(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-10
(54)【発明の名称】循環転写因子の分析
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/68 20180101AFI20231227BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20231227BHJP
C12Q 1/6806 20180101ALI20231227BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20231227BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20231227BHJP
【FI】
C12Q1/68
G01N33/53 M ZNA
C12Q1/6806 Z
C12Q1/686 Z
C12N15/09 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023539832
(86)(22)【出願日】2021-12-29
(85)【翻訳文提出日】2023-08-23
(86)【国際出願番号】 EP2021087813
(87)【国際公開番号】W WO2022144407
(87)【国際公開日】2022-07-07
(32)【優先日】2020-12-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】517151969
【氏名又は名称】ベルジアン ボリション エスアールエル
(74)【代理人】
【識別番号】100097456
【氏名又は名称】石川 徹
(72)【発明者】
【氏名】ジャコブ ビンセント ミカレフ
(72)【発明者】
【氏名】マーク エドワード エクルストン
(72)【発明者】
【氏名】ドリアン フェルナンド フランソワ パマート
(72)【発明者】
【氏名】マリエール ヘルツォーク
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA19
4B063QQ02
4B063QQ08
4B063QQ42
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR62
4B063QS10
4B063QS25
4B063QS36
(57)【要約】
本発明は、対象内の疾患の検出方法であって、対象内に疾患、例えばがん、が存在する指標としての、転写因子及び会合しているDNAの配列を含む循環クロマチン断片を検出するための、最小侵襲的な体液検査を用いる、前記方法に関する。本方法は、会合しているDNAの配列の配列決定、及び/又は該体液からセルフリーヌクレオソームの除去を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト対象又は動物対象から得られた体液試料中の、転写因子及びDNA断片を含むセルフリークロマチン断片の検出方法であって:
(i)該体液試料を、該転写因子と結合する結合剤と接触させる工程;
(ii)該転写因子に会合している該DNA断片を検出又は測定する工程;及び
(iii)該試料中の該転写因子を含むセルフリークロマチン断片量の測定値として、該DNA断片の存在又は量を使用する工程、を含む、前記方法。
【請求項2】
工程(ii)で会合している前記DNA断片を検出する前に、工程(i)で結合された前記転写因子を、残存する前記体液試料から単離する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(ii)は、前記転写因子と会合している前記DNA断片の配列決定を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
追加的に、前記転写因子と会合している前記DNA断片を抽出する工程を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
追加的に、前記抽出されたDNA断片を、例えばPCRによって増幅する工程を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記転写因子と会合している前記DNA断片を、リアルタイムPCRによって検出及び/又は測定する、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
追加的に、セルフリーヌクレオソームを前記体液試料から除去する工程を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
工程(ii)の前に、前記体液試料を、ヌクレオソーム又はその構成要素と結合する結合剤と接触させる工程、及び該結合剤と結合した該試料を除去する工程、を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記セルフリークロマチン断片は、前記転写因子及びDNA断片からなる、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
工程(ii)で前記会合しているDNA断片を検出する前に、工程(i)で前記結合剤により結合された前記転写因子を、少なくとも1%濃度の洗浄剤を含む緩衝液で洗浄する、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
ヒト対象又は動物対象の疾患の検出方法であって:
(i)該ヒト対象又は動物対象から得られた体液試料を、転写因子と結合する結合剤と接触させる工程;
(ii) 該転写因子と会合しているDNAを検出又は測定する工程;及び
(iii) 該対象内の疾患の存在の指標として、該DNAの存在又は量を使用する工程、を含む、前記方法。
【請求項12】
前記転写因子及び前記会合しているDNAの配列を、前記対象内の疾患の存在を示す組み合せバイオマーカーとして使用する工程を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
ヒト対象又は動物対象の疾患に侵された組織の検出方法であって:
(i)該ヒト対象又は動物対象から得られた体液試料を、転写因子と結合する結合剤と接触させる工程;
(ii)該転写因子と会合しているDNAを配列決定する工程;及び
(iii)該転写因子の存在及び該会合しているDNAの配列を、該対象内の該疾患に侵された組織を決定するための組み合せバイオマーカーとして使用する工程、を含む、前記方法。
【請求項14】
前記疾患に侵された前記組織は、該疾患発生臓器である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記疾患は、がん又は炎症性疾患である、請求項11~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記転写因子と結合する結合剤は、抗体又はその断片である、請求項1~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記体液試料は、血液、血清、又は血漿試料である、請求項1~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記体液試料は:(1)全血試料をクロスリンク剤と接触させること;(2)該クロスリンクさせた試料をカルシウムイオンキレート剤と接触させること;及び(3)血漿を、該試料から単離すること、により得られる血漿試料である、請求項1~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
動物対象又はヒト対象の、医学的治療への適性評価方法であって:
(i)該対象から得られた体液試料中の、転写因子を含むセルフリークロマチン断片と会合しているDNAを検出、測定、又は配列決定する工程;及び
(ii)工程(i)で検出された、該会合しているDNAのレベル及び/又は配列を、該対象に適切な治療を選択するためのパラメータとして使用する工程、を含む、前記方法。
【請求項20】
動物対象又はヒト対象の治療のモニタリング方法であって:
(i)該対象から得られた体液試料中の、転写因子を含むセルフリークロマチン断片と会合しているDNAを、検出、測定、又は配列決定する工程;
(ii)該対象から得られた体液試料中の、該転写因子を含むセルフリークロマチン断片と会合しているDNAの、該検出、測定又は配列決定する工程を、1以上の回数繰り返す工程;並びに
(iii)工程(i)で検出された該会合しているDNAのレベル及び/又はDNA配列の、工程(ii)と比較した変化を該対象の症状の変化のパラメータとして使用する工程、を含む、前記方法。
【請求項21】
前記治療はがんの治療である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記転写因子を含むセルフリークロマチン断片と会合している前記DNAは、測定値のパネルの1つとして検出又は測定される、請求項1~21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
転写因子及びDNA断片を含むセルフリークロマチン断片を組み合せバイオマーカーとして検出するためのキットであって、該転写因子に対するリガンド若しくは結合剤を任意で該転写因子と会合しているDNAの増幅用試薬及び/若しくは配列決定用試薬と共に、並びに/又は、ヌクレオソームに対するリガンド若しくは結合剤を、並びに/又は、請求項1~22のいずれか1項に記載の方法に従ったキットの使用説明書を含む、前記キット。
【請求項24】
それを必要とする対象のがん治療方法であって:
(a)ヒト対象又は動物対象から得られた体液試料を、転写因子と結合する結合剤と接触させる工程;
(b)該転写因子と会合しているDNA断片を検出、測定、又は配列決定する工程;及び
(c)該対象内のがんの存在の指標として、該DNA断片の存在、量、又は配列を使用する工程;並びに
(d)工程(c)で該対象ががんを有すると決定された場合に、治療を施す工程、を含む、前記方法。
【請求項25】
前記治療は、手術、放射線治療、化学療法、免疫治療、ホルモン療法、及び生物学的療法から選択される、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
ヒト胎児又は動物胎児の疾患の検出方法であって:
(i)妊娠したヒト対象又は動物対象から体液試料を得る工程;
(ii)該体液試料を転写因子と結合する結合剤と接触させる工程;
(iii)該転写因子と会合しているDNAを検出、測定、又は配列決定する工程;及び
(iv)胎児中の疾患の存在の指標として、該DNAの存在、配列、又は量を使用する工程、を含む、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、最小侵襲的な体液検査による対象内の疾患の検出方法に関する。本発明は又、対象内に疾患が存在する指標としての、転写因子を含む循環クロマチン断片の、測定又は検出に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
がんは死亡率の高い一般的な疾患である。この疾患の生態は、前がん期からI期、II期、III期、そして最終的にはIV期がんへの進行(progression)を含むことが理解される。大部分のがん疾患では、疾患が早期の限局期で検出されたかどうか、効果的な治療選択肢が利用可能なのは何時か、又は、後期であれば、その疾患が罹患臓器内に広がるのは何時か、若しくは何時から治療がより困難になるか、に応じて死亡率は大きく異なる。後期がんの症候は様々であり、視認可能な血便、血尿、血痰、膣からの不正出血、原因不明の体重減少、持続的な原因不明のしこり(例えば、乳房内)、消化不良、嚥下困難、疣又はほくろへの変化、及び、がん種に応じて多くの他の取り得る症候を含む。しかし、このような症候のために診断されるがんのほとんどは、既に末期で治療が困難なものであろう。ほとんどのがんは、早期には無症状であるか、診断に役立たない非特異的な症状を呈する。以上より、がんは、理想的にはがん検査を使用して早期に検出されるべきである。
【0003】
簡単なルーチン的がん血液検査の要求に対処するため、CRC用の癌胎児性抗原(CEA)、肝臓がん用のα-フェトプロテイン(AFP)、卵巣がん用のCA125、膵臓がん用のCA19-9、乳がん用のCA15-3、及び前立腺がん用のPSAを含む、多くの血液由来タンパク質が可能性のあるがんバイオマーカーとして研究されてきている。しかし、それらは、臨床的な正確性がルーチン的診断用途には低すぎるため、患者のモニタリングのために使用する方がよいと考えられている。
【0004】
より最近では、当分野の研究者は、循環腫瘍DNA(ctDNA)をがん検出用の血液ベースバイオマーカーとして研究している。セルフリーDNA(cfDNA)は、毎日膨大な数の細胞の、主にアポトーシスによる細胞死に起因すると考えられるクロマチン断片として血液中を循環する。アポトーシスプロセス中に、クロマチンはモノヌクレオソーム及びオリゴヌクレオソームへと断片化され、その一部はその細胞から放出されて、セルフリーヌクレオソームとして循環する。各循環セルフリーヌクレオソームは、長さ200塩基対(bp)未満の小型DNA断片と会合している。同様に、循環系内の、DNA結合転写因子又は他の非ヒストンクロマチンタンパク質からなるセルフリークロマチン断片も、フラグメントミクス解析から推測された。健康対象内の循環クロマチン断片は造血系起源と考えられ、そのレベルは低い。高レベルの循環ヌクレオソーム、及び従ってcfDNA断片は、多くのがん、自己免疫疾患、炎症性症状、脳卒中、及び心筋梗塞を含む様々な症状を有する対象中で認められる(Holdenrieder及びStieberの文献、2009)。
【0005】
がん患者血液中のcfDNAの少なくとも一部は、瀕死の又は死んだがん細胞から循環系に放出されるヌクレオソーム及び他のクロマチン断片に起因すると考えられる(即ち、cfDNAはいくつかのctDNAを含む)。がん患者からのマッチした血液及び組織試料の調査は、患者腫瘍内に存在する(しかし、その患者の健康細胞には存在しない)がん関連変異が、同一患者から採取した血液試料のcfDNA内にも同様に存在することを示した(Newmanらの文献、2014)。同様に、がん細胞内の特異的にメチル化された(シトシン残基のメチル化によりエピジェネティック変化した)DNA配列も又、循環系内のcfDNAのメチル化配列として検出できる。更に、ctDNAを含む循環cfDNAの割合は腫瘍負荷と関連しているため、疾患進行を、存在するctDNAの割合によって定量的に、並びにその遺伝子的及び/又はエピジェネティックな組成によって定性的に、の両方でモニタリングできる。ctDNAの分析は、腫瘍内の全て又は多くの異なるクローンに起因するDNAに関する、高度に有用で臨床的に正確なデータを得ることができ、従って腫瘍クローンを空間的に統合することができる。更に又、長期間の繰り返し採血は、例えば繰り返し組織生検よりもはるかに実用的かつ経済的な選択肢である。ctDNAの分析は、侵襲的な組織生検手順を伴わない腫瘍DNA調査を通した、腫瘍の検出及びモニタリング、並びに、早期に腫瘍治療を選択するための再発検出及び後天的薬剤耐性の検出に革命をもたらす可能性を有する。このようなctDNA検査は、全ての種類のがん関連DNA異常(例えば、点変異、ヌクレオチドの修飾状態、転座、遺伝子コピー数、マイクロサテライト異常、及びDNA鎖完全性)を調査するために使用し得るものであり、かつ、ルーチン的がんスクリーニング、定期的及びより頻繁なモニタリング、並びに最適治療レジメンの定期的チェックに適用可能であろう(Zhouらの文献、2017)。
【0006】
一般的に、血漿をctDNAアッセイの基質として使用する。cfDNA断片(任意のctDNAを含む)を血漿から抽出し(従って、ヌクレオソーム、転写因子、又は他のタンパク質との結合から除去し)、ヌクレオチド塩基配列を分析する。任意のDNA分析法を採用できるが、典型的には次世代シークエンサー装置を用いたディープシーケンシングによって分析が行われる。
【0007】
DNA異常は全てのがん疾患の特徴であり、かつctDNAは調査された全てのがん疾患で観察されたので、ctDNA検査は全てのがん疾患に適用可能である。調査されたがんには、限定されるものではないが、膀胱がん、乳がん、結腸直腸がん、メラノーマ、卵巣がん、前立腺がん、肺肝がん、子宮内膜がん、卵巣がん、リンパ腫、口腔がん、白血病、頭頸部がん、及び骨肉腫が含まれる(Crowleyらの文献、2013;Zhouらの文献、2017;Jungらの文献、2010)。
【0008】
cfDNA分析法の一例には、対象のcfDNA断片の起源の組織又は細胞の特定が含まれる。このアプローチの基本は、循環系内に存在する全てのcfDNA断片は、それらがヌクレオソーム内のタンパク質結合によってヌクレアーゼ作用から保護されているために、細胞死中又は循環系内において、ヌクレアーゼによる消化を回避していることにある。このアプローチには、対象から採取した血液試料中のcfDNAのヌクレオソーム断片化パターンの決定、及び、参照ゲノム中の該cfDNA断片のゲノム位置の特定が含まれる。断片化のパターンは異なる細胞種ごとに異なり、対象のcfDNAの起源細胞を特定するために使用できる。
【0009】
このアプローチには、血漿試料からのcfDNA(任意のctDNAを含む)の抽出、及び、そのDNAの全ゲノム配列決定を行って、cfDNA断片により示されるヌクレオソーム結合DNAパターンを検出することが含まれる。cfDNA断片の末端配列を、コンピュータ解析によるバイオインフォマティクスを使用して、1又は複数の参照ゲノム内のそのゲノム位置を特定する。参照ゲノム内のcfDNA末端のゲノム位置により、そのゲノムのヌクレオソーム保護されたcfDNAカバレッジマップが提供される。
【0010】
対象内のcfDNAに対する異なる細胞種又は組織の寄与割合も又、国際公開WO2017/012592号に記載のコンピュータ解析によるバイオインフォマティクスを用いて、対象のヌクレオソーム断片化パターンの、異なる細胞源からの公知の相対存在量のcfDNAを含むキャリブレーション試料との比較により決定し得る。
【0011】
ヌクレオソームを含むクロマチン断片と会合しているcfDNA断片は、通常120~200 bpの長さである。しかし、cfDNAのタンパク質結合及び保護は、ヌクレオソーム内のcfDNAのヒストン結合に限定されるものではない。活性遺伝子プロモーター配列を含む他のcfDNA断片は、ヌクレオソームに加えて又はヌクレオソーム不存在下のいずれかにおいて、転写因子、補因子、又は他の非ヒストンクロマチンタンパク質によって結合されている。ヌクレオソーム不存在下では、これらのタンパク質は多くの場合、35~80 bpの範囲内の短いcfDNA断片と結合して保護する。しかし、これらの短いcfDNA断片は、使用されたDNA断片ライブラリ調製法が、長さ100塩基対未満の短いDNA断片の単離、増幅、及び配列決定に好適な場合にのみ、実験で観察される(Snyderらの文献、2016)。
【0012】
異なるプロモーター配列及び遺伝子配列を含む異なるDNA配列が異なる細胞内で活性であるため、生細胞内のゲノム全体にわたるDNAのタンパク質結合パターンは細胞種によって異なる。細胞から抽出したクロマチンのヌクレアーゼ酵素による消化、及び、得られたタンパク質保護されたクロマチン断片中の未消化DNAの配列決定による、ヌクレアーゼアクセシブル部位マッピングによって、どのような細胞種におけるDNAのタンパク質結合パターンも決定できる。従って、血液中のcfDNA断片を、インビボのヌクレアーゼ消化の産物と見なせば、発見されるcfDNA配列は、そのcfDNAが起因する細胞内のタンパク質と結合したDNA配列に一致するはずである。従って、原理的に、血液中のcfDNA断片配列のパターンは、その起源細胞のヌクレアーゼアクセシブル部位マッピングによって作成したクロマチン断片の配列パターンに類似するはずである。よって、血液試料から決定されたcfDNA配列の断片化パターンを、バイオインフォマティクス法を用いて、公知の組織又はがん種の細胞のヌクレアーゼアクセシブル部位解析によって作成された公知のDNA断片化パターンと比較し、cfDNAの起源組織を決定することができる。健康対象から採取した試料の結果は、cfDNAの起源細胞が造血系であることを示している。がん患者から採取した試料でのこのアプローチの結果は、cfDNA及びctDNAが、造血細胞及び他の細胞を含む細胞混合物に起因することを示している。多くの場合、示された非造血細胞種は、その患者のがん疾患の組織と相関することが示された(Snyderらの文献、2016)。
【0013】
他の研究者らは、全ゲノムcfDNA配列決定(あらゆるctDNAを含む)を含む、類似のcfDNA断片末端分析アプローチを使用してきたが、そのバイオインフォマティックコンピューター解析は転写因子結合部位(TFBS)配列を標的としている。このアプローチの目的は、がん患者から採取した血漿試料中のTFBSアクセシビリティを決定し、アクセシビリティが変化したTFBS DNA配列を同定することである(Ulzらの文献、2019)。このアプローチでは、対象から血漿試料を採取し、cfDNAを抽出し、長さ100 bp未満の小型DNA断片に適したDNAライブラリ調製法を用いて増幅する。このDNAライブラリを次世代シーケンシング法を使用して配列する。このシーケンシングデータを、バイオインフォマティクス法を使用して、TFBSに近位のゲノム領域内のcfDNA断片化パターンを同定するために用いる。この分析は、遺伝子プロモーター配列内のTFBS及びそのフランキング配列にわたるcfDNA断片のヌクレオソーム位置プロファイルを決定して、TFBSが、cfDNAを含むクロマチン断片内の転写因子と結合されていたかいなかったかを決定することが含まれる。この方法は複雑だが、下記の通りに要約できる。
【0014】
ゲノム内のTFBS及びフランキング配列に跨るDNA配列内で観察されるcfDNA断片化パターンが、約200 bpの周期性を示す場合、これは、分解からの、より強いタンパク質結合保護(ヌクレオソーム結合位置の中心部位)と、より弱いタンパク質結合保護(ヌクレオソーム間のそのDNAが結合しておらず保護もされていない部位)とが交互であることに関係する。この場合、その血漿試料中のcfDNAを含むクロマチン断片内で、このTFBS及びフランキング配列がヌクレオソームカバーされていたと推定される。
【0015】
cfDNA断片化パターンの存在がTFBS及びそのフランキング配列のタンパク質結合保護を更に示すが、ヌクレオソーム関連の周期性がない(又は減衰している)場合、これはTFBS及びそのフランキング配列における転写制御タンパク質結合に関連する。この場合、TFBSは血漿試料中のcfDNAを含むクロマチン断片中の1以上の転写因子及び/又は他の制御タンパク質と結合していたと推測される。
【0016】
健康対象中で見られるcfDNA断片化パターンは、一般的に、造血系細胞のヌクレアーゼアクセシブル部位実験で得られたパターンと相関する。従って、転写因子が結合した又はヌクレオソームでカバーされた、cfDNA中のTFBS配列は、造血系細胞内で発現する若しくは発現しない転写因子と相関する。がん患者でのパターンは、細胞種の混合物に関し、その混合物中のTFBSは、がん細胞種内で転写因子が結合して、造血細胞種内ではヌクレオソームが結合している可能性がある。cfDNAのほとんどは造血細胞由来であって、がん細胞由来のものはごく少量であるため、がん由来のフラグメントミクスシグナルは造血系シグナルに比べて小さい。しかし、フラグメントミクス・バイオインフォマティクス法が開発され、ctDNA内に存在する、転写因子に保護されたTFBS断片の小さなシグナルを、造血系由来cfDNA構成要素内に存在するスーパーインポーズされたヌクレオソームのはるかに大きな周期的シグナルから切り離すことができる。このフラグメントミクス解析は、混合パターンには転写因子と結合されたcfDNA TFBS配列が含まれることを示し、その転写因子は、造血系細胞内では発現しないが、がん組織によって発現される。
【0017】
クロマチン免疫沈降法に続くクロマチンと会合したDNAの配列決定(ChIP-Seq)は、細胞クロマチンタンパク質のゲノム上の位置をマッピングするために用いられる分析技術である。典型的な方法には、細胞からのクロマチン抽出、次に物理的破壊(例えば、超音波処理)によって、又はDNAを切断するヌクレアーゼ酵素(例えば、DNase若しくは小球菌ヌクレアーゼ)を用いた、クロマチンのモノヌクレオソーム又は他のクロマチン断片への消化が含まれる。次に、断片化クロマチンを、目的の特定のクロマチンタンパク質、例えば特定の修飾ヒストンに結合する抗体でコートした固相支持体に暴露する。特定構造を含むクロマチン断片が固相上に吸着(免疫沈降)される。次に、吸着されたクロマチンに会合しているDNAを固相から抽出し、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法で増幅する。増幅されたDNA断片ライブラリを配列決定して、目的のクロマチンタンパク質が結合したゲノム内の位置を決定する。転写因子に対する抗体を用いたChIP法も又、特定の転写因子の転写因子結合部位(TFBS)のゲノム上の位置を特定するために、又は、異なる細胞種内で特定のTFBSが特定の転写因子によって占有されて(occupied)いるか否かを同定するために、用いられる。
【0018】
我々は以前に、がん及び他の疾患の検出のための、特定の翻訳後修飾、ヒストンアイソフォーム、修飾ヌクレオチド、及び非ヒストンクロマチンタンパク質を含む、特定のエピジェネティックシグナルを含む循環セルフリーヌクレオソームのためのイムノアッセイ試験を報告した(国際公開WO2005/019826、WO2013/030577、WO2013/030579、及びWO2013/084002号で参照されている)。又同様に、がん検出のための、転写因子結合DNAを含むクロマチン断片のイムノアッセイ試験も報告している(国際公開WO2017/162755号で参照されている)。
【0019】
我々はここで、1以上の転写因子を会合しているDNA断片とともに含む循環セルフリークロマチン断片の、単離及び直接分析及び測定の、優れて分析的な特異性及び臨床的な特異性並びに感度を伴う方法を報告する。非常に多数のヌクレオソーム断片からの転写因子-DNA複合体の単離は、分析を簡素化し、転写因子でカバーされたTFBSのシグナルを、ヌクレオソームの優勢な周期性シグナルから切り離す必要がなくなる。この方法は、がん、自己免疫疾患、及び炎症性疾患を含む疾患に対する、非侵襲的又は最小侵襲的な血液検査として、血液試料内で使用し得る。
