(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-11
(54)【発明の名称】導電性ハイドロゲルによって生物活性物質の吸収及び/又は放出を感知する及びそれに影響を与える方法及び材料
(51)【国際特許分類】
C12M 3/00 20060101AFI20231228BHJP
C12M 1/42 20060101ALI20231228BHJP
C07K 1/24 20060101ALI20231228BHJP
C12N 5/071 20100101ALN20231228BHJP
【FI】
C12M3/00
C12M1/42
C07K1/24
C12N5/071
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023531635
(86)(22)【出願日】2021-11-11
(85)【翻訳文提出日】2023-07-19
(86)【国際出願番号】 DE2021100902
(87)【国際公開番号】W WO2022111755
(87)【国際公開日】2022-06-02
(31)【優先権主張番号】102020131547.3
(32)【優先日】2020-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500525405
【氏名又は名称】ライプニッツ-インスティチュート フュア ポリマーフォルシュング ドレスデン エーファウ
【氏名又は名称原語表記】Leibniz-Institut fuer Polymerforschung Dresden e.V.
【住所又は居所原語表記】Hohe Strasse 6,D-01069 Dresden,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】アクバー,テウク ファウズル
(72)【発明者】
【氏名】トンデラ,クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】ミネフ,アイヴァン
(72)【発明者】
【氏名】フロイデンベルク,ウーベ
(72)【発明者】
【氏名】ウェルナー,カルステン
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B029AA21
4B029BB11
4B029CC02
4B029DG10
4B029GB09
4B065AA90X
4B065AB01
4B065CA44
4H045AA20
4H045EA20
4H045FA71
4H045GA30
(57)【要約】
本発明は、ハイドロゲル材料(1)における生物活性物質の吸収及び/又はハイドロゲル材料からの生物活性物質の放出を感知し且つ影響を与えるための方法に関し、ここで、ハイドロゲル材料は、アニオン帯電構築ブロック及び非帯電構築ブロックから形成されるポリマーネットワークであり、生物活性物質に対するポリマーネットワークの親和性は、アニオン帯電構築ブロックを規定するパラメータによって構成されることが可能であり、ハイドロゲル材料は導電性成分を有し、その電気抵抗及び電荷貯蔵容量は、ハイドロゲル構築ブロックとの相互作用及びハイドロゲル材料への生物活性物質の結合に依存し、導電性成分は、電位の影響によってハイドロゲル材料のアニオン電荷及び生物活性物質に対するハイドロゲル材料の親和性を変化させるために適切である。この方法では、ハイドロゲル材料を生体流体と接触させ、ハイドロゲル材料の電気抵抗の変化及び/又は電荷貯蔵容量の変化を感知し、感知された電気抵抗の変化に基づいて、及び/又は感知された電荷貯蔵容量の変化に基づいて、ハイドロゲル材料への生物活性物質の吸収又はハイドロゲル材料から生体流体への生物活性物質の放出を決定し、及び/又は生体流体中の生物活性物質の濃度及び/又はハイドロゲル材料中の生物活性物質の濃度は、ハイドロゲル材料に作用する電位によって影響される。本発明はまた、適切な導電性ハイドロゲル材料に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハイドロゲル材料(1)における生物活性物質(6)の取り込み、及び/又はハイドロゲル材料(1)からの生物活性物質(6)の放出を検出し且つそれに影響を与える方法であって、前記ハイドロゲル材料(1)が、アニオン帯電単位(3)及び非帯電単位から形成され、且つ前記アニオン帯電単位(3)を規定するパラメータを用いて構成することができる生物活性物質(6)に対する親和性を有し、且つ前記ハイドロゲル構成要素(3)との相互作用及び前記ハイドロゲル材料(1)への生物活性物質(6)の結合に依存する電気抵抗及び電荷貯蔵容量を有する導電性成分(5)を有するポリマーネットワーク(2)であり、前記導電性成分(5)が、電位の影響により前記ハイドロゲル材料(1)のアニオン電荷及び生物活性物質(6)に対するその親和性を変更することができ、前記ハイドロゲル材料(1)を生体流体と接触させ、前記ハイドロゲル材料(1)の電気抵抗の変化及び/又は電荷貯蔵容量の変化を検出し、そして検出された電気抵抗の変化及び/又は電荷貯蔵容量の変化を用いて、前記ハイドロゲル材料(1)への生物活性物質(6)の取り込み、又は前記ハイドロゲル材料(1)からの生体流体への生物活性物質(6)の放出を確認し、及び/又は前記生体流体中の生物活性物質(6)の濃度及び/又は前記ハイドロゲル材料(1)中の生物活性物質(6)の濃度が、前記ハイドロゲル材料(1)に作用する電位によって影響を受ける、方法。
【請求項2】
前記生体流体と接触させる前に、規定濃度の規定の生物活性物質(6)を前記ハイドロゲル材料(1)に担持させることによって生物活性物質(6)が放出されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ポリマーネットワーク(2)が、前記アニオン帯電構成要素(3)を規定する、パラメータP0、P1、P2、P3の群から選択される少なくとも3つのパラメータを用いて、その組成の観点から構成されることが可能であり、
前記パラメータP0が、生理学的条件下で膨潤した前記ハイドロゲル材料(1)の単位体積あたりの全てのアニオン性基の30%イオン化を仮定したイオン化アニオン性基の数から計算される値に相当し、
前記パラメータP1が、生理学的条件下で膨潤した前記ハイドロゲル材料(1)の単位体積あたり2.5未満の固有pK
Aを有する強アニオン性基の数から計算される値に相当し、
前記パラメータP2が、繰り返し単位あたり2.5未満の固有pK
Aを有する強アニオン性基の数を前記繰り返し単位のモル質量で割った値から計算される値に相当し、且つ
前記パラメータP3が、前記アニオン性単位(3)の両親媒性の説明のための値に相当し、前記ハイドロゲル材料(1)の電気抵抗及び/又は電荷貯蔵容量が、前記ハイドロゲル材料(1)のパラメータ構成のパラメータ値によって規定されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
生物活性物質(6)の結合の検出のために、0.1Hz~1MHzの範囲の少なくとも1つの周波数において前記ハイドロゲル材料(1)のインピーダンスの変化を測定することを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
生物活性物質(6)の取り込みのために、1mV~1000mVの範囲、好ましくは400mV~600mVの範囲の電位を前記ハイドロゲル材料(1)に印加し、生物活性物質の放出のために、-1mV~-1000mVの範囲、好ましくは-400mV~-600mVの範囲の電位を前記ハイドロゲル材料(1)に印加することを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
生物活性物質(6)の取り込みのために、生物活性物質(6)の放出のための電流の流れ方向を変化させた状態で、0mAを超える一定の電流を前記ハイドロゲル材料(1)に加えることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
アニオン帯電単位(3)及び未帯電単位から形成されるポリマーネットワーク(2)を有し、前記アニオン帯電単位(3)を規定する、パラメータP0、P1、P2、P3の群から選択される少なくとも3つのパラメータを用いて、その組成を構成することが可能であり、
前記パラメータP0が、生理学的条件下で膨潤した前記ハイドロゲル材料(1)の単位体積あたりの全てのアニオン性基の30%イオン化を仮定したイオン化アニオン性基の数から計算される値に相当し、
前記パラメータP1が、生理学的条件下で膨潤した前記ハイドロゲル材料(1)の単位体積あたり2.5未満の固有pK
Aを有する強アニオン性基の数から計算される値に相当し、
前記パラメータP2が、繰り返し単位あたり2.5未満の固有pK
Aを有する強アニオン性基の数を前記繰り返し単位のモル質量で割った値から計算される値に相当し、且つ
前記パラメータP3が、前記アニオン性単位(3)の両親媒性の説明のための値に相当し、
導電性成分(5)が前記ポリマーネットワーク(2)に組み込まれ、前記ハイドロゲル材料(1)の電気伝導度、電気抵抗及び/又は電荷貯蔵容量を、前記ハイドロゲル材料(1)のパラメータ構成のパラメータ値によって規定することができる、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法を実施するために適切な導電性ハイドロゲル材料(1)。
【請求項8】
前記アニオン帯電単位(3)が、ポリ(アクリル酸-co-4-アクリルアミドメチルベンゼンスルホン酸)、ポリ(アクリル酸-co-アクリルアミドエタンスルホン酸)、ポリ(アクリル酸-co-アクリルアミドエタン硫酸水素塩)、ポリ(4-スチレンスルホン酸-co-マレイン酸)、硫酸化グリコサミノグリカン、特にヘパリン、選択的に脱硫酸化されたヘパリン誘導体、ヘパラン硫酸、コンドロイチン硫酸、ケラタン硫酸及びデルマタン硫酸からなる群から選択され、且つ前記非帯電単位が、アミノ基又はチオール基を含むポリマー、又は少なくとも2個のアミノ基又はチオール基を有する架橋剤分子(4)であり、前記帯電単位及び非帯電単位は架橋されて前記ポリマーネットワーク(2)が得られるが、これは、前記ポリ(アクリル酸-co-4-アクリルアミドメチルベンゼンスルホン酸)及び/又は前記ポリ(アクリル酸-co-アクリルアミドエタンスルホン酸)及び/又は前記ポリ(アクリル酸-co-アクリルアミドエタン硫酸水素塩)及び/又は前記ポリ(4-スチレンスルホン酸-co-マレイン酸)、及び/又は硫酸化グリコサミノグリカン、特にヘパリン、及び/又は選択的に脱硫酸化されたヘパリン誘導体、及び/又はヘパラン硫酸及び/又はコンドロイチン硫酸及び/又はケラタン硫酸及び/又はデルマタン硫酸のカルボキシル基をEDC/スルホ-NHSを用いて活性化し、そしてそれぞれの場合においてアミド形成によって、アミノ基を含有する前記ポリマー又は少なくとも2個のアミノ基を有する前記架橋剤分子(6)のいずれかに直接架橋するか、又はそれぞれがアミノ基及びマイケル型付加が可能な基を含む二官能性架橋剤分子によって、前記活性化されたカルボキシル基を官能基化し、その後、それぞれの場合においてマイケル型付加を介して、チオール基を含む前記ポリマー又は少なくとも2個のチオール基を有する前記架橋剤分子(4)によって架橋することを特徴とする、請求項7に記載の導電性ハイドロゲル材料。
【請求項9】
0.01Hzの周波数で測定される前記ハイドロゲル材料(1)の電気インピーダンスが、150Ω~10Ωの範囲で変動可能であり、パラメータ構成の前記パラメータ値が、好ましくは30Ωの電気インピーダンスを達成するように選択されることを特徴とする、請求項7及び8のいずれか一項に記載の導電性ハイドロゲル材料(1)。
【請求項10】
前記ハイドロゲル材料(1)の電荷貯蔵容量が、900mC/ml~4000mC/mlの範囲で変動可能であり、パラメータ構成の前記パラメータ値が、好ましくは2480mC/mlの電荷貯蔵容量を達成するように選択されることを特徴とする、請求項7及び8のいずれか一項に記載の導電性ハイドロゲル材料(1)。
