IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ゼノセラの特許一覧

特表2024-500935抗感染受動免疫療法における、抗体依存性マクロファージ炎症誘発性サイトカインの放出を治療及び/又は予防するためのその使用のためのブタポリクローナル抗体組成物
<>
  • 特表-抗感染受動免疫療法における、抗体依存性マクロファージ炎症誘発性サイトカインの放出を治療及び/又は予防するためのその使用のためのブタポリクローナル抗体組成物 図1
  • 特表-抗感染受動免疫療法における、抗体依存性マクロファージ炎症誘発性サイトカインの放出を治療及び/又は予防するためのその使用のためのブタポリクローナル抗体組成物 図2
  • 特表-抗感染受動免疫療法における、抗体依存性マクロファージ炎症誘発性サイトカインの放出を治療及び/又は予防するためのその使用のためのブタポリクローナル抗体組成物 図3
  • 特表-抗感染受動免疫療法における、抗体依存性マクロファージ炎症誘発性サイトカインの放出を治療及び/又は予防するためのその使用のためのブタポリクローナル抗体組成物 図4
  • 特表-抗感染受動免疫療法における、抗体依存性マクロファージ炎症誘発性サイトカインの放出を治療及び/又は予防するためのその使用のためのブタポリクローナル抗体組成物 図5
  • 特表-抗感染受動免疫療法における、抗体依存性マクロファージ炎症誘発性サイトカインの放出を治療及び/又は予防するためのその使用のためのブタポリクローナル抗体組成物 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-10
(54)【発明の名称】抗感染受動免疫療法における、抗体依存性マクロファージ炎症誘発性サイトカインの放出を治療及び/又は予防するためのその使用のためのブタポリクローナル抗体組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20231227BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20231227BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20231227BHJP
   C07K 16/08 20060101ALN20231227BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20231227BHJP
【FI】
A61K39/395 D ZNA
A61P31/14
A61P29/00
C07K16/08
C12N15/13
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023538708
(86)(22)【出願日】2021-12-22
(85)【翻訳文提出日】2023-08-17
(86)【国際出願番号】 EP2021087205
(87)【国際公開番号】W WO2022136505
(87)【国際公開日】2022-06-30
(31)【優先権主張番号】20306688.1
(32)【優先日】2020-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】63/129,964
(32)【優先日】2020-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】521475543
【氏名又は名称】ゼノセラ
【氏名又は名称原語表記】XENOTHERA
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】デュヴォー,オディル
(72)【発明者】
【氏名】ヴァノヴ,ベルナール
(72)【発明者】
【氏名】シロン,カリーヌ
【テーマコード(参考)】
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C085AA13
4C085BA51
4C085BA52
4C085BA55
4C085BA61
4C085BA62
4C085BA69
4C085BA71
4C085BA75
4C085BA92
4C085BB36
4C085CC14
4C085CC22
4C085DD22
4C085DD33
4C085EE01
4C085GG02
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA75
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、少なくとも1つのウイルスによって誘発されたマクロファージ依存性炎症疾患の予防又は治療におけるその使用のためのブタポリクローナル抗体組成物に関し、ここでの該炎症は、該疾患に罹った又は罹り易いヒト被検者におけるサイトカインストームによって特徴付けられ、ここでの該組成物のポリクローナル抗体は、前記の少なくとも1つのウイルスに対して、又は該ウイルスに由来する少なくとも1つの分子に対して指向され、該組成物は、薬学的に許容される賦形剤を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのウイルスによって誘発されたマクロファージ依存性炎症疾患の予防又は治療におけるその使用のための、ブタポリクローナル抗体組成物であって、ここでの該炎症は、該疾患に罹った又は罹り易いヒト被験者におけるサイトカインストームによって特徴付けられ、ここでの該組成物のポリクローナル抗体は、前記の少なくとも1つのウイルスに対して、又は該ウイルスに由来する少なくとも1つの分子に対して指向され、該組成物は薬学的に許容される賦形剤を含んでいる、該ブタポリクローナル抗体組成物。
【請求項2】
前記抗体は、2つの抗原決定基、すなわち(i)N-グリコリルノイラミン酸(Neu5Gc)及び(ii)α-1,3-ガラクトースを欠失している、請求項1記載のその使用のための組成物。
【請求項3】
炎症のサイトカインストームが、インターロイキン-8(IL-8)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、インターロイキン6(IL6)、TNFα、インターロイキン1β(IL1β)、MCP-1、CCL-3、CCL-4、CXCL-10、並びにMIPα及びβからなる群より選択されたサイトカインの少なくとも1つの未制御かつ過剰な放出によって特徴付けられる、請求項1又は2記載のその使用のための組成物。
【請求項4】
ヒトに対するウイルスが、コロナウイルス科、特にSARS-CoV-2;デングウイルス、ジカウイルス、エボラウイルス、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、B型インフルエンザウイルス、C型肝炎ウイルス、日本脳炎ウイルス、アリューシャンミンク病パルボウイルス(AMDV)、ヒトエンテロウイルス71(EV71)、ロスリバーウイルス、ハンタウイルス、黄熱病ウイルス、及びその組合せからなる群より選択される、請求項1~3のいずれか一項記載のその使用のための組成物。
【請求項5】
前記組成物のブタポリクローナル抗体が免疫グロブリンGである、請求項1~4のいずれか一項記載のその使用のための組成物。
【請求項6】
少なくとも1つのウイルスによって誘発される疾患が感染であり、特に、
-コロナウイルスに関連した感染、例えばSARS(重症急性呼吸器症候群)、MERS(中東呼吸器症候群)、又はCOVID-19;
-デング熱、特にデング出血熱又はデングショック症候群;
-ジカ熱疾患;
-インフルエンザ、特にB型インフルエンザウイルスによるインフルエンザ;
-エボラウイルス疾患;
-後天性免疫不全症候群(AIDS);
-脳炎、特に日本脳炎;
-アリューシャン病;
-肝炎、特にC型肝炎;
-神経疾患、特にヒトエンテロウイルス71(EV71)によって引き起こされた神経疾患;
-手足口病(HFMD);
-ロスリバー熱;
-ハンタウイルスによって引き起こされる疾患、例えば腎症候群を伴うハンタウイルス出血熱(HFRS)又はハンタウイルス心肺症候群(HCPS);及び
-黄熱病
からなる群より選択された感染である、請求項1~5のいずれか一項記載のその使用のための組成物。
【請求項7】
前記疾患が、RNAウイルスによる感染である、請求項1~6のいずれか一項記載のその使用のための組成物。
【請求項8】
前記疾患が、コロナウイルス科に属しているウイルス、特にSARS-CoV、SARSr-CoV WIV1、SARSr-CoV HKU3、SARSr-CoV RP3、SARS-CoV-2、及びそれらの突然変異体からなる群より選択されたウイルスによる感染である、請求項1~7のいずれか一項記載のその使用のための組成物。
【請求項9】
前記疾患が、血球貪食性リンパ組織球症(HLH)である、請求項1~5のいずれか一項記載のその使用のための組成物。
【請求項10】
前記組成物のポリクローナル抗体が、ELISAによると、0.05μg/mLから6μg/ mLの該ウイルスに対する又は該ウイルスに由来する少なくとも1つの分子に対する、結合活性を有する、請求項1~9のいずれか一項記載のその使用のための組成物。
【請求項11】
前記ウイルスに由来する少なくとも1つの分子が、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質又はその断片であり、特に配列番号1及び配列番号2の配列に示されるようなアミノ酸配列からなる群より選択され、より特定すると配列番号2の配列に示されるようなアミノ酸配列である、請求項10記載のその使用のための組成物。
【請求項12】
前記組成物のポリクローナル抗体が、ELISAによると、0.10μg/mLから11μg/mLの、該ウイルスに対する又は該ウイルスに由来する少なくとも1つの分子に対する、中和活性を有する、請求項1~11のいずれか一項記載のその使用のための組成物。
【請求項13】
前記ウイルスに由来する少なくとも1つの分子が、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質又はその断片であり、特に配列番号1及び配列番号2の配列に示されるようなアミノ酸配列からなる群より選択され、より特定すると配列番号2の配列に示されるようなアミノ酸配列である、請求項12記載のその使用のための組成物。
【請求項14】
前記組成物が、該組成物の投与されていないヒト被検者における少なくとも1つのサイトカインの未制御かつ過剰な放出と比較して、ヒト被検者において、少なくとも1つのサイトカイン、特にインターロイキン8(IL-8)及び顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)からなる群より選択された少なくとも1つのサイトカインの未制御かつ過剰な放出を、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、又は95%低減させる、請求項3記載のその使用のための組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、感染症の治療及び/又は予防の分野に関する。特に、本発明は、抗感染受動免疫療法の分野、より特定すると、このような疾患の最中に観察されたか、又は感染病原体に対する処置後若しくはワクチン接種後に起こった、抗体依存性マクロファージ炎症誘発性サイトカインの放出の予防又は治療における、ポリクローナル抗体の使用に関する。
