(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-10
(54)【発明の名称】薄膜潤滑剤を有する薬剤注射ストッパ
(51)【国際特許分類】
A61M 5/315 20060101AFI20231227BHJP
【FI】
A61M5/315 512
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023539781
(86)(22)【出願日】2021-12-17
(85)【翻訳文提出日】2023-08-24
(86)【国際出願番号】 US2021073016
(87)【国際公開番号】W WO2022147408
(87)【国際公開日】2022-07-07
(32)【優先日】2020-12-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】391028362
【氏名又は名称】ダブリュ.エル.ゴア アンド アソシエイツ,インコーポレイティド
【氏名又は名称原語表記】W.L. GORE & ASSOCIATES, INCORPORATED
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100144417
【氏名又は名称】堂垣 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】ナオミ デロング
(72)【発明者】
【氏名】ピーター ヘイックセン
【テーマコード(参考)】
4C066
【Fターム(参考)】
4C066AA09
4C066BB01
4C066CC01
4C066DD08
4C066FF05
4C066HH14
(57)【要約】
低レベル(すなわち約0.3μg~約100μg)の薄膜潤滑剤を含有するシリンジストッパが提供される。ストッパはシリンジ又は自己注射器のバレル内部に位置決めされてよい。ストッパはエラストマー本体と、固形潤滑剤と、薄膜潤滑剤とを含む。ストッパ上に存在する薄膜潤滑剤の量は、シリコーンなしのバレル内で粒子形成を引き起こすレベルを下回る。加えて、低レベルの薄膜潤滑剤は、薄膜潤滑剤なしのストッパと比較して、より低い離脱力(湿潤及び乾燥の両方)、平均スライド力、及びグライド力の低減を可能にする。ストッパ上に存在する低量の薄膜潤滑剤はまた、薄膜潤滑剤なしのストッパと比較して、シリンジ又はベント管内部の平均挿入力を低下させ、これにより、挿入を含む機械加工性を改善することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療薬を保持するように構成されたバレルと、
該バレル内部に少なくとも部分的に位置決めされたプランジャロッドと
を含んでなるシリンジであって、
該プランジャロッドはストッパを含み、
該ストッパは、
エラストマー本体と、
該エラストマー本体の外側の少なくとも一部に設けられた固形潤滑剤と、
該固形潤滑剤と前記バレルの内側との間に位置決めされた薄膜潤滑剤と
を含み、かつ、該ストッパ上の該薄膜潤滑剤の質量が約0.3μg~約100μgであることを特徴とする、シリンジ。
【請求項2】
前記薄膜潤滑剤がシリコーンであり、前記固形潤滑剤がフルオロポリマーである、請求項1に記載のシリンジ。
【請求項3】
前記ストッパ上の前記固形潤滑剤と前記薄膜潤滑剤とがシリンジ内の総潤滑剤を構成する、請求項1又は2に記載のシリンジ。
【請求項4】
前記ストッパが、約15N未満の乾燥離脱力で、前記バレル内部をスライド可能に動かされるように構成されている、請求項1~3のいずれか1項に記載のシリンジ。
【請求項5】
治療薬を保持するように構成されたバレルと、
該バレル内部に少なくとも部分的に位置決めされたプランジャロッドと
を含んでなるシリンジであって、
該プランジャロッドはストッパを含み、
該ストッパは、
エラストマー本体と、
該エラストマー本体の外側の少なくとも一部に設けられた固形潤滑剤と、
該固形潤滑剤と前記バレルの内側との間に位置決めされた薄膜潤滑剤と
を含み、かつ、前記ストッパ上の前記薄膜潤滑剤の面密度が約0.15μg/cm
2~約50μg/cm
2であることを特徴とする、シリンジ。
【請求項6】
前記薄膜潤滑剤がシリコーンであり、前記固形潤滑剤がフルオロポリマーである、請求項5に記載のシリンジ。
【請求項7】
前記薄膜潤滑剤が、前記ストッパを前記バレル内へ挿入するために必要とされる挿入力を少なくとも約10%低減する、請求項5又は6に記載のシリンジ。
【請求項8】
前記薄膜潤滑剤が、前記ストッパを前記バレル内で動かすために必要とされる離脱力を少なくとも約10%低減する、請求項5~7のいずれか1項に記載のシリンジ。
【請求項9】
前記薄膜潤滑剤が、前記ストッパを前記バレル内で動かすために必要とされる平均グライド力を少なくとも約2%低減する、請求項5~8のいずれか1項に記載のシリンジ。
【請求項10】
前記ストッパと前記バレルとの間の平均湿潤グライド力が5N未満である、請求項5~8のいずれか1項に記載のシリンジ。
【請求項11】
前記薄膜潤滑剤の質量が約0.3μg~約50μgの量で存在する、請求項5~9のいずれか1項に記載のシリンジ。
【請求項12】
治療薬を保持するように構成されたバレルと、
該バレル内部に少なくとも部分的に位置決めされたプランジャロッドと
を含んでなる注射デバイスであって、
該プランジャロッドはストッパを含み、
該ストッパは、
エラストマー本体と、
該エラストマー本体の外側の少なくとも一部に設けられた固形潤滑剤と、
該固形潤滑剤と前記バレルの内側との間に位置決めされた薄膜潤滑剤と
を含み、そして
該治療薬中に存在する、直径10μm以上である粒子の平均数が約600以下であり、かつ、直径25μm以上である粒子の平均数が約60以下であることを特徴とする、注射デバイス。
【請求項13】
前記薄膜潤滑剤がシリコーンであり、前記固形潤滑剤がフルオロポリマーである、請求項12に記載の注射デバイス。
【請求項14】
前記ストッパ上に存在する前記薄膜潤滑剤の量が約0.3μg~約100μgである、請求項12又は13に記載の注射デバイス。
【請求項15】
ストッパをシリンジ内へ挿入する方法であって、
該ストッパ、ベント管、及びバレルの少なくとも1つを、薄膜潤滑剤で潤滑し、
該ストッパの直径が該ベント管の直径よりも小さくなるように該ストッパを圧縮し、
該ストッパを該ベント管内へ挿入し、
該ベント管を該バレル内部に少なくとも部分的に位置決めし、そして
該ストッパを該バレル内へ挿入する各工程を含んでなり、
該ストッパは、該バレル内へ挿入されると約0.3μg~約100μgの薄膜潤滑剤を含むことを特徴とする、ストッパをシリンジ内へ挿入する方法。
【請求項16】
前記薄膜潤滑剤がシリコーンである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記潤滑工程が、潤滑工程なしの方法と比較して、挿入工程のうちの少なくとも1つの工程中に挿入力を少なくとも約5%低減する、請求項15又は16に記載の方法。
