(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-10
(54)【発明の名称】SOSの架橋ヘリックス二量体模倣体およびそれを使用する方法
(51)【国際特許分類】
C07K 14/00 20060101AFI20231227BHJP
C12N 5/09 20100101ALI20231227BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20231227BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20231227BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20231227BHJP
A61K 38/16 20060101ALI20231227BHJP
【FI】
C07K14/00 ZNA
C12N5/09
A61P43/00 111
A61P35/00
A61P35/02
A61K38/16
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023539270
(86)(22)【出願日】2021-12-23
(85)【翻訳文提出日】2023-08-15
(86)【国際出願番号】 US2021065055
(87)【国際公開番号】W WO2022146865
(87)【国際公開日】2022-07-07
(32)【優先日】2020-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】511060836
【氏名又は名称】ニューヨーク・ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】アローラ パラムジット エス.
(72)【発明者】
【氏名】ホン ソン ホ
(72)【発明者】
【氏名】ユ ダニエル
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AC12
4B065BA30
4B065BD50
4B065CA44
4C084AA02
4C084AA07
4C084BA31
4C084CA59
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZB271
4C084ZB272
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA09
4H045EA20
4H045FA34
(57)【要約】
本発明は、本出願に記載されるように、逆平行コイルドコイルを含むマクロ構造体(およびそれらを含む薬学的製剤)に関連し、該逆平行コイルドコイルは、式Iの第1のコイルおよび式IIの第2のコイル:T
1-g
0-a
1-b
1-c
1-d
1-e
1-f
1-g
1-a
2-b
2-c
2-d
2-e
2-f
2-g
2-a
3-b
3-c
3-d
3-e
3-f
3-T
2 (I)、T
3-f'
0-g'
0-a'
1-b'
1-c'
1-d'
1-e'
1-f'
1-g'
1-a'
2-b'
2-c'
2-d'
2-e'
2-f'
2-g'
2-a'
3-b'
3-c'
3-d'
3-e'
3-T
4 (II)を含む。これらのマクロ構造体を使用する方法もまた開示される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
逆平行コイルドコイルを含むマクロ構造体であって、
ここで、該逆平行コイルドコイルが、式Iの第1のコイルおよび式IIの第2のコイル:
T
1-g
0-a
1-b
1-c
1-d
1-e
1-f
1-g
1-a
2-b
2-c
2-d
2-e
2-f
2-g
2-a
3-b
3-c
3-d
3-e
3-f
3-T
2 (I)、
T
3-f'
0-g'
0-a'
1-b'
1-c'
1-d'
1-e'
1-f'
1-g'
1-a'
2-b'
2-c'
2-d'
2-e'
2-f'
2-g'
2-a'
3-b'
3-c'
3-d'
3-e'
3-T
4 (II)
を含み、
ここで:
a
1-3、b
1-3、c
1-3、d
1-3、e
1-3、f
1-3、g
0-2、a'
1-3、b'
1-3、c'
1-3、d'
1-3、e'
1-3、f'
0-2、およびg'
0-2がそれぞれ、独立して、存在しないか、または修飾アミノ酸残基もしくは未修飾アミノ酸残基およびそれらのアナログからなる群より選択される残基であり;
以下の残基ペア:g
0-g'
2、g
1-g'
1、g
2-g'
0、a
1-d'
3、a
2-d'
2、a
3-d'
1、d
1-a'
3、d
2-a'
2、d
3-a'
1、e
1-e'
3、e
2-e'
2、およびe
3-e'
1のうちの1つまたは複数が、リンカーによって共有結合しており;
T
1およびT
3がそれぞれ、独立して、末端窒素から1つまたは複数の(好ましくは1つまたは2つの)モエティへの結合点であり、モエティがそれぞれ、独立して、H、-PG
1、-C(O)R、-C(O)NR
2、-C(O)NH
2、-R、-C(O)OR、アミノ酸もしくはそのアナログ、ペプチド、ターゲティングモエティ、またはタグであり、PG
1がアミンの保護基であり、かつRがそれぞれ、独立して、水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロシクリル、アリールアルキル、ペプチド、ターゲティングモエティ、またはタグであり;かつ
T
2およびT
4がそれぞれ、独立して、末端カルボニルから、H、-OPG
2、-NPG
2、-OR、-OH、-NR
2、-NH
2、-N(R)C(O)C
1-6アルキル、-N(H)C(O)C
1-6アルキル、アミノ酸もしくはそのアナログ、ペプチド、ターゲティングモエティ、またはタグへの結合点であり、PG
2がカルボン酸の保護基であり、かつRがそれぞれ、独立して、水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロシクリル、アリールアルキル、ペプチド、ターゲティングモエティ、またはタグであり;
かつここで:
第1のコイルが、少なくとも10個の連続した残基を含み、該少なくとも10個の連続した残基が、式X
1-X
2-X
3-X
4-X
5-X
6-X
7-X
8-X
9-X
10-X
11-X
12-X
13-X
14-X
15-X
16を有し;
第2のコイルが、少なくとも10個の連続した残基を含み、該少なくとも10個の連続した残基が、式X'
1-X'
2-X'
3-X'
4-X'
5-X'
6-X'
7-X'
8-X'
9-X'
10-X'
11-X'
12-X'
13-X'
14-X'
15-X'
16を有し;かつ
残基がそれぞれ、以下に示す群(上付き文字は、式Iおよび式II中でのそれぞれの残基の位置を示し;a、a'、d、d'、e、e'、g、およびg'位における残基は、任意で、リンカーの結合を容易にするために修飾されるかまたはリンカーと置き換えられることが可能であり;下線の残基は特に好ましいものである):
より選択される、
マクロ構造体。
【請求項2】
残基ペアg
0-g'
2、g
1-g'
1、g
2-g'
0、e
1-e'
3、e
2-e'
2、およびe
3-e'
1の間の任意のリンカーの長さが、該ペアにおける各残基のCα位の間の空間的距離が10~25 Åとなるようなものであり;かつ
残基ペアa
1-d'
3、a
2-d'
2、a
3-d'
1、d
1-a'
3、d
2-a'
2、およびd
3-a'
1の間の任意のリンカーの長さが、該ペアにおける各残基のCα位の間の空間的距離が5~15 Åとなるようなものである、
請求項1に記載のマクロ構造体。
【請求項3】
少なくともg
0、a
1、b
1、c
1、d
1、e
1、f
1、g
1、a
2、b
2、c
2、d
2、e
2、f
2、g
2、およびa
3が第1のコイルに存在し、かつ少なくともd'
1、e'
1、f'
1、g'
1、a'
2、b'
2、c'
2、d'
2、e'
2、f'
2、g'
2、a'
3、b'
3、c'
3、d'
3、およびe'
3が第2のコイルに存在する、請求項1または請求項2に記載のマクロ構造体。
【請求項4】
残基がそれぞれ、独立して、以下の式:
を有し、
ここで:
R
1a、R
1b、R
1c、およびR
1dがそれぞれ、独立して、水素、アミノ酸側鎖、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、ヘテロシクリル、アリール、ヘテロアリール、またはアリールアルキルであり、アミノ酸側鎖、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、ヘテロシクリル、アリール、ヘテロアリール、およびアリールアルキルがそれぞれ、H、アルキル、アルケニル、アルキニル、アジド、-OR
5、または-SR
5と、任意で置換されることが可能であり;かつ、リンカーが残基に共有結合している場合、該リンカーが、R
1a、R
1b、R
1c、およびR
1dのうちの1つに結合しているか、またはそれらのうちの1つと置き換えられており;
R
4がそれぞれ、独立して、水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、ヘテロシクリル、アリール、ヘテロアリール、またはアリールアルキルであり;かつ
R
5がそれぞれ、独立して、H、-PG(ここでPGは保護基である)、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロシクリル、およびアリールアルキルからなる群より選択される、
請求項1~3のいずれか一項に記載のマクロ構造体。
【請求項5】
残基ペアg
0-g'
2、g
1-g'
1、g
2-g'
0、e
1-e'
3、e
2-e'
2、およびe
3-e'
1のうちの少なくとも1つの間のリンカーが存在する、請求項1~4のいずれか一項に記載のマクロ構造体。
【請求項6】
残基ペアg
0-g'
2、g
1-g'
1、g
2-g'
0、e
1-e'
3、e
2-e'
2、およびe
3-e'
1のうちの少なくとも1つの間のリンカーが、式-Z
n-を有し、ここで、nが1から25までの数であり、かつZがそれぞれ、独立して、そのそれぞれの出現時に、アルキレン、アルケニレン、アリーレン、ヘテロアリーレン、トリアゾール-ジイル、チアゾール-ジイル、オキサゾール-ジイル、エーテル、アミド、エステル、マレイミド、チオエーテル、O、S、およびSeからなる群より選択される、請求項1~5のいずれか一項に記載のマクロ構造体。
【請求項7】
残基ペアg
0-g'
2、g
1-g'
1、g
2-g'
0、e
1-e'
3、e
2-e'
2、およびe
3-e'
1のうちの少なくとも1つの間のリンカーが、
(a)
からなる群、
(b)
からなる群
より選択される式を有し;
ここで:
群(a)および群(b)におけるXが、O、S、CR
2、NR、またはP(好ましくは、O、S、CH
2、またはNR)であり;
群(a)におけるX
1がそれぞれ、独立して、O、S、NH、またはNRであり;
群(b)におけるX
1がそれぞれ、独立して、O、S、C、CR、N、NH、またはNRであり;
群(a)および群(b)におけるRがそれぞれ、独立して、H、アルキル、またはアリールであり;かつ
群(a)および群(b)におけるYがそれぞれSである、
請求項1~6のいずれか一項に記載のマクロ構造体。
【請求項8】
残基ペアg
0-g'
2、g
1-g'
1、g
2-g'
0、e
1-e'
3、e
2-e'
2、およびe
3-e'
1のうちの少なくとも1つの間のリンカーが、
からなる群より選択される、
請求項1~7のいずれか一項に記載のマクロ構造体。
【請求項9】
残基ペアa
1-d'
3、a
2-d'
2、a
3-d'
1、d
1-a'
3、d
2-a'
2、およびd
3-a'
1のうちの少なくとも1つの間のリンカーが存在する、請求項1~8のいずれか一項に記載のマクロ構造体。
【請求項10】
残基ペアa
1-d'
3、a
2-d'
2、a
3-d'
1、d
1-a'
3、d
2-a'
2、およびd
3-a'
1のうちの少なくとも1つの間のリンカーが、ジスルフィド、ジセレニド、C
1-8アルキレン、C
2-8アルケニレン、アリーレン、ヘテロアリーレン、トリアゾール-ジイル、およびチアゾール-ジイルからなる群より選択される、請求項1~9のいずれか一項に記載のマクロ構造体。
【請求項11】
残基ペアa
1-d'
3、a
2-d'
2、a
3-d'
1、d
1-a'
3、d
2-a'
2、およびd
3-a'
1のうちの少なくとも1つの間のリンカーが、システイン残基もしくはホモシステイン残基由来のジスルフィド結合であるか、セレノシステイン残基由来のジセレニドであるか、アリルグリシン残基由来のアルキレンであるか、またはアリーレンリンカーである、請求項1~10のいずれか一項に記載のマクロ構造体。
【請求項12】
逆平行コイルドコイルが、以下の式III:
のものであり、
ここで:
点線がそれぞれ、独立して、任意のリンカーを表し、かつ
残基がそれぞれ、独立して、以下の式:
を有し、
ここで:
R
1a、R
1b、R
1c、およびR
1dがそれぞれ、独立して、水素、アミノ酸側鎖、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、ヘテロシクリル、アリール、ヘテロアリール、またはアリールアルキルであり、アミノ酸側鎖、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、ヘテロシクリル、アリール、ヘテロアリール、およびアリールアルキルがそれぞれ、H、アルキル、アルケニル、アルキニル、アジド、-OR
5、または-SR
5と、任意で置換されることが可能であり;かつ、リンカーが残基に共有結合している場合、該リンカーが、R
1a、R
1b、R
1c、およびR
1dのうちの1つに結合しているか、またはそれらのうちの1つと置き換えられており;
R
4がそれぞれ、独立して、水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、ヘテロシクリル、アリール、ヘテロアリール、またはアリールアルキルであり;かつ
R
5がそれぞれ、独立して、H、-PG(ここでPGは保護基である)、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロシクリル、およびアリールアルキルからなる群より選択される、
請求項1~11のいずれか一項に記載のマクロ構造体。
【請求項13】
以下の条件:
(A) 少なくとも1つのa、a'、d、またはd'残基において、(i) R
1aおよびR
1cのうちの一方が、システイン、ホモシステイン、セレノシステイン、ロイシン、イソロイシン、ヘキサフルオロロイシン、バリン、ヘキサフルオロバリン、アリルグリシン、スレオニン、および前述の各残基のアナログからなる群より選択される修飾アミノ酸または未修飾アミノ酸の側鎖であり、かつ(ii) R
1b、R
1d、ならびに、R
1aおよびR
1cのうちの他方が、それぞれ、独立して、水素、C
1-3アルキル、またはC
2-3アルケニルであること;
(B) 少なくとも1つのe、e'、g、またはg'残基において、(i) R
1aおよびR
1cのうちの一方がアミノ酸側鎖であり、かつ(ii) R
1b、R
1d、ならびに、R
1aおよびR
1cのうちの他方が、それぞれ、独立して、水素またはC
1-3アルキルであること
のうちの少なくとも1つが満たされている、
請求項12に記載のマクロ構造体。
【請求項14】
逆平行コイルドコイルが、以下の式:
を有し、
ここで点線がそれぞれ、独立して、任意のリンカーである、
請求項1~13のいずれか一項に記載のマクロ構造体。
【請求項15】
CHD-1、CHD-2、CHD-3、CHD-4、またはCHD-5である、請求項1~14のいずれか一項に記載のマクロ構造体。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか一項に記載のマクロ構造体と、薬学的に許容されるビヒクルとを含む、薬学的組成物。
【請求項17】
細胞においてRasシグナル伝達を阻害する方法であって、
細胞においてRasシグナル伝達を阻害するのに有効な条件下で、細胞を、請求項1~15のいずれか一項に記載のマクロ構造体と接触させる段階
を含む、方法。
【請求項18】
細胞が哺乳動物細胞である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
細胞が変異Rasタンパク質を発現している、請求項17または請求項18に記載の方法。
【請求項20】
接触させる段階が、対象において実施される、請求項17~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
Rasシグナル伝達によって媒介される異常を対象において処置する方法であって、
対象において該異常を処置するのに有効な条件下で、請求項1~15のいずれか一項に記載のマクロ構造体または請求項16に記載の薬学的製剤を対象に投与する段階
を含む、方法。
【請求項22】
それを必要とする対象において、細胞増殖性異常、分化異常、および/または新生物性病態を処置する方法であって、
対象において細胞増殖性異常、分化異常、および/または新生物性病態を処置するのに有効な条件下で、請求項1~15のいずれか一項に記載のマクロ構造体または請求項16に記載の薬学的製剤を対象に投与する段階
を含む、方法。
【請求項23】
細胞増殖性異常、分化異常、および/または新生物性病態が、線維肉腫、筋肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨原性肉腫、脊索腫、血管肉腫、内皮肉腫、リンパ管肉腫、リンパ管内皮肉腫、滑膜腫、中皮腫、ユーイング腫瘍、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、胃がん、食道がん、直腸がん、膵臓がん、卵巣がん、前立腺がん、子宮がん、頭頸部のがん、皮膚がん、脳のがん、扁平上皮癌、脂腺癌、乳頭状癌、乳頭状腺癌、嚢胞腺癌、髄様癌、気管支原性癌、腎細胞癌、ヘパトーマ、胆管癌、絨毛癌、精上皮腫、胎児性癌、ウィルムス腫瘍、子宮頸がん、精巣がん、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、膀胱癌、上皮癌、神経膠腫、星細胞腫、髄芽腫、頭蓋咽頭腫、上衣腫、松果体腫、血管芽腫、聴神経腫、乏突起神経膠腫、髄膜腫、黒色腫、神経芽腫、網膜芽細胞腫、白血病、リンパ腫、およびカポジ肉腫;造血器の新生物性異常;乳房の細胞増殖性異常および/または分化異常;肺の細胞増殖性異常および/または分化異常;結腸の細胞増殖性異常および/または分化異常;肝臓の細胞増殖性異常および/または分化異常;卵巣の細胞増殖性異常および/または分化異常;変異Rasタンパク質によって媒介されるがん;ならびに免疫増殖性異常からなる群より選択される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
異常および/または病態が、膵管腺癌、直腸腺癌、形質細胞骨髄腫、結腸腺癌、胆管癌、慢性骨髄単球性白血病、急性骨髄性白血病、黒色腫、肺腺癌、横紋筋肉腫、子宮内膜癌、唾液腺癌、甲状腺癌、膀胱癌、口腔癌、または卵巣癌である、請求項21~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
対象が哺乳動物である、請求項20~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
対象が霊長類(たとえばヒト)である、請求項20~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
異常または病態が、変異Rasタンパク質によって媒介される、請求項21~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
変異Rasタンパク質がH-Rasアイソフォームである、請求項19または請求項27に記載の方法。
【請求項29】
変異Rasタンパク質がK-Rasアイソフォームである、請求項19または請求項27に記載の方法。
【請求項30】
変異Rasタンパク質が、G12C、G12D、G12S、G12V、G13D、G12A、G12C、G12D、G12R、G12S、G12V、G13A、G13C、G13R、G13S、G13D、Q61E、Q61H、Q61L、Q61K、Q61P、およびQ61Rからなる群より選択される1つまたは複数の変異を有する、請求項19および27~29のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2020年12月28日に提出された米国特許仮出願第63/131,103号の恩典を主張するものであり、該仮出願の内容は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
本発明は、国立衛生研究所(National Institutes of Health)により授与された助成番号R35GM130333のもとで、政府の支援を受けてなされた。政府は、本発明において一定の権利を有する。
【0003】
本出願は配列表を含んでおり、該配列表はASCIIフォーマットで電子的に提出されていて、かつその全体が参照により本明細書に組み入れられる。該ASCIIコピーは2021年12月17日に作成されたものであり、「147462.002271_ST25.txt」との名称を有し、かつ18,005バイトのサイズである。
【0004】
本発明の分野
本発明は、Sos αH/αIコイルドコイルを模倣する安定化されたコイルドコイル、およびそのような模倣体を使用する方法を指向する。
【背景技術】
【0005】
本発明の背景
異常なRasシグナル伝達は、広い範囲にわたる過剰増殖性の疾患に関連しており、かつ、Rasを含めたシグナル伝達経路の構成要素は、創薬のための、現在進められている活発な取り組みの対象となっている。Rasの細胞内活性は、Rasと、グアニンヌクレオチド交換因子であるセブンレスの息子(Son of Sevenless)(Sos)との会合によって調節されているので、Ras-Sos複合体の高分解能結晶構造は、オルソステリックなRasリガンドの合理的設計のための基礎を提供するものである。
【0006】
発がん性のRasアイソフォームは、生物医学的に重要であるにも関わらず「創薬不可能(undruggable)」である該タンパク質をターゲティングすることの困難性に起因して、活発な研究の対象となっている。Ras変異体の共有結合性ターゲティングにおける最近の成功は、リガンド設計について見込みのある道筋を示している;しかしながら、多くの変異体型Rasは、求核性の残基を特色としていないことから、Rasと非共有結合性に会合するための戦略が必要であることが示唆される。
【0007】
SosはRas特異的なグアニンヌクレオチド交換因子であり、これは、不活性なGDP結合型から活性なGTP結合型へのRasの変換を媒介する(P. A. Konstantinopoulos, M. V. Karamouzis, A. G. Papavassiliou, "Post-translational modifications and regulation of the RAS superfamily of GTPases as anticancer targets", Nat. Rev. Drug Discov. 6, 541-555 (2007)(非特許文献1))。Sosは、Rasのヌクレオチド結合ポケットに隣接する、動的な立体構造をとるスイッチI領域とスイッチII領域との間への、重要なヘリカルセグメント(αH)の挿入を介して、ヌクレオチドの交換を触媒するものであり、これは、該タンパク質と該補因子との間の、水が媒介する相互作用および直接の相互作用の、崩壊をもたらす(
図1Aを参照されたい)(P. A. Boriack-Sjodin, S. M. Margarit, D. Bar-Sagi, J. Kuriyan, "The structural basis of the activation of Ras by Sos", Nature 394, 337-343 (1998)(非特許文献2))。動的な立体構造をとるRasのSos結合界面の生物医学的重要性を踏まえ、この界面に対するリガンドを単離するために、いくつかの合理的設計およびスクリーニング戦略が試みられている(A. R. Moore, S. C. Rosenberg, F. McCormick, S. Malek, "RAS-targeted therapies: is the undruggable drugged?", Nature Reviews Drug Discovery 19, 533-552 (2020)(非特許文献3); H. Chen, J. B. Smaill, T. Liu, K. Ding, X. Lu, "Small-Molecule Inhibitors Directly Targeting KRAS as Anticancer Therapeutics", Journal of Medicinal Chemistry 63, 14404-14424 (2020)(非特許文献4))。RasのG12Cアイソフォームと会合させようとする最近の取り組み(J. Canon et al., "The clinical KRAS(G12C) inhibitor AMG 510 drives anti-tumour immunity", Nature 575, 217-223 (2019)(非特許文献5); J. M. Ostrem, U. Peters, M. L. Sos, J. A. Wells, K. M. Shokat, "K-Ras(G12C) inhibitors allosterically control GTP affinity and effector interactions", Nature 503, 548-551 (2013)(非特許文献6))、およびRasのG12Dアイソフォームと会合させようとする最近の取り組み(Z. Zhang et al., "GTP-State-Selective Cyclic Peptide Ligands of K-Ras(G12D) Block Its Interaction with Raf", ACS Central Science 6, 1753-1761 (2020)(非特許文献7); K. Sakamoto, T. Masutani, T. Hirokawa, "Generation of KS-58 as the first K-Ras(G12D)-inhibitory peptide presenting anti-cancer activity in vivo", Scientific Reports 10, 21671 (2020)(非特許文献8))は、標的型のスクリーニングによって、潜在能力を有するリードとして小分子およびペプチドマクロサイクルがもたらされ得ることを示唆するものである。
【0008】
Ras-Sos複合体の構造は、Rasのスイッチ領域と会合するSosヘリックス模倣体の合理的設計のための基礎を提供するものである。実際に、立体構造が安定化されているαヘリックス模倣体であって、Ras-Sosのタンパク質-タンパク質相互作用(PPI)を標的とするαヘリックス模倣体が、以前に開発されている(D. Y. Yoo, A. D. Hauser, S. T. Joy, D. Bar-Sagi, P. S. Arora, "Covalent Targeting of Ras G12C by Rationally Designed Peptidomimetics", ACS Chem. Biol. 15, 1604-1612 (2020)(非特許文献9); A. Patgiri, K. K. Yadav, P. S. Arora, D. Bar-Sagi, "An orthosteric inhibitor of the Ras-Sos interaction", Nat. Chem. Biol. 7, 585-587 (2011)(非特許文献10))。該安定化されたαヘリックスは、オルソステリック結合部位においてRasと結合することが示され、かつ、Sosが媒介するヌクレオチド交換を阻害し、Rasの活性化を阻害し、かつ、下流のエフェクタータンパク質であるERKのリン酸化を阻害することが示された(B. N. Kholodenko, J. F. Hancock, W. Kolch, "Signalling ballet in space and time", Nature Reviews Molecular Cell Biology 11, 414-426 (2010)(非特許文献11))、ここでERKとは、細胞の増殖および分化に関与する、よく特徴付けされているキナーゼである。しかしながらこの化合物は、ヌクレオチドフリー型のRasに優先的に結合することから、ヌクレオチド結合型のRasにおいて、動的なRas界面と適切に会合するには、1本のSosヘリックスでは不十分である可能性があることが示唆される。野生型Rasは、2種類のヌクレオチド結合型の間を往復する(
図1A)が、Rasの発がん性型は、そのGTP結合状態で活性化されたままとなる。したがって、ヌクレオチドフリー型のRasに優先的に会合する化合物は、生物学的な有用性に乏しい可能性がある。
【0009】
Sosヘリックス模倣体を用いた以前の結果は、タンパク質二次構造の最小の模倣体の開発における、重要な課題を包含するものである。タンパク質二次構造の模倣体は、強力なクラスのタンパク質-タンパク質相互作用(PPI)阻害剤であることが証明されている(Y. S. Chang et al., "Stapled alpha-helical peptide drug development: a potent dual inhibitor of MDM2 and MDMX for p53-dependent cancer therapy", Proc. Natl. Acad. Sci. USA 110, E3445-3454 (2013)(非特許文献12); S. Kushal et al., "Protein domain mimetics as in vivo modulators of hypoxia-inducible factor signaling", Proc. Natl. Acad. Sci. USA 110, 15602-15607 (2013)(非特許文献13); S. Liu, R. W. Cheloha, T. Watanabe, T. J. Gardella, S. H. Gellman, "Receptor selectivity from minimal backbone modification of a polypeptide agonist", Proc. Natl. Acad. Sci. USA 115, 12383-12388 (2018)(非特許文献14); M. Pelay-Gimeno, A. Glas, O. Koch, T. N. Grossmann, "Structure-Based Design of Inhibitors of Protein-Protein Interactions: Mimicking Peptide Binding Epitopes", Angew. Chem. Int. Ed. 54, 8896-8927 (2015)(非特許文献15))が、多くのタンパク質界面は、単純な二次構造模倣体が獲得可能であるものを上回る、結合エピトープの複雑性を特色としている(W. S. Horne, T. N. Grossmann, "Proteomimetics as protein-inspired scaffolds with defined tertiary folding patterns", Nat. Chem. 12, 331-337 (2020)(非特許文献16); H. Adihou et al., "A protein tertiary structure mimetic modulator of the Hippo signalling pathway", Nat. Commun. 11, 5425 (2020)(非特許文献17); J. Sadek et al., "Modulation of virus-induced NF-kappaB signaling by NEMO coiled coil mimics", Nat Commun 11, 1786 (2020)(非特許文献18); A. M. Watkins, M. G. Wuo, P. S. Arora, "Protein-Protein Interactions Mediated by Helical Tertiary Structure Motifs", J. Am. Chem. Soc. 137, 11622-11630 (2015)(非特許文献19))。
【0010】
したがって、潜在能力を有する治療薬標的として、Sosタンパク質二次構造の最小の模倣体を開発するための、まだ満たされていないニーズが存在している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】P. A. Konstantinopoulos, M. V. Karamouzis, A. G. Papavassiliou, "Post-translational modifications and regulation of the RAS superfamily of GTPases as anticancer targets", Nat. Rev. Drug Discov. 6, 541-555 (2007)
