(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-11
(54)【発明の名称】環境汚染除去
(51)【国際特許分類】
A61L 2/20 20060101AFI20231228BHJP
A61L 2/10 20060101ALI20231228BHJP
A61L 101/22 20060101ALN20231228BHJP
【FI】
A61L2/20
A61L2/10
A61L101:22
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023534112
(86)(22)【出願日】2021-12-07
(85)【翻訳文提出日】2023-07-27
(86)【国際出願番号】 AU2021051457
(87)【国際公開番号】W WO2022120416
(87)【国際公開日】2022-06-16
(32)【優先日】2020-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510339197
【氏名又は名称】サバン ベンチャーズ ピーティーワイ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ベレンツヴェイグ,ウラジミール
【テーマコード(参考)】
4C058
【Fターム(参考)】
4C058AA23
4C058BB06
4C058BB07
4C058CC05
4C058DD03
4C058JJ16
4C058KK02
(57)【要約】
本発明の実施形態によるシステム及び方法は、環境又は表面を汚染除去するように動作し得る。多くの実施形態において、環境又は表面は、過酢酸蒸気及びUV-C光の組合せに同時に曝露することにより汚染除去される。一部の実施形態において、過酢酸はエアロゾル化され、次いで気化され、次いでUV-Cと組み合わせて標的環境又は表面に送達され、それにより標的が消毒される。様々な実施形態において、過酢酸は、メッシュネブライザー又は空気圧式ネブライザーのいずれかを使用してエアロゾル化される。
【選択図】
図16
【特許請求の範囲】
【請求項1】
環境又は表面を汚染除去する方法であって、前記環境又は表面を、同時に過酢酸蒸気及びUV-C光の組合せにさらすステップを含む、方法。
【請求項2】
過酢酸蒸気及びUV-C光が、存在する細菌の量の相乗的低減を提供する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
環境が閉鎖環境である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
閉鎖環境が部屋である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
環境が、環境の交換体積が1時間当たり5回の換気を超えないように閉鎖されている、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
過酢酸蒸気が、2%w/w~15%w/wの過酢酸水溶液から生成される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
過酢酸蒸気が、5%w/wの過酢酸水溶液から生成される、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
UV-C光が、100~280nmの波長を有する、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
UV-C光が、約254nmの波長を有する、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
過酢酸蒸気及びUV-C光が、単一の地点から発する、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
過酢酸蒸気及びUV-C光が、複数の地点から発する、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
複数の地点が、環境の周りに離間している、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
過酢酸が、部屋を横切って外向きに誘導される、請求項4から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
UV-Cが、部屋を横切って外向きに誘導される、請求項4から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
過酢酸蒸気が、過酢酸溶液をエアロゾルに霧化し、その後前記エアロゾルを蒸発させて過酢酸蒸気を形成することによって調製される、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
過酢酸溶液の霧化が、超音波ネブライザーによるものである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
過酢酸溶液の霧化が、空気圧式ネブライザーによるものである、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
過酢酸溶液の霧化が、メッシュネブライザーによるものである、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
エアロゾルが、4μm以下のサイズの過半数の液滴(数による)を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
加湿ステップをさらに含む、請求項1から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
過酢酸蒸気を発射するためのデバイスであって、過酢酸液滴のミストを生成するためのネブライザー、及び過酢酸液滴を過酢酸蒸気に蒸発させ、デバイスから蒸気を押し出すための機構を備える、デバイス。
【請求項22】
過酢酸液滴を過酢酸蒸気に蒸発させ、デバイスから蒸気を押し出すための機構がファンである、請求項21に記載のデバイス。
【請求項23】
過酢酸蒸気を発射するためのデバイスであって、過酢酸液滴のミストを生成するためのネブライザー、液滴をデバイスに隣接する場所に押し出すための第1の機構、及び過酢酸液滴を過酢酸蒸気に蒸発させ、デバイスから蒸気を押し出すための第2の機構を備える、デバイス。
【請求項24】
液滴をデバイスに隣接する場所に押し出すための第1の機構がファンであり、及び/又は過酢酸液滴を過酢酸蒸気に蒸発させ、デバイスから蒸気を押し出すための第2の機構がファンである、請求項23に記載のデバイス。
【請求項25】
過酢酸溶液のネブライザーが、超音波ネブライザーである、請求項23又は24に記載のデバイス。
【請求項26】
過酢酸溶液のネブライザーが、空気圧式ネブライザーである、請求項21から24のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項27】
過酢酸溶液のネブライザーが、メッシュネブライザーである、請求項21から24のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項28】
過酢酸蒸気が、デバイスから所定の方向に押し出される、請求項21から27のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項29】
蒸気の指向性の流れを提供するために、ミストと第2の機構との間にフィン、ブレード、ルーバ又はジェットを備える、請求項28に記載のデバイス。
【請求項30】
UV-C源をさらに備える、請求項21から29のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項31】