【請求項18】
前記バレルの少なくとも一部に治療薬を充填する工程を含み、該治療薬中に存在する粒子の平均数が、直径10μm以上のものは約600を超えることがなく、かつ、直径25μm以上のものは約60を超えることがない、請求項15~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記潤滑工程が前記ストッパを前記薄膜潤滑剤で潤滑することを含み、前記薄膜潤滑剤が、約0.15μg/cm
2~約50μg/cm
2の前記ストッパ上の表面積密度を有している、請求項15~18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記ストッパを前記バレル内へ挿入する工程が必要とする挿入力が、30N未満である、請求項15~19のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は大まかに言えば、低レベルの潤滑剤を有する注射デバイスに関する。より具体的には、開示は、当該ストッパの表面と相互作用する低レベルの潤滑剤を備えたエラストマーストッパを有する注射デバイス、並びにその注射デバイスの製造方法及び使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薬剤の送達のために使用される注射デバイス(例えばシリンジ、自己注射器)は、バレル及びストッパを含む。ストッパはバレル内部にスライド可能に嵌め込まれており、そしてシリンジの作動及び薬剤の送達のために、ストッパにはプランジャロッドが固定されていてよい。ストッパとバレルとの間の滑り摩擦を低減してこれらの間のシール作用を改善するために、注射デバイス内に液状潤滑剤(例えばシリコーン油)がしばしば提供される。薬剤の保管及び送達の両方を行う方法として、プレフィルド注射デバイスを使用することがある。しかしながら、注射デバイス内に存在する液状潤滑剤は、注射デバイス内に含有されて患者へ注射され得る薬剤中に拡散することがある。シリコーン油は、生物医薬品に関して特に懸念され得る。なぜならば、シリコーン油はある特定のタンパク質の凝集を引き起こすおそれがあり、これによりバイオ医薬品を注射に使用できなくしてしまう。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
1つの態様(「態様1」)によれば、シリンジが、治療薬を保持するように構成されたバレルと、前記バレル内部に少なくとも部分的に位置決めされたプランジャロッドとを含む。前記プランジャロッドは、エラストマー本体と、前記エラストマー本体の外側の少なくとも一部に設けられた固形潤滑剤と、前記固形潤滑剤と前記バレルの内側との間に位置決めされた薄膜潤滑剤とを有するストッパを含む。前記ストッパ上の前記薄膜潤滑剤の質量は約0.3μg~約100μgである。
【0004】
態様1にさらに付加される別の態様(「態様2」)によれば、前記薄膜潤滑剤がシリコーンであり、前記固形潤滑剤がフルオロポリマーである。
【0005】
態様1又は態様2にさらに付加される別の態様(「態様3」)によれば、前記ストッパ上の前記固形潤滑剤と前記薄膜潤滑剤とがシリンジ内の総潤滑剤を構成する。
【0006】
態様1から3のいずれか1つにさらに付加される別の態様(「態様4」)によれば、前記ストッパが、約15N未満の乾燥離脱力で、前記バレル内部をスライド可能に動かされるように構成されている。
【0007】
1つの態様(「態様5」)によれば、シリンジが、治療薬を保持するように構成されたバレルと、前記バレル内部に少なくとも部分的に位置決めされたプランジャロッドとを含み、前記プランジャロッドはストッパを含む。前記ストッパは、エラストマー本体と、前記エラストマー本体の外側の少なくとも一部に設けられた固形潤滑剤と、前記固形潤滑剤と前記バレルの内側との間に位置決めされた薄膜潤滑剤とを含む。前記ストッパ上の前記薄膜潤滑剤の面密度は約0.15μg/cm2~約50μg/cm2である。
【0008】
態様5にさらに付加される別の態様(「態様6」)によれば、前記薄膜潤滑剤がシリコーンであり、前記固形潤滑剤がフルオロポリマーである。
【0009】
態様5又は態様6にさらに付加される別の態様(「態様7」)によれば、前記薄膜潤滑剤が、前記ストッパを前記バレル内へ挿入するために必要とされる挿入力を少なくとも約10%低減する。
【0010】
態様5から7のいずれか1つにさらに付加される別の態様(「態様8」)によれば、前記薄膜潤滑剤が、前記ストッパを前記バレル内で動かすために必要とされる離脱力を少なくとも約10%低減する。
【0011】
態様5から8のいずれか1つにさらに付加される別の態様(「態様9」)によれば、前記薄膜潤滑剤が、前記ストッパを前記バレル内で動かすために必要とされる平均グライド力を少なくとも約2%低減する。
【0012】
態様5から9のいずれか1つにさらに付加される別の態様(「態様10」)によれば、前記ストッパと前記バレルとの間の平均湿潤グライド力が5N未満である。
【0013】
態様5から10のいずれか1つにさらに付加される別の態様(「態様11」)によれば、前記薄膜潤滑剤の質量が、約0.3μg~約50μgの量で存在する。
【0014】
1つの態様(「態様12」)によれば、注射デバイスが、治療薬を保持するように構成されたバレルと、前記バレル内部に少なくとも部分的に位置決めされたプランジャロッドとを含み、前記プランジャロッドはストッパを含む。前記ストッパは、エラストマー本体と、前記エラストマー本体の外側の少なくとも一部に設けられた固形潤滑剤と、前記固形潤滑剤と前記バレルの内側との間に位置決めされた薄膜潤滑剤とを含む。前記治療薬中に存在する、直径10μm以上である粒子の平均数が約600以下であり、かつ、直径25μm以上である粒子の平均数が約60以下である。
【0015】
態様12にさらに付加される別の態様(「態様13」)によれば、前記薄膜潤滑剤がシリコーンであり、前記固形潤滑剤がフルオロポリマーである。
【0016】
態様12又は態様13にさらに付加される別の態様(「態様14」)によれば、前記ストッパ上に存在する前記薄膜潤滑剤の量が約0.3μg~約100μgである。
【0017】
1つの態様(「態様15」)によれば、ストッパをシリンジ内へ挿入する方法が、前記ストッパ、ベント管、及びバレルの少なくとも1つを、薄膜潤滑剤で潤滑し、前記ストッパの直径が前記ベント管の直径よりも小さくなるように、前記ストッパを圧縮し、前記ストッパを前記ベント管内へ挿入し、前記ベント管を前記バレル内部に少なくとも部分的に位置決めし、そして、前記ストッパを前記バレル内へ挿入する各工程を含む。前記ストッパは、前記バレル内へ挿入されると約0.3μg~約100μgの薄膜潤滑剤を含む。
【0018】
