(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-11
(54)【発明の名称】クロロシス抵抗性細胞質雄性不稔ブラシカ属植物
(51)【国際特許分類】
A01H 5/00 20180101AFI20231228BHJP
A01H 1/00 20060101ALI20231228BHJP
A01H 6/00 20180101ALI20231228BHJP
A01H 5/10 20180101ALI20231228BHJP
C12N 15/11 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
A01H5/00 Z ZNA
A01H1/00 Z
A01H6/00
A01H5/10
C12N15/11 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023530982
(86)(22)【出願日】2020-12-10
(85)【翻訳文提出日】2023-07-19
(86)【国際出願番号】 EP2020085628
(87)【国際公開番号】W WO2022122164
(87)【国際公開日】2022-06-16
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】509018845
【氏名又は名称】エンザ・ザデン・ビヘーア・ベスローテン・フエンノートシャップ
【氏名又は名称原語表記】ENZA ZADEN BEHEER B.V.
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】クーレファール, ヘラルト ネイス
(72)【発明者】
【氏名】ブリガ, ロイ
(72)【発明者】
【氏名】ルーベーク, イルヤ
(72)【発明者】
【氏名】デ ランゲ, ブレンダ ヨハンナ マリア
【テーマコード(参考)】
2B030
【Fターム(参考)】
2B030AA02
2B030AB03
2B030AD04
2B030AD20
2B030CA12
2B030CB02
(57)【要約】
本発明は、クロロシス抵抗性細胞質雄性不稔(CMS)ブラシカ・ラパ植物及びクロロシス抵抗性CMSブラシカ・ラパ植物を生成する方法に関する。本発明は、クロロシス抵抗性CMSブラシカ・ラパ植物の後代、子孫植物、及び/又は種子及び/又は植物部分にさらに関する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロロシス抵抗性細胞質雄性不稔(CMS)ブラシカ・ラパ(Brassica rapa)植物であって、
前記植物の葉緑体の実質的に100%がブラシカ・ラパの葉緑体であり、前記ブラシカ・ラパの葉緑体が、配列番号1、配列番号3及び配列番号5からなる群から選択される1つ又は複数の配列によって特定可能であり;
前記植物の核ゲノムが、配列番号7及び/又は配列番号9によって特定可能なブラシカ・ラパの核ゲノムであり;
前記植物が、配列番号2、配列番号4及び配列番号6からなる群から選択される1つ又は複数の配列によって特定可能なブラシカ・オレラセア(Brassica oleracea)の葉緑体を含まない、
クロロシス抵抗性細胞質雄性不稔(CMS)ブラシカ・ラパ植物。
【請求項2】
以下のステップ:
a)プロトプラストドナーとしての稔性ブラシカ・ラパ植物のプロトプラストと、細胞質ドナーとしてのブラシカ属の別の二倍体種、好ましくはブラシカ・オレラセアの葉緑体を含むCMSブラシカ・ラパ植物のプロトプラストとの、プロトプラスト融合のステップ;
b)プロトプラスト融合産物を選択するステップであって:
前記植物の前記葉緑体の実質的に100%が、配列番号1、配列番号3及び配列番号5からなる群から選択される1つ又は複数の配列によって特定可能なブラシカ・ラパの葉緑体であり;
前記植物の前記核ゲノムが、配列番号7及び/又は配列番号9によって特定可能なブラシカ・ラパの核ゲノムであり;
前記植物が、配列番号2、配列番号4及び配列番号6からなる群から選択される1つ又は複数の配列によって特定可能なブラシカ・オレラセアの葉緑体を含まない、ステップ
を含む方法によって入手可能である、請求項1に記載のクロロシス抵抗性CMSブラシカ・ラパ植物。
【請求項3】
ラファナス・サティバス(Raphanus sativus)、ブラシカ・オキシリナ(Brassica oxyrhina)、ディプロタキシス・ムラリス(Diplotaxis muralis)、メンタ・アルベンシス(Mentha arvensis)又はエナルスロカルパス・リラタス(Enarthrocarpus lyratus)、好ましくはラファナス・サティバスのミトコンドリアを含む、請求項1又は請求項2に記載のクロロシス抵抗性CMSブラシカ・ラパ植物。
【請求項4】
前記ミトコンドリアの実質的に100%が、配列番号11によって特定可能なラファナス・サティバスのミトコンドリアであり;
ブラシカ・オレラセア及びブラシカ・ラパのミトコンドリアを含まない、
請求項1~3のいずれか一項に記載のクロロシス抵抗性CMSブラシカ・ラパ植物。
【請求項5】
