108】
好ましい態様において、前記1つまたは複数の標的RNA分子は、ウイルスまたは細菌の標的RNA分子である。特定の態様において、ウイルスはRNAウイルスである。さらなる態様において、ウイルスは、一本鎖または二本鎖RNAウイルスである。さらなる態様において、ウイルスは、ポジティブセンスRNAウイルスもしくはネガティブセンスRNAウイルスまたはアンビセンスRNAウイルスである。さらなる態様において、ウイルスは、レトロウイルス科(Retroviridae)ウイルス、レンチウイルス科(Lentiviridae)ウイルス、コロナウイルス科(Coronaviridae)ウイルス、ピコルナウイルス科(Picornaviridae)ウイルス、カリシウイルス科(Caliciviridae)ウイルス、フラビウイルス科(Flaviviridae)ウイルス、トガウイルス科(Togaviridae)ウイルス、ボマウイルス科(Bomaviridae)、フィロウイルス科(Filoviridae)、パラミクソウイルス科(Paramyxoviridae)、ニューモウイルス科(Pneumoviridae)、ラブドウイルス科(Rhabdoviridae)、アレナウイルス科(Arenaviridae)、ブニヤウイルス科(Bunyaviridae)、オルトミクソウイルス科、またはデルタウイルス(Deltavirus)である。特定の態様において、ウイルスは、リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス、コロナウイルス、HIV、SARS、ベネズエラウマ脳炎(VEE)ウイルス、ポリオウイルス、ライノウイルス、A型肝炎、ノーウォークウイルス、黄熱病ウイルス、西ナイルウイルス、C型肝炎ウイルス、デング熱ウイルス、ジカウイルス、風疹ウイルス、ロス川ウイルス、シンドビスウイルス、チクングニアウイルス、ボマ病ウイルス、エボラウイルス、マールブルグウイルス、麻疹ウイルス、ムンプスウイルス、ニパウイルス、ヘンドラウイルス、ニューカッスル病ウイルス、ヒト呼吸器多核体ウイルス、狂犬病ウイルス、ラッサウイルス、ハンタウイルス、クリミア・コンゴ出血熱ウイルス、インフルエンザおよびD型肝炎ウイルスからなる群より選択される。別の特定の態様において、ウイルスはDNAウイルスである。さらなる態様において、ウイルスは一本鎖または二本鎖DNAウイルスである。さらなる態様において、ウイルスは、ポジティブセンスDNAウイルスもしくはネガティブセンスDNAウイルスまたはアンビセンスDNAウイルスである。さらなる態様において、ウイルスは、ミオウイルス科(Myoviridae)、ポドウイルス科(Podoviridae)、シホウイルス科(Siphoviridae)、アロヘルペスウイルス科(Alloherpesviridae)、ヘルペスウイルス科(Herpesviridae) (ヒトヘルペスウイルスおよび水痘帯状疱疹ウイルスを含む)、マラコヘルペスウイルス科(Malocoherpesviridae)、リポスリクスウイルス科(Lipothrixviridae)、ルディウイルス科(Rudiviridae)、アデノウイルス科(Adenoviridae)、アンプラウイルス科(Ampullaviridae)、アスコウイルス科(Ascoviridae)、アスファウイルス科(Asfarviridae) (アフリカブタコレラウイルスを含む)、バキュロウイルス科(Baculoviridae)、シカウダウイルス科(Cicaudaviridae)、クラバウイルス科(Clavaviridae)、コルチコウイルス科(Corticoviridae)、フセロウイルス科(Fuselloviridae)、グロブロウイルス科(Globuloviridae)、グッタウイルス科(Guttaviridae)、ヒトロサウイルス科(Hytrosaviridae)、イリドウイルス科(Iridoviridae)、マルセイユウイルス科(Maseilleviridae)、ミミウイルス科(Mimiviridae)、ヌディウイルス科(Nudiviridae)、ニマウイルス科(Nimaviridae)、パンドラウイルス科(Pandoraviridae)、パピローマウイルス科(Papillomaviridae)、フィコドナウイルス科(Phycodnaviridae)、プラズマウイルス科(Plasmaviridae)、ポリドナウイルス、ポリオーマウイルス科(Polyomaviridae) (シミアンウイルス40、JCウイルス、BKウイルスを含む)、ポックスウイルス科(Poxviridae) (牛痘および天然痘を含む)、スファエロリポウイルス科(Sphaerolipoviridae)、テクティウイルス科(Tectiviridae)、トゥリウイルス科(Turriviridae)、ディノドナウイルス(Dinodnavirus)、サルタープロウイルス(Salterprovirus)、またはリジドウイルス(Rhizidovirus)である。ある特定の例示的な態様において、ウイルスはレトロウイルスでありうる。例示的なレトロウイルスは、アルファレトロウイルス属(Alpharetrovirus)、ベータレトロウイルス属(Betaretrovirus)、ガンマレトロウイルス属(Gammaretrovirus)、デルタレトロウイルス属(Deltaretrovirus)、イプシロンレトロウイルス属(Epsilonretrovirus)、レンチウイルス属(Lentivirus)、スプーマウイルス属(Spumavirus)、またはメタウイルス科(Metaviridae)、シュードウイルス科(Pseudoviridae)、レトロウイルス科(Retroviridae) (HIVを含む)、ヘパドナウイルス科(Hepadnaviridae) (B型肝炎ウイルスを含む)、およびカリモウイルス科(Caulimoviridae) (カリフラワーモザイクウイルスを含む)のウイルスの1つもしくは複数または任意の組み合わせを含みうる。ある特定の態様において、ウイルスは薬剤耐性ウイルスであり、したがって、本明細書の他の箇所で定義される多耐性菌に属する。例として、限定するものではないが、ウイルスは、リバビリン耐性ウイルスでありうる。リバビリンは、いくつかのRNAウイルスを攻撃する非常に効果的な抗ウイルス薬である。より好ましい態様において、本発明の全体を通じて用いられる「ウイルス」という用語は、コロナウイルス、インフルエンザAウイルス、エボラウイルス、モルビリウイルス、ヘパシウイルス、TBEウイルスなどのフラビウイルス、デングウイルス、黄熱病ウイルスおよび/またはジカウイルスをいう。
【0109】
細菌標的RNA分子に関しては、本明細書において定義されるgRNAによってハイブリダイズされうる任意の細菌由来の本明細書において定義される任意のRNA分子が含まれうる。細菌もRNAを含むので、前記CRISPRシステムを含む前記組成物は、1つまたは複数の細菌RNA分子を標的とするためにも適用できることがもっともらしく実証される。ある特定の態様において、細菌は薬剤耐性細菌であり、したがって多耐性菌に属する。例として、限定するものではないが、耐性細菌は、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(Koagulase-negative Staphylokokken)、フェシウム菌(Enterococcus faecium)、フェカリス菌(Enterococcus faecalis)、大腸菌(Escherichia coli)、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)、エンテロバクター・クロアカ菌(Enterobacter cloacae)、セラチア・マルセセンス菌(Serratia marcescens)、シトロバクター種(Citrobacter spp.)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、アシネトバクター・バウマンニ菌(Acinetobacter baumannii)およびステノトロホモナス・マルトフィリア菌(Stenotrophomonas maltophilia)でありうる。本明細書において用いられるそのような多剤耐性菌は、当業者に知られているように、少なくとも1つの抗菌薬に対する抗菌耐性を含む、微生物の種(ウイルスまたは細菌などの)をいう。
【0110】
したがって、本明細書において定義される組成物が、細菌またはウイルス一本鎖(ss) RNAを不活性化するのに適していることも本発明によって含まれる。この文脈において、「不活性化する(inactivating)」または「不活性化する(inactivate)」または「不活性化(inactivation)」という用語は、前記少なくとも1つのCas13タンパク質が少なくとも1つのgRNAと複合体を形成し、少なくとも1つのgRNAが複合体を1つまたは複数の標的RNA分子に向け、1つまたは複数の標的RNA分子を標的化/検出するだけではなく、該標的RNA分子を切断/分解もする、本明細書において定義されるCRISPRシステムを含む組成物をいう。したがって、「切断する(cleaving)」、「切断する(cleave)」、「切断(cleavage)」または「分解する(degrading)」、「分解する(degrade)」もしくは「分解(degradation)」という用語は、「不活性化する(inactivating)」、「不活性化する(inactivate)」または「不活性化(inactivation)」という用語と互換的に用いることもできる。
【0111】
薬学的組成物
本発明によれば、本発明の全体を通じて定義される組成物は、本明細書の他の箇所で定義される少なくとも1つの担体をさらに含みうる。本発明は、薬学的組成物である、本明細書において定義される組成物にも関する。したがって、前記薬学的組成物は治療目的のために本明細書において用いられる。さらに、本発明は、薬学的組成物の調製のための、本明細書において上記に開示される前記組成物の使用に関する。
【0112】
本発明によれば、「薬学的組成物」という用語は、患者、好ましくはヒト患者に投与するための組成物に関する。薬学的組成物または処方物は、通常、有効成分の生物学的活性が効果的であるようにさせるような形態であり、それゆえ本明細書において記述される治療用途のために対象に投与されうる。薬学的組成物は吸入、注射、注入または経口によって投与することができる。したがって、薬学的組成物は、経口、非経口、経皮、管腔内、動脈内、静脈内、くも膜下腔内および/もしくは鼻腔内投与のための、または組織への直接注射のための組成物でありうる。薬学的組成物は、適当な用量で対象に投与することができる。投与レジメンは主治医および臨床的要因によって決定されよう。医療分野において周知であるように、任意の1人の患者に対する投与量は、患者のサイズ、体表面積、年齢、投与される特定の化合物、性別、投与の時間および経路、一般的な健康状態、および同時に投与される他の薬物を含めて、多くの要因に依存する。
【0113】
本発明は、少なくとも1つの薬学的に許容される担体をさらに含む、本明細書において定義される薬学的組成物も包含しうる。それゆえ、本発明の治療用組成物は、薬学的に許容される担体、希釈剤または賦形剤をさらに含む。前記用語は、互換的に用いることができる。前記薬学的に許容される担体(賦形剤または希釈剤とも呼ばれる)は、それ自体が薬学的組成物を受ける被験者に有害な副反応を誘発しない任意の賦形剤/担体/希釈剤を含む。