UV-C源が、所定の方向にUV-C放射線を発射する、請求項30に記載のデバイス。
【請求項32】
UV-C源が、蒸気と同じ方向にUV-C放射線を発射する、請求項31に記載のデバイス。
【請求項33】
加湿器をさらに備える、請求項21から32のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項34】
過酢酸溶液をさらに備える、請求項21から33のいずれか一項に記載のデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境汚染除去、特に細菌、真菌、ウイルス又は真菌胞子若しくは細菌胞子に感染し得る病院、診療所、作業場等の汚染除去のための方法及び装置に関する。
【0002】
本発明は、主として医療環境における使用のために開発されたが、環境内に見られる表面又は物体との接触により病原体が移動し得る家庭、オフィス、学校、研究所、工場及び他の公共空間にも等しく適用可能であることが、当業者には理解される。
【背景技術】
【0003】
本明細書全体にわたるいかなる先行技術の議論も、そのような先行技術が広く知られている、又は当該技術分野における共通した一般的知識の一部を形成することを認めるものとみなされるべきではない。
【0004】
ある患者から別の患者への病原体の伝染を防止する手段として、医療機器の消毒に著しい注意が向けられている。専門的な医療機器は、一般に、病原体又はそのような病原体を保有し得る生物汚染度(bioburden)を低減又は排除するために、使用後に再処理される。他の医療機器及びサプライは、使用後に廃棄される使い捨て用に製造される。しかしながら、多数の入院患者が、病院内で重篤となり得る感染症に感染する。これらの院内(病院内)感染は、直接医療処置の結果として生じるのではなく、環境汚染又はスタッフから患者への若しくは患者同士の汚染の結果生じる。
【0005】
医療施設環境は、一般に疾患の伝播に関与しており、これは免疫不全の患者間だけではない。環境病原体(例えばアスペルギルス属(Aspergillus spp.)及びレジオネラ属(Legionella spp.))又は空中浮遊病原体(例えばマイコバクテリウム・ツベルクロシス(Mycobacterium tuberculosis)及び水痘帯状疱疹ウイルス)への不用意な曝露は、有害な患者の転帰をもたらす可能性があり、また医療従事者間に病気を引き起こす可能性がある。院内感染(HAI)の数は、1980年以降世界中で指数関数的に増加しており、これは特に多剤耐性(MDR)細菌の出現及び蔓延に起因する。多剤耐性は、微生物生存の本質的及び不可避の側面であり、細菌感染症の治療において大きな問題となっている。
【0006】
HAIの発生の増加は、患者同士又は病院スタッフから患者への交差感染、並びに病院環境(機器を含む)内で選択及び維持される病原性微生物の存在に関連することが実証されている。
【0007】
病原体は、医療機器を含む無生物表面との接触及び患者の周辺環境を介して患者同士で広がり得る。低い環境衛生とHAIを引き起こす微生物の伝播との間の関連性を示唆する臨床的証拠が存在する。
【0008】
汚染された環境表面が病原体伝播に寄与する可能性は2つの重要な因子、すなわち、病原体は乾燥表面上で生存しなければならず、また汚染は、患者への伝播を可能にするのに十分高いレベルで患者及び医療スタッフが共通して接触する表面上に生じなければならないという因子に依存する。
【0009】
最も頻繁に汚染される表面は、以前に感染患者が使用していた部屋の床、ドアノブ、テレビの遠隔操作デバイス(devices)、ベッドフレーム、ロッカー、マットレス、ベッドサイドテーブル及び便座である。病院でサンプリングされた便器(commodes)、トイレの床及びベッドフレームの約50%が、C.ディフィシレ(C. difficile)で汚染されていることが判明した。
【0010】
病院内感染の3分の1は防止可能であると考えられる。米国の疾病管理予防センター疾病管理予防センター(CDC)は、米国内で年間200万人が院内感染に感染し、約20,000人が死亡していると推定している。最も一般的な病院内感染は、尿路、手術部位及び様々な肺炎の感染である。
【0011】
院内感染にかかる可能性は、環境内の微生物負荷(microorganism load)に比例して増加する。微生物負荷(microbial load)の低減は、感染の可能性を同時に低減する。環境微生物負荷を低減し得るいかなる行動も、患者集団の転帰を改善する効果を有すると期待される。環境消毒が有意な利益を提供するためには、環境における高レベルの消毒(HLD、微生物の6対数低減)を達成する必要はない。環境細菌の適度な低減(例えば、微生物の5対数低減から微生物の2対数低減の間)が、院内感染の観察可能な低減をもたらす。微生物負荷の低減が大きいほど、環境から得る感染の防止への効果はより有益である。
【0012】
そのような広い空間及び表面を消毒するための最も一般的に使用される方法は、反応性ガス、例えば腐食性及び毒性であるオゾン、二酸化塩素若しくはエチレンオキシドの使用、又は、極めて毒性で表面上に潜在的に有害な残留物を残すアルデヒド、例えばグルタルアルデヒド若しくはホルムアルデヒドの噴霧を含む。スチームが使用される場合もあるが、これは使用者集約的であり、高温が関与するため操作者に有害となり得る。スチームは繊細な素材に損傷を与える可能性があり、また表面上に高密度な湿った膜を残し、これが錆をもたらし得るため、どの場合でも有用であるわけではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
健康及び環境の観点から、消毒剤として過酸化水素又は過酢酸を使用するのが好ましい。霧化又は気化された過酢酸又は過酸化水素は、既知の消毒剤である。それらは低濃度で効果的である。
【0014】
残留物を有さない表面を提供するために、過酸化水素又は過酢酸は、非常に少ない量で提供される必要がある。残留物は、触れると冷たく湿った感触を与え、室内にいる人物の皮膚及び目に有害となり得るため、望ましくない。使用されるペルオキシ滅菌剤の量に対して最適な消毒を得ることが非常に重要である。
【0015】
本発明の目的は、広い面積を消毒する、若しくはある体積を消毒するための方法であって、先行技術の欠点の少なくとも一部を回避若しくは改善する方法を提供すること、又は有用な代替物を提供することである。本発明のさらなる目的は、本方法を行うための改善された装置及び改善された燻蒸剤を提供すること、又は有用な代替物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
したがって、本発明の多くの実施形態は、環境又は表面を汚染除去する方法であって、前記環境又は表面を、同時に過酢酸蒸気及びUV-C光の組合せにさらすステップを含む方法を提供する。
【0017】
過酢酸蒸気及びUV-C光は、存在する微生物(例えば、真菌、ウイルス及び最も好ましくは細菌)の量の相乗的低減を提供し得る。
【0018】
環境は、閉鎖環境、例えば部屋であってもよい。好ましくは、環境は、環境の交換体積が1時間当たり5回の換気(air changes)、より好ましくは1時間当たり3回の換気を超えないように、さらにより好ましくは環境の交換体積が1時間当たり1回の換気を超えないように閉鎖されている。
【0019】
「1時間当たりの換気」は、空間に加えられる、又は空間から除去される空気体積を空間の体積で除した量である。1時間当たりの換気は、画定された空間内の空気が何回入れ替えられたかの量である。
【0020】
過酢酸蒸気は、2%w/w~15%w/wの過酢酸水溶液、例えば2%w/w~10%w/wの過酢酸水溶液、2%w/w~7%w/wの過酢酸水溶液、又は5%w/wの過酢酸水溶液から生成され得る。しかしながら、任意の好適な濃度が実践され得る。例えば、約35%w/wの過酢酸水溶液が市販されている。
【0021】