【請求項11】
前記導電性成分(5)が、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェン及び/又はポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)から構成されるΠ共役系導電性ポリマー又はポリマー組成物であることを特徴とする、請求項7及び8のいずれかに記載の導電性ハイドロゲル材料(1)。
【請求項12】
非帯電単位(3)として、アミノ基及びチオール基を含有する前記ポリマーが、前記ポリエチレングリコール(PEG)、ポリ(2-オキサゾリン)(POX)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルアルコール(PVA)及び/又はポリアリールアミド(PAM)のクラスから選択され、且つアミノ基又はチオール基を含有する前記架橋剤分子(4)が非ポリマー系二官能性架橋剤分子(4)であることを特徴とする、請求項8に記載の導電性ハイドロゲル材料(1)。
【請求項13】
利用される前記非帯電単位(3)が、ポリマーネットワーク形成のためのペプチド配列中に反応性アミノ酸としてリジン又はシステインのいずれかを含む、共役し、酵素的に切断可能なペプチドを有するポリマーであることを特徴とする、請求項7~12のいずれか一項に記載の導電性ハイドロゲル材料(1)。
【請求項14】
前記酵素的に切断可能なペプチドが、ヒト又は細菌のプロテアーゼ、特にマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)、カテプシン、エラスターゼ、アウレオライシン及び/又は血液凝固酵素によって切断可能であることを特徴とする、請求項7~13のいずれか一項に記載の導電性ハイドロゲル材料(1)。
【請求項15】
アミノ基又はカルボキシル基を有する生物活性及び/又は接着防止分子、及び/又は細胞破壊性ペプチドが、リジン又はシステインによって連続して、前記帯電単位ポリ(アクリル酸-co-4-アクリルアミドメチルベンゼンスルホン酸)及び/又はポリ(アクリル酸-co-アクリルアミドエタンスルホン酸)及び/又はポリ(アクリル酸-co-アクリルアミドエタン硫酸水素塩)及び/又はポリ(4-スチレンスルホン酸-co-マレイン酸)、及び/又は硫酸化グリコサミノグリカン、例えばヘパリン及び/又は選択的に脱硫酸化されたヘパリン誘導体及び/又はヘパラン硫酸及び/又はコンドロイチン硫酸及び/又はケラタン硫酸及び/又はデルマタン硫酸に、或いはマイケル型付加が可能な基を有するそれらの誘導体に結合して、前記ハイドロゲルネットワークへの共有結合を形成することを特徴とする、請求項7~14のいずれか一項に記載の導電性ハイドロゲル材料(1)。
【請求項16】
前記生物活性分子が、抗菌物質、例えば抗生物質又は防腐剤、又は医薬品活性成分であることを特徴とする、請求項15に記載の導電性ハイドロゲル材料(1)。
【請求項17】
パラメータP0に対しては0~80μmol/mlの範囲内の値、パラメータP1に対しては0~150μmol/mlの範囲内の値、パラメータP2に対しては0~10mmol/(g/mol)の範囲内の値、及びパラメータP3に対しては-7×10
-3~7×10
-3A
-2の範囲内の値を規定することができることを特徴とする、請求項7~16のいずれか一項に記載の導電性ハイドロゲル材料(1)。
【請求項18】
前記ハイドロゲル材料が、0.2kPa~22kPaの貯蔵弾性率を有することを特徴とする、請求項7~17のいずれか一項に記載の導電性ハイドロゲル材料(1)。
【請求項19】
免疫疾患、がん、糖尿病、神経変性障害、クローン病、潰瘍性大腸炎、多発性硬化症、喘息、関節リウマチ又は皮膚創傷治癒、及び骨再生の場合の血管新生の制御のためのイン・ビボ因子管理のための請求項7~18のいずれか一項に記載の導電性ハイドロゲル材料(1)の使用。
【請求項20】
細胞又は組織の電気的刺激のための請求項7~18のいずれか一項に記載の導電性ハイドロゲル材料(1)の使用。
【請求項21】
微生物又は真核生物由来の細胞溶解物からタンパク質を制御精製するための請求項1~16のいずれか一項に記載の導電性ハイドロゲル材料(1)の使用。
【請求項22】
人工多能性幹細胞(iPS)及びiPSの分類に該当しないその他の幹細胞及び前駆細胞、患者から得た初代細胞、不死化細胞株、並びに心臓組織、筋肉組織、腎組織、肝組織及び神経組織のイン・ビトロ細胞培養及び器官培養のための請求項7~18のいずれか一項に記載の導電性ハイドロゲル材料(1)の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイドロゲル材料における生物活性物質の取り込み及び/又はハイドロゲル材料からの生物活性物質の放出に影響を与え、且つそれを検出する方法に関する。さらに本発明は、この方法を実施するために適切な導電性ハイドロゲル材料に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイドロゲルは、他の多くの生体材料と比較して、その含水量及び機械的特性に関してヒトの生理的組織に類似しており、そして様々な物質の封入及びその制御放出を可能にするため、ハイドロゲルをベースとする物質放出系及び物質取り込み系は、バイオテクノロジー、特に医学における応用のための有望な系である。ハイドロゲルは、定義によると、高度に水和し、共有結合又は物理的に架橋したポリマーであり、親和性を有するハイドロゲルネットワークのポリマー単位への様々な非共有結合相互作用を介して物質を可逆的に結合させ、したがって、生体流体又は生体組織からの物質の特異的除去、すなわち、ハイドロゲル中でのその隔離(sequestration)、或いはハイドロゲルから生体流体又は生体組織への放出を可能にする。このような物質は、サイトカイン、ケモカイン、ホルモン、神経伝達物質、成長因子のクラスのタンパク質ベースのシグナル伝達分子、或いは前述のタンパク質ベースのシグナル伝達分子の1つ又は複数の生物学的機能を担う低分子と呼ばれる非タンパク質ベースの低分子活性成分、或いは電荷相互作用及び/又は疎水性相互作用、若しくは水素結合などの他の特定の化学的相互作用を介してハイドロゲル中の親和性媒介ポリマー単位に可逆的に結合する、抗菌成分、防腐剤、染料などの他の非タンパク質ベースの化学的/医療的活性成分であり得る。先行技術は、特定の物質の隔離及び/又は放出のためのハイドロゲルの物理化学的特性を、形成の初期段階で固定しなければならないハイドロゲル系を開示している。これは、例えば国際公開第2018/162009A2号から知られているハイドロゲルネットワークの特定の電荷特性によって、又はメッシュサイズなどの物理的特性の制御された調節によって達成される。また、酵素的トリガー、光又は可変pH値による共有結合物質の制御放出も知られているが、このようなハイドロゲルネットワークの欠点は、可逆的物質結合の可能性がないことである。したがって、物質の制御された隔離の可能性はなく、したがって、生体流体又は組織環境から枯渇する。
【0003】
非共有結合性相互作用を介して物質への親和性を可逆的に実現する既知の系では、親和性、したがって、物質の隔離又は放出の制御は、その固有のネットワーク構造を介して決定され、すなわち、ハイドロゲルネットワークの形成に課される。その後の調節は、前述の外部トリガーである光、pHの変化、又は酵素的切断によってのみ可能である。
【0004】
本質的に帯電したハイドロゲルと同様に、導電性ハイドロゲルは、生物医学的研究においても記載されている。それらは、その生体適合性及び電荷注入を最適化するために、電極材料、例えば、神経電極のコーティングとして主に使用されている。それらは組織及び臓器と機械的に類似しているため、軟質の水和ポリマー材料の使用によって、金属電極を使用した場合と比較して、拒絶反応のレベルの低下が導かれる。さらに、従来の金属電極の場合、組織及び臓器の刺激に不可欠な電荷注入は、電極の表面でのみ行われる。ナノ構造化は、表面積、したがって、電極と組織液(生体流体)との接触面積を増加させる試みである。導電性ハイドロゲルの場合、生体流体は材料の体積全体に浸透することができるため、さらに構造化しなくても、接触面積は、同程度の大きさの金属電極の場合よりも明らかに大きくなる。これは同様に、電荷注入の明確な増加につながる。生理学的溶液中で電荷を伝達する能力の尺度として、文献中、「電荷貯蔵容量」という用語が使用されている。
【0005】
このような導電性ハイドロゲルは、カーボンナノチューブ及び/又は導電性ポリマーのような導電性物質を使用して製造される。これは、通常、ハイドロゲル前駆体溶液中に導電性物質を分散させ、次いで、導電性物質とは別のさらなる成分で重合及び架橋を行うことによってハイドロゲルを形成することによって製造される。ここで言及すべき重要な特性は、導電性成分は、通常、疎水性であるため、ハイドロゲルを形成しないということである。
【0006】
導電性有機ポリマーは、様々な用途に使用でき、加工が容易であり、且つ安価であるため、工業用途への利用が増加している。このポリマーは半導体の原理で機能する。最も重要な構成要素は、ポリマー骨格全体を貫く共役Π電子系である。これらのポリマーの本質的な電気伝導度は低い。分子の電気伝導度を高める目的で自由電荷キャリアを作り出すには、ポリマー系から電子を除去するか(pドーピング)、又はポリマー系に電子を導入する(nドーピング)帯電分子が必要となる。このプロセスは一次ドーピングと呼ばれる。最も一般的に用いられる方法はpドーピングである。高帯電親水性分子による疎水性ポリマーのドーピングとその結果生じる相互作用は、付加的にポリマー-ドーパント複合体の疎水性を低下させ、したがって、これらのポリマーを水溶液又はハイドロゲルに使用することが可能になる。
【0007】
一次ドーピングと同様に、導電性ポリマー鎖の互いに対する配置も極めて重要である。電荷キャリアを比較的長い距離にわたって輸送するためには、これらは導電性ポリマー鎖間で伝達しなければならない。そのためには、ポリマー鎖が体積中に均一に分布し、同時に互いに空間的に近接していることが必要である。導電性ポリマー及びそれぞれのドーピング分子の水溶液は、通常、懸濁液を形成する。導電性ポリマー鎖の互いとの相互作用が不足すると、電気伝導度が低くなる。導電性ポリマー鎖を互いに構造的に再編成(二次ドーピング)することにより、互いに対するポリマー鎖の必要な空間的近接性を達成することが可能になり、その結果、導電性をさらに高めることができる。これは、例えば、イオン強度及びそれに伴う帯電遮蔽効果(デバイ長によって特徴づけられる)を増大させることによって達成することができる。
【0008】
導電性ポリ-3,4-エチレンジオキシチオフェン(PEDOT)を用いた例が、Zhenan Bao及び他の著者によって記載されている(DOI:10.1038/s41467-018-05222-4及び米国特許出願公開第20190390068A1号)。この文献から知られるように、親水性ポリスチレンスルホネート(PSS)及びPEDOTの混合物(一次ドーピング)は、PSSの物理的相互ループにより、そしてイオン液体を用いることによって(二次ドーピング)、最初に弱架橋ハイドロゲルを形成し、その後、アクリレートモノマーのフリーラジカル架橋反応により形成される擬似相互貫入ネットワークの形成により機械的に安定化される。重合後、結果として導電性ハイドロゲルネットワークが得られ(10.1038/s41467-018-05222-4及び米国特許出願公開第20190390068A1号)、二次ポリマーネットワークは単に材料の機械的特性を安定させ、改善する役割を果たす。ハイドロゲルの電気的特性は、一次の非共有結合性PEDOT:PSSハイドロゲルのみに起因する。
【0009】
