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特表2024-501071プリプレグおよび炭素繊維強化複合材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-10
(54)【発明の名称】プリプレグおよび炭素繊維強化複合材料
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/06 20060101AFI20231227BHJP
   D06M 13/11 20060101ALI20231227BHJP
   D06M 15/59 20060101ALI20231227BHJP
   D06M 15/55 20060101ALI20231227BHJP
   D06M 101/40 20060101ALN20231227BHJP
【FI】
C08J5/06 CER
C08J5/06 CEZ
D06M13/11
D06M15/59
D06M15/55
D06M101:40
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023558300
(86)(22)【出願日】2021-12-02
(85)【翻訳文提出日】2023-07-27
(86)【国際出願番号】 US2021061617
(87)【国際公開番号】W WO2022120053
(87)【国際公開日】2022-06-09
(31)【優先権主張番号】63/121,628
(32)【優先日】2020-12-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523209575
【氏名又は名称】トウレ コンポジット マテリアルズ アメリカ,インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】TORAY COMPOSITE MATERIALS AMERICA,INC.
【住所又は居所原語表記】19002 50th Ave E,Tacoma,WA 98446,U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ハロ,アルフレッド,ピー.
(72)【発明者】
【氏名】ヒューズ,ジョナサン,シー.
(72)【発明者】
【氏名】マツウラ,ナオキ
(72)【発明者】
【氏名】シッティ,ジェフリー,ピー.
(72)【発明者】
【氏名】コバヤシ,ヒロシ
(72)【発明者】
【氏名】カマエ,トシヤ
【テーマコード(参考)】
4F072
4L033
【Fターム(参考)】
4F072AA04
4F072AA07
4F072AB10
4F072AB22
4F072AC12
4F072AC15
4F072AD03
4F072AD45
4F072AF14
4F072AF15
4F072AF23
4F072AF29
4F072AG03
4F072AH43
4F072AH49
4F072AK02
4F072AK14
4F072AL02
4F072AL04
4F072AL05
4F072AL07
4F072AL17
4L033AA09
4L033AB02
4L033BA08
4L033CA49
4L033CA50
4L033CA55
(57)【要約】
プリプレグが提供される。当該プリプレグは、サイジング剤被覆炭素繊維と、サイジング剤被覆炭素繊維間に含浸させた熱硬化性樹脂組成物(B)とを含む。サイジング剤は、(i)熱硬化性樹脂組成物(B)と反応可能な2個以上の第1官能基、および(ii)前記2個以上の第1官能基(i)とは異なる少なくとも1個の第2官能基の反応性基を、分子あたり少なくとも3個有する反応成分(A)を含む。第2官能基としては、アミド、イミド、ウレタン、ウレア、カルボニル、エステル、スルホニル、芳香環、またはそれらの組み合わせのうちの少なくとも1個を含む。熱硬化性樹脂組成物(B)は、エポキシ樹脂以外の少なくとも1つの熱硬化性樹脂を含み、硬化後のガラス転移温度が220℃以上である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サイジング剤被覆炭素繊維と、前記サイジング剤被覆炭素繊維間に含浸された熱硬化性樹脂組成物(B)を含むプリプレグであって、
前記サイジング剤が、分子あたり少なくとも3個の反応性基を含む反応成分(A)を含み、前記反応性基は
(i)前記熱硬化性樹脂組成物(B)と反応可能な2個以上の第1官能基、およ
(ii)前記2個以上の第1官能基(i)とは異なる少なくとも1個の第2官能基であり、前記第2官能基は、アミド、イミド、ウレタン、ウレア、カルボニル、エステル、スルホニル、芳香環、またはそれらの組み合わせのうちの少なくとも1個を含み、
前記熱硬化性樹脂組成物(B)は、エポキシ樹脂以外の少なくとも1つの熱硬化性樹脂を含み、硬化後に220℃以上のガラス転移温度を有する、プリプレグ。
【請求項2】
前記官能基(i)が、エポキシ基、ビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、またはそれらの組み合わせのうちの少なくとも1個を含む、請求項1に記載のプリプレグ。
【請求項3】
前記成分(A)が、前記第2官能基(ii)としてウレタン基を有する、請求項1または請求項2に記載のプリプレグ。
【請求項4】
前記成分(A)が、3個以上の前記官能基(i)を含む、請求項1~3のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項5】
前記成分(A)が、官能基(ii)として芳香環構造を有する、請求項1~4のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項6】
前記成分(A)の数平均分子量が1500g/モル未満である、請求項1~5のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項7】
前記サイジング剤が少なくとも1つの促進剤を含む、請求項1~6のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項8】
X線光電子分光法で測定した炭素繊維の表面酸素濃度(O/C)が0.12~0.25である、請求項1~7のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項9】
前記高耐熱性熱硬化性樹脂組成物(B)が、少なくとも1つのマレイミド化合物(B-1)と少なくとも1つのコモノマー(C)から構成される、請求項1~8のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項10】
前記コモノマー(C)が少なくとも1個のビニル基を有する、請求項9に記載のプリプレグ。
【請求項11】
前記コモノマー(C)が、フェノール基、水酸基およびチオール基から選択される少なくとも1個の基を有する、請求項9または請求項10に記載のプリプレグ。
【請求項12】
前記コモノマー(C)が、少なくとも1個のビニル基と、フェノール基、水酸基およびチオール基から選択される少なくとも1個の基とを有する、請求項9~11のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項13】
(C)/(B-1)のモル比が0.5未満である、請求項9~12のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項14】
(C)/(B-1)のモル比が0.2超である、請求項9~13のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項15】
前記熱硬化性樹脂組成物(B)が、少なくとも1つのベンゾオキサジン化合物(B-2)を含む、請求項1~14のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項16】
前記樹脂組成物(B)の硬化後のガラス転移温度が240℃以上である、請求項1~15のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項17】
請求項1~16のいずれかに記載のプリプレグを硬化させて得られる炭素繊維強化複合材料。
【請求項18】
ASTM D2344M-16に従った熱処理後に少なくとも14ksiの層間せん断強度ILSS RTAを有する、請求項17に記載の炭素繊維強化複合材料。
【請求項19】
ASTM D2344M-16に従った熱処理後に少なくとも12ksiの層間せん断強度ILSS TOSを有する、請求項17に記載の炭素繊維強化複合材料。
【請求項20】
ASTM D2344M-16に従った熱処理後に、80%の層間せん断強度ILSS TOS/ILSS RTAの比を有する、請求項17に記載の炭素繊維強化複合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、参照により本明細書に組み込まれる2020年12月4日に出願された「PREPREG AND CARBON FIBER-REINFORCED COMPOSITE MATERIAL」と題する米国仮出願第63/121,628号の優先権を主張するものである。
【0002】
本発明は、プリプレグおよび繊維強化複合材料、例えば、炭素繊維強化複合材料に関するものである。より具体的には、本開示は、航空宇宙用途および一般産業用途に適した、高耐熱性熱硬化性樹脂組成物との繊維強化複合材料のための使用によく適した、サイジング剤被覆炭素繊維を有するプリプレグを提供する。
【背景技術】
【0003】
強化繊維とマトリクス樹脂とを含む繊維強化複合材料(Fiber-Reinforced Composite:FRC)は、強度や剛性等の機械的特性に優れ、かつ軽量であることから、航空機部材、宇宙船部材、自動車部材、鉄道車両部材、船舶部材、スポーツ器具部材、ノートパソコン用ハウジング等のコンピュータ部材として広く使用されている。FRC材料は様々な方法で製造されるが、広く行われているのは、未硬化のマトリクス樹脂に強化繊維を含浸させたものをプリプレグとして使用する方法である。この方法において、プリプレグを積層して加熱し、複合材を形成する。プリプレグに使用されるマトリクス樹脂は、熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂の両者を含む。多くの場合、熱硬化性樹脂は扱いやすさの点で優れている。より高温での使用領域や、より広い温度領域で高い性能を必要とする場合、マトリクスシステムには、優れた機械的性能を持ちながら高い使用温度に耐え得るビスマレイミド(BMI)樹脂やベンゾオキサジン(BOX)樹脂が使用される。
【0004】
FRCの特性は、強化繊維、強化繊維上のサイジング剤、およびマトリクス樹脂に依存する。重要な設計特性として、引張強度弾性率、圧縮強度弾性率、耐衝撃性、損傷耐性、層間せん断強度、靭性等が挙げられる。一般にFRC材料では、強化繊維がこれらの特性の大部分を担っている。しかし、強化繊維とマトリクス樹脂との接着は、層間せん断強度や靭性等の物性に影響を与える。この強化繊維とマトリクスとの接着は、サイジング剤とマトリクスとの相互作用によって影響を受ける。一方、マトリクス樹脂は、圧縮強度と横方向の引張特性に最も大きな影響を与える。FRC材料を構造材として使用する場合、層間せん断強度と圧縮強度は特に重要な特性である。したがって、マトリクス樹脂と強化繊維がそれぞれ単独で優れた特性を有するだけでなく、それらの間の接着性が良好であれば、優れた特性を得ることができ、一般的にこのことはサイジング剤の使用により改善される。
【0005】
しかし、現在利用可能なサイジング剤と高耐熱性マトリクス材料(Tgが220℃以上のもの)に関連して、互いに相性が悪い傾向があるという問題がある。現在利用可能なサイジング剤に関連して、高耐熱性樹脂を含む部品の使用温度が高くなると分解してしまうという別の問題点がある。さらに、部品の使用温度や高耐熱樹脂の硬化に必要な温度でサイジング剤が劣化したりサイジング剤と耐熱樹脂との間に形成された結合が劣化しやすいという別の問題もある。この劣化や相性の悪さという問題は、硬化した複合体の層間せん断強度の低下等、機械的特性の低下として現れる。
【0006】
現在、この相性の悪さや劣化の問題を解決する方法として、BMI樹脂やBOX樹脂等の高耐熱性熱硬化性樹脂マトリクス系に、主にサイジング剤フリー(非コート)の炭素繊維を使用してプリプレグを作製する方法がある。サイジング剤を含まないことで高耐熱性熱硬化性樹脂マトリクス系の熱酸化安定性(Thermal Oxidative Stability:TOS)を損なうことなく高い炭素繊維のTOSを得ることができる。しかし、加工性や品質の観点から、未塗工繊維から製造される炭素繊維プリプレグでは毛羽立ちの増加が見られる。この毛羽立ちの増加は加工上の問題であると共にプリプレグ全体の品質を低下させやすく、ひいては機械的特性の低下、取り扱いやすさ、生産しやすさの低下に直結する。この問題を解決するために別のサイジング剤を用いることが試みられたが、TOSおよび/または接着性の2つの重要な特性の劣化が認められた。従来、炭素繊維とプリプレグからなる硬化炭素繊維強化プラスチック(Carbon Fiber-Reinforced Plastic:CFRP)との両方のTOSを高めるサイジング剤は、炭素繊維との相性の悪さまたは高耐熱性熱硬化性樹脂マトリクス系との相性の悪さのいずれかにより、高耐熱性熱硬化性樹脂マトリクス系への炭素繊維の全体の接着性を低下させていた。この接着力の低下は、層間せん断強度の低下として現れる。また、炭素繊維との良好な接着性を維持しながらサイジング剤と高温マトリクス系との相性を高めようとすると、TOSが喪失するため、このようなプリプレグから製造されるCFRPの使用温度が全体的に低下する。さらに別の試みとしては、水等の環境に優しい溶媒が使用できない、長鎖熱可塑性材料を高TOSサイジング剤として使用することである。高耐熱性熱硬化性樹脂マトリクス系の多くは非常に高いコストを伴うことから、これらのサイジング剤を伴う炭素繊維のTOS低下による使用温度の低下によるこれらのコストは新しい航空宇宙部品の設計において正当化されない。
【0007】
本発明は、上記事柄を考慮したものであり、(とりわけ)高耐熱性熱硬化性樹脂組成物との使用によく適したサイジング剤被覆炭素繊維を用いたプリプレグを提供することを目的とする。また、これらのサイジング剤は、プリプレグ材料製造時にガイドローラーや高度な加工機器で擦られても毛羽立ちにくく折れにくい被覆炭素繊維を提供すると共に、BMI樹脂やBOX樹脂等のマトリクス樹脂との良好な接着性を可能とする。さらに、これらのサイジング剤は、高温にさらされても複合材料製品の機械的性質におけるTOSを良好に維持する。サイジング剤の効果はプリプレグとサイジング剤を含む炭素繊維とから作られた硬化部品の層間せん断強度の向上として現れる。
【発明の概要】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明者らは、高耐熱性熱硬化性樹脂組成物に特定の種類のサイジング剤を被覆したサイジング剤被覆炭素繊維を利用することにより、繊維の毛羽立ちや折れを少なくしてプリプレグの品質を優れたものにすること、炭素繊維と高耐熱性熱硬化性樹脂組成物との接着性が良好で高いTOSを持つ炭素繊維強化複合材料を実現できることを見出した。
【0009】
本発明は、サイジング剤被覆炭素繊維と、該サイジング剤被覆炭素繊維間に含浸された高耐熱性熱硬化性樹脂組成物(B)とを含む、とからなる、またはとから本質的になるプリプレグを提供する。サイジング剤は、(i)高耐熱性熱硬化性樹脂組成物(B)と反応可能な2個以上の第1官能基と、(ii)第1官能基(i)とは異なる少なくとも1個の第2官能基であって、前記第2官能基は、アミド、イミド、ウレタン、ウレア、カルボニル、エステル、スルホニル、芳香環またはこれらの組み合わせからなる群から選択される、前記少なくとも1個の第2官能基とを有する反応成分(A)から構成される。高耐熱性熱硬化性樹脂組成物(B)は、エポキシ樹脂以外の少なくとも1つの熱硬化性樹脂から構成されており、硬化後のガラス転移温度が220℃以上である。特定の実施形態によれば、特に芳香環の場合、(i)第1官能基と(ii)第2官能基を組み合わせることができる。例えば、第1官能基(i)のエポキシ基は第2官能基(ii)の芳香環に結合していてもよい。
【0010】
