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特表2024-501159低い熱慣性及び低い熱伝導率を有する複合酸化物遮熱コーティング
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-11
(54)【発明の名称】低い熱慣性及び低い熱伝導率を有する複合酸化物遮熱コーティング
(51)【国際特許分類】
   C01G 25/02 20060101AFI20231228BHJP
   C04B 41/87 20060101ALI20231228BHJP
   C23C 4/11 20160101ALI20231228BHJP
【FI】
C01G25/02
C04B41/87 K
C23C4/11
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023533726
(86)(22)【出願日】2022-01-04
(85)【翻訳文提出日】2023-06-01
(86)【国際出願番号】 US2022011142
(87)【国際公開番号】W WO2022150304
(87)【国際公開日】2022-07-14
(31)【優先権主張番号】63/134,009
(32)【優先日】2021-01-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515195347
【氏名又は名称】エリコン メテコ(ユーエス)インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ハリントン,タイラー・ジェイムズ
(72)【発明者】
【氏名】シャロベム,ティモシー・タドロス
【テーマコード(参考)】
4G048
4K031
【Fターム(参考)】
4G048AA03
4G048AB01
4G048AC08
4G048AD06
4G048AE05
4K031AA02
4K031AB03
4K031CB42
4K031DA00
(57)【要約】
低下した熱損失及び向上した機関効率につながる、低い熱慣性を示す高複合酸化物の組成物が、温度スイングコーティングのために提供される。組成物は、5mol%を超える少なくとも5つの構成成分酸化物を含む。酸化物は、単相固溶体を形成し得る、又は多相を形成し得る。酸化物コーティングは、熱慣性をさらに低下させるために、追加の相と混合され得る、又は高い多孔度を有し得る。酸化物は、以下の金属及び/又は半金属:Sc、Y、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Re、Fe、Ru、Co、Ni、Cu、Zn、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Yb、Lu、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Al、Ga、Sn、Sb、Tl、Pb、Bi、B、Si、Ge、As、Sb、Te又はPoのいずれかの少なくとも5つを含有し得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1.5Wm-1-1より低い熱伝導率を含む、高エントロピー酸化物(HEO)材料。
【請求項2】
35を上回る全散乱値をさらに含む、請求項1に記載のHEO材料。
【請求項3】
30を上回る全散乱値をさらに含む、請求項1に記載のHEO材料。
【請求項4】
3.0Jm-2-1-1/2未満の比熱容量をさらに含む、請求項1に記載のHEO材料。
【請求項5】
900Jkg-1-1未満の比熱容量をさらに含む、請求項1に記載のHEO材料。
【請求項6】
前記HEO材料の90%超が正方晶構造である、請求項1に記載のHEO材料。
【請求項7】
0.05以下の酸化物空孔濃度を有する、請求項1に記載のHEO材料。
【請求項8】
遮熱コーティングを形成するための前記材料の使用をさらに含む、請求項1に記載のHEO材料。
【請求項9】
燃焼室用コーティングを形成するための前記材料の使用をさらに含む、請求項1に記載のHEO材料。
【請求項10】
前記HEO材料がMの一般式によって表され、式中、Mは、少なくとも5つの異なる酸化物形成金属カチオンの群を表し、xは、金属カチオン(M)又は原子の数を表し、yは、酸素アニオン(O)又は原子の数を表す、請求項1に記載のHEO材料。
【請求項11】
前記HEO材料が、Mの一般式によって表され、式中、Mは、周期表の第II族の少なくとも1つのメンバーを表し、xは、金属カチオン(M)又は原子の数を表し、yは、酸素アニオン(O)又は原子の数を表す、請求項1に記載のHEO材料。
【請求項12】
