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特表2024-501186下水スラッジ灰分からテクニカルグレードのリン酸を生産するための方法
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  • 特表-下水スラッジ灰分からテクニカルグレードのリン酸を生産するための方法 図1
  • 特表-下水スラッジ灰分からテクニカルグレードのリン酸を生産するための方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-11
(54)【発明の名称】下水スラッジ灰分からテクニカルグレードのリン酸を生産するための方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 25/222 20060101AFI20231228BHJP
   C01B 25/234 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
C01B25/222
C01B25/234 F
C01B25/234 C
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023535335
(86)(22)【出願日】2021-12-20
(85)【翻訳文提出日】2023-08-04
(86)【国際出願番号】 EP2021086694
(87)【国際公開番号】W WO2022136212
(87)【国際公開日】2022-06-30
(31)【優先権主張番号】20383133.4
(32)【優先日】2020-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522142615
【氏名又は名称】テクニカス、レウニダス、ソシエダッド、アノニマ
【氏名又は名称原語表記】TECNICAS REUNIDAS, S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100094640
【弁理士】
【氏名又は名称】紺野 昭男
(74)【代理人】
【識別番号】100103447
【弁理士】
【氏名又は名称】井波 実
(74)【代理人】
【識別番号】100111730
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 武泰
(74)【代理人】
【識別番号】100180873
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 慶政
(72)【発明者】
【氏名】ピネド ゴンサレス、マリア テレサ
(72)【発明者】
【氏名】アルバレス カレニョ、カルロス
(72)【発明者】
【氏名】メヒアス コルデロ、アナ ベレン
(72)【発明者】
【氏名】フラデス タピア、マリア
(57)【要約】
本発明は、下水スラッジ灰分からリン酸を回収するための改善された方法に関し、前記方法は、浸出工程;リン酸金属塩をリン酸に変換するための転換工程;有機溶媒を用いる浸出溶液からのリン酸の溶媒抽出;硫酸を除去するための洗浄工程;およびリン酸を含有する水溶液を得るためのリン酸のストリッピングを含む。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体リン含有原料からリン酸を回収するための方法であって、
a)pH1~2の硫酸水溶液を用い、および40℃以下の温度で、リン含有固体原料を浸出させる工程であって、
a.1)リン酸およびリン酸金属塩の形態で前記固体原料に含有されるリンの可溶化された主フラクションを含む第1の浸出溶液、および
a.2)前記固体原料に含有されるリンの残りのフラクション、ならびに前記固体原料に含有される鉄、カルシウムおよびアルミニウムの大部分を含む非浸出固体残渣
を得る、工程と;
b)工程a)において得られた前記第1の浸出溶液に硫酸を添加し、前記リン酸金属塩をリン酸に変換させ、もって、リン酸および硫酸塩の形態の金属不純物を含む第2の浸出溶液を得る工程と;
c)有機溶媒を用い、工程b)において得られた前記第2の浸出溶液からリン酸を(第1の)溶媒抽出し、もって、第1のリン酸保持有機液相、ならびに非抽出リン酸および不純物も含有する第1の水性ラフィネートを得る工程と;
d)工程c)において得られた前記第1のリン酸保持有機液相を希釈されたリン酸水溶液で洗浄し、もって、第2のリン酸保持有機液相、および硫酸と金属不純物とを含有する第2の水性ラフィネートを得る工程と;
e)50~70℃の温度で水を用い、工程d)において得られた前記第2のリン酸保持有機液相からリン酸を(第1の)ストリッピングし、もって、リン酸を含有する第1の水溶液および前記有機溶媒を含む有機相を得る工程と;
f)工程c)において得られた前記第1の水性ラフィネートを第2の溶媒抽出に付す工程であって、
- 前記第1の水性ラフィネートに硫酸を添加して、混合物を形成する工程と;
- 有機溶媒を用いて、前記混合物からリン酸を抽出し、もって、
〇 硫酸も含有する第3のリン酸保持有機液相、ならびに
〇 不純物および非抽出硫酸を含有する第2の水性ラフィネート
を得る、工程と;
g)50~70℃の温度での水を用い、工程f)において得られた前記第3のリン酸保持有機液相からリン酸を(第2の)ストリッピングし、もって、リン酸および硫酸を含有する第2の水溶液、ならびに前記有機溶媒を含む有機相を得る工程であって、前記第2の水溶液が、少なくとも部分的に、前記工程a)に付される、工程と
を含む、方法。
【請求項2】
前記固体リン含有原料が、少なくとも5%のリン含有量を有する下水スラッジ灰分であり、ここで前記%は前記灰分中のリン酸塩の重量パーセンテージで表される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記工程a)における硫酸の添加が、得られる浸出溶液をpH1で維持するように制御される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記工程a)における前記硫酸水溶液が、少なくとも部分的に、工程g)から得られる前記第2の水溶液からなるか、または代替的に、少なくとも部分的に、