【非特許文献2】P. A. Boriack-Sjodin, S. M. Margarit, D. Bar-Sagi, J. Kuriyan, "The structural basis of the activation of Ras by Sos", Nature 394, 337-343 (1998)
【非特許文献3】A. R. Moore, S. C. Rosenberg, F. McCormick, S. Malek, "RAS-targeted therapies: is the undruggable drugged?", Nature Reviews Drug Discovery 19, 533-552 (2020)
【非特許文献4】H. Chen, J. B. Smaill, T. Liu, K. Ding, X. Lu, "Small-Molecule Inhibitors Directly Targeting KRAS as Anticancer Therapeutics", Journal of Medicinal Chemistry 63, 14404-14424 (2020)
【非特許文献5】J. Canon et al., "The clinical KRAS(G12C) inhibitor AMG 510 drives anti-tumour immunity", Nature 575, 217-223 (2019)
【非特許文献6】J. M. Ostrem, U. Peters, M. L. Sos, J. A. Wells, K. M. Shokat, "K-Ras(G12C) inhibitors allosterically control GTP affinity and effector interactions", Nature 503, 548-551 (2013)
【非特許文献7】Z. Zhang et al., "GTP-State-Selective Cyclic Peptide Ligands of K-Ras(G12D) Block Its Interaction with Raf", ACS Central Science 6, 1753-1761 (2020)
【非特許文献8】K. Sakamoto, T. Masutani, T. Hirokawa, "Generation of KS-58 as the first K-Ras(G12D)-inhibitory peptide presenting anti-cancer activity in vivo", Scientific Reports 10, 21671 (2020)
【非特許文献9】D. Y. Yoo, A. D. Hauser, S. T. Joy, D. Bar-Sagi, P. S. Arora, "Covalent Targeting of Ras G12C by Rationally Designed Peptidomimetics", ACS Chem. Biol. 15, 1604-1612 (2020)
【非特許文献10】A. Patgiri, K. K. Yadav, P. S. Arora, D. Bar-Sagi, "An orthosteric inhibitor of the Ras-Sos interaction", Nat. Chem. Biol. 7, 585-587 (2011)
【非特許文献11】B. N. Kholodenko, J. F. Hancock, W. Kolch, "Signalling ballet in space and time", Nature Reviews Molecular Cell Biology 11, 414-426 (2010)
【非特許文献12】Y. S. Chang et al., "Stapled alpha-helical peptide drug development: a potent dual inhibitor of MDM2 and MDMX for p53-dependent cancer therapy", Proc. Natl. Acad. Sci. USA 110, E3445-3454 (2013)
【非特許文献13】S. Kushal et al., "Protein domain mimetics as in vivo modulators of hypoxia-inducible factor signaling", Proc. Natl. Acad. Sci. USA 110, 15602-15607 (2013)
【非特許文献14】S. Liu, R. W. Cheloha, T. Watanabe, T. J. Gardella, S. H. Gellman, "Receptor selectivity from minimal backbone modification of a polypeptide agonist", Proc. Natl. Acad. Sci. USA 115, 12383-12388 (2018)
【非特許文献15】M. Pelay-Gimeno, A. Glas, O. Koch, T. N. Grossmann, "Structure-Based Design of Inhibitors of Protein-Protein Interactions: Mimicking Peptide Binding Epitopes", Angew. Chem. Int. Ed. 54, 8896-8927 (2015)
【非特許文献16】W. S. Horne, T. N. Grossmann, "Proteomimetics as protein-inspired scaffolds with defined tertiary folding patterns", Nat. Chem. 12, 331-337 (2020)
【非特許文献17】H. Adihou et al., "A protein tertiary structure mimetic modulator of the Hippo signalling pathway", Nat. Commun. 11, 5425 (2020)
【非特許文献18】J. Sadek et al., "Modulation of virus-induced NF-kappaB signaling by NEMO coiled coil mimics", Nat Commun 11, 1786 (2020)
【非特許文献19】A. M. Watkins, M. G. Wuo, P. S. Arora, "Protein-Protein Interactions Mediated by Helical Tertiary Structure Motifs", J. Am. Chem. Soc. 137, 11622-11630 (2015)
【発明の概要】
【0012】
本発明についてのさまざまな非限定的な局面および態様が、以下に説明される。
【0013】
1つの局面において、本発明は、逆平行コイルドコイルを含むマクロ構造体を提供し、
ここで、該逆平行コイルドコイルは、式Iの第1のコイルおよび式IIの第2のコイル:
T
1-g
0-a
1-b
1-c
1-d
1-e
1-f
1-g
1-a
2-b
2-c
2-d
2-e
2-f
2-g
2-a
3-b
3-c
3-d
3-e
3-f
3-T
2 (I)、
T
3-f'
0-g'
0-a'
1-b'
1-c'
1-d'
1-e'
1-f'
1-g'
1-a'
2-b'
2-c'
2-d'
2-e'
2-f'
2-g'
2-a'
3-b'
3-c'
3-d'
3-e'
3-T
4 (II)
を含み、
ここで:
a
1-3、b
1-3、c
1-3、d
1-3、e
1-3、f
1-3、g
0-2、a'
1-3、b'
1-3、c'
1-3、d'
1-3、e'
1-3、f'
0-2、およびg'
0-2はそれぞれ、独立して、存在しないか、または修飾アミノ酸残基もしくは未修飾アミノ酸残基およびそれらのアナログからなる群より選択される残基であり;
以下の残基ペア:g
0-g'
2、g
1-g'
1、g
2-g'
0、a
1-d'
3、a
2-d'
2、a
3-d'
1、d
1-a'
3、d
2-a'
2、d
3-a'
1、e
1-e'
3、e
2-e'
2、およびe
3-e'
1のうちの1つまたは複数は、リンカーによって共有結合しており;
T
1およびT
3はそれぞれ、独立して、末端窒素から1つまたは複数の(好ましくは1つまたは2つの)モエティへの結合点であり、モエティはそれぞれ、独立して、H、-PG
1、-C(O)R、-C(O)NR
2、-C(O)NH
2、-R、-C(O)OR、アミノ酸もしくはそのアナログ、ペプチド、ターゲティングモエティ、またはタグであり、PG
1はアミンの保護基であり、かつRはそれぞれ、独立して、水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロシクリル、アリールアルキル、ペプチド、ターゲティングモエティ、またはタグであり;かつ
T
2およびT
4はそれぞれ、独立して、末端カルボニルから、H、-OPG
2、-NPG
2、-OR、-OH、-NR
2、-NH
2、-N(R)C(O)C
1-6アルキル、-N(H)C(O)C
1-6アルキル、アミノ酸もしくはそのアナログ、ペプチド、ターゲティングモエティ、またはタグへの結合点であり、PG
2はカルボン酸の保護基であり、かつRはそれぞれ、独立して、水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロシクリル、アリールアルキル、ペプチド、ターゲティングモエティ、またはタグであり;
かつここで:
第1のコイルは、少なくとも10個の連続した残基を含み、該少なくとも10個の連続した残基は、式X
1-X
2-X
3-X
4-X
5-X
6-X
7-X
8-X
9-X
10-X
11-X
12-X
13-X
14-X
15-X
16を有し;
第2のコイルは、少なくとも10個の連続した残基を含み、該少なくとも10個の連続した残基は、式X'
1-X'
2-X'
3-X'
4-X'
5-X'
6-X'
7-X'
8-X'
9-X'
10-X'
11-X'
12-X'
13-X'
14-X'
15-X'
16を有し;かつ
残基はそれぞれ、以下に示す群より選択される(上付き文字は、式Iおよび式II中でのそれぞれの残基の位置を示し;a、a'、d、d'、e、e'、g、およびg'位における残基は、任意で、リンカーの結合を容易にするために修飾されるかまたはリンカーと置き換えられることが可能であり;下線の残基は特に好ましいものである)。
【0014】
1つの態様において、残基ペアg0-g'2、g1-g'1、g2-g'0、e1-e'3、e2-e'2、およびe3-e'1の間の任意のリンカーの長さは、該ペアにおける各残基のCα位の間の空間的距離が10~25 Åとなるようなものであり;かつ、残基ペアa1-d'3、a2-d'2、a3-d'1、d1-a'3、d2-a'2、およびd3-a'1の間の任意のリンカーの長さは、該ペアにおける各残基のCα位の間の空間的距離が5~15 Åとなるようなものである。
【0015】
1つの態様において、少なくともg0、a1、b1、c1、d1、e1、f1、g1、a2、b2、c2、d2、e2、f2、g2、およびa3が第1のコイルに存在し、かつ少なくともd'1、e'1、f'1、g'1、a'2、b'2、c'2、d'2、e'2、f'2、g'2、a'3、b'3、c'3、d'3、およびe'3が第2のコイルに存在する。
【0016】
1つの態様において、残基はそれぞれ、独立して、以下の式:
を有し、
ここで:
R
1a、R
1b、R
1c、およびR
1dはそれぞれ、独立して、水素、アミノ酸側鎖、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、ヘテロシクリル、アリール、ヘテロアリール、またはアリールアルキルであり、アミノ酸側鎖、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、ヘテロシクリル、アリール、ヘテロアリール、およびアリールアルキルはそれぞれ、H、アルキル、アルケニル、アルキニル、アジド、-OR
5、または-SR
5と、任意で置換されることが可能であり;かつ、リンカーが残基に共有結合している場合、該リンカーは、R
1a、R
1b、R
1c、およびR
1dのうちの1つに結合しているか、またはそれらのうちの1つと置き換えられており;
R
4はそれぞれ、独立して、水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、ヘテロシクリル、アリール、ヘテロアリール、またはアリールアルキルであり;かつ
R
5はそれぞれ、独立して、H、-PG(ここでPGは保護基である)、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロシクリル、およびアリールアルキルからなる群より選択される。
【0017】
1つの態様において、残基ペアg0-g'2、g1-g'1、g2-g'0、e1-e'3、e2-e'2、およびe3-e'1のうちの少なくとも1つの間のリンカーが存在する。
【0018】
1つの態様において、残基ペアg0-g'2、g1-g'1、g2-g'0、e1-e'3、e2-e'2、およびe3-e'1のうちの少なくとも1つの間のリンカーは、式-Zn-を有し、ここで、nは1から25までの数であり、かつZはそれぞれ、独立して、そのそれぞれの出現時に、アルキレン、アルケニレン、アリーレン、ヘテロアリーレン、トリアゾール-ジイル、チアゾール-ジイル、オキサゾール-ジイル、エーテル、アミド、エステル、マレイミド、チオエーテル、O、S、およびSeからなる群より選択される。
【0019】
1つの態様において、残基ペアg
0-g'
2、g
1-g'
1、g
2-g'
0、e
1-e'
3、e
2-e'
2、およびe
3-e'
1のうちの少なくとも1つの間のリンカーは、
(a)
からなる群、
(b)
からなる群
より選択される式を有し;
ここで:
群(a)および群(b)におけるXは、O、S、CR
2、NR、またはP(好ましくは、O、S、CH
2またはNR)であり;
群(a)におけるX
1はそれぞれ、独立して、O、S、NH、またはNRであり;
群(b)におけるX
1はそれぞれ、独立して、O、S、C、CR、N、NH、またはNRであり;
群(a)および群(b)におけるRはそれぞれ、独立して、H、アルキル、またはアリールであり;かつ
群(a)および群(b)におけるYはそれぞれSである。
【0020】
1つの態様において、残基ペアg
0-g'
2、g
1-g'
1、g
2-g'
0、e
1-e'
3、e
2-e'
2、およびe
3-e'
1のうちの少なくとも1つの間のリンカーは、
からなる群より選択される。
【0021】
1つの態様において、残基ペアa1-d'3、a2-d'2、a3-d'1、d1-a'3、d2-a'2、およびd3-a'1のうちの少なくとも1つの間のリンカーが存在する。
【0022】
1つの態様において、残基ペアa1-d'3、a2-d'2、a3-d'1、d1-a'3、d2-a'2、およびd3-a'1のうちの少なくとも1つの間のリンカーは、ジスルフィド、ジセレニド、C1-8アルキレン、C2-8アルケニレン、アリーレン、ヘテロアリーレン、トリアゾール-ジイル、およびチアゾール-ジイルからなる群より選択される。
【0023】
1つの態様において、残基ペアa1-d'3、a2-d'2、a3-d'1、d1-a'3、d2-a'2、およびd3-a'1のうちの少なくとも1つの間のリンカーは、システイン残基もしくはホモシステイン残基由来のジスルフィド結合であるか、セレノシステイン残基由来のジセレニドであるか、アリルグリシン残基由来のアルキレンであるか、またはアリーレンリンカーである。
【0024】
1つの態様において、逆平行コイルドコイルは、以下の式III:
のものであり、
ここで:
点線はそれぞれ、独立して、任意のリンカーを表し、かつ
残基はそれぞれ、独立して、以下の式:
を有し、
ここで:
R
1a、R
1b、R
1c、およびR
1dはそれぞれ、独立して、水素、アミノ酸側鎖、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、ヘテロシクリル、アリール、ヘテロアリール、またはアリールアルキルであり、アミノ酸側鎖、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、ヘテロシクリル、アリール、ヘテロアリール、およびアリールアルキルはそれぞれ、H、アルキル、アルケニル、アルキニル、アジド、-OR
5、または-SR
5と、任意で置換されることが可能であり;かつ、リンカーが残基に共有結合している場合、該リンカーは、R
1a、R
1b、R
1c、およびR
1dのうちの1つに結合しているか、またはそれらのうちの1つと置き換えられており;
R
4はそれぞれ、独立して、水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、ヘテロシクリル、アリール、ヘテロアリール、またはアリールアルキルであり;かつ
R
5はそれぞれ、独立して、H、-PG(ここでPGは保護基である)、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロシクリル、およびアリールアルキルからなる群より選択される。
【0025】
1つの態様においては、以下の条件のうちの少なくとも1つが満たされている:
(A) 少なくとも1つのa、a'、d、またはd'残基において、(i) R1aおよびR1cのうちの一方は、システイン、ホモシステイン、セレノシステイン、ロイシン、イソロイシン、ヘキサフルオロロイシン、バリン、ヘキサフルオロバリン、アリルグリシン、スレオニン、および前述の各残基のアナログからなる群より選択される修飾アミノ酸または未修飾アミノ酸の側鎖であり、かつ(ii) R1b、R1d、ならびに、R1aおよびR1cのうちの他方は、それぞれ、独立して、水素、C1-3アルキル、またはC2-3アルケニルであること;
(B) 少なくとも1つのe、e'、g、またはg'残基において、(i) R1aおよびR1cのうちの一方はアミノ酸側鎖であり、かつ(ii) R1b、R1d、ならびに、R1aおよびR1cのうちの他方は、それぞれ、独立して、水素またはC1-3アルキルであること。
【0026】
1つの態様において、逆平行コイルドコイルは、以下の式:
を有し、
ここで点線はそれぞれ、独立して、任意のリンカーである。
【0027】
1つの態様において、マクロ構造体は、CHD-1、CHD-2、CHD-3、CHD-4、またはCHD-5である。
【0028】
別の局面において、本発明は、上述の態様のいずれか1つにおけるマクロ構造体と、薬学的に許容されるビヒクルとを含む、薬学的組成物を提供する。
【0029】
さらなる別の局面において、本発明は、細胞においてRasシグナル伝達を阻害する方法を提供し、該方法は以下の段階を含む:
細胞においてRasシグナル伝達を阻害するのに有効な条件下で、細胞を、上述の態様のいずれか1つにおけるマクロ構造体と接触させる段階。
【0030】
1つの態様において、細胞は哺乳動物細胞である。
【0031】
1つの態様において、細胞は変異Rasタンパク質を発現している。
【0032】
1つの態様において、該接触させる段階は、対象において実施される。
【0033】
さらなる別の態様において、本発明は、Rasシグナル伝達によって媒介される異常を対象において処置する方法を提供し、該方法は以下の段階を含む:対象において異常を処置するのに有効な条件下で、上述の態様のいずれか1つにおけるマクロ構造体、または上述の態様における薬学的製剤を、対象に投与する段階。
【0034】
さらなる別の態様において、本発明は、それを必要とする対象において、細胞増殖性異常、分化異常、および/または新生物性病態を処置する方法を提供し、該方法は以下の段階を含む:対象において細胞増殖性異常、分化異常、および/または新生物性病態を処置するのに有効な条件下で、上述の態様のいずれか1つにおけるマクロ構造体、または上述の態様における薬学的製剤を、対象に投与する段階。
【0035】
1つの態様において、細胞増殖性異常、分化異常、および/または新生物性病態は、以下からなる群より選択される:線維肉腫、筋肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨原性肉腫、脊索腫、血管肉腫、内皮肉腫、リンパ管肉腫、リンパ管内皮肉腫、滑膜腫、中皮腫、ユーイング腫瘍、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、胃がん、食道がん、直腸がん、膵臓がん、卵巣がん、前立腺がん、子宮がん、頭頸部のがん、皮膚がん、脳のがん、扁平上皮癌、脂腺癌、乳頭状癌、乳頭状腺癌、嚢胞腺癌、髄様癌、気管支原性癌、腎細胞癌、ヘパトーマ、胆管癌、絨毛癌、精上皮腫、胎児性癌、ウィルムス腫瘍、子宮頸がん、精巣がん、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、膀胱癌、上皮癌、神経膠腫、星細胞腫、髄芽腫、頭蓋咽頭腫、上衣腫、松果体腫、血管芽腫、聴神経腫、乏突起神経膠腫、髄膜腫、黒色腫、神経芽腫、網膜芽細胞腫、白血病、リンパ腫、およびカポジ肉腫;造血器の新生物性異常;乳房の細胞増殖性異常および/または分化異常;肺の細胞増殖性異常および/または分化異常;結腸の細胞増殖性異常および/または分化異常;肝臓の細胞増殖性異常および/または分化異常;卵巣の細胞増殖性異常および/または分化異常;変異Rasタンパク質によって媒介されるがん;ならびに免疫増殖性異常。
【0036】
1つの態様において、異常および/または病態は、膵管腺癌、直腸腺癌、形質細胞骨髄腫、結腸腺癌、胆管癌、慢性骨髄単球性白血病、急性骨髄性白血病、黒色腫、肺腺癌、横紋筋肉腫、子宮内膜癌、唾液腺癌、甲状腺癌、膀胱癌、口腔癌、または卵巣癌である。
【0037】
1つの態様において、対象は哺乳動物である。1つの態様において、対象は霊長類(たとえばヒト)である。
【0038】
1つの態様において、異常または病態は、変異Rasタンパク質によって媒介される。1つの態様において、変異Rasタンパク質はH-Rasアイソフォームである。1つの態様において、変異Rasタンパク質はK-Rasアイソフォームである。1つの態様において、変異Rasタンパク質は、G12C、G12D、G12S、G12V、G13D、G12A、G12C、G12D、G12R、G12S、G12V、G13A、G13C、G13R、G13S、G13D、Q61E、Q61H、Q61L、Q61K、Q61P、およびQ61Rからなる群より選択される1つまたは複数の変異を有する。
【0039】
本発明のこれらの局面および他の局面は、添付の特許請求の範囲を含めた、本発明についての以下の詳細な説明を読んだ後で、当業者に明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】
図1は、Ras活性化サイクルの概略図、およびSosベースのプロテオミメティックの設計図を提供する。Rasの細胞内活性は、平衡が保たれたフィードバックループの一部として、厳密に制御されている。発がん性の変異は、この平衡を動かし、そしてRas-GTPの細胞内濃度を増大させて、下流の異常なシグナル伝達を引き起こす。
図1Aは、Ras(灰色のリボン)と、そのグアニン交換因子であるSosとの複合体を表す、分子モデルを示す。Sosは、ヘリカルヘアピン(ヘリックス)をRasのヌクレオチド結合ポケットへと挿入して、ヌクレオチド交換を媒介する。Rasのヌクレオチド結合ポケットは強調されている。ヘリカルヘアピンのRasとの相互作用を強調するために、Sosのセグメントは表示されていない(PDBコード 1NVW)。
図2Bは、重要なSosヘリックスを表す分子モデルと、Ras阻害剤としての制約付きSosプロテオミメティックの設計とを示す。GDP = グアノシン5'-二リン酸、GTP = グアノシン5'-三リン酸、GAP = GTPアーゼ活性化タンパク質、GEF = グアニンヌクレオチド交換因子。
【
図2】
図2は、RasリガンドとしてのSosプロテオミメティックの合理的設計を示す。天然のSosヘリカルヘアピン(上)、および最適化された制約付きヘリックス二量体模倣体(下)を表す、逆平行ヘリックスホイール図。
図2Aは、Sosとの直接的な接触を行う、SosのαHヘリカルドメインおよびαIヘリカルドメインを示しており、Rasと接触するエネルギー的に重要な残基であって、ホットスポット残基と呼ばれる残基の多くは、αHヘリックス上に位置している。
図2Bは、設計されそして合成された制約付きSos模倣体を示し、これは、両方のヘリックスにおいて、Rasとの結合相互作用を増強するための、疎水性界面と非天然残基とを有する。立体構造の安定性を増強するため、ジベンジルエーテル架橋剤が、各ヘリックスの「e」の位置に配置される。Rasに対するSos誘導体の結合親和性は、蛍光偏光(FP)アッセイによって測定された;リード誘導体であるCHD
Sos-5、およびアラニン対照であるCHD
Sos-3の結合親和性は、マイクロスケール熱泳動(MST)によってさらに確認された。R
H = L-ホモアルギニン。
【
図3A】
図3は、CHD
Sos-5の生物物理学的な特徴付け、タンパク質分解に対するその安定性、およびそのRas結合部位の解析を示す。
図3Aは、CHD
Sos-5の円二色性スペクトルである。CD試験は、50 mM フッ化カリウム水性緩衝液(pH 7.5)中で、20 μMのペプチド濃度において実施された。
図3Bは、実施例23に論じられる、HPLCアッセイにおいて解析された、25% ウシ胎児血清中でのタンパク質分解に対するCHD
Sos-5の安定性を示す。エラーバーは生物学的反復物の平均±SDである。
図3Cは、
15Nで均一標識され、GDPをロードされた野生型H-Rasの、
1H-
15N HSQCタイトレーションスペクトルを示す。漸増当量(1、2.5、および5)のCHD
Sos-5を用いてタイトレーションされた際にシフトする、具体的なRas残基の例。
図3Dは、漸増量のCHD
Sos-5を用いてタイトレーションされた際に、
15N標識されたH-Rasについて観察された、平均の化学シフト変化を示す棒グラフである。
図3Eは、近接性によって誘導される架橋反応によってさらに確認された、Ras上にあるCHD
Sos-5への結合部位を示す。DZ1-CHD
Sos-5は、光で活性化することが可能なジアジリン基であって、Ras上の近接した残基と反応するジアジリン基を含む。RasのスイッチIループに架橋したDZ1-CHD
Sos-5に相当する質量を有する断片が、同定された。同定された断片はスイッチI領域に相当しており、かつ分子モデルにおいてリボンとして示される。
【
図4A】
図4は、発がん性Ras変異によって変化する、Sosプロテオミメティックの細胞内部への移行、および該プロテオミメティックの有効性を示す。
図4Aは、Ras変異体を有するT24細胞およびH358細胞であって、蛍光標識されたCHD
Sos-5か、またはDMSOと4時間インキュベートされ、ヘキスト染色された細胞の、倍率40X(スケールバー = 5 μm)での生細胞蛍光イメージングである。
図4Bは、蛍光標識されたCHD
Sos-5(1 μM)についての、T24細胞、H358細胞、SW780細胞、BxPC3細胞、およびHeLa細胞における1時間の処理後のフローサイトメトリー解析である。
図4Cは、GDPをロードされたH-Rasの野生型アイソフォームおよび変異体アイソフォームに対するCHD
Sos-5の結合親和性を決定するために実施された、蛍光偏光解析およびマイクロスケール熱泳動解析である。
図4Dは、MTT細胞生存能力アッセイにおいて解析された、CHD
Sos-5の細胞毒性を示す。棒グラフは、漸増濃度のCHD
Sos-5で処理された、Rasの野生型細胞株および変異体細胞株の生存能力を示す。MTTアッセイの結果は、CellTiter-Glo発光細胞生存能力アッセイにおいても裏付けられた(実施例26)。
図4Eは、CHD
Sos-5の細胞内取り込みと毒性との相関を示す、2つのy軸を有するグラフである。1 μMの蛍光アナログを用いた細胞内取り込み試験の結果(左軸)と、10 μMの濃度におけるMTT細胞生存能力アッセイの結果(右軸)とが示される。
図4Fは、0 μM、1 μM、5 μM、10 μMのCHD
Sos-5で処理された際のH358細胞におけるErkのリン酸化レベルを示す、代表的なウェスタンブロットである。
図4Gは、CHD
Sos-5か、または陰性対照であるCHD
Sos-3で処理された際の、HeLa細胞およびH358細胞におけるERKのリン酸化レベルを示すウェスタンブロットである。
図4Aは、CHD
Sos-3での処理後、およびCHD
Sos-5での処理後の、HeLa細胞およびH358細胞におけるERKのリン酸化を比較する棒グラフを示す。エラーバーは生物学的二重反復物の平均±SDである。
【
図5A】
図5は、MSベースの定量的プロテオミクスによる、Sosプロテオミメティックの細胞内相互作用パートナーの解析を示す。
図5Aは、DZ2-CHD
Sos-5と細胞のタンパク質との、近接性によって駆動される光架橋を示す概略図である。
【
図5B】
図5は、MSベースの定量的プロテオミクスによる、Sosプロテオミメティックの細胞内相互作用パートナーの解析を示す。
図5Bは、DZ2-CHD
Sos-5(10 μM)で4時間処理された際に、H358細胞において統計学的に有意(p < 0.01)に富化されたタンパク質を明らかにする、ボルケーノプロットである。富化されたタンパク質標的であって、Ras GTPアーゼスーパーファミリーのメンバーであるものには、名前が振られている。
【
図5C】
図5は、MSベースの定量的プロテオミクスによる、Sosプロテオミメティックの細胞内相互作用パートナーの解析を示す。
図5Cは、富化されたタンパク質標的の、機能から見た多様性(左)および細胞での局在性(右)をまとめた、円グラフを示す。
【
図6】
図6は、重要なRas結合残基(球形)を明らかにする、Ras(薄灰色)とSos(濃灰色)との複合体のアラニンスキャニング変異導入を示す。エネルギー的に重要な結合残基は広いSos表面全体に分散しているが、αHヘリックス(濃色)はそれらの残基のクラスターを含んでおり、そのためこれは、Rasリガンドの合理的設計のためのリードヘリカルドメインをもたらす。
【
図7】
図7は、蛍光標識されたCHDと、GDPに結合した野生型H-Rasとの結合についての、蛍光偏光曲線を示す。それぞれのCHDについて算出された解離定数(K
d)が、表に列挙される。エラーバーは三重反復物の平均±SDである。
【
図8-1】
図8は、AFDye 647で標識された野生型H-Rasおよび変異体H-Rasと、CHDとの結合の、マイクロスケール熱泳動解析を示す。
図8Aは、CHD
Sos-5およびCHD
Sos-3と、野生型H-Ras-GDPとの間の相互作用についての、用量反応曲線である。
図8Bは、CHD
Sos-5およびCHD
Sos-3と、G12V H-Ras-GDPとの間の相互作用についての、用量反応曲線である。マイクロスケール熱泳動から観察された、TRICシグナルにおける変化は、Fnorm 対 リガンド濃度としてプロットされている。
図8CはCHD
Sos-5への、
図8DはCHD
Sos-3への、野生型H-Ras-GDPの結合のサーモグラフ。3 μMよりも高濃度でCHD
Sos-3を用いた場合に凝集が観察され、かつこれは、結合等温線の乱れを生じさせた。
図8EはCHD
Sos-5への、
図8FはCHD
Sos-3への、G12V H-Ras-GDPの結合のサーモグラフ。低温域は0秒の時点にセットされており、かつ3秒の時点にある高温域が使用される。エラーバーは三重反復物からの平均±SDである。
【
図9】
図9は、架橋ペプチドおよび直鎖ペプチドの円二色性スペクトルを示す。未連結である個々のαHペプチドおよびαIペプチド、αHペプチドおよびαIペプチドの等モル混合物、ならびにCHD
Sos-2の、CDスペクトル。CD実験は、50 mM フッ化カリウム水性緩衝液(pH 7.5)中で、20 μMのペプチド濃度を用いて実施された。
【
図10】
図10は、CHD
Sos-5/Rasの結合部位を明らかにする、タイトレーションHSQC NMR分光法を示す。H-Ras単独、H-Ras:CHD
Sos-5(1:2.5)、およびH-Ras:CHD
Sos-5(1:5)の、
1H-
15N HSQCオーバーレイスペクトル。
【
図11】
図11は、ジアジリン修飾されたCHD
Sos-5の化学的架橋により、Rasの結合部位が立証されることを示す。
図11Aは、DZ1-CHD
Sos-5とともにインキュベートされたH-Ras、およびそれなしでインキュベートされたH-Rasを用いたゲルシフトアッセイである。
図11Bは、RasのスイッチIループに架橋され、トリプシン消化されたDZ1-CHD
Sos-5の、同定された断片の質量を表すMALDI-TOFスペクトルを示す。それに相当する標識された質量は、未標識のRas試料からは観察されなかった。
【
図12】
図12は、CHDの細胞内取り込みを解析するための、蛍光顕微鏡試験およびフローサイトメトリー試験を示す。
