(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-11
(54)【発明の名称】ヒト多能性幹細胞由来の脊髄ニューロンサブタイプの効率的且つ迅速なスペシフィケーション
(51)【国際特許分類】
C12N 5/0793 20100101AFI20231228BHJP
【FI】
C12N5/0793 ZNA
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023532200
(86)(22)【出願日】2020-11-25
(85)【翻訳文提出日】2023-07-24
(86)【国際出願番号】 IB2020000972
(87)【国際公開番号】W WO2022112809
(87)【国際公開日】2022-06-02
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507002516
【氏名又は名称】アンセルム(アンスティチュート・ナシオナル・ドゥ・ラ・サンテ・エ・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・メディカル)
(71)【出願人】
【識別番号】518059934
【氏名又は名称】ソルボンヌ・ユニヴェルシテ
【氏名又は名称原語表記】SORBONNE UNIVERSITE
(71)【出願人】
【識別番号】503119487
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・デヴリ・ヴァル・デソンヌ
(71)【出願人】
【識別番号】522348767
【氏名又は名称】サントル・デチュード・デ・セルレス・スーシュ・(セイセエス)
(71)【出願人】
【識別番号】520179305
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ パリ-サクレー
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PARIS-SACLAY
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ステファン・ネデレック
(72)【発明者】
【氏名】セシル・マルティナ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァンサン・ムイユー
(72)【発明者】
【氏名】セリア・ヴァスリン
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AC14
4B065BD25
4B065CA44
4B065CA46
(57)【要約】
本発明は、特定の細胞集団の標的を定めた作出に関する。運動ニューロン(MN)サブタイプは、疾患及び脊髄傷害において差次的脆弱性を示す。特定の吻側尾側アイデンティティーを有する作出されたMNは、細胞療法アプローチのための重要な資源を代表する。しかしながら、この戦略は、細胞の運命をin vitroでスペシフィケーションする際のコントロールが不正確であることに起因して、標的を定めた分化が遅くまた非効率的であることによって依然阻害されている。本発明者らは、今回、hPSCの胚様体に基づく分化を使用し、そしてHOXクロック発現が脊髄MNのサブタイプが生成するようにコントロール可能であることを明らかにした。従って、本発明は、脊髄ニューロンサブタイプを生成するためのin vitro又はex vivoでの方法であって、体軸前駆体を、レチノイン酸(RA)、ヘッジホッグシグナル伝達経路のアゴニスト、及び意選択的にFGFRアゴニスト、及び/又はTGF経路のアクチベーターに曝露する工程を含み、徐々により多くの尾側運動ニューロンアイデンティティーが、レチノイン酸に対する遅延曝露により、並びに/或いはFGFRアゴニスト及び/又はTGF経路のアクチベーターと組み合わせてレチノイン酸に曝露することにより取得される、方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
定義された吻側尾側アイデンティティーを有するヒト細胞/ニューロンサブポピュレーションを作出するためのin vitro又はex vivoでの方法であって、レチノイン酸(RA)、ヘッジホッグシグナル伝達経路のアゴニスト、並びに任意選択的にFGFRアゴニスト及び/又はTGF/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経路のアクチベーターを含む培養培地内で体軸前駆体を培養する工程を含み、徐々により多くの尾側運動ニューロンアイデンティティーが、前記培養培地内へのレチノイン酸の遅延添加により、並びに/或いは前記FGFRアゴニスト及び/又は前記TGF/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経路のアクチベーターと組み合わせたレチノイン酸の添加により取得される、方法。
【請求項2】
- 多能性幹細胞を、Wntシグナル伝達経路のアクチベーター、並びに任意選択的にBMP経路の阻害剤及びTGFβ経路の阻害剤を含む培養培地内に曝露させて、体軸前駆体を取得する工程と、
- 体軸前駆体を、前記培養培地内で、任意選択的にFGFRアゴニスト、及び/又はTGF/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経路1のアクチベーターと組み合わせて、レチノイン酸(RA)及びヘッジホッグシグナル伝達経路のアゴニストに曝露して、脊髄運動ニューロン前駆体を取得する工程と、
- 任意選択的に、脊髄運動ニューロン前駆体を、前記培養培地内で、ノッチ経路阻害剤に曝露する工程と
を含み、
徐々により多くの尾側運動ニューロンアイデンティティーが、前記Wntシグナル伝達経路アクチベーターに対する曝露に関して、レチノイン酸に対する曝露を遅延させることによるか、或いは体軸前駆体を、前記FGFRアゴニスト及び/又は前記TGF/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経路のアクチベーターに対する曝露の増加と組み合わせてレチノイン酸に曝露することにより生成され、一般的に曝露の増加が、前記培養培地における濃度増加及び/又は前記培養培地における期間増加と関係する、
請求項1に記載のin vitro又はex vivoでの方法。
【請求項3】
ヒト多能性幹細胞(hPSC)が、骨形成タンパク質(BMP)シグナル伝達経路の阻害剤、形質転換増殖因子(TGF)/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経路の阻害剤と組み合わせて、Wntシグナル伝達経路のアクチベーターに曝露される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
尾側胸部及び腰部運動ニューロンが、体軸前駆体を、レチノイン酸、前記FGFRアゴニスト、及び前記TGF/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経路のアクチベーターに曝露することにより取得される、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記FGFRアゴニストが、少なくとも15ng/ml、一般的に少なくとも60ng/ml、及び特に少なくとも100ng/mlの濃度で、前記培養培地内に少なくとも24時間添加され、及び前記TGF/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経路のアクチベーターが、少なくとも20ng/mlの濃度で、前記培養培地に少なくとも24時間添加される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
- 前記骨形成タンパク質(BMP)シグナル伝達経路の阻害剤、前記形質転換増殖因子(TGF)/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経路の阻害剤、及び前記Wntシグナル伝達経路のアクチベーターが、D0から開始してD3又はD4まで前記培養培地に添加され、
- ソニックヘッジホッグシグナル伝達経路のアゴニストが、D3~D7から開始して、D9又はD10まで前記培養培地に添加可能であり、
- 任意選択的に、ノッチ経路阻害剤がD9~D14の間において添加される、
請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
RAが2日~11日の期間、任意選択的にD3~D9の間において、任意選択的に少なくとも10nMの濃度で前記培養培地に添加される、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
- 上肢運動ニューロンが、D4~D9の間又はD3~D9の間においてRAを単独で、D3~D4の間において少なくとも100ng/mlの濃度のFGFRアゴニスト若しくは少なくとも20ng/mlの濃度のTGF/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経路のアクチベーターそれぞれと組み合わせながら、前記培養培地に添加することにより取得され、
- 前方胸部運動ニューロンが、D5若しくはその後から開始してD9まで、又はD3~D9の間においてRAを単独で、少なくとも60ngの濃度のFGFRアゴニスト又は少なくとも20ng/mlの濃度のTGF/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経路のアクチベーターと、D3から開始して48時間若しくはそれ超(好ましくは48時間)組み合わせながら、前記培養培地に添加することにより取得され、
- 尾側胸部運動ニューロンが、D3~D9の間においてRAを前記培養培地に添加することにより、及びD3~D4の間において、少なくとも100ng/mlの濃度のFGFRアゴニストと少なくとも20ng/mlの濃度のTGF/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経路のアクチベーターとを組み合わせることにより取得され、
- 腰部運動ニューロンが、D5~D9の間においてRAを前記培養培地に添加することにより、及びD3又はD4から開始してD5まで前記培養培地に添加される、少なくとも100ng/mlの濃度のFGFRアゴニストと少なくとも20ng/mlの濃度のTGF/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経路のアクチベーターとを組み合わせることにより取得される、
請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記FGFRアゴニストがFGFR2である、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記ソニックヘッジホッグシグナル伝達経路のアゴニストが平滑化アゴニスト(SAG)であり、任意選択的に、SAGが少なくとも300nMの濃度で添加される、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記ノッチ経路阻害剤が、任意選択的に少なくとも5μMの濃度のDAPTである、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記Wntシグナル伝達経路のアクチベーターが、化合物Chir-99021及びWnt3aタンパク質からなる群から選択される、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記TGF/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経路のアクチベーターが、GDF11又はGDF8から選択される、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、定義された吻側尾側アイデンティティー(rostro-caudal identity)を有するヒト細胞型を生成するための方法と関係する。
【背景技術】
【0002】
左右相称動物体(bilaterian body)のパターンニングは、その吻側尾側軸に沿ってHOX転写因子が差次的に発現することにより統制されている。Hox遺伝子発現パターンの開始は、体軸の吻側尾側伸長と密接に関係している。
【0003】
体軸前駆体(axial progenitor)は、尾側中胚葉構造及び神経外胚葉構造の漸進的増加に寄与するので、HOX遺伝子活性化の3'→5'配列は、前方的に発現される3' HOX遺伝子について共直線的空間パターン(collinear spatial pattern)の発現に翻訳される一方、5' HOX遺伝子は遅発的に活性化され、そして尾側的に発現される(Deschamps and Duboule, 2017; Henrique et al., 2015)。外因的因子、例えばレチノイン酸(RA)、Wnt、又は線維芽細胞増殖因子(FGF)等は、HOXパターンをコントロールする際に重要な役割を演ずる一方、複合体内のクロマチン状態における細胞固有の変化は、その転写誘発の時間的順序と相関関係を有する(Bel-Vialar et al., 2002; Deschamps and Duboule, 2017; Liu et al., 2001; Mazzoni et al., 2013; Narendra et al., 2015; Neijts et al., 2017; Philippidou and Dasen, 2013)。しかしながら、複合体に沿ってクロマチンが漸進的に開放されることが、外因的手掛かりにより開始及び停止される内部タイマーとして機能するのか、又はより多くの尾側HOX遺伝子を漸進的に活性化させる分泌因子の順序が誘発のテンポを定義するのか依然不明である(Bel-Vialar et al., 2002; Del Corral and Storey, 2004; Deschamps and Duboule, 2017; Ebisuya and Briscoe, 2018; Lippmann et al., 2015; Mazzoni et al., 2013; Wymeersch et al., 2019)。このことが、異なるいくつかの十分に定義された吻側尾側アイデンティティーを有する尾側細胞型への多能性幹細胞(PSC)の分化に対する現在の制限されたコントロールをもたらしている可能性がある(Diaz-Cuadros et al., 2020; Du et al., 2015; Duval et al., 2019; Faustino Martins et al., 2020; Frith et al., 2018; Gouti et al., 2014; Li et al., 2005; Lippmann et al., 2015; Matsuda et al., 2020; Maury et al., 2015; Ogura et al., 2018; Peljto et al., 2010; Verrier et al., 2018)。実際、2つのモデルがin vitroでのPSC分化をコントロールするための異なる戦略を示唆する。「固有モデル」から、後方アイデンティティーの効率的なスペシフィケーションは、分化の時期と内部HOXタイマーとの間の精密な同期に立脚することが予測される。或いは、第2の機構からは、体軸前駆体を関連する外因的手掛かりに曝露することで、HOXクロックを同期させ、定義された吻側尾側アイデンティティーを有する子孫を生成することが予測される。
【0004】
脊髄に位置する脊髄運動ニューロン(sMN)は、運動ニューロンの2つの基本的クラスのうちの1つであり、他方は後脳由来の頭蓋運動ニューロンである。sMNは、該当する吻側尾側サブタイプアイデンティティーを獲得するための精密なHOXコードに立脚する。実際、脊椎動物の脊髄に沿ったHOX転写因子の差次的発現は、HOX遺伝子制御の主要な産物である。脊髄運動ニューロンでは、このHoxコードが、歩行運動回路(locomotor circuit)の形成をコントロールするサブタイプ固有の特性に関するスペシフィケーションを統制する(Dasen, 2017; Philippidou and Dasen, 2013)。特に、運動ニューロン内のHox発現プロファイルが、そのサブタイプスペシフィケーション、カラム及びプールセグメンテーション、並びに筋肉群の神経支配標的を制御する。しかしながら、脊髄HOXコード及び関連するMNサブタイプがヒトにおいて保存されているかについては依然不明であり、従ってHOX制御及びそれとhPSC分化期間中の細胞「吻側尾側」アイデンティティーとの関連性について忠実な評価が阻害されている。
【0005】
特定の細胞集団の標的を定めた作出は、発生研究、疾患モデリング、及び再生医療のための主要な手段である。しかしながら、この戦略は、細胞の運命をin vitroでスペシフィケーションする際のコントロールが不正確であることに多くの部分起因して、標的を定めた分化が遅くまた非効率的であることによって依然阻害されている。
【0006】
特に、MNサブタイプは、疾患及び脊髄傷害において差次的脆弱性を示す。従って、特定の吻側尾側アイデンティティーを有する運動ニューロンを新たに作出すれば、これら不治性疾患をモデリングするための待望の資源、及び推定される細胞療法アプローチのためのよりコントロールされた細胞供給源をもたらす。
【0007】
本発明者らのこれまでの出願(国際公開第2016012570号を参照)は、hPSCからsMN及びcMNの富化された集団を取得するための方法を提示した。レチノイン酸(RA)及びSAGと組み合わせて、Wntシグナル伝達経路のアクチベーターが高濃度で存在する中で神経化したhPSCを培養することにより、培養開始後10日間で80%を超える脊髄運動ニューロン前駆体(γ-セクレターゼ阻害剤の存在下で脊髄運動ニューロンに効率的に(細胞の60~70%)分化することができる)を含む集団を取得することが可能であることが特に明らかにされた。しかしながら、MNサブタイプは疾患において差次的に毀損しており、またhPSCからMNサブタイプを生成するための効率的な方法が存在しないというものの、この出願は、sMNの特定の吻側尾側及びサブタイプアイデンティティーに関する何らかの手掛かりや、そのような特定のsMNを取得するための何らかの示唆又は方法を提示しなかった。
【0008】
レチノイン酸(RA)、ウイングレスタイプMMTV統合部位タンパク質(integration site protein)ファミリー(Wnt)、線維芽細胞増殖因子(GDG)、及び増殖分化因子(GDF)シグナル伝達は、後方CNS発達期間中にHOX発現を複雑に制御することもやはり明らかにされている(Liu et al., 2001; Nordstrom et al., 2006)。現在のところ、sMNを決定付ける最も効率な手順(Maury et al. 2015, Du et al. 2015 doi: 10.1038/ncomms7626)は前方頚部MNを生成する。しかしながら、手掛かりの組合せに関する知識が不足していること、及びMNサブタイプを生成するのに必要とされるその作用時間に主に起因して、現在のところ、定義された吻側尾側アイデンティティーを有するMNサブタイプを生成するための効率的な方法は報告されていない。特に、上肢、胸部、及び腰部MN、特にこれらのMNサブタイプのなかでもとりわけ、四肢神経支配的MNの生成は依然理解困難である。HOXのmRNAプロファイルは異なり、しかもそのタンパク質のドメインよりも広い。従って、mRNAプロファイル(特に運動ニューロン前駆体における)は、脊髄運動ニューロンにおけるHoxタンパク質の発現を反映しない。その結果、例えばPCR分析によるmRNA発現に基づくMNサブタイプの評価は、従ってMNサブタイプを特定するための必要とされる正確性を欠く(Dasen et al., Nature 2003, Lippmann et al., 2015)。ヒトにおける抗体の特徴付けが不十分であることから、MNサブタイプの適切な特徴付けも阻害されている。更に、いくつかの試みがなされているものの、得られた分化(hPSCの2D接着分化に立脚する)は、低パーセンテージのMNをもたらすといえどもアイデンティティーが混合しており、また多くの場合、非神経細胞により汚染されており、分化プロセスに対するコントロールが不良であることを実証している(Lippmann et al. 2015, Patani et al., 2011)。このような制限により、健康な状態において、また選択的MN集団が毀損している疾患状態においてさえも、MNサブタイプの系統的研究が排除される。
