(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-10
(54)【発明の名称】ひずみ補償された希土類III族窒化物ヘテロ構造
(51)【国際特許分類】
H03H 9/17 20060101AFI20231227BHJP
C30B 29/38 20060101ALI20231227BHJP
H03H 3/02 20060101ALI20231227BHJP
【FI】
H03H9/17 F
C30B29/38 C
H03H3/02 B
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023538901
(86)(22)【出願日】2022-01-11
(85)【翻訳文提出日】2023-06-23
(86)【国際出願番号】 US2022011947
(87)【国際公開番号】W WO2022150752
(87)【国際公開日】2022-07-14
(32)【優先日】2021-01-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503455363
【氏名又は名称】レイセオン カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】ローガン,ジョン エイ.
(72)【発明者】
【氏名】ソリック,ジェイソン シー.
(72)【発明者】
【氏名】ペザルスキー,アダム イー.
(72)【発明者】
【氏名】シュルツ,ブライアン ディー.
(72)【発明者】
【氏名】チュンベス,エドゥアルド エム.
【テーマコード(参考)】
4G077
5J108
【Fターム(参考)】
4G077AA03
4G077AB10
4G077BE13
4G077ED06
4G077EF01
4G077HA11
5J108BB08
5J108DD06
5J108KK01
5J108MM08
(57)【要約】
ひずみ補償ヘテロ構造は、炭化ケイ素材料を含む基板と、基板の上面上に形成された単結晶窒化アルミニウム材料を含む第1のエピタキシャル層と、基板の上面とは反対側で第1のエピタキシャル層上に形成された第2のエピタキシャル層であって、単結晶窒化アルミニウムスカンジウム材料を含む、第2のエピタキシャル層と、第1のエピタキシャル層とは反対側で第2のエピタキシャル層上に形成された第3のエピタキシャル層であって、単結晶窒化アルミニウム材料を含む、第3のエピタキシャル層と、を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ひずみ補償ヘテロ構造であって、
炭化ケイ素材料を含む基板と、
前記基板の上面上に形成された単結晶窒化アルミニウム材料を含む第1のエピタキシャル層と、
前記基板の前記上面とは反対側で前記第1のエピタキシャル層上に形成された第2のエピタキシャル層であって、前記第2のエピタキシャル層は単結晶窒化アルミニウムスカンジウム材料を含む、前記第2のエピタキシャル層と、
前記第1のエピタキシャル層とは反対側で前記第2のエピタキシャル層上に形成された第3のエピタキシャル層であって、単結晶窒化アルミニウム材料を含む、前記第3のエピタキシャル層と、を含む前記ひずみ補償ヘテロ構造。
【請求項2】
前記ひずみ補償ヘテロ構造は前記基板からの解放に応答して自立することをさらに含む、請求項1に記載のひずみ補償ヘテロ構造。
【請求項3】
前記ひずみ補償ヘテロ構造は前記基板が前記第1の層からエッチングされることに応答して自立することをさらに含む、請求項1に記載のひずみ補償ヘテロ構造。
【請求項4】
前記第1のエピタキシャル層及び前記第2のエピタキシャル層は、第1の界面ひずみを含み、前記第3のエピタキシャル層及び前記第2のエピタキシャル層は、前記第1の界面ひずみに等しい第2の界面ひずみを含む、請求項1に記載のひずみ補償ヘテロ構造。
【請求項5】
前記第1の界面ひずみは、前記第1のエピタキシャル層と前記第2のエピタキシャル層との間の格子定数値及び熱膨張係数値の違いに応答する、請求項4に記載のひずみ補償ヘテロ構造。