態様15にさらに付加される別の態様(「態様16」)によれば、前記薄膜潤滑剤がシリコーンである。
【0019】
態様15又は態様16にさらに付加される別の態様(「態様17」)によれば、前記潤滑工程が、潤滑工程なしの方法と比較して、挿入工程のうちの少なくとも1つの工程中に挿入力を少なくとも約5%低減する。
【0020】
態様15から17のいずれか1つにさらに付加される別の態様(「態様18」)によれば、バレルの少なくとも一部に治療薬を充填することを含む。治療薬中に存在する粒子の平均数は、直径10μm以上のものは約600を超えることがなく、かつ、直径25μm以上のものは約60を超えることがない。
【0021】
態様15から18のいずれか1つにさらに付加される別の態様(「態様19」)によれば、潤滑することが前記ストッパを前記薄膜潤滑剤で潤滑することを含む。前記薄膜潤滑剤は、約0.15μg/cm2~約50μg/cm2の前記ストッパ上の表面積密度を有している。
【0022】
態様15から19のいずれか1つにさらに付加される別の態様(「態様20」)によれば、前記ストッパを前記バレル内へ挿入することが必要とする挿入力が、30N未満である。
【0023】
先行の実施態様は一例に過ぎず、本開示によって他の形で提供される発明概念のうちのいずれかの概念の範囲を制限するか又は狭くするように読まれるべきではない。数多くの例が開示されるが、さらに他の実施態様が下記詳細な説明から当業者に明らかになる。下記詳細な説明は実例を示し記述する。したがって、図面及び詳細な説明は事実上限定的なものではなく事実上事例的なものとみなされるべきである。
【0024】
添付の図面は、本開示のさらなる理解のために含まれ、そして本明細書中に組み込まれ、且つ本明細書の一部を構成し、実施態様を例示し、そして記載内容と一緒に、本開示の原理を説明するのに役立つ。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、1実施態様に基づくシリンジを示すダイヤグラムである。
【
図2】
図2は、1実施態様に基づく、
図1のシリンジ内部のストッパを示す破断図である。
【
図3】
図3は、1実施態様に基づくシリンジ内部にストッパを位置決めする方法を示すフローダイヤグラムである。
【
図4A】
図4Aは、実施例2に基づく、空のシリンジ内の複数のストッパ試料の力・変位データを示すプロットである。
【
図4B】
図4Bは、実施例2に基づく、空のシリンジ内の複数のストッパ試料の力・変位データを示すプロットである。
【
図5】
図5は、実施例2に基づく、複数のストッパ試料の離脱力データを示すプロットである。
【
図6A】
図6Aは、実施例3に基づく、ベント管を通る非潤滑ストッパ試料の力・変位データを示すプロットである。
【
図6B】
図6Bは、実施例3に基づく、ベント管を通る潤滑薄膜ストッパ試料の力・変位データを示すプロットである。
【
図7】
図7は、実施例4に基づく複数のストッパ・バレルシステムの離脱力データを示すプロットである。
【
図8】
図8は、実施例4に基づく複数のストッパ・バレルシステムの最大グライド力を示すプロットである。
【
図9A】
図9Aは、実施例4に基づく充填済みシリンジ内の複数のストッパ試料の力・変位データを示すプロットである。
【
図9B】
図9Bは、実施例4に基づく充填済みシリンジ内の複数のストッパ試料の力・変位データを示すプロットである。
【
図9C】
図9Cは、実施例4に基づく充填済みシリンジ内の複数のストッパ試料の力・変位データを示すプロットである。
【
図9D】
図9Dは、実施例4に基づく充填済みシリンジ内の複数のストッパ試料の力・変位データを示すプロットである。
【
図9E】
図9Eは、実施例4に基づく充填済みシリンジ内の複数のストッパ試料の力・変位データを示すプロットである。
【
図9F】
図9Fは、実施例4に基づく充填済みシリンジ内の複数のストッパ試料の力・変位データを示すプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
定義及び用語
本開示は、限定的に読まれるようには意図されない。例えば、本出願において使用される用語は、当業者がこのような用語を帰属させるであろう意味に照らして幅広く読まれるべきである。
【0027】
不正確を表す用語に関しては、「約(about)」及び「ほぼ(approximately)」を互いに置き換え可能に用いる。表明された測定値にかなり近い測定値は、当業者によって理解され容易に突き止められるようなかなり僅かな量だけ、表明された測定値から逸脱している。このような逸脱は、例えば測定誤差、測定及び/又は製造設備較正の差、測定値の読み出し及び/又は設定に際してのヒューマンエラー、他の構成部分と関連する測定値の差を考慮した性能及び/又は構造パラメータ、特定の実施シナリオを最適化するために行われる微調整、人又は機械による物体の不正確な調整及び/又は操作、及び/又はこれに類するものに帰することができる。当業者がこのようなかなり僅かな差の値を容易には突き止められないと判断される場合には、「約(about)」及び「ほぼ(approximately)」という用語は、表明された値のプラス又はマイナス10%を意味するものと理解することができる。
【0028】
種々の実施態様の説明
当業者には明らかなように、所期機能を発揮するように構成された任意の数の方法及び装置によって、本開示の種々の態様を実現することができる。なお、本明細書中に言及される添付の図面は必ずしも原寸に比例するものではなく、本開示の種々の態様を例示するために誇張されることもある。その点において、図面は制限的なものと解釈されるべきではない。
【0029】
I.薬剤注射デバイス
先ず
図1を参照すると、少なくとも1種の治療薬150を患者へ送達するための薬剤注射デバイス(例えばシリンジ)100の実施態様が提供されている。好適な治療薬150の一例としては、小分子薬剤、生物製剤、抗体、アンチセンス薬、RNA干渉薬、遺伝子治療薬、一次及び胚幹細胞、ワクチン、並びに任意の生物活性化合物、及びこれらの組み合わせが挙げられる。本開示の範囲に含まれる他の好適な薬剤注射デバイスは、例えば自己注射器を含む。
【0030】
図1の例示的なシリンジ100は、議論しやすさのためにここではカートリッジ管と呼ぶこともあるバレル110と、ストッパ200を有するプランジャロッド120と、穿刺エレメント(例えば針)170とを含む。これらのそれぞれをさらに以下に説明する。シリンジ100がLuer-Lok(登録商標)システム(図示せず)を有する「無針」デバイスであることも、本開示の範囲に含まれる。
【0031】