工程g)から得られる前記第2の水溶液、および
工程d)から得られる酸水溶液
からなる、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記工程a)において得られた前記浸出溶液にNaSを添加し、CuSの形態でそこに含有される銅を沈殿させる工程をさらに含む、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
工程b)における前記硫酸が、浸出溶液1リットルあたり20~50gの範囲の量で使用される、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
工程b)において得られた前記第2の浸出溶液を蒸発工程に付し、工程c)に入る前に、より高濃度のリン酸を有する液体流を得る工程をさらに含む、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記工程c)および前記工程f)において使用される前記有機溶媒が、リン酸トリブチルである、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
工程e)から得られる前記有機相が、工程c)にリサイクルされる、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
工程e)において得られたリン酸を含有する前記第1の水溶液を蒸発プロセスに付し、テクニカルグレードのリン酸を得る工程をさらに含む、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
工程e)から得られるリン酸の前記第1の水溶液にBaCOを添加し、BaSOの形態でSO 2-イオンを沈殿させる工程をさらに含む、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
工程e)からまたは請求項11に記載の方法から得られるリン酸を含有する前記第1の水溶液を蒸発プロセスに付し、少なくとも75%のリン酸の濃度に到達させる工程をさらに含む、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
工程e)から得られるリン酸の前記第1の水溶液、または請求項11に記載の方法から得られるリン酸の水溶液、または請求項12に記載の方法から得られるリン酸の濃縮溶液にNaSを添加し、Asカチオン不純物を含まないリン酸の濃縮溶液およびAsの形態で沈殿したAsを含有する固体を得る工程をさらに含む、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
工程g)から得られる前記有機相が、前記工程f)にリサイクルされる、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
工程d)から得られる第2の水性ラフィネートが、前記工程b)にリサイクルされる、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抽出技術による再利用可能材料の回収、より具体的には、廃棄物焼却、すなわち、下水スラッジ灰分からのテクニカルグレードのリン酸の回収に関する。
【背景技術】
【0002】
環境的および政治的な考慮に主に起因して、下水スラッジの回収および再利用が近年増加している。
【0003】
焼却炉において脱水スラッジを焼却するのが多くの大型下水処理場での一般的なやり方である。得られる灰分は、P、Fe、Al、CaおよびSiなどのさまざまな金属を含有する主として無機残渣である。さらなる処理なしでのこの灰分の処分は、上記金属と組み合わされた、重金属および毒物の存在に主に起因して、深刻な環境汚染を引き起こすことがある。さらにまた、未処理灰分は、軽量で、微粉化されて埃っぽく、結果として取り扱い、輸送および捨てることが困難である。したがって、そのような灰分の処分は、世界の多くの場所で深刻化している問題である。
【0004】
その問題を考慮して、異なる用途において再利用されるそれらに含有される元素を回収することを目的として、これらの残渣の処理のための異なる手順を開発することが必要になっている。
【0005】
実際に、先行技術において、原料の価値ある起源として下水スラッジを使用する多くの異なる試みおよび方法が存在している。特に、世界的に高い需要があると同時に入手可能性が限定されているリン材料の再利用に関わる、下水スラッジからの再利用可能材料の回収は、ますます重要になっている。
【0006】
下水処理場の運転の方式に応じて、下水スラッジ灰分(SSA)中のリンの濃度は、4~8wt%、および10~22wt%のPである。さらに、SSAの主な構成成分は、CaO、SiO、AlおよびFeである。
【0007】
焼却プロセスから得られる下水スラッジ灰分からリンを得るためのさまざまなアプローチが、従来技術に開示されている。下水スラッジ灰分からリンを回収することに関する報告された研究は、熱化学処理または酸浸出プロセスのいずれかに関する。
【0008】
熱化学処理内では、下水スラッジ灰分は塩化物塩と混合され、得られる混合物は900~1100℃の温度に付される。これらの条件下で、金属塩化物は揮発し、リンはより生物学的に利用可能な形態に変換され、その結果、これは、例えば、肥料として使用することができる。
【0009】
WO2015/189333は、下水スラッジ灰分からクエン酸塩可溶性のリン酸塩化合物を得るための方法を記載しており、前記方法は、P含有原料のアルカリ性硫黄化合物との混合物の焼成にも基づく。得られる生産物は、リン酸塩イオンを容易に放出して、肥料が生じる。
【0010】
しかしながら、腐食性の高い状態が発生することに起因して、熱化学処理のオペレーティング費用および装置の寿命に対する懸念が存在する。
【0011】
他方で、酸洗浄プロセス(酸浸出プロセスとも称される)は、多くの他のものの中で、潜在的に低いエネルギー消費の利益を有する。
【0012】
