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特表2024-500997マイクロコッカス・ルテウス由来細胞外小胞を含む好中球性肺疾患の予防または治療用組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-10
(54)【発明の名称】マイクロコッカス・ルテウス由来細胞外小胞を含む好中球性肺疾患の予防または治療用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/74 20150101AFI20231227BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20231227BHJP
   A61P 11/06 20060101ALI20231227BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231227BHJP
   A61K 47/46 20060101ALI20231227BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20231227BHJP
   A61K 9/51 20060101ALI20231227BHJP
   A61K 9/72 20060101ALI20231227BHJP
   A23L 33/135 20160101ALI20231227BHJP
【FI】
A61K35/74 B
A61P11/00
A61P11/06
A61P43/00 105
A61K47/46
A61K45/00
A61K9/51
A61K9/72
A23L33/135
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023539151
(86)(22)【出願日】2021-11-03
(85)【翻訳文提出日】2023-06-26
(86)【国際出願番号】 KR2021015764
(87)【国際公開番号】W WO2022145680
(87)【国際公開日】2022-07-07
(31)【優先権主張番号】10-2020-0184337
(32)【優先日】2020-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2021-0148789
(32)【優先日】2021-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】516348577
【氏名又は名称】エムディー ヘルスケア インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】MD HEALTHCARE INC.
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム、ユン-クン
【テーマコード(参考)】
4B018
4C076
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4B018LB01
4B018LB02
4B018LB07
4B018LB08
4B018LB10
4B018LE01
4B018LE02
4B018LE03
4B018LE05
4B018MD85
4B018ME14
4B018MF01
4B018MF14
4C076AA65
4C076AA93
4C076AA95
4C076BB01
4C076CC15
4C076CC40
4C076EE56
4C076FF02
4C076FF68
4C084AA17
4C084MA13
4C084MA37
4C084NA10
4C084NA13
4C084ZA591
4C084ZA592
4C084ZA621
4C084ZA622
4C084ZB211
4C084ZB212
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC70
4C087CA08
4C087MA13
4C087MA37
4C087MA52
4C087NA14
4C087ZA59
4C087ZA62
4C087ZB21
(57)【要約】
本発明は、マイクロコッカス・ルテウス由来細胞外小胞及びその用途に関し、具体的には、NLRP3 インフラマソーム(Nucleotide-binding oligomerization domain, Leucine rich Repeat and Pyrin domain cotaining 3 インフラマソーム)を媒介として発生する好中球性肺疾患を効果的に治療できるマイクロコッカス・ルテウス由来小胞を有効成分として含む好中球性肺疾患の改善、予防、治療用組成物などに関する。
【選択図】図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)由来小胞を有効成分として含む、好中球性肺疾患の予防または治療用薬学的組成物。
【請求項2】
前記肺疾患は、NLRP3 インフラマソーム(Nucleotide-binding oligomerization domain,Leucine rich Repeat and Pyrin domain containing 3 インフラマソーム)によって媒介される肺疾患であることを特徴とする、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項3】
前記肺疾患は、喘息(Asthma)、肺気腫(Emphysema)、嚢胞性線維症(Cystic fibrosis;CF)、細菌性肺炎(Bacterial pneumonia)、ウイルス性肺炎(Viral pneumonia)、特発性肺線維症(Idiopathic pulmonary fibrosis;IPF)、間質性肺炎(Interstitial pneumonitis)、急性呼吸困難症候群(acute respiratory distress syndrome;ARDS)及び急性肺損傷(acute lung injury;ALI)からなる群から選ばれる1つ以上の疾患であることを特徴とする、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項4】
前記喘息は、好中球性喘息であることを特徴とする、請求項3に記載の薬学的組成物。
【請求項5】
前記小胞は、平均直径が10~200nmであることを特徴とする、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項6】
前記小胞は、マイクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)から自然的に分泌または人工的に産生されることを特徴とする、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項7】
前記組成物は、NLRP3 インフラマソームの活性を抑制することを特徴とする、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項8】
マイクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)由来小胞を有効成分として含む、好中球性肺疾患の予防または改善用食品組成物。
【請求項9】
前記肺疾患は、喘息(Asthma)、肺気腫(Emphysema)、嚢胞性線維症(Cystic fibrosis;CF)、細菌性肺炎(Bacterial pneumonia)、ウイルス性肺炎(Viral pneumonia)、特発性肺線維症(Idiopathic pulmonary fibrosis;IPF)、間質性肺炎(Interstitial pneumonitis)、急性呼吸困難症候群(acute respiratory distress syndrome;ARDS)、及び急性肺損傷(acute lung injury;ALI)からなる群から選ばれる1つ以上の疾患であることを特徴とする、請求項8に記載の食品組成物。
【請求項10】
マイクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)由来小胞を有効成分として含む、好中球性肺疾患の予防または治療用吸入剤組成物。
【請求項11】
前記肺疾患は、喘息(Asthma)、肺気腫(Emphysema)、嚢胞性線維症(Cystic fibrosis;CF)、細菌性肺炎(Bacterial pneumonia)、ウイルス性肺炎(Viral pneumonia)、特発性肺線維症(Idiopathic pulmonary fibrosis;IPF)、間質性肺炎(Interstitial pneumonitis)、急性呼吸困難症候群(acute respiratory distress syndrome;ARDS)及び急性肺損傷(acute lung injury;ALI)からなる群から選ばれる1つ以上の疾患であることを特徴とする、請求項10に記載の吸入剤組成物。
【請求項12】
マイクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)由来小胞を有効成分として含む、好中球性肺疾患の予防または改善用医薬部外品組成物。
【請求項13】
マイクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)由来小胞を有効成分として含む、好中球性肺疾患治療薬物伝達用組成物。
【請求項14】
マイクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)由来小胞を有効成分として含む組成物を、それを必要とする個体に投与する段階を含む、好中球性肺疾患の予防または治療方法。
【請求項15】
マイクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)由来小胞を有効成分として含む組成物の好中球性肺疾患の予防または治療用途。
【請求項16】
マイクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)由来小胞の好中球性肺疾患の治療用薬剤の製造のための用途。
【請求項17】
好中球性肺疾患治療薬物を担持したマイクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)由来小胞を有効成分として含む組成物を、それを必要とする個体に投与する段階を含む、好中球性肺疾患治療薬物伝達方法。
【請求項18】
マイクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)由来小胞を有効成分として含む組成物の好中球性肺疾患治療薬物伝達用途。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)由来細胞外小胞及びその用途に関し、より具体的には、マイクロコッカス・ルテウス由来の細胞外小胞を有効成分として含む好中球性肺疾患(Neutrophilic pulmonary disease)の予防または治療用組成物などに関する。
【0002】
本発明は、2020年12月28日付で出願された大韓民国特許出願第10-2020-0184337号及び2021年11月2日付で出願された大韓民国特許出願第10-2021-0148789号に基づく前記優先権を主張し、前記出願の明細書及び図面に開示されたすべての内容は、本出願に援用される。
【背景技術】
【0003】
21世紀に入って過去伝染病として認識されていた急性感染性疾患の重要性は減少した反面、私たちの体の主な臓器に発生する免疫機能異常による炎症を主な病因とする慢性疾患が、生活の質の減少と人間の寿命を決定する主な疾患に疾病パターンが変わった。
【0004】
免疫(immunity)は、生物学的、化学的、物理的、精神的ストレスに対する細胞の防御メカニズムであり、先天免疫(innate immunity)と後天免疫(adaptive immunity)を介して起こる。最近、炎症疾患の病因に関連して、生物学的原因因子に由来するpathogen-associated molecular pattern(PAMP)及び細胞損傷によって生じる危険信号であるdamage-associated molecular pattern(DAMP)が、pattern recognition receptor(PRR)によって認識されて炎症が始まることが知られている。PRRの中で、NOD-like receptor(Nucleotide-binding oligomerization domain-like receptor;NLR)は、細胞内でPAMPとDAMPを認知するPRRであり、炎症反応やアポトーシスにとって核心的な物質である。NLRP(Nucleotide-binding oligomerization domain, Leucine rich Repeat and Pyrin domain containing)は、NOD-like receptorの一種として細胞内に存在するPAMPまたはDAMPを認知してインフラマソームを形成し、K+efflux及びcaspase-1活性化を通じて炎症反応を起こすことになる。最近、NLRP3 インフラマソームが様々な難治性炎症疾患の病因に重要なシグナル伝達システムであるという事実が注目されている。
【0005】
一方、人体に共生する微生物は100兆に達し、ヒト細胞より多く、微生物の遺伝子数はヒト遺伝子数の100倍を超えることが知られている。微生物叢(microbiotaやmicrobiome)は、与えられた生育場所に存在する真正細菌(bacteria)、古細菌(archaea)、真核生物(eukarya)を含む微生物群集(microbial community)を指す。
【0006】
私たちの体に共生する細菌及び周辺環境に存在する細菌は、他の細胞への遺伝子、低分子化合物、タンパク質などの情報を交換するためにナノメートルサイズの小胞(vesicle)を分泌する。粘膜は、200ナノメートル(nm)サイズ以上の粒子は通過できない物理的な防御膜を形成し、粘膜に共生する細菌の場合には粘膜を通過できないが、細菌由来小胞は、サイズが200ナノメートルサイズ以下であるため、比較的自由に粘膜の上皮細胞を通過して私たちの体に吸収される。このように細菌由来小胞は、細菌から分泌されたものであるが、細菌と構成成分、体内吸収率、副作用の危険性などが互いに異なり、これにより細菌由来小胞を使用することは生きている細菌を使用することとは全く異なるか、または顕著な効果を示す。
【0007】
局所的に分泌された細菌由来小胞は、粘膜の上皮細胞を通じて吸収されて局所炎症反応を誘導するだけでなく、上皮細胞を通過した小胞は、リンパ管を通じて全身に吸収されて各臓器に分布し、分布した臓器で免疫及び炎症反応を調節する。例えば、大腸菌(Eshcherichia coli)などの病原性グラム陰性細菌に由来する小胞は、病原性ナノ粒子として局所的に大腸炎を引き起こし、血管に吸収された場合には血管内皮細胞に吸収されて炎症反応を誘導して全身的な炎症反応及び血液凝固を促進し、さらにインスリンが作用する筋肉細胞などに吸収され、インスリン抵抗性と糖尿病を誘発する。一方、有益な細菌に由来する小胞は、病原性小胞による免疫機能及び代謝機能の異常を調節して疾患を調節してもよい。
【0008】
マイクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)は、マイクロコッカス属に属するグラム陽性細菌であり、水、ほこり、土壌などの自然に広く分布する細菌である。この菌はカタラーゼを有しており、活性酸素である過酸化水素を水に変化させ、ピリジンなどの毒性有機汚染物質で成長するとリボフラビンを生成する。また、紫外線吸収及び抗酸化効果を示すルテイン色素を有している。また、この菌は乳製品及びビールからも分離され、乾燥した環境や高塩環境でも育ち、胞子(spore)を形成しないが、冷蔵庫などの冷蔵温度でも長期間生存することが知られている。
【0009】
私たちが呼吸するほこりには、ウイルス、細菌由来小胞、LPS(Lipopolysaccharide)などのように肺に炎症を引き起こす様々な生物学的原因因子が存在する。これらの原因因子を繰り返し吸入すると、肺上皮細胞及びマクロファージにおいてPRRを介したシグナル伝達システムにより炎症性媒介体が分泌されて肺に炎症が発生し、繰り返しストレスにより好中球性肺炎症疾患が発生する。好中球性肺炎症疾患を治療または予防するために使用されている一般的な組成物としては、大きくステロイド性と非ステロイド性組成物があり、最近では、炎症疾患の主な媒介体として知られている炎症性サイトカインであるTNF-α阻害剤に対する関心が高まっている。
【0010】
しかし、まだマイクロコッカス・ルテウス由来小胞を好中球性肺疾患治療に応用した事例は、報告されたことがない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者らは、前記のような従来の問題点を解決するために鋭意研究した結果、マイクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)由来小胞を経口または鼻腔投与したとき、粘膜を通過して肺に分布していることを確認し、前記小胞を処理したとき、病原性ナノ粒子による炎症性媒介体の分泌を著しく抑制することを確認した。また、生物学的原因因子による免疫機能異常をマイクロコッカス・ルテウス由来小胞が効率的に抑制するだけでなく、様々な疾患の病因に関連したPRR(pattern recognition receptor)であるNLRP3タンパク質の発現を抑制して免疫機能異常を調節し、endothelial NO synthase(eNOS)シグナルを増加させて細胞の恒常性を増加させることを確認した。また、細菌由来小胞及びLPS汚染アレルゲンによる好中球性肺疾患マウスモデルにおいてマイクロコッカス・ルテウス小胞を処理したとき、好中球性肺炎症及び気道過敏性が有意に抑制されることを確認したところ、これに基づいて本発明を完成した。
【0012】
そこで、本発明は、マイクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)由来小胞を有効成分として含む好中球性肺疾患の予防または治療用薬学的組成物を提供することを目的とする。
【0013】
また、本発明は、マイクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)由来小胞を有効成分として含む、好中球性肺疾患の予防または改善用食品組成物を提供することを目的とする。
【0014】
また、本発明は、マイクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)由来小胞を有効成分として含む、好中球性肺疾患の予防または治療用吸入剤組成物を提供することを目的とする。
【0015】