【請求項6】
前記第2の界面ひずみは、前記第3のエピタキシャル層と前記第2のエピタキシャル層との間の格子定数値及び熱膨張係数値の違いに応答する、請求項4に記載のひずみ補償ヘテロ構造。
【請求項7】
前記第1のエピタキシャル層、前記第1のエピタキシャル層上に形成された前記第2のエピタキシャル層、及び前記第1のエピタキシャル層とは反対側で前記第2のエピタキシャル層上に形成された前記第3のエピタキシャル層は、前記基板の解放に応答して中立的に応力を受ける膜を含む、請求項1に記載のひずみ補償ヘテロ構造。
【請求項8】
バルク音響波共振器用の多層膜構造であって、
上面を有する解放可能な基板と、
前記基板の前記上面上に形成された単結晶窒化アルミニウム材料を含む第1のエピタキシャル層と、
前記基板の前記上面とは反対側で前記第1のエピタキシャル層上に形成された第2のエピタキシャル層であって、単結晶窒化アルミニウムスカンジウム材料を含む、前記第2のエピタキシャル層と、
前記第1のエピタキシャル層とは反対側で前記第2のエピタキシャル層上に形成された第3のエピタキシャル層であって、単結晶窒化アルミニウム材料を含む、前記第3のエピタキシャル層と、を含む膜構造。
【請求項9】
前記多層膜構造は前記解放可能な基板が前記第1のエピタキシャル層からエッチングされることに応答して自立することをさらに含む請求項8に記載の膜構造。
【請求項10】
前記多層膜構造は、前記基板からの解放に応答して中立的に応力を受ける膜を含む請求項9に記載の膜構造。
【請求項11】
前記第1のエピタキシャル層及び前記第2のエピタキシャル層は、第1の界面ひずみを含み、前記第3のエピタキシャル層及び前記第2のエピタキシャル層は、前記第2のエピタキシャル層に対して前記第1の界面ひずみに等しい第2の界面ひずみを含む、請求項9に記載の膜構造。
【請求項12】
前記第2のエピタキシャル層の両側で前記第1の界面ひずみは前記第2の界面ひずみに等しい、請求項11に記載の膜構造。
【請求項13】
前記多層膜構造は、前記基板の解放に応答して、等しいが反対のひずみ勾配を有する懸垂膜を含む請求項8に記載の膜構造。
【請求項14】
バルク音響波共振器用の中立的に応力を受けて解放される多層膜構造を製造するためのプロセスであって、
上面を有する解放可能な基板を用意することと、
前記基板の前記上面上に単結晶窒化アルミニウム材料を含む第1のエピタキシャル層を形成することと、
前記基板の前記上面とは反対側で前記第1のエピタキシャル層上に第2のエピタキシャル層を形成することであって、前記第2のエピタキシャル層は単結晶窒化アルミニウムスカンジウム材料を含む、形成することと、
前記第1のエピタキシャル層とは反対側で前記第2のエピタキシャル層上に形成された第3のエピタキシャル層を形成することであって、前記第3のエピタキシャル層は、単結晶窒化アルミニウム材料または単結晶窒化アルミニウムスカンジウム材料のうちの1つを含む、形成することと、
前記第1のエピタキシャル層から前記基板を取り除くことと、を含むプロセス。
【請求項15】
第1の界面ひずみを第2の界面ひずみと平衡させることをさらに含む請求項14に記載のプロセス。
【請求項16】
前記第1の界面ひずみは、前記第1のエピタキシャル層と前記第2のエピタキシャル層との間に形成され、前記第2の界面ひずみは、前記第2のエピタキシャル層に対して前記第3のエピタキシャル層と前記第2のエピタキシャル層との間に形成される、請求項15に記載のプロセス。
【請求項17】
前記第1のエピタキシャル層から前記基板を取り除くことは、前記基板をエッチングすることを含む、請求項14に記載のプロセス。
【請求項18】
前記第1のエピタキシャル層と前記第2のエピタキシャル層との間の界面と、前記第3のエピタキシャル層と前記第2のエピタキシャル層との間の界面とをミラーリングすることをさらに含む、請求項14に記載のプロセス。
【請求項19】
前記基板は、炭化ケイ素、シリコン、サファイア、窒化ガリウムなどからなる群から選択される、請求項14に記載のプロセス。