図12Aは、Ras変異体を有する細胞である、T24細胞、H358細胞、およびBxPC3細胞であって、蛍光標識されたペプチドと4時間インキュベートされたもの、およびDMSOと4時間インキュベートされたもの(陰性対照)である、ヘキスト染色された細胞の、倍率40X(スケールバー = 5 μm)での生細胞蛍光イメージングを示す。細胞は500 nMのCHDおよびTatに曝露された。
図12Bは、1 μMのCHD
Sos-2、CHD
Sos-3、およびCHD
Sos-5、ならびにTatを用いて1時間処理された後のT24細胞およびH358細胞における、蛍光強度の中央値を示す。
図12Cおよび
図12Dは、蛍光標識されたCHD
Sos-5(1 μM)についての、記載される細胞株における1時間の処理後のフローサイトメトリー解析を示す。エラーバーは生物学的二重反復物の平均±SDである。
【
図13】
図13は、CHDの存在下での細胞生存能力を決定するための、MTTアッセイおよびCellTiter-Gloアッセイを示す。
図13Aは漸増濃度のCHD
Sos-2で、
図13Bは漸増濃度のCHD
Sos-3で処理された、記載されるRas変異体細胞株および対照細胞株の、MTT法での細胞生存能力。細胞生存能力試験は血清の存在下で実施された。
図13Cは、漸増濃度のCHD
Sos-5で処理されたH358細胞およびHeLa細胞の、CellTiter-Gloアッセイによって評価された細胞生存能力を示す。エラーバーは生物学的三重反復物の平均±SDである。
【
図14】
図14は、活性型/GTP結合型のRasのレベルに対するCHD
Sos-5の作用を調査するための、代表的なウェスタンブロットを示す。Ras-GTPのレベルは、H358細胞を10 μM CHD
Sos-5で6時間処理した後で、Ras-GTP特異的抗体を用いたイムノブロッティングにより決定された。
【
図15】
図15は、ERKのリン酸化を解析するための代表的なウェスタンブロットを示す。ERKのリン酸化のCHDによる抑制は、(A) CHD
Sos-5で、および(B) CHD
Sos-3で(DMSO、1、5、10 μM)処理した後の、H358細胞およびHeLa細胞において、プローブを用いて調べられた。エラーバーは生物学的二重反復物の平均±SDである。
【
図16】
図16は、精製された直鎖ペプチドおよびCHDペプチドについての分析HPLCのトレースを示す。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本発明の詳細な説明
以下の詳細な説明は、当業者が本発明の技術を作ることおよび使用することを可能にするために提供される。本発明の完全な理解を提供することを目的として、説明のために、専門用語が記載される。しかしながらそれらの詳細は、本発明の技術を実践するためには必要とされないことは、当業者には明らかであろう。特定の適用についての説明は、代表的な例としてのみ提供されるものである。本発明の技術は、示されている態様に限定されることを意図するものではなく、本明細書に開示される原理および特徴と整合する、可能な限り最も広い範囲に一致するものである。本発明の所与の局面、特徴、またはパラメーターに関する、優先性および選択肢は、文脈が他を示していない限り、本発明の他の全ての局面、特徴、およびパラメーターに関する、あらゆる優先性および選択肢との組み合わせを開示しているものとみなされるべきである。
【0042】
本発明は、ヌクレオチドに結合しているRasの野生型および発がん性型と会合し、かつ下流のキナーゼシグナル伝達を変化させる、合成Sosタンパク質模倣体を提供する。該Sos模倣体は、Sosのヘリックス-ループ-ヘリックスモチーフであって、Rasのスイッチ領域においてRasと重要な接触を行う該モチーフの、立体構造を獲得するように設計された。ケモプロテオミクス試験から、該プロテオミメティックが、Rasおよび他の細胞内GTPアーゼと会合することが示される。いくつかの態様において、該合成プロテオミメティックは、タンパク質分解性の崩壊に対して耐性であり、かつマクロピノサイトーシスによって細胞内に入る。そのためこれは、発がん性のRas変異を特徴とするがん細胞を含めた、マクロピノサイトーシスが上方制御されているがん細胞に対して、選択毒性を有する。
【0043】
本発明は、立体構造が定義されているプロテオミメティックの設計を提供するものであり、該プロテオミメティックは、Sos、これはRasのよく特徴付けされているエフェクターであるが、Sosの重要な結合表面を再現している。該プロテオミメティックは、野生型Ras、およびそのさまざまな変異体型に結合し、かつRasシグナル伝達を下方制御する。重要なことに、かつ驚くべきことに、該化合物は、マクロピノサイトーシスが上方制御されているがん細胞内部への移行の増進を示す。
【0044】
本発明では、Sos由来の追加の接触残基を導入すると、ヌクレオチドに結合しているRasとの会合が可能になり得る、との仮説が立てられる(
図1Bを参照されたい)。Sosは、Rasのスイッチ領域へとαHを挿入するが、Sos由来のいくつかの他の残基もまたRasと相互作用することが、複合体の解析から示される(
図6)。αHヘリックスの立体構造それ自体は、ヘアピンヘリックスの組み立ての一部として、αIドメインによって制御されている。αIヘリックスは、スイッチI領域において、Rasのエフェクターループと、重要な静電気的接触を行う。
【0045】
本発明は、Sosの三次構造模倣体を開発するものであり、これは、接触を増やすと、ヌクレオチドが結合したRasとの会合が可能になるかどうかを決定するための、ヘリックス-ループ-ヘリックスモチーフ由来の重要な結合残基を包含している(
図1Bを参照されたい)。SosのαHヘリックスおよびαIヘリックスの立体構造を獲得するために、最近記述された合成でのアプローチが利用された。先の取り組みにおいて、表面の塩橋を共有結合で慎重に置換することと、ノブ・イントゥ・ホール型ヘリックスパッキングの形を取るように、二量体の表面を適切に変化させることによって、ヘリックス二量体が安定化され得ることが観察された(M. G. Wuo, S. H. Hong, A. Singh, P. S. Arora, "Synthetic Control of Tertiary Helical Structures in Short Peptides", J. Am. Chem. Soc. 140, 16284-16290 (2018); M. G. Wuo, A. B. Mahon, P. S. Arora, "An Effective Strategy for Stabilizing Minimal Coiled Coil Mimetics", J. Am. Chem. Soc. 137, 11618-11621 (2015))。これらの安定化されたプロテオミメティックは、架橋ヘリックス二量体、またはCHDと呼ばれる。本発明は、Sos CHDが、タンパク質分解に対して安定であって、選択的に細胞膜透過性であることを示し、かつ、生化学的環境および細胞内環境において、Sos CHDが高い特異性をもって、ヌクレオチドに結合しているRasのSos結合表面と会合することを示す。本発明は、標的表面にある、これまでは未調査であってかつ未活用であったポケットを役立たせるために、合理的設計の原理とコンピューターによるモデリングとの組み合わせを利用するものである(F. Lauck, C. A. Smith, G. F. Friedland, E. L. Humphris, T. Kortemme, "RosettaBackrub--a web server for flexible backbone protein structure modeling and design", Nucleic Acids Res. 38, W569-575 (2010); D. Rooklin et al., "Targeting Unoccupied Surfaces on Protein-Protein Interfaces", J. Am. Chem. Soc. 139, 15560-15563 (2017))。最適化されたプロテオミメティックは、ナノモルから低めのマイクロモルのオーダーの親和性で、野生型Rasおよび変異体型Rasに結合し、ヌクレオチド交換を変化させ、ケモプロテオミクスアッセイによって証明されたように、Rasと会合し、かつRasサブファミリーの他のGTPアーゼと会合し、Rasが媒介するシグナル伝達カスケードの下流の活性化を阻害し、かつ、発がん性のRas変異を有するがん細胞に対して選択毒性を有する。
【0046】
Rasは、従来型の創薬にとって難しい標的であり続けている。リード化合物を開発するための多数の戦略が記述されてきている(R. Spencer-Smith et al., "Inhibition of RAS function through targeting an allosteric regulatory site", Nat. Chem. Biol. 13, 62-68 (2017); M. E. Welsch et al., "Multivalent Small-Molecule Pan-RAS Inhibitors", Cell 168, 878-889.e829 (2017); T. Maurer et al., "Small-molecule ligands bind to a distinct pocket in Ras and inhibit SOS-mediated nucleotide exchange activity", Proc. Natl. Acad. Sci. USA 109, 5299-5304 (2012); Q. Sun et al., "Discovery of Small Molecules that Bind to K-Ras and Inhibit Sos-Mediated Activation", Angew. Chem. Int. Ed. 51, 6140-6143 (2012); J. M. Ostrem, K. M. Shokat, "Direct small-molecule inhibitors of KRAS: from structural insights to mechanism-based design", Nat. Rev. Drug Discov. 15, 771-785 (2016); J. Downward, "Targeting RAS signalling pathways in cancer therapy", Nat. Rev. Cancer 3, 11-22 (2003); A. G. Stephen, D. Esposito, R. K. Bagni, F. McCormick, "Dragging ras back in the ring", Cancer Cell 25, 272-281 (2014))が、共有結合性のG12C阻害剤を除いて、これらのリードは臨床試験へと進行することはなかった(B. A. Lanman et al., "Discovery of a Covalent Inhibitor of KRAS(G12C) (AMG 510) for the Treatment of Solid Tumors", J. Med. Chem. 63, 52-65 (2020))。Rasを標的とする化合物は、理想的には、特定の変異体アイソフォームと会合することが可能であるべきである、なぜならば、汎Ras阻害剤は望まれない副作用を引き起こすと予想されるからである。
【0047】
本発明はSosプロテオミメティックを提供するものであり、該プロテオミメティックは、野生型Rasおよび変異体型Rasのヌクレオチド結合ポケットに結合するが、該プロテオミメティックの細胞内部への移行がマクロピノサイトーシスによって制御されていて、変異体Ras細胞においてマクロピノサイトーシスが上方制御されているために、該プロテオミメティックは発がん性Ras細胞に対して選択毒性を有する。
【0048】
該合成誘導体は、ヌクレオチド交換と、Rasの活性化とを媒介する、Sosヘリカルヘアピンを模倣している。該プロテオミメティックの設計および合成は、立体構造が定義されている、ヘリカル三次構造の最小の模倣体を開発するための戦略に基づいている。該戦略によって架橋ヘリックス二量体(CHD)がもたらされ、これは、その立体構造の安定性のために、最適なノブ・イントゥ・ホール型ヘリックスパッキングと、適切に配置された共有結合性架橋剤とを必要とする。Sos誘導体とRasとの結合相互作用を増強するために、コンピューターによるモデリング、および合理的設計の原理が利用されて、非カノニカル残基が組み込まれた。水に対して必要な溶解性を有し、かつ野生型および変異体のRasアイソフォームに対して低めのマイクロモルのオーダーの結合親和性を有するリードCHDを開発するために、設計および配列決定を数回繰り返すことが必要であった。タイトレーション1H-15N-HSQC NMR試験および光親和性標識試験から、リード誘導体であるCHDSos-5が明らかにされ、これは、Rasのヌクレオチド結合表面において、Rasに会合する。
【0049】
CHDSos-5は細胞膜透過性であることが証明され、かつこれは、よく特徴付けされている細胞膜透過性ペプチドであるTatペプチドと同様の取り込みを示した。重要なことに、CHDSos-5はRas変異体細胞において、その野生型バリアントのみを有する細胞と比較して、より多い細胞内取り込みを示した。変異体Ras細胞において細胞内部への移行が上回っているというこの結果は、ペプチドミメティックの取り込み経路についての最近の特徴付けと一致する - マクロピノサイトーシスは、中サイズのペプチド性化合物が利用する重要なメカニズムであることが、最近発見された。生化学的実験において、Sosプロテオミメティックの結合親和性が、野生型Rasに対してわずかに良好であるにしても、Rasにおいて変異を有する細胞株における、マクロピノサイトーシスの上方制御は、Sosプロテオミメティックを発がん性Rasと特異的に会合させるための選択性フィルターとして作用する。
【0050】
ERK - これは、Rasの活性化によって影響を受ける、よく調べられている下流のキナーゼである - のリン酸化を変化させる、CHDSos-5の潜在能力がアッセイされた。CHDSos-5は、変異体Ras細胞株においてはIC50 < 1 μMを有する強力なERK阻害剤であるが、野生型Rasを発現する細胞株においてはそうではないことが、証明された。重要なことに、アラニン対照であるCHDSos-3は、試験された濃度において、ERKのリン酸化を変化させなかった。この結果から、該リードプロテオミメティックの有効性が配列特異的であることが示唆される。最後に、MSベースの定量的プロテオミクスと組み合わせられた光親和性標識が利用されて、発がん性Ras細胞株におけるCHDSos-5との相互作用物質が調べられ、そしてK-Ras、およびRasファミリーの他のメンバーが同定された。CHDSos-5が、Ras以外のタンパク質と会合するという事実は、Sosが膜へと動員されていない場合のSosの未知の天然のパートナーを、反映したものである可能性がある。
【0051】
タンパク質-タンパク質相互作用を調べるための、小分子およびペプチドを利用するプロテオミクス試験は数多く成功している(R. E. Kleiner, L. E. Hang, K. R. Molloy, B. T. Chait, T. M. Kapoor, "A Chemical Proteomics Approach to Reveal Direct Protein-Protein Interactions in Living Cells", Cell Chemical Biology 25, 110-120.e113 (2018); D. P. Murale, S. C. Hong, M. M. Haque, J.-S. Lee, "Photo-affinity labeling (PAL) in chemical proteomics: a handy tool to investigate protein-protein interactions (PPIs)", Proteome Science 15, 14 (2017))が、治療上重要なタンパク質ドメインの結合パートナーを調べるための、タンパク質三次模倣体の使用は、以前には記述されていない。Sosヘリカルヘアピンの、今までに知られていない結合パートナーをターゲティングすることの生物学的妥当性は、まだ不明瞭なままである。簡単に述べると、本発明は、汎Rasリガンドを提供し、これは、変異体Rasアイソフォームを発現する細胞であって、栄養素の取り込み経路としてのマクロピノサイトーシスが上方制御されている細胞に対して、選択毒性を有する。Sosプロテオミメティックが選択的に取り込まれる点は、Rasのさまざまな変異に特異的に会合するリガンドを必要とせずに、発がん性のRasをターゲティングするための、治療戦略を示唆するものである。
【0052】
本発明の1つの局面は、マクロ構造体に関連する。このマクロ構造体は逆平行コイルドコイルを含み、
ここで、該逆平行コイルドコイルは、式Iの第1のコイルおよび式IIの第2のコイル:
T
1-g
0-a
1-b
1-c
1-d
1-e
1-f
1-g
1-a
2-b
2-c
2-d
2-e
2-f
2-g
2-a
3-b
3-c
3-d
3-e
3-f
3-T
2 (I)、
T
3-f'
0-g'
0-a'
1-b'
1-c'
1-d'
1-e'
1-f'
1-g'
1-a'
2-b'
2-c'
2-d'
2-e'
2-f'
2-g'
2-a'
3-b'
3-c'
3-d'
3-e'
3-T
4 (II)
を含み、
ここで:
a
1-3、b
1-3、c
1-3、d
1-3、e
1-3、f
1-3、g
0-2、a'
1-3、b'
1-3、c'
1-3、d'
1-3、e'
1-3、f'
0-2、およびg'
0-2はそれぞれ、独立して、存在しないか、または修飾アミノ酸残基もしくは未修飾アミノ酸残基およびそれらのアナログからなる群より選択される残基であり;
以下の残基ペア:g
0-g'
2、g
1-g'
1、g
2-g'
0、a
1-d'
3、a
2-d'
2、a
3-d'
1、d
1-a'
3、d
2-a'
2、d
3-a'
1、e
1-e'
3、e
2-e'
2、およびe
3-e'
1のうちの1つまたは複数は、リンカーによって共有結合しており;
T
1およびT
3はそれぞれ、独立して、末端窒素から1つまたは複数の(好ましくは1つまたは2つの)モエティへの結合点であり、モエティはそれぞれ、独立して、H、-PG
1、-C(O)R、-C(O)NR
2、-C(O)NH
2、-R、-C(O)OR、アミノ酸もしくはそのアナログ、ペプチド、ターゲティングモエティ、またはタグであり、PG
1はアミンの保護基であり、かつRはそれぞれ、独立して、水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロシクリル、アリールアルキル、ペプチド、ターゲティングモエティ、またはタグであり;かつ
T
2およびT
4はそれぞれ、独立して、末端カルボニルから、H、-OPG
2、-NPG
2、-OR、-OH、-NR
2、-NH
2、-N(R)C(O)C
1-6アルキル、-N(H)C(O)C
1-6アルキル、アミノ酸もしくはそのアナログ、ペプチド、ターゲティングモエティ、またはタグへの結合点であり、PG
2はカルボン酸の保護基であり、かつRはそれぞれ、独立して、水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロシクリル、アリールアルキル、ペプチド、ターゲティングモエティ、またはタグであり;
かつここで:
第1のコイルは、少なくとも10個の連続した残基を含み、該少なくとも10個の連続した残基は、式X
1-X
2-X
3-X
4-X
5-X
6-X
7-X
8-X
9-X
10-X
11-X
12-X
13-X
14-X
15-X
16を有し;
第2のコイルは、少なくとも10個の連続した残基を含み、該少なくとも10個の連続した残基は、式X'
1-X'
2-X'
3-X'
4-X'
5-X'
6-X'
7-X'
8-X'
9-X'
10-X'
11-X'
12-X'
13-X'
14-X'
15-X'
16を有し;かつ
残基はそれぞれ、以下に示す群より選択される(上付き文字は、式Iおよび式II中でのそれぞれの残基の位置を示し;a、a'、d、d'、e、e'、g、およびg'位における残基は、任意で、リンカーの結合を容易にするために修飾されるかまたはリンカーと置き換えられることが可能であり;下線の残基は特に好ましいものである)。
【0053】
逆平行コイルドコイル構造体は、第1のアミノ酸鎖(または第1のコイル)と、第2のアミノ酸鎖(または第2のコイル)とを有する。当業者には一見して明らかであろう点であるが、以下の表現が、コイルドコイル構造体を特徴付けするために一般に使用されており、かつ本出願の全体を通して使用されている。「A/B」との表現、または「xAy/x'By'」との表現は、各鎖の配列を(特異的または包括的のいずれかで)特定するために使用され、ここでAは第1の鎖の配列(X1-X2-X3…)であり、Bは第2の鎖の配列(X1'-X2'-X3'…)であり、x、x'、y、およびy'は、各鎖において、ヘプタッドに対して対応する配列の開始位置(x、x')、および終了位置(y、y')を指定するものであり、かつ「/」は、一方の配列を他方の配列から区別するものである。通常、配列Aおよび配列Bは両方とも、NからCへ向かって、左から右へと記載される。しかしながら、当業者には一見して明らかであろう点であるが、たとえば、逆平行コイルドコイルの軸に対して垂直に見た平面図においては、逆平行コイルドコイル構造体における鎖は、空間的には互いに逆向きにアラインされていて、第1の鎖のN末端が最上部にあり、かつ第2の鎖のC末端が最上部にあることになる。当業者には一見して明らかであろう点であるが、本発明の化合物においては、第1の鎖中の残基と、第2の鎖中の残基との間に、少なくとも1つの共有結合リンカーもまた、存在する。リンカーの位置および構造は、配列Aおよび配列Bにおいて、ときおり、XおよびX'の代わりにそれぞれ「Z」および「Z'」を用いて特定される。あるいは、リンカーの位置および構造は、さらなる説明によって特定される(たとえば、「残基Xnと残基Xn'との間にジスルフィドリンカーが存在する」など)。
【0054】
少なくとも1つの態様において、第1のコイルおよび第2のコイルにおける残基の数は、10~30(たとえば、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、または29である下の値と、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、または30である上の値とを、任意の組み合わせで有する範囲内)である。
【0055】
当業者には一見して明らかであろう点であるが、本明細書におけるヘリカルホイールビューは、逆平行コイルドコイル構造体における各コイルの空間的な位置を示し、一方で2次元ビューは残基間の接続を示す。
【0056】
上記において、および本発明の説明の全体において使用される場合、以下の用語は、別途指定されない限り、以下の意味を有すると理解されるものとする。本明細書において別途定義されていない場合、本明細書において使用される全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって通常理解されるものと、同じ意味を有する。本明細書において、1つの用語について複数の定義が存在する場合には、別途指定されない限り、このセクションにおける定義が優先される。
【0057】
本明細書において使用される場合、「アルキル」との用語は、直鎖状であってよくまたは分枝していてもよい脂肪族炭化水素基であって、鎖中に約1~約8個(たとえば、1~2、1~3、1~4、1~5、1~6、1~7、1~8個)の炭素原子を有する脂肪族炭化水素基を意味する。分枝とは、1つまたは複数の低級アルキル基、たとえば、メチル、エチル、またはプロピルなどが、アルキル直鎖に結合していることを意味する。例示的なアルキル基には、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、および3-ペンチルが含まれる。
【0058】
「アルケニル」との用語は、炭素-炭素二重結合を含み、かつ、直鎖状であってよくまたは分枝していてもよい脂肪族炭化水素基であって、鎖中に約2~約8個(たとえば、2~3、2~4、2~5、2~6、2~7、2~8個)の炭素原子を有する脂肪族炭化水素基を意味する。好ましいアルケニル基は、鎖中に2~約4個の炭素原子を有する。例示的なアルケニル基には、エテニル、プロペニル、n-ブテニル、およびi-ブテニルが含まれる。
【0059】
「アルキニル」との用語は、炭素-炭素三重結合を含み、かつ、直鎖状であってよくまたは分枝していてもよい脂肪族炭化水素基であって、鎖中に約2~約8個(たとえば、2~3、2~4、2~5、2~6、2~7、2~8個)の炭素原子を有する脂肪族炭化水素基を意味する。好ましいアルキニル基は、鎖中に2~約4個の炭素原子を有する。例示的なアルキニル基には、エチニル、プロピニル、n-ブチニル、2-ブチニル、3-メチルブチニル、およびn-ペンチニルが含まれる。
【0060】
「アミドアイソスター」との用語は、アミドの水素結合特性が保存されているが、その代謝感受性を有さないアナログを指す。アスパラギン残基およびグルタミン残基の側鎖は、1,2,3-トリアゾール、1,2,4-トリアゾール、オキサゾール、オキサジアゾール、イミダゾール、チアゾール、チアジアゾール、テトラゾール、ピラゾール、インドール、ピロール、ピリジン、ピラジン、ジケトピペラジン、ウレア、チオウレア、カルバマート、およびスルホンアミドへと修飾され得る。適切なアミドアイソスターには、Kumari et al., "Amide Bond Bioisosteres: Strategies, Synthesis, and Successes", J. Med. Chem. 63: 12290-358 (2020)に記載されているものが含まれ、該文献はその全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0061】
「カルボン酸アイソスター」との用語は、リン酸、スルホン酸、スルホンアミド、スルホニルウレア、ヒドロキサム酸、アシルウレア、テトラゾール、チアゾリジンジオン、フェノール、スクアリン酸、チオゾリジンジオン、オキサゾリジンジオン、オキサジアゾール-5(4H)-オン、チアジアゾール-5(4H)-オン、オキサジアゾール-5(4H)-チオン、オキサチアジアゾール-2-オキシド、イソオキサゾール、テトラミン酸、およびシクロペンタン1,3-ジオンを指す。適切なカルボン酸誘導体には、Lassalas et al., "Structure Property Relationships of Carboxylic Acid Isosteres", J. Med. Chem. 59:3183-203 (2016)に記載されているものが含まれ、該文献はその全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0062】
本明細書において使用される場合、「シクロアルキル」との用語は、非芳香族であって、飽和または不飽和である、単環系または多環系であって、3~8個(3、4、5、6、7、8、3~4、3~5、3~6、3~7、4~5、4~6、4~7、4~8、5~6、5~7、5~8、6~7、6~8、7~8個)の炭素原子を含んでいてよく、かつ少なくとも1つの二重結合を含んでいてよい、単環系または多環系を指す。例示的なシクロアルキル基には、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロプロペニル、シクロブテニル、シクロペンテニル、シクロヘキセニル、anti-ビシクロプロパン、またはsyn-ビシクロプロパンが含まれるが、これらに限定されない。
【0063】
本明細書において使用される場合、「アルカン」との用語は、直鎖状であってよくまたは分枝していてもよい、式CnH2n+2の脂肪族炭化水素であって、鎖中に約1~約8個(たとえば、1~2、1~3、1~4、1~5、1~6、1~7、1~8個)の炭素原子を有する脂肪族炭化水素を指す。分枝とは、1つまたは複数の低級アルキル基、たとえば、メチル、エチル、またはプロピルなどが、アルキル直鎖に結合していることを意味する。例示的なアルカンには、メタン、エタン、n-プロパン、i-プロパン、n-ブタン、t-ブタン、n-ペンタン、および3-ペンタンが含まれる。「アルキレン」との用語は、アルカンから2つの水素原子を取り除くことによって形成される、2価基を指す。例示的なアルキレン基には、上述のアルカンに由来する2価基が含まれるが、これらに限定されない。
【0064】
本明細書において使用される場合、「アルケン」との用語は、直鎖状であってよくまたは分枝していてもよい、式CnH2nの脂肪族不飽和炭化水素であって、鎖中に約2~約8個(たとえば、2~3、2~4、2~5、2~6、2~7、2~8個)の炭素原子を有する脂肪族不飽和炭化水素を指す。例示的なアルケンには、エチレン、プロピレン、n-ブチレン、およびi-ブチレンが含まれる。「アルケニレン」との用語は、アルケンから2つの水素原子を取り除くことによって形成される、2価基を指す。アルケニレンは炭素-炭素二重結合を含み、かつ式-(CnH2n-2)-によって表される。例示的なアルケニレン基には、上述のアルケンに由来する2価基が含まれるが、これらに限定されない。
【0065】
本明細書において使用される場合、「アルキン」との用語は、直鎖状であってよくまたは分枝していてもよい、式CnH2n-2の脂肪族不飽和炭化水素であって、鎖中に約2~約8個(たとえば、2~3、2~4、2~5、2~6、2~7、2~8個)の炭素原子を有する脂肪族不飽和炭化水素を指す。例示的なアルキンには、アセチレン、プロピン、ブチン、およびペンチンが含まれる。「アルキニレン」との用語は、アルキンから2つの水素原子を取り除くことによって形成される、2価基を指す。アルキニレンは炭素-炭素三重結合を含み、かつ式-(CnH2n-4)-によって表される。例示的なアルキニレン基には、上述のアルキンに由来する2価基が含まれるが、これらに限定されない。
【0066】
芳香環および複素芳香環は、任意の、単環構造、複環構造、縮合環構造であり得る。たとえば、芳香環および複素芳香環には以下が含まれる:5員芳香環もしくは6員芳香環、もしくはO、N、およびSから選択される0~3個(0、1、2、もしくは3個)のヘテロ原子を含む5員複素芳香環もしくは6員複素芳香環;二環式の9員芳香環系もしくは10員芳香環系、もしくはO、N、およびSから選択される0~3個(0、1、2、もしくは3個)のヘテロ原子を含む二環式の9員複素芳香環系もしくは10員複素芳香環系;または、三環式の13員芳香環系もしくは14員芳香環系、もしくはO、N、およびSから選択される0~3個(0、1、2、もしくは3個)のヘテロ原子を含む三環式の13員複素芳香環系もしくは14員複素芳香環系。芳香族の5員炭素環~14員炭素環(5員炭素環、6員炭素環、7員炭素環、8員炭素環、9員炭素環、10員炭素環、11員炭素環、12員炭素環、13員炭素環、または14員炭素環)には、たとえば、シクロペンタ-1,3-ジエン、ベンゼン、ナフタレン、インダン、テトラリン、およびアントラセンが含まれる。5員芳香族複素環~10員芳香族複素環(5員芳香族複素環、6員芳香族複素環、7員芳香族複素環、8員芳香族複素環、9員芳香族複素環、または10員芳香族複素環)には、たとえば、イミダゾール、ピリジン、インドール、チオフェン、ベンゾピラノン、チアゾール、フラン、ベンゾイミダゾール、キノリン、イソキノリン、キノキサリン、ピリミジン、ピラジン、テトラゾール、ピラゾール、ベンゾイミダゾール、ピリダジン、ピロール、イミダゾール、オキサゾール、イソオキサゾール、インダゾール、イソインドール、イミダゾール、プリン、トリアジン、キナゾリン、シンノリン、ベンゾオキサゾール、アクリジン、ベンゾイソオキサゾール、およびベンゾチアゾールが含まれる。「アリーレン」との用語は、2つの環炭素原子から水素原子を1つずつ取り除くことによる、芳香環に由来する2価基を指す。例示的なアリーレン基には、上述の芳香環に由来する2価基が含まれるが、これらに限定されない。「ヘテロアリーレン」との用語は、複素芳香環に由来する2価基を指す。例示的なヘテロアリーレン基には、上述の複素芳香環に由来する2価基が含まれるが、これらに限定されない。
【0067】
「エーテル」との用語は、式-R-O-R-を有する基を意味する。Rはそれぞれ、独立して、結合、C1-8アルキレン、C2-8アルケニレン、アリーレン、およびヘテロアリーレンからなる群より選択され得る。例示的なエーテルには、-C1-8アルキレン-O-C1-8アルキレン-(たとえば、-(CH2)2-O-(CH2)2-)、-C2-8アルケニレン-O-C2-8アルケニレン-、-アリーレン-O-アリーレン-、-ヘテロアリーレン-O-ヘテロアリーレン-、および-C1-8アルキレン-O-ヘテロアリーレン-が含まれるが、これらに限定されない。
【0068】
「チオエーテル」との用語は、式-R-S-R-を有する基を意味する。Rはそれぞれ、独立して、結合、C1-8アルキレン、C2-8アルケニレン、アリーレン、およびヘテロアリーレンからなる群より選択され得る。例示的なチオエーテルには、-C1-8アルキレン-S-C1-8アルキレン-(たとえば、-(CH2)2-S-(CH2)2-)、-C2-8アルケニレン-S-C2-8アルケニレン-、-アリーレン-S-アリーレン-、-ヘテロアリーレン-S-ヘテロアリーレン-、および-C1-8アルキレン-S-ヘテロアリーレン-が含まれるが、これらに限定されない。
【0069】