前記CMSブラシカ・ラパ植物が、ブラシカ・ラパ亜種:ラパ(Rapa)、ペキネンシス(Pekinensis)、グラブラ(Glabra)、チネンシス(Chinensis)、ラピフェラ(Rapifera)、オレイフェラ(Oleifera)、パラチネンシス(Parachinensis)、ペルビリディス(Perviridis)、ブラシカ・ナリノサ(Brassica Narinosa)、トリロキュラリス(Trilocularis)、ミズナ(Mizuna)からなる群から選択され、好ましくは、ラパ又はペキネンシスである、請求項1~4のいずれか一項に記載のクロロシス抵抗性CMSブラシカ・ラパ植物。
【請求項6】
前記葉緑体の実質的に100%がNCIMBアクセッション番号43622に由来する葉緑体であり;
前記ミトコンドリアの実質的に100%がNCIMBアクセッション番号43622に由来するミトコンドリアである、
請求項1~5のいずれか一項に記載のクロロシス抵抗性CMSブラシカ・ラパ植物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載のクロロシス抵抗性CMSブラシカ・ラパ植物の後代、子孫植物、種子又は植物部分。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載のクロロシス抵抗性CMSブラシカ・ラパ植物を親として使用することによって生成される、ハイブリッドブラシカ属植物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載のクロロシス抵抗性CMSブラシカ・ラパ植物を提供するための方法であって、以下のステップ:
a)プロトプラストドナーとしての稔性ブラシカ・ラパ植物のプロトプラストと、細胞質ドナーとしてのブラシカ属の別の二倍体種、好ましくはブラシカ・オレラセアの葉緑体を含むCMSブラシカ・ラパ植物のプロトプラストとの、プロトプラスト融合のステップ;
b)プロトプラスト融合産物を選択するステップであって:
前記植物の前記葉緑体の実質的に100%が、配列番号1、配列番号3及び配列番号5からなる群から選択される1つ又は複数の配列によって特定可能なブラシカ・ラパの葉緑体であり;
前記植物の前記核ゲノムが、配列番号7及び/又は配列番号9によって特定可能なブラシカ・ラパの核ゲノムであり;
前記植物が、配列番号2、配列番号4及び配列番号6からなる群から選択される1つ又は複数の配列によって特定可能なブラシカ・オレラセアの葉緑体を含まず;
任意選択で、選択されたクロロシス抵抗性CMSブラシカ・ラパ植物を野生型ブラシカ・ラパ植物と少なくとも1回交雑し、クロロシス抵抗性CMSブラシカ・ラパ植物を選択するステップ
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[説明]
本発明は、クロロシス抵抗性細胞質雄性不稔(CMS)ブラシカ・ラパ(Brassica rapa)植物及びクロロシス抵抗性CMS B.ラパ(B.rapa)植物を生成する方法に関する。本発明は、クロロシス抵抗性CMS B.ラパ植物の後代、子孫植物、種子又は植物部分にさらに関する。
【0002】
細胞質雄不稔(CMS)は、核とミトコンドリアの特定の相互作用の結果としての、植物の全体又は部分的雄性不稔である。雄性不稔は、植物が機能的な葯、花粉又は雄性配偶子を生成することができないことである。CMSは、核外の遺伝的制御下、すなわち、ミトコンドリアゲノム又はプラスチドゲノムの制御下にあり、ミトコンドリア及び/又はプラスチドの遺伝子にコードされる母性遺伝形質である。CMSシステムは、遺伝子-細胞質の組み合わせを操作することによって不稔の発現を制御するという利便性が理由で、ハイブリッド育種のために作物で広く活用されている。雄性不稔細胞質は、ある特定の核Rf遺伝子によって稔性に回復され得る。いくつかのタイプのCMSは、植物が機能的な葯、花粉又は雄性配偶子を生成することができないことを回復させる特定の核遺伝子に基づいて、区別され得る。雄性不稔のためのCMSシステムを組み込むことによって、他家受粉種における除雄の必要性が回避され、したがって、自然条件下でハイブリッド種子しか作らない交雑育種が助長される。
【0003】
1つの特定のCMSシステムは、ブラシカ属植物、特に、ブラシカ・オレラセア(Brassica oleracea)、セイヨウアブラナ(B.napus)、セイヨウカラシナ(B.juncea)で使用するために開発され、オグラ(Ogura)(日本ダイコン)の細胞質(すなわち、ミトコンドリア)のみがこれらのブラシカ属植物に移された。オグラCMSにおける機能障害性ミトコンドリアによる遺伝子発現変化は花粉発達欠損をもたらすが、植物の栄養組織における遺伝子発現の効果についてはほとんど分かっていない。核遺伝子発現に対するミトコンドリアの影響は、ミトコンドリアの逆行性調節と呼ばれ、これは、CMS誘導遺伝子を介してCMS系統で生じる。さらに、葉緑体の逆行性シグナリングは核とミトコンドリアの両方の遺伝子発現を変化させ、ミトコンドリアの逆行性シグナリングによる葉緑体遺伝子及び葉緑体タンパク質に関する核遺伝子の調節についてはほとんど分かっていない。しかし、CMSの導入によって、いくつかの望ましくない特性もCMS作物に移され、これは、おそらくブラシカ属の核、葉緑体とオグラのミトコンドリアが不和合である結果である。