シリンジ100のバレル110は、液状治療薬150と、患者に面する遠位端112と、患者から離反する近位端113と、液状治療薬150へ向かって内方に向いた内面115とを含有する。バレル110は、硬質材料、例えばガラス材料(ホウケイ酸ガラス)、セラミック材料、1種又は2種以上のポリマー材料(例えばポリプロピレン、ポリエチレン、及びこれらのコポリマー)、金属材料、プラスチック材料(環状オレフィンポリマー、及び環状オレフィンコポリマー)、及びこれらの組み合わせから形成されてよい。いくつかの実施態様では、バレル110は、いくらかの量の潤滑剤がバレル110の内面115上に存在する状態で、ガラス、樹脂、プラスチック、又は金属から形成されてよい。バレル110には、プレフィルド型の液状治療薬150が供給されていてもよく、あるいは治療薬150は、使用前にバレル110内へ引き込まれてもよい。
【0032】
バレル110の遠位端112へ向かってストッパ200を動かすことにより、治療薬150を装填且つ/又は排出するために、シリンジ100のプランジャロッド120をバレル110内部で動かすことができる。プランジャロッド120は、プランジャロッド120の近位端113から延びるヘッド122を含む。ストッパ200はプランジャロッド120の反対側の端部に、プランジャロッド120の遠位端114で連結されている。
図1の例示的なストッパ200は、1つ又は2つ以上のシーリング・リブ201,202を介してバレル110の内面115と接触してはいるものの、任意の数のシーリング・リブ及び/又は非シーリング・リブがストッパ200上に存在してよい。本明細書中に使用される「シーリング・リブ(sealing rib)」という用語は、空気又は他の汚染物質がバレル110内へ入ること、又は治療薬150がバレル110から出ることを防止するために、バレル110の内面115と接触している、ストッパのリブを意味する。本明細書中に使用される「非シーリング(non-sealing)」リブは、空気(又は他の汚染物質)及び/又は治療薬150が通過し得るように、バレル110の内面115と接触しないか、又は内面115と接触するリブを意味するものとする。
【0033】
図1に示されているように、ストッパ200は、治療薬150に対してバレル110内の所定の位置に位置決めされてよい。治療薬150は液体高さH2を有している。液体高さH2は、バレル110内の治療薬150の体積に依存する。ストッパ200は、所定のストッパ高さ、又は治療薬150の上方の「ヘッドスペース」H1に配置されてよい。ヘッドスペースH1は、治療薬150の上面からストッパ200の最も近いシーリング・リブ201まで測定されたものであってよい。ヘッドスペースH1は、ストッパ200と治療薬150との間のバレル110内の空気の量を制御するように選択されてよい。いくつかの実施態様では、ヘッドスペースH1は約25mm未満、約23mm未満、21mm未満、約19mm未満、約17mm未満、約15mm未満、約13mm未満、約10mm未満、約8mm未満、約5mm未満、約3mm未満、約2mm未満、約1mm未満、約0.5mm未満である。ヘッドスペース容積は、ヘッドスペース高さH1をバレル110の内部断面積で掛け算し、ストッパ200のシーリング・リブ201を超えて治療薬150へ向かって延びるストッパ200の体積を差し引いて計算することができる。いくつかの実施態様では、シリンジ100内の治療薬150の凝集を低減又は回避するために、ヘッドスペースH1を最小化することが有利であり得る。ストッパ200については下記セクションIIにおいて詳述する。
【0034】
図1に示されたシリンジ100の針170は、バレル110の遠位端112に連結されていてよい。言うまでもなく、針の描写は事実上代表的なものである。それというのもシリンジ100は無針(needleless)である場合があり、且つ/又は、自己注射デバイスに当てはまるように、バレルに連結されないこともあるからである。針170は、プランジャロッド120のヘッド122を押すことにより、患者の皮膚を穿刺し、治療薬150を患者内へ注入するように構成されている。針170が取り外し可能である場合には、針170をバレル110に連結するとき、及び/又は針170をバレル110から解離するときに、バレル110内の細菌汚染を最小限に抑えるように注意すべきである。針170が、シリンジ100内の治療薬150に晒された潤滑剤に影響を及ぼすことなしに、患者の快適さのために潤滑剤を含有することは、本開示の範囲に含まれる。
【0035】
II.ストッパ
次に
図2を参照すると、ストッパ200がより詳細に示されており、ストッパはエラストマー本体210と、エラストマー本体210の外面の少なくとも一部に配置された固形潤滑剤220と、固形潤滑剤220とバレル110の内面115との間に配置された薄膜潤滑剤230とを含んでいる。ストッパ200は、バレル110(
図1)内部の液漏れ、及び治療薬150の装填及び/又は排出時にストッパ200とバレル110の内面115(
図1)との間の空気の導入を最小限に抑えるために、低い空気・液体透過性を有するべきである。このようにすると、ストッパ200は、バレル110内の細菌汚染に抵抗することができる。ストッパ200はまた、以下に詳述するように、バレル110内部の治療薬150の装填及び/又は放出を容易にするために、バレル110に対して低摩擦スライド可能性を有するべきである。
【0036】
ストッパ200のエラストマー本体210は、当業者によって容易に識別されるような、用途に適した任意のエラストマー、例えばブチル、ハロブチル、ブロモブチル、及び/又はクロロブチルゴム、シリコーン、ニトリル、スチレンブタジエン、ポリクロロプロペン、エチレンプロピレンジエン、フルオロエラストマー、熱可塑性エラストマー(TPE)、熱可塑性加硫物(TPV)、又は前述のもののいずれかのブレンド及び/又はコポリマーを含んでよい。他の実施態様では、ストッパ200は、非エラストマー材料、例えばプラスチック(例えばポリプロピレン、ポリカーボネート、及びポリエチレン)、熱可塑性プラスチック、又はフルオロポリマー材料、例えばエチレン-(ペルフルオロ-エチレン-プロペン)コポリマー(EFEP)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、及びペルフルオロアルコキシポリマー樹脂(PFA)から成っていてよい。
【0037】
ストッパ200の固形潤滑剤220は本明細書中では、被膜、ポリマー層、ラミネート層、又は多孔質層と呼ばれることもあり、そしてエラストマー本体210を少なくとも部分的に覆うように構成されている。いくつかの実施態様では、固形潤滑剤220は、ポリマー又は延伸ポリマーから成る単一層であってよく、あるいは固形潤滑剤220は多層構造であってもよい。固形潤滑剤220は、緻密内層又は開放微細構造内層を含むことにより、下側に位置するエラストマー本体210との相互作用、例えば固形潤滑剤220の孔(図示せず)内部にエラストマー本体210を受容することを容易にし得る。同様に、固形潤滑剤220はまた、緻密外層又は開放微細構造外層を含むことにより、固形潤滑剤220と薄膜潤滑剤230との相互作用、例えば固形潤滑剤220の孔(図示せず)内部に薄膜潤滑剤230を受容することをも容易にし得る。孔は、固形潤滑剤220の微細構造内部のノード及びフィブリルの間の空間として定義することができる。