【0002】
関連技術分野の説明
最初のヒトSars-Cov-2感染及びその後のパンデミックからほぼ1年後、過去数か月間、多くの科学者は、この疾患に対するワクチン又は治療的解決策を発見しようと戦ってきて、依然として戦っている。どのようにしてこのウイルスがとても感染性となり得、なぜ幾人かの患者は、ウイルスに直接起因しない有害な症状を発症するのかを理解するために多くの努力がなされている。
【0003】
実際に、COVID-19患者の20%が、症状の発症から約1~2週間後に悪化する重度な疾患の転帰を示したと判断された。科学者は、それはウイルス感染の直接作用ではなく、特にそれは適応免疫の活性化と同時に起こるので、免疫系の過剰活性化によって引き起こされるようであると認めている。この過剰な免疫応答は、高いレベルの炎症誘発性サイトカインによって特徴付けられる、「サイトカインストーム」と頻繁に記載される。いくつかのサイトカイン及びケモカイン、例えばIL-6、IL-8及びTNF(腫瘍壊死因子)は特に上昇している。Hoepel et al.は最近(2020年7月13日-doi:https://doi.org/10.1101/2020.07.13.190140)、SARS-CoV-2スパイクで被覆されたウェルを、抗SARS-CoV-2IgG抗体陽性の重度な病気のCOVID-19患者に由来する希釈された血清と共にインキュベートすることによってスパイク-IgG免疫複合体が生成されたモデルでは、スパイクタンパク質のみを用いての刺激は、サイトカインの産生を誘発しなかったが、一方、スパイク-IgG免疫複合体は、ヒトマクロファージによる少量のIL-1β、IL-6及びTNF、しかし非常に多量のIL-8の産生を惹起したことを記載した。彼らは、重度な病気のCOVID-19患者の血清に由来する抗スパイクIgG抗体が、ヒトマクロファージによる炎症誘発応答を強力に増幅し、それに続く内皮バリアの崩壊及び血栓症の原因になり得ると結論付けた。
【0004】
サイトカインストームは、ヒトSARS-CoV-2感染に限定されない現象であり、以前にマクロファージ活性化症候群(MAS)において観察され、これは血球貪食症候群としても知られている。この症候群は、骨髄及びリンパ器官におけるマクロファージの不適切な刺激から起こり、血球の貪食及び多量の炎症誘発性サイトカインの産生に至る。この生命を脅かす疾患は、非特異的な臨床兆候(発熱、悪液質、肝腫脹、脾臓及びリンパ節の肥大)並びに典型的な臨床所見(二血球減少症又は汎血球減少症、肝検査数値異常、低フィブリン血症、血清中LDH値、フェリチン値及びトリグリセリド値の上昇)を複合する。マクロファージ活性化症候群又は続発性血球貪食性リンパ組織球症(HLH)は、劇症サイトカインストーム、多臓器機能不全、及び高い死亡率によって特徴付けられる、あまり認識されていない症候群である。マクロファージ活性化症候群は、自己免疫疾患、腫瘍の最中に、及びさらには感染症の最中にさえ起こり得る。ウイルス感染は、成人においてはこの症候群に特に連関されている。不適切な免疫刺激及び自己永続的で過剰な炎症応答は、マクロファージ活性化症候群の発病における重要な事実であり、サイトカインストームの放出のための組織マクロファージの過剰活性化は、マクロファージ活性化症候群患者及び重度なCOVID-19患者の両方において観察される優勢な特色である(https://doi.org/10.1016/j.lfs.2020.117905参照)。
【0005】
一般的には、ウイルス特異的抗体は、前記病原体によって引き起こされる疾患と戦う際に有利であり、そして、多くの方法で、対応する感染の制御に重要な役割を果たすと考えられている。しかしながら、場合によっては、特異的抗体の存在は、病原体に対して有益であり得、特に該病原体がウイルスである場合に有益であり得る。この望ましくない作用は、抗体依存性感染増強(ADE)として知られている。
【0006】
本発明者らは、ブタを、いくつかの理由から選択した。
1)その種の使用に関連した安全性の問題が、ブタを起源とする生体分子及び生体材料(インシュリン、ヘパリンだけでなく、臨床試験がすでに進行中である、心臓弁、皮膚、腱、及び機能的細胞(例えばバイオ人工膵臓を構成する膵島)を含む)の使用に関連した数多くの医療適用のために、徹底的に研究されている。ブタIgG製剤はまた、重度の再生不良性貧血と戦うために、数十年間にわたって診療所で使用されている(Wuhan Biologics、Peking Union Medical College Hospital、北京、中国)。
2)野生型動物と比較してより高い力価を呈する免疫血清を、DKO動物において得ることができ、この現象はおそらく、シアル酸と通常は相互作用している、シグレック免疫チェックポイントのより低い活性に起因している。
3)ブタの使用は、ウサギと比較して体重がより重たいことから、ポリクローナル抗体の産生に必要とされる動物数の低減を可能とするだろう。
4)IgGクラスのブタ免疫グロブリンは天然的には、より良好な補体媒介性細胞障害活性を呈する。
【0007】
いくつかの興味深くかつ意外な方法で、本発明者らは最近、ブタ糖鎖-ヒト化ポリクローナル抗体(GH-pAb)がヒトFcG-R(CD12、CD32、CD64)に結合できないことを発表し、これは抗体依存性感染増強(ADE)から防御し得る興味深い特色であり、これはいくつかのウイルス(その中にはデングウイルス、ジカウイルス、SARS-CoVウイルスがある)が、ヒトFcG受容体に結合することのできる内因性抗体又は外因性抗体の存在下で、FcG受容体を発現している細胞に侵入する能力が増加しているプロセスである。Vanhove et al., July 2020 BioRxiv (doi: https://doi.org/10.1101/2020.07.25.217158)。作用機序は、ウイルス粒子のオプソニン化及びFcG受容体依存性細胞進入である。
【0008】
本発明者らは、ブタ抗体がヒトFc受容体に結合できないことに関連して、同ブタポリクローナル抗体が、抗体依存性細胞障害(ADCC)を誘発できないことを発表し、このことは、ブタポリクローナル抗体が、ウサギ、ウシ、ヤギなどの異なる種に由来する他の免疫グロブリンとは違い、抗体依存性感染増強(ADE)を惹起しないであろうことを示唆している(Vanhove et al., July 2020 BioRxiv (doi: https://doi.org/10.1101/2020.07.25.217158)。
【0009】
つい最近、この現象は、インビトロ及びインビボにおいて、公衆衛生分野及び獣医学分野の両方において、ウイルスによる莫大な数の感染において報告されている。
【0010】
したがって、抗体依存性感染増強(ADE)は、現在のワクチン接種戦略及び受動免疫化戦略の結果として起こる欠点となっている。
【0011】
国際公開公報第2016059161号は、ヒト以外の生物学的病原体に対して指向される抗体を報告し、これは(i)N-グリコリルノイラミン酸(Neu5Gc)及び/又は(ii)α-1,3-ガラクトースを含む群から選択された抗原決定基が欠け、これらは、それらの低減した免疫原性によって特徴付けられる。しかしながら、この文書は、特に抗体依存性感染増強(ADE)に関しては沈黙している。
【0012】
科学者は、組換え抗体又はその抗原結合部分を産生する分子的構築物を使用することによって、新規な処置、特に、抗体依存性感染増強(ADE)のリスクの低減された又はリスクの全くない抗体を開発することを試みている。
【0013】
ブタポリクローナル抗体は天然には、ヒトFc受容体に結合することはできず、そうした抗体は、ヒトモデルにおいて、インビトロ又はインビボで、抗体依存性細胞障害(ADCC)を誘発することはできない。
【0014】
抗体依存性感染増強(ADE)が有害であり得る、新規ウイルスに対して指向される処置が当技術分野において必要とされている。これは、SARS-CoV-2などのコロナウイルス科に属しているウイルスに特に当てはまる。抗体依存性感染増強(ADE)のメカニズムは、ヒト感染の悪化に関与する唯一のメカニズムではないが、サイトカインストームは、制御又は回避されなければならない、重要な事象である。
【0015】
新規な処置、特に感染中、特にウイルス感染中、より特定するとコロナウイルス科に由来するウイルスによる感染中、さらにより特定するとSARS-Cov-2による感染中の、マクロファージ依存性炎症性サイトカインストームを低減又は抑制する抗体も必要とされている。
【0016】
本発明は、上記の必要性を満たすことを目的とする。
【0017】
発明の要約
その第一の態様によると、本発明は、少なくとも1つのウイルスによって誘発されたマクロファージ依存性炎症疾患の予防又は治療におけるその使用のための、ブタポリクローナル抗体組成物に関し、ここでの該炎症は、該疾患に罹った又は罹り易いヒト被験者におけるサイトカインストームによって特徴付けられ、ここでの該組成物のポリクローナル抗体は、前記の少なくとも1つのウイルスに対して、又は該ウイルスに由来する少なくとも1つの分子に対して指向され、該組成物は、薬学的に許容される賦形剤を含んでいる。
【0018】
前記抗体は、2つの抗原決定基、すなわち(i)N-グリコリルノイラミン酸(Neu5Gc)及び(ii)α-1,3-ガラクトースを欠失していてもよい。ヒト被検者に対するウイルスは、コロナウイルス科、例えばSARS-CoV-2;デングウイルス;ジカウイルス;エボラウイルス;ヒト免疫不全ウイルス(HIV);B型インフルエンザウイルス、C型肝炎ウイルス、日本脳炎ウイルス、アリューシャンミンク病パルボウイルス(AMDV)、ヒトエンテロウイルス71(EV71)、ロスリバーウイルス、ハンタウイルス、黄熱病ウイルス、及びその組合せからなる群より選択され得る。
【0019】
本発明に記載の組成物の該ポリクローナル抗体は、免疫グロブリンGであり得る。
【0020】
少なくとも1つのウイルスによって誘発された疾患は、感染であり得る。特に、該感染は、
-コロナウイルス科に関連した感染、例えばSARS(重症急性呼吸器症候群)、MERS(中東呼吸器症候群)、又はCOVID-19;
-デング熱、特にデング出血熱又はデングショック症候群;
-ジカ熱疾患;
-インフルエンザ、特にB型インフルエンザウイルスによるインフルエンザ;
-エボラウイルス疾患;
-後天性免疫不全症候群(AIDS);
-脳炎、特に日本脳炎;
-アリューシャン病;
-肝炎、特にC型肝炎;
-神経疾患、特にヒトエンテロウイルス71(EV71)によって引き起こされた神経疾患;
-手足口病(HFMD);
-ロスリバー熱;