導電性ハイドロゲルを得るさらなる方法は、米国特許第9299476B2号から既知である。米国特許第9299476B2号から既知の方法では、生体高分子をベースとし、官能性アニオン基を含むハイドロゲルネットワークが形成され、電極表面に堆積される。このようにして得られた一次ネットワークは、3,4-エチレンジオキシチオフェン(EDOT)モノマーを含む溶液中に膨潤又は移動し、そして電圧の影響によってポリ-3,4-エチレンジオキシチオフェン(PEDOT)が生成されるEDOTモノマーの電気重合が引き起こされる。PEDOTと一次ネットワークのアニオン性官能基とのイオン性相互作用により、擬似相互貫入ポリマーネットワークが形成される。これらのアニオン性基は、同時にPEDOTにpドーピング効果を与え(一次ドーピング)、組み合わせて導電性ハイドロゲル材料を作り出す。ハイドロゲル中で共有結合したアニオン性基の分布が規定され、その後、一次ハイドロゲルネットワークの周囲でPEDOTが重合するため、PEDOTポリマー鎖が均一に分布し、二次ドーピングなしでも高い導電性を有するハイドロゲルを得ることができる。
【0010】
今日まで既知であるハイドロゲル材料は、本質的に課せられた物理化学的特性によって物質の隔離及び/又は放出を可能にするか、或いは導電性ハイドロゲル材料の場合には、特定の生物活性物質との相互作用に対して限定された調節性及び特異性を示す。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、ハイドロゲル材料又はハイドロゲル材料の環境において、生物活性物質の濃度に影響を与え、且つそれを決定することができる方法を提案することである。また、本発明の目的は、その電気的特性及び物理化学的特性の点で調節可能であり、且つ特に正に帯電した基を有する物質の可逆的な隔離及び/又は放出を可能にする導電性ハイドロゲル材料を提供することである。同時に、この材料を用いて、結果として生じる電気的特性の特徴的変化を介して物質の結合を検出することが可能となる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この目的は、請求項1に記載の特徴を有する方法及び請求項7に記載の特徴を有する導電性ハイドロゲル材料によって達成される。開発は、それぞれの従属請求項に明記されている。導電性ハイドロゲル材料の用途は請求項19~22に明記されている。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、ハイドロゲル材料における生物活性物質の取り込み、及び/又はハイドロゲル材料からの生物活性物質の放出を検出し且つそれに影響を与える方法であって、ハイドロゲル材料が、定義によると、アニオン帯電単位及び非帯電単位から形成され、且つアニオン帯電単位を規定するパラメータを用いて構成することができる生物活性物質に対する親和性を有し、且つハイドロゲル構成要素との相互作用及びハイドロゲル材料への生物活性物質の結合に依存する電気抵抗及び電荷貯蔵容量を有する導電性成分を有するポリマーネットワークであり、導電性成分が、電位の影響によりハイドロゲル材料のアニオン電荷及び生物活性物質に対するその親和性を変更することができる、方法を含む。この方法において、上記で定義されたハイドロゲル材料を生体流体と接触させ、ハイドロゲル材料の電気抵抗の変化及び/又は電荷貯蔵容量の変化を検出し、そして検出された電気抵抗の変化及び/又は電荷貯蔵容量の変化を用いて、ハイドロゲル材料への生物活性物質の取り込み、又はハイドロゲル材料から生体流体への生物活性物質の放出を確認し、及び/又は生体流体中の生物活性物質の濃度及び/又はハイドロゲル材料中の生物活性物質の濃度が、ハイドロゲル材料に作用する電位によって影響を受ける。
【0014】
アニオン帯電単位及び非帯電単位から形成されるポリマーネットワークは、アニオン帯電ポリマーネットワークである。アニオン帯電ポリマーネットワークは、アニオン帯電単位を規定するパラメータを用いて構成することができる。
【0015】
以下、簡略化のために、導電性である規定のハイドロゲル材料をハイドロゲル材料と記載する。
【0016】
本発明に関連する生体流体とは、生理学的溶液、細胞培養物、及び生体組織を意味するものとして理解される。したがって、ハイドロゲル材料を生体流体と接触させるという指示は、生理的溶液中に浸漬すること、又はハイドロゲル材料のイン・ビボ及びイン・ビトロでの生体組織との面的接触とみなすされてよい。
【0017】
本発明に関連する生物活性物質は、サイトカイン、ケモカイン、ホルモン、神経伝達物質又は成長因子のシグナル伝達特性を有し、さらなる生物学的効果を引き起こす、タンパク質ベース及び非タンパク質ベースの生物活性物質、活性成分及び低分子を意味すると理解される。生物活性物質は、特に医薬品有効成分であり得る。上述した全ての生物活性物質について、最大の特徴は分子量が70kDa以上であることである。
【0018】
本発明の方法は、ハイドロゲル材料における生物活性物質の取り込み及び/又はハイドロゲル材料からの生物活性物質の放出を検出すること、並びにハイドロゲル材料における生物活性物質の取り込み及び/又はハイドロゲル材料からの生物活性物質の放出に影響を与えることを含む。このようにして、生物活性物質の検出及び影響を行うこと、或いは、代替的に、生物活性物質の検出又は影響を行うことが可能である。
【0019】
ハイドロゲル材料の電気抵抗の変化及び/又はハイドロゲル材料の電荷容量の変化を検出することによって、ハイドロゲル材料への生物活性物質の取り込み及び/又はハイドロゲル材料からの生物活性物質の放出を検出することの基礎は、ハイドロゲル材料の電気抵抗の変化及び/又はハイドロゲル材料の電荷容量の変化が、ハイドロゲル材料への生物活性物質の結合によって影響を受けるという知見である。したがって、ハイドロゲル材料の電気抵抗は、ハイドロゲル材料上又はハイドロゲル材料中での隔離及び結合の結果として増加し、生物活性物質によるアニオン性基の担持の結果としてハイドロゲル材料の電気伝導度が低下する。逆に、生物活性物質がハイドロゲル材料から溶出すると、ハイドロゲル材料の電気抵抗は低下し、ハイドロゲル材料の電気伝導度は上昇する。
【0020】
電荷貯蔵容量は、サイクリックボルタンメトリーの測定によって計算される。この目的のために、3電極セットアップで、5回のサイクリックランで、-0.6~0.8Vの印加電位(作用電極及びAg/AgCl参照電極間の電位)を変化させ、作用電極(ハイドロゲル材料)及び対電極(カーボン電極)間の電流の流れを測定する。スキャン速度は50mV/秒である。その後、曲線下の面積の負の部分を積分し(MultiTrace 4.3、PalmSens 4)、これを用いて以下の式によって電荷貯蔵容量を算出する:
【数1】
【0021】
ソフトウェアからの積分出力は、単位[A]*[V]のI*Uの値である。ここでは[A]=[C/秒]である。スキャン速度[V/秒]を除算すると、材料を透過する電荷[C]が得られる。これは次いで体積に対する比率として表され、周囲媒体との界面はハイドロゲルの完全体積に関するため、したがって、表面積/接触面積の計算は不可能である。
【0022】
ハイドロゲル材料における生物活性物質の取り込み及び/又はハイドロゲル材料からの生物活性物質の放出を検出するために、代替的に、ハイドロゲル材料の電気伝導度の変化を決定することが可能であり、電気伝導度の変化を用いて、ハイドロゲル材料における生物活性物質の取り込み及び/又はハイドロゲル材料からの生物活性物質の放出を確認する。生物活性物質は、生物活性物質とハイドロゲル材料のポリマー鎖との非共有結合的相互作用を介して、導電性ハイドロゲル材料に結合される。特に、イオン性相互作用が重要な役割を果たす。結合した生物活性物質のアニオン性基及びカチオン性基と、アニオン性基を有するハイドロゲル材料のポリマーネットワークと、及びカチオン性の導電性ポリマーとの相互作用により、導電性ポリマーのドーピングが変化する。結合物質中のアニオン性基は、ここでドーピングに寄与し、導電性を高めることができる。対照的に、カチオン性基はアニオン性ポリマー成分の負電荷を補うため、ドーピングに悪影響を及ぼす。さらに、生物活性物質の疎水性領域は、PEDOTポリマー鎖の互いに対する相互作用に影響を与える可能性がある。結合する生物活性物質の分子の種類及び生物活性物質の濃度によって、ハイドロゲル材料の電気的性質に特異的な変化が起こる。
【0023】
生物活性物質の取り込み及び/又は放出は、ハイドロゲル材料中の生物活性物質の濃度変化とみなしてもよい。さらに、生物活性物質の離散的な濃度が、離散的な導電率値、離散的な電気抵抗値又は離散的な電荷貯蔵容量値に割り当てられる場合もある。
【0024】
ハイドロゲル材料の電気抵抗は、DC抵抗又はインピーダンスとして確認されてもよい。インピーダンスの検出には、0.01Hz~1MHzの周波数範囲が定義され得る。ハイドロゲルへの又はハイドロゲル内の生物活性物質の結合は、0.1Hz~1MHzの範囲内の少なくとも1つの周波数におけるハイドロゲル材料のインピーダンスの変化を測定することによって検出されてもよい。ここで、電荷貯蔵容量の変化を考慮することも可能である。
【0025】
生体流体中の生物活性物質の濃度及び/又はハイドロゲル材料中の生物活性物質の濃度に影響を与えるために、ハイドロゲル材料に電位を印加する。ハイドロゲル材料への電位の影響により、ハイドロゲル材料のアニオン電荷及び生物活性物質に対するその親和性が変化し、電位の変化の結果として、ハイドロゲル材料中又はハイドロゲル材料上の生物活性物質の結合が影響を受ける。
【0026】
ハイドロゲル材料からの生物活性物質の放出には、生体流体と接触する前に生物活性物質がハイドロゲル材料上又はハイドロゲル材料中に結合していることが必要である。したがって、生体流体と接触する前に、規定の濃度の規定の生物活性物質を電気的又は化学的にハイドロゲル材料に担持することによって、生物活性物質は放出され得る。
【0027】
本発明の方法の1つの変形実施態様において、ポリマーネットワークは、アニオン帯電構成要素を規定する、パラメータP0、P1、P2、P3の群から選択される少なくとも3つのパラメータを用いて、その組成の観点から構成されることが可能である。ここでパラメータP0は、生理学的条件下で膨潤したハイドロゲル材料の単位体積あたりの全てのアニオン性基の30%イオン化を仮定したイオン化アニオン性基の数から計算される値に相当し、パラメータP1は、生理学的条件下で膨潤したハイドロゲル材料の単位体積あたり2.5未満の固有pKAを有する強アニオン性基の数から計算される値に相当し、パラメータP2は、繰り返し単位あたり2.5未満の固有pKAを有する強アニオン性基の数を繰り返し単位のモル質量で割った値から計算される値に相当し、そしてパラメータP3は、アニオン性単位の両親媒性の説明のための値に相当し、ハイドロゲル材料の電気抵抗及び/又は電荷貯蔵容量は、ハイドロゲル材料のパラメータ構成のパラメータ値によって規定される。パラメータ値のより詳細な定義及びその決定は、さらに下の説明に記載されている。
【0028】
生物活性物質の相互作用は、生物活性物質の正味の電荷と、水にアクセス可能な生物活性物質の表面積との比率から計算される物質固有の値Ppにも基づき得る。タンパク質ベースの物質については、いずれのタンパク質の構造もProtein Data Bank(PDB、http://www.rcsb.org/)で入手可能である。選択されたタンパク質構造の正味電荷は、Delphi Web Server(http://compbio.clemson.edu/sapp/delphi_webserver/)を用いて、pH7の標準設定で計算される。水溶媒にアクセス可能なタンパク質表面積は、1.4Åの水の溶媒半径を使用して、PyMolソフトウェア(www.pymol.org)によって計算される。次に、水溶媒にアクセス可能なタンパク質表面積で正味電荷を除算し、10-6×[1/A2又はA-2]の単位を得るために1000000の係数を乗じPpを計算する。非タンパク質ベースの物質については、アニオン性基又はカチオン性基の過剰に相当する化学構造から導出される正味電荷と、ChemDraw19.0及びChemAxon MarvinSketch 19.21ソフトウェアを利用することによってパラメータP3を形成する方法に類似して導出された、水溶媒がアクセス可能な分子表面積を計算する。単位10-6×[1/A2又はA-2]を得るために、得られた値に1000000の係数を乗じる。