一態様において、上記に開示されるようなプリプレグを硬化させることによって得られる炭素繊維強化複合材料が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書で引用したすべての出版物、特許、および特許出願は、すべての目的のためにその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0012】
本明細書において、冠詞「a」および「an」は、冠詞の文法的対象である1つまたは1つ以上(すなわち、少なくとも1つ)を指すために使用される。ちなみに、「高分子樹脂」(英文で「a polymer resin」)とは、1つの高分子樹脂または1以上の高分子樹脂を意味する。本書で引用する範囲はすべて両端を含む。本明細書を通じて使用される用語「実質的に」および「約」は、小さな変動を表現、含意するために使用される。例えば、記載された値と±5%以下の差のある重量や数量を指すことができる。
【0013】
本明細書全体を通して「一実施形態」または「ある実施形態」への言及は、実施形態に関連して説明される特定の特徴、構造、または特性が少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。したがって、本明細書の各所で「一実施形態において」または「ある実施形態において」という表現は必ずしもすべてが同じ実施形態を指しているわけではない。さらに特定の特徴、構造、または特性は、1つまたは複数の実施形態において任意の適切な方法で組み合わせることができる。
【0014】
特に指定がない限り本明細書で使用される「室温」は25℃の温度を指す。
【0015】
本明細書で使用する場合、用語PHRは「樹脂100に対する部」を意味し、樹脂配合物の反応性部分(すなわち、樹脂配合物が硬化したときに化学反応を起こす樹脂配合物の成分、例えばビスマレイミドとコモノマーまたはベンゾオキサジンとエポキシ樹脂)のみを指す。
【0016】
本明細書で使用する場合、用語「繊維強化複合材料」は、用語「繊維強化複合材」、「繊維強化ポリマー材料」、「繊維強化ポリマー」、「繊維強化プラスチック材料」、「繊維強化プラスチック」、および「炭素繊維強化ポリマー」と互換的に使用される。
【0017】
本明細書で使用される場合、プリプレグまたは複合体に関する用語「耐高温性」は、本明細書に記載される実施例に記載の手順に従って測定される、硬化後のガラス転移温度(Tg)が220℃以上である熱硬化性樹脂を含むプリプレグまたは複合体を意味する。熱硬化性樹脂に関する「耐高温性」という用語は、本明細書に記載される実施例に記載の手順に従って測定される、硬化後のガラス転移温度(Tg)が220℃以上である熱硬化性樹脂を意味する。
【0018】
本発明は、プリプレグおよび繊維強化複合材料、例えば、炭素繊維強化複合材料に関するものである。より具体的には、本開示は、航空宇宙用途および一般産業用途によく適した、高耐熱性熱硬化性樹脂組成物との繊維強化複合材料のための使用によく適した、サイジング剤被覆炭素繊維を含むプリプレグを提供する。
【0019】
本開示によれば、繊維の毛羽立ちや折れが少ないことで品質に優れたサイジング剤被覆炭素繊維を用いたプリプレグを得ることができる。さらに、本開示のプリプレグを用いることによって、炭素繊維と高耐熱性熱硬化性樹脂マトリクス系との良好な接着性を有する炭素繊維強化複合材料は、このプリプレグの硬化により優れた熱安定性が得られることを意味する。このような繊維強化複合材料は優れた機械的特性を示す。
【0020】
以下、本開示のプリプレグ、および炭素繊維強化複合材料について詳細に説明する。
【0021】
本発明者らは、上記の問題点に鑑み鋭意研究を重ねた結果、繊維強化複合材料用途において、サイジング剤被覆炭素繊維と、該サイジング剤被覆炭素繊維間に含浸された高耐熱性熱硬化性樹脂組成物(B)とを含むプリプレグを用いることにより、前述の問題が解決されることを見出した。サイジング剤は、(i)高耐熱性熱硬化性樹脂組成物(B)と反応可能な、分子あたり2個以上の第1官能基と、(ii)アミド、イミド、ウレタン、ウレア、カルボニル、エステル、スルホニル、芳香環またはそれらの組み合わせのうちの少なくとも1個を含む、分子あたり少なくとも1個の第2官能基とを有する反応成分(A)を含む、からなる、またはから本質的になる。第1(i)官能基と第2(ii)官能基は、互いに異なる。少なくとも2個の第1官能基(i)は、第2官能基(ii)と異なる限り、互いに同じであっても異なっていてもよい。高耐熱性熱硬化性樹脂組成物(B)は、エポキシ樹脂以外の少なくとも1つの熱硬化性樹脂を含み、硬化後のガラス転移温度が220℃以上である。
【0022】
以下、本発明に係るプリプレグおよび該プリプレグを硬化させて得られる炭素繊維強化複合材料の実施形態について、より詳細に説明する。本発明は、サイジング剤で被覆されたサイジング剤被覆炭素繊維と高耐熱性熱硬化性樹脂を含むプリプレグである。サイジング剤は、(i)高耐熱性熱硬化性樹脂組成物(B)と反応可能な、分子あたり2個以上の第1官能基と、(ii)アミド、イミド、ウレタン、ウレア、カルボニル、エステル、スルホニル、芳香環またはこれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1個の基と、を有する反応成分(A)から構成され、高耐熱性熱硬化性樹脂は、硬化後のガラス転移温度が220℃以上であることを特徴とする。まず、(i)高耐熱性熱硬化性樹脂組成物(B)と反応可能な2個以上の第1官能基と、(ii)アミド、イミド、ウレタン、ウレア、カルボニル、エステル、スルホニル、芳香環構造、またはそれらの組み合わせのうちの少なくとも1個を含む少なくとも1個の第2基とを有する反応成分(A)から構成されるサイジング剤で被覆された炭素繊維について説明する。
反応成分(A)
本発明で用いられる反応成分(A)は、(i)高耐熱性熱硬化性樹脂組成物(B)と反応可能な、分子あたり2個以上の第1官能基と、(ii)分子内にアミド、イミド、ウレタン、ウレア、カルボニル、エステル、スルホニル、芳香環、またはそれらの組み合わせのうちの少なくとも1個を含む少なくとも1個の第2官能基とを有する化合物である。
【0023】
特定の理論にとらわれることなく、第1官能基(i)が分子あたり2個未満であると、高耐熱性熱硬化性樹脂組成物(B)と反応可能な官能基の数が少なすぎるため、本発明のプリプレグを硬化させて得られる複合材料の接着特性が十分に向上しない可能性がある。
【0024】
本発明の実施形態において、反応成分(A)はマトリクス樹脂への拡散を抑制するために架橋させることができる。
【0025】
本発明の特定の実施形態では、反応成分(A)は分子内に3個以上の第1官能基(i)を有する。反応成分(A)は3個以上の第1官能基(i)を有していてもよく、これにより、層間せん断強度(InterLaminar Shear Strength:ILSS)等の接着特性を向上させることができるという利点が提供できる。
【0026】
理論にとらわれることなく、反応成分(A)分子中にアミド、イミド、ウレタン、ウレア、カルボニル、エステル、スルホニル、芳香環、またはそれらの組み合わせのうちの少なくとも1個を含む少なくとも1個の第2官能基(ii)により、サイジング剤と炭素繊維との接着が良好になると考えられている。
反応成分(A)における第1官能基(i)の例
高耐熱性熱硬化性樹脂組成物(B)と反応可能な第1官能基(i)は、ビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、ハロゲン含有基、アゾ基、または過酸化物基等のフリーラジカル反応に関与できるものから選択することができる。
【0027】
別の実施形態では、第1官能基(i)は、ヒドロキシベンジル基、ヒドロキシフェノキシ基、フェノキシ基、フェノール水酸基、エポキシ基、カルボキシル基、またはアミノ基から選択することができる。
【0028】
ある実施形態において、第1官能基(i)は、サイジング剤が炭素繊維表面に被覆される際の安定性や取り扱いやすさの観点、および高耐熱性熱硬化性樹脂組成物(B)との好適な反応性の観点から、ビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基またはエポキシ基から好ましく選択できる。
【0029】
別の実施形態では、反応成分(A)は1種類または2種類以上の第1官能基(i)を含むことができる。
エポキシ基を有する成分(A)
本発明で用いられる第1官能基(i)としてエポキシ基を有する反応成分(A)は、エポキシ基の他に、アミド、イミド、ウレタン、ウレア、カルボニル、エステル、スルホニル、芳香環、またはそれらの組み合わせのうちの少なくとも1個を含む少なくとも1個の第2官能基(ii)を有していれば特に制限や制約はない。
【0030】
ある実施形態において、芳香環構造を有する反応成分(A)には芳香族エポキシ化合物を好ましく使用することができる。この場合、2個の第1官能基(i)のうちの少なくとも1個はエポキシ基であり、第2官能基(ii)は芳香環である。本発明において、芳香族エポキシ化合物は官能基(i)の数が3個以上であり、そのうちの少なくとも1個はエポキシ基である、2種類以上の第1官能基(i)を有するエポキシ化合物であることが好ましい。芳香族エポキシ化合物は、より好ましくは2個以上の第1官能基(i)を有するエポキシ化合物である。第1官能基(i)の数は4個以上であってもよい。芳香族エポキシ化合物の第2官能基(ii)は、芳香環に加えて、アミド基、イミド基、ウレタン基、ウレア基、スルホニル基のうちの少なくとも1個を含む官能基が好ましい。特定の理論にとらわれることなく、分子内に3個以上のエポキシ基を有するか、またはエポキシ基と2個以上の他の第1官能基(i)とを有する芳香族エポキシ化合物において、1個のエポキシ基が炭素繊維表面の酸素含有官能基と共有結合を形成しても、残りの2個以上のエポキシ基または第1官能基(i)の他の基がマトリクス樹脂と共有結合や水素結合を形成し得ると考えられている。このように、炭素繊維とマトリクス樹脂の両方と結合できることで、接着性がさらに向上し得る。エポキシ基を含む第1官能基(i)の数の上限は特に限定されないが、分子あたり10個の第1官能基(i)を有する化合物であれば、十分な接着性が得られる。
【0031】
別の実施形態では、芳香族エポキシ化合物は、好ましくは360g/eq未満、より好ましくは270g/eq未満、さらに好ましくは180g/eq未満のエポキシ当量を有する。特定の理論にとらわれることなく、エポキシ当量が360g/eq未満の芳香族エポキシ化合物は、高い密度の共有結合を形成し、炭素繊維とマトリクス樹脂との間の接着性をさらに向上させることができる。エポキシ当量の下限は特に限定されないが、エポキシ当量が90g/eq以上の芳香族エポキシ化合物であれば、十分な接着性が得られる。
【0032】
成分(A)として好適な脂肪族エポキシ化合物の例としては、芳香族ポリオールから得られるグリシジルエーテルエポキシ化合物、複数の活性水素を有する芳香族アミンから得られるグリシジルアミンエポキシ化合物、芳香族ポリカルボン酸から得られるグリシジルエステルエポキシ化合物、分子中に複数の二重結合を有する芳香族化合物を酸化して得られるエポキシ化合物等があるがこれらに限定されない。
【0033】
グリシジルエーテルエポキシ化合物の例としては、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAD、ビスフェノールS、テトラブロモビスフェノールA、フェノールノボラック、クレゾールノボラック、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’,5,5’-テトラメチルビフェニル、1,6-ジヒドロキシナフタレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、トリス(p-ヒドロキシフェニル)メタン、テトラキス(p-ヒドロキシフェニル)エタンから選択される化合物とエピクロルヒドリンを反応させて得られるグリシジルエーテルエポキシ化合物が挙げられるが、これらに限定されない。また、グリシジルエーテルエポキシ化合物としては、ビフェニルアラルキル骨格を有するグリシジルエーテルエポキシ化合物が例示される。
【0034】
グリシジルアミンエポキシ化合物の例としては、N,N-ジグリシジルアニリン、N,N-ジグリシジル-o-トルイジン、およびエピクロルヒドリンとm-キシリレンジアミン、m-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレンから選択される化合物と反応して得られるグリシジルエーテルエポキシ化合物等がある。
【0035】
また、グリシジルアミンエポキシ化合物としては、エピクロロヒドリンをm-アミノフェノール、p-アミノフェノール、4-アミノ-3-メチルフェノールのアミノフェノールの水酸基とアミノ基の両方とを反応させて得られるエポキシ化合物が例示される。
【0036】
グリシジルエステルエポキシ化合物の例としては、エピクロルヒドリンとフタル酸、テレフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸を反応させて得られるグリシジルエステルエポキシ化合物が挙げられる。
【0037】
本発明に用いられる芳香族エポキシ化合物の例としては、上記例示したエポキシ化合物の他に、上記例示したエポキシ化合物を原料として合成されたエポキシ化合物が挙げられ、エポキシ化合物としては、ビスフェノールAジグリシジルエーテルとトリレンジイソシアネートのオキサゾリドン環形成反応により合成されたエポキシ化合物が例示される。
【0038】
本発明の特定の実施形態において、芳香族エポキシ化合物は、好ましくは、1個以上のエポキシ基(i)に加えて、アミド基、イミド基、ウレタン基、ウレア基、スルホニル基、カルボキシ基、エステル基、スルホニル基、またはそれらの組み合わせから選択される少なくとも1個以上の第2官能基(ii)を有する。このような化合物の非限定的な例としては、エポキシ基とアミド基を有する化合物、エポキシ基とイミド基を有する化合物、エポキシ基とウレタン基を有する化合物、エポキシ基とウレア基を有する化合物、およびエポキシ基とスルホニル基を有する化合物が挙げられる。
【0039】
エポキシ基に加えてアミド基を有する芳香族エポキシ化合物の非限定的な例としては、グリシジルベンズアミド、アミド変性エポキシ化合物等が挙げられる。アミド変性エポキシは、芳香環を含むジカルボン酸アミドのカルボキシ基と、2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物のエポキシ基を反応させることにより得ることができる。
【0040】
エポキシ基に加えてウレタン基を有する芳香族エポキシ化合物は、ポリエチレンオキシドモノアルキルエーテルの末端水酸基に、芳香環を有する多価イソシアネートを水酸基と同量で反応させ、得られた反応生成物のイソシアネート残基と多価エポキシ化合物の水酸基を反応させて調製することができる。ここで用いられる多価イソシアネートの非限定的な例としては、2,4-トリレンジイソシアネート、m-フェニレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、ビフェニル-2,4,4’-トリイソシアネート等が挙げられる。
【0041】
エポキシ基に加えてウレア基を有する芳香族エポキシ化合物の非限定的な例としては、ウレア変性エポキシ化合物が挙げられる。ウレア変性エポキシは、ジカルボン酸ウレアのカルボキシ基と、2個以上のエポキシ基を有する芳香環含有エポキシ化合物のエポキシ基を反応させることにより調製することができる。
【0042】
エポキシ基に加えてスルホニル基を有する芳香族エポキシ化合物の非限定的な例として、ビスフェノールSエポキシが挙げられる。
【0043】
本発明において、芳香族エポキシ化合物は、フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物、およびテトラグリシジルジアミノジフェニルメタンのいずれかであることが好ましい。これらのエポキシ化合物は、エポキシ基数が多く、エポキシ当量が小さく、芳香環が2個以上あるため、炭素繊維とマトリクス樹脂との接着性が向上し、繊維強化複合材料の0°引張強度等の機械的特性も向上する。芳香族エポキシ化合物は、より好ましくは、フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物である。
【0044】
