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特表2024-501000哺乳類の細胞または組織をサンプリングする生検/細胞診デバイス
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-10
(54)【発明の名称】哺乳類の細胞または組織をサンプリングする生検/細胞診デバイス
(51)【国際特許分類】
   A61B 10/02 20060101AFI20231227BHJP
   A61B 10/04 20060101ALI20231227BHJP
   A61B 8/12 20060101ALI20231227BHJP
【FI】
A61B10/02 110K
A61B10/04
A61B8/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023539169
(86)(22)【出願日】2021-12-21
(85)【翻訳文提出日】2023-08-02
(86)【国際出願番号】 SE2021051302
(87)【国際公開番号】W WO2022139672
(87)【国際公開日】2022-06-30
(31)【優先権主張番号】2030377-2
(32)【優先日】2020-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.PYTHON
(71)【出願人】
【識別番号】523236043
【氏名又は名称】ラッキー ループ メディカル アーべー
【氏名又は名称原語表記】LUCKY LOOP MEDICAL AB
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100173473
【弁理士】
【氏名又は名称】高井良 克己
(72)【発明者】
【氏名】ニクラス ロックスヘッド
(72)【発明者】
【氏名】フィリペ マルケス
(72)【発明者】
【氏名】ウーター メッツォラ ファン デル ワインガルト
(72)【発明者】
【氏名】フランシスコ バルダック シウヴァ
(72)【発明者】
【氏名】アーバン アルネロ
【テーマコード(参考)】
4C601
【Fターム(参考)】
4C601EE14
4C601EE16
4C601FE01
4C601FF03
(57)【要約】
被検体におけるキャビティから細胞または組織を分離するためのデバイスであって、ニードルまたはカテーテルのルーメン内で移動するように配設された細長部材と、細長部材の遠位端に配設された少なくとも1つの可撓性部材とを備え、可撓性部材はニードルまたはカテーテルのルーメン内においては第1の拘束構成となり、ルーメンの外側においては第2の拡張構成となるように構成され、可撓性部材は、第2の拡張構成にあるとき、デバイスが挿入されたキャビティの内部形状に沿うように構成される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体におけるキャビティから細胞または組織を分離するデバイスであって、
ニードルまたはカテーテルのルーメン内で移動するように配設された細長部材と、
前記細長部材の遠位端に配設された少なくとも1つの可撓性部材と
を備え、
前記可撓性部材は、前記ニードルまたはカテーテルの前記ルーメン内においては第1の拘束構成となり、前記ルーメンの外側においては第2の拡張構成となるように構成され、前記可撓性部材は、前記第2の拡張構成にあるとき、前記デバイスが挿入されたキャビティの内部形状に沿うように構成される、デバイス。
【請求項2】
前記可撓性部材は、好ましくは形状記憶合金で作製された超弾性ワイヤである、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記可撓性部材は、前記拡張構成にあるとき、少なくとも1つのループを形成するように配設される、請求項1または2に記載のデバイス。
【請求項4】
前記可撓性部材の少なくとも一部が実質的な螺旋形状を有し、当該螺旋の軸が前記可撓性部材の全体的な延在方向に実質的に平行である、請求項1~3のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項5】
前記可撓性部材の少なくとも一部は、鋸歯状構造を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項6】
前記鋸歯状構造は、前記可撓性部材の表面に、微細構造を機械加工または配設することにより形成される、請求項5に記載のデバイス。
【請求項7】
前記細長部材および前記可撓性部材は、モノリシック構造として一体的に形成され、前記可撓性部材の直径は前記細長部材の直径よりも小さい、請求項1~6のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項8】
前記細長部材は、その遠位端に設けられた取付用インタフェースを備え、前記少なくとも1つの可撓性部材は、前記取付用インタフェースを介して前記細長部材に取り付けられる、請求項1~6のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項9】
前記取付用インタフェースは、前記少なくとも1つの可撓性部材を前記細長部材に締結するための少なくとも1つの孔、前記細長部材と前記少なくとも1つの可撓性部材との間の機械的インターロック機構、溶接線、接着線、またはそれらの組み合わせを含む、請求項8に記載のデバイス。
【請求項10】
前記取付用インタフェースは、熱収縮チューブで被覆されている、請求項8または9に記載のデバイス。
【請求項11】
前記細長部材の外側に配設された管状シースであって、前記ニードルまたはカテーテルの前記ルーメンの内側で前記細長部材に沿って移動するように構成された管状シースをさらに備える、請求項1~10のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項12】
前記管状シースは、ポリエーテル、ポリアミド、ポリイミド、またはポリテトラフルオロエチレン、PTFEなどのポリマー、またはニッケルチタンもしくはステンレス鋼などの金属から作製される、請求項11に記載のデバイス。
【請求項13】