【0114】
適当な担体は、典型的には、タンパク質、多糖類、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、高分子アミノ酸、アミノ酸共重合体および例えば油滴またはリポソームなどの脂質凝集体のような大型でゆっくりと代謝される高分子である。本発明の(薬学的)組成物と組み合わせて用いられる担体は、水性であってもよく、水溶液を形成する。本発明のシステムを含む油性担体溶液は、水性担体溶液の代替物である。水性または油性溶液は、(薬学的)組成物に塗布薬、クリーム、軟膏、ゲルなどの粘度を与えるために増粘剤をさらに含む。適当な増粘剤は、当業者に周知である。
【0115】
本発明による薬学的に許容される担体は、例示であって、限定するものではないが、希釈剤、崩壊剤、結合剤、接着剤、湿潤剤、重合体、滑沢剤、流動促進剤(gliands)、不快な食感、味または匂いを遮断または中和するために加えられる物質、香料、色素、香り、および組成物の外観を改善するために加えられる物質を含む。許容される担体は、ラクトース、スクロース、デンプン粉末、トウモロコシデンプンもしくはその誘導体、アルカン酸のセルロースエステル、セルロースアルキルエステル、タルク、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、酸化マグネシウム、リン酸および硫酸のナトリウム塩およびカルシウム塩、ゼラチン、アカシアガム、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、ならびに/またはポリビニルアルコール、生理食塩水、デキストロース、マンニトール、ラクトース、レシチン、アルブミン、グルタミン酸ナトリウム、塩酸システインなどを含む。軟質ゼラチンカプセルに適した担体の例としては、植物油、ワックス、脂肪、半固体および液体ポリオールが挙げられる。溶液およびシロップの調製に適した担体は、非限定的に、水、ポリオール、スクロース、転化糖およびグルコースを含む。注射用溶液に適した担体は、非限定的に、水、アルコール、ポリオール、グリセロールおよび植物油を含む。薬学的組成物は、保存料、可溶化剤、安定剤、湿潤剤、乳化剤、甘味料、着色剤、香料、緩衝剤、コーティング剤または酸化防止剤をさらに含むことができる。適当な薬学的担体は、この分野の標準的な参考テキストであるRemington's Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Companyに記述されている。
【0116】
さらに、(薬学的)組成物の担体は、例えば、水、生理食塩水、グリセロール、エタノール、注射用静菌水(BWFI)、リンゲル溶液、デキストロース溶液、または塩および/もしくは緩衝液などの水溶液のような希釈剤をいうこともある。さらに、処方目的に必要な物質が、当業者に公知の乳化剤、安定化剤、界面活性剤および/またはpH緩衝物質などの許容される担体として前記組成物に含まれうる。
【0117】
前記安定化剤/安定剤は、浸透張力調整剤として作用しうる。「安定化剤」という用語は、処方物の安定性、特に前記(薬学的)組成物に含まれるシステムの安定性を改善するか、そうでなければ増強する薬剤をいう。浸透張力調整剤である安定化剤は、非還元糖、糖アルコールまたはそれらの組み合わせでありうる。本発明の(薬学的)組成物の浸透張力調整剤は、溶液の浸透張力、すなわち浸透圧が通常の生理学的流体と本質的に同じであることを保証し、したがって組成物と生理学的流体との間のイオン濃度の差による、投与後の組成物の膨潤または急速吸収を抑止しうる。好ましくは、安定化剤/浸透張力調整剤は、スクロースもしくはトレハロースなどの1つもしくは複数の非還元糖、またはマンニトールもしくはソルビトールなどの1つもしくは複数の糖アルコールであり、非還元糖および糖アルコールの組み合わせも好ましい。
【0118】
本発明の(薬学的)組成物において、界面活性剤の添加は、保存中のタンパク質分解を低減するのに有用であることができる。ポリソルベート20および80 (Tween 20およびTween 80)は、この目的のために十分に確立された賦形剤である。当業者であれば、処方物に含まれるさまざまな成分の組み合わせを、任意の適切な順序で行うことができることを理解するであろう。これらの化学物質の一部は、ある特定の組み合わせでは適合しない可能性があり、したがって、同様の特性を有するが関連する混合物中で適合性である異なる化学物質で容易に置き換えられることも、当業者には理解されるはずである。
【0119】
本明細書において用いられる「緩衝剤」という用語は、pHを所望の範囲に維持する薬剤を含む。緩衝液は、弱酸とその共役塩基、または弱塩基とその共役酸の混合物からなる水溶液である。少量の強酸または強塩基が加えられても、溶液のpHがほとんど変化しないという性質を有する。緩衝液は多種多様の化学的用途において、pHをほぼ一定の値に保つ手段として用いられる。概して、本発明の処方物において適用される場合の緩衝液は、好ましくは、本発明の前記(薬学的)組成物に含まれるシステムを安定化する。
【0120】
また、薬学的組成物は、1つまたは複数のアジュバントを含みうる。「アジュバント」という用語は、薬学的組成物に関連してその周知の意味にしたがって用いられる。具体的には、アジュバントは、それ自体で与えられた場合、免疫系に対する所望の免疫原性効果を、たとえあったとしても、ほとんど持たない一方で、そのような組成物の効果を変え、好ましくは増強する免疫学的薬剤である。適当なアジュバントは、例えば、アルミニウム塩(例えば、リン酸アルミニウム、水酸化アルミニウム)、モノホスホリルリピドAなどの無機アジュバント、またはスクアレンもしくは油性アジュバントなどの有機アジュバント、ならびにビロゾームであることができる。
【0121】
本発明の前記(薬学的)組成物は液体、好ましくは水性、組成物でありうる。本明細書において定義される(薬学的)組成物の乾燥形態または凍結形態が、本明細書においてさらに含まれる。この文脈では、凍結形態は、少なくとも約-30℃、少なくとも約-40℃、少なくとも約-50℃、少なくとも約-60℃、少なくとも約-70℃、少なくとも約-80℃またはそれ以上などを含めて、少なくとも約-20℃の組成物をいいうる。好ましくは、前記(薬学的)組成物は液体、さらにより好ましくは水性、組成物である。したがって、前記(薬学的)組成物は、後の使用のために液体形態で直接保存されてもよく、凍結状態で保存され使用前に解凍されてもよく、または使用前に液体形態もしくは他の形態に後で再構成するために、凍結乾燥、空気乾燥もしくは噴霧乾燥の形態などの、乾燥形態で調製されてもよい。したがって、本明細書において記述される(薬学的)組成物は、当業者に公知の任意の方法によって保存されうることが想定される。非限定的な例としては、処方物の冷却、凍結、凍結乾燥、および噴霧乾燥が挙げられ、冷却による保存が好ましい。
【0122】
インビボでの治療用途
本発明はさらに、医薬(medicament)として用いるための、本明細書の他の箇所で定義される組成物をいう。ゆえに、本発明の組成物は、治療、すなわち、本出願の組成物の診断用途について本明細書において定義される、それを必要とする対象におけるウイルス性および/または細菌性疾患の処置のために用いることもできる。したがって、本発明の組成物は、それを必要とする対象におけるウイルス性および/または細菌性疾患を予防または処置する方法で用いるのに特に適している。
【0123】
ゆえに、本発明は、対象におけるウイルス性および/または細菌性疾患の予防または処置のための方法であって、本発明の組成物の治療的有効量を、それを必要とする対象に投与する段階を含む前記方法も提供する。
【0124】
したがって、本明細書において用いられる「処置する(treat)」、「処置する(treating)」または「処置(treatment)」という用語は、それぞれの疾患に関連する症状の進行を低減する(減速する(弱める))、安定化するもしくは阻害する、または少なくとも部分的に緩和するもしくは抑止することを意味する。したがって、それには、本明細書の他の箇所で定義される、対象への、好ましくは医薬の形態での、前記システムを含む前記組成物の投与が含まれる。処置を必要とする者は、疾患、ここでは本明細書の他の箇所で記述されるウイルス性および/または細菌性疾患に既に罹患している者を含む。好ましくは、処置は、疾患または病理学的状態の存在および/または進行に関連する症状の進行を低減する(減速する(弱める))、安定化するもしくは阻害する、または少なくとも部分的に緩和するもしくは抑止する。「処置する(treat)」、「処置する(treating)」または「処置(treatment)」は、治療的処置をいう。特に、本発明の文脈では、処置する(treating)または処置(treatment)は、それを必要とする対象における、本明細書の他の箇所で定義される前記ウイルス性および/または細菌性疾患に関連する症状の改善をいう。この文脈において、「処置する(treat)」、「処置する(treating)」または「処置(treatment)」という用語は、本明細書において定義される特定のウイルス/細菌の標的(ウイルス性および/または細菌性) RNA分子配列を直接攻撃する抗ウイルスおよび/または抗菌療法をいう。したがって、本明細書において定義されるシステムを含む組成物は、抗ウイルスおよび/または抗菌治療用物質としても用いられうる。
【0125】
本明細書において用いられる「予防する(prevent)」、「予防する(preventing)」、「予防(prevention)」という用語は、予防的(prophylactic)または予防的(preventative)手段をいい、ここで対象は規定された疾患、すなわち本明細書において定義されるウイルス性および/または前記細菌性疾患につながるものと考えられる生物での、病理学的状態を含む、異常な状態を予防することである。言い換えれば、前記用語は、疾患を予防することを目的とする医療処置をいい、これは、対象が本明細書において定義される任意の将来のウイルス性および/または細菌性疾患に罹患する可能性が高いことを阻害することを意味する。本明細書において用いられる場合、そのような用語は、本明細書において定義される任意のウイルス性および/または細菌性疾患と診断された患者において所定の状態を獲得または発症するリスクの低減もいう。したがって、それには本明細書の別の箇所で定義される、対象への、好ましくは医薬の形態での、前記システムを含む前記組成物の投与も含まれる。予防を必要とする者には、本明細書において定義されるウイルス性および/または前記細菌性疾患などの、疾患を有する傾向がある者が含まれる。言い換えれば、そのような疾患を発症するリスクがあり、したがって、近い将来に、おそらく前記疾患に罹患することになる者である。したがって、本明細書において定義される組成物は、既に感染している本明細書において定義される対象に対して、治療剤としてではなく、予防薬としても用いられうる。これは、Cas13タンパク質がウイルスRNA分子によって圧倒されるのを防ぎうる。
【0126】
