(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-10
(54)【発明の名称】FcガンマRIIbに対する親和性を有する修飾免疫グロブリン及びその使用方法
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20231227BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20231227BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20231227BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20231227BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20231227BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20231227BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20231227BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20231227BHJP
C07K 16/00 20060101ALN20231227BHJP
C07K 16/46 20060101ALN20231227BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20231227BHJP
【FI】
A61K39/395 N
A61P35/00
A61P37/08
A61P37/02
A61P29/00
A61P31/04
A61P31/12
A61K39/395 V
A61P25/00
C07K16/00 ZNA
C07K16/46
C12N15/13
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023538766
(86)(22)【出願日】2021-12-22
(85)【翻訳文提出日】2023-08-01
(86)【国際出願番号】 AU2021051548
(87)【国際公開番号】W WO2022133543
(87)【国際公開日】2022-06-30
(32)【優先日】2020-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510332958
【氏名又は名称】マクファーレン バーネット インスティテュート フォー メディカル リサーチ アンド パブリック ヘルス リミテッド
【氏名又は名称原語表記】MACFARLANE BURNET INSTITUTE FOR MEDICAL RESEARCH AND PUBLIC HEALTH LTD
(71)【出願人】
【識別番号】517240322
【氏名又は名称】ジェンマブ エー/エス
【氏名又は名称原語表記】GENMAB A/S
【住所又は居所原語表記】Kalvebod Brygge 43 1560 Copenhagen V Denmark
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】ホガース,フィリップ マーク
(72)【発明者】
【氏名】ウィネス,ブルース デイビッド
(72)【発明者】
【氏名】トリスト,ハリナ マリー
(72)【発明者】
【氏名】エスパロン,サンドラ エリザベス
(72)【発明者】
【氏名】チェノウェス,アリシア ミシェル
【テーマコード(参考)】
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C085AA14
4C085BB11
4C085CC23
4C085EE01
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
4H045GA21
(57)【要約】
IgG2抗体に由来する少なくとも1つの重鎖ポリペプチドを含む免疫療法用タンパク質が開示されており、重鎖ポリペプチドは、少なくとも定常重ドメイン2及び3(CH2及びCH3)と、下部ヒンジと、を含み、下部ヒンジの配列は、免疫療法用タンパク質がFcγRIIbに結合するかつ/又はFcγRIIbを活性化させることを可能にする変異を含む。免疫療法用タンパク質は、例えば、FcγRIIbの活性化(すなわち、FcγRIIbの阻害機能の動員のため)が有益である疾患又は状態、例えばアレルギー性疾患の治療方法における使用に好適である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における疾患又は状態を治療する方法であって、FcγRIIbへの結合及び/又はFcγRIIbの活性化が、前記疾患又は状態の前記治療又は予防に有益であり、前記方法が、IgG2抗体に由来する少なくとも1つの重鎖ポリペプチドを含む有効量の免疫療法用タンパク質を前記対象に投与することを含み、前記重鎖ポリペプチドが、少なくとも定常重ドメイン2及び3(CH2及びCH3)と、下部ヒンジと、を含み、前記下部ヒンジの配列が、前記免疫療法用タンパク質がFcγRIIbに結合するかつ/又はFcγRIIbを活性化させることを可能にする変異を含む、方法。
【請求項2】
前記重鎖ポリペプチドが、Fc断片の重鎖成分である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記免疫療法用タンパク質が、変異型IgG2抗体である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記変異が、233~236位(EU番号付け)での、前記下部ヒンジ配列の置換、又は前記下部ヒンジ配列内の1つ以上のアミノ酸の置換を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記下部ヒンジ配列が、以下のアミノ酸配列を含み、
X
1X
2X
3-G-X
5又は
式中、
X
1が、プロリン(P)及びグルタミン酸(E)から選択され、
X
2が、バリン(V)、ロイシン(L)、及びフェニルアラニン(F)から選択され、
X
3が、ロイシン(L)、アラニン(A)、及びグルタミン酸(E)から選択され、X
5が、グリシン(G)及びプロリン(P)から選択されるか、又は存在せず、
ただし、前記下部ヒンジが野生型IgG2下部ヒンジ配列からなるものではない、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
前記下部ヒンジ配列が、ELLGG、EFLGG、EFLGP、及びEFEGGからなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記免疫療法用タンパク質が、FcγRIIbに結合し、かつFcγRIIbを活性化させて、FcγRIIb阻害機能を動員する、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記免疫療法用タンパク質が、FcγRIIbに結合して、FcγRIIb媒介性エンドサイトーシス/内在化(「スイーピング」)を誘導する、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記免疫療法用タンパク質が、FcγRIIbに結合して、FcγRIIb媒介性足場形成を誘導する、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記免疫療法用タンパク質が、前記重鎖ポリペプチドのうちの前記少なくとも1つのCH2領域内のS267E及び/又はL328Fアミノ酸置換(EU番号付け)を更に含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記下部ヒンジ配列が、前記アミノ酸配列EFLGGを含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記下部ヒンジ配列が、前記アミノ酸配列EFEGGを含み、前記免疫療法用タンパク質が、前記少なくとも1つの重鎖ポリペプチドの前記CH2領域内のS267E及び/又はL328Fアミノ酸置換(EU番号付け)を更に含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記免疫療法用タンパク質が、前記重鎖ポリペプチドの定常重領域内に更なる変異を含まない、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記対象が、FcγRIIa-H
131に対してホモ接合性である、請求項10又は12に記載の方法。
【請求項15】
前記免疫療法用タンパク質が、ヒト又はヒト化モノクローナル抗体(mAb)である、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
治療される前記疾患又は状態が、アレルギー性疾患、自己免疫疾患及び状態、他の炎症性疾患、感染性疾患、並びに増殖性疾患から選択される、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記治療される疾患又は状態が、アレルギー性疾患であり、前記免疫療法用タンパク質が、アレルゲンに特異的に結合する抗原結合領域を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記免疫療法用タンパク質が、IgEによるアレルギー性好塩基球活性化のFcγRIIb依存性阻害を媒介する、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記治療される疾患又は状態が、自己免疫疾患であり、前記免疫療法用タンパク質が、自己抗原に特異的に結合する抗原結合領域を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記自己免疫疾患が、全身性エリテマトーデス(SLE)又は多発性硬化症(MS)である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記治療される疾患又は状態が、がんであり、前記免疫療法用タンパク質が、がん抗原に特異的に結合する抗原結合領域を含む、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記免疫療法用タンパク質が、
(a)抗原、
(b)活性化受容体に結合した抗体、
(c)活性化受容体の抗体(リガンド)結合ドメイン、
(d)活性化受容体のサブユニット、
(e)BCR複合体の免疫グロブリン成分に結合した抗原、又は
(f)BCR複合体のサブユニット若しくは関連するIg-α若しくはβ鎖、に特異的に結合する抗原結合領域を含む、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
FcγRIIbへの結合及び/又はFcγRIIbの活性化が有益である疾患又は状態を治療するための、請求項1~22のいずれか一項に記載の免疫療法用タンパク質の使用。
【請求項24】
FcγRIIbへの結合及び/又はFcγRIIbの活性化が有益である疾患又は状態を治療するための医薬品の製造における、請求項1~22のいずれか一項に記載の免疫療法用タンパク質の使用。
【請求項25】
請求項1~22のいずれか一項に記載の免疫療法用タンパク質と、薬学的に許容される担体、希釈剤、及び/又は賦形剤と、を含む、薬学的組成物又は医薬品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、疾患又は状態を治療する方法において使用するための修飾免疫グロブリン分子(すなわち、抗体)を含む免疫療法用タンパク質に関する。より具体的には、本開示は、ヒト阻害性受容体FcγRIIbに対して改善された結合特異性及び親和性を示す変異型IgG2抗体を記載する。これらの抗体は、例えば、FcγRIIbの活性化が有益である疾患、例えばアレルギー性疾患を治療するために使用され得る。
【0002】
優先権書類
本出願は、「修飾免疫グロブリン及びその使用方法(1)」と題され、2020年12月23日に出願されたオーストラリア特許出願第2020/904823号からの優先権を主張し、その内容全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
モノクローナル抗体(mAb)は、がん及び自己免疫疾患などの炎症性疾患の治療に革命をもたらす、最も重要かつ成功したタイプの療法のうちの1つになっている。IgG抗体クラスの骨格上で操作された多くのmAbは、それらの可変Fabドメインを介して標的抗原と、定常Fc断片を含むそれらの重鎖を介してFcγ受容体(FcγR)の両方に係合することによって、免疫系の強力なエフェクター機能を特異的に利用する。炎症性疾患において、操作されたmAbは、炎症性メディエーターを中和することによって、それらの受容体を中和することによって、又は免疫調節受容体に係合することによって、潜在的に作用し得る。本発明との関連で特に関心のある1つの事項は、アレルギー反応における炎症誘発性応答を中和する可能性であり、その主要なメディエーターは、その高い親和性受容体であるFcεRIのアレルゲン特異的IgE活性化である。
【0004】
アレルギー性疾患の治療における使用について承認された、操作されたmAbの例は、IgG1ベースのmAbであるオマリズマブである。このmAbは、IgEとFcεRIとの相互作用を中和することによって、IgE/FcεRI経路を標的とし、それによって、IgE依存性アレルギー反応における重要な炎症細胞である好塩基球の活性化を防止する(Gericke J et al.,JEADV 29(9):1832-1836,2014)。ヒト好塩基球は、FcεRI並びにその調節因子である阻害性受容体FcγRIIbの両方を発現する(Kepley CL et al,J Allergy Clin Immunol 106(2):337-348,2000)。FcγRIIbは、抗体依存性炎症細胞活性化を調節する強力なチェックポイントである。FcγRIIbは、FcεRIの免疫受容体チロシン活性化モチーフ(ITAM)依存性シグナル伝達経路、並びに活性化型IgG及びIgA Fc受容体、すなわち、FcγRI、FcγRIIa、FcγRIIIa及びFcαRIを調節する免疫受容体チロシン阻害モチーフ(ITIM)を介して作用する。FcγRIIbはまた、B細胞抗原受容体(BCR)によるB細胞活性化を調節する。FcγRIIbなどの免疫チェックポイントの標的化は、疾患における白血球応答を調節するための戦略として浮上している(Kaplon H and JM Reichert,Mabs 11(2):219-238,2019、Chenoweth AM et al.,Immunol Cell Biol 98(4):287-304,2020)。しかしながら、T細胞機能のチェックポイント(例えば、PD-1、PD-L1)のmAb標的化とは異なり、FcγRIIbは、mAb治療薬のFc断片に対するその特異性のために、mAb治療薬との関連で特異的であり、その阻害作用を発揮するために、FcγRIIbは、ITAM含有活性化受容体、例えば、活性化型FcR複合体、又はB細胞抗原受容体若しくはBCRとしても知られるB細胞の抗原受容体複合体との共架橋を必要とするので(Getahun A and JC Cambier,Immunol Reviews 268(1):66-73,2015、Chenoweth AM et al.,2020(前掲))、アレルギー反応において(FcεRIと共凝集するか、又はB細胞抗原受容体BCRと共凝集しつつ)FcγRIIbの正常な生理学的阻害の役割を利用できる特定の免疫抑制抗体を使用する戦略は、高親和性IgE受容体、FcεRI、若しくはBCRなどの活性化受容体を標的とする潜在的に有用な方法を提供する。