本発明において、芳香族エポキシ化合物は、プリプレグの長期保存時の安定性や接着性の観点から、フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、ビスフェノールA型エポキシ化合物またはビスフェノールF型エポキシ化合物が好ましく、ビスフェノールA型エポキシ化合物またはビスフェノールF型エポキシ化合物がより好ましい。
【0045】
本発明に用いられるサイジング剤は、脂肪族エポキシ化合物および芳香族エポキシ化合物のうちの少なくとも1種に加えて、さらに1種以上の追加成分を含むことができる。例えば、炭素繊維と本明細書に記載のサイジング剤との接着性を向上させる接着促進成分、あるいはサイジング剤で被覆された炭素繊維に曲げやすさや柔軟性を付与する材料を含ませると、追加成分によって取り扱いやすさ、耐摩耗性、耐毛羽立ち性が向上し、炭素繊維へのマトリクス樹脂の含浸性が向上し得る。本発明において、プリプレグの長期安定性を向上させるために、サイジング剤は脂肪族エポキシ化合物および芳香族エポキシ化合物以外の化合物をさらに含有してもよい。サイジング剤にはサイジング剤を安定化させるために分散剤および/または界面活性剤等の補助成分が含まれていてもよい。
【0046】
いかなる理論にもとらわれることなく、エポキシ基を有する反応成分(A)として用いられるエポキシ化合物は、本発明のプリプレグを硬化させて得られる複合材料の耐熱性の観点から、芳香族エポキシ化合物、ヒダントイン構造を有するエポキシ化合物、イソシアヌレート構造を有するエポキシ化合物とその混合物から選択されることが好ましい。
ビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基を有する成分(A)
官能基として(i)ビニル基、アクリロイル基および/またはメタクリロイル基を有する、本発明で用いられる反応成分(A)には特に制限や制約がない。
【0047】
例えば、好適な化合物(A)は、不飽和カルボン酸とポリオール、不飽和カルボン酸とポリオールの反応によって形成されるモノマー、およびそのようなモノマーのポリマーの一部として、ビニル基、アクリロイル基およびメタクリロイル基から選択される官能基(i)を含み得る。ここで使用できる不飽和アルコールとしては、例えば、不飽和カルボン酸とポリオールとの反応生成物であるオレフィンアルコールが挙げられる。オレフィンアルコールとしては、例えば、アリルアルコール、クロチルアルコール、3-ブテン-1-オール、3-ブテン-2-オール、3-ペンテン-1-オール、4-ペンテン-1-オール、4-ペンテン-2-オール、4-ヘキセン-1-オール、5-ヘキセン-1-オール等を挙げることができる。後述する数平均分子量を高めるためには、末端に不飽和基を有するオレフィン系アルコールが好適である。不飽和カルボン酸とポリオールとの反応生成物としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート.2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフタル酸、2-ヒドロキシ-3-(メタ)アクリロイルオキシプロピル(メタ)アクリレート、エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールモノ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールモノ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジグリシジルエーテル(メタ)アクリル酸付加物、等が挙げられる。成分(A)としては、不飽和カルボン酸とポリオールとの反応生成物を好ましく使用することができる。
【0048】
ここで成分(A)を形成するために使用できる不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、オレイン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸が挙げられる。ここで好ましく用いることができるポリオールとしては、例えば、グリセロール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリアルキレングリコール、アラビトール、ソルビトール、1,6-ヘキサンメチレンジオール等が挙げられる。
【0049】
ここで成分(A)を形成するために使用できる官能基(i)としてのイソシアネート化合物としては、例えば、トリレンジイソシアネート、ジトリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ジメチルジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、メタフェニレンジイソシアネート、プロピルイソシアネートおよびブチルイソシアネート等が挙げられる。
【0050】
上記不飽和アルコールまたは上記不飽和カルボン酸のいずれかと上記イソシアネート化合物のいずれかを適切に組み合わせて成分(A)を形成し、ウレタンを形成するための公知の反応条件から適切な反応条件が選択される。反応終了後、反応溶媒を留去することにより、目的化合物が成分(A)として容易に得られる。
【0051】
反応生成物、すなわち、成分(A)としては、末端の不飽和基(i)としてアクリレート基とメタクリレート基を有する不飽和ポリウレタン化合物が好ましく、フェニルグリシジルエーテルアクリレートヘキサメチレンジイソシアネート、フェニルグリシジルエーテルアクリレートトリレンイソシアネート、ペンタエリスリトールアクリレートヘキサメチレンジイソシアネート、フェニルグリシジルエーテルトリアクリレートイソホロンジイソシアネート、グリセロールジメタクリレートトリレンジイソシアネート、グリセロールジメタクリレートイソホロンジイソシアネート、ペンタエリスリトールトリアクリレートトリレンジイソシアネート、ペンタエリスリトールトリアクリレートイソホロンジイソシアネート、トリアリルイソシアヌレートから選択される少なくとも1つの化合物が使用できる。
【0052】
存在する場合、炭素繊維表面の数平均分子量を容易かつ均一に高めてフィルムを形成し、高耐熱性熱硬化性樹脂組成物(B)と反応させるために、不飽和基の数がモノマーあたり2個以上であることが好ましい。3個以上がより好ましい。末端に1個の不飽和基を有するモノマーを加熱して炭素繊維表面で重合させると、高耐熱性熱硬化性樹脂組成物(B)と反応可能な官能基数が少ないため高耐熱性熱硬化性樹脂組成物(B)との反応が進行せず、複合材料の接着特性が向上しないことが起こり得る。炭素繊維表面にフィルムを形成する際に、炭素繊維表面の特定量の官能基との相互作用を確保するために、モノマーの数平均分子量あたりの極性基数としての極性基密度が1×10-3以上/分子量であることが好ましい。極性基密度が3×10-3以上/数平均分子量であることがより好ましい。通常、上限は15×10-3以下/数平均分子量であり、好ましくは7×10-3以下/分子量である。モノマーの分子量は100g/モル~1500g/モルであることが好ましく、低粘度の方が結束剤としての取り扱いが容易になりやすい。より好ましい範囲は、500g/モル~1000g/モルである。
ヒドロキシベンジル基、ヒドロキシフェノキシ基、フェノキシ基およびフェノール性水酸基を有する成分(A)
ヒドロキシベンジル基、ヒドロキシフェノキシ基、フェノキシ基およびフェノール性水酸基を有する反応成分(A)に関しては、特に制限や制約がなく、フェニルグリシジルエーテルアクリレート、ヘキサメチレンジイソシアネート、フェニルグリシジルエーテルトリレンジイソシアネートおよびフェニルグリシジルエーテルイソホロンジイソシアネートから選択されるモノマー、該モノマーを重合して得られるポリマー,ならびにこれらの混合物等が使用できる。
促進剤を含む成分(A)
ある実施形態において、本発明に用いられるサイジング剤は、サイジング剤被覆炭素繊維と高耐熱性熱硬化性樹脂組成物(B)との間の接着性を向上させるための促進剤をさらに含むことができる。特定の理論にとらわれることなく、促進剤は、反応成分(A)と炭素繊維の表面に元々存在する酸素含有官能基との間、またはエポキシ化合物(使用する場合)と炭素繊維の酸化処理によって導入されたカルボキシ基や水酸基等の酸素含有官能基との間の共有結合形成を促進し得る。本発明で用いられる促進剤は、分子量100g/モル以上の3級アミン化合物および/または3級アミン塩、一般式(I)または一般式(II)で表されるカチオン部位を有する4級アンモニウム塩、および第4級ホスホニウム塩および/またはホスフィン化合物から選択することができる少なくとも1つの化合物を含む。
【0053】
【化1】
【0054】
(ここで、R~Rの各々はC1-22の炭化水素基であり、炭化水素基は水酸基を有してもよく、炭化水素基中のCH基は-O-、-O-CO-または-CO-O-によって置換されてもよい)
【0055】
【化2】
【0056】
(ここで、RはC1-22の水酸基を有してもよい炭化水素基であり、当該炭化水素基中のCH基は、-O-、-O-CO-、または-CO-O-によって置換されていてもよく、RとRは、それぞれ水素またはC1-8の炭化水素基であり、当該炭化水素基中のCH基は-O-、-O-CO-、または-CO-O-によって置換されていてもよい)
本発明の特定の実施形態において、促進剤と共に用いられる反応成分(A)は、分子中に2個以上のエポキシ基を有する化合物および/または分子中に1個以上のエポキシ基と、アミド基、イミド基、ウレタン基、ウレア基およびスルホニル基から選択される少なくとも1個以上の官能基(ii)を有するエポキシ化合物から好ましく選択できる。別の実施形態において、エポキシ化合物は、好ましくは、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、およびテトラグリシジルジアミノジフェニルメタンのうちのいずれかである。これらのエポキシ樹脂は、エポキシ基数が多く、エポキシ当量が小さく、芳香環が2個以上あるため、炭素繊維とマトリクス樹脂との接着性や炭素繊維強化複合材料の0°引張強度等の機械的特性が向上する。官能基を2個以上有するエポキシ樹脂は、より好ましくは、フェノールノボラック型エポキシ樹脂またはクレゾールノボラック型エポキシ樹脂である。
【0057】
エポキシ基を2個以上有するエポキシ化合物の具体例としては、ポリオールから得られるグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、活性水素を複数有するアミンから得られるグリシジルアミン型エポキシ樹脂、ポリカルボン酸から得られるグリシジルエステル型エポキシ樹脂、分子内に複数の二重結合を有する化合物を酸化して得られるエポキシ樹脂等が挙げられる。
【0058】
グリシジルエーテル型エポキシ樹脂の非限定的な例としては、エピクロルヒドリンとビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAD、ビスフェノールS、テトラブロモビスフェノールA、フェノールノボラック、クレゾールノボラック、ハイドロキノン、レゾルシン、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’,5,5’-テトラメチルビフェニル、1,6-ジヒドロキシナフタレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、トリス(p-ヒドロキシフェニル)メタン、およびテトラキス(p-ヒドロキシフェニル)エタンとの反応により得られるグリシジルエーテル型エポキシ樹脂が挙げられる。また、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂の例としては、エピクロルヒドリンとエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、ポリブチレングリコール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、水素化ビスフェノールA、水素化ビスフェノールF、グリセロール、ジグリセロール、ポリグリセロール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、アラビトールを反応させて得られるグリシジルエーテル型エポキシ樹脂等が挙げられる。グリシジルエーテル型エポキシ樹脂の追加例としては、ジシクロペンタジエン構造を有するグリシジルエーテルエポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル構造を有するグリシジルエーテルエポキシ樹脂等が挙げられる。
【0059】
グリシジルアミン型エポキシ樹脂の非限定的な例としては、N,N-ジグリシジルアニリン、N,N-ジグリシジル-o-トルイジン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、m-キシリレンジアミン、m-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、および9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン等が挙げられる。また、グリシジルアミン型エポキシ樹脂の例としては、エピクロルヒドリンとm-アミノフェノール、p-アミノフェノール、4-アミノ-3-メチルフェノール等のアミノフェノールの水酸基とアミノ基の両方を反応させて得られるエポキシ樹脂等が挙げられる。
【0060】
グリシジルエステル型エポキシ樹脂の非限定的な例としては、エピクロルヒドリンとフタル酸、テレフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、ダイマー酸を反応させて得られるグリシジルエステル型エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0061】
分子中に複数の二重結合を有する化合物を酸化して得られる反応成分(A)としてのエポキシ樹脂の非限定例としては、分子中にエポキシシクロヘキサン環を有するエポキシ樹脂等が挙げられる。エポキシ樹脂の例としては、さらにエポキシ化大豆油等が挙げられる。
【0062】
本発明に用いられる反応成分(A)としてのエポキシ化合物は、これらのエポキシ樹脂の他に、トリグリシジルイソシアヌレート等のエポキシ樹脂が例示される。エポキシ化合物の例としては、さらに、上記で例示したエポキシ樹脂を原料として合成されたエポキシ樹脂が挙げられ、ビスフェノールAジグリシジルエーテルとトリレンジイソシアネートのオキサゾリドン環形成反応により合成されたエポキシ樹脂が挙げられる。
【0063】
本発明において、反応成分(A)として、1個以上のエポキシ基と、アミド基、イミド基、ウレタン基、ウレア基およびスルホニル基から選択される少なくとも1個以上の官能基とを有するエポキシ化合物の具体例としては、エポキシ基とアミド基を有する化合物、エポキシ基とイミド基を有する化合物、エポキシ基とウレタン基を有する化合物、エポキシ基とウレア基を有する化合物、およびエポキシ基とスルホニル基を有する化合物が挙げられる。
【0064】
エポキシ基とアミド基を有する反応成分(A)の非限定的な例としては、グリシジルベンズアミド、アミド変性エポキシ樹脂等が挙げられる。アミド変性エポキシ樹脂は、ジカルボン酸アミドのカルボキシ基と、2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂のエポキシ基を反応させることにより調製することができる。
【0065】
エポキシ基とイミド基を有する反応成分(A)の非限定的な例としては、グリシジルフタルイミド等が挙げられる。この化合物の具体例としては、「Denacol(登録商標)EX-731」(ナガセケムテックス株式会社製)等が挙げられる。
【0066】
エポキシ基とウレタン基とを有する反応成分(A)の非限定的な例としては、ウレタン変性エポキシ樹脂が挙げられ、具体的には、Adeka Resin(登録商標)EPU-78-13S、EPU-6、EPU-11、EPU-15、EPU-16A、EPU-16N,EPU-17T-6、EPU-1348、EPU-1395(アデカ社製)等が挙げられる。また、ポリエチレンオキシドモノアルキルエーテルの末端水酸基と多価イソシアネートを末端水酸基と同量で反応させ、得られた反応生成物のイソシアネート残基と多価エポキシ樹脂の水酸基を反応させて、当該化合物を調製することもできる。ここで反応成分(A)として用いられる多価イソシアネートの他の非限定的な例としては、2,4-トリレンジイソシアネート、メタフェニレンジイソシアネート、パラフェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルナンイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、ビフェニル-2,4,4’-トリイソシアネート等が挙げられる。