前記細長部材および/または前記可撓性部材は、表面処理またはコーティングされて、摩擦係数を低減させている、請求項1~13のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項14】
穿刺吸引、FNA、または細ニードル生検、FNBを実施するデバイスであって、
中空ニードルと、
前記ニードルの前記ルーメンの内側において移動可能に配設された、請求項1~13のいずれか一項に記載のデバイスとを備えるデバイス。
【請求項15】
穿刺吸引、FNA、または細ニードル生検、FNBを実施して、被検体のキャビティから細胞または組織を試料採取する方法であって、
中空ニードルと、前記ニードルのルーメン内において移動可能に配設された細長部材と、前記細長部材の前記遠位端に配設された少なくとも1つの可撓性部材とを備えるデバイスであって、前記可撓性部材は、前記ニードルの前記ルーメン内においては第1の拘束構成となり、前記ルーメンの外側においては第2の拡張構成となるように構成され、前記可撓性部材は、前記第2の拡張構成にあるとき、前記デバイスが挿入されたキャビティの内部形状に沿うように構成される、デバイスとを提供することと、
前記被検体の前記キャビティへ前記ニードルを導入することと、
前記ニードルの前記ルーメンを通して前記細長部材を前進させることであって、前記可撓性部材が前記ニードルの遠位端から突出し、前記キャビティ内において第2の拡張構成をとり、前記キャビティの内壁と接触するように、前記細長部材を前進させることと、
前記細長部材を回転させることであって、前記拡張された可撓性部材により前記キャビティの内壁を擦り取るように、前記細長部材を回転させることと、
前記細長部材を前記ニードルの前記ルーメン内に後退させることであって、前記可撓性部材が前記第1の拘束構成となり、前記ニードルの前記遠位端に再び入るように、前記細長部材を後退させることと、
前記ニードルの前記ルーメンを通して、前記キャビティから液体を吸引することと、
前記ニードルを前記キャビティから後退させること
とを含む方法。
【請求項16】
前記デバイスは、前記細長部材の外側に配設された管状シースであって、前記ニードルまたはカテーテルの前記ルーメン内において前記細長部材に沿って移動されるように構成された管状シースを備え、前記方法は、
前記細長部材を回転させるステップの前に、前記ニードルを通して前記管状シースを前進させることであって、前記管状シースの遠位端が前記ニードルの遠位端から出て、拡張した前記可撓性部材に接触するように、前記管状シースを前進させることと、
前記細長部材を後退させるステップの後、前記管状シースを前記ニードルの中に後退させることと
をさらに含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記被検体内の前記キャビティに前記ニードルを導入するステップは、超音波内視鏡、EUS、誘導を用いて行われる、請求項15または16に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、概して、被検体のキャビティ内の細胞を分離するためのデバイス、および被検体のキャビティから細胞または組織を試料採取するための液体生検/細胞診に関する。生検/細胞診の方法は、中空のカテーテルまたはニードルを介してデバイスを導入および操作して、細胞試料を得ることを可能にすることを含む。
【背景技術】
【0002】
膵臓がんは、現在、西洋におけるがん関連死の第4位の原因であり、その有病率は、2030年までに全がんにおいて2番目に高くなると推定されている。予後は依然として非常に不良であり、診断時には病期が進行しているため、5年生存率はわずか2%~9%と全てのがんの中で最も低い。膵嚢胞性病変はほとんどの膵臓がんの前駆体であり、一般集団における膵嚢胞性病変の存在率は40%にもなる。したがって、膵嚢胞が潜在的に良性または悪性であるかに応じて適切に診断する必要性が大きい。
【0003】
嚢胞性病変に対する超音速内視鏡検査(EUS)ガイド下の穿刺吸引法(FNA)と、それに続く液体細胞分析は、良性、潜在的に悪性、および悪性の膵嚢胞を鑑別するための診断ツールとして使用されている。充実性病変に対するEUS-FNAからの結果は有望であるが、嚢胞性病変からの結果は嚢胞液中の細胞含有物が乏しいために不良である。嚢胞液中において細胞が不足する理由は、EUS-FNAにより除去されるのが嚢胞の液体含有物であり、通常は細胞によって覆われている嚢胞のライニングまたは壁を除去するものではないからである。その結果、この方法による感度は65%~95%の範囲であり、特異度は50%~100%の範囲である。平均精度は85%であるため、症例の20%において、決定的でないか、またはあいまいな状況が生じる。このように情報の欠如するため、細胞病理学者が診断を実行することができない状況が生じる。この問題を解決するため、19Gニードルを介した手術用の「スルー・ザ・ニードル」細胞診ブラシ(EchoBrush、Cook Endoscopy社、ウィンストン・セーラム、ノースカロライナ州)を用いた開発が行われ、症例の85.1%で診断資料を提示した。しかしながら、出血リスクの増加により、これらのデバイスの製造は中止された。
【0004】
国際公開第2018/053402号は、22ゲージ超音波内視鏡検査(EUS)ニードルを介して嚢胞内に展開可能な膵嚢胞デバイスを開示している。このデバイスは可撓性シャフトであり、嚢胞の形状に沿って接触面積を最大化するように設計された「スパイラルQ」形状の遠位端と、ハンドルに接続可能な近位端とを有し、操作者がデバイスを膵嚢胞内で回転させて嚢胞ライニングから細胞を除去することを可能している。
【0005】
しかしながら、前述のデバイスは、依然として、嚢胞ライニングを損傷する危険性があり、スパイラル形状の遠位端は動作中に破損し、外側シャフト内に後退する可能性がある。さらに、可撓性シャフトはその全長にわたってニチノールから作られているため、製造コストがかかる。
【0006】
したがって、既知のデバイスおよび方法を改善して、上述の欠点を解決する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の目的は、サンプリング部位における組織損傷を低減しつつ被検体のキャビティから採取された細胞数または組織数を増加させる、最小侵襲性の生検/細胞診デバイスおよび方法を達成することである。
