(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-11
(54)【発明の名称】インプラントを展開するためのシステム
(51)【国際特許分類】
A61F 2/966 20130101AFI20231228BHJP
A61F 2/07 20130101ALI20231228BHJP
【FI】
A61F2/966
A61F2/07
【審査請求】有
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023523553
(86)(22)【出願日】2020-10-19
(85)【翻訳文提出日】2023-06-14
(86)【国際出願番号】 EP2020079338
(87)【国際公開番号】W WO2022083843
(87)【国際公開日】2022-04-28
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510294003
【氏名又は名称】アンジオメト・ゲーエムベーハー・ウント・コンパニー・メディツィンテクニク・カーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100137039
【氏名又は名称】田上 靖子
(72)【発明者】
【氏名】ギブマイヤー,カーステン
(72)【発明者】
【氏名】メア,ユッタ
(72)【発明者】
【氏名】ドーン,ユルゲン
【テーマコード(参考)】
4C097
4C267
【Fターム(参考)】
4C097AA15
4C097BB01
4C097BB04
4C097CC01
4C097CC11
4C097DD10
4C267AA05
4C267AA53
4C267AA56
4C267BB02
4C267BB10
4C267BB11
4C267BB12
4C267BB26
4C267BB40
4C267CC08
4C267CC30
4C267EE01
4C267GG24
4C267HH08
(57)【要約】
本発明は、インプラント、任意選択的にはTIPSステントグラフトを展開するためのシステムに関し、システムは、ハンドルと、ハンドルから延在するカテーテルであって、カテーテルはカテーテルの遠位端部のインプラント保持部分にインプラントを保持するように配置される、カテーテルと、インプラント固定シースであって、インプラント固定シースは、インプラント保持部分に配置されたインプラントを固定するようにインプラント保持部分を取り囲むように配置される、インプラント固定シースと、プルタブであって、プルタブは、プルタブの近位方向への引っ張りが、インプラント保持部分に配置されたインプラントを解除するようにインプラント固定シースを引っ張り戻すようにインプラント固定シースに接続され、プルタブは、プルタブに配置され、プルタブが近位方向に移動されたときに近位方向に移動される係合要素を更に備え、係合要素は、インプラントを展開するためのシステムの第1の固定的長手方向位置に配置された第1の干渉要素と係合するように配置される、プルタブとを備え、係合要素と第1の干渉要素との間の係合は、インプラント固定シースが前もって設定された距離だけ引っ張り戻されたことの触覚的フィードバックをシステムのユーザに提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インプラントを展開するためのシステム(10)であって、前記システムは、
ハンドル(12)と、
前記ハンドル(12)から延在するカテーテル(14)であって、前記カテーテルは前記カテーテルの遠位端部のインプラント保持部分にインプラントを保持するように配置される、カテーテルと、
インプラント固定シースであって、前記インプラント固定シースは、前記インプラント保持部分に配置されたインプラントを固定するように前記インプラント保持部分を取り囲むように配置される、インプラント固定シースと、
プルタブ(16)であって、前記プルタブ(16)は、前記インプラント固定シースに接続され、前記プルタブの近位方向への引っ張りによって、前記インプラント保持部分に配置されたインプラントを解放するように前記インプラント固定シースが引っ張り戻され、前記プルタブ(16)は、更に、前記プルタブ(16)に配置され、前記プルタブ(16)が近位方向に移動されたときに近位方向に移動される係合要素(18)を備え、前記係合要素(18)は、前記インプラントを展開するための前記システムの第1の固定された長手方向位置に配置される第1の干渉要素(26)と係合するように配置される、プルタブと
を備え、
前記係合要素(18)と前記第1の干渉要素(26)との間の係合により、前記インプラント固定シースがあらかじめ設定された距離だけ引っ張り戻されたことの触覚的フィードバックが前記システムのユーザに提供される、システム(10)。
【請求項2】