【請求項20】
前記基板の結晶格子定数は、前記第1のエピタキシャル層の結晶格子定数よりも小さく、前記第1のエピタキシャル層の前記結晶格子定数は、前記第2のエピタキシャル層の結晶格子定数よりも小さく、前記第3のエピタキシャル層の結晶格子定数は、前記第1のエピタキシャル層の前記結晶格子定数に等しい、請求項19に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ひずみ補償ヘテロ構造及びそれを組み込んだ音響波共振器に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電材料で形成された表面音響波共振器は、通信及びタイミング用途において広く用いられている。デバイス材料としての窒化アルミニウム(AlN)は、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)などの材料と比べて表面相速度が高いため高周波応用の可能性があるため、用いられている。スカンジウム合金窒化アルミニウム(ScAlN)は、高い圧電係数を示すことができ、高い電気機械結合の表面音響波及びバルク音響波(BAW)共振器に適していると考えられる。
【0003】
しかし、エピタキシャルScAlNのBAW共振器の開発は、膜の亀裂に伴う問題によって妨げられている。亀裂は、熱膨張係数(CTE)の違い、格子定数の不一致(Δa)、及び部分的な基板除去などの応力/ひずみ源の組み合わせによって生じると理論化されている。
【0004】
図1を参照して、共振器積層体の概略図を示し、
図2には、関連する結晶格子構造の概略図を示す。炭化ケイ素(SiC)基板層A’は、窒化アルミニウム(AlN)層B’によってコーティングされ、窒化アルミニウム(AlN)層B’は、窒化アルミニウムスカンジウム(ScAlN)層C’によってコーティングされている。概略図は、基板A’の部分的な除去に対応する層A’、B’、C’の結晶格子定数の違いから明らかな、さらなる表面張力F
Tの存在を例示している。ここで、a
SiC<a
AlN<a
ScAlNである。
図2において分かるように、単結晶エピタキシャル構造で成長すると、結晶格子定数の違いにより、さらなる圧縮力F
C,1及びF
C,2が上部薄膜層B’及びC’上に生じる。基板Aの方が格子定数が小さい。上部薄膜層B’及びC’が基板A’上に形成されると、それらは下の基板A’によって拘束されるため、さらなる圧縮力F
C,1及びF
C,2が上部薄膜層B’、C’に作用する。上部層B’、C’は、成長からのエピタキシャル配置により、形成中に圧縮される。基板A’材料が処理中に取り除かれると、拘束力F
C,1及びF
C,2は部分的または完全に解放される。上部薄膜層B’、C’は、もはや基板拘束力F
C,1及びF
C,2によって拘束されないため、広がる。広がると、共振器膜の層B’、C’の変形及び/または亀裂につながる。層B’及びC’の膜が曲がると、上部層C’の表面は張力を受けて歪み、下部層B’の表面は圧縮を受けて歪む。2つの層B’、C’間のひずみ勾配が十分である場合、膜に亀裂が生じる。
【0005】
必要とされているのは、膜層間のひずみ/応力によって生じる問題を解消するためのプロセスである。
【発明の概要】
【0006】
本開示によれば、ひずみ補償ヘテロ構造であって、炭化ケイ素材料を含む基板と、基板の上面上に形成された単結晶窒化アルミニウム材料を含む第1のエピタキシャル層と、基板の前記上面とは反対側で第1のエピタキシャル層上に形成された第2のエピタキシャル層であって、単結晶窒化アルミニウムスカンジウム材料を含む、第2のエピタキシャル層と、第1のエピタキシャル層とは反対側で第2のエピタキシャル層上に形成された第3のエピタキシャル層であって、単結晶窒化アルミニウム材料を含む、第3のエピタキシャル層と、を含むひずみ補償ヘテロ構造が提供される。
【0007】
前述の実施形態のいずれかのさらなる実施形態は、ひずみ補償ヘテロ構造が基板からの解放に応答して自立することを、ひずみ補償ヘテロ構造がさらに含むことを、付加的及び/または代替的に含んでもよい。