【0004】
ブラシカ属におけるCMSハイブリッドの生成の欠点は、ブラシカ属植物へのオグラ細胞質の浸透性交雑が、稔性の類似体と比べて、低温での葉のクロロシス、すなわち、植物組織の変色又は黄化をもたらすことである。B.ラパにおいて付随的なB.オレラセアの葉緑体をともなうオグラのミトコンドリアは、低温の生育条件において葉のクロロシスを引き起こす。最近の研究によって、チラコイドタンパク質及びクロロフィルの低減が、低温での光合成作用の低減及びオグラ-CMSのクロロシスにつながることが示される。例えば、葉緑体融合によって生成され、オグラCMSを含むセイヨウアブラナ植物は、低温(15℃未満)でクロロシスを示した。オグラ-CMSハクサイ(B.ラパ種ペキネンシス(B.rapa spp pekinensis))では、クロロシス効果の次に、草高の低減、開花の遅延及び短い花糸が示された。
【0005】
クロロシスを含めて、CMSによるそのような有害効果に打ち勝つために、いくつかの試みが行われた。体細胞融合、すなわち、葉緑体融合が試みられ、これによって、ブラシカ属植物の2つの別々の種が一緒に融合して、両方の特性を有する新しいハイブリッド植物を形成された。しかし、このアプローチは、激しい花の奇形及び結実不良を有するブラシカ属系統につながり、クロロシスは問題として残った。CMSオグラベースのシステムを最適化しようとしている他のものにより、より小さく、あまりコンパクトでなく、あまりよく生育せず、品質が低く、依然としてクロロシスの植物部分及び果実の生成が観察された。B.オレラセアの葉緑体とともにダイコンの葉緑体を加えることによる細胞質ゲノムの変化により、負の形質のいくつかは修正されたが、特にクロロシスは問題として残った。これは、経時的に、ハイブリッド細胞に存在するB.オレラセアの葉緑体がダイコンの葉緑体との競争によって排除され、数世代の生育後にクロロシスが問題として残るからである。オグラCMSに付随する葉緑体は、別の葉緑体より数が多い混合葉緑体の細胞質で減数分裂中に優先され、これによって、後の戻し交雑世代で黄化表現型、すなわちクロロシスが再び起こることが報告されている。逆行性シグナリング又はオルガネラ相互作用はタンパク質レベルで調節され、育種で使用されるブラシカ属種に特有である。したがって、核とオルガネラの最適な組み合わせを発見することは、CMSベースの育種のための必要条件であるように思われる。
【0006】
現在は、特に、長い期間(すなわち、生育及び栽培のいくつかの世代)にわたって、植物及び果実に対する有害効果に打ち勝つ、利用可能なハイブリッド育種のためのCMSシステムはない。ポリマ(Polima)(pol)、hau、nap及びオグラ(ogu)CMSを含めて、いくつかのタイプのCMSシステムが周知であり、ハイブリッド生成で使用されているが、すべて、ハイブリッド植物に対して負の効果を示した。pol CMSは温度感受性であり、したがって、ハイブリッド生成のためのその使用が制限される。さらに、pol CMSシステムの主な不利な点は、雄性不稔が、異なる核背景の環境に感受性であり、その破綻につながり、それにより、ハイブリッド種子生成の過程で(部分的に)稔性の回復につながることである。植物及び作物に対するオグラ細胞質の負の効果は、そのようなCMS系統を使用する商業的にあまり興味のないハイブリッド種子生成をもたらす。さらに、クロロシスを示すブラシカ属植物は商用販売に許容されない。しかし、その制限にもかかわらず、オグラ-CMSシステムは、ブラシカ属のハイブリッド種子の生成のための最良の選択肢(すなわち、有害効果が最も少ない)のままである。
【0007】
上記を考慮すれば、ハイブリッド種子を生成することができ、長期間の生育及び栽培にわたる低温への曝露時のクロロシス効果、草高の低減、開花の遅延及び短い花糸を含めて、CMSシステムによる農業生産力に対する負の効果に抵抗することができるCMSブラシカ属植物が当技術分野において必要である。さらに、そのようなCMSブラシカ属植物を用意するための方法が当技術分野において必要である。
【0008】
複数の他の目的の中で、当技術分野における上記の必要性に対処することが本発明の一目的である。複数の他の目的の中で、本発明の目的は、添付の特許請求の範囲で概要を述べる本発明によって満たされる。
【0009】
特に、複数の他の目的の中で、上記の目的は、第一の態様によれば、本発明によって、クロロシス抵抗性細胞質雄性不稔(CMS)ブラシカ・ラパ植物によって満たされ:
前記植物の葉緑体の実質的に100%がブラシカ・ラパ(B.ラパ)の葉緑体であり、前記ブラシカ・ラパの葉緑体は、配列番号1、配列番号3及び配列番号5からなる群から選択される1つ又は複数の配列によって特定可能であり;
前記植物の核ゲノムが、配列番号7及び/又は配列番号9によって特定可能なブラシカ・ラパの核ゲノムであり;
前記植物が、配列番号2、配列番号4及び配列番号6からなる群から選択される1つ又は複数の配列によって特定可能なブラシカ・オレラセア(B.オレラセア)の葉緑体を含まない。
【0010】