UV-C光は、100~280nm、好ましくは200~280nm(例えば、220nm~270nm、240nm~260nm、約250nm)、より好ましくは約254nmの波長を有する。
【0022】
一実施形態において、過酢酸蒸気及びUV-C光は、単一の地点から発する。代替として、過酢酸蒸気及びUV-C光は、環境の周りに離間していてもよい(例えば任意の方向に互いから1m以上離れてもよい)複数の地点から発してもよい。
【0023】
一実施形態において、部屋が汚染除去されている場合、過酢酸は、ある地点から部屋を横切って外向きに誘導される。UV-Cもまた、ある地点から部屋を横切って外向きに誘導されてもよい。UV-Cの地点は、過酢酸の地点と同じであっても、又は異なっていてもよい。
【0024】
一実施形態において、部屋が汚染除去されている場合、過酢酸は、1つ以上の地点から部屋を横切って外向きに誘導される。UV-Cもまた、1つ以上の地点から部屋を横切って外向きに誘導されてもよい。UV-Cの地点は、過酢酸の地点の1つ以上と同じであっても、又は過酢酸の地点の1つ以上と異なっていてもよい。
【0025】
過酢酸蒸気は、好ましくは、過酢酸溶液をエアロゾルに霧化し、その後前記エアロゾルを蒸発させて過酢酸蒸気を形成することによって調製される。好ましくは、エアロゾル液滴は、液滴の過半数(数による)が4μm以下のサイズであるように比較的均一で小さい。
【0026】
好ましくは、液滴の50%超(数による)(例えば55%以上、例えば60%以上)が、5μm以下(例えば4μm以下)のサイズである。好ましくは、メディアン液滴サイズ(median droplet size)は、2μm~10μm、例えば4μm~5μmである。好ましくは、液滴の90%以上(例えば95%以上、例えば99%以上)(数による)が、2μm~50μmのサイズである。一実施形態において、液滴の少なくとも90%、例えば少なくとも95%、例えば少なくとも99%が、25マイクロメートル以下のサイズである。一実施形態において、液滴の少なくとも90%、例えば少なくとも95%、例えば少なくとも99%が、10マイクロメートル以下のサイズである。
【0027】
一定の注入液体体積の場合、液滴直径を低減すると表面積が増加し、したがって蒸発速度が増加する。狭い液滴サイズ分布が好ましくなり得る。
【0028】
粒子サイズ分布を測定するのに好適な、様々な異なる機械が存在する(例えば、Malvern Mastersizer S(Malvern Instruments Ltd, Worcestershire、UK)。これらの機械は全て、粒子サイズ分布を特性評価するためにレーザ回折(光散乱効果)を使用する。
【0029】
任意の形態の霧化が使用され得る。例えば、霧化は、超音波ネブライザー(例えば2.4MHzで動作)を用いたものであってもよいが、空気圧式ネブライザーを用いたものであってもよい。さらに、霧化は、メッシュネブライザーを用いたものであってもよい。
【0030】
本発明の一部の実施形態において、過酢酸蒸気を発射するためのデバイスであって、過酢酸液滴のミストを生成するためのネブライザー、及び過酢酸液滴を過酢酸蒸気に蒸発させ、デバイスから蒸気を押し出すための機構を備えるデバイスが提供される。ネブライザーは、例えば、空気圧式ネブライザーであってもよい。機構は、例えば、ファン又は圧縮空気であってもよい。
【0031】
本発明の一部の実施形態において、過酢酸蒸気を発射するためのデバイスであって、過酢酸液滴のミストを生成するためのネブライザー、及び過酢酸液滴を過酢酸蒸気に蒸発させ、デバイスから蒸気を押し出すためのファンを備えるデバイスが提供される。ネブライザーは、例えば、空気圧式ネブライザーであってもよい。
【0032】
本発明の一部の実施形態において、過酢酸蒸気を発射するためのデバイスであって、過酢酸液滴のミストを生成するためのネブライザー、液滴をデバイスに隣接する場所に押し出すための第1の機構、及び過酢酸液滴を過酢酸蒸気に蒸発させ、デバイスから蒸気を押し出すための第2の機構を備えるデバイスが提供される。一部の実施形態において、液滴をデバイスに隣接する場所に押し出すための第1の機構は、ファンである。一部の実施形態において、過酢酸液滴を過酢酸蒸気に蒸発させ、デバイスから蒸気を押し出すための第2の機構は、ファンである。一部の実施形態において、液滴をデバイスに隣接する場所に押し出すための第1の機構は、圧縮空気を備える。一部の実施形態において、過酢酸液滴を過酢酸蒸気に蒸発させ、デバイスから蒸気を押し出すための第2の機構は、圧縮空気を備える。ネブライザーは、例えば、超音波ネブライザー、メッシュネブライザー又は空気圧式ネブライザーであってもよい。
【0033】
本発明の一部の実施形態において、過酢酸蒸気を発射するためのデバイスであって、過酢酸液滴のミストを生成するためのネブライザー、液滴をデバイスに隣接する場所に押し出すための第1のファン、及び過酢酸液滴を過酢酸蒸気に蒸発させ、デバイスから蒸気を押し出すための第2のファンを備えるデバイスが提供される。ネブライザーは、例えば、超音波ネブライザー、メッシュネブライザー又は空気圧式ネブライザーであってもよい。
【0034】
ファンが言及されているが、当然ながら、液滴をデバイスに隣接する場所に押し出すための任意の機構が本発明の実施形態に従って実装され得ることが理解されるべきである。例えば、一部の実施形態において、機構は、圧縮空気を備えてもよい。
【0035】
ファンが言及されているが、当然ながら、過酢酸液滴を過酢酸蒸気に蒸発させ、デバイスから蒸気を押し出すための任意の機構が本発明の実施形態に従って実装され得ることが理解されるべきである。例えば、一部の実施形態において、機構は、圧縮空気を備えてもよい。
【0036】
好ましくは、過酢酸は、デバイスから所定の方向に押し出される。これは、エアロゾル蒸気の指向性の流れを提供するための、ミストと第2の機構との間の(intermediate the mist and the second mechanism)フィン、ブレード(blade)、ルーバ(louver)又はジェット(jet)により達成され得る。一実施形態において、第2の機構は、ファン(例えば第2のファン)であってもよい。
【0037】
好ましくは、デバイスは、UV-C源をさらに備える。UV-C源は、所定の方向に、最も好ましくはエアロゾル蒸気が押し出されるのと同じ方向にUV-C放射線を発射してもよい。
【0038】
好ましくは、デバイスは、加湿器をさらに備える。
【0039】
定義
明細書及び特許請求の範囲にわたって、文脈上異なる解釈を必要とする場合を除き、「含む(備える)(comprise)」、「含む(備える)(comprising)」、及び同様の単語は、排他的又は網羅的意味ではなく包含的意味で、すなわち「含む(備える)がこれらに限定されない」という意味で解釈されるべきである。
【0040】
UV-C光は、100~280nm、好ましくは200~280nm(例えば、220nm~270nm、240nm~260nm、約250nm)、より好ましくは約254nmの波長を有する。「光」及び「UV-C光」という用語は、本明細書において使用される場合、UV-C電磁放射線を指す。
【0041】
液滴サイズは、その最大寸法での液滴のサイズを指す。したがって、4μmのサイズの球状液滴は、4μmの直径を有するように理解される。
【0042】
「ミスト」及び「エアロゾル」という用語は、交換可能に使用されて、空気又はガス中に分散した粒子の浮遊物を指す。ミストは、極めて小さいにもかかわらず液体液滴を指す。
【0043】
「蒸気」は、空気中に分散した個別の分子又は小クラスタを指す。「蒸気」という用語は、ミスト及びエアロゾルとは異なる。本明細書の他の箇所で言及されるように、過酢酸エアロゾル(又はミスト)の蒸発により、過酢酸蒸気が形成される。ミストはチンダル効果(光散乱効果)を用いて検出され得るが、蒸気は光を散乱せず、レーザビームでは不可視である。
【0044】
「エアロゾル蒸気」は、エアロゾルの蒸発により生成された蒸気を指す。