【0009】
従って、特定の吻側尾側表現型を有するsMNについて、その富化された集団の取得を可能にする改善された効率的手順に対する重要な必要性がなおも存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第2016012570号
【特許文献2】国際出願PCT/EP第2015/066944号
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Chung et at. (2008) Cell Stem Cell 2:113-117
【非特許文献2】Maury Y, Come J, Piskorowski RA, Salah-Mohellibi N, Chevaleyre V, Peschanski M, Martinat C, Nedelec S. Combinatorial analysis of developmental cues efficiently converts human pluripotent stem cells into multiple neuronal subtypes. Nat Biotechnol. 2015 Jan;33(1):89-96
【非特許文献3】Bienz (2005) Curr. Biol. 15:R64-67
【非特許文献4】Bennett et al. (2002) J. Biol. Chem. 277:30998-3104
【非特許文献5】Miyabayashi et al. (2007) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 104:5668-5673
【非特許文献6】Coghlan et al. (2000) Chem. Biol. 7:793-803
【非特許文献7】Sato et al. (2004) Nat. Med. 10:55-63
【非特許文献8】Gazzero and Minetti (2007) Curr. Opin. Pharmacol. 7:325-333. Techniques
【非特許文献9】Yu et al. (2008) Nat Chem Biol. 4:33-41
【非特許文献10】Hao et al. (2010) ACS Chem Biol. 5:245-253
【非特許文献11】Cuny et al. (2008) Bioorg. Med. Chem. Lett. 18:4388-4392
【非特許文献12】Sanvitale et al. (2013) PLoS ONE 8:62721
【非特許文献13】Shi and Massague (2003) cells 113:685-700
【非特許文献14】Sinha and Chen (2006) Nat. Chem. Biol. 2:29-30
【非特許文献15】Taylor et al. (2001 ) Biochemistry 40:4359-4371
【非特許文献16】Chen et al. (2002) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 99:14071 -14076
【非特許文献17】Frank-Kamenetsky et al. (2002) J. Biol. 1 :10.2-10.19
【非特許文献18】Yang et al. (2008) Molecules Brain 1 :15
【非特許文献19】Wang et al. (2009) Molecules 14:3589-2599
【非特許文献20】Borghese et al. (2010) Stem Cells 28:955-964
【非特許文献21】Okochi et al. (2006) J. Biol. Chem. 281 :7890-7898
【非特許文献22】Shearman et al. (2000) Biochemistry 39 8698
【非特許文献23】Liu et al. (2006) Bioc em. Biop ys. Res. Commun. 346:131-139
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明者らは、今回hPSCの胚様体に基づく分化を使用し、そしてWnt及びRA間のタイムウィンドウの期間が子孫の最終的な位置アイデンティティーを規定し、並びに濃度変化、期間、及び尾側化因子(線維芽細胞増殖因子(FGF)及び増殖分化因子(GDF))の組合せが、HOX遺伝子の時間的共直線的活性化が生ずるスピードをコントロールするというエビデンスを提示した。HOXクロックのペースは、従って外因的手掛かりへの曝露のパラメーターにより動的にコードされる。
【0013】
生物工学の観点において、このHOXクロックを外因的にコントロールすれば、PSCから定義された「吻側尾側」アイデンティティーを有する細胞型を作出するための単純な手段がもたらされる。それは、体軸伸長期間中に、発達の異なる時間において生み出される細胞の生成に関する時間的要件を短縮する。
【0014】
従って、本発明の方法は、定義された吻側尾側アイデンティティーを有するヒトMNサブタイプを、前例のない効率及び精密性を伴いつつ同時に作出することを可能にする。特に、方法は、sMNの吻側尾側アイデンティティーについて精緻な調整を可能にする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
従って、本発明は、定義された吻側尾側アイデンティティーを有するヒト細胞/ニューロンサブポピュレーションを作出するためのin vitro又はan ex vivoでの方法であって、レチノイン酸(RA)、ヘッジホッグシグナル伝達経路のアゴニスト、並びに任意選択的にFGFRアゴニスト及び/又はTGF/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経路のアクチベーター(GDF11又はGDF8を含む)を含む培養培地内で体軸前駆体を培養する工程を含み、徐々により多くの尾側運動ニューロンアイデンティティーが、培養培地内へのレチノイン酸の遅延添加により、並びに/或いはFGFRアゴニスト及び/又はTGF/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経路のアクチベーターと組み合わせたレチノイン酸の添加により取得される、方法に関する。
【0016】
より具体的には、本発明は、in vitro又はex vivoでの方法であって、
- 多能性幹細胞を、Wntシグナル伝達経路のアクチベーター、並びに有利にはBMP及びアクチビン/TGB経路の阻害剤を含む培養培地内に曝露させて、体軸前駆体を取得する工程と、
- 体軸前駆体を、培養培地内で、任意選択的にFGFRアゴニスト、及び/又はTGF/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経路のアクチベーターと組み合わせて、レチノイン酸(RA)及びヘッジホッグシグナル伝達経路のアゴニストに曝露して、脊髄運動ニューロン前駆体を取得する工程と、
- 任意選択的に、脊髄運動ニューロン前駆体を、培養培地内で、ノッチ経路阻害剤に曝露する工程と
を含み、徐々により多くの尾側運動ニューロンアイデンティティーが、Wntシグナル伝達経路アクチベーターに対する曝露に関して、レチノイン酸に対する曝露を遅延させることによるか、或いは体軸前駆体を、FGFRアゴニスト及び/又はTGF/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経路のアクチベーターに対する曝露の増加と組み合わせてレチノイン酸に曝露することにより生成され、一般的に曝露の増加が培養培地における濃度増加及び/又は培養培地における期間増加と関係する、方法に関する。
【0017】
一般的に、ヒト多能性幹細胞(hPSC)は、Wntシグナル伝達経路のアクチベーターの前又はそれと並行して、骨形成タンパク質(BMP)シグナル伝達経路の阻害剤、及び形質転換増殖因子(TGF)/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経路の阻害剤に曝露される。
【0018】
一般的に、尾側胸部及び腰部運動ニューロンもやはり、体軸前駆体を、レチノイン酸、FGFRアゴニスト、及びTGF/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経路のアクチベーターに曝露することにより取得される。
【0019】
任意選択的に、FGFRアゴニストが、少なくとも15ng/ml、特に少なくとも50ng/ml、又は少なくとも100ng/mlの濃度で、培養培地内に少なくとも24時間添加され、及びTGF/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経路のアクチベーター(例えば、GDF11又はGDF8等)が、少なくとも20ng/mlの濃度で、培養培地内に少なくとも24時間添加される。
【0020】
本発明の方法のいくつかの実施形態では:
- 骨形成タンパク質(BMP)シグナル伝達経路の阻害剤、形質転換増殖因子(TGF)/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経路の阻害剤、及びWntシグナル伝達経路のアクチベーターが、D0から開始しておよそD3又はD4まで培養培地内に添加され、
- ソニックヘッジホッグシグナル伝達経路のアゴニストが、およそD3~D7から、およそD9まで、一般的にD3~D9、D4~D9、D5~D9、D6~D9、D7~D9の間において培養培地に添加可能であり、
- ノッチ経路阻害剤が、およそD9~D14の間、又はそれより長期間添加される。
【0021】
一般的に、RAが約2日~11日の期間、任意選択的におよそD3~D9の間において、任意選択的に少なくとも10nMの濃度で培養培地に添加される。
【0022】
方法のいくつかの実施形態では:
- 上肢運動ニューロンは、D4~D9の間又はD3~D9の間においてRAを単独で、D3~D4の間において少なくとも100ng/mlの濃度のFGFRアゴニスト若しくは少なくとも20ng/mlの濃度のTGF/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経路のアクチベーターそれぞれと組み合わせながら、培養培地内に添加することにより取得され;
- 前方胸部運動ニューロンは、D5若しくはそれ以降から開始してD9 (又はそれ以降)まで、又はD3~D9の間(又はそれ以降)においてRAを単独で、少なくとも60ngの濃度のFGFRアゴニスト又は少なくとも20ng/mlの濃度のTGF/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経路のアクチベーターと、D3から開始して48時間若しくはそれ超(好ましくは48時間)組み合わせながら、培養培地内に添加することにより取得され;
- 尾側胸部運動ニューロンは、D3~D9の間においてRAを培養培地内に添加することにより、及びD3~D4の間において、少なくとも100ng/mlの濃度のFGFRアゴニストと少なくとも20ng/mlの濃度のGDF11とを組み合わせることにより取得され;
- 腰部運動ニューロンは、D5~D9(又はそれ以降)の間においてRAを培養培地内に添加することにより、及びD3又はD4から開始してD5まで培養培地内に添加される、少なくとも100ng/mlの濃度のFGFRアゴニストと少なくとも20ng/mlの濃度のGDF11とを組み合わせることにより取得される。
【0023】
いくつかの実施形態では、FGFRアゴニストはFGF2又は8である。
【0024】
いくつかの実施形態では、ソニックヘッジホッグシグナル伝達経路のアゴニストは平滑化アゴニスト(Smoothened Agonist; SAG)であり、任意選択的に、SAGは少なくとも300nMの濃度で添加される。
【0025】
いくつかの実施形態では、ノッチ経路阻害剤は、任意選択的に少なくとも5μMの濃度のDAPTである。ノッチ経路阻害剤はおよそD9~およそD14又はそれ以降に一般的に添加される。
【0026】
いくつかの実施形態では、Wntシグナル伝達経路のアクチベーターは、化合物Chir-99021又はWnt3aタンパク質から選択される。
【発明を実施するための形態】
【0027】
別途定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術的及び科学的用語は、本発明が関係する当業者により一般的に理解される意味と同一の意味を有する。
【0028】
特に記載される場合を除き、本発明は、本明細書に記載されるような様々な実施形態の任意の組合せを包含する。
【0029】
実施形態を記載し、また本発明を特許請求する際には、下記の専門用語が、以下に記載されている定義に基づき使用される。
【0030】
本明細書で使用される場合、「約(about)」又は「およそ(around)」とは、記載された濃度範囲の10%以内、又は記載されたタイムフレームの10%以内を意味する。
【0031】
本明細書で使用される場合、「有効量」とは、本発明による規定された細胞効果を惹起するのに十分な薬剤の量を意味する。
【0032】
Mauryらのこれまでの研究では、運動ニューロンの生成が可能であるような体軸前駆体の推定される特徴を有する脊髄前駆体を特定したが、しかしながらこれらの前駆体の能力も、またその子孫の吻側尾側アイデンティティーも立証されなかった。実際、HOX転写因子の発現パターンはこれまで立証されておらず、またヒト脊髄におけるMNのプール及びカラムのマーカーはなおも不明なままであった。本発明者らは、ヒト胚においてHOX転写因子の発現パターンを今回特徴づけた。従って、本発明者らは、脊髄内の異なる吻側尾側位置に対するマーカーとして使用可能な転写因子の組合せを定義し、そしてそのスペシフィケーションを支配する分子機構を特定した。
【0033】
本発明は、従って定義された吻側尾側アイデンティティーを有する脊髄運動ニューロンを生成するための方法を提供する。該方法は、定義された条件の下、BMP及びTGF経路の阻害剤への事前又は並行曝露と一般的に組み合わせながら、Wntシグナル伝達阻害剤のアクチベーターに曝露し、その後、FGFRアゴニスト及びTGF/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経路のアクチベーターと任意選択的に組み合わせて、レチノイン酸受容体アゴニストを遅滞なく適用することによってhPSCを体軸前駆体に分化させることで、HOXファミリー遺伝子発現により反映されるように、得られた後方神経外胚葉及び神経上皮の精密な位置パターンニングが、後脳-脊髄軸に沿って可能となるという本発明者らの知見に関係する。
【0034】
本発明は、定義された吻側尾側アイデンティティーを有するヒト運動ニューロンサブポピュレーションを作出するための方法であって、
a)ヒト多能性幹細胞(PSC)を、Wntシグナル伝達経路のアクチベーター、並びに有利には体軸前駆体を取得するために添加されるBMP及びアクチビン/TGB経路の阻害剤に曝露する工程と、
b)運動ニューロン前駆体を取得するために、得られた体軸前駆体を、任意選択的にFGFRアゴニスト及び/又はTGF/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経路のアクチベーターと組み合わせて、レチノイン酸(RA)及びソニックヘッジホッグシグナル伝達経路のアゴニストに曝露する工程と、
c)任意選択的に、有糸分裂後ヒト運動ニューロンを取得するために、運動ニューロン前駆体を、ノッチ経路阻害剤に曝露する工程と
を含み、
徐々により多くの尾側運動ニューロンアイデンティティーが、Wntシグナル伝達経路アクチベーターに対する曝露に関して、レチノイン酸への曝露を遅延させることにより、又は体軸前駆体を、FGFRアゴニスト及び/又はTGF/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経路のアクチベーターに対する曝露の増加と組み合わせてレチノイン酸に曝露することにより生成され、一般的に曝露の増加が培養培地における濃度増加及び/又は培養培地における期間増加と関係する、方法、特にin vitro又はex vivoでの方法に関する。
【0035】
単独又は組み合わせて実施可能であるこのような方法の様々な実施形態が、下記の詳細な説明において例証される。
【0036】
本発明に基づく分子マーカーの特定
一般的に、本発明の方法は、本明細書において開示されるような、特にTable 2 (表2)で定義されるような分子マーカーの組合せを発現する富化された細胞集団の取得を可能にする。富化された細胞集団とは、in vivoにおいて(例えば、組織内に)見出される特定の特徴を有する特定の細胞型又は細胞の割合をより多く含有するex vivo細胞集団を指す。
【0037】
分子マーカーの発現を特定するための技術は当業者において周知されており、また前記マーカーに対して特異的な抗体を使用する免疫染色法、ウェスタンブロッティング法、及びフローサイトメトリー法が含まれる。
【0038】
集団内のmRNA発現レベルは、qRT-PCR、RNA-ブロット、RNAシークエンシング、及びRNAse保護を含む、但しこれらに限定されない当技術分野におけるいくつかのルーチン法のいずれかを使用して検出可能である。
【0039】
本明細書に記載されるような、目的とする分子マーカーを評価するための好適な定量方法には、周知技術、例えばRNAレベルで遺伝子発現を評価するためのqRT-PCR、RNA-シークエンシング、RNAブロット、RNAse保護等も含まれる。細胞集団において、タンパク質レベルでマーカーの発現を評価するための定量方法も当技術分野において公知である。例えば、フローサイトメトリー法は、目的とする1つ又は2つのタンパク質マーカー(例えば、Brachyury及びSox2)を発現する(又は発現しない)所与の細胞集団において、細胞の分画を決定するのに一般的に使用される。
【0040】
多能性幹細胞
本明細書で使用される場合、用語「多能性細胞」とは、異なる多様な細胞系列を誘発することができる未分化細胞を指す。
【0041】
好ましくは、多能性細胞はヒト多能性細胞である。
【0042】
好ましくは、多能性細胞は幹細胞である。
【0043】
本発明の文脈において、幹細胞は、胚性幹細胞(ESC);胚本体及び胚外組織の幹細胞、例えば羊水幹細胞等を含む胎児幹細、並びに誘導多能性幹細胞を包含する。特に、本発明による幹細胞は、胎児幹細胞及び誘導多能性幹細胞を包含する。
【0044】
用語「胚性幹細胞」とは、胚盤胞又は初期桑実期胚の内部細胞塊のエピブラスト組織に由来する多能性幹細胞を指す。胚性幹細胞は、いくつかの転写因子、例えばOct-4、Nanog、及びSox2等、並びに細胞表面タンパク質、例えば糖脂質SSEA3やSSEA4、及びケラチン硫酸抗原Tra-1-60やTra-1-81等の発現によっても定義され得る。
【0045】
特別な実施形態では、本発明に基づく用語「幹細胞」は、ヒト胚由来の幹細胞を含まない。より具体的には、本発明による幹細胞は、好ましくはヒト胚に直接由来しない、又はヒト胚の破壊を必要としなかった。特に、公的に利用可能及びこれまでに確立された幹細胞系に由来する胚性幹細胞は、本発明で使用されるような用語「幹細胞」、特に、例えばChung et at. (2008) Cell Stem Cell 2:113-117に記載されるように、ヒト胚の破壊を必要としない、公的に利用可能及びこれまでに確立された幹細胞系に由来する胚性幹細胞の意味合いに該当する。
