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特表2024-5009582,5-フランジカルボキシレート単位を含むポリエステルの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-10
(54)【発明の名称】2,5-フランジカルボキシレート単位を含むポリエステルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/672 20060101AFI20231227BHJP
   C08G 63/84 20060101ALI20231227BHJP
【FI】
C08G63/672
C08G63/84
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023538803
(86)(22)【出願日】2021-12-21
(85)【翻訳文提出日】2023-08-22
(86)【国際出願番号】 EP2021086924
(87)【国際公開番号】W WO2022136332
(87)【国際公開日】2022-06-30
(31)【優先権主張番号】20217073.4
(32)【優先日】2020-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515337626
【氏名又は名称】フラニックス・テクノロジーズ・ベーフェー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】オイトスラフ・トム・ジョン
(72)【発明者】
【氏名】アベルソン・レネ
【テーマコード(参考)】
4J029
【Fターム(参考)】
4J029AA03
4J029AB01
4J029AB04
4J029AD01
4J029AD02
4J029AD03
4J029AE01
4J029AE02
4J029AE03
4J029BA03
4J029BD06A
4J029BF30
4J029CF19
4J029JB131
4J029JB171
4J029JC531
4J029JF221
4J029KD02
4J029KD07
4J029KE02
4J029KE05
4J029KE12
(57)【要約】
2,5-フランジカルボキシレート単位を含むポリエステルの製造方法であって、a)2,5-フランジカルボン酸またはそのジエステルと脂肪族ジオールとを含む出発組成物を提供または製造する工程、b)前記出発組成物をエステル化条件に供して、エステル組成物を生成する工程、及びc)前記エステル組成物をアルミニウム含有触媒及びリン化合物と重縮合条件下で接触させて、2,5-フランジカルボキシレート単位を含むポリエステルを製造する工程を含み、前記リン化合物が、芳香族部分を含むリン酸ベースの化合物からなる群から選択される1種以上の化合物を含む方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2,5-フランジカルボキシレート単位を含むポリエステルの製造方法であって、以下:
a)2,5-フランジカルボン酸またはそのジエステルと脂肪族ジオールとを含む出発組成物を提供または製造する工程、
b)前記出発組成物をエステル化条件に供して、エステル組成物を生成する工程、及び
c)前記エステル組成物をアルミニウム含有触媒及びリン化合物と重縮合条件下で接触させて、2,5-フランジカルボキシレート単位を含むポリエステルを製造する工程、
を含み、
ここで、前記リン化合物は、芳香族部分を含むリン酸ベースの化合物からなる群から選択される1種以上の化合物を含む、方法。
【請求項2】
前記出発組成物が、2,5-フランジカルボン酸を含み、前記脂肪族ジオールが2~8個の炭素原子を含み、好ましくは主鎖にのみ炭素原子を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記出発組成物の脂肪族ジオールと2,5-フランジカルボン酸とのモル比が、1.01~1.80の範囲である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記エステル化条件が、180~260℃の範囲の温度を含み、且つ/または重縮合条件が240~300℃の範囲の温度を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記アルミニウム含有触媒が、カルボン酸塩、好ましくはギ酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、塩基性酢酸アルミニウム、プロピオン酸アルミニウム、及びシュウ酸アルミニウム、無機アルミニウム塩、好ましくは塩化アルミニウム及びヒドロキシ塩化アルミニウム、水酸化アルミニウム、アルミニウムアルコキシド、好ましくはアルミニウムメトキシド、アルミニウムエトキシド、アルミニウムプロポキシド、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウムn-ブトキシド、及びアルミニウムtert-ブトキシド、アルミニウムキレート化合物、好ましくはアルミニウムアセチルアセトナート及びアルミニウムアセチルアセテート、有機アルミニウム化合物、好ましくはトリメチルアルミニウム及びトリエチルアルミニウム、前記いずれかの化合物の部分加水分解物、酸化アルミニウム、及びこれらの組み合わせからなる群より選択され、ここで、前記アルミニウム含有触媒は、好ましくはアルミニウムアセチルアセトナート及び酸化アルミニウムからなる群より選択される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記リン化合物が、リン酸エステル及びリン酸エステルの塩からなる群より選択される1種以上の化合物を含み、前記リン酸エステル及びリン酸エステルの塩が、好ましくは、リン酸と芳香族ジオール化合物とを反応させることによって得られ、且つ/または、前記リン化合物が、少なくとも1つのフェノール部分、好ましくは少なくとも2つのフェノール部分を含むリン酸ベースの化合物からなる群より選択される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記リン化合物が、リチウム2,2'-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスフェート及びアルミニウムヒドロキシビス[2,2'-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスフェート]からなる群より選択される1種以上の化合物を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記出発組成物を、アルミニウム含有触媒及び/またはリン化合物の非存在下でエステル化条件に供する、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
以下の工程:
d)工程c)で得られた2,5-フランジカルボキシレート単位を含むポリエステルを結晶化させて、2,5-フランジカルボキシレート単位を含む結晶化ポリエステルを得る工程、及び
e)工程d)で製造された2,5-フランジカルボキシレート単位を含む結晶化ポリエステルを、固体重合に供して、分子量を増大させる工程、
をさらに含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記固体重合が、Tm-80℃~Tm-20℃の範囲の高温で実施され、ここで、Tmは、2,5-フランジカルボキシレート単位を含むポリエステルの融点(℃)である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
工程c)におけるアルミニウム含有触媒の濃度が、金属自体として算出して、それぞれの出発組成物から得られるポリマーの理論上の最大重量に対する重量で、10~1000ppm、好ましくは15~500ppm、より好ましくは20~300ppm、最も好ましくは25~150ppm、さらに好ましくは30~50の範囲である、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
工程c)におけるリン化合物の濃度が、それぞれの出発組成物から得られるポリマーの理論上の最大重量に対する重量で、188~37600ppm、好ましくは282~18800ppm、より好ましくは376~11280ppm、最も好ましくは470~5640ppm、さらに好ましくは564~1880ppmの範囲である、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
重縮合触媒としてのアルミニウム化合物とリン化合物とを含み、前記リン化合物が、芳香族部分を含むリン酸ベースの化合物からなる群より選択される1種以上の化合物を含む、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法における使用のための触媒系。
【請求項14】
2,5-フランジカルボキシレート単位を含むポリエステルの製造における、請求項13に記載の触媒系の使用であって、好ましくは請求項1から12のいずれか一項に記載の方法における、2,5-フランジカルボキシレート単位を含むポリエステルのその後の固体重合中の時間当たりに得られる平均分子量における重合率を増加させるための、使用。
【請求項15】
重縮合触媒としてのアルミニウム化合物及びリン化合物を含み、前記リン化合物が芳香族部分を含むリン酸ベースの化合物からなる群より選択される1種または2種以上の化合物を含む、2,5-フランジカルボキシレート単位を含むポリエステル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2,5-フランジカルボキシレート単位を含むポリエステルの製造方法、2,5-フランジカルボキシレート単位を含むポリエステル、こうした方法において使用するための触媒系、及び、2,5-フランジカルボキシレート単位を含むポリエステルのその後の固体重合の際の重合率を増加させるための、2,5-フランジカルボキシレート単位を含むポリエステルの製造におけるそれぞれの触媒系の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
2,5-フランジカルボン酸(FDCA)は、高性能ポリマーの製造において石油ベースのモノマーに取って代わる、非常に有望なバイオベースのビルディングブロックであることが当技術分野で知られている。近年、FDCAとこれに対応するモノエチレングリコールを用いたポリエステル(PEF)が注目を集めている。PEFは、現在広く使用されているプラスチックに比べて優れた性能特性を持つ、リサイクル可能なプラスチックである。これらの材料は、石油ベースのポリマー及びプラスチックへの依存を大幅に低減すると同時に、地球資源のより持続可能な管理を可能にする可能性がある。これに対応して、商業的に実行可能な方法でFDCA及びPEFを製造する技術に到達するための、包括的な研究が行われた。
【0003】
FDCAは、通常、典型的には植物由来の糖から、例えば糖の脱水によって得られる、フラン部分を有する分子、例えば5-ヒドロキシメチルフルフラール(5-HMF)及び対応する5-HMFエステルまたは5-HMFエーテルの酸化によって得られる。多種多様な酸化プロセスが、例えばWO2010/132740及びWO2011/043660に記載されているような酵素的または金属触媒的プロセスを含む先行技術から知られている。
【0004】
技術の初期には、モノマーFDCAの効率的な製造にかなりの研究努力が向けられた一方で、研究者らは即座に、FDCAから高性能ポリエステルを製造するための効率的な方法に到達することは、少なくとも同程度に困難であることに気づいた。FDCAはしばしば、広く使われているポリエステル、ポリエチレンテレフタレート(PET)の製造に使われるテレフタル酸(TA)の構造的・機能的なアナログとみなされている。しかしながら、PET産業で既知である確立された技術には、FDCAから高性能ポリエステルを製造できないものがあることが明らかになった。技術のさまざまな側面に焦点を当てつつFDCAからポリエステルを製造する方法については、例えばEP 3116932、EP 3116934、WO 2013/1209989、及びUS 2010/0174044などの包括的な先行技術が利用可能である。
【0005】
二価酸のポリエステルを製造する先行技術の方法は、通常、少なくとも2つの別個の工程、すなわち、結晶化及び固体重合の前にエステル化及び重縮合を含み、方法によっては、予備重縮合及び/または得られた樹脂の造粒のような付加的な中間ステップをさらに含む。エステル化の際、二価酸はエステル化条件下でジオールと反応する。これらの条件下では、遊離カルボキシル基の一部が遊離ヒドロキシル基の一部と反応してエステル結合と水を形成する。したがって、出発原料の濃度にもよるが、二価酸とジオールとのモノマージエステル及びモノエステル、例えばヒドロキシアルキルエステル、ならびに水、残留遊離二価酸及びこれらの化合物の低分子オリゴマーを含む混合物が生成される。
【0006】
エステル化工程で得られた組成物は、その後、最終的なポリエステルを得るために、高温・減圧下で重縮合条件に供される。重縮合は、典型的には、通常は金属化合物である重縮合触媒の存在下で行われる。
【0007】
任意に、エステル化工程と重縮合工程との間に予備重縮合工程を利用することもできる。予備重縮合工程は、典型的には、エステル化で使用される圧力よりも低い圧力で行われ、重縮合プロセスを開始するためにさらに圧力を低減する前に、最も揮発性の成分、例えば遊離ジオール及び他の低分子量化合物を除去するために、使用することができる。
【0008】
PEF製造方法を含むポリエステル製造用のよく知られた触媒系は、例えばWO 2015/137807に開示されているように、アンチモン化合物を重縮合触媒として含むものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】WO2010/132740