【0045】
過酢酸は、過酢酸、過酸化水素、酢酸及び水の平衡混合物として販売されている。
【0046】
【0047】
過酢酸ミスト/エアロゾルは、過酢酸、過酸化水素、酢酸及び水の平衡混合物を含むミスト/エアロゾルを指す。
【0048】
過酢酸液滴は、過酢酸、過酸化水素、酢酸及び水の平衡混合物を含む液滴を指す。
【0049】
過酢酸蒸気は、過酢酸、過酸化水素、酢酸及び水の平衡混合物を含む蒸気を指す。
【0050】
略語:
PAA 過酢酸
H2O2 過酸化水素
AC 活性炭
ACH 活性炭ハニカム
PZT Pb(ZrTi)、チタン酸ジルコン酸鉛
【0051】
ここで、例示のみを目的として、添付の図面を参照しながら本発明の好ましい実施形態を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【
図1】2.4MHz超音波ネブライザーにより生成されたミストの液滴サイズ分布を示すグラフである。
【
図2】本発明の一実施形態における過酸化物蒸気の流れを示す図である。
【
図3a】超音波ネブライザーを使用した過酢酸蒸気の調製及び分配のためのデバイスの一実施形態を示す図である。
【
図3b】メッシュネブライザーを使用した過酢酸蒸気の調製及び分配のためのデバイスの一実施形態を示す図である。
【
図3c】空気圧式ネブライザーを使用した過酢酸蒸気の調製及び分配のためのデバイスの一実施形態を示す図である。
【
図5】過酢酸の消毒能力の表面プロットを示すグラフである。
【
図6】UV-Cの消毒能力の表面プロットを示すグラフである。
【
図7】UV-C及び過酢酸の組合せの消毒能力の表面プロットを示すグラフである。
【
図8a】本発明の一実施形態の有効性を決定するために使用された試験皿の位置を示す図である。
【
図8b】本発明の一実施形態の有効性を決定するために使用された試験皿の位置を示す図である。
【
図9】本発明によるUV-C及び過酢酸の相乗効果を示すグラフである。
【
図10】いくつかの市販の活性炭ハニカムを示す図である。
【
図11】異なるPAA修復選択肢(remediation options)の試験を示すグラフである。
【
図12】ハニカム触媒カートリッジによるPAA及びH
2O
2の除去を示すグラフである。
【
図13a】メッシュネブライザーの一例を示す図である。
【
図13b】メッシュネブライザーを使用した過酢酸エアロゾルの調製及び分配のためのデバイスの一実施形態を示す図である。
【
図13c】空気圧式ネブライザーの一例を示す図である。
【
図14】ネブライザー、UVCランプ、加湿器及び触媒カートリッジを備えるデバイスの試作品を示す図である。
【
図15a】室内の異なる湿度レベルでのPAA及びUVCの組み合わせ方法(combinatorial approach)を使用した生物汚染除去効率を示すグラフである。
【
図15b】
図20のx軸上に参照される室内の標的位置1~6を示す図である。
【
図16】UVCのみ、PAAのみ及びPAAと組み合わせたUVCによるlog10低減を示すグラフである。
【
図17】UVCあり、及びなしでのPAAによる黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)不活性化の動態を示すグラフである。
【
図18】UVCあり、及びなしでのPAAによる緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)不活性化の動態を示すグラフである。
【
図19】UVCあり、及びなしでのPAAによるサルモネラ菌(Salmonella enterica)不活性化の動態を示すグラフである。
【
図20】UVCあり、及びなしでのPAAによるカンジダ・アルビカンス(Candida albicans)不活性化の動態を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0053】
汚染除去される環境は、部屋、例えば病室若しくは病棟、診療所、病院の手術室、救急車若しくは患者搬送設備、作業場、家庭の部屋、輸送用コンテナ、飛行機内部、倉庫、植物若しくは動物生産施設、又は他の囲まれた、若しくは半分囲まれた空間であってもよい。露出表面は、環境若しくは空間を画定する壁若しくはパーティションの表面、又は工作物の表面、機械の表面、空調ダクト、或いは、本発明の目的において、内部である、又は少なくとも一時的に囲まれてもよい、若しくは部分的に囲まれてもよい他の表面によって例示され得る。露出表面はまた、部屋の中身、例えばベッド、寝具及び枕、椅子、テーブル、テレビ及びコントローラ等を含む。
【0054】
環境の汚染除去とは、体積内の空気が、空気中に浮遊した任意の生物(organisms)とともに汚染除去にさらされることを意味する。
【0055】
本出願において、消毒される環境又は空間は閉鎖されていることが好ましい。これは、経時的に入れ替わる空気の量を最小限にするために空間がある程度封止されていることを意味するが、汚染除去サイクル中に保護される必要がある人間及び他の種が空間内に存在しないこともまた重要である。
【0056】
本発明の多くの実施形態による環境消毒システムは、部屋を汚染除去するために過酢酸蒸気及びUV-C光の組合せを使用する。過酢酸及びUV-Cは両方とも、個々に汚染除去剤として知られているが、本出願人らは、驚くべきことに、過酸化物蒸気及びUV-C光の両方の同時適用にさらされた環境は、存在する細菌の量の相乗的低減を示すことを見出した。また、過酢酸及びUV-Cが閉鎖空間内の単一の地点から発する場合、相乗効果は、UV-C及び過酢酸のモードが異なるにもかかわらず、かなり均一なレベルの相乗効果が全閉鎖空間内で観察されるようなものであることも見出された。
【0057】
多くの実施形態において、汚染除去方法は、消毒される表面を過酢酸蒸気及びUV-C光の同時の組合せと接触させるステップを含む。
【0058】
ある特定の実施形態において、本発明のデバイスは、単一の組合せデバイスから過酢酸蒸気及びUV-C光を分配し、過酢酸及びUV-Cは単一の地点から発する。当然ながら、本発明の実施形態はそのように限定されず、むしろ、多くの実施形態において、過酢酸及びUV-Cは、異なる地点から、又はさらには環境の周りに離間した複数の地点から出されてもよいことが理解されるべきである。
【0059】
過酢酸蒸気は、任意の量で、例えば0.15~1.5ppmで存在し得る。過酢酸の過度の使用は、表面上への凝縮物膜の形成をもたらし得るが、これは手触りが悪く、一般的に望ましくないとみなされる。
【0060】
同様に、UV-Cは、任意の出力レベルで使用され得るが、UV-Cへの過度の曝露は、特に表面が有機ベース(布若しくは木材)又はプラスチックの場合、表面の損傷をもたらし得る。好適なUV-C出力レベルは、0.5~20mJ/cm2、例えば1~15mJ/cm2、例えば5~10mJ/cm2であり得る。
【0061】
非常に少量の過酢酸及び低いUV-C強度(例えば0.15ppmのPAA及び5.0mJ/cm2のUVC)が使用された場合であっても、まだ相乗効果が見られることが観察されている。PAA蒸気レベル及びUVC強度の組合せは、異なる生物汚染度に対して若干異なる範囲において相乗効果をもたらし得る。提案されるような相乗的相互作用は、広範囲の過酢酸濃度及びUV強度にわたって観察されている。
【0062】
本発明の1つの好ましいデバイスは、UV-C及び過酢酸を単一の地点から分配するように構成される。これは、典型的なサイズの病室又は診療室を消毒することができる独立型の装置である。典型的な標的となる部屋は、床面積が約9m2(3m×3m)、標準的な高さが約2.6~3mであり得る。
【0063】
汚染除去を行うために、部屋は、家庭の部屋、診療室又は病室が閉鎖される通常の様式で、すなわち窓、扉、及び外部通気口を閉め、いかなる空調もオフにすることによって閉鎖され得る。しかしながら、部屋は密閉される必要はない。空気流が1時間当たり1回を超える換気をもたらさない限り、少量の空気流が許容された。