「アミド」との用語は、式-C(O)N(R1)(R1)または式-C(O)N(R1)-を有する基を意味する。アミドには、たとえば、-C(O)N(R1)R-、-R-C(O)N(R1)R-、-CHR1-C(O)N(R1)R-、および-C(R1)(R1)-C(O)N(R1)R-が含まれる。Rはそれぞれ、独立して、結合、C1-8アルキレン、C2-8アルケニレン、アリーレン、およびヘテロアリーレンからなる群より選択され得、かつ、R1はそれぞれ、独立して、水素、C1-8アルキル、C2-8アルケニル、C2-8アルキニル、C3-8シクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロシクリル、およびアリールアルキルからなる群より選択され得る。例示的なアミドには、-C1-8アルキレン-C(O)N(アリール)-、-C2-8アルケニレン-C(O)N(アリール)-、および-C1-8アルキレン-C(O)N(C1-8アルキル)-(たとえば、-(CH2)2-C(O)N(CH3)-)が含まれるが、これらに限定されない。
【0070】
「エステル」との用語は、式-C(O)O-を有する基を意味する。エステルには、たとえば、-R-C(O)O-R-、-CHR1-C(O)O-R-、および-C(R1)(R1)-C(O)O-R-が含まれる。Rはそれぞれ、独立して、結合、C1-8アルキレン、C2-8アルケニレン、アリーレン、およびヘテロアリーレンからなる群より選択され得、かつ、R1はそれぞれ、独立して、水素、C1-8アルキル、C2-8アルケニル、C2-8アルキニル、C3-8シクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロシクリル、およびアリールアルキルからなる群より選択され得る。例示的なエステルには、-C1-8アルキレン-C(O)O-アリーレン-、-C2-8アルケニレン-C(O)O-アリーレン-、-C1-8アルキレン-C(O)O-ヘテロアリーレン-、-C1-8アルキレン-C(O)O-C1-8アルキレン-(たとえば、-(CH2)2-C(O)O-(CH2)2-)、および-C1-8アルキレン-C(O)O-(たとえば、-(CH2)2-C(O)O-)が含まれるが、これらに限定されない。
【0071】
本明細書において使用される場合、「ヘテロシクリル」との用語は、炭素原子と、1~5個(1、2、3、4、5、1~2、1~3、1~4、2~3、2~4、2~5、3~4、3~5、4~5個)のヘテロ原子であって窒素、酸素、および硫黄からなる群より選択されるヘテロ原子とからなる、安定な3員環系~18員環系(3員環系、4員環系、5員環系、6員環系、7員環系、8員環系、9員環系、10員環系、11員環系、12員環系、13員環系、14員環系、15員環系、16員環系、17員環系、または18員環系)を指す。ヘテロシクリルは、単環系または多環系であってよく、これらは、縮合環系、橋かけ環系、またはスピロ環系を含んでよく;かつ、ヘテロシクリル中の窒素原子、炭素原子、または硫黄原子は、任意で酸化されていてよく;窒素原子は、任意で4級化されていてよく;かつ、環は部分的にまたは完全に飽和していてもよい。代表的な単環ヘテロシクリルには、ピペリジン、ピペラジン、ピリミジン、モルホリン、チオモルホリン、ピロリジン、テトラヒドロフラン、ピラン、テトラヒドロピラン、オキセタン等が含まれる。代表的な多環ヘテロシクリルには、インドール、イソインドール、インドリジン、キノリン、イソキノリン、プリン、カルバゾール、ジベンゾフラン、クロメン、キサンテン等が含まれる。
【0072】
本明細書において使用される場合、「アリール」との用語は、6~19個(6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、6~7、6~8、6~9、6~10、6~11、6~12、6~13、6~14、6~15、6~16、1~17、6~18、7~8、7~9、7~10、7~11、7~12、7~13、7~14、7~15、7~16、7~18、7~19、8~9、8~10、8~11、8~12、8~13、8~14、8~15、8~16、8~17、8~18、8~19、9~10、9~11、9~12、9~13、9~14、9~15、9~16、9~17、9~18、9~19、10~11、10~12、10~13、10~14、10~15、10~16、10~17、10~18、10~19、11~12、11~13、11~14、11~15、11~16、11~17、11~18、11~19、12~13、12~14、12~15、12~16、12~17、12~18、12~19、13~14、13~15、13~16、13~17、13~18、13~19、14~15、14~16、14~17、14~18、14~19、15~16、15~17、15~18、15~19、16~17、16~18、16~19、17~18、17~19、18~19個)の炭素原子を含む芳香族単環系または芳香族多環系であって、環系が任意で置換されていてよい、芳香族単環系または芳香族多環系を指す。本発明についてのアリール基には、たとえば、フェニル、ナフチル、アズレニル、フェナントレニル、アントラセニル、フルオレニル、ピレニル、トリフェニレニル、クリセニル、およびナフタセニルなどの基が含まれるが、これらに限定されない。
【0073】
本明細書において使用される場合、「ヘテロアリール」とは、炭素原子と、1~5個のヘテロ原子であって窒素、酸素、および硫黄からなる群より選択されるヘテロ原子とからなる、芳香環基を指す。ヘテロアリール基の例には以下が含まれるが、これらに限定されない:ピロリル、ピラゾリル、イミダゾリル、トリアゾリル、フリル、チオフェニル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、チアゾリル、イソチアゾリル、オキサジアゾリル、チアジアゾリル、ピリジル、ピラジニル、ピリミジニル、ピリダジニル、トリアジニル、チエノピロリル、フロピロリル(furopyrrolyl)、インドリル、アザインドリル、イソインドリル、インドリニル、インドリジニル、インダゾリル、ベンゾイミダゾリル、イミダゾピリジニル、ベンゾトリアゾリル、ベンゾオキサゾリル、ベンゾオキサジアゾリル、ベンゾチアゾリル、ピラゾロピリジニル、トリアゾロピリジニル、チエノピリジニル、ベンゾチアジアゾリル、ベンゾフイル(benzofuyl)、ベンゾチオフェニル、キノリニル、イソキノリニル、テトラヒドロキノリル、テトラヒドロイソキノリル、シンノリニル、キナゾリニル、キノリジリニル(quinolizilinyl)、フタラジニル、ベンゾトリアジニル、クロメニル、ナフチリジニル、アクリジニル、フェナンジニル(phenanzinyl)、フェノチアジニル、フェノキサジニル、プテリジニル、およびプリニル。さらなるヘテロアリールは、"COMPREHENSIVE HETEROCYCLIC CHEMISTRY: THE STRUCTURE, REACTIONS, SYNTHESIS AND USE OF HETEROCYCLIC COMPOUNDS" (Katritzky et al. eds., 1984)に記載されており、該文献はその全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0074】
「アリールアルキル」との用語は、式-RaRbであるモエティであって、ここでRaが、上に定義されるようなアルキルまたはシクロアルキルであり、かつRbが、上に定義されるようなアリールまたはヘテロアリールである、モエティを指す。
【0075】
本明細書に記載される化合物は、1つまたは複数の不斉中心を含み得、かつしたがって、エナンチオマー、ジアステレオマー、および他の型の立体異性体が生じ得る。各キラル中心は、絶対配置の観点から、(R)-または(S)-として定義され得る。本発明の技術には、ラセミ体および光学的に純粋な型を含めた、そのような全ての好適な異性体、およびそれらの混合物が含まれることが意図される。光学活性を示す、(R)-異性体および(S)-異性体、(-)-異性体および(+)-異性体、または(D)-異性体および(L)-異性体は、キラルシントンもしくはキラル試薬を用いて調製されてよく、または慣用の技術を用いて分割されてよい。本明細書に記載される化合物が、オレフィン二重結合、または幾何異性上の他の不斉中心を含む場合であって、かつ別途指定されない限り、該化合物にはEおよびZ両方の幾何異性体が含まれることが意図される。同様に、全ての互変異性体型もまた含まれることが意図される。
【0076】
本明細書において使用される「単環」との用語は、1つの環を有する分子構造を示す。
【0077】
本明細書において使用される「多環」または「複環」との用語は、2つ以上の環を有する分子構造を示し、これには縮合環、橋かけ環、またはスピロ環が含まれるが、これらに限定されない。
【0078】
「任意で置換される」との用語は、指定される原子の通常の原子価が過剰なものではなく、かつ各置換成分のアイデンティティが他のものから独立している場合に、ある基が、該基の置換可能なそれぞれの原子において置換成分を有し得ること(1つの原子において複数の置換成分を有し得ることが含まれる)を示すために使用される。各残基において、最大で3個のH原子が、以下のものと置き換えられる:アルキル、ハロゲン、ハロアルキル、ヒドロキシ、低級アルコキシ、カルボキシ、カルボアルコキシ(アルコキシカルボニルとも称される)、カルボキサミド(アルキルアミノカルボニルとも称される)、シアノ、カルボニル、ニトロ、アミノ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、メルカプト、アルキルチオ、スルホキシド、スルホン、アシルアミノ、アミジノ、フェニル、ベンジル、ヘテロアリール、フェノキシ、ベンジルオキシ、またはヘテロアリールオキシ。「未置換」の原子は、その原子価によって決定される数の水素原子の全てを担持する。置換成分がケト(すなわち、=O)である場合、原子上の2個の水素が置き換えられている。置換成分および/または可変成分を組み合わせることは、そのような組み合わせが、安定な化合物をもたらす場合にのみ許容される;「安定な化合物」または「安定な構造体」とは、有用性を有する程度の純度での、反応混合物からの単離に耐えられ、かつ、有効な治療剤としての製剤化に耐えられるほどに、十分に堅固である化合物を意味する。
【0079】
「ハロゲン」との用語は、フッ素、塩素、臭素、またはヨウ素を意味する。
【0080】
「ペプチド」とは、本明細書において使用される場合、2つ以上の天然または非天然のアミノ酸の、任意のオリゴマーであり、ここで該アミノ酸には、α-アミノ酸、β-アミノ酸、γ-アミノ酸、L-アミノ酸、D-アミノ酸、およびそれらの組み合わせが含まれる。好ましい態様において、ペプチドは、アミノ酸約2~約30個(たとえば、約2~約5、約2~約10、約5~約10、約2~約17、約5~約17、約10~約17、約5~約30、約10~約30、または約18~約30個)の長さである。典型的には、ペプチドはアミノ酸10~17個の長さである。少なくとも1つの態様において、ペプチドは、α-アミノ酸およびβ-アミノ酸の混合物を含み、好ましくは、α3/β1というパターンでの混合物を含む。
【0081】
アミノ酸とは、本明細書において使用される場合、任意の天然または非天然のアミノ酸であってよく、これには、α-アミノ酸、β-アミノ酸、γ-アミノ酸、L-アミノ酸、およびD-アミノ酸が含まれる。アミノ酸側鎖とは、そのようなアミノ酸の、任意のアミノ酸側鎖であってよい。
【0082】
本発明におけるアミノ酸にはまた、天然または非天然のアミノ酸のアナログも含まれる。アミノ酸アナログとは、アルキル、シクロアルキル、アリール、シクロアリール、アルケニル、もしくはアルキニルからなる非天然側鎖を有するα-アミノ酸であるか;またはアルキル、シクロアルキル、アリール、シクロアリール、アルケニル、もしくはアルキニルからなる側鎖を有するβ3-アミノ酸である。本明細書において使用される場合、アミノ酸アナログとはまた、天然のコイルドコイル配列と比較して機能を喪失することなく、コイルドコイル中のアミノ酸残基と置換され得る、天然または非天然のアミノ酸をも指す。適切なアミノ酸アナログ/置換には、その全体が参照により本明細書に組み入れられるBetts & Russell, "Amino Acid Properties and Consequences of Substitutions", Bioinformatics for Geneticists 289-316 (Michael R. Barnes & Ian C. Gray eds. 2003)に記載されている、天然のアミノ酸置換が含まれるとともに、以下に記載の非天然の置換(全てSigma Aldrichより利用可能)も含まれ、かつ、その全体が参照により本明細書に組み入れられるGfeller et al., "SwissSidechain: A Molecular and Structural Database of Non-Natural Sidechains", Nucl. Acids Res. 41:D327-D332 (2013)に記載されている、非天然の置換も含まれる。当業者は理解するであろうが、以下の表におけるアナログであって、N末端および/またはC末端に保護基を有するとして列挙されるアナログは、隣接する残基へのコンジュゲーション中に、脱保護され得る。
【0083】
いくつかのアミノ酸残基についての置換の非限定的な例には、以下に示すものが含まれるが、これらに限定されない。
【0084】
本発明におけるアミノ酸はまた、任意で修飾され得る。修飾には、たとえば以下が含まれる:リン酸化(たとえば、ホスホセリン、ホスホチロシン、ホスホスレオニン)、ハロゲン化(特に3~9個のハロゲンを用いるもの)(好ましくはフッ素を用いるもの、たとえば、ヘキサフルオロロイシン、ヘキサフルオロバリン)、メチル化(たとえば、アスパラギン酸メチルエステル、グルタミン酸メチルエステル、メチルリジン、ジメチルリジン、トリメチルリジン、ジメチルアルギニン、メチルアルギニン、メチルトリプトファン)、およびアセチル化(たとえばアセチルリジン)。
【0085】
本発明の少なくとも1つの態様において、少なくともg0、a1、b1、c1、d1、e1、f1、g1、a2、b2、c2、d2、e2、f2、g2、およびa3が第1のコイルに存在し、かつ少なくともd'1、e'1、f'1、g'1、a'2、b'2、c'2、d'2、e'2、f'2、g'2、a'3、b'3、c'3、d'3、およびe'3が第2のコイルに存在する。
【0086】
本発明の少なくとも1つの態様において、残基はそれぞれ、独立して、以下の式:
を有し、
ここで:
R
1a、R
1b、R
1c、およびR
1dはそれぞれ、独立して、水素、アミノ酸側鎖、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、ヘテロシクリル、アリール、ヘテロアリール、またはアリールアルキルであり、アミノ酸側鎖、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、ヘテロシクリル、アリール、ヘテロアリール、およびアリールアルキルはそれぞれ、H、アルキル、アルケニル、アルキニル、アジド、-OR
5、または-SR
5と、任意で置換されることが可能であり;かつ、リンカーが残基に共有結合している場合、該リンカーは、R
1a、R
1b、R
1c、およびR
1dのうちの1つに結合しているか、またはそれらのうちの1つと置き換えられており;
R
4はそれぞれ、独立して、水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、ヘテロシクリル、アリール、ヘテロアリール、またはアリールアルキルであり;かつ
R
5はそれぞれ、独立して、H、-PG(ここでPGは保護基である)、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロシクリル、およびアリールアルキルからなる群より選択される。
【0087】
当業者には一見して明らかであろう点であるが、本発明におけるリンカーは、コイルドコイル構造体の一方のコイルにおけるアミノ酸残基/アナログと、コイルドコイル構造体の他方のコイルにおけるアミノ酸残基/アナログとの間の、共有結合架橋を生成する。当業者には明らかであろう点であるが、連結される2つの残基の間の適切な空間的距離が維持されるのであれば、事実上、いかなる共有結合リンカーも使用可能である。空間的距離とは、本明細書において使用される場合、固体の状態において、静的分子モデリングプログラム(たとえばUCSF Chimera)を用いて決定される、および/またはマクロサイクル結晶構造を評価することによって決定される、コイルドコイル構造体における原子間の距離を指す。残基ペアg0-g'2、g1-g'1、g2-g'0、e1-e'3、e2-e'2、およびe3-e'1の間のリンカーに関し、適切な空間的距離は10~25 Å(10~11、10~12、10~13、10~14、10~15、10~16、10~17、10~18、10~19、10~20、10~21、10~22、10~23、10~24、11~12、11~13、11~14、11~15、11~16、11~17、11~18、11~19、11~20、11~21、11~22、11~23、11~24、11~25、12~13、12~14、12~15、12~16、12~17、12~18、12~19、12~20、12~21、12~22、12~23、12~24、12~25、13~14、13~15、13~16、13~17、13~18、13~19、13~20、13~21、13~22、13~23、13~24、13~25、14~15、14~16、14~17、14~18、14~19、14~20、14~21、14~22、14~23、14~24、14~25、15~16、15~17、15~18、15~19、15~20、15~21、15~22、15~23、15~24、15~25、16~17、16~18、16~19、16~20、16~21、16~22、16~23、16~24、16~25、17~18、17~19、17~20、17~21、17~22、17~23、17~24、17~25、18~19、18~20、18~21、18~22、18~23、18~24、18~25、19~20、19~21、19~22、19~23、19~24、19~25、20~21、20~22、20~23、20~24、20~25、21~22、21~23、21~24、21~25、22~23、22~24、22~25、23~24、23~25、または24~25 Å)である。少なくとも1つの態様において、該空間的距離は11~17 Åである。少なくとも1つの態様において、該空間的距離は15~20 Åである。残基ペアa1-d'3、a2-d'2、a3-d'1、d1-a'3、d2-a'2、およびd3-a'1の間のリンカーに関し、適切な空間的距離は5~15 Å(5~6、5~7、5~8、5~9、5~10、5~11、5~12、5~13、5~14、6~7、6~8、6~9、6~10、6~11、6~12、6~13、6~14、6~15、7~8、7~9、7~10、7~11、7~12、7~13、7~14、7~15、8~9、8~10、8~11、8~12、8~13、8~14、8~15、9~10、9~11、9~12、9~13、9~14、9~15、10~11、10~12、10~13、10~14、10~15、11~12、11~13、11~14、11~15、12~13、12~14、12~15、13~14、13~15、または14~15 Å)である。少なくとも1つの態様において、該空間的距離は6~8 Åである。少なくとも1つの態様において、該空間的距離は5~10 Åである。適切なリンカーの結合を容易にするためにアミノ酸残基を修飾する方法(アミノ酸側鎖をリンカーで置き換えることが含まれる)もまた、当業者には明らかであろう。
【0088】
本発明の少なくとも1つの態様において、残基ペアg0-g'2、g1-g'1、g2-g'0、e1-e'3、e2-e'2、およびe3-e'1の間の任意のリンカーの長さは、該ペアにおける各残基のCα位の間の空間的距離が10~25 Åとなるようなものであり;かつ、残基ペアa1-d'3、a2-d'2、a3-d'1、d1-a'3、d2-a'2、およびd3-a'1の間の任意のリンカーの長さは、該ペアにおける各残基のCα位の間の空間的距離が5~15 Åとなるようなものである。
【0089】
1つの好ましい態様において、2つのアミノ酸/アナログは、アルキレン、アルケニレン、アリーレン、ヘテロアリーレン、エーテル、チオエーテル、アミド、マレイミド、エステル、ジスルフィド、ジセレニド、-O-、-S-、-Se-、およびそれらの任意の組み合わせを用いて、互いに共有結合し得る。当業者には明らかであろう点であるが、リンカーは対称的であってよく、または非対称的であってもよい。
【0090】
残基ペアg
0-g'
2、g
1-g'
1、g
2-g'
0、e
1-e'
3、e
2-e'
2、およびe
3-e'
1の間のリンカーの適切な例には以下が含まれるが、これらに限定されない:式-Z
n-を有するリンカーであって、nが、1から25までの数(1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25か、または、1~25のうちの任意の範囲、これにはたとえば、1~2、1~3、1~4、1~5、1~6、1~7、1~8、1~9、1~10、1~11、1~12、1~13、1~14、1~15、1~16、1~17、1~18、1~19、1~20、1~21、1~22、1~23、1~24、1~25、2~3、2~4、2~5、2~6、2~7、2~8、2~9、2~10、2~11、2~12、2~13、2~14、2~15、2~16、2~17、2~18、2~19、2~20、2~21、2~22、2~23、2~24、2~25、3~4、3~5、3~6、3~7、3~8、3~9、3~10、3~11、3~12、3~13、3~14、3~15、3~16、3~17、3~18、3~19、3~20、3~21、3~22、3~23、3~24、3~25、4~5、4~6、4~7、4~8、4~9、4~10、4~11、4~12、4~13、4~14、4~15、4~16、4~17、4~18、4~19、4~20、4~21、4~22、4~23、4~24、4~25、5~6、5~7、5~8、5~9、5~10、5~11、5~12、5~13、5~14、5~15、5~16、5~17、5~18、5~19、5~20、5~21、5~22、5~23、5~24、5~25、6~10、6~15、6~20、6~25、7~10、7~15、7~20、7~25、8~10、8~15、8~20、8~25、9~10、9~15、9~20、9~25、10~15、10~20、10~25、11~15、11~20、11~25、12~15、12~20、12~25、13~15、13~20、13~25、14~15、14~20、14~25、15~20、15~25、16~20、16~25、17~20、17~25、18~20、18~25、19~20、19~25、20~25、21~25、22~25、23~25、24~25が含まれる;少なくとも1つの態様において、nは5~25である)であり、かつZがそれぞれ、独立して、そのそれぞれの出現時に、アルキレン、アルケニレン、アリーレン、ヘテロアリーレン(特に、トリアゾール-ジイル、チアゾール-ジイル、オキサゾール-ジイル)、エーテル、アミド、エステル、マレイミド、チオエーテル、O、S、およびSeからなる群より選択される、リンカー。対称的なリンカーの適切な例には以下が含まれるが、これらに限定されない:
であって、ここで、
がそれぞれ、連結している残基/アナログにおけるCα炭素への接続点を示す、リンカー。
【0091】
本発明の少なくとも1つの態様において、残基ペアg
0-g'
2、g
1-g'
1、g
2-g'
0、e
1-e'
3、e
2-e'
2、およびe
3-e'
1のうちの少なくとも1つの間のリンカーは、
(a)
からなる群、
(b)
からなる群
より選択される式を有し;
ここで:
群(a)および群(b)におけるXは、O、S、CR
2、NR、またはP(好ましくは、O、S、CH
2またはNR)であり;
群(a)におけるX
1はそれぞれ、独立して、O、S、NH、またはNRであり;
群(b)におけるX
1はそれぞれ、独立して、O、S、C、CR、N、NH、またはNRであり;
群(a)および群(b)におけるRはそれぞれ、独立して、H、アルキル、またはアリールであり;かつ
群(a)および群(b)におけるYはそれぞれSであり;かつ
ここで、
はそれぞれ、連結している残基/アナログにおけるCα炭素への接続点を示す。
【0092】
当業者には一見して明らかであろう点であるが、本発明における逆平行コイルドコイル構造体はそれぞれ、1つのみから全てまでという範囲のうちのいずれかの数の、リンカーを含み得る。少なくとも1つの好ましい態様において、リンカーは1つだけ存在する。逆平行コイルドコイル構造体の少なくとも1つの態様において、g-g'ペアの間またはe-e'ペアの間の少なくとも1つのリンカーが存在し、かつ、a-d'ペアの間またはd-a'ペアの間の少なくとも1つのリンカーが存在する。典型的には、コイルドコイル構造体は、コイルドコイルのヘリシティを安定化させるのに必要な最小限の数のリンカーを含む。当業者には明らかであろう点であるが、この数は、未連結のコイルドコイルの全体的な安定性に応じて変化する。1つの好ましい態様において、リンカーは1つだけ存在する。1つの好ましい態様において、該1つだけのリンカーは、e-e'ペアの間のリンカーである。別の好ましい態様において、リンカーは2つだけ存在する。
【0093】
本発明の少なくとも1つの態様において、残基ペアg0-g'2、g1-g'1、g2-g'0、e1-e'3、e2-e'2、およびe3-e'1のうちの少なくとも1つの間のリンカーが存在する。
【0094】
本発明の少なくとも1つの態様において、残基ペアa1-d'3、a2-d'2、a3-d'1、d1-a'3、d2-a'2、およびd3-a'1のうちの少なくとも1つの間のリンカーが存在する。
【0095】
本発明の少なくとも1つの態様において、残基ペアa1-d'3、a2-d'2、a3-d'1、d1-a'3、d2-a'2、およびd3-a'1のうちの少なくとも1つの間のリンカーは、ジスルフィド、ジセレニド、C1-8アルキレン、C2-8アルケニレン、アリーレン、ヘテロアリーレン、トリアゾール-ジイル、およびチアゾール-ジイルからなる群より選択される。
【0096】
本発明の少なくとも1つの態様において、残基ペアa1-d'3、a2-d'2、a3-d'1、d1-a'3、d2-a'2、およびd3-a'1のうちの少なくとも1つの間のリンカーは、システイン残基もしくはホモシステイン残基由来のジスルフィド結合であるか、セレノシステイン残基由来のジセレニドであるか、アリルグリシン残基由来のアルキレンであるか、またはアリーレンリンカーである。
【0097】
少なくとも1つの態様において、X6とX'16との間に存在するリンカーがある。
【0098】
本発明の少なくとも1つの態様において、逆平行コイルドコイルは、以下の式III:
のものであり、
ここで:
点線はそれぞれ、独立して、任意のリンカーを表し、かつ
残基はそれぞれ、独立して、以下の式:
を有し、
ここで:
R
1a、R
1b、R
1c、およびR
1dはそれぞれ、独立して、水素、アミノ酸側鎖、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、ヘテロシクリル、アリール、ヘテロアリール、またはアリールアルキルであり、アミノ酸側鎖、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、ヘテロシクリル、アリール、ヘテロアリール、およびアリールアルキルはそれぞれ、H、アルキル、アルケニル、アルキニル、アジド、-OR
5、または-SR
5と、任意で置換されることが可能であり;かつ、リンカーが残基に共有結合している場合、該リンカーは、R
1a、R
1b、R
1c、およびR
1dのうちの1つに結合しているか、またはそれらのうちの1つと置き換えられており;
R
4はそれぞれ、独立して、水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、ヘテロシクリル、アリール、ヘテロアリール、またはアリールアルキルであり;かつ
R
5はそれぞれ、独立して、H、-PG(ここでPGは保護基である)、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロシクリル、およびアリールアルキルからなる群より選択される。
【0099】
本発明の少なくとも1つの態様においては、以下の条件のうちの少なくとも1つが満たされている:
(A) 少なくとも1つのa、a'、d、またはd'残基において、(i) R1aおよびR1cのうちの一方は、システイン、ホモシステイン、セレノシステイン、ロイシン、イソロイシン、ヘキサフルオロロイシン、バリン、ヘキサフルオロバリン、アリルグリシン、スレオニン、および前述の各残基のアナログからなる群より選択される修飾アミノ酸または未修飾アミノ酸の側鎖であり、かつ(ii) R1b、R1d、ならびに、R1aおよびR1cのうちの他方は、それぞれ、独立して、水素、C1-3アルキル、またはC2-3アルケニルであること;
(B) 少なくとも1つのe、e'、g、またはg'残基において、(i) R1aおよびR1cのうちの一方はアミノ酸側鎖であり、かつ(ii) R1b、R1d、ならびに、R1aおよびR1cのうちの他方は、それぞれ、独立して、水素またはC1-3アルキルであること。
【0100】
本発明の少なくとも1つの態様において、逆平行コイルドコイルは、以下の式:
を有し、
ここで点線はそれぞれ、独立して、任意のリンカーである。
【0101】
本発明の少なくとも1つの態様において、マクロ構造体は、CHD-1(たとえばCHDSos-1)、CHD-2(たとえばCHDSos-2)、CHD-3(たとえばCHDSos-3)、CHD-4(たとえばCHDSos-4)、またはCHD-5(たとえばCHDSos-5)である。本発明の少なくとも1つの態様において、マクロ構造体はCHD-2(CHDSos-2)またはCHD-5(CHDSos-5)である。
【0102】
保護基は主に、官能基の反応性を保護または遮蔽するように機能する。アミン基を保護するのに適切な保護基は当技術分野において周知であり、これには、その全体が参照により本明細書に組み入れられるTHEODORA W. GREENE & PETER G.M. WUTS, "PROTECTIVE GROUPS IN ORGANIC SYNTHESIS", 494-615 (1999)に記載されるように、カルバマート、アミド、N-アルキルアミンおよびN-アリールアミン、イミン誘導体、エナミン誘導体、ならびにN-ヘテロ原子誘導体が含まれるが、これらに限定されない。本発明のこの局面および全ての局面について適切な保護基には、たとえば、tert-ブチルオキシカルボニル(「Boc」)、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル(「Fmoc」)、カルボベンジルオキシ(「Cbz」)、およびトリチルが含まれる。アルコールを保護するのに適切な保護基もまた、当技術分野において周知である。アルコールのための適切な保護基には、シリルエーテル、エステル、およびアルキルエーテル/アリールエーテルが含まれるが、これらに限定されない。チオール基を保護するのに適切な保護基もまた、当技術分野において周知である。チオールのための適切な保護基には、アリールチオエーテル/アルキルチオエーテルおよびジスルフィドが含まれるが、これらに限定されない。当業者には明らかであろう点であるが、本明細書に記載される方法を実施する際に、Asn、Asp、Gln、Glu、Cys、Ser、His、Lys、Arg、Trp、またはThrのアミノ酸側鎖は、典型的には保護することが必要であろう。これらのアミノ酸側鎖を保護するのに適切な保護基もまた、当技術分野において周知である。官能基を保護および脱保護する方法は、選択された保護基に応じて変化する;しかしながら、そのような方法は当技術分野において周知であり、かつ、その全体が参照により本明細書に組み入れられるTHEODORA W. GREENE & PETER G.M. WUTS, "PROTECTIVE GROUPS IN ORGANIC SYNTHESIS", 372-450および494-615 (1999)に記載されている。
【0103】
本明細書において使用される場合、「タグ」には、本発明の化合物の、検出、定量、分離、および/または精製を容易にする、任意の標識モエティが含まれる。適切なタグには、精製タグ、放射性標識または蛍光標識、および酵素タグが含まれる。
【0104】
精製タグ、これはたとえば、ポリヒスチジン(His6-)、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST-)、またはマルトース結合タンパク質(MBP-)などであるが、これらは、化合物の精製または分離を支援することが可能である一方で、後で除去することが可能である、すなわち、回収の後で、化合物から切断することが可能である。精製タグの除去を容易にするために、プロテアーゼ特異的な切断部位が使用され得る。切断された精製タグを除去するために、所望の産物はさらに精製され得る。
【0105】