【0005】
本開示に至る研究において、本発明者らは、IgG2抗体が低親和性活性化型FcγRIIaの1つの対立遺伝子形態(すなわち、「His131形態」、FcγRIIa-His
131;Bredius RGM et al.,J Immunol 151:1463-1472,1993)にのみ結合する非常に制限されたFcγR特異性を有し、エフェクター機能を制限し、かつ補体を固定できないことを鑑みて、「IgG2骨格」は「機能的に不活性」であると考えられており、これは、操作されたIgG2抗体(すなわち、変異型IgG2抗体)が、炎症細胞からのFcγR依存性サイトカイン放出、キラー細胞からの細胞毒性、又は潜在的に「サイトカインストーム」として知られている生命を脅かす炎症応答(例えば、IgG4ベースの抗CD28モノクローナル抗体であるTGN1412で観察されているように;Suntharalingam G et al.,N Engl J Med 355(10):1018-1028,2006)などの望ましくない炎症誘発性エフェクター応答を含む望ましくない活動(すなわち「副作用」)を引き起こす傾向が低い可能性があることを意味することから、アレルギー反応の治療又は予防のためのIgG2ベースの免疫グロブリン分子の使用を調査することを選択した。しかしながら、IgG2抗体は、上記のFcγRIIaの1つの対立遺伝子形態を除いて、FcγRIIb又は他のFcγRに結合しないことが知られているが(Bruhns P et al,Blood 113(16):3716-3725,2009、及び以下の
図1A)、それにもかかわらず、本発明者らは、驚くべきことに、FcγRIIb特異性、親和性、及び阻害効力を向上させるようにIgG2骨格を操作することができた。採用されたアプローチは、新規の強力な抗炎症療法用mAb及び分子を含む免疫療法用タンパク質の生成に対してより広い意味を有すると考えられる。
【発明の概要】
【0006】
したがって、第1の態様では、本開示は、対象における疾患又は状態を治療する方法であって、FcγRIIbへの結合及び/又はFcγRIIbの活性化が、当該疾患又は状態の治療又は予防に有益であり、当該方法が、IgG2抗体に由来する少なくとも1つの重鎖ポリペプチドを含む有効量の免疫療法用タンパク質を当該対象に投与することを含み、当該重鎖ポリペプチドが、少なくとも定常重ドメイン2及び3(すなわち、CH2及びCH3)と、下部ヒンジと、を含み、下部ヒンジの配列が、免疫療法用タンパク質がFcγRIIbに結合するかつ/又はFcγRIIbを活性化させることを可能にする変異を含む、方法を提供する。
【0007】
いくつかの特定の好ましい実施形態では、免疫療法用タンパク質の下部ヒンジ配列は、ELLGG(配列番号1)、EFLGG(配列番号2)及びEFEGG(配列番号3)から選択されるアミノ酸配列を含む。
【0008】
第2の態様では、本開示は、例えば、アレルギー性疾患、自己免疫疾患及び状態、感染性疾患、並びに増殖性疾患を含む、FcγRIIbへの結合及び/又はFcγRIIbの活性化が有益である疾患又は状態を治療するための、第1の態様で定義される免疫療法用タンパク質の使用を提供する。
【0009】
第3の態様では、本開示は、例えば、アレルギー性疾患、自己免疫疾患及び状態、他の炎症性疾患、感染性疾患、並びに増殖性疾患を含む、FcγRIIbへの結合及び/又はFcγRIIbの活性化が有益である疾患又は状態を治療するための医薬品の製造における、第1の態様で定義される免疫療法用タンパク質の使用を提供する。
【0010】
第4の態様では、本開示は、第1の態様で定義される免疫療法用タンパク質と、薬学的に許容される担体、希釈剤、及び/又は賦形剤と、を含む、薬学的組成物又は医薬品を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】IgG1、IgG2、IgG4、及び変異型IgG4抗体と比較した、本開示による変異型IgG2抗体のヒトFcγRとの結合プロファイルを示す。
【
図2】本開示による変異型IgG2抗体を使用するアレルギー患者からの、生理学的レベルのIgGを欠く、洗浄した血液中の蜂毒Api m 1アレルゲン依存性好塩基球活性化の阻害を示す。
【
図3】本開示による変異型IgG2抗体を使用した好塩基球活性化試験(BAT)アッセイの結果を提供し、アレルギー患者からの生理学的レベルのIgGを含有する全血中の蜂毒Api m 1アレルゲン依存性好塩基球活性化の阻害を示す。
【
図4】SELF変異を含む変異型IgG2抗体がFcγRIIb及びFcγRIIa-R
131に対する結合親和性の向上を示すかどうかを判定するために実施したアッセイの結果を示す:(A)TNP-BSA上で捕捉されたrsFcγRIIbの単量体抗TNP IgG1、IgG2及び示された変異体又はIgG2への結合のBLI分析(平均±SEM)、(B)TNP-BSA上で捕捉されたrsFcγRIIIa-R
131の単量体抗TNP IgG1-SELF、IgG2-SELF、IgG2-FLGG-SELF及びIgG2-FEGG-SELFへの結合のBLI分析(平均±SD)。
【
図5】本開示による変異型IgG2抗体が、ヒトFcγR結合プロファイルを変更したことを実証する結果を提供する。ヒトFcγRを発現する細胞を使用して、複合化IgGの低親和性ヒトFcγRへの結合力又は非複合化単量体IgGのFcγRIへの親和性を、フローサイトメトリーによって決定した:(A)FcγRIIb、(B)FcγRIIa-R
131、(C)FcγRIIa-H
131、(D)FcγRIIIa-F
158、(E)FcγRIIIa-V
158、及び(F)FcγRI。IgG変異体と関連するIgG WT骨格との間で統計的比較を行った。*(p<0.5)、**(p<0.1)、***(p<0.01)、****(p<0.0001)、n.s(有意でない)。
【
図6】本開示による変異型IgG2抗体の単量体のFcγR結合特異性の結果を示す。変異型IgG2抗体の一部は、SELF変異を含んでいた。
【
図7】本開示による変異型IgG2抗体(SELF変異を有するものもある)を使用したBATアッセイの結果を提供し、健康なドナーからの全血におけるIgG変異体による(IgE依存性刺激として抗IgE-TNPを使用する)抗IgE依存性好塩基球活性化の阻害を示す。
【
図8】FcγRIIb発現及びFcγRIIb特異的FcεRI活性化の阻害を評価する実験の結果を提供する:(A)緩衝液バックグラウンド(Bkg)と比較した、FcγRIIb特異的mAbであるH2B6のF(ab’)
2断片を使用したIgE陽性好塩基球上のFcγRIIbのフローサイトメトリー検出、(B)FcγRIIbのH2B6 F(ab’)
2遮断は、全血BAT中のIgG2-FLGG(7.5μg/ml)による好塩基球活性化の阻害を防止する、(C)FcεRI(αβγ)複合体及び阻害性FcγRIIbを共発現するIIA1.6細胞におけるIgE/FcεRI依存性誘導カルシウム動員のmAb抑制。細胞をIgEで一晩前処理し、TNPコンジュゲートF(ab’)
2抗hIgEと予め複合化された抗TNP抗体で刺激した。細胞を抗IgE-TNP(F(ab’)
2)(20μg/ml)及びmAb(35μg/ml)で刺激した。カルシウムフラックス(340/380nm)を経時的に測定し、変異型IgG2抗体によるカルシウムフラックスの阻害を、FcγRIIbに結合しない親の野生型IgG2と比較した。非刺激ベースライン対照は、緩衝液単独である(n=3)。
【
図9】B細胞抗原受容体複合体を検出するIgG mAbによるB細胞の抗原刺激の抑制を示す実験の結果を提供する。IgG4骨格又はIgG2骨格を有するオマリズマブの可変ドメインを有する抗IgE mAbは、ヒトFcγRIIb1を共発現するB細胞におけるNIP特異的hu-IgE BCR誘発カルシウムフラックスのNIP(22)BSA刺激を抑制する。IgE BCRの調節は、これらのIgGフォーマットのFcγRIIb結合活性のランクと相関するIgG1(オマリズマブ)~IgG4>IgG2の階層を有した。
【
図10】B細胞抗原受容体複合体に結合する(本開示による)IgG2変異型mAbによるB細胞の抗原刺激の抑制を示す実験の結果を提供する。本開示によるIgG2変異型抗体として提供されるオマリズマブの可変ドメインを有する抗IgE mAbは、ヒトFcγRIIb1を共発現するB細胞におけるNP特異的hu-IgE BCR誘発カルシウムフラックスの抗原(すなわち、NIP(22)BSA)刺激を抑制する。IgG2変異型mAbによるIgE BCRの調節に対する変異の影響は、FLGG-SELF>FLGG~FEGG-SELF>FEGG>IgG2の階層を有し、これは、IgG2フォーマットにおけるこれらの変異のFcγRIIb結合活性のランクと広く相関していた。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明者らは、機能的に不活性なIgG2骨格を、下部ヒンジ配列の変異(例えば、下部ヒンジをIgG4の下部ヒンジ配列に効果的に置き換える)及び他の変異を組み込むための足場として使用して、ヒト阻害性受容体であるFcγRIIb(当業者に周知のmRNAスプライスバリアントのうちのいずれか又は全て、すなわち、FcγRIIb1、FcγRIIb2及びFcγRIIb3を含む、に対する結合特異性及び親和性を改善し得ることを見出した(Getahun A and JC Cambier,2015(前掲)、及びChenoweth AM et al.,2020(前掲)、Anania JC et al.,Front Immunol 9:1809,2018)。得られる変異型IgG2抗体は、例えば、治療効果のためにFcγRの「足場形成」が必要とされるmAbの増強されたアゴニスト機能を潜在的に提供することができる。これらはまた、FcγRIIbの正常な生理学的阻害機能、又はFcγRIIbによって媒介される抗原若しくは免疫複合体クリアランス(例えば、エンドサイトーシス/内在化又は「スイーピング」によって)を利用することが望ましい状況において、非アゴニスト療法用抗体の開発に有用であり得る。
【0013】
したがって、第1の態様では、本開示は、対象における疾患又は状態を治療する方法であって、FcγRIIbへの結合及び/又はFcγRIIbの活性化が、当該疾患又は状態の治療又は予防に有益であり、当該方法が、IgG2抗体に由来する少なくとも1つの重鎖ポリペプチドを含む有効量の免疫療法用タンパク質を当該対象に投与することを含み、当該重鎖ポリペプチドが、少なくとも定常重ドメイン2及び3(すなわち、CH2及びCH3)と、下部ヒンジと、を含み、下部ヒンジの配列が、免疫療法用タンパク質がFcγRIIbに結合するかつ/又はFcγRIIbを活性化させることを可能にする変異を含む、方法を提供する。
【0014】
免疫療法用タンパク質の少なくとも1つの重鎖ポリペプチドは、例えば、重鎖ポリペプチドのCH2及びCH3ドメインが、野生型(WT)IgG2抗体のCH2/CH3ドメインの配列、又はより好ましくは、Wines BD et al.,J Immunol 197(4):1507-1516,2016及びGenBank受託番号:AH005273.2)によって提供されるもののようなWTヒトIgG2抗体のCH2/CH3ドメインの配列に対して少なくとも95%、好ましくは少なくとも98%の同一性を示すアミノ酸配列を含むという理由により、当業者がIgG2抗体に由来すると認識する任意の重鎖ポリペプチドであってもよい。
【0015】
当業者は、IgG2抗体に由来する重鎖ポリペプチドが、例えば、完全長重鎖ポリペプチド(すなわち、定常重領域(CH)及び可変重(VH)領域を含む)を含み得るか、又は少なくともCH2、CH3及び下部ヒンジを含むその断片を含み得ることを容易に理解するであろう。このような断片の1つの好ましい例は、抗体のパパイン消化(上部ヒンジ配列内のポリペプチドを切断して、各々がCH2、CH3並びに下部及びコアヒンジ配列を含む2つの重鎖架橋断片を含むFc断片を生成する)によって生成される断片の重鎖成分のうちの1つに対応するFc断片である。同様の重鎖ポリペプチドは、「Fc断片」を生成するものとしても当業者に知られている、プラスミン及びヒト好中球エラスターゼ(NHE)を用いた抗体の消化によって調製されてもよく、そのような重鎖ポリペプチドは、第1の態様の方法の免疫療法用タンパク質を好適に含んでもよい。好適な重鎖ポリペプチドの更なる例は、CH2、CH3及び下部ヒンジに加えて、IgG2抗体の定常重ドメイン1(CH1)の全て若しくは一部、並びに/又はコアヒンジ及び/若しくは上部ヒンジ配列を含み得る。
【0016】