【0067】
エポキシ基とウレア基を有する反応成分(A)の他の例としては、ウレア変性エポキシ樹脂が挙げられる。ウレア変性エポキシは、ジカルボン酸ウレアのカルボキシ基と、2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂のエポキシ基を反応させることにより調製することができる。
【0068】
エポキシ基とスルホニル基を有する反応成分(A)の例としては、ビスフェノールS型エポキシ等が挙げられる。
【0069】
本発明の特定の実施形態において、使用するサイジング剤は、好ましくは、反応成分(A)100質量部に対して0.1~25質量部の量で、少なくとも1つの促進剤を含む。
炭素繊維
本発明に用いられる炭素繊維の例としては、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維等が挙げられる。それらの中でも、強度と弾性率のバランスに優れるPAN系炭素繊維が好ましく使用される。
【0070】
本発明の特定の実施形態では、炭素繊維は、好ましくは3.5GPa以上、より好ましくは4.0GPa以上、特に好ましくは5.0GPa以上のストランド強度を有する炭素繊維束の形態である。得られた炭素繊維束は、ストランド弾性率が好ましくは220GPa以上、より好ましくは240GPa以上、特に好ましくは280GPa以上である。
【0071】
本発明において、炭素繊維束のストランド引張強度および弾性率は、JIS-R-7608(2004)に記載の樹脂含浸ストランド試験方法により、以下の手順で測定することができる。樹脂の配合は、「Celloxide(登録商標)」2021P(ダイセル化学工業(株)製)/三フッ化ホウ素モノエチルアミン(東京化成工業(株)製)/アセトン=100/3/4(質量部)で、硬化条件は常圧、130℃、30分である。炭素繊維束の10本のストランドを試験し、ストランド引張強度とストランド弾性率として平均値を算出する。
【0072】
本発明の特定の実施形態において、炭素繊維は、好ましくは、6.0~100nmの表面粗さ(Ra)を有する。表面粗さ(Ra)は、より好ましくは15~80nmであり、特に好ましくは30~60nmである。表面粗さ(Ra)が6.0~60nmの炭素繊維は、エッジ部の活性が高い表面を有するため、特定の理論にとらわれることなく、上記サイジング剤の反応成分(A)のエポキシ基や他の官能基との反応性を高めることができる。ここでも、理論にとらわれることなく、粗さが界面接着性を向上させ得るので、そのような炭素繊維が好ましい。表面粗さ(Ra)が6.0~100nmの炭素繊維は、表面に凹凸があり、サイジング剤のアンカー効果により界面接着力を向上させることができる。したがって、このような粗い炭素繊維が好ましい。
【0073】
炭素繊維の表面の平均粗さ(Ra)は、原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope:AFM)を用いて測定することができる。例えば、炭素繊維を数ミリの長さに切断し、銀ペーストで基板(シリコンウェハー)に固定し、原子間力顕微鏡で各単繊維の中心部の3次元表面形状画像を観察する。原子間力顕微鏡を使用できる例としては、Digital Instruments社製のDimension 3000ステージシステムを搭載したNanoScope IIIaがあり、以下の観察条件、スキャンモード、タッピングモードで観察を行うことができる。
プローブ シリコンカンチレバー
スキャン領域 0.6μm×0.6μm
スキャン速度 0.3Hz
画素数 512×512
測定環境 大気中、室温
各サンプルについて、個々の単繊維上の1つの領域を観察して得られる画像で、繊維断面の曲線が3次元曲面で近似される。得られた全体画像から、平均粗さ(Re)を算出する。5本の単繊維の平均粗さ(Ra)を求め、その平均値を評価することが好ましい。
【0074】
本発明の特定の実施形態において、炭素繊維は、好ましくは400~3000texの総繊度を有する。炭素繊維は、好ましくは1000~100000、より好ましくは3000~50000のフィラメント本数を有する。
【0075】
本発明の特定の実施形態では、炭素繊維は、好ましくは、4.5~7.5μmの単繊維径を有する。7.5μm以下の単繊維径を有する場合、炭素繊維は高強度、高弾性率を有することができるので好ましい。単繊維径は、より好ましくは6μm以下、特に好ましくは5.5μm以下である。4.5μm以上の単繊維径を有すると、炭素繊維の単繊維切れを起こしにくく、生産性を低下させにくいため、好ましい。
【0076】
本発明の特定の実施形態において、炭素繊維は、好ましくは0.05~0.50、より好ましくは0.07~0.40、特に好ましくは0.09~0.30、より特に好ましくは0.12~0.25の範囲の表面酸素濃度(O/C)を有する。ここで表面酸素濃度(O/C)は繊維の表面の酸素(O)原子と炭素(C)原子の数との割合であってX線光電子分光法によって求められる。表面酸素濃度(O/C)が0.05以上であれば、炭素繊維の表面に酸素含有官能基が維持されるため、マトリクス樹脂との強固な接着を実現することができる。表面酸素濃度(O/C)が0.5以下であると、炭素繊維の酸化による炭素繊維自体の強度低下を抑制することができる。
【0077】
炭素繊維の表面酸素濃度は、以下の手順でX線光電子分光法により測定される。まず、溶媒を用いて炭素繊維の表面に付着したゴミ等を除去した後、炭素繊維を20mm片に切断し、銅製のサンプルホルダーに広げて配置する。測定は、AIKα1,2をX線源とし、試料室内を1×10-8Torrに保ちながら行う。光電子の離脱角は90°に調節する。測定中の帯電に伴うピークの補正値として、C1sのメインピーク(ピークトップ)の結合エネルギー値を284.6eVとし、282~296eVの範囲に直線のベースラインを引いてC1sピーク面積を求める。O1sピーク面積は、528~540eVの範囲に直線のベースラインを引いて求める。表面酸素濃度(O/C)は、C1sのピーク面積の比を装置固有の感度補正値で除することによって算出した原子数比で表される。X線光電子分光器として使用したUlvac-Phi社製ESCA-1600については、装置固有の感度補正値は2.33とする。
炭素繊維の製造方法
次に、PAN系炭素繊維の製造方法について説明する。
【0078】
炭素繊維の前駆体繊維を調製するための紡糸方法の使用可能な例としては、乾式紡糸、湿式紡糸、および乾湿式紡糸等が挙げられる。高強度炭素繊維を容易に製造するためには、湿式紡糸または乾湿式紡糸が好ましく採用される。特に、高い強度を有する炭素繊維を製造できることから、乾湿式紡糸がより好ましく採用される。
【0079】
上述したように、炭素繊維とマトリクス樹脂との接着性をより向上させるために、炭素繊維は6.0~100nmの表面粗さ(Ra)を有することが好ましく、このような表面粗さを有する炭素繊維を調製するために、前駆体繊維を紡糸するのに湿式紡糸を採用することが好ましい。
【0080】
使用する紡糸液は、ポリアクリロニトリルのホモポリマーまたはコポリマーを溶媒に溶解させた液が使用できる。溶媒としては、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等の有機溶媒や、硝酸、ロダン酸ナトリウム、塩化亜鉛、チオシアン酸ナトリウム等の無機化合物の水溶液が用いられる。好ましい溶媒は、ジメチルスルホキシドおよびジメチルアセトアミドである。
【0081】
紡糸溶液を紡糸口金に通して紡糸し、紡糸浴または空気中に吐出し紡糸浴で固化させる。使用する紡糸浴は、紡糸液に使用する溶媒と同じ溶媒の水溶液であってもよい。紡糸液は、紡糸液の溶媒と同じ溶媒を含むことが好ましく、ジメチルスルホキシド水溶液、ジメチルアセトアミド水溶液が好ましい。紡糸浴で固化した繊維を水洗、延伸することで前駆体繊維を得ることができる。得られた前駆体繊維は、難燃処理、炭化処理を施し、所望によりさらに黒鉛処理を施すことで、炭素繊維を得る。炭化処理および黒鉛処理は、最大の熱処理温度が1100℃以上、より好ましくは1400~3000℃の条件下で行うことが好ましい。
【0082】
マトリクス樹脂との接着性を向上させるために、得られた炭素繊維は通常、酸素含有官能基を導入する酸化処理が施される。酸化処理方法は、気相酸化、液相酸化、液相電解酸化でよく、生産性が高く、均一に処理できる観点から、液相電解酸化を採用することが好ましい。
【0083】
本発明の特定の実施形態において、液相電解酸化に用いられる電解液としては、酸性電解液およびアルカリ性電解液が例示される。接着性の観点から、炭素繊維をアルカリ性電解液中で液相電解酸化した後、サイジング剤でコーティングすることがより好ましい。
【0084】
酸電解液の例としては、硫酸、硝酸、塩酸、リン酸、ホウ酸、炭酸等の無機酸、酢酸、酪酸、シュウ酸、アクリル酸、マレイン酸等の有機酸、硫酸アンモニウム、硫酸水素アンモニウム等の塩類等が挙げられる。それらの中でも、強い酸性を示す硫酸や硝酸が好ましく使用される。
【0085】
アルカリ性電解液の例としては、具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム等の水酸化物の水溶液;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸アンモニウム等の炭酸塩の水溶液、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素バリウム、炭酸水素アンモニウム等の炭酸水素塩の水溶液、アンモニア、水酸化テトラアルキルアンモニウム、ヒドラジンの水溶液等が挙げられる。それらの中でも、マトリクス樹脂の硬化を阻害するアルカリ金属を含まないことから、電解液には炭酸アンモニウムおよび炭酸水素アンモニウムの水溶液が好ましく用いられ、または、強アルカリ性を示すテトラアルキルアンモニウムヒドロキシドの水溶液が好ましく用いられる。
【0086】
本発明の特定の実施形態では、電解液の濃度は、好ましくは0.01~5モル/L、より好ましくは0.1~1モル/Lの範囲である。電解液の濃度が0.01モル/L以上であれば、より低い電圧で電解処理を行うことができ、運転コストの点で有利となる。電解液の濃度は5モル/L以下が安全性の点で有利である。
【0087】
本発明の特定の実施形態において、電解液の温度は、好ましくは10~100℃であり、より好ましくは10~40℃である。10℃以上の電解液温度は、電解処理の効率を向上させ、運転コストの点で有利である。電解液の温度は100℃未満が安全面で有利である。
【0088】
本発明の特定の実施形態では、液相電解酸化時の電気量は、炭素繊維の炭化度合いに応じて最適化することが好ましく、高い弾性率を有する炭素繊維の処理には、より多くの電気量が必要である。
【0089】
本発明の特定の実施形態において、液相電解酸化中の電流密度は、電解処理液中の炭素繊維の表面積1mに対して、好ましくは1.5~1000A/m、より好ましくは3~500A/mである。電流密度が1.5A/m以上であれば、電解処理の効率が向上し、運転コストの点で有利となる。電流密度が1000A/m以下であれば安全面で有利である。
【0090】
本発明の特定の実施形態において、電解処理後の炭素繊維は、好ましくは水で洗浄し乾燥させる。洗浄方法は、例えば浸漬または噴霧であってよい。中でも洗浄が容易であるという観点から、浸漬が好ましく採用され、浸漬は炭素繊維を超音波で振動させながら行うことが好ましい。乾燥温度が高すぎると、炭素繊維の最表面にある官能基が熱分解しやすくなり官能基が分解される。したがって、乾燥は好ましくはできるだけ低い温度で行われる。具体的には、乾燥温度は好ましくは250℃以下であり、より好ましくは210℃以下である。乾燥効率を考慮すると、乾燥温度は好ましくは110℃以上であり、より好ましくは140℃以上である。
サイジング剤被覆炭素繊維の製造方法
次に、炭素繊維にサイジング剤を塗布して被覆したサイジング剤被覆炭素繊維について説明する。本発明に用いられるサイジング剤は、高耐熱性熱硬化性樹脂組成物(B)と反応可能な2個以上の官能基(i)と、アミド、イミド、ウレタン、ウレア、カルボニル、エステル、スルホニルおよび芳香環構造、またはそれらの組み合わせのうちの少なくとも1個を含む少なくとも1個の官能基(ii)を有する反応成分(A)から構成され、さらに追加成分を含有してもよい。
【0091】
本発明の特定の実施形態において、炭素繊維をサイジング剤でコーティングする方法は、少なくとも1つの反応成分(A)およびその他の成分を同時に溶媒に溶解または分散させたサイジング剤含有液を用いたシングルコーティングによる方法と、反応成分(A)およびその他の成分のいずれかを選択して対応する溶媒に溶解または分散させたサイジング剤含有液を用いて炭素繊維をマルチコーティングする方法とが好ましい。本発明では、効果や処理の簡便性の観点から、サイジング剤の全成分を含むサイジング剤含有液で炭素繊維を一度に被覆する一段階塗布をより好ましく採用する。
【0092】
本発明のサイジング剤について、サイジング剤成分を溶媒で希釈して調製したサイジング剤含有液として使用することができる。溶媒の例としては、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等が挙げられる。具体的には、取り扱いやすさや安全性の観点から、界面活性剤で乳化した水性エマルジョンや水溶液が好ましく使用される。
【0093】
本発明の特定の実施形態において、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、単鎖長ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン第二級アルコールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンステロールエーテル、ポリオキシエチレンラノリン誘導体、アルキルフェノールホルマリン縮合物のエチレンオキシド誘導体、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル等のエーテル型界面活性剤、ポリオキシエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヒマシ油、硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル等のエーテルエステル型界面活性剤、およびポリエチレングリコール脂肪酸エステルやポリグリセリン脂肪酸エステル等のエステル型界面活性剤から選択される1種または複数種が組合われた非イオン性界面活性剤であり得る。好ましく用いられる非イオン性界面活性剤としては、アルキレンオキシド(例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシドまたはブチレンオキシド)のフェノール付加物(2個以上のアルキレンオキシド付加物の場合はブロックまたはランダム付加物)であり、当該フェノールは、フェノールのような単環式フェノール(芳香環を1個有するフェノール)、1個以上のアルキル基を有するフェノール、およびフェニルフェノール、クミルフェノール、ベンジルフェノール、ハイドロキノンモノフェニルエーテル、ナフトール、ビスフェノール等の多価フェノールおよび多環式フェノール(2個以上の芳香環を有するフェノール)、単環式フェノールまたは多環式フェノール等とスチレン(スチレンまたはα-メチルスチレン等)等との反応生成物(スチレン化フェノール)等である。それらの中でも、スチレン化フェノールのエチレンオキシド付加物またはプロピレンオキシド付加物を好ましく使用することができる。このようなフェノールにアルキレンオキシドを付加する方法は、任意の通常の方法であればよい。付加モル数が1~120であることが好ましい。より好ましい範囲は10~90であり、特に好ましい範囲は30~80である。
【0094】
また、乳化物をさらに安定化させるために、ノニオン系界面活性剤の他に、カルボン酸塩、スルホン酸塩、硫酸塩、リン酸塩等のアニオン系界面活性剤、脂肪族アミン塩、脂肪酸第4級アンモニウム塩等のカチオン系界面活性剤、またはカルボキシベタイン型、アミノカルボン酸等の両性界面活性剤も使用することができる。
【0095】
サイジング剤含有液は、通常、0.2質量%~20質量%の範囲の濃度でサイジング剤を含有する。
【0096】