【特許文献2】WO2011/043660
【特許文献3】EP 3116932
【特許文献4】EP 3116934
【特許文献5】WO 2013/1209989
【特許文献6】US 2010/0174044
【特許文献7】WO 2015/137807
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
いくつかの場合においては、特定の最終用途のために、重縮合後に得られる2,5-フランジカルボキシレート単位を含むポリエステルの分子量をさらに増大させることが可能であれば有益である。従って、ポリエステルの平均分子量を増加させるために、結晶化及びそれに続く固体重合によって、重縮合後のポリエステルをさらに処理することが知られている。ポリエステルの所望の平均分子量を得るために必要な固体重合時間を短縮することは有益であろう。この問題を解決するために、重縮合後に高い平均分子量を有するポリエステルが得られ、さらにその後の固体重合中に良好な加工性、すなわち高い重合率(時間当たりに得られる平均分子量として)を示すポリエステルが得られる、2,5-フランジカルボキシレート単位を含むポリエステルの製造方法を提供することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
従って、本発明の第一の目的は、2,5-フランジカルボン酸から2,5-フランジカルボキシレート単位を含むポリエステルを製造するための改良された方法を提供することであり、この方法は、重縮合後の高い平均分子量、並びに、その後の固体重合の間の高い重合率(時間当たりに得られる平均分子量として)を伴って、2,5-フランジカルボキシレート単位を含むポリエステルを提供することができる。
【0012】
2,5-フランジカルボキシレート単位を含むポリエステルには、石油をベースとするポリエステルに対してより環境に配慮した代替物である可能性が想定されることから、先行技術と比較してより環境に配慮していると見なされ、この方法の操作中及び得られたポリマー中の、例えば残渣のいずれにおいても、健康の観点から安全であると考えられる化合物を使用して操作することができる方法を提供することが、本発明のさらなる目的であった。
【0013】
2,5-フランジカルボキシレートを含むポリエステルは、使用者が透明な材料を期待するいくつかの包装用途、例えばボトル用に有望であると考えられるため、重縮合後に良好な光学特性を有するポリエステルが得られ、固体重合時間の短縮を可能にすることにより、光学特性に対する固体重合の潜在的に有害な影響を低減する方法を提供することが、本発明のさらなる目的であった。
【0014】
本発明の第二の目的は、その後の固体重合中の重合率(時間当たりに得られる平均分子量として)に関して特に、更なる処理中に特性が改善された2,5-フランジカルボキシレート単位を含むポリエステルを提供することであった。
【0015】
また、本発明の目的は、それぞれの方法で使用するための触媒系並びに、2,5-フランジカルボキシレート単位を含むポリエステルの、その後の固体重合中の時間当たりに得られる平均分子量における重合率を増加させるための、前記触媒系の使用を提供することであった。
【0016】
ここで、驚くべきことに、重縮合時に特定の触媒系、すなわち重縮合触媒としてのアルミニウム化合物及びリン化合物が使用され、ここで、リン化合物が、芳香族部分を含むリン酸系化合物からなる群から選択される1種以上の化合物を含むならば、重縮合後に優れた平均分子量を有し、その後の固体重合中の重合率(時間当たりに得られる平均分子量として)が高い、2,5-フランジカルボキシレート単位を含むポリエステルが得られることが見出された。
【0017】
EP 3085723 A1は、アルミニウム化合物と、ホスホン酸系化合物及びホスフィン酸系化合物からなる群から選択されるリン化合物とを含む触媒系を用いて、広範な種類のジカルボン酸とFDCAまたはそのジエステルとから(共)ポリエステルを製造する方法を開示している。
【0018】
驚くべきことに、ホスホン酸系化合物またはホスフィン酸系化合物の代わりに、芳香族部分を含むリン酸系化合物からなる群から選択される様々なリン化合物を採用した場合、その後の固体重合中の重合率(時間当たりに得られる平均分子量として)を著しく増大させ得ることが見出された。換言すれば、EP 3085723 A1は、C-P結合性、すなわち炭素とリンとの間の結合を示すリン化合物の使用を開示しているが、本発明者らは、驚くべきことに、直接のC-P結合を有さず、全ての有機残基がC-O-P結合を介してリンと結合しているリン化合物を使用することによって、本発明の目的を達成できることを見出した。特に、重縮合中に使用される触媒系を使用することにより、重縮合後に添加する他の物質の必要性を低減し、それにより得られるポリエステルの加工性が改善され、有益な効果が得られることは驚くべきことであった。
【0019】
以下、本発明の主題をより詳細に説明し、本発明の好ましい実施形態を開示する。特に好ましい実施形態を得るために、2つ以上の好ましい実施形態を組み合わせることが特に好ましい。これに対応して、特に好ましいのは、本発明の好ましい実施形態の2つ以上の特徴を規定する本発明による方法である。
【0020】
2,5-フランジカルボキシレート単位を含むポリエステルを製造するための本発明の方法は、以下:
a)2,5-フランジカルボン酸またはそのジエステルと脂肪族ジオールとを含む出発組成物を提供または製造する工程、
b)前記出発組成物をエステル化条件に供して、エステル組成物を生成する工程、及び
c)前記エステル組成物をアルミニウム含有触媒及びリン化合物と重縮合条件下で接触させて、2,5-フランジカルボキシレート単位を含むポリエステルを製造する工程、
を含み、
ここで、リン化合物は、芳香族部分を含むリン酸ベースの化合物からなる群から選択される1種以上の化合物を含む。
【0021】
出発組成物は、製造しても提供してもよく、例えば別の供給業者から購入することもできる。出発組成物は、好ましくは2,5-フランジカルボン酸、すなわち遊離二価酸を含む。
【0022】
FDCAの脱炭酸により、重縮合において連鎖停止剤として機能し、ポリエステルに得られる最大分子量を制限する2-フランカルボン酸が生じる。したがって、出発組成物中の2-フランカルボン酸の濃度を注意深く制限することが特に好ましい。出発組成物は、出発組成物の重量に対して、好ましくは500ppm以下、好ましくは400ppm以下、さらに好ましくは300ppm以下の2-フランカルボン酸を含む。同様に、出発組成物中の2-フランジカルボン酸のモノエステルの濃度を制限することが好ましい。出発組成物は、好ましくは、出発組成物の重量に対して、5000ppm以下、好ましくは3000ppm以下、より好ましくは1500ppm以下、最も好ましくは1000ppm以下の2-フランジカルボン酸のモノエステルを含む。
【0023】