EP0004778は、100℃以下の温度で、酸溶液中、より具体的には、硫酸溶液中で灰分を浸出して、リン酸を回収することを含む下水スラッジ灰分の処理、および貴金属を回収するための溶解しなかった残渣のさらなる処理のための方法を記載している。
【0013】
US2014/0056796は、約20~40℃で酸性溶液の存在下での第1の浸出工程、および再沈殿によるさらなるリン酸塩の単離によるリン酸塩を回収するための方法に言及している。
【0014】
EP2792949は、灰分を浸出するためのHClなどの酸を添加、ならびにリン酸カルシウムを得て、分離するためのその後の沈殿段階を含む、下水スラッジ灰分からのリン含有化合物の生産のための方法を開示している。
【0015】
EP2602013はまた、下水スラッジ灰分からリン化合物を回収するための方法に言及しており、これは、最初に希薄鉱酸を用いる前記原料の酸分解または浸出と、その後、アルミニウム塩を添加して、リン化合物を沈殿および分離することを含む。
【0016】
これらの場合において、得られるリン含有生産物は、低グレードであり、それらの大部分は、リン酸塩肥料として農業において使用される。
【0017】
リン酸塩の世界的な需要の大部分は肥料製造のためであるが、テクニカルグレードのリン酸(濃度85%)を必要とする他の特殊な用途が存在し、これらは、前記肥料製造において一般に使用される商業グレードのリン酸(濃度50%)よりも著しく高い収益をさらに引き寄せる。
【0018】
実際には、酸浸出プロセスに由来する利点は、潜在的により高い市場価格のニッチ製品に合わせることができるリン酸製品を生産する可能性である。
【0019】
US2016/0312333は、スラッジの焼却から得られる灰分の処理のための方法に言及しており、前記方法は、溶液中にリン酸塩イオンを含有するリキュールアタックによる灰分の温浸を含み、このようにして、いくつかの不純物を含有する固相から分離されたリン酸塩イオンを含有する第1の液相が得られる。第1の液相は、有機溶媒を用いる液-液抽出の手段によるか、またはイオン交換樹脂に適用することによる精製工程に付され、その結果、他の金属の含有量は低いが、リン酸塩イオンも有する第2の液相が得られる。この第2の液相は、水性再抽出剤を使用することによる再抽出工程にさらに付すことができ、このようにして、有機相から分離されたリン酸塩イオンを含有する水相が得られる。この精製工程後に得られた液相は、低い割合の金属イオンを含有する精製リン酸溶液である。
【0020】
Donatelloら(Waste Management,2010,30,1634-1642)は、硫酸洗浄手順を使用することにより下水スラッジ灰分からリンを回収して、テクニカルグレードのリン酸を得ることを記載している。反応時間、硫酸濃度、液体と固体の比、およびリン回収における下水スラッジ灰分の起源の影響が調べられている。この方法は、硫酸を用いる浸出工程、その後の濾過、ならびにそれらから得られた液相のさらなる精製および濃縮を含む。精製工程は、金属カチオンの含有量を除去または少なくとも低減するために、陽イオン交換樹脂を使用することによって行われるが、精製された濾液の濃縮は、過剰の水を蒸発させることによって行われる。
【0021】
JP07251141は、酸性溶液を用いて灰分からリン構成成分を溶出させること、溶出物および不溶性残渣を分離すること、ならびに有機溶媒を用いてリン構成成分を抽出して、溶出物および水の2相を形成することによる、一切事前処理しない下水スラッジの焼却処分された灰分からのリン構成成分の回収を記載している。
【0022】
精製リン酸を生産するための従来技術に記載された手順にもかかわらず、テクニカルグレードのリン酸を得るために、非常に効率的かつ選択的な方法で下水スラッジ灰分からのリン酸塩の抽出を可能にする実験パラメーターおよびオペレーティング工程を最適化する必要が依然として存在する。
【発明の概要】
【0023】
本発明者らは、テクニカルグレードのリン酸の生産を可能にし、異なる用途において使用するために、当技術分野において公知の標準的な手順によって、Feなどの灰分に含有される他の金属を分離することも可能である、焼却処分された下水スラッジを処理するための新しい方法を開発した。
【0024】
本発明は、高い純度レベルで、非常に効率的な方法でリン酸を抽出することを可能にする方法の開発に基づく。これは、本質的に、リン酸の形態で下水スラッジ材料に含有されるリンをほぼ定量的に回収することを可能にする閉ループプロセスである。
【0025】
特に、本発明の方法によって、灰分中に存在するリンの少なくとも80%が、温浸および回収される。さらにまた、方法は、最低レベルの不純物を有する、テクニカルグレードと見なすために必要な基準を満たすリン酸を提供する。
【0026】
したがって、本発明の主な態様は、固体リン含有原料からリン酸を回収するための方法であって、
a)pH1~2の硫酸水溶液を用い、および40℃以下の温度で、リン含有固体原料を浸出させる工程であって、
i)リン酸およびリン酸金属塩の形態で固体原料に含有されるリンの可溶化された主フラクションを含む第1の浸出溶液、および
ii)固体原料に含有されるリンの残りのフラクション、ならびに固体原料に含有される鉄、カルシウムおよびアルミニウムの大部分を含む非浸出固体残渣
を得る、工程と;
b)リン酸金属塩がリン酸に変換されるように、硫酸を工程a)において得られた第1の浸出溶液に添加し、このようにして、リン酸および硫酸塩の形態の金属不純物を含む第2の浸出溶液を得る、変換工程と;
c)有機溶媒を用いる、工程b)において得られた第2の浸出溶液からのリン酸の第1の溶媒抽出であって、このようにして、第1のリン酸保持有機液相、ならびにリン酸および不純物も含有する第1の水性ラフィネートを得る、工程と;
d)工程c)において得られた第1のリン酸保持有機液相を希釈されたリン酸水溶液で洗浄し、このようにして、第2のリン酸保持有機液相、ならびに硫酸および金属不純物を含有する第2の水性ラフィネートを得る、工程と;
e)50~70℃の温度で水を用いる、工程d)において得られた第2のリン酸保持有機液相からのリン酸の第1のストリッピングであって、このようにして、リン酸を含有する第1の水溶液を得る、工程と;
f)工程c)において得られた第1の水性ラフィネートを、