植物の細胞はB.ラパのみに由来する葉緑体及び核を含み、葉緑体は配列番号1、配列番号3及び/又は配列番号5と関連するか、又は前記配列と少なくとも95%、好ましくは少なくとも96%、より好ましくは少なくとも97%、より一層好ましくは少なくとも98%、最も好ましくは少なくとも99%の配列同一性を有する。本発明のCMS植物では、CMSを与える供給源(例えば、オグラ)のミトコンドリアは、細胞融合によって、B.ラパの葉緑体及びB.ラパの核と組み合わされる。配列番号1、配列番号3及び/又は配列番号5は、葉緑体オルガネラの起源がB.ラパからであることを特定する。核は配列番号7若しくは9と関連するか、又は前記配列と少なくとも98%、好ましくは少なくとも99%、より好ましくは100%の配列同一性を有し、核の起源がB.ラパからであることを特定する。本発明の植物の核はB.ラパの核のみを含み、B.オレラセアの配列がないことについて、すなわち、配列番号8も配列番号10もないことによって、該核をさらに解析することができる。CMS B.ラパ植物が100%のB.ラパの葉緑体、核を含み、例えばオグラのミトコンドリアを含むことを確認するために、オルガネラ、すなわち、ミトコンドリア、核に対してさらなるマーカー解析を行うことができる。本発明によるB.ラパ植物はクロロシスを示さず、商用販売に適している。本発明のCMS B.ラパ植物はサイズ及び形状が類似しており、植物の生育及び発達に対して有害効果を示さない。さらに、F1におけるさらなる戻し交雑の後、本発明のCMS B.ラパ植物において、クロロシス並びに植物の生育及び植物の発達に対する有害効果は観察されなかった。
【0011】
本発明のCMS植物は、ブラシカ属の核、葉緑体とオグラのミトコンドリアの間の不和合性の結果に悩まされず、なぜならば、両方の核と葉緑体の両方が完全にB.ラパに由来するからである。低温での光合成効率の低減及びクロロシスにつながるチラコイドタンパク質及びクロロフィルの低減がない、すなわち、植物部分の黄化がないと考えられる。クロロシス効果に打ち勝とうとした以前のCMSブラシカ属種で観察されたような、長期の育種後のクロロシスの増加もない。したがって、正常な植物の生育を示し、農業生産力に対して負の効果を示さない安定なクロロシス抵抗性CMS B.ラパが本明細書で提供される。前に示されたように、当技術分野における通常のプロトプラスト融合は、B.ラパとB.オレラセアオグラドナー(CMS形質を与える)の間であり、すなわち、ドナーとして、B.オレラセアの葉緑体及びオグラのミトコンドリアを使用する。しかし、このことによって、クロロシスを示すブラシカ属系統がもたらされる。驚いたことに、本発明のB.ラパは、クロロシスを示す(すなわち、クロロシス抵抗性ではない)選択されたCMS B.ラパと野生型B.ラパ(非CMS)のプロトプラスト融合によって得られて、クロロシス抵抗性であり、ブラシカ属における他の既知のCMSオグラベースのシステムについて示されるような植物の成長力又は結実に対する負の効果に悩まされない、新しいCMS B.ラパ植物を提供する。
【0012】
好ましい実施形態によれば、本発明は、以下のステップを含む方法によって入手可能である、クロロシス抵抗性CMS B.ラパ植物に関する:
a)プロトプラストドナーとしての稔性ブラシカ・ラパ植物のプロトプラストと細胞質ドナーとしてのブラシカ属の別の二倍体種、好ましくはブラシカ・オレラセアの葉緑体を含むCMSブラシカ・ラパ植物のプロトプラストとのプロトプラスト融合のステップ;
b)プロトプラスト融合産物を選択するステップであって:
植物の葉緑体の実質的に100%が、配列番号1、配列番号3及び配列番号5からなる群から選択される1つ又は複数の配列によって特定可能なブラシカ・ラパの葉緑体であり;
植物の核ゲノムが、配列番号7及び/又は配列番号9によって特定可能なブラシカ・ラパの核ゲノムであり;
植物が、配列番号2、配列番号4及び配列番号6からなる群から選択される1つ又は複数の配列によって特定可能なブラシカ・オレラセアの葉緑体を含まない、ステップ。
【0013】
本発明の好ましい実施形態によれば、上で詳述された本植物は、本質的に生物学的プロセスによってのみ得られる植物ではない。本植物は、B.オレラセアに由来する葉緑体を含まない。
【0014】
別の好ましい実施形態によれば、本発明は、R.サティバス(R.sativus)(ダイコン。オグラ又はOrgura-CMSとも呼ばれる)、B.オキシリナ(B.oxyrrhina)(野生カラシナ)、D.ムラリス(D.muralis)(一年生ウォールロケット(annual wall-rocket))、M.アルベンシス(M.arvensis)(野生ミント)又はE.リラタス(E.lyratus)(ドラゴンフライ(dragonfly))、好ましくはR.サティバスのミトコンドリアゲノムを含む、クロロシス抵抗性CMS B.ラパ植物に関する。オグラ-CMSシステムは、ミトコンドリアゲノム、すなわち不稔性を与えるのに好ましいシステムである。
【0015】
別の好ましい実施形態によれば、本発明は、
ミトコンドリアの実質的に100%が、配列番号11によって特定可能なR.サティバスのミトコンドリアであり;
ブラシカ・オレラセア及びブラシカ・ラパのミトコンドリアを含まない、