本明細書において用いられる場合、「対象」という用語は、哺乳動物および非哺乳動物の対象を含む。好ましくは、本発明の対象は、ヒト、家畜および農場動物、非ヒト霊長類、ならびに乳腺組織を有する他の任意の動物を含む、哺乳動物である。いくつかの態様において、哺乳動物はマウスである。いくつかの態様において、哺乳動物はラットである。いくつかの態様において、哺乳動物はモルモットである。いくつかの態様において、哺乳動物はウサギである。いくつかの態様において、哺乳動物はネコである。いくつかの態様において、哺乳動物はイヌである。いくつかの態様において、哺乳動物はサルである。いくつかの態様において、哺乳動物はウマである。最も好ましい態様において、本発明の哺乳動物はヒトである。対象には、ヒトおよび獣医の患者も含まれる。
【0127】
本書面に記述される使用、キットおよび組成物は概して、ヒトおよび獣医学の両方の疾患に適用可能である。対象が、本明細書において記述される疾患または状態の処置を受けうる生きたヒトである場合、それは「患者」としても扱われる。いくつかの態様において、本発明の対象は、本明細書において記述されるウイルス性および/または細菌性疾患を発症するリスクを有するものである。いくつかの態様において、本発明の対象は、本明細書において記述されるウイルス性および/または細菌性疾患に罹患している。本明細書において用いられる「罹患している」という用語は、対象がもはや健常な対象ではないことを意味する。「健常な」という用語は、それぞれの対象が、それぞれの疾患の明らかなまたは顕著な特徴または症状を有しないことを意味する。これはさらに、前記ウイルス性および/または前記細菌性疾患に罹患している対象が、本発明の前記システムを含む組成物によるそれぞれの処置を「必要とする」対象であることを意味する。処置を必要とする者は、疾患に既に罹患している者だけでなく、障害を有しやすい者、または障害を予防(発病予防)すべき者を含む。
【0128】
本明細書の他の箇所で定義されるウイルス性および/または細菌性疾患に罹患している対象を予防または処置する方法で用いるための本発明の前記システムを含む組成物は概して、治療的有効量で対象に投与される。前記治療的有効量は、前記ウイルス性および/または前記細菌性疾患の症状を阻害または緩和するのに十分である。「治療効果」または「治療的に有効な」とは、用いるためのコンジュゲートが、研究者、獣医師、医師または他の臨床医が求めている組織、系、動物またはヒトの生物学的または医学的応答を誘発することを意味する。「治療的に有効な」という用語はさらに、疾患もしくは障害を引き起こす、または疾患もしくは障害に寄与する因子の阻害をいう。「治療的有効量」という用語は、投与時の薬剤の量が、処置される疾患の進行を有意に改善するのに、または前記疾患の発症を予防するのに十分であることを含む。好ましい態様によれば、治療的有効量は、本明細書において定義されるウイルス性および/または細菌性疾患を緩和または治癒するのに十分である。
【0129】
治療的有効量は、本発明の前記組成物、疾患およびその重症度に依って、ならびに対象の個々の要因および/または同様に、その投与(送達とも呼ばれる)がどのように作用するかに依って変化するであろう。それゆえ、本発明の組成物は、全ての場合において治療的に有効であるという結果になるわけではない。なぜなら、本明細書において開示される方法は、個々の要因も関与するため、対象が検出システムに応答しうるか否かを100%安全に予測することができないからである。年齢、体重、一般的な健康状態、性別、食事、薬物相互作用などは、前記疾患に罹患している対象の処置で用いるための化合物が治療的に有効であるか否かに関して一般的な影響を及ぼしうると予想される。
【0130】
本発明のさまざまな局面を通して用いられる「投与する(administering)」または「投与される(administered)」または「投与(administration)」という用語は、本明細書において定義されるシステムを含む組成物が、適切な形態および用量で、適切な手段を用いてそれぞれの対象に与えられることを意味する。本発明による組成物の投与は、当技術分野において公知の任意の方法によって行うことができる。
【0131】
前記組成物または本明細書の他の箇所で定義される治療的有効量の前記組成物の投与は、吸入、注射、注入、または経口により実施されうる。本明細書の他の箇所で定義される組成物または該組成物を含む組成物の投与は、腹腔内に、静脈内に、動脈内に、皮下に、筋肉内に、非経口に、経皮に、管腔内に、くも膜下腔内におよび/もしくは鼻腔内にまたは組織に直接的に実施されうる。
【0132】
前記組成物が注入によって投与される場合、無菌の医薬品等級の水または生理食塩水を含有する注入ボトルを用い調合して投与することができる。前記組成物が注射によって投与される場合、投与前に成分が混合されうるように、滅菌注射用水または生理食塩水のアンプルを提供することができる。組成物が吸入によって投与される場合、当業者に知られている適切な吸入装置が用いられうる。
【0133】
特定の態様において、前記組成物の前記投与は、該組成物がDNA、RNAまたはタンパク質に基づくシステムとして送達されるかどうかという事実に基づいて、異なる方法を介して前記対象に送達することを含みうる。それがDNAに基づくシステムとして送達される場合、言い換えれば、前記組成物が、本明細書において定義されるCas13タンパク質をコードするヌクレオチド配列および本明細書において定義されるgRNAをコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子であって、DNAである該核酸分子として本明細書において定義されるように投与されうる場合、AAV媒介遺伝子送達用のアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、または前記少なくとも1つのgRNAおよび前記少なくとも1つのCas13遺伝子の発現用に最適化されたアデノウイルスベクターもしくはレンチウイルスベクターなどの、本明細書において記述される任意のベクターを用いて、ならびに/あるいは粒子および/またはナノ粒子を用いて投与されうる。それがRNAに基づくシステムとして送達される場合、言い換えれば、前記組成物が、本明細書において定義されるCas13タンパク質をコードするヌクレオチド配列および本明細書において定義されるgRNAをコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子であって、RNAである該核酸分子として本明細書において定義されるように投与されうる場合、当業者に公知であるように前記組成物を含む特定の粒子および/もしくはナノ粒子ならびに/またはリポソームおよび/もしくはエキソソームを用いて、好ましくはナノ粒子を介して投与されうる。それがタンパク質に基づくシステムとして送達される場合、言い換えれば、本明細書の他の箇所で定義される少なくとも1つのCas13タンパク質および本明細書において定義される少なくとも1つのgRNAを含む前記組成物が本明細書において定義されるように投与されうる場合、当業者に公知であるように前記組成物を含む特定の粒子および/もしくはナノ粒子ならびに/またはリポソームおよび/もしくはエキソソームを用いて、好ましくはナノ粒子を介して投与されうる。RNAおよびタンパク質に基づくシステムの場合、前記少なくとも1つのgRNAは、前記組成物の前記送達の前に的確な形態で既に化学的に合成されていてもよいが、DNAに基づくシステムの場合、前記gRNAは細胞内で転写される必要がありうる。
【0134】
前記組成物の使用によって予防または処置されるウイルス性疾患は、本明細書の他の箇所で定義されるDNAウイルス、RNAウイルスまたはレトロウイルスによって引き起こされる疾患、好ましくはRNAウイルスによって引き起こされる疾患をいいうる。特定の態様において、ウイルス感染は、二本鎖RNAウイルス、ポジティブセンスRNAウイルス、ネガティブセンスRNAウイルスまたはそれらの組み合わせによって引き起こされる。より好ましい態様において、前記組成物の使用によって予防または処置されるウイルス性疾患は、コロナウイルス疾患、インフルエンザA、エボラ、麻疹、C型肝炎、ダニ媒介脳炎(TBE)、ベネズエラウマ脳炎(VEE)ウイルス感染、デング熱、黄熱またはジカ熱のいずれか1つ、さらにより好ましくはコロナウイルスまたはインフルエンザ疾患である。「コロナウイルス」は、SARS-CoV、SARS-CoV2もしくはMERSまたは関連する新型人獣共通感染症もしくは変異型コロナウイルスでありうる。コロナウイルス群は、コロナウイルス科に属するエンベローププラス鎖RNAウイルスからなり、アルファ-、ベータ-、ガンマ-およびデルタ-コロナウイルスといわれるサブタイプを含む。アルファおよびベータは哺乳動物に影響を及ぼすが、ガンマは鳥類に影響を及ぼし、デルタは両方に影響を及ぼしうる。コロナウイルスファミリーは、いくつかの周知の病原メンバーを含む。ベータコロナウイルスファミリーは、これまでのところ、ヒトに最大のリスクをもたらしており、現在、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV-1)、中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)、および出現した最新の形態、新規コロナウイルス(SARS-CoV-2)を含めて、最もよく知られたウイルス標的を含む。最も好ましい態様において、前記システムを含む前記組成物の使用によって予防または処置される前記ウイルス性疾患は、COVID-19疾患である。COVID-19の場合、SARS-CoV-2感染の臨床範囲は広く、無症候性感染、軽度の上気道疾患、呼吸不全を伴う重篤なウイルス性肺炎、さらには死亡を包含し、多くの患者が入院していると思われる。
【0135】
任意の細菌もssRNAを含んでおり、これを標的化/検出し、次にまた切断/分解し、かくして前記細菌ssRNAを不活性化することができるので、本発明による前記組成物を用いる前記治療アプローチは、本明細書の他の箇所で定義される薬剤耐性細菌などの細菌によって引き起こされる任意の細菌疾患を処置または予防するためにも適用することができる。
【0136】
代替的な態様において、本発明の前記ウイルス性および/または細菌性疾患の処置で用いるための組成物は、さらなる治療剤(薬物)と組み合わせて投与されてもよい。この関連で有用な薬物または治療剤は、非限定的に、薬物様分子、タンパク質、ペプチド、および小分子を含む。タンパク質治療剤は、非限定的に、ペプチド、酵素、抗体、構造タンパク質、受容体および他の細胞タンパク質または循環タンパク質、ならびにそれらの断片および誘導体を含み、好ましくは、本発明の文脈におけるさらなる治療剤/薬物は、本明細書の他の箇所に記述されているウイルス性および/または細菌性疾患で用いるための薬物、特に前記疾患での組み合わせ療法のための薬物でありうる。本発明による前記組み合わせは、組み合わされた処方物として、または互いに別々に投与することができる。
【0137】
対象におけるウイルス性または細菌性疾患を予防または処置する方法であって、本明細書において定義される組成物の治療的有効量を対象に投与する段階を含む該方法も本発明によって含まれる。対象におけるウイルス性または細菌性疾患での治療用途のための医薬の製造に向けた本明細書の他の箇所で定義される該組成物の使用も本明細書に含まれる。第1および第2の医療用途に関してなされた定義および態様は、この文脈にも同様に適用されうる。
【0138】
本明細書の他の箇所で述べたように、
i) 少なくとも1つのNLSとまたは少なくとも1つのNESと融合された少なくとも1つのCas13タンパク質または該Cas13タンパク質をコードするヌクレオチド配列と、