【0038】
固形潤滑剤220は、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)、緻密化ePTFE、及びこれらのコポリマー及び組み合わせを含むフルオロポリマーから成っていてよい。固形潤滑剤220として使用するための他の潜在的なフルオロポリマーの一例としては、フッ素化エチレンプロピレン(FEP)、エチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン(例えばポリ(ビニリデンフルオリド-コ-テトラフルオロエチレン)(VDF-コ-TFE)、ポリ(ビニリデンフルオリド-コ-テトラフルオロエチレン)(VDF-コ-TrFE))、ペルフルオロプロピルビニルエーテル、ペルフルオロアルコキシポリマー、及びこれらのコポリマー及び組み合わせが挙げられる。固形潤滑剤220として使用するためのさらに別の潜在的なポリマーは、ポリエチレン(例えば延伸超高分子量ポリエチレン(eUHMWPE)、例えばSbrigliaの米国特許第9,926,416号明細書に記載されているもの)を含む。
【0039】
固形潤滑剤220の厚さは、約30ミクロン未満、約25ミクロン未満、約20ミクロン未満、約15ミクロン未満、約10ミクロン未満、又は約5ミクロンであってよい。いくつかの実施態様では、固形潤滑剤220の厚さは、約0.5ミクロン~約20ミクロン、約1ミクロン~約15ミクロン、約1ミクロン~約10ミクロン、約5ミクロン~約10ミクロン、約1ミクロン~約5ミクロン、又は約7ミクロン~約15ミクロンであってよい。固形潤滑剤220及び/又はエラストマー本体210を、化学エッチング、プラズマ処理、コロナ処理、粗面化、又はこれに類するものによって、前処理又は後処理を施すことにより、エラストマー本体210に対する固形潤滑剤220の、且つ/又は固形潤滑剤220に対する薄膜潤滑剤230の親和性及び結合状態を改善することができる。
【0040】
ストッパ200の薄膜潤滑剤230は、固形潤滑剤220とバレル110の内面115との間に位置決めされるように、そしてストッパ200とバレル110との間の摩擦をさらに低減するように構成されている。いくつかの実施態様では、治療薬150内へ拡散し得る薄膜潤滑剤230の量を最小限に抑えながら、そしてストッパ200とバレル110の内面115との間の比較的確実なシール作用を維持しながら、薄膜潤滑剤230は、シリンジ100内の摩擦を低減するのに十分なレベルで提供される。薄膜潤滑剤230は、固形潤滑剤220の化学的及び/又は物理的フィーチャを介して固形潤滑剤220と相互作用して、固形潤滑剤220が、治療薬150内への拡散の代わりに、ストッパ200上の薄膜潤滑剤230を保持するのを助けるようになっていてよい。例えば、薄膜潤滑剤230は、固形潤滑剤220のノード及び/又はフィブリル上へ、且つ/又は孔(図示せず)内へ組み込まれてよい。薄膜潤滑剤230は
図2に連続的な被膜層として示されてはいるものの、薄膜潤滑剤230が固形潤滑剤220の不連続な区域だけを覆うことも、本開示の範囲に含まれる。
【0041】
少なくとも1つの実施態様では、スプレー塗布によって、又は所定の量の薄膜潤滑剤230を含有する別の基体(例えば被覆管)とストッパ200とを接触させることにより、薄膜潤滑剤230はストッパ200の固形潤滑剤220上へ直接に被覆される。薄膜潤滑剤230はストッパ200の固形潤滑剤220上へ焼き付けられるか又は架橋されてもよい。ストッパ200の固形潤滑剤220上へ薄膜潤滑剤230を直接に被着すると、薄膜潤滑剤230が治療薬150中へ拡散するのを防止する助けとなり得る。本明細書中にさらに説明されるように、薄膜潤滑剤230は、ベント管又は挿入管(図示せず)を通して、又はバレル110を通してストッパ200の固形潤滑剤220に被着されてもよい。いくつかの実施態様では、薄膜潤滑剤230はバレル110に直接に被着されてよい。加えて、薄膜潤滑剤230をバレル110の制限された数の部分に被着することにより、システム内の薄膜潤滑剤230の全体的な量を低減することができる。1実施態様では、薄膜潤滑剤230はバレル110の、未使用形態においてストッパ200と接触状態になる上側部分にだけ被着されてよく、そして薄膜潤滑剤230はバレル110の、使用形態において治療薬150及びストッパ200と接触状態になる下側部分には存在しなくてよい。
【0042】
薄膜潤滑剤230は、いかなる固形又は液状潤滑剤であってもよい。いくつかの実施態様では、薄膜潤滑剤230はシリコーン油である。他の実施態様では、薄膜潤滑剤230は別の潤滑剤、例えばポリソルベートであってよい。加えて、薄膜潤滑剤230を化学的又は物理的に改変することにより、固形潤滑剤220に対するその親和性を改善し、これにより、ストッパ200から除去され得る薄膜潤滑剤230の量を少なくすることができる。いくつかの実施態様では、薄膜潤滑剤は、バレル110及び/又は治療薬150よりも、固形潤滑剤220に対してより高い親和性を有するように形成されている。
【0043】
ストッパ200に被着される薄膜潤滑剤230の量は種々様々であってよい。少なくとも1つの実施態様では、薄膜潤滑剤230は「低」レベルで被着される。このレベルは、1つのストッパ200当たり約0.3μg~約100μgの量であってよい。ストッパ200に被着される薄膜潤滑剤230の量は、 約0.3μg~約100μg、約5μg~約100μg、約0.3μg~約90μg、約5μg~約90μg、約0.3μg~約80μg、約5μg~約80μg、約0.3μg~約70μg、約5μg~約70μg、約0.3μg~約60μg、約5μg~約60μg、約0.3μg~約50μg、約5μg~約50μg、約0.3μg~約40μg、約5μg~約40μg、約0.3μg~約30μg、約5μg~約30μg、約0.3μg~約20μg、約5μg~約20μg、約0.3μg~約10μg、約5μg~約10μgであってよい。表面積が2cm2である1mLストッパ200の表面密度に関しては、薄膜潤滑剤230は、約0.15μg/cm2~約50μg/cm2、約2.5μg/cm2~約50μg/cm2、約0.15μg/cm2~約45μg/cm2、約2.5μg/cm2~約45μg/cm2、約0.15μg/cm2~約40μg/cm2、約2.5μg/cm2~約40μg/cm2、約0.15μg/cm2~約35μg/cm2、約2.5μg/cm2~約35μg/cm2、約0.15μg/cm2~約30μg/cm2、約2.5μg/cm2~約30μg/cm2、約0.15μg/cm2~約25μg/cm2、約2.5μg/cm2~約25μg/cm2、約0.15μg/cm2~約20μg/cm2、約2.5μg/cm2~約20μg/cm2、約0.15μg/cm2~約15μg/cm2、約2.5μg/cm2~約15μg/cm2、約0.15μg/cm2~約10μg/cm2、約2.5μg/cm2~約10μg/cm2、約0.15μg/cm2~約5μg/cm2、約2.5μg/cm2~約5μg/cm2の量でストッパ200上に存在してよい。もちろん、面密度はストッパ200のサイズに基づいて変化してよい。
