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特表2024-500995原子炉の炉心からの溶融物を封じ込めて冷却するシステム
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  • 特表-原子炉の炉心からの溶融物を封じ込めて冷却するシステム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-10
(54)【発明の名称】原子炉の炉心からの溶融物を封じ込めて冷却するシステム
(51)【国際特許分類】
   G21C 9/016 20060101AFI20231227BHJP
【FI】
G21C9/016
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023539119
(86)(22)【出願日】2021-12-15
(85)【翻訳文提出日】2023-07-31
(86)【国際出願番号】 RU2021000575
(87)【国際公開番号】W WO2022146184
(87)【国際公開日】2022-07-07
(31)【優先権主張番号】2020143777
(32)【優先日】2020-12-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】RU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516233088
【氏名又は名称】ジョイント ストック カンパニー アトムエネルゴプロエクト
【氏名又は名称原語表記】JOINT STOCK COMPANY ATOMENERGOPROEKT
【住所又は居所原語表記】ul. Bakuninskaya,7,str.1 Moscow,105005 Russia
(71)【出願人】
【識別番号】520514768
【氏名又は名称】サイエンス アンド イノヴェーションズ - ニュークリア インダストリー サイエンティフィック デベロップメント,プライベート エンタープライズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001900
【氏名又は名称】弁理士法人 ナカジマ知的財産綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】シドロフ, アレクサンドル・スタレヴィッチ
(72)【発明者】
【氏名】シドロヴァ, ナデジダ・ヴァシリエヴナ
(72)【発明者】
【氏名】チカン, クリスティン・アレクサンドロヴィッチ
(72)【発明者】
【氏名】バデシュコ, クセニヤ・コンスタンティノフナ
【テーマコード(参考)】
2G002
【Fターム(参考)】
2G002AA10
2G002BA07
(57)【要約】
本発明は、原子力工学の分野に関し、より詳細には、原子力発電所の安全性を提供し、原子炉の圧力容器及び密閉された格納構造物の破壊につながる事故の場合に使用することができるシステムに関する。原子炉の炉心からの溶融物を封じ込めて冷却するためのシステムは、ガイド装置と、カンチレバートラスと、溶融物を受け取り分配するための充填材とを備える。前記充填材は、ケーシング内に配置され、ケーシングは、当該ケーシングの周囲に取り付けられた給水バルブを有し、ケーシングの上に取り付けられ、熱保護材を備えるフランジを有する。ケーシングのフランジの上にドラムが取り付けられ、ドラムは、内周面に取り付けられた補強リブを有するシェルの形態で構成される。補強リブは、ドラムのカバー部材及び底部材を支持する。前記ドラムは、当該ドラムに溶接された支持フランジを介してドラムをケーシングのフランジに接続する張力部材と、ドラムとケーシングのフランジとの間に調整ギャップを付与するスペーサとを有する。原子炉の炉心からの溶融物を封じ込めて冷却するシステムの信頼性を高めるために、ドラムには、ノズルが設けられ、ノズル内には、密閉カバー付き給水バルブが取り付けられ、供給パイプライン、圧力パイプライン、補償パイプライン、および均等化パイプラインを介して外部水源および前記ドラムの給水バルブと接続されている油圧ダンパーが設けられている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉の炉心からの溶融物を封じ込めて冷却するシステムであって、