ii) 少なくとも1つのウイルス輸送要素に融合された、1つまたは複数の標的RNA分子とハイブリダイズすることができる少なくとも1つのgRNAまたは該gRNAをコードするヌクレオチド配列と
を含むCRISPRシステムを含む組成物も本発明によって含まれ、ここでCTEまたはVARdmなどの、そのようなRNA輸送要素は、核からサイトゾルへのgRNAの輸送を駆動する。本明細書では、好ましくはヌクレオチド配列がDNAである、gRNAをコードするヌクレオチド配列は、少なくとも1つのウイルス輸送要素と融合される。本明細書において定義される少なくとも1つのウイルス輸送要素は、前記gRNAをコードするヌクレオチド配列、好ましくはDNAである前記ヌクレオチド配列の5'末端に、本明細書の他の箇所で定義されるように融合される。この文脈では、融合することは、前記gRNAをコードするヌクレオチド配列および少なくとも1つのウイルス輸送要素が、任意のヌクレオチドリンカーなどのリンカーを介して融合されることを再度意味する。したがって、(少なくとも1つのNLSとまたは少なくとも1つのNESと融合された少なくとも1つのCas13タンパク質または該タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む)上記組成物の前記gRNAをコードするDNAヌクレオチド配列が、任意のヌクレオチドリンカーなどのリンカーを介して、該ヌクレオチド配列の5'末端で、本明細書において定義される少なくとも1つのウイルス輸送要素と融合されている組成物も、本明細書に含まれる。再度、「少なくとも1つのウイルス輸送要素」という用語は、本明細書において定義される2つ、3つ、4つ、5つまたはそれ以上のウイルス輸送要素を意味する。好ましい態様において、前記少なくとも1つのウイルス輸送要素は、前記gRNAをコードするヌクレオチド配列(好ましくはDNA配列である)と本明細書において定義されるように融合される、CTEまたはVARdm、好ましくはCTEである。本明細書において定義される少なくとも1つのウイルス輸送要素との、前記gRNAをコードするヌクレオチド配列の融合は、有利であるものと分かる。というのは、それにより、好ましくはウイルスCTEを前記gRNAに融合する場合、最も好ましくはウイルスCTEを前記gRNAに融合し、かつNESを前記Cas13タンパク質に融合する場合、NLSまたはNESに融合された前記Cas13タンパク質のノックダウン効率を高めるからである(
図17参照)。そのようなgRNAへの融合は、そのような組成物のタンパク質レベルにも適用することができる。
【0139】
少なくとも1つのNESと融合された少なくとも1つのNLSと融合されたとりわけCas13タンパク質を含む組成物に関する上記のいずれの定義も、適用可能な場合、少なくとも1つのNLSとまたは少なくとも1つのNESと融合されたとりわけCas13タンパク質を含み、前記gRNAへの少なくとも1つのウイルス輸送要素の融合も含む組成物に(任意の組み合わせで)適用することができる。
【0140】
核酸分子
本発明によってさらに含まれるのは、本明細書の他の箇所で定義される、Cas13タンパク質をコードするヌクレオチド配列および/またはgRNAをコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子である。これは、前記Cas13タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含むそのような核酸分子が適用される場合、本発明によって記述される、(ヌクレオチド配列によって同様にコードされる)少なくとも1つのNESに融合された少なくとも1つのNLSに融合される本明細書において定義されるCas13タンパク質が、前記分子によってコードされることを意味する。さらに、前記gRNAをコードするヌクレオチド配列を含む前記核酸分子が適用される場合、例えば前記修飾に関する、本明細書において定義されるような、前記gRNAは、前記分子によってコードされうる。
【0141】
前記Cas13タンパク質および/または前記gRNAをコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子は、cDNAまたはゲノムDNAなどのDNA、およびRNAを含む。好ましくは、「RNA」を記載している態様は、mRNAを対象とする。
【0142】
本発明は、本明細書において記述されるCas13タンパク質および/またはgRNAをコードするヌクレオチド配列を含む、本明細書において定義される核酸分子にも関する。遺伝暗号の縮重は、同じアミノ酸を指定する他のコドンによるある特定のコドンの置換を許容するので、本発明は、本明細書において定義されるCas13および/またはgRNAをコードする特定の核酸分子に限定されるのではなく、本明細書において定義される機能的なCas13タンパク質および/またはgRNAをコードするヌクレオチド配列を含む全ての核酸分子を含む。
【0143】
いくつかの態様において、DNAまたはRNAなどの、本出願において開示されるCas13タンパク質および/またはgRNAをコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子は、互いに「機能的に連結された」ヌクレオチド配列、すなわち上記のように、本明細書の他の箇所で記述される少なくとも1つのCas13タンパク質をコードするヌクレオチド配列(2つ以上のCas13タンパク質が用いられる場合、同様に該Cas13タンパク質をコードする2つ以上のヌクレオチド配列が適用されうる)、本明細書の他の箇所で定義される少なくとも1つのgRNAをコードするヌクレオチド配列(2つ以上のgRNAが用いられる場合、同様に該gRNAをコードする2つ以上のヌクレオチド配列が適用されうる)、および本明細書の他の箇所で定義される局在化シグナルをコードするヌクレオチド配列を含みうる。前記ヌクレオチド配列は、互いに機能的に連結される。この点に関して、機能的な連結は、1つのヌクレオチド配列の配列要素および別のヌクレオチド配列の配列要素が、検出系の発現を可能にする方法で接続されている連結である。
【0144】
本発明は、実験的突然変異誘発の示された配列位置の外側にさらなる変異を含む、本明細書の他の箇所に記述される核酸分子も含む。そのような変異は、例えば折り畳み効率、血清中安定性、熱安定性またはリガンド結合親和性の改善に寄与する場合、許容されることが多く、あるいは有利であることさえ判明しうる。
【0145】
本出願において開示される核酸分子は、この核酸分子の発現を可能にするために、調節配列(a regulatory sequence) (または調節配列(regulatory sequences))に「機能的に連結」されうる。
【0146】
DNAまたはRNAなどの、核酸分子は、転写および/または翻訳調節に関する情報を含む配列要素を含み、そのような配列が、本明細書の他の箇所で定義されるCas13タンパク質および/またはgRNAをコードするヌクレオチド配列に「機能的に連結されて」いる場合、「核酸分子を発現することができる」または「ヌクレオチド配列の発現を可能にする」ことができるといわれる。機能的な連結は、調節配列要素および発現されるべき配列が、遺伝子発現を可能にする方法で接続されている連結である。遺伝子発現に必要な調節領域の的確な性質は種によって異なりうるが、一般的にこれらの領域はプロモーターを含み、これは、原核生物では、プロモーター自体、すなわち転写の開始を指令するDNA要素、およびRNAに転写されると、翻訳の開始をシグナル伝達するDNA要素の両方を含む。そのようなプロモーター領域は、通常、原核生物では-35/-10ボックスおよびシャイン-ダルガーノ(Shine-Dalgarno)要素、または真核生物ではTATAボックス、CAAT配列および5'-キャッピング要素などの、転写および翻訳の開始に関与する5'非コード配列を含む。これらの領域はまた、エンハンサーまたはリプレッサー要素、ならびに宿主細胞の特定の区画に天然ポリペプチドをターゲティングするための翻訳シグナル配列およびリーダー配列を含むこともできる。
【0147】
さらに、3'非コード配列は転写終結、ポリアデニル化などに関与する調節要素を含みうる。しかしながら、これらの終結配列が特定の宿主細胞で満足に機能しない場合、それらは、その細胞で機能するシグナルで置換されうる。
【0148】
それゆえ、本発明の核酸分子は、プロモーター配列などの調節配列を含むことができる。いくつかの態様において、本発明の核酸分子は、プロモーター配列および転写終結配列を含む。適当なプロモーターは、RNAポリメラーゼ、pol I、pol II、pol III、T7、U6、H1、レトロウイルスラウス肉腫ウイルス(RSV) LTRプロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、SV40プロモーター、ジヒドロ葉酸レダクターゼプロモーター、(3-アクチンプロモーター、ホスホグリセロールキナーゼ(PGK)プロモーター、EF1αプロモーターおよびU6プロモーター、TetOn/Off、7SK、CAG、CBh、UbCまたは任意のテトラサイクリン依存性もしくはインターフェロン依存性プロモーターからなる群より選択することができる。
【0149】
ベクター
本発明の核酸分子は、ベクターの一部または任意の他の種類のクローニング媒体、例えばプラスミド、ファージミド、ファージ、バキュロウイルス、コスミドまたは人工染色体、好ましくはベクターの一部であることもできる。
【0150】
ある特定の局面において、本発明は、例えば、Casおよび/またはCasを標的遺伝子座にガイドすることができるRNA (すなわち、ガイドRNA)を細胞内に送達または導入するためだけでなく、これらの成分を(例えば、原核細胞内で)増殖させるためのベクターを含む。本明細書において用いられる場合、「ベクター」は、ある環境から別の環境への実体の移入を可能または容易にするツールである。これは、挿入されたセグメントの複製を引き起こすために別のDNAセグメントが挿入されうる、プラスミド、ファージまたはコスミドなどの、レプリコンである。一般に、ベクターは、適切な制御要素と関連付けられると複製することができる。ベクターは、一本鎖、二本鎖または部分的に二本鎖である核酸分子; 1つまたは複数の遊離末端を含む核酸分子、遊離末端を含まない(例えば環状)核酸分子; DNA、RNAまたはその両方を含む核酸分子; および当技術分野において公知の他の種類のポリヌクレオチドを含むが、これらに限定されることはない。ベクターの1つのタイプは「プラスミド」であり、これは、例えば標準的な分子クローニング技法により、さらなるDNAセグメントを挿入できる環状二本鎖DNAループをいう。別のタイプのベクターはウイルスベクターであり、ここではウイルス(例えばレトロウイルス、複製欠損レトロウイルス、アデノウイルス、複製欠損アデノウイルス、およびアデノ随伴ウイルス(AAV))にパッケージングするためにベクター中にウイルスに由来するDNAまたはRNA配列が存在する。ウイルスベクターは、宿主細胞にトランスフェクションするためにウイルスによって運搬されるポリヌクレオチドも含む。ある特定のベクターは、それらが導入される宿主細胞において自律複製が可能である(例えば、細菌の複製起点を有する細菌ベクターおよびエピソーム哺乳動物ベクター)。他のベクター(例えば、非エピソーム哺乳動物ベクター)は、宿主細胞に導入されると宿主細胞のゲノムに組み込まれ、それによって宿主ゲノムとともに複製される。さらに、ある特定のベクターは、それらが機能的に連結されている遺伝子の発現を指令することができる。そのようなベクターは本明細書において「発現ベクター」といわれる。組み換えDNA技法において有用な一般的な発現ベクターは、多くの場合、プラスミドの形態である。
