(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-11
(54)【発明の名称】フルベストラントの徐放性医薬組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/565 20060101AFI20231228BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20231228BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20231228BHJP
A61K 47/44 20170101ALI20231228BHJP
A61K 47/14 20170101ALI20231228BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
A61K31/565
A61K47/24
A61K47/10
A61K47/44
A61K47/14
A61P35/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023533990
(86)(22)【出願日】2021-12-03
(85)【翻訳文提出日】2023-07-20
(86)【国際出願番号】 KR2021018233
(87)【国際公開番号】W WO2022119383
(87)【国際公開日】2022-06-09
(31)【優先権主張番号】10-2020-0168867
(32)【優先日】2020-12-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521268484
【氏名又は名称】サムヤン、ホールディングス、コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】SAMYANG HOLDINGS CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100174883
【氏名又は名称】冨田 雅己
(74)【代理人】
【識別番号】100189429
【氏名又は名称】保田 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100213849
【氏名又は名称】澄川 広司
(72)【発明者】
【氏名】イ,ジョ ヨン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ドン シク
(72)【発明者】
【氏名】ユン,ミン ヒョク
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA94
4C076BB15
4C076CC27
4C076DD37
4C076DD45
4C076DD63
4C076EE23
4C076EE53
4C076FF15
4C086AA01
4C086AA10
4C086DA09
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA17
4C086MA66
4C086NA02
4C086ZB26
(57)【要約】
本発明は、フルベストラントを含む徐放性医薬組成物及びその製造方法に関し、さらに詳しくは、難溶性薬物であるフルベストラントとともにレシチン、C2~C5のアルコール及びポリエチレングリコールを組み合わせて含むことによって、薬物の溶解度が向上し、製剤内の薬物濃度を高めることができるため、従来のフルベストラント製剤と同等の薬理学的治療効果が発揮され、投与回数も低減することができることから、従来製剤の不便さが改善され、患者や医療従事者の利便性を向上することができる医薬組成物及びその製造方法に関するものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効成分として、
フルベストラント;
レシチン;C2~C5のアルコール;及び
ポリエチレングリコール;
を含む癌治療用徐放性医薬組成物。
【請求項2】
植物油をさらに含む請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記植物油が、ヒマシ油である請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記C2~C5のアルコールが、エタノールである請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記植物油の含量が、前記C2~C5のアルコール1重量部に対して、1~10重量部である請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項6】
ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル又はそれらの組み合わせをさらに含む請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記組成物が、筋肉注射剤である請求項1~6のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
(1)フルベストラント及びレシチンをC2~C5のアルコールに溶解する工程;及び
(2)前記工程(1)の生成物に、ポリエチレングリコールを添加する工程;を含む癌治療用徐放性医薬組成物の製造方法。
【請求項9】
前記工程(1)の生成物は、フルベストラントを含有するレシチンフィルムである請求項8に記載の医薬組成物の製造方法。
【請求項10】
前記工程(2)の生成物に、C2~C5のアルコール及び植物油を同時に又は順次に添加する一つ以上の工程をさらに含む請求項8又は9に記載の医薬組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フルベストラントを含む徐放性医薬組成物及びその製造方法に関し、さらに詳しくは、難溶性薬物であるフルベストラントとともにレシチン、C2~C5のアルコール及びポリエチレングリコールを組み合わせて含むことによって薬物の溶解度が向上し、製剤内の薬物濃度を高めることができるため、従来のフルベストラント製剤と同等の薬理学的治療効果が発揮され、投与回数も低減することができることから、従来製剤の不便さが改善され、患者や医療従事者の利便性を向上することができる医薬組成物及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フルベストラントの化学名は、7-α-[9-(4,4,5,5,5-ペンタフルオロペンチルスルフィニル)ノニル]エストラ-1,3,5-(10)-トリエン-3,17β-ジオールであり、これは下記の化学構造を有している:
【化1】
【0003】
フルベストラントは、ホルモン・レセプター陽性(ER+)、HER2陰性(HER2-)の進行性の乳癌を治療に用いられる薬物で、承認が完了した唯一のSERD(選択的エストロゲン受容体分解薬)系の薬物である。フルベストラントは、フェソロデックス(Faslodex)(登録商標)注射剤(アストラゼネカ社製)という製品名で発売されており、5mLの注射液中にフルベストラント250mgを含有する製剤であり、原則として1回500mg(プレフィルドシリンジ2筒)を最初の1カ月間は2週間に1回筋肉投与し、その後は、1カ月に1回同量を投与する。
【0004】
患者にフェソロデックス(登録商標)注射剤を投与する場合、両臀部(臀部)の筋肉にそれぞれ1~2分間注射する投与方法が設定されている。しかしながら、この方法は、投与を受ける患者にとっては多大な苦痛を与え、また、投与を進める側にとっては相当の不便さを引き起こす。注射剤の総量が10mLであると、筋肉内投与で1回に投与できる最大量(約5mL)を大きく超えるため、前記投与方法になっていると解釈される。
フルベストラントは、水溶液に対する溶解度が極めて低く、FDAの資料によれば、純水には「実質的に不溶」であることが知られている(フェソロデックス(登録商標)注射剤の処方によると、フルベストラントの飽和溶解度は室温で約90mg/mL、冷蔵保存で約65mg/mLであり、製品の濃度は、フルベストラントとして50mg/mLとなる)。従って、フルベストラントを製剤化する際には、必ず可溶化剤を使用する必要があり、フェソロデックス(登録商標)注射剤の場合、主な可溶化剤としてエタノールとベンジルアルコールが使用されており、いずれも有機溶媒に該当する。
【0005】
フェソロデックス(登録商標)注射剤は、オイルデポー(oil depot)製剤であり、添加剤のうち、ヒマシ油成分が最も多く含まれている。オイルデポーとは、徐放性注射剤でよく見られる製剤で、マトリックスの大部分がオイルで構成されており、in situ 形成ゲル、in situ ポリマー沈殿、ポリマーインプラント製剤などのポリマーを使用する徐放性製剤とは異なり、体内で液相を維持していることが特徴である。オイルデポーは、皮下注射と筋肉注射の両方が可能な製剤であり、フェソロデックス(登録商標)注射液は筋肉注射のみに使用される。
フルベストラントを製剤化する際に、油の種類と量、有機溶媒の比率などが非常に重要であり、これによりマトリックス中でのフルベストラントの溶解度が決まり、さらに徐放性(放出性)の特性(放出速度、初期放出量など)を決める主要要因となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来のフルベストラント製剤の投与量が多すぎるという問題を解決し、製剤内のフルベストラントの溶解度を向上させて薬物濃度を高めることができるフルベストラントを含む組成物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面は、有効成分として、フルベストラント;レシチン;C2~C5のアルコール;及びポリエチレングリコール;を含む、癌治療用徐放性医薬組成物を提供する。