いくつかの実施形態では、免疫療法用タンパク質は、融合タンパク質又はタンパク質コンジュゲートの形態で提供される重鎖ポリペプチドを含んでもよい。当業者であれば、融合タンパク質では、重鎖ポリペプチドが、融合パートナーのN末端又はC末端のペプチド結合又は短いペプチドリンカー配列を介して、ポリペプチド又はペプチドパートナー(すなわち、融合パートナー)に共有結合(すなわち、「融合」)されることを理解し、一方、タンパク質コンジュゲートでは、重鎖ポリペプチドが、ジスルフィド結合などの化学連結、又はスベリン酸ジスクシンイミジル(DSS)(例えば、スベリン酸ビス(スルホスクシンイミジル)(BS3)、ThermoFisher Scientific、Waltham,MA,United States of America)若しくは酒石酸ジスクシンイミジル(disuccinimidyl tartrate、DST)などのホモ二官能性架橋剤などの架橋剤化合物を介して、コンジュゲートパートナー(ポリペプチド、ペプチド、又は他の化学物質であり得る)に共有結合又は非共有結合されて、アミン基、又はm-マレイミドベンゾイル-N-ヒドロキシスクシンイミドエステル(MDS)及びN-(ε-マレイミドカプロロキシ)スクシンイミドエステル(EMCS)などのヘテロ二官能性架橋剤を連結するか、あるいは水素結合などの他の非共有結合によってコンジュゲートパートナーに共有結合又は非共有結合されることを理解すべきである。コンジュゲートパートナーがポリペプチドである場合、タンパク質コンジュゲートは、そうでなければ、架橋タンパク質とみなされ得る。コンジュゲートパートナーは、N末端又はC末端の重鎖ポリペプチドにコンジュゲートされてもよいが、そうでなければ、重鎖ポリペプチド上の任意の他の好適な部位(例えば、重鎖ポリペプチドに含まれる場合、CH1又は上部ヒンジ配列内)でコンジュゲートされてもよい。当業者は、融合パートナー又はコンジュゲートパートナーが1つ以上の有用な活性又は機能を提供し得ることを認識するであろう。例えば、融合パートナーは、タンパク質回収又は発現(例えば、ヒト血清アルブミン(HSA)、及びグルタチオンSトランスフェラーゼ(GST))を改善し、ポリヒスチジンタグ(Hisタグ)若しくはFLAGタグなどの様々な親和性タグ、又は目的の抗原に結合する更なる能力を提供し得る。融合パートナー又はコンジュゲートパートナーの他の例としては、受容体(例えば、インターロイキンの受容体(例えば、IL-1受容体)若しくはTGF-βスーパーファミリーのサイトカインの受容体などのサイトカイン受容体)、又は細胞表面分子及び免疫チェックポイント(例えば、CTLA4又はPD1)が挙げられる。
【0017】
いくつかの他の実施形態では、免疫療法用タンパク質は、二量体又は多量体形態で提供される少なくとも1つの重鎖ポリペプチドを含んでもよい。例えば、重鎖ポリペプチドは、特にヒンジ配列(特にコアヒンジ配列)内に位置する場合に、1つ以上のシステイン(C)残基を通して共有結合二量体を形成する天然の傾向を有し得る(Yoo EM et al.,J Immunol 170:3134-3138,2003)。多量体形態の重鎖ポリペプチド(例えば、重鎖ポリペプチドの3つ、4つ、5つ、6つなどのコピーを含む)を産生するのに好適な技術が記載されており、当業者に周知である(例えば、ヒトIgG2又はイソロイシンジッパー(ILZ)のヒンジ領域からマウスIgG2aのN末端又はC末端までの連結した多量体化ドメイン(MD)配列を含むFc多量体形態(stradomers(商標));Fitzpatrick EA et al.,Front Immunol 11,article 496,2020)。重鎖ポリペプチドのそのような二量体又は多量体形態は、好ましくは可溶性である(すなわち、生理食塩水に)。
【0018】
更にいくつかの他の実施形態では、免疫療法用タンパク質は、2つの軽鎖ポリペプチドを有する2つの完全長重鎖ポリペプチドを含むIgG2抗体、特に、2つの重鎖ポリペプチドのうちの少なくとも1つが、IgG2抗体がFcγRIIbに結合するかつ/又はFcγRIIbを活性化させることを可能にする変異を下部ヒンジ配列内に含む変異型IgG2抗体を含む。
【0019】
野生型(WT)ヒトIgG2抗体は、FcγRIIbへの結合を示さないか、又は事実上検出できない(
図1Aを参照)。対照的に、本開示の方法は、IgG2抗体がFcγRIIbに結合するかつ/又はFcγRIIbを活性化させることを可能にする変異型ヒトIgG2抗体(すなわち、少なくとも1つの重鎖ポリペプチドの下部ヒンジ配列における変異を含むIgG2抗体)を利用し得る。IgG2下部ヒンジ配列における変異は、配列の置換、又は配列内の1つ以上のアミノ酸の置換を233~236位(EU番号付けシステム、Edelman GM et al.,Proc Natl Acad Sci U S A 63:78-85,1969及びKabat EA,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5
th ed.,DIANE Publishing,PA,USA,1991;しかし、疑義を避けるために、本明細書で言及されるIgG2下部ヒンジ配列は、IgG1の下部ヒンジ配列のアミノ酸と同等の位置にアミノ酸を含む)に含み得、この配列は、ヒトIgG2抗体におけるPVAG(配列番号14)である。IgG2下部ヒンジ配列における変異は、アミノ酸の挿入又は付加を更に含み得、例えば、変異したヒトIgG2下部ヒンジ(PVAG:配列番号14)配列は、変異型IgG2抗体における5個のアミノ酸配列であってもよい。
【0020】
好ましくは、免疫療法用タンパク質において、下部ヒンジ配列は、以下のアミノ酸配列を含み、
X1X2X3-G-X5(配列番号4)
式中、
X1は、プロリン(P)及びグルタミン酸(E)から選択され、
X2は、バリン(V)、ロイシン(L)、及びフェニルアラニン(F)から選択され、
X3は、ロイシン(L)、アラニン(A)、及びグルタミン酸(E)から選択され、
X5は、グリシン(G)及びプロリン(P)から選択されるか、又は存在せず(すなわち、配列がX1X2X3-G:配列番号31であるように)、
ただし、下部ヒンジは野生型IgG2下部ヒンジ配列(例えば、ヒトIgG2抗体のPVAG(配列番号14))からなるものではない。
【0021】
いくつかの特定の好ましい実施形態では、変異型IgG2抗体の下部ヒンジ配列は、ELLGG(ヒトIgG1に由来、配列番号1)、EFLGG(ヒトIgG4に由来、配列番号2)、EFLGP(配列番号5)及びEFEGG(配列番号3)から選択されるアミノ酸配列を含む。
【0022】
上述のように、本開示の免疫療法用タンパク質(例えば、変異型IgG2抗体)は、FcγRIIbに結合し得るかつ/又はFcγRIIbを活性化させ得る。免疫療法用タンパク質がFcγRIIbに結合し、かつFcγRIIbを活性化させる場合、免疫療法用タンパク質は、FcγRIIb阻害機能を誘発するように作用し得る。したがって、いくつかの実施形態では、本開示の方法は、FcγRIIbの阻害効果が有益である疾患又は状態の治療又は予防に特に適している。したがって、いくつかの好ましい実施形態では、本開示の方法は、特に、例えば、アレルギー性疾患の治療又は予防を対象とし、免疫療法用タンパク質によるFcγRIIbの結合及び活性化は、IgEによるアレルギー性好塩基球活性化のFcγRIIb依存性阻害を媒介する。
【0023】
本開示の方法は、アレルギー反応の治療又は予防のために実施され、免疫療法用タンパク質は、好ましくは、変異型下部ヒンジ配列EFLGG(配列番号2)又はELLGG(配列番号1)を含むタンパク質であり、以下に記載される実施例において、「IgG2-FLGG(配列番号6)」mAb及び「IgG2-LLGG(配列番号7)」mAbとして示される変異型IgG2抗体は、FcγRIIbに対する親和性が比較的低いにもかかわらず、試験された変異型IgG2抗体のIgE/FcεRI塩基親和性活性化の最も強力な阻害剤である(注:それらは免疫複合体としてのみ結合した)ことが見出された。
【0024】
いくつかの好ましい実施形態では、免疫療法用タンパク質は、重鎖ポリペプチド内(又は少なくとも、重鎖ポリペプチドの定常重領域内)に更なる変異を含まないが、いくつかの他の実施形態では、少なくとも1つの重鎖ポリペプチドのうちの1つ以上の更なる変異を更に含むことが有利であり得る。例えば、免疫療法用タンパク質(例えば、変異型IgG2抗体)は、重鎖ポリペプチドのうちの少なくとも1つ、及びより好ましくはその両方、のCH2ドメインにおける267位及び/又は328位(EU番号付け)にアミノ酸置換、例えば、それぞれいわゆる「SELF」変異と呼ばれるS267E及びL328F置換を更に含み得る。以下に説明する実施例では、EFEGG(配列番号3)変異型下部ヒンジ配列及びSELF変異を有する変異型IgG2抗体(例えば、「IgG2-FEGG(配列番号8)-SELF」mAb)が、試験された変異型IgG2抗体の最も特異的な方法でFcγRIIbに結合し、阻害効力を保持したことが見出された。
【0025】
しかしながら、SELF変異は、変異型IgG2抗体とFcγRIIbとの相互作用を増強したが、インビボでは、対象におけるそのような変異型IgG2抗体の特異性は、FcγRIIaの高/低レスポンダ多型の存在によって決定されてもよく、その理由は、SELF変異を含む抗体は、FcγRIIb及び活性化受容体型FcγRIIa(「Arg131形態」のみであって、「His131形態」ではない)との高い親和性相互作用を有することが見出されているからである。したがって、本方法がSELF変異を含む変異型IgG2抗体の投与を伴ういくつかの実施形態では、本方法は、好ましくは、FcγRIIa-H131に対してホモ接合性の対象(注:FcγRIIa-H131に対してホモ接合性の対象は、集団の約30%に相当する;van der Pol WL and J van de Winkel,Immunogenetics 48:222-232,1998)とともに使用することを意図され得る。そのような実施形態では、本方法は、FcγRIIaの高/低レスポンダ多型について遺伝子型決定することによって対象を選択するステップを更に含み得る。すなわち、いくつかの実施形態では、FcγRIIa-H131に対してホモ接合性であると判定された対象は、SELF変異を含む変異型IgG2抗体を投与することによる治療のために選択されてもよい。
【0026】
免疫療法用タンパク質が変異型IgG2抗体を含む場合、変異型IgG2抗体は典型的にはモノクローナル抗体(mAb)を含み、好ましくはヒトmAb又はヒト化mAbである。そのような抗体は、当業者に既知の標準的な方法論のうちのいずれかに従って産生され得る。例えば、当業者は、標準的な分子生物学技術を使用して構築物を生成することによって、本開示の方法において使用するのに好適な変異型IgG2抗体を容易に調製することができ、この構築物は、好適な抗体(例えば、目的の抗原に結合する抗原結合領域を含むもの)の可変重(VH)及び軽(VL)領域配列並びにIgG2抗体(例えば、Wines BD et al.,2016(前掲)に記載されているような)からの定常重(CH)領域をコードするポリヌクレオチド配列を含み、部位特異的変異誘発などの標準的な分子生物学技術、上記の下部ヒンジ配列変異(及び所望する場合にはSELF変異)をコードするポリヌクレオチド配列変化によって、CH領域をコードするポリヌクレオチド配列に組み込まれる。構築物は、好適な宿主細胞(例えば、ヒト腎臓(HEK)宿主細胞)に導入され、標準的な培養プロトコルに従って培養され、発現された変異型IgG2抗体は、例えば精製のための既知の好適な方法論(例えば、アフィニティークロマトグラフィー)のうちのいずれかを使用して培養上清から精製される。
【0027】
FcγRIIbの活性化による疾患の治療
いくつかの実施形態では、本開示の方法は、対象における疾患又は状態を治療するために使用されてもよく、FcγRIIbの活性化(すなわち、阻害作用の動員のため)は、当該疾患又は状態の治療又は予防に有益である。
【0028】
そのような実施形態のいくつかの例では、免疫療法用タンパク質は、例えば、(a)抗原(例えば、受容体に結合したIgG、IgE若しくはIgAなどの抗体に結合したアレルゲン又は自己抗原)、(b)活性化受容体に結合した抗体、(c)活性化受容体の抗体(リガンド)結合ドメイン、又は(d)活性化受容体のサブユニット(例えば、Fc受容体共通γ鎖)などの潜在的なシグナル伝達複合体の成分を認識する抗原結合領域(例えば、Fab領域)などの結合ドメインを含むことによって、ITAMシグナル伝達受容体複合体を標的としてもよく、一方、他の例では、免疫療法用タンパク質は、例えば、(a)BCR複合体の免疫グロブリン成分に結合した抗原(例えば、アレルゲン、自己抗原、細菌若しくはウイルス病原体の抗原などの感染性因子の抗原、又は移植された組織若しくは臓器からの抗原)、又は(b)BCR複合体のサブユニット(例えば、IgM、IgD、IgG、IgE、若しくはIgAなどのBCR複合体の膜免疫グロブリン)若しくは関連するIg-α若しくはβ鎖(例えば、CD79a若しくはCD79b、又はCD19、CD21若しくはCD81)を含むB細胞抗原受容体(BCR)複合体の成分を標的としてもよい。
【0029】
そのような実施例の全てにおいて、免疫療法用タンパク質は、ITAM含有活性化受容体と阻害性受容体FcγRIIbとの必要な共架橋をもたらし、FcγRIIbの阻害作用を動員し、上記の考察から理解されるように、これは、免疫療法用タンパク質の標的がかなり変化するいくつかの異なる方法で達成され得、したがって、幅広い範囲の異なる疾患又は状態の治療又は予防のためのそれらの潜在的な使用を可能にする。
【0030】
より具体的には、免疫療法用タンパク質が、FcγRIIbへの結合及びFcγRIIbの活性化による疾患又は状態の治療又は予防のために使用されることが意図されるいくつかの例では、免疫療法用タンパク質は、免疫グロブリンのFc部分を介してFcεRIに結合した免疫複合体(すなわち、抗原がIgE、IgG又はIgAと複合化されている)、又は活性化型FcγR(例えば、FcγRI、FcγRIIa、FcγRIIc、及びFcγRIIIa若しくはFcγRIIIb、それぞれ別名CD64、CD32a、CD32c、CD16a、及びCD16bとして知られている)、又は活性化型受容体FcαRI(CD89)中に存在する目的の抗原に標的化された抗原結合領域などの結合ドメインを含んでもよい。したがって、目的の抗原は、例えば、アレルギー性疾患の治療又は予防のための免疫療法用タンパク質の使用のためのアレルゲン(例えば、蜂毒)、自己免疫疾患の治療又は予防のための免疫療法用タンパク質の使用のための自己抗原(例えば、全身性エリテマトーデス(SLE)又は多発性硬化症(MS)に関連する自己抗原)、免疫複合体血管炎などの他の炎症性疾患に関連する抗原、抗体媒介性移植拒絶の治療又は予防のための免疫療法用タンパク質の使用を可能にする、移植された組織又は器官からの抗原、及び細菌又はウイルス病原体の抗原(SARS-CoV-2又はデングウイルスの抗原)などの感染性因子の抗原から選択され得る。
【0031】