前記HEO材料が、Mの一般式によって表され、式中、Mは、少なくとも1つのランタニドを表し、xは、金属カチオン(M)又は原子の数を表し、yは、酸素アニオン(O)又は原子の数を表す、請求項1に記載のHEO材料。
【請求項13】
前記HEO材料が、Mの一般式によって表され、式中、Mは、少なくとも1つの遷移金属を表し、xは、金属カチオン(M)又は原子の数を表し、yは、酸素アニオン(O)又は原子の数を表す、請求項1に記載のHEO。
【請求項14】
前記HEO材料が、
7.5~11.5重量%のY
13~20重量%のM酸化物
17~26重量%のMO酸化物、及び
残部のZrOを含む、請求項1に記載のHEO材料。
【請求項15】
前記HEO材料が、
6~9重量%のMO酸化物、
0.5~1.5重量%のY
2.5~4重量%のM酸化物、及び
残部のZrOを含む、請求項1に記載のHEO材料。
【請求項16】
前記HEO材料が、
7.5-11.5のY
13~20重量%のM酸化物、
17~26重量%のMO酸化物、及び
残部のZrOを含む、請求項1に記載のHEO材料。
【請求項17】
0.4~0.6重量%のMO酸化物、
1.2~1.8重量%のY
5.5~9重量%のM酸化物、
2~4重量%のMO酸化物、及び
残部のZrOを含む、HEO材料。
【請求項18】
前記HEO材料が、
0.4~0.6重量%のMO酸化物、
1.2~1.8重量%のY
5.5~9重量%のM酸化物、
13~21重量%のMO酸化物、及び
残部のZrOを含む、請求項1に記載のHEO材料。
【請求項19】
前記MO酸化物がMgOであり、前記M酸化物がYb、La、Gd及びDyからなる群から選択され、前記MO酸化物がCeO、HfO及びTiOからなる群から選択される、請求項18に記載のHEO材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2021年1月5日に出願された米国仮出願第63/134,009号の利益及び優先権を主張し、その開示は、その全体が参照により本明細書に明示的に組み入れられている。
【0002】
遮熱コーティング(TBC)は、低い熱伝導率を示すセラミック系コーティングである。一般に、熱伝導率を最小限に抑えることが望ましい。本開示の例示的な実施形態は、一般に、2つの用途:(1)燃焼機関で使用される温度スイングコーティング、及び(2)航空宇宙/産業用ガスタービン(IGT)部品に使用されるTBCに関して低い熱伝導率を示す、高エントロピー酸化物(HEO)材料に関する。
【背景技術】
【0003】
燃焼機関用の温度スイングコーティングとして高エントロピー酸化物を使用する場合、低い熱容量及び低い熱伝導率を有することが有利である。燃焼機関は、機関ブロック及びピストンによる熱損失が最小限に抑えられると、燃料効率がより良い。これには機関内部表面への低い熱伝導率を有するコーティングの使用が必要である。低熱伝導率層は、燃焼事象中に燃焼室内の熱を効果的に保持する。しかし、シリンダ壁及びピストン表面に過剰な熱が蓄積すると、入来する燃料空気混合物は燃焼室への進入時に加熱され、これにより火炎前の未燃焼ガスの自発点火(ノッキング)又は燃料空気混合物の自発プレイグニッションが引き起される可能性がある。これはコーティングが温度の急激な変化に抵抗する際に生じ、したがってコーティング及び機関ブロックの温度分布は機関動作中の定常状態条件に近づく。
【0004】
コーティングの温度が定常状態に到達するのを防止するために、コーティングは低い比熱容量も有する必要がある。組み合わされた低い比熱容量と熱伝導率は、低い熱慣性につながる。低い熱慣性によって、コーティングの温度は「スイング」することができ、コーティング表面が燃焼事象の発生時に高温であり、機関の次のストロークが燃料を取り込む前に急速に冷却し、燃料/空気混合物の加熱を防止することを意味する。低い熱慣性を有するコーティングは、コーティングを通じた周囲への熱伝達の量を制限し、表面壁に熱をごくわずかしか保持しない。燃料効率の向上に加えて、コーティングは、コーティングされた機関部品のより高い硬度、上昇したキャビテーション及び耐摩耗性を提供する。
【0005】
航空宇宙/IGT用途のための遮熱コーティングとして高エントロピー酸化物を使用する場合、材料が高靱性及び低い熱伝導率を同時に有することが有利である。TBC靭性は、典型的には、炉サイクル試験(FCT)によって測定され、それによってコーティングは高温及び低温のサイクルに供される。より靭性のコーティングは、破損前に多数のサイクルを耐えることができる。
【0006】
TBC用途では、高エントロピー酸化物が合成及び提案されている。しかし、高エントロピー酸化物の工学及び「温度スイング」コーティングとしてのそれらの使用は知られていない。さらに、温度スイング特性のための複合酸化物における熱慣性工学の概念は知られていない。さらに、高靭性と組み合わせた低い熱伝導率に特有の高エントロピー酸化物の設計は知られていない。