他の適切なタグには放射性標識が含まれ、これはたとえば、125I、131I、111In、または99TCなどである。化合物を放射性標識する方法は当技術分野において公知であり、かつ、その全体が参照により本明細書に組み入れられるSrinivasanらの米国特許第5,830,431号に記載されている。放射活性は、シンチレーションカウンターまたはオートラジオグラフィーを用いて、検出および定量がなされる。あるいは、化合物を蛍光タグとコンジュゲートさせることも可能である。適切な蛍光タグには、キレート(ユーロピウムキレート)、フルオレセインおよびその誘導体、ローダミンおよびその誘導体、ダンシル、リサミン、フィコエリスリン、ならびにテキサスレッドが含まれるが、これらに限定されない。蛍光標識は、"CURRENT PROTOCOLS IN IMMUNOLOGY" (Coligen et al. eds., 1991)に開示されている技術を用いて、化合物とコンジュゲートさせることが可能であり、該文献はその全体が参照により本明細書に組み入れられる。蛍光は、フルオロメーターを用いて検出および定量が可能である。
【0106】
酵素タグは一般的に、発色性基質の化学的変化を触媒し、該変化は、さまざまな技術を用いて測定可能である。たとえば、酵素は基質における色の変化を触媒し得、該変化は、分光光度法によって測定可能である。あるいは酵素は、基質の蛍光または化学発光を変化させ得る。適切な酵素タグの例には以下が含まれる:ルシフェラーゼ(たとえば、ホタルルシフェラーゼおよび細菌ルシフェラーゼ;たとえば、その全体が参照により本明細書に組み入れられるWengらの米国特許第4,737,456号を参照されたい)、ルシフェリン、2,3-ジヒドロフタラジンジオン、リンゴ酸デヒドロゲナーゼ、ウレアーゼ、ペルオキシダーゼ(たとえば西洋ワサビペルオキシダーゼ)、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、グルコアミラーゼ、リゾチーム、サッカライドオキシダーゼ(たとえば、グルコースオキシダーゼ、ガラクトースオキシダーゼ、およびグルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ)、複素環オキシダーゼ(たとえば、ウリカーゼおよびキサンチンオキシダーゼ)、ラクトペルオキシダーゼ、ミクロペルオキシダーゼ等。タンパク質およびペプチドと、酵素とをコンジュゲートするための技術は、その全体が参照により本明細書に組み入れられるO'Sullivan et al., "Methods for the Preparation of Enzyme - Antibody Conjugates for Use in Enzyme Immunoassay", METHODS IN ENZYMOLOGY 147-66 (Langone et al. eds., 1981)に記載されている。
【0107】
本発明におけるターゲティングモエティは、(i) 化合物の細胞内取り込みを促進するように、(ii) ある特定の細胞型もしくは組織型を化合物が指向するように(たとえば、シグナルペプチド配列)、または(iii) 細胞内取り込みの後で、ある特定の細胞内局在化を化合物が指向するように(たとえば、輸送ペプチド配列)、機能する。
【0108】
本発明の化合物の細胞内取り込みを促進するには、ターゲティングモエティは細胞膜透過性ペプチド(CPP)であり得る。CPPは、エネルギーに非依存性であるように見える経路によって、真核細胞の形質膜を超えて移動するものであり、かつCPPは、それ自身よりも数倍大きい分子量を有する高分子であって抗体、ペプチド、タンパク質、および核酸を含めた高分子の細胞内送達に、成功裏に使用されている。一般的に使用されるいくつかのCPPには、ポリアルギニン、トランスポータント(transportant)、プロタミン、マウロカルシン(maurocalcine)、およびM918が含まれるが、これらは、本発明において使用するのに適切なターゲティングモエティであり、かつ当技術分野において周知である(その全体が参照により本明細書に組み入れられるStewart et al., "Cell-Penetrating Peptides as Delivery Vehicles for Biology and Medicine", Organic Biomolecular Chem. 6:2242-55 (2008)を参照されたい)。さらに、CPPを作製する方法は、その全体が参照により本明細書に組み入れられるHallbrinkらの米国特許出願公開第20080234183号に記載されている。
【0109】
化合物の細胞内取り込みを増進するのに有用な、別の適切なターゲティングモエティは、その全体が参照により本明細書に組み入れられるLinらの米国特許第6,043,339号に開示されているような、「輸送能力を有する(importation competent)」シグナルペプチドである。輸送能力を有するシグナルペプチドは、一般的に、約10~約50個のアミノ酸残基 - 典型的には疎水性残基 - の長さであり、これは、細胞の外側から細胞の内側へと化合物が細胞膜を突き抜けて透過することを可能にする。輸送能力を有するシグナルペプチドの例示的なものには、カポジ線維芽細胞成長因子(Kaposi fibroblast growth factor)由来のシグナルペプチドが含まれる(その全体が参照により本明細書に組み入れられるLinらの米国特許第6,043,339号を参照されたい)。他の適切なペプチド配列は、SIGPEPデータベースから選択することが可能である(その全体が参照により本明細書に組み入れられるvon Heijne G., "SIGPEP: A Sequence Database for Secretory Signal Peptides", Protein Seq. Data Anal. 1(1):41-42 (1987)を参照されたい)。
【0110】
別の適切なターゲティングモエティは、ある特定の組織型または細胞型を本発明の化合物が指向することを可能にする、シグナルペプチド配列である。シグナルペプチドは、少なくとも、リガンド結合タンパク質の一部分を含み得る。適切なリガンド結合タンパク質には、高親和性の抗体断片(たとえば、Fab、Fab'およびF(ab')2、単鎖Fv抗体断片)、ナノボディもしくはナノボディ断片、フルオロボディ(fluorobody)、またはアプタマーが含まれる。他のリガンド結合タンパク質には、ビオチン結合タンパク質、脂質結合タンパク質、ペリプラズム結合タンパク質、レクチン、血清アルブミン、酵素、ホスファート結合タンパク質およびスルファート結合タンパク質、イムノフィリン、メタロチオネイン、またはさまざまな他の受容体が含まれる。細胞特異的な指向化に関し、シグナルペプチドは、好ましくは、細胞特異的膜受容体のリガンド結合ドメインである。したがって、修飾された化合物が静脈内に送達された場合、あるいは血中またはリンパ中に導入された場合、該化合物は標的細胞に吸着し、そして標的細胞は、該化合物を内部移行させる。たとえば、標的細胞ががん細胞である場合、化合物は、その全体が参照により本明細書に組み入れられるTaylorらの米国特許第6,572,856号に開示されているように、抗C3B(I)抗体とコンジュゲートされ得る。あるいは化合物は、その全体が参照により本明細書に組み入れられるMoroの米国特許第6,514,685号に開示されているように、αフェトプロテイン受容体とコンジュゲートされてよく、または化合物は、その全体が参照により本明細書に組み入れられるHosokawaの米国特許第5,837,845号に開示されているように、モノクローナルGAH抗体とコンジュゲートされてもよい。心臓細胞へと化合物を指向させるために、化合物は、以下を認識する抗体とコンジュゲートされ得る:エラスチンミクロフィブリルインターフェイサー(elastin microfibril interfacer)(EMILIN2)(その全体が参照により本明細書に組み入れられるVan Hoof et al., "Identification of Cell Surface for Antibody-Based Selection of Human Embryonic Stem Cell-Derived Cardiomyocytes", J. Proteom. Res. 9:1610-18 (2010))、心筋型トロポニンI、コネキシン43、または当技術分野において公知の任意の心臓細胞表面膜受容体。肝臓細胞へと化合物を指向させるために、肝細胞に特異的なアシアロ糖タンパク質受容体に対して特異的であるリガンドドメインを、シグナルペプチドは含み得る。そのようなキメラタンパク質およびキメラペプチドを調製する方法は、その全体が参照により本明細書に組み入れられるHeartleinらの米国特許第5,817,789号に記載されている。
【0111】
別の適切なターゲティングモエティは、標的細胞または標的組織の内部に移行した際に、化合物の細胞内での局在化を指向する、輸送ペプチドである。たとえば、小胞体(ER)への輸送に関し、化合物はER輸送ペプチド配列とコンジュゲートされ得る。当技術分野においては多数のそのようなシグナルペプチドが公知であり、これにはシグナルペプチド
が含まれる。他の適切なERシグナルペプチドには、N末端における小胞体ターゲティング配列であって、酵素である17β-ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ11型の小胞体ターゲティング配列が含まれ(その全体が参照により本明細書に組み入れられるHoriguchi et al., "Identification and Characterization of the ER/Lipid Droplet-Targeting Sequence in 17β-hydroxysteroid Dehydrogenase Type 11", Arch. Biochem. Biophys. 479(2):121-30 (2008))、または、その全体が参照により本明細書に組み入れられるReedらの米国特許出願公開第20080250515号に開示される、ERシグナルペプチド(ERシグナルペプチドをコードする核酸配列が含まれる)の任意のものが含まれる。さらに、本発明の化合物はER保留シグナルを含み得、これはたとえば、ER保留シグナルKEDL(SEQ ID NO:32)などである。化合物をERに局在化させるための輸送ペプチドが組み込まれるように、本発明の化合物を修飾する方法は、その全体が参照により本明細書に組み入れられるReedらの米国特許出願公開第20080250515号に記載されるように、実施され得る。核への輸送に関し、本発明の化合物は核局在化輸送シグナルを含み得る。適切な核輸送ペプチド配列は当技術分野において公知であり、これには核輸送ペプチドPPKKKRKV(SEQ ID NO:33)が含まれる。他の核局在化輸送シグナルには、たとえば、その全体が参照により本明細書に組み入れられるLinらの米国特許第6,043,339号に開示されているような、酸性線維芽細胞成長因子の核局在化配列、および転写因子NF-KB p50の核局在化配列が含まれる。当技術分野において公知の、他の核局在化ペプチド配列もまた、本発明の化合物において使用するのに適切である。
【0112】
ミトコンドリアへと指向させるのに適切な輸送ペプチド配列には、
が含まれる。本発明の化合物がミトコンドリアを選択的に指向するために適切な、他の適切な輸送ペプチド配列は、その全体が参照により本明細書に組み入れられるWipfの米国特許出願公開第20070161544号に開示されている。
【0113】
本発明の化合物の、いくつかの少なくともいくつかの態様において、PGは、独立して、そのそれぞれの出現時に、アミンを保護するための保護基、チオールを保護するための保護基、およびカルボン酸を保護するための保護基からなる群より選択される。
【0114】
本発明の別の局面は、本明細書に記載されるマクロ構造体の任意のものと、薬学的に許容されるビヒクルとを含む、薬学的組成物に関連する。許容される薬学的ビヒクルには、溶液、懸濁液、乳濁液、賦形剤、粉末、または安定剤が含まれる。担体は、所望の送達様式にとって適切なものであるべきである。
【0115】
加えて、本発明の薬学的組成物は、投与様式および剤形の性質に応じて、薬学的に許容される以下のものの1種または複数種をさらに含み得る:希釈剤、アジュバント、賦形剤、またはビヒクル、たとえば、保存剤、充填剤、崩壊剤、湿潤剤、乳化剤、懸濁化剤、甘味剤、香味剤、芳香剤、抗細菌剤、抗真菌剤、滑沢剤、および分散剤(dispensing agent)など。懸濁化剤の例には、エトキシル化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビトールおよびポリオキシエチレンソルビタンエステル、微結晶セルロース、アルミニウムメタヒドロキシド、ベントナイト、寒天、ならびにトラガカント、またはこれらの物質の混合物が含まれる。さまざまな抗細菌剤および抗真菌剤、たとえば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸等によって、微生物の作用の防止が確実なものとなり得る。等張剤、たとえば、糖、塩化ナトリウム等を含めることも、望ましいことであり得る。注入可能な剤形の吸収の延長は、吸収を遅らせる作用物質、たとえばモノステアリン酸アルミニウム(aluminum monosterate)およびゼラチンなどを使用することによってもたらされ得る。適切な担体、希釈剤、溶媒、またはビヒクルの例には、水、エタノール、ポリオール、それらの適切な混合物、植物油(たとえばオリーブ油など)、および注入可能な有機エステル、たとえばオレイン酸エチルなどが含まれる。賦形剤の例には、ラクトース、乳糖、クエン酸ナトリウム、炭酸カルシウム、およびリン酸二カルシウムが含まれる。崩壊剤の例には、デンプン、アルギン酸、およびある種のケイ酸錯体が含まれる。滑沢剤の例には、ステアリン酸マグネシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、タルクとともに、高分子量ポリエチレングリコールが含まれる。
【0116】
本発明のさらなる別の局面は、細胞においてRasシグナル伝達を阻害する方法に関連する。この方法は、細胞においてRasシグナル伝達を阻害するのに有効な条件下で、細胞を、本明細書に記載されるマクロ構造体と接触させることを伴う。
【0117】
「阻害する(inhibit)」または「阻害する(inhibiting)」との用語は、Rasシグナル伝達の阻害に適用される場合、シグナル伝達を抑制すること、減少させること、低減させること、または低下させることを意味する。阻害は部分的であってよく、または完全であってもよい。少なくとも1つの態様において、阻害には、RasへのGTPの結合を防止すること、または遅延させることが含まれる。
【0118】
適切な細胞には、後述するものが含まれる。
【0119】
少なくとも1つの態様において、阻害は対象において実施され、かつ接触には、後述するような対象に、化合物を投与することが含まれる。適切な対象には、後述するものが含まれる。
【0120】
本発明の別の局面は、Rasシグナル伝達によって媒介される異常を対象において処置する方法である。この方法は、対象において異常を処置するのに有効な条件下で、本明細書に記載されるマクロ構造体または薬学的製剤を対象に投与することを伴う。
【0121】
Rasシグナル伝達によって媒介される異常とは、少なくとも部分的には、Ras活性化の亢進によって引き起こされる異常である。少なくとも1つの態様において、Ras活性化の亢進は、GTPのRasへの結合の、増大および/または延長に起因する。少なくとも1つの態様において、Ras活性化の亢進は、GTPからGDPへの、内在性のより迅速な変換(すなわち、グアノシンヌクレオチド交換因子に依存しない変換)に起因する。適している異常には、後述する細胞増殖性異常、分化異常、および新生物性病態が含まれる。少なくとも1つの態様において、異常は、変異Rasタンパク質によって媒介される。
【0122】
「処置」または「処置する」との用語は、疾患または異常の、1種または複数種の症状が、改善されるかあるいは有益に変化する、任意の様式を意味する。処置にはまた、本明細書の組成物の任意の薬学的使用も包含される。
【0123】
本発明の別の局面は、がんおよび新生物性病態を処置するために、本明細書に記載されるマクロ構造体を使用する方法に関連する。本明細書において使用される場合、「がん」、「過剰増殖性」、および「新生物性」との用語は、自律的増殖のための能力を有する細胞を指し、これはすなわち、急速な細胞増殖によって特徴付けられる異常な状況または状態である。過剰増殖性の病状および新生物性の病状は、病的として、すなわち、病的状態を特徴付けるかもしくはそれを構成するものとして、分類され得、または過剰増殖性の病状および新生物性の病状は、非病的として、すなわち、正常からの逸脱であるが病的状態には関連しないものとして、分類され得る。該用語には、組織病理学上の型や浸潤性のステージにかかわらず、がん性の増殖もしくは発がんプロセス、転移組織、または悪性転化した細胞、組織、もしくは器官の、全ての型が含まれることが意図される。転移性腫瘍は、多数の原発腫瘍型から生じ得、乳房起源、肺起源、肝臓起源、結腸起源、および卵巣起源のものが含まれるが、これらに限定されない。「病的な過剰増殖性」の細胞は、悪性腫瘍の増殖によって特徴付けられる病状において生じる。非病的な過剰増殖性の細胞の例には、創傷の修復に関連する細胞増殖が含まれる。細胞増殖性異常および/または分化異常の例にはがんが含まれ、これはたとえば、癌腫、肉腫、または転移性の異常などである。いくつかの態様において、化合物は、乳がん、卵巣がん、結腸がん、膵臓がん、膀胱がん、肺がんや、そのようながんの転移等を制御するための、新規な治療剤である。
【0124】
適切な対象には、後述するものが含まれる。
【0125】
がんまたは新生物性病態の例には以下が含まれるが、これらに限定されない:線維肉腫、筋肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨原性肉腫、脊索腫、血管肉腫、内皮肉腫、リンパ管肉腫、リンパ管内皮肉腫、滑膜腫、中皮腫、ユーイング腫瘍、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、胃がん、食道がん、直腸がん(直腸腺癌が含まれる)、膵臓がん、子宮内膜癌、唾液腺癌、口腔癌、卵巣がん、卵巣癌、前立腺がん、子宮がん、頭頸部のがん、皮膚がん、脳のがん、扁平上皮癌、脂腺癌、乳頭状癌、乳頭状腺癌、嚢胞腺癌、髄様癌、気管支原性癌、腎細胞癌、ヘパトーマ、胆管癌、絨毛癌、精上皮腫、胎児性癌、ウィルムス腫瘍、子宮頸がん、精巣がん、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、肺腺癌、膀胱癌、上皮癌、神経膠腫、星細胞腫、髄芽腫、頭蓋咽頭腫、上衣腫、松果体腫、血管芽腫、聴神経腫、乏突起神経膠腫、髄膜腫、黒色腫、神経芽腫、網膜芽細胞腫、白血病、リンパ腫、およびカポジ肉腫。
【0126】
増殖性異常の例には、造血器の新生物性異常が含まれる。本明細書において使用される場合、「造血器の新生物性異常」との用語には、造血系起源である過形成性/新生物性の細胞に関連する疾患が含まれ、これはたとえば、骨髄系の細胞系列、リンパ系の細胞系列、もしくは赤血球系の細胞系列から、またはそれらの前駆細胞から生じる、過形成性/新生物性の細胞に関連する疾患である。好ましくは疾患は、低分化急性白血病から、たとえば、赤芽球性白血病および急性巨核芽球性白血病などから生じるものである。さらなる例示的な骨髄系の異常には以下が含まれるが、これらに限定されない:形質細胞骨髄腫、急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia)(AML)、急性前骨髄性白血病(APML)、急性骨髄性白血病(acute myelogenous leukemia)(AL)、および慢性骨髄性白血病(CL)(その全体が参照により本明細書に組み入れられるVaickus et al., "Immune Markers in Hematologic Malignancies", Crit. Rev. Oncol. Hemotol. 11 :267-97 (1991)にレビューされている)。リンパ性の悪性病変には、急性リンパ芽球性白血病(ALL)であってB細胞系列ALLおよびT細胞系列ALLを含めたALL、慢性リンパ性白血病(CLL)、前リンパ球性白血病(PLL)、ヘアリー細胞白血病(HLL)、ならびにワルデンシュトレームマクログロブリン血症(WM)が含まれるが、これらに限定されない。悪性リンパ腫のさらなる型には、非ホジキンリンパ腫およびそのバリアント、末梢T細胞リンパ腫、成人T細胞白血病/リンパ腫(ATL)、皮膚T細胞リンパ腫(CTCL)、大顆粒リンパ球性白血病(LGF)、ホジキン病、およびリード・シュテルンベルグ病が含まれるが、これらに限定されない。さらなる造血器の新生物性異常には、慢性骨髄単球性白血病(CMML)が含まれる。
【0127】
乳房の細胞増殖性異常および/または分化異常の例には以下が含まれるが、これらに限定されない:増殖性の乳房疾患であって、たとえば、上皮過形成、硬化性腺症、および小乳管乳頭腫(small duct papilloma)などを含めた、増殖性の乳房疾患;腫瘍であって、たとえば、間質性腫瘍であってたとえば線維腺腫、葉状腫瘍、および肉腫などの間質性腫瘍、ならびに、上皮性腫瘍であってたとえば大乳管乳頭腫(large duct papilloma)などの上皮性腫瘍などの、腫瘍;乳癌であって、上皮内癌(非浸潤性癌)であって上皮内乳管癌(パジェット病が含まれる)および上皮内小葉癌を含めた上皮内癌(非浸潤性癌)と、浸潤性(浸潤型)の癌であって浸潤性乳管癌、浸潤性小葉癌、髄様癌、コロイド癌(粘液癌)、管状癌、および浸潤性乳頭状癌、ならびにその他の悪性新生物が含まれるがこれらに限定されない浸潤性(浸潤型)の癌とを含めた、乳癌。男性の乳房における異常には、女性化乳房症および癌腫が含まれるが、これらに限定されない。
【0128】
肺の細胞増殖性異常および/または分化異常の例には以下が含まれるが、これらに限定されない:肺腺癌、腫瘍随伴症候群を含めた気管支原性癌、細気管支肺胞上皮癌、神経内分泌腫瘍であってたとえば気管支カルチノイドなどの神経内分泌腫瘍、その他の腫瘍、および転移性腫瘍;胸膜の病変であって、炎症性胸水貯留、非炎症性胸水貯留、気胸、ならびに、胸膜腫瘍であって孤立性線維性腫瘍(胸膜線維腫)および悪性中皮腫を含めた胸膜腫瘍を含めた、胸膜の病変。
【0129】
結腸の細胞増殖性異常および/または分化異常の例には、非新生物性ポリープ、腺腫、家族性症候群、大腸からの発がん、大腸癌、およびカルチノイド腫瘍が含まれるが、これらに限定されない。
【0130】
肝臓の細胞増殖性異常および/または分化異常の例には、結節性過形成、腺腫、ならびに悪性腫瘍であって肝臓の原発性癌腫および転移性腫瘍を含めた悪性腫瘍が含まれるが、これらに限定されない。
【0131】
卵巣の細胞増殖性異常および/または分化異常の例には以下が含まれるが、これらに限定されない:卵巣腫瘍、これはたとえば、体腔上皮の腫瘍、漿液性腫瘍、粘液性腫瘍、類内膜腫瘍、明細胞腺癌、嚢胞腺線維腫、ブレンナー腫瘍、表層上皮性腫瘍など;胚細胞腫瘍、これはたとえば、成熟(良性)奇形腫、単胚葉性奇形腫、未成熟悪性奇形腫、未分化胚細胞腫、内胚葉洞腫瘍、絨毛癌など;性索間質性腫瘍、これはたとえば、顆粒膜・莢膜細胞腫瘍、莢膜細胞腫、線維腫、アンドロブラストーマ、ヒル細胞腫瘍(hill cell tumor)、および性腺芽腫など;ならびに転移性腫瘍、これはたとえば、クルケンベルグ腫瘍など。
【0132】
いくつかの態様において、本明細書に記載される化合物は、変異Rasタンパク質によって媒介されるがんを処置するために使用される。そのような変異にしばしば関連することが知られているがんには以下が含まれるが、これらに限定されない:非小細胞肺がん(腺癌)、大腸がん、膵臓がん、甲状腺がん(たとえば、濾胞がん、未分化乳頭状がん、または乳頭状がん;たとえば甲状腺癌)、精上皮腫、黒色腫、膀胱がん、肝臓がん、腎臓がん、骨髄異形成症候群、および急性骨髄性白血病。
【0133】
乳がん
いくつかの態様において、本発明は、本明細書に記載される化合物を投与することによって乳がんを処置する方法を、提供する。乳がんには以下が含まれる:浸潤性乳癌、これはたとえば、浸潤性乳管癌、浸潤性小葉癌、管状癌、浸潤性篩状癌、髄様癌、粘液癌および高粘液性の他の腫瘍、嚢胞腺癌、円柱細胞粘液癌、印環細胞癌、神経内分泌腫瘍(充実性神経内分泌癌、非定型カルチノイド腫瘍、小細胞/燕麦細胞癌、または大細胞神経内分泌癌が含まれる)、浸潤性乳頭状癌、浸潤性微小乳頭状癌、アポクリン癌、化生癌、純粋型上皮性化生癌、上皮・間葉系混合型化生癌、高脂質性癌、分泌性癌、オンコサイト癌、腺様嚢胞癌、腺房細胞癌、高グリコーゲン性明細胞癌、脂腺癌、炎症性癌、または両側乳癌など;間葉系腫瘍、これはたとえば、血管腫、血管腫症、血管周皮腫、偽血管腫様間質過形成、筋線維芽細胞腫、線維腫症(侵襲性)、炎症性筋線維芽細胞腫瘍、脂肪腫、血管脂肪腫、顆粒細胞腫、神経線維腫、シュワン腫、血管肉腫、脂肪肉腫、横紋筋肉腫、骨肉腫、平滑筋腫、または平滑筋肉腫など;筋上皮の病変、これはたとえば、筋上皮症(myoepitheliosis)、腺筋上皮腺症(adenomyo epithelial adenosis)、腺筋上皮腫、または悪性筋上皮腫など;線維上皮性腫瘍、これはたとえば、線維腺腫、葉状腫瘍、低悪性度乳管周囲間質性肉腫、または乳腺過誤腫など;ならびに、乳頭部の腫瘍、これはたとえば、乳頭部腺腫、汗管腫様腺腫、または乳頭部のパジェット病など。
【0134】
乳がんの処置は、任意のさらなる療法と併用されることでなされ得、これはたとえば、標準治療の一部をなす療法などである。本明細書に記載される化合物での処置の前、最中、または後に、手術手技、たとえば腫瘍摘出術または乳房切除術などが実施され得る。あるいは放射線療法が、本明細書に記載される化合物と併せて、乳がんを処置するために使用され得る。他の例においては、本明細書に記載される化合物は、第2の治療剤と組み合わせて投与される。そのような治療剤は化学療法剤であり得、これはたとえば、単独の薬剤か、または薬剤や療法の組み合わせなどである。たとえば、化学療法剤は、化学療法剤でのアジュバント療法とされ得、これはたとえば、CMF(シクロホスファミド、メトトレキサート、および5-フルオロウラシル);FACまたはCAF(5-フルオロウラシル、ドキソルビシン、シクロホスファミド);ACまたはCA(ドキソルビシンおよびシクロホスファミド);AC-タキソール(ACの後にパクリタキセル);TAC(ドセタキセル、ドキソルビシン、およびシクロホスファミド);FEC(5-フルオロウラシル、エピルビシン、およびシクロホスファミド);FECD(FECの後にドセタキセル);TC(ドセタキセルおよびシクロホスファミド)などでのアジュバント療法である。腫瘍の特徴(すなわちHER2/neuの状態)および再発のリスクに応じて、化学療法に加えてトラスツズマブもまた、レジメンに追加され得る。ホルモン療法もまた、化学療法の前、最中、または後に、好適であり得る。たとえば、タモキシフェンが投与され得、またはアロマターゼ阻害剤のカテゴリー内の化合物が投与され得、ここで該化合物には、アミノグルテチミド、アナストロゾール、エキセメスタン、ホルメスタン、レトロゾール、またはボロゾールが含まれるが、これらに限定されない。他の態様において、血管新生阻害剤が、乳がんを処置するための併用療法において使用され得る。血管新生阻害剤は抗VEGF剤であり得、これにはベバシズマブが含まれるが、これに限定されない。
【0135】
卵巣がん
いくつかの態様において、本明細書に記載される化合物は、卵巣がんを処置するために使用され得る。卵巣がんには以下が含まれる:卵巣腫瘍、これはたとえば、体腔上皮の腫瘍、漿液性腫瘍、粘液性腫瘍、類内膜腫瘍、明細胞腺癌、嚢胞腺線維腫、ブレンナー腫瘍、表層上皮性腫瘍など;胚細胞腫瘍、これはたとえば、成熟(良性)奇形腫、単胚葉性奇形腫、未成熟悪性奇形腫、未分化胚細胞腫、内胚葉洞腫瘍、絨毛癌など;性索間質性腫瘍、これはたとえば、顆粒膜・莢膜細胞腫瘍、莢膜細胞腫、線維腫、アンドロブラストーマ、ヒル細胞腫瘍(hill cell tumor)、および性腺芽腫など;ならびに転移性腫瘍、これはたとえば、クルケンベルグ(ukenberg)腫瘍など。
【0136】
本発明の化合物は、第2の療法、たとえば、標準治療の一部をなす療法などと、併せて投与され得る。手術、免疫療法、化学療法、ホルモン療法、放射線療法、またはそれらの組み合わせは、卵巣がんのために使用可能となっている、いくつかの好適な処置である。いくつかの好適な手術手技には、腫瘍減量術、ならびに、片側もしくは両側の卵巣摘除術、および/または片側もしくは両側の卵管摘除術が含まれる。
【0137】
使用され得る抗がん薬には、シクロホスファミド、エトポシド、アルトレタミン、およびイホスファミドが含まれる。卵巣腫瘍を縮小させるために、薬剤であるタモキシフェンを用いたホルモン療法が使用され得る。放射線療法は、外部照射放射線療法および/または小線源療法であり得る。
【0138】
前立腺がん
いくつかの態様において、本明細書に記載される化合物は、前立腺がんを処置するために使用され得る。前立腺がんには、腺癌および転移した腺癌が含まれる。本明細書に記載される化合物は、第2の療法、たとえば、標準治療の一部をなす療法などと、併せて投与され得る。前立腺がんの処置には、手術、放射線療法、高密度焦点式超音波(HIFU)療法、化学療法、凍結手術、ホルモン療法、またはそれらの任意の組み合わせが含まれ得る。手術には、前立腺摘除術、会陰式前立腺全摘除術、腹腔鏡下前立腺全摘除術、経尿道的前立腺切除術、または精巣摘除術が含まれ得る。放射線療法には、外部照射放射線療法および/または小線源療法が含まれ得る。ホルモン療法には、以下が含まれ得る:精巣摘除術、抗アンドロゲン剤、たとえば、フルタミド、ビカルタミド、ニルタミド、または酢酸シプロテロンなどの投与;副腎性アンドロゲンの産生、たとえばDHEAなどの産生を阻害する医薬、たとえばケトコナゾールおよびアミノグルテチミドなどの投与;ならびに、GnRHアンタゴニストまたはGnRHアゴニスト、たとえば、アバレリクス(Plenaxis(登録商標))、セトロレリクス(Cetrotide(登録商標))、ガニレリクス(Antagon(登録商標))、リュープロリド、ゴセレリン、トリプトレリン、またはブセレリンなどの投与。体内でアンドロゲン活性をブロックする薬剤である、抗アンドロゲン剤を用いた処置は、また別の利用可能な療法である。そのような薬剤には、フルタミド、ビカルタミド、およびニルタミドが含まれる。この療法は、典型的には、LHRHアナログの投与または精巣摘除術と組み合わせられて、複合アンドロゲン遮断療法(CAB)と呼ばれる。化学療法には、たとえばプレドニゾンなどのコルチコステロイドとともに、ドセタキセルを投与することが含まれるが、これらに限定されない。抗がん薬、これはたとえば、ドキソルビシン、エストラムスチン、エトポシド、ミトキサントロン、ビンブラスチン、パクリタキセル、カルボプラチンなどであるが、これらもまた、前立腺がんの増殖を遅らせるために、症状を軽減させるために、および生活の質を改善するために、投与され得る。追加の化合物、たとえばビスホスホネート薬などもまた、投与され得る。
【0139】
腎臓がん
いくつかの態様において、本明細書に記載される化合物は、腎臓がんを処置するために使用され得る。腎臓がんには、腎細胞癌、腎臓以外の原発新生物からの転移、腎リンパ腫、扁平上皮癌、傍糸球体腫瘍(レニノーマ)、移行上皮癌、血管筋脂肪腫、オンコサイトーマ、およびウィルムス腫瘍が含まれるが、これらに限定されない。本明細書に記載される化合物は、第2の療法、たとえば、標準治療の一部をなす療法などと、併せて投与され得る。腎臓がんのための処置には、手術、経皮療法、放射線療法、化学療法、ワクチン、または他の療法が含まれ得る。本明細書に記載される化合物と組み合わせて腎臓がんを処置するのに有用な手術手技には、腎摘除術が含まれ、これには、副腎の切除、後腹膜リンパ節の切除、および腫瘍の浸潤によって影響を受けている任意の他の周辺組織の切除が含まれ得る。経皮療法には、たとえば、画像誘導療法などが含まれ、これは、腫瘍のイメージングを行い、それに続いて、ラジオ波焼灼療法または凍結療法によって、腫瘍に標的を定めて破壊することを伴い得る。いくつかの例において、腎臓がんを処置するのに有用な、他の化学療法剤または医薬は、α-インターフェロン、インターロイキン-2、ベバシズマブ、ソラフェニブ、スニチニブ(sunitib)、テムシロリムス、または他のキナーゼ阻害剤であり得る。
【0140】
膵臓がん
いくつかの態様において、本発明は、本明細書に記載される化合物を投与することによって膵臓がんを処置する方法を提供し、該膵臓がんはたとえば、以下から選択される膵臓がんである:膵管における類上皮癌、および膵管における腺癌。膵臓がんの最も一般的な型は腺癌であり、これは膵管の内張りに生じる。膵臓がんのために使用可能となっている好適な処置には、手術、免疫療法、放射線療法、および化学療法が含まれる。手術による処置の好適な選択肢には、膵体尾部切除術または膵全摘術、および膵頭十二指腸切除術(ウィップル法)が含まれる。放射線療法、特に、体外にある機器によって照射を腫瘍に集束させる外照射は、膵臓がん患者にとって選択肢の1つであり得る。別の選択肢は、手術の最中に施される、術中電子線照射である。
【0141】
膵臓がん患者を処置するために、化学療法もまた使用され得る。適切な抗がん薬には、5-フルオロウラシル(5-FU)、マイトマイシン、イホスファミド、ドキソルビシン、ストレプトゾシン、クロロゾトシン、およびそれらの組み合わせが含まれるが、これらに限定されない。本発明によって提供される方法は、本発明のポリペプチドの投与によって、または、化合物の投与と、手術、放射線療法、もしくは化学療法との組み合わせによって、膵臓がん患者にとって有益な作用を提供し得る。
