(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-11
(54)【発明の名称】S1Pモジュレーターとしてのスピロ環状アミン誘導体
(51)【国際特許分類】
C07D 265/34 20060101AFI20231228BHJP
A61K 31/5386 20060101ALI20231228BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20231228BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20231228BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
C07D265/34 CSP
A61K31/5386
A61P25/00
A61P25/28
A61P43/00 111
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023533304
(86)(22)【出願日】2021-11-30
(85)【翻訳文提出日】2023-07-18
(86)【国際出願番号】 EP2021083544
(87)【国際公開番号】W WO2022117553
(87)【国際公開日】2022-06-09
(32)【優先日】2020-12-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513144626
【氏名又は名称】アッヴィ・ドイチュラント・ゲー・エム・ベー・ハー・ウント・コー・カー・ゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アンベルク,ビリー
(72)【発明者】
【氏名】バックフィッシュ,ギーゼラ
(72)【発明者】
【氏名】ボディエ,カレン
(72)【発明者】
【氏名】ヘンペル,カチヤ
(72)【発明者】
【氏名】ラプランシュ,ロイク
(72)【発明者】
【氏名】メッツラー,マリオ
(72)【発明者】
【氏名】オクセ,ミヒャエル
(72)【発明者】
【氏名】ターナー,ショーン
(72)【発明者】
【氏名】ファン・ベルゲアイク,イェルン
(72)【発明者】
【氏名】ファン・デル・カム,エリザベス
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086AA04
4C086BC74
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA02
4C086ZA15
4C086ZA16
4C086ZC41
(57)【要約】
本発明は、S1P受容体のモジュレーターであって、CNS障害の治療に有用である、スピロ環状アミン誘導体に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の構造を有する化合物1である化合物、
【化1】
又はその薬学的に許容される塩。
【請求項2】
以下の構造を有する化合物1aである請求項1に記載の化合物、
【化2】
又はその薬学的に許容される塩。
【請求項3】
以下の構造を有する化合物1bである請求項1に記載の化合物、
【化3】
又はその薬学的に許容される塩。
【請求項4】
塩酸塩である、請求項1~3のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の化合物又はその薬学的に許容される塩、及び少なくとも1種の薬学的に許容される担体を含む、医薬組成物。
【請求項6】
S1P受容体活性を調節する方法であって、請求項1~4のいずれか一項に記載の化合物又はその薬学的に許容される塩をS1P受容体と接触させるステップを含む、方法。
【請求項7】
S1PがS1P5である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
接触させるステップが、化合物を患者に投与するステップを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
S1P5に関連する疾患又は障害を治療する方法であって、治療有効量の請求項1~4のいずれか一項に記載の化合物又はその薬学的に許容される塩を、治療を必要とする患者に投与するステップを含む、方法。
【請求項10】
CNS障害の治療を必要とする患者におけるCNS障害を治療する方法であって、治療有効量の請求項1~4のいずれか一項に記載の化合物又はその薬学的に許容される塩を患者に投与するステップを含む、方法。
【請求項11】
CNS障害が、アルツハイマー病又は血管性認知症である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
CNS障害が、ニーマン・ピック病である、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
CNS障害が、ニーマン・ピック病C型である、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
CNS障害が、統合失調症における認知機能障害、強迫性行動、大うつ病、自閉症、多発性硬化症、又は疼痛である、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
CNS障害が、認知障害である、請求項10に記載の方法。
【請求項16】
認知障害が、加齢関連認知低下である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
以下の構造を有する化合物1、
【化4】
又はその薬学的に許容される塩を調製する方法であって、
(a)化合物G又はその塩を、
【化5】
以下の構造を有する化合物と反応させて、
【化6】
化合物H又はその塩を調製するステップ、
【化7】
及び
(b)化合物H又はその塩を水酸化物と反応させ、続いて酸で処理して、化合物1を形成するステップを含む、方法。
【請求項18】
化合物G又はその塩が、化合物D又はその塩を、
【化8】
CH
2=CH-C(O)OEtと反応させることによって調製される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
化合物Dが、化合物C又はその塩を、
【化9】
プロトン酸と反応させることによって調製される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
化合物C又はその塩が、化合物Bを、
【化10】
1,2-エタノールアミンと反応させることによって調製される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
化合物Bが、化合物Aを、
【化11】
トリメチルスルホニウムブロミドと反応させることによって調製される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