【0064】
ある特定の実施形態による過酢酸蒸気生成器は、過酢酸が部屋に沿って外向きに、反対側の壁に向かって妨害されることなく誘導され得るように、典型的には1つの壁の高い位置(例えば床から1~1.5m上の高さ)に位置付けられてもよい。また、UV-C源は、室内の人間が接触する表面がそれに曝露されるように、部屋を横切って下方に誘導されてもよい。代替の位置及び配置もまた想定され、例えば、過酢酸蒸気及びUV-Cの適切な分布を達成するために、複数のデバイスが別個に又は集合体(2個以上、例えば2~5個)として、より大きな空間において、異なる壁に使用されてもよく、又は天井に位置付けられてもよい。
【0065】
一実施形態において、デバイス内に収納された過酢酸溶液を超音波処理するために超音波ネブライザーが使用される。超音波ネブライザーの典型的な液滴サイズ分布は、セラミックディスクの振動周波数に依存する。超音波ネブライザーは、エアロゾルを生成するために、高周波数(例えば1~3MHz)で振動する圧電結晶を組み込んでいる。超音波ネブライザーは、任意の好適な周波数で動作し得る。例えば、市販の2.4MHzトランスデューサが使用され得る。ある特定の実施形態において、ミストが生成されたら、液滴をデバイスの外に押し出すのに十分な速度で動作するファンを用いて、ミストがデバイスの外に移送される。2.4MHz超音波ネブライザーにより生成されたミストのサイズ分布を、
図1に示す。広範囲の液滴サイズに対応するために、対数尺度が使用される。
【0066】
図示された例において、液滴サイズは以下の通りである。
- 最も一般的な液滴サイズ=4.47μm
- 1μm以下の液滴の体積=14%
- 1μm~4μmの液滴の体積=40%
- 4μm以下の液滴の体積=54%
- 検出された最大液滴サイズ=350μm
【0067】
理論的には、平均液滴直径(d)は、強制的周波数(f)並びに流体特性である表面張力(ρ)及び密度(σ)(ともに温度依存性)に依存し、以下の等式に従う。
【0068】
【0069】
縦軸は生じる全液滴体積のうちの特定の直径の液滴の体積の%を表す。体積は直径の3乗に比例するため、200μmの1つの液滴に等しくなるには、100万個の2μmの液滴が必要である。これは、約200μmの%体積が顕著であるように見えるが、生成される液滴の総数の%としては非常に小さいことを意味する。
【0070】
トランスデューサ周波数及びトランスデューサ強度のわずかな変動は、デバイスの動作に重大な影響を及ぼすことはなかった。
【0071】
本発明者らは、超音波ネブライザーが使用される場合、過酢酸のある程度の分解が生じることを見出した。理論に束縛されることを望まないが、これは、超音波エネルギーが過酢酸溶液(ミストが生成される)の温度を上昇させるためであると考えられる。
【0072】
したがって、多くの実施形態において、空気圧式ネブライザー又はメッシュネブライザーが実装され得る。これらのネブライザーの使用は、過酢酸の同じレベルの分解をもたらし得ない。
【0073】
多くの実施形態において、過酢酸溶液から過酢酸ミストを生成するために、空気圧式ネブライザー(ジェットネブライザーとしても知られる)が使用される。
【0074】
空気圧式ネブライザーアセンブリの一例を、
図13cに示す。
図13c(a)は、液体入口及び圧縮ガス(例えばアルゴン(Ar)又は圧縮空気)用の入口を含むネブライザー、並びにノズルの拡大図を側面図として示す。
図13c(b)は、ノズル形状の正面図並びに液体用の出口(内側の円)及び圧縮ガス用の出口(リング形状)の相対的位置付けを示す。
図13c(c)は、霧化プロセス中のノズルでの液体からのミストの生成を示す。Arの代替ガス、例えば圧縮空気が使用されてもよい。
【0075】
空気圧式ネブライザーを実装するシステムの一例を、
図3cに示す。
図3cにおけるガス源は、圧縮空気の源であってもよい。バッフルを使用して、ガス及び液体がそれを通過する際にミストを形成する。
【0076】
空気圧式ネブライザーは「第1のファン」を必要とせず、圧縮空気を利用してミストの流れを誘導し得る。ファンは、ミストから蒸気を生成し、部屋を横切って蒸気を押し出すために使用され得る。
【0077】
空気圧式ネブライザーは、加圧ガス(好ましくは空気)を使用してミストを生成する。しかしながら、本発明者らは、ミスト中の成分(すなわち過酸化水素、酢酸及び過酢酸)の比率が、過酢酸溶液中の成分の比率と同じでない可能性があることを見出した。理論に束縛されることを望まないが、これは沸点の違いに起因すると考えられる。
【0078】
典型的なネブライザーアセンブリでは、いかなる大き過ぎる液滴(例えば50マイクロメートル以上)も、バッフル及び/又は蛇行経路を使用して機械的に取り除かれる。しかしながら、本発明のある特定の実施形態において、大き過ぎる液滴の除去は、ネブライザーの上の比較的広い空間内で達成され、そこではミストを運ぶ空気が減速して、それにより大きな液滴を落下させる(例えば、50マイクロメートル以上のサイズの液滴)。したがって、デバイスは、大きな液滴(例えば50マイクロメートル以上のサイズの液滴)を比較的含まないミストをデバイスの直近に生成し得る。
【0079】
さらなる実施形態において、メッシュネブライザーが実装される。
【0080】
多くの実施形態において、過酢酸溶液から過酢酸ミストを生成するために、メッシュネブライザーが使用される。メッシュネブライザーは、小体積の液体をメッシュに押し通すことにより振動メッシュを使用して液体からミストを生成することを伴う。
【0081】
メッシュネブライザーアセンブリの一例を、
図13a及び
図13bに示す。一実施形態におけるネブライザーは、102.9kHz及び103.8kHzの高い共鳴周波数を有するPZTネブライザーである。
【0082】
メッシュネブライザーを実装するシステムの一例を、
図3bに示す。
図3bでは、メッシュネブライザーを使用して過酢酸溶液からエアロゾルが生成される。第1のファンが液滴をデバイスに隣接する場所に押し出し、第2のファンが過酢酸液滴を過酢酸蒸気に蒸発させ、デバイスから蒸気を押し出す。
【0083】
メッシュネブライザーを使用する利点は、得られるミストが均一な液滴サイズを有することである。液滴サイズは、メッシュの孔のサイズによって決定付けられる。例えば、メッシュの孔(ひいては液滴サイズ)は、10マイクロメートル以下(例えば8マイクロメートル、例えば5マイクロメートル)であってもよい。振動メッシュネブライザーは、非常に小さい粒子サイズの狭い分布を有し、これは蒸発プロセスを加速し、大きな液滴による消毒表面の湿潤を回避するのに役立つ。メッシュネブライザーを使用するさらなる利点は、ミストの液滴中の過酢酸濃度に関する不確実性を回避することである。換言すれば、蒸気中の成分間の比率が、溶液中の比率と同じになる。
【0084】
ある特定の空気圧式ネブライザー及びメッシュネブライザーが言及されたが、任意の好適な空気圧式又はメッシュネブライザーが本発明の実施形態に従って実装され得ることが明確となるべきである。
【0085】
多くの実施形態において、過酢酸液滴のミストがデバイスから出る際、液滴は、ファン(例えば第2のファン)の経路に誘導される。液滴は第2のファンの空気流に即時に接触し、第2のファンは、i)液滴を完全に気化する、及びii)蒸気を部屋の反対側に押し出すのに十分な流れを設定するという2つの目的を果たす。第2のファンは、第1のファンより大幅に強力であってもよく、出力は、部屋を横切る蒸気の十分な押し出しが達成されるように選択される。一実施形態において、ネブライザー及び「拡散させる」ファンからの空気流速間の差は、100倍を超える。
【0086】
これらの条件下での過酸化物蒸気の流れは、
図2に示されるように生じ、すなわち、サイクロン流として、デバイスから部屋の上半分を横切って反対側の壁に達して下向きに下降し、次いで部屋の下半分に沿ってデバイスに向けて戻る。