炭素繊維にサイジング剤を塗布する方法(炭素繊維をサイジング剤で被覆する方法)の例としては、ローラーを介してサイジング剤含有液に炭素繊維を浸漬する方法、サイジング剤含有液が付着したローラーに炭素繊維を接触させる方法、サイジング剤含有液を炭素繊維に噴霧する方法等が挙げられる。サイジング剤の塗布方法は、バッチ式でも連続式でもよく、生産性がよく、ばらつきが小さいことから、連続式が好ましく採用される。塗布時には、サイジング剤中の有効成分を炭素繊維上に適量で均一に塗布するため、サイジング剤含有液の濃度や温度、糸張力等の条件を制御することが好ましい。サイジング剤を塗布する際、炭素繊維を超音波で振動させることが好ましい。
【0097】
サイジング液による炭素繊維のコーティングの際、溶媒の蒸発によるサイジング剤の濃度変化を抑制するために、サイジング剤含有液は、好ましくは、液温が10~50℃の範囲である。さらに、サイジング剤含有液を塗布した後、余分なサイジング剤含有液を抽出する絞りを調整することで、サイジング剤の付着量を制御し、炭素繊維にサイジング剤を均一に浸透させることができる。
【0098】
サイジング剤を被覆した後、炭素繊維は、好ましくは160~260℃の範囲の温度で30~600秒間加熱される。熱処理条件は、より好ましくは170~250℃の温度で30~500秒間、特に好ましくは180~240℃の温度で30~300秒間である。特定の理論にとらわれることなく、160℃未満および/または30秒未満の条件での熱処理は、例えばサイジング剤中の脂肪族エポキシ化合物を含み得る反応成分(A)と炭素繊維表面の酸素含有官能基との相互作用を促進できず、その結果、炭素繊維とマトリクス樹脂との接着が不十分となる場合がある。あるいは、または加えて、この低い温度では、炭素繊維の乾燥が不十分であったり、溶媒の除去が不十分であったりする場合がある。260℃より高い温度および/または600秒を超える時間条件での熱処理は、サイジング剤の分解および揮発を引き起こす可能性があり、したがって、特定の理論にとらわれることなく、これらの高い温度は、炭素繊維との相互作用を促進することができず、その結果、炭素繊維とマトリクス樹脂との間の接着が不十分になることがある。
【0099】
熱処理は、マイクロ波照射および/または赤外線照射により行うことができる。サイジング剤被覆炭素繊維をマイクロ波照射および/または赤外線照射により加熱処理すると、マイクロ波が炭素繊維に入り込んで炭素繊維によって吸収されるため、被加熱物である炭素繊維を短時間で目的の温度に加熱できる。マイクロ波照射および/または赤外線照射は、炭素繊維の内部を急速に加熱することができる。これにより、炭素繊維束の内側と外側の温度差を小さくすることができ、サイジング剤の付着ムラを低減することができる。
【0100】
本発明において、炭素繊維上のサイジング剤の量は、サイジング剤被覆炭素繊維に対して、好ましくは0.1~10.0質量%、より好ましくは0.2~3.0質量%の範囲である。サイジング剤を0.1質量%以上被覆すると、サイジング剤被覆炭素繊維は、プリプレグ作製時や製織時に炭素繊維が通過する金属ガイド等との摩擦に耐え、毛羽の発生を抑制し、したがって滑らかさ等の品質に優れた炭素繊維シートを製造することができる。サイジング剤の付着量が10.0質量%以下であれば、サイジング剤で被覆された炭素繊維の周囲のサイジング剤の被覆に邪魔されることなく、マトリクス樹脂を炭素繊維に浸潤させることができる。これにより、目的とする複合材料にボイドが発生することがなく、したがって複合材料は、優れた品質と優れた機械的特性を有する。
【0101】
サイジング剤の付着量とは、サイジング剤被覆炭素繊維を約2±0.5g秤量し、窒素雰囲気中で450℃、15分間の熱処理を炭素繊維に対して行い、熱処理前後の質量変化を求め、質量変化を熱処理前の質量で除した値(質量%)である。
【0102】
本発明の特定の実施形態において、炭素繊維上に塗布され、乾燥されたサイジング剤層は、好ましくは、2.0~20nmの範囲の厚さおよび最小厚さの2倍未満の最大厚さを有する。このような均一な厚みを有するサイジング剤層によって、大きな密着性向上効果を安定的に得ることができ、優れた高次加工性を安定的に得ることができる。
被覆方式
ある実施形態において、も反応成分(A)が重合可能な化合物を含む(すなわち、モノマーである)場合、高耐熱性熱硬化性樹脂組成物(B)と反応可能な官能基(i)を有する反応成分(A)を被覆した炭素繊維を加熱してモノマーを重合させて本発明のサイジング剤被覆炭素繊維を得ることができる。具体的には、炭素繊維束にモノマーを被覆することができ、その後、加熱ローラーで炭素繊維束を予備的に乾燥させる。さらに、熱風乾燥機を用いて主乾燥を行い、モノマーを熱重合させる。炭素繊維束にモノマーを被覆した後、加熱ローラーで予備乾燥することで、繊維束の延伸と固定を同時に行うことができる。さらに、主乾燥と熱重合を同時に行うことは、得られる炭素繊維束の柔軟性を保つことができるため好ましい。柔軟性が確保できる場合は、予備乾燥を省略してもよい。
【0103】
本発明のサイジング剤被覆炭素繊維は、例えば、トウ、織物、ニット、組み紐、織布、マット、チョップドストランド等の形状で使用される。特に、高い比強度と比弾性率を必要とする用途には、炭素繊維を一方向に配列して作製したトウが最も好ましく、高耐熱性熱硬化性樹脂組成物(B)をさらに含浸して作製したプリプレグが好ましく使用される。
高耐熱性熱硬化性樹脂組成物(B)
本発明で用いられる高耐熱性熱硬化性樹脂組成物(B)は、エポキシ樹脂以外の少なくとも1つの熱硬化性樹脂から構成される。本発明に用いられる、エポキシ樹脂以外の熱硬化性樹脂の種類は、熱による架橋反応を起こし、少なくとも部分的に三次元架橋構造を形成できるものであれば、特に制限や制約はない。このような熱硬化性樹脂の例としては、不飽和ポリエステル化合物、ビニルエステル化合物、ビスマレイミド化合物、ベンゾオキサジン化合物、フェノール化合物、ウレア化合物、メラミン化合物、熱硬化性ポリイミド化合物があり、さらにこれらの変性化合物およびこれらの2以上のブレンド樹脂が挙げられる。本明細書で使用する「高耐熱性」という用語は、硬化したときにガラス転移温度が220℃以上である樹脂を意味する。
【0104】
硬化樹脂Tg
また、高耐熱性熱硬化性樹脂組成物(B)は、硬化後のガラス転移温度(Tg)が220℃以上である。他の実施形態において、Tgは、好ましくは240℃以上、より好ましくは260℃以上である。Tgは、動的粘弾性測定装置(ARES、TA Instruments社製)を用いて、G’オンセット法(実施例でより詳細に説明)により測定することができる。Tgが220℃以上であれば、本発明のプリプレグから製造されるサイジング剤被覆炭素繊維強化複合材料は、より高温で高い熱性能を発揮する。
【0105】
特定の実施形態では、本発明の効果を損なわない限り、硬化プロファイルは特に限定されない。より高いTgが望まれる場合は、高耐熱性熱硬化性樹脂組成物(B)をより高温で硬化させることができる。
ビスマレイミド樹脂組成物
本発明に係るビスマレイミド樹脂組成物は、ビスマレイミド化合物(B-1)、コモノマー(C)、熱可塑性強靭化剤および樹脂安定剤を含むことができる。ビスマレイミド化合物(B-1)の組み合わせは、共融混合物であることが好ましいが、必ずしもそうでなくてもよい。共融混合物とは、混合物の融点が最低でも個々のビスマレイミド化合物(B-1)の融点未満のものである。共融混合物には、数種類のビスマレイミド化合物(B-1)が存在する場合がある。ある実施形態において、ビスマレイミド化合物(B-1)の数は3とする。ビスマレイミド化合物(B-1)の組み合わせは、硬化後に非晶質のプリプレグマトリクス樹脂を提供するために選択される。「非晶質」とは、ビスマレイミド樹脂組成物の結晶性が5%未満であることを意味する。ビスマレイミド樹脂組成物は、少なくとも97%上が非晶質(すなわち、3%を超えないの結晶)であることが好ましい。さらに好ましくは、少なくとも99%が非晶質である(すなわち、結晶が1%を超えない)混合物である。樹脂の結晶化の程度は、当該技術分野でよく知られている走査型示差熱量測定等の通常の測定によって求められる。
ビスマレイミド化合物(B-1)
本発明で用いられるビスマレイミド化合物(B-1)は、公知のビスマレイミド化合物のいずれかを含む。ビスマレイミド化合物(B-1)は、典型的には、無水マレイン酸または置換無水マレイン酸と芳香族および/または脂肪族ジアミンを反応させることにより調製される。例示的なビスマレイミドとしては、N,N’-4,4’-ジフェニルメタン-ビスマレイミド、N,N’-2,4-トルエン-ビスマレイミド、N,N’-2,6-トルエン-ビスマレイミド、N,N’-2,2,4-トリメチルヘキサン-ビスマレイミド、N,N’-エチレン-ビス-マレイミド、N,N’-エチレン-ビス(2-メチル)マレイミド、N,N’-トリメチレン-ビス-マレイミド、N,N’-テトラメチレン-ビス-マレイミド、N,N’-ヘキサメチレン-ビスマレイミド、N,N’-1,4-シクロヘキシレン-ビスマレイミド、N,N’-メタ-フェニレン-ビスマレイミド、N,N’-パラ-フェニレン-ビスマレイミド、N,N’-4,4’-3,3’-ジクロロジフェニルメタン-ビスマレイミド、N,N’-4,4’-ジフェニルエ―テル-ビスマレイミド、N,N’-4,4’-ジフェニルスルホン-ビスマレイミド、N,N’-4,4’-ジシクロヘキシルメタン-ビスマレイミド、N,N’-α,α’-4,4’-ジメチレンシクロヘキサン-ビスマレイミド、N,N’-メタキシレン-ビスマレイミド、N,N’-パラキシレン-ビスマレイミド、N,N’-4,4’-ジフェニルシクロヘキサン-ビスマレイミド、N,N’-メタフェニル-ビステトラヒドフタルイミド、N,N’-4,4’-ジフェニルメタン-ビスシトラコンイミド、N,N’-4,4’-2,2-ジフェニルプロパン-ビスマレイミド、N,N’-4,4-1,1-ジフェニルプロパン-ビスマレイミド、N,N’-4,4’-トリフェニルメタン-ビスマレイミド、N,N’-α,α-1,3-ジプロピレン-5,5-ジメチルヒダントイン-ビスマレイミド、N,N’-4,4’-(1,1,1-トリフェニルエタン)-ビス-マレイミド、N,N’-3,5-トリアゾール-1,2,4-ビス-マレイミド、N,N’-4,4’-ジフェニルメタン-ビス-イタコンイミド、N,N’-パラフェニレン-ビス-イタコンイミド、N,N’-4,4’-ジフェニルメタン-ビス-ジメチル-マレイミド、N,N’-4,4’-2,2-ジフェニルプロパン-ビスジメチル-マレイミド;N,N’-ヘキサメチレン-ビスジメチル-マレイミド、N,N’-4,4’-(ジフェニルエーテル)-ビスジメチル-マレイミド、N,N’-4,4’-ジフェニルスルフォン-ビスジメチルマレイミド、N,N’-(オキシジパラ-フェニレン)ビス-マレイミド.N,N’-(オキシジパラフェニレン)-ビス-(2-メチルマレイミド)、N,N’-(メチレンジパラフェニレン)-ビス-マレイミド、N,N’-(メチレンジパラフェニレン)-ビス-(2-メチルマレイミド)、N,N’(メチレンジパラフェニレン)-ビス-(2-フェニルマレイミド)、N,N’-(スルホニルジパラフェニレン)-ビスマレイミド、N,N’-(チオジパラフェニレン)-ビスマレイミド、N,N’-(ジチオジパラフェニレン)-ビスマレイミド、N,N’-(スルホニルジメタフェニレン)-ビスマレイミド、N,N’-(オルト,パライソプロピリデンジフェニレン)-ビスマレイミド、N,N’-(イソプロピリデンジパラフェニレン)-ビスマレイミド、N,N’-(オルト,パラシクロヘキシリデンジフェニレン)-ビスマレイミド、N,N’-(シクロヘキシリデンジパラフェニレン)-ビスマレイミド、N,N’-(エチレン-パラ-フェニレン)-ビスマレイミド、N,N’-(4,4’’-パラ-トリフェニレン)-ビス-マレイミド、N,N’-(パラ-フェニレンジオキシ-パラ-フェニレン)-ビス-マレイミド、N,N’-(メチレン ジ-パラ-フェニレン)-ビス-(2,3-ジクロロマレイミド)、N,N’-(オキシ-パラ-フェニレン)-ビス-(2-クロロマレイミド)、およびこれらの混合物が挙げられる。
【0106】
ビスマレイミド樹脂組成物とするために使用される3種類以上のビスマレイミド化合物の具体的な組み合わせは、コモノマー(C)、(任意)熱可塑性強靭化剤および(任意)樹脂分布安定剤を加えた後に、プリプレグ樹脂としての使用に必要な柔軟性やタックおよび硬化特性を有する非晶質、好ましくは共融の混合物を提供することを条件に、様々に広く変化してもよい。
【0107】
3種類以上のビスマレイミドの適切な混合物は、市販されている。例えば、Compimide(登録商標)353Aは、Evonik Industries AGから入手可能なN,N’-4,4’-ジフェニルメタン-ビスマレイミド、N,N’-2,4-トルエン-ビスマレイミド、N,N’-2,2,4-トリメチルヘキサン-ビスマレイミドの混合物である。Compimide(登録商標)353Aは、ビスマレイミドモノマーの好ましい共融混合物である。
コモノマー(C)
本発明で用いられるコモノマー(C)は、ビスマレイミドに通常組み合わされるコモノマーのいずれかを含む。コモノマーとしては、例えば、ジアミン、ポリアミン、およびアルケニルフェノールやアルケニルフェノキシエーテル等のアルケニル芳香族化合物が挙げられる。好ましいコモノマーは、アルケニルフェノール、例えば、アリル、メタリルおよびプロペニルフェノールである。具体的な例としては、米国特許第4,100,140号に開示されているo,o’-ジアリルビスフェノールA、オイゲノール、オイゲノールメチルエーテル、ならびに類似した化合物等が挙げられ、その内容は、すべての目的のために本明細書に組み込まれる。特に好ましいコモノマーは、o,o’-ジアリルビスフェノールAおよびo,o’-ジプロペニルビスフェノールAである。Compimide(登録商標)TM124は、Evonik Industries AGから入手できる市販の共硬化剤であり、o,o’-ジアリルビスフェノールAを含む。
【0108】
ある実施形態において、コモノマー(C)は、少なくとも1個のビニル基と、水酸基およびチオール基から選択される少なくとも1個の基とを有する。理論にとらわれることなく、少なくとも1個のビニル基と、水酸基およびチオール基から選択される少なくとも1個の基を有するコモノマー(C)は、ILSS等の密着性を向上させると考えられる。
【0109】
本発明の別の実施形態では、[(C)/(B-1)]で定義されるコモノマー(C)とビスマレイミド化合物(B-1)のモル比は、0.2~0.8とすることができる。一実施形態において、モル比(C)/(B-1)の下限は、0.2以上、0.21以上、0.22以上、0.23以上、0.24以上、0.25以上、0.26以上、0.27以上、0.28以上、0.29以上、または0.3以上である。さらに、[C]/[B-1])のモル比の上限は、0.80以下、0.79以下、0.78以下、0.77以下、0.76以下、0.75以下、0.74以下、0.73以下、0.72以下、0.71以下、0.70以下、0.69以下、0.68以下、0.67以下、0.66以下、0.65以下、0.64以下、0.63以下、0.62以下、0.61以下、0.60以下、0.59以下、0.58以下、0.57以下、0.56以下、0.55以下、0.54以下、0.53以下、0.52以下、0.51以下、0.50以下、0.49以下、0.48以下、0.47以下、0.46以下、0.45以下、0.44以下、または0.43以下である。この範囲であれば、ビスマレイミド樹脂組成物は、Tgが220℃以上となる。
【0110】
本発明の他の実施形態では、コモノマー(C)とビスマレイミド化合物(B-1)とのモル比は、ILSS等の接着性を向上させる観点から、[(C)/(B-1)]は、0.45以下である。一実施形態において、モル比は、0.44以下、0.43以下、0.42以下、0.41以下、0.40以下、0.39以下、0.38以下、37以下、0.36以下、0.35以下、0.34以下、0.33以下、0.32以下、0.31以下、0.30以下、0.29以下、0.28以下、27以下、0.26以下、0.25以下、0.24以下、0.23以下、0.22以下、または0.21以下である。
【0111】
本発明の別の実施形態において、(C)/(B-1)]で定義されるコモノマー(C)とビスマレイミド化合物(B-1)とのモル比は、TgおよびILSS TOS等の密着性向上の観点から、0.20超である。一実施形態では、モル比は0.25超、または0.30超である。
【0112】