請求項17~21のいずれか一項に記載の方法によって調製される化合物1である、化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、S1P受容体に対して親和性を有するスピロ環状アミン誘導体、この化合物を含有する医薬組成物、並びに任意のS1P受容体が関与する、又は任意のS1P受容体を介する内因性S1Pシグナル伝達系の調節が関与する、疾患及び状態を治療、緩和又は予防するための医薬を調製するための、この化合物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
スフィンゴシン-1-リン酸(S1P)は、生物活性スフィンゴ脂質であり、これは、増殖、細胞骨格組織化及び遊走、接着及び密着結合アセンブリ、並びに形態形成などの多種多様な細胞応答を媒介する。S1Pは、原形質膜局在化Gタンパク質共役型受容体の内皮細胞分化遺伝子ファミリー(EDG受容体)のメンバーと結合できる。現在までに、このファミリーの5つのメンバー、S1P1(EDG-1)、S1P2(EDG-5)、S1P3(EDG-3)、S1P4(EDG-6)及びS1P5(EDG-8)が、異なる細胞型におけるS1P受容体として同定されている。S1Pは、多くの細胞型において細胞骨格再配置を生じることができ、中枢神経系(CNS)及び末梢器官系における免疫細胞輸送、血管恒常性及び細胞通信を調節する。
【0003】
S1Pは血管内皮によって分泌され、200~900ナノモルの濃度で血液中に存在し、アルブミン及び他の血漿タンパク質によって結合されることが知られている。これは、細胞外液中の安定な貯蔵所、及び高親和性細胞表面受容体への効率的な送達の両方を提供する。S1Pは、5つの受容体S1P1~5に低ナノモルの親和性で結合する。加えて、血小板もまたS1Pを含有し、局所的に放出されて、例えば血管収縮を引き起こし得る。受容体サブタイプS1P1、S1P2及びS1P3は、広く発現され、心血管系において顕性受容体を表す。更に、S1P1はリンパ球上の受容体でもある。S1P4受容体は、ほぼ排他的に造血系及びリンパ系に存在する。S1P5は、主に(排他的ではないが)中枢神経系において発現される。S1P5の発現は、マウスの希突起膠細胞、脳のミエリン形成細胞に限定されるようであるが、ラット及びヒトにおいては、星状細胞及び内皮細胞のレベルでの発現が見出されたが、希突起膠細胞では見出されなかった。
【0004】
S1P受容体モジュレーターは、1種以上のS1P受容体においてアンタゴニスト又はアゴニストとしてシグナル伝達する化合物である。本発明は、S1P5受容体のモジュレーター、特にアゴニストに関し、望ましくない心血管及び/又は免疫調節効果を考慮して、好ましくは、S1P1及び/又はS1P3受容体に対する選択性を有するアゴニストに関する。現在、S1P5アゴニストが、認知障害、特に加齢関連認知低下の治療において使用され得ることが見出されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
加齢関連認知低下及び認知症を治療するために使用できる治療薬を開発するための研究が進行中であるが、これは、多くの成功した候補をまだもたらしていない。したがって、所望の特性を有する新しい治療薬が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(発明の要旨)
本発明は、以下の構造を有する化合物1、
【0007】
【化1】
又はその薬学的に許容される塩を提供する。
【0008】
本発明は、化合物1又はその薬学的に許容される塩及び少なくとも1種の薬学的に許容される担体を含む医薬組成物を更に提供する。
【0009】
本発明は、S1P受容体(例えば、S1P5)活性の調節方法を更に提供し、この方法は、化合物1又はその薬学的に許容される塩をS1P受容体と接触させるステップを含む。
【0010】
本発明は、S1P5の活性に関連する疾患又は障害を治療する方法を更に提供し、この方法は、治療有効量の化合物1又はその薬学的に許容される塩を必要とする患者に投与するステップを含む。
【0011】
本発明は、患者におけるCNS障害を治療するための方法を更に提供し、この方法は、治療有効量の化合物1又はその薬学的に許容される塩を患者に投与するステップを含む。
【0012】
本発明は、治療における、化合物1又はその薬学的に許容される塩の使用を更に提供する。
【0013】
本発明は、治療で使用するための医薬の調製において使用するための、化合物1又はその薬学的に許容される塩を更に提供する。
【0014】
本発明は、化合物1又はその薬学的に許容される塩を調製するための方法を更に提供する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
化合物
以下の構造を有する化合物1である化合物、
【0016】
【化2】
又はその薬学的に許容される塩が、本明細書で提供される。
【0017】
いくつかの実施形態において、化合物は、以下の構造を有する化合物1a、
【0018】
【0019】
いくつかの実施形態において、化合物は、以下の構造を有する化合物1b、
【0020】
【0021】
いくつかの実施形態において、化合物は、3-(5-((2-クロロ-6-エチルベンジル)オキシ)-2,3-ジヒドロスピロ[インデン-1,2’-モルホリン]-4’-イル)プロパン酸である。
【0022】
いくつかの実施形態において、化合物は、(S)-3-(5-((2-クロロ-6-エチルベンジル)オキシ)-2,3-ジヒドロスピロ[インデン-1,2’-モルホリン]-4’-イル)プロパン酸である。
【0023】
いくつかの実施形態において、化合物は、(R)-3-(5-((2-クロロ-6-エチルベンジル)オキシ)-2,3-ジヒドロスピロ[インデン-1,2’-モルホリン]-4’-イル)プロパン酸である。
【0024】
いくつかの実施形態において、化合物は、前述の化合物のいずれかの塩酸塩である。
【0025】
本発明の特定の特徴は、明確にするために、別個の実施形態の文脈で記載され、単一の実施形態において組み合わせて提供することもできることが更に理解される(一方、実施形態は、複数の従属形式で書かれているかのように組み合わされることを意図している。)。逆に、簡潔にするために単一の実施形態の文脈で記載されている本発明の様々な特徴は、別々に又は任意の適切なサブコンビネーションで提供することもできる。
【0026】
本明細書に記載される化合物は、非対称であり得る(例えば、1個以上の立体中心を有する。)。全ての立体異性体、例えば、エナンチオマー及びジアステレオマーを、他に示されない限り、意図する。非対称的に置換された炭素原子を含有する本発明の化合物は、光学活性体又はラセミ体で単離できる。光学的に不活性な出発物質から光学的に活性な形態を調製する方法は、当該分野で公知であり、例えば、ラセミ混合物の分割、又は立体選択的合成による。
【0027】