【0046】
特に、Table 1 (表1)において例示する細胞系の1つに由来するヒト胚性幹細胞は、本発明で使用されるような用語「幹細胞」の意味合いに該当する。
【0047】
【0048】
用語「胎児幹細胞」とは、胎児本体、又は好ましくは臍帯血、羊水、ワルトン膠様質、羊膜、及び胎盤を含む、妊娠期間中に出現する胚外組織に由来する幹細胞を指す。
【0049】
本明細書で使用される場合、用語「誘導多能性幹細胞」又は「iPS細胞」とは、分化した細胞(例えば、非多能性細胞)、一般的に成人体細胞、例えば成人線維芽細胞等から人工的に派生させた(例えば、完全又は部分的逆転により誘発された)多能性幹細胞の種類を指す。
【0050】
いくつかの実施形態では、本発明の文脈で使用される幹細胞は誘導多能性幹細胞である。好適な誘導多能性幹細胞(iPSC)、例えば系統WTSIi002 (男性、RRID: CVCL_AH3、別名HPSI0913i-eika_2)等は、European Bank for Pluripotent Stem Cells (EBISC)から一般的に取得可能である。Allen cell instituteにより製造されたWTC-mEGF-safe harbor locus (AAVS1)-cl6は、Coriell研究所(カタログ番号AICS-0036-006、男性、RRID:CVCL_JM19)から得た。
【0051】
いくつかの実施形態では、多能性細胞は、神経変性遺伝性疾患、例えば遺伝性筋萎縮性側索硬化症(ALS)又は脊髄性筋萎縮症(SMA)等に罹患している個人から得られる。別の実施形態では、多能性細胞は、例えば神経変性遺伝性疾患、例えば遺伝性筋萎縮性側索硬化症(ALS)又は脊髄性筋萎縮症(SMA)等に関与する遺伝子突然変異を含有する。有利には、これらの実施形態では、運動ニューロン前駆体の集団及び/又は運動ニューロンの集団も前記突然変異を含有し、従って疾患の良好な細胞モデルを提供することができる。
【0052】
有利には、本発明で使用されるヒト多能性幹細胞は、0日目に、単一の細胞に解離され、そして非接着性培養条件において、例えばマイクロウェルプレート又は超低接着性プレート等において再集合操作されてPSC幹細胞の浮動性凝集物となる(PSC凝集物とも命名される胚様体の形態で)。そのような手順は、結果の「材料及び方法」セクションに記載されている。プロトコールは、Mauryらの文献にも詳記されている(Maury Y, Come J, Piskorowski RA, Salah-Mohellibi N, Chevaleyre V, Peschanski M, Martinat C, Nedelec S. Combinatorial analysis of developmental cues efficiently converts human pluripotent stem cells into multiple neuronal subtypes. Nat Biotechnol. 2015 Jan;33(1):89-96)。
【0053】
体軸前駆体
本明細書で使用される場合、用語「体軸前駆体」とは、脊髄の神経前駆細胞及びニューロンを生成するhPSCに由来する前駆細胞を指す。
【0054】
体軸前駆体は、hPSC培養培地内でWntアクチベーターを添加し、その体軸前駆体(脊髄内で異なる吻側尾側位置に所在する異なるHOXの組合せを発現する子孫を生成する能力を有する)への変換を可能にすることにより一般的に誘発される。
【0055】
体軸前駆体はSOX2、CDX2の同時発現により特に特徴づけられ得る。いくつかの実施形態では、一般的にWntアゴニストへの曝露から2~3日後に、体軸前駆体はTBXT (BRACHYURY又はBRA)も一般的に同時発現する。SOX2+/CDX2+/BRA+プロファイルは、マウス胚内で脊髄及び体節を生成する体軸前駆体の集団を特徴づける。
【0056】
一般的に、D2、D3、及びD4(すなわち、Wnt経路のアクチベーターへの曝露開始後およそ2日~少なくとも4日)において、体軸前駆体は、SOX2と共に、CDX1及び2、TBXT (BRACHYURY)、FGF17、RXRG、SP5/8、WNT5A/B、WNT8A、FGF8、GRSF1、CYSTM1、HES3の高富化発現(ほとんどの多能性マーカー、例えばNanog、Klf2、Klf4、Prdm14、Fgf4、Oct4 (初期NMPにおいても)、Sox2 (尾側エピブラスト及び神経外胚葉においても)等の喪失と関連する)を示す。
【0057】
体軸前駆体は、ノード細胞、中胚葉、及び尿膜の代表的なマーカー、例えば、それぞれCcno、Nodal、Nog、Noto、Shh ; Aldh1a2、Cited1、Meox1、Msgn1、Tbx3及び6、Osr1、Pax2、Mesp1/2、Foxf1、Hand1-2; 並びにMixl1、Evx1 Gata6、Tbx2、Tbx4、Mixl1、Evx1等も一般的に発現しない (特に、結果セクションの
図2B~
図2C及びTable S1、並びにCambray and Wilson, 2007; Edri et al., 2019; Gouti et al., 2014; Gouti et al., 2017; Henrique et al., 2015; Koch et al., 2017; Wymeersch et al., 2016; Wymeersch et al., 2019を参照)。
【0058】
運動ニューロン及び前駆体
本明細書で使用される場合、用語「運動ニューロン(motor neuron)」又は「運動ニューロン(motoneuron)」とは、筋肉細胞又は自律神経節を神経支配する遠心性神経ニューロンを指す。運動ニューロンには、2つの基本的なクラス:脊髄運動ニューロン及び頭蓋運動ニューロンが含まれる。
【0059】
本明細書で使用される場合、「脊髄運動ニューロン」とは、脊髄内に位置する運動ニューロンを指す一方、「頭蓋運動ニューロン」とは、脳幹に位置する運動ニューロンを指す。他の指定が無ければ、本発明で使用される用語「運動ニューロン」は、「脊髄運動ニューロン」に対する拡張語としても使用される。当業者において周知のように、脊髄運動ニューロンは特異的パターンのマーカー発現により特徴付け可能である。一般的に、脊髄運動ニューロンは、特にISL1 /2+ (ISL LIM homeobox 1又は2陽性)及び/又はHB9+ (homeoboxタンパク質9陽性)により特徴付け可能である。脊髄運動ニューロンにより発現され得る追加のマーカーには、Lhx3 (LIM homeobox 3)、FOXP1 (forkhead box P1)、Lhx1 (LIM homeobox 1)、CHAT (コリンアセチルトランスフェラーゼ)、及びVACHT (小胞アセチルコリントランスポーター)が含まれる。従って、脊髄運動ニューロンの特定は、上記マーカーの検出、例えば特異的抗ISL1/2、及び/又は抗HB9抗体を使用する免疫染色等が関係する、当業者において周知の任意の技術により実施可能である。
【0060】
脊髄運動ニューロン、より具体的には、機能的脊髄運動ニューロンは、電気生理学技術、例えば全細胞パッチクランプ記録法(whole-cell patch clamp recording)等を使用することによっても特徴付け可能である。一般的に、全細胞パッチクランプアッセイ法は以下のように実施可能である: 135mM硫酸メチルK、5mM KCl、0.1mM EGTA-Na、10mM HEPES、2mM NaCl、5mM ATP、0.4mM GTP、10mMホスホクレアチン(pH7.2; 280~290mOsm)を含有するパッチピペット(3~4ΜΩ)、並びに125mM NaCl、2.5mM KCl、10mMグルコース、26mM NaHC03、1.25mM NaH2P04、2mMピルビン酸Na、2mM CaCl2、及び1mM MgCl2を含有し、そして95% 02及び5% C02で飽和した細胞外溶液(mM単位で表す)が、pH7.3において使用される。膜電位は液界電位(約3mVとして一般的に測定され得る)について補正される。直列抵抗(一般的に10ΜΩ未満)がモニタリングされ、そして各実験全体を通じて増幅器回路を用いて補償される。0.5μMテトロドトキシン(TTX)が、濃縮ストック溶液から外部溶液に稀釈した後、浴中適用される。浸透圧及びpHを一定に保つために、30mM TEACl (塩化テトラエチルアンモニウム)が改変された外部溶液(125mMに代わり95mMのNaCl)に添加可能である。グルタミン酸が、中性pHを保つために、等しい濃度のNaOHと共に添加可能である。リーク電流が、ポジティブ/ネガティブ(P/N)プロトコールを使用して電流ファミリーから差し引かれ、そして電流の各セットは、例えば4回平均化される。全てのデータはAxograph Xソフトウェアを用いて取得され、また例えばIgor proを用いて分析され得る。機能的未成熟脊髄運動ニューロンは、従って例えば、一般的に3~10mVの形状及び大きさを有する600pA電流インジェクションに応答して、少量の未成熟スパイクを投じることにより特徴付け可能である。機能的成熟脊髄運動ニューロンは、一般的に60~80mVの形状及び大きさを有する活動電位のトレインを投じることにより特徴付け可能である(国際出願PCT/EP第2015/066944号を参照)。機能的成熟脊髄運動ニューロンは、従来式の免疫染色法及びウェスタンブロット技術を使用しながらコリンアセチルトランスフェラーゼ(CHAT)発現を検出することによっても特徴付け可能である。
【0061】
用語「運動雄ニューロン前駆体(motor neuron progenitor)」又は「運動ニューロン前駆体(motoneuron progenitor)」とは、運動ニューロンの2つの主要な群(すなわち、脊髄運動ニューロン及び頭蓋運動ニューロン)のうち1つを誘発することができる細胞集団を指す。用語「脊髄運動ニューロン前駆体」とは、Olig2陽性細胞を一般的に指す。当業者において周知なように、脊髄運動ニューロン前駆体は、特異的パターンのマーカー発現により特徴付け可能である。一般的に、生成された脊髄運動ニューロン前駆体は、OLIG2+ (オリゴデンドロサイト系統転写因子2陽性)、NKX6.1+ (NK6 homeobox 1陽性)、SOX1+及びSOX2+により特徴付け可能である。
【0062】
脊髄運動ニューロン前駆体の特定は、従って上記マーカーの検出、例えば一般的に特異的抗OLIG2及び/又は抗NKX6.1抗体、SOX1及び2を使用する免疫染色等と関係する、当業者において周知の任意の技術により実施可能である。吻側尾側軸に沿ったMN前駆体のサブタイプは、RT-PCR (及びHOXC9に対する免疫染色)によるHOXmRNAの発現により特徴付け可能である(下記及び特に結果セクション内を参照)。
【0063】
ヒト脊髄運動ニューロン(hsMN)吻側尾側サブポピュレーション
本発明者らは、本明細書に含まれる結果において、HOX転写因子はヒト脊髄の吻側尾側軸に沿って局所的に発現していることを明らかにした。これらの異なるHOXドメイン内で、転写因子の組合せにより特定可能である異なるMNサブタイプが類型的位置において生成される。
【0064】
(有糸分裂後)ヒトMNが、ISL1及び/又はHB9を、いずれも脊髄に沿って発現していることが明らかにされている。MN内では、特異的HOX発現は吻側尾側パターンを示し:頚部MNはHOXA/C5を発現する一方、上肢MNはHOXC6を発現し、胸部MNはHOXC9を、及び腰部MNはHOXC10を発現することが更に実証されている。尾側上肢MNはHOXC6及びHOXC8を同時発現し、また前方胸部MNはHOXC8及びHOXC9を同時発現した。HOXD9は、HOXC10と共に尾側胸部MN並びに前方腰部MNに関連付けられた。
【0065】
本発明者らは、高レベルのFOXP1 (FOXP1high)を発現するMNが、上肢、前方胸部(HOXC6及びHOXC8/HOXC9)、及び腰部(HOXC10)レベルにおいて観察可能であることも明らかにした。該MNは、四肢神経支配性MNが位置する外側運動カラム(lateral motor column; LMC)を形成した。このFOXP1high LMC内では、SCIP/HOXC8 MNが尾側上肢脊髄に観察された。対照的に、SCIP/HOXC8/HOXC9 MNは前方胸部領域内に位置した。その場所及びその転写コードより、該MNは推定されるハンドコントローリングMNとして特定される。
【0066】
従って、本発明の方法のいくつかの実施形態では、下記のTable 2 (表2)において特定された脊髄運動ニューロンのサブポピュレーション(脊髄運動ニューロン前駆体を含む)が取得可能である。
【0067】
【0068】
いくつかの実施形態では、単離されたヒト脊髄運動ニューロンの集団内の細胞(本明細書において開示される提示に従い取得される)の少なくとも50%は、上記Hox転写因子プロファイルのうちの1つを発現し、例えば、前記単離された細胞集団のうち、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、99%等のパーセントの細胞が、望ましいHox転写因子プロファイルを示す。
【0069】
Wntシグナル伝達経路のアクチベーター及び体軸前駆体の獲得
本発明の文脈において、用語「Wntシグナル伝達経路のアクチベーター」とは、Wntシグナル伝達経路の活性化(Wntファミリーの任意のメンバーが細胞表面受容体に結合した結果として生成される一連の分子シグナルである)の増加を引き起こす任意の化合物(天然又は合成)を指す。一般的に、Wntシグナル伝達経路のアクチベーターは、Bienz (2005) Curr. Biol. 15:R64-67に記載されるように、細胞質内でのβカテニンの蓄積及びその最終的な核内への転移を誘発する。所与の化合物がWntシグナル伝達経路のアクチベーターであるか判定する技術は、当業者において周知されている。一般的に、化合物は、前記化合物の存在下で細胞を培養した後、前記化合物の非存在下で培養された細胞と比較して、核βカテニンのレベルが増加する場合には、Wntシグナル伝達経路のアクチベーターとみなされる。核βカテニンのレベルは、βカテニンに対して特異的な抗体を使用するウェスタンブロットにより測定可能である。
【0070】
Wntシグナル伝達経路のアクチベーターは、Wntアゴニスト又はWntシグナル伝達経路の下流ステップのいずれかを活性化させる分子であり得る。Wntシグナル伝達のアクチベーターは、天然又は合成化合物であり得る。Wntシグナル伝達経路のアクチベーターがタンパク質であるとき、それは、精製済みのタンパク質、又は組換えタンパク質、又は合成タンパク質であり得る。
【0071】
Wntシグナル伝達経路のアクチベーターの例として、化合物CHIR-99021 (Bennett et al. (2002) J. Biol. Chem. 277:30998-3104に記載されるような、6-[[2-[[4-(2,4-ジクロロフェニル)-5-(5-メチル-1H-イミダゾール-2-イル)-2-ピリミジニル]アミノ]エチル]アミノ]-3-ピリジンカルボニトリル)、WNT3Aタンパク質、化合物IQ-1 (Miyabayashi et al. (2007) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 104:5668-5673に記載されるような、2-(4-アセチルフェニルアゾ)-2-(3,3-ジメチル-3,4-ジヒドロ-2H-イソキノリン-1-イリデン)-アセトアミド)、化合物SB-216763 (Coghlan et al. (2000) Chem. Biol. 7:793-803に記載されるような、3-(2,4-ジクロロフェニル)-4-(1-メチル-1H-インドール-3-イル)-1H-ピロール-2,5-ジオン)、及び化合物BIO (Sato et al. (2004) Nat. Med. 10:55-63に記載されるような、6-ブロモインジルビン-3'-オキシム)からなる群が挙げられるが、但しこれらに限定されない。
【0072】
好ましくは、Wntシグナル伝達経路のアクチベーターは、化合物CHIR-99021及びWNT3Aタンパク質からなる群から選択される。最も好ましくは、Wntシグナル伝達経路のアクチベーターは化合物CHIR-99021である。
【0073】
一般的に、化合物CHIR-99021は、0.5~5μMの範囲、好ましくは1~4μMの範囲、いっそうより好ましくは約3μM又は約1μMの濃度において培養培地内に添加される。
【0074】
一般的に、Wntアクチベーターは、hPSCの培養物、特にヒト胚様体(上記で特定されたような、但し、本明細書において参照により組み込まれているMauryらの文献、並びに国際出願PCT/EP第2015/066944号も参照)の培養物に、上記で記載されたような体軸前駆体のマーカーの発現、特にCDX2の発現を検出するのに十分な期間、特にSOX2+/CDX2+/BRA+プロファイルを有する胚様体を取得するのに十分な期間添加される。
【0075】
胚様体は当業者において周知の技術を使用して取得可能である。一般的に、多能性細胞は、一般的にV SHAPE 384において、例えば1200gで5分間遠心分離し、細胞を凝集させ、そして胚様体を形成するために提供され得る。
【0076】
従って、いくつかの実施形態では、Wntアクチベーターは、2~4日間(任意選択的に、以下に詳記するように、BMP及びTGFβ経路の阻害剤と共に)、特に3~4日の範囲、及び一般的に4日間、培養培地内に一般的に適用される。本発明の方法によれば、培養される胚様体にWntアクチベーターを添加する日は、0日目(D0)と考えられ得る。
【0077】
骨形成タンパク質(BMP)シグナル伝達経路及び形質転換増殖因子(TGF)/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経路の阻害剤に対する胚様体の曝露
いくつかの実施形態では、「多能性細胞」のセクションで定義されるようなhPSC、特にヒト胚様体は、(i)骨形成タンパク質(BMP)シグナル伝達経路の阻害剤、及び(ii)形質転換増殖因子(TGF)/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経路(本出願においては、短縮してTGF経路とも命名される)の阻害剤の両方に曝露される。
【0078】
本明細書で使用される場合、用語「BMPシグナル伝達経路の阻害剤」とは、BMPシグナル伝達経路の活性化(BMP(骨形成タンパク質)ファミリーの任意のメンバーが細胞表面受容体に結合した結果として生成される一連の分子シグナルである)の低下を引き起こす任意の化合物(天然又は合成)を指す。一般的に、BMPシグナル伝達経路の阻害剤は、Gazzero and Minetti (2007) Curr. Opin. Pharmacol. 7:325-333. Techniquesに記載されるように、タンパク質Smad 1、5、及び8のリン酸化レベルの減少を誘発する。所与の化合物がBMPシグナル伝達経路の阻害剤であるか判定する技術は、当業者において周知されている。一般的に、化合物は、前記化合物の存在下で細胞を培養した後、前記化合物の非存在下で培養された細胞と比較して、リン酸化されたSmad 1、5、又は8のレベルが減少する場合には、BMPシグナル伝達経路の阻害剤とみなされる。リン酸化されたSmadタンパク質のレベルは、前記Smadタンパク質のリン酸化された形態に対して特異的な抗体を使用するウェスタンブロットにより測定可能である。
【0079】
BMPシグナル伝達経路の阻害剤は、BMPアンタゴニスト、又はBMPシグナル伝達経路の下流ステップのいずれかを阻害する分子であり得る。BMPシグナル伝達の阻害剤は、天然又は合成化合物であり得る。BMPシグナル伝達経路の阻害剤がタンパク質であるとき、それは、精製済みのタンパク質、又は組換えタンパク質、又は合成タンパク質であり得る。
【0080】