本発明者らは、いくつかの実施形態において、これらの比率が、ASTM D2344M-16に従って測定される熱処理後の層間せん断強度ILSS RTAが少なくとも14ksiである最終硬化複合体を提供し得ることを見出した。他の実施形態によれば、これらの比率は、熱処理後のASTM D2344M-16に従った層間せん断強度ILSS TOSが少なくとも12ksiを有する硬化複合体を提供し得る。さらに別の実施形態によれば、硬化した複合体は、熱処理後のASTM-D2344M-16による、80%の層間せん断強度ILSS TOS/ILSS RTAの比を有することができる。ASTM-D2344M-16に従ったこれらの測定の詳細は、本明細書の実施例に記載されている。
【0113】
いくつかの実施形態によれば、コモノマー(C)とビスマレイミド化合物(B-1)のモル比[(C)/(B-1)]は、0.20~0.45、0.25~0.40、または0.30~0.35であってもよい。
ベンゾオキサジン樹脂組成物
本発明に係るベンゾオキサジン樹脂組成物は、公知のビスマレイミド化合物のいずれかを含む。ある実施形態において、ベンゾオキサジン樹脂組成物は、少なくとも1つのベンゾオキサジン化合物(B-2)および特定の構造的特徴を有する少なくとも1つのエポキシ樹脂を混合することにより形成される。
ベンゾオキサジン化合物(B-2)
本発明で用いられるベンゾオキサジン化合物(B-2)は、公知のベンゾオキサジン化合物のいずれかを含む。ある実施形態において、ベンゾオキサジン化合物(B-2)は、下記一般式(III)で表される2個以上の構造単位を含む少なくとも1つの多官能ベンゾオキサジン樹脂を含む、から本質的になる、またはからなる。
【0114】
【化3】
【0115】
式(III)において、Rは炭素数1~12の直鎖アルキル基、炭素数3~8の環状アルキル基、フェニル基、または炭素数1~12の直鎖アルキル基もしくはハロゲンで置換されたフェニル基を示し、芳香環酸素原子が結合した炭素原子に対してオルト位およびパラ位の炭素原子の少なくとも1個に水素が結合している。
【0116】
上記一般式(III)で表される構造単位において、Rの非限定的な例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、フェニル基、o-メチルフェニル基.m-メチルフェニル基、p-メチルフェニル基、o-エチルフェニル基、m-エチルフェニル基、p-エチルフェニル基、o-t-ブチルフェニル基、m-t-ブチルフェニル基、p-t-ブチルフェニル基、o-クロロフェニル基、o-ブロモフェニル基、ジシクロペンタジエン基、またはベンゾフラノン基等が挙げられる。これらの基のうち、メチル基、エチル基、プロピル基、フェニル基、またはo-メチルフェニル基の存在は、好ましい取り扱い性に寄与するため、これらの基を使用することは好ましい。
【0117】
構造式(III)で表される構造単位は、直接(例えば、ベンゼン環を結ぶ単結合によって)またはリンカー基、特に-CH-、-C(CH-、カルボニル、-S-、-SO-、-O-、または-CH(CH)-等の二価のリンカー基を介して連結されていてもよい。このような二価のリンカー基は、式(III)の1個の構造単位のベンゼン環の炭素原子と、式(III)の別の構造単位のベンゼン環の炭素原子とに結合し得る。また、構造式(III)の構造単位が、Lが二価のリンカー基であり、各Nがオキサジン環の一部である一般式N-L-Nに相当する二価のリンカー基により、かかる構造単位の窒素原子を介して(R置換基が関与)連結することができる。例えば、このようなリンカー基は、-Ar-CH-Ar-であってもよい。ここで、Arはベンゼン環である(下記構造式(IIIB)および構造式(XV)に例示されるとおり)。他の適切なリンカー基には、-Ar-、-Ar-S-Ar-、-Ar-O-Ar-があり、ここでArはベンゼン環である。
【0118】
本発明の使用に好適なさらなる2官能性ベンゾオキサジン樹脂としては、例えば、下記式(IA)および式(IIIB)で表されるものが挙げられる。
【0119】
【化4】
【0120】
Yは、直接結合、-C(R)(R)-、-C(R)(アリール)-、-C(=O)-、-S-、-O-、-S(=O)-、-S(=O)-、二価の複素環(例えば、3,3-イソベンゾフラン-1(3h)-オン)、および-[C(R)(R)]-アリーレン-[C(R)(R)]-から選択され、またはベンゾオキサジン部分の2個のベンジル環は融合していてもよい。
【0121】
式(IIIA)中のR およびRは、アルキル(例えば、C1-8アルキル)、シクロアルキル(例えば、C5-7シクロアルキル、好ましくはCシクロアルキル)およびアリールから独立して選択され、ここで、シクロアルキルおよびアリール基は、例えばC1-8アルキル、ハロゲンおよびアミン基によって置換されていてもよく、置換される場合、1個以上の置換基(好ましくは1個の置換基)はそれぞれのシクロアルキルおよびアリール基上で存在していてもよい。式(IIIB)中のR およびRは、同じ基から独立して選択されてもよいが、さらに、水素であってもよい。
【0122】
、R、R、およびR は、H、C1-8アルキル(好ましくはC1-4アルキル、好ましくはメチル)、およびハロゲン化アルキル(ここで、ハロゲンは典型的には塩素またはフッ素)から独立して選択され、xおよびyは独立して0または1である。アリーレン基が存在する場合、そのアリーレン基は、好ましくはフェニレンである。一実施形態において、フェニレン基に結合した基は、互いに相対的にパラ位またはメタ位に構成され得る。アリール基が存在する場合、そのアリール基は好ましくはフェニルである。
【0123】
基Yは、直鎖状であっても非直鎖状であってもよく、典型的には直鎖状である。基Yは、式(IIIA)に示すように、ベンゾオキサジン部分の酸素原子に対してパラ位でベンゾオキサジン部分の各々のベンジル基に結合していることが好ましく、これが好ましい異性体配置となる。ただし、基Yは、2官能性ベンゾオキサジン化合物中のベンジル基の一方または両方において、メタ位またはオルト位のいずれかに結合していてもよい。したがって、基Yは、パラ/パラ、パラ/メタ、パラ/オルト、メタ/メタ、またはオルト/メタの配置で、ベンジル環に結合することができる。
【0124】
別の実施形態では、式(IIIA)に対応する2官能性ベンゾオキサジン樹脂は、RおよびRがアリールから独立して選択される化合物から選択され、好ましくはフェニルである。一実施形態において、アリール基は置換されていてもよく、好ましくは、置換基(複数可)がC1-8アルキルから選択され、また、好ましくは、少なくとも1個のアリール基上に単一の置換基が存在する。C1-8アルキルには、直鎖および分岐のアルキル鎖が含まれる。好ましくは、RおよびR は、式(IIIA)において、非置換のアリール、好ましくは非置換のフェニルから独立して選択される。
【0125】
本明細書において式(IIIA)として定義される2官能性ベンゾオキサジン樹脂の各ベンゾオキサジン基におけるベンジル環は、各環の3つの利用可能な位置のいずれかで独立して置換されていてもよく、典型的には、任意のいずれかの置換基がY基の結合位置に対してオルト位に存在する。しかし、好ましくは、ベンジル環は無置換のままである。
【0126】
好適な3官能性ベンゾオキサジン樹脂は、芳香族トリアミンとフェノール(1価または多価)を、ホルムアルデヒド等のアルデヒドまたはその原料もしくはその等価物の存在下で反応させることにより調製することができる化合物を含む。
【0127】
本開示において、多官能ベンゾオキサジン化合物(B-2)として、下記構造式(III)~(XIV)で表される少なくとも1つのモノマーを用いることが好ましい。
【0128】
【化5】
【0129】
【化6】
【0130】
【化7】
【0131】
本発明の特定の実施形態において、ベンゾオキサジン樹脂組成物は、少なくとも1つの多官能ベンゾオキサジン化合物(B-2)を含む(またはから本質的になる、またはからなる)ことが好ましく、モノマー単独で構成されていても、複数の分子が重合したオリゴマーの形態を有していてもよい。また、構造の異なる多官能ベンゾオキサジン化合物(B-2)を併用してもよい(すなわち、ベンゾオキサジン樹脂組成物は、2以上の多官能ベンゾオキサジン化合物(B-2)を含んでもよい)。
【0132】
ベンゾオキサジン化合物(B-2)は、四国化成、小西化学工業、Huntsman Advanced Materials等、多くの供給元から調達することができる。これらの供給元のうち、四国化成は、ビスフェノールA-アニリン型ベンゾオキサジン化合物、ビスフェノールAメチルアミン型ベンゾオキサジン化合物、ビスフェノールFアニリン型ベンゾオキサジン化合物を供給している。多官能ベンゾオキサジン化合物は、市販の原料を用いずに、必要に応じて、フェノール化合物(例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、チオジフェノール)とアルデヒドとアリールアミンを反応させることによって調製することができる。詳細な調製方法は、米国特許第5,543,516号、第4,607,091号(Schreiber)、米国特許第5,021,484号(Schreiber)、および米国特許第5,200,452号(Schreiber)に見出すことができる。
エポキシ樹脂とベンゾオキサジン化合物(B-2)の混合
本発明において、ベンゾオキサジン化合物(B-2)と混合し得るエポキシ樹脂とは、分子内に少なくとも2個の1,2-エポキシ基を有するエポキシ化合物、すなわちエポキシ官能基に関して少なくとも2官能であるエポキシ化合物を意味する。
【0133】
本発明の特定の実施形態では、エポキシ樹脂は、式(XVI)で表される少なくとも1個のシクロ脂肪族エポキシ樹脂を含み、式中、R およびR は同一または異なり、それぞれ、エポキシ基の炭素原子と一緒に少なくとも1個の脂肪族環(特定の場合には、二環式脂肪族環が形成される)を形成する脂肪族部分であり、Xは単結合を表すか、45g/モル未満の分子量を有する二価の部分である。他の実施形態では、Xは式(XVI)において存在せず、シクロ脂肪族エポキシ樹脂は、ジシクロペンタジエンジエポキシドにおけるような、RおよびRを含む縮合環系を含む。
【0134】
【化8】
【0135】
ここで、シクロ脂肪族エポキシ樹脂とは、1,2-エポキシシクロアルカン構造部分が少なくとも2個存在するエポキシ樹脂(ここで、当該部分はそれぞれ、脂肪族環の一部である隣接する2個の炭素原子が、それぞれ同じ酸素原子に結合してエポキシ環の一部にもなっている脂肪族環)を意味する。前述のように、シクロ脂肪族エポキシ樹脂は、樹脂組成物の粘度を下げることができるので、有用である。しかし、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート等の代表的なシクロ脂肪族エポキシは、硬化物のガラス転移温度や弾性率を下げることもある。この問題を解決するために、1,2-エポキシシクロアルカン基間の結合がより短く、より剛性の高い、または縮合環系を含むシクロ脂肪族エポキシが本発明で採用される。
【0136】
二価の部分が45g/モル未満の分子量を有する、1,2-エポキシシクロアルカン基間の、より短く、より剛性な連結の例は、酸素(X=-O-)、硫黄(X=-S-)、アルキレン(例えば、X=-CH-、-CHCH-,-CHCHCH-,-CHCH(CH)-,もしくは-C(CH-)、エーテル含有部分(例えば、X=-CHOCH-)、カルボニル含有部分(例えば、X=-C(=O)-)、またはオキシラン環含有部分(例えば、X=-CH-O-CH-、ここで、単結合が2個の炭素原子間に存在し、それによって酸素原子と2個の炭素原子を含む3員環を形成する)である。
【0137】
特定の実施形態では、式(XVI)中のXは存在せず、このことはR、Rが縮合環系の一部であることを意味する。ジシクロペンタジエンジオキシドは、R、Rが縮合環系の一部であるシクロ脂肪族エポキシ樹脂の一例である。他の実施形態において、式(XVI)中のXは、RおよびRを含む環状基を連結する単結合である。
【0138】
このようなシクロ脂肪族エポキシ樹脂に存在するシクロアルカン基は、例えば、単環式または二環式(例えば、ノルボルナン基)であってもよい。好適な単環式シクロアルカン基の例としては、シクロヘキサン基およびシクロペンタン基が挙げられるが、これらに限定されるものではない。このようなシクロアルカン基は、(例えば、アルキル基で)置換されていてもよいし、好ましくは、無置換である。Xが単結合または45g/モル未満の分子量を有する二価の部分である場合、かかるシクロヘキサンおよびシクロペンタン環上のエポキシ基は、環上の2,3位または3,4位に存在し得る。
【0139】
前述の単結合を有するシクロ脂肪族エポキシ、分子量が45g/モル未満の二価の部分、または縮合環系を採用すると、分子の剛性が硬化物の弾性率を高めるため有利である。さらに、先に述べた条件を満たすと共に樹脂製剤の他の成分と共有結合を形成することができる二価の部分(例えば、Xがオキシラン環含有部分)を含むことは、架橋密度を高めることで硬化物のガラス転移温度と弾性率の両方を改善することができるので有利である。
【0140】
本発明に用いられるシクロ脂肪族エポキシ樹脂の具体的な例示的な例としては、ビス(ここで、3,4-エポキシシクロヘキシル)(Yが単結合の場合、3,4,3’,4’-ジエポキシビシクロヘキシルとも称される)、ビス[(3,4-エポキシシクロヘキシル)エーテル](ここで、Yは酸素原子である)、ビス[(3,4-エポキシシクロヘキシル)オキシラン](ここで、Yはオキシラン環、-CH-O-CH-である)、ビス[(3,4-エポキシシクロヘキシル)メタン](ここで、Yはメチレン、CH)、2,2-ビス(3,4-エポキシシクロヘキシル)プロパン(ここで、Yは-C(CH-)等、およびこれらの組み合わせが挙げられる。さらに、ビス(3,4-エポキシシクロペンチル)、ビス(3,4-エポキシシクロペンチル)エーテル、3,4-エポキシシクロペンチル-3,4-エポキシシクロヘキシル等の前述のモノマーのモノおよびビシクロペンタン置換体を用いることができる。
熱可塑性物質
本発明の特定の実施形態では、硬化物の特性を高め、硬化時の最低粘度を高めて加工特性を改善するために、上記の高耐熱性熱硬化性樹脂組成物に少なくとも1つの熱可塑性化合物を混合または溶解することも望ましい可能性がある。一般的には、熱可塑性化合物(ポリマー)の主鎖に、炭素-炭素結合、アミド結合、イミド結合、エステル結合、エーテル結合、炭酸結合、ウレタン結合、チオエーテル結合、スルホン結合および/またはカルボニル結合からなる群から選択される結合を有する熱可塑性化合物(ポリマー)が好ましい。さらに、熱可塑性化合物は、部分的に架橋構造を有することもでき、結晶性であっても非晶質であってもよい。特に、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレート、ポリエステル、ポリアミドイミド、ポリイミド(フェニルトリメチルインダンまたはフェニルインダン構造を有するポリイミドを含む)、ポリエーテルイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアラミド、ポリエーテルニトリルおよびポリベンゾイミダゾールからなる群から選択される少なくとも1つの熱可塑性化合物が高耐熱性熱硬化性マトリクス樹脂組成物(B)に混合または溶解されることが好適または好ましい。ポリイミド系熱可塑性化合物の場合、熱可塑性化合物の骨格は、さらにフェニルトリメチルインダンまたはフェニルインダン単位を含むことができる。
【0141】
本発明の特定の実施形態では、好ましい耐熱性が得られるためには、熱可塑性物質のガラス転移温度(Tg)は150℃以上であり、170℃以上が好ましく、200℃以上がより好ましく、220℃以上が特に好ましい。配合する熱可塑性物質のガラス転移温度が150℃未満であると、得られる成形品が使用中に熱変形する。高耐熱性や高耐溶媒性を発現させる観点、あるいは溶解性や接着性等高耐熱性熱硬化性樹脂組成物に対する親和性の観点から、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリイミド(フェニルトリメチルインダンやフェニルインダン構造を有するポリイミドを含む)、ポリエーテルイミドを用いることが好ましい。
【0142】