あるいは、免疫療法用タンパク質が、FcγRIIbへの結合及びFcγRIIbの活性化による疾患又は状態の治療又は予防のために使用されることが意図されるいくつかの例では、免疫療法用タンパク質は、免疫グロブリンのFc部分を介してFcεRIに結合した免疫複合体、又は活性化型FcγR(例えば、FcγRI、FcγRIIa、FcγRIIc、及びFcγRIIIa若しくはFcγRIIIb)、又は活性化型受容体FcαRI中に存在する免疫グロブリンを標的とする抗原結合領域などの結合ドメインを含んでもよい。すなわち、抗原がIgE、IgG又はIgAと複合化される場合、免疫療法用タンパク質は、IgE、IgG又はIgAの重鎖又は軽鎖に標的化されて、FcγRIIbと活性化Fc受容体との共架橋をもたらし得る。したがって、このように標的化された免疫療法用タンパク質はまた、アレルギー性疾患(例えば、アレルゲンが標的化された免疫グロブリンと複合化されている場合)、SLE及びMSなどの自己免疫疾患(例えば、自己抗原が免疫療法用タンパク質によって標的化された免疫グロブリンと複合化されている場合)、免疫複合体血管炎などの他の炎症性疾患(例えば、関連する抗原が標的化された免疫グロブリンと複合化されている場合)、抗体媒介性移植拒絶(例えば、移植された組織又は器官からの抗原が標的化された免疫グロブリンと複合化されている場合)、並びに感染性疾患(例えば、感染性因子の抗原が標的化された免疫グロブリンと複合化されている場合)、更には増殖性疾患(例えば、がん抗原が、療法用タンパク質によって標的化された免疫グロブリンと複合化されている場合)の治療又は予防のためにも使用することができる。
【0032】
更に、免疫療法用タンパク質がFcγRIIbへの結合及びFcγRIIbの活性化による疾患又は状態の治療又は予防のために使用されることが意図されるいくつかの例では、免疫療法用タンパク質は、免疫複合体が活性化Fc受容体(又は1つ以上のサブユニット)に結合しているかどうかにかかわらず、免疫グロブリンFc結合サブユニット又は発現及び/若しくはシグナル伝達に必要な関連サブユニットなどの活性化Fc受容体又はその1つ以上のサブユニットに標的化された抗原結合領域などの結合ドメインを含んでもよい(例えば、結合ドメインは、リガンド結合鎖FcεRIαサブユニット、並びに関連するFcεRIβ及びγサブユニットから構成されるFcεRIのサブユニットのうちのいずれかに標的化され得る)。したがって、このように標的化された免疫療法用タンパク質は、アレルギー性疾患(例えば、アレルゲンを含む免疫複合体が活性化FcRに結合している場合)、SLE及びMSなどの自己免疫疾患(例えば、自己抗原を含む免疫複合体が活性化FcRに結合している場合)、免疫複合体血管炎などの他の炎症性疾患(例えば、関連する抗原を含む免疫複合体が活性化FcRに結合している場合)、抗体媒介性移植拒絶(例えば、移植された組織又は器官からの抗原を含む免疫複合体が活性化FcRに結合している場合)、並びに感染症(例えば、感染性因子の抗原を含む免疫複合体が活性化FcRに結合している場合)の治療又は予防のためにも使用することができる。
【0033】
更に、免疫療法用タンパク質が、FcγRIIbへの結合及びFcγRIIbの活性化による疾患又は状態の治療又は予防のために使用されることが意図されるいくつかの例では、免疫療法用タンパク質は、B細胞受容体複合体(BCR)(すなわち、抗原がB細胞の表面上の膜IgE、IgG又はIgAに結合している)に結合している目的の抗原に標的化された抗原結合領域などの結合ドメインを含んでもよい。したがって、このように標的化された免疫療法用タンパク質は、結合した抗原を含むBCRへのFcγRIIbの共架橋がFcγRIIbの活性化をもたらし、それによって、抗体産生(及び/又はB細胞増殖)を停止するFcγRIIb阻害作用を動員するように、アレルギー性疾患(例えば、免疫療法用タンパク質がBCRの膜免疫グロブリンに結合した抗原に結合する場合)の治療又は予防のために使用することができる。同様に、そのような免疫療法用タンパク質は、SLE及びMSなどの自己免疫疾患、免疫複合体血管炎などの他の炎症性疾患、抗体媒介性移植拒絶、及び感染性疾患の治療又は予防のために使用することができる。
【0034】
更に、免疫療法用タンパク質が、FcγRIIbへの結合及びFcγRIIbの活性化による疾患又は状態の治療又は予防のために使用されることが意図されるいくつかの例では、免疫療法用タンパク質は、B細胞抗原受容体(BCR)複合体などのFc受容体以外の活性化受容体に標的化される抗原結合領域などの結合ドメインを含んでもよい。例えば、免疫療法用タンパク質は、例えば、膜免疫グロブリンの可変ドメイン(例えば、免疫療法用タンパク質は、抗イディオタイプIgG2抗体であり得る)を標的とすることによって、BCR複合体の膜免疫グロブリン(例えば、B細胞の表面上の膜IgE、IgG又はIgA)に標的化されてもよい。標的化BCRの膜免疫グロブリンは、結合抗原を含んでも、含まなくてもよい。したがって、このように標的化された免疫療法用タンパク質は、FcγRIIbのBCRへの共架橋がFcγRIIbの活性化をもたらし、それによって抗体産生(及び/又はB細胞増殖)を停止するFcγRIIb阻害作用を動員するように、アレルギー性疾患(例えば、免疫療法用タンパク質が結合アレルゲンの有無にかかわらず、BCR複合体の膜免疫グロブリンに結合する場合)の治療又は予防のために使用することができる。同様に、そのような免疫療法用タンパク質は、SLE及びMSなどの自己免疫疾患、免疫複合体血管炎などの他の炎症性疾患、抗体媒介性移植拒絶、及び感染性疾患の治療又は予防のために使用することができる。加えて、BCRなどの非Fc型活性化受容体に標的化される免疫療法用タンパク質は、白血病(例えば、急性リンパ芽球性白血病(ALL)及び慢性リンパ性白血病(CLL))、リンパ腫(例えば、B細胞リンパ腫及びT細胞リンパ腫)、及びX連鎖性増殖性疾患などの増殖性疾患、特にリンパ増殖性疾患(LPD)の治療又は予防のためにも使用することができ、FcγRIIbのBCRへの共架橋をもたらす免疫療法用タンパク質の能力は、次に、FcγRIIbの活性化を引き起こし、それによって、FcγRIIb阻害作用を動員して、がん性細胞の増殖を停止させることができる。
【0035】
更に、免疫療法用タンパク質がFcγRIIbへの結合及びFcγRIIbの活性化による疾患又は状態の治療又は予防のために使用されることが意図されるいくつかの例では、免疫療法用タンパク質は、B細胞抗原受容体(BCR)複合体又はその1つ以上のサブユニット、例えば、発現及び/又はシグナル伝達に必要な膜免疫グロブリン又は関連サブユニットに標的化された抗原結合領域などの結合ドメインを含んでもよい(例えば、結合ドメインは、抗原結合膜免疫グロブリン(例えば、IgM、IgD、IgG、IgE若しくはIgA)、並びに関連するIg-α若しくはβ鎖(例えば、CD79a若しくはCD79b)又は他の関連タンパク質(例えば、CD19、CD21若しくはCD81)から構成されるBCR複合体のサブユニットのうちのいずれかに標的化され得る。標的化BCRの膜免疫グロブリンは、結合抗原を含んでも、含まなくてもよい。したがって、このように標的化された免疫療法用タンパク質はまた、アレルギー性疾患(例えば、アレルゲンがBCR複合体に結合していても、していなくてもよい場合)、SLE及びMSなどの自己免疫疾患(例えば、自己抗原がBCR複合体に結合している場合)、免疫複合体血管炎等の他の炎症性疾患(例えば、関連抗原がBCR複合体に結合している場合)、抗体媒介性移植拒絶(例えば、移植された組織又は器官からの関連抗原がBCR複合体に結合している場合)、及び感染性疾患(例えば、感染性因子の関連抗原がBCR複合体に結合している場合)の治療又は予防のために使用することができる。
【0036】
アレルギー性疾患
肥満細胞及び好塩基球は、アレルギー性疾患の病因における2つの重要なエフェクター細胞であり、いずれも高親和性IgE受容体であるFcεRIを発現する。しかしながら、それらは、IgG受容体FcγR、FcεRIのシグナル伝達を阻害し、好塩基球の活性化を減少させることができる、阻害性受容体FcγRIIbを発現する好塩基球の発現プロファイルの点で異なる。変異型IgG2抗体などの本開示の免疫療法用タンパク質は、(好塩基球表面上の活性化FcRに結合した免疫複合体内で)アレルゲンに結合し、FcγRIIbにも結合して活性化FcRへの共架橋をもたらし、それによってFcγRIIbを活性化させる(すなわち、FcγRIIb阻害機能を動員する、より具体的には、変異型IgG2抗体のFcγRIIbへの結合が、IgEによるアレルギー性好塩基球活性化のFcγRIIb依存性阻害を媒介する)ように標的化され得るため、本開示の方法は、重度の花粉症、アトピー性皮膚炎、ピーナッツアレルギーなどの食物アレルギー、及び毒素(例えば、蜂毒)に対するアレルギーのようなアレルギー性疾患及び状態の治療又は予防を可能にする。FcγRIIbを発現するヒト肥満細胞のサブセットはまた、ヒト肥満細胞細胞のサブセット上でのその発現を介して(Burton OT et al.,Front Immunol 9:1244. doi: 10.3389/fimmu 2018)、アレルギー性疾患及び状態を調節するように作用し得る(例えば、food allergy,Burton OT et al.,J Allergy Clin Immunol 141(1):189-201.e3,2018)。したがって、変異型IgG2抗体などの本開示の免疫療法用タンパク質は、肥満細胞上でFcγRIIb阻害機能を動員し得る。望ましくは、変異型IgG2抗体はまた、望ましくない肥満細胞活性化を回避するために、FcγRI(強力な肥満細胞活性化を誘導することができる)への結合能を示さない、又はわずかに示し得る。
【0037】
自己免疫疾患及び状態
例えば、自己抗原を含む結合免疫複合体を介してFcγRIIbを活性化型FcRに共架橋することによって、罹患した対象内に存在するFcγRIIb受容体の活性化を促進することによって、本開示の方法は、上記のようなものなどの自己免疫疾患及び状態の有益な治療及び/又は予防を可能にする。しかしながら、対象におけるFcγRIIbの発現及び/又はシグナル伝達活性の低下(例えば、受容体発現及びシグナル伝達に影響を及ぼすFcγRIIbのプロモーター及び膜貫通ドメインにおける多型に起因する)は、全身性エリテマトーデス(SLE)、グッドパスチャー症候群、免疫性血小板減少症(ITP)及び関節リウマチ(RA)を含む自己免疫疾患及び状態に対する感受性の増加と関連している(Floto RA et al.,Nat Med 11:1056-1058,2005、Li X et al.,Arthritis Rheum 48:3242-3252,2003、及びRadstake TR et al.,Arthritis Rheum 54:3828-3837,2006)。したがって、本開示の方法が自己免疫疾患又は状態に罹患しているか、又はその傾向がある対象との使用を意図されているいくつかの実施形態では、本方法は、FcγRIIbのプロモーター及び膜貫通ドメインにおける関連する多型(例えば、FCGR2Bのプロモーター領域における多型(Su K et al.,J Immunol 172:7186-7191,2004、及びBlank MC et al.,Hum Genet 117:220-227,2005)、及びFcγRIIbの膜貫通ドメインにおけるI232T多型(Kyogoku C et al.,Arthritis Rheum 46:1242-1254,2002))について遺伝子型決定することによって対象を選択するステップを更に含み得る。
【0038】
感染性疾患
本開示による変異型IgG2抗体などの免疫療法用タンパク質を使用して、例えば、Bリンパ球上のBCRのITAM受容体ベースのシグナル伝達の調節(すなわち、FcγRIIb(ITIM受容体)を共発現する細胞上のITAM受容体を標的とすることによる)を標的とすることができる。すなわち、B細胞において、BCRのFcγRIIb阻害は、抗体産生を調節するための重要な免疫チェックポイントであり(Lehmann B et al.,Expert Rev Clin Immunol 8:243-254,2012)、おそらくは体細胞過剰変異中の自己反応性B細胞のアポトーシスによる除去によって(Pearse RN et al.,Immunity 10:753-760,1999)、体液性免疫系の選択的抗原特異性を制限し、B細胞の産生を適切な抗体レパートリーに向ける。これは、もちろん、細菌病原体(例えば、Neisseria meningitides、Streptococcus pneumoniae、Haemophilus influenzae及びメチシリン耐性Staphylococcus aureus(「黄金ブドウ球菌(Golden Staph)」))又はウイルス(例えば、C型肝炎(HCV)、及びヒト免疫不全ウイルス-1(HIV-1))による感染と「戦う」上で有益であり得る。
【0039】
増殖性疾患
Bリンパ球のBCRは、様々なB細胞由来のリンパ系がんの発病に関与することが示されており、ますます多くの証拠によって、BCRの抗原非依存的な自己会合が、慢性リンパ球性白血病(CLL)、重鎖疾患(HCD)、及び活性化B細胞様亜型びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(ABC DLBCL)などの多くのB細胞腫瘍型における重要な特徴であることが示唆されている(Duhren-von Minden M et al.,Nature 463(7415):309-312,2012、Corcos D et al.,Current Biology 5(10):1140-1148,1995、及びDavis RE et al.,Nature 463(7277):88-92,2010)。したがって、本開示の方法はまた、増殖性疾患、特にB細胞由来のリンパ系がんの予防及び/又は治療に適用されてもよく、変異型IgG2抗体を使用して、例えば、BCR又はBCRのサブユニットに複合化された(すなわち、変異型IgG2抗体によって標的化された)関連抗原を介してFcγRIIbをBCRに共架橋することによって、B細胞上のFcγRIIbを活性化させて、BCRシグナル伝達の阻害をもたらすことができる。
【0040】
FcγRIIb媒介性エンドサイトーシス/内在化(「スイーピング」)による疾患の治療