【0008】
この目的は、被検体におけるキャビティから細胞または組織を分離するためのデバイスが提供され、このデバイスはニードルまたはカテーテルのルーメン内で移動されるように配設された細長部材と、細長部材の遠位端に配設された少なくとも1つの可撓性部材とを備え、可撓性部材は、ニードルまたはカテーテルのルーメン内においては第1の拘束構成となり、ルーメン外の第2の拡張構成となるように構成され、可撓性部材は、第2の拡張構成にあるとき、デバイスが挿入されたキャビティの内部形状に沿うように構成される、本開示の第1の態様において達成される。
【0009】
細長部材と、その遠位端に配設された可撓性部材とを備えたデバイスを提供することによって、可撓性部材は、デバイスが挿入されるキャビティの内部形状に沿う形状をとるように構成され、サンプリング部位における組織を損傷するリスクを低減しつつ、サンプリング手順において採取される細胞の数を増加させることが可能である。
【0010】
一実施形態において、可撓性部材は、好ましくは形状記憶合金で作製された超弾性ワイヤである。超弾性ワイヤ、特にニッケルチタンなどの形状記憶合金は、デバイスがキャビティの中に挿入されたとき、可撓性部材がキャビティ、例えば、嚢胞の内部形状の所望の形状をとることを可能にする。
【0011】
一実施形態において、可撓性部材が拡張構成において少なくとも1つのループを形成するように配設される。ループ形状は、可撓性部材がキャビティの内部形状の所望の形状に単純な方法で適合することを可能にする。加えて、ループ形状により、細長部材を前進させる距離が短くても、可撓性部材を完全に展開された拡張構成とすることができる。
【0012】
一実施形態において、可撓性部材の少なくとも一部が螺旋の軸が可撓性部材の全体的な延在方向に実質的に平行である実質的な螺旋形状を有する。螺旋形状により縁部を粗くすることで、キャビティの内側ライニング/壁から細胞を容易に擦り取ることができる。
【0013】
一実施形態において、可撓性部材の少なくとも一部が例えば複数の歯を呈する鋸歯状構造を有する。好ましくは、鋸歯状構造が可撓性部材の表面上に機械加工または配設された微細構造によって達成される。鋸歯状構造により縁部を粗くすることで、摩耗が増加し、キャビティの内側ライニング/壁からの細胞の擦り取りが容易になり、それによって細胞収率が増加する。
【0014】
一実施形態において、細長部材および可撓性部材がモノリシック構造として一体的に形成され、可撓性部材の直径は細長部材の直径よりも小さい。可撓性部材の直径を細長部材の直径より小さくすることで、拘束構成における可撓性部材の長さを2倍にすることが可能となる。したがって、細長部材を前進させる距離が短くても、可撓性部材を完全に展開された拡張構成とすることができる。
【0015】
一実施形態において、細長部材がその遠位端に取付用インタフェースを備え、少なくとも1つの可撓性部材が取付用インタフェースによって細長部材に取り付けられる。この構成により、可撓性部材を、細長部材とは別個に、例えば、異なる材料で、または異なるプロセスを使用して、製造することが可能になる。
【0016】
一実施形態において、取付用インタフェースは、少なくとも1つの可撓性部材を細長部材に締結するための少なくとも1つの孔、細長部材と少なくとも1つの可撓性部材との間の機械的インターロック機構、溶接線、接着線、またはそれらの組み合わせを含む。デバイスの所望の特性および/または所期の動作条件に応じて、締結用に別の選択肢が選択されてもよい。好ましくは、取付用インタフェースは、熱収縮チューブで被覆されている。熱収縮チューブにより取付用インタフェースを保護されることにより、破裂または細長部材からの可撓性部材の剥離を防止する。
【0017】
一実施形態において、デバイスは、細長部材の外側に配設され、ニードルまたはカテーテルのルーメンの内側で細長部材に沿って移動するように構成された管状シースをさらに備える。管状シースは、例えば、デバイスが挿入される中空ニードルに関して、前進、動作、および後退中の破損から可撓性部材を保護する。好ましくは、管状シースは、ポリエーテル、ポリアミド、ポリイミドもしくはポリテトラフルオロエチレン、PTFEなどのポリマー、またはニッケルチタンもしくはステンレス鋼などの金属から作製される。
【0018】
一実施形態において、細長部材および/または可撓性部材が摩擦係数を低減するように表面処理またはコーティングされる。
【0019】
本開示の第2の態様では、穿刺吸引、FNA、または細ニードル生検、FNBを実施するためのデバイスが提供され、デバイスは中空ニードルと、ニードルのルーメン内に移動可能に配設された第1の態様によるデバイスとを含む。
【0020】
本開示の第3の態様では、穿刺吸引、FNA、または細ニードル生検、FNBを実施して、被検体のキャビティから細胞または組織を試料採取するための方法であって、
中空ニードルと、ニードルのルーメン内において移動可能に配設された細長部材と、細長部材の遠位端に配設された少なくとも1つの可撓性部材とを備えるデバイスであって、可撓性部材は、ニードルのルーメン内においては第1の拘束構成となり、ルーメンの外側においては第2の拡張構成となるように構成され、可撓性部材は、第2の拡張構成にあるとき、デバイスが挿入されたキャビティの内部形状に沿うように構成される、デバイスとを提供することと、
被検体のキャビティへニードルを導入することと、
ニードルのルーメンを通して細長部材を前進させることであって、可撓性部材がニードルの遠位端から突出し、キャビティ内において第2の拡張構成をとり、キャビティの内壁と接触するように、細長部材を前進させることと、
細長部材を回転させることであって、拡張された可撓性部材によりキャビティの内壁を擦り取るように、細長部材を回転させることと、
細長部材をニードルのルーメン内に後退させることであって、可撓性部材が第1の拘束構成となり、ニードルの遠位端に再び入るように、細長部材を後退させることと、
ニードルのルーメンを通して、キャビティから液体を吸引することと、
ニードルをキャビティから後退させることとを含む方法が提供される。
【0021】