【0029】
ハイドロゲル材料の担持、すなわち、所定濃度の生物活性物質をハイドロゲル材料中又はハイドロゲル材料上に固定化することは、様々な方法で実行することができる。第1の担持法とも呼ぶことができる第1の方法では、結合を意図する生物活性物質を規定濃度でアニオン帯電ハイドロゲル成分と混合し、ポリマーネットワークに組み込む。その後、導電性成分を組み込んで導電性ハイドロゲル材料を形成する際、生物活性物質はすでにポリマーネットワーク中に規定濃度で存在する。この方法では、ポリマーネットワークが形成された後、生物活性物質の総量がハイドロゲル材料中に定量的に存在することが有利である。言い換えれば、生物活性物質の担持量はパラメータP0、P1、P2、P3に依存せず、物質固有の値Ppにも依存しない。ハイドロゲル材料の形成に存在する反応条件は、生物活性物質の構造に好ましくない影響を与える可能性があるため、全ての生物活性物質が第1の担持法による固定化に適しているわけではない。
【0030】
第2の担持法とも呼ぶことができる第2の方法では、導電性ハイドロゲル材料を、規定のパラメータ構成及び規定のパラメータ値で形成し、その後、導電性ハイドロゲル材料を、規定物質濃度を有する担持溶液としての水溶液又は生体流体と規定の期間接触させる。この場合、溶液中の生物活性物質は、パラメータP0、P1、P2、P3に応じて、水溶液又は生体流体からハイドロゲル材料内に取り込まれ、結合する。最後に、担持されたハイドロゲル材料は担持溶液から除去される。ハイドロゲル材料上又はハイドロゲル材料中に固定化された生物活性物質は、環境、好ましくは生体流体又は生体組織に対する電位の影響によって放出されることが可能である。電位の影響により、生物活性物質がハイドロゲル材料の環境からハイドロゲル材料に隔離されることも可能である。
【0031】
第3の担持法とも呼ぶことができる第3の担持法では、規定のパラメータ値を有する規定のパラメータ構成を有する規定の導電性ハイドロゲル材料を、電位の影響を受けながら、規定の期間、規定の物質濃度を有する担持溶液としての水溶液又は生体流体と接触させる。生物活性物質は、規定のパラメータ値に応じて、担持溶液からハイドロゲル材料の中に取り込まれる(隔離される)。生物活性物質の結合を一定に保つために、ハイドロゲル材料に作用する電位を維持する必要があり得る。さもなければ、電位又は電流を変化させた場合、生物活性物質がハイドロゲル材料から放出され得る。ここで本質的な要因は、生物活性物質の隔離又は放出は、電位に影響されるだけでなく、パラメータP0、P1、P2、P3、Ppによって規定される特定の生物活性物質に対するハイドロゲル材料の親和性にも基づくということである。
【0032】
ハイドロゲル材料の電気伝導度、及びハイドロゲル材料中の電気伝導性成分の分布に影響を与える構造形成は、パラメータ構成のパラメータ値によって影響される可能性があることがわかっている。したがって、規定のパラメータ値を有する規定のパラメータ構成に起因して、規定の電気伝導度を有するハイドロゲル材料が規定される場合がある。
【0033】
本方法において、生物活性物質の取り込みのために、Ag/AgCl参照電極に対して、1mV~1000mVの範囲、好ましくは400mV~600mVの範囲の電位をハイドロゲル材料に印加してよい。生物活性物質の放出のために、Ag/AgCl参照電極に対して、-1mV~-1000mVの範囲、好ましくは-400mV~-600mVの範囲の電位をハイドロゲル材料に印加してよい。
【0034】
ハイドロゲル材料には、生物活性物質を取り込むために、生物活性物質の放出のための電流の流れ方向を変化させた状態で、0mAを超える一定の電流が加えられてよい。
【0035】
本発明はさらに、上記の方法を実施するのに適切な導電性ハイドロゲル材料を包含する。本発明のハイドロゲル材料は、アニオン帯電単位及び未帯電単位から形成されるポリマーネットワークを有するか、又はアニオン帯電構成要素を規定する、パラメータP0、P1、P2、P3の群から選択される少なくとも3つのパラメータを用いて、その組成の観点から構成されることが可能であるそのようなポリマーネットワークから構成される。ここでパラメータP0は、生理学的条件下で膨潤したハイドロゲル材料の単位体積あたりの全てのアニオン性基の30%イオン化を仮定したイオン化アニオン性基の数から計算される値に相当し、パラメータP1は、生理学的条件下で膨潤したハイドロゲル材料の単位体積あたり2.5未満の固有pKAを有する強アニオン性基の数から計算される値に相当し、パラメータP2は、繰り返し単位あたり2.5未満の固有pKAを有する強アニオン性基の数を繰り返し単位のモル質量で割った値から計算される値に相当し、そしてパラメータP3は、アニオン性単位の両親媒性の説明のための値に相当する。さらに、ハイドロゲル材料は、ポリマーネットワークに組み込まれた導電性成分を有し、ハイドロゲル材料の電気伝導度、電気抵抗及び/又は電荷貯蔵容量は、ハイドロゲル材料のパラメータ構成のパラメータ値によって規定される。
【0036】
パラメータP0~P3は、以下の仕様及び形成方法によってより具体的に定義される。
【0037】
パラメータP0:μmol/mlで報告することができるP0の値は、生理的条件下(0.154mmol/l NaCl、pHは7.4に緩衝化)で膨潤したハイドロゲル体積に基づくアニオン性基の総数の30%に相当する。この計算は、例えば、生理的溶液中で膨潤したハイドロゲル単位のポリマー濃度から計算することができる。
【0038】
パラメータP1:μmol/mlで報告することができるP1の値は、生理的条件下(0.154mmol/l NaCl、pHは7.4に緩衝化)で膨潤したハイドロゲル体積に基づく、2.5未満のpKaを有する強アニオン性基の数に相当する。
【0039】
パラメータP2:mmol/(g/mol)で報告することができるP2の値は、アニオン帯電単位あたり2.5未満のpKaを有する強アニオン性基の数を、アニオン性単位のそれぞれの分子量で割ったものに相当する。
【0040】
パラメータP3:アニオン性単位の両親媒性を説明するパラメータP3は、アニオン性単位のオクタノール/水分配係数(logP値)を、水溶媒にアクセス可能なアニオン性単位の表面積で割ることによって計算される。これは、ChemDraw19.0及びChemAxon MarvinSketch 19.21ソフトウェアを用いて以下のように実行することができる:ChemDraw19.0ソフトウェアを用いて、炭素原子22個のポリマー骨格の長さ、又は糖ベース構造の場合は合計2個の二糖単位を有する各アニオン性単位を完全な化学構造として表す。その後、ChemAxon MarvinSketch 19.21ソフトウェアアプリケーションを使用することによって、オクタノール/水分配係数(logP値)は、ChemDraw19.0によって表された構造式をインポートし、溶媒半径1.4Åの水溶媒がアクセス可能な表面積を計算することによって計算される。得られた値に1000倍を乗じ、10-3×[1/A2又はA-2]の単位を得る。
【0041】
本発明のハイドロゲル材料は、本発明の方法を実施するための必須構成要素である。したがって、本発明のハイドロゲルに関する特徴は、本発明の方法のより詳細な解明、特にハイドロゲル材料の定義のために使用され得、その逆も同様である。本発明のハイドロゲル材料は、アニオン性基を有するポリマーネットワークをベースとし、その特性はパラメータP0、P1、P2、P3によって規定される。これらのパラメータP0~P3を使用して、導電性成分から構成される(擬似)相互貫入ネットワークの形成、したがって、形成される導電性ハイドロゲル材料の電気的特性が制御される。有利なことに、導電性ハイドロゲル材料は、電位を印加することによって、又は電位の影響によって、その電荷特性を無限に調節することができ、パラメータP0、P1、P2、P3に関連する電荷特性の調節は、生物活性物質に対する導電性ハイドロゲル材料の親和性を制御し、したがって、導電性ハイドロゲルと接触している生体流体からの物質の枯渇(隔離)又はハイドロゲル材料から生体流体への生物活性物質の放出は、印加される電位に直接依存して、可逆的に且つリアルタイムで、無限可変様式で調節することができる。
【0042】
アニオン性基を有する異なる帯電単位を使用し、ハイドロゲル材料中のその濃度と、非帯電構成要素のポリマー鎖に沿った強アニオン性基の数及び密度を変化させることにより、同程度の架橋度及び固形分で、パラメータP0~P3に従って異なる構成を有するハイドロゲル材料を合成することができる。導電性ハイドロゲル材料を生成するために、ポリマーPEDOTは、好ましくは、一次ハイドロゲルネットワークの周囲の擬似相互貫入ネットワークとして、導電性成分として化学重合される。得られたハイドロゲル材料は、構成されるパラメータ又はパラメータ値及びその組み合わせによって、電気的特性、生物活性物質の隔離及び放出が異なる。
【0043】
膨潤したハイドロゲル中の固有pKaとは無関係に、実際にイオン化した全てのアニオン性基を説明するパラメータP0は、得られたハイドロゲル材料の電気的特性に対して、パラメータP1に比べてやや小さな影響を及ぼす。パラメータP0に存在する弱アニオン性基は、PEDOTにとって効果的なドーピングを構成せず、その結果、pKa<2.5の強酸性基を説明するパラメータP1と比較して、電気伝導度又は電気抵抗が影響を受ける。これとは対照的に、負に強く帯電アニオン性基の積分数(P1)は、電気伝導度又は電気抵抗に直接影響する。最小の電気伝導度は、完全にドープされていないハイドロゲル材料(P1=0の場合)、又は導電性成分を含まない場合に達成される。ハイドロゲル材料中の強く帯電したアニオン性基の数が多いほど、電気伝導度は高くなり、電気抵抗は低くなる。その原因は、PEDOTのpドーピングによる自由電荷キャリアの生成にある。ドーピング単位の数が多ければ多いほど、より多くの自由電荷キャリアが形成される可能性がある。強アニオン性基(P2)の局所電荷密度も同様に、電気特性に直接的な影響を及ぼすと予想される。同一のP0及びP1に関して、局所電荷密度が低下すると、ハイドロゲル材料の電気伝導度が低下する。その理由は、負に帯電したポリマーと正に帯電したPEDOTポリマー鎖との局所的な静電相互作用にある。局所的な負電荷が小さすぎると、正電荷を帯びたPEDOTポリマー鎖とアニオン性ポリマー又はアニオン帯電単位との相互作用が弱くなる。これはドーピングを困難にし、電気伝導度の低下につながる。P1の値が中程度で、P2の値が小さすぎる場合でも、ドープされていないハイドロゲル材料と比較して、電気伝導度の向上が観察できる可能性は低くなる。パラメータP3によって、両親媒性アニオン性ポリマーと疎水性導電性ポリマー(PEDOT)との間の相互作用を構成することも同様に可能である。アニオン帯電単位の疎水性が向上することにより、P1の値が明らかに小さい場合でも、電気伝導度の向上を達成することが可能である。その理由は、疎水性PEDOT単位とアニオン帯電単位上の疎水性基との親和性が高く、ドーピングに好影響を与えるためである。加えて、疎水性基は、PEDOT合成時でさえも、モノマー単位(EDOT)のポリマーネットワークへのより良好な進入を促進し、したがって、PEDOT鎖のより良好な取り込みを促進する。
【0044】