- 硫酸を第1の水性ラフィネートに添加して、混合物を形成する工程と;
- 有機溶媒を用いて混合物からリン酸を抽出し、このようにして、
〇 硫酸も含有する第3のリン酸保持有機液相、ならびに
〇 不純物および非抽出硫酸を含有する第2の水性ラフィネート
を得る工程と
を含む第2の溶媒抽出に付す、工程と;
g)50~70℃の温度での水を用いる、工程f)において得られた第3のリン酸保持有機液相からのリン酸の第2のストリッピングであって、このようにして、リン酸および硫酸を含有する第2の水溶液を得る工程であって、前記第2の水溶液が、少なくとも部分的に、浸出工程a)に至る、工程と
を含む、方法に言及する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、本発明の方法の工程を概略的に表すフローチャートを示す。
図2図2は、本発明の方法に含まれる追加工程のフローチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の方法は、固体残渣とも称されるリン酸塩またはリン含有原料の処理に適用可能である。本発明の要旨において、「リン酸塩またはリン含有原料」という用語は、少なくとも1種の本明細書において定義されるリン酸塩を含有する固体残渣を指す。
【0029】
特定の実施形態において、リン酸塩またはリン含有原料は、有機材料の焼却が起源の、例えば、下水スラッジおよび生物学的廃棄物由来の灰分である。この灰分は、さまざまな金属の酸化物、例えば、Al、Fe、MgO、P、P10、KO、SiO、およびCaAl(PO、CaSi、Al(SiO)Oなどのような他の構成成分から主になる。
【0030】
より好ましくは、灰分は、下水スラッジの焼却が起源であり、したがって、これは、下水スラッジ灰分と称される。
【0031】
本発明の文脈において、「下水スラッジ」という用語は、液体中の固体物質の微細分散した粒子の任意の懸濁液を指す。好ましい実施形態において、粒子が懸濁している液体は、本明細書において定義される廃水である。
【0032】
「廃水」という用語は、水性および/もしくは有機性のすべての液体、またはその混合物に関し、これは、飲料水水質基準の意味内の飲料水の品質を有していない。
【0033】
特定の実施形態において、下水スラッジは、一次スラッジ、生スラッジ、余剰スラッジとして、処理されたおよび/または安定化された下水スラッジ(好気性/嫌気性)として、存在する。
【0034】
「生物学的廃棄物」という用語は、家庭または工場において発生する動物または植物起源のすべての有機廃棄物に関し、微生物、土壌中に生息する生物または酵素によって分解され得る。
【0035】
「リン酸塩」という用語は、PおよびP10に関係する。さらにまた、「リン酸塩」という用語は、オルトリン酸(HPO)の塩およびエステルを指し、オルトリン酸の縮合物(ポリマー)およびそれらのエステルを明示的に含む。特に、「リン酸塩」という用語は、一般式X(Y)(PO(式中、X、および任意選択でYは、アルミニウム、ベリリウム、ビスマス、鉛、カドミウム、クロム、鉄、ガリウム、インジウム、カリウム、コバルト、銅、マグネシウム、マンガン、モリブデン、ナトリウム、ニッケル、オスミウム、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、ストロンチウム、チタン、バナジウム、タングステン、亜鉛およびスズからなる群から選択される金属である)を有するリン酸の金属塩を指す。
【0036】
好ましくは、この方法によって処理される灰分は、少なくとも5%、理想的には、少なくとも7%、好ましくは、7~20%の灰分中のリン酸塩の重量パーセンテージで表されるリン含有量を有する。
【0037】
リン含有原料は、本発明の方法における供給として使用される前に、2mmの最大サイズの適切な粒子サイズに達するまで、微粉砕されてもよい。
【0038】
本発明の方法の異なる工程を、本明細書において下記に詳述する。
【0039】
浸出工程(工程a)
本発明の方法の第1の工程は、酸水溶液、すなわち、pH1~2を有する硫酸水溶液を用いる、リン含有固体原料の浸出からなる。硫酸水溶液の浸出への供給は、得られる酸水溶液をpH1~1.5で、より好ましくは、pH1で維持するように制御される。
【0040】
他の強酸、例えば、塩化物酸、または特に、リン酸とは異なって、硫酸の使用は、これがリン含有固体原料に含有されるリンの大部分を溶解することが可能であるが、鉄、アルミニウムおよびカルシウムなどの金属不純物の溶解を著しく低減するので、より選択的である。
【0041】
上記で述べた条件下で、固体原料に含有されるリンの主フラクションは、主にリン酸の形態で、ならびにはるかに少ない程度の鉄、アルミニウム、カルシウムおよびマグネシウムなどのリン酸金属塩の形態で、徐々に浸出される。結果として、リン酸およびリン酸金属塩の形態のリンの前記主フラクションを含有する水相が得られるが、固体原料からのリンの残りのフラクションは、前記固体原料に含有される大部分の金属不純物と共に非浸出固体残渣として溶解しないままである。
【0042】
特定の実施形態において、リン含有原料は、40℃以下、より好ましくは、20~40℃、さらにより好ましくは、30~40℃、最も好ましくは、40℃の温度で、硫酸水溶液中で浸出される。
【0043】
これらの条件の結果として、浸出工程は、リンを他の金属構成成分に優先して溶解させる。この工程において、原料に含有されるリンの80~90wt%が、浸出酸水溶液に溶解される。
【0044】
硫酸水溶液を用いる前記浸出工程は、好ましくは、10分~1時間、より好ましくは、10~50分の滞留時間で行われる。
【0045】
浸出工程において使用される硫酸水溶液は、好ましくは、重量の大部分の硫酸を含有し、リン酸などの他の酸と組み合わされていてもよい、水性媒体である。
【0046】
有利には、この硫酸水溶液は、少なくとも部分的に、本発明の方法の工程g)によるリン酸の第2のストリッピング工程から得られるリサイクル溶液、すなわち、下記に詳述される硫酸およびより低い量のリン酸を含有する工程g)から得られる第2の水溶液からなる。
【0047】