また、本発明は、マイクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)由来小胞を有効成分として含む、好中球性肺疾患の予防または改善用医薬部外品組成物を提供することを目的とする。
【0016】
また、本発明は、マイクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)由来小胞を有効成分として含む、好中球性肺疾患治療薬物伝達用組成物を提供することを目的とする。
【0017】
しかし、本発明が解決しようとする技術的課題は、前述した課題に制限されず、言及されていないさらに他の課題は、以下の記載から当業者が明確に理解できるだろう。
【課題を解決するための手段】
【0018】
前記のような本発明の目的を達成するために、本発明は、マイクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)由来小胞を有効成分として含む、好中球性肺疾患の予防または治療用薬学的組成物を提供する。
【0019】
また、本発明は、マイクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)由来小胞を有効成分として含む、好中球性肺疾患の予防または改善用食品組成物を提供する。
【0020】
また、本発明は、マイクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)由来小胞を有効成分として含む、好中球性肺疾患の予防または治療用吸入剤組成物を提供する。
【0021】
また、本発明は、マイクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)由来小胞を有効成分として含む、好中球性肺疾患の予防または改善用医薬部外品組成物を提供する。
【0022】
また、本発明は、マイクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)由来小胞を有効成分として含む、好中球性肺疾患治療薬物伝達用組成物を提供する。
【0023】
本発明の一具現例において、前記肺疾患は、NLRP3 インフラマソーム(Nucleotide-binding oligomerization domain,Leucine rich Repeat and Pyrin domain containing 3 インフラマソーム)によって媒介される肺疾患であってもよいが、これに制限されるものではない。
【0024】
本発明の他の具現例において、前記肺疾患は、喘息(Asthma)、肺気腫(Emphysema)、嚢胞性線維症(Cystic fibrosis;CF)、細菌性肺炎(Bacterial pneumonia)、ウイルス性肺炎(Viral pneumonia)、特発性肺線維症(Idiopathic pulmonary fibrosis;IPF)、間質性肺炎(Interstitial pneumonitis)、急性呼吸困難症候群(acute respiratory distress syndrome;ARDS)及び急性肺損傷(acute lung injury;ALI)からなる群から選ばれる1つ以上の疾患であってもよく、前記喘息は、好中球性喘息であってもよいが、これに制限されるものではない。
【0025】
本発明のさらに他の具現例において、前記小胞は、平均直径が10~200nmであってもよいが、これに制限されるものではない。
【0026】
本発明のさらに他の具現例において、前記小胞は、マイクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)から自然的に分泌または人工的に産生されるものであってもよいが、これに制限されるものではない。
【0027】
本発明のさらに他の具現例において、前記組成物は、NLRP3 インフラマソームの活性を抑制できるが、これに制限されるものではない。
【0028】
また、本発明は、マイクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)由来小胞を有効成分として含む組成物を、それを必要とする個体に投与する段階を含む、好中球性肺疾患の予防または治療方法を提供する。
【0029】
また、本発明は、マイクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)由来小胞を有効成分として含む組成物の好中球性肺疾患の予防または治療用途を提供する。
【0030】
また、本発明は、マイクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)由来小胞の好中球性肺疾患治療用薬剤の製造のための用途を提供する。
【0031】
また、本発明は、所望の好中球性肺疾患治療薬物を担持したマイクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)由来小胞を有効成分として含む組成物を、それを必要とする個体に投与する段階を含む、好中球性肺疾患治療薬物伝達方法を提供する。
【0032】
また、本発明は、マイクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)由来小胞を有効成分として含む組成物の好中球性肺疾患治療薬物伝達用途を提供する。
【発明の効果】
【0033】
本発明者らは、マイクロコッカス・ルテウス由来小胞を経口または鼻腔投与したとき、粘膜を通過して肺に小胞が伝達されることを確認した。また、上皮細胞及び炎症細胞に前記小胞を処理したとき、生物学的原因因子による炎症性媒介体の分泌を著しく抑制しただけでなく、細胞に前記小胞を処理したとき、生物学的原因因子によるNLRP3タンパク質発現を抑制することを確認した。また、生物学的原因因子による好中球性肺疾患マウスモデルに前記小胞を投与したとき、好中球性肺炎症及び機能的な変化を有意に抑制することを確認したところ、本発明によるマイクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)由来小胞は、好中球性肺疾患を予防、症状改善、または治療するための医薬品または健康機能食品などの開発に有用に利用できるだけでなく、前記疾患を治療するための薬物伝達システムとして有用に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1a図1aは、マイクロコッカス・ルテウス由来小胞をマウスに経口投与した後、時間別に各臓器を摘出し、各臓器での蛍光の強度を測定した図である。
図1b図1bは、マイクロコッカス・ルテウス由来小胞をマウスに経口投与した後、時間別に小胞が肺に分布する態様を示す図である。
図2図2は、マイクロコッカス・ルテウス由来小胞をマウスに鼻腔投与した後、時間別に小胞が臓器に分布する態様を示す図である。
図3図3は、上皮細胞(A549)においてマイクロコッカス・ルテウス由来小胞(MDH-101 EV)の炎症性媒介体分泌抑制効果を評価するための実験プロトコルを示す図である。
図4a-b】図4a~図4bは、上皮細胞においてマイクロコッカス・ルテウス由来小胞の炎症性媒介体であるIL-8分泌抑制効果を確認した結果を示したもので、図4aは、マイクロコッカス・ルテウス由来小胞(MDH-101)の濃度によるIL-8分泌抑制効果を示す図であり、図4bは、陽性対照薬デキサメタゾン(Dexamethasone;Dex)とIL-8分泌抑制効果を比較した結果を示す図である。(*P<0.05,**P<0.01,***P<0.001,n.s.は、有意ではないことを意味する、以下同様)。
図5図5は、炎症細胞であるマクロファージ(RAW 264.7)においてマイクロコッカス・ルテウス由来小胞(M.luteus EV)の炎症性媒介体分泌抑制効果を評価するための実験プロトコルを示す図である。
図6a-b】図6a~図6bは、マクロファージにおいてマイクロコッカス・ルテウス由来小胞(M.luteus EV)の炎症性媒介体分泌抑制効果を確認したもので、図6aは、TNF-α分泌抑制効果を、図6bは、IL-6分泌抑制効果を示す図である。
図7図7は、末梢血液から分離した好中球にマイクロコッカス・ルテウス由来小胞(M.luteus EV)または陽性対照薬デキサメタゾン(Dexamethasone;Dex)を処理して生物学的原因因子である大腸菌由来小胞(E.coli EV)による好中球活性化抑制効果を評価するための実験プロトコルを示す図である(Plasma PBMC:Plasma peripheral blood mononuclear cell)。
図8図8は、末梢血液から分離した好中球にマイクロコッカス・ルテウス由来小胞(MDH-101)または陽性対照薬デキサメタゾンを処理した後、大腸菌由来小胞(E.coli EV)による好中球の活性化の程度をNE(neutrophil elastase)分泌で評価した結果を示す図である。
図9図9は、病原性ナノ粒子である大腸菌由来小胞(E.coli EV)による好中球性肺疾患マウスモデルにおいてマイクロコッカス・ルテウス由来小胞(M.luteus EV)の抗炎症効果を評価するための実験プロトコルである。
図10a-b】図10a~図10bは、病原性ナノ粒子である大腸菌由来小胞(E.coli EV)による好中球性肺疾患マウスモデルにおいてマイクロコッカス・ルテウス由来小胞(M.luteus EV)による抗炎症効果を確認した結果を示したもので、図10aは、マウスモデルの気管支肺胞洗浄液(BALF)内のマクロファージと好中球数を確認した結果を示す図であり(NC:Negative Control)、図10bは、肺組織において炎症細胞の浸潤を確認した結果を示す図である。