物質の電圧依存的又は電流依存的な隔離及び放出については、ハイドロゲル材料全体に印加される様々な電圧/電流において、主に積分電荷密度(P0又はP1)或いは局所電荷密度(P2)が役割を果たす。電圧を印加しない場合、PEDOTの正電荷がアニオン帯電単位の負電荷の一部を補う。したがって、導電性成分を含まないポリマーネットワークからなるハイドロゲル材料と比較して、負帯電分子をより高度に結合させることも可能である。アニオン性ポリマー、すなわち、アニオン帯電単位に対する生物活性物質の親和性によっては、正帯電した生物活性物質の結合も同様に可能である。パラメータP0、P1、P2、P3の構成により、一定のPEDOT重合条件下で、PEDOTの正電荷と帯電単位のアニオン性基の比率を調整することが可能である。このようにして、正又は負に帯電した生物活性物質の隔離(取り込み)を可能にすることができる。電圧の印加により、PEDOTの電荷をモノマー単位あたり中性から66%正電荷まで調整することがさらに可能である。このように、結合を無限に調整することがさらに可能である。結合した生物活性物質の放出も同様に、PEDOT、すなわち、導電性成分の電荷と組み合わせたポリマーネットワークの構成パラメータP0、P1、P2、P3によって調整することができる。さらに、電圧又は電流を印加してPEDOTの電荷を調整することにより、無限可変構成も可能である。このようにして、異なる電荷を帯びた生物活性物質の放出を減少又は増加させる無限可変な確立を達成することが可能である。
【0045】
アニオン帯電成分は、ポリ(アクリル酸-co-4-アクリルアミドメチルベンゼンスルホン酸)、ポリ(アクリル酸-co-アクリルアミドエタンスルホン酸)、ポリ(アクリル酸-co-アクリルアミドエタン硫酸水素塩)、ポリ(4-スチレンスルホン酸-co-マレイン酸)、硫酸化グリコサミノグリカン、特にヘパリン、選択的に脱硫酸化されたヘパリン誘導体、ヘパラン硫酸、コンドロイチン硫酸、ケラタン硫酸及びデルマタン硫酸からなる群から選択され得る。非帯電単位は、アミノ基又はチオール基を含むポリマー、又は少なくとも2個のアミノ基又はチオール基を有する架橋剤分子であってもよい。帯電単位及び非帯電単位は架橋されてポリマーネットワークが得られるが、これは、ポリ(アクリル酸-co-4-アクリルアミドメチルベンゼンスルホン酸)及び/又はポリ(アクリル酸-co-アクリルアミドエタンスルホン酸)及び/又はポリ(アクリル酸-co-アクリルアミドエタン硫酸水素塩)及び/又はポリ(4-スチレンスルホン酸-co-マレイン酸)、及び/又は硫酸化グリコサミノグリカン、特にヘパリン、及び/又は選択的に脱硫酸化されたヘパリン誘導体、及び/又はヘパラン硫酸及び/又はコンドロイチン硫酸及び/又はケラタン硫酸及び/又はデルマタン硫酸のカルボキシル基をEDC/スルホ-NHSを用いて活性化し、そしてそれぞれの場合においてアミド形成によって、アミノ基を含有するポリマー又は少なくとも2個のアミノ基を有する架橋剤分子のいずれかに直接架橋するか、又はそれぞれがアミノ基及びマイケル型付加が可能な基を含む二官能性架橋剤分子によって、活性化されたカルボキシル基を官能基化し、その後、それぞれの場合においてマイケル型付加を介して、チオール基を含むポリマー又は少なくとも2個のチオール基を有する架橋剤分子によって架橋する。
【0046】
0.01Hzの周波数で測定した本発明のハイドロゲル材料の電気インピーダンスは、150Ω~10Ωの範囲で変動可能である。パラメータ構成のパラメータ値は、好ましくは30Ωの電気インピーダンスを達成するように選択される。30Ωの好ましいインピーダンス値は、P1=110μmol/ml、P2=4.5mmol/(g/mol)及びP3=-5.9A-2のパラメータP1、P2、P3を有するパラメータ構成が規定される場合に達成される。P1=12μmol/ml、P2=4.5mmol/(g/mol)及びP3=6.8A-2のパラメータP1、P2、P3を有するパラメータ構成が規定される場合、さらに有利なインピーダンス値63Ωが達成される。
【0047】
本発明のハイドロゲル材料の電荷貯蔵容量は、900mC/ml~4000mC/mlの範囲で変動可能である。パラメータ構成のパラメータ値は、好ましくは3040mC/mlの電荷貯蔵容量を達成するように選択される。2480mC/mlの好ましい電荷貯蔵容量は、P1=110μmol/ml、P2=4.5mmol/(g/mol)及びP3=-5.9A-2のパラメータP1、P2、P3を有するパラメータ構成が規定される場合に達成される。同様に、P1=12μmol/ml、P2=4.5mmol/(g/mol)及びP3=6.8A-2のパラメータP1、P2、P3を有するパラメータ構成が規定される場合、3040mC/mlのさらに有利な電荷貯蔵容量が達成される。
【0048】
導電性成分は、Π共役導電性ポリマー、或いはポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェン及び/又はポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)から構成されるポリマー組成物であってもよい。
【0049】
本発明の導電性ハイドロゲルの1つの発展において、非帯電単位として、アミノ基及びチオール基を含むポリマーが、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリ(2-オキサゾリン)(POX)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルアルコール(PVA)及び/又はポリアリールアミド(PAM)のクラスから選択され、そしてアミノ基又はチオール基を含む架橋剤分子は、非ポリマーの二官能性架橋剤分子である。
【0050】
さらに、利用される非帯電単位が、ポリマーネットワーク形成のためのペプチド配列中に反応性アミノ酸としてリジン又はシステインのいずれかを含む、共役した、酵素的に切断可能なペプチドを有するポリマーである場合もある。酵素的に切断可能なペプチドは、ヒト又は細菌のプロテアーゼ、特にMMP、カテプシン、エラスターゼ、アウレオライシン及び/又は血液凝固酵素によって切断可能である。
【0051】
本発明のハイドロゲル材料のさらなる有利な発展において、アミノ基又はカルボキシル基を有する生物活性及び/又は接着防止分子、及び/又は細胞破壊性ペプチドが、リジン又はシステインによって連続して、帯電単位ポリ(アクリル酸-co-4-アクリルアミドメチルベンゼンスルホン酸)及び/又はポリ(アクリル酸-co-アクリルアミドエタンスルホン酸)及び/又はポリ(アクリル酸-co-アクリルアミドエタン硫酸水素塩)及び/又はポリ(4-スチレンスルホン酸-co-マレイン酸)、及び/又は硫酸化グリコサミノグリカン、例えばヘパリン及び/又は選択的に脱硫酸化されたヘパリン誘導体及び/又はヘパラン硫酸及び/又はコンドロイチン硫酸及び/又はケラタン硫酸及び/又はデルマタン硫酸に、或いはマイケル型付加が可能な基を有するそれらの誘導体に結合して、ハイドロゲルネットワークへの共有結合を形成する場合がある。生物活性分子は、抗菌物質、例えば抗生物質若しくは防腐剤、又は医薬品活性成分であってもよい。
【0052】
導電性ハイドロゲル材料は、好ましくは、パラメータP0、P2、P3を含むか、又はパラメータP1、P2、P3を含むパラメータ構成によって規定される。パラメータ値は、規定されたパラメータ値範囲内で変動し得る。パラメータP0の値は0~80μmol/mlの範囲内で、パラメータP1の値は0~150μmol/mlの範囲内で、パラメータP2の値は0~10mmol/(g/mol)の範囲内で、パラメータP3の値は-7×10-3~7×10-3A-2の範囲内で規定され得る。
【0053】
本発明のハイドロゲル材料は、好ましくは0.2kPa~22kPaの貯蔵弾性率を有することができる。
【0054】
本発明のハイドロゲル材料の使用は、免疫障害、がん、糖尿病、神経変性障害、クローン病、潰瘍性大腸炎、多発性硬化症、喘息、関節リウマチ又は皮膚創傷治癒、及び骨再生の場合、血管新生を制御するためのイン・ビボ因子管理を目的としてもよい。導電性ハイドロゲル材料のさらなる用途又は応用は、細胞又は組織の電気的刺激である。
【0055】
さらに、本発明のハイドロゲル材料は、微生物又は真核生物由来の細胞溶解物からタンパク質を制御精製するために使用してもよい。
【0056】
本発明のハイドロゲル材料に想定されるもう1つの用途は、人工多能性幹細胞(iPS)、及びiPSの分類に該当しないその他の幹細胞及び前駆細胞、患者から得た初代細胞、不死化細胞株、並びに心臓組織、筋肉組織、腎組織、肝組織及び神経組織のイン・ビトロ細胞培養及び器官培養であり得る。
【0057】
本発明の核心は、本発明のハイドロゲルを提供することであり、その最も重要な特徴は、生理学的条件(イオン強度及びpH)下で、それがアニオン性、すなわち、負帯電基を有することである。本発明のハイドロゲル材料の物理化学的特性、特に物質に対する固有の親和性を決定する(アニオン性)電荷特性、及び非イオン性相互作用を決定するアニオン性基の化学的環境の特性は、以下のパラメータP0、P1、P2及びP3によって説明される。すでに記載した特性に加えて、電位の影響も、本発明のハイドロゲル材料の膨潤、剛性及びメッシュサイズなどの物理的特性を変更又は影響する可能性がある。共有結合したシグナル伝達単位の存在は、パラメータP0~P3からほぼ独立して、広い範囲にわたって段階的に変化させることができる。
【0058】
本発明のハイドロゲル材料を製造するためには、規定されたパラメータ値を有する規定されたパラメータ構成を有する規定されたネイティブポリマーネットワークを、導電性成分を含む溶液中で膨潤させ、次いで導電性ポリマーネットワークを与えるための重合又は架橋を開始する。アニオン性基を有するネイティブポリマーネットワークは、静電相互作用を介して導電性成分にドーピング効果を有する。本発明によれば、製造されたハイドロゲル材料は、規定されたネイティブポリマーネットワークと物理的相互作用を介して相互作用する1つ又は複数の導電性ポリマー系からなる。驚くべきことに、導電性成分の構造及び分布は、パラメータP0~P3によって影響され、それに応じてハイドロゲル材料の電気抵抗、電気伝導度及び電荷貯蔵容量などの電気的特性、さらには機械的及び物理化学的特性にも影響される可能性があることが見出されている。電位の影響によって、すなわち、導電性成分に電圧を印加することによって、ポリマーネットワークの電荷特性、したがって、生物活性物質に対する親和性は、さらに無限可変様式で、可逆的に且つリアルタイムに調節することができる。
【0059】
さらに有利な特性は、生物活性物質の放出又は隔離と組み合わせた本発明のハイドロゲル材料による細胞の電気的刺激から生じる驚くべき影響からもたらされる。加えて、パラメータP0~P3次第で、電流の流れを調節することによって、材料の機械的特性をリアルタイムに変化させることが可能である。
【0060】
以下、本発明のハイドロゲル材料の製造について、実施例を参照しながら詳細に説明する。
【0061】
ハイドロゲル材料の電気的機能化のために、導電性成分としての導電性ポリマーのポリ-3,4-エチレンジオキシチオフェン(PEDOT)を、規定されたネイティブポリマーネットワークの周囲に重合させる。この目的のために、まず、完全に膨潤したポリマーネットワークを、1M HCl中に溶解した0.4Mペルオキソ二硫酸アンモニウム(APS)からなる溶液中で室温3時間インキュベートする。続いて、鉱油中0.4M 3,4-エチレンジオキシチオフェン(EDOT)中、室温で6時間インキュベートする。2回目のインキュベーション工程の間に、ネイティブポリマーネットワークによるPEDOTの酸化重合が起こる。SPH-PEDOTが得られ、その後、これを鉱物油、ヘキサン及びPBS中で洗浄する。この方法により、PEDOTの電着と比較して電極が不要となる。さらに、任意の所望の体積体を導電性にすることができる。
【0062】