【0044】
ストッパ200の固形潤滑剤220に被着された少量の薄膜潤滑剤230、及び薄膜潤滑剤230と固形潤滑剤220との相互作用は、シリンジ100が保管されているとき、又は使用されているときに、薄膜潤滑剤230の粒子が治療薬150に入るのを防止する。この「少」量の薄膜潤滑剤230は、ガスクロマトグラフィ(GC)質量分析、誘導結合プラズマ(ICP)質量分析を用いて、且つ/又は、注射用水(WFI)が完全集成済みのシリンジ100(例えばガラスバレル110、ストッパ220、及び少なくとも1種の治療薬150)に晒された後で、WFI中で測定されたバレル110内に存在する粒子の量によって測定することができる。例えば、治療薬150内に存在する平均粒子数は、直径が10μm超のものでは約600粒子/mLを超えてはならず、そして直径が25μm超のものでは約60粒子/mLを超えてはならない。
【0045】
ストッパ200には上述のように、薄膜潤滑剤230を低レベルで被覆してよく、これによりシリンジ100内部の治療薬150中へ拡散する、あるいは他の形でストッパ200から分離する少量の薄膜潤滑剤230が、低減又は最小化される。薄膜潤滑剤230と固形潤滑剤220との相互作用は、薄膜潤滑剤230をストッパ200上に保持することにも貢献する。
【0046】
薄膜潤滑剤230は、薄膜潤滑剤を有しないストッパと比較して、バレル110内へのストッパ200のより低い平均挿入力を可能にする。いくつかの実施態様では、薄膜潤滑剤230の存在は、薄膜潤滑剤を有しないストッパと比較して、平均挿入力を約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、又はそれ以上、低下させ得る。いくつかの実施態様では、挿入力(すなわちストッパをバレル内へ挿入するために必要とされる力)は、35N未満、30N未満、25N未満、20N未満であってよく、あるいはこれらの値のいずれか2つをエンドポイントとして含む任意の範囲内に含まれてよい。少なくとも1つの実施態様では、ベント管を通してストッパ200をバレル110内へ挿入する挿入力は、1mLシリンジ100の場合、約20N~約30Nであってよい。
【0047】
薄膜潤滑剤230は、薄膜潤滑剤を有しないストッパと比較して、バレル110内のストッパのより低い離脱力(breakaway force)を可能にする。ある特定の実施態様では、薄膜潤滑剤230の存在は、薄膜潤滑剤を有しないストッパと比較して、離脱力(湿潤又は乾燥)を約10%、約15%、約20%、約25%、又はそれ以上、低下させ得る。いくつかの実施態様では、ストッパ200とバレル110との間の乾燥離脱力(すなわちバレル内に液体がない状態で、バレル内でストッパを最初に動かすために必要とされる力)は、約15N未満、約12.5N未満、約10N未満、約7.5N未満、約5N未満であってよい。いくつかの実施態様では、ストッパ200とバレル110との間の乾燥離脱力は、1mLシリンジ100の場合、約8N~約12Nであってよい。さらに、いくつかの実施態様では、湿潤離脱力(すなわちバレル内に液体がある状態で、バレル内でストッパを最初に動かすために必要とされる力)は、約15N未満、約10N未満、約7.5N未満、約5N未満であってよく、あるいはこれらの値のいずれか2つをエンドポイントとして含む任意の範囲内に含まれてよい。少なくとも1つの実施態様では、ストッパ200とバレル110との間の湿潤離脱力は、約7N~約10Nであってよい。
【0048】
下記の表は、薄膜潤滑剤を有しない(「潤滑剤なし」の)ストッパの、推定された湿潤及び乾燥平均離脱力値を、本明細書中に記載された薄膜潤滑剤230(「低潤滑剤」)を有する、その他の点では同等のストッパ200と比較して示している。
【表1】
【0049】
薄膜潤滑剤230は、薄膜潤滑剤を有しない同等のストッパと比較すると、バレル110内のストッパ200のより低い平均グライド力をも可能にする。いくつかの実施態様では、薄膜潤滑剤230の存在は、薄膜潤滑剤230を有しないストッパと比較して、平均スライド力を約2%、約5%、約10%、約15%、約20%、約25%、又はそれ以上、低下させ得る。いくつかの実施態様では、開示されたストッパ200は、薄膜潤滑剤を有しないストッパと比較して同等のグライド力を示すものの、挿入力及び/又は離脱力を低下させ得る。
【0050】
いくつかの実施態様では、湿潤最大グライド力(すなわち、液体がバレル内にある状態でストッパがバレル内で動き始めたときにストッパを動かすために必要とされる最大の力)、及び/又は湿潤平均グライド力(すなわち液体がバレル内にある状態でストッパがバレル内で動き始めたときにストッパを動かすために必要とされる平均力)は、10N未満、9N未満、8N未満、7N未満、6N未満、5N未満、4N未満、3N未満であってよく、あるいはこれらの値のいずれか2つをエンドポイントとして含む任意の範囲内に含まれてよい。例えば、ストッパ200とバレル110との間の湿潤平均グライド力は、1mLシリンジ100の場合、約3N~約5Nであってよい。ストッパ200とバレル110との間の湿潤最大グライド力は、1mLシリンジ100の場合、約5N~約8Nであってよい。
【0051】
加えて、ストッパ200は、薄膜潤滑剤を有しないストッパと比較して、ストッパ200とバレル110の内面115との間の改善された、又は同等のシール作用を示すこともできる。いくつかの実施態様では、このシール作用は、さらに後述するように、容器完全性試験法を用いて評価されてよい。
【0052】
III.集成法
ここで
図3を参照すると、ストッパ200をバレル110内へ挿入する方法300が示されている。方法300は、ストッパを圧縮することを伴う圧縮ステップ305と、ストッパ200をベント管又は挿入管(図示せず)内へ挿入することを伴う第1挿入ステップ310と、ベント管をバレル110内に位置決めすることを伴う位置決めステップ315と、ストッパ200をバレル110内へ挿入することを伴う第2挿入ステップ320とを含む。方法300はまた1つ又は2つ以上の潤滑ステップを含有する。これらの潤滑ステップは、ストッパ200を薄膜潤滑剤230で潤滑することを伴う潤滑ステップ302、ベント管を薄膜潤滑剤230で潤滑することを伴う潤滑ステップ303、及び/又はバレル110を薄膜潤滑剤230で潤滑することを伴う潤滑ステップ304を含む。ストッパ200は、これが圧縮ステップ305中にベント管内部に嵌め込まれるように先ず圧縮される。ストッパ200は任意には、潤滑ステップ302中に潤滑されるか、又は圧縮ステップ305前に薄膜潤滑剤230で被覆されてよい。