プルタブ引き戻し機構を更に備え、前記プルタブ引き戻し機構は、前記インプラント保持部分に配置されたインプラントを解放するように前記プルタブ(16)を近位方向に引っ張るように配置される、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記プルタブ引き戻し機構は、スピンドルに結合されたサムホイール(22)を備え、前記スピンドルは、前記プルタブ(16)に対して近位方向への引っ張りを発揮するように前記プルタブ(16)を巻き上げるために配置される、請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記触覚的フィードバックは、前記プルタブ(16)の更なる引き戻しの阻止である、請求項1から3のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項5】
前記システムは、前記プルタブ(16)の更なる引き戻しの前記阻止を選択的に解除するための第1の解除機構(28)を更に備え、前記第1の解除機構(28)は、任意選択的に、ユーザ操作可能なボタンによって操作可能である、請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
前記係合要素(18)は前記プルタブ(16)に固定的に設けられた突起を備え、前記第1の干渉要素(26)は前記ハンドル(12)の内側に設けられた開口を備え、前記開口は、前記ユーザに触覚的フィードバックを提供するために前記突起が前記開口の境界部と係合するように、大きさが決められている、請求項1から5のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項7】
前記インプラントを展開するための前記システムの第2の固定された長手方向位置に配置される第2の干渉要素(20)を更に備え、前記係合要素(18)は、前記ユーザに触覚的フィードバックを提供するように前記第2の干渉要素(20)と係合するように配置され、前記触覚的フィードバックは、任意選択的に、前記プルタブ(16)の引き戻しの阻止である、請求項1から6のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項8】
前記システムは、前記第2の干渉要素(20)と前記係合要素(18)との間の前記係合による前記プルタブ(16)の引き戻しの前記阻止を選択的に解除する第2の解除機構(24)を更に備え、前記第2の解除機構(24)は、任意選択的に、スライダによって操作可能である、請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
前記第2の干渉要素(20)と前記係合要素(18)との間の前記係合は、前記インプラント保持部分を完全に被覆する前記インプラント固定シースに対応する、請求項7または8に記載のシステム。
【請求項10】
前記システムは、前記インプラント保持部分に配置されたインプラント、任意選択的にはステントグラフト、更に任意選択的にはTIPSステントグラフトを更に備える、請求項1から9のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項11】
前記インプラントは自己拡張式インプラントである、請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
前記係合要素(18)と前記第1の干渉要素(26)との間の前記係合は、前記インプラントの部分的な展開に対応する、請求項10または11に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インプラント、任意選択的にはTIPSステントグラフトを展開するためのシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
ステントおよびステントグラフトなどのインプラントを人間の身体の内側で展開(換言すれば、配置または配備)するために、一般的に、患者の血管系を通って前進され得るカテーテルを使用することが知られている。送達されるべきインプラントがカテーテルの遠位端部に配置される。このインプラントは、典型的には、送達カテーテルに圧着されて、インプラントを所定位置に固定するインプラント固定シースによって被覆される。インプラントが患者の身体の内側の正しい場所に位置付けられると、インプラントが展開され得るようにインプラント固定シースは後退される。いくつもの場合において、インプラントは、例えば、ニチノールなどの形状記憶合金製の足場の使用による自己拡張式であり、体温において拡張する。それ故、このようなインプラントが患者の血流に晒されると、インプラントはその送達構成へと自動的に拡張する。
【0003】
それ自体の課題を提示するインプラントの1つの特定のタイプは、TIPS(「transjugular intrahepatic portosystemic shunt(経頚静脈性肝内門脈大循環短絡術)」処置における使用のためのステントグラフトである。TIPS処置において、患者の肝静脈と門静脈との間にシャントが作成され、シャントは、患者の肝臓を通って延在する。このシャントは、これら2つの静脈の間の血液バイパスとして働き、門脈圧亢進症を治療するために使用される。シャントを安定化させるために、特別なTIPSステントグラフトが、門静脈から肝静脈へと延在するようにシャントの内側に設置される。