BMPシグナル伝達経路の阻害剤は、ノギン、コーディン、フォリスタチン、阻害性Smad 6 (l-Smad 6)、阻害性Smad 7 (I-Smad 7)、ドルソモルフィン(dorsomorphin) (Yu et al. (2008) Nat Chem Biol. 4:33-41に記載されている6-[4-(2-ピペリジン-1-イルエトキシ)フェニル]-3-ピリジン-4-イルピラゾロ[1,5-a]ピリミジン)、化合物DMH1 (Hao et al. (2010) ACS Chem Biol. 5:245-253に記載されている4-(6-(4-イソプロポキシフェニル)ピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-3-イル)キノリン)、化合物DMH2 (Hao et al. (2010) ACS Chem Biol. 5:245-253に記載されている4-(2-(4-(3-(キノリン-4-イル)ピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-6-イル)フェノキシ)エチル)モルホリン)、化合物DMH3 (Hao et al. (2010) ACS Chem Biol. 5:245-253に記載されているA/,/V-ジメチル-3-(4-(3-(キノリン-4-イル)ピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-6-イル)フェノキシ)プロパン-1-アミン)、化合物DMH4 (Hao et al. (2010) ACS Chem Biol. 5:245-253に記載されている4-(2-(4-(3-フェニルピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-6-イル)フェノキシ)エチル)モルホリン)、化合物LDN193189 (又はDM-3189、Cuny et al. (2008) Bioorg. Med. Chem. Lett. 18:4388-4392に記載されている4-[6-(4-ピペラジン-1-イルフェニル)ピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-3-イル]キノリン)、及び化合物K02288 (Sanvitale et al. (2013) PLoS ONE 8:62721に記載されている3-[6-アミノ-5-(3,4,5-トリメトキシフェニル)-ピリジン-3-イル]-フェノール)からなる群から選択され得るが、好ましくは、BMPシグナル伝達経路の阻害剤は化合物LDN193189である。
【0081】
一般的に、化合物LDN193189は、0.05~1μM、好ましくは0.1~0.5μM、0.15~0.25μMの範囲、いっそうより好ましくは約0.2μMの濃度で、hPSC/を含む培養培地に添加される。
【0082】
本明細書で使用される場合、用語「TGF/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経路の阻害剤」とは、TGF/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経路の活性化(TGF/アクチビン/ノーダルファミリーの任意のメンバーが細胞表面受容体に結合した結果として生成される一連の分子シグナルである)の低下を引き起こす任意の化合物(天然又は合成)を指す。
【0083】
一般的に、TGF/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経路の阻害剤は、Shi and Massague (2003) cells 113:685-700に記載されるように、タンパク質Smad 2のリン酸化レベルの減少を誘発する。所与の化合物が、TGF/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経路の阻害剤であるか判定する技術は、当業者において周知されている。一般的に、化合物は、前記化合物の存在下で細胞を培養した後、前記化合物の非存在下で培養された細胞と比較して、リン酸化されたSmad 2のレベルが減少する場合には、TGF/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経路の阻害剤とみなされる。リン酸化されたSmadタンパク質のレベルは、前記Smad タンパク質のリン酸化された形態に対して特異的な抗体を使用するウェスタンブロットにより測定可能である。
【0084】
TGF/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経路の阻害剤は、TGF/アクチビン/ノーダルアンタゴニスト、又はTGF/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経路の下流ステップのいずれかを阻害する分子であり得る。TGF/アクチビン/ノーダルシグナル伝達の阻害剤は、天然又は合成化合物であり得る。TGF/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経路の阻害剤がタンパク質であるとき、それは、精製済みのタンパク質、又は組換えタンパク質、又は合成タンパク質であり得る。
【0085】
TGF/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経路の阻害剤は、化合物SB431542 (4-(5-ベンゾl[1,3]ジオキソl-5-イル-4-ピルリジン(pyrlidn)-2-イル-1H-イミダゾール-2-イル)-ベンズアミド水和物)、Lefty-Aタンパク質、及びケルベロス(Cerberus)からなる群から選択され得る。
【0086】
好ましくは、TGF/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経路の阻害剤は化合物SB431542である。
【0087】
一般的に、化合物SB431542は、10~75μMの範囲、好ましくは20~50μMの範囲、いっそうより好ましくは約40μMの濃度で、hPSCを含む培養培地に添加される。
【0088】
特に好ましい実施形態では、BMPシグナル伝達経路の阻害剤は化合物LDN193189であり、及びTGF/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経路の阻害剤は化合物SB431542である。一般的に、化合物LDN193189は、0.15~0.25μMの範囲、例えば約0.2μMの濃度で培養培地内に存在し、また化合物SB431542は、20~50μMの範囲、例えば約40μMの濃度で培養培地内に存在する。
【0089】
BMPシグナル伝達経路の阻害剤及びTGF/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経路の阻害剤は、約2~4日間、特に3~4日間、及び一般的におよそ4日間、培養培地に適用される。
【0090】
やはり有利には、PSC及び体軸前駆体(レチノイン酸曝露後の神経化に提供される)は、上記したように胚様体の形態でである。胚様体は、当業者において周知の技術を使用して、hPSCから取得可能である。一般的に、多能性細胞は、特にV SHAPE 384において、例えば1200gで5分間遠心分離し、細胞を凝集させ、そして胚様体を形成するために提供され得る。
【0091】
有利には、BMPシグナル伝達経路の阻害剤及びTGF/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経路の阻害剤は、PSCを含む培養培地に適用される(一般的に、Wntアクチベーターと共に、胚様体の形態で)。従って、培養培地は、上記で定義したように、BMPシグナル伝達経路の阻害剤、GF/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経路の阻害剤、及びWntシグナル伝達経路のアクチベーターを一般的に含む。従って、いくつかの実施形態では、hPSC(特にヒト胚様体又は浮遊性凝集物の形態)が培養培地内で培養されるが、その場合、BMPシグナル伝達経路の阻害剤及びTGF/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経路の阻害剤は、Wntアクチベーターと共に、又はWntアクチベーターの添加に後続して添加される。
【0092】
好ましい実施形態では、一般的に胚様体の形態のPSC(上記を参照)は培養培地内で培養されるが、その場合、Wntアクチベーターは、BMPシグナル伝達経路の阻害剤及びTGF/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経路の阻害剤と共に培養培地に添加される。そのような実施形態では、BMPシグナル伝達経路の阻害剤、及びTGF/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経路の阻害剤(これまでに詳記されている)は、3~4日の期間(すなわち、D0~D3又は0~D4)、培養培地に添加可能であり、特に、TGF/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経路の阻害剤はD0からD3まで添加可能である一方、BMPシグナル伝達経路の阻害剤は、D3又はD4まで培養培地内に添加可能(維持可能)であり、そしてWntアクチベーターは、2~4日、特に3~4日の期間(すなわち、D0~D2、D0~3日目、又はD0~D4、好ましくはD0~D3又はD4)、培養培地に添加可能である。一般的に、RA、及び/又はFGFRアゴニスト、及び/又はTGF/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経路のアクチベーターが培養培地内に存在するとき、TGF/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経路の阻害剤は、D3より後には培養培地内にもはや存在しない。
【0093】
レチノイン酸及びヘッジホッグシグナル伝達経路のアゴニスト:
本明細書で使用される場合、用語「レチノイン酸」(RA)とは、神経細胞分化を誘発する能力を有することが公知であるビタミンAの活性な形態(合成又は天然)を指す。本発明に基づき使用可能であるレチノイン酸の形態の例として、レチノイン酸、レチノール、レチナール、11-シス-レチナール、全トランス型レチノイン酸(ATRA)、13-シス-レチノイン酸、及び9-シス-レチノイン酸が挙げられるが、但しこれらに限定されない。
【0094】
一般的に、レチノイン酸は、5~1000nMの範囲、好ましくは10~500nMの範囲、又は100nM~500nMの範囲の濃度で培養培地に添加される。一般的に、RAは、少なくとも100nMの濃度で培養培地に添加される。
【0095】
いくつかのレチノイン酸受容体アゴニストも本発明の方法において使用可能である;適するレチノイン酸受容体アゴニストの例示的クラスはレチノイド及びレチノイドアナログであり、それには、非限定的に全トランス型レチノイン酸(ATRA)、レチノールアセテート、EC23 (4-[2-(5,6,7,8-テトラヒドロ-5,5,8,8-テトラメチル-2-ナフタレニル)エチニル)-安息香酸; CAS No: 104561-41-3)、BMS453 (4-[(1E)-2-(5,6-ジヒドロ-5,5-ジメチル-8-フェニル-2-ナフタレニル)エテニル]-安息香酸; CAS No: 166977-43-10)、フェンレチニド (N-(4-ヒドロキシフェニル)レチナミド; CAS No: 65646-68-6)、AM580 (4-[(5,6,7,8-テトラヒドロ-5,5,8,8-テトラメチル-2-ナフタレニル)カルボキシアミド]安息香酸; CAS No: 102121-60-8)、タザロテン(6-[2-(3,4-ジヒドロ-4,4-ジメチル-2H-1-べンゾチオピラン-6-イル)エチニル]-3-ピリジンカルボン酸エチルエステル; CAS No: 118292-40-3)、及びTTNPB (4-[(E)-2-(5,6,7,8-テトラヒドロ-5,5,8,8-テトラメチル-2-ナフタレニル)-1-プロペニル]安息香酸; CAS No: 71441-28-6)が含まれる。使用され得るその他の例示的レチノイン酸受容体アゴニストとして、AC261066 (4-[4-(2-ブトキシエトキシ)-5-メチル-2-チアゾリル]-2-フルオロ安息香酸; CAS No: 870773-76-5)、AC55649 (4'-オクチル-[1,1'-ビフェニル]-4-カルボン酸; CAS No: 59662-49-6)、アダパレン(6-(4-メトキシ-3-トリシクロ[3.3.1.13,7]デカ-1-イルフェニル)-2-ナフタレンカルボン酸; CAS No: 106685-40-9)、AM80 (4-[[(5,6,7,8-テトラヒドロ-5,5,8,8-テトラメチル-2-ナフタレニル)アミノ]カルボニル]安息香酸; CAS No: 94497-51-5)、BMS753 (4-[[(2,3-ジヒドロ-1,1,3,3-テトラメチル-2-オキソ-1H-インデン-5-イル)カルボニル]アミノ]安息香酸; CAS No: 215307-86-1)、BMS961 (3-フルオロ-4-[[2-ヒドロキシ-2-(5,5,8,8-テトラメチル-5,6,7,8-テトラヒドロ-2-ナフタレニル)アセチル]アミノ]-安息香酸; CAS No: 185629-22-5)、CD1530 (4-(6-ヒドロキシ-7-トリシクロ[3.3.1.13,7]デカ-1-イル-2-ナフタレニル)安息香酸; CAS No: 107430-66-0)、CD2314 (5-(5,6,7,8-テトラヒドロ-5,5,8,8-テトラメチル-2-アントラセニル)-3-チオフェンカルボン酸; CAS No: 170355-37-0)、CD437 (6-(4-ヒドロキシ-3-トリシクロ[3.3.1.13,7]デカ-1-イルフェニル)-2-ナフタレンカルボン酸; CAS No: 125316-60-1)、及びCh55 (4-[(1E)-3-[3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)フェニル]-3-オキソ-1-プロペニル]安息香酸; CAS No: 110368-33-7)が挙げられる。
【0096】
本発明の文脈において、用語「ヘッジホッグシグナル伝達経路のアゴニスト」とは、ヘッジホッグシグナル伝達経路の活性化(ヘッジホッグファミリーの任意のメンバーが細胞表面受容体に結合した結果として生成される一連の分子シグナルである)の増加を引き起こす任意の化合物(天然又は合成)を指す。一般的に、ヘッジホッグシグナル伝達経路のアゴニストは、ヘッジホッグシグナル伝達経路の活性化を誘発する。
【0097】
ヘッジホッグシグナル伝達経路のアゴニストは、ヘッジホッグアゴニスト、又はヘッジホッグシグナル伝達経路の下流ステップのいずれかを活性化させる分子であり得る。ヘッジホッグシグナル伝達のアゴニストは天然又は合成化合物であり得る。ヘッジホッグシグナル伝達経路のアゴニストがタンパク質であるとき、それは精製済みのタンパク質、又は組換えタンパク質、又は合成タンパク質であり得る。
【0098】
ヘッジホッグシグナル伝達経路のアゴニストの例として、プルモファミン(Sinha and Chen (2006) Nat. Chem. Biol. 2:29-30に記載されるような、9-シクロヘキシル-N-[4-(モルホリニル)フェニル]-2-(1-ナフタレニルオキシ)-9H-プリン-6-アミン)、SHH (ソニックヘッジホッグ)、SHH C241 1 (Taylor et al. (2001 ) Biochemistry 40:4359-4371に記載されるような)、平滑化アゴニストSAG (Chen et al. (2002) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 99:14071 -14076に記載されるような、N-メチル-N'-(3-ピリジニルベンジル)-N'-(3-クロロベンゾ[b]チオフェン-2-カルボニル)-1,4-ジアミノシクロヘキサン)、及び化合物Hh-Ag1.5 (Frank-Kamenetsky et al. (2002) J. Biol. 1 :10.2-10.19に記載されるような、3-クロロ-4,7-ジフルオロ-N-(4-メトキシ-3-(ピリジン-4-イル)ベンジル)-N-(4-(メチルアミノ)シクロヘキシル)ベンゾ[b]チオフェン-2-カルボキサミド)からなる群が挙げられるが、但しこれらに限定されない。
【0099】
好ましくは、ヘッジホッグシグナル伝達経路のアゴニストは、SHH (ソニックヘッジホッグ)又はSAG (平滑化アゴニスト)から選択される。最も好ましくは、ヘッジホッグシグナル伝達経路のアゴニストはSAGである。
【0100】
いくつかの有利な実施形態では、ヘッジホッグシグナル伝達経路のアゴニスト、特にSAGは、少なくとも300nM、特に100nM~1μM又は100~1μMの間、好ましくは300~750nMの範囲、いっそうより好ましくは約500nMの濃度で培養培地に添加される。
【0101】
一般的に、ヘッジホッグシグナル伝達経路のアゴニストは、運動ニューロン前駆体のマーカー、例えばOLIG2nやNKX6.1等の発現を誘発するのに十分な期間、培養培地に添加される。運動ニューロン前駆体のマーカーの発現を検出する技術は当業者において周知されており、また前記マーカーに対して特異的な抗体、例えば抗OLIG2及び/又は抗NKX6.1抗体等、又はNKX6.1を検出するためのプライマーを使用する免疫染色、ウェスタンブロッティング、及びRT-PCRが含まれる。一般的に、この期間は、少なくとも2日間、より好ましくは約2~6日間、特に2~5日間、一般的に約5日間に及ぶ可能性がある。
【0102】
本発明の方法のいくつかの実施形態では、ヘッジホッグシグナル伝達経路のアゴニストは、一般的に、Wntシグナル伝達経路のアクチベーターを含む培養培地を用いてhPSCの培養を開始してから後、少なくとも2~7日において培養培地に添加される。有利には、ヘッジホッグシグナル伝達経路のアゴニストは、D3日目~D9の間、4日目(D4)~9日目(D9)の間、D5~D9の間、D6~D9の間、又はD7~D9の間、好ましくはD3~D9の間において培養培地に添加される。
【0103】
神経板アイデンティティーのマーカーは当業者において周知されており、一般的にSOX1、PAX6が含まれる。そのようなマーカーはレチノイン酸曝露後に有効に誘発される。
【0104】
体軸前駆体をRA及びヘッジホッグシグナル伝達経路のアゴニストの組合せに曝露すれば、これまでに定義されたような脊髄運動ニューロン前駆体を生成させることが可能になる。
【0105】
いくつかの実施形態では、有糸分裂後脊髄運動ニューロンは、脊髄運動ニューロン前駆体を、ノッチシグナル伝達経路の阻害剤、特にγセクレターゼ阻害剤を含む分化培養培地に曝露することにより迅速に取得可能である。
【0106】
本明細書で使用される場合、用語「ノッチシグナル伝達経路の阻害剤」とは、ノッチシグナル伝達経路の活性化(リガンドがノッチファミリーのいずれかのメンバーに結合した結果として生成される一連の分子シグナルである)を直接的又は間接的に低下させる任意の化合物(天然又は合成)を指す。好ましくは、ノッチシグナル伝達経路の阻害剤はγセクレターゼの阻害剤である。当業者において周知されているように、γセクレターゼ阻害剤はノッチ経路を間接的に阻害する。所与の化合物がγセクレターゼの阻害剤であるか判定する技術は当業者において周知されており、また例えば、Yang et al. (2008) Molecules Brain 1 :15 or Wang et al. (2009) Molecules 14:3589-2599に記載されている。
【0107】
ノッチシグナル伝達の阻害剤、特にγセクレターゼ阻害剤は天然又は合成化合物であり得る。ノッチシグナル伝達経路の阻害剤がタンパク質であるとき、それは、精製済みのタンパク質、又は組換えタンパク質、又は合成タンパク質であり得る。
【0108】