酸化重合直後、PEDOTは、固有の正電荷を有する(10.1021/acs.jpcb.9b01745、10.1021/acsapm.8b00061を参照)。PEDOTとハイドロゲルのアニオン帯電単位との間の非共有結合的相互作用、及び個々のPEDOT鎖間の非共有結合的相互作用(おそらく通常は疎水性相互作用)により、アニオン帯電ポリマーネットワークとPEDOTとの間に擬似相互貫入ネットワークが形成される。同時に、アニオン帯電ポリマーネットワークの負電荷は、PEDOTに対するドーピングとして機能する。パラメータP0又はP1とP2によって定義される積分電荷密度及び局所電荷密度によって、PEDOTのドーピングレベルが変化する。これは導電性ハイドロゲル材料の電気的特性に直接的な影響を与える。PEDOTは疎水性ポリマーであるため、PEDOT鎖の相互の分布及び架橋は、パラメータP3によって規定される環境の疎水性に強く依存し、これも同様にハイドロゲル材料の電気特性に影響を与える。
【0063】
帯電分子の放出と同様に、P1及びP2、並びに疎水性P3の規定値の結果として、ドーピングの程度を変化させることで、異なる電気的特性を持つ導電性ハイドロゲルを得ることも可能である。高いドーピングにより、高い導電性を有するハイドロゲル材料が得られる。これらは生体適合性電極として使用され得る。生体組織に非常に近いハイドロゲル材料の機械的特性のため、SPH-PEDOT電極に対する生体の異物反応は、従来の金属電極に比べて低減することが可能である。また、従来の金属電極の場合、電気刺激のための電荷移動は、金属と組織(生理溶液)との接触面でのみ行われる。ハイドロゲル材料内に導電性成分が分布し、生理学的液体がハイドロゲル材料内に拡散する可能性があるため、電荷移動はハイドロゲル材料の体積内で生じることが可能である。有利なことに、その結果、同じ電荷の注入に必要な電圧はより低くなり、その結果、熱の発生が少なくなり、したがって、組織に対して穏やかとなる。
【0064】
本発明のハイドロゲル材料は、本発明の方法と組み合わせることにより、生体流体又は生体組織への活性成分の遅延放出を可能にする。
【0065】
本発明の構成のさらなる詳細、特徴及び利点は、対応する図面及び表を参照しながら、以下の実施例の説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【
図1】本発明のハイドロゲル材料のさらなる解説のための概略図である。
【
図2】本発明のさらなる解説のためのさらなる概略図である。
【
図3】ポリマーネットワークの帯電及び非帯電ハイドロゲル単位の概要としての表1である。
【
図4】ハイドロゲル材料の前駆体としてのポリマーネットワークの組成及び合成を示す表2である。
【
図5】導電性多孔性ハイドロゲル材料及び非多孔性ハイドロゲル材料の断面における外観を示す図である。
【
図6】様々な導電性ハイドロゲル材料の電気的特性を示す表3である。
【
図7】導電性ハイドロゲル材料による生物活性物質の結合を推測できる表4である。
【
図8】異なる電位における導電性ハイドロゲル材料による生物活性物質の放出を推測できる表5である。
【
図9】PC12細胞及びそこから分化したニューロン様細胞に対する導電性ハイドロゲル材料の生体適合性を示す表6である。
【0067】
アニオン帯電ハイドロゲル単位は、以下GBと略され、種々のアニオン帯電単位はさらに番号で識別される。ハイドロゲル材料の非帯電単位はUGBと略され、異なる帯電単位は番号で識別される。簡略化のため、またスペースの都合上、表中ではハイドロゲル材料をハイドロゲルと記載する。ハイドロゲル材料のタイプは、表中ではハイドロゲルタイプと表記する。
【0068】
図1は、本発明の導電性ハイドロゲル材料1を解説するための概略図を示す。
図1のイメージAは、例として、本発明のハイドロゲル材料1の形成モデルとして、アニオン帯電単位3及び架橋剤分子4からのポリマーネットワーク2の合成を示す。ポリマーネットワーク2は、パラメータP1、P2及びP3を有するパラメータ構成が規定される。イメージBは、ポリマーネットワーク2及び導電性成分5から構成される擬似相互貫入ポリマーネットワーク(IPN)としての導電性ハイドロゲル材料1の構造を示す。ポリマーネットワーク2はアニオン性基を有し、パラメータP1、P2及びP3によって決定される。導電性ハイドロゲル材料1は、ポリマーネットワーク2と導電性成分5との重合又は架橋によって形成される。
図1のイメージCは、例として、導電性成分5のドーピングを示す。この例では、導電性成分5はPEDOTである。ドーピングは、アニオン帯電ポリマーネットワーク2中の硫酸基/スルホン酸基との相互作用を介して行われる。PEDOT 5との相互作用及び導電性ハイドロゲル材料1の得られる電気特性にとって重要な因子は、ポリマーネットワーク2の積分電荷密度P1、局所電荷密度P2、及びポリマーネットワーク2中のアニオン性基を有するポリマーの疎水性P3である。イメージDは、例として、導電性ハイドロゲル材料への電位印加の影響を示す。電位の影響により、PEDOTの正電荷を無限可変に調節することができる。制御は、中性(0)から中程度(+1)を経て、強く(+3)正帯電状態へと進む。
【0069】
図2は、本発明をさらに解説するためのさらなる概略図である。ポリマーネットワーク2を形成する帯電単位3としての硫酸化及びスルホン化ポリマーと架橋剤4としてのPEGと、ポリマーネットワークに組み込まれた導電性成分5としてのPEDOTとから形成される導電性ハイドロゲル材料1が示されている。右側に参照数字6で示されているのは、負帯電PEDOTに結合した正帯電シグナル伝達タンパク質である。ハイドロゲル材料1中のシグナル伝達タンパク質6の結合特性は、電位の影響により影響を受ける。ハイドロゲル材料1に電気的影響を与えるために、ハイドロゲル材料1を電圧源7と電気的に接触させる。本発明のハイドロゲル材料1は、ハイドロゲルポリマーとシグナル伝達タンパク質6との間の特定の静電相互作用を電気力学的に調節することを可能にする。
【実施例】
【0070】
実施例:
ポリマーネットワークの合成
ハイドロゲル材料1の合成のために、3つのアニオン帯電ポリマーネットワーク系2、(1)マレイミド基を有するアニオン帯電単位(GB1-5)及びチオール基を有する非帯電単位(UGB2)の2つのハイドロゲル単位から構成されるもの(以下、マレイミド-チオール2成分系と記載する)、又は(2)3つのハイドロゲル単位(マレイミド基を有するアニオン帯電単位(GB1-5)とマレイミド基を有する非帯電単位(UGB1))とチオール基を有する非帯電単位(UGB2)の3つのハイドロゲル単位から構成されるもの(以下、マレイミド-チオール3成分系と記載する)、又は(3)アニオン帯電ハイドロゲル単位(GB1)のカルボキシル基のEDC/NHSベースの活性化、及び第2の非帯電ハイドロゲル単位(UGB3)上のアミノ基との反応によって架橋した2つのハイドロゲル単位から構成される系(以下、EDC/NHS系と記載する)が使用された。
【0071】
アニオン帯電ハイドロゲル単位(GB1~GB5)及び非帯電ハイドロゲル単位(UGB1~UGB3)の特性は、
図3の表1に見ることができる。
【0072】
本発明のハイドロゲル材料の前駆体としてアニオン帯電ポリマーネットワーク製造のためのマレイミド-チオール2成分系
GB1(ヘパリン-マレイミド、15kDa)及びUGB2(星型チオール官能化ポリエチレングリコール、starPEG、10kDa)を0.1×ホスフェート緩衝生理食塩水((PBS)、pH=6)中に、それぞれ0.0015mol/lの濃度で溶解する。1×PBSは137nM NaCl、2.7mM KCl、並びにHPO
4
2-及びH
2PO
4からなる12mMの全ホスフェートからなる。混合比及び濃度は、
図4の表2から確認できる。ハイドロゲル単位を混合するまでの全ての後続工程は氷上で行われる(ゲル化時間30分達成のためのpH調整)。2つの単位のモル比が1の場合、等容量の2つの溶液をピペット及び/又は混合ユニットで混合する。その後、混合液を遠心分離して気泡を除去し、試料を金電極(直径11mm、100μl)又はカバースリップ(直径8mm、67μl)上にピペッティングし、11mm又は8mmの疎水性(Sigmacote(登録商標)処理された)カバースリップで被覆する。ハイドロゲルはチオール基とマレイミド基との反応(マイケル付加反応)により架橋される。重合は、ゲルの乾燥を防ぐため、湿潤チャンバー内において室温で少なくとも30分間実施する。クライオゲル化の場合は、試料を-15℃で一晩重合させる。その後、完全に重合したハイドロゲルを1×PBS(0.154mmol/l NaCl、pH7.4)で一晩膨潤させる。ゲルの固形分は約3%(m/v)である。
【0073】
本発明のハイドロゲル材料の前駆体としてのポリマーネットワーク製造のためのマレイミド-チオール3成分系
ハイドロゲル材料中の積分負電荷を正確に調整するために、3成分系が使用される。starPEG-チオール、starPEG-マレイミド及びマレイミド官能基化アニオン帯電ハイドロゲル単位ポリマーを0.01×PBS中に規定の濃度で溶解し、所望の積分電荷に応じて異なる比率で混合する。混合比は
図4(表2)に見ることができる。0.01M HCl又は0.01M NaOHを添加することによって、ゲル化までの時間を5分未満に調整する。その後、溶液を混合し、室温(30分)又は15℃(一晩)で2成分系と同様に試料を作成する。完全に重合したハイドロゲルは1×PBS(pH7)で一晩膨潤させる。ゲルの固形分は約3%(m/v)である。
【0074】
非帯電単位及びアニオン帯電単位の特性を
図3(表1)に示す。
【0075】
本発明のハイドロゲル材料の前駆体としてのポリマーネットワーク製造のためのEDC/NHS系
EDC/NHS系では、2のUGB3 starPEG-アミン対非マレイミド化GB1のモル比のために、0.167mg/μlのUGB3、0.145mg/μlのGB1、0.1mg/μlのEDC(N-(3-ジメチルアミノプロピル)-N’-エチルカルボジイミド)及び0.1mg/μlのNHS(N-ヒドロキシスルホスクシンイミド)を氷冷MilliQ水中に溶解する。1mlの最終ゲル体積のために、最初に、85.20μlのEDC溶液及び48.25μlのNHS溶液を533.22μlのヘパリン溶液にピペッティングし、混合物を実験室用混合器で混合(ボルテックス)し、氷上で15分間インキュベートする。続いて333.33μlのstarPEG溶液を添加し、再びボルテックスによって混合する。その直後に、2成分系と同様に所望の成型体が製造される。重合は、ハイドロゲルの乾燥を防ぐため、湿潤チャンバー内で室温又は-15℃で一晩実行する。0.00784mol/lの最終starPEG濃度及び0.00392mol/lの最終ヘパリン濃度の場合、ゲルの全固形分は約10%である。完全に重合したハイドロゲルを1×PBS(pH7)で一晩膨潤させた。
【0076】
擬似相互貫入ネットワークとしての導電性ハイドロゲル材料の合成
導電性擬似相互貫入ポリマーネットワークの合成は、上述の形成方法からの全てのハイドロゲル材料に関して可能である。導電性成分としてPEDOTを用いる導電性擬似相互貫入ポリ-3,4-エチレンジオキシチオフェン(PEDOT)ネットワークの合成では、完全に膨潤したアニオン帯電ポリマーネットワークを第1の工程で1M HCl中の0.4Mペルオキソ二硫酸アンモニウム(APS)溶液中、室温で3時間インキュベートする。その後、回転式シェーカー中でハイドロゲルを鉱油中の0.4M 3,4-エチレンジオキシチオフェン(EDOT)溶液中で6時間インキュベートする。この間にEDOTは酸化重合し、導電性PEDOTネットワークが形成される。PEDOTは重合度が増すにつれて黒色を呈するようになる(
図5)。その後、未反応のモノマーを除去するために、こうして製造されたハイドロゲル材料を鉱油で一晩洗浄する。次いで、鉱油を除去するために、ハイドロゲル材料をヘキサンで洗浄する。この洗浄操作は繰り返すことができる。その後、ハイドロゲル材料をPBS(pH7.4)で少なくとも24時間洗浄する。
【0077】
全てのハイドロゲル材料タイプを
図4、表2にまとめる。報告された濃度は、完成したゲル混合物中の濃度である。ハイドロゲル材料タイプGB1-UGB2 16、GB1-UGB2 18、GB2-UGB2-UGB1 19、GB2-UGB2-UGB1 20、GB3-UGB2-UGB1 21及びGB4-UGB2-UGB1 22は、PEDOTによって官能基化されていないハイドロゲルである。ハイドロゲル材料タイプUGB1-UGB2 15は、いずれかのアニオン電荷を有さない純粋なPEG-PEGハイドロゲルであるが、PEDOTによって官能基化されている。