そのため、浸出工程後、可溶化されたリン酸、ならびに鉄、アルミニウム、カルシウムおよびマグネシウムのリン酸金属塩、および硫酸と固体原料中に存在する金属酸化物との反応から得られる硫酸金属塩を主に含む、リンが豊富な溶液(第1の浸出溶液とも称される)が得られる。それに加えて、主に硫酸塩の形態で、金属不純物の大部分と組み合わせて、固体原料に含有されるリンの微量のフラクションをさらに含有する非浸出固体残渣も得られる。
【0048】
したがって、固-液分離処理は、リン酸を非浸出固体残渣からの他の不純物と共に含有する前記第1の浸出溶液を分離するために行われ得る。
【0049】
浸出溶液からの溶解していない残渣の分離後、リン酸を含有する第1の浸出溶液は、変換工程b)に供されるが、非浸出固体残渣は、系から除去され、セメント工業などの他の工業のために使用することができる。
【0050】
特定の実施形態において、リン酸を含有する第1の浸出溶液は、CuSOの形態で前記浸出溶液中に存在する可能性のあるCu痕跡を除去するために、硫化領域に事前に供給され得る。それを行うために、NaSが、制御された酸化還元条件下で浸出溶液に添加され、そこで、以下の反応が行われる。
CuSO4(l)+Na(l)→CuS(s)+NaSO4(l)
【0051】
好ましい実施形態において、硫化工程において使用されるNaSの用量は、固体残渣1kgあたり2~3gの範囲であり、より好ましくは、前記用量は、2.5g NaS/kg固体残渣である。これらの条件下で、50~300mVの酸化還元電位、好ましくは、250~270mV(Ag/AgCl)に達する。
【0052】
この硫化工程は、室温~最高で50℃で、5分~50分、好ましくは、7~20分の滞留時間で行われ得る。
【0053】
結果として、CuSの形態のCuを含有する固体が、85%超の沈殿有効性で得られる。前記CuSは、系から除去されるが、リン酸を含有する液相は、変換工程に供給される。
【0054】
変換工程(工程b)
上記で述べたように、工程a)において得られた第1の浸出溶液は、リン酸、およびリン酸金属塩の形態のリンを含有し、そのため、リン酸の形態のリンの濃度を増加させるために、前記リン酸金属塩をリン酸に変換することが望ましい。
【0055】
この工程b)において、硫酸が、浸出工程a)において得られた第1の浸出溶液に添加され、このようにして、硫酸塩の形態のいくつかの金属不純物と共に、リン酸の形態の、リン含有原料からのすべての浸出リンを含有する濃縮溶液が得られる。
【0056】
特定の実施形態において、この工程において使用される硫酸は、98%硫酸である。
【0057】
有利には、この工程において添加される硫酸は、少なくとも部分的に、
(i)本発明の方法の工程g)によるリン酸の第2のストリッピング工程から得られるリサイクル水溶液、すなわち、工程g)から得られる第2の水溶液、および/または
(ii)本発明の方法の工程d)による第1の有機抽出相の洗浄工程から得られるリサイクル水溶液、すなわち、工程d)から得られる酸水溶液
からなる硫酸溶液に対応する。
【0058】
別の特定の実施形態において、硫酸は、得られる溶液がpH1.5~1を有する条件で、浸出溶液1リットルあたり20~50g、好ましくは、浸出溶液1リットルあたり30~40gのさまざまな用量で使用される。
【0059】
有利には、本発明の方法の工程b)は、40℃以下、好ましくは、30~40℃の温度で行われ得る。
【0060】
特定の実施形態において、工程b)は、少なくとも10分、好ましくは、10分~1時間、より好ましくは、15分の滞留時間で行われる。
【0061】
前に述べたように、この工程は、リン酸金属塩の形態で存在するリンのリン酸への変換を可能にするが、金属不純物は、硫酸塩、主に、鉄、アルミニウムおよびマグネシウムの硫酸塩の形態である。
【0062】
そのため、この工程は、得られる濃縮溶液中の高濃度のリン酸を提供する。特に、これは、工程a)から得られる第1の浸出溶液に含有されるリン酸に対して、最大で30%のリン酸の濃度の増加を提供する。
【0063】
それ故に、工程b)の結果として、溶媒抽出工程c)に供給される第2の浸出溶液とも称されるHPOが豊富な浸出溶液が得られる。
【0064】
特定の実施形態において、前記HPOが豊富な浸出溶液は、抽出工程c)に入る前に、リン酸流を濃縮するために、蒸発工程に付され得る。それを行うために、前記HPOが豊富な浸出溶液は、水を蒸発させる加熱プロセスに付され、このようにして、より高濃度のリン酸を有する液体流が得られるだけでなく、液体流から除去され得る主にCaSOからなる固体残渣が得られる。
【0065】
好ましくは、蒸発工程は、蒸発比が最大で5/1v/v入口/出口になるように実施される、言い換えれば、蒸発は、リン酸の濃度を最大で5倍、より好ましくは、最大で4倍増加させる。
【0066】
加熱プロセスは、リン酸の沸点より低い温度、好ましくは、120℃より低いが100℃よりも高い温度で行われ得る。
【0067】
溶媒抽出(工程c)
工程b)において得られたHPOが豊富な浸出溶液は、そのまままたは蒸発に付した後のいずれかで、次いで、前記溶液中に存在する金属不純物、より具体的には、Al、MgおよびFeをリン酸から分離するために、液-液抽出工程(工程c))に付され、このようにして、高純度のリン酸を得ることに寄与する。
【0068】
この工程は、工程b)において得られたHPOが豊富な浸出溶液を、好ましくは、向流条件下で、有機溶媒と接触させることによる、リン酸の抽出を含む。したがって、リン酸を含有する有機抽出相、ならびに非抽出リン酸および不純物を含有する水相が得られる。有機溶媒は、溶媒和プロセスによってリン酸の分子を捕捉する。
【0069】
有機溶媒は、好ましくは、メチルイソブチルケトン(MIBK)、リン酸トリブチル(TBP)、1-ヘプタノール、ジイソプロピルエーテル(DIPE)、ならびにこれらの混合物、例えば、MIBKおよびTBPの混合物、MIBKおよび1-ヘプタノールの混合物、TBPおよび1-ヘプタノールの混合物から選択され、より好ましくは、有機溶媒は、TBPである。前記有機溶媒は、任意の他の有機化合物に溶解されることなく使用される。
【0070】