ガイド装置と、
トラスコンソールと、
ケーシングの周囲に沿って取り付けられた給水バルブを備えた当該ケーシングの内部に配され、溶融物を受け入れて分配するための充填材と、
前記ケーシングのフランジに取り付けられた熱保護部材と、を備え、
さらに、前記ケーシングのフランジに取り付けられたドラムを備え、
前記ドラムは、
内周面に沿って取り付けられた補強リブを備えたシェルの形態で構成され、補強リブがカバー部材および底部材に接触して載置され、
当該ドラムに溶接された支持フランジを介して当該ドラムを前記フランジと接続する張力部材と、当該ドラムと前記ケーシングのフランジとの間に調整ギャップを付与するスペーサとを、備え、
前記ドラムは、ノズルを備え、
前記ノズル内には、密閉カバー付き給水バルブが取り付けられ、
さらに、供給パイプライン、圧力パイプライン、補償パイプライン、および均等化パイプラインを介して外部水源および前記ドラムの給水バルブと接続されている油圧ダンパーを備える
ことを特徴とするシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力エネルギーの分野に関し、特に、原子力発電所(NPP)の安全性を確保するシステムに関し、原子炉圧力容器及びその格納容器の破壊につながる重大事故の場合に使用可能である。
【背景技術】
【0002】
炉心冷却システムにおいて複数の故障が起きた場合に発生する可能性がある炉心の溶融を伴う事故は、最も大きい放射線災害を引き起こす。
【0003】
このような事故が発生している間、炉心溶融物であるコリウムが原子炉構造物や原子炉圧力容器を溶かし、その境界を越えて流出し、その中に保持されている残留熱の結果として、放射性物質が環境へ放出される経路上の最後の障壁である、原子力発電所の格納容器の完全性を損なう可能性がある。
【0004】
このような事態の発生を防ぐために、原子炉圧力容器から流出する炉心溶融物(コリウム)を封じ込めて、その結晶化が完了するまで、継続的に冷却する必要がある。この機能は、原子炉の炉心からの溶融物を封じ込めて冷却し、原子力発電所の格納容器への損傷を防ぐシステムによって実行され、それによって、原子炉の重大事故が発生した場合に、公衆及び環境を放射線被ばくから守る。
【0005】
溶融物を冷却するための多層容器内へ水を適時に確実に供給することは、溶融物を受け入れて分配するための多層容器の上部に給水バルブを設置することによって実現され、これは、どのような重大事故が発生した場合であっても、溶融物を確実に冷却し封じ込めるプロセスを確実に行うために最も重要な要素の一つである。この場合において、重要な点は、ある(特定の)条件に達した特定の時点で、設置されたバルブを介した給水を実行する必要があるということである。特に、時期尚早な給水は水蒸気爆発を引き起こす可能性があり、給水が不可能であると、溶融物表面からの放射熱流束の作用により、圧力容器内の設備が過熱する可能性があり、それは、最終的に、圧力容器内部への設備の崩壊、原子炉シャフトから溶融物への水の侵入、水と溶融物との混合などを引き起こす可能性があり、その結果、水蒸気爆発が起こり、溶融物を封じ込めて冷却するシステム及び格納容器が破壊され、放射性物質が環境中に放出される。
【0006】
原子炉の炉心からの溶融物を封じ込めて冷却するシステムが知られている(特許文献1~3)。このシステムは、原子炉圧力容器の下に設置され、カンチレバートラスの上に載置されるガイドプレート、コンクリートの地下格納室(vault)の基礎に埋設された部材上に設置され、熱保護材を備えたフランジを備えた多層容器、互いに重ねて取り付けられた一組のカセットからなる充填材及び多層容器内部において充填材とガイドプレートの間に設置されたサービスプラットフォームからなる。
【0007】
以下に示す欠点を原因として、このシステムの信頼性は低い。
【0008】