化合物のラセミ混合物の分割は、当技術分野で公知の多数の方法のいずれかによって行うことができる。1つの方法は、光学的に活性な塩形成有機酸であるキラル分割酸を使用する、分別再結晶を含む。分別再結晶法に適した分割剤は、例えば、光学活性酸、例えば、D型及びL型の酒石酸、ジアセチル酒石酸、ジベンゾイル酒石酸、マンデル酸、リンゴ酸、乳酸、又は種々の光学活性カンファースルホン酸、例えば、β-カンファースルホン酸である。分別結晶法に適した他の分割剤としては、α-メチルベンジルアミンの立体異性的に純粋な形態(例えば、S及びR形態、又はジアステレオマー的に純粋な形態)、2-フェニルグリシノール、ノルエフェドリン、エフェドリン、N-メチルエフェドリン、シクロヘキシルエチルアミン、1,2-ジアミノシクロヘキサンなどが挙げられる。
【0028】
ラセミ混合物の分割は、適切な溶出溶媒組成物を使用して、光学活性分割剤(例えば、ジニトロベンゾイルフェニルグリシン)を充填したカラム上での溶出によっても行うことができる。
【0029】
いくつかの実施形態において、本発明の化合物は、(R)配置を有する。他の実施形態において、化合物は(S)配置を有する。
【0030】
本発明の化合物は、中間体又は最終化合物中に存在する原子の全ての同位体を含むこともできる。同位体は、同じ原子番号を有するが異なる質量数を有する原子を含む。例えば、水素の同位体にはトリチウム及び重水素が含まれる。本発明の化合物の1個以上の構成原子は、天然又は非天然存在度の原子の同位体で置き換える又は置換できる。いくつかの実施形態において、化合物は、少なくとも1個の重水素原子を含む。例えば、本開示の化合物中の1個以上の水素原子は、重水素によって置き換えられ得る、又は置換され得る。いくつかの実施形態において、化合物は、2個以上の重水素原子を含む。いくつかの実施形態において、化合物は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11又は12個の重水素原子を含む。有機化合物に同位体を含めるための合成方法は、当技術分野で公知である(Deuterium Labeling in Organic Chemistry by Alan F.Thomas(New York、N.Y.、Appleton-Century-Crofts、1971、The Renaissance of H/D Exchange by Jens Atzrodt、Volker Derdau、Thorsten Fey and Jochen Zimmermann、Angew.Chem.Int.Ed.2007、7744-7765、The Organic Chemistry of Isotopic Labelling by James R.Hanson、Royal Society of Chemistry、2011)。同位体標識された化合物は、NMR分光法、代謝実験及び/又はアッセイなどの様々な研究において使用できる。
【0031】
本明細書で使用される用語「化合物」は、示された構造の全ての立体異性体、幾何異性体、互変異性体及び同位体を含むことを意味する。この用語は、それらがどのように調製されるのか、例えば、合成的、生物学的方法(例えば、代謝又は酵素変換)を通して、又はそれらの組合せ、に関わらず、本発明の化合物を指すことも意味する。
【0032】
全ての化合物及びその薬学的に許容される塩は、水及び溶媒(例えば、水和物及び溶媒和物)などの他の物質と一緒に見出され得る、又は単離され得る。固体状態である場合、本明細書に記載の化合物及びその塩は、様々な形態で存在してもよく、例えば、水和物を含む溶媒和物の形態をとってもよい。化合物は、多形又は溶媒和物などの任意の固体形態であり得、特に明記されていない限り、本明細書における化合物及びその塩への言及は、化合物の任意の固体形態を包含するものとして理解されるべきである。
【0033】
いくつかの実施形態において、本発明の化合物又はその塩は、実質的に単離されている。「実質的に単離された」とは、化合物が、それが形成又は検出された環境から少なくとも部分的に又は実質的に分離されていることを意味する。部分的な分離は、例えば、本発明の化合物が濃縮された組成物を含むことができる。実質的な分離は、本発明の化合物又はその塩の少なくとも約50重量%、少なくとも約60重量%、少なくとも約70重量%、少なくとも約80重量%、少なくとも約90重量%、少なくとも約95重量%、少なくとも約97重量%、又は少なくとも約99重量%を含有する組成物を含むことができる。
【0034】
語句「薬学的に許容される」は、本明細書において、妥当な医学的判断の範囲内で、過度の毒性、刺激、アレルギー反応、又は他の問題若しくは合併症を伴わずに、ヒト及び動物の組織と接触させて使用するのに適しており、妥当な利益/リスク比に見合う、化合物、材料、組成物及び/又は剤形を指すために使用される。
【0035】
表現「周囲温度」及び「室温」は、本明細書で使用される場合、当技術分野において理解されており、一般に、例えば反応温度、反応が行われる部屋のおおよその温度、例えば約20℃~約30℃の温度を指す。
【0036】
本発明は、本明細書に記載される化合物の薬学的に許容される塩も含む。用語「薬学的に許容される塩」は、開示された化合物の誘導体を指し、この親化合物は、存在する酸又は塩基部分を塩形態に変換することによって、修飾される。薬学的に許容される塩の例としては、塩基性残基、例えば、アミンの無機塩又は有機酸塩、酸性残基、例えば、カルボン酸のアルカリ塩又は有機塩などが挙げられるが、これらに限定されない。本発明の薬学的に許容される塩は、塩基性部分又は酸性部分を含む親化合物から、従来の化学的方法によって合成され得る。一般に、このような塩は、これらの化合物の遊離酸形態又は遊離塩基形態を、化学量論量の適切な塩基又は酸と、水中若しくは有機溶媒中、又はこれら2つの混合物中で反応させることによって調製でき、一般に、エーテル、酢酸エチル、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール若しくはブタノール)又はアセトニトリル(MeCN)のような非水性媒体が好ましい。適切な塩のリストは、Remington’s Pharmaceutical Sciences、17thEd.、(Mack Publishing Company、Easton、1985)、p.1418、Berge et al.、J. Pharm. Sci.、1977、66(1)、1-19及びStahl et al.、Handbook of Pharmaceutical Salts:Properties、Selection, and Use,(Wiley、2002)に見出せる。
【0037】
合成
本発明の化合物(その塩を含む)は、公知の有機合成技術を使用して調製でき、例えば、以下のスキームなど、多数の可能な合成経路のいずれかに従って合成できる。
【0038】
本発明の化合物を調製するための反応は、適切な溶媒中で行われ得、適切な溶媒は、有機合成の当業者によって容易に選択され得る。反応が行われる温度で、例えば、溶媒の凍結温度から溶媒の沸点までの範囲であり得る温度で、適切な溶媒は、出発物質(反応物)、中間体又は生成物と実質的に非反応性であり得る。所与の反応は、1種の溶媒又は2種以上の溶媒の混合物中で行い得る。特定の反応ステップに依存して、特定の反応ステップのための適切な溶媒は、当業者によって選択され得る。