【0151】
組み換え発現ベクターは、宿主細胞における核酸の発現に適した形態で本発明の核酸を含むことができ、これは、組み換え発現ベクターには、発現のために用いられる宿主細胞に基づいて選択されうる、発現されるヌクレオチド配列に機能的に連結される1つまたは複数の調節要素が含まれることを意味する。組み換え発現ベクター内で、「機能的に連結された」とは、関心対象のヌクレオチド配列が、(例えば、インビトロ転写/翻訳系でまたはベクターが宿主細胞に導入される場合には宿主細胞内で)ヌクレオチド配列の発現を可能にする様式で調節要素に連結されていることを意味するように意図される。組み換えおよびクローニング法に関しては、2004年9月2日付でUS 2004-0171156 A1として公開された米国特許出願公開第10/815,730号に言及されており、その内容は参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。したがって、本明細書において開示される態様は、CRISPRエフェクタシステムを含むトランスジェニック細胞を含みうる。ある特定の例示的な態様において、トランスジェニック細胞は個々の離散体積(discrete volume)として機能しうる。言い換えれば、マスキング構築体を含むサンプルは、例えば適当な送達媒体中で細胞に送達されてもよく、標的が送達媒体内に存在する場合、CRISPRエフェクタが活性化され、検出可能なシグナルが生成される。ベクターは調節要素、例えば、プロモーターを含むことができる。ベクターは、Casをコードする配列、および/または単一の、ガイドRNAをコードする配列を含むことができるが、場合によっては1~2、1~3、1~4 1~5、3~6、3~7、3~8、3~9、3~10、3~8、3~16、3~30、3~32、3~48、3~50個のRNAなどの、少なくとも3または8または16または32または48または50個の、ガイドRNAをコードする配列を含むこともできる。単一のベクターにおいて、約16個までのRNAが存在する場合、有利には各RNAのプロモーターが存在しうる; そして、単一のベクターが16個を超えるRNAを提供する場合、1つまたは複数のプロモーターが2つ以上のRNAの発現を駆動することができる; 例えば、32個のRNAが存在する場合、各プロモーターは2個のRNAの発現を駆動することができ、48個のRNAが存在する場合、各プロモーターは3個のRNAの発現を駆動することができる。当業者は、単純な算術および十分に確立されたクローニングプロトコルおよび本開示の教示により、AAVなどの適当な例示的ベクターおよびU6プロモーターなどの適当なプロモーターに対するRNAに関して本発明を容易に実践することができる。例えば、AAVのパッケージング限界は約4.7 kbである。単一のU6-gRNA (クローニングのための制限部位を加えて)の長さは361 bpである。それゆえ、当業者は約12~16個、例えば、13個のU6-gRNAカセットを単一のベクターにおいて容易に適合させることができる。これは、TALEアセンブリに用いられるゴールデンゲート戦略(genome-engineering.org/taleffectors/)などの、任意の適当な手段によってアセンブルすることができる。当業者はタンデムガイド戦略を用いて、U6-gRNAの数をおよそ1.5倍だけ増加させる、例えば12~16個、例えば、13個からおよそ18~24個、例えば、約19個のU6-gRNAに増加させることができる。それゆえ、当業者は単一のベクター、例えばAAVベクターにおいて、およそ18~24個、例えば約19個のプロモーター-RNA、例えばU6-gRNAに容易に到達することができる。ベクター中のプロモーターおよびRNAの数を増加させるためのさらなる手段は、単一のプロモーター(例えば、U6)を用いて、切断可能な配列によって分離されたRNAのアレイを発現させることである。そして、ベクター中のプロモーター-RNAの数を増加させるためのさらなる手段は、コード配列または遺伝子のイントロン中の切断可能な配列によって分離されたプロモーター-RNAのアレイを発現させることである; そして、この例では、発現を増加させ、組織特異的な様式で長いRNAの転写を可能にしうる、ポリメラーゼIIプロモーターを用いることが有利である。(例えば、nar.oxfordjournals.org/content/34/7/e53.shortおよびnature.com/mt/journal/v16/n9/abs/mt2008144a.htmlを参照のこと)。1つの態様において、AAVは、約50個までの遺伝子を標的とするU6タンデムgRNAをパッケージングしうる。したがって、当業者は、当技術分野における知識および本開示における教示から、過度の実験なくして、本明細書において論じられるRNAまたはガイドの数に関して特に、制御下にあるまたは1つもしくは複数のプロモーターに機能的(operatively)もしくは機能的(functionally)に連結された複数のRNAまたはガイドを発現する、ベクター、例えば単一のベクターを容易に作製および使用することができる。
【0152】
そのようなクローニング媒体は、上記の調節配列および本明細書に記述のCas13タンパク質および/またはgRNAをコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子の他に、発現のために用いられる宿主細胞と適合性のある種に由来する複製配列および制御配列、ならびに形質転換またはトランスフェクトされた細胞に選択可能な表現型を付与する選択マーカーを含むことができる。多数の適当なクローニングベクターが当技術分野において公知であり、市販されている。
【0153】
本明細書において記述される核酸分子および特に、本明細書において定義されるCas13タンパク質および/またはgRNAのコード配列を含むクローニングベクターは、遺伝子を発現することができる宿主細胞に形質転換することができる。形質転換は、標準的な技法を用いて実施することができる(Sambrook, J. et al. (1988) Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd Ed)。
【0154】
宿主細胞
したがって、本発明は、本明細書において記述される核酸分子またはベクターを含む宿主細胞も対象とする。
【0155】
形質転換された宿主細胞は、本明細書において定義されるCas13タンパク質および/またはgRNAをコードするヌクレオチド配列の発現に適した条件の下で培養される。適当な宿主細胞は原核細胞、例えば大腸菌(E. coli)もしくは枯草菌(Bacillus subtilis)あるいは真核細胞、例えばサッカロマイセス・セレビシェ(Saccharomyces cerevisiae)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)、SF9もしくはHigh5昆虫細胞、不死化哺乳動物細胞株、例えばHeLa細胞もしくはCHO細胞または初代哺乳動物細胞、好ましくは大腸菌であることができる。
【0156】
キット
本発明は、本発明による本明細書に定義の組成物を含むキットにも関する。したがって、キットが組成物を含む場合、該組成物はバイアルまたは容器中で提供されてもよく、好ましくは該バイアルまたは容器中に本明細書において定義される少なくとも1つの担体も含む。したがって、キットが薬学的組成物を含む場合、該組成物は、好ましくは本明細書において定義される少なくとも1つの薬学的に許容される担体および/またはアジュバントも含む、バイアルまたは容器中で提供されてもよい。さらに、前記キットは、医薬品または生物学的製品の製造、使用または販売を規制する政府機関により規定される形式の通知が添付されてもよく、ヒトへの投与または診断のための製品の製造、使用または販売の政府機関による承認を反映している。前記キットは、本明細書において定義される組成物を、好ましくはバイアルまたは容器中に、凍結乾燥、風乾、または噴霧乾燥された形態(粉末の形態)などの乾燥形態で、使用前に液体形態または他の形態に後で再構成するために含みうる。さらに、前記キットはまた、好ましくはバイアルまたは容器中に、凍結状態で、使用前に解凍される組成物を含みうる。
【0157】
本発明によるキットは同様に、送達システムを含みうる。導入遺伝子の送達システムは当技術分野において周知である。例として、Cas導入遺伝子、したがってDNAの形態で前記CRISPRシステムを含む組成物は、例えばベクター(例えば、AAV、アデノウイルス、レンチウイルス、プラスミド)によってならびに/または本明細書の他の箇所で定義される粒子および/もしくはナノ粒子によって真核細胞に送達されうる。RNAの形態でまたはタンパク質レベルで前記CRISPRシステムを含む組成物は、例えば、本明細書の他の箇所にも記述されるように、粒子および/もしくはナノ粒子ならびに/またはリポソームおよび/もしくはエキソソームによって真核細胞に送達されうる。そのような送達システムはまた、上記で定義されたキットの1つもしくは複数のバイアルもしくは容器中に、または該キットの追加の1つもしくは複数のバイアルもしくは容器中に含まれてもよく、好ましくは、該1つまたは複数のバイアルまたは容器中に、該送達システムが混合される/接触されるのに適した任意の賦形剤をさらに含む。
【0158】
本発明によるキットは同様に、標識を含みうる。本明細書において用いられる標識は、前記組成物中に含まれる前記システムをターゲティングすることができる化合物をいいうる。前記化合物は、抗体、抗体にカップリング/コーティングされたビーズ、例えば抗体にカップリング/コーティングされたダイナビーズをいうこともあり、好ましくは、これらは組成物がタンパク質レベルで産生されうる場合、クロマトグラフィーなどの古典的精製プロセスに用いられる。さらに、前記標識はオリゴdT磁性ビーズであることができる。そのようなビーズは、RNAレベルで組成物が産生され、その後当業者に公知のようにさらに精製される場合、全長RNAのポリA尾部に結合することができうる。
【0159】
いくつかの態様において、前記標識は同様に、前記組成物を含む上記で定義されたキットの1つもしくは複数の容器もしくはバイアル、または該キットの追加の1つもしくは複数のバイアルもしくは容器に含まれてもよく、好ましくは、該1つまたは複数のバイアルまたは容器中に、該標識が混合される/接触されるのに適した任意の賦形剤をさらに含む。
【0160】
インビトロおよびインビボでの適用
本発明は、本発明の組成物を産生する方法、言い換えれば該組成物によって含まれる前記CRISPRシステムを産生する方法にも関する。この文脈では、前記組成物は、遺伝子操作方法によって、本明細書において定義されるCas13タンパク質および/またはgRNAをコードする核酸から出発して産生される。再度、この文脈では、コードされる前記Cas13タンパク質は、本発明の全体を通じて記述されるように、少なくとも1つのNESに融合される前記少なくとも1つのNLSに融合されるCas13タンパク質である。したがって、提供される産生方法の最終産物は、本発明の組成物であり、本明細書の他の箇所で定義されるCas13タンパク質および/またはgRNAをコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子の形態で前記システムを含む組成物であり、ここで該核酸分子は、DNA (「DNAに基づくシステム」)もしくはRNA (「RNAに基づくシステム」)であるか、またはタンパク質に基づくシステムの形態である。