図11a-c】図11a~図11cは、病原性ナノ粒子である大腸菌由来小胞(E.coli EV)による好中球性肺疾患マウスモデルにおいてマイクロコッカス・ルテウス由来小胞(M.luteus EV)の炎症性媒介体分泌抑制効果を確認したもので、マウスの気管支肺胞洗浄液(BALF)内のCXCL-1(a)、TNF-α(b)、及びIL-1β(c)の分泌抑制効果を確認した結果を示す図である。
図12a-c】図12a~図12cは、病原性ナノ粒子である大腸菌由来小胞(E.coli EV)による好中球性肺疾患マウスモデルにおいてマイクロコッカス・ルテウス由来小胞(M.luteus EV)が免疫関連サイトカインの分泌に及ぼす影響を確認したもので、図12aは、IL-6、図12bは、IL-17、及び図12cは、IL-10の分泌を確認した結果を示す図である。
図13図13は、病原性ナノ粒子である大腸菌由来小胞(E.coli EV)による好中球性肺疾患マウスモデルにおいてマイクロコッカス・ルテウス由来小胞(M.luteus EV)が気道過敏性に及ぼす効果を示す図である(NC:Negative Control)。
図14図14は、LPSに汚染されたアレルゲン(LPS+OVA(Ovalbumin))による好中球性肺疾患マウスモデルにおいてマイクロコッカス・ルテウス由来小胞(MDH-101)の抗炎症効果を評価するための実験プロトコルを示す図である。
図15a-c】図15a~図15cは、LPSに汚染されたアレルゲン(LPS+OVA)による好中球性肺疾患マウスモデルにおいてマイクロコッカス・ルテウス由来小胞(MlEV)による抗炎症効果を確認したもので、図15a及び図15bは、気管支肺胞洗浄液(BALF)内の総炎症細胞数及び好中球数を確認した結果を示す図であり、図15cは、肺組織において炎症細胞の浸潤を確認した結果を示す図である(LPS:LPSに汚染されたアレルゲン)。
図16a-b】図16a~図16bは、LPSに汚染されたアレルゲン(LPS+OVA)による好中球性肺疾患マウスモデルにおいてマイクロコッカス・ルテウス由来小胞(MlEV)が炎症性媒介体であるIL-1β(a)及びTh17免疫反応指標であるIL-17(b)に及ぼす影響を確認した図である(LPS:LPSに汚染されたアレルゲン)。
図17図17は、LPSに汚染されたアレルゲン(LPS+OVA)による好中球性肺疾患マウスモデルにおいてマイクロコッカス・ルテウス由来小胞(MlEV)の免疫機能調節効果を評価するために、マウス肺組織内の免疫機能調節タンパク質であるNLRP3、T-bet、及びROR-γtタンパク質の発現を確認した結果を示す図である(LPS:LPSに汚染されたアレルゲン)。
図18図18は、マイクロコッカス・ルテウス由来小胞(MDH-101)が気道過敏性を抑制するNO(nitric oxide)の生成を誘導するeNOSシグナルに及ぼす効果を評価するために、肺上皮細胞にマイクロコッカス・ルテウス由来小胞または陽性対照薬デキサメタゾン(Dex)を処理した後、生物学的原因因子である大腸菌由来小胞(E.coli EV)によるeNOS信号活性に及ぼす効果を確認した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
[発明を行うための最良の形態]
本発明は、マイクロコッカス・ルテウス由来小胞及びその用途に関する。
【0036】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0037】
本発明者らは、マイクロコッカス・ルテウス由来小胞を経口または鼻腔投与したとき、小胞が粘膜を通過して肺組織に分布することを確認した。また、上皮細胞に前記小胞を処理したとき、生物学的原因因子による炎症性媒介体の分泌を著しく抑制するだけでなく、代表的な炎症細胞であるマクロファージと好中球に前記小胞を処理したとき、生物学的原因因子による炎症性媒介体の分泌と好中球の活性化を用量依存的に抑制することを確認した。また、生物学的原因因子によって発現されるNLRP3タンパク質が、前記小胞を投与したときに発現が著しく抑制されることを確認し、生物学的原因因子によって抑制されるeNOSシグナルが前記小胞を投与したときに有意に回復することを確認した。さらに、病原性ナノ粒子及びLPS汚染アレルゲンによる好中球性肺疾患マウスモデルに前記小胞を投与したとき、好中球性肺炎症、免疫機能異常、及び気道過敏性の発生が用量依存的に有意に抑制されることを確認したところ、これに基づいて本発明を完成した。
【0038】
したがって、本発明は、マイクロコッカス・ルテウス由来小胞を有効成分として含む、好中球性肺疾患の予防または治療用薬学的組成物を提供しうる。
【0039】
本発明で使用される用語の「好中球性肺疾患(Neutrophilic pulmonary disease)」とは、ウイルス、細菌由来小胞、LPS(Lipopolysaccharide)、アレルゲンなどのほこり内に存在する生物学的原因因子による肺組織内の好中球の浸潤を特徴とする疾患を意味するもので、本発明において、具体的には、前記好中球性肺疾患は、NLRP3 インフラマソーム(Nucleotide-binding oligomerization domain,Leucine rich Repeat and Pyrin domain containing 3 インフラマソーム)により媒介される肺疾患であってもよいが、これに制限されず、肺組織内の好中球の浸潤を特徴とする肺疾患であれば、すべて含んでもよい。
【0040】
前記好中球性肺疾患は、例えば、喘息(Asthma)、肺気腫(Emphysema)、嚢胞性線維症(Cystic fibrosis;CF)、細菌性肺炎(Bacterial pneumonia)、ウイルス性肺炎(Viral pneumonia)、特発性肺線維症(Idiopathic pulmonary fibrosis;IPF)、間質性肺炎(Interstitial pneumonitis)、急性呼吸困難症候群(acute respiratory distress syndrome;ARDS)、及び急性肺損傷(acute lung injury;ALI)などを含んでもよいが、これに制限されるものではない。
【0041】
前記「NLRP3 インフラマソーム(NLRP3 インフラマソーム)により媒介される肺疾患」とは、インフラマソームが異常に過度に形成されて発生する肺疾患を意味するもので、本発明において、前記マイクロコッカス・ルテウス由来小胞は、NLRP3 インフラマソームの形成を抑制できるので、これを通じてNLRP3 インフラマソームによって媒介される好中球性肺疾患を効果的に予防、改善、または治療しうる。
【0042】
また、前記「喘息(Asthma)」とは、肺内の気管支が非常に敏感になった状態で、遺伝及び環境的要因によって生じる代表的なアレルギー疾患を意味するもので、気道または肺組織に浸透する免疫細胞の種類及び浸潤の態様によって好酸球性(eosinophilic)及び好中球性(neutrophilic)に区別してもよく、本発明において、具体的に前記喘息は、好中球性喘息であってもよい。
【0043】
本発明で使用される用語の「細胞外小胞(Extracellular vesicle)」または「小胞(Vesicle)」とは、様々な細菌から分泌されるナノサイズの膜からなる構造物を意味し、例えば、内毒素(lipopolysaccharide)、毒性タンパク質及び細菌DNAとRNAなどを有している大腸菌などのグラム陰性菌(Gram-negative bacteria)由来小胞または外膜小胞体(Outer membrane vesicles,OMVs)及びタンパク質と核酸の他にも細菌の細胞壁構成成分であるペプチドグリカン(Peptidoglycan)とリポテイコ酸(Lipoteichoic acid)なども有しているマイクロコッカス属細菌などのグラム陽性菌(Gram-positive bacteria)由来小胞などがある。
【0044】
本発明において、前記細胞外小胞または小胞は、マイクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)から自然的に分泌されるか、または人工的に産生された膜からなるすべての構造物を総称し、本発明において、MDH-101、MDH-101 EV、M.luteus EVまたはMlEVで多様に表示されてもよい。
【0045】
前記小胞は、マイクロコッカス・ルテウス培養過程において熱処理、高圧処理するか、または前記細菌培養液を遠心分離、超高速遠心分離、高圧処理、押出、超音波分解、細胞溶解、均質化、冷凍・解凍、電気穿孔、機械的分解、化学物質処理、フィルターによるろ過、ゲルろ過クロマトグラフィー、フリーフロー電気泳動、及びキャピラリー電気泳動からなる群から選ばれる1つ以上の方法を使用して分離してもよい。また、不純物を除去するための洗浄、得られた小胞の濃縮などの過程をさらに含んでもよい。
【0046】
本発明において前記方法により分離された小胞は、球状の形態で平均直径が10~200nm、10~190nm、10~180nm、10~170nm、10~160nm、10~150nm、10~140nm、10~130nm、10~120nm、10~110nm、10~100nm、10~90nm、10~80nm、10~70nm、10~60nm、10~50nm、20~200nm、20~180nm、20~160nm、20~140nm、20~120nm、20~100nm、または20~80nmであってもよく、好ましくは、20~200nmであってもよいが、これに制限されるものではない。