【0039】
本発明の化合物の調製は、種々の化学基の保護及び脱保護を含み得る。保護及び脱保護の必要性、並びに適切な保護基の選択は、当業者によって容易に決定され得る。保護基の化学は、例えば、Kocienski、Protecting Groups、(Thieme、2007)、Robertson、Protecting Group Chemistry、(Oxford University Press、2000)、Smith et al.、March’s Advanced Organic Chemistry Reactions, Mechanisms, and Structure、6th Ed.(Wiley、2007)、Peturssion et al、“Protecting Groups in Carbohydrate Chemistry”、J. Chem. Educ.、1997、74(11)、1297及びWuts et al.、Protective Groups in Organic Synthesis、4th Ed.,(Wiley、2006)に記載されている。
【0040】
反応は、当技術分野で公知の任意の適切な方法によって監視できる。例えば、生成物形成は、核磁気共鳴分光法(例えば、1H又は13C)、赤外分光法、分光光度法(例えば、紫外-可視)、質量分析などの分光手段によって、又は高速液体クロマトグラフィー(HPLC)若しくは薄層クロマトグラフィー(TLC)などのクロマトグラフィー法によって、監視できる。
【0041】
以下のスキームは、本発明の化合物の調製に関連する一般的な指針を提供する。当業者は、本発明の様々な化合物を調製するために、有機化学の一般的知識を使用して、スキームに示される調製を改変又は最適化できることを理解されよう。
【0042】
化合物1、1a、及び1bは、例えば、以下のスキームに示される方法を使用して、調製できる。
【0043】
スキーム1に示される方法を使用して、化合物D、E及びFは調製され得る。スキーム1に示される方法において、ケトンAは、塩基(例えば、KOH)の存在下で、スルホニウム塩で処理されて、エポキシドBを生成する。エポキシドBは、塩基(例えば、トリエチルアミン)の存在下で、1,2-エタノールアミンで処理されて、ジオールCを生成する。ジオールCは、酸(例えば、酢酸中のHBr)の存在下で、環化されて、モルホリンDを生成する。モルホリンDは、キラル分割(例えば、超臨界流体クロマトグラフィー)によって、エナンチオマーE及びFに分割され得る。
【0044】
【0045】
化合物1は、スキーム2に示される方法を使用して、調製され得る。化合物Dは、塩基(例えば、N,N-ジイソプロピルエチルアミン)の存在下で、エチルアクリレートで、処理でされて、化合物Gを生成する。化合物Gは、適切な遷移金属カップリング条件(例えば、Pd触媒カップリング反応)下で、(2-クロロ-6-エチルフェニル)メタノールとカップリングさせて、化合物Hを生成し得る。例えば、カップリングは塩基(例えば、炭酸セシウム)の存在下で、Pd2dba3を用いて成し遂げることができる。化合物Hを鹸化し(例えば、LiOHで)、酸(例えば、HCl)で処理して、化合物1を得ることができる。
【0046】
【0047】
化合物1a及び1bは、上記スキーム2に従って化合物1と同様の様式で調製され得、化合物Dの代わりに化合物E又は化合物Fのいずれかから開始して、それぞれ化合物1a又は化合物1bを生成し得る。
【0048】
いくつかの実施形態において、本発明は、以下の構造を有する化合物1、
【0049】
【化7】
又はその薬学的に許容される塩を調製する方法に関し、この方法は、(a)化合物G又はその塩を、
【0050】
【0051】
【0052】
【化10】
及び
(b)化合物H又はその塩を水酸化物と反応させ、続いて酸で処理して、化合物1を形成するステップ、を含む。
【0053】
いくつかの実施形態において、化合物G又はその塩は、化合物D又はその塩を、
【0054】
【化11】
CH
2=CH-C(O)OEtと反応させることによって調製される。
【0055】
いくつかの実施形態において、化合物Dは、化合物C又はその塩を、
【0056】
【化12】
プロトン酸と反応させることによって、調製される。
【0057】
いくつかの実施形態において、化合物C又はその塩は、化合物Bを、
【0058】
【化13】
1,2-エタノールアミンと反応させることによって調製される。
【0059】
いくつかの実施形態において、化合物Bは、化合物Aを、
【0060】
【化14】
トリメチルスルホニウムブロミドと反応させることによって、調製される。
【0061】
本発明は更に、化合物1を塩酸で処理するステップを含む、化合物1の塩酸塩を調製する方法に関する。
【0062】
本発明は更に、化合物1aを塩酸で処理するステップを含む、化合物1aの塩酸塩を調製する方法に関する。
【0063】
本発明は更に、化合物1bを塩酸で処理するステップを含む、化合物1bの塩酸塩を調製する方法に関する。
【0064】
治療方法
化合物1、1a、又は1bは、S1P受容体、特にS1P5受容体を調節する。より具体的には、化合物1、1a、又は1bは、S1P5受容体アゴニストである。化合物1、1a、又は1bは、S1P5受容体の選択的アゴニストであり得、選択性は、S1P1、S1P2、S1P3、及びS1P4のうちの1種以上などの他のS1P受容体に関するものである。したがって、本発明は、化合物1、1a、又は1bをS1P5受容体と接触させることによって、S1P5受容体を調節する方法を対象とする。接触は、インビトロ又はインビボで行うことができる。
【0065】
化合物1、1a、又は1b(その塩を含む)は、S1P受容体(例えば、S1P5)に関連する疾患、又は任意のS1P受容体を介した内因性S1Pシグナル伝達系の調節が関与する疾患を治療及び予防するのに有用である。特に、化合物1、1a、又は1bは、CNS(中枢神経系)障害、例えば、神経変性障害、特に、限定されないが、認知障害(特に、加齢関連認知低下)及び関連状態、例えば、アルツハイマー病、(血管性)認知症、ニーマン・ピック病、及び統合失調症における認知機能障害、強迫性行動、大うつ病、自閉症、多発性硬化症及び疼痛を治療又は予防するために使用され得る。好ましくは、本発明の化合物は、認知障害(特に、加齢関連性認知低下)及び関連状態を治療又は予防するために使用され得る。いくつかの実施形態において、疾患は、ニーマン・ピック病、例えば、ニーマン・ピック病C型である。
【0066】
本明細書で使用される場合、用語「接触させる」は、インビトロ系又はインビボ系において、示された部分が集結して、それらが相互作用するよう十分に物理的に近接することを指す。
【0067】