【発明の概要】
【0020】
(発明の概要)
本発明の第一の態様では、ヒト対象又は動物対象から得られた体液試料中の、転写因子及びDNA断片を含むセルフリークロマチン断片の検出方法であって:
(i)該体液試料を、該転写因子と結合する結合剤と接触させる工程;
(ii)該転写因子に会合している該DNA断片を検出又は測定する工程;及び
(iii)該試料中の該転写因子を含むセルフリークロマチン断片量の測定値として、該DNA断片の存在又は量を使用する工程、を含む、前記方法が提供される。
【0021】
本発明の更なる態様では、ヒト対象又は動物対象の疾患の検出方法であって:
(i)該ヒト対象又は動物対象から得られた体液試料を、転写因子と結合する結合剤と接触させる工程;
(ii)該転写因子と会合しているDNAを検出又は測定する工程;及び
(iii)該対象内の疾患の存在の指標(indicator)として、該DNAの存在又は量を使用する工程、を含む、前記方法が提供される。
【0022】
本発明の更なる態様では、ヒト対象又は動物対象の疾患に侵された組織の検出方法であって:
(i)該ヒト対象又は動物対象から得られた体液試料を、転写因子と結合する結合剤と接触させる工程;
(ii)該転写因子と会合しているDNAを配列決定する工程;並びに
(iii)該転写因子の存在及び該会合しているDNAの配列を、該対象内の該疾患に侵された組織を決定するための組み合せバイオマーカーとして使用する工程、を含む、前記方法が提供される。
【0023】
本発明の更なる態様では、動物対象又はヒト対象の、医学的治療への適性評価方法であって:
(i)該対象から得られた体液試料中の、転写因子を含むセルフリークロマチン断片と会合しているDNAを検出、測定、又は配列決定する工程;並びに
(ii)工程(i)で検出された、該会合しているDNAのレベル及び/又は配列を、該対象に適切な治療を選択するためのパラメータとして使用する工程、を含む、前記方法が提供される。
【0024】
本発明の更なる態様では、動物対象又はヒト対象の治療のモニタリング方法であって:
(i)該対象から得られた体液試料中の、転写因子を含むセルフリークロマチン断片と会合しているDNAを、検出、測定、又は配列決定する工程;
(ii)該対象から得られた体液試料中の、該転写因子を含むセルフリークロマチン断片と会合しているDNAの、該検出、測定又は配列決定する工程を、1以上の回数繰り返す工程;並びに
(iii)工程(i)で検出された該会合しているDNAのレベル及び/又はDNA配列の、工程(ii)と比較した変化を該対象の該症状の変化のパラメータとして使用する工程、を含む、前記方法が提供される。
【0025】
本発明の更なる態様では、転写因子及びDNA断片を含むセルフリークロマチン断片を組み合せバイオマーカーとして検出するためのキットであって、該転写因子に対するリガンド若しくは結合剤を任意で該転写因子と会合しているDNAの増幅用試薬及び/若しくは配列決定用試薬と共に、並びに/又は、ヌクレオソームに対するリガンド若しくは結合剤を、並びに/又は、本明細書で定義される方法に従ったキットの使用説明書を含む、前記キットが提供される。
【0026】
本発明の更なる態様では、それを必要とする対象のがん治療方法であって:
(a)ヒト対象又は動物対象から得られた体液試料を、転写因子と結合する結合剤と接触させる工程;
(b)該転写因子と会合しているDNA断片を検出、測定、又は配列決定する工程;及び
(c)該対象内のがんの存在の指標として、該DNA断片の存在又は量を使用する工程;並びに
(d)工程(c)で該対象ががんを有すると決定された場合に、治療を施す工程、を含む、前記方法が提供される。
【0027】
ヒト胎児又は動物胎児の疾患の検出方法であって:
(i)妊娠したヒト対象又は動物対象から体液試料を得る工程;
(ii)該体液試料を転写因子と結合する結合剤と接触させる工程;
(iii)該転写因子と会合しているDNAを検出、測定、又は配列決定する工程;及び
(iv)該胎児中の疾患の存在の指標として、該DNAの存在、配列、又は量を使用する工程、を含む、前記方法。
【図面の簡単な説明】
【0028】
(図面の簡単な説明)
【
図1】
図1:サーファクタントタンパク質B、サイログロブリン、サイロペルオキシダーゼ、及びサイロトロピン受容体(TSH受容体)遺伝子のプロモーター部位における様々な転写因子の共結合のイラスト図。CRE:環状アデノシン一リン酸応答エレメント、GABP:GA結合タンパク質、HNF-3:肝細胞核内因子3、NF-1:核内因子1、PAX-8:ペアボックス遺伝子8、Runx2:Runt関連転写因子2、TRα/RXR二量体:甲状腺ホルモン受容体α/レチノイドX受容体二量体、TTF-1:甲状腺転写因子1(NK2ホメオボックス1、NKX2-1としても知られる)、TTF-2:甲状腺転写因子2。
【0029】
【
図2】
図2:転写複合体に関与する様々な制御タンパク質の幾つかの共結合を説明するための、転写複合体のDNAループ構造の一例を示すイラスト図。この様々な制御タンパク質には、限定されるものではないが、基本転写因子(GTF)、遺伝子特異的転写因子(TF)、補因子、活性化因子、抑制因子、メディエーター、DNA屈曲タンパク質及びRNAポリメラーゼが含まれる。制御タンパク質は、プロモーター配列、TATAボックス配列、エンハンサー配列、及び抑制因子配列を含む、その遺伝子の近位に位置する制御DNA配列にも、その遺伝子から遠位の制御配列にも結合される。他の制御タンパク質(例えば、クロマチンリモデリングタンパク質)及び他の制御配列も可能である。
【0030】
【
図3】
図3:ヒストンH3へ結合する抗体でコートした磁気ビーズ上に吸着させた組換えモノヌクレオソームのウエスタンブロット分析。この結果は、モノヌクレオソームの用量依存的吸着を実証する。
【0031】
【
図4】
図4:コート無しの磁気ビーズ、又はヒストンH3へ結合する抗体をコートした磁気ビーズを使用してヌクレオソームを免疫沈降後に行った、ヒト血漿試料及び組換えモノヌクレオソーム溶液のヌクレオソームELISA結果。この結果は、溶液中では天然型ヒト循環ヌクレオソーム及び組換えヌクレオソームの両方が、コート無しの磁気ビーズでは影響を受けなかったが、ヒストンH3へ結合する抗体でコートした磁気ビーズを使用した免疫沈降によって定量的に除去されたことを実証する。
【0032】
【
図5】
図5:ERスコア7又は8のER陰性乳がん(ER-BC)、卵巣がん、若しくはER陽性乳がん(ER+BC)と診断された女性で測定されたERαのレベル。
【0033】
【
図6】
図6:がん患者から得られた血漿試料に暴露した磁気ポリスチレン粒子を、0.1%のTweenを含む通常の単独の洗浄用洗浄緩衝液(0.1%)又は合計で1.2%の洗浄剤となる洗浄剤混合物を含む強力洗浄緩衝液(1.2%)で洗浄した場合の効果。非特異性IgGコートした粒子は、強力な洗浄剤洗浄を使用することによりバックグラウンド結合の大きな減少を示し(レーン4及び5)、特異的抗体結合タンパク質(ポリADPリボシル化(parylated)タンパク質の混合物)を破壊することはなかった(レーン6及び7)。
【0034】
【
図7】
図7:磁気ポリスチレンビーズ上に固定化したマウス抗CTCF抗体を用い、強力な1.2%洗浄剤混合洗浄緩衝液を使用して洗浄するChIP法により、CRCと診断された患者から採取した4つのプールされたクロスリンクしたEDTA血漿試料から免疫沈降させたクロマチン断片のウエスタンブロット分析。4つ全ての血漿試料は、CTCFタンパク質に対応する約140kDのバンドを示した(抗CTCF;レーン3、5、7、及び9)。非特異性マウスIgGを用いた陰性対照実験では、CTCFに対応するバンドは見られなかった(NS-IgG;レーン2、4、6、及び8)。この実験は、CTCFタンパク質が血漿試料から単離され、強力な洗浄緩衝液の使用で血漿から比較的純粋なCTCF抽出物が導かれることを実証した。
【0035】
【
図8】
図8:患者から採取したクロスリンクしたEDTA血漿試料中のCTCFクロマチン断片のChIPにより得られた、増幅したアダプター連結cfDNA断片ライブラリ分析を示す電気泳動図。約140 bpにある鋭いピークがアダプター二量体を表すため、175~220 bpのアダプター結合断片は35~80 bpのcfDNA断片を表す(電気泳動図に表示される)。(a)特異的CTCF ChIPライブラリには、35~80 bpの範囲に約1000FUの蛍光ピークを持つ小cfDNA断片が含まれた。(b)非特異的な対照IgGライブラリにも又、約80FUの蛍光ピークを持つ小cfDNA断片が含まれた。
【0036】
【
図9】
図9:転写因子結合cfDNA断片(35~80 bp)又はヌクレオソーム結合cfDNA断片(135~155 bp若しくは156~180 bp)による、公開されている9780個のCTCF TFBS遺伝子座の正規化カバレッジ。(a)CRC患者について得られたcfDNA配列ライブラリによる特異的CTCFカバレッジ。(b)マウスIgGコートした粒子に非特異的に結合したクロマチン断片から得られたcfDNA配列ライブラリによる非特異的カバレッジ。この結果は、血漿循環CTCF-DNA複合体に起因する特異的cfDNAカバレッジのピークは、公開されているCTCF TFBS遺伝子座と相関することを示す。ヌクレオソーム結合により予測される周期振動カバレッジパターンは、調査した5kbスパンにおいて最小である。対照試料では、CTCF結合遺伝子座でcfDNAカバレッジのピークは観察されなかった。
【0037】
【
図10】
図10:がん細胞内ではCTCFにより占有されているが正常細胞では占有されていない、公開されている1041個のCTCF TFBS遺伝子座の正規化カバレッジ。カバレッジは、転写因子結合cfDNA断片(35~80 bp)又はヌクレオソーム結合cfDNA断片(135~155 bp若しくは156~180 bp)について示す。(a)CRC患者について得られたcfDNA配列ライブラリによるがん関連遺伝子座のCTCF占有。この結果は、35~80 bpのサイズ範囲内のカバレッジを示し、これら1041部位の一部又は全部のCTCF占有が確認されるので、試料が採取された対象中のがんを示す。(b)非特異的な対照実験では、CTCF占有ピークは観察されなかった。
【0038】
【
図11】
図11:8つのクロスリンクしたEDTA血漿試料から、磁気ポリスチレンビーズ上に固定化したマウス抗AR抗体を用いるChIP法で、強力な1.2%洗浄剤混合洗浄緩衝液を使用して洗浄することにより免疫沈降させたクロマチン断片のウエスタンブロット分析。8つの血漿試料は全て、ARタンパク質に対応する約140kDのバンドを示した(S1~S8;レーン2~9)。試料S1及びS2で最も高密度のバンドが観察された。レーン10は、LnCAP前立腺がん細胞の断片化クロマチンを用いた陽性対照を表す。
【0039】
【
図12】
図12:8人の前立腺がん患者から採取したクロスリンクしたEDTA血漿試料中のARクロマチン断片のChIPから得られた、増幅したアダプター連結cfDNA断片ライブラリ分析を示す電気泳動図(S1~S8)。約140 bpにある鋭いピークがアダプター二量体を表すため、175~220 bpのアダプター結合断片は35~80 bpのcfDNA断片を表す。陰性対照(ctrl)の電気泳動図も同様に示す。
【発明を実施するための形態】
【0040】
(発明の詳細な説明)
転写因子はがんに関与しており、全ての公知オンコジーンの約20%を占める(Lambertらの文献、2018)。我々は以前、対象内のがんの検出又は診断用に、血清中のバイオマーカーとして、組織特異的な転写因子を含むクロマチン断片の使用について説明した。この転写因子の組織特異性は、がんの発生組織を示すために使用できる。例えば、転写因子TTF-1は甲状腺組織及び肺組織内で発現し、他の組織では発現しないことが報告されている。従って、TTF-1を含む循環クロマチン断片の存在は、その発生組織が肺又は甲状腺であることを示す。我々は又、転写因子を含む循環セルフリークロマチン断片の測定のためのイムノアッセイ法についても説明した。このイムノアッセイには、1の抗体は転写因子に結合し、もう一つの抗体は転写因子と会合しているDNAに結合するか又はクロマチン断片に含まれるヌクレオソーム構成要素に結合する、ダブル抗体(若しくは他の結合剤)法が含まれる。1の実施態様で説明されるのは、転写因子を標的として結合する結合剤を固相上に固定化し、その転写因子を含むクロマチン断片を単離する(即ち、クロマチン断片を免疫沈降させる)。次に、単離したクロマチン断片を、DNAに結合する第2の結合剤を用いて検出する。このイムノアッセイ法は簡便で、低コストで、かつ非侵襲的である。
【0041】
ChIP-Seqは通常、ヌクレアーゼでの酵素消化によるか超音波処理によって断片化した後の、細胞クロマチン抽出物に適用される方法である。EDTA血漿にChIP-Seq法を適用した報告は少ない。血漿中のクロマチンは既に断片化されているため、試料のヌクレアーゼ消化又は超音波処理は必要ない。血漿でのChIP-Seqの報告は、抗ヒストン抗体を用いてEDTA血漿からのヒストンタンパク質の単離、その次の、ヒストンに会合しているDNA断片の抽出、増幅、及び配列決定に関する(Deligezerらの文献、2008、Manssonらの文献、2021、Sadehらの文献、2021、Vad-Nielsenらの文献、2020)。
【0042】
著者らの知る限りでは、インタクトな循環転写因子DNAクロマチン断片及び会合しているTFBS DNA配列の、直接的な単離、分析、又はマッピングのためのChIP-Seq法は文献に記載されていない。その代わりに、当分野の研究者らは、DNA断片の分析に基づいた間接的方法を開発している。
【0043】
フラグメントミクスは、このような間接的方法の1つであり、EDTA血漿から抽出されたcfDNAのディープシーケンシングをバイオインフォマティクス法によって分析し、原試料中の転写因子-DNA結合を示すDNA断片化パターンを特定するものである(Snyderらの文献、2016、Ulzらの文献、2019)。フラグメントミクスの第1ステップは、調査試料中の全DNAの抽出であり、存在する全ての転写因子-DNA複合体の破壊を必然的に含むために、これは間接的方法である。これは、その試料中の全てのDNA断片又は配列と、全ての転写因子又は他のクロマチンタンパク質とを直接的に結びつけている全ての情報を破壊する。TFBSの占有は、抽出DNAライブラリ中の適切な配列の短いcfDNA断片(35~80 bp)の存在から推測される。しかし、(DNA抽出前に)DNA断片に結合されたクロマチンタンパク質の特徴的本質は、特に多くのタンパク質が
図1及び2に示されるように目的部位に極めて接近して結合しているような場合に、知ることはできない。従って、フラグメノミクス法の欠点の一つは、特定のTFBSにおける特定の転写因子の結合は、推測できでも確定はできないことである。
【0044】
別の最近の間接的方法には、EDTA血漿中のヌクレオソームChIP-Seqがあり、セルフリーヌクレオソーム位置を直接的にマッピングし、ヌクレオソーム位置データを用いて、転写因子の位置を間接的に推測する(Sadehらの文献、2021)。
【0045】
転写因子-DNA複合体の直接的ChIP法が報告されていない理由は、これまで対処されていない重大な技術的困難性又は障害があるからである。これらの技術的困難性には、(i)転写因子-DNA複合体の一部は血漿中で安定的に会合する一方、他の転写因子-DNA複合体はインビボで動的に会合して、血液又は他の体液中で解離するであろうという認識、(ii)最も一般的なクラスの転写因子-DNA複合体はEDTA血漿中で解離するが、これは防止可能であるという認識、(iii)細胞材料又は組織材料からの細胞核抽出物は比較的純粋なクロマチン調製物であり、μg量若しくはmg量で得ることができることが含まれる。対照的に、血液、血清、又は血漿には、高レベルの他の循環タンパク質で「汚染された」非常に不純なクロマチンが低レベルで含まれており、(iv)少なくとも数百の転写因子が存在し、特定の転写因子-DNA複合体は、その血漿中に存在する数千の異なる転写因子-DNA複合体のたった1つであろう。次に、cfDNAの転写因子-DNA複合体の全画分は、cfDNA総量の小画分(そのほとんどはヌクレオソーム断片を含む)であり、がん細胞に起因するcfDNAの割合は、cfDNA総量の小画分である。従って、特定の転写因子を含む転写因子-DNA複合体は、他のタンパク質及び他の物質で高レベルに汚染された小画分の小画分の小画分である。この結論の一つは、転写因子-DNA ChIP-Seq法で血漿中で生成される特異的シグナルが小さくなる(バックグラウンドシグナルよりも小さくなる)ため、効果的なデータ解析に問題が生じることである。
【0046】
我々はここで、優れた分析感度及び優れた組織特異性を備えた、転写因子-DNA複合体を含む循環セルフリークロマチン断片の検出方法を報告する。この方法は又、適用可能な転写因子の使用範囲をほとんど又は全ての転写因子を含むまでに広げる。
【0047】
我々は又、転写因子と会合しているDNA断片の配列と組み合わせた該転写因子を含むクロマチン断片からなる組み合せバイオマーカーの、疾患の検出のための使用を報告する。この組み合せバイオマーカーは更に、組織特異性が非常に高く、がんのバイオマーカーとして使用できる。
【0048】
分析感度は、イムノアッセイによる検出限界に近い又はそれより低い低レベルで生じる、転写因子を含む循環セルフリークロマチン断片のために重要である。イムノアッセイの分析検出限界は、アッセイの設計及び使用される結合剤(通常は抗体)の親和性によって変動するが、ピコモル濃度範囲であろう。しかし、DNAのポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検出の分析感度は、更に数桁低い。デジタルPCRは、試料あたり数個分子程度の低濃度を検出できる。従って、DNA(又はヌクレオソームエピトープ)に結合する抗体を用いるのではなく、転写因子と会合しているDNAを検出するためにPCR増幅法を用いると、転写因子を含む循環クロマチン断片を極めて低いレベルで検出することができる。
【0049】
検出のためのPCR使用による感度向上と同様に、その会合しているDNAの含有量に基づく転写因子を含むクロマチン断片の分析も又、会合しているヌクレオソームを含まない転写因子の大きなプールに対処することにより、高い分析感度をもたらす。
【0050】
従って、本発明の第一の態様では、ヒト対象又は動物対象から得られた体液試料中の、転写因子及びDNA断片を含むセルフリークロマチン断片の検出方法であって:
(i)該体液試料を、該転写因子と結合する結合剤と接触させる工程;
(ii)該転写因子に会合している該DNA断片を検出又は測定する工程;及び
(iii)該試料中の該転写因子を含むセルフリークロマチン断片量の測定値として、該DNA断片の存在又は量を使用する工程、を含む、前記方法、が提供される。
【0051】
1の実施態様では、工程(i)で使用された該抗体又は転写因子の他の結合剤は、該転写因子を該試料から単離するために、固相上に固定化される。
【0052】
1の実施態様では、前記方法は、該会合している前記DNA断片を検出する前に、工程(i)で結合された転写因子を単離する、つまり、残存している前記体液試料から単離する工程を含む。例えば、洗浄緩衝液を、工程(i)で(固相)結合剤へ結合した試料中の転写因子へ適用して、結合剤へ結合していない残存している試料を除去してもよい。
【0053】
1の実施態様では、工程(ii)で転写因子と会合しているDNA断片を転写因子から抽出し、そのDNA断片を検出、測定、又は配列決定する。
【0054】
1の実施態様では、DNAを、抗DNA抗体、又はDNAキレート剤若しくはDNAインターカレート剤、例えば、臭化エチジウム、並びにSYBRグリーン及びSYBRゴールド等のシアニン染料等の、一般的なDNA結合剤を使用して、検出又は測定する。
【0055】
1の実施態様では、工程(ii)は、該転写因子と会合している該DNA断片の配列決定を含む。配列決定法は、当分野で周知である。
【0056】
幾つかの実施態様では、工程(ii)におけるDNA断片の検出又は測定は、DNA断片の存在及び/若しくは量を決定するために、例えば定量的PCR法を用いて、DNA断片の増幅によって実施する。従って、本発明の更なる態様では、ヒト対象又は動物対象内の、転写因子及びDNA断片を含むセルフリークロマチン断片の検出方法であって:
(i)該ヒト対象又は動物対象から得られた体液試料を、転写因子と結合する結合剤と接触させる工程;
(ii)該転写因子と会合しているDNAを単離する工程;
(iii)該DNAを増幅する工程;及び
(iv)該試料中の該転写因子を含むセルフリークロマチン断片の存在又は量の測定値として、該DNA断片の存在又は量を使用する工程、を含む、前記方法が提供される。
【0057】
1の実施態様では、増幅されたDNAは、DNAハイブリダイゼーション法を用いて検出又は測定される。
【0058】
更なる実施態様では、転写因子結合DNA断片の増幅を、アダプターオリゴヌクレオチドのDNA断片へのライゲーションに続いて実施した。アダプターオリゴヌクレオチドは、PCRによるDNA断片の増幅を促進するプライマー配列を含んでもよく、その次にプライマー配列を添加してもよい。アダプターオリゴヌクレオチドを用いる方法は当分野で周知であり、次世代シーケンシングのライブラリ作成のためにルーチン的に使用されている。従って、本発明の1の実施態様では、ヒト対象又は動物対象内の、転写因子及びDNA断片を含むセルフリークロマチン断片の検出方法であって:
(i)該ヒト対象又は動物対象から得られた体液試料を、転写因子と結合する結合剤と接触させる工程;
(ii)該転写因子と会合しているDNAを単離する工程;
(iii)アダプターオリゴヌクレオチドを該単離されたDNAへライゲートする工程;
(iv)該DNAを増幅する工程;及び
(v)該試料中の該転写因子を含むセルフリークロマチン断片量の測定値として、該DNA断片の存在又は量を使用する工程、を含む、前記方法、が提供される。
【0059】
1の実施態様では、転写因子結合DNA断片の増幅は、特定の配列(複数可)を含むDNA断片の増幅のために設計された特定の配列(複数可)のPCRプライマーオリゴヌクレオチドを用いて行われる。この実施態様は、TFBS配列(複数可)及び/又はフランキング配列(複数可)を含む選択されたDNA断片の増幅を促進する。この実施態様は又、迅速で、低コストであり、ハイスループットのために容易に自動化され、任意のPCR実験室で実施可能であり、それに加えて更に、クロマチン断片中の会合しているDNAのTFBS配列及び/又はフランキング配列の分析を通して、転写因子発現の結合組織特異性とゲノム中のその結合位置を特定する特異性とを組み合せることによって、健康なcfDNA又は疾患性cfDNAの発生組織特異性を更に高める。従って、本発明の1の実施態様では、ヒト対象又は動物対象内の、転写因子及びDNA断片を含むセルフリークロマチン断片の検出方法であって:
(i)該ヒト対象又は動物対象から得られた体液試料を、転写因子と結合する結合剤と接触させる工程;
(ii)該転写因子と会合しているDNAを単離する工程;
(iii)該DNAを、配列特異的PCRプライマーオリゴヌクレオチドを使って増幅する工程;及び
(iv)該試料中の該転写因子を含むセルフリークロマチン断片量の測定値として、該DNA断片の存在又は量を使用する工程、を含む、前記方法、が提供される。
【0060】
1の実施態様では、本方法は、該転写因子と会合している該DNA断片を抽出する工程を含む。更なる実施態様では、本方法は、該抽出されたDNA断片を増幅する工程を含む。従って、本発明の更なる態様では、ヒト対象又は動物対象から得られた体液試料中の、転写因子及びDNA断片を含むセルフリークロマチン断片の検出方法であって:
(i)該試料を該転写因子と結合する結合剤と接触させる工程;
(ii)該結合した転写因子を単離する工程;
(iii)該転写因子と会合しているDNAを抽出する工程;
(iv)該抽出したDNAを増幅する工程;
(v)該増幅して抽出したDNAを検出する工程;及び
(vi)該試料中の該転写因子を含むセルフリークロマチン断片量の測定値として、該DNAの存在又は量を使用する工程、を含む、前記方法、が提供される。
【0061】
好ましい実施態様では、該転写因子に会合しているDNAの増幅はPCRによって行われる。当分野で公知の多くのPCR法があり、限定されるものではないが、定量的PCR、リアルタイムPCR、逆転写酵素PCR、ネステッドPCR、デジタルPCR、多重PCR、任意プライムPCR、コールドPCR(低変性温度での共増幅PCR)が含まれる。幾つかの実施態様では、増幅方法はDNA定量化を含む。
【0062】
本発明の更なる態様では、ヒト対象又は動物対象の疾患の検出方法であって:
(i)該ヒト対象又は動物対象から得られた体液試料を、転写因子と結合する結合剤と接触させる工程;
(ii)該転写因子と会合している該DNAを検出又は測定する工程;及び
(iii)該対象内の疾患の存在の指標として、DNAの存在又は量を使用する工程、を含む、前記方法、が提供される。
【0063】
本発明の別の態様では、ヒト対象又は動物対象の疾患の検出方法であって:
(i)該ヒト対象又は動物対象から得られた体液試料を、転写因子と結合する結合剤と接触させる工程;
(ii)該転写因子と会合しているDNAを単離する工程;
(iii)該DNAをDNA結合剤と接触させる工程;
(iv)該DNA結合剤を検出する工程;並びに
(v)該対象内の疾患の存在及び/又は特性の指標として、DNA結合剤の存在又は量を使用する工程、を含む、前記方法、が提供される。
【0064】
抗体を含むいずれのDNA結合剤も、本発明での使用に適切であろう。DNA結合剤は、直接的又は間接的に(例えば、ビオチン/アビジン若しくはグルタチオン等のリンカー系を介して)、蛍光成分、酵素成分、又は放射性成分等の検出可能成分で標識されてもよい。
【0065】
本発明の別の態様では、転写因子及び結合しているDNAの断片を含むセルフリークロマチン断片を検出することにより、特定の転写因子により占有されたゲノム上のTFBS位置(従って、どの遺伝子が制御されているか)を決定する方法であって、該転写因子と会合しているDNA断片が配列決定されて、該転写因子が結合されたゲノム上の位置が決定される前記方法、が提供される。従って、本発明の別の態様では、転写因子が結合するゲノム上の位置を決定する方法であって:
(i)試料を、該転写因子と結合する結合剤と接触させる工程;
(ii)該結合した転写因子を単離する工程;
(iii)該転写因子と会合しているDNAを抽出する工程;
(iv)該抽出したDNAを増幅する工程;
(v)該増幅された抽出DNAを配列決定する工程;及び
(vi)該抽出DNAの配列を使用して、該ゲノム上のTFBSの位置を決定する工程、を含む、前記方法、が提供される。
【0066】
本発明は、転写因子によって結合された、通常は35~80 bpのサイズ範囲の小型DNA断片を分析するための、特別な使用を見つけた。従って、1の実施態様では、配列決定された抽出DNAは、小型DNA断片、例えば約100 bp未満、約80 bp未満、特に約60 bp未満のものを含むDNA断片に関する。これらのDNA断片サイズは、アダプターライゲーション無しの又はアダプターライゲーションを行う前のDNA断片に関することに留意されたい。1の実施態様では、配列決定される抽出DNAは、100 bp未満、例えば35~80 bp(アダプターライゲーション無し/アダプターライゲーションを行う前)のサイズ範囲のDNA断片を含む。1の実施態様では、配列決定される抽出DNAは、複数のDNAサイズ範囲を含み、それらは次に、例えば
図10及び11に示すように比較される。
【0067】
好ましい実施態様では、該試料は体液試料である。更なる実施態様では、体液試料は、血液、血清、又は血漿試料である。
【0068】
好ましい実施態様では、使用される結合剤は、特定の転写因子へ結合する抗体である。従って、1の実施態様では、転写因子と結合する結合剤は、抗体又はその断片(即ち、結合断片)である。
【0069】
好ましい実施態様では、抗体は固相上に固定化され、抗体と結合した転写因子-DNA複合体又はクロマチン断片の単離を用意にする。
【0070】
インビボでの循環クロマチン断片中に、転写因子と、その転写因子と一致することが知られている配列が会合しているDNA断片との両方の存在により、その転写因子及びDNA断片の両方の特徴的本質が更に確認される。転写因子とそれと共に会合しているDNA断片の配列との組み合わせは、多種多様な疾患症状の診断又は評価のための、強力な組み合せバイオマーカーである。更に、健康対象内に存在する多くの転写因子は、異なる組織では異なるTFBSセットに結合しているため、転写因子が結合しているTFBS位置を、その転写因子に会合して存在しているDNAを介して特定することは、そのクロマチン断片の発生組織を特定することになる。更に又、同じ手法が疾患症状にも適用される。従って、疾患症状の存在は、(たとえその転写因子自体が多くの又は全ての組織内で発現されるとしても)一般的に発現される転写因子に結合しているTFBSのセットから特定できる。例えば、一般的に発現される転写因子CTCFは、不死化がん細胞内のゲノム上の千を超える特異的位置に結合するが、他の非がん細胞内では結合しない(Wangらの文献、2012、Liuらの文献、2017)。従って、循環CTCF-DNA複合体の存在の特定において、会合しているDNA断片が配列決定され、CTCFの結合するがん特異的TFBS位置の1つと一致する配列であると観察された場合、その特定によりその試料が採取された対象内のがん疾患が示される。以上より、本発明の高度に好ましい実施態様では、ヒト対象又は動物対象から得られた体液試料中で、転写因子及びDNA断片を含むセルフリークロマチン断片を検出することによる対象の疾患段階の検出方法であって、該転写因子及びDNA断片を含むセルフリークロマチン断片は一緒になって、疾患症状又は特定の組織と一致する、ゲノム上のTFBS位置を占有する転写因子を特定する組み合せバイオマーカーを形成し:
(i)該試料を転写因子と結合する結合剤と接触させる工程;
(ii)該結合した転写因子を単離する工程;
(iii)該転写因子と会合しているDNAを抽出する工程;
(iv)該抽出したDNAを増幅する工程;
(v)該増幅された抽出DNAを配列決定する工程;及び
(vi)該会合しているDNA断片の配列を該クロマチン断片の発生組織又は該対象の疾患段階の指標として使用する工程、を含む、前記方法が提供される。
【0071】
対象の疾患段階の決定は、例えば、疾患の、検出、診断、治療選択、モニタリング、又は予後診断を含み得る。
【0072】
1の実施態様では、本方法は、前記転写因子及び前記会合しているDNAの配列を、該対象内の疾患の存在を示す組み合せバイオマーカーとして使用することを含む。用語「バイオマーカー」は、プロセス、事象、又は病状の、特徴的な生物学的又は生物由来の指標を意味する。バイオマーカーは、例えば臨床的スクリーニング及び予後診断評価等の診断方法において、並びに、治療結果のモニタリング、特定の治療的処置に最も反応しやすい対象の特定、薬剤スクリーニング及び薬剤開発において、使用することができる。このようなバイオマーカーには、例えば、転写因子と会合しているDNAの存在(例えば、配列)、レベル、濃度、又は量が含まれる。本明細書における言及「組み合せバイオマーカー」は、1を超える生物学的又は生物由来の指標、例えば転写因子及び会合しているDNA、特に、1又は複数の特定配列のDNAと会合している転写因子のレベル、濃度、又は量、を含むバイオマーカーを指す。
【0073】
ほとんどの転写因子は、完全な(単独細胞種の)発現特異性を持たないため、組織特異性は重要である。転写因子を含む循環クロマチン断片に関するイムノアッセイ組織特異性は、使用する抗体の分析的特異性、及び使用する転写因子又は使用する転写因子パネルの組織特異性の両方によって制限される。そこで、この組織特異性を、特定の転写因子成分と、それが結合しているcfDNA断片の配列を組み合せることによって改善できる。
【0074】
上記の理由は、転写因子が、異なる細胞のゲノム内では異なるDNA配列に結合するためである。遺伝子発現は、転写因子が、応答エレメント又は結合モチーフとも称される短いTFBS DNA配列に特異的に結合することによって制御される。TFBSは通常、制御される遺伝子の転写開始部位の近位にある遺伝子プロモーター領域に位置するが、必ずしもそうとも限らない。転写因子はDNA結合ドメイン(DBD)を介して配列特異的様式でTFBSに結合する。通常、TFBS配列はその標的遺伝子のプロモーター内で5~15 bpの長さであり、転写因子タンパク質は通常、様々な結合親和性を持つ類似したDNA配列セットに結合可能である。転写因子を含む循環クロマチン断片に会合しているDNA断片の長さは、その断片が又、転写因子、補因子、ヌクレオソーム、又は他のクロマチンタンパク質によって結合され、更にDNA保護された配列を含むかどうかに応じで変動する。そのようなクロマチン断片の多くは、35~80 bpの範囲で生じることが報告されている(Snyderらの文献、2016)。更に又、我々は、これはがん患者の細胞から抽出されたクロマチンのヌクレアーゼ消化によって生成されたクロマチン断片のサイズ範囲と一致していること、かつ、この約35~80 bpの小断片の範囲は、クロマチン断片全体ではヌクレオソーム結合した断片よりも大きな割合を占めることに注目する(Corcesらの文献、2018)。これらの会合しているDNA断片は典型的なDNA応答エレメントよりも長いこと、従って、フランキングDNA配列も含まれることが結論づけられる。しかし、ヌクレオソームに会合しているDNA断片サイズは、通常100 bp DNAを超える。従って、35~80 bpのDNA断片の範囲には、インタクトなヌクレオソーム関連DNA断片は含まれないと結論される。
【0075】
転写因子の応答エレメント又はTFBS配列は、ゲノム内の多くの位置で繰り返し出現し得るものであり、幾つかの転写因子は何千もの位置で出現する。従って、1つの細胞のクロマチン内の非常に多くの位置に、同一の転写因子が結合されている可能性がある。これは、原理的には、たった一つの細胞の死によって、同一の転写因子を含む多数の循環クロマチン断片が生じ得ることを意味する。
【0076】
更に又、転写因子は単独で作動せず、他の転写因子若しくは補因子、又は特定の遺伝子の制御に必要な他の成分と協調して働く傾向がある。従って、1つの転写因子は、多数の異なる遺伝子のプロモーター中の1つの応答エレメントに、それぞれ異なる転写因子と協調して結合することができる。従って、同一の転写因子のための同一のTFBS配列又は応答エレメントの周囲のDNAフランキング配列は、異なる遺伝子のプロモーターにおいて異なるが、その理由は、それが異なる転写因子の組み合せのための結合モチーフを含むためである。これは全て又はほとんどの転写因子に当てはまる。
【0077】
更に、応答エレメント自体の結合配列が縮重して、転写因子が様々な異なるモチーフ配列に結合できることもある。例えば、転写因子TTF-1は健康な肺組織及び健康な甲状腺組織内で組織特異的様式で発現される。肺内では、2つのタンパク質TTF-1因子が肺特異的サーファクタントタンパク質B(SPB)遺伝子のプロモーター領域に結合する。SPBのプロモーター内のTTF-1のDNA結合配列又は結合モチーフは、
【化1】
(式中、A、C、G、及びTはそれぞれ、DNA塩基アデニン、シトシン、グアニン及びチミンの表示記号であり、Nは任意のこれら塩基の表示記号である)である。TTF-1結合の周囲の広いコンセンサスプロモーターDNA配列は、
【化2】
(式中、(-64)はSPB転写開始部位からのbp距離の表示記号である)である。肺組織のSPBプロモーター内では、TTF-1は、
図1に示すように、転写因子である肝細胞核内因子3(HNF3)と協同して結合する(Matysらの文献、2006及び Bohinskiらの文献、1994)。
【0078】
甲状腺内では、TTF-1は、サイログロブリン、甲状腺刺激ホルモン受容体、及びサイロペルオキシダーゼを含む多数の遺伝子を制御する。サイログロブリン遺伝子のプロモーター領域内の、TTF-1のためのコンセンサス結合配列は、肺内のものとは異なり、
【化3】
として報告されている。サイログロブリン遺伝子のプロモーター内では、TTF-1はTTF-2転写因子、PAX8転写因子、及びRunx2転写因子と共作動可能に結合し、5'末端及び3'末端の50 bpフランキング配列を含む広い配列は、
【化4】
である。同様に、TTF-1は又、甲状腺刺激ホルモン受容体及びサイロペルオキシダーゼ遺伝子のプロモーター領域にも、それぞれの場合に異なる共作動する転写因子と協同して結合する。従って、
図1に示すように、甲状腺組織内又は肺組織内で制御される遺伝子のプロモーター配列内のTTF-1結合部位の周囲のDNA配列が異なるだけでなく、TTF-1と会合する補因子、従って周囲のDNA配列も又、同一組織内の異なる遺伝子に結合するために異なる(Matysらの文献、2006及びMaenhautらの文献、2015)。このことは、TTF-1を含む循環クロマチン断片と一緒にそのクロマチン断片に会合しているDNAの配列との知識の組み合せが、そのクロマチン断片の起源が肺か甲状腺かを特定するのに充分であることを実証する。
【0079】
約1000~3000個のヒト転写因子があり、そのそれぞれがゲノム内の特定の位置に結合するために動的な転写変化が生じ、膨大な細胞プロセス経路が駆動されると考えられる。一例としてTTF-1に関する本発明の原理を説明した。しかしながら、原理的にはどのような転写因子でも本発明の方法に使用できる。多くの細胞種内で遍在的に発現してディスクリート(discreet)なDNA配列に結合する転写因子、例えばHoxタンパク質転写因子でさえ、補因子と共作動可能に結合して異なる配列に特異的に結合し、異なる組織内の異なる遺伝子を制御する(Merabet及びMannの文献、2016、Mannらの文献、2009)。これは、全て又はほとんどの転写因子をそのTFBS配列(任意でフランキング配列を含む)と一緒に、本発明の方法の組み合せバイオマーカーとして使用し得ることを意味する。例えば、エストロゲン受容体α(ERα)転写因子は、異なるゲノム上の位置にある少なくとも 60個の他の転写因子の組み合せと協同して、ヒトゲノム内の千を超える結合部位又はエストロゲン応答エレメント(ERE)に結合する(Linらの文献、2007)。同様に、アンドロゲン受容体(AR)は、数千の明白に異なる配列遺伝子座において、他の共作動する転写因子と協同して、数千の遺伝子に会合するアンドロゲン応答エレメント(ARE)に結合する。従って、本発明の方法は、たとえこれらの転写因子が複数の組織で発現されても、会合しているDNAの配列を介して、ERα又はARを含むクロマチン断片の発生組織を特定し得る。
【0080】
更に又、転写因子のDNA遺伝子座へのゲノム全体での結合ががん内でリプログラミングされて転写因子が発現されると、がん細胞内でその転写因子が結合するTFBSは、同じ組織の健康な細胞内でそれらが結合するものとは異なるので、循環系内の転写因子を含むクロマチン断片を、会合しているDNA断片の配列データと組み合せて特定することにより、がん罹患対象の特定、及び、例えば前立腺がん又は肺がん等のがん種の特定の両方が可能になる(Pomerantzらの文献、2015)。これが可能となる理由は、腫瘍形成時にクロマチンがリモデリングされ、このリモデリングは、がん細胞内でのリモデリングされた転写因子結合パターンを介した腫瘍関連タンパク質のアップレギュレーションを含むためである。そのため、多くの転写因子の発現ががん細胞内でアップレギュレートされる。これは広範な現象であるが、ここでは幾つかの非限定的な例により例示できる。例えば、周知のがん関連転写因子c-Myc及びp53は、ほとんどのがん内でアップレギュレートされる。ARによって結合された結合部位配列は、前立腺がん内で大きく変化する(Pomerantzらの文献、2015)。同様に、がん細胞内の上皮間葉転換(EMT)は、転移及び治療抵抗性に関連しており、Fosll、Fosb、Fos、及びJunbを含む、Jun/Fosファミリー転写因子のアップレギュレーションに関与する。ETS(E26形質転換特異的)ファミリー転写因子並びにRunxl、Tead、及びNfkb転写因子も又、腫瘍細胞のオープンクロマチン内で高度に富化されていることが判明している。更に、p63、Klf、Grhl、及びCepbaは、腫瘍細胞内でアップレギュレートされ、それらの結合部位はオープンクロマチン領域内で富化されていることが報告されている。Klf5及びp63転写因子は癌腫と関連しており、肺癌腫及び頭頚部癌腫内ではドライバーとして作用する。EMT関連の転写因子には、更にbHLH、Runx、Nfat、Tbx1、Tcf7I1、及びSmad2が含まれる(Latilらの文献、2017)。
【0081】
真核生物遺伝子の転写制御には、多数の制御DNA配列に結合される多数の制御タンパク質が関与しており、それらは例えば
図2に示されるように、転写複合体のゲノム内の、その遺伝子の転写開始部位(TSS)の近位の及びTSSの遠位の両方に位置する。DNA内の遠位の制御配列は、TSSから数百塩基から百万塩基を超えて離れて位置してもよく、もっと離れていてもよい。転写複合体は、通常、DNA屈曲タンパク質を含むこともあるDNAループを含み、その場合、例えば
図2に同様に示されるように、それらに結合した制御タンパク質だけでなく、より遠位の制御配列が、TSSに近位の制御配列に結合したタンパク質と接触するようになる。TATAボックスは、転写に必要な基本転写因子と結合するチミン/アデニンヌクレオチドの反復配列を含むことから、このように命名された。更に遺伝子特異的な転写因子(例えば、
図1に示すように、サーファクタントタンパク質B、サイログロブリン、サイロペルオキシダーゼ、TSH受容体遺伝子の発現に必要な転写因子)も又、特定の遺伝子の発現のために必要である。更に、多数の他のタンパク質も必要であり、それらには、限定されるものではないが例えば、補因子、メディエーター、活性化因子、共活性化因子、抑制因子、共抑制因子、クロマチンリモデリングタンパク質、DNA屈曲タンパク質、インシュレーター、RNAポリメラーゼ成分、伸長因子、クロマチンリモデリング因子、STAT成分又はSTAT成分と結合したサイトカイン因子若しくはサイトカイン関連因子、上流結合因子(UBF)、又は、このような遺伝子制御複合体若しくは遺伝子転写複合体と会合している他の成分が含まれる。このような複合体は又、複数の長さのヌクレオソームで保護されたDNAを含むこともある。転写複合体は、安定した大量の転写を促進できる。従って、健康体起源の循環クロマチン断片及び/又は疾患起源の循環クロマチン断片は、ヌクレアーゼ活性への耐性があるかもしれない複数のタンパク質を含む大型タンパク質/DNA複合体を含み得る。
図2に示されるように、近位の制御配列及び遠位の制御配列を含む幾つかの大型転写複合体は、スーパーエンハンサーと命名されている。スーパーエンハンサーは高レベルの転写因子結合を持つ大型クラスターであり、細胞の特徴的本質の制御に関与する遺伝子の発現を促進する中核である。スーパーエンハンサーは又、がん内でオンコジーンの転写を刺激する中核でもある。がん細胞はスーパーエンハンサーを獲得し、そして、がん表現型はスーパーエンハンサーによって駆動される異常な転写に依存する。従って、本明細書に記載の方法によって、スーパーエンハンサー複合体の全部若しくは一部、並びに/又はスーパーエンハンサーの近位の制御配列及び遠位の制御配列に相当するcfDNA断片配列の組み合せを含む、クロマチン断片の存在の検出により、がん発生細胞を含むクロマチン断片の細胞起源を特定する方法が提供される。又、我々は、スーパーエンハンサー複合体は、それらの特性に基づくと、一時的に結合した転写因子ではなく安定的に結合した転写因子を含む可能性が高いと推論する。
【0082】
転写複合体由来のこのようなクロマチン断片中のDNAループは、原理的にはインタクトなものであってもよく、又は、1以上の位置で消化されて、(i)近位の制御配列及び遠位の制御配列に対応する2つの循環クロマチン断片、若しくは(ii)2つのDNA断片を含む大型クロマチン断片、のいずれかを生じてもよい。従って、cfDNAは、ある遺伝子の近位の制御配列及び遠位の制御配列の両方に対応する小型DNA断片を含み得る。
【0083】
本発明の更なる態様では、ヒト対象又は動物対象の疾患の検出方法であって:
(i)該ヒト対象又は動物対象から得られた体液試料を、転写因子と結合する結合剤と接触させる工程;
(ii)該転写因子と会合している1以上のDNA断片の配列を決定する工程;並びに
(iii)該転写因子の存在及び該会合しているDNAの配列を、該対象内の該疾患の存在及び/又は特性を決定するための組み合せバイオマーカーとして使用する工程、を含む、前記方法が提供される。
【0084】
DNAに結合し、かつ、そのcfDNA結合パターンが健康対象及び疾患性対象とで異なる非ヒストンクロマチンタンパク質であれば、本発明の方法での使用に適切であることが理解され、それらには、転写因子だけでなく、クロマチン修飾タンパク質、遺伝子的及びエピジェネティックな読み取り、書き込み、及び削除タンパク質、RNA転写に関与するタンパク質(例えばRNAポリメラーゼ分子)、並びに構築的又は構造的クロマチンタンパク質(例えばDNA屈曲タンパク質)を含む他の非ヒストンクロマチンタンパク質が含まれる。
【0085】
従って、本発明の更なる態様では、ヒト対象又は動物対象の疾患の検出方法であって:
(i)該ヒト対象又は動物対象から得られた体液試料を、非ヒストンクロマチンタンパク質と結合する結合剤と接触させる工程;
(ii)該非ヒストンクロマチンタンパク質と会合している1以上のDNA断片の配列を決定する工程;並びに
(iii)該非ヒストンクロマチンタンパク質の存在及び該会合しているDNAの配列を、該対象内の該疾患の存在及び/又は特性を決定するための組み合せバイオマーカーとして使用する工程、を含む、前記方法が提供される。
【0086】
1の好ましい実施態様では、非ヒストンクロマチンタンパク質は、RNAポリメラーゼ、特にRNAポリメラーゼIIである。RNAポリメラーゼIIは、遺伝子のDNA配列を転写してRNA複製物を生成する役割を担っているDNA結合酵素である。RNA複製物は、リボソームによるタンパク質産生を導くメッセンジャーRNA(mRNA)分子でもよいが、タンパク質へ翻訳されないノンコーディングRNA(ncRNA)分子でもよい。従って、循環クロマチン断片中のRNAポリメラーゼIIの存在は、その断片が、その発生細胞内で活性であった遺伝子に由来することを示す。以上より、RNAポリメラーゼIIに会合しているクロマチン断片に由来するDNA断片配列のライブラリは、試料中に存在する活性な動的遺伝子のライブラリを提供する。健康人の場合、このライブラリは造血系組織内に存在する活性な遺伝子の大部分に相当する。疾患患者では、ライブラリは更に、疾患に侵された組織(複数可)内で活性な遺伝子を含む。これは疾患に侵されたいずれの組織でも該当する。例えば、肝臓細胞又は腎臓細胞内で活性な遺伝子が、肝疾患又は腎疾患の患者から採取した試料から作成したRNAポリメラーゼIIライブラリで示され得るが、そのような遺伝子は健康人のライブラリ内には存在しない。同様に、がん内でアップレギュレートされる遺伝子が、がん疾患患者から採取した試料から作成したRNAポリメラーゼIIライブラリで示され得るが、そのような遺伝子は健康人のライブラリ内には存在しない。本発明のこの態様でのRNAポリメラーゼIIの使用は、試料中に示される活性な動的遺伝子の特定を可能にする。これにより、がん疾患の検出、及びがんに侵された組織(複数可)の決定が可能となる。
【0087】
以上より、本発明の更なる態様では、ヒト対象又は動物対象の疾患の検出方法であって:
(i)該ヒト対象又は動物対象から得られた体液試料を、RNAポリメラーゼと結合する結合剤と接触させる工程;
(ii)該RNAポリメラーゼと会合した1以上のDNA断片の配列を決定する工程;並びに
(iii)該RNAポリメラーゼと会合しているDNA断片の配列を、該対象内の該疾患の存在及び/又は特性を決定するためのバイオマーカーとして使用する工程、を含む、前記方法が提供される。
【0088】
1の実施態様では、疾患は、がん、自己免疫疾患、又は炎症性疾患から選択される。更なる実施態様では、疾患はがんである。更なる実施態様では、自己免疫疾患は、全身性エリテマトーデス(SLE)及び関節リウマチから選択される。更なる実施態様では、炎症性疾患は、クローン病、大腸炎、子宮内膜症、及び慢性閉塞性肺障害(COPD)から選択される。
【0089】
好ましい実施態様では、疾患はがんである。更なる実施態様では、がんは、乳がん、膀胱がん、結腸直腸がん、皮膚がん(メラノーマ等)、卵巣がん、前立腺がん、肺がん、膵臓がん、腸がん、肝臓がん、子宮内膜がん、リンパ腫、口腔がん、頭頸部がん、白血病、及び骨肉腫から選択される。
【0090】
更なる実施態様では、疾患は胎児性の疾患又は症状である。例えば、(XY)男胎児に起因するY染色体DNA配列を含む胎児性起源のクロマチン断片が、妊娠した動物及びヒト母親(XX)の血液中を循環することは、当分野で周知である。妊娠中の対象内の循環性cfDNAは、ヌクレオソームで保護されたDNA断片の予測長さ(約160 bp)のcfDNA断片、及び50 bpを超える範囲の短いcfDNA断片の両方を含むことが報告されている。更に又、長さが140 bp未満の母体系cfDNA断片は、胎児起源のcfDNAに対して富化されていることが報告されている(Huらの文献、2019)。従って、本発明の方法は、試料が採取された対象の疾患段階だけでなく、母体の血液試料中の胎児の症状の出生前検査又は試験にも又適用可能である。
【0091】
以上より、本発明の更なる態様では、ヒト胎児又は動物胎児の疾患の検出方法であって:
(i)妊娠したヒト対象又は動物対象から体液試料を得る工程;
(ii)該体液試料を転写因子と結合する結合剤と接触させる工程;
(iii)該転写因子と会合しているDNAを検出、測定、又は配列決定する工程;及び
(iv)該胎児中の疾患の存在の指標として、該DNAの存在、配列、又は量を使用する工程、を含む、前記方法が提供される。
【0092】
本発明の更なる態様では、ヒト対象又は動物対象の疾患に侵された組織の検出方法であって:
(i)該ヒト対象又は動物対象から得られた体液試料を、転写因子と結合する結合剤と接触させる工程;
(ii)該転写因子又はクロマチン断片と会合しているDNAのDNA塩基配列を決定する工程;及び
(iii)該転写因子/DNA配列の組み合せバイオマーカーを、該対象内の疾患に侵された組織の指標として使用する工程、を含む、前記方法が提供される。
【0093】
1の好ましい実施態様では、疾患はがんである。別の実施態様では、疾患に侵された組織は、該疾患発生臓器、例えばがん発生臓器である。
【0094】
本発明の別の態様では、ヒト対象又は動物対象の疾患の検出方法であって:
(i)該ヒト対象又は動物対象から得られた体液試料を、転写因子と結合する結合剤と接触させる工程;
(ii)該転写因子と会合しているDNAを単離する工程;
(iii)該単離されたDNAをPCR法によって増幅する工程;
(iv)該増幅されたDNAの配列を決定する工程;並びに
(v)該転写因子の存在及び該会合しているDNAの配列を、該対象内の疾患の存在及び/又は特性を決定するための組み合せバイオマーカーとして使用する工程、を含む、前記方法が提供される。
【0095】
又、特定の転写因子によって結合される様々な遺伝子座に対応する多数の配列が得ることができ、その様々な配列に関するデータを統合して、該疾患の特性及び/又は該疾患に侵された組織を決定し得ることは、当業者には明らかであろう。
【0096】
本発明の別の態様では、ヒト対象又は動物対象の疾患の検出方法であって:
(i)該ヒト対象又は動物対象から得られた体液試料を、転写因子と結合する結合剤と接触させる工程;
(ii)該転写因子と会合しているDNAを単離する工程;
(iii)該単離されたDNAをPCR法によって、例えば、配列特異的プライマーを使用して、増幅する工程;
(iv)該増幅されたDNAを検出する工程;並びに
(v)該増幅されたDNAの存在、量及び/又は配列を、該対象内の疾患の存在及び/又は特性の指標として使用する工程、を含む、前記方法が提供される。
【0097】
1の実施態様では、単離された、転写因子と会合しているDNA断片の増幅は、該DNA断片へのアダプターオリゴヌクレオチドのライゲーションに続いて、行われる。従って、本発明の1の実施態様では、ヒト対象又は動物対象の疾患の検出方法であって:
(i)該ヒト対象又は動物対象から得られた体液試料を、転写因子と結合する結合剤と接触させる工程;