【0053】
次いで、圧縮されたストッパ200を、第1挿入ステップ310中にベント管内へ挿入することができる。ベント管の直径はバレル110の内径D1(
図1参照)よりも小さい。ストッパ200が第1挿入ステップ310中にベント管内へ挿入される前に、ベント管は任意には潤滑ステップ303中に薄膜潤滑剤230で潤滑されてもよい。ベント管が薄膜潤滑剤230で潤滑される実施態様では、ストッパ200は、ベント管内への挿入前に潤滑されなくてよく、そしてベント管の内面上の薄膜潤滑剤230と接触することにより、薄膜潤滑剤230で被覆されてよい。ストッパ200がベント管内へ挿入されると、次いでベント管は位置決めステップ315中にバレル110内部に位置決めされる。潤滑ステップ302中にストッパ200を潤滑し、且つ/又は潤滑ステップ303中にベント管を潤滑する代わりに、又はこれに加えて、バレル110の内側は、任意には、潤滑ステップ304中に薄膜潤滑剤230で潤滑されてもよい。次いで、ストッパ200は第2挿入ステップ320中にバレル110内へ挿入されてよい。ストッパ200をベント管からバレル110内へ動かすことは、挿入ロッドを使用することにより達成し得る。挿入システム及び方法のさらなる例は、W. L. Gore & Associatesの国際公開第2020/112612号パンフレットに開示されている。いくつかの実施態様では、ストッパ200は、真空挿入を介して、ベント管を用いて、又はこれらの組み合わせで、バレル110内へ挿入されてよい。
【0054】
当業者には明らかなように、所期機能を発揮するように構成された任意の数の方法及び装置によって、本開示の種々の態様を実現することができる。なお、本明細書中に言及される添付の図面は必ずしも原寸に比例するものではなく、本開示の種々の態様を例示するために誇張されることもある。その点において、図面は制限的なものと解釈されるべきではない。
【0055】
図1及び2に示されたシリンジ及びストッパは、シリンジの種々の態様の一例として提供される。例示された態様の組み合わせは明らかに本発明の範囲に含まれるが、しかしその例及びその説明は、より少ない態様、付加的な態様、又は代わりの態様から、
図1及び2に示されたこれらの態様の1つ又は2つ以上に至るまで、本明細書中に提供される本発明の概念が制限されることを示唆しようとするものではない。
【0056】
試験法
言うまでもなく、ある特定の方法及び設備が以下に説明されるが、当業者によって好適と判断されたその他の方法又は設備がその代わりに利用されてもよい。
【0057】
潤滑剤(シリコーン)の定量化
ストッパ上に存在するシリコーンの量を判定するために、ストッパを適宜な有機溶媒、この場合にはn-ヘプタンで抽出した(すなわち高温における還流抽出又は超音波処理)。次いで、標準添加法を用いたグラファイトファーネス原子吸光分光分析法(GF-AAS)によって、全体的に抽出可能なシリコーンを判定した。有機的に可溶性のケイ素(Si)をGF-AASによって測定し、Si含有率38wt%のポリジメチルシロキサン(PDMS)として計算した。試験されたストッパの各タイプ毎に、複数のストッパのデータを平均した。
【0058】
挿入力方法
Instron UTMで挿入力を測定した(圧縮試験、20mm/minでプレロード0.02N、試験速度40mm/s、試験基準終端70N、データ取得速度1ms)。各プランジャタイプの6つを、ベント管を通したバレル内への挿入による挿入力に関して試験した。
【0059】
離脱及び滑り摩擦試験
ベント管ストッパ挿入機械を使用してストッパを空のシリンジ(「乾式」測定のため)内、又は0.96mLの注射用水(WFI)を充填されたシリンジ(「湿式」測定のため)内へストッパを挿入することにより、離脱力及び平均スライド力を測定した。使用したシリンジは29ゲージ1/2インチ針を有するステイク型針(staked needle)デザインであった。ストッパと調和するのに適したプランジャロッドを、ストッパを動かす又は妨害することなしに、集成済みシリンジシステム内へ嵌め込んだ。システムを力・変位分析装置上のホルダ内に入れ、そして試験速度250mm/分を確立した。その後、力・変位データを得た。得られた最大力を記録した。使用した力・変位機器は、TA 270Nシリンジ試験フィクスチャを有するTA XT Plus テクスチャ分析装置(マサチューセッツ州ハミルトン)又はZwick UTMであった。
【0060】
容器完全性試験
各シリンジにWFIを公称値まで充填した。シリンジ内のWFIは青色(溶液又は着色剤)の痕跡を全く含有しなかった。被験ストッパをシリンジ内へ嵌め込んだ。次いでシリンジを0.1%(1L当たり1g)メチレンブルーの溶液中に浸漬し、そしてUSP 1207にしたがって、Haug Pack Vac チャンバ/システムを使用して、10分間にわたって外圧を27kPaまで低下させた。次いで圧力を大気圧に戻し、そしてシリンジを30分間にわたって浸漬したままにした。次いでバイアルの外側を濯いだ。シリンジが青色溶液の痕跡を全く含有しなければ、ストッパは試験に合格したと考えた。
【0061】
サブビジブル(subvisible)粒子の特徴付け
シリコーンを含むサブビジブル粒子を、マイクロ流体画像化(MFI)を介して特徴付けした。シリンジバレルにWFIを充填し、そしてストッパを前述のように挿入した。試料を20回反転させ、そして10X対物レンズを有するFlowCAM VS-1マイクロ流体画像化機械、10Xコリオメータ、及び10Xに対応するFC100x2 100μmフローセルを利用して、放出されたWFIを分析した。
【実施例】
【0062】
実施例1:ストッパの調製
1mLロング・シリンジストッパを以下の実施例すべてのために使用した。薄膜潤滑剤としてシリコーン油を使用して、各ストッパを試験した。試験するストッパを以下のように分類した。すなわち、対照1及び対照2ストッパはシリコーンを添加されていないが、下記表2に示されているように、対照2ストッパ上には微量のシリコーンが見出された。「SA」ストッパには、このストッパを他のシリコーン被覆済みストッパと接触させ、そしてストッパを撹拌することにより、シリコーン薄膜を被覆した。「SV」ストッパには、このストッパと一緒にそれぞれのバレル内へ挿入されるベント管を潤滑することにより、シリコーン薄膜を被覆した。SA及びSVの両ストッパを供給元1のベント管と一緒に挿入したが、しかしSVベント管は挿入前に微量のシリコーンで処理しておいた。「SVT」ストッパはSVと同様にシリコーンで潤滑したが、しかし供給元2のベント管を用いた。両供給元のステンレス鋼管は、概ねLaRoseの米国特許第10,369,292号明細書の教示内容にしたがって調製した。ストッパのそれぞれに存在するシリコーンの量を、上記手順を用いて判定し、そしてその結果を下記表2に示す。この手順のための定量化の限界は、対照1に関しては0.6μg/ストッパであり、ストッパの残りに関しては1.3μg/ストッパであり、そして不確実なものはk=2で計算した。