本発明の別の側面は、(1)フルベストラント及びレシチンをC2~C5のアルコールに溶解する工程;及び(2)前記工程(1)の生成物に、ポリエチレングリコールを添加する工程;を含む癌治療用徐放性医薬組成物の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明により提供されるフルベストラントの徐放性医薬組成物は、従来のフルベストラント製剤と理化学的同等性を示し、非臨床試験と生物学的同等性試験において同等性を確保しており、同等の薬理学的治療効果を示し、且つ従来の製剤と比較して、フルベストラントの濃度を高めることができ、投与回数を減らすことができ(従来の2回投与を1回投与に低減可能)、これにより、従来の製剤の不便さが改善され、患者と医療従事者の利便性を増大させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書全体において、特別な言及がない限り、「含むこと」又は「含有すること」とは、特別な制限なく、構成要素(又は構成成分)を備えることを意味し、他の構成要素(又は構成成分)の付加を排除するものとして解釈されるものではない。
以下で、本発明をより詳細に説明する。
【0010】
本発明の一側面は、有効成分として、フルベストラント;レシチン;C2~C5のアルコール;及びポリエチレングリコール;含む、癌治療用徐放性医薬組成物に関するものである。
一実施形態において、前記医薬組成物に含まれる前記フルベストラントの含量は、組成物の合計100重量%に対して、例えば、5重量%以上、6重量%以上、7重量%以上、8重量%以上又は9重量%以上であってもよく、また、20重量%以下、18重量%以下、15重量%以下、13重量%以下又は11重量%以下であってもよいが、これらに限定されない。
一実施形態において、前記医薬組成物に含まれる前記レシチンの含量は、C2~C5のアルコール1重量部に対して、例えば、0.05重量部以上、0.1重量部以上、又は0.2重量部以上であってもよく、また、1重量部以下、0.8重量部以下、又は0.5重量部以下であってもよいが、これらに限定されない。レシチンの含量が前記範囲未満であると、投与後の溶解度が低下する場合があり、前記範囲を超えると、粘度が上昇して注射剤としての投与が適切でなくなる場合がある。
【0011】
本明細書において、「C2~C5のアルコール」は、分子内の総炭素数が2~5のアルコールを意味する。
一実施形態において、前記C2~C5のアルコールは、エタノールであってもよい。
一実施形態において、前記医薬組成物に含まれるC2~C5のアルコール含量は、組成物合計100重量%に対して、例えば、5重量%以上、7重量%以上又は10重量%以上であってもよく、また、30重量%以下、25重量%以下又は20重量%以下であってもよいが、これらに限定されない。
【0012】
一実施形態において、前記医薬組成物に含まれる前記ポリエチレングリコールの含量は、C2~C5のアルコール1重量部に対して、例えば、0.1重量部以上、0.2重量部以上、又は0.5重量部以上であってもよく、また、1.5重量部以下、1.2重量部以下、又は1.0重量部以下であってもよいが、これらに限定されない。ポリエチレングリコールの含量が前記範囲未満であると、製剤が不安定になり、有効成分の析出量が増加する場合があり、前記範囲を超えると、投与後、有効成分の初期放出量が増加し、徐放性が低下する場合がある。
前記ポリエチレングリコールは、例えば、200,000~1,000,000g/molの重量平均分子量を有することができるが、これに限定されない。
【0013】
一実施形態において、前記医薬組成物は、植物油をさらに含むことができる。
一実施形態において、前記植物油は、ヒマシ油であってもよい。
一実施形態において、前記医薬組成物が植物油をさらに含む場合、その含量は、C2~C5のアルコール1重量部に対して、例えば、1~10重量部であってもよく、より具体的には1~5重量部であってもよく、さらに具体的には2~4重量部であってもよいが、これらに限定されない。植物油は、本発明の製剤においてマトリックスとなるため、その含量が前記範囲未満であると、徐放性が低下し、前記範囲を超えると、製剤が不安定になったり、又は放出速度が著しく低下したりする可能性がある。
【0014】
一実施形態において、前記医薬組成物は、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル又はそれらの組み合わせをさらに含むことができる。
ベンジルアルコール及び/又は安息香酸ベンジルは、組成物のCmax値の顕著な増加を防止することができ、薬物の予期せぬ副作用を軽減するのに役立つことができる。ただし、ベンジルアルコール及び安息香酸ベンジルの含量が多すぎると、溶解度が低下し、徐放性製剤の安定性が低下する場合がある。