【0004】
TIPSステントグラフトは、部分的にしか被覆されないことが普通とは異なり、被覆材料は長手方向端部のうちの1つだけしか被覆せず、それぞれの他の長手方向端部は被覆されず、故に、裸のステントを露出させる。次いで、この裸のステント部分は、門静脈の内側に設置され、典型的にはその位置で拡張する(広がる)。ステントグラフトのこの広げられた部分は、TIPSステントグラフトを門静脈の内側で固定し、故に、これを所定位置に保つように働く。しかしながら、ベースステントのこの部分が被覆されていないので、これは血流への障害物をほとんどもたらさず、門静脈からステントグラフトへの血液の流入を止めない。
【0005】
続いて、TIPSステントグラフトの被覆部分が、肝実質を通って作成されたシャントの内側で展開され、TIPSステントグラフトのそれぞれの他端部が肝静脈内に最終的に置かれる。それ故、このように設置されたTIPSシャントを通って、血液は肝臓をバイパスして、門静脈から肝静脈へと直接的に流れ得る。このバイパスは、門脈圧亢進症を緩和する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このようなステントグラフトの設置に関する1つの課題は、ステントグラフトの非被覆部分および被覆部分を正確に位置付ける必要があることである。一方で、ステントグラフトの非被覆部が完全に門静脈内に提供されることを保証することが重要であり、というのは、もしもそうでないと、TIPSステントグラフトの側壁を通って血液が漏れてしまうからである。他方で、TIPSステントグラフトの被覆セクションの一部が門静脈内にまで延在すると、それらは少なくとも部分的に血流を妨害してしまうとともに、TIPSステントグラフトの裏打部分を使用して被覆され得るTIPSシャントの有効長さを減少させる。それ故、非被覆部分が門静脈内に完全に位置付けられるが、TIPSステントグラフトの被覆部分がこの静脈内に延在しないようにTIPSステントグラフトを正確に設置できることが望ましい。
【0007】
本発明は、前述された課題に鑑みて考案され、インプラント、任意選択的にはTIPSステントグラフトを展開するためのシステムであって、外科医がこのインプラントを正しく展開することをより容易にするシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は請求項1によって定められる。実施形態は従属請求項において定められる。
【0009】
請求項1によると、インプラントを展開するためのシステムが提供される。実施形態において、このようなインプラントは、TIPSステントグラフトであり得る。これは、いくつかの他の種類のステントまたはステントグラフト(被覆ステント)でもあり得る。
【0010】
システムは、オペレータによる操作のために意図されるシステムの一部であるハンドルを備える。システムは、ハンドルから延在するカテーテルを更に備える。カテーテルは、患者の血管系内に導入されるように配置され、そのため、人間の血管を通って前進されるために十分なくらい細く、可撓性である。カテーテルの遠位端部にはインプラント保持部分が設けられ、これは、インプラントがインプラント保持部分に保持され得つつ、患者の血管系を通ってカテーテルをインプラント展開位置まで前進させるように、インプラントが配置されるのに適している。
【0011】
インプラント保持部分を取り囲むように配置されたインプラント固定シースが更に設けられる。インプラント固定シースがインプラント保持部分を取り囲むとき、インプラント固定シースは、インプラント保持部分に配置されたインプラントを、例えば、これを被覆することによって固定する。実施形態において、このようなインプラント固定シースは、適切なプラスチック材料で作られ得る。当業者は、使用され得る他の材料を想定することができよう。
【0012】
インプラント固定シースには、実施形態において、引っ張りストリング(換言すれば、ひも)であり得るプルタブが接続される。このプルタブは、プルタブの近位方向への引っ張りが、インプラント保持部分に配置されたインプラントを少なくとも部分的に解放するようにインプラント固定シースを引っ張り戻すように配置される。この文脈において、「近位方向」とはシステムのオペレータに向かう方向を指し、「遠位方向」とはオペレータから離れ、患者に向かう方向を指す。実施形態において、プルタブは金属ワイヤで作られ得るが、非金属材料またはインプラント固定シースに近位方向の張力を発揮するように配置されたいくつかの他の適切な要素で作られたストリングで作られてもよく、従って、徐々にインプラント固定シースを引っ張り戻すことによってインプラントを解放するために使用される。
【0013】