【0047】
本発明において使用される用語の「有効成分として含む」とは、前記マイクロコッカス・ルテウス由来小胞の効能または活性を達成するのに十分な量を含むことを意味する。
【0048】
本発明の組成物内の前記小胞の含量は、疾患の症状、症状の進行度合い、患者の状態などに応じて適宜調節可能であり、例えば、全組成物重量を基準として、0.0001~99.9重量%、または0.001~50重量%であってもよいが、これに限定されるものではない。前記含量比は、溶媒を除去した乾燥量を基準とした値である。
【0049】
本発明による薬学的組成物は、薬学的に許容可能な担体を含んでもよい。前記薬学的に許容可能な担体は、製剤時に通常用いられるもので、食塩水、滅菌水、リンガー液、緩衝食塩水、シクロデキストリン、デキストロース溶液、マルトデキストリン溶液、グリセロール、エタノール、リポソームなどを含むが、これに限定されるものではなく、必要に応じて抗酸化剤、緩衝液など他の通常の添加剤をさらに含んでもよい。また、希釈剤、分散剤、界面活性剤、結合剤、潤滑剤などを付加的に添加して水溶液、懸濁液、乳濁液などの注射用剤形、丸薬、カプセル、顆粒、または錠剤で製剤化してもよい。適切な薬学的に許容される担体及び製剤化については、レミントンの文献に開示されている方法を用いて各成分によって好ましく製剤化してもよい。本発明の薬学的組成物は、剤形において特に制限されるものではないが、注射剤、吸入剤、皮膚外用剤、または経口摂取剤などで製剤化してもよい。
【0050】
本発明の薬学的組成物は、所望の方法によって経口投与するか、または非経口投与(例えば、静脈内、皮下、皮膚、鼻腔、気道に適用)してもよく、投与量は患者の状態及び体重、疾患の程度、薬物形態、投与経路及び時間によって異なるが、当業者によって適宜選ばれてもよい。
【0051】
本発明による薬学的組成物は、薬学的に有効な量で投与する。本発明において、薬学的に有効な量とは、医学的治療に適用可能な合理的な受恵/リスク比で疾患を治療するのに十分な量を意味し、有効用量レベルは、患者の疾患の種類、重症度、薬物の活性、薬物に対する敏感度、投与時間、投与経路及び排出比率、治療期間、同時に使用される薬物を含む要素及びその他の医学分野においてよく知られている要素によって決定されてもよい。本発明による組成物は、個別治療剤として投与するか、または他の治療剤と併用して投与されてもよく、従来の治療剤とは順次的または同時に投与されてもよく、単一または多重投与されてもよい。前記要素をすべて考慮し、副作用なしに最小限の量で最大の効果が得られる量を投与することが重要であり、これは当業者によって容易に決定されてもよい。
【0052】
具体的には、本発明による薬学的組成物の有効量は、患者の年齢、性別、体重に応じて異なってもよく、一般に体重1kg当たり0.001~150mg、好ましくは、0.01~100mgを毎日または隔日投与するか、または1日1~3回に分けて投与してもよい。しかし、投与経路、肥満の重症度、性別、体重、年齢などに応じて増減できるので、前記投与量がいかなる方法であっても本発明の範囲を限定するものではない。
【0053】
本発明で使用される用語の「予防」とは、本発明による組成物の投与により喘息(Asthma)、肺気腫(Emphysema)、嚢胞性線維症(Cystic fibrosis;CF)、細菌性肺炎(Bacterial pneumonia)、ウイルス性肺炎(Viral pneumonia)、特発性肺線維症(Idiopathic pulmonary fibrosis;IPF)、間質性肺炎(Interstitial pneumonitis)、急性呼吸困難症候群(acute respiratory distress syndrome;ARDS)及び急性肺損傷(acute lung injury;ALI)などの好中球性肺疾患を抑制させるか、または発症を遅延させるすべての行為を意味する。
【0054】
本発明で使用される用語の「治療」とは、本発明による組成物の投与により喘息(Asthma)、肺気腫(Emphysema)、嚢胞性線維症(Cystic fibrosis;CF)、細菌性肺炎(Bacterial pneumonia)、ウイルス性肺炎(Viral pneumonia)、特発性肺線維症(Idiopathic pulmonary fibrosis;IPF)、間質性肺炎(Interstitial pneumonitis)、急性呼吸困難症候群(acute respiratory distress syndrome;ARDS)及び急性肺損傷(acute lung injury;ALI)などの好中球性肺疾患に対する症状が好転するか、または有利に変更されるすべての行為を意味する。
【0055】
また、本発明は、マイクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)由来小胞を有効成分として含む組成物を、それを必要とする個体に投与する段階を含む、好中球性肺疾患の予防または治療方法を提供する。
【0056】
また、本発明は、マイクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)由来小胞を有効成分として含む組成物の好中球性肺疾患の予防または治療用途を提供する。
【0057】
また、本発明は、マイクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)由来小胞の好中球性肺疾患治療用薬剤の製造のための用途を提供する。
【0058】
本発明において、「個体」とは、疾患の治療を必要とする対象を意味し、より具体的には、ヒトまたは非ヒトの霊長類、マウス(mouse)、ラット(rat)、イヌ、ネコ、ウマ、及びウシなどの哺乳類であってもよいが、これに制限されるものではない。
【0059】
本発明において「投与」とは、任意の適切な方法で個体に所定の本発明の組成物を提供することを意味する。
【0060】
また、本発明は、マイクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)由来小胞を有効成分として含む、好中球性肺疾患の予防または改善用食品組成物を提供しうる。
【0061】
本発明で使用される用語の「改善」とは、治療される状態に関連したパラメータ、例えば、症状の程度を減少させるすべての行為を意味する。
【0062】
本発明の食品組成物は、健康機能食品組成物であってもよいが、これに制限されるものではない。
【0063】
本発明の前記小胞を食品添加物として使用する場合、食品にそのまま添加するか、他の食品または食品成分とともに使用されてもよく、通常の方法によって適宜使用されてもよい。有効成分の混合量は、その使用目的(予防または改善用)に応じて適宜決定されてもよい。一般に、食品または飲料の製造時に、本発明の小胞は原料に対して15重量%以下、好ましくは、10重量%以下の量で添加される。しかし、健康及び衛生を目的とするか、または健康調節を目的とする長期間の摂取の場合には、前記量は、前記範囲以下であってもよい。
【0064】
前記食品の種類には特に制限はない。前記物質を添加できる食品の例としては、肉類、ソーセージ、パン、チョコレート、キャンディー類、スナック類、菓子類、ピザ、ラーメン、その他の麺類、ガム類、アイスクリーム類を含む酪農製品、各種スープ、飲料水、お茶、ドリンク剤、アルコール飲料及びビタミン複合剤などがあり、通常の意味での健康機能食品をすべて含む。
【0065】
本発明による健康飲料組成物は、通常の飲料のように、様々な香味剤または天然炭水化物などを追加成分として含有してもよい。上述した天然炭水化物は、ブドウ糖及び果糖などのモノサッカライド、マルトース及びスクロースなどのジサッカライド、デキストリン及びシクロデキストリンなどの及びポリサッカライド、及びキシリトール、ソルビトール及びエリトリトールなどの糖アルコールである。甘味剤としてはソーマチン、ステビア抽出物などの天然甘味剤やサッカリン、アスパルテームなどの合成甘味剤などを使用してもよい。前記天然炭水化物の割合は、本発明の組成物100mLあたり、一般に約0.01~0.20g、または約0.04~0.10gである。
【0066】
また、本発明は、マイクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)由来小胞を有効成分として含む、好中球性肺疾患の予防または治療用吸入剤組成物を提供しうる。
【0067】
吸入剤組成物の場合、当業界に公知の方法により剤形化されてもよく、適切な推進剤、例えば、ジクロロフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素または他の適切な気体を使用して加圧パックまたは煙霧機からエアロゾルスプレー形態で便利に伝達してもよい。加圧エアロゾルの場合、投与単位は、計量された量を伝達するバルブを提供して決定してもよい。例えば、吸入器または吹入器に使用されるゼラチンカプセル及びカートリッジは、化合物及びラクトースまたはデンプンなどの適切な粉末基剤の粉末混合物を含有するように剤形化してもよい。
【0068】
また、本発明は、マイクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)由来小胞を有効成分として含む、好中球性肺疾患の予防または改善用医薬部外品組成物を提供しうる。
【0069】