-溶融物によって原子炉圧力容器がメルトスルー(melt-through)(破壊)した場合、過熱した溶融物が原子炉圧力容器内に存在する残留圧力の影響でメルトスルーによって形成された穴に流れ込み始め、溶融物が多層容器のボリューム内で非軸対称に分配され、多層容器とカンチレバートラスとの間の密閉接続ゾーン、多層容器のフランジの熱保護材、多層容器内に配置された給水バルブ等、周囲の構造物に動的影響を与え、それらの破壊を引き起こし、また、多層容器のフランジ及び溶融物に晒されたカンチレバートラスの内面の破壊を引き起こし、最終的に、それらの構成要素の破壊によって、溶融物を封じ込めて冷却するシステムの機能不全という結果となる。
【0009】
-大量(例えば、10~15m3 )の過熱溶融物のジェット流が、多層容器体内の充填材上に流れ込む場合、充填材の側面からの反射効果の結果として、そのような溶融物の一部が、逆方向に、つまり、周囲の構造物の方向へ、特に、多層容器とカンチレバートラスの間の密閉接続ゾーンの方向へ、多層容器のフランジの熱保護材の方向へ、及び多層容器の方向へ、特に、給水バルブの設置領域の方向へ移動するため、それらの損傷及び破壊(溶融)につながることがある結果、溶融物を冷却するための多層容器内への水の供給が妨害され、溶融物を封じ込めて冷却するシステムが破壊され、放射性物質が環境中に放出される可能性がある。
【0010】
-溶融物が多層容器内の充填材の内部に流出する場合、充填材の溶融により溶融物の体積が増加し、また、多層容器内のそのレベルが上昇する。この場合、炉心及び原子炉圧力容器の底部の破片の落下により、溶融物の飛沫(波)が発生し、周辺設備や多層容器に設置された給水バルブに動的影響を及ぼすことにより、これはそれらの破壊(溶融)につながり、その結果、溶融物を冷却するための多層容器内への水の供給が妨害され、その結果、溶融物を封じ込めて冷却するシステムが破壊され、放射性物質が外部環境に放出される可能性がある。
【0011】
-原子炉圧力容器からの溶融物の流出、及び、溶融物と充填材との相互作用の過程において、エアロゾルが形成され、エアロゾルは、高温ゾーンから上向きに移動し、低温ゾーンの周辺設備及び給水バルブの表面に凝結する。本来、溶融物表面からの熱放射の影響により、周辺設備および給水バルブが起動されるところ、この凝結したエアロゾルにより周辺設備および給水バルブが遮蔽され、周辺設備および給水バルブの起動が阻止される。その結果、溶融物を冷却するための多層容器内への水の供給が妨害されることとなり、結果として、溶融物を封じ込めて冷却するシステムが破壊され、放射性物質が外部環境に放出される可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】ロシア連邦特許第2576517号明細書
【特許文献2】ロシア連邦特許第2576516号明細書
【特許文献3】ロシア連邦特許第2575878号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の技術的成果は、原子炉の炉心からの溶融物を封じ込めて冷却するシステムの信頼性を高めることである。
【0014】
本発明が解決すべき課題は、周辺の構造物、ケーシングのフランジに設置された設備の破壊を防止し、溶融物への冷却水の供給を確実にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題は、以下に示す事実によって、解決される。つまり、本発明によると、原子炉の炉心からの溶融物を封じ込めて冷却するシステムは、ガイド装置、カンチレバートラス、ケーシングの周囲に沿って取り付けられた給水バルブを備えた当該ケーシングの内部に配され、溶融物を受け入れて分配するための充填材、及び、熱保護材が取り付けられたフランジを含み、さらに、ケーシングのフランジに取り付けられたドラムを含み、このドラムは、その内周面に沿ってドラムのカバー部材と底部材に接触して取り付けられた補強リブを備えたシェルの形態で構成され、補強リブはドラムのカバー部材および底部材に接触して載置され、ドラムに溶接された支持フランジを介してドラムをケーシングのフランジと接続する張力部材及びドラムとケーシングのフランジの間に調整ギャップを付与するスペーサを有し、ドラムはノズルを有し、ノズル内には密閉カバー付き給水バルブが取り付けられ、供給パイプライン、圧力パイプライン、補償パイプライン、および均等化パイプラインを介して外部水源およびドラムの給水バルブと接続されている油圧ダンパーを備える。
【0016】