プルタブは、このプルタブに配置され、プルタブが近位方向に移動されたときにプルタブとともに近位方向に移動される係合要素を備える。この係合要素は、第1の干渉要素と係合するように配置される。この第1の干渉要素は、インプラントを展開するためのシステムの第1の固定された長手方向位置に配置される。実施形態において、係合要素は、ハンドル上の固定された長手方向に設けられる。
【0014】
システムは、係合要素と第1の干渉要素との間の係合が、インプラント固定シースが予め設定された距離だけ引っ張り戻されたことの触覚的フィードバックをシステムのユーザに提供するように配置される。すなわち、ユーザは、プルタブを引っ張り戻したときに、インプラント固定シースが予め設定された一定の距離だけ移動したことを感じることができる。このことは、インプラント固定シースが予め設定された距離だけ引っ張り戻されて、それ故、インプラントの予め設定された部分の被覆が除去され、自己拡張式インプラントにおいては、拡張したことをユーザが触覚的フィードバックによって知るので、TIPSステントグラフトなどのインプラントの部分的な展開を補助する。それ故、触覚的フィードバックは、インプラントの予め設定された部分の被覆が除去され、故に部分的に展開されたことの、ユーザへの指標として働く。ここまで主にTIPSステントグラフトの展開に関して説明されたが、本発明は、腹部大動脈瘤の治療における使用のための分岐ステントグラフトの展開にも適用可能である。
【0015】
実施形態において、システムは、プルタブを引っ張り戻すことを補助するためにシステムに配置された機構であるプルタブ引き戻し機構を備える。実施形態において、プルタブ引き戻し機構はハンドルに配置される。プルタブ引き戻し機構を使用してプルタブが近位方向に引っ張られると、インプラント保持部分に配置されたインプラントの被覆は、先ず部分的に、次いで完全に除去される。プルタブ引き戻し機構は、臨床医/オペレータがインプラント固定シースを引き戻すことをより容易にする。
【0016】
更なる実施形態において、プルタブ引き戻し機構は、スピンドルに結合されたサムホイールを備える。サムホイールはユーザによって操作可能である。スピンドルは、プルタブに対して近位方向への引っ張りを発揮するようにプルタブを巻き上げるために配置される。すなわち、サムホイールを操作することによって、プルタブは近位方向に引っ張られてインプラント固定シースを近位方向に引っ張り、それによって、インプラント保持部分に配置されたインプラントを解放する。他の実施形態において、サムホイールを使用する代わりに、プルタブは、WO2008/017683A1において説明されるものなど、プルタブを引っ張り戻すために使用されるスライダによって引き戻される。
【0017】
実施形態において、触覚的フィードバックは、プルタブプルタブの更なる引き戻しの阻止を提供する。更なる引き戻しのこの阻止は、インプラント固定シースが予め設定された距離だけ引っ張り戻されたポイントがオペレータによって見逃され得ないことを保証し、というのは、プルタブを更に引き戻すことが不可能であるからである。それ故、対応するシステムは、非常に使い勝手が良い。
【0018】
更なる実施形態において、システムは、係合要素と第1の干渉要素との間の係合によるプルタブの更なる引き戻しの阻止を選択的に解除するための第1の解除機構を更に備える。すなわち、プルタブの更なる引き戻しが阻止され得ない。従って、係合要素と第1の干渉要素との間の係合がインプラントの部分的な展開に対応するならば、プルタブの更なる引き戻しの阻止の解除は、インプラント固定シースの部分的な除去に続いて、インプラント固定シースの完全な除去を行うことができるので有利であり得る。このことは、TIPSステントグラフトなどの2段階で展開されることが有益なインプラントの展開を補助する。
【0019】
実施形態において、係合要素はプルタブに固定的に配置された突起を備える。第1の干渉要素は、ハンドルの内側に設けられた狭い開口であり、この開口は、ユーザに触覚的フィードバックを提供するように突起が開口の境界部と係合するような大きさを有する。係合要素および第1の干渉要素のこのような構成は、高い信頼性を有する。
【0020】
実施形態において、プルタブは、第1の干渉要素としてハンドルの内側に設けられた開口を通って導かれる。このような構成は、プルタブによってとられる経路の良好な制御を提供する。
【0021】
実施形態において、インプラントを展開するためのシステムの第2の固定された長手方向位置に配置された第2の干渉要素が更に設けられ、第2の固定された長手方向位置は第1の固定された長手方向位置とは異なる。係合要素は、ユーザに触覚的フィードバックを提供するように第2の干渉要素と係合するように配置される。ここでも、第1の干渉要素について説明されたことと同様の理由で、この触覚的フィードバックは、有用な情報、例えば、もしもプルタブが更に後退されるとインプラントの展開が開始するであろうこと(第2の干渉要素と係合要素との間の係合が、インプラント固定シースがインプラントを完全に被覆しているが、インプラント固定シースの更なる引き戻しがインプラントの被覆の部分的な除去につながる構成に対応する)をユーザに提供し得る。