-ハンタウイルスによって引き起こされる疾患、例えば腎症候群を伴うハンタウイルス出血熱(HFRS)又はハンタウイルス心肺症候群(HCPS);及び
-黄熱病
からなる群より選択され得る。
【0021】
特定の実施態様では、少なくとも1つのウイルスによって誘発された疾患は、RNAウイルスによる感染である。
【0022】
前記疾患は、特に、コロナウイルス科に属しているウイルス、特にSARS-CoV、SARSr-CoV WIV1、SARSr-CoV HKU3、SARSr-CoV RP3、SARS-CoV-2、及びそれらの突然変異体からなる群より選択されるウイルスによる感染であり得る。
【0023】
特定の実施態様では、前記疾患は、血球貪食性リンパ組織球症(HLH)であり得る。
【0024】
マクロファージ依存性炎症のサイトカインストームは特に、インターロイキン8(IL-8)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、インターロイキン6(IL6)、TNFα、インターロイキン1β(IL1β)、MCP(単球走化性促進因子)-1、CCL-3、CCL-4、CXCL-10、並びにMIP(マクロファージ炎症タンパク質)α及びβからなる群より選択されたサイトカインの少なくとも1つの未制御かつ過剰な放出によって特徴付けられ得る(https://doi.org/10.1016/j.cytogfr.2020.06.001)。
【0025】
前記組成物のポリクローナル抗体は特に、ELISAによると、0.05μg/mLから6μg/mLの該ウイルスに対する又は該ウイルスに由来する少なくとも1つの分子に対する、結合活性を有し得る。該ウイルスに由来する少なくとも1つの分子は特に、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質又はその断片であり得、特に、配列番号1及び配列番号2の配列に示されるようなアミノ酸配列からなる群より選択され、より特定すると配列番号2の配列に示されるようなアミノ酸配列である。
【0026】
前記組成物のポリクローナル抗体は特に、ELISAによると、0.10μg/mLから11μg/mLの、該ウイルスに対する又は該ウイルスに由来する少なくとも1つの分子に対する、中和活性を有し得る。該ウイルスに由来する少なくとも1つの分子は特に、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質又はその断片であり得、特に、配列番号1及び配列番号2の配列に示されるようなアミノ酸配列からなる群より選択され、より特定すると配列番号2の配列に示されるようなアミノ酸配列である。
【0027】
本発明はまた、ウイルス、特に以前に定義されているようなウイルスによって誘発された疾患に罹った又は罹り易いヒト被験者における、抗体依存性マクロファージの偏りの発生の予防又は治療におけるその使用のためのブタポリクローナル抗体組成物に関し、ここで、該組成物のポリクローナル抗体は、前記の少なくとも1つのウイルスに対して、又は該ウイルスに由来する少なくとも1つの分子に対して指向され、該組成物は、薬学的に許容される賦形剤を含んでいる。
【0028】
本発明はまた、ウイルス、特に以前に定義されているようなウイルスによって誘発された疾患に罹った又は罹り易いヒト被験者における、抗体依存性マクロファージの偏りの発生の予防又は治療におけるその使用のための組成物に関し、ここで、該組成物のポリクローナル抗体は、前記の少なくとも1つのウイルスに対して、又は該ウイルスに由来する少なくとも1つの分子に対して指向される。
【0029】
実際に、本発明に記載の抗体は、コロナウイルス科に属しているウイルスによって引き起こされた感染の治療及び/又は予防に特に簡便である。理論に拘りたくはないが、本発明者らは、以下の特徴が、このようなウイルスの治療及び予防に特に効率的であるという意見である:ブタ免疫グロブリンは、ヒトCD16にもCD32又はCD64にも結合しないことが示されたが、一方、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質に対して指向された抗体は、他の研究において、それらのFc部分を通して、肺内にマクロファージを動員し、MCP-1及びIL-8などのケモカインの産生をもたらすことによって、肺炎を誘発することが示されている。この現象は、他の炎症性細胞の動員をもたらすと提唱され、創傷治癒を邪魔する傾向がある。したがって、本発明のポリクローナル抗体は、ウイルスの中和と、全く又は殆どマクロファージ依存性サイトカインストームを伴わないことを兼ね備えることができる。
【0030】
本発明に記載の組成物は特に、上記のヒト被検者において、少なくとも1つのサイトカイン、特に、インターロイキン8(IL8)及び顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)からなる群より選択される少なくとも1つのサイトカインの未制御かつ過剰な放出を、該組成物を投与されていないヒト被検者における前記の少なくとも1つのサイトカインの前記の未制御かつ過剰な放出と比較して、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%又は95%、より特定すると50%~95%低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1図1は、結合性ELISAによる、無関係なブタDKOポリクローナル抗体すなわちブランク(Blk)と比較した、ブタへのワクチン接種後に生じた、ブタDKO抗RBD(受容体結合ドメイン)ポリクローナル抗体(pAb)の結合活性を示す。
図2図2は、ELISAによるインビトロでのスパイク-ACE(アンジオテンシン変換酵素)の相互作用の阻害/中和を示した。Aは、5匹の異なる免疫化動物に由来する精製IgG(DKO抗RBDポリクローナル抗体)による、スパイク-ACEの相互作用の阻害率を示す。Bは、ELISAにおいてシグナルを生じる、ACE2とSARS-CoV-2スパイクタンパク質の相互作用を示し、これは、この相互作用を中和する抗体によって阻害され得る。100%阻害は、相互作用の完全な消失を示す。プロテインA捕捉クロマトグラフィーによるDKO抗RBDポリクローナル抗体(IgG精製画分)の濃度はx軸(μg/ml)に報告され、一方、阻害%はy軸に報告されている。点及び四角:血清に由来する2つの異なる調製物;三角:免疫化されていないブタに由来するIgG。
図3図3は、5匹の異なる動物に由来するIgGに関する、結合(y軸)と中和(x軸)の間の相関曲線を示す:A/1コースの免疫化;B/2コースの免疫化、及びC/3コースの免疫化後に得られたデータ。
図4図4は、ブタDKOポリクローナル抗体の存在下におけるマクロファージの貪食活性を示す:マクロファージ貪食活性の比率は4℃及び37℃で決定され、DKOポリクローナル抗体をIgG対照と比較した。
図5図5は、ウイルスによるインビトロでのマクロファージ活性化モデルを示す:PMAを用いて、かつスパイクSARS-CoV-2タンパク質のS1ドメイン及びS2ドメインを発現しているレンチウイルスの存在下において、予め活性化された、U937(A)又はTHP1(B)細胞株における、ELISAによる、IL-8及びG-CSFサイトカイン分泌試験。ブタDKO抗RBDポリクローナル抗体をウサギポリクローナル抗体(pAb Rb)と比較した。統計分析:一元分散分析-フィッシャーの事後検定、**p<0.01。
図6図6は、ウイルスによるインビトロでのマクロファージ活性化モデルを示す:PMAを用いて、かつスパイクSARS-CoV-2タンパク質のS1ドメイン及びS2ドメインを発現しているレンチウイルスの存在下において、予め活性化された、U937細胞株における、ELISAによる、IL-8サイトカイン分泌試験。ブタDKO抗RBDポリクローナル抗体を、SARS-CoV-2に感染させたヒトに由来するポリクローナルIgG(ヒトpAb)と比較した。統計分析:一元分散分析-フィッシャーの事後検定、**p<0.01。
【0032】
発明の詳細な説明
1.定義
いくつかの定義が、以下に示されている。このような定義は、文法上の均等物を包含することを意味する。
【0033】
本明細書において使用する「含んでいる」という用語は、「からなる」を包含する。
【0034】
「薬学的に許容される賦形剤」によって、ヒト又は動物において副反応、例えばアレルギー反応を生じない、任意の溶媒、分散媒体、充填物などを意味する。賦形剤は、選択された剤形、投与法及び投与経路に応じて選択される。適切な賦形剤並びに医薬製剤の必用条件は、「Remington: The Science & Practice of Pharmacy」に記載され、これは該分野における参考図書である。
【0035】
「抗体」という用語は本明細書において、最も広い意味で使用される。「抗体」は、少なくとも(i)Fc領域及び(ii)免疫グロブリンの可変領域に由来する結合性ポリペプチドドメインを含む、任意のポリペプチドを指す。したがって、抗体は、完全長免疫グロブリン、抗体、抗体コンジュゲート、及びそれぞれの各々の断片を含むがこれらに限定されない。「抗体」及び「免疫グロブリン」という用語は、本明細書において同義語として使用され得る。
【0036】
「抗体」という用語は、上記のようなポリペプチドを包含し、特に、(i)N-グリコリルノイラミン酸(Neu5Gc)及び/又は(ii)α-1,3-ガラクトースを含んでいる群から選択された抗原決定基に由来する少なくとも1つの糖部分をさらに含む、ブタに由来する抗体を包含する。
【0037】
本明細書において使用する「ポリクローナル抗体群又はポリクローナル抗体」によって、所与の抗原の異なるエピトープを認識する抗体の混合物を意味する。ポリクローナル抗体は、体液、特に非ヒト哺乳動物、特にブタに由来する血清又は血漿に含まれるか又は代替的には由来するものを包含する。
【0038】
選択される抗体治療薬について、モノクローナル抗体よりもポリクローナル抗体が選択されることは今日、道理にかなう。なぜなら、ポリクローナル抗体(pAb)は、体内で高度に多様なB細胞及び形質細胞系統によって分泌される抗体であるからである(一方、モノクローナル抗体は、単一の細胞系統に由来する)。したがって、ポリクローナル高度免疫抗体は、特定の抗原に対して反応するが、各々が異なるエピトープを認識する、様々なクラス及びアイソタイプの、非常に多様な免疫グロブリン分子の集合体である。一例として、ヒトT細胞に対して生じたウサギポリクローナルIgGは、少なくとも50の分化抗原群(CD)に対して相互作用する(Popov et al., Transplantation, 2012)。逆に、モノクローナル抗体の結合は、いくつかの分子に限られ、ポリクローナル抗体のポリクローナル多様性を模倣することはできない。
【0039】