好ましくは、この抽出工程は、室温、好ましくは、20~30℃、より好ましくは25℃で、5~10分の範囲の滞留時間で行われる。この抽出工程は、数回、例えば、2回または3回、4回または5回、行うことができる。
【0071】
この工程の間、リン酸は、選択的におよび徐々に、有機液相に保持される。したがって、抽出工程を実施した後、非常に少量の不純物、主に硫酸およびヒ素などのいくつかの金属も含有する、リン保持有機相が形成される。それに加えて、HPOが豊富な浸出溶液中に事前に存在する金属不純物の大部分を含有する、水性ラフィネートとも称される酸水性抽出相も得られ、前記水性ラフィネートは、次いで、下記に説明される本発明の方法の枯渇段階に供給される。
【0072】
洗浄工程(工程d)
上記で述べたように、そして硫酸が変換工程におけるのと同様に浸出工程で使用されるので、いくらかの微量の前記酸は、リン酸と共に有機相に抽出され、リン酸にそのような不純物が含有されるのを回避するために、それらからリン酸を除去することが賢明である。
【0073】
したがって、本発明の方法は、リン酸などの酸の希釈された水溶液を用いる、工程c)から得られる有機抽出相の洗浄を含む洗浄工程をさらに含み、このようにして、リン酸を含有する洗浄された有機相、ならびに硫酸、および他の微量の、もしあれば亜鉛および鉄などの同時抽出された金属カチオン不純物を含有する水相が提供される。抽出された硫酸を含有する前記水相はまた、そのような酸の取り込みを低減する目的で、変換工程にリサイクルされ得る。
【0074】
特定の実施形態において、水溶液中のリン酸の濃度は、およそ120g/Lである。
【0075】
前記洗浄工程は、20~60℃、好ましくは、40~60℃の温度で、5~15分の範囲の滞留時間で行われ得る。
【0076】
ストリッピング工程(工程e)
工程d)が実施された後に得られたリン保持有機相は、次いで、リン酸を回収するために、水の存在下でストリッピング工程(工程e)に付される。
【0077】
好ましくは、このストリッピング工程は、70℃未満、好ましくは、40~65℃の温度で、5~15分の範囲の滞留時間で行われる。
【0078】
この工程の結果として、20~30%の範囲のリン酸濃度を有するリン酸の精製水溶液が得られ、抽出工程c)にリサイクルされ得る有機抽出物を含む有機流も得られる。
【0079】
その後、リン酸の前記精製水溶液は、蒸発による濃縮に付され、このようにして、テクニカルグレードのリン酸に必要な少なくとも75%の濃度に達し得る。
【0080】
特定の実施形態において、前記精製水溶液の一部は、洗浄工程d)において使用するためにリサイクルされてもよい。
【0081】
上記で述べた洗浄工程d)は、有機相に同時抽出された硫酸の効率的な除去を可能にするが、非常に少量が、有機溶媒中に依然として留まり得(ppm)、これはその後、最終生産物中に現れ、濃縮される。
【0082】
そのため、好ましい実施形態において、および残留硫酸を除去するために、本発明の方法は、BaCOを、工程e)から得られるリン酸の水溶液に、またはリン酸の濃縮水溶液に添加し、このようにして、以下の反応により、BaSOの形態でSO 2-イオンを沈殿させることを含む沈殿工程も含む。
BaCO3(s)+HSO4(l)→BaSO4(s)+CO2(g)+H(l)
【0083】
特定の実施形態において、この沈殿工程は、60~90℃、好ましくは、70~85℃の温度で、5~15分の範囲の滞留時間で行われる。
【0084】
工程e)から得られるリン酸の精製水溶液の濃縮/蒸発が以前に達成されていなかった場合、BaSOの形態の沈殿による硫酸の除去後に得られた生じる水溶液は、次いで、テクニカルグレードのリン酸のために必要な少なくとも75%の濃度に達するために、蒸発に付される。
【0085】
別の特定の実施形態において、本発明の方法は、ストリッピング工程e)後に得られたリン酸の精製水溶液から、または硫酸の除去後に得られたリン酸の精製水溶液および/もしくは濃縮水溶液から、Asカチオンを除去する工程をさらに含む。この工程は、NaSまたはHSの前記水溶液への添加を含み、このようにして、Asカチオン不純物なしのリン酸の濃縮溶液、および以下の反応によるAsの形態の沈殿したAsを含有する固体が得られる。
2HAsO3(l)+3Na(l)→As3(s)+6NaOH(l)
【0086】
沈殿したAsを含有する前記固体は、濾過によって除去することができる。このプロセスにより、Asの沈殿有効性は99%に近い。
【0087】
特定の実施形態において、Asのこの沈殿工程は、20~40℃、好ましくは、25~35℃の温度で、5~15分の範囲の滞留時間で行われ得る。
【0088】
他方で、溶媒抽出工程c)から得られる第1の水性ラフィネートに含有されるリンを回収するために、したがって、全体的なリンの回収効率を増加させるために、本発明の方法は、本明細書において下記に詳述する2つの主な工程:第2の溶媒抽出工程および第2のストリッピング工程を含む枯渇段階をさらに含む。
【0089】
第2の溶媒抽出(工程f)
この工程において、濃硫酸が、最初に、工程c)から得られる第1の水性ラフィネートに添加され、このようにして、非抽出リン酸および硫酸を含む混合物に至る。特定の実施形態において、硫酸は、前記混合物中で最高で400g/Lの硫酸の濃度に達するように、添加される。
【0090】
リン酸および硫酸を含有する得られる混合物は、次いで、第2の溶媒抽出工程に付され、その結果、これは、第1の水性ラフィネートに含有される金属不純物からリン酸をさらに分離することを可能にする。
【0091】
第1の溶媒抽出工程におけるように、この工程は、好ましくは、向流条件下で、上記で得られた混合物を有機溶媒と接触させることによる、硫酸と共にリン酸の抽出も含む。有機溶媒は、溶媒和プロセスによってリン酸および硫酸の分子を捕捉する。したがって、硫酸も含有する第3のリン酸保持有機液相が、金属不純物および非抽出硫酸を含有する第2の水性ラフィネートと共に得られる。
【0092】
この第2の溶媒抽出工程において使用される有機溶媒はまた、好ましくは、メチルイソブチルケトン(MIBK)、リン酸トリブチル(TBP)、1-ヘプタノール、ジイソプロピルエーテル(DIPE)、ならびにこれらの混合物、例えば、MIBKおよびTBPの混合物、MIBKおよび1-ヘプタノールの混合物、TBPおよび1-ヘプタノールの混合物から選択され、より好ましくは、有機溶媒は、TBPである。前記有機溶媒は、任意の他の有機化合物に溶解されることなく使用される。