【0161】
したがって、DNAに基づくシステムに関して本明細書において「遺伝子操作による核酸コード化」という用語が用いられる場合、それは(前記Cas13タンパク質および/またはgRNAをコードする前記ヌクレオチド配列の)人工遺伝子合成のインビトロでの使用をいう。そのような合成は、当業者に公知であるようにヌクレオチドから新たに遺伝子を構築およびアセンブルするために合成生物学において用いられる方法をいう。RNAに基づくシステムに関して本明細書において「遺伝子操作による核酸コード化」という用語が用いられる場合、それは当業者に公知のように(前記Cas13 mRNAおよび/または前記gRNAの) RNA合成のインビトロでの使用をいう。タンパク質に基づくシステムに関して本明細書において「遺伝子操作による核酸コード化」という用語が用いられる場合、それはインビボまたはインビトロで前記方法を実行するために分けられるべきである。いくつかの態様においておよび本明細書の他の箇所で定義される前記組成物のタンパク質に基づくシステムに言及する場合、本方法はインビボで実行することができ、これは、組成物が例えば細菌または真核宿主生物において産生され、次いで当業者に公知の手段によってこの宿主生物またはその培養物から単離されうることを意味する。インビボで組成物を産生する場合、本明細書において定義されるCas13タンパク質および/またはgRNAをコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子は、組み換えDNA技術によって適当な細菌または真核宿主生物に導入される。この目的のために、宿主細胞はまず、確立された標準的な方法を用いて、本明細書において記述される核酸分子を含むクローニングベクターで形質転換される。宿主細胞は次いで、異種DNAの発現、ひいては対応するCRISPRシステムの合成を可能にする条件の下で培養される。その後、組成物は宿主細胞または培養培地のいずれかから単離される。他の態様において、さらにタンパク質に基づくシステムに言及する場合、前記方法の核酸コード化はインビトロで実行することができ、これは、インビトロ翻訳システムの使用によって本発明の前記組成物を産生することも可能であることを意味する。
【0162】
上記で定義される核酸コード化の後、本方法は、産生された組成物を得る段階をさらに含みうる。
【0163】
組成物がDNAレベル(前記Cas13タンパク質および/またはgRNAをコードするヌクレオチド配列を意味する)で産生される場合、この点において用いられる「得る(obtain)」または「得ること(obtaining)」という用語は、産生された組成物が、例えば人工遺伝子合成を用いることにより核酸コード化の後に使用(反応)緩衝液から抽出され、前記組成物が使用されうる前に潜在的に精製されるという点で理解することができる。DNAに基づくシステムのそのような古典的な精製プロセスは、当業者に公知のようにシリカカラムの使用を含みうる。組成物がRNAレベル(Cas13 mRNAおよび/またはgRNAを意味する)で産生される場合、この点において用いられる「得る(obtain)」または「得ること(obtaining)」という用語は、産生された組成物が、例えばRNA合成を用いることにより核酸コード化の後に使用(反応)緩衝液から抽出され、前記組成物が使用されうる前に潜在的に精製されるという点で理解することができる。RNAに基づくシステムのそのような古典的な精製プロセスは、当業者に公知のようにオリゴdT磁性ビーズの使用を含みうる。そのようなビーズは、前記CRISPRシステムの構成要素のRNAのポリA尾部に結合することが可能であり、ここでは副生成物が分離され、したがって前記構成要素のより良好な純度が達成されうる。組成物がインビボでタンパク質レベル(Cas13タンパク質および/またはgRNA)で産生される場合、この点において用いられる「得る(obtain)」または「得ること(obtaining)」という用語は、産生された組成物が次に、上記のように当業者に公知の手段によって宿主生物またはその培養物から単離されるという点で理解することができる。組成物がインビトロでタンパク質レベルで産生される場合、「得る(obtain)」または「得ること(obtaining)」という用語は、産生された組成物が、例えばインビトロ翻訳システムを用いることにより核酸コード化の後に使用(反応)緩衝液から抽出され、前記組成物が使用されうる前に潜在的に精製されるという点で理解することができる。使用されうる古典的な精製プロセスは、当業者に公知のように適当なクロマトグラフィーをいいうる。「回収する(recover)」または「回収すること(recovering)」という用語は、本明細書において「得る(obtain)」または「得ること(obtaining)」という用語と互換的に用いることができる。
【0164】
核酸分子、ベクター、宿主細胞、キット、ならびにインビトロおよびインビボ適用に関する上述の段落および定義は、適用可能な場合、クラスタ化され規則的に間隔があいた短い回文構造の繰り返し(CRISPR)システムを含む組成物であって、該システムが、
i) 少なくとも1つの核局在化シグナル(NLS)とまたは少なくとも1つの核輸送配列(NES)と融合された少なくとも1つのCRISPR関連タンパク質13 (Cas13)または該Cas13タンパク質をコードするヌクレオチド配列と、
ii) 本明細書の他の箇所で定義される少なくとも1つのウイルス輸送要素に融合されている、1つまたは複数の標的RNA分子とハイブリダイズすることができる少なくとも1つのガイドRNA (gRNA)または該gRNAをコードするヌクレオチド配列と
を含む、該組成物に適用することもできる。
【実施例】
【0165】
本発明の実施例
材料および方法
重要な構築体のクローニング
Cas13コード配列を合成断片として発注し(gBlock, IDT)、pCAG骨格にクローニングした。異なる局在化配列をライゲーションまたはGibsonアセンブリによってC末端に融合させた。Cas13 gRNA足場配列を合成断片として発注し(gBlock, IDT)、U6骨格にクローニングした。相補的なオリゴヌクレオチド(Metabion)をアニールすることにより、異なるgRNAを足場にクローニングした。HAタグ付きSARS-CoV-2を、断片化した合成SARS-CoV-2ゲノム(Twist Bioscience)からOne-step RT-PCR (SuperScript IV One-step RT-PCR, Thermo Fisher)により増幅させた。ここで使用したルシフェラーゼを全て、マウスオルニチン脱炭酸酵素に由来するC末端デグロン(Degron)に融合させて、RNAおよびタンパク質レベルを密接に結び付けた。tRNAおよびリボザイムを合成断片として発注し(gBlock, IDT)、GibsonアセンブリによってgRNAの3'末端に付加した。5'および3'βグロビン安定化UTRをHEK293TゲノムDNAから増幅し、Cas13コード配列の上流または下流にクローニングした。
【0166】
標準的なRNA調製
インビトロ転写用の鋳型をプラスミド鋳型の直鎖化により作製した。消化物を精製し(Monarch DNA Cleanup Kit, New England Biolabs)、その後にmRNA合成に用いた(HiScribe T7 ARCA mRNA with tailing Kit, New England Biolabs)。合成したRNAを精製し(Monarch RNA Cleanup, New England Biolabs)、-80℃で保存した。gRNA鋳型を、部分的に重複するオリゴヌクレオチドの伸長によって作製し(Q5 Mastermix, New England Biolabs)、インビトロ転写に直接用いた。合成したgRNAを精製し(Monarch RNA Cleanup, New England Biolabs)、-80℃で保存した。
【0167】
細胞株および培養
全ての実験をHEK293T細胞において実施した。細胞を37℃、7.5% CO2、H2O飽和雰囲気で維持した。維持には10% FBSを含むAdvanced DMEMを用いた。
【0168】
ルシフェラーゼアッセイによって測定されたノックダウン効率
細胞を、ナノルシフェラーゼをコードするmRNAまたはDNAとともに異なるCas13システムでトランスフェクトした。トランスフェクションの24~72時間後に、細胞を溶解し、ナノルシフェラーゼを測定した(NanoGlo Assay, Promega)。オンターゲット活性およびオフターゲット活性を定量化する実験では、ホタルルシフェラーゼとともにナノルシフェラーゼを同じウェルにトランスフェクトした。トランスフェクションから24~72時間後に、細胞を溶解し、両方のルシフェラーゼを独立して測定した(NanoGlo Dual Luciferase Assay, Promega)。
【0169】
タンパク質安定性およびSARS-CoV-2 RdRPノックダウンの評価
異なるCas13バリアントによるトランスフェクションの72時間後に、Halt Protease Inhibitor Cocktail (Thermo Fisher)を補充したM-PER緩衝液(Thermo Fisher)中で細胞を溶解した。溶解物をLaemmli Buffer (Sigma-Aldrich)中で調製し、SDS PAGE (Thermo Fisher)で泳動した。タンパク質を20 Vで終夜PVDF膜に転写し、ブロッキングし、Cas13を染色するための一次M2 抗FLAG (Merck Millipore)抗体、またはHAタグ付きSARS-CoV-2 RdRPを染色するためのHA抗体(Cell Signaling)のいずれかとともにインキュベートし、Amersham ECL Prime基質(Sigma-Aldrich)で画像化した。
【0170】
Cas13タンパク質局在化
異なるCas13バリアントによるトランスフェクションの72時間後に、細胞をホルマリンで固定し、透過処理し、一次M2抗FLAG (Merck Millipore)抗体とともにインキュベートした。二次抗体とのインキュベーション後に、細胞をさらにDAPI染色し、EVOS Cell Imaging System (Thermo Fisher)で画像化した。
【0171】
SARS-CoV-2阻害
ACE2 (20 ng)、Cas13 NLS-NES (40 ng)およびgRNA (40 ng)をコードするmRNAを96ウェルプレート中で細胞にトランスフェクトした。mRNAトランスフェクションはMessengerMax (Thermo Fisher)で実行した。トランスフェクション24時間後に、細胞にBSL3条件下でSARS-CoV-2-GFPを感染させた。トランスフェクション72時間後に、細胞を溶解し、トリゾール(Trizol)中60℃で加熱することによりウイルスを不活性化した。トリゾール/クロロホルム抽出によりRNAを抽出した。抽出されたRNAを次いで、CDC認可の診断アッセイ(ウイルスN遺伝子用, IDT)でRT-qPCR (Luna Universal Probe One-Step Assay, New England Biolabs)により定量化した。