【0022】
実施形態において、係合要素と第2の干渉要素との間の係合の触覚的フィードバックは、プルタブの更なる引き戻しの阻止であり、これは、係合要素と第1の干渉要素との間の係合に起因するプルタブの更なる引き戻しの阻止について前述された利点につながる。
【0023】
更に、実施形態において、第2の干渉要素と係合要素との間の係合によるプルタブの引き戻しの阻止を選択的に解除する第2の解除機構が設けられる。このことは、プルタブを選択的に更に引っ張り戻すことを可能とする。第2の解除機構は、任意選択的に、ユーザ操作可能なボタンによって操作可能であり、このことはシステムを使いやすくする。ここでも、第1の解除機構に関して論じられたことと同様の利点が達成され得る。
【0024】
第2の干渉要素と係合要素との間の係合が、インプラント保持部分を完全に被覆するインプラント固定シースに対応することは、実施形態に従っている。すなわち、この係合は、システムの初期構成に対応させられ得る(すなわち、患者の血管を通って前進させられる前のシステムの構成を意味する)。
【0025】
実施形態によると、システムは、インプラント保持部分に配置されたインプラント、任意選択的にはステントグラフト、更に任意選択的にはTIPSステントグラフトを備える。このようなシステムによって、ステントグラフトまたはTIPSステントグラフトなどのインプラントが、適切に送達され得る。
【0026】
実施形態において、インプラントは自己拡張式インプラントである。このことによって、インプラントは人間または動物の体内で遭遇する体温まで暖められたときに完全拡張構成に拡張することが意味される。このような自己拡張式インプラントは、形状記憶合金の一例としてニチノールの足場を備える。しかしながら、他のタイプの材料も使用され得る。
【0027】
実施形態において、係合要素と第1の干渉要素との間の係合は、インプラントの部分的な展開に対応する。このことは、患者の身体の内側にインプラントを適切に設置することを容易にし得る。TIPSステントグラフトがインプラント保持部分に提供される実施形態において、係合要素と第1の干渉要素との間の係合は、TIPSステントグラフトの非被覆部分が展開されるが、被覆部分は依然としてインプラント固定シースによって被覆されている状態に対応する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の実施形態によるシステムを図示する。
【
図2】第1の構成にある
図1のシステムのハンドルの内部を図示する。
【
図4】第3の構成にある
図1のシステムの内部を図示する。
【
図5a】TIPSステントグラフトの展開中に行われ得るステップを図示する。
【
図5b】TIPSステントグラフトの展開中に行われ得るステップを図示する。
【
図5c】TIPSステントグラフトの展開中に行われ得るステップを図示する。
【発明を実施するための形態】
【0029】
図1は、本発明の実施形態によるインプラントを展開するためのシステムを図示する。この図から分かるように、互いに重ねて配置され、互いに接続された第1のコンポーネント13および第2のコンポーネント15を備えるハンドル12が設けられる。ハンドル12の一端部に、可撓性先端部17が設けられる。柔軟先端部17の端部に、患者の血管系内への挿入に適したカテーテル14が配置される。このカテーテル14は、患者の血管系を通って前進され得、その遠位端部に、TIPSステントグラフトなどのインプラントを提供し得る。カテーテル14は、その遠位端部のインプラント保持部分(図示されず)と、インプラント保持部分を被覆するインプラント固定シース(図示されず)とを有する。
【0030】
ハンドル12は、その上側面に、外科医が彼または彼女の親指を置くことができるように配置された凹部33を有する。ハンドル12の凹部33の反対側には、外科医がデバイスおよびハンドルを保持することを助け、これらが滑り落ちることを防止するように配置された2つの突起35が設けられる。外科医は、ハンドル12がしっかりと保持されるように、彼または彼女の親指を凹部33に置き、残りの指を突起35の間に配置されるようにして、ハンドル12の周りを彼または彼女の手で握ることができる。突起35は、ハンドル12の長手方向に離間された2つの位置に設けられる。
【0031】
サムホイール22が、ハンドル12に、凹部33の内側に設けられたハンドル12の開口から突き出るように配置される。サムホイール22は、その操作をより容易にするためにその摩擦力を増加させるように構造化された面を有する。サムホイール22はスピンドル(図示されず)に結合され、スピンドルは、
図2~
図4を参照して以下に更に論じられるプルタブ16に結合される。このプルタブ16はインプラント固定シースに結合され、プルタブ16の近位方向への移動がインプラント固定シースを近位方向に引っ張り、故に、インプラント保持部分の被覆を除去し、故に、インプラント保持部分に保持されたインプラントを展開する。サムホイール22を操作することによって、プルタブ16はスピンドルに巻き付けられ、プルタブ16は近位方向に(