【0078】
電気的特性評価
全てのハイドロゲルは、100mlの1×PBS(pH7)中で、3電極セットアップによるインピーダンス分光法又はサイクリックボルタンメトリーによって電気的に特性評価された。いずれの試験法でも、作用電極として機能する金メッシュ電極上に100μlのゲル試料(膨潤していない体積)を作製した。対電極としては、作用電極に比べて表面積が明らかに大きい多孔性カーボン電極(BioLogic A-010530)が使用された。参照電極には、Ag/AgCl電極(Metrohm、部品番号6.0726.100)を使用した。測定器には、ポテンショスタット(Metrohm Autolab PGSTAT204又はPalmSens 4)を使用した。
【0079】
インピーダンス分光法
インピーダンス分光法では、10mVrmsの有効ポテンシャルを印加し、周波数1桁あたり10の測定点(10 measurement points per decade)で0.01Hz~105Hzの周波数範囲でインピーダンス及び位相角を測定する。異なるハイドロゲル材料タイプのインピーダンスを周波数0.01Hzで比較した。電気伝導率はインピーダンスに反比例する。インピーダンスが上昇すれば、電気伝導率は低下する。
【0080】
サイクリックボルタンメトリー
電荷貯蔵容量は、サイクリックボルタンメトリーの測定によって算出される。この目的のために、上記の3電極セットアップを用い、5回のサイクリックランで、-0.6~0.8Vの印加電位(作用電極及びAg/AgCl参照電極間の電位)を変化させて、作用電極(ハイドロゲル)及び対電極(カーボン電極)間の電流の流れを測定する。スキャン速度は50mV/秒である。その後、曲線下の面積の負の部分を積分し(MultiTrace 4.3、PalmSens 4)、これを用いて以下の式によって電荷貯蔵容量を算出する:
【数2】
【0081】
ソフトウェアからの積分出力は、単位[A]*[V]のI*Uの値である。ここでは[A]=[C/秒]である。スキャン速度[V/秒]を除算すると、材料を透過する電荷[C]が得られる。これは次いで体積に対する比率として表され、周囲媒体との界面はハイドロゲルの完全体積に存在するため、したがって、表面積の計算は不可能である。値はハイドロゲル1ミリリットルあたりの電荷で報告される。
【0082】
ハイドロゲル材料の電気的特性
酸化重合直後のPEDOTは、固有の正電荷を有する(10.1021/acs.jpcb.9b01745、10.1021/acsapm.8b00061)。PEDOTとアニオン帯電ポリマーネットワーク(ハイドロゲル)との間の非共有結合的相互作用、及び個々のPEDOTポリマー鎖間の非共有結合的相互作用により、アニオン帯電ポリマーネットワークとPEDOTとの間に擬似相互貫入ネットワークが形成される。同時に、アニオン帯電ポリマーネットワークの負電荷は、PEDOTに対してpドーパントとして機能する。積分電荷密度及び局所電荷密度(パラメータP0/P1及びP2)次第で、PEDOTのドーピングレベルが変化する。これは、導電性ハイドロゲル材料の電気特性(インピーダンス及び電荷貯蔵容量)に直接的な影響を与える。同一のP2及びP3であって、P1が110~2μmol/mlの範囲では、ハイドロゲル材料タイプGB1-UGB2 01及びGB1-UGB2-UGB1 02-04に関しては3040~1505mC/mlの電荷貯蔵容量及び30~93Ωのインピーダンスが得られ、またP1が128~2μmol/mlの範囲内では、ハイドロゲル材料タイプGB2-UGB2 05及びGB2-UGB2-UGB1 06-08に関しては3040~1894mC/mlの電荷貯蔵容量及び36~74Ωのインピーダンスが得られた(
図6、表3)。PEDOTは疎水性ポリマーであるため、PEDOT鎖の相互の分布及び架橋は環境の疎水性、したがって、アニオン帯電ポリマーネットワークの両親媒性(パラメータP3)に強く依存し、これは同様に導電性ハイドロゲル材料の電気的特性に影響を及ぼす。実施例では、P3が-5.9
*10
-3 1/A
2(GB1-UGB2-UGB1 04)の低い値である場合と比較して、パラメータP3が6.8
*10
-3 1/A
2(GB2-UGB2-UGB1 08)の高い値であり(表2参照)、P2(4.5mmol/(g/mol))及びP1(2μmol/ml)の値が同一である場合、疎水性が高いほど電荷貯蔵容量が高く(1894対1505mC/ml)、インピーダンスが低い(74Ω対93Ω)(
図6、表3)ことが分かった。ポリマー鎖に沿って強くアニオン性に帯電した基の間の距離(P2値が小さいことは、局所的な電荷密度が低いことを意味する)が増加すると、同様のP3及びほぼ同一のP1で、インピーダンスの増加を伴って明らかに低い電荷貯蔵容量が得られる。この差異は、9mmol/mlの低いP1、0.9mmol/(g/mol)のP2及び0.7
*10
-3 1/A
2のP3(GB4-UGB2-UGB1 12)と、11又は4mmol/mlのP1、4.5mmol/(g/mol)のP2及び-5.9
*10
-3 1/A
2のP3(GB1-UGB2-UGB1 02/03)との比較において特に顕著に現れる。P3の値が低く、P1の値がほぼ等しいか又は低いにもかかわらず、P2が高いハイドロゲル(GB1-UGB2-UGB1 02/03)は、GB4-UGB2-UGB1 12(910mC/ml、150Ω)と比較して、電荷貯蔵容量がはるかに高く(2350及び1811mC/ml)、インピーダンスが低い(42及び81Ω)。P1及びP3が中程度の値であるにもかかわらず、GB4-UGB2-UGB1 12は、PEDOT官能基化後、アニオン帯電基を有さないハイドロゲルのような挙動を示す;UGB1-UGB2 15(純粋なPEGハイドロゲル材料、921mC/ml及び167Ω)を参照。したがって、ドーピングのレベル(P1、P2)及び疎水性(P3)の変化によって、異なる電気的特性を有する導電性ハイドロゲルを得ることができる。アニオン性基の積分数が多く(すなわちP0又はP1の値が高い)、強くアニオン性に帯電した基間の距離(P2)が小さいことにより、高い導電性を有するハイドロゲルを得ることができる。P0はP1と同様に電気的性質に影響を与えるようであるが、これはおそらく強アニオン性基の割合に起因すると考えられる。弱アニオン性基は、ここでは固有pKaが3.5~4.5の範囲のカルボキシル基が例として挙げられるが、おそらくPEDOTのドーピングでは小さな役割を果たす。パラメータP3によって、親水性/両親媒性アニオン性ポリマー及び疎水性導電性ポリマー(PEDOT)の相互作用を構成することも可能である。アニオン帯電ハイドロゲル単位の疎水性が高い(パラメータP3の値が高い)ことにより、P1が明らかに低い場合でも、導電性の向上(すなわちインピーダンスの低下)を得ることが可能である。これは、アニオン帯電ハイドロゲル単位上の疎水性基に対する疎水性PEDOT単位の親和性が高いためであり、おそらくドーピングに好適な影響を与える。加えて、疎水性基は、PEDOT合成時でさえも、アニオン帯電ポリマーネットワークへのモノマー単位(EDOT)の貫入及び分布を促進する。非常に高い導電性(低インピーダンス)及び高い電荷貯蔵容量を有する導電性ハイドロゲル材料は、細胞又は組織を刺激するための生体適合性電極材料として使用され得る。これらのハイドロゲルは水和性が高く軟質であるため、生体組織と非常に類似しており、従来の金属電極と比較して、本発明の導電性ハイドロゲル材料をベースとする電極と比較して、生体の異物反応が明確に低減され得る。さらに、従来の金属電極の場合、電気刺激のための電荷移動は、金属と組織(生理的溶液)との接触面でのみ行われる。導電性ポリマーが体積材料内に分布し、生体流体がハイドロゲル内に拡散する可能性があるため、電荷移動は完全体積内で行われる。その結果、同じ電荷注入に対してより低い電圧を使用することが可能となり、従来の金属電極と比較して、熱の発生とその結果生じる潜在的な組織損傷が軽減される。
【0083】
活性成分の隔離及び放出
活性成分の隔離及び放出のための試料調製は、電気的特性の評価と同一である。100μlの種々のアニオン性ポリマーネットワークを金メッシュ電極に適用し、その後、EDOTモノマーを貫入及び重合させてPEDOTを得ることにより、導電性とした。
【0084】
活性成分の隔離
導電性ハイドロゲル材料をPBSで十分に洗浄した後、(担体タンパク質で生理的状況をシミュレートするため)0.1%BSAを含む2.5mlのPBS中、各場合100ng/mlの物質の濃度で種々の物質を隔離した。これはタンパク質及びハイドロゲル材料あたり250ngに相当する。タンパク質の反応容器への非特異的結合を最小限にするため、隔離は5mlの低結合エッペンドルフ(Eppendorf)チューブ(Eppendorf)で行う。取り込みは24時間かけて進行する。隔離は500mV、0mV(受動的)及び-500mVで進行する。能動的隔離は、電気的特性評価と同様の3電極セットアップで行われる。使用した作用電極は、金電極上の導電性ハイドロゲルである。これを、参照電極であるAg/AgClワイヤーと一緒に5mlの低結合エッペンドルフ(Eppendorf)チューブに入れた。作用電極に比べて明らかに表面積の大きい多孔性カーボン電極(BioLogic A-010530)である対電極を100mlのPBSを含む別の容器に入れた。回路は、PBSで膨潤させた25%ポリアクリルアミドハイドロゲル(製造業者データによる)によって充填されたPVCチューブからなる塩橋によって完成された。エッペンドルフ(Eppendorf)容器中、物質の貫入を防ぐため、さらに1000Daの透析膜によってチューブを閉鎖した。ポテンショスタット(Metrohm Autolab PGSTAT204又はPalmSens 4)を用いて、規定の電位を印加した。隔離の前後に100μlの試料溶液を採取した。マルチプレックスアッセイキット(Luminex Technology、ThermoFisher)を用いて、製造元の説明書に従って種々のタンパク質の濃度を測定した後、取り込まれたタンパク質の量をパーセンテージとして計算した。
【0085】
物質の隔離の主な要因は、ハイドロゲル材料(アニオン帯電ポリマーネットワーク-PEDOT擬似IPN)全体に印加された種々の電圧における積分P0又はP1及び局所電荷密度(P2)である。結合分子の電荷に関係なく、最も高い隔離が、ここでは電位無印加で測定された(
図7、表4)。同様のP1及びP2を有する非導電性ハイドロゲル(PEDOTなし)と比較すると、導電性ハイドロゲル材料は正帯電物質の取り込みが少ないことがわかった(GB2-UGB2-UGB1 19;98.2% SDF-1α;85.0% FGF-2;96.7% IL-8と比較して、GB2-UGB2-UGB1 09;72.3% SDF-1α;72.7% FGF-2;70.8% IL-8)(表4参照)。負帯電分子の場合、逆の効果が見られる。GB2-UGB2-UGB1 19の場合の43.3%のGM-CSFと33.5%のEGFと比較して、GB2-UGB2-UGB1 09の場合は、49.9%のGM-CSF及び37.1%のEGFが取り込まれた。この効果は、P1が低い場合にはさらに顕著である。したがって、GB2-UGB2-UGB1 20の場合の0.0%のGM-CSF及び21.0%のEGFと比較して、GB2-UGB2-UGB1 10の場合は77.8%のGM-CSF及び69.2%のEGFが結合した。この理由は、おそらくPEDOTの正電荷にある。PEDOTは、電位を印加しない状態では、モノマー単位の約33%の正帯電を有し、これによって負帯電物質との相互作用が引き起こされ、おそらくそれらを結合させることができる(10.1021/acsapm.8b00061、10.1021/acsami.5b04768)。さらに、P1が低い場合、非導電性対照と比較して、導電性ハイドロゲルによって正帯電物質をより良好に結合させることも可能であることがわかった。例えば、GB2-UGB2-UGB1 20の場合の60.5%のSDF-1α;41.6%のFGF-2;17.1%のIL-8と比較して、GB2-UGB2-UGB1 10の場合、76.9%のSDF-1α;86.1%のFGF-2;39.9%のIL-8が結合した。このことは、主に正帯電の物質の結合に関しても、導電性高分子PEDOTが、特にハイドロゲル材料のアニオン帯電基との電荷の相互補償を通して、重要な役割を果たしていることを示唆している。ここでは、PEDOTによるタンパク質中の負帯電ドメインのイオン結合と、タンパク質とPEDOTとの間の疎水性相互作用の両方が重要な役割を果たしている。