(ii)該転写因子と会合しているDNAを単離する工程;
(iii)アダプターオリゴヌクレオチドを該単離されたDNAへライゲートする工程;
(iv)該DNAを増幅する工程;並びに
(v)該DNA断片の存在、量及び/又は配列を、該対象内の疾患の存在及び/又は特性の指標として使用する工程、を含む、前記方法、が提供される。
【0098】
本発明の別の態様では、ヒト対象又は動物対象の疾患の検出方法であって:
(i)該ヒト対象又は動物対象から得られた体液試料を、転写因子と結合する結合剤と接触させる工程;
(ii)該転写因子と会合しているDNAを単離する工程;
(iii)該単離されたDNAを、配列特異的プライマーオリゴヌクレオチドを使って増幅する工程;
(iv)該増幅されたDNAを検出する工程;並びに
(v)該増幅されたDNAの存在、量及び/又は配列を、該対象内の疾患の存在及び/又は特性の指標として使用する工程、を含む、前記方法、が提供される。
【0099】
本態様は、本発明の転写因子/DNA配列の組み合せバイオマーカーの組織特異性を利用し、その一方で、バイオマーカーが目的とする、目的TFBS配列(複数可)及び/又はフランキング配列(複数可)を含む選択されたDNA断片のPCR増幅による、DNA断片アダプターライブラリの作成及び次世代DNAシーケンシングを回避する。本方法は、迅速で、低コストであり、ハイスループットのために容易に自動化され、そして、任意のPCR実験室で実施され得る。
【0100】
工程(i)又は(ii)で単離されたDNA配列は、当分野で公知の任意の方法で増幅できる。幾つかの実施態様では、単離されたDNAは、DNA断片にライゲーションされるアダプターを用いるPCR法を用いて増幅される。他の実施態様では、PCRプライマーを使用してDNA増幅する。プライマーは、工程(i)又は(ii)で単離された全てのDNA配列を増幅するように設計してもよく、又は任意でフランキング領域も含まれていてもよい、転写因子の応答エレメントの配列に会合する特異的DNA配列を増幅するように設計してもよい。
【0101】
本発明の別の態様では、ヒト対象又は動物対象の疾患の検出方法であって:
(i)該ヒト対象又は動物対象から得られた体液試料を、転写因子と結合する結合剤と接触させる工程;
(ii)該転写因子と会合しているDNAを単離する工程(及び、任意で増幅する工程);
(iii)該DNAをハイブリダイゼーション法によって検出する工程;並びに
(iv)ハイブリダイズしたDNAの存在、量及び/又は配列を、該対象内の疾患の存在及び/又は特性の指標として使用する工程、を含む、前記方法、が提供される。
【0102】
本態様は、本発明の転写因子/DNA配列の組み合せバイオマーカーの組織特異性を利用し、その一方で、TFBS配列(複数可)及び/又はフランキング配列(複数可)を含むDNA断片の選択的なDNAハイブリダイゼーションによる、高価な次世代DNA シーケンシングを回避する。本方法は、低コストであり、そして任意のPCR実験室で実施され得る。
【0103】
好ましい実施態様では、単離したDNAは、ハイブリダイゼーションの前に増幅する。好ましい実施態様では、ハイブリダイゼーション法は、DNAマイクロアレイ法(DNAチップ法としても知られる)である。
【0104】
本発明の方法は又、転写因子及び配列会合DNAの組み合せバイオマーカーを測定するために使用し得る。
【0105】
(転写因子の選択)
真核生物中の遺伝子転写の制御は非常に複雑であり、例えば
図2に示されるように、制御性転写複合体中の複数の制御タンパク質が結合した複数の制御DNA配列を一緒にする、DNAの屈曲及びループが関与する可能性がある。従って、本明細書で使用する用語「転写因子」は、ゲノム中の遺伝子制御配列に、直接的に又は間接的に結合して、遺伝子の転写を制御する制御タンパク質を意味し、限定されるものではないが、基本転写因子、及び、特定の遺伝子(複数可)の制御に関連する特異的転写因子、並びに、エンハンサー、共エンハンサー、抑制因子、共抑制因子、メディエーター、活性化因子、共活性化因子、抑制因子、共抑制因子、クロマチンリモデリングタンパク質、DNA屈曲タンパク質、インシュレーター、RNAポリメラーゼ成分、伸長因子、STAT成分、サイトカイン因子若しくはSTAT部分に結合したサイトカイン関連因子、UBF、又はこのような遺伝子制御若しくは転写複合体に関連する他の成分を含む。同様に、本明細書で使用する用語「転写因子結合部位」(TFBS)は、遺伝子の転写制御に関連する制御タンパク質のDNA結合部位を意味し、限定されるものではないが、
図2に示すような、遠位又は近位の、エンハンサー及び抑制因子配列を含む。
【0106】
転写因子の発現が、疾患において変化することは周知である。従って、本発明の方法は、疾患においてその発現がアップレギュレートされる転写因子、及び/又は、通常はその(健康な)組織中で高度に発現されない場合、疾患組織内、例えばがん組織内では不適切に発現される転写因子にも関する。従って、体液試料中に存在する転写因子のレベルは、疾患のバイオマーカーとして使用し得る。
【0107】
転写因子によるTFBS占有プロファイルは、異なる細胞種及び疾患中で変化することも又、周知である(Wangらの文献、2012)。従って、体液試料中に存在する転写因子によるTFBS占有プロファイルは、疾患のバイオマーカーとして使用し得る。
【0108】
健康対象の循環系内に存在するクロマチン断片は、主に造血系起源である。従って、本発明の方法は又、造血系組織内では通常発現しない(しかし、非造血系組織内で発現し得る)、会合しているDNAと一緒に転写因子を含むクロマチン断片の不適切な存在を検出することにも関する。
【0109】
例えば、多くのがん疾患は上皮組織に由来する。上皮性GRHL2転写因子は、多くの上皮組織内及び多くの上皮組織由来のがん疾患内で発現されるが、造血系組織内では発現されない。循環系内のGRHL2の存在は、上皮由来のがん、例えば、結腸直腸がん、前立腺がん、肺がん、又は乳がんの存在を示す。従って、本発明の方法は、がん自体の存在を検出するためだけでなく、系統特異的転写因子及び/又は系統特異的転写因子と会合しているDNAの配列との組み合せを使用して、がんの発生臓器を同定するためにも使用し得る。従って、本発明の方法において任意の転写因子を利用し得る。好ましい実施態様では、選択された転写因子を含むクロマチン断片のレベルは、疾患対象の体液中で(他の対象で見られるレベルを超えて)、部分的組織内で若しくは全体的組織内で、及び/又は疾患特異的に上昇し、かつ/又は、そのゲノム内に複数の応答エレメントを有する。
【0110】
従って、1の実施態様では、転写因子は疾患特異的である(即ち、転写因子を含む循環クロマチン断片のレベルは、疾患でアップレギュレートされる)。1の実施態様では、転写因子は組織特異的である。1の実施態様では、転写因子は、ゲノム内の1を超える位置で、例えばゲノム内の5を超える、10を超える、100を超える、1000を超える、又は10,000を超える位置で、結合する。幾つかの転写因子結合位置は、幾つかの組織種内では占有されるが、他の組織内では占有されない。幾つかの転写因子結合位置は、疾患細胞内では占有されるが、同一組織内の健康細胞内では占有されない。
【0111】
転写因子は、結合ドメインによってクラス分けしてもよい(例えば、参照により本明細書中に組み込まれているVaquerizasらの文献、2009を参照)。1の実施態様では、転写因子は、ホメオドメイン、HLH、bZip、NHR、フォークヘッド、P53、HMG、ETS、IPT/TIG、POU、MAD、SAND、IRF、TDP、DM、熱ショック、STAT、CP2、RFX、AP2、又は亜鉛フィンガー(例えば、亜鉛フィンガーC2H2若しくは亜鉛フィンガーGATA)結合ドメインから選択されるDNA結合ドメインを含む。1の実施態様では、転写因子は非亜鉛フィンガーDNA結合ドメインを含む。
【0112】
適切な転写因子は実験的に決定することができ、例えば、古典的なヌクレアーゼアクセシブル部位マッピング法を用いて、目的の組織(複数可)内の目的の転写因子を特定してもよい。典型的な実験では、クロマチンを目的の細胞(例えば、がん細胞、同一組織の健康細胞、及び造血細胞)から抽出し、適切なヌクレアーゼを用いて消化する。消化によって生成したクロマチン断片を、転写因子に結合する抗体に暴露し、抗体と結合したDNA断片を単離し、配列決定して、転写因子によって結合されたTFBS配列(複数可)(任意でフランキング配列を含む)を特定する。この結果は、本発明で使用する転写因子を選択するために使用できる。例えば、疾患細胞内では上昇するが、造血細胞内では低い又は存在しない転写因子及び転写因子/TFBS(任意でフランキング配列を含む)の組み合せを、本発明の方法において使用できる。古典的なヌクレアーゼアクセシビリティ法は最近改良され、現在の当技術分野には、例えばCUT & RUN法及び他の方法が含まれ、これらはより簡便に実施でき、改良された結果を提供する(Skene及びHenikoffの文献、2017)。このような方法はいずれも、本発明での使用に適した転写因子の特定に使用するために好適であろう。
【0113】
多くのこのような実験及び類似の実験が実施されており、従って、適切な転写因子は当分野で入手可能である。本発明の方法に使用する転写因子を列挙した文献には、転写因子及びがんに関する多くの刊行物がある。例えば、Lambertらの文献、2018は、294個の公知の発がん性の転写因子及び制御因子を列挙している。Gurelらの文献、2010は、前立腺がんマーカーとして転写因子NKX3.1を記載している。Darnellの文献、2002は、STAT3、5、STAT-STAT、GR、IRF、TCF/LEF、β-カテニン、NF-ΚB、NOTCH(NICD)、GLI、c-JUN、bZipタンパク質(c-JUN、JUNB、JUND、c-FOS、FRA、ATF、及びCREB-CREMファミリーを含む)、cEBPファミリー、ETSタンパク質、並びにMAD-boxファミリーを含む、多数の発がん性転写因子を列挙している。Vaquerizasらの文献、2009は、本発明の方法に使用できる多数の組織特異的な転写因子を記載している。Ulzらの文献、2019は、多くのがん種内に存在するが血液系組織内には存在しない上皮性転写因子GRHL2、並びに、AR(アンドロゲン受容体)、NKX3-1及びHOXB13等の転写因子を記載している。Corcesらの文献、2018は、NR5A1、TP63、GRHL1、FOXA1、GATA3、NFIC、CDX2、RFX2、ASCL1、PAX2、HNF1A、NKX2.A、PHOX2B、DRGX、HOXB13、AR、MITF、HNF4、及びPOU5F1を含む、多くのがん特異的及び組織特異的な転写因子を記載している。ChIP-Seqを用いて、Wangらの文献、2012では、7個の不死がん細胞株及び12個の正常細胞種を含む、19個の異なる細胞種において、転写因子CTCFの77,811個の異なる結合部位を特定した。これら77,811個のCTCF TFBS中、1236部位ががん細胞内では別々に占有されていることが認められた。正常細胞種内では195部位の占有が発生することが認められたが、がん細胞内では発生しなかった。がん細胞内で1041部位の占有が発生することが認められたが、正常な細胞種内では発生しなかった(Liuらの文献、2017)。CTCFに会合しているcfDNA断片の発見は、ChIP-Seqによる体液中のがん特異的TFBSに対応し、調査した対象内でのがん疾患存在を示すものであり、この様式でバイオマーカーとして使用できる。これら文献は、参照により本明細書に組み込まれている。
【0114】
本発明の方法での使用に適切な転写因子は又、様々な転写因子、がん、及びゲノムのデータベースを使用して選択してもよい。このデータベースには、例えば、ヒトを含む多くの種のアノテーションされたゲノム配列を提供するENSEMBLデータベース、「DNAエレメントの百科事典(Encyclopedia of DNA Elements)」又は(ENCODE)データベース(https://www.encodeproject. org)、「転写因子(TRANSFAC)データベース(The Transcription Factor(TRANSFAC)database)」(Matysらの文献、2006)、「遺伝子転写制御データベース(The Gene Transcription Regulation Database)」(GTRD)バージョン18.01(http://gtrd.biouml.org)、「ヒト転写因子データベース(the Human Transcription Factors database)」バージョン1.01(http://humantfs.ccbr.utoronto.ca)、「NIHゲノムデータ公共データベース(the NIH Genomics Data Commons database)」(https://gdc.cancer.gov)、「がんゲノムアトラス(The Cancer Genome Atlas)」(TCGA)(https://www.cancer.gov/about-nci/organization/ccg/research/structural-genomics/tcga)、UCSC Xena ブラウザ(https://atacseq.xenahubs.net)、及び、転写因子が発現している健康な組織のデータであって、がん疾患でのその発現も含むデータを提供する「ヒトタンパク質アトラスデータベース(The Human Protein Atlas database)」(https://www.proteinatlas.org)、並びに他のデータベースが含まれる。
【0115】
本発明の方法での使用のために、転写因子並びに会合しているTFBS配列及びフランキング配列を特性評価するための、これらデータベースの使用は、例としてこれらのデータベースの幾つかを参照して説明できる。TRANSFACデータベースは、何千ものヒト及び他の真核生物の転写因子のデータを提供する。各転写因子について提供される詳細には、それがゲノム内で結合するTFBSの数、それが転写を制御する遺伝子のリスト、制御される遺伝子それぞれと会合するTFBSの配列及びゲノム上の位置、転写を制御するためにそれと共作動可能な様式で作用する他の転写因子の詳細、コンセンサスTFBS DNA配列、DBDの詳細、並びにがん関連(cancer association)が含まれる。本発明の文脈におけるこのデータの使用を、例示の目的で転写因子CDX2及びc-JUNについて下記に例示する。TRANSFACデータベースは、26個の特定の遺伝子を制御する48個のヒトCDX2 TFBSを列挙している。CDX2 TFBS配列が、それらのゲノム上の位置及びそれぞれによって制御される遺伝子と共に提供される。各CDX2 TFBSについてのフランキング配列は、各ゲノム上の位置における配列についてENSEMBLヒトゲノムデータベースを参照して決定できる。コンセンサスCDX2 TFBS配列も、同様に提供される。同様に、TRANSFACデータベースは、166個の特定の遺伝子を制御する265個のヒトc-JUN TFBSを列挙している。c-JUN TFBS配列が、そのゲノム上の位置及びそれぞれによって制御される遺伝子と同様に提供される。各c-JUN TFBSについてのフランキング配列は、各ゲノム上の位置における配列についてENSEMBLヒトゲノムデータベースを参照して決定できる。コンセンサスc-JUN TFBS配列も、同様に提供される。
【0116】
このように、転写因子及び/又はTFBSは、本発明の方法で有用なように、実験的に、又は文献及び/若しくはデータベース、例えばヒトタンパク質アトラスデータベース、から選択してもよい。転写因子は、(i)それが発現される健康組織及び疾患組織、(ii)それらの細胞又は組織において制御される遺伝子、(iii)それらの組織内で結合するTFBS配列(任意でフランキング配列を含む)、並びに(iv)転写制御のためにTFBS上で共結合することによって共作動する他の因子、の観点から特性評価できる。この特性評価は、本明細書に記載の方法により、体液試料中の、健康組織若しくは疾患組織、又は、クロマチン断片及び/若しくは転写因子会合しているcfDNA断片の起源の細胞を特定するために使用し得る。
【0117】
同様に、体液試料中のクロマチン断片及び/又はcfDNA配列に関する実験データは、これらのデータベースを用いて解釈し、cfDNA断片中に含まれ、任意でフランキング配列を含むTFBS配列の全部又は一部を特定することもできる。次に、このデータを用いて、cfDNA断片の起源組織又は起源細胞を特定することができる。
【0118】
現在、がんに関して特に重要であると認識されている転写因子には、3つの主要グループがある。第1グループは核内ホルモン受容体グループで、エストロゲン受容体、アンドロゲン受容体、プロゲステロン受容体、グルココルチコイド受容体、甲状腺受容体、及びレチノイン酸受容体を含む。転写因子の核内ホルモン受容体グループは、細胞表面受容体であり、リガンド結合によって活性化可能な不活性又は潜在的転写因子とみなすことができる。例えば、エストロゲン受容体はエストロゲンとの結合により活性化される。リガンド結合の結果、核内ホルモン受容体は核へ移動し、そこで標的DNA配列に結合し(例えば、エストロゲン受容体はエストロゲン応答エレメントに結合する)、そしてDNA標的配列と会合する遺伝子(例えば、エストロゲン制御される遺伝子)をアップレギュレート又はダウンレギュレートする。
【0119】
転写因子の第2グループは、がんのイニシエーション及び発生において重要であることが公知の、シグナル伝達兼転写活性化因子(STAT)である。これらは、細胞質内及び/又は細胞表面において多種多様な分子トリガーによって活性化可能な、潜在的な細胞質転写因子である。STAT活性化は通常、キナーゼ反応、タンパク質分解反応、及び、タンパク質又はタンパク質複合体の核内侵入を生じる結果になるタンパク質-タンパク質相互作用等の、細胞質内の生化学的事象のカスケードと関与しており、標的遺伝子の転写を制御する。多くの場合、転写の活性化につながる生化学的カスケードは、例えばサイトカイン受容体によるサイトカイン成分の結合、又は増殖因子受容体による上皮増殖因子若しくは血小板由来増殖因子等の増殖因子の結合を含む、細胞表面でのリガンドの受容体結合により、又は、Gタンパク質共役型受容体へのペプチド若しくはタンパク質の結合により、作動される。
【0120】
がんにおいて重要な転写因子の第3グループは、常在性核内タンパク質であり、その転写効果は、通常、セリンキナーゼ反応を含む生化学的事象のカスケードによって活性化される。数百のセリンキナーゼ成分及びセリンキナーゼの標的である数百の核内タンパク質が存在する。
【0121】
例えば上記の3つのグループの転写因子等の、がんのイニシエーション、発生又は維持に関与する全ての転写因子を含む(comprising)(即ち、含む(including)若しくは含有する(containing))セルフリークロマチン断片が、本発明の方法に有用であろうことは、当業者には明らかであろう。がんにおける役割が公知の、又はがん疾患において上昇することが公知の、幾つかの転写因子又は転写因子ファミリーには、例えば、限定されるものではないが、STAT、特にSTAT3、STAT5及びSTAT-STAT二量体成分、NF-κB、β-カテニン、γ-カテニン、Notch及びnotch細胞内ドメイン(NICD)、GLI、c-JUN、JUNB、JUND、c-FOS、FRA、ATF、CREB-CREM、cEBP、ETS、MYC、N-MYC、MAX、E2F、インターフェロン制御因子(IRF)、T細胞因子(TCF)、リンパ球エンハンサー因子(LEF)、EN2、GATA3、CDX2、PAX8、WT1、NKX3.1、P63(TP63)、若しくはP40、及びヘリックス・ループ・ヘリックスタンパク質(Darnellの文献、2002)が含まれる。このような転写因子は全て、本発明の方法において有用であろう。
【0122】
多くの転写因子が系統特異的であって特定の組織と会合することが発見されており、それらは、そのため、組織特異的な転写因子、即ち特定の組織又はがんでは常に又は通常的に発現する一方、他の組織又はがんではほとんど又は全く発現しない転写因子、と見なされ得る。本発明の方法には、組織特異的な転写因子を使用することができ、その場合、会合しているDNAの組み合せ検出により特異性及び/又は感度が増強される。
【0123】
甲状腺転写因子1(TTF-1)は、甲状腺、間脳、呼吸器上皮における胚発生期に、選択的に発現される。TTF-1は神経内分泌性肺がん及び非神経内分泌性肺がんから採取された組織試料内で発現されるが、その発現頻度は組織学的亜種の間で著しく変動する。従って、本発明の方法は又、転写因子を含むクロマチン断片及びその会合しているDNAの配列の測定を通して、がん種及びがん亜種を同定するためにも使用できる。
【0124】
PAX8は、甲状腺、腎臓、及びミュラー管系の胚発生に関与する転写因子である。PAX8は、粘液非産生性卵巣癌腫、漿液性癌腫、類内膜癌腫、明細胞癌腫、及び移行細胞癌腫から採取された組織試料内で高レベルの発現を示す。PAX8は又、類内膜腺癌、子宮漿液性癌、子宮内膜明細胞癌、並びに、乳管癌組織及び小葉性乳癌組織内でも発現される。
【0125】
CDX2は、腸上皮細胞の増殖及び分化の制御において重要な役割を有する系統特異的転写因子であり、ほとんど全ての結腸直腸腺癌組織試料内で発現される。
【0126】
NKX3.1は正常な前立腺発達に必須であり、かつ、ほとんど全ての前立腺がん内で発現される公知のマーカーである。
【0127】
GATA3は、ヒト妊娠4週の早期に転写活性を示す。GATA3は、乳癌から採取された試料、特にエストロゲン受容体陽性の乳がん組織試料、並びに、尿路上皮癌腫及び移行細胞癌腫から採取された組織試料内で高発現される。
【0128】
WT1は胚発生において重要な役割を果たす。WT1は、卵巣がん組織の優れたマーカーであり、健康な成人組織では非常に限られた範囲でのみ発現される。
【0129】
EN2は、胚発生における役割を果たしており、ある種のがんで発現されるが、健康な成人組織内ではほとんど発現されない。尿中のEN2の存在は、前立腺がん検出のための尿検査の根拠として用いられている。
【0130】
他の転写因子も本発明の方法に使用し得る。例えば、UBFはリボソームRNA遺伝子プロモーターに結合して、RNAポリメラーゼIに介される転写を活性化させる転写因子である。UBFの発現が幾つかのがん組織内で上昇していることは公知である。他にも多くのこのような実例が疑いなく存在しており、本発明の方法で使用するのに適した転写因子である。更に又、RNAポリメラーゼI及びRNAポリメラーゼIIIも又、がん内で上昇する。これらの成分は、tRNA遺伝子及びリボソームRNA遺伝子の転写の役割を担っており、がん細胞及びがん組織に特徴的な、上昇して迅速化したタンパク質産生、増殖及び細胞複製に必要な細胞機構を提供する。本発明の更なる実施態様では、UBF、RNAポリメラーゼI又はRNAポリメラーゼIIIを含むセルフリークロマチン断片の検出又は測定のための方法が提供される。
【0131】
別の実施態様では、転写因子は組織特異的な転写因子ではない。本発明の方法は又、一般的に共通して発現される転写因子、即ち、5を超える、10を超える、15を超える、20を超える、又は30を超える組織種内で発現される転写因子も検出可能である。会合しているDNAの配列での検出の組み合せ(即ち、組み合せバイオマーカー)により、本発明の方法は一般的に発現される転写因子を検出して臨床的に有用な結果を提供し得る。核内ホルモン受容体転写因子がその例である。上記説明の通りCTCFも又、本明細書で調査された更なる実例である。
【0132】
転写因子は、多くの他の因子と高度に共作動可能な様式でそのDNA標的配列に結合し、そのような他の因子には、他の転写因子、補因子、共活性化因子、共抑制因子、RNAポリメラーゼ成分、伸長因子、クロマチンリモデリング因子、メディエーター、STAT成分、UBF、及びその他が含まれる。このことは、本発明によって検出される循環転写因子には、より大きな遺伝子制御複合体の一部としての他の部分を含み得ることを意味し、DNAと会合しているヌクレオソーム、核内ホルモン受容体、核内ホルモン受容体に結合したステロイド若しくは他のホルモン、他の転写因子、補因子、共活性化因子、共抑制因子、RNAポリメラーゼ成分、伸長因子、クロマチンリモデリング因子、メディエーター、STAT成分若しくはSTAT成分に結合したサイトカイン因子若しくはサイトカイン関連因子、上流結合因子(UBF)、又はセルフリークロマチン断片内で生じるこのような遺伝子制御若しくは転写複合体と会合する任意の他の成分、のいずれか又は全てが含まれる。
【0133】
転写因子成分を含むセルフリークロマチン断片は又、インタクトなヌクレオソーム又は複合体中の任意のヒストンタンパク質の存在を含み得るが、含まなくてもよい。このようなセルフリークロマチン複合体は全て本発明に有用であり得、かつ、本発明に含まれ得る。
【0134】
1の好ましい実施態様では、転写因子は、STAT、NF-κB、β-カテニン、γ-カテニン、Notch、notch細胞内ドメイン(NICD)、GLI、c-JUN、JUNB、JUND、c-FOS、FRA、ATF、CREB-CREM、cEBP、ETS、MYC、MAX、E2F、インターフェロン制御因子(IRF)、T細胞因子(TCF)、リンパ球エンハンサー因子(LEF)、及びヘリックス・ループ・ヘリックスタンパク質、HOXタンパク質、EN2、GATA3、CDX2、TTF-1、PAX8、WT1、NKX3.1、P63(若しくはTP63)、P40、又はCTCFから選択される。更なる実施態様では、転写因子は、EN2、CDX2、又はTTF-1から選択される。別の実施態様では、転写因子はCTCFである。
【0135】
これらの転写因子のほとんどは100%組織特異的ではないが、数種類のがん内だけでなく数種類の成人組織内で発現し得る。転写因子を含むクロマチン断片の血中検査は、会合しているDNA断片(複数可)を検出する、感度の高い分析方法を用いることにより増強される。この方法の疾患特異性及び/又は組織特異性は、転写因子の特徴的本質と、それと会合しているDNAの特定の配列(複数可)とを組み合せることによって向上する。
【0136】