いくつかの他の実施形態では、本開示の方法は、対象における疾患又は状態の治療のために使用されてもよく、白血球及びいくつかの他の非造血細胞型(例えば、肝類洞内皮細胞(LSEC))の表面上に存在するFcγRIIbによる循環からの免疫複合体(例えば、オプソナイズドウイルス、タンパク質(例えば、サイトカイン)及び毒素を含む「小さな」可溶性複合体;Iwayanagi Y et al.,J Immunol 195:3198-3205,2015、及びMates JM et al.,Front Immunol 8:35,2017)のクリアランスは、当該疾患又は状態の治療又は予防に有益である。Fc受容体型及び貪食細胞(例えば、FcγRIII)を活性化させることによって実行され、例えば、細菌、寄生虫及びがん性細胞などの大きなものを含む大きな免疫複合体を除去する貪食とは機構的に異なり、この現象を中心とした新しい治療薬の開発にはかなりの関心がある(例えば、Iwayanagi Y et al.,2015(前掲)、及びChenoweth AM et al.,2020(前掲)を参照されたい)。したがって、そのような実施形態のいくつかの例では、変異型IgG2抗体などの免疫療法用タンパク質は、例えば、抗原(例えば、ウイルス抗原)、又は免疫グロブリン、ホルモン、代謝物、サイトカイン若しくは毒素などの他のタンパク質若しくは化学物質に標的化されて、小さな可溶性免疫複合体の形成を可能にし得る。次に、LSECのFcγRIIb受容体への免疫療法用タンパク質の結合は、循環からの免疫複合体のスイーピングクリアランスを媒介し得る。したがって、そのような免疫療法用タンパク質は、例えば、感染性疾患(例えば、SARS-CoV-2ウイルス感染症などのウイルス感染症、又は内毒素などの毒素の産生を特徴とする感染症)、及びクッシング症候群などの内分泌障害(Buliman et al.,J Med Life 9:12-18,2016)、並びに、例えばサイトカインの過剰発現を特徴とする炎症性疾患(疾患の再燃中の循環単球からのIL-1βの過剰発現を特徴とするTNF受容体関連周期症候群(TRAPS)(Bachetti T et al.,Ann Rheum Dis 72:1044-1052,2013)、IL-17又はIL-23の産生を特徴とする乾癬、TNF又はIL-1βなどのサイトカインの産生を特徴とする関節リウマチ、自己抗体の産生を特徴とする自己免疫疾患、及びIgEの産生を特徴とするアレルギー疾患など)の治療又は予防のために使用することができる。
【0041】
FcγRIIb媒介性足場形成による疾患の治療
いくつかの他の実施形態では、本開示の方法は、対象における疾患又は状態を治療するために使用され得、免疫療法用タンパク質の増強されたアゴニスト機能は、FcγRIIb「足場形成」によって達成され得、エフェクター細胞内ではシグナルは生成されないが、1つの細胞上のFcγRIIbによるオプソナイジング抗体(例えば、本開示の変異型IgG2抗体)の「超架橋」が、例えば、細胞のアゴニスト的増殖におけるアポトーシス若しくは活性化の誘導及び/又はそれらのサイトカイン分泌などの有益な治療効果をもたらし得るコンジュゲート標的細胞内でシグナルを生成する(Chenoweth AM et al.,2020(前掲))。したがって、そのような実施形態のいくつかの例では、変異型IgG2抗体等の免疫療法用タンパク質は、例えば、がん性細胞(例えば、CD20)の表面上に存在するがん抗原、又は免疫細胞(例えば、T細胞)上に存在する細胞表面抗原(例えば、CTLA4)に標的化されてもよい。したがって、そのような免疫療法用タンパク質は、例えば、増殖性疾患及び自己免疫疾患の治療又は予防のために使用できる。
【0042】
上記から、本開示の免疫療法用タンパク質、好ましくは変異型IgG2抗体は、典型的には、目的の抗原などの標的又は活性化Fc受容体、BCR複合体の免疫グロブリン、又は活性化Fc受容体複合体若しくはBCR複合体のサブユニットなどに結合した抗体などの免疫グロブリンに特異的に結合する抗原結合領域を含むことが明らかとなるであろう。したがって、例えば、本開示の方法がアレルギー性疾患に罹患している対象との使用を意図されている場合、本開示による変異型IgG2抗体の抗原結合領域は、アレルゲンである抗原(例えば、蜂毒アレルゲンApi m 1、並びにピーナッツアレルゲンAra h 1、Ara h 2、Ara h 3及びAra h 6)に特異的に結合し得る。同様に、自己免疫疾患又は状態に罹患しているか、又はその傾向がある対象とともに使用することを意図された本開示の方法との関連において、変異型IgG2抗体の抗原結合領域は、自己抗原である抗原(例えば、SLEの一般的な抗Sm/RNP、抗Ro/La、及び抗dsDNA自己抗原のうちの1つ)に特異的に結合し得る。更に、本方法が感染性疾患の治療での使用を意図されている場合、変異型IgG2抗体の抗原結合領域は、病原性抗原(例えば、BCR複合体内に結合した)に特異的に結合し得るか、又はそうでなければ、病原性抗原を含むBCR複合体の膜免疫グロブリンに特異的に結合し得る。同様に、増殖性疾患の治療での使用を意図された変異型IgG2抗体の抗原結合領域は、BCR複合体に結合したがん抗原に特異的に結合し得るか、又は代替的に、FcγRIIb媒介性足場形成を含む方法において、変異型IgG2抗体の抗原結合領域は、がん性細胞の表面上に存在するがん性抗原(例えば、CLL細胞の表面上に見出されるCD20及びCD52抗原、並びに一部の乳がん及び膵臓がんにおいて過剰発現されるムチン(例えばMUC-1)などのがん細胞に差次的に発現される及び/又は存在する細胞表面抗原、に特異的に結合して、がん性細胞のアポトーシスをもたらし得る。
【0043】
いくつかの実施形態では、本開示の方法での使用に好適な変異型IgG2抗体は、免疫コンジュゲートとして提供されてもよく、この抗体は、例えば、目的の抗原に結合する追加の能力を提供する分子(例えば、第1の結合特異性を有する抗原結合領域を含み、第2の結合特異性を有する別の分子に連結されている二重特異性IgG2抗体)又は他の機能性を提供する分子(例えば、染料などの検出可能な分子又は相補性薬物分子などの治療上重要な分子)などの別の分子にコンジュゲートされる。
【0044】
いくつかの他の実施形態では、本開示の方法での使用に好適な変異型IgG2抗体は、二量体又は多量体形態(例えば、変異型IgG2抗体の3つ、4つ、5つ、6つ(六量体)などのコピー)で提供され得る。二量体及び多量体形態の抗体(例えば、stradomers(商標)、又は隣接する抗体分子のFc領域の自己会合による)を産生するための標準的な方法論は、当業者に周知である(例えば、Diebolder CA et al.,Science 343(6176):1260-1263,2014を参照されたい)。
【0045】
本開示の方法は、典型的には、ヒト対象における疾患又は状態の治療に適用されるであろう。しかしながら、対象はまた、例えば、家畜動物(例えば、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ及びヤギ)、同伴動物(例えば、イヌ及びネコ)、及びエキゾチック動物(例えば、非ヒト霊長類、トラ、ゾウなど)から選択され得る。
【0046】
第2の態様では、本開示は、例えば、アレルギー性疾患、自己免疫疾患及び状態、感染性疾患、並びに増殖性疾患を含む、FcγRIIbへの結合及び/又はFcγRIIbの活性化が有益である疾患又は状態を治療するための、第1の態様で定義される免疫療法用タンパク質の使用を提供する。
【0047】
第3の態様では、本開示は、例えば、アレルギー性疾患、自己免疫疾患及び状態、他の炎症性疾患、感染性疾患、並びに増殖性疾患を含む、FcγRIIbの活性化が有益である疾患又は状態を治療するための医薬品の製造における、第1の態様で定義される免疫療法用タンパク質の使用を提供する。
【0048】
第4の態様では、本開示は、第1の態様で定義される免疫療法用タンパク質と、薬学的に許容される担体、希釈剤、及び/又は賦形剤と、を含む、薬学的組成物又は医薬品を提供する。
【0049】
本明細書では、当業者によく知られているいくつかの用語が用いられる。それにもかかわらず、明確にするために、これらの用語のいくつかを以下に定義する。
【0050】
本明細書で使用する場合、「IgG2抗体」という用語は、IgG2定常重(CH)領域(すなわち、CH1、CH2及びCH3ドメインが、IgG2 CH1、CH2及びCH3ドメインであり、各ドメインが、独立して、例えば、Wines BD et al.,2016(前掲)において以前に詳細に記載されている野生型ヒト配列としての野生型配列と同一であるか、又は野生型配列に対して少なくとも95%、好ましくは少なくとも98%の同一性を示すアミノ酸配列を含む)を含む任意の重鎖ポリペプチドであって、抗体が、IgG2 Fcドメインを含む「IgG2骨格」を含み、例えば、可変重鎖(VH)領域がIgG2 CH領域と同じ種に由来しても、しなくてもよい別の免疫グロブリンクラス又はサブクラス(例えば、IgA、IgE、IgG1など)の抗体に由来するキメラ重鎖ポリペプチドを含む抗体を含むような、任意の重鎖ポリペプチドを指す(例えば、IgG2抗体は、ヒトIgG2 CH領域及びマウスIgE VH領域を含む重鎖ポリペプチドを含み得る)。更に、「IgG2抗体」は、IgG2又は任意の他の免疫グロブリンクラス若しくはサブクラスに由来する定常軽(CL)領域及び/又は可変軽(VL)領域を含む軽鎖ポリペプチドを含んでもよく、又は軽鎖ポリペプチドがキメラであり、当該領域の一方は、1つの免疫グロブリンクラス又はサブクラスからの抗体に由来し、当該領域の他方は、別の免疫グロブリンクラス又はサブクラスからの抗体に由来することが理解されるべきである(例えば、IgG2抗体は、ヒトIgΚ CL領域と、IgE由来のVL領域と、を含む軽鎖ポリペプチドを含み得る)。
【0051】
「標的」という用語、並びに「標的化された(targeted)」及び「標的とする(targeting)」などのその派生語は、用語が使用される文脈により当業者によって十分に理解されるであろう。例えば、「標的」は、作用又はプロセスが対象とする何かを指すものとして理解されるであろう。例えば、抗体の特徴/活性の文脈で本明細書で使用される場合、「標的抗原」は、その抗体が結合する抗原を指すものとして理解され、同様に、何かを「標的とする」ことは、抗体(又は他の免疫療法用分子)が、その何か(例えば、抗原、免疫チェックポイント、受容体など)に結合するように調製されることであることが理解されるであろう。
【0052】
本明細書で使用される場合、2つのアミノ酸配列間の「%同一性」という用語は、Karlin S and SF Altschul,Proc Natl Acad Sci U S A 87:2264-2268,1990に記載され、Karlin S and SF Altschul,Proc Natl Acad Sci U S A 90:5873-5877,1993におけるように修正されたようなものなどの数学的アルゴリズムを使用して計算されたと理解される配列同一性パーセンテージを指す。そのようなアルゴリズムは、Altschul SF et al.,J Mol Biol 215:403-410,1990のNBLAST及びXBLASTプログラムに組み込まれる。BLASTタンパク質検索は、デフォルトパラメータを使用してXBLASTプログラムで実行できる(ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/を参照されたい)。2つのアミノ酸配列間の配列同一性パーセンテージを決定するために、数学的アルゴリズムは、最適な比較目的のために配列をアラインメントし、配列が共有する同一位置の数の関数として、配列間のパーセント同一性を計算し得る(すなわち、パーセント同一性=同一位置の数/位置(例えば、重複位置)の総数×100)。
【0053】
本明細書で使用される場合、「治療する(treating)」という用語は、疾患又は状態の確立された症状の予防及び緩和を含む。したがって、疾患又は状態を「治療する」という行為は、(1)疾患又は状態に罹患しているか、又はその傾向がある対象において発症する疾患又は状態の臨床症状の出現を予防するか、又は遅延させること、(2)疾患又は状態を阻害すること(すなわち、維持治療の場合には疾患若しくは状態又はその再発、又は少なくとも1つのその臨床的若しくは無臨床的症状の発症を阻止するか、低減するか、又は遅延させること)、並びに(3)疾患又は状態を軽減又は減弱させること(すなわち、疾患若しくは状態又はその臨床的若しくは無臨床的症状のうちの少なくとも1つの退行を引き起こすこと)を含む。
【0054】
本明細書で使用される場合、「医薬品の製造」という語句は、第1の態様で直接医薬品として定義されるような、又は第1の態様で定義されるような1つ以上の免疫療法用タンパク質を含む医薬品の製造の任意の段階での、1つ以上の免疫療法用タンパク質の使用を含む。
【0055】
「有効量」という用語は、有益な又は所望の臨床結果をもたらすのに十分な量である。有効量は、1回以上の投与で投与することができる。典型的には、有効量は、疾患若しくは状態を治療するのに十分であるか、又はそうでなければ、疾患若しくは状態を緩和するか、改善するか、安定化させるか、逆転させるか、遅延させるか、又はその進行を遅らせるのに十分である。例としてのみ、変異型IgG2抗体などの免疫療法用タンパク質の有効量は、1日当たり約0.1~約250mg/kg体重、より好ましくは1日当たり約0.1~約100mg/kg体重、更により好ましくは1日当たり約0.1~約25mg/kg体重を含み得る。しかしながら、上記にかかわらず、有効量は変化し得、治療される対象の年齢、体重、性別、及び/又は健康、特定のタンパク質の活性、特定のタンパク質の代謝安定性及び作用時間、特定のタンパク質の投与経路及び時間、特定のタンパク質の排泄速度、並びに例えば、治療される疾患又は状態の重症度を含む、様々な要因に依存してもよいことが、当業者によって理解されるであろう。
【0056】
免疫療法用タンパク質は、治療される特定の疾患又は状態の治療のための1つ以上の追加の薬剤と組み合わせて投与されてもよい。例えば、免疫療法用タンパク質は、アレルギー性疾患を治療するための他の薬剤(例えば、抗ヒスタミン薬(静脈内に(iv)投与されるもの、コルチゾン及び/又はアルブテロールなどのベータ-アゴニスト薬を含む))と併用されてもよく、又は増殖性疾患の治療との関連では、免疫療法用タンパク質は、がんを治療するための他の薬剤(例えば、シスプラチン、ゲムシタビン、シトシンアラビノシド、ドキソルビシン、エピルビシン、タキソールを含むタキソイド、エトポシドなどのトポイソメラーゼ阻害剤、タモキシフェンなどの細胞増殖抑制剤、アロマターゼ阻害剤(例えば、アナストロゾール)、及び成長因子機能の阻害剤(例えば、抗erbB2抗体トラスツズマブ(Herceptin(商標))などの抗体)などの抗腫瘍性薬を含む)と併用されてもよい。
【0057】
他の薬剤と併用される場合、免疫療法用タンパク質は、同じ薬学的組成物で、又は別個の薬学的組成物で投与され得る。別個の薬学的組成物で投与される場合、免疫療法用タンパク質及び他の薬剤は、同時に、又は任意の順序で連続的に(例えば、数秒以内、又は数分以内、又は数時間(例えば、2~48時間)以内)投与されてもよい。
【0058】