さらに、ポリクローナル抗体は、多種多様な機序(特に補体依存性及び細胞依存性の細胞障害(それぞれCDC及びADCC)、中和、オプソニン化など)を通して作用し、これは多種多様な分子標的並びに免疫グロブリンのクラス及びアイソタイプのみが提供でき、これはモノクローナル抗体によっては再現されることができず、又はさらにはモノクローナル抗体の会合によっても再現されることはできない。
【0040】
したがって、動物(ウサギ、ウマ、ヤギ)に由来する血清又は精製ポリクローナル免疫グロブリンを使用した、受動血清療法の使用は、ペスト又はジフテリアなどの、重度の感染症の伝播の治療又は予防における最初の大きな進展である。
【0041】
本発明の一般的な意味では、ヒト生物のための、本発明に記載の組成物中のポリクローナル抗体は、少なくとも1つのウイルスに対して、又は該ウイルスに由来する少なくとも1つの分子に対して指向される。
【0042】
ヒト免疫グロブリンの場合、軽鎖は、カッパ及びラムダの軽鎖として分類される。重鎖は、ミュー、デルタ、ガンマ、アルファ、又はイプシロンとして分類され、それぞれIgM、IgD、IgG、IgA、及びIgEとして抗体のアイソタイプを定義する。
【0043】
本明細書において使用する「IgG」によって、認識された免疫グロブリンガンマ遺伝子によって実質的にコードされる抗体のクラスに属している、ポリペプチドを意味する。ヒトでは、IgGは、IgG1、IgG2、IgG3及びIgG4のサブクラス又はアイソタイプを含む。マウスでは、IgGは、IgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3を含む。ブタでは、免疫グロブリンは、IgM、IgD、IgG、IgE、及びIgAクラス又はサブタイプの抗体を含み、IgGアイソタイプは、11個のサブクラスを含む(Butler et al., Developmental and Comparative Immunology 30 (2006) 199-221; Butler et al., Developmental and Comparative Immunology 33 (2009) 321-333)。完全長IgGは、2つの同一の2本の免疫グロブリン鎖の対からなり、各対は、1本の軽鎖と1本の重鎖を含み、各軽鎖は、免疫グロブリンドメインVL及びCLを含み、各重鎖は、免疫グロブリンドメインVH、Cγ1(CH1とも呼ばれる)、Cγ2(CH2とも呼ばれる)、及びCγ3(CH3とも呼ばれる)を含んでいる。
【0044】
本明細書において使用する、ブタ抗体に本明細書において適用されているような「抗原決定基」(すなわちエピトープ)によって、同じ抗原又は関連抗原によって惹起された抗体分子とのその特異的な相互作用に関与する、抗原性タンパク質及び抗原性糖鎖を含む、抗原性分子の構造成分を意味する。拡大解釈すると、本明細書においてブタ抗体に適用されているような「抗原決定基」という用語はまた本明細書においてまとめて、同じ抗原又は関連抗原によって惹起される抗体分子によって認識され易い、コンフォメーションモチーフ(糖部分が必要とされるが該エピトープの単に一部分を示すに過ぎない)を含む、複数のエピトープを含んでいる、抗原分子のために使用される。例示的には、抗原性分子N-グリコリルノイラミン酸(Neu5Gc)は本明細書において、「抗原性決定基」と呼ばれ得るが、該抗原性分子は、Neu5Gc又はNeu5Gc含有分子を用いて惹起された抗体によって認識される、1つを超えるエピトープを示し得る。
【0045】
「T細胞」又は「Tリンパ球」は、リンパ球として知られる白血球の一群に属し、細胞性免疫において中心的な役割を果たす。それらは、B細胞及びナチュラルキラー細胞(NK細胞)などの他のリンパ球とは、細胞表面上のT細胞受容体(TCR)の存在によって区別され得る。それらは、胸腺(thymus)で成熟するのでT細胞と呼ばれる。
【0046】
本明細書において使用する「従来のポリクローナル抗体」は、抗原決定基のN-グリコリルノイラミン酸(Neu5Gc)及びα-1,3-ガラクトースを欠いていない、ポリクローナル抗体、特にブタポリクローナル抗体を意味する。これに関して、サイモグロブリン、グラファロン、アトガム、又はp-ALG(登録商標)の名称で市販されている製品が特に取り上げられ得る。
【0047】
「病原体」という用語は本明細書において、そのヒト宿主において疾患又は感染を引き起こすウイルスを意味するために使用される。
【0048】
本明細書において使用する「ウイルス」という用語は、ボルチモア分類に属している全てのウイルスを包含し得る。
【0049】
参考のために、本明細書において報告されている「ボルチモア分類」の内容はさらに、https://talk.ictvonline.org/taxonomy/で2020年3月20日にオンラインで入手可能な(Emailでの確認は2019年2月及び種の一覧表34番)、国際ウイルス分類委員会(ICTV)のデータベースに示されるようなウイルス分類に言及する。この分類は、その全体が本明細書に組み入れられる。
【0050】
したがって、この分類はウイルスを、ゲノムのその種類に応じて、科(又は「群」)へとクラスター分類する。2018年のような本発明のウイルス分類は、7つの異なる群を含む:
-I群:二本鎖DNAウイルス(dsDNA);
-II群:一本鎖DNAウイルス(ssDNA);
-III群:二本鎖RNAウイルス(dsRNA);
-IV群:(+)鎖すなわちセンス鎖RNAウイルス((+)ssRNA);
-V群:(-)鎖すなわちアンチセンス鎖RNAウイルス((-)ssRNA);
-VI群:DNA中間体を有する一本鎖RNAウイルス(ssRNA-RT);
-VII群:RNA中間体を有する二本鎖DNAウイルス(dsDNA-RT)。
【0051】
本明細書において使用する「RNAウイルス」という用語は、ボルチモア分類のIV群及びV群に属している、全てのウイルスを包含し得る。
【0052】
本明細書において使用する「レトロウイルス」という用語は、ボルチモア分類のVI群に属している、全てのウイルスを包含し得る。
【0053】
本明細書において使用する「コロナウイルス科」という用語は、ボルチモア分類のIV群に属している、対応するRNAウイルス科を指し、これ自体は、コロニドビリネアエ(Coronidovirineae)亜目及びニドウイルス目の一部である。コロナウイルス科は、レトウイルス亜科及びオルトコロナウイルス亜科の両方を含む。
【0054】
本明細書において使用する「レトウイルス科」という用語は、ボルチモア分類の対応する科を指し、これはアルファレトウイルス属、マイルコウイルス亜属を含み、これは(完全に網羅されていない様式で)マイクロハイラレトウイルス1の種を含む。
【0055】
本明細書において使用する「オルトコロナウイルス科」という用語は、ボルチモア分類の対応する科を指し、これはアルファコロナウイルス属、ベータコロナウイルス属、デルタコロナウイルス属、及びガンマコロナウイルス属を含む。
【0056】
本明細書において使用する「アルファコロナウイルス」という用語は、ボルチモア分類の対応する科を指し、これはコラコウイルス、デカコウイルス、ドゥヴィナコウイルス、ルチャコウイルス、ミナコウイルス、ミヌナウイルス、マイオタコウイルス、ニクタコウイルス、ペダコウイルス、ライナコウイルス、セトラコウイルス、及びデガコウイルスの亜属を含む。限定しないが、これは、以下の種を含む:コウモリコロナウイルスCDPHE15、コウモリコロナウイルスHKU10、キクガシラコウモリ(Rhinolophus ferrumequinum)アルファコロナウイルスHuB-2013、ヒトコロナウイルス229E、ルチェングRn(Lucheng Rn)ラットコロナウイルス、フェレットコロナウイルス、ミンクコロナウイルス1、ユビナガコウモリコロナウイルス1、ユビナガコウモリコロナウイルスHKU8、ビッグフットコウモリアルファコロナウイルスSax-2011、ニクタルス・ベルティナス(Nyctalus velutinus)アルファコロナウイルスSC-2013。ブタ流行性下痢ウイルス、スコトフィルスコウモリコロナウイルス512、キクガシラコウモリコロナウイルスHKU2、ヒトコロナウイルスNL63、NL63関連コウモリコロナウイルス株BtKYNL63-9b、アルファコロナウイルス1。
【0057】
本明細書において使用する「ベータコロナウイルス」という用語は、ボルチモア分類の対応する科を指し、これはエンベコウイルス亜属、ヒベコウイルス亜属、メルベコウイルス亜属、ノベコウイルス亜属、及びサルベコウイルス亜属を含む。限定しないが、これは、以下の種を含む:ベータコロナウイルス1、チャイナ・ラタス(China Rattus)コロナウイルスHKU24、ヒトコロナウイルスHKU1、マウスコロナウイルス、コウモリHp-ベータコロナウイルス北京2013、ハリネズミコロナウイルス1、中東呼吸器症候群に関連したコロナウイルス、アブラコウモリコロナウイルスHKU5、タイロニクテリスコウモリコロナウイルスHKU4、ハリネズミコロナウイルス1、中東呼吸器症候群に関連したコロナウイルス、アブラコウモリコロナウイルスHKU5、タイロニクテリスコウモリコロナウイルスHKU4、ルーセットコウモリコロナウイルスGCCDC1、ルーセットコウモリコロナウイルスHKU9、重症急性呼吸器症候群に関連したコロナウイルス。
【0058】
本明細書において使用する「重症急性呼吸器症候群に関連したコロナウイルス」すなわちSARSウイルスという用語は、限定しないが、COVID-19及びそれらの突然変異体に関与する株を含む、SARS-CoV、SARSr-CoV W1V1、SARSr-CoV HKU3、SARSr-CoV RP3及びSARS-CoV-2を含む。
【0059】
本明細書において使用する「デルタコロナウイルス」という用語は、ボルチモア分類の対応する科を指し、これはアンデコウイルス亜属、ブルデコウイルス亜属、ヘルデコウイルス亜属、及びムールデコウイルス亜属を含む。限定しないが、これは、以下の種を含む:ウィジョンコロナウイルスHKU20、ヒヨドリコロナウイルスHKU11、コロナウイルスHKU15、ムニアコロナウイルスHKU13、メジロコロナウイルスHKU16、ゴイサギコロナウイルスHKU19、バンコロナウイルスHKU21。
【0060】
本明細書において使用する「ガンマコロナウイルス」という用語は、ボルチモア分類の対応する科を指し、これはセガコウイルス亜属及びイガコウイルス亜属を含む。限定しないが、これは、以下の種を含む:シロイルカコロナウイルスSW1及びニワトリコロナウイルス。
【0061】
本発明は、ヒト生物に対するウイルスに関する。
【0062】
本明細書において使用する「前記ウイルスに由来する少なくとも1つの分子」という用語は、ウイルスに由来する抗原性画分(すなわち、該ウイルスに由来する任意の分子)を包含し、これは特に抗原性タンパク質又はその抗原性多糖を含む。
【0063】
本明細書において使用する「ヒト生物に対するウイルスに由来する抗原性画分」という用語は、ヒト生物が免疫応答を生じることのできる、ウイルスに由来する任意の抗原を広指す。本明細書において使用するこの「分子」又は「抗原」は、免疫応答が指向され得る、少なくとも1つの抗原決定基を含有する分子を指す。免疫応答は、細胞性又は体液性又はその両方であり得る。ウイルスに由来する分子は、タンパク質の性質、糖質の性質、脂質の性質、又は核酸の性質、又はこれらの生体分子の組合せであり得る。ウイルスに由来する分子は、ポリマーなどの分子なども含み得る。