1の実施態様では、対象から採取された体液試料を、選択した1以上の転写因子結合剤と接触させて、多重アッセイで1以上の疾患症状を試験する。例えば、それぞれが1以上のがん疾患に特異的である複数の転写因子を、任意で多くのがん内で発現される転写因子に加えて検査することにより、1の血液検査でがん組織を特定することに加えて、多くの異なるがん疾患を検出する検査が可能となる。多重検査法は当分野で周知であり、例えば、限定されるものではないが、Luminex Corporation社のマルチプレックスビーズシステムを使用すると、1の試料で多数の多重アッセイを実施することができる(Dunbarの文献、2006)。
【0137】
本発明の更なる態様では、ヒト対象又は動物対象の疾患の検出方法であって:
(i)該ヒト対象又は動物対象から得られた体液試料を、複数の転写因子に結合する複数の結合剤と接触させる工程;
(ii)該異なる転写因子と会合しているDNAを分析する工程;及び
(iii)複数の転写因子と会合しているDNAの存在及び/又は量及び/又はパターンを、該対象内の該疾患の存在及び/又は特性を決定するために使用する工程、を含む、前記方法が提供される。
【0138】
本発明の更なる態様では、ヒト対象又は動物対象の疾患の検出方法であって:
(i)該ヒト対象又は動物対象から得られた体液試料を、2以上の(例えば、多数の)転写因子に結合する2以上の(例えば、多数の)結合剤と接触させる工程;
(ii)工程(i)で結合された該転写因子と会合しているDNAの配列を決定する工程;並びに
(iii)該転写因子と結合しているDNAの存在及び/又は量及び/又はパターン及び/又は配列(複数可)を、該対象内の疾患の存在及び/又は特性を決定するために使用する工程、を含む、前記方法が提供される。
1の実施態様では、それぞれの複数の転写因子は、各転写因子がその会合しているDNA断片の分析又は配列決定のために単離できるように、別々の固相支持体に付着される。例えば、Luminexマルチプレックスビーズシステムは、多数のビーズ種から構成され、それぞれのビーズ種は、異なる転写因子結合剤でコートされて、1の試料へ曝された後に、それぞれの転写因子と個々に会合しているDNAの(別々な)配列決定のために、互いに単離し得る。
【0139】
(転写因子-DNAクロマチン断片)
循環系内に存在するクロマチン断片は、様々な起源に由来する。1の起源は、例えば、がん細胞等の疾患細胞を含み得る細胞の死後の循環系へのクロマチン放出を介する。場合によっては、クロマチンの循環系中の放出が活発でもよい。
【0140】
循環系内のクロマチン断片の主な起源は好中球に由来し、NETosisとして知られるプロセスによって生成される好中球細胞外トラップ(NETs)によって介される。このプロセスで、好中球はクロマチン物質材料を細胞外マトリックスに放出し、感染部位に局所的に病原体を捕捉してその病原性を中和する(NETs)。NETs及びその代謝産物は、その大部分が150 bp以上のサイズの構成要素DNA断片を伴うオリゴヌクレオソーム及びモノヌクレオソームを含む。
【0141】
血液から抽出されたcfDNAのサイズプロファイリングにより、cfDNAの主成分は、約160~170 bpのサイズ分布ピークを持つモノヌクレオソームであって、様々な長さの会合しているリンカーDNAを有するモノヌクレオソームに対応する約130~200 bpの範囲にわたることが明らかになった。例えばジヌクレオソーム(約340 bp)、トリヌクレオソーム(510 bp)等を含む様々なサイズのオリゴヌクレオソームに対応する更なるピークがあることもある。NETosisによる影響を受けた試料では、長さが最大で数千bpにわたる大きなクロマチン断片に関連する幅広いピークが同様に、あることもある。
【0142】
転写因子は短いDNA配列に結合し、転写因子-DNA複合体は35~80 bpの範囲の更に短いDNA断片を含む(Snyderらの文献、2016)。二本鎖血漿cfDNAライブラリの通常サイズのプロファイル図では、長さ100 bp未満のcfDNA断片に相当する視認可能な物質はほとんど又は全くない。しかし、一本鎖ライブラリ調製物には、35~80 bpの範囲のcfDNA断片がより多く含まれている(Snyderらの文献、2016)。このタンパク質が結合した35~80 bpのcfDNA成分は、全循環クロマチン断片中の少量成分である。
【0143】
本発明の文脈における転写因子-DNA結合の更に重要な態様は、転写因子-DNA結合の動態安定性に関する。幾つかの転写因子はインビボでDNAにTFBSにおいて安定して結合する。他の転写因子は、インビボでTFBSにおいて一時的に結合し、そこで動的様式で、会合、解離、再会合する。細胞及び組織ベースの基質を使用するChIP-Seq法では、クロスリンク技術を使用して両者を検出できるため、この点は問題にならない。動的に結合した転写因子は、結合形態及び解離形態を自然に交互に繰り返すが、クロスリンクされると結合形態として「捕捉」される。従って、クロスリンク時間が短いと、安定的に結合した転写因子の検出率は高くなるが、動的に結合した転写因子の検出率は低くなる。対照的に、クロスリンク時間が長いと、より多くの転写因子が時間の経過とともにクロスリンクされて会合形態として「捕捉」されるため、動的に結合した転写因子の検出率が増加する(Pooreyらの文献、2013)。
【0144】
しかしながら、動態考察に基づくと、動的に結合した転写因子が血液中又は他の体液中の循環系内に存在する可能性は低いと推論される。インビボでは、クロマチン及び転写因子の両方の核内濃度が比較的高いため、動的に結合した転写因子-DNA複合体の会合、解離、再会合が可能となる。しかし、体液中の転写因子-DNA複合体のレベルは高度に希釈されており、非常に低濃度で存在するため、一旦解離すると、一時的又は動的に結合していた転写因子及びDNA成分が再会合する可能性は低い。従って、血漿中でのクロスリンクには安定的に結合している転写因子のみが関与し、そのため常に迅速であろうと推論された(より遅くクロスリンクされて一時的に結合する転写因子は解離するであろうから無視できるためである)。従って、本発明の1の実施態様では、ヒト対象又は動物対象の疾患の検出方法であって:
(i)ヒト対象又は動物対象から得られた体液試料を、動態的に安定した転写因子-DNA複合体と結合する結合剤と接触させる工程;
(ii)該動態的に安定した転写因子-DNA複合体内の該転写因子と会合している該1以上のDNA断片の配列を決定する工程;並びに
(iii)該転写因子の存在及び該会合しているDNAの配列を組み合せバイオマーカーとして、該対象内の該疾患の存在及び/又は特性を決定するために使用する工程、を含む、前記方法が提供される。
【0145】
(転写因子DNA結合ドメイン)
転写因子は、DNA結合ドメイン(DBD)によって分類してもよい。Vaquerizasらの文献(2009年)は、1391個の公知の転写因子を調査し、DBDに基づいて24を超える異なる種類の転写因子を特定した。最も一般的に発生している転写因子で特定されたものは、亜鉛フィンガーDBDを持つものであり、これらは全転写因子のほぼ半分(48.5%)を占める。
【0146】
cfDNA、ctDNA又はヌクレオソームの分析に好ましい試料種は、EDTA血漿である。血漿採血管内のEDTA又はクエン酸塩の作用は、凝固防止のために、血液中のカルシウムイオンをキレートして捕捉することである(血液中の凝固カスケードは、カルシウムイオンの存在を要する)。採血管を遠心分離にかけて、血液中の細胞成分を血漿上清から分離し、これを取り除いて多くの臨床診断目的のための試料マトリックスとして使用できる。
【0147】
亜鉛フィンガー転写因子の、それらのDNA TFBSへの結合は、亜鉛イオンの存在に依存している。しかし、血漿採血管内で使用されるカルシウムキレート剤は又、亜鉛イオンも同様にキレートする。亜鉛フィンガー転写因子から亜鉛イオンをキレートして除去することにより、転写因子のDNAへの結合が失われる可能性がある(Ralstonの文献、2008)。亜鉛キレート剤と亜鉛フィンガー転写因子との相互作用は、この転写因子ファミリーがEDTA血漿中で他のDBDタイプを介してDNAと結合する転写因子とは異なる挙動を示すことを意味する。
【0148】
血液中の亜鉛フィンガー転写因子-DNA複合体の存在は、直接的な実証はされていない。我々は、このような複合体が存在するのに単離されていないのは、それらが血液中の少ない循環クロマチン断片成分のごく一部であるため(循環クロマチン断片の大部分はヌクレオソームである)、更に又、当分野の研究者によって使用される血漿試料中ではそれらは解離しているためであると推論した。本明細書に記載の通り、我々はこれら2つの問題に取り組み、亜鉛フィンガー転写因子であるCTCFの血漿ChIP-Seqを実証した。
【0149】
(転写因子結合剤)
好ましい転写因子結合剤には、転写因子、又は、例えばTFBSのDNA配列(任意で、フランキング配列を含む)等のオリゴヌクレオチド、に結合する抗体が含まれる。好ましい結合剤は、低い転写因子濃度で結合が起こるように転写因子への高親和性を有するだけでなく、他のタンパク質の非特異的結合が最小になるように転写因子の結合への高い特異性を有する。
【0150】
結合剤は、例えばセファロース、セファデックス、プラスチックビーズ又は磁気ビーズ等の固体支持体上にコートされてもよい。1の実施態様では、固体支持体は、多孔質材料を含む。別の実施態様では、結合剤をタグ又はリンカーを含むように誘導体化し、そのタグ又はリンカーを使用してそのタグに結合するように誘導体化された適切な支持体にその結合剤を結合させることができる。このようなタグ及び支持体の多くは当分野で公知である(例えば、Sortag、クリックケミストリー、ビオチン/ストレプトアビジン、hisタグ/ニッケル又はコバルト、GSTタグ/GSH、抗体/エピトープタグ、及びその他多数)。次の結合剤の単離は、結合剤と転写因子との反応の前に、同時に、又は後に行うことができる。使用容易性のために、コートされた支持体を、例えばマイクロ流体デバイス等の装置内に含ませてもよい。複数の固相結合剤を多重アッセイ形式で使用して、異なる転写因子を含む複数のクロマチン断片の存在を、1の体液試料における1の試験で同時に試験することができる。
【0151】
他の実施態様では、結合剤を溶液中で添加し、クロスリンクさせて、結合したヌクレオソームをポリエチレングリコール(PEG)等の沈殿剤で沈殿させることにより単離する。沈殿したペレットは次に、例えば遠心分離又は濾過によって別の相として単離できる。多くの免疫沈降法が当分野で公知であり、それら任意の方法を本発明の方法で使用し得る。
【0152】
幾つかの実施態様では、転写因子と会合しているDNAは、DNA結合剤によって結合される。DNA結合剤は、固相(例えば、プラスチック粒子、磁気粒子、アガロース又はその他多数)に付着させてもよい。DNA結合剤は、直接的又は間接的に(例えば、ビオチン/アビジン又はグルタチオン等のリンカー系を介して)固相に結合させてもよい。
【0153】
我々は、転写因子に結合する市販の抗体を使用した。ChIP-Seqのために、市販の磁気ポリスチレン粒子上に抗体を固定化した。従って、本発明の1の好ましい実施態様では、転写因子結合剤は、磁気ポリスチレン粒子上に固定化された固相の抗転写因子抗体(又はその一部)である。
【0154】
(DNAライブラリ調製)
本発明の幾つかの実施態様は、クロマチン断片中の転写因子と会合するcfDNA断片のライブラリの調製を含む。ライブラリは、検出及び配列決定を容易にするためにPCR法を用いて増幅してもよい。原理的には、どのようなライブラリ調製法も本発明の方法での使用に好適であろう。
【0155】
DNA断片ライブラリ調製法は当分野で周知であり、典型的にはアダプターオリゴヌクレオチドのDNA断片へのライゲーションを含む。アダプター連結DNA断片ライブラリの増幅は、通常はPCRによって行われる。PCRプライマーも又、DNA増幅に使用することができ、ライブラリ中に存在する全ての配列を増幅するために縮重していてもよいし、又、任意でフランキング領域を同様に含む、転写因子の応答エレメントの配列に会合する特定のDNA配列を増幅するために、当分野で公知のソフトウェアを使用して設計してもよい。
【0156】
ライブラリ調製法には、cfDNA断片の、一本鎖又は二本鎖のアダプターライゲーションが含まれ得る。好ましいライブラリ調製法は、一本鎖cfDNAアダプターライゲーションを含むものである。好ましいライブラリ調製法は、長さ100 bp未満の小型DNA断片の増幅及び単離の高い効率を有する。多くのこのようなライブラリ調製法が当分野で公知であり、例えば、(i)製造者のプロトコルに従って、5~10ngのインプットDNAを20~25PCRサイクルで使用するTruSeq DNA試料調製キット(Illumina社)(Ulzらの文献、2019)、(ii)MagMAX cfDNA単離キット(Applied Biosystems社)の使用の次に、NEBNext Ultra II DNAライブラリ調製キット(New England Biolabs社)を用いたライブラリ調製(Ulzらの文献、2019)、又は(iii) Qiagen社QIAamp DSP DNA Blood ミニキットの血液及び体液プロトコルの使用、並びにLife technologies社Ion Plus Fragment ライブラリキットを用いたPCR増幅(Huらの文献、2019)が含まれる。他の方法には、Sanchezらの文献、2018、Skene及びHenikoffの文献、2017、Snyderらの文献、2016、及びLiuらの文献、2019によって説明されたものが含まれる。本明細書で提供される実施例では、市販の一本鎖DNAライブラリ調製キット(Claret Bio社SRSLY NGSライブラリ調製キット)を使用した。
【0157】
本発明の実施態様では、転写因子に会合しているDNAのPCR増幅は、転写因子の検出又は定量化の感度を高める(のみの)ために行われるのであって、その次の、フランキング配列無しの応答エレメント配列のみの増幅で充分であることは、当業者には明らかであろう。
【0158】
(転写因子-DNA複合体の免疫沈降)
免疫沈降は原理的には単純なプロセスである。通常の方法では、目的タンパク質に特異的に結合する抗体を固体支持体にコートし、該タンパク質を含む生体試料に暴露する。目的タンパク質は抗体によって結合されて固相表面に吸着する一方、他のタンパク質及び他の物質は溶液中に残る。固相を試料から単離して洗浄すると、固体支持体に付着した目的タンパク質の純粋な試料が残る。
【0159】
細胞及び組織をベースとするChIP-Seq法は、当分野においてよく説明されている。通常、組織又は培養細胞から抽出され、消化又は超音波処理された、20~30μgのクロマチンを基質材料として使用する。クロマチンは約40%のDNAから構成されているので、これは約8~24 ugの基質DNAを表す。しかし、循環cfDNAの濃度は低く、健康なヒト対象では30±14 ng/ml、胃がん患者では71±55 ng/mlと測定されている(Parkらの文献、2012)。従って、1mlの血漿試料中のクロマチン材料は、ChIP-Seqで通常使用される量よりも約200~500倍少ないであろう。
【0160】
循環セルフリークロマチンの大部分はヌクレオソームが占めるため、利用可能な循環セルフリー転写因子-DNAクロマチン断片材料は極めて少ない。更に又、利用可能な循環セルフリー転写因子-DNAクロマチン断片材料は、数千の転写因子を含むであろう。従って、1つの転写因子によって表される本発明の方法による分析に利用可能な基質材料は、循環系内に存在する少量の循環セルフリー転写因子-DNA材料のごく一部でしかないであろう。
【0161】
更に、細胞からのクロマチン抽出物は比較的純粋なクロマチン材料である。それとは対照的に、体液、例えば血液、血清、又は血漿は、少量のクロマチンだけでなく、膨大な数のタンパク質及び他の化合物を高濃度で含み、これらのいずれかは使用される固相転写因子抗体又は他の結合剤に非特異的に付着することにより、本発明の方法を妨害する可能性がある。血液、血清、又は血漿から循環転写因子-DNA複合体を免疫沈降させるための更なる複雑さは、バックグラウンドの非特異的結合が、固相支持体上の特異的結合剤に結合した少量の標的転写因子に関して高いために、その標的転写因子の検出を不明瞭にする可能性があることである。
【0162】
これら全ての困難性のため、血漿又は他の血液試料マトリックスにおけるChIP-Seqの文献報告はほとんどない。血漿のChIP-Seqが説明されている場合は、ヌクレオソーム及びヌクレオソームヒストンに関するものであり、それはそれらのレベルが(1つの転写因子のレベルと比べて)高いためである。
【0163】
我々は、高アビディティ抗体を使用することにより、並びに、適切な固相支持体の使用と高濃度の強力な洗浄剤を含む溶液での固相のストリンジェント洗浄との組み合せを通して、固相支持体上の他のタンパク質の非特異的結合を極めて低いレベルまで低下させることにより、これらの困難性に対処した。
【0164】
従って、抗体結合した転写因子-DNA複合体は、転写因子に会合しているDNAの抽出の前に、強力な(例えば、少なくとも1%、例えば1.2%濃度の)1の洗浄剤又は複数の洗浄剤の混合物で洗浄してもよい。1の実施態様では、工程(i)で結合剤により結合された前記転写因子を、該会合しているDNA断片を検出する前に、少なくとも1%濃度の洗浄剤を含む緩衝液で洗浄する。沢山の洗浄剤が、この目的のために使用し得る。幾つかの一般的な例には、限定されるものではないが、Triton洗浄剤(例えばTriton X-100)、Tween洗浄剤(例えば Tween 20及びTween 80)、デオキシコール酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム、オクチルフェノキシポリエトキシエタノール(IGEPAL CA-630)、トリコサエチレングリコールドデシルエーテル(Brij)、n-ドデシル-β-マルトソシド(maltososide)、オクチル-β-グルコシド、オクチルチオグルコシド、3-((3-コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ)-1-プロパンスルホン酸(CHAPS)、及び多数が含まれる。
【0165】
磁気ポリスチレンマイクロビーズを用い、1%オクチルフェノキシポリエトキシエタノール、0.1%デオキシコール酸ナトリウム、及び0.1%ドデシル硫酸ナトリウムの混合物を含む洗浄溶液で、繰り返し(5回)洗浄した。
【0166】
1の好ましい本発明の実施態様では、固相支持体は、ポリスチレン粒子、例えば磁気ポリスチレン粒子である。使用される抗体(若しくは転写因子の他の結合剤)は、支持体に直接的に又は間接的に付着されてもよい。
【0167】
1の好ましい本発明の実施態様では、固相支持体上に単離された固相結合した転写因子-DNA複合体を、少なくとも0.25%、若しくは少なくとも0.5%、若しくは少なくとも1%の、洗浄剤又は界面活性剤を含む溶液で洗浄する。使用される洗浄剤は、本明細書に記載の通り、1の洗浄剤又は複数の洗浄剤の混合物からなるものでもよい。
【0168】
本発明の1の実施態様では、使用される固相転写因子結合剤支持体は、マルチプレックスシステム、例えばマルチプレックスビーズシステム(Luminex Corporation社が提供するシステム等)を含む。この固体支持体システムでは、それぞれ異なる転写因子に対する異なる特異的結合剤でコートされた蛍光により識別可能な複数のビーズを同時に使用して、1の試料中の複数の転写因子-DNA複合体を検査することができる(Dunbarの文献、2006)。
【0169】
(DNA配列決定)
DNA配列を分析、定量化、又は同定するための多くの方法が当分野で公知であり、任意のDNA分析法を本発明の方法で採用でき、それらには、限定されるものではないが、次世代シーケンシング法、等温DNA増幅法、コールドPCR(低変性温度での共増幅PCR)、MAP(MIDI-活性化加ピロリン酸分解)、PARE(再配列末端の個別化分析(personalized analysis of rearranged ends))、DNAハイブリダイゼーション法(遺伝子チップ法及びin situハイブリダイゼーション法を含む)が含まれる。更に、遺伝子配列は又、エピジェネティックDNA配列決定分析によって、エピジェネティックに変化したDNA配列を(例えば、未修飾シトシンのウラシルへの亜硫酸水素塩転換を使用した、5-メチルシトシンを含む配列を)分析し得る。従って、1の実施態様では、会合しているDNAは、DNA配列決定、例えば、(標的ゲノム又は全ゲノムの)次世代シーケンシング及びメチル化DNAシーケンシング分析、BEAMing、デジタルPCR及びコールドPCR(低変性温度での共増幅PCR)を含むPCR、等温増幅、ハイブリダイゼーション、MIDI活性化加ピロリン酸分解(MAP)又は再配列末端の個別化分析(PARE)から選択される配列決定法、を使用して分析する。
【0170】
本明細書に記載された実施例では、Illumina社NovaSeqシーケンシングを使用した。従って、1の好ましい本発明の実施態様では、単離された転写因子から抽出されるDNAは、次世代シーケンシングによって分析する。
【0171】
(試料調製)
試料は、その中でクロマチン断片が検出することができるどのような体液でもよい。クロマチン断片は、血液、糞便、尿、及び脳脊髄液中に見出されることが公知である。我々は、痰(唾液)内でも同様にクロマチン断片を検出した。好ましい実施態様では、体液試料は、血液、血清、又は血漿試料である。これらの試料は、転写因子及びDNA断片を含む循環セルフリークロマチン断片を、測定及び分析するために使用することができる。
【0172】
血液試料を本発明の方法に使用する場合、試料は、全血、血清試料、又は血漿試料でもよい。全血又は血清試料は、任意のDBDタイプを有する転写因子を含む、任意の(安定的に結合している)転写因子-DNAクロマチン断片の分析のための基質として使用し得る。
【0173】
例えばEDTA血漿試料等の血漿試料も又、本発明の方法に使用し得る。通常の血漿試料採取法では、全血をクエン酸塩又はEDTAの入った採血管内に採取し、2時間以内に遠心分離する。得られた上清血漿は新鮮なまま使用してもよいし、分析するまで凍結してもよい。しかし、血漿作成のために採血管への添加物として使用されるカルシウムイオン封鎖剤は、循環亜鉛フィンガー転写因子-DNA複合体の解離を引き起こす。上記のとおり、転写因子の最も一般的なクラスは亜鉛フィンガー転写因子である。
【0174】
この困難を克服する多数の手段があり、その手段には、限定されるものではないが、(i)亜鉛フィンガー転写因子の使用を回避し、他のDBDタイプを有する転写因子を使用すること、(ii)血清試料を使用すること、(iii)ヘパリン血漿を使用すること若しくはカルシウム封鎖を伴わない他の血漿試料種を使用すること、又は(iv)例えば血液試料中のクロマチン断片中のタンパク質及び/若しくはDNAをクロスリンクすることにより、転写因子-DNA複合体の解離を防止すること、が含まれる。
【0175】
1の実施態様では、体液試料は血清試料である。血清は、白血球由来のコンタミネートクロマチン材料(例えば、NETs)を含むと考えられる。このコンタミネーションはcfDNAの分析を妨害するため、血漿がctDNA法に最も一般的に使用される試料マトリックスである。しかし、DNA分析の前に、転写因子を含むクロマチン断片を、他に存在するクロマチン材料から単離すると、このような妨害は排除される。更に又、血清のクロマチン材料でのコンタミネーションは、凝固により作動される、血液試料中の好中球細胞による好中球細胞外トラップ(NETs)(NETosisの公知の誘導因子)の形成の結果である。全血を加えた血清試料採取管が、例えば静脈穿刺後15~60分の時間内に処理されれば、コンタミネートNETs材料は、小クロマチン断片ではなく大きなクロマチンであろうから、小さな転写因子-DNA複合体の分析を妨害しないであろう。従って、使用し得る試料の種類が広がることは、本発明の方法の更なる利点である。
【0176】
血清中のコンタミネートNETsの存在は、血清採血管にNETosisの阻害剤を添加することで、更なる最小化又は排除することができる。これによりNETosisが防止されるため、血清試料中に存在するバックグラウンドクロマチンのレベルが最小化される。NETosisの阻害剤の多くが当分野で公知である。好ましい阻害剤には、アントラサイクリン系薬剤、特にドキソルビシンが含まれる。以上より、本発明の1の実施態様では、ヒト対象又は動物対象から得られた血清試料中の、転写因子及びDNA断片を含むセルフリークロマチン断片の検出方法であって:
(i)対象から全血試料を、血清採血管中に取得する工程;
(ii)該全血試料を、NETosisの阻害剤と接触させる工程;
(iii)該全血試料から血清試料を単離する工程;
(iv)該血清試料を、転写因子と結合する結合剤と接触させる工程;
(v)該転写因子に会合している該DNA断片を検出又は測定する工程;及び
(vi)該血清試料中の該転写因子を含むセルフリークロマチン断片量の測定値として、該DNA断片の存在又は量又は配列を使用する工程を含む、前記方法が提供される。
【0177】
本発明のこの実施態様は又、本明細書で上述したように、対象の該疾患段階の指標としての情報を提供するために使用できることが理解されるであろう。
【0178】
1の実施態様では、体液試料は、EDTA血漿又はクエン酸塩血漿等のカルシウム封鎖剤を用いて作成された血漿試料を含む任意の血漿試料であり、その血漿試料は、全血試料をクロスリンク剤と接触させることによって得られる。クロスリンク剤は、(1)全血試料をクロスリンク剤と接触させること;(2)該クロスリンクさせた試料をカルシウムイオンキレート剤と接触させること;及び(3)血漿を、該試料から単離することを含むプロセスの、第一工程において全血と接触させてもよい。
【0179】
クロスリンクは、当分野で周知の技術である。最も一般的に使用されるクロスリンク剤は、ホルムアルデヒドであって、タンパク質分子を互いに結合させかつDNAにも結合させる。しかしながら、過剰なクロスリンクは、転写因子内の抗体結合エピトープの構造の変化(従って抗体結合の損失)を生じる可能性があり、更には転写因子の別々のタンパク質分子又は複合体へのクロスリンクを引き起こし得る。このことを防止するために、クロスリンクは多くの場合、ホルムアルデヒドを添加後、数秒又は数分後に、例えば過剰のグリシン又はトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(TRIS)を添加することによりクエンチして、更なるクロスリンクを停止させる。以上より、本発明の1の態様では、ヒト対象又は動物対象から採取された血液試料中の、転写因子及び会合しているDNA 断片を含むクロマチン断片を検出、分析、又は測定する方法であって:
(i)該対象から得られた血液試料を、クロスリンク剤と接触させる工程;
(ii)任意で、クエンチ剤を添加して更なるクロスリンクを停止する工程;
(iii)該試料を、カルシウムイオンキレート剤と接触させる工程;
(iv)血漿を、該試料から単離する工程;
(v)該血漿試料を、転写因子と結合する結合剤と接触させる工程;
(vi)該転写因子を含む、結合したクロマチン断片を、単離する工程;及び
(vii)該単離されたクロマチン断片を分析する工程(例えば、本明細書に記載の方法により)、を含む、前記方法が提供される。
【0180】
本発明の別の態様では、ヒト対象又は動物対象の疾患の検出方法であって:
(i)該対象から得られた血液試料を、クロスリンク剤と接触させる工程;
(ii)任意で、クエンチ剤を添加して更なるクロスリンクを停止する工程;
(iii)該試料を、カルシウムイオンキレート剤と接触させる工程;
(iv)血漿を、該試料から単離する工程;
(v)該血漿試料を、転写因子と結合する結合剤と接触させる工程;
(vi)該転写因子と会合しているDNAを単離する工程;
(vii)任意で、該単離されたDNAをPCR法によって増幅する工程;
(viii)該DNAの量及び/又は配列を決定する工程;並びに
(ix)該転写因子の存在及び/又は該会合しているDNAの配列を、該対象の該疾患状態を検出するためのバイオマーカーとして使用する工程、を含む、前記方法、が提供される。
【0181】
1の好ましい実施態様では、ホルムアルデヒド又はホルムアルデヒド放出剤を、クロスリンク剤として使用する。1の実施態様では、EDTAを、凝固防止のためのカルシウムイオンキレート剤として使用する。好ましい実施態様では、ホルムアルデヒドを全血試料の採取直後にその全血に添加し、例えば、既にホルムアルデヒドが入っている採血管に全血試料を投入する。その採血管は、クロスリンク反応が行われるのに充分な時間放置し、その後、クエンチャーの添加により反応を停止させ、血漿成分の過剰なクロスリンクを予防する。クエンチャーは通常、ホルムアルデヒドと反応する、グリシン又はTRIS等のアミン化合物である。クエンチャーは、EDTAと共に添加してもよく、例えばグリシン及びEDTAのTRIS緩衝液溶液を添加することによる。次に、全血試料を遠心分離し、クロスリンクした転写因子結合DNA複合体を含む血漿を、本発明の方法による分析のために単離する。
【0182】
本発明の別の態様では、ヒト対象又は動物対象の疾患の検出方法であって:
(i)該ヒト対象又は動物対象から得られた血液試料を、クロスリンク剤と接触させる工程;
(ii)該全血試料を、クエンチ剤及びカルシウムイオンキレート剤と接触させる工程;
(iii)工程(ii)で該試料から作成された血漿を、単離する工程;
(iv)該血漿試料を、転写因子と結合する結合剤と接触させる工程;
(v)該転写因子と会合しているDNAを単離する工程;
(vi)任意で、該単離されたDNAを増幅する工程;
(vii)該DNAの量及び/又は配列を決定する工程;並びに
(viii)該転写因子の存在及び/又は該会合しているDNAの配列を、該対象中の該疾患の存在及び/又は特性を検出するためのバイオマーカーとして使用する工程、を含む、前記方法、が提供される。
【0183】
上述の通り、循環系内に存在する転写因子は、DNAと動的様式で一時的に会合して解離するものではなく、むしろDNAと安定して結合しているものである可能性が高い。最も安定的に結合しているDNA-(転写因子を含む)循環クロマチン断片の場合は、全培養細胞又は組織試料内でのホルムアルデヒドによるクロスリンクは迅速で、1~2分未満しかかからない。我々は、細胞内へのホルムアルデヒドの拡散及び侵入、その後の細胞核内への侵入、その後のクロマチンのクロスリンクのために、1分又は2分が必要かもしれないが、この時間は、クロマチン断片が溶液内でフリーであって直ちにクロスリンクされ得る全血環境では、短縮される可能性があると推論した。使用されるクロスリンク剤はホルムアルデヒド、又はホルムアルデヒド放出剤(ホルムアルデヒド発生剤、ホルムアルデヒド供与体、若しくはホルムアルデヒド放出保存剤とも呼ばれる)でもよい。ホルムアルデヒド放出剤は、ホルムアルデヒドを徐放する成分である。多くのホルムアルデヒド放出剤が当分野で公知であり、化粧品産業における、例えば、毒性のために高レベルのホルムアルデヒドは回避されるが、放出によって低い保護的レベルが維持されるスキンケア及びヘアケア製品における、抗菌防腐剤として一般的に使用されている。従って、1の実施態様では、クロスリンク剤はホルムアルデヒド放出剤である。
【0184】
我々は、全血中の循環セルフリー転写因子-DNA複合体のクロスリンクは(細胞又は組織とは対照的に)迅速であり、亜鉛フィンガータンパク質の亜鉛の枯渇よりももっと迅速に起こる可能性があると推論した。従って、本発明の1の実施態様では、クロスリンク剤は、カルシウムイオンキレート剤と同時に添加してもよい。EDTA及びホルムアルデヒド放出剤の両方が入った採血管(BCT)は、例えばStreck Inc.社から入手可能なセルフリーDNA BCT等として、市販されている。このような採血管に添加された全血は、EDTA及びクロスリンク剤に同時に曝される。
【0185】
異なるEDTA試料調製法を用いて、多数の実験を行った。例えば、エストロゲン受容体(ER)は亜鉛フィンガー転写因子である。我々は、ELISA法を用いて(通常の)EDTA血漿試料内に存在するERのレベルを測定した。ERは
図5に示すように検出可能であった。EDTA血漿試料からERを免疫沈降させ、固相に結合したDNAを抽出し、抽出液中に存在するDNAを増幅した。しかし、増幅された試料中にDNAは観察されなかった。これはER-DNA複合体がEDTA血漿中で解離したためと推論した。
【0186】
CTCF(CCCTC結合因子とも呼ばれる)は、進化的に保存された亜鉛フィンガー転写因子であり、11本の亜鉛フィンガーの組み合せによってゲノム上の多数の部位に結合し、ゲノム機能の中で重要な役割を担っている。ヒトゲノム内のCTCF結合部位の調査で、19の異なる細胞種にわたって77,811個の異なる結合部位が特定された(Wang らの文献、2012)。77,811個の結合部位中、27,662個は、調査した19の細胞種全てで占有されていた。残りの50,149個の結合部位のCTCF結合は、組織特異性を示した。調査した19の細胞種には、12の正常細胞種、並びに、結腸直腸がん(Caco-2)、子宮頸がん(HeLa-S3)、肝細胞がん(HepG2)、神経芽細胞腫(SK-N-SH_RA)、網膜芽細胞腫(WERI-RB-1)、及びEBV形質転換リンパ芽球(lymphoplastoid)(GM06990)を代表とする7種類のがん細胞株又はEBV不死化細胞株が含まれていた。1,236個の結合部位におけるCTCFの結合はがん細胞株に特異的であることが確認され、これらの結合部位の占有により、上皮、線維芽細胞、及び内皮に関して、正常細胞と不死細胞株及びがん細胞株とが識別された(Liuらの文献、2017)。
【0187】
マウス抗CTCF抗体を用いて、がんに罹患していると診断された18人の対象から採取したクロスリンクしたEDTA血漿試料(Streck社cfDNA BCTで採取)の4つのプールから、CTCF-DNAを免疫沈降した。ChIP法により固相支持体上で単離したタンパク質のウエスタンブロット分析を行った。
図7の結果は、分子量約140kDのCTCFに対応するタンパク質バンドが、4つのプール試料全てに存在したことを示す(しかし、抗CTCF抗体の代わりに非特異性マウスIgGを用いた対照実験では存在しなかった)。約50kDのバンドは、ウエスタンブロットに用いた標識抗マウスIgG抗体の、ChIPで用いたマウス抗CTCF抗体の重鎖への結合に対応する。
【0188】
次に、ChIP法を繰り返して、乳がんに罹患していると診断された対象から採取したクロスリンクしたEDTA血漿試料(Streck社cfDNA BCTで採取)を使用して、CTCF-DNA複合体を免疫沈降した。固相支持体からcfDNA断片を抽出し、抽出したDNA断片をアダプターオリゴヌクレオチドにライゲートし、存在するcfDNAを増幅した。増幅したcfDNAライブラリを電気泳動で分析し、得られた電気泳動図(
図8)は、このライブラリが35~80 bpの範囲(アダプターが連結された断片と考えられる、x軸上で175~220 bpの間のピークに対応する)の小断片を含むことを示した。アダプターが連結されたcfDNA断片の主要なピークは、長さ約50 bp(アダプターが連結された断片長さと考えられる、x軸上で190 bpのピークに対応する)で観察された。増幅されたcfDNAライブラリは35~80 bpの範囲の小断片を含んでいたが、これら全ての断片が試料中のCTCFに結合していたわけではなく、その理由は、非特異性マウスIgGでコートした固体支持体からの抽出物の増幅でも同様に、小型DNA断片が得られたからである。しかし、特異的抗CTCF抗体のChIPで得られた特異的ピーク(1000蛍光単位(FU))は、非特異性IgGピーク(80 FU)よりも高かった。
【0189】
抗CTCF免疫沈降法を用いて単離した、増幅cfDNAライブラリを、次世代シーケンシング法により配列決定した。CRCと診断された患者から採取したクロスリンクしたEDTA血漿試料(Streck社cfDNA BCTで採取)から調製した増幅ライブラリの結果を
図9に示す。9780個の公表されたCTCF TFBS配列(Kellyらの文献、2012)の小cfDNA断片の結合が富化されていることが観察された。対照的に、非特異性マウスIgGとの結合で得られたcfDNAライブラリは富化を示さなかった。インプット非特異的対照を参照するcfDNA断片配列のピークコールの結果は、CTCFが最も多くのTFBS配列断片を有する転写因子であることを示した。本発明の方法は、血漿中の転写因子のChIP-Seq法に成功したと結論付けられた。
【0190】
アンドロゲン受容体(AR)は、前立腺がんで注目されている亜鉛フィンガー転写因子である。本発明の方法が、CTCFよりも少ない量の転写因子に適用できることを示すために、同一の方法をARに適用した。マウス抗AR抗体を用いて、前立腺がんに罹患していると診断された8人の対象からのクロスリンクしたEDTA血漿試料(Streck社cfDNA BCTで採取)から、ARを免疫沈降した。ChIP法により、ARを使用して固相支持体上で単離したタンパク質のウエスタンブロット分析を、LnCAP前立腺がん細胞株細胞を陽性対照として行った。
図11の結果は、分子量約10kDでARに対応するタンパク質バンドが、8つの試料全てに存在し、特に2試料で強力であったことを示す(
図11のレーン2及び3)。約50kDのバンドは、標識抗マウスIgG抗体の、ChIPで用いたマウス抗AR抗体の重鎖との結合に対応する。次に、固相支持体からDNAを抽出し、抽出したDNA断片をアダプターオリゴヌクレオチドにライゲートし、存在するDNAを増幅した。
図12の結果は、増幅したcfDNAライブラリが35~80 bpの範囲(上述のように、アダプターが連結された断片の175~220 bpで示されるピーク)の小断片を含むことを示した。増幅されたcfDNAライブラリは35~80 bpの範囲の小断片を含んでいたが、これら全ての断片が試料中のARに結合していたわけではなく、その理由は、非特異性マウスIgGでコートした固体支持体からの抽出物の増幅でも同様に、小型DNA断片が得られたからである。ウエスタンブロットにより最も高いレベルのARが観察された2つの試料から得られた増幅cfDNAライブラリを次に、次世代シーケンシングで配列決定した。
【0191】
(解離された転写因子-DNA複合体)
本発明の上記態様は、DNAと直接的に又は間接的に結合した、転写因子を含むクロマチン断片を検出、測定又は特性評価する方法である。本発明の1の実施態様では、対象から採取した体液試料中の、DNA結合していない転写因子(即ち、フリー又は未結合の転写因子)を検出する方法がある。フリーな転写因子の検出は、フリーな転写因子に対する結合剤として、転写因子のTFBS DNA配列を含む、任意でフランキング配列を含む、オリゴヌクレオチドを用いることにより実施できる。その後、オリゴヌクレオチドに結合したフリーな転写因子を、例えば標識抗転写因子抗体を用いて、検出することができる(例えば、Active Motifの文献、2006を参照)。転写因子は最初は不活性形態として産生され、その不活性形態はその後、例えばリン酸化等により翻訳後活性化される。活性な転写因子形態は、それらのTFBS配列を含むオリゴヌクレオチドに結合する。不活性な転写因子形態は、それらのTFBS配列を含むオリゴヌクレオチドに結合しない(Leeらの文献、2007)。従って、活性なフリーな転写因子を、アッセイを用いて体液試料内で検出することが可能であり、そのアッセイは、該フリーな転写因子を、該転写因子が結合するDNA配列、例えば該転写因子のTFBS配列等、を含むオリゴヌクレオチドに結合させること、それに続いて第2の転写因子結合剤、例えば該転写因子に特異的に結合する抗転写因子抗体を添加することを含み、かつ、抗体結合の存在又は程度を、該試料中に存在する活性でフリーな転写因子の存在又は量の測定値として使用するアッセイである。以上より、本発明の1の実施態様では、ヒト対象又は動物対象中のフリーな転写因子の検出方法であって:
(i)ヒト対象又は動物対象から得られた体液試料を、転写因子に結合するオリゴヌクレオチドと接触させる工程;
(ii)該オリゴヌクレオチド結合した転写因子を単離する工程;
(iii)単離された転写因子を、該転写因子と結合する第2の結合剤と接触させる工程;及び
(iv)該第2の結合剤の、該転写因子への存在又は程度を、該試料中のセルフリーな転写因子の量の測定値として使用する工程、を含む、前記方法が提供される。
【0192】
好ましい実施態様では、フリーな転写因子に結合するために使用されるオリゴヌクレオチドは、TFBS配列を含む。好ましい実施態様では、フリーな転写因子に結合するために使用されるオリゴヌクレオチドは、固相支持体に付着される。好ましい実施態様では、第2の結合剤は抗体である。好ましい実施態様では、第2の結合剤は標識され、固相オリゴヌクレオチド結合した転写因子へのその結合が容易に検出及び/又は定量化し得る。
【0193】
1の実施態様では、亜鉛イオンを試料に添加して、亜鉛フィンガー転写因子へのオリゴヌクレオチドの結合を容易にする。亜鉛イオンは、工程(i)でのオリゴヌクレオチドの添加と同時に添加してもよいし、工程(i)の前に添加してもよい。
【0194】
本発明の別の態様では、ヒト対象又は動物対象の疾患の検出方法であって:
(i)ヒト対象又は動物対象から得られた体液試料を、転写因子に結合するオリゴヌクレオチドと接触させる工程;
(ii)該オリゴヌクレオチドと結合した転写因子を単離する工程;
(iii)該単離された転写因子を、該転写因子と結合する第2の結合剤と接触させる工程;並びに
(iv)該第2の結合剤の該転写因子との結合の存在又は程度を、該対象内の疾患の存在及び/又は特性の指標として使用する工程、を含む、前記方法が提供される。
【0195】
1の実施態様では、対象から採取した体液試料を1以上のオリゴヌクレオチド(例えば、1以上の転写因子への結合に特異的なTFBS配列)と接触させて、疾患の存在及び/又は特性を特定する。更なる実施態様では、本方法は、1以上の疾患を検査するために、多重アッセイ(即ち、1を超えるオリゴヌクレオチドを含み、好ましくは、各オリゴヌクレオチドは異なる転写因子に特異的である)を用いて行われる。例えば、任意で多くのがんで発現される転写因子に加えて、それぞれ1以上のがん疾患に特異的な複数の転写因子を検査することにより、1回の血液検査で、がん組織を特定することに加えて、多くの異なるがん疾患を検出するための検査が可能になる。多重検査の方法は当分野で周知であり、例えば、限定されるものではないが、DNA マイクロアレイ法、又は、単一の試料で多数の多重アッセイを実施するために使用できるLuminex Corporation社のマルチプレックスビーズシステムがある(Dunbarの文献、2006)。
【0196】
好ましい実施態様では、疾患はがんである。更なる実施態様では、疾患の特性は、がんに侵された組織である。
【0197】
エストロゲン受容体(ER)は、リガンド活性化される核内ホルモン受容体亜鉛フィンガー転写因子である。我々は、亜鉛フィンガー転写因子及びDNA断片を含む血液中の循環クロマチン断片は、EDTA血漿試料内で破壊されているであろうと推論した。エストロゲン受容体の過剰発現を伴う婦人科がん患者、及びER陰性乳がん患者から採取した血漿試料中の、フリー(即ちDNAに結合していない)エストロゲン受容体α(ERα)の酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)を実施した。ERは多数の遺伝子の転写制御に関与しており、女性の生殖組織内及び生殖器系がん組織内で高発現している。ERは造血細胞内での発現は低レベルであるが、ER陽性の乳がん細胞内及び卵巣がん細胞内では高発現している。ER陽性がん細胞はエストロゲン受容体を持ち、エストロゲン感受性であり、その増殖はエストロゲンによって刺激される。ER陰性がん細胞はエストロゲン受容体を持たず、エストロゲンに非感受性である。卵巣がん及び乳がんの約80%はER陽性である。ER陽性がんはER陰性がんよりも良好な予後と関連する。ER陽性がんはエストロゲンに応答して増殖するため、エストロゲンと結合することでエストロゲン受容体の活性化を阻害してがん増殖を抑制する、タモキシフェン及びアロマターゼ阻害剤を含むホルモン療法が有効である。
【0198】
がんのER陽性又はER陰性ステータスは、外科的に摘出したがん組織の免疫組織化学検査によって決定される。通常は、ERに結合する標識化抗体をがん細胞/組織とインキュベートし、観察された抗体染色レベルでステータスを決定する。ER陽性がんにERスコアが割り当てられる。ホルモン受容体陽性と判定されたがん細胞の割合及び染色強度が測定される。この2つのパラメータを組み合せて、試料を0~8のスケールでスコア化する。より多くの受容体を有してより高強度で視認される試料は、より高スコアとなる。
【0199】
核内ホルモン受容体は細胞性タンパク質であるため、ERが循環系内に存在しないであろうと予測される。我々は、血漿中に存在するフリーERαはいずれも循環クロマチン断片に起因するはずであり、該循環クロマチン断片はERαを含んでいたが、血漿作成のためにEDTAが添加されると、DNA結合からフリーERαを放して解離される、という仮説を立てた。我々は、このようなクロマチン断片のレベルはゼロに近いほど低いと予測し、そのため血漿中のフリーERαのレベルはELISA法では検出不能であり、使用したELISAの最小感度(0.8 pg/ml)より下であると判明するであろうと予測した。驚くべきことに、フリーERαは血漿中に最大20 pg/mlのレベルで存在することが見いだされた(
図5)。このことを考慮すると、インターロイキン-6及び腫瘍壊死因子は、一般的に測定される血中バイオマーカーであり、それぞれの正常範囲は約5~15 pg/mlであって、最大で8pg/mlである。更に又、ERαの測定レベルは、卵巣がん及びER陽性乳がんではER陰性乳がんよりも高く、これはこのERαが腫瘍起源であることを示した。
【0200】
従って、本発明の別の態様では、生体試料中の亜鉛フィンガー転写因子の存在の検出方法、又はレベルの測定方法であって:
(i)該試料を、亜鉛イオンキレート剤と接触させる工程;及び
(ii)該試料の、該置換された亜鉛フィンガー転写因子の存在又はレベルを分析する工程、を含む、前記方法が提供される。
【0201】
1の実施態様では、生体試料は、例えば血液、血清、又は血漿等の体液試料である。更なる実施態様では、亜鉛イオンキレート剤はEDTAである。EDTAを体液試料に添加して、亜鉛フィンガー-DNA結合を破壊してもよい。
【0202】
1の好ましい実施態様では、生体試料は全血試料であり、亜鉛イオンキレート剤はEDTAであって、該EDTAは全血試料に添加されて、亜鉛フィンガー-DNA結合を破壊すると共に、血液の凝固を防止し、その結果フリー亜鉛フィンガー転写因子を含む血漿試料が作成される。転写因子についての試料分析は、任意の方法を用い得る。1の好ましい実施態様では、採用される分析方法はイムノアッセイであり、特に2サイト「サンドイッチ」イムノアッセイである。従って、本発明の1の好ましい実施態様では、対象から採取された全血試料中の亜鉛フィンガー転写因子を含む循環クロマチン断片の、存在の検出方法、又はレベルの測定方法であって:
(i)全血試料をEDTAと接触させて、血漿試料を作成する工程;及び
(ii)該血漿試料の、該亜鉛フィンガー転写因子の存在又はレベルを、イムノアッセイ法を用いて分析する工程、を含む、前記方法が提供される。
【0203】
亜鉛フィンガー転写因子ファミリーは、最も豊富な転写因子ファミリーである。従って、本発明のこの態様は、目的の転写因子の大部分を検出するために使用し得る。用語「亜鉛フィンガー転写因子」は、亜鉛フィンガー結合ドメインを含む転写因子を指す。
【0204】
循環亜鉛フィンガー転写因子は、疾患の検出のための、例えば婦人科がんの検出、診断、治療選択、モニタリング、又は予後診断のためのバイオマーカーとして使用し得る。従って、本発明の1の実施態様では、例えば、対象の疾患の若しくは対象の疾患のための、検出、診断、治療選択、モニタリング、又は予後診断のための、対象の疾患状態の決定方法であって:
(i)該対象から得られた血液試料を亜鉛キレート剤と接触させて、血漿試料を作成する工程;
(ii)該血漿試料を該亜鉛フィンガー転写因子の存在又はレベルについて分析する工程;及び
(iii)該試料中の該亜鉛フィンガー転写因子の存在又はレベルを、該対象の該疾患状態の指標として使用する工程、を含む、前記方法が提供される。
【0205】
この本発明の態様は又、細胞培養法での使用にも適している。転写因子のクロマチン免疫沈降(ChIP)法は複雑で難しく、時間がかかり、かつ、ロバストではない。通常のChIP法は、細胞からのクロマチン材料の抽出、DNA消化によるか又は超音波処理等の物理的方法によるクロマチンの断片化、抗体を使用したクロマチン断片の単離、抗体と会合しているDNAの抽出、及び抽出されたDNAのDNA配列の決定を含む。本発明の方法を用いて、亜鉛フィンガー転写因子の存在又は量を、クロマチン材料を細胞からEDTA(又は他の亜鉛キレート剤)を含む流体中に抽出し、フリー亜鉛フィンガー転写因子を(例えばELISAにより)測定することにより確立してもよい。
【0206】
亜鉛フィンガー転写因子の存在又は量について試料を分析するために、限定されるものではないが、質量分析及び任意の免疫化学的方法を含む任意の方法を使用し得る。好ましい実施態様では、亜鉛フィンガー転写因子の存在又は量についての試料の分析に使用される方法は、イムノアッセイである。
【0207】
亜鉛フィンガー転写因子を含むクロマチン断片を含む試料に亜鉛イオンキレート剤を添加すると、それらのクロマチン断片が破壊されてフリー亜鉛フィンガー転写因子が生成すること、及びEDTAは亜鉛(同様にカルシウム)イオンの強力なキレート剤であることが判明したので、亜鉛フィンガー転写因子に結合しているDNAは、EDTA血漿試料内で、転写因子を抗体(又は他の転写因子結合剤)で単離してその転写因子に会合しているDNAを分析する方法を用いると、そのDNAがもはや転写因子と会合していないであろうから、調査できないことが明らかであろう。
【0208】
DNAと結合している亜鉛フィンガー転写因子の破壊は、フリーな亜鉛フィンガー転写因子、及び、そのゲノム中にTFBS配列及びフランキングDNA配列を含む、同様にフリーなDNA断片の両方を導くことが理解されるであろう。従って、本発明の更なる態様では、対象中の、亜鉛フィンガー転写因子又は該亜鉛フィンガー転写因子と結合しているDNA断片の配列(複数可)を含む循環クロマチン断片の存在を特定する方法であって:
(i)該対象から得られた血液試料を、亜鉛キレート剤と接触させて、血漿試料を作成する工程;及び
(ii)該血漿試料を、亜鉛フィンガー転写因子結合部位への、転写因子結合部位配列又はフランキング配列を含むDNA配列を含むフリーDNA断片の存在又はレベルについて分析する工程、を含む、前記方法が提供される。
【0209】
転写因子及び会合しているTFBを含むクロマチン断片の存在は、本明細書に記載の通り、疾患の若しくは疾患のための、検出、モニタリング、予後診断、又は治療選択用を含む、臨床目的用に使用できる。従って、本発明の1の態様では、例えば、疾患の若しくは疾患のための、検出、モニタリング、予後診断、又は治療選択のための、対象の疾患状態の決定方法であって:
(i)該対象から得られた血液試料を、亜鉛キレート剤と接触させて、血漿試料を作成する工程;
(ii) 該血漿試料を、亜鉛フィンガー転写因子結合部位への、転写因子結合部位配列又はフランキング配列を含むDNA配列を含むフリーDNA断片の存在又はレベルについて分析する工程;並びに
(iii)該試料中の該DNA断片の存在及び/又はレベル及び/又は配列を、該対象の該疾患状態の指標として使用する工程、を含む、前記方法が提供される。
【0210】
血漿中又は他の試料中の、ヌクレオソーム又は他のタンパク質と結合しているDNA断片におけるフリーDNA断片の存在及び/又は配列は、試料中のDNA断片を結合するための相補的DNA配列の使用を含む多数の手段によって決定してもよい。これは、例えば、同時に複数の配列について試料のプロービングを容易にするDNAチップの使用によって達成してもよい。本発明の別の実施態様には、特異的DNA結合剤としての外因性亜鉛フィンガー転写因子の使用が含まれる。この方法では、亜鉛キレート剤を除去して、亜鉛フィンガー転写因子のDNAへの結合を促進する。これは、例えば透析による緩衝液交換により、又は例えばセファデックスサイズ排除クロマトグラフィカラムを用いるサイズ排除クロマトグラフィを用いることにより、行うことができる。亜鉛フィンガー転写因子のTFBSを含むDNA断片は、例えば、TFBSを含むフリーDNAに対する結合剤として固相結合した転写因子を使用して単離してもよい。単離したDNAは、配列及び/又はDNA断片長さについて分析してもよい。組換え転写因子タンパク質を、本発明の目的に使用してもよい。組換え亜鉛フィンガー転写因子タンパク質は、固相支持体と結合させてもよいし、リンカー部分を含むこともでき、そしてこの転写因子は液体形態で使用してもよく、結合系として単離してもよい。このような結合試料の多くは当分野で公知であり、例えば、亜鉛フィンガー転写因子はビオチン化され、固相ストレプトアビジンを用いて単離することができる。以上より、本発明の1の実施態様では、対象中の、亜鉛フィンガー転写因子及び/又は該亜鉛フィンガー転写因子に結合しているDNA断片の配列(複数可)を含む循環クロマチン断片の存在を特定する方法であって:
(i)該対象から得られた血液試料を、亜鉛キレート剤と接触させて、血漿試料を作成する工程;
(ii) 該試料から該亜鉛キレート剤を除去する工程;
(iii)該試料を、外因性亜鉛フィンガー転写因子と接触させる工程;及び
(iv)該外因性転写因子によって結合されたDNA断片を分析する工程、を含む、前記方法が提供される。
【0211】
上記の代わり又は追加的に、亜鉛キレート剤は、試料中で単に不活性化してもよい。本発明の1の実施態様では、亜鉛キレート剤を、外因性転写因子と接触させる前に、過剰のイオン、好ましくは亜鉛イオンの添加により不活性化する。従って、本発明の1の実施態様では、対象中の、亜鉛フィンガー転写因子及び/又は該亜鉛フィンガー転写因子に結合しているDNA断片の配列(複数可)を含む循環クロマチン断片の存在を特定する方法であって:
(i)該対象から得られた血液試料を、亜鉛キレート剤と接触させて、血漿試料を作成する工程;
(ii)過剰の亜鉛イオン又は他のイオンを添加して、該試料中の該亜鉛キレート剤を不活性化する工程;
(iii)該試料を、外因性亜鉛フィンガー転写因子と接触させる工程;及び
(iv)該外因性転写因子によって結合されたDNA断片を分析する工程、を含む、前記方法が提供される。
【0212】
転写因子及び会合しているTFBを含むクロマチン断片の存在は、本明細書に記載の通り、疾患の若しくは疾患のための、検出、モニタリング、予後診断、又は治療選択用を含む、臨床目的用に使用できる。従って、本発明の1の態様では、例えば、疾患の若しくは疾患のための、検出、モニタリング、予後診断、又は治療選択のための、対象の疾患状態の決定方法であって:
(i)該対象から得られた血液試料を、亜鉛キレート剤と接触させて、血漿試料を作成する工程;
(ii)該試料中の該亜鉛キレート剤を除去又は不活性化する工程;
(iii)該試料を、外因性亜鉛フィンガー転写因子と接触させる工程;
(iv) 該外因性転写因子によって結合されたDNA断片を分析する工程、並びに
(v)該試料中の該DNA断片の存在及び/又はレベル及び/又は配列を、該対象の該疾患状態の指標として使用する工程、を含む、前記方法が提供される。
【0213】
(セルフリーヌクレオソームの除去)
試料調製は又、任意で、分析前に、試料からヌクレオソーム及びヌクレオソームと結合しているDNAの大部分を除去するための前精製工程を含むこともできる。この工程は、バックグラウンドシグナルを減らし、目的の転写因子結合DNA断片の単離及び増幅の効率を向上させ、本発明の方法の分析感度及び臨床的感度が向上し得る。従って、1の実施態様では、本方法は更に、体液試料からセルフリーヌクレオソームを除去する工程を含む。ヌクレオソームを含むクロマチン断片は、本明細書に記載の本発明の方法を使用する前に、(任意で、別個に分析するために)試料から取り除いてもよい。この予備工程の目的は、DNA断片の大部分を試料から除去し、それらが分析で発生させる可能性のあるバックグラウンドシグナルを低下させることである。これは、例えば、限定されるものではないが、試料を、ヌクレオソームに結合する結合剤、例えば固相抗ヌクレオソーム結合剤と接触させることによって行ってもよく、その固相抗ヌクレオソーム結合剤には、抗体又は国際公開WO2021/038010号に記載のタンパク質等に結合するヌクレオソーム結合タンパク質が含まれる。抗体は、例えばH2A、H2B、H3、若しくはH4等のコアヒストンタンパク質、又はH1等のリンカーヒストンタンパク質等のヒストンタンパク質に選択的に結合し得る。ヒストンタンパク質への言及は、ヒストン翻訳後修飾体及びヒストン変異体又はヒストンアイソフォームを含む。ヌクレオソーム結合タンパク質は、リンカーDNAに結合するクロマチン結合タンパク質、又はヌクレオソームに会合しているリンカーDNAに結合するタンパク質、から選択され得る。例えば、リンカーDNAに結合するクロマチン結合タンパク質は、クロモドメインヘリカーゼDNA結合(CHD)タンパク質;DNA(シトシン-5)-メチルトランスフェラーゼ(DNMT)タンパク質;高移動度群ボックスタンパク質(HMGB)タンパク質;ポリ[ADP-リボース]ポリメラーゼ(PARP)タンパク質;又はメチル-CpG結合ドメイン(MBD)タンパク質、例えばMBD1、MBD2、MBD3、MBD4、若しくはメチルCpG結合タンパク質2(MECP2)、から選択され得る。ヌクレオソームに会合しているリンカーDNAに結合するタンパク質は、ヒストンH1、マクロH2A(mH2A)、又はそれらの断片若しくは操作されたアナログから選択され得る。
【0214】
試料中に存在するヌクレオソーム材料の全て又は大部分は、(例えば固相上に)吸着され、それにより試料から除去されてもよい。従って、1の実施態様では、本方法は、体液試料を転写因子結合剤と接触させる工程の前に、該試料をヌクレオソーム又はその構成要素に結合する結合剤と接触させる工程、及び該結合剤に結合した試料を除去する工程を含む。
【0215】
血漿中の、長さ100 bp未満の短いcfDNA断片の大部分、又はほとんどは、制御タンパク質を含むクロマチン断片に由来するものではなく、ヌクレオソームに会合しているDNAに由来するものであり、そのDNAは、一方又は両方のDNA鎖がニックされるか破壊されていることが報告されている。この場合、短いcfDNA断片は、1つの150 bpのcfDNA断片ではなくて、例えば、1以上の場所でニックされて2以上の小さなcfDNA断片(例えば、2つの75 bp断片)となっている、ヌクレオソームに会合している150 bpのDNA断片であるかもしれない(Sanchezらの文献、2018)。従って、転写因子結合剤に試料を暴露する前に、その試料からヌクレオソームを除去することは、ヌクレオソームに会合しているニックされたDNAに起因する100 bp未満の短いcfDNA断片が除去される追加的な利点を有する。これは、例えばゲル分離法により抽出するcfDNA断片のサイズ分離と比べて、試料中のヌクレオソームと会合しているcfDNAのバックグラウンドを更に減少させる。
【0216】
我々は、抗H3抗体を用いて、ヒト血漿試料からヌクレオソームを含むクロマチン断片を定量的に除去することを実証した。
【0217】
1の好ましい実施態様では、磁気ビーズが固相支持体として使用されるが、任意の適切な材料も使用し得る。同様に、国際公開WO2016/067029、WO2017/068371及びWO2021/038010号にヌクレオソーム除去法として記載されたヌクレオソーム結合法として、任意の方法を使用し得る。従って、1の実施態様では、本発明の方法に使用される試料はヌクレオソームを含まない。更なる実施態様では、本発明の方法によって検出されるセルフリークロマチン断片は、転写因子及びDNA断片からなる。
【0218】
本発明の1の実施態様では、ヒト対象又は動物対象の疾患の検出方法であって:
(i)ヒト対象又は動物対象から得られた体液試料から、セルフリーヌクレオソームを除去する工程;
(ii)該試料を転写因子と結合する結合剤と接触させる工程;
(iii)該転写因子と会合しているDNAを単離する工程;
(iv)該単離されたDNAをPCR法によって増幅する工程;
(v)該増幅されたDNAの配列を決定する工程;並びに
(vi)該転写因子の存在及び該会合しているDNAの配列を、該対象内の疾患の存在及び/又は特性を決定するための組み合せバイオマーカーとして使用する工程、を含む、前記方法が提供される。
【0219】
本発明の幾つかの実施態様では、セルフリー転写因子と会合しているDNA断片又はクロマチン断片の存在又は配列は、DNAの単離無しに決定してもよい。これは、限定されるものではないが、DNAの単離を必要としない増幅法を含む様々な方法によって行うことができる。
【0220】
本明細書で使用される用語「結合剤」は、バイオマーカーに(即ち、特定の転写因子に)特異的に結合することができるリガンド又は結合剤、例えば天然型化合物又は化学合成化合物をいう。本発明のリガンド又は結合剤は、バイオマーカーに特異的に結合することのできる、ペプチド、抗体若しくはその断片、又はプラスチック抗体等の合成リガンド、又はアプタマー若しくはオリゴヌクレオチド、又は分子インプリント表面若しくはデバイスを含み得る。抗体は、標的に特異的に結合することのできるモノクローナル抗体又はその断片でもよい。本発明のリガンド又は結合剤は、検出可能なマーカー、例えば発光マーカー、蛍光マーカー、酵素マーカー又は放射性マーカーで標識されてもよく、その代わり又は追加的に、本発明のリガンドは、親和性タグ、例えばビオチン、アビジン、ストレプトアビジン又はHis(例えばヘキサ-His)タグで標識されてもよい。1の実施態様では、結合剤は、抗体、抗体断片又はアプタマーから選択される。更なる実施態様では、使用される結合剤は抗体である。用語「抗体」、「結合剤」、又は「結合剤」は、本明細書では互換的に使用される。
【0221】
1の実施態様では、試料は生体液(本明細書では用語「体液」と互換的に使用される)である。任意の種類の体液試料を本発明に使用することができ、限定されるものではないが、血液、血漿、月経血、子宮内膜液、糞便、尿、唾液、粘液、精液、及び呼気(例えば、凝縮した呼気として)、又はそれらからの抽出物若しくは精製物、又はそれらの希釈物が含まれる。生体試料には又、生きている対象からの標本、又は死後に採取された標本も含まれる。試料は、例えば適切な場合に希釈又は濃縮して調製することができ、普通の様式で保存することができる。1の好ましい実施態様では、生体液試料は、血液又は血清又は血漿から選択される。体液中のクロマチン断片の検出は、生検を必要としない最小侵襲的な方法であるという利点を有することは、当業者には明らかであろう。
【0222】
1の実施態様では、対象は哺乳類対象である。更なる実施態様では、対象はヒト又は動物(伴侶動物又はマウス等)対象から選択される。より更なる実施態様では、対象はヒト対象である。1の実施態様では、ヒト対象は、非胚性の対象(即ち、胚ではない任意の発生段階のヒト)である。更なる実施態様では、ヒト対象は成人対象、即ち16歳を超え、例えば18歳、21歳、又は25歳を超える対象である。別の実施態様では、対象は動物対象である。更なる実施態様では、動物対象は、齧歯類(例えば、マウス、ラット、ハムスター、スナネズミ、又はシマリス)、ネコ科(即ち、ネコ)、イヌ科(即ち、イヌ)、ウマ科(即ち、ウマ)、ブタ科(即ち、ブタ)、又はウシ科(即ち、雌ウシ)対象から選択される。
【0223】
本発明の使用及び方法は、インビトロ又はエクスビボで実施可能であることが理解されるであろう。
【0224】
本発明の更なる態様では、動物対象又はヒト対象内のがんの検出方法又は診断方法であって:
(i)該対象から得られた体液試料中の、転写因子を含むセルフリークロマチン断片と会合しているDNAを、検出する工程又は測定する工程;並びに
(ii)工程(i)で検出された、該会合しているDNAのレベル及び/又はDNAの配列を、該対象の該疾患状態を特定するために使用する工程、を含む、前記方法が提供される。
【0225】
本発明の更なる態様では、動物対象又はヒト対象中の炎症性疾患の検出方法又は診断方法であって:
(i)該対象から得られた体液試料中の、転写因子を含むセルフリークロマチン断片と会合しているDNAを検出する工程又は測定する工程;並びに
(ii)工程(i)で検出された、該会合しているDNAのレベル及び/又はDNAの配列を、該対象の炎症性疾患状態を特定するために使用する工程、を含む、前記方法が提供される。
【0226】
本発明の1の実施態様では、試料中の転写因子及びDNA断片を含むセルフリークロマチン断片の存在は、その治療を必要とする対象のための最適な治療レジメンを決定するために使用される。
【0227】
本発明の更なる態様では、動物対象又はヒト対象の、医学的治療適合性の評価方法であって:
(i)該対象から得られた体液試料中の、転写因子を含むセルフリークロマチン断片と会合しているDNAを、検出、測定、又は配列決定する工程;並びに
(ii)工程(i)で検出された、該会合しているDNAのレベル及び/又はDNAの配列を、該対象のための適切な治療選択用パラメータとして使用する工程、を含む、前記方法が提供される。
【0228】
本発明の更なる態様では、動物対象又はヒト対象の治療のモニタリング方法であって:
(i)該対象から得られた体液試料中の、転写因子を含むセルフリークロマチン断片と会合しているDNAを、検出、測定、又は配列決定する工程;
(ii)該対象の体液中の、該転写因子を含むセルフリークロマチン断片と会合しているDNAの検出、測定、又は配列決定を1回以上繰り返す工程;並びに
(iii)工程(i)で検出された該会合しているDNAのレベル及び/又はDNA配列と工程(ii)で検出されたものとを比較した変化を、該対象の症状の変化のパラメータとして使用する工程、を含む、前記方法が提供される。
【0229】
試験試料から検出された、転写因子を含むセルフリークロマチン断片に会合しているDNAの測定されたレベル及び/又はDNA配列の、同一試験対象から以前に採取された先の試験試料で検出されたレベル又は配列に対する変化は、障害又は障害の疑いに対する治療の有益な効果、例えば安定化又は改善を示し得る。更に又、治療が完了した場合は、疾患の再発をモニタリングするために、本発明の方法を定期的に繰り返してもよい。
【0230】
本発明のこれら態様は、本明細書に開示された方法、例えば該体液試料を転写因子と結合する結合剤と接触させることを含む工程(i)と組み合わせ、次に該転写因子と会合しているDNAを検出又は測定して使用し得ることが理解されるであろう。
【0231】
1の実施態様では、該転写因子及びDNA断片を含む該セルフリークロマチン断片(即ち、該転写因子を含む該セルフリークロマチン断片と会合しているDNA)は、測定値のパネルの1つとして検出又は測定される。例えば、その他のセルフリークロマチン転写因子マーカーと組み合せて、又は他のバイオマーカーと組み合せて。
【0232】
本発明の更なる態様では、がん若しくは良性腫瘍に実際に罹患した対象、又はその疑いのある対象において使用するために、動物対象又はヒト対象の医学的治療適合性の決定又は評価する目的で、又は動物対象又はヒト対象の治療をモニタリングする目的で、転写因子及びDNA断片を含むセルフリークロマチン断片を単独で、又は測定値のパネルの一部として、検出、測定、又は配列決定する方法が提供される。
【0233】
本発明の方法によって実施される測定又はアッセイには、それに対してアッセイのアウトプットが比較又は較正可能な標準を提供するための、及び/又はそのアッセイのケミストリーが正しく機能していることを確認又はモニタリングするための、較正対照又は陽性対照としての参照材料の使用が含まれ得ることが理解されるであろう。好適な参照材料は、転写因子を含む生体源のクロマチン断片、又は、限定されるものではないが、組換え転写因子-DNA複合体を含む組換えクロマチン断片を含み得る。
【0234】
本明細書で使用される用語「検出」及び「診断」は、疾患段階の特定、確認、及び/又は特性評価を包含する。本発明の、検出、モニタリング、及び診断の方法は、疾患の存在を確認するため、発症及び進行を評価することによって疾患の発生をモニタリングするため、又は疾患の緩解若しくは退行を評価するために有用である。検出、モニタリング及び診断の方法は又、臨床的スクリーニング、予後診断、治療選択、治療効果の評価、即ち薬剤スクリーニング及び医薬開発のための評価、の方法においても有用である。
【0235】
検出及び測定には配列決定が含まれることが理解されよう。本明細書で使用される用語「配列決定」は、DNA断片の全て又は一部のヌクレオシド塩基配列(通常は、アデニン、グアニン、チミン及びシトシン塩基配列)の決定を包含する。
【0236】
効率の良い診断及びモニタリング方法は、正しい診断を確立し、最も適切な治療を迅速に同定することを可能にし(従って、有害な薬物副作用への不必要な暴露を減少させ)、及び再発率を減少させることにより、予後を改善する可能性を有する非常に強力な「患者解決策」を提供する。
【0237】
特定及び/又は定量化は、患者からの生体試料中の、又は生体試料の精製物若しくは抽出物中、又はそれらの希釈物中の、特定のタンパク質又はDNA断片の配列の存在及び/又は量を特定するのに適した任意の方法によって実施できることが理解されるであろう。本発明の方法では、定量化は、1若しくは複数の試料中のバイオマーカーの配列決定によって、又はその濃度を測定することによって実施してもよい。本発明の方法で検査できる生体試料には、本明細書で上述の通り定義されたものが含まれる。試料は、適切な場合は、例えば希釈又は濃縮して調製することができ、普通の様式で保存することができる。
【0238】
バイオマーカーの特定及び/又は定量化は、そのバイオマーカー又はその断片、例えばC末端切断若しくはN末端切断された断片、の検出によって実施してもよい。断片は、好適には4アミノ酸を超える長さであり、例えば5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、又は20アミノ酸の長さである。
【0239】
バイオマーカーは、例えばSELDI又はMALDI-TOFにより直接的に検出してもよい。或いは、バイオマーカーは、直接的に検出されても良く、又はそのバイオマーカーに特異的に結合し得る、抗体若しくはそのバイオマーカー結合断片、又は他のペプチド若しくはリガンド、例えばアプタマー若しくはオリゴヌクレオチド等の、1若しくは複数のリガンドとの相互作用により間接的に検出されても良い。リガンド又は結合剤は、検出可能な標識、例えば発光標識、蛍光標識、若しくは放射性標識、及び/又は親和性タグを備えても良い。
【0240】
例えば、検出及び/又は定量化は、SELDI(-TOF)、MALDI(-TOF)、1-Dゲルベース分析、2-Dゲルベース分析、質量分析(MS)、逆相(RP)LC、サイズ透過(ゲルろ過)、イオン交換、アフィニティー、HPLC、UPLC、及び他のLC又はLC MSベースの技術、からなる群から選択される1以上の方法(複数可)によって行うことができる。適切なLC MS技術には、ICAT(登録商標)(Applied Biosystems社、米国カリフォルニア州)、又はiTRAQ(登録商標)(Applied Biosystems社、米国カリフォルニア州)が含まれる。液体クロマトグラフィ(例えば、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)又は低圧液体クロマトグラフィ(LPLC))、薄層クロマトグラフィ、NMR(核磁気共鳴)分光法もまた使用し得る。
【0241】
DNAの検出及び/又は測定は、例えば、本明細書に記載の通り、ハイブリダイゼーション又は配列決定を含み得ることが理解されるであろう。
【0242】
本発明の診断方法又はモニタリング方法は、バイオマーカーの存在又はレベルを検出するためのSELDI TOF又はMALDI TOFによる試料分析を含み得る。これらの方法は又、臨床的スクリーニング、予後診断、治療結果のモニタリング、特定の治療的処置に反応する可能性が最も高い患者の特定、薬剤スクリーニング及び薬剤開発、並びに薬物治療のための新たな標的の特定にも適している。
【0243】
分析対象物バイオマーカーの特定及び/又は定量化は、そのバイオマーカーに特異的に結合できる抗体又はその断片を含む免疫学的方法を用いて実施してもよい。
【0244】
本発明の更なる態様では、動物又はヒト対象中の疾患を検出又は診断するための組み合せバイオマーカーとしての、転写因子及びDNA断片を含むセルフリークロマチン断片を特定する方法であって:
(i)疾患対象の体液試料中の、転写因子及びDNA断片組み合せバイオマーカーを含むセルフリークロマチン断片を、検出及び/又は測定及び/又は配列決定する工程;
(ii)健康対象又は対照対象の体液試料中の、該転写因子及びDNA断片組み合せバイオマーカーを含むセルフリークロマチン断片を、検出及び/又は測定及び/又は配列決定する工程
;及び
(iii)検出された、該レベル及び/又はDNAの配列の、疾患対象内と健康対象又は対照対象内とでの違いを、該転写因子及びDNA断片組み合せバイオマーカーを含むセルフリークロマチン断片が、疾患状態のバイオマーカーとして有用であるかどうかを特定するために使用する工程、を含む、前記方法が提供される。
【0245】
本発明のこの態様は、本明細書に記載された方法と組み合せても良い、即ち、工程(i)及び/又は工程(ii)は本明細書で定義される方法を用いて実施してもよいことが認識されるであろう。
【0246】
本発明の更なる態様では、本明細書に記載の方法によって同定される、バイオマーカー又は組み合せバイオマーカーが提供される。
【0247】
本発明の方法を実施するための診断又はモニタリングのキットが、本明細書で提供される。バイオマーカー又は組み合せバイオマーカーを検出及び/又は定量化するためのキットは、好適には、転写因子に対するリガンド若しくは結合剤、及び任意で該転写因子と会合している該DNAの増幅用試薬及び/若しくは配列決定用試薬、並びに任意でヌクレオソームに対するリガンド又は結合剤とを、任意でキットの使用説明書と共に含む。バイオマーカーモニタリング法、バイオセンサ及びキットは又、再発が障害の悪化によるものかどうかを医師が判断できるようにするための、患者モニタリングツールとしても極めて重要である。薬理学的処置が不適切であると評価されたら、療法を再開又は増強することができ、適切であれば療法を変更することができる。バイオマーカーは障害の状態に敏感であるため、薬物療法の影響の徴候を提供する。
【0248】
本発明の更なる態様では、転写因子及びDNA断片を含むセルフリークロマチン断片を組み合せバイオマーカーとして検出するためのキットであって、該転写因子に対するリガンド若しくは結合剤を任意で該転写因子と会合しているDNAの増幅用試薬及び/若しくは配列決定用試薬と共に、並びに任意でヌクレオソームに対するリガンド若しくは結合剤、任意で本明細書に記載の方法に従ったキットの使用説明書と共に含む、前記キットが提供される。
【0249】
本発明の更なる態様は、本明細書で定義される1以上のバイオマーカーを検出及び/又は定量化可能なバイオセンサを含む、疾患段階の存在検出用キットである。
【0250】
更なる態様では、がんの診断のための、本明細書で定義されるキットの使用が提供される。更なる態様では、炎症性疾患の診断のための、本明細書で定義されるキットの使用が提供される。更なる態様では、出生前疾患の診断のための、本明細書で定義されるキットの使用が提供される。
【0251】
更なる態様では、それを必要とする対象の疾患の治療方法であって:
(a)ヒト対象又は動物対象から得られた体液試料を、転写因子と結合する結合剤と接触させる工程;
(b)該転写因子と会合しているDNA断片を検出、測定、又は配列決定する工程;及び
(c)DNA断片の存在、量、又は配列を該対象内の疾患の存在の指標として使用する工程;及び
(d)該対象が、工程(c)で疾患に罹患していると決定された場合に、治療を施す工程、を含む、前記方法が提供される。
【0252】
1の実施態様では、疾患はがんである。別の実施態様では、疾患は炎症性疾患である。更なる態様では、妊娠対象の胎児の出生前疾患の診断のための、本明細書で定義されるキットの使用が提供される。
【0253】
1の実施態様では、施される治療は、手術、放射線治療、化学療法、免疫治療、ホルモン療法、及び生物学的療法から選択される。
【0254】
本発明の更なる態様では、それを必要とする対象のがん治療方法であって:
(a)本明細書に記載された方法に従って、該対象中のがんを検出又は診断する工程;それに続く、
(b)該個体に、抗がん療法、手術、又は医薬品を施す工程、を含む、前記方法が提供される。
【0255】
1の実施態様では、対象は、ヒト対象又は動物対象である。
【0256】
次に、本発明を、下記実施例で例示する。
【実施例】
【0257】
(実施例)
(実施例1)
転写因子TTF-1(NKX2-1とも呼ばれる)に特異的に結合する抗体を、生体磁気分離用の磁気ビーズ(例えば、Dynabeadsとして市販されているもの)上にコートする。TTF-1はホメオボックスヘリックス・ターン・ヘリックス転写因子である。
【0258】
抗TTF-1抗体コートした磁気ビーズを、IV期肺がんと診断されたヒト対象、IV期甲状腺がんと診断されたヒト対象、及び健康対象から採取したEDTA血漿試料に加える。インキュベーション(磁気粒子の懸濁状態を維持するために穏やかに回転させる)後、磁気粒子を血漿試料から取り出し、アッセイ緩衝液で洗浄する。TTF-1会合しているDNA断片を、Qiagen社 QiaAMP循環核酸キットを用いて磁気固相から単離する。アダプターオリゴヌクレオチドを、単離したDNA断片にライゲーションし、Snyderらの文献、2016(参照により本明細書に組み込まれる)に記載されたライブラリ法により、各血漿試料についてTTF-1に会合しているDNA配列の一本鎖DNAライブラリを作成する。
【0259】
各対象について作成した断片ライブラリを、リアルタイム定量PCRによって増幅する。増幅したライブラリを、次世代シーケンシング法を用いて配列化し、各ライブラリのDNAの量及び会合していた配列を比較する。35~80 bpの範囲の小cfDNA断片によるTTF-1 TFBS遺伝子座のカバレッジは、健康試料中のTTF-1会合DNAの量は少ない又は検出不能であろうから、健康試料内では低いであろう。対照的に、IV期の肺がん患者又はIV期の甲状腺がん患者の試料中のTTF-1会合DNAの量は多いため、35~80 bpの範囲の小cfDNA断片によるTTF-1 TFBS遺伝子座のカバレッジは、がん試料内では高いであろう。甲状腺がん試料内で決定された会合TTF-1 DNAの配列は、甲状腺細胞内のTTF-1制御遺伝子プロモーターの公知配列と相関するであろう。同様に、肺がん試料内で決定された会合TTF-1 DNAの配列は、甲状腺細胞内のTTF-1制御遺伝子プロモーターの公知配列と相関するであろう。これに基づいて、健康試料、甲状腺がん試料、及び肺がん試料のほとんど又は全てが、本実験によって作成されたデータから識別可能であろう。