クロロシス抵抗性CMS B.ラパ植物に関する。
【0016】
植物の細胞は、配列番号11と関連するか、又は前記配列と少なくとも95%、好ましくは少なくとも96%、より好ましくは少なくとも97%、より一層好ましくは少なくとも98%、最も好ましくは少なくとも99%の配列同一性を有するミトコンドリアゲノムを含み、ミトコンドリアゲノムの起源がR.サティバス(オグラ)からであることを特定する。配列番号12~配列番号23は、ミトコンドリアがB.ラパ又はB.オレラセアのミトコンドリア配列を含むかどうかを決定するために使用することができるプライマー配列である。
【0017】
好ましい実施形態によれば、本発明は、B.ラパ植物が、ラパ、ペキネンシス、グラブラ(Glabra)、チネンシス(Chinensis)、ラピフェラ(Rapifera)、オレイフェラ(Oleifera)、パラチネンシス(Parachinensis)、ペルビリディス(Perviridis)、ブラシカ・ナリノサ(Brassica Narinosa)、トリロキュラリス(Trilocularis)、ミズナからなるB.ラパ亜種の群から選択され、好ましくは、ラパ又はペキネンシスである、クロロシス抵抗性CMS B.ラパ植物に関する。ブラシカ・ラパは、様々な広く栽培されている種、例えば、カブ(ブラシカ・ラパ亜種ラパ(Brassica rapa subsp.rapa));ハクサイ(napa cabbage)(ブラシカ・ラパ亜種ペキネンシス(Brassica rapa subsp.Pekinensis))、ボムドン(ブラシカ・ラパ変種グラブラ(Brassica rapa var.glabra))、チンゲンサイ(ブラシカ・ラパ亜種チネンシス(Brassica rapa subsp.Chinensis))及びラピーニ(ブラシカ・ラパ変種ラピフェラ(Brassica rapa var.rapifera))、アブラナ、菜の花(ブラシカ・ラパ亜種オレイフェラ(Brassica rapa subsp.Oleifera))、バード・レイプ(bird rape)及びケブロック(keblock)を含めた多くの一般名を有する油料種子、サイシン(ブラシカ・ラパ亜種パラチネンシス(Brassica rapa subsp.Parachinensis)、コマツナ(ブラシカ・ラパ亜種ペルビリディス(Brassica rapa subsp.Perviridis))、タアサイ(ブラシカ・ラパ亜種ナリノサ(Brassica rapa subsp.Narinosa)、イエローサルソン(ブラシカ・ラパ亜種トリロキュラリス)並びにミズナ(ブラシカ・ラパ亜種ニッポシニカ(Brassica rapa subsp.niposinica))からなる植物である。
【0018】
さらに別の好ましい実施形態によれば、本発明は、
葉緑体の実質的に100%がNCIMBアクセッション番号43622に由来する葉緑体であり;
ミトコンドリアの実質的に100%がNCIMBアクセッション番号43622に由来するミトコンドリアである、
クロロシス抵抗性CMS B.ラパ植物に関する。
【0019】
代表的な種子は、NCIMB Ltd.Ferguson Building、Craibstone Estate、Bucksburn、Aberdeen、AB21 9YA Scotlandに、NCIMBアクセッション番号43622で2020年5月26日に寄託された。
【0020】
本発明は、さらなる態様によれば、本発明のクロロシス抵抗性CMS B.ラパ植物の後代若しくは子孫植物、種子又は植物部分に関する。
【0021】
本発明は、さらなる態様によれば、本発明のクロロシス抵抗性CMS B.ラパ植物を使用して生成されるハイブリッドブラシカ属植物に関する。
本発明は、さらなる態様によれば、以下のステップを含む、クロロシス抵抗性CMSブラシカ・ラパ植物を提供するための方法に関する;
a)葉緑体ドナーとしての稔性ブラシカ・ラパ植物のプロトプラストと、細胞質ドナーとしてのブラシカ属の別の二倍体種、好ましくはブラシカ・オレラセアの葉緑体を含むCMSブラシカ・ラパ植物のプロトプラストとの、プロトプラスト融合のステップ;
b)プロトプラスト融合産物を選択するステップであって:
植物の葉緑体の実質的に100%が、配列番号1、配列番号3及び配列番号5からなる群から選択される1つ又は複数の配列によって特定可能なブラシカ・ラパの葉緑体であり;
植物の核ゲノムが、配列番号7及び/又は配列番号9によって特定可能なブラシカ・ラパの核ゲノムであり;
植物が、配列番号2、配列番号4及び配列番号6からなる群から選択される1つ又は複数の配列によって特定可能なブラシカ・オレラセアの葉緑体を含まず;
任意選択で、選択されたクロロシス抵抗性CMSブラシカ・ラパ植物を野生型ブラシカ・ラパ植物と少なくとも1回交雑し、クロロシス抵抗性CMSブラシカ・ラパ植物を選択するステップ。本発明の方法は、ステップa)で、クロロシス抵抗性でない(すなわち、クロロシスを示す)CMS B.ラパ及び野生型B.ラパ(非CMS)を使用して、プロトプラスト融合を行い、続いて、選択し(ステップc)、クロロシス抵抗性である新しいCMS B.ラパ植物を提供する。本発明のクロロシス抵抗性CMS B.ラパ植物は、オグラのミトコンドリアのみ、及びB.ラパの葉緑体のみ、及びB.ラパの核を含む。さらに、この植物は、ブラシカ属における他の既知のCMSオグラベースのシステムについて示されるような植物の成長力又は結実に対する負の効果に悩まされない。