【0007】
高エントロピー酸化物は数百万の異なる潜在的材料組成物を封入し、高エントロピー酸化物に固有ではない特定の特性があることを理解することができる。そのような特性としては、熱伝導率、比熱及び靱性が挙げられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
例示的な実施形態では、本開示は、低い熱慣性及び有効温度スイング特性を示す、任意の組成の機関部品に溶射技術によって適用することができる酸化物コーティング組成物のクラスを提供する。コーティングは、燃焼機関における燃料効率の向上を可能にする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の例示的な実施形態は、温度スイングコーティングとしての高エントロピー酸化物(HEO)材料に関する。実施形態では、HEO材料は、特定の環境で使用するための化学的、機械的及び熱的特性の正確な調整性を可能にする。実施形態では、HEO材料は、高濃度(5mol%超)の少なくとも5つの酸化物構成成分を含有する。酸化物系における化学的障害は、本質的に低い熱伝導率につながる顕著なフォノン散乱を生成する。組成制御は、低い比熱容量、したがって熱容量、熱伝導率及び密度の積の平方根として定義される、低い熱慣性を有する組成物を可能にする。
【0010】
原子サイズ及び質量分散を最大にする組成物は、最大量のフォノン散乱及び最低の熱伝導率を提供する。最も低い平均原子質量を有する組成物は、最低の比熱容量及び密度を有する。低い熱伝導率と低い熱容量との適正な組み合わせは、開示された酸化物に低い熱慣性及び良好な温度スイング特性を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
一実施形態では、5mol%を超える少なくとも5つの異なる2元酸化物を含有する混合酸化物の組成物が、燃焼機関の温度スイングコーティングとして使用される。一実施形態では、複合酸化物は、一般式Mで表され、式中、Mは、少なくとも5つの異なる酸化物形成金属カチオンの群を表し、xは、金属カチオン(M)又は原子の数を表し、yは、酸素アニオン(O)又は原子の数を表す。
【0012】
本開示の実施形態では、少なくとも5つの異なる酸化物形成金属カチオン(M)は、
Be、Mg、Ca、Sr及びBaを含む、少なくとも1つのアルカリ土類金属、
以下の遷移金属:Sc、Y、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Re、Fe、Ru、Co、Ni、Cu及びZnのうちの少なくとも1つ、好ましくは少なくとも2つ、
Al、Ga、Sn、Sb、Tl、Pb、及びBiを含む、1つ以上のポスト遷移金属、
La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Yb及びLuを含む、1つ以上のランタニド、並びに
B、Si、Ge、As、Sb、Te及びPoを含む、1つ以上の半金属
を含み得る。
【0013】
実施形態では、以下の金属:(1)Mg及びCaなどのアルカリ土類金属、(2)Y、Ti、Zr、Hf、Cr、Mo、Mn、Fe、Co、Niなどの遷移金属、(3)Al及びSnなどのポスト遷移金属、(4)La、Ce、Gd、Dy及びYbなどのランタニド、並びに(5)Siなどの半金属が低熱慣性複合酸化物自動車用TBCに使用され得る。
【0014】
実施形態では、組成物は、単相固溶体又は多相系を形成し得る。
上記の組成物は、サイズ及び質量が著しく変化する個々の原子を使用することにより、サンプル組成物中の質量及び歪み障害を増加させることによって、コーティングの熱伝導率を低下させる。対象の100,000超の組成物各々についての正確な質量及び歪み分散並びに平均原子質量の計算は、ソフトウェアを用いて実行する。次いで、計算値をグラフによってソートして、最小の熱慣性を有する空間内の組成物を求めることができる。
【0015】
質量散乱値は、式(1)から計算し、ここでmはi番目の元素の原子質量であり、
【0016】
はn個の元素すべての平均原子質量である。
【0017】
【数1】
【0018】
上記の式からの35を超える質量散乱は、酸化物が単相である場合に1Wm-1-1を下回る熱伝導率値をもたらすことが見出された。5つ以上の酸化物の集合体は本質的に単相を形成せず、評価した8つの酸化物実験のうち3つのみが単相構造を示したことが理解できる。
【0019】
いくつかの実施形態では、高エントロピー酸化物組成物の質量散乱値は35以上である。好ましい実施形態では、高エントロピー酸化物の質量散乱値は40以上である。より好ましい実施形態では、高エントロピー酸化物の質量散乱値は42.5以上である。