本発明のマイクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)由来小胞を医薬部外品添加物として使用する場合、前記小胞をそのまま添加するか、他の医薬部外品または医薬部外品成分とともに使用されてもよく、通常の方法により適宜使用されてもよい。有効成分の混合量は、使用目的(予防、健康または治療的処置)によって適宜決定されてもよい。前記医薬部外品組成物は、その剤形において特に限定されるものではなく、好中球性肺疾患を予防または改善する効果がある当業界に公知の医薬部外品の形態で多様に剤形化されてもよい。前記医薬部外品組成物は、例えば、消毒清潔剤、シャワーフォーム、ガーグリン、ウェットティッシュ、洗剤石鹸、ハンドウォッシュ、加湿器充填剤、マスク、軟膏剤、吸入剤またはフィルター充填剤であってもよいが、これに制限されるものではない。
【0070】
また、本発明は、マイクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)由来小胞を有効成分として含む、好中球性肺疾患治療薬物伝達用組成物を提供しうる。
【0071】
本発明で使用される用語の「薬物伝達」とは、特定の臓器、組織、細胞または細胞小器官に薬物を伝達するために本発明による組成物に薬物をローディングして伝達するすべての手段または行為を意味する。
【0072】
また、本発明は、所望の好中球性肺疾患治療薬物を担持したマイクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)由来小胞を有効成分として含む組成物を、それを必要とする個体に投与する段階を含む、好中球性肺疾患治療薬物伝達方法を提供する。
【0073】
また、本発明は、マイクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)由来小胞を有効成分として含む組成物の好中球性肺疾患治療薬物伝達用途を提供する。
【0074】
以下、本発明の理解を助けるために好ましい実施例を提示する。しかし、以下の実施例は、本発明をより容易に理解するために提供されるものであり、以下の実施例によって本発明の内容が限定されるものではない。
【実施例
【0075】
[実施例1.マイクロコッカス・ルテウス培養液から小胞分離]
マイクロコッカス・ルテウス菌株を培養した後、その小胞を分離して特性を分析した。マイクロコッカス・ルテウスを37℃の好気性チャンバーで吸光度(OD600)が1.0~1.5になるまでMRS(de Man-Rogosa and Sharpe)培地で培養した後、サブカルチャーした。その後、菌株を含む培地の上澄み液を回収して10,000g、4℃で20分間遠心分離して菌株を除去し、0.22μmフィルターでろ過した。ろ過した上澄み液を100kDa Pellicon 2 Cassettフィルターメンブレン(Merck Millipore,US)でMasterFlex pump system(Cole-Parmer,US)を用いた精密濾過(microfiltration)を通じて50mL体積で濃縮した。その後、濃縮した上澄み液を再び0.22μmフィルターでろ過した。その後、BCA assayを用いてタンパク質を定量し、得られた小胞について以下の実験を行った。
【0076】
[実施例2.マイクロコッカス・ルテウス由来小胞経口投与時の薬物動態学的特性の分析]
マイクロコッカス・ルテウス由来小胞を経口投与したときの薬物動態学的特性を調べるために、蛍光染色試薬で染色したマイクロコッカス・ルテウス由来小胞をマウスに経口投与し、48時間まで各臓器で発現した蛍光を測定した。図1aに示すように、蛍光染色されたマイクロコッカス・ルテウス由来小胞の時間による臓器分布をイメージで評価したとき、前記小胞が様々な臓器に分布していることを確認した。また、図1bに示すように、肺で発現されるマイクロコッカス・ルテウス由来小胞の蛍光の強度をグラフで示したとき、経口投与後3時間後から肺に分布し、これは24時間まで持続し、その後、蛍光シグナルがほとんど消えることを確認した。以上の結果から、経口投与したマイクロコッカス・ルテウス由来小胞は、投与したとき、粘膜を通過して体内に吸収されて肺に移動して分布することが分かる。
【0077】
[実施例3.マイクロコッカス・ルテウス由来小胞吸入投与時の薬物動態学的特性の分析]
マイクロコッカス・ルテウス由来小胞を吸入投与したときの薬物動態学的特性を調べるために、蛍光染色試薬で染色したマイクロコッカス・ルテウス由来小胞をマウスの鼻腔内に投与し、72時間まで各臓器で発現した蛍光を測定した。図2に示すように、蛍光染色されたマイクロコッカス・ルテウス由来小胞の時間による長期分布をイメージで評価したとき、マイクロコッカス・ルテウス由来小胞は主に肺組織に分布し、これは投与後1時間から6時間まで現れ、その後は排泄されることを確認した。以上の結果から、マイクロコッカス・ルテウス由来小胞を鼻腔投与したとき、粘膜を通過して体内に吸収されて肺組織に主に分布することが分かる。
【0078】
[実施例4.上皮細胞においてマイクロコッカス・ルテウス由来小胞の抗炎症効果の評価]
図3に示すように、マイクロコッカス・ルテウス由来小胞(M.luteus EV)または陽性対照薬であるデキサメタゾン(Dexamethasone;Dex)を上皮細胞(A549細胞)に前処理した後、炎症を誘導する大腸菌由来小胞(E.coli EV)を処理し、炎症性サイトカインであるIL-8の分泌量をELISA(Enzyme-linked immunosorbent assay, R&D Systems)で測定した。具体的には、A549細胞にマイクロコッカス・ルテウス由来小胞を様々な濃度(1,10,100μg/mL)で24時間前処理した後、大腸菌由来小胞を1ng/mL濃度で24時間処理して培地に分泌されたIL-8を測定した。
【0079】
その結果、図4aに示すように、マイクロコッカス・ルテウス由来小胞によりIL-8の分泌が用量依存的に抑制されることを確認した。また、図4bに示すように、対照薬であるデキサメタゾンと比較したとき、好中球の浸潤を誘導する代表的なサイトカイン IL-8の分泌に対する抑制効果がさらに優れており、前記小胞に熱処理をして投与したときにはIL-8分泌抑制効果がなくなることを確認した。以上の結果から、マイクロコッカス・ルテウス由来小胞が代表的な抗炎症薬物であるデキサメタゾンに比べて好中球性炎症に対する治療効能がより優れていることが分かり、マイクロコッカス・ルテウス由来小胞による抗炎症効能が熱処理時になくなることにより、抗炎症作用が小胞内のタンパク質によって媒介されることが分かる。
【0080】
[実施例5.炎症細胞であるマクロファージにおいてマイクロコッカス・ルテウス由来小胞の抗炎症効果の評価]
図5に示すように、マイクロコッカス・ルテウス由来小胞(M.luteus EV)をマクロファージ(RAW 264.7細胞)に前処理した後、炎症を誘発する大腸菌由来小胞(E.coli EV)を処理し、炎症性サイトカインTNF-α及びIL-6分泌程度をELISA(R&D Systems)法で測定した。具体的には、マイクロコッカス・ルテウス由来小胞を様々な濃度(1,10,100μg/mL)で24時間前処理した後、大腸菌由来小胞を1ng/mL濃度で24時間処理して培地に分泌されたTNF-αとIL-6を測定した。
【0081】
その結果、図6a及び図6bに示すように、マイクロコッカス・ルテウス由来小胞を前処理した場合に大腸菌由来小胞によるTNF-α(図6a)及びIL-6(図6b)の分泌が容量依存的に抑制されたことを確認した。以上の結果から、病原性生物学的原因因子による炎症の発生をマイクロコッカス・ルテウス由来小胞が効率的に抑制することが分かる。
【0082】
[実施例6.炎症細胞である好中球からマイクロコッカス・ルテウス由来小胞の好中球活性化抑制効果の確認]
図7に示すように、好中球の活性化を評価するためにlymphoprepを用いてヒト血液から好中球を抽出した後、好中球内顆粒タンパク質であるNE(neutrophil elastase)をELISA(R&D Systems)で測定した。具体的には、血液10mLをACD solutionを含むtubeに集めた後、20mLのlymphoprepの上に血液を注意深く入れて遠心分離を行った。遠心分離後、red blood layerを集めて12mLのDextranと混合し、常温に45分間放置した。層分離後、上澄み液に1×HBSSを40mL入れて、もう一度遠心分離を行った後、autoclaved millipore waterで赤血球を除去し、neutrophil isolation kit(MACS)を用いて好中球を分離した。分離した好中球をRPMI1640培地を用いて培養し、大腸菌由来小胞(E.coli EV)とマイクロコッカス・ルテウス由来小胞(M.luteus EV)を24時間同時処理した後、培地でNEを測定した。陽性対照薬としてはデキサメタゾン(Dex)を処理した。
【0083】
その結果、図8に示すように、対照薬であるデキサメタゾンは、好中球活性化指標であるneutrophil elastase(NE)分泌を抑制できなかったが、マイクロコッカス・ルテウス由来小胞を処理した場合には、用量依存的に好中球でNE分泌を抑制した。以上の結果から、マイクロコッカス・ルテウス由来小胞は、好中球の活性化によりneutrophilic elastaseによって媒介される炎症疾患を効率的に治療できることが分かる。
【0084】
[実施例7.好中球性肺疾患マウスモデルにおいてマイクロコッカス・ルテウス由来小胞の治療効果の評価]