【0063】
【0064】
ストッパ上のシリコーンの量を判定するための手順は破壊的であるため、存在するシリコーンの量を判定する際に使用したものと同一のストッパを下記実施例試験のために使用することはなかった。その代わりに、同じ方法によって調製し、したがって同様のシリコーンレベルを含有するはずの同様のストッパを使用した。下記実施例に使用される対照ストッパは、対照2に最も近く、以下では単純に「対照」と呼ぶことがある。
【0065】
実施例2:容器完全性及び乾燥スライド性能
薄膜潤滑剤を備えたストッパを組み込んだ20個のシリンジを、容器完全性に関して試験した。青色色素侵入の証拠を示す試料はなかった。
【0066】
ここで
図4を参照すると、空の裸のガラスシリンジバレル(そこには固形又は液状潤滑剤はない)内へ挿入された各ストッパ試料の力・変位データがプロットされている。このデータから、離脱力及び平均グライド力が判定された。図示のように、薄膜潤滑剤で被覆されたストッパは、非潤滑対照と比較して、より一貫したスライド力プロフィールを示した。
【0067】
次いで
図5を参照すると、各ストッパ試料毎の乾燥離脱力がプロットされている。図示のように、薄膜潤滑剤で被覆されたストッパのそれぞれは、非潤滑対照と比較すると、著しく低い乾燥離脱力を示した。このような減少は、ストッパ上に存在するシリコーンレベルが低い一方、薄膜潤滑剤が、ストッパの運動を開始し、そしてこれを続けるために必要とされる力になおも利益をもたらすことを示す。
【0068】
実施例3:挿入力
この実施例のために、薄膜潤滑剤(すなわちシリコーン油)を有する、そして有しないストッパを、ベントチューブを介してバレル内へ挿入し、そして挿入力を測定した。試験されるストッパはGORE ImproJect 1mLロングであった。ストッパ(n=108)を小型容器内へ入れ、そして1μLのDow Corning 360シリコーン油を容器内へ添加することにより、薄膜潤滑剤の存在から低シリコーンレベルを有するストッパ試料を調製した。すべてのストッパが均一に被覆されるまで、容器をタンブルした。「ジェネリック(generic)」ストッパ(West FluroTec(登録商標)から入手可能)を、比較例として試験する目的で使用した。しかしジェネリック・ストッパは、機器の最大挿入力を超え、同じベントチューブ(同じベントチューブ・ジオメトリを有する)を使用してバレル内へ挿入することができなかった。結果を下記表3に要約し、ベントチューブを通した対応する力・変位データを
図6に示す。
【0069】
【0070】
上記表3に示されているように、薄膜潤滑剤を添加することにより、ベント管と一緒にストッパをバレル内へ挿入するために必要とされる挿入力を著しく低減する。
【0071】
実施例4:湿潤離脱及びグライド力試験
この実施例では、複数のストッパ及びバレルを、離脱力及びグライド力に関して試験した。ストッパは、非潤滑ストッパ、薄膜潤滑剤で潤滑されたストッパ、又は「ジェネリック」ストッパであった(非潤滑又は潤滑プランジャはGORE ImproJect 1mLロングであった。ジェネリック・プランジャはB2被膜を備えたWest FluroTec(登録商標)であった)。ストッパを非潤滑バレル又は潤滑バレル内へ挿入した(バレルは、ZebraSci Flex FP噴霧システム及びDow Corning 360シリコーン油を使用することによってシリコーン処理されたSchott 1 mLロング・バレルであった)。ストッパ・バレルシステムは、下記表4に示されているようにラベル付けした。被着された薄膜潤滑剤はシリコーン油であり、したがって薄膜潤滑剤を含むストッパ及び/又はバレルは以後「シリコーン処理済み」と呼ばれることもある。
【0072】
【0073】
離脱力(又は摺動降伏応力(break loose force))及びグライド力の試験のための試料を、Goreストッパのためには手動ベント管挿入フィクスチャを、そしてWest FluorotecストッパのためにはGroninger Mechanicalストッパリング機械を使用して調製した。各試料に1mLの注射用水(WFI)を充填した。6つのそれぞれの形態(A~F)を湿潤離脱力及びグライド力に関して試験した。
【0074】
湿潤離脱力データを
図7及び下記表5にまとめる。湿潤グライド力データを
図8並びに下記表6及び7にまとめる。
図8及び表6は最大グライド力を示すのに対して、表7は平均グライド力を示す。
図9は、各試料群毎に対応スライド曲線を示す。
【0075】
【0076】
【0077】
【0078】
図7~9及び表5~7に示されているように、薄膜潤滑剤(例えばシリコーン油)を被着することにより、ストッパ・バレルシステムの離脱力及びグライド力を著しく低下させた。離脱力に関しては、シリコーン処理なしのストッパを備えたシリコーン処理なしのバレルが、最高平均離脱力を有し、これには、低シリコーン処理済みストッパを備えたシリコーン処理なしのバレルが続き、そして次いでジェネリック・プランジャを備えたシリコーン処理なしのバレルが続いた。グライド力に関しては、最高グライド力は、ジェネリック・ストッパを備えたシリコーン処理なしのバレルに、そしてジェネリック・ストッパを備えた低シリコーン処理済みバレルに観察された。シリコーン処理なしのバレル及びシリコーン処理なしのストッパは、残りの試料と比較して2番目に高い最大グライド力を示した。「低」レベルの薄膜潤滑剤を被着することにより、離脱及び/又はグライド力を低減する一方、これとともにシステム内の潤滑剤量を最小化した。
【0079】
実施例5-実施例3及び4のシリコーン定量化
実施例3及び4におけるストッパ及びバレルのそれぞれに存在するシリコーンの量を、上記手順を用いて判定し、その結果を計算して表8及び9にそれぞれ示す。この実施例のシリコーン定量化の限界は0.3μg/ストッパ及び0.5μg/バレルであった。
【0080】
【0081】
【0082】
実施例6-サブビジブル粒子の特徴付け
薄膜潤滑剤(試料B)を備えたストッパを組み込んだシリンジを、上記MFIによって粒子に関して試験した。表10に示された結果は3回の反復ランの平均である。シリコーン粒子は画像分析を介して識別した。
【0083】
【0084】
本出願の発明を全般的に、そして具体的な実施態様に関連して上記のように説明してきた。当業者には明らかなように、開示の範囲を逸脱することなしに、種々の改変及び変更を実施態様において加えることができる。したがって、これらの実施態様は、添付の請求項及びこれらと同等のものの範囲に含まれるならば、本発明の改変形及び変更形をカバーするものとする。
【国際調査報告】