出発組成物は、脂肪族ジオールをさらに含む。本発明の方法は、使用される脂肪族ジオールのタイプに関して非常に柔軟であり、その後の固体重合中の重合率(時間当たりに得られる平均分子量として)に対する有益な効果を制限することがない。原則として、脂肪族ジオールは、バイオベースまたは化石ベースであってよく、ここで、バイオベースの脂肪族ジオールが好ましい。
【0024】
出発組成物は、任意に、脂肪族ジオール分子間のエーテル形成を抑制するための抑制剤をさらに含む。エーテル形成の効果は、広範な脂肪族ジオールについて知られており、所与のジオールについてエーテル形成を減少させることができる抑制剤は、他のジオールについても少なくともエーテル形成の量を減少させるとほぼ確実に想定することができる。適切な抑制剤は当業者に公知であり、例えば、テトラアルキルアンモニウム化合物、コリン、カルボン酸のアルカリ金属塩、カルボン酸のアルカリ土類金属塩、鉱酸の塩基性アルカリ金属塩、鉱酸の塩基性アルカリ土類金属塩、アルカリ金属水酸化物、アンモニウム水酸化物、及びこれらの組み合わせからなる群から選択することができる。
【0025】
工程a)で調製された出発組成物は、エステル化条件に供され、エステル組成物が生成される。ジオール化合物と酸化合物またはそのジエステルとのエステル化は、当業者によく知られた反応であり、典型的には高温で行われる。出発組成物に使用される出発物質のモル比に基づいて、エステル組成物の化学的構成は変化し得る。しかしながら、通常採用されるモル比の場合、エステル組成物は、二価酸とジオール化合物とのモノエステル、二価酸とジオールとのジエステル、少量の未反応FDCA、ならびにそれぞれの化合物の低分子オリゴマー及び潜在的に未反応の脂肪族ジオール化合物を含むと予想される。
【0026】
好ましくは、エステル組成物は、2,5-フランジカルボン酸単位とエチレングリコール単位とを1:1.01~1:1.25の範囲の比率で含む。
【0027】
工程b)で得られたエステル組成物は、その後、アルミニウム含有触媒及びリン化合物と重縮合条件下で接触させるが、ここで、工程b)と工程c)との間に他の中間工程、例えば上記のような予備重縮合工程を実施することができる。この重縮合は、エステル化及びトランスエステル化により、エステル組成物の化合物間にさらなるエステル部分を形成することによって、2,5-フランジカルボキシレート単位を含むポリエステルを製造するために使用されるが、例えば、水及び/または脂肪族ジオールは、縮合プロセスにおいて放出され、典型的には、重縮合中に使用される高温及び減圧のために反応から除去される。
【0028】
エステル化反応と重縮合のいずれもが、一以上の工程で実施してよく、好適には、バッチ式、半連続的、または連続的方法のいずれかとして操作することができる。エステル化処理は、重縮合が開始される前に、エステル化反応が80%以上、好ましくは85%以上、最も好ましくは90%以上の酸基がエステル部分に変換されるまで進行させることが好ましい。
【0029】
本発明が有益な効果を発揮するためには、重縮合がアルミニウム含有触媒の存在下で行われることが重要である。触媒として機能すると考えられるのは金属の化学的挙動であるため、アルミニウム含有触媒は原則として特定のタイプの化合物に限定されず、重縮合触媒の選択に関して大幅な柔軟性があってよい。さらにまた、本発明の重縮合は、リン化合物の存在下で実施され、ここで、リン化合物は、芳香族部分を含むリン酸ベースの化合物からなる群より選択される1種以上の化合物を含む。
【0030】
当業者は、リン化合物及び重縮合触媒の量が、触媒系について知られている典型的な範囲内で変化してよく、そして使用される化合物のタイプ、ならびに出発材料において採用されるFDCAの量及び脂肪族ジオールとFDCAとのモル比にほぼ依存することを理解する。したがって、当業者は、特定の目的に適したこれらの化合物の適切な量を決定することができる。
【0031】
本発明の方法は、重縮合後に良好な平均分子量を有し、その後の固体重合において良好な加工性を有する、すなわち固体重合中に良好な分子量の増加を示す、2,5-フランジカルボキシレート単位を含むポリエステルを製造することができる。さらに、本発明の方法は、良好な光学特性を示すポリエステルを調製することを可能にする。
【0032】
有益な効果として、本発明の方法は、環境に配慮されていると考えられる化合物を使用する。
【0033】
好ましくは、本発明による方法において、脂肪族ジオールは2~8個の炭素原子、好ましくは2~6個の炭素原子を含み、脂肪族ジオールは好ましくは主鎖にのみ炭素原子を有する。好ましくは、脂肪族ジオールは、C-O-C結合を含まない。
【0034】
脂肪族ジオールには、エーテル基、すなわちC-O-C結合を、主鎖に含むものもある。例えば、DEGは、内部にエーテル基を有するジオールである。こうした化合物は先行技術では意図的に使用されることがあるとはいえ、それぞれのジオールの使用により、典型的にはあまり好ましくない物理化学的特性を有するポリエステルが得られることが判明した。さらにまた、アルキレングリコールは一般に容易に大量入手でき、同時に取り扱い及び処理が容易である。同時に、得られるポリエステルは、特にエチレングリコール及び/またはブチレングリコールを使用した場合、優れた機械的特性を示すことが判明している。
【0035】
したがって、本発明による方法では、好ましくは、2,5-フランジカルボキシレート単位を含むポリエステルは、ポリアルキレンフラノエートであり、好ましくは、ポリエチレン-2,5-フランジカルボキシレート、ポリプロピレン-2,5-フランジカルボキシレート、ポリブチレン-2,5-フランジカルボキシレート、ポリペンチレン-2,5-フランジカルボキシレート、及び、2,5-フランジカルボキシレート単位と、エチレングリコール、プロピレングリコール及びブチレングリコールからなる群より選択される2種以上のジオールから誘導される単位とを含むコポリマーからなる群より選択される。最も好ましくは、2,5-フランジカルボキシレート単位を含むポリエステルは、エチレングリコール及び2,5-フランジカルボン酸から誘導される単位を、少なくとも90重量%、好ましくは少なくとも95重量%含有する。
【0036】
好ましくは、本発明の方法により製造されるポリエステルは、ポリ(エチレン-2,5-フランジカルボキシレート)からなる。
【0037】
内部エーテル基を持たない脂肪族ジオールには上述の利点があるが、所定の用途にはエーテル部分を持つジオールを使用することが好適である。これは、特に、ヘテロ脂環式化合物に当てはまり、例えばイソソルビドは特定の最終用途に有望な特性を有するポリエステルをもたらすことが知られている。
【0038】
この観点から、本発明による方法では、脂肪族ジオールが、非環式ジオール及び脂環式ジオールからなる群から選択され、好ましくはアルキレングリコール及び脂環式ジオールからなる群から選択され、より好ましくはアルキレングリコール、シクロヘキサンジメタノール及びイソソルビドからなる群から選択され、最も好ましくはアルキレングリコール、特に好ましくはエチレングリコールである。