【0093】
好ましくは、この第2の抽出工程は、室温、好ましくは、20~30℃、より好ましくは25℃で、5~15分の範囲の滞留時間で行われる。この抽出工程は、数回、例えば、2回または3回、行うことができる。
【0094】
この工程の間、リン酸および硫酸は、選択的におよび徐々に、有機液相に保持される。したがって、第2の抽出工程を実施した後、硫酸も含有する第3のリン保持有機相が形成される。それに加えて、HPOが豊富な浸出溶液に由来する金属不純物の大部分を含有する、第2の水性ラフィネートとも称される酸水性抽出相も得られる。前記第2の水性ラフィネートは、排水処理に供され得る。
【0095】
前記排水処理段階は、前記第2の水性ラフィネート中に存在する不純物を除去する目的で、および流動性の要件を満たすために行われる。この排水処理は、炭酸塩または水酸化物の形態での不純物の沈殿によって行われてもよい。
【0096】
特定の実施形態において、第2の水性ラフィネートは、炭酸カルシウムまたは水酸化カルシウムなどの沈殿化剤と反応し、その結果、水性ラフィネート中に存在する金属不純物の固体炭酸塩および水酸化物が形成される。
【0097】
好ましくは、この排水処理は、室温、好ましくは、20~30℃で、pH6~9で行われる。
【0098】
第2のストリッピング工程(工程g)
工程f)が実施された後に得られた第3のリン保持有機相は、次いで、純粋な形態のリン酸および硫酸を回収するために、水の存在下で第2のストリッピング工程(工程g))に付される。
【0099】
好ましくは、このストリッピング工程は、70℃未満、好ましくは、40~65℃の温度で、5~15分の範囲の滞留時間で行われる。
【0100】
この抽出工程は、数回、例えば、2回または3回、行うことができる。
【0101】
この工程の結果として、リン酸および硫酸の精製水溶液が得られ、第2の抽出工程f)にリサイクルされ得る有機抽出物を含む有機流も得られる。
【0102】
得られるリン酸および硫酸の精製水溶液は、浸出工程a)に供給されるか、または代替的に、得られるリン酸および硫酸の精製水溶液は、2つの別々の流れに分けられ、一方の流れは、浸出工程a)に供給され、他の流れは、変換工程b)に供給され、このようにして、リン酸の形態で固体原料に含有されるリンをほぼ定量的に回収することを可能にする本質的な閉ループプロセスが提供される。
【0103】
図1は、下記の実施例1によるプロセスに適用されるリン酸を生産するための設置のフローチャートを示す。
【実施例
【0104】
実施例1:テクニカルグレードのリン酸の生産
固体下水灰分(SSA)を浸出領域(R1)に供給した。そこで、SSAを、反応の最後のpHが1になるように、SSA1kgあたり300gの用量を使用して、98%硫酸水溶液を用いて浸出した。浸出を40℃の温度で行い、滞留時間は20分であった。前記硫酸溶液は、部分的に、下記に詳述するストリッピング領域(RE2)が起源の水溶液(A5)からなった。
【0105】
これらの条件下で、可溶化リン酸、ならびに微量のリン酸塩および硫酸塩の形態のFe、Al、Ca、ならびに他の不純物を含むリンが豊富な浸出溶液(L1)を、浸出されなかった残りのリンを含有する非浸出固体残渣(S1)と共に得た。
【0106】
表1は、浸出工程後の浸出溶液(L1)および非浸出固体残渣(S1)の組成を示す。
【0107】
【表1】
【0108】
以上のように、固体下水灰分に含有されるリンの大部分は、リン酸およびリン酸塩の形態で浸出溶液に移るが、Fe、Caの大部分および高い量のAlは、固体残渣に留まり、このようにして、前記浸出溶液中の不純物の量が著しく低減される。
【0109】
その後、固-液分離処理を、浸出溶液(L1)を非浸出固体残渣(S1)から分離するために行った。
【0110】
得られる浸出溶液(L1)を、リン酸金属塩の形態で存在するリンをリン酸に変換するために、変換領域(R2)に供給した。浸出溶液(L1)1リットルあたり35gの98%硫酸を、30~40℃の温度で15分間、前記浸出溶液(L1)に添加した。硫酸塩の形態のいくつかの金属不純物と共にリン酸の形態のSSAからの浸出リンのすべてを含有する水性濃縮溶液(L2)を得た。
【0111】
変換領域の出口での浸出溶液(L2)のリン酸、リン酸塩、硫酸および硫酸塩に関する組成物は、下記の表2に示される構成成分を主に含有していた。
【0112】
【表2】
【0113】
示されるように、この工程は、本質的にリン酸の形態で、SSAから浸出リンを提供することを可能にした。
【0114】
得られる溶液(L2)を、次いで、抽出領域(E1)に入る前に、それを濃縮するために、蒸発領域(R3)における蒸発工程に付した。それを行うために、前記溶液(L2)を加熱して、水を蒸発させ、このようにして、より高い濃度のリン酸を有する液体流(L3)、および主にCaSOからなる固体残渣を得た。蒸発比は、リン酸を90~110g/Lから約400g/Lに濃縮するために、4/1v/v(入口/出口)であった。
【0115】
この工程後に得られた濃縮溶液(L3)は、表3に示される以下の主な構成成分を有していた。
【0116】
【表3】
【0117】
リン酸溶液を濃縮して濃縮溶液(L3)が得られたら、これを、任意のキャリア溶媒を使用することなく、有機抽出剤としてリン酸トリブチル(TBP)を使用することによる向流条件下での液-液抽出に付される抽出領域(E1)に供給した。有機相(O)/水相(A)の体積比は9/1であった。この工程は、25℃で、10分の滞留時間の間実施した。したがって、リン酸、有機抽出剤、ならびに少量の不純物、主に硫酸、およびCu、ZnおよびAsなどのいくつかの金属を含有する有機相(O1)を、微量の非抽出リン酸の濃縮溶液(L3)中に存在する金属不純物の大部分を含有する酸水性ラフィネート(A1)と共に得た。前記水性ラフィネート(A1)を、本明細書において下記に詳述する枯渇領域に供給した。
【0118】