一実施形態において、デバイスは、細長部材の外側に配設された管状シースであって、ニードルまたはカテーテルのルーメン内において細長部材に沿って移動されるように構成された管状シースを備え、方法は、
細長部材を回転させるステップの前に、ニードルを通して管状シースを前進させることであって、管状シースの遠位端がニードルの遠位端から出て、拡張した可撓性部材に接触するように、管状シースを前進させることと、
細長部材を後退させるステップの後、管状シースをニードルの中に後退させることとをさらに含む。
【0022】
一実施形態において、被検体内のキャビティにニードルを導入するステップは、超音波内視鏡検査、EUS、誘導を用いて行われる。よって、サンプリングを、例えば、低侵襲的な方法で、EUS-FNA/FNB手順として実行して、被検体の胃領域内の試料を取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
次に、本発明を、例示目的のために、添付の図面を参照して説明する。
図1】本開示の一実施形態によるデバイスによって使用される、膵臓内の嚢胞に向かう内視鏡超音波誘導穿刺吸引(EUS-FNA)経路、デバイスを操作する異なるステップ、ならびに人体の外側のEUS-FNAと連動するデバイスを示す図である。
図2】22Gニードルを出る本開示の一実施形態によるデバイスの写真、ならびに熱収縮チューブの配設前後のノットの形態の取付用インタフェースの走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す図である。
図3】嚢胞ファントムのキャビティにおける本開示の一実施形態によるデバイスの動作の断面図、デバイスが挿入された嚢胞ファントムの側面図写真、デバイスでブラッシングする前後の嚢胞ファントムの前方部および後部の軸方向図、ならびにそれらの間の差異を示す図である。
図4】ブタ小腸モデルにおける本開示の一実施形態によるデバイスのエクスビボ試験の概略図を示す図である。
図5a図4に示されるように実施された試験からの絶対細胞濃度およびブラシ効率を示す図である。
図5b図4に示されるように実施された試験からの絶対細胞濃度およびブラシ効率を示す図である。
図6】ウシ卵胞嚢胞における本開示の一実施形態によるデバイスのex-vivo試験の概略図、ならびにブラッシングなしおよびブラッシングありのセルカウンター画像を示す図である。
図7】本開示による細長部材の遠位端に配設された可撓性部材の4つの実施形態を示す図である。
図8】本開示の異なる実施形態による可撓性部材の拡大図を示す図である。
図9】本開示の別の実施形態によるデバイスを動作させる異なるステップを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下では、本開示によるデバイスの詳細な説明が提示される。図面において、同様の参照番号は、いくつかの図面を通して同一または対応する要素を示す。これらの図は説明のためだけのものであり、決して本発明の範囲を限定するものではないことが理解されるであろう。
【0025】
本開示の文脈において、「遠位の(distal)」および「遠位に(distally)」という用語は、本開示によるデバイスを使用するときに、操作者から離れる(最も遠い)位置または方向を指すことが理解される。同様に、「近位の(proximal)」および「近位に(proximally)」という用語は、本開示によるデバイスを使用するときに、操作者に最も近い、または操作者に向かう位置または方向を指す。
【0026】
ここで図1を参照すると、図面a)には、現行方式による内視鏡超音波誘導穿刺吸引/生検(EUS-FNA/FNB)手順の概略図が示されている。内視鏡は、患者の口、食道、胃、小腸(十二指腸)を通って挿入されて膵臓に到達し、超音波振動子によって嚢胞の場所を探し当てると、操作者は、22Gニードルを嚢胞に挿入する。しかしながら、他の臓器または目的の領域を標的とすることができ、結腸、肛門、または直腸を通して内視鏡を挿入してもよい。手順に応じて、他のゲージのニードルを使用することも考えられる。
【0027】
図1の図面b)には、細胞収率を向上させるための手順のステップが示されている。ループブラシの形態の可撓性部材は、最初は22Gニードルの内側に位置しているが、嚢胞内に押し込まれると嚢胞内でルーメンに適合する。細長部材を回転させることにより、ループブラシが回転されて、嚢胞壁から細胞を削り落とし、細胞が嚢胞液体中に放出される。次に、可撓性部材をニードルのルーメンから後退させ、ニードルを通して嚢胞液を吸引し、嚢胞液は、下流の細胞学/病理学または生化学、分子または遺伝子分析用に収集される。
【0028】
デバイスの機械的ロバスト性を検証するために、負荷試験を実施した。その結果、長さ1200mmの細長部材を用い、ニードルを通してループブラシを導入し、回転させ、除去するという動作を100回行っても、ループブラシの動きが制限されることはなかった。図1の写真c)は、ニードルおよびループブラシを含む内視鏡の遠位端を示す。
【0029】
可撓性部材の引張試験は、3Nを超える最大破断力で機械的破損が生じることを示し、この最大破断力は、直線50mのニチノールワイヤ(SI5)の場合と同程度の大きさである。インビボ動作中の機械的応力のレベルは、この最大破断力よりも数桁低く維持される。
【0030】
ここで図2を参照すると、本開示の一実施形態によるデバイスが示されている。図2の写真a)はデバイスの遠位端を示し、ループの形態の可撓性部材は、本図ではガイドワイヤと称する細長部材の遠位端に配設される。可撓性部材は、直径1cmのループ状に成形された50μmの薄いニチノールワイヤで形成されている。このループを、図2の走査型電子顕微鏡(SEM)写真b)に示すように、片結び(オーバーハンドノット)によって280μm厚のニチノール細長部材に固定する。ニチノールワイヤは、ガイドワイヤにおける孔を通してガイドワイヤに結ばれる。孔は、0.025mmよりも大きく(diameter than 0.025 mm)、5mmよりも小さく、典型的には0.50mmよりも小さい直径を有する可能性がある。孔は、細長部材の遠位端から1mmまたは最大10mm離れた位置にあってもよい。
【0031】