免疫療法用タンパク質は、薬学的に許容される担体、希釈剤、及び/又は賦形剤とともに、薬学的組成物に製剤化され得る。好適な担体及び希釈剤の例は、当業者には周知であり、例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences,Mack Publishing Co.,Easton,PA 1995に記載されている。本明細書に記載の様々な異なる形態の薬学的組成物に好適な賦形剤の例は、the Handbook of Pharmaceutical Excipients,2nd Edition,(1994),Edited by A Wade and PJ Wellerに見出され得る。好適な担体の例としては、ラクトース、デンプン、グルコース、メチルセルロース、ステアリン酸マグネシウム、マンニトール、ソルビトールなどが挙げられる。好適な希釈剤の例としては、エタノール、グリセロール、及び水が挙げられる。担体、希釈剤、及び/又は賦形剤の選択は、意図される投与経路及び標準的な医薬的慣習に関して行われ得る。
【0059】
第1の態様で定義される免疫療法用タンパク質を含む薬学的組成物は、任意の好適な結合剤、潤滑剤、懸濁化剤、コーティング剤、及び可溶化剤を更に含んでもよい。好適な結合剤の例としては、デンプン、ゼラチン、グルコース等の天然糖、無水ラクトース、遊離ラクトース、ベータ-ラクトース、トウモロコシ甘味料、アカシア、トラガカント又はアルギン酸ナトリウムなどの天然及び合成ガム、カルボキシメチルセルロース及びポリエチレングリコールが挙げられる。好適な潤滑剤の例としては、オレイン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、安息香酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウムなどが挙げられる。防腐剤、安定剤、及び更には染料を薬学的組成物中に提供してもよい。防腐剤の例としては、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸、及びp-ヒドロキシ安息香酸のエステルが挙げられる。酸化防止剤及び懸濁剤も使用してもよい。
【0060】
第1の態様で定義される免疫療法用タンパク質を含む薬学的組成物は、典型的には、静脈内又は皮下投与に適合される。したがって、薬学的組成物は、対象に注入してもよく、滅菌又は滅菌可能な溶液から調製される溶液又はエマルションを含み得る。薬学的組成物は、単位投薬形態(すなわち、単位用量、又は単位用量の複数ユニット若しくはサブユニットを含む別個の部分の形態)で製剤化され得る。
【0061】
本開示の方法、使用、及び薬学的組成物は、以下の非限定的な例を参照して、以下で更に説明される。
【実施例】
【0062】
実施例1
方法及び材料
抗体及び試薬
ウサギ抗ヒトIgE(Dako Agilent、Santa Clara,CA<United States of America)のF(ab’)2断片を、Current Protocols in Immunology,Andrew SM and JA Titus,Chapter 2:Unit 2.8,2001に記載されているように、ペプシン消化物によって産生した。簡単に述べると、ウサギ抗体を消化緩衝液(0.2M NaOAc、pH4.0)に対して透析し、次に、消化緩衝液中の等容量のペプシン(0.1mg/ml)(Sigma-Aldrich、St Louis,MO,United States of America)を添加して37℃で一晩インキュベートした。2MのTris塩基(pH8.0)10%(v/v)を添加することによって消化を停止し、次に消化物をリン酸緩衝生理食塩水(PBS、pH8.0)に対して透析した。ハプテン2,4,6-トリニトロフェニル(TNP)を、水中10%2,4,6-トリニトロベンゼンスルホン酸(Sigma-Aldrich)とともにインキュベートすることによって、ウサギ抗ヒトIgE(抗IgE-TNP)、蜂毒アレルゲン(Api m 1-TNP)のF(ab’)2断片に、又はウシ血清アルブミン(BSA-TNP)にコンジュゲートし、室温で90分間0.1Mホウ酸塩(pH7.0)で1/20に希釈し、次いでPBS(pH7.0)に対して透析した。
【0063】
ヒトドナー
健康なドナー及びアレルギー患者を動員し、血液試料を採取した。蜜蜂毒アレルギーを呈した患者を、ImmunoCAP(Phadia、Uppsala,Sweden)によって関連するアレルゲンに対するIgE反応性について試験した。
【0064】
細胞表面FcγRの発現
ヒトFcγRを、内因性マウスFc受容体を欠くマウスB細胞株IIA1.6中で発現させた。ヒトFcγRIIa-H131、FcγRIIa-R131及びFcγRIIbを発現する細胞は、以前に記載されている(例えば、Powell MS et al.,J Immunol 176(12):7489-7494,2006、Ramsland PA et al.,J Immunol 187(6):3208-3217,2011、及びTrist HM et al.,J Immunol 192(2):792-803,2014)。ヒトFcγRIIIa(GenBank:受託NP_001121065)対立遺伝子形態V158及びF158並びにヒトFcγRI(Allen JM and B Seed,Science 243(4889):378-381,1989)を発現する細胞株を、FcγRIIaについて記載されるように生成した(Powell et al.,2006(前掲))。簡潔に述べると、受容体cDNAを、標準的な分子生物学技術を使用してGatewayエントリープラスミドpENTR1A(Invitrogen Corporation、Waltham,MA,United States of America)に別々にクローニングし、続いてGateway LRをネオマイシン耐性カセットを含有するGateway適合pMXI発現ベクターにクローニングした(Wines B et al.,J Biol Chem 279(25):26339-26345,2004)。レトロウイルスをPhoenixパッケージング細胞株(Powell et al.,2006(前掲))を使用して生成し、IIA1.6細胞株を形質導入してFcγRIIIa又はFcγRIの発現するために使用した。次いで、ヒトFcRγ鎖を既に発現しているIIA1.6細胞(Wines et al.,2004(前掲))をFcγRI又はFcγRIIIレトロウイルスのいずれかで形質導入して、FcRγ/FcγRI又はFcRγ/FcγRIIIを共発現する細胞株を作製した。形質導入細胞集団上での受容体の発現を、受容体特異的抗体のビオチン化Fab又はF(ab’)2断片及びストレプトアビジン-APC(1/500)を使用して評価した。使用された抗Fc受容体抗体は、FcγRIIa(IV-3 Fab-ビオチン断片)、FcγRIIb(H2B6 F(ab’)2-ビオチン)、FcγRI(32.2 F(ab’)2-ビオチン)、FcγRIIIa(3G8 F(ab’)2-ビオチン)、及びFcRγ-EGFP(緑色蛍光タンパク質)であり、FITCチャネル内で検出した。
【0065】
抗TNPヒトIgG及び変異型抗TNPヒトIgGプラスミド構築物の産生 マウス抗トリニトロフェニル(抗TNP)抗体TIB142の可変重(VH)及び軽(VL)領域配列と、ヒトIgGサブクラスからの定常重(CH)領域からの配列と、からなるキメラ抗TNPヒトIgG抗体構築物については、以前に詳細に説明されている-IgG1(Patel D et al.,J Immunol 184(11):6283-6292,2010)、hIgG2及びhIgG4(Wines BD et al.,2016(前掲))。これには、正常なIgG4のCPSC配列をCPPCに変換することによる、IgG4ベースの変異体のコアヒンジの安定化が含まれ、これは、半分子交換を防止する。全てのキメラ抗体配列をpCR3ベクターにサブクローニングした。変異を、標準的な分子生物学技術を使用して、IgG定常重鎖(CH)cDNA配列内に作製し、表1に列挙した。
【表1】
【0066】
IgG2-FEGG-SELF及びIgG2-FLGG-SELFについてのIgG重鎖ポリペプチド(CH)の定常領域をコードするcDNA配列を表2に提供し、これらは、可変重(VH)領域についてのcDNA配列にライゲーションして示している。マウス(抗TNP)抗体の可変軽(VL)領域についてのcDNA配列も提供される。
【表2】
【0067】
抗ヒトIgE及び変異型抗ヒトIgEプラスミド構築物の産生
抗ヒトIgE抗体構築物は、療法用mAbであるオマリズマブ(ThermoFisher、GeneArt,Waltham,MA,United States of America)の可変重(VH)領域及び軽鎖領域配列をコードする合成DNAを含んでいた。H鎖構築物は、IgG4及びIgG2バリアントについてのVH cDNA配列及び定常ドメイン配列を含んでいた。IgG重鎖及び軽鎖についてのDNAを、発現ベクターpCR3又はpcDNA3.4にサブクローニングした。結合に影響を及ぼすIgG2定常重鎖(CH)cDNA配列の変異を表1に列挙した。
【0068】
IgG重鎖ポリペプチド(CH)又は抗IgE軽鎖(CL)の定常領域、IgG4、並びにIgG2-FEGG-SELF及びIgG2-FLGG-SELFをコードするcDNA配列を表3に提供し、これらは、可変重(VH)領域についてのcDNA配列にライゲーションして示している。抗IgE抗体軽鎖についてのcDNA配列も提供する。
【表3】
【0069】
Expi293細胞によるヒトIgG及び変異型IgGタンパク質の発現及び産生
ヒトIgG及び変異型ヒトIgGを、前述のように、Expi293ヒト胚性腎細胞において産生した(Wines et al.,2016(前掲))。簡潔に述べると、Expi293細胞を、細胞成長及びタンパク質産生の両方のためにExpi293発現培地(Gibco、Waltham,MA,United States of America)中に維持した。細胞を、Expifectamineトランスフェクションキット(Life Technologies Corporation、Carlsbad,CA,United States of America)を使用して、Opti-MEM I還元血清培地(Gibco)中で希釈したIgG重鎖プラスミド(15ug)及び軽鎖プラスミド(15μg)と同時にトランスフェクションし、次いで4日間培養した。培養上清を遠心分離によって清澄化し、0.2μmフィルターを通して濾過し、その後、IgGをHi-Trap HPタンパク質Aカラム(GE Healthcare Life Sciences、Marlborough,MA,United States of America)を使用してアフィニティークロマトグラフィーによって精製し、0.1Mのクエン酸(pH3.5)で溶出し、続いて1MのTris-HCl(pH9.0)で中和し、PBS(pH7.5)に対する透析を行った。任意の凝集体を、Superose 6 10/300GLカラム(GE Healthcare Biosciences)上で後続のゲル濾過によって除去し、単量体IgGピーク画分を収集した。記載されるように、全ての抗体調製物の抗原結合活性を、ELISAによってBSA-TNP上で試験した(Wines et al,2016(前掲))。
【0070】
細胞表面FcγRへのIgG結合のフローサイトメトリー測定
抗体FcγR結合を、免疫複合体又は単量体IgGのいずれかを使用して測定した。免疫複合体は、抗TNP抗体(親又は変異型抗TNP IgG)をTNP-BSAと2:1の比(40μg/ml:20μg/ml)で37℃で30分間、次いで4℃で10分間インキュベートすることによって生成した。フローサイトメトリー結合分析において、複合体又は単量体IgGを、示された濃度で、PBS/BSA緩衝液中の25μlのFcγR発現細胞(5×106/ml)に添加し、氷上で1時間インキュベートし、2回洗浄し、氷上で1時間、ヤギ抗ヒトIgG F(ab’)2特異的ヤギ抗血清のAlexa 647コンジュゲートF(ab’)2断片50ul(Jackson ImmunoResearch Laboratories、West Grove,PA,United States of America)(緩衝液で1/400希釈)に再懸濁した。細胞を2回洗浄し、200μlのPBS/0.5%のBSA及び10,000個の生細胞に再懸濁し、少なくとも3つの実験で分析した。単量体IgG結合(MFI)を単一結合部位モデルに適合させて、結合親和性(KA)を測定した。同様に、免疫複合体結合は、みかけの親和性(KA
app)として報告される。
【0071】
Bio-Layer Interferometry(OCTET)を使用したIgG:FcR相互作用の親和性測定
TNP-BSAを、製造業者の指示に従ってEZ-link(商標)ビオチン化試薬(ThermoFisher Scientific)と反応させた。得られたTNP-BSA-ビオチン(5μg/ml、30秒)を、Octet Red96(ForteBio;Molecular Devices LLC、San Jose,CA,United States of America)を使用してストレプトアビジンBLIプローブ上で約0.8nmまで捕捉し、次いで、抗TNP IgG(4μg/ml、75秒)を充填した。ベースラインを確立し(60秒)、続いて、rsFcγRIIa-R131又はrsFcγRIIbの濃度系列(15nM~20μM)の会合及び解離を行った(90秒)。各初期反応TNP-BSA-ビオチン捕捉後の再生及びその後の結合サイクルには、10mMのHClを使用した。センソグラム(Sensogram)を1:1のラングミュア結合モデルに充填するか、又は会合サイクルの終了時の結合応答を定常状態親和性に適合させた。
【0072】
蜜蜂毒アレルゲンの製造及び精製:Api m 1
蜜蜂(Apis mellifera)毒からの主要なアレルゲン:ホスホリパーゼA2(Api m 1)(GenBank X16709、アレルゲン名:Api m 1)を製造業者の指示(Gibco)に従って、懸濁液適合昆虫細胞株Spodoptera frugiperda Sf21で製造した。簡潔に述べると、Sf21細胞を、成長、ウイルス産生及びタンパク質産生のために、Sf-900 II SFM培地中で27℃で維持した。3’ヘキサ-Hisタグを有する完全長Api m 1をコードするcDNAをドナープラスミドpFastBacにクローニングし、次いでDH10Bac E.coliにトランスフェクトした。得られたバクミドDNAをDH10Bac E.coli細胞から精製し、Sf21細胞にトランスフェクトした。次いで、組換えバキュロウイルスを使用してSf21細胞に感染させ、分泌したApi m 1を、Talon Superflow Metal Affinityクロマトグラフィー(Clontech、Mountain View,CA,United States of America)によって細胞培養上清から精製した。