【0064】
本明細書において使用する「核酸」という用語は、リボ核酸(RNA)及びデオキシリボ核酸(DNA)を包含し、これは、一本鎖デオキシリボヌクレオチド(群)(ssDNA);二本鎖デオキシリボヌクレオチド(群)(dsDNA);一本鎖リボヌクレオチド(群)(ssRNA);二本鎖リボヌクレオチド(群)(dsRNA);一本鎖オリゴデオキシリボヌクレオチド(群)(ssODNA);二本鎖オリゴ-デオキシリボヌクレオチド(群)(dsODNA);一本鎖オリゴ-リボヌクレオチド(群)(ssORNA);二本鎖オリゴ-リボヌクレオチド(群)(dsORNA);RNA-DNA二本鎖を含んでいるか又はからなる群から選択された核酸を含む。
【0065】
限定しないが、前記核酸は、メッセンジャーRNA(mRNA)、トランスファーRNA、リボソームRNA、短鎖干渉RNA(siRNA)、短鎖ヘアピンRNA(shRNA)、マイクロ-RNA(miRNA)、リボザイム、cDNA、組換えポリヌクレオチド、分岐ポリヌクレオチド、プラスミド、ベクター、任意の配列の単離されたDNA、任意の配列の単離されたRNA、核酸プローブ、及びプライマーの形態であり得る。
【0066】
本発明に従って使用されるポリクローナル抗体の「治療有効量」によって、任意の医学的処置に適用可能な妥当なベネフィット/リスク比で、考慮される疾患又は障害を予防又は治療するのに十分な抗体の量を意味する。しかしながら、本発明の組成物に存在する抗体の1日総使用量は、妥当な医学的判断の範囲内で担当の医師によって決定されるだろうことが理解されるだろう。任意の特定の患者に対する具体的な治療有効用量レベルは、予防される障害;使用される具体的な抗体の活性;使用される具体的な組成物、患者の年齢、体重、全般的な健康状態、性別及び食事;投与時刻、投与経路、及び使用される具体的な抗体の排泄速度;処置期間;使用される具体的な抗体と組み合わせて又は同時に使用される薬物;並びに、医学分野において周知である同様な要因を含む、様々な要因に依存するだろう。例えば、所望の治療効果を達成するのに必要とされるよりも低いレベルで化合物の用量を開始し、所望の効果が達成されるまで用量を徐々に増加させることは当技術分野の技能内において周知である。
【0067】
「処置」、「処置している」又は「療法」という用語は、容態(例えば疾患)、容態の症状を治すか、治癒するか、軽減するか、緩和するか、変化させるか、治療するか、寛解するか、改善するか、又は影響を及ぼす目的で、あるいは、症状の発症、合併症、疾患の生化学的兆候を予防又は遅延するか、あるいはさもなくば統計的に有意な方法で疾患、容態又は障害のさらなる発生を停止又は阻害する目的で、活性物質、本発明の場合、炎症マクロファージ依存性CXCL10並びにM1P1アルファ及びベータを投与する工程を指す。
【0068】
「予防する」、「予防している」及び「予防」という用語は、疾患及び/又はその症状の1つ若しくは全てに罹る確率を低減することを指す。特に、マクロファージ活性化症候群の発生の予防に関して、それは、マクロファージ活性化症候群がヒトにおいて出現する確率の低減を意味する。
【0069】
「野生型のブタ」という用語は本明細書において、遺伝子的に改変されたブタとは逆の意味である。例えば、「野生型のブタ」によって、(i)機能的なシチジン-5’-一リン酸N-アセチルノイラミン酸ヒドロラーゼ(CMAH)をコードしている遺伝子及び(ii)機能的なα-(1,3)-ガラクトシルトランスフェラーゼをコードしている遺伝子を含む群から選択された少なくとも1つの遺伝子を欠失していないブタを意味する。
【0070】
本明細書において使用する「生物学的試料」という用語は、生物学的液体、例えば血液、血漿、血清、唾液、細胞間質液、精液、又は乳汁;細胞試料、例えば細胞培養液、細胞株、又は末梢血単核細胞;組織生検材料、例えば口腔内組織;消化管組織;皮膚;口腔粘膜試料;又は咽頭、気管、気管支肺胞の試料を包含し得る。
【0071】
2.本発明に記載の抗体組成物
上記のように、本発明は、少なくとも1つのウイルスによって誘発されるマクロファージ依存性炎症疾患の予防又は治療におけるその使用のためのブタポリクローナル抗体組成物に関し、ここでの該炎症は、疾患に罹った又は罹り易いヒト被験者における、サイトカインストームによって特徴付けられる。
【0072】
本発明の組成物のポリクローナル抗体は、それらが少なくとも1つのウイルスに対して、又は該ウイルスに由来する少なくとも1つの分子に対して指向されることを特徴とする。
【0073】
さらに、本発明に記載の組成物は、薬学的に許容される賦形剤を含む。
【0074】
本発明者らは実際に、ブタに由来するポリクローナル抗体が、ヒトFcγ受容体に結合することができず、それ故、抗体依存性感染増強(ADE)を誘発しないか、又は自己IgG抗体によって誘発される抗体依存性感染増強(ADE)を阻害すると予想されると発表した。該組成物の抗体は、感染中の、特にウイルス感染中の、マクロファージ依存性炎症性サイトカインストームを低減するか又はさらには意外にも阻害さえする一方、それらはマクロファージによる貪食を誘発できない。
【0075】
実際に例えば、重症型のデング疾患患者は、FcγRIIIaに対してより高い親和性を有する抗体を産生し(Wang et al., Science 355, 395-398, 2017)、FcγRIIIとの結合を通した出血、凝固障害、及び炎症が、デング感染中に観察され(Lien et al. Thrombosis and Haemostasis 113, 2015)、FcγRIIIとの結合後の肥満細胞の脱顆粒が、デング感染中の血管漏出を促進し(Syenina et al., eLife 2015;4:e05291)、FcγRIIbとの結合を通した貪食阻害が、デング感染患者における抗体依存性感染増強(ADE)及び感染を低減する(Chan et al., PNAS 108, 12479-12484, 2011)と記載されている。
【0076】
したがって、本発明の組成物のこれらのポリクローナル抗体は有利には、ヒト受動免疫療法に使用され得る。
【0077】
本発明の組成物を使用してまた有利には、ウイルス感染中のマクロファージ依存性炎症性サイトカインストームを低減又はさらには阻害さえすることができる。
【0078】
特に、炎症のサイトカインストームは、インターロイキン8(IL-8)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、インターロイキン6(IL6)、腫瘍壊死因子α、インターロイキン1β(IL1β)、MCP-1、CCL-3、CCL-4、CXCL-10、並びにM1P1α及びβからなる群より選択された少なくとも1つのサイトカインの未制御かつ過剰な放出によって特徴付けられる。
【0079】
特に、本発明に記載の組成物のポリクローナル抗体は有利には、ELISAにより、0.05~6μg/mLの該ウイルスに対する、又は該ウイルスに由来する少なくとも1つの分子に対する結合活性(EC50)を有する。該ウイルスに由来する少なくとも1つの分子は特に、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質又はその断片であり得、特に、配列番号1及び配列番号2の配列に示されるようなアミノ酸配列からなる群より選択され、より特定すると配列番号2の配列に示されるようなアミノ酸配列である。
【0080】
特に、本発明に記載の組成物のポリクローナル抗体は有利には、ELISAにより、0.10μg/mLから11μg/mLの該ウイルスに対する、又は該ウイルスのスパイク抗原に由来する少なくとも1つの分子に対する、中和活性(IC50)を有する。該ウイルスに由来する少なくとも1つの分子は特に、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質又はその断片であり得、特に、配列番号1及び配列番号2の配列に示されるようなアミノ酸配列からなる群より選択され、より特定すると配列番号2の配列に示されるようなアミノ酸配列である。
【0081】
本発明に記載のその使用のための組成物の抗体は、2つの抗原決定基、すなわちN-グリコリルノイラミン酸(Neu5Gc)及びα-1,3-ガラクトースを欠失していてもよい。
【0082】
実際に、実証された有効性にも関わらず、動物に由来する免疫グロブリン(例えばIgG又はIgM)のヒトへの注入は依然として免疫原性であり得、免疫複合体関連疾患(ICD)及び重度の望ましくない副作用、例えば血清病(SSD)(重症型(例えば心筋炎、腎症を伴う)を含む)又は他の免疫複合体の徴候、例えば皮疹、発熱、頭痛、関節炎、若しくは偽性髄膜炎症候群などの発生に関与している。
【0083】
ヒト免疫複合体関連疾患が動物においてモデル化されている(F Dixon J Exp Med 1956)。動物IgGの注入後にヒトにおける最も一般的でありかつよく同定されている合併症は、血清病(SSD)であり、これは1型糖尿病を呈し、かつ他の免疫抑制剤の非存在下において精製ウサギIgG抗Tリンパ球製剤であるサイモグロブリンの投与を受けている若年個体のほぼ100%に観察される(SE Gitelman et al., The Lancet Diabetes & Endocrinology, 1:306, 2003)。
【0084】
安全性の懸念の他に、大半のヒトにおける受動免疫療法は、注入された物質のバイオアベイラビリティー及びおそらくその初期の有効性を改変させる、既存の抗非ヒト動物免疫グロブリンの存在に直面する。実際に、大半のヒトはすでに、その食事及びその腸内バイオトープの存在に因り、前記の抗非ヒト動物免疫グロブリンを有している。したがって、治療用の非ヒト動物の免疫グロブリンであり、ヒトに投与される予定である有効な製剤の場合でさえ、重度かつ高度に頻繁な血清病が、重度の感染症を有する免疫抑制されていないレシピエントにおける受動免疫療法における、大きな安全性及びおそらく有効性の障害である。さらに、安全性の懸念はまた、患者の近くにいたおそらく汚染されたヒトへの予防キャンペーンの幅広い利用を制限する可能性もある。
【0085】
その上、血清病の臨床徴候の存在は、精製ポリクローナル抗体を使用した治療手順又は予防手順の結果を正しく評価する際の臨床上の欠点である。実際に、血清病の臨床症状は、特に頭痛、発熱、関節炎、又は偽性髄膜炎症候群を含み、これらは全て、疾患の進行の正しい鑑定の判断を誤らせる。
【0086】
したがって、本発明者らは、ヒトのためにウイルスに対して、又は該ウイルスに由来する少なくとも1つの分子に対して指向される抗体(特にポリクローナル抗体)を産生するための、機能的なシチジン-5’-一リン酸N-アセチルノイラミン酸ヒドロラーゼ(CMAH)をコードしている遺伝子と機能的なα-(1,3)-ガラクトシルトランスフェラーゼをコードしている遺伝子とを欠失している、遺伝子改変されたブタに由来する抗体が有利には、この欠点の克服を可能とすることを以前に実証した。