【0039】
先行技術において、脂肪族ジオールとFDCAとのモル比が、こうした方法によって得られる分子量に影響を及ぼし得ること、またその後の固体重合中の分子量の増加速度にも影響を及ぼし得ることは議論された。アルミニウム化合物及び特定のリン化合物を使用する本発明の特定の方法について、本発明者らは、特に有益であることが判明したモル比を特定した。
【0040】
したがって、好ましくは、本発明による方法において、出発組成物の脂肪族ジオールと2,5-フランジカルボン酸とのモル比は、1.01~1.80、好ましくは1.05~1.70、より好ましくは1.07~1.60、最も好ましくは1.10~1.30、代替的に好ましくは1.30~2.00の範囲であり、且つ/または、
エステル組成物は、2,5-フランジカルボン酸の2,5-フランジカルボン酸モノヒドロキシアルキルエステル及び2,5-フランジカルボン酸のジヒドロキシアルキルエステルを含み、1H-NMRによって測定されるヒドロキシル末端基と滴定によって測定されるカルボン酸末端基との合計比が、1.01~4.6、好ましくは1.05~2.00、より好ましくは1.07~1.80、最も好ましくは1.10~1.30であり、
1H-NMRによって測定されるヒドロキシル末端基の量が、好ましくは300~2400eq/t、より好ましくは500~2000eq/t、最も好ましくは600~1800eq/tの範囲であり、
滴定によって測定されるカルボキシル末端基の量が、好ましくは300~1200eq/t、より好ましくは500~1000eq/t、最も好ましくは600~900eq/tの範囲であり、且つ/または
2,5-フランジカルボン酸及び脂肪族ジオールは、出発組成物の重量に対して、エステル化に供される出発組成物の90重量%以上、好ましくは95重量%以上、最も好ましくは98重量%以上を構成する。
【0041】
以上に示したように、本発明者らは、本発明の方法の特定の重縮合触媒及びリン化合物との組み合わせのための最良の処理パラメーターを見出すため、さらに得られるポリエステルのその後の固体重合における加工性、収率、及び品質をさらに最適化するために、エステル化と重縮合との両方を実施するための最適化された条件を見極めることに注力した。
【0042】
本発明の方法では、エステル化が180~260℃、好ましくは185~240℃、より好ましくは190~230℃の範囲の温度で実施され、且つ/または重縮合が240~300℃、好ましくは260~290℃、より好ましくは265~285℃の範囲の温度で実施されることが好ましいと判明した。
【0043】
好ましくは、エステル化は、40~400kPA、好ましくは50~150kPA、より好ましくは60~110kPAの範囲の圧力で実施され、且つ/または重縮合は、0.05~100kPA、好ましくは0.05~10kPA、より好ましくは0.1~1kPAの範囲の減圧で実施される。
【0044】
上述した好ましい処理パラメーターは、特に、2,5-フランジカルボン酸及び脂肪族ジオールが出発組成物の90重量%以上、好ましくは95重量%以上、最も好ましくは98重量%以上を構成する方法に適用可能である。
【0045】
実際の反応時間が、採用される出発物質及びこれらの量に依存するが、エステル化は、典型的には、30~480分、好ましくは60~360分、より好ましくは120~300分、最も好ましくは180~240分の範囲の時間tに亘って実施され、他方、重縮合は、典型的には、10~260分、好ましくは30~190分、より好ましくは60~120分の範囲の時間tに亘って実施される。
【0046】
重縮合工程の間、脂肪族ジオールは、任意に水とともに、オリゴマーがさらに重縮合を経る際にオリゴマーから放出される。こうした脂肪族ジオール及び水が存在する場合には、逆反応を防止するために反応から除去することが望ましい。脂肪族ジオールはまた、望ましくない傾向のある副反応をさらに引き起こす可能性がある。例えば、エチレングリコールはアセトアルデヒドの生成につながり、得られるポリエステルの匂い及び味に有害な影響を与えることが判明している。
【0047】
好ましくは、本発明の方法において、2,5-フランジカルボン酸と脂肪族ジオールとの間のエステル化の間に形成される水、並びに脂肪族ジオールの一部が、蒸留系で除去され、水と共に除去される脂肪族ジオールが水から分離され、少なくとも部分的にリサイクルされる。
【0048】
本発明による方法では、エステル化がアルミニウム含有触媒の非存在下で実施されることが特に好ましい。上記の方法は特に好ましいが、なぜなら、いくつかの実験においては、アルミニウム含有触媒について、エステル化の間に存在すると、重縮合触媒が失活する、すなわち、その後の重縮合を触媒する有効性がいくらか低下する可能性のあることが観察されたためである。従って、本発明の方法では、アルミニウム含有触媒が工程c)で添加されることが好ましい。
【0049】
処理効率の観点からは、アルミニウム含有触媒とリン化合物とを一緒に、すなわち同一工程中に、混合物としてまたは別個に添加することが好ましく、好ましくは両方の化合物を工程b)の後に添加する。
【0050】
アルミニウムは、金属としてまたは陽イオンとして触媒系中に存在することができる。好ましくは、本発明による方法において、アルミニウム含有触媒が、カルボン酸塩、好ましくはギ酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、塩基性酢酸アルミニウム、プロピオン酸アルミニウム、及びシュウ酸アルミニウム、無機アルミニウム塩、好ましくは塩化アルミニウム及びヒドロキシ塩化アルミニウム、水酸化アルミニウム、アルミニウムアルコキシド、好ましくはアルミニウムメトキシド、アルミニウムエトキシド、アルミニウムプロポキシド、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウムn-ブトキシド、及びアルミニウムtert-ブトキシド、アルミニウムキレート化合物、好ましくはアルミニウムアセチルアセトナート及びアルミニウムアセチルアセテート、有機アルミニウム化合物、好ましくはトリメチルアルミニウム及びトリエチルアルミニウム、前記いずれかの化合物の部分加水分解物、酸化アルミニウム、及びこれらの組み合わせからなる群より選択され、ここで、前記アルミニウム含有触媒は、好ましくはアルミニウムアセチルアセトナート及び酸化アルミニウムからなる群より選択される。最も好ましくは、アルミニウム含有触媒はアルミニウムアセチルアセトナートである。
【0051】
以上に示したように、本発明の方法は、アルミニウム含有触媒のタイプに関して柔軟であってよい。しかしながら、特定の化合物が本発明の方法において優れた性能を示すことが判明した。アルミニウム含有触媒に関しては、酸化アルミニウム及びアルミニウムアセチルアセトナートが、その性能並びにエステル化及び/または重縮合の間に通常採用される処理パラメーターに対する耐性のため、好ましい。
【0052】