図1における左側に)引っ張られる。
【0032】
図1において、第1の解除機構28と第2の解除機構24とが提供される。第1の解除機構28はボタンによって作動され、第2の解除機構24はスライダによって操作可能である。第2の解除機構24が動作されていないとき、以下において
図2~
図4を参照して論じられる構造がインプラント固定シースの引き戻しを阻止し、インプラント保持部分の被覆は部分的にも除去され得ない。すなわち、第2の解除機構24が作動されない限り、インプラント部分に提供されたインプラントは部分的にも展開され得ない。しかしながら、第2の解除機構24のスライダを作動位置へとスライドさせると、プルタブ16の近位方向への引き戻しのこの阻止は解除され、それによって、サムホイール22の回転がプルタブ16を近位方向に引っ張り得る。このことは、カテーテル14の遠位端部のインプラント保持部分に配置されたインプラントの部分的な展開を可能とする。
【0033】
サムホイール22を操作することによってプルタブ16が近位方向に更に引っ張られると、プルタブ16の近位方向への引っ張りは、以下において更に論じられる第1の干渉要素26との係合によって阻止される。また、この係合は、関連付けられたボタンを押すことによって第1の解除機構28を作動させることによって選択的に解除され得る。プルタブ16の更なる引き戻しのこの解除可能な阻止は、カテーテル14の遠位端部に配置されたインプラントの部分的な展開に対応し得る。カテーテル14の遠位端部に提供されたTIPSステントグラフトの場合、これは、ステントグラフトの非被覆部分の選択的な部分的解除に対応し得る。以前に指摘されたように、これは、TIPSステントグラフトを人間の肝臓内で展開し、設置することになったときに非常に有利である。非被覆部分がいったん展開されると、外科医は、プルタブ16の更なる引き戻しの阻止を解除するために第1の解除機構を作動させ得、故にインプラントを完全に解放し得る。
【0034】
図1において図示された構造において、カテーテル14において異なる位置および部分がマークされている。位置Aは、インプラント保持部分が完全に被覆されるときにインプラント固定シースがそこまで延在する位置を示す。この位置は、作動されていない第2の解除機構24によってプルタブ16の更なる引き戻しが阻止される位置に対応する。第2の解除機構24が作動されると、インプラント固定シースは、文字「D」によって示される距離を超えて引っ張り戻され得る。この部分的な引き戻しは、例えばTIPSステントグラフトの非被覆部分だけが患者の身体に露出している状態に対応する。
【0035】
Eによって示される部分は、インプラントが展開され得るようにインプラント保持部分の(故にインプラントの)全体の被覆が除去されるようなインプラント固定シースの十分に完全な引き戻しに対応する。これは、完全展開構成に対応する。
【0036】
Cによって示される部分は、インプラントの搬送に使用されないカテーテル14の部分である。すなわち、この部分は、インプラントの展開位置に到達するような、カテーテル14の十分な長さを提供するように働く。
【0037】
カテーテル14は、ガイドワイヤを導くのに適した管腔を内部に提供し得る。このガイドワイヤは、ハンドル12の近位端部において、コネクタ19を通って延在し得、コネクタ19はルアーコネクタであってよい。
【0038】
図2は、インプラント固定シースが
図1に図示されたポイントAまで延在している構成におけるハンドル12の下側部13の内側の図を図示する。すなわち、インプラント保持部分は完全に被覆されている。ハンドル12の下側部13は、遠位端部50から中央部分に向かうにつれて膨らんだ半円筒形を有するプラスチックシェルで作られる。これは、ハンドル12を人間工学的に把持することを可能とする。遠位端部50において、半球状の切り欠き32が設けられ、これを通ってプルタブ16が延在する。このプルタブ16は、下側部13の内部を通って導かれ、サムホイール22に取り付けられたスピンドル(図示されず)に巻き取られる。
【0039】
下側部13の内側には、下側部13に機械的安定性を提供するように働く補強リブ32が設けられる。これらの補強壁32はノッチを有し、これを通ってプルタブ16が導かれる。すなわち、これらのノッチは、プルタブ16の経路を安定化させるように働く。下側部13の遠位端部50の近くには、穴が設けられた金属板30が設けられ、この穴を通ってプルタブ16が導かれる。この板16もプルタブ16によって取られる経路を安定化させるように働く。この板30は、リブ32のうちの1つに取り付けられる(クリップ留めされる)。
【0040】