原子炉の炉心からの溶融物を封じ込めて冷却するシステム内に、ドラムが存在し、このドラムは、ケーシングのフランジに取り付けられ、内周面に沿って取り付けられた補強リブを備えたシェルの形態で構成され、補強リブはドラムのカバー部材および底部材に接触して載置され、ドラムに溶接された支持フランジを介してドラムをケーシングのフランジと接続する張力部材、ドラムとケーシングのフランジの間に調整ギャップを付与するスペーサ、及び、密閉カバー付き給水バルブが配置されたノズルを有する。ドラムの存在は、本発明の重要な特徴の1つである。このドラムにより、原子炉シャフト内の水の不足やケーシングの周囲に沿って設置された給水バルブの故障の場合でも、外部水源から容器内の空間への冷却水の流れを確保することができる。その結果、外部水源からの冷却水がケーシング内部の上から溶融物の表面に供給され、溶融物表面及び溶融物表面の上に配置された設備(カンチレバートラス及びガイドプレート)を冷却するために、水蒸気及びガス、水蒸気及び水又は水が供給される。
【0017】
原子炉の炉心からの溶融物を封じ込めて冷却するシステム内に、供給、圧力、補償、および均等化のパイプラインを介して外部水源とドラムの給水バルブとを接続する油圧ダンパーが存在する。この油圧ダンパーは、本発明の重要な特徴の1つである。この油圧ダンパーにより、ドラムの給水バルブの上方にある外部水源から重力によって供給される冷却水の条件下で、ドラムの給水バルブをホウ酸溶液への長時間の暴露や水圧衝撃から保護することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本発明に係る、原子炉の炉心からの溶融物を封じ込めて冷却するシステムを示す。
図2図2は、ケーシングのフランジに設置されたドラムを示す。
図3図3は、ケーシングのフランジに設置されたドラムの一部を示す。
図4図4は、ドラムに設置された密閉カバー付きの給水バルブを示す。
図5図5は、油圧装置の構成要素を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1図4に示すように、原子炉の炉心からの溶融物を封じ込めて冷却するシステムは、原子炉圧力容器(2)の下に設置され、カンチレバートラス(トラスコンソール)(3)の上に載置されているガイド装置(1)を備えている。原子炉シャフトの基部に埋め込まれた部材に取り付けられたケーシング(多層容器)(4)は、カンチレバートラス(3)の下に設けられている。充填材(7)を備えたケーシング(4)は、溶融物を受け入れ、分配するように設計されている。熱保護材(6)を備えたフランジ(5)が、ケーシング(4)の上部に配されている。充填材(7)は、ケーシング(4)の内部に取り付けられている。ケーシング(4)の周囲に沿って、充填材(7)とフランジ(5)との間の領域には、給水バルブ(8)が備えられている。ケーシング(4)のフランジ(5)には、ドラム(12)が取り付けられている。
【0020】
図2~5に示すように、ノズル(10)がドラム(12)内に設置され、ノズルに給水バルブ(9)が取り付けられている。ドラム(12)の各給水バルブ(9)には、密閉カバー(28)が取り付けられている。給水バルブ(9)は、圧力パイプ(22)、(23)、均等化パイプ(29)、供給パイプ(21)、およびフランジ付の接続部(27)に取り付けられた熱膨張補償パイプ(26)を用いて、油圧ダンパー(25)と接続されている。これにより、ケーシング(4)の周囲に沿って取り付けられた給水バルブ(8)の故障の場合、原子炉シャフト内の冷却水のレベルが低く、原子炉シャフトからケーシング(4)へオーバーフローする水を供給するためのケーシング(4)の給水バルブ(8)が使用できない場合に、外部水源からの冷却水をケーシング(4)の内部空間への供給を確保する。
【0021】
本発明の原子炉の炉心からの溶融物を封じ込めて冷却するシステムは、次のように動作する。
【0022】
原子炉圧力容器(2)が破壊されると、静水圧と残留圧力の影響により、カンチレバートラス(3)により支持されたガイド装置(1)の表面上に、溶融物が流れ始める。ガイド装置(1)を流れ落ちる溶融物は、ケーシング(4)に入り、充填材(7)と接触する。溶融物が部分的に非軸対称に流れる場合、カンチレバートラス(3)の熱保護材及びケーシング(4)のフランジ(5)の熱保護材(6)の部分溶融が起こる。これらの破壊の過程において、これらの熱保護材は、一方では、保護された設備において溶融物の熱的影響を軽減し、他方では、溶融物自体の温度と化学的活性を低下させる。