【0142】
結腸がん
いくつかの態様において、本明細書に記載される化合物は、結腸がんを処置するために使用され得、これには、非新生物性ポリープ、腺腫、家族性症候群、大腸からの発がん、大腸癌、結腸腺癌、およびカルチノイド腫瘍が含まれるが、これらに限定されない。本明細書に記載される化合物と併せて使用され得る、結腸がんのために使用可能となっている好適な処置には、手術、化学療法、放射線療法、または標的薬療法が含まれる。
【0143】
放射線療法には、外部照射放射線療法および/または小線源療法が含まれ得る。
【0144】
化学療法は、転移が進行する可能性を低下させるために、腫瘍サイズを縮小するために、または腫瘍の増殖を遅らせるために、使用され得る。化学療法は多くの場合、手術後に適用される(アジュバント療法)か、手術前に適用される(ネオアジュバント療法)か、または、手術が指示されない場合に一次療法として適用される(姑息療法)。たとえば、アジュバント化学療法の例示的なレジメンには、5-フルオロウラシルと、ロイコボリンと、オキサリプラチンの組み合わせ(FOLFOX)の注入投与が含まれる。ファーストラインの化学療法レジメンには、標的薬、たとえば、ベバシズマブ、セツキシマブ、もしくはパニツムマブなどと併用しての、5-フルオロウラシル(5-fiuorouracil)と、ロイコボリンと、オキサリプラチンとの組み合わせ(FOLFOX)の注入投与か、または、標的薬、たとえば、ベバシズマブ、セツキシマブ、もしくはパニツムマブなどと併用しての、5-フルオロウラシルと、ロイコボリンと、イリノテカンとの組み合わせ(FOLFIRI)の注入投与が含まれ得る。本明細書に記載される化合物と組み合わせて結腸がんを処置するのに有用であり得る他の化学療法剤は、ボルテゾミブ(Velcade(登録商標))、オブリメルセン(Genasense(登録商標)、G3139)、ゲフィチニブおよびエルロチニブ(Tarceva(登録商標))、ならびにトポテカン(Hycamtin(登録商標))である。
【0145】
肺がん
いくつかの態様は、本明細書に記載される化合物を用いて肺がんを処置するための方法を提供する。肺の細胞増殖性異常および/または分化異常の例には以下が含まれるが、これらに限定されない:腫瘍随伴症候群を含めた気管支原性癌、細気管支肺胞上皮癌、神経内分泌腫瘍であってたとえば気管支カルチノイドなどの神経内分泌腫瘍、その他の腫瘍、および転移性腫瘍;胸膜の病変であって、炎症性胸水貯留、非炎症性胸水貯留、気胸、ならびに、胸膜腫瘍であって孤立性線維性腫瘍(胸膜線維腫)および悪性中皮腫を含めた胸膜腫瘍を含めた、胸膜の病変。
【0146】
肺がんの最も一般的な型は非小細胞肺がん(SCLC)であり、これは肺がんのおよそ80~85%を占めており、かつこれは、扁平上皮癌、腺癌、および未分化大細胞癌に分けられる。たとえば小細胞肺癌などの、小細胞肺がんは、肺がんの15~20%を占める。肺がんの処置の選択肢には、手術、免疫療法、放射線療法、化学療法、光線力学的療法、またはそれらの組み合わせが含まれる。肺がんを処置するための手術の、いくつかの好適な選択肢は、区域切除もしくは楔状切除、肺葉切除術、または肺摘除術である。放射線療法は、外部照射放射線療法または小線源療法であり得る。本明細書に記載される化合物と組み合わせて肺がんを処置するために、化学療法において使用され得るいくつかの抗がん薬には、シスプラチン、カルボプラチン、パクリタキセル、ドセタキセル、ゲムシタビン、ビノレルビン、イリノテカン、エトポシド、ビンブラスチン、ゲフィチニブ、イホスファミド、メトトレキサート、またはそれらの組み合わせが含まれる。光線力学的療法(PDT)も、肺がん患者を処置するために使用され得る。本明細書に記載される方法は、化合物の投与によって、または化合物の投与と、手術、放射線療法、化学療法、光線力学的療法、もしくはそれらの組み合わせとの組み合わせによって、肺がん患者にとって有益な作用を提供し得る。
【0147】
肝臓の異常
肝臓の細胞増殖性異常および/または分化異常の例には、結節性過形成、腺腫、ならびに悪性腫瘍であって肝臓の原発性癌腫および転移性腫瘍を含めた悪性腫瘍が含まれるが、これらに限定されない。
【0148】
免疫増殖性異常
免疫増殖性異常(「免疫増殖性疾患」または「免疫増殖性新生物」としても知られる)とは、免疫系の異常であって、B細胞、T細胞、およびナチュラルキラー(K)細胞を含めた免疫系の主要な細胞の、異常な増殖によって特徴付けられる、または、免疫グロブリン(抗体としても知られる)の過剰な産生によって特徴付けられる、免疫系の異常である。そのような異常には、一般的なカテゴリーのリンパ増殖性の異常、高γグロブリン血症、およびパラプロテイン血症が含まれる。そのような異常の例には、X連鎖リンパ増殖性の異常、常染色体性リンパ増殖性の異常、高Ig症候群、重鎖病、およびクリオグロブリン血症が含まれるが、これらに限定されない。他の免疫増殖性異常は、以下のものであり得る:移植片対宿主病(GVHD);乾癬;移植片の移植拒絶に関連する免疫性異常;T細胞リンパ腫;T細胞急性リンパ芽球性白血病;精巣血管中心性T細胞リンパ腫(testicular angiocentric T cell lymphoma);良性リンパ球性血管炎;ならびに自己免疫疾患、これはたとえば、ループスエリテマトーデス、橋本甲状腺炎、原発性粘液水腫、グレーブス病、悪性貧血、自己免疫性萎縮性胃炎、アジソン病、インスリン依存型糖尿病、グッドパスチャー症候群、重症筋無力症、天疱瘡、クローン病、交感性眼炎、自己免疫性ブドウ膜炎、多発性硬化症、自己免疫性溶血性貧血、特発性血小板減少症、原発性胆汁性肝硬変、慢性活動性肝炎(chronic action hepatitis)、潰瘍性大腸炎、シェーグレン症候群、関節リウマチ、多発性筋炎、強皮症、および混合性結合組織病など。
【0149】
併用処置
1つの態様において、本明細書に記載される化合物は、アルキル化剤およびアルキル化類似剤(alkylating-like agent)と併せて、がんを処置するために使用され得る。そのような作用物質には、たとえば以下が含まれる:ナイトロジェンマスタード、これはたとえば、クロラムブシル、クロルメチン(chlormethme)、シクロホスファミド、イホスファミド、およびメルファランなど;ニトロソウレア、これはたとえば、カルムスチン、ホテムスチン、ロムスチン、およびストレプトゾシンなど;白金治療剤、これはたとえば、カルボプラチン、シスプラチン、オキサリプラチン、BBR3464、およびサトラプラチンなど;または他の作用物質であって、ブスルファン、ダカルバジン、プロカルバジン、テモゾロミド、チオテパ、トレオスルファン、もしくはウラムスチンが含まれるがこれらに限定されない、他の作用物質。
【0150】
別の態様において、本明細書に記載される化合物は、代謝拮抗剤である抗新生物剤と併せて使用され得る。たとえば、そのような抗新生物剤は葉酸であり得、これはたとえば、アミノプテリン、メトトレキサート、ペメトレキセド、またはラルチトレキセドなどである。あるいは、抗新生物剤はプリンであり得、これには、クラドリビン、クロファラビン、フルダラビン、メルカプトプリン、ペントスタチン、チオグアニンが含まれるが、これらに限定されない。さらなる態様において、抗新生物剤はピリミジンであり得、これはたとえば、カペシタビン、シタラビン、フルオロウラシル、フロクスウリジン、およびゲムシタビンなどである。
【0151】
さらなる他の態様において、本明細書に記載される化合物は、紡錘体毒/有糸分裂阻害剤である抗新生物剤と併せて使用され得る。このカテゴリー内の作用物質には、タキサンが含まれ、これはたとえば、ドセタキセルおよびパクリタキセルなどであり;かつビンカアルカロイドもまた含まれ、これはたとえば、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、およびビノレルビンなどである。さらなる他の態様において、本明細書に記載される化合物は、抗新生物剤と組み合わせて使用され得、該抗新生物剤は以下のものである:アントラサイクリンファミリーに由来する細胞毒性/抗腫瘍性である抗生物質、たとえば、ダウノルビシン、ドキソルビシン、エピルビシン、イダルビシン、ミトキサントロン、ピキサントロン、もしくはバルルビシンなど;ストレプトマイセス(streptomyces)科に由来する抗生物質、たとえば、アクチノマイシン、ブレオマイシン、マイトマイシン、もしくはプリカマイシンなど;またはヒドロキシウレア。あるいは、併用療法に使用される作用物質には、トポイソメラーゼ阻害剤が含まれ得、これにはカンプトテシン、トポテカン、イリノテカン、エトポシド、またはテニポシドが含まれるが、これらに限定されない。
【0152】
あるいは抗新生物剤は、抗体か、または抗体由来の作用物質であり得る。たとえば、受容体型チロシンキナーゼを標的とする抗体が使用され得、これはたとえば、セツキシマブ、パニツムマブ、またはトラスツズマブなどである。あるいは抗体は、抗CD20抗体であり得、これはたとえば、リツキシマブもしくはトシツモマブなどであり、または抗体は、任意の他の適切な抗体であり得、これにはアレムツズマブ、ベバシズマブ、およびゲムツズマブが含まれるが、これらに限定されない。他の態様において、抗新生物剤は光増感剤であり、これはたとえば、アミノレブリン酸、アミノレブリン酸メチル、ポルフィマーナトリウム、またはベルテポルフィン(verteporfm)などである。さらなる他の態様において、抗新生物剤はチロシンキナーゼ阻害剤であり、これはたとえば、セジラニブ(dediranib)、ダサチニブ、エルロチニブ、ゲフィチニブ、イマチニブ、ラパチニブ、ニロチニブ、ソラフェニブ、スニチニブ、またはバンデタニブなどである。本発明での使用に適した他の新生物剤には、たとえば、アリトレチノイン、トレチノイン、アルトレタミン、アムサクリン、アナグレリド、三酸化ヒ素、アスパラギナーゼ(ペグアスパルガーゼ)、ベキサロテン、ボルテゾミブ、デニロイキン・ジフチトクス、エストラムスチン、イキサベピロン、マソプロコール、またはミトタンが含まれる。
【0153】
他の態様またはさらなる態様において、本明細書に記載される化合物は、過剰に活性な細胞死によって特徴付けられる病態、または生理学的な損傷に起因する細胞死によって特徴付けられる病態等を処置するために使用される。未成熟細胞の細胞死もしくは望まれない細胞死によって特徴付けられる病態のいくつかの例、あるいは望まれない細胞増殖もしくは過剰な細胞増殖のいくつかの例には、低細胞性/低形成性の異常、無細胞性/無形成性の異常、または高細胞性/過形成性の異常が含まれるが、これらに限定されない。いくつかの例には、血液学上の異常が含まれ、これには、ファンコニ貧血、再生不良性貧血、サラセミア、先天性好中球減少症、および骨髄異形成が含まれるが、これらに限定されない。
【0154】
他の態様またはさらなる態様において、アポトーシスを減少させるように作用する、本明細書に記載される化合物は、望ましくないレベルの細胞死に関連する異常を処置するために使用される。したがって、いくつかの態様において、本明細書に記載される抗アポトーシス化合物は、たとえば、ウイルス感染に関連する細胞死を引き起こす異常などを処置するために使用され、該ウイルス感染は、たとえばヒト免疫不全ウイルス(HIV)の感染に関連する感染などである。多岐にわたる神経学的疾患が、ある特定のセットのニューロンが徐々に失われることによって特徴付けられており、かつ、本明細書に記載される抗アポトーシス化合物は、いくつかの態様において、それらの異常の処置において使用される。そのような異常には、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、網膜色素変性症、脊髄性筋萎縮症、および小脳変性のさまざまな型が含まれる。これらの疾患における細胞の喪失は炎症応答を誘導しないので、細胞死のメカニズムはアポトーシスであるように見受けられる。加えて、いくつかの血液疾患は、血液細胞産生の減少に関連している。これらの異常には、慢性疾患に伴う貧血、再生不良性貧血、慢性好中球減少症、および骨髄異形成症候群が含まれる。血液細胞産生の異常、たとえば、骨髄異形成症候群、およびいくつかの型の再生不良性貧血などは、骨髄中でのアポトーシス細胞死の増大に関連している。これらの異常は、アポトーシスを促進する遺伝子の活性化に起因し得、間質細胞もしくは造血系生存因子(hematopoietic survival factor)の後天的な欠乏に起因し得、または毒素による直接的な作用、および免疫応答のメディエーターによる直接的な作用に起因し得る。細胞死に関連する一般的な2つの異常は、心筋梗塞および脳卒中である。これら両方の異常において、血流が急激に失われる際に生じる、虚血の中心領域内の細胞は、ネクローシスの結果として、速やかに死滅するように見受けられる。しかしながら、虚血の中心ゾーンの外側では、細胞はより長期間にわたって死滅し、かつ該細胞は、形態学的に見て、アポトーシスによって死滅するように見受けられる。
【0155】
投与/接触/細胞/対象
本明細書に記載されるマクロ構造体を投与することに関連する、本発明の全ての局面において、該化合物は、経口投与されてよく、非経口投与されてよく、これはたとえば、皮下投与、静脈内投与、筋肉内投与、腹腔内投与などであり、鼻腔内注入によって投与されてよく、または、粘膜への適用によって、たとえば、鼻、咽喉、および気管支などの粘膜への適用によって、投与されてもよい。該化合物は、単独で投与されてよく、または適切な薬学的担体とともに投与されてもよく、かつ該化合物は、固体または液体の形状であってよく、これはたとえば、錠剤、カプセル、粉末、溶液、懸濁液、または乳濁液などである。
【0156】
本発明の活性化合物は、経口投与されてよく、たとえば、不活性な希釈剤とともに、もしくは吸収される可食担体とともに、経口投与されてよく、または該活性化合物は、硬殻カプセルもしくは軟殻カプセル中に封入されてよく、または該活性化合物は、錠剤へと圧縮されてよく、または該活性化合物は、食事療法の食品中に直接組み込まれてもよい。経口治療薬の投与に関し、これらの活性化合物は、賦形剤と組み合わせられてよく、かつ、錠剤、カプセル、エリキシル、懸濁液、シロップ等の形状として使用されてよい。そのような組成物および調製物は、少なくとも0.1%の活性化合物を含むべきである。これらの組成物中の化合物のパーセンテージは、当然のことながら変動し得、かつ、単位重量の約2%~約60%が好都合であり得る。そのような治療上有用な組成物中の、活性化合物の量は、適切な投薬量が得られるようなものである。本発明における好ましい組成物は、経口での投薬単位が約1~250 mgの活性化合物を含むように調製される。
【0157】
錠剤、カプセル等はまた、以下をも含み得る:結合剤、これはたとえば、トラガカントガム、アラビアガム、コーンスターチ、またはゼラチンなど;賦形剤、これはたとえば、リン酸二カルシウムなど;崩壊剤、これはたとえば、コーンスターチ、ポテトスターチ、アルギン酸など;滑沢剤、これはたとえば、ステアリン酸マグネシウムなど;および甘味剤、これはたとえば、スクロース、ラクトース、またはサッカリンなど。単位剤形がカプセルである場合、該カプセルは、上述のタイプの材料に加えて、液体の担体、たとえば脂肪油などを含み得る。
【0158】
コーティングとして、または投薬単位の物理的な形状を改変するために、他のさまざまな材料が存在していてよい。たとえば、錠剤は、シェラックで、糖で、またはそれらの両方で、コートされ得る。シロップは、活性成分に加えて、甘味剤としてのスクロース、保存剤としてのメチルパラベンおよびプロピルパラベン、色素、ならびに香味剤を含み得、ここで香味剤は、たとえばチェリーフレーバーまたはオレンジフレーバーなどである。
【0159】
これらの活性化合物はまた、非経口でも投与され得る。これらの活性化合物の溶液または懸濁液は、界面活性剤、たとえばヒドロキシプロピルセルロースなどと適切に混合されている水において、調製され得る。分散液もまた、油中にある、グリセロール、液状のポリエチレングリコール、およびそれらの混合物として、調製され得る。例示的な油は、石油、動物油、植物油、または合成起源の油であり、これはたとえば、ラッカセイ油、ダイズ油、または鉱油などである。一般的に、水、生理食塩水、デキストロースおよび関連する糖の水性溶液、ならびに、グリコール、たとえばプロピレングリコールまたはポリエチレングリコールなどは、注入可能な溶液にとって特に好ましい液状担体である。これらの調製物は、保管および使用の通常の条件下で微生物の増殖を防止するための保存剤を含む。
【0160】
注入可能な用途にとって適切な剤形には、滅菌水性溶液または滅菌水性分散液が含まれ、かつ、滅菌された注入可能な溶液または分散液を即時調製するための、滅菌粉末も含まれる。いずれの場合においても、該剤形は滅菌されなければならず、かつ、滑らかな通針性を有する程度に流動性を有さなければならない。該剤形は、製造および保管の条件下で安定でなくてはならず、かつ、微生物、たとえば細菌および真菌などのコンタミネーション作用から、保護されなければならない。担体は溶媒または分散媒であってよく、これには、たとえば、水、エタノール、ポリオール(たとえば、グリセロール、プロピレングリコール、および液状のポリエチレングリコールなど)、それらの適切な混合物、ならびに植物油が含まれる。
【0161】
本発明の化合物はまた、エアロゾルの形状として、気道へと直接投与され得る。エアロゾルとしての使用に関し、溶液中または懸濁液中の本発明の化合物は、慣用のアジュバントを用いて、適切な噴射剤とともに、加圧されたエアロゾル容器にパッケージングされ得、該噴射剤はたとえば、炭化水素の、たとえばプロパン、ブタン、イソブタンなどの、噴射剤である。本発明の物質はまた、加圧されていない形態でも投与され得、これはたとえば、ネブライザーまたはアトマイザーなどである。
【0162】
細胞を接触させることを伴う本発明の全ての局面において、適切な細胞には、哺乳動物細胞(たとえば、ヒト細胞を含めた霊長類細胞、ネコ細胞、イヌ細胞、ウマ細胞、ウシ細胞、ヤギ細胞、ヒツジ細胞、ブタ細胞、マウス細胞、ラット細胞など)が含まれるが、これらに限定されない。少なくとも1つの好ましい態様において、細胞は変異Rasタンパク質を発現している。
【0163】
対象に関連する、本発明の全ての局面において、適切な対象には、哺乳動物(たとえば、ヒトなどといった霊長類、ネコ、イヌ、ウマ、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ブタ、マウス、ラットなど)が含まれる。少なくとも1つの好ましい態様において、対象は、変異Rasタンパク質によって媒介される異常を有する。
【0164】
変異Rasタンパク質に関連する全ての方法において、適切な例には、H-Rasアイソフォーム、N-Rasアイソフォーム、およびK-Rasアイソフォームが含まれる。少なくとも1つの態様において、変異Rasタンパク質はH-Rasアイソフォームである。少なくとも1つの態様において、変異Rasタンパク質はK-Rasアイソフォームである。少なくとも1つの態様において、変異Rasタンパク質は、G12C、G12D、G12S、G12V、G13D、G12A、G12C、G12D、G12R、G12S、G12V、G13A、G13C、G13R、G13S、G13D、Q61E、Q61H、Q61L、Q61K、Q61P、およびQ61Rからなる群より選択される1つまたは複数の変異を有する。少なくとも1つの好ましい態様において、変異Rasタンパク質は、G12C変異またはG12D変異を有する。
【0165】
細胞を1種または複数種の化合物と接触させることを伴う方法を指向する、本発明の全ての局面において、接触は、当業者には明らかであろう方法を用いて実施され得、かつ接触は、インビトロまたはインビボで実施され得る。少なくとも1つの本発明の態様において、接触は、Rasを不活性型において安定化させる。
【0166】
細胞内へと作用物質を送達するための1つのアプローチは、リポソームの使用を伴う。これは基本的には、送達されようとする作用物質を含むリポソームを提供すること、および次に、標的である細胞、組織、または器官へと該作用物質を送達するのに有効な条件下で、該細胞、組織、または器官をリポソームと接触させることを伴う。
【0167】
また、アクティブターゲティングを介して(たとえば、リポソームビヒクルの表面上に抗体またはホルモンを組み込むことによって)、このリポソーム送達システムを、標的である器官、組織、または細胞に蓄積させることも可能である。これは、公知の手法によって達成可能である。
【0168】
タンパク質またはポリペプチドを含む作用物質を送達するための別のアプローチは、所望の作用物質をポリマーとコンジュゲーションさせることを伴い、ここで該ポリマーは、コンジュゲートされたタンパク質またはポリペプチドの酵素による分解を防ぐように安定化されている。このタイプのコンジュゲートされたタンパク質またはポリペプチドは、その全体が参照により本明細書に組み入れられるEkwuribeの米国特許第5,681,811号に記載されている。
【0169】
作用物質を送達するための、さらなる別のアプローチは、その全体が参照により本明細書に組み入れられるHeartleinらの米国特許第5,817,789号に記載の、キメラ作用物質の調製に関連する。キメラ作用物質は、リガンドドメインと、作用物質(たとえば、本発明の化合物)とを含み得る。リガンドドメインは、標的細胞に存在する受容体に対して特異的である。したがって、キメラ作用物質が静脈内に送達された場合、あるいは血液またはリンパ内に導入された場合、該キメラ作用物質は標的細胞に吸着し、そして標的細胞は、該キメラ作用物質を内部移行させる。
【0170】
本発明の化合物は、標的である細胞/組織/器官へと直接送達され得る。
【0171】
それに加えて、かつ/または、それに代わって、化合物は、標的である組織、器官、または細胞への該化合物の移動(および/またはそれらによる該化合物の取り込み)を促進する1種または複数種の作用物質とともに、標的でない領域に投与され得る。当業者には明らかであろう点であるが、標的である組織、器官、もしくは細胞への化合物の輸送を促進するために、および/または、標的細胞による化合物の取り込み(たとえば、細胞膜を通過しての化合物の輸送)を促進するために、化合物それ自体を修飾することが可能である。
【0172】
本発明の技術のこれらの局面は、以下の実施例によってさらに説明される。本出願全体において引用される全ての参考文献は、図面および実施例において引用されるものを含め、それらの全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【実施例】
【0173】
以下の実施例は、本発明の技術の態様を説明するために提供されるものであって、本発明の技術の範囲を限定する意図は一切ない。
【0174】
溶解性は、克服すべき最も困難な課題の1つであった、かつこれは、本明細書に記載される実験の大半を実施するために重要でもあった。親和性を犠牲にすることなく、水性条件下で溶解性を増強するためには、荷電残基および極性残基を慎重に配置することが必要であった。
【0175】
実施例1:架橋ヘリックス二量体(CHD)ペプチドの合成
別途指定されない限り、ペプチド合成は、Rinkアミド樹脂上での標準的なFmoc固相ペプチド合成法のもとで実施された。完成したペプチドは、最終的なFmoc脱保護を受け、そして、NMP中に0.5 M 無水酢酸および5% ジイソプロピルエチルアミン(DIEA)を含む溶液を用いて30分間、N末端をアセチル基で保護され、その後樹脂から切断される。所望の2種類のペプチド鎖は樹脂から切断され、RP-HPLCを用いて精製され、そしてMALDI-TOF分光法によって特徴付けされた。2種類の鎖は、以前に記述されたように、かつ以下のスキーム1に示されるように、架橋される(J. Sadek et al., "Modulation of virus-induced NF-kappaB signaling by NEMO coiled coil mimics", Nat Commun 11, 1786 (2020); M. G. Wuo, S. H. Hong, A. Singh, P. S. Arora, "Synthetic Control of Tertiary Helical Structures in Short Peptides", J. Am. Chem. Soc. 140, 16284-16290 (2018); M. G. Wuo, A. B. Mahon, P. S. Arora, "An Effective Strategy for Stabilizing Minimal Coiled Coil Mimetics", J. Am. Chem. Soc. 137, 11618-11621 (2015))。
スキーム1. CHDペプチドのための一般的な合成スキーム
【0176】
鎖はそれぞれ、システイン残基を1つ含み、これは、ジベンジルエーテル架橋剤を付加するために戦略的に配置されている。該架橋剤は、以前に発表されたプロトコルにしたがって合成された(M. G. Wuo, S. H. Hong, A. Singh, P. S. Arora, "Synthetic Control of Tertiary Helical Structures in Short Peptides", J. Am. Chem. Soc. 140, 16284-16290 (2018))。精製された鎖は、最初に20 mM NH4CO3緩衝液(pH = 8.1)中に溶解され、そして続いて、アセトニトリル中のジベンジルエーテル架橋剤溶液(5~10 eq.)に添加された。反応混合物は20度で90分間かくはんされ、その後に、C18逆相カラムでのRP-HPLC(40分間にわたり、0.1% TFAを含む水において25~65%のアセトニトリル勾配)による精製が続いた。精製された産物は、続いて凍結乾燥された。凍結乾燥されたモノシステインアルキル化ペプチドは、次に、1:1のアセトニトリル:20 mM NH4CO3水溶液(pH 8.1)中に溶解された。遊離システインを有する過剰量の第2の鎖(1.5 eq.)が添加され、そして得られた混合物は、20度で1時間かくはんされた。反応混合物は、C18逆相カラム)でのRP-HPLC(40分間にわたり、0.1% TFAを含む水において25~65%のアセトニトリル勾配)に供され、そして分析HPLCおよびMALDI-TOF分光法によって特徴付けされた。
【0177】
Sos CHDのHPLCトレースは
図16に提供される。Sos CHDの化学構造は
図17に提供される。質量分析法によるCHDペプチドの特徴付けは以下の表1にまとめられており、ここで、R
H = L-ホモアルギニンであり;A
β = L-β-アラニンであり;DZ = ジアジリン光架橋剤であり;FITCとは、チオウレア結合を介してN末端アミンに連結されている、5-フルオレセインイソチオシアネートである。
【0178】
(表1)質量分析法によるCHDペプチドの特徴付け
* 設計された変化を有する、SosのαH配列またはαI配列の模倣体
【0179】
実施例2:フルオレセイン標識されたペプチドの合成
列挙される上の表1のうちの当該ペプチド配列は、以前に記述されたように、リンカーとして作用させるためにN末端にβ-アラニンを付加し、その後、フルオレセインイソチオシアネート(3 eq.)およびDIEA(3 eq.)と一晩カップリングされて合成され、そして遮光された。フルオロフォアがコンジュゲートされたペプチドは、その後、樹脂から切断され、RP-HPLCを用いて精製され、そしてMALDI-TOF分光法を用いて特徴付けされた。
【0180】
実施例3:ジアジリン光架橋剤ペプチドの合成
列挙される当該ペプチド配列(
図17および表1を参照されたい)は、以前に記述されたように、リンカーとしてN末端にL-グリシンを付加し、その後、標準的なペプチドカップリング条件下で3-(3-(ブト-3-イニル)-3H-ジアジリン-3-イル)プロパン酸(Sigma-Aldrich)と一晩カップリングされて合成され、そして遮光された。ジアジリンがコンジュゲートされたペプチドは、その後、樹脂から切断され、RP-HPLCを用いて精製され、そして分析LCMSを用いて特徴付けされた。
【0181】
実施例4:円二色性
円二色性(CD)実験は、温度制御器を備え付けたJasco J-1500円二色性分散計において、1 mm長のセルおよび4.0 nm/分のスキャン速度を用いて、298 Kにおいて実施された。生成されたスペクトルは、ベースラインを差し引いて、全5回のスキャンで平均された。生の値は、モル残基楕円率(MRE)に対して正規化された。別途言及されない限り、試料は、水中に50 mM フッ化カリウムを含む緩衝液(pH 7.4)において、20 μMの最終ペプチド濃度となるように調製された。各試料の濃度は、トリプトファン残基の280 nmにおけるUV吸光度を介してモニターされた。
【0182】
実施例5:タンパク質精製
pProEx HTb発現ベクター中の、野生型および変異体のN末端His6-H-Ras(残基1~166位)を、大腸菌(Escherichia coli)(BL21)において発現させた。細胞は、600 nmにおける吸光度が0.7になるまで37度で増殖させた。タンパク質の発現は、500 μMのイソプロピルβ-D-1-チオガラクトピラノシド(IPTG)を用いて、30度で6時間か、または18度で一晩誘導した。細菌細胞は、4500 rpmにおける15分間の遠心によってペレット化された。細菌ペレットは、以下を含む溶解緩衝液に再懸濁された:20 mM トリス pH 7.4、300 mM NaCl、2 mM 2-メルカプトエタノール、およびcOmplete, EDTAフリープロテアーゼ阻害剤カクテル(Roche)。溶解緩衝液、溶出緩衝液、および透析緩衝液には、2.5 mM MgCl2もまた添加された。再懸濁されたペレットは、Branson Cell Disrupter 200を用いて超音波処理された。清澄化された溶解物は、13,000 rpm、20分間、4度での遠心の際に形成され、そしてこれは、荷電Ni-NTA樹脂(Invitrogen)と、4度で1時間インキュベートされた。樹脂ビーズは、5 mM イミダゾールを含む再懸濁緩衝液を用いて5回洗浄された。His6タグ付きタンパク質は、20 mM トリス、300 mM NaClを含むpH 7.4の緩衝液中に200 mM イミダゾールを含む緩衝液を用いて、自然落下式によって溶出された。H-Rasを得るため、溶出されたタンパク質は、20 mM トリス、300 mM NaCl、2.5 mM MgCl2を含むpH 7.4の緩衝液に対して2回透析された。HSQC試験および光親和性標識試験に関し、ヌクレオチドのローディングを行う前に、ポリヒスチジンタグは、タバコエッチウイルス(Tobacco Etch Virus)(TEV)プロテアーゼを用いて切断された。濃縮された溶出物は、ヌクレオチドのローディング、および25 mM トリスと50 mM NaClのpH 7.5の緩衝液を用いた4度でのサイズ排除クロマトグラフィー(GE Life Sciences)に供され、そして所望の単量体ピークが回収された。溶出されたタンパク質試料は、3000 Daの分子量カットオフを有するAmicon遠心カラム(Millipore)を用いて、10% グリセロール(v/v)を含む透析緩衝液中で濃縮され、その後液体N2中で急速凍結され、そしてさらなる使用まで-80度で保管された。
【0183】
実施例6:ヌクレオチドのローディング
蛍光偏光試験、HSQC試験、およびヌクレオチド置換試験のための、ヌクレオチドのローディングは、S. M. Margarit et al., "Structural evidence for feedback activation by Ras.GTP of the Ras-specific nucleotide exchange factor SOS", Cell 112, 685-695 (2003)において以前に記述されたように実施された。精製されたH-Rasタンパク質は、ローディング緩衝液(20 mM トリス、300 mM NaCl、5 mM EDTA、pH 7.4)中のGDPまたはGTP(10 eq.)と、90分間氷上でインキュベートされた。反応はその後、12 mM MgCl2を用いてクエンチされ、そして氷上で30分間インキュベートされた。その後に続くアッセイに応じて、該タンパク質は、過剰な遊離ヌクレオチドの除去、およびさらなる精製のため、高速タンパク質液体クロマトグラフィー(FPLC)によるサイズ排除クロマトグラフィー、またはあらかじめ平衡化されたNAP-5(GE Life Sciences)カラムに供された。
【0184】
実施例7:蛍光偏光結合アッセイ
あらかじめGDPをロードされた野生型および変異体のHis6タグ付きH-Ras(1-166位)に対する、CHDの相対的な結合親和性は、フルオレセインタグ付きCHDペプチド(Flu-αHBS、Flu-α3βHBS)を用いた直接的な蛍光偏光アッセイを使用して決定された。これらの実験は、それぞれ485 nmおよび525 nmにセットされた励起波長および蛍光波長を用いて、25度において、DTX 880マルチモードディテクター(Beckman)を使用して実施された。50 mM トリス、100 mM NaCl、0.1% プルロニック酸(pluronic acid)、pH 7.4中にある、フルオレセイン標識されたCHDの15 nM溶液への、漸増濃度のHis6-H-Ras-GDPの添加は、黒色のU底96ウェルプレート(Brand)において実施された。各化合物に関して生成された結合親和性(KD)の値は、生物学的三重反復物に基づいており、かつ該値は、Graphpad Prism 6においてシグモイド型用量反応非線形回帰モデルへとフィッティングさせることによって決定された。