【0073】
好塩基球活性化試験(BAT)
BATアッセイを、2つの細胞源のいずれか、すなわち、全(未加工)血又はDMEM/0.1% BSAで2回洗浄した血液を使用して、前述のように(Drew AC et al.,J Immunol 173(9):5872-5879,2004)実行した。好塩基球を、IgG mAbの存在下又は非存在下で、ハプテン化(TNP)ウサギF(ab’)2抗ヒトIgE(抗IgE-TNP)又はハプテン化蜂毒アレルゲン(Api m 1-TNP)を使用して刺激した。簡潔に述べると、健康なドナー又はアレルギー患者のいずれかからの100μlのヘパリン化ヒト全血を、20μlの刺激緩衝液(133mMのNaCl、20mMのHepes、7mMのCaCl2、5mMのKCl、3.5mMのMgCl2、1mg/mlのBSA、20μl/mlのヘパリン、2ng/mlのIL3、pH7.4)とともに37℃で10分間インキュベートした。次いで、試料を、抗TNP hIgGと予め複合化されていた(37℃で30分間)100μlの抗hIgE-TNP(20μg/ml)又はApi m 1-TNP(4μg/ml)のいずれかを添加することによって、37℃で20分間刺激した。バックグラウンド刺激を、100μlの刺激緩衝液単独を添加することによって判定した。刺激のための陽性対照としては、N-ホルミル-Met-Leu-Phe(fMLP、9ug/ml)(Sigma-Aldrich)又は無傷のウサギ抗ヒトIgE(10μg/ml)(Dako Agilent、Santa Clara,CA,United States of America)のいずれかを利用した。アッセイを氷上で5分間インキュベーションすることによって終了させ、次いで正常なヤギ血清を添加した(10μl)(Sigma-Aldrich)。刺激応答をフローサイトメトリーによって定量した。したがって、刺激後、細胞を、マウス抗ヒトCD63-PE(2ul/試験)(BD Biosciences、Franklin Lakes,NJ,United States of America)、マウス抗ヒトIgE-FITC(3ul/試験)(eBioscience,San Diego,CA,United States of America)及びマウス抗ヒトCD203c-APC(5ul/試験)(Miltenyi Biotec、Auburn,CA,United States of America)を添加することによって、氷上で40分間染色した。染色後、2mlの溶解溶液(154mMのNH4Cl、10mMのKHCO2、0.8mMのEDTA)とともに室温で10分間2回インキュベートし、遠心分離(250×g、5分)を行うことによって、赤血球(RBC)を溶解した。細胞ペレットを3mlの洗浄緩衝液(133mMのNaCl、20mMのHepes、5mMのKCl、0.27mMのEDTA、pH7.3)で洗浄し、7-アミノアクチノマイシンD(2μl/試験)(BD Biosciences)を含有する200μlの洗浄緩衝液中にフローサイトメトリー分析のために再懸濁して、非生細胞を除外した。
【0074】
FACS CantoIIサイトメーター上で細胞を解析し、Flowlogic解析ソフトウェアを使用して蛍光データを解析した。使用されたゲーティング戦略は以下の通りである。洗浄した血液又は全血細胞を、好塩基球集団を含むように前方散乱及び側方散乱でゲーティングし、続いて、7AAD陽性細胞の除外に基づいて生細胞ゲーティングを行った。好塩基球を、高IgE発現(FITC高)及びCD203c(APC陽性)細胞として同定し、次いで、CD63陰性ゲート(刺激緩衝液単独)及びCD63陽性ゲート(抗ヒトIgE又はfMLPで刺激)を設定するために使用した。活性化された好塩基球は、CD63陽性ゲート内の細胞として同定した。好塩基球活性化の阻害%は、Api m 1-TNP又は抗IgE-TNP刺激単独と比較した、Api m 1-TNP又は抗IgE-TNP:IgG複合体によって誘導されるCD63陽性細胞の%減少として計算した。
【0075】
好塩基球活性化試験(BAT)におけるFcγRIIb阻害作用の遮断
FcγRIIbとBAT中の抗IgE-TNP:IgG複合体との相互作用は、上記のようにBAT中の抗IgE-TNP:IgGを添加する前に、FcγRIIb特異的遮断mAbであるH2B6のF(ab’)2断片との細胞のインキュベーションによって遮断された。簡潔に述べると、10μlの抗H2B6 F(ab’)2(最終濃度7.5μg/ml)又は刺激緩衝液単独を90μlの洗浄した血液に添加し、氷上で30分間インキュベートした後、抗IgE-TNP又は抗IgE-TNP:IgG(最終濃度5μg/ml)を使用してBATを実行し、%好塩基球活性化を測定した。
【0076】
ヒト高親和性FcεRI複合体と阻害性hFcγRIIbとの細胞表面共発現 阻害性FcγRIIbとともにFcεRI複合体(FcεRIα、β、γ)を発現する細胞を、介在するピコルナウイルスリボソームスキッピング2Aペプチドによって中断された各FcR又はサブユニットをコードするコドン最適化cDNAによるIIA1.6細胞の形質導入によって生成した(Szymczak AL et al.,Nat Biotechnol 22(5):589-594,2004)。配列は、FcεRIα-P2A-FcεRIβ-T2A-FcεRIγ-F2A-FcγRIIb-翻訳停止の順序であった。これを、配列検証済みの2863bp合成DNA(ThermoFisher、GeneArt,Waltham,MA,United States of America)として、隣接するゲートウェイattB1及びattB2部位を用いて合成した。合成DNAをゲートウェイ適合マウス白血病ウイルス発現ベクターpMXI-neoにサブクローニングした。Phoenixパッケージング株の一過性トランスフェクション及びFcR欠損マウスIIA1.6細胞株の感染を、前述のように実行した(Powell et al.,2006(前掲))。
【0077】
IgE誘導性カルシウム動員
阻害性hFcγRIIbとhFcεRI(α、β、γ)複合体とを共発現するIIA1.6細胞を、0.5μg/mlのIgE(JW8/5/13マウス/ヒトキメラ抗NP IgE)(Bruggemann Μ et al.,J Exp Med 166:1351-1361,1987)とともに一晩インキュベーションすることによってIgEで感作した。翌日、細胞を20μg/mlの抗IgE-T単独で刺激したか、又は抗TNP IgG mAb(最終濃度、35μg/ml)と複合化し、カルシウム動員を測定した(Anania JC et al.,2018(前掲))。
【0078】
キメラ抗NP IgE BCRと阻害性hFcγRIIbとの細胞表面共発現
マウスVドメイン(並びに膜貫通及び細胞質ドメインを含むヒト細胞表面IgE重鎖)と、軽鎖と、を含むJW8/5/13マウス/ヒトキメラ抗NP(4-ヒドロキシ-3-ニトロフェニルアセチル)IgE BCRを発現し、かつ阻害性FcγRIIbを共発現するレポーター細胞を、ピコルナウイルスリボソームスキッピングP2A及びF2Aペプチドによって分離された軽鎖、IgE重鎖及びFcγRIIb1を含む単一のポリタンパク質をコードするコドン最適化cDNAによるIIA1.6細胞の形質導入によって生成した(Szymczak AL et al.,Nat Biotechnol 22(5):589-594,2004)。したがって、ポリタンパク質をコードするDNA配列を、抗NP IgE軽鎖cDNA、次いでP2Aペプチド、次いでIgE重鎖、次いでF2Aペプチド、次いでFcγRIIb1、及び次いで翻訳停止で構成した。マウス/ヒトキメラ抗NP重鎖配列は、適切に接合されたJW8/5/13抗NP IgE DNA配列(Bruggemann Μ et al.,J Exp Med 166:1351-1361,1987)と、配列受託番号X63693.1(H.sapiens生殖細胞系選択的スプライシングIgE重鎖DNA)と、を含んでいた。これを、配列検証済みの合成DNA(ThermoFisher、GeneArt)として、隣接するゲートウェイattB1及びattB2部位を用いて合成した。合成DNAをGateway適合マウス白血病ウイルス発現ベクターpMXI-neoにサブクローニングした。Phoenixパッケージング株の一過性トランスフェクション及びFcR欠損マウスIIA1.6 B細胞株の感染を、前述のように実行した(Powell et al.,2006(前掲))。
【0079】
IgE B細胞受容体(BCR)誘導性カルシウム動員
抗NP表面IgE及び阻害性hFcγRIIbを共発現するIIA1.6細胞にカルシウムインジケータFura-2を充填し、IgE特異的療法用mAbであるオマリズマブ又は変異体、すなわち、IgG4として、IgG2、IgG2-FEGG、IgG2-FLGG、IgG2-FEGG-S267E-L328F、IgG2-FLGG-S267E-L328F-としてフォーマットされたオマリズマブ(1μg/ml)、続いてNP関連抗原であるNIP(22)BSA(BSA分子1個当たり平均22個の4-ヒドロキシ-3-ヨード-5-ニトロフェニルアセチル基で誘導体化されたウシ血清アルブミン)とともにインキュベートした。カルシウム動員を測定した(Anania JC et al.,2018(前掲))。
【0080】
結果
修飾Fcを有する変異型IgG2抗体は、強力な特異的好塩基球阻害剤を生成する。
IgG4及びIgG1(表1)からの配列エレメント用の足場としてIgG2を使用して、IgGサブクラス間で異なり、FcγRとの重要な接触部である下部ヒンジ領域に焦点を当てて、一連の阻害性mAbを開発した。特に、IgG2下部ヒンジのVAGを、IgG4からのFLGG(IgG2-FLGG)又はIgG1からのLLGG(IgG2-LLGG)のいずれかで置き換えた。変異型IgG2 mAbを、細胞表面上で発現される異なるヒトFcγRに対するそれらのFcγR結合特異性について評価した。結果を
図1に示す。
【0081】
細胞表面上のヒトFcγRと変異型IgGの相互作用をフローサイトメトリーによって評価し、親IgG2又はIgG4の結合、並びに全てのヒトFcγRの「普遍的な」リガンドであるIgG1と比較した。低親和性ヒトFcγR(FcγRIIb、FcγRIIa、及びFcγRIII)への結合を、免疫複合体を使用して実行した(
図1A~E)。高親和性FcγRIへの結合を、単量体IgGを使用して測定した(
図1F)。親IgG分子の各々は、期待される特異性を示した(すなわち、全ての受容体に結合した複合化IgG1、IgG2は、阻害性FcγRIIbのみに結合したFcγRIIa-H
131及びIgG4複合体を除いて、任意のFcγRに結合することができなかった)。IgG2ではなく、複合化されていない単量体IgG1及びIgG4が、高親和性FcγRIに結合した。
【0082】
IgG2-LLGG又はIgG2-FLGG mAb FcγR結合プロファイルは、IgG2とはかなり異なり、IgG2-FLGGの場合にはIgG4とも異なることが見出された(
図1A~E)。IgG2-LLGG mAbは、親IgG1と同等の特異性プロファイルを示した(
図1A~E)。
したがって、IgG2中の下部ヒンジのみの置き換えは、阻害性FcγRIIbへの結合を含むIgG1様結合を付与するのに十分であった。更に、IgG2-FLGGの受容体結合プロファイルは、両方の親IgGとは異なっている(
図1)。特に、この変異型mAbは、阻害性FcγRIIbへの有意に増強された結合、並びにIgG4と比較してより広い特異性を示し、IgG2にもIgG4にも結合しないFcγRIIIa対立遺伝子形態の両方、並びに通常、IgG2及びIgG4の貧弱な結合剤でもあるFcγRIIa-R
131にも貪欲に結合した。FcγRIIa-H
131への結合は、おそらくIgG2骨格からの寄与である。しかしながら、単量体IgG4と同様に、単量体IgG2-FLGGは、IgG2に結合しない高親和性FcγRIに結合した(
図1F)。
【0083】
変異型IgG2抗体は、Api m 1アレルゲン誘導性好塩基球活性化を阻害する
また、変異型IgG2 mAbを、IgEによるアレルギー性好塩基球活性化のFcγRIIb依存性阻害を媒介する能力について評価した。特に、IgG2-FLGG、IgG4-LLGG及びIgG2-LLGG抗体を、IgE+アトピー性個体(蜜蜂毒アレルギー患者)からの好塩基球のFcεRI活性化を調節するそれらの能力について、親IgG2、IgG4、及びIgG1と比較した。洗浄した血液中の好塩基球を、抗TNP IgG2又はIgG4 mAbの存在下で、主要な蜜蜂毒アレルゲンであるホスホリパーゼA2(Api m 1-TNP)で刺激した。結果を
図2に示す。
【0084】
最も驚くべきことに、Api m 1誘導性好塩基球活性化のほぼ完全な阻害は、IgG2-LLGG及びIgG2-FLGGによって媒介された(それぞれ81%及び85%阻害)が、予想通り、FcγRIIbに結合しない親IgG2は、Api m 1応答を阻害しなかった。驚くべきことに、いずれもFcγRIIbに貪欲に結合する親IgG4及びIgG1は、使用される最高濃度(2μg/ml)でそれぞれ42%及び45%の阻害しか達成しない比較的弱い阻害を示した。
【0085】
下部ヒンジの変異は、FcγRIIbに対するmAb特異性を改善する
FcγRIIb相互作用に対する特異性は、下部ヒンジの更なる変異によって更に改良され(
図1)、洗浄した血液(すなわち、血漿を含まない)又は全血(すなわち、生理学的レベルのIgGを含有する)を使用して、BATアッセイにおける効力について評価した。その結果を
図2、3、及び7に示す。
【0086】
まず、L235Eの点変異を親IgG4-WTとIgG2-FLGG mAbの下部ヒンジ配列のFLGGに導入し、それぞれIgG4-FEGGとIgG2-FEGGを作製した。この変異は、一般にFcγR結合を除去すると記載されており(Alegre ML et al.,J Immunol 148(11):3461-3468,1992)、いくつかの抗体におけるFcγR結合の不活性化のために使用されている(Reddy MP et al.,J Immunol 164(4):1925-1933,2000)。しかしながら、ここでは、FcγRIIbへの結合が保持されることが見出された。
【0087】
IgG2-FEGG及びIgG4-FEGGにおけるL
235E変異は、元の修飾されていないIgG2-FLGG及びIgG4-WTのFcγRIへの結合を、親IgG2-WTのほぼベースラインレベルまで除去した(