好適なスルホン系熱可塑性化合物の具体例としては、ポリエーテルスルホンおよび米国特許出願公開第2004/044141 A1号(その内容はあらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる)に記載のポリエーテルスルホン-ポリエーテルエーテルスルホンコポリマーオリゴマーが挙げられるが、それらに限定されるものではない。好適なイミド系熱可塑性化合物の具体例としては、ポリイミド、および米国特許第3856752号に記載されているポリイミド-フェニルトリメチルインダンオリゴマー(その内容は、あらゆる目的のために参照により本書に組み込まれる)があるが、それらに限定されるものではない。
【0143】
本明細書で使用する場合、オリゴマーという用語は、約10~約100個に限定されたモノマー分子が互いに結合している比較的低分子量のポリマーを意味する。実施形態において、熱可塑性化合物は、オリゴマーである。
【0144】
熱可塑性化合物の分子量は、好ましくは重量平均分子量で150000g/モル以下である。より好ましくは、重量平均分子量で7000~150000g/モルである。重量平均分子量は、後述するゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定する。7000g/モル未満であると、物性改善効果が小さく、高耐熱性熱硬化性樹脂組成物の耐熱性が損なわれる。熱可塑性化合物のMwが150000g/モルより大きいと、高耐熱性熱硬化性樹脂組成物との相性が悪くなり、硬化性または硬化した高耐熱性熱硬化性樹脂組成物やサイジング剤被覆炭素繊維強化複合材料において物性の向上が得られない。また、溶解すると少量配合でも粘度が高くなりすぎ、プリプレグを製造する際にタック性、ドレープ性が低下する。重量平均分子量が7000~150000g/モルの熱可塑性物質を用いた場合、高耐熱性熱硬化性樹脂組成物との相性が向上し、高耐熱性熱硬化性樹脂組成物の耐熱性を損なわずに物性が向上する効果がある。また、プリプレグを製造する際に、適切なタック性、ドレープ性を付与する。
【0145】
本発明に用いられる成分の重量平均分子量および数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、「GPC」)により求めることができる。モノマーの数平均分子量は、モノマー単位1個の分子量に相当する。重量平均分子量および数平均分子量の測定方法の例としては、Shodex80M(登録商標)[カラム](昭和電工製)2本とShodex802(登録商標)[カラム](昭和電工製)1本を用い、試料0.3μLを注入し、流速1mL/minで測定した試料の保持時間を、ポリスチレンで構成される校正試料の保持時間を利用して分子量換算する方法等が挙げられる。液体クロマトグラフィーで複数のピークが観測される場合は、あらかじめ液体クロマトグラフィーで目的成分を分離し、各成分をGPCにかけた後、分子量換算する。
【0146】
高耐熱性熱硬化性樹脂組成物は、熱可塑性化合物を含有する必要はないが、本発明の種々の実施形態において、高耐熱性熱硬化性樹脂組成物は、熱可塑性化合物を少なくとも1、少なくとも5、または少なくとも10重量部から構成される。例えば、高耐熱性熱硬化性樹脂組成物は、高耐熱性熱硬化性樹脂組成物の全量100重量部に対して、熱可塑性化合物を5~30重量部から構成され得る。
その他の添加物
特定の実施形態において、高耐熱性熱硬化性樹脂組成物(B)は、1または複数種類のさらなる添加剤を追加的に含む、から追加的に本質的になる、または追加的になる。このような好適な追加添加剤の例としては、強靭化剤、促進剤、補強剤、充填剤、接着促進剤、難燃剤、チキソトロピー剤、およびそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
プリプレグ
プリプレグの製造
次に、本発明におけるプリプレグおよびサイジング剤被覆炭素繊維強化複合材料について説明する。
【0147】
本発明において、プリプレグは、上記のサイジング剤被覆炭素繊維または上記の方法で製造されたサイジング剤被覆炭素繊維と高耐熱性熱硬化性樹脂組成物(B)とを含む。
【0148】
本発明のプリプレグは、サイジング剤被覆炭素繊維束に、マトリクス樹脂として高耐熱性熱硬化性樹脂組成物(B)を含浸させることにより調製する。プリプレグは、例えば、マトリクス樹脂をメチルエチルケトンやメタノール等の溶媒に溶解して粘度を下げ、その溶液を炭素繊維束に含浸させる湿式法、マトリクス樹脂を加熱して粘度を下げ、炭素繊維束に含浸させる熱溶融法等で調製することができる。
【0149】
湿式法では、サイジング剤被覆炭素繊維束をマトリクス樹脂を含む溶液に浸漬し、炭素繊維束を引き上げ、オーブンまたは他の設備で溶媒を蒸発させて調製する。
【0150】
熱溶融法では、熱により粘度が低下したマトリクス樹脂をサイジング剤被覆炭素繊維束に直接含浸させる方法や、マトリクス樹脂組成物の塗膜を一旦離型紙等に作成し、次にサイジング剤被覆炭素繊維束の各面または片面に重ね合わせ、熱と圧力を加えてサイジング剤被覆炭素繊維束にマトリクス樹脂を含浸する方法によって、プリプレグが調製される。プリプレグに溶媒が残らないため、ホットメルト方式が好ましい。
【0151】
プリプレグのサイジング剤被覆炭素繊維断面密度は、50~1000g/mであってよい。断面密度が少なくとも50g/mであれば、サイジング剤被覆炭素繊維強化複合材料を成形する際に、所定の厚みを確保するために少数のプリプレグを積層する要求がある場合があり、積層作業の簡略化を図ることができる。一方、断面密度が1000g/m以下であれば、プリプレグのドレープ性が良好となり得る。プリプレグのサイジング剤被覆炭素繊維質量分率は、いくつかの実施形態では40~90質量%、他の実施形態では50~85質量%、さらに他の実施形態では60~80質量%でよい。サイジング剤被覆炭素繊維質量分率が少なくとも40質量%であれば、繊維含有量が十分であり、サイジング剤被覆炭素繊維強化複合材料が比強度や比弾性率に優れるという利点が得られると共に、サイジング剤被覆炭素繊維強化複合材料が硬化時間中に過剰に発熱することを防止することができる。サイジング剤被覆炭素繊維の質量分率が90質量%以下であれば、サイジング剤被覆炭素繊維強化複合材料に多数のボイドが発生するリスクを低減し、樹脂への含浸性を満足することができる。
【0152】
本発明のプリプレグを用いてサイジング剤被覆炭素繊維強化複合材料を形成する方法としては、プリプレグを積層し、積層体に圧力を加えながらマトリクス樹脂を熱硬化させる方法が例示される。
【0153】
プリプレグを積層して成形する方法において、熱や圧力を加えるには、プレス成形法、オートクレーブ成形法、バッギング成形法、ラッピングテープ法、内圧成形法等を適宜使用することができる。
【0154】
オートクレーブ成形は、プリプレグを所定形状のツールプレート上に積層し、バギングフィルムで覆った後、熱と圧力を加えて積層体から空気を抜きながら硬化させる方法である。繊維の配向を精密に制御することができ、また、ボイドの含有量が少ないため、機械的特性に優れた高品質の成形材料を提供することができる。成形プロセス時にかかる圧力は0.3~1.0MPa、成形温度は90~300℃の範囲でよい。本発明の硬化したベンゾオキサジン樹脂組成物の例外的に高いTgのために、プリプレグの硬化を比較的高い温度(例えば、少なくとも180℃、または少なくとも200℃の温度)で実施することが有利であり得る。例えば、成形温度は200℃~275℃であってもよい。あるいは、プリプレグは、やや低い温度(例えば、90℃~200℃)で成形し、脱型し、金型から取り出した後に、より高い温度(例えば、200~275℃)でポストキュアを行ってもよい。
【0155】
ラッピングテープ法は、プリプレグをマンドレル等の他の芯棒に巻き付けて、筒状のサイジング剤被覆炭素繊維強化複合材料を形成する方法である。この方法は、ゴルフシャフトや釣り竿等の棒状製品の製造に利用することができる。具体的には、マンドレルにプリプレグを巻き付け、プリプレグに熱可塑性フィルムから作製したラッピングテープを巻き付け、プリプレグの固定と加圧を目的としたテンションをかけることを含む。オーブン内で加熱して樹脂を硬化させた後、芯棒を除去して筒状体を得る。ラッピングテープを巻き付ける際の張力は20~100N、成形温度は80~300℃の範囲でよい。
【0156】
内圧成形法とは、熱可塑性樹脂チューブ等他の内圧アプリケーターにプリプレグを巻き付けて得たプリフォームを金型内にセットし、内圧アプリケーターに高圧ガスを導入して圧力をかけ、同時に金型を加熱してプリプレグを成形する方法である。ゴルフのシャフトやバット、テニスやバドミントンのラケット等、複雑な形状の物体を成形する際に利用できる。成形工程時にかかる圧力は、0.1~2.0MPaとすることができる。成形温度は、室温から300℃の範囲、または180~275℃の範囲でもよい。
【0157】
本発明のプリプレグから製造されるサイジング剤被覆炭素繊維強化複合材料は、上述したように、クラスA表面を有することができる。「クラスA表面」とは、審美的に傷や欠陥がなく、極めて高い仕上げ品質特性を示す表面を意味する。
【0158】
本発明の実施形態に係る硬化性高耐熱性熱硬化性樹脂組成物(B)を硬化させて得られる硬化高耐熱性熱硬化性樹脂組成物(B)と、サイジング剤被覆炭素繊維とを含むサイジング剤被覆炭素繊維強化複合材料は、スポーツ用途、一般産業用途、航空・宇宙用途に有利に用いられる。これらの材料が有利に使用されるスポーツ用途としては、ゴルフシャフト、釣り竿、テニスまたはバドミントンラケット、ホッケースティック、スキーポール等が挙げられる。これらの材料が有利に使用される一般産業用途としては、自動車、自転車、船舶、鉄道車両等の車両構造材、ドライブシャフト、リーフスプリング、風車ブレード、圧力容器、フライホイール、製紙ローラー、屋根材、ケーブル、補修・補強材等が挙げられる。
【0159】
本明細書において、実施形態は、明確かつ簡潔な明細書を書くことを可能にする方法で説明されたが、実施形態は、本発明から逸脱することなく様々に組み合わせたり分離したりできることが意図され、また理解されるであろう。例えば、本明細書に記載される好ましい特徴はすべて、本明細書に記載される発明のすべての態様に適用可能であることが理解されるであろう。
【0160】
いくつかの実施形態において、本明細書の発明は、組成物または工程の基本的かつ新規な特性に重大な影響を与えない任意の要素または工程ステップを除外すると解釈することができる。さらに、いくつかの実施形態において、本発明が、本明細書で規定されていない任意の要素または工程ステップを除外すると解釈することができる。
【0161】
本発明は、特定の実施形態と関連して本明細書に図示および記載されているが、本発明は、示された詳細に限定されることを意図するものではない。むしろ、特許請求の範囲および均等物の範囲内で、本発明を逸脱することなく、細部に様々な変更を加えることができる。
【0162】
本発明は、以下の非限定的な態様に従って要約され得る。
態様1 サイジング剤被覆炭素繊維と、サイジング剤被覆炭素繊維間に含浸された熱硬化性樹脂組成物(B)とを含むプリプレグであって、
前記サイジング剤が、分子あたり少なくとも3個の反応性基を含む反応成分(A)を含み、前記反応性基は
【0163】
(i)前記熱硬化性樹脂組成物(B)と反応可能な2個以上の第1官能基、および
【0164】
(ii)前記2個以上の第1官能基(i)とは異なる少なくとも1個の第2官能基であり、前記第2官能基は、アミド、イミド、ウレタン、ウレア、カルボニル、エステル、スルホニル、芳香環、またはそれらの組み合わせのうちの少なくとも1個を含み、
前記熱硬化性樹脂組成物(B)は、エポキシ樹脂以外の少なくとも1つの熱硬化性樹脂を含み、硬化後に220℃以上のガラス転移温度を有する、プリプレグ。
【0165】
態様2 前記官能基(i)が、エポキシ基、ビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、またはそれらの組み合わせのうちの少なくとも1個を含む、態様1に記載のプリプレグ。
【0166】
態様3 前記成分(A)が、前記第2官能基(ii)としてウレタン基を有する、態様1または態様2に記載のプリプレグ。
【0167】
態様4 前記成分(A)が、3個以上の前記官能基(i)を含む、態様1~3のいずれかに記載のプリプレグ。
【0168】
態様5 前記成分(A)が、前記官能基(ii)として芳香環構造を有する、態様1~4のいずれかに記載のプリプレグ。
【0169】
態様6 前記成分(A)の数平均分子量が1500g/モル未満である、態様1~5のいずれかに記載のプリプレグ。
【0170】
態様7 前記サイジング剤が少なくとも1つの促進剤を含む、態様1~6のいずれかに記載のプリプレグ。
【0171】
態様8 X線光電子分光法で測定した炭素繊維の表面酸素濃度(O/C)が0.12~0.25である、態様1~7のいずれかに記載のプリプレグ。
【0172】
態様9 前記高耐熱性熱硬化性樹脂組成物(B)が、少なくとも1つのマレイミド化合物(B-1)と少なくとも1つのコモノマー(C)から構成される、態様1~8のいずれかに記載のプリプレグ。
【0173】
態様10 前記コモノマー(C)が少なくとも1個のビニル基を有する、態様9に記載のプリプレグ。
【0174】
態様11 前記コモノマー(C)が、フェノール基、水酸基およびチオール基から選択される少なくとも1個の基を有する、態様9または態様10に記載のプリプレグ。
【0175】
態様12 前記コモノマー(C)が、少なくとも1個のビニル基と、フェノール基、水酸基およびチオール基から選択される少なくとも1個の基を有する、態様9~11のいずれかに記載のプリプレグ。
【0176】
態様13 (C)/(B-1)のモル比が0.5未満である、態様9~12のいずれかに記載のプリプレグ。
【0177】
態様14 前記(C)/(B-1)のモル比が0.2超である、態様9~13のいずれかに記載のプリプレグ。
【0178】
態様15 前記熱硬化性樹脂組成物(B)が、少なくとも1つのベンゾオキサジン化合物(B-2)を含む、態様1~14のいずれかに記載のプリプレグ。
【0179】
態様16 前記樹脂組成物(B)の硬化後のガラス転移温度が240℃以上である、態様1~15のいずれかに記載のプリプレグ。
【0180】
態様17 態様1~16のいずれかに記載のプリプレグを硬化させて得られる炭素繊維強化複合材料。
【0181】
態様18 ASTM D2344M-16に従った熱処理後に少なくとも14ksiの層間せん断強度ILSS RTAを有する、態様17に記載の炭素繊維強化複合材料。
【0182】
態様19 ASTM D2344M-16に従った熱処理後に少なくとも12ksiの層間せん断強度ILSS TOSを有する、態様17に記載の炭素繊維強化複合材料。
【0183】
態様20 ASTM D2344M-16に従った熱処理後に、80%の層間せん断強度ILSS TOS/ILSS RTAの比を有する、態様17に記載の炭素繊維強化複合材料。
【実施例
【0184】
以下、本発明の実施形態を実施例によってより詳細に説明する。各種物性の測定は、以下に示す方法で行った。これらの特性は、特に断りのない限り、温度23℃、相対湿度50%を含む環境条件下で測定した。その後、ホットメルトプリプレグ法により、例示した樹脂からプリプレグを作製した。なお、実施例および比較例で使用した部材は以下のとおりである。
<炭素繊維>
炭素繊維CF-A(表面酸素濃度O/C=0.15、表面粗さ(Pa)=3.0nm)
アクリロニトリル99モル%とイタコン酸1モル%からなるコポリマーを乾湿式紡糸、炭化して、総フィラメント数が24000本、総繊度が1000tex、比重1.8、ストランド引張強度5.9GPa、ストランド引張弾性率295GPaの炭素繊維を得た。次に、この炭素繊維に電解表面処理を施し、表面の酸素濃度(O/C)を0.15に調整した。その後、電解表面処理した炭素繊維を水で洗浄し、熱風で乾燥させることで炭素繊維を得た。得られた炭素繊維を炭素繊維CF-Aとした。
炭素繊維CF-B(表面酸素濃度O/C=0.09、表面粗さ(Ra)=2.9nm)
電解表面処理により表面酸素濃度(O/C)を0.09に調整した以外は,炭素繊維CF-Aと同様の方法で炭素繊維を調製した。得られた炭素繊維を炭素繊維CF-Bとした。
炭素繊維CF-C(表面酸素濃度O/C=0.20、表面粗さ(Ra)=3.0nm)
アクリロニトリル99モル%とイタコン酸1モル%からなるコポリマーを乾湿式紡糸・焼成し、総フィラメント数12000本、総繊度505tex、比重1.8、ストランド引張強度6.3GPa、ストランド引張弾性率330GPaの炭素繊維を得た。次に、この炭素繊維に電解表面処理を施し、表面の酸素濃度(O/C)を0.20に調整した。その後、電解表面処理した炭素繊維を水で洗浄し、熱風で乾燥させて、原料である炭素繊維を得た。得られた炭素繊維を炭素繊維CF-Cとした。