【0015】
一実施形態において、前記医薬組成物がベンジルアルコールをさらに含む場合、その含量は、C2~C5のアルコール1重量部に対して、例えば、0.1重量部以上、0.2重量部以上、又は重量部0.5以上であってもよく、また、2重量部以下、1.5重量部以下、又は1.0重量部以下であってもよいが、これらに限定されない。
一実施形態において、前記医薬組成物が安息香酸ベンジルをさらに含む場合、その含量は、C2~C5のアルコール1重量部に対して、例えば、0.1重量部以上、0.2重量部以上、又は0.5重量部以上であってもよく、また、2重量部以下、1.5重量部以下、又は1.0重量部以下であってもよいが、これらに限定されない。
一実施形態において、前記医薬組成物が、ベンジルアルコールと安息香酸ベンジルの組み合わせをさらに含む場合、組成物内のベンジルアルコールと安息香酸ベンジルの重量比は、例えば、0.1~10:1、又は0.2~5:1、又は0.5~3:1、又は0.5~1.5:1であってもよいが、これらに限定されない。
【0016】
一実施形態において、前記医薬組成物は、注射剤、より具体的には、筋肉注射剤である。
一実施形態において、前記注射剤の注入力は、0.5~10kgfであってもよい。
一実施形態において、前記注射剤内のフルベストラント濃度は、90~300mg/mLであってもよい。
一実施形態において、前記注射剤の透析バック(dialysis bag)を使用したインビトロ放出時間は、14日~60日であってもよい。
一実施形態において、前記医薬組成物は癌治療用、より具体的には乳癌治療用、さらに具体的には進行性の乳癌治療用である。
【0017】
本発明の別の側面は、(1)フルベストラント及びレシチンをC2~C5のアルコールに溶解する工程;及び(2)前記工程(1)の生成物に、ポリエチレングリコールを添加する工程;を含む癌治療用徐放性医薬組成物の製造方法に関するものである。
一実施形態において、前記C2~C5のアルコールは、エタノールであってもよい。
一実施形態において、前記工程(1)は、フルベストラント、レシチン及びC2~C5のアルコールの混合物からC2~C5のアルコールを部分的に除去する工程をさらに含むことができる。
前記C2~C5のアルコールの除去は、例えば、30~80℃で、ロータリーエバポレータ(rotary evaporator)を使用して行うことができるが、これらに限定されない。
【0018】
一実施形態において、前記工程(1)の生成物は、フルベストラントを含有するレシチンフィルムであってもよい。
一実施形態において、前記工程(1)がフルベストラント、レシチン及びC2~C5のアルコールの混合物からC2~C5のアルコールを部分的に除去する工程をさらに含む場合、前記医薬組成物の製造方法は、前記工程(2)の後に、工程(2)の生成物に、C2~C5のアルコールをさらに添加する工程をさらに含むことができる。
一実施形態において、前記医薬組成物の製造方法は、前記工程(2)の生成物に、C2~C5のアルコール及び植物油を同時に又は順次に添加する一つ以上の工程をさらに含むことができる。
【0019】
本発明の理解を容易にするために、以下に好ましい実施例を提示する。但し、以下の実施例は本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲はこれらによって何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0020】
実施例1~3:フルベストラント製剤の製造
フルベストラント、レシチン及びエタノールを丸底フラスコに入れて混合した。50℃でロータリーエバポレータを使用して溶媒を蒸発させてレシチンフィルムを得た。得られたレシチンフィルム中に残留するエタノールの量を秤量した。前記丸底フラスコに、ポリエチレングリコール(PEG)を加え、レシチンフィルムが完全に溶解するまで回転を続けた。前記混合物に残留する量を含むエタノール、一定量のベンジルアルコール(BA)、安息香酸ベンジル(BB)又はそれらの組み合わせを加えて混合した。次いで、最終溶液の重量がフルベストラントを除く構成成分の合計の100%になるように、前記混合物にヒマシ油を加えて調整した。各成分の含量は、下記表1に示す。対照群として、フェソロデックス(登録商標)(フルベストラントを有効成分として含む)のフルベストラント以外の成分を配合した製剤を使用した。
【0021】
【0022】
試験例:マトリックス組成に応じたフルベストラントの飽和溶解度の測定
実施例1~3及び対照群の製剤について、その製剤中のフルベストラントの飽和溶解度を室温(25℃)で測定した。飽和溶解度は、各実施例及び対照群ごとに3つのサンプルについて測定し、その平均値を得た。その結果を下記表2に示した。
【0023】
【国際調査報告】