【0260】
(実施例2)
実施例1に記載の実験を繰り返すが、抗TTF1抗体コートした磁気粒子とのインキュベーション前に、抗ヌクレオソーム抗体コートした磁気ビーズを血漿試料へ添加して、ヌクレオソーム及びヌクレオソーム結合したDNA断片の試料を予備除去(preclear)する。インキュベーション(磁気粒子の懸濁状態を維持するために緩やかに回転させる)後に、磁気粒子を血漿試料から除去する。その後、残りの試料を用いて実施例1に記載の通りに実験を完了するが、健康試料で見られるDNAのバックグラウンドレベルが実施例1で記載されたものよりも更に低くなるであろうことを除いて、同様の結果が得られる。
【0261】
(実施例3)
抗TTF-1抗体コートした磁気ビーズを、IV期肺がんのヒト対象、IV期甲状腺がんのヒト対象、及び健康対象から採取したEDTA血漿試料に加える。インキュベーション(磁気粒子の懸濁状態を維持するために穏やかに回転させる)後、磁気粒子を血漿試料から取り出し、アッセイ緩衝液で洗浄する。TTF-1会合DNA断片を、Qiagen QiaAMP循環核酸キットを用いて磁気固相から抽出する。ヒトゲノムの、SPB、甲状腺刺激ホルモン受容体及びサイロペルオキシダーゼ遺伝子のプロモーター領域における、TTF-1結合部位に会合する特異的配列のDNA断片、並びにそのフランキングDNAを増幅するために、特異的配列プライマーを、プライマー設計のために当分野で公知の典型的なソフトウェアを用いて設計する。プライマーを使用して、リアルタイム定量PCRでDNA断片を増幅する。各血漿試料中の各配列について、存在するDNAの量を測定する。健康対象から採取した試料の結果は、低い又は検出不能であろう。肺がん患者から採取した大部分の試料は、SPB遺伝子プロモーター配列DNA断片の検出可能量を含むであろう。甲状腺がん患者から採取した大部分の試料は、甲状腺刺激ホルモン受容体及び/又はサイロペルオキシダーゼ遺伝子プロモーター配列DNA断片の検出可能量を含むであろう。これに基づいて、健康試料、甲状腺がん試料、及び肺がん試料のほとんど又は全てが、本実験によって作成されたデータから識別可能であろう。
【0262】
(実施例4)
実施例3に記載の実験を繰り返すが、抗TTF1抗体コートした磁気粒子とのインキュベーション前に、抗ヌクレオソーム抗体コートした磁気ビーズを血漿試料へ添加して、ヌクレオソーム及びヌクレオソーム結合したDNA断片の試料を予備除去する。インキュベーション(磁気粒子の懸濁状態を維持するために緩やかに回転させる)後に、磁気粒子を血漿試料から除去する。その後、残りの試料を用いて実施例3に記載の通りに実験を完了するが、健康試料で見られるDNAのバックグラウンドレベルが実施例3で記載されたものよりも更に低くなるであろうことを除いて、同様の結果が得られる。
【0263】
(実施例5)
上記実施例に記載のものと同様の実験を、ヘリックス・ターン・ヘリックス転写因子NKX3.1について、健康男性から及びIV期前立腺がんと診断された男性から採取した血漿試料の試験によって繰り返す。健康対象から採取した試料の結果は、低い又は検出不能であろう。前立腺がん患者から採取した大部分の試料は、35~80 bpサイズ範囲のNKX3.1遺伝子プロモーター配列DNA断片の検出可能量を含むであろう。これに基づいて、健康試料、及び前立腺がん試料のほとんど又は全てが、本実験によって作成されたデータから識別可能であろう。
【0264】
(実施例6)
上記実施例に記載のものと同様の実験を、亜鉛フィンガー転写因子WT1について、健康女性から及びIV期卵巣がんと診断された女性から採取した血清試料の試験によって繰り返す。健康対象から採取した試料の結果は、健康対象中では、35~80 bpサイズ範囲のWT1会合しているcfDNA断片によるWT1 TFBS遺伝子座のカバレッジは低い又は検出不能であろう。卵巣がん患者から採取した大部分の試料は、35~80 bpサイズ範囲のWT1会合しているcfDNA断片によるWT1 TFBS遺伝子座のより高いカバレッジを、それらがWT1遺伝子プロモーター配列35~80 bpのcfDNA断片の検出可能量を含むものとして示すであろう。これに基づいて、健康試料及び卵巣がん試料のほとんど又は全てが、本実験によって作成されたデータから識別可能であろう。
【0265】
(実施例7)
Dynabeads M280、トシル活性化した磁気ビーズを、アミノ酸位置30~33に位置するヒストンH3エピトープへ結合する抗体でコートした。この抗体は、完全ヒストンテールを含むヌクレオソーム、及びクリッピングされたヒストンテールを持つヌクレオソームの両方に結合することが観察されたため、検査した多数の抗体の中から選択した。
【0266】
抗H3抗体コートした磁気ビーズ(1mg)を、Active Motif社から購入したある濃度範囲の組換えモノヌクレオソーム(0.5ml)を含む溶液に加えた。ビーズを、ヌクレオソームと共に、室温で1時間、ビーズの懸濁状態を維持するために緩やかに試験管を回転させながらインキュベートした。ビーズを磁気的に単離し、洗浄した。次にビーズに吸着したヌクレオソームを溶出で除去し、ウエスタンブロット分析した。結果は、
図3に示すように、ヌクレオソームは用量依存様式で、磁気ビーズによって溶液から吸着されたことを実証した。
【0267】
(実施例8)
実施例7に記載の通り、抗H3抗体コートした磁気ビーズを調製して使用した。抗H3抗体コートした磁気ビーズ及びコート無しビーズを、8つのヒトEDTA血漿試料及びある濃度範囲の組換えモノヌクレオソームを含む溶液に添加した。組換えモノヌクレオソームの濃度範囲は、ヒト臨床的試料で通常観察されるレベルを含むように選択した。
【0268】
光学密度(OD)リードアウトでヌクレオソーム用ELISAを用いて、磁気ビーズとのインキュベーション後の溶液中の残存ヌクレオソームの存在を検査した。
図4に示される結果は、抗H3抗体コートした磁気ビーズでの吸着後に、溶液中に残存する組換えモノヌクレオソームのレベルは検出不能であった(ヌクレオソームを含まない対照溶液と同様のODを示した)一方、コート無しの磁気ビーズとインキュベートした溶液中のレベルは影響を受けずに正常なELISA用量反応曲線となったことを実証する。同様に、抗H3抗体コートした磁気ビーズで吸着後に検査した、8つのヒト血漿試料の溶液中に残存するヌクレオソームレベルも又、低い又は検出不能であったが、コート無し磁気ビーズとのインキュベーションによって影響を受けなかった。これらの結果は、ヒト血漿試料からのヌクレオソームの定量的除去を実証する。
【0269】
(実施例9)
異なる色のLuminexビーズを、製造者のプロトコルに従って、転写因子TTF-1、NKX3.1、GATA-3、CDX-2、及びGRHL2に結合する抗体でコートする。健康対象から採取した及び様々ながんと診断された対象から採取した血漿試料を、全てのビーズの混合物と接触させる。各ビーズ結合した転写因子に結合したそれぞれの転写因子TFBSをカバーする35~80 bp範囲のcfDNAの量又はカバレッジを、PCR法により、又は次世代シーケンシングにより測定する。結果は、NKX3.1及びGRHL2に結合する抗体でコートしたビーズに結合した35~80 bp cfDNAによるNKX3.1及びGRHL2 TFBSのカバレッジは、前立腺がん患者から採取した試料中で上昇する一方、他のビーズ(抗TTF-1、GATA-3、又はCDX-2抗体でコートしたもの)に結合した転写因子は低いことを示すであろう。同様に、TTF-1及びGRHL2に結合する抗体でコートしたビーズに結合した35~80 bpの短いcfDNA断片の量は、肺がん患者から採取した試料中で上昇するであろう一方、他のビーズ(抗NKX3.1、GATA-3又はCDX-2抗体でコートしたもの)に結合した転写因子は低い。同様に、GATA-3及びGRHL2に結合する抗体でコートしたビーズに結合する35~80 bpの短いcfDNA断片の量は、乳がん患者から採取した試料中で上昇するであろう一方、他のビーズ(抗TTF-1、NKX3.1、又はCDX-2抗体でコートしたもの)への結合は低い。対照的に、35~80 bpの短いcfDNA断片の全てのビーズへの結合は、健康対象から採取した試料内では低いであろう。
【0270】
(実施例10)
磁気ビーズを、製造者のプロトコルに従って、RNAポリメラーゼIIに結合する抗体でコートする。健康対象から採取した及び様々ながんと診断された対象から採取した血漿試料を、ビーズと接触させる。ビーズを洗浄し、結合していないクロマチン断片を除去する。
【0271】
ビーズに結合しているDNAを抽出し、アダプターオリゴヌクレオチドに結合させ、ライブラリを配列決定して対象の試料中に存在する活性遺伝子のセットを得る。結果は、健康対象から採取した試料中に存在する活性遺伝子は、造血細胞内で活性な遺伝子を表すことを示すであろう。同一の配列が又、がん患者から採取した試料中にも存在するが、これらの試料は、造血細胞内では活性ではないが、疾患組織の細胞内で活性であって、関係する組織の(健常又は疾患)細胞内で典型的に活性であり、及び/又はがん細胞内でアップレギュレートされている遺伝子を含む遺伝子を表すRNAポリメラーゼII会合DNA配列を、追加的に含むことが認められた。
【0272】
(実施例11)
磁気ビーズを、製造者のプロトコルに従って、RNAポリメラーゼ IIに結合する抗体でコートする。健康対象から採取した及び様々ながんと診断された対象から採取した血漿試料を、そのビーズと接触させる。ビーズを洗浄し、結合していないクロマチン断片を除去する。
【0273】
ビーズに結合しているDNAを、PCR プライマーを使用して配列を増幅し、特定のDNA配列の存在について分析する。結腸直腸がんと特に関連するものを、分析する配列として選択する。結果は、その配列は、結腸直腸がん対象から採取した試料中に存在するが、健康対象から又は他のがん対象から採取した試料中には存在しないことを示すであろう。
【0274】
(実施例12)
EDTA血漿試料を、卵巣がんと診断された6人の女性、ER陰性乳がんと診断された2人の女性、及び、ER陽性乳がんと診断された8人の女性(4人の女性がERスコア7と診断され、4人の女性がERスコア8と診断された)から採取した。EDTA血漿試料を、市販のERα ELISAキットを使用して、ERαについてアッセイした。使用したELISAキットの定量的検出範囲は、3~200 pg/mlであり、ERα検出下限は0.8 pg/mlであった。測定されたERαレベルの平均値は、ER陰性対象では低く、卵巣がん又はER陽性乳がんと診断された対象では高かった。更に又、ER陽性乳がんと診断された対象で測定されたレベルの平均値は、高いERスコアの女性たちでは高かった(
図5)。女性から採取した全血試料から調製されたEDTA血漿試料中のERαの存在は、婦人科がんを含む婦人科疾患のバイオマーカーとして有用であると結論付けられる。
【0275】
(実施例13)
PR陽性又はPR陰性としての乳がんのプロゲステロン受容体ステータスは、婦人科がんの診断及び治療において同様に重要である。女性から採取した全血試料から調製されたEDTA血漿試料のプロゲステロン受容体(PR)レベルの測定は、婦人科がんを含む婦人科疾患のバイオマーカーとして、同様に有用であることが更に結論付けられる。
【0276】
(実施例14)
前立腺がんのアンドロゲン受容体ステータスは、前立腺がんの診断及び治療において同様に重要である。男性から採取した全血試料から調製されたEDTA血漿試料のアンドロゲン受容体(AR)レベルの測定は、前立腺がんを含む前立腺疾患のバイオマーカーとして、有用であることが結論付けられる。
【0277】
(実施例15)
非特異的に(非特異的な)マウスIgGコートした磁気粒子に、血漿試料から吸着されたタンパク質のバックグランドレベルを、発色用にクマシーブルー染色を用いてウエスタンブロットで評価した。0.1% Tween 20洗浄剤を含む通常の免疫化学的洗浄緩衝液で、又は、1%オクチルフェノキシポリエトキシエタノール洗浄剤、0.1%デオキシコール酸ナトリウム、及び0.1%ドデシル硫酸ナトリウムを含む洗浄剤の混合物を1.2%の高濃度で含む洗浄緩衝液で、粒子を5回洗浄した後に、バックグラウンドを評価した。結果(
図6)は、強力な洗浄剤を使用するとバックグラウンド染色が大幅に減少したことを示す。
【0278】
同じ実験を、マウス抗ポリADP抗体(任意のサイズのポリADPリボシル化(parylated)タンパク質に結合する)に特異的に吸着するタンパク質に適用した。その場合、染色にはあまり影響が生じず、洗浄は非特異的に結合したタンパク質を除去するが、抗体に付着した特異的な結合をしたタンパク質には影響を与えない(又はあまり影響を与えない)ことが示された。
【0279】
(実施例16)
標準的な方法で、転写因子CTCFに特異的に結合するモノクローナル抗体を磁気ビーズ(MyOneトシル活性化Dynabeads(商標))にコートした。簡単に説明すると、0.86 mgのモノクローナル抗体を29 mgの磁気ビーズ(30μg抗体/mgビーズ)で、1M硫酸アンモニウムを含む2.9 mlの0.1Mホウ酸緩衝液pH 9.5中で、37℃で18時間、ビーズの懸濁状態を維持するために緩やかに試験容器を回転させながらインキュベートした。ビーズを沈降させて上清をデカントした。ビーズを再懸濁し、0.1 % Tween 20及び1 %ウシ血清アルブミン(BSA)を含むリン酸緩衝生理食塩水pH7.4(PBS)のブロッキングバッファ2.9 mL中で、37℃で1時間、インキュベートした。次にビーズを沈降させ、0.1 % Tween 20及び1 % BSAを含む3 mLのPBSで2回洗浄し、0.1 % Tween 20、1 % BSA、及び保存剤を含む2.9 mLのPBS中に保存した。非特異性マウスIgGを、非特異的対照試薬として、同様に磁気ビーズにコートした。
【0280】
CTCF-DNA断片のクロマチン免疫沈降法(ChIP)を、がん患者から得られたクロスリンクしたEDTA血漿試料(Streck社、セルフリーDNA BCTで採取した1.6 mL)の4つのプールで実施した。各プール試料を、市販の放射性免疫沈降アッセイ緩衝液0.4mLで希釈し、抗CTCFコートした磁気粒子1 mgを加えた。この混合物を室温で1時間、ビーズの懸濁状態を維持するために回転させながらインキュベートした。その後、ビーズを沈降させ、1 % Triton X-100洗浄剤、0.1 %デオキシコール酸ナトリウム、及び0.1 %ドデシル硫酸ナトリウムの混合物を含む強力な洗浄剤の洗浄溶液で5回洗浄し、0.1 mLの緩衝液中で保存した。並行して、対照実験を、各プール血漿試料1.6 mLを非特異性マウスIgGコートした磁気ビーズでインキュベートして行った。
【0281】
磁気粒子をプール血漿試料とインキュベーションした後、磁気粒子に結合したタンパク質を変性1 %ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)緩衝液内で懸濁させ、変性したタンパク質を抗CTCF抗体及び検出用標識した抗マウス抗体を用いて、ウエスタンブロットにより分析した。ウエスタンブロット実験では、CTCFの存在は130~140 kDのバンドの存在により示される(Klenovaらの文献、1997)。ウエスタンブロット分析の結果を
図7に示す。簡単に説明すると、抗CTCF抗体(抗CTCF)でコートした磁気粒子に曝した場合、CTCF転写因子の存在に対応する約140kDのタンパク質バンドが、4つの試料全てで視認された。対照的に、非特異性マウスIgG(NS-IgG)でコートした磁気粒子に曝した同じ4つの試料のいずれでもバンドは視認できなかった。これは、採用したChIP法が、試験した4つのプール試料全てから、循環転写因子CTCFを選択的に単離できたことを示す。又、採用した洗浄レジメンによりクリーンなバックグラウンドが作成されたことも実証された。
【0282】
(実施例17)
CTCFは亜鉛フィンガー転写因子である。CTCF-DNA断片のクロマチン免疫沈降法(ChIP)を、乳がんと診断された対象から得られたクロスリンクしたEDTA血漿試料(Streck社、セルフリーDNA BCTで採取した2.4 mL)で実施した。ChIP法を、試料2.4 mLを放射性免疫沈降アッセイ緩衝液0.6 mLで希釈し、抗CTCFでコートした磁気粒子1.5 mg を加えた以外は、実施例16に記載の通りに実施した。並行対照実験では、クロスリンクしたEDTA血漿試料2.4 mLを非特異性マウスIgGでコートした磁気ビーズでインキュベートした。この磁気ビーズを2つのフラクションに分画した。一方のフラクションをウエスタンブロット分析に使用し、陽性対照としてMCF7乳がん細胞由来の断片化クロマチンを使用して、ビーズ上のCTCFタンパク質の存在を確認した。
【0283】
ビーズの第2のフラクション(検査及び対照用)を、DNA抽出及び分析用に使用した。磁気ビーズに会合しているクロマチン断片の、会合しているDNAとのクロスリンクを、95℃で15分間の加熱をしてリバースさせた。次に、この磁気ビーズに会合しているDNAを、市販のDNA抽出キット(Qiagen社、QIAamp DSP循環NAキット)を製造者の指示に従って使用いて抽出した。
【0284】
抽出したcfDNAを、市販のキット(Claret Bio社、SRSLY NGSライブラリ調製キット)を用いて、製造者の指示に従って、16回増幅サイクルを用いて増幅し、配列決定のための一本鎖ライブラリを作成した。増幅された検査用及び非特異的cfDNA断片ライブラリを、バイオアナライザ装置を用いた電気泳動により分析した。結果(
図8)は、特異的抗CTCFをコートした磁気粒子から得られ、増幅されたcfDNAライブラリは、35~80 bp範囲の小断片を含んでいたことを示す。電気泳動図中の約140 bpの鋭いピークはアダプター二量体を表すため、175~220 bpのアダプター結合断片は、35~80 bpのcfDNA断片を表すことに注意されたい。アダプター連結cfDNA断片の主要なピークは約190 bpで観察され、これは約50 bpの長さのcfDNA断片に相当する。増幅されたcfDNAライブラリは35~80 bp範囲の小断片を含んでいたが、これらの断片が全て試料中のCTCFに結合していたわけではなく、その理由は、非特異性マウスIgGでコートした固体支持体からの抽出増幅物でも同様に、小型DNA断片が得られたからである。しかし、特異的抗CTCF抗体のChIP法で得られた特異的ピーク(1000蛍光単位(FU))は、非特異性IgGピーク(80 FU)よりも高かった。この試料は配列決定に回された。
【0285】
(実施例18)
増幅されたcfDNAライブラリを、上記実施例17に記載の通りの抗CTCF免疫沈降により、結腸直腸がん(CRC)と診断された患者から採取したクロスリンクしたEDTA血漿試料(Streck社cfDNA BCTで採取)から作成した。抗CTCF免疫沈降を使用して単離した、増幅したcfDNAライブラリを、Illumina社 NovaSeq 次世代シーケンシングにより配列決定した。
【0286】
cfDNA断片を表すリード配列を、Illumina社 DRAGEN バイオインフォマティクスパイプライン(https://emea.illumina.com/products/by-type/informatics-products/dragen-bio-it-platform.html)を用いてヒト参照ゲノムGRCh38/hg38にアラインした。アライメントされないリードは破棄した。得られたアライメントBAMファイルを用いて、配列アラインメント/マップSAMtools(Liらの文献、2009)を用いて異なる断片サイズ(35~80 bp、135~155 bp、156~180 bp)のサブセットを作成した。リードカバレッジ(特定の遺伝子座をカバーすることが判明した断片の数)を、1 bpのbinサイズ(可能最高解像度)を用いて計算した。リードカバレッジを、deepTools のbamCoverageを使用して、RPGC(ゲノムカバレッジあたりのリード)でヒトゲノムにマッピングされたリードの総数に対して正規化した。カバレッジプロファイルプロット(
図9及び10)を、deepToolsのplotProfile(Ramirezらの文献、2016)を使用して、各断片サイズについて作成した。
【0287】
CTCFと会合する35~80 bpの短い断片による、9780個の公表されたCTCF結合部位の遺伝子座(Kellyらの文献、2012)でのカバレッジを、循環モノヌクレオソーム会合のために予測されるサイズ(135~155 bp及び156~180 bp)と一致する長いcfDNA断片によるカバレッジと比較した結果を、
図9(a)に示す。カバレッジを、CTCF結合部位の位置の上流及び下流の2500塩基を含む5000 bpの範囲にわたって示す。35~80 bpの小cfDNA断片結合によるカバレッジの強いピークが、Kellyらの文献、2012によって報告されたCTCF TFBS遺伝子座のゲノム上の全く同じ位置に観察された。配列決定されたライブラリは、抗CTCFコートした磁気ビーズ上で単離されたCTCFタンパク質に付着したcfDNAから、低いバックグラウンドで直接的に作成されたため、このcfDNAライブラリにはヌクレオソームがほとんど含まれず、ヌクレオソーム位置のシグナルは低かった。この特徴により、明確な35~80 bpのシグナルが作成され、混合試料(例えば、造血系組織及びがん組織に起因する混合cfDNA断片を含む試料)内での競合的シグナルのデコンボリューションが不要になる。対照的に、非特異性マウスIgGとの結合について得られたcfDNAライブラリは、CTCF TFBS遺伝子座でのピークを示さなかった(
図9(b))。
【0288】
多数のタンパク質が、転写因子、又は共作動可能に結合する様々な転写因子、転写エンハンサー、抑制因子、又は他の制御タンパク質の任意の組み合せを含むTFBSに、又はその近位に結合する可能性がある。本発明の方法の大きな利点は、CTCF TFBS遺伝子座の小cfDNA断片カバレッジが、CTCFに会合するcfDNA断片にのみ関係することが判明したことである。対照的に、当分野の方法、例えば、Snyderらの文献、2016、及びUlzらの文献、2019のフラグメントミクス法は、EDTA血漿から抽出された全てのサイズの全てのcfDNA断片をマッピングし、タンパク質結合が任意の特定のゲノム位置で生じたか又は生じなかったことを推測する。どのタンパク質が関与しているかは知られていなかったが、その理由は、全てのこのような方法の最初の工程がcfDNAの抽出であり、それは試料中の全ての核タンパク質クロマチン断片(ヌクレオソーム及び転写因子-DNA複合体を含む)の解離(disassociation)を必然的に伴うため、特定のcfDNA配列と特定の転写因子又は他のタンパク質とを結びつける直接的な情報が破壊されてしまうからである。
【0289】
インプットされた非特異的対照に関するcfDNA断片配列のピークコールの結果、CTCFが最も多くのTFBS配列断片を伴う転写因子であった。ピークコールは、MACS2(Zhangらの文献、2008)ナローピークを使用してBAMファイルに対して行った。このピークファイルを用いて、Homer社のソフトウェアパッケージのfindMotifGenomeツール(Heinzらの文献、2010)を用いて転写因子結合部位を検出した。
【0290】
次に、不死化がん細胞内で占有されている1041個のCTCF TFBSの富化について解析を繰り返した(Liuらの文献、2017)。
図10(a)に示す結果は、1041個のがん特異的CTCF TFBS配列に、35~80 bpのCTCF会合しているcfDNA断片が結合する明確なピークがあったことを示す。フラグメントミクスとは異なり、この分析に寄与するcfDNA断片はCTCF-DNA複合体のみに起因し、CTCFを含まない場合の他の転写因子-DNA複合体又は補因子-DNA複合体ではない。このことは、がん特異的な遺伝子座のCTCF占有を示し、従って又、それらのcfDNA断片及びそれらが由来するCTCF-DNA複合体が腫瘍細胞起源であることも示す。より長い(ヌクレオソームサイズの)cfDNA断片のピークはなかった。非特異性マウスIgGとの結合について得られたcfDNAライブラリはピークを示さなかった(
図10(b))。
【0291】
CTCFに会合するcfDNA断片が、ChIP-Seqによって体液中でがん特異的TFBS遺伝子座に結合したことの実証は、調査した対象内のがん疾患の存在を示すものであり、この様式のバイオマーカーとして使用できる。本発明の方法は、血漿中の転写因子のChIP-Seq法を成功させ、かつ、疾患のバイオマーカーとしても成功であると結論付けられる。
【0292】
(実施例19)
アンドロゲン受容体(AR)は、前立腺がんで注目されている亜鉛フィンガー転写因子である。実施例17でCTCFについて記載されたのと同一の方法をARに適用した。マウス抗AR抗体を用いて、前立腺がんに罹患していると診断された8人の対象からのクロスリンクしたEDTA血漿試料(Streck社cfDNA BCTで採取)から、ARを免疫沈降した。ChIP法により、ARを使用して固相支持体上で単離したタンパク質のウエスタンブロット分析を、LnCAP前立腺がん細胞株細胞を陽性対照として行った。
図11の結果は、分子量約100 kDでARに対応するタンパク質バンドが、8つの試料全てに存在し、2試料で高レベルであった(
図11のレーン2及び3)ことを示す。約50 kDのバンドは、標識抗マウスIgG抗体と、ChIPで用いたマウス抗AR抗体の重鎖との結合に対応する。次に、固相支持体からDNAを抽出し、抽出したDNA断片をアダプターオリゴヌクレオチドにライゲートし、存在するDNAを増幅した。結果(
図12)は、8つの試料全てで、増幅したcfDNAライブラリが35~80 bp範囲(175~220 bpのアダプター連結断片)の小断片を含んでいたことを示した。増幅されたcfDNAライブラリは35~80 bp範囲の小断片を含んでいたが、これらの断片が全て試料中のARに結合していたわけではなく、その理由は、非特異性マウスIgGでコートした固体支持体からの抽出物の増幅でも同様に、小型DNA断片が得られたからである。ウエスタンブロットにより最も高いレベルのARが観察された2つの試料から得られた増幅cfDNAライブラリを、次世代シーケンシングで配列決定した。
(参考文献)
【表1】
【手続補正書】
【提出日】2023-10-06
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】追加
【補正の内容】
【配列表】
【国際調査報告】