ノッチシグナル伝達経路の阻害剤は、γ-セクレターゼ阻害剤、特にDAPT (Borghese et al. (2010) Stem Cells 28:955-964に記載されるような、N-[N-(3,5-ジフルオロフェンアセチル)-L-アラニル]-S-フェニルグリシン-t-ブチルエステル)、化合物W (Okochi et al. (2006) J. Biol. Chem. 281 :7890-7898)に記載されるような、3,5-ビス(4-ニトロフェノキシ)安息香酸)、化合物L-685,458 (Shearman et al. (2000) Biochemistry 39 8698に記載されるような(5S)-(イエリ-ブトキシカルボニルアミノ)-6-フェニル-(4/:?)-ヒドロキシ-(2/:?)-ベンジルヘキサノイル)-L-ロイシル-L-フェニルアラニンアミドからなる群から選択され得る。
【0109】
好ましくは、ノッチシグナル伝達経路の阻害剤は化合物DAPTである。
【0110】
一般的に、DAPTは、1~25μMの範囲、より好ましくは5~20μMの範囲、特に約10μMの濃度で分化培養培地内に存在する。
【0111】
分化培養培地は、運動ニューロン前駆体から運動ニューロンへの分化の誘発に寄与することが公知のその他の化合物も含み得る。そのような化合物は当業者において周知されている。好ましくは、培養培地C3は、BDNF(脳由来神経栄養因子)及びGDNF (グリア細胞由来神経栄養因子)を更に含む。好ましくは、BDNF及びGDNFは、それぞれ5~100ng/ml、好ましくは10~50ng/ml、より好ましくはそれぞれ約10ng/mlの濃度で分化培養培地内に存在する。
【0112】
本発明の文脈において、脊髄運動ニューロン前駆体を分化培養培地に曝露する期間は、運動ニューロンのマーカー、特にHB9、ISL1/2、HOXA5、HOXA4、及び任意選択的にLhx3又はFOXP1の発現を誘発するのに十分な期間である。運動ニューロンのマーカーの発現を検出する技術は当業者において周知されており、そして免疫染色、フローサイトメトリー、RT-PCR、又はin situハイブリダイゼーションが含まれる。一般的に、期間は、少なくとも5日間、好ましくは5~7日間、より好ましくは約5日間に及ぶ可能性がある。一般的に、Wntシグナル伝達経路のアクチベーターを含む培養培地内でhPSCの培養を開始してから9日後にノッチシグナル伝達経路の阻害剤が添加され、そして少なくとも5~7日間、特に5日間、培養培地内で維持される。
【0113】
いくつかの実施形態では、レチノイン酸及びヘッジホッグシグナル伝達経路のアゴニストの存在下での培養期間、及びノッチシグナル伝達経路の阻害剤の存在下での培養期間は、部分的にオーバーラップしてもよい。従って、前記期間がオーバーラップする期間において、培養分化培地は、レチノイン酸及びヘッジホッグシグナル伝達経路のアゴニストも含む。
【0114】
MNの定義された吻側尾側表現型の獲得
本発明者ら、徐々により多くの尾側アイデンティティーを有する運動ニューロンは、体軸前駆体をヘッジホッグシグナル伝達経路のアゴニスト及びレチノイン酸に曝露することによるが、
1. RA曝露を遅延させることによって、又は
2.体軸前駆体を、FGF経路のアクチベーター(FGFRアゴニスト)、及び/又はTGF/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経路のアクチベーター(また本明細書においては、短縮してTGF経路とも命名される)に更に曝露することによって、
生成可能であることを実証した。
【0115】
いくつかの異なる線維芽細胞増殖因子FGFアイソフォームが、FGFRアゴニストとして本発明に基づき使用可能である。適するFGFRアゴニストの非限定的な例として、FGF1、FGF2、FGF3n FGF8a、FGF8b、FGF10、FGF22、FGF8f、FGF17及びFGF18が挙げられ、一般的にFGFRアゴニストは、FGF2又はFGF8 (FGF8a及びFGF8bを含む)、特にFGF2である。
【0116】
TGFアクチビン/ノーダルシグナル伝達経路は、アクチビン、TGF-β、及びノーダルリガンドとI型受容体ALK4、ALK5、及びALK7との相互作用に応答して生ずるSmad2及びSmad3の活性化と特に関係する。従って、本発明は、I型受容体ALK4、ALK5、及びALK7アゴニスト、例えばTGFβファミリーメンバー(TGFβ、アクチビン、及びGDFを含む)、及びノーダルリガンド等を含む。TGF経路のそのようなアクチベーターの非限定的例には、GDF11又はGDF8が含まれる。
【0117】
従って、レチノイン酸は、一般的に、Wntシグナル伝達経路のアクチベーターを含む培養培地を用いてhPSCの培養を開始してから後、少なくとも3~11日間、及び有利には少なくとも9日目(D9)まで培養培地に添加される。
【0118】
本発明に基づけば:
FOXP1高度神経支配性運動ニューロンを含む上肢運動ニューロンは:
1. Wntシグナル伝達経路のアクチベーターを含む培養培地内でhPSCの培養を開始してから後、およそD3及びおよそD9まで、RAを培養培地内に添加することにより、又は
2. Wntシグナル伝達経路のアクチベーターを含む培養培地内でhPSCの培養を開始してから後、およそD3及びおよそD9まで、RAを、FGFRアゴニスト又はTGF/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経路のアクチベーター(一般的にGDF11又はGDF8)をD3~D4の間添加することと組み合わせて培養培地内に添加することにより(但し、任意選択的に、FGFRアゴニストは、少なくとも100ng/ml、特に100~250ng/mlの間、100~200ng/mlの間、好ましくは100~150ng/mlの間、特に約120ng/mlの濃度で培養培地に添加され、又はTGF/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経路のアクチベーターは、20~70ng/mlを一般的に含む少なくとも20ng/mlの濃度で培養培地に添加される)、
取得可能である。
【0119】
前方胸部運動ニューロンは:
1. Wntシグナル伝達経路のアクチベーターを含む培養培地内でhPSCの培養を開始してから後、約少なくともD5及びおよそD9まで、特にD5~D9、RAを培養培地内に添加することにより、又は
2. Wntシグナル伝達経路のアクチベーターを含む培養培地内でhPSCの培養を開始してから後、少なくともおよそD3又はD4及びおよそD9まで、特にD3~D9、RAを、RAを培養培地内に添加する前、およそ24~48時間において、FGFRアゴニスト又はTGF/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経路のアクチベーター(例えば、GDF11又はGDF8等)を添加することと組み合わせて培養培地内に添加することにより(但し、任意選択的に、FGFRアゴニストは、少なくとも60ng、特に60~250ng/mlの間、60~200ng/mlの間、好ましくは60~150ng/mlの間、特に約120ng/mlの濃度で培養培地に添加され、又はTGF/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経路のアクチベーターは、20~70ng/mlを一般的に含む少なくとも20ng/mlの濃度で培養培地に添加される)、
取得可能である。
【0120】
尾側胸部運動ニューロンは、
Wntシグナル伝達経路のアクチベーターを含む培養培地内でhPSCの培養を開始してから後、およそD3及びおよそD9まで、RAを、FGFRアゴニスト及びTGF/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経路のアクチベーターの組合せをおよそD3及びおよそD4まで培養培地内に添加することと組み合わせて培養培地内に添加することにより(但し、任意選択的に、FGFRアゴニストは、少なくとも100ng/ml、特に100~250ng/mlの間、100~200ng/mlの間、好ましくは100~150ng/mlの間、特に約120ng/mの濃度で添加され;及びTGF/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経路のアクチベーター(例えば、GDF11又はGDF8等)は、20~70ng/mlを一般的に含む少なくとも20ng/mlの濃度で培養培地に添加される)、
により取得可能である。
【0121】
FOXP1高度腕部神経支配性運動ニューロンを含む腰部運動ニューロンは、
Wntシグナル伝達経路のアクチベーターを含む培養培地内でhPSCの培養を開始してから後、およそD5及びおよそD9までの間、RAを、FGFRアゴニスト及びTGF/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経路のアクチベーター(例えば、GDF11又はGDF8等)の組合せをおよそD3又はD4及びD5まで、特にD3~D5の間、培養培地内に添加することと組み合わせて培養培地内に添加することにより(但し、任意選択的に、FGFRアゴニストは、少なくとも100ng/ml、特に100~250ng/mlの間、100~200ng/mlの間、好ましくは100~150ng/mlの間、特に約120ng/mの濃度で添加され;及びTGF/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経路のアクチベーターは、20~70ng/mlを一般的に含む少なくとも20ng/mlの濃度で培養培地に添加される)、
取得可能である。
【0122】
本発明の特に好ましい実施形態では、定義された吻側尾側アイデンティティーを有する脊髄運動ニューロンの集団を生み出すための方法は下記の工程を含む:
【0123】
1.体軸前駆体の生成:
0日目(D0)から、特にCHIR-9921又はWnt3aタンパク質から選択される少なくともWntアゴニスト、任意選択的に、BMPシグナル伝達経路の阻害剤及びTGF/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経路の阻害剤(例えば、LDN-193189及びSB431542のそれぞれ)を含む培養培地内で、hPSCを、特にヒト胚様体の形態で培養する工程であって、任意選択的に、
- 化合物CHIR-99021が、0.5~5μMの範囲、好ましくは1~4μMの範囲、いっそうより好ましくは約3μMの濃度で培養培地に添加され、
- 化合物LDN193189が、0.05~1μM、好ましくは0.1~0.5μM、0.15~0.25μMの範囲、いっそうより好ましくは約0.2μMの濃度で、hPSCを含む培養培地に添加され、
- 化合物SB431542が、10~75μMの範囲、好ましくは20~50μMの範囲、いっそうより好ましくは約40μMの濃度で、hPSCを含む培養培地に添加され、
BMPシグナル伝達経路の阻害剤及びTGF/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経路の阻害剤は、3~4日の範囲(すなわち、D0~D3又はD0~D4)の期間、培養培地に添加され、特にTGF/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経路の阻害剤はD0~D3添加可能であり、及び
Wntアクチベーターは、2~4日の範囲、特に3~4日間(すなわち、D0~D2、D0~D3、又はD0~D4)の期間培養培地に添加される
工程。
【0124】
2.定義された吻側尾側アイデンティティーを有する脊髄運動ニューロンの獲得:
a) Wntシグナル伝達経路のアクチベーターを含む培養培地内でhPSCの培養を開始してから後、およそD3及びおよそD9までRAを、並びにD3~D9日目の間、4日目(D4)~9日目(D9)の間、D5~D9の間、D6~D9の間、又はD7~D9の間、特にD3~D9の間において、少なくとも300nM、特に100nM~1μM又は100~1μMの間、好ましくは300~750nMの範囲、いっそうより好ましくは約500nMの濃度のヘッジホッグシグナル伝達経路のアゴニストを培養培地に添加し、或いは
b) Wntシグナル伝達経路のアクチベーターを含む培養培地内で、hPSCの培養を開始してから後、およそD3及びおよそD9までRAを、並びにD3~D9若しくはD10日目若しくはそれ超の間、4日目(D4)~9日目(D9)若しくはD10若しくはそれ超の間、D5~D9若しくはD10若しくはそれ超の間、D6~D9若しくはD10若しくはそれ超の間、又はD7~D9若しくはD10若しくはそれ超の間、特にD3~D9若しくはD10若しくはそれ超の間において、少なくとも300nM、特に100nM~1μM又は100~1μMの間、好ましくは300~750nMの範囲、いっそうより好ましくは約500nMの濃度のヘッジホッグシグナル伝達経路のアゴニストを、D3~D4の間におけるFGFRアゴニスト又はTGF/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経路のアクチベーターの添加と組み合わせて培養培地内に添加する。
但し、任意選択的にFGFRアゴニストは、少なくとも100ng/ml、特に100~250ng/mlの間、100~200ng/mlの間、好ましくは100~150ng/mlの間、特に約120ng/mlの濃度で培養培地に添加され、及びTGF/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経路のアクチベーターが、20~70ng/mlを一般的に含む少なくとも20ng/mlの濃度で培養培地に添加され;
任意選択的にレチノイン酸が、5~1000nMの範囲、好ましくは10~500nMの範囲、又は100nM~500nMの範囲の濃度で培養培地に添加される。一般的に、RAは少なくとも100nMの濃度で培養培地に添加される。
【0125】
FOXP1高度神経支配性運動ニューロンを含む上肢運動ニューロンの取得
a') Wntシグナル伝達経路のアクチベーターを含む培養培地内でhPSCの培養を開始してから後、およそ少なくともD5及びおよそD9まで、特にD5~D9においてRAを、並びにD3~D9日目の間、4日目(D4)~9日目(D9)の間、D5~D9、D6~D9の間、又はD7~D9の間、特にD3~D9の間において、少なくとも300nM、特に100nM~1μMの間、又は100~1μMの間、好ましくは300~750nMの範囲、いっそうより好ましくは500nMの濃度のヘッジホッグシグナル伝達経路のアゴニストを培養培地内に添加し、或いは
b') Wntシグナル伝達経路のアクチベーターを含む培養培地内でhPSCの培養を開始してから後、少なくともおよそD3又はD4及びおよそD9まで、特にD3~D9においてRAを、並びにD3~D9日目の間、4日目(D4)~9日目(D9)の間、D5~D9の間、D6~D9の間、又はD7~D9の間、特にD3~D9の間において、少なくとも300nM、特に100nM~1μM又は100~1μMの間、好ましくは300~750nMの範囲、いっそうより好ましくは約500nMの濃度のヘッジホッグシグナル伝達経路のアゴニストを、RAを培養培地内に添加する前の24~48時間において、FGFRアゴニスト又はTGF/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経路のアクチベーターを添加することと組み合わせて培養培地内に添加する。
但し、任意選択的にFGFRアゴニストは、少なくとも60ng、特に60~250ng/mlの間、60~200ng/mlの間、好ましくは60~150ng/mlの間、特に約120ng/mlの濃度で培養培地に添加され、及びTGF/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経路のアクチベーターは、20~70ng/mlを一般的に含む少なくとも20ng/mlの濃度で培養培地に添加され、
任意選択的にレチノイン酸が、5~1000nMの範囲、好ましくは10~500nMの範囲、又は100nM~500nMの範囲の濃度で培養培地に添加される。一般的に、RAは少なくとも100nMの濃度で培養培地に添加される。
【0126】
FOXP1高度神経支配性運動ニューロン及びFOXP1/SCIP運動ニューロンを含む前方胸部運動ニューロンの取得
a''') Wntシグナル伝達経路のアクチベーターを含む培養培地内でhPSCの培養を開始してから後、およそD3及びおよそD9までRAを、並びにD3~D9日目の間、4日目(D4)~9日目(D9)の間、D5~D9の間、D6~D9の間、又はD7~D9の間、特にD3~D9の間において、少なくとも300nM、特に100nM~1μM又は100~1μMの間、好ましくは300~750nMの範囲、いっそうより好ましくは約500nMの濃度のヘッジホッグシグナル伝達経路のアゴニストを、およそD3及びおよそD4まで、FGFRアゴニストとTGF/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経路のアクチベーターとの組合せを培養培地内に添加することと組み合わせて培養培地内に添加する。
但し、任意選択的にFGFRアゴニストは、少なくとも100ng/ml、特に100~250ng/mlの間、100~250ng/mlの間、一般的に100~200ng/mlの間又は100~150ng/mlの間、特に約120ng/mlの濃度で添加され;及びTGF/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経路のアクチベーターが、20~70ng/mlを一般的に含む少なくとも20ng/mlの濃度で培養培地に添加され、
任意選択的にレチノイン酸が、5~1000nMの範囲、好ましくは10~500nMの範囲、又は100nM~500nMの範囲の濃度で培養培地に添加される。一般的に、RAは少なくとも100nMの濃度で培養培地に添加される。
【0127】
尾側胸部運動ニューロンの取得
a'''') Wntシグナル伝達経路のアクチベーターを含む培養培地内でhPSCの培養を開始してから後、およそD5~およそD9の間においてRAを、及びD3~D9日目、4日目(D4)~9日目(D9)、D5~D9の間、D6~D9の間、又はD7~D9の間、特にD3~D9の間において、少なくとも300nM、特に100nM~1μM又は100~1μMの間、好ましくは300~750nMの範囲、いっそうより好ましくは約500nMの濃度のヘッジホッグシグナル伝達経路のアゴニストを、およそD3又はD4及びD5まで、特にD3~D5の間においてFGFRアゴニストとTGF/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経路のアクチベーターとの組合せを培養培地内に添加することと組み合わせて培養培地内に添加する。
但し、任意選択的に、FGFRアゴニストは、少なくとも100ng/ml、特に100~250ng/mlの間、100~200ng/mlの間、又は100~150ng/mlの間、特に約120ng/mlの濃度で添加され;及びTGF/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経路のアクチベーターは、20~70ng/mlを一般的に含む少なくとも20ng/mlの濃度で培養培地に添加され、
任意選択的に、レチノイン酸が、5~1000nMの範囲、好ましくは10~500nMの範囲、又は100nM~500nMの範囲の濃度で培養培地に添加される。一般的に、RAは少なくとも100nMの濃度で培養培地に添加される。
【0128】
FOXP1高度腕部神経支配性運動ニューロンを含む腰部運動ニューロンの取得
【0129】
3.任意選択的に、脊髄運動ニューロン前駆体の有糸分裂後脊髄運動ニューロンへの分化:
Wntシグナル伝達経路のアクチベーターを含む培養培地内でhPSCの培養を開始してから後、およそ9日経過したら、ノッチシグナル伝達経路の阻害剤、一般的にDAPTを、少なくとも5~7日又はそれ超、一般的に5日の期間添加するが、但し、任意選択的にDAPTは、1~25μMの範囲、より好ましくは5~20μMの範囲、特に約10μMの濃度で培養培地内に存在する。