【0087】
本発明に記載の抗体を同定又は特徴付けることを可能とする方法は、当業者の一般的な知識の範囲内に該当する。
【0088】
本発明に記載の抗体を同定又は特徴付けるために当業者によって使用され得る方法としては、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)が挙げられ、ここでは、例えば、抗Neu5Gc抗体及び抗Gal抗体が検出用分子として使用される。
【0089】
特定の実施態様では、本発明のポリクローナル抗体は、免疫グロブリンG抗体である。
【0090】
本発明に記載の抗体は、治療有効量で使用される。
【0091】
ブタIgG構造及び遺伝学が文献に記載されている(Butler et al. 2009 - DOI: 10.1007/s00251-009-0356-0)。IgG1a、IgG1b、IgG2a、IgG2b、IgG3、IgG4a、IgG4b、IgG5a、IgG5b、IgG6a、IgG6bと呼ばれる11個のアイソタイプが、ゲノムIgH遺伝子座の配列の分析に基づいて提唱されている。ブタIgGサブクラスの相対量及びプロテインAに対するFcドメインの親和性に関する入手可能な知識によると(Butler et al. 2009 - DOI: 10.1007/s00251-009-0356-0)、精製中のブタDKO抗RBDポリクローナル抗体におけるIgGアイソタイプの相対組成は、80%超のブタIgG1a/b、11%のIgG2a/b、5.5%のIgG3、3%のIgG4a/bであると推定され、残りの画分は、他のアイソタイプ(IgG5~6)である。検出可能なIgG又はIgAのアイソタイプは、ブタDKO抗RBDポリクローナル抗体中には全く存在しない。
【0092】
本発明に記載の組成物のポリクローナル抗体は、当技術分野において公知である任意の技術、たとえば、特に限定しないが、任意の化学的、生物学的、遺伝子的、又は酵素的技術などを単独で又は組み合わせて用いて、産生され得る。
【0093】
当技術分野において公知であるように、少なくとも1つのウイルス、又は該ウイルスに由来する少なくとも1つの分子に対して指向されるポリクローナル抗体は、アジュバントを伴う又は伴わない、標的ウイルス又はそれに由来する抗原(すなわち、該ウイルスに由来する分子)を含んでいる、免疫原性組成物の投与によって、ブタを免疫化することによって容易に得ることができる。
【0094】
単に説明するためだけのために、本発明に従って使用されるポリクローナル抗体は、例えば、国際公開公報第2016059161号に記載のように得ることができる。
【0095】
したがって、本発明に記載の組成物のポリクローナル抗体を産生するための方法の一例は、以下の工程を含み得る:
a)(i)機能的なシチジン-5’-一リン酸N-アセチルノイラミン酸ヒドロラーゼ(CMAH)をコードしている遺伝子及び(ii)機能的なα-(1,3)-ガラクトシルトランスフェラーゼ(α1,3GT、GGTA1又はGT1)をコードしている遺伝子を含む群から選択された第一の遺伝子を欠失している、非遺伝子的に改変された又は遺伝子的に改変されたブタを準備する工程;
b)少なくとも1つのウイルスに対して、又は該ウイルスに由来する少なくとも1つの分子、特にSARS-CoV-2のスパイクタンパク質又はその断片、より特定すると配列番号1及び配列番号2の配列に示されるようなアミノ酸配列からなる群より選択された少なくとも1つの分子、より特定すると配列番号2の配列に示されるようなアミノ酸配列に対して該ブタを免疫化する工程;及び
c)工程b)の該ブタの体液中に含有される抗体を回収する工程。
【0096】
これらの工程の後に得られたポリクローナル抗体は、本発明に記載の組成物に使用される前に精製される。
【0097】
この精製は、それが特に、免疫化されたブタによる、対応する混入している抗体の形成を含み得る、様々な細胞性の混入物質の、体液中の存在に伴って起こり得る望ましくない副作用の克服を可能とする点で有利である。
【0098】
前記の精製はまた、それが所望の純度を有する組成物を得ることを可能とする上で有利である。
【0099】
前記の精製工程は、当業者の一般的な知識内に該当する。任意の慣用的な精製プロトコールの全ての可能な適応も、当業者の一般的な知識内に該当する。
【0100】
本発明に記載の組成物のポリクローナル抗体を得るための適切な方法として、特にエタノールを用いた、硫酸アンモニウムを用いた、リバノールを用いた、ポリエチレングリコールを用いた、又はカプリン酸を用いた分画沈降法、イオン交換カラムを通過させることによる方法が挙げられ得;他の方法は、プロテインA又はGでの親和性カラムを含み得る。その後、得られた抗体は、例えばプラスミン、パパイン又はペプシンの酵素的な切断処理による、それらの静脈内投与のための慣用的な処理にかけられ得る。
【0101】
これに関して、より特定すると、欧州特許第0335804号の実施例3で実行されたプロトコールが挙げられ得、これは、DEAEセルロース上でイオン交換クロマトグラフィーを実施する。
【0102】
本発明に記載の組成物のポリクローナル抗体は特に、ヒト被検者への該組成物の投与から数週間後に該組成物が投与されたヒト被検者の体内に存在し得る。
【0103】
本発明に従って使用される組成物のブタポリクローナル抗体は特に、SARS-CoV-2に対して、又は該ウイルスに由来する少なくとも1つの分子に対して指向され得、ここでの該ポリクローナル抗体は、(i)N-グリコリルノイラミン酸(Neu5Gc)及び(ii)α-1,3-ガラクトースである第一及び第二の抗原決定基が欠けている。
【0104】
いくつかの実施態様では、本発明によるその使用のための組成物は液体剤形である。
【0105】
実施態様のいくつかにおいて、本発明によるその使用のための組成物は、固体剤形であり、これは凍結乾燥剤形を含む。
【0106】
本発明の組成物は、Remington: The Science and Practice of Pharmacy (Lippincott Williams & Wilkins;第21版、2005)に記載などの、標準的な方法に従って製剤化され得る。
【0107】
本発明に記載の組成物の特定の実施態様では、該組成物はさらに、薬学的賦形剤、例えば1つ以上の荷電した無機担体を含み得る。適切な荷電有機担体の例としては、サポニン、サポニン複合体、サポニンの免疫刺激性複合体の任意の1つ以上の成分、コレステロール、及びイスコマトリックス(商標)として知られる脂質(例えば、サポニン成分及び/又はリン脂質成分)、リポソーム又は水中油滴型エマルションが挙げられるがこれらに限定されない。(イスコマトリックス(商標)の組成物及び製剤は、PCT/SE86/00480号、豪州特許第558258号及び第63067号、並びに欧州特許第0180564号に詳述され、その開示は参照により本明細書に組み入れられる)。
【0108】
使用され得る薬学的に許容される賦形剤は例えば、Handbook of Pharmaceuticals Excipients、アメリカ薬剤師会(Pharmaceutical Press;6回目の改訂版、2009)に記載されている。
【0109】
用量は、体重1kg又はそれ以上あたり0.001~100mg又はそれ以上の本明細書に定義されているようなポリクローナル抗体(mg/kg)、例えば0.1、1.0、10又は50mg/kg(体重)の範囲であり得、1~10mg/kgが好ましい。投与用量及び投与頻度は、以下に詳述されているように適応させ得る。用量及び計画は、処置及び予防の用途において異なり得る。
【0110】
また、任意の注入に続いて、アナフィラキシー反応を予防及び/又は回避するための任意の通常の手順が行なわれ得る。
【0111】
その他に、本発明の組成物の注入は、大量の末梢投与を通して、又は可能であれば中心カテーテルを通して実施され得る。
【0112】
当技術分野において公知のように、タンパク質の分解、全身vs局所の送達、並びに、年齢、体重、全般的な健康状態、性別、食事、投与時刻、起こり得るアレルギー、薬物相互作用、及び容態の重症度についての調整が必要である場合があり、これは当業者によって通常の実験を用いて容易に決定される。
【0113】
本発明の組成物の投与は、経口、皮下、静脈内、非経口、鼻腔内、呼吸器内(例えば噴霧化又は気管内スプレー)、大動脈内、眼内、直腸内、膣内、経皮、局所的(例えばゲル)、腹腔内、筋肉内、肺内、又はくも膜下腔内を含むがこれらに限定されない、多種多様な方法で実施され得る。
【0114】
本発明の組成物の投与は、以下のベスレドカの方法によって実施され得る。
【0115】
最も特定の実施態様では、本発明に記載の組成物は、静脈内経路による投与に適した剤形である。
【0116】
3.ウイルス及び関連した疾患
本発明において考えられる生物学的な病原体は、疾患をトリガーすることで知られる任意のウイルス、特に抗体依存性感染増強現象が、天然に又はワクチン投与後のいずれかにおいて観察されたウイルスであり得る。
【0117】
特定の実施態様では、ヒト生物に対する該ウイルスは、コロナウイルス科、特にSARS-CoV-2;デングウイルス、ジカウイルス、エボラウイルス、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、B型インフルエンザウイルス、C型肝炎ウイルス、日本脳炎ウイルス、アリューシャンミンク病パルボウイルス(AMDV)、ヒトエンテロウイルス71(EV71)、ロスリバーウイルス、ハンタウイルス、黄熱病ウイルス、及びその組合せからなる群より選択される。
【0118】
抗体依存性感染増強は、複数のウイルス、例えばRNAウイルス及びレトロウイルスによる感染又はそれに対するワクチン接種後に起こると実証又は示唆されている。
【0119】
限定しないが、抗体依存性感染増強は実際にまた、ジカウイルス(Camargos et al., EBioMedicine. 2019 May 23. pii: S2352-3964(19)30315-9);B型インフルエンザウイルス(Rao et al., Toxicol Sci. 2019 Jun 1;169(2):409-421);エボラウイルス(Furuyama et al., PLoS Pathog. 2016 Dec 30;12(12):e1006139);HIV(Willey ey al, Retrovirology. 2011 Mar 14;8:16);コクサッキーウイルス(Aswathyraj et al., Microb Pathog. 2018 Dec;125:7-11):日本脳炎ウイルス(Garcia-Nicolas et al., Viruses. 2017 May 22;9(5));アリューシャンミンク病パルボウイルス(Kanno et al., J Virol. 1993 Dec;67(12):7017-24);C型肝炎ウイルス(Meyer et al., PLoS One. 2011;6(8):e23699);ヒトエンテロウイルス71(Han et al., Virol J. 2011 Mar 8;8:106);ロスリバーウイルス(Lidbury and Mahalingam, J Virol. 2000 Sep;74(18):8376-81);ハンタウイルス(Yao et al., Arch Virol. 1992;122(1-2):107-18);及び/又は黄熱病ウイルス(Gould and Buckley. J Gen Virol. 1989 Jun;70 ( Pt 6):1605-8)による感染又はそれに対するワクチン接種後に起こると実証されている。