【0022】
さらに別の好ましい実施形態によれば、本発明は、植物のミトコンドリアゲノムが、R.サティバス(ダイコン)、B.オキシリナ(野生カラシナ)、D.ムラリス(一年生ウォールロケット)、M.アルベンシス(野生ミント)、E.リラタス(ドラゴンフライ)、好ましくはR.サティバスに由来する方法に関する。
【0023】
好ましい実施形態によれば、本発明は、選択が、配列番号11と関連するミトコンドリアゲノムを含む植物を選択することによってさらに行われ、植物が、B.オレラセアのミトコンドリア配列もB.ラパのミトコンドリア配列も含まない方法に関する。植物の細胞は、配列番号11と関連するか、又は前記配列と少なくとも95%、好ましくは少なくとも96%、より好ましくは少なくとも97%、より一層好ましくは少なくとも98%、最も好ましくは少なくとも99%の配列同一性を有するミトコンドリアゲノムを含み、ミトコンドリアゲノムの起源がR.サティバス(オグラ)からであることを特定する。配列番号12~配列番号23は、ミトコンドリアがB.ラパ又はB.オレラセアのミトコンドリア配列を含むかどうかを決定するために使用することができるプライマー配列である。
【0024】
さらに別の好ましい実施形態によれば、本発明は、B.ラパ植物が、ラパ、ペキネンシス、グラブラ、チネンシス、ラピフェラ、オレイフェラ、パラチネンシス、ペルビリディス、ブラシカ・ナリノサ、トリロキュラリスからなるB.ラパ亜種の群から選択される、好ましくは、ラパ又はペキネンシスである方法に関する。
【0025】
本発明を以下の実施例及び図でさらに詳しく述べる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】冬季栽培(5~12℃の温度)のための非加熱ガラス温室中のCMS B.ラパ植物を示す図である。上部の3~4列の植物は、従来技術の「旧」CMS B.ラパ植物を含み、葉の明らかな黄化、すなわち、クロロシスを示す。下部の列の植物は、B.ラパの核、オグラのミトコンドリア及びB.ラパの葉緑体を有する、クロロシス抵抗性である本発明によるCMS B.ラパ植物である。
【
図2】従来技術のCMS B.ラパ植物(左、CMS3)、クロロシス抵抗性である、B.ラパの核、オグラのミトコンドリア及びB.ラパの葉緑体を有する本発明によるCMS B.ラパ植物(中央、CMS7)、並びに野生型B.ラパ植物(右、WT)の葉を示す図である。左のCMS B.ラパ植物は、5~12℃の温度の非加熱ガラス温室で3~4週間栽培した後のクロロシスの第1の徴候を示している。クロロシスは、特に、葉の茎から目に見え、次第に葉に向かって移動していく。本発明のCMS B.ラパ植物(中央)では、WT B.ラパと同様に、同一の条件下でこの3~4週間の間、クロロシスは目に見えなかった。さらに、本発明のCMS植物は、「旧」CMS及び野生型B.ラパに匹敵する、通常の生育を示す。
【
図3】本発明のクロロシス抵抗性CMS B.ラパ植物(上部の写真)及び野生型雄性稔性B.ラパ植物(下部の写真)の花を示す図である。本発明のCMS植物は、植物全体にわたって雄性不稔を示す。花粉粒を保有する十分に発達した葯を有する野生型雄性稔性B.ラパ植物で花粉は明瞭に目に見えるが、本発明のCMS B.ラパ植物は、未発達の葯を示し、葯は花粉を全く保有していない。
【0027】
[実施例]
本発明のクロロシス抵抗性B.ラパオグラCMSの生成
プロトプラスト融合の前に、B.ラパ変種キモサ(B.rapa var.cymosa)(チーメディラパ(Cime di Rapa))稔性系統及びブラシカ・オレラセアの葉緑体を有するオグラCMS B.ラパ(チーメディラパ)系統を14日間生育させた。プロトプラスト融合の前に14日間生育させたブラシカ・ラパ変種キモサ(チーメディラパ)稔性系統の葉を使用し、黄化胚軸のプロトプラストのために暗所で7日間生育させた、ブラシカ・オレラセアの葉緑体を有するオグラCMSブラシカ・ラパ(チーメディラパ)系統を使用した。次いで、B.ラパ稔性系統の実生の葉及びオグラCMSブラシカ・ラパ(チーメディラパ)系統の黄化胚軸を、Pelletierら1983、Molecular and General Genetics MGG 191:244~250などの当技術分野で既知のプロトプラスト融合に使用した。
【0028】
手短に言えば、葉及び胚軸材料を小片に切断し、原形質分離溶液の層(約12ml)を含むペトリ皿に入れ、続いて、アルミ箔に包み、ラミナーフローキャビネット中で少なくとも1時間保存した。次に、原形質分離溶液を等量の酵素溶液に置き換え、アルミ箔中で25℃で一晩インキュベートし、胚軸プロトプラストを含むペトリ皿は30rpm及び15mmの振幅の振盪機に入れる。翌日、それぞれ110μmと53μmの2つのナイロンフィルターを有するテフロンフィルターホルダー上で、得られた懸濁液試料を濾過する。8~9mlのCPW16でフィルターを再度すすぐ。次いで、懸濁液を110×gで5分間遠心分離して、目に見えるプロトプラスト体を得る。パスツールピペットによってプロトプラスト試料を新しい遠心管に移す。次いで、およそ8~9mlのW5をプロトプラストに添加し、続いて、75×gで5分間遠心分離する。