【0008】
前述の実施形態のいずれかのさらなる実施形態は、ひずみ補償ヘテロ構造は基板が第1の層からエッチングされることに応答して自立することを、ひずみ補償ヘテロ構造がさらに含むことを、付加的及び/または代替的に含んでもよい。
【0009】
前述の実施形態のいずれかのさらなる実施形態は、第1のエピタキシャル層及び第2のエピタキシャル層が、第1の界面ひずみを含み、第3のエピタキシャル層及び第2のエピタキシャル層が、第1の界面ひずみに等しい第2の界面ひずみを含むことを、付加的及び/または代替的に含んでもよい。
【0010】
前述の実施形態のいずれかのさらなる実施形態は、第1の界面ひずみが、第1のエピタキシャル層と第2のエピタキシャル層との間の格子定数値及び/または熱膨張係数値の違いに応答することを、付加的及び/または代替的に含んでもよい。
【0011】
前述の実施形態のいずれかのさらなる実施形態は、第2の界面ひずみが、第3のエピタキシャル層と第2のエピタキシャル層との間の格子定数値及び/または熱膨張係数値の違いに応答することを、付加的及び/または代替的に含んでもよい。
【0012】
前述の実施形態のいずれかのさらなる実施形態は、第1のエピタキシャル層、第1のエピタキシャル層上に形成された第2のエピタキシャル層、及び第1のエピタキシャル層とは反対側で第2のエピタキシャル層上に形成された第3のエピタキシャル層が、基板からの解放に応答して中立的に応力を受ける膜を含むことを、付加的及び/または代替的に含んでもよい。
【0013】
本開示によれば、バルク音響波共振器用の多層膜構造であって、上面を有する解放可能な基板と、基板の上面上に形成された単結晶窒化アルミニウム材料を含む第1のエピタキシャル層と、基板の上面とは反対側で第1のエピタキシャル層上に形成された第2のエピタキシャル層であって、単結晶窒化アルミニウムスカンジウム材料を含む、第2のエピタキシャル層と、第1のエピタキシャル層とは反対側で第2のエピタキシャル層上に形成された第3のエピタキシャル層であって、単結晶窒化アルミニウム材料を含む、第3のエピタキシャル層と、を含む多層膜構造が提供される。
【0014】
前述の実施形態のいずれかのさらなる実施形態は、多層膜構造は解放可能な基板が第1のエピタキシャル層からエッチングされることに応答して自立することを、膜構造がさらに含むことを、付加的及び/または代替的に含んでもよい。
【0015】
前述の実施形態のいずれかのさらなる実施形態は、多層膜構造が基板の解放に応答して中立的に応力を受ける膜を含むことを、付加的及び/または代替的に含んでもよい。
【0016】
前述の実施形態のいずれかのさらなる実施形態は、第1のエピタキシャル層及び第2のエピタキシャル層が、第1の界面ひずみを含み、第3のエピタキシャル層及び第2のエピタキシャル層が、前記第2のエピタキシャル層に対して第1の界面ひずみと反対の第2の界面ひずみを含むことを、付加的及び/または代替的に含んでもよい。
【0017】
前述の実施形態のいずれかのさらなる実施形態は、第2のエピタキシャル層の両側で第1の界面ひずみが第2の界面ひずみに等しいことを、付加的及び/または代替的に含んでもよい。
【0018】
前述の実施形態のいずれかのさらなる実施形態は、多層膜構造が、基板の解放に応答して、等しいが反対のひずみ勾配を有する懸垂膜を含むことを、付加的及び/または代替的に含んでもよい。
【0019】
本開示によれば、バルク音響波共振器用の中立的に応力を受けて解放される多層膜構造を製造するためのプロセスであって、上面を有する解放可能な基板を用意することと、基板の上面上に単結晶窒化アルミニウム材料を含む第1のエピタキシャル層を形成することと、基板の上面とは反対側で第1のエピタキシャル層上に第2のエピタキシャル層を形成することであって、第2のエピタキシャル層は単結晶窒化アルミニウムスカンジウム材料を含む、形成することと、第1のエピタキシャル層とは反対側で第2のエピタキシャル層上に形成された第3のエピタキシャル層を形成することであって、第3のエピタキシャル層は単結晶窒化アルミニウム材料を含む、形成することと、第1のエピタキシャル層から基板を取り除くことと、を含むプロセスが提供される。