【0120】
マクロファージ依存性炎症はさらに、コロナウイルス科に属する複数のウイルスによる感染又はそれに対するワクチン接種後に起こると実証又は示唆されている。
【0121】
したがって、本発明はまた、少なくとも1つのウイルスによって誘発された疾患に罹った又は罹り易いヒト被検者における、マクロファージ依存性炎症性サイトカインストームによって引き起こされた、疾患の予防又は治療におけるその使用のための、上記に定義されているような組成物にも関し、該疾患は
-コロナウイルス科に関連した感染、例えばSARS(重症急性呼吸器症候群)、MERS(中東呼吸器症候群)、又はCOVID-19;
-デング熱、特にデング出血熱又はデングショック症候群;
-ジカ熱疾患;
-インフルエンザ、特にB型インフルエンザウイルスによるインフルエンザ;
-エボラウイルス疾患;
-後天性免疫不全症候群(AIDS);
-脳炎、特に日本脳炎;
-アリューシャン病;
-麻疹;
-肝炎、特にC型肝炎;
-神経疾患、特にヒトエンテロウイルス71(EV71)によって引き起こされた神経疾患;
-手足口病(HFMD);
-ロスリバー熱;
-ハンタウイルスによって引き起こされる疾患、例えば腎症候群を伴うハンタウイルス出血熱(HFRS)又はハンタウイルス心肺症候群(HCPS);及び
-黄熱病
からなる群より選択される。
【0122】
したがって、本発明はまた、少なくとも1つのウイルスによって誘発された疾患に罹った又は罹り易いヒト被検者における、抗体依存性マクロファージの偏りの予防又は治療におけるその使用のための、上記に定義されているような組成物に関し、該疾患は、コロナウイルス科関連感染、例えばSARS、MERS、又はCOVID-19からなる群より選択される。
【0123】
さらに、本発明はまた、上記に定義されているような組成物をそれを必要とするヒトに投与する工程を含む、
-コロナウイルス科に関連した感染、例えばSARS、MERS、又はCOVID-19;
-デング熱、特にデング出血熱又はデングショック症候群;
-ジカ熱疾患;
-インフルエンザ、特にB型インフルエンザウイルスによるインフルエンザ;
-エボラウイルス疾患;
-後天性免疫不全症候群(AIDS);
-脳炎、特に日本脳炎;
-アリューシャン病;
-肝炎、特にC型肝炎;
-神経疾患、特にヒトエンテロウイルス71(EV71)によって引き起こされた神経疾患;
-手足口病(HFMD);
-ロスリバー熱;
-ハンタウイルスによって引き起こされる疾患、例えば腎症候群を伴うハンタウイルス出血熱(HFRS)又はハンタウイルス心肺症候群(HCPS);及び
-黄熱病
からなる群より選択された疾患を予防及び/又は治療するための方法に関する。
【0124】
いくつかの特定の実施態様によると、本発明はまた、RNAウイルスによる感染である、疾患の予防及び/又は治療におけるその使用のための上記に定義されているような組成物にも関する。
【0125】
前記疾患は特に、コロナウイルス科に属するウイルス;特に、SARS-CoV、SARSr-CoV WIV1、SARSr-CoV HKU3、SARSr-Cov RP3、SARS-CoV-2;及びそれらの突然変異体からなる群より選択された、ウイルスによる感染であり得る。
【0126】
実施例
ブタ免疫化戦略
ブタDKO抗RBDポリクローナル抗体は、組換えSARS-CoV-2スパイクRBDタンパク質を用いて遺伝子的に改変されたブタの免疫化によって得られた、ポリクローナルブタ抗SARS-CoV-2スパイクRBDドメイングリコ-ヒト化免疫グロブリン製剤である。
【0127】
効力のある血清から精製されたIgG免疫グロブリンは、以下の実験における結合アッセイ及び中和アッセイのために使用される。
【0128】
CMAH/GGTA1 KO(DKO)ブタは、SARS-CoV-2RBDスパイク抗原(配列番号1及び2)の筋肉内(IM)投与によって免疫化された。RBD配列(配列番号2)は、それがACE-2へのスパイクタンパク質の結合に役立つということ、及びRBDに対する抗体が結果的に、ACE-2陽性細胞へのSARS-CoV-2の進入を阻害するという近年の実証に基づいて選択された。RBD抗原は、HEK293細胞において、従来の方法(Sino Biological社、カタログ番号:40592-V08H)によって産生された。この抗原を得るために、SARS-CoV-2(2019―nCoV)スパイクタンパク質(RBD)をコードしているDNA配列(YP_009724390.1)(Arg319-Phe541)を、C末端におけるポリ-ヒスチジンタグと共に発現させた。
【0129】
このRBD抗原は、精製後に、SDS-PAGEによって決定したところ、95%を超える、及びSEC-HPLCによって決定したところ95%を超える純度を呈する。エンドトキシン含量は、LAL法によって決定したところ、タンパク質1μgあたり、1.0EU未満である。抗原は、機能的ELISAにおけるその結合能によって測定したところ、生物学的に活性である。固定されたヒトACE-2タンパク質は、SARS-CoV-2/2019-nCoVスパイクタンパク質(RBD、Hisタグ)に40~80ng/mLのEC50で結合することができる。
【0130】
実施例1:無関係なDKOポリクローナル抗体及び異なる種に由来するポリクローナル抗体と比較した、ブタDKO抗RBDポリクローナル抗体の特異性:ELISAによる結合活性
標的抗原(SARS-CoV-2(2019-nCoV))のスパイクS1-mFcタンパク質を、炭酸/重炭酸緩衝液中1μg/mLでマキシソーププレート上に固定し、4℃で一晩インキュベートする。プレートは、PBS-Tween-0.05%で3回洗浄する。
【0131】
プレートを、PBS-Tween-0.05%-2%スキムミルク粉末を用いて飽和させ、被覆し、そして室温(RT)で2時間インキュベートし、3回洗浄する。
【0132】
ブタDKO抗RBDポリクローナル抗体又は無関係のDKOポリクローナル抗体(ブタIgG)を、PBS-Tween-0.05%-1%スキムミルク粉末(5μg/mlから5ng/mL)で希釈し、デュプリケートでプレートに加え、室温で1時間インキュベートし、3回洗浄した。
【0133】
ブタDKO抗RBDポリクローナル抗体又は無関係のDKOポリクローナル抗体は、標的SARS-CoV-2のスパイクS1-mFcに結合し、これを洗浄緩衝液中で1:1000に希釈された、二次セイヨウワサビペルオキシダーゼにコンジュゲートさせたヤギ抗ブタIgG Fc抗体を用いて顕現させ、室温で1時間インキュベートし、3回洗浄した。TMB試薬をプレートに加え、暗闇で最大15分間インキュベートし、そして硫酸を用いて止めた。プレートを、TECAN SPARK 10M ELISA解読器又は等価な解読器を用いて450nm及び630nmで解読する。
【0134】
各免疫化後及び7日後、血液試料を分析して、同じプロトコールを使用して、スパイク標的に対するポリクローナル抗体(pAb)の結合活性を測定した。
【0135】
様々な免疫化コース後、個々の動物における最終力価は、1:100,000から1:10超の範囲であった。プロテインAクロマトグラフィーによって血清から抽出されたIgGは、2回の免疫化後にELISAで2.5μg/mLの、3回以上の免疫化後に1μg/mL未満の初期EC50を呈した。
【0136】
免疫化キャンペーン中に少なくとも5匹の動物を免疫化した後に得られた、様々なDKO抗RBDポリクローナル抗体の結合性ELISAの結果は、ポリクローナル抗体が、ブタ及び免疫化段階に応じて、0.05~6μg/mlのEC50を呈することを示した。
【0137】
図1に示された結果は、SarsCov2ウイルスのスパイクタンパク質に結合することができない、無関係の抗体と比較された、抗RBDポリクローナル抗体の結合特異性を比較する。
【0138】
IgG組成物の特徴付け
文献データ(Butler et al, 2012 http://dx.doi.org/10.1016/j.molimm.2012.07.008)から、ブタDKO抗RBDポリクローナル抗体は、80%超のブタIgG1a/b、11%のIgG2a/b、5.5%のIgG3、3%のIgG4a/bから構成され、残りの画分は他のアイソタイプ(IgG5~6)であると推定され得る。ヒトIgAは、プロテインAに対して最小の親和性を有するので、ブタIgAも、最小限にプロテインAに結合すると予想され得る。他のDKOポリクローナル抗体の血清から精製された薬物に関する以前の結果は、有意ではないIgAの含量(0.006%)を明らかとした。また、本発明の医薬組成物にはIgMの存在と適合性のサイズを有するタンパク質は全く存在しない。
【0139】
実施例2:ブタDKOポリクローナル抗体によるSARS-CoV-2の中和
中和効力を分析するために、及び別の独立したウイルス株を用いてデータを確認するために、細胞変性作用(CPE)アッセイが、VibioSphen社、トゥールーズ、フランスにおいて実行された。この試験の目的は、ブタDKO抗RBDポリクローナル抗体から構成される血清プールが、感受性細胞(VeroE6細胞)に対するSARS-CoV-2の進入及び細胞変性の影響を抑制する能力を評価することであった。生SARS-CoV-2を含む全ての実験プロトコールは、バイオセーフティレベル3の施設の認可された標準的な操作手順に従った。SARS-CoV-2は、トゥールーズで実験室で確認されたCOVID-19を有する患者から単離された。ウイルス単離株を、VeroE6細胞においてさらに1回継代することにより増幅させて、ウイルスの作業用ストックを作成した。コロナウイルスCovid-19、VeroE6細胞(ATCC)は、10%v/vのウシ胎仔血清(ATCC)、1%v/vのピルビン酸ナトリウムの補充された1%v/vのペニシリン-ストレプトマイシンの補充されたダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)中で培養した。Vero細胞を1ウェルあたり1×10個の細胞で、12ウェル組織培養プレートに播種した。100%の集密度で(播種から2日後)、細胞をPBSで2回洗浄し、6つのウイルス連続希釈液(各回10分の1)を細胞に添加するだろう。1ウェルあたり0.3mlの各希釈液を用いて感染後、プレートを37℃で1時間インキュベートし、細胞をPBSで洗浄し、その後、1μg/mlの5-トシルフェニルアラニルクロロメチルケトン-トリプシン(シグマアルドリッチ社)を含有している2%w/v寒天を細胞表面に加えた。プレートを室温で20~30分間放置して、重層を沈殿させ、その後、37℃で72時間インキュベートした。細胞を、4%v/vパラホルムアルデヒドを用いて固定し、その後、固定液及び寒天の両方を除去し、細胞を、20%v/vエタノール中0.1%w/vのクリスタルバイオレット(フィッシャー社)を用いて染色した。プラークの力価を、1mlあたりのプラーク形成単位(p.f.u)として決定した。