互換的に使用される用語「個体」又は「患者」は、哺乳動物、好ましくはマウス、ラット、他のげっ歯類、ウサギ、イヌ、ネコ、ブタ、ウシ、ヒツジ、ウマ、又は霊長類、最も好ましくはヒトを含む任意の動物を指す。
【0068】
語句「治療有効量」は、研究者、獣医、医師又は他の臨床医によって求められている組織、系統、動物、個体又はヒトにおいて生物学的又は医学的応答を誘発する、活性化合物又は医薬品の量を指す。
【0069】
本明細書中で使用される場合、用語「治療すること」又は「治療」は、(1)疾患を阻害すること、例えば、疾患、状態又は障害の病理又は症候を経験又は示している個体における疾患、状態又は障害を阻害すること(すなわち、病理及び/又は症候の更なる進行を阻止すること)、及び(2)疾患を改善すること、例えば、疾患、状態又は障害の病理又は症候を経験又は示している個体における疾患、状態又は障害を改善すること(すなわち、病理及び/又は症候を逆転させること)、例えば、疾患の重症度を減少させることなど、のうちの1種以上を指す。
【0070】
いくつかの実施形態において、本発明の化合物は、本明細書で言及される疾患のいずれかを発症するリスクを予防又は低減するのに有用であり、例えば、疾患、状態又は障害に罹りやすい可能性があるが、疾患の病理又は症候をまだ経験又は示していない個体において、疾患、状態又は障害を発症するリスクを予防又は低減する。
【0071】
併用療法
本明細書に記載されるS1P受容体関連疾患、障害、又は状態の治療のために、1種以上の追加の医薬品を化合物1、1a、又は1bと組み合わせて使用できる。薬剤は、単一剤形で本発明の化合物と組み合わせることができ、又は薬剤は、別々の剤形として同時に又は逐次的に投与できる。いくつかの実施形態において、追加の医薬品は、抗アルツハイマー薬である。いくつかの実施形態において、追加の医薬品は、抗血管性認知症薬である。いくつかの実施形態において、追加の医薬品は、コリンエステラーゼ阻害剤(例えば、ドネペジル、ガランタミン、及びリバスティグミン)、N-メチル-D-アスパラギン酸受容体アンタゴニスト、メマンチン、ニモジピン、ヒデルギン、ニセルゴリン、CDP-コリン、又は葉酸である。
【0072】
いくつかの実施形態において、追加の医薬品は抗精神病薬である。いくつかの実施形態において、追加の医薬品は、クロルプロマジン、フルフェナジン、ハロペリドール、ペルフェナジン、アリピプラゾール、アセナピン、ブレクスピプラゾール、カリプラジン、クロザピン、イロペリドン、ルラシドン、オランザピン、パリペリドン、クエチアピン、リスペリドン、又はジプラシドンである。
【0073】
製剤、剤形、及び投与
医薬として使用される場合、本開示の化合物は、医薬組成物の形態で投与できる。したがって、本開示は、本明細書に記載の化合物、請求項のいずれかに列挙され、本明細書に記載の化合物、又はその薬学的に許容される塩、又はその実施形態のいずれか及び少なくとも1種の薬学的に許容される担体を含む組成物を提供する。これらの組成物は、薬学分野において周知の様式で調製され得、そして局所的治療又は全身的治療が示されるか否か、及び治療されるべき領域に依存して、種々の経路によって投与され得る。投与は、局所(経皮、表皮、眼、並びに鼻腔内、膣及び直腸送達を含む粘膜を含む)、肺(例えば、粉末又はエアロゾルの吸入又はガス注入による、ネブライザーによるものを含む、気管内又は鼻腔内)、経口又は非経口であり得る。非経口投与としては、静脈内、動脈内、皮下、腹腔内、筋肉内又は注射若しくは点滴、又は頭蓋内、例えば、髄腔内若しくは脳室内投与が挙げられる。非経口投与は、単回ボーラス用量の形態であり得る、又は例えば、連続灌流ポンプによるものであり得る。局所投与のための医薬組成物及び製剤は、経皮パッチ、軟膏、ローション、クリーム、ゲル、ドロップ、坐剤、スプレー、液体及び粉末を含み得る。従来の医薬担体、水性、粉末又は油性基剤、増粘剤などが必要であり得又は望ましい場合が得る。
【0074】
本発明はまた、有効成分として、本開示の化合物又はその薬学的に許容される塩を、1種以上の薬学的に許容される担体と組み合わせて含有する医薬組成物を含む。いくつかの実施形態において、組成物は局所投与に適している。本発明の組成物を作る際に、有効成分は、通常、賦形剤と混合される、賦形剤によって希釈される、又は例えば、カプセル、小袋、紙、若しくは他の容器の形態でそのような担体内に封入される。賦形剤が希釈剤として働く場合、それは固体、半固体又は液体物質であり得、これは有効成分のためのビヒクル、担体又は媒体として働く。したがって、組成物は、錠剤、丸剤、散剤、トローチ剤、小袋入り、カシュ―、エリキシル剤、懸濁剤、乳剤、液剤、シロップ剤、エアロゾル剤(固体として、又は液体媒体中)、例えば、10重量%までの活性化合物を含有する軟膏剤、軟ゼラチンカプセル剤及び硬ゼラチンカプセル剤、坐剤、滅菌注射用液剤及び滅菌包装散剤の形態であり得る。
【0075】
いくつかの実施形態において、組成物は、徐放性組成物であり、徐放性組成物は、本明細書に記載の化合物又はその薬学的に許容される塩の少なくとも1種及び薬学的に許容される担体又は賦形剤の少なくとも1種を含む。
【0076】
組成物は、単位剤形で製剤化でき、各剤は約5~約1,000mg(1g)を含有する。用語「単位剤形」は、ヒト対象及び他の哺乳動物のための単一投与量として適切な物理的に別個の単位を指し、各単位は、適切な薬学的賦形剤と関連して、所望の治療効果を生じるように計算された所定量の活性物質を含む。
【0077】
活性化合物は、広い用量範囲にわたって有効であり得、一般に治療有効量で投与される。しかし、実際に投与される化合物の量は、通常、治療される状態、選択された投与経路、投与される実際の化合物、個々の患者の年齢、体重及び応答、患者の症状の重篤度などを含む、関連する状況に従って、医師によって決定されることが理解される。
【0078】
本発明の化合物の治療用量は、例えば、治療が行われる特定の使用、化合物の投与様式、患者の健康及び状態、並びに処方する医師の判断に従って変動し得る。医薬組成物中の本発明の化合物の割合又は濃度は、投与量、化学的特性(例えば、疎水性)、及び投与経路を含むいくつかの要因に応じて、変化し得る。投薬量は、疾患又は障害の進行のタイプ及び程度、特定の患者の全体的な健康状態、選択された化合物の相対的な生物学的有効性、賦形剤の処方、並びにその投与経路などの変数に依存する可能性が高い。有効用量は、インビトロ又は動物モデル試験系に由来する用量反応曲線から、推定できる。
【0079】
本発明の化合物及び組成物が経口又は注射による投与のために組み込まれ得る液体形態としては、水溶液、適切に風味付けされたシロップ、水性又は油性懸濁液、例えば、綿実油、ゴマ油、ココナッツ油、又はピーナッツ油などの食用油を含む風味付けされたエマルジョン、エリキシル及び類似の薬学的ビヒクルが挙げられる。
【0080】