【0023】
ケーシング(4)のフランジ(5)の熱保護材(6)は、溶融物が充填材(7)に流入する時点から、溶融物と充填材(7)との相互作用が終了するまで、つまり、溶融物表面に位置するクラストに対する水による冷却が開始される時点まで、溶融物表面の一部による熱の影響から、ケーシング(4)の上部の肉厚の内部区画を保護する。ケーシング(4)のフランジ(5)の熱保護材(6)は、充填材(7)との相互作用の過程で、ケーシング(4)内に形成される溶融物のレベルより上の位置に、つまり、ケーシング(4)の上部区画であって、ケーシング(4)の円筒部分に比べて厚みが大きくなっている位置に、ケーシング(4)の内部表面を保護するように、取り付けられる。ケーシング(4)は、溶融物から、ケーシング(4)の外側における水に対する通常の熱移動(プール沸騰モードでの危機的な熱流束を伴うことなく)を提供する。
【0024】
溶融物と充填材(7)と間の相互作用の過程で、ケーシング(4)のフランジ(5)の熱保護材(6)が加熱され、部分的に破壊され、こうして、溶融物表面からの熱放射を遮断する。ケーシング(4)のフランジ(5)の熱保護材(6)の幾何学的、熱的、物理的特性は、どのような条件下でも、溶融物表面の側から、ケーシング(4)のフランジ(5)を遮蔽するように、選択されるので、それによって、溶融物と充填材(7)との間の、物理的、化学的相互作用のプロセスが完了するときからの保護機能の独立性が確保される。ケーシング(4)のフランジ(5)の熱保護材(6)の存在は、溶融物表面のクラスト上への給水の開始に先立って、保護機能の性能を確保する。
【0025】
ケーシング(4)の給水バルブ(8)の保護は、受動的に行われる。つまり、ケーシング(4)のフランジ(5)の熱保護材(6)は、原子炉圧力容器(2)の底部が破壊された場合に、飛来物体から保護を行い、流れる溶融物による損傷から保護を行い、溶融物表面の上方にある熱保護材の破片の落下から保護を行う。
【0026】
溶融物の金属及び酸化物の成分が、ケーシング(4)内に配置された充填材(7)へ流れ込むことにより、充填材(7)が徐々に溶融し、ケーシング(4)内に自由溶融物表面が形成される。溶融物の金属及び酸化物の成分と充填材(7)との間の物理的、化学的反応が完了する過程において、溶融物表面の温度が上昇し始める。これは、物理的、化学的反応の間で溶融物内に放出される残留エネルギーの再分配、ケーシング(4)を通した熱伝達、設備上への熱放射、そして溶融物表面からのガス混合物の対流加熱によって発生する。
【0027】
溶融物表面からの、ケーシング(4)の給水バルブ(8)及びドラム(12)の給水バルブ(9)に対する熱放射の影響は、均一ではない。つまり、ケーシング(4)の給水バルブ(8)に対する熱放射の影響は、ドラム(12)の給水バルブ(9)に対するよりも遥かに強い。これは、溶融物表面の位置に関連して、上記の給水バルブ(8)と給水バルブ(9)の高さの位置が異なるためである。その結果、ケーシング(4)の給水バルブ(8)は、ドラム(12)の給水バルブ(9)よりも早く加熱され、遥かに早く開くように、作動する。
【0028】
ケーシング(4)の給水バルブ(8)が開かない場合が発生する可能性がある。例えば、原子炉圧力容器(2)の底部の1つ又はいくつかの破片が溶融物槽に落下し、溶融物の波(スプラッシュ(飛沫))を形成し、上記給水バルブ(8)を溶着させ、複数の給水バルブのうちの、最初の1つ又は2つが作動するまで、溶融物表面からの熱放射がドラム(12)の給水バルブ(9)を加熱し続ける。
【0029】