【0172】
細胞翻訳の測定
細胞をCas13、mRuby3、およびgRNAターゲティングmRuby3でトランスフェクトした。トランスフェクション72時間後に、新生タンパク質の翻訳を記録し、製造元のプロトコル(Protein Synthesis Assay Kit, Cayman Chemical)にしたがって染色した。染色した細胞をFACSによって分析した。
【0173】
リボソームアッセイ
細胞をCas13、gRNA、および標的RNAでトランスフェクトした。トランスフェクション72時間後に、全RNAを抽出し(Monarch Total RNA Miniprep Kit, New England Biolabs)、アガロースゲルで分析した。比較として、精製した80Sリボソームを、精製したCas13タンパク質(インビトロ翻訳によって作製した: NEBExpress, New England Biolabs)、インビトロで転写したgRNA、およびインビトロで転写した標的RNA (前述の通り)とともに、NEB 4緩衝液中で1時間インキュベートした。0.5 M EDTAの添加によって反応をクエンチした。次に、反応液をプロテイナーゼ(Proteinase) Kとともに37℃で1時間インキュベートし、その後にアガロースゲルで分析した。
【0174】
RNA送達の最適化
Cas13 mRNAを安定化するために、5'βグロビンUTRの断片およびβグロビン3'UTRの2コピーをCas13コード配列に付加した。さらに、遺伝的にコードされた162ヌクレオチドのポリA尾部を付加した。UTPをN1-メチルシュード-UTP (Jena Bioscience)によって置換し、5'キャッピングをVaccina Capping Systemおよび2'-O-メチルトランスフェラーゼ(ともにNew England Biolads)によって転写後に実施した。化学合成(IDT)を介して2' O-メチル-ホスホロチオエートにより5'末端および3'末端の2つの末端ヌクレオチドを置換することによって、gRNAを安定化させた。
【0175】
結果
実施例1: Cas13の最適なノックダウン条件の特徴付け
Cas13に基づくノックダウンツールの最適な組成を見つけるために、Cas13dバリアントおよびmiRNAに基づくRNA干渉をホタルルシフェラーゼノックダウンアッセイで直接比較した。22 bpのgRNAを有する既知のCas13d-NLSは、中程度のノックダウン効率をもたらしたが、これはgRNAの長さを30 bpに増やし、Cas13タンパク質をNLSおよびNESに一緒に融合させることにより改善された。この最適化されたシステムは、最新世代のRNA干渉よりもさらに効率的である(
図1)。
【0176】
もともと、Cas13dに最適なgRNAの長さは、精製成分を用いたインビトロアッセイで22 bpであることが判明していた(Konermann et al. (2018), Cell 173(3): 665-676)。本発明者らは、同時トランスフェクトされたナノルシフェラーゼを標的とすることにより、哺乳動物細胞株における異なるgRNAの長さのノックダウン効率を特徴付けた。これまでのインビトロの研究とは対照的に、最適なgRNAの長さは26から30 bpの範囲であった(
図2)。
【0177】
本発明者らは、RNAse P/Zによるプロセッシングを受けるtRNA、または自己切断リボザイムをgRNAの3'に付加することで、gRNAの折り畳みを支持できるのではないかという仮説を立てた。さらに、両モチーフは、Pol IIIプロモーター(例えばU6プロモーター)の転写終結中にgRNAに付加されるU-ストレッチを切断除去する。両モチーフの付加は、非修飾gRNAと比較してノックダウン効率の向上を示した(
図3)。
【0178】
実施例2: Cas13dをサイトゾルに移行させるための異なる戦略の活用
本発明者らは、ルシフェラーゼに基づくアッセイにおいて、異なる局在化シグナルを有するCas13dタンパク質のノックダウン効率を比較した。Pol III駆動型gRNAは発現して核内に留まるため、サイトゾル(NES)に輸送されたCas13dはほとんど活性を示さない。さらに、ウエスタンブロット分析から、同じ区画でgRNAに結合していない場合、タンパク質は不安定であることが示された。核に輸送されるCas13dバリアント(NLS)は、gRNAと同じ区画に存在し、gRNA/Cas13d複合体を形成するため、活性かつ安定である。両方の局在化シグナル(NLS-NES)からなるCas13d融合タンパク質の場合、シャッフリング機構が予想された。前記タンパク質は核に運び入れられ(NLS)、gRNAをピックアップし、その後に再びサイトゾル(NES)に輸送され、そこでルシフェラーゼ mRNA の大部分が分解の標的となる。このNLS-NES戦略は、タンパク質をサイトゾル中で安定化させ、ノックダウン効率を最大化した。この場合、Cas13d-NESが最も活性を示すので、Pol IIプロモーターからの発現によってgRNA自体がサイトゾルに輸送される相補的な戦略も仮説を支持する。2つの戦略を直接比較すると、Cas13d-NLS-NESが最も効率的である(
図4)。
【0179】
実施例3: Cas13dの特異性の評価
全てのCas13システムについて、インビトロ実験では、付随的RNA切断と呼ばれる非特異的RNA分解の制御を解く、標的RNAに基づく活性化機構が示唆された(Abudayyeh et al. (2016), Konermann et al. (2018))。驚くべきことに、この非特異的RNA分解は全ての真核細胞系に存在しない(Abudayyeh et al. (2017) Nature 550, 280-284, Konermann et al. (2018))。真核細胞のトランスクリプトームは、原核生物のトランスクリプトーム(イントロン/エクソン構造、非コードRNA、低分子RNAなど)よりもはるかに複雑である。本発明者らは、原核生物と真核生物の間でCas13機構に見られる差異は、Cas13システムの活性の差異に直接関係しているのではないかという仮説を立てた。中程度に活性な Cas13 システムの場合、付随的RNA切断は非常に複雑な真核生物のトランスクリプトームにおいて監視されうる。それゆえ、本発明者らは、非常に活性なCas13-IDGの付随的切断について試験した。予想通り、ホタルルシフェラーゼを標的とした場合、miRNAと同様に既知のCas13dシステムは、同時トランスフェクトされた無関係なナノルシフェラーゼの実質的な阻害をもたらさなかった。Cas13-IDGの場合、ホタルルシフェラーゼのノックダウンの増加とともに、ナノルシフェラーゼのノックダウンの増加が測定された(
図5)。このことから、本発明者らは、Cas13-IDGが、標的転写産物によるウイルス阻害のために利用されうる付随的活性という、以前に見出された特徴を示すという結論に至った。
【0180】
実施例4: 異種発現mRNAの効率的なノックダウン
先行技術では、個々のシステムの効率に関して非常に異なる結果が得られており、そのため、本発明者らは、既知のCas13システムといくつかのgRNAおよび標的RNAを96ウェル形式で直接比較することができるルシフェラーゼに基づくアッセイを開発した(
図6A)。ルミノコッカス・フラベファシエンスXPD3002由来のCas13dが標的RNAを分解するのに最も効率的であることが示された。このアッセイに基づいて、本発明者らは、gRNAおよびCas13タンパク質に対する多数の修飾を試験し、Cas13dのノックダウン効率を50%から90%超に増加させる3つの修飾を同定することができた(
図6B)。最適化段階には、gRNAの伸長、gRNAの折り畳みを支持するtRNAの融合、ならびに核およびさらに細胞質の局在化シグナルのCas13dタンパク質への融合が含まれた。両方の局在化シグナルを一緒に融合させることで、細胞質へのCas13dの局在化が引き起こされた(
図6C)。公開されているCas13dバリアントとは対照的に、この段階により、核RNAではなくサイトゾルRNAを初めて分解することが可能になる。3つの修飾のそれぞれを含む修飾されたCas13d組成物は、Cas13-IDGを意味する。
【0181】
Cas13-IDGに関する研究の過程で、本発明者らは、Cas13組成物の、原核生物系において最初に記述された付随的活性を、哺乳動物細胞において実証することができた。インビトロ(実験的無細胞系)および細菌系における既知の付随的活性とは対照的に、Cas13-IDGは、28SリボソームRNAを規定された位置で結合および切断することを選好するようであり(
図6D、6E)、これは最終的に、全体的な細胞タンパク質翻訳の一過性阻害をもたらす(
図8)。インビトロシステムで精製80Sリボソームに及ぼす精製Cas13の影響を分析することにより、28S rRNAは内因性の細胞機構ではなくCas13によって直接切断されることが確認された(
図9)。
【0182】
実施例5: SARS-CoV-2に及ぼすCas13-IDGの阻害効果
一般的な最適化、およびCas13-IDGが細胞翻訳に及ぼす影響の発見に基づき、本発明者らは、これらの知見を抗ウイルス治療薬に向けてさらに発展させた。これを行うために、SARS-CoV-2ウイルスの異なる領域に相補的なgRNAを使用し、ウイルスの5'および3'部分に焦点を当てた。これらの2つの領域はウイルスゲノムおよび全てのサブゲノムmRNAの両方に存在するため、Cas13の抗ウイルス効果はこれらの位置で最も強い可能性がある。加えて、感染後にウイルスRNAが大量に複製され、短時間後には内因性RNAの量を超えることが最近明らかになった。それゆえ、本発明者らは、Cas13が5'または3'ウイルスUTRに向けられた場合、次の4レベルのウイルス阻害を期待している: 1) ウイルスゲノムの直接標的化、2) ウイルスゲノムのコピーの標的化、3) ウイルスmRNAの分解、4) 感染細胞におけるCas13-IDGの劇的な活性化、したがってウイルスのタンパク質翻訳に対する強力な付随的効果(
図7A)。
【0183】
本発明者らは、SARS-CoV-2の人工的に発現させたRdRpタンパク質を標的とするgRNAとともにCas13-IDGを用いると、タンパク質が約90%ノックダウンされることを示した(
図7B)。これに基づいて、本発明者らは、SARS-CoV-2感染細胞に及ぼすCas13-IDGの抗ウイルス効果を(BSL-3条件下で)試験し始めた。初期の結果では、gRNAの位置に依って、最大80%のウイルス低減が示された(
図7C)。この実験では、RNAの一過性効果により前臨床および臨床モデルでの翻訳が容易になることが予想されるため、Cas13-IDG組成物はDNAではなくRNAとして送達された。
【0184】
実施例6: RNAに基づくCas13送達システムの最適化