【0185】
<サイジング剤被覆炭素繊維>
(A-1)を含むサイジング剤被覆炭素繊維CF-
【0186】
(A-1)を含む水性エマルジョンを調製し、浸漬により炭素繊維CF-A上に塗布した。その後、前述の炭素繊維を温度230℃で60秒の熱処理を行い、サイジング剤被覆炭素繊維束を得た。サイジング剤の含有量は、サイジング剤被覆炭素繊維に対して1.5質量%となるように調整した。
【0187】
(A-2)、(A-3)、(A-4)、または(A-5)を含むサイジング剤被覆炭素繊維CF-
【0188】
(A-2)、(A-3)、(A-4)、または(A-5)を含む水性エマルジョンを調製し、浸漬により炭素繊維CF-A上に塗布した。次いで、前述の炭素繊維を230℃で60秒の熱処理を行い、サイジング剤被覆炭素繊維束を得た。なお、サイジング剤の含有量は、サイジング剤被覆炭素繊維に対して0.5質量%となるように調整した。
【0189】
(X-1)、(X-2)を含むサイジング剤被覆炭素繊維CF-
【0190】
(X-1)または(X-2)を含む水性エマルジョンを調製し、浸漬することにより炭素繊維CF-A上に塗布した。その後、前記炭素繊維を温度230℃で60秒の熱処理を行い、サイジング剤被覆炭素繊維束を得た。なお、サイジング剤の含有量は、サイジング剤被覆炭素繊維に対して0.5質量%となるように調整した。
【0191】
(A-1)を含むサイジング剤被覆炭素繊維CF-B
炭素繊維としてCF-Bを用いた以外は、上記(A-1)を含むサイジング剤被覆炭素繊維CF-Aと同様にして、(A-1)を含むサイジング剤被覆炭素繊維CF-Bを得た。
【0192】
(A-1)を含むサイジング剤被覆炭素繊維CF-C
炭素繊維としてCF-Cを用いた以外は、上記(A-1)を含むサイジング剤被覆炭素繊維CF-Aと同様にして、(A-1)を含むサイジング剤被覆炭素繊維CF-Cを得た。
【0193】
(A-2)、(A-3)、(A-4)または(A-5)を含むサイジング剤被覆炭素繊維CF-C
炭素繊維としてCF-Cを用いた以外は、上記(A-2)、(A-3)、(A-4)または(A-5)を含むサイジング剤被覆炭素繊維CF-Aと同様にして、(A-2)、(A-3)、(A-4)または(A-5)を含むサイジング剤被覆炭素繊維CF-Cを得た。
<反応成分(A)>
A-1(エポキシ基と芳香環構造を有する反応成分(A))jERTM828(三菱化学(株)製)、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル、数平均分子量380g/モル
A-2(メタクリロイル基とウレタン基を有する反応成分(A))UA101H(共栄社化学製)、グリセリンジメタクリレートヘキサメチレンジイソシアネート、数平均分子量625g/モル
A-3(アクリロイル基とウレタン基を有する反応成分(A)) UA306H(共栄社化学製)、ペンタエリスリトールトリアクリレートヘキサメチレンジイソシアネート、数平均分子量765g/モル
A-4(アクリロイル基、ウレタン基および芳香環構造を有する反応成分(A))AH600(共栄社化学製)、フェニルグリシジルエーテルアクリレートヘキサメチレンジイソシアネート、数平均分子量613g/モル
A-5(アクリロイル基、ウレタン基および芳香環構造を有する反応成分(A))UA101T(共栄社化学社製)、ペンタエリスリトールトリアクリレートトリレンジイソシアネート、数平均分子量770g/モル
<その他のサイジング剤用化合物>
X-1 ビスフェノールAと10モルのエチレンオキシドとの付加体
X-2 Denacol(登録商標)EX-212(ナガセケムテックス株式会社製)、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル
<マレイミド化合物(B-1)>
Compimide(登録商標)MDAB(Evonik Industries AG製)、N,N’-4,4’-ジフェニルメタン-ビスマレイミド
Compimide(登録商標)TDAB(Evonik Industries AG製)、N,N’-2,4-トルエン-ビスマレイミド
Compimide(登録商標)353A(Evonik Industries AG製)、N,N’-4,4’-ジフェニルメタン-ビスマレイミド、N,N’-2,4-トルエン-ビスマレイミド、N,N’-2,2,4-トリメチルヘキサン-ビスマレイミド
<コモノマー(C)>
Compimide(登録商標)TM123(Evonik Industries AG製)、4,4’-ビス(o-プロペニルフェノキシ)-ベンゾフェノン
Compimide(登録商標)TM124(Evonik Industries AG製)、o,o’-ジアリルビスフェノールA
Compimide(登録商標)TM124エーテル(Evonik Industries AG製)、1-prop-2-エノキシ-4-[2-(4-prop-2-エノキシフェニル)プロパン-2-イル]ベンゼン
4,4-DABPS(DOYE PHARMA CO.LTD.製)、4,4’-スルホニルビス[2-(2-プロペニル)]フェノール
<熱可塑性物質>
Matrimid(登録商標)9725(Huntsman Advanced Materials社製)、ポリイミ
【0194】
(1)炭素繊維束のストランド引張強度と弾性率
炭素繊維束のストランド引張強度およびストランド弾性率は、JIS-R-7608(2004)に記載の樹脂含浸ストランドの試験方法により、以下の手順で測定した。樹脂の配合は、「Celloxide(登録商標)」2021P(ダイセル化学工業(株)製)/三フッ化ホウ素モノエチルアミン(東京化成工業(株)製)/アセトン=100/3/4(質量部)で、硬化条件は常圧で温度125℃、30分であった。炭素繊維束を10本試験し、その平均値をストランド引張強度とストランド弾性率として算出した。
【0195】
(2)炭素繊維の表面酸素濃度(O/C)
炭素繊維の表面酸素濃度(O/C)は、以下の手順でX線光電子分光法により測定した。まず、溶媒を使って炭素繊維の表面に付着したゴミを除去した後、炭素繊維を約20mm片に切断し、銅製のサンプルホルダーに敷き詰めた。次に、サンプルホルダーをサンプルチャンバーにセットし、サンプルチャンバー内を1×10-8Torrに維持した。X線源にはAIKα1,2を使用し、光電子離脱角90°で測定を行った。測定中の帯電に伴うピークの補正値として、C1sのメインピーク(ピークトップ)の結合エネルギー値を284.6eVに設定した。C1sピーク面積は、282~296eVの範囲に直線のベースラインを引いて求めた。O1sピーク面積は、528~540eVの範囲に直線のベースラインを引いて求めた。ここで、表面酸素濃度は、装置固有の感度補正値を用いて、O1sピーク面積とC1sピーク面積の比から、原子数比として求める。使用したX線光電子分光装置は、Ulvac-Phi社製ESCA-1600で、装置固有の感度補正値は2.33であった。
【0196】
(3)サイジング剤の含有量の決定
サイジング剤被覆炭素繊維束約2gを秤量(W1)(小数点第4位まで)し、温度450℃に設定した電気炉(容積120cm)に50mL/minの窒素気流中で15分間入れ、サイジング剤を完全に熱分解した。次に、20リットル/分の乾燥窒素気流中で炭素繊維束を容器に移し、15分間冷却した後、秤量(W2)(小数点以下第4位)した。サイジング剤の含有量(重量%)は、(W1-W2)/W1×100(%)の式に従って算出した。測定は2回行い、その平均値をサイジング剤含有量とした。
【0197】
(4)高耐熱性熱硬化性樹脂組成物(B)の製造
所定量のコモノマー(C)と熱可塑性樹脂を配合部数に応じて混合し、120℃で1時間加熱して熱可塑性樹脂を溶解させた。さらに、ビスマレイミド化合物(B-1)を別途140℃で溶融させた。この混合物とビスマレイミド化合物(B-1)を100℃まで降温した後に混合し、さらに60℃で促進剤を添加し、その後混練して、高耐熱性熱硬化性樹脂組成物(B)を調製した。表1-4は、様々な例示的な樹脂組成物の組成と、得られる硬化樹脂の特性をまとめたものである。
【0198】
(5)プリプレグの製造
特定の樹脂組成物(B)を含浸させた特定のサイジング剤被覆炭素繊維を含むプリプレグを用意した。上記(4)で得られた樹脂組成物(B)を、ナイフコーターで離型紙に塗工し、単位面積当たりの樹脂質量が52g/mの樹脂フィルムを2枚作製した。一方向に配置された所定のサイジング剤被覆炭素繊維の構成(単位面積当たりの質量が190g/m)の両面に、前述の2枚の布帛樹脂フィルムを重ね合わせ、熱ロールで温度100℃、圧力1気圧で熱と圧力を加え、サイジング剤被覆炭素繊維にエポキシ樹脂組成物を含浸させ、プリプレグを得た。
【0199】
(6)プリプレグの硬化
上記(5)で得られたプリプレグを切断、積層し、真空バッグ成形を行い、オートクレーブで圧力が20PSIを超えるまで真空をかけた状態で、下記の硬化条件1により硬化させた。85PSIは最初の温度上昇時に適用され、硬化サイクル全体にわたって維持された。その後、以下の硬化条件2を用いて対流式オーブンでポストキュアを行った。
硬化条件1:
1.室温から143℃まで1.7℃/minの速度で昇温した。
【0200】
2.143℃で2時間保持した。
【0201】
3.143℃から190℃まで1.7℃/minの速度で昇温した。
【0202】
4.190℃で2時間保持した。
【0203】
5.2℃/minの速度で190℃から30℃まで降温した。
硬化条件2:
1.室温から227℃まで1.7℃/minの速度で昇温した。
【0204】
2.227℃で4時間保持した。
【0205】
3.2℃/minの速度で227℃から30℃まで降温した。
【0206】
(7)硬化樹脂のガラス転移温度(DMA TorsionによるTg)の測定
厚さ2mmの金属スペーサーを用いて厚さ2mmに設定した金型キャビティに、(4)で調製した樹脂組成物(B)を吐出させた。次に、樹脂組成物(B)を、上記硬化条件1および2で、対流式オーブンで熱処理して硬化させ、2mm厚の硬化樹脂板を得た。前述のプレートから長さ50mm、幅12.7mmの試験片を切り出し、動的粘弾性測定装置(ARES、TA Instruments社製)を用いて、SACMA SRM 18R-94に準拠して、40℃~350℃の温度に5℃/minの速度で加熱することによって、1.0HzねじりモードでTg測定を行った。Tgは、蓄熱弾性率曲線上で、ガラス領域の接線とガラス領域からゴム領域への転移領域の接線との交点を求め、その交点の温度をガラス転移温度とし、一般にG’オンセットTgと呼ぶ。
【0207】
(8)室温環境下での層間せん断強度の測定(ILSS RTA)
【0208】
(5)で得られたプリプレグから100mm×100mmのシートを12枚切り出し、一方向に積層し、上記(6)の方法で硬化させることにより、一方向性炭素繊維強化材料の厚みが約2mmの板を得た。前述の板から長さ25mm、幅4.5mmのテストピースを切り出した。ASTM D2344M-16に準拠した3点曲げ試験により、ILSS RTAを測定した。測定は、スパン(L)と試験片の厚み(d)の比L/d=4±0.3、ベンドテスターのクロスヘッド速度1.27mm/minで実施した。5サンプルを測定対象とし、平均値を算出した。
【0209】
(9)熱処理後の層間せん断強度の測定(ILSS TOS)
上記(8)と同様に試験片を作製し、対流式オーブンで232℃の温度で1000時間熱処理を行った。ILSS TOSは、ILSS RTAと同様の方法で求めた。
【0210】
各例のプリプレグの各種量、その品質、繊維強化複合材料の機械的特性を表1~4にまとめる。本発明の実施形態である表1~3の実施例1~15は、毛羽立ちが少なく、機械的特性およびTOSが良好な良質のプリプレグを提供した。
実施例1~15および比較例1
比較例1では、サイジング剤を被覆していない炭素繊維を使用し、実施例1~15では、それぞれ反応性化合物(A-1)、(A-2)、(A-3)、(A-4)、(A-5)を用いたサイジング剤被覆炭素繊維を使用した。比較例1のプリプレグは毛羽立ちが多かったが、実施例1~15は毛羽立ちが少なかった。
実施例1~15、比較例2、3
比較例2および3は、反応成分(A)を含まない(X-1)を用いたサイジング剤被覆炭素繊維を使用し、実施例1~15は、それぞれ反応性化合物(A-1)、(A-2)、(A-3)、(A-4)および(A-5)[反応成分(A)を含む]を用いたサイジング剤被覆炭素繊維を使用した。比較例2および3と比較して、実施例1~15から、ILSS RTA、ILSS TOSおよびILSS TOS/ILSS RTAにおいて、反応成分(A)を含有することの利点は明らかである。
実施例1~15、比較例4、5
比較例4および5では、(X-2)[第2官能基(ii)アミド、イミド、ウレタン、ウレア、カルボニル、エステル、スルホニルおよび芳香環構造ならびにそれらの組み合わせのいずれも含まない]を用いたサイジング剤被覆炭素繊維を使用し、実施例1~15ではそれぞれ反応性化合物(A-1)、(A-2)、(A-3)、(A-4)および(A-5)[前述の基を有する]を用いたサイジング剤被覆炭素繊維を使用した。比較例4および5と比較して、実施例4および5から、ILSS TOSおよびILSS TOS/ILSS RTAにおいて、前述の基を含有することの利点が明らかである。
実施例1、6、実施例4、5、7
実施例1および6は、2個の官能基を有する反応成分(A)を使用し、実施例4、5および7は、第1官能基(i)を3個以上有する反応成分(A)を使用した。実施例1および6と比較して、実施例4、5および7から、ILSS RTAおよびILSS TOSにおいて、3個以上の官能基を有する反応成分(A)を使用することの利点が明らかである。
実施例8、11、実施例9、10、12
実施例8および11は、2個の官能基を有する反応成分(A)を使用し、実施例9、10および12は、3個以上の官能基を有する反応成分(A)を使用した。実施例8および11と比較して、実施例9、10および12から、ILSS RTAおよびILSS TOSにおいて、3個以上の官能基を有する反応成分(A)を使用することの利点が明らかである。
実施例1、2、実施例3、8
実施例2、3はO/Cが0.12未満のサイジング剤被覆炭素繊維、実施例1、8はO/Cが0.12以上のサイジング剤被覆炭素繊維を使用した。それぞれ実施例2および3と比較して、実施例1および8から、ILSS RTA、ILSS TOSおよびILSS TOS/ILSS RTAにおいて、特定のO/Cを有するサイジング剤被覆炭素繊維を使用する利点が明らかである。
実施例9、13
実施例9では、(C)/(B-1)のモル比を0.45超とし、実施例13では、(C)/(B-1)のモル比を0.45以下とした。実施例9と比較して、実施例13から、ILSS RTAにおいて、(C)/(B-1)の特定モル比を使用することの利点が明らかである。
実施例13、16
実施例16は、(C)/(B-1)のモル比を0.21未満とし、実施例13は、(C)/(B-1)のモル比を0.21以上とした。実施例16と比較して、実施例13から、ILSS TOSおよびTgにおいて、(C)/(B-1)の特定モル比を使用することの利点が明らかである。
【0211】
以下の表に、それらの実施例と結果を示す。以下の範囲は、以下の表のすべての結果に適用される。
分子あたりの反応性基の数
優(より好ましい)≧4
良(好ましい)≧3
まあまあ(必要要件)≧2
不良(範囲外)<2
硬化樹脂Tg
優(より好ましい)≧260
良(好ましい)≧240
まあまあ(必要要件)≧220
不良(範囲外)<220
ILSS RTA
優(より好ましい)≧18
良(好ましい)≧16
まあまあ(必要要件)≧14
不良(範囲外)<14
ILSS TOS
優(より好ましい)≧16
良(好ましい)≧14
まあまあ(必要要件)≧12
不良(範囲外)<12
ILSS TOS/ILSS RTA
優(より好ましい)≧90%
良(好ましい)≧85%
まあまあ(必要要件)≧80%
不良(範囲外)<80
【0212】
【表1】
【0213】
【表2】
【0214】
【表3】
【0215】
【表4】
【0216】
請求項に記載された特定の炭素繊維を使用することで、ILSS RTAが改善されることが期待された。その代わりに、この特定の炭素繊維と硬化後のTgが220℃以上の熱硬化性樹脂組成物を請求項に記載のように組み合わせた場合、ILSS RTAに加えてILSS TOSが向上し、ILSS TOS/ILSS RTAも増加することを見出した。本発明により、驚くべきことに、高いILSS RTA、ILSS TOS、ILSS TOS/ILSS RTAの両方が実現できた。
【国際調査報告】