【0087】
以前に示唆されたように、任意の好適なネブライザーが本発明の実施形態に従って実装され得る。ミストは超音波ネブライザーによって生成される必要はなく、任意の好適なネブライザー、例えば空気圧式ネブライザー又はメッシュネブライザーによって生成されてもよい。同様に、任意の種類のファンが使用され得、例えば、ファンは従来のファン若しくはブレードレスファンであってもよく、又はさらにファンは圧縮空気によって置き換えられてもよい。
【0088】
ネブライザー並びに第1及び第2のファンは、組み合わされて作動して、デバイスを出た直後に気化される過酸化物ミストを生成し得る。ミスト粒子が過度に大きく霧化された場合、又は第2のファンが適切な空気流を提供しない場合、大きな液滴が第2のファンによってデバイスから押し出されて、それにより水の蒸発及び蒸気の形成が阻害され得る。ミスト粒子は潜在的に表面上に沈着し、望ましくない湿った感触をもたらし得る。粒子はまた、水平表面の下面に接触する上で、又は蛇行経路によるより到達しにくいエリアに達する上で、蒸気より非効果的となり得る。上述のように、本発明の多くの実施形態は、ミストが気化される前にミスト中の大きな液滴がミストから落下し得る、デバイスに隣接した空間を提供し得る。
【0089】
同様に、ネブライザーが過度に小さい粒子を生成する場合、ミスト粒子がデバイスから出る前に蒸発が生じ、それにより潜在的に一貫しない結果が生じ得る。
【0090】
図3aは、過酢酸蒸気の調製及び分配のためのデバイス1の一実施形態を示す。過酢酸生成器1は、超音波ネブライザー2を使用して過酢酸溶液3を超音波処理する。この超音波処理は、超音波噴流4を生成し、これが一方で過酢酸液滴の微細に分散したミスト5を生成する。過酢酸液滴の微細に分散したミスト5は、ネブライザー2から押し出され、ファン6により出口7を通過する。ミストはデバイスを出て、デバイスの一部である第2のファン8の空気ストリームに入る。第2のファン8は、エアロゾル液滴を蒸発させて蒸気9を生成するように機能する。第2のファンはまた、部屋を横切って蒸気9を押し出すための気流を形成するように機能する。
【0091】
過酢酸蒸気は、市販の5%w/w過酢酸溶液から生成された。過酢酸は、過酢酸、過酸化水素、酢酸及び水の平衡混合物として販売されている。5%w/w過酢酸溶液は、典型的には、20~30%w/wの過酸化水素、6~10%w/wの酢酸、4.5~5.4%w/wの過酢酸を含み、残りは水であった。より高濃度、例えば最大10%w/w又は最大15%w/wの過酢酸溶液が使用され得る。実際に、本発明の実施形態に従って、任意の好適な濃度が使用され得る。
【0092】
図3a、3b又は3cにおける過酢酸蒸気生成器は、同じ筐体内に位置するUV-C光10と組み合わされて動作し得る。UV-Cランプは、100~280nm(例えば、好ましくは200~280nm、220nm~270nm、240nm~260nm、約250nm)、典型的には約254nmの波長のUV光11を発光する。光は、部屋の遠隔エリアに十分な強度(5~25mJ/cm
2、例えば5~15mJ/cm
2又は15~25mJ/cm
2)を提供するように選択される。UV光は、オゾンの形成を防止するために(例えば合成石英等の石英遮蔽板を使用して)遮蔽されてもよい。
【0093】
点源からのUVの分布は、閉鎖環境内の異なる表面に衝突する異なる強度の光をもたらし得る。光の強度は逆2乗の法則に従って減少するため、光からより離れた表面はより低い強度を受け得る。しかしながら、表面へのUV-C光の入射角度もまた、光の強度に影響し得る。
図4は、部屋を照射するUV光を示す。
【0094】
低圧水銀蒸気ランプは、所望の波長の所望の光を生成するのに好適となり得るが、好適な波長又は強度の光を生成する任意の光源、例えばUV-C LEDが使用され得る。UV-C LEDを使用すると、LEDからの光出力の制御によって、消毒アルゴリズムの送達放射照度/UV成分の細かい制御が可能となる。
【0095】
UV-C及び過酢酸の組合せは、驚くべきことに、クロストリジウム・ディフィシレ(Clostridium difficile)を含む多くの細菌に対する相乗作用をもたらした。それらの生物に対する死滅作用は、UV-C又は過酢酸の個々の要素の場合よりも明らかにはるかに高く、さらには2つの個々の要素に対して推定されるものより有意に高く、これにより、UV-Cと過酢酸との間の有意な相乗作用が実証された。
【0096】
2つの消毒剤の性質、すなわち化学的(過酢酸)及びエネルギー的(UV-C)性質によって、それぞれの源の分布は、濃度及び強度が室内のあらゆる点で均一に経験されるようにはなり得ない。例えば、より多くの過酢酸蒸気及びより少ないUV-Cを経験するエリアもあれば、その逆が成り立つエリアもある。受容される過酢酸蒸気及びUV-Cの両方がより少ない領域もあり、また過酢酸及びUV-Cの両方が高い1つ以上の「スイートスポット」が存在することも推定される。
【0097】
しかしながら、驚くべきことに、UV強度及び過酢酸流をマッピングすると、部屋内のほとんどの点に送達されるそれぞれの量は、大まかに相補的であることが見出された。すなわち、より多い用量、及びより少ない用量のUV-C及び過酢酸を受容する領域はいくつか存在するが、全体的に、効果は非常に満足のいく様式で大まかに部屋全体をカバーした。
【0098】
図5は、単一地点から生じるUV-C及び過酢酸の両方に基づき、部屋全体の過酢酸の消毒能力の表面プロットを、床上の場所に依存するxyプロットとして示す。過酢酸生成器の下では高レベルの消毒が見られ、また過酢酸生成器とは反対側の壁に沿ってレベルが増加しているが、部屋の中央付近では若干の谷が見られる。
【0099】
図6は、部屋全体にわたるUV-Cの消毒能力の表面プロットを、床上の場所に依存するxyプロットとして示したものである。推測されたように遠くの壁では消毒能力の著しい低下が見られ、部屋の中央ではレベルが高かった。滅菌器のすぐ下の減少は、デバイス自体によるある程度の遮蔽が原因であった。
【0100】
図7は、部屋全体にわたるUV-C及び過酢酸の組合せの消毒能力の表面プロットを、床上の場所に依存するxyプロットとして示す。UV光及び過酸化物蒸気濃度の組合せは部屋中で均一に経験されるわけではないが、提供される消毒レベルは、部屋全体にわたり著しく、また驚くべきことに均一であり、消毒が許容されないほど低いレベルであるエリアは存在しないことが分かる。
【0101】
図7は、示された相乗作用が最大の利益を提供する部屋の中央に向かう領域を示し、ここは汚染除去エリア内の「ホットゾーン」と呼ぶことができる。これは、比較的枯渇していない過酢酸蒸気ストリームとの接触と組み合わせた最適及び陰になっていないUV-C曝露に起因すると考えられる。
【0102】
多くの実施形態において、環境又は表面を汚染除去する方法であって、前記環境又は表面を、同時に過酢酸蒸気及びUV-C光の組合せにさらすステップを含む方法は、加湿ステップをさらに含む。加湿ステップは、汚染除去ステップの前に、及び/又は汚染除去ステップと同時に行われてもよい。
【0103】
本発明のある特定の実施形態によれば、環境又は部屋の湿度は、55%以上(例えば60%以上、例えば65%以上、例えば70%以上)に調節され得る。湿度は、95%以下、例えば90%以下、例えば85%以下であってもよい。一実施形態において、環境又は部屋の湿度は、好ましくは60~85%の範囲内のレベルに調節される。
【0104】
PAA蒸気の殺生物効率(biocidal efficiency)は、湿度レベルの増加とともに増加し得る。このPAA蒸気挙動は、低湿度レベルでより効果的な消毒剤である過酸化水素蒸気の挙動とは正反対である。
【0105】
本発明者らは、より高い湿度での汚染除去がより効率的に進行することを見出した。したがって、より高い湿度レベルは、汚染除去がより短時間で行われ得ることを意味する。
【0106】