図9に示すように、マイクロコッカス・ルテウス由来小胞の肺疾患に対する効果を評価するために、病原性ナノ粒子である大腸菌由来小胞(E.coli EV)10ng/mLを鼻腔に投与して肺疾患マウスモデルを作製し、前記マウスモデルにマイクロコッカス・ルテウス由来小胞(M.luteus EV)を鼻腔に投与して治療効果を評価した。
【0085】
図10a及び図10bに示されるように、肺炎症に対する治療効果を評価するために気管支肺胞洗浄液(BALF)内の炎症細胞数と肺の組織学的変化を評価した。具体的には、気管支肺胞洗浄液(BALF)内の炎症細胞数は、PBS 1mLが入った注射器を気道に連結して気管支肺胞洗浄液(BALF)を採取した後、トリパンブルー(Abcam)を使用して総細胞数を測定した。また、肺の組織学的変化を評価するためにヘマトキシリン・エオジン染色法を用いており、具体的には、Cytopro(ELItech)にスライドガラスを装着して細胞を固定させた後、ヘマトキシリン(DAKO)及びエオジン(Sigma,USA)で染色した後、好中球数を測定した。
【0086】
その結果、図10aに示すように、マイクロコッカス・ルテウス由来小胞を投与したグループでは、用量依存的に気管支肺胞洗浄液(BALF)内のマクロファージと好中球数が減少することを確認した。また、図10bに示すように、マイクロコッカス・ルテウス由来小胞を投与したグループの肺組織において炎症細胞の浸潤が著しく減少することを確認した。
【0087】
また、気管支肺胞洗浄液(BALF)内の炎症性媒介体の分泌程度を評価した結果、図11a~図11cに示すように、炎症を誘導するサイトカインCXCL-1(図11a)、TNF-α(図11b)、及びIL-1β(図11c)の分泌がマイクロコッカス・ルテウス由来小胞によって用量依存的に抑制されることを確認した。
【0088】
以上の結果から、病原性ナノ粒子によって誘発される好中球性肺炎症疾患がマイクロコッカス・ルテウス由来小胞によって効率的に治療できることが分かった。
【0089】
[実施例8.好中球性肺疾患マウスモデルにおいてマイクロコッカス・ルテウス由来小胞の後天免疫調節効果の評価]
前記実施例7の肺疾患マウスモデルにマイクロコッカス・ルテウス由来小胞を鼻腔内投与して免疫機能調節効果を評価した。その結果、図12a及び図12bに示すように、好中球性炎症を誘発するTh17免疫反応関連サイトカインIL-6(図12a)及びIL-17(図12b)の分泌がマイクロコッカス・ルテウス由来小胞によって用量依存的に抑制されることを確認した。
【0090】
一方、図12cに示すように、免疫機能を抑制するIL-10の分泌は、マイクロコッカス・ルテウス由来小胞によって抑制されなかった。
【0091】
以上の結果から、マイクロコッカス・ルテウス由来小胞の抗炎症効果は、病原性ナノ粒子によるTh17免疫反応を抑制して現れることが分かる。
【0092】
[実施例9.好中球性肺疾患マウスモデルにおいてマイクロコッカス・ルテウス由来小胞の気道過敏性抑制効果の評価]
免疫機能異常によって発生する炎症反応は、臓器の機能的な変化を招いて肺機能の異常を引き起こす。前記実施例7の肺疾患マウスモデルにマイクロコッカス・ルテウス由来小胞を鼻腔投与して肺の機能的変化を評価した。具体的には、flexiVent(SCIREQ,Canada)を使用してメタコリンによる気道過敏性(Airway hyperresponsiveness;AHR)を測定して機能的な変化を評価した。すなわち、各マウスに様々な濃度(0mg/mL、6.25mg/mL、12.5mg/mL及び25mg/mL)でエアロゾルメタコリン(Sigma,USA)を投与した後、吸入されたメタコリンに対する最大気道反応を測定した。
【0093】
その結果、図13に示すように、マイクロコッカス・ルテウス由来小胞を投与したグループにおいてメタコリンによって誘導された気道過敏性が用量依存的に抑制されたことを確認した。以上の結果から、病原性ナノ粒子によって誘導される肺疾患関連機能的な変化がマイクロコッカス・ルテウス由来小胞によって効率的に治療できることが分かる。
【0094】
[実施例10.LPS汚染アレルゲンによる肺疾患マウスモデルにおいてマイクロコッカス・ルテウス由来小胞の抗炎症効果の評価]
タンパク質抗原のみ吸入する場合、気道に免疫学的過敏反応よりは免疫寛容が発生してアレルゲンによる炎症疾患が発生しないが、LPS(リポポリサッカライド)などの細菌性原因因子とアレルゲンを同時に吸入した場合、LPSによる先天免疫機能異常によりアレルゲンに対する過敏反応が発生する。特に、低濃度のLPSによってはTh2免疫反応による好酸球性喘息が発生し、高濃度LPSによってはTh17免疫反応により好中球性喘息が発生する。図14に示すように、高濃度のLPSとともにアレルゲン(オボアルブミン;OVA)を鼻腔に投与して好中球性肺疾患マウスモデルを作製した。具体的には、タンパク質抗原であるオボアルブミン(OVA)75μgとLPS10μgを同時に4日間鼻腔に投与してOVAに対する過敏反応を誘導した後、3週間OVA50μgを鼻腔内に投与してタンパク質抗原による肺疾患マウスモデルを作製した。マイクロコッカス・ルテウス由来小胞(M.luteus EV)は、OVAで疾患を誘発する3週間、OVAと同時に鼻腔投与した。対照薬としては、デキサメクタソン(Dex)20μgを腹腔内投与した。
【0095】
その結果、図15a及び図15bに示すように、マイクロコッカス・ルテウス由来小胞を投与したグループは、デキサメタゾンを投与したグループと同様に、LPS汚染アレルゲンに誘導された肺疾患陽性対照群に比べて気管支肺胞洗浄液(BALF)内の炎症細胞数及び好中球数は、有意に減少した。
【0096】
また、ヘマトキシリン・エオジン染色法を用いて肺の組織学的変化を評価した結果、図15cに示すように、LPS汚染アレルゲンによって誘導された肺疾患陽性グループに比べてマイクロコッカス・ルテウス由来小胞を投与したグループが、デキサメタゾンを投与したグループと同様に肺組織に炎症細胞の浸潤を著しく抑制することを確認した。
【0097】
さらに、前記マウスモデルにおいてマイクロコッカス・ルテウス由来小胞の免疫調節効果を評価するために、気管支肺胞洗浄液内のIL-1βとIL-17をELISA(R&D Systems)を用いて測定した。
【0098】
その結果、図16a及び図16bに示すように、気管支肺胞洗浄液(BALF)内の炎症性サイトカインIL-1β(図16a)及びタンパク質抗原によるTh17免疫反応指標であるIL-17(図16b)の濃度がマイクロコッカス・ルテウス由来小胞によって有意に減少したことを確認した。
【0099】
以上の結果から、アレルゲンによるTh17免疫反応で発生する好中球性肺疾患がマイクロコッカス・ルテウス由来小胞によって効率的に治療できることが分かる。
【0100】
[実施例11.マイクロコッカス・ルテウス由来小胞の免疫調節機序の分析]
様々なストレスに対する先天免疫反応は、病気の病因にとって非常に重要であることが知られている。特に、細胞質に存在するNLRP3タンパク質は、免疫機能異常による様々な難治性疾患の病因に核心的なシグナル伝達経路として知られている。また、タンパク質抗原による免疫機能異常の病因に関連したt-betとROR-γtは、それぞれ抗原に対するTh1及びTh17細胞による過敏反応の発生に核心的なシグナル伝達物質として知られている。
【0101】
マイクロコッカス・ルテウス由来小胞の免疫機能調節効果を評価するために、前記実施例10のマウスモデルから肺組織を得た後、肺組織内の先天免疫関連タンパク質であるNLRP3、及び後天免疫関連タンパク質であるt-bet(t-box protein expressed in T cells)、ROR-γt(retineic-acid-receptor-related orphan nuclear receptor gamma)発現をwestern blottingで確認した。各タンパク質の発現量を測定するために、50μgのタンパク質を使用した。
【0102】
その結果、図17に示すように、LPS汚染アレルゲンを投与したグループは、対照群に比べてNLRP3発現が著しく増加し、マイクロコッカス・ルテウス由来小胞を投与したグループは、デキサメタゾンを投与したグループと同様に、NLRP3発現が著しく抑制されることを確認した。また、マイクロコッカス・ルテウス由来小胞を投与したグループは、デキサメタゾンより効率的にt-bet及びROR-γt発現を抑制することを確認した。
【0103】
以上の結果から、LPS汚染アレルゲンによるTh1及びTh17過敏反応の発生においてマイクロコッカス・ルテウス由来小胞がNLRP3 インフラマソームシグナルを抑制し、これによりアレルゲン特異的Th1及びTh17細胞の形成を抑制して免疫機能を調節することが分かった。
【0104】
[実施例12.酸化ストレスに対する細胞の恒常性調節におけるマイクロコッカス・ルテウス由来小胞の効能評価]
細胞が様々なストレスに繰り返し露出時、細胞内では酸化ストレス(Oxidative stress)により細胞老化が発生し、細胞機能に異常がもたらされ、アポトーシスがもたらされて疾患が発生する。特に、eNOS信号によって生成される低濃度のNO(Nitric oxide)は、酸化ストレスの主な原因である活性酸素(reactive oxygen species;ROS)作用を拮抗して細胞の恒常性を維持する核心的な役割を担うだけでなく、肺疾患の重要な機能的変化である気道過敏性の発生を抑制する。
【0105】