【0020】
前述の実施形態のいずれかのさらなる実施形態は、基板が炭化ケイ素材料を含むことを、付加的及び/または代替的に含んでもよい。
【0021】
前述の実施形態のいずれかのさらなる実施形態は、プロセスが、第1の界面ひずみを第2の界面ひずみと平衡させることをさらに含むことを、付加的及び/または代替的に含んでもよい。
【0022】
前述の実施形態のいずれかのさらなる実施形態は、第1の界面ひずみが第1のエピタキシャル層と第2のエピタキシャル層との間に形成され、第2の界面ひずみが第3のエピタキシャル層と第2のエピタキシャル層との間に形成されることを、付加的及び/または代替的に含んでもよい。
【0023】
前述の実施形態のいずれかのさらなる実施形態は、第1のエピタキシャル層から基板を取り除くことが、基板をエッチングすることを含むことを、付加的及び/または代替的に含んでもよい。
【0024】
前述の実施形態のいずれかのさらなる実施形態は、プロセスが、第1のエピタキシャル層と第2のエピタキシャル層との間の界面と、第3のエピタキシャル層と第2のエピタキシャル層との間の界面とをミラーリングすることをさらに含むことを、付加的及び/または代替的に含んでもよい。
【0025】
前述の実施形態のいずれかのさらなる実施形態は、基板の結晶格子定数が第1のエピタキシャル層の結晶格子定数よりも小さく、第1のエピタキシャル層の結晶格子定数が第2のエピタキシャル層の結晶格子定数よりも小さく、第3のエピタキシャル層の結晶格子定数が第1のエピタキシャル層の結晶格子定数に等しいことを、付加的及び/または代替的に含んでもよい。
【0026】
ひずみ補償ヘテロ構造及びプロセスの他の詳細は、以下の詳細な説明及び添付図面で述べている。同様の参照数字は同様の構成要素を示している。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図4】典型的なプロセスに対するプロセス図である。
【
図5】典型的な正味の応力状態を例示する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
次に
図3を参照して、基板表面16上に形成された第1の層14を有する基板12を含む積層体10を例示する。基板12は、特定の格子定数a
SiCなどの材料特性を有することができる。基板12は、炭化ケイ素(SiC)材料、シリコン、サファイア、GaN、または第1の層14を核形成することができる他の好適なエピタキシャルテンプレート基板を含むことができる。基板12は単結晶材料とすることができる。第1の層14は、格子定数a
AlNまたは熱膨張係数CTEα
AlNなどの、基板12とは異なる材料特性を有することができる。第1の層14は、窒化アルミニウム(AlN)材料とすることができる。第1の層14は、エピタキシャル単結晶膜とすることができる。第1の層14は、核形成層とすることができる。第2の層18を、基板12と対向する第1の層14上に形成することができる。第2の層18は、格子定数a
ScAlN及び/またはCTEα
ScAlNなどの、基板12及び第1の層14とは異なる材料特性を有することができる。第2の層18は、エピタキシャル単結晶膜とすることができる。第2の層18は、窒化アルミニウムスカンジウム(ScAlN)材料とすることができる。第3の層20を、第1の層14と対向する第2の層18上に形成することができる。第3の層20は、格子定数a
AlN及び/またはCTEα
AlNなどの、第1の層14と同じ材料特性を有することができる。第3の層20は、エピタキシャル単結晶膜とすることができる。第3の層20は窒化アルミニウム(AlN)材料とすることができる。典型的な実施形態では、第3の層20は、第2の層よりもスカンジウム濃度が低い組成を含む窒化アルミニウムスカンジウム(ScAlN)組成物とすることができる。たとえば、第2の層18は、Sc