【0029】
次いで、プロトプラスト懸濁液の密度を血球計数器で決定する。マイクロピペットを使用して、融合のために、両方の懸濁プロトプラストのプロトプラストを9×105プロトプラスト/mlの密度でペトリ皿中で液滴として一緒にし、暗所で15分間静止させて、プロトプラストをペトリ皿の底面に接着させる。次いで、およそ60μlのPEG1溶液(PEG4000 400g/l、CaCl2.2H2O 7.35g/l、グルコース54.5g/l)をプロトプラストの各液滴に添加し、続いて、3~5分後に、4~9mlのPEG2(PEG4000 133g/l、CaCl2.2H2O 9.85g/l、ソルビトール12.21g/l、グルコース18.02g/l)溶液を添加する。3~5分後に、溶液を除去し、4~9mlのPEG3(PEG4000 67g/l、CaCl2.2H2O 12.2g/l、ソルビトール15.12g/l、グルコース9.01g/l)を添加する。3~5分後に、溶液を除去し、4~9mlのB培地(Pelletierら、1983による)を添加し、3~5分後に2回目を繰り返す。最後に、ペトリ皿を密封し、暗所で保存する。
【0030】
続いて、B.ラパ変種サイモス(B.rapa var.cymose)の核、オグラのミトコンドリア及びB.ラパの葉緑体を有するB.ラパである融合産物をPelletierら(1983)に記載されているように生育させた。融合産物をBC1としてB.ラパ系統(チーメディディラパ)と交雑した。BC1植物の種子をまき、3種のオルガネラ-ミトコンドリア、核及び葉緑体に対してマーカー解析を行った場合、この植物の100%が、正しい、予測されたオルガネラ組成(すなわち、B.ラパの核、オグラのミトコンドリア及びB.ラパの葉緑体)を保有することが確認された。さらに、この植物をB.ラパニッポシニカ変種ジャポニカ(B.rapa nipposinica var.japonica)、パラチネンシス及びペキネンシス型と交雑した。4~5週間後、種子を採取し、別の戻し交雑世代のために種子をまき、正しい、予測されたオルガネラ組成を保有することも確認した。
【0031】
クロロシス抵抗性B.ラパの特定
3種のオルガネラ-ミトコンドリア、核及び葉緑体に対してマーカー解析を行って、B.ラパ植物が100%の正しい、予測されたオルガネラ組成(すなわち、B.ラパの葉緑体、B.ラパの核及びオグラのミトコンドリア)を含むことを確認した。以下の表1のマーカーは、ミトコンドリアがオグラ(R.サティバス)のものであること、並びに核及び葉緑体がB.ラパのものであることを確認するために、すなわち、ミトコンドリアがオグラ由来ではない他の配列から構成されることを除外するために、又は葉緑体が、B.オレラセアに由来し得る葉緑体など、B.ラパ以外のブラシカ属供給源由来であることを除外するために、使用することができる。
【0032】
【0033】
例えば、SNPマーカー配列番号1及び配列番号2は、葉緑体の起源がB.オレラセア又はB.ラパからであることの特定に使用される。B.オレラセアに由来する葉緑体は、配列番号2の34bpの位置に「C」を有するが、B.ラパに由来する葉緑体は34bpの位置に「A」を有する。SNPマーカー配列番号7及び配列番号8は、ゲノムDNAの起源がB.オレラセア又はB.ラパからであることの特定に使用される。ゲノムDNAがB.オレラセアに由来する場合、配列番号8の36bpの位置に「T」が、39bpの位置に「G」が存在するが、ゲノムDNAがB.ラパに由来する場合、36bpの位置に「C」が、39bpの位置に「A」が存在する。配列番号11は、CMS B.ラパを確認するために、ミトコンドリアの起源がオグラからであることの特定に使用した。
【0034】
さらに、配列番号12~23は、ミトコンドリアがB.ラパ又はB.オレラセアのミトコンドリア配列を含むかどうかを決定するためのプライマー配列である。B.ラパとR.サティバスのミトコンドリアゲノムを、及びB.オレラセアとR.サティバスのミトコンドリアゲノムを区別するために、植物の全ゲノムDNAに対してPCR反応を行った。PCR後に、ミトコンドリアゲノムの起源を決定するために、表2に従って、制限酵素とともに産物をインキュベートし、それらの期待される断片サイズをスコア化した。消化後の産物を2%アガロースゲルにかけて、断片サイズを解析した。例えば、配列番号14及び15でのPCR並びにDdeIでの消化後、R.サティバム(R.sativum)特異的なミトコンドリアDNA産物は、357、81、63及び57塩基対のサイズの4つの断片を含むが、B.ラパ特異的なミトコンドリアDN産物は、285、81、75、63及び57塩基対のサイズの5つの断片を含む。
【0035】
【0036】