吸入又はガス注入のための組成物としては、薬学的に許容される、水性溶媒若しくは有機溶媒、又はそれらの混合物の溶液及び懸濁液、並びに粉末が挙げられる。液体又は固体組成物は、上記のような適切な薬学的に許容される賦形剤を含有し得る。いくつかの実施形態において、組成物は、局所的又は全身的効果のために、経口又は経鼻呼吸経路によって投与される。組成物は、不活性ガスの使用によって、噴霧できる。噴霧された溶液は、噴霧デバイスから直接吸い込まれ得る、又は噴霧デバイスは、フェースマスク、テント、若しくは間欠的加圧呼吸装置に取り付けられ得る。溶液、懸濁液、又は粉末組成物は、適切な様式で製剤を送達するデバイスから、経口又は経鼻投与できる。
【0081】
局所製剤は、1種以上の従来の担体を含有できる。いくつかの態様において、軟膏は、水及び1種以上の疎水性担体を含有できる。
【実施例】
【0082】
本発明の化合物のための実験手順を以下に提供する。出発物質の調製が記載されていない場合、これらは、市販されている、文献において公知である、又は標準的な手順を使用して当業者によって容易に入手可能である。使用した全ての溶媒は市販されており、更に精製することなく使用した。反応は、通常、窒素の不活性雰囲気下で無水溶媒を使用して、行った。
【0083】
[実施例1] (S)-3-(5-((2-クロロ-6-エチルベンジル)オキシ)-2,3-ジヒドロスピロ[インデン-1,2’-モルホリン]-4’-イル)プロパン酸(化合物1a)の合成
【0084】
ステップ1.5-ブロモ-2,3-ジヒドロスピロ[インデン-1,2’-オキシラン]
【0085】
【0086】
アセトニトリル(4.7L)及びH2O(345mL)中のトリメチルスルホニウムブロミド(726g、4.62mol)の溶液に、KOH(1.04kg、18.5mol)を55℃で10分間加えた。5-ブロモ-2,3-ジヒドロ-1H-インデン-1-オン(650g、3.08mol)を反応混合物に加え、55℃で20分間撹拌した。この反応を並行して三連で行った。粗反応混合物を15℃に冷却し、石油エーテル:TBME(4:1、106L×4)と合わせて、抽出した。粗生成物の少量の試料を真空中で濃縮して、1H NMRによって分析し、目的生成物である、5-ブロモ-2,3-ジヒドロスピロ[インデン-1,2’-オキシラン]の同一性を確認した。
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6) δ 7.47 (s, 1H), 7.36 (d, J = 8.0 Hz, 1H), 6.96 (d, J = 8.0 Hz, 1H), 3.18-3.25 (m, 2H), 2.93-3.05 (m, 2H), 2.37-2.38 (m, 1H), 2.01-2.12 (m, 1H).
【0087】
ステップ2.5-ブロモ-1-(((2-ヒドロキシエチル)アミノ)メチル)-2,3-ジヒドロ-1H-インデン-1-オール
【0088】
【0089】
この反応ステップのために、有機層を4等分した。イソプロピルアルコール(2.0L)中の1,2-エタノールアミン(706g、11.6mol)及びトリエチルアミン(1.17kg、11.6mol)の溶液に、ステップ1からの粗5-ブロモ-2,3-ジヒドロスピロ[インデン-1,2’-オキシラン](2.31mol)の溶液を一部加え、混合物を50℃で5時間撹拌した。4つの反応混合物を合わせ、次いで、真空中で濃縮した。残渣を酢酸エチル(8L)に溶解し、Na2CO3の飽和溶液(4L)、水(4L)及びブライン(2L)で連続的に洗浄した。有機層を分離して、真空中で濃縮し、5-ブロモ-1-(((2-ヒドロキシエチル)アミノ)メチル)-2,3-ジヒドロ-1H-インデン-1-オール(2.00kg)を褐色油状物として得た。1H NMR (400 MHz, DMSO-d6) δ 7.29-7.36 (m, 2H), 7.24 (d, J = 8.0 Hz, 1H), 3.37-3.41 (m, 2H), 2.63-2.72 (m, 1H), 2.57-2.60 (m, 3H), 2.52-2.53 (m, 2H), 2.23-2.31 (m, 1H), 1.85-1.88 (m, 1H).
【0090】
ステップ3.5-ブロモ-2,3-ジヒドロスピロ[インデン-1,2’-モルホリン]
【0091】
【0092】
酢酸(735g、40%)及び水(4.50L)中の臭化水素の溶液に、ステップ2からの粗5-ブロモ-1-(((2-ヒドロキシエチル)アミノ)メチル)-2,3-ジヒドロ-1H-インデン-1-オール(650g、2.27mol)を加え、混合物を80℃で12時間撹拌した。15℃に冷却した後、3つの反応混合物を合わせ、濾過した。濾過ケーキを80℃でエチルアルコール:H2O(10L、4:1)に溶解した。混合物を室温に冷却した。3日後、結晶化した生成物を濾過した。濾過ケーキを水(3L)に溶解して、炭酸ナトリウムを加えて、混合物のpHを8に調整した。混合物を酢酸エチルで抽出した(2×2L)。活性炭(200g)を有機層に加え、混合物を2時間撹拌した。得られた溶液を濾過し、濾液を濃縮して、5-ブロモ-2,3-ジヒドロスピロ[インデン-1,2’-モルホリン](770g)をオフホワイトの固体として得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 7.34-7.41 (m, 3H), 3.76-3.78 (m, 2H), 2.99-3.02 (m, 2H), 2.94-2.98 (m, 2H), 2.77-2.83 (m, 2H), 2.51-2.52 (m, 1H), 2.17-2.20 (m, 1H), 1.69 (br. s, 1H)
【0093】
ステップ4.(S)-5-ブロモ-2,3-ジヒドロスピロ[インデン-1,2’-モルホリン]
【0094】
【0095】
5-ブロモ-2,3-ジヒドロスピロ[インデン-1,2’-モルホリン]のエナンチオマーを、以下の条件下で、キラル超臨界流体クロマトグラフィー(SFC)によって分離した。
【0096】
カラム:ChiralPak AY、150×4.6mm I.D.,3μm
移動相:AはCO2、Bはイソプロパノール(0.05%ジエチルアミンを含む)
勾配:B5~40%、流速:2.4mL/分
背圧:100バール
カラム温度:35℃
UV検出器:220nm
【0097】
【0098】
第1(速く溶出する)及び第2(遅く溶出するエナンチオマー)のエナンチオマーを、それぞれ97.6%ee及び98.6%eeで純粋に得た。第1の(速く溶出する)エナンチオマーは、単結晶X線回折によって決定されるように、(S)-5-ブロモ-2,3-ジヒドロスピロ[インデン-1,2’-モルホリン]に対応すると考えられる。
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ ppm 2.15 - 2.22 (m, 1 H) 2.52 (ddd, J=12.84, 8.43, 4.08 Hz, 1 H) 2.77 - 2.77 (m, 1 H) 2.77 - 2.88 (m, 2 H) 2.89 - 3.05 (m, 4 H) 3.78 (dd, J =6.73, 2.98 Hz, 2 H) 7.36 - 7.42 (m, 3 H).