図1~4に示すように、ドラム(12)は、ケーシング(4)のフランジ(5)に取り付けられている。設計の観点から、ドラム(12)は、その内周面に沿って取り付けられた補強リブ(14)を備えたシェル(13)の形態で構成され、補強リブ(14)は、ドラムのカバー部材および底部材に接触して載置されている。ドラム(12)は、当該ドラム(12)に溶接された支持フランジ(18)を介して、ドラム(12)をケーシング(4)のフランジ(5)に接続する張力部材(17)を有する。ドラム(12)内に、ドラム(12)とケーシング(4)のフランジ(5)との間に調整ギャップ(19)を付与するスペーサ(20)が設けられている。ドラム(12)には、ノズル(10)を備え、ノズルには、ケーシング(4)の周囲に沿って取り付けられた給水バルブ(8)が故障した場合に、外部水源からケーシング(4)の内部空間に冷却水の供給を確保するための給水バルブ(9)が配置されている。
【0030】
調整ギャップ(19)は、ケーシング(4)のフランジ(5)に対するドラム(12)の正確な取り付けを確実にすることを可能とする。
【0031】
図5に示すように、給水バルブ(9)には、ドラム(12)のノズル(10)に取り付けられた密閉カバー(28)が取り付けられている。ドラム(12)の給水バルブ(9)は、供給パイプライン(21)、圧力パイプライン(22)、(23)、補償パイプライン(26)、および均等化パイプラインを介して油圧ダンパー(25)および外部水源に接続されており、これにより、外部水源からケーシング(4)の内部の溶融表面に冷却水を供給する。
【0032】
充填材(7)内で溶融物を封じ込める過程において、原子炉の炉心からの溶融物を封じ込めて冷却するシステムの設備の一部の構成要素の完全性が妨害される可能性がある。
【0033】
-カンチレバートラス(3)の熱保護材は、非軸対称の溶融物の流入の結果、部分的に損傷(破壊又は溶融)する可能性がある。
【0034】
-ケーシング(4)のフランジ(5)の熱保護材(6)は、その下方の区画において、溶融物の飛沫によって局所的に破壊される可能性があり、その上方の区画は、非軸対称の溶融物の流入の結果、部分的に破壊される可能性がある。
【0035】
これらの破壊は、溶融物の封じ込めの初期段階、及び、長期に渡る封じ込めの段階の両方で発生する可能性がある。このような破壊の場合に、溶融物表面からの放射熱流束及び対流熱流束が、ガイド装置(1)、カンチレバートラス(3)、ドラム(12)など、ケーシング(4)の上方に配されている設備に対して重大な影響を及ぼし始める。これらの条件下では、カンチレバートラス(3)とケーシング(4)との間に配されているドラム(12)に対する加熱強度は、溶融物表面からの熱放射の強さと、ケーシング(4)の給水バルブ(8)の状態に大きく依存する。原子炉圧力容器(2)の底部の破片がケーシング(4)内にある溶融物に落下して、液状の溶融物の噴出(スプラッシュ)又はその波状の上昇が発生する場合、ケーシング(4)の給水バルブ(8)は、液状の溶融物により溶着され、その流路が完全に遮断される可能性がある。このような状況下では、溶融物表面に冷却水を供給するケーシング(4)の給水バルブ(8)に全面的な故障が発生する可能性がある。ケーシング(4)のフランジ(5)の熱保護材(6)、カンチレバートラス(3)の熱保護材及びドラム(12)の加熱は、継続する。
【0036】
ドラム(12)の給水バルブ(9)は、密閉カバー(28)によって原子炉シャフト内の媒体から分離されている。密閉カバー(28)は、熱膨張を補償するパイプ(26)、供給パイプ(21)と均等化パイプ(29)を介して油圧ダンパーに接続(25)されている。外部水源から圧力パイプ(22)と圧力ノズル(23)を介して流入するホウ酸塩水は、水が流入する前の空気で満たされている油圧ダンパー(25)に流入する。静水頭の影響を受けた空気は圧縮され始める。油圧ダンパー(25)のボリュームは、油圧ダンパー(25)内の空気が、水によって、均等化パイプ(29)、供給パイプ(21)、補償(26)、そして密封カバー(28)の中に押し出され、これらのパイプ(29)、(21)、(26)およびカバー(28)の中の空気と混合し、油圧ダンパー(25)内のホウ酸塩水(24)の水位が均等化パイプ(29)のレベルより下に位置する背圧を提供するように選択される。このホウ酸塩水の水位により、ドラム(12)の給水バルブ(9)がホウ酸塩水の直接的な影響から保護され、給水バルブ(9)でのホウ酸の堆積とそれに伴う腐食プロセスを防止する。油圧ダンパー(25)を水で満たす過程において、給水経路および空気圧縮経路の両方と異なる流体抵抗に関連する振動プロセスが発生する。