【0130】
定義された吻側尾側アイデンティティーを有する脊髄運動ニューロンを取得するための有利な方法の代表的なスキームが特に
図4Aに提示される。
【0131】
培養培地
本発明の文脈において、用語「培養培地」とは、哺乳動物細胞のin vitro培養に適する液体培地を指す。本発明の方法で使用される培養培地は、市販培地、例えばInvitrogen社から販売されているDMEM/F12、又はInvitrogen社から販売されている1:1の比でDMEM/F12とNeurobasalとからなる混合物等に基づくことがある。
【0132】
本発明の方法で使用される培養培地は、様々なサプリメント、例えばB27サプリメント(Invitrogen社)及びN2サプリメント(Invitrogen社)等も含み得る。
【0133】
B27サプリメントは、様々な構成成分のなかでもとりわけ、SOD、カタラーゼ、及びその他の抗酸化剤(GSH)、並びに特有の脂肪酸、例えばリノール酸、リノレン酸、リポ酸等を含有する。
【0134】
本発明の方法で使用される培養培地は、特にN2B27培地に基づくことができる。
【0135】
用語「N2B27」とは、Liu et al. (2006) Bioc em. Biop ys. Res. Commun. 346:131-139に記載されている培地を指し、DMEM/F12培地及びNeurobasal培地(1:1の比)、N2サプリメント(1/100)、B27サプリメント(1/50)、及びβ-メルカプトエタノール(1/1000)を含む。
【0136】
好ましくは、本発明の方法で使用される培養培地は、一般的に約5μMの濃度でROCK阻害剤Y-27632を更に含む。
【0137】
本発明の方法において、必要な場合には、一定の間隔を置いて、培養培地は部分的に又は全面的に更新され得る。一般的に、培養培地は、以下に記載される期間、一日おきに新鮮な培養培地に置き換えることができる。
【0138】
いくつかの実施形態では、本発明は下記の培養培地も包含する
【0139】
FOXP1高度神経支配性運動ニューロンを含む上肢運動ニューロンを取得するのに適する培養培地は、少なくとも下記事項を含む:
- 少なくとも300nM、特に100nM~1μM又は100~1μMの間、好ましくは300~750nMの範囲、いっそうより好ましくは約500nMの濃度のヘッジホッグシグナル伝達経路のアゴニスト、
- FGFRアゴニスト(但し、任意選択的に、FGFRアゴニストは、少なくとも100ng/ml、特に100~250ng/mlの間、100~200ng/mlの間、好ましくは100~150ng/mlの間、特に約120ng/mlの濃度で培養培地に添加される)、又は20~70ng/mlを一般的に含む少なくとも20ng/mlの濃度のTGF/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経路のアクチベーター(例えば、GDF11又はGDF8)、及び
- 5~1000nMの範囲、好ましくは10~500nMの範囲、又は100nM~500nMの範囲の濃度のレチノイン酸。一般的に、RAは少なくとも100nMの濃度で培養培地に添加される。
【0140】
前方胸部運動ニューロンを取得するのに適する培養培地は、少なくとも下記事項を含む:
- 少なくとも300nM、特に100nM~1μM又は100~1μMの間、好ましくは300~750nMの範囲の、いっそうより好ましくは約500nMの濃度のヘッジホッグシグナル伝達経路のアゴニスト。
- 少なくとも60ng、特に60~250ng/mlの間、60~200ng/mlの間、好ましくは60~150ng/mlの間、特に約120ng/mlの濃度のFGFR、又は20~70ng/mlを一般的に含む少なくとも20ng/mlの濃度のTGF/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経路のアクチベーター(例えば、GDF11又はGDF8)。
- 5~1000nMの範囲、好ましくは10~500nMの範囲、又は100nM~500nMの範囲の濃度、一般的に少なくとも100nMの濃度のレチノイン酸。
【0141】
尾側胸部運動ニューロンを取得するのに適する培養培地は、少なくとも下記事項を含む:
- 少なくとも300nM、特に100nM~1μM又は100~1μMの間、好ましくは300~750nMの範囲、いっそうより好ましくは約500nMの濃度のヘッジホッグシグナル伝達経路のアゴニスト。
- FGFRアゴニストが、少なくとも100ng/ml、特に100~250ng/mlの間、100~200ng/mlの間、好ましくは100~150ng/mlの間、特に約120ng/mの濃度で添加され;及びTGF/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経路のアクチベーターが、20~70ng/mlを一般的に含む少なくとも20ng/mlの濃度で培養培地に添加される。
- 5~1000nMの範囲、好ましくは10~500nMの範囲、又は100nM~500nMの範囲の濃度、一般的に少なくとも100nMの濃度のレチノイン酸。
【0142】
FOXP1高度腕部神経支配性運動ニューロンを含む、腰部運動ニューロンを取得するのに適する培養培地は、少なくとも下記事項を含む:
- 少なくとも300nM、特に100nM~1μM又は100~1μMの間、好ましくは300~750nMの範囲、いっそうより好ましくは約500nMの濃度のヘッジホッグシグナル伝達経路のアゴニスト、
- FGFRアゴニスト及びTGF/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経路のアクチベーター(但し、FGFRアゴニストは、少なくとも100ng/ml、特に100~250ng/mlの間、100~200ng/mlの間、好ましくは100~150ng/mlの間、特に約120ng/mの濃度である);及び20~70ng/mlを一般的に含む、少なくとも20ng/mlの濃度のTGF/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経路のアクチベーター、
- 5~1000nMの範囲、好ましくは10~500nMの範囲、又は100nM~500nMの範囲の濃度、一般的に少なくとも100nMの濃度のレチノイン酸。
【0143】
本発明は、下記の図面及び実施例により更に例証される。
【図面の簡単な説明】
【0144】
【
図1】エージングhPSC由来の体軸前駆体は徐々により多くの尾側運動ニューロンサブタイプを生成することを示す図である。(A)
図S1内のデータの概略的要約。ISL1又はHB9の発現により定義されたMN (ここでは灰色で示す)は、脊髄前角内の運動カラムにおいて組織化される。妊娠6.3週及び7.5週目のヒト胚脊髄において観察したときのMN内HOX発現プロファイル、及び高レベルのFOXP1及びSCIPを発現するMNの局在化を示す。形状の変化は、所与のマーカーを発現するMNの数の増減を示唆する。FOXP1
high MNは、上肢胸部脊髄及び腰部脊髄の外側運動カラム(LMC)において選択的に観測される。SCIP
high MNは、尾側上肢髄内LMC MNのサブセットである。(B) C~F (RA/SAGへの曝露時間が調節されている)で使用される分化条件。(C)分化14日目においてEBのクリオスタット切片上で実施したISL1、HB9 (MN)、NEFL (ニューロン)、HOX転写因子、FOXP1、及びSCIPに対する免疫染色。RAの適用を遅らせるほど尾側MNが増える。FOXP1及びCIP MNは、RA D4及びD5(HOXC8+条件においてMNの吻側尾側アイデンティティーを更に定義する)において主に生成する。スケールバー: 100μM (D~F)。表示のマーカーを発現するMN (ISL1+ 細胞)の割合。データを平均±SDとして示す。丸印のそれぞれは独立した実験である。* P≦0.05の場合、** P≦0.01の場合、及び*** P≦0.001の場合。
図S1及び
図S2も参照のこと。
【
図2】hPSC由来体軸前駆体の時間的トランスクリプトーム分析を示す図である。(A)実験デザイン。(B)富化された遺伝子の多い方から20例のD2前駆体とhESCとの比較。前駆体は、マウス体軸前駆体のうちの1つと類似したトランスクリプトームシグネチャーを獲得した。(C) (Gouiら、2017)で定義される神経中胚葉前駆体(NMP)遺伝子において富化された遺伝子の多い方から20例を、D3前駆体及びhESCについて比較した富化倍率。(D) hiPS由来D2及びD3前駆体(WTS2系統)上での体軸前駆体マーカーに対する免疫染色。細胞は3つのマーカーを発現する。スケールバー: 40μM。(E)ヒトMNにおいてin vivoで局所的に発現しているHOXをコードするHOX遺伝子における時間的転写的変化。(F) D3~D2において2倍(p値<0.05)上方制御されている232個の遺伝子のReactome経路分析。Y軸: FDR =偽陽性率。X軸=所与のReactome経路について計算した富化スコア。(G)エージング体軸前駆体における上方制御MAPK標的遺伝子及びFGFリガンドの時間的進化。ETV5は、多くのその他の系内のERK1/2 MAPKにより活性化される転写因子である。他の遺伝子はMAPK経路のフィードバックネガティブ制御因子をコードする。全てのデータを平均±SDとして示す。(H) 2及び3日目前駆体の転写及び免疫染色分析の概略図。
【
図3】FGF経路を阻害するとHOXの時間的誘発及び尾側MNスペシフィケーションが損なわれることを示す図である。(A)分化条件。PD173074 (FGFR1-3阻害剤)又はPD032590 (MEK1/2阻害剤)を、D3よりD7まで添加した。(B)異なる条件におけるMN (ISL1+細胞)の割合(平均±SD)。(C)分化14日目の胚様体のクリオスタット切片において行ったISL1 (MNs)及びHOX転写因子に対する免疫染色。MEK及びFGFR阻害剤はHOXC8及びHOXC9 MNのスペシフィケーションを妨げる。代わりに、HOXA5、HOXC6 MNが生成される。スケールバー: 100μM。(C)分化14日目のHOXC6及びHOXC9 MNの定量。(D)分化からD3、D4、及びD5における前駆体内HOXmRNAのリアルタイムPCR分析。MEK及びFGFR阻害剤は、尾側HOX発現の時間的増加を妨げる。データを平均±SDとして示す;丸印のそれぞれは独立した実験である。* P≦0.05の場合、** P≦0.01の場合、及び*** P≦0.001の場合。
【
図4】HOX誘発の動的ペーシング、及びFGF2及びGDF11レベルが変化したときの個々のMNサブタイプのスペシフィケーション (A)分化条件。外因的手掛かり、FGF2、GDF11、又はFGF2+GDF11を、分化3日目に、様々な濃度で又は異なる期間添加した。(B)分化14日目の胚様体のクリオスタット切片において実施したHOXに対する免疫染色。FGF2、GDF11、及びFGF2/GDF11は、より多くの尾側MNサブタイプを誘発する。スケールバー: 100μM。(C、D、E)表示のマーカーを発現するMN (ISL1+細胞)の割合。FGF2処置の期間(C)、FGF2濃度(D)、及びGDF11又はFGF2+GDF11の期間(E)の効果をモニタリングした。(F)ヒトMNにおいてin vivoで局所的に発現しているHOX遺伝子に関する発現のリアルタイム定量的PCR分析。D4 (処置後24時間)及びD5 (処置後48時間)において、FGF2、GDF11を添加するか、又はGDF11 (25ng/ml)と共にFGF2 (120ng/ml)を組み合わせて添加したときのHOXmRNAをモニタリングした。データは、各時点において、3日目にRAのみを用いて処置されたコントロール条件に対して標準化されている。データを平均±SDとして示す。丸印のそれぞれは独立した実験である。* P≦0.05の場合、** P≦0.01の場合、及び*** P≦0.001の場合。
図5も参照のこと。
【実施例】
【0145】
結果
材料及び方法
ヒト胚脊髄組織学
妊娠6.3週のヒト胎児胚を、これまでに記載されたように(Lambrot et al., 2006)、妊娠第一期において法的に誘発される流産のためにAntoine Beclere病院の婦人科学及び産科部門(Clamart、フランス)に照会された妊娠女性から取得した。全ての女性は胎児組織の科学的使用について同意書を提出した。いずれの流産も胎児異常に起因するものではなかった。胎児の年齢を、四肢及び足の長さを測定することにより決定した(Evtouchenko et al., 1996)。本プロジェクトは、現地医学倫理委員会及びフランス国バイオ医薬品機関より承認を得た(参照番号PFS 12-002)。或いは、妊娠7.5週ステージのヒト胚脊髄(n=2)を、米国(国立衛生研究所、米国食品医薬品局)、及びニューヨーク州のガイドライン、及び無名組織に関するコロンビア大学の制度的に承認された倫理的ガイドラインに基づき収集した。材料を人工妊娠中絶後に取得し、そしてカーネギー発生段階に従い外部形態を基準として分類した。在胎齢を患者の最終月経により、又は超音波による推定が産科医の指摘と1週間異なる場合には超音波により決定した。全てのケースにおいて、脊髄をできる限りそのまま取り出した後、新鮮な冷却4% PFAを用いながら氷上で1.5時間固定し、PBSで十分に洗浄し、次に30%スクロース内、オーバーナイトでクリオプロテクトした。固定化後、脊髄を測定し、そしてOCT Compound (Leica社)内への包埋がしやすくなるように解剖切片に切り出し、そしてクリオスタット上で切断する前に-80℃で保管した。切片(16μM)を脊髄の全長に沿って切り出した。
【0146】
ヒト多能性幹細胞系統
ヒトSA001胚性幹細胞(ESC)系統(男性、RRID: CVCL_B347)を、Cellectis社から取得し、そしてフランス国の現行法令(Agency of Biomedicine、認可番号AFSB1530532S)に従い使用した。誘導多能性幹細胞(iPSC)系統WTSIi002(男性、RRID: CVCL_AH30、別名HPSI0913i-eika_2)を、European Bank for Pluripotent Stem Cells (EBISC)から取得した。Allen cell instituteより生成されたWTC-mEGFP-Safe harbor locus (AAVS1) - cl6を、Coriell社(カタログ番号AICS-0036-006、男性、RRID:CVCL_JM19)から取得した。~をEuropean Bank for Pluripotent Stem Cells (EBISC)から取得した。iPSCを用いた実験について、関連する倫理委員会より承認を得た(declaration DC-2015-2559)。全ての系統を、mTSER1培地(Stem Cell Technologies社)内のマトリゲル(Corning社)上、37℃で培養し、そしてEDTA (Life Technologies社)クランプに基づく継代法を使用しながら増幅した。その系統を、マイコプラズマ汚染の可能性について1週間おきにテストした(MycoAlertTM Mycoplasma Detection Kit、Lonza社、LT07-118)。試験期間中、汚染は検出されなかった。Y-27632 (10μM、Stemgent社又はStem Cell Technologies社)の存在下、PSCを解凍し、また培養培地を毎日交換した。
【0147】
ヒト多能性幹細胞の分化
ヒトPSC胚様体に基づく分化を、これまでに記載されたように実施した(Maury et al., 2015)。冷却したAccutase (Life technologies社)を用いてhPSCを37℃で3~5分間解離し、それを、N2 (Life technologies社)、ビタミンAを含まないB27 (Life technologies社)、1%のペニシリン/ストレプトマイシン、0.1%のβ-メルカプトエタノール(Life technologies社)が、Y-27632 (10μM、Stemgent社又はStem Cell Technologies社)、CHIR-99021 (3μM又は4μM、Selleckchem社) SB431542 (20μM、Selleckchem社)、及びLDN 193189 (0.1μM、Selleckchem社)と共に補充された分化培地N2B27 (Advanced DMEM F12, Neurobasal vol:vol (Life technologies社))中に再懸濁した。細胞2×105個/mlを超低接着性6ウェルプレート(Corning社)内に播種して胚様体(EB)を形成した。全ての分化条件には、2日目及び3日目において同一の培地が供給されたが、但し3日目SB431542を除去した。次に、上記図に提示したスキーマに従い分化を進行させた。SAG (平滑化アゴニスト、Merck millipore社)、FGF2 (組換えヒトFGFベーシック、Peprotech社)、RA (Sigma-Aldrich社)、GDF11 (組換えヒト/マウス/ラット GDF11、Peprotech社)、PD0325901 (Selleckchem社)、PD173074、SCH772984 (Selleckchem社)、DAPT (Stemgent社)を、表示の時点において添加した。濃度についてはTable S2 (表3)を参照のこと。培地を一日おきに変更した(別途規定された場合を除く)。
【0148】
免疫染色のための胚様体処理
EBを収集し、PBSでリンスし、次に4% PFAを用いて4℃で5分間固定し、そしてPBSを用いて5分間、3回リンスした。30%スクロースを用いて、EBをクリオプロテクトし、そしてOCT (Leica社)内に包埋した後、クリオスタットを用いて切片化した。或いは、2、3、及び4日目の前駆体を、マトリゲル(Corning社、製造業者の勧告に従い稀釈した)コーティングカバースリップ上に播種し、そして30分間接着させた後、4% PFAを用いながら、4℃で5分間固定した。
【0149】
免疫染色
全ての免疫染色を以下のように実施した:細胞又は切片を飽和溶液(PBS/FBS 10%/0.2%トリトン)と共に10分間インキュベートした。一次抗体(Table S3 (表4))を染色溶液(PBS/2% FBS/0.2%トリトン)内で稀釈し、そして加湿チャンバー内、4℃、オーバーナイトでインキュベートした。4回PBS洗浄した後(各回10分)、二次抗体(Alexa488、Alexa568、及びAlexa647、Life technologies社、1:1,000)をRTで1時間添加した。3回PBS洗浄した後、DAPIを細胞に5分間添加した(Invitrogen社、1: 3,000)。次に、細胞又はスライスをFluoromountに包埋した(Sigma Aldrich社又はCliniscience社)。
【0150】
画像取得
Zen blackソフトウェアによりコントロールされたZEISS LSM 880共焦点レーザー走査顕微鏡(Carl Zeiss Microscopy社)、共焦点顕微鏡TCS SP5 II (Leica社)、又はMetaMorphソフトウェア(MetaMorph Inc社)によりコントロールされた、CoolSNAP EZ CDDカメラを装備するDM6000顕微鏡(Leica社)を使用してサンプルを可視化及び画像化した。或いは、Zen blackソフトウェア(Zeiss社)と共に、Axiocam 506mカメラを装備する自動化された顕微鏡Cell Discoverer 7 (Zeiss社)を使用して画像を取得した。
【0151】
定量的RT-PCR分析