【0099】
ステップ5.(S)-エチル3-(5-ブロモ-2,3-ジヒドロスピロ[インデン-1,2’-モルホリン]-4’-イル)プロパノエート(化合物1a)
【0100】
【0101】
エタノール(400ml)中の(S)-5-ブロモ-2,3-ジヒドロスピロ[インデン-1,2’-モルホリン](40g、149mmol)の溶液に、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(8ml、448mmol)及びアクリル酸エチル(44.8g、448mmol)を加え、次いで混合物を80℃で16時間撹拌した。反応混合物を濃縮して、粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(石油エーテル:酢酸エチル=1:0~10:1)により精製し、(S)-エチル3-(5-ブロモ-2,3-ジヒドロスピロ[インデン-1,2’-モルホリン]-4’-イル)プロパノエート(51g、138mmol、収率93%)を褐色油状物として得た。生成物を以下のように分析した。
【0102】
LC/MS法
カラム:2.0×50mm phenomenex Luna-C18カラム、5μm
移動相:Aは水中の0.0375%CF3CO2H、BはCH3CN中の0.018%CF3CO2H
勾配:10~100%Bで3.4分間、100%Bで0.45分間保持、100~10%Bで0.01分間、次いで10%Bで0.65分間保持(流速0.8mL/分)。
検出方法:ダイオードアレイ、蒸発光散乱(ELSD)、及びポジティブエレクトロスプレーイオン化。
【0103】
HPLC法
カラム:2.0×50mm phenomenex Luna-C18カラム(5μm粒子)
移動相:Aは水中の0.0375%TFA、BはMeCN中の0.018%TFA
勾配:10~80%Bで4分間、80%Bで0.9分間保持、80~10%Bで0.01分間、次いで10%Bで1分間保持(流速0.8mL/分)
検出方法:ダイオードアレイ
QC:m/z=368.1及び370.1
HPLC:生成物の保持時間:2.13分
【0104】
1HNMR (400 MHz, CDCl3) δ ppm 1.27 (t, J=7.17 Hz, 3 H) 2.10 (ddd, J=13.29, 7.66, 6.17 Hz, 1 H) 2.33-2.61 (m, 7 H) 2.61-2.85 (m,3 H) 2.98-3.08 (m, 1 H) 3.68-3.80 (m, 2 H) 4.16 (q, J=7.06 Hz, 2 H) 7.31 (d, J=7.94 Hz, 1 H) 7.37 (s, 1 H) 7.49 (br d, J=7.94 Hz, 1 H).
【0105】
ステップ6.(S)-エチル3-(5-ブロモ-2,3-ジヒドロスピロ[インデン-1,2’-モルホリン]-4’-イル)プロパノエート
【0106】
【0107】
三つ口フラスコに、ガラスビーズ(4mm、165g)、Pd2dba3(11.44g、12.49mmol)、2-(ジ-tert-ブチルホスフィノ)-2’,4’,6’-トリイソプロピル-3,6-ジメトキシ-1,1’-ビフェニル(12.41g、25.6mmol)、及び炭酸セシウム(305g、937mmol)を入れた。フラスコにオーバーヘッド撹拌機、還流冷却器、並びにアルゴン注入口及び温度プローブを備えたクライゼンアダプターを取り付けた。フラスコをアルゴンで90分間パージして、全ての酸素を除去した。
【0108】
別のフラスコ中で、(S)-エチル3-(5-ブロモ-2,3-ジヒドロスピロ[インデン-1,2’-モルホリン]-4’-イル)プロパノエート(230g、625mmol)、(2-クロロ-6-エチルフェニル)メタノール(CAS登録#1268862-18-5、128g、749mmol)をトルエン(1840ml)中で均一な溶液が得られるまで混合した。混合物をアルゴンで1時間パージした。アルゴン圧を使用して、溶液をカニューレによって反応フラスコに移した。反応混合物を70℃に温め、14時間撹拌した。水浴を使用して、反応混合物を室温に冷却し、無機材料及びガラスビーズを濾別した。反応フラスコを酢酸エチル(1L)で洗浄し、全ての残留固体を濾別した。濾過ケーキを酢酸エチル(1.3L)で洗浄した。水(3480g)中の5%L-システイン(200g)及び8%NaHCO3(320g)の新たに調製した溶液で、暗褐色溶液を洗浄した(2×2000g)。洗浄の間に溶液を25分間沈降させた。有機層を分離し、濾過して全ての残留微粒子を除去した。
【0109】
少量の試料を真空中で濃縮して、1H NMRによって分析して、所望の生成物、(S)-エチル-3-(5-((2-クロロ-6-エチルベンジル)オキシ)-2,3-ジヒドロスピロ[インデン-1,2’-モルホリン]-4’-イル)プロパノエートの同一性を確認した。1HNMR (400 MHz, CDCl3) δ ppm 7.48 (br d, J=8.19 Hz, 1 H) 7.12 - 7.23 (m, 2 H) 7.08 (m, 1 H) 6.83 (s, 1 H) 6.78 (dd, J=8.38, 2.02 Hz, 1 H) 5.09 (s, 2 H) 4.09 (q, J=7.13 Hz, 2 H) 3.68 (m, 2 H) 2.97 (m, 1 H) 2.58 - 2.77 (m, 5 H) 2.38 - 2.51 (m, 6 H) 2.28 (m, 1 H) 2.07 (ddd, J=13.24, 8.16, 5.38 Hz, 1 H) 1.18 (m, 3 H) 1.13 - 1.16 (m, 3 H).