有機抽出剤(TBP)は、リン酸だけでなく、微量の硫酸、および塩化物、亜鉛および鉄などの他の金属不純物も抽出した。前記不純物を除去し、最終生産物中でのそれらの存在を回避するために、有機相(O1)を、次いで、硫酸洗浄領域(W1)において、50℃の温度および10分の滞留時間で、リン酸の水溶液(水溶液中のリン酸の濃度は120g/Lであり、体積比O/Aは10/1であった)で洗浄し、その結果、リン酸を含有する洗浄された有機相(O2)と共に硫酸および他の同時抽出された金属カチオン不純物を含有する水相(A2)を得た。この水相(A2)は、変換領域(R2)にリサイクルしたが、洗浄された有機相(O2)は、HPOストリッピング領域(RE1)においてストリッピング工程に付した。
【0119】
このストリッピング工程は、水の存在下、65℃の温度、10分の滞留時間、体積比O/Aが8/1で実施した。結果として、リン酸の精製水溶液(A3)が得られただけでなく、有機相(O3)が抽出領域(E1)にリサイクルされた。精製水溶液の一部(A3’)を、硫黄洗浄領域(W1)に供給した。
【0120】
表4は、リン酸を含有する精製水溶液(A3)および有機相(O3)の組成を示す。
【0121】
【表4】
【0122】
他方で、抽出領域(E1)から得られる水性ラフィネート(A1)に含有されるリンを回収するために、したがって、全体的なリンの回収効率を増加させるために、前記水性ラフィネート(A1)を、抽出領域(E2)およびストリッピング領域(RE2)からなる枯渇領域に供給した。
【0123】
最初に、濃硫酸を、非抽出リン酸を含有する水性ラフィネート(A1)に添加して、得られる混合物中の400g/Lの硫酸の濃度に達した。
【0124】
リン酸および硫酸を含有する前記混合物を、次いで、任意のキャリア溶媒を使用することなく、有機抽出剤としてリン酸トリブチル(TBP)を使用することによる向流条件下での抽出領域(E2)における溶媒抽出工程に付した。有機相(O)/水相(A)の体積比は4/1であった。この工程は、25℃で、10分の滞留時間の間実施し、水性ラフィネート(A1)に含有される金属不純物からリン酸をさらに分離した。結果として、リン酸および硫酸、ならびに有機抽出剤を主に含有する有機相(O4)が、金属不純物および非抽出硫酸を含有する水性ラフィネート(A4)と共に得られた。前記水性ラフィネート(A4)は、排水処理に供した。
【0125】
次いで、有機相(O4)を、純粋な形態のリン酸および硫酸を回収するために、ストリッピング領域(RE2)におけるストリッピング工程に付した。
【0126】
このストリッピング工程は、水の存在下、65℃の温度、10分の滞留時間、体積比O/Aが4/1で実施した。結果として、リン酸および硫酸の精製水溶液(A5)が得られるだけでなく、有機相(O5)が抽出領域(E2)にリサイクルされ、その構成成分を下記の表4に示す。
【0127】
【表5】
【0128】
得られるリン酸および硫酸の精製水溶液(A5)を、次いで、部分的に浸出領域(R1)に供給し、微量(A5’)を、変換領域(R2)に供給し、その結果、抽出領域(E1)において抽出されなかったリンが回収されて、プロセスに戻り、このようにして、プロセスの収率、したがって、固体原料中に最初に存在するものからリン酸の形態で回収されるリンの量を増加させた。
【0129】
したがって、この実施例から導かれるように、本発明の方法は、リン酸を、非常に効率的な方法で、テクニカルグレードと見なされるのに必要な基準をさらに満たす高レベルの純度で抽出することを可能にする。
【0130】
実施例2:テクニカルグレードのリン酸の生産
下記に詳述する1つまたは複数の追加工程を導入したが、実施例1を繰り返した。これらの工程は、最小レベルの不純物を有するテクニカルグレードのリン酸を提供する。
【0131】
Cu除去
浸出工程後に得られた浸出溶液(L1)は、CuSOの形態で120~150mg/LのCuを含有していた。前記浸出溶液(L1)を、浸出溶液(L1)中に存在するCuを選択的に沈殿させ、このようにして、最終生産物中のこの元素の混入を低減する目的で、硫化領域(R2)に供給した。これを除去するために、SSA1kgあたり2.5gのNaSを、浸出溶液(L1)に添加し、このようにして、225~270mV(Ag/AcCl)の酸化還元電位、40℃の温度、10分の滞留時間に達した。結果として、除去されたCuSの形態のCuを含有する固体が得られたが、リン酸を含有する無Cu液相(L1’)を、変換領域(R2)に供給した。
【0132】
特に、Cuを、86%の有効性でCuSの形態で沈殿させ、このようにして、30mg/L未満の最終精製水溶液中のCu含有量を提供した。
【0133】
硫黄除去
リン酸の水溶液(A3)は、洗浄工程において除去できず、次いで洗浄された有機相(O2)中に存在した不純物として50~90mg硫酸/Lを含有していた。そのため、この工程の目的は、硫酸の前記不純物を除去することであった。化学量論量のBaCOを、そこに含有される残留硫酸を沈殿させるために、水溶液(A3)に添加し、このようにして、75%の沈殿有効性で、BaSOの形態でSO 2-イオンを沈殿させた。反応は、80℃の温度および20分の滞留時間で行った。結果として、リン酸の無硫酸水溶液が、分離および除去されるBaSO固体残渣と共に得られた(A6)。
【0134】
リン酸の濃縮
硫酸塩除去工程から得られる水溶液(A6)を、前記溶液の水を蒸発させるために加熱プロセスに付し、75%の濃度の、したがって、テクニカルグレードのリン酸濃度のための条件を満たしたリン酸の濃縮溶液(A7)を得た。すなわち、濃縮溶液(A7)中のリン酸の含有量は、1170g/Lであった。
【0135】
As除去
リン酸の濃縮から得られる水溶液(A7)に含有されるAsカチオンを沈殿させるために、100倍の化学量論量のNaS(または代替でHSとして)を、30℃の温度および10分の滞留時間で前記水溶液(A7)に添加した。結果として、テクニカルグレードのリン酸と見なされる要件を満足するリン酸の精製濃縮溶液が、濾過によって除去されるAsの形態の沈殿したAsを含有する固体残渣と共に得られる。
【0136】
図2は、本発明の方法内に含まれるこれらの追加工程を示すフローチャートを示す。
図1
図2
【国際調査報告】