ノッティングの後、熱収縮チューブを結び目の上に挿入し、熱を加えることによって収縮させ、それによって、図2のSEM写真c)に示されるように結び目が孔に入り込む。熱収縮チューブは0.1mmより大きく12mmより小さく、典型的には0.2mmより大きい直径を有する可能性がある。
【0032】
本発明の範囲内において、可撓性部材を細長部材に取り付けるための他の手段が考えられ、例えば、接着、溶接、機械的インターロックが挙げられる。取付用インタフェースは、熱収縮チューブを収容する、または熱収縮チューブなしで、熱収縮チューブと組み合わされてもよい。一実施形態において、細長部材および可撓性部材がモノリシック構造として、すなわち単一部品として一体的に形成される。
【0033】
ここで図3を参照すると、図3の図面a)に示されるように、インビトロ嚢胞ファントムの球状キャビティ内のループブラシの動作手順を検討した。図3の写真b)に示されるように、可撓性部材を、22Gニードルのルーメンを通してキャビティ内に導入し、その後、回転させた。ループブラシはファントムの内壁に適合することが観察され、可撓性部材はキャビティの硬い内壁から細胞サイズのタルク粉末粒子を除去することができることがわかり、したがって、図3の写真c)に示されるように、内部3D曲面をブラッシングする能力が実証された。
【0034】
現在、ヒトの嚢胞サイズに類似し、組織における細胞付着を模倣する膵嚢胞の動物モデルは存在せず、これは、ループブラシ機能性の検証にとって致命的である。さらに、膵嚢胞は様々な粘度の液体を含み、粘度が高いほど、悪性度が高いことを示す。したがって、エクスビボのブタ小腸モデルを、液体培地として生理食塩水またはグリセロールのいずれかを用いて構築した。図4を参照すると、ブラッシング後の細胞数を増加させる可撓性部材の能力が実証された。A~Fで示される6つの腸を使用し、各腸を切断して、1~6で示される6つの試験切片とした。図4の図面a)は、切断位置の概略図を示す。図4の図面b)は、i)陰性対照試験、すなわち、その後の液体添加およびブラッシングなしの吸引、ii)陽性対照試験、すなわち、第1腸部へのその後の液体添加、すなわち、歯間ブラシを用いたブラッシングおよび液体吸引のためのブラシ、ならびに、iii)試料試験、すなわち、第2~第6腸部への継続した液体添加、すなわち、ループブラシおよび液体吸引による、ブラッシングの間のモデルからの細胞採取の断面模式図を示す。
【0035】
ループブラッシング、陰性対照(ブラッシングなし)および陽性対照(歯間ブラシを用いたブラッシング)の液体除去後の細胞含有物を比較した。それぞれの結果を、図5aにおける絶対細胞濃度として、および図5bにおけるブラシ効率ηとして示す。A~Cで示される小腸からの試料を生理食塩水で満たし、D~Fで示される小腸からの試料をグリセロールで満たした。破線の横線は、セルカウンターの検出限界(LOD)を示す。検出限界以下の細胞数は、LOD線のすぐ下に表される。エラーバーはSDを示す。*P<0.05である。陰性対照およびループブラシの全15回の繰り返しについてウィルコクソン対試験を実施すると、両方の培地についてP<0.0001であることがわかった。
【0036】
ブラシ効率ηは、陰性対照試料に対するループブラシ試料の細胞濃度比として定義した。陰性対照試料が、セルカウンターの検出限界(LOD)よりも少ない細胞を含有する場合、陰性対照値の代わりにLOD値を使用した。全ての試験はη>1を示した。生理食塩水を用いたモデルではη=11(n=15)の平均値であり、グリセロール含有物を用いたモデルではη=65(n=15)の平均値である。これらの結果から、ループブラシにより3D軟組織表面から細胞を除去することができ、その後、細胞を吸引によって採取することができることを示す。ループブラッシングの後、生理食塩水およびグリセロールで満たされた試料についての細胞濃度は同程度の大きさであり、ループブラッシングが、様々な粘度の嚢胞液における細胞採取を改善することを示す。生理食塩水およびグリセロールを充満したモデルとの間の陰性対照測定における細胞含有物の差がみられた。この差は液体粘度の差に起因し、その結果、生理食塩水モデルの充填状態はより乱れたものとなり、グリセロールの充填状態はより層流化された。すなわち、生理食塩水を充填したモデルでは、既に放出された細胞が液体中に混合されてしまう一方、グリセロールを充填したモデルでは、そのような細胞が腸壁の近くに維持される。
【0037】
典型的な動作中、可撓性部材によって組織に加えられる力は、約0.1mN~0.7mN(SI7)の範囲内であることがさらに確認された。ループブラシの使用は、胃腸系の曲線を模倣する、嚢胞への内視鏡経路のモデルにおいても確認された。ループブラシを60rPmで1時間、ブタ小腸モデルのルーメンに対して回転させたが、有害性は観察されなかった。
【0038】
ここで図6を参照すると、ex-vivoウシ卵胞嚢胞モデルをブラッシングした後に細胞数を増加させる能力を試験した。図6の図面a)に示すように、実験手順はブラッシングなしの液体サンプリング(陰性対照)から始まり、その後、ループブラッシングを行い、続いて第2の液体サンプリングを行った。図6の写真b)は、卵胞嚢胞を有する又は有しないウシの卵巣を示す。図6の写真c)およびd)は、陰性対照試料(c)およびループブラシ試料(d)およびそれらの対応する細胞カウントについての色増強セルカウンター画像を示す。
【0039】
ループブラッシングにより、陰性対照と比較して、細胞濃度が少なくとも10倍増加した。ブラッシング後の細胞クラスターの存在により、試料中の全ての細胞を計数することは容易でないため、結果として、この効率推定値は控えめである。これらの結果は、可撓性部材を22Gニードルのルーメンを通して嚢胞の内部で首尾よく操作することができ、嚢胞の液体環境中で細胞をブラッシングし、分散させることができることを示す。可撓性部材は、2つ以上のタイプの組織において細胞を穏やかに摩耗させ分散させることができるため、膵臓腺がん診断中に動作が成功する潜在性を示す。
【0040】
現在の結果は、胃腸管モデルにおける可撓性部材の機能性、機械的ロバスト性、単純な動作手順、および組織に対する可撓性部材の低い力を実証し、現在のEUS-FNA手技と相溶性があることを示す。今後の研究は、特に周囲組織への潜在的な損傷、および嚢胞内の隔壁、すなわち嚢胞腔を2つ以上の区画に分離する壁構造のブラッシングに関して、処置の安全性を評価することを目的とすべきである。