汚染除去プロセスは、任意の所望の時間の長さ(例えば約5分~約24時間、約30分~約4時間、約30分~約3時間)で実行され得る。約2時間の期間プロセスを実行することが有利であることが見出された。これは、後天性感染のレベルの低減の点で非常に重要な臨床的影響を有する汚染除去レベルをもたらした。また、2時間は、病院内の部屋を遮断するのに比較的許容され得る時間の長さと考えられる。
【0107】
本発明の組み合わせ方法は、生物汚染除去要件に非常に柔軟に対応すると同時に、建築資材にも安全となり得る。これは、PAA蒸気レベル、適用できるUVC線量、及び消毒時間の変更により行うことができる。
【0108】
一部の実施形態において、消毒に続いて修復が行われる。修復とは、殺生物剤の毒性成分のレベルを低減することを指す。
【0109】
一実施形態において、修復は、経時的に生じるPAAの自然分解を使用することを含む。
【0110】
別の実施形態において、修復は、既存の空調を使用して、消毒された空間内の空気を除去及び補充することを含む。
【0111】
一部の実施形態において、消毒後、汚染除去デバイスが消毒された空間の修復を実行し得る。
【0112】
さらなる実施形態において、修復は、処理されたエリアから酸性蒸気を除去し得るフィルタ、例えば活性炭フィルタの使用を含む。修復は、活性炭を備える触媒カートリッジの使用を含み得る。
【0113】
一実施形態において、活性炭は、場合によって、残留酸性蒸気を吸収し得るアルカリ性物質が含浸されてもよい(例えば水酸化カリウム、例えばKOHが含浸されたハニカム活性炭)。これは、残留酸性蒸気を破壊し得る。その結果、酸性蒸気の関連する臭いが室内の空気から除去される。
【0114】
一実施形態において、修復は、室温での殺生物剤(PAA及びH
2O
2)の毒性成分の触媒破壊を含む。この場合、特定の活性炭(AC)を触媒として使用して、H
2O
2が水及び酸素に変換され、PAAが酢酸及び酸素に変換される。これらの生成物は全て毒性ではなく、したがって環境に優しい。KOH含浸ACは、KOHと酢酸及び過酢酸との間の速やかな不可逆化学反応に起因して、消毒剤の酸性成分の除去に非常に有用となり得る。現在利用可能なACHのいくつかの形状は、
図10に見ることができる。
【0115】
ACのハニカム構造は、高い逆圧を回避することができ、修復時間の低減を補助し得る。
【0116】
PAAの自然分解を使用した修復、ハニカムACによる触媒破壊を使用した修復、及び既存の空調を使用した修復を比較する試験の結果を、
図11に示す。
図11から分かるように、PAA除去の最も効果的な選択肢は、空調の使用である。しかしながら、この選択肢は、空調システムを介した建物周囲の毒性PAA蒸気の分配に起因して、全ての場合で使用できるわけではない。触媒破壊及び吸着の使用は、より汎用性があり、ある特定の状況では幾分効果的となり得る。触媒カートリッジを使用した毒性化学物質除去プロセスの別の態様は、H
2O
2及びPAA破壊の速度の差に関連する(
図12を参照されたい)。PAAは、H
2O
2より急速に除去され得る。これは、これらの成分の沸点の著しい違いに起因すると考えられる(PAAは約105℃、H
2O
2は150℃)。
【0117】
汚染除去プロセスの最後に、デバイスをオフに切り替えた。数分後に部屋に入った。有害な臭いはなく、目視により、又は有機及び多孔質表面、例えば紙及び布を含む任意の表面に触れることにより、残された残留物を観察することはできなかった。
【0118】
殺生物剤としてPAAを使用することの1つの「不快な」側面は、酢酸(酢)の消毒後の臭気である。酢酸はPAA溶液の天然成分であり、PAAの触媒破壊からも生じ得る。この臭気の問題は、10ppm(TWA)という酢酸蒸気の安全性レベルと、わずか0.48~1.0ppmという臭気検出の閾値との間の大きなギャップに起因して生じる。酢酸と同じ臭気を有するPAAは、触媒カートリッジにより安全性レベル(0.17ppm)を十分下回るまで除去されるが、残念ながら、触媒破壊はPAAから酢酸への変換に関与する。吸着によりPAA及び酢酸の両方を除去するために同じカートリッジが使用されるが、残念ながらいずれの場合も、酢酸に対する非常に低い閾値嗅覚に起因して、消毒サイクルの最後には依然として酢の臭気が感知され得る。この問題を克服するための1つの解決策は、好適な吸着カートリッジによる酢酸の吸着及びその後のマスキング剤の使用である。
【0119】
場合により、消毒後にマスキング剤が使用されてもよい。多くの市販の臭気制御製品が市場で入手可能である。通常、それらは精油の混合物であり、水溶液中に精油成分を分散させるために界面活性剤が添加されている。
【0120】
臭気を精油で中和することは物理化学的反応であり、「ファンデルワールス」の原理に依存する。蒸気相中の活性物質の臭気分子は、香りを有する分子と反応する。そのようにして、香りを有する分子のほとんどは香りのない分子に直接変換される。それによって臭いの70~90%が防がれる。いかなる残留臭気もZwaardemakerの原理によって中和され、したがって香りを有する分子はもはや鼻により認識されない。
【0121】
本発明の多くの実施形態によるデバイスは、所定の動作時間を確実にするためにタイマーを備えてもよい。
【0122】
代替として、デバイスは、誰もいない場合に自律的に部屋をある期間消毒することができるように、モーション及び/又は熱検出器を装備してもよい。
【0123】
開示されたデバイスはまた、停止時間中の清浄化を自動化するために、建物の気候及びセキュリティシステム並びに患者及びスタッフの管理システム等のシステムと統合されてもよい。
【0124】
図14は、ネブライザー、UVCランプ、加湿器及び触媒カートリッジを備えるデバイスの試作品を示す。試作品は、以下のサブシステムを含む。
1.湿度レベルの自動制御を有する加湿器。
2.空気圧式ネブライザーを使用したPAA蒸気供給サブシステム。空気圧式ネブライザーの構造は、室温ですぐにPAA蒸気に変換される「ドライミスト」を生成するように設計された。
3.消毒サイクルの最後のPAA及び過酸化水素破壊、並びに必要な場合はVOCの除去を加速するための触媒及び吸着変換器。効果的な修復には、KOHが含浸されたハニカム活性炭が使用され得る。
4.空気圧式ネブライザーを使用したPAA供給サブシステムと同じ原理に基づく、マスキング剤の蒸気を供給するためのサブシステム。
5.UVC透過性石英カバーで保護されたUVCランプ。
【実施例】
【0125】
実験
66m3(6m×4.2m(床面積)×2.6m(高さ))の容積の部屋を試験部屋として使用した。部屋を、家庭の部屋、診療室又は病室が閉鎖される通常の様式で、窓、扉、及び外部通気口を閉め、いかなる空調もオフにすることによって閉鎖した。しかしながら、部屋は密閉されてはおらず、少量の空気流は許容された。試験部屋の温度は周囲温度(20~25℃)であった。
【0126】
試験部屋は、3×3mの床面積×2.6~3mの高さの部屋である通常標的とされる部屋より幾分広かった。
【0127】
過酢酸蒸気/ミスト生成器(ネブライザー)を、より狭い壁に沿って、約1.21mの高さに位置付けた。
【0128】
過酢酸蒸気/ミスト生成器は、市販の5%w/w過酢酸溶液を利用した。過酢酸は、過酸化水素、酢酸及び水の平衡混合物として販売されている。5%w/w過酢酸溶液は、典型的には、20~30%w/wの過酸化水素、6~10%w/wの酢酸、4.5~5.4%w/wの過酢酸を含み、残りは水である。本発明の多くの実施形態において、使用された5%w/w過酢酸溶液は、24%w/wの過酸化水素、7.5%w/wの酢酸、5%w/wの過酢酸を含み、残りは水であった。
【0129】
過酢酸蒸気/ミスト生成器はまた、同じ筐体内に位置するUV光を伴っていた。UVランプは、60V/0.37A/18Wで動作し、5.5WのUV-C出力を有するPhilips TUV PL-L 18W/4P 1CT/25であった。ランプは、既知の殺菌波長である約254nm(253.7nm)のピークを発光する低圧水銀蒸気ランプである。これは、既知の殺菌波長である。UV光は、室内の全ての露出表面に照射した。UVランプは18ワットであった。電球は、185nmのオゾン形成放射線が逃げるのを防止するために、合成水晶(synthetic quartz)を使用した。