KD1 = (RT*(1-FSB) + LST*FSB
2)/FSB-LST (SJ 1)
ここで:
RT = H-Ras(1~166位)の総濃度であり、
LST = 蛍光ペプチドの総濃度であり、
FSB = 結合している蛍光ペプチドの割合である。
【0185】
実施例8:マイクロスケール熱泳動(MST)
H-Rasタンパク質の蛍光標識は、NanoTemperのMonolithタンパク質標識キットRED-MALEIMIDE 2nd Generation(MO-L014)か、またはFluoroprobesのAFDye 647マレイミド(1122-1)を用いて実施された。手短に述べると、20 nMのH-Rasタンパク質は、1x PBS中の1.5当量のシステイン反応性色素で、暗所で90分間標識された。標識されたRasタンパク質は、その後、キットが提供するカラムを用いて精製され、そして色素の吸光度およびタンパク質の本来の吸光度を用いることによって、標識度(DOL)が算出された。標識後に観察されたDOL値は、野生型H-Ras-GDPに関して0.43であり、かつG12V H-Ras-GDPに関して0.98であった。
【0186】
MST結合アッセイは、NanoTemperのMonolith NT.115 Picoを用いて実施された。ランダムな吸着を避けるため、アッセイ条件は、NanoTemperのプレミアムコートキャピラリーチューブを用いて最適化された。測定は、25度において10~15%の励起レーザー出力を用いて20秒間実施された。アッセイ緩衝液は、50 mM トリス、100 mM NaCl、および0.1% プルロニック酸から構成されていた。色素標識された5~10 nMのタンパク質は、記載されるCHDの連続希釈物に曝露され、そして室温で90分間インキュベートされて、その後測定された。エラーバーは三重反復物から生成されている。結合親和性は、NT.115 PicoにおいてMO解析ソフトウェアから以下の式を用いて取得された:
ここで、
Unbd = 未結合の状態の応答値であり、
Bd = 結合した状態の応答値であり、
TC = 蛍光分子の最終濃度である。
【0187】
実施例9:血清での安定性アッセイ
タンパク質分解に対するCHDSos-5の安定性は、RPMI-1640培地中のウシ胎児血清(FBS、Innovative Research)を用いることによって、25% 血清において評価された。各試料について、無血清培地中の33% FBS(v/v)との、45 μLの混合物が調製された。各実験につき、無血清培地中の記載されるペプチドを15 μL添加した時点(FBSの最終濃度は25%)が、開始タイムポイントとして記録された。5分、6時間、12時間、および24時間というタイムポイントが、3連で解析された。-70度で準備された30 μLの100% EtOHを、決められたタイムポイントにおいて添加することによって、各実験はクエンチされた。氷上で10分間冷却した後で、各試料は14,000 x gで5分間ペレット化された。30 μLの上清が分離され、そして3 μLの500 μM L-トリプトファンが試料中でタイトレーションされて、内部標準として使用された。得られた混合物は次に、3.5 μm、2.1 x 150 mmのC18分析用カラムを用いたRP-HPLCに速やかに供され、そして280 nmにおいてモニターされた。溶出ピークが回収され、そして各ピークの質量が、MALDI-TOF分光法を用いて決定された。所与の各条件において分解しなかったパーセントを決定するために、分解していないペプチドの、積分されたピーク面積が使用された。
【0188】
実施例10:コンジュゲートされたCHD-Ras複合体の光親和性標識および可視化
各実験に関し、ジアジリン標識された250 μMのCHDペプチドの試料は、50 μMの精製されたH-Rasと、結合緩衝液(50 mM トリス、100 mM NaCl、0.1% プルロニック酸、pH 7.4)中で、90分間室温でインキュベートされた(全量100 μL)。インキュベートされた試料はその後、24度で5分間光照射された。光コンジュゲートされた試料は次に、5% 2-メルカプトエタノールを含む1x SDS-PAGEローディング緩衝液と混合され(最終量200 μL)、そして95度で5分間加熱された。加熱された試料はその後、1.0 mmの15% ポリアクリルアミドゲルにおいて、SDS-PAGEゲル電気泳動によって分離された。得られたゲルは、クマシーブリリアント色素を用いて染色され、そして続いて脱染された(40% MeOH/10% 酢酸/50% 水)。
【0189】
実施例11:溶液内トリプシン消化質量分析法
ゲル内トリプシン消化は、ゲル内トリプシン消化キット(Thermo Scientific)を用いて、製造元の使用説明書にしたがって実施された。光親和性標識でコンジュゲートされたバンドは、ゲル内トリプシン消化のため、1 x 1 mmのセグメントとして切り出された。切り出されたゲルバンドは次に、200 μLのクマシー脱染溶液(1:1の超純水:アセトニトリル中の25 mM 重炭酸アンモニウム)を用いて、37度で30分間インキュベートされた。インキュベーション後、脱染緩衝液は除去され、そして該脱染ステップがさらに2回繰り返された。脱染されたゲルバンドは、還元緩衝液(25 mM 重炭酸アンモニウム、50 mM TCEP)で、60度で10分間処理された。還元緩衝液を除去した後、バンドは、37度で30分間暗所で振とうしながら、200 μLのヨードアセトアミド・アルキル化溶液(25 mM 重炭酸アンモニウム、100 mM ヨードアセトアミド)で処理された。アルキル化後、ゲル片は、100 μLの脱染緩衝液を用いて2回、再度洗浄され、その後、100 μLのアセトニトリルを用いて15分間室温で処理された。ゲルバンドは次に、アセトニトリルを除去した後で、15分間風乾された。トリプシン溶液は、100 μLのpH 8.0である25 mM 重炭酸アンモニウム緩衝液中に溶解させた5 μgのトリプシンプロテアーゼ(Pierce、MSグレード)から構成されていた。乾燥させたゲルは、30度で一晩振とうしながら100 μLのトリプシン溶液で処理された。消化後、緩衝液は除去され、そして消化されたペプチドは、25 μLの1% トリフルオロ酢酸を用いてゲルから抽出された。1% トリフルオロ酢酸中の抽出された試料は、その後、25 μLの超純水を用いて希釈され、そしてMALDI-TOF MS解析に供された。
【0190】
実施例12:異種核1量子分光法(HSQC)
精製手順は、いくつかの例外を除き、以前に記述されたプロトコルとほぼ同一であった。His
6-H-Ras構築物を含む大腸菌(E. coli)(BL21)細胞(4 L)は、37度において、栄養素が完全に補給されたLBブロス中でO.D. 0.8まで増殖させた。細胞はペレット化され、そしてM9最小培地(1 L)に再懸濁され、その後、20% グルコース、および唯一の窒素源としての
15NH
4Clが添加された(Y. Ito et al., "Regional polysterism in the GTP-bound form of the human c-Ha-Ras protein", Biochemistry 36, 9109-9119 (1997))。タンパク質の発現は、1 mM IPTGを用いて、O.D. 0.8において18度で一晩誘導した。タンパク質の精製、およびそれに続く濃縮は、上述のように実施された。製造元のプロトコルにしたがった、組み換えHis
6タグ付きタバコエッチウイルス(TEV)プロテアーゼ(Invitrogen)との4度での一晩のインキュベーションの際に、His
6タグは切断された。得られたタンパク質混合物は荷電Ni-NTAカラム(Invitrogen)にロードされ、そしてタグのないタンパク質が素通り画分において回収された。
15N標識されたH-Rasには次に、先に言及したプロトコルにしたがって、GDPがあらかじめロードされた。
15Nで均一標識されたH-Ras-GDPは、NMR緩衝液(20 mM Na
2HPO
4-NaH
2PO
4、pH 5.5、150 mM NaCl、10 mM MgCl
2)へと緩衝液交換を受け、Amicon Ultra遠心式フィルター(Millipore)を用いて濃縮され、そして10% D
2Oを添加された後で解析された。データ収集は、5 mmのTCIクライオジェニックプローブを備え付けた、600 MHz Bruker 4チャンネルNMRシステムにおいて、25度で標準的なパルスシーケンスを用いて実施され、そしてTopSpin 4.0.6(Bruker)によって解析された。
15Nで標識されたH-Ras-GDP(100 μM)単独の
15N-
1H-HSQCスペクトルが収集され、そしてピークは、発表されているデータに基づいて帰属させた。ペプチドのタイトレーション実験に関し、2.5当量および5当量のCHD
Sos-5は、マッチング緩衝液中に溶解され、そして
15N-
1H-Ras(100 μM)とインキュベートされた。
1H核および
15N核のさまざまな共鳴について観察された、平均の化学シフトの差(ΔδNH)は、α = 0.14として、以下の式にしたがって算出された:
【0191】
実施例13:細胞培養
T24細胞、HCT-116細胞、およびHeLa細胞は、以下を添加されたダルベッコ改変イーグル培地(DMEM、Corning Cellgro)中で維持された:10% ウシ胎児血清(FBS、Innovative Research)、1X ペニシリン/ストレプトマイシン(EMD Millipore)、および10 mM HEPES緩衝液(Sigma-Aldrich)。H358細胞、Panc 10.05細胞、A549細胞、およびBxPC3細胞は、以下を添加されたロズウェルパーク記念研究所(RPMI)1640培地中で維持された:10% FBS(Innovative Research)、1X ペニシリン/ストレプトマイシン、10 mM HEPES緩衝液、および1X ピルビン酸ナトリウム(Sigma-Aldrich)。全ての細胞は、37度かつ5% CO2において、加湿されたインキュベーター内で維持された。
【0192】
実施例14:生細胞の蛍光顕微鏡観察
記載される細胞株は、5 x 105細胞/ウェルとしてポリ-D-リジンコートされた35 mmプレート(MatTek)に播種され、そして一晩インキュベートされた。増殖培地は吸引され、そして無血清培地を用いて洗浄される。細胞は次に、フルオレセインがコンジュゲートされた1 μM(最終濃度)のペプチドであって、無血清培地(0.4% DMSO、v/v)に溶解されたペプチドと、遮光しながら37度で4時間インキュベートされる。全ての化合物は、DMSO中の濃縮されたストックとして溶解されている。指定されるインキュベーション時間の後で、各プレートは吸引され、そして、細胞核を染色するため、ヘキスト色素溶液(ヘキスト33342、ThermoFisher Scientific)で10分間処理された。ヘキスト色素のストック溶液(10 mg/mL)はPBS中で1:2000に希釈されて、作業用混合物が調製された。色素溶液は除去され、そしてプレートは、PBSを用いて3回穏やかに洗浄された。DMEM(高グルコース、HEPES、フェノールレッド不含、20% FBS)が各プレートに添加され、そしてイメージング溶液として使用された。蛍光観察像は、イメージングソフトウェアであるNIS-Elementsを備え付け、かつ40x対物レンズを用いたEclipse Ti蛍光顕微鏡(Nikon)において取得された。
【0193】
実施例15:フローサイトメトリー
記載される細胞株は、1 x 105細胞/ウェルとして透明ポリスチレン24ウェルプレート(Corning)に播種され、そして一晩インキュベートされた。最初の増殖培地は無血清培地と交換され、そして37度で2時間インキュベートされる。吸引してから、細胞は0.4% DMSO(v/v)を含む無血清培地中で1時間インキュベートされる。細胞は次に、無血清培地中において遮光しながらさらに1時間、フルオレセインがコンジュゲートされた1 μM(最終濃度)のペプチドで処理された。全ての化合物は、DMSO中の濃縮されたストックとして溶解されている。各ウェルは吸引され、そして1Xトリプシン(0.25% トリプシン、2.21 mM EDTA、Corning Cellgro)で、37度で10分間処理された。トリプシン処理後、得られた溶液は冷無血清培地と混合され、そして回収された。試料は、500 rpm、5分間、4度で遠心される。上清は除去され、そして細胞ペレットは冷PBSに再懸濁されて、その後氷上に置かれた。各試料は10% トリパンブルー(v/v)で処理され、その直後に、Becton DickinsonのAccuriフローサイトメーターにおいて、フローサイトメトリーにより解析された。示されるデータは、少なくとも10,000細胞/試料についての蛍光強度中央値からなり、かつFlowJo(Tree Star Inc.)を用いて処理されている。
【0194】
実施例16:細胞生存能力アッセイ
細胞生存能力は、MTT(Sigma-Aldrich、M2128)、またはCellTiter-Glo発光細胞生存能力アッセイ(Promega)を用いてモニターされた。
【0195】
実施例16A:MTT細胞生存能力アッセイ
細胞生存能力はMTT(Sigma-Aldrich、M2128)での発光細胞生存能力アッセイを用いてモニターされた。細胞は、2000細胞/ウェルとして透明96ウェルプレートにプレーティングし、そして37度で一晩接着させた。各ウェルは穏やかに吸引され、そして無血清培地を用いて洗浄され、その後、0.5% DMSO(v/v、最終濃度)含有完全培地に溶解されたペプチド性阻害剤が、所望の濃度まで導入される(90 μL/ウェル)。細胞は、ペプチドの存在下で、37度で72時間インキュベートされる。MTT試薬溶液は、pH 7.4のダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(DPBS)中において5 mg/mLの濃度まで溶解させた、チアゾリルブルーテトラゾリウムブロミドから構成されており、かつこれは続いて、遮光容器へと滅菌ろ過される。MTT試薬は各ウェルに添加された(0.45 mg/mL/ウェル、最終濃度)。細胞は、37度でさらに4時間インキュベートされる。上清を慎重に除去してから、150 μLのDMSO(溶解溶液)が各ウェルに添加され、そしてこれは、不溶性の紫色のホルマザン沈殿物が確実に完全溶解されかつ確実に溶液中へ放出されるように、混合される。吸光度の値は、Synergy HT多検出マイクロプレートリーダー(BioTek)を用いて、570 nmにおいて記録される。
【0196】
実施例16B:CellTiter-Glo発光細胞生存能力アッセイ
細胞生存能力は、CellTiter-Glo発光細胞生存能力アッセイ(Promega)を用いてモニターされた。細胞は、2000細胞/ウェルとして乳白色96ウェルプレートにプレーティングし、そして37度で一晩接着させた。各ウェルは穏やかに吸引され、そして無血清培地を用いて洗浄され、その後、完全培地(CHDSos-5を溶解するのにDMSOは必要ではない)に溶解されたペプチド性阻害剤が、所望の濃度まで導入される(90 μL/ウェル)。細胞は、ペプチドの存在下で、37度で72時間インキュベートされる。プレートおよびその内容物は次に、ペプチドでの処理の後で、およそ30分間、室温へと平衡化される。ウェル上清を穏やかに除去してから、50 μLの1X PBSが各ウェルに添加される。次に、等量(50 μL)のCellTiter-Glo 2.0試薬が各ウェルに添加され、得られた内容物がオービタルシェーカー上で2分間混合されて、細胞溶解が誘導される。プレートは室温で10分間インキュベートされ、その後、DTX 880マルチモードディテクター(Beckman)を用いて発光シグナルが記録される(0.25~1秒、積分時間)。各プレートは、死滅の陽性対照(10% DMSO中の細胞)、陰性対照(0.05% DMSO中の細胞)、およびブランク(0.05% DMSO、細胞なし)という、3連のウェルを含んでいた。
【0197】
実施例17:Ras活性化アッセイ
H358細胞は、最初に6ウェルプレートに播種され(1x106細胞/ウェル)、そして一晩接着させた。細胞は、記載されるペプチドであって記載される濃度で完全培地中に溶解されたペプチドで、37度で6時間処理された。Ras活性は、活性型Rasプルダウンおよび検出キット(Thermo Scientific、カタログ番号16117)によって、製造元の使用説明書にしたがって決定された。手短に述べると、細胞は、250 μLの溶解緩衝液を用いて溶解され、そしてかき取られた;得られた溶解物は、13,000 rpm、10分間、4度で遠心された。先に清澄化しておいた溶解物には、続いて、80 μgのGSTタグ付きRBD、および予洗されているグルタチオンアガロースビーズが添加されて、4度で1時間、連続的に振とうされた。ビーズは次にペレット化され、緩衝液を用いて3回洗浄され、そしてウェスタンブロッティングのため、50 μLの2X 還元試料緩衝液を用いて溶出された。
【0198】
実施例18:ERK活性化アッセイ
H358細胞またはHeLa細胞は、最初に6ウェルプレートに播種され(1x106細胞/ウェル)、そして一晩接着させた。次に細胞は、記載されるペプチドであって指定される濃度で完全培地中に溶解されたペプチドと、37度で6時間インキュベートされた。細胞は、氷冷PBSを用いて2回洗浄され、そして次に、以下を含む冷RIPA緩衝液(200 μL/ウェル)中で溶解された:25 mM トリス-HCl、pH 7.6、150 mM NaCl、1% NP-40、1% デオキシコール酸ナトリウム(sodium doexycholic acid)、0.1% SDS、Roche cOmpleteプロテアーゼ阻害剤カクテル(1X、Sigma-Aldrich、P2714)、およびRoche PhosSTOPホスファターゼ阻害剤カクテル錠(1X、Sigma-Aldrich、4906845001)。細胞は、均一に広がるようにときおり回転させながら、氷上で5分間維持される。細胞溶解物は、セルスクレーパーを用いて作製され、マイクロ遠心チューブへと移され、そして13,000 rpm、10分間、4度で遠心される。清澄化された上清は回収され、そして総タンパク質濃度が、Pierce BCAタンパク質アッセイによって測定された。溶解物は、SDS-PAGE(10 μg/レーンとしてローディング)、およびイムノブロッティングによるウェスタンブロット解析に供された。一次抗体は、ホスホp44/42 MAPK(Erk1/2)(Thr202/Tyr204)(Cell Signaling、4370)、p44/42 MAPK(Erk1/2)(Cell Signaling、4695)、Ras(Abcam、ab108602)、およびα-チューブリン(Cell Signaling、2144)を含む。二次抗体は、HRPが連結された抗体である、抗ウサギIgG(Cell Signaling、7074P2、1:2000)を含む。一次抗体とのインキュベーション後、ブロットされた膜は、プローブとして二次抗体およびSignalFire ECL試薬(Cell Signaling、6883P3)を用いて調べられ、そしてChemiDocイメージングシステム(Bio-Rad)を用いてイメージングされた。比較のためのブロットのデンシトメトリーは、ImageJ(NIH)を用いて実施され、そしてチューブリンの発現に対して正規化された。
【0199】
実施例19:プロテオミクスのための試料溶解物の調製および富化
H358細胞は、10 cmプレートにおいてFBS添加RPMI-1640を用いて、80~95%コンフルエンスまで増殖させた。増殖培地は吸引され、そして細胞は、ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(DPBS)を用いて洗浄された。細胞は次に、37度、5% CO2雰囲気下で4時間、プローブであるDZ2-CHDSos-5を含む無血清培地(0.4% DMSO含有RPMI-1640中で20 μM、反復物2つ)か、または対照プローブであるCP-2-66を含む無血清培地(0.4% DMSO含有RPMI-1640中で20 μM、反復物4つ)とインキュベートされ、その後、UV光下で照射された(365 nm、30分間、4度)。細胞は、DPBSを用いて洗浄され、かき取られ、そして1.5 mLのエッペンドルフチューブに移され、ペレット化され、そして次のステップまで-80度で保管された。
【0200】
細胞ペレットは、500 μLのDPBS中に再懸濁され、そして超音波処理によって溶解された(15ミリ秒オン、40ミリ秒オフ、振幅15%、全1秒のオン、2回)。タンパク質濃度は、Lowryタンパク質アッセイ(Pierce)を用いて正規化された(1~2 mg/mL;DPBSを用いて500 μLの最終量)。各試料には、トリス((1-ベンジル-4-トリアゾリル)メチル)アミン(30 μl、v/vで1:4のDMSO/t-BuOH中で1.7 mM)、トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン(10 μL、50 mM)、ビオチン-PEG3-アジド(5 μL、100 μM)、およびCuSO4(10 μL、50 mM)の溶液が添加され、そして試料は室温で1時間振とうされた。冷MeOH/CHCl3混合物(2.5 mL、4:1、v/v)が各溶解物に添加され、それに続いて1 mLの冷DPBSが添加された。得られた混合物はボルテックスされ、そして遠心分離された(4,700 x g、10分、4度)。有機層および水層は吸引され、そして残ったタンパク質ディスクは、冷MeOH/CHCl3溶液(2 mL、4:1)中での超音波処理によってさらに洗浄され、そして遠心(4,700 x g、10分間、4度)によってペレット化された。タンパク質ペレットは吸引され、そして超音波処理によって、新たに調製された尿素溶液(500 μL、DPBS中で6 M)およびSDS溶液(10% w/vのものを10 μL使用)と組み合わせられた。TCEP(DPBS中で200 mM)およびK2CO3(DPBS中で600 mM)が1:1の、新たに調製された溶液(50 μL)が添加され、そして混合物は、振とうしながら37度で30分間インキュベートされた。新たに調製されたヨードアセトアミド溶液(70 μL、DPBS中で400 mM)が添加され、そして混合物は、RT、遮光下でインキュベートされた。各試料は、SDS溶液(130 μL、DPBS中で10%、w/v)と組み合わせられ、それに続いてDPBS(5.5 mL)と組み合わせられ、そして、あらかじめ平衡化されたストレプトアビジン-アガロースビーズ(100 μLの50%スラリー;Pierce)と、回転させながらRTで1.5時間インキュベートされた。ストレプトアビジンビーズは、遠心(750 g、2分間、4度)によってペレット化され、そして、SDS溶液(1 x 5 mL、DPBS中で0.2%)、DPBS(2 x 5 mL)、および重炭酸トリエチルアンモニウム緩衝液(1 x 5 mL、TEAB、100 mM、pH 8.4)を用いて連続的に洗浄された。ビーズはTEAB(0.5 mL、100 mM、pH 8.5)中に再懸濁され、そしてLoBindマイクロ遠心チューブへと移された。ビーズを確実に完全に移動させるため、TEAB(0.5 mL、100 mM、pH 8.5)を用いてチューブはもう1回洗浄され、ビーズはその後、遠心(750 x g、2分間、4度)によってペレット化され、そして上清が吸引された。各試料のビーズは、CaCl2溶液(2 μL、100 mM)、および配列決定グレードのブタトリプシンの溶液(2 μg、Promega、200 μLのTEAB中、100 mM、pH 8.4)と組み合わせられ、そして振とうしながら37度で14時間インキュベートされた。ビーズは、遠心(750 x g、2分間、4度)によってペレット化され、そして上清は、新しいLoBindマイクロ遠心チューブへと移された。消化された各試料は、TMT 10plex(Thermo Fisher Scientific)で標識された:各試料に関し、TMT試薬のストック溶液(8 μL、20 μg/μL)が、MSグレードの脱水アセトニトリル(最終的なアセトニトリル濃度は30%、v/v)とともに添加され、その後に、RTでの1時間のインキュベーションが続いた。反応は、ヒドロキシルアミン(6 μL)を添加することによってクエンチされ、そして15分間静置され、その後に、ギ酸の添加(5 μL)が続いた。TMT標識された各試料は、真空遠心を用いて乾燥させ、そして試料は、トリフルオロ酢酸の溶液(TFA、200 μL、0.1%、水中)中で1つの試料を再溶解し、そして、全ての試料が再溶解されるまで、該溶液を各試料チューブへと移すことによって組み合わせられた。プロセスは、さらなる量のTFA溶液(100 μL、水中、最終量は300 μL)を用いて繰り返され、そして組み合わせられた試料は、真空遠心を用いて乾燥させた。試料は分画キット(Pierce高pH逆相ペプチド分画キット)を用いて、製造元の使用説明書にしたがって分画された。手短に述べると、ペプチド画分は、MeCN(5%、7.5%、10%、12.5%、15%、17.5%、20%、22.5%、25%、30%、50%、95% MeCN)と組み合わせられた0.1% トリエチルアミンという連続的な溶液を用いて、逆相スピンカラムから溶出された。画分は、2つずつ組み合わせ(画分1と画分7、画分2と画分8、等)、真空遠心を用いて乾燥させ、そして注入の準備が整うまで-80度で保管した。
【0201】
実施例20:プロテオミクスのためのLC-MS解析
TMT試料は、UltiMate 3000 RSLCnanoシステム(Thermo Fisher Scientific)を備え付けたThermo Fisher Scientific Orbitrap Fusion Lumos質量分析計を用いて、以前に報告された手順にしたがって解析された(Y. Wang et al., "Expedited mapping of the ligandable proteome using fully functionalized enantiomeric probe pairs", Nat. Chem. 11, 1113-1123 (2019); E. Joeh et al., "Mapping glycan-mediated galectin-3 interactions by live cell proximity labeling", Proc. Natl. Acad. Sci. USA 117, 27329-27338 (2020))。
【0202】
溶解された試料(20 μl;0.1% ギ酸、水中、v/v)は、Acclaim PepMap 100プレカラム(75 μm x 2 mm)を備え付けたAcclaim PepMap RSLC分析用カラム(75 μm x 15 cm)に注入され(3 μl/注入)、そして以下の勾配を用いて溶出された(300 μl/分、カラム温度は35度):2% 緩衝液B(0.1% ギ酸、アセトニトリル中)および98% 緩衝液A(0.1% ギ酸、水中)で10分間;緩衝液Bを192分かけて30%に増加させ、次に6分かけて60%に増加させ、それに続いて1分かけて95%に増加させ、そして5分間一定に保持した;緩衝液Bは1分かけて2%に減少させ、そこで6分間そのまま保持した。ナノLCエレクトロスプレー源に適用された電圧は2.0 kVであった、また、MS1スペクトルは、120,000の分解能において、1 x 106イオンのオートマティック・ゲイン・コントロール(AGC)標的値、および50ミリ秒の最大インジェクション時間を用いて取得された。375~1,500 m/zのスキャン範囲を用いて、データ依存型の取得モードが使用された(リピートカウントは1、継続時間は20秒)。衝突誘起解離(CID)が、MS2ペプチドフラグメント化(四重極イオントラップ解析、AGCは1.8x104、CID衝突エネルギーは30%、最大インジェクション時間は120ミリ秒、アイソレーションウインドウは1.6)のために実施され、そしてMS3プリカーサーが、高エネルギー衝突誘起解離(HCD、衝突エネルギーは65%)によってフラグメント化された。同時プリカーサー選択(Synchronous precursor selection)(SPS)によって、オービトラップを用いて検出されるMS3スペクトルに、最大で10個のMS2フラグメントイオンを含めることが可能となった(50,000の分解能、1.5 x 105のAGC標的値、120ミリ秒の最大インジェクション時間)。
【0203】
実施例21:プロテオミクスデータの解析
データ処理は、以前に報告された手順のように実施された(E. Joeh et al., "Mapping glycan-mediated galectin-3 interactions by live cell proximity labeling", Proc. Natl. Acad. Sci. USA 117, 27329-27338 (2020))。ソフトウェアパッケージであるProteome Discoverer 2.4(Thermo Fisher Scientific)が使用されてペプチド配列が決定され、その際、SEQUEST HTアルゴリズムを用いてホモ・サピエンス(Homo sapiens)プロテオームデータベース(42,358種類の配列)が使用された(プリカーサーの質量許容差(mass tolerance)は10 ppm、フラグメントイオンの質量許容差は0.6 Da、1か所の切れ残りを許容、標的偽発見率は1%(Percolator))。固定的な修飾(Static modification)は、カルバミドメチル(arbamidomethyl)(C、+57.02146)およびTMTタグ(KおよびN末端、+229.1629)についてセットされ、一方で酸化(M、+15.994915)が、可変の修飾(variable modification)としてセットされた。ペプチドの定量は、MS3レベルにおいて、レポーターイオンの質量許容差を20 ppmにセットして実施された。それに続く統計学的解析は、Python 3.6.5において実施された。Proteome Discovererから取得されたTMTの存在量および割合は、log2(x)を用いて変換され、そしてp値は、2つの生物学的反復物を用いたt検定を使用して取得された。加えて、同定されたタンパク質は、最低3個の固有のペプチドを有することが必要とされた。定量的データは以下の表2に列挙される。質量分析プロテオミクスのデータセットは、該データセットの識別子をMSV000086972として、MassIVEリポジトリに寄託されている。
【0204】
(表2)H358細胞におけるDZ2-CHD
Sos-5の光親和性架橋を用いたMSベースのプロテオミクスによる、富化されたタンパク質
aCP-266 = 3-(3-(ブト-3-イン-1-イル)-3H-ジアジリン-3-イル)-N-メチルプロパンアミドの構造は、
である。
【0205】
実施例22:Sos三次ヘリックス模倣体の設計
Ras/Sos複合体の高分解能構造(PDB: 1NVW)は、αHドメインおよびαIドメインからなるヘリカルヘアピンとして、Rasに結合するSosの触媒領域を示すものである(
図2Aを参照されたい)。コンピューターによるアラニンスキャニング変異導入は、以下の表3に示すように、Rasに接触する重要な残基、またはホットスポット残基が、SosヘアピンのαHヘリックスに存在していること(F929、T935、E942、およびN944)、αIヘリックスがイオン性パッチに会合する潜在能力を有することを示唆するものである(A. Patgiri, K. K. Yadav, P. S. Arora, D. Bar-Sagi, "An orthosteric inhibitor of the Ras-Sos interaction", Nat. Chem. Biol. 7, 585-587 (2011); T. Kortemme, D. E. Kim, D. Baker, "Computational alanine scanning of protein-protein interfaces", Sci. Signal. 2004, pl2 (2004))。
【0206】
(表3)Ras-Sos複合体におけるホットスポット残基を決定するための、コンピューターによるアラニンスキャニング(PDB:1NVWおよび1BKD)
Sos αHヘリックス(929~944):
【0207】
αHおよびαIのヘリックス-ループ-ヘリックス三次構造という立体構造を獲得しているCHDが、開発された。CHDの合成には、二量体の界面において分子内接触が増強されることに加えて、2つのヘリカルセグメントの、溶媒に曝露される表面において、架橋剤が適切に配置されることが必要である。αH/αIヘリックス二量体を模倣するため、架橋剤が、逆平行ヘリカル構築物の「e」の位置に配置される。先の取り組み(M. G. Wuo, S. H. Hong, A. Singh, P. S. Arora, "Synthetic Control of Tertiary Helical Structures in Short Peptides", J. Am. Chem. Soc. 140, 16284-16290 (2018))において、CHDの合成は、システイン残基を「e」の位置に配置し、それに続いて、ジベンジルエーテル架橋剤を用いてチオール基をアルキル化することで、最適化された(