図1F)。他の骨格依存性の違いも明らかであった。IgG2骨格上で、IgG2-FEGG及びIgG2-FLGG変異体は、FcγRIIbだけでなく、FcγRIIa-H
131及びR
131対立遺伝子にも容易に結合する能力を含む類似の低親和性FcγR結合プロファイルを示し(
図1A~E)、FcγRIIIaの両方の対立遺伝子へのIgG2-FEGGの結合は、比較的わずかしか低下しなかった(
図1D、E)。しかしながら、このことは、IgG4-FEGG mAbにおけるIgG4骨格に対する同じ変異の影響とは著しく対照的であり(
図1)、SELF変異との関連では結合が大幅に減少した(
図5F)。
【0088】
次に、変異体を洗浄した血液BAT(
図2)で評価した。ここで、FcγRIIbへの明らかな優先的かつ改善された結合にもかかわらず(
図1Aを参照)、IgG4-FEGGは、好塩基球活性化の抑制レベルが驚くほど弱い(42%)ことを示し、これはIgG4-WT(45%)と実質的に同等であった。対照的に、IgG2骨格上の同等の配列であるIgG2-FEGG抗体は、元のIgG2-FLGG変異体及びIgG2-LLGGでも見られるより強力な阻害を保持した(
図2)。
【0089】
改善されたmAb親和性及び阻害効力のためのCH2の修飾
FcγRIIb特異性を更に改善するために、FcドメインのCH2中の2つの残基を追加的に修飾した(表1を参照)。特に、IgG1骨格で使用されている2つの変異S
267E及びL
328F(SELF)(Chu SY et al.,Mol Immunol 45(15):3926-3933,2008)を、IgG2及びIgG4ベースのmAb、IgG2-FLGG、IgG2-FEGG及びIgG4-FEGG、並びに親IgG4抗体に導入した。次いで、抗体を、アレルゲン特異的(
図3)及び抗IgE BAT(
図7)において特異性(
図4~6を参照されたい)及び阻害効力について試験した。いくつかの効果が明らかになった。すなわち、SELF変異の導入により、単量体IgG(
図6)及び複合化IgG(
図5)の両方の結合の親和性が有意な増加(70倍超の増加)し、特異性が変化した。単量体IgG2-FLGG-SELF及びIgG2-FEGG-SELFは、それぞれ、細胞表面(K
A89及び32×10
6 M
-1)上で発現されるFcγRIIbへの高い親和性結合を示し(
図6A)、BLI分析(K
A103及び29×10
6 M
-1)(
図4及び表4)により、これらは、SELF変異を伴わない同等のmAbと比較して70~120倍増加した親和性である(
図4及び表4)。IgG1-SELF変異体は、以前に報告されたように高い親和性結合を示した(Chu SY et al.,Mol Immunol 45:3926-3933,2008)。特に、SELF変異を有するこれらの抗体は、細胞上の阻害性FcγRIIbに対するよりも、FcγRIIa-R
131に対してより高い結合親和性(4~6倍)を示した(
図6A、B、並びに
図4及び表4に示されるように、BLI分析によって確認される)。
【0090】
この新たに獲得した高い親和性結合は、免疫複合体の結合力の大幅な増加にも反映された(
図5)。加えて、元のIgG2-FLGG及びIgG2-FEGG mAbのFcγRIII形態への予期せぬ免疫複合体結合(
図1D、E)を、SELF変異によって除去した(
図5)。IgG2骨格上にSELF変異を含めることの影響は、同等のIgG4 mAbでも明らかであり(
図5)、FcγRIIb及びFcγRIIa-R
131に対する結合の増加は同様に示されたが、FcγRIIa-H
131に対する結合の増加は示されなかった。
【0091】
SELF変異によって誘導される低親和性FcγRとの相互作用の親和性及び特異性に対する大きな変化にもかかわらず、FcγRIとの相互作用は影響を受けず、IgG2-FLGG、IgG2-FLGG-SELFは、IgG1-SELF変異型抗体と同一の結合を示した(
図6F及び7D)。更に、重要なことに、IgG2-FEGG-SELF及びIgG4-FEGG-SELFにおけるSELF変異によって、元のIgG2-FEGG又はIg4-FEGGにおいて観察されたL235E変異によるFcγRI結合の除去が無効にならなかったことが見出された(
図1F)。したがって、この抗体変異の組み合わせは、より限定された特異性だけでなく、阻害性FcγRIIbへの強固な結合ももたらした。
【表4】
【0092】
アレルギー患者及び健康なドナーからの全血における好塩基球活性化の阻害 変異型IgG2 mAbも、全血におけるそれらの阻害効力について評価した。すなわち、2つの別個のIgE依存性刺激であるアレルゲンApi m 1-T(
図3)又は抗IgE-TNP(
図7)のいずれかを使用して、IgGの生理学的レベルの存在下で評価した。対応するIgG4変異体と比較して、IgG2ベースのmAb(
図7A)は、IgG4-mAb(
図7B)よりもアレルゲン誘導性活性化のより強力な阻害剤であった。実際、洗浄した血液における活性化を阻害したIgG4、IgG4-FEGG、及びIgG4-LLGG(
図2)は、全血における非常に低い阻害を示した(それぞれ8%、8%、13%の阻害)。対照的に、生理学的IgGの存在にもかかわらず、IgG4の下部ヒンジを含有し、低親和性でFcγRIIbに結合するIgG2-FLGGは、実質的な阻害を保持した(54%、IC
50=1.6μg/ml)。加えて、結果は、IgG2 mAbの効力が、CH2領域のSELF変異の包含によって大幅に増加したことを示した。例えば、IgG2-FLGG-SELF及びIgG2-FEGG-SELFの結合は、それぞれIC
50=0.24μg/ml及び0.38μg/mlに少なくとも6倍改善された。興味深いことに、SELF変異を有する変異型IgG2 mAbは、それらのIgG4下部ヒンジ当量よりも実質的に強力であった(例えば、IgG4-SELF IC
50=1.1μg/mlと比較して、IgG4下部ヒンジを有するIgG2-FLGG-SELF(IC
50=0.24μg/ml)、これは、IgG骨格の性質が、これらの操作された抗体における阻害効力を決定する重要な要因であることを示している)。
【0093】
また、効力がアレルゲン系に固有のものでないことを確認するために、変異型IgG2 mAbを第2のIgE/FcεRI依存系において試験した。すなわち、抗IgE-TNPで刺激した全血中の好塩基球についてアッセイを行い、その結果、抗体によって媒介される阻害の相対的効力は、Api m 1-Tアレルゲン刺激を用いて見られるもの、すなわち、
【数1】
、及びIgG4骨格mAbについては、
【数2】
と同じであることが示された。したがって、含有する特定の変異型mAbが好塩基球の活性化を阻害する能力と、使用した他の抗体と比較したそのランキングは、好塩基球が抗hIgE-TNP断片又はApi m 1-TNPのどちらを介して活性化されたとしても同等であった。
【0094】
変異型IgG2抗体の阻害機能は、FcγRIIb遮断によって損なわれる。
血中好塩基球に対する阻害性FcγRIIb受容体の予想される発現(Kepley CL et al.,J Allergy Clin Immunol 106:337-348,2000)をフローサイトメトリーによって確認した(
図8Aを参照されたい)。IgG mAbによるIgE/FcεRI好塩基球活性化の阻害のFcγRIIb依存性を、FcγRIIb特異的mAbであるH2B6を使用して好塩基球上で発現されるFcγRIIbの遮断によって評価した(
図8B)。IgG2-FLGGの存在下での抗IgE-TNPによる刺激前のH2B6 F(ab’)2断片による全血の前処理により、IgG2-FLGGの効力が有意に低下した(
図8B)。
【0095】
FcεRI誘導性カルシウム動員の阻害
変異型IgG2抗体を、IgE:FcεRI誘導性カルシウム動員のFcγRIIb依存性調節についても試験した(
図8C)。FcγRIIbとFcεRI(αβγ2)複合体とを共発現する細胞を、親抗TNP IgG2又はIgG2ベースの抗TNP変異型mAbの存在下で、IgEで感作し、抗IgE-TNPで刺激した(
図8C)。mAbによるIgE/FcεRIカルシウム動員の阻害は、FcγRIIbに対するそれらの親和性と、好塩基球のアレルゲン又は抗IgE誘導活性化の両方におけるそれらの阻害の効力と相関していた(
図3及び8)。IgG2-FLGG-SELF及びIgG2-FEGG-SELF抗体は、カルシウム動員の最大の阻害を示し、応答の大きさ及び動態の同様の低下を引き起こした。興味深いことに、SELF変異を含有しなかったIgG2-FLGG抗体は、IgE/FcεRI Ca
2+応答の実質的な低下を依然として示し(
図8C)、これは全血における好塩基球活性化のその阻害とも一致する(
図3)。
【0096】
表面IgE、B細胞抗原受容体誘導性カルシウム動員の阻害
療法用mAbオマリズマブをIgG4及びIgG2抗体として再フォーマットし、これらを、抗原(NIP22BSA)誘導性カルシウム動員のFcγRIIb依存性調節について試験した(
図9及び
図10)。
【0097】
FcγRIIbとNP特異的細胞表面IgE BCRとを共発現するIIA1.6 B細胞を、療法用mAbオマリズマブ(IgG1 mAb)又はオマリズマブ変異型mAb(IgG4骨格を備えるか、又は本開示による変異型IgG2抗体として提供される)で処理し、その後、BCRをNP関連抗原NIP(22)BSA抗原で刺激した。IgG1オマリズマブ処理は、抗原(2回目の注射、NIP(22)BSA、
図9A)による後続のカルシウム動員を強く抑制した。IgG2変異型抗IgE処理は、NIP(22)BSA抗原(2回目の注射、
図9B)による後続のカルシウム動員を部分的にしか抑制しなかった。オマリズマブと同様であるが、IgG2対応物とは異なり、IgG4フォーマットされた抗IgEは、抗原刺激カルシウム動員を強く抑制した(
図9C)。これらの抑制活性は、IgG1及びIgG4が阻害性FcγRIIb1に係合する能力と相関するが、IgG2は、FcγRIIb1に結合することができない。
【0098】
BCRを標的とするmAbの抗原刺激に対する効果を、IgG2骨格を備えるオマリズマブの可変ドメインを含む抗IgE mAbを使用して、FcγRIIb1を共発現するIIA1.6 B細胞について評価した(
図10)。IgE BCR及びヒトFcγRIIb1をIgG2形態のオマリズマブと共発現するB細胞の処理は、緩衝液対照(2回目の注射、NIP(22)BSA、
図10A)と比較して、抗原(NIP)特異的hu-IgE BCR誘発カルシウムフラックスの部分的な抑制をもたらした。この部分的な抑制は、IgG2がFcγRIIbに結合しないため、FcγRIIb1とは無関係である。しかしながら、IgG2-FLGG抗体として提供されるオマリズマブによる処理は、抗原特異的hu-IgE BCR誘発カルシウムフラックス(2回目の注射、
図10B)を大幅に抑制した。また、IgG2-FEGG mAbとして提供されるオマリズマブは、抗原誘発カルシウムフラックス(2回目の注射、
図10C)も抑制したが、IgG2-FLGGフォーマットされたmAbよりも強力ではなかった。IgG2-FLGG-SELF mAbとして提供されるオマリズマブの形態は、抗原刺激応答(2回目の注射、
図10D)も抑制したが、IgG2-FEGG-SELF形態による抑制(
図10E)は、IgG-FLGG mAbのものと同等であった。全体として、IgE BCRの調節は、FLGG-SELF>FLGG~FEGG-SELF>FEGG>IgG2の階層を有し、これは、このIgG2フォーマットにおけるこれらの変異のFcγRIIb結合活性のランク順序と広く相関していた。
【0099】
考察
免疫チェックポイントの標的化は、疾患における白血球応答を調節するための重要な戦略として浮上している。FcγRIIbは、記載された最も初期の免疫チェックポイントのうちの1つである(Hibbs ML et al.,Proc Natl Acad Sci U S A 83:6980-6984,1986)。FcεRI、他の活性化型FcR、及びB細胞抗原受容体によって利用されるITAM依存性シグナル伝達経路のその調節は、自然免疫及び適応免疫における抗体依存性白血球機能を調節する。これには、IgE依存性好塩基球活性化の阻害(Cady CT et al.,Immunol Lett 130(1-2):57-65,2010)及びB細胞抗原受容体(Amigorena S et al.,Science 256:1808-1812,1992)が含まれる。本実施例で説明される研究では、下部ヒンジ配列を変異させることによってFcγRIIbの阻害効力を利用するように修飾されたFcγR特異性/親和性を有するmAbを開発するための足場として「機能的に不活性な」ヒトIgG2を使用できることが見出された。実際、このようにして、活性化型受容体FcεRIを調節し、それによってヒト好塩基球のIgE/FcεRIアレルゲン又は抗IgE活性化を阻害するように、FcγRIIbの阻害効力を利用することが可能であることが見出された。更に、そのような変異型IgG2抗体としての抗IgE mAbを提供することは、表面IgE B細胞受容体の抗原刺激の阻害に有効であった。
したがって、そのような変異型IgG2抗体は、アレルギー反応を治療又は予防するための新規のmAb治療薬の基礎としてかなりの期待を提供する。
【0100】
本明細書及び以下の特許請求の範囲全体を通して、文脈が別段の定めがない限り、「含む(comprise)」及び「含む(include)」、並びに「含む(comprising)」及び「含む(including)」などの変化形は、記載された整数又は整数群の包含を意味するが、任意の他の整数又は整数群の除外を意味するものではないことが理解されるであろう。
【0101】
本明細書における任意の先行技術への言及は、そのような先行技術が共通の一般知識の一部を形成するという何らかの形の示唆を承認するものではなく、また承認するものとして解釈されるべきではない。
【0102】
本明細書に開示される免疫療法用タンパク質(例えば、変異型IgG2抗体)及び組成物の方法及び使用は、記載される特定の出願によって制限されないことが、当業者には理解されるであろう。方法、使用、及び組成物は、本明細書に記載又は描写される特定の要素及び/又は特徴に関して、それらの好ましい実施形態においては制限されない。また、本明細書に開示される免疫療法用タンパク質及び組成物の方法及び使用は、開示される1つ以上の実施形態に限定されず、以下の特許請求の範囲によって記載及び定義される本開示の範囲から逸脱することなく、多数の再構成、変形及び置換が可能であることも理解されるであろう。
【配列表】
【国際調査報告】