【0086】
500mVの正電位を印加すると、物質の隔離は全体的に減少する(
図7、表4)。これは、特に正帯電物質の場合に観察される。負帯電物質、例えばGM-CSF及びEGFの場合、対照的に、わずかに上昇したか、又は実質的に同一の隔離が観察される。例えば、GB2-UGB2-UGB1 09の場合、電位印加前は49.9%のGM-CSF及び37.1%のEGFが結合し、電位印加後は59.2%のGM-CSF及び67.0%のEGFが結合し、そしてGB2-UGB2-UGB1 09の場合、電位印加前は77.8%のGM-CSF及び69.2%のEGFが結合し、電位印加後は78.4%のGM-CSF及び64.8%のEGFが結合した。この理由は、正電位の印加によりPEDOTの電荷が増加するためと考えられる。(10.1021/acsapm.8b00061、10.1021/acsami.5b04768)。これによって、イオン相互作用の上昇により、GM-CSF及びEGFなどの負帯電タンパク質の結合に良好な影響がもたらされる。対照的に、ハイドロゲル中のアニオン性成分の負電荷は一定であり、PEDOTのより強い正電荷が電荷の部分的な補償を導くため、正帯電タンパク質の取り込みは累積的に減少する。
【0087】
負電位を印加すると、PEDOTの正電荷は減少するか、又は完全に中和されることさえある(10.1021/acsapm.8b00061、10.1021/acsami.5b04768)。電位が-500mVの場合、物質の電荷に関係なく、またハイドロゲル材料のP1及びP2に関係なく、物質の隔離が主に減少することがわかった(
図8、表4)。したがって、GB2-UGB2-UGB1 09では、SDF-1αの隔離は72.3%から47.2%へ、NGF-βは94.1%から75.0%へ、IL-8は70.8%から35.4%へと減少した。同様の傾向はGB2-UGB2-UGB1 10及びGB3-UGB2-UGB1 11/12でも観察された。このことは、主に正帯電物質の結合に関して、PEDOTの正電荷が重要な役割を果たしているという疑いを裏付ける。これは、例えば、物質(タンパク質)の負帯電ドメインがPEDOTの正電荷に結合することによって引き起こされ得る。負帯電物質の隔離において、-500mVで非常に顕著な隔離の減少が見られる。したがって、GB2-UGB2-UGB1 09では、GM-CSFの隔離は49.9%から17.9%に、EGFは37.1%から0.0%に低下し、そしてGB2-UGB2-UGB1 10では、GM-CSFは77.8%から44.9%に、EGFは69.2%から42.8%に低下する。負電位の場合に負帯電物質の隔離がこのように著しく減少する理由は、おそらくPEDOTの正電荷の減少である。その結果、負帯電物質の結合部位が明らかに少なくなる。
【0088】
活性成分の放出
隔離(上記の第3の装填方法によるハイドロゲルの装填)に続いて、生物活性分子の電気的に制御された放出が行われた。平均で最も高い隔離に基づき、0mVの電位(受動的)で24時間物質を封入した試料をこの目的のために使用した。能動的に隔離した物質の制御放出も同様に、以下に述べるプロトコルによって実施することができる。
【0089】
ハイドロゲルの装填の後、弱く結合したタンパク質を除去するために、まず短時間の洗浄工程を行った。この目的のために、まずハイドロゲルを3000rpmで1分間遠心分離し、付着した液体を除去する。その後、BSAを含む1mlのPBSでハイドロゲルを洗浄し、再び3000rpmで1分間遠心分離する。「活性成分の隔離」の章で記載した3電極セットアップで、500mV、0mV及び-500mVの印加電位で同様に放出を行う。出発溶液(対照)、隔離後、洗浄後、放出0分後、10分後、30分後、1時間後、6時間後、8時間後及び24時間後に試料採取を行った。8時間後には放出されたタンパク質の飽和がすでに観察できたため、8時間後にはプラトー状態の放出結果が示される(
図8、表5)。様々な物質の濃度は、マルチプレックスアッセイキット(Luminex Technology、ThermoFisher)を用いて、製造元の指示に従って測定した。
【0090】
結合した物質の放出は、PEDOTの電荷と組み合わせて、アニオン帯電ポリマーネットワークの構成パラメータによって調整することができる(
図8、表5)。P1が高い場合(60μmol/ml、GB2-UGB2-UGB1 09)、正帯電物質の放出はごくわずかである(0.0% SDF-1α;0.0% FGF-2;0.5% IL-8)。これとは対照的に、正帯電物質については、中程度にわずかな放出(2.3%のGM-CSF;9.1%のEGF)を観察することができる。アニオン性基によってPEDOTの正電荷が過剰に補償される可能性が高いため、負帯電物質の放出は、正帯電タンパク質の放出よりもはるかに速い可能性がある。低いP1(2μmol/ml、GB2-UGB2-UGB1 10)の場合、正帯電物質(0.8% SDF-1α;0.3% FGF-2;11.7% IL-8)の放出が増加する。これとは対照的に、負帯電物質は、P1が高い場合(0.4% GM-CSF;2.0% EGF)と比較して、放出される程度がはるかに低い。同様のP1値(GB3-UGB2-UGB1 11/12)でP2を減少させる場合、負帯電物質の放出を増加させることができる(4.3/3.7% GM-CSF;94.1/73.5% EGF)が、正帯電物質の放出はほとんど変わらない(1.6/0.2% SDF-1α;0.0/0.0% FGF-2;1.4/1.2% IL-8)(
図8、表5)。この理由も同様に、電荷密度が低いにもかかわらず、PEDOTの正電荷がアニオン性基によって補償されているためである。
【0091】
500mVの電位を印加すると、電荷に関係なく、結合した物質の保持が観察され得る。この効果は、GB2-UGB2-UGB1 09で特に明瞭に現れた。事実上全ての14タンパク質の放出が、ここでは0%まで減少した(
図8、表5)。GB3-UGB2-UGB1 12では、中程度のP1(9μmol/ml)及び非常に低いP2(0.94mmol/(g/mol))の場合でも、全ての物質の放出がほぼ0%まで低下した(
図8、表5)。この理由は、ハイドロゲルの膨潤速度にあると考えられる。正電位の場合、PEDOTの上昇した正電荷が、より多くのアニオン帯電基を補償する。ハイドロゲル材料中のPEDOTの正電荷と比較してアニオン性基が多いと仮定すると、ハイドロゲルの電荷全体が中性側に移動し、その結果ハイドロゲルから水分が失われ、収縮する。その結果、ポリマー鎖のメッシュサイズが小さくなり、その結果、電荷に関係なくタンパク質の放出が減少する。
【0092】
-500mVの電位を印加すると、大部分の物質で放出の増加が見られる(
図8、表5)。これは、主に負帯電生物活性分子に関連する。例えば、電位印加後、ハイドロゲル材料タイプGB2-UGB2-UGB1 09のTNF-α、GM-CSF及びEGFの放出は1.4/2.3/9.2%から5.3/10.4/67.2%に、GB2-UGB2-UGB1 10では1.7/0.4/2.0%から53.2/5.9/72.6%に上昇する。この傾向は、ハイドロゲル材料タイプGB3-UGB2-UGB1 11/12でも観察され得る。ここで興味深いのは、電位を印加しなくても放出が大きい物質が、負電位を印加した結果、最も多く放出されることである。この理由はおそらく、PEDOTの正電荷の還元/中和であろう。その結果、より多くの遊離アニオン基が存在し、イオン相互作用の結果として、負帯電タンパク質の反発をもたらす。しかしながら、正帯電物質の場合でも、放出の増加が観察される。したがって、ハイドロゲル材料タイプGB2-UGB2-UGB1 10では、FGF-2、IL4及びIL8の放出が0.3%から2.6%、0.6%から1.7%及び11.7%から26.3%に増加する。この理由も同様に、PEDOTによる電荷補償が行われなかった結果、遊離アニオン帯電基の数が増加したためと考えられる。その結果、ハイドロゲルの負の正味電荷が上昇し、膨潤を引き起こす。これにより、電荷に関係なく放出が促進され、その結果、正帯電物質をより高度に放出することも可能になる。
【0093】
ハイドロゲルの生体適合性
生体適合性の検討には、PC-12細胞株及びハイドロゲル材料タイプGB1-UGB2 17を用いた。この細胞株は褐色細胞腫細胞を含み、NGF-βの添加によって数日以内に分化し、ニューロン様細胞を得ることができる。PC-12細胞株は、神経分化のモデルとして広く用いられている。PC12細胞を用いた培養では、PBS中で洗浄及び膨潤させた導電性ハイドロゲルを70%エタノールで10分間すすぎ、微生物を死滅させた後、滅菌PBS中で洗浄した。20mM滅菌酢酸中I型コラーゲン(50μg/ml、1ml/100μlのゲル、Gibco(商標))によって室温で2時間処理した後、ゲルをPBSで30分間洗浄した。NGF-β添加ゲルについては、1%BSAを添加したPBS中でNGF-β(100ng/ml、Sigma-Aldrich)とさらに一晩インキュベートした。その後、ゲル表面積1cm2あたり50000個の細胞を播種した。細胞を播種し、培地に10%ウマ血清(Gibco(商標))、5%ウシ胎児血清(Gibco(商標))、1%ペニシリン及びストレプタマイシン(Gibco(商標))を添加したRPMI1640(Gibco(商標))中で培養した。培養条件に応じて、純粋培地を使用するか、100ng/ml NGF-βを培地に添加するか、又は1%ウマ血清(Gibco(商標))及び0.5%ウシ胎児血清のみを添加した栄養減少培地(減少)を使用した。2日ごとに培地を交換しながら5日間又は7日間培養した後、細胞を20分間室温でPBS中4%PFAに固定した。画像化のために、ファロイジン(Abcam)及びDAPI(Pierce)を用い、製造者の指示に従って細胞を染色した。画像は蛍光顕微鏡で撮影した。watershed及びanalyze particles(細胞数)及びskeletonizeプラグインを用いて、FIJI/ImageJによって細胞数及び細胞周囲長を評価した。
【0094】
全ての培養条件において、ゲル上での細胞接着及び細胞増殖が観察された。7日間と5日間の比較では、NGF-β無添加のハイドロゲル上で、細胞周囲長の減少とともに細胞数の有意な増加が見られた(
図9、表6)。これは高い細胞増殖を示唆する。培地へのNGF-βの添加は、早ければ5日後にPC12細胞の分化を導く(
図9、表6)。このことは、軸索様構造の成長の結果としての細胞周囲長の増加で確認された。培地にではなく、ハイドロゲルにNGF-βを添加した場合、細胞数の増加はわずかで、細胞周囲長の増加はわずかである(
図9、表6)。刺激がなければ、放出されるNGF-βの量は、細胞の完全な分化を達成するには少なすぎる。これはハイドロゲルに対するNGF-βの親和性が高いためである。培地中の栄養分を減らせば、分化を促進させることができる。したがって、細胞はあらゆる培養条件下のハイドロゲル上で増殖及び分化する能力を持ち、これはハイドロゲルの高い生体適合性を裏付けている。
【符号の説明】
【0095】
参照数字一覧
1 導電性ハイドロゲル材料/ハイドロゲル材料
2 ポリマーネットワーク
3 アニオン帯電単位
4 架橋剤分子
5 導電性成分/PEDOT
6 生物活性物質/シグナル伝達タンパク質
7 電圧源
【国際調査報告】