【0140】
細胞変性作用の低減アッセイを、以下のように実施した:VeroE6細胞を、96ウェルクラスターに、5000個の細胞/ウェルの密度で感染の2日前に播種した。200若しくは250μg/mL又は血清の1/25の希釈度から開始して、2倍の連続希釈液を、その後、100のTCID50値のSARS-CoV-2を含有している等容量のウイルス溶液と混合した。血清-ウイルス混合物を、5%COを含む加湿雰囲気中、37℃で1時間インキュベートした。インキュベーション後、各希釈度の100μLの混合物をトリプリケートで、半集密なVEROE6単層を含有している細胞プレートに加えた。その後、プレートを、5%COを含む加湿雰囲気中、37℃で3日間インキュベートした。
【0141】
細胞対照を、感染効率0.01でCovid-19に感染させた。インキュベーション時間は72時間であった。化合物による処理の潜在的な細胞毒性/静細胞作用を除外するために、非感染細胞を対照として含めた。全ての試料をデュプリケートで試験した。
【0142】
3日間インキュベーションした後、プレートを、倒立光学顕微鏡によって検査した。プラークの形成を妨げた(10%の有効性)最も高い血清希釈度が、中和力価と捉えられた(表1)。
【0143】
治療用IgGの調製のために使用された、プールされた高度免疫血清を用いたCPE100(100%の中和に到達するための最大希釈度)は、1:1600に達し、CPE100に到達するのに必要とされるIgG製剤(DKO抗RBDポリクローナル抗体)の濃度は、10~3.125μg/mLの範囲であった(表1)。
【0144】
【表1】
【0145】
結論:ブタ高度免疫グリコ-ヒト化血清及び抽出されたIgGは、インビトロでのSARS-CoV-2に対する中和効力、及びSARS-CoVに対する交差中和のいくらかの広がりを示した。
【0146】
実施例3:ELISAによるSARS-CoV-2に対するブタDKO抗RBDポリクローナル抗体の中和特性の分析
抗SARS-CoV-2中和抗体は、Rojas et al. (“Convalescent plasma in Covid-19: Possible mechanisms of action”; Autoimmunity Reviews; 2020)によると、SARS-CoV-2スパイクタンパク質とSARS-CoV-2受容体ACE-2の間の相互作用を阻害することができる抗体として記載されている。本発明の抗体は、それに応じて評価された。
【0147】
ELISAでは、組換え型のSARS-CoV-2ヒト受容体ACE2がプラスチック上に固定された。その後、プレートを、PBS/5%スキムミルクで飽和させた。ヒトFcタグ(200ng/ml)と融合させたリガンドスパイクS1を、緩衝液、又はブタ血清希釈液、又はブタ血清に由来するIgG画分の希釈液の存在下において加えた。この構造では、抗体は、ACE2との結合において、リガンドS1と競合し得る。その後、ヒトFcタグは、特異的なセイヨウワサビペルオキシダーゼにコンジュゲートさせた抗ヒトIgG二次抗体によって顕現される。
【0148】
結果
SARS-CoV-2スパイクタンパク質(配列番号1に対応する、YP_009724390.1のアミノ酸319~541)のRBDドメイン(配列番号2)を用いて免疫化されたブタは、約1:4000の特異的な中和最終力価を呈する血清を発生させた。最終力価の希釈度がここで使用される。なぜなら、それは、文献でヒト回復期血漿が評価された方法であるからであり、これにより、1:40の最終力価中和力価が、血漿導入後に防御を付与するのに十分であったと結論付けられた(例えばShen et al.にあるように)。プロテインAクロマトグラフィーによって血清から抽出されたIgGは、0.05μg/mlから6μg/mlのIC50を呈した。追加の免疫化後、血清は、はるかにより高い希釈度で阻害能を呈し、これらの血清に由来するIgGは、0.1μg/mL未満まで希釈することができた(図2A)。
【0149】
示されたデータは、免疫化されたブタに由来する血清が、約1:4000まで中和最終力価を呈することを明らかとした。プロテインAクロマトグラフィーによってIgG画分が精製された場合、製剤の阻害は、10~20μg/mLの間で最大となることが判明し、IC50は約2.5μg/mLであった(図2B)。
【0150】
結果は、CMAH/GGTA1 KOブタについて得られた血清が、有意な中和効果を示し、これは回復期のCoVID-19患者で観察された中和活性よりも優れ、40~100倍と測定された。
【0151】
中和のデータと結合性ELISAのデータとの間の相関
結合性ELISAのデータと中和活性の間の関係を特徴付けるために、異なる中和活性を有する、一連のブタDKO抗RBDポリクローナル抗体製剤が、結合性ELISAによって平行して評価された。図3に示されるデータは、結合が、相関係数0.97の中和活性を予測することを実証する。
【0152】
実施例4:マクロファージの貪食活性
ヒト単球由来マクロファージの調製。末梢血単核細胞を、フィコール-パック密度勾配遠心分離によって単離した。単球は、磁気細胞分離システム(ミルテニーバイオテック社)を使用した正の選択によって精製され、その後、100U/mlのペニシリン、100μg/mlのストレプトマイシン、2mMの1-グルタミン、及び10%ウシ胎仔血清(FCS)の補充されたRPMI1640培地中に2×10個の細胞/mlで蒔いた。単球からヒトマクロファージへの分化は、ヒトM-CSF(100ng/ml)の存在下において5~7日間実施された。
【0153】
ヒトリンパ球を、1μMのCFSEを用いて標識した。その後、CFSEで標識されたリンパ球を、10μg/mlのIgG(DKOポリクローナル抗体又は対照としてのIgGモノクローナル抗体)と共に、RPMI10%FCS培地中で4℃で30分間インキュベートした。リンパ球を2回洗浄し、RPMI10%FCS中でヒトマクロファージと共に(1:1の比)培養した。2~4時間培養した後、細胞を2回洗浄し、マクロファージを、CD14-BV421を用いて4℃で30分間かけて標識した。細胞を、2回洗浄し、その後、フローサイトメトリーによって分析した。貪食は、二重陽性(CFSE陽性/CD14陽性)細胞の比率として評価された。数値は、分散分析法によって、続いてチューキーの事後検定によって比較された(***p<0.001)。
【0154】
図4は、貪食率の結果を提示し、貪食は対照IgGと比較して4℃で不活性であり、予め活性化されたマクロファージがDKOポリクローナル抗体の存在下にある場合には、37℃で活発であることを示す。ブタDKOポリクローナル抗体は、貪食を誘発することができるが、マクロファージによる抗体依存性細胞障害(ADCC)を誘発できない。これらのデータは、ブタ抗体が、ADCCに関与するものとは異なるヒトFc受容体に結合することができたことを示唆する。
【0155】
実施例5:インビトロでのSars Cov2依存性マクロファージ活性化モデルにおけるブタポリクローナル抗体による処置後の、活性化マクロファージによって放出された炎症性サイトカインのELISAによる分析
ヒト骨髄単球性細胞株U937(ATCC CRL-1593.2)又はTHP1(ATCC TIB-202)を、2mMのL-グルタミン、10%ウシ胎仔血清(FBS)、5U/mlのペニシリン、及び5mg/mlのストレプトマイシンの補充されたRPMI1640の低減された血清量の培地中で、37℃で5%CO中で増殖させた。全ての実験について、U937又はTHP1細胞を、20ng/mLの最終濃度のホルボール12-ミリステート13-アセテート(PMA)(シグマアルドリッチ社)の添加によって、37℃で40時間の間に、マクロファージへと分化させた。その後、細胞をRPMI-FBSで2回洗浄し、6ウェルプレート(500000個の細胞/ウェル)に播種した。24時間後、細胞を、単独での、又は1mMのRPMI培地中で様々な種(ウサギ、ブタ、及びヒト)に由来するSARS-CoV2に対するポリクローナル抗体と混合したレンチウイルス偽型S1+S2(p24力価:最終4ng/mL)を用いて感染させた。全ての抗体は、RBDタンパク質に対する等価な結合活性で添加された。細胞を、5%CO中37℃で2時間インキュベートし、その後、新鮮な培地1mlを加えた。上清を、感染から1日後及び4日後に回収した。
【0156】
IL-8及びG-CSFサイトカインを、Elisaキット(IL-8ELISAキットII-BD OptEIA(商標)-BDバイオサイエンシーズ社、G-CSF DuoSet ELISA DY214-05:R&DシステムズBDバイオサイエンシーズ社)を用いて製造業者の説明書に従って測定した。
【0157】
図5に提示された結果は、4日目に、スパイク偽型レンチウイルスの存在下において予め活性化されたマクロファージが、マクロファージ活性化に特徴的である、培地中のIL8及びG-CSFの放出を誘発することを示す。培養培地中のDKO抗RBDポリクローナル抗体の存在は、ウサギに由来するポリクローナル抗体と比較して、IL8とG-CSFの両方のサイトカインの放出を阻害又は減少させる。IL8の分泌さえ、U937細胞によって完全に阻害される。
【0158】
図6に提示される結果は、1日目に、スパイク偽型レンチウイルスの存在下において予め活性化されたマクロファージが、IL8の放出を誘発し、これは、細胞を、Sars Cov2患者に由来するヒトポリクローナル抗体と比較して、DKO抗RBDポリクローナル抗体と共に培養した場合に部分的に阻害される。
【0159】
そうした結果は、ブタDKO抗RBDポリクローナル抗体が、マクロファージによって誘発されるサイトカインストームを、より特定するとマクロファージサイトカインとして知られているIL8の分泌をダウンレギュレートすることができることを示唆する。このモデルでは、ブタDKOポリクローナル抗体は、レンチウイルス表面のスパイクタンパク質を認識するが、その後、ウサギ又はヒトのポリクローナル抗体とは対照的に、マクロファージを活性化することはできず、このことはブタDKOポリクローナル抗体が、いくつかの疾患におけるマクロファージ依存性サイトカインストームをダウンレギュレートする強力な抗体であることを示す。
【0160】
配列表
配列番号1
【化1】

配列番号2
【化2】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
2024500935000001.app
【国際調査報告】