【0041】
ここで図7を参照すると、本開示によるループ形状の可撓性部材の4つの実施形態が示されている。可撓性部材は、細長部材の遠位端に配設される。細長部材の直径は、0.1mmより大きくてよく、12mmより小さくてよく、典型的には0.2mmより大きい。細長部材の長さは、最大2mであってもよく、1cm程度の短さであってもよく、典型的には3cmよりも大きい。動作中、細長部材は、可撓性部材を誘導するために使用され得る。例えば、可撓性部材はニードルのルーメン内の細長部材の前進、回転、および後退時に、それぞれ、キャビティ内に導入され、内部で回転され、キャビティから除去され得る。細長部材は、手によって、または機械的/ロボットデバイスによって操作されてもよい。操作は、現場で、または遠隔で実行されてもよい。
【0042】
可撓性部材の直径は、0.025mmより大きくてよく、4mmより小さくてよく、典型的には0.5mmより小さく、より好ましくは0.21mmより小さい。ループの直径は、1mmより大きくてよく、典型的には2mmより大きく、8cmより小さくてよく、典型的には3cmより小さい。
【0043】
第1の実施形態において、可撓性部材は単一のループを備え、当該ループは、ニードルまたはカテーテルのルーメン内に拘束されていない拡張構成において実質的に円形である。例示的なニードルは、0.1mmより大きく、6mmより小さく、典型的には5.5mmより小さい内径を有し得る。例示的なカテーテルは、0.33mmより大きく、12mmより小さく、典型的には9mmより小さい内径を有することができる。第2の実施形態において、可撓性部材は、2つ以上のループ、例えば、本明細書に示されるような2つのループを含む。第3の実施形態において、可撓性部材は少なくとも1つの鋸歯状部分を備え、ジグザグパターンの複数の歯または点を備える。ループの鋸歯状の縁部は、嚢胞または他のキャビティの壁に対する可撓性部材の研磨作用を増加させ、それによって、細胞収率を増加させる。鋸歯状の縁部は可撓性部材のマクロ組織によって形成されてもよく、例えば、可撓性部材は鋸歯状の構造で形成される。第4の実施形態において、可撓性部材をコイル状に巻いて螺旋形状とし、その後、螺旋の軸が可撓性部材の全体的な延在方向、すなわちループ形状の輪郭に実質的に平行になるようなループに形成される。
【0044】
ここで図8を参照すると、本開示の異なる実施形態による可撓性部材の表面の拡大図が示されている。一実施形態において、可撓性部材の表面は、図7の左上の実施形態のように、実質的に滑らかであってもよい。別の実施形態において、可撓性部材の表面は、図7の左下の実施形態と同様に、微細構造を備えてもよく、それにより、摩耗、したがって細胞収率が増加する。微細構造は、図8の中央図に示されるように、可撓性部材の表面におけるノッチまたは凹部によって形成してもよい。一実施形態において、微細構造を複数の突起、例えば、間柱(スタッズ)を有する1つ以上の円柱構造によって形成し、当該微細構造を可撓性部材上に挿入する。筒状構造は、剛性であってもよく、可撓性部材の可撓性を局所的に制限してもよい。可撓性部材は、円柱構造体間の部分において屈曲することができ、したがって、キャビティの組織壁に対する可撓性部材の共形挙動を向上させる。
【0045】
ここで図9を参照すると、本開示の一実施形態によるデバイスを動作させるための手順のステップが示されている。ステップa)において、細長部材と、ニードルのルーメンの内側に拘束構成の可撓性部材とを含むデバイスを含むニードルを、被検体のキャビティ、例えば嚢胞内に導入する。ステップb)において、細長部材を、ニードルのルーメンを通って遠位方向に前進させる。その結果、可撓性部材はニードルのルーメンを出て、拡張構成に移行し、そこで、可撓性部材は嚢胞の内部形状に実質的に一致し、内壁に接触する。ステップc)において、管状シースの遠位端が拡張可撓性部材に接触するまで、管状シースをニードルのルーメンの内側の細長部材上に前進させる。管状シースは、ポリエーテル、ポリアミド、ポリイミド、またはポリテトラフルオロエチレン、PTFEなどのポリマー、またはニッケルチタンもしくはステンレス鋼などの金属から作製することができ、ニードルの鋭利なファセットから可撓性部材を保護する。ステップd)において、細長部材をニードルのルーメンの内側で回転し、これにより、可撓性部材は嚢胞の内側で回転し、内壁から細胞を摩耗させる。ステップe)において、細長部材は可撓性部材がニードルに再び入り、近位方向に後退させられて、拘束構成に移行する。この段階で、管状シースは、可撓性部材が後退中にニードルに接触しないように、ニードル先端を越えた位置に維持される。ステップf)において、管状シースは、ニードルのルーメン内に近位方向に後退させられる。最後に、ステップg)において、嚢胞中の液体は、可撓性部材の研磨作用によって除去された細胞と共に吸引される。キャビティ内の液体内容物は有機体によって自然に排泄され得る(例えば、排尿)。液体内容物は、カテーテル法によって除去されてもよい。
【0046】
一実施形態において、細長部材および可撓性部材を遠位方向に前進させることによって、吸引された液体内容物をニードルのルーメンから押し出すことができる。一実施形態において、ニードル、例えば、スタイレットの内部でワイヤを前方に押すことによって、ニードルのルーメンから液体内容物が押し出されてもよい。一実施形態において、シリンジを通して空気または液体を使用することによって、ニードルのルーメンから液体内容物を押し出すことができる。可撓性部材は、液体除去後に切断して、その後、細胞学的、病理学的、生物学的、または化学的分析のために使用することができる。液体内容物は、その後、細胞学的、病理学的、生物学的、または化学的分析のために使用することができる。細胞学的分析は、例えば、細胞形態分析である。病理学的分析は例えば、組織形態学的分析である。化学分析は、例えば、タンパク質分析、糖タンパク質分析、酵素分析、DNA分析、がんマーカー分析、免疫分析である。
【0047】
一実施形態において、細長部材、可撓性部材、および/または管状シースの表面を処理またはコーティングして、摩擦係数を低減し、それによって前進、後退、および回転を容易にするようにしてもよい。