【0130】
UV-C光強度は、逆2乗の法則に従って低下するため、光からより離れて位置するエリアは著しく低い強度にさらされる。滅菌器の高い場所及び位置は、部屋の境界がUVランプからの同じ距離に最も近似することを意味する。
【0131】
UV-C光及び過酢酸蒸気/ミスト生成器は、独立して、又は同時に動作してもよく、個々の汚染除去剤同士の、及び組合せとの直接比較を可能にする。
【0132】
滅菌を開始する直前に、接種材料(inoculum)が入ったペトリ皿を室内の3つの個別の場所に配置し、1つはUV/過酢酸デバイスの近く(例えばデバイスから80cm)、1つは部屋の中央、残りは部屋の反対側の端に配置した。皿はまた、異なる高さに配置した。皿の位置を
図8a及び
図8bに示す。ペトリ皿は「汚れて」おり、5%ウマ血清を含んでいた。それぞれの皿は、50mmのクロストリジウム・ディフィシレATCC43539の接種エリア(inoculated area)を有していた。これは、100μlの微生物を処理済みのペトリ皿上の50mm表面エリアに広げ、それを乾燥させることによって調製した。微生物の数を計数した。培養物を調製する際、標準希釈剤(合成ブロス(broth))を使用した。必要に応じてプレートをインキュベートした。
【0133】
同一の手法で調製し、同じレベルのクロストリジウム・ディフィシレATCC43539を有する対照プレートは、部屋の外に設置したが、その他は同様の条件であった。
【0134】
消毒部屋の外の対照プレートは、推測通りの挙動を示した。クロストリジウム・ディフィシレの初期数は50mm当たり2.45E+03であり、これは2時間の間に2.90E+03に若干増加した。すなわち、いかなる消毒もない2時間後、クロストリジウム・ディフィシレは4.5E+02の増加を示した。
【0135】
UV光及び過酢酸蒸気/ミスト生成器を、過酢酸ミストなしで、UV光のみを生成するように2時間の期間動作させた。試験部屋内に位置するクロストリジウム・ディフィシレのプレートは、クロストリジウム・ディフィシレ数の中程度の低減(0.11対数低減)を示すか、又は変化を示さなかった(すなわち生物静力学的処理)。生物静力学的結果は、幾分陰にもなっていたUV源から最も遠いプレートで観察された。
【0136】
UV滅菌の程度は、達成可能な殺細菌効果の量が、UV光に最も近い位置1及び2では最小限であり、位置3では効果的な滅菌が見られなかった(ただし静菌効果(bateriostatic effect)が見られた)ことを示した。位置1は陰になっていた。
【0137】
反復実験において、UV光及び過酢酸蒸気/ミスト生成器を、UV光放出なしで、過酢酸蒸気のみを生成するように2時間の期間動作させた。試験部屋内に位置するクロストリジウム・ディフィシレのプレートは、0.71対数低減~1.19対数低減の範囲の微生物の低減を示した。過酢酸の有効性は、驚くべきことに、過酢酸源から最も遠くに位置するプレートで最も高かった。理論に束縛されることを望まないが、これは、蒸気が部屋の上部に沿って押し出されてから壁で下方に移動し、床に沿って戻っていく流動効果に起因し得ると考えられる。蒸気濃度は、滅菌器の反対側の壁の基部でより高いことが推定される。
【0138】
次いで、2時間の期間動作するUV光及び過酢酸蒸気生成器の両方を用いて、実験を繰り返した。UV及び過酸化物の両方の組み合わされた効果について、非常に驚くべき結果が得られた。UVと過酢酸との間の顕著な相乗作用が観察された。試験部屋内に位置するクロストリジウム・ディフィシレのプレートは、2.11対数~3.58対数の微生物の低減を示し、これは、個々の因子の有効性から予測され得るいかなる効果をもはるかに超えていた。
【0139】
【0140】
【0141】
図16は、UVCのみ、PAAのみ及びPAAと組み合わせたUVCによるlog10低減を示す。
【0142】
異なる生物汚染度に対する不活性化動態を、
図17、18、19及び20に示す。
図17は、UVCあり、及びなしでの黄色ブドウ球菌不活性化の動態を示す。
図18は、UVCあり、及びなしでの緑膿菌不活性化の動態を示す。
図19は、UVCあり、及びなしでのサルモネラ菌不活性化の動態を示す。
図20は、UVCあり、及びなしでのカンジダ・アルビカンス不活性化の動態を示す。
【0143】
ほとんどの場合において、特にPAA+UVCの組合せでは、それらはlog10[CFU]:-t座標において非線形である。正式には、これは古典的な一次反応ではないことを意味する。一次モデルは、集団内の細胞及び胞子が同じ耐性を有すること、並びに処理時間にわたる生存物の数の低下との間の関係が線形であることを仮定している。モデルはlog10(N/N0)=-kt(式中、N0は細胞の初期数(CFU/ml)であり、Nは曝露時間t後の生存物の数(CFU/ml)であり、kは速度パラメータであり、tは処理時間(分)である)と記述することができる。不活性化の動態の典型的な指標であるD値は、分での十進数の低減時間(生物の90%を死滅させるのに必要な時間)である。
【0144】
ウェイブルモデルは、生存曲線が致死効果の累積分布であることを仮定している。累積形態のウェイブル分布は、log10(N/N0)=-btn (式中、b及びnはそれぞれ尺度及び形状パラメータである)によって示される。形状パラメータnが1超又は1未満である場合、生存曲線の形状は、それぞれ肩又はテールを示す。n=1である場合、累積形態のウェイブル分布は、一次速度式に単純化される。ウェイブルモデルの場合、従来のD値と類似したパラメータtdが決定され得る。tdは、微生物の数のd対数低減に必要な時間であり、以下の式
td=(ln(0.9)/bx2.303)1/n
(式中、dは、所望の対数低減であり、b=kであり、2.303は底eの対数から底10の対数へのシフトに起因する係数である)
に示されるパラメータb及びnによって計算された。
【0145】
全ての生物汚染度の不活性化のウェイブル動態モデルの全てのパラメータを、表2に要約する。
【0146】
【0147】
組み合わせ方法は、生物汚染除去効率を劇的に改善することが明らかである。異なる生物汚染度に対しては、不活性化定数(k)の差は10倍超となり得る。異なる生物汚染度に対する不活性化定数比率の差は、おそらく、UVC及びPAA曝露に対する異なる生物汚染度の感受性の変動を反映したものである。
【0148】
図15aは、試験部屋内の異なる湿度レベルでのPAA及びUVCの組み合わせ方法を使用した生物汚染除去効率を示す。
図15aは、50%RH(相対湿度)と比較した59%RHでのより高い効率を示している。試験部屋(約25m
3)内の標的1~6の位置を、
図15bに示す。
【0149】
図15bでは、標的1は、デバイスに最も近く位置付けられている。デバイス(15bでは示さず)は、標的位置6から部屋の反対側に位置付けられている。標的位置5及び6は陰になっており、すなわち、デバイスと標的位置との間に障害物が存在する。
【0150】
生物汚染度を有する標的1~6は、黄色ブドウ球菌ATCC6538(予備試験からの最も耐性の高い生物汚染度)が接種された(inoculated)ガラススライドであり、ウマ血清が添加されていた(汚れた条件)。
【0151】
図15aは、50%相対湿度と比較した59%相対湿度でのPAA及びUVCの組み合わせ方法を使用した標的位置2~6でのより大きな対数低減を示す。
図15aは、50%相対湿度と比較した59%相対湿度でのPAA及びUVCの組み合わせ方法を使用した標的位置1でのより小さな対数低減を示す。これに関しては、標的1におけるPAA/UVCのレベルは、その位置付けに起因して最小限であったことが留意される。
【国際調査報告】