0.30Al
0.70Nの組成を含むことができ、第3の層20は、Sc
0.05Al
0.95Nの組成を含むことができる。第3の層20は、AlNを用いた場合よりも厚いSc
0.05Al
0.95N層である層を含むことができる。なぜならば、それは、AlNよりもSc
0.30Al
0.70Nにより近い格子整合を有するからである。目標は、Sc
0.30Al
0.70Nを含む第2の層18の両側で応力を平衡させることである。層14、18、及び20における組成及び厚さは、プロセス温度からの熱成長に基づいてCTE差を補正するように構成することができる。
【0029】
第1の層14及び第2の層18が基板12上に形成された後、合成圧縮力が積層体10に作用する。前述したように、基板12、第1の層14、及び第2の層18の材料特性の不一致が積層体10に圧縮力を与える。特に、エピタキシャル単結晶膜を成長させる場合、ヘテロエピタキシャル材料間の格子定数及び熱膨張係数の違いにより、大きな界面ひずみが生じる可能性がある。違いが十分に小さい場合及び膜が緩和臨界厚さを下回る場合は、コヒーレント(または半コヒーレント)な界面22が形成される可能性があり、結晶構造が界面22で歪んで結合整合を可能にする。AlNを含む第1の層14の格子定数は、ScAlNを含む第2の層18よりも小さい。基板12が第1の層14から解放されると、AlN/ScAlN二重層24は、界面ひずみ25を緩和しようとして湾曲するかまたは歪む。二重層24が湾曲すると、第2の層18の上面26は張力を受けて歪み、第1の層14のAlNの下面28は圧縮を受けて歪む。
【0030】
第3の層20は、第2の層18上に形成された後、第1の層14と同じ材料特性を有し、第1の層14が第2の層18に与える力とは反対の反対湾曲力を第2の層18に与える。第3の層20が、同様の材料を含むが、厚さが異なるかまたは組成物中の材料の濃度が異なる場合、第3の層20は、第1の層14が第2の層18に与える力とは反対の反対の力を第2の層18に与える可能性がある。基板12が膜30から解放されると、第1の層12が与える湾曲力は第3の層20が与える湾曲力と等しくなり、膜30上でのひずみ/応力の平衡がもたらされる。開示した独自の層化は、層14、18、20における材料の成長のエピタキシャル性を利用し、ScAlNの第2の層18の両側でひずみをミラーリングすることにより、格子定数(aAlN及びaScAlN)ならびにCTE(αAlN及びαScAlN)間の違いの影響を排除することができる。下部のScAlN/AlN界面22と一致させるために、表面32上の等しいが反対のひずみ勾配が第3の層20によって与えられる。したがって、基板12が取り除かれると、懸垂膜30は、中立的に応力を受けたままであり、亀裂が生じず、さらなる処理及びデバイス製造が可能になる。第1の層14と平衡させるために積層体10上にさらなる第3の層20を設ける改善により、解放時に、共振器膜30は亀裂が生じることも変形することもない。膜30に亀裂を生じさせるのに十分な変形を残留応力が引き起こさない正味の応力値の範囲を得ることができると、考えられる。
【0031】
また
図4を参照して、プロセスマップを示す。プロセス100は全般的に、共振器膜30が製造中に変形するのを防ぐために用いるステップを説明している。プロセス100は、基板を用意するステップ110を含む。次のステップ112は、基板上に第1の層を形成することを含む。第1の層はエピタキシャル成長させることができる。典型的な実施形態では、第1の層はAlN材料とすることができる。次のステップ114は、第1の層上に第2の層を形成することを含む。第2の層はエピタキシャルとすることができる。第2の層はScAlN材料とすることができる。次のステップ116は、第2の層上に第3の層を形成することを含む。第3の層はエピタキシャルとすることができる。第3の層は第1の層と同じ材料とすることができる。第3の層はAlNとすることができる。結果として得られる積層体は、積層体内の第2の層に対して等しいが反対のひずみ勾配を有する第1の層及び第3の層をもたらす。次のステップは、第1の層から基板を取り除くことを含む。基板をエッチングして、電極との電気接触を可能にすることができる。基板が取り除かれると、積層体内の膜は懸垂されるが、積層体は、基板内の第1及び第2の層のエピタキシャル成長から蓄積されたひずみ勾配により変形しない。第3の層によって、層形成中に形成される第1及び第2の層の力を一致させる平衡力が得られる。