以下の4植物をマーカー解析に含めた;B.ラパ(野生型)、B.オレラセア(野生型)、B.ラパ「旧」CMS(クロロシス)、B.ラパ「新」CMS(非クロロシス、本発明の植物)。表3は概要を提供し、「+」は、植物にマーカーが存在することを示しており、「-」はマーカーが存在しないことを示した。PCRマーカー(配列番号12~23)に関して、産物断片に基づいて、ミトコンドリアゲノムの起源を示すR(ラパ)又はO(オレラセア)に植物をスコア化し、「-」はPCRによってPCR産物が得られない、すなわち、B.ラパのミトコンドリア配列もB.オレラセアのミトコンドリア配列もないことを示した。
【0037】
【0038】
結果は、本発明の植物(B.ラパ「新」CMS)は、B.ラパに由来する葉緑体及び核のみを含み、葉緑体は、B.ラパの葉緑体のマーカーと100%関連し、核はB.ラパの核のマーカーと関連することを示す。本発明のクロロシス抵抗性CMS B.ラパ植物を配列番号11と関連するオグラ型のミトコンドリアゲノムのみを含む、すなわち、不稔(CMS)植物であることも試験した。マーカー配列番号12~23で示されるように、B.ラパのミトコンドリアゲノムもB.オレラセアのミトコンドリアゲノムも、本発明の植物に存在しなかった。
【0039】
B.ラパにおけるクロロシスの評価
開発した植物材料、すなわち、本発明によるCMS B.ラパ植物(「新」)において黄化を評価するために、当技術分野で既知CMS B.ラパ植物(「旧」)及び野生型B.ラパ植物を寒冷条件下でクロロシスについて試験した。同時に、花の品質、植物の生育及び不稔性の安定性を評価した。寒冷温室で開花より前にクロロシスを評価し、これは目視で行った。B.ラパの実生をガラス温室で4週間生育させた後、冬季栽培(5~12℃の温度)のための非加熱ガラス温室に移した。
【0040】
クロロフィルを発達させることが部分的にできなかった結果として次第に緑色から黄色に変わる植物組織の色の目視検査によってクロロシスをスコア化した。クロロフィルの低減は組織の黄化につながる。影響を受けていない(すなわち、クロロフィル分解を引き起こす病原体又は栄養素欠乏の影響を受けていない)野生型B.ラパ植物は、正常な緑色の表現型であり、正常な緑色の表現型を有し、クロロシスは観察されず、この植物は通常の緑色の植物組織を発達させる。これらの植物は5のスコアを獲得し、1~5に及ぶスコアリングスケールにおけるベンチマークとして使用される。1のスコアは、上部の葉が顕著に黄色であり、下部の葉が非常にクロロシスの状態である激しいクロロシスを示す植物を指す。2のスコアは、著しい葉脈間黄化をともなう非常にクロロシスの状態を指す。3のスコアは、葉の軽度~中程度のクロロシス、葉脈間黄化を指す。4のスコアは、ほぼ正常な(野生型)表現型、薄緑色/葉脈間黄化、クロロシス葉なしを示す。したがって、5のスコアは、B.ラパ植物の緑色の非黄化表現型を指す。したがって、1~4のスコアを獲得するB.ラパ植物はクロロシスを示し、これらの植物は商用販売に許容されない。
【0041】
非加熱ガラス温室(5~12℃の温度)中で3~4週間後、且つ市販用に成熟するまでに、「旧」CMS B.ラパ植物(本発明によらない植物)でクロロシスの病徴が目に見え、これは、上記で定義された通り、クロロシスに関して3がスコア化された。本発明の「新」CMS B.ラパ植物に関してクロロシスは観察されず、これは、クロロシスに関して5がスコア化され、野生型B.ラパ植物に匹敵した。
図1及び2は、クロロシス抵抗性である、B.ラパの核、オグラのミトコンドリア及びB.ラパの葉緑体を有する本発明によるCMS B.ラパ植物(「新」)、野生型B.ラパ植物、並びにB.ラパの核、オグラのミトコンドリア及びB.オレラセアの葉緑体を有する従来技術のCMSラパ植物(「旧」)の植物及び葉を示す。クロロシスは、「旧」ブラシカ・ラパ植物では、特に、上部の三葉及び葉の茎で葉脈間黄化として目に見え、次第に葉に向かって移動していく。本発明のCMS B.ラパ植物では、同一の条件下でこの3~4週間の間、クロロシスは目に見えなかった。3つのB.ラパ群のすべての植物はサイズ及び形状が類似しており、植物の生育及び発達に対して有害効果を示さなかった。さらに、F1におけるさらなる戻し交雑の後、本発明のCMS B.ラパ植物において、クロロシス並びに植物の生育及び植物の発達に対する有害効果は観察されなかった。
【0042】
さらに、花の品質を評価し、植物の不稔性は、開花初期段階で一致した。本発明のB.ラパ植物では、花粉発達及び自家受粉の発生は観察されなかった。この評価は、すべての花が開花するまで、開花の様々な段階にわたって新しく開花した花を管理するために、週2回続けた。さらに、野生型B.ラパ植物(チーマディラパ(Cima di Rapa))と比較して、花粉を保有しない期待される異常な花粉葯を除いて、花弁、柱頭及び花蜜の制御された正常な発達が観察された。
図3を参照されたい。
図3は、本発明のクロロシス抵抗性CMS B.ラパ植物(上部の写真)及び野生型雄性稔性B.ラパ植物(下部の写真)の花を示す。花粉は、花粉粒を保有する十分に発達した葯を有する野生型植物では明瞭に目に見えるが、本発明のCMS B.ラパ植物は未発達の葯を示し、葯は花粉を全く保有していない。
【0043】
同じ温室内の隣接している植物から採取した野生型B.ラパの花粉を用いた、不稔の花の人工受粉によって、本発明のB.ラパ植物の雌性稔性の確認を行った。結実、登熟及び乾燥を受粉から収穫までシーズン中毎週管理した。
【配列表】
【国際調査報告】