【0048】
ループブラシの製造
1つの実施形態におけるループブラシは3つの主要な構成要素からなる。すなわち、ループを形成するように結び付けられた280μmニチノール細長部材(ExpectTM Slimline EUS-FNA device M00555510、ボストンサイエンティフィック社、米国から得られるスタイレットワイヤ)、50μmニチノールワイヤ(NiTi#1ワイヤ 0.002" ± 0.0001" straight annealed light oxide、Fort Wayne Metals、Ireland)、およびノット面積を保護する460μmの収縮前の内径を有するポリエチレンテレフタレート医療用熱収縮チューブ(103-0510、ノードソンメディカル社、米国)からなる。
【0049】
ループブラシを作製するために、細長部材の遠位端を通る150μmの孔を開けた。細長部材を、孔を覆わずに、熱収縮チューブの2cm部分を通して挿入した。次いで、50μmニチノールワイヤの同一の端部を孔に2回通し、ループを形成した。ループを直径1cmの円柱の氷に巻き付け、50μmニチノールワイヤの両端を用いてオーバーハンドノットを作製した。これにより、細長部材に対するノットの位置決めを行い、ループ直径を1cmとした。次いで、氷上円筒を室温で20分間融解させ、結び付けを容易にするために使用された余分なワイヤ端部を、約1cmのワイヤ端部を残して切断した。最後に、収縮チューブを手で前方に押し、ニチノールワイヤ端部およびノットを覆い、70℃で30秒間加熱してチューブを収縮させた。収縮チューブは、2つの機能を有していた。すなわち、ループブラシの移動中にノットが縛られていない状態になるのを防ぐことによりノットを保護する機能、及びループ線の一部を収縮チューブ内で直線的に保持してチューブ外でループ形状を形成する機能を有していた。
【0050】
[インビトロ嚢胞ファントムおよびブラッシング試験]
2×2×2cmのPMMA立方体をミリングし、径1cmの球形キャビティを得ることにより、嚢胞模型を作製した。PMMA立方体は、2つの部分に分かれていた。前方部は球体の半分を含み、後部は他の半分を含んでいた。5mmの孔を後方部に開けて、ファントム出入口を作った。図3bは、嚢胞ファントム内のブラシの画像を示す。
【0051】
ブラッシング試験の準備は、Scottch(登録商標)永久両面テープ(2346832、Office Depot、Sweden)を球面に対して1分間塗布し、テープを除去し、表面上にDialon(登録商標)タルク粉末(7322338361053、Apotea、Sweden)を載置し、それを嚢胞ファントムに結合することによって行った。
【0052】
キャビティが互いに向かい合った状態で、両方の部分を互いに20回衝突させることによって、余分なタルク粉末を除去した。ブラッシングに先立ち、立方体の各部分を位置ホルダーに固定し、キャビティが顕微鏡に面した状態で、Leica M205 C顕微鏡を用いて内部キャビティを撮像した。その後、これら2つの部品を2本の位置合わせピンで組み立て、クランプで固定した。22G皮下注射ニードル(4710007040、Henke-Sass Wolf、Germany)にループブラシを挿入し、ファントム出入口の前で所定の位置に保持した。試験を容易にするために、ループブラシ細長部材をニードルの外側のワイヤホルダによって固定した。ワイヤホルダを、ロボットゾーン101rpm12VDCモータ(638194、ServoCity、Sweden)の軸にはんだ付けした。
【0053】
キャビティのブラッシングは、モータを60rpmで1分間作動させることによって行った。ブラッシング後、球体の両方の部分を分離し、再び画像化した。カメラ設定は、全ての画像取得の間、一定に維持された。
【0054】
ブラッシング前とブラッシング後の差を測定するために、ブラッシング後の画像を、Pythonコード(SI4)を使用して、ブラッシング前の画像にそれぞれ位置合わせした。画像整列に続いて、全ての画像を16ビットグレースケールに変換し、ブラッシング前後の画像差を表す画像を各球体部分について得た。これは、ImageJ(version1.52a、アメリカ国立衛生研究所、米国)の差分関数を用いて行った。
【0055】
[ブタ腸嚢胞モデル]
ブタ小腸を、Skovde Slakteri AB(Skovde、Sweden)によって死後直ちに取り出し、10%FBS(GibcoTM10270106、Fisher Scientific、Sweden)および1%ペニシリンストレプトマイシン(15070063、サーモティフィッシャーサイエンティフィック社、スウェーデン)を含むDMEM(10313021、サーモティフィッシャーサイエンティフィック社、スウェーデン)ベースの培地中で袋詰めして、組織分解を防いだ。小腸は、使用するまで4℃で死後最長24時間保存した。
【0056】
各実験用に、小腸をメスを用いて切断し、幽門から約3cm離れた箇所を始点として6つの8cmの長さのセグメントに分けた。その後、これらのセグメントを軸方向に切り開いて、小腸のルーメン側を完全に露出させた。全ての露出片を水道水で1分間洗浄するとともに、手動でそっとこすって、生存残留物を除去した。各腸片を水道水の入った容器に入れ、試験まで組織を最長20分間保持した。
【0057】
半径2.5cmの半球状モールドを用いて腸管片を保持し、ブラッシング試験を行った。モールドには真空ラインに接続された直径1mmの5つのドリル孔を設け、ルーメン側が外側を向いた状態で腸管片が適所に維持されるようにした(図4b)。
【0058】