マイクロコッカス・ルテウス由来小胞が酸化ストレスに対する防御機序の一つであるeNOS信号活性化に及ぼす効果を評価するために、前記実施例4の方法でマイクロコッカス・ルテウス由来小胞をA549細胞に処理した後、eNOSシグナル伝達タンパク質の発現態様を評価した。シグナル伝達タンパク質の発現を評価するための具体的な方法として、lysis bufferを用いて細胞を溶解させてタンパク質を抽出し、BCA protein assay kit(Thermo,USA)を使用してタンパク質を定量した。サンプル当たり50μgのタンパク質を10%ポリアクリルアミドゲルで電気泳動し、分離したタンパク質をニトロセルロースメンブレンに転写した。スキムミルクを添加したTBST(0.05%tween 20が入ったtris-buffered saline)で室温で30分間ブロッキングした後、p-ERK、ERK、eNOS、p-eNOS、及びβ-アクチンに特異的な1次抗体を1/1,000に希釈して4℃で24時間反応させた。その後、10分ずつ3回、PBST(0.05%tween 20が入ったphosphate buffer saline)で洗浄し、1/5,000に希釈した2次抗体を室温で1時間反応させた。10分ずつ5回PBSTで洗浄後、ECL select reagentを用いてバンドを確認した。
【0106】
その結果、図18に示すように、病原性ナノ粒子である大腸菌由来小胞(E.coli EV)を処理したとき、eNOS信号活性化が抑制された。一方、マイクロコッカス・ルテウス由来小胞を処理したとき、ERK及びeNOSのリン酸化がデキサメタゾン(Dex)を投与した場合と同様に増加した。また、マイクロコッカス・ルテウス由来小胞によるeNOSリン酸化は、熱処理したマイクロコッカス由来小胞を投与したときに抑制されることを確認した。
【0107】
以上の結果から、マイクロコッカス・ルテウス由来小胞は、eNOS信号を活性化することにより低濃度のNOを誘導して細胞の恒常性を増加させるだけでなく、肺疾患関連機能的な変化の発生を抑制することが分かる。
【0108】
前記結果を通じて、本発明のマイクロコッカス・ルテウス由来小胞は、好中球性肺疾患の発生を効率的に抑制することが分かった。特に、前記小胞は、酸化ストレス、ミトコンドリア機能異常、リソソーム損傷などによって誘導されるNLRP3タンパク質発現及びインフラマソーム生成を抑制して先天免疫と後天免疫機能を回復させることが分かった。また、eNOS信号を通じて低濃度NO生成を誘導して細胞の恒常性を増加させるという事実が分かった。特に、マイクロコッカス・ルテウス由来小胞を経口または鼻腔投与したときに粘膜を通過して肺組織に分布することを確認できたところ、本発明のマイクロコッカス・ルテウス由来小胞は、好中球性肺疾患の改善、予防、または治療用途として使用できるだけでなく、肺疾患の治療のための薬物伝達体としても有用に利用できるものと期待される。
【0109】
前述した本発明の説明は例示のためのものであり、本発明が属する技術分野の通常の知識を有する者は、本発明の技術的思想や必須的な特徴を変更することなく、他の具体的な形態に容易に変形が可能であることが理解できるだろう。したがって、前述した実施例は、すべての面で例示的なものであり、限定的でないものと理解しなければならない。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明者らは、マイクロコッカス・ルテウス由来小胞を経口または鼻腔投与したとき、粘膜を通過して肺に小胞が伝達されることを確認した。また、上皮細胞及び炎症細胞に前記小胞を処理したとき、生物学的原因因子による炎症性媒介体の分泌を著しく抑制しただけでなく、細胞に前記小胞を処理したとき、生物学的原因因子によるNLRP3タンパク質発現を抑制することを確認した。また、生物学的原因因子による好中球性肺疾患マウスモデルに前記小胞を投与したとき、好中球性肺炎症及び機能的な変化を有意に抑制することを確認したところ、本発明によるマイクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)由来小胞は、好中球性肺疾患を予防、症状改善、または治療するための医薬品または健康機能食品などの開発に有用に利用できるだけでなく、前記疾患を治療するための薬物伝達システムとして有用に利用できるものと期待される。
図1a
図1b
図2
図3
図4a
図4b
図5
図6a
図6b
図7
図8
図9
図10a
図10b
図11a
図11b
図11c
図12a
図12b
図12c
図13
図14
図15a
図15b
図15c
図16a
図16b
図17
図18
【手続補正書】
【提出日】2023-06-26
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)由来小胞を有効成分として含む、好中球性肺疾患の予防または治療用薬学的組成物。
【請求項2】
前記肺疾患は、NLRP3 インフラマソーム(Nucleotide-binding oligomerization domain,Leucine rich Repeat and Pyrin domain containing 3 インフラマソーム)によって媒介される肺疾患であることを特徴とする、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項3】
前記肺疾患は、喘息(Asthma)、肺気腫(Emphysema)、嚢胞性線維症(Cystic fibrosis;CF)、細菌性肺炎(Bacterial pneumonia)、ウイルス性肺炎(Viral pneumonia)、特発性肺線維症(Idiopathic pulmonary fibrosis;IPF)、間質性肺炎(Interstitial pneumonitis)、急性呼吸困難症候群(acute respiratory distress syndrome;ARDS)及び急性肺損傷(acute lung injury;ALI)からなる群から選ばれる1つ以上の疾患であることを特徴とする、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項4】
前記喘息は、好中球性喘息であることを特徴とする、請求項3に記載の薬学的組成物。
【請求項5】
前記小胞は、平均直径が10~200nmであることを特徴とする、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項6】
前記小胞は、マイクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)から自然的に分泌または人工的に産生されることを特徴とする、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項7】
前記組成物は、NLRP3 インフラマソームの活性を抑制することを特徴とする、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項8】
マイクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)由来小胞を有効成分として含む、好中球性肺疾患の予防または改善用食品組成物。
【請求項9】
前記肺疾患は、喘息(Asthma)、肺気腫(Emphysema)、嚢胞性線維症(Cystic fibrosis;CF)、細菌性肺炎(Bacterial pneumonia)、ウイルス性肺炎(Viral pneumonia)、特発性肺線維症(Idiopathic pulmonary fibrosis;IPF)、間質性肺炎(Interstitial pneumonitis)、急性呼吸困難症候群(acute respiratory distress syndrome;ARDS)、及び急性肺損傷(acute lung injury;ALI)からなる群から選ばれる1つ以上の疾患であることを特徴とする、請求項8に記載の食品組成物。
【請求項10】
マイクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)由来小胞を有効成分として含む、好中球性肺疾患の予防または治療用吸入剤組成物。
【請求項11】
前記肺疾患は、喘息(Asthma)、肺気腫(Emphysema)、嚢胞性線維症(Cystic fibrosis;CF)、細菌性肺炎(Bacterial pneumonia)、ウイルス性肺炎(Viral pneumonia)、特発性肺線維症(Idiopathic pulmonary fibrosis;IPF)、間質性肺炎(Interstitial pneumonitis)、急性呼吸困難症候群(acute respiratory distress syndrome;ARDS)及び急性肺損傷(acute lung injury;ALI)からなる群から選ばれる1つ以上の疾患であることを特徴とする、請求項10に記載の吸入剤組成物。
【請求項12】
マイクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)由来小胞を有効成分として含む、好中球性肺疾患の予防または改善用医薬部外品組成物。
【請求項13】
マイクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)由来小胞を有効成分として含む、好中球性肺疾患治療薬物伝達用組成物。
【請求項14】
マイクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)由来小胞の好中球性肺疾患の治療用薬剤の製造のための使用
【国際調査報告】