リン化合物に関して、本発明の方法では、前記リン化合物が、リン酸エステル及びリン酸エステルの塩からなる群より選択される1種以上の化合物を含み、前記リン酸エステル及びリン酸エステルの塩が、好ましくは、リン酸と芳香族ジオール化合物とを反応させることによって得られ、且つ/または、前記リン化合物が、少なくとも1つのフェノール部分、好ましくは少なくとも2つのフェノール部分を含むリン酸ベースの化合物からなる群より選択されることが好ましい。
【0053】
ここで、特に良好な結果が、リチウム2,2'-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスフェート及びアルミニウムヒドロキシビス[2,2'-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスフェート]を用いて得られ、アルミニウム含有化合物を使用する方法で平均分子量の特に大幅な増加が得られた。理論に束縛されることを望むものではないが、これは、カチオンが重縮合触媒のカチオンと一致するためであり得ると考えられる。従って、本発明の方法では、リン化合物が、リチウム2,2'-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスフェート及びアルミニウムヒドロキシビス[2,2'-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスフェート]からなる群より選択される1種以上の化合物を含み、且つ/または、リン化合物が、リン酸エステルのアルミニウム塩からなる群より選択される1種以上の化合物を含むことが好ましい。
【0054】
以上に示したように、重縮合触媒及び/またはリン化合物の濃度範囲は、当業者がその特定の処理に合わせて選択することができる。しかしながら、本発明者らは、出発組成物が90重量%以上、好ましくは95重量%以上、最も好ましくは98重量%以上のFDCA及び脂肪族ジオールを含む場合に特に好適な、アルミニウム含有触媒及びリン化合物の最適な濃度範囲を特定した。
【0055】
したがって、好ましくは、本発明による方法において、工程c)におけるアルミニウム含有触媒の濃度が、金属自体として算出して、それぞれの出発組成物から得られるポリマーの理論上の最大重量に対する重量で、10~1000ppm、好ましくは15~500ppm、より好ましくは20~300ppm、最も好ましくは25~150ppm、さらに好ましくは30~50の範囲であり、且つ/または、工程c)におけるアルミニウム含有触媒の量が、出発組成物中の2,5-フランジカルボン酸の重量に対して、0.005~0.1重量%、好ましくは0.01~0.05重量%、より好ましくは0.02~0.04重量%であり、且つ/または、出発組成物中のアルミニウム含有触媒のFDCAに対するモル比が、0.0001~0.01、好ましくは0.0002~0.001の範囲である。
【0056】
さらにまた、本発明の方法では、工程c)におけるリン化合物の濃度が、それぞれの出発組成物から得られるポリマーの理論上の最大重量に対する重量で、188~37600ppm、好ましくは282~18800ppm、より好ましくは376~11280ppm、最も好ましくは470~5640ppm、さらに好ましくは564~1880ppmの範囲にあり、好ましくは、リン化合物中のリンのアルミニウム含有触媒中のアルミニウムに対するモル比が0. 5~5、好ましくは1~3、より好ましくは1.5~2.5であり、且つ/または出発組成物中のFDCAに対するリン化合物中のリンのモル比が0.0002~0.02、好ましくは0.0004~0.002の範囲であることが好ましい。
【0057】
本発明の方法において、当業者は、原則として、他の重縮合触媒または他のリン化合物を自由に添加することができるが、重縮合触媒としてのアルミニウム化合物と、以上に定義される特定のリン化合物のみを使用することが、特に好ましい。
【0058】
従って、本発明による方法では、触媒系が、アルミニウム化合物と、芳香族部分を含むリン酸ベースの化合物からなる群より選択されるリン化合物とからなり、好ましくは、出発組成物中のチタン、マグネシウム亜鉛、カルシウム、及びアンチモン化合物の各々の濃度が、出発組成物全量に基づいて0~100ppmの範囲であることが好ましい。これらの金属の各々の含有量は、好ましくは出発組成物の重量に対して50ppm未満、より好ましくは0~20ppm、さらに好ましくは5ppm未満である。
【0059】
好ましくは、本発明による方法で、重縮合後の、2,5-フランジカルボキシレート単位を含むポリエステル中に組み込まれる脂肪族ジオールのエーテルの量が、ポリエステルの重量に対して3重量%未満、好ましくは2.5重量%未満である。本発明者らは、生成するポリエステルに特に有益な物理化学的特性を得るためには、ポリエステル中に組み込まれる脂肪族ジオールのエーテルの量が、以上に示した値よりも少ないことが好ましいと確認した。
【0060】
当業者は、滴定法、赤外法、プロトン核磁気共鳴法(1H-NMR)を含む、ポリエステル中の末端基を定量するための数多くの適切な方法を熟知している。多くの場合、4つの主要な末端基、すなわちカルボン酸末端基、ヒドロキシル末端基、エステル末端基、及び脱炭酸後に得られる末端基を定量するために別々の方法が使用される。
【0061】
A.T Jackson及びD.F. Robertsonは、“Molecular Characterization and Analysis of Polymers” (J.M. Chalmers en R.J. Meier (eds.), Vol. 53 of “Comprehensive Analytical Chemistry”, by B. Barcelo (ed.), (2008) Elsevierの第171~203頁に、PETの末端基を決定するための1H-NMR法を発表している。同様の方法が、2,5-フランジカルボキシレート単位を含むポリエステルについても実施できる。ここで、末端基の測定は、溶液からポリエステルが過度に析出する危険性なしに室温で行うことができる。重水素化1,1,2,2-テトラクロロエタン(TCE-d2)を用いるこの1H-NMR法は、脱炭酸末端基(DEC)の量を測定するために非常に適しており、ポリエステルに組み込まれた脂肪族ジオールのエーテルの含有量を測定するためにも使用できる。ピークの割り当ては、化学シフト6.04ppmのTCEピークを用いて設定される。化学シフト7.28ppmのフランピークは積分され、積分はフラン環上の2つのプロトンを表す2.000に設定される。脱炭酸末端基が、1つのプロトンを表す7.64~7.67ppmの化学シフトに見いだされる。DEGの含有量は、エーテル官能基に隣接するプロトンそれぞれのシフト、例えば、DEGの4つのプロトンを表す3.82~3.92ppmのシフトの積分から決定される。ヒドロキシル末端基(HEG)の量は、4.0ppmのヒドロキシル末端基の2つのメチレンプロトンから決定される。本発明の枠組みにおいて、上述の方法が、DEC、DEG及び他のエーテル並びにHEGの含有量を決定するために使用され、一方では、カルボン酸末端基(CEG)の量は、以下の実験セクションに開示されているように滴定を用いて決定される。