モールドに固定した後の組織上に、0.9%生理食塩水(786-561、G-Biosciences、Sweden)またはグリセロール(G9012、Sigma-Aldrich、Sweden)300μLを載置して、ブラッシングなしの試験(陰性対照)を行った。液体を1分間静置した後、腸壁に触れないように注意しながら、ピペットを用いて100μLの液体を注意深く吸引した。この方法を全てのループブラッシングおよび陽性対照実験に先行して行い、試料の切断、洗浄、処理、および/または試料上への媒体配設のいずれかによって、媒体に自然に排出されるセル数を明らかにした。よって、各腸部に対し、同じ腸切片でのループブラッシング試験の前に、陰性対照試験を行った。ループブラッシングは、腸切片の6つのうちの5つに対して行った。陰性対照試験の後、組織切片上に追加の100μLの液体を添加することによってループブラッシングを開始することで、試験を通して液量を維持した。陰性対照試験の後に、残りの組織切片について陽性対照ブラッシングを実施した。陽性対照ブラッシングも、組織切片上に100μLの液体をさらに加えることによって開始した。陽性対照ブラシとして歯間ブラシ(Dentalux、Sweden)を使用した。このブラシを腸ルーメンに対してそっと押し付け、その後、腸片の中心の0.5cmの領域において、ブラシを回転させずに軸方向の前後運動を1分間行った。ブラッシング後、100μLの液体を再度吸引した。
【0059】
[ウシ卵胞嚢胞モデル]
ウシの生殖系を、Skovde slakteriにより死後直ちに取り出し、10%FBSおよび1%ペニシリン-ストレプトマイシンを含むDMEMベースの培地中で袋詰めして、組織分解を防止し、4℃で24時間保存した後、切除を行った。
【0060】
卵胞嚢を含まない1つの卵巣、および1つの卵胞嚢を含む卵巣を、メスを用いてウシ生殖器系から切除し、ペトリ皿に固定した(図5b)。図5a)に示すような実験設計を以下のように進めた。まず、濾胞性嚢胞を穿刺し、22G皮下注射ニードルと注射器を用いて1.5mLの液体を吸引した。第2に、予め組み込まれたループブラシを有する22G皮下注射ニードルを使用して、濾胞性嚢胞を再度穿刺し、その後、ループブラシを導入し、約60rpmで1分間手動で回転し、およびブラシを取り出した。最後に、注射器を用いて1.5mLの嚢胞性液体をニードルを通して吸引した。ホモナイズした後、さらなる細胞分析用に、1.5mLの試料から100μLのアリコートを取り出した。
【0061】
[液体試料処理]
吸引した液体試料を試験管(0030120086、Eppendorf、Sweden)に移し、続いて500μLのStemProTM AccutaseTM(A1110501、サーモティフィッシャーサイエンティフィック社、スウェーデン)と混合し、液体を吸引し、2秒周期で30秒間分注することによってピペットで穏やかに均質化し、37℃で5分間インキュベートした。次いで、試料(ウシを除く)を70μmセルストレーナー(431751、CorningQR、Netherlands)を用いて濾過し、Micro Star 17R遠位分離機(VWR、Sweden)を用いて11000rpmで4分間遠位分離した。上清を除去し、0.05%v/v濃度のHoechst33342(H3570、サーモティフィッシャーサイエンティフィック社、スウェーデン)を含む生理食塩水のフルオロフォア溶液を各試料に添加した。陽性対照を100μLの溶液と混合し、陰性対照およびループブラッシング試料を50μLの溶液と混合して、適切なペレットサイズに適合させた。最後に、試料をアルミニウム箔で20分間包み、再び包みを開いて、細胞計数の準備とした。
【0062】
[セルカウンター分析]
Countess II FL自動細胞計数器(サーモティフィッシャーサイエンティフィック社、スウェーデン)を、EVOSTM光立方体及びDAPI(AMEP4650、サーモティフィッシャーサイエンティフィック社、スウェーデン)と組み合わせて用い、細胞計数を行った。全ての試料をピペットで穏やかに均質化し、10μLの試料をCountessTM細胞計数チャンバースライド(C10228、サーモティフィッシャーサイエンティフィック社、スウェーデン)上に載置した。DAPI光立方体を用い、サイズ4~14μm、明度0~255a.u.、円形度0.67、オートフォーカス使用の設定で、腸試料細胞計数を行った。卵胞嚢胞試料の細胞計数も、DAPI光立方体を使用して行い、サイズは6~29μm、明度は0~255A.U.、円形度は0.78、自動焦点であった。最後に、希釈計算を、腸および濾胞性嚢胞試料の両方について、50μLの最終容量について行った。
【0063】
[統計解析]
腸細胞計数の結果を、有意水準5%の片側Wilcoxonマッチドペア符号付き順位検定に適用して、ループブラシを使用した場合と使用しなかった場合とでの統計的有意差を検定した。これは、GraphPad Prism8ソフトウェア(GraphPad、CA、USA)を用いて達成した。
【0064】
[結論]
EUS-FNAと併用して膵嚢胞の内壁および中空から細胞を獲得するように設計されたループブラシを成功裏に試験した。22Gニードルを介して嚢胞からループブラシを導入、回転、および除去する際に、不利な点は見出されなかった。ループブラシでブラッシングする前後のエクスビボ嚢胞モデルから回収された液体中の細胞内容物を比較した。軟組織軟部様腔内の液体として低粘性水を使用した場合、細胞含量は54倍まで増加し、高粘性グリセロールを使用した場合、174倍まで増加し、ウシ卵巣嚢胞では少なくとも10倍増加した。ループブラシは、強力かつ低侵襲性で、オールラウンドのツールであり、EUS-FNAとの併用が可能であり、セルロース状またはビスコース状の液体を用いた軟質および硬質様嚢胞モデルにおいて、嚢胞からの細胞をブラッシングすることができることが証明された。
【0065】
ループブラシ実験は、インビトロ嚢胞ファントム試験に似た直流モータ接続されたブラシを用いて行った。ブラシの遠位端を腸ルーメンに静かに押し付け、腸片の中心の0.5cm2の領域で60rpmで1分間回転させた。その後、100μLの液体をピペットで吸引した。各実験の合間には、使用済み腸切片を廃棄し、モールドをエタノールで洗浄し、クリーンルーム紙で洗浄した。
【0066】
本開示による、被検体のキャビティから細胞または組織を分離するためのデバイスの好ましい実施形態を説明した。しかしながら、当業者はこれらが、本発明の思想から逸脱することなく、添付の特許請求の範囲内で変更され得ることを理解されたい。
【0067】
上述の代替実施形態または実施形態の一部は、本発明の思想から逸脱することなく、組み合わせが矛盾しない限り、自由に組み合わせることができる。
図1
図2
図3
図4
図5a
図5b
図6
図7
図8
図9a)】
図9b)】
図9c)】
図9d)】
図9e)】
図9f)】
図9g)】
【国際調査報告】