【0110】
ステップ7.(S)-3-(5-((2-クロロ-6-エチルベンジル)オキシ)-2,3-ジヒドロスピロ[インデン-1,2’-モルホリン]-4’-イル)プロパン酸
【0111】
【0112】
ステップ6からの粗(S)-エチル3-(5-((2-クロロ-6-エチルベンジル)オキシ)-2,3-ジヒドロスピロ[インデン-1,2’-モルホリン]-4’-イル)プロパノエート(4.31g、9.41mmol)をTHF(1.6L)溶液に溶解し、撹拌した。水酸化リチウム(70.6g、2948mmol)及び600mLの水を加えた。20時間後、有機層と水層を分離した。水層を1M HClを使用して、pH 7に滴定した。次に、水層を酢酸エチル(3×350mL)、次に1:1(v/v)のCHCl3/イソプロピルアルコールで抽出した。合わせた有機層をNa2SO4上で30分間撹拌することにより乾燥させた。濾過及び溶媒の除去後、粗残留物を最小量のTHFに溶解した。ヘプタンによる沈殿によって、(S)-3-(5-((2-クロロ-6-エチルベンジル)オキシ)-2,3-ジヒドロスピロ[インデン-1,2’-モルホリン]-4’-イル)プロパン酸を得た。この生成物を更に精製することなくステップ8で使用した。
【0113】
ステップ8:(S)-3-(5-((2-クロロ-6-エチルベンジル)オキシ)-2,3-ジヒドロスピロ[インデン-1,2’-モルホリン]-4’-イル)プロパン酸塩酸塩
【0114】
【0115】
ステップ7からの生成物のいくつかのバッチを合わせ、以下のようにHCl塩として再結晶させた。(S)-3-(5-((2-クロロ-6-エチルベンジル)オキシ)-2,3-ジヒドロスピロ[インデン-1,2’-モルホリン]-4’-イル)プロパン酸(279g、649mmol)を酢酸エチル(2.8L)に溶解して、0.45ミクロンフィルターに通し、全ての微粒子を除去した。溶液を10℃に冷却し、ジオキサン(178mL)中の1.1当量の4M HClを滴下して加えた。追加の酢酸エチルを濃厚溶液に加えて、撹拌を可能にした。固体を室温で濾過し、酢酸エチルで洗浄し、真空オーブン中45℃で一晩乾燥させて、所望の(S)-3-(5-((2-クロロ-6-エチルベンジル)オキシ)-2,3-ジヒドロスピロ[インデン-1,2’-モルホリン]-4’-イル)プロパン酸塩酸塩(280g)を得た。1HNMR (400 MHz, DMSO-d6) δ ppm 7.19 - 7.44 (m, 4 H) 7.00 (s, 1 H) 6.93 (d, J=8.16 Hz, 1 H) 5.14 (s, 2 H) 3.94 (d, J=5.07 Hz, 2 H) 3.17 - 3.33 (m, 4 H) 3.02 - 3.16 (m, 2 H) 2.82 - 2.99 (m, 5 H) 2.71 (q, J=7.28 Hz, 2 H) 2.12 (m, 1 H) 1.16 (t, J=7.50 Hz, 3 H).
【0116】
[実施例A] インビトロ活性
アゴニスト効能及び有効性を、細胞内Ca2+放出の測定によって評価した。10%FBS、100pg/mLゲンタマイシンを補充し、5%CO2で平衡化した栄養混合物F-12 Ham(Sigma-Aldrich)を含有する培地を使用して、ヒトS1PR5、S1PR1、S1PR3又はS1PR4受容体、エクオリン、及びGTP結合タンパク質Gq/i5を発現する組換えCHO-K1細胞(Euroscreen、ブリュッセル、ベルギー)を培養した。20pL培地中の15,000個の細胞を、Biocoatポリ-D-リジンコーティング384ウェルプレート(Becton Dickinson #35-6663)に播種し、24時間後に約95%コンフルエントになるまで増殖させた。培養培地を、Ca2+及びMg2+を含むHBBS(Invitrogen #14025-050)、20mmol/L Hepes(Sigma-Aldrich #H-3375)、2.5mmol/L プロベネシド(Sigma-Aldrich #P-8761)、及び0.1%BSA(Sigma-Aldrich #A-7030)pH 7.4からなるアッセイ緩衝液と交換した。Calcium 5 no-wash FLIPRアッセイキット(Molecular Devices #5000625)を、キット説明書に記載されているように実施した。細胞を、37℃、5%CO2、暗所で1時間、カルシウム5色素とともにインキュベートした。45分後、細胞内Ca2+放出のアゴニスト刺激のRT評価への適合を、連続希釈によって得られた様々な濃度の試験化合物を加えることによって、実施した。陽性対照及び参照アゴニスト(固有活性100%)として、ホスホ-フィンゴリモドを使用した。ヒトS1Px受容体における試験化合物の受容体活性化作用は、適合した参照アゴニスト(ホスホ-フィンゴリモド)の効果曲線の下側及び上側のプラトーに正規化した後の測定された蛍光データに適合する非線形4パラメトリックロジスティック曲線から推定されるEC50値(効能)によって、及び100%のEmaxとして定義される、参照アゴニストの有効性の%における達成可能な最大効果によって表されるそれらの効力(Emax)値によって、特徴付けられた。
【0117】
hS1PR2についての有効性試験を、Euroscreen社、Eurofins社、フランスで行った。ミトコンドリアアポエクオリン、組換えヒトGα16及びS1P2受容体(FAST-0198A)を共発現し、抗生物質を含まない培養培地中で対数中期まで増殖させた細胞を、PBS-EDTAで分離して、遠心分離し、アッセイ緩衝液(HEPESを含み、フェノールレッドを含まないDMEM/HAM’s F12+0.1脂肪酸であって、BSAを含まない)中に1×106細胞/mlの濃度で再懸濁した。セレンテラジンとともに、室温で少なくとも4時間、細胞をインキュベートした。参照アゴニストS1P及びJTE-013を試験して、試験の各日におけるアッセイの性能を評価し、EC50を決定した。アゴニスト試験のために、細胞懸濁液を384ウェルプレート中で試験アゴニスト又は参照アゴニストと1:1で混合した。得られた発光を、Hamamatsu Functional Drug Screening System 6000(FDSS)ルミノメーターを使用して、記録した。実験の各日に、参照化合物をいくつかの濃度で試験して、用量反応曲線及び推定EC50値を得た。試験のためにこのようにして得られた参照値を、同じ受容体から得られた過去の値と比較し、実験期間を検証するために使用した。
【0118】
受容体活性化作用データを以下の表に示す。
【0119】
【0120】
本明細書に記載されるものに加えて、本発明の様々な改変は、前述の説明から当業者には明らかであろう。このような改変も、添付の特許請求の範囲内に入ることが意図される。本出願において引用された全ての特許、特許出願、及び刊行物を含む各参考文献は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【国際調査報告】