【0062】
好ましくは、本発明の方法において、重縮合後の2,5-フランジカルボキシレート単位を含むポリエステルが、20kg/mol以上、好ましくは25kg/mol以上の数平均分子量を有することである。本発明者らは、本発明の方法によれば、以上に定義される数平均分子量が得られるように重縮合を確実に行うことができ、それによって、重縮合後に興味深い物理化学的特性を有して、その後の固体重合中に非常に高い分子量を得るための良好な基礎を形成する、ポリエステルが得られることを見出した。
【0063】
重縮合後に得られたポリエステルは、特定の用途に直接使用することができるが、以上に開示したように、いくつかの場合には、さらなる処理工程を加えることが有益である。これらの工程は、ポリエステルを結晶化させて結晶化ポリエステルを得る工程と、当該結晶化ポリエステルを固体重合に供して分子量を増大させる工程を含んでよい。
【0064】
これに対応して、本発明による方法は、以下の工程:
d)工程c)で得られた2,5-フランジカルボキシレート単位を含むポリエステルを結晶化させて、2,5-フランジカルボキシレート単位を含む結晶化ポリエステルまたは半結晶化ポリエステルを得る工程、及び
e)工程d)で製造された2,5-フランジカルボキシレート単位を含む結晶化ポリエステルを、固体重合に供して分子量を増大させる工程、
をさらに含むことが好ましい。
【0065】
いずれの工程もTA/PET技術から当業者に知られており、当業者は通常、必要に応じてこれらの工程の処理パラメーターを調整することができる。しかしながら、本発明者らは、本発明の方法にとって特に有益であることが判明した特定の処理パラメーター、すなわち、特定の重縮合触媒及び特定のリン化合物の使用、特にこれらの化合物の両方が、通常そうであるように、結晶化したポリエステル中に依然として存在する場合を特定した。
【0066】
その限りにおいて、本発明による方法では、固体重合が、Tm-80℃~Tm-20℃、好ましくはTm-60℃~Tm-25℃、より好ましくはTm-60℃~Tm-30℃の範囲の高温で実施され、ここで、Tmとは、2,5-フランジカルボキシレート単位を含むポリエステルの融点(℃)であり、固体重合は、好ましくは160~240℃、より好ましくは170~220℃、最も好ましくは180~210℃の範囲の高温で実施され、且つ/または結晶化が、100~200℃、好ましくは120~180℃、より好ましくは140~160℃の範囲の高温で実施され、且つ/または結晶化は、0.5~48時間、好ましくは1~6時間の時間tに亘って実施され、ここで工程d)が、好ましくは、2,5-フランジカルボキシレート単位を含むポリエステルを50℃以下に冷却することなく工程c)の後に直接実施され、且つ/または、結晶化が、周囲圧力もしくはその付近で、またはより好ましくはないが100kPa未満もしくは10kPa未満の減圧下で実施され、且つ/または、固体重合が、不活性ガス雰囲気下、好ましくは窒素、ヘリウム、ネオン、もしくはアルゴン雰囲気下で実施されることが好ましい。
【0067】
工程d)で得られた結晶化または半結晶化ポリエステルは、造粒されて、20~180ペレット/g、好ましくは40~140ペレット/gの範囲の造粒度を得ることが好ましい。
【0068】
本発明者らは、結晶化の最適時間が、ポリエステルの結晶化エンタルピーdHcrystに基づいて選択できることを見出した。工程c)で得られたポリエステルを加熱して半結晶化ポリエステルまたは結晶化ポリエステルを得る場合、脱炭酸末端基の量は変化しない。しかしながら、結晶化度は著しく変化する。これは示差走査熱量測定(DSC)により測定できる。結晶化度は、しばしば、半結晶性ポリマーを適切な速度で加熱した場合の融解エンタルピーとして測定される。結晶化度は単位J/gで表され、昇温時に起こる結晶化(発熱)を補正した後の融解ピーク(吸熱)の正味エンタルピーとされる。本発明による方法では、結晶化が、2,5-フランジカルボキシレートを含むポリエステルの正味エンタルピーdHcrystが、DSCで、10d℃/分の加熱速度を使用して測定して、20J/gより大きく、好ましくは25J/gより大きく、より好ましくは30J/gより大きくなるように、時間tに亘って実施されることが好ましい。
【0069】
固体重合の効果は、得られるポリエステルの数平均分子量及び重量平均分子量の有意な増加であり、ここで、典型的には、光学特性が結晶化及び固体重合の工程によって悪影響を受けることが観察される。これまでのところ、特に、本発明の方法で得られるポリエステルは、固体重合中に重合率の増加を示して固体重合時間を短縮することができ、これによって固体重合工程の潜在的に有害な影響を低減させることから、本発明の方法による固体重合の後には光学特性の改善が得られることが観察された。
【0070】
固体重合後の分子量に注目すれば、本発明による方法にでは、好ましくは、固体重合後の2,5-フランジカルボキシレート単位を含むポリエステルは、45kg/mol以上、好ましくは50kg/mol以上の数平均分子量を有し、且つ/または固体重合後の2,5-フランジカルボキシレート単位を含むポリエステルは、110kg/mol以上、好ましくは130kg/mol以上、より好ましくは140kg/mol以上の重量平均分子量を有する。固体重合中に平均分子量の大幅な増加を示す、本発明の方法で得られるポリエステルの有益な特性により、いくつかの価値の高い用途に非常に適したこれらの値は、比較的に短い固体重合時間で達成することができる。
【0071】
本発明の枠組みにおいて、重量平均分子量及び数平均分子量は、以下の実験セクションに開示されるように決定される。
本発明の方法に関する上記の開示を考慮すれば、本発明はまた、重縮合触媒としてのアルミニウム化合物及びリン化合物を含む、本発明による方法における使用のための触媒系に関することが明らかであり、ここで前記リン化合物は、芳香族部分を含むリン酸ベースの化合物からなる群より選択される1種以上の化合物を含み、ここで両化合物の好ましい実施態様は以上に定義される。
【0072】
本発明はさらに、2,5-フランジカルボキシレート単位を含むポリエステルの製造における、好ましくは本発明による方法における、2,5-フランジカルボキシレート単位を含むポリエステルのその後の固体重合の間に時間当たりに得られる、平均分子量における重合率を増大させるための、本発明によるこうした触媒系の使用に関する。
【0073】
本発明はさらに、重縮合触媒としてのアルミニウム化合物及びリン化合物を含む、2,5-フランジカルボキシレート単位を含むポリエステルに関し、前記リン化合物は、芳香族部分を含むリン酸ベースの化合物からなる群より選択される1種以上の化合物を含み、両化合物の好ましい実施態様は以上に定義される。
【0074】