【0020】
全散乱値も酸化物組成物の熱伝導率の良好な予測因子であることが見出されている。より高い全散乱値は、より低い熱伝導率値に等しい。酸化物組成物の全散乱は、上記の質量散乱値と歪み散乱との和として計算される。歪み散乱δは式(2)から計算され、式中、cは組成であり、rは酸化物系におけるi番目のカチオンのイオン半径であり、nは系中のカチオンの総数である:
【0021】
【数2】
【0022】
いくつかの実施形態において、高エントロピー酸化物組成物の全散乱値は30以上である。好ましい実施形態では、高エントロピー酸化物の全散乱値は35以上である。より好ましい実施形態では、高エントロピー酸化物の全散乱値は40以上である。
【0023】
優れた温度スイング特性を達成するために、コーティング材料は、3.0Wm-1-1未満、好ましくは1.5Wm-1-1未満、より好ましくは0.8Wm-1-1未満の熱伝導率を有するべきである。
【0024】
いくつかの実施形態では、本開示は「温度スイング」コーティングを構成する。温度スイングコーティングは、3.0Jm-2-1-1/2未満、好ましくは2.0Jm-2-1-1/2未満、より好ましくは1.5Jm-2-1-1/2未満の熱慣性を有するコーティング組成物として定義される。
【0025】
優れた温度スイング特性を達成するために、コーティング材料は、900Jkg-1-1未満、好ましくは600Jkg-1-1未満、より好ましくは600Jkg-1-1未満の比熱容量及び低い熱伝導率を有するべきである。
【0026】
優れた靱性特性を達成するために、合金は、優れた靱性を有する正方晶構造を有するべきである。しかし、ジルコニアなどの一般的な正方晶酸化物に対するドーパント濃度にはある制限があり、その前では構造はあまり強靭でない立方晶構造になる。典型的なドーパント濃度は、ざっと7~10%である。しかし、高エントロピー酸化物空間は、正方晶構造を維持しながらより高いドーパント濃度の利用を可能にするが、正方晶性は高エントロピー酸化物の固有の特徴ではない。
【0027】
酸化物材料の正方晶性を求める技術として、酸化物空孔濃度が提示されている。いくつかの実施形態では、酸化物空孔濃度は0.05を下回っている。好ましい実施形態では、酸化物空孔濃度は0.0375を下回っている。より好ましい実施形態では、酸化物空孔濃度は0.025を下回っている。
【0028】
TBC靭性は、通例、タービン機関の加熱及び冷却に関連するサイクル熱応力をシミュレートすることを目的とした炉サイクル試験(FCT)によって測定する。そのようなFCT試験では、TBC材料を評価するためにMCrAlYボンドコートを典型的に使用する。
【0029】
遮熱コーティングとして適用される場合、1次複合酸化物は、金属合金、酸化物及び/又は炭化物などの追加の相と任意に混合され得る。1次複合酸化物は、熱慣性を低下させるために様々なレベルの相対密度(すなわち多孔度)で表面に任意に適用され得る。コーティングは、均一給気火花点火(HCSI)及び/又は成層給気圧縮点火(SCCI)及び/又は均一給気圧縮点火(HCCI)型機関の内部シリンダ表面に適用され得る。機関は、2又は4ストローク機関であり得る。いくつかの実施形態では、コーティングは、ピストン又は機関ブロックに直接適用される。一実施形態では、酸化物コーティングは、中間ボンドコート(例えばMCrAlY組成物)の上に適用される。遮熱コーティングトップコートは、限定されないが、高速酸素燃料(HVOF)、大気圧プラズマ溶射(APS)、物理蒸着(PVD)などの溶射技術によって適用され得る。
【実施例
【0030】
いくつかの実施形態では、HEO TBCは:
50~90重量%のZrO
0.5~8重量%のMgO及び/又はTiO
0.5~10重量%のYを含み、並びに
残りの全酸化物は3~20重量%のYb、La、Gd、Dy、HfO及びCeOを含む。
【0031】
HEO-4と呼ばれる一実施形態では、HEO TBCは:
7.5~11.5重量%のY
13~20重量%のM(最も好ましくはYb)、
17~26重量%のMO(最も好ましくはTi及び/又はCeO)、より好ましくは5~9重量%のTiO及び11~18重量%のCeO、並びに
残部のZrOを含む。
【0032】
HEO-7と呼ばれる別の好ましい実施形態では、HEO TBCは:
6~9重量%のMO(好ましいMgO);
0.5~1.5重量%のY
より好ましくは1~2重量%のLa及び1~3重量%のGdを含む、2.5~4重量%のM(最も好ましくは、M=La又はGd)、並びに
残部のZrOを含む。
【0033】
HEO-8と呼ばれる別の好ましい実施形態では、HEO TBCは:
0.4~0.6重量%のMO(好ましいMgO)、
1.2~1.8重量%のY