全RNAを抽出し(RNAeasy Plus Mini Kit、Qiagen社)、そしてSuperScript III (Invitrogen社)を使用してcDNAを合成した。定量的リアルタイムPCRを、Sybr Green PCR Master Mix (Applied Biosystems社)と共に7900HT ファストリアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems社)を使用して実施した。或いは、QuantStudio 5 Real-Time PCR System (Thermofisher Scientific社)、及びqPCR Brilliant II SYBR MMとlow ROXとの混合物(Agilent社)を使用して実施した。プライマーは付録の表3に記載されている。全ての発現データをCyclophilin A mRNAに対して標準化した。全ての分析を、1プレート当たり3回の技術的反復実験により実施した。相対的発現レベルを、2-ΔΔCtを計算することにより決定した。
【0152】
トランスクリプトーム分析
hESCを、解離後及び分化培地への曝露前に収集した。前駆体を、分化2日目、3日目、及び4日目に収集した。8サンプルのそれぞれについて、全RNAを抽出し、次にIon AmpliSeq Transcriptome Human Gene Expression kit (Thermofisher Scientific社)を使用して逆転写した。cDNAライブラリーを増幅し、そしてAmpliSeq Transcriptome Human Gene Expression core panel及びIon Xpress Barcode Adapter (Thermofisher Scientific社)を使用してバーコード化した。Agilent High Sensitivity DNA kitを使用してアンプリコンを定量した後、サンプルを8例からなるセットにプールした。Ion OT2 system Instrument上で、Ion PI Hi-Q OT2 200 kit(Thermofisher Scientific社)を使用しながら、エマルジョンPCR及び富化を実施した。サンプルをIon PI v3 Chipに負荷し、そしてIon Proton System上で、Ion PI Hi-Q sequencing 200 kit chemistry (200bpのリード長; Thermofisher Scientific社)を使用しながら配列決定した。Ion Protonリード(FASTQファイル)を、参照ゲノムとしてhg19を使用しながら、Partek Flowソフトウェア(v6 Partek Inc社)のRNA-seqパイプラインにインポートした。1サンプル当たりのリード数は、7.5百万~12百万リードの範囲であった。群間で差次的に発現している遺伝子を決定するために、全カウント/サンプルにより標準化されたPartek E/Mアルゴリズム使用して、マッピングされたリードを定量化した(得られたカウントは、AmpliSeq Human Gene Expression panel内に存在する20,800個にわたる異なる遺伝子について、遺伝子発現レベル(リード/百万)を表す)。2条件間の差次的発現の評価を、EdgeR package under Rを使用して実施した。Reactomeデータベースから情報を得ることにより、2つの時点の間で、上方制御されている遺伝子(FC≧2.0、p値<0.05)についてパスウェイエンリッチメント分析(Pathway enrichment analysis)を実施した。超幾何分布検定(hypergeometrical test)及び多重比較のするためのBenjamini-Hochberg補正を使用して、有意な富化を計算した。富化スコアを(Wang et al., 2017)に記載されるように計算した。
【0153】
標準化されたトランスクリプトームデータをTable S1に提示する。生データは要請に応じて入手可能である。
【0154】
定量及び統計分析
全ての統計学は、GraphPad Prismソフトウェアを使用してコンピューター計算した。Kruskall-Wallis事後分析法を用いた一元配置分散分析(ANOVA)を、プリズムにより提供される正規性検定を行った後に実施した。nの数、分散指標、及びp値を図の説明に示す。全ての図において、nは、新規に解凍された独立したhPSCバイアルから開始した独立した分化である。各条件について、少なくとも4つの独立したEBを画像化し、その全ての細胞を自動画像分析法により定量した。画像をエクスポートし、そして必要な場合にはFijiによるTIFFとしてセーブした(Schindelin et al., 2012)。画像に関する定量分析を、CellProfilerソフトウェアを使用して実施した(Carpenter et al., 2006) (www.cellprofiler.orgにおいて入手可能なBroad Instituteのオープンソース)。DAPI染色核を、CellProfilerセグメンテーションパイプラインを使用してプライマリーオブジェクトにセグメント化し、そして核マスクを、標的チャンネル上でオブジェクトを定義するのに使用した。所与の標的について陽性の核を定義するための閾値は、目的とする標的について陰性のEB切片を使用して得た。次に、複数の条件にまたがる全ての画像をバッチとして自動的に分析し、偏りのない分析を保証した。FOXP1及びSCIP免疫染色強度の分析を、CellProfilerをソフトウェアFCS express 7 (DeNovo Software社、Glendale、CA、米国)と併用して実施した。核を、上記したようにプライマリーオブジェクトにセグメント化し、そしてFOXP1及びSCIP蛍光強度を、各プライマリーオブジェクトにおいて計算した。次に、FCS express 7ソフトウェアを使用しながら、FOXP1及びSCIPに関する蛍光強度プロットを生成して個々の細胞それぞれについて異なるマーカーの強度レベルを視覚化し、そして所与の閾値を上回る細胞の割合(%)を決定した。定量するための細胞プロファイラーパイプラインが要請に応じて利用可能である。
【0155】
結果
ヒト胚脊髄におけるHOX発現プロファイル及び運動ニューロンサブタイプ
脊椎動物の脊髄に沿ったHOX転写因子の差次的発現は、HOX遺伝子制御の主要な産物である。脊髄運動ニューロンにおいて、このHoxコードは、歩行運動回路の形成をコントロールするサブタイプ固有の特性についてスペシフィケーションを統制する(Dasen, 2017; Philippidou、及びDasen, 2013)。脊髄HOXコード及び関連するMNサブタイプがヒトにおいて保存されているかについては依然不明のままであり、HOX制御、及びそれとhPSC分化期間中の細胞「吻側尾側」アイデンティティーとの関連性について忠実な評価を行う際の妨げとなっている。従って、本発明者らは、発生から6.3週及び7.5週時点のヒト胚において、共直線的発現パターンを示し、そしてマウス及び幼鶏においてMNサブタイプのスペシフィケーションを指図する7つのHOX転写因子についてマップ化した(Philippidou及びDasen, 2013) (
図1A)。動物モデルと同様に、ヒトMNは、ISL1又はHB9を、いずれも脊髄に沿って発現した(
図1A) (Amoroso et al., 2013)。MN内では、HOXは、マウス及び幼鶏のパターンと類似した吻側尾側パターンを示した(Dasen et al., 2003; Liu et al., 2001) :頚部MNはHOXA/C5を発現した一方、上肢MNはHOXC6を発現し、胸部MNはHOXC9及び腰部MNはHOXC10を発現した。尾側上肢MNはHOXC6及びHOXC8を同時発現し、また前方胸部MNはHOXC8及びHOXC9を同時発現した。HOXD9は、HOXC10と共に尾側胸部MN並びに前方腰部MNに関連付けられた(
図1A)。有用膜類では、このHoxコードは、共通筋肉群を神経支配する異なる運動カラム、及び単一の筋肉を神経支配する運動プールの形成を指図する(Philippidou及びDasen、2013)。HOXの発現が変化すれば、該当するニューロンサブタイプのスペシフィケーションが引き起こされるかin vitroで評価できるようにするために、HOX発現ドメインに関してMNサブタイプマーカーをマッピングした(
図1A)。マウス及び幼鶏と同様に、高レベルのFOXP1(FOXP1
high)を発現するMNが、上肢-胸部(HOXC6及びHOXC8/HOXC9)、及び腰部(HOXC10)レベルにおいて認められた(
図1A)。該MNは、四肢神経支配性MNが位置する外側運動カラム(LMC)を形成した(Amoroso et al., 2013; Routal及びPal, 1999)。このFOXP1
high LMC内では、SCIP/HOXC8 MNが尾側上肢脊髄に認められた。対照的に、SCIP/HOXC8/HOXC9 MNは前方胸部領域内に位置した。その場所及びその転写コードから、それらは推定されるハンドコントローリングMNとして特定される(Bell et al., 2017; Mendelsohn et al., 2017)。
【0156】
全体として、HOX転写因子はヒト脊髄の吻側尾側軸に沿って局所的に発現している。これらの異なるHOXドメイン内では、異なるMNサブタイプ(転写因子を組み合わせることにより特定可能)は、類型的位置において生成される。このデータは、体軸前駆体においてHOX発現を制御する機構、及びhPSC分化期間中の細胞型スペシフィケーションに対するその影響を評価するためのリードアウトを提供した。
【0157】
エージング体軸前駆体はより多くの尾側ニューロンサブタイプを生成する
体軸前駆体(すなわち、異なる吻側尾側アイデンティティーを有する尾側細胞型を生成する能力を有する前駆体)がヒト胚性幹細胞(hESC)の3D分化を使用して生成されるか、MNサブタイプのスペシフィケーションをモニタリングすることによりテストすることをまず追求した。本発明者らは、推定される体軸前駆体段階を通じて、ヒトPSCから脊髄MNの標的を定めた生成を引き起こす外因的手掛かりの順番についてこれまでに報告した(Maury et al., 2015)。胚様体(EB)をWnt経路アゴニスト(CHIR99021)、並びにBMP及びTGFβ経路の阻害剤(SB431542及びLDN193189)に曝露すると、CDX2(体軸前駆体のマーカー及び尾側HOX遺伝子誘発の制御因子である)を発現する前駆体が生成した(Bel-Vialar et al., 2002; Bialecka et al., 2010; Gouti et al., 2014; Maury et al., 2015; Mazzoni et al., 2013; Neijts et al., 2017)。脊髄MN (平均して細胞の70%)が、レチノイン酸(RA)及びソニックヘッジホッグ経路(SAG)のアゴニスト(それぞれニューロン形成を促進し、そして最終的に腹部MNとなるように体軸前駆体を誘導する)への曝露から2日目又は4日目に生成した(Briscoe and Novitch, 2008; Maury et al., 2015; Ribes et al., 2009)。ここで、このような条件において生成したMNの吻側尾側アイデンティティーを評価した(
図1B)。ISL1+細胞の定量化と共に、HB9、ISL1、及び汎ニューロンマーカーのニューロフィラメント軽鎖(NEFL)に対して染色を行うことにより、これまでに明らかにされたように、脊髄MNの効率的な生成を確認した(Maury et al., 2015) (
図1C)。HOX発現の分析から、2日目(D2)からD9までRA/SAGに曝露すると、前方上肢MNに対応するHOXC6 MN; D3~9においてRA/SAGを添加した後、ほとんどのMNにより獲得されたアイデンティティー(HOXC6 MNの74.6%、HOXC8 MNの17.3%)が生じることが明らかとなった(
図1D、
図E)。D4~9においてRA/SAGを添加すると、尾側上肢アイデンティティーを有するMNが生成し(HOXC6/C8の41.8%)、そのうちの37.1%が高レベルのFOXP1 (脊髄内の四肢神経支配性MNに対応する)を発現した(
図1D~
図F)。全体として、これらの結果は、MNサブタイプアイデンティティーは、i) RAに対する曝露期間(RA曝露が短いほど尾側化が促進される)、又はii)これまでに示唆されたように、RAの曝露を受けた時期のいずれかに依存することを示唆した(Bel-Vialar et al., 2002; Del Corral and Storey, 2004; Lippmann et al., 2015)。これらの可能性を区別するために、D3前駆体を、期間を短縮してRAに曝露した(D3~5、D3~8、及びD3~9)。これらのより短縮したRA処置のいずれも、より尾側的なMNの誕生を促進しなかった。これらの結果より、前駆体がRA/SAGに曝露される日が尾側化の主要なトリガーであることが明らかとなった。RA/SAGを更に遅延させると、よりいっそう多くの尾側MNサブタイプが誘発された。D5において、前方胸部アイデンティティーを有するMNが生成し(HOXC8/C9の59.8%) (
図1B~
図E)、そのうち27.6%のMNがFOXP1+四肢神経支配性アイデンティティーを獲得した(
図1F)。HOXC9/FOXP1/SCIP (ヒト前方胸部脊髄に位置し、また手部神経支配性MNに対応し得る)が、この条件においてほぼ排他的に認められた(
図1F、S2F~G)。従って、RA/SAG (D6又はD7)は、HOXC9の発現及びFOXP1
high MNの喪失により実証されるように、胸中部アイデンティティーを獲得するMNを規定した(
図1B~
図F、S2F~G)。RA/SAGの添加を徐々に遅延させたときに、MNアイデンティティーの尾側化が徐々に進行することが、誘導PSC(iPSC)系統を用いて確認された。重要なこととして、CHIRの濃度増加(3~4μM)が、D3においてCDX2を発現する前駆体の均質な集団を生成し、そして尾側MNサブタイプの後続するスペシフィケーションを観察するのに必要であった(
図S2H~
図J)。これは、系統間の差異(将来的な研究にとって重要な結果)を示唆する。
【0158】
全体として、TGF-BMP経路阻害と組み合わせてWntを活性化することで、hPSCは異なるHOXの組合せを発現し、またヒト胚内の異なる吻側尾側位置において見出される子孫を生成する能力を有する前駆体に変換する。従って、これらの前駆体は体軸前駆体として認定される。Wnt及びRA間のタイムウィンドウの期間が子孫の最終的な位置アイデンティティーを規定する。
【0159】
エージング体軸前駆体における尾側HOX遺伝子及びFGF標的遺伝子の並行誘発
次に、RA曝露前に、エージング体軸前駆体において経時的に生ずる分子変化の明確化を追求した。分化から2、3、及び4日目に、hESC及びhESC由来の体軸前駆体の比較トランスクリプトーム分析を実施した(
図2A及びTable S1)。hESCと比較して、前駆体におい2倍を超えて(p<0.05)富化された遺伝子の経路分析より、HOX遺伝子の転写活性化と並行してWnt経路が活性化されることが示唆された(図示せず)。その体軸能力と一致して、D2、D3、及びD4前駆体は、マウス尾側側方エピブラスト(caudal lateral epiblast)(その中に体軸前駆体が存在する)の細胞を特徴づける転写物(SOX2を含む、CDX1及び2、TBXT (BRACHYURY)、FGF17、RXRG、SP5/8、WNT5A/B、WNT8A、FGF8、GRSF1、CYCTM1、HES3の発現)内での高度の富化;ほとんどの多能性マーカーの喪失、並びに結節細胞、中胚葉、及び尿膜の代表的マーカーの不存在(
図2B~
図2C及びTable S1) (Cambray and Wilson, 2007; Edri et al., 2019; Gouti et al., 2014; Gouti et al., 2017; Henrique et al., 2015; Koch et al., 2017; Wymeersch et al., 2016; Wymeersch et al., 2019)を示した。更に、そのトランスクリプトームは、体軸前駆体の集団を代表するマウス両能性神経中胚葉前駆体(NMP)のうちの1つと高度に類似している (Gouti et al., 2014; Gouti et al., 2017; Henrique et al., 2015; Tzouanacou et al., 2009; Wymeersch et al., 2016)。初期及び後期NMPを規定する142の遺伝子のうち(Gouti et al., 2017)、D2、D3、又はD4前駆体は、そのうちの122個(それには、前駆体をhESCと比較したとき、最も富化された遺伝子が含まれた)を発現した(
図2C)。従って、D2及びD3体軸前駆体は、タンパク質レベルにおいて、SOX2、CDX2、及び低レベルのTBXTを同時発現した(NMPと関連するシグネチャー(Attardi et al., 2018; Denham et al., 2015; Diaz-Cuadros et al., 2020; Edri et al., 2019; Faustino Martins et al., 2020; Gouti et al., 2014; Gouti et al., 2017; Lippmann et al., 2015; Metzis et al., 2018; オリーブra-Martinez et al., 2012; Wymeersch et al., 2019)) (
図2D)。全体として、これらの結果より、Wntにより誘発されたhPSC由来の体軸前駆体は、脊髄の伸長をフィードするマウス前方尾側側方エピブラストの体軸前駆体に類似することが実証された(Edri et al., 2019; Gouti et al., 2014; Gouti et al., 2017; Henrique et al., 2015; Koch et al., 2017; Liu et al., 2001; Wymeersch et al., 2016).
【0160】
次に、エージング前駆体のトランスクリプトームの比較分析より、脊髄内で局在化した発現パターンを示すHOX遺伝子の時間的共直線的活性化が示唆された。D2において、前駆体は、HOXA5及び低レベルのHOXC6(前方脊髄内の発現において前方境界を有するHOX複合体の3'側の半分に属する)を発現した(
図1A、S1)。D3において、HOXC8は良好に発現され、またHOXC9発現が開始したが、両遺伝子は脊髄の中央部において発現しているHOXC複合体の中央部分に属する(
図1A、S1)。それらの発現は、4日目に、RA/SAGに曝露したときに、HOXC8 MN及びHOXC9 MNの一部を誘発する前駆体において更に増加した(それぞれ3.8倍及び3.4倍) (
図1C~
図1D)。非発現HOX遺伝子は、10~13個のパラログ群(最も後期及び最も尾側的に発現されるHOX)に相当した(Gaunt、1991; Izpisua-Belmonte et al., 1991; Philippidou and Dasen、2013)及び
図1A)。体軸前駆体における共直線的活性化の時間性は、従ってRA/SAGが遅延したときにより尾側的なMNが生成することと一致する(
図1)。従って、WntはHOX遺伝子の時間的共直線的活性化(前駆体の吻側尾側ポテンシャルにおける変化と並行関係にある)を誘発した。
【0161】
HOX遺伝子の連続的な誘発と並行して活性化される経路を定義するために、D2~D3において2倍を超えて(p<0.05)増加した遺伝子上で経路分析を実施した。232個の遺伝子において、代表的なMAPK標的遺伝子(ETV5、DUSP4、DUSP6、IL17DR、又はSPRY2)の発現が徐々に増加することに起因して、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)経路が活性化することと関連する注釈に対応する富化を検出した(
図2F~
図2H)。MAPKは、FGFシグナル伝達の古典的なメディエーターである(Lunn et al., 2007)。MAPK標的遺伝子の上昇とも一致して、FGF8及びFGF17 (幼鶏胚の尾側エピブラストにおいて経時的に増加することがこれまでに記載された2つの分泌型FGFリガンド)の発現増加が観測された(
図2G~
図2H) (Liu et al., 2001; Wymeersch et al., 2019).