例えば、ホウ酸水を油圧ダンパー(25)に供給する圧力パイプ(22)は、油圧ダンパー(25)毎にさまざまな場所に接続されている可能性があり、その結果、その長さに応じて給水経路の流体抵抗の差異が生じる。パイプライン(29)、(21)、(26)、およびカバー(28)を介して給水バルブ(9)と接続されている複数の油圧ダンパー(25)がそれぞれ異なる距離で同じ圧力パイプ(22)に取り付けられている場合、圧力パイプ(22)を介して水の供給を受ける過程で水位(24)の変動が発生する。この変動により、ホウ酸塩水がオーバーフローし、給水バルブ(9)の密閉カバー(28)に空気の代わりにオーバーフローしたホウ酸塩水が満たされる。この現象を防止するために、ドラム(12)の1つの給水バルブ(12)に、複数(例えば2つ)の油圧ダンパー(25)が、図5に示すように、圧力パイプ22の異なる位置に取り付けられた圧力ノズル(23)を介して、取り付けられる。複数の油圧ダンパー(25)は上部で均等化パイプ(29)によって接続され、油圧ダンパー(25)間の圧縮空気のオーバーフローを提供される。これに、圧力ノズル(23)および均等化パイプ(29)のサイズ(径)が、油圧ダンパー(25)のサイズ(径)よりも小さいことを合わせて、水の流入時の振動プロセスがスローダウンする。これによって、これにより、油圧ダンパー(25)の初期充填中に、密閉カバー(28)へのホウ酸塩水の侵入から保護される。
【0037】
ドラム(12)の加熱は、前もって設定された温度に達すると、開くように作動する給水バルブ(9)の加熱を伴う。ドラム(12)の給水バルブ(9)を開くための作動は、最初の瞬間に空気圧の解放を伴う。その後、外部水源からの冷却水がケーシング(4)の内部空間に流入し、溶融物表面の上方、つまり、充填材(7)の上方への冷却水の供給を開始する。ドラム(12)の給水バルブ(9)が開くと、外部水源からの水(例えば、貯水タンクの水、または格納容器内の検査シャフトの水等)がケーシング(4)の内部空間への流入を開始し、重力により、溶解した充填材(7)の要素によって形成されたスラグキャップの上に供給される。水蒸気と水が、溶融物表面を冷却するプロセスが始まる。
【0038】
ケーシング(4)の外側面の冷却水の水位が、ケーシング(4)の給水バルブ(8)の取り付け位置よりかなり低くなる状況において、給水バルブ(8)が開くように作動したとき、ケーシング(4)への冷却水の流体静力学的な供給が不可能になる。これらの条件下では、ドラム(12)とその中に取り付けられた給水バルブ(9)の加熱は1以上の給水バルブ(9)が作動するまで継続する。ドラム(12)の給水装置のバルブ(9)を介して水が供給されると、溶融物表面の温度が徐々に低下する。スラグキャップおよび溶融物表面の冷却過程において、ドラム(12)の給水バルブ(9)から供給される水において、蒸発する水の量が減少し、スラグキャップの表面に蓄積する水の量が増加し、周囲の空間全体が冷却される。徐々にスラグキャップより上の水位が上昇し、ケーシング(4)給水バルブ(8)の流路に到達すると、ケーシング(4)の給水装置の1以上の給水バルブ(8)が開き、水の原子炉シャフトへのオーバーフローが開始する。油圧装置に接続されているドラム(12)の給水バルブ(9)を介した原子炉シャフトへの水の供給により、ケーシング(4)の熱交換が改善され、溶融物の冷却プロセスを加速される。原子炉シャフトへの水供給のプロセスは、原子炉シャフトとケーシング(4)の水位が等しくなるまで続く。水位が同じレベルに到達すると、ケーシング(4)に供給される水の量が増加し、溶融物の効率的な冷却および安定化が実現する。
【0039】
したがって、原子炉の炉心からの溶融物を封じ込めて冷却するシステムにおいて、パイプラインによって油圧装置に接続された密閉カバー付き給水バルブを備えたドラムの使用は、給水バルブを異なるレベルに配置することでシステムの信頼性を高め、原子炉シャフト内の冷却水のレベルが不十分な場合における溶融物表面の冷却を実現し、水蒸気爆発、溶融物の飛沫、放射熱流、原子炉の炉心からの溶融物を封じ込めて冷却するシステムの設備への機械的衝撃等によるいかなる設計外の影響下での異なるレベルの給水バルブの同時故障を防止することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】