図2Bを参照されたい)。天然のαH/αI界面は、最適化されていないノブ・イントゥ・ホール型パッキングを特色としている;最小のコイルドコイル模倣体における立体構造の安定性を増強するために、「a」および「d」の位置にある芳香族残基を変異させた(J. D. Steinkruger et al., "The d'--d--d' vertical triad is less discriminating than the a'--a--a' vertical triad in the antiparallel coiled-coil dimer motif", J. Am. Chem. Soc. 134, 2626-2633 (2012); E. B. Hadley, O. D. Testa, D. N. Woolfson, S. H. Gellman, "Preferred side-chain constellations at antiparallel coiled-coil interfaces", Proc. Natl. Acad. Sci. USA 105, 530-535 (2008); J. M. Fletcher et al., "A basis set of de novo coiled-coil peptide oligomers for rational protein design and synthetic biology", ACS Synth Biol 1, 240-250 (2012))。鎖内および鎖間の塩橋相互作用を増大させるため、ならびにヘリックス二量体の立体構造の安定性を増大させるため、他の相互作用しない残基もまた、変異させた(P. Lavigne, F. D. Sonnichsen, C. M. Kay, R. S. Hodges, "Interhelical salt bridges, coiled-coil stability, and specificity of dimerization", Science 271, 1136-1137 (1996))。設計された配列は、
図2Bおよび
図17、ならびに表2に列挙される。
【0208】
Sos誘導体は、以下の2つのRosettaベースのコンピューターウェブサーバーを活用して、合理的に設計された:Robetta(T. Kortemme, D. E. Kim, D. Baker, "Computational alanine scanning of protein-protein interfaces", Sci. Signal. 2004, pl2 (2004))、およびRosetta Backrub(F. Lauck, C. A. Smith, G. F. Friedland, E. L. Humphris, T. Kortemme, "RosettaBackrub--a web server for flexible backbone protein structure modeling and design", Nucleic Acids Res. 38, W569-575 (2010))。Robettaサーバーは、タンパク質表面の静的モデルを用いて、アラニンスキャニング変異導入の解析を提供するものであり、かつBackrubは、スコアを改善する潜在能力を有する残基置換を示唆するものである。これらのコンピューターウェブサーバーの次に、視覚化ソフトウェアであるChimera(E. F. Pettersen et al., "UCSF Chimera - A visualization system for exploratory research and analysis", Journal of Computational Chemistry 25, 1605-1612 (2004))が利用されて、非天然側鎖、特に、タンパク質表面上のイオン性パッチと会合する非天然側鎖が予測された。Ras-Sos複合体およびアポRasの、結晶構造のモデリングから、αIヘリックスのK963残基と、RasのスイッチIループ上の負電荷パッチとの間の、潜在的なイオン性相互作用が示唆される;Sosの該リジン残基は、RasのE31とD33との間にサンドイッチされている。アルギニン基のグアニジンの官能性は、Rasの両方のイオン性残基に会合し得るものであり、これはリジン側鎖の第1級アミン基よりも優れている、との仮説が今回立てられた。この仮説に基づいて、設計されたCHDにK963R置換が挿入された。
【0209】
CHD
Sos-1は、最も高度に天然のSosヘアピン配列を模倣している;このプロテオミメティックの蛍光標識された誘導体は、K
d = 32 ± 6 μMという結合親和性でH-Rasに結合し、これは、フルオレセインで誘導体化されたCHDを用いた蛍光偏光(FP)アッセイにおいて測定されたものである(
図7を参照されたい)。細胞内の環境において、Rasに対するSosタンパク質の結合親和性は、これら2種類のタンパク質の膜への局在性に、高度に依存性である。ヌクレオチドに結合しているRasの、Sosの触媒ドメインとの溶液中相互作用について、報告されているK
d値は14.5 μMである(H. Sondermann et al., "Structural analysis of autoinhibition in the Ras activator Son of sevenless", Cell 119, 393-405 (2004))。したがって、Rasに対するCHD
Sos-1の結合親和性は、生化学的環境において、Sos断片について予測されるものの範囲内である。Rosetta Backrubによって実行されたコンピューター解析から、2つの接触残基(F929、E942)は、それらそれぞれのサブポケット内で、Ras表面に対して最適に会合しているわけではないことが示された。解析により、F929WおよびE942Nという置換が示唆された。CHD
Sos-2においてこれらの2つの残基を置換すると、結合親和性の10倍の増強がもたらされた(K
d = 2.8 ± 0.5 μM)。CHD
Sos-3(F929A、N944A)は、コンピューターによって予測された重要なαHの結合残基を、アラニンと置換することによって、陰性対照として設計された。予測されたように、アラニンの二重変異体は、有意に低下した親和性で結合した(K
d > 100 μM)。
【0210】
αIとRasのスイッチIループとの間のイオン性相互作用の重要性を解析するため、CHDSos-4が設計されたが、これにおいては、CHDSos-2における1つのカチオン性アルギニン残基がアラニンに置換されている(K963R)。アルギニン基の置換によって、結合親和性がKd = 40 ± 20 μMへと低下したことから見て、結合解析は、αIとRasとの間のイオン性相互作用が、複合体形成の全体にとって重要であることを示唆するものである。最後に、αHにおけるL938は、Rasにおける負に荷電した溝の近くに位置することが認められた;そしてこの残基を、CHDSos-5において、イオン性の接触を行う可能性のある非カノニカルなホモアルギニン残基に変異させた。CHDSos-5は、わずかに改善された親和性でH-Rasに結合し、CHDSos-2を上回って、Kd = 2.0 ± 0.3 μMである。CHDSos-5におけるこの追加のカチオン性残基はまた、CHDSos-2と比較して、その水への溶解性も改善する。938位にアルギニン残基を含むCHDSos-6は、CHDSos-5と比べて1/4に低下した親和性(Kd = 8.6 ± 6.0 μM)でRasと結合したが、これは、より長いホモアルギニン側鎖がこの位置に必要であることを示す。
【0211】
リードプロテオミメティックであるCHD
Sos-5、および陰性対照であるCHD
Sos-3の結合親和性は、マイクロスケール熱泳動(MST)を用いてさらに解析された。MSTアッセイにおいて、CHD
Sos-5はナノモルのオーダーの結合親和性で、蛍光標識されたRasに結合する(K
d = 0.3 ± 0.1 μM、
図2B、
図8を参照されたい;偏光アッセイと同様に、アラニン変異体であるCHD
Sos-3は、タンパク質標的にほとんど結合しない(K
d > 100 μM)。MSTを用いて観察された、結合親和性の改善から、蛍光偏光アッセイにおいては色素の配置が最適ではない可能性があることが示唆される(N. J. Moerke, "Fluorescence Polarization (FP) Assays for Monitoring Peptide-Protein or Nucleic Acid-Protein Binding", Curr. Protoc. Chem. Biol. 1, 1-15 (2009))。
【0212】
実施例23:SosプロテオミメティックであるCHD
Sos-5は、立体構造として安定であってかつタンパク質分解に対しても安定であり、かつRasの動的なスイッチ領域においてRasと結合する
SosプロテオミメティックであるCHD
Sos-5の立体構造の安定性は、円二色性(CD)分光法を用いて評価された。CDは、αヘリックスについて独特なシグネチャーを提供するものであり、αヘリックスは、195 nmに極大値を有し、かつ208 nmおよび222 nmに極小値を有する(N. R. Kallenbach, P. C. Lyu, H. X. Zhou, "CD spectroscopy and the helix-coil transition in peptides and polypeptides", Circular Dichroism and the Conformational Analysis of Biomolecules, G. D. Fasman, Ed. (Plenum Press, New York, 1996); M. C. Manning, R. W. Woody, "Theoretical Cd Studies of Polypeptide Helices - Examination of Important Electronic and Geometric Factors", Biopolymers 31, 569-586 (1991))。CD実験によって、CHD
Sos-5がヘリックスの明瞭な特徴を有することが示される(
図3A)。対照的に、SosのαHおよびαIに対応する個々のペプチドは、それぞれ、ランダムコイル様のシグネチャーを示す(
図9)。等モルの未連結ペプチドのタイトレーションからは、明確な構造が存在しないことが明らかとなったが、一方で架橋CHD
Sos-2は、ヘリックスの顕著な特徴を示した。
【0213】
酵素によるタンパク質分解は、ペプチド治療薬の潜在能力に制限をもたらす、重要な因子である。架橋ヘリックス二量体は、その立体構造の安定性に起因して、タンパク質分解性の崩壊に対する耐性を示している(J. Sadek et al., "Modulation of virus-induced NF-kappaB signaling by NEMO coiled coil mimics", Nat Commun 11, 1786 (2020))。タンパク質分解に対するCHD
Sos-5の安定性は、血清中で解析された。CHD
Sos-5のタンパク質分解の速度は、エクスビボ条件下で、HPLCベースの経時的アッセイにおいて決定された。CHD
Sos-5は、血清プロテアーゼによるタンパク質分解に対してかなりの耐性を示し、これは、t
1/2 > 24時間、と算出される。該プロテオミメティックのおよそ60%は、24時間後にインタクトなままである(
図3B)。
【0214】
MSTおよび蛍光偏光の結合データから、CHD
Sos-5が、高めのナノモルから低めのマイクロモルのオーダーの結合親和性で、Rasに結合することが示される。該プロテオミメティックが、設計されたように、RasのSos結合領域においてRasと会合するかどうかを決定するため、タイトレーション異種核1量子コヒーレンスNMR分光法(HSQC)実験が実施されたが、これは、リガンド結合または立体構造変化の際の、特定のタンパク質残基の化学シフトの変化をモニターするものである。
15N標識されたH-Ras(100 μM)に対する、漸増濃度(2.5 eq.および5 eq.)のCHD
Sos-5は、RasのスイッチI領域およびスイッチII領域内の残基に対応するピークシフトにおける変化をもたらすものであった(
図3C、
図10)。
図3Dは、CHD
Sos-5でのタイトレーション(5 eq.)後に観察された化学シフト変化を棒グラフとして示す。
【0215】
結合部位の占有状態をさらに確認するため、CHD
Sos-5は、αIヘリックスのN末端において、光で誘発される架橋基としてジアジリンモエティを有するように加工された(
図3E)。会合がSos部位において生じるのであれば、ジアジリンが照射を受けると、結果として生じる反応性のカルベンは、Rasのヒンジ領域を共有結合性標識するであろう、との仮説が立てられた。H-Rasは5 eq.のDZ1-CHD
Sos-5とインキュベートされ、そして複合体がUV光に曝露された。アガロースゲル電気泳動により、1か所標識されている、別個の新しいタンパク質バンドが明らかとなった。トリプシン処理されたタンパク質は、架橋されたRas断片を明らかにするため、質量分析法によって解析された。Rasのヒンジ領域と光架橋され、消化されたDZ1-CHD
Sos-5の断片の質量が観察された(
図3E、
図11)。タイトレーションHSQCの結果、および化学的架橋の結果は両方とも、設計されたプロテオミメティックが、RasのSos結合表面に結合することを示すものである。
【0216】
実施例24:CHDSos-5は変異体Rasがん細胞において選択的な細胞膜透過性を示す
インビトロでの結果から、設計されたCHDがRasシグナル伝達を変化させ得ることが示唆される。有効な細胞内変化を引き起こすには、該化合物を細胞内へと効率良く取り込み、そして該化合物を細胞内で細胞質に効率良く局在化させることが必要である。がん細胞へとペプチドミメティックを輸送するメカニズムは、最近、包括的に解析されてきている。立体構造において制約付きのペプチドミメティックの、効率の良い取り込みは、ペプチドミメティックの、サイズ、電荷、および立体構造にかかわらず、各細胞株のマクロピノサイトーシス活性と直接的に相関していることが観察された(D. Y. Yoo et al., "Macropinocytosis as a Key Determinant of Peptidomimetic Uptake in Cancer Cells", J. Am. Chem. Soc. 142, 14461-14471 (2020); C. Commisso et al., "Macropinocytosis of protein is an amino acid supply route in Ras-transformed cells", Nature 497, 633-637 (2013))。
【0217】
特に、CHDは高分子量を有しているにもかかわらず、マクロピノサイトーシス性の細胞において、高レベルの細胞内取り込み、および細胞質への高レベルのエンドソーム脱出を示した - CHDの取り込みは、Tatの取り込みと同様であった、ここでTatとは、細胞内部へと高度に移行することで知られる、ポリカチオン性の細胞膜透過性ペプチドである(P. Lonn et al., "Enhancing Endosomal Escape for Intracellular Delivery of Macromolecular Biologic Therapeutics", Scientific Reports 6, 32301 (2016); P. Lonn, S. F. Dowdy, "Cationic PTD/CPP-mediated macromolecular delivery: charging into the cell", Expert Opinion on Drug Delivery 12, 1627-1636 (2015))。
【0218】
Rasに活性化変異を有する細胞において、またはRas経路内に特有の他の変異を有する細胞において、マクロピノサイトーシスは上方制御され得る。これらの以前の解析と一致して、生細胞の蛍光顕微鏡観察から、Ras変異体を有するT24膀胱がん細胞(H-Ras G12V)およびH358肺がん細胞(K-Ras G12C)のサイトゾルへの、フルオレセイン標識されたCHD
Sos-5の有意な細胞内取り込みが示された(
図4A)。蛍光CHD
Sos-5の細胞内強度は、蛍光標識されたTatペプチドのものと同様である(
図12A)。顕微鏡観察試験を裏付けるため、ペプチドの取り込みはフローサイトメトリー解析を用いて定量され、そしてCHD
Sos-5およびTatについて同様の結果が観察された。陰性対照であるCHD
Sos-2およびCHD
Sos-3は、おそらくアルギニン残基の除去に起因して、CHD
Sos-5よりも低下した取り込みを示した(
図4B、
図12B)。予測されたように、ペプチドについての細胞内取り込みの低下は、HeLa細胞およびBxPC3細胞において観察されたが、これら細胞は両方とも、低いマクロピノサイトーシス活性を有している。37度でインキュベートされた細胞と比較した場合に、低温処理されたT24細胞およびH358細胞は、蛍光タグ付きのCHD
Sos-2およびCHD
Sos-5の取り込みに関して、>90%の低下を示した(
図12C~12D)が、これら細胞では、マクロピノサイトーシスを含めた、エネルギー依存性の取り込み経路は妨害されているはずである。マクロピノサイトーシス活性の増強は、Ras変異を有する細胞に限定されてはおらず、かつ、いくつかの他の変異もまた、この活性を上方制御することが知られている。たとえば、発がん性のFGFR3融合を含むSW780細胞においても、CHD
Sos-5は透過性である(
図4B)。全体的に見て、いくつかのがん変異における、細胞膜透過性に対する依存性は、いくつかのがんが、治療用プロテオミメティックをより受け入れやすい可能性があることを示唆するものである。
【0219】
実施例25:CHD
Sos-5はRasの野生型および変異体アイソフォームに結合する
変異型のRasを有するがん細胞における、CHD
Sos-5の細胞内取り込みの増進から、Sosプロテオミメティックが、これらのがん細胞に対して選択毒性を有し得ることが示唆される。この前提に基づいて、H-Rasの変異体型、特に、G12がシステインに、アスパラギン酸に、およびバリンに変異している変異体型(G12C、G12D、およびG12V)と会合する、CHD
Sos-5の潜在能力が調査された。グリシン残基の、極性残基との置換およびβ分枝残基との置換は、「開放」型と「閉鎖」型との間で動的な、Rasのスイッチ領域の立体構造を変化させるものであり、かつ、これらの変異は、発がん性のRasアイソフォームにおいてしばしば観察されている(S. Lu, H. Jang, R. Nussinov, J. Zhang, "The Structural Basis of Oncogenic Mutations G12, G13 and Q61 in Small GTPase K-Ras4B", Scientific Reports 6, 21949 (2016))。インビトロ結合解析のため、該変異体は、H-Ras構築物として発現させた。活性化変異は、ヒトがんではK-Rasアイソフォームにおいてより頻繁に見いだされるが、Rasタンパク質の膜アンカリングに関与するC末端の超可変領域に大部分が局在化している差異を有しつつも、H-RasおよびK-RasのSos結合表面は完全に保存されている(E. Castellano, E. Santos, "Functional Specificity of Ras Isoforms: So Similar but So Different", Genes & Cancer 2, 216-231 (2011))。野生型およびG12X変異体のH-Rasタンパク質に対する、フルオレセインで誘導体化されたCHD
Sos-5のタイトレーションから、該プロテオミメティックが、低めのマイクロモルのオーダーの範囲内の同様の親和性で、全てのRasに結合すること - とはいえ、野生型に対する優先傾向を有している - が明らかにされる(
図4C)。野生型、G12C、G12D、およびG12VのH-Rasタンパク質に対するCHD
Sos-5の結合親和性は、K-Rasの野生型および変異体型にも適用されると予測される。
【0220】
実施例26:CHD
Sos-5は、Rasシグナル伝達を下方制御することにより、変異体Rasがん細胞に対して選択毒性を有する
インビトロ結果は、CHD
Sos-5が、マイクロモルのオーダーの親和性で野生型Rasおよび変異体型Rasに結合可能であること示すものであり、かつCHD
Sos-5が、Ras変異体細胞株において高度な選択的透過性を有することを示すものであったが、これらに促されて、細胞内のRasシグナル伝達を阻害する、Sosプロテオミメティックの潜在能力が評価された。MTT細胞生存能力アッセイを用いて、Sosプロテオミメティックの毒性が評価された。予備的な試験において、CHD
Sos-5は血清の存在下で機能することが可能であることが観察された。この結果は重要である、なぜならばペプチドは、血清中に存在する疎水性成分によって、培地中で保持されている可能性があるため、細胞内でのペプチドの潜在能力を評価するために、細胞は、人工的な無血清条件下で、ペプチドでの処理を受ける必要がしばしばあるからである。細胞膜透過性の結果から予測されたように、野生型Rasを含む対照のHeLa細胞株と比較して、発がん性のRas変異を含む細胞株に対して、CHD
Sos-2およびCHD
Sos-5は濃度依存性の毒性を示した(
図4D、
図13A)。細胞生存能力は、細胞株間で異なる固有のマクロピノサイトーシス性取り込みのレベルと、逆相関していることが示された(
図4E)。該結果は、上方制御されたマクロピノサイトーシスの利用には、変異体がん細胞へと治療薬を送達するための利点であって、これまで利用されていなかった、潜在能力を有する利点が存在することを示唆するものである。重要なことに、アラニン対照であるCHD
Sos-3は、試験された細胞株の生存能力に対する作用をほとんどまたは全く示さなかったが、これは、Rasのターゲティングが細胞毒性をもたらしていることを示唆するものである(
図13B)。MTTアッセイの結果は、CellTiter-Glo発光システムに基づく2つ目の細胞生存能力アッセイを用いて検証されたが、これによっても、野生型Ras細胞株対照(HeLa)と比較しての、変異体Ras細胞株(H358)に対するCHD
Sos-5の選択毒性が裏付けられた(
図13C)。
【0221】
CHD
Sos-5の細胞毒性が、Rasシグナル伝達の下方制御と相関していることを証明するため、GTP結合Rasおよびリン酸化ERKの細胞内濃度に対する、Sosプロテオミメティックの作用が、プローブを用いて調べられた。最初に、CHD
Sos-5で細胞を処理すると、Rasの活性化が下方制御されるかどうかが決定された。Ras-GTPの細胞内レベルは、Raf1のRas結合ドメイン(RBD)でのプルダウンアッセイを用いて評価された(S. J. Taylor, R. J. Resnick, D. Shalloway, "Nonradioactive determination of Ras-GTP levels using activated ras interaction assay", Methods in Enzymology (Academic Press, 2001), vol. 333, pp. 333-342)。Rasのリン酸化の程度は、H358細胞において、10 μM CHD
Sos-5の存在下で有意に減少した(
図14)。Rasは、複数のシグナル伝達経路の重要なメディエーターであり、かつERKの活性化は、Rasのエフェクター経路においてよく研究されているノードである(R. Garcia-Gomez, X. R. Bustelo, P. Crespo, "Protein-Protein Interactions: Emerging Oncotargets in the RAS-ERK Pathway", Trends Cancer 4, 616-633 (2018))。Ras-GTPレベルに対するCHD
Sos-5の作用が、ERKのリン酸化の意図される減少を引き起こすかどうかを決定するため、完全培地中のH358細胞およびHeLa細胞が、漸増濃度のCHD
Sos-3またはCHD
Sos-5で処理された。リン酸化されたERKについて、得られた溶解物がブロットされた。CHD
Sos-5は、K-Ras G12C変異体細胞株において濃度依存性の様式で、ERKの活性化レベルを有意に低下させ(A. A. Samatar, P. I. Poulikakos, "Targeting RAS-ERK signalling in cancer: promises and challenges", Nat. Rev. Drug Discov. 13, 928-942 (2014))、IC
50は < 1 μMであったが、HeLa細胞においてはほとんど作用を発揮しなかった。この差異のある活性は、該2種類の細胞株の間で、該プロテオミメティックの細胞膜透過性に差異があることと一致する(
図4F~4H、
図15A)。予測されたように、アラニン対照であるCHD
Sos-3は、いずれの細胞株においてもERKのリン酸化を抑制しなかった(
図4G~4H、
図15B)。CHD
Sos-5での処理により、活性化ERKの下方制御が観察された点は、細胞内での、該プロテオミメティックのRasとの会合と一致する。
【0222】
実施例27:ケモプロテオミクス分析によりCHDSos-5の細胞内標的が明らかとなる
低分子量GTPアーゼのRasスーパーファミリーは、150を超えるメンバーからなり、かつRas、Rho、Rab、Arf、およびRanというサブファミリーを含む(D. Vigil, J. Cherfils, K. L. Rossman, C. J. Der, "Ras superfamily GEFs and GAPs: validated and tractable targets for cancer therapy?", Nat. Rev. Cancer 10, 842-857 (2010))。該スーパーファミリーでは、GTP/GDPヌクレオチド結合ドメインの構造および配列が高度に保存されており、該ドメインには、構造が保存されているさまざまなGEFが会合する。Ras-Sos複合体の形成は、両タンパク質の膜での局在化によって促進されるが、膜への動員が決定要因ではなかった場合に、どれだけの数のRasファミリーメンバーがSosと会合し得るのかは不明である。設計されたSosプロテオミメティックであるCHDSos-5は、Sosのヌクレオチド結合ドメインの一部分を模倣しているが、膜アンカーは含まない。CHDSos-5が、複数の細胞内パートナーを有しているであろう、かつケモプロテオミクス解析により、その主要な標的が明らかになるであろう、との仮説が立てられた。
【0223】
CHD
Sos-5の推定上の結合パートナーを同定するため、H358肺がん細胞が、光親和性標識に供され、それに続いて、質量分析法ベースの確立しているプロテオミクスプロトコルによる、相互作用物質の富化およびそれら物質の特徴付けに供された(C. G. Parker, M. R. Pratt, "Click Chemistry in Proteomic Investigations", Cell 180, 605-632 (2020))。標識は、CHD
Sos-5のバリアントであって、非天然のホモアルギニン残基の代わりに結合している光標識可能なジアジリン架橋剤を有するバリアントを用いて達成された(DZ2-CHD
Sos-5、
図5A)。
【0224】
別個の細胞集団に対して、DZ2-CHD
Sos-5(10 μM)での処置か、これと並行しての、以前に記述されている陰性対照ジアジリンプローブ(CP-2-66、上記の表2)での処置を行い(C. G. Parker et al., "Ligand and Target Discovery by Fragment-Based Screening in Human Cells", Cell 168, 527-541.e529 (2017))、そして続いて、これら細胞集団をUV光(365 nm)に曝露して、DZ2-CHD
Sos-5が結合したタンパク質標的の光架橋を誘導した。細胞は溶解され、そしてプローブ標識されたタンパク質は、Y. Wang et al., "Expedited mapping of the ligandable proteome using fully functionalized enantiomeric probe pairs", Nat. Chem. 11, 1113-1123 (2019)において以前に記述されたように、CuAACを介してビオチンアジドとコンジュゲートされ、ストレプトアビジンでコートされた樹脂を用いて富化され、そしてトリプシン処理された。続いて、各集団由来のトリプシン処理されたペプチドは、定量的比較を可能にするために、アイソバリックなタンデムマスタグ(TMT)を用いて標識され(G. C. McAlister et al., "MultiNotch MS3 Enables Accurate, Sensitive, and Multiplexed Detection of Differential Expression across Cancer Cell Line Proteomes", Anal. Chem. 86, 7150-7158 (2014))、そして質量分析法(MS)ベースのプロテオミクスによって解析された。タンパク質が、生物学的二重反復物実験にわたる平均値で>4倍富化された場合(p < 0.01;上の表2)に、それらは標的であるとみなされた。全体として143個のタンパク質標的が同定され、それらのうちでK-Rasが、Ras GTPアーゼスーパーファミリーの他の7つのメンバー;GTP結合核タンパク質(RAN)、およびいくつかのRas関連タンパク質(RAB13、RAB10、RAB14、RAB18、RAB5C、RAP1B)とともに、DZ2-CHD
Sos-5によって富化されたことが示された(
図5B)。
【0225】
(表4A)K-Rasと比較した、富化されたRas GTPアーゼタンパク質中の配列類似性の解析
【0226】
(表4B)K-Rasと比較した、富化された非Ras Gタンパク質中の配列類似性の解析
【0227】
表4Aおよび4Bは、プロテオミクス解析において富化された、Ras関連GTPアーゼおよび他のGタンパク質の配列を、ヒトK-Rasの配列に対して比較するものである。各配列はアラインされ、そしてGドメイン内(aa 1~166位)およびSos αH/αIヘアピン結合領域内(aa 10~40位、56~75位)において、K-Rasと比較された。配列同一性は、記載される領域内において完全に保存されている残基の程度を評価するものであり、一方で配列類似性は、Gonnet PAM 250行列による、化学的特性が類似していて可変である残基置換を指す(G. Gonnet, M. Cohen, S. Benner, "Exhaustive matching of the entire protein sequence database", Science 256, 1443-1445 (1992))。
【0228】
該解析から、富化されたRas関連タンパク質と、富化された他のGタンパク質との間で、Sosヘリックスヘアピン結合領域において高度な配列類似性(50~70%)が存在することが示唆される(J. Colicelli, "Human RAS Superfamily Proteins and Related GTPases", Sci. Signal. 2004, re13-re13 (2004))。
【0229】
光親和性標識法によって同定された、富化された標的には、幅広い機能を有するタンパク質が含まれる(
図5C)。これらの相互作用物質の大半は、細胞の細胞内区画の中に局在しており、この点は、内部移行時に、エンドソームによる捕捉をCHD
Sos-5が回避している、との仮説を支援するものである(
図5C)。Sosプロテオミメティックを用いて、Ras以外の他のGTPアーゼをターゲティングすること、およびRasファミリー以外のタンパク質をターゲティングすることの生物学的な作用は、まだ決定されていない。
【0230】
本明細書においては、好ましい態様が詳細に示されかつ説明されているが、本発明の精神から逸脱することなく、さまざまな改変、付加、置換等を行うことが可能であり、かつしたがって、それらが、添付の特許請求の範囲に定義される本発明の範囲内にあるとみなされることは、関連する技術分野における当業者には明らかであろう。
【0231】
本発明の範囲および精神から逸脱することなく、上述の内容に対してさまざまな変更を行うことが可能であるため、上述の説明に含まれるかまたは添付の特許請求の範囲に定義される全ての内容は、本発明を記述しかつ例示するものとして解釈されることが意図される。上述の教示に照らせば、本発明について多くの改変および変更が可能である。したがって、本発明の説明は、添付の特許請求の範囲のうちにある、全てのそのような代替物、改変、および変更を包含することが意図される。
【0232】
本明細書において引用される全ての特許、特許出願、刊行物、試験方法、文献、および他の資料は、それらが本明細書において物理的に提示されているのと同じように、それらの全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0233】
【配列表】
【国際調査報告】