板30に対して近位方向には、下側部13の壁に設けられたリブ34にその一端部が保持された板バネ20が設けられる。この板バネ20は屈曲している。その屈曲部分は、プルタブ16に固定的に配置されたリング状の突起の形態の係合要素18に当接する。板バネ20の屈曲部分は、係合要素18の近位方向への移動を防止するように、係合要素18の最も近位の部分に当接する。次に、このことはプルタブ16の近位方向への移動を防止する。板バネ20はスライダ24に結合され、スライダ24のスライド移動が板バネ20を屈曲させ、屈曲部分が係合要素18との係合から脱する。この構成において、係合要素18の近位方向への移動が可能であり、プルタブ16が近位方向に移動され得る。次いで、このことは、
図1において領域「D」と示された部分を横断するインプラント固定シースの引っ張り戻しを可能とする。こうして、板バネ20の屈曲部分は第2の干渉要素を構成する。
【0041】
板バネ20の更に近位方向には、押しボタン28に結合されたU字状のプラスチック板の形状を有する第1の干渉要素26が設けられる。プルタブ16は、U字状の板26の凹部を通って導かれる。押しボタン28が押下されると、U字状の板26が、プルタブ16がもはやU字状の板26の凹部を通って延在しない程度に十分に深くまで押し下げられる。U字状の板26の凹部は、係合要素18とU字状の板26との間の係合がこの凹部を通る係合要素18の移動を阻止するように係合要素18が嵌合しないような大きさを有するが、プルタブ16の残りの部分が自由に通過することを可能とするのに十分な程度に広い。
【0042】
図3は、板バネ20の形態の第2の干渉要素と係合要素18との間の係合が解除され、プルタブ16が近位方向に引っ張られてインプラント固定シースが
図1における部分Dを横断して移動された構成を図示する。
図3から分かるように、この構成においては、係合要素18は今や第1の干渉要素26に当接する。押しボタン28は押下されていないので、係合要素18の近位方向への移動はこの当接によって防止される。
【0043】
図4において図示される構成において、矢印によって示されるように押しボタン28が押下され、第1の干渉要素26と係合要素18との間の係合はもはや存在しない。それ故、プルタブ16を近位方向に引っ張ることができ、係合要素18も、現在配置された第1の干渉要素26の近位よりも近位方向の位置に引っ張られ得る。この構成において、インプラント固定シースは、
図1において図示される領域Eを横断して移動され得、インプラント保持部分に提供されたインプラントを完全に展開し得る。
【0044】
こうして、前述されたデバイスによって、外科医は、インプラント固定シースの引き戻しが開始したとき、およびインプラントの被覆が部分的に除去されたときについて明確な触覚的フィードバックを与えられる。故に、外科医は、彼または彼女がインプラントの被覆が部分的に除去されたことを知ると、このように被覆が除去された部分が適切に設置されることを保証し得る。
【0045】
例えば、TIPSステントグラフトの場合、外科医は、例えばTIPSステントグラフトに設けられたマーカーのX線撮像を使用して、TIPSステントグラフトの広げられた非被覆部分が門静脈に配置されることを保証し得る。次いで、外科医は、広げられた部分がTIPSシャントと門静脈との間の接合部に当接したことに(展開されるべきTIPSステントグラフトの近位方向への引き戻しに対する機械的抵抗として)気づくことによって、広げられた部分が完全に門静脈の内側に配置されたことを感じることができる。それ故、外科医が非被覆部分だけが被覆を除去されたが、この部分の被覆が完全に除去されたことを知るので、TIPSステントグラフトの非常に正確で使い勝手のよい位置付けが可能である。
【0046】
それ故、前述された設計を使用してTIPSステントグラフトを設置しようと望むとき、
図5a~
図5cにおいても部分的に示される、以下のステップが外科医によって実施される。
【0047】
患者の肝静脈(HV)と門静脈(PV)とを接続するTIPSシャントを作成するステップ。
【0048】
患者の血管系内にカテーテル14を挿入し、ガイドワイヤを使用する実施形態(図示されず)においては、TIPSシャントを介して門静脈まで、その先端を前進させるステップ。
【0049】
第2の干渉要素20と係合要素18との間の係合によるプルタブ16の引き戻しの阻止を解除するステップ(図示されず)。
【0050】
第1の干渉要素26と係合要素18との間の係合によって更なる引き戻しが阻止されるまでTIPSステントグラフト100の非被覆部分102を解除するようにインプラント固定シースを引き戻すステップ(
図5a)。
【0051】
TIPSステントグラフトの非被覆部分を門静脈PVの内側に位置付けるステップ。
【0052】
第1の干渉要素27と係合要素18との間の係合によるプルタブ16の更なる引き戻しの阻止を解除するステップ。
【0053】
TIPSステントグラフト100を完全に解除するようにインプラント固定シースを引き戻すステップ(
図5b、
図5c)。
【0054】
本発明が主にTIPSステントグラフトの設置に関して説明されたが、本発明は腹部大動脈瘤の治療のための分岐ステントグラフトの設置にも同様に適用可能であることに留意されたい。