好ましくは、本発明による2,5-フランジカルボキシレート単位を含むポリエステルは、アルミニウムを、金属自体として算出して、ポリエステルの重量に対して10~1000ppm、好ましくは15~500ppm、より好ましくは20~300ppm、最も好ましくは25~150ppm、さらに好ましくは30~50の範囲で含む。それぞれのポリエステルは、先行技術のポリエステルと比較して、その後の溶融加工工程で有利な特性及び改善された加工性を示し、特に、その後の溶融加工後に、より良好な光学特性が得られることが判明した。
【0075】
本発明の方法で得られるポリエステルまたは固体重合後のポリエステルは、容器、繊維、及び/またはフィルムの調製に有利に応用することができる。こうした容器には、本発明によるポリエステルが1つの層に含まれ、他の層が付加的な特性、例えば強度を提供するために加えられる多層容器が含まれる。容器及びフィルムの優れたバリア特性に鑑みて、本発明によるポリエステルは、いわゆるホットフィル用途での使用を含め、食品包装における使用のための、容器及びフィルム、例えば一軸または二軸延伸フィルムの調製に非常に適している。
【0076】
ポリエステル成形品(例えば、ボトル、容器、フィルム、繊維など)の黄変に対抗するために、調色(またはブルーイング)化合物を提供することが知られている。このような調色は、所定の波長範囲内にシャープな吸収ピークがあるため、黄色みを効果的に中和することができる。調色化合物は、他の添加剤、例えば特定の紫外線吸収剤などの黄変効果を打ち消すこともできる。ポリエステルに好適であることが知られている調色化合物を、それ自体でまたは別の添加剤と共に組み込んで添加を容易にすることにより、ポリ(エチレン-2,5-フランジカルボキシレート)含有組成物及び物品の黄変に対抗することが有利であり得る。
以下、実験を用いて本発明をより詳細に説明する。
【実施例
【0077】
略語と測定値:
DECは、得られたポリマー1トン当たりの脱炭酸末端基の当量をmmol/kgで示し(eq/tとも表示)、cDEGは、ポリエステル中に取り込まれたジエチレングリコールの量をポリエステルの重量に対する重量%で示し、HEGは、得られたポリマー1トン当たりのヒドロキシル末端基の当量をmmol/kgで提供する。ここで、ポリエステル中のDEC、HEG及びcDEGの値は、上述のように1H-NMRにより、溶媒としてTCE-d2を用いて得られた。典型的な実験では、約10mgのポリエステルを秤量し、8mlのガラスバイアルに入れた。このバイアルに0.7mlのTCE-d2を加え、バイアル内の混合物を攪拌しながら室温でポリエステルを溶解した。溶解した混合物を1H-NMRで分析し、TCE-d2のピークを6.04ppmとした。
【0078】
A_400は、ジクロロメタン:ヘキサフルオロイソプロパノール8:2(vol/vol)混合物中の30mg/mL溶液として、それぞれ直径25mmのチューブにて400nmで測定した400nm光の吸光度、または25mmの等価光路長に補正した測定値である。
【0079】
カルボキシル末端基(CEG)の量(mmol/kg)は、ASTM D7409に基づく滴定、すなわち、50mLのo-クレゾールに0.4~1.2gのポリマー試料を溶解させた溶液を、指示薬としてブロモクレゾールグリーンを用いて、エタノール中の0.01M水酸化カリウム溶液で当量点まで滴定することにより測定した。
【0080】
本発明の枠組みにおいて、重量平均分子量及び数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)の使用により決定される。GPC測定は、35℃で、プレカラム付きの2本のPSS PFGリニアM(7μm、8x300mm)カラムを用いて行った。0.05Mのトリフルオロ酢酸カリウムを含むヘキサフルオロイソプロパノールを溶離液として使用した。流速は1.0mL/分、注入量は50μL、ランタイムは50分に設定した。較正は、ポリメチルメタクリレート標準を用いて行った。PDIは、当業者に既知であり、重量平均分子量と数平均分子量から得られる多分散性指数(または分散度)を示す。
【0081】
実験において、濃度(ppm)は、それぞれの出発組成物から得られるポリマーの理論上の最大重量に関して与えられ、これは、出発組成物中のFDCAのモル数と対応する理論上のポリマー繰り返し単位の分子量(すなわち、FDCA+脂肪族ジオール-2H2O)とを乗算することによって算出される。
実験に使用したFDCAは、500ppm未満のFCAを含む。
【0082】
(実験)
20gの2,5-フランジカルボン酸を、以下に示すモル比でエチレングリコールと混合した。この組成物を、210分間に亘って220℃の温度に処した。エステル化後、9.5mgの固体アルミニウムアセチルアセトナートを、34ppm(理論ポリマーに基づくAl)の濃度に相当する重縮合触媒として添加した。さらにまた、エステル化後に、特定のリン化合物を、表1にまとめたように、固体またはエチレングリコール中の溶液として添加した。重縮合を260℃で75分間行った。溶融重合後、すなわち重縮合後のポリマーについて得られた結果を表2に示す。
【0083】
【表1】
【0084】
【表2】
【0085】
実験実施例1、実施例2、実施例3、及び実施例4は、本発明に従って実施され、アルミニウム含有触媒及びリン化合物を使用し、ここで、前記リン化合物は、芳香族部分を含むリン酸ベースの化合物からなる群より選択される化合物を含む。
【0086】
比較実験比較例1から比較例3は、アルミニウム含有触媒を使用するが、芳香族部分を含むリン酸ベースの化合物からなる群より選択されるリン化合物を使用しない。実際、比較例2及び比較例3は、EP3085723 A1において好ましい、ホスホン酸塩を使用している。
【0087】
同様の光学特性が、重縮合後に数平均分子量と重量平均分子量との両方において、平均して増加がすでに観察される本発明の方法により、達成し得ることがわかる。
【0088】
上記のように重縮合後に得られた樹脂を、大気圧下、150℃の温度で結晶化させた後、窒素雰囲気下で、200℃の温度で24時間に亘り固体重合に供した。固体重合に供した粒子の平均粒径は1.4~2.0mmであった。結果を表3にまとめる。ここで、デルタMn、デルタMw、及びデルタA_400は、重縮合後のポリエステルと比較した、固体重合による分子量及び光学特性の変化を示す。
【0089】
【表3】
【0090】
このデータは、比較例と比較して、本発明の方法では、平均してはるかに高い分子量が得られることを示している。最も顕著な効果は、本発明の方法では、平均してデルタMn及びデルタMwのより大幅な増加が観察されることであり、特にデルタMwの増加は、本発明の方法で得られるポリエステルについて、より大きい。
【0091】
従って、この実験は、本発明の方法により、重縮合後に良好な平均分子量を有し、その後の固体重合中に高い重合率(時間当たりに得られる平均分子量、特に重量平均分子量)を有する、2,5-フランジカルボキシレート単位を含むポリエステルが得られることを示している。
【国際調査報告】