【0032】
また
図5を参照して、概略図は、層14、18、20の間の正味の応力状態の関係を例示する。正味の応力状態は、層14、18、20の間の一連の力平衡として理解することができる。層14、18、20に対する力は、膜30内に亀裂が生じないように平衡させることができる。
図5における図は、ゼロの値の両側に力が平衡する領域があることを例示している。図は、(圧縮方向または引張方向のいずれかでの)亀裂に対する臨界のひずみレベルよりも小さいゼロ付近の領域を示す。このゼロ付近の領域内の力平衡を伴う膜は、中立的に応力を受けると言われる。ゼロ近くに力を平衡させることができるほど、処理の許容範囲及び共振器の耐久性が向上する。力は正確にゼロの正味の力で平衡する必要はなく、代わりにゼロ平衡値の両側に存在することができるいくつかの力がある。亀裂の原因となる平衡を超えた値が存在する。平衡における絶対数は、層14、18、20における材料組成及び厚さの組み合わせに依存する。開示したプロセスには、基板を取り除いた後の膜の変形を回避するために、製造中に形成された汚点/応力を操作するという考え方が含まれる。種々の材料を基板として使用できると考えられる。しかし、異なる基板材料を使用すると、層14、16、18と基板12との間の初期応力状態が変わり得る。たとえば、SiC基板の場合、エピ層に初期圧縮力がかかる(SiCの方が格子定数が小さいため)。シリコンの場合は逆のことが起こる(シリコンの方が格子定数が大きいため)。しかし、いずれの場合も、本明細書に記載の膜応力平衡の問題及び解決策は変わらない。膜積層体を、バルク音響波(BAW)共振器などの共振器と用いることができる。
【0033】
典型的な開示内容の技術的利点には、共振器として用いるための中立的に応力を受けて解放される膜が含まれる。
【0034】
典型的なエピタキシャル単結晶AlN/ScAlN/AlN膜の別の技術的利点には、解放された膜の曲がりを抑制し、その後に亀裂を防ぐことが含まれる。
【0035】
典型的なエピタキシャル単結晶AlN/ScAlN/AlN膜の別の技術的利点には、核形成層(第1の層)と第2の層との間の界面に存在するひずみを補償するためのひずみ整合表面層(第3の層)の導入が含まれる。
【0036】
典型的なプロセスの別の技術的利点には、開示したプロセスを、希土類III族窒化物(IIIA、IIIB、ランタニド、たとえば、AlGaN、InGaN、ScAlN、YAlNなど)多層膜構造に関する材料の他の組み合わせに適用することが含まれる。
【0037】
典型的なプロセスの別の技術的利点には、自立デバイスを可能にする変形の無い懸垂膜が含まれる。
【0038】
典型的なプロセスの別の技術的利点には、第1のエピタキシャル層と第2のエピタキシャル層との間の界面と、第3のエピタキシャル層と第2のエピタキシャル層との間の界面とをミラーリングすることが含まれる。
【0039】
典型的なプロセスの別の技術的利点は、第2のエピタキシャル層の両側で第1の界面ひずみが第2の界面ひずみと大きさが等しいことをもたらす。
【0040】
典型的なプロセスの別の技術的利点は、基板の解放に応答して中立的に応力を受ける膜を含む多層膜構造をもたらす。
【0041】
ひずみ補償ヘテロ構造及びプロセスが提供されている。ひずみ補償ヘテロ構造及びプロセスを、その特定の実施形態の文脈において説明しているが、他の予期しない代替物、変更、及び変形が、前述の説明を読んだ当業者には明らかになり得る。したがって、添付の特許請求の範囲の広い範囲に含まれる代替物、変更、及び変形を包含することが意図されている。
【国際調査報告】