【手続補正書】
【提出日】2021-12-10
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インプラントを展開するためのシステム(10)であって、前記システムは、
ハンドル(12)と、
前記ハンドル(12)から延在するカテーテル(14)であって、前記カテーテルは前記カテーテルの遠位端部のインプラント保持部分にインプラントを保持するように配置される、カテーテルと、
インプラント固定シースであって、前記インプラント固定シースは、前記インプラント保持部分に配置されたインプラントを固定するように前記インプラント保持部分を取り囲むように配置される、インプラント固定シースと、
プルタブ(16)であって、前記プルタブ(16)は、前記インプラント固定シースに接続され、前記プルタブの近位方向への引っ張りによって、前記インプラント保持部分に配置されたインプラントを解放するように前記インプラント固定シースが引っ張り戻され、前記プルタブ(16)は、更に、前記プルタブ(16)に配置され、前記プルタブ(16)が近位方向に移動されたときに近位方向に移動される係合要素(18)を備え、前記係合要素(18)は、前記インプラントを展開するための前記システムの第1の固定された長手方向位置に配置される第1の干渉要素(26)と係合するように配置される、プルタブと
を備え、
前記係合要素(18)と前記第1の干渉要素(26)との間の係合により、前記インプラント固定シースがあらかじめ設定された距離だけ引っ張り戻されたことの触覚的フィードバックが前記システムのユーザに提供され、
前記システム(10)は、プルタブ引き戻し機構を更に備え、前記プルタブ引き戻し機構は、前記インプラント保持部分に配置されたインプラントを解放するように前記プルタブ(16)を近位方向に引っ張るように配置され、
前記プルタブ引き戻し機構は、スピンドルに結合されたサムホイール(22)を備え、前記スピンドルは、前記プルタブ(16)に対して近位方向への引っ張りを発揮するように前記プルタブ(16)を巻き上げるために配置される、システム(10)。
【請求項2】
前記触覚的フィードバックは、前記プルタブ(16)の更なる引き戻しの阻止である、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記システムは、前記プルタブ(16)の更なる引き戻しの前記阻止を選択的に解除するための第1の解除機構(28)を更に備え、前記第1の解除機構(28)は、任意選択的に、ユーザ操作可能なボタンによって操作可能である、請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記係合要素(18)は前記プルタブ(16)に固定的に設けられた突起を備え、前記第1の干渉要素(26)は前記ハンドル(12)の内側に設けられた開口を備え、前記開口は、前記ユーザに触覚的フィードバックを提供するために前記突起が前記開口の境界部と係合するように、大きさが決められている、請求項1から3のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項5】
前記インプラントを展開するための前記システムの第2の固定された長手方向位置に配置される第2の干渉要素(20)を更に備え、前記係合要素(18)は、前記ユーザに触覚的フィードバックを提供するように前記第2の干渉要素(20)と係合するように配置され、前記触覚的フィードバックは、任意選択的に、前記プルタブ(16)の引き戻しの阻止である、請求項1から4のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項6】
前記システムは、前記第2の干渉要素(20)と前記係合要素(18)との間の前記係合による前記プルタブ(16)の引き戻しの前記阻止を選択的に解除する第2の解除機構(24)を更に備え、前記第2の解除機構(24)は、任意選択的に、スライダによって操作可能である、請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
前記第2の干渉要素(20)と前記係合要素(18)との間の前記係合は、前記インプラント保持部分を完全に被覆する前記インプラント固定シースに対応する、請求項5または6に記載のシステム。
【請求項8】
前記システムは、前記インプラント保持部分に配置されたインプラント、任意選択的にはステントグラフト、更に任意選択的にはTIPSステントグラフトを更に備える、請求項1から7のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項9】
前記インプラントは自己拡張式インプラントである、請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
前記係合要素(18)と前記第1の干渉要素(26)との間の前記係合は、前記インプラントの部分的な展開に対応する、請求項8または9に記載のシステム。
【国際調査報告】