より好ましくは2~4重量%のYb、2~4重量%のLa及び2~3重量%のDyを含む、5.5~9重量%のM(最も好ましくは、M=Yb、La、Gd又はDy)、
13~21重量%のMO(最も好ましくは、CeO、HfO又はTiO)、より好ましくは2.5~4重量%のCeO及び6.6~9.8重量%のHfO、13~21重量%のCeO又は2.5~4重量%のTiO及び6.6~9.8重量%のCeO、並びに
残部のZrOを含む。
【0034】
HEO-12と呼ばれる別の好ましい実施形態では、HEO TBCは、
17~26重量%のM(最も好ましくはYb及びSm)、より好ましくは12~20重量%のYb及び3~6重量%のSm
13.5~20.5重量%のMO(好ましくはCeO)、並びに
6~9重量%のM(好ましくはNb)を含む。
【0035】
以下の表1は、例示的な実施形態による酸化物の計算された質量散乱値、歪み散乱値、全散乱値及び酸化物空孔濃度を示す。上述のように、HEO-4、HEO-7、HEO-12、HEO-8A、HEO-8B及びHEO-8Cは、本開示の例示的な実施形態を表す。これらの例示的な実施形態は、本開示の技術的実施形態を満足する高い全散乱値と低い酸化物空孔濃度との新規かつ非自明性の組み合わせを有する。表1に示すように、試験したHEOの大半はこの特性の組み合わせを有さず、したがって高い全散乱及び低い酸化物空孔濃度は、高エントロピー酸化物の固有の特性ではない。標準遮熱コーティング材料及びイットリア安定化ジルコニア(YSZ)も表1に含まれていて、本明細書に記載の全散乱パラメータを満足していない。
【0036】
【表1】
【0037】
表1に示す全てのHEOは、噴霧乾燥技術によって同様の方法で製造し、1400℃で10時間焼結して、プラズマ溶射した。全てのサンプルにおいて、MCrAlYボンドコートを基材上の初期層として使用した。次いで、1セットの実験において、各HEOをボンドコート上に直接溶射した。第2のセットの実験において、標準8YSZコーティングを中間層としてボンドコート上に適用し、HEOコーティングをトップコーティングとして適用した。得られたコーティングを、焼結前後の熱伝導率及び炉サイクル試験(FCT)寿命を含む後続の物理試験に使用した。中間YSZ層のその使用又は欠如は、FCT寿命に関連している。
【0038】
例示的な実施形態による酸化物のコーティング特性を以下の表2に示す。熱伝導率値はW/mKで表し、FCT結果はサイクルで表す。表2に示すように、高いFCTサイクル寿命によって実証されるように、HEOコーティングが優れた靭性を有することは新規かつ非自明である。高いFCTサイクル寿命は、低い酸素空孔濃度を有するHEO組成物にのみ該当する。
【0039】
【表2】
【0040】
いくつかの実施形態では、HEOコーティングは、ボンドコート上に直接溶射された場合、200サイクルを上回るFCT寿命を有する。好ましい実施形態では、HEOコーティングは、ボンドコート上に直接溶射された場合、250サイクルを上回るFCT寿命を有する。さらに好ましい実施形態では、HEOコーティングは、ボンドコート上に直接溶射された場合、300サイクルを上回るFCT寿命を有する。
【0041】
いくつかの実施形態では、HEOコーティングは、それ自体がボンドコート上に溶射される中間8YSZ層上に溶射された場合、200サイクルを上回るFCT寿命を有する。好ましい実施形態では、HEOコーティングは、それ自体がボンドコート上に溶射される中間8YSZ層上に溶射された場合、500サイクルを上回るFCT寿命を有する。さらに好ましい実施形態では、HEOコーティングは、それ自体がボンドコート上に溶射される中間8YSZ層上に溶射された場合、900サイクルを上回るFCT寿命を有する。
【0042】
さらに、少なくとも本発明は、特定の例示的な実施形態の開示によって、例えば単純化又は効率化のために、本発明を作製及び使用できるようにする方法で本明細書に開示されているため、本発明は、本明細書に具体的に開示されていない追加の要素又は追加の構造が存在せずに実施することができる。
【0043】
前述の例は、説明の目的で提供されているに過ぎず、本発明を限定するものとして決して解釈されるべきではないことに留意されたい。例示的な実施形態を参照して本発明を説明してきたが、本明細書で使用される単語は、限定の単語ではなく、説明及び例示の単語であることを理解されたい。添付の特許請求の範囲の範囲内で、その態様における本発明の範囲及び精神から逸脱することなく、現在述べられているように及び修正されているように、変更を行ってよい。本発明は、特定の手段、材料及び実施形態を参照して本明細書で説明されているが、本発明は、本明細書に開示された詳細に限定されることを意図するものではない。むしろ、本発明は、添付の特許請求の範囲内にあるような、すべての機能的に等価な構造、方法及び使用に及んでいる。
【国際調査報告】