RNAに基づく送達システムにおけるCas13-IDGのノックダウンをさらに増強するため、同時トランスフェクトされたナノルシフェラーゼmRNAに対するノックダウン効率を測定することにより、いくつかの修飾を試験した。まず、JetMessengerトランスフェクション試薬がMessengerMaxよりも好ましいことが示された。5'βグロビンUTRの一部と3'βグロビンUTRの2コピーの追加により、Cas13 mRNAの安定性が増加した。一般的に使用される共転写ARCAに基づく5'キャッピングから、Vaccina Capping Systemおよび2'-O-メチルトランスフェラーゼによる転写後キャッピングへの切り替えは、ノックダウン効率をさらに改善した。Cas13 mRNAのUTPをN1-メチルシュード-UTPにより置換すると、Cas13タンパク質の発現が増加し、これはCas13-P2A-mRuby3融合構築体によって示された(
図10B)。Cas13 mRNAの改善に加えて、2つの5'および3'末端ヌクレオチドを2'-O-メチルホスホロチオエート修飾ヌクレオチドで置換することによってgRNAを安定化すると、ノックダウン効率がさらに改善されることが分かった(
図10A)。
【0185】
実施例7: 異なる局在化シグナルに融合されたCas13dバリアントの例証
核/サイトゾル往復を誘導するために、Cas13dは、異なる単一またはタンデム局在化シグナルに融合された(
図11A)。同時トランスフェクトされたナノルシフェラーゼは、異なる局所化Cas13バリアントと組み合わせた2つのgRNAの標的とされた。2つのNLSと1つのNESシグナルとの組み合わせ(Cas13d-NLS-NES/Cas13d-IDG)が最適であることが分かったが、これは、gRNAをピックアップするのに十分な核への運び入れと、主にサイトゾルナノルシフェラーゼmRNAを効率的に標的とするためのサイトゾルへの局在化による可能性が高い(
図11B)。
【0186】
実施例8: 異なる局在化シグナルに融合されたCas13dタンパク質バリアントの局在化
Cas13dの局在化に及ぼす異なる単一またはタンデム局在化配列の影響を分析するために、免疫組織化学を実施した。異なる融合構築体をトランスフェクトし、ハイコンテンツ分析システムで画像化した(
図12A)。その後、サイトゾル画分および核画分の蛍光強度測定を構築体ごとに100細胞について実施した。サイトゾルから核への分布の分析から、NLSシグナルの減少およびNESシグナルの増加に対する、サイトゾルへのタンパク質局在化の漸進的なシフトが明らかになった(
図12B)。Cas13d-NES-NLSは中間的な局在化を示し、仮説上の往復機構を支持している。
【0187】
実施例9: 異なる局在化シグナルに融合されたCas13dバリアントの安定性
gRNAおよび関連タンパク質の局在化がCas13の安定性に影響を及ぼすかどうかを試験するために、ウエスタンブロット分析を実施した。それゆえ、異なる局在化シグナルに融合されたCas13バリアントをHEK293T細胞にトランスフェクトし、その後に分析した。ポリメラーゼII駆動型gRNAはサイトゾルに輸送されるため、主にサイトゾルCas13バリアントを安定化するが、ポリメラーゼIII駆動型gRNAは核内に留まり、それゆえ好ましくは核Cas13バリアントを安定化させた(
図13)。
【0188】
実施例10: ベネズエラウマ脳炎(VEE)レプリコンに対するノックダウン効率の比較
サイトゾルRNAのノックダウンに及ぼす部分的サイトゾルCas13d-NLS-NESの影響を研究するために、ベネズエラウマ脳炎(VEE)ウイルスに由来する自己複製RNAを標的として、ウイルス感染を模倣した。VEEは、従来のCas13d-NLSが位置する核障壁を通過することなく、サイトゾル内でのみ複製している。mGreenLanternレポーター遺伝子をVEEレプリコン発現構築体上にクローニングして、VEEレプリコンの複製速度を測定した。レポーターレプリコンをインビトロで転写し、HEK293T細胞にトランスフェクトした。2週間の選択後、異なるCas13構築体をトランスフェクトし、VEE複製に及ぼすそれらの影響をフローサイトメトリーによって分析した。試験した全てのgRNAについて、Cas13d-NLS-NESはCas13d-NLSを上回り、それゆえ、Cas13d-NLS-NESが以前に記述されたCas13-NLSと比較してサイトゾルRNAの分解においてより効率的であることを支持している(
図14)。
【0189】
実施例11: Cas13d-IDGおよび異なるgRNAを用いた処置条件に対するSARS-CoV-2-GFP複製の継続的分析
SARS-CoV-2はプラス鎖RNAウイルスであり、これはサイトゾル内でのみ複製する一方で、Cas13d-NLS-NESは、サイトゾルRNAを効率的に分解する。ウイルス複製に及ぼすCas13-NLS-NESの影響を測定するために、HEK293T-ACE2細胞に、異なるgRNAとともにCas13d-NLS-NESコードmRNAをトランスフェクトし、SARS-CoV-2-GFPを感染させた。SARS-CoV-2-GFPはウイルスゲノム上に追加の緑色蛍光タンパク質をコードしており、時間経過実験でのウイルス複製の測定を可能にする。ウイルスの3'UTRを標的とした化学修飾gRNAと、ウイルスの5'UTRおよび3'UTRを標的としたgRNAプールは、ウイルスの複製を強く阻害した(
図15A)。これらの結果をさらに検証するために、異なるSARS-CoV-2バリアント(アルファおよびデルタ)を、化学的に修飾したgRNAとともにCas13d-NLS-NESをトランスフェクトすることによって標的とした(
図15B)。その後、SARS-CoV-2のウイルス量を、ウイルスNまたはRdRp遺伝子のいずれかについてRT-qPCRにより測定し、確立されたシステムがさらなる修飾なしにSARS-CoV-2バリアントを阻害できることを確認した。
【0190】
実施例12: Cas13に融合されたNESまたはタンデムNLS-NESに関する同時トランスフェクトされたナノルシフェラーゼを標的とする2つのgRNAについてのノックダウン効率の比較
Cas13d-NLS-NESは核に移動してgRNAをピックアップする一方で、CTE融合gRNAは、単独でサイトゾルに輸送される。両方の輸送システムの組み合わせにより、相加的な効果が得られうる。それゆえ、CTEモチーフと融合したまたは融合していない、ナノルシフェラーゼを標的とする2つのgRNA、およびCas13-NESまたはCas13-NLS-NESのいずれかを、HEK293T細胞にトランスフェクトした。トランスフェクションから48時間後に、ノックダウン効率を測定した。どちらのgRNA輸送戦略も単独では同様に機能したが、両方の輸送システムの相乗効果により効率がさらに最大化された(
図16)。
【0191】
実施例13: 異なるcrRNA輸送戦略の例証
従来のgRNAはポリメラーゼIIIプロモーター(例えばU6プロモーター)により発現されるため、発現細胞の核内に留まる。細胞質RNAを標的とするために、異なるgRNA輸送戦略を利用した。ポリメラーゼII駆動型gRNA (例えばCAGプロモーター)はキャップされ、ポリアデニル化され、したがって輸送される。あるいは、CTEまたはVARdmなどのウイルスRNA輸送要素は、核からサイトゾルへのgRNAの輸送を駆動する(
図17A)。これらの輸送戦略を2つのgRNAに適用し、同時トランスフェクトされたナノルシフェラーゼを標的とし、細胞質または核のCas13タンパク質について比較した(
図17B)。以前に示されたように、従来のpol III駆動型gRNAは、核Cas13システムとの組み合わせでより効率的である。Pol II gRNA発現および融合ウイルス輸送モチーフは、核Cas13タンパク質よりもサイトゾルCas13タンパク質に有利に働く。ウイルスCTEモチーフに融合されたgRNAは、Cas13d-NESによるサイトゾルノックダウンの駆動において最も効率的である。
【0192】
本発明は、以下の項目によってさらに特徴付けられる。
【0193】
項目
1. クラスタ化され規則的に間隔があいた短い回文構造の繰り返し(CRISPR)システムを含む組成物であって、該システムが、
i) 少なくとも1つの核輸送配列(NES)に融合された少なくとも1つの核局在化シグナル(NLS)と融合された少なくとも1つのCRISPR関連タンパク質13 (Cas13)と、
ii) 1つまたは複数の標的RNA分子とハイブリダイズすることができる少なくとも1つのガイドRNA (gRNA)と
を含む、該組成物。
2. Cas13タンパク質がヌクレオチド配列によってコードされる、項目1の組成物。
3. gRNAがヌクレオチド配列によってコードされる、項目1または2の組成物。
4. Cas13タンパク質が、少なくとも1つのNESに融合された少なくとも1つのNLSとリンカーを介して融合されている、前記項目のいずれか一つの組成物。
5. Cas13タンパク質がCas13dタンパク質である、前記項目のいずれか一つの組成物。
6. Cas13dタンパク質がルミノコッカス属(Ruminococcus)、好ましくはルミノコッカス・フラベファシエンス(Ruminococcus flavevaciens)に由来する、項目5の組成物。
7. gRNAが少なくとも約23ヌクレオチドの長さを有する、前記項目のいずれか一つの組成物。
8. gRNAが約26~約30ヌクレオチドの長さを有する、前記項目のいずれか一つの組成物。
9. gRNAが、1つまたは複数の標的RNA分子に対して少なくとも約80%の相補配列同一性を有する、前記項目のいずれか一つの組成物。
10. gRNAが、1つまたは複数の標的RNA分子の5'および/または3'非翻訳領域にハイブリダイズすることができる、前記項目のいずれか一つの組成物。
11. gRNAをコードするヌクレオチド配列がtRNAまたはリボザイムと融合されている、項目3~10のいずれか一つの組成物。
12. 1つまたは複数の標的RNA分子がウイルスまたは細菌の標的RNA分子である、前記項目のいずれか一つの組成物。
13. 細菌またはウイルスのssRNAを不活性化するためのものである、前記項目のいずれか一つの組成物。
14. 薬学的組成物である、前記項目のいずれか一つの組成物。
15. 少なくとも1つの薬学的に許容される担体をさらに含む、項目14の組成物。
16. 治療で用いるための、項目1~15のいずれか一つの組成物。
17. 項目1~15のいずれか一つの組成物の治療的有効量を対象に投与する段階を含む、対象におけるウイルス性または細菌性疾患を予防または処置する方法で用いるための、項目1~15のいずれか一つの組成物。
18. ウイルス性疾患がRNAウイルスによって引き起こされる、項目17の使用のための組成物。
19. ウイルス性疾患が、コロナウイルス疾患、インフルエンザA、エボラ、麻疹、C型肝炎、ダニ媒介脳炎(TBE)、デング熱、黄熱またはジカ熱のいずれか一つである、項目18の使用のための組成物。
20. ウイルス性疾患がCOVID-19疾患である、項目19の使用のための組成物。
21. 前記項目のいずれか一つに定義されるCas13タンパク質および/またはgRNAをコードするヌクレオチド配列を含む、核酸分子。
22. 項目21の核酸分子を含む、ベクター。
23. 項目22のベクターまたは項目21の核酸分子を含む、宿主細胞。
24. 項目1~15のいずれか一つの組成物を含む、キット。
25. 送達システムおよび/または標識をさらに含む、項目24のキット。
26. 以下の段階を含む、項目1~15のいずれか一つの組成物を産生する方法:
a) 遺伝子操作方法による、項目1~15のいずれか一つに定義されるCas13タンパク質および/またはgRNAをコードする核酸、それにより該組成物を産生する段階; 任意で
b) 段階a)の産生された組成物を得る段階。
【配列表】
【国際調査報告】