【0162】
従って、HOX遺伝子の連続的な共直線的発現は、体軸前駆体内でのFGFリガンド及びMAPK標的遺伝子の発現増加と並行関係にある。FGFは尾側Hox遺伝子をその他の系において促進するので(Bel-Vialar et al., 2002; Dasen et al., 2003; Liu et al., 2001)、傍分泌又は自己分泌FGFシグナル伝達がHOX遺伝子の連続的誘発のトリガーとなり得るものと仮定した。
【0163】
FGFシグナル伝達がHOXの連続的活性化及び尾側MNスペシフィケーションに必要とされる
本発明者らは、内因性FGFシグナル伝達が、体軸前駆体吻側尾側ポテンシャルにおける時間的シフト及びHOX遺伝子誘発に必要とされるかテストすることに主眼を置いた。そのために、エージング前駆体内のFGFシグナル伝達をRA曝露前にブロックし、そして尾側HOX遺伝子誘発及びMNサブタイプスペシフィケーションに対する影響をテストした。D3~D7において、前駆体を、i) PD173074(選択的FGFR1/3アンタゴニスト)、又はii) PD0325901(MAPKキナーゼMEK1/2を阻害する)に曝露した(
図3A)。PD173074条件において少ない数のEBを収集したといえども、MN生成効率は2つの阻害剤により影響を受けなかった(
図3B)。コントロール条件では、RA/SAGは、D7においてHOXC8 (97.5%)及びC9 (87.6%)を発現するMNを誘発した。対照的に、D3において阻害剤を添加すると共に、D7においてRA/SAGを添加すると、前方上肢アイデンティティーを有するMN (HOXC6)が生成した。このより前方のアイデンティティーは、RAを初期のD3前駆体に添加したときに通常取得され、阻害剤は吻側尾側ポテンシャルの時間的変化をブロックすることを示している(
図3A~C)。次に、前駆体の年齢と子孫の吻側尾側アイデンティティーとの間の解離が、体軸前駆体におけるHOX遺伝子誘発の連続性が損なわれることと関連するかテストした。D3においてMEK1/2を阻害した後に、HOXC6、C8、及びC9 mRNAの発現をモニタリングした。コントロール条件では、3つの遺伝子は経時的に増加した一方、MEK阻害はD4又はD5においてこの増加をブロックした(
図3D)。従って、エージング体軸前駆体におけるFGFシグナル伝達の阻害は、HOXの時間的誘発及び尾側細胞型のスペシフィケーションをブロックする。本発明者らのトランスクリプトーム分析より、FGF8及びFGF17発現の時間的な増加(FGF濃度及び/又は曝露期間の増加がHOXクロックのペースを決定し得ることを示唆する)が示された。
【0164】
FGFレベルがHOXクロック及びMNサブタイプスペシフィケーションのペースを決定する
環境FGFのレベルがHOXクロックのペースを決定するかテストするために、初期D3前駆体を、FGF2と共に、RA/SAGに異なる濃度で異なる期間曝露した。FGF2曝露を受けた全ての条件において、より尾側的なMNアイデンティティーが、RAの添加を遅延させる必要もなく誘発された(
図4A~
図4D)。従って、尾側化の範囲はFGFパラメーターにより変化した。D3~D9において、前駆体を漸増濃度のFGF2に曝露すると、徐々により多くの尾側MNサブタイプが誘発された。尾側上肢HOXC8 MNが15ng/mlにおいて(68.2%、8.6倍の増加)、及びHOXC9+/HOXC6-胸部MNが60ng/mlにおいて(58.9%、82.5倍の増加)誘発された一方、120ng/mlでは、HOXC6 MNが若干より多く低下した(
図4A~
図4D、S6A~H)。FGF8について類似した結果を得た(
図S3B)。120ng/mlのFGF2を24時間又は48時間添加すると尾側上肢又は胸中部アイデンティティーを有するMNを誘発したので(24時間の場合、49.7% HOXC6、79.4% HOXC8、14.7% HOXC9、47.9% FOXP1
high/SCIP) (48時間の場合、7.5% HOXC6、76.4% HOXC9、13.2% FOXP1
high/SCIP) (
図4A~
図4C、S3C~H)、FGFは体軸前駆体に対して直接且つ迅速に作用した。
【0165】
この尾側化効果が上肢及び胸部HOX遺伝子の誘発を加速化させることにより明らかとなるか確認するために、FGF2処置後24時間及び48時間においてリアルタイムPCR分析を実施した。HOXC8、HOXC9、HOXD9、及びHOXC10発現について、RA/SAGコントロールと比較して、早発性の増加が観測された(
図4F)。
【0166】
従って、FGFシグナル伝達が早発的に増加することで、初期の体軸前駆体において尾側HOX遺伝子の誘発が促進され、その結果、同一の分化タイムライン(14日間)内でより尾側的な細胞型のスペシフィケーションをもたらした。これらの結果より、FGFシグナル伝達のレベル又は期間が、ヒト体軸前駆体分化期間中のHOX共直線的活性化のテンポについて、そのペースを動的に決定することが実証される。
【0167】
FGF及びGDF11はHOXクロックを更に加速させるように協働的に作用する
FGF2はHOX誘発を加速させたが、生成したMNは胸中部レベルまでであり、初期の体軸前駆体は、より尾側的なセグメントを生成する能力を有さない可能性があることが示唆される。或いは、その他の外因的因子が、HOX遺伝子の誘発を更に加速させ、またより尾側的なアイデンティティーを促進するのに必要とされる。GDF11は、体軸伸長のコントロール、MNサブタイプのスペシフィケーションと関わるTGFファミリーのメンバーであり、また後期NMP様細胞において、in vivo 及びin vitroで、10個のパラログから開始する最も5'側のHOX遺伝子の発現に必要とされる(Aires et al., 2019; Gaunt et al., 2013; Lippmann et al., 2015; Liu、2006; Liu et al., 2001; McPherron et al., 1999; Peljto et al., 2010)。D3初期前駆体を、RA及びGDF11 (25ng/ml)の組合せに24時間又は48時間曝露した。24時間GDF11曝露は、尾側上肢及び前方胸部MNを誘発した(58.7% HOXC8、41.0% HOXC9);最も後期のカテゴリーは48時間後に増加した(
図4A、
図4E、S4A)。しかしながら、FGF2と同様に、より尾側的なアイデンティティーはまったく認められなかった。幼鶏において、脊髄外植片をFGF2及びGDF11の組合せに曝露すると、2つの因子を個別に用いた場合よりも尾側的なMNが促進された(Liu et al., 2001)。従って、この組合せがクロックを加速させ、そして尾側胸部又は腰部アイデンティティーを促進するかテストした。FGF2/GDF11処置後の24時間において、HOXC9、HOXD9、及びHOXC10 mRNAは強く誘発され(コントロールと比較して、それぞれ65.4、2774.77、及び3329.44倍)、そして48時間後には更に増加した(
図4F)。同様に、24時間(D3~D4)処置は、14日目において、尾側胸部MN (88.2% HOXC9及び46.7% HOXD9)を、また曝露から48時間後には腰部HOXC10 MNを誘発した(11.1%) (
図4B、
図4E、S4B~E).
【0168】
従って、体軸前駆体は、上肢から腰部にかけて異なる脊髄吻側尾側アイデンティティーを生成する能力を有する。FGF及びGDF11に対する曝露のパラメーター(濃度、期間、及び組合せ)の変化は、HOXクロックが進行するスピードのペースを動的に決定し、分化の同一タイムライン内で初期又は後期に生み出されるMNサブタイプのスペシフィケーションを引き起こす。
【0169】
Table S1-トランスクリプトームデータ及び体軸前駆体及びその他の発達的に関連する細胞型を規定するマーカーのリスト
第1のパネルは、hESC、D2、D3、及びD4複製物に対する各遺伝子についてリードの標準化された数を示す。次のパネルは、表示の比較において富化された遺伝子(FC≧2.0、p値<0.05)のリストを示す。最後のパネルは、特定の細胞型(尿膜、中胚葉前駆体)を特定する遺伝子のリスト及びこれらのリストを構築するのに使用した参考資料を示す。
【0170】
【0171】
【0172】
【0173】
【0174】
【0175】
考察
全体として、hPSCからの体軸前駆体の選択的生成(特異的マーカーの組合せ、詳細なトランスクリプトーム分析、及び異なる吻側尾側レベルにおいて見出される細胞型を生成するその能力により実証される)について報告する。重要なこととして、その後信頼性を伴って尾側細胞型を誘発するための体軸前駆体状態を強力に誘発するのに必要とされるCHIRの濃度が最適であっても、系統間差異が観測されたことが挙げられる。体軸前駆体に効果的にアクセスすることで、本発明者らは、濃度の変化、期間、及び尾側化因子FGF及びGDF11の組合せがHOX遺伝子の時間的共直線的活性化が生ずるスピードをコントロールすることを明示する。従って、HOXクロックのペースは、外因的手掛かりへの曝露のパラメーターにより動的にコードされる。HOX複合体に沿ってその活性化期間中に生ずるクロマチン構造の連続的な変化は、外因的要因により作動及び停止される固有のタイマーとして作用するとは思われない(Bel-Vialar et al., 2002; Del Corral and Storey, 2004; Kimelman and Martin, 2012; Lippmann et al., 2015; Mazzoni et al., 2013; Narendra et al., 2015; Noordermeer et al., 2011; Noordermeer et al., 2014; Soshnikova and Duboule, 2009; Tschopp et al., 2009)。本発明の結果は、「老化した」体軸前駆体を「より若い」尾側ステムゾーンに異時性的グラフティング(heterochronic grafting)を行うことで、そのHOXプロファイルを「若い」ものに復帰させるという観察結果に対して分子的基礎を提供し得る(McGrew et al., 2008; Wymeersch et al., 2019)。分泌因子によりHOXクロックのペースを決定することで、隣接する前駆体(組織レベルにおいて発現ドメインの出現を可能にし得る)間のHOX発現を同期させるためのコミュニティー効果が保証される(Durston、2019)。更に、FGF及びGDFは幹細胞プール及び体軸伸長の維持もコントロールしている(Aires et al., 2019; Boulet and Capecchi、2012; Jurberg et al., 2013; Mallo et al., 2009; McPherron et al., 1999)。Hox遺伝子誘発と共に体軸の吻側尾側伸長をコントロールする一般的機構は、形態形成とパターンニングを結びつけるための節約的な方法である(Denans et al., 2015; Young et al., 2009)。生物工学の観点において、HOXクロックの外因的コントロールは、PSCから定義された「吻側尾側」アイデンティティーを有する細胞型を作出する単純な手段を提供する。そのような手段は、体軸伸長期間中に異なる発達時期において生み出される細胞を生成するための時間的要件を短縮する。これは、定義された吻側尾側アイデンティティーを有するヒトMNサブタイプを、前例のない効率及び精密性を伴いつつ、同時に作出することを可能にする。特に、本発明者らは、推定されるハンドコントローリングMNの生成に対する最初のエビデンスを提供する(Mendelsohn et al., 2017)。MNサブタイプは、疾患及び脊髄傷害において差次的脆弱性を示す。本発明者らの結果は、これら不治性疾患をモデリングするための待望の資源、及び推定される細胞療法アプローチのためのよりコントロールされた細胞供給源に対するアクセスを提供する。(Abati et al., 2019; An et al., 2019; Baloh et al., 2018; Nijssen et al., 2017; Ragagnin et al., 2019; Sances et al., 2016; Steinbeck 及び Studer、2015; Tung et al., 2019)。HOXは、3つの系統において細胞の多様化を指図する際に中心的役割を演ずるので、HOXクロックをコントロールしながら操作することは、MNサブタイプの他に細胞工学にとっても大きな可能性を有する。本発明者らの戦略は、その他の体軸幹細胞誘導体、例えば傍軸中胚葉等(身体の異なる筋肉を生成する)にも拡張可能と考えられ、神経筋疾患をモデリングするための明白な用途も有する(Bakooshli et al., 2019; Diaz-Cuadros et al., 2020; Faustino Martins et al., 2020; Frith et al., 2018; Machado et al., 2019; Matsuda et al., 2020; Osaki et al., 2020; Pourquie et al., 2018; Steinbeck et al., 2015; Verrier et al., 2018)。更に広く見れば、同一の前駆体ドメインから異なる型のニューロン又はグリアを時間的に生成させることが、神経系において細胞多様性を増加させるための幅広く使用される戦略である(Dias et al., 2014; Kohwi and Doe、2013; Oberst et al., 2019a; Rossi et al., 2017)。外因的手掛かりは、これらの時間的な順序を紐解く際に重要な役割を演じている(Kawaguchi、2019; Oberst et al., 2019a; Oberst et al., 2019b; Syed et al., 2017; Tiberi et al., 2012)。これらの系統の時間制を外因的に操作することで、疾患モデリング及び細胞療法の両基礎研究用の初期及び後期に生み出される細胞の生成が改善するはずである。
【0176】
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2023-07-26
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトニューロンサブポピュレーションの吻側尾側アイデンティティーをコントロールするためのin vitro又はex vivoでの方法であって、レチノイン酸(RA)、ヘッジホッグシグナル伝達経路のアゴニスト、
及び任意選択的にFGFRアゴニスト
又はTGF/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経路アクチベーターを含む培養培地内で体軸前駆体を培養し、
これにより脊髄運動ニューロン前駆体を取得する工程を含み、徐々により多くの尾側運動ニューロンアイデンティティーが、前記培養培地内へのレチノイン酸の遅延添加により、
又は前記FGFRアゴニスト
若しくは前記TGF/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経路アクチベーターと組み合わせたレチノイン酸の添加により取得される、方法。
【請求項2】
-
ヒト多能性幹細胞(hPSC)を、Wntシグナル伝達経路アクチベーター、並びに任意選択的にBMP経路の阻害剤及びTGFβ経路の阻害剤を含む培養培地内に曝露させて、体軸前駆体を取得する工程と、
-
前記体軸前駆体を、前記培養培地内で、任意選択的にFGFRアゴニスト
又はTGF/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経路アクチベーターと組み合わせて、レチノイン酸(RA)及び
ヘッジホッグシグナル伝達経路アゴニストに曝露して、脊髄運動ニューロン前駆体を取得する工程と、
- 任意選択的に、脊髄運動ニューロン前駆体を、前記培養培地内で、ノッチ経路阻害剤に曝露する工程と
を含み、
徐々により多くの尾側運動ニューロンアイデンティティーが、前記Wntシグナル伝達経路アクチベーターに対する曝露に関して、
前記体軸前駆体のレチノイン酸に対する曝露を遅延させることによるか、或いは
前記体軸前駆体を、前記FGFRアゴニスト
又は前記TGF/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経路アクチベーターに対する曝露濃度又は期間の増加と組み合わせてレチノイン酸に曝露することにより生成される、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ヒト多能性幹細胞(hPSC)が、骨形成タンパク質(BMP)シグナル伝達経
路阻害剤、
及び形質転換増殖因子(TGF)/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経
路阻害剤と組み合わせて、Wntシグナル伝達経
路アクチベーターに曝露される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
- 前記骨形成タンパク質(BMP)シグナル伝達経路阻害剤、前記形質転換増殖因子(TGF)/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経路阻害剤、及びWntシグナル伝達経路アクチベーターがD0から開始してD3又はD4まで前記培養培地内に添加され、
- ソニックヘッジホッグシグナル伝達経路アゴニストが、D3~D7から開始して、D9又はD10まで前記培養培地に添加され、
- 任意選択的に、ノッチ経路阻害剤がD9~D14の間において添加される、
請求項3に記載の方法。
【請求項5】
尾側胸部及び腰部運動ニューロンが、体軸前駆体を、レチノイン酸、前記FGFRアゴニスト、及び前記TGF/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経
路アクチベーターに曝露することにより取得される、請求項1から
4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記FGFRアゴニストが、少なくとも15ng/ml、一般的に少なくとも60ng/ml、及び特に少なくとも100ng/mlの濃度で、前記培養培地内に少なくとも24時間添加され、及び前記TGF/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経
路アクチベーターが、少なくとも20ng/mlの濃度で、前記培養培地に少なくとも24時間添加される、請求項1から
5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
RAが2日~11日の期間、任意選択的にD3~D9の間において、任意選択的に少なくとも10nMの濃度で前記培養培地に添加される、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
- 上肢運動ニューロンが、
D4~D9の間においてRAを単独で
前記培養培地に添加することにより、
又はD3~D9の間においてRAを、及びD3~D4の間において少なくとも100ng/mlの濃度のFGFRアゴニスト若しくは少なくとも20ng/mlの濃度の
TGF/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経路アクチベーターそれぞれを、前記培養培地に添加することにより取得され、
- 前方胸部運動ニューロンが、D5
又はその後から開始してD9まで、
RAを単独で前記培養培地内に添加することにより、又はD3~D9の間において
RAを、及び少なくとも60ngの濃度のFGFRアゴニスト又は少なくとも20ng/mlの濃度の
TGF/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経路アクチベーターを、前記培養培地内へのRA添加の前24~48時間の間において、前記培養培地内に添加することにより取得され、
- 尾側胸部運動ニューロンが、D3~D9の間においてRAを、及びD3~D4の間において、少なくとも100ng/mlの濃度のFGFRアゴニストと少なくとも20ng/mlの濃度のTGF/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経路のアクチベーターとを、
前記培養培地内に添加することにより取得され、
- 腰部運動ニューロンが、D5~D9の間においてRAを、及び
D3又はD4~D5の間において、少なくとも100ng/mlの濃度のFGFRアゴニストと少なくとも20ng/mlの濃度のTGF/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経路のアクチベーターとを、
前記培養培地内に添加することにより取得される、
請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記FGFRアゴニストがFGFR2である、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記ソニックヘッジホッグシグナル伝達経
路アゴニストが平滑化アゴニスト(SAG)
である、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記ソニックヘッジホッグシグナル伝達経路アゴニストが、少なくとも300nMの濃度のSAGである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記ノッチ経路阻害剤がDAPTである、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記ノッチ経路阻害剤が
、少なくとも5μMの濃度のDAPTである、請求項
12に記載の方法。
【請求項14】
前記Wntシグナル伝達経
路アクチベーターが、
Chir-99021化合物又はWnt3aタンパク質
である、請求項1から
13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記TGF/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経
路アクチベーターが、GDF11又はGDF8
である、請求項1から
14のいずれか一項に記載の方法。
【国際調査報告】